【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン

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698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2021/03/26(金) 06:02:21.23 ID:N9GwjPOO0

キアラン「……なにゆえに…」


古き日のグウィンドリン「裁かぬ暗月を怨むなら怨め。罪なき身を呪いたいのならば、止めもせぬ」

古き日のグウィンドリン「だがそなたが何と言おうと、暗月は意を曲げぬ。折らぬ。断固としてな」

古き日のグウィンドリン「それでも尚、そなたが裁きを欲すると言うのなら、もう構わぬ。そなたを黒森に追放する」


キアラン「!!」


暗月の君子の言葉の末を聞き、キアランは驚愕を露わに顔を上げた。
黒森。またの名を、黒い森の庭。
そこはかつて、人の国の領地であり、今は捨てられ、神の盟友に護られた封地となって久しい。

しかし、かつて王家の森庭と語られたその地に眠るのは、人の豪族たちだけではない。
ウーラシールに赴いたかの神は、しかし帰らず、ただ残った功績と伝説と共に、名をその地に葬られている。
そして、アノール・ロンドに生きる神々には、あるひとつの葬祭の掟が伝わっている。

倒れし者の魂は、倒れし者にとっての真の友のみが継ぎ、心と力を継承する。
神代では、それは戦友の習わしであったのだ。



キアラン「グウィンドリン様…」


古き日のグウィンドリン「立ち去りたまえよ。裁きはくれてやったのだ。もはや我らに用もなかろう」


暗月の君子は返答を求めない言葉、捨て台詞をも吐いたが、声はあくまで柔らかく、優しさを宿していた。
キアランは顔を伏せて涙した。
喪いし半身。半ば死した心。それらを産んだのは、ある戦神を帰さなかった、静かなる森の暗がり。
かつての友が闇を歩き、闇を祓ったその森に送られることが何を指すのかは、戦友の習わしを知るキアランは、涙する程に理解していた。
誰にも護られず、見られぬままひとり逝き、多くの友と未練を残した、供養もされぬ無念の魂が、ようやく憩うのだ。
底深き暗月の慈悲によって。


キアラン「…このキアラン…しかと、神罰を賜りました…」


立ち上がったキアランは涙声まま、涙に濡れた顔を拭うと、兜を被り、仮面をつけた。
顔は隠れたが、はるか以前から暗く沈んでいたその気には、わずかに光がさしたようだった。
そしてかの女神は踵を返し、謁見の広間から去った。



コブラ「ちょいとばかし、俺はあんたを誤解していたみたいだな」


グウィンドリン「誤解?」


コブラ「いやなに、案外と粋なところもあるんだなと思ってよ」


グウィンドリン「粋か……いや、いささか疲れたというだけだろう。この身も心も、多くに長らく縛られていた」

グウィンドリン「その縛りへの、ささやかな反抗心だったのだろう」


コブラ「ふーん…それにしちゃ、女の子を泣かせた時のあんたの口元は、得意そうだったぜ」

コブラ「少しは気が晴れたんじゃないのか?」


グウィンドリン「フッ……そうかもな」



風景が溶け、神々の姿が描き消えていく。
それと共に、コブラは頭の奥底に覚醒の気配を感じていた。
記憶の世界が狭まり、辺りが闇に包まれると、その闇も白みはじめ、眼に陽光の温もりを感じ始める。
消えゆく世界の中で、グウィンドリンに手を触れられて、コブラはその眼を閉じた。



かくして、月と太陽の光の女神の名は忘れさられ、アノール・ロンドは失われた。



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