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京太郎「俺たちの……」マホ「可能性……?」
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39 :
◆3em28n6/NM
[sage saga]:2016/12/20(火) 00:50:15.55 ID:smn9Zex90
――――
旧校舎、とある一室
京太郎(ん、和はまだ来てないか)ガラッ
京太郎「いきなり呼び出して、何の用だろ……?」
京太郎(わざわざ人気の無い場所を指定して……。メールで済まさない、ってことは直接会って話したい内容……)
京太郎「……まさか、な」
ガラッ
和「すいません、呼び出したりして……」
京太郎「和。問題無いぞ?用事が有ったんだろ」
和「はい。――今日の、アイス争奪戦の対局の事です……」
京太郎(……!バレたか)
和「オーラスの、最後の振り込みについてです」
和「須賀君は、マホちゃんの親リー直後に、マホちゃんが一度も捨てていない索子を切り、振り込みました。
――理由を、聞かせて下さい」
京太郎「……ボーっとしてたんだよ」
和「……へえ……」ジトッ
京太郎(うっ……)
40 :
◆3em28n6/NM
[sage saga]:2016/12/20(火) 00:51:04.15 ID:smn9Zex90
和「……では、話を少し変えましょう。
須賀君が和了った局が、一局有りましたね」
京太郎「あ、あぁ……マホちゃんが加カンした局だな」
和「あの時、須賀君は一度和了りを見逃していましたね?」
京太郎「……ああ」
和「部長が出した当たり牌……それを見逃したのは、安目だったから。違いますか?」
京太郎「いや、違わない。……それが?」
和「……私は、つい最近まで、あなたを初心者だと思っていました。
そのあなたが、期待値を計算して和了りを見逃した……正直、驚きましたよ」
京太郎「……もしかして、俺誉められてる?」
和「安心して下さい。これから怒りますから」
京太郎「……」
和「思えば、須賀君は最近振り込むことも減りました。チョンボもしなくなりましたし、牌を切るまでの思考時間も短くなりました。
今の須賀君は初心者ではなく、中級者と言った方が適当でしょう」
和「――それだけに、あの振り込みは納得出来ません。あなたの手牌は確認しました。
現物の北を抱えて、危険牌の七索を切った。……ボーっとしていたとしても、あり得ない手です。」
京太郎「……うん。和の言う通りだ。俺は、マホちゃんの親リーに、差し込んだ……」
和「何故そんなことを?」
京太郎「……それは……」
和「どんな理由が有って?あの卓で打っていた人、全員をバカにするような真似を……!」
京太郎(馬鹿に……?)
京太郎「――あぁ、そうか。俺がした事は……そういう事に、なるのか……」
和「……わかりましたか?」
京太郎(一位を死守しようとする人も、それを捲ろうとしている奴も、自分の力でトップになろうとしている子も――。
俺は、全部纏めて馬鹿にしたのか)
京太郎「……なぁ和。俺、次は本気で打つから」
和「……そうして下さい。本気でやらなければ……明後日の合宿、意味が有りませんから」
京太郎「……」
和「……帰りましょうか」
京太郎「もう暗くなったし、送って行くぞ」
和「はい、よろしくお願いします」
41 :
◆3em28n6/NM
[sage saga]:2016/12/20(火) 00:51:54.08 ID:smn9Zex90
――――
龍門渕邸
一「透華、何の用?」
透華「今、清澄の部長からメールが来ましてね……」
純「清澄?明後日の合同合宿の話か?」
透華「ええ……一人、追加メンバーがいるとの事ですわ」
純「男子が一人来るんだろ?聞いたぞ、その話は」
透華「いいえ、そちらとは別にもう一人、追加があるようですわ。その方が……」
智紀「……何か、気になることでも?」
透華「夢乃マホ……どこかで聞いた名前だと思いません?」
一「……うーん、ボクは無いかなぁ」
純「オレも無いな。新入部員か?清澄の」
透華「いいえ、中学生ですわ」
衣「……前の四校合同合宿の折に、そんな名前の中学生が来ていたな」
透華「――そうっ、それ!それですわ!」
一「あー、高遠原の!原村和がいた」
智紀「透華が、過剰反応してた……」
透華「してませんわっ!」
純「ああ、いたな」
衣「それで、その中学生は強いのか?」
透華「それは知りませんわ。……後で、大会のデータを調べてみましょう」
一「あの清澄の部長がわざわざ呼ぶぐらいだし、ただの雀士じゃないんだろうけど……」
純「あんま期待し過ぎんなよ?衣。お前と張り合える中学生なんて、そうそういないって」
衣「……むう。儘ならぬものだ……」
清澄編 終
42 :
◆3em28n6/NM
[sage saga]:2016/12/20(火) 00:59:54.26 ID:smn9Zex90
スレはたてた……さあ、もう後戻りは出来ないぞ……。
冗長だったり描写足らずだったりするかも知れないが、それでも構わんと言う人向けって事で。
……キツいなあ……
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 01:36:28.72 ID:gRlCr4EZo
乙
京ちゃんカッコいいじゃないか
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 03:26:57.68 ID:2Gwni2Uw0
乙!
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 04:35:39.40 ID:y648cje/o
>>42
あんまりこういう自己陶酔じみた吐露はやめといた方がいいよ
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 06:05:10.53 ID:jOgQX6eYo
乙!
期待
47 :
◆3em28n6/NM
[sage saga]:2016/12/20(火) 07:22:44.54 ID:smn9Zex90
初めてss書く側に回ったけど、普段何気なくしてる「乙」がここまで励みになるとは……
>>45
わかった、気を付ける
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 07:32:21.06 ID:Bl/OuDa1o
乙ー
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/21(水) 20:32:05.90 ID:/1V4fk780
乙
続きが楽しみ
50 :
◆3em28n6/NM
[saga sage]:2016/12/22(木) 22:16:05.98 ID:5Abnhq5C0
次回予告
透華「心まで守備表示になってたら、楽しい麻雀なんか出来るはずありませんわ!」
衣「楽しくなかったぞォ!お前との麻雀ゴッコォ!」
怜「もう、やめよーや……未来に希望なんてあらへんのや……」
京太郎「でも引いたら面白いよなぁ!」
咲「さあ、京ちゃん!有効牌を引き当てて!」
次回、『京太郎 死す』。麻雀スタンバイ!
※怜はまだ出てきません
明日か明後日に投下予定。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/22(木) 22:26:53.07 ID:mmkxwoASo
待ってます
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/22(木) 22:44:38.61 ID:lXFgjd8rO
アカンころたん顔芸してまう
53 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:43:41.47 ID:XqFL71BI0
――――
合宿当日、集合場所にて
マホ「須賀せんぱ〜い!おはようございます!」
京太郎「マホちゃん。おはよう」
スマートフォンから目を離す京太郎。マホが声をかけるまで気付いていなかったようだ。
マホ「まだ、誰も来てませんね……」
京太郎「少し早過ぎたみたいだな」
マホ「それ、何してたんですか?」
京太郎が持っているスマートフォンを指差す。
京太郎「麻雀だよ、ゲームのな。マホちゃんもやってみる?」
マホ「はい!やりたいです」
京太郎「ん、それじゃ……」
まだ対局の途中なのに、アプリを終了してしまう。
マホ「良いんですか?」
京太郎「ネト麻じゃないしな。再起動っと……」
マホ「マホ、ネト麻は苦手ですが、CPUが相手なら、あるいは!」
――――
『終局』
マホ「」チーン
京太郎「……ドンマイ」
マホ「うぅ、やっぱりゲームは苦手です……」
京太郎(配牌やツモを自動で行うから、多牌や見せ牌、山を崩すとかのチョンボは心配しなくていいけど……)
京太郎「敗因は、操作ミスか」
マホ「チョンボと同じです……。直しようがありません……」
京太郎「それは仕方ないかもしれないけど、直せる所もあるぞ?」
マホ「マホの麻雀の中に、ですか?」
京太郎「うん。防御が薄いんだ、全体的に。例えば南三局……」
54 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:45:10.19 ID:XqFL71BI0
――――
咲「……ふう。集合場所はここで……大丈夫だよね、うん。時間は――」
集合時間、20分前。
咲(道に迷って集合に遅れたりしないように、って早く出たけど……)
辺りを見回す。
咲(もしかして、まだ誰も来てな――あ、金髪だ)
京太郎だろうと当たりをつけて、ベンチの方へ――
マホ「――でも、あの時は中をポンしないと役が付かなかったです」
咲(……マホちゃん?)
足が、止まる。
京太郎「そうだな、役がなきゃ和了れない。でも和了りに向かわなくたって、あと三巡もすれば流局だろ?
他家がリーチかけてるし、オリれば良いと思うぞ」
咲(……あれ、なんで私隠れてるんだろ)
いつの間にか、近くの影から二人の様子をそっと窺っていた。
マホ「でも、あの時は安牌が……」
京太郎「いや、よく考えてみろ。中を鳴かなかったら、手牌に二枚残るだろ?それは当然、安牌になる」
マホ「あ……なるほどです!」
咲(なんだろう、この感じ……。二人を見てると、胸がざわつくような……)
マホ「やっぱりまだまだ、和先輩たちには追い付けません……」
京太郎「それは俺もだ。――だから、この合宿でレベルアップして、和たちを驚かせてやろうぜ」
マホ「はい、先輩!またアドバイス、よろしくお願いします!」
京太郎「ああ、俺に出来る事ならな。でも良いのか?俺で」
マホ「須賀先輩が、良いんです!」
咲(……仲、良いなぁ。一昨日初めて会ったとは思えないくらい――)
55 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:46:12.22 ID:XqFL71BI0
優希「咲ちゃん、何してるんだ?」ポン
咲「ひゃあっ!?」ビクッ
優希「おう!?どうした!」
京太郎「……何やってんだお前ら」
呆れた声に、何事も無かったかのように堂々と立つ優希。
優希「よう京太郎!タコスの手配は出来ているか!」
京太郎「いや、知らねーよ!なんで俺が手配することになってんだ!?」
優希「全く、使えないじぇ!」
京太郎「……この前の合宿ではどうしてたんだよ……」
優希「マホも、おはよう!早いな!」
マホ「おはようございます、優希先輩」
京太郎「咲、お前も何やってたんだ?」
咲「……後ろからこっそり近付いて驚かそうかな、なんて」
京太郎「……優希、咲を巻き込むなよ……」
優希「私は何もしてないじょ!言いがかりはやめてもらおうか!」
京太郎「優希に言われてしたんじゃないのか?咲」
咲「う、うん……」
咲(らしくないって思われてるかな……)
京太郎(どっちとも取れるような返事して……ま、優希に指図されてたとしても言いづらいだろうし、仕方ないか)
優希「……で、お二人は仲睦まじく何を話してたんだ?」
マホ「麻雀です!須賀先輩に教えてもらってました」
優希「……京太郎、変なこと教えてないだろうな」
京太郎「ねーよ。守りの意識が薄いって指摘をしてたんだ」
咲「マホちゃん、一昨日もそんな感じの注意されてなかった?」
優希「一昨日言った事は、微妙にニュアンスが違うじぇ」
マホ「他家の事も考えろ、ですね!マホ、ちゃんとメモを取ってますから……えっと……」ゴソゴソ
カバンの中を漁る、漁る……
マホ「……忘れたみたいです……」
優希「……今日もマホは、通常運行だじぇ……」
56 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:47:25.85 ID:XqFL71BI0
――――
清澄メンバー、電車にて
マホ「漫画、で『が』です。次は竹井先輩です!」
久「が?……学生議会。で、い」
まこ「い、いか……。イメージ」
和「じ……雀卓、で『く』です」
優希「喰いタン、……だとダメだじょ。喰い下がり」
咲「り?嶺上開花!」
京太郎「う……ウマ」
マホ「麻雀!……あ、終わっちゃいました!?」
久「そもそも、なんで途中から麻雀用語縛りになってたの?」
優希「のどちゃんが雀卓なんて言い出すから、つい?」
和「……雀卓はまだ一般的な単語だと思いますけど」
咲「その流れで『り』って言われたら嶺上開花しかないよね!」
マホ「でも、須賀先輩は普通でしたね!」
京太郎「……一応『ウマ』も麻雀用語だぞ。後で教えるよ」
57 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:48:12.70 ID:XqFL71BI0
――――
龍門渕邸
透華「ようこそおいで下さいました!」
久「今日から三日間、よろしくね」
メイド「お部屋へご案内致します、どうぞこちらへ」
――――
京太郎(広いなぁ……)
通された部屋は、まるで高級ホテルの一室だった。
京太郎「良いのかな、俺一人でこんな広い所使わせてもらって……」
コンコン
京太郎「? はーい」ガチャ
久「ハァイ。どう、須賀君。問題無い?」
京太郎「なんですか問題って。この部屋に不満を付けるとしたら、俺一人では使い切れないってことぐらいですよ」
久「そう。くつろいでた所悪いけど、もうすぐご飯の時間よ」
京太郎「……少し早くないですか?さっきメイドさんから聞いた時間まで、もうちょっと有りますよ」
久「ご飯の時間には、ね。でも、食べる前に龍門渕の子たちに自己紹介してもらうから、少し早めにね」
京太郎「分かりました」
58 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:48:55.06 ID:XqFL71BI0
――――
智紀「ではそちらから……どうぞ」
マホ「はい!高遠原中学二年、夢乃マホです!好きな食べ物はりんごです!
それから、えっと……誕生日は、12月20日です。よろしくお願いします!」
京太郎「清澄高校一年、須賀京太郎です。誕生日は2月2日、あとなんだっけ、好物?」
一「別に言いたい事がなければそれで良いと思うよ?」
京太郎「では、これから三日間、よろしくお願いします」
透華「では次は私が!」バッ
純「はいはい、どうぞどうぞ」
透華「龍門渕透華!二年生ですわ!」
衣「因みに、ここにいる龍門渕の麻雀部員は皆二年生だ」
京太郎(事前に調べてたから知ってるけど、こんなマホちゃんより背の低い人が年上って言われても信じられねー……)
衣「……何か失礼な事を考えてはいまいな」
京太郎「いえいえ、滅相もない」ポーカーフェイス
衣「ふん……」
透華「――聞いて驚きなさい、私の誕生日は9月10日!」
マホ「近いですね、もうすぐ!」
透華「なんなら祝って頂いても良くってよ?」
京太郎「おめでとうございます、まだ二週間早いですが」
透華(ふふ、誕生日の話は好都合でしたわね。お陰で目立つことが出来ました)
一「透華……衣の方が誕生日近いよ?」
透華「ハッ!?私としたことが!」
59 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:49:27.14 ID:XqFL71BI0
一「……まあ透華は置いといて。ボクは国広一、誕生日は9月21日です」
マホ「国広先輩も、近いですね!」
一「一で良いよ。……あ、この手枷は別にボクの趣味って訳じゃないから。勘違いしないでよ?」
京太郎(敢えて突っ込まないでいたのに……)
純「井上純。誕生日は9月14日」
京太郎「誕生日……近いですね、井上さんも」
純「純で良いぞ」
マホ(背、高いなぁ……須賀先輩と同じくらい?マホ、羨ましいです……)
衣「天江衣だ。生辰は長月の6日」
マホ「せいしん……?」
京太郎「長月は確か……9月。天江さんも近いですね!」
衣「そうだ。皆近いんだ、智紀以外」
智紀「……私、沢村智紀。誕生日は3月10日。……別に疎外感とか、感じてないから」
京太郎(反応に困るな……)
60 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:50:06.77 ID:XqFL71BI0
――――
昼食後
久「さて……それじゃ、軽く打ちましょうか」
透華「組み合わせは自由ですの?」
久「とくに決めてはないけど……」
透華「では原村和!卓に付きなさい、勝負ですわ!」
和「……ということなので、衣さん。エトペンをこちらに」
衣「ああ、また触らせてくれ!」
和「構いませんよ」
まこ「……ま、こうなるわな。部長、一緒に打たんか。沢村さんも」
久「良いわね」
智紀「」コク
純「ちょうど十二人か……」
優希「だじぇ。という訳で、勝負だノッポ!」
純「おう、お前の速攻、鍛え直してやるよ。……おい、そっちの二人も。さあ入った入った」
京太郎「はい、よろしくお願いします」
マホ「よろしくお願いします!」
61 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:51:05.12 ID:XqFL71BI0
――――
純「おっ、俺の起家か」
優希「ぐぬぬ……やはりタコスぢからが不足しているじょ……」
京太郎「さっきハギヨシさんにタコス頼んどいたから、今は我慢しろ」
マホ「あ、赤ドラは入ってないんですね」
純「自分の手牌見ながら、そんな事言うなよ。手が透けるぞ……」
マホ「わ、はい。すいません」
優希「悪いが、マホは初心者だじょ」
純「……そうか」タン
純(知ってたけどな。透華に昨日見せてもらった牌譜……ありゃ初心者そのものだ。
透華は原村和がするような合理的な打ち回しも稀にあると言ってたが、何局も打ってればそう見える牌譜も出てくるだろ)
トン……トッ……
純(こりゃ須賀君の方も期待出来ないかね……ま、オレとしちゃタコスと遊べれば満足だけどな)パシッ
トン……タン……
純「ん、良いねぇ……やっぱ流れが来てるぜ」スッ
純「リーチ!」チャラ
京太郎「……」ストッ
純(こいつ、全然顔動かさねーな……)
タン……トン……
純(しかし、なんだこの気配は……?)トッ
マホ「……」タン
純(こいつか……?しかし、張ってるようには見えない……)
トッ……タン……
マホ「……カン」パタ
純「何……?」
純(親リー相手にカンだと?)
優希「おっ、これはまさか……」
京太郎「?」
マホ「――ツモ!嶺上開花、ツモ、タンヤオドラ4!3000-6000」
62 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:51:49.20 ID:XqFL71BI0
――――
純「なっ……!」
京太郎「嶺上開花だと……!?」
優希「あれ?京太郎も知らなかったのか?」
純「どういう、ことだ……」
マホ「宮永先輩の真似です!」
京太郎「優希……」
優希「マホは私やのどちゃん、それに咲ちゃんみたいな憧れの人の打ち方を再現出来るんだじぇ。……まあ、せいぜい一日に一局って所だけどな」
京太郎(んな……そんな事出来るんじゃ……)
京太郎「天才、じゃないか……」
優希「ふっ、私ほどじゃないけどな!」
純「なるほど……面白いな、こいつは」
京太郎(マホちゃん、俺なんかよりよっぽど強いんじゃ……というか)
――そうか、マホちゃんは……まだ、『牌が応えてくれる』って、信じてるんだな……
京太郎(うっ……)
――だからって、人の真似をするのが無駄だった、って訳でもない。
――有るさ、それこそ和にも優希にも無いような物が。
京太郎(めちゃくちゃ恥ずかしい……!一昨日マホちゃんに、お前は何を悟ったように語ってたんだよ!?
あぁくそ、過去の自分を消し去りたい……)
優希「京太郎?ツモ番だじぇ」
京太郎「……認めたくないものだな、若さ故の過ちというのは……」チャッ
優希「?」
京太郎(ったく、俺が言うまでもなく、マホちゃんの人真似は無駄になんかなってない。
――俺がしてきたような猿真似とは全く違う)タン
トン……タン……
京太郎(つまり――また俺一人、取り残されるのか……)ストッ
63 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:52:37.73 ID:XqFL71BI0
――――
純「ロン。へへ、まだまだだな」
優希「くっ……次は負けんじょ!」
京太郎(終局、か……)
順位は上から純、優希、マホ、京太郎の順番だった。
マホ「よしっ、チョンボはしなかったです……!」
マホの言葉に京太郎は、
京太郎(……あの、流局直前のマホちゃんのゴミツモ……)
一応、教えておきたい事は有った。しかし――
京太郎(俺は負けたんだ、マホちゃんに。――その俺が、俺よりより強いマホちゃんに、何を上からケチ付けるんだよ)
京太郎「凄いな、マホちゃん……」
マホ「え?」
京太郎「優希や和に、届いてるんじゃないか。俺よりも先に……」
マホ「先輩……」
京太郎「さ、他の卓は……まだやってるな」
話を一方的に打ち切り、京太郎は久たちの卓へ向かった。
――――
京太郎「全然……和了れねぇ……」
咲「京ちゃん、今日ツモ切り多くない?」
京太郎「いつにも増してツキが無え……」
一「そういう日もあるよねー。後ろから見てても、尋常じゃないくらい裏目引いてて悲しくなってくるよ」
智紀「まるで、満月の夜に衣と打ってるみたい……」
京太郎(衣……そういえば、まだ天江さんとは打ってないな……)
衣「また衣の勝ちだー!」
マホ「また飛んじゃいました……」
京太郎(……今日はやめとくか、絶対勝てないし……)
64 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:53:21.37 ID:XqFL71BI0
――――
衣「マホ、お前はまだ未熟だ!」
マホ「はい……」
衣「その模倣は、驚嘆に値するが……しかし、身が追い付いていない」
マホ「追い付いて、ない?……ですか」
衣「ああ。サングラスを掛けて打った、あの局は……」
マホ「染谷先輩の真似ですけど……」
衣「そう、恐らく真似自体は出来ていた。しかし、衣には通じなかった……何故かわかるか」
マホ「……」
衣「視界を狭め、卓上の牌をイメージとして捉える。……それが出来ても、引き出すデータが足りなくては意味が無い」
マホ「……よく、分かりません」
衣「そうか。……お前がその打ち筋を理解しなければ、借り物の力のまま、ということだ」
マホ「……」
衣「研鑽を積め。衣と勝負出来るように……期待しているぞ」
マホ「……はい!」
透華(……衣がここまで言うのも珍しいですわね……)
――――
久「今日はここまでにしましょう」
透華「明日もよろしくお願いしますわ」
久「こちらこそ」
65 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:54:08.74 ID:XqFL71BI0
――――
翌朝
久「今日も勝たせてもらうわよー!」
純「昨日のリベンジ、させてもらうぜ!」
透華「さあ原村和、今日も付き合ってもらいます!」
京太郎(皆やる気に満ちてるな……)
一「須賀君、打とうよ」
京太郎「はい、よろしくお願いします」
――――
京太郎(ん、今日は牌が来てるな……)タン
智紀「ロン」
京太郎(うわ、単騎待ち……こりゃ仕方ないな)
――――
京太郎「ロン!」
一「以外とやるね、須賀君」
京太郎「ありがとうございました。ま、二位ですけどね」
――――
久「須賀君、結構良い感じね」
純「おう、IHの地区予選の時より格段に成長してるみたいだな」
久「牌譜、見たの?」
純「ああ。……そんじゃ、いっちょ揉んでやりますか」
66 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:55:00.39 ID:XqFL71BI0
――――
マホ「リーチです!」パシッ
優希「高そうな感じだじぇ……」タン
マホ「――ツモ!6000オール、頂きます!」
智紀「途中までデジタルっぽかったけど……もしかして透華の真似?」
マホ「はい!」
――
透華「――夢乃マホ、目立ち過ぎですわ!私が後で、本物の龍門渕透華を教えて差し上げます……!」ドッ
和「ロン」
透華「」
――――
京太郎「ふう……」
京太郎(一さんや沢村さんとは結構良い勝負出来たな……)
純「おーい。やろうぜ、須賀君」
京太郎「……はい、よろしくお願いします!」
――――
京太郎(よし、張った……!)トン
純(ポーカーフェイス、崩れないねぇ……だが、流れはわかる)
純「チー!」
京太郎(まだ攻めてくるか……うわ、迷うなこれは)タン
純「ロン」
京太郎「……はい」
――――
京太郎「完敗、です……」
純「そう気を落とすな。相手がオレじゃ仕方ないって」
京太郎「はぁ……」
純「ま、スジは良いかもな。なんなら指導してやるぞ?」
京太郎「……」
溜め息を飲み下し、明後日の方を見やる。
マホ「……これで!」
透華「甘いですわっ、ロン!」
マホ「うぅ……」
京太郎(目立ってるな、あの卓……)
67 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:56:14.19 ID:XqFL71BI0
――――
昼
マホ「須賀先輩!」
京太郎「……なんだ?」
マホ「マホ、こんなに打つのは初めてです!」
京太郎「俺もだよ」
マホ「でも、いっぱい打てば打つほど、集中力が無くなって……多分、今日はもう誰の真似も上手くいきませんし……」
京太郎「……そうか。なら……」
少し考える。――だが、マホが勝つために必要な事は、もう思い付けなかった。
京太郎「……逆に、成長するチャンスだって思えば良いんじゃないか?」
マホ「チャンス?」
京太郎「ああ。絶対に上手くいかないって分かってるなら、その打ち筋に対して諦めもつくだろ。
……つまり、今は自分だけのスタイルを探すのには持って来いの状況って訳だ」
マホ「……分かりました!マホ、頑張ります!」
68 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:56:59.03 ID:XqFL71BI0
京太郎「……ああ、頑張れ」
マホがごそごそとポケットを漁る。
京太郎「……何してるんだ?」
マホ「メモを取っておこうと……あ、有りました!」
京太郎「忘れたんじゃないのか?」
マホ「新しく買ったんです、いつアドバイスをもらえるか分からないので!」
頭が少し痛くなってきた。
京太郎(……良いのか?俺の言葉が、そんなにこの子に影響を与えて)
くらっ……
マホ「へ? きゃっ!」
どさっと音がする。――だか、京太郎は倒れていない。マホが支えてくれていた。
京太郎(今の音は……?)
マホが筆箱を落としていた。口が開いて、中身が散乱している。
マホ「須賀先輩……?だ、大丈夫ですか?」
京太郎「っ……悪い」
直ぐに身体を起こそうとして――
マホ「あっ、倒れっ!」
――こんどこそ二人仲良く、床に倒れ込む。
69 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:58:01.57 ID:XqFL71BI0
京太郎「……ごめん、そっちこそ大丈夫――」
マホ「は、はわ……っ」カァッ
至近距離に、真っ赤になったマホの顔が有った。
京太郎「……っ」バッ
飛び退くように離れる。
京太郎(くそっ、意識するなっ……)
顔はマホと同じくらい赤くなっている。
京太郎「その、すまん。ちょっとした、立ちくらみだと思う。心配ない……」
しどろもどろ。
マホ「こ、こっちこそ……ちゃんと受け止めれなくてごめんなさい……」
真っ赤になった顔を伏せる。……お互い数秒間無言だったが、やがてマホが散らばった文房具を片付け始めた。
京太郎(俺も手伝わないと……)
妙に文房具の種類が多いが、手早く集めてマホの顔を見ないようにして手渡す。
京太郎(分度器、コンパス、カッター、それに瞬間接着剤とか……何に使うんだろ)
気になるが、聞く事も出来ない。
衣「おーい、マホ。一緒に打とう」
午後もまた、ひたすら麻雀だ。遠くから衣に呼ばれて、離れていくマホの背中を見送る。
京太郎(全く、適当な事言って……頑張るべきは自分だろ)
自己嫌悪。マホに対してアドバイスする前に、自分がもっと強くならなければならない。
衣「どうした、顔が赤いぞ?」
マホ「いえ、何でも……大丈夫ですから!早く打ちましょう!」
京太郎(……マホちゃん、俺も頑張るよ)
透華「……須賀さん、お手合わせを、お願いしますわ」
京太郎「ええ……お手柔らかに」
70 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:58:40.85 ID:XqFL71BI0
――――
透華「ふむ……防御は、中々のものですわね」
京太郎「麻雀は、攻撃より防御の方が重要だと思ってるんで」
透華「なるほど……しかし、打ち方に覇気がありませんわ。振り込む事を恐れるあまり、弱気になっていません?」
京太郎(え……?)
京太郎「そんな事言われたの、初めてです……」
透華「そうですか……私の思い過ごしでしょうか。ですが、時には打ち方を変えてみるのも良いと思いますわ」
京太郎「打ち方を……」
京太郎(今まで、和みたいなブレない強さこそ本当の強さだと思ってたけど……)
透華「さぁて……お、ちょうどあそこの卓が終わりましたわね。――誰か、私と打ちません?」
京太郎(龍門渕透華さん。この人みたいに、ブレが有るからこそ強い、そんな人もいるのか)
衣「……おい」
京太郎「え?ああ、すいません。使いますよね」
衣「いや……ちょうど良い。お前とはまだ打っていなかったからな……確か、須賀と言ったか」
京太郎「はい、須賀京太郎です。よろしくお願いします、天江衣さん」
衣「……では、はじめと……手が空いているのは、ノノカか」
一「うん、やろっか」
和「……よろしくお願いします」
71 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 19:59:22.18 ID:XqFL71BI0
――――
東一局
京太郎(親)25000
一(南)25000
衣(西)25000
和(北)25000
京太郎(起家か……。親で稼いどきたいな。まあ配牌は悪くない……)タン
一「……」チャッ
京太郎(さっき龍門渕さんに言われた事……。確かに、俺は自分が和了る事に対して消極的になってるのかもしれない)
タン……トッ……
京太郎(どうせ、今のままの打ち方に拘ってちゃ、強くなんかなれない)タン
トン……ストッ……
京太郎(……よし、ツモも良い。このまま和了りを目指すぞ!)
72 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:00:05.11 ID:XqFL71BI0
――――
七巡目
京太郎(一向聴……)トン
一「……」タン
京太郎(よし、後はもう一枚有効牌が来たら、この牌を切ってテンパイ……。リーチもありかも知れないな)
衣「……」トン
和「……」ヒュッ
京太郎(……ん、要らないな。ツモ切り)タン
一「……ん、ツモ」バラッ
京太郎(え?張ってたのか)
一「タンヤオのみ。500-1000だね」
見れば、一の和了り牌は、さっき京太郎が切ろうと考えていた牌だった。
京太郎(うわ、安手とはいえ……もう少しで振り込む所だったのか)
73 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:00:41.74 ID:XqFL71BI0
――――
東ニ局
京太郎(ニ向聴……だけど)チラッ
和「……」
西西西
京太郎(和が、ドラの自風を鳴いてる……。最低でも7700の手、オリるべきか……?)
打ち方を明確に決めていない分、京太郎には迷いが生じ易くなっていた。
京太郎(いや、まだ四巡目だ。和が張ってるとは限らない……)
そして迷いは、京太郎の打ち筋を鈍らせていく。
京太郎(俺なら、自風が鳴ける状況なら『とりあえず』鳴いておく。それがドラなら尚更だ。
つまり、和が張っている確率はそう高くないはず)
意を決し、不要牌を切り出す。
京太郎(ここは攻める!)タンッ
和「ロン。7700です」バラッ
京太郎「……はい」
京太郎(これは痛ぇ……)
74 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:01:31.05 ID:XqFL71BI0
――――
京太郎(くそっ、何やってんだ俺は……!)
衣「……」ポチ コロコロ……
京太郎(不要牌は、他にも有ったろ!完全な安牌とは言えないでも、和の切った牌のスジの牌とかが!
それなのに、攻めるって決めた時、俺はそこで思考停止しちまった……!)
そして馬鹿みたいに突っ張って、和の両面待ちに振り込んだ。
京太郎(いつも通りの打ち方をしてれば、絶対に振り込まなかったのに……!)
衣「……存外に、つまらないな」
京太郎「え……?」
対面の――衣の雰囲気が、変わる。
――――
一(衣……?)
衣「夢乃マホが面白い打ち手だったから、期待していたのだが……。遺憾だよ」
京太郎「……っ!」
一(様子がおかしい……。そう、まるで満月の夜みたい――)
チカッ、と視界にフラッシュが起こる。
一(電灯が……明滅した!?)
75 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:02:01.24 ID:XqFL71BI0
――――
咲「」ブルッ
咲(この感じ……まさか!)
自分の対局が終了し、京太郎の卓を見物していた咲もまた、気付く。
咲(あの夜と一緒だ……!あの県予選大会の決勝戦と!)
京太郎「……期待外れですか、俺は……」
衣「ああ、そうだ。だが、衣は気に入らない玩具は壊してしまう質でな……」
衣の顔に、酷薄な笑みが広がっていく。
衣「どれだけ嫌いな玩具でも、壊すとなると、これが中々面白い。
あっさり壊れてしまうやつもあれば……極限の状況に追い込まれてから、逆に衣に牙を向いたやつもあった」
過去を思い返すように、目を眇める衣。
衣「須賀京太郎。お前にあの『猫の玩具』程の結末は期待出来ないが……。
せめて、あっさりと壊れてはくれるなよ?」
76 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:03:05.83 ID:XqFL71BI0
――――
東三局
衣(親)24500
和(南)32200
京太郎(西)16300
一(北)27000
京太郎(手が、進まねえ……)チャッ
もう、十巡くらいツモ切りしかしていない。
京太郎(一向聴までは、普通に進んでたのに……そこから全く有効牌が来なくなった)タン
山も残り少ないが、形式テンパイを取ろうにも鳴く事すら出来ない。
京太郎(俺だけじゃない……この卓に付いてる全員、もうここ五、六巡はずっとツモ切りだ)
タン……パシッ……
誰が張っているかも分からない緊張の中、ただ牌を切る音だけが響く。
京太郎(……なんだ?この感じ……)トン
ツモ切りを続けるに連れて、京太郎の胸に得体の知れない不安感が湧いてくる。
京太郎(まるで……先の見えない暗闇を歩いているような――)
77 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:03:41.15 ID:XqFL71BI0
衣「クックック……引いてしまったよ……」
京太郎「」ビクッ
その声を聞いた瞬間、京太郎の身体に悪寒が走った。
衣「ツモ。4000オール」バラッ
京太郎「……!」
衣の手は――何の事はない、お手本のようなタンピン三色だ。しかし京太郎にとって重要なのはそこではない。
京太郎(ロン和了りを、見逃してる……!
それも、上家の一さんが捨てた当たり牌だけじゃない。トップの和が出した牌もだ……!)
特に安目でもないのに、二人からのロンを見逃した。その意味する所は――
『――せめて、あっさりと壊れてはくれるなよ?』
京太郎(俺を、狙い打ちしようとしているっ……!)
顔を上げて、衣と――目が、合う。
衣「ふふふ……どうした、顔色が悪いぞ」
言われるまでもなく、京太郎には見えていた。
衣の目に映る自分の顔――ポーカーフェイスは、とうに崩れている。
京太郎(どうした、慣れてる筈だろ!?自分だけ凹むのなんて、いつもの事だ!)
そう、部内でもいつもの事――だからこそ、京太郎はポーカーフェイスを身に付けた。
清澄で負けが込んでも、咲や優希に嫌な顔は見せたくなかったから。
京太郎(なのに、くそ……!こんなに、違うのか!
純粋に勝利を目指す人と打つのと、俺を負かそうと意識してる人と打つのは!)
78 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:04:21.76 ID:XqFL71BI0
――――
東三局一本場
京太郎(配牌、六向聴……!くそ、もうベタオリしかねえ!)
今や京太郎の心は、衣への恐怖に支配されていた。
京太郎(なんとか防いで……それで、誰かが和了るか流局にでもなって、せめてあの人の親が流れてくれれば……)トン
――――
一(だめだ、怖がっちゃだめだ……!)
そして一もまた、恐怖と戦っていた。
一(ボクは衣の家族だ。友達だ!衣の事は、理解しなければ……いや、理解したい!)タン
今の衣は、心を閉ざし、人を遠ざけていたかつての衣によく似ている。まるで、魔物として恐れられていた頃に戻ったかのようだ。
だが、一はそうは捉えなかった。
一(今でも、衣を遠くに感じる事はある……。でも、少しずつ進んで来たんだ!ボクも、衣も!)
京太郎「……」トン
一(だからこそ分かる。衣には、きっと何か考えがある……)タン
衣「……」ダンッ
京太郎「っ……!」
相手を威圧するかのような衣の強打に、京太郎の肩が震える。だが一は怯まなかった。
一(ボクは信じてるよ、衣……!)
――――
咲(京ちゃん……大丈夫かな……)
明らかに怯えている京太郎は、後ろから見ている咲の存在にも気付いていないようだった。
咲(いくら配牌が悪くても……まだ四巡なのに、もうベタオリで安牌しか切らないなんて)
京太郎「……」チャッ
咲(いつもは、こんな打ち方はしないのに。牌をツモってからの思考時間も、長くなってるし……)
京太郎「……」トン
79 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:05:50.01 ID:XqFL71BI0
――――
京太郎(未来が、暗い……)
先が見えない。僅かな情報を頼りに、安牌を切ってその場を凌ぐ。
京太郎(まだ、九巡しか経ってないのかよ……)チャッ
ツモは悪くないのに、配牌からベタオリを続ける京太郎の手牌はぐちゃぐちゃだった。
京太郎(安牌……とにかく、振り込みだけは回避しないと……)トン
――――
十四巡目
京太郎(安牌……無くなった……)チャッ
ニ巡前に和が捨てた牌は有る。衣はその時からツモ切りしかしていないから、普通に考えればそれは安牌なのだが……。
京太郎(俺以外からは出和了りしないんだ、信用出来ない……!)
他家の捨て牌は構わず、衣の切った牌だけを凝視する。
京太郎(……片スジだけど、これはどうだ……?)つ六筒
衣「……」
一「……」チャッ
京太郎「」ハァ
京太郎(通った……!よし、今のは片スジだったけど、これで次の巡は三筒がスジになる)
80 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:06:30.71 ID:XqFL71BI0
一「……」タン
衣「……」パシッ
そして衣は、またツモ切りだ。
京太郎(これで、安牌が出来た……)
和「……」ヒュン
京太郎「……」チャッ
もはや京太郎はツモ牌もろくに見ず、安牌と確信した三筒を切る。
京太郎(これしか無い、これなら通る……!)タン
しかし。
衣「ロン」バラッ
京太郎「……っ!」
衣「タンピンドラドラ、イーペーコー。12000のニ本場は、12300……!」
京太郎(平、和……?そんな馬鹿な!)
一巡前、確かに衣はツモ切りをした。その前に切った六筒が通ったのに何故、三筒で平和に振り込むのか。
開かれた衣の手牌は――
223344m4455688p ロン3p
京太郎「な、そんな……!」ガタッ
あまりの衝撃に、思わず卓から立ち上がる。
京太郎(一巡前に出た六筒で和了れば、リャンペーコーが付いて跳満。俺を飛ばす事が出来たのに……!)
衣「久方ぶりにやったが、案外上手くいくものだな……」
衣(親)36500→48800
和(南)28200
京太郎(西)12300→0
一(北)23000
京太郎(点棒が……ゼロにっ……!)
衣「さあ、どうした?払えるだろう。早く座って、展望を失え」
81 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:07:22.58 ID:XqFL71BI0
――――
東三局ニ本場
咲(一緒だ……あの時と……!)
衣(親)48800
和(南)28200
京太郎(西)0
一(北)23000
思い出す、あの夜の事を。
『塵芥共 点数を見よ』
風越女子 0
『汝等に生路無し!』
咲(打点を下げて、相手の点数をゼロに……!)
無論、この対局のルールでも0点ジャストならハコシタにはならない。
優希「……うわ、またあれやってるじょ」
咲「……優希ちゃん」
いつの間にか、その卓の周りに人が集まっていた。
まこ「咲、今来たんじゃが。この点数は……」
咲「ええ、衣ちゃんの調整です……」
久「じゃあやっぱり、大将戦の時と……?」
咲「……いえ、あの時と状況は似ていますが……決定的に違う点があります」
実際にその窮地を経験した咲には、すぐにその違いが分かった。
まこ「違い?」
咲「二位・三位とトップとの点差です。
あの時の私や加治木さんと違って、今の和ちゃん、国広さんは一回の和了で衣ちゃんを捲る事が出来る」
優希「あの時も、ダブル役満さえあればって話をしたじょ」
まこ「……つまり、和や国広さんに取っては、あの時のお前さん程に切羽詰まった状況ではないんじゃな?」
咲「……ええ。その二人に取っては、ですがね」
ハッ、と久が息を飲む。
久「そっか……!逆に須賀君に取っては……!」
咲「……そう、あの時の池田さんと違って、トップ以外の二人の和了でも飛ぶ可能性が有る……」
つまり、華菜よりも更に死に近い位置に、京太郎は生かされていた。
咲(大将の池田さんには、チームの勝敗が委ねられていた。そのプレッシャーは私も知ってるけど……)
京太郎「……」
死人のような目で、配牌を茫然と眺める京太郎。
咲(責任とか義務とか……そういうのとは違う、純粋なプレッシャーは、今の京ちゃんも相当大きい……!)
京太郎に掛かる重圧を思い、咲は静かに息をついた。
82 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:08:22.10 ID:XqFL71BI0
――――
京太郎(なんだよ……これ……)チャッ
手牌
456m113888s35p北北 ツモ9p
河
南、1m、8p、中、中、5m、6s、1m……
京太郎(配牌からずっと、手が一枚も変わってない。ベストな打牌をしてるはずなのに、結果として全部ツモ切りになる……)トン
もう、自分の頭で考えても考えなくても、同じなんじゃないか――そんな思いが頭をよぎる。
京太郎(これは、本当に麻雀か……?配牌からツモまで、全部『打たされている』みたいだ)
チャッ……タン……
京太郎(また俺のツモ……)チャッ
そしてまた、ツモ切り。
京太郎(変わらない……不要な牌しか来ない……)トン
和「ポン」
京太郎「」ビクッ
突然の声に、体が跳ねる。
京太郎(ロンじゃ、なかった……。でも、このままじゃいつか振り込むかも……)
いつ飛ぶかも分からない極限の状況の中、牌を切る度に京太郎の精神は摩耗していった。
83 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:09:13.40 ID:XqFL71BI0
――――
一(須賀君……配牌からずっとツモ切りしかしてない……)
と言っても、それは一もほぼ変わらないのだが。
京太郎「……はぁ、はぁ……」
肩で息をする京太郎。かつて一が味わった絶望が、そこには有った。
一(これが天江衣、これこそが『支配』……。須賀君……今にも折れてしまいそうだ)チャッ
さっきの和のポンから、京太郎の様子は明らかに振り込みへの恐怖を増大させていた。
一(しかも、今のポン……これで衣に海底牌が回る事になった)チラッ
衣「……」
一(鳴いてズラす事も、出来そうにない……もう十巡目なのに)
そして、海の底が見えてくる――。
――――
十五巡目
京太郎(このままじゃ……ノーテン罰府で飛んじまう……)
だが、それ以上に今の京太郎を襲っていたのは、振り込みへの恐怖だった。
京太郎(流局間際のこの巡目まで、本当にツモ切りしかしてない……。
これが天江さんの力に依るものなら、狙われているはずの俺は、ツモ切りを続けたら絶対に振り込む事になる……っ!)
しかし、今のツモ牌は衣と一に対しては現物。
京太郎(結局、ツモ切りしかないのか……)つ西
一「……」つ九筒
衣「……」つニ索
和「……」つ四萬
京太郎(また……俺のツモか……)
山に手を伸ばす。……牌を持った瞬間、微かな予感。
京太郎(――!ついに、引いちまったか……)チャッ
生牌の白――しかも、ドラ。
京太郎(絶対に……天江さんは張ってる。捨て牌を見る限り、恐らく筒子の染め手……)
衣だけでは無い。和と一も、打点次第では京太郎から出和了る可能性がある。
京太郎(そう、打点次第……ドラなんか、特に狙い目だ!こんなの、掴まされたようなものじゃないか……)
死の息吹を間近に感じる。意識が朦朧としてきた。もう、早く切ってこの場から逃げ出したい。
迷いの末、京太郎は手牌の一枚をつまみ上げ――
「……っ!」
手を、止めた。
84 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:10:28.49 ID:XqFL71BI0
――――
京太郎(誰か……居る?)
牌を切る直前、京太郎は確かに聞いた。声にならない声、誰かが『それは駄目だ』と息を飲む音を。
京太郎「咲……?」
振り返ると、いつ来たのか咲が居た。咲だけではなく、久やまこ、優希、それに純や透華たちも京太郎を見ていた。
京太郎(皆に見られてるのに……気付かなかったのか、全然)
自分がどれだけ余裕を失っていたか、京太郎は気付く。そして改めて自分が手に持つ牌を確認し――
京太郎「……っ!?」
気付く。――自分が、確実に死に向かって歩いていた事に。
京太郎(何考えてんだ俺は!こいつだけは切っちゃいけないだろ!?)
――四萬。今まさに、上家の和が切った牌。
京太郎の手牌において、唯一の完全な安牌。しかし――
京太郎(これを切ったら、俺の手はニ向聴になる!
あと一巡で流局になるこの状況で手を崩したら、流局した時に俺が張っている可能性は限りなくゼロに近くなる……)
このまま副露が無ければ、京太郎のツモは残り一回。
そしてニ向聴というのは文字通り、有効牌を二枚引き入れないとテンパイ出来ない状態なのだ。
京太郎(今の俺はノーテン罰府で飛ぶ、そんなことは分かってただろ!
誰かが張ってるとしたら、振り込んでもノーテンになっても同じ事だったんだ……!)
『振り込む事を恐れるあまり、弱気になっていません?』
透華の言葉を思い出す。
京太郎(弱気……俺は今、文字通り気持ちの面でも完全に負けていた。だけど、それだけは負けちゃいけなかったんだ!)
キッ、と対面を鋭く睨む。
衣「……ほう……」
京太郎(強く……!)
衣「そうだ……その顔だ。漸く面白くなってきた!」
その言葉に背中を押されるように、京太郎は――
十七回目のツモ切りをした。
85 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:11:27.59 ID:XqFL71BI0
――――
一(そうか……。衣は、須賀君を試していたのか)
勢い良く切られた白を見て、一は全て理解した。
京太郎「……和了りますか?」
衣「いいや……残念ながら、誰もその牌では和了れないよ。どこぞの嶺上使いならば、話は別だがな……ははっ!」
京太郎「そこまで言って良いんですか?手が透けますよ」
一(……全く、楽しそうに笑って……)チャッ
気付けば、一も笑っていた。
一(衣、良かったね……)タン
――――
咲(京ちゃん、笑ってる……)
楽しそうに衣と話す京太郎に、咲は感慨を覚えた。
咲(最近は、麻雀を打ってる時は全然笑わなくなってたのに……)
和のように集中してるだけ、というわけでも無いようなのに、無表情で麻雀を打つようになった京太郎。
咲(楽しい?って聞いたら、その時だけは笑って答えてくれたけど……)
今、分かった。
本当は楽しくなんか無かったのだ。
咲(だって、今、京ちゃんは……あんなに楽しそうに打ってるんだから)
86 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:12:11.10 ID:XqFL71BI0
――――
衣「本当はノーテン罰府で殺してやるつもりだったが……気が変わったよ」
高揚した気分と合わせるように、高らかにツモ牌を掲げる。
衣「リーチ!」ダンッ
駄目押しのツモ切りリーチ。
京太郎「……っ!」
衣「どうした、今になって臆したか!」
京太郎「……!有り得ませんよ、そんなこと。今更!」
衣(そうだ、全力でこい!お前の可能性を見せてみろ!)
――――
京太郎(そうだ、状況はなにも変わってない。今更びびってどうする!)
むしろ、分かりやすくなったぐらいだ。衣がリーチを掛けたという事は、考えるまでもなく張っているという事で。
京太郎(つまり、次のツモで有効牌を引けなかったら俺の負け。ノーテン罰府で終わり……)
和「」ヒュッ
京太郎(さあ、引け!)
手を伸ばす。
京太郎(ああ……これだ。この感覚……)
――自分の中で、何かがカチッとはまったような。
京太郎(今、俺は……『麻雀』を打っている!)
そして、打ち破る。
456m113888s35p北北 ツモ北
京太郎(張った……!)ダンッ
京太郎の覚悟が、天江衣の支配を打ち破った。
一「……」チャッ
山は、残り一枚。
一「……」トン
一が牌を切り、そして――
衣「須賀京太郎……合格だ」
京太郎「!」
衣「だから……華は衣が飾ってやろう」
衣「――ツモ!」
2344456789p白白白 1p
衣「リーチ・一発・ツモ・ハイテイ、役牌・一通・ホンイーソー……ドラ3!48600!」
87 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:12:46.08 ID:XqFL71BI0
――――
京太郎「――ハッ!?」
目が覚めると、知らない部屋だった。
ハギヨシ「気が付きましたか」
京太郎「ハギヨシさん……。って、あれ。もしかして、夢……?」
ハギヨシ「いいえ、衣様との対局なら、夢ではありませんよ」
上半身だけ起こしてみる。体に異常は感じない。
京太郎「……今、何時くらいなんですか?」
ハギヨシ「5時27分3秒です。ご気分はいかがですか」
京太郎「特に問題は――って、結構寝てたんですね、俺」
ガラッ
マホ「先輩っ!」
ハギヨシ(私は少し外しておきましょうか)シュンッ
マホ「大丈夫で――きゃあっ!」ツルッ
ドサッ
京太郎「げふっ!?」
マホ「ごっ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
京太郎「あ、あぁ……。無事だ」
マホ「良かった……!」
何事も無かったかのように起き上がって見せ――盛大にむせる。
マホ「わわっ、先輩、寝てた方が……」
京太郎「いや、大丈夫。ホント大丈夫だから」
止めるマホにも構わず、完全に立ち上がる。
マホ「先輩、急に倒れちゃうから……」
京太郎「ごめん、心配かけたよな。昼も立ち眩みあったし、やっぱり寝不足は駄目だなー」
マホ「……本当に、もう平気ですか?」
京太郎「ん、オッケーオッケー。ばっちりだ」
マホ「……」
なおも心配そうな目で見てくるマホに、京太郎は少し考え、
京太郎「……腹が減った」
健康体アピールをした。
88 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:13:24.58 ID:XqFL71BI0
――――
久「今日はごめんなさい、うちの和が……」
透華「いえいえ、そんな!こちらこそすみませんわ、衣には私たちでよく言っておきますので……」
久「では、明日も」
透華「ええ、よろしくお願いしますわ」
――――
夜、純の部屋にて
コンコン
純「開いてるよ、入って来い」
ガチャ
京太郎「……夜分遅くにすみません、須賀です」
純「来ると思ってたよ……いやなに、あの月を見ていたら、お前が来るような気がしてな」
少し欠けた月……四日後には満月だ。
純「で、何の用だ?」
なんとなく用件は分かっていたが、敢えて聞いてやった。
京太郎「……麻雀を、教えて下さい……」
純「ほう……中々、殊勝な態度じゃないか。麻雀を、ね……ハッハッハ!」
パン、と手を打つ。
純「良いだろう。本当は来るのが遅すぎるって文句を付けてやるつもりだったが……許してやるよ」
京太郎「ありがとう、ございます……!」
純「礼を言うのはまだ早い。ほら、卓に付けよ……オレたちが打ってる、『麻雀』ってのを教えてやる」
To be continued……
89 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2016/12/23(金) 20:13:59.17 ID:XqFL71BI0
次回予告
衣「おい、麻雀しろよ」
京太郎「無様にもなろう、汚くもなろう!」
純「それズルじゃん!」
咲「受け取れ、私のポンサービスを!」
マホ「何カン違いしてるんですか……まだマホの同名牌は終了してませんよ!」
次回、『ヘルカイザー京』。お楽しみに!
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/23(金) 21:28:37.73 ID:vppcDu60O
なんだこの次回予告は?まるで意味が分からんぞ!
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/23(金) 21:31:32.28 ID:hZJ0gOwP0
乙!
ヘルカイザーとか久しぶりに聞いたなw
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/23(金) 22:05:45.81 ID:bK2rUg1Io
乙!
93 :
◆3em28n6/NM
[sage saga]:2016/12/24(土) 04:36:29.01 ID:vetTmZGQ0
次回予告が意★味★不★明なのはネタバレを避けるためなので……
>>50
も読み返せばある程度理解出来るはず……
94 :
◆3em28n6/NM
[sage]:2016/12/31(土) 16:24:34.40 ID:M6X++vXH0
寒さで筆が進まない……。
次の投下は一週間後くらいになる……かな?
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/31(土) 20:20:44.17 ID:Yeugq0ypo
待ってる
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 17:46:21.45 ID:XumopLqLo
まってる
97 :
◆3em28n6/NM
[sage]:2017/01/07(土) 22:50:03.24 ID:K84dKsST0
明日か明後日に投下予定。
ただ、次回予告で言った分の半分の内容になります……
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/08(日) 04:52:24.19 ID:8djbZRX8O
めっちゃ待ってる
99 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:17:01.38 ID:ZkcsownO0
翌日
京太郎(結局、ちょっと寝不足気味だな……)
手鏡を使って顔をチェック。
京太郎(……うん、ポーカーフェイスは出来るな)
久「須賀君、大丈夫?」
京太郎「はい。……昨日倒れたのはほら、あれですよ。
あまりにも天江さんの和了りがあり得なかったんで、ショックが強すぎたんです。体は異常ありませんよ」
久「そう……。なら良いけど。無理はしちゃ駄目よ」
京太郎「……はい」
そして久は皆に振り返り、
久「さあ、今日が最終日。悔いの残らないよう、しっかり打ってね!」
「はい!」
皆、各々に卓を囲み始める。
京太郎「……優希、東風やろうぜ」
優希「? 良いだろう、ウォーミングアップだじぇ!」
100 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:17:46.84 ID:ZkcsownO0
――――
優希「――ツモ!ふふん、東場だけなら、我に敵無し!だじぇ」
終局。
京太郎「せっかく時間空いたし、他の卓見に行くか」
優希「……待てーっ!もう一局ぐらい付き合え!」
京太郎「ほぅれ、取ってこーい」ヒョイ
優希「なぬっ、タコス!」ダッ
京太郎「……さて、観戦するか」
――――
久(マホちゃん、今日は静かね……)パシッ
マホ「……」トン
和「ロン。2000点です」バラッ
マホ「はい」チャラ
京太郎「……」
久「ん、須賀君。見てく?」
京太郎「はい」
101 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:18:25.56 ID:ZkcsownO0
――――
京太郎(この卓、全員清澄か……。まあ、色んな組み合わせでやってるし、おかしくはないか)
マホ「……」タン
咲「……んー、これ」トン
京太郎(にしてもマホちゃん、無表情だな……。和の真似か?模倣は一局しか持たないって話だったけど……)
マホ「……」チャッ
京太郎(あるいは、昨日打ちまくったお陰で、集中が持続するようになったのかもな。
……全く、どんどん成長して……)
マホ「ツモです」パラッ
京太郎(――俺も、負けてらんねーな!)
――――
純「京太郎、やろうぜ。見てばっかじゃつまんねーだろ」
京太郎「純さん。はい、東風で良いですか?」
純「なんだ、そんなに見学に時間取りたいのか?……まあいいさ。
衣にまた挑もうってんだから、むしろ褒めてやりたいくらいだ」
京太郎「褒めるのは、まだ早いですよ。……俺が天江さんに、勝ってからです」
純「言うねぇ」
マホ「あ、先輩!見学しても良いですか?」
京太郎「……ん、良いぞ。こっちも見せてもらったしな」
――――
――終局
京太郎「ありがとうございました」
純「うん、やっぱ『理解』すると違うな。昨日も言ったけど、基礎は出来てるし」
京太郎「……まだまだ、分からない事だらけですよ。だから、見に力入れてるんです」
純「そーかい。
ま、お前が強くなるために、ちゃんと考えてしてる事なら何も言わねーよ。あいつらに追い付きたいんだろ?」
京太郎「……あいつらって、まるで他人事ですね。純さん」
純「なんだ、オレも目標にしてくれるのか。嬉しいこった」
102 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:19:05.17 ID:ZkcsownO0
――――
そして京太郎が一番熱心に観察したのは……
京太郎(天江さん、振り込まないな……)
衣「……」タン
京太郎(『能力』の存在を受け入れて、理解する……。
純さんはヒントしかくれなかったけど、天江さんの力には絶対どこかに限界がある)
たとえ山全てを支配していたとしても、牌の数は限られている。
京太郎(三人がそれぞれ十七枚もツモって、一回も有効牌を引かせないなんて有り得ない。どこかに隙があるはず……)
衣「……智紀、その牌だ。ロン」バラッ
京太郎(事実、昨日の終盤。俺は飛ばされる直前、十八回目のツモで一向聴地獄から脱した!
天江さんの力が、完全じゃない証拠だ)
衣「リーチ!」タン
京太郎(見極める……得体の知れない、『能力』ってやつを!)
――――
京太郎「……」
マホ(先輩、凄く集中してる……)
一「あ、マホちゃん。今日はあんまり打たないんだね?」
マホ「はい。……というか、実はまだ一回しか打ってません」
一「へえ……。須賀君も今日はあんまり入らないし、何か心機一転するような事があったのかな?
――衣と打って、麻雀が嫌いになった、とかじゃなきゃいいけど……」
マホ「……」
マホ(先輩……)
103 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:19:42.31 ID:ZkcsownO0
――――
衣「流局。ノーテンだ」パタン
久「これで終局……」
久(やっぱり強いわね、天江さん……)
衣「……いい加減、見るのをやめて打ったらどうだ?そこの」
京太郎「……」
久(須賀君……)
衣「早く打とう。元よりそのつもりだったのだろう?」
京太郎「……少し、待って下さい。心の準備をしたいので」
衣「……そうか」
その応えに、何を感じたのか。
衣「興醒めだよ。お前は、衣などと打ちたくないのだろう?
――衣が壊してきた雀士たちも、今のお前のような顔をしていた」
京太郎「……後で、」
衣「もういい。後など、あるものか!――咲、打とう」
京太郎「後で、必ず!勝負して下さい!」
衣「――うるさい男だ。そこまで言うなら……」
ギロッ
衣「この対局の後、もう一度誘ってやろう。――逃げるなよ?」
104 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:20:21.21 ID:ZkcsownO0
――――
京太郎(逃げるなよ、か……)
先程あれだけの言葉を浴びせられたにも拘わらず、京太郎は衣と咲の勝負をそばで見ていた。
咲「……」チラッ
衣「……」タン
咲は京太郎が居る事で気が散っているようだが、衣の方は完全無視を決め込んでいる。
京太郎(逃げたと思われても、まあしょうがないな。だけど、びびったわけじゃない)
咲「……」トン
京太郎(ただ、本当に準備が出来ていないと思った。そして、この対局を見届けて、準備を終わらせる)
咲「カン。……ツモ!」
衣「流石だな、咲」
――――
衣「――ロン!」
咲「ああ、負けちゃった……。ありがとうございました」
衣「うん、楽しかったぞ!またやろう!」
京太郎(……よし、準備は整った……)
――――
衣「――では、やろうか」
京太郎「……はい。今、暇そうなのは……優希!それと……龍門渕さん!」
優希「呼んだか?」
透華「……衣と再戦しますの?」
京太郎「はい。入ってくれますか?」
透華「もちろん!」
優希「私も、当然入るじぇ!」
衣「よし、では――」
マホ「先輩!」
席順を決めようとした所に、声がかかる。
優希「? どうした、マホ」
マホ「あ、いえ……優希先輩じゃなくて、須賀先輩……」
京太郎「俺?」
見れば、マホは小さく手招きしていた。
京太郎「……すみません、多分すぐに済むので」
衣に断りを入れ、マホのもとへ。
105 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:20:53.93 ID:ZkcsownO0
――――
京太郎「どうしたんだ?マホちゃん」
小声で尋ねる京太郎に、マホは答えなかった。
代わりに、自分より大きな京太郎の手を両手で包むように取り、胸元に抱き寄せる。
京太郎「マホちゃん……?」
そのまま目を閉じ、一秒、二秒……。
マホ「……先輩、恐くないですよ」
京太郎「え?」
マホ「麻雀は、恐くなんてないです。負けるのは辛いし、上手くいかない日もあるかも知れないけど……
それも含めて、マホは麻雀が好きです。楽しいんです。だから……」
目を開き、マホは真っ直ぐに京太郎を見た。
マホ「先輩も、楽しんで下さい。……マホ、見てますから」
そして、手を離す。
京太郎「マホちゃん……」
自由になった手を、マホの頭に乗せる。
京太郎「ありがとな。でも、大丈夫だよ。別に麻雀が恐くなったんじゃない」
マホ「……そうなんですか?」
京太郎「ああ……」
ゆっくりとマホの頭を撫でる。
京太郎「むしろ、その逆……。俺は今、打ちたくてしょうがないんだ。
麻雀を、俺より強い人たちと打つ事が楽しみでしょうがない。だから……」
そこで言葉を切り、振り返る。――全国レベルの猛者達が、京太郎を待っていた。
京太郎「……だから、見ててほしい。俺は……勝つ!」
106 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:21:37.00 ID:ZkcsownO0
東一局
優希 (親)25000
京太郎(南)25000
衣 (西)25000
透華 (北)25000
まこ「わしも観戦するかの」
マホ「染谷先輩。打たないんですか?」
まこ「その言葉、そっくり返すぞ……っちゅうか、ちょうど十ニ人なんじゃから、抜ける奴が居れば当然打つ相手も居らんじゃろ」
マホ「あ、そうですね。……マホのせいで……」
まこ「なぁに、おんしだけのせいじゃない。ほら、見とる人は他にも居るじゃろ」
純「……」
マホ「……あの人も、マホのせいじゃ……」
まこ「いやいや、仮にそうだとしても、見学は大事じゃからな。おんしはなんも悪くない。
どうじゃ、一緒に見んか?」
マホ「一緒に?」
まこ「ああ、解説しちゃる」
マホ「じゃあ、早速良いですか?質問」
タン……トン……
マホ「なんで今日は、赤ドラ有りなんですか?」
まこ「……ルールの解説からとは、本当にプロの試合解説みたいじゃな。
まあ、深い理由は無いと思うぞ?最終日くらい、ルール変えてみるかって感じじゃろ」
マホ「なるほど……」
まこ「……ただ」
マホ「?」
優希「よし、リーチだじぇ!」
京太郎「チー」トン
まこ「優希はドラを絡めて手を高くする事が多い。赤ドラ四枚というのは、優希には有利かも知れんな」
優希「――ツモ!リーヅモ平和ドラ2、4000オール!」
107 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:22:14.59 ID:ZkcsownO0
――――
京太郎「……」チャラ
純(さっきのチー……ツモずらしか。だがその次、透華の牌をポンする事も出来た)
無論、それをした所で優希のツモを一度飛ばす事しか出来ないが。
純(オレなら鳴いたな。直接同卓してる訳じゃないから、流れははっきりとは分からないが――)
優希「一本場だじょ」カチャ
純(今のあいつなら、一回鳴いた程度じゃ和了りは潰せない。一発消しにはなったが、詰めが甘かったな)
――――
東一局一本場
衣(不思議な物だ。力が満ちている……昨日もそうだったが、まるで満月の夜のようだ)タン
透華「チー」カシャ
衣(トーカは速攻か?ユーキの親を早く流したいのかもな)
トン……タン……
衣(――お、来たか)チャッ
789m112378s789p北 ツモ北
衣「リーチ!」つ一索
衣(さて、まだユーキの力が強い東場の序盤だが……どちらが早く和了れるかな?)
108 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:22:59.26 ID:ZkcsownO0
――――
優希(リーチか……)
透華「ふむ……」つ三索
優希(ん……通ったか)チャッ
そして優希も、テンパイ。
優希(対面の捨て牌を見る限り……余ったこの牌は通りそうだじょ)
しかし、東場――自分のホームとはいえ、衣のリーチは充分な脅威でもある。
優希(ここはリーチせず、様子見で行くじぇ。この牌は今、暗刻だから、これを通せばオリる時も楽になる)つ七筒
――――
衣(む……この気配、ユーキも張ったか)
京太郎「……」チャッ
衣(リーチをかけていないから、定かではないが……。もし張っていたら、大体、満貫か跳満といった所か)
京太郎「……」トン
透華「それ、ポンですわ!」タン
衣(ん、もしやトーカも張ったか……?)
優希の気配に紛れて分かりにくいが、自分の感覚は今までほとんどハズれた事はない。
衣(まあ、安手だろう。それよりも――)
今の鳴きで、本来は衣がツモる筈だった牌が優希に流れた。
優希「……」チャッ
衣(さあ、どうする?ユーキ……)
優希「……」つ三索
手出しの現物。
衣(これはオリたか。気配も弱くなったし……)
京太郎「……」トン
衣「……」チャッ
衣(三筒か……。やはり、あの透華のずらしが効いたか)トン
優希「ロン!平和ドラドラ、6100だじぇ!」
衣「……!」
345(赤)m456789s45(赤)77p ロン3p
衣(……なるほど、気配が弱まったのは衣の和了り牌を取り込んで打点が下がったからか。
テンパイを崩したのではなかった……)
気配の変化に注目しすぎて、絶対値を見誤ったのだ。
衣(しかし、仮にそうだと気付いていても、既にリーチをかけていたからな……)
そこでふと、違和感を覚える。
衣(待てよ、あのポン……)
優希「よし、ニ本場だじぇ!」
109 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:23:33.55 ID:ZkcsownO0
――――
東一局ニ本場
優希 (親)44100
京太郎(南)21000
衣 (西)13900
透華 (北)21000
京太郎(展開は早いが……まあここまでは悪くない)トン
トン……トッ……
透華「……」トン
京太郎(龍門渕さん、手が高くなったな……)
昨夜の純との特訓の成果で、今の京太郎にはある程度『流れ』が分かる。
京太郎(しかし、この流れを具体的にどう断ち切ればいいのかは……分からない。
流石にそこは経験不足だ。ただ鳴けば良いってモンでもないしな)
タッ……トン……
透華「――ツモ!3200-6200ですわ」バラッ
110 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:24:09.38 ID:ZkcsownO0
――――
東ニ局
京太郎「……」トン
衣「……」パシッ
透華「……」タン
優希「……」トッ
マホ「……急に静かになりましたね……」
まこ「ふむ……天江は手を少しずつ変えているようじゃが、他三人はツモ切りが多いな……」
マホ「昨日と、同じ……。天江さんの必殺技って、海底ですよね?」
まこ「必殺技?まあ、確かにそんな感じはするな」
マホ「誰も鳴かなかったら、海底牌を引くのは南家……。
そう考えると、天江さんの上家は、海底ツモの親かぶりを受ける可能性が高くないですか?」
まこ「しかし、それは誰も鳴かなかったら、の話……いや、確かに天江の支配はそれを可能にするな」
事実、この局は誰にも鳴く機会が訪れないまま、海の底を迎えようとしていた。
――――
十七巡目
衣(当然、衣だけが張っているわけだが……)
リーチを掛けるか掛けないか、それを迷っていた。
衣(リーチを掛ければ一発・海底で三飜上乗せ出来るが、前々局の振り込み……)
透華のポンで衣のツモが優希に、優希のツモが衣に流れ、リーチを掛けていた衣はその牌で優希に振り込んだ。
衣(トーカがそこまで考えていたかは分からないが、少なくとも東場のユーキは侮れない)
衣はリーチを掛けるべきではない(無言のツモ切り)
111 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:24:41.50 ID:ZkcsownO0
――――
透華(無言……衣の事だから、リーチするかと思いましたが)チャッ
ツモは有効牌。とはいえこれでようやく一向聴である。
透華(形式テンパイは取っておきたいですわね)トン
優希「……」タン
透華「それ、ポンですわ」トッ
形式テンパイ。――同時に、これで衣の海底は消えた。
――――
優希「……」タン
京太郎(ズレたか……)チャッ
25899m2244s66p西西 ツモ5m(赤)
つまり、この赤五萬が海底牌――本来の衣のツモ。
京太郎(要するに最悪の危険牌……。そしてテンパイを取れば打ち出されるのはその五萬のスジ……)
出せる訳もない。抱え込み、安牌切り。
衣「流局……テンパイだ」
透華「テンパイですわ」
優希「ノーテン」
京太郎「……ノーテン」
京太郎(天江さんの手牌は――)
1111235577888m
五・七萬のシャボ待ち。
京太郎(……テンパイ、取っておくべきだったか?――いや、焦るな。結果論だ)
もし衣がリーチをかけ、透華がポンをしなければ――数え役満に届いた手だ。
京太郎(天江さんは基本的に、高火力の打ち手――さっきリスクを取ったのは、間違いじゃない)
112 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:25:13.59 ID:ZkcsownO0
東三局一本場
純(さて……衣の親だが、どう抑える?)
衣「……」ジャッ
衣が牌を立てる。
純(うお、配牌テンパイ……しかもダブリー掛ければ跳満確定かよ)
衣の恐ろしい所は、ここだ。
純(速攻で和了る事もあれば、他家の手を遅らせて悠々と海底で和了る事もある)
その緩急は変化が激しく、純でさえ流れを読めないほどだ。
純(しかも速攻だろうが変わらず高打点だから手に負えない)
衣「……」タン
しかし衣は、意外にもリーチをかけなかった。
純(衣らしくないな……)
トン……タン……
京太郎「チー」カシャ
純(ん……速攻で流す気か?だが……)
京太郎「ポン」タン
純(上家のお前が鳴けば、衣のツモも増える事になるぞ……)
衣「……」トン
それぞれの手牌が見えている側からすれば、いつ衣がツモるかとヒヤヒヤさせられる。
京太郎「――ツモ、400-600です」
113 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:25:46.33 ID:ZkcsownO0
――――
東四局
透華 (親)34700
優希 (南)36000
京太郎(西)17700
衣 (北)11600
衣(衣の親を流すか……念のため、リーチをかけずにいたのは正解だったようだな)チラ
京太郎「……」
無表情は変わらないが、やはり昨日とは違うようだ。
衣(感覚で分かる……本気で打っているかどうか。
昨日のこいつは、ただ萎縮していただけでなく……本気で打つ事にためらいを感じている気配があった)
だが今は違う。今の京太郎は、本気で衣と勝負をしに来ている。
衣(しかし、それだけに妙だ……。何故こいつは一度、衣からの勝負の誘いを断った?)
そこで一旦思考を切り、配牌を見る。理牌は無意識の内に済んでいた。
衣(一向聴……親は流されたが、ツキは依然こちらにある。この程度の点差、すぐに覆してやる!)
――――
純(親を流した程度じゃ、衣は止まらない。さあ、次はどうする?京太郎)
京太郎「……」チャッ
九種八牌、六向聴。後ろから見ているだけでうんざりするような配牌だ。
純(ほんと、良くポーカーフェイスでいられるよコイツは……)
京太郎「……」トン
114 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:26:20.66 ID:ZkcsownO0
――――
衣(ふむ……三巡目テンパイか。他はまだ追い付いていない……これはもらったな)
衣「リーチ」タンッ
透華「……」チャッ
支配が卓の隅々まで行き渡っているのを感じる。
透華「……」トン
衣(今は誰も鳴けまい……)
優希「……」トッ
京太郎「……」スッ
衣(ん?)
今、上家の手がブレたような――
バラッ
京太郎「……っ、すいません」
見れば、京太郎の伸ばした手が対面の山を崩していた。焦って直そうとし――
ガチャッ
――今度は腕が自分の山にあたり、更に崩れる。
京太郎「……」
そろり、と他家の顔を窺う京太郎。――誰がどう見ても、満貫払い確定のチョンボだった。
115 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:26:50.53 ID:ZkcsownO0
――――
純(まさか……今のはわざとか?)
謝りながら罰府を払う京太郎――チョンボをした割りには、あまり動揺していないように見える。
優希「……」チャラッ
純(誰も突っ込まないか……ならば何も言うまい)
衣がリーチをかけ、その直後にチョンボで仕切り直し。これがわざとなら、イカサマも良い所だ。
しかし、衣たちは満貫払いで納得している……なら外から言う事は何も無い。
純(なんにせよ、ここまで場を荒らされたら衣も堪ったもんじゃないな)チラ
衣「……」
116 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:27:19.45 ID:ZkcsownO0
――――
東四局仕切り直し
マホ「この場合、流局とかではないので、一本場にはならないんですよね」
まこ「ルールにもよるが、大体それが一般的じゃろうな……良く知っとるな?」
マホ「はい!マホ、チョンボには詳しいです!自分でよくするので!」
まこ「自慢にならんな……。さっき天江がリーチをかけとったが、そのリー棒はどうなる?」
マホ「えぇと、どうなるんでしたっけ?」
まこ「……まだまだじゃな。まあこれもルールによるが、仕切り直しじゃから持ち主に返されるぞ」
マホ「なるほど……」メモメモ
――――
透華(罰府の得点差で、結果的にトップにはなりましたが……複雑な気分ですわ)タッ
優希「……」チャッ
二位との点差は僅か700。
透華(片岡さん、集中が持続しないとの事でしたが……
本人の言っていた『東場のあいだ』というのはどのくらい厳密な数字かしら……?)
優希「……」タン
117 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:27:49.85 ID:ZkcsownO0
――――
優希(さて……京太郎が9700点か)
自分の弱点は分かっている……南場の失速だ。当然、短期決着を狙いたい。
優希(この手、和了りも近いけど……跳満まで伸ばせれば、京太郎を直撃でトばす事も出来る)
衣「……」トッ
さっきの仕切り直しから、衣の『支配』の影響もさほど感じなくなった。
優希(よーし、この卓に南場は来ない!)
トン……タンッ……
――――
優希(七巡目にしてテンパイ……けど、まだツモ次第で三色もイーぺーコーもドラ取り込みも狙える)タンッ
リーチかけず。東場の自分なら、もっと手を伸ばせる筈だ。
京太郎「……」チャッ
優希(ん、まさか……?)
少し逡巡した後、京太郎は手出しの牌を起き――曲げる。
京太郎「リーチ」チャラ
衣「……」チャッ
優希(ほう……京太郎が来たか。なら……)
卓に意識を集中。今この瞬間にすべき事は――
衣「……」トン
透華「……」トッ
優希(……悪いな、京太郎。リーチは流す!)スッ
優希「――ツモ!タンピンドラ1、1300-2600!」
118 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:28:18.62 ID:ZkcsownO0
――――
南一局
京太郎(リーチは失敗だったか……)
流れを掴んだかと思ったが、どうやら勇み足だったようだ。
京太郎(もっと、自然体……流れを見切ろうとするんじゃなくて、自然に感じ取るように……)
純の教えを頭の中で繰り返す。
京太郎(配牌が悪い……今は耐えよう。多分もう少しで来る、流れが……)
――――
十七巡目
衣「……チー」
透華(これは……来ますわね)チャッ
タン……トン……
衣「――ツモ。海底タンヤオ三色、ドラ5。4000-8000」
透華(ドラ5……全く、それでこそ、ですわ)ジャラ
119 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:28:57.35 ID:ZkcsownO0
――――
南二局
京太郎(親)3400
衣 (南)28300
透華 (西)32100
優希 (北)36200
京太郎(かなり削られたが、待った甲斐は有ったな……)
配牌は二向聴。
京太郎(……流れが来てるかどうか、正直自信は無い。……けど、もうこの親で仕掛けるしかない)タン
トン……トッ……
京太郎(大丈夫だ……なんとなく、いける気がする……)タン
なんとなく、の感覚を大事にしろ――純はそう言っていた。
京太郎(悲観し過ぎず、楽観もし過ぎず……なんとなく、和了れる気がしている)
京太郎「ポン!」
タッ……トン……
京太郎(感覚は、間違ってなかったみたいだな……)
今の自分は、流れに乗っている――それも、なんとなく分かる。
京太郎「……ツモ。3200オール
120 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:29:51.70 ID:ZkcsownO0
――――
南二局一本場
衣(……なんだ?先程の倍満といい、いつも通りに打っている筈なのに……)
何か、違和感がある。
京太郎「……」タンッ
衣(こいつのチョンボからか……?リズムを崩されたような……)チャッ
手は三向聴、更にこの局は海底コースだ。
衣(……今は、南場だ。ユーキの気配も、弱くなっている。なのに……)
――今は、海底に辿り着ける気がしない。
衣(……そういえば以前、ジュンが言っていたな)タン
『流れってのはもちろん、良い流れと悪い流れが有るんだが……悪い流れってのも色々有ってな』
『悪い流れの時に、無理やり和了ったりしたら、もっと悪い流れになる事がある』
タンッ……パシッ……
衣「……」チャッ
『そして……そうなったら、オレでもその悪い流れからは中々抜け出せなくなるんだ』
衣(……つまり、前々局の倍満ツモが良くなかったのか?確かにあの時、ユーキを削ろうとして少し無理をした)トン
自分で鳴いてまで海底コースに入ったのも、そうすれば和了れそうだったからだが――逆に言えば、
衣(そうしなければ和了れる気がしなかった。いつもの衣なら、自然に和了れた筈なのに……)
タン……トッ……
衣(……いや、唯我を保て。それはジュンの考え方だ)チャッ
自分は純のように流れを読む事は出来ないが、然りとて純に遅れを取る訳ではない。
衣(衣は衣らしく、いつも通り打たせてもらうぞ!)パシッ
121 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:30:28.51 ID:ZkcsownO0
――――
京太郎(うん……良い感じだ)チャッ
一向聴。
京太郎(多分、今……俺は流れに乗ってる)タン
トッ……タン……
京太郎(それに比べて……天江さんはあんまり良くなさそうだな)タンッ
衣「……」トッ
だが、油断はしない。
京太郎(適度な緊張感……意識すると難しいけど、今は出来てる。このまま……)
――――
衣(……この気配。須賀、手が伸びたな)
京太郎「……」タン
手が進んだのとはまた違う。恐らくドラと入れ換えたのだろう。
衣(しかし、それでも高くない……4000点前後か)タッ
透華「ポン」トッ
衣(……あれ?)
海底コースからずれた。もちろん、それぐらいならよくある事だ。しかし――
衣(戻れそうに、ない……)
下家の牌をポンするか、暗カンで海底コースには戻れる。だが、手には対子が一つだけ……。
衣(いや、関係無い。衣は海底だけじゃない!)
普通に和了りを目指す。それで良い、何も問題は――
衣「」ハッ
京太郎「……」チャッ
上家の、テンパイ気配。
衣(さっきの透華の鳴きといい、衣の支配が弱くなっているのか……!?)
京太郎の手はそう高くはなさそうだ。しかし――
衣(……致し方無い、ここはオリる!)
捨て牌を曲げる姿を見て――弱気に、流される。
122 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:30:57.02 ID:ZkcsownO0
――――
京太郎(今、昨日と同じ感覚だ……)
麻雀を、打っている。
京太郎「リーチ」チャラ
衣「……」チャッ
京太郎(そう、昨日のオーラス……あの時、分かったんだ。自分が無くしていた物が)
蘇る、純の言葉。
『あいつらに追い付きたいんだろ?』
京太郎(違う……)
タン……トン……
京太郎(そうじゃない。俺は……勝ちたいんだ)パシッ
――それだけだった。
京太郎(強くなりたい、追い付きたい、そんなのは全部飾りだ。ただ、勝ちたい……!)
ストッ……タッ……
京太郎(俺は、勝ちたかったんだ!咲や優希、和たちに最初に負けた時……一番に思ったはずなんだ。
追い付きたいとか、並び立ちたいとかじゃなく、こいつらに勝ちたいって!)
――いつから、忘れてしまっていたのか。
昨日、衣に絶望させられた時?マホとの対局で差し込みをした時?ポーカーフェイスを覚えた時?
あるいは、もっと前――清澄で京太郎が負ける事が、当たり前になっていた時。
京太郎(だけどもう逃げない。全力で取りにいく!今、この瞬間の勝利を!)
久しく失っていた、勝利への渇望。それだけを胸に、京太郎は戦う。
透華「……」ストッ
京太郎「ロン!リーチ平和ドラドラ、裏……二枚!18300!」
123 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:31:36.11 ID:ZkcsownO0
――――
南二局二本場
京太郎(親)31300
衣 (南)25100
透華 (西)10600
優希 (北)33000
優希(京太郎、ノってるな……。さっきまで飛ばす事も考えてたのに、今や二位だじょ)
しかも、点差は1700。南場は守りに徹して逃げ切りたかったが……。
優希(仕方ない、ちょっと無理してみますか!)
――――
衣「ロン。5200の二本場は、5800」
優希「……駄目だったじょ」チャラッ
京太郎(これでトップにはなった……。でも僅差だ、油断は出来ない……)
124 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:32:14.32 ID:ZkcsownO0
――――
南三局
透華「リーチですわ!」タンッ
京太郎(龍門渕さん、攻めるな……当然か。最下位、それも一人沈みだもんな)
トン……タッ……
京太郎(けど、あの表情……)
透華「……」パシッ
堂々とした態度。
京太郎(龍門渕さんは、負けてても堂々としてる事が多いけど……。今は、自信が有りそうな感じだな)
恐らく、ここから巻き返せる具体的な根拠があるのだろう。
透華「――ツモ!リーチ・ツモ・ホンイツ・ドラ1!」
222345(赤)66778s南南 ツモ5s
京太郎(うおっ、何面待ちだこれ……四面か?)
透華「裏は――ひとつですか。点数は変わりませんわね、3000-6000です」
125 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:32:45.01 ID:ZkcsownO0
――――
オーラス
透華 (親)22600
優希 (南)24200
京太郎(西)28300
衣 (北)24900
京太郎(平らだな……。二位との点数はさっきより広がったけど、最下位の龍門渕さんとの点差は5700……)
ツモなら1500オール、ロンなら2900で捲られてしまう。
飜数にすると、ツモなら三飜、ロンなら二飜程度。もちろん府が高ければそれ以下の飜数でも有り得る。
京太郎(この卓のルールには、西入は無い。安い和了りでもトップに成りさえすればそこで終了だ)
つまり、このオーラスはスピード勝負になる――少なくともこの時は、京太郎はそう思っていた。
京太郎(気を引き締めて、いくぞ!)
126 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:33:20.16 ID:ZkcsownO0
――――
八巡目
透華(無駄ヅモばかりですわ……)チャッ
手が進まない……誰の仕業かは、明らかだ。
衣「……」
透華(衣の支配……ここに来ていっそう強くなりましたわね)タン
スピード勝負。初めは透華もそう思っていた……だが。
透華(衣は元々、高火力の打ち手……。和了率より打点を優先する傾向がある。
早和了りも出来るとはいえ、他三人が全員早和了りを目指している今は、先に和了れる保証がありませんわ)
だから、衣は実に単純な対策を打った。
透華(一向聴、地獄……!自分の早和了りを狙うのではなく、他家の手を強引に遅らせて、先に和了る。衣らしい手ですわ)
衣「……」つ東
少し逡巡してからの、手出し。
透華(重い手を、ゆっくりと進めているんでしょうね……)チャッ
127 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:33:59.19 ID:ZkcsownO0
――――
衣(……これは、まいったな)
透華の予想に反し、衣は既にテンパイしていた。
222m12378s33388p (ドラ:二索)
衣(さっき引いた一索、これでテンパイにはなったが役が無い)
今は安手で十分、しかし安すぎては意味が無い。
衣(リーチをかけても裏が乗らなければ出和了り2600の手、ツモか一位からの出和了り以外に選択肢が無くなる。
リーチはかけない……)
トン……タン……
しかし、そんな判断をした時に限って。
衣(……!九索……っ)チャッ
さっきリーチをかけていれば、と思うも後の祭りだ。当然これで和了ってもツモ・ドラ1で2000点にしかならない。
衣(一位との点差は3400、捲るためにはやや足りない)タン
断腸の思いでツモ切り。まさかツモ和了を見逃すことになるとは思わなかった。
衣(だが、まだ八巡目だ。落ち着いて、手変わりを待てばいい……)
どうせこの局は、誰も和了る事が出来ないのだから。
128 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:34:37.04 ID:ZkcsownO0
――――
十二巡目
衣(くっ、来ない……)タン
中々、手を変えるための牌が来ない。
四索か六索が来ればタンヤオ、七・八索、八筒が入れば三暗刻を狙えるのだが……。
透華「……」チャッ
衣(それでも、まだ五回ツモれる。卓を支配しているのは衣だ、他家が和了る事は無い!)
自分にそう言い聞かせるも、「手変わりをじっくり待つ」という方針に不安を感じ始めた――その時である。
透華「……」つ九筒
京太郎「ポン」パタン
衣(何……?)
――まともに打っていれば、鳴く事も出来ない筈では?
京太郎「……よっと」つ八索
衣(何のつもりだ?)チャッ
表情からは何も掴めないが、自分の(超人的な)感覚で――分かる。今のポンで、京太郎の手は進んでいないと。
衣(ズラすため、という訳でもなさそうだ。つまり、自分の手を無意味に晒しただけ――いや、まて。『晒す』?)
――晒す事、そのものが狙いか。
衣(衣には通用しないが、張っていると思わせれば他家をオロす事が出来るかもしれない)
そうやって相手に誤認させて、逃げ切ろうとしているのか。
衣(ふん、そう都合良くいくものか。この状況でオリる奴などいない!)タンッ
残念ながら、京太郎の狙いは甘いと言わざるを得ない。それどころか――
衣(今のポンで、海底まで衣に回してしまった。お陰で楽が出来る)
今まで手変わりを待っていたが、もうその必要も無い。このまま進めば、海底・ツモ・ドラ1で1000-2000の和了り、リーチも無しで捲り切れる。
衣(あとは意地でも鳴かせないように、支配力を集中させるだけだ!)
129 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:35:11.88 ID:ZkcsownO0
――――
マホ「染谷先輩、あの鳴きには何の意味が……?」
まこ「いや、すまん。わしにもさっぱりじゃ」
困惑。二人の目は、京太郎の手牌に向いていた。
5(赤)67m46s119p南南 999p(ポン)
京太郎「……」
元々持っていた九筒の暗刻、それを崩してのポン。
向聴数は変わっていないが、その後八索を切ったせいで有効牌の数が減ってしまっている。
マホ「なんで、九筒を切らなかったんでしょう……」
まこ「九筒をポンして九筒を切ったら、喰い替えになるじゃろ。
たとえほぼ完全な不要牌だとしても、切れなかったんじゃ」
マホ「ああ、なるほどです!」
まこ「……しかし、そうなるとますますあのポンは不可解じゃ……」
そして、再び京太郎のツモ巡である。
京太郎「……」チャッ
ツモは、八索。
まこ「おお、取り戻したな」
マホ「これで、九筒を切れば元通りですね」
だが――
京太郎「……」つ八索
ツモ切り。
マホ「???」
混乱するマホ。まこもまた、京太郎の真意を読めずにいた。
まこ(どういうことじゃ……?あの九筒ポンはまだ、分からん事もない。
ズラすためにああいう鳴きをする事はあるからの。しかし何故、あの九筒を残す……?)
130 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:35:46.24 ID:ZkcsownO0
――――
純(全く、ここに来てこの『支配』……本気で、他家の和了を潰しにいってるな)
京太郎「……」タン
ツモ切り。今は純の視界からは見えないが、京太郎も含め、衣以外の三人はまず間違い無く一向聴地獄の中にいる。
純(たとえ山の牌全てを操作出来るとしても、『他家の一向聴地獄』と『自分の和了』……両方を成立させるのは難しい。
さっきの京太郎の鳴きなんかは予想外だったみたいだし、その辺は衣も限界が有る)
だから、衣は自分の手を犠牲にして、他家のツモ牌に対する『支配』を優先した。
純(そのせいか、自分の打点が足りなくなったが……京太郎のポンで、その問題はクリアした)
衣「……」タンッ
他三人と同じ、ツモ切りの連続……。しかし、その顔には自信が有る。
純(衣のツモはあと二回……その間、衣の力は誰かがテンパイすることはもちろん、鳴くことも許さないだろう。
――そして最後は必ず衣が和了る)
完全なる支配。――京太郎に、それを防ぐ事は出来ない。
京太郎「……」トン
衣「……」パシッ
純(あと一巡だが、リーチはかけないか……)
透華「……」トッ
優希「……」タン
全員ツモ切り。そして京太郎も最後のツモ牌を取り――
131 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:36:23.09 ID:ZkcsownO0
――――
衣(……どうした?)
京太郎の手が、止まっている。
衣(早く切れ。それは有効牌ではない筈だ!)
その事実は誰よりも――牌を引いた京太郎よりも、場の支配者たる衣が一番良く知っていた。
衣「……おい、どうした?今になって、負けるのが恐くなったか?」
京太郎「……」
京太郎は全く表情を変えないまま――衣と目を合わせた。
衣「……っ!」ゾクッ
衣(なんだ、このプレッシャーは……!)
京太郎「負ける?そんな事、考えてませんよ。俺はここに、あなたに勝ちに来たんですから――カン」
九筒の、加カン。
衣「四枚目の、九筒だと……!?」
そして京太郎は、嶺上牌に手をかける。
衣「……なるほど、あのポンでわざと衣に海底を狙わせ、それを止めるためにその一枚を温存したのか……!」
カンで引く嶺上牌。それによって衣ではなく京太郎が最後の一枚をツモり、流局にする。
京太郎「――それだけじゃ、ありませんよ」
そう、それだけでは足りない。京太郎の勝利条件には――
132 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:37:03.89 ID:ZkcsownO0
京太郎「俺とあなたの点差は3400、ノーテン罰府で引っくり返りかねない。
――だから俺は、この嶺上牌で一向聴地獄を脱する」
衣「なに……っ!」
何を馬鹿な――そう言おうとして凍りつく。
『有り得る』。何故ならその牌は――場の支配者である衣にさえ、分からないのだから。
京太郎「ヒントは、最初から有ったんだ。昨日の対局、その最後に――あなた自身が言っていた」
『和了りますか?』
『いいや……残念ながら、誰もその牌では和了れないよ。どこぞの嶺上使いならば、話は別だがな』
京太郎「咲があなたに勝てたのは、場を支配する力があなたより上だったから。そう思ってましたけど……」
実際には、違う。
京太郎「あの時あなたは、俺の切った牌を大明槓出来た。
そしてもしあなたが咲なら、そこから、嶺上開花で和了る事が出来た……!
それを『和了れない』と断言したという事は――」
つまりそこが、天江衣の弱点。
京太郎「あなたの支配は、嶺上牌までは及ばない。……それが、俺が辿り着いた答えです」
衣「……っ!!」
戦慄。嶺上牌を引く京太郎に、自分を打ち破った咲の姿が重なり合う――敗北の、予感。
京太郎「……」チャッ
しかし――
京太郎「……」タンッ
衣(この、気配……)
133 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:37:43.12 ID:ZkcsownO0
京太郎「……流局ですね。ノーテン」パタン
――京太郎は、引けなかった。
衣「……テンパイだ」バラッ
ほ、っと息をつくのも束の間。
京太郎「……まだ、俺の勝ち筋は消えてませんよ」
勝ちを諦めない声が、衣の臓腑に響く。
京太郎「まだ、龍門渕さんがテンパイなら、親は流れず続行。
そして、龍門渕さんが張っていなくても優希が張っていれば、俺と天江さんの収支の差は3000点。俺の逃げ切りです」
衣(な、に……?)
負け惜しみだ。衣には分かる、直感が教えてくれる。二人の手は、張ってなどいない。
しかし、今この瞬間……衣はその感覚を、信じ切れなくなってきた。
衣(まさか……!?)
果たして、二人は。
透華「……ノーテンですわ」パタ
優希「悪いな、京太郎。ノーテンだじぇ」パタッ
衣 27900
京太郎 27300
優希 23200
透華 21600
終局。
衣「……っは、はぁ、はぁ……」
一気に弛緩する。気付けば、緊張の余り息も出来ていなかった。
京太郎「……ありがとうございました」
透華「ありがとうございました」
優希「ん、ありがとうございました」
ばらばらと、席を立つ。――しかし、衣だけは座ったまま、ゆっくり息を吐き続けていた。
134 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:38:13.95 ID:ZkcsownO0
――――
マホ「先輩……!」
対局が終わっても無表情のまま、京太郎はマホのもとに戻って来た。
京太郎「ごめんな、マホちゃん。勝てなかった」
そして、そのまま通り過ぎる。
京太郎「……ちょっと、トイレ行ってくる」
マホ「……!先輩!」
呼び止めた時にはもう遅く、京太郎は走って部屋を出ていった。
To be continued……
135 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:41:58.30 ID:ZkcsownO0
投下終了。感想(特に闘牌について)とか有りましたら言ってくれると
>>1
が喜びます。
次の投下は京マホから入ります。
136 :
◆3em28n6/NM
[saga]:2017/01/08(日) 22:43:48.09 ID:ZkcsownO0
あ、もちろん闘牌以外でも感想はじゃんじゃん言って下さい。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/08(日) 23:15:54.26 ID:wYfpKmjJo
この敗けが後の京太郎を大きく成長させることになるのだが、それはちょっと先の話である
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/08(日) 23:37:04.19 ID:B588Ykg2O
ここで衣に勝てないのが京太郎らしい
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