他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。
新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
Check
Tweet
1 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/02(月) 23:59:51.21 ID:uQO4md64O
『アイドルマスターシンデレラガールズ』と『亜人』のクロスオーバーSSです。地の文あり。
『シンデレラガールズ』の世界観はアニメ版を準拠、時間軸は最終回以降。クロスオーバーに際して
・新田美波が永井圭、慧理子の姉(正確には異母姉)に。その影響で、新田家と永井家の家庭環境の諸々を変更。
・『シンデレラガールズ』側の登場人物の一名が亜人
の二点の設定変更があります。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1483369191
2 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:03:12.31 ID:5kzXp0UHO
1.あの外国の人はいないんだ
「おまえはのべつ死を口にしていて、しかし死なない」−−フランツ・カフカ [創作ノート]
その生物は死なない……
その生物は亜人と呼ばれている
その生物はーー
−−七月二十二日・埼玉県・永井家
永井圭が玄関の扉を開けると、玄関に母親のものではない女性ものの靴が一足、ていねいに並べられ、つま先を圭の方に向けていた。
圭はその靴を見た。見て、靴があること以上のことは思わず、自分もスニーカーを脱いで、靴箱にいれた。
真夏の日差しは、夕方近くになっても弱まらず、白い光線から放射された熱が、学校から帰ってくるあいだに圭の身体からすっかり水分をぬきとってしまっていた。太陽が西に傾き、輝く線の角度が水平に近づいていっても、紅色とオレンジ色が入り混じった、夕暮時にふさわしい色彩に空は染まらず、住宅街の無機質な並びに熱を浴びせつづけていた。蜃気楼が生まれそうなくらい暑い。なのに、住宅街の輪郭はあいかわらず固まったままだった。圭は喉を渇きを我慢しつつ、リビングを抜け、キッチンにむかった。
リビングのソファには、やはり姉が腰掛けていた。姉といっても、血のつながりは半分だけだったが、今更そんなことを気にするでもなく、圭は姉の後ろを通り過ぎた。姉はキッチンへ向かう弟を追って首を回し、その背中に向けて声をかけた。
美波「おかえり、圭」
永井「姉さん、今日は早かったんだ」
圭は手に持ったガラスのコップに水が満たされるのを見つめながら、美波にこたえた。浄水器から出てくる水をコップの四分の三程まで注ぎ、口をつける。美波は圭がコップの水を飲み干すまで待ってから返事をした。
美波「今日はオフだから。夕飯もこっちで食べてくつもり」
永井「母さんは買い物?」
美波「うん。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
永井「そう」
圭は飲み終えたコップを流しに置くと、ふたたび姉の後ろを通り過ぎ、二階にある自分の部屋に向かおうとした。圭がリビングのドアを開け、廊下を通り、階段の一段目に足をかけようとしたとき、おなじようにドアを抜けた美波が、追いかけるようにして圭に声をかけた。
3 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:04:25.47 ID:5kzXp0UHO
美波「あ、待って、圭」
永井「なに?」
美波「これ……今度発売されるCDのサンプルなんだけど」
美波は一枚のCDを差し出した。白い隊服に身を包んだ美波を先頭にして、同様の隊服を着たほかのアイドルたちと並んで、それぞれどこか別の方向を指差している。彼女たちの背後には光が差し込む巨大な扉があって、そこからは光とともに吹き込んでくる風があり、その風が美波たちの髪や服を翻している。そのような光景がCDのジャケットに印刷されていた。
美波「慧理ちゃんにはもう渡したの。圭にも聴いてほしくって」
永井「あの外国の人はいないんだ」
美波「これはラブライカとは別のユニットだから」
永井「ふうん」
圭の興味はCDを裏返したあたりで尽きた。
永井「あとで聴いておくよ」
それだけ言うと、圭は二階へ上っていって消えてしまった。弟との会話は、これが平均的な長さだった。ここ一年でかわされた会話では、これより長い会話も、短い会話も、美波の記憶にはほとんどなかった。弟の背中を見送りながら、美波は取り残されたような気持ちになった。
4 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:05:53.27 ID:5kzXp0UHO
約二〇年前、美波が生まれてまもない頃、彼女を産んだ母親は病院内でなんらかの感染症に罹り死亡した。なぜそんなことになったのか、いま現在になっても美波は詳しい事情を知らない。母親が自分を抱きしめたのかどうかすら、美波が知ることはなかった。
分かっているのは、それが父の勤めていた病院での出来ごとだということだけだった。父は失意のどん底に落ちた。そこから這い上がることもできず、生後間もない美波をつれ、生まれ故郷である広島から離れた。友人の紹介で次の勤め先である病院はすぐに見つかった。その病院は東京にあり、職員用の託児所もあった。だが、託児所といっても、そこは多忙を極める外科医にとって、いつまでも幼い娘を預けられる場所ではなかった。どうしても深夜まで働かなければならないときは、子育ての経験がある友人の家庭に美波を預けることもあった。それは、父と娘双方に大きなストレスをもたらした。
しかし、その問題はやがて解決することになる。美波が生まれてから二年が過ぎようとしていた頃、暦上では秋に入ったが、気温や湿度も、公園や街路に植えられた樹の葉っぱも、その緑色をした葉に当たる太陽の光も、その葉が歩道に落とす影の濃さも、まだ夏の風情を残しているときのことだ。秋雨前線の到来もまだ先で、快晴の日々が続いていた。 父親と同じ病院のER勤務の女性医師が、すべての事情を知り、またそれをすべて受け入れて、美波の父親と結婚することを決意した。そして、またたくまに休職を決めてしまうと、家庭で美波を育て上げることまで決断してしまった。同僚たちは、この彼女の突然の思い切った決断に、当然驚きを隠せなかった。合理性に固まった性格で、内部の感傷性をまったく吐露しない彼女が、いったいどのような理由でこの新しい同僚とその幼い娘に同情し、人生を共有することを決めたのか? 結局のところ、それは本人と美波の父親しか知らない事実となった。
5 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:07:29.98 ID:5kzXp0UHO
かれら夫婦が離婚したのは、美波に弟ができて九年が経ったときのことだった。臓器売買。ある患者の生命を救うために、違法な手段で切り取られた臓器を購入すること。
裁判では父親に執行猶予付きの有罪判決がくだされた。腎臓の購入をブローカーに持ちかけられ、それを承諾したものの、実際の売買が未遂であったこと、医師としてドナーの発見に奔走し、すべての取りうる手段や可能性に当たっていたこと、患者の状態を鑑みるに移植を早期に行わなければ重篤な状態におちいり、生命の危機に瀕するだろうことが病院から提供されたデータから明らかであったことなどから、医師としての職務を遂行しようとする思いが強過ぎたあまりの犯行であることは明白だと弁護士は強弁した。
執行猶予の判断材料には、過去、美波の母親が彼の勤める病院で亡くなったという事実も考慮に加えられていた。その出来事によって、彼がこうむった打撃が、法の枠組みを越えてさえ患者の生命を救うという思いを生んだのだと、弁護士は裁判長に向かって訴えたそうだ。
過去の精神的打撃のことを裁判長から尋ねられたときーーと、美波は想像したことがあるーー父はきっと何の罪で裁かれているのかよくわからなくなっていのたでないだろうか? もしかしたら、妻を亡くしてしまったことが罪に問われているのだろうか、と不安に苛まれた瞬間もあったはずだ。いまにして思えば、父が医師の仕事に打ち込んでいたのは、わかりやすいくらいの代償行動だった。妻を喪った悲しみが、いつしか罪悪感に変質し、その感情をモチベーションにして救えなかった人の代わりに患者を救おうとする。そのような深層にひそむ動機を暴かれてしまったことは、父にとって罰を受けることよりつらいことだったのかもしれない。
6 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:08:59.46 ID:5kzXp0UHO
結局、父親は職も家庭も失い、広島に戻ることになった。そして、誰にとっても予想外なことだったのだが、美波も父親といっしょに生まれ故郷に戻った。母親はもちろん、美波を引き取るつもりだったし、父親の方もそのことに異論はなかっただろう。
そのような事態の推移に対して、強くはっきりと反抗したのが美波だった。そのとき美波はまだ十一歳だったが、今振り返ってみても、あれほど強硬な態度をとったことはなかったし、おそらくこれからもないだろう。あれは、人生で一度きりの決定的な意思表示の瞬間だった。美波の父親は本来なら、妻が死んだ時点で残りの人生を健全に過ごすことはできないくらい心に打撃を受けていた。そうならなかったのは、ひとえに産まれたばかりの娘の存在があったからだ。だから、今回もわたしがいっしょにいてやらねばならないのだ。
美波「わたしはパパといっしょに暮らす」
そう宣言した美波を、義理の母親である律はただ黙って目を細めてじっと見つめていた。しばらく沈黙が続き、律がやっと口を開いたとき、美波が耳にしたのは、彼女の考えがいかに幼稚で情動的なものかを合理立てて批判する義母の説明だった。それは説得ではなく、否定だった。もちろん、反対はされるとは思っていた。自分はただの子供でしかないし、親の庇護下になければ生活などしていけない。そして執行猶予が付いたとはいえ、罪を犯した父親よりも義母の方が子供の育てるのにふさわしいのは明らかだった。当時の美波からしてもその事実は否定しようがない。
7 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:10:14.25 ID:5kzXp0UHO
美波「ほんとうのお母さんじゃないくせに」
美波の口から突然そんな言葉が飛び出した。人を傷つける言葉を口にしたのはそれがはじめてだった。義母がどんな顔をしているのか眼に映るまえに、美波は椅子を倒し、父親が制止するのも無視して二階にある自分の部屋へ逃げ込んでいた。心臓が逸っていたのは、階段を駆け上がったせいばかりではなかった。
あんなことを言うつもりはなかった。美波は誰に言うでもなく、心のなかで自分に向かって言い訳をした。
義母の律は、世間一般的にみれば優しい母親ではなかったが、愛情がないわけでなかった。合理的で厳しくはあったが、それは、母親として、という形容が前につく類いのものだった。だから、ちゃんと説明さえすれば娘である自分の気持ちもわかってくれるはず、と美波は思ったのだ。夫婦のことはわからないけれど、家族のことは十一歳の子供なりにわかっているつもりだった。だが、うまくいかなかった。子供の論理と大人の論理は、それぞれ別の機能で働いていて、そしてよくあることだが、違いがあることを忘れたまま互いに論理をすり合わせようとする。そういうとき、たいていの場合は互いに相手を思いやっていたりする。だがその結果生まれるのは、相互不信だけだ。
美波は床に座って、ベッドの端に頭を沈み込ませていた。左腕をベッドに置き、その上に右腕を交差させる。瞼を閉じた両目を上になったほうの腕で押さえ込む。左右の手はそれぞれ反対側の肘をつかんでいて、かなり力を込めていたのでつかんだところが白っぽくなっていた。
8 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:11:09.53 ID:5kzXp0UHO
これでなにもかも終わった、と美波は思った。人生は続いていくけれど、それはこれまでの十一年間と連続したものではない。凧は糸が途切れ、地面に落ちてしまった。糸の短くなった凧をもう一度空にあげるには、よほど良い風が吹くのを待つか、自分から糸を結びなおさなければならない。前者を選べば、待っているあいだの時間を周囲の人びとをよそに、ひとりで膝を抱えて耐えなければならない。後者の場合は、凧をふたたび風に乗せても、糸が途切れたという事実はずっと残る。
ベッドの上には窓があった。その窓は閉められていたが、そこから通りを行く子供たちの声が聞こえてきた。近くの公園で遊んでいた子供たちが、それぞれの家に帰っていく時間だった。太陽は西に傾きはじめ、だんだんと水平に近づいていく陽光の線が、これから空の下の方を赤色に染め上げていく。空の上の方はといえば、対照的に濃い藍色から闇に染まっていくだろう。
圭と慧理子も、家の近くの公園にいるはずだった。ふたりはそこで話し合いが終わるのを待っている。両親と姉のあいだに漂う不穏な空気を察して、圭は落ち着かない様子で不安がる慧理子を外に連れ出したのだった。もしかしたら、圭の友達である海斗もそこにいるのかもしれなかった。
9 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:12:24.20 ID:5kzXp0UHO
律「美波」
ドアの向こうから、義母の声が聞こえてきた。
律「ドアを開ける必要はないわ。そのまま聞いてちょうだい」
美波は顔だけ上げ、義母の言うとおりにした。
律「あなたはお父さんに似てるわね。極めて情動的」
その言葉の意図が美波にはよくわからなかった。普段なら言われてうれしいはずの言葉だが、いまのこの家の雰囲気のなかでは皮肉の調子がまとわりついていてもしかたのない言葉だった。
律「瞳の色や髪質といった形質的な面でもそうね。あなたのお母さんの写真を見たことがあるけれど、ほんとあなたにそっくり。それはつまり、わたしは生物学的な意味で、あなたの母親ではないということの証明なのだけれど」
先ほどの発言を根拠づけるかのような言葉に、美波は被告人のような気分になった。事実に基づいた証拠を提示され、行為の責任を取らされようとしている。美波の否定を律はいままさに肯定しようとしていた。美波にはそう思えた。
律「でもそれは、生物学的に、という限定的ないち条件にすぎないわ。あなたのお父さんとの結婚を決めたとき、わたしは同時にあなたの母親になることも決めたのだけど、それは決して結婚による副次的な決定ではなかった。言ってる意味がわかる?」
事件に対して誤った見方をする警部にその間違いを逐一指摘する探偵のように、律は美波に自分が持つ前提を理解させようとした。
律「わたしは倫理的にあなたの母親であろうとし、そして今では本能的にもそうだと断言できる。あなたがどう思っていようがね」
10 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:13:56.74 ID:5kzXp0UHO
律と美波は、しばらく互いに沈黙していた。ふたたびドア越しの声が聞こえたとき、あたりは薄暗くなっていた。夕暮れと夜とのあいだの時間。宵よりはちょっと明るい。光の状態は、標高の高い山の空気がそうであるように薄くなっていた。山の高いところのように家のなかが静まりかえっていた。律の声はさっきより低い位置から聞こえてきた。律は廊下に座って、美波と同じ目線から話を続けようとしていることがわかった。
律「美波、お父さんが刑務所に入らなかったからといって、それは罪を犯さなかったからというわけじゃない。違法な手段で臓器を購入しようとしたことは事実なの。だから、医師の仕事をやめざるをえなかった」
義母の説明は、あいかわらす温度を感じさせない冷静な口調だった。だが、美波には律の声が身近になったような気がした。
律「起こしてしまったことはなかったことにならないわ。これからのお父さんの生活には今回のことが必ずついて回る。順調に、問題なく過ごせているようにみえても、それは必ずどこかで顔を出して物事を破綻させる。そのお父さんといっしょに暮らすということは、あなたの生活にもそれがあてはまるということよ。思わぬ場面であなたの人生に打撃を与えるようなことが起こる確率があがるということなの」
律「あなたはそんな人生を選び取ろうとしている。親なら絶対に選ばせたくない選択肢を、お父さんがかわいそうだからという理由だけで」
律「かわいそうと思ってるだけでは人は救えない。誰かを大切するということは、その人のために行動し実現することではじめて成立するのよ。美波、厳しことを言うようだけれど、子供が実現できることなんてたかが知れてるわ」
11 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:15:14.46 ID:5kzXp0UHO
美波はドアを開けた。義母は両膝を立てて座り、そこに肘を置いていた。背中を壁につけた姿勢のまま、美波と視線を合わせた。
美波「おかあさん」
美波は義母から目線を逸らさなかった。
美波「ごめんなさい」
律「何について?」
美波「さっき、ひどいことを言ったことについて」
律「他には?」
律の眼の光は鋭いままだった。美波は怯まなかった。
美波「わたしは、やっぱりパパといっしょにいようと思う」
律「そう」
律は尻を上げ、美波のまえに立った。
律「とりあえず晩ごはんにしましょう」
美波「うん。手伝う」
12 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:16:49.27 ID:5kzXp0UHO
美波が律と共に食事の準備をしていると、父親が圭と慧理子を連れて帰ってきた。美波は作業の合間に、キッチンから三人の様子を伺ってみた。ぎこちなさを見せるものの、隣りあってソファに腰掛け夕食の匂いを堪能している父と妹。弟はそんな二人から離れたところにいて、背中を向け窓の外に目を向けている。
美波は、弟はいったいなにを見ているのだろうと不思議に思い、同じ場所に視線を向けた。窓の外には何も無かった。圭は食卓につくまで背中を向け暗闇だけが広がっている外の世界をじっと見つめていた。手元が照らされたキッチンから弟のいる場所を見ると、そこだけ光と闇の境界がなくなっているように思えた。弟はまるで洪水みたいにに押し寄せてくる暗闇をその身で受け止めながら、黒く染まる空間を肺が裂けるまで飲み込もうとしているかのようだった。
少しして夕食の準備が整った。父や慧理子、それに圭も灯りに包まれた食卓についた。五人で食卓を囲んだ。かちゃかちゃと食器の鳴る音がするだけで、会話はほとんどない。それが家族全員での最後の食事になった。
13 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:18:18.36 ID:5kzXp0UHO
結局、美波は父といっしょに広島に帰ることとなった。父親は民間の海洋研究所の臨時職員として再就職が叶い、それはまたしても同研究所に勤める彼の友人のおかげであったのだが、同時に彼の過去の行いのおかげでもあった。以前、日本外科学会の学会誌に掲載されたヒトデの体細胞を用いた移植組織の拒絶反応にも関わる体細胞免疫の研究発表をその友人と共同で執筆したのだ。そのことをきっかけに生まれた交流のおかげで、美波の父親は故郷の海の近くで海水や砂浜に生息する生物の研究に時間を費やすことになった。娘ふたりとの生活は、贅沢をしなければなんとかやっていける。
普通の生活水準こそ取り戻せたものの、そうなるまでには当然多少の時間がかかったし、その時間は美波に「優秀であること」の重要性を認識させることになった。高い技能を持ち、人との繋がりを強く多く持てば、なにかあったときにも助けてくれる人たちがいる。それが「優秀であること」の教訓だった。それは父親を見ることで感じたことであったし、義母からの言葉から受け継いだことでもあった。
学校の成績は常に上位をキープした。スポーツも心地よく種類をこなし、委員会や生徒会などにも参加した。柔和な表情と、人付き合いの良い性格もさいわいして、友人は多かった。大学進学後は多くの資格試験に挑戦し、そのほとんどに合格した。昔の友人との交流はいまでも途絶えず、新しくできた仲間との絆を強く感じる日々を美波は送っている。上京してからは、家族と会う機会も当然多くなった。義母や妹との会話も増え、特に妹は姉としてだけでなく、アイドルとしての美波も誇らしく思っている。
弟は違った。
14 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:19:31.34 ID:5kzXp0UHO
現在の美波が、あのとき、キッチンから覗いた九歳の弟の背中を脳裏に浮かべると、その像は頭のなかでふたつの詩のあいだに置かれている。そのふたつの詩は、どちらもウィリアム・ブレイクのもので、同じ美城プロダクションに所属しているアイドル鷺沢文香から借りた『対訳 ブレイク詩集』によって知ったのだった。美波が文香からこの詩集を借り受けたのは、冬のライブが終わった後のことで、文香と同プロジェクトに参加しているアイドル速水奏が最近観た興味深い映画のことを話題にしたことがきっかけだった。その映画とは、ジム・ジャームッシュが監督したモノクロ西部劇『デッドマン』のことで、主人公の会計士ウィリアム・ブレイクをジョニー・デップが演じている。デップが扮する主人公の会計士の名前が詩人ブレイクと同じ名前であることからわかるように、この映画はブレイクと彼の詩が主題になっている。
こんなシーンがある。会計士ブレイクは、賞金が懸けられた自分の首を追ってきた保安官に向かって引き金を引く。「ぼくの詩を知ってる?」という台詞を吐き、銃弾が保安官の胸の真ん中に黒い穴をあける。白黒の映像だから、流れる血も黒い。
同様のことが美波にも起きる。『対訳 ブレイク詩集』のなかのふたつの詩が、まるで銃弾のように作用し、美波の内に黒いちいさな穴をあける、ということが。
15 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:20:48.52 ID:5kzXp0UHO
美波の虚を衝いた二篇の詩はーーというより、詩に撃たれたことによって虚が生まれたともいうべきかーー映画のなかには引用されていない。
詩集『無垢と経験の歌』のなか、『無垢の歌』と『経験の歌』にそれぞれ収めれているその詩の題は、「失われた少年」と「一人の失われた少年」といい、前者には定冠詞が、後者には不定冠詞がついている。
『無垢と経験の歌』は、一七九四年に出版された。一七八九年に『無垢の歌』が出版されていて、その五年後に出版されたこの詩集は、『経験の歌』との合本の形をとっている。この詩集は、「人間の魂の相反するふたつの状態を示す」という副題を持ち、生まれながらの汚れのない魂の状態としての「無垢」と、その「無垢」を阻害する場としての「経験」ーー制度としての法律・戒律・慣習などが「経験」の場に存在するーーが、副題の通り、対立する概念として置かれている。
『無垢の歌』の「少年」は、夜の露が身体を濡らす冷たい暗闇のなか、父親を求めてこう訴える。
《父さん、父さん、どこに行くの。
ああ、そんなに早く歩かないで。/父さん、話して、この小さなぼくに何か話して、/そうしないと迷子になっちゃうよ》
『無垢の歌』の八番目に収録されている「失われた少年」は、次の「見つかった少年」と連作になっていて、そこでは、狐火に誑かされ沼地を泣きながら彷徨っていた少年の前に、父親の形象をした神が現れ、母親の元に連れていく。『無垢の歌』の内にある少年は、はなればなれになった家族とふたたび出会い、そしてその時点で神に対する信仰も獲得している(と、美波は解釈しているが、宗教理念や当時のイギリスの状況、さらにいえばネオ・プラトニズムなど、あきらかに背景知識が足りないうえでの解釈なので、あまり自信がない)。
16 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:21:57.06 ID:5kzXp0UHO
一方、『経験の歌』で詠まれる、不定冠詞のついた少年は、このような「無垢」の状態にある少年とは対照的に、自立した性格を見せ、父親に挑発的な態度と言葉をぶつける。
《自分を愛するように他を愛する者はいませんし、そのように他を敬う者もいません。/また思想が自分よりも偉大な思想を知ることはできません。/父さん、どうしてぼくは自分以上にあなたを/また兄弟のだれかを愛することができるでしょうか。/ぼくはあなたを愛しています、戸口でパン屑を拾っている小鳥を愛するくらいには》
このふたつの詩にそれぞれ登場する少年が同一人物なのかどうか、『対訳 ブレイク詩集』を読んだ限りではわからない。しかし美波には、『無垢の歌』の父親の消失を嘆くしかなかった少年が、『経験の歌』の父親や家族といった制度に挑発的な態度を示す少年に時間をかけて変わっていったとしか思えなかった。
17 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:23:17.41 ID:5kzXp0UHO
圭は九歳のとき、医者になると宣言した。当時六歳だった美波と圭の妹慧理子は、命に別状はないものの、治療法の無いめずらしい病気に罹っていて、検査、入院、退院を繰り返していた。慧理子はいまでもそのサイクルのなかで生活している。病院の白いシーツがかかったベッドの上で、入院生活用の使い古しが現れてるTシャツを着た妹が、うれしそうに自分の歌を聴いている姿を見ると、美波はよろこびのあとにかなしさを味わう。ステージから見る光景を知っているだけに、この病室のなかで反響するだけで、妹を外に連れ出す力のない自分の歌にかなしさを覚え、それをどうしよもない自分の無力さをかなしむ。
だから、美波は弟に期待していた。
圭の宣言を義母からの手紙で知らされたとき、弟の優秀さを当然ながら知っていた美波は、圭が父親とおなじ道に歩むのは自然なことだし、父親の事件に打撃を受けたろうに(いや、受けたからこそ)、父親が中断せざるをえなかった役目をーー当然ながら、父親も慧理子の病気の治療法を探していたーー受け継ぐ意志を圭が示したことに、誇らしさと安心した気持ちをもった。
病気それ自体が患者に引き起こす身体の苦痛、病気を取り除けないことに対する患者の家族の心の苦痛。美波の父親は、このふたつの苦痛を癒す優れた治し手だった。圭もまた、そのような人物になれる、と美波は思っていた。
18 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:24:20.94 ID:5kzXp0UHO
慧理子「兄さんは、そんな人なんかじゃない」
妹がそんな言葉を口にしたのは、冬に開催された一大ライブ「シンデレラの舞踏会」が成功に終わってから数週間後、美波がお見舞いに来た病室でのことだった。
空に積み重なった雲がその青黒い腹を見せながら、太陽の下半分を隠す、強い肌寒さを感じさせる日だった。灰色をした冬の翳りが病室に侵入してきて、電動ファンヒーターの熱した赤い部分が翳りによってその赤さを濃くしている。
慧理子は床に置かれたヒーターの放熱をくつ下越しの足で感じながら、ベットに腰掛けていた。ひざとひざをくっつけて、身体を美波の正面に向け、ライブの話をするよう姉にせがんだ。
美波はすこし躊躇したが、期待に満ちた目を向ける妹は裏切れない。話していくうちに、美波は、自分の口調に熱が帯びていくのがわかった。あの日の光景は、まるで記憶が結晶になったかのようにくっきりと細部まで覚えている。煌めき、歓声、歌、仲間たち。あの日の記憶を形作っているあらゆる要素は、熟達の宝石職人によってカットが施されたダイヤモンドのファセットのようなもので、どんなことを語ってもその輝きの美しさを余すところなく伝えられる。
慧理子「いいなあ。わたしもいつか姉さんのライブに行ってみたい」
美波「行けるわよ」
慧理子「病気が治ればね」
19 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:25:56.49 ID:5kzXp0UHO
ちいさな諦めが、慧理子の顔に乾いた微笑みをつくった。
美波「大丈夫だよ。まだ時間はかかるけど、圭がきっと病気を治してくれるから」
自分が直接妹のためにできることがないのをもどかしく思いながら、それをおくびにも出さず、ただ自分が確信していることを口にして、美波は慧理子を慰めようとした。
姉の言葉をきいた慧理子は、一瞬で不快とわかる表情に顔を歪め、そしてさきの言葉を吐いた。兄のことを耳にした途端、まるで兄の存在そのものが美波の大切にしている思い出を台無ししまったかのように、忌々しさを現しながら慧理子はベットに戻った。
美波「どうしちゃったの、慧理ちゃん」
美波は、慰めがこんなふうに作用するとは思ってもみず、戸惑いが押し寄せるなか、なんとか妹に尋ねた。
慧理子「信じらんない。あの人、姉さんにもそんな態度なの?」
美波「あの人って……ダメよ、慧理子、兄さんのことそうなふうに言ったら。圭は……」
慧理子「そんなの自分のためよ」
20 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:27:15.71 ID:5kzXp0UHO
慧理子は美波が続ける言葉を予想し、吐き捨てるように遮った。美波が言葉を失うなか、慧理子は言葉を継いだ。
慧理子「兄さんが医者になろうとしてるいるのは、自分の評価のためよ。それだけなの」
美波「そんなわけないじゃない。圭は必死であなたの病気を治そうとしてるんだよ?」
慧理子「見せかけよ。兄さんの本質は合理的でどこまでも冷たい。そういう人なの、兄さんは」
美波は絶句した。病弱だと思っていた妹が、こんなのにも強い嫌悪を放つとは思ってもいなかった。それも、実の兄に対する嫌悪を。
慧理子「信じられないなら、カイさんのことを聞いてみて。そうしたらわかるから」
美波「海斗くん?」
美波も海斗のことは知っていた。圭の子どもの頃の友達で、慧理子ともよく遊んでいた。美波も何度かいっしょに遊んだことがある。活発な男の子で、教室では人気者なのだろうと思わせる少年だった。
21 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:28:10.70 ID:5kzXp0UHO
美波が上京してから、海斗の姿を見たことはなかった。彼のことはすっかり忘れていたくらいだ。妹が海斗の名前を口にした途端、美波のなかで子どもの頃の記憶が、鮮やかな輪郭をともなって蘇ってきた。記憶のなかの季節は夏で、圭と海斗が虫とりにいく様子を二階の自分の部屋から眺めていた。麦わら帽子をかぶり、虫とり用の網とカゴを持った海斗のあとを、弟がついていっている。風を呼び込もうと開けた窓から、笑いあいはしゃいでいるふたりの声が聞こえてきて、部屋に遊びに来ていた友達に呼び戻されるまで、ずっと聞き入っていたことが思い出された。
その海斗のことが、いまなぜか問題になっていた。
美波は、妹にいったいなにがあったのか問いただそうとした。慧理子はなにも応えなかった。妹は、せっかく姉と楽しく過ごせるひと時を、余計なことをしゃべって台無しにしてしまったことを後悔しているようだった。足にかけたシーンをギュッと握りしめて、気まずそうに沈黙している。美波も、それ以上なにも聞き出すことはできなかった。
22 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:30:43.67 ID:5kzXp0UHO
病院から出ると、青黒い分厚い雲が太陽を完全に隠してしまっていた。集合した雲はひとつの生き物のようで、上空を吹き荒ぶ強風に運ばれる様子は、まるで空を蛇行する蛇のようだった。風の唸りは、鈍く光る蛇の運動によって引き起こされているかのようで、その振動が地上に降り注ぐと病院の窓を一つ残らず揺さぶった。ガタガタっとうるさい音が病院全体から響いている。明日の天気が不安になるような空模様だった。
埼玉の家に戻ってくると、玄関にスニーカーが爪先を揃えて扉の方に向け、置かれていた。美波がリビングへ行くと、まだマフラーを巻いたままの圭が、IHヒーターの上にヤカンを置き、コーヒーを淹れるために加熱をしているところだった。厚めのカーディガンの分だけ着膨れした学生服の袖から、寒さで青白くなった手のひらを出し、ヤカンからの放熱を受け止め、手のひらを温めている。
永井「姉さんも飲む?」
圭が沸騰したお湯でインスタントのコーヒーを淹れながら、美波に聞いた。美波がうなずくと、圭は戸棚からカップを出し、お湯を注いでもう一杯コーヒーを淹れた。美波が手渡されたコーヒーをゆっくり啜りながら圭を見やると、弟は片手でカップを持ち上げながら、もう片方の手で単語カードを器用にめくっていた。
23 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:31:59.28 ID:5kzXp0UHO
ブラックのまま手渡されたコーヒーの味にいよいよ舌がうんざりしてきた美波はソファから立ち上がり、キッチンに砂糖とミルクを探しに行った。弟が座っているキッチンの椅子の背に、すでに首から解いたマフラーがかけられている。弟のカップのコーヒーは黒い液体のままだった。ぬるくなって湯気もたたない黒いコーヒーとは対照的に、圭の手のひらはカップの温度が移ったのか、しっとりとしたピンク色に染まっている。
単語カードを繰る音と、コーヒーをかき混ぜるスプーンがカップに当たるカチャカチャ音が交互に、そして十回に一回くらいの割合で同時に鳴った。カップの中身が乳白色で中和されきった。美波がカップから弟に視線をやると、手元の単語カードは残すところあと数枚というところだった。
美波「そういえば、海斗くんって最近どうしてるの?」
たったいま、記憶にのぼってきた事柄を無意識に口に出してしまったみたいに聞こえるよう気をつけながら、美波は圭に尋ねてみた。
永井「さあ。たまに見かけるけど」
圭は単語カードから視線をあげないまま、あっさり答えた。
美波「子どもの頃、よく遊んでたよね」
永井「今はもう、そんなことはしてない」
24 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:33:25.26 ID:5kzXp0UHO
圭の二度目の返答を聞いた美波は、唐突に理解した。弟は、わたしの求めるものを求めていない。
圭はコーヒーを飲み終わると、カップを手に持ったままの美波の横に立ち、空になったカップを水で濯いだ。流しで水を切り、食器乾燥機に洗ったコーヒーカップを置くと、椅子にかけてあったマフラーと床のバッグを手に持ち、二階の部屋へと消えていった。
美波はひとり、溶けきらなかった砂糖が沈殿するカップに視線を落としながら、自らの思い違いにやっと気づいた。この八年間ーー年が明ければ九年になるーー、わたしたちがはなればなれになった八年という時間は、どうあっても取り戻しようがないのだということに、なぜいままで気づかなかったのか。
25 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:34:39.52 ID:5kzXp0UHO
圭は姉のことを嫌っているわけでも、非難しているわけでもない。美波が圭と結び直したいと願っている関係性に、単に関心がないだけだった。弟は、家族の枠組は守られているのだから、なにも不満に思うことはない、とでも考えているようだった。呼びかけられれば、応える。それだけ。子どものころの思い出の品物がふたたび目の前に帰ってきたとして、それをなつかしむことはあっても、それをふたたび子どものころのように使うことはあるのだろうか。その品物が存在することだけに満足して、またどこか押入れにでもしまい、現在の生活に戻るのが、大方の人間のすることだろう。
弟は、現在の生活に過去の面影がなくても平気なのだ。
美波がブレイクの詩を知ったのは、このような出来事があった直後のことだった。「一人の失われた少年」の最初の八行、ーー少年が父親に向かって挑発するような言葉を突きつける部分ーーを初めて読んだとき、美波の手の動きも、目の動きもピタリと止まり、左側のページの英詩と右側の訳詩に釘付けになった。まるで魔術の力が作用したかのように美波は動けなくなり、弟の内面がすべてそこに記述されているようにしか思えなくなった。「経験」的な少年の言葉は、まるで「無垢」なる態度そのものへの反抗のようでもあり、ついさっきまで無根拠に抱いていた美波の家族再生の物語が、圭が幼少期の友情を否定したことで間接的に否定されたことでもあるかのようだった。
26 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:36:05.15 ID:5kzXp0UHO
そんなふうに読めるのは、あまりにも個人的な事情に引きつけて詩を読んだせいだ。しばらくしてから美波はそのように思い直し、止まっていた手を動かして詩の続きを読んだ。また美波の手が止まった。ブレイクの詩によって動揺の次にもたらされたのは、恐怖だった。詩の後半で、先の言葉を側で聞いていた司祭が少年を引っ立て、両親の懇願もむなしく、涙に咽ぶ少年を火刑に処してしまう。
《そして少年を聖なる場所で焼き殺した、/そこは多くの者がこれまで焼き殺された場所。/両親が泣き叫んでもむだであった。/こんなことがアルビヨンの岸辺で今でも行われているのか。》
恐怖の感情は一瞬で落ち着いた。いくらなんでも、こんなことはありえない。さっき、個人的な事情に引き付け過ぎていると反省したばかりなのに、すぐこのような読解をしてしまうとは。
美波はブレイクの詩集を閉じ、年末から年始にかけてのスケジュールを確認することにした。スケジュール帳を開き日程を確認していくと、少年が火刑になったことへの予言的な恐怖は、吹きつける風が灰の粉を川へ掃いていくかのように、次第に消え去っていった。
恐怖は去っていった。だが美波の心の内には自分でも自覚できないほど微かに、澱のように沈殿する不安がこびりついていた。灰と化した少年の身体が火刑場となった広場の地面の溝を埋め、火刑場が廃れてもなおそこにこびりついているかのように、その不安はいまでも確実に彼女のなかに存在していた。
27 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:37:11.72 ID:5kzXp0UHO
ーー七月二十三日・美城プロダクション・CPルーム
美波はソファに身を沈めて、深く息を吸い、気持ちを切り替えようとする。
美波の脳裡には、六ヶ月以上前に読んだブレイクの詩がまだこびりついていた。「無垢の歌」の少年と「経験の歌」の少年。はじめて詩を読んだ冬から春を経て、季節が夏に移行するあいだ、韻文が生み出す詩のイメージに美波の当時の記憶と想像が流入し、極めて個人的なイメージに変化していった。幼い少年のまえから去っていく父親の隣には連れそってゆく子どもがいる。年月が経ち、成長した子ども同士が再会すると、片方の子どもの愛情はパン屑を啄ばむ小鳥ときょうだい家族に区別をつけなくなっている。そんな子どもの存在は、司祭によって糾弾され火をもって消し去られる。火は子どもの肉体を食み、皮膚や筋肉や骨や細胞は黒い粒子と化して、狼煙のように空に昇ってゆく。
混在する赤と黒がおどろおどろしく踊り跳梁する悪夢のイメージは、まるでそれがほんとうの記憶であるかのようにたびたび美波の脳裡に浮上してきた。ブレイクの時代ならともかく、現代の日本で火刑などまずありえないというのに、この言い知れぬ不安はなんなのだろう、と美波は思った。いや不安というには、あまりにも生々しいリアリティがブレイクの詩から想起させられた。
28 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:38:23.12 ID:5kzXp0UHO
記憶野と想像野にどっちつかずのまま架け橋のように横たわる火刑のイメージ。それはやがてもうひとつ変化を遂げた。黒く焦げた肉体が千切れて一部となり、その一部がまた千切れ、粒子の段階まで分解される。周囲に漂いはじめた粒子は、風もないのに運動を見せはじめ、洪水のように押し寄せてきては視界いっぱい黒に染め上げる。ここ一ヶ月、美波が夢を見るときはこのようなノンレム睡眠と見分けがつかない、深海のような暗黒の光景ばかりが夢に出てきた。なにも見えないのに、これは夢だとわかるのは奇妙だな、と美波は朝起きるたびに思った。
夢を見た日にアナスタシアと会うことになると、夢と彼女の対照に美波はそのたびごとに驚いた。透き通った結晶体のような容姿をしたこの少女はけっこう子どもっぽいところがあり、昨夜電話で話したときも美波とおしゃべりできるからという単純明快な理由を隠すこともなく、声を弾ませていた。リビングのテーブルに置きっ放しにしていたスマートフォンをさきに夕食を済ませ自分の部屋に戻ろうとする圭が持ち上げ、美波に手渡した。画面にははじめて見る番号が表示されていた。通話ボタンをタッチし、スマートフォンを耳にあてる。スピーカーから聞こえてきたのは親しい馴染みの声だった。
アナスタシア「こんばんは、ミナミ」
美波「アーニャちゃん。あ、そっか。スマホ、新しくするって言ってたね」
アナスタシア「ダー。前のは、スメールチ……お亡くなりになりましたから」
パタンという音がして、見ればリビングの扉が閉められていた。廊下を歩く音がして、弟が二階に行くのがわかった。
29 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:39:41.55 ID:5kzXp0UHO
アナスタシア「ミナミ……?」
美波「ううん、なんでもない。新しいスマホはどう?」
アナスタシア「調子、いいです。ミナミの声、よく聞こえるから」
まっすぐ情を向けてくるアナスタシアの声に、美波は微笑みを浮かべる。他愛ない会話をしばらく続けていると、美波は気持ちが浮遊していくのを感じた。
冷えているが寒くはない冬の日、風は起こらず、控えめであるだけに心地良い鈍い陽光を浴びていると、周囲の空気がもっと気持ちの良い場所があるよとでもいうふうに身体を持ち上げ上空のところまで運んでくれる。地上の風景は色や形で家々や工場や公園や森や海などを見分けられるが、浮上にしたがいそれも難しくなっていく。地上のものの輪郭はだんだゆとぼやけ、色彩も薄くなっていき透明に近づいていく。上空での鳥類は地面や木に止まっているときとは異なる、大気によく浸透する声を使って会話していた。上空では雲がソファに、太陽の光がブランケットになっている。
リビングのソファに腰を下ろしていた美波は、気づかぬうちに足を伸ばし、楽な姿勢をとっていた。
30 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:41:13.07 ID:5kzXp0UHO
アナスタシア「ミナミ、気持ち……落ちつきました?」
まるで美波の様子が見えているかのようにアナスタシアは言った。
美波「そんなに疲れた声してた?」
アナスタシア「アー……というより、オビスポクォニー……悩んでる、と感じました」
美波「ほんとに?」
アナスタシア「ダー。悩みごと、ありますか、ミナミ?」
美波「えっーと……」
美波は黙ってしまった。黒黒とした不吉なイメージは映像として確固としているものの、それをどう言葉に置き換えればいいのか、さらに不安を感じてるといっても、その原因はほとんど杞憂に等しい予感でしかないのだ。美波が言葉に詰まっていると、アナスタシアがさきに口を開いた
アナスタシア「いまじゃなくてもいいですよ?」
美波「アーニャちゃん?」
アナスタシア「話したいときに、話したいひとに、話してください」
美波「……」
アナスタシア「わたしならいつでも大丈夫です。いまでも、いいです」
美波「ふふっ。さっき、いまじゃなくてもいいって言ったのに」
アナスタシア「いつでも、とも言いました。わたしは、いつだってミナミの助けに、なりたいですから」
美波「……ありがとう、アーニャちゃん」
31 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:42:17.63 ID:5kzXp0UHO
電話を終え、美波は夢についてひとり考え込んだ。精神分析に頼らなくても原因は、弟を中心にした家族の現在にあるのは明らかだった。もはや、過去は取り戻せないのだということを認めるべきなのだろう。弟ほど極端でなくても、わたし自身、過去の出来事から優秀であろうとし、それを実践してきたのだから。わたしたち家族は、すでに離散してしまったのだ。その過去を都合良く忘れ、むかしの家族を理想化し、その再現を試みることほどむなしい行いもないだろう。
過去は牢屋のように堅固としているかと思えば、煙みたいにかたちがなくなったりもする。資料が残っているような歴史的な過去の出来事についてならまだいい。それならやりようはある。だが記憶だけが頼りの、個人的な思い出の場合はそうはいかない。思い出はひどく気まぐれで、子どもが裏切ったときみたいに手酷い痛手を与えることもしばしばだ。
だから美波はいま、CPルームのソファに背を預けながら、空気のなかに黒い絵具を溶かしたかのようなあのおそろしいイメージを取り払うことから始めようとする。構図の取り方に失敗した風景画の下書きを画家が投げ捨てるように、黒一色のイメージを美波は打ち消そうと努力した。イーゼルに乗せられた真新しい白いキャンバスに新たな像を描こうとするが、筆が触れる前に染みのようにキャンバスが黒に染まっていく。何度か同じ試みを頭のなかで繰り返す。結局、それはすべて失敗におわる。試みの最後には、いつも黒が染み出してくる。割れた地面から溢れる毒を含んだ地下水のように。
32 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:43:32.60 ID:5kzXp0UHO
徒労をおぼえた美波が、逃避的に考えを別のことにむけたときーー自分自身のすこしさきの未来、七月二十七日。美波の二十歳の誕生日のことーー部屋のなかに三人の少女が入ってきた。レッスン終わりのニュージェネレーションズだった。
凛「お疲れさま。美波もレッスン終わり?」
先頭にいた凛が美波に声をかけた。
美波「うん。もうすぐCD発売初日のイベントがあるから」
卯月「アインフェリアですよね。とってもカッコいい曲でした」
未央「それにその日はみなみんの誕生日だしね。お祝いごとがふたつもあるなんて、ほんとおめでとうだよっ」
美波「ありがとう、未央ちゃん」
未央「プロデューサーがここをパーティーに使ってもいいって言ってたし、美嘉ねえたちも顔を出すって」
凛「手巻き寿司パーティーはアーニャがやりたいって言ってたよね」
33 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:44:51.05 ID:5kzXp0UHO
美波「でも、なんだか大げさじゃない?」
卯月「そんなことないですよ! 美波ちゃんはシンデレラプロジェクトのリーダーなんですから」
凛「二十歳の誕生日なんだし、大げさなくらいがちょうどいいんじゃない?」
未央「そうそう。わたしたちみんな、みなみんのことお祝いしたいんだよ」
美波「みんな……ありがとう。その気持ちだけでも、すごくうれしい」
未央「本番はもうちょい先だよ、みなみん?」
未央がそう言うと、凛と卯月が軽く笑った。美波もつられて笑顔になった。
夕暮れが近づき、太陽から放たれる光線がだんだん水平になってくると、部屋のなかは眩しさに包まれた。視界は鮮明すぎて逆にものが見えづらくなり、ブラインドを下ろし光量を調節しなければならない。電気を点け、部屋がちょうどいい明るさを取り戻すと、蛍光灯に照らされた時計が夕方のニュースが放送される時間帯を示していた。凛が明日の天気予報を見ようとテレビをつけた。
そのとき美波のスマートフォンが鳴った。着信はプロデューサーからだった。美波が席を外し通話ボタンを押すと、特徴的な低い声が聞こえてきた。
34 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:45:55.56 ID:5kzXp0UHO
武内P「新田さん、いまどちらに?」
いつもと変わらない丁寧なしゃべり方。だが、美波にはその口調に抑制されたものがあると感じた。落ち着きを意識的に課したような口調。声の速度もいつもよりわずかに速いような気がする。
美波「いまですか? CPルームにいますけど」
武内P「新田さん、あなたに至急連絡しなければならないことがあります。すぐそちらに向かうので、待機していてください」
電話の向こうのプロデューサーは言いながら立ち上がったのか、電話口からガタンという音が聞こえてきた。声の抑制もさっきよりすこし綻んだのがわかった。
美波「それは構わないてますけど……連絡しなければならないことってなんですか?」
武内P「それは……電話では話かねますので、直接お伝えします。とにかくすぐ向かいますので……」
卯月「み、美波ちゃん!」
35 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:49:41.70 ID:5kzXp0UHO
大声に振り向くと、慌てた様子の卯月がドアの近くに立っていた。開いたドアからは部屋のなかにいる凛と未央が見える。ふたりともテレビと美波のどちらに視線を向ければいいか、本気で迷っているようだった。卯月は美波を呼んだものの、それからさきに続ける言葉を見失っていた。
美波が不審に思っていると、部屋のテレビからアナウンサーのものとおぼしき声が聞こえてきた。臨時ニュースのようで、原稿を読み上げる音声はまだそこに書かれた文章に馴染みきっていない。さっきのプロデューサーの話し方と似てる、そう思いながら美波はドアを通った。背後から卯月の、あ、あのーー、という躊躇いが滲んだ声が聞こえてきたが、美波は足を止めなかった。テレビは国内三例目の亜人発見のニュースを伝えていた。三例目の亜人は高校生で、下校中にトラックに轢かれ死亡したが生き返ったところを大勢の人間に目撃されていた。亜人の名前は永井圭といった。
美波「……え?」
まだ通話中のスマートフォンからプロデューサーの声がもれていた。美波はスマートフォンを持った手をだらんとさせながら、テレビの液晶画面に見入っていた。同時に飛び込んできた画面のテロップやアナウンサーの声は、ーー亜人・永井圭の姉は美城プロダクション所属のアイドル、新田美波さんとの情報もあり……ーーもう美波のなかから消えていた。美波は立ち尽くしたまま、テレビに弟が映っているのはなにかの間違いではないかと思った。だがそこに映し出されていたのは、まぎれもなく美波の弟、永井圭の顔だった。
美波の弟は死んで、そして生き返った。死なない生物、亜人としてーー。
36 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/03(火) 00:57:02.48 ID:5kzXp0UHO
今日はここまで。設定を説明するために地の文が多くなってしまいました。次からはもうすこし読みやすくするよう心がけます。
そういえば新田さんと永井の妹慧理子の声ってどちらも洲崎綾さんなんですね。書きながら気がつきました。
ブレイクの詩は岩波文庫から出てる松島正一編『対訳ブレイク詩集』から引用しました。
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 01:47:34.92 ID:itwWq4Syo
なんだこれすげぇ おまえさん本職かい
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/01/03(火) 01:47:37.42 ID:42Rcb4rD0
乙、面白そう
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 04:38:58.55 ID:AUKuv2Ol0
おつ、亜人ぐらしの人か
デレアニ側からは亜人1人だけなのか。ちょっと物足りない気もするけど期待
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 08:29:53.49 ID:0JFSSC/6O
凄く期待できる始まり方
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 09:38:23.34 ID:3evUl1zL0
改行しなくても読みやすいって
ものすごい文章力だと思うの
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 12:52:26.62 ID:CikglAQSo
乙。
読みやすいけど横に長いかなとは思った
43 :
◆8zklXZsAwY
[sage]:2017/01/03(火) 18:43:16.75 ID:5kzXp0UHO
コメントありがとうございます。ほんとに励みになります。
>>42
スマホからの打ち込みですのでパソコンからだと見づらいのかもしれません。うちにパソコンがないもので…。スミマセン…。
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/04(水) 13:04:37.49 ID:c+lazJ93o
乙乙
毎度読ませる文章
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/22(日) 22:57:56.29 ID:uWL6ZvZ50
マダカナ
46 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/28(土) 22:29:22.32 ID:8ENUCYV1O
2.いちばん辛いのは永井圭のほうだろう
「あいつは全囚人の中でいちばん向う見ずな、いちばん命知らずな男だよ」とMは言った。「どんなことでもやりかねない男なんだ。ひょいと気まぐれを起こしたら、どんな障害があっても立ちどまることを知らない。ふとその気になったら、あなただって殺しますよ、あっさりね、鶏でもひねるみたいに。眉一つうごかすでもないし、悪いことしたなんてこれっぽっちも思いやしませんよ。頭がすこしへんじゃないか、と思うほどですよ」ーードストエフスキー『死の家の記録』
ーー七月二十三日、二二時三十二分・美城プロダクション前
美城プロダクションの前にはもう大勢の報道陣が詰めかけていた。道路一面に中継車が並び、報道各社のリポーター、テレビカメラマン、ブームポールを持つ音声担当、照明担当らが、西洋的な城の門構えを思わせる装飾が施された建物を背景に、それぞれが良いと思うアングルを確保しようと陣取っている。
美城プロダクションは伝統ある大手芸能プロダクションにふさわしく都内の一等地に建てられいて、この区画は多くの企業ビルが連なる区画なので夜になっても明るい。今夜の照明はいつもより濃く、道路の隅々まで照らし出していた。カメラが映像をちゃんと中継できるよう、バッテリーライトが道路のアスファルトに黄色い光を投げかけていたからだ。
テレビ局の報道陣が陣取った以外の場所では、一眼レフカメラを首から下げたカメラマンや記者たちは群れをつくっていた。出版社に所属しているものもいればフリーランスの活動者もいたが、その区別はむずかしい。
47 :
◆8zklXZsAwY
[saga]:2017/01/28(土) 22:30:58.14 ID:8ENUCYV1O
テレビリポーターや記者たちの活動がもっとも活発になったのは永井圭が協力者とともに警察から逃亡したという情報がもたらされた午後八時過ぎのことだった。記者たちはプロダクションに出入りする人間すべてに詰め寄り、マイクやICレコーダーを突きつけ内容などなんでもいいからとにかくしゃべってくれとうるさくせっついていた。増員された警察官によって記者たちの動きが抑えられたのはついさっきのことで、現場の整理を指示していた刑事は、記者たちが地面から生えてきた有象無象にみえて仕方がなかった。
ーー放っておいたらどんどんつけあがる奴らだ。まったく。奴らをみてると報道とタレコミの違いがわからなくなってくる。奴らがほんとにアスファルトでできてたらよかったのに。それなら躊躇ってものは必要なくなる!ーー
警官が防波堤の役目を果たしはじめたころ、社員たちはようやく帰宅できるようになった。なかには強引に記者たちの群れをかき分けて帰っていく者もいたが、たいていはエントランスで様子をうかがっていたり、部署にもどり効率悪く残業したりしていた。
1014.51 KB
Speed:0.3
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)