にこ「きっと青春が聞こえる」

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300 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 21:19:26.60 ID:9D3TayC9o

ことり「私も……二人が入部するって言うなら、衣装作り、やってみてもいいかなぁ、なんて……」

穂乃果「ほんと!?」

海未「……よいのですか? ことり」

ことり「……うん。腕慣らし、って言ったら失礼かもしれないけど」

ことり「でも、実際に着てもらえるレベルの衣装を作る練習にはちょうどいいかなって」

海未「……そう、ですか……」

にこ「――――」

 聞いている感じ、感触はかなりいいみたいね。

 「このくらい」とか、ちょっと舐められてる感じがむかっとするのはあるけど。

 だけど、実際に今の私たちの実力はその程度、ってことだしね。

 それがあの子らのハードルを下げてくれてるっていうならむしろ好都合ってなもんよ。
301 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 21:32:15.99 ID:9D3TayC9o

にこ「ね、あなたたち。もしよかったら、今から私たちと一緒に――」

 練習に参加してみない?

 そう、言うつもりだった。

 だけどそれが私の口から出るより早く。

 ギイイィィィィ……

 と、重っ苦しい音が屋上に響いた。

絵里「お邪魔してもいいかしら?」

にこ「! あ、あんた……」

 音の原因、開いた扉から顔を出したのは。

 まぎれもなく、音ノ木の生徒会長にして。

 μ'sの大切なメンバーの一人――絵里、だった。

にこ「絵……生徒会長、なんでこんなところに……」

希「やっほー、元気にやってるかーい?」

にこ「希!」

希「おやにこっち、こんなところで奇遇やね?」

にこ「――――」

 あとから軽い調子で続いてきた人物を見て、察する。

 その答え合わせは、絵里の口からなされた。

絵里「突然ごめんなさいね。希がどうしても見てもらいたい部活があるからって言うものだから」
302 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 22:28:37.92 ID:9D3TayC9o

にこ「希……」

 あんたって子は。

 ほんと、いい仕事してくれるじゃない。

絵里「それで? 矢澤さんがいるということは……アイドル研究部ということよね? ここは」

にこ「ええ、そうよ」

絵里「ということは――希が言ってた「私に話がある人」っていうのも、あなたということでいいのかしら?」

にこ「まあ、そういうことになるわね」

絵里「一体なんの用事かしら? 部費を上げてほしいとかそういう話はナシよ、アンフェアだわ」

にこ「そんなつまらない話するつもりないわよ」

絵里「あら、それじゃあ面白い話をしてくれるのかしら?」

にこ「もちろん。さいっこーに愉快な話よ」

絵里「希と並んでるところを「なかよしこよし」だなんて茶化される冗談より愉快であることを祈ってるわ」

にこ「ぐ……」

 この子、最初のあの日のこと根に持ってるわね……
303 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 22:42:33.54 ID:9D3TayC9o

にこ「――単刀直入に言う。あなた、この部に入るつもりはない?」

絵里「――――」

 しん、と空気が冷える。

 絵里は答えない。じっと、私の目を見つめる。

 スカイブルーの瞳に映る私は、がっちがちの表情で佇んでいた。

 誰を誘った時よりも口の中が乾いているのは、やっぱりこっちの世界での第一印象があったから。

 あっさり切り捨てられたら。

 ばっさり斬り捨てられたら。

 そう考えるだけで、膝が震えるのがわかった。

 ごくん。鳴った喉は誰のものだろう。

 沈黙に耐えきれず、二の句を接ごうとして、そして――

絵里「――まあ。たしかに、つまらなくはないわね」

 その一言で、がくっと力が抜けた。
304 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 22:44:47.39 ID:9D3TayC9o
ここまで
次はまた近いうちに
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 23:05:35.93 ID:4Mot2ztio
乙です
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 23:50:25.75 ID:BrRnyKcuo
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/27(月) 20:52:16.50 ID:wXuA3ohbo
どこが楽しいのか
308 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 20:57:01.07 ID:FmvrfbxHo

にこ「興味を持ってくれたようで何よりだわ」

 へいちゃらけーな顔でそう言うけど、内心はだいぶほっとしてた。

 正直、一番の難関は絵里になると思ってたから。

 だから、そのラスボスが好感触を示したのは、このクソゲーの中でも数少ない救いだった。

 まあ、赤毛の裏ボスがまだ控えてるんだけどね……

絵里「勘違いはしないで欲しいわ。まだ入ると決めたわけではないの」

にこ「……なに? なんか条件でも出すつもり?」

絵里「――――」

 答えることなく、絵里はぐるりと屋上を見渡す。

絵里「そこで座ってるあなたたちは、見学者?」
309 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:01:33.15 ID:FmvrfbxHo

穂乃果「えっ?」

海未「私たちのこと、ですか? え、ええ、そうですけど……」

絵里「そう……アイドルに興味があるの?」

穂乃果「そうと言えば、そうなのかな……?」

絵里「どういうこと?」

穂乃果「私たち、矢澤先輩に勧誘されて来たんです。だから、最初からアイドルに興味があったっていうわけでは……」

絵里「……他の二人も?」

ことり「あ、私はそもそもアイドルをやるためにきたんじゃなくて……」

海未「私は違います。穂乃果がどうしてもと言うから仕方なく着いてきただけです」

穂乃果「もー、海未ちゃんまだそんなこと言ってるの?」

海未「まだとはなんですか、私は本当に……」

絵里「もう、いいわ」

 頭を抱えながら、絵里はそう答えた。

 ――あんまり、雰囲気よくないかも。
310 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:19:12.51 ID:FmvrfbxHo

絵里「そこの二人は部員なのよね?」

 冷ややかな視線が、今度は凛と花陽を捕らえる。

凛「……そうですけど」

 あー……警戒心MAXだ、あの子。

絵里「あなたたちは? 勧誘されて入ったの?」

花陽「あ、わ、私は違います。私はアイドルになりたくって……」

絵里「そ。そっちのあなたは?」

凛「なんで答えなきゃいけないんですか?」

 友好心ゼロの返答。

 てか、これまずい。私が止めないと――

にこ「ちょっと、二人とも……」

絵里「入部をお願いされてる立場ですもの。部について質問くらいさせてもらって当然でしょう?」

凛「私はお願いしてません」

絵里「あなたが部長以上の権限を持ってのなら今すぐ帰るわ」

凛「――――っ」

 ダメだ、私の言葉なんて全然届いてない。

 一触即発、今にも取っ組み合いになるんじゃないかってくらいにボルテージがあがって――

希「絵里ち」

 熱くなった二人の間に、すっ、と水が差される。

絵里「……ごめんなさい、そんなこと言うためにきたんじゃなかったわ」
311 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:32:04.58 ID:FmvrfbxHo

絵里「じゃあ聞き方を変えるわ。この中で自分の意志でこの部に入った人は?」

 私を含めた皆が皆、目を見合わせて。

 おずおずと手を挙げたのは、花陽だけだった。

絵里「…………そう。わかったわ」

 落胆の色を隠そうともしない絵里の声。

 それに答える子なんて、誰もいなかった。

絵里「矢澤さん」

にこ「……なに?」

絵里「返事。今するわ」

にこ「返事?」

絵里「この部に入れって、あなたが言ったんでしょう?」

にこ「ああ……」

 正直、そんなことすっかり頭から吹き飛んでいた。

 だって、そうでしょう?

 なんの前触れもなく、真正面からケンカ売られてるようなもんだもん。

 第一、ここまで言われていい返事を期待するほど間抜けじゃないし、私。


絵里「入ってもいいわ」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 21:39:17.60 ID:4B+yuq9fo
はい止め
終わり
つまんない
313 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:43:31.50 ID:FmvrfbxHo

にこ「…………は?」

 今鏡を見たら、さぞかし間抜けな顔した女の子が映るでしょうね。

 って、そんな現実逃避してる場合じゃなくて!

にこ「入るの!?」

絵里「だめなの?」

にこ「いや、そんなことは……」

 ない、けど。

 さんざんひっかきまわして、その答えを誰が予想できるの?

凛「入ってもいいって……上から目線すぎません?」

絵里「頼まれてる立場だって、さっき言ったはずなのだけれど」

凛「だからって!」

花陽「り、凛ちゃん! 落ち着いて!」

凛「でも!」

花陽「うん、わかるよ、気持ち。だから」
 
 きっ、と。

 花陽にしては珍しく強い視線で、絵里へ向き直る。

花陽「なんで急にそんな答えになったんですか?
314 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:48:12.74 ID:FmvrfbxHo

絵里「別に急に決めたつもりはないわ」

花陽「……わけがわかりません。だってさっきまであんなに酷い態度だったのに」

花陽「入るつもりがなかったとしか、思えません」

絵里「――あなたは、わかってるんじゃないの?」

花陽「え?」


絵里「入るつもりがあったから、よ」


花陽「――――」

 その沈黙は、なにを意味したのだろう。

 なんにせよ、それ以上花陽が答えることはなかった。
315 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:54:42.52 ID:FmvrfbxHo

絵里「それにね、ただで入るとは言ってないわ」

にこ「は?」

絵里「あなた、スクールアイドルランキングって知ってるかしら?」

にこ「知ってる、けど……」

 かつてはその頂点まで上り詰めたグループの一員だもの。

 知らないはずがない。

絵里「そのランキングで、あなたたちが100位以内に入ること。それが私が加入する条件」

にこ「…………」

 は?

 あなたたちって、私たち?

絵里「まあ、今の状況でその条件を満たすのは難しいでしょうね」

絵里「だから、私も協力してあげる。こう見えてもバレエの心得はあるの」

絵里「あなたたちにレッスンをつけることくらいならできるわ」

にこ「――いいかげんに、」

 風船のように膨らんでいた悪感情。

 それが、限界まで大きくなって――

絵里「するのは、あなたの方なんじゃないの?」

 ぷしゅう、と情けない音をたててしぼんだ。


絵里「あなた――なにがしたいの?」
316 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:58:23.06 ID:FmvrfbxHo

 なにがしたいの? って。

 それ、私のセリフじゃないの?

穂乃果「あのー……」

 蚊帳の外になっていた穂乃果が、おっかなびっくりで口を挟む。

穂乃果「その「あなたたち」って、ひょっとして私たちも……?」

絵里「入ってるわ」

穂乃果「ええー……」

海未「待ってください! 私たちはまだ入部も決めていません!」

海未「第一ことりに至ってはそもそもアイドル活動をするわけでも――」

絵里「ならこの話はなかったことにしましょうか?」

海未「――――っ」

 海未の立場ならそこで構わないと怒鳴りつけてもいい場面だった。

 それをすんでのところで踏みとどまってくれたのが私のためだということは、一瞬飛んできた彼女の視線が如実に語っていた。
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 22:00:21.79 ID:H4zk5UsHo
やっときたか
支援
318 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:07:28.24 ID:FmvrfbxHo

 ――そして、彼女の捨て台詞にたどり着く。

絵里「――最後に、もう一度だけ言わせてもらうわ」

絵里「ここにいる六人のグループで、一か月以内にスクールアイドルランキングで100位以内に入る」

絵里「それができなければ――私は、このグループには入りません」

 好き放題言い残して、絵里は屋上を後にした。

 残されたのは。

にこ「――なんなのよ、これは」

 苦い現実を突き付けられた、ちっぽけな女の子。 
 
319 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:08:51.81 ID:FmvrfbxHo
微妙に>>253と食い違う展開になってしまいました、申し訳ないです
もうちょっとだけ続きます
320 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:13:32.40 ID:FmvrfbxHo

【Side:絵里】

希「絵里ち!」

 早足で階段を下りる私の背中に、希の声が飛んでくる。

 彼女の言いたいことは痛いほどにわかっている。

希「話が違うやん! にこっちの話聞いて、よければ協力してあげるって、そういう話だったでしょ!?」

絵里「……わかってるわ」

 わかってる。自分がどれほどみっともないことを喚き散らしたか。

 どれほど子供じみた感情を振りかざしたのか。

 痛いほど、わかってる。

 だけどね、希。

 「話が違う」は、こっちのセリフなのよ。
321 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:19:02.03 ID:FmvrfbxHo

 「矢澤にこ」は、私たちの学年では知らない人がいないほどの有名人である。

 アイドルを目指し、暴走し、孤独になった変人。

 たぶん多くの人の認識はそんなものでしょうね。

 だけど、私は――少しだけ、うらやましかった。

 恥も外聞もかなぐりすて、自分のやりたいことにひたむきになれる強さ。

 方向性はどうであれ、それは誇れるものだと思ったから。

 だから彼女が再び部活動を再開し始めたと聞いた時は、内心応援だってしていた。

 希から「あの占い」の話を聞いて。

 私が彼女に関われると知って。

 嬉しく、思ったのよ。

 だから。

 だからこそ――

絵里「残念、だったのよ」
322 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:21:47.75 ID:FmvrfbxHo

希「残念?」

絵里「ええ」

希「残念、って……むしろ絵里ち、喜んでたやん? にこっちを近くで見られるって」

絵里「ええ」

希「いや……矛盾してない?」

絵里「してないわ」

 だって。

絵里「だって――彼女は私の知ってる「矢澤にこ」じゃなかったから」

 今のままの彼女なら――関わることに、意味なんて、きっとない。
323 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:26:05.93 ID:FmvrfbxHo

希「どういうこと……?」

絵里「さっき。屋上には私たちを含めて8人いたわね?」

希「え? う、うん、そうだったと思うけど……」

絵里「なら……あの8人が、希の占いに出た「やっつの光」、なのよね」

希「……たぶん」

絵里「そう……」

 違ってほしかった。

 もしそうなら、話は簡単だったから。

 だけどどうしても「あの」8人でなければならないというのなら。

絵里「あの部活――潰れるわ」

希「そりゃ、まあ……あれだけぼろくそに言われれば……」

絵里「そうじゃなくって」

 それは、まあ、やりすぎた私が悪かったけど。

 だけど、あれだって必要な荒療治。

絵里「正直、矢澤さんのやりたいことが見えてこないのよ」
324 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:29:04.95 ID:FmvrfbxHo

希「にこっちのやりたいことって……アイドルになる、やろ?」

絵里「…………」

 アイドルに、なる。

 なることだけが目的なら、あのメンバーでもいいのかも知れない。

 だけど、それなら彼女は2年前、ひとりぼっちになんてならなかった。

 彼女が目指してるのは、そんな低いところではなかったはずだ。

 なのに。


 今の彼女は――2年前の自分自身を蔑ろにしているようにしか見えないのよ。
325 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:29:49.22 ID:FmvrfbxHo
ここまで
自分の力不足で違和感のある展開になったかも知れません
うまく脳内で補完してください
続きはまた後日
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 22:46:59.96 ID:g1led/NAo

違和感というか展開が飛躍してると思ったよ
まともに対話すらしてないのにーって感じ
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 22:49:07.52 ID:heo0awx+0
うむ
補完はちゃんとできるから問題ないといえば問題ない
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 23:05:40.62 ID:VUpTjINKo
乙です
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 00:16:48.80 ID:rtNvJdkdo
面白いよ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/06(水) 00:41:42.30 ID:gCEFcPdr0
くっそ面白い
331 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:11:46.66 ID:+lwXNVVgo

凛「凛は絶対反対!」

 嵐が過ぎ去った後。

 そのままレッスンを続ける雰囲気でもなくなり、私たちは部室へと戻っていた。

 にこ「そうなるわよねぇ……」

 余りにも一方的な要求。

 私たちが一か月以内にランキング100位入り?

 まだ登録すらされてない私たちが?

 正直……非現実的すぎる。

凛「あんなに勝手な人の話聞く必要ないにゃ! ね? かよちん」

 まあ、凛が反対する理由はもっと別なところにあるんだけど。
332 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:12:40.55 ID:+lwXNVVgo

花陽「…………」

凛「かよちん?」

花陽「――あ、ごめん凛ちゃん。なぁに?」

 絵里とのやり取りから向こう、花陽の様子はずっとおかしかった。

 ぼーっとなにかを考えるような。

 というか、思い詰めてるような。

 
絵里『入るつもりがあったから、よ』


 絵里のあの言葉の意味は、私にはよくわからない。

 入るつもりのある人間が、あそこまでディスる必要ある? って話。

 だけど花陽にとって、あの言葉は。

花陽「…………」

凛「ねーかよちーん、聞いてるにゃー?」

 大きな意味を持ってるみたいね。
333 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:13:24.99 ID:+lwXNVVgo

 そして懸念事項はもうひとつ。

海未「あの……」

にこ「あー、うん。あなたの言いたいことはすごくよくわかる」

海未「ならば話は早いのですが……」

にこ「ちょ、ちょっと待って!」

 慌てて話を遮る。絵里への反感が最高潮になってる今、この子たちにまで離れられたら、本格的にμ'sの結成は怪しくなってしまう。

にこ「そっちの二人は!?」

 さっきまで好印象だった穂乃果なら、話を良い方向に持っていってくれるかもしれない。そう考えての振りだったんだけど。

穂乃果「私は……やっぱり遠慮しようかなー、なんて」

にこ「なっ……」

穂乃果「だってだって、そのスクールなんちゃらランキングっていうのがどんなものかよくわからないけど……」

穂乃果「でも、私たちがそれにランクインするって言われても、現実味がないというか……」

穂乃果「ぶっちゃけ、練習とかきつくなっちゃう? って考えると……ねえ?」

にこ「…………」

 返す言葉は、私の頭のどこをひっくり返しても、出てこなかった。
334 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:13:55.55 ID:+lwXNVVgo

海未「――もう、いいでしょうか?」

 言いながら、返事を待つことなく、海未が席を立つ。

 気まずそうな顔をしながら、続く穂乃果。

 良くなんかない。行ってほしくない。

 願いばかりがあふれ出て、だけど、それを彼女らの心に届く言葉に変換する力が、なくて。

 だから。

ことり「私は――やっても、いいです」

海未「なっ!?」

穂乃果「ことりちゃん!?」

 その足を引き留めたのは、その心に届く言葉の持ち主だった。
335 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:15:17.84 ID:+lwXNVVgo

海未「ことり、あなたは優しすぎます!」

 返す海未の言葉には、隠すつもりもない怒気が満ちていた。

海未「大方今までの流れから、自分が協力しなければ矢澤先輩たちが困ると判断したのでしょう」

海未「ですが! それは私たちには関係のない話です!」

海未「衣装づくりの話だって、私は賛成しかねるものでした!」

海未「ことり、自分を犠牲にする必要なんてないのです。残された時間、もっと自分のやりたいことを――」

 焦りと怒りをまくしたてる海未に対し。

ことり「海未ちゃん」

 ことりの言葉は、あまりにも静かだった。

ことり「その言葉は――誰のため、なの?」

海未「え――」
336 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:16:44.82 ID:+lwXNVVgo

ことり「矢澤先輩。私たち、入部します。穂乃果ちゃんもいいかな?」

穂乃果「うぇ? あ、えーっと、いいような、悪いような……」

ことり「やっぱり……だめ?」

穂乃果「ううん、だめじゃないよ!」

ことり「ありがとう。ごめんね、わがまま言って」

穂乃果「そんなこと……」

ことり「海未ちゃん」

海未「…………」

 先ほどの、ことりの一言から。

 海未は、ずっとうつむいたまま唇をかみしめていた。

ことり「気持ちはね、すっごく嬉しいんだぁ。私のこと思ってくれてるって、わかるから」

ことり「でもね。きっとそれだけじゃ、ないよね」

ことり「海未ちゃんがどんな気持ちでも、構わない」

ことり「だけど――それを私のせいにするのは、違うと思うの」

海未「――そんな、つもりは」

ことり「ない?」

海未「…………」

 海未はそれ以上、何かを答えることはなかった。
337 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:17:19.62 ID:+lwXNVVgo

ことり「矢澤先輩。いいですか?」

にこ「――え、あ、っと……」

 花陽と絵里のやりとりの再現のようだった。

 私の知らないところで、だけど、私に致命的に関わる何かが進んでいるような、もどかしさ。
 
 話の筋の端っこも掴めていない私は、果たして今、この物語の中心にいるのだろうか?

 ――なんて。考えても意味のないことくらい、わかってる。

 だって。

にこ「もちろん――いいわよ」

 そう答える以外に、私には選択肢なんて、ないのだから。
338 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/12(火) 22:18:00.25 ID:+lwXNVVgo
ここまで
前回やらかしたのでしばらく書き溜め方式で行こうと思います
次はまた近いうちに
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/12(火) 23:30:35.75 ID:/umqSg/uo
乙です
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 02:05:15.01 ID:xBpaJpAto
うむ
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 22:17:28.86 ID:IK3b9IBB0
待ってたおつ
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/17(日) 02:42:48.30 ID:wM+kQvJlO
普通に面白くない
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/17(日) 09:20:30.23 ID:bIcgYHuOo
いや面白いよ
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/18(月) 18:49:38.74 ID:Q4Gp1CZFo
面白いから続けて
345 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:14:01.51 ID:9E7ahJqxo

【Side:真姫】

 気づいたことがある。

にこ「まったく、まいっちゃうわよ……いきなり現れてスクールアイドルランキングの100位以内に入りなさい、だなんて」

真姫「だけどそれ、にこちゃんが入部しろって言ったからなんでしょ? 割と自業自得だと思うんだけど」

にこ「そ、それは、たしかにそうだけど……」

 この、自称未来人の先輩と話をするのは、意外と楽しくて。

にこ「だけどあのごーまんな態度ったらないわよ! 昔を思い出すわ!」

真姫「あっちの世界でもそんな性格だったの? 生徒会長は」

にこ「最初はね。アイドルやりたいくせに肩肘張ってザ・生徒会長! みたいな態度とって。あほらしいったらありゃしないわ」

真姫「ふぅん?」

にこ「……なによ?」

真姫「え? なにが?」

にこ「にやにやしちゃって、なにがおかしいの?」

真姫「……笑ってたの? 私が?」

にこ「やらしーい顔でね」

真姫「…………」

 なんだか、意地張ってる自分がばからしくなってくる。
346 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:14:52.28 ID:9E7ahJqxo

 友達は作らない。

 自分を守るための、精一杯の強がりだった。

にこ「というわけで、ついに真姫ちゃんの出番到来よ」

真姫「え?」

にこ「え? じゃないわよ! 私たちに楽曲提供してくれるって約束でしょ!」

真姫「……そういえばあったわね、そんな話」

にこ「忘れてんじゃないわよ!」

真姫「忘れるくらい長い間アイドル活動のあの字も見せなかったのは誰よ?」

にこ「ぐぬぬ……」

 にこちゃんは友達じゃないから、セーフ?

真姫「……ほんと、ばかみたい」

にこ「なんですってー!」

真姫「ただのひとりごとよ」

 わかってる。

 こんな素敵な関係――もう、手放せない。
347 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:15:38.77 ID:9E7ahJqxo

にこ「とにかく! 私たちのアイドル活動が満を持して始動するってわけよ!」

 私たち、か。

 その言葉に――私は、含まれてるのかしら。

真姫「それで? 私はどの曲の音源を用意すればいいわけ?」

にこ「もちろん、μ'sの最初の曲はこれしかない」

にこ「――『START:DASH!!』よ」

 『START:DASH!!』、ね。

 私とにこちゃんの、この奇妙な関係が始まった日に作られた、まさにスタートダッシュの曲。
 
 だけど。

 始まりがあるってことは――いつかかならず、終わりがあるってこと。

 自称未来人の、この先輩は。

にこ「あによ? 私の顔になんかついてる?」

真姫「――なんでもないわ」

 いつまで、私のそばにいてくれるのだろう。
348 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:16:40.09 ID:9E7ahJqxo

 * * * * *

 絵里のレッスンは、善は急げと言わんばかりに翌日から始まった。

 その結果は――正確には、結果を出すための過程のはずだけど――悲惨の一言。

絵里「星空さん、走りすぎ! もっとちゃんとリズムを聴いて合わせて!」

凛「わかって、ます!」

絵里「小泉さんは逆! 遅れてるのは体力不足の証よ!」

花陽「は……はい!」

絵里「園田さんは動きが硬いわ! 余計な力を抜いて!」

海未「そんなこと、言われ、ましても……!」

絵里「南さんは動きが小さいわ! 細々してるとなにをしてるのかわからないわよ!」

ことり「はい……!」

絵里「高坂さんは――」

穂乃果「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」

絵里「――いったん休憩にしましょうか」
349 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:17:33.36 ID:9E7ahJqxo

絵里「…………」

 各々が休憩をとる中、絵里はひとり難しい顔で腕を組んでいる。

にこ「……どう? 正直な話」

絵里「……思ったより悪くない人が半分」

にこ「へえ?」

 練習中に飛んでいた言葉を思い返せば、それは意外な感想だった。

絵里「あなたもそのうちの一人よ?」

にこ「あら、それはどーも」

 ま、一年前のスペックに戻ったとはいえ、一度はラブライブ優勝してる身ですから。

絵里「それに星空さん、南さんは悪くない」

絵里「星空さんはまだ自分のリズムで先走る癖があるみたいだけど、もともと体を動かすのは得意そうね」

絵里「リズム感をもっと養えば問題ないわ」

絵里「南さんはまだ慣れない動きに戸惑ってる節はあるけど、それさえクリアすれば結構動けるんじゃないかしら」

にこ「……ちなみに、残り半分は?」

 絵里の表情が、再び曇る。

絵里「……思ったより悪いわ」
350 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:19:04.19 ID:9E7ahJqxo

絵里「まず小泉さん。彼女は決定的に体力不足」

にこ「あー……」

 思い出すのは、いつぞやのゲーセン。

 あれからトレーニングは欠かさず取り組んできたものの……さすがに付け焼刃にしかなってないみたいね。

絵里「それから園田さんは……彼女の場合、メンタルの問題かしらね」

絵里「動きがガチガチ。そのわりについてこれてはいるのだから、物理的に体が動かないというわけでもない」

絵里「まだアイドル活動をすることに抵抗感があるんじゃないかしら」

にこ「それよねぇ……」

 ことりとのこと、どうなってるのか私にはさっぱりだけど。

 彼女らのやり取りを見るに、どうもスムーズに話が進んでいるようではない。

絵里「それと、高坂さんは……」

にこ「…………」

 絵里と一緒に、視線を移す。


穂乃果「ぷはー! アクエリアスおいしーい!」
351 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:19:41.47 ID:9E7ahJqxo

絵里「……ねえ。あの子、本当に入れなきゃだめなの?」

にこ「この六人で、って言ったのはあんたでしょうが」

絵里「そうなのだけど……」

 いや、絵里の言いたいこともわかる。

 なんせ穂乃果、花陽以上についてこれていない。

 ステップは覚えられずリズムはめちゃくちゃ、挙句の果てにすぐ息切れ。

 一体全体なんでこの子がμ'sのリーダーやれてたの? ってレベル。

絵里「なにが足りないって言うなら、モチベーションでしょうね」

にこ「モチベーション?」

絵里「彼女、自分がなんでこんなことしてるのかもわかってないんじゃないかしら」

にこ「だからそれはあんたが……」

絵里「じゃなくて、そもそもの話。なんで自分がアイドル研究部に勧誘されたのか、よ」

にこ「…………」

 μ'sのメンバーだったから。

 それが理由として通用しないことくらいは、わかる。
352 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:20:46.00 ID:9E7ahJqxo

絵里「そういう点では園田さんや南さんも同じだけれど……」

絵里「彼女たちには、少なくとも『今』ここにいる理由はあるようだしね」

にこ「……わかるの?」

絵里「彼女らの様子を見ていれば。なんとなくだけれど、ね」

にこ「そう……」

 ぎこちないなぁとは見ていて思うけど、私にはそこ止まり。

 彼女らが――特に海未が、なぜこうして練習に来ているのか、想像もつかない。

 ――私、あの子たちのこと、なんにもわかってないんだ。 

絵里「……だけど、だめなんでしょ?」

にこ「へ?」

絵里「園田さんや南さんもそうだけど。高坂さんもアイドル研究部に入れないと」

絵里「八人のうちのひとり、なんでしょ?」

にこ「あ、それって……」

 希の占いに出てた八つの光の話?

 なんで絵里が、とも思ったけど、そもそもあれは絵里や希を占った結果か。

 当の本人が聞いていたとしてもなんらおかしい話ではない。
353 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:22:09.65 ID:9E7ahJqxo

絵里「なら、やるしかないじゃない。文句なんて言ってられないわ」

 言いながらその場を立ち去る絵里の横顔は、とても力強くて。

 意志の固さがありありと伝わってきた。

 だからこそ、不思議に思う。

にこ(この子は、なんでこうも……煽るようなやり方をするのよ)

 かつて絵里は花陽に言った。


絵里『入るつもりがあったから、よ』


 入るつもりの人間が、なぜあんなケンカを売るような真似をしたのか。

 ――なんだ。私、絵里のこともちっともわかってない。

 着々と集まる人数とは裏腹に、私たちは、まだ全然ばらばらのままのような気がして。



 それは、次第にわかりやすい形をとり始めた。
354 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/07/24(日) 22:23:08.52 ID:9E7ahJqxo
ここまで
続きはなるべく近いうちに
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/24(日) 22:37:30.14 ID:muPX22yzo
乙乙
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/25(月) 01:00:03.63 ID:Sqq6EjWFo
うむ
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/25(月) 01:32:30.24 ID:xPDWm0xC0

読むと苦しくなるけど続きを待ってる
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/13(土) 06:19:07.56 ID:nU7Ca880O
もうやめて欲しい
痛い
心的なものが
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/13(土) 13:46:23.04 ID:y9WbM9nSO
待ってるからもっとやれ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/20(土) 03:11:02.65 ID:RAWcDzC8O
>>359
しねキチガイ
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/20(土) 03:45:59.56 ID:jfKcWyxvo
はよして
待ってるんだから
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/08/21(日) 08:26:32.24 ID:XVE9G4WSO
>>360
死ね
363 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:05:06.05 ID:KsmMYZ1co

にこ「穂乃果がいなくなった?」

ことり「はい……」

海未「帰りのショートホームルームまではいたのですが……」

にこ「…………」

 絵里のレッスンが始まって三日目。それは前触れもなく訪れた。

 というか、訪れなくなったって言うのが正しいんだけど。

ことり「帰っちゃった、のかなぁ……?」

海未「まさか、いくら穂乃果といえどこんな逃げるような……」

 かばうように否定しながらも、海未は言葉尻を濁す。

 なにか思い当たる節でもあったのかもしれない。
364 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:05:32.77 ID:KsmMYZ1co

凛「だけど、急に用事ができたとかかもしれないにゃ?」

海未「可能性としてなくはありませんが……」

ことり「そういう場合、ちゃんとメールなんかは入れてくれてるから……」

凛「メール……来てないにゃ?」

海未「…………」

ことり「…………」

 沈黙は、なによりもたしかな肯定だった。

花陽「と……とりあえず、準備運動だけでも始めませんか?」

花陽「絢瀬先輩が来る前に体はあっためておかないと……」

にこ「や、そういうわけにもいかないでしょ」

にこ「絵里には六人でって言われてるわけだし。放ってはおけないわ」
365 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:06:00.18 ID:KsmMYZ1co

花陽「だけどそれって……ランキングに載るメンバーが六人で、ってことですよね?」

花陽「六人揃わなきゃ練習できないって言われてるわけじゃないですし……」

にこ「それは、そうだけど」

 ちょっと冷たくない? なんて、思わないでもない。

 一蓮托生……とまではまだいかないものの、一応もう同じ場所を目指す仲間なわけだし。

 その仲間が練習に来ないのに、知らんぷりするなんて――

絵里「ごめんなさい、遅れてしまったわ――あら?」

希「お疲れさまー。……ん? 絵里ちどしたん?」

にこ「あ……」

 私たちが答えを出すより早く、タイムリミットが顔を出してしまった。
366 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:06:26.02 ID:KsmMYZ1co

絵里「ひとり、足りないようだけど?」

にこ「えっと、それは……」

絵里「高坂さんはどうしたの? 昨日一昨日はこの時間には集まっていたじゃない」

 ぐるりと屋上を見渡す絵里。

 一人一人と目を合わせ、その皆が皆一様に目を合わせようとしない様子を見て、彼女は察したようだった。

絵里「……来ていない、のね?」

 質問しているようで、それは答えを求めるものではなくて。

 ただ、私たちに現状を認識させるためのものだった。

絵里「……そう。なら今日の練習はなしね」

花陽「えっ……」

 驚いたのは花陽である。

絵里「言ったでしょう? 条件はあの六人。一人でも欠けることは認められないわ」

花陽「それは……あくまで、ランキングに載るメンバーが、という話だったはずです」

花陽「一人足りないから練習もできない、なんて――」

絵里「来るの?」

花陽「――え?」
367 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:06:51.83 ID:KsmMYZ1co

絵里「来るの? 高坂さんは。明日から」

絵里「今日何事もないようにここにいるメンバーだけで練習して」

絵里「来れるの? 高坂さんは」

絵里「病気とか、急な用事とか。そうだったのなら構わない」

絵里「だけど、もしも「そうじゃなかった」場合――」

絵里「今日何もしないで、明日から、彼女は来るの?」

花陽「…………」

絵里「――やるからには、なあなあで済ませるつもりは、私にはないわ」

花陽「そ、それは私だって……」

絵里「…………」

花陽「……なん、ですか?」

絵里「……いいえ」

絵里「とにかく。一人でも欠けているのなら私からのレッスンは中止」

絵里「明日は全員揃っていることを願うわ」

にこ「あ、ちょ、……もう」

 有無を言わさぬうちに、絵里は屋上から姿を消した。
368 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:07:30.00 ID:KsmMYZ1co

希「なんて言うか、ごめんね」

にこ「なんで希が謝んのよ?」

希「絵里ちがあそこまで頑なになっちゃった原因の半分くらいは、うちの占いのせいみたいなんよ」

にこ「それって……例の?」

希「うん、八つの光」

希「そんなにこだわらなくても、集まる人だけでやればいいんじゃないかなって、うちは思うんだけどね」

希「あ、でもにこっちとしても大事な八人なんだよね」

にこ「そう……ね」

 そう、大事。

 大事な――九人。

凛「何の話にゃ?」

にこ「あ……こっちの話、こっちの話」

凛「?」
369 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:07:55.93 ID:KsmMYZ1co

にこ「なんにせよ、まずは穂乃果よ穂乃果」

にこ「あの子ったら、一体どこ行っちゃったのかしら……」

ことり「あのぅ、そのことなんですけど」

 おずおずと挙手をしたのは、ことり。

ことり「穂乃果ちゃんがどこに行ったのか、ひょっとしたらアテがあるかもしれないです」

にこ「ほんとに?」

ことり「はい、今日のお昼の時、ちらっと話題に出てたんですけど……」

海未「あ、ひょっとしてあの話ですか」

ことり「うん。なにか用事があって、とかじゃないなら、たぶんあそこじゃないかなって思うの」

にこ「どこ? それって」

ことり「はい、それは――」

――――――――

――――――

――――
370 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:08:33.94 ID:KsmMYZ1co

【Side:穂乃果】

穂乃果「いただきまー……す!」

 ぱく、っと一口。すると、ふわぁってやわらかーい匂いが口いっぱいに広がる。

穂乃果「んー、うまい! やっぱりパンは焼きたてが一番だね!」

 思わず叫んでみたものの。

 ベンチに座る私の両隣には、返事してくれる人は誰もいなくて。

穂乃果「はぁ……やっちゃった……」

 自分のやったことを、今更ながらに後悔。

穂乃果「うう……だってだって、ことりちゃんがお昼に「おいしいパン屋さんが開店した」、なんて話するから――」 

 ――誰に言い訳してるんだろ、私。

 そんなの関係ないって、自分が一番わかってるはずなのにね。
371 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:09:01.93 ID:KsmMYZ1co

 温度差に、耐えられなかった。

 練習についていけないとか、一人だけいつまでもへたくそなままとかそういうのは……ちょっと関係あるけど、だけど、それだけじゃなくて。

 私、なんでここにいるの? っていうか。

 そりゃあ、最初にこ先輩が誘ってくれた時は面白そうかなー、とかちょっぴり思ったけど。

 生徒会長の出した条件を聞いたら――無理だな、って思った。

 きっと私がついていける話じゃないな、って。

 だから海未ちゃんがお断りしようとしたときは、内心ラッキーなんて思ってた。

 だけど――
372 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:09:32.51 ID:KsmMYZ1co

ことり『私は――やっても、いいです』

 嬉しい気持ちと、困った気持ちが、半分ずつくらいだった。

 ことりちゃんが残ってくれるんじゃないかな、っていう期待と。

 え、私もやらなくちゃダメなの? っていう不安と。

 ごちゃまぜになって――複雑。

 結局、ことりちゃんをがっかりさせたくなくて一緒に入ることになったけど。

穂乃果「その結果がこれじゃあ……」

 合わせる顔、ないよね。
373 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:09:58.87 ID:KsmMYZ1co

 いっそのこと、ことりちゃんが「やーめた」って言ってくれたら――

穂乃果「……サイテー」

 そんなことを、ちらっとでも考えた自分が、大嫌い。

 自分がやりたくないだけなのに、ことりちゃんのせいにしようとしてる、私。

 ことりちゃんがどうとかじゃなくて、私自身がどうしたいか、なのに。

 ほんと――サイテーだよ。

穂乃果「はぁ……」
374 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:10:36.17 ID:KsmMYZ1co

 * * * * *

穂乃果「はぁ……」

にこ「…………」

 学校からさほど離れていない公園のベンチに、穂乃果の姿はあった。

 ことりの話だと、この公園のすぐ前に焼き立てのパンが食べられるパン屋さんがオープンしたって話をお昼にしたらしく。

 穂乃果がいるとしたらそこではないかという話になり――ビンゴ。

 正直、見つけたら出会い頭に怒鳴りつけてやろうかと思ってたんだけど。

穂乃果「…………」

 あの子のしょんぼり顔を見ていたら、そんな気もなくなってしまった。
375 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:11:24.73 ID:KsmMYZ1co

にこ「アイドル、つまんない?」

穂乃果「つまんない、ってわけじゃ……うぇえ!?」

にこ「なによ? 人の顔見てそのリアクションは失礼じゃない?」

穂乃果「だって、だって、なんでここに?」

にこ「部長だもの、部員がとんずらこいたらしょっぴくのは当たり前でしょ?」

穂乃果「じゃなくて、なんでここが……」

にこ「あんたの考えてることなんて、幼馴染はお見通しみたいよ?」

穂乃果「……です、よね」

にこ「…………」
376 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:12:26.30 ID:KsmMYZ1co

にこ「アイドル、つまんない?」

 さっきと同じ質問を、もう一度。

穂乃果「……よく、わかんないです」

穂乃果「体動かすこと自体は嫌いじゃないけど、ぶきっちょだし」

穂乃果「みんなが一生懸命になってる横で穂乃果だけ転んで、えへへーってごまかしても誰も見向きもしなくて」

穂乃果「私、なんでこんなところにいるんだろ……って」

穂乃果「ごめんなさい、一度やるって言ったのに、中途半端な態度で……」

にこ「――ううん、あんたが謝る必要なんてないわ」

穂乃果「だって、自分勝手でわがままなのは穂乃果で、」

にこ「いいから。謝んないで」

 これ以上謝られたら――こっちがみじめになっちゃう。
377 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:13:10.42 ID:KsmMYZ1co

 この子が嫌々やっているのなんて、本人から聞くまでもなく明らかだった。

 それをわかってて私は、見て見ぬふりをしてる。

 私の目指す場所――μ'sのため。

 凛なんかは自分の意志をはっきり示してたから、真っ向から向き合うことができたけど。

 本音を言いづらい子がいるのだって、当たり前なのよね。

 ――じゃあ、諦める? 9人集めるの。

にこ「…………」

 それは……無理。

 自分勝手で、わがままだって、わかってても。

 これは譲りたくない。譲れない。

 これを譲ったら、私は――
378 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:16:27.72 ID:KsmMYZ1co

にこ「……もうちょっと、続けてみたら?」

穂乃果「え?」

 結果。出てきたのは、停滞の言葉。

 なんとか現状を維持しようとするだけの、なんの力もない言葉。

 そうだ。別に無理やりやらせる必要はない。

 凛の時と同じ、彼女自身に動機づけをしてあげれば――

にこ「ほら、ことりだって必死にやってるわけだし。それが理由でもいいじゃない?」

穂乃果「ことり、ちゃん?」

にこ「そうよ。ことりがやってるから、自分も一緒にやる。海未だっているわけだし」

にこ「やってるうちに楽しさが見つかってくれれば万々歳じゃない?」

にこ「それにさ、ことりだってアイドルの楽しさに目覚めてもっと続けたいって思うかもだし」

穂乃果「…………」
379 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:17:34.72 ID:KsmMYZ1co

 これで、大丈夫よね。

 ことりが海外留学するという事実は、この世界の彼女らには有効打になりうる。

 それを阻止する可能性は、十分彼女が続ける動機になるはず。

穂乃果「ことりちゃんが続けるから、私も続ける……」

穂乃果「あはは……」

にこ「……ほの、か?」

穂乃果「そうですね。ことりちゃんがやってるから、私もやります」

穂乃果「それで、いいんですよね」

穂乃果「私自身が、どうとかなんて……」

にこ「あの、ちょっ」

 私の制止も聞かず、穂乃果はふらふらと公園を立ち去ってしまう。

 その様子は、とてもじゃないけどやる気になったようには見えなくて。

にこ「…………」


 これで……大丈夫、なの?
380 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/08/22(月) 22:18:04.05 ID:KsmMYZ1co
ここまで
近いうちにとか言いながら早一か月
もう少しペースあげたい
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/22(月) 22:36:45.70 ID:1PWIst5Q0
ほのかって上手くはまらんかったらほんま普通の子やもんな
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/22(月) 22:57:21.94 ID:eBw87rlPo
乙です
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/23(火) 07:20:02.63 ID:Kd9CsALSO
ほのかわいい
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 21:38:25.86 ID:nxU9HTyMo
一年に戻ったならリボンの色で気付く
だろ

385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 21:40:19.06 ID:nxU9HTyMo
学年で色が変わるぞゴミクズ

これはドイツさんも失笑
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 21:44:32.85 ID:nxU9HTyMo
俺もこんか学校生活送りかったよおおこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 23:17:06.24 ID:H52PcdEGo
>>129
アレルギーに否定ってどういう意味かね
アレルギーの意味を理解して使ってるかな

アレルギーに否定されるなら問題ないじゃん
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 23:18:43.88 ID:H52PcdEGo
>>123
なんで凛の一人称が私なの?
sid には全部凛って使われてなかったか
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/23(火) 23:45:18.51 ID:H52PcdEGo
俺たちがここであったみたいに運命というのは必然だからね

この女神たちの絆も同様
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/24(水) 00:47:21.12 ID:s5rSHk0Lo
理解力のないキッズには構わないでね
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 11:05:24.51 ID:qjyd/czLo
アレルギーに否定って・・・


思考停止のゴミクズがいますねぇ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 11:09:57.62 ID:qjyd/czLo
二年生に戻ったらリボンの色で気付くだろ・・・

学年ごとにリボンの色が変わることを知らなかったのかなぁ

同じリボン=緑だよな
そうじゃないと過去に戻ったってわかるもんなぁ 
二年生の教室ならリボンの色は赤なんだけどなぁ

不思議だなぁ 
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 11:12:35.19 ID:qjyd/czLo
http://imgur.com/xSD8qC1.png



学年で色は変わるゾ〜

これにはドイツさんも苦笑い

http://imgur.com/xSD8qC1.png
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 11:14:33.57 ID:qjyd/czLo
sidうんちゃらよりちゃんとアニメ見てろよ

俺はいちいち正しいマスターベーションをお前に教えてやるほど優しくはねえぞゴミクズ
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/24(水) 12:10:38.22 ID:DJPZPrr3o
にこが二年ならリボンは赤だぞォ〜

         
タイムスリップss[田島「チ○コ破裂するっ!」]猿の9割が間違えるジンクス
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/24(水) 19:58:20.80 ID:W42qP10ro
はよしろ
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/24(水) 19:58:56.02 ID:W42qP10ro
>>393
グロ
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/24(水) 20:18:59.35 ID:E/6jrSw8o
http://imgur.com/RdsqFgn.png


リボンの色の説明しろやゴミクズ

二年が緑とかありえねーよ


http://imgur.com/RdsqFgn.png
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/24(水) 20:34:55.30 ID:77kOpoXNo
>>398
グロ
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