京太郎「俺はもう逃げない」 赤木「見失うなよ、自分を」

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512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/27(月) 23:31:45.21 ID:xiPyf+Dyo
オリキャラでは無いんだよなぁ……
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 00:20:32.79 ID:jNYsIBPPO
まだか
514 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/05/14(日) 20:10:24.48 ID:gafk8+Q20
ごめんなさい……

5月末が応募する小説大賞の締め切りだったり、英語論文訳して発表するゼミとか、
卒研のための技術身に着けたりとか、5月いっぱいはきついです………

6月に入ると多少余裕が生まれると思うので、そこでまた更新したいと思います………
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/14(日) 20:29:39.59 ID:p9Bpnm1+o
待ってます
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 20:30:37.09 ID:VSseFfCao
ちゃんと計画立てて進めるのは良い事だ
気長に待ってます
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/17(水) 18:57:04.58 ID:z5wisr4eo
こういう報告はありがたい
リアル大事に
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/20(土) 13:53:45.92 ID:cFOUZ9SUO
失踪はしないで欲しいのですよ〜
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/31(水) 12:29:16.11 ID:VM6Ftinm0
気長に待ってます
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 19:19:41.64 ID:t/gkbuQs0
気長に待ってるぜ
521 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/06/04(日) 21:09:38.17 ID:4Mrjp4U70
応募する小説締め切りの夜のこと。

23:50 別途用意するあらすじなど含め、すべて提出するものを用意する。

23:54 いざ提出しようとするが、何故か肝心の小説のデータの入ったtxtファイルがアップロードできない不具合発生。

23:58 仕方なく、デスクトップパソコンで試す。こちらは問題なく動作。必要事項を急いで記入する。

00:01 「応募は締め切りました。次回ご応募ください」

 
 実際に起こったことです。
 そんな精神状態で書いたものですがどうぞ
522 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/06/04(日) 21:11:16.45 ID:4Mrjp4U70
「くっ……!」 打3s
「カン――――」
「し、しまっ――――」
「カン、カン、カン! ツモ、緑一色・四槓子!」
「ぐああああああああああああ!!!」


(5,7,9pは全部切ってる! こいつなら………!)
「リーチ!」 打8p
「御無礼、黒一色・四暗刻単騎です」
「うあああああああああああ!!!?」


「だ、ダブルリーチ!」 打中
「ロン、人和・紅孔雀!」
「ぎゃああああああああああ!!?」


40分後


「つ、ツモ………役牌のみ、で……す……」

「煤けるどころか、全身黒焦げ………だが戦い抜いたか………」
「ふふ。いいものを見せて頂きました、失礼」
「いい闘志だったぜ。実力がついたら、また来な」

「は、はひ………」
523 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:12:59.07 ID:4Mrjp4U70
 俺と半荘を打ってくれたお兄さんたち3人が店から出ていく。
 
 俺はというと、返事をする気力があることに感謝するほどだった。それだけぼっこぼこにされた。


「おう、終わったか」

「あ、あかぎ、しゃ…………」

「なに死にそうな顔してんだ」


 井川プロ特集の雑誌を読んでいた赤木さんは、卓に突っ伏した俺の頭をグシャグシャと撫でた。
 やめて、ホントに脳みそ焼ききれそうなの今。


「な、何点取られてたんすかね………」

「知らん。マイナス20万越した辺りで数えるのが面倒になった」


 お兄さんたちの点棒箱には、真っ黒な箱下用点棒が山盛りになっている。

 途中から店にあるのを全部持ってきても足りなかったので、赤木さんに後ろで数えてもらっていたのだ。


「だーから無茶だって言ったろ? 俺でも死ぬほど苦労するぞあの卓………」

「や、やっぱりやめときゃよかった…………」


 赤木さんとの修行のラスト2日。俺はこの間のお兄さんたちに、無謀にも箱下アリのルールで挑み、今こうして死にかけている。

 あがれたのは最後の役牌のみだったが、途中で投げ出さなかった自分を今だけは褒めてあげたい。

 にしても何なのあの人たち。途中から見せつけてくるかのようにローカル役バンバン出してくるし。別にローカル役はいいんだけど、普通の役満とも可能な限り重複させてくるし。
524 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:13:58.14 ID:4Mrjp4U70
「にしても意外だな。お前は相当気持ちの浮き沈みが激しい奴だと思っていたが、まさかあの連中に真っ向から挑むほどやる気に満ちるとは」

「じ、自分でも無謀だとは思いますけど…………でも、やってみたかったんです」


 昨日、roof-topから皆を家まで送ってから帰路に着いた時、矢木のことを思い出していた。

 あんな奴に負けたくない。きっと俺は予選の時、イカサマを使っていない矢木にすら負けた。

 それだけあの時の俺は弱く、同じ卓を囲んでいた連中は強かった。

 いつまでもあの場所に留まっていたくない。いつだったか咲に言ったように、俺だって清澄高校の選手だと胸を張れるようになりたい。

 かといって、いささか無謀が過ぎたと思うが。

 でもこれでどんな相手にも物怖じしない度胸はつけられたと思う。


「少し休んだら、普通の相手ともやっておけ。感覚が狂ったままじゃ悪影響だ」

「はーい…………」


 最高球速が100キロくらいなのに、メジャーの試合で9回まで投げさせられた野球少年の気分になりながら、俺はゆっくりと休んだ。

 なぜか周囲にはギャラリーが出来ており、半荘打ち切った俺に拍手してくれて、店のつまみやドリンクを奢ってくれるおじさん達がいた。世界って優しいね。
525 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:14:43.37 ID:4Mrjp4U70
「ふぅ………ん?」
 

 店のほとんどの客が俺の周りに集まってる中、一番奥の、それこそ雀卓を無理矢理置いたようなスペースに見覚えのある顔があった。


(矢木に竜崎、黒崎…………?)


 俺とあいつらのどちらが先に店にいたのかは定かではない。俺はお兄さんたちの猛攻をしのぐので精いっぱいだったし、途中であいつらが近くを通っていても気づかなかっただろう。

 それはさておき、その卓の空気は妙だった。

 同じ卓を囲んでいる4人目、眼鏡をかけた大学生くらいのお兄さんが、ここから見て分かるくらいに狼狽しているのだ。

 手も心なしか震えているし、異様に汗をかいている。

 黒崎が指を4本立てて、そのお兄さんの前でひらひらと手を振る。

 するとお兄さんは、目に見えて全身を震わせた。


『一番ヒョロそうに見えるのはあいつじゃがの、一番やばいうわさがあるのはあいつじゃ……。ガキのくせに金貸しまがいのことをして、払えなくなった奴の指を切り落としたらしい……』

(まさか………!)
 

 黒崎と指というキーワードで、染谷先輩の言葉を思い出す。

 嫌な予感がした俺は、急いでその卓の様子を見に行った。
526 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:15:46.40 ID:4Mrjp4U70
「おっ! きたきたリーチ!」

「ううっ………!」


 下家の矢木がリーチをかけ、お兄さんがうめく。


学生さん手牌
 2p 111334457m 西西西  ツモ:7m

矢木 捨て牌
 4m 4p 北 西 6s 5p(赤) 9s 南 1m 6m 8p(リーチ牌)


 聴牌。


(でも、この捨て方は………)
 

 どれが手出しかツモ切りかわからない以上、憶測になるが俺は2pは切れないと感じた。

 しかし赤5pが捨てられていることにとらわれ過ぎたお兄さんは、2pに手をかけてしまう。


(だ、だめだ!)

「リーチ!」

「ロン!」


 矢木が笑みを浮かべて手牌を倒す。


「リーチ・一発・七対子・赤1。んで、裏2.跳満だな」

「ううっ…………」


 やはり七対子だった。
527 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:16:46.36 ID:4Mrjp4U70
(最初の2順で、タンヤオの線は消える。それ以前に、北と西を捨てるのと4m、4pを捨てる順番が普通は逆だ。
 チャンタから純チャンに切り替えるためっていう可能性もあるけど、それも最後から3巡目の1m切りでなくなる。
 4mを切っておいて、その後1mを切るっていうのは 1123m の並びから、123mの順子にする時くらいのものだ。
 でも、お兄さんの手牌に1mの暗刻があるからそれもない。
 それに中盤でやけにスジを増やしそうな牌を捨てまくってる。
 多分、456の数字を多めに捨てておいて、最後にスジで出してきた牌を捕まえる気だったんだ)


 少し冷静になればわかりそうな露骨な捨て牌。

 だが焦っているお兄さんにはそれすら気づけない。典型的な悪い流れ。


「あっはっは、早めに指とお別れしておいた方がいいんじゃないかー?」

「ぃ………あ………」


 お兄さんが右手を抑えてがたがたと震え出す。

 指を切り落とすという噂は本当だったのだ。


(マジかよっ…………)


 その様子を見ても、俺は半ば信じられなかった。

 なぜ、自他問わず人の指を切り落とすなんて言う発想が生まれてくるのか。

 なぜ、それをそんな嬉しそうに、楽しみに出来るのか。 
528 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:17:57.92 ID:4Mrjp4U70
「おい、待てよ……!」

「あ?」


 気付いた時には、俺は矢木の目の前に躍り出ていた。

 今更怖気づきそうになってしまうが、やっぱり何でもないなどとは言えない。


「指を切るって、お前ら本気でそんなこと…………」

「あ? てめぇにゃ関係ねーだろ。つーかてめぇよぉ………」


 俺の顔を見て、矢木たちが怒りの表情を浮かべ立ち上がる。

 当たり前だ。つい昨日、目つぶしをかましてやった相手なのだから。

 ふと矢木の視線が、さっきまで俺のついていた卓に向けられる。


「ぶっは! なんじゃありゃ? 箱下点棒てめぇどんだけ取られてんだよ?」

「さぁな。…………最低でも20万だそうだ」

「にじゅーまっ、ぎゃはははははは!」


 俺の言った数字に、矢木たちが腹を抱えて大笑いする。

 オメーらだって同じ条件なら間違いなく同じくらいの数字になるっつの。


「あー………腹痛ぇー……。つかあれだろ? 昨日帰った後に気付いたが、てめぇ清澄の麻雀部か? 
 一緒に居た連中がそうだったはずだけどよ」

「それがどうした?」

「あのチビどもみてーに、てめぇはサマ使えねぇわけか?」

「え?」
529 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:18:53.70 ID:4Mrjp4U70
 サマ? 一瞬何の事だかわからなかった。


「サマって………イカサマって意味か?」

「たりめーだろ」

「咲たちがイカサマって、どういう意味だよ?」


 そりゃあ前に和に訊いた話で、入部したばかりの咲は小手返しでツモ牌をごまかしたりしていたらしい。

 でも、イカサマなんてしたことはないはずだ。少なくとも、俺達と打ち始めたころからは。


「おいおい、お前それ本気で言ってんのか? 公式戦何見てたんだ?
 あんな連発して、嶺上ツモるわけねーだろ!」

「!」

「嶺上の出る確率知ってるか? 1%ねーんだぞ? んなもん連発できるとしたら、サマ以外ありえねーだろ!」

「っ……!」

「それにもう一匹のクソチビも怪しいもんだ。東場だけ異様に毎回配牌が良すぎる。
 南場で失速すんのも、ひょっとしたら東場でのサマをごまかすためなんじゃねぇのか? 帳尻合わせによ」

「黙れ!」


 気が付いた時には、俺は矢木に殴りかかっていた。

 喧嘩慣れしている矢木は顔面目掛けたその拳を手の平で受け止めるが、痛みに顔を歪める。


「それ以上あいつらを侮辱してみろ…………!
 そこの人の指を切り落とす前に、俺がお前らを一生麻雀の出来ない体にしてやる!」

「おいおい、図星だからってんな怒んなよ。サマ野郎」

「てめぇ………!」
530 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:19:49.98 ID:4Mrjp4U70
 ごめん、ご飯呼ばれたから行ってくる。
 変なところで切ってごめん、
531 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:54:08.72 ID:4Mrjp4U70
 安い挑発だと分かっているのに、どうしてもそれを無視できない。
 

「実際当たらずとも遠からずだろ?
 他の部員のレベルみりゃ分かるってもんだ。ここまで雑魚って言葉がぴったりな奴も珍しいぜお前?
 サマしか能のねぇ卑怯者はすっこんでろよ、クソども!」

「っ!」


 ガシャン!
 
 矢木を掴むや否や、雀卓に頭から叩きつける。
 
その後頭部を殴りつけようと腕を振りかぶった時だった。

 バキッ!


「がっ!?」


 何かで思い切り頭を殴りつけられ、隣の雀卓に突っ込む。

 牌を床中にまき散らしながら痛む頭を押さえて立ち上がると、横から竜崎が椅子を両手で振り抜いた体勢でいた。

 周りの客が慌てて俺たちの側から逃げ出す。


「痛ぅ………!」


 側頭部から、ぬめ付いた血液が流れる。頭を切ったらしい。


「はっ、言葉につまれば逆切れか? いいぜ、やってやろうじゃねぇか」


 叩きつけられた鼻頭を抑えながら、矢木が臨戦態勢をとる。

 他の二人も同じだ。


「オラァ!」
 

 突っ込んできた矢木の拳を腕で受け止める。

 伸ばされた腕を掴んでねじあげようとする間もなく、すぐに竜崎がまた椅子を思い切り振ってくる。


「うわっ………!」
 

 慌てて腕で頭部を守るが、何度も執拗にガードの上から椅子を叩きつけられる。

 極めつけに、脇から黒崎の蹴りがわき腹にめり込む。


 もう一度派手に吹き飛び、雀卓がもう一台倒れる。


「げほっ………」


 椅子を振り抜くのもそうだが、こいつらは一切容赦がない。

 俺だって、誰かを殴りつける時はおっかなびっくりなんだ。だけどこいつらは、他人を傷つけることに一切の躊躇がない。
532 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:55:01.78 ID:4Mrjp4U70
「泣き叫ぼうが許しゃしねー。
 『ごめんなさい、僕たちはイカサマをし続けてきました』って、部員のお前が週刊誌辺りに言えば考えてやるがな」

「…………!」

「そっちの伝手はいくらでもあんでな。きっといい記事になるぜぇ?
 現役の部員が、自分たちの功績を全部イカサマによるものだったって内部から告発したらよぉ?」

「そんなことっ…………!」


 もしそんなことになったら、冗談では済まない。

 赤の他人が周りで囃し立てるのならともかく、身内が自分たちはイカサマをしたと宣言したら、どんな取り返しのつかないことになるかわからない。

 公式戦の映像があれば、咲たちがイカサマをしていないのは明白だ。でも、間違いなくひと悶着は起こる。

 少なくとも、咲たちが今まで通りに麻雀を打つことは難しくなる。

 麻雀部が出場を辞退する羽目になったり、部長はプロへの内定を取り消されるかもしれない。

 現にインハイ本選でイカサマのバレた矢木は、無期限の公式戦出場資格剝奪処分を受けている。


「おらっ!」

「げほっ!?」


 もしそんなことになったらという恐ろしい未来について気を取られ過ぎ、矢木の蹴りを防げない。

 わき腹に爪先がもう一度めり込んだ痛みに悶絶する。


「〜〜〜〜〜〜っ!」

「ほらほら、どうしたぁ!? なんか言ってみろよ、イカサマ野郎!」

「だ、れが、イカサマだ………! てめぇが、その最たるもんだろうが………」


 矢木は舌打ちを一つすると、もう一度拳を振り上げた。
533 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:58:34.88 ID:4Mrjp4U70
 がしっ

「え?」


 その拳が、横から伸びて来た腕につかまれる。そしてそのまま

 バキッ!

「ぐほっ!?」

「矢木ぃ!?」


 矢木の腕をつかんだ赤木さんが、その拳を矢木の顔面に叩き込む。

 矢木が俺に負けず劣らず、派手に吹っ飛んだ。


「ほれ、京太郎。立てるか?」

「は、はい…………」

「て、てめぇ! 俺が誰だかわかってんのか!?」

「知るか、そんなもん」


 左手に持っていた煙草をふかしながら、赤木さんが心底どうでもよさそうに答える。


「だったら教えてやる! 俺ん家は爺さんの代からこの竜崎の親父が組長を務めるヤクザの代打ちでな、要するに俺に手を出せばヤクザのおっさん達が痛い目に遭わせるってこった!
 おっと、そこで警察呼ぼうとしてる奴! 下手な真似はすんなよ? でなきゃグラサン付けたおっさんが毎月みかじめ料をせびりに来ることになるぜ!」

「ひっ………」


 電話に手が伸びていた店員さんを、目ざとく矢木が見つけて脅す。

 しかし一方で、赤木さんは口元を歪めるだけだ。


「ヤクザが俺を痛い目にねぇ…………」


 やっぱりこの人筋モンだよ。カタギじゃないよ。

 ほら、あんまりビビんな過ぎて矢木たちも戸惑ってるもん。
534 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 21:59:30.09 ID:4Mrjp4U70
「……まあいい。この店は後回しだ。先に昨日てめぇらのいた店からだな」

「なっ!?」


 roof-topをヤクザを使って潰す。この男はそう言っているのだ。


「まてっ! 染谷先輩は、あの店の人は関係ないだろ!?」

「は、知るかそんなもん。イカサマ使うような奴の店は、潰れて当然だよなぁ!?」

「っ………!」

「いいぜ別に? 代わりにお前がイカサマを認めて、マスコミにそう言うなら止めてやるよ。
んなことになれば、どっちにしろ店は潰れるかもしれねぇけどな」

「…………ふざけんな」

「あ?」

「ふざけんな! 自分の弱さ、力の無さを、実力のある連中を貶めることでしか目を逸らせねぇクソ野郎が!
 あいつらを、誰よりも麻雀が好きで、まっすぐに頑張ってきた奴らを馬鹿にすんじゃねぇよ!」

 店中を震わせる俺の叫びに、矢木たちが一瞬面食らう。
535 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 22:00:46.79 ID:4Mrjp4U70
「…………いいぜ」


 だがこいつらは、他人を傷つけることを厭わないクズたちはこんなことでは変わらないだろう。

 だから、俺も覚悟を決めた。


「人を雑魚だのイカサマだの謗るなら、当然お前らは強いんだろうな?」

「ああ?」

「今から俺と半荘5回の勝負をしろ。お前たち3人と、俺1人だ。そして………」


 俺は震える手を、胸の前まで持ち上げる。


「俺が1位になれなかったら、1回につき俺の指2本を切り落としていい」

「なっ……」

「あいつらがイカサマをやっていたなんて嘘は、口が裂けても言わない。
あいつらの麻雀打ちとしての未来は、誰にも傷つけさせない。
 だから………だから代わりに、俺の麻雀打ちとしての未来を賭ける。
仮に負けても、あいつらの将来を守れるなら1人辺り指2本くらい、安いもんだ」


 みんなは俺とは違う。皆才能に溢れ、輝かしい未来を持っている。
 
大事な皆の未来を守るためなら、命だって賭けていい。
536 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 22:02:03.52 ID:4Mrjp4U70
「もし俺が5回連続で勝ったら、2度と俺たちの前に現れるな!
 咲たちを侮辱したことも、染谷先輩の店で好き勝手したことも、全部土下座して謝ってもらう!
 それとも怖いか? 麻雀初めてまだ10カ月も満たない奴に、春にはボコボコにしたやつに、3対1の勝負で5連続負けるのが?
 大会でイカサマがばれた以上に恥かしいエピソード作るのが、そんなに怖えぇか?」

「なんだと………!」


 俺の挑発を受けて、矢木がいきり立つ。


「はっ………いい度胸してんじゃねーか! ………おい黒崎」

「何だ?」


 矢木が黒崎に何かを耳打ちすると、黒崎は笑みを浮かべて二言三言返した。

 それを受けて、矢木は俺に向き直った。


「いいぜ………その勝負、受けてやる」

「…………! わかった。じゃあ、ここの卓で………」

「いや、場所は変える。ここじゃ色々と都合が悪いんでな。おい、竜崎。足を呼べ」

「ああ」


 竜崎がスマホを取り出し、車を寄こすように命令口調で話す。きっと、ヤクザの下っ端でも呼んだのだろう。
537 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 22:03:00.43 ID:4Mrjp4U70
「10分以内には車が来る。それで、俺たちの指定する雀荘で打ってもらう。
 心配すんな、別にうちの組の事務所に連れ込もうってわけじゃない。
 少し離れちゃいるが、一般の雀荘だ。ここより俺たちの顔が利くがな」

「……わかった。それでいい」


 俺は打っていた席に戻り、荷物をまとめ始めた。

 頭を切ったことを心配して、店員さん達が慌てて救急箱を持ってきてくれる。

 俺は雀卓を倒したりしてしまったことに頭を下げて、手当てを受けた。


「京太郎」

「赤木さん…………すみません、勝手なことして……」

「何でおれに謝るんだ? お前が今謝らなきゃいけねえ相手なんざ、どこにもいねぇだろ。
 にしても参ったな。命を懸けた勝負までは、流石に教えるつもりもなかったんだが……」


 赤木さんが頭を掻き、どうしたものかとため息をつく。
538 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 22:04:05.19 ID:4Mrjp4U70
「………京太郎。まっすぐに行け」

「え?」

「まっすぐ、ひたすらにまっすぐ無謀と勇敢、暴打と攻撃的のぎりぎりのところを攻め続けろ。
 あの手の打ち手は、そうたいしたことはない。所詮、人を騙し嵌めることしか考えてねぇ。
 そんな痩せた考えに基づいた麻雀、勢いに乗った相手を止めるのは容易くねぇ」

「まっすぐ………」

「ああ。一度強い心で勢いに乗りさえすれば、お前に分がある。迷うな」

「わかりました………」

「おい、車が来たぜ」


 竜崎が顎で指した店の外には、黒塗りの車が止まっていた。


「赤木さん。俺一人でいいです」

「………いいのか?」

「ええ、赤木さんを巻き込むわけにはいきません。………下手すると、ヤクザ相手じゃ何があってもおかしくない」

「それはお前にも言えるだろう」

「かもしれないけど………大丈夫ですって。見ての通り、ガタイはいいですし、思い切り暴れれば逃げるくらいできますよ!」


 俺はポージングの恰好をとって、明るく振舞う。

 嘘だ。実は滅茶苦茶怖い。そもそも相手が本当に麻雀の勝負を受けたのかも定かではないのだ。


「じゃあ………行ってきます」


 赤木さんと別れ、先に矢木たちの乗っていた車に乗り込む。

 幸いなことに、乗った瞬間袋叩きにされるということはなかった。

 車はそのまま発進し、俺の知らぬ場所へと赴く。


「さて………どうしたもんかね」
539 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/06/04(日) 22:05:22.73 ID:4Mrjp4U70

 ここまでです。

 大体の流れは最初に決めてあるんだけど、実際そのストーリーに向けてキャラ動かすのがスゲー難しい。
 おかげで非常に不自然なシーンになりました。

 次からまた闘牌だよ(´;ω;`)ウッ…
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 22:16:25.60 ID:IAA8Hb6Jo
…何だかなぁ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 22:38:54.10 ID:CDKZve3+o
近代麻雀な展開になってきた
ライオンとか凍牌的な
これで一皮むければ、とんでもオカルトあるなし関係なくみんあんとまともに打てるようになりそう
542 :スレ主from スマホ :2017/06/04(日) 22:46:19.89 ID:4Mrjp4U70
>>540
うん、ごめん
本当に言わんとすることはわかるんだけどこうなった
間が空きすぎて投稿を急ぎ、ろくに推敲しなかったのが悪い
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 22:46:49.30 ID:JzDCSvnuo
おつおつ
京ちゃんが本当にまっすぐいけるのか、アカギがどうでるのか気になるところ

1つ言わせてもらえば、こんな衆人環境で部員が暴力沙汰起こしたうえに、ヤクザと関わって危険なことしたなんてバレたら、それだけで部活は活動停止か廃部、余裕でマスコミ沙汰だし、本人も退学まであるんじゃねーかな……
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/04(日) 23:29:05.13 ID:JZgZ23hto

どっちから手を出したか判断できる人が居るかどうか?
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 14:51:43.98 ID:XZleww5Ho
乙。

>>544
なお、まず最初に殴り掛かったのが京ちゃんな上に激高する原因となった八木のセリフもオカルト知らない勢から見たら凄い納得出来るそれな模様。
……ぶっちゃけた話、八木達の反撃だけ口封じしてゴシップ系マスコミに売れば、うん。
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 17:53:10.08 ID:n8YtC4HRO
初出場全国大会の麻雀部員が暴力沙汰は
仮に正当防衛でも記事になるレベル
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 19:31:07.19 ID:DCk6iTFu0
麻雀が高校生の部活として認められる世界なんだから、暴力沙汰くらい許されてるに決まってるだろ。
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/06(火) 22:07:07.20 ID:0PL+LbarO
まああれだ、1にはまだ社会的経験がないんだ
アラフォーすこやんばりの大人な目で見守ろうぜ
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/07(水) 14:42:03.30 ID:lLgjJPh+0
読者様の典型のようなレスだな
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/16(金) 17:40:09.07 ID:mmfaRR0j0
オカルト含めて一般常識が咲世界ではズレてるからヘーキヘーキ(一部の生徒たちの服装を見ながら)
551 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:24:29.89 ID:mgeuBvXV0
めっちゃ久しぶりに投稿。研究生は楽じゃないよ。
8月半ばに院試なのでそれが終わったらまた進めます。途中で1回くらい現実逃避して投稿するかも。

552 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:25:36.27 ID:mgeuBvXV0
 車が止まったのは、 雀荘を出て15分程度の場所のビルの前だった。
 
 建物の表面はところどころひび割れていて、非常階段と思しき外付けの階段の一ヶ所に、さび付いた雀荘の看板があった。


「4階だ。ついてこい」


 矢木が車から降りて伸びをすると、俺の方を見ずにそう言って来た。

 俺は無言でその後をついていく。

 車を運転していたヤクザはそのまま車の中に残り、階段を上るのは俺達4人だけだ。


 ギイィ………と、顔をしかめてしまうような耳障りな音を立てて、雀荘の扉が開かれる。

 そこは暗いオレンジの蛍光灯に照らされた、昭和の戦後の映画に出そうな雀荘だった。

 客はいないが、日本酒の便が並んだカウンター席には、頭の禿げかけた店主が競馬新聞を広げていた。
553 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:26:29.23 ID:mgeuBvXV0
「おい親父、邪魔するぜ」

「あん……まだ店は開いていな…? りゅ、竜崎の坊ちゃん!? こ、こりゃどうも……!」


 竜崎が声をかけると、店主は仰天して姿勢を正した。


「前に黒崎宛に来た荷物、今持ってこれるか?」

「は、はい! 持ってきます!」


 店主が店の奥に入り、ドタドタとせわしなく荷物をひっくり返す音が聞こえる。

 このあたりから、俺は嫌な予感が強くなるのが分かった。どうせ、ロクなものは来ない。

 1分とせずに、息を切らした店主が段ボール箱を抱えて来た。

 カウンター席に取り出されたその中身を見て、俺は眉をひそめた。


(裁断機………? …………!)


 ぐら、と視界が揺れる。

 最初それを見た時は、職員室なんかにある大量の紙束を切るための裁断機かと思った。

 しかし、その刃が行き着く先にあったものを見て驚愕する。

 手形と、指を通す穴。そしてその穴を出たすぐのところに、丁度刃が降りるようになっている。

 直感的に理解した。これは、指を切り落とすための裁断機だ。


「うちの伯父さんの伝手でなぁ。帝愛グループじゃ、これで借金を踏み倒す奴の指を切り落とすらしいぜ?
 前にグループ会長に1億賭けて挑んで負けた奴の指4本切り落としたって話だ」


 デカい鼻をひくひくと興奮気味に動かしながら、黒崎が何回か試しにガシャガシャと裁断機の刃を下ろす。
554 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:27:18.13 ID:mgeuBvXV0
(ああ………)


 現実感の無さゆえに一周回って、他人事のように感じられたのはかえって幸いだった。

 俺はこれから、半荘1回負けるごとにあれで指を2本切り落とされるのだ。


「丁度良かったぜぇ〜。これ、1度使ってみたかったんだよぉ〜〜」

「なら、残念なまま終わらせてやるよ」

「は?」

「お前らなんかに、俺は負けない」


 胸を張って言い切る。虚勢だってかまわない。でも、勢いを少しでも殺したら一瞬で負ける。

 その確信があった。


「お〜言ったな? そんじゃもう後戻りできねぇぜ。座りな」


 矢木がへらへらと笑いながら、爪先で雀卓の一つをつつく。

 俺は言われた通り席に着いた。

 対局開始だ。
555 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:28:57.11 ID:mgeuBvXV0
東1局 0本場 ドラ4m

親 矢木 25000
南家 竜崎 25000
西家 京太郎 25000
北家 黒崎 25000

京太郎 配牌

 2234m 467s 55(赤)68p 北發 


(悪くない。タンピンドラ2で満貫までするっと行けそうだ。字牌が頭になったらリーチするかは相談だな)


 とりあえず不運の大波が押し寄せていないことに安堵しつつ、第1ツモ。

 ツモ:東


(……………)

 数秒考え、そのままツモ切りする。

 幸い鳴かれはしなかったものの、第一打からの役牌切り。和がいたら叱られそうだ。

 だがこれは、まともな麻雀じゃない。1対3の、元より不利な戦いだ。
 
 鳴かれた不味いから、せめてだれか出すまで待っていよう。重なるのを待とう。なんて遅延行為は命取り。

 多少のリスクは目を瞑り、とにかく全力で前へ進み続けるしかない。”もしかしたら”の淡い希望には目もくれない。

 矢木たちは俺の初心者丸出しな打牌を見て薄ら笑いを浮かべる。

 ああいいさ。今のうちに笑っておけ。その間に俺は前へ進む。
556 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:29:57.33 ID:mgeuBvXV0
 2巡目ツモ:北


(ほらな?)


 オーソドックスに北から切っていたら、裏目を引いていた。

 そんなの結果論です、なんて頭の中の和が突っ込みを入れてくるが、今はそれがありがたい。

 和だけじゃない。心の中のみんなが、指を賭けたこの狂った麻雀でいつも通りに打てる一助となってくれる。

 麻雀部をやめようと思っていた時は、必死に引き留めてきて鬱陶しかった俺の中のみんなが、今はとても頼もしい。

 流れは確実に、今俺の味方だ。 打 發。


「ポン!」


 上家の竜崎が喜々として2枚の牌を倒す。

 役牌が鳴けたのがそんなにうれしいか。その代り、俺のツモ番を増やしているとも気づかずに。

 3巡目ツモ:5s

 手牌に入れて、打8p。これで俺の手牌は


 2234m 4567s 55(赤)6p 北北  の2シャンテン。


 他の奴らはまだまだ一九字牌の整理。


(大丈夫だ。行ける!)


 自分の好調を悟られないよう平静を装いながら、俺はツモ山に手を伸ばした。
557 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:31:55.04 ID:mgeuBvXV0
「よしよし来たわ。リーチ!」

「あ、それカンです。あ、もう一個カン。あ、嶺上自模りました。8000点」

「やめてよそれ!?」


 親跳ねを張った久が悲痛な叫びをあげる。

 咲がいるだけで、生牌を下手には切れなくなる。

 2シャンテン辺りが実質聴牌に変貌するのだから溜まったものではない。


「じゃあ私の親ですね。カン。カン! あ、自模りました! 6000オール!」

「部長。これなんて言うゲームでしたっけ?」
「奇遇ね和。私も聞きたかったところよ」
「もう天和でいいんじゃないかのぅ」


 点棒を払う3人が、げっそりとした表情を浮かべる。

 子3人に1度もツモが回ってこないで親が上がるかつ天和ではない。普通に天和するより確率が低いのではなかろうか。


「そもそも嶺上開花出来る確率って何パーセントだっけ?」

「えっと、確か前に統計データを見たと思うんですけど………」

「ちょっと調べてくるじぇ」


 卓に入っていない優希が、部室のパソコンで『嶺上開花 確率』と検索する。


「2.8%だじぇ」

「普通に二局連続で出るだけで、0.09%ないんだけど」
「ぐ、偶然ですよきっと」
「9局やって4局が嶺上開花なんじゃがのう………」

「えーと、となると0.028の4乗………ん? あはは! これすごいじぇ!」

「?」

「嶺上開花の他の検索候補見てたら、咲ちゃんの名前が出てきたじぇ!」

「ええ?」


 卓を囲んでいる4人が立ち上がり、画面の前に集まる。

 そこには確かに、咲のインターハイでの和了シーンを中心としたネット掲示板などの書き込みが映っていた。
558 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:33:34.61 ID:mgeuBvXV0
「はぁー、とうとう代名詞染みて来たわね」

「『王の牌を制すもの』、『牌に愛された子』、『狂い咲く才媛』………もはや遊ばれてますね」

「のどちゃんも『デジタルの天使』とか呼ばれてるじぇ」

「何よこの私の『悪待ち女、略して悪女』って書き込み!?」

「『キンクリ』ってなんじゃこりゃ?」


 対局中であることも忘れ、わいのわいのとはしゃぐ女子達。

 夏以降インタビューはそれなりに受けてきたが、記事以外のこうしたネット上の非公式のものは初めて見た。


「他になにか………じぇ?」


 別のページに跳んだ優希の手が止まる。

 そこには咲の写真と共に、中傷の内容が書かれていた。


『宮永咲、イカサマをしているのは明らか?』
『不正工作疑惑上がる』
『嶺上開花、計算してみた』


 咲の嶺上開花の頻度が確率的にありえないことを根拠に、咲がイカサマをしているのだという主張が掲示板一杯に書き込まれていた。

 凄いものになると、データを全部集めて『イカサマであることに有意性が確認された』とする書き込みまであった。


「………………」

「さ、咲さん?」

「き、気にすることはないじぇ! こんなのは所詮、ザコ共の遠吠えだじぇ! あはは………」


 黙り込んでしまった咲を慰めようと、残りの4人が慌てる。


「さ、もう休憩はおしまい! 南3局から再開………」

 コンコン

「あら? はーい、どうぞ」


 久がノックされた部室のドアを向き、入るように返事をする。
559 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:34:30.26 ID:mgeuBvXV0
「失礼………」

「あら? 赤木さん?」


 部室にやって来た赤木の姿を見て、久が首をかしげる。

 来るのは別に構わないのだが、京太郎が一緒のはずが見当たらない。


「赤木さん? 京ちゃんと一緒じゃなかったんですか?」

「ああ、そのことでな」


 赤木は胸ポケットから煙草を取り出し加えながら答えた。


「赤木さん。校内は禁煙じゃぞ」

「そうだったな………(´・ω・`)」


 ライターを取り出したところでストップをかけられ、残念そうな表情を浮かべる。


「昨日、お前さんの実家の雀荘で会ったチンピラどもがいただろう?」

「うん? 矢木たちのことかの?」

「ああ、あいつらと取っ組み合いの喧嘩を派手に始めやがってな」

「ええ!?」

「雀荘の中で、向こうは椅子まで持ち上げて京太郎の頭をガンガン殴ってたな」

「きょ、京ちゃんは!? 京ちゃん、怪我はしてないよね!?」


 赤木の目の前まで詰め寄って、涙目で見上げながら咲が問い詰める。


「いや、だから頭を椅子で殴られたんだって。結構血も出てたな。そのまま倒れたところを蹴られて………」


 ふら………と咲の身体が力を失い後ろへ傾いた。


「さ、咲さん!」


 慌てて和が支え、ゆっくりと床へ膝をつかせた。
560 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:35:46.32 ID:mgeuBvXV0
「何でもあのチンピラどもが、お前さんたちのことをイカサマだと何だの馬鹿にしたらしくってな。
 しかもヤクザを使ってお前さんちの雀荘をぶっ壊すだのなんだの………まったく最近のガキは物騒だなぁ」


 赤木が自分の少年期を知っている人間がいたら、口をそろえてお前が言うなと言われそうなセリフをさらりと口にする。


「そ、それで須賀君はどうしたんですか!?」

「そのまま場所を変えて、奴らと半荘5回の勝負だとよ。
 部員である京太郎に、お前さんたちはイカサマですって言わせたかったらしいが死んでも断るつってな。
 代わりに自分の麻雀打ちとしての将来を賭けやがった」


 笑みを隠そうともせず、赤木は狂ったギャンブルの内容を喜々として語る。


「え?」

「半荘1回1位になれないごとに、指2本切り落とせとよ。
 お前さんたちの麻雀打ちとしての将来の為に、一人辺り指2本差し出しやがった」

「え…………?」


 半荘で1位になれなかったら、指を切り落とす。

 そんな狂気の沙汰に京太郎が及んだと聞いて、部員全員が血の気を失う。


「す、須賀君は、須賀君はどこですか!?」

「すぐに、警察に………!」

「おいおい、あいつはお前らの為に指10本全部賭けてるんだぜ? 野暮なことはしてやるな」

「それが問題なんじゃないですか! もし、もし本当に指を切られるようなことになったら!」

「だがな、先に頭に来て殴りかかっちまったのは京太郎の方だ。警察沙汰になってみろ。
 あいつが指を賭けてまで守ろうとしたお前さんたちの立場が危ういことになるぜ?」

「っ…………」
561 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:38:24.10 ID:mgeuBvXV0
 確かにそれはそうだ。

 仮にこちらが完全な被害者であっても、警察沙汰になれば部にも少なからず被害が及ぶ。

 京太郎の負わされた怪我の程度はわからないが、それでも先に手を出したのが京太郎だとなれば、出場停止処分になっても何ら不思議はない。

 久のもらったプロ内定も、白紙に戻るだろう。


「…………いいわ、構わない」

「ぶ、部長?」

「そこまでしてくれる後輩を見捨てるような真似をしたら、それはもう人間じゃあないわ。
 あれだけ酷いことをした私たちを、そうまでして庇ってくれてるんだもの。助けない理由がないわ」

「自分達の業績も、全部パァにしてもか?」


 部屋に飾ってあるインハイの入賞記念トロフィーを、赤木が顎で指す。


「ええ………私は構わないわ。皆、私は今すぐに警察に行くけど、もし面倒ごとは避けたい人がいたら………」

「何言ってるんですか! とにかく今は、早く須賀君を保護してもらわないと!」

「そうじゃ赤木さん、京太郎が場所を移したというんはいつ頃の話じゃ?」

「大体2時間しないくらいだな。雀荘で一休みしてからからここまで歩いてきたもんでよ」

「2時間………移動に30分かかったとしても、もう半荘3回目に入り始めていてもおかしくない時間じゃ」

「その……ゆ、指の件が半荘1回ごとか、終わった時に最後まとめてかわからないですけど、
 あと半荘3回分……2時間と少しといったくらいですか」

「赤木さん、京太郎の行き先に心当たりは?」

「あるっちゃあるが………電話貸してくれるか?」

「え? あ、えっと………はい」


 久が数秒迷ったが、今は火急の事態なのでおとなしく赤木に渡した。


「その手の情報に詳しい知り合いに訊いてみよう。
 竜崎の孫ってことは、親は川田組………確か石川さんが、まだ相談役としていたっけな………」


 何やら呟きながら、廊下に出てどこぞへと電話を掛ける。

 そしてそのまま数分すると、部室に戻ってきた。


「竜崎の組は、東京の川田組ってとこの傘下だ。その川田組に知り合いがいるんで、今調べてもらっている。
 折り返しですぐに電話が来るはずだ」

「は、はい…………」

 久が1件増えた発信履歴の番号を眺めながら、曖昧にうなずく。

 他人に携帯を貸したら、ヤクザの組の電話番号が履歴に追加されて返されたのだ。
 
 中々経験できることではない。
562 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:39:41.48 ID:mgeuBvXV0
「念のため確認しておくが、本当にいいんだな? この件のせいで、お前たちはもう大会に出れねぇかもしれんぞ」

「ええ、構わないわ。今後の須賀君の大会参加が難しくなってしまうのは、とても申し訳ないけど………でも、彼は私たちの仲間です。
 彼が自分の麻雀打ちとしての将来を賭けたというなら、私たちだって、このくらい当然よ」

「くくく…………揃いも揃って、羨ましくなるほどのお人よしだな………」

 
 赤木が笑みを浮かべる。

 そもそも赤木がここに来たのは、久たちを試すためだ。

 京太郎が見せた覚悟に、久たちがどのような行動をとるか。

 本当に、久たちが京太郎があそこまでする価値のある人間なのかを。


 もしここで怖気づいたり、自分たちの経歴に傷かつかないのを第一とした立ち回りをしようとしたら、
 赤木は久たちに京太郎の行き先を探す手助けはしなかった。
 
 本当に心の底から強くなろうとする京太郎に久たちはふさわしくないと判断し、
 かつての自分ほどまでではないものの、破滅を賭けた勝負を常とする無頼に育て上げようと思っていた。

 しかし、ここまで見事に覚悟を示されては文句のつけようもない。

 誰かのために必死になれるその性格を、赤木は好ましさ半分、羨ましさ半分といった具合で眺めていた。
563 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/07/21(金) 00:40:20.44 ID:mgeuBvXV0
ここまでです。

よーし、あと3局闘牌書けばおしまいやー
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/21(金) 12:12:27.43 ID:+I2gGDFmO
待ってた
さて、どうなるのかこれは

咲さんのリンシャン、イカサマ疑惑はわからんでもないが……それ言い出したら女子の大会全(ry
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/21(金) 22:47:58.47 ID:kdjnZeVMo

データだけ集めてイカサマの立証は出来なかったか
566 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/08/27(日) 22:42:59.00 ID:awN7IlRN0
ようやっと院試が終わったのですが、9月末に中間発表なんだごめんよ(´・ω・`)
それまでに1回は更新するから………
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 23:08:43.16 ID:JoclxXCOo
待ってます
568 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/09/20(水) 10:23:12.05 ID:xBUdJoIT0
1回は更新するとか言ってごめん………

発表前の社畜染みた生活じゃ書く暇がないです……

中間が25日で終わりだから、そっから九月おわりまでに更新します………
始めた時はその年のうちに終わるだろなと思ったらいつの間にこんなことに………
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/20(水) 12:08:40.81 ID:VGiL7Y1xO
そりゃ福本と立の作品なんだから引き延ばしするのは当然のことだ
みんな原作と同じように「ああ、ちょっとは進んでるかな」みたいな気分で読んでるよ
570 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/10/14(土) 00:01:18.02 ID:+BIn1vWU0
やっと更新するよ………
久々に執筆したらクオリティ落ちてた………

6回戦はもう少し頑張るから………
571 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:03:51.12 ID:+BIn1vWU0
 タンッ………カチャ………タンッ…………

 牌をツモる音と打牌する音が、交互に延々と続く。
 卓を囲む4人と、店の主の5人のみの空間で、口を開く者はいない。
 異様な雰囲気が、暗く陰鬱な店内に漂っていた。

(なんだよ………!)

 タンッ………

 嫌な汗が背から首筋周りに浮かぶ。
 いつからか誰も口を開かなくなったこの勝負。誰もこんな展開は想像していなかった。


(なんなんだよ、これは…………!?)
572 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:04:50.17 ID:+BIn1vWU0
手牌

 333s234777p123m中  ツモ:8p  ドラ:4p


(くっ…………!)


 役無しの中単騎から、同じく役は無いものの3面張となる8p引き。

 ともかく、相手の捨て牌を見る。


 南 7s 2p 1p 北 3s 
 3s 5s(赤) 發 白 3p 2m(リーチ宣言牌)
 東


 あからさまな萬子の染め手。

 リーチ前の發と白は、混一色から清一色に移ったためだろう。

 中は場に1枚出ているのみだが、危険性は下がっている。 
 
 そのはずが、やけに指に吸い付いて離れない。


(くそっ、何をビビってるんだ、俺は!?)


「リーチ!」 打 中
573 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:05:52.09 ID:+BIn1vWU0
(ああ…………)


 河に放たれた横向きの中を見て、張りつめていた糸が緩まる。
 
 体中に血が流れていることに、今更ながら気づいたような感覚だ。


「ロン」


 京太郎は、静かに手牌を倒した。

 22337788m發發白白中 ロン:中


「リーチ・面前混一色・七対子 跳満、12000点」

「がっ………!?」


 矢木は瞠目した。

 京太郎の捨て牌の發、白、2m。

 これらを手牌に納めておけば、同じ中で上がってもそれだけで混一色・小三元・三暗刻の倍満。

 上手くいけば大三元まで在り得た。

 だが京太郎はそれを蹴り、あえて跳満まで手を落とした。
574 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:07:12.83 ID:+BIn1vWU0
「点棒を」

「ちっ………!」


(なんなんだ、こいつ!?
 前に会った時は完全など素人だった! それは間違いない。
 だが………逃げるのが上手いだけじゃねえ、局のどっからかわからねえが、
 盤面を支配して、最後には点棒を制しているのはコイツだ…………!

 なんなんだよ………これは!?)


 矢木は苛立ちと焦燥を隠しきれず、歯を食いしばって京太郎を睨み付ける。

 1,2回戦は別に気にしてはいなかった。

 矢木たちも本気ではなかったし、なぶり殺しにしようと愉しむ目論見の方が強かったからだ。

 だが、妙だと感じ始めたのは3回戦から。

 そろそろ本気を出そうとした時からだった。

 思うように上がれず、京太郎に常に1歩先を行かれる。

 その打ち筋は時に原村和のように精錬されており、時に今のように竹井久のような常軌を逸した馬鹿な待ちにも変わる。

 基本的に3対1の振りを覆すために速攻でくるが、その隙を突こうと短くなった手に対して多面街で待ち構えれば、盤面を注視したかと思えば上がりを放棄してまで振り込んでこない。


 この場を制しているのが誰かは、一目瞭然だった。
575 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:09:00.84 ID:+BIn1vWU0
 手元へ乱暴に投げられた点棒を、自分の点棒箱にしまいながら京太郎は、今自分が恐ろしいほどの絶好調にいることを自覚していた。

 恐怖は今もつかず離れず、隙あらば押し寄せようとしている。

 だがそれを押し返しているのは、今の自分の状態。

 体中が心地よい熱を帯びて、熱い血流が体中をドクドクとめぐっている。

 そしてそれとは対照的に頭はどこまでも冷え、集中力は止まることを知らない。


(いいか京太郎。麻雀ってのは当たり前だが、人間同士がやるもんだ。
 そいつが人間な以上、どうしてもそこに感情が入ってくる。

 牌だけじゃない、人を見ろ。
 そいつの表情が大きく変わった時、どこを見ていたか、どこにその嫌な牌を入れたか、それを見るだけで随分と違う)


(本当に……赤木さんの言う通りだ…………)


 京太郎が、矢木が中を自模ったのだと知ったのは7から8巡目にかけて。

 京太郎の捨て牌から、京太郎の手が萬子の混一色だと読んでいた矢木は、ある牌を引いて猛烈に顔をしかめ、それを手牌の端に入れた。

 迷わず端に入れたことで、それを字牌だろうとあたりをつけた京太郎は、河に出ている字牌の枚数から、それが中か北だと見破った。

 しかし北は早々に京太郎が捨てているので、捨てるのに気にする必要はない。ならばあの牌は中ということになる。


 相手にロン牌を掴ませることは、裏を返せば握りつぶされることでもある。

 そこで京太郎は、なんとかしてこの中単騎になりそうな手に振り込ませるため、暗刻になっていた發、白を落とすことで混一色から清一色への移行を装った。


 相手に振り込ませるために、翻数を下げる。

 このキーワードにより、作戦を実行に移す際、京太郎の脳裏には久のことが浮かんだ。

 いざ実行に移す際にはやや躊躇われたこの作戦も、当然の如く悪待ちを決める彼女のことを思い出すだけで京太郎の心からは一切の迷いが消えた。

 この場にいるのは京太郎一人。

 だが心の中には、みんながいて支えてくれる。

 この絶好調の流れを、来ている手をどう生かせばいいかは、ずっと憧れていた皆が嫌というほど見せてくれていた。
576 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:10:04.56 ID:+BIn1vWU0
5回戦 南4局 

東家 竜崎 20800
南家 矢木 7000
西家 黒崎 34000
北家 京太郎 39200


 5回戦も大詰め。

 黒崎に3900を自模られるか、5800以上を上がられない限り京太郎の勝ち。

 5800は親としては決して難しい数字ではない。

 軽くて速い手が望ましい時、京太郎の手牌。


 122m6667s889p南北發 ツモ:9p   ドラ:3s


 索子の繋がりが上手く繋がってくれればいいのだが、下手をすると辺張の処理に困り対子手になりかねない。

 七対子2シャンテンでもあるが、早上がりしたいオーラスでそんなことをしている暇はない。
 

(頼むぜ、ここを逃げきれればあとは6回戦でおしまいなんだ………!)


 汗ばむ手で南を切る。


「ポン!」
(ちっ!)


 早速親の黒崎が南を鳴く。

 役牌を重ねるのに期待していては時間がかかるので早々に切ったのだが、相手がすでに役牌対子であった場合裏目になる。

 相手にも役牌を重ねられる前に……ということで、全員共通で役牌になる南から切ったのだが、まずいことによりにもよって親に鳴かれてしまった。
577 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:11:07.21 ID:+BIn1vWU0
「チー」
(くっ………)

「ポン!」
(早っ………!)


 その後も黒崎は追加で2鳴き。

 早くも7巡目で聴牌気配を見せる。

 捨て牌からして多分索子か、萬子の上あたり。

 俺は索子は真ん中以上なら手牌に入るので構わないが、萬子だと手を回さ無いといけない。

 歯噛みした、その時だった。


 京太郎手牌
 234m6667s488899p

 黒崎 打8p


(8p…………?)
 

 自分でも最初はなぜかわからなかった。

 その牌を見た瞬間、今この状況がすべて解決されたような感覚に包まれた。

 続いてやってくる理性がそれを否定するが、俺は絶好調の今の自分の直感を切り捨てる気にはならなかった。

 文句を叫ぶ理性を無理やり従わせて総動員し、この8pで局面を打開する方法を考える。

 だが、思い浮かばない。

 鳴ける牌ではあるけど、鳴いたところで役無しになるだけだし、聴牌にもならない。

 同じ鳴けるなら58sあたりをチーして、9p対子落としでタンヤオへ向かうくらいしか………。

 8pじゃポンしても、ましてやカンして――――――


(あ―――――)


 カン。その一言だけで、すべてが繋がった。

 脳裏に浮かぶのは、チビでポンコツな、誰よりもかっこいい俺の憧れの雀士。
578 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:12:22.76 ID:+BIn1vWU0
「――――ポン」


 俺は迷わず、8pを2枚倒した。

 そして、打4p。


京太郎手牌
 234m6667s899p  ポン:888p


 役無しのイーシャンテン。だが、俺には上がりまでの道がはっきり見える。

 次巡、矢木も竜崎も差し込むことは出来ず、黒崎もツモ切り。

 見えている範囲ではまだ南ドラ1の2900点なので、差し込みでは逆転に届かないのだろう。

 俺からの直撃か、出来るなら自模りたい目論見が分かる。

 そして無事迎えられた俺の番。

 ツモは9p。


「カン」


 9pを手牌に入れ、手牌の8pを加カンする。

 これで俺は5−8,7s待ちの3面張。


「矢木、嶺上牌はお前がとってくれ。イカサマだとか、あとで言われたくないからな」

「ああ? ………ちっ」


 矢木が舌打ちしながら、嶺上牌の背をつまんで俺の目の前に伏せたまま置く。


(たのむぜ………!)


 汗の滲む手で持ってきたのは……………3p。
579 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:13:42.51 ID:+BIn1vWU0
「くそっ………!」


 3面張は非常に良い待ちとは言え、絶対的に信頼できるものというわけでもない。

 事実俺は先日、7面張のツモで2回連続上がり牌を引けなかったのだから。

 幸い安牌ではあるので、そのままツモ切る。


「へっ………」
 

 清澄の一員である俺がカンをしたことで、一瞬矢木たちは強張った顔を見せてはいたものの、すぐにその焦りは消え去った。

 さらに新ドラをめくると、表示牌は東。黒崎が最初鳴いた南にもろ乗りしてしまった。

 ツモにこだわらずとも、差し込みで逆転可能。


(やばっ………!)


 いやな汗が一気に噴き出す。

 これで差し込まれたら、俺には一切の対抗手段がない。その時点で終了だ。


「へへへ………藪蛇だったようだな?」

「っ………」


 露骨に安堵の息を漏らしながら、竜崎がツモる。

 しかし、すぐその表情が苦いものに変わる。


「ち…………」

(? ひょっとして………手牌に無いのか? 黒崎の上がり牌)


 軽く舌打ちした竜崎の顔を見て、僅かな安堵が俺の中にも芽生える。

 だが竜崎が矢木の方を見やると、矢木は笑みを浮かべて頷いた。竜崎の手にはないだろうが、おそらく奴の手には差し込める牌があるのだろう。

 竜崎が再び自分の手牌に目を落とし、俺の河と見比べる。
580 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:14:51.55 ID:+BIn1vWU0
「んー………」


 竜崎の手牌は、リーチなしで俺から5200以上を奪えるようにするためか筒子の染め手気配だ。


(頼む………!)


 竜崎が持っていそうで、俺が最後の悪あがきを行える牌は、1つしかない。

 それを出してくれなかった瞬間、俺の指が最低2本切り落とされることになる。


「ん………」


 ややあって、竜崎が切ったのは9p。

 8pのカンを見て、壁が出来た9pを切ったのだろう。


「ッ………カン!」


 吠えるように声をだし、手牌の9pを3枚倒す。


「はぁっ…………はぁ……!」


 9pが出てくれたことで、張りつめていた息を思い切り吐き出す。

 暖房は幾分か効いているとは言え、12月にかく量とは思えない大量の汗が、滝のように額や背を流れる。

 しかし、本当の綱渡りはここからだ。


京太郎手牌
234m6667s  カン:8888p 9999p


 再び3面張の嶺上ツモ。

 ここで上がり牌を引けなければ、次巡が来る前に矢木が竜崎に差し込み、俺の指がまずは2本飛ばされる。


(頼む………咲……!)


 今にも折れそうになる心を、咲の姿を思い浮かべることで辛うじて奮い立たせる。

 矢木が同じようにして目の前に置いた牌に、ガタガタと震えて止まない腕を伸ばす。

 持ってきたその牌は…………


「へへっ…………」
「おい、どうしたよ?」
「早くしろよ。こっちゃもう少しで上がれそ――――」


「カン」
581 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:16:11.23 ID:+BIn1vWU0
京太郎手牌
234m7s  カン:8888p 9999p 6666s


「なっ!?」
「ああぁ!?」
「んだと!?」


 持ってきた牌は6s。

 命はつないだものの、3面張どころか7s単騎。しかも場に2枚見えている地獄待ちとなった。

 でも、


(…………不思議なもんだな)


 さっきまでの腕の震えが、ピタリとやんだ。

 状況は相変わらず厳しいのに。

 三槓子が付いたから、もしかしたらここでツモれなくても、うまくいけば出上り出来る、とか。

 そんな数少ない新たに生まれたメリットすら、どこかに吹っ飛んでしまった。

 今はただ、早く嶺上牌に手を伸ばしたい。


(そっか………咲、お前はいつも)


 心なしか顔色の悪くなった矢木が、3枚目の嶺上牌を俺の目の前に置く。


(こんな気持ちで、麻雀を打ってたんだな………!)


 ツモ:7s


「ツモ! 嶺上開花・三槓子! 責任払いで7700!」


 5回戦、終了。
582 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:22:42.94 ID:+BIn1vWU0
ここまでです。

本当は優希の速攻、和のデジタル、まこの盤面支配力、久の悪待ち、咲の嶺上とか、

いままで必死に彼女たちに追いつこうとして京ちゃんが見て学んできた努力が実を結び、
それらに少し近いことを使い分けて切り抜けるシーンとかも書きたかったんですけど、
残念ながら断念しました。

いきなり強くなりすぎちゃった感じががが


大学は卒論とかで死にそう。
毎年「きっと来年は楽になるはず……」と4年間思い続けて来たけど、楽になったためしがないよ(´;ω;`)ウッ…
でもちゃんと完結はさせるからね。いつになるかはわからないけど、京玄ものとか次回作考え出してる。
麻雀がトラウマになってしまった京ちゃんの心を玄さんが解きほぐし、京ちゃんは玄さんのおもちを揉みほぐry)
583 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2017/10/14(土) 00:44:10.92 ID:+BIn1vWU0
最近鷲巣麻雀編ばかり読んでたせいか、全部で6回戦だと思ってた……

4回戦終了の間違いですごめんなさい。
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 02:15:57.19 ID:ziFyle6NO
待ってたのよ〜
京太郎やるじゃん
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 09:13:10.91 ID:cwhQmt5SO
オーラスの親は結局誰なんだ
586 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2017/10/14(土) 14:51:26.59 ID:+BIn1vWU0
ごめんなさい………
黒崎が親のつもりで書いてたけど、開局時の席の配置間違えてた

気をつけます
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 13:31:19.67 ID:1EqN0OuP0
待ってたぞ、いっち!
のんびりやってくれい
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/25(水) 20:38:39.73 ID:+UIKKbt8o

京ちゃんやるじゃん!
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/16(土) 21:50:54.36 ID:RMI4JoYzO
失踪か?
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/16(土) 22:32:10.26 ID:ts+/crwwO
SS作家には「突然プライベートが忙しくなった」とか「書き溜めたデータが全部消えた」とか「PCが壊れた」なんてよくあるしな
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/25(木) 13:08:38.01 ID:HwK44PKnO
もう更新しないのですね。
592 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2018/02/05(月) 20:05:35.32 ID:o40rZT/0O
ごめんなさい、スレ主です。
現在風邪で死にそうになりながら期末テストと卒論を書いています。

全てが13日に終わるはずだから、それまで待ってください………
一応今あげてる分の続きは何ページ分か書いていますが、区切りが悪いので、とりあえず五回戦が終わるところまで書いてしまおうと思います。

アカギの方が先に終わっちゃったよ………
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 03:05:42.73 ID:/9bDQzX4O
待ってる
見失うなよ、自分を
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 22:15:15.12 ID:aHlhkNFCO
>>593
595 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [sage]:2018/02/25(日) 00:13:50.38 ID:0G4PVC4K0
どうもスレ主です。無事卒論も終え、単位も足りて卒業できることになりました。

最終5回戦はただいま南入したところまでです。
もう少しお待ちください。
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 15:46:31.45 ID:uLNsdUfS0
生きてたのか
久しぶり過ぎて内容うろ覚えだけど読み返してきたから復習バッチリですよ

ところで先日将棋の女流最強棋士が三段リーグに挑戦して結局駄目だったようだけど
咲の世界ではこれの男女入れ替えたくらいの実力差があるのだろうか
とスレの最初の方での男女の実力差云々を見て思った
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 16:53:09.44 ID:VccS1Dj+O
止まるんじゃねぇぞ…
598 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:15:46.39 ID:2tlzgMhL0
もう嫌だ。
闘牌なんて1年は書きたくない。

ということでようやっと5回戦です。
なんか鷲巣麻雀の6回戦並にそれまでに比べて長くなった。
599 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:17:11.21 ID:2tlzgMhL0
「はぁ、はぁ…………」

 
 肩を大きく上下させながら息を整える。

 緊張の大波が過ぎ去り、動悸も次第に収まるが、それでも中々普段通りには戻ってくれない。

 手足の先の毛細血管までがじんじんするような興奮によるしびれが取れないし、視界も酸欠の後のようにくらくらする。


「悪いがトイレ行かせてもらうぞ」


 矢木たちの返事を待たずに俺は席を立ち、おぼつかない足取りで店の奥のトイレに向かった。

 用を足す気にはなれず、手洗い場の蛇口をひねり冷水を手に組むと、それを顔面にぶちまけた。
 

「ふー………」


 これで5回戦中4回戦は凌いだ。

 オーラスは生きた心地がしなかったが、それでも何とかなった。

 矢木たちは3回戦辺りから焦りだしたのか、各自が好きにやっていたそれまでと異なり1対3の形で押しつぶしに来ている。

 次も生き残れる保証はどこにもない。


「かと言って、逃げ出すことも出来ねぇしな………!」


 ここまで来たら、開き直るしかない。怖がるだけ、時間の無駄だ。

 大丈夫、今の俺は絶好調だ。


「よし…………」


 顔をハンカチで拭い、いざ卓に戻ろうとした時。


「うぐっ…………!」


 度重なる緊張がたたったのか、腹部に猛烈な痛みが押し寄せた。


「いててて………!」


 慌てて個室に入る。

 どうやら最終戦開始は少し遅れそうだ。
600 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:18:10.15 ID:2tlzgMhL0
「おい、矢木。どうなってんだよ………!?」

「わからねぇ、俺にも何が何だか………!」


 京太郎がトイレに行っている間、矢木たちは額を突き合わせて緊急会議を行っていた。
 完全にカモだと思っていた雑魚が、4回戦連続で自分達からトップをかっさらって行ったのだ。
 半年前の京太郎を知っている分、矢木の混乱は大きかった。


「ともかく、こうなったらなりふり構っていられねぇ………!
 お前ら、『通し』使うぞ……! 容赦は一切要らねぇ!」

「わ、わかった」
 

 殺気立つ矢木に気圧されながら、竜崎と黒崎が頷く。


「それと………おい、オヤジ!」
「へ、へい!」
 

 カウンターで新聞を広げていた店主が、いきなり矛先を向けられて跳び上がる。


「例のカメラ、使えるよな?」
「へ、へい。もちろんです」
「よし、次の半荘、通し役頼むぜ」
「は、はい!」


 指示を受けた店主は、慌ててカウンターの下の機械類を弄りだす。
 
「よし、これで…………」
601 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:18:59.69 ID:2tlzgMhL0
 がちゃり

 丁度その時、京太郎がトイレから戻ってきて、そのまま卓に座る。


「待たせたな、こっちはもういいぜ」
「ちっ………」


 矢木は舌打ちを一つ打つと、何も言わずに卓に着いた。



「確認するぜ。
 この5回戦がラストだ。もしここで俺が1位を取ったら、お前らには全員土下座してうちの麻雀部の皆に謝ってもらう。
 今後一切俺たちに関わらないし、染谷先輩の店に他人を使って嫌がらせをするのもナシだ。
 代わりに俺が1位じゃなかったら………指を2本切り落としてくれて構わない」

「まぁ………いいだろう」

(…………?)


 矢木がやけに素直なのが気になったが、その前に自動卓から牌がせり出てきたので、そのまま配牌に移る。
602 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:20:04.72 ID:2tlzgMhL0
5回戦 東1局 
東家 竜崎
南家 矢木
西家 黒崎
北家 京太郎

配牌

 15(赤)66m3499s289p北北 ツモ:4m ドラ:5p

(悪くない。
 89pの辺張さえどうにかなれば、北を鳴いて手っ取り早く役牌ドラ1で上がれる)


 大物にはならないが、手早く上がれそうな配牌にまずはほっと一息つく。
 場風牌や三元牌ならともかく、北なら5,6順もすればだれか鳴かせてくれるはずだ。
 落ち着いた気持ちで、打1m。


11巡目

 京太郎手牌
 45(赤)666m34499s チー:789p ポン:北北北 ツモ:5s(赤)

 (ラッキー!)

 赤ドラを引いて来れたことに内心喜びつつ、打4s。
 思ったより時間がかかったが、これで3−6mと9sの変則3面張。

 そして俺の下家、竜崎のツモ。
 竜崎はその牌と俺の手牌を数回交互に見て顔をしかめると、ツモった牌の代わりに8sを切り出した。
 恐らく萬子でも引いたのだろう。俺の捨て牌には1mと8mが1枚あるだけで、2~7mは出しにくい。
 だがそのうちツモれるはずだと自分に言い聞かせ、機会を待つ。
603 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:21:05.45 ID:2tlzgMhL0
14巡目
 ツモ:8p
 (くそっ、中々ツモれない………!)

 待ちの6mは4枚中3枚、9sは4枚中2枚を自分で使ってしまっているので、残り枚数はそう多くないというのはわかるのだが、どうしても気持ちは焦ってしまう。
 
 そしてそうこうしているうちに、誰も上がれず流局となってしまう。


「聴牌」
「ノーテン」
「ノーテン」
「聴牌」


 聴牌していたのは俺と竜崎。
 互いに隣の席から1500点ずつもらうが、親は変わらず竜崎のままだ。


(また早い手が来てくれるといい…………え?)


 親の竜崎が上がれなくてほっとしながら竜崎の手牌を見た途端、驚愕が俺を襲った。
 
 竜崎 手牌
 33699m33p7799s東東

 七対子6m単騎。
 3種ある俺の上がり牌をすべて手牌で使い切られていた。

 それだけではない。
 竜崎の捨て牌には、引いた時には生牌であった一九字牌がいくつかあった。
 七対子で待っているなら、生牌の客風牌などうってつけの待ちだ。
 それを見送って、あえての6m待ち。


(偶然、か…………?)


 やけに拭い難い疑問を残したまま、次の局が始まった。
604 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:21:55.18 ID:2tlzgMhL0
 70分後―――――

(なんなんだ…………?)


 東4局 0本場
東家 京太郎 22100
南家 竜崎  13600
西家 矢木  33200
北家 黒崎 25000


 あれから竜崎が2回、矢木が3回、黒崎が2回連荘を重ね、1時間以上かけてようやく俺の親が回ってきた。

 めったに起こり得ないスローペース。

 しかしそれでも9局を70分で済んだのは、局一つ一つはかなりのハイペースだったからだ。

 毎回思ったように鳴かせてくれる。むしろこれまでの4回戦より更にわきが甘くなった印象すらある。

 だが、たどり着けるのは聴牌まで。
 鳴いているから具体的にはどの時点で俺が張ったのかはわからないはずなのに、俺の聴牌と同時にどいつもこいつもロン牌を出さなくなる。

 そしてそうこうしているうちに親が上がり、たまに俺がツモることによってのみ親が変わるといったことの繰り返しになっていた。

 途中何度か振り込みそうになったが、幸い直撃は一度だけ2300を奪われただけで、大物には振り込んでいない。

 だが、何とも形容しがたい気持ち悪さに付きまとわれたまま、俺の親が来る。


(これで俺も連荘できるってんならまだいいんだけどなぁ…………)


 今の俺が基本としている、安手になってもいいから可能な限り早い手を上がる戦術は連荘の出来る親と相性がいい。

 安手でも3回連荘出来れば親だし30000点より上には余裕で行けるだろう。
605 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:22:42.81 ID:2tlzgMhL0
 京太郎配牌

 11357889m48p9s西西南  ドラ:8s

(うげぇっ………!)


 表情筋が歪むのを必死で押さえながら、心の中で呻き声を上げる。

 萬子の混一色が可能だろうが、いかんせん手が重い。これでは12巡以上は余裕でかかりそうだ。

 しかも字牌が役牌じゃない。苦労して上がっても、30符2翻で3900どまりもあり得る。


(また槓出来ればいいんだけどなぁ………)
 

 これはもう素直に混一色に向かうしかないと割り切り、打4pから始める。
 直後下家、竜崎の第1打は西。


「ポン」


 1打目をポンされたことでやや面食らったようだったが、いずれバレるのだ。

 そして俺の2打目は5m。

 混一色に向かうなら5m切りは1つ手は遅れるが、4p5mと立て続けに打つことで、周りから見たらチャンタの可能性も同時に残す。

 役に立たない字牌を切りにくくさせることで、他の3人にも手を遅らせてもらう。
606 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:23:44.21 ID:2tlzgMhL0
 そんななけなしの抵抗を交えつつ、迎えた13巡目。

 京太郎手牌
  112399m南  ポン:西西西・888m ツモ:3m

(カン2mで聴牌………もう混一色狙いなのはばれてるだろうけど、5m切っておいて良かったよ)


 筋引っ掛けで、少しでもロン牌の出やすい状況を作り出せたことに少しの希望を覚えつつ、打南。


「ポン」


 対面の矢木が、俺の捨てた南をポンする。

 捨て牌や表情から察するに、これで聴牌したのだろう。

 客風牌をポンした事と捨て牌からして、役は恐らく索子の染め手だ。

 下家の黒崎はツモった牌を眺めた後、そのままツモ切り。牌は3mだった。


(おいおい、ホントにどうしたんだこいつら?
 4連敗したらフツーはもう少し慎重にならないか?)
 

 萬子の染め手の俺に対し、無スジの危険牌をツモぎった黒崎に呆れつつ、俺は自分のツモ牌を見る。
607 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:24:28.79 ID:2tlzgMhL0
京太郎手牌
  1123399m  ポン:西西西・888m ツモ:2s

(げ…………)


 矢木に対して切れない2s。

 竜崎の捨て牌に1枚あるだけだし、これは捨てられない。

 何で俺だけこんな連荘できねーんだよと心の中で毒づきながら、打9mとして躱す。

 この先も振り込まないことは出来るだろうが、上がることはもう絶望的だ。

 南場4局だけで逆転しなければならないことを考えると、嫌な汗がまた噴き出て来た。

 次の矢木のツモ。

 矢木はその牌を見ると、視線を俺の手牌に向けて来た。


(? 萬子でも引いて来たのか?
 でも今のこいつらの緩み具合だと、そのままツモぎるんだろうなぁ………)


 俺のように手牌に抱えて、上がりを放棄してくれないかなと思ったが、先程の黒崎のことを考えると、ここは俺に厳しそうでも迷わず切ってきそうだ。

 しかし矢木は一度視線を俺から逸らすと、その牌を手に入れた。

 そして代わりに切ったのは4s。
608 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:25:13.56 ID:2tlzgMhL0
(あれ? 危険牌切らないんだな?)


 予想に反して矢木は手を回したらしい。
 しかし安心するのもつかの間。続く黒崎のツモ。


「へへ…………」
(?)


 矢木と黒崎が顔を見合わせたかと思うと、黒崎はやけにもったいぶった動きで手牌にその牌を加え


「リーチ!」


 6mを出しつつ、リーチ宣言をした。


(まずい、2鳴きしてるし、萬子が待ちだと躱しきれないぞ………!)


 短くなったこの手牌で躱すのは難しい。
 安パイを引けるように祈りながらの俺のツモ。


京太郎手牌
  112339m2s  ポン:西西西・888m ツモ:2s


 何ともう一度2sを持ってきた。
 これはひょっとして、運が良ければ対々和に向かえるのでは?


(少なくとも今黒崎は6m切りリーチだし、9mを打つのは間違ってない。
 その後ポンでもツモでも1,3mを持ってきて、2mが切れたら………)


 思いもよらぬところから出てきた上がりへの道に胸を躍らせ、打9m。
609 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:26:08.52 ID:2tlzgMhL0
 が、

「ロン!」
「え?」

 矢木が声高に言い、手牌を倒した。


矢木手牌
 111555888s9m ポン:南南南 ロン:9m


「三暗刻・対々和。満貫だ」
「えっ………!?」
 

 ガタッ と、俺は思わず立ち上がってしまった。
 想像以上に揃っていた刻子の数もそうだが、何よりその不自然な待ちに。


(9m単騎!? ありえない!
 だって直前の俺の捨て牌は9mだったんだ。この手を回すために残したものじゃない。
 しかもさっきの矢木の捨て牌は4sだったろ………!?)


 もし4sを手にとどめておけば、矢木の手牌はこうなる。


矢木手牌(1巡前)
 1114555888s ポン:南南南 


 3−4−6s待ちの、高め跳満。
 例えば2mや7mなどの俺に通らない萬子を引いてしまったのだとしたら4s切りは正しいが、引いたと思われるのは、俺が直前に捨てた安パイの9m。
 わざわざこんな待ちにする理由は、どこにもない。
610 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:28:26.40 ID:2tlzgMhL0
ごめん、少し離れます。
また後で
611 :スレ主 ◆EvBfxcIQ32 [saga]:2018/03/29(木) 23:52:22.94 ID:2tlzgMhL0
(俺の9m対子落としを見切っていた?
 いや、だったら待ちの広い、かつ点も高い索子待ちのままでよかったはずだ。
 だって俺は手を回したせいで、最高でもまだ1シャンテンで振込みを恐れる必要なんてなかったんだから!)


 震える手で点棒を渡しながら、手牌を見透かされたような待ちに、頭の中が疑問で埋め尽くされる。
 これで南場突入時点の点棒状況はこうなる。


 南1局 0本場
北家 京太郎 14100
東家 竜崎  13600
南家 矢木  41200
西家 黒崎 25000


(残り4局で………26000点以上………)


 泣きたい。逃げ出したい。今すぐみっともなく謝ってでも助かりたい。
 べっとりと張り付いてくる敗北の二文字が、俺から気力を根こそぎ奪っていく。


(本当に………そうやって逃げられたら、どんなに楽かね………!)


 それでも、これ以上思考を弱気に持って行かれてはならない。
 俺は涙目のまま、ぐちゃぐちゃに歪んだ笑みを浮かべた。


(とにかく考えろ! 自棄になったらそれこそ負け確定だ!)
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