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勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/17(日) 23:09:49.01 ID:OJsgyrgxO
乙!
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/17(日) 23:57:33.34 ID:FPqFEynVO
乙
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/19(火) 07:53:08.71 ID:b54gQEJ0O
エルフ少女はこれでサヨナラではないよな…?
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/30(土) 04:10:14.04 ID:gb0EChCV0
主人公の武道家はハッピーエンドかぁ…
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/01(日) 01:31:57.76 ID:cdmUlN8Po
GW中に燃料の投下あるかなー
198 :
ザコ
◆yCN5hS2KDdU/
[saga]:2016/05/04(水) 14:23:29.90 ID:pr9Q79bJ0
俺の周りを包む緑色のバリアが水の剣の攻撃を防ぐ。
賢者「何!?」
ザコ「そのままタックル!」
賢者「グハッ!」
完全防御を纏ったまま突撃してやった。ダメージはでかいはずだ。
と言っても回復魔法陣の上なので回復するのだが・・・
ザコ(参ったって言わせるの面倒臭すぎるだろ!)
正直このままじゃ終わりそうにない。
ザコ(そうだ!良い事思いついた)ニタァ
ザコ「竜王、今から言うことを勇者に伝えに行ってほしい」
竜王「むぅ・・・この竜王を雑用に使うとは」
ザコ「頼むよ」
竜王「仕方ない、行ってやろう」
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/04(水) 14:23:57.70 ID:pr9Q79bJ0
やばい別スレご送信。恥ずかしいとごめんなさい!
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/04(水) 15:55:03.22 ID:o8YpcGa40
>>199
お前さんのスレも面白いから安心しなww
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/04(水) 18:07:05.89 ID:jJrs85cnO
ワロタw
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/04(水) 19:01:40.43 ID:yduRDv4w0
今年一番にわらったかも
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/04(水) 21:32:45.90 ID:+OyWE3PCO
これは……わらったww
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/07(土) 20:16:16.49 ID:5Q5/7FLGO
>>199
お陰で面白いスレに出会えたから感謝だわ
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/07(土) 20:17:04.30 ID:Hqx2egrFo
あのさあ……
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:10:25.49 ID:niX7BoNT0
勇者が魔界行きを決意した、その夜――――とある別れの記憶。
武道家「魔界に行く、だと……!?」
勇者「ああ」
武道家「馬鹿な…! お前は行くつもりは無いと前に散々…!」
勇者「気が変わったんだよ」
武道家「ならば、俺も一緒に…!」
勇者「駄目だ。あんな状態の僧侶ちゃんをほっぽり出していくっつうのか? そんなもん許さねえぜ、俺は」
武道家「く…! どうして、隠していた……お前が最初からそのつもりだったと知っていたら、俺は……」
勇者「だからだよ。今回魔界に行くのは世界の為とか、誰かの為とか、そんなんじゃない。完全に俺のわがままなんだ。それに、誰かを付き合わせるわけにはいかなかった」
武道家「友達だろうが、俺達は…! くそ…! 余計な気を使いやがって…! 友が死地に向かうのに何もできない歯がゆさがわかるか!? そちらの方が、余程酷だ…!!」
勇者「……悪いな。ただまあ、そんなに心配するほどの事はないさ。目的はあくまで親父の安否の確認だ。何も命を賭して大魔王と決戦しようってんじゃない」
武道家「……必ず帰って来いよ。帰ってこなかったら、ぶん殴ってやるからな」
勇者「またベタな矛盾を……予定日、二か月後だっけ? それまでには必ず帰ってくるよ」
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:11:24.37 ID:niX7BoNT0
話を終え、武道家と連れ立って玄関に向かう勇者の背中にかけられる声があった。
僧侶「あら? 勇者様、もうお帰りになってしまうのですか?」
声をかけてきたのは武道家と晴れて夫婦の関係となった僧侶だ。
僧侶のお腹はもうエプロン越しにも分かるくらいに大きく膨らんでいる。
勇者「ああ、色々と準備を進めなきゃいけなくてさ。また今度時間見つけてゆっくりしに来るよ」
僧侶「世界が平和になっても、勇者様はお忙しいのですね。何のお手伝いも出来ないこの身が歯がゆいですわ」
武道家「………」
僧侶「どうしたの、あなた? 何だかとても不機嫌な表情」
武道家「……なんでもない。少し部屋で頭を冷やしてくる」
そう言って武道家は自室に戻っていった。
僧侶「…? 一体何の話をしていたんです?」
勇者「な〜に、くだらない話さ。なあ、僧侶ちゃん」
僧侶「はい、なんでしょう?」
小首を傾げる僧侶に、勇者はにっこりと笑ってみせる。
勇者「元気な赤ちゃんを産んで、絶対に幸せになってくれよな。君はさっき俺の手伝いが出来なくて歯がゆいと言ってくれたけど、そんな事は全然思わなくていいんだ」
勇者「そんな事より、俺達が頑張って平和にしたこの世界で、君や、武道家や、勿論戦士も…みんなが幸せになってくれた方が、俺は百倍嬉しいんだからさ」
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:11:51.34 ID:niX7BoNT0
第三十一章 そして彼女は彼の言葉の意味を知る
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:13:15.11 ID:niX7BoNT0
勇者「……なんて言ってたのに、俺が幸せを祈っていたはずの彼女は俺の傍で一緒に魔界に挑もうとしているのでした。まる」
戦士「何を一人でぶつくさ言ってるんだ」
しみじみと思いを馳せていた勇者に戦士から呆れ気味の声が飛ぶ。
勇者と戦士の二人は魔王城の最深部、騎士の話にもあった泉の前にやってきていた。
二人は共に泉を覗き込む。
勇者「……騎士の言ってた通りだ。水の底に空が見える」
戦士「この場所は魔王城の中だから、水面に空が反射しているという訳ではない。それならば石造りの天井が映るはず」
勇者「うわ〜、何コレすっごい気持ち悪い。水底がないなら何であっちに水が落ちていかないの? 感覚的にすっごい気持ち悪い」
戦士「向こう側に見えているのが魔界の空ということか…? なんだ? 潜ってあっち側に向かえばいいのか?」
勇者「騎士は単純に飛び込んでしまえばいいと言っていたけど……まあ剣とか装備品持ったまま飛び込めば、重さで勝手に沈むわな」
勇者「でも俺が怖いのはそのまま向こう側の空に落ちていっちゃうことなんだよね。空に落ちるとか何それ怖い。どこまで落ちて行っちゃうの? 空の果てはどこにあるの?」
戦士「そんなものは学者にでも考えさせておけ……行くぞ勇者。覚悟を決めろ」
勇者「相変わらずの即断即決……オットコ前やでえ……」
戦士「それは褒めてるのか? 貶してるのか? それともからかってるのか?」
勇者「ほ、褒めてますです、はい」
戦士「そういう褒め方は今後控えろ……私だって女なんだ」
勇者「ア、ハイ、スンマセンッス」
唇を尖らせてぷい、とそっぽを向いてしまった戦士の反応が予想外過ぎて、勇者は咄嗟に小声で小者のような返事をしてしまった。
気を取り直して、勇者は自分の荷物の中からロープを取り出した。
勇者「念の為に、俺と戦士の体をロープで繋いでおこう。万が一分断された状態で魔界に放り出されたら危険だからな」
戦士「いらん」
勇者「ほえ?」
戦士「手を繋げばよかろう。分断を危惧するなら、いつ千切れるか分からんロープを使うよりそっちの方が確実だ」
そう言って戦士は水面から視線を外さぬまま後ろにいる勇者に手を差し出してくる。
勇者(お、オットコ前やでえ……)
先ほどの一幕で学習した勇者は、今度は感想を口に出さずに心の中に留めておくことに成功した。
戦士の手を握り、その隣に並び立った勇者は気づかない。
勇者が男前と評した戦士は、頬を桃色に染めて口をもにょもにょさせていた。
210 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:14:35.37 ID:niX7BoNT0
勇者「さあ、行こう」
勇者と戦士は覚悟を決めて泉の中に飛び込んだ。
身に纏う装備品や剣の重量に引かれてどんどん自分の体が沈んでいくのが分かる。
勇者と戦士は固く閉じていた目を開いて水底に視線を向けた。
水底に見える空は、まだ遠い。
息もそれ程長く止められるものではない。勇者と戦士は頭を下に向け、水を蹴ることで潜る速度を上げようと試みた。
―――瞬間、凄まじい勢いの水流が二人の体を襲った。
横合いから突如襲ってきた水圧に為すすべなく巻かれ、ぐるぐると回転した二人はあっさりと平衡感覚を手放し、上下左右も分からなくなった。
それでも繋ぎ合った手だけは離さぬよう必死で握りしめ、二人は互いに無我夢中で水流からの脱出を試みる。
水圧に耐えて目を見開くと、そう遠くない所に水面があるのが分かった。
勇者と戦士は頷き合い、二人で必死に水を蹴って水面を目指す。
勇者「ぷあっ!!!!」
戦士「ぷはっ!!!!」
勇者と戦士は二人同時に水面から顔を出した。
そして二人とも大きく息を吸って肺の中一杯に空気を取り込む。
勇者「はぁ〜〜びびった!! 死ぬかと思った!!」
戦士「おい、勇者……周り……」
勇者は戦士に促されて周囲の景色に目を向ける。
辺りの景色は、泉に飛び込む前の魔王城のものとは一変していた。
空が見える。赤い空に、黒い雲。
見渡す限りの、灰色の荒野。
勇者「ここが……魔界……」
勇者と戦士は泉から這い上がり、息を整えてから改めて周りを見渡した。
空が赤いのは、既に今が夕焼けの時間帯だからか。それとも、元々空の色が赤いのか。
見渡す限りの灰色の荒野は、遠く霞む地平線まで続いていて、永遠に広がっているかのように錯覚させる。
見える範囲においては、生物のようなものは見受けられなかった。
それは、そう、植物さえも。
勇者「……いや、植物の色も緑とは限らないからな……植物は緑っていう先入観のせいで、見逃しているだけかも……」
戦士「勇者、あれはなんだろう?」
戦士が指差す先に視線を向けてみれば、地面に一部黒い部分があることに気付いた。
勇者「なんだろう…パッと見、沼っぽく見えるけど……」
戦士「行ってみるか?」
勇者「そだね。他に指標もないし、俺の火炎呪文で濡れたもん乾かしたら行ってみよう。薪がないから呪文出しっぱにせにゃならんくて辛いぜ!」
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:15:59.41 ID:niX7BoNT0
勇者と戦士は黒く見えていた場所に辿り着いた。
向かっている途中で薄々分かってはいたが、勇者が予測した通り、それは沼だった。
勇者「生き物が生息しているようには見えねーなあ……」
勇者はしばらく沼の表面を目で伺っていたが、やがて思い切って指を突っ込んでみた。
ボジュウ!と音を立て、突っ込んだ人差し指に激痛が走る。
勇者「ぐぁっち!!!!」
戦士「大丈夫か勇者!!」
勇者は慌てて指を抜き、状態を確認する。
指の表面の、皮膚が焼けただれたようになっていた。
勇者「毒の沼だこれ……それもかなり強い毒性の」
戦士「魔物の肉は悉く毒を持ち、打ち捨てられた魔物の死体はやがて溶けてその周囲の土を腐らせる。その死体の量が大量になると、毒の沼が出来るのだったな」
勇者「ああ、周りを良く見るとそこかしこに毒の沼が見えるな……ってゆーか毒の沼だらけだ。流石は魔物の本拠地、魔界ってところか」
勇者は自分の指を呪文で回復させると、今度は荷物からあるアイテムを取り出した。
勇者「さて、今度はこれを試そう。戦士、俺の体に触れてくれ」
勇者にそう言われて、戦士は勇者の肩に手を置いた。
それを確認して、勇者は手に持ったアイテムを発動させる。
勇者と戦士の体が空に向かって飛びあがった。
そして二人は先ほどの泉のほとりに着地する。
過去に行ったことがある所なら、その場所をイメージするだけで使用者をそこまで飛翔させることが出来る魔法のアイテム、『翼竜の羽』の効果だ。
勇者「よし、使えた。翼竜の羽を使ってここまで戻ってこれるなら、ある程度大胆に探索を進めていって大丈夫だな」
戦士「今回持ってきた食糧の量なら、とりあえず五日間の探索といったところか」
勇者「何もトラブルが無ければ、そんなところだろう。それにしても戦士、そういう計算するの上手くなったよな。前は全然だったのに」
戦士「……勉強したんだよ」
素直に褒めた勇者の言葉に、戦士はぷいっとそっぽを向いてしまった。
212 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:17:14.99 ID:niX7BoNT0
勇者と戦士はこれから探索に向かう先を、泉のほとりにあった独特な形をした岩を背にして真っ直ぐ進んだ方と定めた。
勇者「北も東も分からんから、とりあえずま〜っすぐ進んでみよう」
戦士「今が昼なのか夜なのかも分からんな……私達の世界を基準にするなら、まだまだ昼前のはずだが」
勇者「そもそも昼とか夜の概念があるのかね」
戦士「それにしても静かだ。魔界というからには、もっと魔物がうじゃうじゃいるものだと思っていたが」
勇者「そうだね。でも、そういうことを言ってると大抵……」
何気なく周りをくるりと見渡した勇者は、ある一点で視線を止めた。
土煙を上げながら、何やら巨大な生物がこちらに向かって駆けてきている。
恐竜型魔物「ギャオオオオアッ!!!!」
その魔物は二足歩行で歩く蜥蜴といったような出で立ちだった。
ただ、その体がとても大きい。体高は5mを軽く超えていた。
口には鋭い牙が並び、太い手には頑丈そうな爪が生えている。
どうみてもその魔物は肉食だった。
勇者「こんな風になっちゃうよねー。すっごい勢いでこっち来てるよ。どう見ても友好的じゃねえなありゃ」
そう言って勇者が構えたのはそれ自体が青く輝く不思議な金属で造られた神秘の塊、精霊剣・湖月だ。
戦士「涎をだらだら流している。どうも、私達を捕食対象と捉えているのは間違いなさそうだ」
戦士もまた、赤く輝く精霊剣・炎天を構えた。
未知の敵を相手にしても、二人に焦りは無い。
既に二人は歴戦の強者。迫る敵が自分達に及ばないことは剣を交えずとも感じ取れている。
しかし、油断なく。
されど、慢心せず。
散開した勇者と戦士は二人で挟み撃ちする形で恐竜型魔物を迎え撃った。
213 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:19:09.77 ID:niX7BoNT0
さしたる傷も負わず、勇者と戦士は恐竜型魔物を打ち倒した。
かつては報奨金を得るために魔物を倒せば必ず戦利品を持ち帰っていたものだが、もう今はそんなことをする必要はない。
魔王討伐に多大に寄与した勇者一行は、各国から手厚い補償を受けている。
勇者も戦士も、武具の更新や旅に必要な物資についてはほぼ無償で提供を受けることが出来た。
勇者「さて……」
しかし勇者は倒した魔物の死体の傍に屈みこみ、検分を始めた。
先ほどの戦闘を通して、少しばかり魔物の様子に違和感を覚えたためである。
勇者「この魔物、途中で明らかに俺達の方が強いってことに気が付いていたはずだ。なのに、逃げずに最後までこちらに向かってきた。言うなれば、そう、必死だった」
勇者は魔物の腹を湖月を使って斬り開いた。
勇者「内臓の構造はそれ程変わった点は見られない……とすると、これが恐らく胃だな」
それまでは内臓を傷つけないように腹内から引っ張り出していた勇者だったが、胃と思しき部位を見つけるとそれを躊躇なく切り開いた。
どろりと胃液らしき粘性を持った黄色の液体が零れだすが、そこには固形物の類は何ら見当たらなかった。
勇者「やっぱり、胃の中がからっぽだ。それに、腹の下に全然脂肪分が無い。余程飢えていたんだな、この魔物」
あらかた魔物の体を調べ終えた勇者は、風の呪文を地面にぶつけて土を吹き飛ばし、巨大な穴を掘った。
そこに魔物の残さを放り込み、土を被せて埋める。
作業を終えた勇者に、戦士が水で濡らしたタオルを差し出した。
勇者「ありがとう」
勇者はそれを受けとり、血で汚れた体を拭く。
戦士「まだ汚れているぞ」
戦士はもうひとつタオルを準備し、それで勇者の顔を拭った。
勇者「あ、あり、ありがとう?」
戦士「どういたしまして」
咄嗟の事にどぎまぎして勇者は戦士に礼を言った。
勇者「さて、ちょっと分かったことがある」
気を取り直して勇者はそう切り出した。
勇者「魔界ってことで身構えていたけど、魔物の強さは俺達の世界に居た奴と比べても大した違いは無い。むしろ、もっと弱いんじゃないかってとこまである」
戦士「考えてみれば、私達の世界に居たのは異世界を侵略するための尖兵ということだものな。より強い魔物を送るのが当たり前か」
勇者「騎士との戦いを経て、今の俺達はもはや万全の獣王にすら独力で勝ち得る程に加護レベルが上がっている。これからの戦いで魔物相手に後れを取ることはそうそうないだろう」
戦士が頷くのを確認して、勇者は言葉を続けた。
勇者「ただし、どうもこの辺りの魔物は飢えて気が立っている様子だ。そういう奴は何をしてくるかわからんので、くれぐれも油断しないこと」
戦士「ああ、わかっている」
勇者「それじゃ、行こう。この砂漠みたいに何もないエリアがどれだけ続いてるか分からないけど、ここはさっさと抜け出したいな」
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:20:43.17 ID:niX7BoNT0
しかしそんな勇者の願い空しく、いつまでたっても荒野を抜けることが出来ないまま夜を迎えてしまった。
勇者と戦士は荒野にテントを立てて野営の準備を進める。
勇者「魔界にも夜ってあるんだな」
戦士「星も瞬いているぞ。そしてあれが……多分、私達の世界で言う月なのだろうな」
漆黒の空、戦士が指差す先には、青く輝く月のような円があった。
戦士「最初は不気味だと思ったが、見慣れると美しくすら思える。何とも幻想的な光景だ」
勇者「辺りが薄青く照らされてる。結構強い光が出てるんだな。わりと辺りを見通せるから先に進めなくもないけど、ま、やめとこう。念の為な」
テントを組み立ててから、勇者は戦士に中に入るように促した。
勇者「魔界の夜がどれくらいの時間続くのか分からないけど、とりあえず三時間を目処に見張りを交代しよう。まずは戦士が先に寝てくれ」
戦士「わかった」
そう言って戦士はもぞもぞとテントの中に入っていった。
勇者「う〜、若干肌寒いな…火種になるようなものが無いから火も焚けないし…次に来るときは薪もある程度準備してきた方がいいな」
戦士「な、なあ……」
勇者がごしごしと手のひらで体を擦って暖を取ろうとしていると、テントの中から戦士の妙に弱弱しい声がした。
勇者「どうした?」
戦士「そ、その……体を拭きたいから、ちょっと中で服を脱ぐけど……」
勇者「ファッ!?」
戦士「覗くなよ!? ぜ、絶対に覗いちゃ駄目だからな!!」
勇者「ファ、ふぁい!!」
しばらくの沈黙の後、ごそごそと衣擦れの音がテントの中から聞こえてきた。
勇者(あばばばば! まずい! よく考えたら戦士と二人きりで夜を過ごすなんて初めてやんけ!!)
戦士(お、落ち着かない……! 今まではこうやって着替えたりする時は僧侶と交代でしていたから、安心していたけれど……今勇者が破廉恥な行動に出たとしたら、私にはそれを止める術がない……!)
勇者(あかん! 落ち着け! 意識するな!! 心頭滅却すれば火もまた涼し!! うおおおおおおお!!)
戦士(あ、いや……こんな傷だらけの女の体なんて、誰も見たいなんて思わないか……)シュン…
勇者(あかん!! よこしまな気持ちよどっかいけ!! 緊張感を保つんだ!! ああ、もう、敵の本拠地である魔界での初夜でなーにをこんな浮かれポンチな思考に陥っとるのだ!!)
勇者(しょ、初夜ッ!!!?)ボムッ! ←自爆
結局、勇者も戦士もまんじりともせず翌朝を迎えたのであった。
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:21:41.82 ID:niX7BoNT0
翌日―――
勇者「おお、山だ……あれ多分山だよな…?」
戦士「おそらく…な」
荒野をひたすら進んでいた勇者達は、地平線に浮かぶ山の影をその目に捉えた。
勇者「いや、山なんだけどね…ただの山なんだけどね……それでも、景色に変化が出てきたことがこんなに嬉しいとは……」
戦士「今までまっっったく景色に変化が無かったからな……」
勇者「ずーーーっと無言の時間あったよね……今更だけどあの時間帯何考えてた?」
戦士「何か…色々……お前は?」
勇者「俺も……何か色々……」
戦士「そうか……」
勇者「うん…」
やがてはっきりと山の姿が目に入ると、心なしか二人とも声が弾み、足取りも軽くなった。
勇者「あの山を越えた先にはさ、一体どんな景色が広がっているんだろう?」
戦士「きっと、私達の知らない、素敵な世界が待っているんだ!」
勇者「どうする? 山の頂上から見た景色がずーーーっと荒野だったら」
戦士「一回帰る。いくらなんでもちょっと心折れる」
疲れからか、かように妙なテンションのまま、勇者と戦士は謎の山脈に突入していった。
216 :
ID加速中
◆V9LlgfWZs2
:2016/05/08(日) 17:22:24.82 ID:+rzjddhI0
という
>>1
の妄想でした
これから
>>1
は回線で首吊って自殺をするそうです
皆さんこのゴミSSを書いた
>>1
を供養しましょう^^
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:23:16.64 ID:niX7BoNT0
山の中で勇者を少なからず驚かせるものがあった。
それは植物らしきものの存在である。
山の中にはごく僅かではあるが、植物らしきものが群生していたのだ。
植物だと断言できなかったのは、それが紫や赤など、あまり元の世界では見られないような色のものばかりだったからである。
しかも、先に進むにつれてその植物らしきものの量はどんどんと増えているように思えた。
戦士「勇者! あれ!!」
戦士が指差した方を見て、勇者は目を見開いた。
山の中腹に、果樹園があった。
どのような実がなっているのかは遠くて確認できない。
だが、あまりに整然と並ぶその木々の様子からして、明らかにそれは誰かの手によって管理されているものだった。
逸る気持ちを押さえ、勇者達は慎重に山を登る。
やがて頂上に出て、景色が急に開けた。
勇者も戦士も、息を呑む。
眼下には、町並みが広がっていた。
勇者(町……町だ。本当にあった)
勇者(『魔界』なんて名前から、勝手におどろおどろしい世界を想像していたけど、よく考えたら魔物の中にも人間みたいな奴がいたから、当然そいつらの町とかがあってもおかしくはないんだ)
勇者(予想はしていたけれど、やっぱり衝撃が大きい……それはきっと、天敵だと決めつけていた奴らが、理解し得ないものとして忌避してきた奴らが俺達と同じ『営み』をしているんだってことを見せつけられたから)
勇者(人間と魔物にも、共通する部分があるのだということを、直視せざるをえなくなったからだ)
勇者と戦士は山を下りる前に、変化の杖で自分達の姿を変えた。
山の方まで何者かの手が入っている以上、その何者かと下山中に鉢合わせる可能性は少なくなく、その際人間の姿だと何かと問題が生じる可能性があると危惧したからだ。
顔の造形などは特にいじらず、肌の色を浅黒く変え、そして背中から翼を生やした。
これは今まで何度か遭遇した魔族の姿を参考にしたものである。
勇者「それじゃ、行こう」
勇者と戦士は頷き合って、眼下に広がる町へと歩を進めた。
勇者(魔界に生きる者達の町……魔界を統治するという『大魔王』の情報はきっと集まるだろう。だけど果たして、親父の、『伝説の勇者』のことを知っている奴はどれくらいいるだろうか……)
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:24:58.80 ID:niX7BoNT0
そして、勇者と戦士は無事に下山を終え、遂に町の中へと足を踏み入れた。
緊張でからからになった喉にごくりと唾液を通して、勇者はきょろきょろと周りを見渡す。
建造物は色合いこそ人間が作る物と異なるものの、木造建築やレンガ造りに近いものではないかと推測されるものばかりで、魔界特有の何かしらというものを特別感じることは無かった。
道行く者が実に様々な種族の魔物であることを除けば、そこまで大きくない普通の人間の町と―――それこそ、勇者と戦士の故郷の町と、それほど変わらぬ雰囲気であった。
魔族A「××××××、×××××××?」
勇者「はぅ…!」
町の住人らしき魔族の男に話しかけられて、勇者の息が一瞬止まる。
勇者「ええと、その、何というか、その……」
魔族A『なんだ、言葉がわからねえのか? おいおい、あんたら何処から来たんだよ』
勇者(え〜っと、なんだろ。多分何処から来たのか聞いてるっぽい?)
勇者「え〜っと、向こう。ず〜と、ず〜〜っと向こう。オーケー?」
魔族A『俺達の言葉がわからねえ程遠くってことは、もしかして西の果てから来たのか? あっちの方は特に荒廃が酷いって聞くぜ。よく生きてここまで来られたな!』
町の住民らしき魔族の男は豪快に笑うと勇者の背中をばんばんと叩いた。
勇者の背中から生えている翼は、変化の杖でそこにある様に見せかけているだけなので、変化がばれないか冷や冷やしながら勇者は男の言葉を必死で考察する。
勇者(何か歓迎されてるっぽい? 敵意がないなら、もう少し関わって反応を伺ってみるか…?)
勇者「なあ、この町は何なんだ? 魔界にはこんな町が他にもいっぱいあるのか?」
魔族A『この町を見て驚いているようだな。無理もねえ。今の魔界でこんな豊かな場所なんて、もうここぐらいだからな。それもこれも、みんな大魔王様のおかげだ』
勇者(ん? 今なんか魔王みたいな発音が聞こえたような気が……)
魔族A『ここは試験都市フィルスト。大魔王様が魔界を救う第一歩として始めなさった実験的生活都市さ』
勇者には魔族の言葉はほとんど理解できなかった。
ただ何となく、この町の名前がフィルストであることと、この町に大魔王が関わっていることだけは、ニュアンスで掴んだのだった。
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:27:31.44 ID:niX7BoNT0
魔族A『ここまでの道中大変だったろう。俺ん家に来な。ちょうど今日はご近所さん集めてパーティーするところだったんだ。余所じゃ絶対食えないような旨いものを食わせてやるぜ』
魔族に手招きされ、勇者は考える。
どうやら魔族はついてこいと言っているようだが……
戦士「勇者…ついて行って大丈夫なのか?」
勇者「わからん……でも、どうやら変化がばれてる様子もないし、友好的っぽいから、大丈夫だとは思うけど……いざとなれば、『翼竜の羽』での緊急離脱も出来るし、行ってみよう。虎穴に入らずんばってやつだ」
迷った末に、勇者と戦士は取りあえず魔族についていくことにした。
勇者も戦士も、少しでも何か情報は無いかと目を皿にして町の様子を観察する。
そのうち、どうにも違和感があることに気付いた。
どこもかしこも、何か見たことがある気がする。
物の本によると、初めて見たはずの光景が、かつてどこかで見たことがある様に感じられる現象をデジャヴと呼ぶらしい。
その類の現象かと思い、勇者がふと戦士の顔を見ると、戦士も何やら難しい顔をしていた。
勇者「もしかして、戦士も何か変な感じしてる?」
戦士「ああ……何なんだコレは。この町は、まるで……」
戦士は勇者よりも違和感の正体に思い至っている様子だった。
勇者もまた、戦士の言葉を受けて違和感の正体について考察する。
勇者(まるで…? 戦士は今、まるで、と言ったな。まるで何の様だと、戦士は感じているんだ?)
勇者は再び町の様子を観察した。
よく分からない看板が出ている建物があった。おそらくは何かを販売している店だろう。
看板の文字はまるで読めないが、あの位置なら恐らく道具屋だ。
あっちの店は、多分宿屋だ。あの位置にあるのなら、多分そうだ。
勇者(――――どうしてそんなことが俺にわかるんだ?)
ぞくり、と寒気が走るのが分かった。
空は赤くて、建物は緑で、草の絨毯は紫色で、色彩感覚が狂ってしまっていたから気付くのが遅れたけれど。
最初にこの町を訪れた時に抱いた感想。
似ている、と、そう思った。
自分達の故郷に。『始まりの国』に。
だけど、気付いてみれば、これは――――似ているどころではない。
同じだ。
使われている材料が異なるだけで、この町は自分達の故郷と同じ形をしているのだ。
勇者(そうだ……あの家なんて、まるで俺ん家、そのものじゃないか……)
ぼうと足を止めてしまった勇者の見ている前で、その家の玄関の扉が開いた。
じわりと勇者の手のひらに嫌な汗がにじむ。
魔族娘「パパー!! 早く早くーー!!」
しかしその玄関のドアから飛び出してきたのは、勇者の全く知らない少女だった。
少女はその肌こそ浅黒くあるものの、魔族特有の翼を持っておらず、人間だと言い張っても通じるような姿かたちをしていたが、ともかく。
知らない少女であることには変わりない。
ほっと息をつき、歩みを再開しようとして。
再び、勇者の息が止まった。
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:28:10.31 ID:niX7BoNT0
勇者(どうして――――あの少女は俺たちの世界の言葉で喋っている?)
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:29:27.66 ID:niX7BoNT0
魔族娘「もう、パパ! 早く行かないと××君に料理全部取られちゃうでしょ!!」
父「ははは。慌てなくても大丈夫だよ。ちゃんと料理をとっておくようにAさんには言っておいたから」
魔族娘「だからって遅刻していい理由にはならないでしょ! 急ぎなさーい!!」
父「こらこら待ちなさい。母さんがまだ来てないだろう」
魔族娘「もう! 夫婦そろってのんびり屋なんだから! マーマ! 早くしなさい!」
魔族母「はーい……ごめんなさいね。お待たせしてしまって」
父「気にしていないさ。さ、行こう」
仲睦まじい様子の家族が、玄関を出て、こちらに向かって歩いてくる。
少女を真ん中に、父と母と手を繋いで。
魔族A「×××××××××!!」
目の前の魔族がその家族に声をかけている。
相変わらず何を言っているのかわからない。
父「×××××! ×××、×××××」
よく知っている顔をしたそいつは、だけどよくわからない言葉で喋り出した。
なーんだ、じゃああいつもやっぱり魔族なんだ。
よかったよかった。
そうだよ、そんなはずねえじゃん。
そんな、そんなはず、あんな、あんなアレが――――――
アイツのはず、ねえじゃんか――――――
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:30:23.87 ID:niX7BoNT0
戦士「あ、ああ……」
その光景を見て、わなわなと震えていたのは、戦士だ。
見間違いではない。
見間違いであるはずがない。
だって、その男は、余りに自身の記憶にある姿のままだったから。
ずっとずっと、忘れることなく胸に思い描いていた姿のままだったから。
戦士「『伝説の勇者』、様……!」
戦士の前に居た勇者は、歩みを止めてしまっていた。
見えていないはずはない。
勇者もまた、同じ光景をその目に収めているはずだ。
戦士「う、あ…! あ、あぁ……!!」
胸がぎゅうぅ、と締め付けられる思いがした。
ぼろぼろと、勝手に涙が零れてくる。
ずっと前を向いたままの勇者の表情は、未だ見えない―――――――――
第三十一章 そして彼女は彼の言葉の意味を知る 完
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/08(日) 17:30:50.22 ID:niX7BoNT0
今回はここまで
224 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 17:31:43.71 ID:fCxHLGL/o
はぁ戦士ちゃん可愛い
乙
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 17:34:17.23 ID:1qgRBpU+o
不倫だと…!?
乙乙
226 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 18:31:50.66 ID:o54mx/eX0
おつ!思ったより早く来てくれてうれしい!
なんか全く想像していなかった展開だ…
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 19:15:33.37 ID:MHtmEjaYo
乙
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 19:19:13.00 ID:GVCWIyb5O
これは凄い展開・・・
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 19:26:16.52 ID:AXIXu4mro
親父が魔界で異種姦して現地妻作ってました
こりゃ、勇者壊れちゃうね
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 19:55:06.98 ID:48kzoR780
魔界がただただ荒廃しきった化物蔓延る世界だったら良かったのにな……
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 20:45:51.17 ID:n9oplx1po
乙乙
232 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 21:37:17.38 ID:BbYVhHdjO
今回のタイトルは…戦士が騎士のあの言葉の意味ってことか??
233 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 21:58:10.93 ID:7en5xiNAO
おt
234 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/08(日) 22:29:21.97 ID:azC5IDUjo
これどうなってるんだろうな…
正直大魔王が勇者父だと思ってた
先が読めない
続きが気になる
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 00:26:38.53 ID:sDDKimEI0
光の加護ってまだ親父が持ってるんだよね
親族を[
ピーーー
]とその加護がまるっと手に入る……ふーん
236 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 00:40:15.44 ID:dy/5eNDL0
魔界で殺しても継承できなかったような…
237 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 06:59:21.97 ID:8oXFtioTO
おとん記憶失くしたんか
238 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 16:28:20.65 ID:y2NatuabO
気になるところで切りやがって…
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 19:32:24.00 ID:4xQlZAV5o
しっかし、加護の一部を六分割だけ継承したのにも関わらず猫ちゃん独力で勝てるようになるとか騎士の総加護どんだけあるんだよ
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 19:57:47.02 ID:oZzeymt/o
>>239
配下の四天王目の前で半殺しにされた魔王が泣いて土下座した挙句、配下に加わったらどんだけ
勝手気ままにしてても怒られないくらい。
241 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/09(月) 20:53:33.69 ID:WxUK/Cjq0
お父ちゃんは魔界の精霊(?)の加護とか受けてたりするのだろうか…
242 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/10(火) 06:47:51.61 ID:heNoNMX0o
>>241
魔界には精霊居ないですよ?
243 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/10(火) 08:40:25.99 ID:IED6HROBO
人間界の精霊はいないと言ってたけど、「それに類する存在はいるかもしれないが」と勇者が言ってるな
244 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/22(日) 21:34:55.70 ID:OkbeLcEJ0
今週も来なかったかー残念
ゆっくり待ってるよ
245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/25(水) 11:22:41.18 ID:0lA12qEiO
続き期待
246 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/05/29(日) 22:06:59.85 ID:lUtc63xsO
まだかあああああああああああ
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/05(日) 13:05:45.82 ID:/3YGLIowo
そろそろ一ヶ月か
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/12(日) 15:37:17.72 ID:JvBq+V4bo
ゆっくり待つべきだろうけど
そろそろ続きを期待しちゃう
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/13(月) 16:42:47.79 ID:zUP+dKvYO
追いついた
今の人生の楽しみだから頑張ってくれ
250 :
1です
[sage]:2016/06/19(日) 15:02:34.29 ID:Lk3da4300
ちょこちょこ書き溜めてはおりますが、中々書く時間が取れず、まだちょっと投下できません
来週日曜には何とか……すんませんが、もう少しお待ちください
251 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/19(日) 15:03:27.30 ID:C4D+iiUWo
りょ
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/19(日) 16:29:13.06 ID:ZztksYvVO
待ってた
待ってる
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/19(日) 17:38:13.85 ID:PFq81vKh0
やったぜ
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/19(日) 22:19:08.76 ID:wSJlS70Yo
よっしゃ
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/19(日) 22:41:56.10 ID:Ndq2TQIT0
おおおおおぅ!
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/20(月) 19:14:23.62 ID:A0wheNjmO
ひょおおおおお
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/23(木) 02:09:01.54 ID:/Ji7Qq2io
待ってる。待ってるよ
258 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/25(土) 12:04:48.30 ID:4sfvn+cF0
明日だ!
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 03:50:53.55 ID:9fsd6C+3o
きょうだ!
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:12:37.52 ID:Trw4ei5x0
感情が昂りすぎて、頭の中は真っ白になってしまっていた。
冷静になろうと努めても、それはとても叶わなくて、自分がちゃんと呼吸をしているのかどうかさえ判然としない。
両手は固く握っているはずなのに、肘から先の感覚が曖昧で、実はまったく力が入っていないんじゃないかと錯覚する。
ゆっくりと一歩を踏み出したつもりだったのに、体はつんのめって前向きに転んでしまった。
自分が転んだその音に、ようやくその男は反応して、こちらの方に目を向ける。
「×××、×××××」
最初に自分達に声をかけて来た魔族が、その男に何か話している。
男は魔族の言葉に二度、三度と頷くと、こちらに歩み寄り、手を差し伸べてきた。
「××。×××、××」
優し気な眼差しで微笑みかけてくる。
――――その性質を、知っている。
困っている者を見かけたら、手を差し伸べずにはいられない、その性質を知っている。
それが高じて、この男は家族を置き去りにして、世界平和なんて曖昧模糊な目的の為に旅立った。
そうして、一度はその目的を達成し、闇の底へ消えて―――コイツは誰もが知る伝説の存在となったのだ。
ああ―――――よく、知っているとも――――――!!
「訳わかんねえ言葉で喋ってんな。ちゃんと自分の国の言葉で話せよ。―――『伝説の勇者』」
手を差し伸べていた男の肩がギクリと跳ねた。
自身で発した声の冷たさに、自分で少し驚いてしまった。
そして、一度口を開けば『それ』はもう止まらなかった。
水門は開かれ、せき止められていた大量の水が怒涛の勢いで流れ出す。
一度そうなってしまえばもはや、それに再度蓋をすることなど不可能だ。
感情の奔流――――――――元よりそれを抑え込むつもりなど、無い。
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:13:06.86 ID:Trw4ei5x0
第三十二章 終わりのとき
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:13:52.09 ID:Trw4ei5x0
勇者の体から煙が噴出した。
煙が噴出したところから肌の色は黒から元の肌色に戻り、背中から生えていた羽は文字通り煙のように消えていく。
変化の杖の効果を解除した勇者の姿を、目の前の男は大きく目を見開いて見つめていた。
魔族A『に、人間だああああーーーーーーーーッ!!!!』
勇者達を案内していた魔族が叫び声を上げた。
その声に反応した町の住民たちも勇者の姿を次々と確認し、どよめきが町中に広まっていく。
しかしその全てが、今の勇者にとってはどうでもよかった。
勇者は立ちあがり、目の前で固まってしまった男をじっと睨みつけている。
勇者「なあおいどうした。魔界で幸せに過ごしすぎて人間の言葉を忘れちまったのか、ああ? いや、そんなわけねえな。さっきそっちの奴らと俺らの言葉できゃっきゃきゃっきゃ喋ってたもんなあ?」
勇者はそう言って男の背後で寄り添って震えている魔族の母娘を指差した。
男はようやく我に返り、恐る恐る口を開く。
男「お前は…お前は、まさか……」
勇者はチッ、と舌を打つ。
勇者「五年以上も経てば顔も分からなくなっちまうか? そりゃそうか。アンタが知っている俺は、まだ毛も生えてねえガキだった!!」
男は―――勇者と同じように黒髪で、目鼻立ちも面影を同じくするその男は、驚きを顔に貼りつけたまま、言った。
男「…………勇者、なのか…?」
瞬間―――――勇者の拳が、男の顔面に叩き込まれていた。
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:15:18.05 ID:Trw4ei5x0
「きゃああああああああああ!!!!」
男の背後に控えていた、魔族母と魔族娘の叫び声が重なる。
鼻っ柱にまともに勇者の拳を受けた男は背後に吹っ飛び、背中から地面に倒れた。
勇者「は、はは。ははははは!!!! 結構思いっきり殴ったのに、頭砕けねえんだな!! 流石は『伝説の勇者』様だ!! かつて世界を救ったその精霊加護は健在ってわけか!!」
男「う…ぐ…」
男は呻き声を上げつつ、地面から身を起こそうとする。
その鼻からはどくどくと血が流れ、男の服の襟を汚していた。
ずかずかと勇者は男に歩み寄る。
身を起こしかけていた男の顔面を、勇者は靴の底で踏み蹴った。
男「ぶがっ!!」
戦士「勇者ッ!!」
そのまま男に馬乗りになって拳を振り上げた勇者を、戦士は慌てて羽交い絞めにして男から引きはがした。
勇者「ぐぅ! ふぐ!! んぬううう!!」
鼻息荒く、勇者は戦士の拘束を解こうと我武者羅に身を捩る。
勇者「覚えてやがった!! 覚えてやがったよこの野郎!! 俺達の事を、ちゃんと覚えてやがる!!」
勇者が戦士に拘束されたまま喚き散らす。
それは魔界の町で家族をもって過ごす父の姿を目撃した時に、勇者が咄嗟に考えた可能性だった。
父は、激しい戦いによる故か、はたまた大魔王の妖術による故か、過去の記憶を失って操り人形と化してしまっている。
―――――そんな可能性に、縋った。
そんな妄想に逃避した。
でも、違った。
父は、勇者のことを覚えていた。
勇者の正体に気付いた時、明らかに罪悪感に顔が曇った。
つまり――――
つまり、つまり――――!!
勇者「コイツはまっとうに俺達を―――――母さんを、捨てていやがった!!!!!!」
どう見ても父はその身に束縛を受けていない。
この町を抜け出すのは容易だったはずだ。
魔界と元の世界を繋ぐあの池までは、『伝説の勇者』ほどの脚力なら二日とかからず辿りつく距離だ。
帰ってくるのは容易かったはずなのだ。
――――帰ってこれなかったんじゃない。
――――帰ってこなかっただけなんだ。
勇者「しかも、ええ? おい、何なんだよそいつらは。何なんだよパパってよ」
勇者は魔族の母娘に目を向ける。
魔族の娘は人間でいえば4〜5歳といった年のころだろうか。肌の色は他の魔族と比べて薄く、人間と言い張っても通じそうなくらい、その容姿は人間に寄っている。
魔族の母もまた人間に非常に近い姿かたちをしており、しかも良く見ればその容姿は人間の価値基準で言えばとびきり美人でグラマラスといってよかった。
そのことが、今の勇者を殊更に苛立たせた。
勇者「魔界の女たらしこんで、よろしくやって子供まで作ってましたって……? 何だオイ、てめえ随分楽しんでたんだなあこの五年間!!!! 俺はよぉ、俺は、てめえのせいで、てめえの息子ってだけで、俺は……!!」
勇者の脳裏を長く辛かった修業の記憶が駆け巡る。
ここに至るまでの旅路を急速に思い返す。
ぼろぼろと、勇者の目から涙が零れだした。
勇者「ほんっと、もう、俺馬鹿みてえじゃん……なんなんだよ、お前……お前、クソ……なんで、なんでてめえみたいのの息子ってだけでさあ!!!!」
勇者「せめてお前言いに来いよ!! 駄目でしたって! 大魔王倒すの諦めました、僕なんて全然大したこと無かったですって!! そうすりゃみんな目ェ覚ましてさぁ……俺みたいな奴に馬鹿みたいに期待するようなことも無かったのによぉ!!!!」
嗚咽まじりで言葉を詰まらせながら、勇者は男を責め続ける。
男「すまない……すまない……」
男は顔を伏せ、ただただ謝罪の言葉を繰り返した。
勇者は一瞬の隙をついて戦士の拘束を振りほどき、男に掴みかかる。
慌てて再度勇者に向かって手を伸ばそうとした戦士の動きが止まった。
男の襟首を掴む勇者の顔からは、不気味なほど色が消えていた。
264 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:15:48.85 ID:Trw4ei5x0
勇者「謝罪とか、そういうのいいからさ……ほら、立てよ『伝説の勇者』」
一転して、一切の感情が抜け落ちたように、勇者は抑揚のない声で男に話しかけた。
男「え…?」
勇者「え、じゃなくて、ほら。立って、これから大魔王をぶっ倒しに行くんだよ。ほら、早く」
勇者の声が段々と震えだす。
勇者「今からでも遅くねえからさあ……頼むよ……俺の人生に、どうか意味を与えてくれ……」
男は勇者から目を逸らし、言った。
男「……出来ない。それは、出来ないんだ……! すまない…本当に、すまない…!!」
勇者の手から力が抜けた。
解放された男の背中が地面を打つ。
ふらふらと勇者は立ちあがり、くるりと男に背を向けた。
魔族母「あなた!!」
魔族娘「パパ!!」
魔族の母娘が男の元へ駆け寄って来て、その顔を心配そうに覗き込んだ。
父の無事に安堵すると共に、魔族の娘はキッ、と敵意をもって勇者を睨み付ける。
その視線に反応し、ちらりと後ろを振り返った勇者だったが―――すぐに前に向き直り、駆け出した。
行き先も定まらぬまま。
心の平衡を欠いたまま。
戦士「勇…!」
戦士は即座に勇者の背中を追いかけようと一歩を踏み出す。
男「お前はまさか、戦士…か…?」
人生で最も敬愛してやまなかった男からの呼びかけ。
戦士の足が、ぴたりと止まった。
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:16:29.30 ID:Trw4ei5x0
走った。
ただただ走った。
何かから逃げ出すために。
何から?
決まっている。
あのおぞましい光景からだ。
直視するのも憚られる現実から、少しでも距離を取るために走った。
あれはただの夢だったんだと、何かの間違いなんだと、そう自分に言い聞かせ続けた。
――――そうであってほしいと、願い続けた。
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:17:12.67 ID:Trw4ei5x0
勇者「はひぃ、ひぐ、うっぐ、うぅ……!!」
勇者は子供のように泣きじゃくっていた。
嗚咽が止まないのに走り続けるから、息が乱れて呼吸もままならない。
苦しくて苦しくてしょうがないのに、それでも勇者は走り続けた。
走り続けなければ、胸の内から次から次へと沸いてくる、正体不明の衝動に押し潰されてしまいそうだった。
石につまずいて、勇者は盛大に転んだ。
だけどすぐに立ち上がって駆け出した。
目からは涙が溢れ、鼻水を垂れ流し、涎が口の端から糸を引いている。
けれどそんな物に頓着する余裕などとうに失っていた。
涙を拭うこともしないから、目の前の景色はずっとぼやけていて不明瞭だった。
そんな状態で走っていたから、勇者は地面に広がる毒の沼に気付けず、沼の中に思いっきり足を突っ込んでしまった。
泥に足を取られて転倒し、勇者の体が毒の沼に放り出される。
助走をつけて飛び込んだようなものだったから、泥の抵抗などあってないようなもので、勇者の体はその全身が瞬く間に汚泥に沈んだ。
毒の浸食を受け、勇者の全身の皮膚がじゅうじゅうと音を立てて爛れていく。
耐え難い責め苦に晒されながら、しかし勇者は足掻こうとしない。
勇者(もういい……何もかもが、どうでもいい……)
勇者は目を瞑り、全身の力を抜いた。
ずぶずぶと、重力に引かれるままに、勇者の体が汚泥の底に沈んでいく。
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:17:45.64 ID:Trw4ei5x0
戦士「はぁ…! はぁ…! はぁ…!」
戦士は勇者の影を追って、魔界の荒野を必死に走り続けていた。
しかしどれだけ周囲の景色に目を凝らしてみても、勇者の姿は見当たらない。
完全に戦士は勇者の姿を見失ってしまっていた。
戦士「くそ…! 何で、どうして、私は……!!」
後悔と自責の念で胸が張り裂けそうになる。
戦士「勇者ぁーーーーーーッ!!!!!!」
涙を拭い、戦士は勇者の名を叫ぶ。
しかしその声に応える者は無く、戦士の叫びは虚しく荒野に響くばかりだった。
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:18:33.15 ID:Trw4ei5x0
勇者(……あれ?)
ふと気付けば、勇者は部屋の中に立っていた。
石造りの床に赤を基調とした絨毯が敷き詰められ、高さ2m超の本棚が列になって並んでいる。
どうやらここは図書室のようだった。
しかも、そこは勇者にとってとても見覚えのある所だった。
勇者(ここは……故郷の、『始まりの国』の……図書室……か…?)
部屋の中央付近には長机と椅子が置かれており、読書の為のスペースとなっている。
そちらに目を向けると小さな男の子が本を開いていた。
本のタイトルは『大陸冒険録』。かつて勇者たちの住む大陸を一周した冒険家が記した冒険譚で、幼い頃から勇者が愛読していたものだ。
何度も開かれて手垢まみれになったその本を、男の子はふんふんと鼻を鳴らしながら目を輝かせて読みふけっている。
『今日こそ私と勝負してもらうぞ!』
凛とした声が図書室に響く。
美しい金髪を肩の所で切り揃えた、可愛らしい女の子が男の子に向かって仁王立ちしていた。
男の子はうへぇ、と心底めんどくさそうな顔をする。
『嫌だよ。何度も言ってるじゃないか。痛いのは嫌いなんだ、僕』
そう言って、男の子は閉じた本を脇に抱えて椅子から降りた。
そのまま、女の子に背を向けてそそくさと図書室を出ていく。
『あ、待て! 男らしくないぞ! それでもお前は――――』
女の子も男の子の後を追って図書室を出て行った。
シン、と部屋の中に静寂が満ちる。
一人残された勇者は、何とはなしに、男の子が座っていた机をそっと撫でた。
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:19:08.23 ID:Trw4ei5x0
風が吹いた。
気付けば景色が変わっていた。
緑の芝生が敷き詰められた公園。
ここは豊作祈願の祭りや国の要人の冠婚葬祭など、色々な催事が執り行われる『始まりの国』の中央広場だ。
そこに、国中の人間が集まって跪いている。
広場の中央には、参列者の献花によって色とりどりの花が並べられていた。
勇者(これは…親父の葬式の時の……)
魔界へ消えて消息を絶ち、三ヶ月が経って―――『伝説の勇者』は死亡したものと国で認定された。
その葬儀は国を挙げて大々的に行われ、ほとんどの国民がここ中央広場に集まり、涙を流して嘆き悲しんだ。
『おお…! 信じられない……何という事だ……!』
『これから、世界はどうなってしまうんだ……!』
悲しみに背中を丸める人々を、一歩引いたところから俯瞰して眺める男の子がいた。
勇者(……何て顔してんだよ)
男の子の顔もまた、悲しみに歪んでいる。
だけどそれは、『伝説の勇者』の死を悼むというよりは―――悲しみ嘆く人々の様子に胸を痛めているように思えた。
勇者(いいんだよ。気にすんな。そんなこと気にしたって―――――馬鹿を見るだけなんだから)
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:19:45.05 ID:Trw4ei5x0
これは広場での葬儀からどれ程の時間が経過した時なのだろう。
薄暗い廊下で、あの男の子が息をひそめてとある部屋を覗き込んでいる。
見ているものには想像がついた。
というより、覚えていた。
勇者は男の子の背後に立ち、その子の頭の上から部屋を覗き込む。
そこには男の子の母がいた。
男の子の母が父の形見である古い剣を抱きしめて泣き崩れていた。
勇者はちらりと男の子の顔を覗き込む。男の子がこちらに気付く様子はない。
男の子の顔には、ある決意のようなものが表れていた。
勇者(……やめろ。やめとけ。お前が歩もうとしているその道は、碌なことがありゃしないんだ)
踵を返し、歩み出す男の子を引き止めようとした勇者の手は、男の子の体をするりと通り抜ける。
勇者は通り抜けた自分の手のひらを眺め、拳を握り、苦々しく口を歪め、目を瞑った。
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:20:11.95 ID:Trw4ei5x0
目の前の情景は、男の子が大の大人に木剣で打ち据えられている状況に切り替わった。
『うげぇ!! がはッ!! ゲホッ、ゲホッ!!』
『何をしてる!! 早く立て!!』
『ひっく…うぐ、あぁ、嫌だ…ひぐ…痛いの嫌だよう……』
『情けないことを……それでも『あの方』の息子か!!』
『ひぐ…うぅ…! うあぁぁぁああああああああ!!!!』
吐瀉物を無理やり飲み下し、震える指で木剣を握りしめて、男の子は剣術指南役に飛びかかっていく。
がり、と音がした。
無意識に奥歯を強く噛みしめていたようだ。
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:21:06.62 ID:Trw4ei5x0
気付けば、夜になっていた。
特訓広場にはもう誰も居ない。
勇者は自分の家に足を向けた。
玄関の扉を開け、中に入る。鍵はかかっていなかった。
勝手知ったる廊下を歩き、見慣れた扉を開けて中を覗き込む。
燭台の明かりの下で、男の子が書物を開いていた。
読んでいるのは魔術書――魔法を使う基礎知識を身につけるための教本だ。
ページを捲る男の子の指は包帯にまみれている。
目の下の隈が酷い。疲労が相当に蓄積しているのだろう。
男の子はごしごしと目を擦り、本を読み進める。
勇者(…………はは)
――――ああ、もう、本当に哀れだなぁ
本当に哀れで――――滑稽だ
勇者(なあ、知ってるか? お前がそうやって必死でこつこつ頑張ってる間、アイツはな――――)
男の子の机の上に堆く積まれた本の山の中に、図書室で読んでいた『大陸冒険録』があった。
ページの途中にいくつも栞が挟まれている。
その本を読む意味合いも――――きっともう変わってしまっていた。
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:21:41.52 ID:Trw4ei5x0
旅に出た。
旅路の途中で、魔物に襲われていた村を救った。
旅を続けた。
旅路の途中で、極悪非道な盗賊団を壊滅させた。
折れそうになる心を奮い立たせ、歩み続けた。
赤い鱗の竜を、虎の顔の化け物を、強力な魔物達を打倒した。
そして――――旅路の果てに、遂には魔王討伐の立役者となった。
文句なしの英雄だ。世界の救世主だ。
そうだろう?
なあ、誰か―――――――
誰か、俺を見てくれよ。
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:22:46.04 ID:Trw4ei5x0
パチパチパチ――――
聞こえてきた拍手の音に、勇者は伏せていた顔を上げる。
途端に、怒号のような拍手喝采が勇者に向かって贈られた。
勇者「な、は、へ…?」
目をぱちくりとして勇者は周囲を見渡す。
夥しい程の人数の群衆が、いつの間にか勇者を取り囲んでいた。
人々は笑顔を浮かべ、盛大に両手を打ち鳴らし、温かな賞賛の声を勇者に贈っている。
勇者「……へ、へへ。ど、どうもどうも…!」
勇者は顔を赤らめ、照れ笑いを浮かべながら手を上げて周囲の群衆に応える。
勇者が手を上げると、それに合わせて歓声が上がった。
嬉しいと、そう思った。
ようやく自分自身に価値を認められた気がして、頬が緩んだ。
歓声がまた上がった。
『流石『伝説の勇者』様の息子だ!!』
ぴくり、と勇者の肩が震えた。
『『伝説の勇者』様の息子、万歳!!』
わなわなと、肩に震えが強くなる。
『いやしかし、大したものだ。勇者様は紛れもなく英雄だ。世界の救世主と言っても過言ではない』
『そんな勇者様を生み出した『伝説の勇者』様とは、一体どれほど素晴らしいお方なのだろう!!』
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:23:24.14 ID:Trw4ei5x0
勇者「うるっせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:24:44.72 ID:Trw4ei5x0
勇者「うるせえってんだよ!! ふざけんな!! 俺は俺だ!! あんなクソ野郎の息子なんかじゃねえ!! 俺なんだ!!」
勇者「もういいよ! やってらんねえ!! 『あんな奴の息子』なんて、もうやってられっか!! 知ったこっちゃねえ! 俺は、俺の生きたいように生きてやる!!」
勇者「は、ははは…! そうだ、すぐに元の世界に戻ってハーレムを作ってやろう!! 俺が本気で口説けば、女なんかいくらでも寄ってくるぜ!! 何せ俺は『伝説の勇者』様の息子なんだからな!!」
勇者「あんなクソ野郎の重荷を継いでこれまでの人生を無駄にしちまった分、名前くらい利用して楽しませてもらうぜ!! ……へ、へへへ、そうだ、黒髪の少女やエルフ少女もハーレムに加えてやる。あの二人の事だ。俺が誘えば、きっと喜んでケツを振るぜ」
勇者「は、ははは!! アハハハハハハハハハ!!!!」
ヒタリ、と足音が聞こえた。
びくりと肩を震わせて勇者は音のした方を振り返る。
そこには、頭のない男が立っていた。
男の頭は脇に抱えられている。その顔は腐食が進んで髑髏と化しており、それが誰なのか顔からは判別できない。
しかし綺麗に切り離された首の切断面と、男が身に着けていた『善の国大神官団』の法衣が、勇者に男の正体を推測させた。
勇者「何だよ…?」
勇者は目の前の亡霊に問う。
しかし亡霊は黙して語らない。
勇者「な、なんだよぉ…! 『俺を否定したくせに』とでも言うつもりか!? だ、だけど俺とお前じゃ状況が違う! 俺は裏切られたんだ!! 俺に役目を押し付けたあの野郎は、英雄気取りのクソ野郎だった!! 俺は、お前とは違う!!」
ヒタリ、ともうひとつの足音。
振り返る。
そこに、右腕を無くした男が立っていた。
やはり顔は腐食して髑髏が露出しており、その男が誰なのか顔からは判別がつかない。
だけど、その金髪に、額の赤いバンダナに、勇者は見覚えがありすぎた。
勇者「………駄目か…?」
勇者は弱々しく二人の亡霊に問う。
亡霊は黙して語らない。
ただじっと、眼球の無い眼窩の暗闇が勇者を見据えている。
勇者「………そうか……駄目か…」
勇者は肩を落とし、ぽつりとそう呟いた。
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:25:39.42 ID:Trw4ei5x0
汚泥の中で、勇者はカッと目を見開いた。
勇者「『呪文・大烈風』!!!!」
勇者の周囲から爆発的な風が生じた。
まるで火山の噴火のように、巻き上げられた毒の汚泥が地面から噴出する。
戦士「……あれは!!」
その様を、荒野を駆ける戦士は目撃した。
一縷の望みをかけ、方向を転換し、戦士はその沼に向かって走り出す。
勇者の呪文により巻き上げられた泥は周囲に撒き散らされ、沼があった場所はぽっかりと地面に穴が空いたような形になった。
勇者は泥の無くなった沼底を歩き、毒の沼からの脱出を果たす。
そこに、折よく戦士が駆け寄ってきた。
戦士「勇者ッ!! ……うっ」
戦士は勇者の姿を見て顔を顰めた。
長時間毒に晒されていた勇者の体は、至る所が焼け爛れ、正視に耐えない状態になっていた。
戦士「あ、ああ……! すぐに、すぐに治療を……」
慌てふためいた戦士は荷物から薬草を取り出し、勇者の傷口に当てようとする。
勇者はそれを手で制した。
勇者「『呪文・大回復』」
勇者の体が輝き、見る見るうちに焼け爛れた皮膚が回復していく。
戦士はほっと息をついたが、すぐにハッと思いなおして勇者の顔を覗き込んだ。
戦士「勇者、大丈夫か!?」
勇者「ああ。大丈夫だよ。心配ない」
余りにあっさりと答える勇者に、戦士は逆に不安を募らせた。
戦士(そんなわけがない……そんなに簡単に立ち直れるはずが……)
そうは思っても勇者が大丈夫だと言い張る以上、戦士にはこの件に関してもう何も言えなくなってしまった。
戦士「それで……その……これからどうするんだ?」
戦士は恐る恐る今後の方針について勇者に尋ねる。
勇者の返答は驚くべきものだった。
勇者「さっきの町に戻って親父から大魔王の居場所を聞き出して、大魔王に挑む」
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:26:40.68 ID:Trw4ei5x0
戦士「勇者ッ!?」
勇者「何を驚く? 俺は何か間違ったことを言っているか? 『伝説の勇者の息子』としてやるべきことは、もうこれしかないだろう」
勇者「ああ、もちろんついてこいなんて言わないさ。むしろついてこなくていい。戦士にはそんな責務は無いんだからな」
戦士「本気で言っているのか!?」
勇者「本気だよ。むしろ戦士がどうしてそんなに驚いているのか、理解に苦しむね。君が求めた『伝説の勇者の息子』の在り方として、これは真っ当な行動だろう」
戦士「………ッ!!」
戦士の顔が赤く染まった。
何かに耐えるようにぐっと唇を引き結んでから、戦士は絞り出すように声を出す。
戦士「………大魔王に挑んで勝てると、本当にそう思っているのか?」
勇者「勝てるかどうかなんてどうでもいい。大魔王に挑まないなんて選択肢は『伝説の勇者の息子』には存在しない」
戦士「………それじゃ、死にに行くと言っているようなものじゃないか」
勇者「そうかな? そうかもな。どうだろう? でもどっちでも良くないか? どっちでもいいだろ。生きようが、死のうが、こんな俺なんか」
勇者「『伝説の勇者の息子』ってだけが俺の価値だった。でも『伝説の勇者』にそんな価値なんて無かった。なら俺も無価値だ。価値のない命だ。ならばせめて有意義に消費するべきだ。そうだろ?」
ふるふると、戦士の握りしめた拳が震えていた。
やがて、戦士は涙に濡れた目でキッ、と勇者を睨み付け―――その頬に、強烈な平手打ちを見舞った。
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:27:49.57 ID:Trw4ei5x0
バヂィィィィン!! と凄まじい音が響く。
もんどりうって背中から倒れた勇者の襟首を、戦士は掴み上げた。
戦士「ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!!」
勇者「いってぇな……何すんだよ」
戦士「『伝説の勇者の息子』であること以外に価値がない? ふざけるな! 忘れたのか!?」
戦士「武道家も、僧侶も、そして私も!! お前についてきたのはお前が『伝説の勇者の息子』だからじゃない!! お前が、お前自身が、信頼に足る奴だったからだ!! お前と一緒に旅をしたいと、そう思わせる奴だったからだ!!」
戦士「そうやって、ちゃんと言ったじゃないか!! ちゃんと伝えたじゃないか!! なのに、何でまたそういう風に言うんだ!!」
勇者「うるせええええええええええええええ!!!!!! お前に何がわかる!! 俺は、俺の人生を『伝説の勇者の息子』としてだけ生きてきた!! そう強制されて、俺もそれを飲み込んで生きてきた!!」
勇者「そうだ、俺は俺として、ただの自分として物事を決めたことがない!! 『伝説の勇者の息子という被り物』を口では否定しながら、その実俺自身が何よりもそれを頼りにして生きてきたんだ!!」
勇者「なんて情けない奴……!! その結果が、このザマだ!! 自分の人生を自分自身に依らなかったことのツケ……!! 寄る辺が無くなって、もう訳が分からなくなっちまってる。どうしたらいいのか分からなくなっちまってる!!」
勇者「だから、もういいんだ……俺は、最後まで、たとえハリボテだって分かってしまっても、『伝説の勇者の息子』としての在り方に縋って、そして、死ぬ。もう、それでいいんだ……いいんだよ、もう………」
ぼろぼろと、勇者の目から涙が零れる。
ひっく、ひっくと嗚咽が漏れる。
戦士は――――そんな勇者の頭を優しくその胸に掻き抱いた。
戦士「違う……勇者、それは違うよ。お前は、ちゃんとお前自身として旅をし、物事を感じ、生きていた」
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:29:06.96 ID:Trw4ei5x0
戦士「巨大ゴキブリから私を庇ってくれた時、いちいち『伝説の勇者の息子』ならこうするなんて考えていたか?」
戦士「盗賊の所業に対して怒りを感じた時、『伝説の勇者の息子』ならここは怒りを感じるべきだ、なんて思ったのか?」
戦士「アマゾネスのハーレムに鼻を伸ばしていたお前は? エルフ少女と酒を酌み交わし、げらげらと笑っていたお前は?」
戦士「端和で義憤に燃えたお前は? 騎士の裏切りに心を痛めたお前はどうだった?」
戦士「獣王にやられた私の為に泣いてくれたのも――――『伝説の勇者の息子』としてか?」
勇者「そ、れ…は……」
戦士「ずっと……ずっとずっと、誰よりも近くでお前を見続けた私が保証してやる。勇者、お前が今までの旅の中で感じたこと、得たものは全てお前自身のもので、そのままお前自身の価値になっている」
戦士「『伝説の勇者の息子』だなんて囃し立てる有象無象は放っておけ。気にするな。お前自身に価値がないなんて、誰にも言わせはしない」
戦士は勇者の肩を抱き、自身の胸から顔を離させる。
そしてしっかりと目と目を合わせ、にこりと微笑んで、言った。
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:29:40.14 ID:Trw4ei5x0
戦士「だってお前は私が惚れた男なんだぞ? 価値がないなんて――――そんなふざけたこと、誰にも言わせるもんか」
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 19:30:39.19 ID:Trw4ei5x0
しばらく勇者は、ぼうと呆けて戦士の顔を見つめていた。
戦士の言葉の意味がゆっくり脳味噌に浸透するにつれて、勇者の顔にも赤みがさしていく。
戦士「私はお前を愛している。勇者」
追撃された。勇者の顔が一分の隙間もなく真っ赤に染まる。
勇者「なあ?!? はぁ!?! ほぁぁ!!? へぇ!?」
混乱した勇者はあたふたと腕を無意味に動かし、視線をあっちこっちと彷徨わせた。
そんな勇者の様子に、戦士はくすりと優しく笑う。
戦士「少し落ち着きなさい、勇者」
勇者「な、は、ふ……で、でも、だって、戦士は『伝説の勇者』のことが……」
戦士「それなんだけどな、どーしてそんな風に誤解するんだ。私が『伝説の勇者』様に抱いていたのは師弟としての純粋な敬愛だ。そこに男女の情は一切ない」
勇者「でも、でも、だって……」
戦士「それに……さっきな? お前があの町を飛び出して行ってしまっただろ? あの時、私はすぐに後を追いかけようとしたんだが……あの人に名前を呼ばれて、つい足を止めてしまった」
戦士「すぐに我に返って、何か話しかけてこようとしたあの人を振り切ってお前を追いかけたんだが、既に遅くて、私はお前の姿を見失ってしまった」
戦士「その時、本当に本当に後悔したんだよ。どうして一瞬でも立ち止まってしまったのかって……そして、気付いたんだ」
戦士「私は『伝説の勇者』様を敬愛してやまなかった。それが高じて当初はお前とも衝突していたくらいにな。なのに、その理想が目の前で崩れ去ったのに、私にその悲しみは驚くほどなかった」
戦士「それどころじゃなかったんだよ。お前のことが心配過ぎて」
戦士「はっきり言って、その時の私は『伝説の勇者』様のことなんてもうどうでも良くなってたんだ」
戦士「お前のことだけが心配だった。お前の気持ちを考えると胸が張り裂けそうだった」
戦士「だからこうしてお前とまた会えて……本当に安心しているんだ。本当に嬉しいと思っているんだ」
戦士「だから、お願い………死ぬなんて、言わないで」
戦士「これからもどうか………私と一緒に生きてほしい」
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/06/26(日) 19:31:20.49 ID:Trw4ei5x0
勇者「は、ははは……」
勇者の口から、笑みが零れた。
勇者「ははは! あははははは!!」
戦士「む。笑うなよ。私は真剣に……」
勇者「ははは……ごめんごめん。もう、自分の単純さ加減が可笑しくってしょうがなくてさ」
勇者「ついさっきまで、全部の事に絶望して、何もかもどうでも良くなって、死んでもいいとすら思っていたのに……戦士に告白されて、そんなもんが全部吹っ飛んじまった」
勇者「それこそ、さっきまでの絶望なんて、なんかもうどうでも良くなっちまってさ。それで、つい笑っちゃったんだ。単純すぎてアホの域ですわこんなん」
戦士「勇者…! それじゃあ…!!」
勇者「ああ。悪かった。もう死ぬなんて言わないよ」
戦士「勇者!!」
感極まった戦士は思わず勇者を思い切り抱きしめた。
勇者「わぷっ! はは、それに、こんな可愛い恋人が出来たんだ。死ねないって、そりゃ」
戦士「はえ?」
一瞬勇者の言葉に固まった戦士は、ぼん!と頭から湯気を出すと瞬く間に顔を真っ赤に染めた。
そして勇者の体をどーん!と突き飛ばした。
勇者「え、ええぇ〜…?」
戦士「こ、こここ恋人とか! は、恥ずかしいこと、言うな! ばか!!」
勇者「ええ…? じゃあ違うの?」
戦士「ち、違わないけど!! よ、よろしくお願いしますだけど!! でもぉ!!」
勇者(う〜む……まさか戦士に対してこの言葉を使う日がくるとは……)
勇者はしみじみと感じ入り、心の中で叫んだ。
勇者(きゃわわ!! 戦士たんきゃわわ!!!!)
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/06/26(日) 19:32:09.79 ID:Trw4ei5x0
戦士「はあっ!?」
魔界の荒野に戦士の叫びが響き渡った。
戦士「本気なのか!?」
勇者「ああ、本気だ。心は入れ替えたけど、行動方針は変えない」
勇者「俺はこれから町に戻り、親父から情報を収集して―――大魔王に挑む」
勇者「勿論、死ぬつもりは毛頭ない。現状の力ではまだ打倒できないと分かれば、ちゃんと撤退するよ」
戦士「ど、どうしてそんな……『伝説の勇者』様ですら打倒を諦めたような相手だぞ? もうそんなこと誰も強要しない。勿論、私だって……なのに、どうして」
勇者「これは責任なんだ。曲がりなりにも今まで『伝説の勇者の息子』として生きてきた俺の責任」
勇者「『伝説の勇者』がハリボテだったと分かったからって、その息子としてすべきことを放り出すわけにはいかない。俺は、『伝説の勇者の息子』を全うする」
勇者「それが……『あの二人』を否定した俺の責任なんだ」
戦士「………それほどまでに決意が固いのなら、私は止めないよ」
勇者「勿論、戦士はついてくる必要は」
戦士「くだらないことを言うなよ? 勇者」
勇者「笑顔が怖い」
戦士「当然私も行く。生きるも死ぬも、お前と一緒だ」
勇者「………ありがとう。戦士のおかげで、もう一度親父に会う勇気も湧いてくるよ」
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/06/26(日) 19:33:05.09 ID:Trw4ei5x0
試験都市フィルスト。
その一角にある、勇者の生家を模した家――――その物置をごそごそと漁る者がいた。
かつて『伝説の勇者』として一度は世界を救い、大魔王に挑んだ者―――勇者の父である。
勇者の父は物置の奥で目当ての物を見つけ出すと、それを引っ張り出して物置から姿を現した。
「あなた……」
その背中に、魔族の女性が声をかける。
魔族の女性は勇者の父が手に持っている物の正体に気が付くと、「あぁ…」と小さく呻きを漏らした。
「征くのですね?」
「ああ」
勇者の父は短く答えた。
勇者の父は、脳裏に先ほどもう一度自分を訪ねてきた己の息子の姿を思い浮かべる。
『アンタの代わりに大魔王をやっつけてやる。だから大魔王の居場所を教えろ』
大魔王の恐ろしさをどんなに説いても、勇者は一切聞く耳を持たなかった。
『ごちゃごちゃ言うな。テメエは俺に大魔王の居場所を伝えるだけでいいんだ。あとはそこの紛い物の家で震えてろ』
観念して大魔王の居場所を伝えると、勇者はすぐに旅立っていった。
その傍らには、かつての愛弟子である戦士の姿もあった。
そして勇者の父は決心した。
だから、物置からこれを引っ張り出してきたのだ。
かつて己の愛用していた神秘の武器――――『伝説の剣』を。
「だけど、出来ますか? あの人に剣を向けることが」
魔族の女性の問いに、勇者の父は重く頷いた。
「正直に言うと、怖い。あいつに剣を向けると考えただけで手が震えてくる。背筋に寒いものが通り抜ける。だけど――――――」
勇者の父は息を大きく吸って、ゆっくりと吐き出してから、言った。
「やらなくちゃならないんだ―――――あいつらを死なせる訳には、いかないからな」
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/06/26(日) 19:33:40.13 ID:Trw4ei5x0
そして――――――――
大魔王「ようこそ余の城へ。歓迎するぞ、勇者よ」
勇者「そうかい。おもてなしってんなら、テメエの首を差し出してくれよ」
勇者は遂に、大魔王と対面する。
第三十二章 終わりのとき 完
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/06/26(日) 19:34:24.34 ID:Trw4ei5x0
今回はここまで
大変大変お待たせして申し訳ないぜよ
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 19:37:47.80 ID:YiIMkwNwO
お疲れさま!!
そろそろ、終盤か
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 19:41:29.84 ID:Dp1IAVrBo
乙!
一気に進んだな、これもうどうなるか分かんねえ
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 19:42:39.63 ID:kGNh9P2AO
乙!待ってたぞ
伝説の勇者は巨乳好きか…
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 19:47:43.80 ID:+eRv+73k0
乙!やっぱり面白い。
292 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 22:28:59.78 ID:FiAAZr6po
乙!
二人って騎士と誰だろう思い出せない…
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