【ガンダム00】沙慈「僕の義兄はフラッグファイター」

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362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/18(金) 12:54:20.28 ID:kA0zifj90
ハムとビリーの友情が眩しい
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/19(土) 15:30:59.53 ID:thJKqpb1o
真面目に一番美味しかった食べ物考えるせっちゃんかわいい
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 01:22:52.61 ID:YpMLaDo7o
やる夫スレにも出張してるとは思わなかったぞ
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/10(火) 09:11:42.92 ID:kQ/oiBDzO
保守
366 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/12(木) 06:50:02.47 ID:p5zbU3hb0
絹江(何がともあれ、事態は大きく動いた)

絹江(国内体制の盤石化を待たないままの全域への干渉の容認は、間違いなく保守派の神経を逆撫でするだろう)

絹江(軍部がその一点を急いだ理由は分かるけれど、恐らくこれで彼らの決意は固まる……)

絹江(初手は、間違いない――)


――――

ハワード『隊長、この近辺で良ろしいのですね?』

グラハム「付近の地形データをリアルドに録らせているが、今日は様子見を兼ねてしばらく偵察飛行と考えている」

ダリル『起伏が思ったより多いですね。スタンドモードで待機することも考えるべきでしょうか?』

グラハム「選択肢にはなるだろう。ただでさえこの専用フラッグの燃料は浅く乏しい」

グラハム「【ガンダムとともに燃料切れの警告ともご対面】では、世間の物笑いだろうよ……」

ダリル『それでも、隊長ならやってくれそうですけれどね?』

ハワード『はは、違いない!』

グラハム「ふっ、ジョークとして受け取らせていただこう、諸君」


グラハム(さて、情勢が動くならば十中八九この地から――)



――――

ロックオン「さて、冗談はさておいて……奴さんら、予想通りの展開だな」

王留美「当然でしょう、ガンダムが現れた空域が未認可の制限区域では、彼らの出向いた意味が無くなってしまいますもの」

ロックオン「こっちはそうなったほうが楽なんだがなあ……まあ、大国の傲慢としちゃ【らしい】結論だな」

刹那「議会の決定を受けて超保守派は確実に行動に移る。総数は少ないが、アンフはMSとしての必要火力を保持する優先攻撃対象足り得る存在だ」

ロックオン「あぁ、まずはしっかり俺達の存在をアピールしてかねえとな」

刹那「戦術予報士からの連絡は?」

紅龍「二手に別れ、機動力に長けるエクシアは遊撃として北部山岳地にて待機」

紅龍「デュナメスは【最優先防護施設】の指定ポイントにて継続待機、及び事態発生時の即時収束を目標とのことです」

ロックオン「あー、成る程ね」

王留美「最優先防護対象」

刹那「――」

――――



アレハンドロ「太陽光発電受信施設、建設現場」

アレハンドロ「マイスター達は守り抜くことが出来るかな、リボンズ?」


リボンズ「……ご安心下さい、アレハンドロ様」

リボンズ「予測と対策を以ていかなる障害をも排除できる存在、そう確信した人物を」

リボンズ「我々は【雇った】のですから……」



367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/12(木) 13:33:59.54 ID:SOCDR45d0
待ちかねたぞ、少年
368 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/12(木) 19:00:26.60 ID:p5zbU3hb0



――――

イケダ「却下だ馬鹿、大馬鹿野郎」

絹江「ですが……!」

イケダ「いいかよく聞け」

イケダ「アザディスタンの超保守派閥が何らかの手段で受信アンテナを壊しに来るってのは確かに良い着眼点だと思う」

イケダ「だがな、それを政府やユニオン軍が理解してない訳がないし、保守派だって手段を選ばないのは確かだ」

イケダ「確実にMSによる攻勢、歩兵や武装トラックの突撃だって視野に入る!」

イケダ「そんな鉄火場に単独で張り込みだと? 市街でどんな目にあったのか分かってねえのかお前は!?」

絹江「っ……でも、ガンダムも間違いなくそこに来ます!」

イケダ「そうだな! 既存MSの装甲を軍艦もろとも吹っ飛ばすような連中も来るだろうな! で、なんだ?!!」

絹江「……ナンデモナイデス……」


イケダ「ちっ……あー、いいか、絹江。俺たちの仕事はあくまで【事実を伝える】仕事だ」

イケダ「昼間あんだけ危ない目にあって怯まない姿勢は褒めてやる、けどな」

イケダ「お前が目指すべきなのは、今回の経験で【十年先、二十年先】のスクープを撮りに行くことだろう」

イケダ「言ったろ、何もしなくたって此処では死ぬ。死ぬ可能性が高いと分かってて行かせるほど俺も人は辞めてねえ」

イケダ「時代に惑わされるな、わかったか?」

絹江「……はい、申し訳ありませんでした」


スタッフ「話つきました?!! 時間無いんですよほら運んで!!!」バァンッ

絹江「ひゃいっ?!」ビクッ

イケダ「よーし行くぞ!!! 市街地のスタッフ待機のホテルに張り込む!!! 何かあったら現地速報!!!」

スタッフ「基地の許可OKです!!!」

イケダ「出発!!! 【頭飛んでも映像飛ばすな!】復唱ッッ」

「「「【頭飛んでも映像飛ばすな!】」」」

絹江「さっきと言ってることが違う……!」


イケダ「とにかくアンテナはダメ、OK?」

絹江「……はい」


――――



369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/13(金) 01:11:18.63 ID:XWuh+/nSo
これだけ?
370 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 01:19:01.19 ID:TEH0LsLB0


 戦場は、全員の予想通り。
 この大地の希望にして憎しみの矛先、受信アンテナ建設現場。
 アザディスタン政府は即時二個小隊を派遣し防衛体制を強化。
 ユニオン軍も同調し、最精鋭を圏内に配備しつつ、外周にもMS部隊を配備する形でそれに応えた。

 そう、【ガンダムが最も出現するポジション】として、協力を惜しまなかった。


グラハム「…………」

 仮眠を終え、パイロットスーツを身に着ける。
 首元までしっかと留める。
 断頭台の枷とも思えるほどに、今日のそれは首を締め付け離さない。
 
 ――いよいよだ。

 待ち望んでいたときがいつ来るかも分からない。今日で四日目。
 間違いなく事は起こると判断しての張り込みも後何回繰り返すか。
 隊員の中には遺書を書く者もいる。
 遺産相続の関連を細かに考える者もいた。
 誰しもが所属をたやすく変えられるほどの技能や経歴を持つわけではない。
 変えようのある現在で未来に備える思考と行動を、自分は尊敬するし評価したい。

「隊長は、お書きになられないのですか?」

 そう問われたこともある。
 【対ガンダム調査隊】などという【これから最も死ぬ可能性が高い兵士】と表明しているような部隊にいるのだ。
 少し笑ってしまったが、その懸念と心配はもっともだと思ったものだ。
 答えは単純。
 残す家族もいなければ、託す友人もいない。
 死後の財産など気にする意味もない。

 あるのはただ、今生の蒼穹への渇望ただ一つ。


『グラハム、燃料補給完了だ』

グラハム「待ちわびていた、すぐに向かう」


 メットを携え、部屋を飛び出る。
 此処に来た理由を忘れるな。
 背負うものを違えるな。
 言い聞かせながら、愛機までの道のりを踏みしめる。

 ……以前の自分は、果たしてこのような高揚に程遠い感情を挟む余地を残していただろうか。
 その自問に答えることもなく、夜闇へと舞い上がっていった。


 ・
 ・
 ・
 ・


『隊長、始まりました!!』

グラハム「やはり来たか……!」
371 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 04:37:00.72 ID:TEH0LsLB0


 暗闇の大地にぽつり、ポツリと戦火が灯される。
 点いては消える蝋燭の灯へ一直線。
 受信アンテナは未だに無事、戦地急行こそユニオンのドクトリン。
……その勢いは、ロックオン可能な距離まで来て一気に削ぎ落とされた。


『この地を荒らす不信仰者共に、神の雷を!』

『くそっ! ユニオン軍の応援はまだか!!』


ハワード『た、隊長?! 味方同士でやりあってますぜ!』

ダリル『駄目だ、認識コードは統一されている! これじゃあ……!』


グラハム「ッ……!」


 右から左へ、アンフが鈍足ながら右往左往し互いを狙い合う。
 飛び交う無線にも
 敵が、分からない。
 今モニターにて交戦するアンフは全機統一のアザディスタン国防軍識別。
 元々防衛体制を敷いていた状態で二個小隊が完全な混戦に陥ってしまっている。
 【内通者】、その可能性への対策を、あろうことか両軍ともに対策しないままだったのだ。


グラハム(もし下手に国防軍側を撃てば、ユニオンの外交問題に発展する……)

グラハム(だがアンフの主砲はティエレンと同型の長砲身滑腔砲、アンテナ施設への砲撃は致命打になりかねない!)


 下手を打てば国際問題。
 何もしなくとも国際問題。
 ガンダムという餌につられてがっついた代償がこれか。
 高揚感に水差す心地の理由の一端を垣間見た。
 だが、このまま止まる訳にはいかない。
 時間がかかっても次善策で対応する。やってみせる。


グラハム「ハワード、ダリル! 無線と機体識別番号を照らし合わせて我々の部隊別認識識別番号に反映させろ!」

グラハム「敵味方識別だけでいい! 教義だ、鉄槌だと喚く輩のそれを洗い出せ!!」

グラハム「それまでは……私がスタンドモードでアンフを引きつける!」

『し、しかし隊長! 奴ら鉄人と同じ火器を!』

『危険です! 反映してからでも!』



グラハム「――フラッグにそんなものが当たるかァッ!」


 一挙に、高度を下げた。
 その時だった。



 
372 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 05:47:49.38 ID:TEH0LsLB0

 まず、レーダーへの干渉、不通。
 続けて、一直線。
 光の線が奔ったかと思えば、アンフが轢かれた人形のように地に転がった。
 以前イナクトのお披露目の際に見た、上空への精密砲狙撃。
 それが高所から次々にアンフを区別なく叩き伏せていったのだ。


グラハム「……ビーム狙撃……まさか!」
 

『隊長、ガンダムです!!』


 目視、確認。
 一度突入体勢になった機体を即座にスタンドモードへ変形しつつ、モニターに拡大図を表示する。
 
 【盾付き】【板付き】【ガンマン】……通称は多いが、間違いない。
 ガンダムだ。
 強力な中距離以遠狙撃能力を持ち合わせ『隊長!!上です!!!』


グラハム「なに……ッ?!」


 そんな思考の固着さえ許さない、次の展開。
 それは立て続けに撃ち上げられていく四発のミサイル。
 瞬間、思考を挟むこと無く体は動き。
 瞬間、展開は思考を許さない速度で最悪へと転がっていく。


グラハム(これは、なんという……!)


 リニアライフルの速射をありったけ叩き込む。
 間に合うはずもない。
 4つの光は無数の光に散り、網のような広がりのまま基地へと降り注ぐ。
 ガンダムも立て続けにビームを放った。
 しかし、多弾頭ミサイルの数の暴力に追いつかない。
 自分の弾丸など当たったかさえ疑わしく……


――――

サーシェス「はっはぁ! BINGO!」

サーシェス「いつまでも……されるままじゃあねえんだよソレスタルなんたらぁ!!」


――――


 着弾。
 そして、爆発。
 連日、見張っていた太陽光発電受信アンテナ施設は、一瞬で吹き飛び瓦礫の中に埋もれた。
 ガンダムですら、呆然としているのが分かる。

 今、この国の希望が、自分の目の前で吹き飛ばされた。

 何かが 切れたような 音がした。
373 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 06:29:22.95 ID:TEH0LsLB0


――――

『太陽光発電施設から爆発と炎上を確認! 同時に電波障害!』

『ガンダム出現! 防衛部隊に反乱者が出たとの報告確認!』

マリナ「何が起きているの……ッ?!」

シーリン「……とにかく、今は貴女の身の安全が第一よ。シェルターへ」



――――

イケダ『……はい、速報が入りました! たった今、太陽光アンテナ施設が、何者かの襲撃によって』

絹江『イケダさん……!』

イケダ『えぇっ……あー、また速報です!!』


ルイス「沙慈、沙慈! 今、一瞬だけお姉さまが映ってた!」キャッキャ

ルイス母「あら、沙慈くんに似て可愛らしいお姉さんねぇ」ウフフ

沙慈(良かった……無茶して変なことに巻き込まれたりしてなかったか)ホッ


イケダ『ゼイ―ル基地、及びカズナ基地から、MS隊が無断で発進したようです!』

イケダ『発進したMS隊は神の矛を自称し……これが真実であれば……』

イケダ『アザディスタンは事実上の内戦状態に突入する可能性も有りえます!』

沙慈「! 姉さん……!?」

ルイス「いかん、一気に空気がシリアス寄りになった」

ルイス母「ワタクシ達、浮いてないかしら」

――――

絹江「嘘でしょ……受信アンテナが壊されたら、この国への復興支援は根底から崩されるのに……!」

イケダ「ユニオン軍の兵士に金掴ませといて正解だったなぁ。どうやら防衛部隊に超保守派が混じってたらしい」

イケダ「まさかアザディスタンの内情がここまでぐらついてたとは……いよいよおしまいか?」

絹江「ガンダムも……出たって……っ!」

イケダ「あぁ、だがユニオン軍も大慌てらしい。ここまでひどいとなると、建前のアザディスタン防衛支援の方に人員を割かざるを得ないはずだ」

イケダ「……例の中尉どのはどうなってるか……」ポリポリ


絹江(グラハム……ッッ)ギュ


――――

紅龍『ガンダムエクシアは指定ポイントより南下して市街地に入り込んだゼイ―ル部隊を撃滅して下さい』

紅龍『敵機隊はアンフが五機、しかし事態の早期収束の為一刻を争います。急行を』

刹那「ミッション了解、ゼイ―ル基地の超保守派MS部隊の出撃を紛争幇助行為と断定」

刹那「ガンダムエクシア、目標を駆逐する」


『悪い、待たせた!!』

刹那「! ロックオン!」
374 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 07:08:31.33 ID:TEH0LsLB0


ロックオン『ミサイルを撃った犯人は見つけられなかった……すぐに蜂起の通信も来ちまったからな』

ロックオン『……すまん。施設を守りきれなかった』

刹那「今は目の前の事態に対処を。デュナメスの力が必要だ」

ロックオン『おう……引き続き狙い撃つぜ!』

王留美『ロックオン、一つだけ確認を』

ロックオン『何だい』


王留美『当該空域にユニオン軍の部隊が展開していたはずですが、機体への影響は?』




『いや、無いぜ』

『そもそも俺は交戦してない。ミサイル発射後すぐにあさっての方向に飛んでいっちまった』

『ニゲタ! ニゲタ!』




刹那「…………?」


王留美『そうですか。では支障なしと判断し、カズナ基地のアンフの迎撃をお願いします』


ロックオン『了解! ガンダムデュナメス、目標を狙い撃つ!』


――――


375 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 08:09:56.75 ID:TEH0LsLB0

 荒れ地と岩肌を揺らす水素ジェットの轟音。
 夜間、起伏、超低空。
 条件を聞いただけでベテランですら怖気の走る超高難度の飛行を、巡航形態のイナクトはいとも容易く行っていた。
 そのパイロット、アリー・アル・サーシェスは、任務達成の高揚感と共に特殊な無線を弄くる
 自身の【ビジネス】の結果が、どんな阿鼻叫喚をもたらしているか。
 その過程を、純粋に楽しめる精神性の持ち主であった。

「ッち……どうしようもねえ」

「せっかくのパーティーが台無しだぜ。ソレスタルなんたらがよ!」


 悪態をついて無線を切る。
 彼の望んでいた音楽は、神の名を謳い国を枯らす愚者の咆哮だ。
 彼の望んでいた戦慄は、無垢で純粋な民衆が暴力によってその身を散らす、瀬戸際の嘆きだ。
 だのに、早くも反乱軍――彼の部下が散々に焚き付けた馬鹿ども――はガンダムによって半数が殲滅。
 このまま長引く気配さえ無いままに、この喜劇は幕を閉じようとしているのだ。

 彼自身が出ていけば、国防軍を殲滅しクーデターの幇助も可能だったかもしれない。
 事実、十二機のMSをヘリオン単騎で撃滅した経歴もあるほどだ。
 しかしそれは出来ない。
 彼は影だ。
 姑息に、卑怯に、醜悪に。
 何もかもを台無しにするのがお仕事なのだから。


「まあ、いい」

 
 なので、今回はここまで。
 彼は決して深追いはしない。
 彼が受けた仕事は【アザディスタンの内戦の誘発】という、奇妙なもの。
 理由も相手の素性も知らないが、大金が出るとなればやらない理由が無い。
 そのためのプロセスを踏めばいい。
 まだ、手札は残っている。
 【この国の心の支え】という、鬼札が。


「もうこの国はおしまいだ」


 機体が予定ラインを通過する。
 蜂起させたMSの対処で、監視網は大幅に狭まっている。
 勿論織り込み済みでルートを構築している。
 そう、先のアンテナ破壊も、「どのガンダムが迎撃に出ても絶対に仕留めきれない」ようにと武器とタイミングを図ったのだから。


「ユニオンはガンダムを追ってこっちに手が回らねえ」

「終わってみれば楽なもんだ」

「国一つ荒らし尽くすなんてなぁ……ハハハハッ!!」


 少々の無理をして機首を上げる。
 此処で高度を上げれば、夜明けまでには索敵網を気にせず潜伏地域に辿り着けるだろう。
 彼は深入りをしない。
 無用な戦いは仕掛けない。
 余計な危険も犯さない。


 誰かが、深入りさえしてこなければ。


「ッ!?」
376 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 08:28:41.09 ID:TEH0LsLB0


 アラートから回避行動に移行するまで、およそ一秒もなかった。
 その反応速度をもってしても、それは、機体のすぐ横を掠めるほどの距離まで迫っていた。
 蒼い、リニアライフルの光弾。
 間違いなく彼を狙って撃ち込まれた一撃だった。


「何だぁ?!」


 青天の霹靂。
 続けて数発の弾丸が機体目掛けて飛来する。
 加速、続けて減速、機体のバランスだけはぶれさせない機動が狙いをことごとく避けてみせる。


「チィッ!!」


 予定の大幅な修正の予感、そして、自分の落ち度への舌打ち。
 拡大モニターに機影を捉える。
 夜明けはまだ遠い、そんな暗闇でも確かに存在を主張する光沢の漆黒。

 最新鋭機、ユニオンフラッグ。
 そのカスタマイズバージョン、たった一機の最精鋭が、一直線に。


グラハム「見つけたぁあああああああッッ!!!」


 アリー・アル・サーシェスの、この紛争の元凶の元へ、牙を剥き襲い掛かってきたのだった。


――――
377 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/13(金) 08:29:17.35 ID:TEH0LsLB0

ちょい一休み

今日また更新して進めたい
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/13(金) 09:07:47.31 ID:G8arBofkO
【速報】対ガンダム隊隊長、ガンダムとの交戦放棄


死ぬ可能性の高いところには人は送らない
死ぬ場所には人は送る

矛盾しないな!
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/13(金) 10:01:49.76 ID:PhV7BdJz0
いいね
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/13(金) 11:00:30.46 ID:ix2YBGKU0
空気を読むグラハムがこれほどまでに恐ろしいとは
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/13(金) 14:11:52.63 ID:mUTCDjgUO
やはりそうきたか
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/13(金) 14:59:20.45 ID:0g7PduMAO
やばい!この展開は熱い!
383 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/14(土) 01:05:24.38 ID:4wxOcFMo0


『た、隊長?! ガンダムが……あっ!』

『隊長! 隊長ー!!』


 部下たちの声が、遠退いていく。
 追っては来れても、追随などままなるまい。
 自覚はある。全くもって愚かな行為だ。
 それでも、フラッグは止まらない。
 一直線に想定ルートへと【先回り】をする。
 本来ガンダムが逃走経路として取り得るであろうと推測し、リアルドに調査させた飛行経路の出口へだ。

 決して逃さない。
 報いは、必ず受けさせてやる。


 ・
 ・
 ・
 ・


 交錯。
 発砲。
 加速、旋回、また発砲。

 イナクトとフラッグのドッグファイト、その道の人間が知ったなら歴史的な一戦として記録されるであろう対決が、異国の空で繰り広げられていた。
 互い違いに背後を取ろうと急旋回を繰り返し、あわや激突のすれすれを紙一重で縫い続ける帳の決闘。
 逃げるイナクト、追うフラッグ。
 それはかつて空の覇者を争った本機達の、名残の戦いのようでもあった。
 

グラハム「ぬぅぅっ……!」

サーシェス「しつけェんだよ……ッ!」


 イナクトは小さく左右に曲がり、追随するフラッグがバランスを取った瞬間、大きく曲がって距離を取り背後を奪う。
 専用フラッグは一挙に加速し大きく旋回、起伏利用や宙返りなどでそれを無理矢理に振り切り元へと戻す。
 お互い背後からの精密射撃をギリギリで避けつつの攻防。
 一瞬、一発で決まる神経の削り合いを【イナクトが】仕掛けていた。


グラハム(対ガンダム用に出力を増強した大型ジェットで捉えきれん……!?)

グラハム(いや、違う。逆だ、一撃離脱戦術を取らせぬ運動性重視の攻勢に、此方が巻き込まれている!)

グラハム(こいつは相当な手練……相応の機体まで用意されたプロフェッショナル!)


サーシェス(なんつう馬鹿みてえな加速力だ……このイナクトだってリミッター外して軽くしてるっつうのによ)

サーシェス(あれが例のガンダム用のチューンナップ仕様か。頭おかしいんじゃねえのか、ユニオンの技術者は!)

384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 01:38:02.60 ID:A4iAqi6x0
教授、褒められてますよw
385 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/14(土) 03:32:02.76 ID:4wxOcFMo0

 また、機体が大きく交差する。
 僅かなブレに差し込むようにまたイナクトが回り込む。

 グラハムの舌打ち。
 サーシェスが初めて笑みを浮かべる。

 明らかに細やかな機動性はイナクトの方が上回っていた。
 それを補って余りあるパワーが、強引にフラッグのイニシアチヴを確立させる。

 確かな技量の差、明確な性能差、それがどれほどの厚みかはまだ不明瞭であっても。
 【敵パイロットの方が巧い】という感覚は、グラハムにとって久しく無かったちりつきで。
 【敵機の方が強い】という感覚は、サーシェスにとってそう珍しからぬざわつきであった。
 


グラハム(とかくこのままでは埒が明かん! 速度の優位こそ、このフラッグの独壇場なれば!)

サーシェス(距離離されたらこっちがマズイ、だがそろそろ山がなくなってひらけちまえば奴さん速度を上げるに決まってる……!)


グラハム「仕掛け時か……だが……!」

サーシェス「いいねぇ……この感じ、たまらねえぜ!!」


 一瞬の並び、拮抗が思考の猶予を生む。
 グラハムが一挙に加速し、閉所を抜けんとした瞬間だった。


グラハム「?!」

サーシェス「そぉら!!」


 ロックオンアラート無しの、イナクトからのミサイル発射。
 誘導しないまま突き進むそれを回避した、そのとき思考が追いつく。
 

グラハム(しまった、これは……!)


 機体を抜けて幾ばくの猶予無く、機体を大きく右へと傾ける。
 その瞬間、ミサイルが爆発。
 爆炎と衝撃に、徹底軽量の専用フラッグは大きく揺さぶられ、破片の嵐に晒された。
 

グラハム「ッッ……!」


 時限信管。
 本来目標を見失った際の自爆用途で用いられる補助信管を、マニュアル起動で設定し直した即席トラップ。
 サーシェスはほんの一瞬の拮抗で設定し、かの機体の加速まで計算して撃ち込んできたのだ。

 衝撃と急制動、爆炎に視界を奪われ激しく揺らされるコクピット。
 スーツに固定された身体が軋む音が聞こえてきそうなほどのGが肌を締め上げる。

 そして、バランスを乱したフラッグより低高度。
 イナクトは高度を落とすことで加速をつけ、下から突き上げるようにフラッグを狙う。

 まるで水面の獲物を狙うサメの如き戦闘機動。
 砲身は、無防備なフラッグの横腹へ狙いを定めた。




 



386 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/14(土) 04:16:23.25 ID:4wxOcFMo0

サーシェス「これでお陀仏ァ!!」


 力強く、引き金を引く。
 加速とともに高度を上げる、身体が歓喜の悲鳴を上げる。
 その勢いのままに放たれたリニアライフルの一射。
 惚れ惚れするような軌跡のまま、吸い込まれるようにフラッグへ向かい……


 すり抜けた。


サーシェス「……あ?」

 
 そして、アラート音が耳を劈いた。
 反応は後方。
 消えたのではない、高速戦闘の中で確かに彼はその有様を目撃した。
 
 傾きを直し、狙いをつけられたまま、それは【変形】したのだ。
 一瞬で、下半身を展開し、四肢を投げ出し、大気を掴んだ。
 その急激な抵抗変化と、後押しするジェットの微調整で跳ね上がり急減速。

 イナクトの急襲を回避した上で、スタンドモードへと空中変形を成し遂げた!

 これぞ、人呼んで!


グラハム「人呼んで……グラハム・スペシャルッ!!!」


サーシェス「ん、だとぉっ?!」


 チャージされた高初速のリニア・シェルがイナクトを狙い撃つ。
 高度を上げれば速度は下がる。
 必殺のタイミングを回避すべく、半ば墜落めいた捻りをつけてイナクトは落下し、その一撃を辛くも回避してみせる。


グラハム「これを避けるかッ、だが!!」
 

サーシェス「この野郎……ッ!?」


 明らかな無茶に機体は錐揉み状態で高度を下げていく。
 瞬く間にその状態は安定へと戻っていくも、追撃の手に対処など出来るはずもない。
 一射、右を過ぎる。
 二射、左を掠めた。

 三射目の照準が、揺れるイナクトの上部を確かに捉える。


グラハム「覚悟ッ!!」

 。
 この紛争への終止符を、今。
 決着の確信。引き金を、引く。




 
387 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/14(土) 04:32:28.94 ID:4wxOcFMo0
ちょっと休憩
明日また、必ず
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 04:35:32.93 ID:6NgiXKGm0
さっすが主人公
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 05:24:28.07 ID:7BYB/J2H0
グラハム格好いい
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/14(土) 08:28:26.70 ID:Zd1LCDIXO
頭おかしいや変態は必ずしも罵倒の意味で使われるとは限らない



ただし頭のおかしい仮面の変態は罵倒の言葉ですのでお間違い無きよう
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 10:21:16.09 ID:lKkL3t2AO
乙です。
大分前に最初の辺読んだきりだったから今一気に読んだ、多少……多少?の改変もあるとはいえこうして別の視点から見るとまた違った印象とかも出来るな……。
一期をレンタルで観ただけだからもっかい借りて来て観るかな二期と纏めて。
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/14(土) 12:18:44.33 ID:Lmr9ua0u0
身持ちが固いなあ。ガン、、、イナクト!
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 12:47:02.60 ID:HfFArx7/o
グラハム最高!
394 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/15(日) 03:43:11.74 ID:m6HAmtDp0

 ――それは、同時に起きた。
 

 
グラハム「?!」


 小さな警告モニターの点滅が、揺さぶられた視界の端に映り込む。
 《Bingo!Bingo!》
 機械音声が鳴る。
 これは、【燃料残量の不足】を知らせる警報。

 【燃料の限界値】を通過し、危険域に入った為に起きた緊急アラートだ。

 このユニオンフラッグカスタムは、フラッグの倍の速度さえ生み出せる出力の代わりに、ありとあらゆるものを犠牲にしている。
 特に燃料を遥かに多く使う高出力フライトユニットと、燃料の搭載量さえ減らし軽量化している重ね技で【警告から限界点までの猶予が非常に狭い】。
 しかして対ガンダム戦が一瞬のみ、現行機で耐えられたことは殆ど無い。
 然り。あのイナクトは、先回りの消費を加味しても、このフラッグにそこまで食い下がって見せていた。
 その一瞬の、よそ見。意識をそらされた瞬間。
 グラハムは己の不覚を思い知る。

 足元にいた蒼影が、驚くべき安定感で機首のリニアライフルをこちらに向け、【止まって】いたからだ。


グラハム「なっ……!?」


サーシェス「隙きありッてなァ!!」


 曲芸飛行のような精緻極まる反転砲撃。
 機体以前の問題だ。このイナクト、一体どれ程の怪物が駆っているというのだ。
 グラハムの背筋に悪寒が走る。

 とっさにリニアを下げ、ロッドの回転で防御態勢を取る。
 またしても牙を剥くライフル弾。
 一発一発、弾き返す度に散る火花に目を細める。


 この期に及んで、燃料の配分をグラハムは脳裏から外しきれなかった。
 敢えて敗因を指し示すならば、それだろう。
 その逡巡を、確かにサーシェスは見切っていた。
 故の、一手。


グラハム「――な」

サーシェス「は――!」



 サーシェスは、そこから一気に【踏み込んだ】。
 
 そう。

 イナクトは、そのまま、一直線に、フラッグ目掛けて突っ込んだのだ。


 


 
 
395 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/15(日) 04:19:56.00 ID:m6HAmtDp0

グラハム「ッ――!」


 構えた、そして、放った。
 最大チャージの、ティエレンさえ真っ向から貫徹する一撃。
 それを、イナクトははっきりと見て避けた。
 機首が上がる。
 如何な大出力を誇るフライトユニットとて、加速の出発点が違えば効果を出しきれず。
 
 交錯。
 確かに狙った。
 惑いを抜かれた。

 フラッグの頭部を、正面カメラアイを強かに叩きつける、すれ違いざまのイナクトの翼。
 琥珀色のバイザーを粉々に打ち砕かれながら、衝撃と視界途絶によろめく巨体は。
 あざ笑うかのようにバレルロールを見せつけ離脱する蒼い機影を見上げながら、ゆっくりと。

 血塗られた信仰の大地へと、墜ちていった。


サーシェス「悪くなかったぜ兄ちゃん、ユニオンの狗にここまで肝を冷やされたのは……【二度目】か」


サーシェス「あばよ、次はガンダムのケツを追ってくんな! 狗らしく吠えながらな……ハハハハハハハッ!!」




 ・
 ・
 ・
 ・


 その日、乾いた大地に二人の男の慟哭が響き渡った。

 一人は、救えなかった幼き骸の前で、望んだ存在になどなれなかった自分へ失望し、呻いた。

 一人は、己が矜持さえ曲げ立ち向かった邪悪に真っ向から打ち破られ、天を仰ぎ吠えた。

 
 雨が降る。
 
 血を流し、嘆く民を包み込むような、優しい雨だった。


 女が見上げる。
 
 彼は今、何処にいるのだろうと空を見つめた。


 まだ、戦いは終わらない。


 だが、終わりは確かに近づいていた。


 ・
 ・
 ・
 ・




「ふむ、そろそろかな」

「老骨の骨身など惜しんでも仕方あるまいさ、さて……」

「安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)の真似事など、いつぶりかのう? くっくっく……」
 


 
 
396 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/15(日) 04:23:48.97 ID:m6HAmtDp0
グラハム、黒星。

木曜日か金曜日にまた更新を。
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 05:52:46.47 ID:fDsG/7Nz0
サーシェス退場はないと思ってたが完全に負けるとはな
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/15(日) 07:52:43.12 ID:4eSHB5hJO
カスタムフラッグの強い点 加速力、攻撃力
カスタムフラッグの弱い点 それ以外
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 08:28:06.12 ID:juQg4r050
乙です。
疑似太陽炉積むまでは持久戦は厳しいもんなぁ……
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 10:18:02.10 ID:12OxJcK90
これカスタムフラッグの弱点突かれたんじゃなくて、サーシェスがヤバすぎてグラハムでも手こずってたら僅かなとこから逆転を許したって感じで、中身の強さで結果が出たみたいな話っぽい?
頭おかしいでしょグラハムスペシャル中の逆転劇から一瞬で更に逆転してるって・・・さすが一期最強の一人
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 10:27:04.01 ID:ScI0AOSJ0
サーシェスって初めて乗ったガンダムで他ガンダムを圧倒したし、パイロットの腕だけなら1期最強だと思う。
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 11:26:21.79 ID:lvCuz5Aa0
示威目的ゆえに間合いの違いはあれど4機とも真っ向から敵を粉砕する作りのガンダムを相手にするために無理を積み重ねてカスタムしたフラッグじゃ高いレベルで中庸な機体と戦闘するのに適正では無いしなあ
乗り手の性格的にも相性は最悪に悪い
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 18:08:54.56 ID:kuuUNaJIO
>>401
そのサーシェスにトランザム使った後にデュナメスで近接戦闘して片目で圧倒したロックオンとかいう化け物
ダリル特攻がなければ勝ってたろう。特攻で初めて片目見えてないことに気づかれたぐらいだし
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 19:59:22.60 ID:CgM/oq6Go
ニールはがちで最強だろ
狙撃だけでなく実は近距離もいけるという
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 20:51:53.20 ID:tYsSaJYho
>>401
トリニティー長男は元々グラハムに腕斬られる力量な上
アリー戦はガンダム乗る前に腹に銃弾撃ち込まれて瀕死状態で戦ってるから
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 23:19:05.81 ID:AlFUse/Y0
まあ、サーシェスって伸びしろがないから二期だと相対的に弱体化するし。
悪い意味で変わらない存在だったが故に、最後に至っては接近戦で、格闘武器のないライルを倒せないという体たらく。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/18(水) 14:23:30.96 ID:V06X0COM0
2期は体の半分は消し炭だけど、肉体は再生医療で再生したとして、
パイロット能力に影響はあったりするんだろうか?
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/10/18(水) 20:55:13.02 ID:tiDGmJpUO
>>405
アインお兄ちゃんを名有りモブみたいに言うなw

>>407
現代レベルの技術で考えれば反射神経やトラウマが完全回復するはずが無い
義肢はそれを自分の肉体と感じられない限り拒絶反応が出るし機械義肢は心理的に自分の体にはなり得ないから絶対に100%の回復はあり得ないと聞いたことがある

あとsageろ
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 02:09:03.27 ID:Fw50dqIC0
土曜
410 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/21(土) 03:17:24.20 ID:25zoZOnS0


――市街地――


 シャッター音が耳の奥を揺らす。

 両断された土色の装甲は、汚れと傷でフラッシュさえまともに弾かない。

 暗く、重い、残骸から滲む理想の残滓と無念の現実。

 反乱軍のアンフ、ガンダムによって蹴散らされたそれを十数枚の画像データに収め終わると、何も言わずその場を去った。



イケダ「どうだ?」
 
絹江「はい、全体的にアングルを決めて被写体が収まるようにやってみたつもりです」

イケダ「よし、いいぞ。こういうことは現地でねえと学べないからな」

絹江「有難うございます、教えていただける時間も取っていただいて……」



 恩返しみたいなもんだ、と笑う彼に、此方ははにかむしかなく。

 撤収準備を終えた別行動報道陣と分かれて後、基地までの道のりを揺られ揺られて帰っていく。

 自分もそこそこしぶといと思っていたのだが、流石に海外特派員とそのチームは筋金入りだ。

 早くも戦場と化していた街から得た画像や情報を精査し、吟味している。

 眠気なんかに負けている場合じゃないな、と思いつつ、身をシートに投げ出す。


 肩が、少し震えている。

 思い出したんだ。

 あの惨状……ラ・イデンラによる眼の前での爆弾テロの光景を。

 そして、そこにはなかった、もっと大きな恐怖を。



「大丈夫? クロスロードさん」

絹江「はい、少し……以前のことを思い出しちゃって」

「無理しないで寝ときな。イケダさんはもう爆睡してるし」

「休まないと次に差し支えるよ。切り替えは大事さ、だろ?」

絹江「っ、はい」



 アンフの装甲、そしてその奥の金属の機器達、フレーム、人。

 皆、諸共に断ち切って破壊し尽くす、一切両断の暴威。

 ガンダム。

 そのあまりの破壊力を目の当たりにして、自分は今震えている。
411 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/21(土) 03:48:46.18 ID:25zoZOnS0

 ただ破壊するだけなら、こうも恐れてはいないだろう。

 ――綺麗だったんだ、本当に。

 鏡面のような光沢のある、斬られた断面。

 あまりに少ない周りの被害。

 転がる残骸の数々を仕留めたとされる、経過時間。


 その全てが、美しかった。

 仕事としては完璧な、発生即殲滅の繰り返し。

 そして、そんな別次元の性能のものとやり合う為に此処へ来た、彼らの存在。

 ――勝てるのか、本当に。

 あまりにありふれた疑問が骨身を凍えさせる。


 彼は無事だろうか。

 ガンダムは、もう一体いたらしい。

 戦えたのだろうか。戦ってしまったのだろうか。

 死んでしまっては、いないか。


 言葉にしようもない悪寒が皮膚の下を這うようで、気持ち悪い。

 ゲート前を通過して、荷物を各々担ぎ出す取材陣。

 追随して抱えた荷物は、こんなに重かっただろうか。



絹江(……考えたって仕方ないこと)

絹江(例の件もある、私は私のなすべきことをするだけ)

絹江(分かってる、分かってるけど……!)



 力の入らない身体を動かし、車外に出る。

 目の前をせわしなく通り過ぎていく兵士、整備員、その他諸々。

 当然、クーデター対処はユニオン軍も全力で対応している。

 しかしその動きは慌ただしい。そう、【こうなるとは思ってなかった】という焦りが前面に出た動きだった。

 国内情勢が荒れ、テロやデモが頻発するまでは想定内だったのだろう。

 しかし軍部が割れて攻勢に出るなどと、そのような終わりの始まりにいきなり発展するとまでは思っていなかった。

 故に初動も慌ただしくなった。

 もしガンダムが鎮圧をしていなかったら、早期の解決は困難を極めたはずだ。

 組織的なガンダムとの交戦を意図して避けたフシがある、とはイケダさんの言だ。

 この戦い、これからどう転ぶんだろうか。

 本当に、疑念ばかりが――


「イケダさあん!!」

イケダ「おん? 待機組か、一体どうし……」


「さっき輸送機が着陸して……搬送されてきたんですよ」



「聞いたら、例の専用フラッグ、撃墜されたって!!」
 

絹江「 え 」 
412 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/21(土) 05:00:17.45 ID:25zoZOnS0


 ――一気に、音が遠のいた。


「絹江! 待て、おい……絹江ッ!」



 ――荷物を投げ捨て、全力で走る。


 ――まさか、まさか……まさか……!



「あ、おい、君……!」


 ――MSドック、さっき搬送されてきた、まさか、あぁ、まさか!


 ――酷く寒い。走っているのに、汗が出てるのに、こんなにも暑いのに……!



「運んでくれ、すぐに交換を」


「ひどいな、頭部ジョイントがぐちゃぐちゃだ」



 ――呼吸が止まる。

 ――思考が固まる。



 ――目の前を、黒いフラッグの頭が ゆっくり    運ばれてっ て



「絹江、しっかりしろ! おい!」

「あ、待って、誰か倒れて……ストレッチャー!!」


――――



――会議室――


「……とにかく、だ」

「君はガンダムを前にして敵前逃亡をし、あまつさえその対ガンダム用カスタマイズされたフラッグで」

「イナクト相手に敗北を喫した事実は変わらない、そうだね!?」

「グラハム・エーカー中尉!」



グラハム「はっ、その通りでございます。閣下」



 基地に集まっていた将官級、勢揃い。
 
 自身を中心に据えての、さながら簡易の軍法会議といったところか。

 咎める姿勢の基地司令の言に、何一つ言い返さずに肯定を返す。

 しかし、司令含め数名、佐官階級含めて十数名、続けての指摘も無く唸るばかりであった。
413 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/21(土) 05:33:29.23 ID:25zoZOnS0
「しかし司令、これは由々しき事態でありました」

「彼の追撃と交戦で、【第三勢力の介入】は白日のもとに晒されました」

「もしこの交戦がない場合、我々は敵への的も絞れず……」

「ッ! 我々の敵はガンダム、ソレスタルビーイングだ! 【第四勢力】の存在など今は……!」


「お言葉ながら閣下、このフラッグの映像記録からも分かる通り、犯行勢力はただのテロリストではありません!」

「左様、現行の武装勢力でイナクトを改良した上で、中尉ほどのエースと渡り合える組織など非常に限られます。皆無に近い」

「これほどの操縦をこなす存在に加えガンダムもまだ健在です。中尉への責任追及は一時保留にしては如何でしょうか」

「これがもしAEUの仕組んだ、アザディスタンを利用した罠であった場合、生じる世論への悪影響は計り知れません」

「此処は撤退も視野に入れねば……アザディスタンと共倒れする必要などありません」

「それは性急だ、始めてしまった派兵を一方的に切り上げるなどそれこそ世論が!」

「だが見ただろう! 市街地テロでは、我らの手が及ぶ範囲は……!」

「軍隊にまで超保守派がいる以上、怖くて共同戦線など張れやしない」

「忌々しい中東の弱国め。ガンダム鹵獲まで保てばいい。当初の目的を」

「そもそもガンダムを鹵獲できなければ派兵の意義自体が」

「ラフマディの見つければ事が足りる、まずはそこで……」

「はっ、捜索協力を奴らがしてくれんのに、どうやって探せと言うんだ!」




グラハム(…………)



 混乱そのものには、一理があった。

 しかし、その上での意思統一が出来ていない。

 それは、この派兵自体に元から良い感情を抱かないもの、体面を気にするもの、ただガンダムを欲するもの。

 それらが混在した状態で【予想外の事態】に地盤を揺るがされたからに他ならない。


グラハム(どうあれ、私の責任だ)

グラハム(その場でガンダムに仕掛けるか、追った上で勝てば良かったのだ)

グラハム(私の、責任だ)


グラハム(なぜ、私はあの時……ガンダムに向かわなかった?)


グラハム(あの時……燃えるアンテナ施設を見て……)

グラハム(それから……)


「もういい、グラハム・エーカー中尉!」


グラハム「! はっ、閣下」


「君への処分は保留とする。継続して対ガンダム調査隊の責務を全うせよ」

「忘れるな、君の任務はガンダムの鹵獲だ」

「個人の感傷で、国家の利益をないがしろにすることは許されん。分かったな?」


グラハム「……はっ、グラハム・エーカー中尉、作戦行動に戻ります」


グラハム(……何故、私は、奴を追ったんだ……?)
414 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/21(土) 05:34:29.99 ID:25zoZOnS0
また今夜、必ず。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 09:52:09.93 ID:5+wooVBMO

グラハムさんアウトローへの第一歩を踏み出したか
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 14:30:26.25 ID:52iEGcw/0
兵士としては失策だけど戦士としては満点の判断だったよグラハム
417 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/10/22(日) 02:02:53.48 ID:nDtRCSrJ0
失敬、ちと発熱を確認し、今夜の分は明日に繰り越したく思います。
待たせている時分、申し訳ない。
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/22(日) 23:54:28.83 ID:Q6OXiV3x0
ご自愛下さいな
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 13:11:24.29 ID:t4BXrmYv0
まさに…眠り姫だ!
420 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/11/20(月) 04:00:49.20 ID:43CfljYp0



 会議室はさながらダンスフロア。
 
 喧々囂々、知性の欠片の散りばめられた罵声に忍耐を摩り下ろされつつ、外へ。

 視界に真っ先に飛び込んできたのは、勿論、我が盟友。

 その長身を壁に寄りかからせ、困ったような笑みで出迎えてくれた。



グラハム「すまん、カタギリ」

ビリー「言いっこなしだよグラハム。僕らに必要なのは謝罪でも償いでもない、だろう?」

ビリー「まずは歩きながら話そう。いま此処で君の謝罪を受けてたら、お偉方が出てくるまで動けそうもないからね」

グラハム「あぁ……そうだな、承知した」



グラハム「機体は?」

ビリー「修理の方は即日完了。オーバーホールの方はもう少しかかるかな」


ビリー「見事なもんだよ……しっかりツインアイを真横一閃、そこから旋回の捻り込みまで加えてギリギリ首関節の許容限界を超えさせている」

ビリー「言ってる意味はわかるよね? 普通の衝突じゃあないってことさ」

ビリー「メインカメラを正確に破壊しつつ、まともに当たっただけじゃ足らない分を機体の捻りで無理やり補填して、フラッグの首をもぎ取りにかかってる」

ビリー「異次元の使い手だよ。相手は君と同等級の操縦技量に、君さえ超える場数と経験か、もしくはMSの高い専門知識を即興で戦術転用する知恵があるってことだ」

ビリー「空中変形を使ってこなかっただけまだマシってだけかな」


グラハム「おおよそ、前者だろう。生粋の戦闘狂……殺し合いを楽しむ精神的図太さと、戦況を冷静に判断する繊細さを兼ねた傑物だ」

ビリー「このイレギュラーも、戦いに感情が乗っていたかい?」

グラハム「……何故だろうな、以前交戦したガンダムの、間合いのとり方に妙な類似点が見えた気がした」

グラハム「戦い自体には思念や覚悟は乗っていない……その一点から、微かに読み取れたものが、それと言わざるをえない」

ビリー「君の感想だ、僕からは何も言えないが……ガンダムとの関連を?」

グラハム「分からん。内心それどころではない、というのが正しいかな……」

グラハム「――強かったよ。敗北したからではない、飛行MSの操縦の極致、その一端を垣間見た気さえする」

ビリー「聞いている限り、君の理想、極みの方向性からは遠く逸脱していると思うけれど?」

グラハム「道の到達点とは唯一ならざるものだ、カタギリ」



 言葉を重ねるさなか、何人もの兵士とすれ違い、何人もの職員に追い抜かれた。
 
 敬礼は何処か重く、挨拶の言葉は淀んでいるような気さえした。

 実際そうであるものもあろう。私は望まれた結果に背を向けた男だ。

 だが、それ以上に……その後ろめたさが、そう思わせているのではないかと、自戒した。

 事態の深刻さは、もはや個人レベルの戦果で覆るものではなくなっていたからだ。



ビリー「聞いたかい? マリナ・イスマイールが……超保守派の襲撃を受けたそうだよ」

グラハム「……本当か?」

ビリー「単独犯で不慣れな犯行だったから王女に怪我はなかったらしいけれど、犯人の射殺で議会は更に紛糾しているんだとか」

ビリー「全く、とんだ貧乏くじもあったもんだ。それでも、上はガンダム、ガンダム、ガンダム……」

グラハム「だが、真理だ。我々は、何としてでもガンダムを得て二国に先んじる必要性があった」

グラハム「……あった、はずなのだがな」

421 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/11/20(月) 04:27:59.74 ID:43CfljYp0

 言葉に、窮した。

 分かっていて、自身でも欲していて、誰にも望まれていて。

 事実、あの場面で戦っていれば、一定時間の交戦は出来ていたのは事実で。

 仮にその後に撤退してクーデター鎮圧に参加していた公算が高かろうとも、初戦闘から得られる情報は絶大な価値をユニオンにもたらしただろう。

 
 それなのに、と。

 自分でも、その理由に答えが導き出せなかったことが、意外で。

 言葉が、続かなくなっていた。



ビリー「……グラハム、君はガンダムを前にして、防衛任務の妨害をした謎のイナクトとの交戦を優先した」

ビリー「ガンダム用に用意した周辺情報を利用し、燃料の限界ギリギリまで追跡計画を立てて、あと一歩まで戦った」

グラハム「……」

ビリー「何故だい? こうして君を前にして、ガンダムへの意気込みを喪ったとは到底思い難い」

ビリー「僕の眼の前にいるのは、まごうこと無く対ガンダム調査隊のグラハム・エーカーだ」


ビリー「君ほどの男が、恋い焦がれた相手に見向きもせず、逆に嫌悪の対象へは飛びついた」

ビリー「使命感、義侠心、色々持ち合わせた御仁だとは思っているけれど……何より唯我の武人と思っていたからこそ、そこに関しては少し意外だったよ」

グラハム「お前にそう言われると、私のガンダムへの熱意は疑う余地もなさそうだな」

ビリー「どうも。まあ、だからこそ悩むんだけどね」


「何故、君は」
「何故、私は」

「「ガンダムを追わなかったのか」」


ビリー「……君に分からなくて誰に分かると言うんだい、全く……」

グラハム「あぁ……まったくだ……」


 そうこうしている内に、ドック前の扉が目の前に居座っていた。

 酷い重厚感だ。

 まるで【意に反し命令に背く軍人、立ち入りを禁ず】とでも書かれているかのような威容ではないか。


ビリー「ただの薄っぺらいカーボンドアだよ、グラハム」


 心を読むな、盟友。

 とにかく、開閉ボタンへと指を伸ばす。

 次への備えこそ、我が責務なれば、と。


 そして、面食らった。


 開いた瞬間、まさに目の前に。


イケダ「はあ……はあ……ちゅ、中尉どの……!」


 胡乱で挙動不審な東洋人が行く手を阻んでいたのだから。


イケダ「表現ひでえなおい?! じゃなくって……!」


イケダ「来てください中尉、絹江が……!!!」

グラハム「なに……?!」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/20(月) 10:45:33.92 ID:dUMUD/rS0
おおお…?
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/20(月) 18:39:39.62 ID:91kvtCrjO
何が起こった……!?
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/21(火) 20:33:47.09 ID:g3ZzaCfF0
イケダさん、アンタもさらっとモノローグにコメントすなw
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/21(火) 20:46:06.28 ID:/EzNg6W5O
シレッと心を読むモブw
426 :隙を見てちょっとずつ更新していきます ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/11/22(水) 04:54:29.44 ID:w8EgTRYI0
――――

「はぁーっ……はぁーっ……!!」


 どうも、絹江・クロスロードです。

 今私は、基地の医務室のベッドで、呆然としています。


 ……何処から説明したらいいものか。

 5W・1Hに乗っ取るのであれば、そう。

 ついさっき、MSドックの搬入口で。

 私が、横から来ていた掃除のおばちゃんのカートに気づかないで。

 脚を引っ掛けた上、駆け寄ってた勢いのままに、地面に熱烈なやつをプレゼントした、と。


「ふー……すぅーっ……はー……!!」


 そう説明した上でなお、目の前の男性は酷く乱れた呼吸を整えながら睨み続けているのだから。

 多分問題は、そう……別のところにあるやつだ。


イケダ「すまん絹江……! 頭がどうかしてたっていうか、説明がめっちゃかいつまみすぎたっていうか……!」

ビリー「ぜぇ……はぁ……あ、はは、僕達、【絹江さんが車にぶつかって流血した】、レベルの話、聞かされたからねえ……」

「……ふぅー……っ……!!!」


絹江「イケダさん……ジャーナリスト失格……」

イケダ「面目ねえ……」


 仰天の職員を尻目に、壁に寄りかかってあえぐカタギリ技術顧問と、平謝りの我が上司。

 そして。



グラハム「……はーーー……」


 ようやく呼吸を整えきった、金髪翠眼の友人。

 状況は何となく理解した。

 恐らく、ようやく見つけた二人に混乱しきったイケダさんが抜けきった誤報を与えてしまって。

 その弁明さえ待たずして、彼が駆け出した、といったところでしょう。

 ……睨まれている理由も、今では何となく察せるんだから、私も馴れちゃったもんだ。


グラハム「……容態は?」

絹江「ちょっと鼻を打っちゃって、しばらく鼻血出てたけど、骨に異常はないって」

絹江「ほら、ガーゼ取っても血とか無いでしょ? もう大丈夫」

グラハム「なら、良かった……」


グラハム「…………」

絹江「…………」


グラハム「…………」

絹江「…………!!」


イケダ(何だこの空気……)

ビリー(何だこの空気……)

医師(用が終わったなら出てけよ……)
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 07:07:15.94 ID:f0vaaaR0O
医師かわいそう……イケダさんは猛省してどうぞ
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 10:45:42.23 ID:SncTh1gJ0
イケダァ……www
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/22(水) 13:14:11.65 ID:NHqJr5p3O
フラッグ撃墜のお知らせ、絹江ドックにダッシュ

フラッグの壊れた頭を見る、カート接近

カートと接触事故→絹江負傷(鼻血)

絹江邪魔なので搬送→イケダ誤解
↓          ↓
ハム帰還       ↓
↓          ↓
イケダの報告でハムも誤解
      ↓
医者「どうしてこうなった」 ←イマココ


あってる?
430 : ◆AvaUNpQJck [saga]:2017/11/23(木) 01:17:51.05 ID:lmUB4tvR0
【合ってます、邪魔なのでは草不可避】
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 03:07:11.18 ID:lBbIQ3Co0
保守
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 14:50:16.59 ID:oRSIZYwgo
まだなな
433 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/22(月) 06:21:52.54 ID:oVyaiogV0
本当に長らくお待たせして、申し訳ない
酷く停滞しましたが、ちゃんと終わりを見せたい。
今夜より再開します。
アザディスタンにもう何ヶ月いるんだって話です。
では、今夜また。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 06:52:16.07 ID:1/x/yNt1O
消えたかと思った
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 08:40:05.24 ID:lkPnoio2O
まってる
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 12:03:27.84 ID:gXyw4NOa0
待ちわびたぞ少年!!
437 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/23(火) 02:03:26.62 ID:8cil2/FJ0


グラハム「――は、は」

絹江「……?」

グラハム「いや、気にしないでくれ。そうだな、言うなれば……」

グラハム「飽きさせない女(ひと)だと、そう思わされただけのことだ」

絹江「へ?」


 呆気に取られた一同に目もくれない。
 
 向けられた表情は未だ陰りを残してはいるけれど、いつもの彼のそれに少し近づいたようにも見えた。

 手を差し出された。

 ――此処で話すつもりはない、場所を変えよう。

 そう言いたげに、口元が笑っている。

 
絹江「……私、貴方との接触禁止令が出てるんだけどなぁ?」

グラハム「自己責任で頼む。最初にドックまで逢いに来たのは君の方だ、そうだろう?」

絹江「ずるい人……」

グラハム「はて、知っているものだとばかり」

絹江「改めて実感させられたってこと……!」

グラハム「……と」


 彼の手を取り、ベッドから立ち上がる。

 すれ違いざま、彼と技術顧問の目があった。

 ――他言無用だ、盟友。

 ――仰せの通りに、フラッグファイター。

 人差し指を鼻の前に置いたグラハムと、肩をすくめ笑うビリー。

 言葉さえ不要、その一瞬の交錯で、とりあえず邪魔者が来ることはないことだけは、察せられた。

 私とイケダさん?

 いや、そういう関係じゃないので。スルーで、はい。

イケダ「ひでえ……!」



絹江「それで、ドックの方?」

グラハム「懺悔室に使うには神聖に過ぎる」

絹江「……じゃあ、何処?」

グラハム「残悔は屋根のない場所で吐くに限る」

絹江「あら、まるで青春時代ね。えぇ、何処へでも。センパイ?」

グラハム「肌が粟立つ」

絹江「ひっど……!」


 目指すは階段。
 
 周りの目も気にせず、早足の背中を意地になって追いかける。

 話したいことがある。伝えたい事がある。聞いてほしいことがある。

 それを、彼も持ってくれているのかもしれないと思うと、少し嬉しかった。


 ・
 ・
 ・
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 04:25:03.27 ID:gb9Q1KG/O
デートですね分かります
439 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/23(火) 05:02:46.86 ID:8cil2/FJ0
絹江「…………」

グラハム「…………」


 乾いた青空の下、真新しい手すりに腕をかけ寄りかかる。

 彼は背を預け腕を組んでいる。

 互いの手に握られた缶コーヒーはまだ湯気立っていて。

 話し終わった口は、きつく閉じられていて。

 忙しない車両や兵士たちの生活音などは、かすれた風の音を挟んで何処か遠くのもののように感じられた。


絹江「そっか。負けたんだ、イナクトに」

グラハム「そうだ。敗北した、完膚なきまでに」

絹江「……正直、意外。貴方のこと、ガンダム以外なら最強くらいに思ってたから」

グラハム「自負はある。そうでなければ、半世紀先を行く天上人の背など追えはしない」

グラハム「その上で、敗北は敗北だ……賊は、私より強かった。それだけのことだ」


絹江「でも、貴方は生きてる」

グラハム「……奴がガンダムを恐れた結果だろう」

絹江「それは相手の都合、結果は結果。死なない以上、止まる必要なんかない」

絹江「どうしたの? 何か、別のことで迷ってるみたい」

グラハム「幻滅したか?」

絹江「純粋な疑問よ。貴方、強がりだから」

グラハム「よく言う……」



 それでも、ぼそぼそと言うことには。


グラハム「君に偽りを告げてきたつもりはない。私はガンダムとの戦いを望んで、この空に来た」

グラハム「今でもそう思っている。渇望と言って差し支えない」

グラハム「だが……あの瞬間、受信アンテナを爆破されたとき、私は、その怒りに突き動かされ、ガンダムに背を向けた」

絹江「……」

グラハム「……人道的な視野での正解など、私にとっては何の意味も持たない」

グラハム「グラハム・エーカーとはそんなつまらない男であったかと、このような正念場で思い知らされるとはと……」

グラハム「あぁ、君の言う通りのようだ。強がりだな、これは……」

絹江(重症ね、これ……)

 
440 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/01/23(火) 06:05:26.51 ID:8cil2/FJ0

 それはそうだろう。

 思い返すまでもなく、彼のアイデンティティとして【MSパイロット】は重要なものだ。

 それが、ガンダムという世界的なテロリストではなく、ましてやライバル機イナクトの犯罪者に敗北したとなれば。

 彼の自尊心、自負にどれほどの傷をつけたか計り知れない。


絹江(ただでさえフラッグを優に凌ぐ高性能機を相手取ろうとしてる特務部隊、その最精鋭)

絹江(今更、自分の技量や搭乗機の問題なんて気にしてられる状況なんかじゃないでしょうに)

絹江(そこに疑念がついたりすれば、ただ対峙することだって危うくなる)


 ただ動かすだけでも死の危険性を伴う特務MSでの任務。

 普通の軍人であれば、今回の一件で二度と乗る気になどならないはずだ。

 それでも、彼の精神は一線で踏みとどまっている。

 怖いと、思う。

 彼の言う【渇望】は、自分の死と天秤にかけてなお余りある自己実現の形。

 ――言い換えれば、飛ばなければ、生きている意味など無いと、言っているようなものだ。

 その【渇望】に背いたことへの困惑と、失望。
 
 実に彼らしい、自己への厳しい追及の光景であった。
 

絹江(……否定は、したくない)

絹江(それが狂気に近い感情でも、それを維持しなきゃ戦えないとしても)

絹江(彼はまだ、間違えてはいないから……)

絹江(――よし、やりますか)


 
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 10:12:08.36 ID:Wrgyu4RVo
期待
442 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/07(水) 05:12:59.11 ID:/x8RUqy+0



絹江「まず、一つ。訂正して」

グラハム「!」

絹江「貴方は、自分を裏切ってなんかいない」

絹江「むしろ、あの場において貴方以上にガンダムと対峙できていた人物はいないわ」

グラハム「……問おう、何故だ?」



絹江「ガンダムは、何故この国に来たと思う?」

グラハム「問答か」

絹江「いいから!」

グラハム「無論、アザディスタンへの武力介入だ」

絹江「その通り。そして、今回はガンダムにはもっと明確な作戦目標がある」

グラハム「!……ラサー、か」


絹江「そう。ソレスタルビーイングは馬鹿じゃない」

絹江「この国に来るとなった時点で、【ガンダムによる介入行動だけで作戦目標を達成することの難しさ】くらい把握しているはずよ」

絹江「国内の紛争、爆弾や人間のみの戦闘行為をMSでは鎮圧しきれない、ならば」

グラハム「紛争に到達する前に国内情勢を乱す輩を率先して排除、鎮圧する……」

絹江「恐らくは、彼らの手のもの総動員で張ってるんじゃないかしら」

絹江「ガンダムのパイロットが降りて頑張るわけにも行かないものね」



絹江「ソレスタルビーイングは本気よ。今回の一件、ガンダムは完全な添え物なの」

絹江「にも関わらず此処に降り立った。彼らの熱意……正しいかどうかは別として、認めなくちゃいけないところまで来てるわね」


グラハム「……それで、このグラハム・エーカーの弁護にどう繋がる?」

絹江「分からない? 向こうがガンダムをメインとして運用してこない以上、今回のユニオン派兵は完全な失策よ。無駄ってわけ」

グラハム「……」

絹江「でも、唯一、違う人がいるわ」

絹江「それが貴方よ。貴方だけは、イナクト……【存在すら憶測の域だった第三勢力を発見し対峙した唯一のユニオン軍人】」

絹江「ガンダムどころか、ソレスタルビーイングと、同じステージで戦っていたただ一人の兵士」

グラハム「詭弁だ……」

絹江「もし第三勢力の発見がユニオン側でなかったら、ユニオンの外交姿勢は説得力を失っていたわ」

絹江「ガンダム目当てで他所様の事情に首を突っ込んで、大コケした三大国の一角って……」



グラハム「絹江!!」

絹江「ッ……!」
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 08:43:29.02 ID:IIk13aeVO
ブン屋の情報解析力侮りがたし
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 13:49:06.52 ID:6D3KJy8H0
一介の兵士以上になる気がないグラハムでは絶対に届かない視点だがブン屋でも相当な切れ者じゃないとガンダムの影に惑わされて届かんな
ガンダムに対峙する男の傍らに居続けた女だからこそか
445 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 01:55:24.84 ID:3I7lnFl90

グラハム「……それでも、私はユニオン軍人だ」

グラハム「所属の動向の正否如何に関わらず……な」

絹江「……OK。でも、敗北以前に、貴方がイナクトと対峙した事実が、ユニオンの建前と体面を首の皮一枚で繋げてるってのは、理解してほしいわ」

絹江「貴方が飛んだことで支えられたものがある。守られたものがある。それを、誇りに思って欲しいだけなの」

絹江「それだけは、分かって欲しいから……」

グラハム「欲しがりめ。良いだろう、折れてやる」

絹江「ッ……私は欲張りなの、知らなかったかしら?」
 
グラハム「慎ましいだけの女性よりは、好ましく思うがね……」


 嘆息。

 当然の反応だ。

 間を埋める珈琲に眉をしかめる。

 ユニオン軍の珈琲は珈琲を殺して埋めて成り代わった泥水だ、というレビューを知ってるけれど。

 今日のこれはシチュエーションが八割を占めている気がした。


絹江(とりあえず、選んだ道は間違ってないと言えた)

絹江(次は、どうやって自信を戻させるか、だけど)


 難題だ、と思った。

 グラハム専用のフラッグのデータと、イナクトの交戦データでもあれば、単純な比較とシミュレートくらいはやれる、と思う。

 実はこう見えてMS開発史の研究者にインタビューとかして情報も集めているのだ。褒めろ。

 でも、それに納得してくれるだろうか、というと自信がない。時間もない。そもそもデータがない。くれるはずもない。

 さぁ、事実は少ない。

 真実には程遠い。

 どうやって、辿り着こう?


 ――悩む間に、仕掛けてきたのは、やっぱり彼だった。


グラハム「ふ……しかし、酷い、冗談だ」

絹江「え?」

446 :芝居めいた語り調と強気な独り言は全部自分を奮いたたせるためという設定すき ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 03:14:12.17 ID:3I7lnFl90

グラハム「君の言うとおりであるならば、私は軍人の使命を全うした場合、国家の体面を護れぬ不忠者と成り下がり」

グラハム「このように結果として国家の矜持を支える一手を抑えようと、己が矜持に悖る不埒者に成り果てる」

グラハム「勝てば良かった、それは事実だ。何方を選んでも、勝ってしまえば言い様は幾らでもついたはずだ」

グラハム「だが結果として、今も付き纏う感覚が、私の中で指差し笑う……ッ」

絹江「グラ、ハム……?」




「お前は、果たして勝てたのか? と」


絹江「…………!」



 表情は笑っている。

 いや、こんなに苦しそうなそれを笑みとは呼ばない。

 少しずつ、手すりを背もたれに座り込んでいくグラハム。

 仕舞には体育座りで、表情も見えなくなって。

 それでも、絞り出すような声だけが、私だけに届く。

 そこからは、もう。

 それは、まさしく懺悔だった。


グラハム「通用はした……それは、確かだ」

グラハム「だが決定的な一瞬で逆転された、覆された……それだけで分かる。あの騎手は、私より強いのだと」

グラハム「私より強い男は一人だけだった。【あの人】だけだった、【あの人】だけのはずだった」

グラハム「あの時から自分は何が変わったのか……ずっと誤魔化してきたのか、それさえ分からない。」

グラハム「だが、奴が、あのイナクトが思い出させた……思い出してしまった」

グラハム「……私は、弱いと……!」


 優美な風体に合わない無骨な指が、金髪をくしゃりと握りつぶす。

 さっきの珈琲の味も思い出せない。

 見下ろしているからだろうか。

 彼が、グラハム・エーカーが、こんなにも小さいなんて。


 相手がどんなパイロットかは分からない。

 実力だって、正直思い浮かべられやしない。

 でも、彼がそこに何を見出し、思い出してしまったかは、分かる。

 【上官殺し】、私が彼に聞かされていない、彼の過去の出来事。


 唇が乾いていく。掛けるはずの事実が逃げていった。

 どうしよう。

 こんな、こんな姿のこの人……初めて見た。


――――

『どうだ、カタギリ君』

『奴のあのような姿、君は見たことがあるかね?』

「……正直ショックです。弱音を吐露したことより、僕相手じゃないってことが、ですが」

『感傷の付き合いではないが故のプロフェッショナル。そこは誇るべきであろうよ』
447 :物陰から出歯亀師弟すき、GNハイメガランチャーしたい ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 03:46:32.63 ID:3I7lnFl90

『同型機の敗北、戦術眼の似通った熟練の敵エース、そして彼女の慰め……酷いもんじゃ、己を責め支えとしていたところを無下に剥ぎ取りおった』

『ガンダムのパイロットさえグラハムの目には付け入る対象に映った。実力で上回られたのは、本当に奴以来の邂逅と言えるだろう』

「……仮に、未だあの御方を超えていないとしても、現ユニオン最強は間違いなくグラハムだと断言できます、が」

『無価値ぞ。奴にとって比較対象はただ【最強】のみ。今は亡き師の次に来た怪物に負けたとあっては、なおのこと』

「No.2である事実より、No.1になる機会の永遠の喪失が彼を打ちのめした……ですか」

『その顛末は、君もよく知っていよう。彼女は、知り得なくて当然じゃがな』

「あの頃のグラハムは見ていられませんでした。何処か、こう、自らを傷つけるように飛んでいたというか……」

『全ては決着をつけぬまま逝ったあの馬鹿者の咎である、が……ここに来てとは、いや、忘れるはずもあるまいか』

「……良いのですか? あのままでは、以降の作戦に支障が……」

『儂は一向に構わんよ。どうせ最初から決められた負け戦であろう?』

『ここでしくじったら何もかも終わりというわけでもあるまい。人生は長い』

「……ん?」

『ガンダムが決着をつけるまで、折れておればいい。立ち上がるのは、それからで……』

「あ」

『あ?……』

『あ』

――――

グラハム「……き、ぬえ?」

絹江「……っ」

グラハム「その、悪かった。私らしくもない……」


絹江「黙って」

グラハム「だが、しかし」


絹江「黙って、聞いて!」ギュ

グラハム「ッ……ぬう……」


 両腕に、力を込める。

 指が触れた金髪は、見た目とは裏腹に男の人らしい手触りがした。

 今、自分の腕の中に、グラハムの頭がある。抱きしめている。

 こんなに彼を近く感じたのは、爆弾テロ以来だったろうか。

 そうしないといけないと思ってから、殆ど無意識に、そうしていた。

 涙が、止まらない。

 鼻水を啜る音は、煩くないだろうか。

 自分の言葉を少しずつ、胸の奥で組み上げる。

 ……きっと、今から言う言葉は、致命的な嘘を交えている。

 それでも、言わなくちゃいけなかった。

 責任だと、思ったんだ。
448 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/02/24(土) 03:47:36.83 ID:3I7lnFl90

 初めて見た、この人の姿。

 いつもは見せない、本音の吐露。

 どうしたら最善かなんて、分からない。分かるわけがない。

 でも、決めていたことがある。変わらない思いがある。





 ……否定など、するはずがない。

 それが狂気に近い感情でも、それを維持しなきゃ戦えないとしても。

 今こうして聞かせてくれた言葉(しんじつ)は、間違いなんかじゃないんだから……!







「聞いて、グラハム」


「――貴方は、強い!!」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 13:00:41.94 ID:kfCPK9mso
この気持ちまさしく愛か
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/14(水) 00:43:56.92 ID:2tp6EuwB0
乙。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 03:17:31.29 ID:p+6qorv90
幸せになるべきだった。
絹江も、グラハムも・・・
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/21(水) 12:56:41.61 ID:poafnZxb0
私は我慢弱い
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 19:41:01.12 ID:Wr/20dtX0
グラハム生存確定だぞ、喜んで書け
454 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/04/22(日) 04:59:42.63 ID:yxMCYFYb0
喜んで。
今夜またお逢いしましょう。
怠けたツケは利子付きで。
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 09:13:20.31 ID:EFyrrgGA0
来たのか…!?
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 12:02:32.91 ID:2DwgUH3i0
私は我慢弱い
457 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/04/25(水) 06:09:18.76 ID:GgTu+xWW0

――――

 あぁ、参った。

 弱音を吐いたことが、ではなく。

 【誰かの前で弱音を吐く羽目になったこと】が、である。

 その結果が、これだ。

 全く、散々な遠征ではないか。


グラハム「…………」

絹江「っ……」
 

 側頭部に押し当たる、柔らかで暖かな感触。

 その奥底からささやかに響いてくるのは、彼女の生きている証そのものだ。

 逃すまいと頭を囲う細腕に、力が籠められる。

 彼女の全力の拘束とて、振りほどこうと思えば容易に出来よう筈なのに。

 微動だに出来ぬまま、続く言葉に耳を傾ける。

 
絹江「……貴方は言ったわ」

絹江「自分が軍人をやってるのは、空を飛ぶためだって。飛ぶことが好きだから、夢だったからって」

絹江「だけど、貴方……今回は無理して飛んでた」

グラハム「!」

絹江「分かるわよ、そのくらい……無理して私と一緒にきて、無理して嘘ついて……」

絹江「それでも、助けてくれて……!」

グラハム「……良心の呵責だ、それ以上の意味はない」

絹江「でも、嬉しかった……っ」

グラハム「……顔から火が出そうだよ」


 少し、目線を上げた。

 微笑みながら涙を流す彼女と、目が合う。

 器用な女(ヒト)だ。

 直視しきれず、瞼を閉じる。

 どうあっても離すつもりがないのは分かっていたので、無駄な努力を止め、脱力する。

 抱き寄せる力はすぐに強まり、胸元へと寄りかかるように、上体が傾いていくのが分かった。




絹江「……グラハム」

絹江「貴方が、貴方の歓びを抑え込んでまで飛んだことは、無駄じゃなかった」

グラハム「だが、敗北した……」

絹江「だからこそ、折れちゃ駄目なの……!」

グラハム「! ……」


絹江「貴方は負けた……でも」



絹江「貴方はまだ、勝ってない!!」
458 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/04/25(水) 07:38:27.02 ID:GgTu+xWW0
 思わず、眼を開く。

 彼女が、それを言うのか。

 戦うべきではない、意味がないと、この派兵を嫌った彼女が。

 【まだこの戦いは終わっていない】と、私に言うのか。


絹江「っ……阿漕、よね……自覚してる……」

絹江「でも、此処まで来た……貴方が、無理して選んで、ここまで来れたのよ……?」

絹江「私だって思うわよ……っ」


絹江「この国を救うのは、自分を曲げて戦ってくれた貴方であって欲しいって……!!」


グラハム「……」


絹江「確かに、貴方は負けた」

絹江「でも通用しなかったわけじゃない……ユニオンのグラハム・エーカーが通用しない筈がない!」

絹江「みんな思ってる、私だって……!」

絹江「貴方は、一番強いフラッグファイターだから……!!」


 言葉の一つ一つは、偽りなき真実。

 だが、根底にあるのは紛いの叱責に過ぎない。

 ――これは【戦ってほしくない】という彼女自身の想いを殺して願う、私を奮い立たせるためだけのジャーナルだ。


 震えた言葉が繰り返される。

 どうか折れないでほしいと、雫とともに降り注ぐ。

 いつもの理路整然とした見地からは程遠い、祈りのような剥き出しの感情。

 私のためだけに紡がれる、歪なエール。


 幾人もの他者へ、勝利を願われここに立っている。

 MSWADのエース、ユニオンのトップガン、フラッグファイター。

 勲章と地位を重ねる度に、重圧もまた層を成していった。

 だが、どうだ。

 今、彼女が願ってくれる勝利。

 彼女自身の真実さえ曲げて望まれる【グラハム・エーカーの勝利】に比べれば。

 その何と軽く、薄い責に過ぎぬことか。



グラハム(参ったな)

グラハム(弱音を吐いている暇もない)

グラハム(強がりで茶を濁すにももう手遅れだ)

グラハム(これ以上、彼女に嘘をつかせるつもりは無い)

グラハム(証明してみせるさ)


絹江「貴方は……ッ!」

グラハム「私は……」


「「強い!」」


絹江「……え?」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 08:57:55.14 ID:tWZp785j0
きたか…!
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 12:04:36.62 ID:K7+R7PsF0
待ちわびたぞ!少年!!
461 : ◆AvaUNpQJck [sage saga]:2018/06/09(土) 05:27:54.72 ID:wskR7Alj0
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