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末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)
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438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/03(金) 01:04:17.95 ID:Spqtyr/pO
楽しみ楽しみ
439 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/05(日) 00:49:47.27 ID:gWDZTuh80
※更新2月5日、とりあえず5レス以上は。時間帯未定…今夜は寝ます※
440 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:26:08.66 ID:51bwU4QR0
師匠「お前の母親,当時の王女」
師匠「彼女の15歳の誕生日を祝う祝宴が城で開かれた」
師匠「王族達……もちろんお前の父親も呼ばれ、あとは有力者連中」
師匠「魔術師ギルドの幹部もそこには含まれる」
師匠「……うち一人が儂の後見人でな、18歳の儂を自分の助手兼従者としてその場に連れてきた」
王子「師匠のそのまたお師匠様ですね」
師匠「幼いうちから魔法の修行は積んでいたとはいえ、庶民の生まれのまだまだ駆け出しの魔術師」
師匠「煌びやかな場所でお歴々に囲まれ、なんとも居心地の悪い思いの儂に向かって」
師匠「魔術師達を除けば、その場では数少ない顔見知りの『彼』が声をかけてきた」
師匠「居心地悪さにとどめを刺しにな」
王子「……ですよね」ハァ
師匠「とはいえ儂は少しばかり反骨心の強い若者だったから」
師匠「周囲の評価ではひねくれているとか天の邪鬼とか表現されたが」
師匠「彼の一言で逆に開き直ってどーんと構えて過ごす覚悟が出来たので、そこは少しだけ感謝しとるわ」
王子(そんなに若い時分からこんな感じだったのですね師匠)
師匠「……また脱線したな、それで……」
師匠「儂がお前の母親の姿を間近で見たのはその日が初めて」
王子「……」
師匠「確かに美人ではあった、お前とよく似た髪の色と目鼻立ち、違うのはくっきりと青いひとみの色と全体的な印象」
師匠「客観的に見ても、周囲がちやほやするのは理解できる」
441 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:28:05.22 ID:51bwU4QR0
師匠「……そんな彼女を見て、お前の父親がつぶやいた言葉、儂は自分の耳で聞いた」
師匠「『いい気なものだ、口ばかり達者で一人では何にも出来ないお人形さんが』」
王子「……」
師匠「お前の祖父の代、儂の師匠は王城によく出入りしていて」
師匠「子供の頃からの彼等のことも知っていたし、殊のほか仲が悪かったのがお前の両親だったことも知っていたので」
師匠「儂にはこっそり教えてくれていた」
師匠「尤も、その頃はさすがにどちらも露骨に態度に出すほど幼くはない」
師匠「彼も低い声で呟いた一言が、儂の耳に入っていたとはまさか思うまい」
王子「……まさか、何か魔法を使って父の呟きを……?」
師匠「阿呆、ギルドの幹部にも囲まれた公式のお堅い場で、助手身分の魔法使いが勝手に呪文の詠唱など出来るか」
師匠「通りすがりにたまたま聞いてしまっただけだわい」
師匠「彼は何かと神経質な男ではあったが、自分より下に見ている相手に対しては、だいたい油断していたからな」
王子「……」
師匠「そろそろ、そのふたりが結婚に至った話をしようか」
師匠「……お前がよければ、の話だが?」
王子「続けて……ください」
師匠「では歴史の授業の復習」
王子「は?」
442 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:31:11.81 ID:51bwU4QR0
師匠「第一問、今のこの『とある国』と、西の島国の戦はいつ始まったか?」
王子「え、えーと……僕が生まれた年の6年前だから……」
王子「今から256年前、です」
師匠「うむ、では第二問」
師匠「……当時、とある国の他に小国と国境を接していたのは?」
王子「……北の大国、いえ、後に北の大国の領土となる『山の王の国』です」
師匠「そうだ」
師匠「山の王の国は我らの小国よりは大きかったが、それでも周辺に比べれば小さく」
師匠「数百年ばかり周辺国と争いを繰り返した末に、山岳地帯のみが手元に残った……そんなところだな」
師匠「山の王には『とある国』の肥沃な大地は手が出るほど欲しいもの」
師匠「そこに件の戦の知らせが飛び込んできたものだから」
師匠「とある国が西の島国との戦に戦力を割いている状況を好機と見なし」
師匠「隣接するとある国の北半分を手に入れるべく」
師匠「二つの大きな国同士の戦が始まった翌年に」
師匠「まずは通過点にある小国を伸(の)して潰して魔術師ギルドの総本山も手に入れてから意気揚々と本命を攻め落とす!」
師匠「……山を越えて乗り込んで来た軍隊の総大将はそう宣言しおった」
王子「そ……そんな都合よく事が運ぶものでしょうか……」
師匠「お前ですらそう思うのだから」
師匠「そのような舐めた作戦を取った理由、山の王には山の王の事情とやらがあったのかもしれん」
443 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:34:08.10 ID:51bwU4QR0
師匠「しかし攻め込まれた側はそんなもの思い遣ってやる義理もない」
師匠「小国は全力で迎え撃つしかない」
王子「記録上、魔術師ギルドが関わった最後の戦争、ですよね?」
師匠「……などと呼ばれてはいるが」
師匠「お前が少年時代に本で読んだ、英雄と魔術師対魔王軍の時のような……派手な魔法戦はなかった」
王子「派手な魔法」
師匠「瞬時に町ひとつ焼き尽くす大火炎魔法、沖に見える島まで千人の兵士が渡れる氷の橋を作れる大氷結魔法……」
王子「『大』が重要なのですね?」
師匠「その他、あまりに強大な破壊の力を持つ攻撃魔法の数々だ」
王子「ということは、師匠もそのような魔法は使えないのですか?」
師匠「お前はお前の使った心を読む魔法がギルド最大の禁忌だと思っているだろうが、更に上の禁忌がある」
師匠「使えば罰せられるどころではない、もちろん習得からして禁じられてはいるが」
師匠「秘密裏に習得できたとて、いざ使うために詠唱を始めた瞬間にその者の心臓は止まる」
師匠「魔術師ギルドの正式な構成員になる際、そのための小さな魔方陣を心臓に刻まれるからな」
師匠「当然、儂にも刻みこまれているぞ」
王子「……使ったから罰を受ける、どころではないのですね」
師匠「お前の始祖、英雄王の時代は使われていたが、彼の在位中に破棄された」
師匠「英雄王いわく……これから後の時代の戦とは、人間同士のものだけになるだろう」
師匠「人間同士の戦いに、あまりにも強大な呪文は必要ない」
師匠「王や魔術師達に、それらを破棄する理性のある時代のうちに……と」
444 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:36:05.98 ID:51bwU4QR0
師匠「魔法に取って代わって、人間は武器をもっと発達させるだろう、とも」
王子「始祖達の、悩んだ末の決断でしょうね……」
師匠「それが本当に正しかったのかどうか、儂には正直わからんが」
師匠「また脱線してしまったな……要するに、我々の生まれた時代の魔術師達も」
師匠「攻撃魔法が得意と言っても……目に見える弓を持たぬ射手、目に見える銃を持たぬ銃士、に過ぎなかった」
師匠「しかも実際は補助魔法や治癒魔法のほうが重宝された」
師匠「要は最前線で戦う兵達の支援だわな」
師匠「……王が、魔術師達を戦場に駆り出しておきながら最前線に立たせ数を減らすのを惜しんだ、とも言われたし」
師匠「当時のギルド長がそのように王と約束を交わした、とも言われたが」
師匠「儂の師匠もそのへんは教えてはくれなんだ」
師匠「なんにせよ……儂にもあまり楽しい思い出ではない」
王子「……ですよね」
師匠「ので、手短に」
師匠「この戦には、お前の父親も、母親の三人の兄達も従軍していた」
師匠「戦の後半になるにつれ、小国は優勢に傾くという戦況だったが」
師匠「第三王子、彼は優秀なれどもやや短慮なところがあって……悪く言うなら『功を焦った』」
師匠「早い話、そのために命を落とし……双子の弟を助けようとした第二王子は深手を負う」
師匠「……ほどなく山の王の国を退ける形で一年間続いた戦は終わり」
師匠「お前の父親と第一王子はほぼ無傷で王都に戻れたが、ついでに儂も」
445 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:38:17.14 ID:51bwU4QR0
王子「……しかし第三王子は亡くなって、第二王子は……」
師匠「どうにか生きては戻ってきたが、起き上がることもできぬまま一ヶ月後には亡くなってしまった」
師匠「当時の王、お前の祖父の悲しみはどれほどの物であったか」
師匠「戦の後に国内が落ち着く頃には、病の床に就いてしまった」
師匠「その代行を務めたのは言うまでもなく第一王子」
師匠「病床の父、悲しみにくれる妹、戦の直前に結婚した妻、そして何より小国の民を」
師匠「それらが一気に彼の肩に」
王子「……」
師匠「元より、物心つくと同時に次代の王としての自覚と覚悟は持ち続けていたのだろうし」
師匠「陰では父親以上の立派な王になるだろうと、誰もが期待していただけはあった」
師匠「周囲の助けを借りつつ、少なくとも無難にはやるべき事柄をこなしていた」
師匠「一方で、王女には結婚の予定が前からあったが、戦と、二人の兄の喪に服すため、婚礼は延期され続けた」
師匠「……王族は異国人と、そうでなくても存在が認められない『隠し子』を持つことは許されなかったが」
師匠「正式な婚姻を結ぶのであれば、異国へ嫁ぐことは問題なかった」
師匠「お前の母は、『とある国』の第二王子……西の国との戦で成果を上げたその人物と、婚約していた」
王子「え……それって確か、南の港町にある、『英雄の像』の」
師匠「ああ、彼がのちに小国の民が安全に暮らせるよう尽力してくれたのは……果たして偶然かどうか」
王子「でも、母とは結ばれることはなかった……」
師匠「そうだ、王女の兄も妹のため手を尽くし、先方は何の問題もなく喪が明けるのを待ってくれるはずだったが」
446 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:40:10.83 ID:51bwU4QR0
師匠「その矢先、王女の兄さえも父親に先立ち逝ってしまった、理由は知っているか?」
王子「……一番上の伯父は事故で、とは聞きましたが、詳しくは」
師匠「彼は部下や下々の者にも思い遣りのある人物でな」
師匠「例えば国の大きな事業の現場に赴いて労いの言葉をかける、その行為が仇になった」
師匠「小国にあった『白い月の橋』を覚えているか?」
王子「ええ、僕が生まれる前からあって、今も残っている大きな橋でしょう?」
師匠「うむ、実は件の戦で一度は壊された橋でな、戦後に掛けられた仮設橋を本格的に掛け直す工事が始まったのだが」
師匠「嵐の日に現場に慰問に訪れ……土砂崩れに巻き込まれた」
王子「……」
師匠「お前の祖父が後を追うように亡くなったのは言うまでもなかろう」
師匠「そして、唯一の先王の実子となった王女は、異国へ嫁ぐことは叶わなくなり」
師匠「婚約は破棄された」
王子「その時の、『とある国』の王子様や王様は怒らなかったのですか?」
師匠「万一、王女が新しい小国の王妃となる場合はこの婚約は破棄される」
師匠「これは婚約当初からの条件だったので……国同士は『恨みっこ無し』」
師匠「当人の想いは置いといて、だがな」
王子「……」
師匠「あとはお前も知ってのとおりだ」
師匠「存命で、なるべく直系に近くありながらも王女の夫となれるほど離れた血筋の、男の王族」
王子「……父しかいなかったのですね」
447 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2017/02/05(日) 17:40:53.41 ID:51bwU4QR0
※小休止。続きは数時間後に※
448 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:09:17.68 ID:51bwU4QR0
王子「それもまた……当人達の想いは置き去りにして」
師匠「……」
師匠「正直……周囲も、人柄や適性の面で先王や第一王子には及ばないと充分理解はしていた」
師匠「当人達もお互い気の進まぬ婚姻ではあったが逆らえるはずもなく」
師匠「二人とも自尊心と義務感はあった、これからは国を支配する存在として生きなくてはならないとは決意したのだろう」
師匠「だから、世継ぎとなる子を成すのも必要だと理解していた」
王子「師匠」
師匠「ん?」
王子「……僕を身籠った頃の母は……父は……」
王子「何を、思った……でしょう……?」
師匠「ふむ……」
師匠「お前の母親が身籠った頃が、お前の父が王になって最も王宮の雰囲気は良かった頃かもしれん」
師匠「立て続きの兄や父の死、婚約破棄、それらからようやく王妃が立ち直ってきた時期でもあり」
師匠「亡くなった父や兄とも血の濃い世継ぎが生まれるのは喜ばしかったに違いない」
師匠「先王の直系ではなかった王も」
師匠「先王の孫である子の父となることで、その引け目を払拭できると思ったのだろう」
王子「……でも、期待されて生まれて来たのは……」
王子「今ならわかりますよ、比べられた義兄達に負けないほど優秀な王子が息子ならば、父はもっと僕を」
王子「自分の兄達の生まれ変わりのように優秀な息子ならば、母はもっと僕を……」
師匠「菫花……」
449 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:10:48.00 ID:51bwU4QR0
師匠「……儂が知る、お前の生まれる前の両親の話、は、これで終わりだ」
師匠「お前に接していた両親の様子は、お前が誰より知っている」
王子「ええ、そうです」
王子「二人とも、あの舞踏会の夜まで、最期まで……」
王子「……最期……まで……」
師匠(声が震えているな)
王子「……我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました、師匠」
王子「想像していた両親と……だいたい同じでした」
王子「僕がそばにいるのも構わず、母が時々つぶやいてた独り言」
師匠「?」
王子「繋ぎ合せると、こんな感じでした」
王子「『上のお兄様の奥方、聡明なお義姉(ねえ)様、今は修道院に入っておられるけれど』」
王子「『お義姉様とお兄様との間にお子さえ生まれていたならば、今ごろ私は……』と」
師匠「お前……」
王子「…………父にはもっと面と向かって色々言われました」
王子「その中には、僕を結婚させて生まれた孫にこそ期待をかける、とも」
王子「全ては仕方がなかったのです、次々と周囲で悲劇が起きて、自分達にはどうすることもできなくて」
450 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:12:11.92 ID:51bwU4QR0
王子「望まずに国の頂点に立たされた二人の……期待をかけた王子が、期待外れと来ては」
王子「人間として、八つ当たりくらいしたくもなりますよね?」
師匠「おい、菫花」
王子「ええ、その八つ当たりの対象が何より大切な国民達なんて、それは決して許せません」
王子「王としても、人間としても……それは僕も充分わかっています、230年……いえもっと前から」
師匠「……親としてだけは、少しでもまともな面もあったとか、期待していたか?」
王子「そっそんなつもりでは!!」ブンブン
王子「そんなつもりでは……いいえ……だけど……」
王子「……もしかしたら両親の事が、少しは理解できるようになるかも、とは、期待したかもしれません……」
師匠「両親について、振り切れたわけではなかったのだな」
師匠「ま、それも当然か」
王子「……おかしいですよね、今の僕は」
王子「野獣の代わりに、どこにでも行ける自由を手に入れて」
王子「血は繋がらなくとも僕には勿体ないほどの家族ができて、素晴らしい友達もできて」
王子「今までにないほど幸せなのに……まだ、過去に囚われている……なんて」
師匠「……」フゥ
師匠「……今のお前は、ただ自分の過去と上手に折り合いをつけたい、それだけなのだ」
王子「……折り合いを……?」
師匠「過去の出来事は、忘れることはできても消せはしない」
451 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:14:19.90 ID:51bwU4QR0
師匠「しかしお前からは前向きにしか見えない人々だって、過去を綺麗さっぱり忘却したから前を向けるわけではない」
師匠「自分の過去とどうにか上手くやる方法を見つけたから、前を向けるようになっただけだ」
師匠「お前はそれを見つけるのがド下手なので、何度も行きつ戻りつしながら足掻いている、それだけさ」
王子「……」
師匠「……いずれ話すつもりではあったが」
師匠「お前の両親の最期がどうだったか、気にはならんか?」
王子「……!!」
王子「そ、それは……師匠があの夜、教えてくださった以上のことが……!?」
王子「師匠達は、ふたりの心臓が止まるまでの一瞬の間に『悪夢』を見せた」
王子「その夢の中での『数ヶ月間』で、国に革命が起き王と王妃は捕えられ裁判にかけられて」
王子「民衆の手によって『彼らの行いに見合った最期』を遂げた、と……」
師匠「嘘ではないが、あの状況では可能な限り端折って話さねばならなかった」
師匠「お前の……お前がどう捉えるかは、お前の勝手」
師匠「この話はお前にとって救いになるとは限らん、却って苦しむかも、それは儂には判断できん」
王子「……」
師匠「……どうする?」
王子「……教えて……ください」
師匠「……わかった」
…………
452 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2017/02/05(日) 21:15:36.72 ID:51bwU4QR0
※ここまで。次回は師匠の語りでなく回想シーン形式で……王と王妃の過去話だけに、内容暗くてすみません…※
453 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/06(月) 00:56:39.27 ID:sW35PE7eO
乙
悲劇だな
でも子供には何の罪もないのにね
454 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:22:55.49 ID:A6bjvzRP0
過去の出来事、王子20歳の誕生日、舞踏会の夜。
魔術師ギルド幹部…以下「幹部」
幹部2「……王と王妃はこのまま、『革命の悪夢』の中で死ぬ、もう後戻りはできん」
幹部1「王子はどうだ?」
幹部3「予定通り、両親の命が尽きるまでは目覚めない……我に返った時には過ぎた時間を一瞬にしか感じないだろう」
師匠(=幹部4)「本当に、心を読む魔法を使ってしまうとは、な……」
幹部3「幹部4……王子のほうも、もう後戻りはさせられない」
師匠「ああ、百も承知だ」
幹部3「……」
師匠「幹部1、そろそろ良いか?」
幹部1「そうだな、彼等の悪夢も終焉に近づいているだろう」
幹部2「既に記憶の中では数か月間の牢獄生活を送っているはずだ」
幹部1「いま王妃の暗示の『一部』を解いた、幹部4の言葉にだけは反応するようになっている」
師匠「わかった、では……」
師匠「……王妃様」
王妃「だから私は……止めたのよ、一のお兄様……あの嵐の日……」ブツブツ
王妃「なぜ世継ぎの王子自ら、橋を造る人足達を労いに行かなくてはならないの……」ブツブツ
師匠「王妃様?」
王妃「」ハッ
455 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:24:42.75 ID:A6bjvzRP0
王妃「……誰? 看守ではなさそうね……では処刑の執行人かしら?」
師匠「いいえ、以前にお会いしたことがありますよ」
王妃「ああ……魔法使いね、父王の代に王宮に出入りしていた老魔術師の弟子で、王の留学先での『学友』だとか」
師匠「よく覚えておいでで」
王妃「こんな監獄に足を運んで、惨めな囚人を見物に来たの?」
師匠「先ほど、何かつぶやいておられたようですが……?」
王妃「あら、魔法使いを相手に懺悔をしろ、と」
王妃「ふふふ……心底、惨めなものね……どんな重罪人も、処刑の前に教会の司祭を寄越して貰えるでしょうに」
師匠「……ええ、私は貴女のため祈ることはできません、ただ少しの間お話し相手になれるならば、と……」
王妃「なんのつもりか知らないけれど……よくよくの暇人なの?」
王妃「でも確かに、ひととき気を紛らわすのも悪くはないかも」
王妃「それに……地獄だって今の状況に比べれば……少しはマシでしょうね、ふふ……」
師匠(少なくとも、生き延びる可能性は諦めているようだな)
師匠(彼女の記憶では、どんな『数か月』を過ごしたのやら……)
王妃「暇人の魔法使いや、私の一番上の兄……先王の第一王子がなぜ亡くなったか、知っていて?」
師匠「はい、存じております」
王妃「私は止めたのよ、こんな嵐の日に、橋を造る現場へわざわざ慰問に行くことはない、と」
王妃「でもお兄様は『こんな日だからこそ、私が直に励ましの言葉を掛けなくてはならないのだ』と」
王妃「こうも言われたわ、『父上も我々三兄弟も、幼くして母を亡くしたお前を不憫だと甘やかしすぎた』」
王妃「『今さら私にはどうもしてやれそうにないが、隣国の第二王子に嫁げば色々とお前の世界も開けるだろう』」
王妃「『私よりずっと素晴らしい、自国の民の事をよく考えておられる王子だから』って……」
456 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:27:21.29 ID:A6bjvzRP0
王妃「それが、一のお兄様との最後の会話だった」
王妃「ねえ魔法使い」
王妃「お前は兄の……世継ぎの王子としての最後の行いを愚かだと思うかしら、それと立派だと思うかしら?」
師匠「国を背負う者として、実に立派な行いだと思っております」
師匠「……直後の出来事は非常に残念でしたが、それはどなたの落ち度でもありません」
王妃「やはり、お前もそう答えるのね」
王妃「……お兄様はあの日、行くべきではなかったと言っていたのは私を含め二人だけ、誰だと思う?」
師匠「……お兄上様の、奥方様ですか?」
王妃「ふふ、違うわ」フルフル
王妃「お義姉様は強くて聡明で立派な方よ、お兄様の選択を他の誰より正しかったと信じている」
王妃「私と子供の頃は会えば喧嘩ばかりしていた、相性最悪の、あの男……私の夫、国王よ」
師匠「王が」
王妃「『民は国のために在るのだから、国のために働くのは当然だ』と」
王妃「『国はすなわち王なのだから、危険を冒してまで次代の王から民のご機嫌伺いに出向く必要などなかったのに』と」
王妃「……後から考えたら」
王妃「一のお兄様が亡くなったせいで自分の人生を変えられてしまった腹いせとしか思えないけれど」
王妃「『兄上を誇れ』と言うばかりの周囲の慰めより、彼のその言葉に、私と同じ、愚かで身勝手で見識の狭い彼の存在に」
王妃「私は慰められたの……」
師匠「……」
457 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:28:37.18 ID:A6bjvzRP0
王妃「そんな王家が国を支配しているのですもの」
王妃「二人とも人生で何かひとつでも思い通りにしたくて、そんな二人がこの小さな国で『一番偉い人間』だった」
王妃「そうよ、民を、国を、玩具にしていたの」
師匠「王妃様……」
王妃「その通りでしょう? だから民の怒りが今の有様を引き起こしたのでしょう?」
王妃「この期に及んで言い逃れもしなければ誰に許しを斯うつもりもないわ、結末は同じですもの」
王妃「夫も……王も、この監獄のどこかにいるのでしょう? もうずっと会っていないけれど」
王妃「それとももう死んでしまった?」
師匠「いいえ……王妃様と同じような状況におられますよ」
王妃「お前は王とも話をしたの?」
師匠「……これから伺うつもりです」
王妃「そうなの、それではしっかりと話を聞いてあげてね」
王妃「あの人はお前の事が、本当は嫌いではなかったようだから」
師匠「……っ!?」
王妃「あ、その理由までは私はわからないから、質問なんか受け付けないわ。知りたかったら本人に聞くのね」
王妃「だからそろそろお行き、役人の許可を得てはいるのだろうけど、私もこれ以上話すことはないもの」
王妃「それに少し疲れた、一人になりたい」
師匠「……王子様のことはお聞きにならないのですね」
王妃「やめて」
王妃「せっかく王子の話題が出る前に会話を打ち切ったのに」
王妃「両親の所業の巻き添えで首を撥ねられるあの子のことなど考えたくもない、思い出したくもない!」
458 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:30:49.99 ID:A6bjvzRP0
師匠「母親としては当然の感情です、しかし」
王妃「違うの、王子を可愛がっていたお前に、最後だけは愛情深い母親だったとか思って欲しいのではない」
王妃「お兄様達にも流れていた父上の血を、その孫であるあの子で絶やしてしまうのが辛い」
王妃「あの子のそのまた子供は、もしかしたらお兄様達のように賢く強いかもしれない、それが潰えるのが悲しい」
王妃「ご先祖様達だって、無能な王の後に名君と呼ばれる王が出たことだってあったでしょう?」
王妃「あの子の、王子の罪は……罪があるとすれば、弱かったことだけ、親に逆らえなかっただけ」
王妃「民に対し処刑されるほどの事はしていないわ、できないわ、あっ、それに貧民の娘とも友人だったのよ!?」
王妃「そうだ魔法使い、庇ってあげられないの? お前はあの子を」
師匠「王妃様、王子……様は、民に対する罪を負わされてはおりません」
師匠「ただし残念なことに……魔法使いとして、我々に対する罪を犯してしまいました」
師匠「ですから、魔術師ギルドの掟によって罰せられます……が、『生きて償う義務』も課せられます」
師匠「王子様は生きて罪を雪ぐ、そして……」
師匠「私もまた王子様の魔法の師として、生涯かけて弟子が犯した罪の責任を取る所存でいます」
王妃「……あの子は、私達と一緒に死ぬことはないのね? 少なくとも生き延びられるのね? 神に誓える?」
師匠「誓いますとも」
王妃「そうなの、よかった……この監獄に来てからの数カ月、こんなに安堵できたのは初めて……」
師匠「王妃様、本当に貴女は、王子様のことを……?」
王妃「ふふ……自分でもよくわからないわ」
王妃「民への罪と同じよ、今さら言い逃れもしないし許しも請わない、あの子に対しても、ね」
459 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:32:47.08 ID:A6bjvzRP0
王妃「さあ……本当にもう王の所へ行って頂戴、あの人によろしくね」
師匠「王様にお伝えするお言葉はありませんか?」
王妃「よろしく伝えて、それだけよ、どうせまた地獄で出会うでしょう……その前に処刑場かもね」
師匠「……畏まりました」
師匠「王妃様は少しご休息をお取りください、本当にお疲れのようですから」
王妃「ええ、そうさせてもらうわ、なんだか眠い」
王妃「……ありがとうね、暇人の魔法使い……」
師匠「……おやすみなさいませ」
師匠「……」
師匠「幹部1……幹部2、幹部3……王妃との話は終わった」
幹部1「では、彼女への最期の呪術を施そう……苦痛無き眠るような死、それで良いな、皆?」
幹部2「ああ、異存はない」
幹部3「彼女の現実での表情を見るに、そうは思えないけれど、ね……」
幹部2「明日の朝には人々に知れ渡り、一夜で滅びた王家として歴史に刻まれなければならないのだ」
幹部1「安らかな死に顔をさせるわけにも行かないだろう?」
幹部3「……わかっている」
師匠「では、次は王だな?」
幹部1「ああ、王も君の言葉にだけ反応するようにした……頼む」
師匠「……」コクリ
(王妃「あの人はお前の事が、本当は嫌いではなかったようだから」)
師匠(王妃のあの言葉は真実なのか?)
師匠(王……)
…………
460 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/18(土) 23:33:26.80 ID:A6bjvzRP0
※ここまで。次回も王の最期をこんなふうに一気に、日時未定ですがなるべく早く投下できたら、と※
461 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/19(日) 01:21:41.46 ID:maz3H3t+O
乙
根っからの悪人ではないだけに、居たたまれないな
462 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/26(日) 23:50:13.81 ID:u5aqlIxc0
……………………
そして、その頃……
(野獣「……」)
(野獣(……夢だな、これは……この世界でも、肉体のない私にも、休息や睡眠は必要だし))
(野獣(眠れば『夢』を見ることもあるが……この夢は……私の記憶や知識から湧き出したものと言うより))
(野獣(実際に起きていること……そう、師匠の声で……過去の出来事が語られている、きっと実際に師匠は語っているのだ))
(野獣(その相手は、紛れもなく菫花))
(野獣(二人の旅も終盤、かつての小国の領土に入って、距離が近くなったせいなのか))
(野獣(師匠の言霊の力なのか、それとも菫花の、過去を知りたいという強い思いが私と共鳴したのか))
(野獣(それら全ての要素が合わさったせいか))
(野獣(始祖である英雄王とギルドの関係、若い頃の両親、そして……))
(野獣(母上の、最期……))
(野獣(見かけは苦悶を浮かべた死に顔だったが、苦痛と絶望の中で息絶えたのではなかったのだな))
(野獣(師匠達、魔術師ギルドの幹部達が掛けてくれたせめてもの情け……慈悲を))
(野獣(これから罰せられる王子には明かせる筈もない))
(野獣(……))
463 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/26(日) 23:51:17.05 ID:u5aqlIxc0
(野獣(屋敷で獣の姿で目覚め、30年間暮らした中で))
(野獣(私も相当、身勝手な振る舞いをして来た……罪と呼んでいい))
(野獣(気まぐれで旅人を助け……何も知らない彼らがバラを折ったらどうなっていたかわからないのに))
(野獣(そして森の獣を使用人に作り変え))
(野獣(またもや私の気まぐれで招き入れた商人の命を、実際に奪う寸前まで行き))
(野獣(末妹を家族から引き離した))
(野獣(結果的に、使用人達も末妹とその家族も私を許してくれただけの違い))
(野獣(……私の両親は、民に許されなかっただけの違い))
(野獣(しかし菫花は、昔の私として禁忌の魔法を使った罪は負ったが))
(野獣(野獣の罪とは無縁))
(野獣(私が、数々の過ちを犯した前には戻れないように、あいつも今の私ではない))
(野獣(師匠の話に何を思うか……私には想像しかできない))
(野獣(……そして今度は、父の最期が語られるのか……))
……………………
…………
464 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/26(日) 23:52:27.47 ID:u5aqlIxc0
※ここまで。一気に、と言いつつ後で出す予定のシーンをここで挟みたくなった…なのでsage更新です※
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/27(月) 11:35:40.12 ID:uuiH64PZO
乙です
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/10(金) 23:39:51.02 ID:bjl/fpKvO
待ってる
467 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:36:24.05 ID:bgu+yfMr0
……
師匠「王様……国王陛下」
王「……なんだ、貴様か」
王「看守達もいなくなり、ようやく一人になれると思ったが……よりにもよって貴様とは」フン
師匠(記憶の中では彼もそれなりの獄中生活を送っているはずだが)
師匠(こういう所は相変わらず)
王「で……余に何の用だ?」
師匠「私ごときでも、しばし話し相手にでもなれれば、と」
王「ごとき、ね」
王「はん、学校でも成績優秀だった上に魔法の才能もあった貴様が何を言う」
王「どうせこの場に二人きりなのだ、『俺』を王とは思うな、昔の調子で口を聞いて構わん」
王「それとも、それもできないほどの臆病者だったか?」
師匠「……」フゥ
師匠「わかったよ、『君』はもう少し消沈していると思ったが……『学友』」
王「ははは、それで良い……」
王「……くだらんよな」
師匠「?」
王「俺の一生がだ、どうせ貴様もそう思っているのだろう?」
師匠「……くだらないかどうかはわからない、が……正直に言って、君は道を誤った、とは思う」
468 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:37:41.94 ID:bgu+yfMr0
王「俺を王にしたのが一番の間違いだ」
師匠「……」
王「ふん、わかっている、王になってからの振る舞いを言っているとは」
王「反発する者は処分し、忠告する物は追放し、逆らわぬが無力な者から枯れるまで搾り取り、役に立つ者へ与える」
王「先王ならばこんな愚かな事は……先王の王子が生きていれば……」
王「彼等が健在だった頃と同じようにまたも比べられた」
王「俺はこう思ったものだ、山の王の国から領土を分捕ってでも来れば文句を言ってた連中も黙るだろう、と」
王「山しかないと言いながら、あの国には近年発見された鉱物資源があり」
王「我が国に仕掛けた先の戦で消耗し、十年以上経ってもまだ立ち直れていなかった」
王「しかし失敗は許されん、俺なりに慎重に準備を進めた」
王「『あの屋敷』を手に入れたのもその一環だ、機械仕掛けを新しい戦術に活かせないか、とな……」
師匠(あの屋敷と言っても、我々は今まさにその屋敷にいるのだが)
師匠「……それが血も流さずあっさりと北の大国の領土になってしまったのは、今から2年ほど前だったな」
王「ああ、またも物事は俺の思い通りにはならなかった」
王「その上、高い魔力を持つくせに腰抜けで役立たずの王子は『戦がなくてよかった』と安堵している」
王「本格的に息子に期待するのを諦めたのはその頃だ」
師匠「……」
王「ふん……何故か貴様はあれをお気に入りだったよな」
469 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:39:25.02 ID:bgu+yfMr0
王「人一倍ひ弱な赤ん坊だと知った時から、新たな子供を成さねばと思ったが、妃には拒まれた」
王「あの女はもともと義務で世継ぎを産んだのだ、身籠り、産むという苦痛を、俺相手にこれ以上は味わいたくなかったのだろう」
王「だったら期待するのは孫しかないだろう?」
王「あれは始祖の血を濃く引いている」
王「従順で血統のよい嫁を取らせて三人も産ませれば一人くらいは当たるだろう」
師匠「王妃の発案した誕生祝いの舞踏会を承諾したのは、そのためか」
王「ああ、目を付けていた娘を何人か招いていた」
王「まさかあれ自身が貧民の小娘を招いていたとは思わなかったが」
師匠「そのことで王子を咎めたのか?」
王「妃は泊まらせずに追い返せと怒っていたが、俺は……こいつも男だったのかと見直したよ」
王「俺の選んだ娘を正式な妻に娶りさえすれば、あの小娘を寵姫にさせてやっても構わないとは考えたさ」
師匠「……君と言う男は……」
王「ははは……貴様が自分の娘のように目をかけて仕事まで世話してやったそうだな?」
王「なあに、俺と王妃がいなくなればお前の好きにしてやれば良いだろう、王子も小娘も」
師匠「……」
師匠「……それは、させてやりたくても……」ギリ
王「ん? あいつも反乱軍に捕まっているのか?」
師匠「……」
師匠(王妃にした話を、この男にもするか……)
470 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:40:31.41 ID:bgu+yfMr0
王「……ふむ、魔法使いとしての罪か」
王「くくくく……本当に馬鹿馬鹿しい、全てはくだらない……はーっはっは……」
師匠「何がそんなにおかしいのだ」
王「はは……もう恍けるはやめにしないか、ギルドの幹部よ」
師匠「どういう意味だ?」
王「……」
王「……山の王の国へ攻め入る準備を進めていた頃だ、俺は数代前から忘れ去られていた城の地下倉庫を探っていた」
王「固く封をされた一冊の書物」
王「150年、いやもっと前か、当時の先祖は本当に忘れたのか、敢えて封印したのか、そこまでは窺い知れなかったが」
王「……英雄王、我ら王族の始祖、人間でありながら魔物の力を取り入れた男」
王「子や孫の成長を見届けて亡くなったと言われているが……本当なのか?」
王「400年前の活躍を見るだけでも、既に人間の範疇を超えていたのは間違いない」
王「そんな男が、たった70年か80年しか生きなかった、と?」
師匠「……まさか」
王「貴様等の魔術師ギルドでも、幹部に選ばれた際に初めて知らされるらしいな」
王「……魔術師ギルド総本山の長とは、400歳を超えた英雄王『本人』であると」
師匠「……」
師匠「……ああ、儂も知った時には驚いた」
471 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:42:53.09 ID:bgu+yfMr0
師匠「我々でさえ直接顔を合わせることは滅多にないお方ではあるが」
王「そして小国王家の監視者の長でもある」
王「子子孫孫が自分の教えを忘れ去っても、自分の願いとは異なる振る舞いをしても、見守るだけで放置せよ、と」
王「他国との戦に勝とうが負けようが、民が反発しようが、流れに任せよ、と」
王「栄えようが滅ぼうが、子孫が選んだ道だと突き放す傍観者、そいつが我々の血の繋がった始祖だ」
師匠「……学友」
王「……その顔は、俺を哀れんでいるのか?」
王「はは、大概の先祖とは子孫のやる事なす事に干渉のしようがないのは当たり前」
王「始祖は過去の人間、つまり死人としての立場を貫いただけ」
王「最も悪いのは、次代への伝承を怠った150年前の王だ」
王「次に悪いのは、先祖を恐れ敬う心を失った俺自身だ」
王「貴様等の長を責める気はない」
王「ただ……ただ、くだらん、馬鹿らしい……王としての人生が」
王「俺は読み終えたそれら複数の書物を燃やした」
王「それまでの生き方を変える気も起きなかった」
王「自分の人生を気の済むように生きて、自分が死んだ後はどうなろうと知ったことではない」
王「そうでなければ不公平だと思った」
師匠「……」
472 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:43:49.21 ID:bgu+yfMr0
王「挙句の果て、今こうして民の反乱に屈し……死を待つ身になった」
王「王妃も、同じように死んで行くのだろう?」
師匠「……ああ」
王「ふ、今ごろ泣き喚いているだろうな」
師匠「……王妃様とは、先ほど少し話をしてきた」
王「ほう?」
師匠(この男が儂をどう思っているか云々は除いて、王妃との会話を教えてやるか……)
王「……は、妃なりに覚悟はできているのか」
王「まあ元から自尊心だけは高い女だ、取り乱さないだけ立派だと褒めてやろう」
師匠「王妃様は……君の事を気遣っていたぞ」
王「……」
王「共に過ごせば愛はなくとも情は沸く、女とは大なり小なりそういう生き物だ」
王「妃も夫が俺でさえなければこんな最期は迎えなかった、哀れだとは俺も思わないわけでもない」
王「王子も……」
王「……」
王「俺の望みを、王子に伝えてはもらえないか? 遺言だ」
師匠「?」
王「憎めと、お前を不幸にしたのは父だと、父を憎めと」
王「母を憎む時もあるかもしれない、しかしそれも元はと言えば父のせいだ、だから父だけを憎めと」
473 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:45:16.26 ID:bgu+yfMr0
王「……なんてな、俺の遺言をあれに伝える義務は貴様にはない、好きにしろ」
師匠「……」
王「またその顔か」
王「くく、本当に貴様は面白い、俺が嫌いなのではなかったか?」
王「貴様が本当のところ何を思っているかは知らん、しかし」
王「俺は……妙だな、貴様の前では己を取り繕う気が失せるのだ」
王「貴様は身分が低いのに、子供の頃から俺を恐れも媚もせず堂々と振舞っていた、他の人間を前にしたのと同じように」
王「羨ましかった、貴様は頭も良いし才能もある、しかし……それ以上に貴様の強さが羨ましかった」
師匠「な、何を言うんだ」
王「こいつは状況的に他人だの運命だのに振り回されていても、自分の今の全てを自分の責任にできるのだろう」
王「いつも……周囲の連中、親、先祖、立場、とにかく全てを他者のせいにしてきた俺とは違うのだ、と」
王「異国の学校で出会った時からそう思っていた」
王「貴様のような人間になりたかったと……牢獄に来てからはその想いが強くなって」
師匠「学友」
王「……時間があれば、時間をかければ、いつでも変われる」
王「しかし、もう俺に時間はない」
王「全ては遅い、遅かったのだ……」
師匠「学友、君は」
幹部3「幹部4!!」
474 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:46:23.93 ID:bgu+yfMr0
師匠「っ!?」
幹部1「……幹部4、あのままでは王の暗示も、偽りの記憶も解けるところだった」
幹部2「君の集中力が乱れて、この場の魔力に影響を与え始めていたのだ」
幹部3「強引ではあったが王との会話を打ち切らせてもらった、悪く思わないで欲しい」
師匠「彼……王は?」
幹部3「そこだよ」
師匠「……苦しんだのか?」
幹部1「表情はどうあってもこうする以外にないが」
幹部1「眠るような安らかな死を、とは行かなくとも……自分が死んだのにも気づいていまい、あっという間もなく心臓を止めた」
幹部2「自己を哀れむばかりで、王妃ほどの僅かな反省すらなかったけれどね」
師匠「……哀れ、か……」
幹部1「……王がギルド長の正体を知っていたとは」
幹部1「しかし、長がどれほど苦しんで暗殺の依頼を受けたかなぞ、想像もつかなかっただろうな」
幹部2「長は小国の民の今後のために、我々と共に働くと約束してくださった」
幹部2「……民の行く末を見届けてから、ようやく永遠の眠りにつかれるのだ」
幹部1「悲しいが、それが長の望みだからな」
師匠「……」
幹部3「……大丈夫か? 次は、王子に……」
師匠「心配いらん、すまんな、幹部3」
475 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:47:30.36 ID:bgu+yfMr0
幹部2「王子に……罰を宣告するのだな」
幹部1「やはり幹部4しか出来ない役目だ」
師匠(王子……菫花……)
師匠(いま我々が、いや、儂がお前にしてやれることは他にはない)
師匠(しかし……儂はお前の師匠として責任を取ろうと思う)
師匠(贖罪のさ中にいる間は見守るしかできないが)
師匠(子孫を見守る立場に徹した故に、長い年月を苦悩されたギルド長のようにな)
師匠(両親と違うのは、お前は贖罪を終えたら自由になれるのだ)
師匠(既に図書館の娘もいない世界だが……それでも、お前の幸せを……)
…………
……………………
…………
王子「…………」
師匠「……これが、お前の両親の最期だ」
師匠「ギルド長……かつての英雄王は、小国の民がどうにか無事に暮らして行く姿を見届けると、永遠の眠りにつかれた」
師匠「舞踏会の夜から5年後のことだ」
師匠「不老長寿の身ではあったが、いつでも死ぬ事は出来たのだ」
師匠「ただ、魔物の血を子孫に残した責任感から、監視役の立場を選ばれた……」
王子「…………」
師匠「……衝撃だろうな、まさか英雄王が、お前の生まれた時代まで生存していたとは」
476 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:48:43.70 ID:bgu+yfMr0
師匠「そして、我々がお前達親子に何をしたか、改めて知らされたのだ」
王子「……」グス
師匠(顔は覆ったままだが……泣いているな、当然だ)
師匠「……やはり人払いをしてやる、思う存分に泣くがいい」
師匠「半径50メートル以内に足を踏み入れた人間がふと他の場所に行きたくなるような、緩く且つ強固な結界を張ってやる」
師匠「ただし2時間だけだ、いろいろな意味でそれが限界だからな?」
師匠「……それから、少し……ゆっくり、儂とお前で話をしよう」
王子「……」グシュ
師匠(頷きもしないか)
師匠「儂は結界の外にいる、結界の中は見ないぞ、一人になりたいだろう?」
師匠「では、2時間後にな……」
結界:もよんもよん……
師匠「……結界の外からは、無人の墓しか見えん」
師匠「この結界に近付いても強制的に弾かれることはないが、通常の人間は、なんとなくそれ以上入って行く気が失せてしまう」
師匠「効果は実に地味だが実は非常に強い魔力が働いている」
師匠「周囲への思わぬ影響を考えても2時間が限度なのだ」
師匠「……」
師匠「結果的に、英雄王の子孫は、英雄王とその意思を受け継ぐ魔術師ギルドの掌の上にあった」
師匠「菫花も儂の掌の上にあった……」
477 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:49:26.56 ID:bgu+yfMr0
師匠「綺麗事を並べてもそれが真実だ」
師匠「菫花と再会して数カ月、儂は話せなかった、まだ早いと、機は熟していないと思っていた」
師匠「……本当は、話したくなかった」
師匠「お前と共に過ごす時間がもう少し長くなるまでは」
師匠「……恨むならば、王でもなく、王妃でもなく、民でもなく、ギルド長でもなく」
師匠「儂を恨め、今こうして生きている儂を……」
師匠「……そう、虫のよい話ではないか」
師匠「自由になったお前を引き続き見守る立場に徹すればよかった」
師匠「お前のためお前を受け入れるこの時代の人々ため関わる、それこそ綺麗事よ」
師匠「……使用人達と少年と少女、彼等彼女等がいる、あいつには」
師匠「夢の世界には、野獣もいる」
師匠「何が……儂の息子だ、あいつの父親だ、そんな虫のいい話があるか……」
師匠「考えたら、あの話をするまでもなく、あいつに好かれる理由があるものか」
師匠「いつも罵倒してばかりだったではないか……」ハァ
師匠「……儂も弱いぞ、学友よ、買い被り過ぎだ……」
…………
結界の内側。
王子「う……うう……」
王子「うわああああん」
478 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:50:33.35 ID:bgu+yfMr0
王子「……父上、母上」グシュ
王子「僕は……どうしたら」グスグス
王子「……僕は……どうしたいんだろう……?」グス
王子「う……うわあああああああああ……ん」
(野獣「……」)
(野獣「菫花、私もまさか始祖がギルドの長とは思わなかったが」)
(野獣「始祖の立場も師匠達の立場も……今の私は理解できる」)
(野獣「師匠が自分の全てを捨てて、私をお前を追いかけて来た決意のほども」)
(野獣「父と母は、改めて『ただの人間』であったと思い知らされて、悲しくなったか、哀れになったか?」)
(野獣「だが父と母の罪は罪なのだ、どれほどの人々が両親のために苦しんだか」)
(野獣「それに対し何もしなかった私も」)
(野獣「両親を哀れむ気持ちとは分けて考えなくては」)
(野獣「……私の声は、しかし、届かないのだな」)
(野獣「お前の嘆きは、まるで目の前にいるかのように感じるのに……」)
…………
誰かが、泣いている、嘆く声が聞こえる
不思議なことに、耳からではなく胸のあたりから、野獣様のかけらが溶け込んだあたりから……
…………
479 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/03/12(日) 01:52:33.20 ID:bgu+yfMr0
※ここまで。ごぶさたしてすみませんでした。余談ですが幹部1・2・3のうち、3だけは女性です。
師匠と同い年ですが見た目は凄く若いという誰が得をするんだ設定があったりする※
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/12(日) 02:22:45.84 ID:hD0AHnuUO
乙
凄いな英雄王
481 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 21:52:57.08 ID:qgSk7P+h0
商人の家……末妹の自室。
末妹「明日は友3ちゃんの家で、友1ちゃんや友2ちゃんと一緒に、次の試験に向けての勉強会」
末妹「……半分くらいはお茶しながらのお喋り会になっちゃうかも?」
末妹「でも楽しみ」フフッ
末妹「さてと……宿題は済ませておかなくちゃ」パラ
末妹「……?」
末妹「人の泣き声?」
末妹「誰か……泣いているの?」
末妹「なんだか遠くから聞こえるような、微かな……でも、外からじゃないわ?」
末妹「かと言って、家の中というわけでもない……」
末妹「……」
末妹「あ」
末妹「……そうなのね、これは……わかった」
末妹「……どうすればいいの?」
末妹「……そうね、そうすればいいのね」
末妹「目を閉じて、心を落ち着けて……」
末妹「……」
……
482 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 21:54:40.26 ID:qgSk7P+h0
同じく、次兄の自室。
次兄「……あれ?」
次兄「地理の勉強用に借りて来た本の世界地図、なんかおかしい?」
次兄「うーん、このあたりは確か数年前に正確な測量が終わった地域と聞いたが……少し古い資料なんだな」
次兄「俺が家庭教師から習っていた時の地図帳は行方不明だし」
次兄「正直、発掘の手間を惜しんでいるだけですが」
次兄「最新の地図帳はやはり現役で学校に通っている末妹に借りましょう」スック
……
ドア:コンコン?
次兄「……返事はないがドアに隙間は空いている」
次兄「入るよ末妹……」カチャ
次兄「……ありゃ」
末妹「……すやすや」
次兄「シー」
次兄(勉強机に突っ伏して眠ってる、この子にしては珍しいなあ)ソロリ
次兄(フッ、優しいお兄様は毛布をかけてあげましょうね)ソロソロ
次兄(ベッドの上に綺麗に畳まれている毛布を持ち上げの)ソローリ
次兄(毛布を広げの)ファサ
次兄(末妹に近付きの)ソロソロ
次兄(そっとかけーの……)
483 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 21:55:24.93 ID:qgSk7P+h0
次兄(あ、あれ?)グラリ
次兄(なんだろう、末妹の肩に触れた途端、強烈な眠気)フラフラ
次兄(やばいやばい、いったい何が……)ヘナヘナ
次兄(あ、もうらめ……床と仲良くなっちゃう……)ズルズル
次兄「……ぐー」コテン
末妹「……すー、すー……」
…………
(末妹「……やっぱり、ここは……野獣様の夢の中……」)
(末妹「……に、よく似ているけど……なんとなく違うような気もする?」)
(次兄「……あれ、末妹」)
(末妹「あ、お兄ちゃんも来たのね」)
(次兄「いったいどうして……俺は末妹に地図帳を借りようとして部屋に入ったんだけど……」)カクカクシカジカ
(末妹「……そうだったんだ、私は……たぶんだけど、野獣様の欠片に導かれてここに来たの」)
(次兄「え、野獣様の欠片は、もう完全にお前に溶け込んだんじゃなかった?」)
(末妹「うん、その通りよ、だけど……だから、これはきっと」)
(末妹「野獣様から分けていただいて、今は私の力になった……私のたったひとつの魔法……かもしれない」)
(次兄「末妹の魔法????」)
(末妹「そんな気がするだけ、とにかく……私を呼んでいるの、だから行かなくちゃ」)
(次兄「な、なんかわからんけど俺も一緒に行くぞ?」)
(次兄(なんか一人じゃ帰れる自信ないし!!))
(末妹「もちろんよ、きっとお兄ちゃんがここに来たのにも意味があるはず……」)
…………
484 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/03/12(日) 21:55:55.03 ID:qgSk7P+h0
※ここまで。ちょっと今後の更新は期間も投下数も不定期になります※
485 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/13(月) 01:08:15.21 ID:Cpq8MHSUO
末妹ちゃんの圧倒的ヒロイン力よ
486 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:39:06.09 ID:4CgeVKsd0
(野獣「……ん?」)
(野獣「深い霧の向こうから誰かがやって来る……まさか」)
(末妹「あ……」)
(次兄「野獣しゃまああああ!?」)
(野獣「お、お前達、何故ここに!?」)
(末妹「野獣様からいただいた欠片に従ったら、ここにいたのです」)
(末妹「呼ばれていると思って……」)
(末妹「……やっぱりここは野獣様の夢の世界だったのですね」)
(末妹「なんだか違うような感じもしたけれど……」)
(次兄「野獣様! 野獣様!!」ヒシッ)
(野獣「……『違う』というのがわかるのか、いや何よりも、ここにお前達が来れたなんて」)
(次兄「愛の力!! 愛の力なのですうううう!!」スリスリスリスリ)
(野獣「あーはいはい」ウンザリ)
(野獣「少し不快だが次兄は放置しておくとして……末妹よ、実はお前が感じたとおり」)
(野獣「ここはいつもの私の夢の世界とは少しばかり違う世界なのだ……おそらくは」)
(末妹「どういうことでしょう……?」)
(野獣「私は師匠と菫花が墓所を訪れた時から、なぜか二人の声を聞けるようになった」)
(野獣「と同時に、いつも私がいる世界とは何かが違うと感じていた」)
487 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:40:36.26 ID:4CgeVKsd0
(野獣「師匠と菫花の魔力、そして師匠と菫花が小国の領土に入り、屋敷に接近してきたこと」)
(野獣「私や菫花の両親の墓所に師匠と菫花がいること、そして」)
(野獣「菫花に、自分がまだ知らぬ過去の話を知りたいというとても強い思いがあること」)
(野獣「あの二人の行動や精神状態、魔力、それらに大きく影響されたのか」)
(野獣「いつもとは違って、私の力が及ばない現象がところどころ起きている」)
(野獣「まず風景、私がいくらバラ園や屋敷を思い浮かべても変わらず周囲は見ての通り白い霧に覆われたまま」)
(野獣「それに私の魔法……仮想の窓が使えない、そして全く予想外の……呼び出していないお前達が現れた」)
(末妹「では、呼んでいたのは野獣様ではないのですね」)
(野獣「師匠が現実世界で、墓所の周囲に強力な魔法による結界を張った」)
(野獣「菫花が誰にも邪魔されず泣けるようにな」)
(末妹「泣いていたのは菫花さん」)
(末妹「私、誰かの泣き声を聞いたのです、誰の声かわからないほど微かだけど、本当に悲しそうな……」)
(末妹「でも耳から聞こえたのではなくて……野獣様の欠片を受け取った胸のあたりから、『聞こえた』のです」)
(野獣「!?」)
(末妹「だから私、欠片にどうすればいいのか尋ねてみました、そしたら『わかった』のです」)
(末妹「心を落ち着けて、目を閉じて……そうすればきっと泣き声の主の元にたどり着ける、って」)
(次兄「俺が見た時は部屋で末妹は眠っていました、俺も肩に触れた途端に眠くなって」スリスリスリスリ)
(野獣「会話をしたいのならその高速頬擦りをやめい、暑苦しい」グイ)
(次兄「うむぎゅ」グエ)
(次兄「……しかし、現実世界で肉体が眠ったから俺達はここに来れた、やはり野獣様の夢の世界なのでは?」)
488 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:41:46.72 ID:4CgeVKsd0
(野獣「うむ、夢の世界に、師匠の結界が重なってしまったのかもしれない」)
(野獣「師匠の結界は入れない者を弾く力は弱く緩やかだが、その代わり例外なく弾く、見た目以上に強力な魔法」)
(野獣「周囲と完全に遮断された結界の内側と、現実とは混じる事のない夢の世界が、二重になっているのだろう」)
(末妹「野獣様の夢の世界でもあり、師匠様の作った場所でもあるのですね」)
(野獣「そうだな、しかし師匠は我々がこうしているとは思いもよらないだろう」)
(野獣「私だって、今の時点で全てを理解できているとも思えんが、それより」)
(野獣「……さっきも言ったが、菫花が心置きなく泣けるように師匠が張った結界」)
(野獣「菫花自身は現実世界にいるわけだが……泣き声は聞こえるか、末妹」)
(末妹「……そう言えば、野獣様に近付くにつれはっきり聞こえるようになって来たけれど」)
(末妹「今は聞こえなくなってしまいました」)
(野獣「私も少し前から聞こえなくなってしまった……泣きやんだのだろうか?」)
(末妹「現実世界の様子を見ることはできないのですか?」)
(野獣「ああ、仮想の窓が使えなかったのだ、しかし……お前達が来る前と今とでは状況が違う」)
(野獣「駄目元で、もう一度試してみるか……」スッ)
(野獣「仮想の窓」シュパ)
(野獣「お、開いたぞ……ああ、かつての王城の庭園と、一部とは言え殆ど変っていないな」)
(末妹「あ、あれは菫花さん……?」)
(次兄「……なんかぶっ倒れていません?」)
(野獣「泣き伏しているのか、いや、あれは」)
489 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:42:47.84 ID:4CgeVKsd0
(末妹「……お顔、マフラーか何かぐるぐる巻きですけど」)
(次兄「この状態で大泣きしたら涙やらなんやらでマフラーが湿って、呼吸できなく……?」)
(末妹「!? た、大変!!」)
(次兄「そうだ、菫花さんが死んじゃったら野獣様の存在も!?」)
(野獣「菫花、しっかりしろ!!」)
(王子「……み、皆さん……?」)
(末妹「菫花さんっ!」)
(野獣「菫花!?」)
(野獣「お前がここにいる……つまり、現実世界では意識がないという意味ではないか!!」)
(次兄「戻って帰って!! 自分の肉体なんとかして!!」ワタワタ)
(王子「え、し、しかし、どうすれば!?」アタフタ)
(野獣「ええい、手荒な方法を使うか……末妹、目をつぶっていろ」)
(末妹「え」)
(次兄「あ、こういうことですね?」メカクシ)
(末妹「え」ミエナイ)
(次兄「念のため耳も」ミミフサギ)
(末妹「え」キコエナイ)
(次兄「俺も目をつぶります、紳士同士の礼儀」)
490 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:44:48.65 ID:4CgeVKsd0
(野獣「次兄、恩に着る!」ブン)
ドフッ
(王子「 」)
(次兄「……聞き覚えのある鈍い音、俺も次姉ねえさん相手に何度やられたか」)
(野獣「……こっちで意識を失って姿が消えた、あっちに戻ったか」フー)
(次兄「野獣様が暴力とか、と言っても腕力とガタイを生かして腕を振るだけでけっこうなダメージでしょうね」)
(次兄「しかも普通の男子ならともかく、菫花さんならどう考えても避けたりしないしできないし」)
(野獣「緊急事態でやむを得なかった」)
(野獣「腹を適当に殴ったので生身の体ならば危険だが……精神体だ、痛手は一瞬、引き摺らない」)
(野獣「……その手を離してもいいぞ次兄」)
(次兄「お、ごめん末妹、乙女になるべく見せたくないシーンだったので」パッ)
(末妹「お兄ちゃん、野獣様、菫花さんは……?」)
(次兄「現実世界に戻って倒れたままもぞもぞ動き出した」)
(野獣「……なんとか口と鼻を覆うマフラーをずらす事ができたようだ」)
(末妹「あ、息ができるようになった……よかった……」ホー)
(次兄「ああ一時はどうなるかと、ほんっと生きる力に乏しい人だなあ」フー)
(野獣「そのまま眠ってしまったようだ、つまり……」)
(王子「……」ボー)
(末妹「菫花さん!!」)
491 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/03/19(日) 11:45:18.62 ID:4CgeVKsd0
※ここまで。次回までちょっとお待たせするかもしれません……※
492 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/19(日) 16:25:22.79 ID:gBjR7ZXjO
王子ww
ほんと締まらないやつだよwwww
でもそんなとこ好きよ
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/26(日) 06:42:09.69 ID:dJbGbOZbO
次姉に怒られる→毛布
独り咽び泣く→死にかける
この予測不能のコンボこそ王子クオリティ
494 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/04/10(月) 19:02:28.75 ID:N9HBrCnm0
※ごぶさたです…諸事情あってとりあえず復帰は今月下旬になりそうです※
生存報告でした
495 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/11(火) 01:23:11.58 ID:4a0SF7GOO
了解
待ってます
496 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/04/27(木) 23:28:28.43 ID:OWu1IZyd0
(王子「……末妹さん」)
(末妹「はい」)
(王子「次兄君……それに野獣……」)
(次兄「うぃーす」)
(王子「な、なぜ君達が……ここに……?」)
(野獣「その前に、お前は『ここ』をどこだと思っている?」)
(王子「え、ここは……両親の、小国の最期の王と王妃の墓……」)
(王子「……あれ?」キョロキョロ)
(王子「……どこ……だろう……ここは……」)
(野獣「まあ正直、私も理解し切れているとは思わないのだが」)
(野獣「まずは、我々が今に至るまでをな、3人それぞれから……」)
〜かくかくしかじか〜
(王子「……不思議なことが起きているんだね」)
(王子「ここはおそらく、師匠の結界と夢の世界が重なった……ような……場所」)
(王子「野獣はいつもの夢の世界にいた時から、墓所での僕と師匠の話を聞いていた」)
(王子「末妹さんは野獣の欠片に導かれるようにここへ」)
(王子「次兄君は……説明にいろいろ文学的な表現を付け加えていたけれど……眠くなったらここにいた」)
(次兄「端的に言えばそれだけですよーだ」)
(野獣「拗ねるな」)
497 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/04/27(木) 23:30:24.80 ID:OWu1IZyd0
(野獣「まあ、理由はわからんが我々が置かれている状況は、そういうことだ」)
(野獣「師匠ならばもっと正確に分析できると思うが」)
(末妹「師匠様……今、菫花さんと私達がこうなっていること、本当に気付いていないのでしょうか?」)
(次兄「いないよ、たぶん」)
(次兄「おっさんの事だもん、気付いていたら自分も乗り込んで来るでしょ?」)
(王子「……師匠」)
…………
師匠「……何故か、結界を構成する儂の魔力に何かが『重なって』いるように見えたので」
師匠「集中して結界に目を凝らしてみると、『こんなこと』になっていたとは」
師匠「……末妹と次兄、それに野獣」
師匠「菫花が無意識に彼等を求めて呼びかけたのかもしれん」
師匠「……ここからは会話までは聞こえん、儂ならばあの中に入り込む事もできるが」
師匠「今回ばかりは入らない方が良いな」
師匠「3人とも、どうか菫花の心を癒してやってくれ」
師匠「それは儂にはできないことだ……」
…………
498 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/04/27(木) 23:31:39.97 ID:OWu1IZyd0
※とりあえず、おひさしぶりです※
3月末からずっとバタバタしておりまして、書き溜めも進まず、すみませんでした
次回更新はGW明けの予定です……
499 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/28(金) 00:12:22.38 ID:Nn4jYO0zO
待ってた
待ってたよ…
乙
500 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/05/08(月) 23:25:05.44 ID:9Zg0LsFU0
(王子「師匠……」ポロッ)
(次兄「およ、涙」)
(末妹「菫花さん……」オロオロ)
(野獣「また泣くのか、末妹と次兄の前だぞ、いい加減にしろ」)
(王子「そ、そうだね……皆、ご、ごめんなさ……っ、えぐっ」グシグシ)
(末妹「……師匠様が語ったのは、辛いお話……だったのですか?」)
(王子「……」グス)
(王子「僕は……目を背けていた」)
(王子「父上も母上も……罪は犯したけれど、それでも『人間』だって事実……そして」)
(王子「師匠達、魔術師ギルドの幹部が暗殺したのは……その『人間』という事実……」)
(野獣「そんな話は……」)
(野獣「師匠達が民の依頼で何をしたのか、そんな話は……我々にはそれこそ『今さら』だろう?」
(王子「……他の、あのことに関わった人々は、200年以上過ぎた今はとうにいない……だけど……」)
(王子「一人だけこの時代に生きている師匠が、あのことを今も背負っている事実、そして……」)
(王子「一人だけ生き残った僕のために、師匠があのことを今も悲しんでいる事実……から……」)
(野獣「お前」)
(末妹「菫花さん……師匠様に申し訳なくて、泣いていたの……?」)
(次兄「……おっさんのメンタル、菫花さんに心配されるほどヤワかしらん?」)
501 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/05/08(月) 23:26:04.61 ID:9Zg0LsFU0
※とりあえずここまで。次回はもうちょっと書き溜めてから投下します※
502 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/08(月) 23:55:27.32 ID:tMZhUz5pO
乙
王子泣き虫だけど良いやつ
503 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/05(月) 02:23:03.27 ID:HB5ZYiiEO
まってるまってる
504 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/05(月) 22:10:45.90 ID:V5amT/zX0
※今週中に再開します…一か月になる所だった、書き込み感謝です※
505 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/10(土) 23:50:25.20 ID:PmpdMSX70
(王子「……父も母も、許されない事をした」)
(王子「罪を引き起こしたのは、ふたりの人間性……弱さや我が儘から」)
(王子「弱くて我が儘になったのは理由がある」)
(王子「子供の頃から周囲がもっと違う接し方をしていたら……背負えないほどの重荷を背負わされずに済んだら……」)
(王子「それでも罪は罪、あんな形でしか償えないほどの重い罪」)
(王子「師匠は、それら全てを理解した上でふたりに手を下した、下さなくてはならなかった」)
(王子「ふたりの息子の僕よりも、ふたりがどんな人間かを理解した上で……」)
(野獣(師匠……))
(王子「……小国の王家が滅びて、師匠達、事情を知る魔術師の皆さんは暗殺しか引き受けていないと言いながら」)
(王子「小国の人々を守るために水面下であれこれ動いて、隣の国に受け入れられるように計らってくれた」)
(王子「230年前の……その時代にいれば、暗殺はどこから見ても正しかった」)
(王子「師匠達もそう思いながら、人々のために働いたことでしょう」)
(王子「そして、師匠以外の皆さんは……元小国の人々を行く末を見守って」)
(王子「次の世代に残すべき物は残し、残さずに消した物はその記憶を抱え、あの時代で天寿を全うした」)
(王子「でも……師匠は」)
(王子「王家の遺児である王子を追って、ずっと後の時代にやって来て、そしてそこでこれからも生きて行く」)
(王子「僕の近くで、僕を目の当たりにしながら……」グシュグシュポロポロ)
(末妹(また泣いちゃった……ハンカチ、確かポケットにあった筈)ゴソゴソ(あ、あった))
(末妹のハンカチ:スッ)
(王子「……あ、ありが、とぅ……」フキフキ)
(野獣「……」)
(次兄「……うーん、菫花さんは安易じゃなかった容易に泣く人ではあるけれど、今回は理由がかなり重い感じ?」)
(野獣「聞こえるように言うな、特に前半」)
506 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/11(日) 02:13:47.17 ID:4zPeEzMc0
(野獣「……まあ確かに重いというか、私も菫花と同じように、今まで知らなかった話も多くてな」)
(王子「……」グシュグシュ)
(野獣「菫花が泣きやむまでの間に、末妹と次兄にも(刺激の強い部分はなるべく省いて)かいつまんで話すか……」)
…………
(次兄「……おっさんと王様には、そんな繋がりがあったのか……」)
(次兄「それに、野獣様達のご先祖……初代王が正体を隠して何百年も生きていたなんて」)
(末妹「……王様と王妃様の……人知れない悲しみ……孤独……失ったもの、得られなかったもの……」)
(末妹「……私には、及びもつかないし計り知れない」)
(次兄「俺だってそうだよ」)
(次兄「そんな俺達から今の菫花さんには、どんな慰めの言葉をかけても上辺になっちゃう気がする」)
(野獣「……すまん、お前達に精神的重圧をかける意図はなかったのだが」)
(野獣「ただ、泣きやまないこいつに対し、次兄のような言い回しをするなら『どん退かないで』いてやって欲しいのだ」)
(次兄「今さら菫花さんに対してソレはないのでご心配なく、ほんと今さら」)
(末妹「……私も、とても慰めの言葉は持てません、でも……」)
(末妹「今の菫花さんには……本当は、他の誰よりも師匠様が……師匠様の言葉が、必要ではないでしょうか?」)
(王子「……!?」)
(末妹「菫花さんの悲しみは、遠く離れた私の……私の持つ野獣様の欠片に届くほどの、強い悲しみ」)
(末妹「それは……師匠様を大切に想ってこその、強い悲しみ」)
(末妹「師匠様も……菫花さんのために、心置きなく泣けるように、誰も入れない場所を作ってくださった」)
(末妹「きっと師匠様は『ここ』に野獣様や兄や私がいるのも、もう知っているはず」)
(末妹「知っているからこそ、いつでも師匠様の力があれば入って来れるのに、来ないのだと思います」)
(次兄「おっさんは敢えて入って来ない、ってわけ……?」)
(末妹「ええ、ですから……菫花さんと師匠様は、今、すれ違っている、と思うのです……」)
507 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/11(日) 02:15:41.27 ID:4zPeEzMc0
※ごめん、寝ます…「今日」中に続きを投下します。あとちゃんとあげます※
508 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 02:47:56.55 ID:Kls9IremO
乙
おやすみ
509 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/11(日) 21:39:29.85 ID:4PVVnJGr0
(野獣「すれ違っている」)
(野獣「なぜ……そう思うのだ、末妹よ?」)
(末妹「師匠様は……菫花さんをいつも見守って、何かあればすぐに側に来て」)
(次兄「うんうん、過保護と呼んでも過言ではないレベルで」)
(末妹「もうひとつ、師匠様ほどの魔法使いが、今こうなっていることに気付かないはずがない」)
(末妹「気付いているのなら、これが誰にとっても予想外の出来事なのもわかるでしょう」)
(末妹「だったら、きっと菫花さんや私達を安心させるため、助言をしに来てくださる」)
(末妹「優しいかたですから」)
(野獣「……」)
(末妹「菫花さんは……ご自分が師匠様を悲しませていると、さっき言いました」)
(末妹「だからひとりで泣いていたのですよね?」)
(王子「……」)
(王子「……う、うん……」)
(次兄「ああ、そっか」)
(次兄「おっさんは菫花さんを気遣うがゆえに放置プr……放置、菫花さんもおっさんを気遣うあまり放置に甘んじてるわけか」)
(野獣(何か言い直した気もするが追求したくない))
(野獣「ふむ……そうか、それがすれ違っている、か……」)
(野獣「なあ菫花……師匠が結界を解いたら、お前は師匠になんと言うつもりだ?」)
(王子「師匠に」)
510 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/11(日) 21:42:44.94 ID:4PVVnJGr0
(王子「……謝りたい、です」)
(野獣「何をだ?」)
(王子「……僕のために師匠の人生が……今も僕のために師匠は……」)
(野獣「師匠がどれ程の覚悟で我々を追ってきたか、お前はもう知っているだろう?」)
(王子「で、でも」)
(王子「僕はっ……君と違う、君には30年間の贖罪の日々があった、でも僕は!」)
(末妹「菫花さん」)
(野獣「そこが引っ掛かる、か……」フゥ)
(野獣「もう許してやれ菫花、お前自身を……両親を、師匠を」)
(王子「!?」)
(末妹「野獣様、菫花さんは、ご自分以外を責めたりしてはいないのでは……」)
(野獣「とうぜん自覚はあるまい、しかしな」)
(野獣「なあ、このあとお前が謝って、師匠が何も感じないと思うか?」)
(王子「……あ……」)
(野獣「父と母の罪は、両親自身が背負って逝った」)
(野獣「二人のため不幸になった人々がこれ以上苦しまないよう、師匠はじめ魔術師達も、始祖も……自分の役目を成し遂げた」)
(野獣「私の過ごした30年間に、内情はどうあれ、バラの呪縛は完遂された」)
(野獣「お前が師匠の覚悟に対して謝るのは、それらの否定、無意味だと言うようなものだ」)
(王子「……っ」ボロ)
511 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/11(日) 21:43:52.87 ID:4PVVnJGr0
(末妹「あ」)
(次兄「ありゃー、またまた泣いちゃった」)
(野獣「ここで涙を堪えられないのがお前であり、昔の私、だな」)
(野獣「泣きやんだら……その時もお前は、師匠に会ったら謝ると答えるか?」)
(王子「……っ」ブンブン)
(次兄「おお、菫花さんがこんなに勢いよく頭を振れるとは」)
(次兄「側にいる俺も末妹も背が低いから、頭同士ぶつかる危険はありません」)
(末妹「これ使ってください菫花さん」)
(王子「あ、また君に迷惑を……ごめん、ありがとう……」)
(次兄「あれ、既に菫花さんがぐっしょぐしょにしたハンカチでは?」)
(末妹「どういうわけか、ここでは私のハンカチだけは私が乾けと願えばすぐに乾くみたい……」)
(野獣「菫花も、願い事をしてみてはどうだ?」)
(王子「え……願い……?」グシ)
(野獣「師匠に、ここに来て欲しいと願い呼び掛けるのだ、お前が」)
(野獣「まさか、向こうから結界を解いてもらうのを待つつもりではあるまいな?」)
(末妹「野獣様」)
(王子「野獣……」)
512 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/11(日) 21:44:47.41 ID:4PVVnJGr0
※ここまで。続きは早くて週末、でなければ来週のどこかで…の予定※
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/12(月) 00:42:41.27 ID:9iB8I3kaO
乙乙
514 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/18(日) 23:22:02.56 ID:xEntoQOX0
(次兄「ちょ、ちょっとお待ちになって野獣様」)
(野獣「なんだ次兄、不服があるのか?」)
(次兄「おっさん召喚については異議なしです、が……準備が少し足りないのでは」)
(末妹「準備?」)
(次兄「今の段階ではきっと菫花さん、なーんも考え無しでおっさんを呼んでしまいますよ?」)
(野獣「な」)
(王子「え」)
(次兄「確かに謝罪は不適切だと菫花さんも気付いたはず、だからってそれに代わる言葉をすぐに発明発見できるでしょうか?」)
(次兄「菫花さんに豊かな感受性はあっても、言葉とは流れ動くもの、思考は追いついたためしがない」)
(次兄「その状態でおっさんに対峙しても菫花さんはへどもど、心配性の野獣様と末妹はおろおろ……」)
(次兄「事態がグダグダの渦中で菫花さんの精神はひとり飽和状態を迎えてその場で人事不省」)
(次兄「……それがいつもの菫花さんですよ?」)
(野獣「そ……それは、その……なんだ、あの……うむ……」)
(野獣「……すまない菫花」)
(王子「」)
(末妹(……『そんなことない』って言葉では簡単だけど、そこから先は、正直どうしたら……)ムム)
515 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/18(日) 23:23:08.80 ID:xEntoQOX0
(次兄「末妹のこの表情……」)
(次兄「ねっ、最後の味方の二人も庇いきれなくなっているでしょ?」)
(王子「…………」ドヨーン)
(次兄「あ、菫花さんが重い空気を背負ってしまった」)
(野獣「……魔力と精神力の影響が強い空間のせいか、鉛色の空気(?)がなんとなく目視できるのだが……」)
(末妹「菫花さん……」オロオロ)
(次兄「うーん、これって結果的に俺がいじめた感じ?」)
(野獣「ここまで自覚なかったのか?」)
(末妹「えーと、毛布……は、さすがに念じても出て来ない……私の羽織っているカーディガンじゃ小さすぎるし」)
(野獣「おお成程、では私のマントを」)
(師匠「……来るつもりはなかったのだが」フー)
(野獣「師匠!?」)
(次兄「おっさん!?」)
(末妹「菫花さ……反応がない……顔を上げて、聞いてください! 師匠様ですよ!?」)
(王子「…………え?」ハッ)
(王子「しっしししししししし師匠っ!?」)
516 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/18(日) 23:24:24.60 ID:xEntoQOX0
(師匠「会話は聞こえずとも、見ていれば場の雰囲気は何となく伝わったからな」)
(野獣「やはり我々の様子をご覧になっていたのですね」)
(師匠「……菫花」)
(王子「ははははっはい!?」)
(師匠「今まで……すまなかった。お前を叱咤激励するとか言いながら、専ら叱咤一辺倒で」)
(師匠「230年前から、儂はずっとお前にひどいことしかしていないのに、な……」)
(王子「……師匠?」)
(野獣「いつもと様子が違う……」)
(師匠「しかしそれも今日までだ、儂はお前を離れた場所から見守る事に決めた」)
(末妹「!?」)
(次兄「は?」)
(師匠「屋敷ごと、菫花、野獣、使用人達を一生かけて守るという、最低限の責任を放棄はしない……だが」)
(師匠「……お前の『父親』を名乗れる立場ではなかったのだ、それにようやく気付いた」)
(師匠「実に勝手な願いだが……君たち兄妹には、引き続き菫花たちの事をお願いしたい」)
(師匠「一番の理解者でいてやってくれ、君たちにしかできない……」)
(王子「……」)
517 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/18(日) 23:25:01.31 ID:xEntoQOX0
※ここまで。続きは今月中にはなんとか……※
518 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/19(月) 00:42:31.21 ID:/mQysbVGO
乙
頑張れ王子、ここはガツンと言うところ
519 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/30(金) 23:38:56.76 ID:1QcTHW5r0
※7/1〜2のどこかで更新します※
520 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/01(土) 00:27:02.26 ID:gRAdWgcIO
ハイヨー
521 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/02(日) 22:48:25.39 ID:Xx+X21hG0
(野獣(私も師匠に言いたい事がないわけではないが……))
(野獣「……次兄、末妹……気になるだろうが、とりあえず口を挟まず見守ろう、いいな?」ヒソヒソ)
(末妹「は、はい」ヒソ)
(次兄「ええ、空気読みまっせ」ヒソソ)
(師匠「まずは君たち兄妹を体に……家に帰さねばならんが」)
(師匠「それはいつでも出来る、だからもう少しのあいだ菫花と話をしてやってくれないか?」)
(師匠「儂は終わるまで『外』にいる、すまんが野獣、頃合いを見て合図をしてくれ」)
(師匠「それでは……」クル)
(王子「……!!」ガッシ)
(師匠「なんだ」)
(王子「……」ギュー)
(師匠「なんだ菫花、儂のローブを雑巾でも絞るように握りしめて」)
(王子「…………師」)
(王子「……匠」)
(王子「師匠、は……」)
(王子「師匠は、勝手、です……」ギュウウ)
(師匠「菫花」)
(末妹「菫花さん……」)
(師匠「……勝手か、そうだな……お前の気持ちも考えず」)
(師匠「勝手に姿を現し、お前に全てを語るよりも前、言わば真実を隠したまま勝手に父親を名乗ったのだから」)
(王子「! ち、違、そっちではなくて……」ギュウウウ)
522 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/03(月) 00:23:42.55 ID:hYpbHSSX0
(王子「僕がどんなに嬉しかったか、幸せか、僕なんかを、貴方に息子と呼んでもらえて……!」)
(師匠「……『僕なんか』だと?」)
(師匠「自分を卑下するな菫花、お前はいい奴だぞ、第一お前の友人達にも失礼ではないか」)
(次兄「そこかなあ、おっさん?」ボソ)
(王子「それでも敢えて言います、僕は駄目な王子、いや、駄目な男です」)
(王子「王子として駄目なのは言うまでもなく、両親の息子としても出来損ない、好きになった女性を幸せにする力もなく」)
(王子「魔法使いとしても禁忌を犯し師匠を裏切り……」)
(野獣「……」)
(王子「それでも、それを承知で、何もかもひっくるめて、僕がこの時代(せかい)で生きる事を許してくれて」)
(王子「僕の『家』を作ってくれて、僕を教え導く『親』となってくれたのは、師匠です」)
(王子「この時代で出会った皆さんと、僕でも繋がりを持って良いと思えるのは、師匠がいてくれるからです」)
(王子「師匠の息子として外に出て、人と出会って、また帰って来れる」)
(王子「それがどんなに心強いか……」ギュウウウウウウ)
(師匠「……もう今のお前には、儂がいなくとも」)
(末妹(菫花さん、もっと簡単な言葉でいいのですよ……))
(王子「なんでもいいから側にいてほしいんです、それでは駄目ですか?」)
(王子「僕は師匠が好きなんです、それでは駄目ですか!?」)
(師匠「菫花」)
(師匠「……………………」)
(野獣「師匠」)
(野獣「我々に向かって『なぜ黙って見ているのだ』なんて顔をして見せても、駄目ですよ?」)
523 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/07/03(月) 00:28:47.35 ID:hYpbHSSX0
※毎回短くてごめんなさい、次回そろそろ解決編です…※
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:11:39.16 ID:1gmR+sCvO
乙
師匠もちょっとズレてるよなw
みんなで補い合ってるから大丈夫だけどね
525 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/07/11(火) 21:34:01.14 ID:7TPYXqHM0
※お知らせのみ。重ね重ねのお待たせ申し訳ありません…次回更新は7/20以降になります…※
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 22:12:58.51 ID:JxKstyAnO
了解
暑さに負けず頑張れ
527 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/30(日) 23:49:49.97 ID:XN30S/Jm0
(野獣「逃げずに向き合ってあげてください、菫花の精一杯なのですから」)
(師匠「逃げ……儂が逃げているだと……」)
(末妹「師匠様……」)
(次兄「おっさん」)
(師匠「……」)
(野獣「今この二人が口を開くとすれば、菫花の後押しになる言葉だけでしょうね」)
(野獣「ここにいる誰も師匠を逃がしたりはしませんよ」)
(師匠「儂は……」)
(師匠「……このまま、お前の屋敷で暮らせるならば、菫花の側にいられるのならば……幸せになってしまうではないか」)
(師匠「『王子』を追い掛けて長き眠りに入る決意をしたのは……儂が幸せに暮らすためではなかった、考えもしなかった」)
(末妹「でも……でも、師匠様は……王子様に……野獣様に菫花さんに、幸せになって欲しかったのでしょう?」)
(師匠「末妹嬢」)
(末妹「ごめんなさい、口出しをしない約束だったのですが……」)
(野獣「続けて良いぞ、末妹」)
(末妹「……」コクリ)
(末妹「どうなっているかわからない200年後の世界で……王子様を守るため、それだけではなく」)
(末妹「王子様がこの世界で生きていける手助けをするために……何もかも置いて、追い掛けて来られたのでしょう?」)
528 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/30(日) 23:51:27.31 ID:XN30S/Jm0
(末妹「そして、菫花さんの幸せには……師匠様が必要……です……だから」)
(師匠「もうよい」)
(師匠「わかった、皆まで言うな、儂は……自分の間違いを、認めるしかなさそうだ……」)
(末妹「師匠様」)
(師匠「菫花」)
(王子「っはいっ!?」)
(師匠「改めて聞くが……良いのか、儂がお前の父親、いや、家族で?」)
(王子「……さっきも言いましたよ、良いとか悪いとかではなく」)
(王子「なんでもいいから……僕の家族でいてください、いいえ、家族でいて欲しいのです、『お父さん』に」)
(師匠「……」)
(次兄「貴重な菫花さんの意思表示」)
(末妹「お兄ちゃん」)
(次兄「あらうっかり口に出してた」テヘ)
(野獣「……確かに貴重だな」フフ)
(師匠「……」)
(王子「……」キュッ)
(師匠「また今にも泣きそうな顔をして、お前は本当に……」)
529 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/30(日) 23:53:29.58 ID:XN30S/Jm0
(師匠「……儂がいないと、まだまだ……だな」フゥ)
(王子「!!」)
(師匠「儂は逃げないから……そろそろローブから手を離してくれ、ねじ切れそうだ」)
(王子「! はははいっ、ごめんなさい!!」パッ)
(ローブ:ブロロロロン)
(次兄「おお、すごい勢いで元に戻って行く」)
(師匠「旅から帰ったら、もっとゆっくり話をしよう、時間はある……お前と儂が共に過ごす時間はな」)
(王子「……はいっ!!」グス)
(末妹「よかった……」ホッ)
(師匠「さて、そろそろ……物質世界に戻らねばな、だが」)
(師匠「その前に、君等を無事に戻さなくては」)
(末妹「私達を……?」)
(師匠「いつも通り普通に来たのでなければ、いつも通り普通に戻れる保証もないからな」)
(末妹「あ……」)
(次兄「確かに今回はイレギュラーだからなあ」)
(野獣「師匠にはなぜこうなったか、分析できますか?」)
530 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/07/30(日) 23:54:07.39 ID:XN30S/Jm0
※ご無沙汰していました。師匠と王子解決編でした……次回もなるべく近いうちに※
531 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/31(月) 01:41:05.76 ID:w+NZcWvlO
乙
二人とも真面目と言うか、義理堅いのかもね
532 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/08/21(月) 00:00:31.42 ID:+rEWvkH/0
(師匠「そうだな……お前が末妹嬢に与えた『かけら』があってこそ起きたのは間違いないだろう」)
(師匠「そして菫花が、儂の作った結界の中で無意識にこの子ら兄妹とお前に助けを求め」)
(師匠「条件が揃ったことで、お前の夢の世界と同じ現象が起きた」)
(野獣「私達の憶測はおおよそ当たっていたようですね」)
(師匠「……まあ、正直儂にも今のところそれ以上はわからんということだ」)
(師匠「屋敷に戻ったら、参考になる事例はないか文献を調べてみようとは思っているが……」)
(野獣「すっかりいつもの師匠ですねえ」)
(師匠「ふん、過去のことでクヨクヨしないと決めたからには、今後のことだけ考えるしかないわい」)
(師匠「話を戻す。原因は完全にはわからんが、対処方法はある」)
(師匠「まずは、我々が今立っておるこの世界の地面に、魔法陣を……ちょちょいっと」)
(次兄「すごい、本当にちょちょいっで描いちゃった」)
(末妹「見たことあるわ、この……」)
(野獣「ああ、私が以前、お前達を家に帰す時に使った魔法陣と同じだ」)
(王子「……物質世界で生身の人間を移動させるのと、同じ術を使うのですか」)
(次兄「ってことは、この魔法陣の内側で本体に戻りたいって願えば戻れるのか」)
(師匠「これでいつでもすぐ帰れるから……久し振りに会ったのだ、別れを惜しむ時間くらいは取れるかな」)
(末妹「……ありがとうございます、師匠様!」)
(師匠「ただし手短に頼む、そろそろ物質世界のあの場所を隠蔽し続けるのも限界だ」)
533 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/08/21(月) 00:01:15.56 ID:+rEWvkH/0
※お久しぶりでした。短いけれど、生存報告も兼ねて…※
534 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/21(月) 00:54:26.96 ID:Gj3d+4DiO
乙
535 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/14(木) 16:14:41.54 ID:d1kkE+W7O
エター?
536 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/09/19(火) 00:15:43.21 ID:zRzorvHC0
(末妹「もう……大丈夫ですね、菫花さん?」ニコリ)
(王子「ええ、もう大丈夫……」コクリ)
(王子「君達の、おかげだ……」)
(末妹「師匠様を引きとめたのは、他の誰でもなく菫花さんですよ」)
(王子「一人ではできなかった、末妹さんや次兄君や野獣がいたから」)
(次兄「ありゃ、俺もカウントされてんの?」)
(王子「うん、君が予防線を張ってくれなかったら、あんなふうに師匠に意思表示ができなかった……と思う」)
(野獣(予防線ね、本当に物は言いようだ))
(末妹「野獣様も……これで安心ですね」)
(野獣「ああそうだな、私からも礼を言う、何よりも末妹がここに」)
(次兄「……」ジーットギョウシ)
(野獣「……末妹が、次兄を連れて、ここに辿り着いてくれたお陰だ」)
(野獣「しかし末妹、お前が異変に気付いた時は、菫花や私に会える保証はなかったのに……恐くはなかったのか?」)
(末妹「……ええ、野獣様の欠片が導いてくださると、絶対それは間違いないと信じていました」)
(末妹「それと……私の意思の力で迷わず辿り着けると、兄も力を貸してくれると、自信もあったのです」)
(野獣「お前の意思の力で……」)
(師匠「ふむ、なるほど」)
537 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/09/19(火) 00:17:05.35 ID:zRzorvHC0
(野獣「師匠?」)
(師匠「儂の推測に、ひとつ抜けていた要素があった……末妹嬢自身の力、か」)
(師匠「……君は魔法を習った経験は?」)
(末妹「あ、ありません」)
(師匠「だろうな、百も承知で尋ねたが」)
(師匠「……呪文、または呪文を込めた魔法具がなければ魔法は発動しないのはもちろんだが」)
(師匠「術者本人にそれを習得した自信、自分の力として使えるという自信がなくては成功しないのだ」)
(師匠「もしかしたら、野獣の欠片が末妹嬢にたったひとつの魔法の力を与えたのかもしれん」)
(末妹「!」)
(師匠「今回のように条件が揃って、そこに次兄少年という支えがいなければ発動しなかった力、そして」)
(師匠「末妹嬢の強い意志があったから無事に菫花達の元へ辿り着けた」)
(師匠「……と、いまだに推測の域だが、末妹嬢が終始受け身で巻きこまれただけ、と考えるより腑に落ちる」)
(次兄「へえ……末妹も、これが自分のたったひとつの魔法かもしれない、って言ってたな?」)
(末妹「うん、そんな気がしただけ、だけれど……あの時はそう思ったわ」)
(師匠「ふむ、では儂の説に自信を持っていいわけだ」)
(野獣「……末妹、お前は本当にすごい娘だな」)
(末妹「え、いいえ、そんな」)
(末妹「私の持つ力だとしても、何もかもが、私ひとりの物ではありません」)
(野獣「それでも、末妹であればこそ、この魔法になったと思うぞ?」)
(野獣「お前の……私や菫花を、師匠を、執事やメイド達を想う心が、私の欠片をそのように作り変えた」)
(野獣「私はそう信じている」)
(末妹「野獣様……」)
(次兄「ふむぅ」)
(次兄「ということは、欠片をもらったのがこの俺だったら……?」)
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