勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編

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503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/19(日) 02:40:01.52 ID:/MNrJMoV0
このペースなら完結まであと8年くらいだな
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/19(日) 03:04:02.36 ID:UDj6MXCLo
8年も続くとかそれはそれで嬉しい
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/28(火) 04:11:42.52 ID:nfrl1yVo0
待ち遠しい
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/02(日) 03:47:38.31 ID:yYrnJz490
追いついたーと思ったらまだ終わってなかった・・・
待ってるよ!
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/06(木) 00:42:18.61 ID:d+old9Cq0
1生きてるかな、心配になってきた
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 23:18:31.70 ID:dtlUaW1I0
1,構想は練ってるけど書く暇が無い
2,構想は練ってるし書いてるけど筆が進まない
3,構想すら練る暇が無い
4,色々あって書く気が無い
5,色々あって書く気が無いけど言い出せなくて有るフリしてる
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 03:18:51.81 ID:SjtgqjMDO
6,このスレ(作品)をもう忘れてる
7,病んでいる(色んな意味で)
8,息をしていない(まるで屍の様だ)9,実は最初から尻切れトンボで終わらす予定で読者の反応を見てニヤニヤしてる(ドS)
10,Rに移った(笑)
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 14:20:58.62 ID:WH12Be+50
仕事で書く時間ないんでしょ。俺も遅筆だからわかるけど、まとまった時間ないと筆進まない。
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 19:56:02.19 ID:gqqGvlU3o
触んな触んな
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/11(火) 02:08:32.29 ID:vTDXMJjDo
いや最悪亡くなってるって考えもあるからね
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 01:46:39.94 ID:0q0vdcMb0
あと最終章だけだったんだが…書き上げれば書籍化レベルだと思うだけどなぁ
がんばってほしい
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 12:00:32.45 ID:l2/JCMz+0
>>490も乗っ取りっぽい気がするけどね
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 19:40:06.67 ID:BdN+SkUEo
皆さんの熱いエールで日々スレが埋まっていきます!本当にありがとうございます
516 :1です [sage]:2017/04/23(日) 21:21:54.89 ID:xBFqsMNN0
>>509
11.ボチボチ書いてるけどなんかどんどん膨れ上がって全然終わんない

最終章なんかすげえ長くなってるよ……最終章なんて言わずにもうちっと分割すればよかったよ……

まあ、ホントちょこちょこですけど時間見つけて書いてはいますんで、気楽にお待ちください
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 21:39:48.10 ID:kkMuFZlao
了解
気長に待ってます
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 22:24:02.31 ID:0d8izdaA0
最終章分割掲載でもかまわないから待ってる
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 22:31:52.77 ID:hTWe3MaCo
無理にまとめなくてもいいんですぜ
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/23(日) 23:59:26.26 ID:ulTKtysDO
おおお!待ってる!
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 02:47:03.27 ID:662cNxa50
期待
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 03:44:11.61 ID:2HOfvy2C0
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/24(月) 12:19:04.24 ID:th/2XQSsO
期待!
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/05(金) 23:52:13.22 ID:vXdxIx1qO
期待!
していた
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/08(月) 02:01:31.70 ID:NYdeBst60
追いついた!!
乙&期待!!
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 02:20:44.14 ID:7KVQ0sJA0
>>525
ROMってsageを覚えようか
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/09(火) 06:17:04.87 ID:uKxg9+UHO
sage厨きめぇwww
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 01:28:24.93 ID:+wkCbYY60
もう待ちきれなくて、最初から読み直しちまったYO!
やっぱり、おもしろいYO!
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 23:21:38.13 ID:M2HNGvveo
あえての保守
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/06(火) 21:41:26.91 ID:+lxgHHTKO
残念だけど失踪ぽいね
勇者ものでダントツに面白かったのに
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/06(火) 22:00:14.43 ID:tbVkuD5Wo
まだあわてるような時間じゃない
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/07(水) 00:26:50.92 ID:PnBnUoIuO
信じてる
>>1に言いたい本当ダントツに面白い。モチベ上げて頑張ってくれ
待ってるから
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 22:25:04.71 ID:5mmRgp530
最初から読み直しちゃったよ。
もう我慢出来ん、小出しで良いから続きを…
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 22:45:03.08 ID:ECf58T/3o
前回の更新から半年以上経っちゃってるね
あと、そろそろ生存報告も必要か

自分も読み返して気持ちを昂らせておくことにする
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/16(金) 00:46:51.37 ID:503IuTlgO
騎士倒したところで一旦終わらせておけば、纏められて凄い話題になったろうに…。その後続きを書く感じにしておけば…って今更だけどな
536 :1です [sage]:2017/06/19(月) 19:13:35.10 ID:fdZaLZL+0
スンマセン

マジスンマセン お待たせしてます

次の日曜日に出来てるところまで投下します

待ってくださってる方々、申し訳ない

おかげさまでホントにちょっとずつですが、続きを書けてます

感謝です
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 19:20:44.75 ID:1k0KH6XEO
マンスジに見えたのは置いといて

大変だろうけど応援してるよー待ってる!
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 21:35:32.46 ID:3bQ0pa/no
来たぞ来たぞー
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 22:02:03.01 ID:MNaMEkhz0
うおおおお!
楽しみ!


>>537
笑わすなや
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 23:19:02.92 ID:CQ6OBjtKo
ゆっくりでも完結してくれたらそれでいいのさ
待ってるよ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 23:37:05.36 ID:dJvXKLdWo
この時をずっと待っていた
楽しみにしていますのでがんばってください!
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 02:10:16.53 ID:HqswwN9Io
おぉ 楽しみに待ってる
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 09:38:39.02 ID:cPz8kRZa0
やったぜ
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 10:16:43.01 ID:qW5FppWfo
来たぜ日曜
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 10:58:53.25 ID:2YuEJWq7O
今日来たら8ヶ月ぶりや
待ってたよ
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 13:55:32.08 ID:atnUNgOIo
今日来なかったら今までのやつ偽物確定だな
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:05:30.63 ID:dyU/3Fo20
『「伝説の勇者」の伝説は我が子によって首を刎ねられて終わりを迎えた。ふむ、なんとも痛ましいものだ。己が父の首を刎ねた時、君は一体何を思った?』

「特に、何も」

『強い覚悟をもって事に臨んでいたということかな。何が起きても心が揺らがぬよう、君は心を決めていた』

「いいや、違う。そんなんじゃない。ただ、本当にどうでもよかった。俺は、どちらでもよかったんだ」

『どちらでも、とは?』

「勝っても負けても、どちらでもいいということさ。親父が大魔王の手先として剣を取り、俺の前に立ちふさがった時点で、俺と親父のどちらかが死ぬことは決まってしまった」

「親父にそんな意図は全くなかっただろう。あの臆病なお人よしは、あの場に及んでさえ俺との間に平和的な解決があるものと、きっとそう考えていた」

「あいつは、何も知らなかったから」

「この世に『加護の継承の例外』なんてものが存在することを知らなかったから」

「迂闊にも、その時俺は運命というものを信じてしまいそうになったよ」

「俺は知っていた。知ってしまっていた。その現象を、騎士に教えてもらっていた」

「知っていたから、自暴自棄というのかな、もうどうなってもいいと思ってしまっていた。ああ、誤解はしないでほしい。どうでもよくなったのは、自分の命に関してだけだ。『伝説の勇者の息子』としての使命は、変わらずこの胸に抱いていたさ」

「俺が死んでも、親父が死んでも、その加護は生き残った方に集中する。たとえ親父が生き残ったとしても、流石に俺の力をまるごと継承すればもう一度大魔王に挑もうという気概も沸くはずだ。俺はそう思った」

「……結果は知っての通りさ。俺は親父の首を断ち、その加護を、つまりはあんたの加護を丸ごと継承した。死んでも構わんと捨て身でかかる俺と、何とか俺を殺さず無力化しようと手加減していた親父じゃ、この結果も当然と言えるのかもしれないが」

『しかし、君は父の死に対して随分と淡泊な印象を受ける。普通の人間ならば、自らの手で父を殺めたことをもっと気に病みそうなものだが』

「あの親父のせいで今まで散々苦労を背負わされてきて、それでいて魔界であんな手酷い裏切りを受けたんだ。親子の情なんてきれいさっぱり無くなっちまうさ」

『「伝説の勇者」の責務も何もかもを放り投げ、魔界で隠遁していたという話か。なるほど確かに、これはひどい話だ。捨てられた本人である君が憤るのも理解できる』

『しかし、そんな彼の心情を最もよく理解できるのもまた、君なのではないかな?』

「……はあ?」

『彼は「伝説の勇者」としてその身に大きな使命を背負っていた。世界中の期待を一身に請け負っていた。それはどれ程の苦悩であったことか。それを、諦めていいのだと、そう思った時に彼が覚えたであろう安堵の気持ち……君こそが、一番わかってあげられるのではないか?』

「冗談はやめてくれ。俺とあいつは全然違う。そりゃ、『伝説の勇者』の名前の重圧に、皆の期待に雁字搦めにされていたってのは一緒なのかもしれないが、それでも」

「あいつは、望んでそうなった。何でもなかった一青年から、本人の意思で『伝説の勇者』になったんだ」

「俺は違う。俺は生まれた時から『伝説の勇者の息子』だった。俺に自身の在り方を選択する余地なんてなかった」

『周囲の期待も何もかもを投げ捨てて生きるという選択肢もあったはずだ。現にそうして生きた青年がいたことを君は知っている。「伝説の勇者の息子」としての人生を全うすると選択したのは、まぎれもなく君の意思であったはずだ』

「………」

『責めているわけではない。君がそういう人間であるということを改めて確認しただけだ』

『自己犠牲を嫌いながら、それでも他者を優先してしまう善性の塊。極めて特異な「勇気ある者」』

『実に、実に興味深い』

『さあ、もっと聞かせてくれ』



『「伝説の勇者」の息子―――――――勇者。君の物語を』


548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:06:22.42 ID:dyU/3Fo20









     最終章










549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:06:57.96 ID:dyU/3Fo20
 爆ぜる衝撃が戦士の頬を撫でた。
 勇者の体を中心に荒れ狂う嵐が『大魔王の間』の広大な空間を切り裂いていく。

勇者「『呪文・極大烈風』」

 勇者の魔力によって生み出された風の塊は、まるでそれ自身が意思を持つかのように唸りをあげ、その様相は風でかたどられた龍の姿を幻視させた。
 荒れ狂う暴風の龍は勇者の指さす先、大魔王へと襲いかかる。

大魔王「風刃(ふうじん)」

 大魔王がその腕を振るうとまるで巨大な獣の爪に引き裂かれたように風の龍の体は千切れ飛んだ。

勇者「『呪文・極大火炎』」

 間髪入れずに勇者は次なる呪文を紡ぐ。
 極大火炎の名のもとに生み出された火球はまるで太陽が地上に顕現したかのようで、並の者ならば直撃を受けるまでもなくただその場に居るだけで焼け溶けていただろう。

大魔王「虚空(こくう)」

 大魔王の手から放たれた暗闇が極大火炎を飲み込んだ。
 火球の放つ光と熱に照らされていた『大魔王の間』に一瞬の静寂が訪れる。

勇者「『呪文・――――極大雷撃』!!!!」

 轟音と烈光が静寂を引き裂いた。
 突如現れ瞬時に部屋全体を蹂躙した雷光は、流石の大魔王といえども完全に躱しきることは叶わなかった。
 端が焼け焦げたマントを払い、大魔王は勇者を睨め付ける。
 勇者と大魔王、二人の戦いに戦士はただただ圧倒されていた。
 勇者の放つ魔法は人知を超えた威力で、大魔王城が今も形を保っていることが奇跡に思えるほどだ。
 しかしそれを、大魔王は事も無げにいなしている。
 がり、と戦士は奥歯を強く噛みしめる。
 レベルの違いを痛感した。
 この二人の戦いに、自分の力量では割って入ることは叶わない。
 これはもはや――――神々の領域の戦いだ。

勇者「戦士。大魔王の相手は俺に任せて、君は先に城を離れるんだ」

 いつの間にかすぐ傍まで戻ってきていた勇者の言葉に、しかし戦士は首を振った。

戦士「いやだ。誰がお前を一人で戦わせるものか。私はずっとお前の傍にいる」

 勇者は困ったような笑いを見せた。
 戦士とてわかっている。
 この局面において、自分はもうただの足手まといにしかならない。
 それでも、今の勇者を。
 父をその手にかけ、深く―――とても深く傷心しているだろう勇者を一人にすることは耐え難かった。
 ――――それでも。

戦士(私がここにいれば、巻き込むことを恐れて勇者は本気を出せない。それに、大魔王のあの得体のしれない術に私が捕まれば、人質として利用されてしまう可能性すらある)

 そんな戦況も、戦士にはよく理解できていた。
 嫌だ嫌だと喚く自分の感情に蓋をする。
 たまらず涙が込み上げてきた。
 弱い自分に、この一番大事な時に、大切な人の傍に立てない自分の弱さにはらわたが煮えくり返る思いだった。
 ぐっ、と戦士は爆発しそうになる感情をこらえ、こぼれそうになっていた涙をぬぐう。

戦士「勇者、約束しろ。―――――必ず、絶対に戻ってこい」

勇者「ああ。わかったよ。約束する。必ず戻るよ、戦士」

 戦士はその場を立ち去ろうとして踏みとどまり、床に転がっていた『伝説の勇者』の首を胸に抱え上げて駆け出した。
 勇者は戦士が『大魔王の間』から出て行ったことを横目で確認し、大魔王へと向き直る。

勇者「随分と素直に行かせるんだな」

大魔王「お前を刺激するような真似はせんよ。俺たちにはまだ交渉の余地がある。そうだろう?」
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/25(日) 16:07:35.39 ID:dyU/3Fo20
 大魔王は勇者に問う。

大魔王「なあ、勇者。俺のやっていることは悪か? 俺がこの胸に抱き、叶えたいと望む願いは断罪されるべきものなのか?」

大魔王「だって、見てみろよ。この魔界の荒れ果てた様を。新たな命など芽吹くはずもない荒涼とした大地を。こんなの、誰が見たってこう思うだろう」

大魔王「『何とかしなきゃ』、と」

大魔王「後に生きる者のため、健全な世界を残したいと思うのは、今を生きる者として当然の感情だ。いや、もはや義務と言ってしまってもいい」

大魔王「だから俺は行動を起こした。確かにお前たちの世界に迷惑をかけていることは認めよう。しかし俺たちには他に手段が無かったのだ」

大魔王「……あと少しなのだ。あと少しで俺の魔界再生計画は成る。頼む、勇者。異なる世界に生きようとも、俺たちの根底にある思いは同じのはずだ」

大魔王「『皆が幸せになる世界を作る』―――――俺たちは、手を取り合って共存できるはずだ。それともお前は、それでも俺たちを否定するのか。一匹残らず滅び絶えろと、俺たちにそう言うのか。勇者よ」

 大魔王の言葉を受けて、勇者はしばし目を瞑り、それから大きく息を吐いた。
 そして、勇者は口元に笑みを形作る。

勇者「そうやって、親父も丸め込んだのか?」

 なるほどな、と勇者は愉快そうに呟いた。
 そして、勇者は大魔王に返答する。

勇者「確かにお前は間違っちゃいないよ、大魔王。お前のその思いは当然だ。お前の立場なら、自分の世界を救いたいと願うのはひどく真っ当な感情だ」

勇者「だけどな、やり方が悪いよ。わかるぜ? 人の家の庭を見て、芝が青いなと憧れるのは、羨ましがるのはしょうがねえ。でも、だからって、テメエんとこの庭のゴミをこっちに投げ込まれちゃたまったもんじゃないんだよ」

勇者「どんなに綺麗ごとを並べても、お前がやってることってのは結局そういうことなんだ。 そりゃゴミを投げ込まれた俺たちはキレるだろ? それをなんだ? 『あと少しでこっち側も綺麗になるんですからあとちょっとだけ辛抱してくださいよ』って? 馬鹿言ってんじゃねえよ」

勇者「お前たちは自分たちが生きるために俺たちを犠牲にしようとした。だから俺たちは反撃した。それだけのことだろうが。どれだけ高尚な言葉を並べ立てようと―――つまるところ、これはただの生存競争。望む結果を得たいなら――――それに反発する俺たちを駆逐してみせろ」

551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:08:33.42 ID:dyU/3Fo20

 戦士は大魔王城を脱出し、城の南西に位置する小高い丘の上にいた。
 ある程度の距離が離れたこの場所にまで伝わってくる大地の鳴動が戦いの激しさを戦士に伝えている。
 光の柱が大魔王城の壁を突き破って噴出した。
 勇者の呪文・極大雷撃だ。

戦士「勇者……」

 戦士は祈るようにその手を胸の前で握りしめ、ただ勇者の無事を願った。

552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:09:15.92 ID:dyU/3Fo20
 勇者が大魔王に肉薄し、剣を振る。
 一度、二度――――三度、四度、五度。
 絶え間なく繰り出される連撃を、大魔王はその腕で打ち払う。
 大魔王の腕は理外の強度を誇り、今の勇者の剣をすら両断されることなく受け止めている。
 衝突、衝突。そのたびに巻き起こる空気の爆裂とそれに伴う轟音。
 大振りになった大魔王の腕をかいくぐり、勇者が懐に入り込む。

大魔王「ぬう!?」

 大魔王は勇者と自分の間に、空間転移魔法・虚空を発動させる。
 だが間に合わない。
 『暗闇』が生じた時にはすでに勇者の剣はその場所を通り抜け、大魔王の体に迫っていた。

大魔王「ぬがぁ!!」

 大魔王は慌てて勇者の剣を右腕で防御する。
 肘のやや下あたりに勇者の剣がめり込んだ。

勇者「はああ!!」

 これを機と見た勇者の全霊の剣。
 いかに強固な大魔王の腕といえども受け止めきれるものではなく、その刃はずぶずぶと肉と骨を裂き進んでいく。
 ズバン! と勇者の剣が振り切られ、大魔王の右腕が宙を舞った。
 勇者は即座に剣を切り返し、続けざまに大魔王の首を狙う。
 ぞくり、と勇者の背に怖気が走った。
 勇者の第六感が危機を告げている。
 よく目を凝らせば、宙を舞う腕に大魔王の体から魔力の糸が伸びていた。
 直後、大魔王の右腕から四方八方に槍のような刃が飛び出した。
 勇者は身をかわし、心臓と頭への直撃はまぬがれたものの、左肩と両足を貫かれてしまう。

勇者「ぬ…ぐ…!!」

 勇者は大魔王から距離をとり、己に刺さった刃を剣で叩き折った。
 大魔王の右腕はもう元の形に戻っており、床に転がっている。
 眼前に立つ大魔王。その腕の切断面からは血液が零れる気配がない。

勇者「その手……義手か。道理で、馬鹿みたいに固いわけだ」

大魔王「ふん。してやったり、と高笑いのひとつでもしてやりたいものだが」

 勇者に一杯食わせたはずの大魔王の表情は渋い。

勇者「『呪文・極大回復』」

 その理由は、先ほどから負ったダメージを瞬く間に治してしまう勇者の治癒呪文にあった。
 今しがた負わせた肩と両足の傷も、綺麗さっぱりと無くなってしまう。
 その様子に、大魔王は歯噛みした。

大魔王(……これ程とは、な)

 攻撃力や防御力、或いは魔力―――両者の単純な戦闘能力は互角といっていい。
 しかしながらその力を活かす戦闘技術において、勇者と大魔王の間には雲泥の差があった。
 それは常に格上を相手にしてきた勇者と、常に君臨してきた大魔王との経験値の差。
 大魔王は、これ程実力が伯仲した相手との戦いになると、己の空間魔法が全く戦闘の役に立たなくなることを知った。
 ひとつの暗闇を生み出す間に、10も20も攻撃が飛んでくるのだ。それだけの速度差があっては、空間魔法を攻撃や防御に利用できるはずもない。
 大魔王ははっきりと自覚した。

大魔王(認めざるをえまい……勇者の力は、すでに俺を上回っている……!!)


553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:10:39.90 ID:dyU/3Fo20
 大魔王は戦闘態勢を解き、再度勇者に語り掛けた。

大魔王「勇者よ……これが最後だ。今一度問う。剣を収める気はないか?」

大魔王「このままだと、俺は奥の手を使わなくてはならなくなる。これをしてしまうと、俺もお前も絶対にただではすまん。そうなる前に、平和的解決を模索したいのだ、俺は」

勇者「下手な脅しだな。まあいい。言ってみろよ、お前なりの折衷案ってやつを」

大魔王「これ以上お前の世界を侵攻することはしない。その代わり、俺の強権をもって、あらゆる不平不満を鏖殺して魔物を一つ所に集めるから、そ奴らをお前の手で始末してほしいのだ」

勇者「もうなりふり構わず有害な魔物を駆除してしまおうって腹か。別にやってやってもいいが、それだと巨大な毒沼が俺たちの世界に出来上がってしまう。やるなら魔界でだ」

大魔王「……それは出来ん。血気盛んな魔物を一つ所に集めるためには、全軍総突撃のためという大義名分がいる。その為にはお前の世界でなくてはならぬ。集合地を魔界にすれば、それは全軍退却の意味を孕んでしまう。それでは奴らは聞かんのだ」

勇者「なら交渉は決裂だ。魔界のゴミをこちらが引き受けてやる義理はない」

大魔王「そうか……ならば……やむをえん、な……」

 大魔王は残った左腕を前に向かって掲げた。
 勇者は油断なく剣を構え、大魔王の様子を注視する。
 何か妙な動きがあれば、即座に首を切り飛ばしにかかるつもりであった。



大魔王「『奈落(ならく)』」


554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:11:45.38 ID:dyU/3Fo20
 唐突であった。
 ほんの僅か、ほんの数ミリほど、大魔王の左手の先に暗闇が生じた瞬間。
 大魔王の左腕がもぎ取られ、その穴に吸い込まれていった。

大魔王「ぬ、ぐ…!!」

勇者「な、あ…!?」

 目の前で起きた現象に理解が追い付かず、逡巡した一瞬の間に、その穴は拡大した。
 今までに生じた暗闇とは違う。
 あらゆるものを飲み込まんと口を開けたその穴は、凄まじい吸引力で周囲にあるものを吸い込んでいく。
 勇者は咄嗟に床に剣を突き立て、吸い込まれないように踏ん張った。

大魔王「かつて、空間魔法の能力を自覚したばかりの俺は、とにかくいろんな世界に穴をあけてはその世界の様子を見てまわっていた。ある時だ。いつものように適当に世界を繋げた瞬間、俺は両腕を持っていかれた」

大魔王「あらゆるものを飲み込む深淵の闇。そんな世界がどうやらどこかには存在していたようなのだ。あらゆる命の存在を許さぬ暗黒空間。さしずめ、ブラック・ホールとでもいうべきか。その時はとにかく必死で門を閉じて、両腕の犠牲だけで済んだのだが」

 大魔王は地に伏せ、必死で『奈落』の吸引に抗っている。
 両腕を失くし、それでもなお地面にしがみつく。
 如何にしてそんな芸当を可能にしているのか―――その秘密は床にあった。
 いつの間にか、床の一部が突出しており、触手のように大魔王の体に巻き付いていた。

大魔王「先ほど見せたように、俺の義手は特別製だ。俺の魔力に反応し、任意にその形を変えることが出来る。そしてだな、実はこの大魔王城も同じ材質で出来ているのだ。俺の魔力が通っている間は途轍もなく頑丈になるし―――こんな芸当だって、可能になる」

 大魔王が嗤った。
 大魔王の体から発せられた魔力に反応し、勇者の足元の床が輝く。
 剣を突き立てて踏ん張る勇者の足元が爆砕し、勇者の体が宙に投げ出された。

勇者「な、に…!?」

大魔王「さよならだ、勇者。出来ることなら分かり合いたかったぜ」

 宙に浮いてしまっては、どんなに強大な力を持っていようと踏ん張ることは出来ない。
 虚空を泳ぐように手足をばたつかせたって、『奈落』の吸引に抗うだけの推進力を得られるわけもない。
 だというのに、勇者は笑った。
 こんな状況もまた、勇者にとっては慣れっこのものだった。

勇者「『呪文・極大烈風』!!!!」

 勇者は己の体に風をぶつけ、空中での推進力を得る。
 これは勇者が今まで好んでよく使っていた戦法だった。
 しかして呪文の威力はこれまでとは比にならず。
 その威を得た勇者はもはや一筋の流星となって大魔王の元へと突進する。

大魔王「なに!?」

 驚愕する大魔王。着弾する流星。
 大魔王の体を支えていた床は爆散し、大魔王の体が宙に投げ出される。
 その体を、勇者が両腕でがっしりと拘束した。

勇者「行くなら一緒に行こうぜ。奈落の底ってやつによ」

 勇者と大魔王は二人して宙を舞い、『奈落』に向かって吸い込まれていく。
 両腕を失くした大魔王に、勇者の体を振りほどく術はない。
 この状況では、如何に床から体を繋ぎとめるための楔を伸ばそうと、勇者によって切り離されてしまうだろう。

大魔王「ぬああ!!」

 大魔王は慌てて『奈落』を閉じた。
 『奈落』の吸引によって宙を舞っていた大魔王の体は落ち、背中を強か地面に打ち付けた。

大魔王「ぐ…ぬ…」

 苦痛に顔を歪める大魔王。
 ごほっ、とひとつ咳をして、大魔王は咄嗟に閉じてしまっていた目を見開いた。


 ―――大魔王の目に飛び込んできた光景は、自身に跨って剣を振りかぶる勇者の姿だった。

555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:12:26.58 ID:dyU/3Fo20
 ドスン、と肉を裂く音がする。
 大魔王の心臓を、勇者の剣が貫いていた。
 がふ、と大魔王は血の塊を吐き出す。

大魔王「…そうか……」

 大魔王はぼぅ、と視線を虚空に彷徨わせ、呟いた。
 しかしその後には再び爛と目を輝かせ、にやりと笑ってしっかりと勇者の顔を見据える。

大魔王「お前の勝ちだ、勇者。俺はもう死ぬ。俺の魔界再生の夢は儚くもここで志半ばに散るというわけだ。はっはっは。あっはっはっは!!」

 大魔王が背にしていた床が輝いた。
 ボン! と音を立てて飛び出した鎖が勇者の体を絡めとる。

大魔王「先ほども言ったがこの城は俺の魔力でその形を自由に変える。つまり、『壊すのも自由というわけだ』。俺の夢を、魔界の未来を潰したお前だけは絶対に生かして帰さん。ここで潰れて死ね、勇者。俺と共に」

 大魔王の背から伸びる光が、城中に広がっていく。
 それはまるで、波にさらされた砂の城に罅が刻まれていくように。






大魔王「奈落の底まで付き合ってくれると、そう言ったよな? 勇者」














 勇者を待ち続ける戦士の目の前で、大魔王城が崩落する。


 ―――――戦士は勇者の名を絶叫した。

556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:13:14.79 ID:dyU/3Fo20
 時を大魔王城完全崩壊の直前に巻き戻す。
 勇者は大魔王の拘束を解き、出口に向かって城内を駆けていた。
 振動は絶え間なく続き、頭上からは次々と巨大な瓦礫が降り注いでくる。
 その内のひとつが勇者の体を直撃した。
 しかし勇者はあっさりとその瓦礫をひっくり返して立ち上がり、再び駆け出す。

勇者「崩壊するまであと十数秒ってところか……」

 そう呟く勇者の顔に焦りは無い。
 それは例え脱出が間に合わず、崩壊に巻き込まれようと、先ほど瓦礫を押しのけたように簡単に生還できることが分かっているからだ。
 そこで、勇者ははたと気づいた。

勇者(……大魔王は、どうしてこんな真似をした?)

 大魔王の最後の様子を見れば、なるほど確かに、狂乱の果てにこんな自爆紛いのことをしたのも納得できる。
 しかし、本当にそうなのだろうか?
 大魔王は賢しい。この程度では今の勇者にダメージを与えられないことなど、百も承知のはずだ。
 あの男が、こんな無意味な真似をするものだろうか?
 死の際に乱心したのだと結論付けるのは簡単だ。
 だがもし、そうではないとしたら?
 この行動にも、れっきとした意味があるとしたら?
 城を崩壊させたのは、勇者の命を奪うためではないことは明白。
 だとしたら、他にどんな理由が―――――
 勇者は踵を返し、再び大魔王城の奥へと舞い戻った。
 直後に大魔王城は崩落し、勇者の姿は瓦礫の中に消えた。

557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:14:07.37 ID:dyU/3Fo20
 ―――――全壊したはずの大魔王城において、ひとつだけ傷ひとつ入っていない部屋があった。
 室内には円柱形の水槽が三本立っており、それぞれに魔王と同じ姿をした魔物が浮かんでいる。
 壁際の本棚には手垢で汚れた様々な書物がみっちりと並んでおり、その中には勇者の世界の言語で記された物もあった。
 たくさんの資料が綴られた分厚い冊子を片手に、魔王のサンプルを観察する少女がいた。
 ゆるくウェーブがかった黒髪を肩甲骨の辺りまで伸ばしている。
 その額の両端からぴょこんと小さな角が二本飛び出していること以外は、その見た目に人間との大きな差異は見当たらなかった。
 年の頃は、人間でいえば12〜3歳といったところか。
 部屋の入口のドアが開き、入ってきた者の姿を見て、少女は驚きに目を見開いた。

「お父様!!」

 部屋に入ってきたのは、血にまみれた大魔王だった。

大魔王「娘よ、すぐに室内の資料を持ち出す準備をせよ。上の城を崩壊させた。ここはもう研究室として機能できん」

 娘はまず、何より目についた大魔王の傷―――無くなった両腕を補うため、新しい義手を部屋の奥から持ち出してきた。

娘「一体何があったのですか?」

 義手を大魔王に取り付けながら、娘は問う。

大魔王「勇者だ。俺たちの理想郷に住む人間たちの代表。奴にやられた」

娘「信じられません……神の如き力を持つお父様を凌駕する人間がいるなど……」

大魔王「しかし事実だ。くそ…『伝説の勇者』と奴を接触させたのが最大の間違いだった。まさかこんなことになるとは……これで、計画は10年単位で遅れてしまうぞ」





「いや――――やっぱりここで終わりなんだよ。その計画は」



558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:15:03.51 ID:dyU/3Fo20
 室内に響く、もう一人の男の声。
 大魔王の顔が凍り付いた。
 大魔王が恐る恐る部屋の入り口に目を向けると――――そこには、勇者が立っていた。

勇者「お前が城を崩落させた意味を考えた」

 一歩、勇者は歩みを進める。

勇者「俺を殺すためじゃない。であれば、考えられるのは俺をあの場から離れさせるため。ならば、俺をあの場から離れさせる理由は? 可能性として考えられるのは、俺にあの部屋から奥に進んでほしくなかったから」

 さらに一歩。
 大魔王の肩が震えだした。

勇者「お前があんなはったりをかましてまで守りたいもの。それは何かを考えた。候補として浮かんだのは研究成果。試験都市フィルストを造り上げた、魔界再生のための叡智の結晶。そういうものが、残っているんだと考えた」

 さらに一歩。
 勇者は遂に大魔王とその娘の眼前に。

勇者「だけど、そんなもんじゃなかったな――――成程、受け継ぐ者がいたって訳だ」

大魔王「ま、待て!! 待ってくれ!!!!」

 大魔王は激しく狼狽した。
 大魔王の視線は勇者の持つ剣に釘付けになっている。

大魔王「わかった!! 終わりだ!! 全ての計画は棄却する!! 二度とお前たちの世界には関わらない!! お前たちの世界に残っている魔物たちも責任をもって俺が全て処理する!! だから―――」

 大魔王は地面に膝をつき、首を垂れた。

大魔王「だから……娘の命だけは助けてくれ……」

娘「お父様…!」

大魔王「何も言うな。頼む、勇者……この通りだ……」

 しばしの沈黙が部屋に満ちる。
 チャキ、と勇者が剣を揺らす音が響いた。
 大魔王はぎくりと肩を震わせる。

大魔王「待て!! 待ってくれ!! 勇者!!!!」

勇者「聞けないよ、大魔王。お前の娘、ばっちりお前の助手やってますって感じだ。お前の計画の理念も骨子も理解できているものだと、そう判断せざるを得ない。であれば、お前の娘を見逃すことは後に大きな禍根を残すことになる」

大魔王「誓う!! 絶対に娘には計画を受け継がせない!! この研究室も今からお前の目の前で破壊する!!」

勇者「駄目だ。大魔王再誕の可能性は万に一つも残せない。お前の娘は見逃せない」

大魔王「が…か…!」

 大魔王は思案する。何とか異世界への扉を開き、娘だけでも逃がすことは出来ないか。
 駄目だ。勇者の速度は身に染みてわかっている。
 異世界への穴が開き切る前に、勇者の剣は娘の喉元を切り裂くだろう。
 煩悶の末に、大魔王の目尻から一筋の涙が零れ落ちた。
 大魔王はその顔に慈愛に満ちた笑みを浮かべ、娘の頭にぽんと手を置いた。

娘「お父様……?」

大魔王「事ここに至ってはもはやお前の命だけが全てだ。ただお前が生きてさえいれば、俺はそれでいい。苦労ばかりかけたな。すまなかった」

娘「お父様、まさか!!」

大魔王「全てを忘れ、人として生きよ。愛しているぞ、娘よ」

 バヂン、と電気が流れたように、娘の体が跳ねた。
 大魔王が娘の頭から手を離す。
 虚ろな顔でしばらく虚空に視線を彷徨わせていた娘だったが、やがて目の焦点が合うとキョトンと首を傾げた。

娘「あーうー?」

 まるで赤子のような声を発しながら、娘は部屋中を見回している。

大魔王「見ての通りだ」

 大魔王は憔悴した笑みを浮かべ、言った。

大魔王「俺が他の生物の脳に干渉できるという話はしたな。今、俺は娘から全ての記憶を奪った。この子はもはや言葉を発することすら叶わぬただの赤子だ。俺の跡を継ぐことなど出来ようはずもない」

 大魔王は指先を娘の鼻先に近づけ、くるくると回してみせた。
 娘は不思議そうにその指の動きを目で追って、やがてきゃっきゃと笑い声をあげた。
 大魔王は目を細める。穏やかなその顔は、かつての幼い娘との日々を思い返しているのかもしれない。

大魔王「だから勇者、あらためて頼む。俺の首は自由に持っていけ。だが、哀れなこの子の命だけは、見逃してやってほしい」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:16:17.64 ID:dyU/3Fo20
 ――――沈黙。
 長い、とても長い沈黙があった。
 やがて、勇者が口を開く。伏せられたその顔からは、表情が読み取れない。

勇者「……そうだな。確かに、もうその子がお前の計画を継ぐなんてことは無理なんだろう。俺たちの世界に連れ帰り、人として育てれば、魔界なんて世界があることさえ知ることなく生きていくことも出来るかもしれない」

 勇者が顔を上げた。
 勇者の顔には笑みが浮かんでいた。
 だけどもそれは、とても寂しくて、大事な何かを諦めてしまったような、そんな力の無い笑みだった。



勇者「だけどな――――それでもゼロじゃない。いつかその子は何かのきっかけで記憶を取り戻して、俺たちの世界に牙をむくかもしれない。そんな可能性が万が一にも存在している以上――――この子を見逃すことは出来ないんだよ、大魔王」



 大魔王の顔が凍り付く。
 勇者が一歩を踏み出した。

大魔王「うおあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 奇声を発し、半狂乱で暗闇を発動させる大魔王。
 そして、娘の手を引き、その暗闇に押し込もうとして――――ごとり、と大魔王の首が地面に転がった。
 一拍遅れて噴き出した鮮血が娘の頬を濡らす。

娘「うゆ?」

 どさりと大魔王の体が崩れ落ちた。
 首を失くし、地面に血の水たまりを広げ続ける己の父の姿を、娘は不思議そうに見つめている。
 勇者は振り切った剣をもう一度構えなおした。
 娘が勇者の気配に気付く。キョトンと目を丸くし、首を傾げながら娘は勇者の顔を見上げている。
 剣を振りかぶる勇者の姿を見ても、娘は逃げようとしない。

娘「あう。うー! うー!」

 娘は勇者に向かって両手を伸ばした。
 まるで、抱っこをせがむ赤子のように。
 勇者の目から大粒の涙がこぼれた。







 そして勇者は剣を下ろした。



560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:17:12.36 ID:dyU/3Fo20
 ―――――試験都市フィルスト。

 勇者の実家を模した家の中で、魔族の娘が窓越しに空を見上げている。
 物憂げなその表情からは、彼女が己の父―――『伝説の勇者』の安否を心配していることが容易に読み取れた。
 はぁ、と魔族の娘は大きなため息をつく。
 どうしてこうなってしまったのだろう。本当なら今頃は、家族三人で仲良くピクニックに行っているはずだったのに。
 自分が初めて作ったお弁当を、自慢気に父に披露するつもりだったのに。

「お父さんのことが心配?」

 かけられた声に振り向く。
 いつの間にか、母が部屋の中に入ってきていた。

魔族娘「心配だよ。パパ、すごく怖い顔してた。あんな物々しい格好までして…」

魔族母「大丈夫よ。あの人はとても強いもの」

 母は娘を抱き寄せ、安心させるようにその背を撫でる。

魔族母「あの人は大魔王様と戦い、それでも生き残った唯一の人。敵であったはずの私達を慮って剣を振れなくなった優しい人。本当はもう戦いたくなんてないのに、誰かの命を救うためにもう一度立ち上がった勇気ある人―――『勇者』、なんだから」

 娘は母に背を預け、ふうと息をつく。

魔族娘「……パパが助けに行ったあいつ。あいつも、パパの子供なの?」

魔族母「そう……そうね。そのようだわ」

魔族娘「ママは知ってたの? パパに他の子供がいるってこと」

魔族母「知っていたわ。それでも、ママはパパを愛した。戦いに傷つき、魔界と自分の世界との間で葛藤するあの人を救ってあげたかった」

 魔族の母は、かつて大魔王との戦いに敗れ瀕死となった『伝説の勇者』の世話役として、彼と共に過ごした日々に思いをはせる。
 『伝説の勇者』はずっと自分を責めていた。ずっとずっと誰かに謝っていた。
 その姿を見て、胸が締め付けられるような切なさを感じた。
 キュンと締め付けられた胸の熱は庇護欲をそそり、母性を刺激し、やがて大いなる愛情となった。
 ほう、と魔族の母は熱のこもった息を吐く。

魔族母「パパはきっとあの子を連れて帰ってくる。ねえ、○○。どうかあの子と、パパのもう一人の子供と仲良くしてくれないかしら?」

 娘は頬を膨らませた。
 父を殴りつけた勇者の姿を思い出して怒りを再燃させたのだろう。
 しかし娘はぷしゅーと息を吐くとにこりと母に微笑みかけた。

魔族娘「しょうがないなぁ。ママと、何よりパパのためだもの。我慢して、仲良くしてあげる」

 それは、母譲りの慈愛に満ちた笑みだった。
 娘は窓の向こう、空の彼方を見据え、父に思いを馳せる。

魔族娘「……あれ?」

 広い空の下、小高い丘の上。
 娘はそこに、何だか見覚えのある人影を見たような気がした。

561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:18:17.60 ID:dyU/3Fo20









     「『呪文・―――――極大雷撃』」








562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:18:52.66 ID:dyU/3Fo20



 轟音が鳴り響き、烈光が迸る。



 極大の熱量が、フィルストの街を焼き尽くした。


563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:19:27.20 ID:dyU/3Fo20
 パチパチと、火の手が家屋を燃やす音がする。

魔族娘「痛い……痛いよ……ママ…どこ……?」

 衝撃に家ごと吹き飛ばされた魔族の娘は、痛む体を引きずって瓦礫の隙間から這い出した。
 烈光をまともに直視してしまった彼女は既に視力を失ってしまっている。
 だから、彼女はすぐ傍で物言わぬ肉塊となっている母の姿に気付けない。
 暗闇の世界を、母を求めて彼女はただひたすらに手探りで進んでいく。

「ぎゃあ!!」

 遠くで悲鳴が聞こえた。
 びくり、と彼女は肩を震わせる。

「やめ、たすけ…あぁぁ!!!!」

 すぐ近くで悲鳴が聞こえた。

魔族娘「なに…? なんなの…?」

 目は見えなくなってしまったけれど、皮膚に伝わる熱が燃え盛る街並みを彼女に想像させる。
 轟々と燃える炎の音の中で、小さくサクリと草を踏む音が聞こえた。

魔族娘「誰…?」

 返答は無かった。
 そしてそれが彼女の最後の言葉になった。

564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:20:09.36 ID:dyU/3Fo20
 魔族娘の喉に突き立てた剣を引き抜き、勇者は剣についた血を払う。
 勇者の腰には二つの首が――――大魔王と、その娘の首が下げられていた。

戦士「ここまで……ここまでする必要があったのか?」

 勇者の背後から、神妙な顔で戦士が声をかけた。

勇者「あったさ」

 勇者はとても平坦な声で戦士に返答した。

勇者「この試験都市フィルストに住む者は皆知性の高い高位の魔族ばかりだ。ここに住む者は誰しもが第二の大魔王に成り得る。残しておけば必ず後の禍根となる。親父の家族なんて、その最たるものだ。とても生かしておくことなど出来なかった」

 勇者は戦士に向かって振り向いた。
 血と煤で汚れた顔が、炎の赤い光に照らされている。

勇者「親父の首もここに埋めていく。本望だろ。愛する家族と一緒に眠れるんだ」

 そんな勇者の言い草に、戦士は何だかとても泣きたい気持ちになった。

勇者「なんだよその顔……いいんだぜ、別に。もうついてこなくたって」

 勇者は戦士に背を向けた。
 そして、言った。
 震える声を、必死に押し殺して。






「正直、もう無理だろ。こんな奴」



565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:20:45.61 ID:dyU/3Fo20
『―――それで? 彼女とはその後、どうなったんだ?』

 光の精霊の荘厳な声が、神話の森に響く。

勇者「別に、どうも。特に会話もなく、俺たちは地上に戻ってきた。今頃彼女は武の国で体を休めているんじゃないかな。明日からの祝勝パーティーに備えて」

光の精霊『勝利に浮き立つ城を抜け出し、君はここに来たというわけか。しかし、城を出たのは皆が寝静まってからだろう? そう考えると、君はほんの僅かな時間でこの森の最奥までたどり着いたことになる』

光の精霊『数多の精霊の加護に加え、私の加護を完全に得た君は、まさしく神の如き力を得たと言えるだろう』

勇者「そうだ。俺はその点で確認したいことがあってここに来たんだ」

光の精霊『何かな? 面白い話を聞かせてもらった礼だ。何でも答えようじゃないか』

勇者「俺は魔界で親父に会った時、一目でそれが親父だと分かった。五年以上の歳月が経過しているにも関わらず、『親父は余りにも昔のままの外見をしていて、俺の記憶にあるそのままの姿』だったからだ」

勇者「そこで仮説だ。つまり光の精霊。アンタの加護を得た者は老化を抑えることが出来るんじゃないか?」

光の精霊『ご明察だ。強大に過ぎる私の力は、生物を命の理から外してしまう。老化を抑える、どころではない。不老だ。私の加護がある限り、君に老いによる死は訪れない』



『まさしく―――――神の如き力を、君は得たのだ』


566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:21:23.61 ID:dyU/3Fo20
 武の国は連日、祭りの如き喧騒に包まれた。
 何しろ、世界に真の平和が訪れたのだ。
 人々は一様に、その顔に笑みを浮かべていた。
 感激の涙を流している者さえあった。
 酒に顔を赤らめて、陽気に肩を組んで踊る男たちがいる。

「「「世界に平和が訪れた。恐ろしい魔物の王はもういない。一体誰がしてくれた。一体誰が、こんな偉業を成し遂げた」」」

「「「勇者、勇者だ、『伝説の勇者』の息子、勇者様! 親子二代に渡って人類悲願の世界平和を成し遂げた! おお、なんたる献身、なんたる勇気!!」」」

「「「『伝説の勇者』、万歳!! 『伝説の勇者』の息子、万歳!!!!」」」

 人々は声高に歌い、勇者の偉業を讃えた。
 詩人はこぞって勇者の冒険譚を謳い上げ、勇者は瞬く間に幼子まで憧れるような英雄へと祭り上げられた。
 世界中から人々が集まった武の国の盛り上がりは、今、最高潮を迎えていた。
 何故なら今宵、大魔王討伐を成し遂げた勇者が遂に民衆の前に姿を現すことになっているからだ。
 武の国中央広場は、世界を救った英雄を一目見ようと集まった群衆によって埋め尽くされていた。
 広場の北側に用意された舞台上には、武王を始めとした諸国の王が並び、大魔王討伐記念のセレモニーが進められている。
 ざわ、と広場の前列から声が上がり、やがてそれは歓声の波となって民衆の最後尾まで到達した。
 楽団による演奏と共に、勇者が壇上に姿を現したのだ。
 中央広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
 勇者はいつもよりは小奇麗にしているものの、華美な衣装は身にまとわず、およそいつもと変わらぬ風体をしていた。
 豪華な衣装も準備されてはいたが、どうしても袖を通す気にはなれなかったのだ。
 勇者は眼前に広がる人々の姿を―――自分が救った人々の姿を目に納める。
 盛り上がる広場の熱気に酔い、やや興奮しすぎの様子ではあるものの、皆その顔に笑みを浮かべていた。
 それを、素直に嬉しいと勇者は思った。
 ごほん、と勇者が咳払いし、武王が民衆を手で制した。
 途端にしん、と広場に静寂が満ちる。
 聴衆は皆、勇者の言葉を聞き漏らすまいと、じっと耳を傾けていた。
 勇者は一度深々と頭を下げてから、語り始めた。

勇者「今日は、私の口から皆さんに改めてご報告をさせていただきます」

勇者「大魔王は倒れました。もう、獰猛な魔物が皆さんを脅かすことはありません」

 歓声が上がった。
 人々は口々に勇者の名を連呼し、褒め称えた。

勇者「ありがとうございます。しかし、この平和を手にするまでに多くの苦労がありました。本当に―――沢山の、辛いことがありました」

 勇者は目を閉じた。
 脳裏には、これまでの旅路が走馬灯のように駆け巡っている。


567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:22:41.70 ID:dyU/3Fo20


 旅の当初によく起きていた、戦士との衝突。


 第六の町での、騎士との出会い。


 獣王との邂逅。瀕死の傷を負い、死の恐怖に打ちのめされた記憶。


 エルフ少女との出会い。


 母に追い詰められ、自身の価値を喪失した。


 盗賊との争いで、初めて人間を殺めた。


 心の均衡を保てず、仲間を困惑させた。


 善の国での人身売買撲滅活動で、自身に似た境遇に生きた『神官長の息子』を死に追いやった。


 武の国で参加した武闘会では、騎士に手も足も出なかった。


 アマゾネスという部族の存在を知り、ハーレムの実現を夢想した。


 そしてその夢は武道家に丸ごとかっさらわれた。


 狂剣・凶ツ喰――――呪いまで生み出すほどの人の執念を知った。


 呪いを解くために海を越えてはるばる倭の国を目指した。


 道中、かつて救った黒髪の少女との再会があった。


 端和で、とある武器職人家族の末路を知った。


 神を騙る竜との激戦があった。


 かの獣王との決戦があった。


 神話の森の冒険があった。


 魔王討伐のための大作戦があった。


 己の分身ともいえる男との――――騎士との、決着があった。


 父との決別があった。


 大魔王との戦いがあった。




 ―――――心に反した、苦渋の決断があった。


568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:24:01.20 ID:dyU/3Fo20


 勇者はゆっくりと目を開けた。



勇者「……どうか、お願いです。ようやく実現したこの平和を、たくさんの犠牲があってようやくたどり着いたこの幸せを、どうか永久のものとしてください」




勇者「本当に、本当に……苦労したんです。どうか、皆が笑顔で過ごせるこの日々の継続を。誰かが夢見た理想郷を、この世界に実現させましょう」




勇者「もしもちっぽけな我欲のためにこの平和を脅かす何者かが現れた時―――――私は、その存在を決して許しはしません」




 その言葉をもって、勇者のスピーチは終わった。

 これからも平和の為の献身を続ける宣言とも取れるその内容に、聴衆は熱狂したのだった。

569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:25:14.01 ID:dyU/3Fo20
「何だと!!?」

 大声が上がったのはセレモニー後の武の国大会議室だった。
 そこには、勇者の要望により世界各国の代表が集められていた。

「一体何を仰るのだ! 勇者殿!!」

 泡を吹く勢いで勇者に詰め寄っているのは武の国の大臣だ。
 ひどく慌てた様子の大臣とは対照的に、勇者は冷静に先ほど行った各国への通達を繰り返した。

勇者「ですから、これより全ての国において武力の保有を禁ずると申し上げたのです。この世界から魔物は消え、もう人々が武器を持つ意味も無くなった」

勇者「であればもう武器など無用の長物。いやむしろ徒に人の命を奪う害悪。故に、破棄を命じます」

国王「馬鹿な!!」

 反論の声を上げたのは誰あろう、勇者の故郷である『始まりの国』の国王だった。

国王「気は確かか勇者! 魔物はいなくなっても悪事を働く盗賊などの犯罪者は依然存在する! 国家が武力をもって治安維持に務めねば、住民の安寧を維持することなど出来ん!!」

勇者「その役目は私が負います。今の私は万里先の事象を見通し、千里の道すら一歩で駆けることが出来る。この世界のどこにおいても、罪を犯した者の前に瞬時に姿を現し、裁きを下すことが可能です」

国王「ば、馬鹿な。そんなことが出来るはずが……」

勇者「疑われるのならここの地下牢を見学に行くとよろしい。戦勝に酔う人々の隙をついて盗みなどの不逞を働こうとした者達を私の手で捕らえております。既に収容するスペースが足りないほどだ。悲しいことにね」

国王「な……」

 国王は武王の顔を見た。
 武王は苦々しげに頷いてみせる。

国王「し、しかし、軍事力の無い国などというものはそもそも成立しない! 税の徴収などに強制力を持たせていられるのは、あくまで国家の武力が背景にあってこそなのだ!!」

勇者「その程度で成立しなくなる国なら無くなってしまえばよろしい。民の不満を武力で押さえつけていた無能領主をあぶりだすいい機会となるでしょう。例えば善の国などは、きっとこの程度のことで揺らぎはしない」

善王「買い被りが過ぎるぞ。勇者殿」

勇者「そうかな? 罪を犯した者に対する苛烈な罰則。それが私の裁きという形態で存続する以上、あなたの国政には武力の有無はさして影響しないはずだ」

武王「影響があるのは強大な武力で国力を維持していた我が国が最たるものだよ、勇者。お前は我が国の勇壮な兵士達に路頭に迷えと言うのか?」

勇者「逆に聞くがこれからの世界で勇壮な兵士の剣は誰に向かって振るわれるというのだ? 人々を脅かす魔物はもういない。他の国々が一斉に武力を放棄すれば他所に侵略される恐れもない」

勇者「あなたが持つ兵士の強靭な肉体は、これからは畑を耕すことや土地の開発を行うことに使ったらいい。そしてその改革は、決して難しいことではないはずだ」

国王「民は混乱する。そんな大規模な改革を行えば、せっかくお主がもたらしたこの平和も露と消えることになるぞ!!」

勇者「混乱は私が収束する。必要となれば、私が一時的に世界を統一して導く役割として君臨しよう。何しろ、実際に私にはその為の力が備わっている」

 勇者のこの言葉に反応したのは善王だった。
 ずっと難しい顔で思案していた善王は、抱いていた疑問を勇者に投げかける。

善王「勇者殿。君は罪を犯した者に対する罰則装置になると言ったな。確かに、大魔王を倒した今の君ならば、そんな途方もない芸当も可能なのだろう」

善王「だが、君亡き後の世はどうなる? 君ほどの男が、こんなことにすら思い至らず、短絡的に物を述べるはずがないと様子を伺っていたが……先程の発言、君はもしや……」

勇者「やはり貴方は優秀だ、善王様。私の望む治世には今よりもっと整備された法の存在が必須。貴方にはその制定に存分に手腕を発揮していただきたい」

勇者「ともあれ貴方の疑問に答えよう、善王様。お察しの通りだ。余りに多量の精霊加護が集中したことで、私は人の理を外れた。私に寿命は存在しない。未来永劫に渡り、罪に対する抑止力として存在することが可能だ」

善王「それは想像もできない、したくもない、茨の道のりだ。君は感情ある人間だ。神ではない。己の意に反した決断を迫られることもあろう。それが、どれほど君の心を削り取っていくことか」

勇者「なに、心配には及ばない――――『もう慣れた』さ、そういった類のことは」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:27:08.37 ID:dyU/3Fo20


国王「ふざけるな……ふざけるな!!!!」

 『始まりの国』の国王は、勇者を指差し、弾劾するように叫んだ。



国王「何たる不遜な物言い…!! 神を気取るか、痴れ者が!!!! それでもお前は、あの『伝説の勇者』の息子か!!!!」







 その言葉に、ぴくり、と勇者の肩が震えた。



 そして、勇者は笑い始めた。



 大口を開けて、大声をあげて、笑い続けた。



 とても楽しそうに。腹の底から愉快気に。



 その異様な雰囲気に、誰も口を挟むことが出来ない。



571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:28:01.84 ID:dyU/3Fo20





 ――――どれほどの時間が経ったのだろう。




 やがて―――笑みがやんだ。




 そして勇者は、ゆっくりとその場に集まった者たちの顔を見回し――――――――







 ―――――――その口を、開いた。



572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:28:56.40 ID:dyU/3Fo20











     最 終 章










573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/25(日) 16:30:04.14 ID:dyU/3Fo20











   『伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件』










574 :1です [saga]:2017/06/25(日) 16:31:22.16 ID:dyU/3Fo20
次回、エピローグ

本当はそこまで仕上げて一気に投下したかった

ホントにラストだ 頑張ります
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 16:35:14.36 ID:6CGuFjMTo
どうなっちまうんだ…!


乙……!
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 16:36:20.97 ID:lS9dLEc5O
お疲れ
投下が来て本当に良かった
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 16:38:05.98 ID:LX9140jTo
ひええ……
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 17:02:19.46 ID:qW5FppWfo

展開がまた予想できない方向に……
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 17:48:32.36 ID:nG346ZDq0
マジで書籍化レベル
凡百のファンタジー小説よりよっぽど優れている
最高です
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 18:34:10.76 ID:XyiWzxOTo

いやあ、やっぱしスレタイ回収は胸熱だわ
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/25(日) 20:33:34.95 ID:Q/o2K5v20
戦士ちゃんとどうなるのか…
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 20:51:29.88 ID:/NtEJLLlO
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 21:18:09.76 ID:I9cQXz8R0
乙!
ほんと面白い、エピローグはどうなるんだ……
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 21:40:39.10 ID:F1anB7Nko

もう期待しかない
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 23:28:35.29 ID:C16Ps+j1o

まじリアルタイムで読んでてよかったわ
終わるの惜しいけど、エピローグ楽しみだ
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 00:10:43.04 ID:5XZGPOa4O
おつ…
本当に毎回期待を上回ってくれる
このSSは伝説になるよ必ず完結させてくれ
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 00:31:45.08 ID:OYSOlJlGo
乙乙乙!
最終章がマジ楽しみとしか言いようがない
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 01:53:50.58 ID:YB4iZI2Q0
東京オリンピックまでには完結しますように
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 02:00:59.27 ID:XTbDv7jto
ここ数年で一番の高翌揚感
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 03:13:04.01 ID:ojsMeE7TO
正直スランプを心配していたけど期待以上のクオリティーで安心した
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 13:21:15.64 ID:rPwqEQNR0
ずっとおいかけていて、親父殺してから続きまだかな、と思っていたら来ていた。
こうなって欲しい、という思いがいつもあるなか逆に進む(ある意味では真っ直ぐだが)ブレなき話の進め方が特に面白い。
どんな結末になるのか、楽しみにしています。
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:48:16.13 ID:x2aK7fkPO
おつつつt
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 20:52:23.61 ID:CRrNwbL4O

納得行くまで十二分に練ってから終わらせて欲しい
最初から楽しく読ませて貰ってるし何時までも待つ
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/28(水) 02:05:16.50 ID:A39SGyzLo
おつです
魔界での選択はなるべくしてなったものだよなぁ、もうそうするしかないっていう
この最後にタイトルがでるとか超熱いのにどうしようもなくひたすら心が痛い
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 12:22:43.16 ID:km73S/R5O
おつおつ
久しぶりの更新に心震えた!
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 01:43:00.17 ID:cmKZfODQ0
すげぇ…
マジすげぇ…
すげぇとしか形容できない…
鳥肌もののすげぇだわ…
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/10(月) 15:11:54.94 ID:ssjy+CH00
>>594
素直にとれば、伝説の勇者の名が偉大すぎて勇者になろうとするがなりきれずにあがく息子って意味だと思っていたが
この最終局面で出てくると神なの!?魔王なの!?ってまったく印象が変わってしまうんだもんなぁ…
勇者の中で必要性があるからそうするんだろうけど、最後まで自分のやりたい事をやりたいように出来ないもんかなぁ、騎士のように。
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 23:17:36.66 ID:igzfx1JqO
必要性っていうか、勇者はずっとやり方変えてないと俺は思うけどね
少しでも可能性があるなら摘み取る…って部分
やりたいようにやってるんじゃないかな
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 23:36:40.36 ID:lNow/SDw0
>>598
いや最初からってわけじゃあないだろう
獣王に敗れて母からの手痛い仕打ちがなければ、きっと手を取り合えてたんじゃないか?
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 11:20:02.28 ID:S2u9sModO
名作すぎて何度も最初から読み直してしまう
戦士たんと幸せになってほしいじゃないと勇者が可哀相すぎると思いつつもハッピーエンドにならなさそうな雰囲気しかしない
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/30(日) 18:12:48.04 ID:DxLynjAX0
続け
602 :1です [sage]:2017/08/11(金) 13:38:37.90 ID:6WWetJv00
8月中の投下を目指して鋭意製作中です

申し訳ありません しばしお待ちを
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