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にこ「きっと青春が聞こえる」
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24 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 21:01:49.56 ID:V+INWURXo
しばらくして現れた担任教師に挨拶して、ホームルームを終えて、一時限目の始まる前の休み時間。
そういえば、と私はようやくスマホの存在を思い出す。
インターネットブラウザを起動して、適当なニュースサイトを検索。
出てきた最新記事の日付は――
にこ「一年前、だ……」
案の定というか、ある意味期待外れというか。
ふわふわとしていた現状が、一気に現実として重みをもつ。
25 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 21:05:50.21 ID:V+INWURXo
私、一年前の世界に迷い込んだの?
昨日いなかったはずのこころやここあが家にいたのも。
絵里や希がよそよそしかったのも。
卒業したはずの私たちの学年が授業を受けてるのも。
全部、一年前だから?
にこ「ありえない……」
ファンタジーやSFじゃあるまいし。
タイムスリップ? タイムリープ?
ループものなんて飽食のご時世でイマドキはやんないわよ、こんなの。
だから……だから。
誰か、嘘だって言って。
じゃないと。
にこ「――――」
私、またひとりぼっちになっちゃう。
26 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 21:38:11.17 ID:V+INWURXo
置き勉上等の精神が功を奏し、ほぼ手ぶらで登校した私もテキストがなく困り果てる、という事態は避けられた。
どこかで聞いたような授業―― 一年前、この場所で聞いたんだろうけど――をほとんど聞き流し、お昼休み。
ママお手製のお弁当を机の上に出し……どうしよう。
ちら、と教室を見回す。
食堂組を除き、仲のいいグループは机を寄せ合いランチタイムに突入していた。
――居心地悪いなぁ……
ここ最近はずっとμ'sのメンバーと食べていたから、この頃お昼をどう過ごしていたのか覚えていない。
だけどひとつだけ確実。
少なくとも、誰かと一緒に過ごしていた記憶は、ない。
27 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 22:20:34.47 ID:V+INWURXo
にこ(やば……泣きそう)
μ'sという居場所を手に入れた今だからわかる。
自分がいかに寂しい人間だったか。
全ては――仲間を失った、あの日から。
歯車が、狂い始めた。
にこ「どうしろってのよ、これから……」
思わず口をついて出る弱音。
真面目な話、先が全く見えない。
今日一日過ごして、おやすみなさいして、明日の朝すべてが元に戻ってるならそれでいい。
だけどもし、明日以降もこれが続いたら……?
ははは、家から出れる自信、ないなぁ。
込み上げる熱い感情が、視界をじんわりにじませた。
28 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 22:40:29.57 ID:V+INWURXo
クラスメイト「ちょ、どうしたの? 矢澤さん」
にこ「え?」
クラスメイト「急に泣き出して、どっか痛いの? 保健室いく?」
にこ「や、え、ちょ……」
クラスメイト2「はいはい、ちょっと落ち着きなさい」
クラスメイト3「矢澤さん、困ってるよ」
クラスメイト「や、でも……」
クラスメイト2「でもじゃない。まずは事情を聞く」
クラスメイト2「というわけで矢澤さん。横から急に口出して申し訳ないけど、どうかしたの?」
にこ「え、っと……」
クラスメイト3「……ひょっとして、自己紹介が必要だったりする?」
にこ「そそそ、そんなことないわよ! さすがにクラスメイトの名前くらい知ってるから!」
にこ「飯塚さんに竹達さんに、後藤さん……よね?」
竹達「自信なさげだなぁ……」
後藤「なんにせよ、正解。よかった、矢澤さんに覚えてもらえてて」クスクス
にこ「……ひょっとして、おちょくってる?」
後藤「あらあら、そんなことないわよ?」
29 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 22:49:46.38 ID:V+INWURXo
飯塚「それで、なんで急に泣いてたの?」
にこ「あ、それは……」
飯塚さんの質問に、言いよどむ。
本当のことを言っても信じてもらえるわけないし……
竹達「てゆーか珍しいよね、矢澤さんが昼休みに教室いるのって」
にこ「へ?」
竹達「だってそうでしょ? いつもチャイムが鳴ると同時に教室からいなくなって」
後藤「授業開始五分前に帰ってくる。どこ行ってるんだろうねって噂したこともあったわね」
竹達「や、それ本人の前で言うことじゃないでしょ……」
にこ「あーっと……」
そうだ、思い出した。
私お昼休みになったら、アイドル研究部の部室に逃げ込んでたんだ。
ひとりぼっちでご飯を食べてるみじめな姿を、見られたくなくて。
30 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 23:00:30.33 ID:V+INWURXo
飯塚「でも今日はいつまでたっても席を立つ気配がなくって……」
飯塚「どうしたんだろ、って思ってたら急に泣き出すんだもん、びっくりして思わず声かけちゃったよ」
にこ「あ、そうだったんだ……」
飯塚「泣いてた理由、言えないならそれでも全然構わない」
飯塚「でも、こうして話したのもなにかの縁だと思ってさ。よかったら一緒にご飯食べない?」
にこ「え? ……ええ!?」
竹達「や、そんなに驚く話だった? 今の」
にこ「だって、だって……」
ぼっちの私が、誰かと食事?
うそうそうそ、ありえないでしょそんなの。
だって私、一年生の「あの一件」以来、学年の鼻つまみ者で――
後藤「いいじゃない、ご飯くらい。私たちずっと矢澤さんと話してみたいと思ってたのよ」
にこ「――うええぇぇぇぇええ!?」
竹達「だからそんなに驚く話だったかな!?」
にこ「驚くわよこんなの! だって、だって私は――」
飯塚「ほらほら机くっつけて」
にこ「って聞きなさいよ!」
後藤「あら、矢澤さんのお弁当おいしそうですねぇ」
にこ「勝手に開けてるしー!?」
31 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 23:10:01.54 ID:V+INWURXo
ぎゃーぎゃー言いながら、なんだかんだで三人娘とお昼ご飯を食べることになった。
私と話してみたいと思ってたのは本当らしくて、いろんなことを聞かれた。逆に私もいろんなことを聞いた。
なんだか会話するのが当たり前で。
違和感とか全然なくて。
友達みたいだな、って思った。
私の、思い込みだったのかな。
一年生のとき、アイドル研究部の一件以降、好奇の目にさらされるようになって。
私には友達なんてできないんだって決めつけてた。
だけど、違ったのかな。
避けられてるんじゃなくって。
避けられることを恐れて――私が避けてただけ、だったのかな。
32 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 23:13:12.40 ID:V+INWURXo
μ'sじゃ、ないけど。
飯塚「その言い方ひっどーい!」プンスカ
竹達「あはは、気にしない気にしない」ケラケラ
後藤「二人とも、おかしい」クスクス
居場所作っても――いいのかな。
答えはわからないけど。
にこ「もー、変なことばっかり言うんだから」アハハ
明日の朝も、学校に来れそうな気がした。
33 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/15(火) 23:14:56.05 ID:V+INWURXo
ここまで
名前ありのオリキャラっぽいのでてきたけどモブに毛が生えた程度の認識で大丈夫です
クラスメイト123じゃ味気ないなと思っただけなので
続きはまた近々
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/15(火) 23:20:23.71 ID:aschLFiPo
おつおつ
35 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 22:46:46.75 ID:XV6qQge5o
飯塚「なんだかんだで馴染んだよねぇ、矢澤さん」
にこ「ま、一週間も一緒にご飯食べてればね。さすがに馴染みもするでしょ」
竹達「ほんとねー、この一週間で矢澤さんのお母さんの卵焼きのおいしさがよーくわかったわ」
にこ「私もあんたがそういう意地汚い人間だってことがよーくわかったわよ! てか卵焼き返しなさい!」
竹達「返せと言われて返すなら最初から取らないし!」
にこ「私なんで逆切れされてるの!?」
後藤「そうして二人のお弁当からは大事なおかずが一品ずつなくなるのでした」モグモグ
にこ・竹達「さらっと持ってくな!」
飯塚「……本当に馴染んだね……」
36 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 22:49:54.78 ID:XV6qQge5o
後藤「だけど、本当に不思議よねぇ」モグモグ
にこ「今私の唐揚げがあんたにもぐもぐされてる以上の不思議なことなんかないわよ」
後藤「それもそうね」
にこ「納得すんな!」
飯塚「よーしよしよし、矢澤さん抑えて抑えて」
にこ「私ゃ犬かなんかか!?」
後藤「ほーら、三回回ってワンと言ったらこの唐揚げを上げるわよー」
にこ「元から私のだけどね!?」
37 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 22:55:21.45 ID:XV6qQge5o
竹達「話が進まないから一旦落ち着きなさい落ち着きなさいって」
にこ「私? 私が悪いの?」
竹達「で? 何が不思議だって?」
後藤「へ?」モグモグ
竹達「おう、この際私のウインナーがいっこ減ってることは不思議に思わんから続けなさい」
後藤「あーうん、大したことじゃないんだけど」
にこ「まったく、付き合ってらんないっての……」牛乳ズゾー
後藤「矢澤さんってなんでぼっちだったのかなって」
にこ「ぶふー!」牛乳ビシャー
飯塚「ぎゃあ! 汚い! 汚いよ矢澤さん!」
竹達「容赦ないボール投げるわねあんたも……」
後藤「そうかしら?」
38 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 23:04:06.36 ID:XV6qQge5o
にこ「げほっ、げほっ」
飯塚「だ、大丈夫? 矢澤さん」
竹達「牛乳まみれになりながらその張本人を気遣えるあんたの器の大きさにゃ感服だわ……はい、タオル」
飯塚「あ、ありがと」フキフキ
にこ「ぜー、ぜー……痛いとこついてくるじゃない」
後藤「そう?」
にこ「しれっとしてるのが憎らしいけど……まあいいわ」
にこ「私たちが一年生の時の『アイドル研究部事件』。これでわかるでしょ?」
飯塚「あ……」
竹達「それって、あの……」
後藤「ああ、にっこにっこにーが口癖の話聞くだけでいたたまれなくなるくらい恥ずかしい人がぼっちになったっていうあの……ということは?」
にこ「……いたたまれなくなるくらい恥ずかしい人で悪かったわね……」
39 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 23:19:22.46 ID:XV6qQge5o
にこ「そーよ。あの時一人で勝手に暴走して部員に愛想つかされて、ひとりぼっちになったアイドル研究部唯一の部員が、この私ってわけ」
にこ「それ以来友達なんかいなかった。いらなかった」
にこ「……ううん、いらないと思い込んでた」
飯塚「矢澤さん……」
にこ「ぶっちゃけちゃえば、つらくないわけないわよ。登校もひとり。ご飯もひとり。放課後もひとり」
にこ「でも、どうすることもできなかった。どうせ嫌われ者だって予防線はって自分を守るのが精一杯」
にこ「誰かと関わる余裕なんてなかった」
竹達「…………」
にこ「でも、気づいたの」
にこ「一歩踏み出せばよかっただけなんだって」
にこ「がんじがらめの有刺鉄線の中でぶるぶる震えてるんじゃなくって」
にこ「ちょっとの勇気を出せば――こうして、友達ができるんだって」
後藤「…………」
40 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 23:38:31.01 ID:XV6qQge5o
にこ「だから……ねぇ」
にこ「私、もうちょっとだけ勇気を振り絞ってみようと思うの」
にこ「来週からもう春休みになって」
にこ「三年生になったら、同じクラスになれるかわからない」
にこ「だけど、さ」
にこ「春休みも――三年生になっても」
にこ「私と、友達でいてくれる?」
三人「…………」
41 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/17(木) 23:43:47.27 ID:XV6qQge5o
それは、決別の言葉だった。
四月になって廃校騒ぎが校内に蔓延して。
穂乃果たちがスクールアイドルを始めた時。
私が彼女らにちょっかいをかけなかったら。
私がμ'sに入ることは――ない。
だけど、それでもいいかな、なんてちょっぴり思えてしまったんだ。
あの九人だけが、私の形じゃないって。
この四人という形が、教えてくれたから。
だから――これでも、きっといい。
そんな私の、出会う前に終わった仲間たちとの関係を知る由もない三人は。
飯塚・竹達・後藤「――――」ニコッ
笑顔で頷いてくれた。
42 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/18(金) 00:08:04.94 ID:epl5tFtBo
後藤「それにしてもアイドルかぁ……うちの後輩が食いつきそう」
竹達「後輩って、部活のあの子? そんな風には見えないけど」
後藤「ああ見えて可愛いの好きなのよ。本人は興味ないふりしてるけど」
照れ臭くなったのか、話題は別な方向へと進みだした。
まだばくばくしてる心臓を、ゆっくり落ち着かせる。
残った牛乳をちゅーちゅー吸ってると、会話からあぶれてる飯塚さんと目が合った。
飯塚「……春休みさ」
にこ「ん?」
飯塚「春休みさ。いっぱい遊ぼうね」
飯塚「来年は私たちも受験生だからあんまり余裕はなくなっちゃうかもだし」
飯塚「だから、春休み。めいっぱい遊ぼう」
飯塚「――にこちゃんの、これまでのぶんも」
にこ「――!」
名前。呼んでもらった? 今。
飯塚「…………」フイッ
あ、顔そらした。
ふふ、変なの。顔真っ赤にしちゃって。
――鏡見たら、きっと同じようなことになってるんだろうなぁ。
43 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/18(金) 00:08:41.61 ID:epl5tFtBo
ま、なんにせよ。
これから一年――目いっぱい楽しもう。
――楽しめる、よね?
にこ(……なんだろ、この気持ち)
嬉しいのに――なんかちょっとだけ、もやもや。わけがわからない。
にこ(――嘘)
本当は――わかってる。
わかってるけど――今は、今だけは、目をそらしていたい。
「…………」
44 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/18(金) 00:09:08.82 ID:epl5tFtBo
ここまで
ようやく一区切りできそう
次はそのうち
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/18(金) 00:37:18.07 ID:3QqLmojGo
乙
期待してます
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/19(土) 01:48:40.68 ID:fj2eKHNXO
面白そう
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/25(金) 20:30:02.12 ID:cw+ZhkQq0
期待
これは名作になりそう
48 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 18:15:18.91 ID:ID/tEswDo
にこ「ただいまーっと」
自分の声がむなしく廊下の奥へ響いていくのを聞きながら、自分の部屋へと向かう。
バッグを放り制服のままぼすん、とベッドに体重を預ける。
マットレスにずぶずぶと体が沈み込んでいく感覚におぼれながら、ここ数日途端に増えた幸福な思い出に浸る。
にこ「「……ふへへっ」
我ながらキモイ笑い声が漏れる。
でもしょうがないでしょ?
だって、楽しいんだもん。
今日は唯一部活に入ってる後藤も活動がないってことで、四人そろって放課後にカラオケ。
私の歌唱力に三人ともびびっちゃってたなぁ。
49 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 18:29:44.85 ID:ID/tEswDo
こーんな楽しい毎日が、これからずっと続くんだ。
春休みはもちろん、三年生になってからも。
受験勉強? ううん、そんなの関係ない。
だって、どうせ私は専門学校に――
にこ「――――」
行く、のかな。
心の奥に奥にしまいこもうとしていた気持ちが、水の中の泡みたいにぷかりと浮かんでくる。
アイドルは、どうするの?
ごろんと寝返りを打ち、うつぶせになる。制服がしわになっちゃうかな、と一瞬頭をよぎったけど、そんなのはすぐにかき消された。
そう、なんだよね。
μ'sに入らないってことは――スクールアイドルを諦める、ってことなんだよね。
50 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 18:39:25.71 ID:ID/tEswDo
むぎゅ、と顔を枕にうずめる。
にこ「ううううぅぅぅぅ……」
アイドルは、諦めたくない。
子供のころからの夢を、手放したくなんてない。
だけど、気づいちゃったんだ。
今の四人って――すっごい気楽。
目標がなく。努力がなく。必死さがなく。練習がなく。練磨がなく。
ただ毎日を、頭からっぽにしながらけだるげーに消耗させていく。
なにかに打ち込んでいる人たちからしてみたらそんなの無駄な日々でしかなくて、アニメ作品なんかにしたらただのモブキャラにしかなれないような女子高生A。
だけど。
そこには、私の三年間にはなかった、気楽さがあった。
にこ「ううううぅぅぅぅ……」
9と4。
両皿にそれらを乗せた天秤は、いつまでもゆらゆらするばかりで傾いてくれない。
51 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 18:50:56.51 ID:ID/tEswDo
翌朝。若干の寝不足に瞼をこすりながら教室のドアを開ける。
にこ「おはよー」
これは、今までの私になかった習慣。最初はどぎまぎしたけど、今ではちらほら返してくれる人も増えてきた。
ところがどっこい。聞きなれた三人娘の声はそのどれにも混じっていなかった。
にこ「ありゃ?」
珍しく四人の中で一番乗りだったらしい。
ま、そんな日もありますか。
自分の席に座りスマホでもいじってようかしらんと思うや否や、隣に立つ気配。
おや、と思い見上げると、クラスメイトの何某さんが立っていた。
「おはよう」
にこ「……おはよう」
え、なに? なんで急に改めてあいさつされたの?
疑問をぶつける間もなく、相手はくるりと踵を返す。
「ついてきて」
にこ「あ、ちょっ……」
私の声も聞かず、教室を出て行こうとしてしまう。
にこ「もう、なんなのよ……」
悪態をつきながらも、放っておくわけにもいかず、私は席を立った。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 19:27:01.54 ID:2FfanUDto
はよ
53 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 19:36:46.53 ID:ID/tEswDo
振り返ることもしない背中に渋々ついていくと、そこは人気のない階段裏だった。
にこ「なぁに? あいにくラブレターは受け付けてないんだけど」
「ふぅん? やっぱり覚えてないんだ」
にこ「はぁ? 覚えてないってなにを、」
「あーんな恥ずかしいこと人にさせておいて、さ」
にこ「恥ずかしいことって、――!」
言われて、ようやく気づく。
今の今まで忘れていた自分に嫌気がさした。
そうだ。二年生のころはこの子がクラスにいたからずっと気分が浮かなかったというのに――
にこ「あんた……アイドル研究部にいた……」
「あ、思い出してくれたんだ」
くすくすと笑うその顔は、しかし「あの時」の彼女の顔とは重ならない。
『もう、付き合ってらんないから』
そう言い放った、あの時の表情とは。
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 19:42:26.90 ID:X0ROv3J+o
ほお
55 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 19:46:17.01 ID:ID/tEswDo
にこ「……今更なんの用よ」
「ん? 別に特別用事があったわけじゃないの。ただ、ずいぶん楽しそうだなーって思って」
にこ「楽しそう?」
「あの三人と。うまくやってるみたいじゃない」
にこ「なっ!」
「毎日一緒にお昼ご飯食べて、放課後は遊びに行って。充実してるみたいね」
にこ「……悪い?」
「怖い顔しないでよ、だれもそんなこと言ってないじゃない」
一呼吸おいて。
「ただね、私はひとつだけ、確認したかっただけなの」
にこ「確認?」
「そ」
そういうと彼女は歩き出し、すれ違いざまにぽつりと呟く。
彼女が残したその言葉は。
「あなたが私たちを置き去りにしてまで守ってたものは――もう、いいの?」
とても、とても、重く。
にこ「――――」
天秤が、ぐらりと揺らぐのを感じた。
56 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 20:15:24.89 ID:ID/tEswDo
竹達「――箸が止まってるよ? にこっち」
にこ「えっ」
お昼休み。例によって例のごとく四人で机を囲むけど、食欲は湧いてこなかった。
飯塚「体調悪い? 保健室行く?」
竹達「これこれ、またこのパターンかい」
後藤「調子が悪いなら無理して食べる必要ないわ、私がもらってあげるもの」
竹達「えーいあんたもやめんか!」
ぎゃーぎゃー騒いでる三人は、いつも通り変わりなくて。
変わってしまったのは、きっと、私。
だから、だから――
竹達「――え、マジでどうしたの?」
飯塚「だだだ、大丈夫!?」
後藤「落ち着いて、ね?」
にこ「ぅ……ぅぅうう……」
涙が出るほど苦しいのも、私のせい。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 20:26:12.34 ID:X0ROv3J+o
竹達って誰だ!?
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 20:36:59.83 ID:ARf+SrK7o
頼むから初めから見てくれ
59 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 20:48:06.94 ID:ID/tEswDo
にこ「私ね……ひっく、やっぱりね、無理……みたい、だった……ひぐっ」
竹達「む、無理って、なにが?」
にこ「アイドル……諦められない、の……」
飯塚「アイドルって、にこちゃんが一年生の時やってたっていう? でもそれって駄目になっちゃったんじゃ……」
にこ「うん……でも、でもね……やっぱり諦められない……」
後藤「…………」
にこ「みんなと楽しく過ごせればいいって、思ってたけど……」
にこ「だけどそれって、今までの私に、嘘つくことになっちゃう」
にこ「ひとりぼっちになるまで自分を貫いた、あの時の自分に、申し訳が立たない」
にこ「それに、なにより」
いっかい、深呼吸。
にこ「私、やっぱり、アイドル好きだもん」
60 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 20:51:55.32 ID:ID/tEswDo
竹達「や、それはわかったけど……それがなんで急に泣き出したことにつながるわけ?」
にこ「それ、は……」
言い出しづらい部分に触れられ、言いよどむ。
だけど、曖昧にしちゃだめだ。
ちゃんと、けりつけないといけないことだから。
後藤「――私たちとお別れするから、よね?」
にこ「っ」
口を開こうとした矢先。
思っていたことを言い当てられる。
61 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 20:58:34.80 ID:ID/tEswDo
飯塚「お、お別れ!? なんで!?」
後藤「……私が言って、いいのかしら?」
ちら、と視線を向けられる。
うまく説明できる自信がなかったから、正直、ありがたい申し出ではある。
だけど、なんで私の考えてることが、わかるの? この子は。
後藤「私もね。このグループで唯一部活に所属してるから、なんとなくにこの気持ちはわかるの」
私の心中を知ってか知らずか、問いに答える後藤。
後藤「物理的に一緒にいられる時間が少なくなるからっていうのも、もちろんあるんだけどね」
後藤「根本的に、熱量が違うの」
竹達「熱量?」
後藤「うん。例えば私なんかは、部活やってるときなんかは『やるぞー!』ってすごく熱いエネルギーを持ってるんだけど」
後藤「みんなといるときは、なんていくか……ぬるま湯につかってるような、ほんわかーな気持ちになるの」
後藤「オンとオフ、っていえばわかりやすいかしら」
62 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:07:17.41 ID:ID/tEswDo
竹達「だ、だけど、ごとーちゃんはそれでも私らと一緒にいるわけじゃん? だったらにこっちだって……」
後藤「私は今の部活に入ったの、高校からだからねぇ。正直、そんなに熱心なわけでもないの」
後藤「だから部活のことを全く考えない、オフの時間を作れる」
後藤「だけど、にこの場合は――そうじゃ、ないんでしょ?」
にこ「――――」
後藤の言う通り。
私にとってアイドルは、かけがえのない生きざま。
だからこそ、やるからには中途半端を、だれよりも自分が許せない。
目標があり。努力があり。必死さがあり。練習があり。練磨があり。
ひたすらに毎日を、中身のあるものにさせていく。
アニメの主人公、宇宙ナンバーワンアイドルにこにーになるためには。
女子高生Aであっては、いけない。
63 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:16:16.81 ID:ID/tEswDo
にこ「ごめん……」
だからこれは、二度目の決別。
この世界に来たあの日、九人という形に別れを告げた私は。
ひどく自分勝手な理由で、今度はこの四人という形に別れを告げている。
嫌われたって、おかしくない。
飯塚「…………」
竹達「…………」
二人とも、うつむいたまま言葉を発しない。
後藤「ね、二人とも……にこのこと勝手だって思うかもしれないけど、でも――」
飯塚・竹達「焦ったぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
にこ・後藤「…………へ?」
64 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:21:21.01 ID:ID/tEswDo
竹達「いやそれってさ、要はこのゆるぅい雰囲気に流されちゃだめだーってだけでしょ?」
にこ「う、うん」
飯塚「じゃあさ、廊下ですれ違った時に『元気―?』とか挨拶していいんだよね」
にこ「も、もちろん!」
竹達「電話とか立ち話だってセーフでしょ?」
にこ「え、あ、そう、だけど……」
飯塚「それって、全然お別れじゃないよー」クスクス
にこ「う、え、そう?」
竹達「そーそー。そんなの全然さ――友達の範疇じゃん」
にこ「――――」
あ、やば。
また目頭、熱くなってきた。
後藤「なんだか、一本取られちゃった感じね?」
65 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:29:59.86 ID:ID/tEswDo
それから散々「重くとらえすぎ」とかからかわれて。
三年生になるまでは今の関係を続けることを伝えて。
一緒にご飯を食べて。
授業を受けて。
放課後は四人でボウリングに行って。
お別れして。
帰ってきて昨日のように布団に耐えれこんだところで――再び涙があふれてきた。
にこ「うううぅぅぅ……!」
アイドルへ向けて、再燃焼していく中でも。
このひだまりのような心地よい温かさは、きっとどこかで残り続けていくんだろうな、と思った。
66 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:35:27.45 ID:ID/tEswDo
年度が変わり、四月某日。
ついに運命の日――音ノ木坂廃校告知の日がやってきた。
登校し、校門をくぐる前。一度足を止める。
にこ「――よし」
気合は十分。覚悟も十分。
今日、ここからすべてが始まっていく。
この世界に来てからまだひと月程度しか経ってないのに、ずいぶんいろいろなことがあったように感じる。
――ちょっとは成長、できたかな?
にこ「なんてね」
少しだけ固まっていた緊張を、笑顔で解きほぐす。
うん、やっぱりにこにーは笑顔でいなくちゃね。
さて。行きますか。
これから始まる、かつて始まったμ'sの誕生へ向けて、私は一歩踏み出すのだった。
67 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:37:42.79 ID:ID/tEswDo
――その日。結局放課後まで待っても、廃校の告知が張り出されることはなかった。
68 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/03/27(日) 21:39:18.63 ID:ID/tEswDo
ここまで
ようやくプロローグが終了しました
やっとほかのμ'sのメンバーが出せる
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 21:47:26.90 ID:VPrrh1+/O
がんばれ
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 21:48:13.82 ID:+CX7SjRJo
おつ
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 21:49:33.38 ID:uK3IoZh/O
歴史が変わってしまったのか…
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/03/27(日) 23:56:49.35 ID:4ZwGJ2hT0
楽しみすぎる……
小説形式の方がやっぱり好き
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/29(火) 10:48:50.17 ID:dZYH5i5h0
期待
74 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 19:36:37.14 ID:JvmSDeLco
日付を勘違いしてたかな、と思って三日待った。
何かイレギュラーが発生したのかも、と思って五日待った。
半分くらいあきらめて、一週間待った。
十日経った頃――私は学校へ行かなくなった。
75 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 19:42:03.51 ID:JvmSDeLco
にこママ「じゃあ私仕事行くけど……ほんとに看病してなくて大丈夫?」
にこ「……ん。大丈夫だから」
にこママ「だけどもう三日でしょ? ただの腹痛っていってもこれだけ続くなら……」
にこ「大丈夫だから。寝てれば……よくなるから……」
にこママ「……明日も変わらないようだったら、病院へ行きましょう。いいわね?」
にこ「…………」
にこママ「……行ってきます」
見送りの言葉を返すこともできず、黙ったまま家のドアが閉まる音を聞く。
さすがにママもおかしいと思い始めたみたい。
たぶん、私がずる休みしてるって気づいてる、よね。
にこ「……はぁ」
なんだかほんとにおなか痛くなってきそう。
76 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 19:53:11.70 ID:JvmSDeLco
眠って、目覚めて、ご飯食べて、眠って。
この三日間それだけを繰り返してた。
いつか目覚めたら。
全てが夢でした、ってなればいいのに。
そんなことを願いながら、だけどそんなことにならないってわかりながら。
ただ無駄に時間を削っていくことに焦りながら。
もう――なにもする気になれなかった。
にこ(これ……ずっと学校行かなかったらどうなるんだろ?)
不登校?
ひきこもり?
卒業もできなければ、進学もできない、の?
にこ「――――っ」
じわりと心を蝕む予想に背筋が震えた。
どうしよう、どうしよう――
77 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 20:31:53.41 ID:JvmSDeLco
――――――
――――
――
「――というわけで、本日特集するのは今大人気のスクールアイドル、A-RISEです!」
にこ「――ん、」
いつの間にか落ちていた眠りから目覚める。
つけっぱなしにしていたテレビは夕方のニュース番組を垂れ流していた。
にこ(やば、電気代もったいない……って、A-RISE?)
聞きなれた名前と、流れ出した曲に意識がはっきりする。
Can I do? I take it, baby! Can I do? I take it, baby!
にこ(これ――Private Wars?)
かつては私たちがラブライブで下した相手が――画面の中で、輝いていた。
78 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 20:43:29.52 ID:JvmSDeLco
かつてμ'sができる前。飽きるまでリピートしてた曲。
What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``
ほら正義と狡さ手にして
What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``
ほら人生ちょっとの勇気と情熱でしょう?
歌詞なんか見なくても口ずさめるほど聞いていた曲。
もう辞めちゃうの?
根気がないのね
ああ…真剣に欲しくはないのね
そんな曲が、今になって。
What`cha do what`cha do? I know ``Dangerous Wars``
ただ聖なる少女は趣味じゃない
What`cha do what`cha do? I know ``Dangerous Wars``
ただ人生勝負を投げたら撤退でしょう?
にこ「――――」
What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``
ほら正義と狡さ手にして
What`cha do what`cha do? I do ``Private Wars``
ほら人生ちょっとの勇気と情熱でしょう?
私の心を打ちのめすのは――なんでなの。
79 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 21:03:06.59 ID:JvmSDeLco
テレビから流れる曲を、呆然と聞いていたものだから。
ピンポーン。
にこ「あ、はーい」
不意に鳴ったチャイムの音につい反応してしまった。
にこ(あ、しまっ……)
と思っても後の祭り。宅急便だろうが宗教勧誘だろうが居留守は使えなくなってしまった。
まあ、別に本当に具合が悪いわけじゃないから、居留守使う必要もないんだけどさ。
にこ「はーい、どちらさ……ま?」
なーんて油断してたものだから、ドアを開けた瞬間、時間が止まってしまった。
「こんにちは、矢澤さん」
にこ「あな、た……」
だって、予想できる?
ドアの前に――例の元アイドル研究部員が立ってるだなんて。
80 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 21:27:59.72 ID:JvmSDeLco
にこ「……麦茶しかないけど」
「気をつかわなくていいのに。病人でしょう?」
にこ「もう治ったから、大丈夫よ」
「そう、じゃあ明日は出てこれるのね。安心したわ」
にこ「…………」
ほんと、わけがわからない。
なんで私は今この子のおもてなしをしてるわけ?
「じゃあ、これ。今のうちに渡しておくわね」
にこ「あ、ありがと……」
渡されたのは、私が休んでる間に配られたプリントの数々。
どうも同じクラスであるこの子が私のお見舞いに選ばれたらしい。
――この子、三年の時も同じクラスだったっけ?
81 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 22:51:02.82 ID:JvmSDeLco
「これ……」
にこ「え?」
いぶかし気に見ていると、彼女はつけっぱなしになっていたテレビに視線を向ける。
ニュースはいまだ変わらずA-RISEの特集を続けていた。
「今一番人気のスクールアイドル、A-RISEか……」
にこ「…………」
何の含みもないはずのその言葉が、なぜだろう、いやに私の心をささくれ立たせる。
「すごいわね。ここまで上り詰めればスクールアイドルだって立派なものだわ」
にこ「……立派じゃなくて悪かったわね」
「誰もそんなこと言ってないじゃない?」
にこ「言ってるようなものでしょ!? そーよ、たしかに今の私は仲間一人いないちっぽけなぼっちよ!」
にこ「だけど、だけど私だって、前までは……!」
「前?」
にこ「…………」
「なんで急に押し黙っちゃうのよ」クスクス
なんで、なんて言えない。
私がこのA-RISEより人気のグループにいた、なんて、信じてもらえるはずがなかった。
82 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 22:59:03.77 ID:JvmSDeLco
「あの子たちと、距離をとったんだって?」
にこ「え?」
「春休み前まで仲良かったあの三人。クラスが変わったからっていうのもあるんだろうけど、それにしても極端じゃない?」
にこ「それ、は……」
「……矢澤さんの中には、あったんじゃないの?」
にこ「え?」
「あの関係を断ち切ってでも、作りたい関係が。あったんじゃないの?」
にこ「なんで、それ……」
「あ、本当にそうなんだ。カマかけてみるものね」クスクス
にこ「…………」
「怒らないでよ。別に馬鹿にしてるわけじゃないわ」
「ただ、今の矢澤さんを見てると、なにがしたいのかわからないんだもん」
にこ「なっ、」
「ねえ、もう一度聞くわ」
やめて、と言うより早く。
「あなたが私たちを置き去りにしてまで守ってたものは――もう、いいの?」
再度、彼女の言葉が私を射抜く。
「――長居しちゃったわね。お大事に」
手早く荷物をまとめると、彼女は私が返事する前に出て行ってしまった。
にこ「――――」
押し黙るみじめな私をよそに、A-RISEだけが、画面の向こう側で笑顔を振りまいていた。
83 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 23:01:39.50 ID:JvmSDeLco
翌日。彼女にああ言った手前休むこともできず、私はいやいやながら登校した。
教室のドアを開けても、二、三人が視線を向けて、それだけ。
まあ、別にいいけどさ。
「…………」
一番後ろの席で、あの子がにやにやしてるのだけは、なんだか癪にさわった。
84 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 23:14:53.72 ID:JvmSDeLco
お昼休みにアイドル研究部へ逃げる癖は、残念ながら復活してしまった。
ママお手製のお弁当を片手に提げつつ、部室へ向かう。
にこ(アイドル。あいどる。愛弗……)
何かを考えているようで、実は考えていないまま、とぼとぼ廊下を進む。
ここにきて気づかされたことが、ひとつ。
私――μ'sに関しては、穂乃果たちにおんぶにだっこだったんだ。
あの子が作ったグループに、私が「入れてもらった」だけ。
私がしてたことといえば、意地張って彼女らをつぶそうとしてたことくらい。
自分からアイドルの道を進むのは――そのころ、とっくにやめてたんだ。
にこ「ほんと……私、なにがしたいんだろう」
昔も、今も。
やりたいことははっきりしてるはずなのに、なんでこんな中途半端なんだろう。
85 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 23:21:55.92 ID:JvmSDeLco
「ほらー、やっぱり誰もいないみたいだよ? 早く行こうよー」
「あ、うん……おかしいな……」
と。私の目指す先から会話が聞こえる。
「一人しか残ってなかったんでしょ? やめちゃったんだよ、きっと」
「そう、なのかなぁ……」
「だからさ、一緒に陸上部やろうよ! きっと楽しいよ」
「で、でも……私運動苦手だし……」
「なおさらだよ! 一緒にがんばって大会とか出られるようになろうよ!」
「う、うーん……」
「そもそも入部するかどうかも決めてなかったんでしょ? ここ。だったらすぱっと諦めちゃおうよ」
「そう、かな……」
会話から察するに、部活に悩む一年生、ってところかしら。
あーはいはい、美しい青春模様は私と関係ないところで――
って、ちょっと待った。
この声が聞こえてるのって、私が向かってる場所――アイドル研究部の部室前から、よね。
というか、というか!
この、聞き覚えのある声って、まさか――
86 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 23:24:11.63 ID:JvmSDeLco
凛「ほら、とりあえずご飯食べにいこ、かよちん。食堂埋まっちゃうにゃ!」
花陽「あ、ちょ、引っ張らないで凛ちゃぁぁぁん!」
曲がり角を曲がり、勢いよく私とすれ違った二つの人影は。
にこ「は、ははは……」
忘れもしない、大好きな二人の後輩。
87 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 23:30:23.35 ID:JvmSDeLco
嘘、だって、花陽が?
自分から、アイドル研究部を訪ねてきたの?
あんな内気で、穂乃果たちに半ば無理やり勧誘されてようやくμ'sに入った、あの子が――
にこ「く、くくく……」
なんだか、笑えて来ちゃった。
そっか。そうだよね。
やりたいから――やるんだよね。
『あなたが私たちを置き去りにしてまで守ってたものは――もう、いいの?』
今ならはっきり答えられる。
よくなんか、ない。
私はまだ、全然――μ'sのこと、諦めてないんだから!
にこ(なければ、作ればいいじゃない!)
そうだ。いつまでも穂乃果頼りじゃ先輩として情けないもんね。
誰も作らないなら、私がμ'sを作っちゃえばいいのよ。
あの九人を――この手で、もう一度集めてやる。
にこ「それが、私のやりたいことだから」
88 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/03(日) 23:31:20.08 ID:JvmSDeLco
ここまで
ようやく話が動き出した
89 :
◆FIL6bekrn.
[sage saga]:2016/04/03(日) 23:36:07.68 ID:Aepcm88h0
乙
えりちとか難攻不落そう
支援
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/04/03(日) 23:36:43.56 ID:Aepcm88h0
やべえ酉付けてたはずい
91 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/10(日) 22:17:56.34 ID:wLPEX5oto
思い立ったが吉日とは昔の偉い人の言葉。
その日の放課後、私は一年生の教室へ顔を出していた。
「小泉さーん、お客さんだよー」
ちょうど教室を出ようとしていたクラスの子に、花陽を呼ぶよう頼むと。
花陽「は、ははは、はひ!?」
わかりやすいくらい動揺してる声が教室から飛んできた。
目を白黒させつつ隣にいる人物を見やる。
一言二言会話をすると、とてとてと危うい足取りで近づいてくる。
92 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/10(日) 22:26:34.54 ID:wLPEX5oto
花陽「わ、私ですか?」
不安げに瞳が揺れている。
ま、入学してひと月も経ってないのに急に三年生から呼び出されたら、花陽でなくてもこんな反応にはなるだろうけど。
にこ「そ、間違ってないわよ。はな……小泉さん」
花陽「は、はぁ……」
危ない危ない。ついいつもの癖で下の名前で呼びそうになっちゃったわ。
凛「で、三年生がかよちんになんの用ですか?」
少しつっけんどんに尋ねてきたのは、当然のようについてきていた凛である。
もちろんこの子にも用があるわけだからなにも問題はないけれど。
にこ「そんなに構えないでよ。別にとって食おうってわけじゃないんだから」
凛「別に、そんなつもりは……」
否定しながらも、警戒は解いていない様子。
ほんとこの子、猫みたいねぇ。
93 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/10(日) 22:38:03.52 ID:wLPEX5oto
にこ「あなたたち、今日のお昼アイドル研究部の部室に来てたでしょ?」
花陽「えっ」
凛「なんで知ってるんですか?」
にこ「あなたたちの去り際にすれ違ったの、気づかなかった?」
顔を見合わせる二人。
同時に顔を横に振るということは、案の定気づいていなかったのだろう。
にこ「ちょっと話が聞こえたんだけど、アイドルに興味あるんでしょ?」
花陽「そうですけど……あなたは?」
にこ「ああ、名乗ってなかったわね。私は矢澤にこ。アイドル研究部の唯一の部員にして、当然部長よ」
花陽「え!?」
途端、花陽の目に輝きが灯る。
94 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/10(日) 23:07:44.35 ID:wLPEX5oto
にこ「単刀直入に聞くわ。あなた、アイドル研究部に入らない?」
花陽「は……はい! ――あ、」
力強くうなずいた後、何かに気づいたように花陽は顔を曇らせる。
視線はそのまま隣に立つ凛へ向けられる。
花陽「あの、凛ちゃん。陸上部のこと、なんだけど……」
凛「かーよちん」
言いずらそうにする花陽のセリフを、笑顔で遮る凛。
凛「凛に気を遣う必要なんて全然ないんだよ? かよちんは、かよちんがやりたいようにするのが一番だから」
凛「そう。やりたいことやるのが―― 一番、だから」
花陽「凛ちゃん……」
にこ「あのー、しんみりしてるところ悪いんだけど」
にこ「私としてはあなたにも入って欲しいの――星空さん?」
花陽・凛「え?」
95 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/10(日) 23:26:30.64 ID:wLPEX5oto
そう、花陽だけじゃ意味がない。
だって私がそろえたいのはμ'sの九人。
凛だってそのうちの一人なんだから。
にこ「どうかしら? 小泉さんとも仲がいいみたいだし、きっと馴染むはずだわ。陸上部のこともあるかもしれないけど、」
凛「私はいいです」
にこ「…………え?」
ぴしゃりと。
強い否定の言葉だった。
凛「私は――いいです。アイドルとか、そういうの、似合わないから……」
にこ「や、でも……」
凛「いいです」
有無を言わさぬ否定は、変わらず。
凛「じゃあ、私はもう陸上部に仮入部してるから……失礼します」
凛「かよちん、頑張ってね」
花陽「……うん。凛ちゃんもね」
にこ「あ、ちょっ……」
止める間もなく、凛は荷物をまとめ教室を走り去っていった。
96 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/10(日) 23:49:30.46 ID:wLPEX5oto
花陽「あの……矢澤先輩?」
にこ「っ、と。なに?」
ぼーっとしていた私の意識を花陽の声が引き戻す。
まさかあんなに頑なに拒否されるなんて……穂乃果の話と違うんだもの。
花陽「先輩がなんで凜ちゃんを誘ったのかはわからないですけど……凛ちゃんは、アイドルとか、そういうのはやらないと思います」
にこ「なん、で?」
花陽「その、あんまり詳しくは言えないんですけど……凛ちゃん、可愛い格好するのに抵抗あるから……」
にこ「…………」
それは知ってる。
スカートをはいて男の子にからかわれたりして、自分には可愛い恰好は似合わないと思い込み。
以来ボーイッシュな恰好を好むようになった、とは。
でも、だからってアイドルをやることを拒むほどではなかったはず。
97 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 00:07:04.84 ID:Axli+PN8o
にこ「――変わってるってこと、なの?」
花陽「?」
私の独り言に首をかしげる花陽。
この子にしたってそう、μ'sに加わるまで穂乃果の強引な勧誘や凛と真姫ちゃんの後押しがあったはず。
にも関わらず、彼女がこうも素直にアイドル研究部の門を叩いたということは。
――元の世界とは、変わってるってこと、なの?
花陽「あの、先輩? どうしたんですか?」
心配そうにこちらをのぞき込む花陽に構うこともできないほど。
にこ「――――」
私は、この世界の厳しさを噛みしめていた。
98 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 00:07:54.32 ID:Axli+PN8o
短めですがここまで
凛ちゃん編の始まりです
編ってつけるほど長引くかもわからんけど
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/11(月) 14:44:31.13 ID:j94QJXQo0
いいぞ
支援
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/11(月) 19:53:02.34 ID:5JYLlcmcO
期待ですわ
101 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 20:42:57.09 ID:Axli+PN8o
にこ「お、おはよー……」
凛「…………」
うわ、ものっそ嫌そうな顔された。
例えるなら、そう、「なにこの人朝校門の前で待ち伏せまでしてストーカー?」って感じの顔。
なんでそんなに具体的に表現できるかって?
その通りの状況だからよ、ちくしょう。
凛「……なんの用ですか?」
にこ「い、いやね、昨日の話、ちょっとばかし考えてもらえないかしらー、なーんて思ったり……」
凛「はぁ……」
ため息!
これ見よがしにため息!
いや確かに自分のやってることがちょっとうっとうしいかなーとはわかってるけども!
凛「ちょっと……ううん、かなりうっとうしいです」
……ちょっとじゃなかった。
102 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 20:48:22.78 ID:Axli+PN8o
凛「その話は昨日お断りしましたよね?」
にこ「や、それはたしかにそうなんだけど……」
凛「じゃあこれ以上話すことないです」
にこ「わ、私にはあるの!」
凛「私にはないです!」
にこ「あるの!」
凛「ないです!」
花陽「ちょちょちょ、ちょっとふたりとも……こんなところでやめようよ……」
まるでこころとここあみたいなやり取りをしていると、ずっとだんまりだった花陽が間に入る。
花陽「矢澤先輩、凛ちゃんのことは昨日話しましたよね……?」
ぼそっと、私にだけ聞こえるように耳打ちしてくる。
にこ「そりゃ、聞いたけど……」
だからといって、はいそうですかとあっさり譲れないものもこちらにはあるわけで。
にこ「ほら、なんていうか……ワンチャンあるかなー、みたいな」
花陽「……? 凛ちゃんはワンちゃんっていうか猫ちゃんって感じですけど……」
にこ「あー……うん、そうねー……」
103 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 21:22:03.84 ID:Axli+PN8o
花陽「凛ちゃんも。そんなに邪険にする必要ないでしょ?」
凛「だって……凛は……」
花陽「うん、私はわかってるよ」
凛「…………」
黙り込む凛。
言い負かされたとか、そんなじゃなくて。
あったかーく包み込まれて、ぐうの音も出ない感じ。
かと思うと、凛は私の方に向き直り。
凛「……ムキになってすいませんでした」
そっぽ向きながら、だけど、しっかりとその言葉を口にした。
なによ。
これじゃまるで、私が悪者みたいじゃない――
にこ「…………」
まるでもなにも、これ明らかに私が悪者よねぇ……
104 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 21:37:12.23 ID:Axli+PN8o
にこ「お昼」
凛「え?」
にこ「お昼、よかったら一緒に食べない?」
花陽「私たちと、ですか?」
にこ「他に誰がいるのよ。私がそっちの教室行くからさ」
にこ「小泉さんとは同じ部員同士だし、親睦深めるのも悪くないでしょ?」
花陽「悪くは、ないですけど……」
にこ「星空さんとも、仲直りってわけじゃないけどさ」
凛「別にいいですけど……矢澤先輩、一緒にご飯食べる人いないんですか?」
にこ「うぐぅ!?」
凛「え、ひょっとして……ご、ごめんなさい」
にこ「いいの、謝んないで。余計傷つくから」
花陽「で、でも貸し切りの部室があるならひとりぼっちのご飯も恥ずかしくないですもんね!」
にこ「楽しい!? 先輩を的確に殺しにかかって楽しいの!?」
花陽「あ、あれぇ……?」
105 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/11(月) 21:40:27.15 ID:Axli+PN8o
またもや短いけどここまで
続きはまた後日
106 :
◆yZNKissmP6NG
[sage saga]:2016/04/11(月) 21:43:44.78 ID:Axli+PN8o
今回、ちょっと凛ちゃんの性格きつく感じるかも
アニメ一期の序盤の真姫ちゃんとの絡み見てたら懐いてない人には結構ドライなのかなと思ったらこんな感じになった
凛ちゃんはこんな子じゃねえと思った人にはすまぬ
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/04/13(水) 04:45:12.66 ID:eh8vBxMd0
期待
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/13(水) 10:52:14.35 ID:WPv3eLrDO
乙
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/14(木) 00:06:16.15 ID:YxcUYWE40
ぼっちから友達げっとを経験した俺からしたら
この気持ちわかるぞ
乙
110 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 18:09:30.41 ID:B5IKHymdo
にこ「というわけでお昼よ」
凛「ほんとに来た……」
にこ「嫌そうな声出さないでよ、傷つくじゃない!」
凛「べ、別に嫌そうにしたつもりはないですけど……」
花陽「ほらほら二人とも、またけんかになっちゃう前に、ほら、ご飯食べよ?」
にこ・凛「はーい……」
あろうことか花陽にたしなめられ、凛と私は渋々ながらお弁当を開いた。
凛「へぇ、先輩の卵焼きおいしそうですねー」
にこ「あ、あああ、あげないんだからね!?」
凛「えーっと、まだなにも言ってないんですけど……」
にこ「ふかー!」
凛「そんな威嚇してる猫みたいな真似されても……」
いけないいけない、連日お弁当箱からかっさらわれた苦い思い出からつい卵焼きを守ろうとしてしまったわ……
111 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 18:24:48.11 ID:B5IKHymdo
あ、猫といえば。
にこ「そういえばり……星空さん、猫の真似しないの? ほら、語尾ににゃーにゃーつけてさ」
凛「ぅえ!?」
え、なんでそんなに驚くの?
なんか普通に喋ってる凛に違和感バリバリだったから聞いただけなんだけど。
花陽「えっと、矢澤先輩?」
なにかのどに詰まらせたのかけほけほとせき込む凛の代わりに、花陽が答える。
花陽「なんで凛ちゃんが普段猫みたいな喋り方してるって知ってるんですか?」
にこ「ぅえ!?」
数秒前の凛と全く同じ声を出しつつ、今度は私がせき込む番だった。
しまった。
名前は何とかかろうじて寸止めできてたけど、こんなところでループのほころびがでてしまった。
112 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 22:13:27.20 ID:B5IKHymdo
にこ「あ、や、えーっと、それはその、あれよ。あんたたち二人が部室の前で会話してたのを聞いたからよ」
しどろもどろになりながらなんとか記憶を手繰り寄せる。
その時にゃーにゃー言ってたわよね……言ってたわよね?
凛「あー、あの時」
花陽「そっか、あの時の会話、聞いてたんですもんね」
にこ「で、でしょ?」
せ、セーフ……
危うくやぶへびになるところだったわ。
にこ「それで? 質問には答えてもらえるの?」
凛「え、っと……」
もじもじする凛。
ほっぺが少し赤くなってるのは……恥ずかしがってるの?
なによ、ちょっとかわいいじゃない、この後輩。
113 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 22:18:48.67 ID:B5IKHymdo
花陽「恥ずかしいんだよね、凛ちゃん」
凛「か、かよちん!」
にこ「恥ずかしい?」
花陽「はい。凛ちゃんがあの言葉遣いになるのって、親しい人の前だけですから」
花陽「あんまり慣れてないひと相手だと、恥ずかしいんだと思います」
にこ「へー……」
正直、意外だった。
凛って言ったら底抜けに元気で明るくて、人見知りとかそういうのとは対極の存在だと思ってたから。
まさしく借りてきた猫、って感じなのかしら。
114 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 22:33:45.06 ID:B5IKHymdo
にこ「なんていうか……猫っぽいわよね、あなた」
凛「え?」
にこ「いや、もちろんにゃーにゃー言うっていうのもあるけどさ」
にこ「なんか性格というか生き方というか。猫ちゃんそっくりよね」
にこ「よっぽど好きなんでしょ? 猫が」
花陽「あ……凛ちゃん、あの、」
凛「好きじゃないです」
にこ「…………へ?」
凛「好きじゃないです、別に」
頑なな否定は。
昨日と同じ、強い拒絶。
115 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 22:40:58.35 ID:B5IKHymdo
にこ「……なんなの? それ」
凛「なんなのって……なにがですか」
にこ「しらばっくれてるんじゃないわよ。アイドルの話といい今の話といい、急に冷たくなっちゃって」
にこ「『その話はしないでくださいオーラ』全開じゃない」
凛「そこまで、わかってるなら……」
にこ「やめないわよ」
凛「っ」
にこ「この話。やめないわよ」
凛「なん、で……」
にこ「理由は、なんていうか、答えづらいんだけど……」
今の状況をぼやかしつつうまく伝える方法を探して。
にこ「なんていうか――アイドルにしろ猫にしろ、ほんとは好きなんじゃないかな、って」
116 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 22:48:03.01 ID:B5IKHymdo
この世界が過去なのか並行世界なのか、はたまた全く違うなにかなのか。それは私にはわからない。
だけど。
にこ「私にはあなたがそれらを嫌ってるとは、どーしても思えないのよねぇ」
だって、なんにせよ「凛」だもん。
人一倍元気ににゃーにゃー言ってて。
ぴょんぴょん身軽に跳ねまわって。
かわいいのは似合わない、って言い張りながら。
あの真っ白なウェディングドレスがあれほど似合った――凛だもん。
ねえ、凛。
一体なにを強がってんのよ、あんたは。
117 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 22:57:58.63 ID:B5IKHymdo
【Side:凛】
勝手な人だなぁ、とは思ってた。
なんだか強引で、私がいいって言ってるのにしつこく勧誘してきて。
気持ちがぐらぐらぐら揺れちゃうから――やめてほしいのに。
私がアイドル?
考えられないよ。
きらきらでふわふわなお洋服を着て、踊る?
笑われちゃうよ、きっと。
だから私は、アイドルなんて――
118 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 23:33:05.57 ID:B5IKHymdo
にこ「私にはあなたがそれらを嫌ってるとは、どーしても思えないのよねぇ」
頭がカーッって熱くなった。
隣でかよちんが慌ててるけど……ごめん、我慢できないや。
凛「先輩に――なにがわかるんですか!」
ついおっきな声を出してしまう。かよちんも、周りの人たちも、びっくりしながら私を見てる。
だけど、目の前に座る人だけは。
矢澤先輩だけは、すごく真剣な顔だった。
凛「勝手なことばっかり言わないでください! 迷惑なんです!」
ダメだ、ってわかってるのに、止まんない。
なんだかよくわからない感情がぶわーってなって、次から次へと良くない言葉が出てくる。
それは、きっと。
凛「嫌ってるとは思えないって? 嫌いです! アイドルも、猫も、だいっきらい!」
図星だったって、わかってるから。
119 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 23:41:32.80 ID:B5IKHymdo
だんだんのどが痛くなってきちゃった。
いつの間にか立ち上がってたみたい。すとん、と落ちるように椅子に腰かけた。
これで参ってくれたかな? ってちょっぴり期待したけど、矢澤先輩の顔色が変わることはなかった。
それどころか。
にこ「あんた――うそ、下手ね」
なんて。余裕ぶってるのがむかつき。
だけどもう叫ぶ元気も残ってないや。
どうせなにを言ってもへっちゃらみたいだし、叫ぶ必要もないよね。
凛「昨日会ったばかりの人に――なにがわかるんですか?」
にこ「――――」
あれ? おかしいな。
なんでこの人。
今日一番、悲しそうな顔してるんだろう。
120 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/14(木) 23:42:10.36 ID:B5IKHymdo
ここまで
サイド凛ちゃんはもうちょっと続く
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/14(木) 23:50:59.45 ID:3qFiENUjo
乙乙
ワクワクする
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/15(金) 01:22:52.21 ID:4VXiUEBh0
ループもんで関係リセットはくるもんがある
おつ
123 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/04/15(金) 21:40:12.63 ID:7r/zU2x2o
夕暮れ色の遊歩道を、一人で歩く。
かよちんはアイドル研究部に顔を出すって言ってた。
私も陸上部に行こうかと思ったんだけど、ちょっとそういう気分じゃないから先輩にごめんなさいして今日はお休み。
そんなこんなで、ひとりぼっちの帰り道です。
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