楓「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝後編】

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21 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 23:32:12.28 ID:ucSBsxz10

今日はここまで。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 23:50:26.64 ID:DYmPpPFJ0
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/15(日) 00:23:01.59 ID:UhqMNciVO
常務…
24 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:19:49.81 ID:6E8xIkAH0

さて、懐かしい娘の顔も見れたことだ。

次は孫娘たちの顔でも見に行くとしようかな?


かのプロデューサー君ほどではないが、私もCPの進行に一枚噛んでいる身だ。

彼女たち専用ルームにはそこそこ足を運んでいるし、暇な子とはコミュニケーションも取る。

そのおかげで「暇を持て余してフラフラしているお爺さん」とでも思われているかな?

何にせよ五ヶ月も関わっていれば、どの子が何処にいるかくらいの検討はつくようになる。

匂いを追ってもいいのだけど……まあ、この年で変態扱いされるのは流石に堪えるからねえ。


まずは中庭にでも行ってみようか。
25 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:20:28.00 ID:6E8xIkAH0

「かな子ちゃん、この漢字……読み方、教えてくれませんか?」

「いいよ〜。これは……『しぐれ』!」

「しぐれ、ですね……!」


おお、いたいた。やはりここだったか。


今西「具合はどうだい?」

かな子「…あ! 今西部長、おはようございます!」

智絵里「お、おはようございます! ちょっとずつですけど、漢字を覚えてます……!」


三村かな子君に、緒方智絵里君。

我が346プロダクションには、学校に行けなかった"喰種"の学力をサポートするために秘密の部屋を作っている。

アイドルには基本的に、そこで読み書きや計算を修めてもらうのだが……。

彼女たち…特に智絵里君は、はどうやらこの青々とした芝生の上で勉強に励むのが好きなようだ。

かな子君とは対照的に幼少期はあまりいい暮らしが出来なかったようで、学校にも行けなかったと聞いている。

その分を取り戻そうと、こうして勉学に精を出している。

ふふ、いつの時代も若者の学ぶことに一生懸命な姿はいいものだ。


今西「それはいい! ……おや? ずいぶんと可愛らしい栞じゃないか。何処で買えるんだい?」

智絵里「あっ、それは……。マッスルキャッスルの時に、幸子ちゃんがくれたんですっ」

今西「輿水君が?」


智絵里君はとても嬉しそうに、四つ葉のクローバーが入った栞を見せて来る。

幸子と言うと、輿水幸子君のことかな?

彼女は確か人間だったと思うが……


そうか、ここにも『こんな関係』が築かれているんだね。
26 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:21:15.32 ID:6E8xIkAH0

「カワイイボクの話をしましたね!?」


匂いで分かってはいたが、こうも「にゅっ」と現れてくれると流石に心臓に悪いよ。


今西「おはよう幸子君。今、君が智絵里君に贈呈した栞の話をしていてね」

幸子「ああ、おはようございます部長さん……栞?」

幸子「……そ! そんなものよりもっとカワイイものがここにいますよ! ほら! ボクの話をしましょう!」


おや? やけに焦るねえ。


「幸子はんはほんま、優しいやさしいとこの話されるんは嫌がりはるんどす〜」

「わざわざ徹夜して手作りしてきたからね! ほんっと幸子ちゃんは優しいよね!」


おっと、今度は"喰種"と人間が一人づつ。


幸子「い、いいじゃないですか紗枝さんに友紀さんまで!」

幸子「これは一時的にでも智絵里さんを馬鹿にしたボクなりのけじめです! カワイイボクは智絵里さんが入院されていた時の苦しみをちゃーんと理解できるだけですから!」

今西「入院?」

友紀「あれ、知らないんです部長? 智絵里ちゃん、ちっちゃい頃は病気で学校に行けなかったんですよ? ね、紗枝ちゃん!」


小早川君を見ると、この場の人間二人に見えないよう人差し指を口に当てていた。

ああ! そういう話として纏めてくれたんだね。
27 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:21:52.02 ID:6E8xIkAH0

今西「それはそれは、お大事に……。ところでお茶会の約束をしていたのかい? 私はお邪魔かな?」

かな子「いえいえ! 良かったら部長も召し上がっていってください♪」

かな子「コーヒーだって淹れてみたんですよっ♪」

今西「ほほう! それは楽しみだ」

紗枝「幸子はんは、お砂糖いくつ入れはるんです〜?」

幸子「なっ! 入れる前提で言わないでください! 別にお砂糖もミルクもなくたって……!」

智絵里「じゃ、じゃあどうぞ……!」

幸子「ええ、ありがとう、ございます……ゴク」

幸子「……」



かな子「コーヒーに合うクッキー、作ってきたよ?」

幸子「……ありがとうございます」


幸子「おいしい……」
28 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:25:04.63 ID:6E8xIkAH0

友紀「幸子ちゃんはほんっとにかな子ちゃんのお菓子好きだねー!」

幸子「当然です。カワイイボクの舌に合う上質なお菓子です。誇ってもいいんですよかな子さん!?」

かな子「わあ! ありがとう〜!」

今西「……お菓子、かあ」


かな子君もすごいものだ。

"喰種"でありながら人間の十時君や槇原君に負けないくらい、彼女のお菓子はたくさんの人間アイドルを魅了している。

うちには佐久間君という、"喰種"であるにも関わらず料理を極めた前例もいるが

やはり味が分からない身で人間の舌を唸らせるものを作れると言うのは、素直にすごい。

こういう時は自分が"喰種"に生まれてしまったことが残念で仕方ないねえ。


人間にとっては甘いお菓子でも、我々にとっては灰の塊のようなものだから。


今西「……美味いなあ。かな子君の淹れてくれたコーヒーは、とてもうまい」

かな子「! ……えへへ、ありがとうございますっ」

かな子「どうかこれだけでも、楽しんでください」コソ

今西「ああ。とても素晴らしいコーヒーだよ」



幸子「ほら、部長もどうぞ! 紗枝さんも遠慮しなくていいですから!」

今西「!? い、いや私のような老いぼれより若い皆で……」

紗枝「一人だけ仲間はずれなんてあきまへんえ?」

友紀「あっ! じゃあ部長ビールどうです!? せっかく成人同士なんですし飲みましょうよホラホラ」

今西「え、ええ〜!?」


……喰うふりより、飲むふりの方が辛いんだねえ。
29 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 21:12:52.15 ID:6E8xIkAH0

今日はここまで。

こんな感じで少しずつ1クール範囲にあったことをさらっていきます。
30 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:35:31.23 ID:PloBVjx70

――――――――――――――――――――


まったく、ひどい目に遭った。

喉にざわりと染み付いたビールの泡に、粘膜を焼かれたかと思ったよ。

これからは人間から『飲み』の付き合いに誘われないよう、細心の注意を払わないといけないね。


だが、かな子君のコーヒーは実に美味しかった。

あのコーヒーは346カフェのものにも決して引けを取らない出来だった。

また頂きたいものだ。


…ふむ。菜々君のコーヒーも飲みに行くとしようかな?


この時間なら、あの二人もいるだろう。
31 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:36:18.59 ID:PloBVjx70

やはり、この時間帯の346カフェは適度に席が空いていていい。


今西「やあ菜々君。スペシャルブレンドをもらえるかい?」

菜々「今西部長! わかりました、今すぐお持ちしますねっ!」

今西「ゆっくりで構わないよ。ああ、それと……」

菜々「?」

今西「近々、初ライブがあるんだろう? おめでとう、大躍進じゃないか!」

菜々「!」


菜々「はいっ! なんと、なんとなんとなんと! ナナのプロデューサーさんがライブの仕事を持ってきてくれたんです!」

菜々「苦節10年、ようやくナナのステージが始まるんですっ……!」

今西「10年?」

菜々「い、今のなしっ! ゲホッゲホッ!」


菜々「話を戻しまして……ナナ、ライブのこともそうですけど」

菜々「いろんな人におめでとうって言ってもらえたんです。それも、すっごく嬉しくて!」

菜々「みくちゃんに李衣菜ちゃんも、とっても素敵なプレゼントをしてくれたんですよっ!」

今西「ほう!」
32 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:36:47.22 ID:PloBVjx70

みく「そうにゃ! みくと李衣菜チャンで、特別良いコーヒー豆を買って」

李衣菜「あとは私とみくちゃんが別々に、プレゼントを用意したんですよ!」

みく「ま、李衣菜チャンは実質気持ちだけみたいなもんだけどにゃ」

李衣菜「はあ!? 情熱はこもってるし!」

みく「つまり気持ちだけだにゃ」

李衣菜「い、いいでしょ別にー!」


相変わらず、見ていて微笑ましい2人だねえ。


今西「何をプレゼントしたんだい?」

みく「ふふん! みくはうさぎのカチューシャにゃ! 同じ柄のネコミミも買って、ナナチャンとお揃い!」

李衣菜「私は菜々ちゃんに好きな曲を聞いて、ギターで再現したんです!」

みく「聞いてみる? 李衣菜チャンの腕前ってほんっとひっどいの!」

李衣菜「なにおう!? 部長さん、こんな事言ってるのみくちゃんだけですからね!」


李衣菜君は、この場で菜々君に披露したギターを聞かせてくれるようだ。

この年では眩しすぎるギターから、コード? を箱に取り付け、

そして元気いっぱいに弦をかき鳴らしてくれた。


……うーん。

とりあえず、お金を取れる腕前とは言い辛いかな?


李衣菜「そんなー!?」

みく「ほらみろにゃ。ロックロックいう前にもっと練習しにゃー」

菜々「き、気持ちはとっても嬉しかったですからね! ね、李衣菜ちゃん!?」

李衣菜「うう……」
33 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:37:22.30 ID:PloBVjx70



「アンタの演奏、なかなかクールだったぜ?」



おや?

聞きなれない声だね。


李衣菜「?」

「よっ。…技術はまだまだかもしんねーけど、アンタのギターには熱い魂を感じたよ」

李衣菜「ほんと!? あ、ありがとうございますっ!」

「いいよいいよ、タメ口で。あたしも見た目ほど年いってるわけじゃねーからさ」

菜々「ゲフッ」

李衣菜「そ、そう? あ…ありがとうっ! えっと……」

「おっと。名前を言うのを忘れてたぜ」



夏樹「アタシは木村夏樹。アンタの名前は?」



どうやら、ギターに込めた情熱を感じ取ってくれた子がいたみたいだ。

おや、この姿は……おなじ346のアイドルじゃないか。

しかしこの子は……
34 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:37:53.81 ID:PloBVjx70

みく「……むー」

今西「気になるかい?」


今西「大切な相方が『人間と』仲良くしているのを見るのは」

みく「……そんなんじゃないです」

みく「ちゃんとみくだって、『あれから』は人間とだって仲良くするようにしてるもん……」

今西「うんうん。いい事じゃないか」

みく「……どうも」


みく「……でも、まだモヤモヤすることはあるにゃ」

みく「会社の中で、平気で『あんなこと』されることとか……」

今西「……あんなこと、ねえ」

菜々「……」


菜々「大丈夫ですよ、みくちゃん」

菜々「あの子たちはみくちゃんや、他の仲間を貶したいわけじゃないんですから」

みく「そうだけどっ……!」

今西「……」


確か、カモフラージュも兼ねてのことだったと聞いているが。

346プロダクションには、"喰種"だけでなく人間のアイドルもちゃんと在籍している。

例えば今の木村君や、先ほどの輿水君、姫川君のようにね。


勿論我が社の"喰種"たちは、その正体を隠し人間として彼女たちに関わっているわけだが……


そのせいで、耐えなければならないこともあるようだ。
35 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 22:38:41.97 ID:PloBVjx70

今日はここまで。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/16(月) 22:55:06.57 ID:Szoe9Mkf0

前編からいろいろあったみたいだけどそれも描写されるのかな
37 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 23:30:56.04 ID:PloBVjx70
>>36
そうですね!
外伝前編を書き始めた時に予定していたほどは書けないと思いますが、
それでも挟めるだけ挟んでいこうと考えています。
38 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:34:37.28 ID:BlCFKMP00

――――――――――――――――――――


さっきも話した通り…

346プロダクションの人間アイドルは、仲間に"喰種"がいることなど「知らない」。

故に彼女たちにとって"喰種"は、姿すら見たことのない都市伝説のようなものであり、

テレビで伝えられる情報から「なんとなく悪いもの」だと思っているようだ。


そして、正義感の強い人間の子ほど"喰種"に対し強い義憤を燃やす。

その結果―――――



みりあ「がおーっ、がーおーっ!!」

仁奈「ぐーるの気持ちになるですよー!!」

拓海「オラアッ! ナメてっと喰うぞコラァ!!」


薫「キャーッ! ぐーるだー!!」

里奈「うわ! ガチヤバなのいるしー!」

莉嘉「たーべーらーれーるーー!!」


「そこまでだッ!」

仁奈「何っ!?」


珠美「喰種捜査官だ! この珠美特等が来たからには誰も襲わせやしない!」

裕子「おのれ人を襲い肉を喰らう悪鬼め! このエスパーユッコ特等のサイキックで粉みじんにしてやる!」

珠美「やっちまってください!」

裕子「諸星特等ーーーッ!!」


きらり「にょわーーーっ!!」
39 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:35:08.70 ID:BlCFKMP00

きらり「悪いわるーい"喰種"は、このきらり特等がお仕置きしてあげるのですっ☆ ぐいっ☆」

仁奈「わー! 宙に浮いてやがるです!」

みりあ「赫子もまるできかなーい!」


きらり「ぶんぶーん☆」

仁奈みりあ「ウワーーーーーっ!!」


きらり「たくみちゃんもっ☆」

拓海「は? い、いやアタシはいいっておいやめろちょっとま」

拓海「ぐわあああああああああ!!」

里奈「たくみーーーん!! アハハハアハハハハ」

拓海「笑ってんじゃねえぞ里奈ゴラア! ほんとに喰ってやるかてめえ!」



休憩室や中庭では、こんな「喰種ごっこ」が良く見られる。

おおかた"喰種"役は見境なく人間を襲い、それを捜査官役が倒すシナリオ。

人間からすれば、他愛のないごっこ遊びなのだろう。

もしくは、たまに報道される"喰種"被害に不安を煽られ、または見過ごすしかない自分に憤りを感じ。

それをヒーローごっこで発散したがっている側面もあるのだろうね。


いずれにしろ、人間たちが遊びで行う「これ」は、決して悪意があってやっているわけではなく…

だから決して責められたり、やめさせられたりする謂れなどない。

むしろ、自分と同じ人間が罪もなく死んでいくことに心を痛めている証として

その綺麗な心を褒めてあげるべきことさ。
40 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:35:38.69 ID:BlCFKMP00

だが


莉嘉「きゃー! きらりちゃん、つっよーい☆」

みりあ「みりあもやるー! みりあも捜査官、やるー!」

里奈「きらりちゃん百人力〜! ヤバすぎー!」

きらり「おっすおっす、ばっちし☆」



とても、残酷なことだ。


人間たちには気付く由もないが、その義憤の切っ先を、常に間近で向けられているものがいる。

目の前で悪鬼と呼ばれ、自分の化身の打ち倒される姿をまざまざと見せつけられる。

時には、自分から打ち倒しに行く役を強いられる。

嫌がることはできない。人間としては、何もおかしい事ではない。

止めさせることもできない。人間として関わっている筈の自分が、どうして"喰種"などの肩を持つと言うのだろう。

悲しむこともできない。もし自分が人間でないと知られてしまったなら……


「どこかの怪物」に向けられた怒りが、一斉に自分に襲い掛かるかもしれない。


その可能性にずっと耐えながら、あの子たちはステージに上がり、テレビの前に立つ。

自分で踏み込んだ世界とはいえ……


やはり、とても残酷なことだ。
41 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:36:08.68 ID:BlCFKMP00

あの場を去ってしばらくすると、私の年老いて遠くなった耳に届いた声があった。



『ありがと、莉嘉ちゃん、みりあちゃん』

『きらりは、大丈夫だにぃ』

『"喰種"のみーんなに会えて、人間のみーんなに好きになってもらえて』

『人間のみんなは、きらりが人を食べるなんて知らないけど』

『きらりね、とーっても、うれすぃーの』

『きらりも、莉嘉ちゃんも、みりあちゃんも、里奈ちゃんも』

『拓海ちゃんは、薫ちゃんは、仁奈ちゃんは、珠美ちゃんは、裕子ちゃんは』

『ちゃーんと、大好きって分かってるもん』


『だからぁ、今のきらりはじゅーぶんはぴはぴ』



とても優しい声色を持っていた。

とてもか細い声だったよ。
42 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:41:11.22 ID:BlCFKMP00

今日はここまで。
>>2の画像にも表示されていますが、拓海は"喰種"として書いていた前編と設定を変更し人間として書いています。


あと珠美殿はひそかに喰種捜査官を目指しているという裏設定を作ってます。
多分なれないと思いますけどね。クインクス手術受けられるかどうかでワンチャン程度。
43 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:32:05.63 ID:WuE1tdoV0

ただ、希望はある。

本当の本当に、心から安心できる居場所を作ろうと頑張ってくれる子だっているんだ。


蘭子「我が名は神崎蘭子……クククッ。今宵は我が僕たちに、新たなる眷属を紹介しよう」

小梅「新しい……お友達?」

蘭子「うむ。―――顕現せよ! 『二宮飛鳥』!!」



飛鳥「やあ、飛鳥だ。……成程、これが蘭子の属するコミュニティ。ボクは新たにセカイを構築したわけだ」

飛鳥「いや……構築した、は正しい言い方じゃないか。ボクが今まで不干渉だっただけで、キミたちは元からここに存在した」

飛鳥「……接続……そうか、ヒトの世界は接続によって広がっていくんだね」

飛鳥「よろしく頼む。ボクにとってもキミ達にとっても、新しいセカイへの良いコネクトになることを祈ろう」


アーニャ「アー……むずかしい言葉、ですね?」

小梅「中二病、仲間……だね……」

美波「こ、小梅ちゃん!?」

飛鳥「まだ初対面だ、一言でボクを表現できるかのように見られるのも仕方ない」

蘭子「ね! カッコいいでしょ!」

飛鳥「……フッ」


渡り廊下で見かけた女の子たちは、どうやら新しい友達を紹介しているところのようだね。

漂ってくる匂いから、その子達が人間か"喰種"なのかが分かる。


あの場には人間が1人。

"喰種"が3人。


そして、人間でもあり"喰種"でもある子が1人。
44 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:32:39.15 ID:WuE1tdoV0

飛鳥「それじゃ……名残惜しいが、今日ボクには行かなければならないところがある」

飛鳥「決して損はしなかった時間だ。蘭子、また明日」

蘭子「闇に飲まれよー!」


小梅「す、すごい子と……お友達に、なったね……」

蘭子「我と彼の少女は共に晩餐を饗した身。深紅の宝石はその羽を彩り、漆黒の大地では純白の天使の下で身を寄せ合った」

美波「……ごめんなさい、今のはちょっとレベルが高くて分からなかったわ。晩ごはんのところは分かったんだけど……」

小梅「ケチャップソースの……ハンバーグと……ミルク入りコーヒーの好みが……合ったんだって……」

アーニャ「ハラショー! ランコ、сладкий……あまいもの、好きですね!」

蘭子「うん!」


美波「そう言えば、初めて人間のお友達が出来たのかな?」

蘭子「初めてじゃないです。同じ熊本出身の美穂ちゃんとも、九州出身の芳乃ちゃんとも仲良くなりました!」

小梅「そんなに……? サマーフェスの時は……まだ、人間のお友達……いなかったような……」

美波「そう言えばそうかも。蘭子ちゃん、最近意識して人間の子と仲良くなってる?」

蘭子「……えへへ」
45 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:33:09.47 ID:WuE1tdoV0

蘭子「私、人間でも"喰種"でもあるんです。両方、私なんです」

蘭子「前は、『どっちでもない』って思ってて……人間とも"喰種"とも、仲良くなんて出来ないって思ってたけど」

蘭子「"喰種"のみんなとは仲良くできたから、人間のみんなとも仲良くできるんじゃないかって思いはじめて……」

蘭子「そしたら、人間のみんなに、"喰種"のみんなのいい所、たくさん知ってもらえるかなって思ったの」


蘭子「みんなに笑ってほしいから……!」


美波「……!」

アーニャ「……ランコ」

小梅「それ……プロデューサーさんの、おかげ?」


蘭子「うん!」

蘭子「プロデューサーが、"半喰種"じゃなくて……『私』を見てくれて」

蘭子「それだけじゃなくって、合宿で、美波さんとアーニャちゃんが、私を仲間に入れてくれて」

蘭子「そうやって、私の世界を広げてくれたから……!」


蘭子「……ハッ」


蘭子「ぼ……忘却の彼方っ! すべては忘却の彼方に葬られんっ!!」
46 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:33:51.00 ID:WuE1tdoV0

小梅「……いーなー」

小梅「いーーーーーなーーーーー」

蘭子「こ、小梅ちゃん!? や、どうしたの!? まってそこだめ、かじらないで、んナあああああああ!!」


美波「あはは。小梅ちゃん、拗ねちゃってる」

アーニャ「でも仲良し、ですね?」

美波「うん。……そっか」


美波「きっかけは、合宿だったんだ」


美波「きっかけに、なれたんだ……」



"喰種"が、"喰種"と人との相の子を変えた。

そして今、相の子が人と"喰種"を変えようとしている。


その先に何が待っているかは分からないが……

どうか、光に包まれたものであってほしいね。
47 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:34:47.93 ID:WuE1tdoV0

――――――――――――――――――――


不満と希望がない交ぜになった346プロダクションは、そしてまた次の朝を迎える。

今回も平穏に、次の日を迎えることができた。


私はシンデレラプロジェクトの専用ルームにも上がってみる。

そこにはウサギを象った、大きなピンクのクッションが設置されている。

曰く…アイドル自身の個性を知ってもらうために持ってきた、私物のひとつらしい。


そして……やはり、彼女はそこで惰眠を貪っていた。


今西「やあ。相変わらずだね杏君」

杏「んー……わー、部長だ。急に来るもんだからショックで寝込むよ。ぐー」

今西「何を今更。誰が来るかなんて、君の耳ならとっくに分かるだろう?」

杏「まあ……そうなんだけどさー。ねむ」


今西「少しだけでいいから、老人の話に付き合ってくれたまえ。自慢の手土産も持ってきたからさ」

杏「お、分かってるじゃん部長。いいねえ新鮮なアメだ」


ケースを取り出して渡すと、杏君は待ってましたとばかりに起き上がる。

彼女が「アメ」と呼ぶ手土産は、飴玉のように丸くて汁気がたっぷりの、ジューシーな白球だ。


杏「あぐ……んち、もぎゅ……うん! うまい!」

今西「それは良かった。……君は変わらないフリが上手いねえ」

杏「いや、杏は実際変わってないし。仕事が面倒くさいのも、アメばっかり食べてるのもおんなじでしょ」

今西「いやいや。デビュー前と比べて、随分と面倒見が良くなったと思うよ?」

今西「今だってパトロールをやってくれていたようなものじゃないか」

杏「何のことかなー。杏は耳がいいから、たまたま会社で何が起きてるか分かるだけだよ」

今西「そうかそうか。有事の時はCPのみんなをよろしく頼むよ」

杏「……約束はできないよ。杏の耳が届くのは、この敷地内くらいだし」

杏「白鳩が何か企んでたとしても、ここからじゃ聞こえないからね」

今西「そこまで背負わせるつもりはないさ。アイドルを守るのは、こっちの仕事だからね」
48 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:35:14.13 ID:WuE1tdoV0

杏「……で? 話はそれだけ?」

今西「いいや。これから346プロダクションは、どう変わっていくだろうと思ってね」

今西「君も知っているだろう? 蘭子君や、未央君たちが人間にもアプローチをかけ始めていることに」

杏「……あー」


≪美穂ちゃんのステージ、今回は応援に行くよ! 頑張ってください!≫

≪ありがと! 熊本の女の強さ、見せてあげるから!≫


≪行くぞ茜ちん! あの朝日まで競争だー!≫

≪うおおおおおお!!≫

≪ふ、二人とも待って〜……!!≫


≪渋谷凛ちゃん、だよね?≫

≪ど、どうも……≫

≪……? どちら様?≫


杏「……うん。今でも聞こえてくるね」

杏「ニュージェネレーションズなんかは、蘭子ちゃんに負けないくらい人間と関わって来てるなあ」

今西「未央君は心が人間寄りなんだってね。今年の346プロは本当に色んな子がやって来た」

今西「ここから、人間と"喰種"の関係に変化が生じるんじゃないか……私はそう思って、楽しみにしているんだよ」

杏「いい変化ばっかりとは限らないけどね」

今西「……何か、不安要素でも?」

杏「んー……や」
49 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:36:17.34 ID:WuE1tdoV0

杏「……そろそろ皆が来るけど、まだ話したいことある?」

今西「! いや、やめておこう。老人の散歩は終わりさ、ちゃんと若い者に席を譲るよ」

今西「他愛ない話に付き合ってくれてありがとう」

杏「どーも。…………」



今年は本当に、面白い子がやって来た。

二つの生物の境を踏み越える少女に、人の心を持った少女に、天才。

勿論、今まで在籍していたアイドル達がつまらないとは決して思わない。

だが、今年は殊更大きな化学反応が起こるだろうと確信している。


杏君のいう通り、それが決していい方向に繋がるとは限らない。

……だが、どうか望みたいものだ。

彼女たちが……もしくは、彼女たちの導いたものが。

今まで続いてきた「悪いもの」を壊し。

周りも、彼女たち自身も、笑顔でいられる世界で暮らせるようにと。
50 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:36:54.15 ID:WuE1tdoV0

今西「……!」

「! 今西部長。おはようございます」

今西「ああ、おはよう。今からミーティングだったね?」

「はい。双葉さんのお話に、付き合ってくださったのでしょうか。ありがとうございます」

今西「いやいや、付き合ってもらったのはこっちだよ。礼を言うのは私の方だ」

今西「……本当に、礼を言うのは私の方だね」

「……? はあ」


ひとつ、言えることがある。

彼女たちが、ここに一つの笑顔を取り戻してくれたことだ。

彼をずっと見てきた者としては、礼を言い尽くしても足りないねえ。



今西「気張りたまえよ、プロデューサー君」

武内P「…? 当然です」


――――――――――――――――――――
51 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:37:32.00 ID:WuE1tdoV0

――――――――――――――――――――


杏「……」

きらり「あーんずちゃんっ! おっはー☆」

杏「ぐえっ!」

きらり「にょわっ!? だ、だいじょーぶ?」

杏「心配するくらいなら毎朝抱き着くのはやめよ?」

きらり「う、うん……杏ちゃん、いつもちゃんと避けてたから、ビックリしちゃって。ごめんね」

杏「あー……。いいよ、別に。考え事してただけだから」

きらり「かんがえごとぉ? なに考えてたの?」

杏「ん? そりゃ、不労所得はどうやったら効率よく手に入るかなーって」

きらり「んもー! 杏ちゃんはそんなことばっかり考えりゅー!」

杏「どやあ」

かな子「杏ちゃん……今日もお仕事、がんばろ?」

智絵里「杏ちゃんにもコーヒー、淹れますからっ」

杏「おー、智絵里ちゃんのコーヒーかあ。いいねえ」



杏「……」
52 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:38:57.97 ID:WuE1tdoV0





早苗≪……あら? 珍しいわね、あたしが二番手なんて≫

雫≪そうなんですよー。ユッコちゃん、まだ来なくって≫

早苗≪なんか連絡来てる? あたしはなんも言われてないわよ≫

雫≪それが……早苗さんから電話、かけてみてくれませんかー?≫


早苗≪なによ? 雫ちゃんから連絡してくれてもいいじゃない……≫

早苗≪ま、いいけどね。…ぴ、ぽ、ぱ、っと≫

雫≪私もかけてみたんですけどー……≫

早苗≪あら、そうなの?≫

早苗≪…………≫


早苗≪……おっかしいわね≫





早苗≪ユッコちゃん、何で電話に出ないのかしら≫





本当の、本当に。

どうか、いい未来が待っていて欲しい。
53 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 20:31:24.13 ID:WuE1tdoV0

〜一方、美城常務・執務室〜


美城「……フフフ」

美城「帰国して直ぐ、この346プロダクションの全貌を視察したが……」

美城「とても良い素材が揃っている」

美城「美しい城を作るにはもってこいのアイドルが勢ぞろいだ。我が先祖が"喰種"のポテンシャルに価値を見出したのは、賞賛すべきことだな」


美城「だが、在るべき理想のアイドルには程遠い」

美城「美しい城には、それに見合った美しいお姫様が必要だ」

美城「バラエティや行き過ぎた個性などと、今の美城は物語性を潰しているものばかりだ」


美城「千川」

ちひろ「はい」

美城「すぐに346プロダクションの全プロデューサーを集めろ」

美城「現在進行しているプロジェクトをすべて白紙に戻し、あるべきアイドルの姿に戻すべく企画を―――」



ちひろ「申し訳ありませんが、常務にその権限はありません」

美城「何!?」
54 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 20:41:24.78 ID:WuE1tdoV0

ちひろ「私達の雇用主である、美城一族の一員とは言え……」

ちひろ「常務はこちらでのプロデュース経験が無きに等しいド素人」

ちひろ「更に言えば、万が一346プロダクションの機密が漏洩した場合、人間である以上現時点において常務には何の刑罰も発生しません」

ちひろ「346プロダクションは機密が多く、その運営にはとても重い責任が伴います」

ちひろ「ですから、この中枢を担うには貴女の経験や立場が浅すぎるのです」


美城「……なんだと?」


美城「では、346プロダクション全体の企画を統合することは」

ちひろ「不可能です」

美城「私が目を付けた高垣楓に、極上の仕事を回すことは」

ちひろ「(彼女と神崎蘭子は我が事務所の最高機密ですので)不可能です」

美城「城ヶ崎美嘉のプロデュースは」

ちひろ「(中堅どころなので)駄目です」

美城「木村夏樹」

ちひろ「(人間だけど)無理」

美城「……渋谷凛」

ちひろ「むーりぃ」



美城「……私に出来ることはなんだ?」

ちひろ「まずは、新人やランクの低いアイドルをプロデュースして実力を示してください」

ちひろ「常務がプロデュースできるアイドルをリストアップしたものがこちらになります」

ちひろ「『人間か"喰種"か』を含めて、常務が個人情報の開示を求めることが可能なアイドルは、こちらから選択された方のみになります」

ちひろ「それ以外のアイドルについて情報を探った場合、処罰の対象になりますので不審な行動は慎んでくださいね」

ちひろ「では、精々頑張ってください♪」バタン

美城「……分かった」



美城「……あの"喰種"は人間が嫌いなのか?」

美城「後半、私への口調がやたら刺々しいものになっていたような……」ショボン
55 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 20:45:00.99 ID:WuE1tdoV0

今日はここまで。これにてアニメ14話の範囲は終了です。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/18(水) 23:59:38.98 ID:rw+a6ebzO
おつー
57 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 21:58:48.75 ID:wfmycY140

〜過去・本田未央〜


本田未央、15歳。

高校一年生で、赫子は甲赫。

そんな未央ちゃんは半喰種でも、たまにウワサに聞く人工喰種でもなく。

純粋な"喰種"として産まれたんだ。


「血のつながった」お父さんとお母さんの話は……

どんな人だったとか、「今の」お父さんとお母さんとはどうやって出会ったのかは、あんまり知らない。

とりあえず、最初は"喰種"と知らなくて普通に友達付き合いして。

私が生まれたころに、正体を明かして私を預けたってことくらいしか知らない。


もしかしたら、聞けば教えてくれたかもしれないけど……

何となくだけど、そのことを聞く気にはなれなかった。


多分だけど、もし「血のつながった」お父さんやお母さんのことを、より多く知ってしまったら。

知った分だけ私は今の「育ててくれた」お父さんやお母さん、

兄貴や弟のことを、家族だと思えなくなっちゃうかもしれないって思ったから。

家族の絆が薄くなっちゃうかもしれないって思ったから。

それが怖くて、こんな話をしたがらなかったんだと思う。


だってこの家の中では、皆が人間で……



"喰種"なのは本田未央ただ一人だったから。


58 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:00:10.34 ID:wfmycY140

私が人間じゃないこと、そのことを家族以外の人たちに知られちゃいけないって教えてもらったのは……多分、小学校に入るちょっと前。


お父さんや兄貴が色とりどりのものを食べてるのに私だけ赤い肉ばっかり食べてるとか、

たまに弟のミルクを横取りして食べたらあんまりにも不味くて吐いちゃったとか、

そう言うことがあったから、「何か違う」ってことは分かってて、ぶっちゃけショックは感じなかったかな。


って言うか、自分だけご飯を食べるフリとか、人間じゃ太刀打ちできないような運動能力を制御する方法とか学んで、

とにかく未央ちゃんが"喰種"だってバレないようにする訓練が大変で……

当時の私は幼いながらに「バレたら死ぬ」って分かってたから、それはそれは必死で人間のフリをしてたもんだから、

自分がどうだからショックだー、なんて考えるヒマは無かったな。


ああでも、悪い事ばっかりでもなかったよ?


家族のみんなが教えてくれる以外にも、自分でも近所のおばさんとかクラスメイトを見て、人間の行動を学んでたから。

そうやって人間観察をしてる時に悩んでる人を見つけたら、お人好しの未央ちゃんのことなので相談に乗ってあげたり、励ましてあげたり。

そんなことを繰り返してたら、いつの間にかめちゃくちゃ友達が増えて。

クラスのアイドル本田未央ちゃんが出来上がってたんだよなー。


いやー、こんなの秘密がバレやすくなって結構まずい状況なのにどうしてこうなった。
59 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:01:15.71 ID:wfmycY140

そんなわけであんまり深い事を考えなかった小学生時代のロリ未央は、秘密を隠しつつ結構楽しく暮らしてたわけだけど……

中学生になったかならなかったくらいの年、要するに思春期のとき。

人間のフリにも慣れて、周りを見渡す余裕が出来て……


私、気付いちゃったんだよね。



"喰種"が、人間に嫌われて怖がられてること。



そりゃそうだよね。

人間の肉(あとコーヒー)しか食べられないんだもん。それ食べなきゃ生きていけないもん。

"喰種"は人間の天敵ってことになるよね。

私が正体を隠して生きなきゃいけないのも納得だよ。


……いや、私は人を殺したことなんてないよ? 殺人で起訴されても全くの無根拠、無罪確定だよ? 控訴するよ? できないけどさ!

お父さんの学生時代からの友達に、双海先生っていうお医者さんがいるから、

医者先生に肉を手配してもらって、私は今日まで生き延びてる。

もちろんこれからも人を殺したいなんて思わない。


本田未央は人間に優しいクリーングールなのだ!
60 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:02:02.96 ID:wfmycY140

……なんてね。


ほんとは分かってる。

"喰種"は人間を殺さなきゃ生きていけない。

人間の死を食べていかなきゃ、自分が生きられない。

私が食べてるお肉も、たぶん死んだ人のものだろうから……人間の死を利用して生きてるのは、おんなじ。


私、まるでハイエナだ。


それに気付いてからは、まわりの皆には打ち明けてもしょーがないことだから、悩んでるふりなんて見せなかったけど。

私は本当の意味で「人間」になれないって悟っちゃって……辛かったな。

……辛い、はちょっと違うかも。


さみしかった。


身体は人間じゃないし、生活は"喰種"じゃないし。

って言うか、街で"喰種"を見かけたり"喰種"の集まる喫茶店にこっそり入って話を盗み聞きすることはあっても、"喰種"の友達は出来たことなかったし。
             ミンナ
考えれば考えるほど、心も人間から離れてく気がして、かと言って"喰種"にもなり切れなくて。

そんな私が嫌だったから……


だから346プロのオーディションに応募したのかな?
61 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:03:18.71 ID:wfmycY140

346プロの秘密を知ったのは……ある"喰種"が集まる喫茶店に行って、"喰種"のことを知ろうとして客の話を盗み聞きしてた時。

未央ちゃんも匂いは"喰種"そのものだったから、人間がいない時はふつーに"喰種"の話が聞けたんだよね。

そこで、私と同じ"喰種"の女の子が話してるのを聞いたんだ。


「346プロダクションは"喰種"が"喰種"のために運営している芸能事務所だ」、って。


行ってみたいって思った。

"喰種"に話しかけに行くのは、実はちょっと怖くて躊躇してたけど。

でも芸能事務所なら、ちょっとは話しかけやすい子が来てるんじゃないかって思ったから。

"喰種"の友達が出来るって思ったから。


だから、チキンな未央なりに女は度胸!と、いきり立ちまして。

そして無事、笑顔を理由に第二次選考を突破したわけです。


1回普通に落選するとは予想外だったね。うん。
62 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:03:53.71 ID:wfmycY140

そんな訳で、内心ビビりつつアイドル活動を始めたワタクシ本田未央。

キュートで巷に聞いてた"喰種"らしくなくほんわかした尾赫ガール、しまむーこと島村卯月ちゃんと。

クールだけど弄れば可愛くて楽しい羽赫喰種、しぶりんこと渋谷凛ちゃん。

そんな二人と「ニュージェネレーションズ」なるユニットを組みまして、アイドル活動はスタート……


……しませんでした。


ちょっと、色々ありまして……情けないことに。

未央ちゃん、デビューライブ直前で精神的にダウンしちゃいまして。

それからは引きこもっちゃったり、プロデューサーを突っぱねちゃったり、

デビューライブを蹴っちゃったもんだから、みなみんたち他の子とは違い地味な下積みをせざるを得なくなり、

それにしまむーもしぶりんも付き合わせちゃって……

ほんとに迷惑かけちゃったな。ごめんね、しまむー。しぶりん。プロデューサー。みんなも。

迷惑をかけるからって、自分勝手なこと言ってアイドルやめようとしてごめんね。

こんなどうしようもなかった私と、今まで一緒に歩いてくれて、ほんとにありがとね。

合宿のとき、つみれ汁を美味しいって言ってくれてすっごく嬉しかったよ。

あれ、"喰種"には不評かなって思ったもん。
63 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:04:24.59 ID:wfmycY140

あのファンレターを貰えたのも、サマフェスでお客さんみんなを楽しませることが出来たのも。

しまむーが、

しぶりんが、

プロデューサーが最後まで一緒に歩いてくれたから。

こんな頼りないリーダーを頼ってくれたから。


みくにゃんが。

りーなが、りかちーが、みりあちゃんが、みむっちが、ちえりんが、みなみんが、アーニャが、らんらんが、きらりんが、杏ちゃんが、

みかねえや、あーちゃんや、他のみんなも。

ずっとずっと、色んなものをくれて、支えてくれたから。


だから、あんなに素敵なステージをつくることが出来て。





奪うばかりだった私が、やっと一人救うことができました。
64 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:05:34.87 ID:wfmycY140

みんなありがとう。

本当に、本当にありがとう。


もし誰か友達が、悩んで崩れそうになったら。

その時は未央ちゃんがいっぱい助けるから。

いっぱい助けられた分、どこまで出来るか分からないけど、私が助けになるから。


だから……


ふつつかものの"喰種"ですが、どうか仲良くしてあげてください!


なんてね!
65 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:06:41.75 ID:wfmycY140

今日はここまで。

個人的には未央ちゃんが喰種設定を練ってて一番楽しい子です。
66 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/22(日) 00:09:27.62 ID:hCac2GXfO
今のところ前編からの設定変更は
「ゆかり、拓海が喰種→人間」、
「アーニャの赫子が鱗赫→尾赫」、
「卯月がアイドルになりたいと言った時両親は割とお気楽に許可した→きつめの条件を出すくらい結構渋った」

の三点になっております。

ノロって尾赫だったのね
67 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/22(日) 00:17:15.19 ID:3N3KSle+0
今のところCPの赫子設定は

羽赫:凛、蘭子、智絵里、杏
甲赫:未央、李衣菜、美波、きらり
鱗赫:かな子、みりあ、杏(2種持ち)
尾赫:卯月、みく、莉嘉(美嘉とおそろい)、アーニャ

となっております。
赫子の形とか考えるのめっちゃ楽しい
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/22(日) 00:23:35.92 ID:iw/EOXrE0
みりあ赫子出せるのか
11歳で出せるなら将来大物になりそうだな
69 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/22(日) 00:46:17.33 ID:3N3KSle+0
>>68
そう言えば中学生くらいからっぽかったですね、赫子出せるの。トーカやヒナミがそのくらいだったかも…
みりあは天才ってことでいいか

あとCP以外で考えてたアイドルの赫子設定でこんなのもあります。

藍子は甲赫であり形は原作:reオークション編に登場したピクハゲのものを横幅を広くした感じの半月状。
両肩の甲赫の縁を合わせて中に籠ることで完全防御形態となることが出来るのだ!
70 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/03(金) 22:23:39.66 ID:N0thDAtS0
生存報告

来週には再開する予定です
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/04(土) 02:23:07.99 ID:y9h9gZZT0
>>70
乙です
いつまでも待つので焦らずじっくりお願いします
72 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/09(木) 23:57:47.44 ID:SrO+PGzG0

〜現在・星輝子〜


ど…どうも。星輝子だ……

甲赫の"喰種"……座右の銘は、「キノコはトモダチ、エサじゃない」……フヒ

こんなのでも、一応アイドルで……

今年の梅雨まではトモダチのシイタケクンと一緒にジメジメしてたはずが……

プロデューサーに見つかって、オーディション会場に引きずり出されて……

気付けば、アイドルに……


どうして、こうなった……

い、いや、楽しいけど……

まゆさんや小梅ちゃんに出会って……

幸子ちゃんって言う、人間だけど、可愛い子とも仲良くなって……

楽しいけど……



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



楓「……うふふっ♪」



ど、どうして、私はここにいるんだ……?
73 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/10(金) 00:03:56.18 ID:GIopvlMq0

今日はここまで。とりあえず1レスだけ更新。


凛ちゃんは卯月を失っても未央がいればギリギリ闇堕ちせず踏みとどまれるんじゃないかなーとか、某バトロワssを見て考えてました。

両方失うとやばそう
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/10(金) 02:00:24.65 ID:aBluw/nV0
75 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:56:17.54 ID:953BNBgz0

……え、ええと……このヒト……

いやヒトじゃないのか……?

いや、半分ヒトか……?


ともかく……このヒトは高垣楓さん。

元々モデルだった人で、今では346プロダクションで一番人気のアイドル……

そ、そりゃ、そうだよな……

背が高くて、目は綺麗なオッドアイで、歌声も、雄々しさと清らかさがあって……

私のようなジメジメグールは、近くにいるだけで干からびそうだ……


……そ、それでだ。

楓さんは……私も、人から話を聞いただけなんだが……

「人と喰種の混血」、らしい。

親のどっちかが人間で、もう片方が"喰種"……

母親が餌と間違えて吸収してしまったり、そもそも栄養が足りなくて、本当は子どもなんかできないらしいが……

それでも、「奇跡」が起こって生まれる場合があるって……
76 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:56:56.46 ID:953BNBgz0

じゃあ、私も「混血」かもしれないのか……って思ったことがある。

私は、親の顔知らないしな。

「モノゴコロ」が付いた時には、傍にはキノコしかいなかった……

い、いや、私の話は今はどうでもいいんだ。

楓さんの話をしよう。もしくはキノコ……シイタケクンの話、するか……? してもいいのか……!?

……な、なわけ無いですよね、ハイ。楓さんの話をします、ハイ……


普通の"喰種"と、「混血」にはちゃんとした見分け方があるんだ。

それは「混血は片目だけが赫くなる」ってこと……

私はしっかり両目が赫眼になるから、普通の"喰種"でした……


蘭子ちゃん……えっと、小梅ちゃんとよく一緒にいる子で、この子も「混血」なんだ……

346には楓さんと蘭子ちゃんで、2人の「混血」がいる。

その子には、片目だけの赫眼を見せてもらったことがある。

蘭子ちゃんは右目だけが赫くなってて……楓さんは左目が赫くなるらしい。


そんな目の特徴から、楓さんや蘭子ちゃん、人と"喰種"の混血として生まれた人は……


―――「隻眼の喰種」って呼ばれる。
77 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:57:33.56 ID:953BNBgz0

隻眼の喰種はすごいらしい。

人と同じご飯を食べることが出来るのに、赫子を出すことも出来る。

しかも、普通の"喰種"とは比べ物にならないくらい強い赫子をだ。


蘭子ちゃんはどうだったか、聞いたことはないが……

楓さんの方は、とんでもない話をよく聞く。

なんでも物凄い数の捜査官を、一度に相手にして勝てるとか……

その数は、山で見つかるキノコをかき集めても足りないくらいだとか……

私達"喰種"は人間を食べるが……楓さんは"喰種"も食べてたとか……


そんな話が346中の喰種に伝わっているから、"喰種"アイドルの大体が、楓さんを怖がってる。

瑞樹さんや、美優さんみたいな、楓さんのことを知ってる"喰種"なのに普通に話しかけてる人たちもいるけど……

…あの人たちはあの人たちで、すごいよな……
78 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:59:56.73 ID:953BNBgz0

そう言う私も……いや、怖いのが全部じゃないんだ。

アイドルとして、ステージで歌ってる姿はすっごくキレイだから……

そう言うところは、すごいって言うか……尊敬してるんだ。


えっと……別に噂通りの怖い人ってわけじゃないんだと思う。

蘭子ちゃんに皆でハンバーグを作ったとき、楓さんも参加してて……

その時、優しそうな顔で笑ってたから。

思ったより怖い人じゃないのかな……とは、思ったんだ。


でも、それでも……

楓さんは何か「特別」な感じがする。

生まれもそうだし、見た目とか、アイドルとしてのオーラ…?とか……

私みたいなのとか……あとは、小梅ちゃんたちみたいな普通の"喰種"とか。

同じ隻眼でも、蘭子ちゃんは親しみやすくて……

楓さんは、周りにいる人達とはいろいろと違ってると思うんだ。

だから、正直ちょっと話しかけづらい。

元々、自分から話しかけるなんて出来っこないが……


楓さんは、とくに。
79 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 22:01:28.40 ID:953BNBgz0

それは、それとして。


なんで……


……なんで私は…………





楓さんのミニライブに呼ばれているんだろう……





凛「……?」

卯月「あ、あはは……」

未央「アレワタシナニカワルイコトシタノカナナンデコノメンバーナンダロカエネエサマオコッテルカカエデサマナニカキニサワルコトデモアレナニドシテ」ガクガク

蘭子「これが世紀末歌姫の魔力……!?」フルフル



楓「あら? もっと気楽にしてくれていいんですよ? ……きらっ、とね?」



……まあ、呼ばれたのは私だけじゃないんですけど……フヒ
80 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 22:31:19.94 ID:953BNBgz0

今日はここまで。

やっと全体プロットができてまともに続きを書けるようになりました。
81 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:49:36.36 ID:EuOtddn00

楓「……んー……」


卯月「」カチカチ

未央「」コチコチ

蘭子「」カチコチ



この仕事で、私は2回ほどビックリさせられた……

1回目は、仕事の話が来たとき。

……このゲスト参加のお仕事は、私の親友からいきなり伝えられたものだ。

楓さんの名前が出た時は……気絶しそうになったな……

ゲストが私一人だったら、たぶん枯れていた……

今でさえ枯れそうですけどね……


楽屋では楓さんが椅子に座ってたから、私達5人は床に正座してました……

何もしてないけど、なんかそうしなきゃいけない気がしたんです、ハイ……

ちなみに今、楓さんも合わせて正座されてます……


なんだこれ……



……話を戻そう。

仕事の話のほかに、もう1回ビックリしたのは……



凛「……あの」
82 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:50:05.29 ID:EuOtddn00

楓「! あら、どうしたんですか?」

楓「確か……凛ちゃん、ですね?」

凛「うん」


輝子「!?」


あ……あの凛さんって人……

特にためらわずに、楓さんに話しかけただと……!?



……あとで未央さんに教えてもらったことだけど……

凛さん、"喰種"の噂話については単に興味が無くて疎かったらしい。

だから、楓さんのこともあんまり恐れてないのか……
83 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:51:40.26 ID:EuOtddn00

凛「……会場。ここで本当に合ってるんですよね?」

楓「ええ! 間違いなく……マッチが無くても♪」

凛「それにしては……」


凛「……会場、小さい気がします」


卯月「そ、そうですよね……?」

未央「別に、小さいからどうだって話じゃないとは思うけど……」

蘭子「この場に如何様な魔力が……?」


そう。

もう1回ビックリしたのは、この会場にきたときだ。

場所は、漫画とか、DVDとかを売っているお店の一番上の階……イベント用のスペースらしい。


つまり、ものすごく狭いところだったんだ。


……いや、さすがに机の下よりは広いけどな……

それに私は狭い方がいいし、ちょっとホッとしてるが。

それでも……私がデビューしたときの会場より、ずっと小さくて狭い。
84 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:56:14.86 ID:EuOtddn00

……いや、箱が小さいことに文句を言うつもりはない。

私も最初は、少ないファンの前で歌った。


ボッチだった私が、プロデューサーという親友を初めて持って。

ジメジメしたやつなりに、ステージの圧力に負けないように、必死に歌っていたら。

初めてのステージが終わった後……何人か、私に向かって拍手してくれた。

その中には"喰種"も人間もいた。

本当なら、小さい私なんかエサにしてくるはずの"喰種"に。

私なんか気にも留めないか、汚いものを見る目だけ向けて来るかだけの人間が、だ。

そういうものだと、思っていたのに……

あの人たちは、優しくて、楽しそうな顔で笑ってくれたんだ。


ずっと日陰者でボッチだった私に、何人もの人が笑顔を向けてくれたことを、私は忘れたことはない。


アイドルにも慣れて、ファンというトモダチが増えて、あと、アイドルのトモダチもできて。

あの数は「しょぼい」って言うものだったと知った今でも……

やっぱり、私にとって、あの人たちはすごく眩しかった。

すごく大事にしたいって思ったんだ……



……あの、スミマセン。

自分語りばっかりだな。ほんと……スミマセン。


私が言いたかったのは、けっして会場の小ささが不思議ってわけじゃないってことだったんだ。


問題は、その小さい会場にいる人のことで……

なんで、この人が……



凛「なんで、楓さんがこんなところで……?」
85 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:58:35.38 ID:EuOtddn00

今日はここまで。

大阪両日で応募してたけど両方落ちました。まあ1セットずつしかCD買ってなかったし当然っちゃ当然。

ハイファイ一枚で取れた去年がおかしかったんだ。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/26(日) 00:05:46.31 ID:H/b9r0mR0

原作ピエロとかえらいことになってんな
87 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/26(日) 00:31:39.66 ID:t3C5XZj40
>>86
そっすねえ

ピエロとかフルタとか和修とか、正直このシリーズを書き始めた頃に鍛えた知識では
原作の理解が追い付かなくなってきてます
88 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:19:18.81 ID:zYet9Dkf0

凛さんが、私の疑問を言ってくれた。

卯月さんたちの方を見ると、みんな同じことを思ってたみたいだ。


自分から言わなかったのは、もしかしたら楓さんを怒らせるかもしれない……と思っていたからなんだが……

楓さんは、くすくすと笑って答えてくれた。


楓「意外かもしれませんけど」



楓「ここ、私のデビューライブの場所なんです♪」



…………



「「「―――――えええええええええ!!?」」」


89 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:19:59.64 ID:zYet9Dkf0

未央「え! は!? 嘘!? 楓さんほどの人が……お方が!? ここで!?」

卯月「私達よりずっと狭い場所ですね!?」

凛「もっと大きな舞台かと思ってた……」

蘭子「歌姫は馬小屋にて産声を上げた……?」


楓「もう! お仕事には大きいも小さいも無いんですーっ」


少しだけむくれる楓さん。

……あの、蘭子ちゃん。馬小屋はひどくないか?

あ、神様の話に出てくるのね。



……神様、か。懐かしい言葉だな……
90 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:21:07.73 ID:zYet9Dkf0

楓「……まあ。私も、後から知ってびっくりしました。ここは、普通346のアイドルがデビューライブを行う場所よりずっと小さいって」

楓「実はここでのお仕事、プロデューサーさんは『あえて』ここを選んだみたいなんです」

楓「かつては『隻眼の王』なんて呼ばれて、誰もが恐れる私を捕まえて……あえて」





『―――あなたは誰ですか? 私の暇つぶし相手ですか?』

『? そうですよ? 少しの力で死んでしまうひと達が、暇つぶし以外の何かになるんですか?』

『だって、つまらない人ばかりですから』

『決まったポーズしか求めないカメラマンさん、睨むか物陰で悪口ばかりの同僚さん』

『大声を上げて、勝てもしないのに私に襲い掛かって来るだけの"喰種"や捜査官』

『悲鳴を上げるだけの、さらに弱い"喰種"や人間』

『そんな人たちしかいないのに』


『??? どうして? どうして、貴方には勝てないんでしょうか』

『……私は、死ぬのでしょうか』

『ああ、そうですか』


『……えっ?』

『……アイドル?』





楓「……」

楓「……でも、この会場はすてきなところです」

楓「だって、ほら」
91 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:21:34.97 ID:zYet9Dkf0

楓さんは目をつぶる。

静かになった楽屋には、私達以外の声が響いていた。


『楓さんまだかなー』

『へえ! 初ライブに参加してた人なんですか!』

『サイリウム、余分に持ってきてるんです。良かったらどうぞ!』

『今日はニュージェネが来ると聞いてチケット買いました!』

『きのこはいいぞ』

『じゃあ蘭子ちゃんの可愛さについて語ってあげましょう!』



とても近い場所から聞こえる声だった。





楓「――こんなにも、ファンの皆さんが近いんですから」


――――――――――――――――――――
92 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:22:01.69 ID:zYet9Dkf0

―――その後、ファンの列が崩れるトラブルがあった。

そこに楓さんが現れて、解決してくれた。

皆と一緒にうちわを手渡してる時も、舞台で歌っている時も。

来てくれた楓さんの……トモダチ一人一人に、楓さんはニッコリ笑いかけていた。


おお、なるほど……

楓さんはこういう人なんだ。

私と同じことを考えていた人。


こう言うのを、親近感って言うのだろうか。フヒ


そう言うことなのかな。

私や、蘭子ちゃん。

凛さん、卯月さん、未央さんが呼ばれた理由って。


みんな、楓さんに親近感を抱いてるんだろうな。
93 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:22:28.43 ID:zYet9Dkf0

――――――――――――――――――――


そして、ミニライブは無事終わった……


蘭子「碧眼の女神!」

楓「あら? 女神って私のこと?」

蘭子「うむ! 是非とも、碧眼の女神が為した業を奏でよ!」

楓「業? そうね……業なら……喰種に自分の赫子を仕込んで、無理矢理動かしたお話とか……」

蘭子「ぴいっ!? い、否! 業とはそのような堕天の印に非ず!」

楓「あら! 続きを話して欲しいのね? そうそうこの方法、死体にも有効でー……」

蘭子「ちがいます〜っ!」


凛「すごいね。蘭子、すっかり楓さんに懐いてる」

卯月「まるで親子みたいですねっ!」

未央「親子とな? ……そう言えばかえ姉さまとらんらんって共通点多いよね。羽赫だし何より……」

凛「未央。そういう話は、今はいいんじゃない?」

未央「……そうだね! かえ姉さまも、私達と同じアイドルだったって分かったし!」

卯月「楓さんがすごく近くなった気がしますね!」

卯月「ね、輝子ちゃん!」

輝子「!」


輝子「……ああ、そうだな……!」
94 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:23:07.14 ID:zYet9Dkf0

卯月「ところで……楓さんにあの会場を充てたプロデューサーって一体どんな人なんでしょう?」

凛「そう言えばそうだね。楓さんのプロデューサー、見たこと無いな…」

未央「すごいよねその人。度胸あるって言うか、怖いもの知らずって言うか」


輝子「……」



神様。女神。

アイドルになる前は、知らなかった言葉だった。

意味を教えてくれたのは、まゆさんだったな。



輝子『――なあ、まゆさん』

まゆ『? どうしました、輝子ちゃん?』

輝子『この間きいた言葉なんだけど……「カミサマ」ってなんだ?』

まゆ『神様、ですか?』

輝子『うん』
95 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:23:37.05 ID:zYet9Dkf0

まゆ『宗教……って言っても、輝子ちゃんは知りませんよね』

まゆ『そうですねえ……』



まゆ『……神様って言うのは、心から信じられるもののことです』

まゆ『人間は、その「神様」のために、なにかを我慢したり、生きる力が湧いたり』

まゆ『…誰かを殺す事だって出来るんです』


輝子『す、すごいな人間……』



まゆ『そう考えたら、まゆにとっての「神様」は……まゆのプロデューサーさんですね♪』

まゆ『輝子ちゃんには「神様」はいますか?』


輝子『え? ……えっと……』



輝子『そ、そうだな。トモダチのシメジクンだったり……』

輝子『親友とか、小梅ちゃんとか、幸子ちゃんとか……』

輝子『ファンの皆や……まゆさんのためになら、ちょっとくらいお腹がすいたり、仕事を減らされても我慢できるかな……』

まゆ『!』

輝子『こ、殺すのは……どうだろう……あ、ブナシメジクン、エリンギクン、あとあと藍子ちゃん、愛梨ちゃんもカミサマだな……』

輝子『ど、どうしよう……一人に決められない』


まゆ『……くすっ。別に神様を一人にする必要なんて、ないんですよ?』
96 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:24:54.70 ID:zYet9Dkf0

輝子「……」


まゆさんが教えてくれた通りなら。

私にとって、ファンの皆はトモダチで、カミサマだ。

みんながいるから、生きていて楽しい。

…こんなにカミサマが多かったら、クラリスさんに怒られるかな……


……楓さんにとっても、そうなのか?





楓さんも、楓さんのファンのおかげで、生きられるのかな。


ファンのためなら、何かを我慢することが出来るのかな。


――――――――――――――――――――
97 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:26:00.54 ID:zYet9Dkf0

――――――――――――――――――――


美城「フフフ……できたぞ! 『プロジェクトクローネ』だ!」

美城「新人や仕事の少ないアイドルにも輝く星はあるじゃないか」

美城「私の権限が足りず4人ほど削る羽目になったが……まあいい。早速メンバーを召集しよう!」

美城「待っていろ……この6人で直ちに成果を出し、私が正しいと言うことを証明してやる」

美城「ゆくゆくは美城の在るべき姿を……っ!」



早苗「楽しそうねあの常務」

セクギルP「結構人材集めに苦労したみたいですしね。達成感でハイになるのも分かります」

早苗「それにしてもキャラ変わりすぎじゃない? もう少し静かな人だと思ってたわ」

P「言わないであげてください……」
98 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:26:42.30 ID:zYet9Dkf0

ヴーッヴーッ


早苗「…来た」

P「? 誰からです?」

早苗「んー…昔の後輩から! ちょっと集まる約束してたのよ」

早苗「と言う訳で今日はあがるわね! お疲れー!」

P「お疲れさんです」



早苗「……」


――――――――――――――――――――


ガチャ


早苗「よっ、久しぶり!」

早苗「どう? 結果出た?」

早苗「…ん? ええ、誰にも教えてないわよ。極秘で頼んだ捜査だもん」

早苗「あたしのプロデューサー君にも雫ちゃんにも黙ってるわ」


早苗「……それで、どうなのよ」





早苗「ユッコちゃん、見つかった?」
99 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:27:16.95 ID:zYet9Dkf0

早苗「…そう。まだ見つかってないのね」

早苗「何よ? 気にしてないから、まだ言いたいことがあるなら言っていいわよ」


早苗「は? スプーン? ユッコちゃんの?」

早苗「帰り道に落ちてて、指紋も付いてる……?」

早苗「何よそれ。……誘拐ってこと?」


早苗「…………」


早苗「―――――"喰種"の、体液?」



早苗「…待って。待ちなさい」

早苗「それってまさかユッコちゃんが食べられたってこと?」

早苗「……落ち着けるわけないでしょ!? 冗談じゃないわよ!」

早苗「客のことなんて今はどうでもいいわよ! そんなことより……」


早苗「……客? 誰よそれ」


早苗「…………え?」



早苗「……喰種捜査官?」
100 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:28:01.89 ID:zYet9Dkf0

――――――――――――――――――――


早苗「……あなた達が?」


?「ええ。この度は、私達にお時間を割いていただき感謝します」

??「ッス」


?「貴女の同僚である堀裕子さんの持ち物と思われるスプーンから採取された"喰種"の体液について」

?「我々CCGが過去に得たデータと照会することで、その身元をある程度特定できました」


??「どーやらあたし達が追ってる組織のやつがユッコちゃんを誘拐したみてーだぜ」

??「ウチでつけた名前は『キャッスル』。ユッコちゃんみたいな新人アイドルや美少女をあちこちで攫ってる奴らだ」


?「私達は、一身上の都合で志願してこの事件の捜査に携わっています」

?「ほんの少しの情報提供で構いません。どうか、早苗さんや貴女の仲間にこれ以上魔の手が伸びないよう」


?「私達に協力していただけませんか」
101 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:30:44.62 ID:zYet9Dkf0

早苗「……あたし、今はもうただのアイドルよ?」

早苗「何が出来るってわけじゃないけど……」


早苗「放っておくと皆が危ないのね。いいわ、協力する」

早苗「それに、あなたたちも他人事じゃないもんね」

早苗「…ただし。その代わり、ちゃんとユッコちゃんのこと探してちょうだい」


早苗「……それで?」





早苗「橘準特等に」


早苗「市原一等捜査官」





早苗「あたしは何をすればいいの?」
102 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:34:24.71 ID:zYet9Dkf0

今日はここまで。ちょっと出だしがコケた感じはしますが、とりあえず15話範囲は終了です。

輝子の中の人の松田颯水さんって声優で双子のお姉さんがいたんですね…。初めて知りました。


次回ウサミン回の予定です。またの名を346版エリーゼ回。
103 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/27(月) 20:55:34.18 ID:zYet9Dkf0

…すんません。最初に注意書き入れるの忘れてました。

オリキャラ出ます。出ました。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/02/27(月) 23:42:33.99 ID:hz5fMYjwO
おつん
105 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/28(火) 08:49:00.33 ID:oyBYwCEV0
杏「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝小ネタ、短編集】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1486942971/

一応宣伝。
外伝後編で書けないネタが浮かんだら
このスレに投下する感じで行きます
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/01(水) 01:29:03.40 ID:Vbu8DVk3O
アニメ準拠なら志希にゃんは出ない感じか
107 : ◆AyvLkOoV8s [sage]:2017/03/01(水) 17:13:46.09 ID:i/tPTgV60
>>106
とりあえずこのスレじゃ出ないと思いますねー

ちなみに志希にゃんの嗅覚でも人と喰種の判別は出来ない設定です。
108 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/03(金) 22:04:38.69 ID:ERLJoYu20
346アイドルの設定いろいろまとめてみました

http://imgur.com/zpYwG3a
http://imgur.com/Oq0rEZN
http://imgur.com/oN1O9Z2

続きの執筆が捗らなかったのでねー…
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/04(土) 01:54:42.17 ID:Yzgu2mrH0
乙です
少し見ない間に輝子の話が進んでた
楓さんは隻眼の中でもエトのポジションか
110 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 10:46:55.43 ID:QEuJG5m20

〜過去・前川みく〜



「みくちゃんは人間が嫌いなの?」



シンデレラプロジェクトの皆には、よくこんなことを言われるの。

皆と比べて人間と話したがらないから、そう思われるんだって分かるけど……

みくね。別に、人間が嫌いってわけじゃないの。

ホントだよ?


ただ、「この世界は人間の世界」だってことを受け入れられないだけなの。


"喰種"は人間の天敵。

だから、もし人間に自分が"喰種"ってバレたら…問答無用で殺されちゃう。

そのために"喰種"は自分の正体を必死で隠さなきゃダメ。

吐きそうになる人間のご飯を、笑顔で飲み込まなきゃダメ。

人と関わりすぎちゃダメ。

どれだけ辛くても、"喰種"よりずっと多い、周りの人間たちに合わせてニコニコ笑っていなくちゃダメ。

目立っちゃダメ。

人と違う所は隠さなきゃダメ。

とってもキュートなネコチャンが、小さい頃からの親友だったことも隠さなきゃ。

アイドルなんてもってのほか。


学校ではそうやって、地味でマジメな人間を演じてた。

みくの周りは人間ばっかりで、みくだけが「フツウ」じゃなかった。


みく達"喰種"は、フツウにしてちゃダメなの。
111 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 10:47:36.86 ID:QEuJG5m20

みくが346プロを知ったのは、適当に友達付き合いしてた人間たちにライブに連れていかれた時だったよ。

その時みくは中学生だったけど、アイドルなんて見たくもなかった。

だってライブに出てるアイドルなんて、人間ばっかりなんだもん。

ここに"喰種"の居場所はないって、言われてる気分になるんだもん。

でも、断る理由がうまく思いつかなくて……ご飯の匂いで満ちてるライブハウスに嫌々ついていくしかなかった。



だから、こんなこと思ってもいなかったの。

まさか、出てるアイドルの半分から"喰種"の匂いがするなんて。



ライブが終わった直後、いてもたってもいられなくて、正体を隠すことも忘れかけて、舞台裏に乗り込んじゃった。

真っ先に目についた"喰種"のプロデューサー……今のPチャンにしがみついて、


みくもアイドルにして。

舞台のみんなみたいに、みくも輝きたいの。


…って涙ぐみながら駄々をこねてた。


Pチャンはみくのこと分かってくれて、あとでシンデレラプロジェクトに入れてくれたけど……

Pチャンもスタッフの皆も、困らせちゃったよね。

あの時はごめんね、Pチャン。


…あと、初めてのお仕事の時も……本当にごめんね。
112 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 10:48:04.28 ID:QEuJG5m20

卯月チャンが入って来て、未央チャンが入って来て、遅れて凛チャンも加入を決めて。

やっとメンバーが揃ったから、みくもアイドルを始められるんだーって喜んでた。

人間の目に怯えるだけじゃない、みくの好きなことをいっぱいできる生活が始まるんだって思ってた。





初めてのお仕事は先輩アイドルの背景の着ぐるみ役だった。

それも、相手は人間。

憧れの"喰種"アイドルでさえなかった。


それからも、何度も、何度も、何度も、何度も。

みくの下積みの相手は、人間アイドルばっかりだった。


小日向美穂、輿水幸子、日野茜。

十時愛梨に、その他諸々。


美嘉チャンや瑞樹さん、小梅チャンや紗枝チャン、まゆチャンみたいな、

"喰種"なのにちゃんとアイドルとして活躍してるひと達が相手なら。

どれだけ地味な下積みでも、みくは喜んでお仕事したのに。


みくが人間のこと苦手だって知ってるはずなのに。

Pチャンはまるで当てつけをするみたいに、みくに人間の踏み台ばっかりやらせた。
113 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 10:48:34.23 ID:QEuJG5m20

…何よりも許せなかったのは、みく以外のみんなが「人間相手の下積み」を受け入れていたこと。


あの時もそうだった。

ニュージェネとラブライカのデビューが決まった時も、みくの「踏み台」は続いてた。

だからPチャン相手に怒鳴り込んだことがあったの。

「もう人間の荷物持ちは嫌だ」って。

「なんで人間を立てるお仕事ばっかりやらなきゃいけないの」って。


みんな同じ不満を抱えてるに決まってるって思ってた。

だから、みくが代表して文句を言えば、みんなも後押ししてくれる。

それなら、Pチャンもお仕事を変えてくれるかもって、期待してた。



「ダメだよみくちゃん。私達は"喰種"なんだから」



こんなことを言われるなんて、思いもしなかった。
114 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 10:49:19.10 ID:QEuJG5m20

悔しかった。

情けなかった。

この時だけは、大声が周りに響いて正体がばれてしまうかもってことも考えられなくて。

人間相手に気後れしてた智絵里チャンやかな子チャン、きらりチャンなんかに、

怒鳴り散らして、泣きわめいて。

言うことがなくなって、涙をぼろぼろこぼしながら、引き止める美波チャンも無視して部屋を出ていっちゃった。


大声で人間たちに"喰種"のことを知られたかもって気付いて青ざめたのは、何もかも嫌になって出てきた中庭でのこと。

泣きながら歩いてるみくを、人間のアイドル達が見てた。

また余計なことをすれば人間たちに正体がバレるかも。

もしかしたら、もうバレてるかも。

下手したら、みくだけじゃなくて……


今考えたら、ただみくを心配してくれてただけって分かるんだけど、

あの時は視線が怖くて怖くて仕方なくって、

何処でもいいから、視線から隠れる場所が欲しかった。


必死で周りを見渡した。

やっと掴みかけた夢なのに、全部崩れてしまうかもしれないって考えたら、恐ろしくて仕方なかった。

ほとんどパニックになりかけて、逃げまわった先で……





みくは346カフェと。



それからナナチャンに出会ったんだよ。
115 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 10:50:53.92 ID:QEuJG5m20

今日はここまで。

本当なら外伝前編で書いてたはずのエピソードでした。
116 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 16:48:38.75 ID:QEuJG5m20

〜現在・安部菜々〜


"喰種"に生まれたからには、遅かれ早かれやって来てしまう「出来事」があります。


野良猫みたいに暮らしていても、

普通の人間みたいに街で暮らしていても、

夢なんか無くて毎日をだらだらと過ごしていても、

ひとつの夢を抱いて必死に生きてる最中でも、

やっと夢がかなって、すっごく幸せな気持ちの時でも。


"喰種"が生きるなら、たった今起こってもおかしくないこと。

今日起こっても、何も不自然じゃないこと。


「その時」がいつ来るか……

ナナたち"喰種"は、それに内心ではずっと怯えながら。

それでも、毎日をすこしでも楽しいものにするために生きています。


だから。

今日、ナナに起こったことは、決して不幸なことなんかじゃなくて。



仕方のないことなんです。



どれだけ小さくても弱くても、ナナは"喰種"に生まれちゃいましたから。
117 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/05(日) 16:49:45.73 ID:QEuJG5m20

1レスだけ追加。

ウサミンは赫子を出せない"喰種"です。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 20:23:18.54 ID:65cRCcJg0
一応乙
119 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/03/18(土) 21:32:50.67 ID:VTG9pU+j0
そろそろ再開できそうです。

飛び飛びの更新ですみません
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/19(日) 06:10:09.78 ID:G/GybNNNO
エタらなかったら何でもいいよ
楽しみに待ってる
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