ほむら「巴マミがいない世界」

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141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 02:01:21.27 ID:LA5RTEgvo
>>121
原作でも既にいないし
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 07:17:49.78 ID:FSrsFrBCo
>>139
ほむら「魔法少女になるというのはこういうことy」;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
再生の得意なさやかならともかく、ほむらはこれやったら魔翌力切れで魔女化一直線な気がするが……。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 08:19:33.47 ID:QDWKMbGAO
設定的には時間停止にリソースのほとんどを持って行かれてるんだっけ、ほむらは
でも11話のタンクローリー特攻とか対艦ミサイルぶっぱ(&隠蔽)を見ていると
その設定死んだも同然じゃねって気がしちゃう……再生一度くらいなら余裕では
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 13:06:35.40 ID:P9wwb5WjO
たしかにこの辺からは原作でもマミさんいないわけだ。どうなりますかね…乙
145 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 16:55:07.34 ID:anBxTlYZO
***

数日後、ほむらは杏子を家に呼んだ。
ワルプルギスの夜の説明をするためだ。

あらかじめ用意した資料も使い、ワルプルギスの夜の戦闘能力、特性、従えている使い魔、予想される攻撃方法など、ほむらがこれまでに知り得た情報を杏子に伝えていく。

ほむら「……とりあえず、こんなところかしら」

説明が一段落したところで、杏子は感心したように息を吐いた。

杏子「すげえな……よくもまぁ、これだけ細かく調べたもんだ。つーか、一体どこから情報を集めたんだ?」

ほむら「……」

ワルプルギスの夜は、伝説になるほど有名ではあるが、その実態まではあまり知られていない。
実際に戦った魔法少女が少な過ぎるのだ。

大抵の魔法少女は勝てない魔女には挑まないし、また、戦った魔法少女の多くはその命を落としている。

恐らくは……いや、間違いなく、ほむら以上にワルプルギスの夜に詳しい魔法少女は存在しないのだろう。
146 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 16:57:45.46 ID:anBxTlYZO
ほむら「ワルプルギスの夜がこの町に来るのは××日。ここは間違いないわ。そして、これがその出現範囲予測」

ほむらの言葉に、さすがに杏子も訝しむような視線を向けた。

杏子「……本当に、どこからの情報だ? ワルプルギスの夜がこの町に来たことはないはずだろ」

ほむら「企業秘密。でも、信頼できる情報よ」

杏子「……あっそ」

ここで私が嘘を吐く意味はない。
特に根拠を示さなくても信用してもらえるはずだ。

あとは……

ほむら「本当なら、あなたとの連携の練習もしておきたいのだけど、それは直前でいいわ。あなたも、むやみに自分の手の内を晒したくはないでしょう?」

杏子「それはそうだが……結局同じことじゃねーの? どうせワルプルギスの夜と戦う前には能力を教え合うんだろ?」

ほむら「……」

ワルプルギスの夜が来るまでに、何があるかわからない。
ほむらとしては、ぎりぎりまで自分の能力を明かすことは避けたかった。
147 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 16:59:42.58 ID:anBxTlYZO
ほむら「……ワルプルギスの夜の規模の大きさは説明した通りよ。連携とは言っても、実際には各々で戦うことになるでしょう。直前で十分よ」

これは嘘だ。
ほむらの能力は、連携することでその真価を発揮する。
実際にはふたりの連携を軸に据えて戦うことになるだろう。

ただし、ほむらは既に杏子の戦闘能力を把握しているので、どのように連携を行うかの考察は今の時点で可能であり、更に言えば、その考察はこれまでの時間軸でほとんど終わっている。

この時間軸の杏子の能力がこれまでと大きく異なっていれば再考の必要もあったが、これまでの彼女の戦闘を見る限り、そのまま用いて問題ないだろう。

前日にそれを杏子に伝えれば、とりあえず問題はない。
148 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:01:09.17 ID:anBxTlYZO
杏子「まぁお前がそう言うんなら、それでいいか。で、さやかはどうすんだ?」

ほむら「……どう、とは?」

杏子「あいつには、ワルプルギスの夜が来ることを教えないのかよ?」

ほむら「……」

彼女からすれば、当然の疑問ではある、が……

ほむらは、少し言葉を選んだ。

ほむら「……あなたが彼女と仲違いしてなければ、協力の要請も考えるのだけど」

杏子「あぁ、あたしとあいつを比べた上で、あたしを選んだってことか? 別に大丈夫だろ。共通の敵がいれば、あいつだってあたしたちに協力せざるを得ないはずだ」

ほむら「それはそうなのだけど、ね」

杏子「なんか引っ掛かるのか? 相手は伝説級の魔女だ。戦力はあるに越したことねーだろ」

ほむら「……」
149 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:03:50.42 ID:anBxTlYZO
今回の時間軸では、ほむらは始めから杏子とふたりでワルプルギスの夜に挑む状況を作ることを目標としていた。

理由として、まず、さやかの戦闘スタイルはほむらと共闘するには相性が悪いのだ。
基本的に近距離で戦闘を行う彼女は、爆弾を使用するほむらとは連携が取りづらい。

また、3人という人数も不安要素のひとつだ。
ほむらの能力を使う際、手を繋ぐことでその人間の時間を止めずにいることができるが、機動力を考えれば同時にふたりというのは難しい。

つまり、ほむらを含め3人以上で戦うならば、どちらかの目の前で突然爆発が起こる、というようなことが必ず起こり得る。

巴マミのようなベテランの魔法少女ならそのような事態も経験でカバーできるのだろうが、さやかにはさすがに荷が重い。

そして、もうひとつ危惧していることがある。

今のふたりの関係ならまずないとは思うが、杏子が、戦闘中にさやかを庇って死にやしないかということだ。
そんなことになったら目も当てられない。

要するに、さやかが加わることは戦力という面ではプラスだが、同時に不確定要素も強くしてしまうのだ。
150 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:06:44.83 ID:anBxTlYZO
ほむら「……美樹さやかについては、少し考えさせて。協力を頼むときは、私から直接話をするわ」

杏子「ふーん、まぁわかったよ。好きにしな」

ほむら「いずれにせよ、彼女との関係が険悪化することは望ましくないわ。必要以上に彼女と争うことはやめてほしいわね」

杏子「……」

どうせ言っても無駄か、とほむらがため息をついていると、不意に杏子が呟いた。

杏子「……どうもしっくりこねぇな」

ほむら「え?」

杏子は、ほむらを正面から見据え、問いかけた。

杏子「単刀直入に聞こうか。お前の目的はなんだ?」

予想外の質問に、ほむらはわずかにたじろぐ。

ほむら「だから、ワルプルギスの夜を倒すことが……」

杏子「それは目的ではなく手段だろ。なぜ、ワルプルギスの夜を倒そうとする?」

ほむら「……そんなに不思議かしら。魔法少女が魔女と戦うのは当然でしょう」

杏子「まぁな。だが、ワルプルギスの夜に挑もうとするのは普通じゃない。大抵の魔法少女は逃げ出すぜ。あたしだって、ひとりなら倒そうだなんて思わなかったよ」

ほむら「……」
151 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/02(水) 17:14:11.97 ID:anBxTlYZO
杏子「あたしには狩り場を守るって理由もあるが、お前はそうじゃない。この町ではほとんど魔女を狩ってないみたいだしな。かと言って戦闘狂ってタイプでもねぇだろ」

杏子「ワルプルギスの夜に何か因縁でもあるのか……あるいは」

杏子「この町にこだわる理由でもあんのか?」

ほむら「……」

この町にこだわる理由。

それは、ほむらにとって最も大切な人がこの町にいるから。
ほむらがワルプルギスの夜を倒さなければ、その少女は我が身を犠牲にしてでもこの町を守ろうとしてしまうから。

……そんなことを、わざわざ説明してやるつもりはない。

ほむら「そんなものないわ。ただの気まぐれよ」

杏子「……ま、いいけどさ」

恐らく杏子は、ほむらが何か隠し事をしていることには気づいたのだろう。
だからこそほむらは、明確に『話したくない』という意思表示をしたのだ。

ほむら「話は以上よ。ワルプルギスの夜が来る前日に、またここに呼ぶわ」

杏子「わかったよ」

これでいい。
あとは、何も起こらないことを祈るだけだ。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 18:01:58.09 ID:0l7h+E7l0
ここから何が起こるかなぁ……
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/02(水) 20:46:45.61 ID:KFRT/DRjP


この後は流れ的に、怒涛のさやかちゃんラッシュですね・・・
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 11:52:19.01 ID:eHfLDqYfO
乙乙
155 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:32:19.47 ID:sBYU6ntzO
***

その魔女は、決して弱いわけではなかった。
魔法少女との戦闘経験も豊富で、知能も高く、杏子でさえ単身で挑めば苦戦していたかもしれない。

……そんな魔女が、困惑していた。

さやか「……」

その魔法少女は何かがおかしかった。

もう十分にダメージは与えたはずだった。
普通なら、実力の不足を認識して逃げ出していただろうが、その気配もない。

そもそも、どれだけ攻撃しても、全くと言っていいほど怯まないのだ。

今まで戦った中に、こんな魔法少女はいなかった。

大抵の魔法少女はとどめを刺される前に逃げ出していたし、逃げずに立ち向かった魔法少女も、その実力差を覆すことはできずにいた。

だが、この魔法少女は、そのどちらにも当てはまらないかもしれない。
実力的にはその魔女には及ばないはずなのだが、どうしても嫌な予感が消えない。
156 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:35:10.56 ID:sBYU6ntzO
何度終わりを確信して攻撃したか、もうわからない。

魔女(……きりがない。次の攻撃で牽制して、その隙に逃げるべきか)

さやか「」ダッ

魔法少女が攻撃を仕掛けてきた。

剣を振り上げ向かってきたが、魔女は的確に反撃した。

……いや、その反撃はあまりにも的確過ぎたのかもしれない。

さやか「……」

魔女は終わりを確信した。
確信せざるを得なかった。

魔女(……杞憂だったか。わざわざ逃げる算段を立てる必要もなかったか──)

一瞬の弛緩。

それが、その魔女の敗因だった。
157 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:37:35.40 ID:sBYU6ntzO
***

杏子「……さーて、もう一匹くらい狩っとくかな」

その日も杏子は、危なげなく魔女を倒したところだった。

グリーフシードの予備はまだあったが、せっかくなのでもう少し狩っておこうかと思い、杏子は街を歩き始めた。

しばらくすると、魔力の反応があった。
しかし、杏子がその地点に近づくと、何者かが戦闘を行っているような音が聞こえてきた。

杏子(……先客か。この音の感じからすると、さやかか?)

杏子は、物陰から様子をうかがった。

わざわざ邪魔するつもりはなかった。
この前さやかにも直接言ったが、この町で魔女を狩ることを許さないわけではない。

単に、少しは強くなったか見てやるか、くらいの気持ちだった。

ところが──

杏子(あいつ、また性懲りもなく……!)

さやかの戦闘相手は、魔女ではなく使い魔だった。

杏子「ったく……!」

杏子も、前回の戦闘くらいでさやかが素直に従うようになるとは思っていなかったので、案外冷静ではあった。
158 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:46:23.55 ID:sBYU6ntzO
杏子「おい、何してんだてめえ!」

ズバアッ

杏子「!」

杏子が声を掛けると、さやかは即座に使い魔を切り捨てた。

さやか「……きたわね」

さやかが杏子に向き直る。
その行動は、杏子を誘い出すために使い魔を利用したとしか思えなかった。

杏子「……使い魔は狩るなって、ついこないだ言ったばかりだよな? 今度こそ殺されたいか?」

さやか「勝手にすれば? あんたの言うことなんて、聞くわけないでしょう」

杏子「あれだけ言ったのに、まだわかんねーのか? いい加減、正義の魔法少女だなんて戯れ言をほざくのはやめておきな」

さやか「……」

さやかは、異様に落ち着いていた。
前回杏子が戦った相手と同一人物には見えなかった。
159 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:48:24.38 ID:sBYU6ntzO
さやか「……今日は、ずいぶんおとなしいのね。文句があるなら、直接かかってきたらいいじゃない」

杏子「……?」

さやかの様子がおかしい。

どう見ても、戦闘を誘ってきている。
だが、前回あれだけやられておいて、何の考えもなしに喧嘩を売ってくるとも思えない。

杏子(まさか、この数日でそんなに変わったってのか?……面白いじゃねーか)

杏子はにやりと笑って、槍を構えた。

杏子「わかった、お望み通りズタボロにしてやるよ」

さやか「……前回のようにはいかないわよ」

杏子「期待してるぜ」

杏子は、さやかに襲いかかった。
160 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:50:49.82 ID:sBYU6ntzO
激しく、剣と槍がぶつかり合う。

さやか「……ッ」

杏子「……」

とりあえず全力は出さず、杏子はさやかの様子を観察した。

前回に比べれば、確かに動きは良くなっている。
この数日で、かなり戦闘を重ねたのだろう。

だが……

杏子(……舐めてんのか? この程度で、あたしに勝てるとでも思ったのかよ)

実力差は覆らない。

もちろん杏子も、さやかの実力が杏子に及んでいると期待していたわけではない。
しかし、さやかから戦闘に誘ってきたのだから、何かしらの策はあるのだと思っていた。

しかし、それすら見られない。

やはり、素人がたった数日で杏子に勝とうというのが、そもそもの間違いなのだ。

杏子は、軽くさやかに失望した。
161 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:53:23.78 ID:sBYU6ntzO
杏子(話にならねーな。もう終わらせるか)

槍を多節棍に変化させると、さやかはわずかに動揺した。
前回、壁に叩きつけられたことが印象に残っているのだろう。

だからこそ、そこを警戒する。
そして、それこそが杏子の狙いでもあった。

一瞬にして槍を繋げ直し、横凪ぎに振るう。

予想外の攻撃にさやかは対応できず、激しく吹き飛ばされた。

杏子「……もういいだろ。あたしに挑むんなら、あと数ヵ月は経験を積んでからにしな」

杏子は、倒れ込むさやかに背を向けて言い放った。

これで使い魔を倒さなくなるとも思えないが、とりあえず実力差は思い知ったはずだ。
また勝負を仕掛けてくるにしても、しばらくは先のことになるだろう。

杏子は、その場を立ち去ろうとした。

しかし──


さやか「待ちなさいよ。何勝手に終わらせてんの?」
162 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 22:56:01.47 ID:sBYU6ntzO
杏子「!」

杏子が振り返ると、何事もなかったかのようにさやかが立っていた。

杏子(……浅かったか? いや、手応えは十分だった。それにしては回復が早過ぎる。待てよ、そういえば……)

以前キュゥべえが言っていたことを思い出す。
さやかは、他人の怪我を治すという願いで魔法少女になったと言っていた。

そして、魔法少女の能力は契約の願いによって決まる。

杏子(なるほど、回復魔法を得意としてるってところか。だが……)

結局は同じことだ。
むしろ攻撃に特化した能力であれば一矢を報いることもできたかもしれないが、回復しているだけではどうしようもない。
苦しむ時間が長引くだけだ。

杏子「これ以上続けても無駄だ。本気で勝てると思ってんのか?」

さやか「もちろん。無駄かどうかなんて、あんたが決めることじゃないわ」

杏子「……確かにな」

そう言われては仕方がない。

ふたりの魔法少女は、戦闘を再開した。
163 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:00:43.76 ID:sBYU6ntzO
しかし、やはり戦局は変わらない。

杏子はさやかを攻め立てながら、降参を促す。

杏子「いい加減にしろ。 お前がどれだけあたしに勝ちたいかはよくわかったが、今はどうしようもねーだろ。ここは退いとけよ!」

さやか「……!」

これまでは半ば無表情だったさやかの表情に、変化が見られた。

さやか「黙れ、あんたなんかにはわかんないわよ!」

杏子「……なんだと?」

さやか「せっかく魔法少女になったのに、その力をそんな風にしか使えないなんて……どうせあんたなんて、自分のためだけに魔法少女になったんでしょ!?」

さやかの言葉が、杏子に突き刺さった。

杏子「てめえ……ッ!!」

瞬間、杏子は我を忘れた。

手加減を忘れ、全力でさやかに攻撃を叩き込む。

杏子(しまっ……)

あわてて槍を引こうとしたが、もう手遅れだった。

ザクゥッ

槍は、さやかの腹部に直撃した。
164 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:03:53.51 ID:sBYU6ntzO
杏子「……っ」

だが、さやかに動揺はない。
それどころか、そのまま杏子に斬撃を叩き込んできた。

ズバァッ

杏子「ぐっ……」

攻撃直後の隙を狙われた。
この戦闘で……いや、前回の戦闘から通して、初めて明確に杏子にダメージを与えた一撃だった。

だが、浅い。

対して杏子の槍は、完全にさやかの脇腹を突き抜けていた。
どちらのダメージが大きいかなど、考えるまでもない。

杏子(……やり過ぎちまったか。まぁあいつもこれで諦めるだろ)

さやかも、これ以上やっても勝てないことは十分にわかったはずだ。
大人しく杏子に従うか、あるいはまた後日再戦を挑んでくるか……

そんなことを考えていた杏子の耳に、あり得ない言葉が聞こえてきた。



さやか「……まずは、ひとつ」
165 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:08:03.13 ID:sBYU6ntzO
杏子「……ッ!?」

杏子の全身が総毛立った。

つまり、さやかはこう言っているのだ。

今の攻防を繰り返すことで、杏子にダメージを与え続けると。

思えば、さやかは杏子の全力の攻撃を待っていたのかもしれない。
そうでなければ、いくら攻撃直後であろうと大きな隙は生まれなかっただろう。

その上で、全力の攻撃を防御すらせず、受ける。

いくら回復魔法に長けた魔法少女であろうと、杏子には正気の沙汰とは思えなかった。

杏子「てめえ、なんだそりゃあ……まるで、ゾンビみてーな戦い方じゃねーか! それが、正義の魔法少女の姿かよ!?」

思わず、杏子は叫んでしまった。
叫ばずにはいられなかった。

さやか「……格好なんて、どうでもいい」

杏子「っ!?」

さやか「あたしは、あんたみたいな奴には絶対に負けるわけにはいかないの……そのためなら、ゾンビにだって、なってやるわよ……ッ!」
166 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/04(金) 23:09:38.95 ID:sBYU6ntzO
杏子「…………」

この瞬間、杏子は完全に戦意を喪失した。

この戦闘における、互いの覚悟の違いを思い知らされたのだ。
まさか、さやかがこれほどの覚悟をもって杏子に挑んでいたとは思っていなかった。

杏子「……あたしの負けだ」

さやか「……」

杏子「もうお前の邪魔はしねーし、使い魔も狩る。それで文句ねーだろ」

杏子は吐き捨てるような口調で言い放ったが、返事はなかった。

杏子の敗北宣言を聞いた時点で意識を失ったのか、さやかはその場に崩れ落ちる。

杏子「さやか!?」

地面に倒れ込むかと思った次の瞬間、ひとりの魔法少女が現れ、さやかを支えた。

ほむら「大丈夫。気絶しているだけよ」

杏子「……見てたのか」

ほむら「……」

杏子「チッ……」

見られていたことを知り、イラつく。

もう一秒たりともこの場にいたくなかった。
杏子はさやかを一瞥して、その場を後にした。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 03:58:15.26 ID:4p7/XCdJO

熱さと冷静さのバランスがおもしろい
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 07:21:07.68 ID:bScQDA2oO
169 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 19:53:24.34 ID:3+8IoRcGO
***

ほむら(まさか、こんなことになるとはね……)

ほむらは、ふたりの戦闘を始めから隠れて監視していた。
前回のように、キュゥべえがまどかを連れてきたときに戦闘に横槍を入れるためだ。

しかし、この展開は予想外だった。

ほむらとしては、まどかが関わらないのであれば、このふたりには気が済むまでやりあってもらって構わないと考えていた。
使い魔を狩ろうが狩るまいが、ほむらにはどうでもいいことだ。

その上で、勝つのは杏子であり、さやかが納得することはないだろうと予想しており、しばらくはふたりの戦闘が勃発することを覚悟していた。

だが今日の杏子の様子を見る限り、もう彼女にさやかと争う気はないだろう。
素直に使い魔を狩るとも思えないが、少なくとも、さやかに正面から戦闘を仕掛けることはないと思われる。

まどかの契約の機会が減ったという面では、好ましいことだ。

しかし、ほむらは手放しには喜べなかった。

不安がよぎる。

ほむら(さやかの、あの戦い方は……)
170 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 19:56:00.99 ID:3+8IoRcGO
「全く、わけがわからないよ」

──不意に、ほむらの背後から声が響いた。

ほむら「……!」

QB「まさかこんなことになるなんて、君たちは本当にわけがわからないね」

現れたのは、キュゥべえだった。

ほむら「……さやかにあの戦い方を教えたのは、あなたね」

QB「そうだよ。ただでさえ、魔法少女はどんな傷でも回復できるのに、痛覚なんて動きを阻害するだけだ。回復魔法に長けたさやかならなおさらだよ」

ほむら「……」

QB「さやかは杏子に勝つ方法を求めていた。だから、彼女に合った戦闘方法を教えてあげたのさ」

ほむら(確かに、さやかの特性には相性のいい技術ではある、が……)

『痛覚遮断』

今の段階でさやかが知ってしまったのは、予想外だった。
できれば、あまり使用すべきではない技術だ。

あれは、格上の相手に攻撃を当てるには有効だが、当然その分傷を負い、回復のために魔力を使用することになる。
もし魔女との戦闘で使用した場合、落とすグリーフシードで回復できる量以上の魔力を消費する可能性があり、そんな戦闘が続けば、消耗していく一方だ。

本来なら、魔法少女は勝てない魔女とは戦闘するべきではないし、もし勝つ手段があっても、戦闘前よりソウルジェムを濁らせるとわかっていれば戦わない。

だが、さやかはそういう考え方をするタイプではない。
魔女を見つければ、格上であろうと確実に狩ろうとするだろう。

だからといって、今すぐ魔女になるというわけでもないだろうが……

ほむら(……気を付けておきましょう)
171 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 19:59:23.31 ID:3+8IoRcGO
ほむらは、改めてキュゥべえに視線を向けた。

ほむら「……それで、あなたの思惑通り、美樹さやかを佐倉杏子に勝たせることができたわけね」

正直、相変わらずの黒幕ぶりに感心した面もあり、ほむらは半ばあきれるような口調で称賛した。

──だが。

QB「本気で言っているのかい?」

ほむら「……え?」

QB「さやかが、痛覚を無視する手段を得た程度で、それであの杏子に勝てると、本当に思うのかい?」

ほむらの脳内が疑問符で埋まる。
キュゥべえは、本気で不思議がっている様子だった。

ほむら(こいつは何を言っているの? 思うも何も、現に……)

QB「あのまま戦闘を続けていれば、先にさやかの魔力が尽きていたことは明らかだ。そうなれば、痛覚の有無など関係なく、杏子は確実にさやかを殺せていただろうに……」

ほむら「あなた、何を……」

QB「単純に、魔力の消費を嫌って……? いや、それにしては、杏子の様子が腑に落ちないし……」

ほむら「……!」

ほむらは、ようやく気づいた。
なるほど、この展開は、キュゥべえにとっても予想外のものだったのだ。

恐らくキュゥべえの狙いは、さやかが痛覚遮断を使用した上で、それでも杏子に負けることだったのだろう。
もしそうなっていれば、さやかはこの場で魔女になっていてもおかしくなかった。

痛覚遮断を教えたのは、杏子にさやかをギリギリまで追い込ませるための手段だったのだ。

だがキュゥべえの計算外だったのは、人間の感情だった。
キュゥべえも、簡単な喜怒哀楽なら理屈として理解はしているだろうが、杏子がさやかに向けるような複雑な感情は、とても理解できないのだろう。
172 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/07(月) 20:01:01.77 ID:3+8IoRcGO
ほむら「……そうね、あなたにはわからないでしょうね」

ほむらの言葉に、キュゥべえはやっと合点がいったような口調で呟いた。

QB「やはり、感情というものなのかい? 厄介なものだね。僕たちには、まだまだ理解できそうにないよ」

ほむら「……」

キュゥべえがこんな調子なのはいつものことだ。
感情がない相手に振り回されても仕方がない。

やはりキュゥべえを出し抜くには、感情を利用するのが一番なのだろうか。
しかし、それこそ理屈で測れないのが人の感情というものだ。
利用しようと思って利用できるものではない。

ほむらは、一旦頭を切り替えた。

ほむら「あなたがいるなら丁度いいわ。美樹さやかのこと、任せたわよ」

さすがに気絶した少女を路上に放置するのは気が引けたが、キュゥべえがいるのならまぁいいだろう。

QB「僕に戦闘能力はないよ?」

ほむら「いいのよ、さやかもそろそろ目を覚ますことでしょう」

さやかに見つかり、余計な勘繰りはされたくない。

ほむらは、歩いてその場を後にした。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 13:33:23.32 ID:GsAzOPUzO
バーサーヤカ好き、でも濁りがヤバいんだよなぁ…。乙
174 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:29:19.21 ID:UVJ2f3OsO
***

杏子との二度目の戦闘から数日が経った。
あの日から、さやかは杏子の姿を見ていない。
どうやら意図的に避けられているようだ。
さやかとしても、わざわざ争いたいわけではないので問題はなかった。

ほむらも、以前のようにさやかに干渉してくることはなくなった。
魔法少女になってしまった以上、あとは好きにしろといったところか。
しかし、常に何やら観察されているように感じるのは気のせいだろうか。

まどかは、今のところは契約する気はないようだ。
あたしからは、『願いがないのなら魔法少女にはなるべきじゃない』以外のことは言っていない。
あとは、まどか自身の判断に任せるだけだ。

そして、今日は……

まどか「どうしたの? そわそわしちゃって」

さやか「……別に、そわそわなんてしてないけど」

まどか「隠さなくてもいいじゃん。今日からでしょ? 上条くんが学校に来るのって」

さやか「……うん」

そう、今日は、恭介が退院してから初めて学校に来る日だ。

退院には立ち会ったが、それからはまだ一度も会っていない。
病院ならお見舞いという建前もあるが、用もなく家にまで押し掛けるのはさすがに恥ずかしい。
それに、恭介もブランクを取り戻すのに忙しいらしく、ほとんど連絡もできなかったのだ。
175 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:31:45.57 ID:UVJ2f3OsO
まどか「あっ、上条くん来たみたいだよ」

さやか「……!」

教室に入るなり男子に迎えられ、ふざけ合っている。
恭介が日常に戻れたのだと思うと、さやかの胸が熱くなった。

さやか(……魔法少女になってよかった)

後悔なんて、あるはずがなかった。

まどか「さやかちゃん、上条くんのとこに行ってきなよ」

さやか「いいよ、あたしは入院中も会ってたし、恭介も恥ずかしいだろうし……」

まどか「もう……しょうがないなぁ」

思わずほっとする。
まどかも、余計な気を使わなくていいのに。
176 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:33:44.61 ID:UVJ2f3OsO
まどか「上条くーん!」

さやか「!?」

完全に油断していた。
まさか、そんな強行手段をとってくるとは……

恭介「おはよう、鹿目さん」

まどか「おはよう、上条くん。退院できてよかったね!」

恭介「うん、ありがとう……えっと、さやかはどうかしたの?」

まどか「ほら、さやかちゃん!」

……どうやら覚悟を決めるしかなさそうだ。

さやか「お、おはよう恭介。退院おめでとう」

恭介「ありがとう。思えば、入院中はいろいろとお世話になったね。本当に助かったよ」

さやか「き、気にしなくていいって!」

恭介「これからはまたいつでもバイオリンを聞きにきてよ。聞いてくれる人がいると、僕の練習にもなるからさ」

さやか「うん、ありがと」

恭介「じゃあまた」
177 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:35:44.52 ID:UVJ2f3OsO
恭介が離れてから、さやかは盛大に息を吐き出した。

さやか「ふぅ……まどか、あんたねぇ」

まどか「ご、ごめんね。怒った?」

少しくらいは文句を言ってもいいかと思っていたが、不安そうにこちらを眺めるまどかを見ると、そんな気は失せてしまった。
残ったのは、感謝の気持ちだけだった。

さやか「……ううん、ありがと」

まどか「どういたしまして!」

満面の笑みでそう言われると、何も言えず、苦笑するしかなかった。

こういうときに実感するのだ。
まどかの強さを。

普段はおとなしいくせに、他人のためならどんなことでもできてしまうような……

それが、鹿目まどかという少女なのだ。
178 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:40:48.26 ID:UVJ2f3OsO
その日の放課後、さやかは仁美に呼び出された。
大事な話があるということだったが……

さやか「ごめん、待たせちゃったかな」

仁美「いいえ、私も今来たところですわ」

さやか「ならよかった。で、話って何?」

仁美「……恋の相談ですわ」

さやか「恋!? 仁美が? なんか意外……」

さやかは、仁美の様子がいつもと違うことに気がついた。
普段はどちらかと言えばおっとりしている彼女が、とても真剣な表情をしている。

仁美「私、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」

さやか「うん」

仁美は、意を決したかのように口を開いた。

仁美「ずっと前から私、上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」

さやか「え……」
179 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:43:12.64 ID:UVJ2f3OsO
あまりにも予想外の言葉だった。
仁美が、恭介のことを……?

仁美「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」

さやか「あーまぁ、腐れ縁って言うか、なんて言うか……」

仁美「本当にそれだけ?」

さやか「……」

さやかは思いの外落ち着いていた。
なぜ、仁美がさやかにこのことを打ち明けたのかを考える。

さやか「……なんで、仁美はこのことをあたしに話してくれたの?」

仁美「あなたは私の大切なお友達ですわ。だから、抜け駆けも横取りするようなこともしたくないんですの」

さやか「あたしが恭介に対してどう思ってるかなんて、仁美に話したことあったっけ?」

仁美「ありませんわ。だから、何もないのならそれでいいんです」

さやか「……」

仁美「私、明日の放課後に上条君に告白します。丸一日だけお待ちしますわ。さやかさんは後悔なさらないよう決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか」
180 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:44:38.65 ID:UVJ2f3OsO
さやか「……仁美はそれでいいの?」

仁美「上条君のことを見つめていた時間は、私よりさやかさんの方が上ですから。あなたには私の先を越す権利があるべきです」

そういうことか。

こんな状況にも関わらず、さやかは笑みを押さえ切れなかった。

なんていい子なんだろう。

仁美の性格からして、ほんの少し恭介が気になったくらいでは、ここまでの行動は起こさない。
好きになってからあたしの思いに気づいたのか、あるいはあたしの思いを知りながら好きになってしまったのか……

どちらにしても、仁美は相当悩んだのだろう。

そして、自分の気持ちに嘘は吐けず、親友のことも裏切れず、最も自分が納得できる方法を探したのだ。

もっと楽な道もあったはずだ。

実際にあたしの思いを聞いたことはないのだから、全てを知らなかったものとして恭介に告白することもできた。

でも、仁美はそれをよしとしなかった。

さやか(……あたしって、本当に親友に恵まれてるんだなぁ)
181 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:49:36.95 ID:UVJ2f3OsO
仁美「話は以上です。では、これで……」

さやか「あ、待って!」

呼び止められ、仁美に動揺が走った。

さやか「あたしにも、何か言わせてよ」

仁美「……ごめんなさい。急にこんな話をしてしまって。私、自分勝手ですわよね」

さやか「え? そんなこと……」

仁美「いいえ、自分でもわかってますの。さやかさんがこれまでどれだけ上条くんへの思いを大切にしてきたのか。それを考えると、本当に申し訳ないですわ」

さやか「……なんか恥ずかしいんだけど。あたしってそんなにわかりやすいの?」

仁美「それなのに、急に告白しろなんて言われても、困りますわよね」

仁美は、完全に落ち込んでいた。
目も合わせてくれない。

さやか「待って、違うよ。そんなこと思ってないって」

仁美「え?」

さやか「呼び止めたのは、お礼を言いたかったからだよ。わざわざ話してくれて、ありがとう」
182 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/09(水) 22:51:12.56 ID:UVJ2f3OsO
仁美は、ポカンとした表情でさやかを眺めた。

仁美「……許してくださるんですの?」

さやか「許すも何も……仁美こそいいわけ? 本当に好きなんでしょ? 恭介のこと」

仁美「……はい。ですが、さやかさんに黙って告白なんてできませんわ」

さやか「あたしも恋愛なんてよくわからないけどさ、そういうもんなんじゃないの? 恋愛って。早い者勝ち! みたいな」

仁美「……恋愛ドラマの見過ぎでは?」

さやか「あはは、そうかも」

仁美がくすりと笑った。

よかった。
いつもの調子に戻ってくれたようだ。

恋愛と友情。
人によってはきちんと優先順位をつけているのだろうが、どちらかを選ぶことでどちらかを捨てるなんて、あたしにはできない。

さやか「仁美、ありがとう。ちゃんと考えて、後悔しない道を選ぶって約束するよ」

仁美「えぇ。それでこそさやかさんですわ」

……さて、どうしたものか。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 23:21:14.85 ID:GGtGCh0s0
些細なこととはいえ契約の時期的にハコの魔女から仁美を救ったのはさやかではないんだな
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 20:47:00.91 ID:Mj5+eieoO
杏子との事に一区切りついてるぶん少し余裕があるのだろうか。乙
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 00:20:43.23 ID:j08EDioYo
ソウルジェムの真実について知らないままだから余裕があるな
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 05:13:15.51 ID:7meLLWRNO
おれ個人としては腐りもせずにゾンビの称号が手にはいるなんて、けっこう嬉しいけどな
まぁ、だからどうしたって話だが
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 10:19:21.83 ID:AaD6Zj3AO
知らずにゾンビになって相当ショックなのはよくわかったけど
こんな体じゃキスしてなんて言えないには放送当時首を傾げた
だって親友のまどかに寄り添われながら言うんだもの
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 13:55:19.59 ID:XjyrMzzOo
ゾンビも結局そのキャラがどう捉えるかでしかないしな
さやかちゃんだってお年頃の女の子だし
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 20:55:43.98 ID:O3Kggaq6o
まあゾンビという表現するのは違和感あるね
ゾンビなら負傷したら基本的に回復しないだろっていう
マジカル☆義体っていう表現が個人的にはしっくり来たり
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 21:32:14.68 ID:hZDyrdQOo
まあ大事なのは、知らん間に自分が普通の人間じゃなくなってたという点であって
女子中学生の感性ではとても喜べなかったから、ゾンビって表現したんだろうね
嫌悪感が一番最初に来た、それはしょうがない

しかし、ポータブルでそれを見て気持ち悪いと表現した上条は誤解からだろうと絶許
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/13(日) 21:44:16.68 ID:yUte8AV2o
誤解というかポ外観がそのものズバリゾンビなんだから仕方ないだろ
さやかが中学生なように上条だって中学生なんだから咄嗟に理想的な対応とれという方が無茶
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 01:42:25.61 ID:LJutDqRko
普通の人間じゃなくなるのは、魔法少女になった時点で覚悟しておくべきことなんだけどね。
あれだけの軌跡を起こしておいて、まだ人型をしてるだけましじゃん……と思ってしまうのは、すれた大人だからなのかな?
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/14(月) 06:56:36.75 ID:pFSXslKq0
自分なら正直ゾンビになる(基本的には人間)代償として願いが叶うならゾンビになるよ。魔女化のことを知ったらどうなるかわからないけども。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 08:22:12.23 ID:ssaEq/Pso
上条さんはもう、虚淵とかいうまど神様の上位存在が絶対さやかを不幸にするよう設計した舞台装置だから
彼が何をどう頑張っても虚淵の手で悪い方へ向けられるだろうから、心情や性格を考察してもしゃーないねん

……と思ってたんだけど、映画では仁美にも昇龍拳させたからな
やっぱ男としてどっか残念なんだろうな
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/03/14(月) 08:42:52.26 ID:+GDwVT2q0
良くも悪くもバイオリン馬鹿だからな
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 10:13:34.59 ID:B0HCbsmO0
せめてウィクロスの香月レベルは欲しかったな
展開のためとはいえ、理解力もあってすぐにアドバイスとか考えてくれた善人
上条君とはポジションが似ているのに段違い


思ったけど、恭介がさやかの義弟なら話は変わったのかな?
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 20:06:54.95 ID:qn9RlbVZP
男子中学生なんてあんなもんだろ
漫画とアニメとゲームと部活とエロで頭がいっぱい
むしろ相当できた子だと思うよ、上条くんは
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 07:33:32.13 ID:2FKo/Ty0o
確かに中学生くらいなら、ちょっとかわいい子に告られたら即OKだわな。
さやかが入院中に、乳の一つも揉ませてやれば話は違ったんだろうが……。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 22:36:41.23 ID:Y7kPUbsko
大事なのは男子中学生として妥当かどうかなのかな
さやかが一度限りの奇跡を使おうと思うまで惚れる相手かどうかじゃない?

このSSでは、ほむらの言う通りマミさんが既に死んでいて状況が異なってるけど
アニメ本編でのさやかはマミさんが首を食い千切られたのを目の前で見ている
強いマミさんでも死んでしまうような戦いに身を投じなければいけないと知っている

逆に言えば見滝原の平和を守るって新たな義務感を背負ったし
目の前のまどかを助けたかったってのも大きかっただろうが
結局願いは「恭介の腕を治して」

どの辺りにそこまでするほど惚れていたのか、が見えにくいから色々言われるんだと思う
まあイケメンで金持ちってわかりやすいスペックは高いから最悪それでもいいんだけれど
ただの面食いや金目当てが命を投げ出すかなあ
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/15(火) 23:33:15.96 ID:qtULCwKaO
ずっと子供の頃から仲良しだったんだろ
昨日今日惚れた相手じゃないんだし
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 06:43:25.50 ID:COzbi4w2o
???
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 18:19:25.72 ID:fWLxgZtyo
>>199
いろんな意味でお前は何も分かってない
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/16(水) 21:12:49.80 ID:Zp4d/KL6O
他人のSSのスレで 感想以外の長文を書く人の感覚がわかんない
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 15:51:31.77 ID:NxMIM9ceO
上条の性格とかが全く見えないというのは大きいかと
それが感情移入を阻んでるのもあるんじゃないか?
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 17:15:13.34 ID:0UDdf4p90
とりあえずさやかや仁美が期待するような関係をバイオリン馬鹿の上条に求める限り幸せにはなれんだろう
そこらへんをうまく割り切って彼を支えるなり、あきらめてまた別のいい人探すなりして青春の一ページにしちゃえればいいんだが、そううまくできないのがこの年の女の子なんだろう。めんどくさい事に。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/18(金) 17:56:57.14 ID:NxMIM9ceO
そうは言うけど女の子って割とドライな一面あるぞ?
今はそうでも時間が経てば、好きだった相手が自分に好意を寄せてきても、あの時と同じ感情を抱けはしないケースがあるみたいだし
人にもよるんだろうけどさ
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/18(金) 18:09:19.75 ID:41S+TjZzo
女の子は年齢を重ねる度に
男性に求めるハードルが跳ね上がっていくから仕方ない
208 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 19:52:34.66 ID:4uy4RBmeO
***

さやかは、パトロールをしながら仁美と話したことについて考えていた。

仁美には『ちゃんと考えて後悔しない道を選ぶ』なんて言ったが、答えは出ているようなものだった。

さやか(あたしは、恭介のことが好きだ)

自覚はある。
となれば、もはや選択肢はない。

さやか(……明日、恭介に告白しよう)

受け入れてもらえるかどうかはわからない。
正直、恭介があたしのことを異性として意識しているかどうかすら疑わしい。

そもそもあのバイオリン馬鹿は、そういったことに興味はあるのだろうか。
彼女ができても、バイオリンに没頭し過ぎて愛想を尽かされる姿が容易に想像できる。

だから……というわけではないが、今まで、恭介とその類いの話をしたことはない。
好きな人がいたことがあるかどうかすらわからない。

あるいは、さやかとではなく男子生徒同士では、そういった話をしているのだろうか。

その場合は、一応はさやかを異性として扱ってくれているという意味では、喜ぶべきことなのかもしれないが……

さやか(……ないだろうなぁ)

こう言ってはなんだが、恭介はまだ良くも悪くも子どもだ。
恋愛面についてはほとんど経験がないだろう。
中学生くらいだと、やはりこういったことに関しては、女子の方が進んでいるのだと思う。
209 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 19:54:32.53 ID:4uy4RBmeO
もちろん、恭介のバイオリンに打ち込む姿を好きになったのだから、そこに対して不満があるわけではない。

問題は、恭介が恋愛に免疫がないであろうことだ。

あたしが告白しても、そもそも恋愛そのものに対して拒否反応を示すかもしれない。
あるいは、仁美のような可愛い娘に好きだと言われたら、舞い上がってよく考えずに付き合ってしまうかもしれない……

さやか「……はぁ」

思考が迷子になっている自覚はある。
明日告白するだなんて、急な展開に頭がついていかないのだ。

本来なら、すると決めたのだから、どう告白するかを考えるべきだ。

だが、どうしても現実感がない。

自分が恭介と付き合えるのか、あるいはフラれてしまうのか。
それが明日決まるということが、とても信じられなかった。

さやか(……仁美はすごいな)

自分にはあんな勇気はなかった。
仁美には『気持ちを大切にしている』などと言われたが、実際は、女友達という心地いい関係に甘んじていただけだ。
気持ちを打ち明けることもできず、異性として見られていないなどと言い訳を重ね、その結果がこれだ。
今日のようなことがなければ、告白なんて考えもしなかったかもしれない。

まどかも仁美も、自分にはない強さを持っている。

親友としては誇らしい限りだが、ふとした拍子に、どうしても引け目を感じてしまうことはある。

さやか(だけど……!)

ここだけは譲れない。

ずっと好きだったのだ。
口にすることはできなかったが、その思いは、仁美のそれに負けているとは思わない。

しかし、だからこそ怖い。
フラれたときのことは、正直考えたくない。

……結局あたしは、まだ覚悟ができていなかったのだ。
210 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:04:34.76 ID:WRd9JxklO
さやか(……魔力の反応!)

ソウルジェムが反応を見せた。
上の空だった状態から、急激に現実に引き戻される。

恭介のことはひとまずおいておこう。
今は魔女を倒すことが先決だ。
さやかは、反応があった地点へ向かった。

結界に入り、使い魔を倒しつつ奥へ進んでいく。

さやか(大丈夫、いける……)

痛覚遮断を使うまでもない。
油断は禁物だが、使い魔の強さからしてそれほど強い魔女ではないはずだ。

魔女のもとにたどり着く。
しかし、魔女が捕らえている少女を見て、さやかに戦慄が走った。

さやか(まどか……!?)

心が揺れる。
だが、さやかは逸る気持ちを押さえつけ、自分に言い聞かせた。

さやか(……焦っちゃダメだ。冷静に、確実に魔女を倒すんだ)

今までと同じだ。
捕らえられている人間が誰だろうと、必ず救い出す。
それだけだ。

さやか(……よし)

自分が落ち着いたことを確認する。
辺りを見渡すと、先程より視界が広がっているのを感じた。

やはり、動揺していたのだろう。
しかし、もう大丈夫だ。

さやか「待ってて、まどか。今助ける」

さやかは、魔女に襲いかかった。
211 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:08:05.68 ID:SM89dPfeO
落ち着きさえすれば、こっちのものだ。

さやかの予想通り、魔女の強さは大したことはなかった。
契約したての頃ならともかく、今のさやかなら問題なく倒せるレベルだ。

さやか「これで……終わりよ!」

さやかの斬撃が直撃し、魔女はふたつに切り裂かれた。
ほぼ間違いなく、これでとどめを刺せたはずだ。。

しかし、まだ警戒は解かない。
確実に倒したとわかるまでは、魔女を相手に気を緩めてはならない。

結界の崩壊を確認し、ようやくさやかはわずかに息を吐いた。
やはり、普段に比べれば張り詰めていた部分はあったのだろう。
しかし、それでこれだけ冷静に動けたのだから、上出来だ。

さやかは、これまでの戦闘経験により、未熟ながらも安定した強さを身に付けつつあった。
212 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:12:54.75 ID:nRwpWRkhO
さやか「まどかっ!」

さやかは、倒れているまどかに駆け寄った。

まどか「……さやか、ちゃん?」

反応があったことに、思わず胸を撫で下ろす。
外傷もないし、まず大丈夫だろう。

さやか「無理しないで。あんた、魔女に襲われたのよ。もう倒したから安心して」

まどか「……」

どうやら少し混乱しているようだ。
無理もない。

さやかも、自分が魔法少女じゃなければ魔女を見ただけで逃げ出すだろう。
魔法少女として戦った経験がある今だからこそ、魔女の恐ろしさがわかる。

以前、魔女の口づけを付けられた人を追いかけようとしたことがあったが、それがどれだけ危険なことだったか。
改めて思い出すと、背筋が冷たくなる。

さやかとは違い、まどかは今日初めて魔女の恐ろしさを目の当たりにしたのだ。
ショックがあって当然だろう。

しばらくすると、まどかはどうやら現状を把握したようだった。

さやか「まどか、大丈夫?」

まどか「うん、助けてくれたんだね。ありがとう」

さやか「どういたしまして」

助けられてよかった。
もし間に合っていなかったらと思うと、ゾッとする。
213 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:15:30.83 ID:nRwpWRkhO
さやかが胸を撫で下ろしていると、ふとまどかが何かを思い出したかのように口を開いた。

まどか「あ、そうだ。仁美ちゃんもここにいたんだ。魔女の口づけで、おかしくされちゃってて」

さやか「え……仁美が?」

仁美の名前を聞き、さやかは思わず今日のことを思い出した。

まどか「そうなの。他にもたくさんの人が操られて、一緒に死のうとしてて……」

さやか「……」

まどかの声が遠くに聞こえるようだった。
妙に現実感が薄れていく。

さやか(そうか、仁美が……)

思考が、途切れる。

魔が差した、としか言えないのかもしれない。

さやか「……」

しかし、そのとき確かにさやかの心に、ひとつの考えが浮かんでしまった。
214 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:16:34.16 ID:nRwpWRkhO



───だったら、助けなければよかった?


215 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:19:00.60 ID:v30v4Rp4O
さやか「ッ!?」

ゾクリ、と体が震えた。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

さやか(あたし、今……)

足元が崩れたかのような錯覚を覚えた。
視界が揺れる。

さやか(……何を、考えた?)

理性は否定しようとした。
そんなはずがない、そんなことを考えるはずがない、と。

しかし、他の誰でもない自分の心情だ。
誤魔化せるはずがない。

さやか「あ……」

さやかは、自分が何を思ったのか、改めて知ってしまった。
自分で自分が信じられなかった。

さやか(あたし、は……)
216 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/18(金) 20:21:11.92 ID:v30v4Rp4O
まどか「……さやかちゃん?」

さやか「!」

まどかに声をかけられ、ハッとする。
さやかの様子が変わったことを不審に思ったのだろう。

さやか(まずい、今は……)

顔を合わせられなかった。
今まどかに顔を見られたら、全てを見透かされてしまう気がした。

まどかには、こんな自分の汚い部分、卑怯な部分を知られたくなかった。

さやか「……ごめん、魔力の反応があった。あたし、もう行かなきゃ」

顔を背けたまま、早口で伝える。
幸いにも、まどかはそれを緊迫した状況故のことだと受け取ったようだった。

まどか「えっ? あっうん、わかった。頑張ってね」

さやか「ッ……」

まどかの優しさが、今のさやかにはつらかった。
言葉が胸に刺さる。

さやか「……ありがとう。仁美のこと、よろしくね」

まどか「うん、任せて!」

返事を聞くや否や、さやかは駆け出した。

魔力の反応などありはしない。
ただ、1秒でも早くこの場所を離れたかった。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 12:44:26.06 ID:ljYZHXIMO
よく上条が叩かれてるのを見るがさやかが可愛く見えるのは視聴者視点であって設定的には普通若しくはブスの可能性だってあるんだからな
ブスにはどんなに親しくても優しくされても惚れないだろ
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 12:57:11.98 ID:btdJYUwgo
例え相手がドブスだろうと、親切にされたらまずはありがとうだろ
その上で恋愛が成就しないのはしゃーないが

ちゃんと告白した上でふられたならさやかはあんなに堕ちなかっただろうとも思うけどね
こうして箱の魔女と戦う前なら、仁美を助けなければ……と思う事もなかっただろうし
だって仁美が生きてても死んでても自分がふられた事実に変わりはないから
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 21:10:44.80 ID:F3ePMwmbO
嫌な考えがへばりついたときって、ホント最悪。乙です
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/19(土) 21:20:26.64 ID:BibHSGrU0

まあまどぽの各ルートとか見るにさやかが告白できない意気地無しで、(しかも自分でもわかっているのにどうしようもできない)言い方は悪いが潔癖のいいかっこしいの部分がある所為で自分で自分を追い詰めてるんだよな・・・
高すぎる理想と現実の差で絶望したわけだし。本当に不器用で馬鹿な奴だよ、良くも悪くも。
221 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:22:25.76 ID:Pfshhs6BO
さやかは、全力で走り続けた。
まるで、見えない何かから逃げるように。

しかし、その声がやむことはなかった。

──仁美さえいなければ、こんなことにはならなかったのに。

さやか(……違う)

──仁美さえいなければ、こんなふうに悩まされることもなかったのに。

さやか(……違う!)

──仁美さえいなければ……

さやか「違う!!」

大きく叫んで、さやかはようやく立ち止まった。
呼吸が荒い。
いつの間にか、見たこともないような場所に来てしまっていた。

さやか「……っ」

さやかは、無理やり呼吸を押さえ付けた。
自分の心と向き合う覚悟を決めようとした。

だが、できない。

息が整っても、まだ心が鎮まらない。
魔女と戦っていたときの方が、まだ平静を保てていた。

さやか(……あたし、一体どうしちゃったんだろう)

本気で、仁美を助けなければよかったと思ったわけではない。
だが、少しでもそんな気持ちがなかったかと言われれば、否定はできなかった。

さやか(どうして……)

さやかは、自分の本心がわからなかった。
222 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:24:35.30 ID:Pfshhs6BO
仁美が恋敵だから、思わずそんなことを思ってしまったのだろうか。

もちろんそれは原因の大部分ではあるだろうが、さやかはそこに引っ掛かりを感じていた。

さやか自身、『恋愛は早い者勝ちみたいなもの』とも言ったし、そう思っていたことも嘘ではない。

もし、さやかの知らないうちに仁美が恭介と付き合っていたとしても、さやかは恋心を隠して笑えたはずだ。

……ひとつの要素さえ、そこになければ。

さやか(何か、が……)

納得できない何かが、そこにある気がする。

仁美が言っていたように、自分の方が長く恭介を想っていたから?

……違う。

もっと、わかりやすい何かが。

仁美が恭介と付き合うことが許せないと、理不尽だと思ってしまう、何かが……

さやか「………………」

そして、さやかは気づいてしまう。

さやか(あぁ、そうか……)

自分の本心に。

さやか(つまり、あたしは……)
223 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:27:29.10 ID:Pfshhs6BO


──恭介の腕を治したのはあたしなのに、他の誰かが恭介と付き合うなんて、許せない。

224 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/23(水) 22:43:33.70 ID:Pfshhs6BO
さやか「……あはは」

自分でも驚くほどに空虚な笑い声だった。

始めから狂っていたのだ。

正義の魔法少女?
なんて笑い話だろう。

あたしが魔法少女になったのは、自分のためでしかなかったっていうのに。

さやか(あたしは、何をしていたんだろう)

今までの自分が揺らいでいく。
こんな自分が正義を語っていたことが、茶番にしか思えなかった。

さやか(……もう、どうでもいいや)

これ以上は考えたくなかった。
心が沈む一方だ。

さやかは、フラフラと歩き始めた。

ソウルジェムに、穢れが溜まりつつあった。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/24(木) 13:48:00.21 ID:FQ7LQiTPO
自分をごまかしてはいけない。

同時に、欠点を見つけても、

自信を喪失させたり、

自尊心を傷つけるまで

自分を責めてはいけない。


くさるなさやかちゃん、乙乙
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/24(木) 20:51:49.63 ID:ZdVSzehRP

『最初から間違えてるモノ』は、
第三者がどう横槍を入れても最終的には必ず破綻しちゃうよね

繰り返す時間の中で僅かな違いこそあれど、運命の車輪は冷徹に回る。
227 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/27(日) 10:07:20.97 ID:X5WB82RZO
しばらく歩いたところで、ソウルジェムが反応した。

魔力の反応だ。

さやか(魔女? 使い魔? どっちでもいいか……)

さやかは、もはや無視しようかとも思った。

今の自分に、正義の真似事をする資格などあるはずがない。

さやか「……」

しかし、さやかはしばらくの逡巡の後に、反応があった地点へ歩き始めた。

他の誰かのためじゃない。

戦闘に没頭すれば全てを忘れられるかもしれないという、歪んだ考えからの行動だった。
228 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/27(日) 10:12:10.95 ID:X5WB82RZO
***

そのとき、杏子はパトロールの最中だった。
最近は気分が優れないことが多いが、魔法少女である以上、魔女を狩らないわけにはいかない。

魔力の反応がありその地点へ向かうと、そこには杏子を悩ませる原因の人物がいた。

杏子(……さやかか)

杏子は、隠れて様子をうかがった。

さやかとの二度目の戦闘から数日間、杏子はさやかのことを避け続けていた。

ああいう結果になった以上、杏子にはもうごちゃごちゃ言う気はなかった。

正義の魔法少女なんていつまでも続けていられるとも思わなかったが、いけるところまでいってほしいという思いがなかったと言えば嘘になる。

同時に、かつての自分と重なりを感じるところもあり、似たような挫折を味わえば杏子の気持ちをわかってもらえるのではないかという期待も多少あった。

いずれにせよ、杏子からさやかに対して直接行動を起こす気はもうなくなっていた。

だが……

杏子は、さやかの様子がおかしいことに気づく。

杏子(……なんだ? さやかの奴、いつもと違う……?)
229 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/03/27(日) 10:15:25.95 ID:X5WB82RZO
その要因はいくつかあったが、杏子が一番違和感を覚えたのは、さやかの戦闘方法であった。

さやかは、相手の強さによっては、痛覚を遮断して多少の傷を負うことをいとわない。
だが、当然それは必要最小限のダメージで済ませており、決して、受ける必要のない攻撃をむざむざ受けていたわけではない。

また、痛覚遮断はあくまでも戦術のひとつであり、さやかも好んで使っていたわけではないはずだった。

しかし──

杏子(あいつ、何してやがんだ……!?)

今のさやかは、そんな取捨選択を行っているようには見えなかった。

明らかに、避けられるはずの攻撃を避けていない。
防げるはずの攻撃を防いでいない。

魔女の攻撃に対し、そもそも反応すらしていなかった。
その姿は、わざと全ての攻撃を受けているようにすら見えた。

さやか「……」

防御を一切行わず、攻撃に意識の全てを向ける今のさやかは、凄まじかった。

魔女「ガァ……ッ」

一方的に攻撃され続けているようなものだ。
敵うはずがない。
魔女は為す術もなく、あっという間に倒されてしまった。

だが、その代償は大きい。
さやかは全身傷だらけで、ボロボロだった。

回復魔法を使い、服も新品同様になり、見かけ上は完璧に元に戻る。

だが、それを見た杏子は鳥肌が立った。

その姿は、人として何かが狂っているようだった。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 00:37:05.03 ID:kUpqDM0No
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 00:37:20.12 ID:uysmXeBqO
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 01:56:46.22 ID:eUyn2TAGO
乙!
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 03:30:49.40 ID:7XxKArh4O
乙。イラついたら戦闘に没頭するしかないよな
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/29(火) 22:02:57.26 ID:wNDEo4K30

まあ助けたっていう事実と誰を好きになるか、助けたからって好きになってもらえるかはまったく別問題だしな

それに正義の魔法少女って言っても具体的にさやかはどうしたかったんだろうか。魔女より悪い人間がいるなら戦う。例え魔法少女でもといっているが杏子をどうする気だったんだろう。叩きのめしたからって変わるとは限らないし、殺したらただの人殺しだし、仮に弾みでも殺してしまえばきっと壊れてただろうし・・・そしてこうやって人間がみんな当たり前に醜さを受け入れることもできず・・・馬鹿な奴だな。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/30(水) 22:44:16.96 ID:2mtSg9KIP
236 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/01(金) 20:09:19.19 ID:yJ7QJF/qO
***

次の日、さやかは学校を休んだ。
気分が悪い、頭痛がするなどと親に伝えると、あっさり納得してくれた。
仮病だが、あながち嘘というわけでもない。

さやかは、ベッドの上でぼんやりと天井を眺めていた。

今日の放課後、仁美は恭介に告白する。
恐らく、ふたりは付き合うことになるだろう。

恭介が断れば話は別だが、たぶんそれはない。
女のあたしから見ても、仁美は魅力的だ。
告白されて戸惑いはするかもしれないが、最終的には受け入れるはずだ。

……そのことを、あたしはどう思うんだろう。

さやか「……」

嫌に決まっている。
たとえ仁美であろうと、恭介が自分以外の女子と付き合うなんて、想像したくもなかった。

しかし、それならば学校を休むべきではない。
受け入れてもらえるかどうかはともかく、さやかには告白する以外の選択肢はないはずだ。

なのに、さやかはベッドから起き上がる気にもならなかった。

自分の本心を知ってしまったからだ。
こんな自分が恭介と付き合うなんて、許されるはずがない。
そう思ってしまった。

かと言って、そう簡単に諦められるはずもない。
堂々と仁美に『あたしは恭介のことを好きではない』などと言えれば格好も付くだろうが、それもできなかった。

結果、相反する感情がさやかの中で攻めぎ合い、どちらの行動もとれなくなっていたのだ。

結局さやかは、学校を欠席することを選んだ。

もう、自分の手の届かないところで物事を勝手に進めてもらって、自分ではどうにもならない状況にしてほしかった。

具体的には、さっさと仁美に告白してもらって、恭介と付き合ってほしい、なんてことを薄々考えていたのだ。

さやか(……あたし、最低だな。結局あたしは、自分の本当の気持ちと向き合えなかったんだ)

さやかは、こんな選択しかできなかった自分を、嫌悪していた。
237 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/01(金) 20:13:03.58 ID:yJ7QJF/qO
『おい、聞こえるか?』

さやか「!」

不意に、テレパシーで呼び掛けられた。
この声は……

杏子『ちょっと話がある。出てこいよ』

さやか「……」

なんであたしの家を知っているのかとか、学校はどうしたのかとか……いろいろと思うところはあったが、今のさやかに噛み付く気力はなかった。

さやか『……何の用?』

杏子『そろそろ、正義の魔法少女だなんて言っていたことを後悔してるんじゃないかと思ってな』

さやか『……』

一気に出ていく気が失せた。
さやかは返事をするのも面倒になり、布団をかけ直そうとする。
反応がないことにあわてたのか、杏子が再度テレパシーで呼び掛けてきた。

杏子『おい無視すんなよ、悪かったって。こんな時間に家にいるってことは、今日は学校には行かないんだろ? 魔法少女が体調不良ってこともないだろうし、暇なら付き合えよ』

さやか『……あたしに文句があるんなら、別の日にしてくれない? そんな気分じゃないの』

杏子『喧嘩を売りに来たわけじゃねーよ。言ったろ、話があるって』

……本当だろうか。
しかし、暇を持て余していたのも事実だ。

杏子『いいから出てこいよ。危害を加える気はないからさ』

さやか『……ちょっと待ってて』

しばらく迷ったが、さやかは杏子に付き合うことにした。
親は夕方まで帰ってこないし、少しくらいなら大丈夫だろう。



着替えてから外に出ると、私服姿の杏子が立っていた。
そういえば、魔法少女以外の姿を見るのは初めてだ。

杏子「ついてこい」

そう言って、杏子は歩き出した。
238 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/01(金) 20:19:33.83 ID:yJ7QJF/qO
***

杏子がさやかを訪れたのは、昨日のさやかの様子が気になったからだった。
まるで鬱憤を晴らすかのような戦い方であり、これまでの彼女とは明らかに違っていた。

なぜそうなったのかはわからないが、大体の想像はつく。
自分に失望したか、願いを否定してしまったか、あるいは信念が折れるような出来事があったのか……

かつての杏子と同じなら、そんなところだろう。
だからこそ、放ってはおけなかった。

さやか「……」

さやかは、すたすたと杏子の後を歩いている。

杏子(こいつ……)

やはりおかしい。
確定的だ。

普段と様子が違い過ぎる。
行き先も話さず歩いてるのに文句ひとつ言わず付いてくるなんて、これまでのさやかではあり得ない。
相手が杏子ならなおさらだ。

杏子「どうしたんだよ、元気ねーな。何かあったのか?」

さやか「……別に」

杏子「ったく」

聞いてはみたものの、その内容に興味があるわけではない。
重要なのは、さやかが正義の魔法少女として戦い続ける気があるかどうかだ。

杏子(もし、そうでなくなったのなら、もしかすると……)

うまく言いくるめることができれば、杏子の仲間にできるかもしれない。
そうすれば、これまでのような無茶もしなくなるだろう。

……と、まるでさやかのために行動を起こしたかのような言い方だが、杏子は、自分の本心に薄々気がついていた。

あまり認めたくはないが、どうやら自分は仲間を欲しているらしい。
あえて目を逸らしてはいたが、やはりどこかに寂しいという感情が残っていたようだ。

自分から別れたものの、マミと一緒に過ごした時間を忘れたわけではない。

杏子(……お前なら、こんなときどうしたんだろうな)

その答えは、もはや知りようがなかった。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/02(土) 10:48:53.12 ID:w5B+eq9dO
ここもまた今のところ同じだが心情描写が味よね、乙
240 : ◆c6GooQ9piw [saga]:2016/04/08(金) 23:43:10.20 ID:Dq/yhV0IO
杏子「……着いたぜ」

さやか「……」

さやかは、ぼんやりとその建物を見上げた。

さやか「……教会?」

杏子「あぁ」

杏子がこの場所を訪れるのは久しぶりだ。
いろいろと思い出してしまうということもあり、当時は近寄り難かった場所だが、今はもう懐かしいという感情の方が強い。

杏子「ちょっと長い話になるぜ。ほら、食えよ」

そう言って、杏子はさやかにリンゴをひとつ投げて渡した。

さやか「……」

受け止めはしたものの、食べ始める気配はなかった。
ぼんやりとリンゴを眺めるさやかからは、何の感慨も読み取れない。

杏子(……さやかは今揺れている。このまま赤の他人のために戦い続けることに疑問を持ちつつある。ここで、あたしというもうひとりの例を知れば……)

……わかってもらえるはずだ。
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