【スペース・コブラ】古い王の地、ロードラン

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105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/30(金) 00:35:28.64 ID:JWwlT/7/0
コブラ「こいつはどうも網に掛かりそうには無いぜ……虫籠も特注品を用意しないとな」

レディ「貴女、私たちをハメたのね?」

ビアトリス「そんなつもりは無かった。ただ…」

コブラ「悪意が無かった訳では無い。そうだろ?」

ビアトリス「察しがいいな。だが問題はないだろう?不死の身には些細な事だ」


ヴィオオン!


溢れ出るソウルを束ねた月光蝶は、人の頭ほどもある大きなソウルの塊を三つ作ると、それぞれをコブラ達に向けて放った。
放たれた緑光のソウルは三者に向かって直進するが、その速度は遅く、亡者の小走り程度の速さしかない。
それゆえに、飛び越したり、または避けたりする事も容易だった。


コブラ「へっへっへ、案外たいした事ないでやんの」

レディ「油断しないでコブラ!コレは…」

グォン

コブラ「あらぁ!?」


しかし、ソウルの塊はまるでミサイルのようにコブラ達を追いかけ始めた。
ビアトリスは青い閃光を杖から放ち、自身を追いかけるソウルを打ち消したが、それだけに留め、月光蝶から距離を置いた。
コブラは低速の追尾物が、自分達の世界でどのような使われ方をしていたかを思い出した。


コブラ「レディ!手すりの陰に隠れろ!遅いヤツは当たる寸前にかわせばなんとかなる!」


こういう時のコブラの言葉には絶対の信用を置いているレディは、コブラの言葉に従った。
二人は手すりの陰に身を伏せて、ソウルの塊が迫るのを待つ体勢に入った。


ヒュドドン!!


直後、手すりに針のように鋭いソウルが複数発着弾した。
ソウルの塊は二人に向かって直進する。

コブラ「今だっ!」バッ!

ボヒュウウン…

だが、ソウルの塊は急激に身を翻したコブラとレディを追いきれず、弾道を乱して手すりに直撃した。



コブラ「機動力を殺すための追尾弾を撃っておいて、本命の狙いは済ましておく」

コブラ「狡猾なやつだ。虫にしておくのは惜しい」

コブラ「レディ、怪我はないか?」

レディ「そうね、火傷した手と背中が少し痛むわ」フフッ


ビアトリス「次が来るぞ!」



ビアトリスが声を上げると同時に、月光蝶は高く飛翔した。
そしてコブラ達の真上で止まると巨大なソウルの塊を生成し、二人へ向けて落とした。


ズオッ


しかし塊がコブラに直撃するより一瞬早く、サイコガンは抜かれていた。


ドグワァァーーッ!!



放たれたサイコエネルギーはソウルの塊を霧散させ、月光蝶の右翼に大穴を穿った。


106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/09/30(金) 08:01:25.95 ID:JWwlT/7/0
ビアトリス「なっ……」



魔女は言葉を失った。
魔法とはソウルを操る方法の一端に過ぎないが、習熟した者は、ソウルへの知識と感覚を深めることが出来る。
だからこそ、自分自身のソウルを消費せず、空間からソウルを抽出して練り上げ、放つという離れ業を行えるし、個人の力量に合わせたその行いの限界も把握できる。
術者が魔法を使うとき、それにどれだけのソウルが込められているかを見極める感覚を、多くの魔法使いと同じく、彼女も持っていた。

しかしコブラの放った、ソウルとは似て非なるが、本質はソウルそのものとも言える力…

『サイコエネルギー』は、凄まじい力場のうねりであり、彼女の理解を超えていたのだった。



バファッ…



翼を射抜かれた月光蝶は、降り積もる雪のように、淡い音を立てて橋に墜落する。
コブラはそれを見て、誇らしげに鼻をすすった。


コブラ「へへへっ、上手くいったぜ。やっぱり何でも試してみるもんだな」

レディ「コブラ、大丈夫なの?サイコガンなんて撃って」

コブラ「平気さ。コイツがソウルを大きく膨らませた時に、俺はサイコガンを撃った。つまり使った分のソウルを、そこらを漂ってるソウルを吸収して補ったって訳だ。だんだん慣れてきたぜ」

レディ「無茶するわね。吸収したソウルが少なかったらどうしてたの?」

コブラ「さぁてね。その時の俺にいつか聞いてみるよ」



ビアトリス「今のは…?」


コブラ「ん?この手はちょいとドジった時にね。驚かせたかな?」

ビアトリス「手?……ぅうわぁ!何だその手は!?」

コブラ「今一話が噛み合わないな。さっきは何に驚いてたんだ?」カチリ

ビアトリス「え?あ、ああ……さっきのはつまり…」

コブラ「つまり?」

ビアトリス「………いや、すまないが考える時間をくれないか。頭が混乱している」



ブワッ!



レディ「あっ!」



墜落した月光蝶が再び羽ばたき、その身体にまたもソウルを溢れさせる。
コブラは背負った大剣に手を掛けたが、その剣が抜かれる前に…

シュドーン!

ビアトリスの魔法『強いソウルの太矢』が、半死半生の月光蝶を貫いた。
月光蝶はその身体を崩し、霧のようなソウルを辺りに散らし、消滅した。



レディ「また見せ場を取られたわねコブラ」ウフフフ

コブラ「なぁに、三枚目の顔にはかえってちょうどいいさ」

ビアトリス「コブラ」

コブラ「ハイなんでしょ?」

ビアトリス「…やはり、分からない事が多すぎる……手間を掛けるが、話してはくれないか?貴公の事を」

コブラ「嬉しいねえ。女の子に口説かれるなんて久しぶりだ」

ビアトリス「口説いている訳では無い!本当に礼という物を知らんのか貴公は!」

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/30(金) 12:38:34.75 ID:+UU9v/9pO
でもこれを取ったらコブラじゃないしなぁ
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 00:36:09.79 ID:LqTL/SuGo
らしくていいよねぇ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/12(水) 14:27:32.61 ID:EBZjZe1y0
コブラ一行から離脱した戦士は、森から抜け出し、祭祀場に戻っていた。
それは向こう見ずで無鉄砲に見え、その裏で策を練りつつ無茶を通すコブラの旅路に、危険を感じたゆえの逃避だった。


戦士(まったくなんて奴らだ。あんなのに付き合ってちゃ、あっという間に亡者になっちまうよ)

戦士(やっぱり俺はここに座ってるのが一番だ。分相応ってヤツだな。ハハ…)

戦士(やっぱり俺は……)


しかし逃避した先の祭祀場は、すでに男の心を慰める場所ではなくなっていた。
遠くから微かに聞こえる、イビキにも似た音に不快感を示している訳ではない。
何もかもが『また戻った』事に、失望していたのだった。


戦士(ロードランは選ばれし不死のみを通すらしいが、通された不死はみんな亡者になっちまってるじゃねえか)

戦士(そんなもん選ばれてる訳でも何でもねえ。遊ばれてるだけじゃねえか。大体なんで選ばれたのが俺みたいな雑兵なんだよ。伝承の戦士なり英雄様なりを不死にして、とっとと使命を果たさせろってんだ。迷惑なんだよ)

戦士(おかげでムカついても酒の一滴も飲めやしねえ。糞も小便も出ねえからやけ食いもできねえし、ロードラン自体に食える物がそもそも少ねえ。口に入るのはエストだけだ)

戦士(神々の地だぁ?馬鹿言え…)

戦士(ここは最初の死者の棺桶だよ……)













「やっと戻ってこれた…」ガサッ



戦士「?」



ソラール「やはりここの篝火はいい。心が癒される」

小沼の呪術師ラレンティウス「さすがにアレは俺の呪術でも手一杯だ。あんなに数がいたんじゃ火が保たないよ」

ヴィンハイムのグリッグス「た、助かった…」

ソラール「少しここで休憩しよう。不死とはいえ休みは必要だ」



戦士(あいつら…ずいぶん前にここを出たっきりだったが、まだ正気だったのか?)

戦士(しかも何やらつるんでるな。確かに、一人で使命を果たすなんて無理な話だわな)

戦士(まぁ、俺には関係ない事か)




グリッグス「あ、彼は確か…」

ラレンティウス「待て、そっとしておけ。落ち込んでいる奴を無理に励ますものじゃない」

グリッグス「しかし、我々だけで最下層を抜けて病み村に行くのは無理だ。少しでも戦力を…」

ソラール「いや、彼の事はいいんだ。彼にも、その、やる事があるんだ」



戦士(やる事か……確かにあるさ)

戦士(でも無理だ。俺には出来ない)


110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/12(水) 14:30:41.35 ID:EBZjZe1y0
小沼じゃねえよ大沼だ
どうやったらこんな書き間違えできるんだ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 14:58:19.18 ID:UqSFyDssO
ソラールさんの優しさが心にしみる……
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/13(木) 08:16:04.40 ID:pqizT1gx0
自嘲思考に陥った戦士は、三人を心の中で嘲笑いつつ、また、崇敬の念なども抱いていた。
しかしそれらは複雑に混ざり合っていたため、俺とあいつらは違う、という思考に終始していた。
大沼から来た呪術師、ラレンティウス。
ヴィンハイムの元学徒、グリッグス。
太陽の戦士を自称する男、ソラール。
彼らの名前が頭に浮かび、それらを自分と比べる。
そして気付く。


戦士(あ…?)

戦士(おい、おかしいじゃねえか…)

戦士(なんでだ?……おい、なんだよコレ…)



自分の名前を思い出せない事に。
それは、不死としての終焉。限界を意味していた。





ソラール「しかし弱った。貴公の言うとおり、戦力は足りない。醜悪な人食い竜に辿り着く頃には呪術も魔法も、俺の雷の槍も尽きていた」

ソラール「なんとか撃てる回数を増やせないのか?」

グリッグス「それは無理だ。体系化された魔法には、それだけの理由があるんだ。限りを超えて魔法を使えば、術者からソウルが失われ、力尽きてしまうだろう」

ラレンティウス「俺の呪術も理由は違うが、まぁそんな感じだ。自然の成り行きには逆らえない。篝火で火を継ぎ足さないと呪術の火が弱まっちまうんだ」

ラレンティウス「アンタこそどうなんだ?聖職者なんだから、他にもいろいろ使えるんじゃないのか?神に祈った事が無いから、奇跡についてはよく知らないが」

ソラール「悪いが俺は聖職者じゃない。この雷の槍も、太陽に祈っていたらいつの間にか出せるようになっていただけだ。ある意味、これこそ本当の奇跡かもしれんな。ハハハ」



戦士「な、なぁ、ちょっといいか?」



ソラール「ん?なん、なんだ?どうした?」

戦士「なんというか、迷惑かもしれないが、俺も仲間に入れてくれたらありがたいんだが…」

グリッグス「驚いたな…君がそんな事を言うとは…」

ラレンティウス「おいその言い方は無いだろう。仲間に引き入れたいと言ったのはあんたじゃないか」

グリッグス「いや、そうなんだが、少々意外だったもので…」

戦士「迷惑ならいいんだ。俺は小心者だし、役に立てるかも分からないからな…別にいいんだ…」

ソラール「いいや、十分にありがたいさ。仲間が増えるのは心強い。貴公らもそう思うだろう?」

ラレンティウス「俺はそれでいいと思うよ。こいつがどうかは分からんがね」

グリッグス「しっ、失礼だな!その言い方ではまるで私が悪役みたいじゃないか!」

ラレンティウス「ハハハ」

ソラール「まぁそういう訳だ。よろしく頼む」


戦士「あ、ああ…そうか…そいつは良かった…」






不死とは、生と死の境目が弱まった者達の事を言う。
それは生者にも死者にもなりきれない事を意味しており、いわば無限に崩壊していく生体である。
死ぬたびに僅かづつだが、肉体の再構成は正確さを欠いていき、灰に近づいていく。
ソウルを元に意思や思考を決定する器官、脳も、例外ではない。
肉体的な破滅を長らえる代わりに、精神的、人格的な死をより際立たせるのが不死。
なればこそである。

戦士はそれを恐れ、恐怖を紛らわせるために、旅の一行に加わった。

そして、彼の逃避行が世界の命運に一石を投じることとなる。


113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/13(木) 12:27:16.77 ID:pqizT1gx0
四人の不死が病み村を目指して旅を始めたころ、コブラは苔むした石造りの塔の上で、つかの間の休息を楽しんでいた。
もっとも、魔女ビアトリスの質問攻めをその間にも浴び続けていたのだが、お喋りなコブラにとって、苦では無かった。






ビアトリス「………」


コブラ「とまぁ、そういう訳で俺の講義は終わりだ。質問があれば手を挙げてくれ」

ビアトリス「質問、か………本来ならば一笑に伏す話だったが、私の見たものは事実だ。貴公の話も、恐らくは真実なのだろうな…」

ビアトリス「だが私には分からない……数多の星々を巡り、神秘のからくりを扱える貴公なら、不死の使命など知る必要もないではないか。もし貴公の言う仮説の通りに、この地が星々の一つに過ぎないのなら、元の星に帰れば済む話だろう?時空さえも越えられるなら、尚更ではないか…」

コブラ「それをしようにも船を無くしちまったもんでね。それにタイムスリップと次元跳躍、ワープ航法は、似ているようだが全くの別物だ。しかもここに飛ばされた時に使われた原理が分からないときてる。脱出は無理だね」

コブラ「それに次元跳躍にはウサギが必要だ」

ビアトリス(兎?生贄の儀式も操るのか……この男は一体いくつの秘術を会得しているんだ…?)

ビアトリス「……よくわからないが、貴公がそう言うなら、そうなのだろうな…」


ビアトリス「して、貴女はいつになったら鎧を脱ぐんだ?そこまで身体に密着した鎧では、息も苦しいだろう」

レディ「問題無いわ。コレでも健康体よ?なんなら握手でもしてみる?」スッ


ギュッ


ビアトリス「!? こ、これは…!?」

レディ「どう?そんなに窮屈な手触りじゃないでしょう?」

ビアトリス(柔らかい……それに、ソウルの流れを感じる…)

ビアトリス「貴女は一体…」

レディ「私はサイボーグよ。言うなら、心を持ったカラクリ人形ね」

コブラ「その言い方はあまり好きじゃないね。いつから自分を卑下するようになったんだ?」

レディ「あら、そんなつもり無いわよ?大事なのは外見よりも心だもの」


ビアトリス「心のあるからくり……まさか、貴公らはウーラシールの喪われた魔術も…?」


コブラ「知らんね。あいにく魔法は絵本で楽しむタイプなんだ」

ビアトリス「またはぐらかすのか……貴公も酷い男だな」

コブラ「よしてくれ、そんなに褒められるのは慣れていない」



ビアトリス「ところで、貴公らはなぜこの森に?病み村の毒に対する薬草を摘むより、商い者から買った方が楽なのでは?」

コブラ「なに?商人がいるのか?そいつは驚きだ。さてはあの野郎隠してやがったな。今度会った時はこってり絞ってやるか」フフ…

ビアトリス「知らなかったのか。まぁ、あの男も隠していた訳では無いだろう。商人達の大抵は戦う力が無いゆえに、辺鄙な所で店開きをするからな。私が知っているだけでも、最下層あたりの下水に二人はいた」

コブラ「前言撤回だ。そんな所で薬草なんて買ったら、買ったそばから使っちまう。あいつには花でも摘んどくか」



コブラ「さってと!」シュタッ!

コブラ「やる気が残っているうちに、さっさと病み村とやらに行くとするかな!ここにいたんじゃ安らかすぎて、元の世界に帰る気が失せてくるってもんだ」

ビアトリス「まぁ待てコブラ。別れる前に、貴公に渡す物がある」スッ

コブラ「?」


ビアトリス「ここらに自生してるキノコを焼いたものだ。食のいらない不死の私には無用の物だが、不死ではない貴公には必要だ。取っておくといい」

コブラ「そいつはありがたいが、いいのかい?食べもしないのに持ち歩いているって事は、何かに使っていたって事だろ?」

ビアトリス「人の世にいた頃の、野にいた自分を忘れそうな時に、コレの香りを嗅いで私の源流を思い出すのには使っていた。だが食用であるなら、採るだけの者より食べる者の手にあった方が相応しいだろう?それに稀少な種類という訳でもない。無くなったら、その時はまた採りに来るさ」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/13(木) 14:05:19.84 ID:pqizT1gx0
ビアトリス「それと……これだな」スポッ


ビアトリスはおもむろに、指にはめた指輪を抜き、コブラに手渡した。
その指輪にはなにやら文字らしきものが隙間なく刻まれていたが、その文字はコブラの知るいかなる文化圏にも、属していなかった。



ビアトリス「コレは老魔女の指輪と言ってな。伝承にある魔女……と言っても、名前すら忘れられて久しい者だが、その魔女が身につけていたとされる物だ」

コブラ「変わった指輪だな。実際に重くはないんだろうが、変にズシリとくるぜ」

ビアトリス「この地に来る前、行倒れを世話した時に譲り受けてな。なんでも、その者も土に埋もれていたそれを偶然に見つけたらしいのだが、それには確かに、何らかの強い魔力が込められている」

コブラ「ほぉー…魔力ねえ」

ビアトリス「しかし、何を試そうが、その指輪の威力を引き出すには至らなかった。はっきり言うと、私には過ぎた物だということだ」

コブラ「お、おいおい、さっきの話で買いかぶってやしないか?俺は大魔法使いじゃないぜ?俺が出来るのは手品だよ」

ビアトリス「貴公に言わせればそうなのであろうが、私はその手品に驚き通しだ」


ビアトリス「魔法で解けぬなら、貴公の手品で、その指輪を解いてやってくれ」


コブラ「分かったよ。そこまで言うなら貰ってやる。でもあんまり期待しないでくれよ?期待されると胃が痛くなってくるからな」

ビアトリス「フフッ…そうするよ」


コブラ「それじゃ、運が良かったらまた会おうぜ。その時の為に土産話の一つでも用意しておこう」

コブラ「行くぞレディ!」

レディ「ええ、行きましょう!」




タッタッタッタッ…








ビアトリス(なんという足の速さだ。もうあんな所まで…)

ビアトリス(一体、何度驚かせれば満足するんだ?)クスッ

ビアトリス(あの速さで病み村まで行くんだ。やはり同行させてくれと言わなかったのは正しい選択だったな。足手まといにはなりたくない)



ビアトリス「貴公らの旅路に、炎の導きのあらんことを」











115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/13(木) 15:20:42.17 ID:C1ZNxO17O
レディが頼めばコブラは喜んで抱き抱えて運んでくれるのに
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/13(木) 19:06:50.87 ID:pqizT1gx0
コブラとレディは駆けた。
木々の間をくぐり、月明かりの下から抜け、祭祀場に辿り着くと小ロンド遺跡に降りた。
次にこじ開けておいた格子扉を抜けると、今にも崩れそうな木製の橋を渡った。

そして、腐臭漂う大きな横穴に辿り着いた。



コブラ「ひどい臭いだなまるでゴミ溜めだぜ。こんなに臭くっちゃハエも寄りつかないだろ」

レディ「こういう時にアーマロイドで良かったって思うわ。だって臭いものには蓋ができるもの」

コブラ「元の世界に戻ったら鼻にフィルターを作ってもらうよう、医者に頼んでみるよ」



悪態をつきながらも、コブラとレディは横穴を進んでいった。
暗く、足元もぬかるんでいるため、走りはしなかった。



コブラ「なんてこった。見てみろレディ、人がいるぞ」

レディ「あら本当ね。でもこんな所になんで?」

コブラ「どうだっていいさ。おーい!ちょっと道を尋ねたいんだがね!お時間はいいかな!?」



だが、その暗くぬかるんだ道を、二人は走らなければならなかった。



巨漢亡者「コァオオオオオオオオ!」



大きな丸太を担いだ2メートル超えの肥満体が、コブラに向かって全力疾走を始めた。
距離こそ離れているが、巨漢の口から発せられる咆哮は悪臭を伴い、二人の身体を通り抜ける。
しかもその咆哮は他の巨体自慢の意識も覚醒させ、得るべき食料に注意を向けさせた。
もっとも、彼らに自分の体格を意識するほどの自我は残っていないが。


コブラ「はー!また亡者か!もう合う奴全部亡者だと思った方が良さそうだな!」ダッ!

レディ「動きも鈍そうだわ!一気に通り抜けましょう!」ダッ!

コブラ「俺は真ん中を通る!レディは俺を目で追った奴らの後ろを抜けろ!」タッタッタッ…


ブワオン!


先頭の巨漢が無造作に振り回した丸太は、身を低く、まるで蛇のように駆けるコブラの髪を掠めた。

ドゴーン!

その丸太が岩壁を砕いた時、第二第三の丸太がコブラを襲ったが、それらは空を切った。
三人の巨漢の視線は、この瞬間、一人はどこも見ておらず、残りの二人はコブラを見ていた。
レディが通り抜けるスペースは十分に稼いだ。

ササーッ!

レディは開いたスペースを、蛇を追う猟犬のように、ジグザグに走り抜けた。
しかし巨漢達の最後尾の男の視覚は、コブラが思ったよりも粗末だった。
音を頼りに適当に丸太を振るう三匹目の手元は、でたらめだった。
コブラに向かって振られた丸太も、本当は何を標的にしていた訳でもなかった。

ブーン!

三匹目とレディが隣り合った瞬間、丸太はレディの側頭部を殴りつける寸前だった。
だが、視覚があろうが無かろうが、その巨漢にレディがくぐり抜けた修羅場の数を知るすべは無かった。

ガイン! ボグゥン!

一瞬だけレディが掲げた腕は、丸太の軌道を大きく逸らしたが、新たに推力を加えた。
巨漢の腕を離れ、持ち主の頭を潰すほどの推力を。


コブラ「思わぬ追加点だなレディ!腕を上げたんじゃないか!?」

レディ「ええ文字通りね!」


タッタッタッタッ…
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/13(木) 19:12:00.71 ID:pqizT1gx0
×合う奴全部
○会う奴全部
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/13(木) 21:08:17.41 ID:WY1EQ15ko
文字通りに腕を上げたにちょっとクスリときた
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/13(木) 21:29:22.20 ID:X0fPUuWjO
本当にレディは良い女だなぁ
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/14(金) 13:50:45.79 ID:csxUMTxe0
巨漢達を振り切ったコブラはそのまま走ったが、すぐに思わぬ形の行き止まりに当たった。


コブラ「おわっとっとっとぉ!まっ、待ったぁ!」


足元の岩場は途切れ、代わりに朽ちかけた木板で組まれた、頼り気の無い足場が広がった。
足場の奥に見えるのは、広大な空間と、目も眩むほど下にある汚泥に塗れているであろう地面と、そこを蠢めく者達の姿。
落ちれば絶命は免れず、万が一に免れたとしても、その者達の餌食になるだけである。


コブラ「なあんてね!へへへ」

コブラ「病み村って言うくらいだから民家の一つもないとなぁ!」


足場には松明をくくりつけた灯台が置いてあり、小さな炎が、腐った木々で組まれた家屋とも呼べぬ囲いや、蛆の湧く梯子や、粘液を滴らせる昇降機などを寄せ集めたような、巨大な構造物を照らし出していた。
その構造物を降りていけば、安全に下まで降りて行ける事も、容易に想像できた。


レディ「コブラ!彼らが追ってくるわ!」

コブラ「君が先に降りてくれ。でも急いでくれよ!」

レディ「ええもちろんよ!」タッ!


タン!タン!シュタッ!


コブラのすぐ横を通り抜けたレディは、そのままの勢いで跳躍し、構造物を降りていった。
耐久性に難のありそうな梯子や床板を通るより、硬そうな足場を選んで飛び降りた方が速く、そして安全に降りていける。
その判断をしたのはレディだけではなく、コブラもだった。


コブラ「おっほほ!こりゃいいね!遊園地に来てるみたいだ!」タン!スタッ!


ヒュッ!


コブラ「おろっ!?」



大きな影が、コブラの横をまたも通過する。
その速さは尋常ではなく、降りるというより、墜落していくようだった。


バキャア!!



巨漢の亡者達は知覚に劣るだけでなく、無謀で、しかも愚かだった。
落下する亡者はコブラが着地するはずだった床板を突き抜け、梯子に突き刺さったが、それでも勢いを殺すことなく落下を続けた。
柱を砕き、壁板を巻き込み、地面のぬかるみで肉塊になる頃には、構造物に一直線の縦穴を穿っていた。


コブラ「おいよせよ、今時カミカゼなんて流行らないぜ」


穴の開いた床板にかろうじてしがみついたコブラだったが…


ヒュロロロ…


コブラ「なぁーーっ!?」


真上から降ってきた第二陣から避難するため、穴の淵に食い込ませた指を外し、レディの方へ飛びのいた。
そしてレディの腰に手を回すと、ワイヤーフックをリストバンドから射出し、遠くの石壁に引っ掛けた。


レディ「ちょっ!?コブラ!?」

コブラ「このまま降りるのはヤバイぜレディ!予定変更だ!」ブゥウーーーン!


ズババァーッ!


コブラ達が振り子の原理で崩壊から脱出した直後、三人目の巨漢が構造物を突き抜けた。
支柱と基礎の幾つかを失った構造物は呆気なく崩壊し、木々の墜落する衝撃は、広大な大空洞を揺らした。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/14(金) 17:47:30.61 ID:csxUMTxe0
その頃、最下層では…



ズズズズゥン



戦士「おい!感じたか?今の揺れ」

ソラール「あの貪食竜が暴れているんじゃないか?」

グリッグス「まさか、そんなはずはない。我々は奴に会った事は無いし、奴も我々の匂いを嗅いではいない。感知できるはずは無いし、仮に感知出来ていたとしても、アレが暴れた程度でこの最下層の下水全体が揺れるはずが無い」

ラレンティウス「ずいぶん竜について詳しいが、見たこと無いんだろう?」

グリッグス「私は見たことが無いが、見たことのある不死と話したことはある」

ラレンティウス「そいつはどうした?」

グリッグス「ここのどこかで商売しているらしい」

戦士「商売?こんな酷いところでか?」

ラレンティウス「いや、見た目ほど酷い所じゃない。本当にやばい所だと、こうやって歩いてるだけでも毒に蝕まれるはずだ。大沼に住んでた俺が言うんだから間違いない」



ゴゴゴゴ…



戦士「また揺れたぞ!」

ソラール「先を急ぐか。何も起きないかもしれないが、何か起きたらまずい」ダッ!



タッタッタッタッ…









122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 07:45:22.45 ID:0HWheuQZ0
コブラ「ふー、危なかったぜ。あんなむさ苦しいのと心中はごめんだ」

レディ「降りられそうな場所はないかしら?」



宙吊りのコブラは、脇に抱えたレディと着地に適した足場を捜し、幸運にも、早々に発見できた。
糞尿のような色合いのぬかるみが延々と続く大空洞だったが、その端に、ぬかるみから妙に小綺麗な巨木が生えていた。
しかも、先の構造物に引けを取らないほどに巨大な。


コブラ「あそこなんかが、おあつらえ向きだろう。あそこまで飛ぶぞ!」


シャーッ スタッ!


その巨木の根に飛び降りたコブラは、背負った大剣を根に突き立て、皮を剥がし始めた。
レディは一瞬、コブラが何をしているのか分からなかったが、すぐに察知し、作業に手を貸した。


レディ「当てるわ。ソリでも作る気でしょう?」ガリガリ…

コブラ「残念、作るのはただのボードさ。見た感じだと、地面に張ってるドロドロはかなりの弾性と粘着性を持ってる。ソリだと設置面積が広すぎて身動きが取れなくなる」ガリガリ…

コブラ「だがそれが一枚の細い板なら、面積が少ない分、身動きも取りやすい。推進力さえあれば泥の上でスノボーが出来るぜ」ミシミシ…

コブラ「しかもこの根の皮はかなり頑丈な上に反った形をしている。それこそ、おあつらえ向きってヤツさ」バキッ!


コブラ「完成だ。なかなか悪くないだろ?」ゴトッ


レディ「流石ね。でも、そのボードでここを探索するにしても、推進力が無いでしょ?」

コブラ「推進力にはコイツを使う。ワイヤーフックだ」

レディ「それじゃあ、カゴは?」

コブラ「カゴ?」

レディ「ええカゴよ。泥の上を滑れるにしても、泥の中の宝石は掬えないでしょ?それとも、いちいち降りて掘り出すつもりかしら?」



木の根に降りる前、宙ぶらりんになっている時に、二人はぬかるみの各所に小さな輝きを見つけていた。
緑色の宝石や、大きな黒真珠の欠片のような物が目立ち、コブラもレディも、それを回収するつもりでいた。
ただ、それは二人にとってあまりに当然な共通認識だったため、二人とも口には出していなかった。



コブラ「そういやそれがあったな。仕方ない、カゴも作るか」

レディ「枝を探しましょう。細くてしなやかな物がいいわ」

コブラ「りょーかい」


コブラ「いやぁそれにしても酷い臭いだぜ…スーツに染み付いたら最悪の旅になるなこりゃあ」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 12:18:33.30 ID:Bv7ftn3jo
服はまだ変えればいいけどレディの方は本当にヤバいな
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 12:57:08.22 ID:0HWheuQZ0






ソラール「…………」

戦士「…………」

グリッグス「………」

ラレンティウス「………」



最下層をひたすら進み、大鼠や、呪い眼のバジリスクや、六つ眼の人さらいらを斬り伏せ辿り着いたのは、下水を処理するためにしては不自然すぎるほど広大な、石造りの空間だった。
天井には大きな割れ目が穿たれており、そこから差す陽光が汚物に濡れた石畳を照らし、床の三分の一を占める暗い穴を、より一層黒く浮かび上がらせている。


ズズ…


その穴から、小さな鰐が顔を出した。
ガラス玉のような無垢な瞳が周囲を見渡している。
ソラールら旅の一行は、決して気を緩めず、むしろ一際緊張していた。


ズドン!!


脂ぎった鱗に覆われた六本指の、人の家ほどもある巨大な一本足が、石畳を揺らす。


ズドン!!


二本目の大足が石畳を揺らすと、巨大な翼膜を持ったコウモリの翼が、影を広げ、ソラール達から陽光を奪った。


ドドン!! ドゴオン!!


更に四本の大足が石畳にめり込むと、翼は四枚に増え…



貪食ドラゴン「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」



頭から下腹部まで開かれた大口が、百を超える曲刀の如き牙を覗かせた。
竜の体躯は山のようであり、体臭は水に溶けた骸のようだった。



ソラール「太陽よ!我らの背にあれ!」



太陽の戦士は三人の仲間と共に、巨竜に突撃する。
グリッグスは手に持った杖に魔力をたたえ、ラレンティウスの右手は真っ赤な炎に包まれた。
名を忘れた戦士も剣を構えて駆け出したが、剣より盾が前に出ていた。

ズバァン!!

竜は塔のように太く長い尻尾を振り回し、先頭にいたソラールを虫をはたくかのように吹き飛ばす。
太陽の戦士の盾は一撃で歪み、ソラールが空を飛ぶ姿は、戦士の眼に大砲から放たれた砲弾のように映った。

ドン! バスゥン!

グリッグスのソウルの矢は竜の口の中を傷つけるが、痛みなど竜は意に返さず、今度は前足でラレンティウスを掴み上げる。

ラレンティウス「うおおおおおおお!!」ボワァ!

闘志とも恐怖ともつかない混沌とした激情に突き動かされたラレンティウスは、大口に放り込まれる寸前、右手から火の玉を放った。
竜はソウルの矢に開けられた傷口を火炎に焼かれ、唸り声と共に、ラレンティウスを石畳に投げつけた。
ラレンティウスは背中をしたたかに打ち付けたが、糞便になって下水を永遠に流れる運命からは、かろうじて逃れることが出来た。
戦士は竜の足を幾度も斬りつけるが、出血はおろか鱗さえ剥がれない。
外皮が暑く、鱗は鉄のように硬いのだ。

ソラール「太陽おおおおおおお!!!」

口から血反吐を吹きながらソラールは立ち上がり、握ったタリスマンを掲げ、雷を槍状に束ねる。
それを見た竜の頭の中では、四つの餌が、四匹の敵へと変わっていた。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 20:43:58.45 ID:0HWheuQZ0
レディ「コブラ!今度はそっちにあるわよ!」

コブラ「了解しました!」



ドポポポポ…



ワイヤーフックを壁に刺し、巻き取る力でボードを加速させる。
そのコブラの思いつきは功を奏し、コブラとレディを乗せたボードは小気味の良い音を立てながら、ぬかるみの上を滑っていく。
高い粘性のおかげで波も立たず、飛沫も跳ねない。
おかげで、カゴを使った漁も簡単だった。






ガポン


レディ「また取ったわコブラ!コレで五つ目よ!」

コブラ「こんだけデカイ宝石だと、一個三億はは硬いだろうな!やっぱり旅には土産の一つも無いと…」グイッ


ドポポポポッ!


レディ「またキャッチしたわ!今度は緑色よ!」

コブラ「駄目だよなぁ〜!」





しかし、泥を掻く毎に舞い上がる悪臭だけは、どうにも出来なかった。




コブラ「ふぇっ……ふぇっく!」




それゆえ、悪臭に鼻を刺激されるたびに、コブラは顔を間抜けに歪めた。

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 20:46:04.35 ID:0HWheuQZ0
「は」が多すぎる
集中が落ちて駄目だ
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 20:48:57.06 ID:29aqMPTko
いや、気にならんよ?続けてどうぞ
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 21:45:14.05 ID:0HWheuQZ0
ビッシィーッ!!


ソラールの投げた雷の槍は、竜の口の中に突き刺さり、牙を一本削ぎ飛ばした。
怯んだ竜は身体を丸めて悶えるが、その背中を炎が焼く。

ドボォン!

ラレンティウスの炎は続けて竜の背中を焼き、爆煙が翼を伝って立ち昇る。
グリッグスの魔法は、その翼に幾つかの小さな穴を穿ち、竜の飛行能力を低下させる。


ブオワァッ!!


ラレンティウス「!」

グリッグス「むっ!?」



突如、竜が丸めた身体を伸ばし、大口を開いた。
怯んでいたのではない。怒りに身を震わせていたのだ。

戦士「避けろぉ!!」

戦士の叫びを聞き、その内容を理解するより速く、二人は転がるようにして竜の巨大な影から抜け出した。


バゴオオォォーーッ!!


二人は間一髪で、猛スピードで振り下ろされた、針山のような口に覆われた竜の上体を避け切る。
しかしその衝撃たるや凄まじく、石畳にあった、ありとあらゆる泥や埃や小石が舞い上がり、四人の身体は頭三つ分宙に浮いた。
戦士は石畳に落ちた後、素早く体勢を立て直す。
彼の剣は竜には通じない。

だが、刺さった牙を石畳から抜く為に、一瞬だけ竜の動きが鈍った。
その瞬間さえ逃さなければ、戦士のなまくらも立派な武器になるのだ。


ドカッ!


貪食ドラゴン「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!」



鰐の頭のような竜の頭部には、鰐の眼と同じような眼がある。
そこに刺さるのであれば、剣でも指でも何でも良い。


戦士「どうだ!クソ!少しは応えたか!」


戦士は息を荒げて悪態を吐いたが…

ガシッ! ビュン!!!

直後に足を掴まれ、玩具のように振り回され…


バキィ!


グリッグス「うごぉ!」


魔法使いの腹部に叩きつけられた。
グリッグスは吐血し、戦士と共に石畳を跳ね、壁に全身を打った。
竜はまだ死んではいない。むしろ小さな脳が傷を負った程度など、負傷の内にも入らない。


ベチィッ!!


その様子を目で追ったラレンティウスも、前脚の掌に払い飛ばされ、石畳に出来ていた水たまりに突っ込み、跳ね石のように転げた。
ソラールはエストを飲み、負傷を癒しつつも、仲間の元へと向かっていたが…


ズゥン!


その行く手を、竜が塞いだ。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 21:49:09.75 ID:0HWheuQZ0


コブラ「ふえっ……フエーッ!」

レディ「大丈夫コブラ?」

コブラ「は、鼻がムズムズして……ふぇっ…」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 22:07:37.46 ID:0HWheuQZ0
ソラール「しぶといな……」ゼェゼェ…


傷が癒えたとはいえ、消耗した体力はそう簡単には復活しない。
しかし怒りの持つ体力の回復力は驚異的であり、その恩恵は動物、そして竜においても例外なく与えられる。


ドドドオオォン!!




竜は跳躍した。
大空間の天井に翼が触れる程の高さにまで飛び上がった。
巨大な体躯であるがゆえに、空中での竜はまるで重力を感じさせないような軽やかさを放った。
だが太陽の戦士に降りかかるのは、絶命必至の質量攻撃なのだ。
いかにソラールが頑丈であろうと、彼の死は目に見えて明らかだった。


ソラール「フン!!」ダダッ!


半ばヤケクソに、ソラールは走った。
影は急速に大きくなり、ソラールが一歩進む毎に、四歩分は彼の前方に広がった。
しかしソラールは走った。とにかく走った。
走らなければ死ぬのだから、しゃにむに走った。
しかしついには観念し、諦めつつも、ソラールは全力で跳んだ。


131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 22:09:21.87 ID:0HWheuQZ0





コブラ「ぶえーっくしょい!!」

レディ「あっ、汚い!」




132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 22:10:47.57 ID:SVCB+Xuho
温度差がw
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 22:21:01.47 ID:ELTWWvwoO
ソラールの命の危険なのだと分かっていても笑いがww
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/15(土) 22:40:09.43 ID:0HWheuQZ0
ズドドドドォォン!!




そして奇跡は起きた。

竜が着地するはずだった地点の石畳が、何故か前触れなく崩落した。
無論、死に物狂いのソラールはその事に気付かない。
上体を起こして跳躍した竜も、体勢的に真下が見えないため、やはり気づけない。

戦士とグリッグスは、生きてはいるが伸びており、ラレンティウスも石畳の上でぐったりしている。




ドサッ!




太陽の戦士が石畳に腹を打ち付けた時、大空間は静かだった。




ソラール「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

ソラール「ん?……なんだ?…」



その静寂は、半狂乱だったソラールの精神を一瞬で現世に引き戻した。
腹ばいのまま辺りを見渡すソラールの眼に、遠くで伸びている二人の男と、遠くで伸びている一人の男が映る。
天井の割れ目からは陽光が差し、その光を遮る巨大な物が見当たらない。
竜が見当たらない。



ソラール「…………」


ソラール「…俺は生きているのか?」



そう呟いた時、伸びていた三人は身体を起こし始めた。
全くの無音の中では、呟きすらも遠くまで反響するのだ。



戦士「…ああ…なんとかなぁ…」

グリッグス「いててっ…!」

戦士「悪いな…今起きる…」

グリッグス「まったく、骨が折れたぞ…」ハァ…

ラレンティウス「なんとか……なったか…?」

戦士「ああそう願いたいね……うぇっほ!吐きそうだ…」



そして、彼らの言葉の反響が、コブラの起こしたカタルシスをより決定的な物にした。




ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!



ソラール「!?」

戦士「だあああああああああああ!?」




最下層の大空間は崩壊した。病み村を揺らした振動を発端にして。
石畳の全ては落盤し、四人の戦士は、竜と共に底の底まで落ちていった。

病み村まで続く、暗くて臭い大穴の中を。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/16(日) 07:37:20.77 ID:6qsRwhjh0
ドポポポポ…




コブラ「どうだレディ!収穫は?」

レディ「緑色の宝石が11個、大きい黒色の宝石が13個よ。やっぱりカゴを作っておいて正解だったわな。深く沈んだ宝石も取り放題よ」



ドポポポポ…



レディ(あら?でもコレって……)

レディ(宝石というより、色がついた金属?それに文字が刻まれているようにも見えるわね)

レディ(でも暗くてよく読めないし、コレは自力で解読出来るような物じゃなさそうだわ)

レディ(上に帰ったら……そうね…アンドレイさんにでも聞いてみましょう)



巨漢亡者「ごえええええ!!」

レディ「!? コブラ!前を見て!」

コブラ「大丈夫!このまま突っ切る!」


ドガーッ!


巨漢亡者「ごえっ!」ドチャッ

コブラ「そら見ろ、スノボーしてるヤツの前に出てくるからだ」



岩持ちの巨漢亡者達「むおおぉぉ…」



コブラ「ありゃ、団体さんだったか」

レディ「怒らせちゃったわね。追ってくるわよ?」

コブラ「追わせとけばいいさ。どうせこっちには追いつけやしないよ」



混沌の病み人共「ぶぉおお…」シャカシャカ…

大ビル達「…」うねうね

羽虫の群れ「…」ブウゥゥ〜ン



レディ「コ、コブラ?なんだか凄いことになってきたわよ?」

コブラ「ちょっと騒がしくしすぎたかな…」



飢えた亡者達「ぐおええええ!」



レディ「まだ来るわ!」

コブラ「やれやれそんなにスノボーが珍しいか!スラムのガキじゃあるまいし」

コブラ「ま、アパートを壊されたから怒ってるだけかもしれんがな!」

レディ「そんな事言ってる場合?この洞窟中の怪物が集まってるんじゃなくって?」

コブラ「だからいいのさ!こんだけ集まりゃサイコガンで一掃できる。お釣りのソウルも帰ってくるし一石二鳥ってところよ!」

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/16(日) 07:39:37.88 ID:6qsRwhjh0
ドポポポポ…




コブラ「どうだレディ!収穫は?」

レディ「緑色の宝石が11個、大きい黒色の宝石が13個よ。やっぱりカゴを作っておいて正解だったわね。深く沈んだ宝石も取り放題よ」



ドポポポポ…



レディ(あら?でもコレって……)

レディ(宝石というより、色がついた金属?それに文字が刻まれているようにも見えるわね)

レディ(でも暗くてよく読めないし、コレは自力で解読出来るような物じゃなさそうだわ)

レディ(上に帰ったら……そうね…アンドレイさんにでも聞いてみましょう)



巨漢亡者「ごえええええ!!」

レディ「!? コブラ!前を見て!」

コブラ「大丈夫!このまま突っ切る!」


ドガーッ!


巨漢亡者「ごえっ!」ドチャッ

コブラ「そら見ろ、スノボーしてるヤツの前に出てくるからだ」



岩持ちの巨漢亡者達「むおおぉぉ…」



コブラ「ありゃ、団体さんだったか」

レディ「怒らせちゃったわね。追ってくるわよ?」

コブラ「追わせとけばいいさ。どうせこっちには追いつけやしないよ」



混沌の病み人共「ぶぉおお…」シャカシャカ…

大ビル達「…」うねうね

羽虫の群れ「…」ブウゥゥ〜ン



レディ「コ、コブラ?なんだか凄いことになってきたわよ?」

コブラ「ちょっと騒がしくしすぎたかな…」



飢えた亡者達「ぐおええええ!」



レディ「まだ来るわ!」

コブラ「やれやれそんなにスノボーが珍しいか!スラムのガキじゃあるまいし」

コブラ「ま、アパートを壊されたから怒ってるだけかもしれんがな!」

レディ「そんな事言ってる場合?この洞窟中の怪物が集まってるんじゃなくって?」

コブラ「だからいいのさ!こんだけ集まりゃサイコガンで一掃できる。お釣りのソウルも帰ってくるし一石二鳥ってところよ!」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/16(日) 07:40:44.15 ID:6qsRwhjh0
修正文投下間に合わず
そんな馬鹿な…
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/16(日) 09:38:26.93 ID:r76ninR9o
変な語尾だと思ったww
些細な誤字は気にしないでも大丈夫よ
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/16(日) 14:26:01.86 ID:U7Nv1F3Ao
脳内修正するから平気よ
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/16(日) 16:53:13.50 ID:Vuax4+z6O
クオリティ高いな
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/16(日) 19:10:44.58 ID:6qsRwhjh0

ジャキン!


後方から迫る異形の集団へ向け、コブラはサイコガンを抜いた。
狙いを定めて発射するだけのわずかな時間だが、ボードの進行方向が無防備になる。
それを見越したボードの制御と、異形の集団へのヘイトコントロールはすでに万全であり、大事な時間を危機にさらさない程度の走行用の空間は、完璧に確保されていた。
どれどけ時間が掛かっても、照準に10秒、殲滅に10秒、使用できる時間が設けられている。
それだけあれば、平時でも目をつぶったまま的を撃ち抜けるコブラに、失敗する要因は無い。


ゴワァァーッ!


放たれた閃光は集団へ向かった。



ズドドドドドドドドド!!!



コブラ「おろっ?」

レディ「えっ?」



ドゴアアアーッ!!




しかし閃光が破壊したのは、不意に落下してきた瓦礫の塊だった。
異形達は皆、瓦礫の山に押し潰されて、コブラの消費したソウルを補填する。
コブラの狙いは達成されているし、被害も無い。
だだ、あまりに突拍子に過ぎた事態、もしくは事故を見てしまったために、コブラは少しの間、放心した。






ドゴオオォォン!!

貪食ドラゴン「ワギャアアアアアアアアアアアアアア!!」



コブラ「!?」



そのため、瓦礫の山の上に着地した、悪夢の塊のような怪物を見て本気で驚いてしまった。



コブラ「な、なんだアレは…」

レディ「コブラ!前見て!前ーっ!」

コブラ「え? どわぁーーっ!?」



ボゴーン!



見えない敵を撃てるコブラでも、見えず、しかも忘れている障害物をかわすことは出来ない。
白い灰が固まって出来た丘に、二人はボードごと勢いよく乗り上げ、丘に転がった。
ボードは真ん中から折れてしまい、一つはどこかに行ってしまった。


貪食ドラゴン「クゥ?」


巨大な竜は自身が降りた瓦礫の山に視線を下ろすと、小さな鰐頭の口から、割れた舌を出し、そして探知した。
瓦礫の下に埋まっている、異形だった者達の残骸が発する、香ばしい死臭を。


貪食ドラゴン「ギョアアアアアアアアアアアアアアア!!!」ズドーン!バリバリバリ…


竜は掘削機のように瓦礫に突っ込むと、翼だけを瓦礫から出して食事を始め、山の標高をみるみる内に下げていった。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/19(水) 08:54:49.88 ID:JH/Vb9Yk0
コブラ「なんて野郎だ、死体と一緒に瓦礫まで食ってやがる」

レディ「先を急いだ方が良さそうね」

コブラ「それについては同感だが、進む方角がどちらも危険じゃ、今すぐって訳にもいかないぜ」

コブラ「根っこを拝借した巨木には、意味深な入り口があった。人工的に掘られたとしか思えない横道がね」

コブラ「だがその巨木は、あの怪物を超えたところにある。ヤツの図体と食欲を見る限り、サイコガン一発で片付くタイプとも思えない。恐らく三、四発は必要だろうな。だがそんなに撃てば…」

レディ「ソウルの回収が難しくなる?」

コブラ「その通り。そしてもう一方のそれっぽい横道は俺たちの真後ろにあるが、そっちにゃ例の霧が張ってる。いい思い出があれば喜んでくぐったんだが…」

レディ「多分、罠ね」

コブラ「そういうこと。つまり、あの怪物の顔色しだいさ」



ボコッ


ソラール「はぁ、はぁ、し、死んだかと思った……太陽よ、感謝いたします」

戦士「グズグズしないではやく行ってくれ!後がつかえてんだ!」

グリッグス「ああ…死んでしまった……ソウルも人間性も落としてしまった…もう一度死んだら、私は終わりだ……」ブツブツ…

ラレンティウス「エストを全部零しちまった!誰か分けてくれないか!?」



レディ「ソラールだわ!」

コブラ「良いところに来てくれたぜ。お仲間も増やしてるようだし、コレなら怪物退治も楽ってもんだ」

コブラ「おーいソラール!!さっさと来ないとバケモノに食われちまうぞーっ!!」



ソラール「おお、コブラか!みんな急げ!あの男のいる丘まで行けば何とかなる!」ザバッ バシャバシャ…

戦士「苔玉持っててよかった…」バシャバシャ…

グリッグス「苔玉が泥まみれだ!誰か交換してくれないか!?」バシャバシャ…

ラレンティウス「それならあんたのエストと交換だ。ほらよ」バシャバシャ…

グリッグス「ああ、すまない。君には後で礼をしなければならないな」バシャバシャ…



コブラ「やかましいヤツらだな、あれじゃバケモノの気を引くぞ」

レディ「泥に足を取られてるわ。あれで辿り着けるのかしら?」

コブラ「無理だろうな。ワイヤーの射程距離に入ったら、ここまで引き上げてやるとするか」



ガラガラガラ… ズズゥン…

レディ(あっ、瓦礫が…)


貪食ドラゴン「フシュルルル…」



コブラ「走れソラール!!ヤツはもうお前らに気づいてる!!急げーっ!!」


ソラール「えっ?」


貪食ドラゴン「ワギャアアアアアアアアアアアア!!!」


ソラール「走れーっ!!」バシャバシャ…

戦士「畜生!今度こそ食われるぞ!」バシャバシャ…
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 09:13:57.34 ID:EzDszLMXo
エストは回復薬かな?苔玉はなんのアイテム?
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 09:50:07.67 ID:Ivj/e8Qqo
エスト瓶は体力を回復させる。篝火で最大20個補充できる。火防女の魂を捧げると回復量が増加

毒紫の苔玉は毒消し。ただし毒状態しか回復できないためそれより上位の猛毒状態は毒紫の花苔玉でないと回復できない
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 10:27:46.23 ID:Og4A+ARvo
サンクス
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 11:49:57.75 ID:7KfmHlf5O
気になったらダークソウル1から3までやろう!(ダイマ)
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/19(水) 17:01:19.17 ID:JH/Vb9Yk0
病み村の底、毒素を含んだぬかるみは、糞尿と腐った土だけで形作られてはいない。
大ビルの粘液、大量の虫の欠片、骨、そしてこの世に見捨てられた、数多の弱き不死達の腐肉が、ぬかるみに溶け込んでいる。
ゆえにぬかるみは、いつまでも粘りつき、触れる者を蝕むのだ。

ザボォン!!

竜の足が一歩、水のような音を上げてぬかるみを叩く。
膝下まで泥に浸かった男達の足取りは重く、歩くごとに体力が消耗されていくというのに。


コブラ「はやくしろ!!もう少しだ!!」


コブラの呼びかけに応えるべく、ソラール一行は歩みを早めようと精一杯努力した。
しかし勢いづけて足を振っても、振った方向へのぬかるみの密度が高まるせいで、余計に体力を奪われるだけだった。


ドボォン!! バシャアン!


竜の歩みは無情にも早まり…


クォアアア…


その大口は、四人の真上で開いた。



レディ「コブラ!!もう駄目よ!!」

コブラ「仕方ない!そんなにコイツが欲しけりゃくれてやる!」ジャキン!



コブラがサイコガンを構えると、ドラゴンは大口から剥いた牙の群れをしまい、後ずさった。
何かに怯えるように。


コブラ「へへ、そうかいコイツが怖いか。なんなら早いとこ帰んな。俺も撃たないにこしたこたぁ無いんだ」


緊張して、しかし口元の笑みは崩さないコブラは、わずかに優勢である事に確信を持った。
サイコガンに込められたエネルギーは輝きを強め、コブラの右腕に力が入る。
何者が、その優位を作り上げたのかも知らずに。



「騒がしいぞ」







ぬかるみとも岩壁とも見分けのつかない闇の中から、一人の女が歩み出た。
身体のラインは黒いローブで隠れている。
だがその透き通る声と、気品に満ちた足運びが、見る者にかの者が女であること
それもこの世にあっても稀なる美貌の持ち主である事を確信させたが、その魅惑にはまた、強大な影が纏わりついている事も、見る者達は感じていた。
それは威厳や力、神秘、もしくは業の類である。







黒いローブの女「病み伏す者達を喰らい、哀れな不死どもを喰らうなら、この地の不浄も受け入れたまえよ」

黒いローブの女「竜の末裔たる者には、それが相応だろう?」




コブラと竜の間に立ち、竜の目の前に立った女は静かに、しかし大空間の隅々にまで行き渡る神秘の囁きで、竜に語り掛ける。
竜は一瞬全身を震わせると、低い唸り声を上げて身をちぢこませたが…


貪食ドラゴン「フゴアアアアアアアアア!!!」ゴワッ!


逆上するかのように身体を広げ、黒ずくめの女におそいかかった。
竜の怒りは強く、恐ろしいが、この怒りは一種の行動爆発であり、追い詰められた弱者の振るう最後の抵抗だった。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/19(水) 18:12:58.57 ID:JH/Vb9Yk0

ボゴオオォーーッ!!!


ソラール「うおっ!?」

コブラ「うあっちちち!なんだぁ!?」


黒ずくめの女の赤熱した掌から、柱のような炎の塊が放たれた。
炎柱は光線のように竜へ向けて伸び、その身体に激突すると、巨大な爆発を巻き起こして薄暗い大空間に一瞬の真昼をもたらした。
竜がいた瓦礫の山は粉々に砕け散って辺りに飛散し、ソラール達の頭上に灰となって降り注ぐ。
竜は硬い鱗に守られてはいたが、全身を真っ黒に焦がし、炭の噴いていた。


貪食ドラゴン「フゴッ…ゴオォォ…」ズズズ…ズズズ…


深手を負い、戦意を喪失した巨竜は、重々しく身体を引きずって大空間の石壁にへたり込むと、身体を丸めて静かになった。





黒いローブの女「浅ましい奴だ」


女はそう言うと、辺りを見渡し、唖然とするソラール達に語り掛けた。


黒いローブの女「お前達もだ。その者達を阻むな」

ソラール「?……なんの事…」


彼女はソラール達に語り掛けた訳では無い。ぬかるみに溶ける不死達を説いたのだ。
ソラール一行の脚から自由を奪っていたぬかるみが、引き潮のごとく浅くなり、平らな地面を覗かせた。



ラレンティウス「こ……これは…まさか…」

戦士「おいおい今度は魔女か!?」

グリッグス「いや、こんな魔法はどこにも無いはずだ…自然に働きかけ、操るなんて魔法は…」

ソラール「こ、これは一体……貴公は何者だ!?」



女はソラールの疑問には答えずに、コブラに顔を向け、口を開いた。
脳を溶かすような、神秘の囁きで。



黒いローブの女「お前は鐘を鳴らしに来たのだろう?」

コブラ「ああそうだ。出来れば君みたいな女性と一緒に鳴らしに行きたいね。フードを取って顔を見せてくれると尚うれしいんだが」

黒いローブの女「お前は不思議な男だ。不死でもなく、人の世の者でも無い」


黒いローブの女「しかし使命は帯びている。誰よりも重く、暗い使命を」



コブラ「………」



黒いローブの女「お前は何者だ?何故お前以外の者にも私の姿が見える?」

黒いローブの女「お前の発する力がそうするのか?時の歪みを合一させたのもお前か?」

コブラ「悪いが話が見えないぜ。俺はこの世界については新米なんだ。むしろこっちが教えて欲しいくらいだぜ」


話が平行の一途を辿ると悟った女は口をつぐんだ。
コブラは嫌な予感に背筋をざわつかせたが、二人の空気を破った者がいた。


ラレンティウス「ああ何てことだ!俺はなんて幸運なんだ!貴女をずっと探していました!」


大沼の呪術師ラレンティウスは、人生最大の幸福の中にあった。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 19:29:20.17 ID:fcNV+rncO
何者なんだ黒いローブの女……
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 20:14:53.11 ID:TvxX/j0DO
師匠!師匠じゃないか!
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 20:19:03.04 ID:vb5b4FqPO
師匠ホント可愛いバカ弟子って言われたい
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/19(水) 23:31:50.01 ID:JH/Vb9Yk0
黒いローブの女「なんだお前は」

ラレンティウス「あ、申し訳ありません。俺…私はラレンティウスと言います。その…まず言葉遣いの未熟さについて謝らせて下さい。俺にはそんな教養は無…」

黒いローブの女「なるほど。ザラマンと同じく、私の師事を求めているのだな。まぁ、火を見る者ならば、根源の火に憧れを抱くのも無理は無い」

ラレンティウス「それでは…」

黒いローブの女「だが、残念だがお前には才覚が無い。覚えられるものも有るだろうが、大成はありえんな」

ラレンティウス「そ、そんな待ってください!まだ俺の術も見ていないのに…」

黒いローブの女「術を見る必要は無い。お前の火を見れば分かる。お前には我らの火を得ることは出来ない。そもそも時の合一が無ければ、お前は私を見つける事も出来なかっただろう」

黒いローブの女「縁ある者か、才ある者、もしくは原初のものに似た火に照らされる以外には見えぬように、私達は己を律してきたのだからな」

ラレンティウス「待ってください!あまりに一方的すぎます!」


黒いローブの女「では聞くが、お前は何度かここに来たことがあるが、その時に私を見つけられたか?」


ラレンティウス「……それは…」

黒いローブの女「私はお前のすぐ近くで、お前を見ていた。篝火を点け、古箱から竜の鱗を取り、人食い女共に捕まって上へ連れていかれただろう?」

ラレンティウス「見て、いらっしゃったのですか…?」

黒いローブの女「そうだ。それで、私は見つかったか?」


ラレンティウス「………いえ……」


黒いローブの女「いいかラレンティウス。炎に近づき過ぎれば、炎に焼かれ炎に飲み込まれるんだ。お前が望もうが望むまいがな」

黒いローブの女「そんな者は見るに堪えないんだ。お前はそうはならずに凡庸に生きろ。火を大切に想うなら、尚のことな」



ラレンティウス「…………」



コブラ「まるで蝋の翼だな」

黒いローブの女「?」

コブラ「蝋の翼で太陽を目指したイカロスは、太陽の光を受けて溶けた翼と共に堕ち、破滅した」

黒いローブの女「そんな者はこの世にいないぞ。何かの例えか?」

コブラ「俺がいた世界に伝わる、おとぎ話と伝説の間にあるようなお話さ。もっとも、そのお話に含まれる安易なテクノロジー批判や文明批判とは、あんたの話は一線を画してそうだがね」

コブラ「あんたの話し方はむしろ教訓めいてる。まるで実体験みたいな迫真さだ」

コブラ「おまけにあんたは、実際にさっきの化け物をあっという間に追い払うような炎まで放って見せた。俺はああいうマジックパワーには疎いが、あの火柱を見ればどんな素人でも分かる」

コブラ「あんたは只者じゃない。それも鐘を鳴らす事や、不死の使命に関わるくらいの超の付く大物だ」



黒いローブの女「詮索好きだな……その考え方は、やめたほうがいい」


コブラ「自己紹介が遅れたが、俺はコブラっていう海賊なんだ。相棒のレディと一緒に稼ぎまくってるもんだから、詮索するのが習性になっちまってる」


黒いローブの女「それはどういう意味だ?族らしく私をねじ伏せ、拷問でもするか?」

ラレンティウス「!?」

コブラ「そんな野蛮な事を麗しのレディーにやったんじゃ、このコブラの男が廃る。やらないさ」

コブラ「それより、ここらに篝火があるんだろ?そこで少し話をすれば済むことだ。それに……」チラッ…

黒いローブの女「それに?それに何だ?」

コブラ「俺の知らない奴があんた以外に二人もいる。立ったまま身の上話をするにしても、ちょいと多すぎる気がするんでね」


黒いローブの女「………」


153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 23:45:03.63 ID:VtbJzN+Ro
デートのお誘いですね分かります
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 23:53:09.89 ID:Ivj/e8Qqo
師匠かわいい!
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/20(木) 15:02:07.28 ID:CU0PADL90
かつてぬかるみは無く、大空間が下水の一機構として機能していた時代、最下層からの汚泥を排水した石造りの大管があった。
管と最下層を繋ぐ道は今や塞がれ、後には管として機能した、石造りの個室だけが残っている。
その一室をある種の聖女が選び、のちの不死のため、そこに篝火を置いた。
しかし、篝火を囲むのは何も不死だけではないという事を、その聖女は予期していなかった。



ラレンティウス「不死になれたと知った時は、いっそ嬉しかった。これで原初の火を求めることが出来ると。それは呪術を知る者なら一度は夢に見る、憧れみたいなものでさ」

ラレンティウス「だから、あのお方に会えた時は天にも昇るような気持ちになった……なったんだが…」

ラレンティウス「思いもしなかったよ…まさか火に触れるどころか、俺には見ることも出来ないなんて…」

レディ「どんな物かも分からない物を求めるのって、そういう事よ。賭け事が好きじゃないなら、楽しいものじゃないわ」

ラレンティウス「…………」

ソラール「………」

グリッグス「…何というか、身につまされる言葉だな。私達のような探求者には厳しいかぎりだ」

レディ「あら、私達も探求者よ?専門は民俗学だけど」

戦士(変人は幸せ者だな。不死なんてただの終わりかけだぜ)




篝火を囲む四人の不死と一人のサイボーグは、紹介も兼ねた休憩を取っていた。
篝火の熱は暖かく心地良いが、その恩恵から外れたところ、湿った石に囲まれた円柱状の広いくぼみの中に、コブラと黒ずくめの女はいた。
コブラは壁に背をつけ腕を組み、女はコブラの立つ壁とは反対の壁元に立っている。



コブラ「やっぱり美人と二人っきりっていうのは心が躍るね。お互い黙っていても楽しくて仕方がない」

黒いローブの女「面白い皮肉だな。活気があった時代でも聞かなかったよ」

コブラ「そりゃどうも。話は変わるが、あんたは時がどうとか言ってたな。それについて色々と聞きたい事があってね」

黒いローブの女「ああ、時の合一についてか」

コブラ「それだよそれ!俺はファンタジーには疎くてね。もっとわかりやすく話してくれないと頭が混乱するんだ」

黒いローブの女「面倒だな」

コブラ「そこを何とか」

黒いローブの女「………はぁ、仕方のない」



黒いローブの女「お前が今いるこの地は、古い神々が棲まう、ロードランという名で呼ばれる巨大な力場だ」


黒いローブの女「ロードランは多くの者を集めて試練を与えると共に、その者達をより多く集める為に、多くの隣り合った世界を生み出し、その間を行き来させる手段を用意した」


黒いローブの女「ここまではいいか?」


コブラ「不出来な生徒でスマンが、その隣の世界だの試練だのは誰が何のために作ったんだ?」


黒いローブの女「作ったのは我々であり、古い神々だ。何故試練を課すのかは、今は決して言えん。知る者みなに王の封印が掛かっている」


コブラ「王の封印…」



コブラ(王…まさか…!)




コブラの脳裏に炎の奔流が浮かぶ。
その中で聞いた声は、コブラに使命を刻み、この世界に送り出した。
その者の姿は無かったが、言葉は確かに聞き、そして覚えていた。
かの者は名を名乗った。

我が名は薪の王、と

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/20(木) 16:48:09.27 ID:CU0PADL90
黒いローブの女「聞いてるのか?」

コブラ「ん?ああバッチリさ。かなりの耳より情報だったもんで、ビックリしちまっただけさ。まさか目の前に神様の使いがいるとはね」

コブラ「しかも天使にしては、あんたの声は魅力的すぎる。天使ってのはもうちょっとイジメっ子みたいな声だとばかり思ってたよ」

黒いローブの女「私は魔女だ。天使でも神々でもない」

コブラ「魔女なら納得だ。それにそっちの方が好みだね」

黒いローブの女「話を続けてもいいか?」

コブラ「ええどうぞ」

黒いローブの女「分かった。それで、時の合一というのは、隣り合った複数の世界が一瞬だけ重なり合う事を言う」


黒いローブの女「重なった世界の数がいくつであれ、重なり合っている間は、その世界は一つの世界になる。時は同じように流れ、変化も共有する」


黒いローブの女「だがそれはあくまでも一時的なものだ。決まった時間はないが、いずれは重なりが解ける。時の流れは分かたれ、変化はそれぞれ書き換えられるか、無かった事にされる」


コブラ「百年以上昔の伝説が現れたかと思えば、遥か未来の者が姿を現わすこともある……ソラールがそんな事を言ってたなぁ」


黒いローブの女「それだ。それが本来の時の合一だ。しかし、ここ最近で時の合一の本質が変わった」


コブラ「………」





黒いローブの女「全ての世界…全ての時が合一され、今だに離れない……」

黒いローブの女「そんな合一は初めてなんだ。恐らく、何か決定的な要素が発生しない限り、この合一は解かれることは無いだろう」





コブラ「時空のサラダボウルか。また珍しい事が起こったもんだな」

黒いローブの女「珍しい事だと?そうは言ってはいられないぞ」

コブラ「どうもピンと来なくてね。ピンチが多すぎてどのピンチに気をつければ良いのか、判断がつかないんだ」

黒いローブの女「なに、間も無く分かるさ。お前がここの鐘を鳴らせばな」

コブラ「ロードランの王様ってのは、ずいぶん勿体をつけるんだな。出し惜しみも過ぎれば客も飽きるって事を教えてやりたいぜ」


コブラ「で、ここの鐘はどこにあるんだ?あの白い丘の横穴の中かい?」

黒いローブの女「そうだ」

コブラ「それなら早いとこ鳴らしてネタばらしを食らわないとな」


コブラ「と、その前に腹ごしらえを済ませとくか」ゴソゴソ…


コブラ「おっ、あったあった。美味いといいんだが…」

黒いローブの女「それはキノコか?」

コブラ「素焼きのな」モグッ


コブラ「おおイケるイケる!美味いなこりゃ!」モグモグモグ…

黒いローブの女「品の無い食べ方だな」

コブラ「腹減ってんだからどうでもいいでしょお?そういう事は俺のお袋にでも言ってくれ」モグモグモグ…

コブラ「にがっ!あ〜あ、生焼けを引いちまったか…」

黒いローブの女「………」ボボボボ…

コブラ「おっほほ!気が効くじゃないの!呪術ってのは便利なんだな」

黒いローブの女「火炎噴流だ。お前は才もあることだし、欲しいのなら教えてやらんこともないぞ」ボボボボ…
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 17:04:32.95 ID:bShvTGY1O
コブラにかかったら根源の火とやらもガスコンロと大差無いかww
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 17:57:05.27 ID:VZFxmHaw0
しれっと才能があることが判明
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 20:10:33.80 ID:iC3t/xlXo
コブラの軽口に一切の違和感を感じない完成度の高さ
応援してます><
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/20(木) 22:00:01.31 ID:CU0PADL90
レディ「ローガン?いいえ、知らないけれど」

グリッグス「そうですか……本当にどこに行ったんだ先生は…」

レディ「でも名前だけなら聞いた事があるわ。確かビッグハットとか……あっ、彼なら色々知ってたわよ」

戦士「えっ?俺?知らないって。どんな奴かは聞いた事があるってだけで、行方なんて聞かれても分からねえよ」

グリッグス「うーん…」




コブラ「レディ、そろそろ出発だ。鐘が近いらしいぜ」



レディ「鐘ですって?どこにあるの?」

コブラ「ここを出て右手方向にある、白い丘の横穴にあるらしい。俺たちが座礁した所だ」

ソラール「俺たちも付いて行っていいか?これだけの戦力で旅を続ければ、万事上手くいくと思うのだが」

コブラ「そいつは俺としても願ったりだ。まぁ先にそこのお二人さんと自己紹介と行こうか。さっきはちょっとバタついちまったからね」



コブラ「俺はコブラだ。遠いどっかの国で海賊をやってる。彼女はレディだ。俺の相棒」

レディ「よろしく」


ラレンティウス「俺はラレンティウスだ。大沼で呪術を生業としていた。まぁ、昔の話だが」

グリッグス「私はグリッグスと言う。ヴィンハイムで魔法を習い、師を探し出してお支えするために旅を続けている」

コブラ「へえ、師匠を守る為に旅をしてるのか。変わった事してるなあんたも」

グリッグス「使命を全うする以外にも、不死というのは使い道があるものだよ。ソウルへの探求には特に都合がいい」

コブラ「探求か…確かに、時間は腐るほど余るかもな」

グリッグス「ハハハ…」



コブラ「あー、そういやアンタの名前を聞きそびれてたな」

戦士「え?お、俺か?いいじゃねえか別に…」

コブラ「なんだよいきなり人見知りになっちゃって、いいだろ?一度くらい名乗ったって減るもんじゃないんだしよぉ」

戦士「ああそうだよ!俺は人見知りなんだよ!これでいいか!」

コブラ「おい怒るなよぉ、俺はこう見えて傷つきやすいんだから…」

戦士「とにかく行こうぜ!さっさと使命なんか終わらして、こんな所からはおさらばだ!」

レディ「なんか変ね、彼…」

コブラ「スロットでも外したかな?」



ソラール「………」

161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 22:28:50.34 ID:bShvTGY1O
そりゃ言えんよな……
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 23:07:52.01 ID:wcRXIoFvO
あれ?あいつ名前合ったのか
てっきり青ニートの親族かと思ったんだが
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/20(木) 23:10:09.04 ID:MMdHJzjsO
二代目青ニートって立派な名前があるだろ!
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/20(木) 23:36:48.78 ID:CU0PADL90
ゲーム本編でも名前は無いです。心折れた戦士だけ本名への言及が無い=亡者化が進んでいて自分の名前を思い出せないから、紹介したくても出来ない。
という啓蒙です
エブリたそも、そういってゐる
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/21(金) 09:32:29.51 ID:u/Z6bUP30
いつかブラッドボーン編もオナシャス
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/28(金) 11:12:19.69 ID:Hb1zpgYd0
何かに追い立てられているかのように歩き出した戦士を先頭に、ソラール、グリッグス、ラレンティウスが続く。
毒を持ったぬかるみは依然として病み村の底に沈殿していたが、不思議と四人の動線を避けるかのように、彼らは身をよじった。
炎の魔女の言葉もあるが、竜に泥をすすられた為に量が減った事が、ぬかるみに溶け込んだ亡者に、いくらかの動く自由を与えていた。


黒いローブの女「コブラ」


四人に続いて、灰の丘を目指して歩こうとしていたコブラとレディを、魔女は引き止めた。
コブラはレディを先に行かせると、ズボンのポケットに手を突っ込んで、魔女に向き直った。
それは人の話を聞く時の、彼特有な癖だったが、今は葉巻も無い。


コブラ「話ね。俺との事を考えてくれたって訳でも無さそうだが」

黒いローブの女「ああ、お前の事では無いよ。お前がこれから出会うであろう、私の姉妹たちについてだ」

コブラ「姉妹?そいつはいいな。道中退屈しないで済む」

黒いローブの女「真面目に聞いてくれないか」


魔女は語気を強める事も、叱咤する事も無かったが、コブラは口を閉じた。
彼女の神妙な雰囲気を感じ取ったコブラにとって、その雰囲気が今までどういう時に漂っていたのかなど、いちいち思い出す必要も無かった。
海賊として宇宙を駆け、他人からの頼みを多く受け、また断ってもきたコブラは、彼女が言おうとしている事がロクでもないものであると見抜いていたのだ。




黒いローブの女「かつて私には多くの姉妹たちがいた。だが、母様が見出した混沌の篝火からデーモンが生まれ、そのデーモンの炎から逃れるために、皆離れ離れになってしまった」


黒いローブの女「ある者は焼かれ、ある者は正気を失い、ある者は混沌を宿し、またある者は、混沌の苗床となった母様を鎮めるため、その身を楔へと変えてしまった」


黒いローブの女「おそらく、無事に生き残ったのは私だけだろう。そして、我ら姉妹の今を知る者もな」


コブラ「………」


黒いローブの女「コブラ、お前に頼みがある」


黒いローブの女「私の姉妹たちを、楽にしてやってはくれないか」



コブラは無意識に、ポケットの中をまさぐった。
しかし葉巻は無い。



コブラ「やっぱり殺しか…だと思ったよ」フフ…

黒いローブの女「すまない……本来なら、裏切り者の私がやるべき事なんだ。分かってる」

黒いローブの女「でも、私にはどうしても出来ないんだ…」

黒いローブの女「私はもう…臆病者になってしまっているから…」


コブラ「そんな事言われても俺だって嫌だぜ。俺は海賊であって殺し屋じゃないんだ。悪いが他をあたってくれ」


黒いローブの女「………」

コブラ「おおかた、長く苦しめるくらいなら、いっそのこと…って思ってるんだろうが、そいつは大きなお世話かもしれないぜ?」

コブラ「話を聞いてみりゃ、案外楽しくやってるって事もある。姉妹だからって、向こうが何を考えてるかなんて分からないだろ?」

黒いローブの女「お前は何も知らないから…そんな事が言えるんだ…」

コブラ「ああ知らないね。だが知りすぎているヤツってのは大抵、知っている物をイジりたがらなくなるもんさ」

コブラ「それはあんたも分かってるはずだ。それに、だからこそ俺に頼んだ」

コブラ「そうだろ?」


黒いローブの女「…………」


コブラ「なあに、ちょびっと口説いて、ダメだったらあんたの話も考えるさ」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/28(金) 19:06:08.57 ID:Hb1zpgYd0
魔女の願いに曖昧な応答を返したコブラは、先を歩いていたレディに追いつくと、四人の不死と共に灰の丘を登り、横穴に入った。
横穴の中は暖かく、壁は白い蜘蛛糸状の粘着物に巻かれた、いくつもの節くれで構成されていた。
ソラールが節くれの一つに触ると、節くれはかすかに脈打った後、冷えて固まり、その様子は蜘蛛糸の存在も相まって、横穴を進む一行に、蜘蛛に捕らえられた虫の断末魔を連想させた。


コブラ「きっしょくの悪い所だなぁここも。旅の勇者をちょっとはもてなせってんだよなぁ」

ソラール「確かに良い気はしないな。この壁は何で出来ているんだ?」

グリッグス「何かの繭にも見えるが…」

ラレンティウス「なんにしても知りたくないね。こういう物には、もう触らない方がいいぞ。何が入っているか知れたものじゃない」

戦士「………」

コブラ「それにしても横穴の先に見えていたのが糸だったとはね。白くてモヤモヤしてるもんだから、てっきり霧かと思ってた」

レディ「案外この先に本当にあったりしてね。ところでコブラ、さっき彼女と何を話して…」

戦士「静かにしろっ、何かいる」シャリッ



列の先頭を歩いていた戦士が、静かに、しかし素早く剣を抜いて構えると、コブラとレディを含めた旅の一行も戦闘体制に入った。



「ううぅぅ……」



道の奥から、うめき声とも祈りともつかない声が漏れている。
音の重なり具合から、複数の何者かがいる事は確かだった。


戦士「俺が先に行く。後から来てくれ」

ソラール「分かった。貴公も気をつけろ」


返事をしたのはソラールだけだったが、その場の全員がすでに身構えている。
戦士は返事を待つ必要も無かった。


ダッ!


戦士は突貫し、声の発生源に向かって剣を振り上げた。
そして一気に振り下ろし、声の主の首を飛ばそうとした。
しかし、戦士は躊躇した。
心擦り減らす過酷な旅とはいえ、敵かも分からぬ無力な者を斬るのには、やはり迷いが生じるのだった。



卵背負いの亡者達「………」ブツブツ…



蠢く大きな節くれを背負い、重みに潰されてもなお、掌をすり合わせ祈ることをやめない亡者達。
衣服はまとわず、卵から伸びた脈動する導管に全身を蝕まれている彼らは、一心不乱に祝詞を唱えている。
だが、無限とも思える時を唱えられ続けたその祝詞は、もはや言葉の体すら整えておらず、聞くものの耳に苦悶の声として届くのも、必然と言えた。
戦士を援護するべく駆けて来たコブラ達も、その様子には閉口し、切りぎりに声を漏らすだけだった。


コブラ「こいつは…」

ソラール「むごい…不死の身にこれでは…」


さらに、その亡者達の外見から誰もが連想する物は、コブラ達をさらに戦慄させ、特に不死達を恐れさせた。

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/28(金) 19:32:44.03 ID:xB+hs4Y8O
こ、こわい……
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/10/28(金) 23:02:19.29 ID:C+GHjOxWo
卵産み付けられてんだっけか?確か
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/30(日) 03:07:41.72 ID:se1u189k0
戦士「引き返そう…ここは本当にやばい…」

ソラール「待て、考え直せ」

戦士「お前こそ考え直せ!見て分からないのかよ!ここがどんな所か!」

ソラール「分かっている…分かっているが、しかし…」

ラレンティウス「いや、確かにここは危険だソラール。嫌な予感がする」

ソラール「………」

戦士「俺は帰るぜ!もうたくさんだ!」


コブラ「まぁ待てよ。俺たちにはまだ卵が付いてないだろ?」


戦士「うるせぇ!このまま進んだらこいつらみたいに干からびて、ここの壁の一部になっちまうんだぞ!?それでビビらねえ奴は、亡者なんかよりよっぽど頭がいかれてるんだよ!」


コブラ「俺の頭はとっくの昔にイカれてるが、干からびた亡者なんて何度も見て来たことくらいは覚えてるぜ。何を今更怖がる必要がある?」


グリッグス「キミは不死についてよく知らないようだな……不死は死ぬたびに体が崩れていく物なんだ」

グリッグス「体は細り、脳は縮んでいく。そして骨すらも崩れ始めると、今度は骨片が灰になっていく。これがどういう事か分からないはずもないだろう」


コブラ「例えここが不死の末路の塊で出来ていたとしても、俺は引く気は無いぜ」

コブラ「もっと言えば不死に卵を産みつけて、余分なヤツは灰にしちまうような化け物がこの先にいたとしても、俺は進む」


グリッグス「………無謀だぞ」


コブラ「そう来なくちゃ面白くない。俺は賭け事が大好きなんだ。特に、イカサマをする瞬間がね」


コブラ「行くぞレディ。一儲けしようじゃないの」

レディ「ベットが少ないんじゃなくて?」

コブラ「つまんなくなったら、台をひっくり返すだけさ」



コブラとレディは、四人の不死を置いて先に進んだ。
ソラールは二人について行こうとしたが、ラレンティウスの言葉と、この場そのものに後ろ髪を引かれ、動けなかった。
勇気と蛮勇、信仰と賭けは、共通点はあっても同一ではないという事をソラールは知っており、その一線を超えないように日々心がけていたからである。
太陽への信仰心を他者にも求め、変わり者と呼ばれた、不死になる前の自分に戻らないように。



コブラ「あらまぁ、こいつはマイった」フワァ…

レディ「本当に私の言った通りになったわね」



二人の目の前に、霧が立ちはだかった。
そのうねりは、やはり若干の反発力を含んでおり、コブラの手を空気の揺らぎ程度の力で押し戻している。



コブラ「やっぱり女の勘ってのは凄いね」

レディ「どういたしまして。それで、入るの?それとも入らない?」

コブラ「そりゃ入るさ。コブラはバック出来ないんでね」ブォワアアァ…



その反発力を掻き分け、コブラとレディは霧を抜けた。


171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/30(日) 03:35:56.05 ID:uRIP9iWyo
鬼が出るか蛇が出るか
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/10/31(月) 00:21:33.14 ID:MPyVXjea0
節くれの洞窟の先には、またも広い空間があった。
そこは楕円形の大広間で、四方の壁と天井は糸に巻かれた卵で出来ていた。
二人が潜った霧は楕円の両端の一方にあり、その反対方向には石積みの古城の一部を思わせる、丈の高い建造物が見える。
その建造物の出入り口と思しき横穴から、赤い光が漏れだした。


コブラ「さっそくお出ましか。勿体が無くていいねぇ」グン


徐々に強くなる光に応えるかのように、コブラは特大剣を抜いた。
光が発する熱は、数十メートル離れた石畳に立つコブラの髪さえもなでる。
そのコブラの頭の中を、グリッグスの語った不死の話がよぎった。


ガスッ ガシュッ ガツッ


光源が数多の脚を動かして、建造物の出入り口から姿を現す。
その者の姿は、コブラとレディの予想した物と、概ね同一と言えた。
太く長い外骨格の脚を複数本伸ばし、脚の付け根を束ねる胴体は、まさしく蜘蛛のものであり、然とした印象を、大小様々な複眼を持った頭部と丸くて大きな腹部が、更に強めていた。


コブラ「!」


しかし、コブラとレディの予想を超えた特徴を、蜘蛛は備えていた。
腹部から灼熱の炎を噴き上げている事よりも、おびただしい乱杭歯に満ちた大口を、蜘蛛の頭に開けている事よりも、その特徴は異彩を放っていた。
蜘蛛の胴体から生えた、黒髪の美女の上半身に比べれば、それらは些細な物にしか映らなかったのである。
少なくとも、コブラの眼には。





混沌の魔女クラーグ「………」フフッ…





見た目の上ではかすかなコブラの動揺を、混沌の魔女は既に見抜いており、そして勝ちを確信した。
哀れな供物が訳も分からぬままに燃やされ、吸い尽くされる様を、魔女は幾度も見てきた。
その道理を覆そうと足掻いた力ある不死も、幾人も灰へと変えてきた。
しかも、今度の獲物は見たこともない程のソウルと、その裏に潜むものを持っているのだ。
舌なめずりをせずにはいられない。


コブラ(なるほど…彼女が姉妹の一人という訳か…)

コブラ「レディ、気をつけろ。こいつは今までの奴とは違うようだ」


魔女は右掌から小さな火柱を噴くと、炎を固め、一本の異形の剣を作り出した。
そして語りかけるようでいて、その実、誰にも話しかけていないような、傲岸不遜な声を発した。




クラーグ「豊かな贄を運びし者よ。よくぞ我が前に現れてくれたな」


クラーグ「これほどの糧ならば、我が妹の病も少しは癒えよう」



剣に炎をまとわせ、魔女はコブラ達に近づいていく。
一直線に最短距離を歩きつつ、見下すような微笑を向けてくる彼女を見て、コブラも瞬時に魔女の本質の一部を見抜いた。
彼女には敵がいない。敵を敵と思った事も無く、全ての不死は彼女達の供物だったのだ。
そしてコブラの反骨心と子供心が、そんな傍若無人に口を出さない訳が無かった。



コブラ「泣かせるねぇ。化け物になっても血の繋がりは捨てられないって事か」


クラーグ「!!!」


コブラ「そういう本はバカみたいに売れるがね、歴史を作った試しがないんだ。俺みたいな海賊には不要だな」フフッ

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/31(月) 01:32:40.93 ID:rSjjck+so
歴史を作らないんじゃ考古学者にも不要そうだな
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/02(水) 14:54:17.48 ID:3Ea9QEps0
魔女の身体は、混沌の炎に半ばまで飲まれ、変質している。
ゆえに纏うのは混沌の炎であり、本来彼女の持っていた魔女としての本質も、失われている。
その本質があれば、コブラの指に嵌められた『老魔女の指輪』の効力を見抜くことが出来ただろう。
そして、指輪を強めている、コブラの中にある未知の力の存在すらも。


クラーグ「フフッ……クククク…」


クラーグ「面白い…魔女の言葉を解するか…」


コブラ「なんの話か分からんね」ニッ


クラーグ「とぼけおって……まあ良い。その方がそそられる」

クラーグ「お前を殺し、そのソウルを見てみたい」ボォォ…


魔女の手に握られる魔剣の炎が、より強く輝きはじめる。
魔力の高揚に応え、力を増していく炎が、剣の刀身を伸ばしていく。


コブラ「さすがは魔女だ。そんな殺し文句を聞くのは、ここに来て以来初めてだ」



バフォオオーーッ!!



魔女が振り下ろした剣の炎は、天井を焼いてコブラの脳天を目指した。
しかしコブラはこれを回避し、踏み出した脚を軸にして、特大剣を振り回す。


ドゴオオン!

コブラ「うおっ!?」


その特大剣が蜘蛛の脚の一本を切り飛ばそうとした瞬間、蜘蛛の脚の爪先から爆炎が放たれ、特大剣を弾き返した。
それだけに留まらず、コブラの身体さえも宙に舞わせた。


ビシーッ!


吹き飛ばされたコブラは壁に背中を打ち付け、地に伏した。
レディは一瞬コブラの元へ駆け寄ろうとしたが、それより前にやらなければならない事に気付き、行動に移した。

ドガッ!

それは、魔女の注意を引きつけ、コブラに体力を回復する時間を与える事。
レディの上段回し蹴りは、魔女の人型としての腹部に向かったが、魔剣がその射線を遮る。
魔女に手傷は無く、彼女の唇は余裕を口にする。


クラーグ「お前も奇妙だ」

クラーグ「鉄の身体だが、そうではないな……人が鉄を真似ているのではない。鉄に人が宿っているのだろうな」

クラーグ「かつての私なら全てが見抜けたものを……口惜しいな」フフフ…

レディ「それには同意ね。あなたには私が何で出来ているかなんて分からないでしょう」

クラーグ「分からぬな。まぁ、殺して覗けば見えもしようが」

レディ「それも無理よ。あなたには何も見えない」

クラーグ「やらねば分からぬわ」ニッ



ブオオオーーッ!!



レディのこめかみを狙った魔剣は、またしても空を切った。
後方へ跳んだレディは、魔女の出方を伺う。

レディ「!! 待ちなさい!」ダッ!

だが、魔女の関心は再びコブラへと戻った。
地を駆ける蜘蛛は速く、アーマロイドの俊足を以ってしても、距離を維持するのがやっとだった。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 00:50:52.11 ID:lP8HqPD7O
これが本当の殺し文句という奴か
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/03(木) 13:07:15.65 ID:kGxxCjIp0
コブラ「イテテテ…あやうくリュウマチになるとこだった」


軽口を叩きながら起き上がったコブラの足取りは、おぼつかなかった。
人間とは思えない強靭さを誇る男にも、無限の耐久力がある訳ではない。
視界はぐらつき、思考にも靄がかかる。耳鳴りも頭の中で響いている。


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!


その耳鳴りの音に、蜘蛛の這う音が混ざり、大きくなる。
コブラが見上げた先には、蜘蛛の大口があった。


ガチン!

コブラ「だっ!?」サッ

ガチン!ガチン!ガチン!

コブラ「まっ、待った待った!待ったぁっ!」サッサッサッ

ブオォン!

コブラ「ひえーっ!」バッ!


コブラの頭を噛み砕かんと、蜘蛛の大口は貪欲に口を開閉した。
牙を回避するために、コブラはスウェイとダッキングを多用し、全てを紙一重でかわしたが、その口撃に炎の刃まで混じりだしたあたりで、コブラは限界を悟った。
危険地帯から跳びのき、その後に少し走り、楕円形の空間の真ん中に陣取った。


コブラ「そういう熱いやつは、あんた自身の唇にお願いしたいね」ハァハァ…


壁際の攻防には魔女に分がある。
視界と行動範囲を広く取れる場所にコブラは移動したが、これは優位を取った訳ではない。
追い詰められているのだ。


ゴポゴポゴポ…


蜘蛛の大口の中から赤い光が漏れだす。
そこで、蜘蛛に追いついたレディの妨害が入った。

タン!

レディは蜘蛛に向かって高く跳ぶと…

バッ!

魔女の頭部へ向け、飛び後ろ回し蹴りを繰り出す。
魔女の二つの瞳はコブラを見ており、レディには気づいていない。



ブブン!!

レディ「!?」バシッ!


だが、不規則に密集した蜘蛛の複眼の一つに、レディの姿が映っていた。
蜘蛛は腹部を石畳に着け、そこを起点にコマのように回転し、レディの脚を弾く。
そしてレディが石畳みに落ちる前に、蜘蛛は回転力を利用してコブラに向き直り…


ゴボボォン!!

コブラ「!!」


大口から、どろりとした炎の塊を吐き出した。
塊はコブラには当たらなかったが、コブラの前後左右を取り囲むようにして地に落ち、高温を発した。
石畳を溶かし、溶岩溜まりを作るほどの高温を。


ゴワァーッ!


魔女が渾身の力を込めて放った炎の刺突が、コブラの眉間を打ち抜く瞬間、コブラの額が消えた。
火の海と突きを回避する手段は、ワイヤーフック以外には無い。
だが、天井で宙吊りになったコブラは、ますます追い詰められていた。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 14:58:52.49 ID:7ATyZpUfo
ヤバい…
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/03(木) 18:42:55.57 ID:kGxxCjIp0
コブラ「うっ…ごほごほ…」


溶けた石から立ち昇るガスが、コブラの肺から酸素を奪っていく。
そして代わりに有毒な物を、肺を通してコブラの血中に混ぜ込み。弱らせる。
だが、コブラの意識が消えるよりも早く、コブラの身体は水膨れに包まれた死体になるだろう。
数メートル離れたからといって、石を溶かすほどの高熱から逃れたとは、とうてい言えないのだから。

コブラ(くそう、なんてこった……これじゃローストコブラになっちまうぜ……)

コブラ(息は吸えないし、かと言って降りることも出来ない)

コブラ(ワイヤーフックの巻き取りの出力も、重力を無視して一直線に俺を引っ張るほど強くはない。天井に引っかかったフックを外して壁に撃ち直しても、マグマにドボンだ)

コブラ(


クラーグ「…………」


コブラ(魔女さんよ…出来る事なら俺を燃やしに近づいて来てくれないかね…)

コブラ(そしたらアンタに跳びついて、漢方薬にならずにアンタと戦えるんだがな)



クラーグ「燃え尽きるがいい」ニッ

コブラ「!!」



魔女は嘲笑を含めた微笑みでそう言うと、ゆっくりとレディの方へ振り向いた。
そして剣の炎を整えながら、レディに近づいていく。



コブラ(とんだ悪女に引っかかっちまったもんだな……伊達に不死の燃えカスで巣作りしてた訳じゃないって事か………)

コブラ「ごほっ!」

コブラ(眠くなってきた…)ゼェゼェ…

コブラ(もうヤケだ。手負いのコブラを放っておいたツケを払わせてやる)ゼェゼェ…


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 20:44:25.96 ID:x7erI1avo
追い込まれたコブラはドラゴンよりも凶暴だ!
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/03(木) 23:44:19.36 ID:kGxxCjIp0
ブォン!! ゴオオッ!!

レディ「くっ!」ババッ


振り回される魔剣に翻弄されながらも、レディは回避に専念する事で辛うじて無傷を保っていた。
横振りが来たら身を屈め、縦振りには横飛びをし、袈裟斬りが降りかかったならば、転がるように跳んだ。
魔女の剣戟は正確では無かったが、その切っ先はことごとくレディの逃げ場を断ち、彼女から行動の選択肢を奪っていった。
クラーグの剣勢は戦いの為ではなく、狩りの為にある。逃げ場のない空間で獲物を捕まえるには削る戦いこそが必要であり、一撃必殺に用は無いのだ。


クラーグ「ウフフフ…」ヒュヒュン!

レディ「あっ!」ガッ!


間隔が無く、単調な剣戟にレディが慣れ始めた頃に、クラーグの剣がレディの足首を捉えた。
振り回しから一転、素早い突きに剣戟を変えたクラーグに、レディは対応出来なかったのだ。


ガキィン!!

レディ「!!」


クラーグは転倒したレディを蜘蛛脚で捕らえると、レディの頭を石畳に押し付けた。
次に剣を高く振り上げ、レディに再び微笑を向ける。
まるで粗相をした使いを、主が悪戯に処刑するかのように。


クラーグ「我らが糧となれ」


クラーグがレディに宣告をすると…




ドブッ




クラーグの背後で鈍い音がなった。



クラーグ「奴め、もう落ちたのか」フフフ…

レディ(コブラ…)



クラーグは勝利を確信した。
哀れな勇姿が死に、目の前の奇妙な女も灰塵に帰する。
その事に優越感と、一抹の罪悪感を覚えながら。


ガスッ


クラーグ「?」


だが、剣を振り下ろそうとした瞬間に、小さな棘でチクリと刺される感覚が、クラーグの蜘蛛の腹部に生じた。
クラーグはレディを脚で押さえつけたまま、上体をねじって背後に目を向けた。




クラーグ「なっ!? き、貴様!!」



視線の先には、溶岩の光に下から照らされながら、蜘蛛の腹部へフックを飛ばしたままの体勢のコブラと…


コブラ「かわいいねぇ、そういう顔も出来るんだな」ニィッ


そのコブラのブーツ裏に敷かれた、一本の特大剣があった。
溶岩に浮く特大剣に乗ったコブラは、不敵な笑みを浮かべていた。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/04(金) 02:06:56.08 ID:9XIWq7yaO
ヒューッ
こいつは面白い。一気読みしてしまった
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/11(金) 16:22:41.67 ID:TepObGIC0
黒騎士の特大剣には、ある加護が元より施されている。
加護は際立って強いという訳でもなく、時の経過で半ば力を失っている。
しかし残滓を残すのみとはいえ、この特大剣は熱の類を寄せ付けず、溶岩にすら溶け込まない、ある種聖剣とさえ言える遺物なのである。
コブラはもちろん剣に施された術の存在など知らない。しかし、コブラには加護がもたらされていたのだ。

キュルルル! ボボォン!!

最高出力でワイヤーを巻き取るリストバンドに牽引され、コブラは溶岩の上をサーフィンし、跳ねた。
ブーツの裏は熱で溶けはじめていたが、その融解がブーツと剣を癒着させ、コブラだけが魔女に向かってすっ飛んでいく事態を防いでいた。
しかし、断熱加工が施されたブーツとはいえ、靴裏が溶けるほどの熱をカットし続ける事は出来ない。


ドカーーッ!!


クラーグ「!!」


コブラの体重が乗った特大剣は、クラーグの蜘蛛の腹部を飛び越し、クラーグの人としての腹部を、背中から貫いた。
貫通の衝撃でコブラは特大剣から剥がれて地面に落ち、その顔に血を被った。


バシャバシャバシャバシャ…


灼熱の大剣に貫かれたというのに、魔女の血は熱くなく、炭の香りも発していない。
魔女の負った深手は、魔女からレディを抑えつける力すら残らず奪い去ってしまった。



レディ「コブラ…もうダメかと思ったわ…」

コブラ「ああ、俺もさ」

ドスーン…



蜘蛛の脚は力なく崩折れ、重い胴体を石畳に押し付ける。
魔女は口と腹部から血を吹くと、血まみれの大剣を抜こうと刃に手を掛けた。
しかし、出血と痛みが魔女から力を奪っているため、魔女は剣をひと撫でする事しか出来なかった。
そして失血の勢いが弱まるにつれ、魔女の身体には震えが走りはじめる。



クラーグ「ば……馬鹿な………こんな、ことが……」ガクガク…


コブラ「足元を掬ってやろうと待ち構えるヤツの足ほど、掬いやすいものは無い。いい勉強になったろ?」


魔女は苦痛と混乱に顔を歪ませながら、勝ち誇るコブラに顔を向ける。
だが、もう一度血を吐いた魔女は、コブラ達に大剣の刺さった背を晒して、蜘蛛脚と蜘蛛の腹を這いずらせた。
楕円の両端の一方、魔女が姿を現した石の構造物へ向かって。



クラーグ「はぁ…はぁ…」ズズッ… ズズズ…



コブラ「………」





ソラール「わああああああああああああああああ!!」

戦士「うがああああああああああああ!!!」

ラレンティウス「うおおおおおおおおおおおお!!」

グリッグス「う、うわああああああああああ!」


突然、四人の不死が威嚇ともヤケとも言える咆哮を上げて、楕円形の空間に突撃してきた。
だが彼らの勢いは数秒も持たず、あっという間に沈静した。
戦いが終わった場に戦いは起こらず、恐怖は無いのだから。


ソラール「あ、あれ?なんだ?」

戦士「終わっ……てる、のか?」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/11(金) 17:26:18.88 ID:mnuFrbq+o
助けに来たのか
かわいいな、こいつらw
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/11(金) 19:12:10.51 ID:PuXF6VpFO
さすがみんなのアイドルww
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/13(日) 14:45:35.72 ID:p0DUIt/E0
コブラ「やれやれ、パーティーの終わりぎわに来るんじゃ、まるで片付け泥棒だな」

戦士「! 暑っつ!なんだよここ、溶岩が噴いてるじゃねえか…」

コブラ「そいつは魔女が撒いた炎だ。湧き出してるものじゃ無いから、ほっときゃ冷めるさ」

ソラール「魔女?……あの蜘蛛の事か?遠くでへばっているあの…」


ソラールに指さされた魔女は、動かなくなっていた。
だが依然と炎をまとっており、それがコブラに、魔女は今動けないだけなのだという事を伝えている。
楕円の両端に張られた霧も、晴れていない。


グリッグス「まさか、倒したのか?たった二人で?」

コブラ「ああ。出来れば口で堕としたかったがね」

グリッグス「?…クチで?…何を言ってるんだ?」

ソラール「たまにそういう事を言うんだ。気にしてもしょうがないぞ」


ラレンティウス「………」


コブラの軽口にグリッグスが首を傾げている間に、ラレンティウスは突っ伏して震える大蜘蛛に近づいていた。
もちろん、手の炎を強めて、いつでも火炎を発せられるように構えてはいる。
だが、ラレンティウスの心の内には、介錯の慈悲や警戒よりも先に、好奇心が立っていた。
炎に魅せられた大沼の者にとっては、炎をまとう蜘蛛は具現した神秘なのだ。


ラレンティウス「うおっ!?」

ソラール「なんだ?生きてるのか!?」


だが、ラレンティウスが思うよりもずっと、神秘というのは惨たらしく横たわっていた。
三人の不死は、呪術師と蜘蛛の元へ駆け寄るが、コブラはついて行かず、手首のバンドを弄っている。
レディは屈んで、魔女の炎にはたかれた自身の足首の状態を診ている。


グリッグス「!? こ、これは…?」

ソラール「大変だ………みんな手を貸してくれ!蜘蛛から彼女を引きずり出す!」ググッ


クラーグ「!!」メリメリ…


戦士「待て待て待て!腹に剣が刺さってる!ゆっくりやらないと傷口が開いちまうぞ」グッ…

戦士「…ん? あ、あれ?」

ソラール「どうした?抜けないのか?」

戦士「こいつ、蜘蛛とくっついてるぞ…」

ソラール「は?」

戦士「ていうかこの剣コブラのじゃねえか!みんな構えろ!こいつは魔女だ!」シャリン

ソラール「お、おう?」シャリ…



剣を抜くのに躊躇しているソラールを、戦士は焦りを込めた目で睨んだ。
その隙をついて、ラレンティウスが戦士と魔女の間に割って入った。
コブラはリストバンドの『設定』を終え、レディと共に四人の不死に近づいていく。



ラレンティウス「ま、待ってくれ!剣を抜く前に考える事があるだろ!?」

戦士「ああ考えたね!だから殺す!お前の炎の探求に付き合えるほどの余裕は無いんだよ!」

戦士「この巣を見ろ!さっきの魔女は俺たちを助けたかもしれないが、こいつは不死の灰で巣を作って亡者に卵産みつける化け物だぜ!?今殺さないと俺たちが壁になっちまうだろうが!」

ラレンティウス「し、しかし…!」

戦士「うるせぇ!そこをどけ!」

コブラ「いいや、もっと考えた方がいい」

戦士「!」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 01:35:13.70 ID:GMofeS0XO
デートへの誘い文句をかな?>考えた方がいい
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/20(日) 03:39:50.58 ID:uC4NEk+N0
コブラに呼び止められた戦士は、口論をやめてコブラを睨んだ。
その視線には明らかな抗議の意と、呆れが含まれている。
だがコブラは身を引かない。巣の外で出会った女に、送った言葉の証明がしたいのだ。


戦士「またあんたかよ。今度はなんだってんだ?」

コブラ「何って、口説くのさ」

戦士「また訳のわからん事を……いいか?今までは上手くいったかもしれないけどな、そんな事は俺に言わせりゃ…」クドクド


戦士が愚痴をコブラに吐きつけるが、それを無視しつつ、コブラは魔女に向かって左手をかざすと…


ピッ

魔女「っ!」トスッ

ラレンティウス「あっ」


リストバンドからワイヤーを飛ばし、魔女の肩に刺した。
呪術師が小さく声をあげるが、コブラの行動に迷いは無かった。


パリッ!


放たれたワイヤーを通して、魔女の身体に通った衝撃は、あくまで弱く、目立たなかった。
だが、弱った魔女から意識を奪うのには、それで十分だった。


魔女「……」カクン


コブラ「ただし、今は辞めとくがね。美人を誘う時はムードを作っておかないとな」


サイコガンに込めるエネルギーには調節が効く。
極限まで強めれば星を破壊し、最小まで弱めれば麻酔効果を持つのみに留められる。
そのエネルギーを、サイコガンから義手を通してリストバンドのワイヤーに纒わせれば、無制限に使えるテーザーガンが完成する。
しかし、コブラはその仕組みを不死たちに説明する気は無く、不死たちも、単なる毒針としか見なかった。


ラレンティウス「……殺したのか?」

コブラ「生きてるよ」

グリッグス(えらく即効な麻酔だな……しかもこんな魔女までも眠らせる程とは、どこの工房で調達したんだ?)

ソラール「さっきから話が読めないんだが、何がどうなってるんだ?」

戦士「俺に聞かないでくれよ。俺にだってコイツのやってる事が分からねえんだから…」


レディ「見て、霧が晴れているわ」



魔女がうな垂れて数秒が経つ頃には、楕円形の空間の出入り口を覆っていた霧は、消え始めていた。
そして、レディが指差した石の構造物は、向こう側の景色を、出入り口から覗かせていた。


コブラ「なるほど、やっぱりそういう事か」

レディ「そういう事って?」

コブラ「二体の魔除け像を倒したあたりから気になってたんだ。思った通り、この試練のキーパーソンにのみ、霧を制御する事が許されているみたいだぜ」

レディ「これも魔法のなせる技って事なのかしら」

コブラ「さあな。なんにせよ、手玉に取られてるみたいで良い気はしないがな」

コブラ「さてと、彼女が起きる前に、妹君に謁見するとしようか。鐘なんかより俄然興味をそそられるってもんだ」

レディ「まぁ、コブラったら」フフフ…


ソラール「妹君?本当になんの話かさっぱり分からないんだが…」

ソラール「なぁ、貴公は何か知っているか?」

戦士「だから知らねえって!いちいち俺に聞くな!」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/20(日) 05:53:45.05 ID:AEja6wL7o
ソラールと戦士が萌えキャラ化してるww
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/20(日) 10:36:38.88 ID:fldI0Liu0
流石コブラ
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/20(日) 19:16:47.92 ID:uC4NEk+N0
コブラは構造物に入ると、視線で物色するかのように、辺りを見渡しながら歩みを進めた。
だが目ぼしいお宝は一つも無く、見えるのは朽ちた石畳と、朽ちた石壁。それに角の丸くなった階段と、卵で出来た節くれだけであった。


コブラ「はーあ、近頃ろくなモノ見てないぜ。いかにもお宝って感じのヤツはないのかねえ」

レディ「お宝なら外の沼で取ったじゃない。それに、お目当の美女にも何人か出会えたのではなくって?」

コブラ「堅っ苦しい魔女に、顔をチラッとしか見せてくれない魔女。あと蜘蛛の脚を生やしたサドっ気たっぷりの魔女だろ?お預け食らってるようなもんだ」

コブラ「ハイレッグスーツが懐かしいぜ。脚とお尻ぐらい見せてくれたっていいと思わないか?スタイルだって悪くないのに、二人は全身を隠して、あとの一人は女郎蜘蛛だ。俺への風当たりが強すぎるんだよ」

レディ「文化が違うのよ。仕方ないわ」

ソラール「……その言いぶりでは、まるで貴公らの世界では丸裸が普通かのように聞こえるんだが…」



コブラ「おっ!見ろレディ!鐘だ!」


文句たらたらなコブラの前に、古びた釣鐘が不意に現れた。
鐘の前方の床には、卵に縁取られた落とし穴が穿たれているが、左右に迂回路も確保されており、落下の心配は無い。


コブラ「やれやれ、ようやくゴールか」ふー


戦士(本当に着いちまった…)


ラレンティウス「なぁ、鐘を見た事が無いから言うんだが、これがあの『鐘』なのか?」

コブラ「ああ、間違いなくな」

ラレンティウス「それにしては…なんと言うか、無造作な様じゃないか?」

コブラ「伝説なんてそんなものさ。見れば日常になる」

コブラ「じゃ、鐘はあんたらで鳴らしといてくれ。俺には重要な任務があるんでね」

ソラール「えっ?」


コブラは、ソラールの肩をポンと叩くと…


タッ


ソラール「あ!」


不死たちが止める間も無く、落とし穴に飛び降りた。



コブラ「よっとくら!」スタッ

ソラール「おい!何してるんだ!?それは見るからに罠…」

コブラ「蜘蛛ってのは巣の真ん中、もしくは一番奥に陣取る生き物だ」

コブラ「そして、この穴は建物の中心部にある。ど真ん中でしかも奥ってコト」

コブラ「それにここは罠じゃないぜ。広場になってる。罠なら今頃、俺は串刺しだ」

コブラ「レディ、キミも来るか?」

レディ「当然よ」スタッ

コブラ「そういうことだ。あとは任せたぜ!」


タッタッタッタッ…



ソラール「………」

グリッグス「なんて無茶苦茶な男だ……何を考えている?」

戦士「頭がおかしいんだよ。俺には分からんね、どうやったらここまで能天気になれるんだかな」

ラレンティウス(俺もついていくべきだろうか…)
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 00:39:38.87 ID:j8hI1sSAO
本当に丸裸同然の姿の奴が普通にいるとは純真なソラールさんには想像もつかなかったようだ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/21(月) 14:11:33.13 ID:MkMtqYWV0
コブラが落ちた穴の先にあったのは、同じ石造りではあったものの、今までのものとは違った特殊な空間だった。
円形の部屋からは、階段と、赤い光を漏らす出入り口が設けられており、小部屋の床の中心部には、青銅に似た金属で作られた、巨大な蓋とも盾ともつかない装飾が施されている。
宝石の類は無い。しかしその様相が、この部屋の持つ役割を二人に推察させた。


コブラ「見ろレディ。ここはチェックポイントらしいぜ」

レディ「そのようね。階段とあそこの横穴を繋ぐだけなら、この広場は必要ないわ」

コブラ「ああ、ただの通路にしてしまえばいい。つまり、ここには最低でも三つの出入り口が通っているはずだ」

コブラ「すると、まず怪しいのは…」


コブラ「ここだっ!」ピョン


巨大な装飾に飛び乗るコブラ。
しかし、何も起きない。


コブラ「なんだ?魔女の館なんで呪文を唱えよってか」

コブラ「オープンセサミ!」



コブラは呪文を唱えた。
しかし、何も起きない。



コブラ「ちぇっ、はずれかぁ」

レディ「………」トントン…


コブラが遊んでいる間に、レディは石壁を叩いて回っている。


レディ「………」スカッ

レディ「! あったわコブラ!ここよ!」


その手が壁の中を抵抗無く通過した時、壁の一部を覆っていた幻は掻き消えた。
幻があった場所の先には、卵で作られた一本の横穴が通っており、その先に卵を背負った亡者が伏せっていた。
その亡者の更に先には、篝火が焚かれている。


コブラ「ホログラムか。それにしちゃ嫌に精巧だったな。俺でも見分けがつかなかったぜ」

レディ「亡者がいるわね。どうするコブラ?今の所、道は三つよ」

コブラ「こっちに行こう。もともとあった道より、新しく見つけた道を行く方が気が楽で良い」



横穴を進む事に決めた二人は、卵背負いの亡者の手前まで歩いた。
亡者は突っ伏したまま動かず、声も上げない。


コブラ「レディ、こいつをどけるぞ。手伝ってくれ」


その亡者をどかそうと、二人が亡者の脚に手を掛けた瞬間…



ゴオオオォォーーーン… ゴオオオォォーーーン…



使命の鐘が鳴り…



卵背負い「鐘が鳴ったか……」モゾッ…

コブラ「でっ!?」


亡者は身をよじり、天井を見上げた。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 14:39:11.42 ID:/m3SxmocO
亡者がしゃべった!?
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/21(月) 14:40:35.10 ID:k6+51iTqo
鐘って誰が鳴らしてもいい感じ?
使命を負った人間一人一人が鳴らさないといけないのかと思ってたが
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 02:48:03.62 ID:Izwcoel9o
今のロードランはあらゆる時空がひとつになってるらしいから一回でいいんじゃない?
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/24(木) 21:08:13.57 ID:RI5+wLza0
毎回わくわくさせてもらってます。
コブラとレディの世界観に対する馴染み具合がヤバい。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/27(日) 05:23:19.89 ID:JZqxQz8n0
卵背負い「叶うなら、この音色はわしが灰となるまでは、響かずにおいて欲しかった…」


虫のように両手足を動かし、卵の重さで膨れた腹を揺らしながら、亡者はコブラに振り向いた。
崩れた皮膚には血管が張り巡らされ、卵が揺れると、それらは合わせて脈動している。
脈動する血管は顔にも現れており、血管が動くたびに、その上を走る涙もまた、筋道を増やしていた。


卵背負い「お主ら、姉上様を殺したのであろう……」



震える声で亡者は言う



卵背負い「でなければ、ここには来れぬ……」

コブラ「まるで俺達が悪党みたいな言い方だが、今回に限ってはそうも…」

卵背負い「黙らんか!わしを殺すならやるがいい!だが姫様には手出しはさせん!」ガシッ

コブラ「よ、よしなよ!あんた少し悪趣味が過ぎてるぜ!」グイーッ


興奮した亡者の耳には、コブラの弁明は届かない。
鬼気迫る表情でコブラの脚にしがみつく様は、亡者というよりは餓鬼に近く、これにはコブラもたじろいだ。
レディはやむなく、コブラの背中から特大剣を抜くと、刃を上段に構える。
しかし、しわがれて、それでいて透き通った声を聞き、レディは剣を収めた。



「誰かそこにいるの?」


篝火が焚かれた部屋から聞こえるその声は、弱々しく震えていた。


卵背負い「!!…な、なんと……姫様が口を利きなされた…!」

「姫様?……それは何のことなの?……私、わからない…」

コブラ「怪しい者じゃありませんよお姫様。少しお茶でもと思いましてね」

卵背負い「何を言うかお主は!姫様、この男の言うことを聞いてはなりませぬ!」


ガッ


卵背負い「ぶっ!」


美女との関わりの予感がすれば、コブラの行動からはより一層に迷いが消える。
亡者の背負った卵を踏みつけ、コブラは天井高く飛び上がった。
亡者は顔を石畳に打ち付けたが、コブラは気にしない。


スタッ!


コブラ「なるほどぉ、こりゃお姉さんも心配するわけだ。君みたいな凄い美人が妹だと、さぞ大変だろうぜ」


降り立ったコブラの前には、病床に伏せった美女が座り込んでいた。
陶器のように白い肌に、薄っすらと浮き出た肋骨が痛々しく、身体は細く、髪は白銀色のシルクのようだった。
だが、姉と同じくヘソから下は大蜘蛛と化しており、白い糸に巻かれ、卵に囲まれていた。





混沌の娘「貴方は誰?……そこにいるの?」




娘は手を伸ばし、コブラの肩や厚い胸板に触れる。
指の動きはたどたどしく、正体を掴めないようだった。


コブラ「!」


薄く開かれた両の眼には、白く濁った瞳が浮かんでいた。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 14:07:32.51 ID:yKdf0b0So
>>195
そうなんだ。じゃあみんなで協力してやれば早いのにな
結構不死の人いるみたいだし
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/27(日) 23:02:54.94 ID:nmRUEiPjo
そもそも時空が一つにまとまりつつあること自体に気付いてない不死は結構いそう
元・心折れた戦士なんかは全く気付いてなかったろうし今でも分かってるのか微妙
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/03(土) 06:49:33.40 ID:4PLo+dUy0
コブラ(目が見えていないのか。それに血色も悪い。蜘蛛も白くなっちまって、まるで抜け殻だ)

コブラ(気の毒だが、俺のソウルを吸収してどうにかなるようには見えないな…)



混沌の娘「姉さんが人を連れてくるなんて初めてだわ…それも三人も…」

混沌の娘「きっと、いいことなのでしょうね」


コブラ「三人?このジイさんは勘定違いじゃないかな」

混沌の娘「?」

卵背負い「お気になさりませぬな。今までわしらの声は、貴女様には届かなんだ。お目も見えぬのですから、わしらなぞ居らぬも同じですじゃ」

卵背負い「それにしても、なぜ急に、わしらの声をお聞きに……いえ、言葉を話すようになられたのですか?」

混沌の娘「私は、いつものように話しているだけです……聞こえていなかったの?」

卵背負い「はい。わしはてっきり、わしら如き不死が、高貴な貴女様に口を効いてはならぬのだとばかり…」

混沌の娘「そんなつもりは…」

卵背負い「! いけません、忘れておりました!この者達はわしが退治して…」



コブラ「ははーん、そうか分かったぞ」ギューッ

卵背負い「あいちちち!い、痛いっ!手を踏むんじゃない!」

レディ「何が分かったの?」

コブラ「姫様。この巣の外で、君の姉妹に会ったんだが、その時にこう言われたんだ」

混沌の娘「姉妹…」

コブラ「お前の力が、私を感知しているのかってな」

混沌の娘「貴方の力?…確かに、貴方からは強い力を感じる。まるで…」

コブラ「でも俺には何の話か分からないんだ。ここに来るまでにソウルを溜め込んではいるが、そのソウルが自動翻訳機なんていう代物になるとは思えない」

コブラ「つまり、俺のソウルは原因じゃあない。すると、俺の心当たりは…」ゴソゴソ…


コブラ「コイツだけになる」スッ


レディ「指輪ね!」

コブラ「そう、多分こいつのイタズラだ。触ってみるかい?」

混沌の娘「う、うん…」







混沌の娘「!! これをどこで…?」

コブラ「俺には君の姉妹以外にも魔女の知り合いがいてね。その知り合いから貰ったんだ。なんでも、使い道が分からないそうだ。コイツがなんだか分かるのか?」

混沌の娘「これは……私たちの指輪……どこにいても絆が別たれず、誰にも縁を傷をつけられないように、皆が持っていた」

混沌の娘「でも母が混沌の火を産んでからは、私たちも、指輪も、本来の魔力を失ったはず…」

コブラ「その力ってのは?」

混沌の娘「魔女と人の言葉を分け、時を操ってお互いの姿すら隠してしまう力があるの。この指輪が私達の手にある限り、私達の意思で人との関わりを意のままに出来る」

コブラ「つまり、魔女がこの指輪を使えば、人間は魔女に出会えないし、出会えたとしてもお喋りは厳禁って訳か。独身指輪の頂点だな」フフッ

混沌の娘「でも、おかしいの……これは私達にしか使えないはず……」


混沌の娘「まさか…」


混沌の娘「まさか、姉さんは…」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/03(土) 07:41:23.97 ID:4PLo+dUy0
コブラ「それについても話そうと思ってたんだ。君のお姉さんは…」

混沌の娘「殺した……殺したのね…!」

コブラ「おいおいおいおい勘違いしないでくれ。俺はそんな事…」

混沌の娘「だって…だってそうじゃなきゃ…おかしいじゃない…!」フゥフゥ…

卵背負い「この悪漢め!ただではおかんぞ!放せ!」


白い魔女は激しく動揺し、呼吸を乱し始める。
コブラの足元で暴れる亡者の抵抗は激しくなるが、レディが卵を押さえつけると、苦しげに顔を歪ませて黙った。
とうのコブラは、泣き出した魔女を見て動揺した。護られた、病弱な美女の涙を茶化せるほど、コブラはー軽薄ではなかった。


混沌の娘「姉さん……!」

コブラ「話を聞いてくれないかね……姉さんは生きてるよ。まぁ確かに、灸はすえたかもかもしれんが…」

混沌の娘「そんなの嘘!あの指輪を使えるのは私達だけ!その指輪を貴方が使えるのなら、貴方は一度、魔女のソウルを宿しているはず!」

混沌の娘「姉さんを殺さないと魔女のソウルは得られない!貴方が…!」

混沌の娘「貴方がっ……けほっ、うぅっ…」ハァハァ…

レディ「ちょっ、ちょっとコブラ、どうするの?」

コブラ「…どうしましょ……」



ドダダダダダッ…!!



戦士「コブラ逃げろ!やばい!」ゼェゼェ

コブラ「?」


脂汗を流すコブラの背後で、数人の人間が転げ回る音が聞こえた。
振り向いたコブラに戦士は声を張り上げるが、語彙が足りないせいか伝わりが悪い。
戦士には言葉を厳選する余裕は無かった。そして、病んだ白い魔女が、有害か無害かを見分ける時間も。


戦士「 って、こっちも蜘蛛の魔女かよ!引き返せ!」

グリッグス「引き返せってどこに!?」

ソラール「挟まれたのか!?」

ラレンティウス「こりゃ消し炭だな…」

戦士「うるせえこの野郎!」


シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!


戦士「わあああああああああああああああ!!」


戦士を含め、四人は悲鳴を上げたが…


戦士「あ!?」


足音の主は、天井を駆けて四人の真上を通り過ぎ…


クラーグ「………」ドスーン!


憤怒の表情でコブラの前に降り立った。



コブラ「………」

レディ「問題解決ね」


極限まで緊張状態が高まるはずだった場に、レディの言葉が小さく響いた。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/03(土) 10:29:36.22 ID:t2hv0JCoO
あそこに姉さん入れるのか……
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/03(土) 13:21:44.45 ID:0j/TqbETo
一つの問題を解決したかもしれんが新しい問題がまた一つ出来たような気がするのは俺だけか
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/03(土) 18:35:29.49 ID:9Dvl6u/F0
一難去ってまた二難って問題を増やしまくって最後に一気に持っていくのがコブラだしなあ 平常運転である
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