このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。

【艦これ】鳥海は空と海の狭間に

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

970 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:35:38.03 ID:gqgURpN+o


「妖精か。あんまり見かけないタイプな気がするけど」

 そんな妖精に白露が向かってつかつか歩いていく。
 時雨は不思議に思いながらも、そのあとを少し離れて追う。
 猫の腹を触っている背中に声をかける。

「あなたもガ島に……って、この船に乗ってるならそうに決まってるよね」

 話しかけられると妖精は猫から手を離して振り返る。

「その通りですよ、白露さん」

「あれ、名前知ってるんだ?」

「我々の中では有名人ですからね。後ろの方が時雨さんですよね。ご高名はかねがね」

 妖精は笑顔を崩さずに頭を下げる。
 その後ろで猫が興味あるのかないのか、寝そべりつつも上半身を起こして見ていた。猫はのどかそうな顔してる。

「あなた方は深海棲艦を受け入れたんですね?」

「そうなる、のかな? 色々あったし」

「コーワンたちが本気だったのは間違いないからね」

「っていうか、あなたもそういう気持ちがあるから、ここにいるんじゃないの?」

「……そうかもしれませんね。我々の場合、深海棲艦よりも彼女らに仕える小鬼に用があるのですが」

 小鬼かぁ。そういえば私たちにとっての妖精が、深海棲艦にとっての小鬼みたいな話をホッポがしてたっけ。

「今は停戦。行く行くは和解……上手くいくと思いますか? もしかすると知れば知るほど相容れない相手だと気づいてしまうかもしれません」

 妖精はほほ笑んだまま問いかけてくる。
 時雨は硬い顔で妖精を見ていた。もしかしたら、と考えているのかも。
 そして妖精の顔を見ていて、白露は直感的に思うことがあった。


971 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:37:16.06 ID:gqgURpN+o


「……不安なんだね?」

「そう見えますか?」

「だって上手くいくか分からないから。それに妖精たちが深海棲艦や戦争をどう考えてるのか、あたしは知らないし」

 妖精は何も言わない。笑顔を張りつかせたままの視線だけはこっちを見ている。
 あたしとしては思うように言うだけだった。

「よくなると思って、そうなるようやってくしかないんじゃない。足踏みしてても何も変わらないんだし」

「問題が起きてからでは遅い、とも言えませんか?」

「そりゃあ考えなしでいいとは言わないけどさ。まずは動いてみないと分からないことってあると思う」

 妖精は何も言い返してこない。別に言い負かそうとかそういうんじゃないけど。

「ただ闇雲に怖がったり避けようとするよりも、深海棲艦をもう少し信用してもいいんじゃないかな? あたしたちが今ここにいるのって、そういう気持ちがあるからだと思うんだよ」

 甘い考えなのかなとも思うけど、そうでなかったらトラックでの戦いの時点でどうにもならなくなってたんだし。
 だからあたしは信じたいし、信じてあげなきゃと思ってる。

「……ちょっと偉そうだったかな?」

「いえ、よく分かりました。すっきりするとは、こういうことなのでしょうね」

 妖精はそんな風に言う。本当にすっきりしたのかは、ちょっとあたしには分からない。
 この話はこれでお開きだった。
 あたしとしては自分で言ったことを自分から反故にしないようにしようと、ちょっぴり思った。
 そうして、いきなり頭に閃きが走る。思うままに時雨と妖精に向かって宣言した。

「あ、そうだ! 島には私が一番最初に上陸するんだからね? 抜け駆けは絶対になしだよ!」

「……当日はこの子が粗相をしないよう見張っておきますね」

 猫は眠たそうにあくびしている。なんというか……心強く感じた。


972 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:41:07.18 ID:gqgURpN+o


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 トラック泊地に海の見える高台があり、そこには慰霊碑が設置されていた。
 後々になって第二次トラック沖海戦と名づけられた海戦の戦没者を偲ぶためのものだ。
 その戦いでは決して多くないながらも人間、そして深海棲艦が死んでいる。

 海戦からはおよそ二年の月日が流れていた。
 正確にはあと一ヶ月でニ年が経つ。

「つまり、あんたが逝ってからはもう二年過ぎてるんだ……早いもんだよな」

 墓の前で木曾はそう声をかける。
 慰霊碑の置かれた区間には他にいくつかの墓があり、その内の一つがガ島で果てた初代提督の墓だった。
 あまり大きい墓ではないが、来るやつが多いのかよく手入れされている。
 それでも久々に来たのもあるし、墓石を掃除して酒を供える。

 墓といっても、ここに提督の体はない。
 海にまつわる慰霊碑や墓標なら往々にして起きる話だ。
 ただ、この墓には提督のしていた指輪が納められている。
 墓を立てるに当たって鳥海が提供した物だ。

「吹っ切ったってことなんだろうな、あいつは。あんたはそういうの寂しく思うのか……それとも喜ぶのかね」

 どっちか二つに一つなら喜びそうだな。そんな気がしてならない。
 それからしばらく近況報告する。
 自分のこと、姉さんたちのこと。トラック泊地の再編を機に、それぞれ異動先が二つに分かれてしまったけど上手くやっていた。
 ヲキューたち深海棲艦もだいぶ馴染んできて、少なくともどこの泊地でも現場レベルじゃ完全に受け入れられてる。

 一方で深海棲艦そのものとの交戦は未だに続いてるのも報告した。
 穏やかな二年だったけど、この半年は北方方面の動きが活発で迎撃戦も多かった。
 そうした動きもあってか、今年はこちらも大規模作戦を実行するのが決まっている。

 欧州への派兵だってさ。いつの間にこんなことになったんだろうな。
 深海棲艦との戦いはまだ続いているが、それでも終わりは見えてきたように思う。

 俺も作戦に参加しなくちゃならない。
 もしかすると、こうして墓前に来てやれるの今回が最後になるかもしれなかった。
 胸の内でそんなことを考えていると、後ろに人の気配を感じた。
 振り返ってみると摩耶がいた。摩耶はさわやかに笑うと片手を上げる。


973 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:42:30.97 ID:gqgURpN+o


「久しぶり。最後に会った時とあんま変わらないな」

「それはお互い様だろ。元気にしてたか?」

「まあな。あたしにも挨拶させてくれよ」

 半歩ぐらいずれると、手ぶらの摩耶は墓に向かって黙礼した。
 それが済むと摩耶と色々話すことになる。久々に会えば積もる話も多い。
 やっぱり北のほうって寒いのかとか向こうの魚って旨いのかとか、そんな取り留めのない話をしてから。

「木曾も遣欧艦隊入りだっけ?」

「来月にはシンガポール入りだよ。ということは摩耶もか?」

「うん。うちからはあたしと第八艦隊だな。藤波はどうにか理由つけて辞退したがってたけど」

「藤波?」

「そういや木曾は会ったことないんだっけ。夕雲んとこの妹の一人で」

「ああ、島風と競い合ってるってやつか」

 そう言うと、摩耶が不思議そうな顔をする。
 どうして知ってるんだと言いたそうな顔に、先に答えてしまう。

「実は鳥海と手紙のやり取りはしててな。なかなか気に入ってるみたいじゃないか」

 文面では抑え気味だが、慈しんでるような印象を受けた。

「まあ肩を並べて同じ戦場で戦う機会はなさそうなんだけどなあ」

「教導艦になったからな、鳥海のやつ」

「今じゃ深海棲艦の面倒も見てるからな……これも知ってたか?」

 頷き返す。
 第二次トラック沖海戦の後から現在もトラック泊地が要所であるのには変わりない。
 それに加えて深海棲艦の受け入れ先としても最も活発な場所になっていた。

 鳥海はどこかで戦う以外の自分を見つめていたのだろう。
 深海棲艦との交流が活発化したのを機に、教導艦として転進の道を歩み始めた。


974 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:44:53.85 ID:gqgURpN+o


「摩耶からしたらどうなんだ。鳥海の教導艦ってのは?」

「向いてるさ。なんたって鳥海だぞ」

「理由になってないな」

 思わず笑ってしまう。でも摩耶の言いたいことは分かる。
 戦うだけが全てじゃないと、鳥海は身を以って証明したいんだろう。
 ただでさえ、あいつは戦いの中で多くを見て多くを失ったとも言える。

「行き着くところに行き着いたんだろうな」

「……だろうな。鳥海のそんな姿を見せてやりたかったって、ここに来ると考えちゃうよ」

 摩耶は提督の墓標を見つめる。そんな摩耶に答える。

「……見なくても分かってたんじゃないかな。鳥海が戦う以外の道を見つけるってのは」

「だといいな……」

 あいつはどこかで戦後を考えていた。
 提督という立場なら当然なのかもしれないが、終わりの先というのを意識していたように思う。

 今の俺たちはその終わりの先に向かっている。
 あるいはもしかすると、すでにそこに進んでるのかもしれない。
 そして今の道には提督の残した足跡みたいなのが確かに存在してる。

「でもやっぱり……もっと俺たちを見ていてもらいたかったよ」

「木曾……」

 あんたがいなくてさみしいよ。
 ここに来た時ぐらいはそう思ってもいいよな……提督?


975 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:48:29.25 ID:gqgURpN+o


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ネーネー、ネネッネー」

 ハミングのような声が重なって聞こえてくる。
 そう聞こえるのは二人で声を出しているからで、声の主は二人のネ級だった。
 波止場で待ち合わせていた私に彼女たちは声をかけてくる。

「こんにちは、艦娘のお姉さん」

 挨拶してきた彼女たちの背はそれほど高くなく、二人とも表情にはまだあどけなさを残している。
 彼女たちはよく似た顔立ちながら、前髪の分け方が左右で違うし目の色も赤と金色と分かれている。
 左分けのほうが赤で、右分けが金色。あのネ級の赤と金の瞳を思い出す。

 彼女たちとは初対面だけど、あらかじめ来るのは知らされていた。
 私は彼女たちを笑顔で迎える。
 初めからそうするつもりだったし、会ってみたら自然とそうなっていた。
 驚いたのは、彼女たちの言葉が流暢だったこと。

「言葉が上手いって? 白露ねーさんとか時雨ねーさんが教えてくれたからね」

 赤い目のネ級が胸を張る。意外と大きそう。

「いっちばーんって言っててかわいいんだよ。え? 知ってるの?」

「前にお世話になった方と出立前に言ってたではありませんか」

「そうだっけ?」

「たまに思うんですけど、ネズヤって鳥頭ですよね?」

「むっ、方向音痴のネマノに言われたくないなあ」

 ほっとくとこのまま脱線しそうな二人を軌道修正。
 金目のほうのネ級が慌てた様子で謝ってくる。

「ごめんなさい……そういえばちゃんと名乗っていませんでしたね。私がネマノであっちがネズヤ。語呂が少々悪い名のような気もいたしますけど……」

「えー。せっかく白露のねーさんが考えてくれたのに?」

「それには感謝してますけど、もっとこう……エレガントな感じにしてほしかったんですの!」

「またそういう訳の分かんない感覚で話すー」

 茶化すように笑うネズヤに、ネマノは頬を膨らませる。
 白露さんがこういう名前をつけてしまった理由が分かったような気がした。
 そんなことを考えているとネマノがじっとこっちを見ていた。


976 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:49:25.18 ID:gqgURpN+o


「あの……以前にどこかでお会いしませんでしたか?」

「もしかして口説き文句?」

「どうしてそうなりますの!」

「でも、実はわたしもそんな気がしちゃうんだよね……これって運命?」

「そっちのほうがよっぽど歯の浮いた口説き文句ではなくて?」

 私が何か言う前に二人はどんどん話を進めていってしまう。
 あえて口を挟まないでいると、今度はネズヤのほうがこっちに気づいて叫ぶように言う。

「ほら、変な目で見られちゃってるじゃん!」

 どちらかというと、このネズヤのほうが身振り手振りと何かと動きのある子だった。
 思わず失笑しながら、そうじゃないと伝える。

「あなたたちは私が知ってるネ級とは、ずいぶん違うんだなと思って」

 そう言うと二人は驚き、それから顔を見合わせた。

「……姫様が教えてくれました。私たち双子の前にいたネ級は一人だけだったと」

「私たちもそのネ級……姉さんをなんとなく心に感じることがあるんだよ。夢で見るような……?」

「似てはいないんですね……分かってはいましたけど」

 それから二人は一転して黙り込んでしまい、声をかけづらい雰囲気になってしまう。
 やがて金色の、ネマノのほうが口を開く。

「あの……あなたのお名前よろしいですか? わたくしとしたことが大切なことを忘れていましたわ」

 確かに名乗りそびれていた。
 深呼吸一つ。実を言うと、ちょっと緊張してる。

「私は鳥海です。よろしくお願いしますね」

 よかった、ちゃんと言えた。
 ぶっきらぼうになってしまうんじゃないかと思っていたから。
 二人のネ級は声を揃えて言う。

「あなたに会えて、とても嬉しいです」

 満面の笑顔が向けられていた。
 見上げれば蒼い空。浮かぶ雲は筆で刷いたようなかすれかたで、太陽は温かく眩しくて。
 見下ろせば青い海。光を浴びて白く輝きながら、永遠に絶えそうにないうねりを見せて。

 良いことも悪いことも、この世界には多くがあふれている。
 ここが私の生きる世界。多くの日常と非日常が混ざり合う、空と海の狭間。
 忘れ得ぬ想いを胸に、私は今日もここにいます。





977 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2018/07/08(日) 21:57:08.97 ID:gqgURpN+o
これにて完結です。長い間、お付き合いいただきありがとうございました。
ううん、何か最後だし書こうと思ったのですが、あんまり思い浮んでこないもんですね。
一つだけ言えるのはもう一年は早く完成させたかったけど、延び延びになっても完結まで持って行けたのはどこかのどなたがたが読んでくれたお陰だなと。
世辞でもなんでもなく本当に、ありがとうございました。またどこかでお目にかかれれば幸いです。
978 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 22:25:19.58 ID:srXSez0+0
大作お疲れ様
スレ埋まりそうでずっと書き込みできなかったけどやっと書ける
いい作品をありがとう
979 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 16:00:39.29 ID:XI6WNKc40
おつ、読み終わった。
合計何文字くらいだったんですか?
980 : ◆xedeaV4uNo [saga sage]:2018/07/12(木) 19:48:49.71 ID:gGHabxYMo
>>978
ありがとうございます。いい作品になってくれてるなら、自分としても肩の荷が下りる感じですわ

>>979
おつありです。ざっくりですが四十九万文字ほど。なんで五十万弱ですね……こんなに書くことになるとは


これからのことなんですが、これをハーメルン辺りに持っていってみようかなと最近は考えてます
過去作でしか説明してない人間関係あったりとかで、実際にこれをこのまま持っていっていいかは悩みどころですが
なんにせよ、本当に移るならひっそりここでまた告知だけしようかとは思ってます
981 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/07(火) 12:09:57.72 ID:lXnx6W9fO
遅くなったけど乙でした
最初から追ってたけど読みごたえあって面白かった
982 : ◆xedeaV4uNo [saga sage]:2018/08/11(土) 19:23:01.92 ID:hWyG4Heeo
>>981
最後まで付き合っていただきありがとうございます。面白かったって言うのは作者にとっては最高の褒め言葉だと思っております
1151.86 KB Speed:0.3   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)