八幡「神樹ヶ峰女学園?」

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299 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/04/23(日) 23:10:01.65 ID:yZ6uxURGO
>>298うららの心美への呼び方が違ってました。これから先は気をつけます
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 02:01:05.16 ID:OO3I0VXxo
乙です
301 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/04/24(月) 22:26:02.71 ID:JbfaqJzS0
本編3-10


俺たちが本殿に行くとすでにかなりの人だかりができていて、舞台には朝比奈が立っていた。

放送「これより当神社の巫女、朝比奈心美が舞を披露いたします。参拝客の皆さま、美しい舞を是非ご覧ください」

放送が終わると、神楽が鳴り始める。朝比奈はその音楽に合わせてゆったりと、優雅に舞う。手にある扇も使いながら美しく舞う姿からはいつもの臆病な雰囲気は全く感じない。

小町「キレイ……」

うらら「やるわね……」

小町や蓮見はもちろん周りの人たちも朝比奈の舞に魅力されているようで、ため息や囁き声があちこちから聞こえる。

小町「心美ちゃんすごいねお兄ちゃん」

八幡「あぁ」

小町「でも舞台が黒いのがもったいないよね。ちゃんと掃除しなきゃ。せっかく舞が綺麗なのに」

八幡「あ?床?」

注意して見てみると、確かに木が黒くなっている箇所がある。あれって、

八幡「……!おい蓮見。舞台の床を見ろ」

うらら「え?ん〜、あっ。これってまさか……ここみ!床!!」

蓮見の声が聞こえたのか、舞台上の朝比奈も床の異変に気付き舞を中断する。

その時床の黒い魔法陣が光り、そこからイロウスが出現した。

うらら「イロウス!」

心美「皆さん!今すぐここから逃げてください!」

蓮見はすぐに武器を出しイロウスへ飛びかかる。朝比奈は舞台上から大声で呼びかけるが、その途端に参拝客は我先に走り出し、本殿は混乱している。このままだと参拝客が危ない。それを防ぐには、

八幡「小町。お前は神社にいる人の避難を指揮してそのまま逃げろ」

小町「え?でもお兄ちゃんは?」

八幡「俺はここに残る。曲がりなりにもあいつらの先生だからな」

小町「なら小町も残る」

八幡「ダメだ。参拝客には完全に避難してもらわないと戦いづらい。それに、もし小町の身に何か起こったら俺が親父に殺される。俺の命のためにも逃げてくれ」

小町「目的が半分お兄ちゃんのためになってるよ……でもそう言うならわかった。お兄ちゃんの言う通りにするよ」

八幡「頼む」

小町は一度大きく頷いて人混みの方へ駆け出していった。

八幡「蓮見、なんとか小町が参拝客を避難させるまでここで持ちこたえてくれ」

うらら「わかった!」

心美「あの、私は何を」

八幡「朝比奈は参拝客が残っていないか神社を見回って、誰もいないのが確認できたら連絡してくれ」

心美「わ、わかりました。待っててねうららちゃん!すぐ戻ってくるから」

うらら「足止めは任せときなさい!」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/25(火) 00:38:39.21 ID:tUQrPHfXo
乙です
303 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/04/25(火) 20:44:38.28 ID:wURqF/Kd0
本編3-11


八幡「じゃあ俺たちはこいつらをどうにかするか」

改めて俺と蓮見はイロウスに向き合う。

うらら「どーにかするのはうららでしょ♪」

八幡「……確かに」

うらら「いや、そんな意味で言ったんじゃないからね。元気出して!」

八幡「別に落ち込んでねぇよ。ほらイロウスに集中しろ」

うらら「大丈夫!小型イロウス数匹くらいなら余裕よ!」

蓮見はそう意気込んで杖を構える。魔法陣から出てきたところを見ると、こいつはレイ種ってやつか。

うらら「星守うららのステージ開幕よ!『炎舞鳳凰翔』!」

たちまち炎に包まれた蓮見は飛び上がり、上空からイロウスに向かって突撃する。その攻撃で周囲のイロウスはたちまち消滅する。

うらら「どうどうハチくん!うららの勇姿!」

八幡「ご苦労さん。あぁ、まぁ良かったんじゃねえの」

うらら「うわー。こまっちに聞いた通り、褒めるのも素直じゃないなぁ」

八幡「うるせ。つかまだ大型イロウスを倒せてない。油断すんな」

小型イロウスをいくら倒しても大型イロウスを倒さないと意味がない。絶対近くにいるはず。

その時通信機が鳴り出した。多分朝比奈からだろう。

八幡「もしもし」

心美「せ、先生!助けてください」

予想に反してかなり切羽詰まった声色だ。

八幡「どうした」

心美「神社全体にイロウスが出現していて、私1人では倒しきれないです。ど、どうすれば」

八幡「わかった。蓮見とすぐそっちに向かう。今どこだ」

心美「い、今は売店前の参道にいます」

八幡「すぐ蓮見と向かう。俺たちが行くまで無理はするなよ」

心美「わ、わかりました。お願いします」

そうして通信は切れた。くそ、すでに神社全体が襲われてるのか。

八幡「おい蓮見。ここだけじゃなくて神社全体にイロウスが現れてると今朝比奈から連絡があった」

うらら「ここみは大丈夫なの?」

八幡「無理はしないように言っといた。だが早く合流しないとマズイ」

うらら「すぐ行くわよ!」
304 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/04/27(木) 23:19:42.34 ID:dn6LpICn0
本編3-12


俺たちが参道に着くと、朝比奈が多数のイロウス相手に孤軍奮闘していた。

うらら「ここみ!」

心美「うららちゃん!先生!」

八幡「大丈夫か?」

心美「は、はい。でもイロウスが多すぎて対処しきれなくて……」

小型イロウスばかりだが、いかんせん数が多いのと散らばってるのとで効率的に倒せていない。

うらら「ハチくん!うららのスキルで一網打尽にするわ!」

八幡「でもさっきのスキルじゃせいぜい周り数メートルのイロウスしか倒せないだろ」

うらら「ふふん、うららを甘く見ないでよ!さ、ステージ第二幕の開演よ、『パンプキンクイーン』!」

蓮見が叫ぶと上空から大きなかぼちゃが降ってきた。かぼちゃ?

八幡「は?なにこれ?」

心美「うららちゃんのスキルです。あのかぼちゃが時限爆弾になってるんです」

八幡「時限爆弾?」

うらら「でもただの時限爆弾じゃないわよ!」

何がだ、と言いかけた時異変に気づいた。どの小型イロウスもかぼちゃに吸い寄せられていくのだ。

八幡「もしかしてこの爆弾」

うらら「そう、かぼちゃがイロウスを引き寄せてくれるの。さ、ここみ!今のうちにイロウスを叩くわよ!」

心美「う、うん!」

そうして2人は外からイロウスを攻撃してその数を減らしていき、

うらら「そろそろ爆発するわ!」

時間が経ったかぼちゃは周りに残ったイロウスを巻き込んで爆発した。

八幡「よし、これでかなり数が減ったな」

心美「でもまだ残ってます」

うらら「もう一回かぼちゃをやればいいだけの話よ!『パンプキンクイーン』!」

再びかぼちゃが降ってきて、イロウスが引き寄せられていく。

うらら「いくわよここみ!」

心美「うん!」

だが次の瞬間、かぼちゃが爆発した。

八幡「な、なにが起こった?」

うらら「うっ。実はあの爆弾、一定以上のダメージを受けても爆発する仕組みになってるの」

八幡「てことはまさか」

心美「た、多分出てきたんだと思います。大型イロウスが」

煙が晴れてくると、朝比奈の言う通り大型イロウスの輪郭が見えてきた。高さは4,5メートルほどで全身骨だが、角としっぽがあるぶんさらに巨大に感じる。

八幡「こいつがおそらく親玉だな」

心美「お、大きいよぉ」

うらら「しっかりしなさいここみ!大丈夫、うららたちならできる!」
305 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/01(月) 00:57:32.71 ID:UaigGRmc0
本編3-13


蓮見と朝比奈は杖を構え大型イロウスへ攻撃を仕掛けようとする。しかしその攻撃を次々と湧いてくる小型イロウスが身代わりとなって受け、大型イロウスに攻撃が届かない。

うらら「もうっ!なんなのよあの小型イロウスは!」

心美「し、しょうがないようららちゃん」

八幡「攻撃し続ければ隙が生まれるはずだ。そこを逃すな」

そうして攻撃を続けると小型イロウスが湧いてこない瞬間ができた。

八幡「今だ!」

うらら「はあっ!」

心美「やぁ!」

2人はすぐさま攻撃するが、大型イロウスは地中へ潜って攻撃をかわす。

うらら「今度は隠れるのね」

心美「ど、どこから現れるんだろう……」

マジか、また地中に隠れるのか。千葉に現れたシュム種といい、イロウスって地中が好きなの?そのまま地中に潜っていなくなってくれるとありがたいんだが。

などと考えていると蓮見の足元に大きな黒い魔方陣が出現した。

八幡「蓮見!足元に注意しろ!」

うらら「わかってる!」

すぐに魔方陣が光りだし、そこから大型イロウスが腕を振り回しながら現れる。だが、蓮見は素早く緊急回避のためにローリングして攻撃をかわす。

心美「うららちゃん!」

うらら「うららは大丈夫!早く大型イロウスに攻撃を!」

心美「うん!」

朝比奈は大型イロウスを攻撃する。しかし大半の攻撃はまた湧き出した小型イロウスが身代わりに受けたため、ほとんど大型イロウスにダメージを与えられない。

心美「ま、また小型イロウスが……」

うらら「もうどうすればいいのよ!」

八幡「どうするもなにも、こうなったら小型イロウスもまとめて攻撃するしかないんじゃないか」

心美「それならスキルを連発するしか……」

うらら「なら連発すればいいじゃない!」

そう言うと蓮見は矢継ぎ早にスキルを連発していく。

うらら「『チャーム・アイズ』!『エレクトロサポート』!」

蓮見のスキル攻撃でダメージを大型イロウスに与えることに成功した。

うらら「『チャーム・アイズ』でマヒさせて、『エレクトロサポート』でパワーアップしたうららの攻撃を受けなさい!『炎舞鳳凰翔』!」

だが蓮見がスキル名を唱えてもさっきみたいな炎は出てこない。

心美「うららちゃん……?」

八幡「……お前もしかして」

うらら「SP使い切っちゃった……」

八幡「なにやってんだ。スキル使えなくなるってかなりやばいぞ」

うらら「だ、だって参道に来た時に『パンプキンクイーン』何回も使っちゃたんだもん!それに小型イロウスもまとめて攻撃しろって言ったのハチくんじゃん!」

八幡「いや、確かにそう言ったけど、ここまでするとは思わないだろ」

自分でできること減らしてどうするんだよ。でも今さら後悔してもどうしようもない。まずはこの状況を打開することを考えないと……
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 02:43:43.76 ID:7O88FGMMo
乙です
307 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/02(火) 01:25:05.61 ID:CeRDX9tz0
本編3-14


心美「あ、あの」

朝比奈が胸の前で手をもじもじさせながら話しかけてきた。だから、その胸の前に手置くなよ。見ちゃうだろ。小町や蓮見にはないものを。

八幡「どうした?」

心美「わ、私のスキルでうららちゃんのSP回復してあげられますけど」

八幡「ほんとか?」

うらら「さすがここみ!」

心美「で、でもスキルの攻撃力はそこまで高くないんですけど」

八幡「蓮見のSP回復が最優先だ。すぐ頼む」

心美「じゃ、じゃあ、先生。私のそばに来てくれませんか?」

八幡「え、なんで?」

心美「そうしないとスキルが発動できないんです……」

なにその発動条件。回復対象の蓮見が近づくならわかるけどなんで俺?

うらら「ほらハチくん!早くここみに近付いてよ!」

俺が朝比奈に近付かないことに見かねて、蓮見が俺の背中を押した。そのせいで朝比奈との距離がほぼゼロ距離になり、朝比奈からうっすらシャンプーのいい香りがするっていうどうでもいい知識を身につけた。てかめっちゃ近いんですけど。色々女の子らしいものが目の前にあって視線が泳ぐ。

八幡「あ、悪い」

心美「い、いえ」

……なにこの沈黙。あれ、てかなんで俺朝比奈に近付いたんだっけ。

うらら「ほらここみ!早くスキル発動させなさいよ!」

心美「あ、うん。じゃあ先生」

そう言って朝比奈はハンカチを出して、それを俺の顔に向けてくる。自然とそのハンカチを目で追っているとその向こう側の朝比奈と目が合う。

心美「ブ、『ブラッシュアプローチ』!」

その瞬間、朝比奈はハンカチを引っ込めて顔を赤らめて横を向いてしまう。そんな朝比奈から大量のハートが飛び出して降り注ぐ。

……ていうか何この状況、どうすればいいの?なんか朝比奈の顔、真っ赤になってるし。こういうときって俺がフォローすればいいの?いや、そんなことして朝比奈が全然気にしてなかったら俺恥ずかしいだけだし。でも相手は朝比奈だぞ?絶対男の人にこんなことしたことないだろ。やっぱり何か一言言うべきか。

八幡「あ、」

うらら「ありがとうここみ!SPも回復できたし早く大型イロウス倒すわよ!」

俺が口を開く前に、蓮見が朝比奈に声をかけた。

心美「う、うん!そうだねうららちゃん」

蓮見の声掛けによって朝比奈も落ち着きを取り戻したらしい。むやみに俺が話しかけなくてよかった。

と思ったら蓮見が俺の腕をつかんでそのまま強引に引っ張ってきた。おかげで顔と顔がめっちゃ近くなって、蓮見の髪から朝比奈と同じシャンプーのいい香りがするっていうどうでもいい知識を身につけてしまった。蓮見はそんな俺にはおかまいなしに耳元で囁いてきた。

うらら「ここみに変な感情抱かないでよ」

八幡「んなわけないだろ。持たねぇよ」

うらら「でも赤くなってた」

八幡「あれは、まぁ、不可抗力だ」

うらら「ま、そうだね。今も赤くなってるし♪」

八幡「なっ」

恥ずかしくなって俺は蓮見の腕を強引に振りほどく。蓮見は残念そうに「あぁ〜」とか言ってる。

八幡「おい、からかうなよ」

うらら「しょうがないでしょ。ここみには負けたくないんだもん……」

最後の言葉がよく聞こえなかった。何がしょうがないんだ。聞こえないんだよ。

八幡「なんだって?」

うらら「なんでもない!」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/02(火) 21:05:08.87 ID:eoaofe1Zo
???「え!?なんだって!!??」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 05:31:43.09 ID:VeiXW3NAo
乙です
310 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/04(木) 00:06:31.97 ID:JglSceBy0
番外編「昴の誕生日前編」


5月4日。本来ならゴールデンウイークを家で謳歌しているはずなのだが、今日は若葉と出かけることになっている。しかし、ゴールデンウイークというのは本当に素晴らしい。長い連休は普段のせわしない生活からの脱却を可能にし、自分の時間をゆったり過ごす余裕を与えてくれる。反動として連休明けの戻って来た日常への反抗心もまた大きなものになるのが悩みどころだが。

さて、集合場所に来たのはいいものの、すごい人だな。さすがゴールデンウイーク。で、若葉はどこ?いない?ならしょうがない。帰るか。

昴「あ、先生!こっちです!」

声のする方を見ると、若葉が両手をぶんぶん振って俺にアピールしている。服装はいつもの制服やジャージではなく、白のTシャツの上に黄緑色のノースリーブのパーカーを重ね着している。下は黒のホットパンツでいかにも若葉らしい健康的な印象を受ける。

八幡「うす、よく俺の事見つけられたな」

昴「先生見つけやすいですから」

八幡「俺そんな悪目立ちしてる?」

昴「そ、そういう意味で言ったんじゃないですよ!とりあえずここから移動しませんか?」

八幡「あぁ、でもちょっと休ませて。普段こんな人込みの中にいないから今の状況ツライ」

昴「まだ会って何分も経ってないじゃないですか!ほら行きますよ!」

俺は若葉に引っ張られ今日の目的地、サッカースタジアムまで歩き出した。

八幡「つか、今更だけど別に一緒に行くの俺じゃなくてもよかったろ。星月とか誘ったら絶対付き合ってくれるんじゃないの」

昴「いえ、色々声をかけてみたんですけどさすがにサッカー観戦までは付き合ってくれなくて。ホントはもともと先生と行きたくて誰にも声かけてないけど」

最後のほうが周りの雑音のせいでよく聞こえなかった。何、誘っても断られるとかちょっと同情しちゃう。

八幡「ま、せっかくチケットもらったんだから有効活用しないともったいないか」

実は数日前、くじで当てたとかで御剣先生からサッカーの試合のチケットを2枚もらった。俺はあまり興味がなかったからフットサル部の若葉にチケットを譲ったのだが、一緒に行く人がいないということで俺が付き合うことになったのだ。

昴「そうですよ!アタシ、この試合ずっと生で見たかったんです!でも人気なのでなかなかチケット手に入らなくて」

八幡「へぇ、そんなに人気なのか」

昴「はい!両チームとも毎年優勝争いを繰り広げる強豪なんです!だからこの対決はその年の優勝チームを決める上で毎年大事な一戦になるんです!」

八幡「ふーん」

昴「あの、先生。もしかしてあまり乗り気じゃないですか?反応が薄いような」

八幡「ま、正直そこまで乗り気ではない。サッカーの試合なんてテレビでしか見たことないし」

昴「正直すぎますよ……でも生で見るサッカーはテレビよりも何倍も楽しいですから!アタシが保証します!」

八幡「でも俺サッカー見ても何がすごいのかイマイチわからないんだけど」

昴「それなら試合が始まるまでアタシが教えてあげますよ!今日の2チームはその特徴がはっきりと分かれていて、注目の選手がそれぞれ……」

途中から何を話しているか理解できなくなったが、若葉は試合が始まる直前まで話を止めなかった。

八幡「若葉、そろそろ試合が始まる時間なんだが」

昴「あ、もうそんな時間なんですね。気づかなかったです」

八幡「あぁ。ま、途中からお前喋っててばっかりだったもんな」

昴「す、すいません。でもとにかく今日の試合は盛り上がること間違いなしなんです!」

八幡「わかったわかった。ほら、選手入場だとよ」

いつもテレビで聞く名前がわからない音楽が流れると、選手が入場してきた。

昴「わぁ!先生!本物の!本物の選手たちですよ!」

八幡「わかったから少し落ち着け、な?」

昴「落ち着いてなんていられませんよ!この対戦を見られるなんて夢みたい!」

八幡「そうですか……」

若葉はそんなハイテンションのまま、試合終了までまさに全身全霊で試合を楽しんでいた。
311 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/04(木) 00:18:03.77 ID:JglSceBy0
番外編「昴の誕生日後編」


試合は両チームとも見せ場があり、素人の俺でもそれなりに楽しめる内容だった。

八幡「ほら若葉。試合終わったから帰るぞ」

昴「は、はい」

だが俺たちの負けられない戦いはここから始まったのだ。帰りの電車に乗るために観客が一斉に駅に移動する。最寄り駅は一つしかなく、それもまた大きいとは言えなかった。そこにこの数万の観客が一気に押し寄せるのだ。必然、スタジアムの出口付近から大混雑が始まる。

八幡「おい、若葉。大丈夫か?」

昴「大丈夫です!」

押し合いへし合いながら、俺たちは時々声をかけ合い駅まで進んでいった。しかし、スタジアムと駅の中間地点くらいからまずます混雑が激しくなってきた。

八幡「若葉?いるか?」

当然いるものだと思って声をかけたのだが返事がない。

八幡「若葉?返事しろ!?」

もう一度声をかけても返事がない。……はぐれたか。ま、あいつなら一人でも帰れるか。俺より頑丈そうだし。

昴「先生……」

その時、かすかに、でもはっきり若葉の俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。

八幡「若葉!」

俺がなんとか体を入れて流れに逆らって歩いてきた道を戻ると、道のすみで膝を抱えてうつむきながら座り込んでいる若葉を見つけた。

八幡「若葉、お前何やってるんだよ」

昴「先生?ほんとに先生?」

俺が声をかけると、若葉は顔を上げて俺を見つめてくる。その目はうっすら潤んでいる。

八幡「いくら目が腐ってるからとはいえ、幽霊扱いはさすがに傷つくぞ」

昴「幽霊なんて言ってないですよ。はは、でも本当に先生だ」

若葉ははにかんでそう言うが、声に力がない。それこそ幽霊みたいに見えてもおかしくない。

八幡「……はぁ」

仕方なく俺も若葉の隣に座ることにした。こんな状態の若葉を放っておけないし、かといって無理やり動かすのも気が引ける。

しばらく無言のまま座っていると、若葉がぽつぽつと語りだした。

昴「アタシ、今日浮かれてたんです。誕生日にずっと見たかったサッカーの試合を先生と見ることができるんだって」

八幡「……」

昴「でも、帰る途中に先生とはぐれて思ったんです。今日楽しんだのはアタシだけだったんじゃないか。先生は無理にアタシに付き合ってくれたんじゃないか。だからアタシは先生とはぐれちゃったんじゃないかって」

八幡「ま、確かにサッカーに関してはあまり興味はなかったな」

昴「そうですよね……」

八幡「でも、なんだ。今日はお前の誕生日なんだから、お前が楽しめたならいいんじゃないのか?それに、俺も今日若葉と過ごせて、悪くはなかったかなって思ってる」

その言葉に嘘はない。なんだかんだ楽しめた気がする。若葉の話のおかげで試合の見るポイントもわかったし、試合が見れたから若葉が楽しむ理由もわかったのだ。だから若葉が自分で自分を責める必要は全くない。俺1人で見てたら絶対ここまで楽しめなかった。いや、1人だったら見には来ないか。

昴「……ありがとう先生。やっぱり先生と来られてよかったです」

八幡「そうか」

昴「さ、帰りましょうか。もう人もだいぶ減りましたし」

八幡「あぁ」

そう言って俺たちは立ち上がって歩き出した。ふと空を見上げるとどの星も瞬いているように見える。普段の夜空と変わらないはずなのに今日に限っては普段より綺麗な感じがする。

そんなことを考えながら歩いていると、ふいに若葉が数歩走ってから立ち止まり、こっちを振り返った。その顔は今日見た中で一番の、若葉らしい眩しい笑顔だった。

昴「先生!来年もまた2人でサッカー見ましょうね!」

八幡「……チケットがあれば考える」

昴「言いましたね!絶対手に入れますから!」

そんなことを言い合うと俺たちはまた駅に向かって歩き出した。
312 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/04(木) 00:28:34.18 ID:JglSceBy0
以上で番外編「昴の誕生日」終了です。昴誕生日おめでとう!自分も昴とサッカー観戦したい。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/04(木) 16:32:26.32 ID:BIHD/P4To
乙です
314 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/05(金) 17:41:55.56 ID:xi67hfcp0
本編3-15


うらら「『炎舞鳳凰翔』!」

朝比奈にSPを回復してもらった蓮見は再びイロウスに対しスキル攻撃を行う。そして数回スキルを使った後、

うらら「ここみ!回復お願い!」

心美「う、うん!『ブラッシュアプローチ』!」

うらら「よし!まだまだいくわよ!」

こうして蓮見がイロウスを攻撃し、朝比奈が蓮見のSPを回復するという役割分担が自然と出来上がった。俺はと言えば、スキル発動のために毎回毎回朝比奈と顔を近づけているだけである。さすがに何回もやれば慣れるだろうと思ったが全然そんなことはない。むしろ毎回ドキドキしすぎて心臓が過労死しそうなレベル。

心美「な、何回もすみません先生」

八幡「い、いや、スキルのためだもんな。しょうがないしょうがない」

朝比奈もまたこの状況に慣れないのは俺と同じらしく、毎回動作がぎこちない。

うらら「もうここみもハチくんもいい加減慣れてよ!初心なカップルみたいな光景を見せられるうららの気持ちも考えて!」

何回目かの朝比奈のスキル発動ののち、蓮見がしびれを切らして文句を言い始めた。

八幡「いや、そう言われても慣れないものは慣れないし」

心美「ご、ごめんねうららちゃん」

うらら「まぁ百歩譲ってここみは普段男の人と関わりないからいいとして、ハチくんはなに?高校生でしょ?こういうことの一つや二つ経験あるでしょ?」

八幡「俺をなめるな蓮見。今まで俺の恋愛が成就したことなんて一度もない。それどころか失敗ばかりが積み重なっていき、結果が今の俺だ」

そう、誕生日にアニソンセレクトを送ったり、やたらメールをしてみたり、話しかけられただけで勘違いしたり。負けることに関しては俺最強。

心美「せ、先生も大変なんですね。わ、私は男の人に話しかけることなんてできないのですごいと思います」

うらら「こまっちの話だと高校で何かしらあってもいい感じだったのに。意外とそうでもないのね」

そんな俺の発言に2人は意外にも好意的な反応を示してくれた。

八幡「ま、そういうことだ。だから蓮見、俺たちがぎこちなくても許せ。どうしようもないことなんだ」

うらら「ならここみ!うららと役割変わって!」

八幡「は、お前何言ってんの」

うらら「だって、このままじゃいつまでたってもぎこちないままでしょ?ならうららがハチくんに色々教えてあ・げ・る」

八幡「いやいらないから。それにこれはイロウス倒すために仕方なくやってることなの。わかってる?」

心美「し、仕方なくですか……先生は私に近付かれるのが嫌ですか?」

八幡「別に好きとか嫌いとかの話じゃなくて。つか、そしたらイロウスには誰が攻撃するんだよ」

うらら「ここみがやればいいじゃない」

心美「でもうららちゃん、SP回復スキル持ってないよね?」

うらら「う、それはあれよ。ほら、気合でなんとか」

八幡「できるわけないだろ。てか話してる暇なんてないだろ。2人ともイロウスに集中しろ」

うらら、心美「はい……」

そうこうしてるとまた蓮見のSPが切れたため、朝比奈のスキルを使うときがきた。しかし朝比奈がなかなか近づいてこない。

八幡「あの、朝比奈?早くしてくれない?」

心美「あ、あの、私も早くしたいんですけど、先生も私と同じで経験がないってことがわかって余計意識しちゃって」

なんでそんなに顔赤いんだよ。俺まで余計に意識しちゃうだろうが。

その時、朝比奈の背後から大型イロウスが現れ、朝比奈の足元に黒い魔方陣が現れた。だが朝比奈はゆっくりこっちに歩いたままそれらに気づかない。

八幡「朝比奈!危ない!」

心美「え?」

俺は走り出しながらそう叫んだ。朝比奈はようやくイロウスや魔方陣に気づいたが、もう回避行動をとるには遅すぎる。すでに足元の魔方陣は光り出している。

心美「あ、あぁ」

朝比奈は恐怖のあまりその場から動けないでいる。だが俺も助けるには走っても位置的に間に合わない。
315 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/08(月) 18:45:27.16 ID:WuUQBt0z0
本編3-16



うらら「ここみ!」

その瞬間、蓮見が目にも止まらないスピードで朝比奈向かって飛び込み、魔法陣の中から身を呈して救い出した。

八幡「大丈夫か⁉︎」

俺は参道に倒れたまま動かない2人の元へ駆け寄る。

うらら「うん、うららは大丈夫」

そう言って蓮見は立ち上がろうとする。だが朝比奈はまだ起き上がれず何か呟いている。

心美「私、私……」

うらら「ここみ、起きなさいよ」

心美「……」

うらら「ここみ!」

そう言って蓮見は強引に朝比奈の顔を持ち上げて強烈な平手打ちを食らわした。

うらら「ここみ、あんた何してんのよ」

心美「うららちゃん……」

うらら「うららたちのやるべことは何?早くイロウスを倒してこの神社を守ることじゃないの?それをいつまでたってもスキルにもたついて、さらには動けなくなる?いい加減にしてよ!」

八幡「おい蓮見」

うらら「ハチくんは黙ってて」

八幡「はい……」

怖っ、蓮見怖。こんな人を突き放すような声も出すのかこいつ。

うらら「ここみはうららのライバルなんだよ?それなのにこんなみっともない姿晒さないでよ!」

そう言って蓮見は朝比奈をそっと抱き寄せる。

うらら「だから、一緒に頑張ろ。ここみ」

心美「うん、うん。ごめんね、うららちゃん」

涙声になりながら朝比奈も蓮見と抱き合う。この光景を近くで見るのはかなり罪悪感というか、見てはいけないものを見てる気がしてドキドキする。が、今はそんな風に眺めていられる場合じゃない。

八幡「あの、お2人さん。けっこうヤバイ状況なんだが」

そう、この一連の流れの最中に周りを小型イロウスに囲まれてしまった。ガイコツが四方八方で浮いてるのホント不気味。

うらら「安心してハチくん。うららたちにかかれば朝飯前よ!」

心美「そ、それは言いすぎだようららちゃん。でも、絶対倒します。私たちで」

2人の宣言を聞いて、絶望的な状況なのにこいつらならやってくれるっていう確信めいた何かを感じた。

八幡「もう大丈夫なんだな」

うらら「もちろん!じゃあここみ。うららのSP回復お願い」

心美「うん」

俺を見上げる朝比奈の目は決意を固めた目をしていた。……そんな目されたらこっちも覚悟決めるしかねぇじゃねぇか。

心美「いきますね先生。『ブラッシュアプローチ』!」

これまでよりもハートが多く降り注いでいる気がするのは気のせいですかね。そんなハートが周りの小型イロウスを攻撃する。

心美「うららちゃん!」

うらら「わかってるわよ!『エレクトロサポート』!」

蓮見の放つ大量の電撃が小型イロウスをまとめて撃破していく。気づけば周囲のイロウスはほとんど姿を消していた。

うらら「一気にいくわよここみ!ついてきなさい!」

心美「うん!」
316 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/12(金) 12:59:35.82 ID:OlOvuVhO0
本編3-17


それからの2人の勢いは凄まじかった。次々に湧き出て来るイロウスを無双シリーズ並に蹴散らしていく。そんな光景を俺はただ眺めることしかできなかった。
いや、たまには敵の位置教えたりはしたよ?でも俺何もできないし、完全にいらない子状態である。

だがしばらく攻撃してもなかなか大型イロウスを倒すところまではいかない。ダメージを与えてはいるものの決定打に欠ける感じだ。

うらら「はぁはぁ、しぶといわねあの大型イロウス」

心美「はぁはぁ、体力が多いんでしょうか」

八幡「体力もあるだろうがおそらく防御力も高いんだろう。だからこっちも攻撃力を上げて一気に大ダメージを与えないと厳しいと思う」

うらら「でもうららは攻撃力を上げてるわよ!」

八幡「あぁ、だが朝比奈は主に補助に回ってるからそうじゃないだろ」

心美「でも補助もしないと長期戦には耐えられません」

八幡「ここまでの朝比奈の働きは間違ってない。確かに長期戦において回復スキルは必須だ。だが、どこかで波状攻撃をしかけないとジリ貧になる」

ドラクエのボス戦とかな。まずはスクルトとかフバーハ。ダメージくらったらベホマ。で、その合間にバイキルドからのはやぶさ斬り。

うらら「ということはうららとここみが2人で大型イロウスにスキルを直撃させないといけないわけね」

心美「で、でももし失敗したらピンチですよね?」

うらら「今はそんなこと考えないの!絶対成功させるの!」

八幡「蓮見の言う通り、これは絶対成功させないといけない」

心美「先生……」

八幡「だが根性だけでなんとかなる話でもない。成功率を上げるためにできることはしないとな」

うらら「じゃあどうするの?」

八幡「流れの確認だ。まず2人の攻撃力を高めるスキルを朝比奈が使う。そののちすぐに蓮見が与えられるだけダメージを与える。そしてとどめはもう一度朝比奈だ。この流れで大事なのは攻撃力が上がっているうちにいかにダメージを与え続けられるかだ。大型イロウスに守る隙を作らせるな」

心美「素早く攻撃ってことですか」

八幡「あぁ。小型イロウスに防御されたり、大型イロウスに地中に潜られたりするとどうしても攻撃が滞るだろ。せっかくの攻撃が散発的なものになりかねない」

うらら「ということは心美が攻撃力を上げるスキルを使ってからは時間勝負ってわけね」

八幡「そういうことだな。だから2人にひとつ約束してほしいことがある」

心美「なんですか?」

八幡「この作戦中は大型イロウスにダメージを与えること。これだけに集中してほしい」

うらら「?そんなの当たり前じゃない」

八幡「違う。極論を言えばどっちかが危険な状態になっても攻撃をやめるな」

俺の言葉に朝比奈が顔を引きつらせた。

心美「つまりうららちゃんを助けるなってことですか?」

八幡「あぁ。攻撃力を上げられる時間は限られている。その間は大型イロウスだけを見ていろ。さらに言えば自分が小型イロウスから攻撃を受けても気にするな。攻撃を続けろ」

うらら「……そうね。そのくらいの覚悟は必要ね」

心美「覚悟、ですか」

……ちょっと言い過ぎたかな。緊張でガチガチになられても困るしフォローしとくか。

八幡「まぁそれくらいの心持ちでいてくれって話だからあんまり気負わないでくれ」

心美「わ、わかりました」

うらら「やってやるわ!」

2人は力強く返答した。

八幡「そしたら攻撃開始のタイミングを合わせて作戦開始だ」

うらら、心美「はい!」
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/13(土) 01:57:30.92 ID:MNSzZMOo0
有能な司令塔やってるな八幡くん
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 15:12:38.72 ID:uV9/QN8to
乙です
319 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/16(火) 00:33:52.04 ID:2gmheKoN0
本編3-18


心美「じゃあいくようららちゃん!『ウォーミングカイザー』!」

朝比奈がスキルを唱えると下から温泉が湧き出して2人を包み込む。蓮見はその状態のまま大型イロウスのほうへ突っ込んでいく。

うらら「はぁぁぁ!『ラバブル・フィースト』!」

大きな誕生日ケーキが突然現れ、それに触れた小型イロウスが次々に消滅していく。小型イロウスが消えたことで大型イロウスに攻撃を与える隙が生まれた。

八幡「よし、朝比奈!いけるぞ!」

心美「は、はい!」

そうして朝比奈は杖を大型イロウスに向けた。

心美「『ハニカミ桃色パルス』!」

にわかに閃光がほとばしってあたりに爆発が起こる。

うらら「やったわ!案外ちょろいわね」

八幡「あ、バカ。お前それ死亡フラグ」

俺がツッコミを入れた瞬間に爆煙の中から大型イロウスが現れた。見るからに荒れ狂っている。

うらら「ちょ、あの爆発でまだ消滅しないの!?」

八幡「やべぇ……」

うらら「ちょっと!どうすんの!」

八幡「お前があんなこと言わなければよかったんだよ」

うらら「うららのせいって言いたいの?」

八幡「いや、別にそこまで言うつもりはないけど」

心美「先生、うららちゃん。私に考えがあります」

俺とは蓮見があほな言い争いをしていると朝比奈が声をかけてきた。

八幡「なんだ」

心美「あの大型イロウスは多分体力がほぼないはずです。あと一押しすれば倒せます。だから最後の勝負を仕掛けたいんです」

八幡「具体的にはどうすんだ」

心美「もう私の攻撃力はもとに戻っていますが、うららちゃんは『ラバブル・フィースト』の効果でまだ攻撃力が上がってるはずです。うららちゃんが攻撃できれば倒せると思います」

うらら「でもあんなに暴れてるあいつにどう近づけって言うのよ」

心美「……私が攻撃を引き付けるから背後からうららちゃんが攻撃して」

うらら「待ってここみ。それは危険すぎる!」

心美「でも先生とさっき約束したよね。どっちかが危ない状況になっても攻撃を止めるなって」

うらら「そ、それはそうだけど」

確かに蓮見の言う通りこの作戦は危険すぎる。だが時間がないのも確かだし、なにより朝比奈がこれまでにないくらい凛とした表情をしている。なら俺が確認することは一つだけだ

八幡「朝比奈。大丈夫なんだな」

心美「はい。大丈夫です」

八幡「だとよ蓮見。これはもうやるしかねえだろ」

うらら「うぅ、ハチくんもここみもそこまで言うならやるわよ!」

心美「がんばろうね、うららちゃん」

うらら「当たり前よ。それとここみ」

心美「なに?」

うらら「絶対うららがあいつ倒すから。それまで倒れないでよ。絶対」

朝比奈は一瞬はっとした顔をしたがすぐにっこり笑って答える

心美「うん」

うらら「じゃあうららとここみの最終ステージ開演よ!」
320 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/17(水) 23:30:45.67 ID:YYJy4cRe0
本編3-19


心美「いやぁぁ!」

朝比奈は杖をかざして大型イロウス相手に正面から突っ込んだ。

だが、動きを止められるまでには至らない。

八幡「くそ、だめか」

朝比奈は依然大型イロウスの攻撃を引き付けている。と、その時朝比奈が杖を落とした。

八幡「何する気だあいつ」

大型イロウスはそれを見てすかさず腕を振り上げる攻撃を仕掛けてくる。それが朝比奈にクリーンヒットする。

心美「きゃぁ!」

八幡「朝比奈!」

だが朝比奈は倒れなかった。それどころか大型イロウスの腕を捕まえている。

心美「うららちゃん!今だよ!」

だが小型イロウスの群れが蓮見の行く手を阻む。

うらら「ここみ……くっ、この、こんなときに邪魔だよ!」

……こうなったら一か八か、こうするしかないか。

八幡「どけ蓮見。んで、俺の後から突っ込め」

うらら「え、そんなことできるわけ、」

八幡「俺にはこれくらいしかできないんだからやるしかねぇんだよ!」

困惑する蓮見をよそに俺は小型イロウスに向かって体ごと飛び込んだ。骨ばかりな見た目通り、さほど重くはない小型イロウスは俺ののしかかりで何体か倒れこむ。

八幡「ほら!いけ!」

蓮見は一瞬驚いた顔をしたが、すぐ俺が作った隙間を飛び越えて朝比奈の所へ向かう。

うらら「ここみ!」

蓮見は魔法弾を放つが、攻撃力がもとに戻っているのか大型イロウスにダメージが通らない。

うらら「あとちょっと、あとちょっとなのに」

なにか使えるものはないか。今すぐダメージ量を増やせるもの……そうだ。

八幡「蓮見!朝比奈の杖も使え!」

心美「うららちゃん!私の杖も使って!」

俺と朝比奈はほぼ同時に叫んだ。

うらら「わかった!使わしてもらうね」

蓮見は落ちていた朝比奈の杖を拾い大型イロウスに向き直る。にわかに両方の杖の先が光り出してきた。

うらら「ここみもこまっちも参拝客も危険にさらしたことは許さない!はぁ!」

そう言って蓮見は魔法弾を連発し、大型イロウスを見事消滅させた。

うらら「ここみ!大丈夫?」

心美「うん、大丈夫。ありがとうららちゃん」

うらら「それはうららのセリフよ。ありがと、ここみ」

倒れこむ朝比奈を優しく蓮見が抱きかかえる。美しい光景だ。べ、別に、俺も体張ったのになんも言われてないなぁとか、それどころか最後の蓮見の発言の中に俺が登場しなかったなぁなんて全然気にしてないんだからね!

八幡「お疲れさん」

心美「先生。ほんとうにありがとうございました」

八幡「ちげぇよ。お前らが頑張った結果だ」

うらら「そうだよね〜。ハチくんが今日やったことと言えば、列の整理とここみにドキッとしたのと小型イロウスに倒れこんだくらいだもんね」

八幡「うっせ」

まぁ蓮見の言うことに間違いはないので反論はしない。ひとまずこれでもうこの神社も大丈夫だろ。小町に連絡して帰るとするか。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/18(木) 14:38:57.60 ID:BHCOuKxc0
ツインロッド…熱いっすね
322 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/19(金) 10:27:22.17 ID:+JmIImL60
番外編「風蘭の誕生日前編」


俺は今、雑用を押し付けてくる権化が巣くうラボの前に立っていた。はぁ。今日は何の実験台にされるんだろうか。この前やった武器改良の試し撃ちの的にされたときは死ぬかと思った。あんな体験は二度としたくない。でもここで何を言っててもしょうがない。行かないとさらにヤバいことが起こりそうだもんな。

俺は半ばあきらめの境地に入りながらラボのドアを開けた。

風蘭「おぉ比企谷。待ってたぞ」

八幡「どうも。で、今日は何をするんですか?また俺は犠牲者になればいいですか?」

風蘭「今日はただアンタとゆっくり話がしたくて呼んだだけだよ。今飲み物持ってくるからそこらへんに座って待っててくれ」

あ・や・し・い

いつもなら飲み物はおろかろくな説明もなしに実験を始める御剣先生が俺とゆっくり話したい?ありえない。絶対に何か裏があるはずだ。

座って少し待っていると飲み物とお菓子を持って御剣先生が戻って来た。

風蘭「お待たせ。ほれ比企谷」

そう言って御剣先生は飲み物を手渡してくる。だが俺にそんな手は通じない。ここはあえて渡されない方をとる!

八幡「あ、俺こっちがいいんでそれは御剣先生が飲んでください」

風蘭「え?いや、それは」

八幡「見た感じどっちも同じジュースですよね?ならどっち選んでもいいじゃないですか」

風蘭「う、」

おぉおぉ。あからさまに動揺してるな。ここはダメ押しだ。

八幡「俺待ってて喉渇いちゃったんですよね。早く飲みましょうよ先生。はい乾杯」

風蘭「うぅ……」

俺が飲み物を口につけたのを見て御剣先生も観念したのか、コップの中の飲み物を一気に飲みほす。ふ、計画通り。

八幡「で、ゆっくり話すって何話すんですか」

風蘭「……バカ」

八幡「え?」

風蘭「八幡のバカ!」

ちょっと待て落ち着け俺。なんで俺は今顔を赤らめた御剣先生から下の名前で呼ばれ、あまつさえ可愛く「バカ」と言われた?

八幡「あの、御剣先生?」

風蘭「風蘭って呼んで?」

八幡「いやそれはさすがに」

風蘭「今だけでいいから。お願い」

俺の先生がこんなに可愛いわけがない。なんだこの変わりようは?やっぱあの飲み物に何か入ってたんだろう。飲まなくてよかった。

八幡「ふ、風蘭はなんでこんな変わっちゃたんですか?」

風蘭「実はあたしが飲んだジュースの中に自分の気持ちに嘘をつけなくなる薬を混ぜてたの。本当は八幡に飲んでもらって普段の捻くれた言動の裏に何を考えてるか知りたかったんだけど失敗しちゃった」

八幡「なるほど。てことは今この状態がみつ、風蘭の本性ってわけですね」

風蘭「うん」

八幡「それにしては普段と違いすぎやしませんか?」

風蘭「だって学生の時から喧嘩ばっかりしてたから自然と男っぽい話し方になっちゃったんだよ。それに、そもそも男の人と話すの慣れてないし……」

八幡「あぁ、神樹ヶ峰の卒業生って言ってましたもんね。女子校出身で女子校勤務だと出会いなさそうですし」

風蘭「う、うん。でもそれだけが理由じゃないっていうか、その、」

八幡「それだけが理由じゃない?」

風蘭「じ、実はあたし男の人にすごく興味があるの……」

御剣先生はいかにも乙女っぽく顔を赤らめながらそんなことを口にした。
323 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/19(金) 10:28:17.56 ID:+JmIImL60
番外編「風蘭の誕生日後編」


なん、だと。御剣先生が男に興味があるだって?イメージと違いすぎて頭が追いつかない。

八幡「そ、それはつまり異性として男性に興味があるってことですか?」

風蘭「うん。だ、だってあたしの将来は、お、お、お嫁さんになることだから!」

八幡「……」

風蘭「八幡?何か言ってよ」

八幡「あ、あぁ。い、いいんじゃないですか」

おいおい、こんなことまで言っちゃうのかよ、素直になる薬すげぇな。いや、それより心でははこういうこと考えてるのに普段の言動に一切出さない御剣先生もすげぇ。

風蘭「だからホントは八幡に薬を飲ませてあたしのことどう思ってるか聞こうと思ってたんだ」

八幡「へ?」

我ながら間抜けな声が出てしまった。さらには御剣先生は座ってた向かいの席から立ち上がり、俺の隣に接近してくる。

風蘭「ねぇ、八幡。あたしのことどう思ってる?」

八幡「そ、そうでしゅね。いい先生だと思ってますよ」

風蘭「そうじゃなくて」

御剣先生はさらに俺に近付いてくる。体触れちゃってますよ先生!い、意外と柔らかいんだなこの人。ってそんなこと考えていい状況じゃない。

八幡「あの、御剣先生。とりあえず離れてもらえないですか?」

風蘭「風蘭って呼んでよ!」

そう言って盛大に肩を叩かれた。めっちゃ痛いんですけど。素直になっても筋力は変わらないんだな。

八幡「わ、わかりました。だから叩かないで」

風蘭「わかればいいの。で、八幡は、あ、あたしのことどう思ってるの?」

八幡「俺は、」

正直そんな目で見たことなんて一度もなかった。いつもよくわからない発明品の実験台にされたり、雑用させられたりと大変な思いばかり味わってきた。でも、別にそれが嫌だったかと言われればそんなことはない。めんどくさいことをさせられるってわかってても次は何をするんだろうかと楽しみにしてる自分もいる。

八幡「俺は、風蘭とこうして色々やるの別に嫌いじゃないですよ」

風蘭「……」

八幡「まぁなんていうか、少し自重してほしいこともありますけど、いつもの感じも、今の感じも悪くないですよ」

風蘭「……」

八幡「あの、風蘭?」

さっきから俯いてこっちを見ない御剣先生に顔を近づける。

風蘭「近い!」

八幡「うっ」

盛大に顎にパンチをもらってしまった。

風蘭「いや、アタシが変なこと考えたとはいえ空気に流されて変なこと言う比企谷もおかしいぞ!もっと自分の言動に責任を持て!」

八幡「ちょっと待ってください。いつの間に元に戻ってるんですか」

風蘭「ひ、比企谷がアタシの印象について語りだしたあたりから」

八幡「ならすぐに言ってくださいよ。わざわざあんなこと言う必要なかったじゃないですか」

風蘭「いや、でもせっかく言ってくれるなら聞いとこうかなって。と、とにかく。アタシとあんたがこんな状況になってたと知れたらマズイ。だから強硬手段を使わせてもらう」

そう言って御剣先生は何かごそごそと機械の山から何物かを取り出した。

八幡「なんすか、それ」

風蘭「これは特殊な電波を流して人の記憶を1時間消すことのできる機械だ。なかなか使う機会がなかったが絶好のタイミングだ。さぁ、比企谷こっちにこい」

俺が何かアクションを起こす前に御剣先生は俺の頭をがっちり捕まえ、持ってる機械を装着してくる。痛い痛い。やばい、頭がつぶれる。

風蘭「おとなしくしろ。さ、スイッチオン!」

俺はそこで意識を失った。
324 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/19(金) 10:31:22.40 ID:+JmIImL60
以上で番外編「風蘭の誕生日」終了です。ふーちゃんお誕生日おめでとう!これまでで一番キャラ崩壊させてしまいました。こういう風蘭もありかなと思ったんですが強引だったかもしれないです。
325 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/19(金) 17:32:11.52 ID:+JmIImL60
本編3-20


神社での戦いの数日後。朝比奈のもとには雑誌やら新聞やらのインタビューが何回かあったらしい。読む限り、完璧な答えではないが最初の雑誌のインタビューよりかは数段まともになった印象を受ける。

星守クラスでも朝比奈のインタビュー記事が出回っていてここ数日の話題の中心だ。

朝のHR前、そんなクラスの光景をぼーっと眺めてるとなぜかドヤ顔の蓮見が話しかけてきた。

うらら「ふふん、やっぱりうららたちの『ここみプロデュース大作戦』のおかげで、ここみのインタビューも少しはマシになったみたいね」

八幡「そういやお前らそのなんとか作戦言いながら何やってたの」

うらら「うららは徹底的にウケのいい答えを教えててわ。特によく聞かれそうな質問にはテンプレを作って暗記するくらいにね。で、こまっちがひたすらここみのいいところを列挙してくって感じ」

八幡「なにそれ、なんかの拷問?」

うらら「しょうがないじゃない。ここみってば全然自分に自信がないんだもん。こっちからどんどん魅力を言ってあげないとダメなの」

八幡「へぇ。そういえば朝比奈はどうした?」

うらら「ここみなら職員室に呼ばれてたわ。なんか悪いことでもしたのかしら」

八幡「お前じゃあるまいし、それはないだろ」

うらら「うららのことなんだと思ってるの」

蓮見はジト目で俺を睨んでくる。

八幡「だって昨日も宿題忘れて八雲先生に呼び出し食らってたろ」

うらら「あ、あれは、そうよ!ニ◯ニ◯動画ですCOLO GIRLSの一挙放送が深夜にあったからしょうがないの!」

八幡「完全に自業自得じゃねぇか」

うらら「そういうハチくんこそ授業中に寝ててよく八雲先生に怒られてるじゃん!」

八幡「仕方ないだろ、眠いんだから」

うらら「開き直った!?」

俺と蓮見がくだらないことを言い合ってると教室のドアが開いて朝比奈が戻って来た。その表情はいつにもまして不安そうだ。

八幡「どうした朝比奈」

心美「じ、じつは明日インタビューが来るらしいんです」

うらら「何よ、インタビューくらい別に今さら不安になることないじゃない」

心美「それが、テレビのインタビューなんだって……」

うらら「テレビ!?」

八幡「マジか」

心美「は、はい。だからどうしようかすごく不安で」

確かに雑誌とテレビじゃ話が違うな。顔とか話し方とかも全部映像になって伝わるぶん大変そうだ。

すると蓮見が何か思いついたように不敵な笑みを浮かべた。

うらら「これは『ここみプロデュース大作戦』臨時会議が必要ね」

そう言うと蓮見は携帯を取り出して誰かにメールを送った。するとすぐ俺の携帯がメールの着信を告げた。開いてみると小町からだった。

小町『こまちも今日うららちゃんたちと会うことにしたから!お兄ちゃんも来てよ。絶対帰っちゃだめだからね』

……こうやって俺の退路をすぐ断つあたりまじ蓮見さん策士。

うらら「こまっちも来れるっていうし、放課後この前のカフェに行くわよ!」

心美「うん!ありがとううららちゃん!」

朝比奈もヤル気だ。多分またあのカフェ行けるのが楽しみなんだろ。ま、あそこのケーキ割と美味しかったしそう思う気持ちはわかる。俺の財布の中身が心配になるが。

心美「先生も、あ、ありがとうございます」

朝比奈がやわらかい笑顔で俺にお礼を言ってきた。

……そうやって笑顔で接してくるあたりまじ朝比奈さん策士。違うな。俺がチョロイだけでした。
326 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/19(金) 17:35:37.97 ID:+JmIImL60
以上で本編第3章終了です。やっと中学生組が終わりました。次回からは高校生組の話になっていきます。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/19(金) 18:08:32.00 ID:Qdbl3zNDO
乙です。
次はようやくヒッキーがみきの料理を食べるのか。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 01:43:10.82 ID:Ds78eiEto
乙です
329 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/20(土) 17:05:35.48 ID:MYMlAbfc0
本編4-1


ある平日の朝。俺はいつもの通りベッドの誘惑をなんとか振り払いリビングに朝食を取りに行くと、いつもはこの時間にはいるはずのない母親がコーヒーを啜っていた。母親は俺がリビングに入っていくと一瞬「誰だこいつ」って目で俺を凝視してきやがった。おい、息子の顔忘れるなよ。仮にも母親だろ。

八幡の母「あらあんただったの、意外と早いのね」

八幡「……この時間に起きないと間に合わないんだよ。つか母ちゃんこそ今日遅くね。仕事は?」

八幡の母「今日は少し遅い出勤なの。ま、それでも世間の社会人よりかは早いんだけど」

母親の目の下に刻まれた隈がさらに深くなるくらい暗い発言だった。ホント社畜って人間を破壊していく。将来は働くお嫁さんをきちんといたわってあげよう。

八幡の母「そういえば、あんたしばらく見ないうちに少し変わったわね」

八幡「え、何突然」

嘘。母ちゃん、いつも小町の事しか見てないと思ってたら俺のこともきちんと見ててくれたの?八幡感激。

八幡の母「なんか前より丸くなった気がするわ。太った?」

衝撃の発言だった。お、俺が、太った?まままままさか。

八幡「待て母ちゃん。俺が太った?そんな馬鹿な話があってたまるか」

小町「うーん、言われてみると確かにお兄ちゃん少し太ったかも」

いつの間に起きてきたのか小町まで会話に参加してくる。

八幡の母「小町もそう思う?やっぱりね。最近あんたが始めたなんとかって学校との交流?だかなんだか知らないけど、それが原因なんじゃないの」

八幡「2人とも勝手な言いがかりはよしてくれ。俺だってまだ高校2年生の成長期だぞ?体が大きくなることだって十分あり得る」

小町「いきなり横に大きくなるのを成長期だとは言わないよお兄ちゃん」

八幡の母「このままいくとあんた、ただの目の腐ったデブになって一生を終えることになるわよ」

俺は頭の中で材木座の目が腐った姿を思い浮かべてみた。うん、ないな。もはや人間とは呼べない。どこかの絵巻物に出てくる化け物だ。

八幡「そ、それは嫌だ」

八幡の母「ならなんとかしな。そろそろ私出かけるから。2人とも車に気を付けて学校行くんだよ」

小町「はーい!いってらっしゃい!」

八幡「いってらっしゃい……」

母親がいなくなり、兄妹2人で朝食を食べ始めると先ほどまで元気だった小町が少し心配そうな声色で尋ねてくる。

小町「でもお兄ちゃん、ほんとにヤバいかもよ?家族でもわかるくらい変わったなら他の人なんてとっくに気づいてるよ」

八幡「でも別に神樹ヶ峰では何も言われてないぞ」

小町「そりゃ面と向かって『太ったね』なんて言う人がいるわけないでしょ。で、なんか原因はないの?」

ついさっきお前と母親に面と向かってそう言われたばっかりなんだが?と心の中でツッコミを入れつつ原因を少し考えてみる。

八幡「言われてみれば神樹ヶ峰に通うようになって自転車に乗ることもなくなったし、学校で体育もやってないから運動する時間は減ったな」

小町「それだよお兄ちゃん。このまま運動しないとお兄ちゃんの友達の中二病の人みたいになっちゃうよ?そしたら小町口ききたくないよ」

なぜか材木座がとばっちりを受けた。だが兄妹だと考えることも似てくるらしい。ごめんな材木座。

八幡「それはお兄ちゃん困る。あと材木座は俺の友達ではない」

小町「まだそれ言い張るんだ……とにかく今のままだとダメだよお兄ちゃん。なんとかしてね」

八幡「何とかって言われても」

小町「だから運動すればいいじゃん。休日に」

八幡「小町。休日は休む日だ。なんでわざわざ疲れることをせにゃいかんのだ」

小町「そんなこと言ってるから太るんだよ。あ、なら学校で汗を流しなよ。いっそのこと星守クラスの子と一緒に運動したら?」

そういえば若いときに運動をしないといけないとか、一緒に運動しましょうとか、前に誰かに言われたような気がする。誰だったかな。ま、いいや。

八幡「そういうリア充イベントは俺には絶対起こらない。断言してもいい」

小町「えー」

八幡「えー、じゃねぇ。とにかくこの話は終わり。俺もそろそろ行かなくちゃ遅刻しちまう。じゃな小町。いってくる」

小町からも話題からも逃げるように俺は家を出た。
330 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/22(月) 18:43:53.78 ID:FMP4dTeL0
本編4-2

その日の昼休み、教室でぼーっとしていると1枚の写真が足元に落ちているのに気づいた。拾って見てみると俺が神樹ヶ峰に来た日のチャーハンパーティの時に撮った写真だ。

みき「あ、先生。それ私のです!」

声のする方に顔を上げるといつの間にか星月が俺の目の前に立っている。手を差し出してるということはどうやら写真を返せということらしい。

八幡「ん、ほれ」

みき「ありがとうございます!」

星月は俺から写真を受け取るとしばらくじっと写真を見て、また俺をじっと見る。

八幡「な、なんだよ」

みき「いえ、今の先生と写真の中の先生がなんか違うなって」

八幡「そ、そんなことないんじゃないか?」

今朝のこともあって返事がしどろもどろになってしまう。

みき「えぇー、そうですか?そうだ。遥香ちゃんと昴ちゃんにも見てもらいましょう!おーい!遥香ちゃん!昴ちゃん!」

遥香「どうしたのみき」

みき「これ先生が星守クラスに来た日の写真なんだけど、なんか今と違くない?」

そう言って星月は2人に写真を見せる。2人は写真をじっと見て俺をじっと見てため息をつく。

昴「これは、先生……」

遥香「薄々そんな感じがしてたんですけど、やっぱり」

みき「2人もそう思う?」

みき、遥香、昴「先生。太りましたね」

3人ともが揃って俺の心にナイフを突き立てて来た。俺の周りには人を傷つけることしか言わない悪魔のような女性しかいないの?

八幡「今朝、母親と妹にも同じこと言われた……」

遥香「家族の方にも指摘されるなんて相当変化があった証拠じゃないですか」

みき「先生!今のままだと数年後、自分の過去を見られなくなりますよ!」

八幡「確かにどうにかしないといけないとは思うんだが」

昴「なら先生もアタシたちと一緒に特訓やりますか?実際に武器を使ったシミュレーションとかはムリですけど、それ以外のグランドでやる特訓なら一緒にできると思います」

絶対やりたくねぇ。何度かチラッと見たことはあるがみんなキツそうな顔してたし。なんとか言い訳をしてこの特訓からは逃れよう。

八幡「……いや、星守の特訓に一般人の俺が参加しちゃダメだろ?」

遥香「大丈夫ですよ。ただの体力増強のためのトレーニングですから」

八幡「てか俺が参加してもお前らに迷惑だろ?」

みき「そんなことないですよ!むしろ私たちの特訓を見てもらえればそれだけでヤル気が出ます!」

八幡「そもそも俺全然動けないんだけど?」

昴「先生のペースに合わせますから!」

遥香「そうやって言い訳を並べても無駄ですよ先生。さ、明日からはジャージを持ってきて放課後はグランドに集合ですよ」

八幡「いや、放課後には仕事が」

昴「私たちの特訓を見るのも立派な仕事ですよ!」

八幡「そうは言っても、」

みき「なら今から八雲先生と御剣先生に放課後特訓の許可をもらいに行きましょう!」

昴「みきナイスアイディア!」

遥香「そうね、私たちで勝手に決める訳にもいかないものね」

3人は意見がまとまると職員室に向かうために教室を出ようとする。

みき「先生。何してるんですか?行きますよ?」

席を立たない俺を星月が催促してくる。はぁ、俺の意志は無視ですかそうですか。だったらなんとか八雲先生と御剣先生はこっち側に引き込もう。てかそれしかない。
331 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/23(火) 23:41:15.35 ID:/cPjTZY60
本編4-2


星月を先頭に俺たち4人は職員室に入っていく。

みき「失礼しまーす!あ、八雲先生!」

樹「あらみんな揃ってどうしたの?」

昴「実は先生にお願いがあるんです」

樹「なにかしら?」

遥香「明日からの放課後特訓を比企谷先生と一緒にこなしたいんですがいいでしょうか?」

樹「いいわよ」

何のためらいもなく八雲先生は放課後特訓を承認した。

八幡「ダメじゃないんですか?」

樹「むしろこっちからお願いしたいくらいだわ。一緒に特訓をすることであなたたちの『親密度』も上がるんだから」

八幡「親密度?」

どっかのギャルゲーみたいな言葉が飛び出してきて思わず聞き返してしまった。

樹「簡単に言えば仲良くなるってこと。辛いことを一緒に乗り越えれば関係性も一層深まるはずよ」

八幡「そんな簡単に人が仲良くなれるんだったら、世の中からは戦争なんてなくなってますよ」

樹「どうしてこんなに屁理屈ばかり言えるのかしら……とにかく比企谷くんの特訓参加は決まりです」

八幡「でも俺放課後にも仕事があるんですけど」

樹「その仕事も風蘭から押しつられる雑用でしょ?もともと比企谷くんは星守たちとの交流が目的でここに来てるんだから特訓を優先してもらって何も問題ないわ。風蘭には私から言っとくから安心して」

完全に退路を断たれてしまった。「そうねぇ。優先すべきは仕事よね。やっぱり特訓は無理だと思うわ。仕事があるもの」なんていう展開を予想してたのに、「仕事」というワードが一切仕事をしなかった。

樹「というか比企谷くんが特訓をやりたいって言いだしたんじゃないの?」

八幡「やめてくださいよ八雲先生。俺がそんなこと自分から言いだすわけないじゃないですか」

樹「そ、そんな目を腐らせながら自信たっぷりに言われても困るわ……」

みき「私たちが先生を特訓に誘ったんです!」

遥香「比企谷先生の体型改善のために」

八幡「おい、成海。お前もう少しましな言い方あるだろ?」

昴「と、とにかくアタシたちもせっかくだから比企谷先生と特訓したいなって思ったんです!」

樹「そう。でもどんな理由にしろ比企谷くんが特訓に協力してくれるっていうなら助かるわ。よろしくね」

八幡「……はい」

こうして俺たちは八雲先生から特訓の許可をもらい職員室を後にした。

みき「先生!これで明日から存分に特訓できますね」

昴「でもいきなりすごい特訓はできないよみき。先生だってついてこられないだろうし」

遥香「そうね。それに無理をすればケガにつながるわ。しっかりメニューを考えないと」

3人は俺の事なんていないかのように特訓の話に夢中だ。こうなったら適当にうやむやに済ませることにしよう。

八幡「なぁ。別に俺のことなんて気にしなくていいぞ?なんなら俺だけでやるからお前らはお前らで特訓頑張ってくれ」

遥香「ダメです。先生の特訓は私たちがきちんと管理します」

昴「トレーニングはしっかりやらないと効果出ないですよ!」

みき「それに私たちは先生と一緒に特訓したいんですよ?別々にやったら意味がないじゃないですか!」

星月の発言に成海と若葉も頷く。正直ここまでストレートに言われて断るほど俺は腐っちゃいない。もとはと言えば運動してこなかった自分が悪いわけだし、さっさともとの体型に戻して特訓を終わらせる方が生産的だろう。

八幡「……わかった。よろしく頼む」

みき、遥香、昴「任せてください!」
332 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/23(火) 23:42:15.64 ID:/cPjTZY60
>>331は本編4-3でした。すみません。
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 00:17:09.78 ID:JUWsJyWho
乙です
334 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/25(木) 00:01:01.94 ID:KptkaY1y0
番外編「茉梨の誕生日前編」


わたし酒出茉梨。神樹ヶ峰女学園に通う高校3年生!いつもわたしはいっちゃんとふーちゃんと放課後に特訓したり遊びに行ったりしています。

よし、もう掃除は終わったし、今日は特訓はお休みの日だから2人とコンビニの新作お菓子を探したいなぁ。

樹「茉梨。ここにいたのね」

茉梨「あ、いっちゃん!ふーちゃん!」

風蘭「さ、茉梨も見つかったことだしサクッと行っちゃおうぜ」

茉梨「行くってどこに?」

風蘭「ナイショー」

樹「ほら茉梨早く行くわよ」

茉梨「え、え、」

わたしはいっちゃんに手を引っ張られてなぜかラボにやって来た。

茉梨「ねぇ、ここで何するの?」

樹「ここでは何もしないわ」

風蘭「そうそう。ほらここに立った立った」

茉梨「でもこれって、転送装置だよね?」

風蘭「そうだけど?」

茉梨「もしかしなくてもこれでどこかへ行くつもり?」

樹「えぇ」

茉梨「な、なんで?ふーちゃんがやるならまだしも、いっちゃんまでこんなことするなんてびっくりだよ!」

樹「理由は後で説明するわ。ほら風蘭!」

風蘭「わかってるって!転送!」

転送時の独特な感覚を味わった後、周りの空気が明らかに違うのに気づいた。なんていうか、あったかい感じ。

樹「茉梨、大丈夫?」

茉梨「うん。大丈夫だよ。それで、ここはどこ?」

風蘭「ふふん、見てわからないか?」

お店がたくさん並んでるのを見ると、ここは商店街なのかな?でも近くの商店街じゃないなぁ。ここにはいかにも南国っぽい木がたくさん植えられているし、いたるところに「沖縄」って文字がある。え、沖縄?

茉梨「まさか、まさかここって那覇の『国際通り』?」

風蘭「大正解!」

茉梨「嘘!なんで2人はわざわざ沖縄までわたしを連れてきたの?」

樹「だって今日は茉梨の誕生日じゃない。こうして私たちが神樹ヶ峰で一緒にいられるのも残り少ないし、思い出作りのために、ね」

風蘭「そうそう!いつもなら絶対イツキはこんなこと許してくれなかっただろうけど、茉梨の誕生日に何かサプライズしたいって言ったらノリノリで協力してくれたんだぜ」

樹「そ、それは、誕生日って年に一回の大切な日だし、私も風蘭も茉梨にはいつも感謝をしているし、そのお礼がしたくて」

わたしのために2人は前から準備してくてたんだ。とっても嬉しいな。

茉梨「いっちゃん、ふーちゃん……ありがとう!」

樹「ふふ、じゃあ行きましょうか」

風蘭「マリのためにうまいサーターアンダギー売ってる店を探しといたからな」

茉梨「サーターアンダギー!?」

樹「せっかくなら本場の味を食べましょ」

茉梨「うん!」
335 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/25(木) 00:01:40.52 ID:KptkaY1y0
番外編「茉梨の誕生日後編」


樹「ほら、あそこよ」

茉梨「うわぁ!すごい!」

いっちゃんが指さす方からは美味しそうな香りが漂ってくる。我慢できずにお店の前まで走っていくと、たくさんのサーターアンダギーが並んでて、看板には「揚げたて」と書いてある。

茉梨「こんなにいっぱいサーターアンダギーがあるなんて、夢みたい。100個くらい買っちゃいたいなぁ」

風蘭「そ、そんなに買うのか?」

茉梨「だってなかなか来られないんだよ?家に買い置きしておきたいじゃん!」

樹「でも茉梨、あなたそんなにお金持ってないでしょ」

いっちゃんに言われてお財布の中を確かめてみると1000円札が数枚と小銭が少し。

茉梨「……100個も買えない」

樹「まぁそうよね。逆に買えるだけの大金を持ってても怖いけど」

風蘭「あ、そういえばアタシお金全然持ってなかったんだ。マリ〜貸して〜」

そう言ってふーちゃんはあたしにすり寄ってくる。ふふ、こうやって甘えてくるふーちゃんも可愛いなぁ。

茉梨「しょうがないなぁ。いいよ」

風蘭「やった!バイト代入ったら返すから!」

茉梨「うん。約束ね」

樹「まったくもう。誕生日の茉梨にお金を借りるなんて風蘭ったら何考えてるのかしら」

茉梨「まぁまぁいっちゃん、せっかくの沖縄なんだから楽しもう?」

樹「……えぇ」

こうしてわたしたちはサーターアンダギーを食べた後、沖縄の他の特産品を食べたり、シーサーと写真を撮ったりして国際通りを満喫した。気づいたらだいぶお日様も低い位置にあってわたしたちの影も長くなっている。

樹「さて、そろそろいい時間だし帰りましょうか」

風蘭「おぉ。じゃあ転送装置のリモコンを。って、あ」

茉梨「どうしたの?」

風蘭「リモコン、ラボに置きっぱなしだ」

樹「ちょ、何やってるのよ風蘭!帰れないじゃない!」

茉梨「と、とにかく学校に連絡してみよ?」

風蘭「そうだな。でも先生にばれるとまずいから、そうだ!多分アスハが学校に残って特訓をしてるはずだ。アスハに頼んでみよう」

そう言うとふーちゃんは通信機を取り出してあーちゃんに連絡をつける。

風蘭「お、繋がった。もしもしアスハか?1つ頼みたいことがあるんだ。ちょっとひとっ走りラボまで行って転送装置を起動させてくれないか?」

明日葉「わかりました!待っててください!」

少しするとまたあの独特の感覚が体を包み、目を開けるとラボに戻っていた。目の前にはあーちゃんと理事長が立っている。

樹「理事長!?」

牡丹「明日葉がラボに行くところを見かけましてね。不審に思って来てみたら無断で転送装置が使われた形跡があったのでここであなたたちを待ってたんです」

風蘭「アスハ〜ばれちゃダメだろ〜」

明日葉「す、すみません!」

樹「なんで明日葉が謝るの。完全に私と風蘭が悪いんだからいいのよ。むしろこちらこそ迷惑かけてごめんなさい」

茉梨「わたしだって悪いよ!わたしのために2人がやってくれたことなんだからわたしにも責任があるよ。ごめんねあーちゃん」

理事長「だいたい事情は分かりました。大方、今日誕生日の茉梨を喜ばせるために樹と風蘭が転送装置を使って沖縄に行くことを考えたのでしょう。親しい友のために行動するその友情は十分伝わりました」

風蘭「それじゃあ、アタシたちお咎めなしですか?」

理事長「それとこれとは話が違います。3人には罰として明日から一か月間の特別特訓を課します。一生懸命励んでくださいね」

そう言って理事長はラボを出ていった。外はすっかり暗くなっている。もう帰らないといけないけど、どうしても一言だけみんなに言いたい。わたしは大きく深呼吸をしてからしっかりと3人を見据えた。

茉梨「いっちゃん、ふーちゃん、あーちゃん。今日は本当に楽しかった!わたし、今日のことは一生忘れないね!」
336 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/25(木) 00:02:57.59 ID:KptkaY1y0
以上で番外編「茉梨の誕生日」終了です。茉梨誕生日おめでとう!第3部にしか出てこないキャラクターなので八幡との交流はしないようにしました。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/25(木) 01:09:18.53 ID:4cXvV3uuo
乙です
338 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/25(木) 01:40:45.07 ID:KptkaY1y0
風蘭の明日葉への呼び方をカタカナにしてしまってました。脳内補完しておいてください。
339 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:24:09.91 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち、拗ねてるんです!@」


八幡「うーす。朝のHR始めるぞ」

俺が普段通り教壇に立って挨拶をすると途端に教室が静かになった。いつもはガヤガヤとうるさいし、俺に対して無駄に絡んできたりもするのだが、今日はなぜかそんなことは全くない。ま、静かなら連絡もしやすいしいいか。

そんな雰囲気の中、2,3の連絡を伝え終えた。

八幡「以上で俺からの連絡は終わりだが、みんなからはなんかあるか?」

この質問に対しても反応はなし。さすがに少し不安になってきた。

八幡「なぁ、みんなどうしたんだ?」

楓「別に何もないですわ」

遥香「えぇ。何もないですよ先生」

ぶっきらぼうな返事しか返ってこない。

八幡「いや、そんなあからさまに嫌そうに言われても信じられないから」

望「そんなに言うなら自分の心に手をあてて考えてみてよ」

ひなた「そうだそうだ!」

八幡「なんで俺が悪いみたいになってるの……」

そうこうしてると1時間目が始まるチャイムが鳴り八雲先生が入ってきた。

樹「みんな、なにしてるの」

そう言って八雲先生は教室全体を見渡す。

樹「なるほど、そういうことね。今日の授業は自習にします。各自勉強しておくように。それと比企谷くんは私と一緒に来て」

八幡「え、なんでですか?」

樹「いいから早く!」

八幡「はい……」

俺は半ば強引に理事長室に連れてこられた。

八幡「あの、ここで何するんですか?」

樹「一度理事長に直接話をしてもらいます。私や風蘭が言うよりも効果があるから」

八幡「いや、でも俺何も悪いことしてないんですけど」

樹「そういうことは理事長に言いなさい」

八雲先生は冷たく言い放つと、俺に理事長室に入るよう促す。

八幡「……失礼します」

ノックしてドアを開けると正面の椅子に神峰牡丹理事長が座っていた。相変わらずの服装に相変わらずのロリフェイスである。

牡丹「あら比企谷くん、それに樹まで。どうされたんですか?」

樹「理事長、実は星守達が全員『拗ね期』に入ってしまいました」

牡丹「それは大変ですね。で、比企谷くんを連れてきたわけですか」

樹「はい。私はひとまず星守達の対応をしますので、彼のことをお願いしてもいいでしょうか?」

牡丹「もちろん。さ、私に任せて行きなさい」

樹「よろしくお願いします」

八雲先生は一礼すると理事長室を後にした。残されたのは俺1人。いったい何をされるの?

牡丹「比企谷くん、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。ひとまずそこのソファに座ってください。今お茶を入れますから」

八幡「は、はい」

言われるままに俺はソファに座る。しかしこういうところのソファって無駄に柔らかくて、座るだけでも緊張するんだよな。今みたいな状況だったら余計に。

牡丹「さて、では少し私とお話ししましょうか」
340 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:25:09.27 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!A」


俺の対面に座り、2人分の湯呑を置きながら理事長が口を開いた。

牡丹「まずは今の星守たちの状況について説明しますね。今、彼女たちはあなたに対して『拗ね期』という状態にあります」

八幡「『拗ね期』ですか?」

牡丹「えぇ。文字通りあなたに拗ねてるんです。」

なんだそりゃ。聞いたことがない。つかそもそも拗ねられるようなことをした覚えがない。

八幡「あの、どうして彼女たちは俺に拗ねてるんですか?」

牡丹「心当たりはありませんか?」

八幡「いえ、全く。彼女たちには何もしてないはずなので」

牡丹「それです」

八幡「はい?」

牡丹「彼女たちはあなたが何もしないから拗ねてるんです」

俺が何もしてないから拗ねる?まったくわからない。

牡丹「伝わってないようなので例を出して説明します。例えばひなたがソフトボールの試合で勝ったと報告してきたとしたら、比企谷くんはどう答えますか?」

八幡「多分、ふーんとかへーとか答えると思います」

牡丹「ではもう1つ。くるみが裏庭の花壇を新しくしたから今すぐ見に来てほしいと言ってきたらどう答えますか?」

八幡「後でな、って答えますね」

牡丹「その反応がいけないんです。彼女たちはあなたに褒められたいんです」

八幡「いや、まさかそんなわけ」

牡丹「では思い返してみてください。程度の差はあれ、彼女たち全員があなたにいろいろなことを言ってきたはずです」

そう言われてみると南やサドネはもちろん、煌上や粒咲さんなんかもたまに俺に話しかけてくるな。

牡丹「ね。彼女たちはみんなあなたに認めてもらいたいんです」

八幡「……じゃあ仮に、万が一そういうことだとして、俺はどうすればいいんですか?彼女たちの言うことに良い反応をすればいいんですか?」

牡丹「それも大事ですけど、今はそれよりも優先してやることがあります」

八幡「あんまり聞きたくないですけど、なんですか?」

牡丹「彼女たちの頭をなでることです」

だと思ったー。だからどこのギャルゲーなんだよ。

八幡「やっぱりそれですか……」

牡丹「あら、気づいてたんですか?ならどうしてやらないんですか?」

八幡「できるわけないですよ。同年代の女の子の頭なでるなんて」

牡丹「でも私たちは比企谷くんのなでなでを見て星守クラスの担任にしたんですよ?」

八幡「確かに最初はそうでしたけど、だからってそうほいほいなでられるわけないじゃないですか」

牡丹「安心してください。彼女たちは例外なく比企谷くんになでてもらうことを望んでますから」

そんな風に言われたとしても信用できないし、仮に本当だったとしても恥ずかしくてなでなでなんてできるわけがない。毎日黒歴史を生むようなものだ。

八幡「いや、でも」

牡丹「仕方ないですね。では荒療治といきましょうか」

理事長はすっと立ち上がると扉を開け、座ったままの俺のほうへ振り返る。

牡丹「何してるんですか?行きますよ。星守クラスへ」
341 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:27:47.86 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!B」


俺はゆっくりと歩く理事長の後を無言でついていく。なんか気まずいなぁ。

牡丹「ごめんさいね。色々迷惑をかけて」

八幡「いえ、別に」

牡丹「でも比企谷くんだからこそ彼女たちを任せられるんですよ?誰にだって頼めることじゃない」

八幡「はぁ。それがなでなでですか?」

星守クラスの前で理事長の歩みが止まる。

牡丹「……正直、彼女たちには本当に申し訳ないことをしていると思ってます。大切な中高時代をイロウスとの命がけの戦いに巻き込んでしまっていることを。だからせめて学校では彼女たちの希望をできるだけ叶えてあげたいんです」

確かに星守というのはイロウスを倒せる唯一の存在であり、その見た目の麗しさも相まって一部では「女神」ともまで言われている。だけどその実は授業を受け、部活に出て、休日に友達と遊ぶ女の子だ。そのことは短い間でしか関わっていない俺にも十分わかる。だったら、俺がするべきことは。

八幡「……俺に何かできることがあれば、協力したいです」

牡丹「……ありがとうございます比企谷くん。では早速頑張ってもらいますね」

理事長はにっこりと笑うとドアを開ける。

牡丹「みなさん、お待たせしました。比企谷先生を連れてきましたよ。なんと比企谷先生、自分にできることがあれば何でもするって言ってましたよ」

入るなり何言ってくれてるんですか理事長?ほら、教室中の視線が一斉に俺に向けられるし。すでに居づらい。

明日葉「そうですか。ありがとうございます比企谷先生」

楠さんは席を立つと教壇に上がり教室中を見渡す。いや、俺何も言ってないけど?

明日葉「ではこれより『比企谷先生にいかに頭をなでてもらうか』について話しあいを始めます」

みんな「はーい!」

突然摩訶不思議な話し合いが始まってしまった。

八幡「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりなんですか?」

明日葉「私たちの要望は『なでなで』です。ただやみくもに先生にお願いするのも申し訳ないので、今からルールを作りたいと思います」

八幡「ルール?」

明日葉「はいそうです。みんなの中で何か意見がある者はいるか?」

ゆり「やっぱり日直の人は『なでなで』されていいと思います!」

うらら「あと部活頑張った人も!」

心美「ぶ、部活以外でも学校で何かお仕事した人にもしてほしいです」

遥香「学校以外で頑張った人にもお願いします」

ミシェル「うーん、でもそれだけだと少ないよ〜」

八幡「いや、今でも十分多いから……」

あんこ「なら、HRで何かゲームをやってその上位何名かも『なでなで』してもらえるっていうのはどう?」

楓「それは面白いですわ!」

蓮華「でもどんなゲームするかによって得意不得意ができちゃうから、日直の人がゲームを考えるって言うのはどう?」

昴「いいですね!」

明日葉「ではここまでの流れを整理すると、日直の人、部活頑張った人、部活以外でも学校で頑張った人、学校以外でも頑張った人、HRに行うゲームの上位数名って感じですね」

八幡「多い。多すぎる……」

くるみ「でも先生が私たちのことを無視するのがいけないんですよ?」

サドネ「サドネたち寂しかった」

そういう寂しいアピールをされると何も言えなくなってしまう。ほんとあざとい。助けを求めて理事長を見るとただにこっとされた。いや、そういうことを望んでるんじゃないんですけど。

しかし、どうやらこの状況は俺が妥協しないといけないらしい。正直な話、こんなに可愛い子たちの頭を撫でられるっていうのは非常においしい役割であることは否定できない。ただ、それ以上に良心の呵責に苛まれる。
342 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:29:08.77 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!C」


八幡「……わかった。みんなの提案を受け入れる」

俺がそう言うと、これまでの沈んでいた空気が嘘みたいに活気づいた。

詩穂「やったわね花音ちゃん」

花音「べ、別に私は嬉しくなんてないんだから」

桜「これでより昼寝が気持ちよくなるわい」

みき「じゃあ早速今日からお願いしますね先生!」

八幡「え?せめて明日からにしてくれない?」

蓮華「ダメよ〜今まで散々れんげたちのこと放置してたんだから〜」

望「その分今度はアタシたちに付き合ってもらうから!」

もう逃げられないっぽいなこれ。これからますます大変な日常がやって来るんだろう。せめて黒歴史にならない程度にしておきたいが、どうだろうか。

つか、これ普通に犯罪にならない?あとで賠償請求とかされない?大丈夫?セクハラとか言われたら八幡社会的に死んじゃうよ?

ま、こいつらならそんなことはしないか。

風蘭「話は聞かせてもらった!」

八幡「うお!びっくりした。突然入ってこないでくださいよ御剣先生。今いい感じに終わりかけてたじゃないですか」

風蘭「まぁまぁ。とにかく、アンタたちの中から比企谷になでなでしてもらえるやつを何人か選べばいいんだよな?」

明日葉「え、えぇ。そうですけど」

樹「だったら最初は私たちが考案したゲームに勝った人になでなでされる権利を与えるわ!」

いつの間にか八雲先生も乱入してきてる。なんでこの人たちこんなノリノリなの。

ミシェル「ゲームって何するの?」

風蘭「今回アンタたちにやってもらうゲームは!」

樹「あみだくじよ!」

八幡「……そこまで息巻いてあみだくじですか?」

樹「勝負に勝つには幸運の女神に微笑んでもらうことも時には必要よ」

風蘭「そうそう。それに運勝負ならみんな文句は言えないしな」

単純にあなた方2人がこの状況を面白がってるだけじゃないの?

明日葉「先生方がそうおっしゃるなら、まずはあみだくじで選ぶとしよう」

みんな「賛成!」

あれ、おかしいと思ってるの俺だけ?俺が変なの?

などの俺の心の叫びは通じるはずもなく、あっという間に黒板に大きなあみだくじが書きあがり、次々に名前が加えられていく。

樹「さ、全員の名前が書けたわね」

風蘭「今回の当たりは3人だ。さ、誰が当たるかな〜」

先生2人のテンションとは反対に、星守たちは水を打ったように静かになる。

樹「1人目は、蓮華」

蓮華「あら〜、れんげ、先生にお触りされちゃうのね。緊張するわ〜」

風蘭「2人目はひなた!」

ひなた「やったー!いっぱいなでなでしてもらおうっと!」

樹「そして最後3人目は、楓」

楓「ワタクシですの?ま、まさか当選するなんて思ってなかったですから驚きましたわ」

あっという間に3人が選ばれてしまった。他の15人は明らかに落ち込んでいる。
343 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:30:09.78 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!D」


風蘭「じゃ、今からここでなでなでターイム!3人は前に来い」

八幡「ちょ、今この状況でですか?」

樹「だってこうでもしないと比企谷くんなでなでしないでしょ?」

観客の居る前で女の子の頭なでるとか公開処刑ですか?

八幡「あの、みんなの前とか恥ずかしいんですけど」

風蘭「じゃあ2人きりならできるのか?逆にそういうシチュエーションのほうが危ないだろ」

樹「風蘭の言う通りよ。あくまで教育の一環なんだから比企谷くんは堂々となでればいいのよ」

やっぱりこの人たちの考えおかしいと思うんだよな。なに、星守になる人ってみんなどこかおかしい人なの?

風蘭「ほら時間内から始めるぞ〜。まずは誰がしてもらう?」

ひなた「はいはい!ひなたが最初!」

元気に宣言して南が俺の目の前に近寄ってくる。が、俺を見上げるその目はまだまだ幼い。ゆえにあまり緊張しないで済む。最初がこいつでよかった。

八幡「ま、じゃあ……」

俺はゆっくり南の頭をなでる。

ひなた「ひなた、そうされるの気持ち良いんだぁ……えへへ……」

しかしなんだか犬をなでてる感じに思えてきた。気持ちよさそうに目を細めてるあたりマジで犬。

ひなた「八幡くんの手、あったかくて大きいから、だーいすきなんだっ!」

八幡「お、おう。そうか」

俺が少したじろいでいると御剣先生が俺から南を離す。

風蘭「はーい。お時間でーす」

まるでどこかのアイドル握手会の剝がしをする人みたいな対応だ。

ひなた「えー、もう?まぁしょうがないか。八幡くん、ありがとう!」

八幡「……おう」

樹「じゃあ次はどっちがやってもらう?」

楓「で、ではワタクシが……」

今度は千導院らしい。ま、こいつも小町より年下だしなんとかなるだろ。

八幡「ん」

俺が頭を触ると千導院の肩が震えた。

八幡「大丈夫か?」

楓「と、殿方とのスキンシップには慣れていないので……」

八幡「無理しなくていいぞ?」

楓「は、恥ずかしさはありますが……それよりも嬉しさの方が……」

顔を赤らめながら言うあたり本当に恥ずかしいんだろうな。多分俺も同じくらい赤くなってるはず。

風蘭「はーい。時間でーす」

そして例のごとく剥がされていく。

楓「は、はい!先生、ありがとうございました。またお願いいたしますね」

八幡「あ、あぁ」
344 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:37:57.03 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!E」


樹「えー、そしたら最後は」

蓮華「やーっと蓮華の番ね〜。待ちくたびれちゃった〜」

八幡「やめて芹沢さん、いきなり抱きつかないで……」

全部が当たってるけど主にやわらかい2つの凶器がヤバいです。

俺が少し抵抗すると意外にもあっさり腕を振りほどき頭を差し出してくる。

八幡「じゃ、じゃあ、失礼します」

年上の人の頭なでるの初めてだな。緊張する……

蓮華「やあ〜んっ♪そんなの、くすぐったいじゃないですか〜!」

八幡「いやそう言われても……」

蓮華「でも、れんげだって……嬉しいですよ……そうされるの……」

八幡「え」

冗談だよな?冗談だろ?わかってるよ。訓練されたぼっちの俺がそんな言葉に動揺するわけがない。全然余裕。むしろもっとバッチこい。

風蘭「はーい。お時間でーす」

すでに慣れた手つきで御剣先生が芹沢さんを引き離す。何この人。絶対本場で剥がしを経験してるでしょ。

蓮華「ちょっと短かったけど、よかったわ、先生♪」

八幡「はは……」

うらら「むぅ。なんだか3人の見てたらやっぱりうららもなでなでしてもらいたい!」

サドネ「サドネにもして!おにいちゃん!」

八幡「いやもう俺限界だから」

あんこ「だったらまた他のゲームをやるわよ」

望「今度は絶対アタシ勝つんだから!」

ミシェル「ミミだって負けないんだから!」

八幡「だから俺の話を聞けって……」

詩穂「ふふ、でも先生のあの手さばきを見せられたら私たちだってしてもらいたくなっちゃうわよね。花音ちゃん」

花音「ま、まぁあいつ自体にはこれっぽっちも興味なんかないけど、せっかくだから一回くらい体験しといてもいいかもね……」

樹「ふふ、みんなやる気ね」

風蘭「おーし、じゃあ次は星守っぽくイロウス討伐で競うか!ラボに移動だ!」

みんな「おー!」

この日、俺が18人全員の頭をなでるまでこの盛り上がりが収まることはなかった。そして夜に恥ずかしさのあまりリビングでのたうち回っているところを小町に見られ、詳しく事情を説明することになったというのは言うまでもない。

ま、でも悪かったってことはないですね。うん。ていうかむしろずっとドキドキしてました。
345 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/28(日) 00:40:46.86 ID:WbCWzppU0
以上で番外編「私たち拗ねてるんです!」終了です。何か月か前に頂いたアイデアをもとに書いてみました。あみだくじの3人は実際やってみて当たった子たちです。本当は全員のなでなで書きたかったんですが、難しかったのでこういう形になってしまいました。
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 01:30:16.24 ID:rhYU3Isio
乙です
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 16:28:14.99 ID:vyQ7tLJqO

アニメも楽しみだけどゲームもこのままがんばってほしいね〜
348 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/29(月) 17:24:06.40 ID:kC9v2x230
本編4-4


翌日の放課後。総武高校のダサい蛍光緑のジャージに身を包んだ俺は体操服の星月、成海、若葉とグラウンドにいた。

みき「先生!今日から頑張りましょうね!」

昴「まずはストレッチからです!」

遥香「運動不足の人がいきなり激しい運動をしてもケガをするだけですから」

八幡「 へいへい」

3人はいつものルーティーンになってるのか、特に声をかけあうこともなく開脚を始める。ただでさえ体操服で色々目のやり場に困るのに、目の前で開脚なんて見せられるとドキドキしてしまう。それにしても3人とも柔らかいな。胸までベターッと地面に付いている。

遥香「先生?ちゃんとやってますか?」

八幡「え、お、おう。当然だ」

みき「全然足開いてないじゃないですか!もしかして体固いんですか?」

八幡「まぁな……」

昴「な、なら、アタシが手伝ってあげます!」

そう言うと若葉は俺の後ろに回り背中を押してくる。

みき「先生。足が曲がっちゃってますよ。押さえてあげますね」

遥香「じゃあ私はみきとは反対の足を」

あっという間に女の子3人に体を押さえつけられてしまった。おかげで主に下半身があまりの痛さに悲鳴をあげている。相撲部屋の新入りへの稽古のような状態である。このままだと何か開けてはいけない扉が開いてしまう。

昴「じゃあこれで10秒頑張りましょう!いーち、にー、さーん」

みき「しー、ごー、ろーく」

遥香「しーち、はーち、きゅー」

みき、昴、遥香「じゅう!」

八幡「ぐはっ……」

なんとか10秒耐え抜き、3人は俺を解放する。

遥香「これから毎日お風呂上がりにストレッチしてくださいね」

みき「体が柔らかくなると色々いいことありますから」

昴「じゃあ次のストレッチいきましょう!」

八幡「ちょ、待っ」

俺の嘆きは聞き入れられず、その後しばらくの間徹底的に体を虐められてしまった。もう八幡お嫁にいけない!

遥香「ではそろそろ特訓に入りましょうか」

八幡「もう俺の中では今日の特訓終わってるんだけど」

昴「まだストレッチが終わっただけですよ……」

みき「ほら先生立ってください!」

星月に強引に起こされ、グラウンドのトラックに移動した。

八幡「で、ここで何するの」

遥香「ここではランニングをやります」

みき「じゃあ私と昴ちゃんがまず走って、その後に遥香ちゃんと先生って順番で!」

昴「今日も負けないからねみき!よーいスタート!」

掛け声に合わせて2人は50メートルほどの直線を駆け抜けていく。あれ?なんか2人とも全力じゃね?

八幡「なぁ成海。これってランニングじゃなくてダッシュっていうものじゃないの?」

遥香「……まぁそうとも言えますね。でも私たちはこれをランニングと習ったので」

八幡「お前、わかってて騙したろ」

遥香「ほら先生、昴があっちで手を振ってますよ。私たちも走りましょう。いきますよ?よーいスタート!」

成海は強引に話を打ち切って走り出した。だが、いくら運動不足だとはいえ、年下の女の子にダッシュで負けるのは情けない。ここは本気を出すしかない……!
349 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/01(木) 00:38:24.55 ID:xx58rS780
本編4-5


八幡「はぁっ、はぁっ、なんとか勝った……」

遥香「ふぅ。あと少しだったんですけど、次は負けませんよ」

昴「待ってよ遥香!次はアタシが走る!」

八幡「待て待て、今の俺の状態見たらムリだってわかるだろ?」

昴「これくらいでへばってたらダメですよ先生!」

みき「ゆっくりでもいいですから頑張りましょう!」

そうして3人に励まされつつ、なんとか10分ほど走り終えた。

みき「お疲れ様です、先生!ランニング終了です!」

遥香「頑張りましたね先生」

八幡「終わり?マジ?」

やっと終わった。正直自分の体の鈍り具合にかなりがっかりしてる。ここまで動けなくなってたのか。

昴「明日はもっと激しくいきますから覚悟してくださいね!」

八幡「いや、多分明日は筋肉痛で動けないと思うぞ」

遥香「そうならないために今からストレッチです」

八幡「え?」

みき「また私たちが手伝いますから先生はそこに座って足を広げてください!」

八幡「お、お手柔らかにお願いします……」

遥香「善処します」

ニコッと笑った成海は容赦なく俺の背中をぐいぐい押してくる。星月と若葉もそれに続けと言わんばかりに俺の足を力いっぱい押してくる。運動した後だから余計痛く感じる。

八幡「あぁぁ」

夕焼けで赤く染まった空に俺の叫び声が空しく響いた。

-----------------------------------------

特訓でのダメージが蓄積された重い体を引きずって、なんとか家までたどり着いた。リビングに入ると小町が参考書と格闘していた。

八幡「ただいま」

小町「あ、お兄ちゃんおかえり!ってどうしたの?なんかすごく疲れてない?」

八幡「あぁ。もうお兄ちゃん、燃え尽きちゃったよ」

小町「何があったの?あ、もしかして星守クラスの人と運動したの?」

流石我が妹。見事な洞察力である。

八幡「まぁ、そんなとこだな。俺は嫌だって言ったんだがしつこく誘われたから仕方なくな」

小町「そう言いながら一緒に頑張るお兄ちゃん嫌いじゃないよ?あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい高い高い」

小町「むぅ、適当だな。ところでお兄ちゃん、その星守の人たちとは仲良くなれた?」

八幡「あ?別になってねぇよ。そもそもお互いに体を鍛えることが目的だし」

小町「はぁ、これだからごみいちゃんは。いい?年ごろの女の子がそんな目的だけでわざわざ男の人、ましてや目の腐ってる捻デレお兄ちゃんなんかを誘ったりしないよ?」

八幡「小町ちゃん?さりげなくお兄ちゃんを卑下するのはやめてね?」

小町「とにかく!これはチャンスだよお兄ちゃん!これをきっかけに仲良くなること!いい?」

八幡「いきなりそんなこと言われても困るんだが」

小町「でも交流が終わったら気軽に会うことはできなくなっちゃうよ?今のうちに仲良くなっておかないともったいないよ!小町はお兄ちゃんを心配して言ってるんだからね?あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい。もう俺疲れたから自分の部屋行くわ」

思わずため息が出てしまったが、小町の最後の発言に少し引っ掛かりを覚えた。本来、俺とあいつらは会うはずのない関係だ。なのに交流とか訳のわからない理屈で今はこうして関わりを持っている。

でも、だからって仲良くすることが正しいとは言えない。いつかくる終わりを意識して関係を深めようとするのを果たして仲良くなると言えるのだろうか。そんな関係は得てして時間が経てば消滅していく空虚なものでしかない。これこそまさに俺が嫌ってきた青春そのものじゃないか。だがいつの間にか俺は今の状況を甘受してしてしまっている。当たり前だと思ってしまっている。……俺は、このまま彼女たちと接していいのだろうか。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 18:39:57.94 ID:6JdLy0bBO
このめんどくさい思考、八幡らしい
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/02(金) 17:26:30.37 ID:Ua2jyrg3o
乙です
352 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/03(土) 00:10:43.30 ID:EzBsCKrq0
番外編「ミシェルの誕生日前編」


暑い。まだ6月になったばかりだというのに最近暑すぎない?汗でシャツもべとべとになるし、不快指数が限界突破しそうだ。こういう日こそ、家から出ずにクーラーや扇風機のある涼しい部屋でのんびり過ごすのが吉。つまり家から出ない専業主夫が最強。

八幡「いたっ」

ミシェル「むみっ」

そんなことを考えながら歩いていると廊下の角で綿木とぶつかってしまった。綿木はぶつかった勢いで転んでしまう。

八幡「悪い、大丈夫か?」

ミシェル「大丈夫〜」

綿木はそう言いながら起き上がり、落としてしまった箱を持ち上げようとするが、なかなか持ち上げられない。中にかなり重いものが入っているようだ。

八幡「手伝う。どこ運べばいいんだ?」

俺がそう言って何箱か取り上げると、綿木は嬉しそうにはにかんだ。

ミシェル「ありがとう先生!じゃあラボまでお願い!」

ラボってことはまた御剣先生か。今度は何をするんだか。

八幡「了解」

こうして俺たち2人がラボまで荷物を運ぶと、予想通り中で御剣先生が何やら機械をいじくっていた。

風蘭「ミシェルありがとう。お、比企谷もいるのか。ちょうどいい。2人ともこっちに来てくれ。発明品の実験に付き合ってほしいんだ」

御剣先生はさっきまでいじっていた銃型の機械を誇らしげに掲げる。

風蘭「今回はミシェルにうってつけの発明だぞ。その名も『ぴょんぴょんドールくん』!」

ネーミングセンスがTo LOVEるのララと同じだった。不良品だって公言してるようなもんだぞ、それ。

風蘭「この『ぴょんぴょんドールくん』から放たれるビームを浴びた人はたちまち体がウサギのぬいぐるみに変化するっていう代物だ。どうだ?すごいだろ?」

ミシェル「すご〜い!御剣先生!ミミをぬいぐるみさんにして!」

八幡「落ち着け綿木。いくらお前がぬいぐるみになりたいからって、この機械だけはやめといたほうがいい」

風蘭「流石ミシェル。そうこなっくちゃな。じゃあいくぞ!スイッチオン!」

止める間もなく御剣先生は引き金を引く。『ぴょんぴょんドールくん』の銃口から放たれたビームはみるみるうちに綿木を包み込む。

ミシェル「む、むみぃぃぃ」

そして一瞬、ぱっと輝いた後、綿木がいた場所には20センチくらいのウサギのぬいぐるみが落ちていた。

風蘭「成功だな。じゃあ比企谷。ミシェルの面倒よろしくな」

八幡「え?」

風蘭「アタシはこう見えても忙しいんだ。1時間くらいでその効果は切れるからそれまでぬいぐるみ持って適当にうろついてくれ。せっかく夢がかなってぬいぐるみになれたんだ。楽しませてあげてくれ。あ、それとそのぬいぐるみ刺激には弱いから気を付けてくれよ」


八幡「……はい」

そうして俺はラボを追い出された。でもどうすればいいの?まずぬいぐるみ持ってる時点でめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

八幡「なぁ、どこ行けばいいの?」

ぬいぐるみに聞いてみるものの、当然反応はない。当たり前だわな。

八幡「とりあえず教室でも行くか」

幸い、教室には俺たち以外誰もいなかった。このまま手に持ってるのもあれだなぁ。ひとまず綿木の机に置くか。

八幡「おう、どうだ?ぬいぐるみになって眺める教室は?」

多分、むみぃ!面白い!とか思ってるんだろうな。

八幡「ぬいぐるみの生徒ができるなんて、変なことも起こるもんだな」

樹「何やってるの比企谷くん……」

声がした方を見てみると、いつのまにか扉が開いてて、八雲先生がドン引きした顔でこっちを見ていた。

八幡「あ、」

樹「ご、ごめんなさいね、邪魔しちゃったかしら」

そう言い残すと八雲先生は教室から走り去ってしまった。
353 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/03(土) 00:11:33.49 ID:EzBsCKrq0
番外編「ミシェルの誕生日後編」


まずい。このままだと「放課後の教室でぬいぐるみに話しかけるキモい男子高校生」というレッテルを貼られてしまう。そうなったら俺の人生は終了だ。安西先生でも諦めるに違いない。

俺はぬいぐるみを放置し、八雲先生を追いかけた。

八幡「八雲先生!」

樹「ひ、比企谷くん?あ、安心して?さっきの見た光景は誰にも言わないから。たとえ比企谷くんが放課後に誰もいない教室でウサギのぬいぐるみに話しかけるちょっとおかしな人だとしても私は引かないから」

八幡「めっちゃ引いてるじゃないですか。てか、あれには深い事情があって……」

事の顛末を話し終えると、八雲先生は呆れたように頭を抱えてしまった。

樹「なるほど、そういうことだったの。ごめんね勘違いしちゃって。それにしても風蘭には困ったものね。後で注意しておかなくちゃ」

八幡「いえ、では失礼します」

ふぅ、なんとか俺の面目は保たれた。危うく社会的に死ぬところだった。さ、ぬいぐるみを回収しに行くか。

余裕綽々で教室に戻ってみたら、さっきまであったはずのぬいぐるみがなくなっていた。あれ、なんで?

楓「先生?どうなさったのですか?」

教室中を捜索していると部活終わりだろう千導院に声をかけられた。

八幡「な、なぁ。あそこに置いてあったウサギのぬいぐるみ知らないか?」

楓「あぁ、それでしたらミミの忘れ物だと思いまして、さっき手芸部に渡してきましたわ」

なん、だと。もうそろそろ効果が切れるころだ。早く回収しに行かないと大変なことになりかねない。

八幡「わかった。サンキュ」

俺はすぐ手芸部の部室に走り出した。途中千導院が何か言ってた気がするが構ってる時間はない。

八幡「はぁはぁ。ここか。すみません、失礼します」

部室に入ると何人かの部員らしき子たちが机に置いてあるウサギのぬいぐるみを興味深そうに眺めている。すぐに1人の子が俺に気づいて不審者を見るような目つきで睨んでくる。

部員A「あなた誰ですか?」

八幡「あー、俺は星守クラスに交流で来てる比企谷だ。ちょっとそのぬいぐるみ渡してもらっていいか?」

部員B「えー、これミミちゃんのだって星守クラスの子に言われましたよ」

八幡「あぁ、だから俺が返しとくから渡してくれない?」

部員C「待ってください!このぬいぐるみ本当によくできてるから構造だけでも確認させてください」

そう言うと部員たちはぬいぐるみを押したり引っ張ったりし始めた。

部員C「これどうやってできてるんだろ〜」

部員B「あれ?なんかぬいぐるみ光ってない?」

そういえば刺激に弱いって言われてたっけ。あれ、そしたらこの状況非常にまずくない?

八幡「やばい!」

俺はぬいぐるみを強引にひったくり、ラボに向かって全力疾走を始めた。

走っているとぬいぐるみからの光がどんどん増してくる。なんとかラボまで間に合ってくれ……

八幡「着いた!」

そうして俺がラボのドアに手をかけた瞬間、ぬいぐるみが手の中から滑り落ちてしまった。倒れこみながら必死に手を伸ばしてキャッチするが、その握力が刺激になったのかぬいぐるみがぱっと輝いた。余りの眩しさに目がくらむ。

少したってから目を開けると、ぬいぐるみは消えていた。代わりにうつ伏せに倒れた俺の体の下に綿木がすっぽり収まっていた。俗にいう「床ドン」の体勢である。

ミシェル「先生ありがと!ミミ、ぬいぐるみになって先生と一緒にいれて楽しかったよ!手芸部で体いじられたときとか、先生に掴まれたときはびくってなったけど……」

八幡「それは、悪かった。俺が目を離さなきゃそんなことには、」

ミシェル「だからね!だから、また今度、ちゃんとぬいぐるみのミミをエスコートしてね?」

そうやって小動物みたいに涙目で言うのは反則じゃないですか?それに俺の体の下から出ようともしないし。そんな風に言われたら無下にできるわけないじゃないですか。

つか、これ以上こんな体勢でいたらやばい。俺は立ち上り、まだ地面に寝ている綿木に向かって手を伸ばしながら答えた。

八幡「……ま、気が向いたらな」
354 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/06/03(土) 00:19:13.22 ID:EzBsCKrq0
以上で番外編「ミシェルの誕生日」終了です。ミミお誕生日おめでとう!できれば八幡にも「むみぃ」を言わせたかったんですが無理でした。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 18:57:11.47 ID:lbkVnDkDo
乙です
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 01:59:19.16 ID:tVkrcOWV0
八幡「むみぃ…」

……ありだな!
357 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/06(火) 17:04:22.49 ID:CL1oron80
本編4-6


特訓が始まってから数日経った。未だ俺の中で彼女たちへの接し方の答えは見つかっていない。

だが相変わらず交流は続き、放課後特訓もだんだんその強度を増してきて、ランニングの他に素振りとダンスをこなした。

そして今日。本来休日であるはずなのに当然のごとく3人に呼び出された。断ることもできず、着替えを済ませグラウンドに向かうと、既に3人が固まって喋っていた。成海がいち早く俺に気づき手を振ってくる。

遥香「先生!こっちですよ」

八幡「お前ら早くね?」

昴「アタシたち、先生と特訓するのが待ちきれないんですよ!」

落ち着け俺。こんなのいつも言われてるだろ。いつも通り、いつも通りの反応だ。

八幡「……そうか」

みき「……」

なぜか星月が黙って俺のことをじっと見つめている。

八幡「なんだよ」

みき「え?いえ、何でもないです!」

昴「じゃ、じゃあ早速始めますか!」

遥香「そうね、7時間もやるわけだし」

八幡「は?何時間だって?」

聞き間違いであることを願って若葉に問いかけるが、無慈悲な笑顔で一蹴される。

昴「7時間です!」

八幡「そんなに長い時間跳ばなきゃならないのか?」

遥香「そうしないと特訓になりませんから」

特訓と言うより最早拷問だった。ここだけ昭和なの?今どきスポ根は流行らないと思うよ?

なども心の中で文句を垂れてもどうしようもないので、俺は落ちている縄跳びを拾う。その光景を見て3人は驚いた表情を見せる。

八幡「なに」

遥香「いえ、先生が自分から縄跳びを拾ったのが意外だったので」

八幡「そうか?」

昴「いつもよくわからない理屈をこねてサボろうとするじゃないですか」

八幡「人をサボリ魔みたいに言うのやめろ。案外俺は真面目なんだぞ?宿題は自分でやるし、仕事なら嫌なことでもこなすし、小6レベルなら家事全般できる。もはや俺の人間力はエベレスト並に高い領域にあるわけだ。だから逆説的に、俺に人が寄り付かないまである。孤高な存在ゆえにな」

俺の力説に3人は素で困惑した表情をしている。

遥香「いつも以上に何を言っているかわからないです、先生……」

昴「アタシも……で、でも先生にやる気が出てきてよかったね、みき」

みき「うん。そうだね……」

そう答える星月の声は幾分か小さい。朝に変なものでも食ったか?

遥香「みき?どうしたの?」

みき「なんでもないよ。さ、今日も特訓頑張ろう!おー!」

遥香、昴「お、おー」

星月の気合につられ、2人もぎこちなく腕を上に伸ばした。

みき「ほら先生も。おー!」

八幡「……おー」

……なにこのグダグダな雰囲気。ま、いつも通りと言われればいつも通りか。じゃあ何も問題ないな。何も問題ない。
358 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/09(金) 18:41:01.61 ID:C9cDcFgo0
本編4-7


八幡「はぁ、はぁ」

一体、何時間こうして俺はなわとびを跳んでんのかなぁ。かよちんでもこんなに跳ばないっての。

昴「ほら見て遥香!三重跳び!」

遥香「さすが昴ね。私もはやぶさ跳んじゃおうかしら」

右にはいつもより若干テンションが高めな若葉と成海。多分ちょっと調子が良いんだろう。

みき「ふぅ、ふぅ」

左にはいつもより若干テンションが低めな星月。多分ちょっと調子が悪いんだろう。

みき「いたっ」

俺に見られてるのを気にしたのか星月は縄につまづいてしまう。他の2人もそれに気付いて縄を回す手を止める。

昴「休憩にする?みき?」

遥香「そろそろお昼ご飯の時間だしね。お腹減ったわ」

昴「遥香はいつもでしょ?」

遥香「そんなこと、ないわよ」

昴「目そらしながら言ったってバレバレだよ〜」

みき「あはは……うん。お昼にしようか。実は私、今朝みんなの分のお弁当作ってきたんだ」

刹那、若葉の顔から血の気が引いた。元凶は今でもなく、星月からの遠慮がちな、でもはっきり聞こえた「お弁当」の単語。

昴「で、でもアタシ自分の分のお弁当持ってきてるんだよなぁ……」

八幡「お、俺も妹が作ってくれた愛兄弁当が」

遥香「私みきの料理大好きだから是非食べたいわ」

成海ぃぃぃ、余計なことを言うなぁぁぁ。巻き込まれる俺らのことも考えてください、お願いします。

みき「じゃ、じゃあはい」

星月が取り出した弁当箱の中に入ってたのは、

八幡「サンドイッチ?」

そう。まぎれもなくサンドイッチだった。星月の料理がこうやって形になってるのを見るのはほぼ初めてだ。まさに奇跡。いつもなら得体の知れない物体Xとかになるはずなのに。俺と同じことを思ってるのか、横で若葉もびっくりしている。

みき「は、はい。全然うまくできなかったんですけど、良かったらどうぞ」

昴「じゃ、じゃあ1つもらおうかな」

八幡「俺も」

タマゴサンドであろうものを一口食べてみる。

八幡「すげぇ。普通のタマゴサンドだ」

昴「アタシのも普通のハムチーズサンドだよ」

見た目が壊れてないだけでも奇跡なのに味も壊れてなかった。ものすごく美味しいわけではないが、ザ・手作りって感じ。

遥香「いつものみき独特の味付けとは違う気がするけど、美味しいわよ」

みき「私の味付けになってない……」

昴「いや、でもこれはこれでいいと思うよ?ね、先生?」

八幡「あ、あぁ、そうだな。いつものよりも王道な手作り料理って感じがするな」

すかさず俺と若葉はフォローを入れた。ここで星月に勘違いされても困る。むしろこのままの方向性で料理のスキルアップを図ってもらいたいところだ。何があったかは知らんが、今までとは比べ物にならないほど改善されてるんだから、これに乗らない手はない。

みき「そうですか……」

そう言って星月はまだサンドイッチが残ってる弁当箱を閉じる。

八幡「どうした?」

だが星月は俺の声に反応せず、俯きながら弁当箱を持つ手を震わしている。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/09(金) 23:45:43.64 ID:b640l3XDO
ポイズンクッキング三時間殺しかな?
360 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/11(日) 22:47:59.34 ID:oP2TgmX+0
本編4-8


みき「……です」

八幡「え?」

みき「みんな私に優しすぎるんです!」

八幡「何言ってんだお前?」

みき「だってそうじゃないですか。サンドイッチだって明らかに失敗作なのに美味しい美味しいって食べてくれて」

昴「いや、あれは実際いつもの数百倍は美味しかったんだけど……」

みき「でも遥香ちゃんは私の味付けになってないって言ってた」

遥香「確かにそうは言ったけど、今日のもとても美味しかったわよ?」

みき「またそうやって優しくする!私はみんなにもっと正直に言ってほしいの!」

八幡「落ち着け星月。どうしたんだ突然」

みき「そもそも先生が悪いんです!」

八幡「俺が何かしたか?」

みき「先生、ここ最近ずっと上の空でしたよね?私たちと特訓を始めたときから、毎日。私ずっとそれが気になってたんです」

八幡「……」

みき「ほら否定しないじゃないですか」

昴「みき。ちょっと冷静に」

みき「昴ちゃんも気づいてたよね?先生の私たちへの接し方がいつもと違うって」

昴「そ、それは……」

遥香「実は、私も気づいてた。でも、なんで先生がそうなっちゃったのかわからなかった。私たちに原因があるんじゃないかって色々考えたりしたけど」

八幡「そんなことはない。お前たちは、悪くない」

みき「じゃあどうしてですか?どうしていつもの先生じゃなくなっちゃったんですか?」

星月は目に涙を浮かべながら追及してくる。若葉も成海も目を赤くして俺の言葉を待っている。

だが、俺はその疑問に答えることはできない。悪いのは俺だ。彼女たちには一切非はない。ならば彼女たちに背負わなくていい重荷をわざわざ与える必要なんてない。俺自身の問題は、俺自身で解決するべきだ。

八幡「……なんもねぇよ。別にいつもと変わらねぇ」

みき「嘘です」

昴「先生、話してください」

遥香「私たち、なんでも協力しますから」

八幡「なんもねぇって言ってんだろ」

つい口調が荒くなってしまった。だが口は止まってくれない。

八幡「お前らいつから俺の親友になったんだ?曲がりなりにも俺は先生としてここに来てるんだぞ?それを考慮に入れてもそもそも俺が今、この場にいる必然性はないし、俺の話をお前らにする義務もない、だから」

違う、こんなことを言いたかったんじゃない。いつもならもっとうまく言いくるめることができた。いや、それ以前に考えもしないことで悩んで、八つ当たりしてしまっている。

八幡「俺に、かまうな」

俺の言葉に誰も反応しない。誰も言葉を発しないまま、重苦しい雰囲気が俺たちを包み込む。

みき「……わかりました。それが、先生の本心なんですね」

それからどのくらい時間が経ったのだろうか。星月は小さくそうつぶやくと弁当箱も持たず、グラウンドを後にする。

昴「みき!待ってよ!」

若葉は俺を見向きもせず、星月の後を走って追いかけ、

遥香「……最低です」

成海は強烈な一言を言い放って2人を追いかけていった。

グラウンドに残ってるのは放置されたなわとびと弁当箱、そして俺。はっ、そうだよ。こういう状況こそぼっちマイスターな俺にふさわしい。だけど最近は交流とか言って女子校に来られて、だいぶ調子に乗ってたらしい。まぁ、いい薬になったわ。これからはまたもとのぼっち生活が始まるわけだ。彼女たちとも接しなくてすむし、余計な悩みも生まれないし、これにて一件落着。

だけど俺はしばらくグラウンドから一歩も動くことができず、その場で立ちつくしていた。
361 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/13(火) 20:58:25.04 ID:I76UsQrX0
本編4-9


星月たちと喧嘩別れした次の日の月曜日、俺は校門で朝の挨拶兼、登校時の服装チェックなることをやらされていた。

なんで俺が月曜の朝からこんなことをしなくちゃならんのだ。そもそもこの学校に校則とかあったっけ?けっこうみんな自由な服装してる気がするんだが。

八幡「はぁ、だるい。帰りたい……」

「先生が朝からそんなこと言ってていいのかなぁ?」

声がした方を見るや否やバッグが腹に直撃した。

望「おっはよ!先生!」

ゆり「こら望!先生に何やってるんだ!」

くるみ「先生、大丈夫?」

お腹をさすりながら顔を上げると天野、火向井、常磐の3人が周りを囲んでいた。

八幡「……あぁ」

ゆり「先生どうされたんですか?顔色よくないですよ?」

八幡「別にいつも通りだろ」

くるみ「でも目つきがいつもより暗い感じがする」

望「ほんとだ。クマもひどいよ?保健室行く?」

八幡「なんもねえって」

みき「望先輩、ゆり先輩、くるみ先輩、おはようございます!」

俺が3人を振りほどこうとした時、星月がこっちに向かって歩いてきた。だがその目線は俺のことを捉えようとはしていない。

望「おはよー!てか見てよみき。先生のクマひどくない?」

八幡「だからこれくらい大丈夫だって」

ゆり「でも心配だから保健室に連れて行こうと思うんだが、手伝ってくれるか?」

星月は一瞬苦し気な表情をしたが、すぐに笑顔になって話し出した。

みき「……先生が大丈夫だって言うなら大丈夫なんじゃないですか?」

くるみ「みきさん?」

みき「別に先生も子どもじゃないですし、私たちがそこまで先生に踏み込んでいく必要もないと思いますよ?」

望、ゆり、くるみ「……」

星月に諭された3人は茫然としている。多分、星月は自分達の味方をしてくれると思ってたんだろう。その予想が見事に裏切られたわけだ。

みき「あ、そろそろ教室に行かないとチャイム鳴っちゃいますよ?」

ゆり「え、あ、あぁ。そうだな。遅刻をしていてはダメだな。なぁ望?」

望「う、うん、そうだよね。早く教室行かなきゃ。ね、くるみ?」

くるみ「え、えぇ」

みき「じゃあ4人で昇降口まで競走しましょう!よーいドン!」

そう言うと星月は俺に背を向けて走り出した。天野たちも少し遅れて星月を追っていった。

八幡「……なんだあいつ」

遥香「みき、大丈夫かしら」

背後の声に気づいて振り返ってみると、俺と目が合って不機嫌そうになる成海と、それを見て心配そうな若葉が立っていた。

遥香「ま、先生には関係のないことですよね」

そう冷たく言うと成海はさっさと昇降口へ向かってしまう。

昴「せ、先生、あの、その、」

八幡「チャイム、もうすぐ鳴るからお前も教室行け」

昴「……はい」

俺が強引に若葉の言葉を遮ると、若葉はそれ以上何も言わず昇降口に寂しげに歩いていった。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 11:51:13.53 ID:fv3Zqu3xo
乙です
363 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/16(金) 22:38:06.47 ID:PvR04w9Y0
本編4-10


八幡「ただいま……」

小町「あれ?お兄ちゃん?帰ってくるの早すぎない?もしかして先生クビになった?」

八幡「そんなわけないだろ。今日は特訓なかったんだよ」

放課後にチラッとグラウンドを覗いてみたが、いつもはチャイムが鳴ると同時に飛び出していた3人の姿はなかった。ま、昨日、今朝の態度から考えても当たり前か。

小町「ふーん、そっか。じゃあせっかく早く帰ってきたんだから部屋の掃除しちゃってよね。お兄ちゃんの部屋、物が散乱してて掃除機かけられないから」

八幡「ん、了解」

俺の返事を聞いて小町が俺の顔を不思議そうに見つめてくる。

小町「……どうしたの、お兄ちゃん?」

八幡「なにが」

小町「いや、なんか口数少なくない?いつもなら今日あったことを小町が聞かなくてもベラベラ喋るじゃん。まぁ、9割方愚痴だけど」

八幡「……そうか?別になんもねぇよ。部屋片付けてくるわ」

これ以上小町と話していたら色々問いただされることになるだろう。俺はさっさと部屋に逃げ込むことにした。

八幡「うん、確かに汚いな」

ここ最近、部屋に入ったら即就寝、起きたら即着替えて出勤、の生活だったからか部屋の中はかなりごちゃごちゃしている。足の踏み場もない、ってわけではないが、毎日使うベッド以外はけっこうひどい状態だ。

八幡「はぁ」

仕方ないし片付けるか。むしろ何かしてたほうが気が紛れていいかもしれない。まずは散らばってる服を集めて、と。パンツと下着は下の棚で、ジャージは上の棚。

……そういえば、特訓始めてからジャージとか着るようになったな。神樹ヶ峰に行くようになってからずっとスーツで、体育もやらなかったからなぁ。特訓やってるときはけっこうキツかったけど、運動して汗かくのは案外悪くなかった……

っていきなり考えちゃいけないこと考えちゃってるじゃん。バカなのか俺は……。気を取り直して次は特に汚い机の上の整理をするか。いらないプリントは捨てて、文房具は引き出しにしまって。ん、なんだこの写真の束。……そうか、俺はハーミットパープルのスタンド能力に目覚めたのか。ならいったい何が念写されているんだろうか。戸塚の背中のあざとか写ってねぇかな。

八幡「あっ……」

間違いない。俺が神樹ヶ峰に来た日の写真だ。確か初めは八雲先生が撮影係をしてくれてたはずだが、途中からそんなことおかまいなしにみんな撮りまくってたっけ。そのせいで後日、何百枚っていう写真を渡されたときはびっくりしたわ。

八幡「……」

今の心持ちで見たらいけないことはわかってる。でも写真をめくる手が止まらない。俺がチャーハン食ってる姿を隠し撮りされた写真。中学生組に纏わりつかれて撮った写真。年上お姉さん方に絡まれて撮った写真。せっかくだからと同い年で撮った写真。なぜかものすごくはしゃいでた先生たちと撮った写真。

どの写真でもみんな心から楽しそうに笑っている。チャーハンパーティーの時はもれなくずっと誰かに絡まれていた気がする。この前に大型イロウス相手に星月と死にそうになりながら戦ってたってのに。

……思えば最初に会った時からみんな俺に積極的に絡んできてくれたな。星月なんかは、特に。

そう思いながら写真をめくっていると星月、成海、若葉と4人で撮った写真が一番上に来た。3人は笑いながら中央の俺を見ていて、そんな俺はきまり悪そうにカメラを見ている。でも、こうして見ると、今までの俺史上で最もまともに写っていると言ってもいい写真だ。よくある修学旅行の後に貼り出される写真とか、まず俺が写ってるのが存在しているのかどうか怪しいレベル。なんとか1枚見つけても俺の目が腐りすぎてて、親に「あんたもう少しまともに写ってるのないの?」と言われる始末。

俺、なんでこんなにちゃんと写ってるんだろう。いや、変に写りたいとかではないが、いつもの俺ならもっと目を腐らせていてもおかしくないはず。

小町「お兄ちゃーん!お風呂湧いたよー!部屋片付けたら入っちゃってー!」

おそらくリビングからだろう、小町の声が響いた。

八幡「へーい」

ま、そこそこ綺麗になったし、ちゃちゃっと入ってきますか。

俺は写真の束を引き出しの奥にしまってから風呂場に移動し、服を脱いで洗濯機に放り込む。浴室に入り、椅子に座ってふと顔を上げると鏡に自分の顔が映っていた。

八幡「え……」

その顔は、これまで見た中でも指折りのひどい顔だった。特に目の腐り方が半端ない。今時ハリウッドでもここまでしないだろうってレベル。そして脳裏にはさっき見た写真の中の自分の顔がちらつく。

八幡「……っ」

俺は脳内イメージをかき消すように力ずくで頭を洗った。泡を落として顔を上げると、もう鏡は湯気で曇ってて俺の顔はそこには映っていない。

八幡「ふぅ……」

結局俺は一度も鏡の曇りをとることなく、いつもより幾分か早く浴室をでた。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 07:33:39.55 ID:Py0Igk4b0
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365 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/18(日) 22:22:46.82 ID:RbosLVBr0
本編4-11


それからの数日は、朝のHRを必要最低限で終わらせ、授業を適当に受け、放課後は少し雑務をして終わり次第すぐに帰るという無味乾燥の日々を過ごしていた。神樹ヶ峰に来た当初から待ち望んでいた平穏な生活を俺は手に入れたはずなのに、心は晴れるどころか暗鬱さに拍車がかかっている。そのせいで、放課後に廊下を歩く足取りも重い。

風蘭「おう、比企谷」

前方からいつもの白衣を着た御剣先生に遭遇した。

八幡「なんですか御剣先生」

風蘭「今手空いてるか?空いてるよな?ちょっと資料整理手伝ってくれ」

八幡「いや、俺は……」

風蘭「いいから手伝え」

いつもの感じとは違う、鋭い目つきとはっきりとした口調だ。そんな風に言われたら怖いんですけど。怖くて断れないんですけど。

八幡「はい……」

風蘭「よーし、じゃあラボに行くぞ〜」

御剣先生は俺の返事を受けると打って変わっていつもの顔つきになって、さっさとラボに歩いていった。

---------------------------------

ラボに着くと、パソコンの周りに無数の紙が山となって積まれていた。

風蘭「この資料をパソコンに打ち込んで欲しいんだ。アタシはこっちの山から片付けるから比企谷はそっちの山を頼む」

八幡「……俺の持分のほうが明らかに多くないですか?」

風蘭「何言ってるんだ。アタシはこれ以外にもやらなきゃいけない仕事が残ってるんだよ。手伝うだけありがたいと思え」

いつの間にか俺が御剣先生に手伝ってもらってることになってましたー。

八幡「はい……」

この人相手にはどんな文句、言い訳、その他論理も意味をなさない。黙って機械のように指示されたことをこなすことだけが残された道。だから俺は抵抗を止め、紙の山に手を付けた。

八幡「つかこれなんの資料ですか?」

風蘭「あぁ、そっちの山のは星守たちの訓練データだ。紙に書いてある数値をデスクトップの左上の方の「星守特訓」のExcelに打ち込んでくれ」

八幡「はぁ、でもなんでこんなに溜まってるんですか」

風蘭「いや、最近アンタがみきたちと特訓をやってただろ?だから今まで押しつけてた仕事もアタシがやらなくちゃいけなくて、後回しにしてたんだ。それが昨日樹にバレて、めちゃくちゃ怒られた……」

八幡「なるほど……」

まぁ、俺が手伝わなくなった故に溜まった仕事なら、俺がその後処理をやらされるのは筋が通ってるようにも見える。でも御剣先生は俺がこの学校に来る前はどうやって仕事をこなしていたのだろうか。多分、なんだかんだ八雲先生が手伝ったのだろう。この2人、すごい仲良いしな。

風蘭「ほら比企谷、手が止まってるぞ。早く打ち込め」

八幡「は、はい」

おっと、注意されてしまった。ぼちぼちやらないと解放してもらえなさそうだな。えーと、これは、星月たち高1の特訓データか。2週間前から打ち込まれていないから、そこまでデータを遡ってっと。ほう。やっぱり徐々にではあるがシミュレーションでのイロウス撃破数が伸びてるんだな。他の学年に比べても最近の伸び率には目を見張るものがある。

八幡「ん?」

おかしい。今週に入ってから3人の記録が伸びていない。それどころか急激に下がっている。見間違えかと思い、書類の数値と照らし合わせても、やっぱり数値に誤差はない。他の生徒の成績も、今週に入って伸び悩んでいる人がほとんどで、何人かはほんの少し記録を下げているのもあった。

八幡「これって……」

風蘭「気づいたか?」

いつの間にか御剣先生が俺の左真横に座って、俺が作業しているパソコンの画面を見ながらつぶやいていた。

風蘭「今週に入ってから星守たちの動きに迷いが生じている。数人なんかじゃなく、全員の動きにだ。このまま放っておいていい状況じゃあない。特に、みき、遥香、昴の3人は深刻だ。そう思うだろ?」

八幡「……まぁ、そうですけど」

風蘭「……ホントはアタシがこうやってとやかく言うような役は似合わないんだ。でも今回は事情が違う。それはアンタが1番よくわかってるはずだ」

八幡「だからって俺にどうしろと……」

風蘭「そんなことアタシにはわからないよ。それに、こういうことを話すのはアタシとじゃなくてあいつらと、だろ?」

そう言って御剣先生が顔を向けた先には、星月、成海、若葉が立っていた。

風蘭「ほら!男らしく、けじめをつけてこい」

俺は御剣先生に思いっきり背中を叩かれて、椅子を立ち上がった。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 09:51:46.56 ID:b4UVd9Kio
乙です
367 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/21(水) 23:45:08.80 ID:1sHP3UWw0
本編4-12


八幡「……」

みき「……」

遥香「……」

昴「……」

誰も一言も話さない。俺が立ち上がった意味は何。沈黙は嫌いじゃないけど、こういうのは別です。俺にはどうしようもできません。誰かこの雰囲気誰かどうにかしてください。

風蘭「あー、そういやアタシ樹に呼び出されてたんだっけなぁー。早く職員室行かないとなぁー。そういうことだからアンタたちでここ自由に使ってていいから。比企谷、飲み物とお菓子でも出してやれ。じゃな」

そうして御剣先生は逃げるようにそそくさとラボを出ていく。……後は俺たちでどうにかしろってことですか。気遣いの仕方がわかりやすいですよ、御剣先生。

八幡「……とりあえず座れよ。今飲み物持ってくる」

昴「わ、わかりました」

遥香「……はい」

みき「……」

まさかこの場面でいつも御剣先生にお茶を出してる経験が生きてくるとは思わなかった。これからはもう少し御剣先生に優しくしよう。

だけど今はそんなこと考えてる場合ではない。この状況をどう打開する方法を見つけないと。このままだと1対3で確実に俺が負ける。いや、別に戦ってるわけではないけど。つか、あいつらこそ何をしにここに来たんだ?もう数日ろくに話してないし、とうとう決定的に絶縁を言い渡されるのか?あぁ。戻りたくねぇな。でも行かないとダメだよなぁ。待たせたらまたそれで何か言われそうだし。

八幡「お待たせ。冷蔵庫にあったのを適当に持ってきたから好きなの選んでくれ」

俺は目の前のブラックコーヒーに手を伸ばしながら声をかける。

遥香「ありがとうございます。私もコーヒーいただきます」

昴「アタシお茶。みきどれにする?」

みき「……じゃあリンゴジュース」

俺たち4人はとりあえず飲み物を啜りながら、誰が口火を切るかお互い目だけで確認する。すると意外にも成海がカップの中のコーヒーを一気に飲み干すと、俺の顔を真正面から見つめてきた。

遥香「先生。この前はすみませんでした」

成海は机に額がつくほど深く頭を下げた。

八幡「顔上げてくれ成海。なんでお前が俺に謝るんだ」

遥香「この前の特訓のとき、私が『最低』なんて言ってたことを謝ってるんです。先生のこと、傷つけてしまいました」

八幡「別に俺は傷ついてはない、わけじゃないが、正直ちょっと傷ついたが、それでも俺はお前に謝まる必要はない。俺の方こそ、お前らの気持ちも考えずひどいこと言った。すまなかった」

俺は成海と同じように、頭を下げた。

遥香「顔を上げてください。先生」

久しぶりに聞く、成海の温かな声を聞いて俺はゆっくり顔を上げる。

遥香「私は、今の先生の言葉を聞けてひとまず満足です」

成海はいつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。この表情も久しぶりに見る気がする。

八幡「……そうか」

昴「つ、次はアタシです。先生、最近アタシたちの成績が悪くてすみません」

若葉も頭を下げる。

八幡「それについても、若葉が謝ることじゃないだろ。あの日の特訓以来の俺の態度が原因だ。俺こそ、余計なことで気を煩わせてすまなかった」

今度は若葉に向かって頭を下げる。

昴「や、やめてください先生!そういうことも含めて、もっとアタシたちが強くならなきゃいけないんです。でも、先生にそう言ってもらえて気が楽になりました。これからはもっと頑張ります!」

若葉はいつもの、いやいつも以上に元気な笑顔でそう宣言した。しかし、その後、また場に沈黙が流れる。未だ、星月は顔を俯かせたままでどんな表情をしているか向かいに座る俺からは判断できない。だが星月を真ん中に、両脇に座る成海と若葉は星月の肩にそっと手を置いて星月に囁くように声をかける。

遥香「さ、あとはみきだけよ」

昴「大丈夫。アタシたちもここにいる。ちゃんと自分の気持ちを伝えよ?」
368 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/21(水) 23:46:39.80 ID:1sHP3UWw0
本編4-12


八幡「……」

みき「……」

遥香「……」

昴「……」

誰も一言も話さない。俺が立ち上がった意味は何。沈黙は嫌いじゃないけど、こういうのは別です。俺にはどうしようもできません。誰かこの雰囲気誰かどうにかしてください。

風蘭「あー、そういやアタシ樹に呼び出されてたんだっけなぁー。早く職員室行かないとなぁー。そういうことだからアンタたちでここ自由に使ってていいから。比企谷、飲み物とお菓子でも出してやれ。じゃな」

そうして御剣先生は逃げるようにそそくさとラボを出ていく。……後は俺たちでどうにかしろってことですか。気遣いの仕方がわかりやすいですよ、御剣先生。

八幡「……とりあえず座れよ。今飲み物持ってくる」

昴「わ、わかりました」

遥香「……はい」

みき「……」

まさかこの場面でいつも御剣先生にお茶を出してる経験が生きてくるとは思わなかった。これからはもう少し御剣先生に優しくしよう。

だけど今はそんなこと考えてる場合ではない。この状況をどう打開する方法を見つけないと。このままだと1対3で確実に俺が負ける。いや、別に戦ってるわけではないけど。つか、あいつらこそ何をしにここに来たんだ?もう数日ろくに話してないし、とうとう決定的に絶縁を言い渡されるのか?あぁ。戻りたくねぇな。でも行かないとダメだよなぁ。待たせたらまたそれで何か言われそうだし。

八幡「お待たせ。冷蔵庫にあったのを適当に持ってきたから好きなの選んでくれ」

俺は目の前のブラックコーヒーに手を伸ばしながら声をかける。

遥香「ありがとうございます。私もコーヒーいただきます」

昴「アタシお茶。みきどれにする?」

みき「……じゃあリンゴジュース」

俺たち4人はとりあえず飲み物を啜りながら、誰が口火を切るかお互い目だけで確認する。すると意外にも成海がカップの中のコーヒーを一気に飲み干すと、俺の顔を真正面から見つめてきた。

遥香「先生。この前はすみませんでした」

成海は机に額がつくほど深く頭を下げた。

八幡「顔上げてくれ成海。なんでお前が俺に謝るんだ」

遥香「この前の特訓のとき、私が『最低』なんて言ってたことを謝ってるんです。先生のこと、傷つけてしまいました」

八幡「別に俺は傷ついてはない、わけじゃないが、正直ちょっと傷ついたが、それでも俺はお前に謝まる必要はない。俺の方こそ、お前らの気持ちも考えずひどいこと言った。すまなかった」

俺は成海と同じように、頭を下げた。

遥香「顔を上げてください。先生」

久しぶりに聞く、成海の温かな声を聞いて俺はゆっくり顔を上げる。

遥香「私は、今の先生の言葉を聞けてひとまず満足です」

成海はいつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。この表情も久しぶりに見る気がする。

八幡「……そうか」

昴「つ、次はアタシです。先生、最近アタシたちの成績が悪くてすみません」

若葉も頭を下げる。

八幡「それについても、若葉が謝ることじゃないだろ。あの日の特訓以来の俺の態度が原因だ。俺こそ、余計なことで気を煩わせてすまなかった」

今度は若葉に向かって頭を下げる。

昴「や、やめてください先生!そういうことも含めて、もっとアタシたちが強くならなきゃいけないんです。でも、先生にそう言ってもらえて気が楽になりました。これからはもっと頑張ります!」

若葉はいつもの、いやいつも以上に元気な笑顔でそう宣言した。しかし、その後、また場に沈黙が流れる。未だ、星月は顔を俯かせたままでどんな表情をしているか向かいに座る俺からは判断できない。だが星月を真ん中に、両脇に座る成海と若葉は星月の肩にそっと手を置いて星月に囁くように声をかける。

遥香「さ、あとはみきだけよ」

昴「大丈夫。アタシたちもここにいる。ちゃんと自分の気持ちを伝えよ?」
369 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/06/21(水) 23:51:17.75 ID:1sHP3UWw0
すいません。間違えて2回同じものを投稿してしまいました。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 04:01:32.24 ID:kyHFvNSSO

気にせんでええで
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 14:43:46.88 ID:qw64p78Oo
乙です
372 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/24(土) 17:54:51.37 ID:P990LI0n0
本編4-13


星月は顔を上げずにぽつぽつと言葉を紡ぎ出す。

みき「……私、悲しいんですよ?」

八幡「……あぁ」

みき「……私、怒ってるんですよ?」

八幡「……あぁ」

みき「それをわかってて、ああいう態度をとってたんですか?」

八幡「……すまん」

まるで一番始めに戻ったかのような受け答えだ。あの頃と今とで、俺は何か変わったのだろうか。……いや、人間そう簡単に変わらないっていうのは俺が常々思ってたことじゃないか。どんなとこに来たって、どんなことをしたって、俺は、俺でしかない。

みき「そんな風に言われても、私引き下がれません」

星月は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死な形相で体を投げ出して迫って来た。そして次には小さい子を慰めるかのように語り出す。

みき「……話して、くれませんか?」

八幡「それは……」

みき「私たちじゃダメなんですか?」

八幡「そういうことじゃない。この前も言っただろ。これは俺自身の問題だ。だから、俺が解決しなきゃいけないんだ。わざわざお前らに話すようなことじゃない」

みき「……わかりました」

観念したのか、星月は姿勢をもとに戻す。なんとか諦めてくれたようだ。よかった。

八幡「そうか。ならこの話は、」

みき「先生の話を聞くまで、私先生から離れません」

突然のトンデモ発言に思わず耳を疑った。

八幡「ちょ、ちょっと待て。なんでそういう結論になるんだ」

みき「だって先生、話したくないんですよね?優しい先生の事だから、私たちの負担になることはしなさそうですから」

八幡「……」

みき「先生は話したくない。でも私は聞きたい。そして知りたい。だったら、踏み込んでいくしかないじゃないですか。今までよりも、もっと」

星月の言葉に両脇の二人も顔を見合わせて頷く。

昴「うん、アタシもみきと同じ気持ち。だからアタシも先生の話を聞くまで帰りません!」

遥香「私も。先生の話聞きたいです。みきたちと一緒に」

八幡「若葉、成海……」

昴「さ、先生。これでもう逃げられませんよ?」

八幡「いや、俺話すなんて一言も言ってないんだけど」

遥香「私たち、本気ですからね?」

八幡「だとしても、いつまでも話さないかもしれないぞ」

みき「いつまでだって待ちます!」

昴「もし下校時間過ぎちゃったら、みんなで合宿所にお泊りだね」

みき「あそこのベッド、ふかふかで気持ちいいもんね」

遥香「楽しみね」

なぜか三人は俺を無視して楽しそうに会話を始めた。今までのシリアスな雰囲気はどこに消えたんだよ。人の話を聞かない星守はこれだから困る。

でも、そんなこいつらが俺の話を聞きたいと言ってきた。あの言葉に嘘はないだろう。成海はともかく、星月と若葉は嘘つくの下手そうだし。

……そうか。俺は変わってない。現に今、ぼっちで頭をフル回転させて思考しているんだから。でも、周囲は変わった。今までと違って、俺のことを知りたい、と言葉にして伝えてくる人が、俺に踏み込みたいと願う人がすぐそばに何人もいる。もしかしたら、こいつらだけじゃないのかもしれない。

もちろん言葉にしてもその意味が完全に伝わることなんてない。行動にしたってそうだ。特に俺は人の言動を深読みして、その裏に隠された真意までもくみ取ろうとしてきた。そして間違えてきた。

だとしたら、俺のことを知りたいと願われているこの状況で、今までと変わらない俺はどう行動すればいいのだろうか。

……ダメだ。いくら考えても答えが出ない。まぁ、当然だな。今まで間違ってきたんだから、答えが出たとしても多分間違ってるし。むしろ、このままずっと何も話さないままこいつらと一緒にいる方がいいかもしれない。
373 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/26(月) 00:07:34.60 ID:De9rxzWL0
番外編「蓮華の誕生日前編」



今日は芹沢さんの誕生日。そんな日の放課後に俺と芹沢さんは2人っきりでとある部屋にいた。

蓮華「先生、早く頂戴……」

八幡「待ってくださいって」

蓮華「れんげもう待てない!」

八幡「ほら。これで、どうですか」

蓮華「あぁ〜ん‼いいわぁ〜!でも、もっと。もっと頂戴!」

八幡「じゃあ俺のとっておきを……」

蓮華「あはっ、先生‼最高だわぁ〜‼」

芹沢さんは艶麗な表情で俺のに夢中だ。まぁ、男としてはこういう表情にさせることができて悪い気はしない。むしろ誇らしいまである。

蓮華「先生、写真撮る才能あるわ〜。この写真のあんことか、れんげでもなかなか見れないスーパーレアショットよ〜」

八幡「はは、そうですか……」

はい。ネタばらしのお時間です。芹沢さんは俺が撮った星守たちの写真に興奮してるだけでした。

実はここ数日、俺は八雲先生と御剣先生に言われて、星守クラスの日常風景を写真に収めている。そして数十分前、なぜか芹沢さんが写真の整理をする俺のとこへ写真を見せろとせがんできて今に至る。

八幡「ほら、写真見せたんですから、作業手伝ってもらいますよ」

蓮華「仕方ないわねぇ。れんげは何すればいいの?」

八幡「学校のHPに載せられそうな写真をこのUSBにコピーしといてください」

蓮華「いいわよ。でもここにはパソコン1台しかないわよ?先生はどうするの?」

八幡「俺は今から放課後の星守たちを撮ってきます。部活の写真とかも必要なんで」

蓮華「は〜い!れんげも行きた〜い」

八幡「ダメですって……」

蓮華「なんで〜?」

八幡「だって芹沢さんが行くとみんなあなたに引いちゃうんですもん」

芹沢さんは不服そうにしかめっ面をするが、1つ深いため息をつく。

蓮華「仕方ないわね。今日はれんげ、先生に免じて我慢しとくわ」

八幡「はぁ……ありがとうございます」

蓮華「でも、適当な写真撮ってきたられんげ許さないからね。みんなのとっても可愛い写真、よろしくね」

落ち着け俺。ここで反応したら芹沢さんの思う壺だ。いや、すでに壺の中にいる説すらある。

八幡「はは、頑張ります……」

蓮華「いってらっしゃ〜い」

写真を見ながらニヤニヤする芹沢さんに見送られて俺は部屋を出た。

--------------------------------------

はぁ。とりあえず校内に残ってる人たちは撮り終えた。粒咲さんとか朝比奈とか写真なかなか撮らせてくれなくて余計に体力を消費した感じだ。

八幡「どうですか?作業終わりましたか?」

部屋に戻ってみると、まだ芹沢さんはニヤニヤしながら画面を見ていた。

蓮華「う〜ん。これも可愛いけど、何か足りないわぁ〜」

八幡「芹沢さん、大丈夫ですか?」

主に頭とか。もしかしなくてもこの人ずっと写真見てたのか……。

蓮華「あら先生。おかえりなさい」

八幡「お、おう……」

蓮華「ふふ、なんだか今のやりとり夫婦みたいね。もしかして先生、少しドキッとしちゃいました?」
374 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/26(月) 00:11:02.61 ID:De9rxzWL0
番外編「蓮華の誕生日後編」


そんな言葉1つでぼっちマイスターの俺の心が揺れ動くとでも?甘い。甘すぎる!動じていない男は冷静に反応するものさ。

八幡「べべ別に、しょんなことないでしゅよ」

決意とは裏腹に噛みまくりだった。

蓮華「ふふ。ま、先生がそう言うなら、そういうことにしといてあげる」

さっきの「おかえりなさい」がけっこうグッときちゃったどうも俺です。はぁ、情けない。

八幡「つか作業は終わったんです、か……?」

あれ、俺の目がおかしいのかな。俺が渡したUSBは黒色だったはずなのに、今パソコンに接続されているのはピンクのUSBなんだけど。なんで?

蓮華「まだ終わらないのよ〜。思ったより写真多くて」

八幡「終わらないのはやってる作業がおかしいからじゃないですか?」

俺は強引に作業を中断し、ピンクのUSBを引き抜く。

蓮華「あ、先生!何するんですか!」

八幡「それは俺の台詞ですよ。なんで自分のUSBに画像移してるんですか」

蓮華「移してないわ。コピーよ」

八幡「いえ、別にそこはどうでもいいんですけど……そもそも俺が頼んだ作業はどうしたんですか?」

蓮華「あぁ、それならすぐに終わらせたわ。はい、これ」

芹沢さんはポケットから俺が渡したUSBを取り出した。

八幡「終わってたんですか。なら素直に渡してくださいよ」

俺が手を伸ばすと、ひょいと芹沢さんがUSBを遠ざける。

八幡「早く返してくださいよ……」

蓮華「え〜、でもれんげ頑張って写真選んだから、先生からご褒美欲しいなぁ〜」

八幡「なんなんですかご褒美って……」

蓮華「さっきまで星守クラスの子たちの写真を見てて、れんげ何か物足りないなぁ〜って思ってたの」

俺の問いは無視して、芹沢さんは椅子から立ち上がると、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。

蓮華「それで先生が部屋に戻ってきて、その足りない何かに気づいたの」

八幡「は、はぁ……」

いつの間にか俺と芹沢さんは数センチの距離まで近づいていた。やべ、芹沢さんの睫毛めっちゃ長い。

蓮華「じゃ、先生。いきますね……」

何が?いったい何が?いや、いきなりそんなこと言われても、俺にも心の準備ってものがいるんですけど!

そんな俺にかまうことなく、芹沢さんは俺の胸に手を伸ばしつつ、頬と頬がふれあうほど顔を近づけてきた。

蓮華「はい、チーズ」

刹那、スマホのフラッシュが俺を襲う。突然の眩しさに目がくらむ。俗にいう目が、目が〜状態だ。

蓮華「ふふ、先生、変な顔ね〜」

八幡「……写真撮るならそう言ってくださいよ」

蓮華「だって撮りたいって言ったら先生嫌がるでしょ?それに、油断してる先生をれんげは撮りたかったの」

八幡「そうですか……」

全くこの人は心臓に悪い。ピュアな男子高校生の心を弄ぶなんて魔性の女だ。

蓮華「……それに、こうでもしないとれんげ、余裕をもって先生と写真撮れないもの」

八幡「何か言いましたか?」

蓮華「なんでもないわぁ。じゃ、先生。また明日」

まだショックで動けない俺を置き去りにして、芹沢さんは優雅に手を振りながら部屋を出ていった。

数分後、『先生、今日はありがと♡れんげ、この写真を先生からの誕生日プレゼントだと思って大事にしますね』というメッセージと、さっきの画像が送られてきた。ま、一応保存しとくか。……一応、隠しフォルダに入れてばれないようにしとこ。
375 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/06/26(月) 00:14:44.16 ID:De9rxzWL0
以上で番外編「蓮華の誕生日」終了です。蓮華、誕生日おめでとう!来週からのアニメが待ちきれないこの頃です。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 00:28:54.96 ID:jRnxvXk7o
乙です
377 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/29(木) 00:48:16.00 ID:gK6Ho32c0
本編4-14


あれ。なんだろ。急に視界がぼやけてきた。目の前の三人の表情がわからなくなった。その代わりに、頬に熱いものが流れる。

昴「先生……?」

八幡「な、なんだよ」

遥香「泣いてるんですか?」

八幡「ばっか、ちげぇよ、単に目にゴミが入っただけだ」

俺はあわてて袖で涙を拭おうとするが、それより前に、ハンカチの柔らかな感触とその下から感じる指先の温かさがが俺の頬を包む。

みき「もう、私たちの前で強がらなくていいんですよ?」

星月は俺の涙を拭いながらなおも続ける。

みき「そりゃ、私たちじゃ力不足ですけど、それでも私たちが先生を思う気持ちは誰にも負けていないつもりです」

昴「そ、そうです!アタシたちを信頼してください!」

遥香「何でも言ってください」

三人はそろって俺の心にド直球を投げ込んでくる。でも、三人とも少し勘違いしている。それだけは、今ここで伝えなきゃならない。

八幡「俺は、別にお前らを信用していないわけじゃない。すべては俺自身の問題だ」

みき「どういうことですか?」

八幡「正直、今までこんなに周りに受け入れられた経験がなかったからな。受け入れてもらいたいとも思ってなかったのもあるが。だからなおさら、この学校に来てからの状況に疑問を持ってたんだ。何年も経ってすべてを知り尽くした関係ならまだしも、交流に来てすぐの時から無条件に求められることは、正しいことのか。交流が終わったら消滅するような関係なのに、それを大事にする必要があるのか。俺に、そんな風に求められる資格があるのかって」

俺の静かな告白にしばらく沈黙が続いた後、星月が口を開いた。

みき「私は、先生が私たちのことでそんな風に真剣に悩んでくれてたってわかって嬉しいです」

八幡「え?」

みき「いえ、正直半分くらい何言ってるかわからなかったです。私そんなに頭よくないので。でも、先生が私たちのことをちゃんと考えてくれてるんだなってことはわかりました。じゃなかったらそんなに深く悩まないですよね?」

確かに言われてみればそうかもしれない。俺は「なぜ」こんな風に考えるようになってしまったか、その理由を考えたことがなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。

みき「それと、さっきの話で1つだけ私たちが答えられることがあります。ね、昴ちゃん、遥香ちゃん」

昴「うん!」

遥香「えぇ」

三人は頷くと立ち上がって同じ言葉を叫んだ。

みき、昴、遥香「先生は十分魅力的な人です!」

突然の言葉に俺は開いた口が塞がらない。

八幡「えーと、あの……」

昴「ち、違いますよ?男性として魅力があるってことを言ってるわけでは、まぁ全くないわけじゃないですけど、とにかく違うんです!」

遥香「先生は、屁理屈を使っていろんなことをすぐにサボろうとするし、そのくせ大事なことはこうして隠してるし、とっても面倒くさい人だと思うんです」

ちょっと?なんで成海は俺の事真正面からディスってくるの?歯を素っ裸にしすぎじゃないですか?温かい服着せてあげて。

みき「でも、おんなじくらい、いやそれ以上に私たちの事をすごく真剣に考えてくれて、私たちのために動いてくれてる人だってことも感じてるんです。でもどうしてそこまでしてくれるかわからない。そんな先生に、私たちは惹かれるんです。だから、先生の事もっと知りたくなるんです。だから、先生の傍にもっといたくなるんです」

みき「こんな理由じゃ、私たちが先生に近付く理由になりませんか?」

完全に言葉を失ってしまった。わからないから知りたい。知ったから傍にいたい。この両方を達成するために人に近付く。もしかしたら、こんなことは世の中のリア充連中は意識せにずやっているかもしれない。だとしたら、これは人間本来の欲求だと言い換えられる。人間は知って安心したい。安心するところへ行きたい。だから人と人は繋がりを持たずにはいられないのだろう。

八幡「でも、いつかは俺たちの関係は終わるんだぞ。少なくとも、交流が終わってしまえば……」

みき「そんなこと、その時にならないとわからないですよ!」

俺の言葉を遮るように星月は叫ぶ。

みき「これから先、いや今からでも私たちと先生が近づくことができれば、関係は終わりません。だって、『今』の関係の積み重ねが『未来』の私たちの関係になるんですから」

星月の言葉に、一度は止まっていた感情がまた目から溢れてきた。俺の思考とは裏腹に涙はとめどなく流れ続ける。

そんな俺の両脇に若葉と成海が座り、俺の肩に優しく手を置く。そして真正面からは星月があの太陽のような笑顔でにっこり笑う。

みき「先生。これからもよろしくお願いしますね!」

もう言葉は出てこない。それどころかまともに頭も働かない。ただただ腐った目だけが自分の汚れを落とすかのように涙を流し続けているばかりだった。
378 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/01(土) 00:00:13.14 ID:WWQHmvpZ0
番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」前編



なんだか最近クラスの雰囲気がそわそわしている。南や蓮見がはしゃいでるのはまだしも、千導院や粒咲さんまで落ち着きがない。

そんな中のHR。案の定、俺の話はあまり聞こえていないようである。

八幡「なぁ、お前ら最近どうした?いつもよりも落ち着きがないぞ」

俺の投げかけに星月が立ち上がって感極まった感じで話し出す。

みき「だって、ついに、ついに明日はアニメですよ!先生!」

八幡「……それで?」

思わず俺は素で聞き返してしまう。

昴「すごいことじゃないですか!」

八幡「そうか?」

遥香「昴。先生はもう2クールもアニメに主役として出演してるのよ。多分、これくらいなんともないんだわ」

八幡「おい。いきなりメタ要素入れ込むなよ。ツッコミづらいだろうが」

うらら「でも、それなら先生にアニメに出るにあたっての心構えとか聞いておきたいなー」

八幡「あ?別にそんなもんねぇよ」

ひなた「でもひなた、このままだと緊張しちゃうよー!」

八幡「いや、そんなことないから。そもそもここにカメラが来るわけでもないし」

あんこ「でも先生はイメージアップのためにヲタクの要素隠してるわよね。原作だとガンダムネタとかアイマスネタとかたくさん喋ってるくせに、アニメだとそんなこと全然言わないし」

思わぬところから不意撃ちを受けてしまった。

八幡「そ、そんなことないと思いますけど?」

蓮華「あと、原作だとちょっとHなことも考えてるのにアニメだとほとんどカットされてるわね〜」

花音「やっぱりこいつ変態だったのね。どうせ今も心の中では気持ち悪いこと考えてるんでしょうね」

八幡「……」

望「え、マジ?」

八幡「お、俺だって高校2年生、思春期真っただ中の男の子だぞ。この時期の男子はみな程度の差はあれ、そういうことは想像してしまうもんだ」

サドネ「??おにいちゃんが何言ってるかわからない」

桜「サドネ。わしらにはまだ早い話じゃ」

サドネの他にも何人か首をかしげている。これ以上俺の株を下げてもいいことはないし、ここらで話題を打ち切ろう。

八幡「とにかく、お前らが気負う必要は一切ない。俺だって別にアニメだからって何か特別なことをしたわけじゃないし」

強いて言えば、アニメーションによって戸塚の可愛さがさらに神々しいレベルまで高まったくらいだな。アニメで動く戸塚を間近で見れて、幸せだったなぁ。

ミシェル「むみぃ、でも1つくらい何かアドバイスないの?」

八幡「そんなこと言われても……いや、あるな」

くるみ「なんですか?」
379 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/01(土) 00:00:55.34 ID:WWQHmvpZ0
番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」後編



八幡「……作画に気を付けろ」

心美「ど、どういう意味ですか?」

八幡「そのままの意味だ。下手したら制作会社が変わって、1期と2期で雰囲気がガラッと変わっちまうことだってあり得る」

楓「正直、イマイチ要領を得ないアドバイスですわね」

八幡「ま、いつも通りのお前らでいれば大丈夫だ。心配すんな」

樹、風蘭「いや、アニメはそんな甘いものじゃない!」

そう豪語しながら八雲先生と御剣先生が教室に入ってきた。

樹「アニメは戦場よ!比企谷くんは主役だったから何もしなくても映っただろうけど、私たちはそうはいかないわ!」

さりげなく「私たち」って言いましたよね?映る気満々じゃないですか。

明日葉「ということは、私たちが自力で目立たないといけない、ということですか?」

風蘭「大正解だ明日葉!こういう女の子がたくさん出てくるアニメでは、いかに印象を残すかが大事なんだ!一瞬一瞬が戦いだと言っても過言じゃない。下手したら何週も映らない、なんてこともあるぞ!」

詩穂「なんだか実際に体験してきたような感じですね……」

樹「私たちのアドバイスをしっかり心に刻んで頑張っていきましょうね」

風蘭「毎週毎週色々言われると思うが、めげずにやっていこうな」

星守たち「はい!」

いや、みなさん普通に返事してるけど、この人たち映る気満々だよ?下手したらタイトルが「バトルティーチャー・ハイスクール」とかになりかねない。何それ、めっちゃダサい。

牡丹「みなさんどうしたんですか?いやに張り切ってますね」

教室の盛り上がりを聞きつけたのか、理事長までやってきた。

八幡「いえ、明日アニメが始まるからってみんな盛り上がってるんですよ」

牡丹「そういえばそうでしたね。でも、比企谷先生には関係ないですよね?だってアニメには出ないんですから」

ゆり「先生アニメに出ないんですか!?」

牡丹「この場所が二次創作、かつ作品をクロスオーバーしている特殊な空間だから成立しているんです。だからアニメには他作品のキャラクターの比企谷先生は出られないんですよ」

理事長の言葉に、教室中に何か変な空気が流れる。みんな俺をちらちら見て、目が合うと申し訳なさそうに目をそらされる。あれ、もしかして気を使われてる?

八幡「ほら、あれだ。別に俺がいなくてもお前らなら大丈夫だろ。むしろ、こういうアニメには男性キャラは不必要まである」

ラブライブなんて、主人公のお父さんでさえ首より下しか映ってないんだぞ。可哀想すぎる。ゆるゆりやけいおんにいたっては男の気配ゼロ。モブキャラまで全員美少女。どんな世界だよ。

みき「……わかりました。アニメでは、比企谷先生無しで頑張ります!」

星月の言葉に星守みんなが頷く。なんだか、みんなの成長を感じて少し感動するなぁ。

樹「でもその代わり、比企谷くんは円盤を買って私たちを応援してね」

風蘭「もちろん、初回生産限定盤をな」

牡丹「主題歌やキャラソンのCDもお願いしますね」

八幡「あなたたちのせいで締めが台無しですよ」
380 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/01(土) 00:02:15.47 ID:WWQHmvpZ0
以上で番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」終了です。短いですけど、アニメ応援ということで投稿しました。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 00:37:06.94 ID:4RvuhWrjo
乙です
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 03:50:00.67 ID:c8lbLqOq0

突然のメタネタに驚いたけど面白かった
PVには先生らしき男性がチラッと映っていたが果たして…
383 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/04(火) 22:02:21.24 ID:Lk++xY/20
本編4-15


ブーブー

突然ラボ内に警報音が鳴り響いた。

遥香「この音は」

昴「イロウス!」

みき「早く行かなきゃ!」

3人はすぐに転送装置に向かって走る。俺はその姿を見て、自然と足が動いていた。

昴「先生……?」

八幡「……俺も行く」

昴「大丈夫ですか?」

八幡「あぁ。むしろ連れってくれ。頼む」

なぜ積極的に戦場へ向かおうとしているのか自分でもわからない。でも、俺も一緒に行かないといけないってことは直感した。

そんな俺の言葉に星月が嬉しそうに反応する。

みき「もちろんです!行きましょう!」

八幡「……すまん」

昴「謝らないでくださいよ!」

八幡「す、すまん」

遥香「次謝ったら特訓メニュー倍にしますよ?」

成海が冷たい笑顔を浮かべながら忠告してきた。

八幡「す……わかった」

昴「遥香目が笑ってないよ……」

みき「あはは……」

俺は転送先の座標を設定してから転送装置に向かう。

八幡「準備はいいか?」

みき、遥香、昴「はい!」

八幡「よし、転送」

-----------------------------------

転送が終わると、俺たちは荒野に立っていた。

みき「ここにイロウスがいるんですか?」

八幡「あぁ。そのはずだ」

昴「どんなイロウスですか?」

八幡「それがよくわからないんだ。全くイロウスに動きがなくて判別できなかった」

遥香「動かないイロウス、ですか?」

八幡「あぁ。ひとまずここらへんにいるのは確実なんだ。あとは俺たちで動いて探すしかない」

みき「頑張ろう!昴ちゃん!遥香ちゃん!先生も!」

八幡「おう。じゃ、行くか」

俺が歩き出すと、3人は物凄く驚いた表情を見せる。

昴「せ、先生が自分からイロウスに向かって歩き出した……」

八幡「若葉、お前失礼だな。相手は得体のしれないイロウスなんだぞ。別行動するより、全員一緒にいた方が安全だ。幸いにも周りに人家はなさそうだし、時間かけても安全に仕留めることを優先してもいいだろ」

みき「な、なるほど」

遥香「やっぱり先生の頭の回転の速さにはかないませんね」

……実は俺1人でいると危険だから集団行動したかった、ってのは黙っておこう。
384 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/07(金) 00:01:47.96 ID:sIXeq07Y0
番外編「望の誕生日前編」


俺は今、学校帰りにあるスポーツ用品店に来ている。もちろん1人でだ。星守たちの特訓にも付き合うようになり、かつ最近暑くなってきて運動着が数枚必要になったから買いに来ただけだ。

だが、いざ店に来ると何を買えばいいのかさっぱりわからない。まぁ、サイズが合えばなんでもいいんだが、そうは言ってもどれを選べばいいか迷う。

望「あれ、先生?」

なんだかやけに通る声がしたけど気のせい、気のせい。

望「先生!おーい!先生!」

がっつり目が合って手を振られたけど、気のせい。きっと気のせい。

望「せんせー!なんで無視するの!」

とうとうカバンを掴まれてしまった。これ以上無視できないから仕方なく反応する。

八幡「おう。天野か。じゃあな」

望「うん、ばいばい。じゃないよ!先生こんなところで何してるの?」

ちっ、押しきれるかと思ったけどダメか。

八幡「買い物だけど……」

望「奇遇だね!アタシも買い物してるんだ!せっかくだから一緒に見て回ろうよ!」

八幡「いや、別に1人でいい」

望「えー、そう言わずにさ!どうせどのウェア買えばいいか迷ってるんでしょ?特別に望ちゃんがコーディネートしてあげるよ!」

八幡「いらないって……」

だが、俺の抵抗を聞かず、天野はノリノリで運動着を選び始めた。

望「先生は別にスタイル悪くないし、シンプルなやつも似合うかな。でも思い切って奇抜な色合いで攻めるのもアリかな?」

八幡「そこまで悩まなくていいぞ。適当に3枚くらい見繕ってくれれば」

望「ダメだよ先生!いついかなる時でもファッションには気を付けなきゃ!」

八幡「えぇ……別に何着たって一緒だし」

望「そんなことない!アクセサリー1つとっても、ファッションは違ってくるもんだよ!」

天野が鬼気迫る感じで迫ってくる。こいつのファッションへの意気込みは凄まじいものがあるな。

八幡「あ、あぁ。わかった。それならもう全部任せるわ」

俺はもう口出しするのも諦めて天野に丸投げすることにした。

望「オッケー!任せて!」

------------------------------

俺はそこから数十分、着せ替え人形と化してひたすら天野の言う通り運動着を試着させられた。

望「ふぅ、楽しかった!」

八幡「疲れた……」

望「先生もこれを機にオシャレに目覚めたら?楽しいよオシャレ!」

八幡「俺には無理だ。それにいざと言うときは妹に見繕ってもらえばいいし」

望「それは兄としてどうなの……?」

八幡「いいんだよ。どうせ俺の服装なんて誰も見てねぇし」

望「そんなことないです!」

八幡「え……?」

予想外のタイムラグゼロの反論に思わず反応してしまった。

望「いや、その、なんていうか……ほら、いつもと違う服装してたら目立つじゃん?それが先生だったら特に!学校には先生しか男の人いないわけだし」

天野は手をこねこねしながらそれっぽいことを並び立てる。ま、男1人なら何をしたって悪目立ちはするか。

八幡「男が俺1人の時点ですでに目立ってるじゃねぇか。俺は目立たず過ごしたいんだ。だからオシャレはしない」

望「そんなこと言わないでオシャレしようよー」
385 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/07(金) 00:02:37.41 ID:sIXeq07Y0
番外編「望の誕生日後編」


八幡「つかお前はここに何買いに来たんだ」

俺は自分への話題の矛先をそらすために天野に質問した。

望「アタシは部活で使えるサンバイザーを探しに来たんだ!あ、そうだ。先生も付き合ってよ。サンバイザー選び」

八幡「なんでだよ。俺の意見なんてあてにならないぞ」

望「ファッションは他人にどう見られるかも大事だからね!先生からの客観的な意見が欲しいの!」

八幡「いやでも……」

望「ほらちゃっちゃと行くよ!」

こうして俺は天野にテニスコーナーへ強制連行された。

望「うーん、いっぱいあるなぁ。どれにしようかな〜」

八幡「……」

望「あ、これとかオシャレ!でもこっちも捨てがたい!ねぇ先生、どっちがいいと思う?」

そう言って天野はチェック柄で色違いのサンバイザーを2つ、俺の前に掲げてきた。

八幡「ん?どっちもいいんじゃねぇの」

望「むぅ、じゃあこれとこれなら?」

今度は花柄のサンバイザーを掲げてきた。

八幡「どっちも似合うと思うぞ」

望「……先生、本気でそう思ってる?」

やべ、流石に適当に返事しすぎた。

八幡「いや、正直どれも悪くないと思う。天野ならそういう派手目なサンバイザーもいんじゃないか?」

望「なんかイマイチ煮え切らない答えだな……あ、なら先生が選んでよ。アタシに似合うサンバイザー!」

八幡「は?俺が?」

望「そ。さっきはアタシが服選んであげたんだから、今度は先生が選んで!ね!」

そう言って天野は期待に満ちた目で俺を見つめて来る。わかったよ。選べばいいんだろ、選べば。

八幡「……わかった。でも文句はナシな」

俺はこのコーナーに来た時から気になっていたシンプルな白いサンバイザーを差し出した。

望「なんでこれなの?」

八幡「ま、なんだ。サンバイザーは熱中症対策のもんだろ?なら、白いほうが熱を放射しやすくね?」

望「え、まさか機能面だけで選んだの?」

やめろ。俺は、友達の誕生日プレゼントに工具を真っ先に思いつくようなどこぞの氷の女王ではない。

八幡「いや、ほら。お前目立つ色の練習着よく着てるだろ?ならサンバイザーはシンプルなほうがいいかな、って思って。白ならその髪色にも合うだろうし……」

ついキザっぽいセリフを吐いてしまった。やべぇ、気持ち悪がられる……

望「嬉しい……」

八幡「え?」

望「先生、なんだかんだアタシのことよく見ててくれてるんだね!うん。アタシ、これにするよ!これがいい!」

天野は目を輝かせながらサンバイザーを眺めている。俺はそのサンバイザーを天野から奪うと自分の持ってる買い物かごに放り込んだ。

望「え?サンバイザーくらい自分で買うよ?」

八幡「別にいいよ。俺の運動着選びになん何十分も付き合ってくれたお礼と、お前の誕生日プレゼントと併せて、買ってやる」

天野は急に顔を下に向けてもじもじし始めた。なんだよ、トイレ行きたいのか?ならさっさと行って来いよ。

八幡「おい、大丈夫か?」

心配になって声をかけたが、顔を上げた天野には満面の笑みが浮かんでいた。

望「うん。大丈夫!先生、ありがとう!このサンバイザー、一生大切にするね!」
386 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/07(金) 00:04:48.82 ID:sIXeq07Y0
以上で番外編「望の誕生日」終了です。望、誕生日おめでとう!とうとうアニメが始まりましたね。この先どんな展開になるか楽しみです。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 08:58:17.51 ID:x7Eq948ao
乙です
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 20:53:13.40 ID:OoLC+gu80


ホントみんなの性格掴むの上手いなぁ
比企谷も同年代だと遠慮がなくなってるのもいい感じ
389 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/08(土) 09:33:50.15 ID:D/03jL2M0
本編4-16


そうして四人でしばらく歩いていると成海が何かに気づいたような声を上げた。

遥香「あら、あれはなにかしら」

みき「どうしたの遥香ちゃん?」

遥香「向こうの方に何か浮いてない?」

成海が指さす方向を見てみると、確かに丸っこい物体が空中に浮いている。

昴「先生、アタシちょっと見てくる」

八幡「おぉ。頼む」

若葉は元気よく走っていく。でも、物体に近付くにつれてそのスピードが遅くなっているような……?

少しして若葉が帰ってきた。

みき「どうだった昴ちゃん?」

昴「多分、あれがイロウスだよ。あいつの周りだけ重力が強くなってるみたいで体が重くなっちゃったし」

あぁ、だからスピードが遅くなってたのね。重力を扱うなんてプッチ神父か何かですか?

遥香「でもイロウスなら私たちで倒さないといけないわね」

みき「じゃあみんなで行きましょう!」

俺たちはイロウスの能力が届かない距離まで近づいた。

みき「遥香ちゃん、一緒に攻撃してみよ?」

遥香「えぇ」

そう言って星月はガンで、成海はロッドで攻撃するが、あまり効いているとは思えない。

遥香「遠距離攻撃じゃ効果がないのかしら」

昴「なら近距離攻撃するしかないね!」

八幡「じゃあ俺はここで待ってるからお前ら、」

みき「先生も行きますよ!」

八幡「ちょ、腕引っ張んなって」

なぜか俺までイロウスの傍に行くことになってしまった。そして重い体を動かし、なんとかイロウスの目の前まで来ることができた。

みき「なんか、このイロウスただ浮いてるだけだね」

遥香「何もしてこないイロウスなんているのかしら」

八幡「まぁ、何もしてこないならそれに越したことはないんだが」

昴「なら今のうちにサクッと倒しちゃいましょう!」

そう言って若葉はハンマーを出してすぐさま振りかぶる。

昴「やあっ!」

若葉は強烈な一撃をイロウスに加えた。

みき「あ、体が軽くなった!」

遥香「流石ね昴」

昴「へへ〜」

3人はイロウスを討伐できたことに安心しているようだ。だが、このまま簡単に終わっていいのか……?

そう思ってイロウスを見てみると、灰色だった色が赤くなり、膨張しているようだ。これってまさか……

八幡「逃げるぞ……」

みき「え、なんですか?」

星月をはじめ3人ともキョトンとしている。

八幡「いいから逃げるぞ!」

状況を呑み込めていない3人を急き立て、俺たちはイロウスから離れた。次の瞬間、イロウスは盛大に爆発した。
390 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/08(土) 10:30:21.37 ID:D/03jL2M0
本編4-17


あ、危なかった。間一髪だった。

遥香「はぁはぁ、爆発して攻撃するイロウスだったんですね」

昴「はぁ、先生が気付かなかったらヤバかったよ」

みき「はぁはぁ、先生ありがとうございます」

八幡「ぜぇぜぇ、いや、ぜぇぜぇ、おう、、」

急にダッシュしたから息が整わない。返事どころかろくに呼吸すらできてない。

昴「じゃあ他にもイロウスがいないか探しに行こう!」

八幡「ちょちょっと待って。少し休憩させて……」

みき「先生……」

遥香「仕方ないですね。先生が落ち着いたら行動を再開しましょう」

数分後、なんとか息を整えて、俺たちは動き出した。するとほどなくして若葉が声を上げる。

昴「あ!またさっきのイロウスが浮いてる!」

みき「奥の方にさらにいっぱい」

遥香「なら私たちも別れて倒しに行きましょうか」

3人はハンマーを出してイロウスへ向かう。

八幡「……俺はここにいるわ」

これ以上俺にできることはないし、何よりもう走りたくない。

みき「はい。後は私たちで倒せますから大丈夫です!」

昴「安全なとこで待っててください!」

遥香「すぐ戻ってきますから」

……ん?なんか死亡フラグに聞こえたのは俺の気のせい?

そんな俺の心配をよそに3人は次々にイロウスを倒していく。その度に大きな爆発があるから、待ってる身としては気が気じゃないんだが。

つか、改めてあたりを見渡すと、さっきのイロウスがどの方向にも浮いてるじゃん。どんだけ倒せばいいんだよ……

遥香、昴「先生」

いつの間にか成海と若葉が帰ってきていた。

八幡「おう。お疲れさん」

昴「けっこう倒したんですけど、それ以上にイロウスが湧いてきたんで、いったん引き返してきました」

遥香「私たちだけでどうにかできる数じゃなくなってしまったんですが、どうしますか?」

八幡「一番の策は星守の数を増やすことだな。こっちの手数を増やさないと、イロウスを減らすことはできないし」

昴「それなら、一度学校に戻りますか?」

八幡「あぁ、だけど星月も戻ってきてからじゃないとな。あいつだけ置いていくことはできない」

遥香「そうですね。無事だといいんですけど」

成海が心配そうに呟く。

昴「みきなら大丈夫だよ。すぐに戻ってくるって」

遥香「昴……そうね。みきなら大丈夫よね」

八幡「ほら、現に戻ってきたぞ」

俺の視線の先には必死の形相で走ってくる星月の姿があった。なんであいつあんな急いでんの。

みき「みんな〜!」

遥香「みき、おかえり」

みき「みんな、大変なの!」

昴「大変って何が?」
391 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/08(土) 15:19:58.36 ID:D/03jL2M0
本編4-18


みき「さっきあっちのほうまで行ってイロウスを倒してたんだけど、あるイロウスの爆発が他のイロウスを刺激しちゃって、どんどん爆発が広がってっちゃった……」

八幡「てことはつまり……?」

みき「ここら辺、爆発まみれです……」

遥香「何やってるのみき……」

みき「だ、だって!久しぶりに先生にいいところ見せられると思って、張り切っちゃって」

昴「そんなこと言ってる場合じゃないよ!爆発がそこまで迫ってるって!」

若葉の言う通り、星月が走って来た方角から大きな爆発音が止まることなく鳴り響いていて、段々音量も大きくなっている。

八幡「こうなったら早くここから逃げるぞ」

みき、遥香、昴「はい!」

俺たちはもと来た道を引き返していく。だが、なぜか嫌な感じがする。

遥香「なんだかこっちからも爆発音が聞こえない?」

昴「うん、そんな気がする……」

みき「ど、どうしよう先生?」

八幡「とにかくここから脱出する。爆発に巻き込まれるのだけは勘弁だ」

そうして俺たちは方向転換を繰り返していったのだが。

昴「……先生」

八幡「なんだ」

遥香「この状況は、どうやって打開しますか?」

八幡「そんなこと俺が聞きたい」

みき「そんな〜」

八幡「もともとお前が撒いた種だろ……」

もうどこに行ってもイロウスが爆発しまくっていて逃げ場がない。いわゆる袋のネズミってやつだ。

昴「爆風を避けながら走れば、」

八幡「流石に無理だろ……」

遥香「私のスキルが先生にも効果があればよかったんですけど」

八幡「ごめんな。俺が星守じゃなくて」

成海はイロウスからのダメージを無効にする効果を持つスキルを持っているのだが、いかんせんただの人間の俺にはスキルが効かない。だから物理的にどうにかして爆発から逃げないといけないのだが、正直打つ手なくね?

みき「先生!私に考えがあります!」

なんでこんな状況になっても元気なんだこいつは。

八幡「……何」

みき「私があの爆発から先生を守ります!」

八幡「は?どうやって?」

みき「私の爆発系のスキルを使うんです!イロウスの爆発より強力なスキルが打てれば、爆発を相殺できて先生を守れます!」

思ったよりもまともなアイデアだった。でも致命的な欠陥を発見してしまった。

八幡「数体くらいの爆発ならともかく、四方八方から爆発は迫ってるんだぞ?お前1人でどうにかできるレベルじゃないだろ」

みき「あ、そっか……」

俺の指摘に星月はうなだれてしまう。が、成海と若葉は逆に明るい表情になった。

遥香「大丈夫よみき。私たちも一緒にスキルを使えばなんとかなるかもしれないわ」

昴「うん!3人で先生を守ろう!」

みき「遥香ちゃん、昴ちゃん……」
392 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/11(火) 00:46:35.61 ID:Rm0mq5+k0
本編4-19



八幡「……危険すぎる」

遥香「え?」

八幡「危険すぎるって言ったんだ。お前らのスキルがイロウスの爆発より強力な保証はないし、3人のスキルのタイミングと威力が少しでもずれたらバランスが崩れて、結果全員の命が危ない。そんな賭けに俺は乗れない」

昴「なら、先生はどうするのがいいと思うんですか?」

八幡「お前らが助かるのに最も確実なのは成海のダメージ無効スキルを使うことだ。俺に効果はないが、それでもお前らが助かる方を優先するべきだ」

最優先するべきは3人の安全だ。彼女たちはイロウスを倒せる唯一の存在、星守だ。そして、それ以前に俺の生徒だ。絶対に死なすわけにはいかない。

だが、俺の言葉を聞いて、3人は明らかな怒りを顔に出しながら俺に詰問する。

みき「それじゃあダメです!私たちは、4人でイロウスに勝つんです!先生1人だけ見捨てるなんて、私たちにはできません!」

八幡「だけど、」

遥香「逆に先生は私たちが失敗すると、そう言いたいんですか?」

八幡「いや、そういうことじゃない。が、」

昴「ならアタシたちに任せて下さい!アタシたちが必ず先生を守ります!」

八幡「お前ら……」

この星の星守は、俺の生徒は、想像以上に心が強い子ばかりらしい。まぁ、それくらいの気概がないと、こんな危険なことを自分からやりたい、なんて言う筈がないか。

八幡「……わかった。俺の命、よろしく頼む」

みき、遥香、昴「はい!」

……あぶね。なんだか笑みがこぼれそうになった。笑ってられる状況じゃないってのに。むしろこれからが本番だ。気を引き締めないと。

八幡「よし。そしたら作戦を立てるぞ。まずは俺を中心に3人は正三角形の頂点に立ってくれ」

昴「ここらへんですか?」

八幡「あぁ。それと、スキル強化のスキルを誰か使ってほしいんだが」

みき「はい!私が使えます!」

八幡「よし。そしたら星月のスキルを使ってから3人でスキル発動だ。なるべく同じスキルがいいんだけど、なんかないか?」

遥香「それなら『炎舞鳳凰翔』は私たちみんな使えます。爆発系のスキルで威力も同じです」

八幡「ならそれでいこう。後はタイミングのそろえ方だな」

みき「合図は先生が出してください!」

八幡「俺?」

遥香「そうですね。3人の真ん中っていうちょうどいいポジションにいるわけですし」

昴「先生の合図なら、アタシたちさらに頑張れますから!」

……むぅ。正直気乗りはしないが、3人が一番やりやすい状況を作る方が大事だしなぁ。ここは腹をくくるか。

八幡「わかった……」

遥香「では先生の『炎舞鳳凰翔』の掛け声に合わせて私たちがスキルを使うということで」

八幡「待て。なんで俺もあの恥ずかしいスキル名を言わなきゃならないんだ」

昴「だってアタシたちがスキルを使うときはスキル名唱えないといけないですし」

みき「それに先生も一回くらい一緒に言いましょうよ!意外と楽しいかもしれないですよ?」

材木座ならともかく、今の俺にそんな中二病抜群のスキル名を意気揚々と唱えられるほどのメンタルは備わっていない。つか、それ以前に俺の必殺技でもないんだよなぁ。今回はただ合図として技名を叫ぶだけ。ダサい事この上ない。

八幡「……楽しいかどうかはともかく、お前らがそう言うなら合図はそれでいこう」

でも、一度くらいは必殺技大声で叫んでみたいよね?だって男はみな、一生少年なのだから!

昴「よし!これでなんとかいけそうだね!」

遥香「絶対4人で学校に帰りましょうね」

みき「さぁ、みんな!頑張ろう!」
393 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/11(火) 02:38:40.36 ID:Rm0mq5+k0
スキル性能が一緒だから名前も一緒だと勝手に思ってましたが、実はスキル名は違ってたんですね。すいません。でも今回の話では3人とも『炎舞鳳凰翔』で統一します。これからはもっとスキルも確認します。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 05:14:31.25 ID:5HaB/ylk0
おつ

細かいところは適当に補完していくからあんま気にしなさんな
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 06:59:37.15 ID:NeBvkbId0

元々クロスオーバーでオリジ要素入ってるし多少はね?
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 08:18:30.19 ID:QnR8H8Jao
乙です
397 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/11(火) 23:24:31.03 ID:Rm0mq5+k0
本編4-20


段々爆発が迫って来た。そろそろ作戦開始かな。

八幡「よし。始めるか。星月頼む」

みき「はい!『メガスキルバースト』!」

3人の周りを黄色いオーラが包み込む。例えるならちょっとしたスーパーサイヤ人みたいな感じだ。

八幡「あとはタイミングを合わせてスキルを撃つだけだ」

みき「は、はい!」

遥香「みき緊張してるの?」

みき「う、うん。正直かなり……」

昴「あはは、実はアタシもけっこう緊張してるんだ。でも遥香は大丈夫そうだね?」

遥香「だって、こういう絶体絶命なシチュエーションってよく少年漫画にあるでしょ?それを今実体験してると思うと少しワクワクしてるの」

お前強いなぁ!オラわくわくすっぞ!ってか?心までサイヤ人になっちゃったのかな?

八幡「おい、もう爆発がそこまで来てるぞ。準備しろ」

俺の言葉に3人の雰囲気ががらりと変わる。もうお互いの顔も見ずに、ただ真正面のイロウスにだけ集中している。

八幡「いいか。俺が『炎舞』と叫ぶから、1テンポおいて3人は攻撃してくれ」

みき、遥香。昴「はい!」

俺は3人の背中を順に観察する。星月はソードを、成海はスピアを、若葉はハンマーを構えている。こうして後ろから眺めることは今までなかったが、改めて見てみると、頼もしい背中をしてるんだな。俺を「守」るって意志をひしひしと感じる。

もう爆発が目の前まできている。今まで遠くに見えていたイロウスは爆炎でまったく見えない。だが、至近距離にもイロウスは浮いてるし、それらも爆発しそうに膨張している。

八幡「……いくぞ。『炎舞』!」

みき、昴、遥香「『鳳凰翔』!」

刹那、3方向から凄まじい爆炎が放たれた。ちょうど俺周りで爆炎がぶつかり相殺されているが、周りは360度爆煙で包まれており視界は遮られてしまっている。

八幡「くっ……」

てか爆風がすごすぎて立ってられないんですけど。音もすごいし、本当に星月たちがどうなってるかわからない。

やがて爆煙が薄くなってきた。俺は立ち上がり急いで周りを見渡してみたが、いるはずの人影が見えない。

八幡「嘘だろ……」

最悪のシチュエーションが頭をよぎる。3人は身を挺して爆発から俺を守ったのか?3人が3人とも?はは、まさか。冗談だろ?

八幡「星月……若葉。成海!」

俺はありったけの声を出して叫んでみた。だが返事は聞こえない。

八幡「なんでだよ……」

俺が3人を死なせてしまった。否、殺してしまった。俺だけが犠牲になればこんなことにはならなかったはずだ。なんで俺はあの時、もっと強くあいつらを説得しなかったんだ……

その時、爆煙の下の方に何かの影が見えた。それはゆっくりとこちらへ近づいてくる。あぁ。イロウスの生き残りか。なら、いっそ俺もここで死んでしまうのがいいかもな。俺の死くらいじゃ償いにはならないが、俺にできることはこれくらいだ。

八幡「……殺せ!」

俺はその影に向かって泣き叫んだ。だが影はそこで動きを止める。

「何言ってるんですか先生?」

八幡「え?」

この声は、まさか……

みき「なんとかここまで這って来た私に『殺せ』ってどういうことですか?」

現れたのはぼろぼろの星月だった。

八幡「星月……?お前、なんで這って来たんだよ」

みき「全力でスキルを使ったら、歩く体力もなくなっちゃったんです。なのでこうして這ってきました」

八幡「……ふっ、なんだよ。そういうことかよ。ははっ」

俺は力が抜けて、地面に座り込みながら笑いだしてしまった。そんな俺を不思議そうに星月が眺めてくる。
398 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/11(火) 23:58:52.53 ID:Rm0mq5+k0
本編4-21


やがて成海と若葉も合流した。

昴「先生!無事だったんですね!」

八幡「あぁ。お前らも無事か?ケガはないか?」

遥香「はい。大丈夫です」

みき「ねぇ聞いてよ2人とも!先生ったら、私に向かって最初『殺せ!』って叫んできたんだよ?」

遥香「……どういうことですか?」

八幡「いや、なんか気が動転しててな。自分でもよくわからず口走っちまった」

お前らが死んだと思ってた、なんて口が裂けても言えない。

昴「先生本当に大丈夫ですか?実はどこか爆発に巻き込まれてたりしてませんか?」

八幡「なんともねぇって。強いて言えば疲れだな。ラボから一緒にいて身も心も疲れた」

みき「それって、私たちといると疲れるってことですか!?」

八幡「ま、そうとも言うかもな」

昴「ま、まぁまぁみき。実際、アタシも色々あって今日は疲れちゃったし、大目に見てあげようよ」

遥香「そうね。私もお腹空いたわ。早く何か食べたい」

4人でこんな雑談をしていると、通信機が鳴りだした。

八幡「はい。もしもし」

樹『比企谷くん!?無事ですか?』

八幡「えぇ。星月たちも全員無事です」

俺の返答の後、八雲先生じゃない人たちの歓声が聞こえた。おそらく他の星守たちが後ろの方にいるんだろう。

樹『よかった……』

八雲先生は心の底から安堵したような声を出した。

八幡「あの、周囲にまだイロウスの反応はありますか?」

樹『いえ、レーダーには反応はないわ。完全に消滅しています』

八幡「そうですか、ありがとうございます」

樹『えぇ。じゃあすぐに転送装置を起動させますね。そこで少し待っててください』

八幡「わかりました」

そうして通信は切れた。

遥香「学校からの通信ですか?」

八幡「あぁ。八雲先生からだ。俺たちが無事だって聞いて安心してたよ」

昴「あの、イロウスは?」

八幡「それもこの辺には反応はないそうだ。完全に殲滅できたってよ」

みき「やったー!」

そう言って星月は若葉と成海に抱きつく。

昴「こ、こらみき!いきなり抱きついてきたら危ないって!」

みき「えへへ〜」

遥香「もう、しょうがないわね」

3人はそのままお互いに抱き合って笑い合っている。ついさっきまで俺を守るために死ぬ気で奮闘していた星守とは思えないくらい楽し気に。ゆりゆりに。

八幡「ほら、そろそろ離れろ。八雲先生はすぐに転送してくれるって言ってたぞ」

みき「は〜い」

しぶしぶ3人は離れる。が、なぜか俺の両腕に絡みついてくる。やめて!柔らかい感触と女の子の香りが凄すぎて頭がクラクラする。

八幡「な、なにしてんだよお前ら」

みき、昴、遥香「先生!これからも私たちのことよろしくお願いします!」
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