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八幡「神樹ヶ峰女学園?」
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374 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/06/26(月) 00:11:02.61 ID:De9rxzWL0
番外編「蓮華の誕生日後編」
そんな言葉1つでぼっちマイスターの俺の心が揺れ動くとでも?甘い。甘すぎる!動じていない男は冷静に反応するものさ。
八幡「べべ別に、しょんなことないでしゅよ」
決意とは裏腹に噛みまくりだった。
蓮華「ふふ。ま、先生がそう言うなら、そういうことにしといてあげる」
さっきの「おかえりなさい」がけっこうグッときちゃったどうも俺です。はぁ、情けない。
八幡「つか作業は終わったんです、か……?」
あれ、俺の目がおかしいのかな。俺が渡したUSBは黒色だったはずなのに、今パソコンに接続されているのはピンクのUSBなんだけど。なんで?
蓮華「まだ終わらないのよ〜。思ったより写真多くて」
八幡「終わらないのはやってる作業がおかしいからじゃないですか?」
俺は強引に作業を中断し、ピンクのUSBを引き抜く。
蓮華「あ、先生!何するんですか!」
八幡「それは俺の台詞ですよ。なんで自分のUSBに画像移してるんですか」
蓮華「移してないわ。コピーよ」
八幡「いえ、別にそこはどうでもいいんですけど……そもそも俺が頼んだ作業はどうしたんですか?」
蓮華「あぁ、それならすぐに終わらせたわ。はい、これ」
芹沢さんはポケットから俺が渡したUSBを取り出した。
八幡「終わってたんですか。なら素直に渡してくださいよ」
俺が手を伸ばすと、ひょいと芹沢さんがUSBを遠ざける。
八幡「早く返してくださいよ……」
蓮華「え〜、でもれんげ頑張って写真選んだから、先生からご褒美欲しいなぁ〜」
八幡「なんなんですかご褒美って……」
蓮華「さっきまで星守クラスの子たちの写真を見てて、れんげ何か物足りないなぁ〜って思ってたの」
俺の問いは無視して、芹沢さんは椅子から立ち上がると、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
蓮華「それで先生が部屋に戻ってきて、その足りない何かに気づいたの」
八幡「は、はぁ……」
いつの間にか俺と芹沢さんは数センチの距離まで近づいていた。やべ、芹沢さんの睫毛めっちゃ長い。
蓮華「じゃ、先生。いきますね……」
何が?いったい何が?いや、いきなりそんなこと言われても、俺にも心の準備ってものがいるんですけど!
そんな俺にかまうことなく、芹沢さんは俺の胸に手を伸ばしつつ、頬と頬がふれあうほど顔を近づけてきた。
蓮華「はい、チーズ」
刹那、スマホのフラッシュが俺を襲う。突然の眩しさに目がくらむ。俗にいう目が、目が〜状態だ。
蓮華「ふふ、先生、変な顔ね〜」
八幡「……写真撮るならそう言ってくださいよ」
蓮華「だって撮りたいって言ったら先生嫌がるでしょ?それに、油断してる先生をれんげは撮りたかったの」
八幡「そうですか……」
全くこの人は心臓に悪い。ピュアな男子高校生の心を弄ぶなんて魔性の女だ。
蓮華「……それに、こうでもしないとれんげ、余裕をもって先生と写真撮れないもの」
八幡「何か言いましたか?」
蓮華「なんでもないわぁ。じゃ、先生。また明日」
まだショックで動けない俺を置き去りにして、芹沢さんは優雅に手を振りながら部屋を出ていった。
数分後、『先生、今日はありがと♡れんげ、この写真を先生からの誕生日プレゼントだと思って大事にしますね』というメッセージと、さっきの画像が送られてきた。ま、一応保存しとくか。……一応、隠しフォルダに入れてばれないようにしとこ。
375 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/06/26(月) 00:14:44.16 ID:De9rxzWL0
以上で番外編「蓮華の誕生日」終了です。蓮華、誕生日おめでとう!来週からのアニメが待ちきれないこの頃です。
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/26(月) 00:28:54.96 ID:jRnxvXk7o
乙です
377 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/06/29(木) 00:48:16.00 ID:gK6Ho32c0
本編4-14
あれ。なんだろ。急に視界がぼやけてきた。目の前の三人の表情がわからなくなった。その代わりに、頬に熱いものが流れる。
昴「先生……?」
八幡「な、なんだよ」
遥香「泣いてるんですか?」
八幡「ばっか、ちげぇよ、単に目にゴミが入っただけだ」
俺はあわてて袖で涙を拭おうとするが、それより前に、ハンカチの柔らかな感触とその下から感じる指先の温かさがが俺の頬を包む。
みき「もう、私たちの前で強がらなくていいんですよ?」
星月は俺の涙を拭いながらなおも続ける。
みき「そりゃ、私たちじゃ力不足ですけど、それでも私たちが先生を思う気持ちは誰にも負けていないつもりです」
昴「そ、そうです!アタシたちを信頼してください!」
遥香「何でも言ってください」
三人はそろって俺の心にド直球を投げ込んでくる。でも、三人とも少し勘違いしている。それだけは、今ここで伝えなきゃならない。
八幡「俺は、別にお前らを信用していないわけじゃない。すべては俺自身の問題だ」
みき「どういうことですか?」
八幡「正直、今までこんなに周りに受け入れられた経験がなかったからな。受け入れてもらいたいとも思ってなかったのもあるが。だからなおさら、この学校に来てからの状況に疑問を持ってたんだ。何年も経ってすべてを知り尽くした関係ならまだしも、交流に来てすぐの時から無条件に求められることは、正しいことのか。交流が終わったら消滅するような関係なのに、それを大事にする必要があるのか。俺に、そんな風に求められる資格があるのかって」
俺の静かな告白にしばらく沈黙が続いた後、星月が口を開いた。
みき「私は、先生が私たちのことでそんな風に真剣に悩んでくれてたってわかって嬉しいです」
八幡「え?」
みき「いえ、正直半分くらい何言ってるかわからなかったです。私そんなに頭よくないので。でも、先生が私たちのことをちゃんと考えてくれてるんだなってことはわかりました。じゃなかったらそんなに深く悩まないですよね?」
確かに言われてみればそうかもしれない。俺は「なぜ」こんな風に考えるようになってしまったか、その理由を考えたことがなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。
みき「それと、さっきの話で1つだけ私たちが答えられることがあります。ね、昴ちゃん、遥香ちゃん」
昴「うん!」
遥香「えぇ」
三人は頷くと立ち上がって同じ言葉を叫んだ。
みき、昴、遥香「先生は十分魅力的な人です!」
突然の言葉に俺は開いた口が塞がらない。
八幡「えーと、あの……」
昴「ち、違いますよ?男性として魅力があるってことを言ってるわけでは、まぁ全くないわけじゃないですけど、とにかく違うんです!」
遥香「先生は、屁理屈を使っていろんなことをすぐにサボろうとするし、そのくせ大事なことはこうして隠してるし、とっても面倒くさい人だと思うんです」
ちょっと?なんで成海は俺の事真正面からディスってくるの?歯を素っ裸にしすぎじゃないですか?温かい服着せてあげて。
みき「でも、おんなじくらい、いやそれ以上に私たちの事をすごく真剣に考えてくれて、私たちのために動いてくれてる人だってことも感じてるんです。でもどうしてそこまでしてくれるかわからない。そんな先生に、私たちは惹かれるんです。だから、先生の事もっと知りたくなるんです。だから、先生の傍にもっといたくなるんです」
みき「こんな理由じゃ、私たちが先生に近付く理由になりませんか?」
完全に言葉を失ってしまった。わからないから知りたい。知ったから傍にいたい。この両方を達成するために人に近付く。もしかしたら、こんなことは世の中のリア充連中は意識せにずやっているかもしれない。だとしたら、これは人間本来の欲求だと言い換えられる。人間は知って安心したい。安心するところへ行きたい。だから人と人は繋がりを持たずにはいられないのだろう。
八幡「でも、いつかは俺たちの関係は終わるんだぞ。少なくとも、交流が終わってしまえば……」
みき「そんなこと、その時にならないとわからないですよ!」
俺の言葉を遮るように星月は叫ぶ。
みき「これから先、いや今からでも私たちと先生が近づくことができれば、関係は終わりません。だって、『今』の関係の積み重ねが『未来』の私たちの関係になるんですから」
星月の言葉に、一度は止まっていた感情がまた目から溢れてきた。俺の思考とは裏腹に涙はとめどなく流れ続ける。
そんな俺の両脇に若葉と成海が座り、俺の肩に優しく手を置く。そして真正面からは星月があの太陽のような笑顔でにっこり笑う。
みき「先生。これからもよろしくお願いしますね!」
もう言葉は出てこない。それどころかまともに頭も働かない。ただただ腐った目だけが自分の汚れを落とすかのように涙を流し続けているばかりだった。
378 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/01(土) 00:00:13.14 ID:WWQHmvpZ0
番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」前編
なんだか最近クラスの雰囲気がそわそわしている。南や蓮見がはしゃいでるのはまだしも、千導院や粒咲さんまで落ち着きがない。
そんな中のHR。案の定、俺の話はあまり聞こえていないようである。
八幡「なぁ、お前ら最近どうした?いつもよりも落ち着きがないぞ」
俺の投げかけに星月が立ち上がって感極まった感じで話し出す。
みき「だって、ついに、ついに明日はアニメですよ!先生!」
八幡「……それで?」
思わず俺は素で聞き返してしまう。
昴「すごいことじゃないですか!」
八幡「そうか?」
遥香「昴。先生はもう2クールもアニメに主役として出演してるのよ。多分、これくらいなんともないんだわ」
八幡「おい。いきなりメタ要素入れ込むなよ。ツッコミづらいだろうが」
うらら「でも、それなら先生にアニメに出るにあたっての心構えとか聞いておきたいなー」
八幡「あ?別にそんなもんねぇよ」
ひなた「でもひなた、このままだと緊張しちゃうよー!」
八幡「いや、そんなことないから。そもそもここにカメラが来るわけでもないし」
あんこ「でも先生はイメージアップのためにヲタクの要素隠してるわよね。原作だとガンダムネタとかアイマスネタとかたくさん喋ってるくせに、アニメだとそんなこと全然言わないし」
思わぬところから不意撃ちを受けてしまった。
八幡「そ、そんなことないと思いますけど?」
蓮華「あと、原作だとちょっとHなことも考えてるのにアニメだとほとんどカットされてるわね〜」
花音「やっぱりこいつ変態だったのね。どうせ今も心の中では気持ち悪いこと考えてるんでしょうね」
八幡「……」
望「え、マジ?」
八幡「お、俺だって高校2年生、思春期真っただ中の男の子だぞ。この時期の男子はみな程度の差はあれ、そういうことは想像してしまうもんだ」
サドネ「??おにいちゃんが何言ってるかわからない」
桜「サドネ。わしらにはまだ早い話じゃ」
サドネの他にも何人か首をかしげている。これ以上俺の株を下げてもいいことはないし、ここらで話題を打ち切ろう。
八幡「とにかく、お前らが気負う必要は一切ない。俺だって別にアニメだからって何か特別なことをしたわけじゃないし」
強いて言えば、アニメーションによって戸塚の可愛さがさらに神々しいレベルまで高まったくらいだな。アニメで動く戸塚を間近で見れて、幸せだったなぁ。
ミシェル「むみぃ、でも1つくらい何かアドバイスないの?」
八幡「そんなこと言われても……いや、あるな」
くるみ「なんですか?」
379 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/01(土) 00:00:55.34 ID:WWQHmvpZ0
番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」後編
八幡「……作画に気を付けろ」
心美「ど、どういう意味ですか?」
八幡「そのままの意味だ。下手したら制作会社が変わって、1期と2期で雰囲気がガラッと変わっちまうことだってあり得る」
楓「正直、イマイチ要領を得ないアドバイスですわね」
八幡「ま、いつも通りのお前らでいれば大丈夫だ。心配すんな」
樹、風蘭「いや、アニメはそんな甘いものじゃない!」
そう豪語しながら八雲先生と御剣先生が教室に入ってきた。
樹「アニメは戦場よ!比企谷くんは主役だったから何もしなくても映っただろうけど、私たちはそうはいかないわ!」
さりげなく「私たち」って言いましたよね?映る気満々じゃないですか。
明日葉「ということは、私たちが自力で目立たないといけない、ということですか?」
風蘭「大正解だ明日葉!こういう女の子がたくさん出てくるアニメでは、いかに印象を残すかが大事なんだ!一瞬一瞬が戦いだと言っても過言じゃない。下手したら何週も映らない、なんてこともあるぞ!」
詩穂「なんだか実際に体験してきたような感じですね……」
樹「私たちのアドバイスをしっかり心に刻んで頑張っていきましょうね」
風蘭「毎週毎週色々言われると思うが、めげずにやっていこうな」
星守たち「はい!」
いや、みなさん普通に返事してるけど、この人たち映る気満々だよ?下手したらタイトルが「バトルティーチャー・ハイスクール」とかになりかねない。何それ、めっちゃダサい。
牡丹「みなさんどうしたんですか?いやに張り切ってますね」
教室の盛り上がりを聞きつけたのか、理事長までやってきた。
八幡「いえ、明日アニメが始まるからってみんな盛り上がってるんですよ」
牡丹「そういえばそうでしたね。でも、比企谷先生には関係ないですよね?だってアニメには出ないんですから」
ゆり「先生アニメに出ないんですか!?」
牡丹「この場所が二次創作、かつ作品をクロスオーバーしている特殊な空間だから成立しているんです。だからアニメには他作品のキャラクターの比企谷先生は出られないんですよ」
理事長の言葉に、教室中に何か変な空気が流れる。みんな俺をちらちら見て、目が合うと申し訳なさそうに目をそらされる。あれ、もしかして気を使われてる?
八幡「ほら、あれだ。別に俺がいなくてもお前らなら大丈夫だろ。むしろ、こういうアニメには男性キャラは不必要まである」
ラブライブなんて、主人公のお父さんでさえ首より下しか映ってないんだぞ。可哀想すぎる。ゆるゆりやけいおんにいたっては男の気配ゼロ。モブキャラまで全員美少女。どんな世界だよ。
みき「……わかりました。アニメでは、比企谷先生無しで頑張ります!」
星月の言葉に星守みんなが頷く。なんだか、みんなの成長を感じて少し感動するなぁ。
樹「でもその代わり、比企谷くんは円盤を買って私たちを応援してね」
風蘭「もちろん、初回生産限定盤をな」
牡丹「主題歌やキャラソンのCDもお願いしますね」
八幡「あなたたちのせいで締めが台無しですよ」
380 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/01(土) 00:02:15.47 ID:WWQHmvpZ0
以上で番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」終了です。短いですけど、アニメ応援ということで投稿しました。
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/01(土) 00:37:06.94 ID:4RvuhWrjo
乙です
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/01(土) 03:50:00.67 ID:c8lbLqOq0
乙
突然のメタネタに驚いたけど面白かった
PVには先生らしき男性がチラッと映っていたが果たして…
383 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/04(火) 22:02:21.24 ID:Lk++xY/20
本編4-15
ブーブー
突然ラボ内に警報音が鳴り響いた。
遥香「この音は」
昴「イロウス!」
みき「早く行かなきゃ!」
3人はすぐに転送装置に向かって走る。俺はその姿を見て、自然と足が動いていた。
昴「先生……?」
八幡「……俺も行く」
昴「大丈夫ですか?」
八幡「あぁ。むしろ連れってくれ。頼む」
なぜ積極的に戦場へ向かおうとしているのか自分でもわからない。でも、俺も一緒に行かないといけないってことは直感した。
そんな俺の言葉に星月が嬉しそうに反応する。
みき「もちろんです!行きましょう!」
八幡「……すまん」
昴「謝らないでくださいよ!」
八幡「す、すまん」
遥香「次謝ったら特訓メニュー倍にしますよ?」
成海が冷たい笑顔を浮かべながら忠告してきた。
八幡「す……わかった」
昴「遥香目が笑ってないよ……」
みき「あはは……」
俺は転送先の座標を設定してから転送装置に向かう。
八幡「準備はいいか?」
みき、遥香、昴「はい!」
八幡「よし、転送」
-----------------------------------
転送が終わると、俺たちは荒野に立っていた。
みき「ここにイロウスがいるんですか?」
八幡「あぁ。そのはずだ」
昴「どんなイロウスですか?」
八幡「それがよくわからないんだ。全くイロウスに動きがなくて判別できなかった」
遥香「動かないイロウス、ですか?」
八幡「あぁ。ひとまずここらへんにいるのは確実なんだ。あとは俺たちで動いて探すしかない」
みき「頑張ろう!昴ちゃん!遥香ちゃん!先生も!」
八幡「おう。じゃ、行くか」
俺が歩き出すと、3人は物凄く驚いた表情を見せる。
昴「せ、先生が自分からイロウスに向かって歩き出した……」
八幡「若葉、お前失礼だな。相手は得体のしれないイロウスなんだぞ。別行動するより、全員一緒にいた方が安全だ。幸いにも周りに人家はなさそうだし、時間かけても安全に仕留めることを優先してもいいだろ」
みき「な、なるほど」
遥香「やっぱり先生の頭の回転の速さにはかないませんね」
……実は俺1人でいると危険だから集団行動したかった、ってのは黙っておこう。
384 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/07(金) 00:01:47.96 ID:sIXeq07Y0
番外編「望の誕生日前編」
俺は今、学校帰りにあるスポーツ用品店に来ている。もちろん1人でだ。星守たちの特訓にも付き合うようになり、かつ最近暑くなってきて運動着が数枚必要になったから買いに来ただけだ。
だが、いざ店に来ると何を買えばいいのかさっぱりわからない。まぁ、サイズが合えばなんでもいいんだが、そうは言ってもどれを選べばいいか迷う。
望「あれ、先生?」
なんだかやけに通る声がしたけど気のせい、気のせい。
望「先生!おーい!先生!」
がっつり目が合って手を振られたけど、気のせい。きっと気のせい。
望「せんせー!なんで無視するの!」
とうとうカバンを掴まれてしまった。これ以上無視できないから仕方なく反応する。
八幡「おう。天野か。じゃあな」
望「うん、ばいばい。じゃないよ!先生こんなところで何してるの?」
ちっ、押しきれるかと思ったけどダメか。
八幡「買い物だけど……」
望「奇遇だね!アタシも買い物してるんだ!せっかくだから一緒に見て回ろうよ!」
八幡「いや、別に1人でいい」
望「えー、そう言わずにさ!どうせどのウェア買えばいいか迷ってるんでしょ?特別に望ちゃんがコーディネートしてあげるよ!」
八幡「いらないって……」
だが、俺の抵抗を聞かず、天野はノリノリで運動着を選び始めた。
望「先生は別にスタイル悪くないし、シンプルなやつも似合うかな。でも思い切って奇抜な色合いで攻めるのもアリかな?」
八幡「そこまで悩まなくていいぞ。適当に3枚くらい見繕ってくれれば」
望「ダメだよ先生!いついかなる時でもファッションには気を付けなきゃ!」
八幡「えぇ……別に何着たって一緒だし」
望「そんなことない!アクセサリー1つとっても、ファッションは違ってくるもんだよ!」
天野が鬼気迫る感じで迫ってくる。こいつのファッションへの意気込みは凄まじいものがあるな。
八幡「あ、あぁ。わかった。それならもう全部任せるわ」
俺はもう口出しするのも諦めて天野に丸投げすることにした。
望「オッケー!任せて!」
------------------------------
俺はそこから数十分、着せ替え人形と化してひたすら天野の言う通り運動着を試着させられた。
望「ふぅ、楽しかった!」
八幡「疲れた……」
望「先生もこれを機にオシャレに目覚めたら?楽しいよオシャレ!」
八幡「俺には無理だ。それにいざと言うときは妹に見繕ってもらえばいいし」
望「それは兄としてどうなの……?」
八幡「いいんだよ。どうせ俺の服装なんて誰も見てねぇし」
望「そんなことないです!」
八幡「え……?」
予想外のタイムラグゼロの反論に思わず反応してしまった。
望「いや、その、なんていうか……ほら、いつもと違う服装してたら目立つじゃん?それが先生だったら特に!学校には先生しか男の人いないわけだし」
天野は手をこねこねしながらそれっぽいことを並び立てる。ま、男1人なら何をしたって悪目立ちはするか。
八幡「男が俺1人の時点ですでに目立ってるじゃねぇか。俺は目立たず過ごしたいんだ。だからオシャレはしない」
望「そんなこと言わないでオシャレしようよー」
385 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/07(金) 00:02:37.41 ID:sIXeq07Y0
番外編「望の誕生日後編」
八幡「つかお前はここに何買いに来たんだ」
俺は自分への話題の矛先をそらすために天野に質問した。
望「アタシは部活で使えるサンバイザーを探しに来たんだ!あ、そうだ。先生も付き合ってよ。サンバイザー選び」
八幡「なんでだよ。俺の意見なんてあてにならないぞ」
望「ファッションは他人にどう見られるかも大事だからね!先生からの客観的な意見が欲しいの!」
八幡「いやでも……」
望「ほらちゃっちゃと行くよ!」
こうして俺は天野にテニスコーナーへ強制連行された。
望「うーん、いっぱいあるなぁ。どれにしようかな〜」
八幡「……」
望「あ、これとかオシャレ!でもこっちも捨てがたい!ねぇ先生、どっちがいいと思う?」
そう言って天野はチェック柄で色違いのサンバイザーを2つ、俺の前に掲げてきた。
八幡「ん?どっちもいいんじゃねぇの」
望「むぅ、じゃあこれとこれなら?」
今度は花柄のサンバイザーを掲げてきた。
八幡「どっちも似合うと思うぞ」
望「……先生、本気でそう思ってる?」
やべ、流石に適当に返事しすぎた。
八幡「いや、正直どれも悪くないと思う。天野ならそういう派手目なサンバイザーもいんじゃないか?」
望「なんかイマイチ煮え切らない答えだな……あ、なら先生が選んでよ。アタシに似合うサンバイザー!」
八幡「は?俺が?」
望「そ。さっきはアタシが服選んであげたんだから、今度は先生が選んで!ね!」
そう言って天野は期待に満ちた目で俺を見つめて来る。わかったよ。選べばいいんだろ、選べば。
八幡「……わかった。でも文句はナシな」
俺はこのコーナーに来た時から気になっていたシンプルな白いサンバイザーを差し出した。
望「なんでこれなの?」
八幡「ま、なんだ。サンバイザーは熱中症対策のもんだろ?なら、白いほうが熱を放射しやすくね?」
望「え、まさか機能面だけで選んだの?」
やめろ。俺は、友達の誕生日プレゼントに工具を真っ先に思いつくようなどこぞの氷の女王ではない。
八幡「いや、ほら。お前目立つ色の練習着よく着てるだろ?ならサンバイザーはシンプルなほうがいいかな、って思って。白ならその髪色にも合うだろうし……」
ついキザっぽいセリフを吐いてしまった。やべぇ、気持ち悪がられる……
望「嬉しい……」
八幡「え?」
望「先生、なんだかんだアタシのことよく見ててくれてるんだね!うん。アタシ、これにするよ!これがいい!」
天野は目を輝かせながらサンバイザーを眺めている。俺はそのサンバイザーを天野から奪うと自分の持ってる買い物かごに放り込んだ。
望「え?サンバイザーくらい自分で買うよ?」
八幡「別にいいよ。俺の運動着選びになん何十分も付き合ってくれたお礼と、お前の誕生日プレゼントと併せて、買ってやる」
天野は急に顔を下に向けてもじもじし始めた。なんだよ、トイレ行きたいのか?ならさっさと行って来いよ。
八幡「おい、大丈夫か?」
心配になって声をかけたが、顔を上げた天野には満面の笑みが浮かんでいた。
望「うん。大丈夫!先生、ありがとう!このサンバイザー、一生大切にするね!」
386 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/07(金) 00:04:48.82 ID:sIXeq07Y0
以上で番外編「望の誕生日」終了です。望、誕生日おめでとう!とうとうアニメが始まりましたね。この先どんな展開になるか楽しみです。
387 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/07(金) 08:58:17.51 ID:x7Eq948ao
乙です
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/07(金) 20:53:13.40 ID:OoLC+gu80
乙
ホントみんなの性格掴むの上手いなぁ
比企谷も同年代だと遠慮がなくなってるのもいい感じ
389 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/08(土) 09:33:50.15 ID:D/03jL2M0
本編4-16
そうして四人でしばらく歩いていると成海が何かに気づいたような声を上げた。
遥香「あら、あれはなにかしら」
みき「どうしたの遥香ちゃん?」
遥香「向こうの方に何か浮いてない?」
成海が指さす方向を見てみると、確かに丸っこい物体が空中に浮いている。
昴「先生、アタシちょっと見てくる」
八幡「おぉ。頼む」
若葉は元気よく走っていく。でも、物体に近付くにつれてそのスピードが遅くなっているような……?
少しして若葉が帰ってきた。
みき「どうだった昴ちゃん?」
昴「多分、あれがイロウスだよ。あいつの周りだけ重力が強くなってるみたいで体が重くなっちゃったし」
あぁ、だからスピードが遅くなってたのね。重力を扱うなんてプッチ神父か何かですか?
遥香「でもイロウスなら私たちで倒さないといけないわね」
みき「じゃあみんなで行きましょう!」
俺たちはイロウスの能力が届かない距離まで近づいた。
みき「遥香ちゃん、一緒に攻撃してみよ?」
遥香「えぇ」
そう言って星月はガンで、成海はロッドで攻撃するが、あまり効いているとは思えない。
遥香「遠距離攻撃じゃ効果がないのかしら」
昴「なら近距離攻撃するしかないね!」
八幡「じゃあ俺はここで待ってるからお前ら、」
みき「先生も行きますよ!」
八幡「ちょ、腕引っ張んなって」
なぜか俺までイロウスの傍に行くことになってしまった。そして重い体を動かし、なんとかイロウスの目の前まで来ることができた。
みき「なんか、このイロウスただ浮いてるだけだね」
遥香「何もしてこないイロウスなんているのかしら」
八幡「まぁ、何もしてこないならそれに越したことはないんだが」
昴「なら今のうちにサクッと倒しちゃいましょう!」
そう言って若葉はハンマーを出してすぐさま振りかぶる。
昴「やあっ!」
若葉は強烈な一撃をイロウスに加えた。
みき「あ、体が軽くなった!」
遥香「流石ね昴」
昴「へへ〜」
3人はイロウスを討伐できたことに安心しているようだ。だが、このまま簡単に終わっていいのか……?
そう思ってイロウスを見てみると、灰色だった色が赤くなり、膨張しているようだ。これってまさか……
八幡「逃げるぞ……」
みき「え、なんですか?」
星月をはじめ3人ともキョトンとしている。
八幡「いいから逃げるぞ!」
状況を呑み込めていない3人を急き立て、俺たちはイロウスから離れた。次の瞬間、イロウスは盛大に爆発した。
390 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/08(土) 10:30:21.37 ID:D/03jL2M0
本編4-17
あ、危なかった。間一髪だった。
遥香「はぁはぁ、爆発して攻撃するイロウスだったんですね」
昴「はぁ、先生が気付かなかったらヤバかったよ」
みき「はぁはぁ、先生ありがとうございます」
八幡「ぜぇぜぇ、いや、ぜぇぜぇ、おう、、」
急にダッシュしたから息が整わない。返事どころかろくに呼吸すらできてない。
昴「じゃあ他にもイロウスがいないか探しに行こう!」
八幡「ちょちょっと待って。少し休憩させて……」
みき「先生……」
遥香「仕方ないですね。先生が落ち着いたら行動を再開しましょう」
数分後、なんとか息を整えて、俺たちは動き出した。するとほどなくして若葉が声を上げる。
昴「あ!またさっきのイロウスが浮いてる!」
みき「奥の方にさらにいっぱい」
遥香「なら私たちも別れて倒しに行きましょうか」
3人はハンマーを出してイロウスへ向かう。
八幡「……俺はここにいるわ」
これ以上俺にできることはないし、何よりもう走りたくない。
みき「はい。後は私たちで倒せますから大丈夫です!」
昴「安全なとこで待っててください!」
遥香「すぐ戻ってきますから」
……ん?なんか死亡フラグに聞こえたのは俺の気のせい?
そんな俺の心配をよそに3人は次々にイロウスを倒していく。その度に大きな爆発があるから、待ってる身としては気が気じゃないんだが。
つか、改めてあたりを見渡すと、さっきのイロウスがどの方向にも浮いてるじゃん。どんだけ倒せばいいんだよ……
遥香、昴「先生」
いつの間にか成海と若葉が帰ってきていた。
八幡「おう。お疲れさん」
昴「けっこう倒したんですけど、それ以上にイロウスが湧いてきたんで、いったん引き返してきました」
遥香「私たちだけでどうにかできる数じゃなくなってしまったんですが、どうしますか?」
八幡「一番の策は星守の数を増やすことだな。こっちの手数を増やさないと、イロウスを減らすことはできないし」
昴「それなら、一度学校に戻りますか?」
八幡「あぁ、だけど星月も戻ってきてからじゃないとな。あいつだけ置いていくことはできない」
遥香「そうですね。無事だといいんですけど」
成海が心配そうに呟く。
昴「みきなら大丈夫だよ。すぐに戻ってくるって」
遥香「昴……そうね。みきなら大丈夫よね」
八幡「ほら、現に戻ってきたぞ」
俺の視線の先には必死の形相で走ってくる星月の姿があった。なんであいつあんな急いでんの。
みき「みんな〜!」
遥香「みき、おかえり」
みき「みんな、大変なの!」
昴「大変って何が?」
391 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/08(土) 15:19:58.36 ID:D/03jL2M0
本編4-18
みき「さっきあっちのほうまで行ってイロウスを倒してたんだけど、あるイロウスの爆発が他のイロウスを刺激しちゃって、どんどん爆発が広がってっちゃった……」
八幡「てことはつまり……?」
みき「ここら辺、爆発まみれです……」
遥香「何やってるのみき……」
みき「だ、だって!久しぶりに先生にいいところ見せられると思って、張り切っちゃって」
昴「そんなこと言ってる場合じゃないよ!爆発がそこまで迫ってるって!」
若葉の言う通り、星月が走って来た方角から大きな爆発音が止まることなく鳴り響いていて、段々音量も大きくなっている。
八幡「こうなったら早くここから逃げるぞ」
みき、遥香、昴「はい!」
俺たちはもと来た道を引き返していく。だが、なぜか嫌な感じがする。
遥香「なんだかこっちからも爆発音が聞こえない?」
昴「うん、そんな気がする……」
みき「ど、どうしよう先生?」
八幡「とにかくここから脱出する。爆発に巻き込まれるのだけは勘弁だ」
そうして俺たちは方向転換を繰り返していったのだが。
昴「……先生」
八幡「なんだ」
遥香「この状況は、どうやって打開しますか?」
八幡「そんなこと俺が聞きたい」
みき「そんな〜」
八幡「もともとお前が撒いた種だろ……」
もうどこに行ってもイロウスが爆発しまくっていて逃げ場がない。いわゆる袋のネズミってやつだ。
昴「爆風を避けながら走れば、」
八幡「流石に無理だろ……」
遥香「私のスキルが先生にも効果があればよかったんですけど」
八幡「ごめんな。俺が星守じゃなくて」
成海はイロウスからのダメージを無効にする効果を持つスキルを持っているのだが、いかんせんただの人間の俺にはスキルが効かない。だから物理的にどうにかして爆発から逃げないといけないのだが、正直打つ手なくね?
みき「先生!私に考えがあります!」
なんでこんな状況になっても元気なんだこいつは。
八幡「……何」
みき「私があの爆発から先生を守ります!」
八幡「は?どうやって?」
みき「私の爆発系のスキルを使うんです!イロウスの爆発より強力なスキルが打てれば、爆発を相殺できて先生を守れます!」
思ったよりもまともなアイデアだった。でも致命的な欠陥を発見してしまった。
八幡「数体くらいの爆発ならともかく、四方八方から爆発は迫ってるんだぞ?お前1人でどうにかできるレベルじゃないだろ」
みき「あ、そっか……」
俺の指摘に星月はうなだれてしまう。が、成海と若葉は逆に明るい表情になった。
遥香「大丈夫よみき。私たちも一緒にスキルを使えばなんとかなるかもしれないわ」
昴「うん!3人で先生を守ろう!」
みき「遥香ちゃん、昴ちゃん……」
392 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/11(火) 00:46:35.61 ID:Rm0mq5+k0
本編4-19
八幡「……危険すぎる」
遥香「え?」
八幡「危険すぎるって言ったんだ。お前らのスキルがイロウスの爆発より強力な保証はないし、3人のスキルのタイミングと威力が少しでもずれたらバランスが崩れて、結果全員の命が危ない。そんな賭けに俺は乗れない」
昴「なら、先生はどうするのがいいと思うんですか?」
八幡「お前らが助かるのに最も確実なのは成海のダメージ無効スキルを使うことだ。俺に効果はないが、それでもお前らが助かる方を優先するべきだ」
最優先するべきは3人の安全だ。彼女たちはイロウスを倒せる唯一の存在、星守だ。そして、それ以前に俺の生徒だ。絶対に死なすわけにはいかない。
だが、俺の言葉を聞いて、3人は明らかな怒りを顔に出しながら俺に詰問する。
みき「それじゃあダメです!私たちは、4人でイロウスに勝つんです!先生1人だけ見捨てるなんて、私たちにはできません!」
八幡「だけど、」
遥香「逆に先生は私たちが失敗すると、そう言いたいんですか?」
八幡「いや、そういうことじゃない。が、」
昴「ならアタシたちに任せて下さい!アタシたちが必ず先生を守ります!」
八幡「お前ら……」
この星の星守は、俺の生徒は、想像以上に心が強い子ばかりらしい。まぁ、それくらいの気概がないと、こんな危険なことを自分からやりたい、なんて言う筈がないか。
八幡「……わかった。俺の命、よろしく頼む」
みき、遥香、昴「はい!」
……あぶね。なんだか笑みがこぼれそうになった。笑ってられる状況じゃないってのに。むしろこれからが本番だ。気を引き締めないと。
八幡「よし。そしたら作戦を立てるぞ。まずは俺を中心に3人は正三角形の頂点に立ってくれ」
昴「ここらへんですか?」
八幡「あぁ。それと、スキル強化のスキルを誰か使ってほしいんだが」
みき「はい!私が使えます!」
八幡「よし。そしたら星月のスキルを使ってから3人でスキル発動だ。なるべく同じスキルがいいんだけど、なんかないか?」
遥香「それなら『炎舞鳳凰翔』は私たちみんな使えます。爆発系のスキルで威力も同じです」
八幡「ならそれでいこう。後はタイミングのそろえ方だな」
みき「合図は先生が出してください!」
八幡「俺?」
遥香「そうですね。3人の真ん中っていうちょうどいいポジションにいるわけですし」
昴「先生の合図なら、アタシたちさらに頑張れますから!」
……むぅ。正直気乗りはしないが、3人が一番やりやすい状況を作る方が大事だしなぁ。ここは腹をくくるか。
八幡「わかった……」
遥香「では先生の『炎舞鳳凰翔』の掛け声に合わせて私たちがスキルを使うということで」
八幡「待て。なんで俺もあの恥ずかしいスキル名を言わなきゃならないんだ」
昴「だってアタシたちがスキルを使うときはスキル名唱えないといけないですし」
みき「それに先生も一回くらい一緒に言いましょうよ!意外と楽しいかもしれないですよ?」
材木座ならともかく、今の俺にそんな中二病抜群のスキル名を意気揚々と唱えられるほどのメンタルは備わっていない。つか、それ以前に俺の必殺技でもないんだよなぁ。今回はただ合図として技名を叫ぶだけ。ダサい事この上ない。
八幡「……楽しいかどうかはともかく、お前らがそう言うなら合図はそれでいこう」
でも、一度くらいは必殺技大声で叫んでみたいよね?だって男はみな、一生少年なのだから!
昴「よし!これでなんとかいけそうだね!」
遥香「絶対4人で学校に帰りましょうね」
みき「さぁ、みんな!頑張ろう!」
393 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/11(火) 02:38:40.36 ID:Rm0mq5+k0
スキル性能が一緒だから名前も一緒だと勝手に思ってましたが、実はスキル名は違ってたんですね。すいません。でも今回の話では3人とも『炎舞鳳凰翔』で統一します。これからはもっとスキルも確認します。
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 05:14:31.25 ID:5HaB/ylk0
おつ
細かいところは適当に補完していくからあんま気にしなさんな
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 06:59:37.15 ID:NeBvkbId0
乙
元々クロスオーバーでオリジ要素入ってるし多少はね?
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 08:18:30.19 ID:QnR8H8Jao
乙です
397 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/11(火) 23:24:31.03 ID:Rm0mq5+k0
本編4-20
段々爆発が迫って来た。そろそろ作戦開始かな。
八幡「よし。始めるか。星月頼む」
みき「はい!『メガスキルバースト』!」
3人の周りを黄色いオーラが包み込む。例えるならちょっとしたスーパーサイヤ人みたいな感じだ。
八幡「あとはタイミングを合わせてスキルを撃つだけだ」
みき「は、はい!」
遥香「みき緊張してるの?」
みき「う、うん。正直かなり……」
昴「あはは、実はアタシもけっこう緊張してるんだ。でも遥香は大丈夫そうだね?」
遥香「だって、こういう絶体絶命なシチュエーションってよく少年漫画にあるでしょ?それを今実体験してると思うと少しワクワクしてるの」
お前強いなぁ!オラわくわくすっぞ!ってか?心までサイヤ人になっちゃったのかな?
八幡「おい、もう爆発がそこまで来てるぞ。準備しろ」
俺の言葉に3人の雰囲気ががらりと変わる。もうお互いの顔も見ずに、ただ真正面のイロウスにだけ集中している。
八幡「いいか。俺が『炎舞』と叫ぶから、1テンポおいて3人は攻撃してくれ」
みき、遥香。昴「はい!」
俺は3人の背中を順に観察する。星月はソードを、成海はスピアを、若葉はハンマーを構えている。こうして後ろから眺めることは今までなかったが、改めて見てみると、頼もしい背中をしてるんだな。俺を「守」るって意志をひしひしと感じる。
もう爆発が目の前まできている。今まで遠くに見えていたイロウスは爆炎でまったく見えない。だが、至近距離にもイロウスは浮いてるし、それらも爆発しそうに膨張している。
八幡「……いくぞ。『炎舞』!」
みき、昴、遥香「『鳳凰翔』!」
刹那、3方向から凄まじい爆炎が放たれた。ちょうど俺周りで爆炎がぶつかり相殺されているが、周りは360度爆煙で包まれており視界は遮られてしまっている。
八幡「くっ……」
てか爆風がすごすぎて立ってられないんですけど。音もすごいし、本当に星月たちがどうなってるかわからない。
やがて爆煙が薄くなってきた。俺は立ち上がり急いで周りを見渡してみたが、いるはずの人影が見えない。
八幡「嘘だろ……」
最悪のシチュエーションが頭をよぎる。3人は身を挺して爆発から俺を守ったのか?3人が3人とも?はは、まさか。冗談だろ?
八幡「星月……若葉。成海!」
俺はありったけの声を出して叫んでみた。だが返事は聞こえない。
八幡「なんでだよ……」
俺が3人を死なせてしまった。否、殺してしまった。俺だけが犠牲になればこんなことにはならなかったはずだ。なんで俺はあの時、もっと強くあいつらを説得しなかったんだ……
その時、爆煙の下の方に何かの影が見えた。それはゆっくりとこちらへ近づいてくる。あぁ。イロウスの生き残りか。なら、いっそ俺もここで死んでしまうのがいいかもな。俺の死くらいじゃ償いにはならないが、俺にできることはこれくらいだ。
八幡「……殺せ!」
俺はその影に向かって泣き叫んだ。だが影はそこで動きを止める。
「何言ってるんですか先生?」
八幡「え?」
この声は、まさか……
みき「なんとかここまで這って来た私に『殺せ』ってどういうことですか?」
現れたのはぼろぼろの星月だった。
八幡「星月……?お前、なんで這って来たんだよ」
みき「全力でスキルを使ったら、歩く体力もなくなっちゃったんです。なのでこうして這ってきました」
八幡「……ふっ、なんだよ。そういうことかよ。ははっ」
俺は力が抜けて、地面に座り込みながら笑いだしてしまった。そんな俺を不思議そうに星月が眺めてくる。
398 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/11(火) 23:58:52.53 ID:Rm0mq5+k0
本編4-21
やがて成海と若葉も合流した。
昴「先生!無事だったんですね!」
八幡「あぁ。お前らも無事か?ケガはないか?」
遥香「はい。大丈夫です」
みき「ねぇ聞いてよ2人とも!先生ったら、私に向かって最初『殺せ!』って叫んできたんだよ?」
遥香「……どういうことですか?」
八幡「いや、なんか気が動転しててな。自分でもよくわからず口走っちまった」
お前らが死んだと思ってた、なんて口が裂けても言えない。
昴「先生本当に大丈夫ですか?実はどこか爆発に巻き込まれてたりしてませんか?」
八幡「なんともねぇって。強いて言えば疲れだな。ラボから一緒にいて身も心も疲れた」
みき「それって、私たちといると疲れるってことですか!?」
八幡「ま、そうとも言うかもな」
昴「ま、まぁまぁみき。実際、アタシも色々あって今日は疲れちゃったし、大目に見てあげようよ」
遥香「そうね。私もお腹空いたわ。早く何か食べたい」
4人でこんな雑談をしていると、通信機が鳴りだした。
八幡「はい。もしもし」
樹『比企谷くん!?無事ですか?』
八幡「えぇ。星月たちも全員無事です」
俺の返答の後、八雲先生じゃない人たちの歓声が聞こえた。おそらく他の星守たちが後ろの方にいるんだろう。
樹『よかった……』
八雲先生は心の底から安堵したような声を出した。
八幡「あの、周囲にまだイロウスの反応はありますか?」
樹『いえ、レーダーには反応はないわ。完全に消滅しています』
八幡「そうですか、ありがとうございます」
樹『えぇ。じゃあすぐに転送装置を起動させますね。そこで少し待っててください』
八幡「わかりました」
そうして通信は切れた。
遥香「学校からの通信ですか?」
八幡「あぁ。八雲先生からだ。俺たちが無事だって聞いて安心してたよ」
昴「あの、イロウスは?」
八幡「それもこの辺には反応はないそうだ。完全に殲滅できたってよ」
みき「やったー!」
そう言って星月は若葉と成海に抱きつく。
昴「こ、こらみき!いきなり抱きついてきたら危ないって!」
みき「えへへ〜」
遥香「もう、しょうがないわね」
3人はそのままお互いに抱き合って笑い合っている。ついさっきまで俺を守るために死ぬ気で奮闘していた星守とは思えないくらい楽し気に。ゆりゆりに。
八幡「ほら、そろそろ離れろ。八雲先生はすぐに転送してくれるって言ってたぞ」
みき「は〜い」
しぶしぶ3人は離れる。が、なぜか俺の両腕に絡みついてくる。やめて!柔らかい感触と女の子の香りが凄すぎて頭がクラクラする。
八幡「な、なにしてんだよお前ら」
みき、昴、遥香「先生!これからも私たちのことよろしくお願いします!」
399 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/12(水) 00:35:36.75 ID:krpYwvdr0
本編4-21
ラボでのやりとりと、イロウス殲滅の次の日の放課後。俺は総武高校のジャージを着てグランドにいる。なぜかと言うと。
昴「先生!ほらもっと頑張って!ワンツー!ワンツー!」
八幡「いや、もう、もう無理……」
このようにダンス特訓につき合わされているのだ。だが、なんだってあんな戦闘をした翌日からダンスしなきゃならんのだ。
遥香「ふぅ。そしたら少し休憩しましょうか」
八幡「そ、そうしよう……」
俺たちはグラウンドの木陰で休むことにした。
みき「あ、みんな!私、今日は疲労回復に効果のある料理を作ってきたんだ!」
八幡、昴「え?」
俺と若葉は同時にうめき声のような声を出してしまった。でも、この前みたいな料理だったらまだ食べられるかもしれない。もう絶望する必要なんて、ない!
遥香「何を作ってきたの?」
みき「えへへ〜、じゃーん!」
星月が開けたタッパの中には、なにか得体のしれない茶色の物体が得体のしれない紫色の液体の中に沈んでいた。
昴「み、みき?これは、なに?」
みき「え−、見ればわかるじゃん!レモンのはちみつ漬けだよ!私なりに健康に良さそうなものを加えたんだ。疲労回復には効果抜群だよ!」
もうどこにもレモンもはちみつもいない。これを食べたら間違いなく「こうかばつぐん」で倒れてしまう。
だが成海は躊躇なく茶色い物体を口に入れる。
成海「美味しいわみき!この前のスランプは抜け出せたみたいね」
みき「うん!今回は前のサンドイッチのリベンジも兼ねて、いつもよりも気合入れて作ったんだ!ほら、先生と昴ちゃんも食べて食べて!」
八幡「いやあ、実は俺そんなに疲れてなかったな。さ、すぐにでもダンスを再開するか若葉」
昴「そうですね先生!次はf*fのダンス教えますね!」
みき「2人とも、食べてくれないの?」
遥香「こんなに美味しいのにもったいないですよ」
だからこそ危ないんだろうが!と心の中ではツッコめるが、星月の泣きそうな顔を見ると、そんなことは言えるはずもない。助けを乞うように若葉を見るが若葉も同じようにいたたまれない表情をしている。
八幡「……わかった。食べるよ。ほら若葉も食うぞ」
昴「はい……」
俺の言葉に若葉も諦めたように頷く。そして恐る恐るレモンには到底見えない茶色い物体を1つ取り出す。
八幡「……ふぅ。いただきます」
俺はそれを口に入れるが……
ナニコレ!今までの星月の料理の中でも1,2を争うほどヤバい味だ。口の中だけじゃなくて、鼻の中にも危険なにおいが通過するし、物体に触れた唾液までもが食道や胃を破壊していくようだ。若葉に至っては顔色も茶色じみてきている。もはやこれは凶器というより兵器だな。
みき「先生どうですか!?」
八幡「あ、あぁ……少し食べただけでもすごい効くなこれ……」
みき「ほんとですか!?まだまだありますよ?」
八幡「いや……1つで十分だ。ありがとう……」
これ以上食べたら間違いなく病院行きだ。生身のジョーイさんに治療してもらわなくてはならなくなる。
遥香「さ、ではそろそろダンス再開しますか」
昴「待って遥香。アタシもう少し休憩したい……」
八幡「俺も……」
みき「2人とも立って!私、先生を引っ張り出すから、遥香ちゃんは昴ちゃん引っ張って!」
遥香「任せて」
こうして俺と若葉は強引にグランドへ引っ張り出されてしまった。く、このままダンスなんてして大丈夫だろうか?イロウスと戦う時より不安だ……
400 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/12(水) 00:37:43.91 ID:krpYwvdr0
以上で本編4章終了です。
>>394
,
>>395
の方々ありがとうございます。他の方も適宜補完してくれていると思いますが、この先もよろしくお願いします。
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/12(水) 02:37:10.33 ID:XFyX1Mono
乙です
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/12(水) 11:06:34.95 ID:Ws8AlcUOO
乙
綺麗にまとまりすぎてて最終回かと心配した
アニメと一緒に楽しみにしてるよ
403 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/12(水) 22:58:59.63 ID:krpYwvdr0
本編5-1
ある日の放課後。俺が職員室で作業をしていると、八雲先生に声をかけられた。
樹「比企谷くん、ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」
八幡「はぁ。なんですか?」
促されるままに職員用談話室に移動すると、天野、火向井、常磐がソファに座っていた。
ゆり「先生!」
望「先生が来たってことは、つまりそういうことかな?くるみ?」
くるみ「かもしれないわね」
なんの話だ?3人とも、何かわかったような口ぶりだが。
樹「比企谷くんも座って下さい」
八幡「はぁ」
事情が呑み込めない。3人の雰囲気から想像するに、怒られるわけではなさそうだけど。
樹「みなさん。今日は『修学旅行』について話すことがあります」
八幡「修学旅行?」
俺が不思議そうに聞き返すと常磐が何かに気づいたような声を出す。
くるみ「あ、先生は知らなかったんですね」
ゆり「毎年、星守クラスの高校2年生は普通クラスとは別の修学旅行に行くんです!」
望「まぁ、修学旅行って言っても毎年近場での日帰り旅行なんだけどね……」
八幡「日帰りで修学旅行?」
樹「えぇ。万が一イロウスが現れたときにすぐに対処ができるよう、日帰りにしているの」
旅行っていうか、遠足みたいだな。しかも星守クラスの高2だけというところがまた少し可哀そうではある。
八幡「修学旅行の概要はわかりました。でもなんで俺がここに呼ばれたんですか?」
「その説明は私たちがするわ」
ドアを開けて入ってきたのは、今日は仕事で学校を休んでいた煌上と国枝だった。
樹「えぇ、そうね。じゃあお願いしようかしら」
詩穂「はい。お任せください」
そう言うと2人は少し興奮気味に話し出す。
花音「実は私たちも事務所からお休みをもらえたから、みんなと一緒に修学旅行に行けることになったの」
望「おぉ!やった!」
花音「でも驚くにはまだ早いわ」
詩穂「さらにリフレッシュのために、と事務所負担で一泊二日の沖縄旅行をさせてもらえることになったの」
くるみ「沖縄なんてすごいですね」
詩穂「ふふ。それで私たちが事務所にお願いをして、皆さんも沖縄旅行の人数に入れてもらえたの」
ゆり「と、いうことは?」
花音「私たち星守クラス高校2年生全員で沖縄修学旅行に行けるってことよ!」
望、ゆり、くるみ「おぉ!」
3人のテンションも一気に高まる。まぁ近場での日帰り旅行が沖縄宿泊旅行になったらそりゃ喜ぶわな。しかも費用は向こう持ち。最高かよ。
花音「何1人他人面してんのよ。あんたも行くのよ」
ぼーっとしていた俺に煌上がなんかすごいことを言ってきた。
八幡「は?俺も?なんで?」
花音「なんでって……そんなこともわかんないの?」
詩穂「だって先生も私たちと同じ高校2年生じゃないですか」
八幡「いや、年齢だけ言ったらそうかもしれないけど」
404 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/14(金) 21:21:01.65 ID:qzloTAQI0
本編5-2
樹「さすがに泊まりとなると私も風蘭も都合つかなくて引率できないの。だから比企谷くん引き受けてくれない?」
引率係を同学年のぼっち男子高校生に頼むっておかしくない?と思いつつ煮え切らない態度を取っているとさらなる追撃が四方八方から飛んできた。
ゆり「私も風紀委員長として先生のお手伝いしますから安心してください!」
望「先生もアタシたちと一緒に沖縄行こうよ〜!」
くるみ「これを機に先生とゆっくり話してみたいです」
花音「というか今さらキャンセルなんてできないんだけど」
詩穂「先生が来てくれると、とても心強いです」
……こうして6人に言われてしまうと、もう断れないよなぁ。まぁ沖縄にタダで行ける機会なんて滅多にないしな。引率と言っても、こいつらなら別に危ないこともしないだろうし、やることないだろ。
八幡「……わかりました。俺も行きます」
詩穂「うふふ。ありがとうございます。では先生。来週はよろしくお願いしますね」
八幡「そんな直近だと旅程立てられないだろ」
花音「心配ないわ。ホテルの予約とかも含めてスケジュール立てはうちの事務所が全部やってくれるから」
望「おぉ!さすが大手芸能事務所!」
詩穂「実際のところは、私と花音ちゃんが一緒にいると行く先々にご迷惑をかけてしまうからその事前対策のためですけどね」
くるみ「有名人は大変なんですね」
ゆり「でも私たちの修学旅行なのに、全て決められてしまうのも何か違う気が……」
花音「一応、事務所のほうからは行きたいところがあったら教えて欲しいと言われてるわ。一泊二日だからそこまで沢山は無理だけど」
望「はいはい!せっかくの沖縄だし、海行きたい!」
天野がすかさず手を挙げながら大声で発言する。
詩穂「海いいわね。花音ちゃん、新しい水着買いに行きましょうよ」
花音「そうね。修学旅行だし少し奮発してもいいかも」
ゆり「み、水着だなんて破廉恥な!」
くるみ「でも海で普通の服着てるほうが変だと思うけど」
望「ゆり〜、もしかして水着になるのが恥ずかしいの〜?」
ゆり「そ、そんなことないぞ!私だって着ようと思えば水着くらい余裕だ!」
花音「じゃあ希望は海でいいわね」
煌上の言葉に5人が頷く。ははは。すがすがしいくらいに俺のことは無視ですか、そうですか。ミスディレクションを発動してるつもりはないんだけどなあ。
詩穂「先生の意見は聞かなくていいの花音ちゃん?」
おお。国枝は俺のことを覚えてくれていたらしい。
花音「どうせこいつは『暑いしめんどくさいからホテルから出たくない』って言うにきまってるわ。聞くだけ無駄よ」
煌上は当然のことのように話す。ふふふ。く、悔しいがその通りだから反論できない。
望、ゆり「確かに……」
そこ2人。俺より先に同意しないで。なんか悲しくなるから。
くるみ「本当に先生は行きたいところがないんですか?」
八幡「……まぁ、ないな」
花音「あんた、一応修学旅行なのよ?ちょっとは楽しみなことあるんじゃないの?」
煌上の何気ない一言が、俺のトラウマスイッチを押してしまった。どうやらこいつは修学旅行というものを勘違いしているらしい。一つ、修学旅行の黒い部分を教えなくてはならない。
八幡「修学旅行なんてトラウマが大量生産されるイベントだぞ。クラスで余ったやつ同士で班を組まされ、お通夜なムードの班行動。部屋では邪魔にならないようにおとなしくしてるのに、ネタの標的にされる。挙句の果てには持参した携帯ゲーム機で遊びだす始末だ。俺の修学旅行での役割なんて、観光地で妹と親のためにお土産を買うマシーンと化すくらいなもんだ」
俺の言葉に周りの全員がドン引きした。何人かは引くのを通り越して憐みの目線を送ってくる。
望「うわ。先生の修学旅行つまんなそ〜」
詩穂「色々苦労されたんですね先生……」
405 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/17(月) 18:14:55.06 ID:ZlOqQNIU0
本編5-3
八幡「とにかくだ。そういうことだから俺のことは無視して、お前らのやりたい修学旅行を計画してくれ」
俺は半分ヤケになりながらそう呟いた。
ゆり「ですが……」
花音「いいわよゆり。こいつのことは無視して私たちで計画立てましょう」
くるみ「いいんですか?詩穂さん?」
詩穂「先生もあのように言っているし、こうなった花音ちゃんは強情だからなかなか説得するのは難しいわね」
望「もう、先生ったら……」
俺たちのやりとりに一定の成果を見たのか、八雲先生がソファから立ち上がる。
樹「一応、話はついたかしら?あとはみんなで仲良く計画してね。どういう日程になったかの報告だけはしっかりお願い。私はもう行くわ」
「仲良く計画」とか無理難題なんだよなぁ。今まで人と仲良くしたことないし。
5人「はい!」
そんな俺のことは露も考えず、他の5人は元気よく返事をする。その返事を聞いて微笑みながら八雲先生は部屋を出て行った。あれ。てか俺も一緒に出て行けばよくね?うん、出よう。これ以上この空間に俺がいても意味はない。むしろ邪魔まである。
八幡「じゃ俺も行くわ」
俺が立ち上がろうとすると隣に座ってる常磐に腕を掴まれた。
くるみ「どこ行くんですか先生?」
八幡「いや、俺も仕事に戻ろうかなって」
詩穂「先生ももう少し私たちと打ち合わせしましょうよ」
こういう時の打ち合わせって結局雑談になってなに一つ進まなくなるよね。八幡知ってるよ。
望「じゃあ服屋巡りしちゃおうよ!」
ほら。天野がいきなり沖縄とは関係ないこと言い出した。
花音「せめてもう少し沖縄らしいイベント考えなさいよ……」
ゆり「だったら南国の暑い気候の中で特別特訓だ!」
いや、なんで修学旅行先で特訓するんだよ。μ'sでさえ合宿と言いながら海で遊んでるんだぞ。俺たちが特訓なんて出来るはずがない。
花音「修学旅行なんだから特訓はしなくていいんじゃないの?」
くるみ「八重山諸島には珍しい植物がたくさん生えてるのよね。細かく観察したいわ」
離島ですることじゃねぇな。つか離島なんて行けるの?
花音「離島まで行ってみんなで植物観察はちょっと……そもそも本島にしか行けないと思うわ」
詩穂「流れるようにツッコむ花音ちゃんカッコ可愛いわ」
八幡、花音「もうやりたいことでもないじゃない(か)!」
やべ。つい声を出してツッコんでしまった。しかもよりによって煌上とハモっちゃったし。ほら。俺のことすごい睨んできてるよ煌上。その目つきはテレビでやらない方がいいと思うぞ。ごく一部のマニアックな性癖の人は喜びそうだけど。
花音「まさかあんたと同じことを言っちゃうなんて。失態だわ」
八幡「うるせ。つか、お前はどっか行きたいところないのかよ」
花音「私?私は無難に首里城とか見れればいいかしら。遠くに行こうにも時間がかかるし、手軽に電車で行けるところで修学旅行らしい場所ってなると妥当なところじゃない?」
八幡「まぁ確かに」
ゆり「修学旅行ですもんね!その土地の史跡を巡るのも大切です!」
望「でもちょっと普通過ぎない?」
くるみ「海で遊ぶなら、少しくらいは勉強になるところへ行くことも必要だと思う」
詩穂「花音ちゃんが行きたいならどこへでもついていくわ」
八幡「煌上。否定の意見はあまりなさそうだし、首里城も候補に入れといていいんじゃないか」
花音「そうね。案外あっさり決まってよかったわ」
しまった。いつの間にか俺も打ち合わせにがっつり参加しちゃってるじゃん。ほんと場の空気って怖い。……まぁすぐ流される俺も悪いんだが。
406 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/19(水) 23:28:38.75 ID:TCAAurcq0
本編5-4
打ち合わせ、と言えるかどうかわからない何かしらが終わった数日後、俺はいつものごとく職員室で書類整理に追われている。近頃は特に修学旅行関係で学校に提出する書類作成をやらされている。八雲先生に「私は何をするかあまりよく知らないし、比企谷くんが引率するんだから、事務的な資料作成もお願いしたいの」と言われてしまい、しぶしぶ作っているのだが……
いかんせん俺も何をやるのかよくわからない。確かにこの前、いくつか行きたい場所の希望を出しはしたが、それだけだ。実際の旅程がどうなっているのかは何一つ知らない。大丈夫なのこの修学旅行?このまま計画だけで立ち消えとかにならないかな。旅行って計画している時が一番楽しくて、実際始まるとそれほど楽しくない、っていうのをよく聞くけど、今のところ計画してても全く楽しくない。なんならストレスばかり溜まっていく。これで旅行が始まったらストレス過多で倒れるかもしれない。精神的安静のためにも俺は旅行には行くべきではないと思います。
「せーんせ!」
そうやって心の中で文句を言い連ねていると後ろから声をかけられた。振り向くと天野たち高2の5人が立っていた。
望「はいこれ。修学旅行のしおり!」
そう言って渡されたのは女子高生らしい丸っぽい字で「星守クラス修学旅行in沖縄!」と書かれた分厚い冊子だった。一瞬タウンページかと思ったぞ。
八幡「なんでこんな分厚いの?」
ゆり「修学旅行は風紀が緩みがちなので、注意事項をたくさん記しておきました!」
(すごく慎ましい)胸を張りながら、火向井が自慢げに説明する。
八幡「はぁ……」
望「ごめん先生!ゆりがどうしても入れたいって言うから」
ゆり「何言ってるんだ望!修学旅行こそ真面目に取り組まなきゃいけない行事だ!何かあってからでは遅いんだぞ!」
くるみ「この6人でいて、危ない状況になることなんてないと思うけど」
俺は目の前で交わされるやり取りを無視して、しおりをパラパラ見ていった。火向井が作ったであろう細かい文字でびっしり書かれた注意事項のページはもちろん、それ以外のページもけっこう盛り沢山な内容だ。
八幡「これ全部読まなきゃダメか?」
俺の疑問に、煌上はため息をついてゴミを見るような目つきで座っている俺を見下ろしてきた。だから俺にそんな性癖はないってば。
花音「当たり前じゃない。それ一冊でスケジュール確認だけじゃなく、ガイドブックにも使えるように作ったのよ」
詩穂「花音ちゃん、頑張って市販のガイドブックから楽しそうな場所やおいしそうなお店をピックアップしていたものね」
国枝の言葉に煌上の顔がみるみる赤くなる。
花音「し、詩穂!それは言わない約束でしょ!」
くるみ「みんな頑張っていたんですね」
反対に常磐は冊子に目を落としながら他人事のようにつぶやいた。
八幡「常磐は何もしてないのか?」
くるみ「私も手伝おうとしたんですけど、私が近づくとパソコンはもちろん、印刷機も壊れてしまうので、できることがなかったんです」
八幡「なるほど……」
噂には聞いてたが本当だったとは。近づくだけで機械を壊すなんて、この科学の時代でどうやって生きてるの?
望「けどモデルコースの作成とかはすごく手伝ってくれたじゃん!くるみがいなかったらあんないいのできなかったよ!」
ゆり「それに注意事項のアイデアもたくさん出してもらったし、感謝してるぞくるみ!」
くるみ「本当……?ならよかった」
常磐はほっと胸をなでおろし、天野と火向井も安心したように笑顔になる。
八幡「ま、助かるわ。これがないと書類作れなくて困ってたんだ」
詩穂「なんの書類ですか?」
八幡「なんか生徒が修学旅行に行く際には色々提出しなきゃいけない書類があるんだと。それを作らされてるってわけ」
花音「へぇ。意外と真面目に仕事してるのね」
八幡「意外とってなんだよ……俺みたいな組織の底辺にいる人間は雑務であろうと仕事は断れないんだよ」
くるみ「大変そうですね。私もお手伝いします」
そう言って常磐は俺が作業するパソコンに近付いてきた。次の瞬間、パソコンから黒い煙が出てきて、画面が消えた。
八幡「あ」
くるみ「す、すみません……先生の力になりたいと思ってつい……」
八幡「いや、まぁ、まだ全然作業してなかったし、パソコンだって学校の備品だからそんなに問題はねぇよ」
実はそこそこ書類作ってたんだけどね!だけどここで本当のことを言って常磐を傷つけるのは間違っている。これくらいの分量、俺が徹夜で作業して取り返せばいいだけの話だし。
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/20(木) 22:36:26.62 ID:txL1VeP7o
乙です
408 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/21(金) 01:19:04.13 ID:6Z6IIi3h0
本編5-5
晩御飯も終わり、普段ならゲームしたりラノベ読んだりアニメ見たりと一段落するところなんだが今日は違う。もう家でも作業をしないと旅行に間に合わない。そうしてとうとう仕事を家に持ち帰る始末……あぁ。また一歩社畜に近付いてしまった……
小町「あ、お兄ちゃんがリビングでパソコンいじってる。ネットサーフィン?」
小町は質問しながら冷蔵庫をごそごそしている。チラッと見たがどうやら風呂上がりの恰好だったから、何か冷たい飲み物を探しているらしい。
八幡「ちげぇよ。仕事だ」
小町「し、仕事?お兄ちゃんが家で仕事?明日は槍でも降るのかな。鎧着なきゃ」
八幡「おい。珍しい光景なのはわかるがそこまでではない。せめて飴が降るとかにしとけ」
小町「そのツッコミ、文字だからこそできるやつだよね。でお兄ちゃん。なんで仕事してるの」
八幡「今度神樹ヶ峰で修学旅行に行くんだが、それまでに提出しなきゃいけない資料を作らされてるの」
小町「へー、どこ行くの?」
八幡「沖縄」
小町「沖縄!?」
小町が沖縄という単語に食いついた。小町は目を輝かせながら、飲み物とアイスを持って俺の隣に座る。
小町「いいなぁ。小町も沖縄行きた〜い!あ。これしおり?見てもいい?」
そう言って小町は例の分厚いしおりを手に取ってパラパラ読み始める。
八幡「俺の返事聞けよ。なんで質問したんだよ」
お前は「あー、タバコ吸ってもいい?」って聞いてくる喫煙者か。あいつら、承諾されること前提で聞いてくるからな。それでいて、こっちが拒否したら物凄い嫌そうな顔つきになるんだよなぁ。そしてその後、露骨に雑な対応しかしなくなるまでがお約束。マジであの時の店長許さん。拒否したからってバイトの面接速攻で終わらせて不採用にしやがって。
小町「まぁまぁいいじゃない。減るもんじゃないし」
八幡「まぁそうだけどよ……」
これ以上話してもろくな会話にならないから、俺は作業に戻る。しばらくしおりを読んだ後、小町はメモ用紙を取ってきて何か書きだした。
小町「はい。お兄ちゃん!」
渡されたのはさっき小町が何か書いてたメモ用紙。開いてみると『小町の欲しい沖縄お土産リスト』の文字。
八幡「ナニコレ」
小町「はーい。ではただいまから小町の欲しい沖縄お土産の発表でーす!はい。お兄ちゃん読み上げて」
小町がメモを指さしてくる。いや、もうお前が言えよ。なんで俺が言わなきゃいけないんだよ。
八幡「三位。ちんすこう」
小町「学校の人にも配りたいから多めによろしくです!では次!」
八幡「二位。シーサーの置物」
小町「縁起がいいからね!シーサーの御利益で高校受験でも『ワンチャン』スを掴み取る!」
八幡「すごいわかりにくいし、狛犬とごちゃ混ぜになってるぞ。なんならシーサーは犬ですらない。獅子、ライオンだ」
小町「そ、それくらい知ってるし?ちょっとしたアニマルジョークだよアニマルジョーク。ほら続き続き!」
八幡「……一位は小町直々に発表します」
俺がメモを読み上げると、おほんと小町は一つ咳ばらいをして話し出す。
小町「小町が一番欲しいのは、『お兄ちゃんと星守さんたちとのひと夏のアバンギャルド』だよ!キャー!」
自分で言って自分で照れてれば世話ないわ。もうダメだこの子。受験勉強のしすぎで頭がおかしくなったのかしら。
八幡「小町。正しくはアバンチュールだ。それに俺はひと夏の恋などしない。なんせ俺は引率の教師として行くだけだし」
小町「そんなのわかんないじゃーん。むしろ、先生と生徒の禁断の恋っていうシチュエーションのほうが燃えるかもよ」
八幡「やめろ。中には現役女子高生アイドルもいるんだ。あらぬ疑惑をかけられただけで、俺は燃えるどころか大炎上してしまう」
小町「まぁお兄ちゃんのことだし、そんなことは絶対ないと思うけど、それくらい楽しんできてほしいって小町は思ってるの。あ、今の小町的にポイント高い!」
八幡「はいはい、高い高い。でも小町も俺の心配より自分の心配した方がいいぞ?英語と歴史なんて特に」
小町「そうやって妹の弱点を指摘するの、小町的にポイント低いかも……」
不満を言いつつ、小町はまたしおりをパラパラめくって「いいなぁ」を連呼する。まぁ、待ちぼうけを食らう可愛い妹のために、沖縄では美味しいちんすこうと御利益のあるシーサー探しを頑張りますか。星守たちとは、まぁ、いつも通り接してればいいだろ。多分。
409 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/21(金) 01:24:52.34 ID:6Z6IIi3h0
なかなか沖縄行けない……高2組は人数も多く、修学旅行で遊ぶシーンも書きたいんでこれまでの本編より長くなるかもです。
あと、小町が予想外にアホの子になってしまった。ここまでアホにするつもりじゃなかったのに……
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/21(金) 15:08:57.38 ID:g1xC5UF/o
乙です
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/21(金) 17:06:56.46 ID:W5Q1kzQh0
人数多いしええんとちゃう?
八幡は同年代と喋ってる時が一番生き生きしてると思うよ
412 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/22(土) 19:37:19.68 ID:OoSZuS2Z0
本編5-5
いよいよ修学旅行当日。飛行機に乗るため俺は早朝から羽田空港へ向かう。しかし、羽田空港を東京国際空港と呼ぶのはいいとして、千葉県にある成田空港を新東京国際空港と呼ぶのはどういう理屈なんだろうか。東京ディスティニーランドといい、東京ドイツ村といい、千葉は東京の名を使いすぎじゃない?これはあれだ。もう日本の首都が千葉だというkとの証明なのだ。キャピタルオブジャパンイズチバ。なにこれちょっとカッコいい。
こんなしょうもないことを考えていたら空港に到着した。空港は駅とは勝手が違うらしい(小町談)ので、しおりに書いてある集合時間よりもだいぶ早く着いてしまった。暇だし空港内を少し見て回るか。外を見れば快晴。旅立ちには最高の天気やね!あ、枕忘れた!でも冷静に考えて飛行機には2時間半しか乗らないし、正直普通に邪魔。
そうして1人Wonderful Rush状態で空港をブラブラ歩いていると突然背中に何か細くて硬いものを押し付けられた。
「振り向かないでください。振り向いたら撃ちます。まずは近くの本屋へ行きなさい」
現状に理解が追いつかず、頭が真っ白になる。ここで俺死ぬの?うっすい人生だったなあ……葬式には戸塚来てくれるかなぁ。来てくれなかったら成仏できずに戸塚だけに見える霊「はちま」になる。もしくは胸に孔が開いて虚になる。
「早く歩きなさい」
なんだか聞いたことのある声にせかされ俺は歩き出した。
八幡「……はい」
数分歩いて本屋に着いた。
「では雑誌コーナーにある花音ちゃんが表紙の雑誌を4冊買ってきなさい」
……なんだか命令がおかしい気がする。それに今こいつ「花音ちゃん」って言ったか?
八幡「それらはなんのために使うんだ国枝」
詩穂「もちろん、鑑賞用、保存用、布教用、使う用です」
急にアホらしくなって俺は背中の感触を無視して振り返った。そこには俺の予想通り、ペンを持った国枝が立っていた。
詩穂「あら先生。おはようございます」
八幡「おはようございます、じゃねぇよ。朝から何してんだお前」
詩穂「ちょっとした遊びです。昨日読んだ推理小説の中で、犯人が名探偵を殺そうとして拳銃を背中に突き立てたシーンがあったんです。驚きましたか?」
国枝はイタズラっぽく笑って顔を近づけて来る。やめて。その笑顔はまさしく殺人級だよ。
八幡「別に驚かねぇよ。流石に非現実的すぎる」
詩穂「あら、事実は小説よりも奇なりとも言うじゃないですか。現実では小説以上にいろんなことが起きるものですよ。もしかしたらこの修学旅行の間にも何か起きるかも」
八幡「勘弁してくれ。俺はなんのトラブルもなくこの修学旅行を終えたいんだ。そもそも修学旅行自体が非日常的イベントなんだし、これ以上は俺の手に負えなくなる」
詩穂「うふふ。さあ。そろそろ集合時間ですね。遅刻したら花音ちゃんと火向井さんに怒られちゃいますよ」
八幡「だな。行くか」
---------------------------------
集合場所に行くと、すでに4人が集まって談笑していた。天野がいち早く俺たちに気づき、手を振っている。
望「お。先生!詩穂!おはよ!」
ゆり「みんな時間までに集まったな!」
くるみ「いよいよ出発ね」
詩穂「おはようございますみなさん。花音ちゃん。出発前にあのことを言っといたほうがいいんじゃない?」
花音「そうね。みんなちょっといいかしら」
煌上と国枝が俺たちの前に立つ。煌上はビデオカメラを取り出しながら話し出す。
花音「今、私たちはあるドキュメント番組の密着取材を受けているの。それで今回の修学旅行も取材したいってお願いされたんだけど、流石にプライベートだからって番組の人が同行するのは断ったわ」
詩穂「でも一応この旅行は事務所が私たちのお金も出してくれてるから、完全に断るのは出来なかったの」
花音「そこで私たちが自分たちで映像を撮るってことで妥協したの。だからこの修学旅行中みんなをカメラで撮って、もしかしたらその映像を放送に使うかもしれないけどいいかしら?」
望「もちろん大丈夫!むしろいい映像撮れるように協力するよ!」
くるみ「そうね。せっかくならいい映像撮りたいものね」
ゆり「……間違ってもくるみはビデオカメラには触らない方がいいぞ」
花音「みんなありがとう。じゃ、これよろしく」
そう言って煌上は俺にカメラを渡してきた。
八幡「……もしかしなくても俺が撮影係?」
花音「当然よ。そのためにあんたを呼んだのよ。もしあんたの目が映ったら放送事故扱いで使えなくなるし」
ですよねー。でも俺の目が放送事故レベルに腐ってるのは否定したい。せめてモザイクかければ映れるレベルだと自負してる。そして円盤では無修正でお届け!さらにオーディオコメンタリーも付けちゃう!
413 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/22(土) 19:39:02.06 ID:OoSZuS2Z0
>>412
は本編5-6でした。
414 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/24(月) 22:18:31.07 ID:Kc6EheuQO
理事長が今日誕生日だというのをさっき知りました。
今日中にSSを投稿するのは厳しいので明日か明後日には投稿します。
ひとまず牡丹理事長。お誕生日おめでとうございます!
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/25(火) 07:14:22.24 ID:AAob7kZlo
乙です
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/25(火) 10:39:23.63 ID:hniD30GzO
何歳になったんですかねぇ…
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/25(火) 14:46:42.63 ID:q0k1esct0
水着シーンお願いします
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/25(火) 14:47:50.50 ID:q0k1esct0
水着回お願いします
419 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 14:59:02.58 ID:Y6V0l6zS0
番外編「牡丹の誕生日前編」
梅雨が明け、セミの声が響き始めた。今年も暑い夏がやってくる。いっそ夏はさっさと通り過ぎて早く秋になってほしい。暑いの嫌い。でも夏に薄着になる女の子を見るのは嫌いではない、どうも俺です。
そんな夏の厳しい日差しが差し込む放課後。ラボに荷物を運んだ帰り道に校舎の外を歩いていると、1人で神樹の前に佇んでいる理事長を発見した。
独特のオーラというか、雰囲気というか、理事長の存在感は変わった人が多いこの学校内でも際立っている。現に俺がすぐ見つけられるくらいの存在感だし。
背後からの視線に気づいたのか、理事長は振り向いて俺に声をかける。
牡丹「あら比企谷くん。こんにちは」
八幡「どうも。そんなとこで何してるんですか?」
理事長はにっこり笑いながら返答する。
牡丹「神樹の声に耳を傾けていたんです」
八幡「神樹の声?」
理事長も常磐と一緒で植物の声が聞こえる能力者だったのか。あれ、でも同じ能力の実って存在しないはずでは?設定が歪んでますよ尾田先生!
牡丹「私は大地の巫女として神樹を守る役割を務めていて、そのおかげで神樹からの声を聞くことができるんです。くるみのようにすべての植物の声が聞こえるわけではないですけど」
また聞いたことのないような役職が出てきましたねえ。バトルマンガでよくある後付け設定かよ。で、中盤まではこういう後付け設定のバーゲンセールをしておきながら、結局風呂敷を広げたまま連載が終了していく事例が多数。もはやこの展開こそバトルマンガの王道、と言っても過言ではない。
八幡「なんだか大変そうなお仕事ですね」
牡丹「大変とは感じないけれど、特別な力が必要ですからね。その点では一般の人にはできない仕事と言えますね」
そこで理事長は何かを思いついたように手をポンと叩いた。
牡丹「そうだ。外は暑いですし、せっかくなら理事長室で涼んでいきませんか?」
確かにここは結構暑い。だけどわざわざ涼みに行くほどのことでもない。というか早く帰ればいいだけの話だし。
牡丹「それに、作りすぎて余ったおはぎもあるんです。是非比企谷先生にも召し上がってもらいたいんです」
躊躇している俺に対し理事長はさらに畳みかけてくる。……ま、おはぎを少しもらうくらいならいいか。
八幡「では、お言葉に甘えて」
牡丹「ふふっ。では行きましょうか」
俺は理事長に従って歩き出した。
---------------------------------
牡丹「どうぞソファに適当にかけてください。今お茶とおはぎを持ってきますね」
八幡「は、はい。ありがとうございます」
もう何回か訪れてはいるものの、やはりこの部屋には慣れない。居心地が悪いってわけではないが、なんだかこの空間だけ他の場所とは隔絶している印象を受ける。それが部屋の調度品のせいなのか、理事長自身の雰囲気のせいなのかはわからないが。
牡丹「お待たせしました。どうぞ」
そう言って理事長から渡された皿には、どこか高級店の商品だと勘違いしそうなくらい綺麗なおはぎが乗っていた。
八幡「これを理事長が作ったんですか?すごいですね」
牡丹「おはぎを作るのが趣味なんです。味にも自信があるのでどうぞ食べてみてください」
八幡「はい。いただきます」
俺はつぶあんおはぎを1つ口に入れてみる。
うわっ、え。めっちゃうまいんですけど。表面のつぶあんと、なかのもちもちのおもちが絶妙にマッチした食感を与えてくれる。それに甘すぎず、でも薄すぎないちょうどいい味付け。これなら何個でも食べられる気がする。
牡丹「いかがですか?」
八幡「とても美味しいです。正直、今まで食べたおはぎの中で一番おいしいです」
牡丹「あら。そう言ってもらえると作ったかいがありますね。他にも様々な種類のおはぎを作ってるんですが、いかがですか?」
八幡「いただきます」
この味を一度知ったらもう止まることはできない。俺はきな粉、黒ゴマ、抹茶、よもぎ、その他理事長オリジナル、と出されたおはぎを次々に食べてしまった。その光景を理事長はペットがえさを食べているのを眺める飼い主のように微笑みながら眺めている。なんだか餌付けされているようだな。うん。悪くない。
八幡「御馳走様でした。本当にどのおはぎも美味しかったです」
牡丹「あら。そこまで褒めてもらえるなら、理事長を辞めておはぎやさんでも開こうかしら」
理事長はくすくす笑いながらそんな冗談を言う。こんなふうに可愛く笑ってはいるが、この人八雲先生たちよりずっと年上なんだよな。一体何歳なんだ……
420 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 15:00:18.85 ID:Y6V0l6zS0
番外編「牡丹の誕生日後編」
牡丹「でも、それよりも私はここでの生活の方が面白いですし、充実していますね」
理事長はすこし遠い目をしながらつぶやいた。
八幡「神樹ヶ峰での生活が、ですか?」
牡丹「ええ。生徒のみんなが日々成長し立派な人間となってこの学校を巣立っていく。もちろん、淋しさもありますけど1人1人の成長を間近で見られるというのはやりがいですよね。特に、星守クラスの子にはどうしても目をかけたくなっちゃいますね」
八幡「まぁ、あいつら目を離すとろくなことしませんからね」
牡丹「それもまた面白いじゃないですか。それに、比企谷先生が来てくださってから、星守クラスの子たちはより充実した学校生活を送れていますし」
八幡「そうですか?別にあいつらなら自分たちだけで楽しくワイワイやれそうですけど」
牡丹「もちろんポテンシャル自体は彼女たちにもともと秘められていたと思います。ただ、それを開花させたのは比企谷先生のお力です」
八幡「そんな、俺は別に、」
牡丹「比企谷先生」
俺の反論を遮り、理事長は強い口調で俺の名前を呼んだ。
牡丹「謙遜は美徳です。でも過ぎればそれは醜いものとなり、周囲からの反発も受けるでしょう。特に比企谷先生はご自身の能力を過小に見ておられます。もっと自分を信じてください」
突然の理事長からの言葉に俺は少しの間、言葉が出なかった。
八幡「……ですけど証拠も何もないまま信じるのはできないですよ」
牡丹「あら。すでに証拠はあるじゃないですか。毎日毎日、比企谷先生に向けられる星守たちの笑顔。あれこそが比企谷先生の能力の高さを示す何よりの証拠ですよ」
俺には理事長の言葉に返す答えを持たない。確かに彼女たちは俺の前でいつも楽し気に会話している。たまにはそれに巻き込まれもする。だけど、それは果たして理事長が言うように俺のおかげなのだろうか。本当に俺は何もしていない。なんなら足を引っ張っている。空腹な人に魚を与えるどころか、魚の獲り方すらまともに教えられないのに。
牡丹「だから私、少し嫉妬しているんです。何年も星守と関わっている私よりも、短時間で容易に彼女たちを笑顔にしていく比企谷先生に」
八幡「理事長……」
牡丹「でも同時に、その何百倍も感謝しているんです。命がけで戦う彼女たちをこれ以上ないくらいの笑顔にしてくれているんですから」
理事長は見た目のかわいらしさからは想像がつかないほどまっすぐに俺を見ながら、真剣な口調で語り続ける。それに気おされてまったく身動き一つとれない。さながら覇王色の覇気を受けているみたいだ。
八幡「……」
牡丹「今日はこのことが言いたくて比企谷先生をお呼びしたんです。比企谷先生の周りには常に星守の誰かがいるのでなかなか言えなかったんですよ。比企谷先生はモテますから」
理事長はそれまでとは打って変わって朗らかな口調になる。そこで俺もようやく口が開くようになった。
八幡「あいつらはただ単純に俺をからかって遊んでるんだけです。むしろ積極的に話しかけてください。そして俺を助けてください」
理事長「あら、なら今度からは私もみんなと一緒に比企谷先生をからかおうかしら」
八幡「ははは。勘弁してください。あいつらがさらにつけあがるだけですから」
理事長「ふふっ。それもそうですね」
俺と理事長はお互いにクスクス笑いあった。
気づけば窓から夕日が差し込んでいる。夏は日が長いから油断しがちだが、けっこうな時間をここで過ごしてしまったのだろう。明日もあるし、そろそろ帰るとしよう。
八幡「すいません、そろそろ俺は帰ります。長い時間ありがとうございました」
牡丹「いえ、私も楽しかったですよ。おかげさまでいい誕生日を過ごさせてもらいました」
八幡「え。理事長今日誕生日だったんですか?」
牡丹「ええ。言ってなかったかしら」
八幡「初耳です……」
なんなら誕生日があることに驚いてる。この人が子どもの時とか想像つかない。いや、けっして見た目が子どもだから、とかではない。理事長ってなんかこの姿のままずっとこの世に存在している感じがする。神ですら神話では両親とか出てくるし、もはや神を超えた存在として俺は理事長を認識していた。
つーかこの人マジで何歳なんだよ。誕生日がくるってことは毎年1つは年を取ってるんだよな。取ってるんだよね?
牡丹「あら、比企谷先生。もしかして私の年齢のこと考えてますか?」
八幡「へ、いえ、別にそんなことはまったくちっともこれっぽっちも考えてないですよ?」
理事長のペガサス並みのマインドスキャンに対し、俺はしどろもどろに返事をしてしまった、助けて、もう一人の僕!
牡丹「そうですか。命を粗末にしない、いい心がけですね」
この世には触れてはいけないものが存在する。その最たるものが何なのか。微笑を浮かべる理事長を見て今日俺は痛切に実感した。
421 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/25(火) 15:04:04.53 ID:Y6V0l6zS0
以上で番外編「牡丹の誕生日」終了です。1日遅れてしまってごめんなさい理事長。
422 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 16:07:24.68 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たち@」
放課後、俺は特別棟の四階にある奉仕部の部室を目指していた。本心を言えば1ミリたりとも行きたくはないのだが、行かないと物凄く罵倒してくる雪女のように冷酷な部長だったり、犬のように寂しがる見た目はリア充だが頭はアホな部員だったり、毎度毎度訳のわからん依頼をしてくる生徒会長のあざとい後輩だったりがいるために行かざるを得ない。そういえば最後のは部員でもなんでもないじゃん。まぁ行ったところで大体は本を読むだけの活動しかしないのだが。
八幡「うす」
ドアを開けるといつもの席に3人が座っていた。
結衣「あ、ヒッキー!やっはろー!」
雪乃「こんにちは比企谷くん」
いろは「先輩おっそーい」
八幡「なんで一色いるの」
いろは「なんでって、今日は特訓の日じゃないですか。逆に私いなくていいんですか?」
一色が頬を膨らませながら文句を言う。はいはいあざといあざとい。そしてそんな一色に雪ノ下が本を読みながら話しかける。
雪乃「その男に何を言っても無駄よ一色さん。ろくに人と会話しないから、人の発する周波数を感知できなくなってるのよ。超音波を使わないと」
八幡「俺はイルカか。それなら鴨川シーワールドでショーしないといけなくなっちゃうんだけど」
雪乃「あら。なら比企谷くんはイルカ未満かしら。運動能力もたいしたことないし、それ以前に人を笑顔にする仕事なんて絶対にできないもの」
そう言う雪ノ下は満面の笑みを浮かべて生き生きしてる。それこそ水を得た魚のように。
結衣「まぁまぁゆきのん、そのくらいで……」
雪乃「そうね。そろそろ特訓に行かないと」
静「残念だが、今日は特訓はナシだ」
ドアを勢いよくあけて平塚先生が入ってきた。
雪乃「平塚先生、ですからノックを」
静「悪い悪い。でもイロウスが現れたんだ。もたもたしてる暇はない。お前たち。今すぐ殲滅に行ってこい」
雪乃「わかりました。どこに向かえばいいですか?」
雪ノ下が平塚先生から情報収集をする隣で、由比ヶ浜もふんふんそれを聞いている。
八幡「由比ヶ浜。お前、話聞いてもわからんだろ。じっとしてろ」
俺に注意されたのが不服だったのかぷんすかしながら由比ヶ浜が反論してきた。
結衣「そ、そんなことはないもん!ちょっとくらいはわかるし!よーし。これまでの特訓の成果を発揮してイロウス討伐頑張るぞー!」
いろは「結衣先輩張り切ってますねー。私は正直めんどくさいんですけど」
逆に一色はヤル気なさそうに正直すぎる感想を言う。うん。めんどくさいってとこには俺も共感するぞ一色。
八幡「でもお前そう言いながらいつもけっこう倒してるじゃん」
いろは「え、なんですか急に。はっ、もしかして今口説こうとしてましたかごめんなさい普段から見てもらえてるってわかってちょっと嬉しいですけどもう少し雰囲気のいい時に言ってもらえますかごめんなさい」
毎回よくこんなに一気にまくしたてられるよな。ある意味すごい。もう断られすぎてこんな境地に至ってしまったどうも俺です。
雪乃「何をぐずぐず言ってるの。早く行くわよ」
メモを持った雪ノ下が俺たちに声をかける。
いろは「は、はい!」
結衣「おー!」
八幡「はいはい」
こうして俺たちはイロウスが現れた現場まで急行した。
423 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 16:08:10.15 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちA」
八幡「ここか」
雪乃「えぇ」
着いたのは海岸の工場。いかにもバトルで出てきそうな感じのところ。仮面ライダーとか戦隊シリーズがよく戦うとこ的な。
いろは「この瘴気の色。いつ見ても気味悪いですねー」
結衣「だねー。そういえば瘴気が紫色なのってイロウスがブドウみたいな紫色の食べ物ばかり食べてるからかな?」
由比ヶ浜のアホ全開の発言に雪ノ下が恐る恐る口を開く。
雪乃「由比ヶ浜さん。冗談で言ってるのは百も承知で一応言っておくと、別に食べ物の色と瘴気の色は関係ないと思うわ……」
結衣「わ、わかってるよゆきのん!そんなかわいそうなものを見る目であたしを見ないで〜!」
八幡「おいお前ら。来たぞ」
前方の道に小型イロウスの群れが現れ、こっちに向かってきた。
雪乃「由比ヶ浜さん、一色さん。変身よ」
結衣「うん!」
いろは「了解でーす」
雪ノ下の声に合わせ、3人が星衣フローラの姿に変身する。雪ノ下は白を、由比ヶ浜はオレンジを、一色はピンクを基調とした星衣だ。
雪ノ下「2人とも準備はいい?」
結衣「いつでもOK!」
いろは「大丈夫でーす」
雪乃「では突撃開始」
雪ノ下を先頭に3人は一斉にイロウスに向かって突っ込んでいった。
雪乃「はっ」
結衣「やぁー!」
いろは「せい!」
みるみるうちに、道にいた小型イロウスは全滅した。
結衣「ふぅ。とりあえず近くのイロウスは倒せたね!」
いろは「あんまり手ごたえ無かったですねー」
雪乃「2人とも油断しないで。まだどこかに大型イロウスがいるはずよ」
3人が俺のところへ戻ってくる。ここで俺はいつも抱いていた疑問がふっと口から出た。
八幡「なぁ。ずっと思ってたんだけど、星守でもない俺がここに来る意味なくね?」
すると3人の表情が不満げなものに変わった。なんだよ。俺変なこと言ったか?
雪乃「比企谷君、あなたはこの2人の面倒を私1人で見ろとでも言いたいの?さすがの私でも戦いながら2人のフォローをするのはかなり厳しいのだけれど」
結衣「あたしはヒッキーに直接見てもらいながら戦いたいの!」
いろは「先輩がいないと、結衣先輩と雪ノ下先輩だけになっちゃうじゃないですか。そしたら緩衝材が、じゃなかった、場をとりなしてくれる人がいなくなって大変なんですよ〜」
3人ともが勝手な言い分を持ち出して俺に反論してきた。こうなったら勝ち目がないので俺はすぐ白旗を挙げる。
八幡「わかったわかった。俺が悪かった。だからこの話はもう終わりにしよう」
雪乃「わかればいいわ」
いろは「ほんと。いきなり何言いだすんですか先輩」
結衣「ヒッキーってそういうとこは鈍感だよね」
八幡「……うっせ。ほら。さっさと大型イロウス探しに行くぞ」
424 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 16:08:49.58 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちB」
結衣「あ!いた!」
探し始めてからほどなくして由比ヶ浜が大型イロウスを発見した。
いろは「あれはクィン種ですね」
雪乃「そうね。由比ヶ浜さん、一色さん。武器をガンに切り替えて」
結衣「あたしガン苦手なんだよねえ。リロードするのにいつも手間取っちゃって」
いろは「ああ。結衣先輩、オートリロードのスキル持ってないですもんね」
結衣「そうなんだよ〜。だからずっと撃ち続けられるいろはちゃんが羨ましい!」
雪乃「はぁ。いつも言ってるじゃない由比ヶ浜さん。リロードは緊急回避中に右手でガンを持ち、左手で、」
結衣「う、うぅ……」
八幡「そのへんにしとけ雪ノ下。由比ヶ浜の頭はもうパンク寸前だ。とりあえず目の前のイロウスを倒してからじっくり教えてやれ」
雪乃「そ、そうね。由比ヶ浜さん、一色さん、行くわよ」
ガンガン行こうぜ!という作戦でも設定してるのか、3人ともガンをガンガン打ち続ける。イロウスもガンガン倒れていく。
雪乃「電撃来るわよ。みんな避けて」
雪ノ下の前方のイロウスが攻撃態勢に移ったのか、雪ノ下が俺たちに注意を促す。
結衣「あ。弾切れだ。リロードリロード」
しかし、轟音が響く中、雪ノ下の背中側にいた由比ヶ浜にはその声が通っていないようだ。
八幡「おい由比ヶ浜!イロウスの攻撃が来るぞ!」
結衣「ふえ?」
由比ヶ浜は俺の声には気づいたようだが、イロウスの攻撃には気づいていない。俺は思わず走り出した。
雪乃「比企谷君!由比ヶ浜さん!」
八幡「くそっ!」
俺は由比ヶ浜の身体を抱き、自分もろともたたきつけるように地面に倒した。その直後イロウスの電撃が俺たちの上空を通過した。
結衣「ヒ、ヒッキー。ありがとう……」
由比ヶ浜が顔を赤らめながら小声でつぶやく。
八幡「……もっと周りに気を配っとけ」
結衣「う、うん」
改めて間近で見ると、星衣ってやっぱりエッチだよね。身体のラインがはっきりわかるデザイン。肩とか脇腹とか背中とか際どいを覆ってるのが黒いスケスケの布地。極め付けは短ーいスカトとハイソックスの間に光り輝く絶対領域。星衣作った人って何者?
だけどそれ以上に今は、胸に押しつけられてる2つのあったかくて柔らかな爆弾の感触にドキドキする。やべ。どうしよ。すぐに離せばよかったのに、今は逆にいつ離せばいいのかわからない。
雪乃「周りに気を配るのはあなたもよ比企谷君。いつまで由比ヶ浜さんのことを抱きしめてるのかしら?強制性交等罪で訴えられたいの?」
ぞっとするような冷たい声を頭の上から浴びせられたと思ったら、いつの間にか雪ノ下が俺たちのすぐそばに来ていた。俺は由比ヶ浜から離れて立ち上がりながら反論する。
八幡「どう見ても俺が由比ヶ浜を助けたところだろうが」
雪乃「あら。この前法律が変わって被害者の告訴が無くても訴えを起こすことが可能になったのよ。だから私が証言すれば比企谷君も立派な性犯罪者に、」
いろは「雪ノ下先輩。少し落ち着いてください……」
おお。流石いろはす。氷の女王から俺のことを助けてくれるのか。
いろは「先輩が犯罪者に見えるのはわかりますが、今そんなことをしても私たちに何もメリットがありません。どうせなら私たちにたっぷり慰謝料が入るように工作しましょう」
助けてくれませんでした。なんならもっとひどい提案を出してきやがった。
八幡「いい加減にしろ一色。そして雪ノ下も真剣に悩むな。即刻却下しろ」
雪乃「そう?割といいアイデアだと思わないかしら?刑務所で何年か過ごせば比企谷君の性格も更生できると思うわ」
八幡「そんな更生の仕方は絶対嫌だ……」
結衣「もう。2人ともいつまで話してるの?早くイロウス倒そ!」
雪乃「誰のせいでこうなったと思って……まぁいいわ。行きましょうか」
425 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 16:09:20.69 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちC」
大型のラプター種が5.6匹は飛んでいる。これは倒すの時間かかりそうだな。
八幡「雪ノ下。この数を相手にするなら少し対策を練ったほうがいいんじゃないのか?」
雪乃「そうね。由比ヶ浜さん、一色さん、一旦こっちに、」
結衣「いくぞー!」
いろは「ま、待ってください結衣先輩ー!」
雪ノ下の声は届かず、由比ヶ浜と一色はイロウスの群れに突っ込んでいった。が、イロウスの放つ電撃やら竜巻やらでロクな攻撃もできるはずがなく、すごすごと帰ってきた。
結衣「うぅ、避けるので精一杯だったよお……」
八幡「策もなく突っ込むのが悪い」
いろは「じゃあ先輩たちは何か戦術を考えついたんですか?」
雪乃「もちろん」
一色の発言を挑発だと捉えたのか、雪ノ下はまくしたてるように作戦の概要を伝えだした。
雪乃「まずは一色さんが私と由比ヶ浜さんにスキル強化をかける。次に由比ヶ浜さんがスキルで攻撃する。それでも倒せなかったら私がさらにスキルで攻撃する。こんな感じかしら。」
いろは「成程。わかりました」
結衣「頑張ろうね、ゆきのん!いろはちゃん!」
雪乃「えぇ。ではまず一色さん。お願い」
いろは「はい。『ハートフルガイザー』!」
一色の地中から湧き出た温泉が雪ノ下と由比ヶ浜を包む。
結衣「ありがとういろはちゃん!いくよ!『クリスティ・ナタリス』!」
由比ヶ浜のガンから星型の光が次々に放たれる。イロウスにはかなり効いているようだが、全滅にまでは至らない。
結衣「ゆきのんごめん!倒しきれなかった!」
雪乃「構わないわ。むしろよく倒してくれたほうよ」
雪ノ下が微笑みながら由比ヶ浜を労う。
雪乃「後は任せて。『ピュアハート・ブーケ』!」
雪ノ下の持つガンがブーケに変わる。さらに雪ノ下は素早い動きでイロウスに接近しつつ、上空にブーケを放り投げる。それが落ちてくるにしたがって巨大化し、イロウスに豪快に衝突する。
少しして、爆煙の中から雪ノ下が出てきた。
雪乃「終わったわ」
結衣「お疲れゆきのん!」
由比ヶ浜は雪ノ下に走りより思いっきり抱きつく。
いろは「いつ見てもすごい威力ですね〜」
雪乃「由比ヶ浜さん、離れて……ま、まぁ2人のスキルのおかげで威力も向上したし、2人にも感謝してるわ」
必殺技、雪ノ下のデレに由比ヶ浜は一瞬で堕ちたようだ。さらに強く雪ノ下を抱きしめる。
結衣「ゆきのん〜」
雪乃「由比ヶ浜さん、痛い……」
これ以上目の前でゆりゆりした光景を見せられても困るし、そろそろ家に帰りたいなあ。それに一色も手持ち無沙汰そうだ。
八幡「そろそろ学校に戻るか」
結衣「うん!あ、そうだゆきのん。戻ったら少し部室でお茶しようよ。いろはちゃんも一緒にどう?」
いろは「はい!ぜひぜひ!」
雪乃「私、戦闘で疲れたのだけれど……」
結衣「なら部室で休憩するってことで!ね?いろはちゃんも来たいって言ってるし」
雪乃「はぁ。わかったわ」
ちょっと雪ノ下さん。相変わらずあなた由比ヶ浜さんに甘すぎますよ。いつもの俺への冷酷さはどこ行っちゃったんですか?
426 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/25(火) 16:09:56.85 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちD」
戦闘終了を平塚先生に報告し、俺たちはまた奉仕部の部室に戻ってきた。雪ノ下は手早く人数分の紅茶とお菓子の準備を終える。
雪乃「さて、では簡単に今日の反省をしましょうか」
いろは「今回はラプター種が多かったですからねー。電撃を避けながら攻撃するのは大変でした」
雪乃「そうね。これからは遠距離攻撃を避けながら反撃する特訓も加えましょうか」
結衣「でもあんなにたくさんのラプンツェル?見たの初めてだった!」
何言ってんだこいつ。塔の上のお姫様が何人もいたらおかしいだろ。
八幡「ラプターな。それと由比ヶ浜はまず自分だけで突っ込むアホさを直すべきだな」
結衣「言い方ひどくない!?ま、まぁ確かにあたしが勝手に行動したのは悪かったと思う。だから、」
しょげながら由比ヶ浜は俺の方に椅子ごと近付いてきて頭を差し出す。
結衣「あ、あたしが次から失敗しないように頭なでて?ヒッキー」
この由比ヶ浜の行動に雪ノ下と一色がすぐさま立ち上がる。
雪乃「待ちなさい由比ヶ浜さん。まずは褒賞として戦果をあげた人からなでられるべきだと思うのだけれど」
いろは「お二人とも。ここは後輩に譲るべきじゃないですか?1人だけ年下っていう環境で私も頑張ってるんですから!」
そう、毎回毎回戦闘後はこうやって『なでなで』の順番で3人は言い争いを始める。由比ヶ浜はともかく雪ノ下や一色が真剣なのは未だ謎だ。俺は頭をなでたくはないと前に拒否したのだが、3人に武器を突き付けられて以来、素直に従うことにしている。
結局じゃんけんをして順番が決まったらしく、小さくガッツポーズをした雪ノ下が俺の近くに座った。
雪乃「さ、早くなでて頂戴」
八幡「はいはい」
俺は雪ノ下の小さな頭をなで始めた。このサラサラツヤツヤな黒髪の感触は何回なでても慣れない。でも、何回でもなでたくなる手触りをしている。
雪乃「ひ、比企谷君。もう少し強くなでてもらってもいいかしら」
八幡「ん」
雪ノ下は両手で強めになでられるのが好みみたいで、よくこういう注文をしてくる。カマクラの腹をワシワシするような感じでなでると、
雪乃「ふふ……」
こうして小さく満足げな声を出す。
結衣「はいゆきのん交代だよ!さ。ヒッキー!お願い」
まだ物足りなさそうな顔の雪ノ下をおしのけ由比ヶ浜が頭を差し出してきた。由比ヶ浜の茶色の髪からはいつもシャンプーのいい匂いが漂ってくる。多分けっこういいの使ってるんだろうな。
八幡「こうか?」
結衣「うん。できればもう少しゆっくりと全体的になでてほしい」
由比ヶ浜は雪ノ下とは対照的にゆっくりとなでられるのがいいらしい。俺は手のひらを大きく開いて、全体で由比ヶ浜の頭頂部だけでなく、後頭部もなでる。
結衣「やっぱりヒッキーは頭なでる才能あるよ!あたしが保証する!」
いろは「なら今度は私がその才能を享受する番ですね!」
今度は一色が由比ヶ浜をどかして俺の目の前の椅子に座る。
いろは「さ、先輩。待たせたぶん、後輩の頭をきちんとなでてくださいね」
八幡「へいへい」
一色は俺の返事を聞くと顔をずいっと近づけてきた。その顔を見ながら俺は頭をなで始める。はじめの頃は一色も頭を差し出していたんだが、最近は俺の顔を見ながらじゃないと嫌だと言うから、俺は一色の顔を間近で見ながら頭をなでる。
いろは「先輩、いつまでたってもなでなでするとき顔赤いですよね。見てて面白いです」
八幡「うるせ。そうそう慣れるもんじゃねえよ」
いろは「でも、だからこそ先輩になでてもらってると安心します」
雪乃「一色さん、そろそろ終わりよ。生徒会長のあなたが下校時間を守らないのはどうかと思うのだけれど」
いろは「あ、なら生徒会長と生徒会長が認めた人は下校時間を無視できる校則を作ります!」
結衣「それって職権乱用じゃない!?」
3人は大声であーだこーだ言い合っている。さっきまでイロウス相手に勇敢に戦っていたやつらとはまるで思えない。ま、これも含めて総武高校の星守の特徴って言えばそれまでなんだけど。
427 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/25(火) 16:16:31.45 ID:Y6V0l6zS0
以上で番外編「総武高校の星守たち」終了です。たまにはゆきのんたちの出番を与えたくて書きました。中の人つながりで、雪乃の星衣はくるみ、結衣の星衣は望、いろはの星衣は昴の色違いくらいに考えてます。
この番外編は本編とは全くつながりのないパラレルワールドです。本編中のゆきのんたちは普通の女子高生です。
428 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/25(火) 16:22:00.00 ID:Y6V0l6zS0
今思うと、雪乃と結衣のなでられ方の好みはキャラ的に逆の方がよかったかも。>
429 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/25(火) 16:25:12.16 ID:Y6V0l6zS0
>>428
の続き。
>>1
は自分の髪がぼさぼさになるよりも、なでられる嬉しさを実感しているというところに雪乃のかわいらしさが出るかなと思ったんです。みなさんそんなゆきのんを想像して読んでください。
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/25(火) 19:21:42.47 ID:jDRS2XNY0
乙です
久々に俺ガイルキャラ達の掛け合い見てると奉仕部の面々の掛け合いが楽しいわ
バトガのキャラ達は毒が少し足りなくて物足りなくなるんだよな…
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/25(火) 22:55:36.95 ID:q0k1esct0
水着回お願いします
432 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/27(木) 00:07:34.22 ID:KQfopEJA0
本編5-7
はいさーい!自分、比企谷八幡だぞ!
来た。来てしまった。これまで本州を出てこなかった俺が、ついにここ常夏の島沖縄に降り立ったのだ。しかも会社の金で。ま、本州どころか家から出るのすら珍しいんだけど。
望「うーん!ここが沖縄かー!あっついねー!」
ゆり「空港からすでに沖縄の雰囲気が漂っているな!」
くるみ「くんくん。南国の匂いがする」
俺と同じく天野、火向井、常磐も沖縄に着いたことで少しテンションが上がってるらしい。
花音「ほらみんな。電車に乗るわよ。こっちに来て」
詩穂「はーい」
対して煌上と国枝は勝手知った風に空港を歩いていく。なんなら教師役の俺より教師っぽい。
花音「何じろじろ見てるのよヘンタイ」
煌上が目を細めつつきつい言葉を浴びせてきた。
八幡「じろじろは見てねえっつうの。その、なんだ。お前ら2人はあっちの3人と違ってあんまりはしゃいでないなって思って」
詩穂「私たちはお仕事で沖縄にはたびたび来ていますからね。空港内の地図は頭に入ってるんです」
トップアイドルともなれば空港の中を覚えるくらい日本全国を飛び回らなきゃいけないのか。アイドルだけにはなりたくない。それ以前に絶対なれないけど。
花音「そういうこと。あと早くあんたはビデオカメラまわしなさいよ。到着したところも撮っておきたいから」
八幡「はいはい」
俺は羽田空港で渡されたビデオカメラのスイッチを入れる。途端に天野がカメラにピースしながら近付いてきた。
望「イェーイ!沖縄到着!」
花音「くるみとゆりも映りましょ。望だけに画を独占されるわけにはいかないわ」
ゆり「うう。でもこれがテレビに流れるかもしれないと考えるとやはり恥ずかしい……」
詩穂「そこまで深刻に考えなくても大丈夫よ。あくまでメインは私たちの舞台裏を特集する番組ですから、火向井さんが映るとしてもごくわずかな時間だと思うわ」
ゆり「そ、そうか?なら気楽に過ごせるな」
くるみ「でも撮るだけ撮ってテレビで流れないのももったいないですね」
花音「それも心配しないで。この修学旅行で撮った映像は後でみんなに思い出として配ろうと思ってるから」
望「なら余計にいっぱい映っとかなきゃ!みんなとの楽しい思い出いっぱい残したいもんね!」
楽しい思い出、ね。確かにこいつら5人は楽しい修学旅行を過ごせるだろうな。仲のいい5人で沖縄で気兼ねなく遊べるんだから。逆に俺は社員旅行の気分。なんならカメラマンをこなさなきゃいけないあたり、出張と呼んでもいいまである。
ゆり「あ。でもそしたらカメラを回している先生は映像に残らないんじゃないんですか?」
八幡「俺は別に映んなくていい。お前らが映っとけば十分だろ」
くるみ「それはダメだと思います。やっぱり全員で楽しまないと」
望「くるみの言う通り!ほら先生カメラ貸して!」
そう言って天野はカメラを強奪する。そして通行人に声をかけカメラを渡した。どうやらその人に撮ってもらおうという魂胆らしい。
望「さ。これでみんなで映れるね!」
八幡「ここまでしなくていいのに……」
花音「ま、少しくらいなら全員で映るのも悪くないかもね」
くるみ「せっかくだから旅の始まりっぽく、みんなで『沖縄修学旅行スタート』って言ってみたい」
詩穂「あっ、それいいわね。記念にもなりそう」
ゆり「よーし、じゃあみんな先生を中心にして集まろう!」
火向井の声掛けでなぜか俺を中心にして5人が左右から押してくる構図になった。痛い暑い苦しい。それに柔らかい感触といい匂いも混ざって頭がクラクラする。
詩穂「じゃあ花音ちゃん。合図お願い」
花音「わかったわ詩穂。いくわよみんな!せーのっ!」
『沖縄修学旅行スタート!』
433 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/27(木) 23:28:20.11 ID:KQfopEJA0
本編5-8
俺たちは空港からゆいレールなる沖縄唯一のモノレールに乗って最初の目的地、首里城に向かう。
電車に揺られること30分ほど、終点の首里駅に着いた。すでに視界には小高い山と、いくつもの首里城への行きかたを示す看板がある。
花音「さ。ここから山の反対側にある入り口まで歩くわよ」
八幡「へいへい」
俺たちは煌上を先頭に歩いていく。しおりによるとここは首里城公園と言って、沖縄の歴史も自然も堪能できる空間になってるらしい。
ゆり「す、すごいな!これが世界遺産の首里城か!」
詩穂「ま、まぁ正確に言えば世界遺産はこの中の一部だけですけどね」
望「公園と言うだけあって、この辺りは自然が豊かだね!」
確かに天野の言う通り、山の上に見える首里城を取り囲むように色々な植物が生えている。そしてこういう自然の多い場所では、必ずあいつがあれをしているはず。
くるみ「え、あの、えーと」
思った通り、常磐はある木に向かって何かしゃべっている。だが何かいつもと違って困惑している。
八幡「おい、どうした」
くるみ「あ、先生。今ここの木さんに話しかけてみたんですが、沖縄の方言を話されてしまって何を言ってるかわからないんです」
その土地によって植物も方言使うのかよ……。まぁ大木ともなれば人間よりも長生きするし、昔ながらの言葉を使うっていう理屈も通らないわけじゃないが、違和感がぬぐえない。そもそも植物が話すってことですら未だに信じられない。
八幡「いや、俺に言われても俺も方言分かんねぇし」
はいさーい!、なんくるないさー!くらいしか知らない。あとラフプレーが多いテニス部がいるんだっけ。俺の沖縄知識の偏りが激しい。
詩穂「この木はなんて言ってるんですか?」
俺たちが悩んでるところに国枝もやって来た。
くるみ「えーと、多分『でーじ、ちゅらかーぎー』と言ってると思う」
詩穂「そう。『にふぇーでーびる』」
国枝は聞いたことが無い言葉、おそらく方言を使って木に向かって話しかけた。男が方言を話してもキモいだけだが、方言を話す女の子ってそれだけで魅力が5割増しになる法則、あると思います。
くるみ「詩穂さん。木さんはなんて言ってたんですか?」
詩穂「『とても美人だね』って言ってたのよ。うふふ。お上手な木さんね」
八幡「てことはさっきの返事も方言か」
詩穂「はい。『ありがとう』と言ったんです」
八幡「つかなんでお前沖縄の方言知ってんの?」
詩穂「それは、秘密です」
国枝は口に人差し指を当てながら答える。くそ。なんだかんだこいつもけっこう言動あざといよな。
望「おーい。みんなー!そろそろ行くよー!」
遠くで天野が俺たちを呼んでいる。早く合流しないとまたグチグチ言われかねない。
声をかけるため俺が振り向くと、常磐と国枝が2人そろって花に向かってしゃがみながら話している。
詩穂「常磐さん、このお花はなんて言ってるの?」
くるみ「このお花さんは『はじみてぃ、やーさい』と言ってますね」
詩穂「それは『はじめまして』って意味ね。なら私たちは『よろしくお願いします』っていう意味の『ゆたしく、うにげーさびら』と返してみましょうか」
くるみ「わかりました」
詩穂、くるみ「『ゆたしく、うにげーさびら』」
2人が花に向かって方言を話す姿はとても絵になるんだが、これ以上ここにいるわけにもいかない。
八幡「2人とも。あっちで天野が呼んでる。行くぞ」
くるみ「わかりました。詩穂さん。沖縄の言葉教えてくれてありがとう」
詩穂「こちらこそ、沖縄の木や花と話すなんて初めてだったから楽しかったわ。ありがとう」
2人はそう言い合うと走って俺に追いついてきた。
434 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/07/27(木) 23:31:00.64 ID:KQfopEJA0
詩穂が沖縄の方言を知っているのは、中の人の下地さんが沖縄出身というのが理由です。実際に下地さんが方言を話せるかはわからないです。
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/28(金) 16:33:00.36 ID:Te9fdHsno
乙です
436 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/30(日) 00:06:39.52 ID:QS4gFRIP0
本編5-9
6人「おぉー」
俺たちは公園を挟んで駅から反対側にある入り口から順路に沿ってえっちらおっちら歩いて、ようやく頂上の正殿付近までたどり着いた。
しかし、けっこう歩いたな。暑さも加わってかなり疲れた。
くるみ「壁も床も赤いですね」
ゆり「やっぱり赤はいいよなくるみ!」
八幡「これ建てるのにいくらかかったんだろうな」
ゆり「先生。もう少し真面目な感想を言ってください……」
俺のぼそっと言った感想に火向井が食いついてきた。なんでだよ。常磐のと同レベルの感想だったろ。
八幡「うるせ。てかここに来るまでにあった守礼門は二千円札にも描かれてるんだぞ。てことはここでお金の話をしても何ら問題はない。むしろ当たり前のことだ」
花音「沖縄に来てまで屁理屈を言うのはやめなさいよ。みっともない」
八幡「人間そうやすやすと変われねえんだよ。てか、そう簡単に変わってたまるか」
俺の反論に煌上は頭を振る。
花音「……はぁ。アンタと話してると頭痛くなってくるわ」
詩穂「大丈夫花音ちゃん?熱中症?水分補給はしてる?あとすぐ日陰に移動しましょう」
花音「だ、大丈夫よ詩穂。心配しないで」
望「あ。なら正殿の中に入ってみようよ!建物の中なら涼しいだろうし、いろんな展示もあるんだって!」
天野は待ってましたとばかりに大声で提案する。
ゆり「望は着付けがしたいだけなんじゃいのか?」
火向井は入り口でもらったパンフレットにある「正殿で琉球衣装着付け体験!」のページを天野に見せつける。
望「ばれたか……でもこんな経験めったにできないしやろうよ!」
くるみ「私たちでも着れるのは面白そうね」
詩穂「そうね。可愛い琉球衣装を着た花音ちゃん見てみたいし」
花音「ちょ、ちょっとやめてよ詩穂!」
誰も異論を出さない。ならさっさと中に移動したい。正直外の日差しがきついし、下も赤いから余計眩しく感じる。
八幡「んじゃ、行くか」
5人「はーい!」
437 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/30(日) 00:20:17.54 ID:QS4gFRIP0
本編5-10
正殿内部も豪華絢爛な部屋と装飾に溢れている。御差床っていう玉座が特にすごい。柱に金の竜が描かれた赤い小さな鳥居の奥にある一段高くなってるところに赤と金の椅子が置いてある。そしてその両脇には腰くらいの高さの金の竜の柱まで付いてる。
なんか沖縄の王様、赤と金と竜好きすぎない?中二病にでも罹ってたの?
というか。いつの間にか周りに誰もいなくなってるんですけど。俺がゆっくり見すぎてたから先行かれたのかな。ま、順路は1つだし、直に合流するだろ。
ゆり「あ!先生が来た!」
くるみ「ずいぶんゆっくり展示を見てたんですね」
ようやく合流できたようだ。あいつらろくに中見てないな。
八幡「あぁ。なかなか見られるもんじゃないしな。って……」
目の前にいる5人は目にも鮮やかな琉球衣装を着ている。アイドルやってる2人はともかく、他の3人ももとは悪くないから余計目立つ。さながら王国時代の女官と言った感じだ。いたかどうか知らないけど。
望「どうどう先生?アタシたちイケてるでしょ?」
八幡「っ、まぁ確かに不自然さは感じないな。衣装も綺麗だし」
ゆり「じゃあ先生も着替えてきてください!ここでは衣装を着た人に写真撮影をしてくれるサービスもあるんです!先生もこれを着てみんなで記念に写真撮りましょうよ!」
八幡「いや、別に俺は」
係員「それではどうぞこちらへ。今日は特別に琉球王国の王様の衣装をご用意しております!」
火向井の声を聞きつけすぐさま係員が試着室へ誘導してきた。ここまでされたら断れないだろうが。
--------------------------------
着替えを終えた俺は試着室を出てみんなのいるところへ向かう。
八幡「待たせた」
望「お、先生。って、ぷっ」
花音「ふふっ、笑ったらダメよ望。いくら絶望的に似合わないからって、ふふっ、笑ったら失礼よ」
天野と煌上は口とお腹を押さえているが、笑いを堪えきることはできていない。
八幡「お前ら2人とも失礼だからな」
ゆり「そうだぞ!先生は私たちのために恥を忍んで着てくれているんだ!感謝しないと!」
くるみ「ゆりの発言もフォローになってないと思うけど」
詩穂「でもこれでみんなで写真が撮れますね。さ、先生。そこの真ん中の椅子に座ってください」
八幡「え、いや、それは恥ずかしいと言うか」
望「今さら何を恥ずかしがるの!もうすでに、ぷぷぷ」
花音「ふふふ、望の言う通りよ。そんな恰好を見せられておなか痛くなる私たちの気持ちも考えなさいよ。ふふっ」
八幡「お前らマジで覚えとけよ」
仕方なく俺は用意されてある椅子に座った。そんな俺の両脇と後ろを5人が囲む。
くるみ「こうしてるとなんだか家族写真みたい」
ゆり「家族か。そしたら先生が夫で私がその妻に……いや、私は何を考えているのだ……」
詩穂「うふふ。私が結婚したら、先生に毎日手料理を食べてもらえるのかしら」
望「先生の奥さんか。色々大変そうだけど意外と楽しそうかも……」
花音「……あいつは普段頼りないから私がちゃんと引っ張ってあげないと」
くるみ「先生と家族。お花さんと先生と一緒に暮らす……なんだか胸がポカポカする」
5人とも何言ってるんだ。全員小声でつぶやかれると怖いんだけど。
八幡「……お前ら。ブツブツ言ってないで前見ろ。係員の人困ってるぞ」
5人「あ」
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/30(日) 15:22:34.51 ID:BjgVYN170
観光が普通に面白い
439 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/07/31(月) 19:01:36.16 ID:aPwtFzI90
本編5-11
首里城周辺を堪能した俺たちは荷物を置くためホテルの前にやって来た。が、
八幡「なぁ、本当にここで合ってるのか?」
花音「えぇ。地図を見ても『ホテルメイプル』って名前からも、ここで間違いないわ。一応……」
望「でもさあ、流石にアタシたちには場違いなホテルじゃない?」
ゆり「一介の高校生が泊っていいホテルではないのは確かだな」
くるみ「もしホテル取れてなかったら私たち野宿?」
こうして俺たちはホテルの中に入ることができていない。理由は簡単だ。ホテルが明らかに高級すぎるのだ。少なくとも修学旅行に使うようなとこではない。大金持ちがバカンスで泊まるような感じ。
詩穂「メイプル、メイプル、あ」
ホテル名を呟いていた国枝が何かに気づいたようだ。
望「どうしたの詩穂?」
詩穂「うふふ。そういうことね」
ゆり「な、何がだ?」
詩穂「先生、みなさん。このホテルで間違いないですよ。さ、行きましょう」
国枝はそう言うとテクテク歩いていってしまった。
花音「ちょ、ちょっと待ってよ詩穂。どういうこと?」
詩穂「入ればわかるわよ花音ちゃん」
くるみ「なんなんでしょう先生?」
八幡「わからん……」
半信半疑、いや零信十疑でホテルの中に入ると、きらびやかで開放的なロビーが広がっていた。天井には大きなシャンデリアが輝いて、置かれているソファやテーブルも明らかに高そうなものばかりである。
そうしてきょろきょろする俺たちのもとへ、すぐにホテルの従業員の人が俺たちの所へやって来た。明らかに不審者を見る目つきだ。
従業員「ご予約されているお客様でしょうか?」
すかさず煌上が俺の脇をつつく。なんだよ。俺が対応しろってか?
八幡「は、はい。『神樹ヶ峰女学園』でしていると思います」
俺が答えると途端に従業員の人の顔から警戒心が解けて歓迎の表情に変わる。
従業員「ああ。神樹ヶ峰女学園の皆さまでしたか。遠路はるばる、ようこそいらっしゃってくださいました。ただいま支配人を呼んでまいりますのでそちらにおかけになってお待ちください」
八幡「は、はい」
言われた通り俺たちは近くのソファに腰かけた。一体何がどうなってるんだ。
数分していかにも支配人って感じのスーツを着たダンディーなおじさんが歩いてきた。なんかめっちゃカッコイイんですけど。
支配人「私が当ホテルの支配人でございます。神樹ヶ峰女学園の皆さまですね。お待ちしておりました。お部屋は最上階のロイヤルスイートルームをご用意しております。どうぞこちらへ。お荷物もこちらでお持ちいたします」
支配人は数人のボーイを呼び、荷物を運ばせる。俺たちも支配人に続いてロビーを歩く。
八幡「あの、失礼なんですけどロイヤルスイートルームって何かの間違いでは?」
支配人「神樹ヶ峰女学園の皆さまには私共、心からのおもてなしをさせていただきたいと思っております故、最高級のお部屋をご用意するのは当然でございます」
八幡「いえ、そのなんで神樹ヶ峰女学園の人にはそんな特別待遇を」
支配人「それは、」
詩穂「ここが千導院家が経営するホテルだからですよね?」
花音「どういうこと?」
詩穂「ホテルの名前にあった『メイプル』は日本語に直すと『楓』になるの。私たちを泊まらせてくれるこんな高級なホテルなんて千導院さん関係以外には考えられないわ」
支配人「その通りでございます。楓お嬢様から直々に連絡がございまして、皆様方に最高級のおもてなしをするよう申し付けられております」
望「なーんだ。そういうことか。なら安心だね」
ゆり「ホッとした……」
くるみ「野宿しなくてよかった」
440 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/08/02(水) 19:49:06.56 ID:o+HIqkZx0
ヤンデレ回お願いします
441 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/02(水) 23:20:21.17 ID:5puOrNPU0
本編5-12
支配人「ではこちらが皆さまが宿泊されるロイヤルスイートルームでございます」
支配人がカードキーをかざすとドアが自動で開いた。遠慮がちに中に入るとそこは別世界だった。
ドアのまっすぐ前には大きく開放的な窓。そして何十畳もある塵一つない洋室。その隣には和室とベッドルームがある。まるでどこかの貴族になった気分になってくる。
ゆり「こ、ここを私たちが使っていいんですか?」
支配人「もちろんでございます。もし足りないものがあれば何なりとお申し付けください」
詩穂「ここからは那覇の景色が一望できるのね」
望「先生先生。この部屋こそビデオに残しとくべきなんじゃない?」
八幡「あ、ああ。そうだな」
余りの豪華さに頭が回ってなかった。確かにここの映像は残しておく価値がある。多分、もう一生来れないだろうし。
八幡「で、この部屋は女子が使うとして、俺の部屋はどこなんですか?」
支配人「俺の、とおっしゃいますと?」
花音「だからこいつ用の他の部屋よ」
支配人「ですから、他の部屋と言われましても、このお部屋1つのみしかご用意しておりませんが……」
八幡「いやいや、流石に女子と同じ部屋で寝るのはちょっと……」
支配人「しかしこのお部屋以外は本日満室でして、別のお部屋をご用意するのは無理でございます。あ、私そろそろ他の業務もありますのでここで失礼いたします。また何かありましたらお声かけください。では失礼いたします」
そう言って支配人は部屋から出ていった。ビデオを持つ手もだらりと下がってしまう。
八幡「おい、マジか……」
ラブコメの神様頑張る方向間違えてないですか?こういうのって、教師に見つからないように女子の部屋に忍び込んで、そこでハプニングが起こって女子の布団の中に隠してもらうっていうのがテンプレじゃないの?最初から同じ部屋だったらドキドキもワクワクもあったもんじゃない。まあ、ラブコメ展開なんて求めてもないけど。
くるみ「なんで先生も一緒の部屋だとダメなんですか?」
ゆり「なんでって……高校生が男女同じ部屋で寝るなんて、どう考えても風紀違反だろ!」
詩穂「そうは言っても他のお部屋は空いてないんですよね」
花音「仕方ないわ。今夜は女子がベッドルームで寝て、こいつには仕切りがある和室で寝てもらいましょ。幸いこの部屋にはたくさんの寝具があることだし、私たちが詰め合えばどうにか寝られるでしょ」
八幡「……なんかすまん」
望「べ、別に先生が悪いわけじゃないんだから謝らないでよ!」
詩穂「どうにかなりそうですし、大丈夫ですよ」
花音「じゃあそういうことで一旦荷物を自分の部屋まで運びましょ。あとどのベッドで寝るかも決めなくちゃ」
ゆり「くるみはどこがいいとかあるのか?」
くるみ「私は別にどこでもいいわ」
はしゃぎながらベッドルームに移動する5人を見届け、俺は和室に自分の荷物を運び入れる。
はぁ。なんかとんでもないことになったな。そもそもこの部屋の雰囲気にすら圧倒されているっていうのに、それに加えてあいつらと同室だと?これなんて言うタイトルのラノベですかね。まず間違いなく主人公は青春を間違えずに過ごせているだろうな。そしてヒロインは何人か候補が出てくるが、主人公は最後まで誰とも付き合わない。うわ。主人公爆発しねえかな。
花音「ねえ。まだ?」
八幡「え、おう。今行く」
急いで仕切りを開けると洋室のソファに5人が座っていた。
詩穂「ではこれから夜の行動を決めましょうか」
八幡「まだどっかでかけるのか?もうこのホテルでゆっくり休めばよくね?」
望「せっかく沖縄来たんだから回れるところは回ろうよ!」
ゆり「望の言う通り!明日は明日で忙しいから、今日のうちにお土産も見ておきたいしな」
花音「ならここから歩いてすぐのところに国際通りっていう有名な商店街があるわ。お土産を見つつ、そこで晩御飯を食べましょうよ」
くるみ「いいですね。国際通りには沖縄の特産品の野菜もたくさん売ってるらしいですし」
詩穂「弟や妹たちにたくさんお土産買ってってあげなきゃ」
そういや俺も小町にお土産ねだられてたっけ。ま、小町のために俺も行きますか。うん。
442 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/05(土) 10:59:19.53 ID:sobaTzMs0
本編5-13
夕方にホテルを出た俺たちは煌上の提案に乗り、お土産と晩御飯を食べるために国際通りという商店街にやって来た。
が、5人は商店街に着くや否や、女子高生特有のハイテンションで色々物色し始めたので、俺はそいつらから離れて1人で道をふらついている。
さてどうするか。とりあえずシーサー探すか。ちんすこうは安いのを大量に買えばいいが、シーサーはそうはいかない。なんてたって小町の合格がかかってるわけだし。
と思っていると、少し通りを外れたところにちょうどいい感じのお土産屋さんを発見した。何がちょうどいいって若い店員がいないこと。なんなの表の客引きは。何回も若い兄ちゃんに強引に店内に引き込まれそうになったんだけど。しかも、そういう店に限って品ぞろえ良くないし。客を引き込む努力より、いい商品を置く努力をしろ。じゃないと俺みたいなボッチな客に何も買ってもらえないぞ。
八幡「なんかいいのあるかな」
この店は品そろえもよく、本当に小さなシーサーから、小型犬サイズのまで豊富に取り揃えてある。逆にこれだけ多いと迷うな。小さいと御利益薄そうだし、かといって大きすぎても持って帰れないし。
「ねえねえ。これ可愛くない?」
おいまた客引きかよ。と思って振り向いてみると、そこには白地に変な柄がプリントされたアロハシャツを持った天野がいた。
八幡「何その柄……」
望「ハイビスカスとヤンバルクイナだよ!沖縄って感じがしてよくない?」
八幡「まあ、お前が着るんだったらなんでもいいんじゃないか」
俺が適当に返事をすると、天野がムッとした表情で反論してきた。
望「え、違うよ。先生が着るんだよ」
八幡「は?俺?」
望「そうそう。アタシたちは夏っぽい恰好してるけど先生は普段と何も変わらないじゃん。旅行の間くらい、羽目を外しちゃいなよ!」
八幡「いや、別に俺はいい。そもそもそんなの似合わないだろうし」
望「そんなことないって!ほら、そっちに試着室があるからとりあえず着てみて!」
強引に試着室に押し込まれた俺は渋々アロハシャツに着替える。
八幡「着替え終わったぞ」
そう言って俺は試着室のカーテンを開けた。
望「おお!予想以上に似合ってる!」
天野は目を輝かせてじっとシャツを見てうんうん頷く。
望「先生はスタイルは悪くないからそういう白地のゆったりしたシャツ似合うと思ったんだよね。流石望ちゃん。いいセンスしてる♪」
八幡「調子乗んな」
望「えー、もっと感謝してくれてもいいんだよ?」
八幡「……ま、でもせっかく選んでくれたし、買うわ」
似合ってるって言われたら買わないわけにはいかないですよね。外に着る分には恥ずかしいが、部屋着としてなら意外と悪くない着心地だし。
望「もう。最初から素直にそうやって言えばいいのに……」
八幡「うっせ」
俺は着替え直してから、アロハシャツを買い物かごにいれて、シーサー探しを続行する。が、なぜか天野が俺の後ろにくっついて離れない。
八幡「なあ。お前いつまでそこにいるの?」
望「え、別にいいじゃん。で、先生は何探してるの?」
八幡「……シーサー。妹が欲しがってたからな」
望「あー、そういえば先生妹いたもんね。妹のためにお土産買っていくなんて、ちゃんとお兄ちゃんやってるんだ」
八幡「バカ。お前、千葉の兄は妹の為ならなんだってするんだぞ。それが千葉クオリティだ」
望「なんで千葉限定……。でも、先生がそうするならアタシも妹や弟のために何か買おうかなー」
八幡「え、お前弟、妹いたの?」
望「何そのリアクション。アタシだって家ではちゃんとお姉ちゃんやってるんだから」
天野が姉をやってる姿がまったく想像つかない。かろうじてビーフシチューを振舞ってる姿が思い浮かぶくらい。でも、人は見かけによらないし、俺に似合う服をわざわざ探してきてくれるあたり、面倒見がいいことは否定できない。ただ、こいつの場合、姉属性からではなく、ファッションのために動いてるだけかもしれないけど。
八幡「やっぱり信じられん……」
望「ちょっと酷くない!?」
443 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:00:44.14 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日@」
今日は8月8日。世間では夏休みと呼ばれる時期に当たる。特に学生はこの長い休みを有効利用してゆっくりと休息をとるべきであり、外に出かけるなどもっての他なのである。
そういうことで俺もこの夏休みは家でのんびりゴロゴロすることに決めている。ボク、怠惰デスね。
小町「お兄ちゃん!お誕生日おめでとう!」
そんな夏の朝のリビングに小町の声が反響する。
八幡「お、そうか。今日俺の誕生日か。ありがとよ小町」
すっかり忘れてたぜ。『お誕生日おめでとう!』みたいなメールが誰からも来ないのはもちろん、親からも何も言われていない。小町の誕生日のときは一週間前から親父も母ちゃんもそわそわしているというのに。家族内での格差が激しすぎる。
小町「開口一番でお兄ちゃんの誕生日を祝ってあげるなんて、小町的にポイント高くない?」
八幡「はいはい高い高い」
俺の適当な返事を無視して小町は口を開く。
小町「あ、そうだ。お兄ちゃん。外に出られる服にさっさと着替えてきて。今すぐ」
八幡「何。このクソ暑い中どっか行くのか?なら帰りにアイス買ってきてくれ」
小町「小町は行かないよ。行くのはお兄ちゃんだけ!ほら早く!」
八幡「だからなんで……」
小町と言い争いをしていると玄関のチャイムが鳴った。
小町「ほら。お兄ちゃんがもたもたしてるから来ちゃったじゃん。はーい!今開けまーす!」
来ちゃったって何が、と言おうとした瞬間、いつだかで見たことがある黒スーツの人たちが次々に家の中に入ってきて俺を取り囲んだ。
八幡「……小町。この状況説明して?」
俺の問いかけに小町はにっこり笑って問い直してくる。
小町「お兄ちゃんなら小町が説明しなくてもこの状況を理解できるよね?」
黒スーツ「ということでございます。さぁ比企谷先生。車の方へ」
わかりたくなかったなぁ。こんなことできるのはあいつくらいだろう。ということはあいつら全員何かしら関わってるんだろ?行きたくねえなあ。
なんて希望が通じるわけもなく、俺は車に強引に乗せられた。
しばらく走った後、もうすっかり見慣れた神樹ヶ峰女学園の校門の前に車が止まった。
黒スーツ「到着いたしました比企谷先生。足元に気を付けてお降りください」
そう促され車を降りると、2つの人影がこっちに近付いてきた。
詩穂「おはようございます先生」
花音「ほら。ここは暑いし、みんな待ってるからさっさと行くわよ」
声をかけてきたのは国枝と煌上だった。
八幡「おう。つかなんで俺ここに連れてこられたの?今日は夏休みだよね?」
またなんかめんどくさい仕事でも振られるのか?教師って夏休みも普通に仕事するそうじゃないですか。ソースは平塚先生。つかあの人、夏休みだからって俺に毎日メールしてくるんだよな。しかも長文。ホント誰か結婚してあげて。
詩穂「でも今日は先生の誕生日じゃないですか」
八幡「……だから?」
花音「だから、私たちがアンタの誕生日を祝ってあげるって言ってるの。それくらい察しなさいよ」
八幡「お、俺の誕生日を祝う?お前らが?」
予想外の展開に頭が追いつかず、アホっぽい返事をしてしまう。
詩穂「うふふ。私たち2人だけじゃないですよ。星守クラス全員が集合しています」
花音「そういうことだから合宿所に行くわよ」
八幡「お、おう……」
こうして俺史上初、俺のための誕生日パーティーが幕を開けた。
444 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:01:42.07 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日A」
花音「みんなお待たせ!」
詩穂「本日の主役の到着です!」
2人は合宿所の1階にある大勢が入れるミーティングルームのドアを開けた。
部屋の壁際には簡単なステージが出来ており、そこには『比企谷先生爆誕祭!』と書かれた横断幕が飾ってある。そしてステージの周りには星守たちが拍手をしながら俺たちを出迎える。
ドアを開けた2人はそのままステージに上がり、マイクを持って話し始める。
詩穂「それではお待ちかね。これより『比企谷先生爆誕祭』を始めます!司会進行を務めます、高校2年生国枝詩穂です」
星守たち「イエーイ!」
星守たちは恐ろしいほどに盛り上がっている。なんだなんだ。何が始まるんだ。
花音「同じく司会進行を行う煌上花音よ。あ、アンタはステージの前の椅子に座ってなさい。一応主賓なんだから」
俺の周りにいる何人かが、煌上が指さした椅子に俺を強制的に座らせる。
詩穂「ではまず開会の宣言を楠さん。お願いします」
呼ばれた楠さんが壇上に上がる。
明日葉「えー、まずは先生。お誕生日おめでとうございます。今日は私たち星守クラス全員で心を込めてお祝いするのでどうか楽しんでいってください!みんな!今日一日精一杯先生のことをお祝いするぞ!」
星守たち「おー!」
えー、なんでこんな盛り上がってるの。怖い。あと怖い。
445 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:02:16.11 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日B」
花音「さっそく会の中身に入っていくわよ。まずは桜と遥香による漫才です!どうぞ!」
即座にセンターマイクが準備され、それを挟んで藤宮と成海が壇上に上がった。
遥香「どうも。遥香です」
桜「桜じゃ」
遥香、桜「2人そろって遥香桜です。よろしくお願いします」
遥香「私たちがトップバッターなんて、緊張するわね桜ちゃん」
桜「余計な気を遣っても疲れるだけじゃ。普段通りでおれば大丈夫じゃよ」
遥香「そうね。でも漫才だから何か面白いことを言わなきゃいけないのよね?」
桜「まぁ、それはそうじゃな。一応漫才なんじゃからのお」
遥香「申し訳ないんだけど、私漫才のことよくわからないからこの先の展開は桜ちゃんに任せていいかしら?私はなるべく普段通りでいることを心がけるから」
桜「しょうがないのお。では遥香もやりやすいように『病院の診察室』という設定でやるかのお。わしが医者としてボケるから遥香は患者としてツッコミをしてくれ」
遥香「わかったわ」
桜「では始めるかの」
桜『今日はどうされましたか?』
遥香『2.3日前から咽頭の炎症と後頭部に鈍痛がするんです。多分急性上気道炎だと思うんですが確認してもらってもいいですか?自分で見るぶんには扁桃腺の炎症はなかったのですが』
桜「……待つのじゃ遥香」
遥香「え?」
桜「え、じゃない。そんな医療知識が豊富な患者なんてそうそうおらんわ。やっぱり患者はわしがやるから遥香は医者を演じておくれ」
遥香『今日はどうされましたか?』
桜『あの、数日前から腹痛がひどくてのお』
遥香「桜ちゃん。うちは主に救急外来が盛んなの。よかったらそういう患者を演じてもらえないかしら?具体的にはすごい痛みに悶え苦しんでる感じで」
桜「え、いや、これは漫才じゃから別に現実に即さなくても」
遥香「桜ちゃん。やって」
桜「う、うむ……あー、お腹が痛い痛い。痛いぞお」
遥香『大丈夫ですか!?自分のお名前言えますか!?』
桜『うぅー、痛い痛い』
遥香『これは危険な状態ですね。今すぐオペを始めます!手術室に運んで!ほらそこのあなた!こっちに来て!迅速に患者を手術室まで運ぶわよ!』
桜「……待つのじゃ遥香。わしらはいつから医療ドキュメントを演じておるのだ?」
遥香「え?だって桜ちゃんさっき普段通りにしてろって」
桜「それは心構えの話じゃ。わしらがやるのは漫才じゃ。医療現場の現状を再現してもしょうがないぞ」
遥香「そうなのね。漫才って難しいわ。あ、私久しぶりに大きな声出したらお腹空いちゃった。ご飯にしない?」
桜「ええかげんにせい」
桜、遥香「どうも、ありがとうございました!」
446 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:03:34.54 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日C」
花音「ということで桜と遥香の漫才でしたー!」
詩穂「先生、どうでしたか?」
八幡「え、おう。意外とちゃんとしてて面白かったぞ。うん」
俺の感想に藤宮と成海は嬉しそうに笑う。
遥香「ありがとうございます先生」
桜「喜んでもらえてなによりじゃ」
花音「さ、では次のプログラムに進むわよ」
詩穂「次は校庭でバーベキューをします!」
星守たち「イェーイ!」
花音「ということで移動するわよ」
煌上に付き従って俺たちは合宿所を出て校庭に向かう。そこにはすでにいくつものバーベキューコンロとテーブル、椅子などが準備されていた。
詩穂「ではここからはしばらくの間、みんなでバーベキューを楽しみましょう」
国枝が声をかけるや否や、みんなそれぞれバーベキューを楽しみ始めた。
ひなた「お肉お肉ー!」
くるみ「ひなたさん、お肉だけじゃなくて野菜も食べてくださいね」
ミシェル「むみぃ、煙が目に入ったよ〜」
蓮華「大丈夫ミミちゃん?蓮華がやさしく目薬さしてア、ゲ、ル」
ゆり「こ、こんな美味しいお肉食べたことないぞ」
楓「そのお肉はうちのホテルと直接契約している農家から取り寄せたものですもの。美味しくて当然ですわ」
みんな楽しそうにしてるな。さて、俺も食べるか。
みき「先生ー!」
サドネ「おにいちゃーん!」
ん。この展開、なんか覚えがあるぞ?
サドネ「ミキと2人で味付けしたの。食べて!」
星月とサドネが得体の知れないソースがかかった野菜や肉がこんもり盛られてた皿を持ってきた。でもここには2.3種類のソースしかなかったよね?なんでこんな変な色してるの?ここまでくると最早芸術の域に達していると言っていい。
八幡「待て。お前らそれ味見したのか?」
みき「私はしてないですけどサドネちゃんが美味しいって言うから大丈夫です!」
サドネの味覚もあてにはならない気がするが、これ以上時間を引き延ばしても怪しまれるだけだ。少し、ほんの少しだけなら大丈夫か?
八幡「……く。い、いただきます」
俺は一枚の肉を恐る恐る口に入れた。
みき「先生どうですか?」
八幡「…………ああ。なんというか、独特の味だな」
サドネ「もっと食べて!」
八幡「いや、せっかくなら色々な味で食べたいからあとはサドネたちが食べていいぞ」
サドネ「わかった!」
みき「喜んでもらえてよかったねサドネちゃん!」
2人は満足して他の場所へ歩いていった。はあ。正直、舌に肉が触れた瞬間卒倒するかと思った。意地で耐えたぞ。
昴「先生、お疲れ様でした……」
八幡「若葉。もしかして見てたのか?なんで助けてくれないんだよ」
昴「だってアタシまで巻き添え食らいたくなかったですし……」
まああのソースの色を見て避けたくなる気持ちは痛いほどよくわかる。俺だったら確実に退散しているだろうな。
447 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:04:05.74 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日D」
しばらくして、用意されていた食材が全て無くなった。俺たちは簡単に片づけをした後、また合宿所に戻ってきた。今度は19人全員で椅子を丸く並べて座る。
花音「バーベキューの後もまだまだ続くわよ」
詩穂「次は外で暑くなった体を冷ますために、粒咲さんと芹沢さんが怪談を披露してくれます」
怪談か。季節的にはぴったりだな。
あんこ「ふふ。ではワタシからいくわ」
粒咲さんが話し出すと、部屋の明かりが消え、粒咲さんの前にあるろうそくが灯り出した。
あんこ「何週間か前のことよ。ワタシはいつものように部活の時間にインターネットゲームを起動しようとしたの。そしたらあるゲームにログインすることができなかったの」
あんこ「いろんなIDやパスワードを試してもダメだった。他のパソコンを使ってもダメだった。ワタシにはもう為す術がなかったわ」
うらら「くるくる先輩がパソコンに触っちゃっただけじゃないの?」
くるみ「違うと思うわ。私、あんこ先輩にパソコン室には入らないよう言われているから」
あんこ「そう、これはくるみのせいじゃない。その後、そのゲームについてスマホで調べてみたら驚愕の事実が判明したわ……」
そう言って粒咲さんは目の前のろうそくを吹き消した。小さな悲鳴があちらこちらから聞こえる。
あんこ「なんとそのゲーム、サービス終了してたのよ。それも事前告知なしに!」
周りからは何の反応も起こらない。だが粒咲さんは頭を抱えながら話し続ける。
あんこ「ワタシがあのゲームにいくら課金したかわかってるのかしら運営は。全国、いや世界でも有数の装備品とプレイスキルで掲示板では『プリンセスANNKO』とも呼ばれていたのに!」
どこのイリュージョニストだよ。てか、これがオチ?
八幡「あの、粒咲さん。その話が怪談ですか?」
あんこ「そうよ。何万、何十万と課金していたゲームが突然サービス終了したのよ?怖すぎるわ。ワタシのこれまでの努力が水の泡よ。せめて事前に予告されていれば色々記録が残せたものを……」
もはや粒咲さんの愚痴大会になってる。それを感じたのか煌上が声をかける。
花音「あー、あんこ先輩。そろそろ終わりにしてもらってもいいですか?次もあるので……」
あんこ「それもそうね。ワタシの怪談でみんなが震えあがってもかわいそうだし」
詩穂「あはは……。では次の怪談は芹沢さんですね」
蓮華「うふふ。今日のためにとっておきの話を用意してきたわよ」
そう言うと今度は芹沢さんの前のろうそくが灯り出す。
蓮華「つい数日前のことよ。暇だったれんげは帰る途中の先生を尾行することにしたの」
え、もうこの時点で怖いんですけど。何してんのこの人。
蓮華「その途中の海浜幕張駅だったかしら。れんげの美少女レーダーが今までにないほど反応したの。その発生源となった子は、先生がたまに着る高校のジャージと同じものを着ていて、テニスバッグを背負っていたわ。華奢で透き通るような白い肌。サラサラのショートカット。大きく純粋な目。もうあれは現世に舞い降りた天使のような子だったわ」
蓮華「その天使に魅せられたれんげは先生のことはほっといて、その子を尾行することにしたの。そしたら驚愕の事実が判明したわ……」
芹沢さんは目の前のろうそくを吹き消す。
蓮華「その子、男子トイレに入っていったの……」
蓮華「れんげの美少女レーダーに反応するような子が、男の子だったのよ。れんげは自分の目論見が外れたことより、その子のかわいらしさにぞっとしたわ」
粒咲さんの時と一緒で他の人はなんの反応もしない。それにしても、千葉で見かけた俺と同じジャージを着てるテニスバッグを背負った天使って、候補は一つしかなくね?
八幡「せ、芹沢さん。その子とはそれっきりですか?」
蓮華「実はね、れんげが尾行してることをその子わかってたみたいで、トイレの前で打ちひしがれてたれんげに声をかけてきたの。で、そのままお茶しちゃった。いい子だったわ。戸塚彩加くん。男の子なのが残念だけど」
おい。嘘だろ。嘘だと言ってくれ。ラブリーマイエンジェル戸塚が、よりによって芹沢さんの毒牙にかかってしまったのか……。なんということだ……。
望「な、なんで先生そんなに落ち込んでるの?」
八幡「落ち込むにきまってるだろ。『戸塚は神聖にして侵すべからず』は全人類の共通認識だろうが。そんな戸塚が、あろうことか芹沢さんに……」
蓮華「さすがのれんげでもあの子には何もしてないわ。というかできないっていうのが正しいかしら。男の子なのもあるけど、たとえ女の子だったとしても、あのかわいらしさの前にはただ立ちつくすのみだわ」
八幡「ですよね。やっぱりとつかわいいな。この世の癒しだ」
詩穂「えーと、これも怪談ってことでよかったのかしら花音ちゃん?」
花音「もう私には理解できないわ……」
448 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:04:46.40 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日E」
怪談が終わり、再び煌上と国枝がステージに上がり進行を始める。
詩穂「で、では気を取り直して次の企画でーす!」
花音「次はクイズ『ソラシドドン!』を開催するわ!」
おい。ここはフジテレビか?秀ちゃんに許可取ったのか?
花音「このクイズはある曲のサビ部分を聞いて、その曲の曲名とワンフレーズを歌ってもらう企画です!」
詩穂「では早速出場者を紹介するわ。まずは南さん」
ひなた「ひなた頑張って歌っちゃうよ!」
花音「次は心美!」
心美「じ、自信ないですけど頑張ります」
詩穂「そして蓮見さん」
うらら「音楽クイズなんてうららの十八番よ!すぐ正解してやるんだから!」
花音「さらにゆり!」
ゆり「わ、私が知ってる曲が来るといいんだが……」
詩穂「それでこのクイズには特別に先生にも参加してもらいます」
八幡「え、俺も?」
花音「たまにはいいじゃない。見てるだけじゃつまらないでしょ?ほら。ステージに上がりなさい」
あんまり気が進まないが、今日は俺の誕生日だし少しは付き合わなきゃダメか。仕方なく俺は他の4人と共に壇上に上がった。
詩穂「では詳しいルール説明を花音ちゃんお願い」
花音「ええ。このクイズは勝ち抜け制よ。正解した人から順に抜けていって、最後まで正解できなかった人には罰ゲームが待ってるわ」
八幡「罰ゲームって何やるんだ」
詩穂「それを今言ってしまってはつまらないじゃないですか」
花音「詩穂の言うとおりね。ま、恥ずかしい罰ゲームってことだけは言っておくわ」
ひなた「ひなた罰ゲームはやりたくない!」
うらら「うららも罰ゲームはやりたくないけど、それ以上にここみに負けたくないわ!」
心美「う、うららちゃんならすぐ正解できるよお」
ゆり「みんなの前で辱めは受けたくない……」
正直、俺もあんまり曲は知らないが、火向井や南には負けないだろう。多分。
詩穂「うふふ。みなさんいい感じに緊張感が出てきてますね」
花音「じゃあ早速始めるわよ。第一問!」
花音、詩穂「ソラシドドン!」
『レッツゴー バターとりんご そしてグラニュー糖 ラム酒をふってレモン汁♪』
心美「は、はい」
詩穂「はい!では朝比奈さん前で続きを歌ってください!」
心美『もっと のばすわパイシート 砕いてビスケット 最後にそっと投げキッス♪』
花音「ではこの曲名は?」
心美「ア、『アップルパイ・プリンセス』です」
花音、詩穂「正解!」
心美「や、やった!」
うらら「この曲ここみの得意な曲だもんね」
心美「うん。キーが私にピッタリなんだあ」
予想外の人が一抜けだな。だがまだ慌てるような時間じゃない。
449 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:05:23.37 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日F」
詩穂「では第二問です」
花音、詩穂「ソラシドドン!」
『L'inizio! 揺籠ゆらす雷 覚醒に騒ぐ鼓動の Choir♪』
うらら「はいはい!」
俺が手を挙げようとした矢先に蓮見が素早く手を挙げた。
花音「じゃあうらら!前で歌って曲名をどうぞ」
うらら「『悪魔の手招 秘密の嬌声が 頬を染め上げて Violenza♪』曲名は『華蕾夢ミル狂詩曲〜魂ノ導〜』!」
詩穂「蓮見さん正解です!」
うらら「さっすがうららね!」
ひなた「こんなに難しい歌よく歌えるねうらら先輩」
うらら「ふふん。うららはいろんな曲を練習してるの。その中でもこれは歌いやすかったからよくカラオケでも歌ってるの」
く、今度は蓮見が抜けたか。だがここまでは想定内だ。次正解すればいいだけの話だ。
花音「順調に抜けていってるわね。では第三問!」
花音、詩穂「ソラシドドン!」
『仕事♪』
ひなた「はいはいはい!ひなたわかる!」
南がワンフレーズ聞いただけで手を挙げた。
詩穂「南さん早い!では前にどうぞ」
ひなた『仕事 電車 通勤 ムリムリ 自宅 厳重 警備 フリフリ たまにサボっちゃっても 私責めない♪』
ムリムリ!フリフリ!いいぞー!……は。しまった。つい合いの手を入れてしまった。
花音「ではこの曲の曲名は?」
ひなた「『あんずのうた』!」
花音「正解!」
ゆり「こ、この曲はなんだ?」
ひなた「有名なアイドルの曲なんだよ。ライブでは合いの手が入ってすごい盛り上がるんだって!ひなた、こういう楽しい曲大好きなんだ!」
詩穂「南さんらしいですね。では次が最終問題ですね」
ゆり「く、ここまで全然わからない……先生は今までの曲知ってましたか?」
八幡「ま、まぁ聞いたことがあるやつもあったかな」
嘘です。全部知ってました。なんならコールも入れられるぐらい聞きこんでるプロデューサーです。
しかし、なんかこの曲選おかしくない?みんな346プロダクションの曲じゃん。ん、てことは次も346プロの曲なのか?相手は火向井。てことは、声質が似ているアーニャの曲が来る可能性が高い。そしてアーニャのソロ曲はあれ一つだけだ!
450 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:06:17.38 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日G」
花音「最後はイントロクイズで決着をつけるわ。2人とも準備はいいかしら?」
ゆり「こうなったら最後は気合だ!」
八幡「おう」
出題傾向を把握した俺に死角はない。この勝負、もらった!
花音。詩穂「ソラシドドン!」
『♪』
ゆり「Да」
火向井が1秒と経たずよくわからない言葉を発して、そのままマイクの前に立つ。
ゆり『Расцветали яблони и груши,Поплыли туманы над рекойВыходила на берег Катюша,На высокий берег на крутой.』
誰もがぽかんと口を開けている。一番初めに我に返った煌上が火向井に問いかける。
花音「ちょっとゆり?大丈夫?」
ゆり「Выходила, песню заводилаПро степного сизого орла,Про того, которого любила,Про того, чьи письма берегла.」
詩穂「音楽止めてください!」
曲が止まると火向井は正気を取り戻したらしく、マイクの前でうろたえている。
ゆり「は。私は何を……」
八幡「おい、火向井。なんでお前今の歌うたえるんだよ」
ゆり「え?いや、気づいたら勝手に体の中から歌詞が溢れてきたんだ。まるで何かに忠誠を誓うかのようにスラスラ言葉が口から出てきて……」
無意識のうちにカチューシャを崇拝してるのかこいつは。プラウダ行ったら即戦力じゃないのか?つか、最後だけ選曲おかしくない?こんなの火向井以外歌えるわけないじゃん。
詩穂「い、今の歌ですけど火向井さんは歌えていたので勝ち抜けとします」
花音「ということで最後まで残ったのは、このヘンタイ教師よ!」
強引に2人は結果発表を言い終えた。あれ、つか俺負けたの?
詩穂「ということで先生には恥ずかしい罰ゲームを執り行います」
八幡「あの、痛いのとか気持ち悪いのとかは嫌なんだけど……」
花音「そんなんじゃないわよ。それではミュージックスタート!」
『♪』
煌上の声の後にある曲が流れ始めた。ん、これってまさか……。
花音「知らない人もいるだろうからここで曲紹介を行います!」
詩穂「この曲は先生のキャラソン『going going along way!』です。今日は特別にフルコーラスで流しちゃいます!」
『青春の青い感情もー(感情もー)恋愛の甘い体験もーいらないー(ふむ!)』
八幡「やめろー!」
『going going along way! 俺の道を行くぜ♪』
451 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:07:19.94 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日H」
俺のキャラソンが流れ終わると今度は俺の前に机と皿、フォーク、ナイフが並べられていく。
花音「気を取り直して次の企画に行きましょう詩穂」
詩穂「そうね。次の企画は誕生日といえばコレ。バースデーケーキコンテスト!」
花音「今回は4人の星守がケーキを作ってきてくれたわ。1人ずつ紹介していくわね。まず最初はミシェル!」
ミシェル「むみぃ!ミミはね、ホットケーキ作ってきたの!先生たくさん食べてね!」
そう言って綿木は俺の前にホットケーキを置く。
八幡「これは俺が食べるのか?」
花音「当たり前じゃない。誕生日の人が食べないで誰が食べるのよ」
詩穂「先生にはケーキの感想をもらいますから、しっかり味わってくださいね」
八幡「お、おう。じゃあ綿木。いただきます」
ミシェル「召し上がれ?!」
メープルシロップがよくかかってる部分を切って食べてみる。
八幡「うまい。特にメープルシロップがいい」
たまに母ちゃんが買ってくる安物のシロップとは違う。なんというか濃厚なんだけど、しつこくない。
ミシェル「やったー!それはね、カナダで取れたすごい珍しいメープルシロップなんだ!パパにおねだりして買ってもらったの!」
綿木は嬉しさのあまりピョンピョン跳ねている。
詩穂「綿木さんのケーキは先生にも好評みたいね」
花音「トップバッターとしてはいい感じなんじゃないかしら。では次の人のケーキに移るわ。2番目は明日葉先輩!」
明日葉「私のケーキは楠流、和風抹茶のロールケーキだ」
出されたケーキは抹茶の緑のスポンジに白いクリームが挟まれた、目にも優しい色のものだ。食べやすいサイズに切られてるのも良い。
明日葉「先生。さ、召し上がってください」
八幡「は、はい。いただきます」
その中の1つを食べてみる。
八幡「美味しいです。これ、クリームにあずきが入ってるんですか?」
明日葉「流石先生ですね。生クリームだけだと少し味気ないので、アクセントとしてあずきを入れてみたんです」
楠さんは丁寧に説明してくれる。
花音「抹茶にあずきね。和って感じで美味しそうだわ」
詩穂「そうね。でもそろそろ次の方のケーキに移ります。3人目は千導院さんです」
楓「ワタクシは先ほどまでの2人と違ってあまり綺麗ではありませんが、頑張って作りました」
千導院のケーキは定番のショートケーキだった。まぁクリームが偏っていたり、形が不揃いだったりしてるが、たいして気にはならない。
八幡「じゃあいただくな」
一口食べただけで違いがわかった。今まで食べたことがあるぶん、ハッキリ実感できた。
八幡「……なぁ千導院。これはもしかして、ものすごく高級な材料を使ってたりするのか?」
楓「はい!先生のために全世界から最高級の食材を取り揃えました!」
やはりか。少し技術的に拙いところは感じられるが、それを補って余りある食材の力。これいったい幾らするんだ……
詩穂「私もこれくらい高級な食材をふんだんに使ってみたいわ」
花音「楓だからこそ作れたケーキって感じね。では最後の人は、え、ウソ……」
煌上の顔が恐怖で引きつっている。……まさか、あいつがエントリーしているのか?
452 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:08:04.65 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日I」
八幡「おい煌上。もうやめよう。この3人でお腹いっぱいだ」
みき「待ってください先生!私のケーキも3人に負けないくらいすごいんですから!」
呼ばれてもないのに星月が意気揚々と、どデカイホールケーキを運んできた。
詩穂「えーと、最後の出場者は星月さんです……」
その光景を見て観念したのか国枝が小声で星月を紹介する。
みき「八幡にかけて八種類の果物とクリームを使ったケーキです!どうぞ!」
目の前にあるのはケーキではない。何か禍々しい色をした兵器だ。なんで星月は韻踏んじゃったのかなあ。
本来なら食べたくはない。が、星月は俺のためにわざわざ作ってくれたんだ。それに、今まで3人のケーキを食べてきて、1人だけ食べないと言うのも筋が通らない。
……逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
八幡「……いただきます」
兵器が口に入った瞬間、俺の世界が反転しそうになった。即死はさせない程度の絶妙にヤバい味。拷問だよ拷問。急いで水で流し込んだが、今度は食道と胃が痛くなってきた。一体、何入れればこんな恐ろしいブツが出来上がるんだ。
みき「先生、どうですか?」
八幡「あ、ああ。少し食べただけで星月の気合が伝わったよ……痛い程な」
みき「やったー!あ、みんなも食べて!沢山作ったから遠慮しないで!」
星月が兵器を拡散する中、流石に俺のことが心配になったのか煌上と国枝が傍によってきた。
花音「ね、ねえ。大丈夫?」
八幡「正直ダメかもわからん……」
詩穂「胃薬飲みますか?」
八幡「ああ。助かる……」
何とか落ち着いたので周りを見渡してみると、俺と同じように兵器の犠牲となったものが何人か見受けられる。が、その中で成海だけは孤独のグルメ並においしそうに兵器を食している。あいつの消化器官はどんな構造してるんだ。金メッキでも施されてるのか?
453 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:08:37.12 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日J」
星月の兵器、いやケーキによる混乱が数十分続いた後、なんとか体調が回復した俺たちは会を再開した。
詩穂「で、では次の企画に行きましょうか花音ちゃん」
花音「そうね。次は星守たちによるモノマネよ!」
詩穂「少し準備するので先生は部屋の外で待っててもらってもいいですか?すぐ終わりますから」
八幡「お、おう」
わざわざ俺を退出させるとはけっこう大がかりな装置でも使うのか?そこまでするってことはけっこうクオリティの高いものを期待しちゃうよね。
数分して中から煌上が顔を出して声をかけてきた。
花音「入っていいわよ。で、アンタが入ったらモノマネが始まるから、後は流れでよろしく」
八幡「なんだよ流れって」
花音「いいから。早く入りなさい」
俺は仕方なく部屋に入ってあたりを見渡す。
けど、別に何か大きな仕掛けが施されているとは思えない。ただ総武高校の制服を雪ノ下のように着た常磐が立っているだけだ。ん。総武高校の制服?雪ノ下?
くるみ「こんにちは比企谷くん」
なん……だと……。どういうことだ。なんで常磐は俺を「比企谷くん」と呼んでいるんだ。まるで雪ノ下みたいじゃないか。
くるみ「いつまでそんなところに立ってるの徒長谷くん。早くこっちに来なさい」
八幡「徒長谷ってなんだよ。あれか?俺がひょろっと突っ立ってるのを揶揄してんのか?」
くるみ「別にそんなことは言ってないわ。ただ、もう少し日光に当たった方がいいと思うけど」
八幡「めっちゃ揶揄してるじゃん。しかも俺が普段外に出ないことまで」
は。つい雪ノ下に対する反応をしてしまった。だけど、マジで常磐が雪ノ下にそっくりすぎて怖い。
望「くるみん!ヒッキー!やっはろー!」
まだこの状況を受け入れられていないのに、またしてもなじみ深い声がした。声のした方を振り向くと、総武高校の制服を由比ヶ浜のように着崩した天野がステージに向かって歩いてきていた。
八幡「雪ノ下の次は由比ヶ浜か……」
望「何ヒッキー。あたしがいたら迷惑?」
八幡「いや、そんなことはないけど……」
お前らの声が奉仕部の2人に似すぎててビビってるだけです。
望「そういえばあたしとくるみんでヒッキーへのプレゼント買ったんだ。はいこれ」
話題をぶった切って天野が取り出したのは四つ葉のクローバーの栞だった。
八幡「え、これ俺にくれるの?」
くるみ「はい。幸運が訪れる四つ葉のクローバーを先生が好きな読書時に使えるようにしおりに挟みました」
望「く、くるみ。素に戻ってるよ。モノマネモノマネ」
くるみ「そうだった。えーと、べ、別にあなたのためではないから、勘違いしないでよね」
はは、違うぞ常磐。雪ノ下はそんなあからさまなツンデレはしない。正確には「ゆ、由比ヶ浜さんがどうしても一緒に行くと聞かなくて。だから仕方なく選んだだけよ」だ。
望「と、とにかく大事に使ってよ!」
八幡「はいはい」
でもプレゼントのセンスは悪くない。多分色々考えたんだろうな。
八幡「ありがとな」
俺の言葉に常磐と天野は顔を見合わせた後、笑って俺の方を向く。
くるみ「はい」
望「当然じゃん!」
454 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:09:17.61 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日K」
「ちょっと待ってくださいよー!」
プレゼントをもらって終わりかと思ったら、またしても聞きなれたあざとい声が聞こえてきた。
昴「ずるいですよ望先輩、常磐先輩。私だって一緒にプレゼント選んだじゃないですかー」
そう言って壇上に上がってきたのは総武高校の制服に、袖の余ったピンクのカーディガンを着た若葉だった。
望「ご、ごめんね昴ちゃん。ついイイ雰囲気だったから渡しちゃった……」
くるみ「別にそこまでいい雰囲気ではなかったと思うけど……」
昴「ま、いいですけど。どうせ先輩へのプレゼントだったのでそんなに真剣に選んでないですし」
おう。これまたすごい似てる。若葉でもこんなあざとい声出せるんだな。服装も相まっていつものイメージとはかけ離れた印象を受ける。
八幡「お前もこのプレゼント選んだのか?」
昴「え?はい。ていうか栞のアイディアはわたしですし」
やはりいつもの若葉の面影はかけらも感じられない。こういうこともできるのかこいつ。
八幡「意外とセンスいいんだなお前」
俺の言葉にしばらくぽかんとしていた若葉は急に顔が赤くなる。
昴「嘘。先生に褒められちゃった。どうしよ、すっごく嬉しい。でも、今はモノマネしなきゃ……あれ、こういう時どうやるんだっけ。確かまず断って、」
口を押えながら小声でセリフを考える若葉の姿からは先ほどまでのあざとさが一切感じられない。いつもの照れてる若葉だった。むしろ服装はあざとい女の子だから、素のかわいらしさが際立って見える気がする。やっぱり素が一番ですね。
昴「おほん。何ですか口説いてるんですかごめんなさい褒めてもらったのは嬉しいですけどセンス以外にももっとわたしを褒められるようになってから出直してください」
なんとか言い直した若葉だが、相変わらず顔は真っ赤だ。うんうん。頑張ってる姿勢は評価したいぞ。
八幡「そうだな。そうやって頑張って一色のモノマネをする姿勢もいいと思うぞ若葉」
昴「うう、もうアタシには無理だよこの役……」
望「が、頑張って昴ちゃん!あと少しで終わりだから!」
くるみ「大丈夫。ちゃんとできてるわ」
モノマネなのかそうじゃないのかよくわからんが、常磐と天野が必死に若葉を慰める。なんだか変な光景だ。
「おやおやー、お兄ちゃんが女の子たちと楽し気に話してますねー」
その時、今までの人生で一番耳に馴染んでいる声が聞こえた。声がした先には小町の中学の制服と同じものを着たサドネがいた。
八幡「サドネ……」
サドネ「お兄ちゃん今年の誕生日も誰からも祝われないと思ってたけど、くるみさんたちに祝ってもらえてよかったね。今、サドネはすごく感動してるよ」
そう言って壇上に上がるサドネにはいつもの面影はない。本当に小町としか思えない話し方だ。これまでの3人に比べて、そのギャップも相まって衝撃的なモノマネだ。
サドネ「これでお兄ちゃんも立派に社会に羽ばたいていける社会力を身につけたね!」
八幡「何言ってんだ。サドネ。俺は常に専業主夫として家から出ない生活を送ることを夢見ているんだ。だから俺に社会力は必要ない」
サドネ「うーわでたお兄ちゃんの捻くれ。ま、それは置いといて、そろそろサドネたちのモノマネも終わりの時間なんだけど、どうだった?」
俺の捻くれ具合は無視ですかそうですか。というか、反応の仕方までそっくりだ。かなり練習したんだろうな。
八幡「え、いや、正直4人とも似すぎててビビった」
サドネ「へへー。お兄ちゃんのためにサドネたち頑張ったんだよ?あ、今のサドネ的にポイント高い!」
そこまでマネしちゃうのかよ。なんでもありか。
八幡「……ああ。本当に高いよ」
455 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:09:46.17 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日L」
モノマネが終わり、常磐たちの着替えを部屋の外で待つことしばらく。
詩穂「先生。さあ中へどうぞ」
八幡「おう」
俺が中へ入ると、星守たちは大量の花火を持っている。
花音「では本日最後の企画!」
詩穂「校庭で花火を行います!」
星守「わーい!」
だよねえ。逆にこの状況で花火以外をやるって言われた方が驚くわ。
花音「じゃあみんなで外に行きましょうか」
こうして俺たちはまたしても校庭に向かった。すでに外はかなり暗くなっていて、バーベキューをしていた時とはまた違う雰囲気だ。
うらら「ほら綺麗でしょここみ!」
心美「うん。すごいねうららちゃん」
昴「よっと、どうこのアクロバティックな花火の動き!」
あんこ「もう一度やって昴。録画してブログに載せたいから」
サドネ「シホ!花火キレイ!楽しい!」
詩穂「そう。よかったわ」
みんなそれぞれ楽しんでいるようだ。何人かは校庭を駆け回っている。元気なこった。
明日葉「先生、隣よろしいですか?」
そんな光景を段差の上の方で見つめていた俺のそばに楠さんがやって来た。
八幡「ええ。どうぞ」
明日葉「失礼します」
楠さんも腰を下ろして、校庭の光景を楽しそうに眺める。
明日葉「はしゃいでますねみんな」
八幡「ええ。でも俺は疲れましたよ。色々ありすぎて」
明日葉「ふふ。それくらい充実した時間を過ごせた、ということじゃないですか?」
八幡「……まあ、そうかもしれないですね」
そして俺たちはまた黙って校庭を眺める。思えば今が、今日の中で初めて落ち着いた時間かもしれない。聞くなら今しかない。
八幡「……あの、楠さん。一つ質問があるんですけど」
明日葉「なんですか?」
八幡「今日のこの会の発案者って誰ですか?一応ちゃんとお礼を言っておきたいんですけど」
明日葉「明確な発案者はいませんよ。もともと、みんな個人個人で先生の誕生日を祝おうとしていたんです。それがいつの間にかまとまっていって、こういう形になりました。だから発案者を決めるとすれば、この星守クラスの生徒全員、となるでしょうか」
楠さんはにこやかにそう答える。対する俺はなんだかわからんが顔が熱くなってきた。ここが暗くてよかった。明るかったら赤くなってるのがバレてたかもしれない。
八幡「……そうですか。ならみんなに感謝しないといけないですね」
明日葉「いえ、星守クラスの仲間なら、誕生日を祝うのは当然です」
八幡「仲間なら誕生日を祝うのは当然、ですか」
今までろくに誕生日を祝ってもらった経験がない俺からすれば、今日こうして盛大に祝ってもらっている状況が不思議でならない。こういう時、どういう態度でいればいいかわからない。
それも今回は個人ではなく、18人もが協力して俺のためだけに動いてくれているのだ。そんなことをしてもらえるほど、俺はあいつらのためになってるのだろうか。
456 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/08(火) 00:10:39.54 ID:KfSuHYWE0
番外編「八幡の誕生日M」
明日葉「そう、深く考えなくてもいいんじゃないですか?」
八幡「え……?」
明日葉「私たちはやりたくて先生の誕生日を祝ってるんです。もし先生が不快に思われていたら、申し訳ないと思います。でも、もし楽しかったと思ってくれたら、私たちはそれだけ満足なんです」
みんなはみんなの意志で俺の誕生日を祝ってくれる。俺はただそれを受け入れればいい。この理屈はわかる。ただ、それが果たして正解なのかはわからない。もしかしたらこの感情すら勘違いなのかもしれない。間違ってるのかもしれない。
でも、俺は。それでも俺は。
遥香「ここにいたんですね先生」
桜「サドネとひなたがはしゃぎすぎて大変なんじゃ。止めておくれ」
ミシェル「先生もミミたちと遊ぼうよー!」
階段の下の方で成海、藤宮、綿木が声をかけてきた。隣に座ってた楠さんも3人を見て立ち上がる。
明日葉「行きましょうか先生。みんなが待ってます」
八幡「やれやれ。しょうがないから行きますか」
キョン並みのやれやれをかまして俺は階段を下りていく。
桜「しょうがないとはなんじゃ。わしは昼寝の時間を惜しんで遥香と漫才を練習したというのに」
ミシェル「桜ちゃんと遥香先輩の漫才面白かった!」
遥香「あれ、でも桜ちゃんはほとんど寝てたわよね?」
明日葉「おそらく、桜にしては寝ていない。ということなんだろう」
そんなこんなで俺たち5人が校庭へ降りるとわらわらと星守たちが周りを囲んできた。言うなら今しかない、か。
八幡「あー、ちょっといいか?」
俺が話し出すと周りはシンと静まり返った。
八幡「いや、たいしたことじゃないんだが。その、今日はありがとう。正直けっこう楽しかった……」
自分は悪くない、社会が悪いと言い続けてきたが、この学校はこれまでで一番恵まれた環境なことは確かだと思う。こうして環境が変わったなら、俺自身も何か変わっていくのだろう。なら、俺から一歩踏み出すことも間違ってはいないはずだ。
みき「えへへ。喜んでもらえてよかったです!それと私たちからも言わなきゃいけないことがあります!みんな!せーの!」
星守たち「先生!お誕生日おめでとうございます!」
今日一の声が、澄んだ夜空とひっそりとした校舎に反響して、いつまでも俺の心に響くような気がした。
457 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/08/08(火) 00:14:13.69 ID:KfSuHYWE0
以上で番外編「八幡の誕生日」終了です。八幡お誕生日おめでとう。一応本作の主人公なので盛大なパーティーを開かせてもらいました。
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/08(火) 12:35:47.40 ID:SoHSiAvi0
乙!
中の人ネタはいつかするかなと思ってたけどここで来るのかww
459 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/08(火) 22:33:47.95 ID:u1l2VloQo
乙です
460 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/09(水) 12:19:10.68 ID:ymF5WgXqO
乙、良かった
せっかくのクロスだしたまには俺ガイル色が強いネタもいいね
461 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/11(金) 17:55:24.32 ID:FYEuyN130
本編5-14
お土産を買い終え再度合流した俺たちは、ある沖縄料理店に移動した。
望「なんかイイ感じなお店だね!」
詩穂「前にある番組のロケでこの店で食事をしたことがあるの。その時食べた沖縄料理が本当に美味しくて、今回皆さんをここに連れてきたの」
八幡「へえ」
なんていう会話をしていると、さっそくたくさんの沖縄料理が運ばれてきた。みんなお腹が減っていたのか、すぐに食べ始める。
くるみ「このゴーヤーとっても新鮮でおいしいわ」
花音「流石くるみ、よくわかってるわね。それに、ここのゴーヤーチャンプルーは鰹節がたくさんかかってるところも私的にはおすすめポイントよ」
詩穂「なんとかこの味を家で再現できないかしら……」
ゆり「豚の角煮も味が中までしみ込んでる!」
望「あ、ゆり!アタシもそれ食べたいんだから独り占めしないでよ!」
こんな感じでいいように言えば賑やかに、悪く言えばやかましい中食事が進む。まあ6人でいればこれくらいうるさくなるのは仕方ない事か。いや、正確には5+1だな。もちろん俺が1。だってどの話題にも入ってないもの!そうか。俺も幻の6人目になってしまったのか。
なんて思いながら黙々と食べていると、ふと視線を感じた。顔を上げると常磐と目が合った。
八幡「……なんだよ」
くるみ「先生って意外としっかり食べられるんですね」
八幡「え?まあ腐っても高校2年生の男子だからな。それなりに食べないと腹もすく」
ゆり「先生は立派な日本男児ですよ!」
望「ま、目は本当に腐ってるけど」
八幡「聞こえてんぞ天野」
花音「……そんな腹ペコなあんたにはこれあげるわ」
そう言って煌上は肉の入った汁物のお椀を押し付けてきた。
八幡「なにこれ」
花音「別になんでもいいでしょ。さっさと食べなさいよ」
八幡「お、おう」
俺はしぶしぶその汁物を啜る。肉も食べた感じから想像すると豚のレバーのようだ。けっこういける。
そしてなぜかこの一連のくだりを国枝はニコニコしながら眺めている。
詩穂「やっぱり花音ちゃんは優しいわね」
望「花音が優しいってどういうこと?」
詩穂「豚レバーには目にいい成分が豊富に含まれてるの。花音ちゃんはそれを知ってて先生にお椀を渡したのよね?」
花音「ち、違うわよ!たまたま目の前にあって、残すのももったいないから渡しただけなんだから!」
くるみ「お野菜ならにんじんやブロッコリー、アボカドにホウレンソウなんかが目にはいいですね」
ゆり「それなら先生はチャンプルー系もたくさん食べないといけませんね!」
途端に俺の皿には色々な料理がこんもりと盛りつけられた。
八幡「いや、俺、食べたいものを自分のペースで食べたいんだけど」
くるみ「でもこれ食べなかったら先生の目が腐ったままってことに……」
八幡「逆にこれくらいのことで治るわけないだろ」
望「わかんないよー。明日朝起きたら沖縄パワーで目がきれいになってたりして!」
花音「でもこいつの目がまともになったところなんて想像つかないわ」
ゆり「た、確かに……」
詩穂「なら実際綺麗になったところを確認するしかないわ。だから先生。その料理はしっかり食べてくださいね」
八幡「いやいや、意味わかんねえから……」
そんなこんな言いつつも料理はおいしかったので、結局俺は盛られた料理を完食した。なんならさらにおかわりまでしてしまった。沖縄料理、おそるべし。
462 :
全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる
[sage saga]:2017/08/11(金) 19:34:04.58 ID:FxrruTUB0
俺ガイル厨バトガを穢すなクロスだったらイケメン金髪王子須賀京太郎に処女膜捧げる少女達出せ
俺ガイルキャラがバトガ無課金で継続プレイしてるSSだったら許す
463 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/12(土) 22:57:59.21 ID:kVfEpn430
本編5-15
八幡「知らない天井だ……」
あれ、なんで俺こんな豪華な和室で寝てるんだっけ。……そうか。修学旅行に来てたんだ。いつも通り1人で寝てたから実感ゼロだよ。
そういえば昨日は晩御飯が終わってホテルに戻ってきてからも色々あったんだよな……。そのせいで寝床に着いた途端すぐ寝ちまった。
時計を見ると朝の6時前。千葉よりも西にある沖縄は日の出が少し遅いため、この時間でも日差しは柔らかい。
八幡「なんか飲むかな」
だが日差しが無くても暑いのは暑い。俺は和室を出て冷蔵庫に向かう。
八幡「どれにしようかな……」
冷蔵庫の中の飲み物も飲み放題って言うんだから、至れり尽くせりってものだ。もう一生ここに住んでもいいかもしれない。
「どれにしようかしら」
冷蔵庫が見えて来ると、先客がいるらしく、ドアが開いていて声が聞こえる。ただ、巨大な冷蔵庫のドアに隠れて誰がいるかは確認できない。
「けっこう汗かいちゃったし、スポーツドリンクにしましょ」
そう言って先客さんはドアを閉めた。
八幡「あ……」
ドアの後ろから現れたのは、朝日に反射して白い肌が眩しく輝く煌上だった。
シャワーを浴びた後なのか、バスタオル1枚しか身につけていない。髪もいつものツインテールは解かれ、少し濡れつつ自然な流れで肩にかかっている。そんな肩から伸びるすらっとした腕は、きめ細かいシルクのように滑らかである。
タオルで隠れてはいるが、出るべきところは出ているし、締まるべきところは締まっているのがわかるボディライン。
そして水滴が伝って艶めかしい魅力を醸し出す健康的な太ももとふくらはぎ。これらが見事に調和して素晴らしいバランスを演出している。
花音「こ、このヘンタイ教師……」
だがその完璧な体つきの上に鎮座するのは不動明王もビビるような怒りの表情があった。
八幡「いや、その、暑いから飲み物でも飲んで落ち着こうかなって。けっして悪気があったわけじゃなくて……」
俺の言い訳をよそに、煌上は顔を上げずにフラフラと近付いてくる。
八幡「だから、その、あれだ。不可抗力だ。不可抗力。まさかお前がこんな時間にそんな恰好でいるとは思わないだろ?だから俺は悪くない」
まくしたてるように話す俺には無反応で、煌上は俺の目の前までやってきた。
花音「……そうね。でも私だってアンタが起きるなんて予想着かなかったわ。だから、」
煌上はゆっくり顔を上げて小声でつぶやいた。
花音「アンタの記憶を消す」
刹那、俺の顔面に鋭い蹴りの衝撃が加わり、俺は気を失った。
-------------------------------------------
八幡「知らない天井だ……」
あれ、なんで俺こんな豪華な和室に寝てるんだっけ。……そうか。修学旅行に来てたんだ。いつも通り1人で寝てたから実感ゼロだよ。
そういえば昨日は晩御飯が終わってホテルに戻ってきてからも色々あったんだよな……。そのせいで寝床に着いた途端すぐ寝ちまった。
……でも、確か一回起きた気がするんだよな。勘違いかな。
時計を見ると朝の8時。すでに太陽は昇り、夏の厳しい日差しが部屋に降り注ぐ。やべ。そういえば朝食の時間って8時だったよな。
急いで着替えて和室を出ると、襖の前に煌上が立っていた。
花音「遅い。いつまで待たせるのよ。もうみんなレストランに行ったわよ。このノロマ、グズ、ヘンタイ」
八幡「そこまで言うか……」
あれ、なんか大事なことを忘れているような気がする。なんだか今朝、目の前のこいつとすごくラブコメ的展開があったような……。
八幡「なあ。俺とお前、今朝なんかあった?」
背を向けている煌上にそう尋ねると、煌上は顔を真っ赤にして振り返った。
花音「……アンタと私の間には、1ミリたりとも何もないわよ!」
そう言って煌上はつかつかと部屋のドアを開けて出ていってしまった。
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/12(土) 23:36:02.02 ID:EXDEcqAbO
やっぱり八幡の青春ラブコメはまちがっているなー
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/13(日) 00:59:27.21 ID:79ug4WY5o
乙です
466 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/14(月) 00:03:13.57 ID:ZvccZ9tO0
番外編「ゆりの誕生日前編」
今日は夏休み。夏休みである。ここ神樹ヶ峰女学園にも例外なく夏休みが存在する。だが、星守クラスだけは事情が違う。
なぜかといえば、イロウス殲滅に夏休みなど存在しないからだ。そのため万が一の場合に即座に対応できるよう、星守クラスの生徒は毎日2.3人ずつ学校に来ることになっている。所謂「星守当番」というやつだ。あれ、この単語どっかで聞いたことあるな……。
八幡「うす」
俺がラボの扉を開けると中には既に今日の星守当番の1人が座っていた。
ゆり「先生!おはようございます!本日はよろしくお願いします!」
八幡「朝から無駄に元気だな……」
ゆり「今日は私が星守当番として頑張らなければいけない日ですから!逆に先生はもう少し覇気を出した方がいいと思いますが」
八幡「こんなお盆真っ只中の朝から元気でるかっつの」
そう。普段は八雲先生、御剣先生、理事長の誰かが星守とともに常駐しているのだが、今日に限っては誰もここに来られないため、俺が代わりに学校に来させられたのだ。しかもこの連絡が御剣先生から来たのは昨日の夜。まあ、1日くらいは行くのはしょうがないとしても、もう少し早く連絡が欲しかったです。
ゆり「そんなやる気ではイロウスにやられてしまいますよ!」
八幡「俺が戦うわけじゃないし別にいい。つか、後の2人はどうした。確か天野と常盤だったよな」
ゆり「望もくるみも今日は来ませんよ」
八幡「え」
ゆり「望はファッションショーの最終準備、くるみは父上の植物調査に同行しているんです」
八幡「てことは今日は…… 」
ゆり「私と先生の2人です!」
火向井と2人かあ。この熱い正義感は暑い夏には厚かましすぎる。まあそれ以外は特に気になることはないから、まだマシな部類ではあるが。
ゆり「なんですかその煮え切らない顔は」
八幡「別になんもねえ。俺はこれから残ってる宿題をやるから邪魔すんなよ」
ゆり「それなら私も一緒に勉強します!星守たるもの、身体だけでなく頭脳も鍛えないとなりませんからね!」
八幡「……」
前言撤回。今日1日、この熱さに耐える自信がありません。
---------------------------
ゆり「うーん。ここは、どうなってるんだ?」
勉強を始めて数時間、火向井はしばらく参考書の同じページを開いてにらめっこを続けている。
八幡「なぁ、さっきから何唸ってるんだよ。こっちが集中できないだろ」
ゆり「す、すみません、古文の問題が難しくて……」
八幡「……どこだよ。見せてみろ」
ゆり「え?あ、はい。この問題です」
八幡「この問題は掛詞がポイントだな。『まつ』は『松』と『待つ』、『こひ』は『火』と『こい』の両方の意味を持つ。それで訳してみろ」
ゆり「なるほど!さすが先生ですね!」
八幡「ま、国語はもともと居た高校でも学年3位だったからな。これくらいは教えられる」
ゆり「学年で3位!?やっぱり先生は勉強得意なんですね。それならばこの数学の微分方程式の問題も教えてもらいたいんですけど」
八幡「それは無理だ。直近のテストは9点だったし」
ゆり「それは流石に文系科目に力が偏りすぎじゃないですか?」
八幡「いいんだよ。理系科目なんて偉い研究者じゃない限り必要ない。むしろ、一般人はそういう人たちが作り出した機械の説明書を読んで理解しなきゃいけない。つまり一般人にとって文系科目のほうが理系科目より圧倒的に重要だと言える」
ゆり「いきなりものすごい方向に話が飛びますね……。でも先生にも理系科目の宿題が出てるんじゃないですか?」
八幡「まあ、そうだけど」
ゆり「では私が教えてあげますよ!特に物理は好きで昔から得意科目なんです!さあ!遠慮せず!」
八幡「いや別にいいって……」
俺の静止も聞かず、火向井はあれやこれや言い出した。多分教えようとしてくれているのだろうが、いかんせん何を言ってるか全くわからない。パスカルって何?ウエントワースの森にいたアライグマ?
467 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/14(月) 00:03:45.78 ID:ZvccZ9tO0
番外編「ゆりの誕生日後編」
そうして互いに宿題を教え合ううちに、俺も火向井も疲れたので休憩することにした。
頭を使った後にはこれ!MAXコーヒー!夏には冷蔵庫で冷やしたものをグイっと飲むのがベスト。冷たくてもなおブレない甘さが脳に染み渡る。どうして冷蔵庫にMAXコーヒーがあるのかって?ラボで仕事することが多いからストックしてるんです。正に社畜の極み。
脳内コマーシャルを流しながらMAXコーヒーを飲んでいると、向かいに座っている火向井は牛乳を飲みながらため息をつく。
ゆり「はあ。今日は脳の鍛錬はできましたが、体は動かせてないんですよね」
八幡「別にいいだろ。動かさなくていいものをわざわざ動かす必要はない」
ゆり「それではダメなんです!星守たるもの、頭も体も常に鍛えておかないと!」
八幡「だけど今日は激しい運動は禁止されてるだろ」
星守当番の人たちはイロウス討伐に全力を尽くさなくてはならないので学校での激しい運動を禁じられている。もともと体を動かさない人たちには何の影響もないのだが、火向井には耐えがたい制限のようだ。
ゆり「はい。だからストレスが溜まってまして、その」
火向井はなぜかもじもじしながら俺を上目遣いで見上げてきた。
ゆり「あの、先生のでストレス解消させてもらっても、いいですか?」
………………。
八幡「にゃ、にゃにいってりゅんだお前」
たっぷり間を取ったのに噛みまくりだった。
ゆり「朝からずっと、先生の、とってもやりがいがありそうだなと思ってたんです。ぜひ私にさせてください」
俺の動揺をよそに、火向井は俺に近付いてくる。待て待て待て。落ち着け俺。相手は風紀委員長だぞ?そんな子が『俺の』で『ストレス解消したい』だなんて普通言うか?いや、現に言ってる。ということはつまり、そういうことなのか?俺が覚悟を決めるしかないのか?
八幡「……わかった。いいぞ」
ゆり「本当ですか!?でしたら、その、Yシャツを脱いでもらってもいいですか?」
八幡「……おう」
俺は指先を震えさせながらYシャツのボタンを1つずつ外していく。今日は一応仕事なのでスーツを着てきていたのだ。まさか、ここで脱ぐとは思わなかったが。小町。俺は今日、大人になるよ。母ちゃん、親父。今まで育ててくれてありがとう。
俺のYシャツを受け取った火向井はどこからかアイロンとアイロン台を出してきて、俺のYシャツを広げる。
ゆり「では先生のYシャツをアイロンがけさせてもらいます!今朝からずっと先生のYシャツのしわが気になってたんです!私のストレス解消も兼ねてじっくりアイロンをかけさせてもらいますね!」
満面の笑みを浮かべながら火向井はアイロンがけを始める。
……え、ちょっと待って。『俺の』で『ストレス解消したい』って言うのは、『俺のYシャツ』で『アイロンがけをしたい』って意味?なんという叙述トリック。今時こんな小説流行らねえぞってレベル。俺の家族への感謝の気持ちを返せ。
そんな俺の葛藤は露知らず、火向井は鼻歌を歌いながらアイロンがけを続ける。なんだかアイロンがけをしている姿ってすごく家庭的な感じを受ける。嫁度対決とかしたら火向井ってけっこう上位にランクインしそう。
八幡「なんか、アイロンがけがストレス解消方法っていうのもなんか変わってるな」
ゆり「そうですね。でも私は将来良妻賢母になりたいと思っているので、これくらいできて当然です!」
八幡「へえ。ま、確かに言うだけあって手際がいいな」
ゆり「そ、そうですか?ありがとうございます」
少し顔を赤らめながらも火向井は手を動かし続けて、余すところなくアイロンをかけ終えた。
ゆり「さあ先生!どうぞ!」
八幡「ん」
俺は受け取ったYシャツを着なおす。そんな俺の光景を火向井はなぜかぼーっとした顔で眺めている。
八幡「なに」
ゆり「え?い、いえ!たいしたことはありません!ただ、なんだかこのやりとりが夫婦みたいだな、と思いまして……」
八幡「……っ」
た、確かにその通りかもしれない。女の子に料理を作ってもらうことはあっても、アイロンがけをしてもらうことなんてなかなかない。それこそ一緒に住むようにならない限り……。でも、夫婦よりももっと適した状況があることを俺は発見した。
八幡「いや、夫婦ってより、母親の手伝いをした健気な小学生とその兄って感じだな」
ゆり「うぅ……」
火向井の目がみるみる潤んでいく。あ、やべ、地雷踏んだわ。
ゆり「ち、小さいってゆうな〜っ!!」
468 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/08/14(月) 00:05:58.16 ID:ZvccZ9tO0
以上で番外編「ゆりの誕生日」終了です。ゆり、誕生日おめでとう!アニメも折り返しましたね。この先どんな展開になるんでしょうか。
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 00:07:37.96 ID:el7Q1d3No
乙です
470 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/14(月) 10:28:24.13 ID:p16S2pA6O
良いオチのつけ方だw
そういえばストレス発散方法アイロンがけだったなあ
471 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/14(月) 21:09:18.42 ID:QELusPnDO
乙です。
高校数学で微分方程式なんてやったっけか……
最近はそうなのかな?
472 :
◆JZBU1pVAAI
[sage]:2017/08/14(月) 21:26:08.93 ID:ZvccZ9tO0
>>471
の通り、微分方程式って高校ではやらないっぽいですね。しかも数学じゃなくて物理でした……。
>>1
の文系脳によるアホさが露呈しました。ゆりが難しそうな数学の問題を解いてることを書きたかっただけです。無難に極大値の計算とかにしとけばよかった……。
473 :
◆JZBU1pVAAI
[saga]:2017/08/15(火) 00:11:38.78 ID:zm02iBnO0
本編5-16
あわただしく朝食を終え、俺たちは2日目の目的地に到着した。
八幡「あっつ……」
望「海すっごいキレー!」
ゆり「うう、これから水着になるのか……」
くるみ「ここら辺にはあまりお花さんがいないわ」
花音「プライベートで海なんてすごい久しぶりかも」
詩穂「日焼けしないようにしっかりクリーム塗らないと」
隣人部以上にバラバラな感想を言っているが、一応全員同じ海を眺めている。今日は昼頃までここで遊ぶ予定である。
八幡「じゃあ俺は手早く着替えて場所取りしとくわ」
そう言って俺は1人、男子更衣室に向かう。朝早めに来たため、まだあまり海水浴客はいないが、これからもっと増えていくだろう。こっちは6人とそれなりに大所帯なので、男の俺が場所を確保する任務を与えられたためだ。
ちゃっちゃと着替えを済ませ、海岸のパラソルが立っているところにシートを広げる。
八幡「はあ……」
少し日差しを浴びただけで汗が止まらない。うんとうんと日差し浴びたらどうなっちゃうのこれ。遠い空や遠い海に誘われて、私の心は本当に雲の上に上ってっちゃうのかしら。
「はい先生!」
八幡「うおっ」
不意に首筋に冷たいものが押しあてられた。振り返るとそこには水着を着た5人の星守たちが立っていた。
望「先生お疲れ!」
そう言って飲み物を差し出す天野の水着は白のビキニに色鮮やかな花柄のフリルがついたものだ。首にはいろいろな色や形の石のネックレスも付けており、天野のオレンジの髪や明るい性格に合った姿だ。ちなみに露出度は高い。
詩穂「パラソルがあって、近くに売店があるところを選ぶなんて、やっぱり流石ですね先生」
話ながら日焼け止めを取り出す国枝の水着は水色と白のボーダーに、小さな白いひらひらがついたビキニだ。その分、胸の中心のピンクのリボンがよく目立つ。その上から薄水色のカーディガンを着ている。ちなみに露出度は高い。
花音「これくらいできて当然よ。それより詩穂。私が背中に日焼け止め塗ってあげるわ。貸して」
国枝を寝そべらせて日焼け止めを塗る煌上は胸の中心に金色に光る小さな丸いアクセサリーがあるだけの真っ白なビキニを着ている。至ってシンプルではあるが、だからこそ煌上自身の魅力が存分に表れていると言える。ちなみに露出度は高い。
くるみ「あれ、ゆり。そんな遠いところで何してるの」
常後ろを向きながら火向井に常磐は薄緑を基調としつつ、若緑の小さなひらひらが付いた、国枝と色違いのようなビキニを着ている。ただ、胸の中心にある小さな黄色い花がアクセントになっている。そしてその上からエメラルドグリーンのパーカーを着ている。ちなみに露出度は高い。
ゆり「み、みんなはスタイルいいから、気にしないのかもしれないけど、私は、その、全然だし……」
花音「でも日陰に入ったほうが涼しいわよ」
ゆり「うう……」
俯きながら火向井もシートに荷物を置く。そんな火向井はスポーツブラのような形の赤地に白い花が入った水着と、青のショートパンツの恰好だ。オレンジに白い水玉模様の半そでパーカーを着て全体的にスポーティにまとめていている。ちなみに露出度は高い。
望「これで全員揃いましたね。早速遊びましょうか」
八幡「……俺はここで座ってるよ。誰か荷物見とかないといけないしな」
くるみ「でも、」
八幡「いいんだよ。俺のことは気にするな。ほら遊んで来い」
半分は暑いから動きたくないという理由だが、もう半分は水着の女の子5人と遊ぶことを俺の心が遠慮しているのだ。すでに今の時点で周りから「水着の女の子の中に、なんであんな冴えないやつがいるの」みたいな視線が痛いほど刺さっているし。
詩穂「でしたら、私たちの遊ぶ風景を録画してもらえませんか?」
八幡「え、それは」
花音「そうよ詩穂。こんな腐った目で私たちの水着姿を撮られたくないわ。私たちまで腐りそう」
煌上に反論しようとした時、隣にいた火向井が暗いトーンで声を上げた。
ゆり「なら私が撮る。私もしばらくここにいようと思っていたし」
望「どうしたのゆり?調子悪いの?」
ゆり「……別にそんなことない。とにかく!私が撮るから4人は存分に遊べ!」
そう言って火向井は困惑する4人を強引にパラソルの下から追い出した。
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