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にこ「きっと青春が聞こえる」
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500 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:36:44.58 ID:YNfrPH5eo
花陽「その時の態度も、私は不思議でした」
花陽「私たちを煽るような。けんかを売ってるような。あの態度」
花陽「機嫌が悪かったっていうのも、あるのかもしれませんけど。でも、それだけじゃない気がしていました」
絵里「……なら、どんな理由が?」
花陽「試してたん、ですよね?」
花陽「理由はわからないけれど、絵里先輩には二年生も含めた「あの場の六人」がアイドル研究部にいることが必要だった」
花陽「いえ、それだけじゃありません」
花陽「今後もスクールアイドルとして活動していくことが、必要だった」
花陽「だけど、二年生は誰一人自分の意志でアイドルをやろうとはしていませんでした」
花陽「あのままの意識で続けていても。中途半端な気持ちで続けていても」
花陽「あの人たちがアイドルに真剣に向き合うことはなかった」
花陽「そんな人たちがもしもレベルの高い練習を要求されたら――」
結果は、穂乃果先輩がそのまま証明してくれました。
花陽「……きっと、いずれ辞めてしまっていたと思います」
絵里「…………」
501 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:37:28.19 ID:YNfrPH5eo
花陽「だから、煽ったんです。試すために」
花陽「アイドル研究部に、アイドル活動に、真剣に取り組めるかどうか」
花陽「あの六人が――ううん、絵里先輩たちも含めて、八人が」
花陽「アイドル研究部としてやっていけるかどうか」
花陽「絵里先輩のあの態度に怒ってばらばらになるならそれまで」
花陽「それでもなお、まとまりのあるグループを作れるかどうか。絵里先輩は、試したかったんじゃないですか?」
花陽「それならあの条件も納得できます」
花陽「ランキング100位なんて、絵里先輩にはどうでもよかった」
花陽「条件の本当の意味は――「100位に入れるくらいのまとまりを作れるか」、だったんですから」
絵里「――――」
502 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:38:17.46 ID:YNfrPH5eo
絵里「ハラショー」
花陽「え?」
絵里「素晴らしいわ。まるで名探偵ね」
凛「それじゃあやっぱり!」
絵里「買いかぶりすぎなところもあるけれどね。おおむね当たりよ」
花陽「買いかぶり?」
絵里「……あの時の態度。あれは、そこまで深く考えていたわけではないわ」
絵里「ただ――ただ、腹が立ってしまっていただけ」
花陽「にこ先輩に、ですよね?」
絵里「……そこまでわかるものなの?」
花陽「私たちも、おなじですから」
凛「今のにこ先輩、ちょっぴり自分勝手だにゃ」
花陽「……二年生を勧誘したのは、正直、今でも納得できていません」
花陽「なんだかんだで、穂乃果先輩と海未先輩はやってもいいかなって気持ちに傾いていましたから、まだわかります」
花陽「だけどことり先輩に関しては、わけがわかりません」
花陽「衣装作り担当として勧誘したのなら、理解できました」
花陽「だけどにこ先輩は、アイドルをやってもらうために勧誘したって言ってました」
花陽「まったくやる気のない人を、すぐに辞めるかもしれないリスクを背負ってまで勧誘する理由は――わかりません」
503 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:40:22.36 ID:YNfrPH5eo
絵里「それに関しては本人に確認するしかないけれどね」
絵里「それで? それがどう最初の話につながるのかしら?」
花陽「簡単です」
すぅ、と一度息を吸って。
花陽「絵里先輩。私たち六人は、あなたの望むレベルまでの一生懸命さを作ることができました」
花陽「二年生も、それは同じです」
花陽「絵里先輩が求めていた「本当の条件」は、達成しました」
花陽「だから――アイドル研究部に、入ってください」
絵里「……なぜ?」
花陽「え?」
絵里「なぜ、私たちにそこまでこだわるの?」
絵里「矢澤さんを自分勝手というなら、私たちだってよっぽど自分勝手よ」
絵里「それこそあなたたちにメリットがない」
凛「簡単だにゃ」
さっきの私の言葉をマネするみたいに、凛ちゃんが言います。
凛「先輩たちも、アイドル研究部のために一生懸命だからだにゃ」
凛「先輩たちと一緒に―― 一生懸命な人たちと一緒に部活をやりたいと思うって、おかしなことじゃないと思います」
凛「だから――アイドル研究部に入ってください」
地面と平行になるくらい、凛ちゃんが頭を下げます。
それは、絵里先輩たちと初対面の時の態度からは考えられない姿でした。
504 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:41:55.34 ID:YNfrPH5eo
絵里「――そこまで言われたら、断りづらいじゃない」
凛「それじゃあ!」
ぱっと顔を輝かせて、凛ちゃんが頭を上げます。
私も、その言葉から良い返事を期待しました。
だけど。
絵里「でも……駄目よ。条件は条件」
花陽「え……」
凛「そんな……」
希「ちょっと絵里ち」
それまで黙って成り行きを見ていた希先輩が口を開きます。
希「そこまで頑固なる必要あるん? 絵里ちとしても願ってもない申し出やん」
絵里「それとこれとは話が別だわ」
絵里「ここでその話を飲んでしまったら、筋が通らないじゃない」
絵里「それこそあそこまで仕上げてきた彼女たちを侮辱する行為だわ」
絵里「私があなたたちの……矢澤さんのお願いをきくことは、できないわ」
思ったよりも、絵里先輩は頑なな人でした。
せっかく、せっかく真剣にアイドルに向き合える仲間が増えると思ったのに――
絵里「だから、ね」
花陽「え?」
自分でも気づかぬ間にうつむかせていた顔を上げると。
そこには、ほんのちょっぴり照れた顔の絵里先輩いました。
絵里「だから――こうさせてもらうわ」
505 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:43:05.18 ID:YNfrPH5eo
* * * * *
絵里「私たちをアイドル研究部に入れてください」
希「お願いします」
にこ「…………」
絶句。余りにも意味不明な展開に言葉が出てこなかった。
約束の時間を少し過ぎたころ、なぜか絵里たちと一緒に花陽と凛もついてきて。
パソコンでサイトにつないで結果を確認したら――惨敗。
100位にはほど遠い数字が、私たちにつけられていた。
正直、わかってた部分はあるけど。それでもショックなことには変わりなくて。
絵里たちが入部しないって現実がじんわり体に染み渡ろうとしていたところで――その台詞。
にこ「あの、ちょっとなに言ってるか全然わかんないんだけど……」
絵里「たしかにあなたたちは私の出した条件をクリアできなかった」
絵里「だから、私たちが矢澤さんのお願いをきくことはできない」
にこ「うん、そうよね。私の認識、間違ってなかったわよね」
にこ「だったらなんで――」
絵里「だから、よ」
絵里「だから……今度は、私たちからお願い」
絵里「矢澤さんのお願いとか、私の出した条件とか、そんな話はもう一切関係ない」
絵里「自分勝手なのはわかってる。今までの態度も全部謝るわ」
絵里「だから――私と希を、アイドル研究部に入れてください」
にこ「…………」
506 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:43:53.20 ID:YNfrPH5eo
いや、いやいやいやいや。
たしかに最初にお願いしたのは私だし、条件をクリアできなかったのに二人が入部してくれるのは願ってもない話。
でも、どこか私の心にはもやもやしたものが残る。
そう――最近ずっと感じている、置いてけぼり感。
私の知らないところで、私にかかわる致命的なものがどんどん進められていく感覚。
それが、また、私に襲い掛かった。
海未「それではこれからも生徒会長のレッスンを受けられるということですか?」
ことり「私は大歓迎かなぁ。レッスンはたしかにちょっと大変だけど、でも自分が成長してるのが実感できるし」
穂乃果「あ、あははー……私はちょっとどころじゃなかったけどなぁ……」
海未「穂乃果が一番必要とすべきでしょう? まったく情けない」
穂乃果「だってぇ……」
ちょっとちょっと、あんたたちも待ちなさいよ。
まだ私、返事してないじゃない。
なんでもう二人が入部するかのように話を進めてるわけ?
507 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:44:31.92 ID:YNfrPH5eo
花陽「にこ先輩」
にこ「え?」
戸惑う私に、花陽が正面から向き合う。
花陽「断る理由は、ないと思います」
花陽「絵里先輩たちが入れば、この部はもっともっとレベルアップできます」
花陽「だから、この話は――」
真剣に語る花陽の言葉が、右から左へと流れていく。
『絵里先輩』
あんたたち、いつの間にそんな距離になったの?
にこ「……うん、うん」
にこ「いいんじゃない?」
気づけば私の口からは、そんな言葉が漏れていた。
凛「……! やったにゃ!」
ねえ、凛。
あんた絵里のこと毛嫌いしてたんじゃなかったっけ?
なんでそんな大喜びしてるわけ?
508 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:45:25.74 ID:YNfrPH5eo
絵里「それじゃあ改めて」
絵里「三年生の絢瀬絵里です。今までは偉そうにしてごめんなさい」
絵里「だけどこれからは対等な部員。一緒に高め合っていきましょう」
希「うちからも言わせてもらおうかな?」
希「同じく三年生の東條希」
希「今まではあんまり関わることもなかったけど、これからはよろしくね」
穂乃果・凛「よろしくお願いしまーす!」
二人の元気な声を口火に、絵里たちはここに迎え入れられた。
ははは、やったじゃない。
ついに真姫ちゃん以外の八人が揃ったわ。
私の望んだ通りじゃない。
私の計画通りじゃない。
あはは。
あたま、いたいな。
509 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:46:49.12 ID:YNfrPH5eo
ここまで
エリチカ編終了
ちょっとかよちんが説明キャラになったのは力不足でした
続きはまた近いうち
510 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 01:48:23.12 ID:E7YMLGDm0
久しぶりにリアタイで読めた
いつもドキドキしながら読ませてもらってます
511 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 01:49:34.66 ID:Z8xVzuCSO
にこっち…
512 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 03:00:59.85 ID:NIGKcwIZo
乙乙
のぞえり加入までりんぱながやるのはなんだかなぁ
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 15:35:49.36 ID:DRNYZpOr0
乙
さてこっからどうなるのやら…
514 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 20:53:02.67 ID:PZBPU1f1O
クソの役にも立たない主人公だな
515 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/21(水) 06:53:08.83 ID:gbNEbnbtO
\
 ̄ヽ、 _ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`'ー '´
○
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,." `ヽ /' ヽ
l l / i
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{l〈 ヽ., --)-(-=-_ノ / ..:::::::::::::::|
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`ヽ `、 .::::\:::::::::::::::|::::::::: /,, ,. ‐;''""
516 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/22(木) 01:24:12.95 ID:CK1TQYqP0
花陽は本編でも一生懸命だし
こんな環境だったらこうなるかもしれない
周りに置いてかれるにこがいい感じに辛い乙
517 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:53:05.75 ID:yiknpVX/o
【Side:真姫】
学校内でアイドル研究部の噂を耳にすることが増えた。
「アイドル研究部、最近頑張ってるらしいよ?」
「えっ、それって例のあの子の部活でしょ?」
「それがなんだか最近活動再開したらしくて」
「あー、それ私も知ってる。なんかおっきな大会に出るためのランキングに登録したとか」
「それそれ。踊ってる動画もあるけど結構いい感じだったよ」
音楽室へ向かう途中。前を歩く先輩たちの会話。
3年生の彼女らからしてみれば、アイドル研究部は触れちゃいけないタブーのようなもの。
――だったはずなのに、それが今、動き始めてる。
518 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:53:33.90 ID:yiknpVX/o
「うちの部活の後輩の話だと、興味持ち始めた子もいるみたい」
「へー。だけど、部長ってあの子のままでしょ?」
「またひとりぼっちにならなきゃいいけどねぇ」
「あはは、言えてる。なんかネットでは既に悪口書かれてるらしいし」
「きゃー、前途たなーん」
他人事のように茶化す彼女らの背中に続く。
いや、たしかに他人事なんだろうけど。だけどちょっと悔しいカンジ。
真姫「…………」
……私にとっても、他人事じゃないの?
519 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:54:12.16 ID:yiknpVX/o
たしかに曲を提供したのは私。
だけど、別に入部してるわけじゃない。
でも、その部長とはしょっちゅう会ってて――
真姫「――もう、わけわかんない」
私にとってアイドル研究部ってなに?
私にとって、「矢澤にこ」は――
520 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:55:05.11 ID:yiknpVX/o
真姫「……で? なんでまたいるわけ?」
にこ「…………」
もやもやしながら訪れた音楽室には、すでに先客がいた。
一番前の席でしかめっ面してる二個上の先輩。
アイドル研究部部長。
自称未来人。
矢澤にこ。
真姫「アイドル研究部、忙しいんじゃないの? あちこちで話聞くわよ?」
にこ「…………」
返事はない。
最近のこの人はいつもそう。
部活をほっぽりだして私のところに来たかと思えば、つまんなそうな顔して私の曲を聴いていく。
正直暇人? って思わないでもないけど、でも、そうじゃないことくらいわかる。
にこ「…………はぁ」
彼女が何かを抱え込んでることくらい。
521 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:55:37.41 ID:yiknpVX/o
真姫「ま、別にいいけど」
気にしてない風を装ってグランドピアノの前に腰掛ける。
鍵盤に置いた指がちょっとだけ震えてるの。ばれてないわよね?
間違っても気づかれちゃいけない。気づかれたくない。
何かに迷ってる彼女が。
何かに惑ってる彼女が。
唯一、私を頼ってくれてることが、嬉しいだなんて。
522 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:56:26.87 ID:yiknpVX/o
真姫「――――」
きっと、それが答え。
友達を作ることを頑なに拒んだ私が、一人になることを望んだ私が、ついに崩した壁。
一緒にいてもいいって。
一緒に何かをしてもいいって。
そう、思える存在。
きっかけはこの人がつけてくれる歌詞。私の曲に、ぴったりの歌を乗せてくれる人。
だけど、それが理由として小さくなるのに時間はかからなかった。
時々でも構わない。
私のために足を運んでくれるのが。私のために時間を費やしてくれるのが。
すごく、嬉しかった。
523 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:57:12.33 ID:yiknpVX/o
私のメロディに、彼女が歌を乗せる。
ただそれだけの時間が、ずっと、ずっと、続けばいいと思った。
524 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:58:57.11 ID:yiknpVX/o
短いけどここまで
今更だけどアニメ見返してたらリボンの色レベルでわけわからん勘違いしてた
シナリオ上関係はないけどちょこちょこ違和感あったらごめんなさい
次はまた近いうち
525 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/02(月) 23:53:36.96 ID:34b/KpHc0
乙
楽しみにしてます!がんばってね
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 22:25:47.00 ID:Nr+bjUJx0
乙
あとは真姫ちゃんが入れば一応九人揃うけどどうなるんだろ
527 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/27(金) 22:06:07.77 ID:7R1qUiJSO
はよ
528 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/11(土) 17:51:59.17 ID:UXq7tT3PO
はよ
529 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/26(日) 22:09:45.69 ID:yy5CFJJmO
待ってるぞ
530 :
◆yZNKissmP6NG
[sage]:2017/03/01(水) 22:08:30.21 ID:cWxibgpto
申し訳ないけど生存報告だけ
もうちょっと待ってください
531 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/02(木) 14:46:47.89 ID:Ud50C7JSO
>>530
報告ありがとうございます。
気長にお待ちしています。
532 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/04(土) 17:09:12.98 ID:ZDgOSR/GO
生きてたか、気長に待ってるよ
533 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 11:51:15.86 ID:tLpcSFlto
ほ
534 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:40:45.51 ID:JLb1uo3Bo
この世界にきて最大の違和感を、ここ数日で嫌というほどに味わってる気がする。
μ'sのメンバーも八人まで揃い、残すは真姫ちゃん一人となった。
形としてはまだでも、雰囲気としてはもうかつてのμ'sと同じようなものになってたっておかしくない。
――はずなのに。
穂乃果「それでね、名前はなんかこう、春っぽい感じがいいと思うんだよね!」
ことり「わぁ、私も賛成! 私たちにぴったりだと思うなぁ」
穂乃果「だよね、だよね! どんなのがいいかなぁ……」
ことり「ちょっとおしゃれな感じも出したいよね……」
さっきから聞こえるこの会話。
私が部活に顔を出してる時は――ぶっちゃけ、最近は真姫ちゃんのところに行くことの方が多いんだけど――嫌というほど耳に入ってくる話題。
それがなにより――私の心をざらつかせる。
あんたたち、一体なんの話してるのよ。
535 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:41:26.66 ID:JLb1uo3Bo
海未「ほら、二人とも。そろそろ練習を始めますよ」
ことり「あ、はーい」
穂乃果「えぇー、もうちょっとでいい名前が浮かびそうだったのにぃ……」
海未「つべこべ言わないでください。絵里だってさっきからあなたたちの会話をどこで遮ろうか戸惑っているのですよ」
絵里「ちょ、ちょっと海未、私のことは別にいいから……」
海未「いえ、よくありません。こういったことはきっちり区切りをつけるべきです」
海未「にこ先輩だって、今日は作曲者の方のところでなくこちらへ顔を出してくれているのですから――」
うん、まあ、そういう建前を使わせてもらってるんだけど。
だから、こっちに顔を出さないのは、全面的に私の責任なんだけど。
絵里。にこ先輩。
距離感が――つらい。
536 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:42:09.15 ID:JLb1uo3Bo
にこ(あー、いづらい……)
開いた溝が、なおのこと私の居場所を奪い。
結果居心地のいい場所――つまり、放課後の音楽室に、足を運びたくなる。
それが拍車をかけてることなんてわかりきってるんだけどさ。
でも、今のこの部活は……なんだかものすごく、気味が悪い。
自分の作った料理を食べてるはずなのに、入れた覚えのない調味料が混ざってるような、そんな感覚。
居心地が――悪い。
海未「ところで花陽と凛はまだなのでしょうか。いつもなら真っ先にウォーミングアップを始めているのですが」
絵里「ああ、その二人なら今日は遅れるそうよ。さっきメールをもらったわ」
なんで部長の私に送らないの? なんて疑問は、誰も持たない。
そりゃそうよね。来るか来ないかわからない人間に送ったってしょうがないわよね。
537 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:42:42.56 ID:JLb1uo3Bo
海未「ああ、そうです。フランス語なんてどうでしょう」
穂乃果「?」
海未「先ほどのあなたたちの話です。おしゃれな名前をつけたいのでしょう?」
海未「ならば春をフランス語にでも訳してみてはと思ったのです」
ことり「フランス語で春って……?」
希「あ、うち知ってるよ。たしか――」
プランタン
希「printemps、やったっけ」
穂乃果「ぷらんたん……うん、いい感じ!」
ことり「とってもおしゃれな響きだねぇ」
穂乃果「ほんと、私たちのユニットにはぴったりな名前だね!」
538 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:43:10.22 ID:JLb1uo3Bo
ユニット。
たまに顔を出せば、いつも耳にする話題はそれ。
特に乗り気なのは穂乃果やことりみたいだけど、他の子たちもまんざらではない雰囲気を醸し出してる。
いやいやいや、冗談じゃないわ。
これからμ'sとしてやっていこうって時に、ユニット?
九人で――まだ、八人だけど――練習する時間は、まだまだ削れる段階じゃないの。
それを二、三人のユニットに割くだなんて、とんでもないわ。
539 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:43:58.20 ID:JLb1uo3Bo
にこ「…………」
だけど、こうして一人離れて他の子たちを眺めてると、よくわかる。
この集まりは、μ'sとは違う。
真姫ちゃんがいないこととか、個人個人の距離感が違うとか、細かいところもそうなんだけど、それだけじゃなくて。
決定的な部分で、雰囲気が違う。
ここにいる八人は、決して「八人の集まり」になってない。
穂乃果が作ったあの九人にあったまとまりが、ここにはない。
もちろんそれは仲が悪いとかそういうことではないし、関係にぎこちなさがあるってわけでもない。
だけどそう――かつて感じた一体感は、少なくともまだ、ここにはない。
……まあ、それを率先して乱してるのが自分だっていうのは、反省しなきゃだけど。
でも。
にこ(仮に真姫ちゃんが入部したとして――私たちは、あのμ'sになれるの?)
頭の隅にべったりとこびりつく不安は、何度かぶりを振っても離れてくれることはなくて。
言いようも知れない恐怖が、私の足をがっしりとつかんでいるのを感じた。
540 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:44:38.73 ID:JLb1uo3Bo
にこ(ええい、やめやめ!)
そんなことを考えてたってなにも始まらない。
今の私が考えるべきは、あの頑固な赤毛ちゃんをいかにしてここに引っ張ってくるかで――
と、私が考えを切り替えようとしたところで、ばーんと屋上の扉が開かれる。
花陽「た、大変です!」
飛び込んできたのは、なんだか懐かしさを感じる花陽の叫び声。続いてその本人と、同様に息を切らせた凛が駆けてくる。
絵里「ちょ、ちょっとどうしたの花陽? 落ち着いて?」
凛「落ち着いてなんていられないにゃ! ビッグニュースだにゃ!」
穂乃果「ニュース?」
希「なにがあったん?」
ただならぬ様子の二人に他の部員も集まってくる。さすがにおいてけぼりを食うわけにもいかなく、私も続いて彼女らに近寄る。
六人の視線を一手に浴びる花陽が、果たして口にした言葉は。
花陽「にゅ……入部希望者です!」
541 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:45:30.56 ID:JLb1uo3Bo
にこ「――――!」
断言できる。
その言葉に、一番動揺したのは、私だって。
海未「入部希望者とは……花陽たちのクラスメイトが、ということですか?」
花陽「は、はい」
凛「凛たちね、放課後になってすぐに声かけられたんだ。アイドル研究部に興味があるんだけど、って」
にこ「あ、あ……」
充実感? 満足感? 達成感?
今の気持ちをどう表現していいのかわからない。
だけど、それは間違いなく私の心を喜びに震わせていた。
ついに。
ついにあの子が、折れてくれた――!
絵里「それで、その子は来ていないの?」
花陽「はい、今日は用事があるから話だけ、って……」
凛「だけど興味津々だったし、絶対入ってくれるよ!」
にこ「その、その子の名前って、」
はやる気持ちを抑えきれず、つい漏れ出た私の質問は。
だけど、続いた凛の言葉にかき消される。
542 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:45:56.98 ID:JLb1uo3Bo
凛「二人とも!」
543 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:46:46.83 ID:JLb1uo3Bo
にこ「…………は?」
ことり「すごい、二人も入ってくれるの?」
穂乃果「おおー、一気ににぎやかさが増しそうだね!」
海未「にぎやかさは穂乃果だけで十分ですが……それでも人数は多いに越したことはありませんしね」
にこ「いや、ちょ、」
絵里「そうね、人数が多ければその分ユニットの組み合わせだって幅が広がるだろうし、悪いことじゃないわ」
希「――――」
にこ「ま、待って……」
沸き立つ場の空気に、混ざれない。
みんなが何を喜んでいるのか、私にはまったく理解できなかった。
二人? え?
真姫ちゃんじゃ――ないの?
544 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:47:23.14 ID:JLb1uo3Bo
私の疑問に答えるかのように、花陽が言葉を続ける。
花陽「小林さんと鈴木さんっていうんですけど、二人ともこの間の動画を見て興味を持ってくれたみたいで」
穂乃果「この間のって、『START:DASH!!』の?」
凛「うん。あれで興味を持ってくれた人、結構いるみたいなんだ」
ことり「そっかぁ……やっぱり意味があったんだね」
海未「ええ……なんだか嬉しくなってしまいますね」
絵里「よし、それじゃあその子たちをしっかり迎え入れるためにも、今日の練習を――」
にこ「――――め」
絵里「え?」
そんなの。
絶対に。
にこ「――――だめ!」
545 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:48:07.05 ID:JLb1uo3Bo
穂乃果「にこ、先輩?」
にこ「だめ、そんなのだめ、絶対に! 認められない!」
絵里「ちょ、ちょっとにこ? どうしたのよ急に」
絵里「部員が増えるんだったら願ってもない話じゃないの?」
にこ「願ってなんかない! 願ってなんか……」
目を白黒とさせながら、部員たちが私を見つめる。
構わない。どれだけ奇異に映ったって、構いやしない。
これは、これだけは譲っちゃ――
希「九人じゃ、なくなるから?」
にこ「――――っ」
言葉を継ごうとするより早く、息をのまされる。
希「にこっちが入って欲しいって思ってる人じゃないから、だからだめなん?」
にこ「それ、は……」
ドンピシャの答えを突き付けられ、口ごもる。
その通りよ、希。
私の、私たちのμ'sを。
見知らぬ誰かに、侵されたくないの。
546 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:49:10.21 ID:JLb1uo3Bo
絵里「……希。占いのことを言ってるのだったら、私は八人だと聞いていたのだけれど?」
希「うん、うちの占いではね。だけど、にこっちにとっての『それ』は、どうも九人みたいなんや」
希「せやんな? にこっち」
にこ「…………」
見透かすような希の言葉に、返すものが見つからず。
だというのに、希にとってそれは十分返答にあたるものだったみたいで。
希「もともとここにいる八人はね? 意味のある八人だったんや」
花陽「意味のある?」
希「うん。うちの占いでな? 八つの光がひとつに集まって、おっきなひとつの光になる、いうんがでたんよ」
希「それが――うちと絵里ちの占いの結果」
希「それが、この八人……なんだと、思ってた」
海未「……思ってた、ということは、実際は違ったのですか?」
絵里「待って希、そもそもそれは『私と希の占いの結果』なの?」
絵里「にこの占いの結果じゃ、ないの?」
希「…………」
意味ありげな沈黙。
ねえ、希。なんで?
なんでそんな悲しそうな目で、私を見てるの?
547 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:49:43.53 ID:JLb1uo3Bo
希「にこっちの占いの結果は――白紙だった」
にこ「――――は?」
希「うちが占ったその『八つの光』に、にこっちは――入ってなかったんよ」
希「だからきっと、あと一人、たぶんにこっちの考えてる九人目が、私たちにとっての八人目」
希「にこっちは、最初から――入って、なかった」
にこ「――――」
もう、よくわかんない。
この子は、なにを言ってるの?
私が死ぬ物狂いで集めた、このメンバーに。
私が、入って、ない?
548 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:50:17.60 ID:JLb1uo3Bo
希「ねえにこっち。うち、教えてほしいんよ」
希「教えてほしいから、わざわざこんなつらいこと突き付けることにしたの」
希「にこっちの大事な部分に触れたいから、知りたいから、嘘はつきたくなかった」
希「ごまかしたくなかったの」
希「にこっちにとってその九人って――なんなん?」
にこ「きゅうにん、きゅうにん、は……」
そんな、そんなの、言わなくてもわかるでしょ?
言わなくても、わかってよ。
だってそれは、もう形ができ始めてる。生まれ始めてる。
スタートダッシュを切ったじゃない。
まだ、六人っていう未完成な形だったけど。
だけど、その輪郭は、見え始めてたじゃない。
549 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:50:47.54 ID:JLb1uo3Bo
にこ「……μ's、でしょ?」
550 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:51:35.20 ID:JLb1uo3Bo
私の一言は、透明な空気の中に紛れて、消えた。
誰も、なにも答えない。
どうして?
六人で踊ったじゃない。歌ったじゃない。
練習なら、八人で。私たちのパフォーマンスを、μ'sパフォーマンスを、見せたじゃない。
なのに、なんでそんな――
穂乃果「みゅーず、って……なに? せっけん?」
にこ「――――」
それは、ひょっとしたら場を和ませようとした穂乃果なりの気の利かせ方だったのかもしれない。
だけど、今の私にとって。
それは、決定打。
にこ「うそ、だって……」
よろよろと、おぼつかない足取りで、屋上の隅に放られたかばんに近寄る。
その中からスマホを取り出し、インターネットブラウザを起動。
ラブライブ公式を、検索。
ここには、あるよね?
100位には入らなかったけど、だけど。
μ'sの名前が、ここには――
にこ「――――あ、」
だけど、私たちの順位を示す数字の、その隣には。
「音ノ木坂学院アイドル研究部」
なんの温かみもない、無機質な文字の並び。
551 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:52:04.37 ID:JLb1uo3Bo
にこ「は、はは……」
絵里「に、こ?」
にこ「あは、あはは、あっははははははは!」
海未「ど、どうしたのですか? 落ち着いてください!」
そっかそっか、わかった。わかっちゃった。
「これ」、μ'sじゃないんだ。
そっかそっか、納得。
そうよね、そうに決まってるわよね。
じゃなきゃ、こんなことになってるはず、ないもんね。
あはは。
はは。
は……
552 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:52:59.21 ID:JLb1uo3Bo
それなら。
553 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:53:38.24 ID:JLb1uo3Bo
にこ「……なら」
希「にこっち?」
にこ「それなら!」
希「っ!」
それなら。
それならそれならそれなら!
にこ「それなら――」
554 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:54:08.46 ID:JLb1uo3Bo
私の中のきれいな心は、言っちゃダメって言ってる。
私の中のきたない心は、言っちゃえって言ってる。
それはどっちもおんなじくらい大きな気持ちで。
だから、私は。
自分の意志で、選んだ。
555 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:54:34.94 ID:JLb1uo3Bo
にこ「それなら――こんな集まり、もういらない!」
556 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:55:05.03 ID:JLb1uo3Bo
「――――」
誰かが息をのんだ。
みんな、だったのかもしれない。
決定的に走ったヒビに、とどめを刺したのは。
花陽「――わかりました」
意外な人物。
557 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:55:42.54 ID:JLb1uo3Bo
花陽「……私、にこ先輩は、本当にアイドルが好きなんだなって思ってました」
花陽「だからこそ、ひとりぼっちになっても、アイドル活動を続けられたんだなって」
花陽「だけど……違ったみたいですね。勘違いでした。ごめんなさい」
花陽「絵里先輩。今日からアイドル研究部の部長、お願いします」
花陽「ちゃんと、一生懸命になれる人に、引っ張ってもらいたいですから」
花陽「もう――こんな思い、したくないっ!」
絵里「花陽!」
湿った叫び声と共に、花陽は屋上を飛び出す。
それが、皮切り。
海未「……失礼します」
穂乃果「え、っと……私も」
ことり「あ、待って……」
ひとり、またひとりと。
絵里「……少し、頭冷やしなさい」
希「…………ごめん、にこっち」
屋上から去って行き。
そして、私は。
558 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:56:09.17 ID:JLb1uo3Bo
にこ「あ――あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
また、ひとりぼっちになった。
559 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:57:02.99 ID:JLb1uo3Bo
ここまで
ずいぶん間が空きましたごめんなさい
続きはできれば近いうち
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 21:10:53.35 ID:xfAUr2H+o
乙です
561 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 22:44:24.55 ID:90rNq/sCO
乙です。いつもドキドキしながら読んでる
562 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/13(木) 10:20:24.29 ID:PnIwIrKZO
乙乙
胃が痛くなるな…
563 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/13(木) 19:56:27.52 ID:iY0wPdtSO
乙です。
バッドエンドになりそうで怖いのですが……そんなことはないと信じてこれからも続きを楽しみにしています。
564 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/14(金) 22:29:50.25 ID:05C46eDAo
乙
凛ちゃんはまだ部室に残ってるのかな?
565 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/18(火) 08:02:41.91 ID:/YCIstpAO
ひえぇ…こっからどうなるんや…
566 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:52:31.86 ID:m7W+whrIO
それは、真水のようなものだった。
ぎゅっと掴んで、もう離さないと心に決めながら、それとは裏腹に指の隙間を零れ落ちていく。
どれだけ力を込めても。どれだけ願いを込めても。
それをあざ笑うかのように、手の中にはなにも残らない。
私にとって、μ'sとはそういうものだった。
567 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:52:57.82 ID:m7W+whrIO
夕暮れに沈む教室で、ひとり窓の外を眺める。
ガラス越しに聞こえる運動部の掛け声がいやに遠くて、どこか現実味を失わせた。
まるで。
この世界に、ひとりぼっちであるかのように。
にこ(……あほくさ)
センチになっているだけだ。すべてが徒労に終わり、すべてを失って、少しだけ疲れが顔をのぞかせて。
だから、こんなに虚しさが胸を占めている。
568 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:53:24.65 ID:m7W+whrIO
望みすぎてしまったのだろう。言い聞かせるように繰り返す。私は望みすぎてしまった。
私たち3年生の卒業が間近に迫って、μ'sは終わりにしようって決めて。
だけどアメリカでのライブが世間に与えた影響は、大きくて。
一躍スターになって、そう――望みすぎてしまった。
ああ。
もっと、続けたい。
569 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:53:55.80 ID:m7W+whrIO
だからある意味、この世界は好都合だったのかもしれない。
私にとってμ'sをやり直すチャンス。
あの輝いていた一年間を取り戻すチャンス。
訳が分からないなりにあがき続けられたのは、そんな希望があったからかもしれない。
――じゃあ、今は?
にこ「――――」
μ'sを再び築き上げる道は、絶たれた。
それどころか、私がこの世界でスクールアイドルとして活動できる可能性は、ほぼゼロ。
なら。
私がこの世界にいる意味って、なに?
570 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:54:26.43 ID:m7W+whrIO
思えばμ'sの再結成はひとつの現実逃避だった。
リアリティのない現象に遭遇して、絶望しかけた私を、すんでのところで花陽がすくい上げてくれた。
私の頑張る理由が、生まれた。
じゃあ、今の私が頑張る理由は?
この世界にいる理由は?
571 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:55:00.37 ID:m7W+whrIO
そもそも。現実逃避をやめた私は考える。そもそも、この世界はなんなのだろう。
本当に過去に戻ってきた?
だとしたら廃校の話がなくなっている理由がわからない。
少なくとも私の周りに関してのみ言えば、元の世界とは別のシナリオで進んでいる。
ただ単純に過去に戻っただけとは考えにくかった。
じゃあ、パラレルワールド?
たとえそうだとしても、今、このタイミングで私がこの世界に迷い込んだ理由は?
そうだ。考えてみれば見るほど、私という存在は異質。
私だけが元の世界の存在を知覚している。
私だけが、この世界で非常にイレギュラーな存在なんだ。
572 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:55:26.78 ID:m7W+whrIO
にこ「なんで……私ばっかり」
みんなが幸せそうにしているなかで、私一人がつらい思いをして。
理不尽じゃない、そんなの。
一生懸命頑張ったじゃない。何の説明もなくこんな世界に連れてこられて、それでもμ'sを作るためにあがいて。
なのになんなのよ。みんなみんな、私の邪魔ばっかり。
私は、私はただ……
にこ「――アイドルになりたかった、だけなのに」
不意にこぼれた、その言葉は。
573 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:55:53.40 ID:m7W+whrIO
「うそつき」
574 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:56:19.40 ID:m7W+whrIO
――――ピシリ、と。
世界に、大きな音を響かせた。
575 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:57:15.05 ID:m7W+whrIO
短いけどここまで
今月中には終わると思います
続きはまたすぐ
576 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 05:51:08.74 ID:PoAYZnzro
乙
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 21:27:17.36 ID:PjjpwlD70
乙待ってた
578 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 21:36:10.31 ID:oaIj06zJo
乙です
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 22:25:45.53 ID:r8Z8nHJb0
乙。終わってしまうのか…
580 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:28:59.54 ID:/PVFQV9zO
にこ「――え?」
声と、音が、同時。
どちらに反応すべきか。迷うほどの時間もなく、声の主は現れた。
「こんにちは」
にこ「あんた……!」
元アイドル研究部の、あの子。
「声をかけただけじゃない、そんな怖い顔しないでよ」
にこ「声をかけただけって……いや、そんなことどうでもいいわ」
にこ「あんたも聞いたでしょ? 今の音」
大きな音だった。何かにひびが入るような、決定的な音。
いつの間に現れたのかわからないけど、私に聞こえて彼女に聞こえていないとは考えにくかった。
581 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:29:27.93 ID:/PVFQV9zO
「そうね」
返ってきた言葉はそっけない。
興味がないような……あるいは、別に不思議ともなんとも思っていないような。
にこ「……なんの音か、わかるの?」
「ええ」
答えはひどくシンプルだった。
そのかわりに。
「あなたには――なんの音に聞こえたの?」
続く言葉は、私を少しだけ悩ませた。
582 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:30:11.74 ID:/PVFQV9zO
にこ「……なにかが、割れるような音」
考えた末に出た答えは、それだった。
いや。もっと正確な言葉を、私は思い浮かべたはず。
「ひびの入った音」
にこ「――――」
考えを読んだかのように、彼女は私の言葉を続けた。
「そうね、その通りよ。今のはひびが入った音」
「ひな鳥がその内側から卵をわるために」
「外の世界へ歩みだすために」
「自分を守る殻を?ぐために」
「ひびを入れた、音よ」
にこ「わけ……わかんない」
「うそつき」
にこ「嘘なんかじゃ、」
言いかけて、気づく。
私を罵るその言葉を、つい先ほど言われたばかりだということに。
583 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:30:41.99 ID:/PVFQV9zO
にこ「あんた……さっきも私のこと」
「言ったわね。うそつき、って」
その言葉は、何に対しての?
その直前に、私が言った言葉は?
それは、たしか――
にこ「――嘘じゃ、ない」
「――――」
にこ「アイドルになりたいって言葉が……嘘なんかなはず、ないじゃない!」
「そう?」
私の大事な部分に触れて、だというのに、彼女は飄々としたまま返す。
「だけどそれは、あなたにとってとても大きな意味合いを持つ言葉よ」
「だからこそ、殻は破れ始めた」
にこ「……は?」
「あなたは嘘じゃないと言った。そうかもね、その言葉自体は嘘じゃないのかもしれない」
「だけどね」
「その奥に眠ってる想いを、言葉を、語ろうとせず蓋をしたままでいるのは――うそつきと同じじゃない?」
584 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:31:07.58 ID:/PVFQV9zO
にこ「……待って。ついていけない」
入ってくる情報量の多さに目が眩む。
彼女の意図している部分の、きっと半分も、私は理解できていないんだと思う。
だけど、なんとなくわかったことがある。
わかったというか、察したというか。
あるいは、感じ取った。
にこ「あんた……この世界のこと、知ってるの?」
「ええ」
答えは、やっぱり、シンプルだった。
そして、続く言葉は。
585 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:31:35.11 ID:/PVFQV9zO
「だって、この世界を作ったのは私だもの」
やっぱり、私を、悩ませた。
586 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:32:35.83 ID:/PVFQV9zO
私の両手が彼女の肩へ伸びたのは、ほとんど衝動的なものだった。
にこ「教えなさい! なんなのよ、この世界は!」
にこ「なんのために作って!」
にこ「なんのために私を閉じ込めたの!」
にこ「教えなさいよ!」
「――痛いわ」
にこ「あっ、」
がくがくと揺さぶられるままになっていた彼女は、静かにそれだけ呟いた。
にこ「ごめん、なさい……」
「いいわよ、別に」
「それよりも……この世界がなんなのか、よね」
「その前にひとつ聞きたいのだけれど」
「それを聞いてあなたはどうしたいの?」
587 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:33:03.46 ID:/PVFQV9zO
にこ「え?」
「この世界はこれこれこういうものでした。おしまい」
「それで、それを聞いてあなたはなにか満足するの?」
にこ「満足、っていうか……」
にこ「この世界を出る方法が、見つかるかもしれないじゃない」
「――そう、よね。あなたはこの世界から出たいのよね」
にこ「あ、当たり前じゃない」
「なぜ?」
にこ「なぜ、って……」
「この世界は、不都合?」
にこ「ふ、不都合よ! こんな、」
「μ'sがない世界?」
にこ「……そうよ」
――自分の言葉を先取りされるのは、ほんとに気持ち悪い。
588 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:33:30.06 ID:/PVFQV9zO
「じゃあ、またやり直す?」
にこ「は?」
それはまるで、ゲームをリセットする? ってぐらいに気軽な言葉で。
思わず聞き流しそうになる。
「μ'sを作れなかったのが気に食わないんでしょう? なら、もう一度3月の「あの日」からやり直しましょう?」
「大丈夫よ、次はもっとうまく立ち回れるわ。今回の失敗をいかして、ね」
「そうすれば満足なんでしょう?」
にこ「そ、そんなこと……」
「可能よ」
にこ「…………や、でも、」
「今度はもっと、理想的なμ'sが作れるかもね」
にこ「…………」
彼女の言葉が、完全に私を黙らせる。
589 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:34:03.02 ID:/PVFQV9zO
「――ここで黙ってしまうから、あなたはうそつきなの」
にこ「え?」
「なんでもないわ」
「そんなことよりも。今言った通り、この世界はあなたの思うようにやり直せる」
「そもそもがそういう世界なの」
「あなたがμ'sの一年をやり直したいと願ったから、この世界は生まれた」
ノゾミ
「あなたの希望が産んだ世界」
にこ「私の、のぞみ?」
「そう。もっとわかりやすい言葉を使った方がいいかしら?」
「意識の奥底、無意識の内側、そこに潜む自分の願望」
「眠りの中で触れる、自らの希望」
「そんな世界の名前。わかるでしょう?」
590 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:34:29.96 ID:/PVFQV9zO
「ここは、あなたの見ている夢の中」
591 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:35:30.84 ID:/PVFQV9zO
にこ「――――」
「3月のあの日。あなたはいつも通り眠りに落ちた」
「そしてこの夢に迷い込んだ。私が作った、この夢に」
「言うなれば、私は管理人といったところかしら」
「もちろんこの姿だって借り物」
ア ナ タ
「私は矢澤にこ。あなたの頭の中に棲む、あなた自身」
にこ「そん……な。だって……」
「信じられなくても、受け入れるしかないわ」
「認めなさい、この世界を」
「ここはあなたが夢見た場所」
ユメ
「あなたが手を伸ばした憧憬で」
ユメ
「あなたが掴もうとした希望で」
ユメ
「あなたがつくり上げた幻想で」
ユメ
「とてもとても甘い――悪夢よ」
592 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:36:26.85 ID:/PVFQV9zO
「もう一度、改めて聞くわ」
「この世界の真実を知って。あなたは、どうしたい?」
「この夢から、醒めたい?」
にこ「私、わたし、は」
「……今決めろっていうのも、酷みたいね」
「だけどね、これだけは忘れないで。私がこの世界にあなたを招いたのには、意味がある」
「その意味をあなたが理解するまでは」
ワ タ シ
「その上で、あなたが矢澤にこを否定できなければ」
「私は、あなたをここから逃がすつもりはない」
にこ「意味、なんて、そんなの……わかんない……」
「うそつき」
三度目の、否定。
593 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:37:17.81 ID:/PVFQV9zO
「さっきも言った通り。この世界には、ひびが入り始めた」
「少しずつ、あなたが目覚める準備が整い始めた」
「だからこそ私はこうしてあなたに真実を教えたの」
「あなたが真実を受け入れる準備が、整い始めたから」
「だけどね、それはあくまで準備でしかないの」
「あなたが自分に嘘をつき続ける限り、準備は準備のまま」
「雛が孵ることはない」
にこ「……わたし、どうしたら……」
戸惑う私の、その胸に。
彼女は――もうひとりの「私」は、優しく指を突いた。
ハコ
「ここにある匣。その蓋を開けなさい」
「その中にある現実に、目を向けなさい」
「あなたがアイドルを目指している。それは本当」
「だけど。それだけじゃ、ないでしょう?」
「それを――認めなさい」
それだけを言い残して、「私」は蜃気楼のように揺らめいて、消えた。
594 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:37:44.23 ID:/PVFQV9zO
にこ「――――夢」
思わずほおをつねろうとして、やめる。この世界で痛い思いなんて、十分してきた。
体も。心も。
すごく、痛い思いをしてきた。
それが、私の望んだ世界?
にわかには信じられない――けど。
この世界に迷い込んだあの日。私はたしかに、望んでいた。
――いっそのこと、この一年間やりなおせたらなぁ
それを……自分の頭の中で実現したってこと、なの?
595 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:40:15.65 ID:/PVFQV9zO
にこ「…………」
「私」が指さした場所を、ぎゅっと握りしめる。
ここにある、箱。
それがなにを指すのか。今の私にはわからない。
うん、わからない。
わからない。
…………
そっか。そういうことなんだ。
にこ「自分に嘘はつけないってこと、なのね……」
その中から、災厄があふれ出てくることを、知りながらも。
それでも私は、この匣を開けなきゃいけないの?
ノゾミ
この世界が、私の希望を叶えた世界だというなら――
にこ「誰か、教えてよ……」
596 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:41:17.39 ID:/PVFQV9zO
ここまで
一応あと5、6回の投下で終わる予定
続きはまたすぐ
597 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/22(月) 17:55:52.98 ID:bzrpFVDuo
乙です
598 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/26(金) 22:14:15.84 ID:pBOsbZu30
乙
クライマックスやね
599 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/05(月) 22:10:10.92 ID:TncLFiZSO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1402325332/
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