にこ「きっと青春が聞こえる」

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225 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/29(日) 19:02:23.60 ID:tL2n0Gexo

希「うちは別に構わないけど、絵里ちはもうここにはおらんよ?」

にこ「え、そうなの?」

 しまった、来るのが遅すぎたか。

 トレーニングは欠かさず、と思い、部活後に後回ししたのがいけなかったらしい。

にこ「そっか、参ったわね……」

希「……にこっちさ」

にこ「ん、なに?」

希「最近なんかあったん?」

にこ「は? な、なによ藪から棒に」

希「うちの耳にだって届いてるんだからね? にこっちの部活がまた活動し始めたってこと」

にこ「あー……」

 ま、そりゃそうか。

 うちの学年じゃ有名人だもんねぇ、私。

 もちろん、悪い意味で。

希「まあこんなところで立ち話もなんやし」

 ぱちん、と手を鳴らし。

希「うちにも用事、あるんやろ? そしたら、どこかでゆっくり腰を落ち着けない?」

にこ「ん、……そうね」

 そう提案した希に、反対する理由はなかった。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/29(日) 21:19:17.06 ID:NYRpkhZjo
はよ
227 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/29(日) 23:02:08.26 ID:tL2n0Gexo

 そんなこんなで、マクドナルド。

希「それで? にこっちは一体全体どんな悪だくみをしてるん?」

にこ「わ、悪だくみって、あんたね……至極まっとうなアイドル活動よ」

希「神田明神の階段を、ぜーぜーはーはー言いながら上り下りするのが?」

希「うちはてっきりアイドル研究部からダイエット研究部に転向したのかと思ったんやけど」

にこ「な、なんであんたがそんなこと……! って、そっか……」

 そういえばこの子、あそこでバイトしてるんだった。

 その割にちっとも顔合わせないもんだからすっかり忘れてたわ。

にこ「ダイエット研究部って、そんなわけないでしょ。このにこにーのないすばでーがどうしてダイエットする必要があるのよ」

希「ふーん……」チラ

にこ「今すぐその自分の胸と私の胸を見比べるのをやめなさい」

希「……ないすばでー」フフッ

にこ「あぁん!?」
228 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/29(日) 23:17:09.38 ID:tL2n0Gexo

希「冗談冗談。それで? なんで今さらアイドルを?」

にこ「今さら、って……私は別にアイドルを諦めたつもりは、」

希「ないって、言えるん?」

にこ「…………」

 沈黙は、何よりも雄弁な、肯定。

希「うちが今さらと思うのって、不思議じゃないと思うんやけど」

にこ「……そうね」

希「――あの日から、やったんかな。にこっちが変わったのって」

にこ「あの日?」

希「そ、あの日。朝急に肩を叩いてきたかと思ったら、うちと絵里ちに妙なこと言ってきた、あの日」

にこ「――――」

希「当たりみたい?」

 まったくもう。

 この子はなんだってこういう時ばっかり鋭いのよ。

 
229 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/29(日) 23:29:31.80 ID:tL2n0Gexo

にこ「……たしかにあんたの言う通り。私、アイドルになること、諦めてた」

にこ「だけどね、見ちゃったのよ」

希「見たって、何を?」

にこ「自分を。自分たちを」

にこ「ステキな衣装を着て」

にこ「さいっこうの曲を歌って」

にこ「きらっきらなステージで踊って」

にこ「頂点に立つ自分たちを、見ちゃったの」

にこ「何言ってんの? って思われるかもしれないけどさ」

にこ「そんなの見ちゃったら、もうそれを諦めるなんてできなかった」

にこ「だから――もう一度、立ち上がった」

希「――――」

 希は、何も返さない。ただ窓の外を、じっと眺めている。

 手のひらに包んだドリンクの紙コップが、じんわりと汗をかいていった。

 
230 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 07:24:49.18 ID:fmcX7+DGo
また寝落ちってた
続きはまたのちほど
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 16:14:14.24 ID:ZX1tAcfDO
232 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 22:23:12.71 ID:fmcX7+DGo

希「――それで。立ち上がったのが、あの日ってことなん?」

 ようやく開かれたその口からは、ある意味的を射た言葉が放たれる。

にこ「まあ、そんな感じよ」

希「で、その『自分たち』の中に、うちと絵里ちも入ってる、と」

にこ「……ほんと今日のあんた鋭いわね」

希「カードがうちに教えてくれるからね」

にこ「万能過ぎない? あんたのカード」
233 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 22:35:01.38 ID:fmcX7+DGo

希「最近な、うちと絵里ちの未来を占うと、いつも同じ結果になるんよ」

希「ばらばらに光ってた小さな八つの光が、次第に集まり一つの大きな光になる」

希「そんな、占いが」

にこ「――ん?」

 ほんと未来予知なんじゃないかってくらいの精度の、希の占い。

 そこに紛れる、大きな大きなひっかかり。

希「ん、どしたん?」

にこ「八つ? いま八つって言った?」

希「え? 言ったけど……」

にこ「九つの間違いじゃなくて? それとも自分を抜いて八つってこと?」

希「ちょっとちょっとにこっち、どうしたん?」

 焦りを抑えきれず、自分でもわかるくらいの早口になる。

希「自分も含めて、全部で八つってことだよ?」

にこ「――――」

 ぎゅっと噛みしめた唇。

 そこから走る鋭い痛みは、錆臭い現実を口内に広げる。


 頭の中では、人との関わりを頑なに拒む赤毛の少女が悲しげな顔をしていた。
234 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 23:28:20.29 ID:fmcX7+DGo

希「――その八つの光が、にこっちの話につながるんだって思ったんやけど……違うみたい?」

にこ「いや……」

 残念ながら、希の出した占いの結果がμ'sを――いや、μ'sになるはずだったものを指しているのは間違いないだろう。

 だけど、それを信じてしまうなら。

 私たち九人は――もう、揃うことができないの?

希「あんな、にこっち」

にこ「え?」

 俯けていた顔を正面へ向けると。

 とても優しい顔をしたかつての親友が、私を見つめていた。

希「自分で言うのもなんやけど、うちの占いが万能ってわけでもないし」

希「無理に信じてへこむ必要、ないんよ?」

にこ「――――ん、」

 私なんかよりも本当の意味でひとりぼっちの彼女が、何を思いながら私と話しているのかはわからないけど。

にこ「――うん。ありがと」

 その言葉は、素直に出てきてくれた。
235 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 23:31:56.02 ID:fmcX7+DGo

【Side:希】

 二階席の窓から、小さくなるにこっちの背中を見送る。

 私にお礼を述べたにこっちは、時計を確認すると慌てて荷物をまとめ始めた。


にこ『今日は早く帰んなきゃいけないんだった!』

 
 理由までは聞かなかった。余計に時間を使わせちゃいそうだったし。

 きっと家族の都合とか、そんなところだろう。
236 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 23:35:13.54 ID:fmcX7+DGo

希「――――」

 見えなくなったピンク色のカーディガンに思いをはせる。

 にこっちは、アイドルを再び目指し始めた。

 二年前、あんなにつらい思いをしたというのに。

 強い。

 本人はきっと否定するだろうけど、彼女はとても強い。

 だからこそ――危ういのだけど。

希「うちも見習いたいもんやね」

 ぽつりとこぼれたひとりごとは、ざわめきに飲まれて、消えた。
237 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 23:38:47.42 ID:fmcX7+DGo

 それにしても。

希(さっきのにこっち――普通じゃなかった)

 慌てた口調に真っ青な顔色。

 私の占いに現れた「八人」というワードが、妙にひっかかっていたようだった。

希「――――」

 自分の中で、不安の色が濃くなるのを感じる。

 ひょっとして、ひょっとすると。

 彼女にとって、どこかで「見た」自分たちというのは、九人だったのではないだろうか。

 それは、彼女の言葉の端からうかがい知ることができた。

 ならば。

 足りないのは――誰?
238 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 23:44:11.53 ID:fmcX7+DGo

希「――――」

 にこっちが様子が変わり始めた、あの日。
 
 うちと絵里ちの未来が「八つの光」になったのもその日からだったのだけれど。

 実はちょっと心配になって、にこっちの未来も占ってみた。

 結果は、どれほど繰り返しても変わらなかった。


希(――白紙)


 何度占ってみても。

 にこっちの未来は、見えなかった。

希(にこっち……)

 不安の色は、ついに私の心を塗りつぶす。 

 いるべきはずの九人。

 占いの結果は八人。


 足りないのは――
239 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/05/30(月) 23:46:24.41 ID:fmcX7+DGo
ここまで
もっとペースを上げたい
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 23:47:38.45 ID:5yc40gYF0
うおお
好きなぺーすで書いてくれ待ってる
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 23:56:23.81 ID:ZRDwm5eMo
乙です
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/31(火) 01:24:26.00 ID:ymI2VE1E0
乙だよ
243 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 20:23:16.68 ID:ERsyiHu7o

真姫「あの」

にこ「…………」

真姫「ねえ」

にこ「…………」

真姫「ちょっと」

にこ「…………」

真姫「……あぁもう! いいかげんにしなさいよ!」

真姫「ふらっと現れたかと思ったらなんにも言わないで座り込んで」

真姫「私が演奏してるのじーーーーーーーっと見てるだけって、それ一体なんの嫌がらせなわけ!?」

真姫「気になってちっとも集中できないんですけど!」

にこ「んー……お気になさらず」

真姫「だからそれが無理だっていってるんでしょうが!」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 20:24:26.08 ID:zCH33RCAO
待ってた
245 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 20:30:04.86 ID:ERsyiHu7o

 ぷりぷりと怒りながらも出て行けと言わないのは、まあさすが真姫ちゃんというかなんというか。

 いや、私だってちょっとくらいこれ迷惑になってるかな? とか思わないでもない。

 けれど、私の頭の中は今希との会話をリピートすることで大忙しなのだ。


希『ばらばらに光ってた小さな八つの光が、次第に集まり一つの大きな光になる』


 8人。

 希の占いは、非常にも私の知る未来を真っ向から否定してきた。

 もしそれが事実になるのであれば。
 
 私の苦労は―― 一体なにになるというの?
246 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 20:40:00.61 ID:ERsyiHu7o

にこ(――そもそも、なのよね)

 希に現実を叩きつけられて、目を背けていたものが頭の中をちらつくようになってきた。

 そもそも、ここはなんなのだろう?

 私は3月のあの日から、どうなってしまったのだろう。

 本当に過去の世界にタイムスリップした?

 だとしたら、元の時代には戻れるの?

 9人集めることに、μ'sを集めることに。

 意味は――あるの?

にこ(ダメ……)

 それだけは、きっと考えちゃダメ。

 そこに疑問を持ったら。

 きっと私は、もう――耐えられない。
247 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 21:00:40.08 ID:ERsyiHu7o

真姫「つまんなそうな顔してるわねぇ」

にこ「……あによ。文句ある?」

真姫「あるに決まってるじゃない。自分の演奏をそんな表情で聞き流されてるんだから」

にこ「……それもそうね」

真姫「……ひょっとして、あなた私を馬鹿にするためにわざわざ来たわけ?」

にこ「…………」

 なんのため、というのなら。

 心配になったから、と答えるのが正しいのだろう。

 まあ恥ずかしいから死んでも言わないけど。

 

248 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 21:08:24.94 ID:ERsyiHu7o

 私たちが8人しか揃わないと知って最初に浮かんだのは、このひとりぼっちを望む女の子だった。

 この子は――真姫ちゃんは、結局μ'sには入ってくれないのだろうか。

 彼女の言葉を思い返せば、じゅうぶんにあり得る話ではある。

 そう考え始めたら、そう、無性にこの子の顔を見たくなってしまった。

 今日の練習をさぼってまで音楽室に顔を出したのは、そのせい。

 そう――心配になったの。
249 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 21:30:05.97 ID:ERsyiHu7o

真姫「――変な人」

 ぷい、と顔をそらすと、真姫ちゃんは再び鍵盤へ向かう。

真姫「新曲、できたの――聞いて」

 返事も待たず、すう、と真姫ちゃんは息を吸い。

 指先が、白と黒の上を踊る。

にこ「――――」

 例によって例のごとく、聞き覚えのあるメロディ。

 ピアノ用にアレンジしてあるものの、この曲であることに間違いはないだろう。

 イントロが終わりに近づき、私も大きく息を吸う。

 これから紡ぐ歌詞を思い浮かべて、そして。

にこ(この子――私の心の中、読んでるんじゃないの?)

 なんて、思ったりしたのだった。
250 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 21:30:45.59 ID:ERsyiHu7o



 Someday いつの日か叶うよ願いが

 Someday いつの日か届くと信じよう

 そう泣いてなんかいられないよ だってさ

 楽しみはまだまだ まだまだこれから!



251 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/05(日) 21:31:19.91 ID:ERsyiHu7o
短いけどここまで
なかなか進まない
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 22:05:42.56 ID:njneXRZDO
253 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 17:37:44.02 ID:R6xTWM+mo

 どうしてこんなことになっているのだろう。

絵里「――最後に、もう一度だけ言わせてもらうわ」

 ピシリ。何度目かわからない、緊張感の走る音。 

 聞こえるはずのないそれは、だけど確実に、私の心を押しつぶす。

凛「――――」

 黙って睨み付ける子がいて。

花陽「えっと、あの、その――」

 涙目で困る子がいて。

希「うーん……」
 
 悩まし気に首をかしげる子がいて。

穂乃果「え、えーと……?」

海未「ど、どういうことなのでしょう……?」

ことり「私たち、いちゃダメでしたか……?」

 訳も分からず戸惑う子らがいる中。

にこ「――――」

 私は――今、どんな顔をしているのだろう?

 ほんと、誰か教えて。


絵里「ここにいる六人のグループで、一か月以内にスクールアイドルランキングで100位以内に入る」

絵里「それができなければ――私は、このグループには入りません」


 どうして、こんなことになっているのだろう。


 最初の最初のきっかけは。

 今日のお昼までさかのぼる――


 ――――――

 ――――

 ――
254 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 17:56:16.64 ID:R6xTWM+mo

 ――

 ――――

 ――――――

にこ(今日も今日とてぼっちめし、か)

 ここ最近は一年生二人とご飯を食べていた私だったけど、今日はクラスの子と食べる約束をしたとのこと。

 ま、それが自然な姿なわけで、私が口をはさめるような話でもなく。

 今日はおとなしく部室へ引っ込もうという算段で、廊下をとぼとぼ歩く。

にこ(なんだかんだで、まだ絵里とコンタクトとれてないのよねぇ)

 一昨日はすれ違いになり、昨日は音楽室へ逃避行。

 早くもマンネリ化し始めたレッスンに幅を持たせるためにも、絵里の協力は早い方がいい。

にこ(わかってはいるんだけど……そううまくはいかないのよねぇ……)

 こっちの世界の絵里の第一印象が『あれ』であったため、いまいちスムーズに話が進む未来が見えないのが正直な話。

 だからといって、動かないわけにはいかないんだけどさ。

にこ(それと――残りの三人とも、早いとこ接触しないと)

 二年生三人組。

 穂乃果、海未、ことり。

 あの子らは一体全体、今なにをしているのやら――
255 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 18:13:55.96 ID:R6xTWM+mo

「いやー、今日もパンがうまい!」

「行儀が悪いですよ、歩きながらものを食べるなんて」

「というか教室に戻るまで我慢しようよぉ……」

にこ「…………」

 なんていうか。

 同じ学校なのだから、十分にあり得る可能性ではあるのだけど。

 ふつーに。至極ふつーに。

 今思い浮かべた三人が、廊下の向こうから歩いてきていた。

穂乃果「そうは言ってもね、ことりちゃん。パンは焼いてから時間が経てば経つほどどんどんおいしさが損なわれちゃうんだよ」

穂乃果「そう! まるでお刺身の鮮度が失われるかのように!」

海未「まったく……ご丁寧に袋にパッケージまでされたパンに、鮮度も何もないに決まっているでしょう?」

ことり「というか、焼いてる時点で鮮度とかって話じゃないよね……?」

穂乃果「わかってない! わかってないよ二人とも!」

にこ「…………」

 どうしよう。思った以上にあっちの世界と同レベルのくだらなさだ。
256 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 21:04:34.50 ID:R6xTWM+mo

 だけど。
 
 今の私は、そのくだらなさに茶々を入れることもできない。

にこ(何事もなく、すれ違わなきゃ)

 それはある種の使命感。

 こっちの世界では、彼女らは見知らぬ他人なのだから。

 「あっ」とか、気軽に話しかけたりなんて、間違ってもできないのだから。

海未「あっ」

 あっ?

 え?
 
 なに、ちょっとどうしたのよ海未。

 なんで私の方を見ながら、気軽に話しかけてるわけ?
257 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 21:12:27.69 ID:R6xTWM+mo

海未「あの……」

 え、なになになに?

 なんで海未が私に話しかけてるの?

 だって彼女にとって、今の私は見知らぬ先輩で――

にこ(――ははーん)

 あー、わかっちゃった。

 これあれだ。自分が話しかけられてると思って返事したら実は自分の後ろの人に話しかけてましたってやつだ。

海未「えーっと……もしもし?」

 はー、危ない危ない。危うく赤っ恥かくところだったわ。

 まったく油断も隙もないわね。

海未「あの、矢澤先輩?」

 ヤザワセンパイ!? 名前までおんなじなわけ!?

 偶然って怖いわねー、危うく返事しちゃうところだったわ。

海未「…………」

 それにしても、私の後ろにいたヤザワセンパイも酷いやつね。

 結局私と海未たちがすれ違うまで返事してあげないなんて。

穂乃果「? 海未ちゃん、今の人知り合い?」

海未「知り合い、というわけではないのですけど。アイドル研究部の矢澤にこ先輩かと思ったのですが……人違いだったようです」

にこ「ってほんとに私のことかーい!」
258 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 21:51:00.74 ID:R6xTWM+mo

 はっ、ついツッコミ入れちゃった!

海未「え、えーと……? やはり矢澤にこ先輩、なのでしょうか?」

にこ「あ、そのー……まあ、そういうことになるわね……」

 ぐぬぬ、なんかすごくみっともない……

ことり「あの、なんでずっと無視してたんですか?」

穂乃果「そうですよ! 海未ちゃんが必死に呼びかけてたのに!」

海未「穂乃果、そういう言い方はいけません。私も見知らぬ立場で不躾だったと反省すべきでした」

にこ「や、それについては申し訳なかったけど……でも、海未さん? の言う通りなわけよ」

ことり「どういうことですか?」

 ――あんまり、自分で口にしたくはないんだけどなぁ。

にこ「つまり――見知らぬ立場、ってことよ」

にこ「ぶっちゃけちゃうと、私に話しかけてるとは思わなかったの。知らない人だし」

ことり「そう言われれば……」

穂乃果「海未ちゃん、なんでこの……矢澤先輩? のこと知ってたの?」

海未「やはり二人とも覚えてませんか……まあ、ひと月ほど前の話だから無理もありませんが」

にこ「?」

 なに? この子そんなに前から私のこと知ってたわけ?
259 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 22:45:04.82 ID:R6xTWM+mo

ことり「ひと月前……あ、そっかぁ!」

 ぽん、と手を叩くことりは、思い当たる節がある模様。

 一方そのころ。

穂乃果「んんん……? ヒント! ヒントちょうだい!」

 穂乃果は、まあ、穂乃果よねぇ。

海未「別にクイズを出しているわけではありません。私の部の先輩が、アイドル研究部でひとり奮闘している先輩を応援している話をしたでしょう?」

穂乃果「…………?」

海未「あなたに期待をした私が愚かでした……」

 穂乃果は、うん、穂乃果よねぇ……

 って。

にこ「私を、応援してる?」

 これは聞き捨てならない。

 海未の先輩――すなわち私と同じ学年の人間で、私のことを応援してる人間がいるなんて――

 待った。

にこ「あなた、所属してる部って……」

海未「弓道部ですが?」

 どくん。跳ねた心臓が、かぁっと頬を熱くさせる。

 こんなところで。

 こんなところで、あんたが関わってくれるのね。

 ああ。今なら胸張って言える。

 持つべきものは――


海未「ご存知だと思うのですが――後藤、という先輩なのですけど」


 ――友達、なのね。
260 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/06(月) 22:45:46.83 ID:R6xTWM+mo
ここまで
二年生編というべきかエリチカ編というべきか
まあしばらくそんな感じで続きます
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 23:37:05.33 ID:6xo9yIRwo
乙です
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/11(土) 10:44:23.11 ID:P35qHGvL0
乙だよ
面白い
ゆっくりでもいいので完結願います
263 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/15(水) 21:40:53.97 ID:t9+G4PhYo

 ひょっとして私は自分のクラスより後輩のクラスで昼食を済ませることの方が多いのではなかろうか。

にこ(それはなんか……寂しいわね……)

 結局、なんやかやで二年生三人組と一緒にお昼をすることになった私。

 そりゃたしかに、この子らをμ'sへ誘いたい私としては大歓迎の展開なのだけど。
 
 だけど、こうもいろんな教室へお邪魔してると、いい加減いたたまれなさも生まれてくるってもんである。

ことり「矢澤先輩? どうかしたんですか?」

にこ「えっ!? いやなんでもないわよ!? 別に私友達少ないなぁ寂しいなぁとか思ってないし!?」

ことり「え、えっと……?」

穂乃果「あ、矢澤先輩の卵焼き、」

にこ「あげないからね!?」

穂乃果「まだ何も言ってないんですけど……」
264 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/15(水) 21:54:07.52 ID:t9+G4PhYo

海未「そんなことよりも、です」

 ぱんぱんと手を叩く海未。途端背筋がしゃきっとするんだから慣れってのは恐ろしいものである。

海未「矢澤先輩の……先ほどおっしゃってたことは本気なのですか?」

にこ「本気も本気、大マジよ」

 肉団子をほおばりながらさもとーぜんとばかりに返す。

 穂乃果とことりが戸惑い顔で顔を見合わせてるのが小気味いいわ。

海未「というのは、つまり――私たちに、アイドル研究部に入って欲しい、ということですか?」

にこ「ええ、その通りよ」

海未「はぁ……」

 曖昧な返事のあと、海未の視線はうろうろと泳ぎ、やがて穂乃果に止まる。

穂乃果「…………?」

 その視線の意味を理解しているのかはさておき、とりあえずメロンパンにかぶりついている場合ではないと悟ったようでもぐもぐと咀嚼を急ぐ。

穂乃果「ごくん……はむっ」

にこ「二口目いくんかーい!」
265 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/15(水) 22:21:51.64 ID:t9+G4PhYo

海未「……穂乃果は、興味ないのですか?」

 穂乃果の察し能力に期待した自分が間違っているのに気付いたようで、海未は直接穂乃果に尋ねる。

穂乃果「アイドル、アイドルかぁ……はむ」

 会話しながらの三口目に躊躇がない。

穂乃果「うーん、私はどっちでもって感じかなぁ。お店の手伝いなかったら放課後は暇だし」

穂乃果「そう言う海未ちゃんはどうなの?」

海未「私は弓道部があります」

穂乃果「だけどその弓道部の先輩が言ってたんだよね? 兼部してみてもいいんじゃないかって」

海未「それは、そうですが……」

穂乃果「まあ、やりたくないものを無理にやらせてもしょうがないよねぇ」

海未「やりたくないなど誰も言ってません!」

穂乃果「え、やりたいの?」

海未「や、ややや、やりたいなどと誰が言いましたか!」

穂乃果「じゃあやらないの?」

海未「〜〜、あなたは私を馬鹿にしているのですか!」

穂乃果「質問しただけなのに!」

海未「穂乃果がどうしてもと言うのならやぶさかではない、というだけです!」

穂乃果「じゃあどうしても! どうしても海未ちゃんとやりたーい!」

海未「むむむむむ……」

穂乃果「むむむむむ……」

にこ(話がトントン拍子に進むのは結構なんだけど)

にこ(おいてけぼり感がはんぱない)
266 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/15(水) 22:32:40.75 ID:t9+G4PhYo

 と。

 私と同様、おいてけぼりを食らっている人物が一名。

にこ「あなたはどうなの? ――南さん?」

ことり「えっ」

 一人蚊帳の外でにこにことほほ笑むだけのことりに話を振る。

 するとどうしたことか、「私も含まれてたんですか?」みたいな顔しちゃって。

にこ「そうよ。あなたは興味ない? アイドル」

ことり「私は……えっと……」

 言いよどみながら視線を外すことり。

 うん、まあこの時点でいい返事は来ないんだろうな、とは想像ついたけど。

穂乃果「あ……」

海未「…………」

 穂乃果と海未が、必死に会話を繋げてた意味までは。

 ことりに話題が飛ぶのを防ごうとしていた意味までは。

ことり「私は――ごめんなさい」

 想像、できてなかった。


ことり「私――来月にはこの学校からいなくなっちゃうから。だから、無理です」
267 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/15(水) 22:40:09.91 ID:t9+G4PhYo

にこ「は、あぁ!?」

 いなくなる? ことりが!?

 なんでそんな急に!?

 そんな話あっちの世界でだって影も形も――

にこ「……あ、」

 あった。

 ことりが音ノ木坂を去る理由。

 だけどあれは、もっともっと後。

 それこそ文化祭が終わってからで……

ことり「服飾関係のお仕事に興味があるんです、私」

ことり「それで、海外のデザイナーさんから、向こうで留学してみないかってお誘いがあって」

ことり「来月末から向こうの学校に転校することが決まってるんです」

ことり「だから――私は、参加できません。ごめんなさい」

にこ「――――」

 嫌な予感ばっかり、あたるのよね。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/16(木) 00:08:54.25 ID:4YCV3IV60
こうやってみるとハードモードだなぁ
269 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/16(木) 07:30:59.87 ID:zMS1p7pAo
寝落ち
続きは後程
270 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 09:53:11.61 ID:GUG5mtZ1o

穂乃果「いなくなっちゃうんじゃ、しょうがないよね……」

海未「ええ……」

にこ「――っ、あんたたちは、」

 あんたたちはそれでいいわけ?

 飛び出そうになった言葉を、すんでのところで喉元に押しとどめる。

ことり「……矢澤先輩?」

にこ「なんでもないわ……」

 いぶかしがることりに軽く首を振る。

 熱くなっちゃダメ。凛の時に十分学んだでしょ。

 私の言葉は。


『昨日会ったばかりの人に――なにがわかるんですか?』


 初対面の人間の言葉は――届かない、って。
271 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 13:10:27.10 ID:GUG5mtZ1o

 落ち着け。落ち着きなさい矢澤にこ。

 考えないと。
 
 ことりをつなぎとめる、何かを――

穂乃果「だけど、ことりちゃんの作った衣装でアイドルやってみたかったなぁ、なんて、ちょっと思ったり……」

海未「穂乃果! そういう話はもうしないとあの時決めたでしょう!」

穂乃果「わわ、わかってるよ海未ちゃん。ことりちゃんを困らせるようなことはもう言わないってば」

ことり「――――」

 穂乃果の発言が彼女らの取り決めに引っかかったのか。海未が烈火のごとく怒りだす。

 その原因が自分であることをわかっているためか、ことりも沈んだ表情。

 この子たちの中では、もうそれを話題にするのもタブーになってるのね。

 だけど、それじゃあ――

にこ「――っ、それ!」

海未「え?」

穂乃果「どれ?」

にこ「衣装! 日本にいるだけでも構わない、南さんには私たちの衣装づくりをお願いしたいの!」

ことり「えっ……私が、ですか?」

にこ「そう! あなたが!」

 今はもうこれしかない。

 真姫ちゃんと同じ、彼女の得意分野でつなぎとめる。

 今はまだ彼女を止める手段がなくても、未来に可能性をつなげるために。
272 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 13:29:16.36 ID:GUG5mtZ1o

ことり「だけど私、あくまで趣味の範囲でしかできないし……」

にこ「大丈夫よ!」

 それに関しては根拠は十分すぎるほどにある。

 だってこの子は、あっちではあんなにすごい衣装を作ってたんだもん。

 そもそもそ才能があるからこそ留学の話も出るわけだろうし。
 
海未「あの、先輩」

 困った顔のことりに、助け舟を出したのは海未だった。

海未「先輩の気持ちもわからないではないのですが……この話は、私たちの間ではデリケートな問題で」

にこ「別に日本に残ってくれ、なんて言ってないわ。留学するまで協力してほしいってだけの話よ」

海未「そう、ですけど……ですが……」

穂乃果「私はいいんじゃないかなー、なんて思うんだけど」

海未「穂乃果、またあなたは!」

穂乃果「い、いや、だって矢澤先輩の言う通り、留学するまでの間私たちの衣装を作ってもらうってだけの話でしょ?」

穂乃果「別に問題があるわけじゃないと思うんだけど」

海未「その話だってそうです、私はまだアイドルをやると決めたわけではありません!」

穂乃果「もー、海未ちゃん素直じゃないんだから」

海未「一体なにを言って、」

穂乃果「ね、ことりちゃん。ことりちゃんはどうかな?」
273 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 14:22:06.77 ID:GUG5mtZ1o

ことり「私は……」

 逡巡することりを見て、彼女の迷いはどこにあるのだろうとふと思う。

 衣装を作ることに抵抗がある?

 本人が言ったように自信がないから?

 なんだか腑に落ちない。

 そもそも迷いは、ひょっとして――

にこ「とりあえず。今日の放課後、練習見に来てみない?」

ことり「え?」

にこ「雰囲気見てみるだけでなにか変わるかもしれないし」

にこ「園田さんも実際にやってるとこ見たら気持ち固まるかもしれないしさ」

海未「わ、私はまだやるともやらないとも……」

にこ「だーから、それを固めなさいって言ってんのよ」

海未「う……」

にこ「どう? あんたはそれで文句ある?」

ことり「…………」

 しばらくは、口をつぐんでうつむいていたことりだったけど。

ことり「……はい。行きます」

にこ「決まりね」

 とりあえず、その顔を上げさせることはできた。
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 16:14:54.54 ID:T9qeBYcSo
うーん
ことりはおしりの穴にうんこの拭き残しが残ってそう
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 19:06:06.96 ID:b3E3k2o+o
はよ
276 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 19:34:24.63 ID:GUG5mtZ1o

【Side:海未】

 午後の授業。数学教師の言葉が右から左へと流れていきます。

 原因は、お昼の出来事。


『とりあえず。今日の放課後、練習見に来てみない?』


 突然現れた先輩の、突然な申し出。

 後藤先輩から聞いていた先輩の存在が、まさかこのような事態を招くとは夢にも思っていませんでした。

 私たち三人の――あの日の決意を揺るがす、事態を。

海未「――――」

 私の斜め前の席で教科書に視線を落としていることりは、一見変わった様子は見られません。

 だけど――内心、戸惑っているはずです。

 いけません。私たちは決めたのですから。

 ことりがなんの未練もなく日本を発てるよう、最大限のサポートをしようと。

 そう、誓ったのですから。
277 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 19:43:14.29 ID:GUG5mtZ1o

 窓際一番前の席。私の視界の端では、穂乃果がうつらうつらと舟をこいでいるのが見えました。

 ああは見えても、穂乃果もきっと内心では戸惑っているに違いありません。

 正直先ほどはああ言ったものの、穂乃果の気持ちは十分理解しています。

 少しでも長くことりとの時間を作りたい。

 少しでも多くことりとの思い出を作りたい。

 そして、あわよくば――

海未(いけません……!)

 それは、望んではいけないことです。

 私たちの都合で。

 私たちの願いで。

 私たちの欲望で。

 ことりの未来を潰してしまうなど――言語道断です。

 穂乃果もきっとそれを理解した上で、なおことりへの未練を断ち切れないのでしょう。

 わかります。あのように眠たげにしながらも、頭の中ではことりのことを――

穂乃果「チョコクロワッサンが逃げていくぅ!」ガバッ

教師「高坂……百歩譲って居眠りは良しとしても、寝言で授業の邪魔するのはやめような?」

穂乃果「へ? あ、あはは……すいませーん……」

海未「…………」

 前言撤回です。あの人はなにも考えていません。
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 20:07:23.75 ID:wA5qoSvDO


ほのか…
279 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/18(土) 21:11:38.82 ID:GUG5mtZ1o
今回はここまでにします
進み遅くて申し訳ない
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 21:12:35.62 ID:mUXvQUyxo
おっつー
穂乃果ちゃん可愛い
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 21:30:25.28 ID:plwdWHr7o
乙です
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/06/18(土) 22:13:19.60 ID:sif1rGUQ0

とても面白い
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/18(土) 23:08:57.17 ID:kvmXhPDSO
ほのかわいい
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 21:29:06.44 ID:e0gCDI94o
すごい鬱陶しいわ
依頼出して終わりにしろ
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 06:43:50.76 ID:HkwUcap+o
待ってます
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/21(火) 20:53:23.55 ID:A8cRMvIro
まだ?
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/23(木) 00:15:34.45 ID:WkmM4+uC0
修道士存在が消滅しそう
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/23(木) 06:02:39.54 ID:SCDNmqh2o
終われ終われ
289 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/23(木) 21:50:45.83 ID:Yi542HVqo

 放課後。屋上に顔を出すとすでに一年生二人がストレッチを始めていた。

凛「あ、にこちゃんだにゃ」

花陽「にこ先輩、こんにち――いたたたた、凛ちゃん押すのストップストップ!」

凛「え? ここでキープってこと?」

花陽「あごめんうそ手を離してええええぇぇぇ……」

にこ「……死なない程度にしなさいよ」

凛「あははー、にこちゃんは大げさだにゃ」

花陽「――――」グデー

にこ「それは花陽の状況見てから言ってやんなさい……」
290 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/23(木) 21:54:19.56 ID:Yi542HVqo

凛「新入部員?」

花陽「それも二年生の、ですか?」

にこ「まだ確定じゃないけどね」

 グロッキーになってた花陽が息を吹き返したのを確認してから、昼休みの出来事をかいつまんで説明する。

凛「おおー、段々本格的な部活っぽい人数になってきたにゃ!」

花陽「き、緊張しちゃうな……」

にこ「そんなに肩肘張らなくて大丈夫よ、花陽。ゆるーい感じの子たちだから」

花陽「そう、なんですか?」

にこ「そーそー」

 特に穂乃果なんかはあんな感じだし、すぐに馴染んでくれるでしょ。
291 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/23(木) 22:10:05.67 ID:Yi542HVqo

花陽「…………」

にこ「……ん? どしたの花陽?」

花陽「あ、いえ……別に大したことじゃないんですけど……」

 そう言うわりにちょっと考え込むような表情。

 なにか引っかかることでもあるのかしら。

にこ「なに? なにか気になることでもあるなら――」

穂乃果「お邪魔しまーす……」

 私の言葉を遮るように、開く屋上の扉。

 見ると約束通り二年生が顔を出してくれたようであった。

にこ「ようこそ、待ってたわ」

海未「失礼します。約束通り伺わせていただきました」

ことり「……よろしくお願いします」

 穂乃果に続き屋上へ姿を現す二人。

 気持ちは――まあ、まだ固まらず、よね。
292 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/23(木) 22:21:37.23 ID:Yi542HVqo

花陽「あ、わ、私、一年の小泉花陽って言います!」

凛「私は同じく一年の星空凛です。よろしくお願いします、先輩方」

 一年生たちの自己紹介に、三人の目が向く。

穂乃果「お、あなたたちがアイドル研究部の一年生だね?」

穂乃果「そんなに気を使わなくていいよ、ここではあなたたちが先輩なんだから」

花陽「そそそ、そんな! 先輩だなんて言えるほどの器じゃ……」

凛「じゃあ遠慮しないにゃ!」

花陽「ちょ、凛ちゃん! 先輩に失礼だよ」

穂乃果「あはは、気にしなくていいよ、花陽ちゃん。私から言い出したんだし」

穂乃果「私は高坂穂乃果、二年生。気軽に穂乃果、でいいよ。私も下の名前で呼ぶし」

穂乃果「それから――」

海未「私は園田海未。穂乃果と同じ二年生です」

海未「まだ入部を決めたわけではありませんが……もしそうなれば弓道部との掛け持ち、ということになります」

海未「どうぞよろしくお願いしますね、二人とも」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/24(金) 06:58:31.20 ID:0yllC7o6o
退屈
294 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/24(金) 07:36:07.44 ID:Kwo6+jhEo
寝落ち
続きはまた後程
295 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 18:04:27.00 ID:9D3TayC9o

 そして。

 誰からともなく、視線はことりに集まる。

ことり「私は――」

 一瞬見せた逡巡は、期待に満ちた一年生に対する申し訳なさ、なのかもしれない。

ことり「ごめんなさい、入部するわけではないんです」

花陽「え?」

凛「入部希望じゃないにゃ?」

ことり「はい……ごめんなさい」

ことり「南ことりって言います。矢澤先輩に誘われてきました」

ことり「ちょっと理由があって一緒にアイドル活動をすることはできないけど、ひょっとしたら力になれるかもしれません」

ことり「だから……短い間になるかと思うけど、よろしくお願いします」

凛「あ……はい、よろしくお願いします」

花陽「…………」

 微妙な立ち位置のことりにたじろぐ二人。

 いけない、これを取り繕うのは私の役目だ。
296 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 19:07:25.68 ID:9D3TayC9o

にこ「だけどね、二人とも。この子は衣装作りができるのよ」

凛「え、ほんと!?」

ことり「できる、って言っても……趣味範囲だけどね」

凛「それでもすごいにゃ!  衣装ー衣装ー!」

ことり「え、えっと……そんなに期待されても……」

 衣装と聞き急にテンションを上げる凛。

 なにせそのために入部したようなものだもんね、あの子は。

 しかし一方の花陽はというと。

にこ「……あんた、さっきからどうしたの? 花陽」

花陽「えっ?」

にこ「ずっと難しい顔しちゃって……」

花陽「…………」

 
297 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 20:30:37.75 ID:9D3TayC9o

花陽「矢澤先輩は……」

にこ「ん?」

花陽「矢澤先輩は、南先輩を衣装作りのために勧誘したんですか?」

にこ「え? ……いや、違うわよ? もちろん最初は一緒にアイドルをやってもらうために声をかけたわ」

にこ「というか、今もそれは諦めてないけどね」

花陽「そう、ですか……」

 そう呟くと、またむつかしい顔でうつむいてしまう。

 具合でも悪いのかしら?

 まあ、本人が話さないなら問い詰めてもしかたないか。

 それよりも今は。

にこ「それじゃあ、ギャラリーも揃ったことだしそろそろ練習始めましょうか」
298 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 21:06:06.99 ID:9D3TayC9o

凛「よっ、ほっと。えへへー、見られてると緊張してうまく動けないねー、っとぉ」

花陽「それでも、それだけ、動けるなら……っと、じゅうぶんだよ、凛ちゃん」

にこ「」
299 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 21:11:28.22 ID:9D3TayC9o
>>298はミスです、すいません

* * * * *

凛「よっ、ほっと。えへへー、見られてると緊張してうまく動けないねー、っとぉ」

花陽「それでも、それだけ、動けるなら……っと、じゅうぶんだよ、凛ちゃん」

にこ「ほらほら、無駄話しない。ペースあげるわよ。ワン、ツー、スリー、フォー」パンパンパンパン

凛「にゃっ、負けないよー!」

花陽「わ、わわわ……」


穂乃果「……へー、意外と本格的なんだねぇ」

海未「たしかに……稚拙さは感じられますが、素人としてはかなり動けている方なのでは?」

ことり「小泉さんはちょっとつらそうだけどね……」

穂乃果「でも、逆に言えばこれから始めたってまだまだ置いてかれる心配はないってことだよね?」

穂乃果「うん、やっぱり楽しそうだし私はやってみてもいいかな」

海未「私も……これくらいでしたら弓道部の方に影響はあまりないかもしれませんね」

穂乃果「だよね、だよね!」

穂乃果「それで、その……ことりちゃんはどうかな?」
300 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 21:19:26.60 ID:9D3TayC9o

ことり「私も……二人が入部するって言うなら、衣装作り、やってみてもいいかなぁ、なんて……」

穂乃果「ほんと!?」

海未「……よいのですか? ことり」

ことり「……うん。腕慣らし、って言ったら失礼かもしれないけど」

ことり「でも、実際に着てもらえるレベルの衣装を作る練習にはちょうどいいかなって」

海未「……そう、ですか……」

にこ「――――」

 聞いている感じ、感触はかなりいいみたいね。

 「このくらい」とか、ちょっと舐められてる感じがむかっとするのはあるけど。

 だけど、実際に今の私たちの実力はその程度、ってことだしね。

 それがあの子らのハードルを下げてくれてるっていうならむしろ好都合ってなもんよ。
301 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 21:32:15.99 ID:9D3TayC9o

にこ「ね、あなたたち。もしよかったら、今から私たちと一緒に――」

 練習に参加してみない?

 そう、言うつもりだった。

 だけどそれが私の口から出るより早く。

 ギイイィィィィ……

 と、重っ苦しい音が屋上に響いた。

絵里「お邪魔してもいいかしら?」

にこ「! あ、あんた……」

 音の原因、開いた扉から顔を出したのは。

 まぎれもなく、音ノ木の生徒会長にして。

 μ'sの大切なメンバーの一人――絵里、だった。

にこ「絵……生徒会長、なんでこんなところに……」

希「やっほー、元気にやってるかーい?」

にこ「希!」

希「おやにこっち、こんなところで奇遇やね?」

にこ「――――」

 あとから軽い調子で続いてきた人物を見て、察する。

 その答え合わせは、絵里の口からなされた。

絵里「突然ごめんなさいね。希がどうしても見てもらいたい部活があるからって言うものだから」
302 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 22:28:37.92 ID:9D3TayC9o

にこ「希……」

 あんたって子は。

 ほんと、いい仕事してくれるじゃない。

絵里「それで? 矢澤さんがいるということは……アイドル研究部ということよね? ここは」

にこ「ええ、そうよ」

絵里「ということは――希が言ってた「私に話がある人」っていうのも、あなたということでいいのかしら?」

にこ「まあ、そういうことになるわね」

絵里「一体なんの用事かしら? 部費を上げてほしいとかそういう話はナシよ、アンフェアだわ」

にこ「そんなつまらない話するつもりないわよ」

絵里「あら、それじゃあ面白い話をしてくれるのかしら?」

にこ「もちろん。さいっこーに愉快な話よ」

絵里「希と並んでるところを「なかよしこよし」だなんて茶化される冗談より愉快であることを祈ってるわ」

にこ「ぐ……」

 この子、最初のあの日のこと根に持ってるわね……
303 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 22:42:33.54 ID:9D3TayC9o

にこ「――単刀直入に言う。あなた、この部に入るつもりはない?」

絵里「――――」

 しん、と空気が冷える。

 絵里は答えない。じっと、私の目を見つめる。

 スカイブルーの瞳に映る私は、がっちがちの表情で佇んでいた。

 誰を誘った時よりも口の中が乾いているのは、やっぱりこっちの世界での第一印象があったから。

 あっさり切り捨てられたら。

 ばっさり斬り捨てられたら。

 そう考えるだけで、膝が震えるのがわかった。

 ごくん。鳴った喉は誰のものだろう。

 沈黙に耐えきれず、二の句を接ごうとして、そして――

絵里「――まあ。たしかに、つまらなくはないわね」

 その一言で、がくっと力が抜けた。
304 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/26(日) 22:44:47.39 ID:9D3TayC9o
ここまで
次はまた近いうちに
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 23:05:35.93 ID:4Mot2ztio
乙です
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 23:50:25.75 ID:BrRnyKcuo
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/27(月) 20:52:16.50 ID:wXuA3ohbo
どこが楽しいのか
308 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 20:57:01.07 ID:FmvrfbxHo

にこ「興味を持ってくれたようで何よりだわ」

 へいちゃらけーな顔でそう言うけど、内心はだいぶほっとしてた。

 正直、一番の難関は絵里になると思ってたから。

 だから、そのラスボスが好感触を示したのは、このクソゲーの中でも数少ない救いだった。

 まあ、赤毛の裏ボスがまだ控えてるんだけどね……

絵里「勘違いはしないで欲しいわ。まだ入ると決めたわけではないの」

にこ「……なに? なんか条件でも出すつもり?」

絵里「――――」

 答えることなく、絵里はぐるりと屋上を見渡す。

絵里「そこで座ってるあなたたちは、見学者?」
309 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:01:33.15 ID:FmvrfbxHo

穂乃果「えっ?」

海未「私たちのこと、ですか? え、ええ、そうですけど……」

絵里「そう……アイドルに興味があるの?」

穂乃果「そうと言えば、そうなのかな……?」

絵里「どういうこと?」

穂乃果「私たち、矢澤先輩に勧誘されて来たんです。だから、最初からアイドルに興味があったっていうわけでは……」

絵里「……他の二人も?」

ことり「あ、私はそもそもアイドルをやるためにきたんじゃなくて……」

海未「私は違います。穂乃果がどうしてもと言うから仕方なく着いてきただけです」

穂乃果「もー、海未ちゃんまだそんなこと言ってるの?」

海未「まだとはなんですか、私は本当に……」

絵里「もう、いいわ」

 頭を抱えながら、絵里はそう答えた。

 ――あんまり、雰囲気よくないかも。
310 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:19:12.51 ID:FmvrfbxHo

絵里「そこの二人は部員なのよね?」

 冷ややかな視線が、今度は凛と花陽を捕らえる。

凛「……そうですけど」

 あー……警戒心MAXだ、あの子。

絵里「あなたたちは? 勧誘されて入ったの?」

花陽「あ、わ、私は違います。私はアイドルになりたくって……」

絵里「そ。そっちのあなたは?」

凛「なんで答えなきゃいけないんですか?」

 友好心ゼロの返答。

 てか、これまずい。私が止めないと――

にこ「ちょっと、二人とも……」

絵里「入部をお願いされてる立場ですもの。部について質問くらいさせてもらって当然でしょう?」

凛「私はお願いしてません」

絵里「あなたが部長以上の権限を持ってのなら今すぐ帰るわ」

凛「――――っ」

 ダメだ、私の言葉なんて全然届いてない。

 一触即発、今にも取っ組み合いになるんじゃないかってくらいにボルテージがあがって――

希「絵里ち」

 熱くなった二人の間に、すっ、と水が差される。

絵里「……ごめんなさい、そんなこと言うためにきたんじゃなかったわ」
311 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:32:04.58 ID:FmvrfbxHo

絵里「じゃあ聞き方を変えるわ。この中で自分の意志でこの部に入った人は?」

 私を含めた皆が皆、目を見合わせて。

 おずおずと手を挙げたのは、花陽だけだった。

絵里「…………そう。わかったわ」

 落胆の色を隠そうともしない絵里の声。

 それに答える子なんて、誰もいなかった。

絵里「矢澤さん」

にこ「……なに?」

絵里「返事。今するわ」

にこ「返事?」

絵里「この部に入れって、あなたが言ったんでしょう?」

にこ「ああ……」

 正直、そんなことすっかり頭から吹き飛んでいた。

 だって、そうでしょう?

 なんの前触れもなく、真正面からケンカ売られてるようなもんだもん。

 第一、ここまで言われていい返事を期待するほど間抜けじゃないし、私。


絵里「入ってもいいわ」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 21:39:17.60 ID:4B+yuq9fo
はい止め
終わり
つまんない
313 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:43:31.50 ID:FmvrfbxHo

にこ「…………は?」

 今鏡を見たら、さぞかし間抜けな顔した女の子が映るでしょうね。

 って、そんな現実逃避してる場合じゃなくて!

にこ「入るの!?」

絵里「だめなの?」

にこ「いや、そんなことは……」

 ない、けど。

 さんざんひっかきまわして、その答えを誰が予想できるの?

凛「入ってもいいって……上から目線すぎません?」

絵里「頼まれてる立場だって、さっき言ったはずなのだけれど」

凛「だからって!」

花陽「り、凛ちゃん! 落ち着いて!」

凛「でも!」

花陽「うん、わかるよ、気持ち。だから」
 
 きっ、と。

 花陽にしては珍しく強い視線で、絵里へ向き直る。

花陽「なんで急にそんな答えになったんですか?
314 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:48:12.74 ID:FmvrfbxHo

絵里「別に急に決めたつもりはないわ」

花陽「……わけがわかりません。だってさっきまであんなに酷い態度だったのに」

花陽「入るつもりがなかったとしか、思えません」

絵里「――あなたは、わかってるんじゃないの?」

花陽「え?」


絵里「入るつもりがあったから、よ」


花陽「――――」

 その沈黙は、なにを意味したのだろう。

 なんにせよ、それ以上花陽が答えることはなかった。
315 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:54:42.52 ID:FmvrfbxHo

絵里「それにね、ただで入るとは言ってないわ」

にこ「は?」

絵里「あなた、スクールアイドルランキングって知ってるかしら?」

にこ「知ってる、けど……」

 かつてはその頂点まで上り詰めたグループの一員だもの。

 知らないはずがない。

絵里「そのランキングで、あなたたちが100位以内に入ること。それが私が加入する条件」

にこ「…………」

 は?

 あなたたちって、私たち?

絵里「まあ、今の状況でその条件を満たすのは難しいでしょうね」

絵里「だから、私も協力してあげる。こう見えてもバレエの心得はあるの」

絵里「あなたたちにレッスンをつけることくらいならできるわ」

にこ「――いいかげんに、」

 風船のように膨らんでいた悪感情。

 それが、限界まで大きくなって――

絵里「するのは、あなたの方なんじゃないの?」

 ぷしゅう、と情けない音をたててしぼんだ。


絵里「あなた――なにがしたいの?」
316 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 21:58:23.06 ID:FmvrfbxHo

 なにがしたいの? って。

 それ、私のセリフじゃないの?

穂乃果「あのー……」

 蚊帳の外になっていた穂乃果が、おっかなびっくりで口を挟む。

穂乃果「その「あなたたち」って、ひょっとして私たちも……?」

絵里「入ってるわ」

穂乃果「ええー……」

海未「待ってください! 私たちはまだ入部も決めていません!」

海未「第一ことりに至ってはそもそもアイドル活動をするわけでも――」

絵里「ならこの話はなかったことにしましょうか?」

海未「――――っ」

 海未の立場ならそこで構わないと怒鳴りつけてもいい場面だった。

 それをすんでのところで踏みとどまってくれたのが私のためだということは、一瞬飛んできた彼女の視線が如実に語っていた。
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/29(水) 22:00:21.79 ID:H4zk5UsHo
やっときたか
支援
318 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:07:28.24 ID:FmvrfbxHo

 ――そして、彼女の捨て台詞にたどり着く。

絵里「――最後に、もう一度だけ言わせてもらうわ」

絵里「ここにいる六人のグループで、一か月以内にスクールアイドルランキングで100位以内に入る」

絵里「それができなければ――私は、このグループには入りません」

 好き放題言い残して、絵里は屋上を後にした。

 残されたのは。

にこ「――なんなのよ、これは」

 苦い現実を突き付けられた、ちっぽけな女の子。 
 
319 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:08:51.81 ID:FmvrfbxHo
微妙に>>253と食い違う展開になってしまいました、申し訳ないです
もうちょっとだけ続きます
320 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:13:32.40 ID:FmvrfbxHo

【Side:絵里】

希「絵里ち!」

 早足で階段を下りる私の背中に、希の声が飛んでくる。

 彼女の言いたいことは痛いほどにわかっている。

希「話が違うやん! にこっちの話聞いて、よければ協力してあげるって、そういう話だったでしょ!?」

絵里「……わかってるわ」

 わかってる。自分がどれほどみっともないことを喚き散らしたか。

 どれほど子供じみた感情を振りかざしたのか。

 痛いほど、わかってる。

 だけどね、希。

 「話が違う」は、こっちのセリフなのよ。
321 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:19:02.03 ID:FmvrfbxHo

 「矢澤にこ」は、私たちの学年では知らない人がいないほどの有名人である。

 アイドルを目指し、暴走し、孤独になった変人。

 たぶん多くの人の認識はそんなものでしょうね。

 だけど、私は――少しだけ、うらやましかった。

 恥も外聞もかなぐりすて、自分のやりたいことにひたむきになれる強さ。

 方向性はどうであれ、それは誇れるものだと思ったから。

 だから彼女が再び部活動を再開し始めたと聞いた時は、内心応援だってしていた。

 希から「あの占い」の話を聞いて。

 私が彼女に関われると知って。

 嬉しく、思ったのよ。

 だから。

 だからこそ――

絵里「残念、だったのよ」
322 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:21:47.75 ID:FmvrfbxHo

希「残念?」

絵里「ええ」

希「残念、って……むしろ絵里ち、喜んでたやん? にこっちを近くで見られるって」

絵里「ええ」

希「いや……矛盾してない?」

絵里「してないわ」

 だって。

絵里「だって――彼女は私の知ってる「矢澤にこ」じゃなかったから」

 今のままの彼女なら――関わることに、意味なんて、きっとない。
323 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:26:05.93 ID:FmvrfbxHo

希「どういうこと……?」

絵里「さっき。屋上には私たちを含めて8人いたわね?」

希「え? う、うん、そうだったと思うけど……」

絵里「なら……あの8人が、希の占いに出た「やっつの光」、なのよね」

希「……たぶん」

絵里「そう……」

 違ってほしかった。

 もしそうなら、話は簡単だったから。

 だけどどうしても「あの」8人でなければならないというのなら。

絵里「あの部活――潰れるわ」

希「そりゃ、まあ……あれだけぼろくそに言われれば……」

絵里「そうじゃなくって」

 それは、まあ、やりすぎた私が悪かったけど。

 だけど、あれだって必要な荒療治。

絵里「正直、矢澤さんのやりたいことが見えてこないのよ」
324 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/06/29(水) 22:29:04.95 ID:FmvrfbxHo

希「にこっちのやりたいことって……アイドルになる、やろ?」

絵里「…………」

 アイドルに、なる。

 なることだけが目的なら、あのメンバーでもいいのかも知れない。

 だけど、それなら彼女は2年前、ひとりぼっちになんてならなかった。

 彼女が目指してるのは、そんな低いところではなかったはずだ。

 なのに。


 今の彼女は――2年前の自分自身を蔑ろにしているようにしか見えないのよ。
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