提督「川内がバイクに乗り始めたのだが」

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1 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:43:48.92 ID:IOWq3u0T0

提督「川内君が夜、騒がしいと多数の苦情があった」

扶桑「はい」

提督「それで夜戦に向かうエネルギーを、別の方向に向けられないかと思ったんだ」

扶桑「はい」

提督「で、他に何か趣味を持てばいいと思い、色々模索してバイクを勧めてみたんだ」

扶桑「あの……どうしてバイクなんでしょう?」

提督「俺の趣味です」

扶桑「はぁ……」

提督「そしたら、余計に苦情が増えた」

扶桑「あの、おっしゃっている意味が……」

提督「うん。自分でもよく分からない」

扶桑「はぁ……」

提督「まあ、結果で言えば成功したと思う。彼女はバイクに興味を持った。そこまではいいんだけど……」

ヴォンヴォンヴォン……!!

提督「………」

扶桑「……あの、今外から凄い音が……」

提督「夜になるとああして、バイクに乗って出撃するようになった」

扶桑「ああ……バイクの音だったんですね」

提督「俺としては、良い音だと思うんだ。でもやっぱり、興味が無い人からすると騒音でしかないよね」

扶桑「あ、出撃した……」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467114228
2 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:48:08.62 ID:IOWq3u0T0

湾岸地帯。

水銀灯に照らされて、疾走する。

辺りには誰も居ない。

彼女の行く先を、誰も知らない。

――夜は良いよねぇ。夜は、さ。


※艦これ×クルマ・バイクのSSになります。

・キャラ崩壊、独自解釈有り。
・趣味過積載。
・パロディ要素、オマージュ等。
・公道では安全運転を。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/28(火) 20:48:34.27 ID:gu2FoXwoo
どうせNINJA
4 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:49:18.95 ID:IOWq3u0T0

夕張「やれやれ。今日も出るの?」

川内「まあね。楽しいんだもん」

夕張「気持ちは分かるけど……あんまり無茶しちゃダメよ?」

川内「分かってるって」ニヒヒッ

夕張「それにしても、正直アンタがココまで単車にハマるとは思わなかったわ」

川内「ねー。提督から勧められた時はピンと来なかったけど」

夕張「それにしても、車種がGPZってのが……」

川内「私は好きだよ?丸っこいのにカッコいいし」

夕張「400とは云え、存在感はあるしね。このクロスフレームは素晴らしいわ」

川内「そういうのはよく分かんないな」

夕張(忍者がニンジャに乗ってる……)

川内「……何考えてるか何となく分かっちゃうんだけど」

夕張「だったらそのまま何も言わないで」
5 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:50:58.93 ID:IOWq3u0T0

川内「夕張は行かないのー?」

夕張「私はパス。エンジン組み終わってないもの」

川内「早く組んじゃってよぉ。たまには誰かと夜戦したいし」

夕張「あのねぇ……二輪と一緒に走るのって結構怖いのよ?」

川内「そうなの?」

夕張「ライン取りも、ブレーキのポイントも全然違うもの。調子狂っちゃうわ」

川内「へぇ。そうなんだ」

夕張「まっ、組み終わったら相手してあげるわよ」

川内「絶対だよ?約束だかんねっ!」

夕張「ハイハイ」

川内「さて、と。そろそろいいよねっ?」

夕張「アイドリング安定……バラつきも無し。うん、大丈夫よ」

川内「よーっし」ヴォンヴォン

――川内っ!GPZ400R!出撃しますっ!
6 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:52:10.48 ID:IOWq3u0T0

夕張「うん、良い音ね。我ながら良い仕事をしたもんだわ」

夕張「何というか……ただの夜戦バカが、スピード狂の夜戦バカにスープアップしてしまったっていうのも……」

夕張「まあ、こんなのに乗ってる私も大概か」

夕張「しっかし、この熱の問題はどうにかなんないかなぁ……」

夕張「分かっていたこととはいえ……やっぱり詰め込みすぎよね、このクルマ」

夕張「というか、クールダウンで止まっても水温上がるってどんな嫌がらせよホント」

夕張「これも惚れた弱みってヤツか」

夕張「でも、仕上がったらちゃんと走りに行こうね?」

――ねっ?パル君。
7 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:53:15.16 ID:IOWq3u0T0

深海棲艦の出現以降、都心湾岸線の様子は変わったらしい。

年中無休で眩しかったレジャー施設は営業を自粛し、夜ともなれば道路沿いに設置された水銀灯が僅かに灯るだけ。

場所によっては、立ち入り禁止区域まで設けてある。

24時間止まることなく流れ続けていた交通の運河も年々目減りしていき、今では物流を支えるトラックが疎らに走る程度。

昔からこの場所に通っていた人によると、まるで開通直後のようだと話していた。

すっかり人気の無くなったこのベイエリアは、今の私にとって格好の遊び場になっている。
かつてのような賑わいも灯りも無い、虚像のような街並みはちょっと寂しい気もするけど。

まあ、静かな夜は嫌いじゃない。

誰も居ないこの道を、自由に滑走する。
こんなにも気持ちの良いことがあったなんて、知らなかった。

より大きくスロットルを開けると、途端にレブカウンターの針が跳ね上がる。

夕張曰くだいぶ古い型みたいだけど、そんなことは全く気にはならない。
もっとも、この子以外を知らないけど。

速度は増していき、すでに200キロ近い。

この領域まで来ると、景色が飛んでいく。
光が集約して線となり、鳥のように過ぎ去っていく感じ。

むしろ、今の私が風になっている?
なんてねっ。

もっと知らない景色を見させてよ。
夜は、まだまだ長いんだからさ?
8 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:54:12.01 ID:IOWq3u0T0

芝ふ浦PA

川内「ムムム。夕張め、また何かイジったな」

川内「何を変えたのかなぁ……少し吹け上がりが早くなったような気もするし」

川内「後で聞いてみるか」

川内「それにしても、今日は全然人が居ないや。貸切かな」ノビーッ

川内「っふう。一休みしたらまた出よっと」

このパーキングで一息入れてから、環状線に向かう。
一周したらまた湾岸へ。外か内かはその日の気分次第。

環状線から見える景色は凄く気に入っている。
陳腐な表現だろうけど、キラキラしていて宝石箱みたいで。

そんな中を疾走するんだから、血液が沸騰するみたいに高揚する。
特に霞トンネルの中はまるでSF映画のようだ。

缶ジュースを片手に、ベンチに腰掛ける。
真正面には、凛と佇む我が愛機。

眺めている内に、いつの間にか頬が緩んでいた。

川内「いいねぇ……やっぱカッコいいなぁ」

最初にこの子を引き取った時は、そりゃあもう酷い状態だった。

何年も放置されていたから外装は埃まみれ。
オマケにタンクの中は錆で真っ赤っ赤。

ブレーキは引き摺るし、左フロントウィンカーはステーが折れて失くなっていた。
勿論セルなんて回らない。

普通だったらまず手を出さない。
ましてや私みたいにまだ乗りたての上、メカの知識も無い様なら尚更。

それでも私はこの子が良かった。
手間や理屈なんてどうでもよくなる位に。
9 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:55:34.27 ID:IOWq3u0T0

実は修理した時、大半は自分でやった。
まあ……夕張にもだいぶ手伝ってもらったけど。

本当にGPZが気に入ったのなら、自分で触って手を汚せと提督に言われたんだ。
機械も人間も向き合わなくちゃ何も分からないからって。

言われた通り、GPZに触れていた。
時間も忘れてこの手を油や煤で黒く染めた。

艤装の整備で工具の扱いには慣れていたとは云え、やっぱり最初はチンプンカンプンで。
その度に夕張を呼んでは、分からないことを聞きまくった。

ようやくエンジンが掛かった時は本当に嬉しかったなぁ。
大げさでもなく、涙が出そうだったよ。

提督の言葉通り、自分でやったからこそ得た事も多かった。
苦労した分愛着も湧くしね。

エンジンのチューニングは夕張が手を加えてくれているけど、その他の調整なんかは自分でやっている。
キャブにしろダンパーの減衰にしろ、何度も何度も試したね。

バイクって、機械なのにまるで生き物みたいだなぁって。
その日次第で調子も変わるし。

でもそれが楽しくて仕方なかった。
時には悩み、時には失敗もしたけど、それをひっくるめてね。

向き合った分、GPZは応えてくれた。
知らない景色を随分見させてもらった。

今度の休みの時は、ちょっと遠出しようかなぁ……。
気が付くとそんなことを考えるようになり、生活リズムも大分変わったと思う。

さて、と……休憩お仕舞いっ。
そろそろ行きますか!
10 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:56:40.97 ID:IOWq3u0T0

朝・川内自室

川内 zzz

江風「………」

夕張「あら、江風ちゃん。どうしたの?」

江風「あ、バリさん。おはよっす」

睦月「睦月も居るよっ」ヒョコッ

江風「ん。おはよ」

夕張「川内起こしに来たの?」

江風「そうなンだよ。つか、起こしてって頼まれた」

睦月「気持ち良さそうに寝てるね」

川内「うへへ……」Zzz

夕張「このおバカ、また朝方に帰って来たからね。当分起きないんじゃない?」

江風「また走りに行ってたのか」

夕張「5時よ5時っ。せっかく人が眠りかけてたっていうのに、ズカズカ入ってきて何イジったのか質問責めよ」

江風「ン?バリさんも起きてたン?」

睦月「クルマをイジってたんだって」

江風「川内さんのこと言えねぇじゃんか」

夕張「おかげでこちとら寝不足よ……」フハハ

睦月「自業自得にゃしっ」
11 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:58:11.22 ID:IOWq3u0T0

江風「ここ最近、ほぼ毎晩だよなぁ。ドハマりしてンな」

睦月「およ?江風ちゃんもバイク乗ってるんだし、誘われたりしないの?」

江風「無理無理。アタシのじゃ着いていけねえよ。高速も乗れないし」

夕張「まあ、原付(KSR)だしねぇ」

江風「そんなに楽しいなら、いっそアタシも乗り換えようかなぁ……ニンジャの150とか」

夕張「あれも良さそうよね。何より今の時代に2ストが新車で買えるんだから」

江風「なー。どうせだったら、次も2スト乗りたい」

川内 ヨダレダラー

睦月「川内さん、ホントに起きないねぇ」ツンツン

江風「今日は組手してくれるって約束だったのに」

夕張「……たまにやってるトコ見るけど、アレ何なの?」

江風「そりゃあ、近接格闘の術をね」

夕張「砲雷撃をしなさいよ」

江風「川内さんもだけど、しぐ姉も相当だぜ?攻撃みんな受け流されンの」

睦月「ジョインジョインニャシィ」

夕張「何をしてるのよ、ホントに……あと睦月は何処でそんなの覚えてきたの?」

川内「パイセーン……パイセーン……」ムニャムニャ
12 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 20:59:06.41 ID:IOWq3u0T0

別の日……

提督「……ふぅ、終わり」

扶桑「提督、お疲れ様です」

提督「扶桑さんもお疲れ様」

扶桑「フフ。お茶入れますね」

提督 タバコスパー

扶桑「あら、タバコ吸う人でしたっけ?」

提督「たまにね」

扶桑「私は吸わないので分からないのですが、珍しいタバコですね」

提督「アークロイヤルだよ。確かにあまり売ってないからね」

扶桑「英国の空母ですか?」

提督「由来はそれらしい。原産はウルグアイらしいけど」

扶桑「ちょっと甘い香りがします」

提督「パイプの葉を加えているらしいから、ちょっと違うかもね」

扶桑「私、タバコの臭いはちょっと苦手ですが……」

提督「タバコ臭い男は、やっぱり嫌かい?」

扶桑「普段なら……でも、これは少し好きになれそうです」スッ

提督「扶桑さん……」

扶桑「提督……」

ブォンブォン!!ドッドッドッドッドッド……

提督「………」

扶桑「………」

提督「また川内君かな……」

扶桑「ですかね……」
13 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 21:00:19.12 ID:IOWq3u0T0

夕張「フッフッフッフ……ようやくココまで漕ぎ着けたわ」

川内「おーっ。動いてるトコ久々に見た」

江風「相変わらずごっついナー……」

夕張「ホントに苦労したわ……オイルクーラーは上部に移動させたし、インタークーラーは出来る限り小ぶりなモノにしたし……」

川内「前よりボンネットの穴、増えてない?」

夕張「穴って言うな」

川内「でもようやく、これで夕張もバリバリ夜戦が出来るねっ」

江風「駄洒落?」

川内「ん?」

江風「え?」

夕張「とっ、兎に角っ。私のパルサーも復活したことだし、今日は私も出るわ」

川内「よーっし。負けないよっ」

夕張「言っておくけど、今日はあくまでシェイクダウンだからね」

川内「分かってる分かってる。無理しないって」

夕張「ホントに分かってるのかしら」

江風「どうだろねぇ……あの顔見てる限りだと……」

川内 キラキラ

夕張「ダメそうね」

江風「ダメそうだな」
14 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 21:01:13.55 ID:IOWq3u0T0

パルサー・車内

夕張「でもどうしたの?横に乗りたいなんて」

江風「まあ、ちょっと興味はあったからサ」

夕張「あらやだ。江風ちゃんまであのバカみたいになる気?」

江風「原付とは云え、ライダーなら間近で見てみたいナーなんてさ」

夕張「流石にタンデムはキツいしねぇ」

江風「ところでサ。そこまでクルマ詳しくないけど、何でコレにしたの?ランエボとかインプの方が良くない?」

夕張「その2台に比べたらマイナーだけど、何か私っぽくない?」

江風「ンー……マニアックっていう部分で?」

夕張「それもあるけど、コンセプト的に『夕張』と似てるかなーって」

江風「小さい車体にハイパワー的な?」

夕張「そうそうっ。しかも詰め込みまくってるからトップヘビーな上にトラブルも多いっていうとこもね」

江風「………」

夕張「……何か言ってよ」

江風「……え?自虐なの?」

夕張「ちょっとしたブラックジョークのつもりだったのに」

江風「何かゴメン……」
15 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 21:02:12.63 ID:IOWq3u0T0

川内「んっふっふっふ……やっぱ相手が居ると雰囲気が変わるね」

川内「……って、ミラー眩しっ。反射して眩しっ」

川内「よーっし。振り切っちゃうぞぉ!」

多摩トンネル内――
川内GPZ、加速開始っ。

江風「おっ、川内さんが加速し始めた」

夕張「じゃあ、コッチも行きますか。と、その前に」

江風「ン?どしたん?」

夕張「こういう時には、カッコいいBGMが必要でしょ?」ポチッ

Dismemberment Plan/The Other Side

江風(Other side……向こう側、ねぇ)

夕張「よしっ。しっかり掴まってなさいっ!」

江風「お、おうっ」
16 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 21:02:59.52 ID:IOWq3u0T0

トンネル内に反響する、2台分のエキゾーストノート。

GPZのメカノイズが混じった甲高い音色と、パルサーの荒々しい重低音。
それはさながら、複雑に絡み合うジャズセッションの如く。

非日常なスピードと、帯状になって流れる照明。
少なくとも江風はこんな世界を知らない。

ああ、ホントに『向こう側』のようだ……。
途切れない加速Gはいつまでも彼女を押さえつけ、息を呑むことさえ許してくれない。

横目で夕張を見る。
――笑っていた。

いつもの気立ての良い優しいお姉さんの表情でもなければ、よく分からない機械を爛々と弄くる時の表情でもない。

「言ったじゃない?夜は――別の顔だって」

会話さえままならない轟音の中、耳元で囁かれたような気がした。
17 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 21:04:02.73 ID:IOWq3u0T0

小ネタ 川内とGPZ400R

黒赤の最終型D4モデル。
ジャンク屋で風化寸前のところを修復した。
レストアついでに吸排気系の見直し・各部材質の変更等、改造箇所は多岐に渡る。
組み上げた夕張曰く、F−3仕様を参考に現代化したとのこと。

夜戦で培われた動体視力と勝負勘は公道においても健在のようで、一部では彼女を
『幻影』
『都高に舞い降りたマジモンの忍者』
『超絶美少女くのいち』
……と呼び、隠れたファンも居るとか居ないとか。

ちなみに、ヘルメットはゲッコ○ガ風。
後頭部分には光る「夜戦主義」ステッカー付。
18 : ◆v5iNaFrKLk [saga]:2016/06/28(火) 21:08:24.93 ID:IOWq3u0T0
一旦ここまで。
内容と相反して更新は鈍亀ですが、艦これ好きにもクルマ・バイクが好きな人にも楽しんでもらえたら幸いです。

>>2 Ninjaには違いないですね、うん。
今では大量に下忍を見るけど、あんなに走っていたGPZやZZ-Rは何処にいったのやら……。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/28(火) 21:46:38.34 ID:mBEBioEUo
乙です
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/28(火) 22:12:36.80 ID:/eiYzbxVo
こういうの嫌いじゃない
でもあえて言うならばZX-4とかだったらもっと嬉しかった
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