にこ「きっと青春が聞こえる」

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1 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 11:46:56.68 ID:vN5K0eK3o

ジリリリリリリリリ……

にこ「……っるさーい」

カチッ

にこ「ふあぁぁぁあ」ムクッ

にこ「………」

にこ「……ねむい」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457750816
2 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 11:56:12.53 ID:vN5K0eK3o
まだ肌寒さを感じる、3月某日朝。

ぬくもりが残る布団の中から、私は恨めし気に目覚まし時計を睨み付ける。

AM7:00

音ノ木坂を卒業した私が起きるにはまだ全然早い時間なんだけど――今日はお出かけの日。

いや、今日も、か。

μ'sのこれからが決まるまでは、おわらない用事。

にこ「…………はぁ」

重い溜息だけを残し、私は潔く布団から這い出た。
3 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 12:01:49.38 ID:vN5K0eK3o
にこ(終わらせる、べきなのよね……後輩たちが決めたことだもん)

にこ(学園を去る人間が――スクールアイドルでなくなる張本人がしがみついてたんじゃ、カッコがつかないし)

にこ(でも……みんなが、望んでる)

にこ(μ'sがスクールアイドルとして……ううん、ただのアイドルとしてでも)

にこ(活動を続けることを、頂点に君臨し続けることを、たくさんの人が望んでる)

にこ(じゃあ……私は?)

にこ「…………はぁ」

にこ「言わずもがな、なのよねぇ」
4 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 12:07:34.15 ID:vN5K0eK3o
アイドルって、やっぱりすごい。

μ'sとして活動してきた私が、改めて実感したこと。アイドルって、やっぱりすごい。

こんなにドキドキできて。

こんなにワクワクできて。

こんなに――にこにこできて。

ちっちゃな頃からあこがれていた理想の形が――ううん、それよりももっともっと素晴らしい形が、私にとってμ'sだった。

それを――簡単に手放せるはず、ないのよね。

にこ「我ながら未練がましいわね……」

思わずひとりごと。

なんていうか、それくらい私にとっては大きな分岐点なんだと思う。
5 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 12:24:59.66 ID:vN5K0eK3o
専門学校進学。私が決めた、私の進む道。

正直金銭的にかなり厳しいのは理解してた。だから、私のアイドルへの夢も、ここまでかなって思ってた。

そう思えたのも、きっとμ'sとしての一年間があったから。

満足したからじゃ、もちろんなくて。

「満足したでしょ」って、自分に言い聞かせることができるくらいの経験ができたから。

ま、つまるところやっぱり未練たらたらだったってことなんだけど。
6 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 12:32:13.23 ID:vN5K0eK3o

 でも、私が高校卒業したら働くって言ったら、ママはきょとんとした顔でこう言った。

『へ? あなたアイドルになるんでしょ?』

 言われて、きょとんとするのは私の方だった。

 何を当たり前のことを? みたいな口調で言われたもんだから、そりゃきょとんともするでしょ。

 で、まあ私もよくわかんないままに、

『えっと、うん』

 って答えちゃって、今に至る。
7 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 12:51:54.77 ID:vN5K0eK3o
 
 首の皮一枚でつながった私のアイドル人生。

 学校で勉強すれば、きっと今までとは比べ物にならない上達が見込めるはず。

 そのうち今までとは比べ物にならないきれいな衣装を着て。

 今までとは比べ物にならない素敵な歌を歌って。
 
 矢澤にこ、ここにあり! って、世界中の人々に知らしめることができる……かもしれない。

 だけど。

 絵里のうざったいくらい厳しいレッスンが。

 ことりの甘っ甘な趣味全開の衣装が。

 μ'sのメンバーと歌い、踊ってきた曲が。

 名残惜しいって言ったら、それは、贅沢なのかな。
8 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 13:11:29.95 ID:vN5K0eK3o

にこ「いっそのこと、この一年間やりなおせたらなぁ」

 なにげなーくつぶやいた一言が、実は一番望んでることかも。頭の中で繰り返してみて……うん、やっぱりそれが一番ステキ。

 μ'sとして駆け抜けた一年間。

 もっともっと感じていたい。もっともっと刻み込みたい。

 ありえないことだって、わかっていても。

 やっぱり……やりなおしたいなぁ。

にこ「…………ん?」

 「やりなおす」というワードに、なぜか引っ掛かりを覚える。

 なんだっけ? なんだかついさっき聞いたような――

にこ「あ」

 そうだ。夢だ。

 ついさっきまで見ていた夢に出てきた人物――ちっちゃくてキュートで鈴の鳴るようなきれいな声、もうアイドルと言ったらこの子しかいないでしょってくらいアイドルオブアイドルみたいな子が、そんなことを言ってた気がする。

にこ「やりなおすとか……約束とか……」

 いかんせんそこは夢。思い出そうとした端からぽろぽろと記憶がこぼれていってしまう。

にこ「ま、いっか」

 夢は夢。そんなに気にする必要もないでしょ。

 ただ――いっこだけ気になるのは。

 その子――ちっちゃくてキュートで鈴の……っていうかぶっちゃけもう一人の私が、涙を流しながら、だけど微笑んでいたことだった。
9 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/12(土) 13:12:40.49 ID:vN5K0eK3o
とりあえずここまで
アニメ設定だったりSID設定だったり自分の勘違いだったりが混ざった世界観だけどお気になさらず
続きはまたあとで
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 13:54:48.56 ID:ai6+sCk/O
なんか似たようなスレタイのssを見たことがあるぞ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/12(土) 15:51:06.70 ID:RvG2gCxvO
期待
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 21:58:34.25 ID:LWRHdbYsO
期待だなぁ
13 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/14(月) 23:45:38.69 ID:NCF1xuP3o

にこ「おはよー」

こころ「あー、にこにーおはよー」

ここあ「おはよー」

にこ「はいはーい、二人ともおはようにこー」

 仲良く朝ご飯をとっているふたごちゃんを軽くあしらい、私も自分の席に着く。

 私が起きてくる時間を見越してか、そこにはすでにトーストと目玉焼き、それにコップ一杯の牛乳が用意されていた。

 準備してくれた当の本人は、スーツ姿で洗い物をしていた。

にこ「おはよう、ママ」

にこママ「おはよ、にこ」

 背中を向けていたママは、わざわざこちらを向いて挨拶を返してくれた。

 ママのこういうところ、好き。
14 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/14(月) 23:55:05.47 ID:NCF1xuP3o

こころ「むぅ……こころぷちとまときらーい」

 サラダのプチトマトをフォークでで貫きつつ、こころがぐずつく。
 
ここあ「どうしてー? トマトおいしいよ?」

こころ「トマトはおいしいけど、ぷちとまとはすっぱいもん!」

ここあ「すっぱくないもん!」

こころ「すっぱい!」

ここあ「すっぱくない!」

にこ「こらこら、けんかはしちゃだめにこよー?」

こころ「だってぇ……」

ここあ「だってぇ……」

にこ「食べ物のことでけんかしてると……お野菜おばけがふたりのこと食べちゃうにこー!」

こころ「きゃー!」

ここあ「けんかしないー!」

 効果てきめん。二人は一生懸命ご飯を食べだした。

 うむうむ、仲良きことは美しきかな。私も満足し大皿からサラダを取り分ける。

 ……にしても、プチトマトが嫌いなんて、とっても贅沢。

 基本はもやしの白、そこにレタスの緑が混ざってればラッキー、くらいの感覚なのに、真っ赤な粒がころころしてるだけで私としては宝石みたいに眩しく感じるんだけどなぁ……
15 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:06:51.46 ID:V+INWURXo

 と。そこで私はようやくある違和感に気づく。

 きゃーきゃーと騒がしい朝食。別に珍しい風景ではない。

 というか、朝食に限らずこころとここあがいるときは大抵こんな騒がしさが矢澤家の日常。

 ――そう、こころとここあがいるときは。

にこ(昨日の夜――この二人、いたっけ?)

 一日前の記憶を引っ張り出してきても、目の前の騒がしさがそこに重なることはない。

 ん、……まだ、寝ぼけてるのかな?

にこ「ねぇママ。こころたちって、昨日こっち泊まってたっけ?」

にこママ「そりゃ、泊まってたから今ここにいるんでしょう?」

にこ「や、そうなんだけど……」

 ママの言うことはもっとも。私の単なる記憶違いっていうのが一番しっくりくる答え。

 だけど、うん、ちょっと否定材料が増えちゃった。

にこ「っていうか――ママ、今日朝早いから朝ご飯自分で用意してって、昨日言ってなかったっけ?」
16 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:17:49.53 ID:V+INWURXo

にこママ「……ちょっと、大丈夫? 具合悪いの?」

にこ「う、ううん、違うの、そうじゃなくって……」

にこママ「あんまり体調がよくないなら、今日は学校お休みしたほうがいいんじゃ……」

にこ「ほんと、大丈夫だから! ちょっと寝ぼけてただけ! ――ごちそうさま!」

 話が妙な方向にずれてきたため、慌てて牛乳を飲み干す。

 着替えや身支度は済んでるから、あとは歯を磨いたら――うん、カンペキなにこにーのできあがり。

にこ「それじゃあ行ってきまーす!」

こころ・ここあ「いってらっしゃーい」

にこママ「いってらっしゃい、無理しちゃだめよー」

にこ「わかってるー!」

 三人分の声に背中を押されながら、ドアをくぐる。

 春を待ちわびる三月の日差しが、ちょっとだけあたたかい。

 よーし、今日もいっちょ頑張りますか。 

17 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:25:11.24 ID:V+INWURXo

 三年生が卒業したものだから、通学路を歩く音ノ木坂生は少し前よりぐっと減った。

 まあ単純に考えれば三分の一がいなくなったのだからそう感じるのも当然か。

にこ(ま、にこみたいな例外もいるんだけどね)

 見ると私と同じ緑リボンの生徒もちらほら見られる。どんな理由か知らないけど卒業してからもごくろーさま。

 ……なーんて、人のこと言えないけど。

にこ「ん」

 校門をくぐろうかというところで、見知った二人分の後姿。

 私の大好きなμ'sのメンバーで、大切な同級生で――かけがえのない、友達。

 恥ずかしいから本人らには言わないけどね。

 なんだか一人で照れ臭くなったので、ごまかすように二人の肩をばしーっと叩く。

にこ「おはよー、絵里に希。朝からなかよしこよしでうらやましいわねぇ、このこの」

 ジョークも完璧。今日もいい一日になりそ。
18 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:30:52.95 ID:V+INWURXo

 ――なんて思ったのは、その瞬間だけで。

希「え? ……にこっち?」

絵里「…………?」

 いぶかしげな二人の表情は、なんというか、予想外。

 え、今のジョークそんなにマズった?

にこ「ど、どうしたの二人とも? そんな怖い顔しないでよー。ほらご一緒に、にっこにっこ、」

絵里「どうしたの、はこちらの台詞なのだけれど」

にこ「にー……」

 せめて最後まで言わせてよ……

 じゃなくて。

にこ「え、いや、ほんとにどうしたのよあんたたち? なんかあったの?」

絵里「…………ひとつ、確認させてもらっていいかしら?」

にこ「え、なにを、」

絵里「あなた――矢澤にこさん、よね?」

にこ「……言って、る、の……?」

 あはは。

 絵里、そのジョーク、さっきの私のより笑えないわよ?
19 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:36:20.58 ID:V+INWURXo

絵里「一応生徒会長だし、希からもあなたの話は聞いたことあるから名前くらいは知ってる」

絵里「だけど、それだけでしょう?」

絵里「少なくとも――急に肩をはたかれて呼び捨てにされるような仲ではないと自覚していたのだけれど」

にこ「…………」

 この子、何言ってんの?

 それしか頭に浮かばない。

 助けを求めるように視線を希に移しても、

希「えと、にこっち? うち相手にならまだしも、初対面の絵里ち相手にちょっとおふざけがすぎるんとちゃう?」

 こっちはこっちでつまらないジョークを続けてた。

絵里「……別にあなたのことを嫌っているというわけではないけれど、相応の距離感は守ってほしいわ」

 やめてよ。

 アンタの口から、そんなこと――

絵里「別に、友達ってわけでもないのだから」

 ――言わないで、よ。
20 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:44:24.11 ID:V+INWURXo

 チャイムの音が遠い。

 呆然と立ち尽くす私を、急ぎ足の生徒が追い抜いていく。

 なにこれ、ドッキリ?

 騙されたでしょーって、穂乃果あたりがネタばらしの看板でも持ってくるの?

 じゃあさ、早くしなさいよ。

 悪趣味だってば、こんなの。

 ねえ。誰か教えてよ。

 服の袖でぐしぐしと目元をこすって、すがるように視線を上げる。

 さっきのチャイムは予鈴だったようで、本鈴に間に合うべく多くの生徒が昇降口に殺到している。

にこ「……あ」

 その人ごみを見て、気づく。

にこ「うそ、でしょ……」

 三年生が抜けた、三月中旬の音ノ木坂学院。

にこ「そんな……」

 そこにいる生徒は皆、赤か緑のリボンを結んでいた。

 まるで――私が二年生だった、一年前のあの頃のように。
21 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 00:45:55.35 ID:V+INWURXo
ここまで
調べてみたらたしかにほぼ同名のSSがあった
たぶん内容はまったく違うから気にしない
次はまたそのうち
22 : ◆yZNKissmP6NG [saga]:2016/03/15(火) 20:48:09.22 ID:V+INWURXo

 そのまま回れ右してよっぽど帰ってやろうかとも思ったけど、結局そのまま校内へ進むことにした。

 なにかの勘違いかも知れなかったし。……まあ、なにをどう勘違いしたらこうなるのかわからないけど。

 とりあえず同じ色のリボンの人を追いかけていったら、みながみな一様に教室棟の二階へ足を進めていった。

 二年生の教室のある、だ。

 自分が二年の頃に何組だったか思い出しつつ、途中他のクラスも覗いてみる。

 ホームルーム直前ということもあってみんな席についてるからわかりやすい。

 どこのクラスもほぼ全員が揃っている。まるでこれから、授業でも受けるかのように。

にこ(……やっぱり、そういうことなの? これ)

 状況を知れば知るほど、可能性を否定できなくなってくる。

 将棋は詳しくないけど、王将の逃げ道をどんどん減らされてるときってこんな気分なのかな。
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