季節走り 心はいつまでも (モバマス)(輿水幸子)

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1 : ◆MhRo2YnWE.V/ [sage saga]:2016/09/28(水) 12:46:48.77 ID:MuKRWnx20
「そろそろ、いいんじゃないですか」

「何がだよ」

 俺は笑ってそう言い、幸子の言葉を流した。
 空は青い。ずいぶんと涼しくなった9月の風が、彼女の香りを運ぶ。
 俺の向かいに座った幸子は、無表情のまま少しだけ目を細めて俺のほうを見た。
 怒ったかな。

「べつに、なんでもありません」

 そう言って、彼女はテーブルに広げた参考書とノートへと目を戻す。
 俺はそんな彼女を見ている。
 輿水幸子、17歳、か。ずいぶんと背が伸びた。顔立ちも変わった、んだろうな。ずっと一緒にいると、どう変わっていくか忘れそうになる。
 俺は喫茶店のテラス席で、彼女の勉強につきあっていた。……と言っても、中学生の頃とは違う。
 さすがに大学受験の問題となれば、スラスラと教えるとはいかないので、実質座っているだけだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1475034408
2 : ◆MhRo2YnWE.V/ [sage saga]:2016/09/28(水) 12:48:30.27 ID:MuKRWnx20
「俺も勉強しようかな」

「そんな必要、あなたにはないでしょう」

 幸子は顔を上げることなく、問題集に目を落としたまま返す。数学。特に覚えていない教科だった。
 使わない知識は忘れてしまう。だから勉強は無駄なのだ、などと思うのも子供っぽい。むしろもったいないことをしたというのが、俺ぐらいの年齢の考えだろう。
 大人の仕事と人生には、教養はいくらあっても足りない。

「俺も勉強すれば、幸子の輝かしき学生生活にもっと貢献できるかと思ってさ」

 そんな俺の健気な言葉に、幸子は少しだけ目を動かして、ちょっと馬鹿にしたように笑う。

「余計なことは考えなくていいんです。こうして、私と気をまぎらわせるおしゃべりをしてくれていれば」

「俺はお前のラジオかよ」

 ずいぶんな言われ方だったが、俺は大して気にしなかった。幸子の言い方が、エラそうなのはいつものことだ。
 そしてそれは、彼女の信頼の証でもあった。これくらいの軽口を許してくれるだろう、というかわいい甘えだ。
3 : ◆MhRo2YnWE.V/ [sage saga]:2016/09/28(水) 12:50:06.63 ID:MuKRWnx20
「私のラジオになってくれているくらいですから、ヒマなんですよね?」

「今日は休みだからな」

「調子はいいんですか。あの……なんとかという人たちは」

 なんとか、って。
 俺の担当アイドルに、ずいぶんな言葉だ。

「ああ、次のライブが決まったよ。日程は……」

「それはいいです。私は行きませんから」

 ああそうですか。
 確かにまだあいつらは未熟だし、お前ほどの才能があるわけでもないんだけどよ。

「どうせ、私……ボクほどのパフォーマンスを見せてくれるわけではないんでしょう?」

 あえて昔の一人称を使ってみせて、幸子は余裕のある笑いをしてみせる。
 言われっぱなしでは担当アイドルたちに申し訳ないので、言い返す。

「どーかな。最近はぐんぐん良くなっている。いずれあの頃の幸子を追い抜くかもしれんぞ」

「へえ、楽しみですね。売れっ子プロデューサーさんにご馳走していただけるのが」

「結局ライブはどうでもいいのかよ」
4 : ◆MhRo2YnWE.V/ [saga]:2016/09/28(水) 12:52:25.78 ID:MuKRWnx20
 ……幸子が引退してから、もう一年は経つのか。
 だから彼女はこうして、難関大学への入学を目指して日々勉学に励めているわけだ。
 そんな彼女に、俺はこうして今もたまに……いや、割と頻繁に会っている。短い時間でも、週に一回、多いときは二回、三回。
 いいのかな、とか思わないでもないんだが。すでに、引退した幸子は過去の人となっている。業界の流れは今もまだ加速中だ。だから、こうして二人でいても、誰かに騒がれることもない。それはありがたい。

 けれど。
 アイドルでなくなったはずの彼女は……今のほうが、綺麗だ。
 恥ずかしいから言わないけど。

 やっぱり引退は早かったかな。そんなことを思えば、普段は忘れたフリをしている疑問が湧き上がってくる。

 どうして突然、やめる、なんて言い出したんだ?
 ……結構ショックだったし、傷ついたんだぜ。でも、こうして会っているくらいだから、俺を嫌いになったってわけじゃないんだよな。
 みんなも一生懸命説得した。俺も止めた。お前となら、いくらでも上に行けるって思ってた。でも。

「……んー……。ここで使う公式は、なんでしたっけ……」

 俺の内心も知らぬ気に、幸子はノートに書き写した数式に集中している。長いまつ毛の下の大きな瞳。すっきりしたあごの下に、シャープペンシルをくっつけている。……随分と、髪も伸びた。
5 : ◆MhRo2YnWE.V/ [saga]:2016/09/28(水) 12:54:28.49 ID:MuKRWnx20
 ……まあ、今は聞かないでやるよ。
 俺は空気が読める男。空気を適切に段落分けし、濁点と半濁点、句読点を打ち込み、行間すら解してみせるのが名プロデューサーというもの。
 ま、あの時のお前の気持ちは読み取れなかったわけだが。仕方ない。人の心までは誰もわからない。そういうことにしておく。

「……どうしたんですか、黙ってしまって」

「ん? いや、勉強の邪魔をしちゃ悪いかなって」

「わかっていますよ。私に見とれていたんでしょう」

「そういうところあんまり変わってないよな」

 合ってるんだけど。
 いつまでも子供だなんて、考えてはいなかったつもりだったけどさ、……大きくなるのはあっという間だな。
 俺は氷水に近づきつつあるアイスコーヒーをすすった。……もう少しだけ、アイスの季節が続くはずだ。
 また一つ問題の答えにたどりつき、ペンを走らせ終えた幸子が、コーヒーのおかわりを頼んだ。彼女はホットを飲んでいた。

「まだ暑くないか?」

「私は受験生ですから。身体を不用意に冷やしてはいけないんです」

「ふむ」

 じゃあ、もういいか。残暑が過ぎ去ってからと思っていたけど。
6 : ◆MhRo2YnWE.V/ [saga]:2016/09/28(水) 12:56:53.15 ID:MuKRWnx20
 俺は身体を反らせて、カバンの中に入れておいたアレを取り出す。
 なにごとかと顔を上げた幸子に、軽く片手で手渡した。

「ほい、どうぞ」

 受け取ってから、きょとんとした顔をしている幸子。その手にあるのはプレゼント用にラッピングされた、紙袋。サプライズの甲斐があるというものだ。
 丸くした目を俺と紙袋を交互に向けて、なんだか笑いをこらえているような顔で口を開く。

「私の誕生日、まだですよ」

「そうだったかな? 忘れちゃった」

「……じゃあ、別カウントですからね」

「がめついな、君は」

 幸子の声は弾んでいる。紙袋を急いでがさがさと開けはじめた。中に何が入っているのか気になって仕方ない様子だ。
 袋の中身は、薄く赤みがかった白のマフラーだ。
 気の早い、冬物を扱う店で見かけて、彼女に似合うかな、と思ったら何となく買っていた。
 すぐに幸子はマフラーを首に巻いて、その手触りと暖かさを確かめるように、やわらかに撫でる。

「……ありがとうございます。とても嬉しいですよ」

「どういたしまして。うん、よく似合ってる」

 こんな風に、彼女が素直にお礼を言えるようになったのは成長だな。照れてお礼だか自慢だかよくわからない言葉をまくしたてる幸子も、カワイかったけどね。
 ……俺もな、こうしてプレゼントを受け取ってくれて、喜んでもらえるのが嬉しいよ。
 なんちゃって。
7 : ◆MhRo2YnWE.V/ [saga]:2016/09/28(水) 12:58:03.15 ID:MuKRWnx20
またそのうちにつづきを投稿します
読んでくださった方ありがとうございました
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/28(水) 13:13:42.45 ID:R0YhMhl8O
はよはよ
9 :運営終了は犯罪 [sage saga]:2016/09/28(水) 13:15:36.88 ID:2SVmtgIF0
ダンジョンプリンセス全カード集めたかった

ラビリンスバインに似てるゲームチン巫女ゲーしたいです

ハーレムカンパニー艦これに似てるゲームも終わった

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