ほむら「巴マミがいない世界」

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441 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2021/09/26(日) 07:04:17.91 ID:t8r4Odp60
視界が揺らぐ。
足元がふらつき、まともに立っていられない。

ほむら「……ああ、私の言ったことを疑っているの? でも、わかるでしょう? これが嘘だったとしたら、私があなたを止める理由がないでしょう?」

すがるようなほむらの言葉に対し、杏子は首を振って応える。

杏子「別にあんたを疑ってるわけじゃない」

ほむら「じゃあ、なんでよ!?」

気づけばほむらは、涙を流していた。
これほど感情を表に出したのは、いつぶりだろうか。

杏子「言ったろ。可能性はゼロじゃない」

ほむら「……あなた、本気で言っているの?」

杏子「……」

ほむら「確かにゼロだとは言わないわ。私も、その考えのもとに何度も繰り返している。いつか必ず、まどかを救えると信じて」

その通りだ。
しかし、ほむらと杏子では事情が違う。

ほむら「でも、あなたは何度もやり直せるわけじゃない。たった一度のチャンスで、本当にほんのわずかな可能性をつかみ取れるとでも思ってるの? 賭けにしても分が悪すぎるわ」
442 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2021/09/26(日) 07:06:18.10 ID:t8r4Odp60
今度は杏子も、ほむらの言葉を否定しなかった。

杏子「わかってるよ。あたしもそこまでバカじゃない。あんたの言う通りだ。あんたの見てきた通りだ」

ほむら「……ッ」

杏子「まあ……無理だろうな」

ほむら「だったら!!」

懇願するかのようなほむらの叫び。
しかし、杏子の表情は変わらなかった。

もう、とうに覚悟は決まっていたのだろう。
杏子は、わずかな笑みさえ浮かべていた。

杏子「あたしが死ねば、今度こそ、あんたは完全に手詰まりなんだろ?」

ほむら「……?」

一瞬、意味がわからなかった。
しかし、次の杏子の言葉で理解する。

杏子「できれば、次はさやかのことも助けてやってくれよな」
443 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2021/11/30(火) 13:09:17.06 ID:mkSBAl5bO
──ああ、そういうことか。

やっと、全てが府に落ちる。

杏子は死ぬつもりなのだ。

仮にこの時間軸でワルプルギスの夜を倒せたとしても、それは杏子が望む結末ではない。
いや、むしろそれは、さやかが救われない結末を確定させてしまうことに他ならない。

結局、ほむらの時間溯行を杏子が知ってしまった時点で、杏子の協力は望めなかったのだ。

ほむら(これで、完全に勝ちの目は消えた)

全身の力が抜ける。
ほむらは、その場に崩れ落ちた。

終わりだ。
この時間軸では、まどかを救えない。
また、失敗した。

ほむら「……」

ほむらの様子に痺れを切らしたのか、杏子はほむらから目を離す。

杏子「……じゃーな。もう行くぜ」

杏子が踵を返し、歩き出す。



ほむら「待ちなさい」
444 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2021/11/30(火) 13:26:09.46 ID:mkSBAl5bO
ほむらの言葉に、杏子が足を止める。

杏子「……何だよ。もう十分だろ」

煙たがるような杏子の声は、ほむらの耳には入らなかった。

立ち上がり、杏子をしっかりと見据える。

これだけは、言っておかなければならない。
これだけは、言っておかなければ気が済まない。



ほむら「必ずさやかを救ってみせなさい」
445 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2021/11/30(火) 13:28:28.09 ID:mkSBAl5bO
杏子「は……?」

杏子は、唖然とした表情を見せた。

しかし、ほむらは止まらない。

ほむら「諦めるなんて許さない。私にここまで語ったからには、奇跡を起こしてみせなさい!」

ほむら「ワルプルギスの夜を倒すためには、あなたが必要なのよ! 必ずさやかを救って、ここに戻ってきなさい!」

ほむら「誓いなさい! そうでないと、行かせるわけにはいかないわ!」

杏子「……」

息を切らし、杏子に訴えかける。

始めから死ぬつもりで挑むなんて、絶対に許さない。
それでは、本当に可能性はゼロになってしまう。

これまで、数え切れないくらい失敗した。
いくつの時間軸を繰り返したかなんて、もう覚えていない。

でも、始めから諦めて挑んだことなんてない。
一度たりともだ。
本当に最後の最後まで、あらゆる可能性を探り続けてきた。

そうでなければならない。

それでこそ──奇跡を起こせるってものでしょう?

ほむら「私は、ここであなたを待っているわ」

目を丸くしていた杏子が、にやりと笑う。

杏子「ああ、待ってろ。必ずさやかを救ってやるよ」

そうして、彼女は姿を消した。
446 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/02/08(火) 06:48:15.18 ID:LFTSgn+s0
……

どれほど経ったのだろう。

数時間、あるいは、もっと──

明確な時間の感覚はもはやなかったが、ほむらは思考を続けていた。
それだけの時間は、ほむらが冷静さを取り戻すのには十分だった。

もし、杏子が生きて帰ってきたら、ワルプルギスの夜に二人で挑める。
そのためのシミュレーションは、決して無駄にはならないはずだ。

仮に、この時間軸でそれが叶わなかったとしても──

ほむら「……」

ほむらは、自らの思考を反芻する。

これは、杏子の覚悟に対する冒涜だろうか。
あのような言葉をかけておきながら、ほむらは杏子が生きて帰ってくることを、決して信じてはいない。

いや、より正確に言うなら、杏子がどのような結末を辿ろうが、ほむらは構わないのかもしれない。

ほむらはただ、その状況に応じて、ベストだと思われる行動を──あるいは、それを探るために、まだ試していない行動を──ひたすらに選び続けるだけだからだ。
447 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/02/08(火) 06:53:57.78 ID:LFTSgn+s0
それはまるで、ゲームのシナリオを網羅するための、機械的な作業のようだ。

しかし、それでいい。
いつかは、正解に辿り着けるはずだ。

問題は、ほむらの精神がどこまで耐えきれるか。

ほむら(……自分に嘘はつけない)

どちらでもいい?
そんなはずはない。

言うまでもなくほむらは、杏子が生きて帰ってくることを望んでいる。
当然だ。

──だが、祈ってはいない。

その希望に、依存してしまうからだ。
もし杏子が帰ってこなかったときに、立ち上がれなくなってはならないからだ。

パンドラの箱を開けてはならない。

ただ──奇跡を信じてはならないが、奇跡が起こる可能性くらいは信じてもいい。

今はまだ、この時間軸での攻略を考えていてもいいだろう。

可能性は、ゼロではないのだから。
448 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/20(金) 17:07:25.97 ID:gFGYNPlR0
そして、そのときは訪れた。

ほむら「……!」

ほむらは目を見開いた。
背後に気配を感じたのだ。

──逡巡。

ほむらは、振り向くのをわずかにためらった。

来訪者が杏子であれば、希望は残る。
いや、それ以上だ。
幾度となく繰り返してきて、初めてと言ってもいいかもしれない、勝算が見えてくる。

まどかを、救えるかもしれない。

しかし──

QB「やぁ、ずいぶんと久しぶりな気がするね」

ほむら「……」

そこにいたのは、杏子ではなく──悪魔だった。
449 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/20(金) 17:15:04.66 ID:gFGYNPlR0
QB「杏子は死んだよ」

ほむら「……ッ!」

まるで世間話のような調子で、あっさりと口にする。

感情はないというその目に、やはり悪意は感じなかった。
こいつは常に、純粋に目的のために動いている。

つまり、ほむらの心を折りにきたわけだ。

QB「これで、ワルプルギスの夜に勝つのは相当厳しくなったね。どうするつもりだい?」

ほむらは、キュゥべえの言葉を聞き流した。

──ショックはない。

ほむらは精神を落ち着け、自問自答する。

わかっていた。
杏子が生きて帰ってくることなど、あるはずがない。
期待してはいなかったのだ。
想定内の事象に過ぎない。

だから──大丈夫。

ほむらは、自身のソウルジェムを一瞥し、穢れが溜まっていないことを確認して、一呼吸した。
450 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/20(金) 17:19:04.08 ID:gFGYNPlR0
QB「……聞こえなかったかい? 無視しないでくれよ」

ほむら「あぁ、悪かったわね。報告ありがとう」

当然皮肉だが、キュゥべえに通じたかどうか、非常に怪しい。

QB「それで、どうするんだい?」

答えはとうに決まっていたが、わざわざ教えてやることもないだろう。

ほむら「さあ、どうしようかしらね」

QB「……」

キュゥべえは珍しく……本当に珍しく、わずかに怪訝な様子を見せた。

QB「おかしいな。君の目的と、おおよその状況は把握してるつもりだったんだけど」

内心、相変わらずの情報通ぶりに舌を巻く。

ほむら「……何かおかしなことでも?」

QB「そうだね、正直不可解だ」



QB「どうして君は、まだ絶望していないんだい?」
451 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/20(金) 17:26:34.08 ID:gFGYNPlR0
ほむらは思わず目を丸くした。
浮かれているつもりはない。
むしろ、この時間軸での失敗が確定して、落ち込んでいるというのが正解に近いはずだ。

ほむら「……そう見えるかしら。そもそもあなたは、人の感情を理解できないのではなかったの?」

QB「理解はできなくても、統計からある程度は割り出せる。特に魔法少女の希望と絶望は、僕たちも最重要視している事項だからね。研究も進めているのさ」

よくも、ぬけぬけと。

ほむら「それなら、その研究結果が的外れだったということね」

過去に戻ることが確定しているからといって、時間遡行や、ほむらの知っていることを教えてやる気はない。
どんな手を用いてくるかわからない以上、油断はできない。

キュゥべえにも、ほむらが情報を与える気がないことは、伝わったようだった。

QB「そうかい。君がここからどう足掻くのか、見せてもらうよ」

その言葉を最後に、キュゥべえは姿を消した。
452 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/21(土) 19:29:46.12 ID:cQQyCtVH0
***

──そして。

ほむらは、ワルプルギスの夜に敗北した。

あらゆる手段を駆使したが、わずかな勝機すら見えることはなかった。
せめて先に役立てるものを見つけられればよかったが、わかったことは、独力でのワルプルギスの夜討伐は、ほぼ不可能だということだけだった。

しかしほむらは、全力で戦った。
そうしなければ、杏子に悪い気がしたのだ。

見届けてはいないが、恐らく杏子は、最後まで諦めなかったはずだ。

ならばほむらも、たとえどれほど低い可能性だとわかってはいても、本気で挑まないわけにはいかなかった。

そう、これからも。
453 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/21(土) 19:32:18.67 ID:cQQyCtVH0
QB「全く、わけがわからないね。一体君は何がしたかったんだい?」

ほむら「……」

QB「勝てないとわかっていただろうに……正直、自暴自棄になっているようにしか見えなかったよ」

ほむら「……」

QB「まぁいいよ。君の状態はいまいち釈然としないけれど、とにかく僕は目的を果たした。それで十分だ」

ほむら「……」

QB「終わりだね。さようなら、暁美ほむら」
454 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/21(土) 19:33:21.55 ID:cQQyCtVH0
キュゥべえがその場を去り、姿が見えなくなってから、ほむらはひとり呟いた。

ほむら「……まだ、終わりじゃない」

ほむら「終わらせない。絶対に、救ってみせる」

ほむら「運命を、変えてみせる!」

そして、ほむらは──
455 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/21(土) 19:34:51.46 ID:cQQyCtVH0
繰り返す。

何度だって繰り返す。

未だに突破口は見えないが、それは諦める理由にはならない。

杏子の台詞が頭をよぎる。

『100回失敗したからといって、101回目もダメとは限らねーだろ』

──えぇ、その通りよ佐倉杏子。

100回だろうが、1000回だろうが、何度でもやり直してみせる。

そうすれば、いつか──
456 : ◆c6GooQ9piw [sage saga]:2022/05/21(土) 19:38:30.49 ID:cQQyCtVH0


──繰り返す。

私は何度でも繰り返す──

457 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2022/05/21(土) 19:40:16.60 ID:cQQyCtVH0
終わりです。
ありがとうございました。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/22(日) 00:05:50.57 ID:TuhFG20XO
長期連載乙、良かったぜ
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/22(日) 06:10:16.79 ID:iJakJveDO
一気読みした
心理描写がとても良かった
見透かしてこようとするまどかさんこわい…
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/23(月) 08:46:45.26 ID:nx/OEeskO
完結お疲れ様です
読み返してみます
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