瑞鶴「提督と翔鶴ねぇ、時々わたし」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/17(水) 08:44:27.29 ID:z/+VcU0Mo
・地の文があるよ
・更新頻度はあんま多くなりそうにないよ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1471391066
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/17(水) 08:46:48.27 ID:z/+VcU0Mo


「すー……………」

 洋上、大きく息を吸い込んだ。

 目の前からは、敵が迫ってきている。

 けれど恐怖はない。むしろ、昂揚すら覚えていた。 

 対照的に私の後ろでは、これが初めての実戦であるらしい随伴艦の子たちが、震えている。

「……………」

 私は、それに何も言わない。

 今までの経験から、どんなことを言ったって今の彼女たちの耳には届かないだろうとわかっているからだ。

 なのにいちいちそんなやりとりをするのも面倒臭い。
 
 …冷血なのだろうか。

 いや、違う違う。と頭を振る。

 だいたい、私を初めて戦場に連れて行った先輩は、もっと厳しかった。

 初陣の恐怖や緊張を感じ取っていて、その上でプレッシャーをかけてきて…。

 ……うん。あれに比べればマシ。絶対マシだよ、私。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/17(水) 08:48:33.39 ID:z/+VcU0Mo


「……ん?」

 自分に謎の擁護をする私に、索敵機が教えてくれる。

 敵複数、このまま行けば半刻もせずに接触。 

 それをそのまま随伴艦に伝えると、元々青かった顔が、今度は白く見えるほどまでに色を失った。

 ……ま、そのくらいにしてた方がいいかな。

 この北方海域で命を失う確率は限りなく低いとはいえ、備えるに越したことはない。

 増長し調子に乗られるよりは、そうやって震えている方が良い。

「さてさて、しっかりしなきゃね」

 練度がまだ1である彼女らは、私のフォローなしにこの戦場を生き抜くことはまず不可能だ。

 その事実を再確認すると、これまで幾度も成してきたこの任務にも、自然と気合が入る。

「提督さん」

『ああ』

「まもなく接敵します、ご指示を」

『了解した』

 通信機の向こうから響く、硬い声。

 そういえばこの人はいつまで経っても戦場に慣れないな、なんて事を思う。

 だって、緊張した声は、私が初めて戦場に立った時と変わらない。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/17(水) 08:50:25.97 ID:z/+VcU0Mo


「…ふふっ」

『…どうした、なにがおかしい』

「なんでも、いつも通り提督さんの声が素敵だったから、それだけよ」

『…そうか、…ありがとう?』

「どういたしまして…さ、ちゃんと指揮してね」

『わかっている、瑞鶴…その』

「うん、随伴艦の娘達には近付けさせないわ」

『すまないな、難しい任務をいつも』

「大丈夫だってば」

 思わず、苦笑を浮かべた。

 艦娘にこうまで気を遣ってくれなくたっていいのに。

 別に使い潰せとまでは言わないが、私達は突き詰めてしまえば所詮兵器なのだから。

 そんな風に気を回されるのは、なんとなくむず痒いと。少なくとも私はそう思う。

 …でも、そんな彼だからこそ、私はこんな気持ちでここにいられるのかもしれない、とも。

 そうして私達の間に流れたなんとも言えない沈黙を、ちょうどいいタイミングで、電探の音が紛らわせてくれた。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/17(水) 08:51:35.02 ID:z/+VcU0Mo


 それは敵がついに間近へ迫ってきた、その合図であった。

 一度後ろを振り返って、随伴艦が戦列を乱していないことを確認する。

『ああ…死ぬなよ、瑞鶴』

「勿論!」

 ふぅ、と息を吐く。

 しかし、それでも不自然なまでに上気している頬。

 それは隠せない昂揚の証であった。

 当然、これから始まる―戦闘への。 

 弓に矢をつがえる。すべての準備は整った。

「第一次攻撃隊…発艦始め!」

 まっすぐに宙空へ放たれた矢が、艦載機へと姿を変える。

 私はそれを見て、笑った。 
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/17(水) 08:53:39.28 ID:z/+VcU0Mo


  *
   


 ――此度の北方海域の任務へ参加させられた親潮は、考えていた。

 果たして旗艦―瑞鶴は、初陣で命を預けるに足る人なのか、と。

 当然、それは口にも表情にも出さない、出してはいけないことではあるが。

 しかし彼女ら練度の低い艦は、旗艦である瑞鶴がしくじればまず間違いなくこの北方の海に命を散らすことになる。

 故に、表に出さずともその疑いを抱くこと自体は当然の権利であると言えた。

 彼女が瑞鶴に出会ったのはこの任務が初めてであり、その際の印象としては、なんとなく頼りない人、であった。 

 しかも、出撃の最中もこちらをチラチラと伺うだけで特に気の利いた言葉も掛けてこない。

 時折の戦列の確認ぐらいが関の山である。

 益々、彼女の瑞鶴の『指揮官』ぶりに対する印象は悪化した。

 けれど、それでも彼女は瑞鶴に命運を託さねばならない。

 自分たちに出来ることなど殆ど無い、この戦場で。

 不安は刻一刻と増していき、酷く気分が悪くなってくる。

 いよいよ戦闘が開始されることになった段など、思わず踵を返して鎮守府へ逃げてやろうかという案が何度も頭をぐるぐるしていた程に。

 そこで、彼女は見た。他でもない、瑞鶴を。

「え………?」

 そして―信じられないと、そんな表情を浮かべた。

 それは親潮だけでなく、随伴する低練度の艦、全てに共通している物だった。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/17(水) 08:54:29.71 ID:z/+VcU0Mo


 瑞鶴は――笑っていた。

 ただの笑みではない。心の底から楽しそうな笑みである。

 親潮は、部隊長として紹介された折に浮かべていたぎこちない笑顔しか、瑞鶴の笑みを知らない。

 だから困惑した。おそらく他の艦も、皆、困惑していた。

 どうして今、そんな笑みを浮かべるのか、と。

 虚勢には、どうしても見えなかった。

 置かれた状況に心から満足していると、瑞鶴の笑顔は語っていたのだ。

 ――それからは、圧巻であった。

 この北方海域、確かに数ある戦線の中では危険度は低い。

 しかし、それでも戦場であることに変わりない。

 油断が、慢心が、偶然が全て死に直結する戦場。

 敵が本気で殺しに来る、戦場。 

 紛れも無く、死に一番近い場所を――瑞鶴は、圧倒していた。

 動きに迷いはない。一切の淀みもない。指示通りに、流れ作業のように、敵を屠っていく。

 確かに瑞鶴は『指揮官』では無かった。だが――

「………」

 いつしか親潮は言葉を失っていた。

 あれが―あれが艦娘という兵器の完成形であるのならば、自分には決して辿りつけぬ場所であると悟って。

 そして同時に、瑞鶴という艦娘を、これ以上なく恐ろしく感じたのだ。
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