ミュウツー『……これは、逆襲だ』 第三幕

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457 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:49:20.38 ID:PVvYiWSbo

アロエ「捨てられた……」

レンジャー「え、なにか」

アロエ「ううん、続けて」

レンジャー「あ、もちろん、全部が捨てられた奴ってわけじゃなくて」

レンジャー「よその地域から野生のまま流れてきただけの個体も、含まれているとは思います」

レンジャー「……正確なところは、まだわかってませんけど」

レンジャー「あいつを見たのも、そうやって森に居着いたポケモンが助けを求めてきたときでした」

レンジャー「居着いた連中はたいてい、原生のポケモンとあまり馴染めないようで……」


息を呑む。

これが、他人に話していい内容なのか、話している今もわからない。


レンジャー「……外来種のみで異種混成の群れを作ってます」

レンジャー「えっと……だからたぶん、あいつも一緒にいるんだと思います」

レンジャー「……と、私は考えています」

アデク「あー……、そういうことか」

レンジャー「……え」

アデク「ああいや、気にするな」


アロエを見ても、話を続けろと促してくるだけだ。


レンジャー「……そ、その中の一匹……というか」

レンジャー「最近、捨てられた奴なんでしょうね」

レンジャー「酷い怪我をしたポケモンを連れてきたことがありました」

アロエ「『連れてくる』、って……それ、誰が連れてくるの?」

458 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:50:41.58 ID:PVvYiWSbo

レンジャーはぎくりと身をこわばらせた。

慎重に言葉を選ぶ。

話さなくてはならないことなのだから仕方ないのだが、聞かれると動揺する。

あの不思議なポケモンについてではないにしても、彼らについて必要以上に言い触らしたくはなかった。


レンジャー「……『窓口』になっている個体がいるんです」

レンジャー「人間との接触を嫌がる個体が多いのは容易に予想がつくので」

レンジャー「そいつが私のところに来る……ようにしているみたいです」

レンジャー「そいつも元々は人間が所有していたことがわかっている個体なので……」

レンジャー「こちらの話は理解していて、おおむね意思疎通ができています」

レンジャー「そのとき、遠くからこちらを窺ってるところを見かけたのが最初です」

レンジャー「私が信用に値する人間なのか、見定めに来た、っていう印象でした」

レンジャー「けど、それ以上は近づいてこないんです。やっぱり……」

アデク「……だったら、やはりあいつはお前さんのことをある程度、認めてると思っていいはずだ」


レンジャーは顔を上げた。

アデクは笑って腕を組んでいる。


レンジャー「それは……」

アデク「さっき、カントーのハゲ頭も言っていたじゃないか」

レンジャー「ハゲ頭……」

アデク「あいつは他人の記憶を弄れるって」

アデク「わしらも含めて、たとえば誰彼構わず喋りそうだとか、都合の悪いことをしそうだとか」

アデク「あいつがそう思ったら、そうすればいいわけだ」

アデク「だが、あいつはそうしなかった」

レンジャー「あ……」

アロエ「あー、あーもー、耳が痛い」

459 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:52:23.07 ID:PVvYiWSbo

耳を塞ぎ頭を振るアロエをちらりと見てから、アデクは胸を張る。


アデク「ま、これ以上、評価を落とさんよう気をつけないといかんな」

アロエ「そ……そうね……」

アロエ「あっ、ねえ、まさかと思うけど、あの子のこと、報告書とか日誌に書いたりしてないよね?」


はっとした顔でアロエが尋ねてきた。


レンジャー「い、いいえ」

レンジャー「なんでか自分でもよくわからないですが、あまりそういう気になれなくて」

レンジャー「他の外来の連中は、トラブルがあったときに問題になるんで、かなり控えめとはいえ書いてるんですけど」


アロエは露骨に安堵した表情を見せる。

その気持ちはレンジャーにも想像できた。

彼女は眉間を揉んで、また溜息をつく。


アデク「今日の館長殿は溜息が多いな」

アロエ「うるさいうるさい。考えることが多いの」

アデク「だが、運がよかった」

アデク「記録に残していないことは、おおやけには存在しないと同義だ」

アデク「それに、一度でも記録に残してしまえば、あとから隠すのは難しいからなあ」

アデク「あまりいい手ではないが、今のところ、これ以上話が広がらないようにするしかない」

アデク「な?」

460 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:54:23.93 ID:PVvYiWSbo

お手上げだ、とでもいうようにアデクは両手を広げた。

そしてレンジャーに同意を求めた。

それはつまり、彼らに――お前に――できることはないと言われたも同然だった。


アデク「あいつが、存在を広められることを望むとは思えんしな」

アデク「現状、潜伏場所の周囲で三人もの人間に存在を認知させてしまっている」

アデク「そして、それもさっき四人になってしまった」

アデク「これ以上、話が広がるのも本意ではないはずだ」

アデク「何かあれば、あいつが方針転換する可能性も十分にあるわけだしな」

アデク「まあ……わしらは突発的だが、お前さんの場合だけは向こうからの働きかけだから」

アデク「少しケースが違う、と言えんこともないが」

レンジャー「……わかりました」

レンジャー「私も、こういう形であいつのことを調べるのはやめます」

アデク「それがいいな」

アデク「カツラの話の通りなら、図鑑をいくら調べても出てくるまいよ」

レンジャー「都市伝説本の方がまだ確率高そうです」

アデク「そうだな」


アデクが立ち上がった。

レンジャーに歩み寄り、大きな手で肩をぽんと叩く。


アデク「誰かのためを思って何かするのは、難しいな」


それを待ち構えていたかのように、アロエが端末の画面に目をやる。

461 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:55:03.72 ID:PVvYiWSbo

アロエ「そろそろ、お開きにしましょう」

レンジャー「……はい」

アデク「なーに、お前さんが落ち込むところは、今のところ特にない」

レンジャー「いえ、そんな……」

アロエ「一応、あのハゲも必要なことはひととおり話してくれたみたいだしね」

レンジャー「ハゲって」

アデク「奴の話に嘘が含まれる可能性はあると思うか」


アデクの言葉に、アロエは肩を竦める。


アロエ「さあね」

アロエ「いっそ、全部嘘であってほしいくらいだけど」

アロエ「……そうでないと、あんまりだよ」


小声でアロエはそう吐き捨てる。

レンジャーもそれは同感だった。

462 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:57:30.82 ID:PVvYiWSbo

アロエ「それに、あたしたち三人には『あの子と意思疎通する手段や機会がある』と考えられるわけだし」

アロエ「喋らない他のポケモンならいざ知らず、本人に事実確認ができるのに嘘をつくメリットはないと思う」

アロエ「なんにしてもあたしたちは、あの子自身ときちんと向き合う以外に本質を見極める手段はないわけ」

アデク「それもそうだ」

アデク「うんうん」

アデク「ということは、わしらはあいつの平穏な暮らしを邪魔せんようにすればいいわけだな」

アロエ「助けを求めてきたら、できることはしてあげるけどね」

レンジャー「そ、それはもちろん……」


アロエとレンジャーの言葉に、アデクは満足そうに頷いた。


アデク「じゃあ、あっちで茶をもう一杯もらってから消えるとしようか」

アロエ「何か急ぐ用事でもあるの」

アデク「いや、特にない」

アデク「わしもしばらくは、この辺に留まることにするよ」

アデク「……気になるからな」

アロエ「あら、そう」


そう言いながら、アデクは引き戸を開けた。


アロエ「それはよかった」


レンジャーはアロエを見上げる。

頭に疑問符が浮かぶ。

アロエはちらりとレンジャーに目を向けただけで、何も答えない。

463 : ◆/D3JAdPz6s [saga sage]:2023/12/09(土) 22:59:05.08 ID:PVvYiWSbo

アロエは、アデクが出て行った引き戸を見ている。

硬い床を擦る履物の音が遠ざかっていく。

そして――


「うわっ」というアデクの呻き声と、別の誰かの声が聞こえた。

『別の誰か』は、どうやら男らしい。

喧嘩のような、そうでもないようなやりとりがかすかに聞こえる。

何を話しているのかは、まったくわからない。


扉を隔てた向こうで、ぼやけた足音がばたばたと響いた。

二人分の声が不思議な具合に遠ざかっていく。

アデクが、『別の誰か』から逃げようとしているのだろうか。


アロエ「ちょうどタイミングばっちりだったみたい」

レンジャー「……?」

アロエ「ほら、せっかく、師匠の居場所がわかったんだからね」

アロエ「せめて弟子には教えてあげないと」

アロエ「ね」


そう言って、アロエは悪戯っ子のように笑った。

464 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2023/12/09(土) 23:04:46.88 ID:PVvYiWSbo
今日はここまでです!

>>447
フジも来れればよかったんですけどね。
でも、そうはならなかった
ならなかったんだよ、ロック
だから、この話はまだまだ続くんだ
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/09(土) 23:33:35.66 ID:FoWOuTBbO
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/09(土) 23:37:08.12 ID:uhnRTg7K0
更新お疲れ様です!!

>> 外来種のみで異種混成の群れ
人間からするとこういう表現になりますよねえ…。
「存在を外に知られないようにしよう」が叶うといいなあ…?
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/10(日) 00:39:37.26 ID:UK0e4MxkO
おつ
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/15(金) 23:04:20.37 ID:EGYCHbQXO
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/24(日) 16:58:19.78 ID:f3g0dKd1O
おつー
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