加賀「提督……あなたのスタンドは……この世の何よりも優しいスタンド」

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1 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:18:10.42 ID:e3MAfn1io

【登場人物】

 東方仗助……高校生。提督。物体を『なおす』スタンド:【クレイジー・ダイヤモンド】を使用する。古臭……個性的なリーゼント。

 加賀……艦娘。正規空母。元一航戦の突然歌いだす方。表情の変化しないクールな顔の下は激情家。

 山城……艦娘。戦艦。幸が薄そうなセミショートの女性。実際豊満である。姉命。

 大井……艦娘。改装して重雷装巡洋艦。癖のある茶髪のロング。実際豊満である。北上命。

 卯月……艦娘。駆逐艦。赤い髪を伸ばしたいたずらっ子。平坦である。

 天龍……艦娘。軽巡洋艦。片目に眼帯を付けた不良風少女。実際かなり豊満である。世界水準を超えている。

 空条承太郎……もう一人の提督。仗助が知る彼と異なり、高校生の姿である。五秒間この世の時を『止める』スタンド【スタープラチナ】を操る。


前スレ:仗助「艦隊これくしょんンンン〜〜〜〜?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433666608/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1451654290
2 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:26:56.43 ID:e3MAfn1io

(これまでのあらすじ)

ゲームへの着任を試みて眠りについた東方仗助は、突然鎮守府の提督となっていた。

個性的な艦娘と交流を続けるうちに、元の世界の知人である空条承太郎と出会うことになるが――演習で目にした彼は、己が知るはずの年齢を大きく下回っていた。

その後、恐ろしい深海棲艦レ級を辛くも撃破し、引き換えに日常を謳歌していたが……。

承太郎の艦隊の艦娘、正規空母:瑞鶴という少女から街の案内の申し出を受け、街に出る仗助。

そこで出会った『ジョニィ』というアメリカ人の青年に、『魂か』『同じぐらい大切なもの』を賭けた、ギャンブルを持ち掛けられた――。

ジョニィの持つ、未知なるスタンド能力と『回転の技術』。仗助に勝つ手段は残されているのだろうか?
3 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:29:09.89 ID:e3MAfn1io

「……」


 仗助が、無言で動く。

 あとはただ、結果を開示する。それだけしかない。最早、如何なる読み合いも凌ぎ合いも意味をなさない審判の時間。

 ことここにきて騒いだとしても、まな板に打ち上げられた魚よりも無残を晒すのは必至。

 だからこそ、ここから不服を申し立てたり、あるいは無効を主張したりするのはとても勝負者としては有るまじき見苦しい態度にしかならない。

 故に無言。故に沈黙。

 だとしても――


「……どうしたんだ、それ」


 ジョニィが首を傾げた。

 視線の先には、積み上げられたガムシロップとミルクの塔を脇に追いやって――そのまま両手を開いて晒した東方仗助。

 見ようによっては、保安官の目の前で『無抵抗』を証明する市民のそれか。


「いや……かかってるチップがチップだからよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 頬を掛けるのなら、掻きながら呟くであろう仗助の言葉。

 僅かに顔を背けて、されど指の股まで開いてさらに続けた。


「『イチャモン』とかつけられねーように、身の潔白を証明しとかねーとなんねーッスからね」
4 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:30:54.48 ID:e3MAfn1io

 しかしそんな彼の言葉に、ジョニィは何も返さない。

 そろりと……仗助の指がナプキンの端を摘まんだ。無論の事一切――スタンドを発現するような、不審な素振りなどはない。

 川べりに落ちているグラビア雑誌の袋とじに小学生がそうするように。

 ただ、そろりと……紙の端を持ち上げていく。さながら闘牛に対するマタドーラ。

 そして――――ナプキンが開かれた。


「な……ッ」


 零れた、驚愕の声。

 その主は――――東方仗助、


「『鳩が尻にコインぶつけられた』みてーに驚いてどーしたんスか?」


 ――――ではないッ!

 驚いたのは、ジョニィという青年であった。
5 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:35:30.37 ID:e3MAfn1io


「コインは『裏』みてーだぜ。見ての通りよォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」


 当の彼自身は、まったく不敵な笑みを浮かべて。

 対するジョニィが驚愕に目を見開くのを尻目に――――テーブルに明らかに示された、『裏』のコインを満足げに眺めていた。


「どーやら、賭けは俺の勝ちみてーっすね」

「……」

「もう一度言わせて貰いますよ! 勝ったのは、俺の方だ! この場合は! 改めてな!」

「……グッド」


 第四回戦:●ジョニィ VS ○東方仗助――――チップ七枚を獲得。
6 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:36:30.14 ID:e3MAfn1io

(……グレート)


 おとなしくジョニィが手を叩いてから差し出したチップ。

 計『十四個』となった――――つまり初めに配られたそれよりも一つミルクが増えたそれ。テーブルに、好き勝手な面を晒す。

 眺めつつ、仗助は内心嘆息した。


(正直、俺としても『賭け』だったけど……どうやら上手く行ったみてーで何よりッスね)


 途中、いくらかの予想外の展開はあったが――――それでもやはり、『依然変わりなく』『必勝法』を実行できた。

 必勝法とはすなわち――ジョニィが勝ちを確信したそこ、仗助の策を潰したそのところで打ち込む楔。


(コインをあそこまで弾き飛ばしたのは、『取りに行くその間にコインを加工するため』でも『ガムシロップに細工する』ためでもねえ……)


 道路の先を目で追いながら、仗助は頬の汗を拭う。

 そう。賭けだ。いずれにしてもギャンブルであり、いずれにしても困難な道だった。

 最後の仕掛けというのも、本当は内心で『失敗』への不安を押し殺していた。決して彼とて、演技ではなかったのだ。


(瑞鶴さんの言葉が本当なら……そしてあんたの言うように『コインで妖精に頼みごとができる』なら……)


 ジョニィの言葉に偽りがあるか?

 ……それはないだろう。

 詐欺師が付く嘘とは、『僅かな嘘以外のすべてが真実で成り立つもの』か『すべてが想像もつかない大きすぎる嘘』。
7 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:39:06.39 ID:e3MAfn1io

 この街にいるのは――今は人でなく、『妖精』。

 そして、手元にあるのは妖精に頼みごとができる『コイン』。


(賭けの時にコインを持ち上げる事ができるように……『持ち上げて』『一時的に裏向きにする』っつーのを妖精さんに頼み込むために……)


 仗助が行ったのはただ一点――――仕掛けはすべてその為に。

 そのまま倒せるならばよかった。だが、目の前のポーカーフェイスの青年は、そう一筋縄で行くような人間の筈がない。

 だからこそ実に単純に。

 攻撃は『相手に潰させて油断させる為に』。そして、何よりも、『時間を稼ぐ』為に。


(仕掛けさせてもらったぜ……)


 仗助の仕掛けに応じてコインの存在を知った妖精が――このテーブルまで来るための時間を。

 あとはナプキンを持ち上げてから、『頼んだ』通りに……。

 何度も、『ジョニィが賭けを外す方』と『頼んだ』ように――――それが実行される隙を作るだけだった。


(『空いた家屋にいるはずの妖精さんにコインの存在を知らせるため』に、『依然変わりなく』、最初からよォ〜〜〜〜〜〜〜)
8 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:46:54.42 ID:e3MAfn1io

 胸を撫で下ろした仗助は、改めてジョニィを見やった。

 何度も表が出る事を確定させた――――運命の輪の『回転』を司るように、決まり切った事として物事を行う恐ろしいスタンド能力。

 加えて、バラエティ番組も驚くほどの超常的な回転の『技術』。

 そして何よりも――圧倒的なポーカーフェイスと、冷静さ。


「それで、どーするんスか? もう一度やるっつーなら相手になるけどよぉ〜〜〜」


 内心の冷汗を押し殺しながら、仗助は聞いた。

 もう一度――同じ事を行えと言われても、不可能に近い。

 あれが一度であったからこそ、初めて突き立てる事が出来た『牙』。

 二度目は通用しないだろう――――としても、


(瑞鶴さんを人質にとってるっつーんなら、文句なく叩きのめして……負けるつもりはさらさらねーぜ)


 覚悟はあった。

 問題なく敵をブチのめして、二度とスタンド能力を悪用などさせはしないという覚悟が。
9 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 22:59:19.94 ID:e3MAfn1io

 ……が。


「……いや、その必要はないみたいだ」


 ジョニィが振り返ったそちらには――特徴的な帽子を、両脇で髪をまとめた上に乗せた少女。

 そう、あまりにも特徴的。

 帽子の鍔と、前面しか残っていない。

 見ようによっては、西洋の甲冑騎士のバイザーにも見えるような外見だが……。


(じょ、承太郎さんstyleッスかァ〜〜〜〜〜〜〜〜? あの帽子ィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜?)


 それより何より、仗助は驚いた。

 というか、(流行ってるんスか、実はアレ……あんなブッ飛んだ外見なのに、マジな話にィ〜〜〜〜〜!?)――いろいろそのセンスに驚愕した。

 承太郎を巌をするなら、少女は板やあるいは甲板というぐらいに体躯が違いすぎるにしても……。

 まさかここに来て、何よりも衝撃的だった。あんな不可思議なファッションをする人間が、この世に二人といるとは。


「浜風、浦風が探しとったよ? ……あと潮と照月にも土産買ってかんと」

「……」
10 : ◆rVyvhOy5r192 [saga]:2016/01/01(金) 23:06:56.99 ID:e3MAfn1io

 待ち人来たれり――という奴だろう。

 つまりは真実、ジョニィという青年は待ち合わせをしていたのだ。本当に。

 仗助がマジマジと眺めてみても、


「え、ウチどうかしたん? いややわぁ〜、いくら男前さんでもそんなにマジマジ見つめられてもウチどないしよう〜」

「……体系が珍しいんじゃあないのか」

「…………ジョニィ、今、ウチの体の事なんつった?」

「他に二人といなくて貴重」

「せやろせやろ? へへー、独特のシルエットやろ?」

「かなり。少なくともそんな…………は見た事がなかった。今まで」

「え、なに? なーんか色々聞こえへんやけど、なにぃ〜?」

「君のような人に今まで出会った事がない」

「そうやろそうやろ? いやぁー、ウチの事そんな風に思うてくれてるん? これモテ期かも〜。困るわ〜」


 漫才を繰り広げる始末だ。

 なんというか、その子供のような体同様……邪気がない。

 つまり、東方仗助や瑞鶴を害そうという雰囲気が――この少女にはないのだ。
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