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ミュウツー『……これは、逆襲だ』 第三幕
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433 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:09:39.21 ID:5/00eB3no
レンジャーは慌てて姿勢を正した。
これは雑談ではない。
カツラ「他者と意見が衝突したとき」
カツラ「自分の意見を通すために必要なこと」
カツラ「不穏当な言い方をするなら、相手を問答無用で黙らせるために必要なこと」
カツラ「それは突き詰めると何か」
レンジャー「えっと……その……」
レンジャー「説得力……ですか?」
カツラ「言葉の面のみに限ればそれも誤りではない」
カツラ「だが言葉で説得できなかったときを含めると、どうなる」
レンジャー「……強ければ」
カツラ「そうだ」
カツラ「誰よりも強ければいい」
アデク「『誰よりも強い』とは、すなわち試合で勝てることとほぼイコールだ」
アデク「……少なくともこの世界ではそうだ」
なぜかアデクがほんのわずかに眉を顰めた。
カツラ「その『強い力そのもの』が知能を伴っていたとしたら?」
カツラ「憎悪によって人間を敵視し、人間と積極的に敵対する可能性が高いとしたら?」
レンジャー「それは……」
アロエ「……」
アデク「そんな厄介な研究成果とやらが、なぜ野放しになっている」
アデク「首輪のひとつもつけなかったのか」
アロエがアデクを睨んだ。
困ったような顔をしてアデクは手をひらひらと振った。
434 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:12:46.94 ID:5/00eB3no
アデク「待て待て、話の流れでわかるだろ……今日のお前さん、少しおかしいぞ」
アロエ「……へえ、そう?」
アデク「あ、あとは……ほれ、まずボールに入れておくとか」
慌てたアデクは、カツラに話を振った。
露骨にアロエの顔色を窺っている。
アロエの言動は、レンジャーにもどこか尋常でないように思えた。
カツラ「直接はわしも知らんが、首輪に該当する装置は存在したようだ」
カツラ「機能はろくに果たせなかったらしいが」
アデク「……そのレベルから『人間の手に負えなかった』ということか」
カツラ「どちらかといえば、そうだな……」
カツラ「首輪は、しょせん首輪でしかなかった、ということだ」
カツラ「服従する気のない者、噛み千切る力と意志がある者にはなんの意味もない」
アデク「なるほど、リモコンではなかったと」
カツラが大きく頷いた。
話が思わぬ方向に進み、レンジャーは具合が悪くなりつつあった。
この話題の中心にいるのは、きっと森にいた『あいつ』で間違いないのだろう。
蓋を開けてみれば、ずいぶんと微妙な立場にいる存在だったらしい。
それが、どうやら自分のせいで表沙汰になってしまうかもしれないのだ。
自分などが首を突っ込んでいていい話だったのか、レンジャーは今になって疑問に思った。
435 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:16:56.09 ID:5/00eB3no
カツラ「そして皮肉にも、『子供』の能力は、父親が求めていたものを遥かに超越していた」
カツラ「奴はその脆弱な首輪を噛み破り、自身の生まれた施設を消し飛ばして逃亡したのだ」
カツラ「公的な記録には、せいぜい『工場で火災』程度しか残らんかったと思うが」
カツラ「怪我人も犠牲者も、ずいぶん出ていたはずだ」
カツラ「もうどれほど前のことになるかな」
アロエ「むごい話」
カツラ「あれの父親は、そのむごい事件の生き残りだ」
アロエ「……そうじゃなくて」
そう言うアロエをちらりと見て、アデクがぎょっとした。
アロエが唇を噛んで床を睨みつけている。
触りぬ神に祟りなし言わんばかりに、アデクはそろそろと目を逸らした。
カツラ「この写真に映っているモノは、カントーに存在したこの研究所の爆破以降、消息がはっきりしなかった」
カツラ「だが、ここイッシュであんたらから話を聞く前に、わしはもうひとつ、情報を得ていた」
カツラ「こちらに来る前、『あれ』は……とある洞窟に潜伏していたと考えられている」
カツラ「もっとも、いなくなった後になって『いたようだ』と考えられるようになった、というだけのことだが」
アロエ「どういうこと」
カツラ「というのも、その洞窟で『あれ』に遭遇したと思しきトレーナーが複数いるのだ」
カツラ「全員、前後不覚の状態で保護されたがな」
カツラ「洞窟に入る前からの記憶もあやふやで、むろん洞窟内部のことは何も憶えておらん」
カツラ「つまり、なんの証言もできない有様だったそうだ」
アデク「それがあいつの仕業だと?」
カツラ「少なくとも、『あれ』にならば可能だ」
カツラ「いや……精度や威力を考えると、『あれ』以外に実行可能な存在は考えにくい」
カツラ「……『あれ』の存在を知らない者が、『あれ』に行き着くことはないだろうが」
アデク「なるほど……」
カツラ「ここにいる人間がみな『あれ』に出会ったというなら……」
436 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:19:42.00 ID:5/00eB3no
ぐるりと全員の顔を見渡し、カツラは妙に皮肉っぽい口振りで言った。
カツラ「そのトレーナーたちと同じ目に遭わなかったのが不思議なくらいだ」
アデク「おや、わしらは揃いも揃って運がいいということかな」
アデクは更に皮肉で返した。
アデク「あるいは、お前さんの探している対象と、わしらが知っている個体が、やはり別物だった、か」
カツラ「それはないと思うがね」
レンジャー「……あ……あなたが言うような、おっかないことする奴には思えないです」
レンジャー「さっきの話じゃ、まるで都市伝説本に載ってる怪物じゃないですか」
カツラ「そういう手合いの本の出現は防げん」
カツラ「事実、できるできない、という意味では『できる』だろうしな」
レンジャー「じゃあ『実際には』、あいつはそういう奴だ、って言いたいんですか」
アデク「なんだ、お前さんも、やっぱりよく知ってるようだな」
レンジャーは口を噤んだ。
確かにこれでは、よく知っていると言っているも同然だ。
アデク「二人とも、隠しごとが本当に下手だなあ」
チャンピオンは嬉しそうに頬杖をついて苦笑いした。
レンジャー「す、すみません……」
アロエ「そういうね、よくわかんない駆け引きに長けてる人間ばかりじゃないの」
アデク「別に責めちゃいない」
アデク「それはそれで美点だと思うんだがなあ」
アロエ「まったく褒められてる気がしないんだけど」
437 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:22:01.88 ID:5/00eB3no
ふと音が途切れた。
窓の外からかすかに何かが聞こえるだけで、それ以外はしんと静まり返っている。
アロエがアデクからノートを引ったくり、例のページを眺め、そしてノートを閉じてテーブルに置いた。
アロエ「……あの子、というより、あの子に関する情報……っていうのかな」
アロエ「扱いに慎重さが必要ってことは、まあ、わかったよ」
アロエ「さっきの話からすると、居場所どころか存在さえ知る人間は少なくて」
アロエ「しかも『少ないに越したことはない』んじゃないの」
カツラ「いかにも」
アロエ「だったらあんたは?」
アロエ「あの子の居場所とやらを掴んで、どうするつもりなの」
カツラが自分の頭を撫でる。
ううんと唸り、考えているような素振りを見せていた。
カツラ「情報を得て、直接的に何か働きかけようという気は……今のところ、ない」
まるで弁解をしているような歯切れの悪さだ、とレンジャーはそんな感想を抱いた。
アロエ「そんなの、簡単には信じられないね」
アロエ「あの子を積極的に狙うかもしれない連中がいる、とあんたはさっき言ったわけ」
アロエ「だったら、あんたが嗅ぎ回るこの行動こそ、あの子の今の安全を脅かすじゃないか」
アロエ「あの子だけじゃなくて、周りの子たちまで危険に晒すかもしれない」
カツラ「……ほう」
アデク「んー……」
カツラ「だが、あんたらの言動の方がよほど危険だとわしは思う」
カツラ「特に、この若造が危ない」
そう言うと、カツラはレンジャーを指差した。
視線はあくまでアロエに向いたままだ。
438 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:25:40.14 ID:5/00eB3no
レンジャー「わ、私はそんな、危険に晒すなんて」
カツラ「だが、こういう事態になった」
カツラ「それがどういう経緯だったか、もう忘れたのか」
カツラ「あのまま、今日のような調べ方を続けていたら、お前は次にどうした」
レンジャー「……えっ」
カツラ「お前は、自力で調べても情報が集まらないことに痺れを切らし、いずれ誰かに奴のことを尋ねただろう」
レンジャー「……え……は……はい……」
反論できなかった。
実際、そうなるまであと一歩というところだった。
レンジャーとしてはこの日、何も情報が集まらなかったら、それこそアロエに尋いてみようとしていたところだったのだ。
カツラ「自分が持つ情報がどういう性質のものなのか」
カツラ「それを知らないということは、かくも危ういのだ」
カツラ「『あれ』自体の恐ろしさも含めてな」
アロエ「……」
レンジャー「……すみません、気をつけます」
カツラ「そして、このわしがロケット団の仲間でないという保証もない」
アロエ「……自覚があるんならいいよ」
カツラ「シッポウのジムリーダーは慎重だな」
アロエ「茶化さないで」
カツラ「いや、それでいいとわしも考える」
アデクは何も言わずにアロエを見上げた。
この場の判断は彼女に任せるということなのだろう。
その視線を受け、アロエは肩を落としてこめかみに親指を当てた。
439 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:28:28.25 ID:5/00eB3no
アロエ「あんたがロケット団側の人間なら、こういう情報をべらべら漏らさないだろうとは思う」
アロエ「まかり間違って、じゃあこっちのリーグで正式に対応しましょうなんて話になったら」
アロエ「困るのはロケット団の方でしょ」
カツラ「まあ、一理ある」
なぜかカツラは満足げだ。
カツラ「もっとも、実情を知るほど、安易に表沙汰にするわけにはいかんこともわかってもらえると思うが」
アロエ「それは、……まあ、その通りかな」
アロエ「能力に関して言えば、あの子があんたの言う通りの存在だと仮定した場合」
アロエ「……たしかに、迂闊に表立って動くのは得策じゃないかもしれない」
アロエは、ちらりとアデクに視線を送る。
アデク「そうだな」
レンジャー「……な、なにか、してやれること……ないんでしょうか……」
アデク「大の大人が『ちゃんと』動くとなれば、どう工夫しても、なんかの記録に残っちまう」
アデク「うーん……実際、どうしてやるのがいいのか、わしにもわからん」
アロエ「あたしだって、出来ることはしてあげたいけど」
レンジャーは胸が締めつけられる思いだった。
カツラという男の言うことが全て事実だとしても――事実ならなおさらだ。
そんな過去を経てなお人間を完全には見限っていないということではないか。
背が高く用心深いあのポケモンは、少なくとも自分やアロエ、アデクの前には姿を見せたのだ。
自分の場合は、どちらかといえば見ていないに等しいかもしれないが。
すると、カツラが不思議そうに髭を撫でた。
440 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:30:21.06 ID:5/00eB3no
カツラ「……あんたらは、『あれ』を保護や支援をすべき対象だとでも思っているのか」
レンジャー「……どういうことですか」
カツラ「お前には理解できんかもしれんが、『あれ』は人間にとって、言うなればある種の脅威だ」
アデク「……ふむ」
カツラ「研究所が破壊されたとき、どれほどの惨状を生んだか、さっき言っただろう」
レンジャー「それは……」
カツラ「少なくとも当時の『あれ』がその気になれば……」
カツラ「いや、その気になるまでもなく、人間が束になったところで勝ち目は薄い」
カツラ「それほどの力の持ち主だ」
カツラ「そして、その力は人間への憎悪を帯びている」
カツラ「あんたらは、少し考えが甘いのではないか」
男の言葉に、アデクが不満そうにううんと唸った。
レンジャーは、なんと答えたらいいかわからない。
もう一度、『そんな奴ではない』、と反論しようとした瞬間。
アロエ「……あんた、あの子をなんだと思ってるの」
アロエがあからさまに怒りを滲ませた。
だがカツラは顔色ひとつ変えることなく続ける。
カツラ「状況がわからん以上、不用意な接触は避けるべきだ」
カツラ「下手に刺激すれば、過去の悲劇を繰り返すはめになりかねない」
カツラ「そういう姿勢で臨むべき相手だと思っている」
アデク「……なのにわざわざイッシュまであいつを探しに来たのか」
アデク「それもお前さんひとりで。なんのために」
441 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:35:34.59 ID:5/00eB3no
カツラの眉がぴくりと跳ねた。
なにかを躊躇するそぶりを見せ、カツラはもう一度自分の髭を撫でた。
カツラ「友人は……」
カツラ「いや、『あれ』の父親は、長いこと鬱ぎ込んでいる」
カツラ「どんな形であれ元気にやっているとわかれば、少しは気が晴れるかと思ってな」
カツラ「厄介者といえども、親にとっては子供だ」
アロエ「気に入らないね」
アデク「ふむ……わしも、どうにも引っかかるぞ」
カツラ「どこがかな」
アロエ「全部だよ」
大声でこそないものの、アロエの口振りは怒り狂っている。
喚き散らしたいのを必死で抑えているようだ。
アロエ「『あれ』だの、『これ』だの、さっきから……」
アロエ「ず……ずいぶんな言い草じゃないか」
アロエ「あの子はモノじゃないし、怪物でもない」
カツラ「……」
アロエ「あの子にはあの子の意思があって一生懸命生きてるんだ」
アロエ「間違っても、さっきあんたが言ったような、力で他人を黙らせるための道具じゃない」
アロエ「ましてや、存在するだけで争いを引き寄せる厄病神みたいに扱うのはやめて」
アロエ「それに、なに?」
アロエ「黙って聞いてりゃあ、結局あんた、友人とやらの機嫌を取ることしか考えてないじゃないか」
アロエ「そのくせあの子のことは、どれだけ危険で厄介な存在かって話ばっかり」
アロエ「いかに扱いにくい兵器だったかって情報、そんなに大事?」
アロエ「あんたにとって、あの子はなに?」
アロエ「関わりたくないけど、気落ちしてる友人を元気づける土産話にはなってもらいたいってわけ?」
カツラ「……友人は、『あれ』にしたことを心から悔いている」
442 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:37:43.30 ID:5/00eB3no
カツラの言葉に、アロエは何かを感じ取ったらしい。
より一層、怒りをあらわにカツラに噛みついた。
アロエ「……ああ、そう……そういうこと」
アロエ「あんたたちお偉い科学者があの子になにをしたのか、あたしは知らないし知りたくもないけど」
アロエ「人としてやっちゃいけないことをたくさんした、ってのだけはわかったよ」
カツラ「やってはいけないこと、か」
カツラ「否定はできないな」
アロエ「あんた、研究所って言ったね」
アロエ「ポケモンってのは、トレーナーと一緒に成長して強くなるもんだ」
アロエ「『強いポケモン』を試験管で造りゃいいってもんじゃない」
カツラ「あの頃の彼に、そのような思慮深さを求めるのは酷な話だったがね」
アロエ「事情は、さっきの話でまあ察するよ」
カツラ「それに事故があってからというもの、あいつはすっかり意気消沈してしまった」
アロエ「……でもそれが人倫に悖る酷い話のどこを正当化できると思うの」
アロエ「あの子はかわいそうなことに最ッ低な父親のところに生まれさせられて」
アロエ「よってたかって尊厳を踏み躙られて」
アロエ「それが嫌で、ドア蹴破って家出してきただけじゃないか」
カツラ「その『家出』のために、研究所を瓦礫の山へと変え、人命が失われたたとしてもか」
カツラ「指一本動かすことなくだ」
アロエ「だから『人間への脅威』扱いしろっての?」
アロエ「なんでそんな力任せの方法を採ったか、あんたたちが一番よくわかってるでしょうに」
アロエ「こんなこと言える立場かどうか知らないけどね、あんたたち親としては最低」
アロエ「かわいそうに、人間は嫌いだなんて、あの子にそんなことまで」
レンジャーの頭を、なにか妙な感覚をよぎった。
だが、それがなんなのかわからないまま、違和感は霧散してしまった。
なにか、かなり重要なことを彼女は口にしたよう思う。
この状況では問い質すことも容易ではないが。
443 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:43:40.64 ID:5/00eB3no
アロエ「そのくせ今頃になって年食って弱気になったから、慌てて後悔して我が子呼ばわりってわけ?」
アロエ「子供をなんだと思ってんだ!」
両の拳を握りしめ、アロエは怒鳴った。
レンジャーは、まるで空気がびりびりと振動しているような錯覚に囚われた。
母親の立場にある人間の『カミナリ』を目の当たりにしたの久々だった。
アデク「おいアロエ、落ち着け」
カツラ「いや、いい」
カツラ「あんたの指摘は至極もっともだ」
カツラ「その言葉を、あの頃の彼に与える者がいたら……この未来は変わっていたかもしれない」
カツラ「彼は……いや人間は、『あれ』にどんな報復を受けても、抗議する権利はないだろう」
アロエ「へえ、そう。殊勝な心がけで結構なこと」
深い溜息をつきながら、アデクは眉間を揉んだ。
アデク「……だが、まあ、そうだな」
アデク「さっきレンジャー君も言っていたが、本当にそんな恐ろしい奴なんだろうか」
アデク「あんたの言う特殊なポケモンが、あいつのことだったとしよう」
アデク「たしかに不思議な印象を持つ奴……ではあった」
アデク「だが、あんたの言うような凶悪な存在とは……あまり思えん」
カツラ「……」
アデク「わしには、ただの悩み多き若者にしか見えなかったよ」
カツラ「……そうか」
カツラが今まで寄りかかっていた机から体を離し、ポケットに手を突っ込んだ。
片方の手で髭を撫でている。
アデクの言葉について、何か考えているように見える。
444 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:45:30.50 ID:5/00eB3no
カツラ「『あれ』がどうやら、元気にしているらしいとわかっただけでも収穫だ」
アロエ「……だったら、カントーでもなんでもさっさと帰ったらいいじゃない」
アロエ「ついでに、これ以上あの子を侮辱するのもやめてもらいたいもんだね」
刺々しいを通り越して、今のアロエは誰の目から見ても喧嘩腰としか言いようがなかった。
カツラはこれといって表情に出していない。
レンジャーの目には、アデクもいい加減うんざりしているように見えた。
アデク「……いずれにせよ、今日はこのくらいにしておこう」
アデク「幸か不幸か、あいつに関する情報共有が出来て有意義だった」
アデク「ちと情報量が多いから、整理する時間が欲しい」
カツラ「だろうな」
カツラ「こちらとしても同意見だ」
カツラ「シッポウのジムリーダーには申し訳ないが、もうしばらくこの街に留まる」
アロエ「……もう目的はじゅうぶん達成できたでしょ」
アデク「アロエ、少し黙れ。真面目な話、今日のお前さん少しおかしいぞ」
アロエ「そう。別におかしくなんかないつもりだけど」
アデク「……悪いな、カツラ」
アデク「どうやら、お前さんは館長殿の逆鱗に触れてしまっているらしい」
カツラ「そのようだな。今日のところは失礼しよう」
カツラ「連絡が必要になったら……まあ、それはなんとでもなるか」
アロエ「……」
カツラ「では、失礼するよ」
そう言うとカツラは軽く手を振り、出入口に向かって歩き始めた。
扉に手を伸ばす。
彼はそこで動きを止め、レンジャーたちに背を向けたまま口を開いた。
445 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/11/12(日) 22:47:24.64 ID:5/00eB3no
カツラ「そうそう、さっきは『勘』といったがあれは……半分だ」
レンジャー「?」
カツラ「不思議なことに……あんたらは全員、『あれ』を……」
振り向きもしないまま、カツラが言い淀む。
カツラ「……なんというのだろうな……表現が難しいが」
カツラ「『あれ』の存在を受け止めている。不思議だ」
カツラ「恐れもせず、忌避もせず」
カツラ「他のどこにでもいるポケモンに対するときと同じように」
カツラ「……いや、あるいはそれ以上に慈しみ、心を砕いている」
カツラ「あれのために怒り、声を荒げることができる」
カツラ「わしの話を聞いてなお、それは変わらなかった」
カツラ「……なぜなのだろう」
アロエ「だって、そりゃあ……」
カツラ「だから信用してみることにする」
カツラ「そういうことにした」
446 :
◆/D3JAdPz6s
[saga]:2023/11/12(日) 22:50:11.99 ID:5/00eB3no
今回はここまでです。
ありがとうございました。
>>432
知らんけどたぶん大丈夫!たぶん!!
447 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/11/13(月) 00:22:48.35 ID:Z5ktQq430
更新されてる〜!お疲れ様です!
みんなミュウツーに対してそれぞれ特別な思いを持ってるんですね…。
448 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/11/13(月) 22:12:04.22 ID:Mqw9faErO
おつおつ
449 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/08(金) 21:40:49.35 ID:UHMrsJXTO
乙
450 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:30:35.13 ID:PVvYiWSbo
静かに閉まった引き戸。
スモークガラスの向こうに、今もまだカツラの姿が見える。
ほんの少し動きを止めたあと、カツラは出口の方に動き出した。
部屋の中の人間たちは、その姿をなんとなく目で追う。
硬い足音が遠ざかっていく。
場から音が減っていく。
分厚い窓ガラスの向こうから聞こえる、うっすらと夏の喧騒だけが残っている。
誰も口を開こうとしない。
彼の気配がすっかり消えたあと、アロエは肩を落として長い長い溜息をついた。
さきほどまでとはうって変わって、げっそりしている。
レンジャーにはそれが、『子を連れた母親』が不審者と対峙し終わったあとの姿に見えた。
アロエ「……ごめんね、みっともないとこ見せて」
アロエは軽く肩を竦めてから、レンジャーに手を振った。
ようやく緊張が解けたという表情だ。
攻撃的な雰囲気もすっかり消えている。
レンジャー「いえ、私はいいんですけど、その……大丈夫ですか」
アロエ「大丈夫は大丈夫なんだけど」
アロエ「……あたし、やっぱり冷静じゃなくなってた?」
アデク「昔のお前さんよりはましだ、大したこたぁない」
アロエ「やだなあ」
451 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:36:31.51 ID:PVvYiWSbo
アロエは気まずそうに頭を掻いた。
レンジャーに向かってアデクが小声で言う。
アデク「お前さんは若いから知らんだろうが、こいつも昔は随分と気性が激しくてな」
アデク「その頃に比べりゃあ、お淑やかな方だ」
レンジャー「そ、そうなんですか」
アデク「あのアロエがこうなるし、あのレンブがああなるんだから」
アデク「なんというか、人間ってのは面白いもんだな」
そう言いながら、アデクは嬉しそうにしている。
レンジャーにしてみれば、アデクが何の話をしてるのかもよくわからないのだが。
とはいえ、レンブという名については聞き覚えがあった。
このイッシュにおいて、ジムリーダーとはまた少し違った立ち位置にいるトレーナーのひとりだ。
四天王の名で称えられ、文字通り四人いる。
リーグで勝ち星を重ねてきた者が、チャンピオンに挑む前に戦うことになる。
前座、露払いと言ってしまうと大した相手ではないように聞こえるが、要はチャンピオンの次に強い。
そのレンブがどうしたというのだろうか。
アロエは決まりが悪くて仕方ないとでも言いたげに声を上げた。
アロエ「やめてって」
アデク「昔のお転婆をばらされるのは嫌か」
アロエ「そんな話されても、この子も困るでしょ」
452 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:38:53.71 ID:PVvYiWSbo
それはそうだった。
だが、場の空気は確実に緩んでいる。
カツラももういない。
あの話を蒸し返すなら今しかない。
レンジャーはごくりと喉を鳴らし、口を開いた。
レンジャー「あの」
アロエ「?」
レンジャー「さっき……アロエさんが仰ってたことなんですけど」
アロエ「えっ、あたし、なにか言ったっけ」
レンジャー「あいつが、『人間は嫌い』って」
アロエ「……」
アロエがさっと青ざめる。
レンジャーはその挙動で確信した。
レンジャー「あいつが、そう『言った』んですか」
アロエ「……あ、やっば」
アデク「おいアロエ」
さすがに気付いたのだろう、アデクもわずかに顔色を変えた。
アロエ「あああ……ええと」
アロエ「……はあ……」
アロエ「ああもう……謝んなきゃいけないなぁ、あの子に」
453 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:40:42.97 ID:PVvYiWSbo
そう唸りながらアロエは頭を抱えた。
アデクは目を見開き、この会話の意味に息を呑んでいる。
レンジャー「……こっちの言葉がわかるだけじゃないんですね」
アロエ「あたしらみたいに、こうやって口動かして喋るわけじゃないんだよ」
どこか言い訳じみた口調でアロエが言う。
その言葉を聞き、レンジャーは少し憂鬱になった。
アロエ「テレパシーっていうのかな、そういう、頭の中に直接声が響くような」
アデク「なるほどなあ」
アデク「触れずに物を浮かべたりもできるんじゃないのか、ひょっとして」
アロエ「できるだろうね」
レンジャー「さっき、カツラ……さんもそんなことを仰ってました」
レンジャーはふたりを見上げる。
きりきりと胃が痛くなってくる。
アデク「なんで布きれを被って姿を隠してるのかと思ったが……」
アロエ「……あれ、シーツじゃないかな」
レンジャー「ずっと同じのを被ってますよね。遠目にもずいぶんボロボロに見えました」
アデク「カツラのいうような素性だとすれば、当然といえば当然だな」
レンジャー「実際、シーツを差し引いても、類似した外見のポケモンは図鑑にいませんでした」
アロエは腕を組んだ。
少し複雑な表情になってふたりを交互に見る。
454 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:42:16.72 ID:PVvYiWSbo
アロエ「それも、カツラの話が本当なら、当然ってことよね」
アロエ「最初はずいぶん人間を警戒してる感じだったし」
アデク「だが、頭もいいし理性的だ」
アデク「そこだけは、実際に会ったあいつと、カツラの話とで印象があまりに違う」
レンジャー「そう……ですか……」
アロエ「どうかしたの?」
子供の体調でも気遣うように、アロエはレンジャーの顔を覗き込んだ。
たしかに、まるで子供だ。
レンジャー「……おふたりとも、あいつに『ちゃんと』会ってるんですね」
レンジャー「私は、まだだいぶ距離があるところから、見かけただけなので……」
どんな世界にも、越えようのない『違い』というものはある。
たとえば、自分は兄のように出来がいいわけではない。
同じ両親から生まれたのに、物心ついたときから歴然とした違いがあった。
レンジャー「別に自分が特別に善良なつもりは、全然ないんですけど」
今だってそうだ。
かたや、ひとつの地方を代表するチャンピオンと、ジムリーダー。
かたや、一人前のトレーナーにすらなれなかった落ちこぼれ。
レンジャー「せめて、あの森にいるポケモンたちには、誠実に向き合ってるつもりでした」
レンジャー「特に、色んな事情で、あとからあの森に居着いてる奴らには……」
レンジャー「でも、全然信用されてなかったってことなんですね」
455 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:43:25.45 ID:PVvYiWSbo
ずっと立っていたアロエが、足元の四角い椅子に腰を降ろした。
アロエ「そうなのかな」
まるで職員室で教師と対峙しているような按配だ。
とんでもない三者面談だ。
アロエ「キミは、今もあの子のことを知ってるじゃないか」
疲れは滲むものの柔らかく笑い、アロエはレンジャーを見つめている。
レンジャー「それは、どういう……」
アロエ「キミのこと全然信用してなかったら、そもそもキミはあの子の存在を記憶してられないと思うんだけど」
アロエ「現状、あの子の話は噂の噂にすらなってない」
アロエ「そもそも、あの子も姿を見せる相手は相当慎重に選んでるとは思うけど」
アデク「そうだな」
アデク「あいつがわしの前に姿を見せたのは……なんというか」
アデク「熟慮の末、致し方なく、といった感じだった」
アロエ「どういうこと、それ」
アデク「どういうこともなにも、そのままの意味だ」
眉を八の字に歪めてアデクが答えた。
アロエ「……ま、それを言うならあたしの時も同じようなものか」
アロエ「たまたまあたしに見つかっちゃった、ってとこから始まってるし」
アロエ「あの様子だと、あたしに姿を見せるつもりは全然なかったと思う」
アロエ「キミは?」
レンジャー「私は……」
456 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:44:26.41 ID:PVvYiWSbo
思わず自分の手を眺める。
レンジャーは俯いてぽつぽつ話し始めた。
レンジャー「ご存知のように、私はヤグルマの森を担当してるレンジャーです」
レンジャー「あの森は、街から距離が近いわりに広いというか、深くて」
レンジャー「ここらの産業なんかとはあまり関連がないせいで、開発も進んでないんです」
アロエ「そうね」
アロエ「だから手つかずで残ってるともいえるけど」
レンジャー「ええ……つまり、みんな、あんまり興味ないんだと思います」
レンジャー「特別に希少なポケモンがいないのは、わりと早い段階でわかってたみたいですし」
レンジャー「人目につきにくいのもあって、ポケモンを捨ててく人も、まあまあいて……」
自然と愚痴っぽくなってしまう。
無論、レンジャー組織が何もしていないわけではない。
保護できるならするし、引き取り手を探すこともある。
もっとも、そうして捨てられた個体は人間の前になかなか姿を見せない。
森に馴染めずに出て行く個体も、別の人間が捕獲し連れていってしまう個体もいるはずだった。
実態を掴めているとは言い難い。
457 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:49:20.38 ID:PVvYiWSbo
アロエ「捨てられた……」
レンジャー「え、なにか」
アロエ「ううん、続けて」
レンジャー「あ、もちろん、全部が捨てられた奴ってわけじゃなくて」
レンジャー「よその地域から野生のまま流れてきただけの個体も、含まれているとは思います」
レンジャー「……正確なところは、まだわかってませんけど」
レンジャー「あいつを見たのも、そうやって森に居着いたポケモンが助けを求めてきたときでした」
レンジャー「居着いた連中はたいてい、原生のポケモンとあまり馴染めないようで……」
息を呑む。
これが、他人に話していい内容なのか、話している今もわからない。
レンジャー「……外来種のみで異種混成の群れを作ってます」
レンジャー「えっと……だからたぶん、あいつも一緒にいるんだと思います」
レンジャー「……と、私は考えています」
アデク「あー……、そういうことか」
レンジャー「……え」
アデク「ああいや、気にするな」
アロエを見ても、話を続けろと促してくるだけだ。
レンジャー「……そ、その中の一匹……というか」
レンジャー「最近、捨てられた奴なんでしょうね」
レンジャー「酷い怪我をしたポケモンを連れてきたことがありました」
アロエ「『連れてくる』、って……それ、誰が連れてくるの?」
458 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:50:41.58 ID:PVvYiWSbo
レンジャーはぎくりと身をこわばらせた。
慎重に言葉を選ぶ。
話さなくてはならないことなのだから仕方ないのだが、聞かれると動揺する。
あの不思議なポケモンについてではないにしても、彼らについて必要以上に言い触らしたくはなかった。
レンジャー「……『窓口』になっている個体がいるんです」
レンジャー「人間との接触を嫌がる個体が多いのは容易に予想がつくので」
レンジャー「そいつが私のところに来る……ようにしているみたいです」
レンジャー「そいつも元々は人間が所有していたことがわかっている個体なので……」
レンジャー「こちらの話は理解していて、おおむね意思疎通ができています」
レンジャー「そのとき、遠くからこちらを窺ってるところを見かけたのが最初です」
レンジャー「私が信用に値する人間なのか、見定めに来た、っていう印象でした」
レンジャー「けど、それ以上は近づいてこないんです。やっぱり……」
アデク「……だったら、やはりあいつはお前さんのことをある程度、認めてると思っていいはずだ」
レンジャーは顔を上げた。
アデクは笑って腕を組んでいる。
レンジャー「それは……」
アデク「さっき、カントーのハゲ頭も言っていたじゃないか」
レンジャー「ハゲ頭……」
アデク「あいつは他人の記憶を弄れるって」
アデク「わしらも含めて、たとえば誰彼構わず喋りそうだとか、都合の悪いことをしそうだとか」
アデク「あいつがそう思ったら、そうすればいいわけだ」
アデク「だが、あいつはそうしなかった」
レンジャー「あ……」
アロエ「あー、あーもー、耳が痛い」
459 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:52:23.07 ID:PVvYiWSbo
耳を塞ぎ頭を振るアロエをちらりと見てから、アデクは胸を張る。
アデク「ま、これ以上、評価を落とさんよう気をつけないといかんな」
アロエ「そ……そうね……」
アロエ「あっ、ねえ、まさかと思うけど、あの子のこと、報告書とか日誌に書いたりしてないよね?」
はっとした顔でアロエが尋ねてきた。
レンジャー「い、いいえ」
レンジャー「なんでか自分でもよくわからないですが、あまりそういう気になれなくて」
レンジャー「他の外来の連中は、トラブルがあったときに問題になるんで、かなり控えめとはいえ書いてるんですけど」
アロエは露骨に安堵した表情を見せる。
その気持ちはレンジャーにも想像できた。
彼女は眉間を揉んで、また溜息をつく。
アデク「今日の館長殿は溜息が多いな」
アロエ「うるさいうるさい。考えることが多いの」
アデク「だが、運がよかった」
アデク「記録に残していないことは、おおやけには存在しないと同義だ」
アデク「それに、一度でも記録に残してしまえば、あとから隠すのは難しいからなあ」
アデク「あまりいい手ではないが、今のところ、これ以上話が広がらないようにするしかない」
アデク「な?」
460 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:54:23.93 ID:PVvYiWSbo
お手上げだ、とでもいうようにアデクは両手を広げた。
そしてレンジャーに同意を求めた。
それはつまり、彼らに――お前に――できることはないと言われたも同然だった。
アデク「あいつが、存在を広められることを望むとは思えんしな」
アデク「現状、潜伏場所の周囲で三人もの人間に存在を認知させてしまっている」
アデク「そして、それもさっき四人になってしまった」
アデク「これ以上、話が広がるのも本意ではないはずだ」
アデク「何かあれば、あいつが方針転換する可能性も十分にあるわけだしな」
アデク「まあ……わしらは突発的だが、お前さんの場合だけは向こうからの働きかけだから」
アデク「少しケースが違う、と言えんこともないが」
レンジャー「……わかりました」
レンジャー「私も、こういう形であいつのことを調べるのはやめます」
アデク「それがいいな」
アデク「カツラの話の通りなら、図鑑をいくら調べても出てくるまいよ」
レンジャー「都市伝説本の方がまだ確率高そうです」
アデク「そうだな」
アデクが立ち上がった。
レンジャーに歩み寄り、大きな手で肩をぽんと叩く。
アデク「誰かのためを思って何かするのは、難しいな」
それを待ち構えていたかのように、アロエが端末の画面に目をやる。
461 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:55:03.72 ID:PVvYiWSbo
アロエ「そろそろ、お開きにしましょう」
レンジャー「……はい」
アデク「なーに、お前さんが落ち込むところは、今のところ特にない」
レンジャー「いえ、そんな……」
アロエ「一応、あのハゲも必要なことはひととおり話してくれたみたいだしね」
レンジャー「ハゲって」
アデク「奴の話に嘘が含まれる可能性はあると思うか」
アデクの言葉に、アロエは肩を竦める。
アロエ「さあね」
アロエ「いっそ、全部嘘であってほしいくらいだけど」
アロエ「……そうでないと、あんまりだよ」
小声でアロエはそう吐き捨てる。
レンジャーもそれは同感だった。
462 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:57:30.82 ID:PVvYiWSbo
アロエ「それに、あたしたち三人には『あの子と意思疎通する手段や機会がある』と考えられるわけだし」
アロエ「喋らない他のポケモンならいざ知らず、本人に事実確認ができるのに嘘をつくメリットはないと思う」
アロエ「なんにしてもあたしたちは、あの子自身ときちんと向き合う以外に本質を見極める手段はないわけ」
アデク「それもそうだ」
アデク「うんうん」
アデク「ということは、わしらはあいつの平穏な暮らしを邪魔せんようにすればいいわけだな」
アロエ「助けを求めてきたら、できることはしてあげるけどね」
レンジャー「そ、それはもちろん……」
アロエとレンジャーの言葉に、アデクは満足そうに頷いた。
アデク「じゃあ、あっちで茶をもう一杯もらってから消えるとしようか」
アロエ「何か急ぐ用事でもあるの」
アデク「いや、特にない」
アデク「わしもしばらくは、この辺に留まることにするよ」
アデク「……気になるからな」
アロエ「あら、そう」
そう言いながら、アデクは引き戸を開けた。
アロエ「それはよかった」
レンジャーはアロエを見上げる。
頭に疑問符が浮かぶ。
アロエはちらりとレンジャーに目を向けただけで、何も答えない。
463 :
◆/D3JAdPz6s
[saga sage]:2023/12/09(土) 22:59:05.08 ID:PVvYiWSbo
アロエは、アデクが出て行った引き戸を見ている。
硬い床を擦る履物の音が遠ざかっていく。
そして――
「うわっ」というアデクの呻き声と、別の誰かの声が聞こえた。
『別の誰か』は、どうやら男らしい。
喧嘩のような、そうでもないようなやりとりがかすかに聞こえる。
何を話しているのかは、まったくわからない。
扉を隔てた向こうで、ぼやけた足音がばたばたと響いた。
二人分の声が不思議な具合に遠ざかっていく。
アデクが、『別の誰か』から逃げようとしているのだろうか。
アロエ「ちょうどタイミングばっちりだったみたい」
レンジャー「……?」
アロエ「ほら、せっかく、師匠の居場所がわかったんだからね」
アロエ「せめて弟子には教えてあげないと」
アロエ「ね」
そう言って、アロエは悪戯っ子のように笑った。
464 :
◆/D3JAdPz6s
[saga]:2023/12/09(土) 23:04:46.88 ID:PVvYiWSbo
今日はここまでです!
>>447
フジも来れればよかったんですけどね。
でも、そうはならなかった
ならなかったんだよ、ロック
だから、この話はまだまだ続くんだ
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/09(土) 23:33:35.66 ID:FoWOuTBbO
乙
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/09(土) 23:37:08.12 ID:uhnRTg7K0
更新お疲れ様です!!
>> 外来種のみで異種混成の群れ
人間からするとこういう表現になりますよねえ…。
「存在を外に知られないようにしよう」が叶うといいなあ…?
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/10(日) 00:39:37.26 ID:UK0e4MxkO
おつ
468 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/15(金) 23:04:20.37 ID:EGYCHbQXO
乙
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/24(日) 16:58:19.78 ID:f3g0dKd1O
おつー
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