勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編

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591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 13:21:15.64 ID:rPwqEQNR0
ずっとおいかけていて、親父殺してから続きまだかな、と思っていたら来ていた。
こうなって欲しい、という思いがいつもあるなか逆に進む(ある意味では真っ直ぐだが)ブレなき話の進め方が特に面白い。
どんな結末になるのか、楽しみにしています。
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:48:16.13 ID:x2aK7fkPO
おつつつt
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:52:23.61 ID:CRrNwbL4O

納得行くまで十二分に練ってから終わらせて欲しい
最初から楽しく読ませて貰ってるし何時までも待つ
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 02:05:16.50 ID:A39SGyzLo
おつです
魔界での選択はなるべくしてなったものだよなぁ、もうそうするしかないっていう
この最後にタイトルがでるとか超熱いのにどうしようもなくひたすら心が痛い
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 12:22:43.16 ID:km73S/R5O
おつおつ
久しぶりの更新に心震えた!
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 01:43:00.17 ID:cmKZfODQ0
すげぇ…
マジすげぇ…
すげぇとしか形容できない…
鳥肌もののすげぇだわ…
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 15:11:54.94 ID:ssjy+CH00
>>594
素直にとれば、伝説の勇者の名が偉大すぎて勇者になろうとするがなりきれずにあがく息子って意味だと思っていたが
この最終局面で出てくると神なの!?魔王なの!?ってまったく印象が変わってしまうんだもんなぁ…
勇者の中で必要性があるからそうするんだろうけど、最後まで自分のやりたい事をやりたいように出来ないもんかなぁ、騎士のように。
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 23:17:36.66 ID:igzfx1JqO
必要性っていうか、勇者はずっとやり方変えてないと俺は思うけどね
少しでも可能性があるなら摘み取る…って部分
やりたいようにやってるんじゃないかな
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 23:36:40.36 ID:lNow/SDw0
>>598
いや最初からってわけじゃあないだろう
獣王に敗れて母からの手痛い仕打ちがなければ、きっと手を取り合えてたんじゃないか?
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 11:20:02.28 ID:S2u9sModO
名作すぎて何度も最初から読み直してしまう
戦士たんと幸せになってほしいじゃないと勇者が可哀相すぎると思いつつもハッピーエンドにならなさそうな雰囲気しかしない
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/30(日) 18:12:48.04 ID:DxLynjAX0
続け
602 :1です [sage]:2017/08/11(金) 13:38:37.90 ID:6WWetJv00
8月中の投下を目指して鋭意製作中です

申し訳ありません しばしお待ちを
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 15:37:40.58 ID:55sfy/1gO
>>602
楽しみに待ってます!
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/11(金) 15:56:59.02 ID:7uSaTHBso
待ってるよ〜
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:18:05.85 ID:5Qa2Xop80
まつよ!
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 22:00:41.61 ID:KhSh8jNG0
>>602
やったー
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 16:12:39.76 ID:bkDYjIGno
ひゃっほいありがとう
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/20(日) 18:01:17.96 ID:Sy8cVnTM0
来週の日曜あたりかな
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/21(月) 15:35:06.99 ID:ycfMcVDsO
きたあああああああああああ!!!







まだか
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 10:43:01.57 ID:7atVpcZjO
わくわく
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 22:52:22.89 ID:evy7owEB0
wa-i
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 23:26:03.35 ID:IPOps15EO
どうやらまだのようだ…
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 23:48:55.48 ID:AqqPyejPO
待機…
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 11:51:21.54 ID:p1X+NqAnO
きたーーーーーーーーー!!!

きてなかった
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 20:15:48.10 ID:sX5SkYXX0
おいおいおい…そう焦らすな焦らすな
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 02:41:20.12 ID:6tkRcW1lO
あせらす
じらす
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 12:15:00.92 ID:HMrmcyW70
しらすと
くらす
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 23:49:25.10 ID:nFtkUw1uO
ぱらすと
くらす
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 11:39:24.73 ID:1Ra9XN3jO
わくわく
してる
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 11:51:23.69 ID:Xhs7r51Mo
べねろぺ
くるす
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 10:11:36.02 ID:G6JnVIavO
ぺろぺろ
なめる
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/03(日) 22:22:27.06 ID:py456L/90
まってる
いまも
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 04:25:35.59 ID:irX6ciHK0
今日こそくるかな…?
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/10(日) 18:14:02.66 ID:Nw5kVm3IO
いつまでも待つよー
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/17(日) 22:56:03.87 ID:nz21bom+0
こにゃにゃちわー
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 01:42:43.92 ID:Bl40M0PW0
2017.11.3で丸3年
それまでに完結できるかな
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 03:26:18.94 ID:9X0WJMMxo
>>626
急かしてもしょうがないし、俺は>>1の書きたいようにして欲しいと思ってる

完結はして欲しいが
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 10:49:38.54 ID:lOl5buAVO
クオリティを維持して書いてくれるのが一番嬉しいからじっくり煮詰めて作者さんが納得できる内容で投下してほしい

俺はいつまでも待つ
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 02:01:22.98 ID:coSzobIE0
わたしま〜つ〜わっ
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/21(木) 03:54:27.22 ID:9IwMAyQB0
いつまでもまーつーわっ
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/25(月) 01:37:10.48 ID:TvIpqrIW0
日曜日 毎週ここに きてがくり
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/25(月) 11:54:29.29 ID:eCB3RYkA0
なんだage荒らしか
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 00:39:40.06 ID:O0PeR8qD0
今年中には来るかな?
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/10(火) 03:02:59.14 ID:rMYs8FzC0
8月中には更新します(今年の8月とは言ってない
635 :1です [sage]:2017/10/17(火) 18:38:47.73 ID:69W6nJ2Q0
>>634
ぐふっ…面目ねえ…面目ねえ……
あと少しだけお待ちくだせえ……
11月3日…丸三年経つまでには何とか……!
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 19:27:23.84 ID:Q5wdCRAA0
忙しいときは2ヶ月に1回の保守の書き込みしてくれりゃ落ちないから頼むぞ
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 22:05:54.62 ID:/o/2iyQ+0
>>635
うおお!生存報告だけでもありがたい!
どうでもいいけどこのss読み始める頃にはまだ学生だったのに今じゃ社会人なのは感慨深い
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 00:11:39.26 ID:2jR8OWo8O
待つよ
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 01:52:56.00 ID:CjahGib80
まつ!!
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/18(水) 08:41:39.72 ID:u64BqXDwo
もちろん待つよ
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 19:50:24.69 ID:bskH5GU40
最終章ラストを目前にして読み直してみたがとんでもねぇストーリーだな改めて思う
凄すぎるよリアルタイムで読めたことを光栄に思うよ
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/28(土) 23:32:53.66 ID:rR8D/t7h0
今日もこないかあ…
どうでもいいけど、この勇者何処と無く横島くんっぽい
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 00:21:29.74 ID:JCKqljucO
11月3日の3周年は祝日やな
お祝いしよう
644 :1です [saga]:2017/10/30(月) 19:05:48.46 ID:X1ID+g1h0
目処が立った…目処が立ったぞ……!

丸三年かかってしまったけど、11月3日、完結します!
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:19:34.35 ID:2hdhU/0Wo
おおおおおおおおいわああああああああああああい
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:22:29.60 ID:XjlNOC2ao
(゚∀゚ 三 ゚∀゚)
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:35:54.59 ID:CT3COYoPO
やったぜ
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:50:46.25 ID:FP+IuOA3O
キター!!!
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 19:55:21.22 ID:nDieHJFDo
やったぜ
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 21:07:24.67 ID:aSQNH06uO
うおおおおおおおおお!!!!!!!
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 02:07:51.56 ID:yWpJkGT30
おおおおおおおおお(泣

うわああああああああ!
嬉しいけど終わるの悲しい
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 08:33:18.59 ID:qsJXtJHg0
寒いから薄着待機して待つ!
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 08:43:37.48 ID:l6MfoZIco
キタァァァァァァァァ
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 13:04:57.87 ID:twebUpqUo
マジか!!!!!
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 00:17:19.47 ID:70X6RJz20
うぇ?うぇぇええええええええいっ!うぇいうぇい!
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 08:13:29.98 ID:eoh/mpFj0
俺「うえいあおぇあああああああああああああああああああ!!!!!!」
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 19:37:13.95 ID:70X6RJz20
>>656
僕「なんやこいつ…」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/01(水) 20:08:01.03 ID:oXRzz/JA0
>>656
獣王「懐かしいわ」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 00:52:45.49 ID:FWg7IRBqO
>>656
そのシーンすげぇ好き
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/02(木) 11:25:22.68 ID:2+n2CiQkO
さて、明日に備えて最初から読み直してくるか
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 01:00:16.79 ID:iF0c+y3X0
いよいよ終わっちまうのか…少し悲しいな…
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 01:54:43.55 ID:xAx1+w5n0
婆さんや、投下はまだかのう
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 02:43:38.32 ID:RBIXGmx60
とりあえず3周年おめでとう!
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/03(金) 02:58:54.10 ID:b990MdY6o
このssはここに来て初めて読んだ話だな
この3年間色んな所でssを読んだけどこれが一番面白いよ
完結寂しいけど最後まで頑張れ!
665 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:17:34.54 ID:uAQKxthS0
1です

今回は故あってトリップ付き

最後の投下を始めます
666 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:18:11.03 ID:uAQKxthS0







 ―――――三十年後。







667 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:18:47.13 ID:uAQKxthS0
 ――――雲一つない青空。
 一面に広がる黄金色の小麦畑。
 涼やかな風がたわわに実った穂を揺らした。
 荷台にくくられた馬は、たてがみを靡かせながら街道沿いでのんきに草を食んでいる。

「んしょ。んん…!」

 小麦畑には、うんうんと唸りながら収穫作業を行う二人の少年の姿があった。
 二人とも顔立ちがよく似ている。きっと兄弟なのだろう。
 年の頃は―――兄が10歳ほどで、弟はその二つか三つ下といったところだろうか。
 二人とも額に汗をかきながら一生懸命小麦を掴み、鎌を振るっている。
 ふと、ごろごろと雷の音が聞こえて、弟は空を見上げた。
 天気は変わらず快晴で、雨雲らしきものはひとつも見当たらない。
 弟は怪訝に思って周りを見回すが、兄も、少し離れたところで作業をしている父も雷の音を気にした素振りは見せず、急な雨を警戒する様子もない。

弟「……?」

 首を傾げる弟だったが、すぐにその疑問は彼の頭から消えた。
 道の向こうに、彼の敬愛する祖父の姿を見つけたからだ。

弟「うわあ〜! じいちゃん、すっげえ〜!!」

 弟も兄も、実に子供らしく大はしゃぎで声を上げた。
 彼らの祖父は、なんと2m四方に及ぼうかという小麦の束を担いできたのだ。
 重さは500s以上あろう。
 およそ人が持ち上げられる重さではない。いわんや、担いで歩こうなど。

兄「俺も早くじいちゃんみたいに力持ちになりたいなぁ〜」

 兄が無邪気に願いを口にした。
 荷馬車の荷台に収穫した小麦を下ろしながら(それは片腕で抱えられるほどの量で、精々2〜3s程度だ)、父は苦笑して言った。

父「じいちゃんみたいには無理だよ。あの人は、ちょっと特別だからな」

弟「とくべつ?」

 弟が聞き返した。

父「ああ、特別だ。なんせあの人は、大魔王を打倒してこの世界に真の平和をもたらしたあの勇者様のパーティーの一員だったんだからな」

668 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:19:29.38 ID:uAQKxthS0


 ―――この平和な世の中に、魔物の姿はもはや無い。


 つまりそれは、『精霊の加護』という現象の消失をも意味していた。


 土地を害する魔物が姿を消した今、精霊が人間に力を貸す義理はない。


 さりとて精霊は個々人に既に与えられていた加護を殊更に取り立てるような真似もしなかった。


 この世界にわずかに残る、その身に精霊加護を宿した人間は、治水工事や農地の造成、その他都市建設などの分野において大いに活躍した。


 しかしながら、更にあと三十年も時が経過すれば、加護を持つ人間はこの世に一人もいなくなるだろう。


669 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:20:14.16 ID:uAQKxthS0



 かつて勇者が断行した武力の根絶により徴兵制が廃止になり、多くの人材が野に下ったことで人々の生活文化は目覚ましく発展した。


 例えば、元兵士であった者の多くは冒険家となり、世界各地を探検した。


 その結果、これまで人類未踏の地とされていた地域が次々と開拓され、新種の動植物や鉱物が数多く発見された。


 国家による過度な徴税が禁じられ、衣食住に余裕が出来たことで研究に没頭できる学者も増えた。そういった者たちの手によって前述の新しく発見された動植物、鉱物の研究は進み、様々な利用法が開発された。


 また、探検・開拓が進んだ副産物として、地図の精度が格段に向上したこともこの三十年間の特徴の一つと言えよう。


670 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:20:49.87 ID:uAQKxthS0



 生活水準が向上し、医療技術も発展したことで世界人口はどんどんと増加していた。


 増加する人口を賄うため、土地開拓は進み、人々の生活圏は広がっていった。


 開拓の拠点として集落が生まれ、多くの人の交流点では街が発展する。


 そうして目まぐるしく進む開拓の中で、国境線はあやふやになりつつあった。


 いつか人類は、境界線をめぐって隣人と争いを起こすことになるかもしれない。


 しかし今のところ、世界は確かに活気に満ちていて、人々は熱気に溢れていた。


671 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:21:32.60 ID:uAQKxthS0

「ああ……確かに、世界は平和で、人々は幸せなのだろう。だがな……」

 背負っていた小麦を下ろし、汗をぬぐって初老の男性は―――かつて勇者と共に旅をした男―――武道家は、ぽつりと呟いて空を見上げた。
 澄み渡る青空の下にありながら、武道家の顔は暗い。
 それはきっと、収穫作業の疲れだけが原因ではなかった。
 雲一つない青空に、遠雷が響いている。

武道家「お前の幸せはどこにある? お前は今、笑っているのか? ――――勇者」

 今もどこかで、平和維持のための断罪装置として彼はその力を振るっている。
 ふぅ、と武道家は深く長くため息をついた。

672 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:22:25.48 ID:uAQKxthS0
 港町ポルトでは、近年になって実用化された蒸気機関を搭載した船―――『蒸気船』が盛んに行き交っていた。
 その船の一つから、港町ポルトに降りる影がある。
 肩のあたりで切り揃えられた水色の髪。
 優しいまなざしに、老いてなお瑞々しく張りを保つ豊かな胸。
 かつての勇者パーティーの一人―――――僧侶だ。

「相変わらず若々しいわね。羨ましいわ」

 僧侶を出迎えたのは、腰まで伸びた艶やかな黒髪が特徴的な女性。
 かつてこの地で僧侶の友となった『黒髪の少女』だ。
 この少女も美しく年を重ね、今はもう『黒髪の貴婦人』といった様子だ。

僧侶「あなたこそ。相変わらず素敵な黒髪ね」

 笑みを浮かべ、言葉を交わした二人は肩を並べて歩き始めた。

僧侶「この町も相変わらずね。素晴らしい活気だわ――――お仕事は順調?」

黒髪の貴婦人「ええ、とても。この町が想定外のスピードで発展を続けるせいで、家の仕事はもうてんてこまいといったところだけど、それも嬉しい悲鳴として享受しているわ」

僧侶「お手紙が少なくなったのは寂しかったけれど、それもお仕事が順調な証だと喜んでいたわ。あなたが仕事を継いで、今やご実家はこの町最大手の商会にまで発展したものね」

黒髪の貴婦人「私に商才があったなんて、我ながら意外だったけれど。お手紙の返事が遅くなったことは本当にごめんなさいね。お詫びに今日は美味しいケーキを御馳走するわ」

僧侶「あら、それは楽しみ」

 三十年―――彼女たちはあれからずっと親交を深めてきた。
 近況を報告し、悩みを共有し―――――互いを導きあってきた。

僧侶「……旦那さんとは、うまくやってる?」

黒髪の貴婦人「ええ、とても……こんな私をずっと愛してくれて……本当に、ありがたいことだわ」

 仲睦まじくケーキをつつき、和やかに談笑していた二人だったが、いつしかその顔は神妙な面持ちになっていた。
 きっかけはきっと、さっき遠くで聞こえた雷の音。

黒髪の貴婦人「幸せにならなくてはならないと思った。あの人が平和にしてくれた世界で、幸せになる努力を怠ることはひどい裏切りだと思った。そう思ったから、二十年前に夫のプロポーズを受けた」

 黒髪の貴婦人は、かつての『黒髪の少女』は、きゅっと唇を引き結ぶ。

黒髪の貴婦人「けれど私は未だにあの人を吹っ切ることが出来ずにいる。この遠雷の音を聞くたびに胸がぎゅうと締め付けられる思いがするわ。そんな私を、夫がどんな思いで見ているのか……とても不安だわ。とても不安で、とても申し訳ない……」

僧侶「いいのよ」

 黒髪の貴婦人に、僧侶は柔らかな笑みを向けた。

僧侶「私たちは人間で、ましてや女なんだもの。感情を完全に整理することなんてできないわ。大事なのは、今確かにある想いを見失わないこと。旦那さんのこと、愛してるんでしょ?」

黒髪の貴婦人「もちろんよ。それだけは断言できるわ。でなきゃ、体を許して子供を産むなんてことするものですか」

僧侶「ならいいの。女なら誰だってたまには甘やかな初恋の記憶に浸りたいものよ。あなたが特別なことなんてな〜んにも無い」

 胸を張ってそう断言する僧侶に、黒髪の貴婦人はくすりと笑顔を見せた。

黒髪の貴婦人「本当に強い人ね。あなた、昔っからちっとも変わらないわ」

僧侶「うふふ。こう見えても私、世界で二番目に強い女よ? それに、もう六人も孫のいるおばあちゃんなんだから! 強くなきゃ、やってられませんっての!」

黒髪の貴婦人「そうそう。実はね、私も来年にはおばあちゃんになるのよ」

 僧侶は目を丸くする。
 黒髪の貴婦人は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

僧侶「うわぁ〜!!!! いつ!? 予定日はいつになるの!? 私絶対お祝いに行くからね!!」

 まるで我が事のように喜び、僧侶は肩を弾ませる。
 机の上のケーキはまだ半分以上残っている。
 淑女二人のお茶会はまだまだ終わりそうにない。

673 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:23:09.91 ID:uAQKxthS0
 『第六の町』の西に位置する大森林。その奥深くに存在する『エルフの里』。
 エルフの里も、この三十年で大きく変わりつつあった。
 魔王との決戦の際の共闘がきっかけで、人間との共存の道を探ろうという気運が高まったのだ。
 このエルフの歴史の大きな転換点を迎えて、エルフの長老は長の座から身を引き、年若いエルフの少女が新たな族長となった。
 新たな族長となったエルフの少女が元々人間に対してかなり好意的であったことも手伝って、エルフと人間の交流は進み、エルフの里の存在は公になりつつあった。

エルフ少女「ああ〜もう! 人間滅ぼしちゃおっかなぁーー!!!!」

エルフ少年「うわぁ!! いきなり何言ってんだ姉ちゃん!!」

 椅子の背もたれに思いっきり背を預けながら両手両足を伸ばし、新たな族長、『エルフ少女』は叫んだ。
 族長補佐という立ち位置についたその弟、『エルフ少年』はその突飛な発言にただただ目を丸くするばかりである。

エルフ少女「…………ダメか〜。二十年くらい前まではこれ言うと目の前に飛んできてくれたけどな〜。もう相手にしてもらえなくなったか〜」

エルフ少年「そりゃおんなじ手口を何年も使ってりゃあそうなるよ。ってか、姉ちゃんそのうちマジで裁かれるぞ。あの手この手で勇者様を呼ぼうとして……」

エルフ少女「だぁって彼ったら全っ然こっちに顔出さないんだもん。こっちから行こうにも居場所全くわからないし……ここまで世界開拓が進んだこのご時世で、未だに影も形も掴めないなんて信じられる?」

エルフ少年「簡単に手が届く場所に居ちゃ、威厳が損なわれる。そう考えてのことじゃないかな。もっともあの人の場合は、どこにでも現れすぎて逆にどこにいるのか分からなくなっちまってるパターンだと思うけど」

エルフ少女「……ほんとに、どうしてそこまで自分を犠牲にしちゃえるんだろうね。ずっと一人で、孤独に役割に徹して……馬鹿だよねえ、ホント」

エルフ少年「……姉ちゃん」

エルフ少女「いくらエルフが人間より長生きだって言ったって私の寿命は精々あと150年程度……永遠を生きる彼には到底寄り添うことは出来ない。ならばせめて、私は私に出来ることで彼の手伝いを―――なんて、柄でもない族長なんて立場を引き受けちゃったけどさ」

エルフ少年「……正直、ちょっと意外」

エルフ少女「何がよ?」

エルフ少年「勇者様のこと、結構本気だったんだな、姉ちゃん」

エルフ少女「好きでもない男に肌を晒すほど、私は軽薄な女じゃないよ」

エルフ少年「今明かされる衝撃の事実……姉は勇者様に裸を見せていた……いや、それを何で今更弟に言うんだよ……リアクション困るよ……」

エルフ少女「結局あれからいい男も見つからずに三十年間も独り身のまま!! あ〜あ、族長なんて辞めて婚活の旅に出ようかな〜」

エルフ少年「焦るなよ。俺だってまだ独り身だ。今みたいにエルフの発展の為に頑張っていれば、きっとこの先いい出会いもある」

エルフ少女「う〜ん……今から10歳くらいの杜氏の子を探して手をつけちゃおうかしらん」

674 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:24:06.04 ID:uAQKxthS0
「長、ご報告が」

 固い声が部屋の中に響いた途端、それまでの弛緩した空気は一気に打ち切られた。
 報告を聞いたエルフ少女とエルフ少年の二人は、真剣な面持ちのまま視線を交わらせた。

エルフ少年「……今年に入ってもう五回目だ。人間たちが取り決め以上の量の木々を伐採している」

エルフ少女「……若い衆を何人か集めて、現地に向かわせて。出来るだけ口が達者な者がいい」

エルフ少年「腕の立つもの、じゃなくてか?」

エルフ少女「武力による排斥は絶対に禁止だ。それをすれば、現在狩りのためとして最低限所有を認められている武具すら取り上げられる可能性がある。それだけならまだしも、私たちエルフそのものが粛清の対象になる可能性だって……」

エルフ少年「――――絶対中立の制裁装置、か。やれやれ……俺も現地に行くよ」

エルフ少女「ごめんね。お願い」

エルフ少年「人間は、数を増やして、ただでさえ薄かった精霊信仰の意識がますます希薄になってきてる。そこあたり、俺たちの言葉が伝わってくれればいいんだけどな……中立の神様にも」

エルフ少女「………」

 エルフ少年が立ち去り、一人になった部屋でエルフ少女はひとつ大きく息を吐いた。

エルフ少女「いや〜、平和ってのも大変だね、こりゃ。最近は竜神ちゃんとこのアマゾネスも色々大変だって聞くし……」

 いつもの明るい調子ではなく、ほんの少し疲れを滲ませた笑みをエルフ少女は浮かべる。

エルフ少女「人間なんて滅ぼしちゃおっかな……なんて、私が本気で口にしたとき、果たして君は――――」

 ぶんぶんと、エルフ少女は大きく頭を振った。
 ぱん、と両手で頬を叩いてエルフ少女はニカッと笑う。

エルフ少女「ま、君も頑張ってるんだ。私だって、やれる限り頑張らなきゃだ!」

 殊更に明るい声で、自分を鼓舞するようにエルフ少女は言った。
 どこか遠くで、どことも知れないところに落ちる雷の音が聞こえた。

675 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:24:45.33 ID:uAQKxthS0
 大陸南端に位置する霊峰ゾア。
 その山頂で、空を走る遠雷を苦々しく睨みつける影があった。

竜神「勇者よ。貴様がアマゾネスの試練を禁じてから、より良き子種の選別が出来なくなった我が子らは確実に力を弱めておる。種族として、弱体化の一途をたどっておる」

 銀色の鱗が雷光を反射する。
 唸りを上げる竜神の口からは、鋭い歯がこぼれ見えている。

竜神「貴様は我らアマゾネスの風習に手を突っ込んだ。我らアマゾネスの在り方を捻じ曲げた。結果がこれじゃ」

竜神「貴様の前でとても竜の神などとは名乗れぬ無様を晒した儂じゃ。今は従ってやる。しかし言わせてもらうぞ。聞こえておるのじゃろう?」

竜神「貴様は力をもって我らを管理する。貴様の価値基準に則って、有無を言わさず」

竜神「我らはこのままではいずれ滅ぶ。人との融和は我らの種としての優位性、独自性を失わせ、アマゾネスという種は緩やかに死へと向かっておる」

竜神「はてさて、貴様、何様のつもりじゃ?」

竜神「貴様にとって、我らは滅ぶべき悪であると、そういうことか?」

竜神「貴様が儂らをそう断じるのであれば、儂らにとって貴様は―――――」

676 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:25:35.39 ID:uAQKxthS0
 勇者の故郷、『始まりの国』。
 もっとも、当時の国家は解体され、今は名を変えているが―――そこに、ひとつの墓があった。
 墓に刻まれている名前は、もはや世界の誰もが知っているもので。
 つまるところ―――世界を救った勇者、その母の名前がその墓には刻まれているのであった。
 『伝説の勇者の息子』を正しく育て導いた者として、『聖母』と崇められすらした女性の墓前に、武道家の姿があった。
 武道家はこうして足繁くこの墓に通い、その維持管理に務めている。
 それは、本来それをすべき彼の役目を肩代わりするかのように。

武道家「……こうしてここに来るたび、あなたの死に顔を思い出します。とても満ち足りた、悔いなど欠片もないような顔……」

武道家「人々はあなたを讃えました。実際、あなたは正しかったんでしょう。あなたが居なければ、きっと今の世の平和は無かった」

 墓前に花を添え、武道家は黙とうする。
 深くしわの刻まれた目が、ゆっくりと開いた。

武道家「だけどね……俺はやっぱりアンタを許せない。どうしてこんなことになっちまったんだって、いつも思っちまうよ……おばちゃん」

 そう言って立ち去る武道家の脳裏に浮かぶのは、勇者の母が死んだ日のこと。
 死ぬ間際に、勇者の母が口にした言葉。

『ああ、勇者……私たちの息子……私はあなたを本当に誇りに思います……』

 武道家は親指で目元を拭う。
 目頭が熱くなったのは、悲しみからでも、ましてや感動からでもない。
 煮え滾りそうになる感情を武道家は努めて押し殺す。

武道家(―――どうして、どうしてたった一言―――――)





 もういいのだ、と―――――あいつに言ってやらなかったのか。



677 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:26:22.26 ID:uAQKxthS0
 世界の中心、地球のへそというべき場所に存在する『世界樹の森』。
 常人では決して到達することの出来ない、その森の最奥に勇者はいた。
 膝ほどの高さの岩に腰かけ、目を閉じて瞑想している。
 傍には半ばで折れた精霊剣・湖月が打ち捨てられていた。
 伝説剣・覇王樹も血錆に塗れ、かつての輝きを失い、今はもうただの鈍らと化して転がっている。
 だけど、それで別に問題は無かった。
 今の勇者には剣など必要ない。
 なにせ今の勇者は腕の一振りで何十もの人間を同時に肉塊と変えてしまえるほどの膂力を備えている。
 ぴくり、と勇者の肩が震えた。

勇者「……少し、眠ってしまっていたか」

 そう呟き、勇者は目を開けた。
 勇者の目の下には色濃く隈が刻まれているけれど、三十年の月日で勇者の顔にあった変化と言えば逆にそこくらいのものだった。
 光の精霊の言葉の通り、勇者は老いることなく、かつての姿のまま今を生きている。
 勇者は腰に下げていた水筒を手に取り、ぐい、とあおって喉を潤した。

勇者「……疲労感が強いな。もう少し、休む必要があるか……」

 勇者は不老ではあっても不死ではない。
 命の理すら捻じ曲げる大量の精霊加護によって、勇者の体は物理的なダメージや病魔を跳ねのけることが出来る。
 出来るが、それだけだ。
 飢えれば死ぬし、寝なくても死ぬ。
 蓄積された疲労によって体調も悪くなる。
 備蓄していた食料に手を伸ばすために立ち上がろうとした勇者の足ががくりと崩れた。

勇者「ふ、ふふふ……」

 勇者から自嘲の笑みがこぼれる。

勇者「たかだか三十年だぞ……これからあと何年この状況が続くと思ってんだ。気合い入れろ、馬鹿野郎……」

 がつんと己の膝を殴りつけ、勇者は立ち上がる。
 干し肉を噛み、水筒をあおって無理やり喉の奥に流し込んだ。
 そこで、勇者ははたと気づいた。

678 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:27:13.90 ID:uAQKxthS0
『気づいたかね?』

 勇者の脳裏に直接響いてくるのは『光の精霊』の声だ。

光の精霊『君ともあろうものが随分と迂闊だったな。いつもならば十里も寄れば気配を察知して即座に身を隠していたろうに。何者かに近づかれたぞ―――もはや視認することすら可能な位置にまで』

勇者「………」

 気づいていたなら声をかけてくれれば―――そう言いかけて、勇者は口を噤んだ。
 光の精霊は、勇者の生き方・在り方を面白がってちょっかいをかけてきているだけで、別に仲間という訳ではない。
 光の精霊は誰の味方もせず、誰とも敵対せず、ただ好奇心のままに動く特異な精霊だ。
 勇者は思考を侵入者の方に戻す。
 確かにお互いの姿を視認できるまでに近づかれたのは迂闊だったが、今から逃げればいいだけのこと。
 今の立場になってから、勇者は誰とも関わりを持とうとはしない。
 それはいつまでも絶対中立の装置であり続けるために。

勇者(あの人影がこちらに駆け寄ってくる十数秒の間に俺は万里の彼方まで離れることが出来る。何も問題は無い。とはいえ、この世界樹の森の最奥までたどり着くとは、並の者ではないな)

 勇者は侵入者の正体を探ろうと人影に目を凝らして、固まった。
 長く動かしていなかった心を鷲掴みにされたような気分になった。

 鷲掴みにされて、揺さぶられた。

 人影はほんの一瞬の間に、もう勇者の目の前まで迫っていた。
 完全に想定外の速度。かつ放心した虚を突かれた勇者は、その動きに碌な反応も出来ず。
 勇者はその人影にがっしりと腕を掴まれてしまった。

「ようやく……ようやく見つけた……!」

 はぁはぁと息荒く口を開いた人影の正体は金髪の美しい女性だった。
 勇者は掴まれた腕を振り払うこともせず、硬直してしまっている。
 勇者は混乱していた。
 突然目の前に現れた、年の頃およそ二十の半ばに見えるその女性は。
 かつての仲間に。
 かつての最愛の人に。
 三十年前に袂を分かったはずの。

 ―――――戦士に、とてもよく似ていた。

679 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:28:06.02 ID:uAQKxthS0
 だけど、この女性が戦士であるはずはない。
 三十年。三十年だ。
 あれからもう三十年もの月日が経過している。
 つまり戦士はもう五十歳に届こうかという年齢になっているはずだ。
 目の前の女性の年代は二十の半ばから、どんなに多めに見積もっても三十の前半だ。
 だから、この女性は戦士本人ではない。
 だとすれば、そう、この女性の正体は―――――

勇者「もしや君は―――――戦士の子供なのか?」

 ぴくり、と女性の眉が上がった。

勇者「は、はは……」

 勇者の胸中に複雑な思いが溢れた。
 けれど、様々な感情がない交ぜになって込み上げる中で、最も大きかったのは――――安堵の気持ち。

勇者「……良かった。幸せになれたんだな、彼女は……」

女性「おい…」

 眉根にしわを寄せて、女性は勇者の顔を覗き込んだ。
 勇者の目には、これ以上ないほどの慈しみの感情が満ち溢れている。

勇者「ふふ……俺に、こんなことを問う資格なんて無いんだけど……正直、気になってしょうがないな。教えてくれないか? 戦士は、君の母さんは……一体どんな奴と結婚したんだ?」

 ビシィ!と空気に緊張が走った。
 女性のこめかみに血管が浮かび上がり、ひくひくと蠢いている。

女性「おい…!」

 それは地の底から響いてくるような、低くドスのきいた声だった。

勇者「……ん? あれ?」

 様子を一変させた女性の剣幕に、勇者は恐怖を覚え後ずさりする。
 しかし腕を掴まれた勇者は逃げられなかった。
 はう、と息を飲む勇者。全身を突き抜けていくこの絶体絶命感。
 それはすごく――――――ものすごく、懐かしい感覚だった。

勇者「もしかして……」

 女性は掴んでいた勇者の手を放し、がしりと胸倉を掴みなおした。
 そして、女性はすぅ〜、と息を吸い始めた。
 吸って、吸って、吸って―――――そして。

680 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:28:50.95 ID:uAQKxthS0






「誰がお前以外の男と結婚するかッ!!!! この大馬鹿たれがぁぁぁああああああああああああ!!!!!!」





 鼓膜よ破けよとばかりに勇者の耳元で思いっきり叫んだ。






681 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:29:35.53 ID:uAQKxthS0
 キーン、と響く耳鳴りに勇者は目を回す。
 はっと我に返って、勇者は女性を振り返った。

勇者「戦士…? まさか、戦士なのか!?」

 勇者の問いに、女性は――――かつて勇者の仲間であり、恋人でもあった戦士は頷いた。

戦士「ああ、そうだ。正真正銘、私だ」

 勇者は信じられない、という風に頭を振った。

勇者「馬鹿な…ありえない。三十年だ。三十年だぞ? どうして君は、そんな若々しい姿のままなんだ? 君のもつ精霊加護の量では、寿命に影響なんて無いはずだ」

戦士「奇跡を起こすのは精霊の専売特許というわけではあるまい? 少なくともお前はそれを知っているはずだ。他ならぬお前自身がその身で味わったことなのだからな」

勇者「何…?」

戦士「『狂剣・凶ツ喰(キョウケン・マガツバミ)』。覚えていないか?」

 勇者は目を見開く。
 当然、その名前には覚えがあった。
 忘れるはずもない。
 『狂剣・凶ツ喰』。
 竜に殺意を燃やす人間の狂気が生んだ、呪いの剣。
 装備した者を不死に近い回復能力を持った狂戦士へと変貌させる―――人の怨念が生んだ、奇跡の産物。

戦士「苦労したぞ。あの時お前に拒絶されてから、私はお前と同じ時を生きる方法を探し続けた。探して、探して―――――そして、遂に見つけたんだ」

 戦士は勇者の目の前に左手を差し出した。
 その中指には、一目で分かるほど禍々しい気配を放つ指輪がはめられていた。

戦士「『死者の指輪』という。この指輪には不老不死の呪いがあり、これを装備した者は永遠に老いず、永遠に『死ねない』。一体どれほどの怨念、情念が込められればこんな馬鹿げた一品が生まれるのか……想像もつかないよな」

 戦士はそう言って悪戯っぽく笑った。

勇者「そ、そんな……」

 わなわなと、勇者は肩を震わせている。

戦士「12年。この指輪を発見するまでに12年もの時を要してしまった。だから、私の肉体年齢はお前より12年分年上になってしまったけど……まあ、自分で言うのもなんだけど、綺麗に成長できただろう? 胸も、ほら、僧侶ほどじゃないけどちょっと大きくなった」

勇者「馬鹿野郎!!!!」

 戦士の言葉は勇者の怒号で遮られた。

勇者「なんて…なんて馬鹿なことを!!!! どうして、こんな……俺は、お前に普通に幸せになってほしくて、だから、俺は……!!」

 勇者の目に涙が浮かぶ。
 実に三十年ぶりに流す、人間としての涙。
 しかしそんな勇者の様子に、戦士はふんと鼻を鳴らした。

戦士「言っておくが、この件についてお前にどうこう言う資格はないぞ。三十年前、今のお前のように叫んだ私達の気持ちを、お前は蔑ろにしたんだ」

勇者「そ、れ…は……」

戦士「いいんだ。今更責めるつもりはない。私の願いはひとつだけ。ひとつだけなんだ、勇者」

 戦士は再び勇者の手を取った。
 今度は優しく―――温もりを共有するように、柔らかく―――手を握る。

682 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:30:28.09 ID:uAQKxthS0





戦士「いつも肝心な時に私はお前の傍にいられなかった。今度こそ…今度こそ、だ」



戦士「誓うよ。私はお前の傍を離れない。私はお前を絶対に一人にはしない」



戦士「死すら、もう私達を分かつことは出来ない」




戦士「共に生きよう。今度こそ、一緒に―――ずっとずっと、一緒に」





683 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:31:34.68 ID:uAQKxthS0
 長い沈黙があった。
 そして―――ぽたぽたと、勇者の頬から大粒の涙がこぼれ始めた。

勇者「お、俺は…俺は、自分が情けない……!」

 嗚咽を漏らし、言葉を詰まらせながら、勇者は心中を吐露する。

勇者「本当は駄目なのに……俺は独りでなくてはならないのに……だけど、嬉しくってしょうがない…! 戦士の気持ちが、ありがたくってしょうがない……!!」

 戦士は微笑みを浮かべ、勇者の手を引き、その体を抱き寄せた。

勇者「うぐ、うぅ…! なんて体たらく…! 何が神だ……俺は、無様だ……!!」

戦士「いいんだ。いいんだよ、勇者。ずっと、どんなことがあっても、私だけはお前の味方だ」

 ぐしゅぐしゅと、勇者は子供のように泣きじゃくる。
 戦士もまた、その目にうっすらと涙を浮かべて、勇者の頭を抱きしめた。

戦士「不死になるために12年。それからも18年もの間、お前を探し求め続けたんだ……やっと、やっとこうしてこの手で抱きしめることが出来た……!」

勇者「ごめん…! ごめんよ……戦士……!!」

戦士「ううん、いいよ……愛してる、勇者……」






 これまでの空白を埋めるように、二人は熱く抱擁を交わす。


 しかし、もう間もなく、人の世で新たに罪を犯す者は現れる。


 そうなれば、勇者は裁きの為にこの地を離れなくてはならない。


 現在、勇者は自らが生きる時間のほとんどを裁きの執行に費やしている。


 勇者と戦士、共に生きると誓っても、これから先二人が蜜月の日々を送ることはない。



 それが、絶対の罰則装置として君臨することを選んだ彼の運命。


684 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:32:36.22 ID:uAQKxthS0










 だけれども、ほんの僅か、一日のうちほんの僅か数分だけでも。


 彼が人としての幸せを享受することを、どうか許してほしい。


 それが、長い長い旅路の果てに彼に与えられた、唯一の報酬だろうから。





685 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:33:18.26 ID:uAQKxthS0






戦士「ところでお前、この三十年でまさか浮気とかしていないだろうな?」


勇者「見くびらないでほしいですぅ〜!! 僕まだ童貞ですぅ〜!! は!? まさかそういう戦士は…!」


戦士「処女だよ大馬鹿野郎!!!!」


勇者「ヒィ! サ、サーセン!」





686 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:34:24.56 ID:uAQKxthS0






 願わくは―――――少しでも長く、彼らが笑顔で過ごせる日々の継続を。





 これにて、『伝説の勇者の息子』として生を受けた、とある少年の物語は終幕とする。






687 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:38:31.19 ID:uAQKxthS0























 だから―――――ここから先は、見なくていい。









688 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:39:15.42 ID:uAQKxthS0





 物語の結末としては、これで十分だ。




689 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:40:10.92 ID:uAQKxthS0




 ただ―――――語り部の義務として、彼の人生の結末をこれから記す。


 だけど、見なくてもいい。


 知る必要はない。








 きっと―――――気分のいいものではないだろうから。


690 : ◆QKyDtVSKJoDf [saga]:2017/11/03(金) 18:41:22.68 ID:uAQKxthS0

















































 
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