0079 -宇宙が降った日-

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1 :キャタピラ ◆EhtsT9zeko :2016/02/17(水) 17:13:37.14 ID:F4VZZddn0
*宇宙世紀ガンダム(UC0079)の二次オリ作です。

*原作キャラの登場有無はわかりませんが、出てきても道端ですれ違うレベルです。

*世界観だけお借りして勝手に話を進めていきます。

*if展開は最小限です。基本的に、公式設定(?)に基づいた世界観のお話です。

*公式でうやむやになっているところ、語られていないところを都合良く利用していきます。

*レスは作者へのご褒美です。

*更新情報は逐一、ツイッターで報告いたします
ツイッター@Catapira_SS

以上、よろしくです。
 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455696807
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/17(水) 17:24:07.21 ID:F4VZZddno



 故事にはこうある。

 その男は根っからの心配性で、ついには「空が落ちてくる」というあり得ないことを恐れ始めた。

 起こりえない事象をむやみに心配する様を、その男の名を取って、“杞憂”というらしい。

 しかし、その男が心配した「空が落ちてくる」という事象は、今まさに俺達の頭上で起こっていた。

 ここは、オーストラリア南部にあるメルボルンの連邦軍基地。基地には今、膨大な数の一般市民が押し寄せて、混乱の一途を辿っている。

 数時間前、連邦政府からの緊急事態宣言が発令された。サイド2のスペースコロニー、アイランドイフィッシュが、地球の重力圏へ接近しているとの報だった。

地球全土に警戒態勢が敷かれる中、連邦宇宙軍がスペースコロニーを伴って接近しつつあるジオン公国軍を迎撃したが、ジオン側の新型機動兵器に壊滅させられた。

 ただし、その迎撃作戦はある意味では成功を収めていたらしい。ジオン軍の狙いは連邦軍総司令部のある南米だったはずだ。しかし、迎撃によってコロニーの軌道が逸れた。

そしてその結果が、これだ。

 俺は、小銃を構えて輸送機へと続く民間人の列を制しながら、青い空を見上げた。

そこに見えるのは、まるで昼間に浮かぶ月のように白く描き出されているコロニーの前面部だった。

 「くそっ…こんなペースじゃとても間に合わないぞ…」

傍らで、同期のカイル・スミス軍曹が押し殺された声色で呟く。

 滑走路脇のエプロンに詰めかけている民間人はそれこそ数え切れない海のようだ。全ての輸送機を回したところで、ここにいる人間の一割を運ぶことすらままならない。

それでもなお、俺達は混乱する民間人を怒鳴り付け、ときには銃口を突き付け、輸送機へと続く列に付かせる。ここに民間人がいる以上、避難誘導をするのが俺達の務めだ。

例えそれが間に合わないと分かっていたとしても、自分達だけ輸送機でトンズラするワケにはいかなかった。

 こんな事態になればただでさえ混乱するというのに、このオーストラリアにコロニーが落下すると見込まれた直後に出された二つの命令によって、俺達の初動は大幅に遅れた。

総司令部から直接飛んできたのは、最初に「全力迎撃せよ」で、各員が持ち場に走り始めたところで「離脱せよ」の指示。

 その頃には民間人が基地のあちこちの門から押し寄せて来ていて、そのときになってやっと俺達は、輸送機や車輌を回す準備に入るという具合いだった。

 「おい、列を乱すな!」

不意にカイルがそう怒鳴って、小銃を構えた。しかし、銃口を向けられた中年の男はカイルの胸ぐらを掴み

「たた、頼む…! 金なら払う、優先で逃がしてくれっ…!」

と懇願する。そりゃぁ、そうだろう。もし逆の立場だったら、俺だってそうしたい気分だ。

「無理だ。列に戻れ」

カイルが無碍にそう言い捨てると、中年男は突然に怒りの表情を剥き出しにした。

「貴様、俺がどれだけ税金を収めてると思ってるんだ! その辺の貧乏人と一緒にするな! 誰のおかげで飯を食ってると思ってる!」

男はそう怒鳴って、今にもカイルに殴り掛からんばかりだ。俺は慌てて男の体をカイルから引き離して腕の関節を固め、地面へと引き倒す。

「ぐぅっ…! 何しやがる! 民間人に手を出して良いと思ってるのか!?」

男はもがきながらそう俺に主張してくるが、俺の答えは明白だ。

「緊急事態宣言下ですので、公務執行妨害に当たります」

俺は、腰のポーチから手錠を抜いて男の手首に掛け、カイルに手首の手錠の鎖と交差させるようにして、足首にも手錠を掛けるよう言った。

 それから俺は男を引きずって列から離し、エプロン隅に放り投げる。命を選別する権利は、俺にはない。だが、俺達の仕事が滞れば、拾える命すら取りこぼす。

その可能性は排除して然るべきだ。そしてそれは、他の民間人に対しても混乱を制御する抑止になり得る。

抵抗すれば、逮捕拘束されて輸送機には乗れなくなる、と目に見えて理解してもらえるからだ。
 
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/17(水) 17:25:11.26 ID:OFeuK+H5o
既にセンスある
4 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/17(水) 17:25:14.19 ID:F4VZZddno

 「悪い、アレックス」

「気にするな」

互いに、そうとだけ声を掛け合う。

 俺達は、死ぬんだろう。あのコロニーが落ちてくるまで、俺達はここを離れられない。離れない。最後のひとときまで民間人の避難誘導をすることを、決めていた。

だから、目の前の任務に目を向ける。そうでなけりゃ…今すぐこんなところ放棄して逃げ出したい気持ちに飲まれてしまいそうだったからだ。

 不意に、耳に付けていたインカムから空電音が鳴った。

<おい、エプロンにいる陸戦隊! 誰か応答しろ!>

無線の向こうで、誰かが怒鳴っている。

「こちら陸戦隊、アレックス・キーン曹長」

<良かった、混信してて諦めようと思ってた! こちら防空飛行隊のニコル少佐! 輸送機はもう間に合わん! 一人でも二人でも良い、こっちへ回せ! 三番格納庫の前だ!>

少佐の声に俺は顔を上げてエプロンの隅を見た。そこには、発進準備を進めている防空飛行隊のセイバーフィッシュが複数機いる。

 見上げると、コロニーの白い影は先ほどよりもさらに大きくなっていて、さらに急速に拡大しているように見えた。

 俺は、胸が締め付けられる思いに駆られながら、行列に視線を走らせた。

老若男女、あらゆる民間人が、今にも泣き出しそうな、すでに泣き喚いている姿さえ見せて、いそいそとその歩を進めている。

「カイル、その人を止めろ」

俺は、その目をカイルのそばにいた女性に留めた。彼女はまだ幼い子どもをバックルキャリアに抱え、片手で十歳くらいの女の子の手を握っている。

 目に留まった理由は、その少女と視線がぶつかったから、ただそれだけだ。

「どうした、アレックス」

「良いから!」

俺は声を上げて、ライフルを担ぎ拳銃を引き抜いてその女性の腕を引っ張った。

 女性は悲鳴はあげず、しかし、全身の力を込めて抵抗してくる。

「お願いです、せめて子ども達だけでも…!」

彼女は、抵抗しながらも俺にそう訴え掛けて来た。だが、ここで事情を説明すれば、周囲にいる他の民間人が我も我もとなることは明白だった。

「おい、アレックス!」

カイルが俺を制止しようと肩を掴んできた。しかし、説明出来ないのは、同じだ。

「カイル、手を貸せ」

俺はそう怒鳴って、女性を力任せに引っ張った。

 女性は列から引きずり出されまいと抵抗するが、俺の言葉に従ってくれたカイルとの二人掛かりでなんとか列から引っ張り出す。

女性は、子ども達に要らぬ心配を与えないようにか、歯を食いしばり、ただただ黙って俺達の手から逃れようともがく。

「待って、お願い! その子達だけでも、どうか!」

不意に、列からそう声が掛かった。見ると、そこには、俺達が拘束している女性と同じ黒い髪の若い女性がいる。

「あなたは、この方の関係者ですか?」

「はい、妹です」

それを聞いた俺は、迷わなかった。
5 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/17(水) 17:26:00.97 ID:F4VZZddno

 子連れの女性をカイルに任せ、拳銃を突き付けて妹というその女性を列から引き離す。

彼女は、子連れ姉のように抵抗はせず、しかし、俺を鋭い視線で睨みつけてくる。

「やめて…! 母さんに乱暴しないで!」

娘の方が、カイルの脚に絡み付いて母を守ろうと暴れている。俺は、それを横目に妹の方を力任せに引き寄せて、その耳元で囁いた。

「着いてきてください、逃げます」

妹は、俺の言葉にハッとしてその表情を変えた。

 姉は芯の強い人なのだろう。妹の彼女は、頭の回転が早い人のようだ。

 妹は抵抗をやめて、カイルに拘束され、列から引き離した子連れの姉のところまで素直に着いてきてくれた。

 列からは十分距離が空いた。

「カイル、三番格納庫まで“連行”する」

俺がそう告げると、カイルもハッとして顔をあげ、格納庫を見やった。そして全てを悟ってくれたようで、戸惑いを見せていた顔に意思ある瞳を光らせる。

「なるほど」

カイルはニヤっと笑うと、片腕で脚に絡みつく少女を抱き上げた。俺はすかさず姉の方の手を取る。

姉には妹が抱きつくようにして体を近づけ、小声で何かを囁いた。途端に、姉の表情が変わる。

 「走れ!」

俺はそうとだけ叫んで姉の方の手を引いた。少女を抱いたカイルもすぐに駆け出す。

 妹は姉を支えるようにして、姉も、バックルキャリアに収まった赤ん坊の方を心配しながら、それでも抵抗はしていない。

 俺達はエプロンを横切り、フェンスの戸を開けて三番格納庫を含む兵装エリアへと駆け込んだ。

 格納庫の前では、すでに準備の整っているように見えるセイバーフィッシュが並んでいて、そのすぐそばで、俺達に手を振る整備兵が見える。

 格納庫前に到着すると、整備兵達が戦闘機のすぐそばまで先導してくれた。

 見上げたセイバーフィッシュは複雑タイプで、前席にパイロット、後席にはレーダー員が乗っている。それでも、コクピットに掛けられたハシゴは外されていない。

「登ってください!」

整備兵がそう怒鳴って、姉の体をハシゴの上へと押し上げる。コクピットからレーダー員が体をもたげて、後席へと姉を引っ張り上げようとし始めた。

どうやら折り重なって乗り込むつもりらしい。

 「ジェシカ、キャシーは私が!」

「お願い、ミシェル!」

姉妹はそう短く言葉を交わすと、姉はコクピットに乗り込み、妹はカイルが抱いていた少女を受け取って隣の戦闘機のハシゴを登って行く。

 「おい、次来るぞ! 急げよ!」

不意にそばにいた整備兵が声をあげた。見ると、俺達に続いて別の陸戦隊の兵士が民間人数人を引き連れて格納庫に走って来る姿があった。

 「ねえ、あなた!」

エンジン音がけたたましくなる中で、コクピットからそう叫ぶ声が聞こえて来る。振り返ると、姉の方が俺に手を振っていた。

「ありがとう…! 本当にありがとう…!」

その目には、涙が光って見える。

「どうか無事に…! 俺達の分まで!」

俺はそう声を返して、パイロットに合図を送った。パイロットは静かに頷き、コンピューターを操作してキャノピーを閉じた。
6 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/17(水) 17:27:41.89 ID:F4VZZddno

 整備兵達とともに距離を取ると、戦闘機はエンジン音を響かせて格納庫前から滑走路へと進んでいく。次いで、妹達が乗りこんだ機体もそれに追随して行った。

 その姿を見ていると、そばにカイルが駆け寄って来る。

「…これで、天国への切符は確定だな」

カイルはそんなことを言って誇らしげに笑う。

「そうだな…でなきゃ、俺は悪魔と契約したって良い」

俺もそう言ってカイルに笑みを返した。

 さらに別の戦闘機が二機、格納庫の前から滑走路へと進んで行った。もうここに戦闘機はない。あとは、あの輸送機の列に戻るべきか…

 そう思っていた矢先、パタパタと足音を響かせてあとから民間人を連れてきた兵士が俺達のところに現れた。

 軍曹の階級章を付けた彼女は、俺達のようにどこか誇らしげな顔をしている。

 「曹長」

軽く敬礼を掲げて来た彼女に、俺は手を振って笑みで応える。

 もう、そういうかしこまったやり取りは良いだろう。

「君、名前は?」

「アマンダ・ノースウッド軍曹です」

「そっか、俺はアレックス・キーン曹長。こっちは、カイル・スミス軍曹だ」

「よろしくな。向こうに行ったら、仲良くしようや」

カイルは再びそう言って、ニッと笑みを浮かべてみせる。その表情に、アマンダの頬も緩んだ。

 だが、そんな俺達に整備兵の一人が声を掛けて来た。

「皆さん! 基地北東に、旧世紀に使われていた耐核兵器用の地下シェルターあります! そちらへの避難誘導を頼めますか!?」

そう言えば、基地の北東部にある古い倉庫地下にはそんな物がある、って話は聞いたことがあった。

今でも機能しているかは分からないが、あれが落ちてきたとき、地表にいるよりは身を守れる可能性が高いかも知れない。

 「我々は先行してシェルターを開放してきます。そっちのホバーを使って、少しでもシェルターへ人を運びましょう!」

その整備兵の言葉に、俺は自分が諦めてしまっていたことを恥じた。カイルはカイルで

「それなら特等席の切符に昇格だな」

なんて言っているし、アマンダは真剣な表情で

「やりましょう、最期まで!」

と頷いて見せた。

 俺達は整備兵達と別れて戦闘機の武装搬送用のホバーに乗りこんだ。目指すのは、輸送機には確実に乗れないだろう列から最後尾だ。

 俺がハンドルを握り、カイルとアマンダが外に身を乗り出してすぐにでも民間人収容できる体制を整えておいてくれる。

 程なくして列ある場所最後尾に戻って見ると、そこには、子ども連れや体力のない高齢者随分と多く取り残されているのが分かった。

 この騒ぎだ。自由動けない親子連れ年寄りが前に進めないのも頷ける。

 「曹長はすぐに出す準備をしていてください!」

後方からアマンダの声が聞こえて来る。アマンダはホバーから降り、カイルが車内に残って民間人を引き上げ始めていた。

そこに、シェルターに向かったのとは別の整備兵達が乗ったホバーが数台やってきて、民間人の引き上げを手助けしてくれる。

 だが、この状況だ。輸送機以外にも助かる道があると思えば、そこに人が殺到して来るのは自然なこと。

 程なくして辺りはパニックになり始めた。

 そんな中でもカイルとアマンダは、必死に民間人を車内に押し込むのをやめない。

 そんなとき、辺り雰囲気が一瞬、変わった。民間人の殆どが空を見上げたのだ。

 俺もそれに釣られるようにして、運転席から上空を覗き込む。そこには、ほんのりと赤く輝き始めたコロニーのドッキングベイが見えた。もう、時間がない…!
7 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/17(水) 17:28:52.12 ID:F4VZZddno

 「カイル、アマンダ!出すぞ、乗り込め!乗れないやつは車体にしがみつかせろ!」

俺は後席そう怒鳴った。カイル車内に、アマンダは出入り口のすぐそばで、小さな子どもを抱えながら自分の体を入り口の安全バーにピストルベルトを回して体を固定している。

 それを確かめて、俺はアクセル踏んだ。ホバーに群がる群衆を押し退けその何人かは確実に轢いた。それでも俺は、一目散に北東の倉庫へとホバー辿り着かせていた。

 そこではすでに、整備兵達が受け入れの準備を整えてくれている。

「急げ、降りるんだ!」

俺はそう怒鳴って、運転席から車内の民間人を一気に押し込んだ。少し高くなった出入り口から民間人が溢れるよう車外へと飛び出していく。

 アマンダ抱いていた子どもを抱えて倉庫中へと先行して駆けながら、他の民間人を先導している。

 俺とカイルも、なんとか民間人車外に押し出して地上に降り立った。

 そのときになって気づいた。あたりがまるで夕焼けに染められたような色に包まれている。

ハッとして空を仰ぐとそこにあったのは、あの青かった空が真っ赤な雲に覆われている光景だった。

 来る…あと数分もない…!

それは、まごうことなき、“終末”の光景だった。

 「走れ!」

俺は怒鳴って民間人背を押しながらとにかく倉庫の奥にある階段へと民間人走らせる。途中で、人混みの中で転んで泣き出した少年を見つけた。

俺はその子を抱き上げて、自分も階段へと急ぐ。

 あとからまだホバー到着しているが、俺はとにかく階段へと向かい、そしてカイルとともにそれを駆け下りた。

どこまでも続く長い長い階段は、シェルターがよほど地中奥深くに作られているんだろうってことを想像させる。

 混乱と、喚き声が響く中で俺は踊り場で民間人先行して先に走るよう促している女の子を抱いたままのアマンダの姿を認めた。

「アマンダ!」

「このすぐ下がシェルターです! 曹長も、早く!」

「お前が行け、ここは俺は引き受ける!」

「いやいや、切符のランクアップは俺にやらせてくださいよ」

カイルまでもがそんな口を挟んできた。だが、こんな時間も惜しい。俺は抱いていた男の子を地面に下ろすと

「良いか、もうちょっとで良いから、とにかく走れ!」

と告げて階下へと走らせた。

 アマンダは女の子抱きしめたまま動かない。カイルは、いつの間にか背負っていたライフルを捨ててきたようだ。

 俺達の意思は決まっていた。まずは、民間人優先なんだ。

 その思いだけは通じ合っていて、俺達が頷きあって声をあげ、階段を駆け下りてくる民間人さらに奥へ奥へ誘導し始めた矢先だった。

 地鳴りが聞こえ、それに身を竦めた次の瞬間、俺は人生で感じたことない衝撃に体を弾かれ、コンクリートの壁に体を叩きつけられた。

照明が落ち、ガラガラとコンクリートが崩れる音が響き渡る中で、俺は意識を失ってしまっていた。



8 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/17(水) 17:29:33.56 ID:F4VZZddno

つづく。

更新は亀ペースになりそうですが、どうぞのんびりお付き合いくださいませ。
 
9 : ◆EhtsT9zeko [sage]:2016/02/17(水) 17:36:09.06 ID:F4VZZddno
>>3
ありがとうございます!
ぜひとも、ご贔屓に!
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/18(木) 11:18:03.09 ID:MQpcVPphO
はよ
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 08:11:19.67 ID:Er/9lIsiO


昔、巨大な旅客機が自分の近くに落ちてくる夢を見続けた事がある。日航機墜落事故の後だったか。
直接頭の上に落ちてくる訳ではないのになんとも言えない恐怖を覚えている。
その恐怖を思い起こす圧迫感があった。もちろん良い意味で。

どういう展開になるのかわからないけど、いつも通り楽しみに待っています。
12 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:05:12.52 ID:HzvmaPzwo
>>10
亀更新です、すんませぬ

>>11
日航機墜落ですか…世代ですな。
カレンの家族のことを考えてたときに思い浮かんだ本作です。

展開はまだわかりませんが、MSには乗らないと思われますw
 
13 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:15:26.91 ID:HzvmaPzwo


 声…声だ。

 声が聞こえる…

 俺は、ぼんやりとした意識の中で、確かにそれを聞いた。

 鳴き声だ。それも、子どもの声のように聞こえる。

 そのことに気付いて、俺の意識は急速にはっきりとし始めた。

 辺りは真っ暗。一寸先も見えず、一瞬、目を閉じているんじゃないかと自分で自分を疑った。

 目を凝らせど、何も見えない。しかし、鳴き声だけは確かに聞こえて来る。

 グスン、グスンという、か細い鳴き声だ。

 「誰だ? 誰かいるのか?」

俺はそう声を出してみる。声は響かず、まるで箱の中に頭を突っ込んで喋っているようにくぐもって聞こえる。

 だが、俺の声が届いたのか、不意に鳴き声が止んだ。

「生きてるのか…?」

自分が生きているかどうかすらあやふやだったが、とにかく俺はそう聞いてみる。

すると、思いの外、ごく近くから掠れた声の返事が聞こえた。

「どこ…? ねえ、助けて! お姉さんが動かないの…!」

お姉さん…? アマンダ軍曹か? まさかダメだったのか…?

 そう思いながら、俺は体を動かして見る。右腕は曲がらない。何かがつかえて自由には動かせなかった。

左腕は比較自由だが、どうやら正面にコンクリートの壁があるらしく、前には伸ばせない。

右脚は腹に引き寄せられる格好で、左脚は、これも何かに挟まっているようで思うように動けない。

 幸いなのかどうか、大きなケガをしているような痛みはない。

 俺は、なんとか動く左腕を折り曲げて、腰のポーチからペンライトを取り出す。先端をひねると、眩しいほどの光が周囲を塗りつぶした。

 目の前にはコンクリートの壁。左脚は、そのコンクリートの壁から覗く鉄筋の間にはまっている。

右腕は、コンクリートの壁と別のコンクリート塊の隙間に突っ込まれていた。

 何がどうなったかはわからないが、間一髪のところで一命を取り留めているらしいことは分かった。

 俺はペンライトの尻に付いていたストラップを指に引っ掛けて垂らしてみる。すると頭側が俺の顔の方を向いて、目が眩んだ。

 どうやら、ひっくり返った態勢になっているらしい。頭に血が登ったおかげで、覚醒が早かったのかもしれない。

 「光が見えるか?」

俺はペンライトを持ち直してそう声を掛けて見る。すると、ガサゴソと物音がして、コンクリート塊の向こうに突き抜けた右手に、何かが触った。

 一瞬驚いたが、柔らかく小さなその感触が、子どもの手だと気付くのにそれほど時間は掛からなかった。

 「これ…この手、生きてる人ですか?」

「ああ、俺の手だ」

俺は小さなその手をギュッと握り返す。と、手の感触とは別に、何か柔らかな物が手の甲に当てられる。

「怖かった…怖かったです…」

そんな震える声が聞こえるとともに、手の甲に生ぬるい何かが伝う。涙、か。
 
14 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:15:56.94 ID:HzvmaPzwo

 「大丈夫だ…今、そっちに行く」

俺はそう声を掛けて、左脚を捻って鉄筋の間から引き抜く。

 コンクリートの壁の隙間でなんとか態勢を入れ替え、ひとまず天地を元に戻した。

右腕を突っ込んでいたコンクリート塊の隙間は、俺が通れるかどうか、ギリギリの大きさに見える。

それでも俺は、無我夢中でそこに頭を突っ込んだ。

 するとそこには、上から垂れ下がる俺の手にすがるようにしている、一人の少女がいた。

 彼女は、あの衝撃の直前にアマンダが抱いていた少女だ。

ペンライトを握った左手を向けることは出来ないが、漏れ出ている光の中に、俺のと同じ連邦軍の軍服が微かに見て取れる。

この隙間の向こう、彼女達がいる場所は、俺が挟まれているところよりも随分と余裕のある空間らしい。

 それを確かめて、俺は隙間にさらに体をねじ込んだ。右肩と頭が抜ければ、通れないなんてことはない…はずだ。

 左肩が引っ掛かり、腰のベルトが引っ掛かっている。だが俺は、体が痛もうが隙間に体を這わせた。

 左肩が抜け、隙間から左腕を引っこ抜くことに成功する。

俺は、少女に手を離してくれるよう頼んで、両腕をコンクリート塊に突っ張って、一気に下半身を隙間から引き抜いた。

 途端に、思いもよらぬ方向へ重力が掛かって、ドサッと体が落ちた。背中を打って一瞬、呼吸が留まったが、それ以上の痛みはない。

 痛みを堪えて起き上がると、少女が俺の胸に飛び込んで来た。

「お兄さん、軍人のお姉さんが動かないの…!」

彼女は、俺の腕の中でブルブルと震えながらそう訴える。

 そうだ…アマンダ…!

 俺は我に返って、彼女を抱いたままアマンダにペンライトを向けた。

 アマンダは少なくとも体の原型は留めていた。見る限りでは大きな出血もない。俺は、恐る恐るアマンダの傍らに膝を付く。

 ペンライトを咥え、少女をコンクリート塊の上におろして、両手で彼女の体を確かめていく。腕も脚も肋も折れてはなさそうだ。

腹部触って見るが、内出血が起こっているような手触りはない…こればかりは検査をしなければ正確なことは分からないが…

 やや暗めのブロンドの上から頭にも触って見るが、頭部の骨折もなさそうだ。

 胸も微かに上下してるし、口元に顔を近付ければ吐息を感じられる。どうやら、生きてはいるようだ…今のところは、だが。

 「軍曹…アマンダ軍曹…しっかりしろ…」

俺はアマンダの肩を揺すりながら、耳元そう声を掛ける。首や背骨は確かめられていないから、揺するに慎重になった。

 しかし、次の瞬間、アマンダはカッとその目を見開いて、体を丸め盛大に咳き込んだ。

「うげっ…ゲホゲホゲホッ」

「アマンダ…!」

「お姉さん!」

俺がアマンダを支えるのと同時に、少女がアマンダに飛びついた。アマンダは呼吸を整えながら、彼女をしっかりと抱きとめる。

 「軍曹。体は無事か?」

「ええ、はい…あっちこっち痛いですけど…たぶん、平気です」

アマンダは少女の肩越しに、しっかりとした目で俺を見つめてそう応える。それから

「あなたも、大丈夫?」

と少女の顔を覗き込んで尋ねている。少女はコクっと頷いて、再びアマンダの胸に顔を埋めた。

 俺はとりあえずアマンダが無事らしいことを確かめて、ようやく溜息を吐いた。
 
15 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:16:32.92 ID:HzvmaPzwo

 地面となっているコンクリート塊にペタンと座り込んで、改めて自分達が置かれている状況を整理する。

 まずは、とにかく俺達は生きている、と言うことは確かなようだ。

だとすると、落下してきたコロニーはメルボルンを直撃はしなかった、ということだろう。

もしあれが真上にでも落ちてきていたら、こんなシェルターなんてまるごと抉られてしまうに違いない。

 だが、この惨状を見れば、落着したのはそう遠い場所でもなさそうだ。身を投げ出された瞬間のあの衝撃は形容し難い。

まるで、フルーツを絞るジューサーの中に放り込まれたような感覚だった。こうして大きなケガもなくいられたのは、奇跡とでも言うしかない。

 俺は、ペンライトで周囲を見渡した。広さは、1メートル四方ほどで、上には階段だったと思しき段状のコンクリート塊が覆い被さっている。

俺が出てきた隙間とは反対側の壁は無残に崩れて、岩盤らしい地肌を晒している。地面になっているのは、どうやらその崩れた壁の一部のようだ。

 おそらく、落着の衝撃波で地殻そのものが破壊されたのだろう。シェルターに延びるこの階段は、ひしゃげるように押しつぶされたようだ。

そして俺達は偶然にも、潰れた階段の隙間にはまり込めていたらしい。

 コンクリートで固められた階段が潰れるような衝撃が体に直接掛からなかったということが不思議でならない。

ひしゃげる瞬間の壁に打ち付けられていたら、それはおそらく生身で戦闘機に体当たりを食らう以上のダメージとなっていただろう。

形が残っていれば良い方、悪くすれば、ミンチになっていたっていおかしくはなかった。

 「曹長…カイル軍曹は…?」

不意にアマンダが俺にそう尋ねてきた。あの瞬間、俺達は階段の踊り場でひとかたまりになっていた。

俺とアマンダがこれほど近くにいたんだ。カイルやつも、どこかその辺りにいるかも知れない。

 「まだ、見かけてはない…でも、近くにいるかも知れないな…」

俺はそう答えてからふと、現実に立ち戻った。

「ミンチになっていなけりゃ、だけど」

その可能性の方が十分に高い状況だった。

 カイルとは入隊以来からの仲だ。一緒に訓練過程を過ごし、一緒にこの基地配属になった。

一緒に昇進テストを受け、俺は曹長に昇格し、不合格となったカイルは来月もう一度試験を受けるつもりで勉強と訓練に精を出していた。

俺のかけがえのな戦友だ。探してやりたいと思うのは、当然だろう。しかし、今のこの状態ではまずは自分達の身の安全を確保しなければならない。

 特に、アマンダにしがみついて離れない少女…彼女だけでも生かして、地上へ上げてやりたかった。

「許せよ、カイル…」

俺はそうとだけ呟いて、ペンライトでもう一度辺りを照らす。

階段は完全に潰れてはいるが、あちこちに隙間は見える。あの間を登って行けば、地上へ抜け出ることができるかも知れない。

 「アマンダ。先行して退路を探してくれ。その子は俺が運ぶ」

カイルの話をしていたところで、そう指示を出した俺の顔を見やったアマンダは、すべてを飲み込んでくれたうえで、黙って頷いてみせた。

 自分のポーチからペンライトを取り出したアマンダが、身軽に瓦礫を登り始め、あちこち隙間の中を覗いていく。

 程なくして、アマンダはその内の一つに上半身を潜り込ませて覗き込み、中を確かめてから俺達を振り返った。

「曹長、この穴、通れそうです」

「よし、とにかく脱出しよう…」

俺は頷いて、ピストルベルトを外して少女の体が離れないように固定する。

「お嬢ちゃん、名前は?」

「あたし…ニコラ。ニコラ・ハウゼン」

「ニコラ、か。俺はアレックス。彼女はアマンダだ。必ずここから出してやるから、安心てしがみついてな」

俺はニコラにそう伝えて、彼女の頭を撫でてやる。ニコラは、そんな俺に沈痛な面持ちで頷き、そしてギュッと抱きついて来た。
 
16 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:17:16.78 ID:HzvmaPzwo

 俺はニコラの背をポンポンと叩いてから、アマンダを追って瓦礫を登り始めた。

 妙なもので、折り重なっているコンクリートの塊は相当な量であるにも関わらず、それほど位置関係が変わっているわけではなかった。

 アマンダが潜って行った先にはひしゃげた階段があり、その上に登って少し上がるとその先には別の方向へ伸びる階段だったらしいコンクリートの段が姿を表す。

 損壊状況からみて、どうやらこのシェルターへと続く階段のシャフトは、横からの強い圧力によって押し潰されたことが伺える。

瓦礫の多くは、その圧力に耐え切れなかったシャフトの壁の部分で、階段の構造そのものは、比較的形を留めて残っている。

こいつは、思ったよりも楽に外へ出られそうだ。ずっとロッククライミング続けるつもりでいたが、半分以上は階段を登る程度の要領で上がって行ける。

 ふと、先行していたアマンダがこっち振り返った。右手の指先を二本、自分の目に突き立てるような仕種を見せてから、今度はその目を片手で覆う。

 見るな、というハンドサインだ…俺に、じゃない。ニコラに、ってことか…

 「ニコラ、少し砂埃が立ちそうだ。目を瞑っていられるか?」

俺がそう尋ねると、ニコラは

「はい」

と小さく返事をして、俺の肩口に顔を押し付けた。

 それを確かめて、俺は改めてアマンダを見やる。アマンダは上方に続く空間の幾つかの方向を指差した。

そこに、ニコラに見せるべきではないものがあるんだろう。

 俺が頷いて返すと、アマンダは先へとゆっくり進んでいく。俺も、足元を確かめながらそれに続いた。

 大きなコンクリートの壁の隙間から、その先の空間足を踏み入れた俺が見たものは、人間の上半身だった。胸から下はない。

何かに挟まっているのではなく、完全に喪失しているのだ。

 ないはずはない、とは思っていたが、いざこうして目の前にすると、全身が寒気だつ。

おそらく、俺がこんな風になっていないことに特に理由はない。本当に、ただの偶然だってことが、改めて理解できてしまったからだ。

 俺は、それでもその遺体から視線を見切って前を向く。怖気づいている場合でもない。悲しんでいるときでもない。

今はとにかくニコラと、俺達自身の安全を確保することが第一だ。

 そうは思えど、足を進める先には、人の頭や、腕足…どこのだか分からない臓器…

それが最早人間だったと思うことすら無理があるような、擦り潰された肉塊…そんな物がそこら中にある。

 生存者の気配はない…ここいた連中は、俺達のようにはいかなかったようだ。

 不意に、アマンダが潰れた階段の途中で足を止めた。

「曹長、これ…」

アマンダがそう言って足元を照らしている。見るとそこには、血に濡れた足跡のような模様があった。

 形が崩れてしまっていてサイズや靴底の形状は分からないが、その足跡は、階段の先へと続いている。

 「生存者か…?」

「…まだ、新しい足跡のようです…私達の他にも、助かった人が居るのかもしれません」

アマンダ表情に、微かに希望の光が宿ったのを、俺は見た。

俺も、どこか心が明るくなるのを感じる。誰でも良い…無事で居てくれ…!

 そんな思いは、俺達の足に力を与えてくれた。一段一段と潰れた階段を登り、コンクリート塊をよじ登って、上を目指す。

 どれくらい登ったか、俺は上方に、何かが光るのを見た。瓦礫の隙間から、光が溢れている。

 「地上…?」

アマンダが、そんなことを呟く。日の光にしては弱々しい気もするが、それでもどうやら、幻やなんかではなさそうだ。

 俺はアマンダ顔を見合わせて、ホッと息を吐いていた。もうひと頑張り、あの光方へ向かってみよう。
 
17 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:17:54.43 ID:HzvmaPzwo

 そう思って、足を踏み出した矢先だった。

 突然に、シャフトの底から湧き上がるような地鳴りが聞こえ、シャフト全体が大きく揺さぶられた。

 まさか、崩壊が始まったのか…!?

 俺はとっさにニコラの頭を庇い、周囲から崩れて来るかも知れないコンクリートの塊の様子を伺う。

 ニコラは悲鳴すら上げずに、俺の首に回した腕に力を込めている。

 パラパラと小石や埃が落ちてきて、ミシミシと嫌な音を立ててコンクリート同士が軋んでいる。

立っていられないほど揺れで膝を付きながら、落下物を避けるべく、なるべく頑丈そうなコンクリート塊下へと移動した。

 一分か、もっと長い時間だったか、とにかく揺れは収まった。シャフト全体が崩壊する様子はない。

だとすれば今のは…地震か? コロニー落下の影響で、地殻に歪みでも出たのか…

もしそうだとすると、第二、第三揺れが起こる可能性がある。次の地震で、シャフトが崩壊しないとも限らない。

 「アマンダ、急ごう」

「はい、曹長」

俺達は言葉を交わして先程よりも急いで瓦礫を登っていく。

 頭上から漏れる微かな光が近付いて来ているの分かった。間違いない、あれは、外の光だ…!

 だが、そんな喜びと興奮も束の間だった。

 不意に、まるで滝のような音が聞こえたと思った次の瞬間、俺達の頭上から何かが降ってきた。

 バタバタと体に叩きつけられるそれが何かを悟るのに、俺はほとんど時間を必要とはしなかった。

 水だ。しかも、これは…海水…!

「そ、曹長…!」

俺達の一段上で、アマンダが悲鳴を上げ、必死に瓦礫にしがみついている。

 メルボルンは海すぐそばだ。だからと言って、この基地は海岸線から内陸に五キロは入ったところあるここに、津波が到達するだなんて…!

「アマンダ!手を離すな!」

俺はそう怒鳴りつつ、ニコラをきつく抱きしめてそばのコンクリート片から飛び出していた鉄筋を握る。

 ザザザザっという水が流れ込む音に紛れて、俺は声を聞いた。

「うわぁぁ! 水だ! 水が降ってきてる!」

「誰か、助けて! 動けないの! お願い!」

「溺れ死ぬなんて嫌だ…逃げ道はどっちだよ!?」

悲鳴だ。コンクリートに埋もれた下階層から、無数の悲鳴が聞こえてくる。

 まだ…まだ下には…俺達のように無事だった連中が…

 俺はそのことに気が付きつつも、歯を食いしばり、ニコラを抱きしめてただただ自分の身を保定していた。

 助けには、行けない。どこに、どのくらいの深さで埋まっているかすら見当がつかないんだ。

誰も助けられないどころか、二次災害の被災者になる…それは、避けなければならないことだ…でも…クソっ…!

そこに、生きてる人が居るって言うのに…!

 「アマンダ!」

俺は、アマンダの名を叫んだ。

「こっちに来てくれ、ニコラを頼む!」

「ダメです、曹長!」

アマンダは、そう酒びながら降り注ぐ海水に飲まれないよう、瓦礫に手を付きながら俺達のところまでやってくると、

俺とニコラを庇うようにして瓦礫に押し付けた。
 
18 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:18:30.17 ID:HzvmaPzwo

 ザバザバと降り注ぐ海水が容赦なく俺たちを打ち付け、呼吸すらままならない。

 「こんな状況じゃ、無理です!」

アマンダが俺の耳元で、息も絶え絶えにそう叫ぶ。アマンダにもあの叫び声が聞こえているらしい。

それでもなお、俺をニコラごとコンクリート塊に押し付けて制止を掛けてくる。

 分かってる…分かってるんだ…クソ…クソっ!

 俺はアマンダの体を押し返すことも出来ず、ひたすら、心の中で悔しさを噛みしめることしか出来なかった。

 そんなときだった。ガツン、という鈍い金属音がシャフトの中に響いた。

ハッとして上を見上げると、さっきまでの光が途切れてほとんど見えなくなっていた。

 まさか…波で流されてきた何かが、出口を塞いだ…?

 「そ、そんな…」

アマンダの、そんな弱々しい声が漏れる。

 俺はニコラごとアマンダを抱き寄せて、瓦礫にジッと捕まり身を寄せる。

 こんな死に方かよ…最期まで命を助けようとした挙句に、避難させた奴らを溺死させて…

俺達も、そうやって死んでいくってのかよ…!くそったれめ!

 行き場のない怒りが心の中で爆発する。

 カイルじゃないが、神様なんてのがもしいるんだったら…いったい俺達になんの恨みがあるってんだ!こんなのは…こんなのは、ナシだろうよ!?

 「おぉい、アレックスか?」

だが、そんなとき不意にどこからか声が聞こえた。

水音に紛れて、頭上から降って来たように思えて見上げると、そこには煌々と眩しくライトの明かりが光っている。

待てよ…今の声…!

「カイルか!?」

「ったく、天国への遊覧飛行かと思ってたら、地獄へ宙吊りだ! ふざけんじゃねえってんだよ!」

眩しく照らされる向こう、そこには、体にハーネスを巻きつけ、ワイヤーか何かで吊るされているカイルの姿があった。
 
19 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:19:42.92 ID:HzvmaPzwo

 カイルは水押し流されるようにして俺達のところに降りてくると、体に付けていたタンデム用のハーネスで俺達三人をまとめて絞め上げた。

そして、大声でインカムに怒鳴る。

「よし、良いぞ! 巻け!巻き取れ!」

<えぇ!? ど、どれですかぁ!?>

耳から外れていたが、ボディアーマーに引っかかっていた無線のレシーバーから、聞きなれない黄色い声で返事が返ってくる。

「黒い丸っこいのが付いたレバーだ、急げ!」

カイルが無線の声に再び怒鳴ると、ギシっという衝撃があって、ふわりと体が浮き上がった。

瓦礫の中を俺達はまさに釣り上げられた魚のように引き上げられていく。上から降り注ぐ水圧が、釣り上げられ上昇していけば逆らうこととなりより一層強くなる。

 俺はちょうどカイルと向き合うような格好で、アマンダとニコラを抱きしめてその水圧から可能な限り二人を庇う。

やがて、俺達の頭上に見えて来たもの、それは、鋼鉄製の板だった。その板際からこのワイヤーは伸びている。

 そうか、ウィンチか…!俺がそのことに気付いたのも束の間、カイルが再び無線に怒鳴る。

「よし、止めろ! ギアをリバースに入れて後退だ!」

<は、はいぃ!>

そんな叫び声とも知れない声が無線に響き、頭上に再び光が覗く。

やがて俺達は激しい水流が押し寄せる穴の出口に辿り着いていたそれでも戦車はさらに後退し、俺達は引きずられるままに穴からは脱したものの、押し寄せる水の中に没してしまう。

 そもそも呼吸がまともに出来ない状況から水中に引き込まれたせいで、すぐさま息の限界がやってくる。

そんなとき、俺達を引いていた力が弱まった。俺は水中の中で上下を確かめ、地面と思しき方に手を付く。

すると思いの外簡単に、呼吸が出来る空間に顔が出た。

 いや、それは空間なんてものじゃない。紛れもなく、地上だった。

 見回す限り、あたり一面が水に覆われ、空はまるで日没直後のような薄暗さではある。

殺到する水の勢いは、ますます強くなっているように感じられた。

 「アレックス、ぼうっとしてるな! 登れ!」

カイルの声が聞こえて俺はハッとして顔をあげる。そこにいたのは、特徴的な二本の155mm滑腔砲を備えた、連邦軍のMBT、61式戦車だった。

 俺はハーネスつながったままのカイルと息を合わせて立ち上がり、アマンダとニコラを抱えたまま、膝下までのところを急流よろしく流れて行く水を掻き分けて、61式戦車のすぐ前まで辿り着いた。

 「ニコラ、登れ!」

俺はハーネスによってアマンダとの間に挟まっていたニコラを抱き上げて戦車の上へと押し上げる。

その次にアマンダを上げ、俺とカイル戦車の主砲に手を掛けながらその上に登った。

 カイルはハーネスを体から外し、ついでワイヤーとハーネスの連結部外して水の中へと放り投げる。

そして、呆然とする他にない俺の肩をぶっ叩いて言った。

 「アレックス、主砲座の中に入ってろ! これ以上水かさが増えるとバッテリーをやられる、最高速で逃げるからな!」

「カイル…お前、無事で…」

だが、俺はただただ、そうとしか声が出ない。

自分達が助かった安心感と、カイルの頼もしい姿を見た安心感とで、全身が虚脱してしまうような感覚に襲われていた。

 カイルが操縦席へ潜り込んですぐ、戦車は猛スピードで発進する。

その直後、砲塔に捕まって座り込んでいた俺が、アマンダに主砲座へ引きずり込まれたのは言うまでもなかった。


 
20 : ◆EhtsT9zeko [saga]:2016/02/20(土) 16:20:10.65 ID:HzvmaPzwo

つづく。

 
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/20(土) 17:00:02.11 ID:V3cGTGdd0

続きが楽しみ
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