【蒼の彼方のフォーリズム】【オリキャラss】 蒼の彼方に光が見えた

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1 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/01(木) 16:54:06.78 ID:SE/S2yWa0
蒼の彼方のフォーリズムのオリキャラssです。原作キャラも出します。

舞台設定は原作・アニメの二年後で、場所は閑東(関東もじり)です。

完全に不定期更新にします。更新した時にはTwitter(@bottitou80000)でツイートするので、気になる方はそっちをチェックしてください。いればですが……。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480578846
2 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/01(木) 16:55:08.31 ID:SE/S2yWa0
追記
毎週土曜に他のssを更新したときに保守レス打ちます。
3 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/01(木) 16:56:32.87 ID:SE/S2yWa0
 それは、ある日の午後だった。

 中学校三年生。受験勉強をはじめていても全くおかしくない時期。勉強はおろか受験校すら適当にしている俺は間違いなく例外に入る。と父に言われた。

 だが正直な話、自分がしたいことなんて全くわからないし、もちろん将来の夢なんてあるはずもなく、かといって行ける学校が限られるほど成績が悪いわけでもない。まあ特別よくもないのだけど……。

 そんなだから、家に帰ってリビングのソファに座り、真っ先にテレビをつけた。

 特に見たいものがあるわけではないけれど、平日の昼間。こうるさい両親はいない。

 暇つぶしに、とテレビの電源をつけ、チャンネルをポチポチとリモコンを操作して変えて気になるものを探すのが、もう半ば癖のような習慣になっていた。

 チャンネル変更の「+」ボタンを数回押した時だった。

『やああああああったあああああ! 勝ちました! 倉科明日香選手、三回戦も危なげなく突破! 圧倒的です! 倉科明日香選手、フライングサーカス世界ジュニア選手権三回戦を、6−1で突破です!』

 それは、海の向こうで行われているスポーツ中継の再放送だった。

 時差の関係で夜にしか放送できない中継を、昼間に流していた。

 体にぴっちりとしたデザインの競技服を着て、最近開発されたグラシュ――アンチ・グラビトン・シューズで飛び回り、空で追いかけっこをするスポーツ、フライングサーカス。

 あまり興味はなかったけど、他のチャンネルで特に面白そうなものもなく、先生が話題にしていたことを思い出して見ることにした。
4 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/01(木) 16:59:25.26 ID:SE/S2yWa0
 他のチャンネルを回った後もう一度チャンネルを戻すと、今度は男の子がスタートラインに浮いていた。

 男の子ではあるけど、もちろん俺なんかよりよっぽど大人っぽい。

『左に見えます緑のグラシュを履いているのがFC日本ジュニア男子代表、日向昌也選手です。同じく選手の倉科選手のコーチも兼任しています。両者、構えて……スタートしました! コー……昌也先輩、出遅れたか!? あ、いえ出ました、応用エンジェリックヘイロウ! 一気に距離を詰め……二回目! 抜き去りました! そして一つ目のブイタッチ! 一点が入ります! 相手はショートカットを選択したようです。セカンドラインに待ち構えています。日向選手は……その場で上昇。FCは上のポジションが有利だと言われています。そしてそこから……下降して加速していきます。このスピードは、ブイタッチを狙っているのでしょうか? 相手選手も動きます。くるぞ……くるぞ……! 交錯! かわしました! やはりブイタッチ! ブイタッチを得意とするスピーダーを相手に大胆な作戦です! しかし相手選手追いつけない! なおも日向選手は加速! ブイタッチしました! 二得点目、2対0!』

 そして試合終了まで特になにもなく、日本の選手の圧勝で試合は幕を閉じた。

『日向選手! 試合お疲れ様でした! 今日のご感想など一言!』

 さっきまで実況をしていた女性――なんと制服を着た高校生だ――が、日向選手にインタビューする。

『ああ、実里も実況お疲れさま』

『もう! それを聞いてるんじゃないんですよコーチ! おっと、日向選手!』

『ははは。で、なんだっけ?』

『試合の感想と、どうしてスピーダー相手に速さ勝負を仕掛けたかってことですよ!』

『試合の感想としては、序盤に上手に乗れたから勝てた、かな。乗る気ではいたけど、一応乗れなかった時の作戦も考えていたからハマって上昇していったときはすごくほっとして一息ついてたよ』

『確かに、ファーストラインでの超加速が嘘のようなゆったりとした上昇してましたもんね。インタビューにお答えくださってありがとうございました! 後は彼女さんとイチャイチャしててください!』

『おい……。一応まだ沙希の試合もあるし、イリーナとも話したいから残るんだが……』

『浮気ですか?』

『え……? 昌也さん、浮気してるんですか?』

『ほら実里、悪ふざけが過ぎる。それにもう実況席に行った方がいいんじゃないか? それと明日香。そんな疑いのない目で怖いこと聞くなよ』

『はーい。では行ってきますね!』

『ふふっ♪ わかってますよ♪』

 そこで映像は切り替わり、試合のリプレイ映像へと変わった。

 改めて流れる、序盤の加速。

 スピードを自信にしてきた選手を、スピードで圧倒する日向選手。

 気づくと、父親に使うことを禁止されているデスクトップPCを起動して、動画サイトでFCやグラシュの動画を食い入るように見続けていた。

 気づいたのは、親が帰ってきてパソコンを使っている俺に怒りの口調で問いかけてきた時だった。

「どうして勝手にパソコンを使っているの?」

「ごめんなさい。でも、俺……やりたいこと見つけたよ。俺、FCをやりたい!」
5 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/01(木) 17:01:52.55 ID:SE/S2yWa0
さらに追記

基本は原作明日香ルート後ですが、他ヒロインたちの成長の仕方はそれぞれのルートをクリアした後のものになります。二年あったら成長するってことでご勘弁を……。
一部ネタバレになると思うので、読むときは注意してください。
6 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/01(木) 17:03:56.32 ID:SE/S2yWa0
「FC?」

 仇州ではその認知度は高いが、閑東圏などの、グラシュによる飛行が多くの場所で制限される地域ではその認知度は低い。体育でやることもないし、グラシュの発明は世界に大きな波紋を起こしたがFCは決してその限りじゃないからだ。

「フライングサーカス。略してFC。最近発明されたアンチ・グラビトン・シューズを使ってする、空中追いかけっこだよ」

「お前、やったことないだろう?」

「うん。でも、さっき試合やってて……。凄く、引き込まれたんだ。今までの人生で、これ以上ないってくらいに」

 世間で感動すると話題になっている映画を見た時よりも。

 日曜夕方の大喜利を見た時よりも。

 考古学のビデオを見たり、物理の派手な実験をした時よりも。

 ゲーム機で遊んでいる時よりも。

 そして――どんなスポーツを見たり、実際にプレイしたりした時よりも。

「そうか……洸輝がそこまで言うなんてな……。今まであったか、母さん?」

「私の記憶では全く」

「うん……。洸輝がそこまで言うんだから、俺としては認めるべきだと思う。でも、アンチ・グラビトン・シューズで飛ぶ……というのは、危険じゃあないのか?」

「注意していれば危険じゃないよ。父さん、母さんも……動画見て。それと、今日やってたジュニアユースの日本人の試合、録画してるから見てみて」
7 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/01(木) 17:04:54.09 ID:SE/S2yWa0
「じゃあ……高校をどこにするかは、FCを基準にするのか?」

 夕ご飯。あの日向昌也選手の試合(その後に乾沙希選手の試合もあって、こちらは相手に一点も決めさせない圧倒的勝利だった)を見ながら、親と話した。

「そのつもり」

「それはさっき調べたか?」

「もちろん。あ……」

「勝手に使ったことはもういい。進路のことだ。で、どうだったんだ?」

「うん。やっぱり近くの高校にはFC部があるところはなかった。隣県になるけど、私立で寮があって、けど学費もなんとかなりそうなところがあった」

「ん? ……もしかしてそれって」

「私立高藤学園高等学校」
8 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/01(木) 17:05:58.37 ID:SE/S2yWa0
 その日の夜中。

「どうするの、あなた?」

「ん?」

「洸輝のこと」

「ああ……。お前はどうなんだ?」

「私は……あの子が続けられるなら、いいかとは思います。高藤は勉強でも有名ですし」

「そうか。俺も、いいと思ってる。あの子がここまで食いついたものは、今までなかったろう?」

「そうですね。でも……FC、でしたっけ? 事故なんかも偶にあるみたいですし、危ないかなーと思いますけど……」

「それは全部のことに共通して言えることだよ。だいたいなんでもそつなくこなすあの子が、一つのことに打ち込んだらどうなるか……。息子ながら、気になるよ」

 そして父親は、ドヤ顔でこう続けた。

「子供の夢を応援するのが、親の仕事だ。俺たちは精一杯応援しよう」
9 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/01(木) 17:07:13.41 ID:SE/S2yWa0
Believe in the sky 終わりのない この蒼空の彼方まで
今、感じた 風が肩を優しく叩く――

(オープニングBGM(雰囲気的なもの)、「Believe in the sky」川田まみ
2016年、「蒼の彼方のフォーリズムeternal sky」OP)
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/01(木) 18:40:36.12 ID:4q76pRIeo

昔この作品の安価SSあったんだが結局エタったんだよなぁ
11 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/04(日) 10:34:44.15 ID:e2P2He/20
 ――春。

 そこそこに高い倍率を潜り抜け、俺は学力考査でここ、私立高藤学園高等部、閑東校に入学を果たした。

 全国に併設校が存在し、閑東校だけでも生徒数は6000人を超える超マンモス校だ。

 特徴としては、生徒会の力がとてつもなく強いこと、生徒数の多さから多種多様な部活があること、敷地が端から端まで歩いて15分かかるほど広いことなどがある。

 昔から「やればできる子」と言われていたし、受験勉強もそこそこで合格できた。

 意外だったのは、中学が同じだった友人が二人もいることだ。

 一人は「あ、洸輝高藤行くのか? あーじゃあ俺もそこにしよ」と適当に。

 もう一人は「前に高藤にいたっていう生徒会長に興味があって……。そ、それだけだからね!?」だそうだ。

 二人とも男だ。

 まあ俺は高校は部活一筋で過ごしていくつもりだったし、男子だろうと女子だろうとあまり気にしていない。

 今日は入学式だが、俺は県外寮生ということもあり、昨日からこの学校で過ごしている。

 もちろん入っているのは男子寮だが、FC部に入っている男子生徒は以外にも少ないようだった。

 女子と試合を共にする、という点で男子は入りそうな気もしたが……話を聞いたところによると、部長と副部長の姉妹が恐ろしいらしく、男子部員が少ないんだそうだ。

 僅かにいた男子部員の先輩にも話を聞こうとしたのだが、幽霊部員のようなもので、FCに熱心に取り組んでいる人はいなかった。

 俺の高藤に来てからの第一印象は、「こんなものか」だった。正直、がっかりした。

 まあ……女子の先輩には話を聞けなかったし、そっちに期待しようとは思うが。
12 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/04(日) 10:35:28.82 ID:e2P2He/20
 入学式を終え、教師の案内で教室へ。

 教科書は既に配られていたし、場所の確認程度だったので今日はそこで解散だった。

三平「洸輝ー」

黍斗「伊泉くーん」

 完全なまぐれでクラスが同じだった同じ中学の友達、樋田三平(とよださんぺい)と神宮黍斗(じんぐうきびと)。

 樋田はいわゆる「ウェーイ」系で、昔から「俺は……高校で青春を謳歌するんだ……ッ!」が口癖だった。

 仲は良い。まさに気の置けない仲、というやつで、周囲が聞くとお互いをバカにしているような会話でも、笑って話せる数少ない友人だ。

 人生を気楽に生きるという本人の座右の銘のもと、その日その日を適当に生きている。こんなことを面と向かって言っても笑い飛ばせるぐらいに仲がいい。

 ただ、本人は適当ながらに何かしら考えているらしい。「お、洸輝高藤受けんの? あーじゃあ俺もー」と志望校を適当に決めてはいたが、普通に合格できているあたり頭もいい。

 神宮はやや引っ込み思案だ。いつもおどおどとしているし、やや話しかけづらい雰囲気もある。が、一度仲良くなるとそうではなく、単に人と話すのが苦手なだけだということがよくわかる。

 中性的な顔立ちも相まって、女子にモテていた。男子にもモテていた。

 体育のペアをたまたま組んだ時に話し、仲良くなった。

 中学の卒業式の後にカラオケに一緒に行ったのだが、とんでもなくうまかった。精密採点で95以上が当たり前ってなんなんだよ……。
13 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/04(日) 10:37:42.65 ID:e2P2He/20
三平「これからどうすんだ? 部活見に行くだろ?」

黍斗「FC部、見に行くんでしょ?」

 二人が俺の机のところに来た。

洸輝「まあ、そのつもり。けど、一回帰らないと」

黍斗「どうして?」

洸輝「グラシュ、寮から取ってこないと」

三平「忘れたのか?」

洸輝「……お前は部活用品もって入学式に出たか?」

三平「ん? ああいやそうだな。わりぃ」

 三人で笑った。

「え。なに? あんたら、FC興味あるの?」
14 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/10(土) 19:00:24.05 ID:jYraYuME0
保守レス
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 21:09:55.74 ID:/wqV3pWxo
期待
16 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 18:59:25.35 ID:nmgck8ud0
 後ろから、女子が会話に割り込んできた。

洸輝「そのつもりだけど」

「そー! 私もFC部入部希望! あ、私内山詩緒。で、こっちが」

「瀬良悠佳です。よろしく」

 快活な内山と、ゆったりとした瀬良。一見反対のようで、しかし仲がよさそうだ。

 が、一番気になったのはそこではなく。

三平「瀬良さんってどっか外国の人? にしちゃあなんか日本人顔っぽいし……」

 瀬良さんが、怯えたように震えた。

 瀬良さんは、真っ白だった。

 髪の色、肌。

 見た目が日本人にとってなじみのある薄橙の肌や黒髪でなく、それらすべてが白いものだった。

詩緒「あんた……何?」

 内山が明るさを封印して黒い声を出す。

三平「え? あ、いや、気に障ったのなら謝るけど……」

 いつも調子のいい三平が黍斗以上にキョドり始め、

三平「洸輝〜黍斗〜……」

 俺たちの方を涙目で見てきた。

洸輝「俺に頼られても」

黍斗「同じく」

三平「薄情者〜……」

洸輝「あ、そういや自己紹介してなかったな。伊泉洸輝(いずみこうき)だ」

黍斗「神宮黍斗です」

三平「と、樋田三平」

洸輝「で……差しさわりなければ、瀬良さんの容姿について聞いてもいいか?」
17 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 19:04:25.91 ID:nmgck8ud0
詩緒「悠佳、どうする?」

悠佳「うん。言うよ」

詩緒「大丈夫?」

悠佳「う、うん……。もう、私も前に進まないといけないと思う」

 二人は短く言葉を交わした後、俺たちに教えてくれた。

悠佳「私、アルビノなの」

黍斗「……アルビノ?」

三平「えっと、白くなる病気だっけ?」

洸輝「お前らな……」

 二人に呆れる。

 まあ、俺も知っているのはたまたまだし、俺が説明する前に内山が話し始めた。

詩緒「そ、先天性色素欠乏症。皮膚なんかの色素が極度に少ないかあるいは全くないっていうやつ。悠佳、小学校の頃それでいじめられたことがあるから、あんたらも蔑視とかしたらそっこー縁切るから」

 内山が強い口調で言った。

洸輝「ふーん……。ところで瀬良さんは何部に入部希望?」

悠佳「……え?」

詩緒「……驚いた。伊泉、アルビノについて聞いたりとかしないんだね」

 内山と瀬良が驚き声を上げた。

洸輝「まあな。死んだばあちゃんがアルビノだったんだ。だから、まあ、皮膚がんのリスクが高いことなんかも知ってる。ばあちゃん、それが元で病死したし。で、瀬良さんは何部? 外で動くようなやつはできないと思うんだが……」

悠佳「あ、そ、そうだね」

詩緒「……初めてだよ。こうも最初からフラットに悠佳と接する人」

洸輝「内山さんは?」

詩緒「わたしも最初はちょっとおっかなびっくりだった」

悠佳「詩緒ちゃん優しいの。小学生のいじめられた時、一人だけ味方になってくれたの」
18 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 19:08:05.30 ID:nmgck8ud0
 いじめられている子に、一人だけ、自分だけ味方する。

 それがどれほど凄くて――かっこいいか。

悠佳「あ、部活の話だよね。私、FC部のマネージャーやろうと思って」

洸輝「プレーヤーでなく? ばあちゃんはよく日焼け止めして外散歩してたが」

悠佳「うん。詩緒ちゃんが飛んでるの見るの、昔から好きだし」

洸輝「内山さんはいつからFCを?」

詩緒「小学6年だったかな。今の目標は鳶沢みさき選手」

洸輝「へえ。俺はまだ一回も飛んだことないんだ。よければ教えてくれ」

詩緒「あ、うん。それはいいけど」

 あっけにとられた顔のまま、内山はうなずいてくれた。
19 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 19:09:20.59 ID:nmgck8ud0
洸輝「情報というか、ルールだけは知ってる。俺、FCがしたくて高藤に来た」

詩緒「へえ。私はFCのスポ推」

三平「まじかよ」

悠佳「詩緒ちゃん中学校の閑東大会で準優勝してるんだよ!」

黍斗「すごいね……」

詩緒「そうでもないわよ」

 内山が恥ずかしそうに、同時に苦虫を嚙み潰したような顔をしてふいっとそっぽを向いた。

 ……そうか、準優勝だもんな。決勝で負けたってことだもんな……。

三平「なあ、まだ部活体験の時間まで余裕あるだろ? 俺もちょっとFC興味あるんだ〜。ちょこっとレクチャーしてくれない?」

洸輝「俺からも頼むよ。現役選手から話し聞くの、これが初めてなんだ」

詩緒「あ、うんいいよ」
20 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 19:09:50.91 ID:nmgck8ud0
詩緒「FC。これは通称で、正式名称はフライングサーカス。反重力子『アンチ・グラヴィトン』を使った空を飛べる靴、『アンチ・グラヴィトン・シューズ』、通称グラシュで空を飛んでする、空中追いかけっこよ」

三平「ふうん? それだけ?」

詩緒「違うわ。普通の追いかけっこなら平面的な動きに縛られるけど、FCは空中でやるという特質上、三次元的な動きが入るのよ」

黍斗「つまり、追いかけるのが難しい?」

詩緒「逃げるのも一筋縄じゃないわ。選択肢がありすぎるもの」

三平「制限は? コートとか」

詩緒「基本的にはないわ。でもそれだと試合として成立しないから、追いかけて背中をタッチする以外に、正方形の形に配置されたブイにタッチすることでも得点が入るわ」

洸輝「その二つだけだったよな、得点方法」

詩緒「うん。10分間の試合時間のうちに、より多く得点を取った方が勝ち。まあ反則なんかで勝ったり負けたりすることもあるけど」

三平「男子と女子で一緒に試合したりするんだよね? その、接触した時にー、みたいなことって……」

悠佳「うわぁ……」

詩緒「キモっ」

洸輝「スポーツに何求めてんだよ……」

黍斗「女の子に何言ってるの……」

三平「ごめんなさい。とりあえず俺にそういう趣味ないんで椅子の下で足ぐりぐりするのやめ痛い痛い痛い!」
21 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 19:13:46.31 ID:nmgck8ud0
            セカンドライン
      2ブイ―――――――――――――――3ブイ
      |                 |
      |                 |
      |                 |
      |                 |
    フ |                 |   サ
    ァ |                 |   |
    | |                 |   ド
    ス |                 |   ラ
    ト |                 |   イ
    ラ |                 |   ン
    イ |                 |
    ン |                 |
      |                 |
      |                 |
      |                 |
      1ブイ―――――――――――――――4ブイ
22 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 19:18:32.36 ID:nmgck8ud0
            セカンドライン
      2ブイ―――――――――――――――3ブイ
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      |                     |
    フ |                     |   サ
    ァ |                     |   |
    | |                     |   ド
    ス |                     |   ラ
    ト |             |   イ
    ラ |                     |   ン
    イ |                     |
    ン |                     |
      |                     |
      1ブイ―――――――――――――――4ブイ
            フォースライン
23 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/17(土) 19:52:43.48 ID:nmgck8ud0
崩れた……

           セカンドライン
     2ブイ―――――――――――――――3ブイ
     |                 |
     |                 |
    フ|                 |
    ァ|                 |サ
    ||                 ||
    ス|                 |ド
    ト|                 |ラ
    ラ|                 |イ
    イ|                 |ン
    ン|                 |
     |                 |
     |                 |
     1ブイ―――――――――――――――4ブイ
          フォースライン
24 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/17(土) 20:04:57.19 ID:nmgck8ud0
諦めた……
誰か綺麗にかける人お願いします……
25 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 20:21:24.36 ID:nmgck8ud0
 内山が黒板に簡略図を描いて説明を続ける。

詩緒「スタート地点はファーストブイ。ここね」

 『1ブイ』と書かれたところを内山が示す。

詩緒「最初はファーストラインを通ってセカンドブイを目指すの。ちなみに、ここでの接触プレイは禁止されているわ」

三平「ほうほう」

 目に涙をたたえたままの三平があいづちをうつ。

詩緒「FCでは、主にブイタッチをとことん狙うスピーダー、背中タッチをとことん狙うファイター、どっちつかずなオールラウンダーの3つのタイプがあって、」

洸輝「どっちつかずってなんだよ。状況に応じて使い分けるオールラウンダーだろ」

詩緒「あ、オールラウンダー志望だった? ごめんごめん。私鳶沢みさきさんに憧れてるから、ファイター」

洸輝「俺は日向昌也に憧れて――」

詩緒「なる。あの人ほんとにやばいよ。小学生の頃から、今は引退して監督業してるけど当時世界的なプレイヤーだった各務選手にFC教わってて、中学ではやめてたらしいんだけど、高2の時FCを始めて半年の倉科選手を全国優勝に導くコーチングをし、さらにはそれをきっかけに自身も選手に復帰、そのままコーチを続けながら世界ジュニアの大会で表彰台を日本人で独占する偉業を成し遂げたのよ!」

 エキサイトする内山。みさき選手があこがれなんじゃないのか……?

詩緒「ま、それだけ有名になれば自然と高校のFC部メンバーにも注目が集まって、それでわたしは鳶沢さんを知ったわけだけど」

黍斗「流石に一人のおかげで日本人で表彰台独占は言い過ぎじゃないかなあ……?」
26 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 20:26:45.47 ID:nmgck8ud0
 表彰台。当然ながら、2人ではなく3人の功績だ。

詩緒「日向昌也はもう一人の代表乾沙希選手とも交流があるのよ。倉科選手が初優勝した全国大会の予選、仇州大会での決勝カードが倉科選手と乾選手で、戦った後も戦術立てとか練習とか一緒にやってたみたい」

 なるほど、三人の優勝に間接的に関わっている、という意味ではそうかもしれない。

洸輝「話を戻してくれ。スピーダー、ファイター、、オールラウンダーの違いだ」

詩緒「あ、うん、そうだったね」

 エキサイトしていた感情を理性でなんとか抑え込む内山。

詩緒「タイプと得意なプレーが違うのは、グラシュの設定のせいなのよ」

三平「設定?」

詩緒「うん。グラシュの性能を比べるには、主に3つの観点があるの。初速、加速、最高速」

悠佳「ここはわたしの方がいいかな。詩緒ちゃんのグラシュいじってるの私だし」

 はい、と瀬良が手を挙げて言った。説明が始まってからずっとうんうんうなずいてるだけだったけど……単純に得意分野の話になるまで待ってただけか。

三平「いじる⁉」

悠佳「う、うん」

 三平の驚いた声にビクっと反応する瀬良。

 どうしても最初の印象がアレだったから、苦手意識ができてしまったのかもしれない。こいつはこいつで慣れれば面白いんだが、慣れれば。

悠佳「グラシュはその3つのスタイルによって、伸ばす分野が違うの。スピーダーなら加速と最高速が早い方がいいからそれを伸ばすし、ファイターなら瞬発的に動くことが必要だから初速を伸ばす」

詩緒「ファイターはブイタッチを無理に狙わないの。スピーダー相手にスピード勝負じゃまず負けるから」

洸輝「わざとぶつかってスピードを落とさせ、背中を狙う……だっけか?」

詩緒「正解」

悠佳「う、うん……セリフ取らないでほしいかな……。
   まあ、そんなふうに調整するのも重要になってくるの」

黍斗「オールラウンダー……は?」

詩緒「中間ね。人によってファイター寄りに調節してたり、スピーダー寄りに調節してたり。世界的プレーヤーになると、対戦相手によって変えることもあるらしいわ。普通、高校生レベルでそんなことしてたら練習時間がとてもじゃないけど足りないんだけど」

悠佳「仇州の四島は特別、かな」
27 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/17(土) 20:28:06.86 ID:nmgck8ud0
三平「……なんか難しそうだな」

 要領がそこそこいいからこそ、情報量が多いことに頭を抱える三平。

 それに対し詩緒は首を振った。

詩緒「まあ、最初は難しいと思うけど。でも慣れれば空を楽しむ余裕も出てくるし、早さや技術を競い合うのは今までのスポーツと同じで楽しいわ」

 それに、とさらに続ける。

詩緒「FCはまだできて歴史が浅いから、もしかしたら自分が新しい技を編み出す、なんて可能性が高いのよ」

三平「ほー」

黍斗「なんか凄そうだね……」

洸輝「凄いなんてもんじゃない。この世にFCがあり続ける限り、ずっと自分が開発した技が残るかもしれないんだ。歴史に名を残すのと同意だよ」

詩緒「ま、それを狙ってる選手もいるしね。乾選手とそのセコンド、イリーナさんなんかはもう新しい技、というか戦術考え出してるし」

三平「まじか……!」

 ふむ、と楽しそうに笑う三平。お、やるのか?

悠佳「あ、そろそろいい時間かも。部活体験、行ってみようよ?」
28 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/17(土) 20:28:34.67 ID:nmgck8ud0
今回はここまで
29 : ◆oUKRClYegEez [sage]:2016/12/18(日) 16:10:19.69 ID:n+WfNwee0
>>23
PCのブラウザ(GoogleChrome)だと歪みますが、スマホ(縦持ち)だと綺麗に描写されてます。どうぞ。
30 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/24(土) 20:30:09.87 ID:Z9u4TiK80
「エア相撲部を復活させませんかー?」

「漫画に興味のある方ー! ぜひー!」

「伝説の生徒会長の残した部活、食品研究部! 私達と青春の一ページを刻みませんか!?」

「自治生徒会で学園の運営に携わりませんかー」

 あちらこちらで勧誘の声が飛び交っている。

黍斗「あ、ごめんね。FC、面白そうなんだけど……僕、食研に入るって決めてたから……」

 黍斗が申し訳なさそうに内山に言った。

詩緒「気にしないわよ。私がFC部に入るって決めてたみたいに、神宮君は」

黍斗「黍斗でいいよ。神宮って、お社みたいでなんか変でしょ?」

悠佳「変ってことはないと思うけど……」

詩緒「わかった。黍斗君は食研に入るって同じように決めてただけだもん。これから同じクラスなんだし、よろしく」

黍斗「うん! こちらこそよろしく!」
31 : ◆oUKRClYegEez :2016/12/24(土) 20:37:28.06 ID:Z9u4TiK80
洸輝「あ」

三平「どうしたよ?」

 突然声をあげた俺に三平が反応した。

洸輝「グラシュ、取りに行かなきゃ」

三平「そういえば言ってたなそんなこと」

詩緒「自分のグラシュ持ってるの?」

洸輝「まあ」

 経験者を目の前にして、やや恥ずかしい。

詩緒「聞いた話だけど、入部テストこそないらしいけど、ここ閑東じゃ強豪の部類だからまともに飛べないんじゃ練習に参加できないよ?」

洸輝「……まじか」

 いや、考えてみれば当然だろう。

 それでも俺はここを選んだんだ。強豪・私立高藤学園を。

 なら、この程度の壁乗り越えられなきゃ意味がない。

洸輝「内山」

詩緒「なに?」

洸輝「マジでコーチお願いします」

詩緒「はいよ、承った」

 クスクスと笑う内山は、すごく女の子らしくて可愛かった。

 この時の俺は知る由もなかった。彼女がFCをしているとき、どれほど凶暴になるのかを。
32 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/01(日) 12:15:53.82 ID:iRQ7Z3iM0
詩緒「お、来た来た。先輩、あの子ですー」

 寮に全速力でグラシュを取りに行き、そして全速力で各部活がテーブルと入部希望用紙を置いている校門近くに戻った。

洸輝「ぜー……ぜー……」

「まずは息を整えて。それからでいいよ」

 テーブルの前で膝をつき、肩で息をする俺に、女の先輩が声をかけてくれた。

洸輝「ふー……。新入生、伊泉洸輝、FC部に入部を希望します」

「はい。ボクは部長の東ヶ崎美亜だ。気軽に美亜さんと呼んでくれ」

 女の先輩――東ヶ崎美亜(とうがさきみあ)さんは、そう言った。

美亜「ボクも洸輝クンと呼んでいいかな?」

洸輝「どうぞ……」

美亜「ありがとう。我がFC部は基本的に下の名前で呼び合うようにしてる。空を飛び回るFCでは、常に危険がつきまとっている。万が一のとき、名字で呼ぶより名前で呼んだ方が僅かでも早いし、名前で呼んだ方がより自分に危機感を持てる。持論だけどね」

 そう言って先輩はニッと笑った。

美亜「入部希望の紙を書いた後は、第3体育館に移動してくれ。軽いデモンストレーションをするから」
33 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/01(日) 12:25:21.14 ID:iRQ7Z3iM0
美亜「はい、じゃこれから新入生に向けてのFC部デモンストレーションをします!ボクは部長の東ヶ崎美亜です! こっちは助手の詩緒ちゃんでーす!」

 美亜先輩と内山は、すでにグラシュを履き、体型がはっきりとわかるFC専用の服、フライングスーツを着ていた。

 美亜先輩は男子の憧れのような体形で目のやりどころに困る。

 対し内山は、無駄な肉の一切ないスレンダーなタイプ。上から下まですとん、というわけではないが、となりにいる部長と比べると見劣りするだろうか。

 俺はあくまで試合・練習着として既にフライングスーツを買っている(用具一式はそろえた)からそこまでじろじろ見ることはしないが……三平はじめ、他の男子は違うかもしれない。

 女子は「これ着るのちょっと勇気いるよね」「全く男子は……」「でもかっこいい……」とか言っている。

詩緒「内山詩緒です! お願いします」

 朗らかに笑って内山が――ってえぇ⁉

洸輝「内山……?」

 さっきあれだけ体型の解説しておいて何驚いてんだ俺、という気がしないではないが。

詩緒「あんたも入ったのなら詩緒でいいわ。でも今はちょっと黙ってて」

洸輝「……おう」

 そういえば内……詩緒はスポーツ推薦か。なら、入学前からここの練習に混じることもあったのかもしれない。

美亜「この中にまずグラシュを履いたことのある人? それで空を飛んだことのある人?」

 2、3人が手を挙げる。

美亜「FCは?」

 聞くと、全員の手が降りた。

美亜「そっかー、初めてかー。よし! まあいい! とりあえず履いて飛んでみてもらおう!」

 え、という声が口々に漏れる。

美亜「飛んでみないことには始まらない。それに、みんなも飛んでみたいと思ったからここにいるんじゃないの?」

 それは確認の質問だった。

 『そうであることが当たり前』、というひどく当然の。

 笑顔でされた質問に、しかし俺は震えあがった。

 さも当然のように人の心をダイレクトに揺すって来る恐ろしさに。

 そのあたりに、男子部員が少ない理由がある気がした。
34 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/01(日) 12:25:51.35 ID:iRQ7Z3iM0
美亜「じゃ、ここにあるグラシュを順番に履いて飛んでもらおうかな。限りがあるから時間はかかるけど、初めの感動は絶対に味わってほしいな。っと、洸輝クンは自前だったか。飛んだ経験は……」

洸輝「ないです」

美亜「だよね。さっき手上げてなかったもんね。もうちょい条例緩くなりゃ、ボクたちも練習しやすいんだけど」

 たはは、と美亜さんは笑った。

美亜「詩緒ちゃん。彼のコーチ、頼める?」

詩緒「はい」

 詩緒が俺の方に来た。

 まだ履かない、順番待ちの三平が早速作った悪友と俺を口笛吹いて囃し始めた。

三平「おっ、さっそく個人レッスンかな?」

「やー、早くから青春してるねえ!」

 やめろよ、と言おうとした。口を開く前に詩緒が、出会って三平が瀬良さんのことを聞いたときのような恐ろしい声で言った。

詩緒「るっさい黙ってろ。不真面目だったら頭から落ちてしぬぞてめーら」

 三平は「おっと」と口をつぐみ、一緒に囃していた男子学生はおろか、取り巻いてみていた女子生徒までもが震えあがった。それだけの貫禄が、詩緒にはあった。

洸輝「頭からおちて死ぬことはないんじゃないか? セーフティあるはずだし」

詩緒「万が一よ。グラシュだって故障がないわけじゃない。じゃ、始めるわよ」

 「じゃ」で切り替えた詩緒に、

洸輝「おう」

 返事した。
35 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/07(土) 15:35:57.78 ID:e1fpQld00
詩緒「初期設定はいじってない?」

洸輝「のはずだ」

 親が興味本位にいじってなければ。プログラムを作る仕事をしている父だ。パソコンにつないでやりかねない。説明書じゃ、パソコンにつないで専用ソフトを使えば調整できるらしいし。

詩緒「ん。じゃ、まずは靴の後ろの電源ボタンを押す」

 詩緒がかがんで、履いていたグラシュのかかとの部分に触れる。

 俺も倣って、右足のかかとに触れる。

詩緒「グラシュ履きなよ」

洸輝「あ」

 空を飛ぶ前のどうしようもない高翌揚感が、グラシュを履いていないことを忘れさせていた。
36 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/07(土) 15:37:02.46 ID:e1fpQld00
洸輝「試合は海でやるんだよな?」

 内陸部はどうしようもないこともあり、大きめの湖や池でやるらしいが、それもない場所ではどうしても普及が滞りがちだ。俺の地元がそうだったように。

詩緒「ええ。でも練習だけなら体育館でもできるし、むしろかなりの学校がそうじゃないかな。有名な例外は四島列島のFC部かな。あそこはグラシュの規制が緩くて、許可なしでも海で飛べるから」

 なんでも、ここ高藤でもヨット部なんかの使っている海を土日に使わせてもらっているそうなのだが、平日や夏のシーズンにはどうしても許可が下りず体育館になるのだとか。夏は暑そうだな……。

 そんな雑談をしながら、俺はグラシュを履き、スイッチを入れる。

 きゅううううん

 という駆動音とともに、グラシュが起動し、その証に両足のグラシュから羽を模した光が生まれた。

洸輝「おおお……!」

 初めてのグラシュ起動。足に羽が生える、その視覚的実感。興奮しないわけがない。

詩緒「まだ早いわよ。浮いてすらいない」

 そんな俺を見て詩緒は言ったが、ニヤついているのはかつて自分もそうだったからだろうか。
37 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/07(土) 15:44:23.32 ID:e1fpQld00
詩緒「最初は腕を広げてバランスを取るように。絶対にパニックになる。だから、もしものときは大の字になりなさい」

 詩緒が両手を広げ、足も開脚した状態を見せる。

 その体勢を戻して、詩緒は続けた。

美亜「お、じゃ、そっち見てみようか」

 美亜先輩が詩緒を見るように一年生に言った。

詩緒「最初のキーワードは『FLY』になってるはずだから、それを言って。私はちょっといじってるから、同じことを言っても飛べないってことをあらかじめ言っておくわ」

 詩緒は最後に、一年生全員に聞こえる声で、言葉を発した。

詩緒「とぶにゃん!」

 …………。

「「「…………おおおおおお!?」」」

 衝撃のキーワードに驚き、そして次の瞬間には別の驚きが待っていた。

 キーワードを受けたグラシュは、詩緒を浮かび上がらせた。

 ふわり、それから緩やかに、重力を感じさせずすーっと空に向かって。

詩緒「さ! どうぞ!」

 上で旋回し始めた詩緒が、下に向かって叫んだ。
38 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/07(土) 15:45:43.48 ID:e1fpQld00
 覚悟を、決めた。否、違う。

 飛びたい。その思いが、今やっとかたちになることに、狂気に近いほどの喜びを覚える。

洸輝「ぃよしっ……! FLY!」

 俺の体が重力の軛から解き放たれ、ふわり、と浮かぶ。

 周囲の人が全員、俺を見る。

美亜「ほー……あれ競技用のグラシュか。才能を感じるねえ」

 美亜先輩がつぶやいた。

 競技用のグラシュは一般のグラシュと違い、グラシュの感度を高めてあるらしい。

 扱いが難しくなる代わりに、よりスポーツらしい機敏で速い動きができるわけだ。

 ここ閑東に住んでいる限り、一般用のグラシュを持っていても飛ぶ機会などないし、競技用のグラシュを競技以外に使ってはいけないルールなどないので、俺は一般用のグラシュは買っていない。

洸輝「――――」

 俺は浮いたまま、自分の心の底に湧き上がる感情に、気づいていた。

 ――もっと、飛びたい。もっと、高く!

 ――あの日見た光、日向昌也のように!

 詩緒を見真似、上へ上がろうとする。が。

洸輝「うおおおぉぉぉ!?」

 突如としてバランスを失い、少し最初より宙に浮いた高さで回転を始めた。
39 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/14(土) 16:45:48.55 ID:3fVOm7Qq0
洸輝「うおおおおぉぉぉぉ!?」

 縦回転横回転。

 ぐるんぐるんぐるん。目が回る回る回るまわr……。

詩緒「大の字! ほら!」

 詩緒の叫びをなんとか聞きつけた俺は、ばっと大の字に両手両足を広げる。

 すると、

洸輝「うおおぉぉ…………お?」

 回転が、止まった。

詩緒「みなさん見えます? もし空中でバランスを崩しても、地上で片足でバランスを取ってるときみたいに腕をばたばたさせたらより崩れるだけです」

 詩緒が片足立ちし、腕をぱたぱたさせてバランスを取る仕草をした。

 当然、バランスを崩しぐるぐると空中でのコントロールを失って変な方向に回り始める。

 が、ぱっと腕と両足をひろげ、それを止めた。

詩緒「今見たみたいに大の字になれば止まるので、それだけ頭の隅に置いて気軽に飛んでみてください。最初は、姿勢を戻してから移動、できればいいと思います」
40 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/14(土) 16:46:37.45 ID:3fVOm7Qq0
 詩緒と俺は体育館の床に降り、もうほぼ完全にマネージャーに溶け込んだ瀬良から紙コップに入った水をもらっていた。

 他の部活見学者は空中でフラフラしたり、浮かび上がったことに驚き、感動していたりする。

洸輝「ありがとう、瀬良」

詩緒「ろくに汗かくよーなこともしてないんだけどねー。あんがと、悠佳」

悠佳「先輩が持っていけって」

 見ると、マネージャーのような先輩がこっちを見て笑顔を振りまいている。

悠佳「それと洸輝君。あ、名前でいい? 部活の決め事らしいし」

洸輝「あ、そういえばそうだったかな……。悠佳、アクセント、これでいいよな」

悠佳「うん。改めて。これからよろしくね」

洸輝「よろしく」

 悠佳の差し出した手を握る。

 白く、細い。本当に、ちょっとしたことで傷つきそうな、しかし傷ついていないことが一目でわかる綺麗な手。

 守ってあげたくなるような、優しい肌――

詩緒「ちょっと。いつまで握手してんの」
41 : ◆oUKRClYegEez :2017/01/14(土) 16:47:08.69 ID:3fVOm7Qq0
洸輝「あっ……ごめん悠佳」

 パッと手を離す。

悠佳「ううん、いいよ」

 少し顔を赤くしながら言う悠佳が可愛い。

詩緒「ほら」

 今度は詩緒が手を出してきて。

詩緒「お手」

洸輝「はぁ?」

詩緒「冗談よ。これからよろしく、チームメイト」

洸輝「……おお、よろしくな」

 そんな感じで、俺はFC部に入部した。
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