ミュウツー『……これは、逆襲だ』 第三幕

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1 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:16:45.01 ID:CXQiijtko
ミュウツー『……これは、逆襲だ』
ミュウツー『……これは、逆襲だ』 第二幕
の続きです

・本編ゲーム(赤緑〜XY)の設定をベースに、『逆襲』の設定、首藤要素、妄想を盛り込んだ世界です

・『逆襲』のミュウツーが、ななしのどうくつからヤグルマのもりへ飛び出します

・そんなミュウツーが、ヤグルマの森でいろんなポケモンや人間たちと出会います

・人間キャラ、肩書きの設定もおおむねゲーム準拠、アニポケ由来のキャラはほとんどいません

・とんでもなくゆっくりペースで投稿しますが、ちゃんと終わらせます

第一幕: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373648472/
第二幕: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411566555/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456323404
2 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:19:52.18 ID:CXQiijtko


見慣れた寝床がようやく見えてきた。

木肌は青白く、ぼんやりと光っている。

月明かりと、地面に落ちた淡い反射とを受けている。

暖かみのある色ではないのに、心のどこかでほっとした。


ミュウツー(これはこれで『愛しの我が家』……というわけか)


むろんこの場所に、かりそめの拠点という以外の意味はない。

ないつもりだ。


いつまでもここにいるわけではない。

ないつもりだ。


とはいえ。

今はあの寒々しい朽ちかけた場所に、ミュウツーは安心感を覚えた。

なにしろ、ここに来て以来ずっと寝所として使ってきた空間だ。

愛着を感じるのも、そう不自然なことではないかもしれない。


ミュウツー(今日は、とにかく一日が長かった)

ミュウツー(これでようやく眠れる……)

ミュウツー(……というわけでもないのが残念だな)


そう思っただけで、深く長い溜め息が自然と出ていた。


ダゲキ「つかれた?」


溜め息に気づいたのか、背後から声が飛んできた。

その声には、相変わらず顔色を窺うような響きがある。

今の溜め息や疲労は自分のせいだと思っているに違いない。

無理からぬことだとは思う。

3 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:23:56.49 ID:CXQiijtko

ミュウツー『いや、その……』

ダゲキ「ほんとうに、ごめんね」

ミュウツー『……まあ、気にするな』


本音を言えば、ぐったり疲れている。

肉体的にというよりも、どちらかといえば精神的にだ。

決して彼だけのせいではないが。

それを誤解のないように説明するのは、少し億劫だった。


ジュプトル「あの ニンゲン、いいの?」

ミュウツー『放っておけばいい』


答えながら、ミュウツーは樹に寄りかかって腰を降ろした。

目を堅く閉じる。

気をつけないと、息以外のものまで流れ出てしまいそうだった。


ミュウツー『明日の朝には、出ていくと言っていた』

ジュプトル「もりで わるいこと、するかな」

ミュウツー『孵化したばかりのポケモンを抱えて、無茶もしないだろう』

ヨノワール「……わるい ひととは、おもえない です」

ダゲキ「ぼくも、わるいニンゲンじゃ、ないと おもう」

ジュプトル「うん」

ジュプトル「いいやつ ぽい」

ミュウツー『……あるいは、そうかもしれないな』


ゆっくりと目を開き、自分をゆるく囲む友人たちを見回した。

不審そうな、あるいは自信なさげな、あるいは不安そうな目が並んでいる。

4 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:26:22.84 ID:CXQiijtko

ミュウツー『だが、だからどうしたというのだ』


いやな空気だ。

あまりいいものではない。

刺さなくていい釘を刺そうとしているような気もした。


ミュウツー『善良であるかもしれないあの男ひとりを取り上げたところで』

ミュウツー『お前たちの過去が変わるわけではない』

ジュプトル「……」

ミュウツー『全てのニンゲンが、ああではないことも、最初からわかっているはずだ』

ダゲキ「……」

ミュウツー『理解できるな』

ジュプトル「……よ、よく わかんないけど、わかる」

ダゲキ「むずかしい」


ふたりは少し意気消沈したように見えた。

ヨノワールはそんなふたりを、困ったような目つきで見ている。


ミュウツー『こいつらも私も、ニンゲンは嫌いだ』

ヨノワール「はい」

ミュウツー『お前は、少し違うらしいが』


ミュウツーは回答を待たず、友人たちから目を逸らした。

ふたりの気持ちがわからないわけではない。

わからないわけではないが、だからこそ言うのだ。


ミュウツー『妙な期待は、もうしない方がいい』

5 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:31:58.55 ID:CXQiijtko

焦れていく感覚すら伴いながら、ミュウツーはそう強調した。

なんとか言葉になったのはこれだけだ。

言いたいことの半分も伝えられていない。


ダゲキ「わかってる」

ダゲキ「あの ニンゲンだったら、よかったかな、って」

ダゲキ「ちょっと、おもった」

ミュウツー『そんなことだろうと思った』

ジュプトル「お、おれは ちがう!」

ダゲキ「そうなの?」

ジュプトル「そうだよ!」

ダゲキ「どんな?」

ジュプトル「な、ないしょ」


恥ずかしそうにジュプトルは目を逸らした。

それを、妙に優しげな表情でダゲキが見ている。


ミュウツー『……なんでもいいが、私は少し休みたい』

ミュウツー『あのニンゲンが森を出ていくところを、自分の目で確かめておきたいしな』

ダゲキ「おこすの、しようか?」

ミュウツー『い、いや、自分で起きられる』

ダゲキ「そう?」

ミュウツー『むしろ、お前こそさっさと寝るべきだろうが』

ダゲキ「むり」


彼の話しぶりはいつもと変わらず、どこか飄々としている。

それでいて、それ以上は詮索してくれるな、と言外に言っている。

そうした強い拒絶が潜んでいる。


6 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:36:01.71 ID:CXQiijtko

ミュウツー『……好きにしろ。私は寝たい』

ジュプトル「ねればいいのに」

ミュウツー『お前たちがいつまでも喋っているから、寝られないんだろうが』

ヨノワール「すみません」

ダゲキ「ごめん」

ジュプトル「なんだよ! じゃあ、かえる」


場違いなほど憤慨した口調でジュプトルが喚いた。

緊張の糸が切れたためか、ひたすら喚き散らしてばかりだ。


ミュウツー『そうしてくれると助かる』

ジュプトル「……ねえ、おれ つかれた」

ダゲキ「うう、ごめんね」

ジュプトル「えっ、いいの、いいの」


今のミュウツーには、安心して浮かれる気持ちも、少しだけ理解できたが。


とはいえ頭も身体も、十分すぎるほど疲れていた。

必死で意識を繋ぎ止めているところだ。

そうしてくれれば、多少とはいえ、たしかに休める。

なのに――。


ミュウツー(……)


なのに、なんとなく惜しい。

なんとなく、もったいない。

もやもやとした不定形の狼狽が、反応を鈍らせた。

7 : ◆/D3JAdPz6s [saga]:2016/02/24(水) 23:38:16.51 ID:CXQiijtko

呼び止めれば、彼らはきっと、もうしばらく留まってくれるに違いない。

ほんの少しだけなら、きっとわがままに付き合ってくれる。


ちゃんと、自分で、言いさえすれば、の話だ。


ジュプトルが機敏に首を曲げ、傍らのダゲキを見上げた。


ジュプトル「のせて」

ダゲキ「あるかないの?」

ジュプトル「おれはー、つかれた」

ダゲキ「……い、いいけど」


ジュプトルはキリキリと小さく、上機嫌に鳴いた。

言質を取るが早いか、もうダゲキの背中を登り始めている。

その動きを意識しながら、ダゲキはまっすぐこちらを向いた。


ぎくりとしながら、彼の視線を受け止める。

油断していた。


ダゲキ「じゃあ おやすみ」

ミュウツー『あ……ああ』


ジュプトルは我が物顔で、丸い頭の上に顎を載せてくつろいでいる。

ダゲキも少し鬱陶しそうにしているが、その程度のようだ。


立ち去りかけて、ダゲキはふとヨノワールの方を振り向いた。

振り回され、キィッ、とジュプトルの小さな悲鳴が響く。


ダゲキ「きみは」

ヨノワール「すぐ かえります」

ダゲキ「ふうん」

ジュプトル「じゃーな」

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