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女神
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/23(月) 23:29:05.15 ID:2aggOrwDo
女神
前に落としてしまったSSを再開します。最初から書き直しになるのと、地の文と小説形
式で書き直しますので、苦手な方は回避してください。あと速報での見やすさを考慮して、
80行で改行しています。環境によっては見づらいかもしれませんけど、ご了承いただけ
ると幸いです
更新は遅いと思いますし、完結までには一年くらいかかりそうです。あらかじめご承知
ください
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1448288944
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/23(月) 23:30:32.20 ID:2aggOrwDo
「お兄ちゃん」
「何だよ」
「またあの先輩だ。ほらいつも駅のベンチに座り込んで電車が来ても乗らないでスマホで
何かやってる女の人」
「おまえさ、そうやって人のことばっか噂する癖やめたら?」
「だっておかしくない? 駅で電車に乗らないでベンチに座ったままとか。それも毎朝だ
よ」
あいつは、同じクラスの女の子だ。確か、名前は、二見だったか。そう、二見 優とい
う名前だった。そもそも、クラスの女にはろくに知り合いはいないのだけど、彼女の名前
だけはどういうわけか覚えていた。何だか、知り合いとつるまないあの子の姿勢に、少し
だけ感心したことがあるからかもしれない。
「ああ、あいつ同じクラスの二見ってやつだよ」
「お兄ちゃんあの人知ってるの?」
「だから同級生だけど、話したことは無いかな。つうかあいつ、あまり友だちいないみた
いだし」
「電車に乗らないでスマホ弄ってるけど遅刻しないのかな」
「ああ。いつもぎりぎりだけど遅刻はしてねえよ」
それまで穏かに、かつそれほどの興味がないみたいに二見の話をしていた妹の顔が真剣
になった。
「ふーん」
「・・・・・・麻衣?」
「お兄ちゃん」
「何だよ」
「話したことないっていうわりにはあの人のことよく観察してるんだ」
麻衣のこの手の話し方は別に今に始まったわけじゃない。俺にはその対処法がわかって
いたのだけど。
「もしかしてあの人に気があるの?」
麻衣が俺を見つめてそう言った。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/23(月) 23:31:35.75 ID:2aggOrwDo
俺は思わず妹を見つめた。何も言いわけをせずに。そうすると麻衣の表情が少しだけ
ひるんで、妹は次の言葉を口ごもって、はっきりとしない返答を口にした。
「な、何よ」
「おまえさ」
「うん」
「その見境のない俺への嫉妬、いい加減何とかしないとやばいんじゃねえの」
俺はもう何回言ったかわからない言葉を口にした。妹に好かれるのは素直に嬉しいけど、
いつまでもそんな関係では俺にも麻衣にも幸福は訪れないだろう。
「な・・・・・・! お兄ちゃんへの嫉妬とか自意識感情なんじゃないの? だいたいあたしは
お兄ちゃんのことに関心なんてないし」
「それならとりあえず、おまえがしっかりと握っている俺の手を離してもらおうか」
「な、何言ってるのよ。あたしが手を離すとお兄ちゃんがすぐにすねるから仕方なく」
「はい?」
妹は俯いて黙ってしまった。もうこうなったらしかたない。
「ああ面倒くせえな。じゃあもうそれでいいよ」
あいかわらず妹は沈黙を守っている。
「どうした?」
「・・・・・・お兄ちゃんの意地悪」
ああ。ついに麻衣を泣かせてしまった。これじゃいかん。
「ああ、もう泣くなって。悪かったよ」
ああ、もう全くこいつは。でもしかたないのかもしれない。妹をそういう依存体質にし
てしまったのは、両親と俺のせいかもしれないのだ。俺は心の中で密かにため息をついた。
「本当に悪かったよ。俺おまえがそばにいてくれないと何にもできねえのにな」
「・・・・・・本当?」
妹が上目遣いに俺の方を見た。
「ああ本当だ。おまえがいつも一緒にいてくれて俺本当に助かってるんだぜ」
「・・・・・・うん。それなら許してあげる」
電車がホームに入ってきた。この電車に乗らないとやばい。
「・・・・・・ほら、電車来たぞ」
「うん! さっさと乗るよお兄ちゃん」
「こら。そんなに手を引っ張るなよ、痛てえじゃんか」
「早くしないと乗り遅れるってば」
「わかったから手を引っ張るなって。痛てえよ」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/23(月) 23:31:44.78 ID:jehBbCKAO
書き直すのかよ
まぁ、がんがれ
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/23(月) 23:33:32.92 ID:2aggOrwDo
次の停車駅で、俺は幼馴染の少女を見つけた。
有希。俺の幼馴染であり俺の初恋の相手。
「お姉ちゃんだ。今日も夕さんと一緒だね」
「・・・・・・まあ、あいつら同じ駅だし家も隣だしな」
「そんだけの理由かなあ? 毎朝いつも一緒じゃんお姉ちゃんと夕さん」
「ああ、そうだな」
それ以外には何も言いようがなかったから、俺はとりあえずそう言った。
「まあ、でもお似合いだよね。お姉ちゃん綺麗だし夕さんもイケメンだし」
「・・・・・・うん。まあね」
「お姉ちゃん、うちの隣から引っ越して正解だったね。お隣さんがお兄ちゃんからイケメ
ンの夕さんにグレードアップしたことだし」
それがどういう意味か、麻衣に確かめるまでの時間は与えられなかった。開いたドアか
ら、有希と夕也が乗り込んできたのだ。
「あ、お姉ちゃーん!」
「おはよう麻衣ちゃん」
「ようお二人さん」
夕也も俺たちにあいさつした。普段どおりのさわやかな感じで。
「おはようございます」
「・・・・・・おはよ」
俺も二人に向かってあいさつした。ぼそっとした声だと思われたかもしれないけど。
「麻人どうしたの? 朝から元気ないじゃん」
有希が半分からかっているような表情で俺に話しかけた。
「おまえ、俺の貸したあれにはまって寝不足なんじゃねえだろうな」
夕也がからかい気味に言った。よりにもよって有希が聞いているのに。
「・・・・・・バカよせ。妹が聞いてるんだぞ」
「何々? 何の話」
有希が口を挟んだ。
「何でもねえよ。男同士の話だ」
「何か感じ悪い」
有希の言葉に続けて麻衣も口を開いた。
「ほんと。男って嫌だよね、お姉ちゃん」
「うんうん。本当に信じられるのはあんただけよ。麻衣ちゃん愛してる」
「わ! お兄ちゃんの前ではやめてください・・・・・・じゃなくて。混んだ電車の中ではやめ
て」
突然、有希に抱き寄せられた麻衣が狼狽して抗議した。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/23(月) 23:35:39.28 ID:2aggOrwDo
「お兄ちゃんの前ではだって。ふふ。麻衣ちゃんってほんとブラコン」
「・・・・・・違います」
「え? おまえと麻衣ちゃんってもしかしてそういういけない関係なの?」
夕也が何か嬉しそうな声で割り込んだ。
「・・・・・・おまえは死ね」
「片手でしっかりと麻衣ちゃんの手を握ったまま反論されてもなあ」
「説得力ゼロだよな。って、痛いって。よせ麻人。もう言わねえからグーで殴るのはよ
せ」
「俺じゃなくてこいつが手を握りたがるからだな」
「・・・・・・な!? 何であたしがお兄ちゃんなんかの手を握りたがるのよ、バカ。手を握っ
てあげないとお兄ちゃんが寂しがるからあたしは仕方なく」
「はいはい。ごちそうさま」
「そうじゃねえって」
俺は有希を睨みつけたけど、いつもと一緒で全く睨んだ効果はないようだった。
「よくもまあ毎朝飽きずに痴話喧嘩できるな、おまえら」
「確かに喧嘩だけど、痴話だけよけいです!」
麻衣よ。おまえはいったい何がしたいんだよ。俺は妹を眺めてそう考えた。ただ、うざ
いからといって妹が、麻衣が可愛いことにはならないからたちが悪い。そう、俺は多分シ
スコンなのだ。
有希の笑いが、同じ学校の学生で満員状態の電車内に容赦なく響いた。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/23(月) 23:38:27.47 ID:2aggOrwDo
校舎の入口まで来て、有希は少し真面目な表情になった。
「じゃあ、麻衣ちゃんまたね」
「はい・・・・・・。でも、何で学年によって校舎分けてるんでしょうね」
「さあ。一学年のクラス数が多いからじゃない? うちの学校って」
「校舎が一緒なら教室の入り口まであたしも一緒に行けるのに」
「家で毎日お兄ちゃんといちゃいちゃしてるのに校内でも一緒にいたいの?」
だからふざけんな有希。俺たち兄妹をどこまでネタにする気だよ。でも、その怒りの感
情を深く掘り下げていくと、俺のいらいらはただ兄妹の関係をからかわれているからだけ
ではないことに気がつく。
そうだ。俺は、俺に対して無関心な有希に対して焦っているのだ。同時に、有希がとき
おり照れて笑いかけるイケメンの友人、夕也のことを俺は気にしているのだ。
「・・・・・・だから違いますって」
「麻衣ちゃん顔真っ赤だよ。かあいいなあ」
「確かに可愛いけどあんたは黙れ」
突然、真面目な表情で有希が言った。
「何でだよ」
有希がいきなり怒り出したことに夕也は少し驚いたようだった。
「もう行こうぜ。遅刻しちゃうよ」
これ以上、有希と夕也のことを正視できなくなった俺はそう言った。
「あ、お兄ちゃんこれ」
麻衣が突然真面目な表情になって俺にお弁当の袋を差し出した。
「お、おう」
「今日も麻衣ちゃんの手作りのお弁当?」
夕也との心理戦を一時停止した有希がからかうように笑った。
「いいなあ、おまえ」
夕也もイケメンらしくさわやかに笑ってそう言った。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/23(月) 23:42:20.12 ID:2aggOrwDo
どういうわけか、夕也が麻衣が作った俺の弁当への感想を述べると、有希が顔を赤くし
た。そして有希は夕也を軽く睨むように笑った。
「あんたは、好き嫌いが激しいくせに。一生学食のカツ丼でも食べてろ」
「いや、そう言うなって。まあ、そうなんだけどさ」
やっぱりそうなのか。最近のこの面子での登校は辛すぎる。有希や夕也の恋愛を邪魔す
る権利は俺にはないけれども、それを見せつけられなければならない義務だってないはず
だった。それでも、俺の有希への感心を気取られることなくこいつらと登校しないように
する術なんて思いつかない。
「・・・・・・な、何よ」
「何でもねえよ」
有希と夕也がお互いに見詰め合って顔を赤くしている。
「じゃあ、あたしもう自分の校舎に行くね」
「ああ」
俺は麻衣が一年生の教室の方に向かっていくのを見送った。
「俺たちももう行こうぜ」
有希から目を離した夕也がそう言った。
「そうね」
「いい時間になっちゃったな」
あれ?
俺はそのとき、校門から駆け込んでくる女子生徒に目を奪われた。すげえダッシュだな。
俺はそう思った。時間内に何とか校内に滑り込んだ女の子は、少しだけ速度を緩めて歩き
出した。それは、さっき見かけた同級生の二見 優だった。多分、俺たちより一本遅い電
車に乗ったのだろう。
校内に入った彼女は、相変わらず周りにいるクラスメートと話しをしない。何で、結構
可愛いのにボッチなんだろう。朝のあいさつする相手もいないらしい。
そのとき、有希が俺の背中を気安く叩いた。
「ほら、麻人。何ぼんやりしてるの。さっさと行くよ」
「ああ」
俺は一人で孤高の女王みたいに、校門から校舎に歩いている二見から目を離して、クラ
スルームに向かって歩き始めた有希と夕也の後ろを追いかけた。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/23(月) 23:42:55.96 ID:2aggOrwDo
今日はここまで
また投下します
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/23(月) 23:48:58.63 ID:Z1QaKolBo
どうせまた落とす
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/23(月) 23:58:26.88 ID:c1gdcECxo
ビッチもちゃんと完結したし期待してる
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/24(火) 09:16:04.27 ID:sfqopt4NO
正直、落とした奴が言う「一年かけて完結させる」ほど信用できない物はないよね
だって落としてる期間に書きためすらしてないって事でしょ?その場のノリでしか書けない奴が一年もかけるわけないじゃん
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/11/26(木) 22:26:43.44 ID:U0eHPXCZO
これは絶対に完結させてほしい
あまりにも途切れ方が不憫だったから
今だに俺の中で好きなSSキャラのベスト5に入るぞ。二見優
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/11/26(木) 22:40:47.59 ID:U0eHPXCZO
◯妹の手を握るまで 2011.12〜 2012.2 完結
●女神 2012.2〜2013.5 未完
●ビッチ 2012.8〜 2013.12 未完
◯妹と俺との些細な出来事 2013.8〜2014.3完結
●トリプル 2014.3〜2015.3 未完
○ビッチ(改) 2014.11〜2015.11 完結
●女神 2015.11〜 New!
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/27(金) 00:59:11.90 ID:+7/E124+O
うわぁ、信者様だぁ
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/27(金) 03:44:53.33 ID:iPi4LVnoo
でURLはまだかね?
スレタイを貼ったんだから当然知ってるだろう?
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:16:56.62 ID:rzAsx3KDo
何か一度気が付くと結構気になるものだ。二見が普段どう過ごしているかなんて、今ま
で気にしたことなんかなかったのに。二見は机の下で何かスマホ弄ってる。あいつは、い
つも一人で何やってんだろう。結構可愛いのに、周囲の男の視線とか、あまり気にしてい
る様子もない。しかし、あそこまで堂々と授業をボイコットできるのもある意味すげえな
と俺は思った。先生からはわからないかもしれないけど、後ろの席からはさぼってるのは
丸見えだった。
それにずっと俯いてるからそのうち先生にも気が付かれるんじゃねえかな、あれ。俺は
そう思った。何かネットでも見てるのかもしれないけど、まあ、俺にはどうでもいい。そ
んなことを考えていると、いつのまにか授業が終ってしまっていた。
「さあ、飯だ飯」
夕也ののん気な声がした。
「おまえ今日も中庭?」
「別に決めたわけじゃねえけど」
「だっておまえいつも中庭か屋上で麻衣ちゃんと二人で昼飯食ってるじゃん」
「・・・・・・別にいつもってわけじゃねえよ」
「真面目な話さあ、おまえと麻衣ちゃんってどうなってるの?」
「どうって何だよ。別にどうもなってねえよ」カ
「だっておまえらいつもべったりと二人きりじゃん」
ふざけるな。有希といちゃいちゃできる余裕かよ。俺と妹との関係をからかうのは。こ
いつが、有希の家の隣に引っ越してくるまでは、そして妹が同じ学校に入学するまでは俺
と有希は二人きりで一緒に登校していたのだ。今から思うと、そんな貴重な日々を俺は無
駄に費やしてしまったのだけど。
「んなことねえよ。あいつが俺がいないと寂しがるから」
「・・・・・・この間、同じこと麻衣ちゃんにも聞いたんだけどよ」
「・・・・・・何って言ってた? あいつ」
「あたしが一緒にいてあげないとお兄ちゃんが拗ねるから」
「ふざけんな・・・・・・死ね」
「よせって。痛えだろ。つうか俺が言ったんじゃねえって。麻衣ちゃんがそう言ったんだ
って」
麻衣との関係をからかわれるのは、有希にされたって誰にされても苛つくと思うけど、
まして夕也に言われるとすごく腹が立つ。こいつには悪気はないのかもしれない。確かに
いい友人だと思う。お互いに口には出さないけど、親友同士だと思っている。だけど、有
希に惚れられているこいつに、言うに事欠いて麻衣との、実の妹との関係をからかわれる
とすごく腹立たしい。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:17:48.23 ID:rzAsx3KDo
つまり、こういうからかいを気軽に言えるのは夕也に余裕があるからじゃないのか。こ
いつと有希はもう付き合い出す寸前の雰囲気を醸し出している。毎日の登校の様子から見
てもそれは明白だった。
「まあいじゃんか。あんな可愛い子がおまえのことを一途に慕ってるんだしよ」
「可愛いって・・・・・・実の妹だっての」
「はいはい」
ひょっとしたら夕也には悪気はないのかもしれない。麻衣は可愛い。自分の妹の容姿を
誉めるのは、たとえ自分の心の中だけにしたって抵抗はあるが、麻衣が可愛いことは事実
だし、いろいろ告白めいたことを同学年の生徒や先輩たちからされていることも事実だ。
少なくとも、本人や有希の言葉を信じるならば。だから、夕也は悪気ではなくそんな妹に
好かれている俺を持ち上げながらからかっているだけなのかもしれない。
「じゃ、俺は学食行くわ。麻衣ちゃんによろしくな」
「・・・・・・おう」
それでも、俺は実の妹とに好かれていることをからかわれていることに納得できなかっ
た。特に、有希の心を持っていった当の本人に言われているのだし。
そのとき、夕也と俺の側に有希が寄って来た。
「学食行かない?」
「おう。混む前に席を確保しようぜ」
夕也が俺と麻衣との関係をからかうことを一瞬にして忘れたように言った。やっぱり、
こいつは有希のことが好きなんだ。
・・・・・・また二人で一緒にお食事かよ。でも、そのことに嫉妬してももうどうしようもな
い。
「麻人は? 一緒に学食でお弁当食べない?」
「野暮なこと言うなよ」
夕也が余計なことを言った。有希は彼の言葉に苦笑めいた表情を見せた。
「あ、そうか。ごめん・・・・・・麻衣ちゃんによろしくね」
「・・・・・・ああ」
そう言う以外に俺に何を言えたのだろうか。中庭に出ると、噴水を囲んで置かれている
ベンチの一つを、麻衣が占領して人待ち顔で周囲を伺っていた。俺は早足で妹が座ってい
るベンチに向かった。
「遅いよ」
麻衣が不満そうに俺を見た。
「そんなに遅れてねえだろ」
「中庭のベンチって競争率高いんだよ? あたしが早く来て場所取りしたからここでお昼
食べられるんだからね」
「・・・・・・わかったよ、ありがとな」
「別にいいけど」
麻衣の頭を撫でると、妹は顔を赤くしたようだった。
「とにかく弁当食おうぜ」
「うん」
「いただきます」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:18:34.21 ID:rzAsx3KDo
妹にもいろいろ欠点はある。兄なんだからそんなことはわかっているし、麻衣にだって
俺に対する不満は数え切れないくらいあるだろう。兄妹なんてそんなもんだ。それでも、
妹の美点として料理上手だけは疑いもない。
「・・・・・何?」
「・・・・・・何でもない」
「おまえ食わねえの?」
「・・・・・・食べるよ」
いかん。麻衣の不満そうな様子を見て俺は気がついた。誉めなきゃ。
「今日も美味しそうだな。おまえ料理上手だもんな」
「・・・・・ほんと?」
麻衣が顔を赤くして言った。
「ああ。本当」
別に嘘は言っていない。こいつの料理は本当に美味しいのだ。
「・・・・・・そっか」
こいつ普段はうざいけど、こういうところは可愛い。つまり誉められて素直に喜ぶとこ
ろとか。機嫌がよくなった麻衣にほっとして、弁当を食べることに集中していた俺が、ペ
ットボトルのお茶を手に取ったとき、噴水の反対側のベンチに座っている二見の姿が見え
た。
二見は相変わらずぼっち飯のようだけど、飯っていうか何かを食っている様子でもない。
スマホを弄っているようだ。いったい、あいつはいつも何をやってるんだろう。
「お兄ちゃん、どうかした?」
箸を止めた俺の様子に不審を覚えたのか、麻衣が俺に言った。
「いや、何でもない」
「・・・・・・お兄ちゃん、またあの人のこと気にしてたでしょ」
麻衣が俺を睨むように見上げた。
「んなことねえよ」
「へえ。これだけ中庭に人が一杯いるのに、あの人って言っただけで誰のことかわかっち
ゃうんだ」
「・・・・・・何言ってるんだ、おまえは」
「お兄ちゃん、あの先輩のこと気になってるんでしょ。正直に言ってみ?」
「ばか違うって」
本当にそうじゃないのに。むしろ俺が好きなのは有希・・・・・・。
「さっきから視線があの女の先輩に釘付けじゃん」
「それよかこのハンバーグもさ、いつもより美味しくね?」
麻衣は黙ったままで俺の方を軽く睨んだ。
「おまえの料理ってだんだん成長してるのな」
「・・・・・・まあ、冷凍食品だってたまには違うメーカーのやつに変えてるしね」
完全に地雷を踏んだようだ。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:19:05.42 ID:rzAsx3KDo
授業が終ると、夕也が近寄ってきた。
「おまえこれからどうすんの」
「どうって・・・・・・家に帰るだけだけど」
「じゃ、一緒に帰るか」
「おまえいつもは有希と一緒に帰ってるじゃん」
「ああ、そうなんだけさ」
照れる様子も戸惑いもなく、夕也はあっさりとうなづいた。
「今日は一緒に帰らねえの」
「あいつ、今日は生徒会なんだって」
「何だよ、有希が一緒に帰れないから俺を誘ってんのかよ」
「うん、そうなんだけどさ」
こいつ。少しも自分の気持を隠そうという気も、俺に気をつかうつもりもないらしい。
もっとも夕也に気をつかわれても、かえって惨めな気持ちになるだけだったろうけど。
「あいつと二人で帰れるならおまえを誘うわけないじゃん」
「・・・・・・おまえら付き合ってるの?」
俺は思い切って夕也に聞いてみた。有希への関心を全く隠す様子がないので、ひょっと
したらこいつの本音を聞けるかもしれないと思ったのだ。
「いや、まだ」
はい?
「まだってどういう意味だよ」
「そのとおりの意味だよ。で、どうする? たまにはゲーセンとか行かねえ?」
「今日はやめておくわ・・・・・・麻衣が校門の前で待ってるし」
「・・・・・なあ」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:19:42.85 ID:rzAsx3KDo
「うん?」
「前から聞きたかったんだけどさ」
「おう」
「おまえと麻衣ちゃんってどうなってんの?」
「どうなってるって何だよ」
「だからさあ」
こいつは何を言いたいのだ。
「普通兄妹で手を繋いで登校したりとか、いつも兄妹二人きりで昼飯食ったりしないじゃ
んか?」
「そうか?」
「そうだよ。何、おまえ麻衣ちゃんとできてんの?」
俺は無言で夕也の頭を叩いた。
「痛てえって。よせ」
「おまえ言うに事欠いて何てことを想像してるんだよ」
「・・・・・・だってよ」
夕也はひるまずに言い返してきた。
「何だよ」
「いや」
夕也はもうこの話を続けるつもりがなくなったのか、そう言った。
「・・・・・・まあ、いいや。」
「・・・・・・あいつも一緒でいいか」
「ああ?」
「だから。妹も一緒でよければゲーセン付き合ってやるって言ってんの!」
「・・・・・・シスコン」
「うるせえよ」
「じゃ、行こうぜ。校門のところに麻衣ちゃんはいるんだろ」
「ああ」
「麻衣ちゃんとゲーセンかあ。俺、妹ちゃんとプリ撮ってもいいか」
「・・・・・・勝手にしろ」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:20:37.35 ID:rzAsx3KDo
校門のところに着くと待っていた麻衣が不満そうに俺の方を見た。
「遅いよお兄ちゃん。昼休みもあたしを待たせたのに」
「・・・・・・待ち合わせした時間までまだ十分以上あるんですけど」
「あたしは三十分も待ってるもん」
それはさすがに早く来すぎだろう。夕也が口を挟んでくれた。
「まあまあ、喧嘩するなよ二人とも。それよか三人で遊びに行こうぜ」
「夕也さんいたんですね。ごめんなさい気がつかなくて」
「さっきからずっと麻人の隣にいたけどね。まあ気にしないでいいよ」
「はい。でも夕也さんお姉ちゃんを待ってなくていいんですか」
「あいつは今日生徒会」
「そうですか。寂しいですね夕也さん」
麻衣がくすっと笑って夕也をからかった。けれども夕也の方は全く動じていなかった。
「まあしかたないよ。それに麻衣ちゃんがいてくれれば全然OK」
俺は再び夕也の言葉に苛立ちを覚えた。嫌味の一言でも言ってやろうか。そう思った俺
が口を開くより前に、麻衣が夕也に話し始めた。
「・・・・・・じゃあ今日は夕也さんも一緒に帰るんですか?」
「え?」
普段女の子からそう言う扱いを受けたことがない夕也が戸惑ったように言った。こいつ
が一緒に加わると聞いて迷惑そうな様子を見せた女の子は今までいなかった。麻衣を除い
て。頼むから余計なことを言うなよ。俺は心の中で麻衣に言った。
「そうかあ。今日は三人で帰るのかあ」
俺の願いも空しく麻衣は話を続けた。この話の続きは俺にはよくわかっていた。
「え、ええと」
「お兄ちゃんどうする? 二人でスーパーで買い物とかしなきゃいけないんだけど」
「ま、まあ、そんなののは三人でゲーセンで遊んだ後に二人で行けばいいだろ」
「でも今日はお兄ちゃんがあたしの服を見たたてくれることになってたじゃん? まあそ
れはいいんだけど」
麻衣が涼しい顔でさらりと嘘を言う。麻衣の服を買いに行く話なんか聞いてない。
「さすがにあたしの下着を選ぶのに夕也さんを付き合わせちゃったらお姉ちゃんに悪い
し」
服じゃなくて下着かよ。さすがの夕也も黙ってしまった。俺はしかたなく、多分麻衣が
期待しているだろうセリフを口にせざるを得なくなってしまった。
「夕也さあ・・・・・・」
「ああ。わかった。今日はお前らの買い物をを邪魔しちゃ悪いし先に帰るわ」
「すまん」
これでまた、夕也にからかわれるネタを提供してしまった。夕也がこの話を面白おかし
く有希に話している姿が浮かぶようだった。また、有希に誤解されるのか。いや、もう誤
解とかどうでもいい段階になっているのだけれど。有希はきっと夕也のことが好きなのだ
ろうから。
「・・・・・・じゃあ麻衣ちゃんまた明日」
「はい。夕也さんさんさよなら」
麻衣は可愛らしく微笑んだ。
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:21:06.22 ID:rzAsx3KDo
思ったとおり、麻衣は服や下着を買うつもりは全くないようで、俺たちはまっすぐ自宅
近くのスーパーマーケットに赴いた。
「お兄ちゃん、今日何食べたい?」
「・・・・・・何でも」
「何でもいいは禁止だって言ったでしょ」
「じゃあ肉じゃが」
「・・・・・・また?」
呆れたように麻衣が顔をしかめた。
「だって好きだし」
「一昨日も肉じゃがだったじゃん。いい加減に他の料理とか言えないの?」
「だったらおまえに任せるよ」
「だから何でもいいはだめだって」
「・・・・・・おまえさ」
俺は思わず口にしてしまった。
「何よ」
「毎日毎日俺と放課後買い物とかして過ごしてるけどさ」
「・・・・・・うん」
「友だちと遊びたいとか部活に出たいとか思わねえの」
妹は黙ってしまった。
「弁当とか食事とか俺の面倒だけ見てくれてるのは助かるけど。それに、確かにうちは両
親が仕事で夜遅くならないと帰ってこねえしさ」
「・・・・・・うん」
「俺っておまえに頼りきってる部分があるのは自分でもわかってるけどさ。俺だっておま
えに普通の女子高生の生活をさせてやりたいって思うわけだよ」
これは嘘ではない。同世代の女の子たちと比べて、うちの妹の生活は不憫すぎる。うち
の両親は二人とも多忙だった。以前は、今ほどではなかったのだけど、父さんと母さんが
企業内で出世し役付きになった。我が家の収入はえらく増えたのだけど、それと正確に反
比例して、二人が家にいる時間は減ったのだ。かわって家事を引き受けたのが麻衣だった。
正直に言うと麻衣はすごいと思う。中学生ながらに家事をしながら、進学校の俺の高校
に合格した。そして、高校のクラスでも上位の成績をキープしながら引き続き、俺と家の
面倒を見ているのだ。高校一年生の女の子なんだ。もっと友だちと遊んだり、彼氏を作っ
たりする時期なんじゃないのか。生活面で麻衣に頼りきりの俺が言うのは説得力はないか
もしれないけど。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/11/30(月) 00:25:15.60 ID:rzAsx3KDo
「麻衣?」
「・・・・・・お兄ちゃんって、あたしのことうざいと思う?」
麻衣はようやく返事をしてくれたけど、どうも話の方向が違う。
「何言ってるんだよ。そうじゃねえよ」
「お兄ちゃんが迷惑ならもうお兄ちゃんにはまとわりつかないよ」
「そんなこと一言も言ってねえだろ。俺はおまえが面倒見てくれて助かってるし嬉しい
し」
「・・・・・・でも、内心ではベタネタくっついてくるあたしのことうざい妹とか思ってるんで
しょ」
「だからそうじゃねえって。おまえだってお年頃だし友だちとか彼氏とかと遊びたいんじ
ゃねえかって」
「・・・・・・彼氏なんていないもん」
「あのさ」
「別に彼氏なんて欲しくないし・・・・・・」
「いや。でもおまえの年頃なら」
「お兄ちゃんと一緒にいられればそれでいいのに」
「え?」
「お兄ちゃん・・・・・・何でそんなに意地悪なこと言うの」
「・・・・・・ええと」
再び麻衣が沈黙した。こんな話になってしまうとは。完全に失敗だった。それでも、俺
が妹のことを気にしていることもまた確かだ。だから俺は言った。
「おまえビーフシチューとか作れる?」
妹は沈黙して俯いたままだ。
「何か今日はそういう気分なんだけど」
「・・・・・・作れる」
「じゃあ頼むわ」
俺は麻衣の手を握って言った。゙
「あ・・・・・うん」
麻衣が俺の手を握り返した。
手を握ったら機嫌が直ったみたいだけど、こいつは本当に・・・・・・本気でブラコンなのだ
ろうか。とりあえず麻衣の機嫌は直ったみたいだけど。これじゃ本当に近親相姦目前みた
いな状況じゃないか。これでは夕也にからかわれるのも無理はないのかもしれない。
「お兄ちゃん。この牛肉、日本産なのに安いよ」
機嫌を直した様子で麻衣が俺に言った。
「うん」
「・・・・・・二人分だからこのパックだとちょっと少ないかな」
妹に答えようとしたとき、俺は同級生の二見の姿を見かけた。スーパーなんかで何をし
ているのだろう。あいつは普段から生活感を感じないし、スーパーで買い物とか違和感が
ある。
やはり二見はそれなりに可愛いな。俺はそう思った。男ならみんなそういう感想を持つ
だろうけど、別に好きな子じゃなくても女の子のことは気になる。そうやって改めて眺め
た二見は可愛らしかった。あれで変人じゃなきゃもっと男からもてるだろうに。そう考え
た俺は、そのとき二見ともろに目を合わせてしまった。何だかわからないけど気まずい。
俺が彼女を見つめていたことが二見にはわかってしまっただろうか。
「・・・・・・お兄ちゃん、あたしの話聞いてる?」
麻衣が不審そうに言った。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/30(月) 00:25:43.84 ID:rzAsx3KDo
今日は以上です
また投下します
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