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京太郎「俺はもう逃げない」 赤木「見失うなよ、自分を」
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177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/09/03(土) 05:56:12.83 ID:mUkh/Hf50
対局に時間かかるからソードマスターヤマトみたいに最終回で卓囲んでそのまま終了かな
178 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:35:57.37 ID:9PCR24Zc0
こんばんは、ちょこっとだけ投稿するよ
179 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:36:52.91 ID:9PCR24Zc0
「すいません、お風呂を貸してくれただけでもありがたいのに、服まで………」
旅館の仲居さんが俺の服を洗濯してくれている間、俺はおじさんの服を借りていた。
俺やおじさんの体形に合う旅館の浴衣がなかったため、おじさんが気を利かせてくれたのだ。
「はは、中々にあってるじゃないか」
「そ、そうっすか?」
格好いい、真っ黒なシャツに銀色のジャケットを羽織る。
おじさんのまねをしてシャツの襟をわざと立ててみようとちょっと試してみたが、あまりにも格好つけすぎているのでやめておいた。
「やっと年相応な面になったな」
「え?」
鏡の前で、襟をいじって照れていた俺を見て、煙草をくわえたおじさんが笑う。
どうやらそれが最後の1本だったようで、箱はくしゃりと握りつぶしてしまった。
「さっきよりはずいぶんましな顔になった。年相応のガキの顔だ」
「そ、そうっすか…………」
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/04(日) 20:36:53.84 ID:PqV9+wiho
おう待っとったゾイ
181 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:38:10.85 ID:9PCR24Zc0
恥ずかしいやらなんやらで、俺はおじさんの方に正座して向き直る。
「え、えっと、俺、須賀京太郎って言います。おじさんは………?」
「俺か? 俺は赤木…………赤木しげるだ」
赤木さん。そう名乗ったおじさんは、部屋の隅に置いてあった座布団を俺によこした。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言って、座布団の上に座る。
畳の濃い香りが漂う部屋に、赤木さんの煙草の臭いが強くなっていく。
「ああ、煙草は苦手だったかい。だが悪いな、これが今ある最後の一本だから、吸い切らしてくれ」
「は、はい」
別に煙草はどうでもよかったのだが、威圧感に似つかわしくない赤木さんの気づかいに緊張してしまう。
「くくく………取って食おうってわけじゃねぇ、そう固くなるな」
「は、はい………」
182 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:39:35.99 ID:9PCR24Zc0
そんな俺の戸惑いすら見透かしたかのように、赤木さんは笑って気を利かせてくれる。
そのまま何度か煙を吐いて、雨音だけが聞こえてくる時間が続いた。
「ん………待たせたな」
赤木さんが短くなった煙草を灰皿に押し付け、俺と向き合う。
「この雨で散歩にもいけねぇし、せめて煙草だけ買いに行こうとしたらお前さんが居たんでな。まぁ、ジジイの暇つぶしに付き合わされてると思ってくれて結構だ」
「いえ、そんな………! 赤木さんが着てくれなかったら、あのまま濡れて風邪ひいてただろうし………」
スッ
その時、部屋のふすまが開けられて、仲居さんがやって来た。
「失礼いたします。お飲み物をお持ちいたしました」
「おう、ご苦労さん」
仲居さんは、湯気の出るような熱いお茶を俺の前に置いて、赤木さんの前にはビールの小瓶とコップを置いた。
「ああ、姉ちゃん。この、フグ刺し頼めるか?」
赤木さんがルームサービスのメニューを指さしながら尋ねる。
「申し訳ありません、最近は天気が良くなくて、業者も来れなくて御品切れとなっております」
「そうかい(´・ω・`)」
赤木さんはとても残念そうな顔をした後、ビール瓶を開けた。
183 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:40:30.18 ID:9PCR24Zc0
赤木さんはとても残念そうな顔をした後、ビール瓶を開けた。
「京太郎、酒はイケる方か?」
「い、いやっ、俺未成年すから!? ばれたら部活の皆にも、迷惑が…………」
赤木さんの冗談めかした問いかけに、俺は跳び上がって答えた。
そしてその言葉尻が、沈んでいく。
「部活の連中が、どうかしたのか?」
「えっと…………」
「構わねぇ。どうせ俺しか聞いていないんだ、遠慮なくぶちまけちまえ」
俺は机の上のお茶を飲まず、うつむいたままポツリポツリと話し出した。
「赤木さん。清澄高校って知ってますか?」
「すまん、俺は世間一般のことに疎くてな」
「すぐそこの高校で、そこの麻雀部は滅茶苦茶強いんです。初出場で、インターハイベスト4とかやってのけちゃうくらいに」
「へぇ、そりゃすごそうだ」
かかか、と赤木さんが軽い笑い声を上げる。
184 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:41:20.91 ID:9PCR24Zc0
「男子が俺一人、それと女子五名のたった六人だけの部活なんすけど……。あいつらは、本当に化け物じみた強さなんです」
「お前さんはどうなんだい。それなりに、腕に自信はあるのか?」
「いえ、全然……………」
膝の上に置いた拳を握り締める。
「俺は、麻雀初めて1年も経っていないんですけど………全然だめです。多分条件が同じでも、そこらの学校の麻雀部の生徒より弱いと思います。いっそ、笑える程に才能がなくて………」
掌に、握り締めた手の爪が食い込む。
「努力は、正直めちゃくちゃしてるって言えると思うんです。毎日あいつらの傍にいてその牌譜をとって、強い人たちの打ち方をこの目で見て感じて、家に帰ってからも、毎日2時間以上自分で勉強して、夜遅くまで頑張って…………」
胸の痛みが再びよみがえる。最近の辛いとしか感じられない日々が、頭の中一杯にフラッシュバックする。
185 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:42:40.30 ID:9PCR24Zc0
「なのに、あいつらは、俺なんか置いてどんどんさらに強くなっていくんすよ………。
人が100メートル走を律儀に頑張ってるときに、タクシー使ってそばを追い抜かれていく感じっす………。
でも、別にそれはいいんです。その手伝いは正直、辛いっすけど………、ある意味それも幸運なことだと思えるんです。でも…………」
「でも………何だ?」
「でもあいつらは…………そんだけ急成長していく自分たちを、弱いっていうんです………。
元から化け物じみてるくせに、最近はさらに強くなって………それでも、まだまだ弱い、まだまだ勉強しなきゃって………。
それで………そんなあいつらを傍で見ていて、じゃあ、お前たちより弱い俺は何なんだよって………思い始めたんです」
視界が、涙で歪む。
「お前たちで弱いっていうなら………じゃあ、俺はただの雑魚じゃないかって。
そりゃ、もともと俺は雑魚っすよ。あいつらが一流じゃなくて二流なら、俺は三流どころか五流っすよ。
でも、あいつらだけがさらに強くなっていって、それを傍で見せつけられて、自分たちは弱い弱いって、ずっとこき下ろされて………みじめで………!」
ポタリ、と膝の上で握り締めた拳の上に、涙が落ちた。
赤木さんは、何も言わずにビールをもう一杯、コップに注いでいた。
「……………それが、お前の煙っちまってる原因かい?」
「……………」
俺は黙ったまま頷いた。
赤木さんは、注いだばかりのビールを一口飲み、コップを置いてしばらく黙った。
186 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:44:08.78 ID:9PCR24Zc0
短いけどここまでです。
次回が説教シーンなので、ひとかたまりドンと行きます。
説教が訳の分からないものになってないか、何度見直してもスゲー不安です。
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/04(日) 20:48:23.04 ID:hI/N1LUNo
乙
熱くても三流は嫌だよね
188 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:50:30.29 ID:9PCR24Zc0
また本編とは関係ない雑談なんですが、最近脳内でアカギと咲のキャラを入れ替えることがマイブームです。
鷲巣麻雀で 安岡さん(頑張る凡人。最近超覚醒) → 京太郎
仰木(後ろで20年間フラグ立て続けてきた戦犯) → 和
とか置き換えるとすごいしっくりきます。
その状況とかもいろいろ妄想が膨らむんですが、それで1本書けそうなくらいなんでここまでで^^;
189 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/04(日) 20:52:12.12 ID:9PCR24Zc0
アカギでも咲でも、頑張る凡人枠が大好きです。
最近の安岡さんはめっちゃ戦力として頑張ってるよ
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/05(月) 00:00:34.35 ID:u6vUbsqIo
乙でした
安岡さん、確実にアカギと鷲巣に引っ張られて成長しとるよなw
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/09/05(月) 01:35:14.30 ID:wYvEdz7o0
おつです
部長的には「てっぺん獲るわよー」と参加したのにベスト4で終わっちゃったからまだまだ弱いって思ってるんじゃないかな。
まぁだからと言って京太郎の現状に納得できるかどうかは別問題だけど
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/05(月) 12:49:46.62 ID:wCFLDhSjo
正直アカギとかそっち系の運のどうこうだの流れがどうこうだので考えたらさ、
京ちゃん真面目に麻雀始めてから少なくとも部活で1位になれた事すらない可能性が割とあるし、
大会前の時点で「俺が麻雀やると絶対に負ける」って無意識に刷り込まれてる可能性。
他の麻雀漫画になるが、「卓についた瞬間から常時背中煤け続けてる」とか「いつでもご無礼可能」とかそんな感じになってたとしたら……。
りつべブログの男子麻雀とアニメでの京ちゃんのトビっぷりが矛盾しまくってるし、本気でそう言う状況なのありえなくはないんだよね。
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/09(金) 02:16:32.32 ID:7xDFOEDz0
>>192
真面目に描写されてないだけだぞ…
まあその点置いておいてもちょっと負けすぎな感はあるな
咲和は天才だし優希もとんでもない成長速度だから仕方ないともいえるが
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/09(金) 04:47:05.60 ID:GXx777Muo
>>男子の試合は能力も特になくて地味です。
男子って高校生以下の男性のことなのかそれともプロ含めた面子のことなのかで話が変わるね
「最近の男は情け無い」なのか「男は麻雀に向いていない」なのか
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/09(金) 15:08:52.38 ID:Qr8YjuXUo
>>192
アニメ全国編EDのユキのポーズが実は伏線でしたーwwとかやるりつべだぞ。
つかその京ちゃんのシーン以外は大体連携取ってやってるはずなのに、そこ「だけ」アニメスタッフが暴走ギャグやる理由が無い。
>>194
んでそれがどっちにしたって「男子のそれも県一次予選の場であそこまで盛大に吹き飛びまくった」って京ちゃんの状況が明らかにおかしい事には、なぁww
多少なりとも麻雀してるシーンがある中で、だと亦野さんがマタンゴ言われる切欠になったアレと泉の焼き鳥の被害が大きい部分足したみたいな感じだし。
亦野さん:結構高火力の喰らいまくってたけどまぁ上がれはしてる
泉:焼き鳥だが一発一発はそこまで
京ちゃん:原作通して「上がった描写すらないし作中で京ちゃんが入ってた卓の結果見ても上がったこと無いと考えても矛盾すら起こらない」&「その予選描写だと最低が跳満レベル」
作中描写とりつべブログでの話が全部事実と仮定すると、マジで京ちゃんの評価↓になる。
「クソ雑魚ナメクジばっかの現男子高校生の中でもぶっちぎりで話にならないクソ雑魚ナメクジ」
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/09(金) 21:58:20.02 ID:wr07rfZA0
ということは京ちゃんはわざと振り込んで初心者のふりをしてるってことにならないかな?
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/09(金) 22:04:44.09 ID:HQW5NmKs0
京太郎「今日はこれ、上がってもいいんだよな」
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/09(金) 23:37:08.20 ID:/ZoPVQdm0
初出場で優勝の清澄(しかも美人揃い)でたった一人の男子、となると相当マークや恨み食らうことになって、
いざ試合が始まるとすぐに弱いと見抜かれ、あとは個人戦の定石「弱い奴からむしって稼ごう」に飲まれる。
相手同士で和了って展開が紛れるより、山越しや低目見逃し使ってでもで狙われることにならないか?
まあ、作者がこうですと言ったらどうにもならないけど・・・
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 00:19:16.69 ID:JHXAr4iBo
長文の応酬やめーや
200 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:43:54.91 ID:Isi5rKUz0
こんばんはー
これ以上見直しても自分じゃ改善でき無さそうだったし、そろそろ投下していくよー
201 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:45:20.41 ID:Isi5rKUz0
「おかしいな…………」
「え?」
「俺の中だとな………努力してる時点で、そいつは輝くものなんだよ。
だがお前は輝いていない。
何か叶えたい望みがあって、それに向かって動けるだけで、人は幸せなはずなんだ………京太郎」
「は、はい」
「お前ひょっとして、努力を憎んでしかいないんじゃないか?」
「え…………」
「お前の場合、とにかく動いてみながら、あがいてみながらも………同時に、自分に足枷をはめちまってるんじゃあないか………?
じゃあその足枷とは何か………恐らく、その動こうとする努力自体を憎んじ待っていること………努力に何の価値も見出そうともしていない。
本来命を輝かせるための動き、あがきを………逆に捉えてるんだ」
「逆?」
「お前の話を聞いているとどうも………お前は、努力に結果を求めすぎているように感じる。
わからなくもない………あれだけ努力したんだ、だから当然、その対価は得て当然だ………と、そんな風に考えたくなるのもわかる。
けど………それが強すぎるんだ。
成功……繁栄………そんなものに目が行き過ぎて、結果の実らない努力を、辛さだけ押し付けてくる努力を、憎んじまってる………!」
202 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:46:45.38 ID:Isi5rKUz0
俺は、赤木さんの言葉を聞いて、自分に訊いてみた。
お前は、何のために努力しているんだ?
(もちろん―――強くなりたい。
強くなって、あいつらの隣にいて、恥ずかしくないくらいになりたいって―――)
「だって…………」
「ん?」
「だって………そんなの、当たり前じゃないですか!
あいつらの傍にいて恥ずかしくないくらい強くなりたいっ、そう思って努力してるのに、実りのないまま、あいつらは俺を置いて行って、もっと強くなって………。
努力してもしなくても変わんなくて………じゃあ、そんなのただの苦でしかないって考えるのは、当たり前でしょ………?」
「普通は、そうなんだろうよ。だがそれは悪癖だ。よくある、多くの人間が抱えている悪癖だっ………!
確実な対価がなけりゃ、自分から何かをしようって気すら起きないのか?
だったらナマケモノみたいに、一日中ゴロゴロしてりゃあ幸せか? 違うだろう?
お前の求めるものは、お前しか知らないんだからっ………!
お前以外に、お前にそれを上げようとしてやれる奴なんていないんだっ………!」
「ぐっ……」
赤木さんの言葉に、俺は言い返せなかった。
その通りだ。もし俺が俺の望むものを手に入れようとしたら、それは俺にしかできないことなんだ。
毎日無為に過ごしていて、ある日突然強くなれるなんてあるはずがない。
203 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:47:55.12 ID:Isi5rKUz0
「そりゃあ、誰だって傷つくのは嫌だ。嫌だって感じるのは構わないし、むしろそれが正常だ………が、そこで終わっちゃあいけない」
「え?」
「いいんだよ、いくら傷ついたって………。
大体、お前の知っているその部活の仲間たちは、何の苦労もなく、ただ才能だけで偉業を成し遂げたもんなのか?」
「いえ………、努力しています」
「だろう? 誰だって、努力には傷つけられるものなんだ………。その傷を、次へ進む一歩の素と出来た者が、偉業を成し遂げられるんだ………。
歴史上で偉人と呼ばれる連中だってそうだ。
最初から成功だけ続けて、素直に無難に生き続けてそう呼ばれるようになった奴なんていやしない。
お前はそんな偉業に、たったの1年もかけずに追いすがろうとしている………。
そりゃあ傷つくさ………。尋常ではないほどに傷ついてしまいもするだろうさ………。
だから、まだ決めつけるなよ………疑ってやるな………」
「え?」
「自分がこのまま、追いつきたい相手の元にたどり着けないで終わるなんてよ………考えるな。
今のお前の傷つきは、その心配によって引き起こされるんだ………。
本来傷つかないでいいところを、さらに余分に、過剰なまでに傷つく深みにはまっちまっている………。
その心配という靄に囚われ、霞んじまってるんだ………それに………」
「それに…………?」
「いいじゃないか…………!
もし努力が何一つ結果に結びつかなくったって、すべてが失敗に終わったって………!」
204 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:49:20.62 ID:Isi5rKUz0
「な…………」
俺はその言葉に反応して、食いついた。
「何で、そんなのっ、めちゃくちゃだ……!」
身振り手振り加えて、自分の中の感情を吐き出す。
「だって失敗したら、何にもならないじゃないですか!
その、次の一歩につなげるとか、せめてそれにすらならないんじゃ、それこそ本当に努力する意味なんてないっ………!
ただ辛いだけで終わるなんて、そんなのっ、赤木さんだっていやでしょう………!?」
「くくく………まぁ、確かにそうだ。ないよりは、あった方がいいわな………」
「でしょう!?」
「だが、それは本当に、ないよりはましってだけの話なんだ……」
「え…………?」
205 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:50:53.19 ID:Isi5rKUz0
赤木さんはコップの中の最後の一口を飲み干し、笑って言った。
「ただ……やってみようと、動いてみるだけでいいんだ。
何かをやってみようと、熱を持って行動に踏み切ることっ………これが一番大事なことなんだ。
そりゃあ、成功したい気持ちだってわかる。
練習したなら、その分の力、実力………そんな見返りを求める気持ちもわかるっ………!
だけどよ、それってそんなに必要なことか?
一緒にいればいいじゃないか………、お前が居たい相手と一緒に。そうしたいのなら………!
実力がなくたって………、どこの馬の骨とも知れない赤の他人から、指をさされて笑われようと………。望んだ結果でなくとも、お前は努力をしたんだ。
いいか? 完璧な成功なんて、追っかけなくったっていいんだ。
無駄になってもいい………一番最初に、自分の望むものを決めて、それを追いかけようと尽力したなら………それだけでいいんだよ。事の成否なんて、考えるな」
「ぐっ……でも…………!」
「いいか? 成功を目指すなと、最初から諦めろと言うんじゃない。
その成否に思い煩い過ぎて、前へと進む熱を失ってしまうこと………命を輝かせる機会を端から完全に失うこと、これが一番まずい」
瓶の中にわずかに残った、一、二口分のビールをコップにつぎ、俺に渡してくる。
206 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:51:56.53 ID:Isi5rKUz0
「いいじゃないか…………!
三流どころか、五流だって………! そうやって熱くいられれば、それだけで十分じゃあないか………!
怖がらなくっていいんだ……ただまっすぐ、自分の欲しいものがあるなら、それに向かうだけで………」
「ッ…………!」
俺は赤木さんの手からコップをひったくり、そのわずかな量のビールを飲み干した。
「げほっ、けほっ! ぐっ………うっ………」
「お前はお前で、自分を朧にしちまってる………。
もういい加減、自分を褒めてやれよ…………そんだけ無茶な目標立てて、よく折れずに努力を続けられているなって………!
ここまで傷つく程、それだけ頑張ったんだなって…………!」
「うっ…………!」
自分の膝に突っ伏すような姿で、涙をボロボロ流す。
正直、赤木さんの言い分全てを正しいと思うことはできない。
でも、そうやって努力しているだけで、その価値を認めてくれる人がいるというのは、この上なく心が救われた。
「羨ましいもんさ。そうやって、自分以外の誰かのためにも頑張れるってのは………。
俺は………こんなジジイになるまで、友達って存在のありがたさに、最後の最後まで気付けなかった………だから、お前があったかく思えるさ。
いい生き方してるじゃねぇかよ、京太郎」
「うっ………うああ……あ……うあああああああ…………!」
207 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/10(土) 00:53:57.69 ID:Isi5rKUz0
今日はここまでです。
「天」の通夜編見て書いてこれかよって自分で思います。
ちなみに書いてる途中アカギに自分が叱られてる気分で胸がえぐれそうでした。
傷つくほどの努力、したっけ俺………てなる。
あとやっぱ赤木さん出ると「……」の量が多くなる。
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 00:54:53.81 ID:qu3MLpXy0
他の連中は咲さん以外まともに仲間だと思ってなかった模様
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 01:26:06.29 ID:h/dunVZhO
傷つくほどの乙
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 05:13:57.26 ID:YI0rAlbW0
乙 晩年のアカギらしさが出てる気がする
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 07:07:26.71 ID:7WXtTpX3O
顎と鼻が尖っていくほどの乙
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 20:48:42.85 ID:2ng0lYVho
おもしれーwwwwwwwwwwwwwwwwスレ主マジ神だはwwwwwwwwwwwwwwww
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 21:45:18.64 ID:LMJKJs/U0
乙ー
まぁ問題は他の面子が京太郎の事を都合のいい奴、としか見ていなかった事にあるんだけどな…
久達も気づいたからマシにはなるんだろうけどしこりが残りそうだな
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 22:03:19.18 ID:Isi5rKUz0
>>212
黒歴史を嘲笑っている感じに見えるんだが
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 22:39:39.38 ID:AcAZl0dQ0
いないものの相手をするのはよせ!
216 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/10(土) 23:37:59.04 ID:2ng0lYVho
スレ主ファイトだぉ( ´艸`)
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/11(日) 23:54:39.44 ID:2+IvkF1Co
スレ主さん続きはいつですか?
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/12(月) 13:51:07.58 ID:WKR/da5Wo
じゃあ麻雀部やめろよとでも言いたい
部やめた方が逆に自由に打てるだろ
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/12(月) 14:21:43.74 ID:RcCeeTB90
まともに読んでないからこんなずれたことを言う
220 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/13(火) 00:49:58.68 ID:l+4DyZFv0
>>217
え? 今からだけど?
つーことで始めて行きまーす
221 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/13(火) 00:51:33.71 ID:l+4DyZFv0
そのままどれだけ泣き続けていただろうか。
目が腫れ上がっているのが、自分で分かる。
赤木さんはその間、ただ静かに待っていてくれた。
「すんません………勝手に一人で泣いてて………」
「構わねぇよ。言ったはずだぜ、ただのジジイの暇つぶしだって」
「失礼いたします」
スッ
ふすまが開いて、仲居さんが再びやって来た。
両腕に、俺の制服とコートが抱えられている。
「本当はクリーニングにお出しするのが一番いいのですが、流石に当旅館でそのようなことはできませんで………。ボイラー室で、急いで乾かしました。それと、こちらはポケットに入っていたものです」
「あ、ありがとうございます」
222 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/13(火) 00:52:27.89 ID:l+4DyZFv0
クリーニングじゃなかろうが何だろうが、俺にとっては服を乾かしてくれるだけでありがたかった。
若干生乾きだが、この雨の中なら傘を差しても幾らかは濡れてしまうことは避けようがないので、気にならなかった。
「えっと、済みません。お客じゃないのにここまでしてもらった上に図々しいんですけど………、出来れば傘を貸してもらえないでしょうか?」
「いえ、構いませんよ。清澄の生徒さんですよね? また今度返していただければ結構です」
「すいません。ありがとうございます」
丁寧に一々頭を下げてくる仲居さんにつられて、俺も頭を下げてしまう。
お辞儀合戦を繰り広げる俺たちを、赤木さんは面白そうに見ていた。
仲居さんが去ると、俺は部屋の奥の方でもう一度着替えて、自分の本来の服に戻った。
赤木さんの服も格好よかったので少し名残惜しかったが、まさかこのまま着て帰るわけにもいかない。
「それ………」
「え?」
「いや、そのお守り見せてくれねぇか?」
「あ、はい」
机の上に乗せられたまだ生乾きのハンカチ、生徒手帳、お守りを見て、赤木さんがお守りを指さしていた。
223 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/13(火) 00:53:38.81 ID:l+4DyZFv0
「そのお寺の名前、知ってるんですか?」
「ああ。昔そりゃあ世話になってな………これは、石か?」
「ええ。ひいじいちゃんにもらったんですけど、何でも麻雀の神様って呼ばれた人の墓石の欠片なんだそうです。ご利益はあんまりないみたいですけど………」
「ああ………だからか………」
「?」
「いや、何でもない。ほれ」
赤木さんは少しうれしそうな微笑みを浮かべると、俺にお守りを返してくれた。
「赤木さん、ありがとうございました。少なくとも、さっきまでよりは気が楽になりました」
「そうかい」
俺は部屋に貼ってあったバスの時刻表を見て(赤木さんは時刻表が部屋の中にあったことに気づかなかったらしい)、学校行きのバスがあと5分ぐらいで来ることを確認した。
これに乗れば、6時過ぎには学校に着くだろう。
「これから部室に行って、みんなといろいろ話そうと思います」
「そうか…………よし」
「?」
そういって赤木さんは、のっそりと立ち上がった。
「俺もつれて行ってくれ。久しぶりに、麻雀を見たくなった」
「え!? あ、いや、それは…………」
俺は困惑した。部外者が学校に入れるものなのか?
いや、取材か何かだと言えば入るだけならできるかもしれない。でも、赤木さんが部室に現れたらみんなは何というだろう?
「無理なら構わんが…………」
「い、いえ。やるだけはやってみます」
224 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/13(火) 00:54:38.81 ID:l+4DyZFv0
「案外すんなり通れたもんだな」
「すんなりっていうか………」
20分後、俺と赤木さんはバスを使ったおかげで大して濡れることなく、学校に戻ってこれた。
とりあえず最初に思い付いた無難な嘘として、適当な麻雀雑誌の取材の方だと主事さんには言ってみた。
主事さんは赤木さんを見た途端にビビってしまい、無言でコクコク頷いて入校証を渡してくれた。
今俺の隣にいるのは、『近代麻雀』の赤木さんということになっている。
放課後でほとんど人がいないから誰とも会うことはなかったが、よく知っているこの校舎を赤木さんと歩くのはすごく奇妙な感覚だった。
「そういやぁ、高校っていう場所に来るのは初めてだな」
「え?」
「俺は中学も中退して、博打の腕一本だけで生きてきたからよ。一番やったのは麻雀だな。で、お勉強とはついぞ縁がなかった」
「へ、へぇ…………」
ひょっとすると、俺はかなり危ない人を招いてしまっているのではなかろうか?
どうやって会話したらいいものか悩んでいると、あっというまに部室前までついてしまった。
咲たちに、何と言えばいいのだろう。
何事もなかったかのように入って、皆に混ざるのは叶わないだろう。
とにかく、思っていたことをすべてぶちまけてしまおう。
覚悟を決めて、俺は部室のドアをノックした。
225 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/13(火) 01:07:17.55 ID:l+4DyZFv0
今日はここまで、次でようやく仲直りだよ。
書き溜めていた分を結構吐き出してきてるから、仲直りシーンが終わったあたりから更新速度落ちるかも。
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 01:12:50.08 ID:w/Kd9dVk0
乙です
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 01:20:03.65 ID:1i86yhDSo
最強の保護者
安心感が凄い
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 02:00:25.60 ID:NyW3gcKQ0
京太郎をここまで追い詰めた清澄女子は罪深いよな。制裁を受けてほしい、特にタコスは土下座してほしい。
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 09:48:16.03 ID:kR4Ey9Ed0
同意、制裁が無理なら少なくとも咲達5人は
京太郎が卒業するまでの間ずっと償いや罪滅ぼしをし続けるくらいはしてほしい
あれだけ京太郎が辛い思いをしたのに咲達5人が謝って、それを京太郎が許して、はい仲直り
なんてムシが良すぎる。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 10:15:44.71 ID:ra8cClUlO
じゃあそういうSSを自分たちで書けば良くね?
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 12:04:40.16 ID:bU8RokCFo
>>230
自演荒らしだから触るな
SS潰したいだけ
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 17:54:27.25 ID:zi8ErItNo
京太郎が勝手に劣等感いだいて自滅してるだけなのにな
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/13(火) 21:15:31.85 ID:htjtZA0ho
乙!続きゆっくり待ってるっす
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 00:30:47.02 ID:xvKsYPEo0
ぶっちゃけコレって京ちゃん、部活やめた方が双方のためだと思う清澄で育成していくの無理だわ
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 01:44:55.12 ID:QXEJ0dCDo
京太郎が分不相応とは言え目標が咲達で追いつこうと努力してるのに辞める選択肢はなかろう
236 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 04:44:29.95 ID:6k5xD748o
いや、別に麻雀部辞めても時々うちに来るぐらいはできるやろ
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 07:22:23.37 ID:1hJzEt420
どうでもええわ
238 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 22:30:54.92 ID:hYXFJnJE0
被告!!「清澄」!!被告!!「化け物(咲とか)」!!判決は死刑!!死刑だ!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 22:35:41.39 ID:ZKF3ajHCo
京太郎チョロいから謝ればすぐ許しちゃうよ
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/09/14(水) 22:35:57.40 ID:G6eRG+Jq0
やめーや
241 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/14(水) 22:48:30.91 ID:85311Yido
なんて謝るのか?私たちお前より次元が違うくらい強いのに傲慢にならず謙虚な態度でごめーんねってか?
242 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/15(木) 06:15:06.51 ID:L6HSlf/kO
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243 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/15(木) 08:10:22.68 ID:c6xg4O09O
【名前】 秋田 美羽 あきたみう
【性別】 女
【容姿】 長身だが胸はそんなにない
【性格】 常に余裕ぶっており超然としている
【学年】 2年
【高校】 清澄
【特記】観察力が強く相手の考えを予測できる
244 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:11:21.71 ID:m+tVvmfr0
>>242
すっごいよく出来た自画像ですね!
さて仲直り編始まり始まり
245 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:20:32.37 ID:m+tVvmfr0
「………部長」
「……………………」
「部長!」
和の呼びかけにはっとして、久が顔を上げる。
「あ、ああ、ごめんなさい。えっと…………」
部室の中は、お通夜のような空気に沈んでいた。
久は度々うわの空になり、打牌にも思い切りの良さがなく、縮こまっていた。
「それ、ロンです。3900」
「あちゃあ…………」
そのくせ、振り込む頻度もなかなかに高かった。
いつもの久なら、待ちを躱した上で逆に悪牌待ちで安い手でも絡めとっていたはずだ。
「久、せめて対局中だけは京太郎のことは忘れい」
「ごめんまこ。頭ではわかっているんだけどね………」
少しでもぼうっとしてしまうと、昼間の京太郎の今にも泣きそうな顔を思い出す。
『あんたで弱いっていうなら俺は―――!』
「っ―――!」
手足の筋肉が引きつるような感覚を覚える。
否が応でも、自分は今まで京太郎のことを軽視していたのだという事実を突きつけられる。
246 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:22:45.41 ID:m+tVvmfr0
コンコン
「?」
「誰でしょう? こんな微妙な時間に」
時計の針は6時を過ぎていた。
「あの………すいません」
「京ちゃん!」
「須賀君!」
そろりと少しだけ開けられたドアの隙間から申し訳なさそうに顔をのぞかせたのは、京太郎だった。
泣いた跡と疲労から来るくまで、目の周りは大変なことになっていた。
「えっと、今、俺が入っても大丈夫でしょうか………?」
「いいに決まってるよ、ほら!」
咲が京太郎の腕を引っ張って、部室に引きずり込む。
「えっと、その、部長………お昼のことなんですけど………」
久のことを見づらそうにしながら、京太郎が言う。
「うん、出来れば私も、そのことを話したかった」
久も卓から立ち上がり、京太郎に面と向かった。
「その、部長。まずはその………失礼なことを、まるで部長に八つ当たりするようなことを言って済みませんでした」
京太郎が腰を直角に曲げて、頭を下げる。
「頭を上げて頂戴。部長として、あなたのことを蔑ろにしていた私の非よ。
それと、お昼に言ったことの他にも、私たちに不満があるなら、いい機会だから言っちゃって。私を含め、皆がいる前で」
「はい………」
久に促されて、京太郎はゆっくりと、二学期に入ってからずっと感じていたことを吐き出した。
247 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:25:22.70 ID:m+tVvmfr0
「俺………インターハイが終わってからこっち、ずっと辛かったです………。
皆は全国で指折りの選手になったのに、俺は弱いのが情けなくて………、それで強くなりたいって思ったんです」
「うん」
「麻雀の教本買ったり、ネト麻で実践したり、みんなの牌譜を見て勉強したりって、頑張ったんです。
でも、ほとんど強くなれなくって………」
「うん」
鼻にツンとした痛みが走り、一息入れて京太郎が先を続ける。
「そうして結局また停滞してる間に大会が近くなって………。
また雑用が増えてきて、もう11月に入ってからずっと夜1時より前に寝れなくって………、だんだん辛さが増してきて………」
「うん」
久は相槌を打つだけで、途中で話の腰を折らない。
「でも、やっぱりみんなの傍に胸張って居たいから………、そんな全国クラスの実力なんていいから、
せめて人並みに打てるようになりたくって、それで頑張り続けて………」
声が震える。
鼻に奔る痛みが鋭くなり、視界が涙で歪む。
「でも、全然だめで………。皆と打たせてもらう機会も減って行って、一局も打たない日も出てきて。
だからせめて、派手な打ち方はできないけど、振り込まないように逃げるだけ逃げて、配牌とか運が傾いた時に全力を注ごうっていう方針で打って、
点数だけは皆に食らいつけるようになってきたら、姑息だって…………。
馬鹿にされたけど、これは俺が弱いからだって、もっと頑張ろうとしたけど、それでもみんなは俺より速くさらにどんどん強くなって、全然追いつけなくて………」
「うん……」
248 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:26:51.20 ID:m+tVvmfr0
「情けなくて………。弱い自分がめちゃくちゃダサくって…………そんな状態で、みんなが、自分のことをまだまだ弱、いとか、そうやって、言うのを、聞いて、いたら…………!」
ずずっ と音を立てて、鼻をすすり、あふれる涙を、まだ湿気たままのコートの袖で拭う。
「みじめで………。皆に全然敵わない俺は、じゃあ一体何なんだよって思って…………、皆がそういうつもりじゃないのは、わかってた、けれど、ずっと、馬鹿にされ続けてたように感じて…………! 死ぬほど悔しくて………うっ、く………!」
コートの袖を目許に押し付けて、泣いている顔は見られないようにする。
すると、見えはしないが、自分以外の誰かがすすり泣く声が耳に入った。
249 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:30:14.47 ID:m+tVvmfr0
「ご、ごめんなさ、い。京ちゃ………」
ごしりとひときわ強く目許を拭った後、声の主を見やる。
京太郎を部室に引っ張った後、隣で立っていた咲が、涙をボロボロこぼして泣いていた。
「ごめんなざい………! ぎょうぢゃん、ごめんなざぁい………!」
両手の甲で涙を拭うが、止どめなく涙は落ちてくる。
京太郎より、咲の方が大泣きしていていた。
「わ、わだしだぢ、ずっど、きょ、京ちゃんに、頼りっぱなしで、
ぜ、全然お礼も言って無ぐって、任せっきりで、ひどいこと、ばっがりしで…………!」
「咲…………」
「きょ、京ちゃん、ずっと遅くまで起きてて、寝れなくて、先生にも叱られてたのに、皆京ちゃんのこと、馬鹿にしてたのに、でも、怒らないでたのに………!
ずっど、わだしたちの、為に。がんばっでくれでだのに……!」
「咲、もう、いいから………」
部内で唯一、京太郎の疲労や心労に気付きかけていた咲は、
それを指摘できないままここまで京太郎を思い詰めさせてしまった自分を責めていた。
「ごめんなざい………! 部長から、京ちゃんが怒ってたって聞いて、あ、謝らなきゃって………!」
「咲………、いいから、泣かないでくれ………!」
30センチも背の低い幼なじみが大泣きしてるのを見て、京太郎もつられてさらに涙があふれてくる。
根が純粋な京太郎は、自分のせいで誰かが泣いているという事実に、心がどうしようもなく痛んだ。
どれだけ酷いことをされたとしても、咲が自分のせいで傷ついていたら、これまでのことも忘れて、咲を心配してしまう。
「京ぢゃあああああん…………ごめんなざぁいいぃ………う、うあああああああぁん………!」
京太郎が先の両肩に手を置くと、咲は京太郎の肩に縋りついて泣き声を上げた。
250 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:31:56.56 ID:m+tVvmfr0
「ひっ、ひくっ………」
そのまま5分近く経ち、咲の泣き声がすすり泣きに変わって落ち着いてくると、久が声をかけた。
「須賀君…………」
「はい…………」
同じく京太郎の告白の途中から、無言のまま涙を流し始めていた久は、目許を拭った後、真っ赤な目で京太郎と向かい合った。
「本当に、本当にごめんなさい……。
私、自分のことで頭がいっぱいで、ううん。本当は須賀君のことも気づいていたのに、都合よく忘れようとしてた。
須賀君は…………どうせ須賀君はそこまで大した成績を残せないって、勝手に高をくくって、じゃあ須賀君に身の回りのことをしてもらって、自分たちが打てばいいって考えになってた………」
「いえ………多分その通りでしょうし、俺もそうやって、打てる機会が減ってるのは、だからだって自分に言い聞かせてました」
「元々は、部員数も規定に達するか危ないくらいだったのに、そんな部に初心者なのに入ってくれた須賀君を蔑ろにして………。
咲を連れてきて、私を団体戦に出れるようにしてくれたのも須賀君だったのに………。
本当なら、須賀君にはその恩返しに、一生懸命指導をしてあげなくちゃいけなかった。
でも私はインターハイが終わった後ですら、それをしようとしなかった。
プロ推薦をもらえて、天狗になって、自分がもう一度活躍することしか頭になかった………」
251 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:34:24.08 ID:m+tVvmfr0
「それを言うなら、わしも同じじゃけぇ」
それまで沈黙していたまこが、久を擁護するように間に入った。
「3年は最後の大会に集中するのが仕事。本来なら先輩でありかつまだ1年時間のあるわしが、京太郎を育ててやらなけりゃならんかった。じゃが………わしも、目先の勝利に目が行き過ぎておった。
おんしがきっと気を遣って言ってくれた、見ているだけで勉強になるっちゅう言葉で、都合よく自分の怠慢を忘れておった」
涙に濡れた眼鏡を拭い、かけなおす。
「あ、アタシも………」
おずおずと、卓に座ったままの優希が声を上げた。
「京太郎を犬扱いして、いっつもじゃれあうのが楽しかったから、京太郎もそうだと勝手に決めつけて………。
いつもタコスを作ってもらった時も、偉そうにしかお礼を言ってなかったじぇ………。
あと、人の打ち方にケチつけて、馬鹿にして本当にすまなかったじぇ………」
いつもの快活さはどこへ行ったのか、今にも泣き出しそうな子供の表情を浮かべて、京太郎に謝罪の言葉を述べる。
「私も、須賀君に謝らないといけません。
ずっと日ごろから、私たちが練習を増やせばその分代わりに雑務をこなしてくれていたのに、
お礼も一言くらいしか言わないで、それが当然であるかのように思っていました。
もし須賀君が力不足なら、放っておくのではなく、鍛えてあげなきゃいけなかったのに…………」
「みんな…………」
各々から述べられる謝罪の言葉に、京太郎は何と言えばいいのかわからなかった。
別に謝ってほしいから来たわけではない。
ましてや、こうやって皆を泣かせたかったわけではない。
そうだ、ここで終わってはいけない。
252 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:36:51.07 ID:m+tVvmfr0
「でも、もういいんです」
「え?」
それまで京太郎に抱かれる形になっていた咲が、京太郎のことを見上げてきた。
「京ちゃん、まさか、麻雀部、やめ………!」
「あぁ、泣くな泣くな」
また目に涙を浮かべた咲を見て、京太郎が慌てる。
「俺も、それで辛くって…………。
正直、今日の帰り道で、もう麻雀も何もかもどうでもいいって、辞めようって思ってました。
こんなつらいだけの努力なんてバカバカしい。
一緒にいてみじめでしかないのなら、あんな連中の雑用なんて捨てて、毎日さっさと寝たいって。
麻雀そのものをやめようとすら思ってました。でも」
京太郎はそこで一度つばを飲み込み
「でも、ある人のおかげで、考えが変わったんです。
辛いだけの、無駄でしかない結果に終わったっていい。止まっちゃダメなんだって。
辛くても、叶えたい目標があるならそれに向かって、成功とか失敗とか、結果なんて気にしないで動けって。
そうやって努力しているだけで、俺は偉いんだって、自分を褒めていいんだって言ってくれる人がいたんです。
だから………俺、辞めません。皆と一緒に居たいです。
こんな話をした後で、待遇良くしろって言外に要求したようで申し訳ないけど…………俺、この部にいていいですか?」
「いいも何も………」
「むしろわしらがお願いしなきゃならん」
「お前以外に私のタコスを任せられる奴なんていないじぇ」
「ゆーき………でも、お願いします」
「京ちゃん。京ちゃんが私を、この部活に誘ってくれたんだよ? 京ちゃんが一緒じゃなきゃ、私やだよ?」
「咲………」
「京ちゃんが一緒にいてくれないなら、私も辞める」
「な………」
「須賀君」
「は、はい」
253 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:37:59.63 ID:m+tVvmfr0
久に声をかけられ、緊張する。
「私は………本当にダメな部長よ。きっと全国探しても、こんなひどい部長は見つからない。
そんな女が部長の部活でも、あなたはまだ居たいの?」
「まるで、辞めた方がいいっていうみたいですね」
「うん。正直、私はもう、あなたに部長って呼ばれる資格はないと思う。
それでも、もしあなたがまだこの部に居たいって言ってくれるのなら、私は最善を尽くすと約束するわ」
「むしろ、俺がお願いする方です。部長に当たり散らしたりして……。
俺をもう一度、この部活においてくれませんか? 部長」
「本当にいいのね?」
「はい」
「わかったわ………須賀君」
「はい」
「こんな部長で悪いけど…………これからも、宜しくお願いします」
久は京太郎が先ほどしたように、腰を直角に曲げて頭を下げた。
254 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/18(日) 01:45:32.37 ID:m+tVvmfr0
ここまでです。
死刑だのなんだの書いてる人たちいたけど、流石にそれはないよ(´・ω・`)
スレ主はもう大学生だけど、中高の時の部活動とか思い出すと、やっぱり現役の子供たちって「自分が活躍したい」って思いがすごく強くて仕方ないんです。
ちょこっとそこら辺の気持ちも思い出しながら書いてみました。
あと京ちゃんが一度も原作とかで怒りを見せていないのを見ると、やっぱり彼は怒ること自体苦手なんじゃないのかと思います。
久の合宿ついていけず残った京ちゃんへの「買い出し宜しく」とか、私だったら無言でキレてます。
怒鳴りつけたり殴ったりはしないけど、無言になって心の中でキレてます。
でも京ちゃんはそう言ったことが(描写されてないだけかもしれないけど)ないので、多分「怒る」っていう行動選択肢がまずない人間なのかなと思いました。
清澄のみんなが大好きで、なんとなく怒る前に許しちゃう人かなって。
さて、もう少し仲直り編は続きます。
そこ過ぎたら週1更新くらいのペースになるかな。
>>235
それを言ってくれてすごくうれしい
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 01:48:00.83 ID:9FIOw/9yo
どうせ清澄アンチが自演で荒らしてるだけだから無視でおk
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 02:06:55.44 ID:kaPj2ixyo
乙!
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 02:08:31.71 ID:xi7MvGbWo
乙
やった!弱小公立の私達がインターハイだ!
って言う考えが無いはず無いよね
258 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 05:37:46.03 ID:iWuAT6hxO
久は特に思い入れ強いしな
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 06:55:17.96 ID:UFzOzAS6o
うーん
スレ自体はおもしろいけど
>>1
もわざわざ反応しないでスルーでいいと思うんだが
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 12:59:09.88 ID:1cWuamZyO
SSがよくても自分語りが多いと荒らされるで
三行以内に留めたほうがいい
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 13:40:25.40 ID:jOrLQJxoo
スレ主くさい
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 19:51:15.02 ID:Ph7pOCmd0
乙です
続きに期待
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/18(日) 22:57:20.48 ID:bbs1Hvcl0
荒らしに反応するのはちょっと良くないかな
それはともかく、京ちゃん冷遇・退部ネタは多いけど、
きちんとケジメ付けて仲直りするのは割と珍しい印象
264 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/19(月) 23:56:55.04 ID:nlh/sSuL0
荒らそうと思って書かれた感想と、普通の感想の区別がよくわからんよ(´・ω・`)
ゴキは許さん。
さて、投稿してくよ〜
265 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/19(月) 23:57:47.84 ID:nlh/sSuL0
部室の中に漂う空気が、緩んでいくのを感じた。
入った直後、咲が泣いていた間なんてもう沈み切ってそこに居合わせるだけで辛かったのに、今はそれが去ったことを皆が感じている。
「えっと、部長。それでですね…………」
「何かしら?」
「その、ちょっと申し訳ないんですけれども…………」
「あ、ごめん気が利かないで。いいわ、卓に入っちゃって。
さっきまでみんな全然集中できてなかったし、仕切り直し―――」
「い、いえ、ありがたいけどそうじゃないんです」
俺はどうしたらいいかわからず、ドアの方をちらちらと見やる。
「そ、その………さっき、俺が言ってた、努力してるだけで偉いんだって言ってくれた人なんですけども」
「うん?」
「その…………その人が、麻雀好きなんだそうで、俺の話聞いたら練習を見学したいって、今外で待っていて………。
連れてきてもいいでしょうか?」
「へ?」
部長が面食らったようだった。
一山超えたと思ったら、予想だにしないお願いをされたのだから当然だろう。
「…………・うん、構わないわ。むしろ、お会いしてお礼を言わないとね」
「あ、じゃあ………、えっと、赤木さーん…………」
廊下の方に、言葉尻が消えそうな声で呼びかける。
ギイィ、と少しドアが音を立てた瞬間。
266 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/19(月) 23:58:45.46 ID:nlh/sSuL0
バァアアン!
「ひゃああ!?」
赤木さんが顔をのぞかせた瞬間、雷鳴が鳴り響いた。
全員その場で小さく跳び上がる。
それは、雷に驚いたからだけではないようだった。
「失礼…………もう入ってもいいのか?」
俺に負けない、いや、その身に纏う威圧感やその他もろもろで俺より大きく見える、50を過ぎた老人が入ってきたことに、皆は完全に度肝を抜かれたようだった。
恐らく、俺が初めてこの人と会った時に感じたような、その凄まじい存在感に中てられているのだろう。
「えっと、この人が、俺にアドバイスしてくれた、赤木さんです…………」
ぽかんと口を開けたまま、部長たちは呆然としていた。
そりゃハギヨシさんみたいな格好いい紳士なお方が登場するとは思っていなかっただろうが、筋モノ…………こうしてよく見れば明らかに一般のお方でない人が来るとは思ってもみなかっただろう。
白馬に乗ったヤクザがお姫様を迎えに来たようなミスマッチだ。
267 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:00:02.86 ID:yliB1Glh0
「……………はっ」
一番先に我に返ったのは部長だった。
慌てて表情を引き締め、赤木さんに向かい合う。
「は、初めまして赤木さん。清澄高校麻雀部主将の、竹井久と申します。このたびは―――」
「ああ、片っ苦しいのは嫌いなんだ。構わねぇよ別に。
ただ俺がお前らの麻雀を後ろから眺めるのを許してくれりゃそれでいい。タバコも吸わせてくれればいうことなしなんだがな」
ククク………と、喉の奥で笑う赤木さんに、部長はどう接したらいいかわからないようだった。
「え、えっと、構内は全面禁煙なので、ご見学は構わないのですが煙草はちょっと………」
「ま、そらそうだわな(´・ω・`)」
赤木さんはすこししょんぼりした表情を浮かべた。
「えっと、それじゃあ須賀君を卓に加えて………1年組で打ってみる?」
「わかりました。あ、じゃあ赤木さんにお茶とか………」
「阿呆、そのくらいわしたちでやるわ。お前はしばらく働かんでええ」
「は、はい………」
雑用根性丸出しで俺がお客にお茶を出そうとすると、染谷先輩に叱られてしまった。
席を入れ替えて、先輩たちは赤木さんの分の椅子を用意する。
赤木さんは用意された椅子を動かして、俺の後ろに移動した。
「ま、難しいかもしれねぇが、いつもどおりに打ってくれや」
「はぁ………」
正直後ろで妖怪に見られている気分なので、ものすごく落ち着かない。
でも準備はすぐに済み、東一局が始まろうとしていた。
268 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:01:02.25 ID:yliB1Glh0
東一局 0本場 ドラ 4s
東家 優希
南家 咲
西家 京太郎
北家 和
「おっしゃ、ダブリーいくじぇ!」
東一局目、もはやそれが当たり前であるかのように、優希がいきなり親のダブリーを仕掛けてきた。
切ったのは南、安牌なんてわかるはずもない。
咲はとりあえず、不要な字牌から切った。 打 北
「はぁ………」
京太郎 手牌
11m 3s44s5s77s9s 77p 發發 ツモ 9p
ドラが対子なのはありがたいが、中膨れの形だ。
七対子が速そうだが、そのせいで牌の種類はそこまで多くない。
果たしてこれでしのぎ切れるか。
とりあえず端っこから落としていくしかないので 打9p とすると、一応は通ってくれた。
次は和の第1打。 發だったので、鳴くべきか少し迷う。
(最初に対子落とししたならともかく、今は何が安牌かわからないしな。もう一枚發はあるんだし我慢我慢)
とりあえず、次に發が出たら鳴くことにしてここは見送る。
一応トイトイも視野に入れておいて損はないだろう。そんな時間があるかはさておき。
269 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:02:12.88 ID:yliB1Glh0
そして、優希の第二ツモ。
「おっ! カンだじぇ!」
引いて来た牌と、手の内の3牌を倒す。
カン材は8s。 そして新ドラは………8s。
「おっしゃあ! ドラ4追加だじぇ!」
「うえぇ!?」
これでダブリードラ4で最低でも親跳ね確定だ。役と裏が乗れば倍満・3倍満もない話ではない。
嶺上牌を捨てたので、そのまま上がりはしなかったものの、他3人への重圧はすさまじい。
「うぐぐ……」
咲はもう一度北を落として、俺の番がやって来た。 ツモは9s。
(8sがもう全部ないんだし、789sの順子が出来ることはもうない。
待ちの変わるカンはできないし、8sの周りは順子のない比較的安全エリアだ。
この手牌なら索子の染め手や七対子にも行けるかもしれないけど、俺も順子は作りにくくなったし、ここはツモ切りだな。対子落としで時間を稼ぐ)
ドラ2とはいえ、張ったとしても単騎待ちしかできない七対子で親跳ねリーチに向かってもしょうがない。
そう考えて、打9s。
270 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:03:08.64 ID:yliB1Glh0
「ローーン!」
「はぁ!?」
倒された優希の手牌は、三暗刻対々で1mと9sのシャボ待ち。
「ダブリー・三暗刻・対々・ドラ4! 裏は………乗らないけど、親倍満! 24000だじぇ!」
「のおおおおおおおお!?」
千点棒のみを残し、俺の点棒がすべて優希に持っていかれる。
「8sの周りは比較的安全だと思ったんだけどな………」
やはり9sが重なったことを喜び、まっすぐ七対子を狙うべきだったか。
そうしていれば、優希の上がり牌をすべて握りつぶしたまま安全に手を進められた。
「はっはっはー! 浅ましいじぇ犬め………あ………」
「ゆ、優希ちゃん………」
「ゆーき………」
優希がいつもの癖で俺のことを馬鹿にするが、さっきの出来事を思い出して口を閉じる。
咲と和の非難めいた視線が、優希に向けられた。
「じぇじぇじぇ………す、すまん京太郎………」
「いや……大丈夫だ」
ここでまた落ち込んだら、何のためにここに戻ってきたのかわからない。
気を取り直して、次の局へと気持ちを切り替える。
271 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:04:32.52 ID:yliB1Glh0
その後1本場は咲が二巡目に加槓で嶺上開花し、700・400でいきなり終わらせた。
東二局は和が優希から直撃をとり、すぐに終わる。
そして俺が親の東3局。
ドラ1s
親 京太郎 600
南家 和 26600
西家 優希 46300
北家 咲 26500
リーチもできない状態で、表示されたドラは1s。
端っこの牌で、手の内で使うのも難しい。
そして配牌は………
京太郎配牌 11s5s8s 22m3m 24p8p 中中白 ツモ:6m
何とドラが対子で、翻牌の対子も二つある。
それらを鳴ければ、それだけで親満確定だ。
とにかくこの局は飛ばされる事態を遠ざければいくらか安手になってもそれでいいので、初手は打8p。
272 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:05:48.80 ID:yliB1Glh0
不要牌を処理し、7巡目。
京太郎手牌
111s56s 23m 44p 白 【加カン:中中中中】 新ドラ:5s
(いける!)
鳴いた中に加カンして、新ドラを一つ乗せる。
これで翻牌1つとドラ4だ。 あと1翻で跳満まで狙える。
そして引いたツモは、5m。
(どうする? 手牌にくっつく牌じゃないし、跳満まで狙うなら白は残すべきだ。
でももう7巡。東場の優希なら今にも上がっておかしくない。
しかもみんなが役牌を易々と鳴かせてくれるはずがない。手に来るのを待ってたらやられるだけだ。萬子が伸びてくれることを期待して、ここは逃げ切る!)
迷ったのちに、白を捨てる。
しかし次巡、ツモは白。
(うぐっ………。捨てなきゃ跳満だった……)
大きく呻きつつも、仕方なくツモ切り。
さらに次巡、またしてもツモは白。ツモ切るしかない。
(なんじゃそら………!)
これで白が3連続河に並んだ。
273 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:07:06.38 ID:yliB1Glh0
「ふっふっふ。ドラを増やした上に東場でその遅れは致命的なミス! いっくじぇ、リーチ!」
優希が、1sを切ってリーチをかける。
そこで俺はとっさに動いた。
「カン!」
「へ?」
ドラの1s4枚で、大明槓をする。新ドラは9pで乗らない。
だが嶺上ツモは4m。いいところを引けた。そして打5m。
もしかしたら1s、中、白で三槓子を出来たかもしれないが、咲じゃあるまいと一言で片づけて終わる。
(本当ならこんな他人にドラを乗せかねないカンしないべきなんだろうけど、俺の残りは600点。
上がられりゃそれで終わりなんだから、いくらドラ増やそうが関係ない!)
京太郎手牌
56s 234m 44p 【加カン:中中中中 大明槓:1111s】 ドラ:1s 5s 9p
ともかくこれで、役牌ドラ5で47s待ち聴牌だ。
274 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:08:42.68 ID:yliB1Glh0
そして俺の次、和の番。ここで俺の目論見が外れれば結局優希がツモってすべては水泡だろう。
東場限定とはいえ、リーチかけたら絶対ツモることが前提とか、どういう麻雀だ全く。
和は河を見て少し迷った後、打1p。
「ポンッ」
咲がその牌を鳴き、優希の番が飛ばされる。
優希にしては遅い、9巡目でのリーチだ。多分馬鹿みたいに大きな手が入っているんだろう。
それに俺を飛ばしてしまうことへの抵抗感もあるのか、和と咲は俺を優希のツモで飛ばすという選択肢を捨ててくれた。
カンを得意とする咲は、チーよりはポンをする可能性が高い。
和はまだ河に出ていないかつ、咲の持っていそうな牌を出してくれたのだ。
心の片隅で彼女たちの良心を利用したような作戦に罪悪感を覚えつつ、俺はツモ山に手を伸ばした。
「げ………」
引いて来たのは、5s。ドラだ。
(どうしたもんかね…………)
6sを捨てて、5sと4pのシャボ待ちにすることもできる。
そうすれば翻牌ドラ6となり、5sで上がれば倍満に手が届く。
が、河を見ると5sと4pはもうそれぞれ1枚ずつしか待ちがないし、その時捨てる6sだってドラ近くかつ、優希に対して無スジだ。怖すぎる。
さらに言えばドラ5sなんてど真ん中且つドラの牌を、リーチをかけている優希はともかく他二人が捨ててくれるはずはない。
かといって、47sで待ちがまだ6枚ある両面待ちを保つ場合でも、ドラそのものかつ無スジを捨てるのも怖い。
275 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:09:49.67 ID:yliB1Glh0
(いや…………ここでビビっちゃだめだ)
きっと、和のような完全な確率重視の打ち方からすれば、馬鹿馬鹿しいことこの上ないだろう。
でも、俺はさっき決めた。
(どっちで振り込んだって、負けるんだ。どっちだって振り込む可能性が高いなら、より点の高い方へ行くべきだ。それに…………)
赤木さんの言葉を思い出す。
『いいじゃないか…………! 三流どころか、五流だって………! そうやって熱くいられれば、それだけで十分じゃあないか………!
怖がらなくっていいんだ……ただまっすぐ、自分の欲しいものがあるなら、それに向かうだけで………』
(前に進む気持ちを無くしたら、そこで終わりなんだ!)
打6s。その危険牌切りに、部員全員がぎょっとしたり、息を呑んだ。
しかしただ一人、赤木だけは、僅かに目を細めただけだった。
(へぇ…………)
赤木の見立てでは、56sともにリーチをかけている優希には通った。
しかし、下家の和に5sは完全にアウトだったろう。
点数に欲を出し、待ちの少ない方に向かった暴牌のようなうち回しが、京太郎を救った。
その勢いが、僅かに場を京太郎に有利に作用させたのか、次の優希の番。
276 :
スレ主
◆EvBfxcIQ32
[saga]:2016/09/20(火) 00:11:14.37 ID:yliB1Glh0
(うへぇ……嫌なもの掴んじゃったじぇ………)
引いたのは5s。
優希手牌
223344s 6p77p88p 北北
6pを引けばリーチツモ平和二盃口で跳満、9pでもリーチツモ一盃口平和ドラ1で満貫。
ドラが3枚もめくれているので、十分に裏ドラも期待できる大物手。
しかしリーチをかけている以上、上がり牌以外は切るしかない。
渋々ドラの5sを切る。
「「ロン!」」
「じぇ! やっぱりぃ〜〜………あれ?」
同時に上がった和の声に、俺は呆然とした。ダブロンなんて初めてだったからだ。
「あ、あれ? これってダブロンありですっけ?」
「いえ………大会と同じだから、頭ハネありよ」
後ろで見ていた部長も、驚いた様子で答える。
「えっと、反時計回りに優先順位が着くから………俺?」
「ええ、須賀君のえっと………翻牌ドラ7で、親倍満ね」
「ほ、ほんとですか…………よっしゃぁ!」
両手で思いっきりガッツポーズを作る。
頭ハネなんて初めてだったから戸惑ったが、ともかく優希から24000点をそのまま取り返した。
これで点数は
親 京太郎 24600
南家 和 26600
西家 優希 22300
北家 咲 26500
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