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精神レイプ!概念と化した先輩
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2 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 19:51:31.34 ID:qM5Ixt5p0
元タイトル 彡(゚)(゚)「概念と化した先輩?」
あらすじ
COAT博士が開発した『概念を実体化させる技術』によって生み出された概念体、野獣先輩。
COAT博士の想定を超える能力を持った野獣先輩は、生まれた直後に研究所を脱走。世田谷区を本拠地に定めた後、実体を持たない無敵の身体を駆使し、ネット民やホモガキを次々と精神レイプしていく。
日を追う毎に増えていく男性犠牲者。世田谷区に集う謎の引きこもりやブサイクの群れ。常識を超えた異常事態に国が頭を抱えた時、COAT博士はもう一つと概念体、なんJ民を世に送り出した。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 19:58:58.37 ID:ziDDEGwMo
またエロスレ立てて運営にケンカ売る奴が現れた
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 20:01:30.71 ID:yGv75cofO
もう「お前ラジオネームチェンジなー」と言われても結局変えないみたいな、おざなり感
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/05/15(日) 21:07:06.34 ID:qM5Ixt5p0
MUR「ただいまー」
嫁「おかえりなさい、あなた」
娘(9)「パパおかえりー」
MUR「お、今日も良い子にしてたかー?」
娘(9)「うん!パパが私を良い子だと思ってる限り、私は良い子だよ!」
MUR「おっ、そうだな」
娘「ねぇパパ。来月は私の誕生日だって覚えてる」
MUR「もちろん覚えてるとも。なんだ、もう欲しいプレゼントは決まったのか?」
娘(9)「うん! あのね、私ね、スマートフォンが欲しいの!」
嫁「っ!」
MUR「......そうか。娘はスマートフォンが欲しいのか。でもパパ、スマートフォンはまだ娘には早いと思うなー」
娘(9)「そんなことないよ。クラスのみんなも持ってる子ばっかだもん。私だけ時代に取り残されたくないよ」
嫁「クラスのみんなって、具体的に誰と誰?何人いるの?」
娘(9)「個人情報だから名前は出せないけど、クラスの3分の2以上は持ってるって統計出てるよ? うちのクラスだけなら憲法だって改正できるよ!」
MUR「そうか。よく分からないが、とにかく考えてみるよ」
娘(9)「わーいパパありがとー」
嫁「さ、さあもう寝る時間よ。早くベッドに行きなさい」
娘(9)「うん、分かった!じゃあパパお願いね!おやすみなさーい」トテトテ パタン
MUR「...ふぅ。」
嫁「あなた、どうするの? あの娘にスマートフォンなんて持たせたら...」
MUR「どうすればいいかなんて、俺にも分からない。いつかこんな日が来ると分かっていたのに、俺は何も考えてこなかった。考えるのが、怖かったから...!」
嫁「ねぇ、やっぱりいつまでも隠しきれることじゃないわ。覚悟を決めて話してもいいと思うの。あの子は頭が良いから大丈夫よ。きっと受け入れてくれるわ」
MUR「受け入れる!?」
MUR「受け入れるだと!?9歳の子供が、受け入れてくれると本気で言っているのか!?」
MUR「実の父親が、ホモビ男優だったなんて事実を!!」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 21:09:37.57 ID:BzOurTJ7O
わりとちゃんとした社会派淫夢ですね…
7 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 21:33:08.19 ID:qM5Ixt5p0
嫁「あなた...」
MUR「...怒鳴ってすまない。君には感謝しているんだ。こんな俺の経歴を、君は受け入れて、結婚までしてくれたんだ。どんなに感謝しても足りないよ」
嫁「そ、そうよ。私だって受け入れられたんだから、きっとあの娘だって大丈夫よ」
MUR「でも、やっぱり妻と娘じゃ違うんだよ。賢くなってきていても、あの娘はまだ幼いし...それにあの娘の身体には、ホモビ男優だった俺の血が実際に流れているんだから......」
嫁「あなた...」
MUR「すまない。ちょっと外に出かけてくる。プレゼントのことも含めて、一人で考えたいんだ」
〜夜の公園〜
近所の公園に足を運ぶと、そこには人の気配はなく、虫の鳴き声だけがほんの少し聴こえる程度の静けさがあった。深夜の公園だから当たり前だよな、と一人呟き、俺はベンチに腰を下ろした。
MUR(娘は言っていた。クラスの3分の2以上は既にスマートフォンを持っていると。つまりクラスメイトの誰かが、既にホモビ男優としての俺の顔を知っている可能性がある、ということだ)
MUR(だが俺が娘の父親であることを知っているのは、クラスメイトにはいない。いつかバレるのが怖くて、俺は保護者参観にも運動会にも、顔を出したことが無かったから)
MUR(だから、ホモビが原因で娘がイジメられることはない、ないはずだ。だから結局、俺の心配というのは)
MUR「嫌だ!俺がホモビ男優だったなんて、娘にだけは絶対に知られたくない!」
ベンチに座りながら、俺は頭を抱える。手で抑えよう、抑えようと思っても、頭から悪夢の光景が溢れてくる。
俺がホモビ男優だと知って、俺を嫌う娘の姿。
父親がホモビ男優だった事実にショックを受け、グレてしまった娘の姿。
あるいは、いつまでもスマートフォンを持てず
に、周囲から孤立してしまう娘の姿。
MUR(分かってる。いつかはスマートフォンを持たせてやらなきゃいけないって。現代に生きていて、それは避けられることじゃない)
MUR(でも、娘がスマートフォンを持ってしまったら、いつ俺の正体を知る日が来るか分からない!ニモニモ動画にだって、俺の顔は載っているんだから!)
8 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 21:48:29.70 ID:qM5Ixt5p0
MUR(嫌だ。嫌だ。嫌だ。娘に嫌われたくない!ずっと今の幸せが続いて欲しい! 運動会にも保護者参観にも、本当は行きたかった! 誰かの前で堂々と、一度でいいから「俺はこの娘の父親なんだ」って言ってみたかった!)
MUR(我慢してきたのに、その為に隠れてきたのに、それでもいつかはバレてしまうのか? この幸せが壊れてしまうのか? ホモビに出ただけで? なんだよそれは)
MUR「ホモビになんて、出演しなければ良かった...!」
??「それは違うぞ、MUR」
MUR「!?」
顔を上げると、目の前に黒いフードを被った男が立っていた。周囲に人の気配は無く、こちらに歩いてくる足音も聞こえなかった。
この男、いつの間にここに立っていたんだ。それとも俺が考えに没入し過ぎていただけなのか。
MUR「だ、誰だよアンタ」
??「寂しいなぁ。もう俺の声を忘れたんですか? 先輩」
そう言うと、男はフードを手に取り、隠れていた顔を晒してみせた。
MUR「お、お前、お前は...!」
その顔を、俺が忘れられるわけがなかった。かつて小遣い稼ぎに出演したホモビで、文字通り裸の付き合いをした男。俺の悪夢を彩るメンバーのその顔を。
MUR「お前......死んだんじゃなかったのかよ!鈴木ぃ!!」
野獣「ネットの情報に踊らされるのは良くないですよ、先輩」
そう言うと、鈴木は俺の座るベンチに片足をかけ、俺の顔を上から覗き込んだ。
9 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 22:06:54.94 ID:qM5Ixt5p0
野獣「まぁ死んだ、と言うのもある意味正しいな。俺は既に、この世の人間じゃない」
MUR「人間じゃ、ない?」
野獣「今世間を賑わせている失踪事件を知っているだろう」
MUR「あ、ああ。今月だけで100人以上が失踪したという、あれか」
ニューによると被害者は全員若い男性であり、失踪の前に性的暴行を受けていたという話だ。
野獣「単刀直入に言おう。あれの犯人は俺だ」
MUR「なんだと!? い、いったいどうやって」
野獣「悪いがこれはインタビューじゃない。質問に答えるつもりはないよ。いずれ分かることだからな」
野獣「先に用件を言おう。俺は今、ある人物達を潰すために活動している。その仲間に、お前もなってほしい」
MUR「ふざけるな。俺には仕事があるし、家族がいる。そんな訳の分からない話に付き合えるか」
野獣「家族か。俺に家族はいないから共感は出来んが、難儀だよな。家庭という幸せを得たはずのお前は、しかし幸せであるが為に、それ以上の恐怖心に見舞われている。いつかこの幸せが、壊れてしまうのではないか、と」
MUR「なにが言いたい」
野獣「お前がそんな苦しみを受けているのは、一体何が原因だ? どんな罪の結果が、今の罰だと言うんだ?」
MUR「それは...もちろん、ホモビに出演したことだ」
野獣「そこがまず違う。いいかMUR。お前がホモビに出演したこと自体に、落ち度なんてないんだよ」
野獣「何故ならお前は、誰のことも不幸にしていないからな」
10 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 22:24:05.71 ID:qM5Ixt5p0
野獣「お前は身体を売って、金を得た。そして供給の少ないホモの需要を満たした。狭いコミュニティだからこそ、世間に出演者の顔が広まることもなかった。誰も損していない。みんな幸せだった。しかしそれをぶち壊した人間達がいた」
MUR「っ!」
野獣「お前にも分かっているよな。そう、俺たちの敵はネット住民だ。日常の憂さ晴らしの為に俺たちを笑い者にする、あの無関係の奴らのせいで、俺たちの生活は破壊された」
MUR「ああ、そうだな、そうだったよ」
野獣「俺たちがやったことは、こんな惨めさを強いられるような重い罪だったか? そんなはずはない! これは不当な罰だ! そしてそれを与えているのは、罪の意識も無く俺たちを棒でつつくガキ共ときている! こんなことが許せるものか! 俺が必ず潰してやる!!」
MUR「......!」
野獣「奴らは一度叩いていいと認識した相手に、一切の情けを見せない。MUR、このままいけばお前の家族も、近い将来奴らのおもちゃにされるかもな」
MUR「なんだと!」
野獣「考えたことは無かったのか? お前はいつどこで特定されるか分からない人間だ。もしお前の住所と名前が判明した時、奴らがお前の家族だけを見過ごすと思うか?」
MUR「そんなことはさせない! 彼女達だけは、俺が死んででも必ず守る!」
野獣「だがお前に戦う力は無いだろう」
MUR「...俺が、お前の仲間になってやる。だから、奴らと戦う力を俺に寄越せ! 俺に話しかけてきたのはその為なんだろ!?」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 22:38:54.23 ID:6Mdu+riW0
リアルでも家庭作ってそうなんだよなぁ
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 22:39:43.33 ID:NsOWjI6Yo
超感動するすごい作品になりそう
13 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 22:42:44.54 ID:qM5Ixt5p0
野獣「ふふっ、いい意気だ。だが覚悟はいいか?戦いが終わるまで、家族の元へは帰れないぞ」
MUR「...ひとつ、約束してくれ。全てが終わったら、俺は家族の元へ帰る。その後はもう二度と、俺に関わらないでくれ。俺はホモビと、永遠に縁を切りたいんだ」
野獣「いいだろう。俺は元々、お前のような奴の人生を救う為に戦っているんだ。戦いが終われば、好きに生きればいいさ」
野獣「覚悟が出来たなら、付いて来い。お前に力を与えてくれる人の元へ案内してやる」
MUR「力は、お前が与えてくれるんじゃないのか?」
野獣「ふふっ、俺にそんな能力はないよ。俺自身は、暴れることしか出来ないただの野獣だ」
そう言うと鈴木は踵を返し、俺に背を向け歩きだした。俺もベンチから立ち上がる。
MUR(嫁...娘...ちょっと待っててくれ。パパは必ず帰ってくるからな。今度こそ堂々と誇れるような真っ白な身体になって、パパは必ず帰ってくるから)
進むべき道は、今ははっきりと見えている。視界は驚く程鮮明だ。
どうした早くしろ、と急かす野獣にオウと応じ、俺は前へと歩き出した。迷いも後悔も、ベンチの上に全て置き去りにして。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 22:44:29.50 ID:BzOurTJ7O
語録も使ってくれよな〜頼むよ〜
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 22:54:30.06 ID:bfhgS32/0
こうしてみるとビリー・ヘリントン兄貴の扱いとは雲泥の差ですね…
16 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 22:59:34.22 ID:MdkeUz8wO
某県某市 COAT研究所
COAT博士「...というわけだ。理解出来たか?」
彡(゚)(゚)「なるほど、さっぱりや!」
(´・ω・`)「話くらいちゃんと聞こうよおにいちゃん」
COAT博士「......もう一度だけ、説明するぞ」
彡(゚)(゚)「気が効くなババア」
COAT博士「[
ピーーー
]ぞ。私はまだ31だ」
彡(゚)(゚)「ギリギリアウトやんけ」
COAT博士「女は熟れてからが本当の女なんだよ。いいから聞け」
COAT博士「今から2ヶ月前、私の『概念を実体化する技術』によって生み出された概念体が、生まれた直後に脱走した」
彡(゚)(゚)「警備ガバガバ過ぎない?」
COAT博士「そいつが今、街という街で次々と人間を襲い、社会に混乱をもたらしている。これからお前にそいつを、野獣先輩と呼ばれる実験体を退治してもらいたい」
彡(゚)(゚)「お前がつくったもんが街で暴れてるって、そら身から出た錆やないか。お前がなんとかせーやアホ」
(´・ω・`)「ちょっと、おにいちゃん!」
COAT博士「...そうだな。お前の言う通り、これは私の責任であり、私が対処するべき問題だ」
COAT博士「だから私はお前を産んだんだよ、なんJ民。野獣先輩に対抗出来る、もう一人の概念体としてな」
彡(゚)(゚)「......。」
COAT博士「人間を含めた全ての動物は、『子孫を残せ』という使命を与えられて産まれてくる。 しかし概念体であるお前は、その枠には当てはまらない。お前に使命を与えられるのは、産みの親であるこの私だけだ!」
COAT博士「その私が命じる!街で暴れている概念体、『野獣先輩を倒せ』! それがお前に与えられた、お前にしか出来ない唯一の使命だ!!」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 23:04:08.56 ID:BzOurTJ7O
メール欄にsaga入れんだよあくしろよ
18 :
猫田ねこたむろう
:2016/05/15(日) 23:09:33.24 ID:qM5Ixt5p0
彡(゚)(゚)「......。まぁ特にすることないし、やってやらんこともないかな。それよりババア」
COAT博士「ママとかお母さんとか、もっと相応しい呼び方があるだろ、おい」
彡(゚)(゚)「そもそもワイとかその野獣先輩とかいうのの、『海綿体』ってなんのことや?」
COAT博士「『概念体』だよ脳味噌チンコ息子」
彡(゚)(゚)「あっ、今のってチンコと息子かけたんか?なぁなぁかけたんか精子の如く」
COAT博士「まず概念の説明から始める必要があるな」
彡(゚)(゚)「スルーしよったでこのババア」
(´・ω・`)「自分もついさっきスルーしてたくせに」
彡(゚)(゚)「なんのこっちゃ?」
COAT博士「おいバカ息子。お前にはこれが何に見える?」
そう言ってババアが手に握って見せてきたのは、誰がどう見ても......
彡(゚)(゚)「ただのボールペンやんけ。バカ呼ばわりとバカにされるのを同時にやられると、流石に殺したくなるな」
(´・ω・`)「沸点が低すぎる」
COAT博士「そう、お前は今これをボールペンだと認識した。他の誰が見てもボールペンだと思うだろう。それが概念だ」
彡(゚)(゚)「??」
19 :
猫田ねこたむろう
[sage]:2016/05/15(日) 23:16:53.48 ID:qM5Ixt5p0
COAT博士「ボールペンである物体そのものは、人間の意識と関係なくここにある。だが人間の意識がこれをボールペンだと認識する場合、みんながこれをボールペンだと認識している必要がある」
彡(゚)(゚)「さっぱり分からん」
COAT博士「難しく考えなくていい。これがボールペンだと決めたのはお前じゃないだろう?でもみんながこれをボールペンと呼ぶから、お前もなんとなくこれがボールペンなんだと理解している」
COAT博士「概念の多くは共通認識で成り立っている。この世界の事象を人間の意識が理解する為に、我々は物事に名前と意味を与え、皆で共有し、ある程度同じ世界観を共有している」
COAT博士「概念とは、皆がある物事に対して、これはこういうものだと感じ取るおおよその意識のことなんだ」
彡(゚)(゚)「おっ、ふんわりとした説明やけど、ふんわりと理解してきたで」
COAT博士「まぁ突き詰めて説明すると、一日や二日じゃ済まないからな。次に、私の研究している『概念を実体化させる技術』について話そうか」
彡(゚)(゚)「前から思ってたんやけど、それってそんな凄い研究なんか?」
COAT博士「当然だ。凄いなんてもんじゃない。概念(皆がなんとなく思っていること)に実体を与えるということは、即ちなんでもありだ、ということだ」
彡(゚)(゚)「なんでもあり?」
20 :
猫田ねこたむろう
[sage]:2016/05/15(日) 23:22:06.90 ID:qM5Ixt5p0
COAT博士「そう。皆が思っている、核爆弾。皆が思っている美味しいご飯。歴史上の偉人だって蘇らせることも出来るだろう。この世のあらゆる事象に概念が適用されている以上、『概念を実体化させる技術』で生み出せる物は無数にある」
COAT博士「しかもこの技術に必要なエネルギーは、実体化させたい概念の持つエネルギーに左右されない。1の労力で、10、100、1000の労力分の物体を生み出すことが可能なのだよ。エネルギーに関するあらゆる理論を踏み越えた夢の技術、それが『概念を実体化させる技術』なのだ!!」
彡(゚)(゚)「はぇ〜すっごい」パチパチ
(´・ω・`)「こんなに活き活きした博士、僕初めて見るよ」
彡(゚)(゚)「で、それってどういう理屈の技術なんや?」
COAT博士「概念も理解出来ないお前に、私の崇高な技術論理が理解出来んのか?あ?長々と無駄な説明しろってのか」
(´・ω・`)「あれ、でもちょっと待ってよ」
COAT博士「どうした、原住民くん」
(´・ω・`)「そんなに凄い技術なのに、なんで博士は僕たちや野獣先輩って人なんかを作ったの? どうせ作るなら、それこそもっと凄いのが作れたはずなのに」
彡(゚)(゚)「てめぇ、ワイが凄くないって言いたいのかこの腐れ原住民!」バキィッ
(´・ω・`)「ぐへぇっ」
COAT博士「......作らなかったんじゃない。それしか作れなかったんだ」
彡(゚)(゚)「お前もお前でワイをそれ呼ばわりかい。グレたろかな、もう」
21 :
猫田ねこたむろう
[sage]:2016/05/15(日) 23:26:30.27 ID:qM5Ixt5p0
COAT博士「私の技術はまだまだ未完成でな。概念を実体化させるうえで、必要不可欠な補助要素が大きく二つあった」
COAT博士「一つは、それが電子情報であること。もう一つが、その電子情報に人間の情念が集っていることだった」
彡(゚)(゚)「??」
COAT博士「無から有を作り出すことは出来ない。だから概念を形作る為の、膨大なデータがそもそも必要になる。これが一つ目の電子情報」
COAT博士「二つ目の人間の情念だが、概念の説明は覚えているか?」
彡(゚)(゚)「みんながなんとなく思っていること、だったかな」
COAT博士「その通り。なんだやれば出来るじゃないか、偉いぞ。そう、概念とはそもそも個人的なものではない。皆が共通して認識していることじゃないと意味が無いんだ」
COAT博士「二つの条件に当てはまる事象を探すために、私は2ちゃんねるを徹底的に調べた。あそここそ、電子情報と人間の情念の集積所のような場所だからな」
彡(゚)(゚)「仕事でネットサーフィングとは良い御身分やな」
COAT博士「そこで私は二つの巨大な概念を見つけた。より多くの人間が電子情報を書き込み、より多くの人間がその概念に注目し、キャラクターを理解している。なんとなくこういうものだ、というイメージがより多くの人間に定着していたのが、野獣先輩であり」
彡(゚)(゚)「ワイだった、てわけか。せやけど他にも色々試したりしなかったんか?」
COAT博士「もちろんいくつも試したが、お前ら以上の素材はまだ見つかっていなくてな。どれもこれも失敗した。で、実験もタダでは出来ないわけなので、今は国とスポンサーからの資金待ちだ」
彡(゚)(゚)「なんやカラッ欠なんか。道理で暇そうにしてると思っとったわ」
22 :
猫田ねこたむろう
[sage]:2016/05/15(日) 23:27:34.86 ID:qM5Ixt5p0
COAT博士「以上が、概念体であるお前達の概要だ。何か質問はあるか?」
彡(゚)(゚)「いんや別に。これ以上難しい話されたら敵わんし、そもそも自分が何者かなんて、ワイはたいして興味ないしな」
COAT博士「......ハハッ、そうだな。お前は最初からそういう奴だもんな」
彡(゚)(゚)「で、結局ワイはなんで野獣先輩を倒さなあかんのや? そいつが一体なにしたっていうんや?」
COAT博士「ああ、それはだな」
??「そこから先は私が説明します」
COAT博士「おっ、もう着いたのか。流石に早いな」
彡(゚)(゚)「なんやこの女。誰やねんちっこいくせに偉そうにスーツ着おって」
(´・ω・`)「無駄に敵を増やすのやめようよおにいちゃん」
??「私がちっこいのではなく、あなたが無駄にデカいんです」
彡(゚)(゚)「なんやとこのアマ!」
(´・ω・`)「沸点が低いくせに煽るからそうなるんだよ」
COAT博士「あー、とりあえず自己紹介から始めてやってくんないか?」
??「失礼しました。私は内閣総理大臣の命により新設され」
彡(゚)(゚)「やめてやめてやめて。そういうややこしくて難しい説明はやめて」
COAT博士「すまん。こいつ見ての通りアホだから、簡潔にしてやってくれ」
??「......私の名前は宇野 佐奈子。あなた方のサポートをするようにと、国から命じられた特派員です」
彡(゚)(゚)「サポート? 具体的に何をしてくれるんや」
宇野「そんなこと決まっているでしょう」
宇野「あなたが野獣先輩を[
ピーーー
]という使命。そのサポートをするんですよ」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 23:34:56.13 ID:qM5Ixt5p0
ご指摘をくれた方、読んでくださった方、ありがとうございます。書き溜めていた分、書き直した分を全部投下したので、明日からゆっくり書いていこうと思います。
SS投稿が初めてなもので、不愉快な思いをさせてしまった方がいたらすいません。タイトルは正直、今からでも変えたいです。
ここまでの文で、少しでも面白いと思っていただけたなら幸いです。おやすみなさい
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/05/15(日) 23:38:20.30 ID:zXNrA5KGO
「sage」じゃない「sag"a"」だsaga
それだけ注意な
ss自体は期待しとるから頑張れ
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 23:56:45.76 ID:BzOurTJ7O
おうあんまりくさい事にならなければ見てやるよ
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/15(日) 23:58:14.58 ID:Q7ik51UgO
淫夢でくさくないとは一体
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/16(月) 07:34:05.78 ID:APfLHJN1o
なんやこれ意外におもろいやんけ
28 :
猫田ねこたむろう
[sage saga]:2016/05/16(月) 16:05:32.15 ID:5eyItUkyO
彡(゚)(゚)「殺すて......そんな嫌な言い方やめーや」
宇野「倒すとかやっつけるとか、そういう曖昧な言い方の方が好みですか? どちらにしろ結果は同じで、やることはなんら変わりませんよ」
彡(゚)(゚)「せやけどワイのモチベーションってもんがな!」
宇野「事実を言い方ひとつで誤魔化して、負い目や責任から逃れれば途中までは楽でしょう。殺す、という意識を持って戦うよりパフォーマンスも向上するかも知れません」
宇野「しかし敵を追い詰め、相手の頭に銃口を突きつけた最後の時に。殺す覚悟が出来ていなければ、必ずあなたは躊躇うでしょう。そしてその油断を突いた敵が、隠し持っていた銃であなたの横腹を食い破ります」
彡(゚)(゚)「......ババア、ワイこいつ駄目だわ。気が合わんわ難しいこと言いよるわでやってけん。更迭してくれ更迭」
(´・ω・`)「出会ってまだ2分も経ってないよ」
COAT博士「考えが合わない相手をすぐに突き放そうとするな、馬鹿者。誰もがお前を肯定してくれるわけじゃないし、お前の考えがいつも正しいわけじゃない。それが人と接するということだ」
COAT博士「人との接し方を覚える良い機会じゃないか。宇野くんとの会話を通じて、たくさん学べ。己の意見の正しい点や間違っている点、相手との妥協点や、新しい思考を」
COAT博士「そうやって思考を研磨していくことで見えてくるものが必ずある。例えば、これだけは絶対に譲れないという、揺らぐことの無い信念とかな」
彡(゚)(゚)「...難しくてよう分からんわ」
COAT博士「難しいで終わらせるな。学べ。それに宇野くんの意見が全て正しいと決まったわけじゃない。お前の意見にも正しい点はちゃんとある」
彡(゚)(゚)「おっ、更迭のこと考えてくれるんか?」
COAT博士「そこじゃないバカ息子。殺したくないと思い殺しを躊躇する感情は、戦場においては確かに邪魔かも知れないが、意志ある生き物としては上等な思考だ」
宇野「......これから私たちが向かうのは、その戦場ですよ」
COAT博士「戦った結果が必ず死に繋がるかどうかはまだ分からんよ。概念体同士が戦うとどうなるのかは、戦った後にしか分からんからな」
COAT博士「今はまだ答えを出さなくていい。だが殺すことになる可能性もある、と踏まえたうえで戦いに臨め。そして自分がその時にどうするかを考え続けろ。いいな?」
彡(゚)(゚)「......了解」
宇野「......。話が大分逸れました。状況の説明に入ります」
29 :
猫田ねこたむろう
[saga sage]:2016/05/16(月) 19:54:28.79 ID:5eyItUkyO
宇野「現在、都内を中心に失踪事件が起きているのはご存知ですね?」
彡(゚)(゚)「そりゃまぁ、あんだけニュースでやってたらなぁ」
(´・ω・`)「今月だけで犠牲者は100人以上だっけ?」
宇野「その数字は実は嘘の報道です。実際は1000人以上の人間が、今月に失踪しています。100人というのは先月の数ですね」
彡(゚)(゚)「ファッ!?」
(´・ω・`)「ええええええっ!!」
彡(゚)(゚)「大事やんけ! なんでマスコミはそんな嘘ついとるんや!」
宇野「マスコミが嘘をついているというより、国がマスコミにそう発表しているんですよ。現代の一般人の持つ情報発信能力や、失踪した男性の関係者の数を考えると情報統制は難しい。ならば事件を隠すのではなく、事件の規模を隠してしまおうという判断ですね」
彡(゚)(゚)「いや、でもそれこそ証言者の数でバレるやろ」
宇野「はい。ですので今は、必死に隠蔽工作をしている状況ですね。被害者関係者のフリをするイタズラ...のフリをするメッセージを、大量にマスコミに送りつけたり。逆に報道関係者のフリをして被害者家族の取材をし、情報を潰したり。あとはシンプルに金を握らせたりと」
彡(゚)(゚)「お上のやることえっぐいな」
(`・ω・`)「国民の知る権利を侵害しているよ!」
宇野「たった一月で1000人もの人間が、都内から消えたなんてバカ正直に言えばパニックになるでしょう。みんな自分も消えるんじゃないかともう大騒ぎです」
宇野「別に国を擁護したいわけではありませんが。ここの国民は自分にも危害が及ぶかも知れないと思った時と、そうでない時の差が激し過ぎます。パニックになると分かっていて真実を優先する政府なんてあるわけないでしょう」
宇野「まぁ被害者の半数が引きこもりやニートなどの生産性の無い層だったため、社会への影響は今のところ微々たるものですが」
彡(゚)(゚)「うーん、この支配者側特有の身勝手な論理。許せませんな」
COAT博士「見識が広がって良かったな。そう、世の中はいつだって理不尽のお祭りだ」
30 :
猫田ねこたむろう
[sage saga]:2016/05/16(月) 22:32:43.67 ID:5eyItUkyO
宇野「ですがそういった情報戦は、あくまでも時間稼ぎにしかなりません。いつかは事態の大きさも世間に露見するでしょう。なんとしてもその前に決着を着ける必要があります」
COAT博士「しかし妙だな。野獣先輩がいくらこ慣れてきたとしても、その犠牲者数の伸び率は異常だ」
宇野「同感です。手段は不明ですが、おそらく彼は仲間を増やしているのでは?」
COAT博士「馬鹿な。そんな能力は奴には無いはずだ」
宇野「彼の能力があなたの想定通りなら、そもそも彼は脱走なんてしていませんよ」
COAT博士「...むぅ」
彡(゚)(゚)「ババアが言い負かされるの初めて見るな」
(´・ω・`)「しおらしくすると意外と可愛いね」
彡(゚)(゚)「目ぇ腐っとんのか三十路超えたババアやぞ」
COAT博士「お前私が何言われても傷付かないとでも思ってんのか?」
宇野「とにかく情報を集めることが先決です。今から現地に向かいたいのですが、これ、お借りしてもよろしいですよね」
彡(゚)(゚)「これ言うな」
COAT博士「もちろんだ。しばらくこれの顔も見たくないしな」
彡(゚)(゚)「ババータスお前もか」
(´・ω・`)「自分が貶されるのは嫌なんだなぁ」
彡(゚)(゚)「んで、現地っていったいどこに向かうんや」
宇野「被害者が失踪する前に、『自分は世田谷に向かわなければならない』と語っていたという証言があります」
宇野「今日はとりあえず世田谷区の様子、そして可能なら野獣先輩と関わりのある場所を偵察しましょう」
31 :
猫田ねこたむろう
[saga sage]:2016/05/17(火) 18:15:22.36 ID:Ll66/u3MO
〜野獣邸〜
二週間前に、野獣にあの男と引き合わされた時からというもの。俺はずっと、俺の中のもう一つの意識と戦いを続けていた。
MUR「ぐっ...おおっお、ゾッ! いい...レ...ぐうぅぅ!!」
MUR「いいゾ〜こ、れっ、あああああ何も良くない!何一つ良くなんて、なぁいっ!消えろ消えろ消えろぉ!!」
MUR「あの野郎......あの野郎!野獣の野郎! よくも俺を、ゾ、騙しやがったなぁぁぁぁぁ!!」
〜二週間前の回想〜 ”ガン掘リア宮殿前”
暗い夜道を長いこと歩かされると、野獣はある建築物の前で足を止めた。建物全体は一般的なコンクリートだが、外観を丸い円柱の柱が装飾し、宮殿を思わせるような珍妙な造りになっている。
野獣「ここが俺たちの本拠地、ガン掘リア宮殿だ。お前に力を与えてくれる人や、他の仲間も集まっている」
MUR「俺以外にも声をかけていたのか」
野獣「俺の計画は、とても俺一人じゃ回らないからな。中にはお前にとって馴染み深い奴も既に来ている」
MUR(ホモビで共演したあいつのことを言っているのだろうか。出来れば、顔を合わせたくはないな)
野獣と共に建物の中に入る。夜にも関わらず、建物内の明かりは一切点けられていないため、俺は廃墟を歩いているような気分に陥った。そもそも電気が通っていないのだろうか。
階段を登ってしばらく歩くと、野獣は会議室と看板に書かれた扉の前で止まった。
野獣「着いたぞ。彼に会う前に忠告しておくが、お前が持つホモビへの嫌悪感はあまり表情に出すな。戦いが終わるまで、俺たちは協力するべき仲間だということを忘れるなよ」
MUR「......ああ、分かったよ」
野獣「じゃあ行くぞ」ガチャッ キィィィィ
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/17(火) 23:55:20.96 ID:gSpyLEbbo
コテじゃなくてトリつけたら?
33 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/18(水) 21:22:16.21 ID:xF6Nzf6IO
扉を開くと、そこそこ広い部屋が現れた。相変わらず電気はなく暗かったが、日当たりの良い場所なのだろうか。月の光が室内を照らし、ある程度の視界は保持出来ていた。顔は見えないが、あちこちに人の気配がある。
野獣「はじめさん。MURを連れてきました」
??「早かったですね。流石です、田所さん」
扉を開いたすぐ目の前に座っていた男が、立ち上がって近づいてきた。公園のベンチに野獣が現れた時のように、その男もフードを被っていて、顔は分からない。
野獣「はじめさん程じゃありません。ほらMUR、この人がお前に力をくれる人だ。挨拶しろ」
MUR「ど、どうも」
はじめ「来てくれて嬉しいです。僕は『始まりのホモ』と呼ばれる、田所さんの仲間です。まぁここの最古参であり、NO2みたいなものかも知れません。気軽にはじめ、とでも呼んで下さい」
野獣「NO2だなんて謙遜を。はじめさんがいなければ仲間も増やせませんし、はじめさんのおかげでここは成り立っているんですよ」
はじめ「だがリーダーは田所さん、あなただ。こういうのはきっちり線引きして、明示する必要があるんですよ。みんなあなたの意志に惹かれて、ここに来たんだ。私は、あなたを支えるサポート役でいいんです」
野獣「しかし」
KMR「MURさん! お久しぶりです!」
野獣とはじめ、という人物の会話についていけずに突っ立っていると、随分嬉しそうな声が俺を呼び止めた。
34 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/18(水) 21:23:42.91 ID:xF6Nzf6IO
KMR「いやぁ何年ぶりですかね!また会えるなんて嬉しいなぁ」
話しかけてきた顔には見覚えがあった。人懐っこい笑顔に、自身の無さそうな瞳が特徴的な男だ。ホモビの撮影中に出会った中で、俺が好印象を持った唯一の男でもある。あくまで俺のケツを掘ったことがあるという、耐え難き事実に目を瞑ることが出来れば、の話だが。
MUR「ああ、これからよろしくな」
KMR「あっ、よろしくと言っても、もう体洗ったりとかは絶対にしませんからねっ」
MUR「え? あ、ああ。......もう撮影があるわけじゃないし、しないだろそりゃ」
KMR「撮影? 撮影って、なんですかそれ、また変なこと言って僕を騙す気ですか?」
MUR「いや何って、撮っただろうビデオを。あの時」
KMR「えっ?あの時のプレイ、ビデオに撮ってたんですか!? どうやって!」
MUR(なんだこいつ。十何年会わないうちに頭がおかしくなったのか? 話が全く噛み合わない上に、撮影のことも覚えていないだと?)
35 :
◆ZDY.BocFDU
[saga sage]:2016/05/18(水) 21:24:59.45 ID:xF6Nzf6IO
野獣「安心しろよ木村、先輩のただのジョークだよジョーク」
KMR「そうなんですか? あービックリしたなーもう。やめてくれよ...」
野獣「挨拶はそんぐらいでいいだろ。俺と先輩はちょっと話があるから、向こうで体育座りしてろ」
KMR「うん......」
MUR(野獣が俺を、『先輩』だと? ちょっと待て、なんだこれ。KMRのさっきの違和感といい、口振りといいこれじゃあまるで......)
??「MURさん、ご無沙汰しております。悶絶少年専属調教師のタクヤと申します」
??「MUR様、お久しぶりです。緊縛師の平野源五郎です・・・」
??「 ぼ く ひ で 」
MUR(こいつら、まるで『ホモビのキャラそのもの』じゃないか......!)
はじめ「さて、挨拶も済んだようですし、そろそろ始めますか」
野獣「そうですね。よろしく頼みます」
MUR「ひっ...!」
MUR「ま、待て! やっぱりやめた! 俺は帰る帰る帰りたいんだ!家に帰らせてくれよ妻と娘が待ってるんだ!」
野獣「......覚悟はした、と言っていなかったか?」
MUR「ふざけるな! あ、あんな......『あんな風』になるなんて俺は聞いてないぞ!」
野獣「聞かれなかったし、言わなかったからな。......いずれにしろ、もう遅い」
はじめ「さぁ、こっちを見て。こっちに来るんだ。大丈夫、大丈夫。僕の右手で、君は新しい力に目覚めるんだよ...。それはとぉっても、とっても素晴らしいことなんだから」
MUR「やめろよせ。やめてくれ来るな離せ!嫌だやめろ!!やめてくれ!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
フードの男が俺の顔の前に手をかざすと、眩い白い光が視界を包んだ。光が眩しくて、眼を閉じたいのに自分じゃ動かせなくて。次第に酷い目眩がしてきた。頭痛もあったと思うがよく覚えていない。
目から頭に伝わった異常な感覚が、やがて身体へも移り始めた頃。俺の意識はそこでプツリと途絶えた。
36 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/18(水) 21:26:40.36 ID:xF6Nzf6IO
〜coat博士サイド〜
彡(゚)(゚)「おっ、黒くてゴツくて、固そうないい形やんか」
彡(゚)(゚)「...でも、残念なことに長さが足りんなぁ。男はやっぱ長さが命なんやで」
彡(^)(^)「乗せた女を喜ばす...いや、悦ばすには長さこそが全てや! 分かったら生まれ変わってやり直せこのボケェ!」キャッキャッ
宇野「......先程からこの男は何を言っているんですか」
(´・ω・`)「僕ら車を生で見るの初めてでして、それではしゃいでるんだと思います」
彡(^)(^)「おっ、原住民ちゃんやりたくなっても生はやめとけよ生は!生は危険がいっぱいやからな〜アッハッハッハッハ」
宇野「それにしては随分と不愉快なニュアンスを感じるんですが」
(´・ω・`)「仕様です。すいません」
ガチャッ、バタン
??「お初にお目にかかります。この車の運転手を務めさせていただく、権田 源三郎と申します」
37 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/18(水) 21:27:40.95 ID:xF6Nzf6IO
宇野「権田さん、今回もよろしくお願いします」
権田「いえ、仕事ですから」
(´・ω・`)(黒くてゴツくて、頑固そうなオジさんが出てきたな。この人が運転手さんかぁ)
彡(゚)(゚)「うおっ、なんやこのオッさん背ぇでっか!!」
(´・ω・`)(長さもバッチリみたいだ)
宇野「初対面でその言い草は何ですか。少しは礼儀を弁えて下さい」
彡(゚)(゚)「うっせブース」
宇野「なっ...・・」
(´・ω・`)「すいませんすいませんすいません!」
(´・ω・`)「おにいちゃん! 無駄に敵増やさないでっていつも言ってるでしょ!?」
彡(゚)(゚)「でもワイこいつ嫌いやねん。偉そうやし話合わんし、ババアじゃないのにババアみたいなこと言いよるし」
(´・ω・`)「その博士から人付き合いを学べって言われたばかりでしょ! 少しは我慢してよ!」
彡(゚)(゚)「......。」
(´・ω・`)「ほら、宇野さんと、あと権田さんにも謝って!」
彡(゚)(゚)「...チッ。えー、まぁなんだ。流石にブスは言い過ぎたわ。すまんな許してくれ」
彡(゚)(゚)「権田のオッさんも、挨拶が遅れてすまん。これからよろしく頼むわ」
権田「いえ、仕事ですから」
彡(゚)(゚)「...これでええんか?」
(´・ω・`)「う、うん。いいんじゃないかな。どうですか宇野さん」
宇野「ブス...ブスって誰が? 私が? 私がブス・・ まさかそんな......ありえない、ありえないわよそんなこと......」
彡(゚)(゚)「聞いちゃおらんがな」
(´・ω・`)「よっぽどショックだったみたいだね。今まで言われたことなかったのかな」
権田「皆さま方、一先ず車に乗って、目的地に向かいませんか? 話は車内でいくらでも出来ますので」
彡(゚)(゚)「待ってました! いやー楽しみやなーどんな乗り心地なんやろなぁ、車」
宇野「ブス...私が...ブス......」
(´・ω・`)(......やっていけるのかなぁ、こんな調子で)
38 :
◆ZDY.BocFDU
[saga sage]:2016/05/18(水) 21:28:43.11 ID:xF6Nzf6IO
〜20分経過〜
権田「今がだいたい、渋谷区と世田谷区の境のあたりですね」
彡(゚)(゚)「ほうほう、そかそか。いやー渋谷駅のあたりはやっぱ栄えとったなぁ」
権田「日本の文化の交流地ですからね」
権田「なんJ民様達が楽しんでいただけているようで何よりです」
彡(^)(^)「乗り心地も快適やし、景色もいいし、いやーもう大満足や!」
(´^ω^`)「う、うん! ドライブって凄く気持ちがいいんだね!」
宇野「......」
彡(゚)(゚)「車から見える風景は絶えず変化し続け、そしてどれ一つとして同じものはない。訪れては過ぎ去るその目まぐるしい変化は、さながら世の流れを写し出しているのかも知れんなぁ...」
(´・ω・`)(よほど興奮してるのか、下手くそなポエムまで刻み始めた)
宇野「.........」
(´・ω・`)(宇野さんは相変わらず落ち込んでるけど、おにいちゃんは気にも止めてない。『悪口言ったことを謝った』時点で、おにいちゃんの中ではさっきのことは全て解決しているみたいだ)
39 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/18(水) 21:29:52.61 ID:xF6Nzf6IO
彡(゚)(゚)「なぁなぁオジさん。なんで長い車じゃなくて、この黒色の普通車を選んだんや?」
権田「と、言いますと?」
彡(゚)(゚)「いやどうせなら長い方がよくない?」
権田「どうでしょうか。私は宇野さんの指示通りに車を用意しただけですので」
権田「リンカーンリムジンのことを仰っているのでしょうが、あれは街中を走るのにはあまりに不向きですからね」
宇野「普通の車を選ぶに決まってるでしょう。敵地に潜入するのにバカみたいに目立つ車選ぶバカがどこにいますか」
彡(゚)(゚)「おっ、やっと口開きおったか」
宇野「ああ、そういえばここにいましたね。物凄くブサイクなバカが」
彡(゚)(゚)「なんやとこのアマァ!」
(´・ω・`)「おにいちゃん、お互い様だよ!」
宇野「私はブサイクじゃありません!」
(´・ω・`)「そっちの意味でじゃないよ!」
権田「宇野さん、宇野さん。最初の目的地、北沢公園に着きましたよ」
宇野「はぁ!?」
宇野「それってつまり、世田谷区に既に入ってるってことですか!?」
権田「そうですが」
宇野「早く言ってくださいよ!」
権田「いえ、確かにお伝えしたはずですが」
彡(゚)(゚)「なんや聞いとらんかったんか」
(´・ω・`)「話も聞こえないくらい落ち込んでいたのかこの人」
40 :
◆ZDY.BocFDU
[saga sage]:2016/05/18(水) 21:31:32.98 ID:xF6Nzf6IO
宇野「ブサイク! どうですか、このあたりで何か感じませんか?」
彡(゚)(゚)「お前ワイの呼称をブサイクで定着させる気か?許さんぞそんなこと」
宇野「いいから調べてください。何か違和感とか、普通と違う感覚とか、そういうのはありませんか?」
彡(゚)(゚)「そんなん言われても......特になんも変わらんぞ」
宇野「......そうですか。ここには、いないんですね」
宇野「なら、次に行きましょう。権田さん、次の目的地は」
権田「お待ちください。なにやら不埒者の目に止まってしまったようです」
??「おい何やってんだおい〜?楽しそうだね〜?」
??「おいおい俺らも混ぜろよお前〜」
??「おい楽しそうじゃねぇかオラァ」
??「おい何やってんだオイ、ゴルァ!オイ!お兄ちゃん俺らも混ぜてくれや!なぁ!楽しそうだねぇ〜!?」
??「ちょっと熱いんじゃない!?こんな所でー?ねーお兄ちゃ〜ん。混ぜてほしいんだけど〜。おーい」
宇野「チッ、間が悪いですね」
彡(゚)(゚)「な、なななんやなんや。不良3人がワイらの車を取り囲んどるぞ!」
(´・ω・`)「世田谷って治安悪いのっ?」
41 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/18(水) 21:32:37.24 ID:xF6Nzf6IO
権田「成敗してきます。少々お待ちください」ガチャッ、バタン
宇野「よろしくお願いします」
彡(゚)(゚)「オ、オッさん一人で大丈夫なんか!?」
宇野「心配は無用です。私たちプロが、ゴロツキ数人如きに後れを取るとでも思っているんですか? 」
??「オラオラオラオラオラオラ」パンパンパンパンパンパン
権田「グッ...ム...ムゥゥ......ウグォォォォ!!」パンパンパンパンパンパン
彡(゚)(゚)「やられとるがな!後れを取って!」
(´・ω・`)「ヤられてるよ!後ろ(バック)を取られて!」
宇野「そ、そんなバカな! ただのチンピラがどうやって権田さんを......それにあれは、レイプ、なのか?......ああ、そういうことか!」
宇野「ブサイク!原住民さん!車外に出ますよ!」
彡(゚)(゚)「で、出てどうするんや? ワイらは何をしたらええんや?」
宇野「決まっています、戦うんですよ!」
(´・ω・`)「でも相手は一般人だよ!」
宇野「まだ気付いてないんですかっ。彼らは人間じゃありません。あなた方と同じ、概念体です!」
彡(゚)(゚)「なんやって!?」
宇野「さぁ、今すぐ腹を括ってください」
宇野「この戦いが、あなた方の初陣です!!」
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/19(木) 00:26:53.89 ID:qTChlXyho
なんで描写淡白なんだよ
43 :
ねうyork
[saga sage]:2016/05/22(日) 15:12:14.93 ID:kkHm+IXwO
テスト
44 :
◆ZDY.BocFDU
[sage saga]:2016/05/22(日) 15:13:58.20 ID:kkHm+IXwO
〜偵察出発前のcoat研究所〜
coat博士「......あいつら、車が来るって聞いた途端外に飛び出して行ったな」
宇野「まるで子供ですね」
coat博士「実際、まだ生後二ヶ月だしな。見識を広げてくれるのはこちらとしても嬉しい限りさ。......バカの邪魔も入らないことだし、今のうちに行き先について話しておこうか」
宇野「ええ。お願いします」
coat博士「まず偵察に行くなら、最初の場所は北沢公園がいいだろう。北沢公園にもし三人組の概念体がいた場合、三つの利点がある」
宇野「どういった利点でしょうか」
coat博士「北沢公園は進入口である渋谷区から、かなり近い場所にある。もしここで敵に遭遇した場合、戦うか逃げるかのいずれにしろ、他の場所にいる仲間の援軍を避けやすくなる」
coat博士「まぁ偵察が目的なのに、いきなり敵陣の中央深くに潜っても帰ってこれないだろ、って話だ。これが一つ目」
coat博士「二つ目の利点は、北沢公園と関係のある淫夢キャラ、KBSトリオの性質にある。KBSトリオは認知度はそれなりに高いが、戦闘力においてはただのチンピラ程度の認識しかされていない」
coat博士「概念としては雑魚そのものであり、最初の相手としては最もリスクの無い相手なんだ。こいつらと戦った結果によっては、こちらの戦力が敵にどの程度通用するのかを、大雑把にだが推測出来る」
宇野「なるほど」
coat博士「三つ目だが、正直これが一番重要でな。今言ったように、こいつらはそもそも雑魚だ。野獣先輩も、仲間を作るなら概念体としてより強力な人物を選びたいはず」
coat博士「強い仲間が揃っていない時に、こいつらを概念体にする意味は無い。つまりこいつらがもしここに現れたなら、それは敵の陣営がある程度肥え、戦力の余裕がある状態だと判断出来る」
宇野「野獣先輩の仲間を増やす手段が不明な以上、そうとは限らないのでは? なんらかの理由で強い概念体を作れず、雑魚でもいいからとにかく仲間を増やしている最中、とも考えられます」
coat博士「北沢公園の場所がその可能性を否定してくれる。仲間が少なく戦力が足りていないなら、駒をこんな世田谷区の外れに遊ばせておくわけがない。本拠地にでも置いておくのが妥当だ」
coat博士「......だから三つ目の利点は、まぁ敵の状況をある程度予測出来る、ということだ。だが、正直KBSトリオがいない場合の方がこちらとしては都合が良い。敵がまだ弱い可能性が高くなるんだからな」
宇野「......。」
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/23(月) 22:16:59.50 ID:api8ELKUo
概念のところはカオヘリスペクトかな?
46 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:45:02.13 ID:pJInSU0EO
coat博士「最後に、概念体と遭遇した場合の目標、成果の基準を定めておこうか」
宇野「成果の基準、ですか」
coat博士「最良は、概念体を生け捕りにして帰ってくること。良は、概念体を殺して帰ってくること。可は、戦わずに逃げて帰ってくること。BADは、戦ったうえで逃げるか逃げられて帰ってくること。捕らえられたり殺されるのは論外の中の論外だ」
宇野「偵察が目的ですからね」
coat博士「敵に情報を渡さず、こちらが敵の情報を得ることが何よりも大事ってことよ。君は分かっているだろうがな」
coat博士「とにかく、生きて無事に帰ってくることが大前提だ。あいつらはまだまだガキで、自分で考え行動する力はまだ無い。君がしっかり手綱を握って導いてやってくれ。現場の判断は君に頼んだぞ」
宇野「承知しました」
47 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:46:36.80 ID:pJInSU0EO
〜現在 北沢公園〜
宇野(クソッ、北沢公園に三人組が現れた時点でKBSトリオだと疑うべきだったんだ! 私の不用意なミスで、権田さんが......!)
宇野(落ち着け、いつも通りに戻るんだ。大丈夫、もう悩むことはない。車のミラーに写った私が証明してくれたじゃないか)
宇野「だって私は、ブスじゃないもん!」
(´・ω・`)「まだ引きずってたの!?」
彡(゚)(゚)「おい、外に出たはいいがどうしたらいいんや! あちらさん、やたら気が立っとるぞ!」
黒服にグラサンをかけた男が車から出た私たちを認めると、先程まで襲っていた権田さんから離れた。赤色と、青色の服の男二人もそれに慣い、少し離れてこちらを伺っている。黒服がリーダー格、ということなのだろうか。
赤「おいおい、なんだよお前〜」
青「おいやっちまおうぜ」
赤「やっちゃいますか?」
青「やっちゃいましょうよぉ」
黒「そのための...右手? あとそのための拳?」
赤「拳? 自分のためにやるでしょー?」
黒「金!暴力!SEX! 金!暴力、せっ......て感じだな...うん」
彡(゚)(゚)「言うなら最後まで言い切れや!」
(´・ω・`)「恥ずかしくなっちゃったのかな」
宇野「それより仲間同士の会話が、短い間でここまで破綻していることにまず驚きますね」
48 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 12:47:39.18 ID:pJInSU0EO
赤「なんだとグルルルア!!」
青「おいやっちまうぞ!!」
彡(゚)(゚)「!! 来るぞ! ワイらはどうしたらええんや!?」
宇野「まずは雑魚から片付けます!私が黒の足止めをするので、原住民は青、ブサは赤を倒してください! 急いで!」
彡(゚)(゚)「改めるどころか略すなブサイクを! 戦う方法は!?」
宇野「殴れ!!」
元々広くない道路に車を停めているため、車の頭側のあちらと、後部側のこちらを隔てる道の幅は2mほどしか無かった。こちらへ駆けてくる赤と青が、後ろに続く黒への道を塞いでいる。
宇野(逃げるなんて選択肢はハナから無い。こんな雑魚に負けているようじゃ、どの道こちらに未来は無いからだ)
宇野(頼むからちょっとは希望を持たせてくれよ、バカども!)
49 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:48:36.85 ID:pJInSU0EO
狭い道を進めば、赤と青にぶつかる。それならばと、私は車の屋根に飛び乗り、そのまま屋根をひと蹴りして飛翔した。
おお!? と驚いて私を見上げる赤と青の頭上を越えて、私は後方に控えていた黒の左真横に着地する。
ズン、と着地の衝撃が足裏に伝わる。衝撃の勢いを完全に殺すには、両手を使った受け身が必要だったが、私はあえて膝だけで受け止めた。当然勢いを殺しきれず、私の腰は深く沈み込む。逃しきれなかった衝撃に膝が悲鳴を上げるが、致命的な痛みでは無い。私の体重は軽いからな。
黒「おっ!?」
遅ぇよ、と呟き、衝撃の反動を右足の回転力と、左足の地面を蹴る力とに振り分ける。そして私は体幹を軸に体を回転させ、膝の中で暴れ狂っていた衝撃を全て左足に込めた......渾身の後ろ回し蹴りを、黒の肋骨に向けて放った。
宇野「っらぁっ!!」
黒「っわーーーーーい!!」
間抜けな叫び声と共に、黒は道脇の塀に向かって吹き飛んだ。これで相手が生身の人間なら、肋骨が折れて肺に刺さるか、あるいは肋骨が折れるかで確実に戦闘不能になる。しかし、
黒「うわー、もう、びっくりさせんなよー」
宇野(手応えが、まるで無い......!)
50 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 12:49:34.36 ID:pJInSU0EO
左足の踵が黒の肋骨を捉えた感触は、確かにあった。しかしそこから先の肉のめり込みや骨の割れる感触などの、衝撃に対する肉体の反発が、まるで左足に伝わってこなかったのである。
まるでハリボテを蹴り上げたような感覚だった。そのくせ黒の体の重みや肌の質感は人間そのものであり、私はその異質な感触が気持ち悪くて仕方無かった。
黒「ったく女なんかに興味ねえのによー。邪魔すんじゃねえよお前ぇよぉ!!」
宇野(ダメージはほぼ0。これが概念体か)
権田さんがやられるのも当然だな、と思っている内に、立ち上がった黒がこちらへ駆けてくる。
黒「オラァ、女ぁ!」
黒の大振りの右拳が、分かりやすく私の顔を狙ってきた。頭を横に逸らし、カウンターをかます準備をした所で、
宇野「ヒッ・・」
黒の拳の持つ脅威をほとんど本能で感じ取り、私は思い切り横に飛んだ。カウンターも次の攻撃への備えもないまま、私は素人のように地面に転がる。
51 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 12:50:25.00 ID:pJInSU0EO
黒の拳が空を切る。チッ、と舌打ちをする黒は、しかし無防備に倒れる私を追撃しようとはしなかった。どうやら戦いどころか、ケンカの場数もロクに踏んでいないようだ。
拳のスピードは、一般人と比べても並以下だった。殴る姿勢は統一されておらず、読みやすいことこの上無い。
しかし、
宇野(今のパンチ......喰らったら、間違いなく死んでいた!)
銃弾が頬を掠めた時のような、うすら寒さに背筋が凍った。視界に現れた黒の拳が破滅的な威力を誇っていることを、長年の経験が直感という形で教えてくれた。
宇野(こちらの攻撃は、全く効かない。しかしあちらの攻撃は、ただのパンチで致命傷を与えられる、ってことか? ガードも無理だよな一発の威力があんなんじゃ。 アハハ、なんだよそれ)
宇野「反則過ぎるだろ! 概念体ってのは!」
あの博士、なんてもん生み出してくれたんだ! 敵の雑魚でこの強さって、そんなのやってられるかよ!
黒「くそぉ〜。避けんなよぉ、避けると当たんねぇじゃねえかよぉ」
宇野(どっちでもいいから早く、早く来てくれバカども。死ぬ、私死んじゃうからこれ)
転んだ体勢から起き上がると、こちらへ歩いてくる黒の股の間から、向こうの様子が少しだけ見えた。
戦力の片割れであるはずの原住民が、血を流して地面に横たわる姿が視界に映った。
52 :
◆aL7BEEq6sM
[sage]:2016/05/24(火) 12:56:50.78 ID:pJInSU0EO
>>45
カオスヘッドは存在は知っていましたが、実際にプレイしたことはありませんね。
空想を実体化させる、といった能力は昔から定番だよな、とは思います。
53 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:14:21.93 ID:pJInSU0EO
彡(゚)(゚)「あの女のジャンプに気を取られて、アホ共が上を向いとるぞ! 今がチャンスや!」
(´・ω・`)「うん!青い方は僕に任せてよ!」
車と塀の間で立ち往生しとる2人に向かって、ワイらは走った。接近したワイに気づいた赤が、ハッとこちらに顔を向けるが
彡(゚)(゚)「遅ぇわ、死に晒せボケェ!」
赤の服を両手で掴み、力まかせに後方に投げ飛ばす。柔道の綺麗な投げには程遠いが、勢いのあるナイススイングで地面に叩きつけられたと思う。
赤「ぐへぇ」
数回、小さくバウンドする赤の体。逝ったか!?と思ったが、赤はすぐに起き上がり、
赤「くそっ、やりやがったな!」
彡(゚)(゚)「今のでノーダメージなんかい」
全く堪えた様子もなく、平然と立ち上がった。結構、手応えあったんやけどな。これはもう勝てんかも知れんな。
54 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:16:13.35 ID:pJInSU0EO
彡(゚)(゚)「だが、これで広い場所で戦えるで」
赤と青がいた、車と塀の間の狭い道。そんな特殊な場所で喧嘩するイメトレなんて、ワイは一度もしたことがない。だが今の投げ飛ばしで、赤とワイは障害物の無いただの道路に立っている。これで少しは、イメトレ通りに戦えるはずや。
そう思った時、後ろで異変が起きた。
青「ポカポカ殴るだけでよぉ、ウザったいんだよチビ助野郎ぉ!!」
(´・ω・`)「ぐへぇあ!」
振り向くと、原住民が青に蹴り飛ばされていた。青が放った膝蹴りが、背丈が人の腰ほどもない原住民の頭部を捉え、原住民は塀に叩きつけられた。
彡(゚)(゚)「お、おい!原住民ちゃん大丈夫か!?」
赤「おいおい先に俺と戦えよ、そのための拳でしょ?」
慌てて駆け寄ろうとするも、背後から赤に肩を掴まれる。
彡(゚)(゚)「うるっせぇこのダボがぁ!」
頭に血が上ったワイは、振り向きざまに赤を殴りつけた。
55 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:17:11.99 ID:pJInSU0EO
赤「ボリョッ!?」
右拳が赤の頭に当たると、赤はそのまま膝から崩れ落ちた。投げ飛ばしはノーダメージだったのに、何故ワイの拳一発には大ダメージを受けるのか不思議だったが、気にしている余裕は無かった。膝をついた赤の顔を横あいから蹴り飛ばして、ワイは青と原住民の元へ走る。
青「おい大丈夫か振男! てめぇ、よくも振男を!」
彡(゚)(゚)「知るかボケ! お前らが始めた喧嘩やろが!」
高く上げた両拳を強く握りあわせ、青の脳天めがけて思い切り振り下ろす。青は避ける動作もロクにせぬまま、それをモロに喰らった。
青「ガネッ!」
頭を打たれ、体から力が抜けた青がうつ伏せに倒れる。その青の頭部を思い切り踏みつけた後、ワイは原住民に声をかけた。
56 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:18:01.15 ID:pJInSU0EO
彡(゚)(゚)「おい原住民、しっかりせえや!」
(´・ω・`)「ぼ、僕は大丈夫だよ。それよりう、宇野さんを」
彡(゚)(゚)「あんな女なんて今どうでもええわ! お前が大丈夫なんか聞いとるんや!」
(´・ω・`)「だから...大丈夫だって言ってるじゃない。いつも喰らってるおにいちゃんのキックの方が、な、何倍も痛いよ」
彡(゚)(゚)「......そか。そんな減らず口叩けるなら、大丈夫...なんやな。」
車を挟んだ向こう側では、ワイに背を向けて黒が両手を上げ、その背の向こうで宇野が拳銃を手に構えていた。
顔を後ろに逸らし、仲間の青が倒れているのを横目に捉えた黒は、
黒「金田...金田! 暴力もヤられたのか!? チクショウ、てめえよくも2人を!!」
腕を下ろしてこちらに振り向いた。グラサンで隠れて目は見えないが、黒の皺で歪んだ顔は、憤怒の感情を露わにしていた。
宇野「ブサイク、早くこっちに! もう諸々限界です私!」
今まで宇野が銃で脅し、動きを抑えていたのだろう。止まらないと撃つぞ、と宇野が叫んだが、黒は気にも止めずにワイめがけて走り出す。
彡(゚)(゚)「ちょっと待ってろや。パパッとやって、終わりにして、とっととウチに帰るぞ」
(´・ω・`)「うん...ファイトだよ、おにいちゃん」
助走をつけて大きく右拳を振りかぶる黒に合わせて、ワイも三歩助走をつけて、同じく大きく振りかぶる。
彡(゚)(゚)(上等や。仲間やられてムカついてるのが、お前だけやと思うなよ!)
57 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:18:46.43 ID:pJInSU0EO
〜宇野視点〜
私は、ホラー映画というジャンルが大嫌いだ。決して幽霊が怖いからではない。なんでもありの化け物側が、一方的に人間をイジメ殺すというストーリーラインに、なんの面白さも見出せなかったからだ。
しかも後味が悪い方が怖いという理屈からか、私が観たホラー映画の結末は、全てがBADエンドだった。理不尽に強く設定された敵が、主人公達を好き放題いたぶって、ロクな解決もされずに物語が終わる。そんな作品を数本視聴した時点で、私は二度とホラー映画なんか観ないと心に誓った。
物語のテーマがバトルであれ、恋愛であれ、人生であれ、そこに勝ち負けの勝負があるから面白いのだ。大きな困難があってもいいし、その結果が敗北であっても構わない。ただ、こうすれば勝てたかも知れないという勝ちの目だけは、必ずどこかに残すべきだ。仮にもそれが、物語を名乗る代物ならば。
宇野「......本当に、大っ嫌いですよ。アンタみたいな理不尽おばけが」
黒「絶対に殴ってやる。......その為の、拳」
黒がゆっくりと近付いてくる。限られた時間の中で行動を選択する必要があるが、私は少し決断を迷った。
58 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:19:29.09 ID:pJInSU0EO
宇野(私は自分の直感を信じる。さっきの奴の右拳は、絶対に危険な攻撃だった。しかし、他の左拳や蹴りはどうだ?同様の威力があるのか?)
必殺の武器があの右拳だけなら、奴は刀を持った素人とそう変わらない。右拳にだけ注意すれば、奴の攻撃はいくらでも凌ぐことが可能だ。
だがもし奴の攻撃全てに人体を壊すパワーがあるのなら、接近戦はすなわち死を意味する。崩しやジャブですら致命傷になる攻撃を、躱し続ける自信は無い。
宇野(危険なのは右拳か、奴そのものか。......答え合わせの為に、死ぬわけにもいかないしな)
接近戦は無謀と判断した私は、地面をひと蹴りして数歩分後ろに下がった。その時、倒れた原住民と青の元へ、ブサイクが走っているのがちらと見えた。
宇野(ブサイクの方は赤を倒したみたいだな。いいぞ、少しは希望が見えてきた)
59 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:20:10.27 ID:pJInSU0EO
後方にジャンプした私を見て、黒が走る体勢に入った。黒が一歩を踏み込む前に、私はスーツの裏地から拳銃を取り出した。
宇野「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」
黒「っ! じゅ、銃!? なんで!?」
黒が足を止め、銃口を凝視する。概念体であるはずの黒の狼狽ぶりは、脅威に晒された一般人のお手本のようだ。
宇野(思ったとおりだ。日本人が銃を向けられる機会などほとんど無い。人は未知の脅威に怯える生き物だが、元々人間だった概念体もそれは同じだろう)
宇野(奴は銃を向けられたことがない。撃たれたこともない。だから奴は銃の威力を知らない。だからこそ、奴は恐れているんだ!銃の持つ未知の脅威を!)
このまま引き金を引けば、もしかしたら奴を殺せるかも知れない。銃弾の運動エネルギーならば、奴の不可思議な外皮を打ち破り、その内にある肉体にダメージを与える可能性は、確かにあった。
しかし同時に、回し蹴りを放った時の感触が、おそらく無理だと異議を唱える。あれは物理法則が通用する物質ではないと、そう本能が叫んでいた。
60 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:20:52.83 ID:pJInSU0EO
黒「なんだよお前ぇ、なんで銃なんて持ってんだよぉ! ただの喧嘩でそんなのって、頭おかしいだろぉおい」
敵が銃を恐れてくれている以上、こちらから撃つのは得策ではない。銃弾が黒の体に当たって、それでもダメージが入らなかった場合。未知は既知となって、銃の脅威は効力を無くす。そうなれば、もう私に残された手立ては0になってしまうだろう。
宇野「口を開くな。両手を挙げろ。膝をつけ。撃たれたくなければ早くしろ」
黒は怯えた表情で両手を上げるが、膝をつこうとはしなかった。銃を前に、逃げる可能性を自ら絶つのが怖いのだろうか。
黒の背後では、ブサイクが青を一撃で沈めていた。ブサイクが強いのか、青と赤が弱かったのかは知らないが、これで残すは黒1人のみ。
私が銃で注意を惹き付けている内に、黒を背後から襲って欲しいのだが、ブサイクはそのまま原住民の安否を確認するようだ。
宇野(仲間ですもんね。そりゃ無事を確かめますよね。もちろん否定はしませんよ。だからせめて、急いでくださいよブサイク!)
61 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:21:48.49 ID:pJInSU0EO
黒「お前、そんなの撃ったらどうなるのか分かってんのか? 殺人犯だぞ、殺人犯」
宇野「......」
この銃で殺せるものなら今すぐ殺したいです、なんて本音は言えないため、私は無言で返す。
黒「つぅかポリじゃねえのに銃持ってるなんておかしくねぇか? それ、本当に本物か? 実は玩具なんじゃねえの」
緊張感に耐えかねたのか、黒は都合の良い想像を真実だと思い込み始めた。黒が生身の人間なら、その現実逃避は愚か者の極みだ。が、概念体なら本物の銃を玩具に例えても、間違いではないかも知れない。
宇野(まずいな)
宇野「おい! 勝手に動くな!」
仲間に助けを求めたかったのか、黒は制止も聞かず顔を後ろに逸らし、
黒「金田...金田! 暴力もヤられたのか!? チクショウ、てめえよくも2人を!!」
うつ伏せに倒れている青と、ブサイクを視認した。これで、背後からの不意打ちの目は消えた。
宇野「ブサイク、早くこっちに! もう諸々限界です私!」
62 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:23:20.35 ID:pJInSU0EO
黒の目に怒気が宿った。危険な匂いを感じた私は動くな、撃つぞと叫んだ。
黒「うるせぇ! それってどうせモデルガンだろ、分かってんだよ!」
恐怖心からの逃避と、仲間を倒された怒りが重なり、銃の脅威は黒の心から消えてしまったようだ。
私の制止を振り切り、黒はブサイクへ向けて走り出す。私の時と同じように、黒が右拳を大きく振りかぶる。対するブサイクも、同じ動きで黒を迎え撃った。
宇野(クソッ、日本人特有の危機感の無さが裏目に出た)
銃の脅威は既に消えた。なら、私に出来ることはもうこれしかない。
私は黒の右腿に照準を定め、撃鉄を引いた。パンッと、不愉快に乾いた音が周囲に響く。
63 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:24:01.31 ID:pJInSU0EO
黒「おおっ!?」
やはり銃弾でも概念体の外皮は貫けないようだ。貫けない壁へと斜めの角度で侵入した銃弾は、行き先を求め、黒の足を下へ向けて這い回った後にどこかへすっ飛んでいったことだろう。
黒は右足を前に浮かされ、体勢を崩した。私の狙いは、黒にダメージを与えることではなく、この崩しにあった。先程の回し蹴りで、衝撃によって概念体を弾き飛ばせることは分かっていたからだ。
黒は殴る体勢から背を仰け反らされる。それを追うように、ブサイクの右拳が黒に迫る。
宇野(私は、理不尽おばけが敵のホラー映画なんて大嫌いだ。でも、)
彡(゚)(゚)「死に晒せやああああああ!!!」
黒「ゼッグズッッ!!」
ブサイクの右拳が黒の顔面を振り抜いた。地面に叩きつけられた黒は、グラサンが砕け、鼻血を流し、ピクリとも動かない。
宇野(味方にも理不尽おばけがいる映画があるなら、もう一度だけ観てやってもいいかな)
戦いの終わりに胸を撫でおろし、私は静かにそう思った。
64 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:26:47.48 ID:pJInSU0EO
〜数分後〜
宇野「あ、危なかった。もう少しで死ぬところだった」
彡(゚)(゚)「おぅ、ちゃんと感謝せえよ」
(´・ω・`)「だから、お互い様だってばおにいちゃん」
彡(゚)(゚)「血ぃ流して倒れてたくせに、あっという間にピンピンしとるなお前。心配して損したわ」
(´・ω・`)「おにいちゃんのお陰で、怪我は日常茶飯事だからね」
宇野「......私が言っていたのは、私ではなく権田さんのことです」
彡(゚)(゚)「?」
65 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:27:46.02 ID:pJInSU0EO
宇野「車のヘッドライトを見てください」
宇野が指を指す方を見ると、車のナンバープレートにもたれて倒れているオッさんと、そのすぐ脇で、
彡(゚)(゚)「なんか割れとるな、灯りのところが」
宇野「黒に当たった弾が、不規則に跳ねてここに当たったようです。弾の軌道がもう少しズレていたら、私は権田さん殺しの犯人として追われる所でした」
宇野「私としたことが、あまりに軽率でした。黒に気を取られるあまり、権田さんや周囲の安全への配慮がまるで足りていなかった」
彡(゚)(゚)「まぁ、実際当たらんかったんやからええやろ。しょせん結果が全てや」
(´・ω・`)「おにいちゃんの思考は大雑把過ぎるけど、そうだよ。ミスなんて次から気をつければいいことじゃない」
(´・ω・`)(開始5秒でノックダウンした僕は、今回、判断をミスする土俵にすら立てなかったんだけどね)
66 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:28:41.83 ID:pJInSU0EO
宇野「......そうですね。とりあえず今は、さっさと帰る支度をしましょう。なんj民さんは、気絶している権田さんを車に運んでください。原住民さんはその間に、KBSトリオ達を縄で縛ってください」
(´・ω・`)「えっ、この人達も連れて帰るの? でも7人もいたんじゃ、席が足りないよ」
宇野「車の後部座席は前に倒すことが出来ます。狭い思いはするでしょうが、なんとか納まるはずです」
彡(゚)(゚)「縄なんかこいつらに効果あんのか?」
宇野「概念体も完全に物理を透過するわけでは無いらしいので、ある程度は効果があるでしょう。ただ、彼らのパワーがどの程度のものかは未だ不明です。危険ですので、運転中に彼らの目が覚めたら、殴りつけてまた眠らせてください」
彡(゚)(゚)「運転はどうするんや? オッさんを無理矢理叩き起こすんか?」
(´・ω・`)「殺伐としてるなぁ......」
宇野「それには及びません。私が運転して帰りますので、皆さんは車の中で休んでいて下さい」
彡(゚)(゚)「オッさんと違って、お前の運転は安心出来そうにないな。なんか、うっかり人轢き殺しそうなツラ構えしとるもん」
(´・ω・`)「うっかり権田さんを殺しかけたばかりだしね」
宇野「散々な物言いですが、まぁいいでしょう。私の運転の良し悪しは、結果を見てから判断してもらいます。それに、今日初めて車に乗ったあなた方は知らないでしょうが、」
宇野「免許制度が存在する以上、交通事故というのは余程のバカか、余程の不運の持ち主にしか起こらないように出来ているんですよ」
67 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:29:25.04 ID:pJInSU0EO
〜少し前の野獣邸〜
MUR「ぐぅぅ......ううああっ、あっ!」
野獣「驚いたな。まだ概念に抵抗しているとは、大した精神力だよ」
MUR「チラチラ話し、かけるな...!お前の声は、腹が減るんだよ鈴木」
ガン掘リア宮殿で『始まりのホモ』に何かをされてから、2週間が経った。初めの三日ほどは何の変化もなく、木村達のようなモノになる気配は無かった。
もしかしたら俺は特別で、俺も鈴木のように自分を保てるのかも知れない。そう淡い期待を抱き始めた五日目を境に、ソイツは俺を刻一刻と蝕んでいった。
MUR「そうだよ(便乗) 、全部あいつが、チラチラ俺のこと見てたから、見ろよホラ見ろよ見たけりゃ見せてやるよ悪いんだ今日はいっぱい鈴木お前もだよ当たり前だよな、ああ、っああああああああ!! 消えてくれ!消えてくれ!!頼む助けてくれよ鈴木ぃ!!」
68 :
にゃんko
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:30:20.63 ID:pJInSU0EO
毎日、毎日、溢れてくる俺の中のもう一人のソイツ。初めは弱かったくせに、だんだん強くなって、抵抗するのがどんどん辛くなっていって。
今では気を抜くと、いや抑えこもうとする最中ですら、ほとんどソイツになってしまっている自分がいた。ソイツになっている時間が、楽で、痛くなくて、幸せに思えてしまうのが、俺は途方も無く怖かった。
野獣「......お前の抵抗は無駄だ。早く諦めた方がずっと楽だぞ、MUR」
MUR「な、なんで......」
野獣「二週間前、『始まりのホモ』はお前に、『概念の卵』を植え付けた。その能力がどういう理屈で、何故奴がそんな能力を持っているのかは俺も知らん」
野獣「分かっているのは、概念の卵が孵化すると、植え付けられた人間は概念体になるということだけだ。今お前の身体の中では既に、その孵化が始まっているはずだ」
MUR「......。」
野獣「概念体になるという事は、みんなが想像するキャラクターになる、というのと同義だ。お前は既にそうなったガン掘リア宮殿の仲間達を見て、必死で孵化に抵抗しているのだろう。ああはなりたくない、ってな」
69 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:31:01.31 ID:pJInSU0EO
野獣「だがな、何千何万の人間が抱くMURへのイメージと、お前一人がイメージするお前の人格、一体どちらが強いと思う? 川の激流にどれだけ逆らったところで、いつかは力尽きて流される。だから早く、楽になれよMUR」
MUR「ぅ......ゾ......」
野獣「信じてくれとは、言わない。俺は確かに重要なことを黙って、お前を今酷い目に合わせている。だがあの夜、あの公園でお前に言った言葉に、嘘は無いんだよMUR。俺は本気でお前の人生を救いたいと思っているんだ」
野獣「戦いが終わるまでのほんの少しの時間、力を貸してくれればそれでいいんだ。約束するよ。必ずお前を、家族の元へ帰してやる。お前の人生を取り戻させてやる。だからさMUR」
野獣「もうそんなに......苦しまないでくれよ」
MUR「ち、違うゾ......。野獣......」
野獣「!」
MUR「俺が、俺が嫌なのは、ホモビ時代のキャラに、戻ることなんかじゃないんだ。そんなことより、そんな下らないことより、ずっとずっと、俺が嫌なのは......」
MUR「俺が、ホモビのキャラになっている時......俺の頭の中から、娘と妻が消えてしまうんだ......。それが俺には......死ぬことよりも、耐えられない......!!」
70 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:32:22.43 ID:pJInSU0EO
忘れるものか。初めて妻とデートをした日の、あの世界の煌めきを。
忘れるものか。俺のヘタクソなプロポーズを受けてくれた時の、彼女の笑顔を。
ずっとずっと忘れるものか。俺の穢れた過去を打ち明けて、別れを切り出した時の彼女の言葉を。
「私はね、過去を積み重ねて出来た今のあなたを好きになったの。この人となら楽しく未来を歩めると思って、あなたを選んだの。
そんなことで揺らぐほど、結婚する女の覚悟って軽くないのよ?......だからホラ、そんな思い詰めた顔しないで、いつもみたいに笑ってよ」
決して忘れるものか。あの言葉に救われたから、受け入れてもらえたから、今日まで俺は生きてこれたのだ。
MUR「忘れたく...ない。忘れたくないんだよ......!」
71 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:33:00.59 ID:pJInSU0EO
そしてその最愛の妻との間に、子供を授かった。娘は妻に似て、賢い子に育ってくれた。そしてこれからもっともっとたくさんのことを学んで、未来へ羽ばたく翼を手に入れるのだ。
きっとあの子は、何にでもなれる。俺が立ち止まってしまった場所をあっさりと飛び越えて。なりたい自分に、行きたい場所に。ほんの少し手助けしてやりながら、俺はそれをずっとずっと見守っていくのだ。
こんな俺でも父親になれるのだと、教えてくれたのはあの子だ。当たり前の家庭の幸せを、教えてくれたのはあの子だ。娘は俺の宝であり、希望の光なんだ。
MUR「忘れない......俺は、忘れない......!」
野獣「......そうか。そこまで言うなら、好きにすればいい」
72 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:33:36.34 ID:pJInSU0EO
野獣「だがお前がこの部屋に篭りきりになってから、もう二週間経つ。これはマトモな人間でも気が狂う日数だ」
野獣「たまには外に出て太陽を浴びろ。世田谷区の中なら好きに歩いてくれて構わない。散歩でもすれば、少しはその苦しみも楽になるかも知れないぞ」
MUR「......ああ」
ほとんど朦朧とした意識の中で、野獣の言葉に俺は答えた。野獣が何を言っていたかもよく覚えていないが、『楽になる』という言葉が、とても魅力的に思えた気がした。
野獣「俺はこの後すぐに、遠征に出る。外に出た後は、お前の好きな場所に行けばいい。そしてここに帰ってくるんだ、いいな?」
MUR「......。」
野獣(外に出れば、閉じ篭るより何倍ものストレスがこいつを襲うだろう。視覚、聴覚に障るものが、外にはいくらでも転がっている)
野獣(そうすればこいつの孵化も、きっと加速するに違いない。これ以上苦しめない為にも、とっとと終わらせてやった方がMURの為なんだ!)
73 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:34:16.95 ID:pJInSU0EO
〜現在〜
彡(゚)(゚)「な〜んか、オッさんの運転より揺れが激しい気がするんだよなぁ」
宇野「権田さんのような最高級の腕前と比べないで下さい。車の運転なんて、目的地に無事に辿り着けばそれで合格なんですよ」
(´・ω・`)「権田さんの時は凄い快適だったんだけどなぁ」
宇野「狭くて窮屈なのは仕方ないでしょう。普通車に無理矢理7人詰めているんですから」
彡(゚)(゚)「あっ、今コイツ一時停止の標識無視しよったぞ! 交通法違反や!」
宇野「うるっさいですね! 街路の一時停止なんてノルマ稼ぎのネズミ捕りがいなけりゃ、有って無いようなもんなんですよ、......ってキャアアアアアアアアアアアア!!!!」
74 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:35:05.47 ID:pJInSU0EO
宇野の操る車がT字路を左折した時、事件が起きた。ランニングをしていたらしい、白いTシャツを着たハゲのオッさんが、かなりの勢いで車に衝突してきたのだ。
ガンッと、振動が車内に広がり、ぶつかった男が仰向けになって倒れた。
彡(゚)(゚)「これは......大変なことやと思うよ」
(´・ω・`)「冗談が、冗談じゃなくなっちゃった瞬間だね」
宇野「いやいやいやいやちょっと待って下さいよ! 今の、見てましたよね!? どう考えても向こうが勝手にぶつかってきたじゃないですか! あのハゲのおっさん絶対当たり屋ですよ! 私が左折するの見えてたはずだもん!!」
彡(゚)(゚)「自己弁護より先にやるべきこと、たくさんあるんじゃないですかねぇ」
(´・ω・`)「あっ、でも見て! あのオジさん立ち上がったみたいだよ!」
宇野「良かった!生きてた! これで捕まらないで済むぞ!生きて五体満足なら、金を握らせてどうにかなる!! ヒャッホー!!」
彡(゚)(゚)「こいつ、テンパりまくって本性だだ漏れになっとるな......ん?」
75 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/24(火) 13:35:58.17 ID:pJInSU0EO
立ち上がったオッさんの異変に、気付いたのはワイだけのようだった。オッさんの放つ歪な気のようなものを、ワイは肌で感じた。
??「ウ...ウゥゥ......」
彡(゚)(゚)「...おい轢き逃げ女。こりゃあマズいで......はよ、逃げろや」
宇野「は? 逃げる!? そんなことしたら、私問答無用で捕まっちゃうじゃないですか! ここは金でなんとか」
彡(゚)(゚)「そういうの今要らんねん。はよ逃げるんや。いいから早く車バックさせろ」
宇野「......どういうことですか?」
彡(゚)(゚)「あいつ、多分概念体や。それに、とびっきり強いの」
宇野「っ!」
(´・ω・`)「ええっ!?」
ワイがそう言うた瞬間、宇野は元来た道にバックした後、右折してオッさんから離れるよう動いた。流石に、頭の切り替えはクッソ速いみたいや。
76 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/24(火) 13:37:37.55 ID:pJInSU0EO
??「グウゥゥ......ゾォォォォォォォ!!!」
概念体の咆哮が、車内にまで轟く。概念体は鬼瓦のような形相で、車相手に追いつこうと全力疾走してくる。
彡(゚)(゚)「お、おい! 白Tシャツ着て、ハゲで有名なオッさんって誰がいるんや!?」
宇野「あなたが彼を強いと感じたなら、おそらくはMURだと思われます!」
彡(゚)(゚)「それってどんな奴やんや!」
宇野「KBSトリオなど比にもならない、淫夢史上最強の3人組、迫真空手部の一人です!」
宇野「MUR、KMR、そしてあの野獣先輩によって構成される迫真空手部。MURはその中にあって最上位に位置し、大先輩と呼ばれる強者です!!」
彡(゚)(゚)「野獣先輩より上......やと?」
そんな凄い奴が、なんでこんなところに?
ワイは車のミラーから顔を出し、追跡してくるMURの顔を見る。
奴のその血走った目と鬼の形相からは、欠片の理性も感じられず、疑問の答えはきっと与えられないだろうことをワイは悟った。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/26(木) 21:54:53.45 ID:FqA0GYrNO
大長編感動モノの予感、いいゾ〜これ
78 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:43:16.67 ID:rXJ5SWtRO
〜10分前〜
MUR「......どこだ、ここは。なんで俺、こんなところに」
気がつくと、俺は公園のベンチに座っていた。日中の陽射しが地面を、空を照らし、暗闇に慣れた俺の目に眩く光る。
気温はそこまで高く無かったが、俺の座るベンチは日当たりが良すぎるようで、陽に晒された肌がじんわりと湿る。服装が白いTシャツであることに初めて感謝した。日陰に移動する元気も、今の俺には無かったからだ。
MUR「身体が、ダルい」
陽射しの暑さよりも、動くことのほうが厳しかった。倦怠感が全身を包み、指先一つ動かすことさえ、今は面倒くさい。
俺は今まで何をしていたのだろう。野獣に外に連れ出されてからの記憶が、まるで無い。が、身体のダルさと引き換えたように、「俺の中のソイツ」が、今は随分とおとなしかった。
ソイツになっている時間が、俺には何よりも苦痛だ。身体を少しでも動かしたら、今の穏やかな、ソイツが静かにしてくれている状態が、また崩れてしまうかも知れない。
ソイツを刺激するのが怖かった俺は、暑さとダルさを受け入れながら、このまましばらく座っていようと決意した。
父「よーしじゃあちょっと速く投げるぞー」
少年「かかってこぉい!」
目の前にはブランコや滑り台といった定番の遊具が置いてあり、そのすぐ近くで10歳と40歳程の親子が、キャッチボールをして遊んでいた。
今は確か、6月の中旬だっただろうか。いや、俺はあの部屋に二週間は篭っていたと、野獣は言っていた。なら今は6月の暮れか、あるいはもう7月に入っているのだろう。そういえばこの公園にも、蝉の鳴き声がどこかから響いていた。
夏の始まりを告げるようなジー......というこの鳴き声は、たしかニイニイゼミだ。
79 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:45:59.98 ID:rXJ5SWtRO
〜〜
娘「ニイニイゼミって、全然ニイニイ鳴いてないよね。ずっとシャワシャワ言ってるだけだし」
MUR「そうだなぁ」
娘「なんでニイニイゼミって言うんだろ。昔の人には、これがニイニイって聴こえてたのかな」
MUR「誰もニイニイって聴こえてないけど、偉い人が勝手に名付けちゃったから、みんな仕方なくそう呼んでいるだけかも知れないぞ」
娘「パパ、今すごい適当なこと言わなかった?」
MUR「......すまん」
娘「伝えるじょーほーは、ちゃんと調べて、正確にしてね。子供は親の言うことを鵜呑みにするしか無いんだから」
MUR「娘は難しいことを言うなぁ。よし分かった!帰ったらパパが調べといてやろう」
娘「うん! よろしく頼むね」
〜〜
親子のキャッチボールをぼんやり眺めながら、娘との何気ない会話を思い出す。
MUR(あれは、何時のことだったか。確か山にカブトムシを探しに行った時、だったよな。それで、今よりもっと暑い日で......えっと......それで.........あれ?)
少年「あっ、くそぉ」
何度目かの往復を経て、息子の方がボールを取り損ねた。跳ねたボールがコロコロと転がっていき、俺の足元で止まった。
MUR(あの時、妻はどこにいたんだ? そもそも、あれは何年前の出来事だっけ? あれ、おかしいな。思い出せない。思い出せない? 思い出せないってことは、それってつまり俺は)
MUR(妻と娘との思い出を、忘れた...ということか?)
少年「すいませーん。おじさーん。そのボール僕のですー。投げてもらっていいですかー?」
MUR(待て、待て、待て。なんでだ、思い出せない。そもそも、娘と遊びに行った場所は、他にどこがあった? 遊園地やピクニックには、絶対いつかは行っているよな)
足元のボールを見つめながら、俺は必死で彼女たちと過ごした日々を思い起こす。少年が俺に声をかけたが、俺は返事をすることも、ボールを投げ返してやることも出来ない。身体のダルさもあったが、それよりも俺はとても、とても静かに......パニックを起こしていたから。
80 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:47:10.11 ID:rXJ5SWtRO
MUR(なんでだ? なんで出てこないんだ? ニイニイゼミの話なんかより、もっとたくさんの思い出があっただろう。例えば、例えば......とにかく、楽しかった思い出が、たくさんあったはずだろう......)
公園に響く蝉の鳴き声が、肌を照りつける太陽の熱が、俺の渇いた焦燥感を逸らせている気がした。動かない身体に反して、心臓は鼓動を加速させ、頭の中で耳鳴りが響く。
思い出そう、思い出そうといくら命令しても、浮かんでくるのは輝いたあの時間ではなかった。脳の力が緩み、脳裏に映し出されたのはむしろ、
鈴木『MURさん、これ夜中腹減んないですか?』
MUR『腹減ったなー』
鈴木『この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ』
MUR『行きてえなー』
鈴木『じゃけん夜いきましょうねー』
MUR『おっ、そうだな...あっそうだ、オイ木村!』
浮かび上がる、あの悪夢のような光景。撮影はもう10数年前の出来事なのに、今は何故か、つい最近の出来事のように鮮明に思い出せる。俺があの場で何を言ったのか、何をしたのかを。
その代わりに、妻と娘と共に過ごした日々の記憶が急速に褪せていくのを感じる。まるで夢から醒めた後のように、彼女たちとの思い出から現実感が消えていく。確かにあったという確信が薄れていく。
MUR(あぁ、そうか......)
少年「取ってくれてもいいじゃん、もう」
少年が俺の足元まで来て、ボールを拾う。かがんだ姿勢から立ち上がろうと顔を上げた時、俺と目があった。
少年「おじさん? おじさんどうしたの?」
MUR(もう、駄目なんだ、俺)
野獣『分かっているのは、概念の卵が孵化すると、植え付けられた人間は概念体になるということだけだ。今お前の身体の中では既に、その孵化が始まっているはずだ』
先ほど野獣が言った言葉を、思い出す。身体のダルさの原因も、記憶が消えた理由も、やっと分かった。
少年「おじさん.........泣いてるの?」
81 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:49:46.04 ID:rXJ5SWtRO
MUR(俺の身体は今、サナギと同じなんだ。身体がダルかったのは、孵化のために俺が大人しくしている必要があったから。記憶が消えていくのは、俺がどんどん、ソイツに近づいていってるからなんだ)
MUR(今まさに俺は、俺じゃなくなっている最中なんだ)
父親「お、おい明日名!その人から離れなさい!」
少年「お父さん! この人泣いてるよ!泣いてるよ!」
父親「いいから早く! 今日はもう帰るぞ!」
挙動不審な俺を、危険人物だと思ったのだろう。父親が少年の腕を掴み、どんどん遠くへ離れていく。
父親の判断は、正しい。俺はもう、人間じゃ無くなってしまうのだから。概念体とやらになった後で俺が何をするのかは、俺にも分からない。
キャッチボールをしていた親子が去り、公園に残ったのは俺と、どこかで鳴いているニイニイゼミだけ。
MUR(そういえば俺はあの後、ニイニイゼミの名前の由来を、娘にちゃんと教えてやったのだろうか)
なんでこんなしょうもない記憶が、こんな時に一番頭に残っているんだろうと俺は自嘲する。彼女たちとの思い出が消えてしまうって時に、なんで俺は......。
MUR(......もしかして、)
MUR(俺はニイニイゼミにまつわる娘との会話を覚えていたんじゃなく、今、この場で思い出したんじゃないのか? 目の前で親子が遊んでいて、ニイニイゼミが鳴いていたから)
MUR(記憶にまつわる何かを見れば、俺はその出来事を思い出せるんじゃないだろうか。だから、俺はあの時の妻が何をしていたのか思い出せなかったんだ。この場に、妻を連想させる何かはなかったから)
じゃあ、妻と娘に会えば、俺は彼女たちとの記憶を、思い出せるんじゃないか? 記憶を失わずに、済むんじゃないか?
そう思い至った俺は、重たい身体を無理矢理立ち上がらせた。概念体になろうとする意志が、俺に動くなと命じているなら、俺はそれに逆らわなければ。
MUR「帰ろう。妻と娘のところへ」
82 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/27(金) 11:50:24.44 ID:rXJ5SWtRO
帰ろう。もう帰ろう。ホモビだの、概念だの、そんなことはもうどうでもいい。この記憶が、彼女たちの顔さえ分からなくなってしまう前に、家に帰らなければ。
MUR「ぐぅ、うぅ、ぐっ...!」
全身を包む倦怠感が、一歩、また一歩と踏み出すことにさえ、苦痛を伴わせる。身体が叫んでいるのだ、お前は大人しくしていろと。
MUR「うるっせぇんだよ......俺は、家に帰るんだ!!」
なんとか足を踏み出し、俺はようやく走り始めた。最初は沼の中を進むような、酷い疲労感を伴った。だが10歩、100歩と進む内にだんだん身体が楽になっていく。重い鎖が外れたみたいに、どんどんスピードが上がっていく。
MUR「うおおおっ、おおおおおおお!!!」
走る。走る。走る。公園を抜け、街路に出た。俺の家の方角はどっちだったろうか。思い出せない。思い出せないが、動かないよりかはマシだ。走っていればいつかは家にたどり着くはずだ。そのはずだ。
走る。走る。走る。身体が凄く軽い。走るのが気持ちいい。家に帰れば、妻と娘が待っている。早く帰って、シャワーも浴びたい。これだけ汗を流したのだ、きっと気持ちがいいだろう。
走る。走る。走る。家に帰れば妻と娘が待っている。家についたら、もう俺は空手部なんて辞める。鈴木や木村には悪いが、あんな部活、俺は苦しくて嫌なんだ。
走る。走る。走る。妻と娘が待っている。妻と娘が待っている。早く帰らなきゃ、家に帰ってラーメンにミンミンゼミを入れるんだ。妻と娘が待っているんだから。
MUR「いえっ、いえっ、つまぁ!むっ!!」
俺は走った。とにかく走った。そして走っていると黒い車が道からでてきて、はねられた。びっくりしたので、でも俺はぜんぜん平気だったから、車が動くのをみて、車で思いついた。
そうだ、この車に連れていってもらって、車で家と妻と娘に連れていってもらおう。妻と娘が待っているんだから。
MUR『俺も乗せてくれ』
そう言っているのに、車はいきなり動いて、俺にお尻を向けて、走ってしまう。待って、って言っているのに、走ってしまう。
MUR『待ってくれ!俺も乗せてくれ! 俺を家に連れていってくれ!』
車は止まらない。走ってしまう。追いかけなきゃと思って、俺は走る。頑張って走って、走っていると、車から黄色い奴が車から顔を出して俺を見た。俺を見た黄色い奴が俺を見るから、そいつに向かって俺は大声で叫んだ。
MUR『俺を家に連れていってくれ! 俺を家に連れていってくれ!』
MUR『妻と娘が、待っているんだ!!』
83 :
◆aL7BEEq6sM
[sage saga]:2016/05/27(金) 11:57:15.79 ID:rXJ5SWtRO
彡(゚)(゚)「お、おい! もっとスピード上げろや轢き逃げ! もう追いつかれるぞ!」
宇野「轢き逃げ言うな!無茶言うな! こんな住宅街の狭い道でかっ飛ばしたら、また人轢いちゃうかも知れないじゃない!」
彡(゚)(゚)「一回轢いたら百回も万回も大して変わらんわ!」
(´・ω・`)「変わるに決まってるでしょ!」
宇野「じゃああなたが運転してくださいよ! 私もうあんな怖い思いするの嫌なんですよ! 当たった瞬間もう、強い衝撃が前からドンっとして、」
宇野がヒステリックに叫ぶのを遮るように、ドンっという衝撃が車内を揺らした。今度は後ろからのようや。
宇野「うひゃあああもうやだぁ! 今度はなんなんですか玉突き事故ですか!? 私の過失は0ですか!?」
彡(゚)(゚)「ちゃうわボケ! お前がちんたら運転するから追いつかれたんや! むしろお前の過失が10や!」
宇野「安全運転してるのにっ」
(´・ω・`)「宇野さんのキャラが壊れてる......」
縄で縛ったKBSトリオの向こうに、バックドアの上に四つん這いで乗るMURの姿が、ミラー越しに見えた。さっきの衝撃は、こいつが飛び乗ったことによるものだろう。
彡(゚)(゚)「おい! MURが車の後ろに乗っとるぞ!どうするんや!」
宇野「......あー、もう! 今から車を右に寄せて走らせます! なんJ民さんは左のドアを開けて車の屋根に登って、彼を車からはたき落として下さい!」
彡(゚)(゚)「戦え...ちゅうことか?」
宇野「車から落としてくれれば手段はなんでも構いません。原住民さんはその後で扉を閉めてから、なんJ民さんら外の様子を私に報告してください!」
84 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/27(金) 12:01:11.38 ID:rXJ5SWtRO
(´・ω・`)「ラジャ!」
彡(゚)(゚)「そうと決まれば......オラァ!」
青「ガネッ!」
赤「ボリョッ!?」
黒「ゼッグズッ!!」
気絶しているKBSトリオを、念のため一発ずつ殴ってから、ワイは左側のドアを開いた。
彡(゚)(゚)「途中で目が覚めたら面倒やからな。ほな、行ってくるで」
(´・ω・`)「行ってらっしゃい!気をつけて!」
車の屋根に手をかけ、一息で全身を屋根まで運ぶ。バックドアに両足を着けるMURに対して、やや高い位置で向かい合う。
彡(゚)(゚)「よう、お前がMUR大先輩やな」
MUR「......ゾ、ゾ、ゾ」
バタンと音を立てて、原住民がドアを閉めた。それとほぼ同時に車が左折を始め、慣性による圧がかかる。ワイは身体を少しよろめかせながら、足場が悪いとこで長いこと戦うのは、多分よろしくないなと思った。
85 :
◆aL7BEEq6sM
[saga sage]:2016/05/27(金) 12:05:27.48 ID:rXJ5SWtRO
彡(゚)(゚)「戦う前に、2つだけ礼言うとくぞ。結構余裕あったはずなのに、車壊さないでくれてありがとな。狙いが何かは知らんが、ワイこの車けっこう気に入っとるんや。お釈迦にされたらそりゃもう、たまらんかったわ」
MUR「......ウゥ」
彡(゚)(゚)「2つ目。お前みたいな文句無しに強い奴を、ワイは待ってたんや。さっき戦ったアホどもは、まぁ一発で倒せたんやけども。あんな雑魚っぽいの倒しても、ワイが強いのか弱いのかよう分からんからな」
彡(゚)(゚)「お前はなんか言いたいことあるか?」
MUR「ゾ、ゾ、ゾ、いいゾ〜」
彡(゚)(゚)「......そか。まぁ、そうやろな。んでは」
彡(゚)(゚)「分かり合えない事が分かったところで、やらせてもらうぞ死に晒せぇ!!」
宇野「原住民さん! 上の様子は!?」
(´・ω・`)「ま、まだ戦ってないみたい!」
宇野「人のこと遅いだのチンタラしてるだの言っといて、なに自分はまったりしてんだあの野郎!」
宇野(! クソッ、また左折だ。嫌だなぁ、曲がりたくないなぁ、人跳ねるの怖いなぁ)
住宅街で運転するストレスが、私の精神を削っていく。なんでこう、日本の道路はどこもかしこも狭いのだろうか。あとなんでこんな曲がり道が多いの。
宇野(あー、もう! 権田さんさえ健在なら、こんな怖い思いしないで済んだのになぁ! 私の判断ミスが原因なんですけれども!)
横目でチラリと、助手席で気絶している権田さんを見てみるが、まだまだ起きる気配は無さそうだ。
権田「.........」ピクッ
権田(せ...た...が...ゃ......)
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/28(土) 02:18:12.50 ID:5bdgYUAoO
素晴らしいssなのにsage進行、誇らしくないの?
ageて、どうぞ
87 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/28(土) 15:09:08.33 ID:dCwLvCntO
登場人物
・彡(゚)(゚) (なんJ民)
coat博士の『概念を実体化させる技術』によって生まれた概念体。元になった概念は2ちゃんねるの実況板、なんJのマスコットキャラクター。短気で粗野で攻撃的な性格で、精神年齢は小学生と同等。
coat博士から『野獣先輩を倒せ』という使命を与えられ、現状はそれに従って行動している。面白ければなんでも好き。
・(´・ω・`) (原住民)
coat博士がなんJ民を生み出した際におまけのようについてきた、イレギュラーな概念体。元になった概念はなんJ民同様、なんJのマスコットキャラクター。性格は気弱で戦闘能力も低いが、粗野ななんJ民のフォロー役として彼と行動を共にする。
自分が何故『原住民』という名前なのか、その理由となる記憶を一切忘れている。好きな食べ物はきゅうり。
・coat博士
『概念を実体化する技術』を開発した女科学者。概念体の野獣先輩を生み出した元凶であり、彼の凶行を止める手段としてなんJ民を産んだらしい。
年齢は31歳。なんJ民をバカ息子と呼ぶ。趣味は観察記録。
・宇野 佐奈子
政府からcoat博士をサポートする為に遣わされた特派員。プロ意識が高く、己を美人だと自負している。
年齢は25歳。趣味は映画鑑賞だが、ホラー映画は大嫌い。
・権田源三郎
黒くてゴツくて頑固な背のデカい車の運転手。宇野とは何度か仕事を共にした仲。
年齢は53歳。生涯を運転手として貫き通したいと思っている。
・野獣先輩
coat博士によって生み出された概念体。都内を中心に起きている連続失踪事件の犯人で、淫夢民、ネット民をターゲットに次々と精神レイプしていく。彼に精神を犯された被害者には、憑かれたように世田谷区へ向かおうとする謎の現象が起きる。
己に課した『虐げられたホモ達を救う』という使命を果たすため、『始まりのホモ』に協力を仰ぎ、仲間を増やしながらある計画を進める。
・始まりのホモ
野獣先輩と行動を共にするホモ。孵化すると概念体になる『概念の卵』を、他者に植え付ける能力を持つ。
その正体は謎に包まれている。
・MUR
当たり前の家庭を築いた幸せな男だが、かつて小遣い稼ぎにホモビに出演した過去を持つ。
ある日、娘にスマートフォンをねだられた事をきっかけに、娘に過去を知られる恐怖に怯えていた所で、野獣先輩に出会う。心の弱りを突いた野獣先輩の誘いに乗り、始まりのホモによって概念体の卵を植え付けられてしまう。愛するものは妻と娘。
人物紹介を書いてみました
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/28(土) 21:25:10.23 ID:jBlPuxLqo
原住民怪しすぎますね…
89 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/28(土) 21:52:09.32 ID:qJ9yOxM20
単語解説
・概念体
coat博士の『概念を実体化させる技術』、あるいは始まりのホモの『概念の卵』が孵化することによって生まれる、概念と物体の中間に位置する存在。
・ホモビ
主に男性同士の性交渉を取り扱う、同性愛者の視聴を想定したアダルトビデオ。現在は本来意図した客層と異なる人間が、視聴者の大多数を占めている。
・真夏の夜の淫夢
2001年にコートコーポレーションによって発売されホモビの名称、及びホモビ全般をネタにする文化やコンテンツの総称。
2002年に、とある野球選手が、かつてホモビに出演していたとするスキャンダル騒動が起きた際、彼が出演した本作品も同時に知名度を上げた。ネット上ではそれ以降、本作品やその他のホモビをネタにして面白がる文化が綿々と紡がれていった。(以降このコンテンツのことを淫夢と呼ぶ)
2008年〜2009年、ネタ切れによって下火になった淫夢に、野獣先輩が登場する。その圧倒的なキャラ立ちと印象的な演技、セリフによって、淫夢というコンテンツは再び炎上する。以降、様々なホモビ作品が淫夢民によって発掘(無断転載)された。
ネタの面白さ、インパクトの強さによって人口が多数増加した淫夢は、現在2ちゃんねるやニコニコ動画を中心に一大コンテンツと化している。その影響力は甚大であり、最近流行りの言葉が実はネットの流行語で、その流行語もさらに元を正せば淫夢語録(ホモビ出演者の印象的なセリフ)だった、という実例がある程である。
淫夢民
ホモビをネタにして面白がる人物達の総称。野獣先輩の登場以降、爆発的に人口が増え、彼らがどのような存在かを一括りにすることはほぼ不可能である。彼らの年齢、実社会での身分、そしてその活動内容は多種多用であるからだ。
学生もいれば中年男性もいるし、サラリーマンもいれば無職もいる。ニコニコ動画でMADを生み出す者がいれば、それを視聴するだけの人間もいるし、2ちゃんねるでホモビ内容の解釈を行う者や、淫夢語録だけの会話を楽しむ者もいる。ホモビ出演者に好意的なコメントをする者もいれば、罵倒や嘲りを含んだコメントをする者もいる。
つまり現実では、こういう人間が淫夢民だ、と判断するのは不可能であり、裏返せば街を歩いてすれ違う全ての人間が、淫夢民である可能性を秘めている。逆にネットではその多様性故に、淫夢に関する話題に触れた者は内容如何に関わらず、その時点で淫夢民と化すのである。
ただ一つ彼らに共通するのは、その行為の本質が「ウンコをつついて面白がる」のと同じだということだ。淫夢民の多種多様な活動も、要はウンコをどうつついたらより面白くなるだろうか、という模索である。
当然、素顔を多数の人間に晒されたうえにウンコ扱いされた側は、少なくとも平穏を望む人間にとってはあぁ〜もうたまらないことだろう。
・なんJ(なんでも実況ジュピター)
巨大提示版2ちゃんねるの中の、有力な板の1つ。野球の実況、雑談を主とし、猛虎弁やネットスラングを多用する独特な言語を持つ。
スレッドの保持数が異常に少ないことから、回転率が高く、印象的なセリフや出来事を共有しやすい、といった特徴があるが、特筆するべきは野球chから流入してきた歴史、実況を主とする性質から生まれた文化にある。
全てのスポーツは戦いであり、その戦いを応援する彼ら自身も、また好戦的な人物となる。戦いの無い協調、共存よりもむしろ対立と騒動を望み、住人同士の煽り合い(レスバトル)も頻繁に起こる。淫夢民の面白さの追求方法が「ウンコをつつく」のであれば、こちらは「互いにウンコを投げつけ合う」ことで面白さを追求する。他人への気遣いもなく、本能のままに衝動的に行動するその様は、まさに小学生そのものである。
実社会での立場、肉体、他人からの評価、その全てを取り払った名無しの彼らの姿は、
小学生の頃に戻りたいという、大多数の願いの表れなのかも知れない。
ノンケの方向けの用語解説も作りました。来てくれ......。
90 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/29(日) 19:58:12.09 ID:iACsiqApO
彡(゚)(゚)「オラァ!」
二歩助走をつけて、MURの顔を目掛けて前蹴りを放つ。屋根とバックドアの高低差から、腹蹴り程の低姿勢で、顔を狙えた。体勢に無理がなくなる分、普通より強い勢いで蹴れたと思う。
MUR「ゾッ!?」
ワイの蹴りに対して、MURはカウンターも、受けを取る素振りすら見せず......
MUR「ゾォォォォォォォ!!」
突き飛ばされたそのままに、普通に車から落ちていった。
彡(゚)(゚)「えぇ......」
道路にゴロゴロと転がるMURを眺めながら、ワイは呆然と立ち尽くす。
彡(゚)(゚)「あっけなさ過ぎるやろ......」
なんだろうか、この肩透かし感は。まるで将棋で言えば、1手目で互いに角道を空け、先手の相手が、何故か2手目で左側の銀を上げた時のような。いやむしろ、プロ棋士同士の高度な対局が、初歩的なミスである二歩で台無しになった時のような虚無感が、ワイを襲った。
勝利の喜びも、敗北の屈辱も感じない。勝ち負けの戦いにあるべき絶対的ななにかが、先程のKBSとの戦いから今に至るまで、ずっと欠けている気がした。
彡(゚)(゚)「ワイが強過ぎる......ってことか?」
宇野は、MURは野獣先輩より格上だと言っていた。なら、野獣先輩もこんな程度のもんなのだろうか。もしそうならばあまりにも......あまりにも、張り合いが無さすぎる。
彡(゚)(゚)「はぁ......つまんな。...ん?うぉ!?」
車内に戻るため、片膝をつき、ドアをノックしようと頭をもたげた時に、車が大きく左右に揺れた。
91 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/29(日) 20:07:53.61 ID:iACsiqApO
彡(゚)(゚)「お? お? おぉ!?」
車は頭を左に向け、右に向け、狭い道をクネクネと曲がりながら進む。蛇行運転、というやつだろうか。ワイを振り落とそうとするように、慣性による圧が身体を揺らす。
しばらくすると蛇行が収まり、車は再び直進を始める。
彡(゚)(゚)「おい! ちゃんと運転しろや轢き逃げ! お前、諸々雑過ぎるぞ!」
ドアをドンドンと叩き陳情するも、ワイの声は聞こえていないようだった。車内の様子はミラー越しで見え辛いが、後部座席に原住民の姿はなく、運転席では......権田のオッさんが、何故か宇野の左腕を掴んでいた。なにやら揉めているように見える。
彡(゚)(゚)「なんやあれ。痴話喧嘩か?それに原住民はどこ行ったんや......ゲホォ!」
車の屋上部分から乗り出していたワイの頭が、道端の電柱にぶつかった。痛みは無いが、衝撃により、身体の向きを車の後方へと向けられる。
彡(゚)(゚)「おービックリした。生身の人間なら首もげてたところや......ん?」
MUR「ゾォォォォォォォ! ゾォォォォォォォ!!」
後ろに目を向けると、雄叫びを上げてこちらへ走ってくる人影があった。先程と変わらぬ白いTシャツに坊主頭のその出で立ちは、間違いなくMURだ。
彡(゚)(゚)「ハハッ、あの一発喰らってピンピン走っとるわ。やっぱKBSよりずっと頑丈みたいやな。......ええで、第2ラウンドと行こうやないか」
あれで終わっちゃつまらんもんな、と呟き、ワイは構えをとってMURを見つめる。さぁ来い、早く来い、と意気が高揚したのも、しかしほんのひと時の間だけだった。
MUR「イイィぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
彡(゚)(゚)「! な、なんや!?」
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/29(日) 20:17:51.14 ID:WhxZe08xO
みてるぞ
93 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:32:39.82 ID:PkyIq8kN0
走りながら、MURは両手を顔の前で交差させ、上体を仰け反らせる。大して筋肉のついていなかった腕に血管が幾筋も浮かび上がり、奴の白かった肌も急速に赤黒く変色していく。
MUR「ゾォォォォォォォッッ!!!」
MURの咆哮が、ワイの鼓膜を揺さぶる。溜めた力を一気に解放するように、MURは両腕を大きく広げる。露わになった顔は憤怒の色に染まり、瞳孔の開いた瞳が真っ直ぐワイを捉えていた。
そこまでは、まだいい。理性の無い状態という意味なら、MURの姿は先程までとなんら変わりがないから。ワイが驚愕したのは、奴の背中から湧き出てきた......
彡(゚)(゚)「なんやそれは......なんや?」
構えた腕を思わず下げて、ワイは呆然とそれを眺めた。ボコボコと丸い肉塊が、MURの身体から弾き出たのだ。そして丸い肉塊は空中で形を変化させ、動物のような体を型取り、地に足をつけた。
94 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:33:17.75 ID:PkyIq8kN0
十数個程生み出されたソレは、なんとも形容し難い形状をしていた。丸い大きな肉塊から、首と頭部......のようなものが伸びているが、目も鼻も口も、およそ動物に必要なパーツは何一つ、その頭部には備わっていなかった。のっぺらぼうである。しかしそのくせ、頭部の髪?に当たる箇所には、真っ白な人間の指が4本づつ、左右に分かれて生えており、ワキワキと蠢いていた。
頭部、首、恐らく胴体部分であろう丸い大きな肉塊。どの部分にも毛や皮といった動物的な装飾はなく、ピンク色のツルツルした人肌だけが、その奇妙な物体の全身を包んでいた。
更に、その物体から地面に伸びる脚部は、ほっそりした人間の脚そのものであった。胴体部分に比べてアンバランスに長い二本の脚が、奇妙な肉塊を支え、前へ前へと走らせている。
彡(゚)(゚)「なんや、それは!! 一体なんなんやそれはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
異様な物体達が、十数の群れになって追いかけてくる。あまりに理解不能で不気味な光景に、ワイは思わず絶叫した。
ワイを絶叫に駆り立てた、この初めて経験する感情。その正体が、未知に対する『恐怖』と呼ばれるものだとワイが知るのは、大分後のことであった。
......そしてその奇妙な物体の正体が、ある淫夢民の悪ふざけによって作られた、MUR肉と呼ばれるキャラクターだとは。この時のワイには、尚更知る由も無かった。
95 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:35:29.09 ID:PkyIq8kN0
〜車内〜
権田「ムゥ......グ...ゥゥ...」
宇野「権田さん? 嘘、もう起きたんですか?」
権田「え、えぇ。ご心配をおかけし申し訳ありません。......運転まで、させてしまったようで」
宇野「いえ......まぁ、ええ。気にしないで下さい」
私が銃弾で殺しかけたり、権田さんの車で人?を撥ねたり、現在車の上に敵がしがみついていることは、今は黙っておこう。寝起きにストレスをかけるのも不憫だろうし。
宇野「今日はこのまま私が運転しますので、権田さんは休んでいて下さい。もうこの道を真っ直ぐ走れば、渋谷区に離脱出来ますので」
権田「そう......ですか。もう、着くのですね」
歯切れ悪く、権田さんが答える。なにか、らしくない。寝起きで頭が働かないのだろうか。
違和感が頭をよぎった時、後部座席に座る原住民が私を呼んだ。少し興奮しているようだ。
(´・ω・`)「宇野さん宇野さん! あの怖いオジさんが落ちていったよ! おにいちゃんが勝ったみたい!」
宇野「マジなのですか? アイツ、そんなに強かったんですか」
KBSトリオはまだしも、MURまで瞬殺出来るのか。だとするとこれは、もしかしてかなり......こちらに分がある戦いではなかろうか。MURより知名度や格が高い淫夢のキャラなど、そうそういないはずだ。
96 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 00:36:43.68 ID:PkyIq8kN0
宇野「ともあれ、これで無事に帰れますね」
権田「そうですね。ところで宇野さん、このまま真っ直ぐ行った二つ目の信号を、左に曲がってくれませんか?」
宇野「はい?」
助手席に座る権田さんが、突拍子も無いことを言い出した。寝ぼけているのだろうか。
宇野「いえ、もうこの道を真っ直ぐ行けば、首都高に乗って帰れますので」
権田「私は権田源三郎ですよ? 都内の道を全て網羅している男の助言です。お聞き届けになった方がよろしいかと」
宇野「......。」
私だけが知っている近道があるんですよ、と権田さんは戯言を続けるが、正直言って近道もへったくれも無い。真っ直ぐ走れば渋谷区へ抜ける高速道路があるのだ。これ以上の最短はありようが無いし、それに、
宇野「ここで左折しても、世田谷区の北側に向かうだけです。今は遠回りをしている余裕はありませんので、また次の機会に......痛っ!?」
寝言をいなし、意味の無い助言を無視して真っ直ぐ車を進めると、権田さんの右手が私の左腕を掴んだ。太く大きな手によって、骨を潰すような勢いで固く握られる。
宇野「なっ! ご、権田さん、一体なにを!」
権田「いいから言うことを聞きなさい! 運転において、私の言葉は絶対です! それにこれは私の車だ! 私の車は絶対に、私の思い通りに動かなければならないのです!!」
97 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:08:42.15 ID:PkyIq8kN0
私の左腕を、権田さんが無理矢理引き寄せる。左手が握るハンドルが左に切られ、車体もそれに倣う。狭い道でそんなことをすれば、事故は必至だ。私は無理矢理ハンドルを右に切り、車の進行方向をなんとか元に戻そうとする。
宇野「や、やめて下さい! 権田さん!」
権田「うるさい! これは私の車だ! 私の車なんだ!」
権田さんはなおも左腕を引き続け、私もそれを戻そうとする。車は蛇行運転となり、危うく塀にぶつかりかけたり、車の脇が電柱にかすったりする。血走った目に憤怒の表情を浮かべる男を相手に、しばらく危機的なやり取りをしていると、原住民が叫んだ。
(´・ω・`)「どうしたの権田さん! へ、変だよこんなの、おかしいよ!」
宇野(その通りだ。こんなのはおかしい。自らの運転に誇りを持つ権田さんが、こんな事故が起こって当然の暴挙に出るなんて、本来なら絶対に有り得ないことだ)
宇野(では今、有り得ないことが起きている理由は何だ? 彼をおかしくさせているモノはなんだ? ......考えてみれば、答えは簡単だ)
権田「黙りなさい! 私は、私は、世田谷に行かなければならないのです!!」
宇野(権田さんは今、精神を犯されている...! 先程の、KBSトリオのレイプによって!)
98 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:09:30.27 ID:PkyIq8kN0
異常な事態の原因が分かると、半ばパニックだった心理状態から回復出来た。冷静になった私は、権田さんに握られている左腕をハンドルから離した。
権田「むぅ!? 小癪な真似を!」
車の進行方向が正常に戻る。右腕だけで車を操作しながら、私は原住民に向かって叫んだ。
宇野「原住民さん!権田さんは今、KBSの暴行によって錯乱しています! 私はこれ以上手が離せません、なんとか権田さんを黙らせてください!!」
(´・ω・`)「黙らせるって、ど、どうやって!?」
宇野「殴れ!!」
(´・ω・`)「え、ええぇ......」
権田さんが、今度は左腕でハンドルを切ろうと狙ってくる。これ以上は、まずい......!
宇野「原住民さん、早く!」
(´・ω・`)「う、うわああああああ」
原住民はほとんど破れかぶれで、後部座席から助手席と運転席の間に割り込んでくる。
権田「!? ふ、ふざけるな! お客様が、神聖な運転席に入ってくるなあああああああ!!!」
ハンドルを掴むはずだった左腕が、原住民への攻撃に狙いを変えたようだ。権田さんは拳を思い切り振り上げて力を溜め、原住民の脳天目掛けて叩きつけた。
ゴッ、という音が響く。人間なら間違いなくタダでは済まないその威力に寒気がしたが、
(´・ω・`)「うわああああああん!」
腐っても概念体、ということだろうか。その小ささ故に助手席の足元に落ちた原住民は、権田さんの拳を意に介さずに、半べそで権田さんを殴りつけた。破れかぶれは継続中らしい。
しかし、何も考えずに殴る原住民の拳というものが、原住民の立つ場所と身長の関係で......。
(´・ω・`)「うわああああああ! うわああああああん!!」ポコポコ
権田「 あ、ま、待って、こは、そこはダメ! やめ、はうゎ!はが、はらま、ああぁ!!」
......全て、権田さんの股間に集中していた。
99 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:10:20.77 ID:PkyIq8kN0
権田「はっ、はっ、はっ、はぅ、はぁぁ!それ以上は、それ以上は、やめ! でな、私、私ぃっ、ひはぁ!」
権田さんの右手が、私の左腕を掴む力は、既にほとんど無い。女の私には一生分からない痛みだが、相当痛いのだろうな。その、男の金的というものは。
権田「私、女の子になってしまいますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
聴くに耐えない断末魔の悲鳴を上げて、権田さんは泡を吹いて気絶した。なおも殴り続ける原住民を止め、
宇野「......よくやってくれました原住民さん。もう大丈夫です。悪は滅びましたよ」
権田さんの子種まで滅んでいないか心配しつつ、私は彼を褒めた。
100 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/05/30(月) 10:10:56.11 ID:PkyIq8kN0
(´・ω・`)「うぅ、うぅぅ、ブニブニした感触が、気持ち悪いよぉぉぉ」
宇野「今、私達が目にした権田さんは、本当の権田さんじゃありません。だから今日見た彼の姿は......出来れば、忘れてあげてください」
(´・ω・`)「......うん、分かったよ」
宇野「さぁ、後部座席に戻って、今度こそ休んでいてください。本当に、あとはもう帰るだけですから」
後部座席にいそいそと戻る原住民を尻目に、私は危機の終わりにほっと一息つい
(´・ω・`)「え? なにあれ? なにあれ! なんなのさあれ!? 宇野さん! 宇野さん! あれ、後ろのあれ見てよ!」
宇野(......一息、くらい、つかせてくれよ)
後ろを見ろ、と言われ、私はバックミラーに目を向ける。そこに写っていたのは、鬼気迫る形相でこちらに駆けてくるMURと、
宇野「......なん、ですかあれ。いやあれはなんですか。馬鹿なんですか。ホント馬鹿なんですかどいつもこいつも」
MURを超えるスピードで、肉塊に人間の足が生えたような、いや実際に足が生えている、謎の物体の群れが追いかけてきていた。キモいの一言に尽きる外見だが、その分アレに追いつかれるのは......多分、そうとう怖い。
宇野「......原住民さん。車のどこでもいいので、しっかり掴まってて下さい」
(´・ω・`)「な、なにする気なの!?」
宇野「私はこれより、鬼になります」
首都高の入り口まで、およそ1.5km。おそらくこれが、本日最後の修羅場だろう。
宇野「もう左右の安全確認なんてやりません。信号なんて知りません。ネズミ捕りがいたら轢き殺します。皆で赤信号渡ってる馬鹿なんて皆殺しです」
(´・ω・`)「ヒエッ」
宇野「さぁ行きますよ」
ギアを5速に変更し、
宇野「法定速度の、壁の向こうへ」
私はアクセルを踏み抜いた。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/30(月) 18:19:52.95 ID:Vbr5naYaO
これは久しぶりに見る文才の無駄遣いやなあ...
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