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110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/02/03(水) 08:14:11.38 ID:WhYZBDMsO
読んでるよ!次が楽しみ
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/05(金) 12:24:53.75 ID:gseyL10R0
続き楽しみ
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:00:28.90 ID:pCvLUfD/o
URLをクリックすると別窓が立ち上がった。まだ画像は表示されていないけど、俺は
その別窓を最大化して、ゆっくりと画像が表示されていくのを固唾をのんで見守っていた。
画像は上の部分から徐々に鮮明になり、やがて表示される部分が広くなっていった。最初
に見えたのは二見の顔だった。
目の部分には昨日はモザイクがかけられぼかされていたけど、今日の画像は上から細い
線を重ねて目の部分が見えないようになっていた。それでも二見を知っている人間ならそ
れが誰だかすぐ判別できるくらい、申し訳程度にしか顔は隠されていなかった。
やがて彼女の白い肌がゆっくりと浮き上がってきた。それはあいつの上半身の裸身の写
真だった。左手で胸の部分を隠しているため乳首は見えないようになっていたけど、小さ
な手で押さえているせいで、乳房は全体が隠されているわけではなかった。右手が写って
いないのは、おそらくスマホを持って腕を伸ばして自分を撮影したからだろう。画像の下
の部分には二見が履いているスカートが少し写っていたけど、それ以外はあいつは何も身
につけていなかった。いや、正確に言うと鎖骨のあたりに何か付箋のような物が貼り付け
られていて、それには英数字が書きなぐってあった。昨日のスレでもあったけどIDを書
いて本人証明をしているのだろう。
普段見ている印象よりあいつの体は細く華奢だった。制服姿でいるときより裸身になる
と肩や腕の細さが際立って見える。俺は二見の上半身裸の画像を素直に美しいと思った。
最初に予想していたようなわいせつな印象は、全くと言っていいほどなかった。自分で
も驚いたことに、二見の裸体を見ても性的な意味で興奮することはなかった。むしろ何か
美しい中世の女神の絵画でも見ているような印象すら受けていた。なぜこういう行為をす
る子が女神と呼ばれているのか、あいつの裸身を眺めていると何となくその意味がわかっ
たような気がする。
そして、昨日は携帯の小さな画面だったけど、今日パソコンの大きなディスプレイで画
像を見ると、彼女の肌の質感が手に触れているかのようにまざまざと感じられるようだっ
た。スマホのカメラのせいか画質はあまりよくなく、パソコンのディスプレイに映し出さ
れた画像の解像度の荒さは隠しようもなかったけど、それでもそれは映し出された彼女の
美しさを損なうことはなかったのだ。俺が自分のカメラで撮影していれば、もっときれい
に撮れるのに。
しばらく画像に見とれていた俺は我に帰り画像を右クリックして画像を保存した。すぐ
に削除するってあいつに注意されていたし。それから一度画像を閉じてスレを更新した。
『美乳じゃん』
『美乳なんだろうけど手で隠すくらいならうpするなボケ』
『乳首も見せないとか何なの』
『モモちゃんの乳首みたいです』
『美乳というより微乳かもしれん。こんなんに需要ねえよ』
『>>○ スレタイも読めんのか。モモ、ナイス微乳。手をどけようよ』
『肌綺麗だな。こないだまで女子高生やってだけのことはある』
『乳首見せる気ないなら着衣スレいけよ』
何でこんなレスばっかなんだろう。これだけ綺麗な画像貼ってるのに。俺はそう思っ
た。同時にここのスレの住人のレベルの低さに無性に腹が立った。ここは十八禁だってい
うけどレスを見ているかぎりでは、高校生以下のレベルではないか。何か腹が立ってきた。
反論のレスをしてやろうかな。一時はそうも思ったけど、でも、あいつに今日はレスする
なって言われていたことを思い出して、俺は反論を断念した。とりあえずスレを更新して
みよう。
『ふざけんな。削除早すぎるだろ』
『即デリ死ねよ』
『のろまったorz』
『次の画像うpしてくれ』
・・・・・・もう削除しちゃったのか。どれ。俺は画像へのURLをクリックした。
DELIETEDって出て画像はなくなっている。俺は画像をあきらめてスレの方を更新した。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:02:18.45 ID:pCvLUfD/o
モモ◆ihoZdFEQao『画像は15分で削除します。ごめん』
モモ◆ihoZdFEQao『あと乳首はダメです。需要ないかなあ』
『ねえよ帰れ』
『需要あるよ。乳首なくてもいいから次行ってみよう』
『モモの身体綺麗だからもっと見たいれす』
『次M字開脚してみて』
好意的なレスもあるけど、とにかく画像を貼らせようって感じだ。でも、正直俺ももっ
と見てみたいという感情はある。
モモ◆ihoZdFEQao『リクに応えてみました。乳首はダメだけどM字です。15分で消しま
す』
次の画像だ。消される前に。俺は画像へのリンクをクリックした。
次の画像は鏡に写した自分を撮影したものだった。二見がスカートを脱いで床に座りこ
んで足をMの形に開いている画像で、開いた足の中心部にはブルーで無地のパンツがくっ
きりと写っていた。普通なら下着がはっきり見えているということで、その部分に目が行
くのかもしれないけど、俺の目はあいつの細く白い脚に釘付けになった。昨日見た太腿の
画像より拡大され、細部まではっきりと見えていたけれども、その脚にはしみやあざは一
つも見当たらず全体的に滑らかでほのかに内側から光を発しているようにすら思えた。特
に昨日は見えなかった内腿の白さが際立っている。下半身を写しているせいで、画像の上
部はお腹と形のよいへそが半ば見切れるように写っていた。
二枚目の画像を見てもやっぱり美しさを感じたたけど、画像を見ているうちに性的な興
奮のようなものがようやく俺にも湧き上がってきた。ただ、それは彼女の下着とか肌を見
ていることからくる即物的な興奮ではなく、自分の親しい人間がこういう姿を不特定多数
の目の前で肌を露わにしているという少し倒錯的な感情から来る興奮だったのかもしれな
い。俺は少し戸惑った。二見の行為に嫌悪感は感じなかったけど、倒錯した興奮を感じた
自分に対する嫌悪感は微妙に感じていた。それでも俺は麻薬に中毒して自分ではやめられ
ない人のように、自分から意識してこのスレを閉じることはできなかった。
俺は二枚目の画像を保存すると、再びスレに戻り更新した。今度は概ね好意的なレスが
数レス付いていた。昨日のスレのような流れの早さはなく、一枚画像を貼るたびに数人が
レスするという感じだった。こういうスレを過疎スレと呼ぶのかもしれない。何度か更新
してレスを確認していると再び二見のレスがあった。
モモ◆ihoZdFEQao『ほめてくれてありがとうございます。じゃ最後は全身うpです。乳首
なしですいません。15分で消します』
俺は三枚目の画像を開いた。ゆっくりと表示されていくその画像は、姿見に正面から映
した全身の画像だった。体にはブルーのパンツ以外何も見にまとっておらず胸だけは左手
で隠している。右手には姿見を狙って撮っているスマホのカメラが握られているのがわか
った。
・・・・・・結局その日はこれを最後に写真が貼られることはなかった。これでおしまいとい
う二見のレスに数レスだけ、ありがとうとかまた来てねとかというレスが付き、それに続
いて即デリ死ねよとかのろまったとかというレスが数レス。その後は何度更新しても新規
の書き込みはなかった。画像も宣言どおり二十分くらいで全て消去されていた。夜中の三
時ごろまでお祭りのように賑わっていた昨日のスレとは全く感じが違っていて、何か淡々
と事が運んで淡々と事が終わったようだった。今日のスレでは始ってから終わりまで一時
間もかかっていなかった。
俺は更新を諦めてスレを閉じた。そして保存した画像をパソコンのメールで自分の携帯
に移してから、その画像をパソコンのハードディスクから削除した。リビングのパソコン
は家族共用なので万一発見されると非常に気まずい。というか両親に発見されるくらいな
ら気まずいだけですむけれども、妹が発見すると写真の人物が二見であることに気づいて
しまう可能性があった。
画像を全部削除してパソコンの電源を落として自分の部屋に戻った俺は改めて自分がこ
の女神行為に対して抱いた印象を考え始めた。明日朝一番で二見に感想を求められること
は間違いない。それまでに自分なりの感想を整理しておく必要を俺は感じたのだ。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:06:54.05 ID:pCvLUfD/o
少なくとも嫌悪感はなかった。それは断言できる。スレを開いた時に女神板のスレに感
じた猥雑な印象は、実際に二見の画像を見ると俺の心からすっかり消し飛んでいた。そし
て彼女の体を美しいと感じたことも間違いなかった。ただ、問題は二枚目以降の画像を見
た時に感じた複雑な感情だった。俺はその感情を自分の心の中で整理しきれていなかった。
それは自分がよく知っている女が他の男に肌を露出していることから来る嫉妬だったの
だろうか。でもその感情を抱いたとたんに俺は得体の知れない深い興奮を覚えたのだった。
それは単純な性的興奮ではなかった。何か自分の女が複数の男の視線に晒されていること
への興奮だったのか。
え? 俺は一瞬自分の頭を疑った。俺の女ってなんだよ。
二見は俺と付き合っているわけではない。俺は不特定多数の掲示板の住人と同じく今日
初めてあいつのああいう画像を見たのだ。いや、モモというコテハンがレスした人たちに
知られていたということは、当然俺より先に二見の裸身を見ていたやつらがいるというこ
とだった。それに対して俺が感じたのがスリリングな興奮なのかそれとも単純な嫉妬なの
か。俺は混乱した。
もうこれ以上考えても何も結論は出せそうになかった。俺は諦めて寝ることにした。今
日も有希の告白にどう応えるか考えなかったな。そんな感想が眠りにつく前に俺の脳裏に
浮かんだけれども、それはすぐ次に鮮明に脳裏に浮かんだ二見の美しい肢体のイメージに
かき消されてしまった。俺は彼女の真っ白だった美しい肢体を思い浮かべながらいつのま
にか寝入ってしまったようだった。
翌朝 自宅の最寄り駅に立った俺は、朝食を食い損ねてしまった自分の空腹を持て余し
ていた。今朝は麻衣が朝食を用意してくれなかったのだ。今日は妹は俺を起こすとさっさ
と一人で出かけてしまった。おかげでいつもより遅い電車になってしまったうえ、すきっ
腹を抱えている。まあ、考えようによってはいかに俺が生活する上で妹に依存していると
いう証左になったのだけど。
麻衣は、最近夜も自分の部屋にいるし、昼も一緒に食べようとしない。俺のこと避けて
いるのだろうか。ついこの間まで、麻衣は近親相姦直前くらいなほど俺にベタベタくっつ
いてたくせに。あいつは有希のこと応援してるって言ってたから、有希への返事を引き伸
ばしている俺のことを怒ってるのだろうか。
まあ、いいや。そんなことより昨日のことのほうが悩ましいと俺は思った。保存した画
像をちょっとだけ見てみようか。俺はスマホを開いて二見の女神行為の画像を表示した。
一枚目の画像は、スマホの画面だと画像が小さいけど、それでもあいつの体が綺麗なこと
はよくわかる。胸を隠している方がかえって彼女の美しさを引き立てているようだ。
二枚目はM字に脚開いてっていうリクエストに応えたやつだった。二見の脚とかきれい
だけど、それにしてもいったい何人くらいの男がこの脚を眺めて、画像を保存したんだろ
う。レスしないでROMしてるやつも相当いるはずだった。まあ十五分くらいで画像は消
されているから、思ってるよりその人数は少ないのかもしれない。そもそも過疎スレだっ
たし。
三枚目が一番好みだ。パンツしか履いてない全身の画像だけど。女神か・・・・・・やけに華
奢な女神だけど、あいつの全身を見ていると胸が締め付けられるような変な感じがする。
それが何でなのか、昨日考えてもこの感覚ってよくわからなかった。単に同級生の女の子
のエッチな写真をゲットして興奮してるとかだったら、まだわかりやすいんだけれども。
でも、そうじゃない。だってこれをネタにオナニーしようとか全然思い浮ばなかったの
だから。むしろこの二見の美しい裸身が不特定多数の目に晒されてるって考えた時、正直
に言うと胸が締めつけられるような、自分でもよくわからない興奮を覚えたのだ。
俺は朝の通学時間に俺何考えてるんだろ。誰かに覗き込まれる前に画像閉じておこう。
もうこの電車だと隣の駅で有希も乗ってこないだろう。今はその方がかえって気が楽だ。
そう思って念のためにホームを眺めると、ベンチに座ってスマホを眺めている二見がいた。
どうしよう。声をかけてもいいんだろうか。そう思った瞬間、二見と目が合った。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:07:48.81 ID:pCvLUfD/o
「おはよう」
二見が立ち上がって俺にあいさつしてくれた。
「お、おう。ええと」
俺は何をうろたえているんだ。
「一緒に登校してもいい?」
二見が俺を見上げるようにして言った。さっきまで熱心に眺めていたスマホをかばんに
しまい込んで。
「あ、うん」
「よかった」
何かいつもと違って大人しい。昨日のことで緊張してるのだろうか。
「あのさ」
「うん」
「昨日のあれ」
「・・・・・・うん」
「見たよ」
「そう」
こいつのこの制服を脱がすと、昨日の画像のとおりの裸になるんだよな。突然俺は本人
を目の前にしてとんでもないことを思いついて、そしてそのことに狼狽した。
「どうしたの」
「いや」
俺の目はなぜか、二見のブラウスに隠された胸を見つめてしまっていた。
「あ」
二見が両手でブラウスの胸元を隠した。
「ごめん、そうじゃなくて」
「うん」
二見が胸を隠したままうつむいた。
「綺麗だった」
よくこんなことが言えたものだ。本当に半ばは勢いで口に出してしまった。本心ではあ
ったけど。
「え?」
「だから、昨日のおまえすげえ綺麗だったよ」
「うん、ありがと」
二見が自分の胸元を隠していた両手を外し、真っ赤な顔で俺に答えた。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:08:53.75 ID:pCvLUfD/o
「昨日の感想だけどさ」
「・・・・・・うん」
どういうわけかあの二見が珍しく赤くなりうつむいた。
「何て言うかさ」
「うん」
小さな声で俺と目を合わせないまま二見が言った。
「ああいうスレ見たの初めてだったけど、少なくともおまえの画像を見て嫌悪感とか軽蔑
とか全然感じなかった」
「本当?」
「うん、本当」
「・・・・・・よかった」
二見が顔をあげ心なしか濡れた瞳で俺を見上げた。
「芸術って言うと大袈裟だけどさ。あれだけ綺麗な写真ならどこかで発表したくなるって
いうのも何となく理解できたよ」
「そんなに大袈裟なことじゃないよ」
「そうかもしれないけどさ。でも画像見ててそういう感想が頭に浮かんだのは本当だぜ」
「ああ。よかったあ」
「突然、何て声出してるんだよ」
「昨日撮影している最中も、フォトショで画像加工している時も、レスしている時も本当
は怖くてどきどきしてたんだからね」
「いったい何で?」
「最近、君とやっと親しくなれて、一昨日のスレ見られても引かれなくてうれしかったけ
ど、さすがに昨日のを見られたらもう普通に話をしてもらえないんじゃないかって思うと
怖くて」
「そうか」
「だから、いっそこんなこと隠してればよかったとか考えちゃってね」
「うん」
「でもよかった。ありがと」
「そこで手を握らなくても」
「どきどきした?」
そのとき二見の湿った手の感触を感じてどきっとしたのはうそじゃなかった。
「ちょっとだけ」
二見は俺の手を握ったまま少しだけ笑った。
ホームに電車が入ってきた。
「電車来たな。おまえどうするの?」
「一緒に乗っていく。別に見ておきたいレスとか今日はないし。いい?」
「うん」
あのスレを眺めていた俺にはこのときはもう、選択肢なんかなかったんだろう。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:09:30.68 ID:pCvLUfD/o
今日はいつもより遅い電車だから、有希とは会わないはずだけど。だから別に心配する
ことはないんだけれど。こいつ、いつまで俺の手を握ってるつもりなんだろ。結構周りに
はうちの生徒がいるんだけど。しかし、いきなり俺の手を握るってこれはもう勘違いでは
ないんじゃないか。二見は俺のことを好きなのかもしれない。それにしても、好きな相手
にいきなりああいうああいうスレを見せるとか、普通はないと思うけど。
隣の駅に着いたけれども、有希の姿はない。有希はやっぱりいつもの電車に乗ったみた
いだ。二見と手をついないでいるところを有希や麻衣に見られないことに安心した俺は、
近くのドアから乗車してきた夕也を見つけた。最近有希や麻衣と一緒に登校していないよ
うだけど、こんなに遅い電車に乗っていたのか。どおりで遅刻ぎりぎりに教室に来るわけ
だ。
「よう夕也、おはよう」
こいつ今日も寝不足みたいで酷い顔をしている。
「おう麻人・・・・・・って、え?」
俺の方を見た夕也の表情が氷ついた。
「えって何だよ」
夕也の視線が下がり、俺と二見が握り合った手に気が付いたようだった。
「おまえさ」
「あ、いや。そうじゃねえよ」
「おまえ、そういうことだったの?」
夕也の声の温度がひどく下がったようだ。
「おはよう」
ぼっちの二見が夕也にあいさつしたことに俺はおどろいたけど、夕也はそれを無視した。
俺は反射的に二見の手を離そうとしたけど、手を振り解けない。というかもっと強く手を
握りしめられた。
「俺がバカだったのかな」
「おまえ、何言ってるんだよ」
「俺、おまえのためなら、有希のこと忘れようと思って、時間ずらしたりあいつに話しか
けないようにしてたんだけどよ」
何を言っているんだこいつは。
「おまえ、最低だな」
「何か勘違いしてるぞおまえ」
「有希の気持を知りながら、返事もしないであいつを悩ませておいてよ。自分は二見さん
と浮気かよ」
「違うって。つうか浮気ってなんでだよ。話を聞けよ」
俺はとりあえず二見の手を離そうと思ったけど、二見はやはり手を離してはくれない。
「二見さんが好きなら何ですぐに有希のことを振ってやらねえんだよ。おまえ、自分が好
かれてるっていう気持を楽しみたいから、有希への返事を引き延ばしているだけじゃねえ
か」
「てめえ怒るぞ」
「怒るって何だよ。誤解だとでも言いてえのかよ。登校中の電車の中でしっかりと二見さ
んの手を握りやがって」
「握ってると言うか、握られて」
二見の手が震えてる。この誤解は二見のせいじゃない。こいつを俺のごたごたに巻き込
んじゃだめなんだ。この話が続くと夕也のやつの怒りは二見の方に向くかもしれない。も
う夕也に誤解されても仕方ない。せめて二見を傷つけないようにしないと。
「じゃあな。おまえとはもう話さねえから。あと有希にも全部今朝のこと話すからな。も
うおまえなんかに遠慮したり気を遣ったりするのはやめだ」
もう何を言っても無駄だろうな。俺はそう思った。
「言い訳すらなしかよ。まあいいや。じゃあな」
そう言い捨てて、夕也は隣の車両に移動していった。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/06(土) 22:10:04.79 ID:pCvLUfD/o
「何か悪かったな」
残された俺と二見の間には少し嫌な沈黙が漂った。
「ううん」
「俺たちのごたごたにおまえを巻き込んじゃった。おまえには関係ねえのにな」
「そうじゃない」
「え?」
「そうじゃないの。あたしの方こそごめん」
「何でおまえが謝るんだよ。そりゃ、手を繋いでたとこを夕也に見られたのは痛かったけ
ど」
「君が遠山さんのことを考えなきゃいけない時に、あたしの女神のことなんかで時間取ら
せちゃったから」
確かにそうだったから俺はこのとき、どう答えていいのかわからなかった。
「だからごめん」
「別におまえに強制されて見たわけじゃねえよ。むしろ有希のことに、真剣に向き合うの
を先送りにしてたのは俺だし」
「でも」
「でもじゃねえよ。おまえに悪いことしたのは俺の方だよ」
二見はうつむいた。
「たださ」
「うん」
「何で今、俺の手を離さなかったの? 夕也に誤解されるに決まってるのに」
「あの」
「うん」
「あたし、その」
いつも冷静なこいつらしくないく、何かおどおどしている。
「あたしね。その・・・・・・君のこと好きかもしれない」
え。
「あたしみたいなぼっちが身の程知らずかもしれないけど」
「お、おい」
「君のこと、本当は前から気にはなっていたんだけど」
「・・・・・・うん」
女「本気で好きになっちゃったみたい」
その時、俺の手を離さそうとせず真っ赤な顔で俺に愛の告白をしている二見の姿を狼狽
しながら眺めている俺の目には、彼女の上に昨日見た画像のパンツしか身に纏わない裸身
の二見の姿が重なって見えた。
俺もこいつのことが好きなんだろうか。もしかしたら昨夜女神板のスレでこいつの裸の
姿を見ながら感じていたあの奇妙な感覚は、俺の二見への好意の予兆だったのだろうか。
そしてそのもやもやとした感じとは別に、いつも冷静に振舞っていた二見が、今俺に必死
になって告白している言葉や、強く握り締めらている手の感触が、ここは本気で考えてや
らなければいけない場面であることを俺に強く告げているようだった。
俺は二見の手を強く握り返した。次の言葉を出す前に一瞬、有希が俺に告白した時の表
情と、それになぜか妹の麻衣の顔が思い浮んだけど、それはすぐに昨日見た二見の美しい
裸身のイメージに置き換わってしまった。
「あのさ」
俺は言葉を振り絞った。二見は俺の手を握りながら黙って潤んだ瞳で俺を見上げた。
「俺もさ、おまえのこと好きになっちゃったかも」
彼女はしばらく黙っていた。
次の瞬間、周囲の乗客やうちの生徒たちの目を気にすることなく、二見が俺に抱きつい
てきた。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/06(土) 22:10:38.05 ID:pCvLUfD/o
今日は以上です
また投下します
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/07(日) 10:52:00.40 ID:/1bqt0eZo
あぁ^〜いいっすね〜
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/02/07(日) 12:25:34.43 ID:LwcgYmOeO
このあたり一番好きだったんだよね
やっぱりいいね
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:09:08.14 ID:VyTyW24Co
教室までずっと二見と手を繋いで来たけど、周りのやつらの視線が半端なかった。絶対
にもう噂になってることは間違いない。俺と二見が付き合い出したことまでがうわさにな
るのかどうかはわからないけど、少なくとも俺と二見が手をつないで登校したことが有希
に知られるのは時間の問題だろう。
どうしてこうなったんだろ。これじゃ順序が逆だ。本当ならば有希の告白をちゃんと断
ってから、二見と付き合い出すべきだったのに。いや。それにしても有希を傷つけること
には変わりはないかもしれない。本当に有希が俺のことを好きなのなら。五十歩百歩って
やつだ。とにかく昼休みには有希を呼び出して話をしないといけない。せめて噂を聞いた
有希が傷付くより先に。どちらにしても有希が傷付くことには変わりはないにしても、そ
れがせめても俺の誠意なのかもしれない。
俺は教科書の方に視線を落としている二見の方を見た。ここでお互いの視線が絡み合っ
たらうれしかったのだけど、二見は教科書に集中しているようだ。こんなにまじめに勉強
するような女だっけ、二見って。それにしても、俺のことが気になっているとは言ってた
けど、まさかいきなり告られるとは思わなかった。
結局、俺の初めての彼女は、これまでずっと考えていたような幼馴染の有希ではなくぼ
っちの女神だったのだ。有希のことだけが大好きだった昔の俺なら考えられなかっただろ
うけど、今は不思議と違和感がない。っていうかむしろ何かすごく落ち着いた気分だ。そ
れに、二見の教えてくれたスレを見てたときのもやもや感まで一気に晴れた感じだった。
ちょっとだけ。教科書の陰なら先生にばれないだろ。俺は教科書の後ろでスマホを出し
た。・・・・・・やっぱり綺麗だな、あいつ。
この画像の裸身は今では俺の物なんだ、って何をキモイこと考えているんだ俺は。それ
でも二見のレスを考えると何だか不思議な感じがする。
モモ◆ihoZdFEQao『人いた。最近恋に落ちたせいか痩せてますます貧乳になりました(悲)』
あれって俺のことだったんだ。そういや、あいつ俺と付き合ってからも女神を続けるの
かな。今まで考えなかったけど、自分の彼女の女神行為を見たらどんな感じがするんだろ
う。感じるのは嫉妬心なのか。それとも優越感なのか。AKBの誰かひとりを彼女にして
いるやつがいるとしたら同じような感想を持つのかな。いや、いくらなんでもそれは二見
を持ち上げすぎだろう。俺は未練がましく教科書を見ている二見の方を見た。
そのとき、二見が教科書からきれいな顔をあげ俺の方を見て微笑んでくれた。俺に気が
ついて笑ってくれたのだ。やっぱ、あいつ可愛いな。俺はそう思った。二見のためにも有
希とのことには決着をつけないといけない。とにかく昼休みになったら。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:09:37.45 ID:VyTyW24Co
「悪いな呼び出しちゃって」
「あんたになら別にいいよ・・・・・・もしかして返事してくれるのかな」
「うん。時間かかっちゃってごめん」
「あんたが優柔不断なことなんて知ってるよ。何年あんたの側にいたと思ってるのよ」
「そうか。まあ、そうだよな」
「そうだよ」
俺は腹の底に力を込めた。
「俺、やっぱりおまえとは付き合えない」
「そうなんだ」
「悪い」
「わかった。でも一つだけ教えて」
有希は全く泣かなかった。というより強い視線で俺を見た。
「うん」
「もしかして、あたしと付き合えない理由って夕のことがあるから?」
「それもある」
「それもって?」
「最初は夕也のことが気になってたんだけど」
「・・・・・・うん」
「でも、正直に言うと今は夕也のことが理由っていうより、他に好きな子がいるから」
「そうか」
「だからおまえとは付き合えない。本当にごめん」
「二見さんだよね?」
「ああ」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:10:16.61 ID:VyTyW24Co
「もう一つだけ聞いていい?」
「いいよ」
「二見さんを好きになる前ってさ。あんた、あたしのこと好きでいてくれた?」
「何でそんなこと」
何でそんなことを今さら蒸し返すのか。
「お願いだから答えて。もうこれであんたを困らせたりしないから」
冷静に話しているような有希の手が震えていることに俺は気がついた。なんだかとても
胸が痛い。ここで嘘はついちゃいけない。俺はそう思った。
「昔からずっとおまえのことだけが好きだったよ。二見のことを好きになる前は」
「そうか、そうだよね」
「うん」
「あーあ。うまく行かないよね。あんたがあたしを想っていてくれていた頃は、あたしは
麻衣ちゃんに遠慮しててさ。それであんたのことを忘れようとして夕に近づいたら、今度
はあんたが夕也に遠慮しちゃって」
「そうかもしれないな」
このときの俺の声はかすれていたと思う。
「そんなことやってるうちに、あんたは新しい恋を見つけちゃったのね」
「めぐりあわせが悪かったのかな、俺たちって」
「うん」
「ねえ?」
「うん」
「これからも友だちっていうか、幼馴染でいてくれる?」
「あたりまえだろ」
「よかった。あたし、これ以上あんたを困らす気はないけど」
「ああ」
「心の中でさ、彼女ができた好きな人のことを想い続けるのはあたしの自由だよね?」
「・・・・・・どういうこと?」
「あんたのこと諦めないって言ってるの」
「有希。あのさあ」
「あんたと二見さんの関係を邪魔したりはしないいよ。でもあんたのことを好きでいるこ
とはあたしの自由でしょ」
「何言ってるの」
「二見さんとのことを邪魔する気は全然ないけど。二見さんとあんたじゃ合わないと思う
し」
「おまえ何言って。俺じゃあ二見にはつり合わないってこと?」
「そうは言ってないけど」
「じゃあどういう意味?」
「言ったとおりだよ。あんたと二見さんは合わない。だから長続きしない」
「何言ってるのか全然わからないんだけど」
「わからなくてもいいけど。とにかくあたしはあんたが二見さんと付き合ったとしても、
あんたのこと好きでいるから」
「・・・・・・夕也のことは?」
「嫌いじゃないよ。でももう自分にも他人にも嘘つくのやめたの。麻衣ちゃんのおかげで
いろいろ目が覚めた」
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:10:46.06 ID:VyTyW24Co
「おまえさあ」
何を言っているのか全然わからない。
「じゃあ、あたしもう行くね」
「おい」
「あ、しつこいようだけどもう一つだけ質問。これが最後だから」
「いいよ」
「ひょっとしてもう二見さんと付き合ってる?」
ここで嘘は言えない。
「うん。今朝、二見に告られてOKした」
「やっぱりね」
やっぱり、正式な返事を貰うより先に既成事実を作られてるのってショックだよな。俺
はそう思って、少なくともそのことだけは素直に有希に謝ろうと思った。後先の話だけは。
ここは素直に謝ろう。有希に許してもらえなくても。
「あんたさ、麻衣ちゃんにはどう話すつもり?」
「へ?」
「へ? じゃないでしょ。あたしのことを考えてあんたから身を引いた麻衣ちゃんが、二
見さんとのことを知ったらどんなに傷付くと思ってるの」
こいつが気にしているのは自分のことじゃなくて麻衣のことなのか。
「そう言われても。確かにすごく仲のいい兄妹だし、あいつは俺の大事な妹だけど」
「だったらさあ」
「いやちょっと待て。だけどどんなに仲良くても、どんなにお互いが大事でもあいつはあ
くまでも実の妹だぞ」
「最近、麻衣ちゃんあんたのこと避けてない?」
そう言われてみれば女神スレ見てたからあまり気にしなかったけど、最近あいつ家では
自分の部屋に閉じこもってるし、弁当は作ってくれないし、今日なんか一緒に登校もしな
かったな。
「麻衣ちゃんは自分なりにあんたのことを考えて、でも自分の気持に嘘つけなくて悩んで
るんだと思うよ。まあ、その原因はもともとあたしにあるんだけどさ」
「うん」
「でも、あたしじゃなくて二見さんにあんたを奪われたって知ったら、麻衣ちゃんどうな
っちゃうんだろうね」
「脅かす気かよ」
「脅しじゃないよ。あたしだって心配なのよ」
妹がそんなに思い詰めてるって本当だろうか。
「いずれ麻衣ちゃんには知られるだろうし、その時はあたしも頑張って彼女の面倒を見る
けど」
「ごめんな」
「いいよ。あたしのせいでもあるし。でも、あんたも覚悟しといた方がいいかもよ」
覚悟? 本当にそれほどのことなのだろうか。
「じゃあ、そろそろお昼食べないと休み時間終っちゃうから。またね」
「ああ」
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:11:14.66 ID:VyTyW24Co
「池山君」
こいつは、いつもは教室では昼飯食わないのに。俺のこと待っていたのか。
「うん」
「思ったより早く戻って来たね」
「え?」
「遠山さんと会ってたんでしょ」
「何だ、知ってたのか。相変わらず察しがいいな」
「まあね」
少しの沈黙。でも、なんだか悪い気がしない。
「気になる?」
「・・・・・・意地悪」
二見のその言葉に俺は意表を突かれた。こいつはそういうことをあまり言わない子なん
だと思っていたのに。でも。やばい。二見って可愛い。
「あのさ」
「うん」
「ちゃんと断ってきたよ」
「そうか。よかった」
よかったってこいつは言った。最初から俺の行動なんかこいつには見抜かれていたんだ
ろうな。それでももういいや。あからさまに嬉しそうだけど、二見ってこんなに感情を表
すタイプだっけ。
「ありがと」
二見が微笑んでそう言ってくれた。
「まあ、おまえと付き合ってるわけだし、いつまでもぐずぐずと返事を延ばしてはいられ
ねえしな」
「うん」
何か急に緊張が緩んできたな。そう思った俺は次に自分の腹具合を思い出してしまった。
こんな時なのに何やってるんだ俺。だけど、今日こそ昼飯食いっぱぐれたかもしれない。
「はい、これ」
「うん?」
「サンドイッチ。コンビニので悪いけど」
「おまえ、いつも弁当のほかにサンドイッチとか食い物持ち歩いてるの?」
「そんなわけないじゃん」
「何なんだよ」
「いらない?」
「いるけどさ」
「はい。まだ昼休み二十分くらいあるし」
「じゃあ、貰う」
「うん。飲み物コーヒーでよかった?」
「うん。つうかいつもそんな物まで装備してんのかよ」
「まさか。さっき自販機で買っておいたの」
「まあ、そのさ。ありがとな」
「うん。一応あんたの彼女だし、これくらいはね」
「そうだな」
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:11:51.27 ID:VyTyW24Co
「美味しい?」
「うん」
「そうか」
コンビニのサンドイッチでも、空腹の身にはありがたい。俺は二見のくれたサンドイッ
チに夢中でかぶりついていたようだった。
「ねえ」
「うん」
「今日一緒に帰れる?」
「最初からそのつもりだけど」
「よかった。ねえ?」
「今度は何?」
「明日さ」
「うん」
「もし迷惑じゃなかったら、君のお弁当作ってきていい?」
何だか突然デレ始めたな。俺は戸惑ったけど、迷惑なはずはない。
「うん。楽しみだよ」
「そうか。じゃあ、そうする」
「うん」
何かやばい。本気でこいつに萌えちゃったような気がする。それにしても、二見の好意
にはそこはとなく気づいていたものの、付き合い出したらこいつがここまでデレるとは夢
にも思わなかった。どっちかかというと感情の起伏に乏しいというか、冷静なタイプだと
思っていたのに。でも普段冷静な二見があそこまでデレてるのも新鮮ではある。こういう
のをギャップ萌えって言うんだろうか。
それにしても、普段のあいつの振る舞いからはまさかあいつが女神だなんて誰も思わな
いだろう。俺はもうあいつの彼氏なんだし、何であいつが女神行為なんて始めたのか聞い
てもいいのだろうか。
何か女神の件は考え出すと自分の中で収集がつかなくなる気がするから、もう少し考え
ないでおこう。付き合ってればそのうちそういう話題になるだろうし、その時まではこっ
ちから触れるのはやめておくか。つうか俺たち同級生なのに、付き合い出したきっかけが
女神行為とか2ちゃんねるとかとても人には言えない。まあいい。この先は長いんだから
いろいろとゆっくり考えればいいのだ。
そろそろ帰ろうと思って二見の席を見ると、二見がクラスメートの女の子たちと話して
いた。珍しいものを見るものだ。少し躊躇したけど、一緒に帰る約束をしているのだ。俺
は二見と彼女を囲んでいる同級生の女の子たちの方に寄っていった。
俺が近づくと、まだ席に座って話していた二見が俺の方を見上げて微笑んでくれた。
「そろそろ帰らねえ?」
「うん」
「池山、二見さんと付き合ってるんだって?」
二見に話しかけていた顔見知りの子が俺をからかうように見た。
「ああ、まあ」
ここで否定できないことくらいは俺にも理解できている。
「ああ、まあって何だよ。照れてるの?」
「照れてる照れてる」
「おまえらうるせえよ」
二見もなんだか知らないけど、何も否定しないで笑っている。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:13:04.62 ID:VyTyW24Co
「もう行こうぜ」
「うん」
「あたしたちさ、二見さんと仲良くなったから。今度放課後一緒に遊びに行くからね」
「何で俺に言ってるんだよ」
「池山って独占欲強そうだし、二見さんのこと束縛しそうじゃん」
「そんなことねえよ。何言ってるんだよ」
「あたしもそんなことないと思うなあ。どちらかと言うとあたしの方が池山君を束縛して
嫌われそうで怖い」
「え」
「そんなわけないでしょ。どう考えても二見さんの方がスペック高いじゃん」
「そうそう。二見さんってぼっちで寂しかったところを池山に付け込まれたんじゃない?
今のあんたなら男なんて選びたい放題だよ」
「考え直したら?」
「おまえらなあ」
でも、実はそんなに不快じゃない。二見が普通にクラスメートに人気があるらしいこと
の方が嬉しかった。
「冗談だって・・・・・・冗談。何マジになってるのよ」
「冗談だって。池山君」
「おまえも何嬉しそうに笑ってるんだよ」
「じゃあ、冗談はこの辺にして邪魔者は消えようか」
「うんうん。じゃあ、次は本当に付き合ってよね」
「うん、ごめんね。今度また誘ってね」
「うん。じゃあ、また明日」
「またね」
「なあ」
「うん」
「何でいきなりあいつらと仲良くなったの?」
「仲良くなったっていうかさ」
「うん」
「君の彼女になったんだから、もうぼっちとか暗い女だとか周りの人に思われるのも嫌だ
し」
「はあ?」
「だからさ、普通に目立たないくらいの女になろうかと思って」
「いったい何で? おまえそういうの気にならない人でしょ? 今までだって好き好んで
ぼっちやってたんでしょうが」
「あたしはそれでもいいけど」
「それなら」
「でもそれじゃ君に申し訳ないし」
「まあ、おまえが普通に同級生と会話している方が、俺も嬉しいけどさ」
「やっぱさ、君が遠山さんと付き合えば周りはそれなりに納得すると思うのね」
「え? 何言ってるの」
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:13:53.20 ID:VyTyW24Co
「え? 何言ってるの」
「遠山さん、綺麗だし人気もあるし」
「あいつはそうかもしれないけど、俺なんかが誰と付き合っても周りは気にしねえだろ」
「君も無駄に自己評価低いんだね」
「意味わかんねえよ」
「要は君が選んだのがあたしみたいなぼっちじゃ、周りが不審に思うでしょってこと」
「それこそ意味わからん」
それに二見だって、ぼっちということさえ除けば、外見の可愛らしさじゃ、有希といい
勝負だ。
「あたし、君にはあたしが彼女だってことで、負い目とか劣等感とか感じて欲しくない
の」
「んなこと感じねえよ」
「君が好きになったのは普通の女の子なのかってクラスの人たちに思って欲しいから」
訳がわからない。
「で、おまえは同級生のあいつらとこれからつるんで行動するってこと?」
「ほどほどにそうしようと思う。別に友だちとかなくてもいいんだけど、あたしがぼっち
だと君が周りにバカにされそうだし、そんなのいやだから」
「考えすぎなんじゃねえの? それにおまえ、女神行為のことを隠して誰かと友だち付き
合いするの嫌なんだろ?」
「まあ、そうだけどさ。背に腹は代えられないよ。あたし、本当に君のことが好きだし」
「え」
「・・・・・・やだ。恥かしいこと言っちゃった」
「家まで送っていくよ」
「うん。初めて君の方から手をつないでくれた」
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:16:10.18 ID:VyTyW24Co
「ただいま」
・・・・・・両親がいないのはいつものことだけど、今日は妹もまだ帰っていないようだ。二
見を家まで送ったせいで、麻衣の方が先に帰っているのかと思っていたんだけど。玄関の
ポストをのぞくと、何か伝票のような薄い紙が入っていた。俺はその紙片を手に取って眺
めた。
『ご不在でしたので明徳集配センターでお預かりしています。下記までご連絡ください。
お預かりしているお品物:MEC製ノートパソコン』
ノーパソ? いったい誰が買ったんだろう。親父だろうか。いや親父はモバイルノート
を持っている。まさか母さんから俺へのプレゼントなのか。そんなわけはない。頼んでも
いないのに、高価なパソコンを買ってくれるような母親じゃない。
『池山麻衣様』
妹がパソコン? 俺だってリビングのパソコンを使ってるのに何でこいつだけノーパソ
買ってるんだよ。つうか妹のお小遣いで買えるもんじゃねえだろ。絶対親に買ってもらっ
たに違いない。親父め、麻衣だけえこひいきしやがって。それにしても、リビングのパソ
コンだってたまにしか使わない麻衣が、何でノーパソなんて親にねだったんだろう。学校
の授業で必要なのか? いや、俺が麻衣の学年だった時にそんなことを学校に求められた
ことはない。考えてみれば不思議なことだった。それよりも、大げさかもしれないけど麻
衣がパソコンを買うなんていうこと自体を、あいつが俺に黙っているなんてこれまでの関
係からすればありえない。
「最近、麻衣ちゃんあんたのこと避けてない?」
「麻衣ちゃんは麻衣ちゃんなりにあんたのことを考えて、でも自分の気持に嘘つけなくて
悩んでるんだと思うよ」
こういうこともそのせいなのだろうか。最近は、かつてとは違って自宅で麻衣と過ごす
時間が極端に減っている。麻衣が、二見と俺とのことを知っているわけはないと思うけど、
それでもその影響が我が家に、俺と麻衣との関係に波及しているみたいじゃないか。
さすがにそれは考えすぎだろうけど。でも、有希の話を聞いた後ではすごく気が重いけ
れど、俺にも彼女ができたって、そしてそれは二見だって麻衣に報告しなきゃいけないん
だろう。パソコンなんかどうでもいいけれど。とにかく麻衣とじっくり話をしないと。
リビングで漫然とテレビを見ていると、もう八時になってしまった。買い物でスーパー
に寄っているにしても遅すぎる。麻衣はまだ中学生だ。さすがに心配になった俺は、麻衣
の携帯に電話した。案ずるまでもなく、麻衣はすぐに電話に出た。内心俺はすごくほっと
したけど、一応兄として厳しい声を出してみた。
「おまえ、もう八時過ぎてるぞ。今どこで何してるんだよ」
『もうすぐ家につくから』
「遅すぎだろ。それに遅くなるならメールくらいくれよ」
『ごめんごめん。ちょっと買い物とかで遅くなっちゃって』
「そんならいいけど。帰ってから飯の支度? 俺腹減ったんだけど」
『。もう遅いし、悪いけどカップラーメンとか食べてくれる?』
「まあ、いいけど」
『じゃあ、電車来たから』
「電車っておまえ、今どこに」
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/11(木) 21:16:38.74 ID:VyTyW24Co
電話を切られてしまった。何なんだよ。まあ、いい。麻衣はとりあえず無事らしいし、
カップ麺も好きだし。それに、妹の心配がまぎれると、あらためて二見との出来事が胸に
浮かんでくる。明日、二見と一緒に登校する約束とかすればよかった。せっかく家まで送
っていったのに普通にさよならして別れてしまった。俺はカップラーメンにお湯を入れて
から、キッチンのタイマーを見ながら思った。これからは二見と一緒に登下校したい。付
き合いだしたんだし、それが自然だと思う。
彼女ができたら、一般的にはどういうことをすればいいんだろう。俺はカップラーメン
を持ってテーブルに移動しながら考えた。多分、何をすればいいとかじゃない。何をした
いかなんだろう。あいつとデートを重ね、そして夕暮れの公園で初めてのキスとか。そこ
まで行けば、あとは二見の体を、付き合いだした俺の初めての彼女の、初めて見る体を求
めることになるんだろうか。
あれ? 何か違和感を感じると思ったけど、その原因はすぐにわかった。初めて見るも
なにもない。二見の体を、俺は付き合いだす前に見たのだった。付き合う前から女神スレ
の画像であいつの裸は既に見ているのだ。キスするより前に彼女の裸身を見たことあるっ
て。違和感ありまくりだけど。
そういあいつは、今夜は女神行為をするのだろうか。何か普通になりたての恋人っぽい
話しかしなかったけど。あいつ。俺と付き合っても女神行為は続ける気なのか。そして、
俺はどうなんだ? 自分の彼女の裸が不特定多数の男に見られることを、俺はどう思って
いるのだろう。
・・・・・・とりあえず、このカップラーメンを食ったら、スレを確認してみよう。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/11(木) 21:17:07.45 ID:VyTyW24Co
今日は以上です
また投下します
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:27:03.76 ID:rrQrdOTto
結局、その夜麻衣は帰ってきたけど、風呂から上がったら自分の部屋にこもってしまっ
た。それに帰宅した時にあいつが抱えていた重そうな箱、あれノーパソじゃないのか。不
在連絡票なんか見なくても、留守中にパソが届くって知っていたんだろう。直接受け取り
に行ったから帰宅も遅かったのだ。何で突然ノーパソが必要なんだろう。麻衣は俺が何聞
いても、笑顔でごまかしてちゃんと答えてくれないし。
でも、まあ、いいか。今はそれより女神板だ。俺が今一番気になっているのは、当然だ
けど二見のことだ。麻衣がリビングにいない分、リビングのPCで落ち着いてスレを見れ
る。とりあえず、こないだブクマしといた女神板のスレから確認しよう。俺はそう思って
女神スレを開いた。
【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】
・・・・・・昨日最後に見たレスから全然新しいレスがない。あいつは、今日はおとなしくし
ているのか。なんだか肩透かしというか、つまらない。
いや。まて。つまらないって何だ。そんなに俺って彼女の女神画像を期待していたのだ
ろうか。よく考えれば、というか考えるまでもなく俺は二見の彼氏なんだから画像とかじ
ゃなくてじかに見たり触ったりとかを考えればいいじゃないか。それが健康な正しい男子
高校生のありかただろう。
でも、なんだかぴんと来ない。何でなのだろう。あいつはリアルで俺の彼女なのに、何
でネット上の女の画像ばっか期待しているのだろう、俺は。まあ、今夜はあいつの女神行
為はないらしい。と思った次の一瞬に、俺は別なことを考えついた。女神板じゃないとこ
でやっているかもしれない。最初に見たのだって別な板だったし。あのスレ確かVIPだ
った。俺はVIPを開いてみたけど、えらいことになってしまった。どんだけスレが立っ
てるんだよ。試しにjk2とかで検索してみても、該当するスレはヒットしない。やっぱ
り二見は今日は女神行為をしていないんだ。つうか普通に二見に電話して確認すればいい
だけなのに。俺はあいつの彼氏なんだから。やっぱり俺ってチキンだ。
それでも二見に連絡する勇気がなかった俺は、別なことを思いついた。あいつのコテト
リとかっていうやつで検索してみよう。とりあえず女神板で。
『【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】』
『【緊縛】縛られた女神様が無防備な裸身を晒してくれるスレ【被虐】』
え? なんだこれ。二見のコテトリで、緊縛とかっていうスレがヒットした。つうか、
緊縛って。なんか怖いけどスレを開いてみよう。開いてみるとスレ自体は二見専用という
わけではなく、どうも一年くらい前に立ったスレらしかった。スレを読み進めていくと、
何か、女神のレスがさばさばし過ぎている感じがした。
『自分で後手縛りは無理でした。縛られてるみたいな格好だけしてみました』
『自分に手錠をかけてみました。手首にあざがついちゃったよ(笑)』
『彼氏にラブホで虐められちゃった。後手に縛られてバックポーズにされた写真です。自
撮でなく彼氏撮影です』
『目隠ししされてみました。見えないからピントもちゃんと合わせられなくてごめんね』
何かすげえスレ開いちゃったな。それにしても、今のところモモは出てこない。俺はし
ばらくスレを読みながらスクロールしていった。
モモ◆ihoZdFEQao『誰かいますかぁ?』
それは二見のレスだった。二か月くらい前のものだったけど。
『いるよ』
『モモちゃんキター!』
『今日は大学休みなの?』
『おお、ようやくモモと遭遇できた』
モモ◆ihoZdFEQao『人いた。じゃあ写真貼ります。15分でデリっちゃうけど』
緊縛とかってまさか。俺は画像のリンクをクリックした。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:29:31.28 ID:rrQrdOTto
404 NOT FOUND
『モモちゃんGJ!』
『いい。ただ一言いい』
『のろまった。誰か詳細plz』
『>>○ モモが後手に縛られているような感じで床にぺたって座り込んでいる画像。ブラ
ウスが半ば脱がされている感じが色っぽい』
『ビーチクは見えてるの』
『>>○ 見えてない。ブラとスカートは着用してる。でも何か高校生が無理やり後手に縛
られブラウスを脱がされてこれから犯されるってイメージの画像』
『頼む! 保存したやつ誰かうpしてくれ「』
『必死すぎ。んなことできるわけねえだろ。遅れたやつはあきらめろ』
『モモの緊縛画像を永久保存した俺は勝ち組だけどな』
二見は画像を削除しているようだった。緊縛? いったいあいつはどんな画像を貼った
んだろう。
翌日、今日も麻衣は勝手に出かけて行ったけど、こうなったらかえって好都合なのかも
しれない。思っていたとおり、二見は駅で俺を待っていてくれた。
「おはよ」
「お、おう。おはよう」
「最近寒くなってきたね」
二見は自然に俺の横に並んだ。何か新鮮な感覚だった。彼女ができるってこういうこと
なんだ。俺はそう思った。
「そうだね」
「早起きしてちゃんとお弁当作ってきたよ」
「ありがと。でも寒いから屋上とか中庭は厳しいかなあ」
「教室の中じゃだめ?」
「いいけどさ。目立つぞ」
「君がいいならあたしは別に目立っても構わないけど」
「ほんと前とは変ったな、おまえ」
「うん、そうかも。何か中学の頃の自分に戻れそうな気がしてさ。ちょっとわくわくして
る」
「おまえ、もともと可愛いしコミュ力も高いから、自分でその気になればあっという間に
リア充になれるんじゃね」
「そうかな」
「そうだよ。多分男からも注目されるようになると思うよ」
「そんなのはいいよ、面倒くさい。あたしは君がいればそれでいい」
「何でだよ? もてないよりもてた方が気分いいでしょ? 今までだっておまえのことチ
ラ見してる男って結構いたじゃん」
「たまに視線を感じてたんだけど、あれってそういうことだったんだ」
「そ。そのおまえが明るくフレンドリーになったら超人気者になると思うな」
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:29:59.94 ID:rrQrdOTto
「君は?」
「え?」
「君はどっちがいい? あたしがっていうか自分の彼女がぼっちなのとリア充なのと」
「うーん。おまえが男に人気がある方が優越感感じられるし、かといってそれが行き過ぎ
ると嫉妬するかもしれないし」
「正直なんだね」
「格好つけたってしょうがないしね」
「君ってそういうところ格好いいよね。それに女の子に慣れてる感じがする」
「そうかな。妹とか有希とかがいつも一緒にいたからかも」
「そういうことか」
「それよかさ、いつまで俺のこと君って呼ぶの?」
「え」
「もう呼び捨てでいいよ。俺も二見って呼び捨てにしてるしさ」
「じゃあそうする。麻人」
「へ?」
呼び捨てって池山じゃなかったのかよ。でも、悪い気はしない。
「うん」
「電車来たよ」
「ああ」
「ほら人が降りて来るから、麻人もこっちに寄って」
「悪い」
こいつは自然に俺のこと呼び捨てた。俺のこと女の子に慣れてるって言ってたけど、こ
いつこそ男慣れしているっていうか、男と一緒にいても全然恥らうとか緊張するとかない
のな。
「これに乗ろう」
「こら。優もあまり俺の腕を引っ張るなよ。痛てえじゃん」
「・・・・・・優って」
「え」
「ふふ」
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:31:09.88 ID:rrQrdOTto
「そういやさ、昨日は女神やらなかったの?」
「うん。お弁当の下ごしらえとかあったし、朝早く起きなきゃいけなかったからさ。あん
なことやってたら早起きできないし」
「早起きって何かあったの?」
「お弁当作るのって結構時間かかるのよ」
「あ、そうか。ごめん」
「あたしは好きでやってるからいいんだけどね。多分、麻衣さんも今まで麻人より最低で
も一時間は早起きしてたんじゃないかな」
「そういやそうだ。今まではあいつお弁当だけじゃなくて朝飯も作ってしな」
「そういうこと。好きな男にお弁当作るのって結構大変なんだよ」
「ありがとな」
「お昼休み期待してて」
そう言って優は微笑んだ。
「あ、そうだ」
「なあに」
「女神と言えばさ、昨日おまえのレス見つけたよ。これまでと違うスレで」
「うん? どこだろう。女神板?」
「そうそう。確か、縛られた女神様がどうこうとかってスレ」
「ああ緊縛スレか」
朝から女子高生が緊縛とか言うか。でも、こいつはそういうことも含めて、もう俺には
隠しごとはしないことにしたようだった。
「ああいう特殊なシチュエーションの女神行為もしてたんだ」
「うん。別に他のスレと変らないよ。他より露出度多くしてるわけじゃないし」
「ああいうの、リアルで好みなの?」
「ああいうのって?」
「つまり、その・・・・・・縛られて犯される? みたいなの」
俺の方こそ朝から何を言っているのか。
「そんなわけないじゃん。つうかあたし処女だし」
「あ、ああ」
処女なんだ、やっぱり。
「でもさ、あのスレ用に後ろ手に縛られて撮影してるとちょっとドキドキしたかな」
「縛られてって。いったい誰に」
「違うって。誤解しないで」
「だってさ」
「自分で自分を縛ってるんだよ・・・・・・ってあ」
「それはその気があるんじゃねえの」
「君こそ。そういう趣味あるの?」
「ね、ねえよ! と思うけど。俺も童貞だしよくわからねえ」
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:31:46.13 ID:rrQrdOTto
「そうか。あれ評判はいいみたいなんだけど、撮影が面倒だからあまりやらないの」
「面倒って?」
「ああいうのって雰囲気が大事だからさ。怯えている表情とかも作らなきゃいけないし」
「そんなことまでしてたのかよ。何か女優みたいだな」
「あとテクニカルな問題だけど、両手を背中に回しちゃったら自分で撮影できないじゃな
い?」
「そらそうだ。って、まさか」
「違うって。誰かに撮ってもらったりはしないよ。あれはスマホじゃなくてデジカメのタ
イマーで撮影したの」
「そうか」
「あれ見て興奮した?」
「だから画像なんて削除されてるから見てねえよ」
「ああそうだった。ちょい待って」
え? こいつ。まさか
「はい、送信」
何なんだ。俺のスマホが着信して振動した。
「メール開いてみ」
「ああ」
俺はタイトルも本文もないメールを開いて、添付画像をタップした。それは二見・・・・・・
いや、優の女神画像だった。それは優が床に座り込んでいる画像だった。制服姿で服はブ
レザーまで全部着ている。でも両手を背中の方に回しているので後ろ手に縛られているよ
うに見える。そして優は、少し高い位置に置いたカメラの方を怯えたような表情で見てい
る。
二枚目は、前の画像とポーズは全く一緒だけどブレザーを着ていないし、ブラウスの前
ボタンが全部外され、こいつの肌が露出している。スカートもめくっている。視線は相変
わらずカメラを見上げている。目に線が入って隠してはいるけど、なんか怯えている感じ
が伝わってくるようだ。そして三枚目。ポーズは一緒だけどブラウスを脱いで上半身はブ
ラだけ。スカートは完全に捲くられてパンツが見えている。怯えたような表情とか、確か
にレスにあったとおり拉致されて無理やり犯される寸前の女子高生っていう感じだ。
やばい。こんな朝の通学時間から、俺は。俺はカバンでさりげなくズボンの前を隠した。
露出度でいえばそんなに高くないけれど、それでもすごく興奮するのは何でだろうか。そ
れに興奮はするけど、猥褻な印象は無くてむしろ綺麗だ。こいつはそんなに写真を撮るの
は上手じゃないのに、何かアイドルとか女優の写真集を見ているような気がする。
「君の感想は?」
優が微笑んで言った。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:32:15.33 ID:rrQrdOTto
「感想って・・・・・・朝から何て画像見せるんだよ」
「いいじゃない。あたしと君の仲なんだし」
「おまえ、何言ってるの」
「でもさっきも言ったけど、こういう写真って結構時間と手間がかかるからさ。jkが制
服うpするみたいなスレのほうが気が楽なんだよね」
「最初に見せてくれたみたいなやつか」
「そうそう。あそこは雑談板だしすぐにスレも落ちちゃうしね。何よりあの程度の画像で
感激してくれるから楽でいいよ」
「まあ女神板って要求水準高そうだよな。乳首出さないくらいで結構叩かれてたし」
俺は女神板のむかつくレスを思い出してそう言った。
「本当だよ。平均年齢は女神板のほうが高いと思うのに、レス内容は幼稚だしね」
「あのさ」
「何?」
「おまえさ、女神行為はこの先も続けるの?」
「この先って?」
「あ、いや。何っていうかさ」
「つまりあんたの彼女になってからも女神をやるのかって質問なのかな」
「まあ、端的に言っちゃえばそういうことだけど」
俺は思い切ってそう言った。
「君はあたしが女神なの嫌?」
「別に嫌じゃねえけど」
多分、それは嘘じゃないと思う。むしろ不思議な興奮を覚えたくらいなのだし。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/25(木) 00:32:52.63 ID:rrQrdOTto
「そうか。じゃあ続ける。でも君があたしが女神行為するのを嫌になったら、その時は真
剣にどうするか考える」
「そう」
俺が嫌になったら止めるんじゃねえんだな。
「あのさ」
「うん」
「女神行為とかってさ。やっぱり綺麗な自分を見てほしいとか他人に認めて欲しいとかほ
めて欲しいとか、そういのも動機のひとつなんでしょ?」
「よくわかってるね」
「まあね。それでさ、おまえはこれまで学校でぼっちだったということもあって、人に認
めてもらえる場が2ちゃんねるとかだったと思うんだよ」
「そうかもね」
「でももうおまえは学校でぼっちを止める宣言したじゃんか? 多分これからは学校で男
女問わずすげえもてると思うんだ」
「そんなことないと思うけど」
「賭けてもいいけどそうなるよ。そしたらリアルで認知されるわけだけど、それでも女神
行為で評価されたいものなのかな」
「うーん。正直自分じゃわかんないや」
多分、それは嘘じゃないんだろう。本当に優は戸惑ったようにそう言ったのだ。初めて
そんなことを気がつかされたかのように。
「そうか」
「女神板でさ、女神雑談所ってスレがあってね」
「そんなものまであるのかよ」
「うん。それで他の女神と話したことあるんだけど、ぼっちなんて一人もいなくてさ。み
んなリア充の女子大生とかOLとか主婦とかなのね」
「そうなんだ」
主婦ってどうなのよ。そんな人まで女神やってるのか。
「みんなじゃないけど、コテトリつけてる人多いしその人たちの画像見たこともあるけど、
みんな綺麗な人たちなんだよね。絶対リアルじゃリア充だなって思ったもん」
「そうか」
「だから一概にリアルが充実していない女の代替行為とは決め付けられないかも」
「深いな」
「深いんだよ」
優が俺の反応を面白がっているかのように微笑んだ。
「まあ、いいや。そろそろ駅に着くな」
自分ですら優の女神行為に対してどう考えているかわからないのだ。この状態で優に対
してこれ以上言えることはないだろう。
「うん。学校まで手を繋いで行ってもいい?」
「そうしようか」
「何か嬉しいな」
まあ深く考えることもないか。せっかく俺にも可愛い彼女ができたんだし。それに、麻
衣に優のことを話すという、胃の痛いミッションがまだクリアできてないしな。この時の
俺にはそっちの方が気になっていたのだ。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/25(木) 00:33:21.56 ID:rrQrdOTto
今日は以上です
また投下します
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/25(木) 11:13:47.90 ID:Uz6VAqQAo
本当に面白い
期待してる
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/06(日) 22:12:39.78 ID:TRYjB1f10
まだー?
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:47:32.23 ID:lFgwUqheo
「だからさ、それで今日のお弁当は肉だらけで茶色くなっちゃったってわけ」
「まあそれでも俺は全然構わないけどな。あんまり俺なんかのために手をかけることはな
いよ」
「そうは言っても好きな人のために作るんだもん。手をかけて見栄え良くしたいじゃん」
「そういうもんかね」
「そういうも、あ」
優が突然話を止めた。俺は優の視線をたどった。その先には麻衣の泣きそうな顔があっ
た。
「麻衣?」
「お兄ちゃん」
「おまえ、二年の校舎で何してるんだよ」
「ごめん。今日はお弁当作れたからお兄ちゃんに渡そうと思って」
「今の俺たちの話聞いてた?」
「聞こえちゃったかも」
かもじゃねえだろ。でも、もうこうなったらしかたがない。
「そうか。おまえには話すつもりだったんだけど、俺こいつと付き合ってるんだ」
「こんにちは」
優が麻衣に微笑みかけたけど、麻衣はそれには応えずに俺の方を見た。
「あの」
「うん」
麻衣は元気はないようだけど、黙ってしまうということもないようだった。
「お姉ちゃんは?」
「有希? ああ。話したから知ってるよ」
「そうなんだ。授業始っちゃうからあたしもう行くね。お兄ちゃんにはお弁当もあるみた
いだし」
「え?」
「じゃあ」
「ちょっと待て」
麻衣がさりげなく涙を払った様子を見て俺は慌てて声をかけた。でも、麻衣には無視さ
れたみたいだ。
「先輩、失礼します」
麻衣は顔を合わせようともせずに、優に言った。
「さよなら」
優が不安そうに俺の方を見上げてた。今、俺がケアしなきゃいけない相手を間違えたら
だめだ。
「なあ」
「うん」
「妹のことは気にするなよ。あいつ、びっくりしてろくに挨拶もしなかったけどさ」
「無理ないよ。妹さん、お兄ちゃんっ子みたいだし」
ブラコンとか言わないんだ。優は、実は本当に気を遣えるやつなんだ。
「まあ普段から二人きりで暮らしてたしそういうこともあるかもな」
「あたしが心配してるのは麻人の方だよ」
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:48:35.77 ID:lFgwUqheo
「俺の方?」
「うん。冷たいようだけど、妹さんの悩みの原因があたしだとしたら、あたしが妹さんに
出来ることは何もないし」
「それはまあそうだな」
「あたしはそれより自分の彼氏の方が心配」
「俺には別に何にも問題ないと思うけど」
「今日家に帰って妹さんと何を話すか悩んでない?」
「それは、まあ確かに」
「何も悩んでないとしたら、お兄ちゃんとして失格っていうか人間失格だよ」
「正直悩んでるけど」
「ごめんね」
「何で優が謝るんだよ」
「あたしが麻人に告らなければ妹ちゃんもまだ自分を納得させられたでしょうに」
「どういうこと?」
「あたしと付き合う前は、あんたは遠山さんへの愛を取るか広橋君への友情を取るかどっ
ちかだったんじゃない?」
全部見透かされているみたいだった。
「それで悩んでた時期もあったよ、確かに」
「それがあたしみたいなぼっちの女と付き合ったばっかりに」
「おまえ、何言ってるの」
「遠山さんを振って傷付け、広橋君はそれを喜ぶどころか、あたしと付き合って遠山さん
を傷つけた君と絶交した」
「それは。まあ、そうかもしれん」
「そしてついに、長年寄り添って暮らしてきた妹さんまで傷ついた。全部あたしが君に告
ったからだよね」
「おまえ何でそこまでわかっちゃうの?」
「ぼっちだから観察力が鋭くなったのかな・・・・・・ううん」
「うん?」
「好きな人のことだから一生懸命観察してたからかな」
「優・・・・・・」
「君に辛い思いをさせたくて告ったんじゃない。それだけは本当だよ」
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:49:06.87 ID:lFgwUqheo
優の手が震えていた。
「君が好きだから・・・・・・もしあたしと付き合うことで君が辛いなら別れても」
これ以上言わせるか。あほ。俺は優の腕を握って自分の方に引き寄せた。
「あ」
間近に迫った優の顔が赤く染まっていた。
「誰かを好きだって気持はどうしようもないだろ。俺がおまえと別れても何も解決しねえ
よ」
「だけど」
「だけどじゃねえよ。付き合い出したばっかで俺のこと振る気かよ」
「いいの?」
「いいも何もあるか。おまえに振られたら、今よりもっと俺が悩んで傷付くことになるっ
てどうして気づかねえんだよ」
優が無言で俺にしがみついた。
「授業始まっちゃうな」
「うん」
「教室の前でここまで密着して寄り添ってると」
「周リの人たちがドン引きしてるね」
「教室入るか」
「うん」
「涙拭けよ」
「うるさい! わかってるよ」
「あ〜あ。腹減ったな・・・・・・早く弁当食わせろ」
「お昼休みになったらね」
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:49:53.02 ID:lFgwUqheo
昼休みに一緒に帰る約束をした俺は、教室でかなりの時間待たされることになった。優
が同級生の女たちにつかまって話しかけられていたせいだった。十五分くらいで彼女たち
をようやく振り切った優が俺のところにやってきた。
「ごめんね、麻人。早く君のところに行こうとしたんだけど」
優が俺を麻人と呼んだことに、近くにいた男どもが反応していたけど、今さら驚きはし
ない。
「そらそうだろうね。今まで下手したら一日誰とも口聞かなかったおまえが今ではクラス
の人気者だもんな」
「君にふさわしい彼女になろうとしているだけだよ」
「でも無理するなよ。おまえが今までみたいなぼっちのままでも、俺はおまえが好きなん
だからさ」
「ありがとう」
優が俺の手を握った。
「いや」
「正直に言うとね、今日はあたしちょっと無理したかも」
「だろうな。おまえ今日一日放っておいてもらえなかったもんな」
「麻人はさ」
「何?」
「あたしのこと、好き?」
「何を今さら」
「じゃあ、明日お弁当作れなくてもいい?」
「何だ、そんなことか。今日は優だって疲れただろうし、弁当なんて無理しなくてもいい
よ」
「わかった。じゃあさ」
「うん」
「今夜、久しぶりに女神になってもいい?」
「いいって言われても」
ああいうのって俺の許可が必要なのだろうか。
「ちょっと今日はやりすぎちゃった。君の彼女にふさわしい振る舞いをしようって考えす
ぎたかな・・・・・・すごく疲れちゃって。気分転換に女神行為しようかなって」
「まあ、おまえが今日無理してるのは俺も感じたけど。いいよ。今日はVIPとかでやる
の?」
「ううん。久し振りに女神板の緊縛スレでうpしようかなって」
「あそこで?」
緊縛スレとは、あの縛られて犯されるみたいな画像のやつだ。
「今日、あたしの家って両親いないんだ」
「お、おう」
何なんだ。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:50:56.79 ID:lFgwUqheo
「よかったら、今夜あたしの家で夕食食べていかない?」
「おまえがいいなら、お邪魔してもいいけど」
「よかった。じゃあ、夕食作るね」
「楽しみだよ」
あれ。でも女神はどうするのだろう。
「夕食後、緊縛スレ用の撮影するから手伝って」
「おい」
「自分を縛るのって難しいし、縛られるポーズを撮ると、自分では撮影できなかったんだ
けど」
「何々?」
「麻人が撮影してくれるならポーズ撮れるし」
「それってさ。つまり俺が優のことを撮影するってこと?」
「うん。だめ?」
「お、おまえがいいなら」
俺は優にそう答えたけど、内心の動揺は隠せなかったと思う。
「どうだった?」
「うん、さっきも言ったけど美味しかったよ。かなり意表をつかれたけど」
「意表って?」
「いやさ。ここまで純和風の夕食が出てくると思わなかったから」
「そんなに珍しいかな」
「女子高生が作ったんじゃなきゃ珍しくないけどさ」
「あたしんちはいつもこんな感じだけどね」
「そらおまえのお母さんが作るのならわけるけど」
「料理はだいたいお母さんに教わったから。あと2ちゃんねる」
「はい?」
何なんだ。
「だから料理板」
「そんなのもあるんだ。つうかそんなところにも常駐してたんだ」
「うん、結構役に立つよ。それにいつも女神板ばっかにいるわけじゃないもん」
「まあ、とにかく美味しかったよ。さわらの西京漬けも赤味噌の味噌汁も、ごはんも何か
すげえ美味しかったし」
「そう。それならよかった」
「こういうの全部を美味しく作るのって、すげえ大変だと思うけど。優ってぼっちだった
から目立たなかっただけで、本当はすげえスペック高かったんだな」
「そんなことないよ」
「だってさ。成績も結構いいし、見た目も可愛いし、その気になればば愛想よくもできる
だろ」
「か、可愛いって」
優が赤くなって俯いてしまった。
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:51:29.56 ID:lFgwUqheo
「その上、料理も上手とか普通ありえねえだろ」
「そう言われれば嬉しいけど・・・・・・でも君の勘違いだよ。あたしはそんなに完璧な人間じ
ゃないよ」
「謙遜すんな」
「謙遜じゃなくてさ、あたしって女神なんかやってる時点で人生詰んでるしね」
自分でもわかってはいるんだ。
「まあ、それに関してはそうかもしれないけど」
「麻人は、本当はあたしがああいうことするの、本当はいや?」
「今のところはそんなにいやだって感じはしないけど」
「今のところはって?」
「そのうちおおまえのこと独り占めしたくなって、他のやつらにおまえの体を見られるこ
とに嫉妬し出すかもしれないとか、考えたことはあるよ」
「そうか。まあ、そうだよね」
「でも、今は別にいやじゃない」
「それならよかった。もうお代わりしないの?」
「うん。もういいや。美味しかった」
「じゃあ、コーヒー入れるね。あたしの部屋で飲もうか」
「え?」
「二階なの。こっちだよ」
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:52:08.06 ID:lFgwUqheo
「どうぞ。入って」
「お邪魔します。って」
「どしたの?」
「いや。お邪魔します」
何かやけにこざっぱりした部屋だな。ピンクのカーテンとかふわふわのぬいぐるみとか
はない。高校生の女の子の部屋っていう感じが全然しない。女子高生の部屋なんて、麻衣
とか有希の部屋みたいに、かわいい小物とかぬいぐるみとかであふれているものだと思っ
ていたのに。
「とりあえず座って」
「うん」
でもまあ、こいつらしいと言えばこいつらしい。
「今、コーヒーいれて来る」
「ああ、もういいよ。夕食の時のほうじ茶が美味しくて飲みすぎちゃったし」
「いいの?」
「うん」
八畳間くらいの部屋だけど、何かやたらと本が多い。
「コーチング基礎理論」「傾聴技法その1理論編」「傾聴技法その2実践編」
いったにこいつは何の本を読んでいるのか。どういう趣味を持っているのだろう。そう
言えば、俺はこいつのことを何も知らないのだ。知っているのは女神行為をしているとい
うことだけで。こんな状態で俺はこいつの彼氏になったのだ。
「じゃあ、ちょっと待ってて。今用意するからね」
用意って・・・・・・女神のか? クローゼットのドアを開いたけど、あまりじろじろ中を見
ると失礼かもしれない。
「そうだよ・・・・・・あ、あった」
「何、それ」
「縄だよ」
それはそうだ。考えてみれば不思議はない。緊縛スレ用の写真を撮るんだから。
「う、うん」
「あとアイマスクとタオル」
「嫌な予感がする」
「今日は緊縛スレにうpするって言ったじゃない」
「アイマスクは何となくわかるけど、タオルって?」
「拉致されたあたしが大声で助けを呼んだら困るでしょ? だからあたしの口をこのタオ
ルで塞ぐの」
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/06(日) 23:56:10.67 ID:lFgwUqheo
「困るでしょって、誰が困るんだよ」
「誰って。ここにはあたしと麻人しかいないし」
「え? 俺が困るの?」
「高校2年生のあたしをさらって監禁して、これから乱暴しようとしているとしたら、あ
たしが大声で叫んだら麻人だって困るでしょ」
「は? 俺ってそういう役割なの?」
「別に動画を撮るわけじゃないけど、シチュエーションはそういう感じなの」
「たかが女神行為にそこまで凝る必要あんの」
「普段は一人だとできないじゃない? せっかく彼氏が協力してくれるんだから少し本格
的にやってみようかなって」
「本当にやるの?」
「麻人が嫌なら無理にとは言わないよ。あたし、君には嫌われたくないし」
「べ、別にいやだなんて言ってねえだろ」
何言ってるんだよ俺。本当にそうなのか。気が進まないなら、素直にそう言えばいいん
じゃないのか。
「本当にいいの?」
「ああ」
俺は考えなしにそう答えてしまっていた。
「よかった。はい、これ」
「え? これって、発売されたばっかのミラーレス一眼カメラじゃん」
「やっぱり麻人ってカメラとか写真詳しいんだ」
「俺、カメラのことおまえに話したっけ?」
「聞いてないよ」
「じゃあ、何で俺がカメラに詳しいとかわかるの?」
「あんたのことずっと見つめていたから」
前にもそう言ってたっけ。それにしても俺は、別に写真部とかじゃないし、よくわかっ
たものだ。
「遠山さんとか広橋君とかが、君の話をしているのをずっと聞いていたからね。特に広橋
君って声大きいし」
「ああ、それでか」
「何で写真撮るの得意なの?」
「まあ、親の影響でさ。俺の両親ってもともと社会人のカメラサークルで知り合って結婚
したくらいだから、ガキの頃から親父には写真の撮り方とか教わってたからな」
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/07(月) 00:02:48.61 ID:6yt3IbxEo
「そうなんだ。じゃあ、これからはあたしのことも被写体にしてくれる?」
「そりゃもちろん、いいけど。それよかこのミラーレス、おまえの?」
「うん。前にお父さんに買ってもらったんだけど」
「レンズ付きで10万円以上するこれを、まさか女神行為用に?」
「うん、そうだけど。でもこれって両手使わないと撮れなくて、あまり自分撮り用じゃな
かったな。結局一度も使ってない」
「このカメラも気の毒に」
「え? なんで」
「まあ、いいや。じゃあ、今日は俺がカメラマンだな」
「うん。自撮りじゃない女神行為って初めてだから何かドキドキする」
「まあ、少なくともおまえよりは綺麗に撮れると思うよ」
「よかった。可愛く撮ってね」
「ああ。ちょっとそのカメラ貸して」
「はい」
電源を入れると、液晶に光が灯った。これならすぐにでも使えそうだ。
俺は撮り方を考えた。背景はぼかした方がいい。主に身バレしないためだけど、その方
が優が目立つ写真になる。絞りは開放でいこう。あと、蛍光灯しか光源がないし、青っぽ
くならないようにホワイトバランスも弄っていこう。というかこのカメラの設定はすごく
わかりやすい。
「使えそう?」
「ああ、問題ないよ。ちょっと試し撮りしていい?」
「うん」
「どれ」
シャッター音が響いた。
『メモリーカードが入っていないので実行できません』
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/07(月) 00:03:35.58 ID:6yt3IbxEo
「どうだった? 綺麗に撮れそう?」
「あのさ」
「うん?」
「買ってもらってからこれ1回でも使った?」
「だから、自撮りできないんじゃ女神行為には使えないから」
「つまり一度も使ってないんだな」
「うん」
「これSDカードが入ってねえんだけど」
「どういう意味?」
「SDカードを買ってきてカメラに入れないとこのカメラは使えないってこと」
「そうだったんだ。あたしのスマホのカメラはそんな物なくても撮れたから」
「そりゃ本体のメモリーに保存してるからだろ。普通こういうカメラには本体側にはメモ
リーないんだよ」
「じゃあ、今日はスマホじゃなきゃ撮影できないの?」
「おまえが前にタイマーで自撮りしてたコンデジがあれば出来るけど」
「コンデジって何?」
「普通のデジカメのことだよ。それならあるだろ?」
「これ買ってもらった時に捨てちゃった」
「じゃあ、スマホで撮るしかないか。正直おまえの上げた画像って画質は最悪なんだけど
な」
「ええー。今日は麻人が一緒にいてくれるし綺麗に撮ってもらえると思ってたのに」
「おまえ、スペック高いし、ネットのこととかはよく知ってるのにカメラの基本的な知識
とかはないのな」
「うん。そういうのはこれからあんたに教えてもらう」
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/07(月) 00:04:09.00 ID:6yt3IbxEo
今日は以上です
また投下します
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/07(月) 19:29:59.31 ID:pZz3TIDWo
ふむ
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/09(水) 19:48:46.64 ID:ooqhsM2wo
復活してたんか
こいつもげんふうけいみたいに書籍化すればいいのにな
せめて、動向が分かればもっと良いのにと思う
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:03:44.66 ID:PMIDBg1vo
「・・・・・・俺のカメラで撮るか?」
「え?」
「一眼とか持ち歩くほど写真好きじゃないんだけどさ」
「うん」
「親父から麻衣の写真とか撮って送れって言われてるから、いつも持ち歩いているカメラ
ならあるんだけど」
「そんなカメラで女神行為なんて撮ってもらっていいの?」
「俺は別にいいけど。むしろおまえはいいの?」
「何で?」
「自分の体だしな。他人のカメラでデータ保存されるのが気持悪いなら、無理には勧めな
いぜ」
「お願いしていい?」
「俺のことそんなに信用していいのか」
「うん。君のことは本当に好きだし、むしろ麻人のカメラで撮ってもらえるなら嬉しい」
「大袈裟だよ、おまえ」
でも、内心では優のその信頼が俺には嬉しかったのだ。
俺は自分のカバンの中から、カメラを取り出した。それは親父やお袋の影響でカメラ好
きになっていた俺に喜んだ両親が、以前プレゼントしてくれたカメラだった。それは高級
コンパクトデジタルカメラに分類されるカメラで、優の所有しているミラーレスほど自由
度はないけど、気軽に高画質な写真を撮るには最適なカメラだった。価格もそれなりに高
価なこのカメラをくれた親父は俺にこう言ったのだった。普段、麻衣に会えないから、お
まえがこのカメラで妹のスナップを撮って送ってくれって。だからこのカメラのSDカード
には麻衣のスナップ写真がいっぱい詰まっていた。SDカードのメモリーがなくなると、そ
の画像をリビングのパソコンに転送して親父に送付して、ハードディスクに保存する。妹
が食事の支度をしている時の俺の日課はこれだったのだ。
そのカメラに優の女神行為を記録することになった俺は、複雑な気持を抱き抱えていた。
このメモリーカードには俺と妹の記憶が残されている。たまには有希とか夕也の写真も撮
影したけど、このカードに保存されているのは、ほとんどは親父に送るために撮影した麻
衣の画像だった。でも、今の俺は優が俺に示してくれた期待と信頼にわくわくしていたか
ら、そのことについてはあまり深く考えようとはしなかった。
「カメラは準備できたの?」
「ああ。使い慣れた自分のカメラだからな。いつでもいいよ」
「じゃあ、撮影しようか。今日は撮り溜めておいて一気にうpしよう」
「あ、ああ」
「じゃあ、これお願い」
「え?」
優が俺にロープのような物を差し出した。
「自分じゃ縛れないし。あたしの腕を縛って。あまりきつくしないでね」
優はベッドに座って後ろに手を廻している。この手を縛ればいいんだろう。でも、そうし
たとたんに、優は反射的に声を出し、体を動かした。
「ごめん。痛かったか?」
「そうじゃないあたしの方こそ変な声出してごめん」
なんだかとても興奮する。体もそうだけど、精神的にもやばい。
「うん。じゃあ、撮影する?」
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:08:10.17 ID:PMIDBg1vo
「とりあえずこのポーズで撮影して」
後ろ手に縛られたままの恰好で優はそう言った。
「じゃあ撮るぞ。顎を上げて目線をカメラの方に向けて」
俺はシャッターを切った。
しばらくの沈黙。目が潤んでいて顔が赤らんでいる。やばい、こいつ何でこんなに色っ
ぽいんだろ。俺はそのままシャッターを切った:
「じゃあ、一度縄を解いてくれる?」
「ああ」
「何か恥かしいな」
優はそう言って、でも逡巡する様子はなくブレザーを脱ぎ、続いてブラウスの前ボタン
を外し始めた。俺はそれを見ていいのか目を逸らさなければいけないのか判断に迷いなが
らも、結局カメラの背面のディスプレイを意味なく見つめながら、優から目を逸らして彼
女が声をかけてくれるのを待った。
「ブラウス脱いだから」
優が言った。
「またさっきみたいにあたしの腕を後ろで手に縛って」
俺は言われるままに、優のむき出しの細い腕を掴んだ。その瞬間、彼女の体がぴくりと
震えた。俺は優の腕を背中の方に捻じ曲げながらも、こいつの腕の細さや柔らかさを極限
まで意識しながら、再び優を縛り上げた。この一連の作業の間、俺の心の中から撮影の手
順とか狙ったショットとかへの考えが薄れ、さっき優が解説してくれた、今日のシチュ
エーションが何か本当になったように感じていた。つまり俺は本当に優を襲っているかの
ような錯覚に囚われていたのだ。俺は狼狽しながらも自分の下半身の興奮をどうやって優
から隠そうかと考えていた。俺の脳裏にはさっきの言葉が無限にリフレインしていた。
その後の出来事は夢のようだった。俺は初めてディスプレイ越しではなく直に優の肢体を
見る機会を得たのだったけれど、撮影中に見た女の姿はやっはりコンデジの背面ディスプレ
イを介してだった。
優はブラウスの次にスカートをはずし、最後にはブラとパンツだけの姿で後ろ手に縛られ
たまま、自分のベッドに横たわっていた。むしろ、俺の意識の中では、優は無理やり自分の
ベッドに横たわらされていたという方が正しいのかもしれなかった。俺は女子高生を狙った
強姦魔だ。そしてこの可愛い女を好きなように弄ぶ前に、怯えている彼女の肢体を
無理やり撮影しているのだ。俺にはもう優の用意したシナリオと現実とが区別できなくな
っていたのかもしれない。下着姿で緊縛されている優の撮影が終った。こんな状況でも親
父に仕込まれた撮影の知識は自動的に俺を動かしていたようで、光源の変化や優の姿勢の
変化に応じて、俺は半ば無意識にカメラの設定を変え、優が綺麗に写るようにしていた。
この時点で撮影枚数は既に百枚近くなっていた。
俺は手のひらで額に浮かんだ汗を払って、優の次の指示を待った。おそらくもうこれで
撮影をお終いだろう。こいつの女神行為では、下着を脱いだことはないのだから、もうこ
れ以上は脱ぎようがなかったし。俺はようやく我に帰った。そう言えばこいつの口をタオ
ルで塞いでいる写真を撮り忘れたな。俺がまだ先ほどの興奮に囚われながらぼんやりと考
えていると、次の指示が聞こえた。
「カメラを置いて」
その声はこれまでのような監督が自信を持ってスタッフに指示しているような声ではな
く、弱々しいけどはっきりとした声だった。俺は一瞬で強姦魔ではなくなり、優の指示に
したがってカメラをデスクに置いた。そしてその次の指示はわかりやすいものだった。
「ブラとパンツを脱がして。あたし、縛られてて君に抵抗できないのよ」
潤んだ瞳。切な気に身動きしようとして、縛られた肢体を揺すっている優。
「女神とかもうどうでもいいから・・・・・・あたし変な気持になっちゃった。お願い、来て」
優は泣きそうな声で、そして切なそうな声で言った。
俺はもう迷わなかった。ベッドに近づき優の体を見下ろし、そして俺は両手で彼女のブ
ラをたくし上げた。
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:09:00.12 ID:PMIDBg1vo
「なあ」
「うん」
「おまえ本当に初めてだったんだ」
「何? 疑ってたの」
「そういうわけじゃねえけどさ。何っていうかおまえ普段から大人びてるし、前に男がい
たって言ってたし」
「やっぱ疑ってたんじゃない」
「悪い。でも少しだけど血がたし、おまえすごく痛がってたし」
「うん。最初に奥まで入れられた時は本当に死ぬかと思った。麻酔なしで手術されたみた
いだったよ」
「麻酔されたら気持ちの良さも感じられないんじゃね?」
「それくらい痛かったって話しだよ。ばか」
「悪い」
「でも、嬉しかった。こんなに早く君と結ばれるなんて思ってもいなかったから」
「それは俺もそう思ったよ。でもなあ」
それにしても初体験が後ろ手に縛られている女の子とだなんて、普通じゃないにも程が
ある、と俺はそのときそう思った。
「どうしたの?」
「いや・・・・・・何て言うか」
「はっきり言ってよ」
「最初なんだし、ちゃんと抱き合いたかったなって、ちょっと思っただけだよ」
「どういうこと? ああ、そうか。あたしもあの最中に、君に抱きつこうとしたけど腕が
動かなかった」
「俺、初めてで慌ててたから。ごめん。ちゃんと腕を解いてからすればよかったね」
「普通の人とは違った初体験だったかもしれないけど、あたしはそれでも嬉しいよ。体だ
けじゃなくて心も繋がった感じがしたし」
「あ、それは俺もそう思った」
「じゃあ、いいじゃない。ねえ」
「うん」
「キスして」
「ああ」
そういえばいきなり本番しちゃったんだ。いくら童貞とはいえ我ながら余裕が無さ過ぎ
だし、順番無視にもほどがある。
「ありがと」
「礼なんて言うなよ」
「うん」
「あ、悪い。もう縄ほどこうな」
「ちょっと待って」
「うん?」
「せっかくだし」
「何が?」
「君と結ばれた記念というか」
「う、うん」
「麻人のカメラで、このままのあたしを撮影してくれる?」
「え?」
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:10:33.47 ID:PMIDBg1vo
「おまえ、何言ってるんだよ。それじゃ本当にヌード写真になっちゃうじゃんか」
「いいじゃない。二人の記念として、麻人に撮影して欲しいの。だめ?」
「駄目っていうか、まさかその写真も女神板にアップするつもりじゃねえだろうな」
「まさか。あたしは女神行為は下着姿までって決めてるもん。それに二人の大事な記念写
真を他の人になんて見せるわけないでしょ」
「でもさ、よくアイドルのそういう写真の流出ってほとんど元彼が流してるんだろ? お
まえそういうことは心配にならないの?」
「君のことは無条件で信用しているし」
「そうは言ってもさ」
「あと、これを言うと引かれちゃうかもしれないけど」
「何?」
「そういう流出ってほとんどが振られた元彼の腹いせみたいなものでしょ? あたしは一生君のことを振ることはないから」
「嬉しいけどさ」
「勘違いしないでね。あたしたちだって普通に別れることはあると思うよ」
「何も結ばれた日にそんな話ししなくても」
「でもさ、その時は麻人があたしを見放した時なの」
「おまえ何言ってるの」
「あたしからは絶対に君を振らないって言ったでしょ? だからあたしたちが別れる時は
あたしが君から振られた時」
「何で一方的は未来予想図描いてるんだよ。だいたお何で俺がおまえを振らなきゃいけね
えんだよ」
「先のことは何にもわからないからさ。学校じゃ普通の女の子になろうとは思うけど、女
神だって時点でそもそも麻人にふさわしくないかもしれないし」
「そんなことは俺だって承知の上でおまえと付き合ってるのに」
「うん、そうだったね。でもまあ、先のことはわからないしね。ひょっとして君から振ら
れなかったら、十年後はあたしたち結婚してて、子どももいる平凡な夫婦になってるかも
しれないしね」
「何かいいなあ、そういいうの」
付き合いだしたばかり、結ばれたばかりなのに。今、一瞬エプロン姿のこいつに朝家か
ら送られるイメージが浮かんだ。何か不確定な将来のことなのに、すごく懐かしくて切な
いような感情があふれてきた。涙まで浮かびそうになった俺は、あわてて首を振った。
「おまえって専業主婦になりたいタイプ? それとも結婚してもバリキャリみたく働きた
い?」
「君の好きな方でいいや」
鬼が笑うような気の早い話しだけど、こいつとずっと一緒に過ごせたら幸せだろう。冷
たいかもしれないけど、もう有希とか麻衣とかを構う気がしなくなってきている。付き合
うって決めた後で、しかも結ばれた後で初めてそう思うなんて最低かもしれない。でも、
俺はこのとき、自分が本気で優に恋をしていることに気がついたのだ。
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:12:14.52 ID:PMIDBg1vo
「おまえなら結婚して子どもができても女神とかやってそうだな」
「どうかなあ? おばさんになったら需要ないんじゃないかな」
「おまえなら行けそうな気もする」
「ねえ」
突然、まじめな声で優が言った。
「うん?」
「本当にいやになったら口に出してそう言ってね」
「いやって、俺の方が振るって話? 振らねえよ」
「そうじゃなくてさ。女神のこと」
そういうことか。
「俺がいやになったらまじめに考えてくれるんだろ」
やめるとは言ってくれないのだけれども。
「うん。本当よ。でも、それだって言われなきゃわからないし、やっぱり口に出すって大
切だから」
「どういう意味?」
「昔さ、それですごく傷ついたことがあってね」
「へ」
「あのさ。あたしね、中学の頃、付き合っていた人がいたのね」
「ああ、そう言ってたね」
俺にとっては優は初めての彼女だけど、優には元彼がいた。それは前にも聞いていたこ
とだった。
「別れたときね。すごく不本意だったの。何であんな振られ方しなきゃいけないんだろっ
て思ったよ」
「そうなんだ」
何にでもよく気がつく優らしくなく、こういう話を聞かされる俺の感情を考慮する余裕
はないみたいだ。客観的に見れば後ろ手に縛られた全裸の少女が、ベッドに横たわりなが
ら元彼への未練を話している姿ってどうなんだろ。優の話に動揺しながらも、俺はそんな
つまらないことを考えていた。
「ごめんね。こんな話聞きたくないよね」
「いや。おまえが話したいなら聞く」
「うん。彼はさ、高校受験で大変なときだったから、あたし言えなかったのね」
「何を?」
「引っ越しと転校のこと。彼は当時高校受験で大変だと思ってたから」
「うん? 転校することを元彼に言えなかったってこと?」
「そうなの。でもさ、心は彼につながっていると信じていたから。遠距離になってもきっ
と受け入れてくれるって思ってたのね」
そんだけそいつが好きだったというわけか。俺は内心の嫉妬心を隠すだけで精いっぱい
だった。初めての彼女と初エッチした直後なのに。
「でも、振られちゃったみたい」
「みたいって?」
「彼の受験が終わった日に、彼の教室に行ったら彼があたしの教室に行ったよって、女の
先輩が言ってくれてね」
「うん」
「正直、うれしかったけど、急いで向かった教室にはもう彼はいなかったの」
同級生の女の子がいたらしい。あなたへの伝言? 別に聞いていないけど。携番? あ
んたが知らないのにあたしが知るわけないじゃん。彼女は優にこう言った。
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:13:34.89 ID:PMIDBg1vo
それは全くの正論だったのだろう。優が反論する余地すらない。優がその先輩の大切な
彼女ではなかったとしたら。
「結局はあたしのひとり芝居だったみたい。でもまあ、あれはあれで仕方なかったのかも
ね」
「なんで? 失恋したんでしょ」
「うーん。あの時のあたしは、彼に一方的に話をぶつけるだけでさ。今にして思うと、あ
たしが彼に依存してただけかも」
「わかんねえなあ」
「君とは違うんだよ、多分」
「それこそ意味わかんね」
「あの時は自分にだけ興味があった感じだけど、今は君に興味あがあるし」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、相変わらず優は全裸で後ろ手縛りされているので、
目のやり場に困る。
「じゃあ、撮影しよ。今度は君がポーズを指示してよ」
「やっぱりやるのかよって、無理無理。恥かしくてそんなこと出来ないって」
「カメラマンになりたいんでしょ? それくらいできないと」
「カメラマンになりたいなんて言ってねえじゃん」
「いいから。グラビア撮影の練習だと思えばいいよ。あ、でもこのまま後ろ手に縛られた
ポーズでね」
「そういう趣味ないなら、なんで縛られることにこだわるの?」
「君と結ばれた時の格好だから」
「じゃあ、本当に撮るぞ? いいんだな」
「うん。やっとその気になってくれた」
「じゃ、ちょっと体を起こして」
「無理だよ・・・・・・手を使えないんだし」
「あ、悪い。じゃあ、俺が」
「何かエッチな触り方」
「からかうな。ちゃんと撮るなら真面目にやろうぜ」
「ごめん。起き上がれたけどどういう姿勢になればいい?」
「それはファインダー覗きながら指示するから」
「何だ、麻人もやる気満々じゃん」
「どうせ撮る以上は真面目にやって綺麗な写真にした方がいいだろ」
「うん」
「こうなるってわかってたら、コンデジじゃなく家からもっといいカメラ持ってきたの
に」
「そこは腕でカバーしなさいよ」
「言いたいこと言いやがって。じゃあ、そのまま座り込んでて」
「うん」
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/13(日) 00:15:18.34 ID:PMIDBg1vo
俺はコンデジの背面ディスプレイに優の肢体が入るようにした。親父が買ってくれたカ
メラは、一眼レフのようにはいかないけれどマニュアルで撮影できるし、何よりも開放絞
り値がF1.8と明るいズームレンズを備えていたので、それなりの表現力はあるはずだ
った。
ソフトフォーカスで綺麗に見せるのはやめようと俺は思った。二人の結ばれた日の記念
写真だというのなら、ある意味スナップ写真みたいなものだから、優の肢体をリアルに写
し取ったほうがいいだろう。別にアイドルのグラビアを撮るわけではないのだ。俺はファ
インダーがないことに少し不便を感じながらもディスプレイを眺めながら、カメラを設定
した。
「じゃあベッドの上にペタンって座り込んでいる感じで、視線だけカメラに向けて。緊縛スレ
用じゃないんだから怯えた演技とかするなよ」
俺は優に指示した。ポーズの指示自体はいつも妹のスナップ写真を撮る時に妹に注文
していたから、別に違和感はなかった。妹はいつも撮影時間が長いことに文句を言ってい
たけど、優が文句を言うことに気を遣う必要はなかった。
「どういう表情をすればいいの?」
優は首をかしげて素直に俺に聞いた。彼女のその様子は自然でそれはすごく可愛らしか
った。俺はその瞬間を逃さずシャッターを押した。連写に設定してあるせいでシャッター
音が六回鳴り響いた。
「それでいいよ。今度は横を向いて顔だけ正面を見てくれる」
優は俺の指示に従った。
「こういう感じ?」
優が、にっこりと笑いながら指示通りのポーズを取った瞬間を俺は再び写し取った。
「次は後ろ向いて。背中と縛った腕とかを撮るから」
優が指示されたポーズになると、当然のことながら彼女の表情が見えなくなり、カメラ
のディスプレーには、ただ華奢で綺麗な裸身を緊縛された少女の姿が浮かび上がった優の
表情が隠されると恋人同士の記念撮影という感じは全くせず、優が緊縛スレ用に設定した
ストーリーが俺の頭を再び占拠していった。
「何かさ・・・・・・・ちょっと、その」
「うん」
優も同じことを考えていたようで、少し湿った声で俺に答えた。
「記念撮影とかだけじゃなくてもいいかな」
優のかすれた声が俺の耳に届いた。
「ちょっとエッチな雰囲気の写真でもさ。あんたがその気になって撮ってくれるなら」
「じゃ、俯いて」
俺はもうためらわないで優に指示した。とにかくカメラの向こうにいる彼女は美しい。
今はそれを撮影することだけを考えよう。俺は再び浮かんできた嫌な汗を手で額から払っ
た。考えてみれば間抜なことに被写体の女だけじゃなくて撮影している俺も全裸でカメラを
構えているのだった。俺は縛られて俯いている優の裸身をカメラに収めた。
「仰向けに横たわって・・・・・・・目線はカメラを見上げるように」
「横向きになって足を広げて」
「うつ伏せになって、顔は必死な表情でカメラの方に向けることはできるか?」
・・・・・・それはもう緊縛ヌード撮影と何ら変わりがなくなってしまっていた。被写体は未
成年の女子高校生だったけど。ただ、俺は全裸で優にカメラを向けながらも彼女の被虐的
なポーズに勃起することもなく、夢中でシャッターを押し続けていた。その時俺の感じていた
興奮は性的興奮以外の興奮の方が大きかったことは断言できる。
でも、撮られている優の感想は俺とは少し違ったようだ。
「ねえ。もう三十分以上撮影してるよ。そろそろ縄をほどいて」
俺は優の言葉に正気にかえった。後ろ手に縛られたままいったい何時間もこいつはその
痛みに耐えていたのだろうか。
「ごめん」
俺はカメラを置き、優の腕を開放した。その途端、優が全裸のまま俺に抱きついた。
「あたしまた何か変な気分になってきちゃった・・・・・・ね? もう一度」
その時、俺は俺に密着している華奢な裸身にようやく性的な興奮を覚えて、再度優をベ
ッドに押し倒した。
・・・・・・今度は優の自由になった腕にきつく抱き締められながら。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/13(日) 00:16:01.81 ID:PMIDBg1vo
今日は以上です
また投下します
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/13(日) 05:36:21.96 ID:S+ex7T3I0
乙です
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/03/24(木) 23:44:22.55 ID:jhPeExTco
中学生の頃までは、僕は欲しいものには何でも手が届くのだろうと考えていたものだっ
た。
成績は学年でもトップクラスだったし、学校の授業と関係ない雑学的な知識や文学的な
素養、そしてパソコンやネット関係のスキルまで僕には備わっていた。学業を除けばそれ
らのスキルは苦労して習得したものではなく、日々の生活の中で自然に身に付いたものだ
った。
とは言っても僕にも弱点はあった。スポーツ関係の能力だけは人より劣っていたし、腕
力的喧嘩的な意味でも平均以下の能力しか持ち合わせていなかったのだ。
そういう僕に対して、どういうわけか中学の時はみんなが僕に一目置いていた。その頃
の僕の交際範囲は広かった。僕の知り合いには成績優秀な同級生もいたし、反対に半ば学
校生活を諦めていて乱暴な態度によってしか自己表現できないやつらもいたのだけれど、
そういう乱暴者たちにも僕は人気があったのだ。
「あいつはただ頭いいだけのやつじゃねえよ。俺たちみたいな出来損ないのこともよくわ
かってるしな」
こういう乱暴な連中と付き合うことも、その頃の僕には負担にならなかった。
品行方正成績優秀な同級生も粗暴で教師から将来を心配されている連中も、彼らに共感
し彼らの話を聞いてあげられる僕に対しては、双方ともまるで借りてきた猫のように大人
しくなり、僕に懐いてきたものだった。
もちろん僕のことを嫌う同級生はいなかったわけではない。その中でもどういうわけか
僕を目の敵にしていたそいつは、ある日僕の胸元を掴んで乱暴な声で威嚇するように言っ
た。
「自分のことを僕なんて呼ぶやつが本当にいるんだな。おまえ、きめえよ」
僕のことを嫌っていた不良じみた同級生の一人は、僕にそう言い放って僕に殴りかかっ
た。でも、その時彼は、僕がよく相談に乗っていたクラスのアウトローの親玉みたいなや
つに制止されぼこぼこにされたのだった。
「おまえ大丈夫だったか」
僕を助けたやつは、床に這いつくばってうなっているそいつには構わず僕に話かけた。
その一件以来、暴力で僕の相手をしようという生徒は一人もいなくなった。
「あんたっていい子ぶってるけど、実際は不良みたいな知り合いばっかと仲良くしてるよ
ね」
やはり僕のことを嫌っていた成績優秀な女の子は、ある時僕をひどく責めたものだった。
なぜ彼女が僕のことをそこまで嫌ったのかはわからない。でも、その翌日から彼女は、そ
れまで親しくしていた頭のいいグループの女の子たちから仲間はずれにされた。
あんなに一生懸命で他人のことを構ってくれるあんたのことを一方的に誹謗中傷する彼
女とはもう付き合えないよ。僕を慰めるようにそう言ってくれた子はクラス委員をしてい
るやはり成績のいい女の子だったのだ。
こういう状況は僕にとって凄く居心地がよかったけど、それでも僕は次第に、どうして
こんなに僕の都合のいいようにこの世界は回るのだろうと考えるようになった。
僕の成績がいいからではない。成績のいいやつは他にもいっぱいいた。知識が豊富だか
らでもないだろう。僕の得意としていたPCスキルなんて、不良じみた同級生も品行方正な
クラス委員の女の子も等しく興味がないようだった。そう考えて行くと、僕が同級生に人
気があるのは人の話を親身に聞いてあげられるというスキルのせいではないのだろうか。
僕はそこに気が付いた時、密かに興奮した。
人の話を聞くスキル。ネットで検索すると正確かどうかはともかく、かなりそのあたり
の理論が記されているサイトがヒットしたので、僕はそれらの記述を読み漁ったものだっ
た。
傾聴という用語がある。どんなにくだらない心情の発露であっても、とりあえず自分の
価値判断を保留し相手の主張を受け止めてあげる技術だった。確かに僕は人の話を聞くこ
とが好きだったし、どうして相手がこういう行動を取るに至ったのかという動機に興味が
あったから、別に無理しているわけでもなく、相手の話をとことん聞くことは苦ではなか
った。
そして、承認欲求。どんな人でも自分を理解して欲しいという感情がある。自分のこと
を話したい聞いてもらいたい、そしてその内容を他者に理解して欲しいという欲求だそう
だ。
そして僕は期せずしてクラスメートのそういう需要に応えていことに気付いた。
そう考えていくと、僕はまるでコンサルタントのようだった。人の話を親身に聞いてあ
げられるというその一点で、僕は中学で人気のある生徒という立場を確保していたのだろ
うか。不良も優等生も等しく、僕自身に興味があるのではなく自分に興味を持って親身に
話を聞いてくれる僕のことが大切なだけだったのだ。
それに気づいても、僕にとっては人から信頼され頼られているという感覚はまるで麻薬
のように心地よかった。それで、中学時代の僕はそういう自分の役割に満足していたし、
そこから得られる見返りも当然だと思って享受していたのだった。そんなある日、僕は不
思議な少女の噂を聞いたのだった。
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/03/24(木) 23:45:44.72 ID:jhPeExTco
僕より一年下級生のその女の子はやはりクラスで人気があるらしい。そして、その子は
見た目も可愛らしいし成績もいいのだけれど、クラスのみんなから慕われていたのはそれ
だけの理由ではないというのだった。
僕はその話を僕に心酔してくれていた学級委員の女の子から聞いたのだった。その子が
人気のある下級生の女の子をほめる言葉はひどく抽象的で、とにかくいい子なのというレ
ベルの話だったのだけれど、その時僕は直感したのだった。
その下級生の女の子も僕の仲間ではないのか。同級生の持つ承認欲求をていねいに聞い
てあげることで人気があるのではないのだろうか。
その子に興味を覚えた僕は、その子のことを聞いて回るようになった。そしてその探索
の結果では、彼女は僕と同類の優秀な「コンサルタント」ではないかと思い始めた。僕は
その子に声をかけてみようと思った。もちろん、その子の気持ちを聞いてあげようという
よい「コンサルタント」として。
そういうわけで僕はある日、その女の子に気軽に声をかけたのだった。この子の心のケ
アも僕がしてあげようというくらいの気軽な気持ちで。
ところが想定外なことに、僕はその子のケアをするどころか彼女に心を奪われてしまっ
たのだった。
学級委員の女の子に下級生のその子を紹介してくれるように頼んだ時、僕が考えていた
のは例によって僕に救える子は救ってあげようという程度の傲慢な気持ちからだった。そ
してその時にもう少し自分の心を掘り下げて考えていたなら、僕は下級生の少女を救いた
いという自分の気持ちに裏に、もう少し別な欲求が潜んでいたことに気が付いていたかも
しれない。
この頃になると自分でも気付いていたのだけれど、校内での僕の特異な立ち位置という
か優位性は、僕が中学生離れした傾聴の能力を身につけていたからこそ得られたものだっ
た。誰だって人の話をひたすら聞いて相手に共感し、その相手を励ますよりは、自分の気
持ちを自由に吐き出せた方が楽に決まっている。それでも敢えてこんな、一見自分にとっ
て得にならいようなことをしたのは、逆説的になるけど傾聴によって自分の評判を高める
ためだった。つまり動機は完全に自己中心的なものだったのだ。
単純な承認欲求は、人に話を聞いてもらい聞き手に認めてもらえれば簡単に成就する。
でも僕はそれだけでは不満だった。いつのまにか多数の信者が僕を崇めてくれる。そうい
う状況を作り出すためには、声高に自分の感情を吐き出すよりもっといい手段がある。そ
れは手間と時間がかかり面倒だけれど、コンサルタントに徹するということにコストはか
かるのは承知の上だった。そしてその効果は疑り深い僕が満足するほど絶大だったのだ。
僕は、成績は悪くはなく判断力も持ち合わせていると思うけど、そんな生徒なら他にも
いっぱいいる。さらに言えば運動音痴で腕力にも自信がない僕が、校内でここまで心地よ
い居場所を築けたのは、人の相談に乗るという地道な活動の成果なのだった。
そのせいで、僕には真面目な子から乱暴な先輩までいろいろな友人がいたし、一部の教
師たちにさえ僕の能力を認められてもいた。そして、ここまで敢えて言及しなかったこと
を語れば、僕の容姿は決して人より抜きん出ているものではなかったけれど、そんな僕に
愛を囁いてくる早熟な同級生の女の子もかなりの数でいたのだった。
その僕と同じように周囲の信頼を勝ち取っている女の子がいると言う。僕でさえこうい
う活動は精神的に辛いときもあるのだから、下級生のその子も辛いだろう。同業者として
サービスで彼女をケアしたあげたい。僕はその時そう考えたのだったけど、この時自分の
心の奥底を探っていれば、また違う考えが見えていたのだろうけど。
今にして思えば分かれけど、僕はこう考えていたのだ。たかが中学生の分際で、いっぱ
しのコンサルタントやケースワーカーのように、傾聴の技術を持つ小ざかしいガキはこの
学校には僕一人でいい。だから僕はこの小ざかしい下級生の子の悩みを聞いてあげるつも
りだった。そして、人の話を傾聴するより、自分の悩みや主張を誰かに吐き出せる方がよ
ほど気楽で甘美なものであることを経験をさせてあげようと思った。そうすれば、彼女は
人の悩みを聞くより自分の悩みを吐き出すほうがどんなに楽か理解するに違いない。しか
も、彼女の話を聞いてくれる相手は、百%彼女の味方になってあげられるこの僕なのだか
ら。
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/03/24(木) 23:46:50.76 ID:jhPeExTco
学級委員の女の子は、二見さんを紹介してくれない? と頼んだ僕に向かって複雑そう
な表情を向けた。
「あなたが女の子を紹介してくれなんて頼むのって珍しいね」
半ばからかうように半ば複雑そうな表情を思い浮かべた彼女を見て、僕は初めて少しだ
け失敗したなと考えた。僕に告白してくれた複数の女の子の一人が彼女だったことに、今
更ながら僕が気付いたのだった。その時も今も、僕は複雑な人間関係を神様のような視点
で俯瞰することが好きだったから、誰か一人の女の子とより親密な付き合いをする気はな
かったのだけれども。
そして僕のように人間関係を築いていくタイプにとって、より個人的に親しくなろうと
する相手が一番対応が難しかった。
傾聴は、とりあえず自分の価値判断を意識的に停止して、相手の言う言葉を全人格的に
肯定するところから始まる。たとえば相談を持ちかける相手が話す内容に対して、こいつ
何自分勝手なこと考えてるんだと感じたとしてもそれを表情や口に出してはならない。
後々少しづつ相手の考えを矯正してあげるとしても、相談当初は全てを認知し許容してあ
げなければならないのだ。
そういう対応をすると、相手は僕のことを意識的に信頼するようになる。そこまでは計
算どおりなのだけど、自己愛が強すぎる相手だと稀にそれが行き過ぎる場合があった。相
手が男なら大した問題ではないけれど、その相手が女性な場合、時にやっかいな問題が生
ずることがある。つまり僕に自分の全人格を認めてもらったという確信を抱いた女の子が、
僕に恋心を抱くようになることが多々あるたのだ。そういう相手は手ごわい。下手してそ
の子を拒否すると、それだけでこれまで築き上げてきたその子との信頼関係が崩れること
になるからだ。
よく自分の担当の精神医に恋する患者がいるというけど、まさにそれと同じことだった。
クラス委員の彼女に思い詰めた表情で告白された時は、僕は全能力を動員して必死にな
って彼女を宥めたのだった。君のことは大好きだけど、僕は大好きな女の子と結ばれて自
分が幸せになるより多くの友だちの悩みを聴いてあげたいんだと。当時僕に心酔していた
彼女はそれで納得してくれたけど、今になって下級生の、それも人気のある二見さんを紹
介してくれと言われた彼女は、その時の僕の言葉を思い出したのかもしれなかった。クラ
ス委員というそれなりに影響のあるクライアントに不信感を抱かせるくらいなら、僕は彼
女と接触するのを思いとどまった方がいいとも一瞬だけ思ったけれど、このままライバル
を放置できないという危機感の方が心の戦いに勝利した。
・・・・・・ライバル?
ようやく僕には自分の気持の闇が理解できたのだろう。僕は二見さんを救いたいわけで
はない。邪魔な同業者を廃除したいというのが僕の本音なのだった。
僕にしては切れの悪いセリフでもごもごと彼女の疑惑を否定しながらも、僕は彼女に何
とか彼女さんを紹介してもらうことができたのだった。そしてその代償としてに、クラス
委員の子の心のうちに僕に対する疑念を生じさせてしまったことは、もはや疑いようもな
かったけれども。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/24(木) 23:54:49.42 ID:jhPeExTco
「・・・・・・こんには先輩。はじめまして」
放課後の図書室に現れた二見さんは、あらかじめクラス委員の子に聞いていたのだろう。
それほど緊張している様子もなく僕に挨拶したのだった。そして意外なことに彼女はすご
く可愛らしい女の子だった。
こんな小ざかしい技術を駆使してまで校内で人気を得ようという女なんて、容姿が優れ
ているわけがない。僕は何となくそう考えていたのだった。それは自分を考えればよくわ
かることでもあった。傾聴なんて小ざかしいことをしなくても人気があるような容姿や性
格を備えていたら、僕だってこんな面倒なことはしない。でも、その考えを裏切って僕の
前に現れた少女は、今まで会ったこともない美少女だった。
・・・・・・まるで女神のようだ。
僕は一瞬自分が彼女を呼び出した理由も忘れて、呆けたように彼女の艶やかな姿を見つ
めていた。
「はじめまして。突然呼び出してしまってごめんね」
少しして、ようやく我に返った僕は彼女に挨拶をした。実はここからもう彼女との戦い
は始っていたのだから、僕は精一杯の笑顔を作って彼女に話しかけた。
「いえ。全然大丈夫です」
一学年下の二見さんはにっこりと微笑みながら気後れする様子もなく、図書室の椅子に
座っていた僕の斜め前の椅子に腰掛けた。正面ではなく真横でもなく斜め前に。
それは傾聴する際に必要になる基本的なポジションだった。人は正面に座られると入試
の面接のようなシチュエーションに緊張して簡単には心を開いてくれない。かといて真横
に座るのはもっと親しくなってからが望ましい。初対面の段階では真横のポジションはか
えって逆効果になることもある。そういう意味では彼女の選んだ位置は、ベストポジショ
ンということになる。僕は彼女の美少女ぶりに動揺した分、いろいろと女さんに後れを取
って、しょっぱなから主導権を握られたように感じた。その考えは僕を密かに動揺させた。
それでも僕は心を引き締めて体勢を立て直した。今日は是が非でも彼女に正直に悩みを
打ち明けさせて、その悩みを傾聴してやり彼女の信頼を勝ち取らなければならなかった。
「同級生のクラス委員から君のこと聞いたんだ。君が悩んでる人の相談に乗っているすご
くいい子だって」
僕はとりあえず彼女を持ち上げることにした。とにかく彼女の方から積極的に自分のこ
とを話させなければいけないけど、初対面の男にいきなりそんなことをする女の子も普通
はいない。だからまず彼女の信頼を勝ち取らなければならない。
・・・・・・でも僕の最初の言葉はどういうわけか彼女の心には全く響かず不発に終ったよう
だった。
「はい?」
二見さんは何か理解不能なことを言われたように、不審そうに首をかしげた。
「ごめんなさい。いったい何の話ですか」
それは演技ではないようだった。ひょっとして僕は彼女のことを買い被りすぎていたの
か? だけど、クラス委員の子の話が嘘でないとすると、この子は少なくとも同級生のい
い相談役のはずだった。そしてその一点で彼女は同級生たちに人気があるはずだった
のだ。
「君が同級生の悩みをよく聞いてあげるって聞いたんだけど」
僕は少し気弱になりながら聞いてみた。すると彼女は少し複雑そうな表情で、でも思い
当たることはあるような曖昧な口調で答えた。
「ああ。もしかして、千佳ちゃんのことですか? あれは別にそんな」
ようやくとっかかりができた。もう勘違いでも何でもいい。とにかく彼女の話を傾聴す
るのだ。
「君の話を聞きたいな。別に興味本位じゃないよ。でも、友だちの悩みを解決できるって
凄いと思うし、僕にも同じような悩みを持っている友だちがいるんで参考にしたいな」
それは僕に相談したがっている連中に話しをさせる時と違って、ひどく無様な誘いだっ
た。僕はコンサルタントとしてのプライドをいたく傷つけられたけど、それでも何とか彼
女に話をさせないといけなかった。
「あれは別にそんな・・・・・・。でも千佳ちゃんから相談されたんで話を聞いてあげただけ
で」
二見さんはようやくありがちな女友だち同士のトラブルの相談に乗ったエピソードを話
してくれたのだった。
・・・・・・二見さんの話はありきたり過ぎて正直興味を抱けるような話ではなかった。僕は
むしろ彼女の話を聞きながら、彼女の傾聴の技術が思ったより高そうなことに驚いた。
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/24(木) 23:57:33.76 ID:jhPeExTco
「君って人の話を聞くの上手みたいだね」
彼女の友人のエピソードは無視して、僕は敢えて核心に触れてみた。その時、初めて彼
女は動揺して迷っている様子で僕の方を覗った。何かある。僕は直感したけど、ここは敢
えて口を開かずに彼女が自分から話をするのを待った。
そして、二見さんはついに少しづつ自分のことを語り始めたのだった。
「あたし、これまで転校ばっかしてたんです。だから友だちができてもすぐにお別れだっ
たんですね。それで転校を繰り返しているうちに友だちを作る方法とかわかちゃって」
僕は内心しめたと思った。自分語りを始めさせればもうこっちのものだ。あとはどれだ
け親身になって彼女の話をきいてあげられるかが勝負だった。
「先輩、あたしが必要に迫られて習得したテクニックって、何だかわかります?」
彼女は淡々と話を続けた。
「うん? 何だろ」
僕は傾聴の基本どおり彼女の目を見つめて真面目に悩むふりをした。
「あたしね、自分の話したいことを二割くらいしか喋らないようにして、残り八割の時間
は相手が話すことを聞いてあげることにしたんです」
彼女は僕の答えを待たずに自分から言った。傾聴テクニック的にはいい傾向だった。
「本当は相手の話になんか興味はなくても、親身に聞くことに徹したんですね。そしたら
友だちはできるし、クラスでも評判がよくなって」
人というのは例外なく自分のことや自分の知っていること、考えていることを話したが
る。そして、話した内容から自分を評価して認めてもらいたがるものなのだということを、
度重なる出会いと別れの間に彼女はは学んだそうだ。誰も別に彼女の考えていることなん
かに深い興味はない。
行きずりの友人たちも自分の話を聞いてくれて評価してくれた彼女に親しげに振る舞っ
たみたいで、その一点だけで引越しと転校を繰り返していた彼女には、何度新しい環境に
放り込まれても、友だちが出来ないということはなかったそうだ。
そしてもちろん、人とそういう接し方をしている限り、普通の友だちは出来ても心を許
しあえる親友は二見さんにできることはなかったのだった。
それは辛い話だったけど、正直その時僕は有頂天になっていた。この同学年に人気にあ
る美少女が、僕に素直に心情を明かしてくれたのだ。最初に考えていたように彼女は好き
で傾聴をしているのではないらしいことは理解できた。それはこれまで過ごしていた環境
から彼女が自然に身につけたテクニックだったのだ。とりあえず僕にはもう彼女は脅威で
もライバルでもないことはわかっていたけど、このまま話を聞いてあげて彼女を精神的に
楽にしてあげようと僕は思った。「学校コンサルタント」の意地にかけて。
ふと気付くと彼女は話を終え僕の方を見ていた。恐ろしいほどに澄んだ黒い瞳で。
こんなことは初めてだったけど、僕は傾聴中に初めて内心相手の話以外のことを考え
てしまっていたようだった。
やがて彼女は僕を見つめたまま再び話し出した。
「それで先輩は何であたしの話を親身に聞いてる振りをしてくれてるんですか? あたし
たち同級生でもないし初対面なのに」
二見さんは僕に向かって軽く微笑んだ。
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/24(木) 23:58:29.51 ID:jhPeExTco
今日は以上です
また投下します
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:37:39.35 ID:q8J8eS9oo
これが、僕と二見さんの最初の出会いだった。
好奇心から彼女に接近した僕だけれど、話していると彼女に対する好奇心とか、ライバ
ル心、それにいい相談役になってあげようという当時の僕の傲慢な考えは、いつのまにか
失われてしまった。そして、その後に残っていたものは、彼女の感情が掴みきれていない
という憔悴と、そこから生じたもっと深く彼女を理解したいという衝動だけだった。
最初、僕は彼女の心を掴んだと思っていた。このまま自分語りを続けさせれば、他の多
くの生徒たちと一緒で、二見さんも僕の数多いクライアントの一人となるだろうと。
でも、僕に心を許していたように見えた彼女は、突然、僕の目をその澄んだ瞳で見つめ、
今まで自分の境遇と感情の確執を語っていたのが嘘のように冷静な表情で、言い放ったの
だった。しかも、ご丁寧に微笑みかけることまでしながら。
「それで、先輩は何であたしの話を親身に聞いてる振りをしてくれてるんですか? あ
たしたち、同級生でもないし初対面なのに」
この時、僕の優位性は突然揺らいだ。それは、二見さんの心情を理解でき、これから
その悩みを軽減してあげようと考えていた僕にとっては、青天の霹靂のような言葉だった。
彼女は、これまで自分の行動を語っていた時のような、素直な表情を一変させ、まるで小
悪魔のように可愛らしく、ずる賢く、そしてからかうような表情で、僕を見つめたのだっ
た。
「何言ってるの? 僕は、誰にでも親切に話を聞く君に興味があるだけで」
僕は、彼女の不意打ちにしどろもどろになりながら、かろうじて反論した。自分でもそ
の言葉の説得力の無さは、痛いほど理解していた。
「ふーん。先輩こそ、噂どおり誰にでも親身になるんですね」
二見さんは、優しい微笑を浮かべながら、でも、油断できない冷静な口調で言った。
「先輩は、どうして人の悩みを聞いてあげてるんですか?」
彼女は無邪気な口調で言った。
「お節介だとか言われませんか?」
「まあ、結局、自分のためにやってるようなものだし」
その時、僕は彼女のあけすけな口調に思わずつられ、自分でも意外なことに思わず本音
を語っていたのだった。
「人ってさ。結局、誰でも自分のことを認めてほしいものなんだよね」
「承認欲求ですね」
二見さんが言った。
「でも、先輩にだって承認欲求はあるんでしょ? 人の話を聞いてばかりだと、先輩の承
認欲求は充たされませんよね?」
どこまで小賢しいのだろう、この女は。この間まで小学生だった、たかが中学女子の分
際で、何を悟ったようなことを言っているのだろう。僕は自分のことを棚に上げてそう思
った。でも、この時にはもう僕の言葉は止まらなくなってしまっていた。
「もちろん、僕にだって人に認められたいという欲求はあるよ」
僕は、いつのまにか、これまで誰にも話したことのないことを、ペラペラと喋っていた。
「逆説的だけど、人の話を聞いてあげて、その人の承認欲求を充たしてあげる。そのこと
で、僕は人に評価されてるんだ」
・・・・・・僕は後輩に、いったい何を話しているのだろう。
「何か変なの」
そう言った二見さんの笑顔は、僕をこれまで以上に幻惑させた。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:38:12.02 ID:q8J8eS9oo
「変じゃないよ。僕は、生徒会とかの役員でもないし、運動部のキャプテンでもないけ
ど」
僕はむきになって話し続けた。
「それでも、こう見えても僕は人気があるんだよ」
「先輩、女の子にもてるそうですね。今までいっぱい告白されたのに、先輩は誰とも付き
合わないみたいって、クラスの子が言ってました」
そう語った二見さんの可愛らしい笑顔。
「コンサルタントは、一人の女の子に縛られちゃいけないし、そもそもクライアントに恋
するなんて、コンサルタントの資格はないよ」
僕は胸を張って言った。目の前の可愛い女の子に、もてると言われるのは正直気分が
かった。
「先輩って、そうやって人の悩みを聞いてあげて、自分には何の得があるの?」
二見さんが、続けて聞いてきた。これまでよりくだけた口調だった。
「得って・・・・・・」
「無償奉仕のボランティアなんですか?」
からかうような彼女の言葉を聞いて、僕は少しむっとして答えた。
「人を救うと、いい気持ちになれるよ」
「そして、みんなから誉められ信頼されるってこと?」
「まあ、そうだね」
僕のことを嫌っていたやつらが、僕のことを攻撃してきた時、僕に心酔する不良やク
ラス委員の女の子が守ってくれた話をした。
「すごいなあ。みんな先輩のことが好きなんですね」
「・・・・・・好きかどうかはわからないけど、話を聞いてあげたやつらからは信頼されてると
思ってるよ」
僕はこの時、ふと気がついた。
僕は、二見さんの質問に誘導され、これまで人に話したことのなかった僕の秘密を、得
意気に、気分よくぺらぺらと喋っていたのだった。
いや、僕は彼女に喋らされていたのだ。
僕は、ようやく、そこで気がついたのだった。今まで、自分が人に仕掛けてきたことを、
僕は二見さんによって身をもって体験させられたのだった。
さっきまで、僕は彼女に自分語りをさせることに成功したと思っていた。
でも、実際は彼女は全て理解した上で、僕を惹きつけるための最小限の自分語りを意識
的にしていたに過ぎなかったのだ。そして、その後、彼女は今度は彼女の持つ傾聴能力を
僕に向けて、仕返しとばかりに発してきたのだった。
つまり、いつの間にか僕は、彼女にコンサルティングされていたのだった。
「・・・・・・もう、やめようぜ」
最後の最後に彼女の意図に気がついた僕は、辛うじて彼女の意中の策から抜け出すこ
とができた。
「お互い、化かしあっててもしょうがないでしょ」
二見さんは、一瞬驚いた表情を見せたけど、それが本当に驚いたのか計算どおりに驚い
て見せたのかは、僕にはよくわからなかった。
「・・・・・・何だ。わかっていたんですね」
彼女も笑った。
「勝手にコンサルされて悔しかったから、お返しに、あたしも先輩に試してみたんですけ
ど」
「さすがに、先輩には通用しないか」
二見さんは残念そうに笑って言った。
・・・・・・これが、二見さん、いや、その後、彼女のことは呼び捨てにするようになったの
で、彼女のことは優と呼ぶけど、その優と僕が親しくなった日の出来事だった。
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:39:13.81 ID:q8J8eS9oo
「それで、先輩。まだ質問に答えてくれてないですよ」
優は僕を上目遣いに眺めながら、話を蒸し返した。
「・・・・・・君に関心があったから」
僕は、彼女相手に駆け引きをすることを諦めて白状した。普通なら、自分の意図する
ところがコンサルの対象にばれるなんて、僕にとっては屈辱的な出来事だったはずけど、
その笑顔を前にすると、その時はそんなことはどうでもいいかと思えてきていたのだった。
「あたしが親切に友だちの悩みを聞いてあげるから、あたしに興味を持ったんじゃないで
すよね? どうして、あたしなんかに会いたかったんですか」
「僕と同じようなスキルを持っていて、僕と同じようなことをしている小賢しい中学生っ
て、いったいどんなやつか見てやろうと思ってね」
僕は続けた。「でも、君と話してたら、そういうことはどうでもよくなっちゃった」
「え?」
優は、僕の意図が読めず、少し戸惑っているようだった。
「君のこと、もっとよく知りたくなってきた」
その時の僕は、上級生らしく余裕があるような振りをしていたけれど、内心では胸はど
きどきし、緊張で額は汗ばんでいた。これまで女の子に告白された時でも、こんなに緊張
したことは一度もなかったのに。
どうやら、僕は初めて本気で女の子が好きになってしまったみたいだった。
その時、彼女が僕の方を見て、今までで初めて他意が感じられない素直な微笑を向けて
くれた。そして、彼女は言った。
「先輩・・・・・・本当に、あたしなんかに興味があるんですか」
それから、僕と優は校内で一緒に過ごすようになった。僕は当時、彼女に夢中になって
いた。この年まで本気で女の子に夢中になったことのなかった僕だけど、実際に女の子と
親しくなってみると、これまで自分が築いてきたカウンセリングだの傾聴だのとかは、ど
うでもよくなってしまった。
その頃の僕にとって一番の関心は、彼女が何を考えているのか、彼女がどういう人物な
のかということだけだった。情けない話だけど、それは恋している他の中学生の男と同じ
レベルの感情なのだった。
ただ、一点だけ他の男子たちと違っているところがあるとすれば、それは、僕は幻想を
抱いていないということだった。僕には自分のことがよくわかっていた。イケメンでもな
いしスポーツ全般が苦手。成績はいいし同級生より大人びた論理的な思考回路を持ってい
るとは自負してはいた、けど、そんなものは中学生同士の恋愛においては全くアドバン
テージにはならないだろう。
それに、優の外見は可愛らしかった。惚れた欲目ではないことは、彼女に向けられる男
たちの熱っぽい視線が証明していた。そんな彼女と僕では、普通なら釣り合わない恋愛だ
った。
確かに僕は、これまでも悩みを聞いてあげていた女の子たちから、言い寄られたことは
あった。その中には人気のある女の子もいた。でも、僕はそのことに幻想を抱いてはいな
かった。あれは、専門用語で言うと「陽性転移」という現象に過ぎない。彼女たちは、僕
自身を好きになったわけではなく、僕の言動に映し出された自分自身を好きになっただけ
なのだ。
優が僕と一緒に過ごしてくれる意味を、僕はよく考えたものだった。最初に会った時の
彼女の告白は嘘ではなく、僕が観察している限りでは、彼女には確かに親友や心を許せる
知り合いは、男女を問わずいないようだった。
そういう意味では、僕と彼女は同類だった。僕も彼女も、人の話を聞いてあげることは
できる。しかも、中途半端にではなく、話を聞いてもらった相手が自分に心酔してしまう
くらいに親身になって。そのせいで僕は好きでもない女の子に告白されたりもしたのだっ
た。
ある時、僕は彼女に聞いたことがあった。いわゆる陽性転移みたいなことに、困ったこ
とはなかったのかと。
「う〜ん。あたしはもともと男の子の相談にのったことはないし」
彼女は苦笑して答えた。「転入したばかりで男の子と親密に話してるところを見られ
たら、女の子たちと仲良くなれないしね」
そのおかげで、彼女を密かに熱っぽく見つめている視線は感じても、僕が深刻にライバ
ル視せざるを得ないような男は現れなかったのだ。
彼女には、僕と同様に人の話を受け止めてあげられる技術がある。そういう意味では、
僕は彼女と同類なのだった。でも、彼女と過ごしているうちに、彼女の傾聴スキルの高さ
を裏切るように、彼女にはもっと自分を認めて欲しいという欲求があるらしいことに僕は
気づいた。
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:40:16.56 ID:q8J8eS9oo
その頃、僕と彼女は校内でお昼を共にしたり、放課後の図書館で一緒に勉強したりして
いたけれど、僕と彼女がはっきりと恋人同士になったというわけではなかった。上級生の
男と下級生の女がいつも一緒にいたのだから、あいつら付き合ってるという噂はあったら
しいけど、僕自身ははきり彼女に告白したわけでもないし、優だって僕のことが好きなん
て一言も言ったことはなかった。
僕はもうコンサルタントじみたことをすることを止めていた。いや、厳密に言えばそう
ではない。僕は自分のスキルを放棄したわけではなく、むしろそのスキルをただ一人の女
性にだけ向けたのだ。今の僕の傾聴の対象者は、優だけだった。
彼女が僕と同じくらいのスキルを持ちながらも、好きでコンサルティングをしているわ
けではないことに、当時の僕は気づいていた。それは、転校を繰り返していた彼女の自己
防衛のようなものだった。そのスキルを駆使している限り、彼女はクラスで一人ぼっちに
なることはなかったのだ。逆に言うと、そのスキルを同級生に発揮している限りは、優に
は、真の意味での友人ができることはなかった、彼女の知り合いは、彼女自身に興味があ
るわけではなく、彼女の言葉に反射される自分自身を見つめていただけなのだから。
当然ながら、優にだって承認欲求はある。皮肉なことに、ぼっちを回避しようとして彼
女が発揮したスキルは、逆に彼女にストレスを与えているのだった。つまり、表面的な知
り合いは多くても、本質的には彼女は孤独なままだったのだ。これでは、実質的にはぼっ
ちであることと同じだった。
そんな彼女の承認欲求を受け止めたのが、僕だったのだろう。僕は彼女が好きだった。
そして、その当然の帰結として、僕は彼女のことをもっと知りたかった。その僕にだって
自分のことを認めてほしいという欲求がある。彼女は最初にこう言った。
「それで、先輩は何であたしの話を親身に聞いてる振りをしてくれてるんですか? あ
たしたち同級生でもないし初対面なのに」
「先輩・・・・・・本当に、あたしなんかに興味があるんですか」
僕は、今まで培ってきたスキルを、全力で彼女にだけ向けた。そしてそれは、義務感か
らでなく、本気で彼女のことが知りたいからだった。その思いは彼女にも伝わったようで、
校内で一緒に過ごす間、彼女は僕の質問に答え、自分のことをいろいろ語ってくれたのだ
った。そういう、彼女の承認欲求を満たしてあげられる相手としてのみ、僕は彼女のそば
にいる資格を得られたのだった。
それでも僕は満足だった。僕の人生は、自分の傾聴スキルによってのみ自己実現してき
たのだ。彼女の隣にいられる理由が、彼女が僕のことを好きになったからではなく、自分
の承認欲求を満たしてくれる男が他にいなかったからだということは、僕にもわかってい
たし、それに対して満足していたわけではないけど、今の僕が彼女と対等に付き合うため
に、その他の手段がなかったのも事実だった。
彼女にだけ夢中になっていたせいもあり、僕は僕を頼ってくれる生徒たちの需要に応え
られなくなっていた。優と会う時以外は、なるべくみんなの話を聞くように努めていたけ
れども、次第に彼女と過ごす時間が増えていくと、それすらままならなくなってきていた。
それで、僕には一時期のような人気はなくなっていた。そのこと自体は後悔しなかった。
それくらい僕は彼女に夢中だったから。でも、彼女には恥かしい思いはさせたくなかった。
せめて彼女には、人気のある先輩とつきあっているという評判をあげたかったのだ。
以前ほど、他人のコンサルタントに時間を避けない僕は、結構悩んだ末に、生徒会長に
立候補することにした。これなら運動神経が鈍くてもハンデにはならない。僕の成績がい
いこともアドバンテージになった。
僕が生徒会長に選出された時、優はいつもより不機嫌だった。生徒会長の彼女、いや彼
女とは言えないかもしれないけど、とにかくそういうことには、彼女は全然関心がないよ
うだった。
「先輩は生徒会長になって何がしたいの?」
優は、放課後の図書室で不機嫌そうに言った。
「あたしと一緒にいるだけじゃ、つまんないでしょうね。悪かったわ、これまであたしな
んかに付き合わせちゃって」
「そうじゃないよ」
僕は困惑しながら言い訳した。彼女が望むなら、ずっと肩書きなんてないままで隣に
いられるだけでよかったのだ。でも、彼女の評判を考えると、一緒にいる相手が生徒会長
という方が格好いいに決まっている。
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:41:05.41 ID:q8J8eS9oo
「僕は、君のために」
「あたしのために? 先輩もあたしの話ばかり聞かされて飽きちゃったんでしょ」
「だから、違うって。僕は君のことが好きだし、君のことをもっとよく知りたい。でも、
君だって自分の彼氏が人気のないただの男じゃ嫌だろ?」
「え?」
優は僕を責めるのをやめ、少しだけ顔を赤くした。
・・・・・・僕は、これまではっきりと彼女に告白してはいなかったし、まだその勇気もなか
った。その時は、僕を責める彼女に言い訳をしようとしていただけだった。でも、その時、
僕は期せずして初めての愛の告白を彼女にしてしまったようだった。
「・・・・・・本当?」
優が、彼女らしくなく俯いて小さく聞いた。
「先輩、あたしのこと本当に好きなの?」
「うん」
僕はそう言って、優の手を握り、彼女を自分のほうに引寄せた。少しだけ抵抗していた
彼女は、最後には僕の腕の中に入ってきた。
翌日から、僕と彼女は恋人同士になった。それは、女に慣れていない僕の勘違いではな
かったと思う。僕のことをはっきりと好きと言葉にしてくれたたわけではなかったけど、
彼女の態度は、昨日までとは明らかに異なっていた。彼女は、僕が狼狽するほど僕に密着
し、僕の時間の全てを自分と一緒に過ごさせたいというような態度を、あからさまに示し
ていたのだった。
当然、僕にだってそのことが嬉しくないわけはなかった。当時の僕は普通に恋する男に
過ぎなかったから、気まぐれに彼女が示してくれる好意のかけらにだって、僕は夢中にな
って飛びついていたのだった。
彼女が言葉で明白に僕への好意を示してくれることは一度もなかったけれども、図書館
での逢瀬の終わりに、いきなり手を繋いでくるとか、生徒会の活動で遅くなって彼女を待
たせてしまった僕に不機嫌になるとか、そういう態度によって、間接的に僕への関心を示
してくれることはよくあった。当時の僕にはそれで十分だった。
それでも、彼女との付き合いが深まると、僕にはその態度に不満を感じることが多くな
ってきた。それは、生徒会活動より自分を優先するように要求する彼女の束縛とか、いつ
までたってもはっきりと僕に愛を囁いてくれないとか、そういう不満ではなかった。僕に
とっては、今では彼女と一緒に過ごすことが、自分の生活の中で一番大切な時間になって
いたから、その束縛は僕を喜ばせこそすれ僕を困惑させることはなかった。
一方で、優が僕自身に対する気持ちを曖昧にしていたことは、僕にとってストレスにな
っていたことは確かだった。でも、もともと釣り合わない関係なのだ。僕は、その点に対
しては幻想を抱いていなかったから、彼女が僕に対して気まぐれに見せてくれる好意のか
けらだけでも十分だったけど、それでもいつまでもそれに満足しているという気分にはな
れないものだ。
そして、仲が深まってきてからの僕たちの肉体的な接触は、手を握ることくらいだった。
僕は、彼女のことをまるで女神のように崇めていたから、自分から彼女に手を出すなんて
考えもしなかった。最初の告白のときに彼女の手を引いて彼女を抱きしめたけど、それが
最初で最後の僕のアクションだったし、そのことについても、僕には特段の不満はなかっ
たのだ。何より僕たちは中学生なのだし。
不満というのは、もっと別の次元のことだった。僕は彼女が好きで彼女のことが知りた
かったから、別に義務感からではなく本心から彼女の話を聞くのが好きだった。だから、
僕たちが共に過ごしていた時間のほぼ全ては、彼女の話を僕が聞いてあげることに費やさ
れていた。最初はそれで満足だった。僕は、彼女が僕にだけは本心を隠さずに話してくれ
ることを嬉しく思っていたし、彼女が何を考えているのか、友だちに対する想いや両親に
対する想いなどを知ることができることにわくわくしていた。それは、恋人同士が最初に
辿る、正しい道筋だったと思う。
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:41:34.68 ID:q8J8eS9oo
でも、いつまでたってもその関係は変化せず、僕は常に聞き役だった。彼女の話を聞く
のが嫌になったわけではないけど、延々と話しを聞かされるだけで、逆に僕のことを何も
聞こうとしない彼女の態度に、僕はだんだんと不安になってきたのだった。
普通、好きな相手のことは少しでも知りたがるものではないのか。恋人が自分といない
時にどう過ごしていたのか。恋人が自分と出会う前にどんな人生を送ってきたのか。恋人
は今何を考えているのか、自分のことをどう考えているのか。
彼女は、僕が頼むと自分語りを続けてくれた。そこに隠しごとはなかったと思う。でも、
最後まで彼女は僕のことを、僕の気持ちを尋ねてくれることはなかったのだ。僕にも承認
欲求があるのだという当たり前のことに、この時僕は初めて気がつかされた。僕は、彼女
のことを知りたいとのと同時に、僕は自分のことを彼女に知ってもらいたい、自分の想い
を彼女に話したいと気持ち言うがだんだん強くなってきたことを悟ったのだった。人の話
しを聞くコンサルタントの僕にとって、こんなことは初めてだったけど。
そういう意味では優に不満を感じていた僕だけど、かといって、そのことで彼女を責め
ようとは思わなかった。ただ、自分が今何をしているのだろうと心もとなく感じることは、
正直に言えばしばしばあった。
今更振り返るまでもなく、僕はこれまで人の話を聞いてあげることによって、自分のア
イデンティティを保って生きてきた。そのことで、校内でも居心地のよい場所を確保して
きてもいたのだった。でもこの頃になると、彼女にかまけて他人のお世話を焼かなくなっ
たせいもあって、結果として僕は、今までとは違う立ち位置を手に入れていた。
最初は、自分の箔を付けるために始めた生徒会活動が、その頃からだんだんと面白くな
ってきていた。これまで僕は個人を対象にコンサルタントのようなことをしてきていたか
ら、複数の役員に指示し、組織を動かして目標を実現するようなことには、あまり興味が
なかったのだけど、生徒会長になって必要に迫られて組織を管理する立場になってみると、
それは意外と面白かったし、何より自分には向いているようだった。
つまり、彼女に夢中になってはいたけど、彼女抜きの学校生活の方も、以前とは違った
意味で充実してきていたのだった。そうなると、その頃には陽性転移的な意味ではなく、
僕のことを好きだと言ってくれる女の子も現れるようになった。
・・・・・・てきぱきと生徒会の役員の指示する先輩は、大人びていて素敵です。一学年下の
副会長は、真っ赤になって僕にそう言った。彼女は、優と同じクラスだったから、僕と彼
女の関係はよく知っていたにも関らず、敢えて僕に告白してきたのだった。でも、優に夢
中になっていた僕はそれを断った。その告白と僕が副会長を傷つけたという噂は、他の生
徒会役員を通じて校内に広まった。その噂は、当然優の耳にも届いたようだった。
「先輩、何であの子の告白断ったの?」
久しぶりの彼女の方から僕への質問は、それだった。僕はその質問は予想していたので、
あまり動揺せずあっさり答えることができた。
「僕は、君のことが好きだからね。副会長と付き合うなんて考えられないよ」
「ふーん。そうなんだ。彼女、可哀想」
優はそれだけ言って、もう副会長のことはどうでもいいとばかりに、自分が最近考えて
いることを話し始めた。その時の彼女の反応があまりにも淡白だったせいで、珍しく僕の
中に彼女への反発心が湧き出してきた。それでも、僕はしばらくの間は彼女の話にあわせ
ていたのだけど、いつもと違ってその内容は全然僕の心に響いてこなかった。僕は副会長
の緊張して泣き出しそうな顔を思い出していた。
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:42:03.26 ID:q8J8eS9oo
これでは、あんまりだ。僕の気持ちも副会長の気持ちも救われない。だらだらと続く優
の自分語りは、今では僕にとって意味のないお経の詠唱のように意味を失っていた。
この時の僕は、本心からいらいらしていた。これが彼女以外の相手だったら、僕の本心
に気づかれることはなかったろう。僕は表情をコントロールすることができたのだし。で
も、相手は優だった。僕と同じようなスキルと性格を持っている優なのだ。
一応、その時僕も軌道修正しようと試みたのだ。これでは、僕の持つ傾聴のスキルがす
たる。優の言動がどんなに自分勝手でも、僕は彼女に惚れているんだし。そう思って、僕
は副会長の泣き出しそうな顔の記憶を振り払い、再び身を入れて彼女の話を聞こうと思い
直した時だった。
優が自分語りを中断して僕に言った。
「先輩。あたしの話、聞いてるの?」
彼女は自分語りをやめ、真面目な表情で僕を見つめて言った。
「やっぱり、こうなっちゃうのね。先輩、あたしの話を聞くのが嫌になってきたんでし
ょ」
「そんなことないよ」
僕は驚いて言った。実際、僕のことには全然興味を示さない彼女にじれったい思いをし
てはいたけど、彼女への関心は僕からは失われてはいなかった。副会長の告白への無関心
からは、優の冷たさを思い知った感じがして、そのことに少し悩んではいたけれど、それ
でも彼女への恋情や関心が無くなるなんてことは、全くと言っていいほど考えられなかっ
たのだ。
「ううん、いいの」
優は妙に悟ったように言った。
「結局、こうなっちゃうの、あたしは。人の話しを聞いてあげずに自分のことだけ話して
ばっかりのあたしなんか、やっぱり誰にも関心を持たれないのね」
「ち、違う。話を聞いてくれよ」
嫌な予感が脳裏を締め出した僕は、必死で彼女の話を遮った。
「先輩ならあたしの話を聞いてくれる。先輩に対しては、素直に自分のことを全部話せる
と思ったんだけど」
彼女の澄んだ黒い瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
「ごめんね、先輩。今まで迷惑だったでしょ」
「おい・・・・・・」
「もう、先輩を困らせることはないから。彼女の気持ちを邪魔することもないし」
「・・・・・・ちょっと、待ってくれ。僕は本当に君のことが」
その時、優は僕の言葉を遮って、唐突に、一方的に別れを告げたのだった。
「さよなら、先輩。今までありがとう」
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/03/27(日) 22:42:56.44 ID:q8J8eS9oo
僕は狼狽した。優の僕への無関心とか副会長への冷淡な態度とか、いろいろ僕が抱いて
いた不満なんか、彼女の涙を見た瞬間にどうでもよくなってしまって、このまま彼女に振
られたくないという焦りだけが僕の脳裏を占めていった。
「ちょっと待ってよ。君の話を聞くのが嫌になったなんて、君の誤解だよ」
僕は冷静に言おうと努めたけれど、僕の声は僕の意図を裏切って振るえ、そしてかすれ
ていたから彼女には聞き取りにくかったに違いない。「め、迷惑なんてそんなことは一度
も思ったことないよ」
優はまだ涙を浮かべたままで、何も言わずに僕の方を見返した。まだ、彼女を説得する
チャンスはあるのかもしれない。僕は必死になって続けた。
「僕は君が好きだし、君のことをよくもっと知りたい。だから、君の話をもっと聞きたい。
だから、君が素直に自分のことを話してくれてすごく嬉しかったんだ」
優はまだ沈黙していたけれど、その表情には柔らかさが戻って来たように感じられた。
「今、ちょっと他のことを考えちゃったのは悪かった。副会長を傷つけたかもしれないっ
て思ったんだけど、だからと言って君の話がどうでもいいなんてことはないよ」
「・・・・・・本当?」
ようやく優が小さい声で言った。
「本当だって。だから、僕に迷惑とか僕をもう困らせないとか言わないでよ。副会長のこ
とだって、僕は彼女と付き合う気なんてないんだし」
僕は早口で続けた。もう、なりふり構ってはいられなかった。「僕は君が好きなんだ。
これまでどおり、僕と付き合ってほしい」
優はようやく納得したようだった。それで、彼女は僕の方を上目遣いに見つめて言った
のだった。
「変なこと言ってごめんね、先輩。あたしの誤解だったね。あたしのこと、許してくれ
る?」
僕はほっとした。これで優との付き合いを続けることができる。
「もちろん。僕の方こそ誤解されるような行動してごめん」
優は、僕の手を握った。
「あたし、先輩のことが好き。あなたとお別れしなくてすんで本当によかった」
優が僕にはっきりと好きと言ってくれたのは、彼女と付き合ってから初めてのことだっ
た。
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/27(日) 22:43:38.81 ID:q8J8eS9oo
今日は以上です
また投下します
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:04:31.41 ID:HnyAwiIMo
副会長との一件で僕は危うく優を失いそうになったのだけど、結果としてみればこの出
来事のせいで、彼女は僕に対して初めて好きと言ってくれたのだった。この後の僕たちの
交際は、しばらくは順調そのものだった。
もちろん、優が僕を好きと言ったくらいで、僕と彼女の関係が劇的に変化したわけでは
ない。相変わらず、僕は優の話のいい聞き手だったし、彼女が僕のことを以前より知りた
がったわけでもなかった。それでも外形的には、以前よりはずっと僕たちの関係は深まっ
ていたように思えた。優は以前より直接的なスキンシップを求めるようになった。それは
手を握るとか、僕の乱れた髪形を彼女が手で直してくれるとか、その程度のものだったけ
れど、それでも僕はそんな関係の深化に満足だった。
今では昼休みだけではなく、僕の生徒会活動がない日は、放課後一緒に帰るようになっ
ていた。僕たちは手を繋いで低い声で話し合いながら帰宅した。そういう僕たちを眺めて
ひそひそと話す周囲の生徒たちの噂話でさえ、当時の僕には心地よかった。
こうして、しばらくは平穏な日々が戻ってきた。優に別れを切り出されるという危機を
乗り越えた僕は、もう優が僕のことに興味を示さないとか、そういうことに不満を感じる
ことを意識的に抑えるようにした。そういう感情を優に気が付かれたら、今度こそ僕たち
の関係は終ってしまう。僕は彼女のことが大好きだったから、もう小さな不満なんてどう
でもいいと思うようにした。優の一番近いところに僕がいて、彼女も一番僕を信頼してく
れる。それだけで十分じゃないか。僕は考えるようになった。
それに、僕のことを彼女ははっきりと好きと言ってくれたのだ。それは、自分のことに
関心を持ち、自分の承認欲求を満たしてくれる存在としてのみ好きということなだったの
かもしれないけど、それでも僕には優の気持ちが嬉しかった。そして、言葉で僕に質問し
てくれない彼女も、スキンシップ的な意味では僕を求めてくれるようになったのだし。
やがて僕も三年になり、受験を考えなければいけない季節が巡ってきた。この地域では
通学可能な範囲にあまり学校は多くないため、僕の学力を鑑みると選択肢はあまり多くは
なった。学年で十番以内の偏差値を保っていた僕に対して、進路指導の教員は学区内で一
番レベルの高い公立高校の受験を勧めた。それは妥当な選択肢だったけど、僕には別な思
惑があった。
優とは学校公認の仲になってはいたものの、この先も僕らの関係が永遠に続くなってい
う保証は何もなかったし、そのことについては僕も楽観視したことはなかった。特に、僕
が高校に入学すれば、優とは普段一緒にいられなくなる。僕はそのことに対して、結構ま
じめに悩んだけれども、優が同じ悩みを抱いているようには思えなかった。
優は確かに僕のことが好きとは言ったけれども、その度合いは、僕が彼女を好きな気持
ちより、大分熱意が低いのではないだろうか。僕たちがこの先も付き合っていくためには、
僕が積極的に手を打っていくしかないのだ。
僕はいろいろと考えるようになった。
優の成績はいい方だった。彼女はいろいろ考えすぎることはあるし、その関心は学業以
外に向けられることが多かったけれど、基本的な思考力や学習能力は十分だった。なので、
あまり家で勉強しているようには見えなかったけど、成績は常に学年で二十番以内をキー
プしていた。でも、それでは。
僕が学校側の勧めどおりに公立高校に受かったとしても、今の彼女の成績ではその高校
には合格できないだろう。毎年、うちの中学からその高校に進学するのは、十人以内の生
徒だったから。通学可能な範囲で考えると、次に偏差値の高い高校はうちの中学から比較
的近い場所にある私立高校だった。そこも進学校としては有名で、より上位の公立高校の
滑り止め校として成績上位の生徒を集めていた。
優の成績が受験時まで変わらないとすると、彼女にとっての実力相応な高校はその私立
高校だろう。そして、上位の公立高校はチャレンジ校ということになる。優が僕に合わせ
て、僕と同じ高校を受験してくれる保証はないので、僕のほうが将来を先読みして高校を
決めるしかなかった。僕にとっては、僅かな偏差値の差などどうでもよかった。優が入学
してくる可能性の高い高校に入学したかっただけなのだった。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:05:06.86 ID:HnyAwiIMo
私立高校に入学しようと僕は決心した。今の彼女の成績を考えると、彼女が上位の公立
高校に合格するのは厳しいだろう。可能性から考えれば順当に私立高校に入学する確率の
方が高いはずだ。もちろん、三年生になった優が受験に集中すれば、もともと地頭のいい
彼女のことだから上位校に合格するくらいの偏差値になっても不思議ではない。でも、優
はそういうことには淡白のようだった。可能性を比較すれば、私立高校に入学してくる確
率の方が高いはずだ。
僕は決心した。進路指導の教員や両親からは思い直すように説得されたけれど、僕は決
心を変えなかった。この学校は課外活動とかが豊富で僕に合ってると思います。僕はそう
言って、上位校を目指すように説得する大人を納得させた。もともと、偏差値的には公立
上位校と偏差値の差は僅差だということもあり、最後には両親も学校側も僕の選択に納得
してくれた。
進路に対して僕がここまで悩んでいたことを、優は知らなかったと思う。と言うか、僕
が中三の秋になって受験塾に日参するようになっても、彼女は相変わらず自分語りを続け
ていて僕のことなど聞こうともしなかったし。
それでも、受験勉強があるからしばらく会えないと僕が彼女に話した時、彼女は驚いた
ように僕に言った。
「そういえば、先輩もう受験じゃない。こんなところであたしと時間を潰していていい
の?」
僕は苦笑した。この子は本当に悪気がなくこういう性格なのだ。
「家とか塾では勉強してるからね。それに、志望校は今のままの偏差値なら間違いなく受
かるし」
そこまで話して、ようやく優は僕の志望校を聞いてくれたのだった。
「そこって、私立だよね。先輩はもっと上位の公立高校狙いかと思ってた」
彼女は順当な反応を示した。僕は、自分勝手な僕の想いに彼女を縛るつもりはなかった
から、親や教員向けの言い訳を彼女に繰り返した。
「そうかあ」
優も納得してくれたようだった。
「君は?」
僕はどきどきしながら、さりげなく優に聞いた。
「君はどの学校を目指しているの」
その時、彼女は少しだけ表情を暗くした。でも、思い直したように僕を見つめて言った。
「あたしは、先輩と同じ高校に行きたいな」
期待すらしていなかった優の好意的な言葉に、僕は驚き、固まり、そして最後には身体
中に幸福感が溢れてきた。
僕の志望校選びは独りよがりではなかったのだ。彼女も僕と同じ高校に行きたいと考え
てくれていた。僕はこの時、本当に幸福だった。この後に続く彼女の言葉を聞くまでは。
「でも、あたしは親の転勤次第でここの高校に入れるかわからないからなあ」
優は諦めたような口調で、苦笑しながら僕に言った。
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:06:01.24 ID:HnyAwiIMo
優は僕にとって、初めて好きになった異性だった。そして、彼女も僕のことを好きとい
ってくれ僕と同じ高校に進学したいとも言ってくれた。彼女がその種の踏み込んだ、ある
意味自分を裸にしかねない剥き出しになっている好意を他人に見せない性格であることは、
この頃には僕には よく理解できていた。親の仕事の関係で転校を繰り返していた彼女が
身に付けたのは、人に信頼されるテクニックだった。そして、それは成績と雑学以外にこ
れといったアドバンテージを持たない僕が、校内でのステータスを上げるために意識的に
駆使したテクニックと全く一緒だったのだ 。
こういうテクニックを駆使する人は、擬似的に周囲の知り合いから信頼を得ることはで
きるけど、逆に自分の真意を晒すことができなくなる。それはそうだろう。私は本当はあ
なたなんかに興味がある訳ではないけど、あなたの信頼を得るために、あなたのことに興
味があると自分に言い 聞かせてるんですよ。そんなことを言えるわけがない。
でも、彼女は僕には自分の考えや感情を隠すことなく伝えてくれた。最初は、彼女は僕
の傾聴テクニックを信頼して僕のことを自分の主治医のように考えてるのではないかと疑っ
たこともあった。でも、最後には彼女は僕のことを好きだと言ってくれたのだ。これが
同じスキルのない相手の好意なら、それは陽性転移という現象で君は本当に僕が好きなわ
けではないんだよということになる。でも、彼女もまた僕と同じスキルの持ち主だったか
ら、その彼女の告白は真実に違いない。僕はそう思った。
志望校を安全圏の高校に下げた僕にとって受験勉強はそれほどハードではなかったから、
相変わらず昼休みと放課後は優と過ごすことができた。受験勉強でしばらく会えないと偉
そうに彼女に宣言してしまった僕には少し気恥ずかしいことではあったけど、彼女はそん
なことは全く気にせず、僕の手を握りながら僕に話しかけてくれた。もちろん、僕自身の細
かな感情の動きになんか全く興味はない様子で、もう自身の境遇や正確について語りつ
くしてしまった彼女は、今では日常の出来事やそれに関する自身の感情や感覚をぽつぽつ
と話してくれたのだった。
僕は、半ばは好きな人に対する関心から、半ばはコンサルタントとしての義務感から彼
女の話しをずっと傾聴していた。別れの危機を乗り越えた僕は、そのことにを不満に思う
ことはなかったけれど、僕たちの将来の展望を考えると、たまにこの先どんな発展がある
のだろうかと不安に なることはあった。発展などないのかもしれない。この先、彼女と
付き合っていてもずっとこんな感じが続くかもしれない。でも、結局のところ僕だってま
だ中学生なのだった。この先、身体の関係とか婚約とか結婚とか、そういう人生の段階を
踏んで成長して行くことによって、僕たちにはまだ見えていない新しい出来事が起こるの
かもしれなかった。
僕は志望校に無事に合格した。念のために受験したより偏差値の高い高校にも合格した
けれど、僕は最初の予定どおり私立の高校に入学することにした。公立高校の方には入学
する気はなかったから、もともと受験しなくてもいいくらいではあったけど、変則的な滑
り止めのつもりだった。入試には何が起こるかわからないのだ、し公立高校の方も偏差値
的には十分に合格圏に入っていたこともあった。
僕は本命の合格発表を見て、職員室に寄って担任にその旨報告した後、二年生の教室に
向かった。優に報告しなければいけない。僕は二年生の教室の前まで来て、まだ授業が終
っていないことに気づいた。仕方がない、図書室で時間を潰していよう。考えてみればも
うしばらくは勉強のことを考えなくてもいいのだった。元々受験についてはあまりストレ
スを感じていなかった僕だけど、やはり合格というお墨付きを得ることは心の安定に繋が
っているようだった。僕は冷静な表情を浮かべて担任に合格の報告をしたけれども、今実
際に自分の心を探ってみるとそこにはやはり大きな安堵感が生じているようだった。
僕はリラックスして図書室の椅子に腰掛けた。これで中学を卒業するまでの間は優とま
たいつも一緒にいられるな。僕はそう思った。もちろん、僕が高校に進んだらもう優とは
昼休みばかりか、登下校の際さえ一緒にいられなくなる。それは、考えただけでも辛かっ
た。合格した喜びや安堵感が半ば吹き飛んでしまうほどに。でも、それは仕方のないこと
だった。僕らの学年が違う以上、そして中高一貫校に在籍しているわけでもない以上、ど
んなに仲の良いカップルにだって生じることなのだ。
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:06:36.79 ID:HnyAwiIMo
少なくとも、来年からまた優と一緒の学校に通えるだけの布石は打った。彼女の成績な
ら僕の進学予定の高校には合格するだろうし、仮にもっと彼女の偏差値が上がったとして
も彼女は僕と同じ高校に進みたいと言ってくれたのだ。
僕は、来年彼女と一緒に過ごせるように、打てる手は全て打ったつもりだった。あとは、
当面この一年間をどう乗り切るかだった。校内で一緒に過ごせないことは明らかだったけ
ど、放課後にどこかで待ち合わせするとか週末にも会うようにするとか、そういうことを
僕は勇気を振り絞って彼女に提案するつもりだった。まさか、来年まで会わないというわ
けにはいかない。そんなことには僕が耐えられないし、多分彼女のメンタルも持たないだ
ろう。彼女は僕に毎日自分の思いを吐き出すことで、、自分のメンタル面の正常さを保っ
ていたのだから。自分のことをケアする僕がいなくなって、ひたすら同級生の相談を受け
るだけの毎日なんて、彼女には我慢できるはずはないのだから。
ふと時計を見ると、もう午後の最後の授業が終る時間だった。僕は立ち上がり二年生の
教室の方に再び歩いていった。階段を上って二年生の教室が並ぶ二階のフロアに足を踏み
入れた時、副会長が僕を呼び止めた。
「先輩」
彼女は偶然出会った僕に対して、少し照れたように微笑んだ。「もう会えないかと思っ
てました」
「やあ。久しぶりだね」
僕は生徒会活動から引退していたから彼女と話すのは久しぶりだった。
「あの。先輩、今日合格発表だったんですよね?」
僕に振られたのに、彼女は僕の合否を心配してくれていたのだろうか。僕は少しだけ暖
かい気持ちになりながら答えた。
「おかげさまで、第一志望校に合格したよ。心配してくれてありがとう」
「おめでとうございます。本当によかったです」
考えてみれば優とは違ってこの子は僕のことだけ気にしてくれているんだな。一瞬そん
な感想が浮かんだけれども、もちろん今自分が焦がれるほど求めている女の子が誰なのか
については、今更勘違いする余地はなかった。
「じゃあ、僕はちょっと用事があるので」
僕は言った。
「はい。またです」
彼女は名残惜しそうに言ってくれた。彼女に別れを告げた僕は、ドアが開きっぱなし
の優の教室を覗き込んだ。
・・・・・・ざっと見た限り優の姿は見当たらないようだった。おかしい。
今日が僕の合格発表の日だと言うことは彼女も知っているはずだった。約束していたわ
けではないけど、受験生が今日の結果を担任に報告しに学校に来ることは、校内の人間な
らみんな知っていたはずだった。その日の放課後に優が教室にいないなんて。図書館で待
っていることはありえない。僕自身がさっきまで図書館にいたのだから。きっと、彼女は
ちょっと席を外しているだけなのかもしれない。僕は優の席の机を見た。その席は完全に
片付けられていて、机の上にカバンがおいてあることもないどころか、机の中にも物一つ
入っていないようだった。
どうしたのだろう。少し不安になった僕は背後から話しかけられた。
「先輩」
副会長だった。まだ、ここにいたのか。僕が返事するより早く彼女が言葉を続けた。
「もしかして、優ちゃんを探してるんですか」
「あ、ああ」
僕は口ごもった。副会長はなぜ自分の告白に僕が応えなかったのかを知っていたのだか
ら、その時の僕の心境は複雑だった。
それは遠慮がちな小さな声だった。ここで誤魔化してもしょうがない。僕は素直に答え
た。
「うん」
「あの、ひょっとして先輩。ご存知ないんですか」
おどおどとした副会長の声。一体何が言いたいのだろう。言いたいことがあるなら早
く言えよ。僕はその時、理不尽にも八つ当たり気味な感想を彼女に対して抱いた。
「・・・・・・何が?」
「優ちゃん、一昨日転校したんですよ。確か、東北の方に転校するって言ってました」
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:07:51.48 ID:HnyAwiIMo
僕は、高校に入学するとまず生徒会に入った。新入生なので、もちろん選挙の必要がな
い平役員からのスタートだった。同時に、これまでの雑学的な趣味の対象の一つだったパ
ソコン関係の部にも入部した。
クラスではもう傾聴やコンサルタンティング関係のスキルを発揮させなかったから、僕
は目立たない生徒の一人だった。それでも成績が良かったことと一年生ながら生徒会のメ
ンバーになったことで、ある種の秀才生徒的な位置は確保できていた。僕は生徒会活動と
部活に打ち込んだ。生徒会では庶務から初めて会計や書記を経験したけど、どの仕事にも
能力の全てを注ぎ込んだせいで、先輩たちの受けはとてもよかった。一年生の半ばで、僕
はもう次期生徒会長と目されるようにまでなっていた。
平行していたパソコン部の方は、廃部寸前の過疎部だった。もともとは、学校側の肝入
りでIT教育の一環として設立されたらしいのだけど、当時のパソコン部は学校側の期待を
裏切りネトゲ廃人の巣窟と化していた。部室には高スペックなPCが溢れていたけれど、そ
のPCで行なわれていたのはネトゲのプレイはもとより、萌え絵の制作や初歩的なゲームの
プログラミング、そして極めつけは単なる2ちゃんねるなどのネット閲覧だったのだ。
僕はその両方を楽しむことができた。退廃的なパソ部の先輩たちも健全な高校生には不
要なはずのITスキルだけにはやたら詳しかったから、僕はずいぶんとここでネット事情の
勉強ができたのだった。そして、生徒会に続いてここでも僕は来年の部長候補に祭り上げ
られた。そもそも部長なんてやりたがる部員は皆無に等しかった部だという事情もあった
けど。
こうして僕の一年生の生活は過ぎて行った。もともと僕は、高校一年生の生活なんかに
期待していなかった。それは次年度に下級生として同じ高校に入学してくる優を待つだけ
の退屈な時間に過ぎないはずだったのだ。でも、もういくら待っても優が僕の後を追って
入学してくる可能性はない。
当時の僕は抜け殻のように定められた日課を機械的に消化していた。もちろん、こんな
僕に話しかけてくれる友だちもいなければ、以前のように言い寄ってくる女の子もいなか
った。
なぜ、僕はあの時気がつかなかったのだろう。あの時の恋も陽性転移の一種である可
能性を。優の僕への好意だけが特別だなんて理由は何もなかったのに。そして、逆転移
という言葉がある。これは、コンサルタントがクライアントに親しく接して過ぎた結果、クラ
イアントに対して過度に感情移入してしまう現象のことを言う。僕の優への恋もそれかも
しれなかった。どうしてあの時僕はあんなに自信満々だったのだろう。
生徒会で活発で前向きに活動していてもパソ部で退廃的な活動をしていても、その考え
は僕の脳裏を占め一向に去っていってくれなかった。
どんなに辛い出来事でも、時間という治療法に勝るものはないらしい。何も言わず僕か
ら離れていった優のことであんなにも傷付いていた僕だけど、二年に進級する頃にはさす
がに彼女のことを思い出して悩むことも少なくなってきていた。
うちの学校は公立上位校をライバルにしていたから、受験や進路指導に相当力を入れて
いた。その一環として定められたいたルールの一つに、生徒会や部活のトップは二年生が
勤めるというものがあった。平たく言うと生徒会長や各部の部長は二年生が就任する。三
年生の生徒会や部活への参加までは禁止されていないけれども、受験生にとって負荷の高
い役員や部長への就任は禁止されていたのだ。
それで、実感としては二年生になった今でも、まだついさっき生徒会や部活に加入した
ばかりのような意識だった僕だけど、まずパソ部の部長にさせられることになった。こち
らは手続きは簡単だった。前部長の鶴の一声で話はあっさっりと決まってしまった。もと
もと集団行動が苦手な部員たちが集まっていただけに、部長なんて面倒くさい仕事をした
がるようなやつはいるっはずもなく、部長の提案に全部員一致で僕が部長に選ばれたのだ
った。
生徒会の方は、もう少し面倒だった。生徒会長は全校生徒の中から選挙で選ばれること
になっていたから、前生徒会長は僕にその職を譲ると決めたようだったけど、一応選挙と
いう手続きを踏む必要があった。
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:08:45.39 ID:HnyAwiIMo
部活と生徒会の先輩の勧めのどちらも、僕は二つ返事で引き受けた。優を失って他に熱
中することが見つからない僕にとっては、それは好都合な提案だった。僕はもう、同級生
たちのカウンセリングはしていなかったし、かといってあの幸せだった日々のように優と
いつでも一緒にいるわけでもなかったjから、せめてこういう活動の場に自己実現をしようと
考えたのだった。
形ばかりの選挙が行なわれ、その結果僕は生徒会長に選出された。これで僕は、パソ部
部長と生徒会長との二つの肩書きを持つことになったのだった。
そしてその頃、三年の先輩たちが引退する代わりに、一年生たちが生徒会や部活に入っ
てきた。パソ部の方は相変わらずといっていいだろう。女子はゼロ。まじめにプログラミ
ングを勉強したいやつもゼロ。自宅以外でもネトゲとか2ちゃんねるとかしたやつくらい
男しか入部希望者はいなかった。
生徒会の方は、それよりも前向きな後輩たちが希望してくれていた。うちの学校では、
生徒会長と副会長はセットで選挙で選ばれるけど、それ以外の役員は生徒会長が承認すれ
ば就任できるシステムになっていた。副会長は、同学年の真面目な女子だった。僕が希望
したわけではなく、前会長と副会長が勝手にカップリングしたコンビだった。彼女に個人
的な興味はなかったけど、生徒会を運営するには格好のパートナーだった。
一、二年生に向けて公開で募集していた役員ポストは、監査、会計、広報、庶務、そし
て人数不定の書記だった。まじめな学校ということもあり結構な応募者がいた。僕と副会
長は手分けして面接した。実はポストの半分以上は前年度からその役職についていた二年
生が継続することが普通だったから、全校の選挙で選出された会長と副会長以外のポスト
は毎年公募するといっても、実は前任者がほぼそのまま選ばれるという出来レースのよう
なものだった。それでも、昨年度の役員が今年はもう続けたくないと言って応募しない例
も少なからずあった。僕は一年生で生徒会の役員になったのも、そういう自主引退した先
輩の後釜としてだった。
そういうポストだけはしっかりと面接しなくてはいけない。僕はそういうポストへの応
募者の半分を面接した。特に印象に残る生徒はいなかったけど、とりあえず無難な生徒を
役員として選んだ。副会長の選んだ役員は数人だった。僕は直接面接していないので、そ
の生徒たちとは改選後の最初の役員会で出会うことになったのだ。
その中に、遠山さんという一年生の綺麗な女の子がいた。
十人前後の生徒会の新役員が集った席上で、僕は生徒会長としてあいさつしたのだけど、
視線は遠山さんという新入生の書記に奪われたままだったかもしれない。優に突然姿を消
され、要するに優に黙って振られたに等しい僕は、一年間異性に惹かれることはなかった。
女々しいかも知れないけど、異性のことを考えるときには常に優の笑顔が頭に浮かんでい
たのだった。
その僕が遠山さんを見た時、一瞬目を奪われるほど彼女の姿がまぶしく見えた。まるで、
優に好きと言われた時のような戸惑いが僕を襲った。でも、僕はすぐに体制を立て直した。
たかが可愛い下級生を見たくらいで動揺するとは情けない。優みたいに内面からも僕を魅
了するような女じゃないと、僕は動じないんだ。そう思ってその時の僕は同様を抑えて、
先輩らしく新人たちにあいさつしたのだった。
遠山さんが生徒会の役員に加わると、何となく男の役員たちが彼女を巡って微妙な駆け
引きを繰り広げるようになった。僕は内心不愉快だった。ここは生徒活動を自主的に管理
する組織なのに、恋愛とかに現を抜かしていてどうするのだ。僕は中学生の時の自分を棚
にあげて憤った。これで遠山さんが有頂天になり男たちを操っていたりしたら、僕も断固
として男共や彼女に注意したと思うけど、遠山さんは男たちの誘いに全く興味がないよう
で、むしろ自分を巡るそういう男たちの争いに無邪気に戸惑っているようだった。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:09:38.82 ID:HnyAwiIMo
遠山さんを争っている役員たちの確執に手を焼いた僕は、副会長に相談した。意外なこ
とに、副会長は結構、彼女のことを知っているようだった。
「心配することはないと思うよ」
副会長は言った。「遠山さんって、同じ学年の池山君っていう子と付き合ってると思
うし」
「そうなの? でも、何で君がそんなことまで知っていて、あのバカどもはそれすら知ら
ないで一生懸命なのさ?」
「たまたま駅が一緒なのよ」
副会長は言った。「で、その駅で毎朝遠山さんと池山君っていう男の子がツーショッ
トで登校しているのを見ているから」
それなら間違いないだろう。うちの役員のバカどもは報われない争いを自分勝手に繰り
広げているだけなのだった。
「まあ、既に遠山さんと池山君って噂になってきてるから」
副会長は続けた。「あいつらがそれを知ったらこの騒動ももうすぐ治まると思うよ」
結果としては彼女の言うとおりだった。役員たちは遠山さんと池山と言う同級生の存在
を知り、不承不承遠山さんに言い寄ることを諦めたようだった。
遠山さんは仕事が出来る子だった。最初は目立たなかった彼女だけど、一学期が過ぎる
頃には既に生徒会の主要戦力といっていいくらいの存在に成長していた。僕はその頃まだ
優との破綻を引き摺っていたから、遠山さんがどんなに可愛いとはいえ彼女ことはよく仕
事をしてくれている下級生としか認識していなかった。そのまま、僕にとっては何も進展
しないままで一年間が過ぎた。僕は三年に進級し、この学校の通例どおり生徒会長からも
パソ部の部長から引退する時期となった。
ところがこの年、いろいろと学校の制度改革が断行されたのだった。他校と比べて生徒
会や部活の引退時期が早いことなどが、高校を受験する生徒たちには不評だとして、改革
の槍玉にあがっていたようだ。当時は進学実績も悪くなかったことから、そういう改革を
する余裕があったのかもしれなかった。結局その改革案は学校法人の理事会でも承認され、
僕は三年生になってもパソ部の部長と生徒会長を続投することになった。そして三年生の
学園祭終了後が、新たな三年生の任期終了とされた。
新しく生徒会の役員になった遠山さん、遠山有希さんはよく気がつく子だった。見た目
も可愛いし人気もあるのだけど、それを周囲にひけらかすことなく自然に生徒会に溶け込
んでいた。きっと頭がいい子なんだろうな。僕は一年生にして役員の中心となって働くよ
うになっていた彼女を眺めていて、よくそう考えたものだった。自分が可愛くて人気があ
ることに気がついていないような天然の女の子では絶対ない。自分の人気を誇らないよう
に意識して行動しているに違いない。その行動のせいで彼女は、可愛いけど全然それを鼻
にかけないいい人という評判を生徒会内で勝ち取っていた。多分、クラスの中でもそれは
同じだったのだろう。
僕は当時はまだ成就しなかった失恋を引き摺っていたから、彼女のことが恋愛的な意味
で気になるということはなかったけど、ここまで意識して自分の行動を律する彼女には少
し関心を抱いたのだった。それはある意味、優と同じだ種類の女の子だった。彼女も昔周
囲の生徒に面倒見のいい女の子という演技をしていたっけ。でも、優は相当自分に嘘を言
い相当無理をしてそうしていたのだけど、遠山さんの行動は何か自然だった。そういう意
味でも僕は彼女に関心があったのだ。
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:10:14.74 ID:HnyAwiIMo
僕が三年生になりしばらくたったある日、遠山さんと池山君という男子生徒が付き合っ
ているらしいという情報を教えてくれた副会長が、また新たな情報を仕入れてきた。副会
長の話によると、今まで二人きりで登校していた遠山さんと池山君という男は、今では四
人で一緒に登校しているというのだ。今まで二人きりだった彼らに加わったのが、遠山君
の妹だという麻衣さんという一年生の子と、広橋君という遠山さんと池山君の同級生だと
いう。
「何人で通っていてもいいけどさ。どっちにしたって遠山さんて池山君と付き合ってるん
だろ?」
僕は副会長に聞いた。ところが副会長が話してくれたのは意外な話だった。どうも、遠
山さんと池山君が付き合っているというのは単なる噂らしいと言うのだ。
それどころか二年生の、遠山さんたちをを知っている生徒たちの噂によると池山君と広
橋君は、遠山さんを巡って三角関係のようになっているらしい。そして、遠山さんの気持
ちはどちらかというと、広橋君の方に靡いているのだと副会長は続けた。
「その麻衣ちゃんって子も極めつけのブラコンなんだって」
副会長は楽しそうに話した。こいつは前から恋愛関係の噂話が大好きなのだ。でも、僕
が麻衣さんのことを知ったのはこの時が初めてだった。そして、実は僕は広橋君のことだ
けは知ってはいたのだ。
マンモス校ゆえに下級生のことなんて部活でも一緒でない限り知り合う機会なんてない
んだけれど、彼のことは噂でよく聞いていた。何しろ無茶苦茶成績がいいらしい。それも、
何でこんな学校にいるのか不思議だといわれるレベルで。ある先生が話してくれたことに
よると、彼は受験直前にこの町に引っ越してきたそうだ。それで、あまりこの地方の高校
事情を気にすることなくとりあえず受験できる高校を受験したらしい。僕だってこの学校
より高いレベルの学校に入学できたのだけど、話に聞く広橋君とはレベルが違うようだっ
た。僕は偏差値とか学校の成績にそれほどには重きを置く主義ではなかったけれど、広橋
君の模試での偏差値を聞いたときはさすがに嫉妬心のようなモヤモヤ感を感じたものだっ
た。
「会長は知らないだろうけど、広橋友君ってすごく成績がいいんだよ」
副会長が言った。「そのうえ、超がつくほどのイケメンだし」
では成績がいいだけではなく顔もいいのか。外見に関してはコンプレックスを抱いてい
る僕にはそれは少し不愉快な情報だった。要は全ての点において僕は広橋君に劣っている
ということではないか。
「池山君っていうのはどういうやつなの?」
僕は聞いてみた。副会長の話のとおりなら、彼は古くからの知り合いで、一時付き合っ
ていると噂されるほど仲がよかった遠山さんを広橋君に取られたことになる。その時僕は、
何となくネトラレという単語を頭に浮かべだ。
「普通だよ、普通。顔も普通だし成績も普通」
副会長はあっさりと池山君のことを切り捨てた。
「じゃあ、さぞかし遠山さんを奪われて落ち込んでいるんだろうなあ」
僕が男性に同情するのは珍しかったけど、その時は自分の成就しなかった苦しい恋愛経
験のことが、池山君が今陥っている状況に重なったのだった。もちろん僕は寝取られたわけ
ではなかったけど。
「確かに最初は三角形ぽかったらしいんだけどね。それがね、最近はそうでもないみたい
なの」
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:12:02.32 ID:HnyAwiIMo
「・・・・・・どういうこと? ひょっとして彼は重度のシスコンだとか」
「そうじゃなくて・・・・・・池山君、最近ちょっと変った女の子と仲がいいんだって」
なんだ、池山君と遠山さんはお互いにその程度の関係だったのか。副会長の情報を信じ
ていた僕は、ずっと遠山さんは池山君と付き合っているものだと思っていた。でも、お互
いにそれほど深い関心はなかったということか。この辺で僕はこの話題に飽きてきていた。
もともと遠山さんにだって深い興味があるわけじゃなかったし。
「変った子って誰? 二年生?」
一応僕は聞いた。
「うん、遠山さんと池山君と広橋君って同じクラスなんだけど、その同じクラスの女の子
だって」
「ふ〜ん。まあ、丸く収まりそうでよかったってことか」
「まあ、そうかもしれないけど。でも、池山君と最近仲のいい子がちょっと問題で」
「問題?」
「会長は知らないでしょうけど、その子の名前は二見優さんと言って」
副会長はそこで、彼女のフルネームを告げた。
・・・・・・それは、かつての中学の時の僕の恋人の名前だった。同姓同名の別人でない限り、
彼女は僕の知らない間にこの学校に入学していたのだった。
僕と同じ学校に入学していた優は、そのことを僕に知らせようともしなかったのだ。僕
がこの学校にいることは知っているはずなのに。
僕は二人の女の子に興味を抱いた。それは嘘ではなかった。でも、遠山さんに対しては
恋愛感情はなかったのだ。
その時僕は、驚いている表情の遠山さんを生徒会室の近くの人気のない階段の踊り場に
連れ出し、君が好きだと告白した。計画通りに彼女に振られるならいいけれど、万一彼女
が僕のことを受け入れたとしたら、僕は彼女に対して酷いことをすることになる。それで
も僕は優のことを知るためにはそうするしかなかった。
「・・・・・・迷惑だったら謝るよ。でも遠山さんのことは前から気になってたんだ。今まで君
に振られるのが怖くて言えなかったけど」
僕は用意していたセリフを言った。それは演技ではあったけど、それでも女の子を前に
告白するという状況に緊張し、結構な早口になってしまった。
「え?」
「遠山さん、好きです。僕と付きあってください」
生徒会長である先輩の僕に告白されるなんて夢にも思っていなかったのだろう。彼女は
純粋に驚いているようだった。
「駄目かな」
「先輩」
彼女にとってイケメンでもなんでもない僕なんかを恋愛対象として考えたことはなか
ったのだろう。彼女は言いよどんでいたけど、結局はっきりと答えた。
「ごめんなさい。あたし好きな人がいるんです」
「先輩のこと、生徒会長としては本当に尊敬してます。でも、あたし片思いだけど好きな
人がいて。だからごめんなさい」
「・・・・・・そうか。わかったよ、君を困らせて悪かった」
僕はそう言った。ここまではある意味わかりきった展開だった。ここからが本番だった。
僕は気を引き締めた。
「先輩に勘違いさせたとしたら本当にごめんなさい」
遠山さんが申し訳なさそうに言った。こいつも結局自分に自信があるのだろう。僕に勘
違いさせてってどういうことだよ。僕は君なんかの言動に惑わされたわけじゃないぞ。一
瞬、作戦を忘れてリア充な人種への憎悪が沸き起こったけど、僕はそれを抑えた。今はそ
んなことでエキサイトしている場合ではなかった。
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/07(木) 23:14:22.41 ID:HnyAwiIMo
「いや。僕が勝手に思い込んだだけだから。君の好きな人って」
僕は緊張しながらも遠山さんの恋愛関係を探るための言葉を口にした。
「え」
「何となくわかる気がするよ」
「え?」
「彼なら祝福するしかないね。僕なんかじゃ全然敵わない。彼は成績もいいしスポーツも
万能だし何よりイケメンだしね」
「知っているんですか」
どういうわけか彼女は当惑しているようだった。
「君を困らせて本当に悪かったよ。もう二度とそういうことは言わないから、これまでど
おり生徒会の役員でいてくれるか」
「はい」
「ありがとう。まあ、ライバルが広橋君なら負けてもしかたないか」
僕はついにその名前を口にして、彼女の反応を覗った。
そうじゃありませんと否定するか。あたしが好きなのは池山ですと言うのか。僕は固唾
を飲んで彼女の返事を待ち受けたけれど、結局この作戦は失敗に終ってしまった。
遠山さんは否定も肯定もせずに、自分の好きな男をうやむやにしてしまったのだった。
この日の努力もむなしく、結局僕は池山君は遠山さんに好かれているのか、それとも彼
女とはもう何の関係もなく、副会長が聞いてきた噂のように、僕の昔の彼女と恋人関係に
あるのかを知ることは出来なかった。
僕の遠山さんへの告白は失敗に終った。表面的な意味では、彼女は好きな男がいるから
といって僕を拒否したので、客観的に見れば僕の告白は空振りだった。そして実質的な意
味で言っても、告白することによって明らかになると思っていた優と池山君、遠山さんと
広橋君の関係は相変わらず曖昧なままだった。
遠山さんは僕が広橋君の名前を出した時、少し戸惑っているようだったから、ひょっと
したら遠山さんと池山君が付き合っているのではないかという推測は成り立った。でも、
それは証拠のない単なる推論に過ぎなかった。結局のところ僕は、副会長から聞かされた
曖昧な噂話以上の情報を入手することができなかったのだ。
優が同じ高校に入学していたことは、それからまもなく確認することが出来た。ある朝、
僕は早めに登校して一年生の校舎の入り口を遅刻ぎりぎりまで見張ったのだ。
自分が目立つのはまずいと思った僕は、中庭の噴水の陰から一年生の校舎に吸い込まれ
ていく多数の一年生たちを必死で眺めていた。見張りを初めて一時間経っても優の姿は見
つからなかった。そのまま、そろそろ自分の校舎に行かないと僕自身が遅刻してしまうく
らいの時間になってしまっていた。優を見落としたはずはなかった。僕は瞬きすら我慢す
るほど集中して登校する一年生たちを見つめていたのだから。
もう諦めて自分の教室に走って戻ろうとした時だった。校門から一年の校舎に走ってい
く女性の姿があった。遅刻ぎりぎりになって教室に張り込むだらしない生徒。でも、よく
見るとそれは優だった。
中学の頃の優は周囲から浮くまいと、目立つ行動は避けていたはずだった。少なくとも
遅刻ぎりぎりに駆け込むような姿は一度も見かけたことがなかった。それでも、今の僕の
目の前で校舎に駆け込んでいったのは、久しぶりに見る優に間違いなかった。
昔より少し髪が伸び、スカートも短くなってブレザーの下の白いブラウスの胸元のボタ
ンも結構外していて、それは今時のお洒落な女子高生そのものだった。外見は変っていた
けれど、僕にはそれが僕の中学時代の彼女だとすぐにわかった。
190 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/07(木) 23:14:53.44 ID:HnyAwiIMo
今日は以上です
また、投下します
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/04/08(金) 18:25:49.19 ID:ntb0DuEnO
なんか会長の告白シーン唐突すぎる
優が一年生なのか二年生なのかも混乱してる
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 22:56:07.72 ID:GO5crQa4o
やはり同姓同名の他人ではなかったのだ。僕は胸を痛めた。彼女にとっては僕なんて過
去の思い出に過ぎないのだろう。だから、同じ学校に入学してもそのことを僕に知らせる
気にすらならなかったのだ。それは僕にとっては厳しい発見だった。ある意味、優が黙っ
て転校したことより厳しかった。
あの時は、僕たちは家庭の事情というやつに振り回された悲劇のカップルだと思い込む
ことが出来た。彼女が黙って転校して行ったのも、僕に話したとしてもどうにもならなか
ったのだからだと。
でも、こうして同じ学校に入学したことを、優が僕に話そうという発想がない時点で、
僕と優に起こった出来事は僕が思い込んでいるようなロマンティックな悲劇などではなく、
単に彼女が僕のことなんか気にしていなかったということになる。それも、おそらく彼女
が転校した時から。いや、もしかしたら僕と付き合っていたときから。
僕の告白に応えなかった遠山さんだけど、その後の生徒会活動には普通に顔を出してく
れていた。学園祭が近かったので、今では主戦力となっている彼女が僕のことを気にして
生徒会や実行委員会に顔を出しづらくなったらどうしようと思ったのだけど、責任感が強
いせいか彼女は普通に活動に参加してくれていた。
ただ、僕が堪えたのは遠山さんがやたらに僕のことを気にするような行動を取るように
なったことだった。僕を振ったことを気にしていたのだろうか。彼女は告白を機に僕とよ
そよそしくなるより、今まで以上に僕に親しく話しかけることによって、僕の告白は気に
してませんよ、今までどおりいい先輩後輩でいましょうと訴えているようだった。
でも、そんな彼女の行動はかえって生徒会役員たちの好奇心を刺激してしまった。
「石井会長と遠山さん、最近妙に仲良くない?」
「遠山さんって本当は石井会長狙いだったのかな」
そんな噂が流れているよと僕に教えてくれたのは、副会長だった。
「ばかばかしい」
僕は切り捨てた。「だいたい遠山さんには、広橋君だか池山君だかがいるんだろ」
「でも最近の彼女、妙にあんたに話しかけたりあんたのそばに擦り寄ったりしてるからなあ」
副会長は例によってこの手の話題が大好物のようだった。
「あんたのこと、実は好きだったりして」
そんなことはないことは僕が一番よく知っていた。そしてこの噂を鎮めるには、僕が遠
山さんに告白し振られたという事実を明かせばそれで澄むことだった。でも、二見さんの
彼氏を知ろうとして仕掛けた告白とはいえ、そんな事情まで話すわけにいかないから、そ
れだと世間に出回る事実は僕が遠山さんに振られたということだけになる。それは、プラ
イドだけは無駄に高い僕には耐えられなかった。
なので、無念ながらこの噂は放置するしかなかったのだけど、その後も遠山さんは僕に
気を遣うあまり、今までより僕に近づき僕に優しく接することをやめなかった。それは僕
の精神状態に微妙な影響を与え始めた。僕はあくまで作戦の一環として遠山さんに告白す
る振りをしただけなのだけど、彼女が僕をこれ以上傷つけまいと、告白前と変わりないと
いうか告白前より親密に接してくれるようになると、僕は何だか本当に彼女に振られたよう
な気分になってきた。
ただでさえ、優の僕に対する本心を知った後なのに、遠山さんに本気で恋して、そして
振られた気になっていった僕は、だんだんといつもの冷静さを失うようになっていった。
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 22:57:37.82 ID:GO5crQa4o
そのうち、ひそかに危惧していたとおり、僕が遠山さんに告白して、彼女がそれを断っ
たという噂が生徒会内に流れ始めた。それは噂ではなく事実だったのだけど、僕は本気で
遠山さんが好きになったわけではない。でもその噂はその部分は抜きで、本気で僕が彼女
を好きになり告白して、そして振られたということになっていた。僕は噂をやはり副会長
から聞かされたのだった。
「遠山さんがあんたのことを好きなんじゃなくて、逆だったか」
副会長は遠慮会釈なく僕に言った。「遠山さんって、あんたのことが好きだから最近あ
んたに接近してるんじゃなくて、振ったことが後ろめたくてあんたにも気を遣って欲しく
なくて、今まで以上にあんたと接するようにしてたのね」
僕は反論しようとしたけど、何といっていいのかわからなかった。
「元気だしなよ。そもそも遠山さんには広橋君がいるってあたしが教えてあげたのに、あ
んたはだめもとで告ったんでしょ」
僕が遠山さんに告白した場所には誰もいなかったはずだ。それを知っているのは僕と遠
山さんだけなのだ。そして、遠山さんは僕に告白されそれを断ったことを自慢げに周囲に
話すような子ではなかった。いったい誰がこんな話を広めているのだろう。僕は必死に考
えたけど、そんなことをする人間のことは思いつかなかった。
僕はもう副会長に返事をする気すらなくしていた。それから、僕は生徒会では遠山さん
を避けるようになった。そんな僕に彼女は戸惑っていたようだけど、周りの役員たちはや
っぱりねという視線で僕を見ているようだった。
やがて僕のプライドは、僕を気遣うような、そして僕をからかうような役員たちの視線に
耐えられなくなっていった。
生徒会に居辛くなった僕は、会長としての最低限の仕事を済ますと、僕が部長を務めて
いるパソコン部で時間を過ごすようになった。ここは気楽な場所だった。僕は部長だった
けど、ここの部員を組織として動かすとかみんなで一丸となって何かをやり遂げようなん
て無駄なことを考えたことは一度もなかった。
この部は極度な個人主義的な雰囲気が特徴であり、部員たちはデスクトップPCの前で
思い思いに勝手なことをして放課後の時間を過ごしていた。まるでネカフェのようだった
けど、それがパソ部の部活の実態だったのだ。一応僕はこの部の部長なのだけど、ここに
逃げ込むとそういうことは別にどうでもいいやと感じられるような雰囲気の場所なのだっ
た。
ある日、生徒会のミーティングで戸惑っているような遠山さんや、からかい混じりの役
員たちに最低限の指示を与えた後、僕は逃げるようにパソ部の部室に来た。いつもは静か
にPCの前で好き勝手なことをしている部員たちが、どういうわけか困惑したように一人
の女の子を囲んで何やら話し合っている姿が僕の目に入った。
「どうしたの」
僕は誰にともなく声をかけた。何で男だらけのこの部室の真ん中に、こんな部に似合わな
い一年生らしき女の子が目を伏せて座っているのだろう。
「ああ部長。ちょうどよかったです」
二年生の副部長が心底助かったという表情で言った。「彼女、入部希望者なんですけど」
それで、こいつらは困惑した様子だったのか。僕は少しだけおかしかった。僕はイケメ
ンでもリア充でもないけれど、こいつらのように女の子が部室に来たというだけでこれほ
ど面食らってどうしたらいいのかわからなくなるということはない。僕はその女の子を見
た。
それではこの女の子はパソ部に入りたいといういうのだろうか。個人的にアドバイスす
るならば止めておいた方がいいよといいたところだけど、部長としてはそうもいかなかっ
た。
「僕が部長なんだけど、君はパソコン部に入部希望なの?」
よく見ると、その子はすごく可愛らしい子だった。優とか遠山さんのように、きれい
で可愛らしいけど、実は意志が強いという感じはせず、か弱く守ってあげたいという外見
の少女だった。徽章を見ると一年生だ。
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 22:58:49.00 ID:GO5crQa4o
「はい。いろいろネットのこととか勉強したくて」
その一年生の女の子はきれいな顔を上げて僕の方を見て言った。意外としっかりとした
口調だった。
「そうか。入部はいつでも歓迎するけど・・・・・・でも、うちって女の子は一人もいないんだ
けどそれでも平気なの」
僕はまず気になっていることを確認した。
「あ、はい。女子でも入部させてもらえるなら」
彼女はあっさり答えた。
そこまで言うなら、彼女の入部を断る理由はなかった。僕は彼女に聞いた。
「じゃあ、名前と学年とクラスを教えてくれる?」
「はい。名前は池山麻衣といって学年は一年でクラスは」
僕はそれを聞いて呆然とその美少女を眺めた。では、この子がブラコンだという、池山
君の妹なのだ。
その時、ふと僕の心に次の作戦が浮かんできた。遠山さんから聞き出せなかった情報も、
この池山さんからなら聞き出せるかもしれない。僕はその思いを隠して精一杯の笑顔を浮
かべて彼女に言った。
「パソコン部にようこそ。君を新入部員として歓迎するよ」
その時、黙って池山さんに見蕩れていたらしい副部長以下の部員たちが拍手を始めた。
リアルな女性は苦手なはずの部員たちも、彼女の可愛らしい容姿に無関心ではないようだ
った。
・・・・・・今度はうまくいくかもしれないな。部員たちと一緒になって拍手しながら僕はそ
う思った。
その日から僕は、遠山さんと顔をあわせて一緒に仕事をすることに対して、気が重く感
じていたこともあり、生徒会では最低限の指示をするだけで、残った時間はパソコン部に
顔を出すようにした。副会長はこれまで僕が生徒会活動に打ち込んでいたことを知ってい
ただけに不思議そうで はあったけど、結局のところ遠山さんに振られた僕が、この場に
いることがいたたまれないのだろうという解釈に落ち着いたようだった。そしてそれは他
の役員たちの共通認識でもあるようだった。
「あんた考えすぎだと思うけどな」
学園祭に向けた作業を分担して開始した生徒会役員と学園祭実行委員たちを尻目に、
生徒会室を去って行こうとする僕に副会長は話しかけられた。
「遠山さんと一緒に居づらいんでしょうけど、告って振られることなんて別に恥かしいこ
とじゃないじゃん。あんた変なところでプライド高すぎだよ」
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 22:59:19.98 ID:GO5crQa4o
彼女の言葉は僕の胸に突き刺さった。確かに僕は遠山さんのことを本気で好きなったわ
けではなかった。それでも、彼女に告って彼女に振られたことは事実だったし、そのこと
が生徒会で噂になり哀れむよう視線で僕がみんなに見られていたこともまた事実だった。
そして、真実 はどうあれ、そういう状況に僕のプライドは耐えられなくなっていたのだ。
僕はそのことについて副会長に言い訳することすらできなかった。
「何を考えているのか知らないけど、僕は部活に行かなきゃいけなくなっただけだよ」
僕は彼女に言い訳した。
「あんたの部活ってパソ部でしょ? 部長なんかいてもいなくても同じでしょうが」
副会長は僕の言い訳なんか頭から信じていないようだった。
「新入部員が入部したんだよ。一年生だし唯一の女の子だからあいつらには任せられない
んだ」
僕はその新入部員が池山君の妹であることは副部長には話さなかった。僕はそれだけ言
い訳すると、副部長の追及を逃れパソ部の部室に向かったのだった。
僕が部室に入った時、池山さんは部室で一人ぽつんと取り残されていたようだった。彼
女は落ち着かなげにあてがわれたPCの前で一人座っていた。どうやら副部長や部員たち
は情けないことに彼女を指導するどころか世間話さえすることができず、とりあえず彼女
にPCをあてがってそのまま放置したようだった。もっとも、ちらちらと彼女の方を盗み
見している部員はいたようだけど。
本当にどうしようもないやつらだな。僕はそう思ったけど、よく考えるまでもなく広橋
君たちのようなリア充より、パソ部の部員の方がより僕と同類なのだった。それでも部長
として彼女を一人で放置する訳にはいかなかった。そして、今の僕には誰にも言えない秘
めた目的もあるのだ、
僕は池山さんに歩み寄り声をかけた。
「池山さん、こんにちは」
彼女はあてがわれたパソコンを操作するでもなく俯いていたけど、僕のあいさつを聞く
と慌てた様子で顔をあげた。僕の方を上目遣いに見上げた彼女の白く綺麗な顔に、僕は一
瞬ドキッとした。
「あ・・・・・・部長。こんにちは」
緊張しているのか、か細い声で池山さんが言った。
「君は今何をしてたのかな」
僕は彼女に話しかけながらデスクトップのディスプレイをちらっと眺めた。画面は真っ
黒で起動すらしていないようだった。
こいつら本当に新入部員を放置したのか。僕は少し飽きれた。男の部員だったらあれほ
ど専門知識をひけらかしながら最初の面倒だけは見ていたこいつらも、リアルで美少女で
ある池山さんに話しかけて面倒を見る勇気はなかったようだった。生徒会で振られた男と
して見られていた僕も、この部では女性関係に関してはこいつらより数段上のようだった。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:00:26.70 ID:GO5crQa4o
「いえ。特に何もしていません。よくわからなくて」
池山さんは言った。
・・・・・・やばい。この子本当に可愛いな。彼女の表情を見て彼女の弱々しい言葉を聞いた
とき、僕は思わずそう思ってしまった。今でも僕は優への恋情を抱えているはずなのに。
「よくわからないって言うけどさ」
僕は気を取り直して彼女にレクチャーを始めた。
「まあ、うちの部はパソコン部って言うだけあって、パソコンとかネットとかIT関係な
らなんでもありな部だからさ」
池山さんは頷きながら僕の言うことを聞いてくれていた。
「だから、部員たちもそれぞれ好き勝手に活動してるんだよね」
「・・・・・・はい」
「例えば、隣のブースにいるあいつ」
僕は彼女と同じ一年生の部員を指差した。こいつは他の部員たちと異なり彼女をチラ
見することなく一心不乱にディスプレイ上を埋め尽くしたコードを睨んでいた。
「彼は、CGIスクリプトを勉強中なんだよ。勉強中っていっても基礎を覚える段階じゃなくて、実際に応用的なプログラムを組んでるんだけどね」
「それから、反対側にいるあいつ。あいつは、Second Lifeっていうバーチャルワールド
内で実装されている言語、リンデン・スクリプト・ランゲージっていうんだけど、それを
使って仮想世界内で通用するプログラムを毎日組んでる」
「はあ」
池山さんにはぴんと来ないようだった。
「じゃあ、部室の反対側にいるあいつ」
僕はもっとわかりやすい作業をしている二年生の部員を指し示した。
「彼は3Dモデリングを練習しているんだ。SHADEというソフトなんだけど・・・・・・ほら、
画面が見えるでしょ」
そいつの作業中のディスプレイにはリアルな3Dのオブジェクトがでかく映し出されて
いた。これなら彼女にも理解しやすいだろう。
・・・・・・だが、僕は彼の作業中の画面を池山さんに紹介したことを一瞬で後悔した。その
画面上には、3Dでリアルに描写された幼女のヌードが大写しに描かれていたのだ。
・・・・・・おい。おまえはこの前まで確か人類初の恒星間移民船とやらの3Dグラフィック
を製作してたんじゃなかったのかよ。
こうして部員それぞれが好き勝手に作業している様子を紹介していると、だんだん彼女
は元気がなくなっていく様子だった。
「どうかした?」
僕は彼女に声をかけた。彼女はしばらく俯いていたけど、やがて細い声で話し出した。
「あの・・・・・・。あたし、パソコン部ってちょっと勘違いしていたかもしれません」
「勘違いって?」
「あたしは本当に初心者で、家のパソコンでたまに天気予報とかニュースとかミクシーと
か見るだけで」
まあそうだろうな。僕は最初から彼女のPCスキルに期待なんてしていなかった。でも、
そう考えていたわりには僕は彼女に部内でもスキルの高い部員が何をしているかを紹介し
てしまったのだった。
何でだろう? 僕は自己分析した。この可愛らしい、守ってあげたいという欲望を刺激
する一年生の少女に、うちの部の凄さを自慢したかったからかもしれない。つまり僕は彼
女に対してうちの部のレベルを感心させたかったのだ。それは、そうすることでスキルの
高い部員を擁する部の部長である僕を池山さんによく見せたかったからだろう。僕はこの
兄である池山君が大好きだという美少女に、僕に対して関心を持ってもらいたかったのだ
ろうか。
当初の目的を忘れ少し混乱しだした僕だけど、僕の最初の部活レクチャーが失敗してし
まったことはは理解していたので、まずそれをフォローすることが先決だった。
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:01:56.39 ID:GO5crQa4o
「ああ、ごめん」
僕はなるべく明るい声で彼女に言った。
「君はネットのこととか勉強したいと言っていたね」
僕はなるべくさわやかな微笑みになるよう努めながら、池山さんの可愛らしい顔を見
た。
「うちの部はいろんなやつがいるからね。例えば・・・・・・」
僕はすぐ近くのブースで何やら作業している一年生のディスプレイを指し示した。
「例えばこいつなんかは」
・・・・・・げ。おまえは何で堂々と校内ででエロゲしてるんだよ。ネットどころかそもそも
オンラインでさえないだろうが。僕はあわてて違うデスクのPCの方を指差した。
「違った・・・・・・こいつね」
何をしていようとエロゲのしかもムービーシーンを一心不乱に眺めているやつよりは
ましだろう。
僕が指差した部員は三年生だった。彼は、無関心を装いながら僕らの方を気にしていた
他の部員たちと異なり、僕と池山さんの方なんか気にせずに一心不乱にキーボードに向か
って何やら長文を打ち込んでいた。
「この先輩は何をされているんですか」
池山さんが聞いた。そういやこいつは何をしているんだろう。僕は、とりあえずエロゲ
のセックスシーンを彼女に見せないためにこいつを指差しただけで、こいつが何をしてい
るのかなんて考えてもいなかったのだ。あらためてこいつの画面を覗くと、そこには2ち
ゃんねるの専用ブラウザが表示されていた。
「ああ。君って2ちゃんねるって知ってる?」
僕は聞いた。
「あ、はい。たまにお兄ちゃんが見てましたから」
池山さんはすぐに答えた。そういえばこの子はブラコンなんだっけ。僕は副会長に聞い
た噂話を思い出した。
「こいつは2ちゃんねるに入り浸ってるんだよ。いつも見ているのは、アニキャラ総合っ
ていうところだけどね」
それから僕はもう少し普通の活動をしている部員を紹介した。フォトショップとかイラ
ストレーターを使用して画像製作をしているやつや、DTMソフトを使って音楽を作ってい
るやつ、HTMLやFLASHでサイト製作をしているやつとか。でも、最後に僕が池山さんにう
ちの部活動の感想を聞いた時の反応は印象的なものだった。
「で、ネット関係を勉強したい言っていってたけど」
僕は彼女に聞いた。
「うちの部員の活動を見てさ、具体的にどんなことを覚えたいの?」
「あの」
彼女は遠慮がちに言った。
正直に言うと、この時の僕は彼女に気を惹かれだしていた。あれだけ恋焦がれていて結
果的に裏切られた優とか、僕が振られたことになっている遠山さんのことが、この瞬間に
は僕の脳裏から忘れ去られているほどに。
「あたし、2ちゃんねるとかって詳しくなりたいです」
池山さんは僕の質問にそう答えた。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:02:49.83 ID:GO5crQa4o
・・・・・・いったい池山さんは何を考えているのだろう。僕にはよくわからなかった。でも、
僕が今では彼女のことを気にしていることだけは確かなようだった。僕の当初の意図であ
った優のことを調べたいという目的に加えて、池山さんのことを知りたいという新たな目
的が僕にはできたのだった。僕は実は気が多いのかもしれない。僕は初めてそういう感想
を抱いた。僕はついこの間まで中学生だった池山さんの幼く可愛らしい容姿を好ましく思
いながら言った。
「僕もそんなに詳しくないけど、よかったら一緒に2ちゃんねるとかネットのこととか勉
強しようか」
精一杯優しく微笑んで。こんな気持悪いことを言ったら彼女にドン引きされて嫌われて
しまうかもしれない。でも、僕はそう口に出してしまったのだ。
しばらくして、池山さんは僕にぺこりと頭を下げた。
「はい。部長、よろしくお願いします」
次の日から僕は池山さんをPCの前に座らせ、自分は彼女の横に置いた丸椅子に腰掛けて
指導することにした。指導といっても池山さんの希望は抽象的でネットとか2ちゃんねる
とかに詳しくなりたいというものだった。
正直、これが可愛らしい池山さんでなければそんな希望に応える気すらしなかったろう。
うちの部は確かに生徒会と違って非リアな部員の集まりだったけど、部員の資質はそれな
りに高かったし、数少ない新入部員でさえVBAを覚えたいとかC++やJavaをもっと自由に使
えるようになりたいとか、そういう希望者が多かった。正直に言えばうちの部のドアを叩
いて、街中のパソコン教室の初心者クラスに初めて通うお年寄りのような希望を堂々と述
べたのは、僕の知る限りでは彼女だけだった。
周りの部員たちもてっきり飽きれて彼女に冷たくするかと危惧したのだけれど、やはり
彼らも美少女の艶やかな容姿の誘惑には勝てなかったようで、だんだんと彼女がパソ部の
部室にいることに慣れてきた部員たちは、おどおどしながらも彼女に話しかけたり彼女を
助けたがるような様子を見せ始めたのだった。
部員たちが彼女を受け入れたのはよかったけれど、池山さんへの彼らの関心や干渉は正
直迷惑だった。あからさまに言えばこいつらの池山さんへの関心は、僕にとって二つの理
由から邪魔だった。
一つには、彼女は優と池山君、遠山さんと広橋君の関係者だったから、僕は池山さんと
仲良くなり、さりげなく彼らの交際事情を聞きだしたかった。中学時代の切ない想い、僕
の人生で唯一の恋愛のことは僕の心の中でまだ生きていたけど、優の気持ちを今更知った
からといってそれが復活 するわけではないことは承知していた。それでも真相を知りた
いという気持ちはまだ薄れてはいなかった。
二つ目は、すごく単純に言ってしまうと僕が池山さんに惹かれ出していたからだった。
優のことを引き摺っていたり、遠山さんに仕掛けた偽装告白と、彼女の拒否が思ったより
自分の心に打撃を与えたこととか、そいうことはこの頃にはあまり自分の心に思い浮ばな
くなっていた。つまり僕と池山さんが二人きりで過ごす時間に介入しようとする部員たち
が僕にとって邪魔だったのだ。
そういう理由から僕は彼女を独り占めしていていたかったのだ。
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:03:50.44 ID:GO5crQa4o
池山さんは、優とかその他の、僕に告白してきた女の子たちとはタイプが全く違ってい
た。どういうわけか僕が好きになる、あるいは僕を好きになる女の子は容姿は様々だった
けど、基本的にはしっかりとした性格のお姉さんタイプの女の子が多かった。でも、遠山
さんはちょっと違っていた。
遠山さんは守ってあげたいという気持ちを男に起こさせるような女の子だった。そうい
う彼女の控えめで可憐な姿に、正直僕は惚れてしまった。そして、それは僕だけではなく
他の部員たちも同じようだったけど、僕は見苦しくも部長権限を振りかざして彼女の教育
係の座を確保したのだった。
「遠山さんって自分の家にパソコンないの?」
最初に、僕は彼女のあまりの初心者ぶりに驚いて聞いた。
「リビングにパソコンはあるんですけど、おにい・・・・・・兄がいつも使っているんであたし
はあまり触ったことはないです」
彼女はそう言った。
「それでも、スマホとかでネット見たりしない? それと学校の授業でもネット関係の講
座があるよね?」
「あたし、スマホもメールとかLINEくらしか使えませんし、IT関係の授業もあまり興味が
なくて」
それなら、いったい彼女はなぜ今更パソ部の扉を叩いたのだろう。僕は疑問に思った。
うちは遠山さんのような女の子が思いつきで入部するようなクラブではない。パソ部は校
内の評価は最悪で、一般の生徒たちからはキモヲタの巣窟のように目されていたのだし、
女性すら一人もいないようなそんな部に中途でわざわざ勇気を出して入部希望をした意味
は何なのだろう。
僕はその時久しぶりに自分の「傾聴」スキルを発動しようと思いついた。高校に入って
からはほとんど思い浮かべたことがなかったスキルだったけど、今こうして遠山さんと二
人でPC前に座っていると、彼女のことをもっとよく知りたいという欲求が僕の心に浮かん
できた。
そうすれば、多分単なるいい部長という立場で表面的な会話をしているよりてっとり早
く彼女の心に入り込めるだろう。そして、今までの実績でいうと僕がコンサルタントを成
功した女の子たちはかなりの高確率で僕を好きになったのだった。それは単なる陽性転移
に過ぎないのだけれど。そういうクライアントの感情に流されえてはいけないというポリ
シーのもとで、僕はそういう告白は全て断っていた。
その僕が今やあえて遠山さんに陽性転移的な感情を覚えてもらうように仕掛けようとし
ている。コンサルタントとしては最低の行動だった。それは人の相談にのる仕事の倫理規
範に真っ向から反する態度だった。クライアントに献身的にコンサルタントした結果とし
て、相手から好意を抱かれてしまうのはしかたながない。ただ、その場合でも術者はその
好意を穏便に断るべきだ。
それに対して最初からクライアントの好意を目当てに行うコンサルタントなんて普通な
らあり得ない。でも、僕は今そのあり得ないことをしようと考えていたのだった。
僕の横で当惑したようにパソコンと格闘している遠山さん。まだ新しい制服に身を包ん
で華奢小さな身体で僕の隣にちょこんと座っている遠山さん。彼女の髪からふと匂う甘く
さわやかな香り。そういう彼女の様子は、今まで経験したことのない、彼女に対する保護
欲と征服欲を僕の心に掻き立てたのだった。
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:05:15.37 ID:GO5crQa4o
「じゃあ専ブラのインストールからしてみようか」
僕はマウスを持つ彼女の細く華奢な手をじっと見つめながらも、なるべく冷静に聞こ
えるように言った。
「2ちゃんねるを閲覧したいならIEよりもいろいろ便利だし快適だし」
「専ブラって何ですか」
当然ながら池山さんは聞いたけど、その聞き方は少し首をかしげて僕の方を見上げると
いう僕にとっては破壊力抜群なものだった。この子は本当に可愛すぎる。僕は彼女の無邪
気な疑問の表情にどきどきしながら答えた。
「2ちゃんねるの掲示板を閲覧したり投稿したりするための専用のブラウザのことだよ」
「見やすいとか投稿しやすいとかもあるけど、掲示板そのものへ与える負荷が低いんだ」
そう言っても彼女にはよくわかっていないようだった。
「IEとかだとHTML全体を読み込むんだけど、専ブラは掲示板のDAT、データだけ
を読み込むからね」
「はあ」
「わからなくてもいいよ。とりあえず使いやすいから専ブラを使う方がいいと考えてくれ
れば」
僕はとりあえず何種類かのブラウザをDLした。使ってみて使いやすい方をこの先彼女
が選べばいい。インストールが終ると、僕は改めて彼女に質問した。僕はこの先の彼女の
答えによっては久しぶりの傾聴スキルを駆使して、彼女の抱えている問題を解明しようと
思っていた。
「さあ、これで準備完了だよ」
僕は池山さんに話しかけた。「2ちゃんねるに詳しくなりたいって言ってたけど、とり
あえずどういうスレを見たいの?」
「あの・・・・・・」
彼女は僕の方を見て言い淀んだ。今の僕には彼女のそういう表情さえ可愛らしく感じた。
これが男の新入部員だったら即座にうちの部から追い出していたかもしれないけど。
・・・・・・こんな子が本当に僕の彼女だったらなあ。僕はその時、そう考えた。そうだった
としたらもう僕が不毛なコンサルティングをすることもないだろうし、優みたいな複雑な
性格の子に対して報われない想いを抱えることもないだろう。普通に仲の良い普通にリア
充の同級生たちと同じような恋愛ができるのかもしれない。自分よりか弱い池山さんとい
う女の子を守りつつ、その対象の子から頼られ愛されることができたのなら、相手の気ま
ぐれな感情に翻弄された中学時代の優との交際とは全く違う恋ができるのだろう。
僕がそう思って純情で可憐な池山さんの悩ましい表情を眺めたときだった。彼女が僕の
質問にようやく返事をした。そして、それは純情でも可憐でも何でもない言葉だった。
「部長、女神行為って知ってますか? 何だかネット上で自分のヌード写真とかを公開し
ているスレがあるらしいんですけど」
僕は彼女の言葉に呆然として、そのきょとんとした可愛らしい顔を眺めていた。僕も女
神板とかVIPとかの女神スレとかは知っていた。でも目の前の小さないい匂いのする華
奢な美少女からその名前を耳にするとは思ってもいなかったのだった。
2ちゃんねるで女神行為を見ること自体は、うちの部では別におかしなことではない。
部活と称してエロゲをしたり部費で購入したPOSERを使って少女の裸体を3Dモデリ
ングしているような部員がいるのだから、部長の僕でさえ顧問にばれない程度ならそうい
うスレを閲覧することを禁止しようなんて思ったこともなかった。でも、目の前の一年生
の少女が女神スレを見たいと言うとは僕の想像の範疇をはるかに超えていた。
「えーと。知っているか知らないかで言えば知っているけど・・・・・・君、本当にそれが見た
いの?」
とりあえず僕はドキドキしながら聞いてみた。目の前のおとなしい美少女の容姿に対し
て説明するには、女神板の紹介は、全くふさわしくない言葉だった。心の中に卑猥な妄想
めいた考えが浮かんできたため、僕は慌ててそれを打ち消すように聞いたのだった。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:08:07.56 ID:GO5crQa4o
「はい。というか、もう見たことはあるんです。でも、画像は削除されてるみたいで一枚
も見られなかったんですけど」
池山さんは相変わらず真面目な表情でとんでもないことを話し続けた。「ああいうのっ
てどうしたら画像とか見られるんでしょうか」
「どうしたらって、削除される前に見るしかないと思うけど」
正直に話すと、この時の僕は彼女が何を考えているのかわからなかったのだけど、それ
はそれとして僕は下級生の少女と女神画像の話を普通にしているという奇妙なシチュエー
ションに興奮し出していた。具体的に言うと下半身が人様にお見せできる状況ではなくな
っていたのだ。
「そうですか」
池山さんがため息をついた。「やっぱりリアルタイムでスレを見張っていないといけな
いんですね」
その時、僕は自分の下半身の状況のことを考えていたせいか、ふとあることを思い出し
た。つまり、自分が自宅で密かにオナニーするときに閲覧したことのあるサイトのことを
思いついたのだ。でも僕はそのことを口に出すべきかどうかためらった。
・・・・・・みんなから信頼されている生徒会長の僕があんなサイトを見ていることを誰かに
知られるなんて、ただでさえ自分に自信がないくせに無駄にプライドだけが高い僕にとっ
ては屈辱的なことだったけど、この時の僕は下級生の可憐で清純そうな少女と女神行為の
話を普通にしているという奇妙な状況に流されてしまっていたのかもしれない。
「まあ、他にも手段はあることはあるよ」
僕は少しためらってから口にした。
「はい? 削除された画像を見ることってできるんですか」
彼女は顔をあげて僕の方を見た。沈んでいた表情が一瞬明るくなったようだった。
「あることはある。でも、女神板と一緒で十八禁のサイトだけど」
いったいおまえは何歳なんだよ? 僕は自分に自嘲的に問いかけた。もちろん、まだ十
八歳未満だった。
「部長、そのサイトってどうすれば」
「ちょっと待って」
僕はようやく我に帰って体勢を立て直した。いつの間にか下半身も正常な状態に戻って
いるようだった。
「ちょと待ってくれ」
僕は彼女に繰り返した。
「・・・・・・はい」
「とりあえず、君がパソコン部に入部した目的をもう一度詳しく教えてくれるか? あと、
何で女神の画像なんかを見たがっているのかを」
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/04/17(日) 23:08:36.10 ID:GO5crQa4o
ようやく僕は部長らしい言葉を池山さんに対して口にすることができたのだった。
池山さんは僕の言葉を聞き再びうつむいてしまった。その時初めて僕には周囲のことを
気にする余裕が生じてきた。
改めて周囲を気にしてみると、近くにいる部員のほとんどがそれぞれ作業をしているふ
りをしながらも、僕と池山さんの会話に聞き耳を立てているようだった。このままこのヤ
バイ話をここで続けるのはまずい。僕はそう考えた。
「あのさ」
僕はこの頃には完全に落ち着きを取り戻していた。
「君の話を聞かせてもらっていいかな? 何か事情があるんでしょ」
彼女はうつむいたまま何も返事をしなかった。
「無理とは言わないけど、十八禁サイトの紹介なんかさせられるんだったら事情くらいは
聞いておきたいな」
僕は池山さんにそう言った。この時、さっきの性的な興奮は既に僕の中では鎮まってい
て、むしろ彼女との仲を深めるのにはいいチャンスなのではないかという考えが心の中に
浮かんできていた。高校一年生の女の子が素人の裸身画像に執着するなんて、何か事情が
あるとしか考えられない。そして何か事情や悩みを抱えている相手に対して、僕の傾聴ス
キルは、これまでほとんど無敗に近い成果を誇ってきたのだから、池山さんの相談に乗る
ことで彼女の信頼を勝ち取り仲良くなると共に、優や池山君たちの情報も仕入れることが
できるかもしれない。
池山さんは顔を上げて何か話そうとして、そこで周りを見渡してまた黙り込んでしまっ
た。そういえばコンサルタントをするにはここは最悪の環境だった。僕たちの周囲は池山
さんの容姿に見蕩れている部員たちに囲まれていたのだから。
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/17(日) 23:09:14.75 ID:GO5crQa4o
今日は以上です
また、投下します
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/26(火) 11:33:33.80 ID:SAoScxfQO
追いついた 期待
205 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/01(日) 22:57:47.52 ID:lwUWxol4o
「池山さん、ちょっと付き合ってくれないかな」
女性を誘うのが苦手な僕だったけど、悩みを持つ相手に対してはまた別だった。高校に
入学してから二年以上こういうことをしていなかったのだけど、中学時代に駆使したスキ
ルはまだ身体に残っているようだった。この時、それが自然によみがえってきた。今の僕
は、何もためらいはない。
「よかったら、どこか別な場所で話をしようか。事情さえ話してもらえれば力になれるこ
ともあると思うよ。なんで女子の裸の画像なんか見たいのかは知らないけど、見る方法も
あることはあるし」
僕は彼女に餌をちらつかせて言った。彼女は少しためらっていたけど、結局は僕の誘い
に同意してくれたのだった。
・・・・・・中学生の頃、僕が人の相談を聞いていた場所は校内の人気の無い場所が多かった。
放課後の中庭とか屋上とか、あまり人がいない時の図書室とか。でも、高校生になった今
では校外のカフェとかの方がより知り合いに遭遇する危険は少ない。中学の頃は入りづら
かったスタバとかにも今では自由に入れるのだし。
僕は池山さんを促して部室から立ち去った。背中には多数の部員の無言の視線を感じて
いた。部室から離なれ校門の外に出ても、並んで歩いている僕たちに下校する周囲の生徒
の好奇の視線が向けられた。
それはそうだろう。池山さんと連れ立って下校する僕なんかを見かければ、いったいど
ういうカップルなのかと不審に思われても不思議はない。周囲の視線を自分に集めること
に日ごろから慣れているかのように、池山さんには全く動揺する様子はなかった。むしろ、
これから僕に対して話そうとしていることの方が彼女の心に負担になっていたようだった。
僕はといえば、これから池山さんの話を聞きだせるということへの期待感や不安よりも、
むしろ自分が可愛い女の子とデートしているような状況に不覚にも心をときめかせていた
のだった。これから二人で向かうのは駅前のスタバ。可愛い女の子と二人きりでスタバに
寄り道するそんなシチュエーションは僕にとって初めての経験だった。中学時代に優と手
を繋いで下校していた時だって、カフェとかに寄り道した経験などなかったのだ。
奥まった目立たない席に着いて彼女と向き合って座った時になって、ようやく僕は浮か
れた気分を抑え、少し本気で彼女の話を傾聴するスキルを発動すべく体勢を整えた。単に
彼女のいい相談役になるだけではなく、できれば優の情報を聞き出し更に池山さんと親し
くならなければいけない。さすがの僕にとってもこれは敷居の高いミッションだった。そ
れに何より人の悩み事をコンサルティングするのはすごく久しぶりだったということもあ
った。こういうことは場数を踏んでいないといけないし、間が空くとすぐに体がスキルを
忘れてしまい一々次の言葉を考えながら相談に乗るようになってしまう。これではクライ
アントが白けてしまい、思っているように内心を話してくれなくなることも考えられた。
それでも、これだけはやり遂げなければいけない。
僕は池山さんに話しかけた。
「僕が何で君の話を聞こうとしているか不思議に思っているでしょ」
彼女は意外なことを聞いたとでもいう様子で顔を上げた。
「そう思われても無理はないよね。君はただネットのことを調べたくてパソコン部に入っ
てきたのに、いきなり部長に理由とか事情とかを問い詰められたんだもんね」
僕はその時、とっさに少し変則的な方面から攻めて行くことに決めた。昔のクライアン
トと違って彼女は自分から僕に相談しに来たわけではない。彼女にとって僕は単なる入り
たての部活の部長に過ぎなかった。普通に彼女を問い詰めたところで彼女が心を開いてく
れる可能性は少ないと思ったからだ。それで僕はまず自分のことを話し始めた。
「まず言っておきたいんだけど、僕は君のことがすごく気になっている」
僕は思い切って言った。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/01(日) 22:58:16.58 ID:lwUWxol4o
「・・・・・・はあ」
池山さんの反応は芳しくなかった。それはそうだろう。パソ部みたいなオタクの巣窟み
たいな部に、目的があるために入部した彼女が部の先輩にいきなりこんな告白まがいのこ
とを言われたら、彼女だってドン引きするに違いない。ましてこれだけ容姿や雰囲気に恵
まれている彼女なら、いくら外見が幼そうとはいえ男からの告白になんか慣れていただろ
うし。
でも僕はこの時もう一段の切り札を切るつもりだったので、池山さんが次の言葉を喋り
だす前に僕は話を強引に続けた。
「あとさ。僕はパソ部の部長だけど生徒会長もしていてね」
それを聞いて、拒絶的な雰囲気で僕の言葉を遮ろうとしていた池山さんは気を変えたよ
うだった。僕はそんな彼女の様子に構わず話を続けた。
「だからという訳じゃないけど、僕は人の相談に乗ることが多いし結構それでみんなから
感謝されてるんだ。相談してくる人の秘密は完全に守るし、どんな悩みを聞かされても飽
きれたり驚いたりしないで相談に乗るようにしているからね」
少しは池山さんの心を掴んだようで、とりあえず彼女は僕の話を聞くことにしたみたい
だった。
「それが一つ。あと、君って遠山さんの知り合いでしょ」
「あ、はい。お姉ちゃんとは小学生の頃から」
僕は彼女の意表をついたようで、突然遠山さんの名前を聞かされた彼女は驚いたように
答えた。
「遠山さんは大切な生徒会の仲間だし、君のことは他人とは思えない。だからどんな事情
があるかは知らないけど、君の力になりたいと思ったんだ」
池山さんはそこで初めて僕の方を見つめて首をかしげた。
「あの、先輩・・・・・・あたしのこと気になるってどういう意味ですか」
「そのままの意味だよ遠山さんの知り合いとして君を助けたいと思うけど、それとは別に
君のことが異性として気になっている」
今にして思えば、その時の僕はよくもそんな恥かしいことが平気な表情と口調で言えた
ものだと思う。広橋君のようなイケメンならともかく、普通ならこんな低スペックな僕が
可愛い女の子に対して言うことが許されることではない。でもこのときの僕は必死だった。
優の行動の真相を知ること、そして目の前の少女と仲良くなること。僕はその二つの目的
だけは何としてでも成就させたかったのだ。
とはいえこんなセリフを聞かされた池山さんの反応は気になったから、僕は少し話しを
中断して彼女の反応を覗った。
でも、池山さんは僕なんかがこんな告白めいたセリフを言ったことを別に滑稽に感じた
りはしていないようで、馬鹿にするようでもなく真面目な表情で僕を見ていた。
「先輩。あたし、今のところ誰かと付き合うとか考えていなくて」
「うん、わかってる。それにどっちみち僕なんかじゃ君と釣り合わないこともわかってる。
僕なんかが君みたいな子と付き合えるなんて考えてもいないよ。だから僕のことは気にし
ないでいいんだけど、それでもよかったら相談してくれないかな」
その時、知り合って初めて池山さんがおかしそうに微笑んだ。
「先輩っておかしな人ですね。付き合いもしない女の子なんかに親切にしたって仕方ない
のに」
僕は彼女の微笑を呆けたように眺めた。その微笑みには僕に対する嘲笑めいた感情は少
しもないように思えた。少しだけ飽きれている感じはあったけど。
僕はその期を逃さず慌てて口を挟んだ。
「君が僕のことなんか相手にしてくれなくてもいいんだ。でも気になる女の子の力にはな
りたいし、力になれるとも思う」
その時、僕はもっと彼女の心配を取り除いた方がいいと思いついた。
「それと。僕が君に夢中になってストーカーみたいになることは絶対にないから。何だっ
たら遠山さんとかに聞いてくれてもいい。僕はそういう男じゃないから」
それからしばらく沈黙が続いた。僕はもう言えることは言ったのであとは池山さんの返
事を待つだけだった。そして少しして彼女がその沈黙を破った。
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/01(日) 22:59:06.81 ID:lwUWxol4o
「先輩って変な人ですね」
再びくすりと笑ってから池山さんが言った。「でも、生徒会長をしてるだけあって本当
にいい人なんですね」
「生徒会長であることはあんまり関係ないけどね」
「あたし、せっかくだから先輩に話を聞いてもらおうかな」
やっと僕は彼女にここまで言わせることができたのだった。
「池山さん、僕を信じてくれてありがとう」
僕は穏やかに言った。僕は冷静に話していたようだけど、やはり内心では相当緊張して
いたようだった。そしてその緊張がようやくほぐれ出すのを感じていた。
「何で先輩がお礼を言うの? 何か変なの」
池山さんは僕をからかうように言った。これではどっちが年上なのかわからない。
「あと、池山さんって言うの止めませんか。後輩なんだからあたしのこと、池山って呼び
捨てしてください」
「君がタメ口で話してくれるならそうしてもいいけど」
僕はこの時緊張が去って行ったせいで少し調子に乗ってしまったかもしれない。池山
さんに僕のことなんか相手にしてくれなくてもいいと言ったばかりなのに、こんな調子の
いいことまで言ってしまうなんて。
案の定、彼女は少し警戒したように見えた。でもそれは僕の誤解のようだった。再び彼
女は笑った。
「それでいいよ、先輩。あたしのことも池山・・・・・・っていうか麻衣って呼んでね」
「わかった」
僕は最高な気分になってもいいはずだったけど、ここまでうまく行き過ぎると逆に不安
な気持ちが湧き上がってくるのを抑えることができなかった。礼儀正しい正統的な美少女
だと思い込んでいた池山さん、いや、麻衣だけど、この反応はどうなのだろう。いきなり
親しげに僕に話しかけるなんて。
彼女は意外と男と遊びなれた子だったのだろうか。その時僕は少し不安に思った。
それでもその疑念は、眼の前の美少女から気安く話しかけられたという喜びや優越感に
は勝てなかった。とりあえず今は目の前にいる麻衣ちゃんと仲良くなれたことだけを考え
よう。
「じゃあ、早速だけど麻衣ちゃんの話を聞きたいな」
僕は彼女に言った。
「ちゃんはいりません」
彼女が少し機嫌を損ねたように言った。やばい。この子、本当に可愛い。そして、呼び
捨てにしてって僕に微笑む美少女に対して、僕は動揺していた。
「先輩には全部お話しするけど、どこから話せばいいのかなあ」
麻衣は、ついさっきまでの僕に対する疑念を完全に払拭したような親しげな口調で話し
始めた。そして僕はそのことに密かに興奮していた。僕は最初の難関を突破したのだった。
それも予想していたよりスマートな方法で。
「先輩、とりあえずこれを読んでもらっていい?」
彼女は自分のスマホのメーラーを開いて、それを読むように僕を促した。それはどこ
からか転載を繰り返されたメールみたいだった。
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/01(日) 23:00:34.92 ID:lwUWxol4o
from :優
sub :やっほー
本文『さっき始めたばっかだけどもう200レス超えちゃった。今日は流れが早いみた
い。君が本当にあたしに興味があるなら下のURL開いてみて。今日は人多過ぎだから早め
に画像消しちゃうし。じゃあ、もし気に入ってくれたらレスしてね。そんでさ、もしレス
してくれるならレスの中に、制服GJって書いてね。それで君だってわかるから。じゃあ
ね』
これだけでは全く意味の通じないメールだった。でも僕は凍りついたよう差出人の名前
欄を見つめていた。僕の昔の彼女の名前がそこにあった。そして、本文中には池山君の名
前もあったのだった。
「先輩、どうしたの」
ふと気づくと僕はずいぶん長いことそのメールを眺めて凍りついたようだった。さっき
まで感じていた麻衣と親密になれそうだという期待感や喜びは僕の中で影をひそめ、何か
得体の知れない不安感が湧き上がっていた。
「どうしたのって―――これだけ見せられても何が何だか」
優と池山君の関係がどうなっているのかは置いておくとしても、このメールのどこに麻
衣を悩ませる問題があるのか僕にはわからなかった。
「これだけじゃないの。こっちも」
麻衣はスマホを僕から取り返して少し操作してから再びメールが表示された画面を僕の
方に示した。僕は彼女に促され次のメールを読んだ。
from :優
sub :無題
本文『じゃあ、そろそろ始めるね。今のところ他の子がうpしてる様子もないから、見
てても混乱しないと思うよ。念のために繰り返しておくけど、女神板はうpも閲覧も18
禁なんであたしは19歳の女子大生って名乗ってるけど間違わないでね。』
『モモ◆ihoZdFEQaoのがあたしのレスだから。あと結構荒れるかもしれないけど動揺して
書き込んだりしちゃだめよ? 君は今日はROMに徹して』
『ああ、そうそう。これは余計なお世話かもしれないし、あんまり自惚れているように思
われても困るんだけどさ。今日うpする画像はすぐに削除しちゃうから、もし何度も見た
いなら見たらすぐに保存しといた方がいいと思うよ』
『じゃあ、下のURLのスレ開いて待っててね。8時ちょうどに始めるから』
『やばい。何かドキドキしてきた(笑) 女神行為にドキドキなんかしなくなってるけど、
君に嫌われうかもしれないって思うとちょっとね。でも隠し事は嫌いなので最後まで見て
感想をください。あ、感想ってレスじゃないからね』
『じゃあね』
女神板。十八禁。十九歳の女子大生。メール本文に散りばめられた単語が僕の不安を煽
った。それにこの文面からは優と池山君はずいぶんと親しい仲であることがうかがわれた。
何よりこのメールの趣旨は、優が女神行為をこれから実行しその様子を池山君に見ても
らいたがっていることにあることは明らかだった。
・・・・・・女神行為? あいつが何でそんなことを。僕と別れていた僅か二年余りの間にい
ったい彼女に何が起きたのだろう。そして優と池山君はやはり付き合っているのだろか。
僕は混乱していた。麻衣と親しくなれたら、その後は彼女の相談を真摯に受け止める予
定だったのだけど、今の僕はそれどころではなく優の変貌にうろたえていたのだった。優
はいったいいつからこんなことをしていたのか。優の女神行為と僕が優に振られたことに
は因果関係はあるのだろうか。いくつもの疑問が同時に僕の心の中でせめぎあった。
それでも、しばらくすると僕は何とか自分の心を制御することができた。今は自分にと
って何が大切なことかを考えるべきだ。それは麻衣と親しくなることと、優に何が起きて
いるのかを知ることだった。そしてそのために何をすべきかを考えた時、ここで僕が優の
メールの内容にいくら悩んでいても結果は出ない。僕の目的のために今すべきことは麻衣
の話を傾聴することなのだ。
僕はようやく混乱する思考を鎮めて改めて麻衣を見た。
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/05/01(日) 23:02:01.52 ID:lwUWxol4o
―――彼女は僕が混乱している間、黙って僕を観察していたようだった。僕の混乱振り
に飽きれるでもなく、助け舟を出すでもなく、自分の話を強引に進めるわけでもない麻衣。
その表情からは何やら僕のことを見極めようとしているような冷静さが感じられた。
僕は、自分で勝手に思い込んでいた彼女の印象を改めざるを得なかった。この子は決し
て甘やかされた可愛いだけの幼い少女ではない―――優といい麻衣といい、僕が魅力を感
じる女性はなぜ例外なく複雑な思考を持っているのだろうか。かつて僕は優のことをとて
も中学生とは思えないほどしっかりと自分を冷静に見つめていると思ったことがあったけ
ど、一見幼い甘えん坊のような、そして大人しそうな麻衣さんも実は優と同じような複雑
な考えを秘めている少女らしかった。
僕はため息をついた。僕は何でこういう面倒くさい、自分の考えを心に固く秘めている
ような女の子に惹かれてしまうのだろう。今にして思えば遠山さんが僕を傷つけまいとし
て取った単純でひたむきな行動が懐かしく思えるほどだった。その行動に結果的に僕は傷
付いたのだけど、少なくとも彼女が何を考えて僕に接近したのかは簡単に理解できたのだ
から。
「まあ君が見たがっているスレがどれなのかはわかったよ。URLも記されていたし」
僕は気を取り直してそれまでじっと僕の反応を見ていたらしい下級生に話しかけた。
「でも、何で見たいのかという動機は全然わからないね。最低でもそれくらいは話しても
らえないかな。前にも言ったけど下級生に十八禁の画像の見方を教えるんだったらそれな
りの理由は聞きたいな。僕の生徒会長としての立場もあるし」
「・・・・・・それはこれからお話しします―――そうしたら先輩、あたしのこと助けてくれ
る?」
麻衣は表情を一変させ、再び頼りないけど可愛らしい下級生らしい表情になった。
「―――あたしの味方になってくれる?」
僕くらい人間観察ができて、僕くらい他人が何を考えているのかわかるのなら、こんな
単純な手にひっかかることはないはずだった。麻衣にとって僕は都合のいい先輩に過ぎな
いのだろう。でも僕の目的に近づくためには麻衣と親しくなる必要があるのは自明の理だ
ったし、何より僕は麻衣に本気で惹かれていたようだった。辛い思いをするかもしれない
とわかってはいても、優と池山君の関係を知りたいという目的が、麻衣と対面して話を重
ねるにつれ次第に薄れてきたほどに。
「そうするよ」
僕は頼りなく守ってあげたいまだ幼さを残しているような女の子、麻衣に返事した。
「君を助けたいし、何より僕は君のことが好きだから」
僕はこの時、この段階で口にするのは危険なことまで喋ってしまっていた。君のことが
気になるではなく君のことが好きだと僕は宣言してしまったのだった。それは麻衣に引か
れるかもしれないという意味からも、麻衣に弱みを握られて先導を奪われるかもしれない
という意味でも最悪のタイミングの告白だった。でもその告白を口にした途端、それが今
の僕の真の想いだということに気がついた僕は逆に気が楽になったのだった。
そして麻衣はその言葉を聞いてもドン引きすることもなく勝ち誇る様子も見せなかった。
彼女は僕の反応が当たり前のように淡々と話を再開した。
「先輩、お姉ちゃんとは親しいの?」
麻衣は予想外の方に話を進めた。
「特に親しいというわけでは・・・・・・生徒会で一緒だからよく話はするけど」
麻衣は僕が遠山さんに告白して振られたことを知っているのだろうか。小学生の頃から
の知り合いで、副会長の言うように最近まで毎日一緒に登校する間柄なら、僕なんかに告
白されて困惑した遠山さんが麻衣に相談したとしても不思議はない。でもそれは確実な話
ではなかったから、 とりあえず僕は無難な返事をしたのだった。
「そうか。じゃあお姉ちゃんは何も言わなかったかもしれないけど―――先輩、あたしお
兄ちゃんのことが大好きなんです」
遠山さんからは麻衣の話は聞いたことがないのは確かだったけれど、彼女の極度なブラ
コンぶりについては副会長から聞いたことがあったから、そのこと自体には僕は驚かなか
った。ただ、どうしてそんなことをわざわざ僕に話すのだろうという疑問は感じた。麻衣
が優と自分のお兄さんとの付き合いに不満を感じているからだろうか。
「あたし昔からお兄ちゃんが好きで、今まで何度も男の子に告白されてもいつもお兄ちゃ
んと比べちゃって」
麻衣は続けた。
「あたしももう高校生なんだし、実のお兄ちゃんと恋人同士になれるわけなんてないって
わかってるんだけど」
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