楓「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝後編】

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1 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/10(火) 22:11:23.70 ID:299m36On0



見なよ、あの数。



"白鳩"も大人げないよね、たかが芸能事務所にさ

ちょっと"喰種"がアイドルやってるだけだって言うのに。





こうやってさ。

突然終わっていくんだね


当たり前みたいだった日常が、突然崩れる。





終わるときは……いつも突然なんだ




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484053883
2 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/10(火) 22:12:13.67 ID:299m36On0

アイドルマスターと東京喰種のクロスオーバーssシリーズ

『偶像喰種』の346サイド最終章です。


このスレが初めての方にも問題がないように書くつもりなので、

最終章だけでも楽しんでいただけたらと思います。

舞台はアニメ版シンデレラガールズと同じものとして書きました。


書くことが割とたくさんあるため、かなりの亀更新になると思います。

また、シンデレラガールズ主要人物の死亡シーン・苦痛描写・捕食描写等も結構入れる予定なので、

どうかご注意ください。なるべくレーティングには引っかからないよう配慮します。


http://imgur.com/xotECx3
http://imgur.com/ebzCOpk


上の添付画像は346プロダクションに在籍しているアイドル183名の人間・喰種振り分け設定です。

尚、トレーナー姉妹は全員が喰種の設定となっています。
3 : ◆AyvLkOoV8s [sage]:2017/01/10(火) 22:15:51.63 ID:299m36On0

とりあえずスレ立てだけしました。

デレステで183人全員そろったこの日にどうしてもやっておきたかったので…


本格的なお話は明日以降開始させていただくことになります。
4 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 22:12:40.40 ID:DnYpiQvm0

―――過去・島村卯月―――



始まりは、テレビを見ていたときでした。

すごくちっちゃい頃に見ていたテレビ。

そこには、とってもきらきらした女の子が映っていたんです。

キラキラしたステージに立って、素敵な衣装を着て、それがまるでお姫様みたいで。

テレビや街のスクリーンに映ったたくさんの女の子達を見ているうちに、

それが『アイドル』って呼ばれる人たちなんだと知りました。


そして……


私もあんな風になりたいって、思うようになっていったんです。

私もアイドルになって、あんな風にステージに立ってみたいって。


心の底から願うようになったんです。



でも、それをパパやママに話した時……すごく、悲しそうな顔をされたんです。

『ごめんね卯月』って。

『あなたはアイドルになれないの』って。

『あんな風に、人前で踊ることなんてできないの』って……


ちっちゃな私は、どうしてどうしてって泣きながら尋ねました。

パパとママは、私を抱きしめて答えを言ってくれました。


とっても簡単な答え。



私が、アイドルになれないのは。

それは、私が。

島村卯月が―――――




    グール
―――"喰種"だからでした。
5 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 22:24:18.50 ID:DnYpiQvm0

"喰種"っていうのは、人間みたいな姿をしているけど人間じゃない生き物のことです。


人間よりずっと力が強くて、

人間よりずっと目や耳や鼻が良くて、

人間の持っていない武器を持っていて。


だけど、人間と同じものが食べられない生き物です。


"喰種"が唯一食べられる『それ』とコーヒー以外のものを食べちゃうと、

すっごく不味くて、身体も壊してしまうんです。

コーヒーだけは美味しく飲めますが、それでも栄養にすることは出来ません。

私達"喰種"は『それ』を食べないと生きていけないんです。



だから人間は"喰種"を敵だと思っているんだって。

だから人間に見つかった"喰種"は殺されてしまうんだって、ママは教えてくれました。


もし私がアイドルになれたとしても、私が"喰種"だってばれちゃえば。

ファンもステージも衣装も全部失って、殺されてしまうんです。

人を殺して、『それ』を喰らう―――――



―――『人肉』を喰らう化け物として。
6 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 22:38:14.90 ID:DnYpiQvm0

それだけ聞かされても、ちっちゃい私は夢を諦めきれませんでした。

それまでに無いくらい……もしかしたら、生まれてはじめてなくらい。

それくらい駄々をこねて、わがままを言って、泣いてパパとママを困らせたんです。

絶対に正体を隠すから。いい子にするから。

お勉強でもお手伝いでもごはんの訓練でも、なんでもするから。

そう約束して、まずは学校で頑張って、約束したことは全部守り切って。

そしてやっと、アイドルの養成所に行くことを許してもらえたんです。


それからは……とっても長い時間を、養成所で過ごしました。

周りにいたのは、ほとんどが人間の女の子。

その子たちは夢を諦めたか、私より先にデビューしたかで、養成所を去っていきます。

時々"喰種"の女の子とも一緒になったんですけど、その子たちは皆、遅かれ早かれ辞めてしまいました。


デビューした女の子は、みんな人間の女の子だったんです。


私はオーディションを受けても落ちて、

目立ちすぎることも出来ないから、ほかに派手なアピールもできなくて。



"喰種"の私はたった一人、養成所でレッスンして毎日を過ごしていました。
7 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 22:52:11.66 ID:DnYpiQvm0

どれだけ笑顔で頑張っても、何も変わらない日々が過ぎていきました。

近付きすぎると正体がバレちゃうかもしれないから、一緒に頑張る友達だって中途半端に作れませんでした。




でも止まり続けた時計は……ある日、動き出しました。



私を見つけてくれた人がいたんです。



背が高くて、目が細くて、初めて見た時はちょっと怖いって思った男の人。

匂いで"喰種"だって気付いた人。

あの人が養成所に訪ねてきて、私をアイドルにしてくれるって言ったんです。

理由は、補欠合格。

少し前に、とあるプロダクションで受けたオーディションのことでした。

新しいプロジェクトに応募して、一度は落ちたオーディションだったんですが……

3人の欠員が出て、だからあの人は私を拾ってくれたって話をしてくれました。


私を選んでくれた理由は、ふたつありました。

ひとつは、私が"喰種"だから。

信じられない理由でした。


何も知らずに応募したオーディション。

プロジェクトの名前は『シンデレラプロジェクト』。

そして事務所の名前は『346プロダクション』。


なんと、シンデレラプロジェクトも、346プロダクションも……


"喰種"が運営をしていて。

"喰種"がアイドルをプロデュースして。

"喰種"がアイドルになる―――――



―――"喰種"のための芸能プロダクションだったんです。
8 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:12:28.08 ID:DnYpiQvm0

目をぱちくりさせている間に、見たことのない新しい景色はどんどん広がっていきました。

隣には、たくさんの女の子が……


クールできつく見えるけど、決めたことにはまっすぐな渋谷凛ちゃん。

人間に育てられた、とってもフレンドリーで色んな人と仲良くなれる本田未央ちゃん。

人間がちょっと苦手だけど、猫が大好きでアイドルへの情熱は一番な前川みくちゃん。

一番年上で、色んな勉強をして運動もバッチリな新田美波さん。

一番年下で、いつもキラキラした目で楽しそうにはしゃぐ赤城みりあちゃん。

お菓子作りが得意で、いつも人間の皆にお菓子をあげて笑顔にしている三村かな子ちゃん。

ロシア系の"喰種"で、とってもキレイな髪と瞳を持ってるアナスタシアちゃん。

お姉ちゃんの美嘉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんみたいになりたい城ヶ崎莉嘉ちゃん。

弱気だけど、本当はすっごく強くて勉強熱心な緒方智絵里ちゃん。

ロックに憧れて、"喰種"だからこそアイドルになった多田李衣菜ちゃん。

とっても大きくて、でも可愛いものが大好きな諸星きらりちゃん。

"喰種"としてすごい力を持っているけど、ちょっと面倒くさがり屋な双葉杏ちゃん。

なんと人間と"喰種"の間に生まれた、難しい言葉が好きな神崎蘭子ちゃん。


私と同じ、"喰種"に生まれながらもアイドルになった女の子たちが並んでいました。
9 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:14:06.75 ID:DnYpiQvm0

今日はここまで。

10 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:24:38.33 ID:DnYpiQvm0

一番最初に特等席から見たアイドルのみんなは、人間も"喰種"も関係なく輝いて見えました。

いつか私達も手に入れられるって言ってくれた輝き。

時計の針がすすむごとに、たくさんのいい所を知っていった仲間のみんな。

そして始まったアイドル生活。


胸を膨らませて飛び込んだ世界は……でも、ちょっとだけ大変でした。
11 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:35:28.13 ID:DnYpiQvm0

一番最初に躓いちゃったのは、デビューライブ。

私と、凛ちゃんと、未央ちゃんの3人ユニット『ニュージェネレーションズ』のデビューライブが、トラブルにあって中止になってしまったことです。

一度中止になってしまったデビューは、後に続く皆のためにもなかなかやり直せるものじゃなくて。

3ヶ月か4ヶ月、ほかの皆がユニットデビューするまで、ずっと地道な下積みを重ねなくちゃいけなくなってしまったんです。


でも、その中で皆のことをよく見られるようになって。

その中で、"喰種"のお友達や、ちょっとだけ人間のお友達もできて。

凛ちゃんや未央ちゃんの悪い所、それだけじゃなくってもっといい所をたくさん見つけられるようになって。

実は3人だけの秘密も作っちゃって。


苦しいこともあったけど、凛ちゃんや未央ちゃん、応援してくれるみんなと一緒に。

養成所で止まっていた時とは違って、確かに一歩一歩階段を上っていくことが出来ました。
12 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:45:20.24 ID:DnYpiQvm0

そして迎えた合宿に、初めて立つ舞台……サマーフェスティバル!


多くはないお客さんでしたけど、それでも積み上げてきたものがあったから。

凛ちゃんと未央ちゃんと一緒に歩いてきた道のりがあったから。


だから、私もいっぱい笑顔になって!

プロデューサーさんが私を選んでくれた、もうひとつの理由で!

精一杯、その時を踊りつくしたんです!



わたしたちの曲が終わった時に、ふと気付きました。

キラキラしたステージ、素敵な衣装。

それはまるで、私が夢見たアイドルのステージだって。


夢みたいに綺麗な景色の中心に、いつの間にか私も立っていたんだって。
13 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:54:15.69 ID:DnYpiQvm0

フェスティバルが終わって、たくさんのファンレターが届いたときに。

ふと、「アイドルみたい」って呟いちゃいました。


そしたら、みんなが笑って



「アイドルだよ!」



って言うんです。


そっか。

こんな景色が、まだまだ先に待っているんですね。

進めば進むほど、色んな素敵なものが待ってるんですね。


それを考えるだけで、すっごく楽しくてうれしい気分になるんです。



本当にありがとうございます。

私をここに連れ出してくれて。

ここまで引っ張ってくれて。


次は何があるんですか?

どんなお仕事ができますか?

今私が歩いている道は、どこに続いていくんでしょうか?
14 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:54:44.27 ID:DnYpiQvm0

一緒に歩かせてください。

ニュージェネレーションズのみんなと一緒に。

シンデレラプロジェクトのみんなと一緒に。

そして、プロデューサーさんと一緒に!



島村卯月、頑張ります!
15 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/12(木) 23:56:17.05 ID:DnYpiQvm0

ここまで。

前編と比べて結構な変更点を加えています。

混乱させたら申し訳ない。
16 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 22:42:06.08 ID:ucSBsxz10

―――現在・今西部長―――


盛りこそ過ぎたけど、まだまだ暑い日が続く。


私も"喰種"である以上、人より身体も丈夫な筈なんだが

暑すぎる夏も寒すぎる冬もつらいつらい、長く生きるのもいい事ばかりではないねえ。


ハハハ、若いうちに鍛えておいてよかった。

おかげで今では部長と言う、なかなか余裕があって

外で汗水垂らして歩き回るような仕事をせずにすむ役職に就けている。

今の私は杏君のいい教科書といったところかな?


杏君が私くらいの年になった時、私のところまで来れているだろうか?

是非とも、悠々自適に好物の目玉を舐めて過ごすような生活を送って欲しいものだ。

彼女は結構有能だし、不可能ではないだろう。

そして才に溢れるのは"喰種"の能力も同じ。小さい体や耳の良さが功を奏して、生き延びることも難しくなさそうだ。



……まあ、こんなことを望むのはある意味残酷かもしれないねえ。

"喰種"が長生きすることはつまり……



たくさんの友達を看取ることになってしまうからね。
17 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 22:42:48.34 ID:ucSBsxz10

「おかえりなさいませ」

「ああ、ご苦労」


おっと。老人らしくまた昔の思い出に浸ってしまった。

冷房が効いた快適なビルの中から出るつもりはないが、これでも上司の出迎えに参ったんだ。

気持ちくらいはちゃんとしておかなくては失礼じゃあないか。


何せあの御方はアメリカから帰国した足で出社するほどの仕事人。

もう若いとは言い辛いのに、このとんでもなく暑い中を表情一つ変えずに移動してきた仕事人。

大学生の時でもアイドルの番組を片っ端から見続けて仮想プロデュース計画を書き込み続けた仕事人。

中学生の頃は1ヶ月にノート5冊以上に相当するファンレターを生成し目をキラキラ輝かせながら投函していた仕事にククク

プアハハハハしまった高校生の頃の悶えようを思い出すだけでハハハハハハハハハハハハ


「私の顔に何かついていますか?」

今西「いや何も。私こそ顔に何かついてたかい?」

「いえ。何か不愉快なことをお考えでいた気がしたので」

今西「真面目に君の帰りを待っていたさ」



美城常務「……時間を浪費するだけの追及は止めましょう」


あぶないあぶない。
18 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 23:01:23.34 ID:ucSBsxz10

美城「……」

今西「我が社の若人たちが気になるかい? 働きぶりはそこらの人間よりいい筈だがね」

美城「ええ。流石は高いパフォーマンスを誇るだけのことはあります」

美城「ですが、『彼ら』の生み出す効率の良さはそれだけに由来しない」


今西「ほう?」

美城「『彼ら』の中には常に『緊張』がある。死と隣り合わせの生を送ってこなければ生まれない緊張が」

美城「それが、常に目の前の仕事の実行に余念がないフットワークと、かつ日常的に些細なミスを逃さず処理する丁寧さに現れている」

美城「アメリカの兄弟会社にて研修を受け、学んだことです。"喰種"は人材として非常に優秀だ」


今西「それは嬉しい評価だ。未来のリーダーとして非常に期待できるよ」

今西「この場に人間が混じっているのを確認せず"喰種"という単語をハッキリ言ってしまわなければね?」

美城「問題はありません。仕事ぶりを見れば、少なくとも346プロダクションの職員ならば見分けは付きます」

美城「見られて困るアイドルも今はいない」


今西「おや、そこまで考えていたか。小さい頃からの容赦ない観察眼は健全と言ったところかな?」

美城「……無駄話をする時間を設ける予定はありません。それでは、社内の見学がありますので」

今西「はいはい」
19 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 23:20:30.50 ID:ucSBsxz10

まったく、相変わらず昔話を嫌う子だ。


……うーむ。彼女自身は『ここまで』は気付いていないようだが



やはり、ここにいる皆が彼女に注目しているね。

無理もない。

特例かつ我々の雇い主である美城一族の一人であり、いずれこの城を任せる後継者であるとは言え。

この場のほとんどが初対面の『人間』であり、我らが346プロダクションの秘密の一端を握っている存在だからね。

ピリピリしてしまうのも仕方がない。


やれやれ……肝心なところで情熱が目を塞ぐ子だから

思いがけないところで背中を刺されて食い千切られやしないかとヒヤヒヤしてしまうね。



今西「待ちなさい、美城常務」
20 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 23:29:48.95 ID:ucSBsxz10

美城「何でしょうか。用件は手短に」

今西「分かったよ」


今西「君は"喰種"をどう思っている?」

今西「罪を犯さなければ生きられない身体を持って生まれた者にも、城やドレスは与えられるのか?」


美城「本来ならば、斯く在るべき身を持ち生まれた者だけにガラスの靴は相応しい」

美城「生まれに寄り添うのは罪だけではない。星の輝きは、生まれた時すでに決まっている」

美城「むしろ"喰種"であるからこそ城に相応しいシンデレラとして舞い、より輝きを放つことが出来る、と私は考えています」

美城「ただし、人間を卑下するつもりは毛頭ありません」





とりあえず…喰種を認めていることだけ皆に伝われば、それでいいか。

これで今すぐ咬まれることは、もうないだろうね。
21 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/14(土) 23:32:12.28 ID:ucSBsxz10

今日はここまで。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 23:50:26.64 ID:DYmPpPFJ0
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/15(日) 00:23:01.59 ID:UhqMNciVO
常務…
24 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:19:49.81 ID:6E8xIkAH0

さて、懐かしい娘の顔も見れたことだ。

次は孫娘たちの顔でも見に行くとしようかな?


かのプロデューサー君ほどではないが、私もCPの進行に一枚噛んでいる身だ。

彼女たち専用ルームにはそこそこ足を運んでいるし、暇な子とはコミュニケーションも取る。

そのおかげで「暇を持て余してフラフラしているお爺さん」とでも思われているかな?

何にせよ五ヶ月も関わっていれば、どの子が何処にいるかくらいの検討はつくようになる。

匂いを追ってもいいのだけど……まあ、この年で変態扱いされるのは流石に堪えるからねえ。


まずは中庭にでも行ってみようか。
25 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:20:28.00 ID:6E8xIkAH0

「かな子ちゃん、この漢字……読み方、教えてくれませんか?」

「いいよ〜。これは……『しぐれ』!」

「しぐれ、ですね……!」


おお、いたいた。やはりここだったか。


今西「具合はどうだい?」

かな子「…あ! 今西部長、おはようございます!」

智絵里「お、おはようございます! ちょっとずつですけど、漢字を覚えてます……!」


三村かな子君に、緒方智絵里君。

我が346プロダクションには、学校に行けなかった"喰種"の学力をサポートするために秘密の部屋を作っている。

アイドルには基本的に、そこで読み書きや計算を修めてもらうのだが……。

彼女たち…特に智絵里君は、はどうやらこの青々とした芝生の上で勉強に励むのが好きなようだ。

かな子君とは対照的に幼少期はあまりいい暮らしが出来なかったようで、学校にも行けなかったと聞いている。

その分を取り戻そうと、こうして勉学に精を出している。

ふふ、いつの時代も若者の学ぶことに一生懸命な姿はいいものだ。


今西「それはいい! ……おや? ずいぶんと可愛らしい栞じゃないか。何処で買えるんだい?」

智絵里「あっ、それは……。マッスルキャッスルの時に、幸子ちゃんがくれたんですっ」

今西「輿水君が?」


智絵里君はとても嬉しそうに、四つ葉のクローバーが入った栞を見せて来る。

幸子と言うと、輿水幸子君のことかな?

彼女は確か人間だったと思うが……


そうか、ここにも『こんな関係』が築かれているんだね。
26 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:21:15.32 ID:6E8xIkAH0

「カワイイボクの話をしましたね!?」


匂いで分かってはいたが、こうも「にゅっ」と現れてくれると流石に心臓に悪いよ。


今西「おはよう幸子君。今、君が智絵里君に贈呈した栞の話をしていてね」

幸子「ああ、おはようございます部長さん……栞?」

幸子「……そ! そんなものよりもっとカワイイものがここにいますよ! ほら! ボクの話をしましょう!」


おや? やけに焦るねえ。


「幸子はんはほんま、優しいやさしいとこの話されるんは嫌がりはるんどす〜」

「わざわざ徹夜して手作りしてきたからね! ほんっと幸子ちゃんは優しいよね!」


おっと、今度は"喰種"と人間が一人づつ。


幸子「い、いいじゃないですか紗枝さんに友紀さんまで!」

幸子「これは一時的にでも智絵里さんを馬鹿にしたボクなりのけじめです! カワイイボクは智絵里さんが入院されていた時の苦しみをちゃーんと理解できるだけですから!」

今西「入院?」

友紀「あれ、知らないんです部長? 智絵里ちゃん、ちっちゃい頃は病気で学校に行けなかったんですよ? ね、紗枝ちゃん!」


小早川君を見ると、この場の人間二人に見えないよう人差し指を口に当てていた。

ああ! そういう話として纏めてくれたんだね。
27 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:21:52.02 ID:6E8xIkAH0

今西「それはそれは、お大事に……。ところでお茶会の約束をしていたのかい? 私はお邪魔かな?」

かな子「いえいえ! 良かったら部長も召し上がっていってください♪」

かな子「コーヒーだって淹れてみたんですよっ♪」

今西「ほほう! それは楽しみだ」

紗枝「幸子はんは、お砂糖いくつ入れはるんです〜?」

幸子「なっ! 入れる前提で言わないでください! 別にお砂糖もミルクもなくたって……!」

智絵里「じゃ、じゃあどうぞ……!」

幸子「ええ、ありがとう、ございます……ゴク」

幸子「……」



かな子「コーヒーに合うクッキー、作ってきたよ?」

幸子「……ありがとうございます」


幸子「おいしい……」
28 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 15:25:04.63 ID:6E8xIkAH0

友紀「幸子ちゃんはほんっとにかな子ちゃんのお菓子好きだねー!」

幸子「当然です。カワイイボクの舌に合う上質なお菓子です。誇ってもいいんですよかな子さん!?」

かな子「わあ! ありがとう〜!」

今西「……お菓子、かあ」


かな子君もすごいものだ。

"喰種"でありながら人間の十時君や槇原君に負けないくらい、彼女のお菓子はたくさんの人間アイドルを魅了している。

うちには佐久間君という、"喰種"であるにも関わらず料理を極めた前例もいるが

やはり味が分からない身で人間の舌を唸らせるものを作れると言うのは、素直にすごい。

こういう時は自分が"喰種"に生まれてしまったことが残念で仕方ないねえ。


人間にとっては甘いお菓子でも、我々にとっては灰の塊のようなものだから。


今西「……美味いなあ。かな子君の淹れてくれたコーヒーは、とてもうまい」

かな子「! ……えへへ、ありがとうございますっ」

かな子「どうかこれだけでも、楽しんでください」コソ

今西「ああ。とても素晴らしいコーヒーだよ」



幸子「ほら、部長もどうぞ! 紗枝さんも遠慮しなくていいですから!」

今西「!? い、いや私のような老いぼれより若い皆で……」

紗枝「一人だけ仲間はずれなんてあきまへんえ?」

友紀「あっ! じゃあ部長ビールどうです!? せっかく成人同士なんですし飲みましょうよホラホラ」

今西「え、ええ〜!?」


……喰うふりより、飲むふりの方が辛いんだねえ。
29 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/15(日) 21:12:52.15 ID:6E8xIkAH0

今日はここまで。

こんな感じで少しずつ1クール範囲にあったことをさらっていきます。
30 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:35:31.23 ID:PloBVjx70

――――――――――――――――――――


まったく、ひどい目に遭った。

喉にざわりと染み付いたビールの泡に、粘膜を焼かれたかと思ったよ。

これからは人間から『飲み』の付き合いに誘われないよう、細心の注意を払わないといけないね。


だが、かな子君のコーヒーは実に美味しかった。

あのコーヒーは346カフェのものにも決して引けを取らない出来だった。

また頂きたいものだ。


…ふむ。菜々君のコーヒーも飲みに行くとしようかな?


この時間なら、あの二人もいるだろう。
31 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:36:18.59 ID:PloBVjx70

やはり、この時間帯の346カフェは適度に席が空いていていい。


今西「やあ菜々君。スペシャルブレンドをもらえるかい?」

菜々「今西部長! わかりました、今すぐお持ちしますねっ!」

今西「ゆっくりで構わないよ。ああ、それと……」

菜々「?」

今西「近々、初ライブがあるんだろう? おめでとう、大躍進じゃないか!」

菜々「!」


菜々「はいっ! なんと、なんとなんとなんと! ナナのプロデューサーさんがライブの仕事を持ってきてくれたんです!」

菜々「苦節10年、ようやくナナのステージが始まるんですっ……!」

今西「10年?」

菜々「い、今のなしっ! ゲホッゲホッ!」


菜々「話を戻しまして……ナナ、ライブのこともそうですけど」

菜々「いろんな人におめでとうって言ってもらえたんです。それも、すっごく嬉しくて!」

菜々「みくちゃんに李衣菜ちゃんも、とっても素敵なプレゼントをしてくれたんですよっ!」

今西「ほう!」
32 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:36:47.22 ID:PloBVjx70

みく「そうにゃ! みくと李衣菜チャンで、特別良いコーヒー豆を買って」

李衣菜「あとは私とみくちゃんが別々に、プレゼントを用意したんですよ!」

みく「ま、李衣菜チャンは実質気持ちだけみたいなもんだけどにゃ」

李衣菜「はあ!? 情熱はこもってるし!」

みく「つまり気持ちだけだにゃ」

李衣菜「い、いいでしょ別にー!」


相変わらず、見ていて微笑ましい2人だねえ。


今西「何をプレゼントしたんだい?」

みく「ふふん! みくはうさぎのカチューシャにゃ! 同じ柄のネコミミも買って、ナナチャンとお揃い!」

李衣菜「私は菜々ちゃんに好きな曲を聞いて、ギターで再現したんです!」

みく「聞いてみる? 李衣菜チャンの腕前ってほんっとひっどいの!」

李衣菜「なにおう!? 部長さん、こんな事言ってるのみくちゃんだけですからね!」


李衣菜君は、この場で菜々君に披露したギターを聞かせてくれるようだ。

この年では眩しすぎるギターから、コード? を箱に取り付け、

そして元気いっぱいに弦をかき鳴らしてくれた。


……うーん。

とりあえず、お金を取れる腕前とは言い辛いかな?


李衣菜「そんなー!?」

みく「ほらみろにゃ。ロックロックいう前にもっと練習しにゃー」

菜々「き、気持ちはとっても嬉しかったですからね! ね、李衣菜ちゃん!?」

李衣菜「うう……」
33 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:37:22.30 ID:PloBVjx70



「アンタの演奏、なかなかクールだったぜ?」



おや?

聞きなれない声だね。


李衣菜「?」

「よっ。…技術はまだまだかもしんねーけど、アンタのギターには熱い魂を感じたよ」

李衣菜「ほんと!? あ、ありがとうございますっ!」

「いいよいいよ、タメ口で。あたしも見た目ほど年いってるわけじゃねーからさ」

菜々「ゲフッ」

李衣菜「そ、そう? あ…ありがとうっ! えっと……」

「おっと。名前を言うのを忘れてたぜ」



夏樹「アタシは木村夏樹。アンタの名前は?」



どうやら、ギターに込めた情熱を感じ取ってくれた子がいたみたいだ。

おや、この姿は……おなじ346のアイドルじゃないか。

しかしこの子は……
34 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 18:37:53.81 ID:PloBVjx70

みく「……むー」

今西「気になるかい?」


今西「大切な相方が『人間と』仲良くしているのを見るのは」

みく「……そんなんじゃないです」

みく「ちゃんとみくだって、『あれから』は人間とだって仲良くするようにしてるもん……」

今西「うんうん。いい事じゃないか」

みく「……どうも」


みく「……でも、まだモヤモヤすることはあるにゃ」

みく「会社の中で、平気で『あんなこと』されることとか……」

今西「……あんなこと、ねえ」

菜々「……」


菜々「大丈夫ですよ、みくちゃん」

菜々「あの子たちはみくちゃんや、他の仲間を貶したいわけじゃないんですから」

みく「そうだけどっ……!」

今西「……」


確か、カモフラージュも兼ねてのことだったと聞いているが。

346プロダクションには、"喰種"だけでなく人間のアイドルもちゃんと在籍している。

例えば今の木村君や、先ほどの輿水君、姫川君のようにね。


勿論我が社の"喰種"たちは、その正体を隠し人間として彼女たちに関わっているわけだが……


そのせいで、耐えなければならないこともあるようだ。
35 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 22:38:41.97 ID:PloBVjx70

今日はここまで。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/16(月) 22:55:06.57 ID:Szoe9Mkf0

前編からいろいろあったみたいだけどそれも描写されるのかな
37 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/16(月) 23:30:56.04 ID:PloBVjx70
>>36
そうですね!
外伝前編を書き始めた時に予定していたほどは書けないと思いますが、
それでも挟めるだけ挟んでいこうと考えています。
38 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:34:37.28 ID:BlCFKMP00

――――――――――――――――――――


さっきも話した通り…

346プロダクションの人間アイドルは、仲間に"喰種"がいることなど「知らない」。

故に彼女たちにとって"喰種"は、姿すら見たことのない都市伝説のようなものであり、

テレビで伝えられる情報から「なんとなく悪いもの」だと思っているようだ。


そして、正義感の強い人間の子ほど"喰種"に対し強い義憤を燃やす。

その結果―――――



みりあ「がおーっ、がーおーっ!!」

仁奈「ぐーるの気持ちになるですよー!!」

拓海「オラアッ! ナメてっと喰うぞコラァ!!」


薫「キャーッ! ぐーるだー!!」

里奈「うわ! ガチヤバなのいるしー!」

莉嘉「たーべーらーれーるーー!!」


「そこまでだッ!」

仁奈「何っ!?」


珠美「喰種捜査官だ! この珠美特等が来たからには誰も襲わせやしない!」

裕子「おのれ人を襲い肉を喰らう悪鬼め! このエスパーユッコ特等のサイキックで粉みじんにしてやる!」

珠美「やっちまってください!」

裕子「諸星特等ーーーッ!!」


きらり「にょわーーーっ!!」
39 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:35:08.70 ID:BlCFKMP00

きらり「悪いわるーい"喰種"は、このきらり特等がお仕置きしてあげるのですっ☆ ぐいっ☆」

仁奈「わー! 宙に浮いてやがるです!」

みりあ「赫子もまるできかなーい!」


きらり「ぶんぶーん☆」

仁奈みりあ「ウワーーーーーっ!!」


きらり「たくみちゃんもっ☆」

拓海「は? い、いやアタシはいいっておいやめろちょっとま」

拓海「ぐわあああああああああ!!」

里奈「たくみーーーん!! アハハハアハハハハ」

拓海「笑ってんじゃねえぞ里奈ゴラア! ほんとに喰ってやるかてめえ!」



休憩室や中庭では、こんな「喰種ごっこ」が良く見られる。

おおかた"喰種"役は見境なく人間を襲い、それを捜査官役が倒すシナリオ。

人間からすれば、他愛のないごっこ遊びなのだろう。

もしくは、たまに報道される"喰種"被害に不安を煽られ、または見過ごすしかない自分に憤りを感じ。

それをヒーローごっこで発散したがっている側面もあるのだろうね。


いずれにしろ、人間たちが遊びで行う「これ」は、決して悪意があってやっているわけではなく…

だから決して責められたり、やめさせられたりする謂れなどない。

むしろ、自分と同じ人間が罪もなく死んでいくことに心を痛めている証として

その綺麗な心を褒めてあげるべきことさ。
40 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:35:38.69 ID:BlCFKMP00

だが


莉嘉「きゃー! きらりちゃん、つっよーい☆」

みりあ「みりあもやるー! みりあも捜査官、やるー!」

里奈「きらりちゃん百人力〜! ヤバすぎー!」

きらり「おっすおっす、ばっちし☆」



とても、残酷なことだ。


人間たちには気付く由もないが、その義憤の切っ先を、常に間近で向けられているものがいる。

目の前で悪鬼と呼ばれ、自分の化身の打ち倒される姿をまざまざと見せつけられる。

時には、自分から打ち倒しに行く役を強いられる。

嫌がることはできない。人間としては、何もおかしい事ではない。

止めさせることもできない。人間として関わっている筈の自分が、どうして"喰種"などの肩を持つと言うのだろう。

悲しむこともできない。もし自分が人間でないと知られてしまったなら……


「どこかの怪物」に向けられた怒りが、一斉に自分に襲い掛かるかもしれない。


その可能性にずっと耐えながら、あの子たちはステージに上がり、テレビの前に立つ。

自分で踏み込んだ世界とはいえ……


やはり、とても残酷なことだ。
41 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:36:08.68 ID:BlCFKMP00

あの場を去ってしばらくすると、私の年老いて遠くなった耳に届いた声があった。



『ありがと、莉嘉ちゃん、みりあちゃん』

『きらりは、大丈夫だにぃ』

『"喰種"のみーんなに会えて、人間のみーんなに好きになってもらえて』

『人間のみんなは、きらりが人を食べるなんて知らないけど』

『きらりね、とーっても、うれすぃーの』

『きらりも、莉嘉ちゃんも、みりあちゃんも、里奈ちゃんも』

『拓海ちゃんは、薫ちゃんは、仁奈ちゃんは、珠美ちゃんは、裕子ちゃんは』

『ちゃーんと、大好きって分かってるもん』


『だからぁ、今のきらりはじゅーぶんはぴはぴ』



とても優しい声色を持っていた。

とてもか細い声だったよ。
42 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/17(火) 22:41:11.22 ID:BlCFKMP00

今日はここまで。
>>2の画像にも表示されていますが、拓海は"喰種"として書いていた前編と設定を変更し人間として書いています。


あと珠美殿はひそかに喰種捜査官を目指しているという裏設定を作ってます。
多分なれないと思いますけどね。クインクス手術受けられるかどうかでワンチャン程度。
43 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:32:05.63 ID:WuE1tdoV0

ただ、希望はある。

本当の本当に、心から安心できる居場所を作ろうと頑張ってくれる子だっているんだ。


蘭子「我が名は神崎蘭子……クククッ。今宵は我が僕たちに、新たなる眷属を紹介しよう」

小梅「新しい……お友達?」

蘭子「うむ。―――顕現せよ! 『二宮飛鳥』!!」



飛鳥「やあ、飛鳥だ。……成程、これが蘭子の属するコミュニティ。ボクは新たにセカイを構築したわけだ」

飛鳥「いや……構築した、は正しい言い方じゃないか。ボクが今まで不干渉だっただけで、キミたちは元からここに存在した」

飛鳥「……接続……そうか、ヒトの世界は接続によって広がっていくんだね」

飛鳥「よろしく頼む。ボクにとってもキミ達にとっても、新しいセカイへの良いコネクトになることを祈ろう」


アーニャ「アー……むずかしい言葉、ですね?」

小梅「中二病、仲間……だね……」

美波「こ、小梅ちゃん!?」

飛鳥「まだ初対面だ、一言でボクを表現できるかのように見られるのも仕方ない」

蘭子「ね! カッコいいでしょ!」

飛鳥「……フッ」


渡り廊下で見かけた女の子たちは、どうやら新しい友達を紹介しているところのようだね。

漂ってくる匂いから、その子達が人間か"喰種"なのかが分かる。


あの場には人間が1人。

"喰種"が3人。


そして、人間でもあり"喰種"でもある子が1人。
44 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:32:39.15 ID:WuE1tdoV0

飛鳥「それじゃ……名残惜しいが、今日ボクには行かなければならないところがある」

飛鳥「決して損はしなかった時間だ。蘭子、また明日」

蘭子「闇に飲まれよー!」


小梅「す、すごい子と……お友達に、なったね……」

蘭子「我と彼の少女は共に晩餐を饗した身。深紅の宝石はその羽を彩り、漆黒の大地では純白の天使の下で身を寄せ合った」

美波「……ごめんなさい、今のはちょっとレベルが高くて分からなかったわ。晩ごはんのところは分かったんだけど……」

小梅「ケチャップソースの……ハンバーグと……ミルク入りコーヒーの好みが……合ったんだって……」

アーニャ「ハラショー! ランコ、сладкий……あまいもの、好きですね!」

蘭子「うん!」


美波「そう言えば、初めて人間のお友達が出来たのかな?」

蘭子「初めてじゃないです。同じ熊本出身の美穂ちゃんとも、九州出身の芳乃ちゃんとも仲良くなりました!」

小梅「そんなに……? サマーフェスの時は……まだ、人間のお友達……いなかったような……」

美波「そう言えばそうかも。蘭子ちゃん、最近意識して人間の子と仲良くなってる?」

蘭子「……えへへ」
45 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:33:09.47 ID:WuE1tdoV0

蘭子「私、人間でも"喰種"でもあるんです。両方、私なんです」

蘭子「前は、『どっちでもない』って思ってて……人間とも"喰種"とも、仲良くなんて出来ないって思ってたけど」

蘭子「"喰種"のみんなとは仲良くできたから、人間のみんなとも仲良くできるんじゃないかって思いはじめて……」

蘭子「そしたら、人間のみんなに、"喰種"のみんなのいい所、たくさん知ってもらえるかなって思ったの」


蘭子「みんなに笑ってほしいから……!」


美波「……!」

アーニャ「……ランコ」

小梅「それ……プロデューサーさんの、おかげ?」


蘭子「うん!」

蘭子「プロデューサーが、"半喰種"じゃなくて……『私』を見てくれて」

蘭子「それだけじゃなくって、合宿で、美波さんとアーニャちゃんが、私を仲間に入れてくれて」

蘭子「そうやって、私の世界を広げてくれたから……!」


蘭子「……ハッ」


蘭子「ぼ……忘却の彼方っ! すべては忘却の彼方に葬られんっ!!」
46 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:33:51.00 ID:WuE1tdoV0

小梅「……いーなー」

小梅「いーーーーーなーーーーー」

蘭子「こ、小梅ちゃん!? や、どうしたの!? まってそこだめ、かじらないで、んナあああああああ!!」


美波「あはは。小梅ちゃん、拗ねちゃってる」

アーニャ「でも仲良し、ですね?」

美波「うん。……そっか」


美波「きっかけは、合宿だったんだ」


美波「きっかけに、なれたんだ……」



"喰種"が、"喰種"と人との相の子を変えた。

そして今、相の子が人と"喰種"を変えようとしている。


その先に何が待っているかは分からないが……

どうか、光に包まれたものであってほしいね。
47 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:34:47.93 ID:WuE1tdoV0

――――――――――――――――――――


不満と希望がない交ぜになった346プロダクションは、そしてまた次の朝を迎える。

今回も平穏に、次の日を迎えることができた。


私はシンデレラプロジェクトの専用ルームにも上がってみる。

そこにはウサギを象った、大きなピンクのクッションが設置されている。

曰く…アイドル自身の個性を知ってもらうために持ってきた、私物のひとつらしい。


そして……やはり、彼女はそこで惰眠を貪っていた。


今西「やあ。相変わらずだね杏君」

杏「んー……わー、部長だ。急に来るもんだからショックで寝込むよ。ぐー」

今西「何を今更。誰が来るかなんて、君の耳ならとっくに分かるだろう?」

杏「まあ……そうなんだけどさー。ねむ」


今西「少しだけでいいから、老人の話に付き合ってくれたまえ。自慢の手土産も持ってきたからさ」

杏「お、分かってるじゃん部長。いいねえ新鮮なアメだ」


ケースを取り出して渡すと、杏君は待ってましたとばかりに起き上がる。

彼女が「アメ」と呼ぶ手土産は、飴玉のように丸くて汁気がたっぷりの、ジューシーな白球だ。


杏「あぐ……んち、もぎゅ……うん! うまい!」

今西「それは良かった。……君は変わらないフリが上手いねえ」

杏「いや、杏は実際変わってないし。仕事が面倒くさいのも、アメばっかり食べてるのもおんなじでしょ」

今西「いやいや。デビュー前と比べて、随分と面倒見が良くなったと思うよ?」

今西「今だってパトロールをやってくれていたようなものじゃないか」

杏「何のことかなー。杏は耳がいいから、たまたま会社で何が起きてるか分かるだけだよ」

今西「そうかそうか。有事の時はCPのみんなをよろしく頼むよ」

杏「……約束はできないよ。杏の耳が届くのは、この敷地内くらいだし」

杏「白鳩が何か企んでたとしても、ここからじゃ聞こえないからね」

今西「そこまで背負わせるつもりはないさ。アイドルを守るのは、こっちの仕事だからね」
48 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:35:14.13 ID:WuE1tdoV0

杏「……で? 話はそれだけ?」

今西「いいや。これから346プロダクションは、どう変わっていくだろうと思ってね」

今西「君も知っているだろう? 蘭子君や、未央君たちが人間にもアプローチをかけ始めていることに」

杏「……あー」


≪美穂ちゃんのステージ、今回は応援に行くよ! 頑張ってください!≫

≪ありがと! 熊本の女の強さ、見せてあげるから!≫


≪行くぞ茜ちん! あの朝日まで競争だー!≫

≪うおおおおおお!!≫

≪ふ、二人とも待って〜……!!≫


≪渋谷凛ちゃん、だよね?≫

≪ど、どうも……≫

≪……? どちら様?≫


杏「……うん。今でも聞こえてくるね」

杏「ニュージェネレーションズなんかは、蘭子ちゃんに負けないくらい人間と関わって来てるなあ」

今西「未央君は心が人間寄りなんだってね。今年の346プロは本当に色んな子がやって来た」

今西「ここから、人間と"喰種"の関係に変化が生じるんじゃないか……私はそう思って、楽しみにしているんだよ」

杏「いい変化ばっかりとは限らないけどね」

今西「……何か、不安要素でも?」

杏「んー……や」
49 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:36:17.34 ID:WuE1tdoV0

杏「……そろそろ皆が来るけど、まだ話したいことある?」

今西「! いや、やめておこう。老人の散歩は終わりさ、ちゃんと若い者に席を譲るよ」

今西「他愛ない話に付き合ってくれてありがとう」

杏「どーも。…………」



今年は本当に、面白い子がやって来た。

二つの生物の境を踏み越える少女に、人の心を持った少女に、天才。

勿論、今まで在籍していたアイドル達がつまらないとは決して思わない。

だが、今年は殊更大きな化学反応が起こるだろうと確信している。


杏君のいう通り、それが決していい方向に繋がるとは限らない。

……だが、どうか望みたいものだ。

彼女たちが……もしくは、彼女たちの導いたものが。

今まで続いてきた「悪いもの」を壊し。

周りも、彼女たち自身も、笑顔でいられる世界で暮らせるようにと。
50 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:36:54.15 ID:WuE1tdoV0

今西「……!」

「! 今西部長。おはようございます」

今西「ああ、おはよう。今からミーティングだったね?」

「はい。双葉さんのお話に、付き合ってくださったのでしょうか。ありがとうございます」

今西「いやいや、付き合ってもらったのはこっちだよ。礼を言うのは私の方だ」

今西「……本当に、礼を言うのは私の方だね」

「……? はあ」


ひとつ、言えることがある。

彼女たちが、ここに一つの笑顔を取り戻してくれたことだ。

彼をずっと見てきた者としては、礼を言い尽くしても足りないねえ。



今西「気張りたまえよ、プロデューサー君」

武内P「…? 当然です」


――――――――――――――――――――
51 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:37:32.00 ID:WuE1tdoV0

――――――――――――――――――――


杏「……」

きらり「あーんずちゃんっ! おっはー☆」

杏「ぐえっ!」

きらり「にょわっ!? だ、だいじょーぶ?」

杏「心配するくらいなら毎朝抱き着くのはやめよ?」

きらり「う、うん……杏ちゃん、いつもちゃんと避けてたから、ビックリしちゃって。ごめんね」

杏「あー……。いいよ、別に。考え事してただけだから」

きらり「かんがえごとぉ? なに考えてたの?」

杏「ん? そりゃ、不労所得はどうやったら効率よく手に入るかなーって」

きらり「んもー! 杏ちゃんはそんなことばっかり考えりゅー!」

杏「どやあ」

かな子「杏ちゃん……今日もお仕事、がんばろ?」

智絵里「杏ちゃんにもコーヒー、淹れますからっ」

杏「おー、智絵里ちゃんのコーヒーかあ。いいねえ」



杏「……」
52 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 18:38:57.97 ID:WuE1tdoV0





早苗≪……あら? 珍しいわね、あたしが二番手なんて≫

雫≪そうなんですよー。ユッコちゃん、まだ来なくって≫

早苗≪なんか連絡来てる? あたしはなんも言われてないわよ≫

雫≪それが……早苗さんから電話、かけてみてくれませんかー?≫


早苗≪なによ? 雫ちゃんから連絡してくれてもいいじゃない……≫

早苗≪ま、いいけどね。…ぴ、ぽ、ぱ、っと≫

雫≪私もかけてみたんですけどー……≫

早苗≪あら、そうなの?≫

早苗≪…………≫


早苗≪……おっかしいわね≫





早苗≪ユッコちゃん、何で電話に出ないのかしら≫





本当の、本当に。

どうか、いい未来が待っていて欲しい。
53 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 20:31:24.13 ID:WuE1tdoV0

〜一方、美城常務・執務室〜


美城「……フフフ」

美城「帰国して直ぐ、この346プロダクションの全貌を視察したが……」

美城「とても良い素材が揃っている」

美城「美しい城を作るにはもってこいのアイドルが勢ぞろいだ。我が先祖が"喰種"のポテンシャルに価値を見出したのは、賞賛すべきことだな」


美城「だが、在るべき理想のアイドルには程遠い」

美城「美しい城には、それに見合った美しいお姫様が必要だ」

美城「バラエティや行き過ぎた個性などと、今の美城は物語性を潰しているものばかりだ」


美城「千川」

ちひろ「はい」

美城「すぐに346プロダクションの全プロデューサーを集めろ」

美城「現在進行しているプロジェクトをすべて白紙に戻し、あるべきアイドルの姿に戻すべく企画を―――」



ちひろ「申し訳ありませんが、常務にその権限はありません」

美城「何!?」
54 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 20:41:24.78 ID:WuE1tdoV0

ちひろ「私達の雇用主である、美城一族の一員とは言え……」

ちひろ「常務はこちらでのプロデュース経験が無きに等しいド素人」

ちひろ「更に言えば、万が一346プロダクションの機密が漏洩した場合、人間である以上現時点において常務には何の刑罰も発生しません」

ちひろ「346プロダクションは機密が多く、その運営にはとても重い責任が伴います」

ちひろ「ですから、この中枢を担うには貴女の経験や立場が浅すぎるのです」


美城「……なんだと?」


美城「では、346プロダクション全体の企画を統合することは」

ちひろ「不可能です」

美城「私が目を付けた高垣楓に、極上の仕事を回すことは」

ちひろ「(彼女と神崎蘭子は我が事務所の最高機密ですので)不可能です」

美城「城ヶ崎美嘉のプロデュースは」

ちひろ「(中堅どころなので)駄目です」

美城「木村夏樹」

ちひろ「(人間だけど)無理」

美城「……渋谷凛」

ちひろ「むーりぃ」



美城「……私に出来ることはなんだ?」

ちひろ「まずは、新人やランクの低いアイドルをプロデュースして実力を示してください」

ちひろ「常務がプロデュースできるアイドルをリストアップしたものがこちらになります」

ちひろ「『人間か"喰種"か』を含めて、常務が個人情報の開示を求めることが可能なアイドルは、こちらから選択された方のみになります」

ちひろ「それ以外のアイドルについて情報を探った場合、処罰の対象になりますので不審な行動は慎んでくださいね」

ちひろ「では、精々頑張ってください♪」バタン

美城「……分かった」



美城「……あの"喰種"は人間が嫌いなのか?」

美城「後半、私への口調がやたら刺々しいものになっていたような……」ショボン
55 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/18(水) 20:45:00.99 ID:WuE1tdoV0

今日はここまで。これにてアニメ14話の範囲は終了です。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/18(水) 23:59:38.98 ID:rw+a6ebzO
おつー
57 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 21:58:48.75 ID:wfmycY140

〜過去・本田未央〜


本田未央、15歳。

高校一年生で、赫子は甲赫。

そんな未央ちゃんは半喰種でも、たまにウワサに聞く人工喰種でもなく。

純粋な"喰種"として産まれたんだ。


「血のつながった」お父さんとお母さんの話は……

どんな人だったとか、「今の」お父さんとお母さんとはどうやって出会ったのかは、あんまり知らない。

とりあえず、最初は"喰種"と知らなくて普通に友達付き合いして。

私が生まれたころに、正体を明かして私を預けたってことくらいしか知らない。


もしかしたら、聞けば教えてくれたかもしれないけど……

何となくだけど、そのことを聞く気にはなれなかった。


多分だけど、もし「血のつながった」お父さんやお母さんのことを、より多く知ってしまったら。

知った分だけ私は今の「育ててくれた」お父さんやお母さん、

兄貴や弟のことを、家族だと思えなくなっちゃうかもしれないって思ったから。

家族の絆が薄くなっちゃうかもしれないって思ったから。

それが怖くて、こんな話をしたがらなかったんだと思う。


だってこの家の中では、皆が人間で……



"喰種"なのは本田未央ただ一人だったから。


58 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:00:10.34 ID:wfmycY140

私が人間じゃないこと、そのことを家族以外の人たちに知られちゃいけないって教えてもらったのは……多分、小学校に入るちょっと前。


お父さんや兄貴が色とりどりのものを食べてるのに私だけ赤い肉ばっかり食べてるとか、

たまに弟のミルクを横取りして食べたらあんまりにも不味くて吐いちゃったとか、

そう言うことがあったから、「何か違う」ってことは分かってて、ぶっちゃけショックは感じなかったかな。


って言うか、自分だけご飯を食べるフリとか、人間じゃ太刀打ちできないような運動能力を制御する方法とか学んで、

とにかく未央ちゃんが"喰種"だってバレないようにする訓練が大変で……

当時の私は幼いながらに「バレたら死ぬ」って分かってたから、それはそれは必死で人間のフリをしてたもんだから、

自分がどうだからショックだー、なんて考えるヒマは無かったな。


ああでも、悪い事ばっかりでもなかったよ?


家族のみんなが教えてくれる以外にも、自分でも近所のおばさんとかクラスメイトを見て、人間の行動を学んでたから。

そうやって人間観察をしてる時に悩んでる人を見つけたら、お人好しの未央ちゃんのことなので相談に乗ってあげたり、励ましてあげたり。

そんなことを繰り返してたら、いつの間にかめちゃくちゃ友達が増えて。

クラスのアイドル本田未央ちゃんが出来上がってたんだよなー。


いやー、こんなの秘密がバレやすくなって結構まずい状況なのにどうしてこうなった。
59 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:01:15.71 ID:wfmycY140

そんなわけであんまり深い事を考えなかった小学生時代のロリ未央は、秘密を隠しつつ結構楽しく暮らしてたわけだけど……

中学生になったかならなかったくらいの年、要するに思春期のとき。

人間のフリにも慣れて、周りを見渡す余裕が出来て……


私、気付いちゃったんだよね。



"喰種"が、人間に嫌われて怖がられてること。



そりゃそうだよね。

人間の肉(あとコーヒー)しか食べられないんだもん。それ食べなきゃ生きていけないもん。

"喰種"は人間の天敵ってことになるよね。

私が正体を隠して生きなきゃいけないのも納得だよ。


……いや、私は人を殺したことなんてないよ? 殺人で起訴されても全くの無根拠、無罪確定だよ? 控訴するよ? できないけどさ!

お父さんの学生時代からの友達に、双海先生っていうお医者さんがいるから、

医者先生に肉を手配してもらって、私は今日まで生き延びてる。

もちろんこれからも人を殺したいなんて思わない。


本田未央は人間に優しいクリーングールなのだ!
60 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:02:02.96 ID:wfmycY140

……なんてね。


ほんとは分かってる。

"喰種"は人間を殺さなきゃ生きていけない。

人間の死を食べていかなきゃ、自分が生きられない。

私が食べてるお肉も、たぶん死んだ人のものだろうから……人間の死を利用して生きてるのは、おんなじ。


私、まるでハイエナだ。


それに気付いてからは、まわりの皆には打ち明けてもしょーがないことだから、悩んでるふりなんて見せなかったけど。

私は本当の意味で「人間」になれないって悟っちゃって……辛かったな。

……辛い、はちょっと違うかも。


さみしかった。


身体は人間じゃないし、生活は"喰種"じゃないし。

って言うか、街で"喰種"を見かけたり"喰種"の集まる喫茶店にこっそり入って話を盗み聞きすることはあっても、"喰種"の友達は出来たことなかったし。
             ミンナ
考えれば考えるほど、心も人間から離れてく気がして、かと言って"喰種"にもなり切れなくて。

そんな私が嫌だったから……


だから346プロのオーディションに応募したのかな?
61 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:03:18.71 ID:wfmycY140

346プロの秘密を知ったのは……ある"喰種"が集まる喫茶店に行って、"喰種"のことを知ろうとして客の話を盗み聞きしてた時。

未央ちゃんも匂いは"喰種"そのものだったから、人間がいない時はふつーに"喰種"の話が聞けたんだよね。

そこで、私と同じ"喰種"の女の子が話してるのを聞いたんだ。


「346プロダクションは"喰種"が"喰種"のために運営している芸能事務所だ」、って。


行ってみたいって思った。

"喰種"に話しかけに行くのは、実はちょっと怖くて躊躇してたけど。

でも芸能事務所なら、ちょっとは話しかけやすい子が来てるんじゃないかって思ったから。

"喰種"の友達が出来るって思ったから。


だから、チキンな未央なりに女は度胸!と、いきり立ちまして。

そして無事、笑顔を理由に第二次選考を突破したわけです。


1回普通に落選するとは予想外だったね。うん。
62 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:03:53.71 ID:wfmycY140

そんな訳で、内心ビビりつつアイドル活動を始めたワタクシ本田未央。

キュートで巷に聞いてた"喰種"らしくなくほんわかした尾赫ガール、しまむーこと島村卯月ちゃんと。

クールだけど弄れば可愛くて楽しい羽赫喰種、しぶりんこと渋谷凛ちゃん。

そんな二人と「ニュージェネレーションズ」なるユニットを組みまして、アイドル活動はスタート……


……しませんでした。


ちょっと、色々ありまして……情けないことに。

未央ちゃん、デビューライブ直前で精神的にダウンしちゃいまして。

それからは引きこもっちゃったり、プロデューサーを突っぱねちゃったり、

デビューライブを蹴っちゃったもんだから、みなみんたち他の子とは違い地味な下積みをせざるを得なくなり、

それにしまむーもしぶりんも付き合わせちゃって……

ほんとに迷惑かけちゃったな。ごめんね、しまむー。しぶりん。プロデューサー。みんなも。

迷惑をかけるからって、自分勝手なこと言ってアイドルやめようとしてごめんね。

こんなどうしようもなかった私と、今まで一緒に歩いてくれて、ほんとにありがとね。

合宿のとき、つみれ汁を美味しいって言ってくれてすっごく嬉しかったよ。

あれ、"喰種"には不評かなって思ったもん。
63 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:04:24.59 ID:wfmycY140

あのファンレターを貰えたのも、サマフェスでお客さんみんなを楽しませることが出来たのも。

しまむーが、

しぶりんが、

プロデューサーが最後まで一緒に歩いてくれたから。

こんな頼りないリーダーを頼ってくれたから。


みくにゃんが。

りーなが、りかちーが、みりあちゃんが、みむっちが、ちえりんが、みなみんが、アーニャが、らんらんが、きらりんが、杏ちゃんが、

みかねえや、あーちゃんや、他のみんなも。

ずっとずっと、色んなものをくれて、支えてくれたから。


だから、あんなに素敵なステージをつくることが出来て。





奪うばかりだった私が、やっと一人救うことができました。
64 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:05:34.87 ID:wfmycY140

みんなありがとう。

本当に、本当にありがとう。


もし誰か友達が、悩んで崩れそうになったら。

その時は未央ちゃんがいっぱい助けるから。

いっぱい助けられた分、どこまで出来るか分からないけど、私が助けになるから。


だから……


ふつつかものの"喰種"ですが、どうか仲良くしてあげてください!


なんてね!
65 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/19(木) 22:06:41.75 ID:wfmycY140

今日はここまで。

個人的には未央ちゃんが喰種設定を練ってて一番楽しい子です。
66 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/22(日) 00:09:27.62 ID:hCac2GXfO
今のところ前編からの設定変更は
「ゆかり、拓海が喰種→人間」、
「アーニャの赫子が鱗赫→尾赫」、
「卯月がアイドルになりたいと言った時両親は割とお気楽に許可した→きつめの条件を出すくらい結構渋った」

の三点になっております。

ノロって尾赫だったのね
67 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/22(日) 00:17:15.19 ID:3N3KSle+0
今のところCPの赫子設定は

羽赫:凛、蘭子、智絵里、杏
甲赫:未央、李衣菜、美波、きらり
鱗赫:かな子、みりあ、杏(2種持ち)
尾赫:卯月、みく、莉嘉(美嘉とおそろい)、アーニャ

となっております。
赫子の形とか考えるのめっちゃ楽しい
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/22(日) 00:23:35.92 ID:iw/EOXrE0
みりあ赫子出せるのか
11歳で出せるなら将来大物になりそうだな
69 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/01/22(日) 00:46:17.33 ID:3N3KSle+0
>>68
そう言えば中学生くらいからっぽかったですね、赫子出せるの。トーカやヒナミがそのくらいだったかも…
みりあは天才ってことでいいか

あとCP以外で考えてたアイドルの赫子設定でこんなのもあります。

藍子は甲赫であり形は原作:reオークション編に登場したピクハゲのものを横幅を広くした感じの半月状。
両肩の甲赫の縁を合わせて中に籠ることで完全防御形態となることが出来るのだ!
70 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/03(金) 22:23:39.66 ID:N0thDAtS0
生存報告

来週には再開する予定です
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/04(土) 02:23:07.99 ID:y9h9gZZT0
>>70
乙です
いつまでも待つので焦らずじっくりお願いします
72 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/09(木) 23:57:47.44 ID:SrO+PGzG0

〜現在・星輝子〜


ど…どうも。星輝子だ……

甲赫の"喰種"……座右の銘は、「キノコはトモダチ、エサじゃない」……フヒ

こんなのでも、一応アイドルで……

今年の梅雨まではトモダチのシイタケクンと一緒にジメジメしてたはずが……

プロデューサーに見つかって、オーディション会場に引きずり出されて……

気付けば、アイドルに……


どうして、こうなった……

い、いや、楽しいけど……

まゆさんや小梅ちゃんに出会って……

幸子ちゃんって言う、人間だけど、可愛い子とも仲良くなって……

楽しいけど……



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



楓「……うふふっ♪」



ど、どうして、私はここにいるんだ……?
73 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/10(金) 00:03:56.18 ID:GIopvlMq0

今日はここまで。とりあえず1レスだけ更新。


凛ちゃんは卯月を失っても未央がいればギリギリ闇堕ちせず踏みとどまれるんじゃないかなーとか、某バトロワssを見て考えてました。

両方失うとやばそう
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/10(金) 02:00:24.65 ID:aBluw/nV0
75 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:56:17.54 ID:953BNBgz0

……え、ええと……このヒト……

いやヒトじゃないのか……?

いや、半分ヒトか……?


ともかく……このヒトは高垣楓さん。

元々モデルだった人で、今では346プロダクションで一番人気のアイドル……

そ、そりゃ、そうだよな……

背が高くて、目は綺麗なオッドアイで、歌声も、雄々しさと清らかさがあって……

私のようなジメジメグールは、近くにいるだけで干からびそうだ……


……そ、それでだ。

楓さんは……私も、人から話を聞いただけなんだが……

「人と喰種の混血」、らしい。

親のどっちかが人間で、もう片方が"喰種"……

母親が餌と間違えて吸収してしまったり、そもそも栄養が足りなくて、本当は子どもなんかできないらしいが……

それでも、「奇跡」が起こって生まれる場合があるって……
76 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:56:56.46 ID:953BNBgz0

じゃあ、私も「混血」かもしれないのか……って思ったことがある。

私は、親の顔知らないしな。

「モノゴコロ」が付いた時には、傍にはキノコしかいなかった……

い、いや、私の話は今はどうでもいいんだ。

楓さんの話をしよう。もしくはキノコ……シイタケクンの話、するか……? してもいいのか……!?

……な、なわけ無いですよね、ハイ。楓さんの話をします、ハイ……


普通の"喰種"と、「混血」にはちゃんとした見分け方があるんだ。

それは「混血は片目だけが赫くなる」ってこと……

私はしっかり両目が赫眼になるから、普通の"喰種"でした……


蘭子ちゃん……えっと、小梅ちゃんとよく一緒にいる子で、この子も「混血」なんだ……

346には楓さんと蘭子ちゃんで、2人の「混血」がいる。

その子には、片目だけの赫眼を見せてもらったことがある。

蘭子ちゃんは右目だけが赫くなってて……楓さんは左目が赫くなるらしい。


そんな目の特徴から、楓さんや蘭子ちゃん、人と"喰種"の混血として生まれた人は……


―――「隻眼の喰種」って呼ばれる。
77 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:57:33.56 ID:953BNBgz0

隻眼の喰種はすごいらしい。

人と同じご飯を食べることが出来るのに、赫子を出すことも出来る。

しかも、普通の"喰種"とは比べ物にならないくらい強い赫子をだ。


蘭子ちゃんはどうだったか、聞いたことはないが……

楓さんの方は、とんでもない話をよく聞く。

なんでも物凄い数の捜査官を、一度に相手にして勝てるとか……

その数は、山で見つかるキノコをかき集めても足りないくらいだとか……

私達"喰種"は人間を食べるが……楓さんは"喰種"も食べてたとか……


そんな話が346中の喰種に伝わっているから、"喰種"アイドルの大体が、楓さんを怖がってる。

瑞樹さんや、美優さんみたいな、楓さんのことを知ってる"喰種"なのに普通に話しかけてる人たちもいるけど……

…あの人たちはあの人たちで、すごいよな……
78 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 21:59:56.73 ID:953BNBgz0

そう言う私も……いや、怖いのが全部じゃないんだ。

アイドルとして、ステージで歌ってる姿はすっごくキレイだから……

そう言うところは、すごいって言うか……尊敬してるんだ。


えっと……別に噂通りの怖い人ってわけじゃないんだと思う。

蘭子ちゃんに皆でハンバーグを作ったとき、楓さんも参加してて……

その時、優しそうな顔で笑ってたから。

思ったより怖い人じゃないのかな……とは、思ったんだ。


でも、それでも……

楓さんは何か「特別」な感じがする。

生まれもそうだし、見た目とか、アイドルとしてのオーラ…?とか……

私みたいなのとか……あとは、小梅ちゃんたちみたいな普通の"喰種"とか。

同じ隻眼でも、蘭子ちゃんは親しみやすくて……

楓さんは、周りにいる人達とはいろいろと違ってると思うんだ。

だから、正直ちょっと話しかけづらい。

元々、自分から話しかけるなんて出来っこないが……


楓さんは、とくに。
79 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 22:01:28.40 ID:953BNBgz0

それは、それとして。


なんで……


……なんで私は…………





楓さんのミニライブに呼ばれているんだろう……





凛「……?」

卯月「あ、あはは……」

未央「アレワタシナニカワルイコトシタノカナナンデコノメンバーナンダロカエネエサマオコッテルカカエデサマナニカキニサワルコトデモアレナニドシテ」ガクガク

蘭子「これが世紀末歌姫の魔力……!?」フルフル



楓「あら? もっと気楽にしてくれていいんですよ? ……きらっ、とね?」



……まあ、呼ばれたのは私だけじゃないんですけど……フヒ
80 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/24(金) 22:31:19.94 ID:953BNBgz0

今日はここまで。

やっと全体プロットができてまともに続きを書けるようになりました。
81 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:49:36.36 ID:EuOtddn00

楓「……んー……」


卯月「」カチカチ

未央「」コチコチ

蘭子「」カチコチ



この仕事で、私は2回ほどビックリさせられた……

1回目は、仕事の話が来たとき。

……このゲスト参加のお仕事は、私の親友からいきなり伝えられたものだ。

楓さんの名前が出た時は……気絶しそうになったな……

ゲストが私一人だったら、たぶん枯れていた……

今でさえ枯れそうですけどね……


楽屋では楓さんが椅子に座ってたから、私達5人は床に正座してました……

何もしてないけど、なんかそうしなきゃいけない気がしたんです、ハイ……

ちなみに今、楓さんも合わせて正座されてます……


なんだこれ……



……話を戻そう。

仕事の話のほかに、もう1回ビックリしたのは……



凛「……あの」
82 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:50:05.29 ID:EuOtddn00

楓「! あら、どうしたんですか?」

楓「確か……凛ちゃん、ですね?」

凛「うん」


輝子「!?」


あ……あの凛さんって人……

特にためらわずに、楓さんに話しかけただと……!?



……あとで未央さんに教えてもらったことだけど……

凛さん、"喰種"の噂話については単に興味が無くて疎かったらしい。

だから、楓さんのこともあんまり恐れてないのか……
83 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:51:40.26 ID:EuOtddn00

凛「……会場。ここで本当に合ってるんですよね?」

楓「ええ! 間違いなく……マッチが無くても♪」

凛「それにしては……」


凛「……会場、小さい気がします」


卯月「そ、そうですよね……?」

未央「別に、小さいからどうだって話じゃないとは思うけど……」

蘭子「この場に如何様な魔力が……?」


そう。

もう1回ビックリしたのは、この会場にきたときだ。

場所は、漫画とか、DVDとかを売っているお店の一番上の階……イベント用のスペースらしい。


つまり、ものすごく狭いところだったんだ。


……いや、さすがに机の下よりは広いけどな……

それに私は狭い方がいいし、ちょっとホッとしてるが。

それでも……私がデビューしたときの会場より、ずっと小さくて狭い。
84 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:56:14.86 ID:EuOtddn00

……いや、箱が小さいことに文句を言うつもりはない。

私も最初は、少ないファンの前で歌った。


ボッチだった私が、プロデューサーという親友を初めて持って。

ジメジメしたやつなりに、ステージの圧力に負けないように、必死に歌っていたら。

初めてのステージが終わった後……何人か、私に向かって拍手してくれた。

その中には"喰種"も人間もいた。

本当なら、小さい私なんかエサにしてくるはずの"喰種"に。

私なんか気にも留めないか、汚いものを見る目だけ向けて来るかだけの人間が、だ。

そういうものだと、思っていたのに……

あの人たちは、優しくて、楽しそうな顔で笑ってくれたんだ。


ずっと日陰者でボッチだった私に、何人もの人が笑顔を向けてくれたことを、私は忘れたことはない。


アイドルにも慣れて、ファンというトモダチが増えて、あと、アイドルのトモダチもできて。

あの数は「しょぼい」って言うものだったと知った今でも……

やっぱり、私にとって、あの人たちはすごく眩しかった。

すごく大事にしたいって思ったんだ……



……あの、スミマセン。

自分語りばっかりだな。ほんと……スミマセン。


私が言いたかったのは、けっして会場の小ささが不思議ってわけじゃないってことだったんだ。


問題は、その小さい会場にいる人のことで……

なんで、この人が……



凛「なんで、楓さんがこんなところで……?」
85 : ◆AyvLkOoV8s [saga]:2017/02/25(土) 22:58:35.38 ID:EuOtddn00

今日はここまで。

大阪両日で応募してたけど両方落ちました。まあ1セットずつしかCD買ってなかったし当然っちゃ当然。

ハイファイ一枚で取れた去年がおかしかったんだ。
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