八幡「神樹ヶ峰女学園?」

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578 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2018/01/12(金) 21:19:53.88 ID:r8JV+X930
本編6-22


楠さんの家を訪れてから数日。俺は放課後までは神樹ヶ峰に行き、その後は楠さんの病室や粒咲さんの家を訪れていたが、目立った成果は出ない。星守クラスも活気を失ったままで、以前は騒がしく感じていた教室も、静まり返ることが珍しくなくなっている。

そんな状況で唯一緊張の糸をほぐすことができるのが我が家なわけだ。家ってすごい。安心感が半端じゃない。そんな家のリビングで、俺は今コーヒーを飲みながらぐでーっとしている。

八幡「はぁぁぁぁぁ」

小町「どうしたのお兄ちゃん。そんな魂が抜けるような大きなため息なんかついて」

ついついため息が出てしまった。俺の向かいで参考書を広げて勉学に励んでいる小町が声をかけてきた。

八幡「まあ、なんだ。お兄ちゃんも色々あるのよ」

小町「ふーん」

小町はそれだけ言うと再び参考書に目を落とした。しばらくリビングには俺がコーヒーを啜る音と、小町がペンを走らせる音、それと時々鳴るカマクラの足音だけが響く。これが比企谷家の日常だ。

小町「うーーん、ちょっと休憩しよ」

しばらく経って、小町は肩をほぐすように大きく伸びをした。

八幡「休憩って、まだそんなやってないだろ」

小町「小町の勉強は密度がすごいんだよ?密度が」

八幡「密度がすごいやつは英語の問題のこんなところ間違えねえよ」

小町「お兄ちゃん、小町の問題のぞき見してたんだ〜。それは小町的にポイント低いかも」

八幡「目の前でやってたら嫌でも視界に入るだろ……」

小町「そういえば、お兄ちゃんがリビングで何もしてないなんて珍しいね」

八幡「そんなことないだろ」

小町「そんなことあるよ。いつもならパソコンで仕事してるか、スマホで星守の誰かとLINEしてるじゃん」

八幡「…………」

我が妹ながら、素晴らしい洞察力だ。確かに俺はここ最近、星守たちとしっかりしたコミュニケーションが取れていない。教室で顔を合わせればそれなりの会話はするが、今までのような無駄に暑苦しい言動はなくなったように思える。

ぞれに付随して、大量に来ていたLINEも今は鳴りを潜めている。今まで異常な量が来ていた分、何も来なくなるとそれはそれで違和感がある。

小町「うららちゃんや心美ちゃんも最近元気ないし、なんかあったの?」

八幡「まあ……、な」

小町「そっか……」

俺の煮え切らない返事に、小町はそれ以上追及してくることはせず、コップを2つ持ってきて、片方を俺に渡してきた。

八幡「サンキュ」

小町「うん」

温かいコーヒーを俺たち2人は同じようにずずっと飲む。

八幡「何も聞かないんだな」

小町「うん。聞いたところで、小町は何もわからないから」

正直、小町のこういうところは助かる。小町も俺に似て意外とドライなところあるからな。いちいち根掘り葉掘り聞かれないのはありがたい。

小町「でもね、うららちゃんや心美ちゃんに元気がないのは、小町も寂しいんだよね」

小町はコップの水面にそっと目線を落とす。

小町「お兄ちゃん、頑張ってね」

八幡「……ああ」

小町「うん!お兄ちゃんが頑張るなら、小町も頑張らなくちゃな〜」

そう言って小町は再びペンを握って参考書に向かう。

妹にここまで言われたら、兄としてやらないわけにはいかないだろう。妹の期待に応えてこその兄というものだ。

もう冷めたはずのコーヒーを一口飲むと、なぜか胸のあたりが暖かくなった気がした。
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