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勇者「救いたければ手を汚せ」
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185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 01:54:32.53 ID:NG5ps7hHO
>>>>>>>
(一体何が…)
彼女、治癒師は、重篤患者用の病室の片隅に身を潜めていた。
医療所は破壊し尽くされており、最早彼女以外に生きている人間はいない。
雪崩れ込んできたオーク達が瞬きの間に医師と入院患者の命を奪ったのだ。
仮眠中だった彼女が破壊音で目を覚ました時には既に逃げ場はなかった。
数名の医師が元素を浴びせ数体のオークを葬ったのを目にしたが、彼等も殺されてしまった。
咄嗟に逃げ込んだこの病室の患者も既に息絶えていた。
四肢を切断された挙げ句、胴を寸断されて。
あちこちに切断された四肢が散乱しているが、右腕だけはどこを見ても見つからなった。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 01:55:23.44 ID:NG5ps7hHO
(お婆さんまで……)
この病室にいたのは、もうじき退院予定の老婆だったことを思い出す。
確か、背骨を痛めて入院したはすだ。
柔和な笑みが特徴的で、「いつもありがとう」と言って何度か菓子を手渡されたことがある。
患者でありながら医師を気遣う心優しい女性。
男性しかいない職場の中で、彼女の存在はとても大きかった。
ただでさえ肩身が狭かったというのに、新薬の開発以後は更に風当たりが強くなった。
露骨に嫉妬する者もいれば、明らかな敵意を持って接する者さえいた。
傷や病を癒す立場にありながら、彼等は新薬を出世の道具としてしか見ていなかったのだ。
そんな彼らに辟易し、医師の在り方に悩んでいる時だった。
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 01:56:41.20 ID:NG5ps7hHO
『あなたの患者になれて良かったわ』
『きっとこれからは、先生のような女性がどんどん増えていくのでしょうね』
『私、あなたを見ているだけで元気が出てくるのよ。何だか憧れていた女性を見ているようで…』
『女は弱くて従順だなんて時代はもうじき終わる。旦那に尽くすだけなんてつまらないじゃない?』
『先生のような強い女性が羨ましいわ……』
頭をがつんと殴られたような、頬を張られたような感覚だった。
あの時、彼女の言葉がなければどうなっていただろう。
ひょっとすると、医師を辞めていたかもしれない。
本来であれば医師である自分が患者を救うはずなのに、患者である彼女に救われた。
だからこそ、彼女が近々退院すると聞いた時は快方を喜ぶ反面、寂しさを感じたものだ。
もうじき孫に会えると大喜びしていた姿も記憶に新しい。
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 01:58:15.76 ID:NG5ps7hHO
もうすぐ。
本当にもうすぐだった。
(こんなことが、あっていいのか)
なのに、彼女の命は灰色の化け物によって奪われてしまった。
如何なる術を用いても、死者を蘇らせることは叶わない。
遺体も、生前の形に戻すことすら出来ない程にずたずたに切り刻まれている。
怒りと恐怖で身体が震える。
無意識の内に握り締めていた拳の隙間から、うっすらと血が滲んだ。
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:00:21.11 ID:NG5ps7hHO
(惨い、惨すぎる……)
遺体は寝たままの状態だ。きっと何の抵抗も出来ないまま殺されたのだ。
抵抗したとしても敵うはずはない。奴等は、こんな弱者さえも殺すというのか。
いや、きっと動けようが動けまいが関係ない。命あるものすべてが殺害対象なのだ。
あの化け物共は兵士も患者も区別なく、生きていれば誰であろうが殺すだろう。
殺すために生き、殺しを愉しむ生物。彼女の亡骸を見て、治癒師は確信した。
「いた 雌一匹いた」
背筋を這うような声に脈が跳ね上がる。
照明も破壊されているため顔は見えないが、嗤っているに違いない。
全体像より先に見えたのは鋸だった。べとついた赤が山なりの突起を伝っている。
鋸から滴る血が床に落ちたが染める余白はない。彼女の血が、既に床一面を染め上げている。
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:02:31.90 ID:NG5ps7hHO
「雌の肉 柔らかい」
その言葉を聞いた瞬間、散乱した四肢に右腕がないことを思い出した。
そして、理解した。
(喰らったのか)
こいつが、この化け物が鋸で彼女を切り刻み喰らったのだ。
どうしようもない怒りが湧き上がる。この化け物だけは必ず殺す。
殺人殺害など、医師としてあるまじき行為だ。
それ以前に、人としてあるまじき行為であることは承知している。
相手が化け物だとしても法が適応されるなら、これから行うことは許されざる罪だろう。
正当防衛は適応されるだろうか。
などと考えている内に、化け物はすぐそこに迫っていた。
窓から射し込む月明かりが灰色の化け物を照らし出す。
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:05:30.10 ID:NG5ps7hHO
獲物を前にぎらつく瞳。
ぞろりと並ぶ黄ばんだ歯は、鑢で研いだように尖っている。
化け物は頬を引き攣らせ、手にした鋸をゆっくりと持ち上げた。
その姿を見て怖れは増したが、怒りが収まることはなかった。
「楽に死ねると思うな」
自分の声とは思えぬほど冷たい声に一瞬驚いたが、彼女の覚悟が揺らぐことはない。
彼女はオークを睨みつけ、固く握った拳を開くと血に染まった床に思い切り叩き付けた。
油断しきっているオークの足下、重篤患者用の陣を最大出力で展開する為に。
見る間に輝きを増すそれに危険を感じたのか、慌てて鋸を振り下ろそうとするも間に合わない。
血によって完全に隠れた重篤患者用元素供給陣が起動し、床から昇った稲妻の如き元素が貫いた。
天井と床の間に吊されたような状態で、オークは声なき絶叫を繰り返す。
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:10:46.81 ID:NG5ps7hHO
(これでも死なないというのか)
(とうに元素供給量の限界を超えているのに…)
更に出力を上げるべく、暴走する元素供給陣に再び手を触れる。
灼けるような痛みが走るが構わない。
自分の肉の焦げる臭いに顔を顰めながら、陣の供給出力を上げる。
しかし、陣自体が耐えきれなくなったのか稲妻は虚しく掻き消えた。
解放されたオークはのろのろと立ち上がり、虚ろな目で再び鋸を振りかざす。
何度も陣に手を触れるが起動する気配はない。
(駄目だ、起動しない)
(もう、打つ手がない。お婆さん、ごめんなさい……)
諦めかけたその時、ひび割れた陣から紫がかった稲妻がどっと噴き上げた。
その威力は先程の比ではなかった。
ごわついた体毛は忽ち燃え上がり、剥き出しの皮膚に亀裂が走る。
体毛と同じ灰色の肉は稲妻の中でべりべりと剥がされ、空中で塵と化していく。
白目を剥いた眼球は眼窩から飛び出して尚も膨らみ続け、遂には爆ぜた。
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:12:44.38 ID:NG5ps7hHO
「消えろ。跡形もなく、消えてしまえ」
それでも稲妻は止まない。
怒りに震え涙を流す彼女の手が元素供給陣から離れる気配はない。
死して尚も昇る稲妻は、歪な骨格すらも粉々に分解したところで、ようやく止んだ。
「ッ、あぐっ…」
だが、彼女も無事ではなかった。
許容量を越えた元素は、オークだけでなく彼女自身をも傷付けていた。
肘から先の肉が縦に裂け、手の平の肉は殆ど残っておらず失血も酷い。
剥き出しになった骨の隙間には、残留した紫の稲妻が奔っていた。
まるで蛇か何かのように生き生きとしており、指先に絡み付いて離れない。
指先から手の平へ、手の平から肘先へ、主の傷を舐めるように凄まじい速度で移動を繰り返している。
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:15:10.67 ID:NG5ps7hHO
(これは、一体…)
朦朧とする意識の中で呆気に取られて観察していると、徐々に傷が癒えているのが分かった。
腕の裂傷は塞がり、骨が剥き出しだった掌には新たな肉が盛り上がっている。
あれだけ失血にも拘わらず、朦朧としていた意識も次第にはっきりとしてきた。
(この紫の稲妻、雷が傷を治している? まさか、そんな事例は聞いたことがない)
(元素は四つ。雷なんて発現するはずがない。しかも傷が治癒するなんて……)
(医療用の陣と元素の暴走。偶然、何らかの魔術を行使してしまったのでしょうか)
(……こんなことを考えている場合ではありませんね。他がどうなっているのか確かめないと)
ふらつきながらも何とか立ち上がり、壁に身体を預けてゆっくりと歩き出す。
慎重に進むが、医療所はすっかり静まり返っており化け物の気配もない。
まだ霞む目で辺りを見渡すが、やはり化け物の姿はない。
どうやら先程の一体で最後だったようだ。
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:18:02.58 ID:NG5ps7hHO
(おそらく外にもあの化け物がいる)
(しかし、このまま医療所にいても仕方がないですね。怪我人がいるなら助けないと)
意を決して出入口へ向かうと、やはりオークが徘徊していた。
生者の匂いを嗅ぎ付けたのか、出入口付近のオークがしきり辺りを見渡している。
咄嗟に身を隠そうとしたが失血の影響で足がもつれ、その場に倒れてしまった。
体勢を立て直した時には、既に此方に向かって走り出していた。
鈍重な見た目とは裏腹に脚は速い。
振り向いて逃げる暇などない、彼女は本能的に後ろへ飛び退いた。
瞬間。何かが鼻先を掠め、前髪がはらはらと舞う。
尻もちを突きながら前を見ると、振り下ろされた棍棒が床を抉っていた。
先程のオークは不意を突いたから何とかなったものの、今は為す術がない。
手当たり次第に床に散乱した物を投げ付けるが、そんなもので止まるはずもなかった。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:22:11.27 ID:NG5ps7hHO
だが、止まった。
何故だか分からないが、ごぼごぼと泡だった血を吐きながらゆっくりと倒れる。
それと同時に、オークの背後にいた人物の姿が露わになった。
姿を現したのは斧を持った大柄の男。嘗ての患者であり、彼女の思い人。
「無事か」
「……何で、あなたがここに」
「話している時間はない。立てるか」
「その、腰が抜けてしまって。申し訳ありませんが、手を貸して頂けませんか……」
夢ではないかとも思ったが、差し出された手には確かな体温があった。
ぐいっと手を引かれ立ち上がると、彼はすぐに背を向け出入口へ向かって歩き出した。
その背中を頼もしく感じながら、同時に頬が熱くなるのを感じた。
握られた手には、まだ彼の体温が残っている。
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:26:22.29 ID:NG5ps7hHO
(どうして、私を助けに来てくれたんですか?)
(外にはあんな化け物が沢山いるのに、危険を犯してまで私を助けに来てくれたのは何故ですか?)
出来ることなら理由を訊きたかったが、そんな雰囲気ではない。
酒場での彼とは違い、張り詰めた空気を醸し出している。
「おい、何をしてる。来い」
「は、はいっ」
そんなことを考えている場合ではない。とにかく生き延びなければ始まらない。
何故助けてくれたのか。
それも、この夜を乗り越えてから訊けばいい。
彼女は緩んだ頬を張って大きく息を吸うと、彼の後に続いた。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/16(金) 02:30:45.66 ID:NG5ps7hHO
「行くぞ」
「行くと言っても何処へ行ーー」
その問いは連続する銃声によって遮られた。
いつの間にやら、二十名ほどからなる部隊が医療所付近を固めていた。
隊長と思しき青年が、自分より年配の部下に的確な指示を出しながら周囲のオークを殲滅している。
脇を固める隊員の腕もさることながら、彼は一発の銃弾も無駄にすることなく左胸部のみを撃ち抜いている。
「店主さん、何してるんですか!早くこっちに来て下さい!!」
此処へ来るまでにも死線をくぐり抜けて来たのだろう。彼の顔付きは先程とはまるで違っていた。
「彼等は…」
「此処へ来る途中で合流した。魔術師が陣を起動するまでは奴等と行動を共にする」
199 :
◆4RMqv2eks3Tg
[saga]:2016/12/16(金) 02:38:37.73 ID:NG5ps7hHO
今日はここまで
更新遅くて申し訳ないです。
こういう書き方には慣れてないから上手く伝わっているか分かりませんが、
会話と擬音だけだと伝わり辛いかと思って下手くそでもいいから書こうと思いました。
長々と申し訳ない。
もう少しで終わると思うのでよろしくお願いします。
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/16(金) 02:59:10.80 ID:i0bMngYDO
乙乙
やりたい様にやって下さい
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/16(金) 09:16:44.27 ID:01sL8yIyo
乙です‼
楽しみに待ってる
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:10:18.93 ID:vYhwAq/BO
>>>>>>>
「目的地は?」
「旧西部軍基地だ。そこに転移陣がある」
しんがりを務める長身痩躯の部隊員が疲労の色を隠すことなく溜め息交じりに囁いた。
彼によれば、地下通路へ降りる前に多数のオークと交戦したらしい。
何とか退けたようだが、地下通路への入り口へ到着する頃には部隊の半数以上が死亡。
当初は二十名以上いたらしいが、現在は六名。無論、生き残った彼等も無傷というわけではない。
肉体的なものだけはなく、仲間を失った喪失感と度重なる戦闘による疲労が精神を削っている。
だが、疲労の原因はそれだけではない。
道化師と娼館主は、その原因が何であるのかを言われずとも理解出来た。
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:11:32.08 ID:vYhwAq/BO
「まだ着かないの。いつまで歩かせるのよ」
その原因こそが彼女。背後で延々と文句を垂れ流している魔術師。
二人が部隊に合流した後も、彼女は休むことなく不平不満を口にしている。
これでも落ち着いた方で、合流した時など今の比ではなかった。
「要らぬ荷物を増やすな」だとか「私は責任取らない」だとか散々に喚き散らしたのだ。
頭に来たが言い返さなかった。いや、言い返すことは出来たのだがそうしなかった。
こんなに我が儘な女を守らねばならない彼等に対する同情心の方が大きかったからである。
自分達と合流するまでにも散々に言われていたのだろうと思い、下手な刺激を与えるのを避けた。
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:13:26.09 ID:vYhwAq/BO
「暑苦しいわね。少し離れなさいよ」
「っ、はい。申し訳ありません」
背後で彼女のお小言に付き合っている兵士が気の毒でならない。
転移陣起動を任されている魔術師だ。機嫌を損ねるわけにはいかないのだろう。
しかし、だからと言ってあそこまで下手に出る必要はあるのか。
彼女も彼女だ。
文字通り命を賭けて自分を警護してくれた彼等を使用人か何かと思っているのだろうか。
「もっと楽だと思ったから引き受けたのに、これじゃ話が違うわ」
背筋を伸ばし指先まで意識しているような立ち振る舞い、やけに板に付いた横柄な態度。
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:14:44.28 ID:vYhwAq/BO
「彼女、貴族の出なのしら」
「だとしたら他の貴族連中が不憫だね」
「あの女の所為で貴族全体が『あんなもの』だと思われるんだから」
背後に届かぬようにひそひそと会話していると、
横にいる兵士が「お願いだから、余計なことは喋らないでくれ」と目で訴えてきた。
疲れ果てた彼の顔を見て気の毒に感じたのか、二人は黙って頷き口を閉ざした。
背後から聞こえる雑音は止みそうにないが、一行は地下通路を進んでいく。
それから三つの分岐路を通過すると入り組んだ迷路は次第になりを潜めていき、遂には開けた一本道となった。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:15:47.51 ID:vYhwAq/BO
「これで終わりよね。私、もう嫌よ」
「ボクもそう願いたいね。あんなことをするのは人生で一度で充分だ」
紋章を探し出す作業は苦痛だった。
何よりも苦痛だったのは、分岐路へ差し掛かるたびに魔術師の存在だ。
皆が集中して探し出そうと躍起になっているのに、彼女ときたら何もせず立ち尽くすだけ。
それだけならまだ良かったのだが、「さっさと見つけなさいよ」などと言い出すのだから堪らない。
これに苛立った娼館主が
「だったら突っ立ってないで、あんたも手伝いなさいよ」と怒鳴ったのだが……
「こんな汚い所で膝を突くなんて嫌よ。服が汚れるじゃない」
という、予想を遙かに超える言葉が返ってきた。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:17:03.19 ID:vYhwAq/BO
精々が、「何で私が地べたを這って紋章探しなんてしなくてはならないの」
くらいだと思っていたのだが、彼女はある意味で想像以上だった。
この非常時にそんなことを口にするとは夢にも思わず、娼館主はすっかり閉口してしまった。
どうやら初めから『一緒に紋章を探す』という選択肢は存在しなかったらしい。
今にも爆発しそうだった怒りも、穴の空いた空気袋のように瞬く間に萎んでいった。
しかし当の本人はどこ吹く風。悪びれた様子など一切なく堂々たるものだった。
(何だか、思い出したら段々と腹が立ってきたわね)
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:18:39.37 ID:vYhwAq/BO
「風の音が強くなってきた」
「えっ?」
「ほら、聞こえるだろ。出口はもうすぐだ」
先程までの出来事を振り返り、怒りが再燃しかけていたところへ突然の朗報。
これまでの疲れが吹っ飛ぶとまではいかないが、強張っていた身体がほぐれて脚が軽くなるのを感じる。
頻発して起きている地響きも気掛かりだったが、外へ出れば崩落の恐怖からも解放されるだろう。
そう思うと、自然と歩みが速くなる。
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:21:39.92 ID:vYhwAq/BO
「あれは、梯子?」
一際強い灯りを放つ道化師の街灯が、赤く錆びた梯子の姿を照らし出す。
すると今まで兵士や自分達を盾にするように歩いていた魔術師が我先にと先頭を切って歩き出した。
(厚顔無恥というか何というか。ここまで来ると清々しいわね)
などと思っていた次の瞬間、前方右側の壁面ががらがらと崩れた。
幸いにも道が塞がるようなことはなかったが、その穴から現れたモノが安堵を掻き消した。
「ば、馬鹿な。奴等、穴を掘って追って来ていたというのか」
銃を構えて撃とうとするが、凄まじい速さで壁面を蹴りながら迫って来るため的を絞れない。
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:26:58.92 ID:vYhwAq/BO
何より邪魔なのは魔術師の存在。
今まさに必死の形相で引き返している最中で、万が一彼女に当ててしまっては元も子もない。
魔術師に射線を阻まれ為す術がない兵士。オークは既に魔術師の背後に迫っている。
「くそっ、仕方ない。撃つぞ。しっかり狙え」
数発発砲するが、壁から壁へ飛び移るように移動している為に狙いが定まらない。
「伏せろ!!」
攻撃圏に魔術師が入った。兵士が魔術師に向かって叫ぶ。
(駄目だ、もう遅い。彼女は死ぬ)
誰もがそう思った。
しかし、オークは彼女を無視して此方に向かって来る。
何故かは分からないが、確実に仕留められたはずの彼女を追い越した。
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:29:24.67 ID:vYhwAq/BO
「そんな、まさか…」
彼等はその意図に気付き凍り付いた。
オークは彼女が前方にいる限り発砲出来ないことを理解している。
だからこそ彼女を無視して此方に突撃してきた。
おそらく彼女が要人であることを理解したのだろう。
愚鈍な獣染みた姿からは想像出来ない知性。彼等は完全に侮っていた。
不測の事態、予想だにしていなかった敵の行動。混乱が彼等を呑み込んでいく。
「撃て!撃て撃て撃て!!」
魔術師の存在など忘れてしまったかのように銃を乱射する。
銃弾を掻い潜り向かって来るオークの背後で、魔術師は服が汚れるのも構わず蹲っている。
魔術によって攻撃する気配はない。というより、戦う意志そのものが感じられない。
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:32:44.44 ID:vYhwAq/BO
(ちっ、あの屑……)
(散々偉そうなことを言っておきながら、あんな役立たずだったとはな)
道化師が心中で毒づく。
どうやら、あの魔術師に期待するだけ無駄のようだ。
あれだけ大物然としていた姿はすっかりなりを潜め、今や置物のようにじっとしている。
何故あんな魔術師が起動を任されたのか疑問に思ったが、今はそんな場合ではない。
「来るな来るな来るなあああ!!!」
乱射された銃弾の何発かが先頭のオークに命中し地面に倒れ伏す。
だが、魔核を破壊したわけではない。
確かに銃弾は当たったようだが見る間に治癒している。
その間に他ニ体のオークが迫っていた。何度も発砲を繰り返すものの当たる気配はない。
恐怖によって手が震えているのか照準は定まらず、銃声はあらぬ方向へと飛んでいくばかりだ。
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:35:31.87 ID:vYhwAq/BO
「ぴひゅっ…」
先頭に立っていた長身痩躯の兵士の首が奇妙な音を鳴らしながら宙を舞う。
その目は恐怖と驚愕に見開かれている。
他の兵士も彼と同様の表情で無闇矢鱈に撃ち続けている。
ニ体が背後に回り込む擦れ違い様、更に二人の兵士が爪によって寸断される。
この僅かな間に前方を塞ぐオークの傷は完全に治癒していた。やはり傷は浅かったらしい。
素早く立ち上がると二度三度頭を振り、牙を剥き出しに獲物に向かって吼え猛る。
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:37:58.68 ID:vYhwAq/BO
(マズいな。このままだと挟み撃ちだ)
「くそっ!後ろだ!後ろを取られた!!」
(ダメだ、この兵士共も役に立たない。ボクが何とかするしかない)
背後を取られたことへの動揺からか、前方のオークの存在をすっかり忘れてしまっている。
道化師は死亡した兵士の武器を手に取り娼館主を壁際に追いやると、前方のオークに発砲。
立ち上がり様のオークの肩口に命中させ動きを止めると、次弾で魔核を撃ち抜いた。
(近くて助かった……)
(もう少し遠ければ外してたかもしれない。これで残りは二匹か…)
背後からは相変わらず銃を乱射する音が聞こえる。混乱状態から立ち直った様子はない。
銃弾が掠って倒れはするものの、傷が塞がっては立ち上がりを繰り返しながら着実に距離を詰めている。
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:40:25.45 ID:vYhwAq/BO
(このままじゃ全滅も時間の問題だ。化け物に構っている暇はない)
(大体、こんな奴等が何人死のうが彼女さえ無事ならそれでいいんだ)
(悪いけどボク達は先に行かせてもらう。少しは時間を稼いでくれよ)
道化師は呆然とする彼女を起ち上がらせ、梯子に向かって全力で走り出した。
「ちょ、ちょっと、あの人達は」
「見捨てる」
どうするのか、と聞かれる前に言い切る。
道化師にとって娼館主の身の安全が第一であり、彼女を生かす為ならば幾ら犠牲が出ようと構わないのだ。
少しばかり行動を共にしたからといって、仲間意識が芽生え情が移るなどあるはずもなかった。
216 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:43:12.27 ID:vYhwAq/BO
一方、娼館主はやり切れぬ表情をしている。
出来ることなら皆で、と思っていたのかもしれない。
だが彼女も裏社会で生きる人間だ。
現実がそう上手くいかないことは分かっている。
しかし、長らく危険から遠ざかっていた所為か、他人を切り捨てることへの躊躇いが生まれてしまったらしい。
(昔なら、こんなの当たり前だった。生きるってことは、何かを犠牲にすることなんだから)
(店持って甘くなったのかな。今さら綺麗な生き方しようったって無理なのに……)
それを感じ取った道化師が、消沈する娼館主に声を掛けた。
「混乱した彼等の様子を見ただろ。ああなったらボク達では助けられない」
「いいか、ボク達は普通の人間なんだ。盗賊や勇者のような『特別』じゃない」
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:48:12.34 ID:vYhwAq/BO
「……分かってる」
(命にも優先順位がある。誰も彼も救おうなんて考える奴の方がイカレてるんだ)
(窮地を乗り越え、皆で力を合わせて逆転勝利なんてのは有り得ない)
(まして全員助かるなんて無理だ。必ず誰かが死ぬ)
道化師は『必ず死ぬ誰か』にならぬ為、娼館主の手を引いて梯子へと直走る。
背後では未だ銃声が鳴り響いているが、彼等がやられれば次は自分達だ。
あの銃声が止む前に梯子に辿り着き、重い石蓋を開けなければならない。
(もう少しだ)
その時、娼館主の身体がぐらりと揺れた。
体当たりで突き飛ばされたかのように身体が大きく傾き、どさりと倒れた。
(……何が、起きたんだ)
彼女の右腕には穴が空いており、背中は横一文字に切り裂かれている。
幸いにも背中の傷は深くはないようだが彼女は気を失っており、ぴくりとも動かない。
原因を探るべく辺りを見渡すと、先程オークが出てきた穴の奥で槍先が輝いた。
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:51:10.26 ID:vYhwAq/BO
「仕留め 損ねた か」
(くそッ!もう一匹いたのか!!)
街灯の光が、蠢く灰色を捉えた。
穴の奥に潜み、油断したところを一突きにするつもりだったのだろうが失敗した。
原因は、街灯の光。
本来であればこの程度で怯むことはないが、このオークは他三体とは違い暗がりにいた。
そこへ突然の光。
それによって怯んでいなければ、間違いなく二人諸共串刺しになっていただろう。
未だ目が慣れていないのか、オークは僅かによろめき壁に手をついた。
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:55:10.08 ID:vYhwAq/BO
(動きが鈍い。何故?)
(いや、この際どうでもいい、何だか分からないが今しかないんだ)
距離は近く的の動きも鈍い。道化師は迷わず左胸部へ銃弾を放った。
魔核を撃ち抜かれ内側から瓦解していくオークを尻目に、服の袖を千切って娼館主の右腕を止血。
素早く彼女を背負い走り出したが、脚に何かが絡み付いた。
ぎょっとして足下を見ると、脚を掴んでいたのは細い人間の手だった。
「そんな女は捨てて、私を助けなさい」
「ッ、ビックリさせんじゃねえよ屑女!!!」
「ぎぇッ!」
空いている蹴で顔面を思い切り蹴飛ばすと、絡み付いた手は容易く離れた。
何をされたか分からないような呆けた表情を見せたのも束の間、潰れた鼻を両手で押さえながら魔術師が吠える。
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 00:59:38.13 ID:vYhwAq/BO
「あ、あなた、自分が何をしたのか分かっているの!! 私はーー」
「うっせえんだよ豚が!!」
「あぎゃ!」
「お前のような屑女には這いつくばってる姿が似合ってる。ずっとそうしてなよ」
「わ、私がいなければ陣は起動しないのよ!? 西部が、自分達がどうなってもいいの!!?」
「煩い女だな。言っとくけど、お前に救ってもらおうなんてこれっぽっちも思っちゃいない」
「お前がどうなろうが、誰がどうなろうが知ったことじゃないんだよ」
魔術師の瞳が驚愕と絶望に見開かれる。
しかし、それでも尚も縋り付こうとする魔術師。道化師は躊躇いなく発砲、両脚を撃ち抜いた。
それと時同じくして、背後にあった銃撃の音がぴたりと止んだ。
残った兵士がやられたのか、残弾が尽きたのか。
ともかく予断を許さない状況に変わりはない。
道化師はその場に街灯を投げ出し再び走り出したかと思うと、梯子の手前で振り向いた。
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 01:03:40.96 ID:j0JKTrIWO
「待って、助けーー」
「嫌だね。ボクはこの人を助けるだけだ」
「西部が滅ぼうとボクが死のうと、この人だけは絶対に死なせない」
(お前に助けられるくらいなら、盗賊に助けられた方がマシだ)
懇願する魔術師の声を遮り、道化師は続けた。
「ああそうだ。一つ言っておくよ」
「お前はお前が思ってるほど大した人間じゃないし、お前が消えても何も変わらない」
ニ体のオークの影が魔術師と重なった。
その瞬間、道化師は街灯内部にある拳大の火元素供給結晶に向かって引き金を引いた。
光を放っていた火元素供給結晶が砕けると同時に爆発が起こり岩盤は崩落。
塞がれた道の向こう側からは、溢れ出た炎によって焼かれる魔術師とオークの叫びが聞こえる。
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 01:07:22.44 ID:j0JKTrIWO
「いやぁ、助かったよ」
「彼女には、あの魔術師はボク等を守る為に戦って死んだって言っておく」
「勘違いするなよ? お前の名誉の為じゃない、彼女の心を傷つけない為だ」
「どんな奴でも、死んだら大抵は良い奴になれる」
「それがお前のような、鳴くだけで何の役にも立たない食えない豚でもな」
すっかり静かになった向こう側の魔術師に吐き捨て、背中から娼館主を下ろす。
まずは石蓋を開けなければならない。
錆びて朽ちているかに見えたが、そこまで強度は落ちておらず何の苦もなく登ることが出来た。
(あの化け物がいたら、このまま地下道に身を潜めるしかないな)
取っ手を掴み、音を立てぬよう用心してゆっくりと石蓋を開ける。
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 01:09:43.63 ID:j0JKTrIWO
(この広場は、演習場か?)
月は雲間に隠れており遠くまでは見えないが、辺りに何かがいる気配はない。
てっきりオークが徘徊しているかと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。
石蓋を完全に開き、再度周囲を見渡す。
(いない。取り敢えず止血剤と包帯をーー)
と、身を乗り出そうとしたその時だった。
「久しぶりだね」
「そうだな」
「あっ、その腕輪。そっか、ちゃんと着けててくれてたんだね。ふふ、よかった……」
224 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 01:16:35.99 ID:j0JKTrIWO
「……………」
「ねえ、どうかしたの?」
「まさか生きてる間に会えるとは思わなかったから驚いてんだよ」
「お前と次に会うのは死んだあと、あの世かどっかだと思ってたからな」
「なに? あたしと会えて嬉しくない?」
「そりゃ嬉しいさ。二度と会えねえと思ってた女に会えたんだ、嬉しくないわけねえだろ」
「じゃあ、何でそんな顔してんのよ」
「言わなくても分かんだろ。お前と会えて最高に嬉しいから、最高に最悪な気分なんだよ」
「ならどうする? あたしを殺すの?」
「……ああ、お前は俺の手で殺す。お前の魂は俺が盗り返す」
雲間が晴れ、月明かりが照らし出したのは、亡き姉と盗賊の姿だった。
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/20(火) 01:18:28.65 ID:j0JKTrIWO
今日はここまで
レスありがとうございます嬉しいです。読んでる方ありがとうございます。
226 :
◆4RMqv2eks3Tg
[sage]:2016/12/20(火) 01:31:28.52 ID:j0JKTrIWO
やっぱり長くなりそうです
最後まで読んでもらえるように頑張るのでよろしくお願いします
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/20(火) 08:25:21.25 ID:fqD7h/MyO
長いだけで中身ない
似たような展開の繰り返し
地の文が下手
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 12:28:42.37 ID:oJWsxQj3O
>>226
がんばって!
>>227
さようなら
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:26:35.39 ID:IIiBXkp6O
>>>>>>>
今、私の目の前で起きている出来事は何と言うのでしょう。
身動きも出来ず、へたり込んだまま目を逸らすことも出来ない。
はっきりと見えているのに、しっかりと聞こえているのに、これを何と言っていいのか分からない。
これは戦闘だろうか?それとも抵抗だろうか?
戦闘とは戦うこと。
『敵』に対して攻撃したり防御することだ。
だとしたら『これ』は戦闘とは言えない。適当な表現ではない。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:28:02.28 ID:IIiBXkp6O
「隊長、元素供給弾が通りません」
ならば抵抗だろうか。
抵抗とは外部からの力や権力に対して、歯向かい逆らうこと。
確かに歯向かっている。思い切り敵対している。けれど、それだけだ。
力の差は素人の私が見ても一目瞭然。残酷なまでに違いすぎる。
「隊長、このままではーー」
「分かってる。俺が目を撃ち抜く。皆は注意を逸らしてくれ」
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:30:52.88 ID:IIiBXkp6O
それでも、あの青年は諦めていない。
あの青年。隊長は、勝つため生きるために懸命に指示を出している。
彼とは此処に来るまで色々話した。
店主さんのことは対異形種特別部隊長を通して知っていたらしい。
現在は西部司令官と呼ばれているが、我々西部の人間には特部隊長の方がしっくりくる。
特部隊長と言えば旧西部軍の英雄。
人の身でありながら数多くの異形種を葬ったのは有名で、その数は完全種の部隊より多いとか。
幾分尾鰭が付いているだろうが、概ねは事実だろう。
幾度となく前線に立ちながら今尚も五体満足で生きていることがその証明だ。
以前負傷した兵士の治療をしていた頃は、看護婦達に数々の武勇伝や逸話を聞かされたものだ。
部下思いな人物としても有名であり、実際に負傷した部下の見舞いに訪れこともある。
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:33:26.68 ID:IIiBXkp6O
偶然にも私が彼の部下を担当していたので、彼とは何度か会話したことがある。
彼が「部下をお願いします」と、私に頭を下げた姿は今も鮮明に憶えている。
男が女に…いや、軍人が頭を下げるところを見たのはあれが初めてだった気がする。
私も反射的に頭を下げたので彼を困惑させてしまったことも、今では遠い思い出だ。
「振り下ろしが来るぞ!散開しろッ!!」
青年の域を出ない若き隊長。
特部隊長直属の部下であり現在は東西軍部所属の兵士。階級は少尉。
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:34:42.49 ID:IIiBXkp6O
『自分が隊長になるなんて思ってもいませんでした』
『何故ですか? さっきの射撃なんて目で追えないくらい早くて凄かったですよ?』
『あの人には遠く及びませんよ。少尉ならもっと…』
『?』
『あ、いえ。何でもないです』
『俺には優秀な隊長がいたので、ずっと隊長の部下だと思っていたんです』
そう。ついさっきまで、こんな会話をしていた。
周りを固める部下の方々は皆一様に彼を見ながら微笑んで、彼は照れたように頬を掻いた。
自分より年配の部下にからかわれる彼の姿は年相応で、私もいつの間にか笑っていた。
隣に居た店主さんは彼を見て『息子』を思い出したのか、ほんの少しだけ笑っていた気がする。
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:38:17.89 ID:IIiBXkp6O
けれど、楽しい時間は長く続かない。
断続的に続いていた地鳴りが次第に激しさを増したかと思うと、何かが降ってきた。
凄まじい地響きと破壊音。激しい揺れ。
気付いた時には倒れていて、いつの間にやら辺りは暗くなっていた。
暗闇に目が慣れないまま立ち上がって空を見る。月が翳っているのかと思ったが違った。
見上げる程に大きな灰色の怪物が月明かりを遮っていたのだ。
そうでした。それから『抵抗』が始まったのです。
それからは?
その後はどうなったんでしょう?
その間の私は何をしていて、傍にいたはずの彼は、店主さんは何処へ行ったのでしょう?
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:43:13.67 ID:IIiBXkp6O
『離れろッ!!!』
そうでした。彼は私を突き飛ばしたのでした。
再び空から何かが降ってきて、とても避け切れそうにないから、私を突き飛ばしたんだと思います。
何とか身を起すと、彼の姿は降ってきた何かに隠れて見えませんでした。
ぼやける視界の中で必死になって彼の姿を探しましたが、やはり何かに隠れて見えません。
少しずつ視界が戻っていき、『それ』が何なのかやっと理解出来ました。
彼の身体を隠していたのは、空から降ってきた何かの正体は、灰色の怪物の大きな手。
すぐに手を掴んで持ち上げようとしたけれど、重くて重くて持ち上がらない。
小指側から呻き声が聞こえたので目を向けると、うつ伏せに倒れる彼の姿がありました。
私は大急ぎで怪物の手の甲を乗り越え、彼を小指の下から出して抱き寄せました。
膝から下がなくなっていたので何とか治そうとしましたが、何故か医療術が使えません。
紫色の雷がばちばちと鳴るだけで、彼の身体が癒える気配はありませんでした。
236 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:45:21.09 ID:IIiBXkp6O
『おい、こっちだ化け物。獲物はこっちだ』
『ほら来いよ。掛かって来い。そうだ、来い。脳味噌ぶちまけてやるから覚悟しろデカブツ』
隊長と部下の方々が怪物を引き寄せている間に、私は彼を引き摺って物陰へ。
何とか身を隠すことが出来たので一安心していると、私の目を見ながら彼が言いました。
『無事だったか』
息も絶え絶えで痛みも酷いでしょうに、しぶとく笑いながら言ったのです。
私には返答する余裕など一切なくて、急いで服を破いて止血しようとしました。
けれど損傷が酷すぎて血は止まらず、切断面からは血が流れ続けていました。
何度も何度も魔力を練ろうとしたけれど、何かが邪魔して魔術を使えません。
紫色の蛇のような雷が彼の身体を這い回っていたので払い落とそうとしましたが駄目でした。
医療術も使えない私には、彼の手を握るくらいしか出来ません。
彼は眠たそうな顔で空いた手を伸ばすと、私の頬にそっと触れながら
『自棄酒はするなよ?』
と言って微笑みながら、眠るように目を閉じました。
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:49:57.98 ID:IIiBXkp6O
「あ、あ、ああ…」
そうだ。彼は此処に、私の傍にいる。
私の手は彼の手を握っている。まだ温かい。そうだ、私はずっと傍にいたんだ。
傍に居ただけで何もしなかった。治癒術師なのに、医師なのに何も出来なかった。
「店主さん起きて、起きて下さい」
(医師なら分かるでしょう。もう彼はーー)
「うるさいッ!! 店主さん!しっかりして下さい!!」
もう止めましょう。
彼は私を庇って両脚を失って、それはもう酷い出血で、止血しても血は止まらなくて。
それから。それから。それから目を閉じた後……
『良かった。お前を守れて良かった』
『そんな、駄目です!! しっかり!しっかりして下さい!!』
『悔いはないが、欲を言えば盗賊と巫女の顔も見たかったがな……』
「嫌っ、嫌ッ、嫌ぁああああああああ!!!」
そう言って、そう言って彼はどうなった?
「違う!違う違う違う!! 彼はまだーー」
違わない、分かっている。
彼はもう動かない、もう喋らない。
だって彼は、私の傍らで何の疑いようもなく死んでいるのですから。
238 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/20(火) 23:58:14.07 ID:IIiBXkp6O
「あ、あ、ああ…」
そうだ。彼は此処に、私の傍にいる。
私の手は彼の手を握っている。まだ温かい。そうだ、私はずっと傍にいたんだ。
傍に居ただけで何もしなかった。治癒術師なのに、医師なのに何も出来なかった。
「店主さん起きて、起きて下さい」
(医師なら分かるでしょう。もう彼はーー)
「うるさいッ!! 店主さん!しっかりして下さい!!」
もう止めましょう。
彼は私を庇って両脚を失って、それはもう酷い出血で、止血しても血は止まらなくて。
それから。それから。それから目を閉じた後……
『良かった。お前を守れて良かった』
『そんな、駄目です!! しっかり!しっかりして下さい!!』
『悔いはない。欲を言えば、盗賊と巫女の顔も見たかったがな……』
「嫌っ、嫌ッ、嫌ぁああああああああ!!!」
そう言って、そう言って動かなくなった彼はどうなった?
「違う!違う違う違う!! 彼はまだーー」
違わない、もう分かっているでしょう。
彼はもう動かない。彼はもう喋らない。
だって彼は、私の傍らで何の疑いようもなく死んでいるのですから。
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/21(水) 00:00:02.87 ID:fls5fJtdO
一旦ここまで、また後で書くかもしれません
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/21(水) 00:19:50.46 ID:5ZJkqcSoo
乙
楽しみにしてる
241 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:23:26.97 ID:3nLW6oL9O
「はぁっ、はぁっ」
気付けば走り出していた。
生きたいとか死になくないとかではなくて、単純に目の前の怪物が許せなかったから。
そう思っているのは、きっと私だけじゃない。
意味も理由もなく、ただただ理不尽に、次々と『誰かの』命が奪われていく。
(違う。『誰か』じゃなかった)
助けられたことで、それが自分とは関係ない出来事だと思っていたけれど違った。
奪われたのは、遠い地に住む見ず知らずの誰かではない。
触れ合える程に近い場所にいる、私の大事な人だった。
242 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:24:51.27 ID:3nLW6oL9O
(世界は今、これで満たされている)
あの怪物が憎い。
憎くて憎くて仕方がない。
もし強い力があったなら殺せるのに、私にそんな力はない。
だから、こうして怪物の脚を引っ掻いたり噛み付いたりすることしか出来ない。
死んでもいい。もう死んでも構わないから、この怪物に痛みを与えたい。
死にたくなる程の痛みを、生を投げ出したくなるような苦しみを与えてやりたい。
けれど無駄だった。
蹴っても噛んでも、引っ掻いても殴っても反応はない。
私の存在に気付いてすらいない。
243 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:26:17.20 ID:3nLW6oL9O
悔しい、情けない。
やっと私の存在に気付いた怪物に無様に摘まみ上げられながら、ふと思った。
(あの人は何故、私を助けてくれたのだろう?)
(自分の身を賭してまで私を助けてくれたのは何故だろう)
下から銃声が聞こえる。
隊長や部下の方々、もういいです。あなた達だけでも今の内に逃げて下さい。
嗚呼、何てことだ。人が、人が減っている。
さっきまで二十名はいたのに、今では十名いるかいないかまで減っている。
いい人達だったのに、優しい人達だったのに、何でこうも簡単に死んでしまうのだろう。
244 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:28:59.76 ID:3nLW6oL9O
生きて欲しい。死んで欲しくない。
(あの人もこんな気持ちだったのでしょうか?)
(あの人が死んだと知ったら、盗賊君と巫女ちゃんは悲しむでしょうね)
(だったら、私も死んで悲しまれたい。きっと、その方がいい)
(もう嫌だ。誰かの死を見るのは沢山だ。まったく、医師失格…)
(いえ、違う。今の私は医療術も使えない役立たず)
(なら死ねばいい。死んでしまえば、もう二度と死を見なくてすむ)
「雌は 美味い 知ってる」
「…………」
何もかも、この怪物の所為だ。
要らぬ悲しみを、要らぬ痛みを、要らぬ苦しみを、この怪物が振り撒いている。
この怪物に見つかったら最後、逃れる術はなく死んでしまう。
245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:31:39.51 ID:3nLW6oL9O
(まるで病のような存在だ)
(この病に特効薬はない。今のところ治療法も見つかっていない。不治の病だ……)
(そう考えると、人類は異形種という病に冒された患者という見方も出来る)
異形種という病。
この題名で論文や本でも書けば売れるだろう。嫉妬する同僚の顔が目に浮かぶ。
けれど、彼等も死んでしまった。
あの皮肉屋も、野心家も、学歴重視も、もうこの世界に存在しない。
男尊女卑の染み付いた彼等が大嫌いだったけれど、何故か寂しい気持ちになる。
246 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:35:11.73 ID:3nLW6oL9O
(何故でしょうね。大嫌いなはずのに)
答えは簡単、死んでしまったからだ。居なくなってしまったからだ。
そうですね。
死というのは、喪失というのは、それだけ重いものです。
どれだけ嫌いでも、憎んでいたとしても、死者を憎めるでしょうか?
それは程度にもよるでしょうが、あまりいないでしょう。
死んで喜ばれるような人間なんてそうはいない。そんな人間は極々稀。
『良かった。お前を守れて良かった』
あの人は、死んで悲しまれる人間。だった。
「この雌 喰う 邪魔 するな」
この怪物に殺されるまでは、死んで悲しまれるような人間だった。
事実。私はこんなにも悲しくて、あの人を殺したこいつがこんなにも憎い。
こいつが死んだら、こいつを殺せたら、どんなに嬉しいだろうか。
それが一時の喜びで、虚しさしか残らないとしても、あの人の仇を取りたい。
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 02:43:36.67 ID:3nLW6oL9O
でも、私には無理。
「頭は 美味しい」
だから『何処かの誰か』にお願いします。
この怪物を殺して下さい。この怪物を殺して下さい。この怪物を殺して下さい。
脚を奪って、動けなくして、痛め付けて痛め付けて殺して下さい。
もし可能であれば、これまで奪った命の分だけ殺して下さい。
医師としてではなく、個人として願います。
「どうか、この怪物を殺して下さい」
「願われずとも殺す。王の命だ」
月を背負って現れた黒衣の何者かが、怪物の野太い腕を切り落とした。
右手には鋼とも鉄とも違う異質の輝きを放つ剣があった。
元素供給弾をも通さなかった分厚い皮膚と骨肉を、剣で切り裂いたというのか。
「暴れるな。暴れれば死ぬぞ」
黒衣をまとった女性が言った。
彼女は手の平から零れ落ちた私を抱き止めると、地上にふわりと降り立った。
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/21(水) 03:11:24.67 ID:3nLW6oL9O
「黒い衣、死神ーー」
「死んではいるが、神ではない」
「えっ?」
「我等は神に憎まれた一族、神に捨てられた一族、とうの昔に滅びた種族」
怪物の叫び声より通る、凛とした声。
彼女は呆然とする私を下ろすと全身覆う黒衣のローブを脱ぎ捨てて、その姿を露わにした。
彼女だけではない。
周囲には彼女と同じような黒衣をまとった彼等彼女等が立っていた。
そして彼女同様に全員が黒衣を脱ぎ捨てて、その姿を月光の下に晒した。
月明かりを浴びて一様に輝くそれは息を呑むほど美しく、不思議と怖ろしさは感じなかった。
そして、ふと思った。
(歴史は嘘吐きだ)
「我等は赤髪の王の命により、貴様等を助けに来た」
(やはり、赤髪は悪魔なんかじゃない)
(皆、盗賊君…王と同じ目をしている。暖かくて優しい瞳を……)
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/12/21(水) 03:12:23.69 ID:3nLW6oL9O
ここまで寝ます
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/21(水) 10:41:05.48 ID:TBch0YyDO
乙
あと2レスってところで寝落ちしちまったぜww
251 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:12:18.68 ID:EyjvUQNPO
>>>>>>
きらきら輝く満ちた月。
眩いばかりの月光が二人の姿を映し出す。そう、これは一夜限りの儚い夢。
予期せぬ再会に戸惑いながらも、二人はゆっくりと距離を縮めていく。
しかし、あと一歩のところで立ち止まってしまう。二人ともに、そこから動けない。
見つめ合う二人。
頬を朱に染めてはにかんだ笑顔の彼女は、そそくさと視線を外して照れた様子で俯いた。
ややあって、彼女は俯いたまま、足りない距離を埋めるようにおそるおそる手を差し延べた。
彼は優しく微笑んでそれに応じると、二人は固く手を握ったまま、くるくるくるくる踊り出す。
しんしんとふる綿雪が、再会を祝福する天使のようにふわりふわりと舞っている。
二人に言葉は必要なかった。何故なら、繋いだ手の温もりが全てを教えてくれるから。
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:15:40.28 ID:EyjvUQNPO
「あんたを救う」
「安心して。あたしが、この汚れきった世界から連れ出してあげるから」
なんて、感動的な雰囲気にはなりそうにねえな。やっぱり現実は甘くねえな。
やっと辿り着いたと思ったら陣はぶっ壊されてるし。惚れた女はバケモンみてえにされてるし。
口は裂けるわ腕は伸びるわ。身体からぐちゃぐちゃした黒い泥みてえなの出るわ。
最初からその姿で出て来てくれよ。
どんな姿になっても君は君だ。くらいの気持ちでいたけどさ、限度ってもんがあんだろうが。
「ねえ、こんな世界捨てて一緒になろう?」
「魅力的なお誘いだけど無理だ」
「捨てるのが惜しいくらいに、大事なもんが増えちまったからな」
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:17:55.98 ID:EyjvUQNPO
「あたしよりも?」
「うるせえな。それ以上そいつの声で話すな」
「大体、そんな面倒臭えことを言うような女じゃねえんだよ」
「あんたが勝手に美化してるだけじゃないの?」
「まあ、確かに。それもあるかもしれねえな」
あ〜、めんどくせ。
あのどろどろした黒塊。あれが鞭みてえに前後上下左右暴れ回ってっから近付けねえ。
斬っても撃っても刺しても意味ねえし、やっぱタマシイ引き摺り出すしかねえのかな。
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:22:41.58 ID:EyjvUQNPO
(いい月夜だってのに、最悪だな……)
なあ、隊長。あんたもこんな気分だったのか?
降霊術師とやり合った時、あんたは惚れた女を自分の手で殺した。
『他ならぬ彼女自身の願いだ。だから、俺の手で終わらせた。悔いはない』とか言ってたよな。
辛かっただろ。腹立っただろ。すっげえ分かるぜ。俺もそんな感じだから。
好き勝手弄られて、バケモンみてえな姿にされて、魂まで囚われちまってる。
身体は偽物だけど、魂は本物だ。
だから、この気色悪ぃバケモンを殺すってことは、あいつを殺すってことなんだ。
(ったく、情けねえよな)
(やろうと思えば今にもやれんのに何やってんだ。俺は何をーー)
「いつまで化け物に見惚れてんだよ!!さっさと姉さん助けろ屑男!!!」
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:29:18.47 ID:EyjvUQNPO
「お前ーー」
「今さら何を躊躇ってんだよ!!人でなしのクセに気取ってんなよ屑野郎!!」
「……ああ、そうだな」
でも撃つことねえだろ。
それ元素供給弾じゃねえの? 死にはしねえけど結構痛えんだからやめろよな。
つーかガキみてえに泣いてんじゃねえよ。玉潰しが趣味な癖に女みてえに泣くな。
『ッ、この屑野郎!』
『姉さんを返せ!! お前なんかに関わったから姉さんは死んだんだ!!』
『お前さえいなければ!姉さんは死ななかった!! お前が死ねば良かったんだ!!!』
『何でお前が生きてる!!? 何で姉さんが死んだ!!何でだよッ!!』
『墓参りにも来ないで!何でガキの相手なんかしてんだよ!! 答えろよ屑野郎ッ!!!』
そういや、あの時もめちゃくちゃ泣いてたな。泣き虫かお前は。
良く見りゃあ泣いた顔は意外と似てんだな。ずっと泣いてりゃいいのに。
でも、女泣かせたら店主になに言われるか分かんねえな。頑張ろ。
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:32:15.67 ID:EyjvUQNPO
「化け物化け物って、お姉ちゃん傷付くーー」
「縛れ朽ち縄」
「はぎゃ!!?」
「待たせて悪かったな。そろそろ返して貰うぜ」
あれこれ考えてもやることに変わりはねえし、死んだ奴は生き返らない。
目の前にいんのはあいつじゃねえ。死に際、俺にこの腕輪を渡した女じゃねえ。
俺に惚れた女は死んだ。
俺が惚れた女は死んだ。
「……あんたは、あたしが救う」
「あんたをそんな目に合わせた世界から、あんたをそんな風にさせた運命から、あたしが救うんだ」
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:36:49.31 ID:EyjvUQNPO
「ありがとな。でも、俺はもう救われてる」
それがお前自身の言葉なのかどうか分かんねえけどさ、もういいんだ。
お前は、確かに俺を救ってくれたから。
お前がいなけりゃ、奪われる苦しみも、失う痛みも知らないままだった。
今の俺は、お前から始まったんだ。お前がいたから『こんな風に』なれたんだ。
だから、もういい。もう、そんな顔しなくていいんだ。
何ものにも囚われることはない。利用されることもない。お前の魂は、もう自由なんだ。
「……盗賊、愛してる」
「……ああ、分かってる。俺もだ」
「それ、ほんと?」
「こんな時に嘘吐かねえだろ。普通」
「ふふっ、うれしい。ねえ、盗賊?」
「?」
「あたしを、あんたの物にして欲しい。あんたが死ぬまで、傍にいさせて……」
258 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 00:38:54.05 ID:EyjvUQNPO
短いけど今日はここまで
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/25(日) 01:51:02.32 ID:9lbtcdLDO
乙
メ…ハッピーホリデー!
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 21:56:23.49 ID:SRNZXfGTO
>>>>>>
暗いな、何も見えん。
いや、何も見えないはずがない。
あんなにも大きく見えていたんだ。雲間に隠れたとしても、完全な闇など訪れようもない。
まさか、あの灰色が月すらも覆い尽くしてしまったというのか。
西部は、世界はどうなった。あの声の通り、滅びてしまったのか。
だとしたら、此処は何処だ。
何だ、遠くから声が聞こえる。俺は生きているのか。其処にいるのは誰だ。
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 21:57:23.58 ID:SRNZXfGTO
『生きて下さい』
この声……お前、まだいたのか。
俺のことはもういい。早く逃げろ。俺は俺のすべきことをした。
これ以上は何も望まない、悔いもない。だから、もう行け。
『嫌です』
『あなたを死なせてしまったら、生き延びた意味がない』
『それに、あなたを亡くした悲しみを背負って生きていけるほど、私は強くありません』
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 21:58:43.48 ID:SRNZXfGTO
俺は救えたはずの命を見捨てた。
人を見殺しにするような奴だ。救う価値などない。
『例えそうだとしても、それがあなたを見捨てる理由にはならないでしょう』
『見捨てた人々があなたを恨み、死ぬべきだと叫んでいたとしても、あなたは私の命の恩人です』
『いえ、違いますね……』
『命の恩人だとか、そんな理由付けは必要ありません』
『私が、あなたに生きて欲しいんです』
『医者としてではなく、一人の人間として、あなたに生きて欲しいんです』
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 22:29:12.20 ID:SRNZXfGTO
生きた先に何がある。
医師というのは、生きる意志のない者も無理やりに生かすのか。
お前を助けたのは借りを返す為なんだ。これ以上、借りを増やさないでくれ。
『……さっき、後悔はないと言いましたよね』
ああ、言った。
『じゃあ、盗賊君と巫女ちゃんは、あなたの息子と娘はどうするんですか?』
『子供達はあなたを思っている。あなたも子供達を思っている』
『こんな言い方は狡いでしょうけど、子供を置いて逝ってしまうなんて駄目ですよ』
『あなたにとって、希望とは何ですか?』
希望。
盗賊、巫女。
あの二人は、俺に何かを与えてくれた。とても温かい何かを。
出来ることなら、見続けていたかった。どう生きるのか見ていたかった。
『あなたの希望は生きています』
『それがそのまま、あなたの生きる希望になるんです』
『さあ、起きて下さい。きっと、あなたを待っていますから』
264 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 22:32:22.07 ID:SRNZXfGTO
『あなたにとって、希望とは何ですか?』
希望。
盗賊、巫女。
あの二人は、俺に何かを与えてくれた。とても温かい何かを。
出来ることなら、見続けていたかった。どう生きるのか見ていたかった。
『あなたの希望は生きています』
『それがそのまま、あなたの生きる希望になるんです』
『さあ、起きて下さい。きっと、あなたを待っていますから』
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/25(日) 22:42:20.66 ID:SRNZXfGTO
>>264
はミス。また後で書くと思います。
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/12/26(月) 00:06:22.92 ID:dYd0mBr1O
眠くて駄目です。また明日
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/26(月) 02:30:43.66 ID:MxZi3YLDO
どこがミスだかわからない…乙
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:17:33.22 ID:wTh2qvntO
店主「(此処は、医療所…?)」
黒衣「……………」
店主「(赤髪、三人はいるな。敵意は感じられない。見張りか? だが何故…)」
黒衣「起きたか」
店主「……お前は」
黒衣「見ての通り赤髪だ」
黒衣「盗賊から北部赤髪部隊については聞いているな。我々はその部隊に所属していた者だ」
店主「……北部。巫女が所属していた部隊だな。巫女を残して死んだと聞いたが」
黒衣「ああ、確かに死んだ。我々も赤髪一族も死に絶えた。が、生きている」
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:19:12.90 ID:wTh2qvntO
>>>>>>>
店主「(此処は、医療所…?)」
黒衣「……………」
店主「(赤髪、三人はいるな。敵意は感じられない。見張りか? だが何故…)」
黒衣「ようやく目が覚めたか」
店主「……お前は?」
黒衣「見ての通り赤髪だ」
黒衣「盗賊から北部赤髪部隊については聞いているな。我々はその部隊に所属していた者だ」
店主「……北部。巫女が所属していた部隊だな。巫女を残して死んだと聞いたが…」
黒衣「ああ、確かに死んだ。我々も赤髪一族も死に絶えた。が、生きている」
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:19:46.34 ID:wTh2qvntO
店主「意味が分からん」
黒衣「赤髪一族の魂は盗賊と共にあるということだ」
黒衣「魔神族で言うところの種族王。我々は赤髪の王の眷族ということになる」
店主「……益々分からん。仲間という認識でいいのか」
黒衣「仲間、か。どうなのだろうな」
黒衣「我々以外の一族の者達は『赤髪の王』に従っているようだが……」
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:20:26.37 ID:wTh2qvntO
店主「お前達は違うと?」
黒衣「忠誠を誓ったのは将軍だけだ。赤髪の王に従うつもりはない」
黒衣「我々は奴に借りがある。協力しているのは、北部での借りを返す為だ」
店主「忠誠ではなく協力か」
黒衣「奴は、それでもいいと言った。気が向いたらでいいから力を貸してくれ。とな」
黒衣「しかし、死んでから借りを返すことになるとはな……まったく、我が儘な王だ」
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:21:28.02 ID:wTh2qvntO
店主「不満か?」
黒衣「不満だが、悪くない」
店主「……そうか。盗賊が、王か」
黒衣「知っていたのだろう?」
店主「ああ。だが、名乗っているだけだと思っていた。あいつ自身もそう言っていたからな」
店主「王は一人。民も一人。領地も税収入もありはないと愚痴を零していた」
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:21:59.56 ID:wTh2qvntO
黒衣「………」
店主「巫女には、会ったのか」
黒衣「……いいや、会っていない。会ったところで混乱させてしまうだけだ」
黒衣「会っていないと言うより、我々には巫女に合わせる顔がない」
黒衣「我々はあの子を残して去った。盗賊に押し付けてな。捨てたと言っても違いはない」
店主「それが借りか」
黒衣「それもあるが他にもある。大きな借りだ。一度二度死んでも返せぬ程の恩がな」
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:22:38.74 ID:wTh2qvntO
店主「……恩。そうだ、治癒師は何処にいる?」
店主「目を覚ます直前、俺は確かにあいつの声を聞いた。隊の奴等はどうなった、道化師と娼館主はーー」
黒衣「安心しろ、無事だ。治癒師と隊長以下数名は我々と共に旧西部軍基地へ向かった」
黒衣「彼等は生存者の避難誘導と負傷者の治療。他の同胞は残党の殲滅に当たっている」
黒衣「道化師と娼館主は、盗賊と共に旧西部軍基地にいる。もう、問題はない」
店主「避難誘導…転移はしないのか」
黒衣「転移しないのではなく転移出来ない。盗賊が到着した時、陣は既に破壊されていたからな」
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:23:33.24 ID:wTh2qvntO
店主「……都は、どうなった」
黒衣「滅んだと言っていいだろうな。民の過半数が殺され、都の大部分は破壊された」
黒衣「世界全土が被害を受けているようだが、最も甚大な被害を受けたのは西部だ」
黒衣「この災厄は都に限ったことではない。街や村も同様の被害を受けている」
店主「……そうか。西部を捨てて東部へ移り住んだ富裕層の奴等は正解だったようだな」
黒衣「いいや、そうとも言えない」
黒衣「黒鷹によれば、東部地下施設の一つにオークが現れたらしい」
黒衣「安全と思われた地下が棺桶と化している。おそらく、地上と差して変わらぬ有り様だろう」
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:24:09.84 ID:wTh2qvntO
店主「どこもかしこも、か」
黒衣「ああ。今現在、何事もなく無事でいられる場所など世界の何処にもない。隠れる場所もな」
店主「あの声の主が関係しているんだろう。あれも異形種か?」
黒衣「そうとも言えるが、そうではない。ただ、人の敵。異形の存在であることに違いはない」
店主「……あの声は、勇者の名を口にしていた。盗賊も、そいつと戦うのか」
黒衣「そうなるだろうな。息子が心配か?」
店主「敵は世界を相手取るような奴だ。口先だけではなく、宣言通りに滅ぼしている」
店主「そんな奴に戦いを挑むとなれば、盗賊と言えど無傷では済まないだろう」
店主「俺のような人間は、灰色の化け物を相手にしただけでこの様だからな……」
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:25:40.56 ID:wTh2qvntO
黒衣「息子。ということは否定しないのだな」
店主「……ああ、あいつは良く出来た息子だ。俺にとっては、だがな」
店主「親殺し子殺しが当たり前の世の中で、命懸けで親を助けようとする子供などそうはいない」
店主「家庭を持ったことはないから分からんが、そこらの家族よりは家族らしいと思っている」
黒衣「(意外だな。盗賊の中の店主は、本心を人前で語るような人物ではないはずだ)」
黒衣「(この男も我々や巫女同様に、盗賊と関わって変わったのだろうか……)」
黒衣「(魔王は、能力や生命を奪い我が物にする。言わば、盗賊の歩んできた道そのもの……)」
黒衣「(奪うことでしか生きられなかった男が、他者に何かを与えたか。つくづく妙な奴だ)」
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:28:39.24 ID:wTh2qvntO
店主「どうした」
黒衣「……いいや、何でもない。それより脚はどうだ、痛むか」
店主「ないものをどうだと言われても答えようがないな。脚の感覚が残っているのが妙な感じだ」
店主「痛みはないが、膝から下が宙に浮いているような奇妙な浮遊感があるだけだ」
黒衣「…………」
店主「俺は一度、死を受け入れた。治癒師の呼び声を無視していれば死んでいただろう」
黒衣「死ぬつもりだったのなら、何故声に応じた。生への未練、執着か?」
店主「未練、未練か…」
店主「そうかもしれんな。あっさり死ぬつもりが、まだ見ていたいと思ってしまった」
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:30:02.71 ID:wTh2qvntO
黒衣「見ていたい? 何をだ?」
店主「この混沌とした世で、盗賊が何を成すのか。あの二人が、どう生きてゆくのか」
店主「赤髪というだけで忌み嫌われ、奪うことでしか生きられなかった男が、どう変わるのか」
店主「その先、未来をこの眼で見てみたいと思った……」
黒衣「……今の世を生きる者にとっては、生は苦痛にしかならないと思うがな」
店主「それは死者としての意見か? それとも、赤髪としての言葉か?」
黒衣「どちらもだ。人間というだけで殺され、人々は理不尽に嘆いている」
黒衣「今は人間そのものが理不尽に晒されている。嘗て、赤髪がそうであったようにな」
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:31:35.64 ID:wTh2qvntO
黒衣「だからだろうな……」
黒衣「私は『人間』が何人殺されようと同情する気になどなれない」
黒衣「同情どころか、我々赤髪一族が受けた苦痛を思い知れとさえ思う」
黒衣「『狩られる側』の痛みと悲しみを、絶え間なく襲い来る恐怖を存分にな……」
店主「疑問だな。そこまで憎んでいながら、何故盗賊に手を貸した?」
黒衣「……奴に訊いたんだ」
店主「訊いた?」
黒衣「ああ。人間に救う価値があるのか。とな」
黒衣「奴は、救う価値などないと言った。人間として生きるなら、人間に救う価値などないと…」
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:33:37.24 ID:wTh2qvntO
店主「…………」
黒衣「……一族の掲げる赤髪の誇りとは、赤髪が抱いている劣等感の表れでもある」
黒衣「人間を見下し、自分達は別の何かだと思うことで保っていた部分もあるからな」
黒衣「だが、それを引き剥がされた時に残るのは何だ。赤髪から赤髪を剥がした時、何が残る?」
黒衣「……奴は、こう言った」
盗賊『全部引っ剥がしたら、残るのは人間だ』
盗賊『黒い肌、白い肌、赤い髪、金色の髪、青い瞳、茶の瞳…』
盗賊『人間は人間を差別して、人間を軽蔑する。人間が人間を殺して、人間が人間を救ってんだ』
盗賊『赤髪は人間とは違う、赤髪は人間より優れてる。本当にそう思ってんならさ…』
盗賊『不毛な争いを繰り返す愚かな人間共は、誇り高き赤髪一族が救ってやらねーと駄目だろ』
盗賊『神に愛されぬ赤髪が、神の愛する人間共を救うんだ。これ以上の皮肉はねえ』
盗賊『神にさえ救えぬ人間共を救って、赤髪狩りが間違いだってことを教えてやろうじゃねえか』
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:39:18.37 ID:wTh2qvntO
盗賊『誇り高き赤髪一族』
盗賊『それが嘘偽りではないことを証明し、我々が何たるかを世に示せ』
黒衣「……とまあ滅茶苦茶だが、皆はこの言葉にまんまと乗せられ焚き付けられたわけだ」
店主「お前もその一人か?」
黒衣「ああ、そうだ」
黒衣「盗賊が秘めていた一族に対しての想いは本物だった」
黒衣「我ながら単純だとは思うが、赤髪であるなら、やらないわけにはいかない」
店主「…………」
黒衣「……我々も、どちらかを選べた」
店主「?」
黒衣「あのまま眠り続けるか、再び立ち上がり赤髪一族として戦うか……」
黒衣「我々は戦うことを選んだ。貴様も『そう』なのだろう」
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/06(金) 03:43:25.24 ID:wTh2qvntO
店主「ああ、そうだな」
店主「俺も生きることを選択した。この先に何があろうと『これ』を抱えていかなければならない」
黒衣「……貴様を父と言った盗賊の気持ちが、少しだけ理解出来た気がする」
黒衣「あの子…巫女が慕う理由も、何とはなくではあるが分かった」
店主「俺には分からんがな」
黒衣「フッ…そうか、それならそれでいい」
店主「……ところで、盗賊は何をしている? 理由は分からんが、お前には分かるのだろう?」
黒衣「奴なら、今しがた妻を迎えた」
店主「妻、妻だと?」
黒衣「貴様もよく知る人物だ。生涯でたった一人、盗賊が愛した女」
店主「彼女は死んだ。まさか、赤髪一族のように甦ったのか?」
黒衣「そんなところだ。一口に蘇りと言っても我々とは経緯が違うが…」
黒衣「それに、婚礼と言っても一般的なものとは掛け離れたもの。魂と魂の契りだ」
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/01/06(金) 03:44:22.84 ID:wTh2qvntO
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