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末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)
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425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/11(水) 03:08:51.94 ID:EuWjWZJbO
あけおめやったー!
426 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/01/12(木) 22:15:20.01 ID:fLh1mxgF0
閑話休題。執事とも出会う前、独り暮らしの野獣……
…………
野獣「『よくも大切なバラを折ってくれたな、この代償はどう払う!?』」
野獣「……ううむ、いまいち……かな?」
野獣「幸い、この前ここに迷い込んできた旅人はバラに手を出さなかったが」
野獣「いつかそんな人間が現れた時のために、準備はしておくに越したことはない……よな?」
野獣「しかし人を怖がらせるのは父の真似をすればなんとかなると思っていたが、意外とうまく行かないものだ」フゥ
野獣「……」
(師匠「そしてバラの花が折り取られた時…正確には、バラを欲した人間が花一輪でも手にした時」)
(師匠「代償としてその日のうちに相手に手を下さなければ、残りのバラも枯れ、枯れ切った時にお前も死ぬだろう」)
野獣「……お前の命で償え、と、告げるまではまあ……できたとしても」
野獣「問題は……私が、本当に、その人間に手を下すことはできるのか、と……」
野獣「この腕、この爪、私の背丈なら熊のように振り下ろせば……普通の人間ならばひとたまりもなかろうが」
野獣「できるのか? この手で人間の脳天を、首筋を、叩き潰す」
野獣「この爪で人間の喉を、腹を、引き裂けるのか?」
427 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/01/12(木) 22:16:55.66 ID:fLh1mxgF0
野獣「……銃でも手に入れようか、一思いに、苦しませず」
野獣「それとも……」
野獣「直接殺傷能力のある魔法は使えないが、眠らせることはできる」
野獣「いくつか魔法を組み合わせれば、眠らせたままでそっと心臓を止められないか?」
野獣「いや、それよりも眠らせてから毒薬を飲ませようか?」
野獣「苦しまずに逝ける毒……まず毒薬の調合の本が必要か」
野獣「うちにある調合の本は、美味しい薬草茶や治療薬ばかりだからな……」
野獣「……」
野獣「……相手と心が通じ合い、信頼が生まれたら、バラの呪縛は解けて相手を殺さずに済む」
野獣「が、私にとっては……そちらの方が容易だとも思えない……」
野獣「もしも『その日』が訪れたなら」
野獣「バラには申し訳ないけれど、共に枯れて朽ちるしか……私には選べないのかもな……」
…………
まだ、執事達という守るべき『家族』もいなかった野獣……
……………………
428 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/01/12(木) 22:17:33.64 ID:fLh1mxgF0
※お久しぶりです。本編も近いうちに※
気が向けば今回の「続き」、商人が屋敷に泊まった時の舞台裏を書くかも(書かないかも)※
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/12(木) 22:54:37.24 ID:/YJmkw3TO
乙
冒頭の舞台裏は気になるかも
みんなバタバタしてたんだろうなww
430 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/01/19(木) 00:10:57.67 ID:rAAmjg0o0
閑話休題。森で迷った商人が野獣の屋敷を訪れた夜……
…………
野獣「そうか、旅人は眠ったか」
メイド「ベッドに入るなり、ぐっすりでした」
野獣「ごくろうだった、メイド、庭師」
庭師「へへ、あの人間さん、僕らの存在にはまるで気付きませんでした」
庭師「家具に隠れながら忍び足で歩くのはちょっと楽しかったです」
メイド「私はちょっと大人の男性の人間さんは怖いから、部屋の外で庭師君を待っていましたけど……」
メイド「でもなんだか、お腹のプヨッとしたのんびりした顔の人間さんです、よく見たらそんなに怖くなかったですー」
野獣「はは、では朝の目覚めの茶はお前が枕元に運んでやれ」
野獣「さあ、こんな遅い時間までご苦労だった……もうお休み、メイド」
メイド「はい、おやすみなさいませ!」ペコリン
庭師「じゃあ僕、今度は馬車に地図を置いて来ますね!」
野獣「頼むぞ、終わったらそのまま部屋に戻って休んでいいからな」
庭師「はい!」ピュン
執事「……わたくしが行ってもよかったのですが、馬を怖がらせたくはないので」
野獣「仕方ない、森での様子を見ていた庭師の話では、狼の遠吠えに怯えていたらしいからな」
料理長「では……お客様に明日の朝はミルクで煮出した紅茶を振舞いましょうか」
野獣「そうだな、頼むぞ」
野獣「……」
431 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/01/19(木) 00:12:08.38 ID:rAAmjg0o0
野獣(本当に、何事もなく……旅人を送り出してやれれば良いのだが)
執事「ご主人様、お疲れですか? 黙り込んだりして」
野獣「ん……ああすまん、考え事をしていた」
野獣「人間を屋敷の中まで招き入れ、一泊の宿を与えたのは今回が初めて、しかし」
野獣「付き合いの長いお前達には話したこともあると思うが」
野獣「執事もまだいなかった頃、森に迷い込んだ人間に、食事と一時の休息を提供したことは2回ばかりあってな」
執事「ええ、そのお話でしたら確かに」
料理長「最初はお祈りをする仕事の人、二度目は犬を連れた二人連れ、でしたよね?」
野獣「そうだ」
執事「……ご主人様は『そのあと』の話が気がかりなのでしょう?」
執事「わたくしは忘れてはいませんよ、ご主人様に従います」
料理長「わしも覚えていますよ」
執事「ただ、お話を伺った時点との違いは、庭師とメイドの存在ですが」
野獣「……」
野獣「そうだな、あの時私は……」
……
(野獣「……もし今後この屋敷を訪れた人間が裏庭のバラを折り取ったら」)
(野獣「その時には私はその人間を……罰さなくてはならない」)
(野獣「厳密に言うと、罰さなくてならない可能性ができる」)
(野獣「理由は明かせないが、いちど屋敷の門に入ることを許した人間に対して、裏庭を遮断するのは不可能で」)
(野獣「だから私が人間を罰するかどうかは」)
(野獣「バラ園に立ち入るのか、バラに手を出すのか、その人間の行動……意思次第というわけだ」)
432 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/01/19(木) 00:13:21.53 ID:rAAmjg0o0
(執事「罰する」)
(野獣「……罰する場合は、その者の命を奪うことになるのだよ」)
(料理長「ご主人様が、人間を」)
(執事「……穏やかな話ではありませんが、それがご主人様にとって必要であるのなら」)
(執事「当然それを妨害はしませんし、お手伝いできることがあれば」)
(料理長「わしもです、ご主人様のためであれば、なんでもお申し付けください」)
(野獣「……ありがとう」)
……
野獣「……お前達はいつでも詳しい訳など聞かずとも、私に従ってくれる」
野獣(実際に罪を犯すのは、手を汚すのは私だけで良いが)
野獣「明日……万が一の際には、ほんの少し手を貸してもらいたい」
野獣「あくまでも万が一、残り九千九百九十九は何事もなく過ぎるとしても、だ」
野獣「料理長よ」
料理長「は、はいっ」
野獣「明日の朝、客人が寝室から出たら、庭師とメイド……あの子達を裏庭からできるだけ遠い部屋に連れて行ってほしい」
野獣「何か仕事を与えて、ふたりともお前の傍から離さないでくれ、執事か私が呼びに行くまでは」
料理長「……かしこまりました」
野獣「執事」
執事「はい、ご主人様」
433 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/01/19(木) 00:14:17.22 ID:rAAmjg0o0
野獣「お前には私の近くに控えていてもらいたいが」
野獣「もしも私が裏庭に出る必要が起きたならば、私が呼ぶまでは出入り口から顔を出さずに待機していてくれ」
執事「はい」
野獣「……お前には何を頼むかはその時になってみないとわからんが」
野獣「人間の亡骸を運び出しどこかに埋める……最悪の場合はそれを手伝ってくれ」
執事「仰せのままに」
野獣「まあ、万が一の話だからな? ふたりとも」
執事「ええ、今の心構えが無駄に終われば、それが一番よい結果に決まっています」
料理長「メイドちゃんが恐れないほど優しそうな人間ですよ」
料理長「人間の世の中できつく禁じられている盗みを働くようなお方とは思えません」
野獣「そう、あの実直そうな、しかもバラがそう珍しくもない程度には裕福そうなあの男が」
野獣「他人の庭のバラをもぎ取るなど、するはずもないと……信じたい」
野獣(……それでも、起きてしまったら?)
野獣(その状況で、彼を生かし且つ屋敷での暮らしを守れる道を探れるだろうか?)
野獣(……私はもう簡単には死ねない、執事達と出会ってしまったから)
野獣(なのに……森で迷う旅人を放ってもおけなかった)
野獣(どうか、九千九百九十九であってくれ)
野獣(今となっては願うしか、祈るしかできない)
野獣(何事も起きるな、無事に過ぎてくれ、と……)
…………
万に一つが起きる、その前夜の野獣たち……
……………………
434 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/01/19(木) 00:14:46.01 ID:rAAmjg0o0
※結局書いてしまった、前回の続き。次回更新は本編です、たぶん※
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/19(木) 06:32:28.23 ID:kUGY5FqdO
乙
今にして思えば、あの商人が花泥棒なんてなぁ
魔法の力で心も惑わす美しさだったのかな
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/22(日) 10:45:09.98 ID:z0n5eG5co
次兄(実際に を犯すのは、手を汚すのは私だけで良いが)
437 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/03(金) 00:03:59.61 ID:YGHk7Uwk0
※生存報告。こんどの金土日のどこかで、とりあえず更新あります※
>>435
>>436
登場人物の性格よく見ててくれて嬉しいです
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/03(金) 01:04:17.95 ID:Spqtyr/pO
楽しみ楽しみ
439 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/05(日) 00:49:47.27 ID:gWDZTuh80
※更新2月5日、とりあえず5レス以上は。時間帯未定…今夜は寝ます※
440 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:26:08.66 ID:51bwU4QR0
師匠「お前の母親,当時の王女」
師匠「彼女の15歳の誕生日を祝う祝宴が城で開かれた」
師匠「王族達……もちろんお前の父親も呼ばれ、あとは有力者連中」
師匠「魔術師ギルドの幹部もそこには含まれる」
師匠「……うち一人が儂の後見人でな、18歳の儂を自分の助手兼従者としてその場に連れてきた」
王子「師匠のそのまたお師匠様ですね」
師匠「幼いうちから魔法の修行は積んでいたとはいえ、庶民の生まれのまだまだ駆け出しの魔術師」
師匠「煌びやかな場所でお歴々に囲まれ、なんとも居心地の悪い思いの儂に向かって」
師匠「魔術師達を除けば、その場では数少ない顔見知りの『彼』が声をかけてきた」
師匠「居心地悪さにとどめを刺しにな」
王子「……ですよね」ハァ
師匠「とはいえ儂は少しばかり反骨心の強い若者だったから」
師匠「周囲の評価ではひねくれているとか天の邪鬼とか表現されたが」
師匠「彼の一言で逆に開き直ってどーんと構えて過ごす覚悟が出来たので、そこは少しだけ感謝しとるわ」
王子(そんなに若い時分からこんな感じだったのですね師匠)
師匠「……また脱線したな、それで……」
師匠「儂がお前の母親の姿を間近で見たのはその日が初めて」
王子「……」
師匠「確かに美人ではあった、お前とよく似た髪の色と目鼻立ち、違うのはくっきりと青いひとみの色と全体的な印象」
師匠「客観的に見ても、周囲がちやほやするのは理解できる」
441 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:28:05.22 ID:51bwU4QR0
師匠「……そんな彼女を見て、お前の父親がつぶやいた言葉、儂は自分の耳で聞いた」
師匠「『いい気なものだ、口ばかり達者で一人では何にも出来ないお人形さんが』」
王子「……」
師匠「お前の祖父の代、儂の師匠は王城によく出入りしていて」
師匠「子供の頃からの彼等のことも知っていたし、殊のほか仲が悪かったのがお前の両親だったことも知っていたので」
師匠「儂にはこっそり教えてくれていた」
師匠「尤も、その頃はさすがにどちらも露骨に態度に出すほど幼くはない」
師匠「彼も低い声で呟いた一言が、儂の耳に入っていたとはまさか思うまい」
王子「……まさか、何か魔法を使って父の呟きを……?」
師匠「阿呆、ギルドの幹部にも囲まれた公式のお堅い場で、助手身分の魔法使いが勝手に呪文の詠唱など出来るか」
師匠「通りすがりにたまたま聞いてしまっただけだわい」
師匠「彼は何かと神経質な男ではあったが、自分より下に見ている相手に対しては、だいたい油断していたからな」
王子「……」
師匠「そろそろ、そのふたりが結婚に至った話をしようか」
師匠「……お前がよければ、の話だが?」
王子「続けて……ください」
師匠「では歴史の授業の復習」
王子「は?」
442 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:31:11.81 ID:51bwU4QR0
師匠「第一問、今のこの『とある国』と、西の島国の戦はいつ始まったか?」
王子「え、えーと……僕が生まれた年の6年前だから……」
王子「今から256年前、です」
師匠「うむ、では第二問」
師匠「……当時、とある国の他に小国と国境を接していたのは?」
王子「……北の大国、いえ、後に北の大国の領土となる『山の王の国』です」
師匠「そうだ」
師匠「山の王の国は我らの小国よりは大きかったが、それでも周辺に比べれば小さく」
師匠「数百年ばかり周辺国と争いを繰り返した末に、山岳地帯のみが手元に残った……そんなところだな」
師匠「山の王には『とある国』の肥沃な大地は手が出るほど欲しいもの」
師匠「そこに件の戦の知らせが飛び込んできたものだから」
師匠「とある国が西の島国との戦に戦力を割いている状況を好機と見なし」
師匠「隣接するとある国の北半分を手に入れるべく」
師匠「二つの大きな国同士の戦が始まった翌年に」
師匠「まずは通過点にある小国を伸(の)して潰して魔術師ギルドの総本山も手に入れてから意気揚々と本命を攻め落とす!」
師匠「……山を越えて乗り込んで来た軍隊の総大将はそう宣言しおった」
王子「そ……そんな都合よく事が運ぶものでしょうか……」
師匠「お前ですらそう思うのだから」
師匠「そのような舐めた作戦を取った理由、山の王には山の王の事情とやらがあったのかもしれん」
443 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:34:08.10 ID:51bwU4QR0
師匠「しかし攻め込まれた側はそんなもの思い遣ってやる義理もない」
師匠「小国は全力で迎え撃つしかない」
王子「記録上、魔術師ギルドが関わった最後の戦争、ですよね?」
師匠「……などと呼ばれてはいるが」
師匠「お前が少年時代に本で読んだ、英雄と魔術師対魔王軍の時のような……派手な魔法戦はなかった」
王子「派手な魔法」
師匠「瞬時に町ひとつ焼き尽くす大火炎魔法、沖に見える島まで千人の兵士が渡れる氷の橋を作れる大氷結魔法……」
王子「『大』が重要なのですね?」
師匠「その他、あまりに強大な破壊の力を持つ攻撃魔法の数々だ」
王子「ということは、師匠もそのような魔法は使えないのですか?」
師匠「お前はお前の使った心を読む魔法がギルド最大の禁忌だと思っているだろうが、更に上の禁忌がある」
師匠「使えば罰せられるどころではない、もちろん習得からして禁じられてはいるが」
師匠「秘密裏に習得できたとて、いざ使うために詠唱を始めた瞬間にその者の心臓は止まる」
師匠「魔術師ギルドの正式な構成員になる際、そのための小さな魔方陣を心臓に刻まれるからな」
師匠「当然、儂にも刻みこまれているぞ」
王子「……使ったから罰を受ける、どころではないのですね」
師匠「お前の始祖、英雄王の時代は使われていたが、彼の在位中に破棄された」
師匠「英雄王いわく……これから後の時代の戦とは、人間同士のものだけになるだろう」
師匠「人間同士の戦いに、あまりにも強大な呪文は必要ない」
師匠「王や魔術師達に、それらを破棄する理性のある時代のうちに……と」
444 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:36:05.98 ID:51bwU4QR0
師匠「魔法に取って代わって、人間は武器をもっと発達させるだろう、とも」
王子「始祖達の、悩んだ末の決断でしょうね……」
師匠「それが本当に正しかったのかどうか、儂には正直わからんが」
師匠「また脱線してしまったな……要するに、我々の生まれた時代の魔術師達も」
師匠「攻撃魔法が得意と言っても……目に見える弓を持たぬ射手、目に見える銃を持たぬ銃士、に過ぎなかった」
師匠「しかも実際は補助魔法や治癒魔法のほうが重宝された」
師匠「要は最前線で戦う兵達の支援だわな」
師匠「……王が、魔術師達を戦場に駆り出しておきながら最前線に立たせ数を減らすのを惜しんだ、とも言われたし」
師匠「当時のギルド長がそのように王と約束を交わした、とも言われたが」
師匠「儂の師匠もそのへんは教えてはくれなんだ」
師匠「なんにせよ……儂にもあまり楽しい思い出ではない」
王子「……ですよね」
師匠「ので、手短に」
師匠「この戦には、お前の父親も、母親の三人の兄達も従軍していた」
師匠「戦の後半になるにつれ、小国は優勢に傾くという戦況だったが」
師匠「第三王子、彼は優秀なれどもやや短慮なところがあって……悪く言うなら『功を焦った』」
師匠「早い話、そのために命を落とし……双子の弟を助けようとした第二王子は深手を負う」
師匠「……ほどなく山の王の国を退ける形で一年間続いた戦は終わり」
師匠「お前の父親と第一王子はほぼ無傷で王都に戻れたが、ついでに儂も」
445 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:38:17.14 ID:51bwU4QR0
王子「……しかし第三王子は亡くなって、第二王子は……」
師匠「どうにか生きては戻ってきたが、起き上がることもできぬまま一ヶ月後には亡くなってしまった」
師匠「当時の王、お前の祖父の悲しみはどれほどの物であったか」
師匠「戦の後に国内が落ち着く頃には、病の床に就いてしまった」
師匠「その代行を務めたのは言うまでもなく第一王子」
師匠「病床の父、悲しみにくれる妹、戦の直前に結婚した妻、そして何より小国の民を」
師匠「それらが一気に彼の肩に」
王子「……」
師匠「元より、物心つくと同時に次代の王としての自覚と覚悟は持ち続けていたのだろうし」
師匠「陰では父親以上の立派な王になるだろうと、誰もが期待していただけはあった」
師匠「周囲の助けを借りつつ、少なくとも無難にはやるべき事柄をこなしていた」
師匠「一方で、王女には結婚の予定が前からあったが、戦と、二人の兄の喪に服すため、婚礼は延期され続けた」
師匠「……王族は異国人と、そうでなくても存在が認められない『隠し子』を持つことは許されなかったが」
師匠「正式な婚姻を結ぶのであれば、異国へ嫁ぐことは問題なかった」
師匠「お前の母は、『とある国』の第二王子……西の国との戦で成果を上げたその人物と、婚約していた」
王子「え……それって確か、南の港町にある、『英雄の像』の」
師匠「ああ、彼がのちに小国の民が安全に暮らせるよう尽力してくれたのは……果たして偶然かどうか」
王子「でも、母とは結ばれることはなかった……」
師匠「そうだ、王女の兄も妹のため手を尽くし、先方は何の問題もなく喪が明けるのを待ってくれるはずだったが」
446 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 17:40:10.83 ID:51bwU4QR0
師匠「その矢先、王女の兄さえも父親に先立ち逝ってしまった、理由は知っているか?」
王子「……一番上の伯父は事故で、とは聞きましたが、詳しくは」
師匠「彼は部下や下々の者にも思い遣りのある人物でな」
師匠「例えば国の大きな事業の現場に赴いて労いの言葉をかける、その行為が仇になった」
師匠「小国にあった『白い月の橋』を覚えているか?」
王子「ええ、僕が生まれる前からあって、今も残っている大きな橋でしょう?」
師匠「うむ、実は件の戦で一度は壊された橋でな、戦後に掛けられた仮設橋を本格的に掛け直す工事が始まったのだが」
師匠「嵐の日に現場に慰問に訪れ……土砂崩れに巻き込まれた」
王子「……」
師匠「お前の祖父が後を追うように亡くなったのは言うまでもなかろう」
師匠「そして、唯一の先王の実子となった王女は、異国へ嫁ぐことは叶わなくなり」
師匠「婚約は破棄された」
王子「その時の、『とある国』の王子様や王様は怒らなかったのですか?」
師匠「万一、王女が新しい小国の王妃となる場合はこの婚約は破棄される」
師匠「これは婚約当初からの条件だったので……国同士は『恨みっこ無し』」
師匠「当人の想いは置いといて、だがな」
王子「……」
師匠「あとはお前も知ってのとおりだ」
師匠「存命で、なるべく直系に近くありながらも王女の夫となれるほど離れた血筋の、男の王族」
王子「……父しかいなかったのですね」
447 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2017/02/05(日) 17:40:53.41 ID:51bwU4QR0
※小休止。続きは数時間後に※
448 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:09:17.68 ID:51bwU4QR0
王子「それもまた……当人達の想いは置き去りにして」
師匠「……」
師匠「正直……周囲も、人柄や適性の面で先王や第一王子には及ばないと充分理解はしていた」
師匠「当人達もお互い気の進まぬ婚姻ではあったが逆らえるはずもなく」
師匠「二人とも自尊心と義務感はあった、これからは国を支配する存在として生きなくてはならないとは決意したのだろう」
師匠「だから、世継ぎとなる子を成すのも必要だと理解していた」
王子「師匠」
師匠「ん?」
王子「……僕を身籠った頃の母は……父は……」
王子「何を、思った……でしょう……?」
師匠「ふむ……」
師匠「お前の母親が身籠った頃が、お前の父が王になって最も王宮の雰囲気は良かった頃かもしれん」
師匠「立て続きの兄や父の死、婚約破棄、それらからようやく王妃が立ち直ってきた時期でもあり」
師匠「亡くなった父や兄とも血の濃い世継ぎが生まれるのは喜ばしかったに違いない」
師匠「先王の直系ではなかった王も」
師匠「先王の孫である子の父となることで、その引け目を払拭できると思ったのだろう」
王子「……でも、期待されて生まれて来たのは……」
王子「今ならわかりますよ、比べられた義兄達に負けないほど優秀な王子が息子ならば、父はもっと僕を」
王子「自分の兄達の生まれ変わりのように優秀な息子ならば、母はもっと僕を……」
師匠「菫花……」
449 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:10:48.00 ID:51bwU4QR0
師匠「……儂が知る、お前の生まれる前の両親の話、は、これで終わりだ」
師匠「お前に接していた両親の様子は、お前が誰より知っている」
王子「ええ、そうです」
王子「二人とも、あの舞踏会の夜まで、最期まで……」
王子「……最期……まで……」
師匠(声が震えているな)
王子「……我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました、師匠」
王子「想像していた両親と……だいたい同じでした」
王子「僕がそばにいるのも構わず、母が時々つぶやいてた独り言」
師匠「?」
王子「繋ぎ合せると、こんな感じでした」
王子「『上のお兄様の奥方、聡明なお義姉(ねえ)様、今は修道院に入っておられるけれど』」
王子「『お義姉様とお兄様との間にお子さえ生まれていたならば、今ごろ私は……』と」
師匠「お前……」
王子「…………父にはもっと面と向かって色々言われました」
王子「その中には、僕を結婚させて生まれた孫にこそ期待をかける、とも」
王子「全ては仕方がなかったのです、次々と周囲で悲劇が起きて、自分達にはどうすることもできなくて」
450 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:12:11.92 ID:51bwU4QR0
王子「望まずに国の頂点に立たされた二人の……期待をかけた王子が、期待外れと来ては」
王子「人間として、八つ当たりくらいしたくもなりますよね?」
師匠「おい、菫花」
王子「ええ、その八つ当たりの対象が何より大切な国民達なんて、それは決して許せません」
王子「王としても、人間としても……それは僕も充分わかっています、230年……いえもっと前から」
師匠「……親としてだけは、少しでもまともな面もあったとか、期待していたか?」
王子「そっそんなつもりでは!!」ブンブン
王子「そんなつもりでは……いいえ……だけど……」
王子「……もしかしたら両親の事が、少しは理解できるようになるかも、とは、期待したかもしれません……」
師匠「両親について、振り切れたわけではなかったのだな」
師匠「ま、それも当然か」
王子「……おかしいですよね、今の僕は」
王子「野獣の代わりに、どこにでも行ける自由を手に入れて」
王子「血は繋がらなくとも僕には勿体ないほどの家族ができて、素晴らしい友達もできて」
王子「今までにないほど幸せなのに……まだ、過去に囚われている……なんて」
師匠「……」フゥ
師匠「……今のお前は、ただ自分の過去と上手に折り合いをつけたい、それだけなのだ」
王子「……折り合いを……?」
師匠「過去の出来事は、忘れることはできても消せはしない」
451 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/05(日) 21:14:19.90 ID:51bwU4QR0
師匠「しかしお前からは前向きにしか見えない人々だって、過去を綺麗さっぱり忘却したから前を向けるわけではない」
師匠「自分の過去とどうにか上手くやる方法を見つけたから、前を向けるようになっただけだ」
師匠「お前はそれを見つけるのがド下手なので、何度も行きつ戻りつしながら足掻いている、それだけさ」
王子「……」
師匠「……いずれ話すつもりではあったが」
師匠「お前の両親の最期がどうだったか、気にはならんか?」
王子「……!!」
王子「そ、それは……師匠があの夜、教えてくださった以上のことが……!?」
王子「師匠達は、ふたりの心臓が止まるまでの一瞬の間に『悪夢』を見せた」
王子「その夢の中での『数ヶ月間』で、国に革命が起き王と王妃は捕えられ裁判にかけられて」
王子「民衆の手によって『彼らの行いに見合った最期』を遂げた、と……」
師匠「嘘ではないが、あの状況では可能な限り端折って話さねばならなかった」
師匠「お前の……お前がどう捉えるかは、お前の勝手」
師匠「この話はお前にとって救いになるとは限らん、却って苦しむかも、それは儂には判断できん」
王子「……」
師匠「……どうする?」
王子「……教えて……ください」
師匠「……わかった」
…………
452 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2017/02/05(日) 21:15:36.72 ID:51bwU4QR0
※ここまで。次回は師匠の語りでなく回想シーン形式で……王と王妃の過去話だけに、内容暗くてすみません…※
453 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/06(月) 00:56:39.27 ID:sW35PE7eO
乙
悲劇だな
でも子供には何の罪もないのにね
454 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:22:55.49 ID:A6bjvzRP0
過去の出来事、王子20歳の誕生日、舞踏会の夜。
魔術師ギルド幹部…以下「幹部」
幹部2「……王と王妃はこのまま、『革命の悪夢』の中で死ぬ、もう後戻りはできん」
幹部1「王子はどうだ?」
幹部3「予定通り、両親の命が尽きるまでは目覚めない……我に返った時には過ぎた時間を一瞬にしか感じないだろう」
師匠(=幹部4)「本当に、心を読む魔法を使ってしまうとは、な……」
幹部3「幹部4……王子のほうも、もう後戻りはさせられない」
師匠「ああ、百も承知だ」
幹部3「……」
師匠「幹部1、そろそろ良いか?」
幹部1「そうだな、彼等の悪夢も終焉に近づいているだろう」
幹部2「既に記憶の中では数か月間の牢獄生活を送っているはずだ」
幹部1「いま王妃の暗示の『一部』を解いた、幹部4の言葉にだけは反応するようになっている」
師匠「わかった、では……」
師匠「……王妃様」
王妃「だから私は……止めたのよ、一のお兄様……あの嵐の日……」ブツブツ
王妃「なぜ世継ぎの王子自ら、橋を造る人足達を労いに行かなくてはならないの……」ブツブツ
師匠「王妃様?」
王妃「」ハッ
455 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:24:42.75 ID:A6bjvzRP0
王妃「……誰? 看守ではなさそうね……では処刑の執行人かしら?」
師匠「いいえ、以前にお会いしたことがありますよ」
王妃「ああ……魔法使いね、父王の代に王宮に出入りしていた老魔術師の弟子で、王の留学先での『学友』だとか」
師匠「よく覚えておいでで」
王妃「こんな監獄に足を運んで、惨めな囚人を見物に来たの?」
師匠「先ほど、何かつぶやいておられたようですが……?」
王妃「あら、魔法使いを相手に懺悔をしろ、と」
王妃「ふふふ……心底、惨めなものね……どんな重罪人も、処刑の前に教会の司祭を寄越して貰えるでしょうに」
師匠「……ええ、私は貴女のため祈ることはできません、ただ少しの間お話し相手になれるならば、と……」
王妃「なんのつもりか知らないけれど……よくよくの暇人なの?」
王妃「でも確かに、ひととき気を紛らわすのも悪くはないかも」
王妃「それに……地獄だって今の状況に比べれば……少しはマシでしょうね、ふふ……」
師匠(少なくとも、生き延びる可能性は諦めているようだな)
師匠(彼女の記憶では、どんな『数か月』を過ごしたのやら……)
王妃「暇人の魔法使いや、私の一番上の兄……先王の第一王子がなぜ亡くなったか、知っていて?」
師匠「はい、存じております」
王妃「私は止めたのよ、こんな嵐の日に、橋を造る現場へわざわざ慰問に行くことはない、と」
王妃「でもお兄様は『こんな日だからこそ、私が直に励ましの言葉を掛けなくてはならないのだ』と」
王妃「こうも言われたわ、『父上も我々三兄弟も、幼くして母を亡くしたお前を不憫だと甘やかしすぎた』」
王妃「『今さら私にはどうもしてやれそうにないが、隣国の第二王子に嫁げば色々とお前の世界も開けるだろう』」
王妃「『私よりずっと素晴らしい、自国の民の事をよく考えておられる王子だから』って……」
456 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:27:21.29 ID:A6bjvzRP0
王妃「それが、一のお兄様との最後の会話だった」
王妃「ねえ魔法使い」
王妃「お前は兄の……世継ぎの王子としての最後の行いを愚かだと思うかしら、それと立派だと思うかしら?」
師匠「国を背負う者として、実に立派な行いだと思っております」
師匠「……直後の出来事は非常に残念でしたが、それはどなたの落ち度でもありません」
王妃「やはり、お前もそう答えるのね」
王妃「……お兄様はあの日、行くべきではなかったと言っていたのは私を含め二人だけ、誰だと思う?」
師匠「……お兄上様の、奥方様ですか?」
王妃「ふふ、違うわ」フルフル
王妃「お義姉様は強くて聡明で立派な方よ、お兄様の選択を他の誰より正しかったと信じている」
王妃「私と子供の頃は会えば喧嘩ばかりしていた、相性最悪の、あの男……私の夫、国王よ」
師匠「王が」
王妃「『民は国のために在るのだから、国のために働くのは当然だ』と」
王妃「『国はすなわち王なのだから、危険を冒してまで次代の王から民のご機嫌伺いに出向く必要などなかったのに』と」
王妃「……後から考えたら」
王妃「一のお兄様が亡くなったせいで自分の人生を変えられてしまった腹いせとしか思えないけれど」
王妃「『兄上を誇れ』と言うばかりの周囲の慰めより、彼のその言葉に、私と同じ、愚かで身勝手で見識の狭い彼の存在に」
王妃「私は慰められたの……」
師匠「……」
457 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:28:37.18 ID:A6bjvzRP0
王妃「そんな王家が国を支配しているのですもの」
王妃「二人とも人生で何かひとつでも思い通りにしたくて、そんな二人がこの小さな国で『一番偉い人間』だった」
王妃「そうよ、民を、国を、玩具にしていたの」
師匠「王妃様……」
王妃「その通りでしょう? だから民の怒りが今の有様を引き起こしたのでしょう?」
王妃「この期に及んで言い逃れもしなければ誰に許しを斯うつもりもないわ、結末は同じですもの」
王妃「夫も……王も、この監獄のどこかにいるのでしょう? もうずっと会っていないけれど」
王妃「それとももう死んでしまった?」
師匠「いいえ……王妃様と同じような状況におられますよ」
王妃「お前は王とも話をしたの?」
師匠「……これから伺うつもりです」
王妃「そうなの、それではしっかりと話を聞いてあげてね」
王妃「あの人はお前の事が、本当は嫌いではなかったようだから」
師匠「……っ!?」
王妃「あ、その理由までは私はわからないから、質問なんか受け付けないわ。知りたかったら本人に聞くのね」
王妃「だからそろそろお行き、役人の許可を得てはいるのだろうけど、私もこれ以上話すことはないもの」
王妃「それに少し疲れた、一人になりたい」
師匠「……王子様のことはお聞きにならないのですね」
王妃「やめて」
王妃「せっかく王子の話題が出る前に会話を打ち切ったのに」
王妃「両親の所業の巻き添えで首を撥ねられるあの子のことなど考えたくもない、思い出したくもない!」
458 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:30:49.99 ID:A6bjvzRP0
師匠「母親としては当然の感情です、しかし」
王妃「違うの、王子を可愛がっていたお前に、最後だけは愛情深い母親だったとか思って欲しいのではない」
王妃「お兄様達にも流れていた父上の血を、その孫であるあの子で絶やしてしまうのが辛い」
王妃「あの子のそのまた子供は、もしかしたらお兄様達のように賢く強いかもしれない、それが潰えるのが悲しい」
王妃「ご先祖様達だって、無能な王の後に名君と呼ばれる王が出たことだってあったでしょう?」
王妃「あの子の、王子の罪は……罪があるとすれば、弱かったことだけ、親に逆らえなかっただけ」
王妃「民に対し処刑されるほどの事はしていないわ、できないわ、あっ、それに貧民の娘とも友人だったのよ!?」
王妃「そうだ魔法使い、庇ってあげられないの? お前はあの子を」
師匠「王妃様、王子……様は、民に対する罪を負わされてはおりません」
師匠「ただし残念なことに……魔法使いとして、我々に対する罪を犯してしまいました」
師匠「ですから、魔術師ギルドの掟によって罰せられます……が、『生きて償う義務』も課せられます」
師匠「王子様は生きて罪を雪ぐ、そして……」
師匠「私もまた王子様の魔法の師として、生涯かけて弟子が犯した罪の責任を取る所存でいます」
王妃「……あの子は、私達と一緒に死ぬことはないのね? 少なくとも生き延びられるのね? 神に誓える?」
師匠「誓いますとも」
王妃「そうなの、よかった……この監獄に来てからの数カ月、こんなに安堵できたのは初めて……」
師匠「王妃様、本当に貴女は、王子様のことを……?」
王妃「ふふ……自分でもよくわからないわ」
王妃「民への罪と同じよ、今さら言い逃れもしないし許しも請わない、あの子に対しても、ね」
459 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/02/18(土) 23:32:47.08 ID:A6bjvzRP0
王妃「さあ……本当にもう王の所へ行って頂戴、あの人によろしくね」
師匠「王様にお伝えするお言葉はありませんか?」
王妃「よろしく伝えて、それだけよ、どうせまた地獄で出会うでしょう……その前に処刑場かもね」
師匠「……畏まりました」
師匠「王妃様は少しご休息をお取りください、本当にお疲れのようですから」
王妃「ええ、そうさせてもらうわ、なんだか眠い」
王妃「……ありがとうね、暇人の魔法使い……」
師匠「……おやすみなさいませ」
師匠「……」
師匠「幹部1……幹部2、幹部3……王妃との話は終わった」
幹部1「では、彼女への最期の呪術を施そう……苦痛無き眠るような死、それで良いな、皆?」
幹部2「ああ、異存はない」
幹部3「彼女の現実での表情を見るに、そうは思えないけれど、ね……」
幹部2「明日の朝には人々に知れ渡り、一夜で滅びた王家として歴史に刻まれなければならないのだ」
幹部1「安らかな死に顔をさせるわけにも行かないだろう?」
幹部3「……わかっている」
師匠「では、次は王だな?」
幹部1「ああ、王も君の言葉にだけ反応するようにした……頼む」
師匠「……」コクリ
(王妃「あの人はお前の事が、本当は嫌いではなかったようだから」)
師匠(王妃のあの言葉は真実なのか?)
師匠(王……)
…………
460 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/18(土) 23:33:26.80 ID:A6bjvzRP0
※ここまで。次回も王の最期をこんなふうに一気に、日時未定ですがなるべく早く投下できたら、と※
461 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/19(日) 01:21:41.46 ID:maz3H3t+O
乙
根っからの悪人ではないだけに、居たたまれないな
462 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/26(日) 23:50:13.81 ID:u5aqlIxc0
……………………
そして、その頃……
(野獣「……」)
(野獣(……夢だな、これは……この世界でも、肉体のない私にも、休息や睡眠は必要だし))
(野獣(眠れば『夢』を見ることもあるが……この夢は……私の記憶や知識から湧き出したものと言うより))
(野獣(実際に起きていること……そう、師匠の声で……過去の出来事が語られている、きっと実際に師匠は語っているのだ))
(野獣(その相手は、紛れもなく菫花))
(野獣(二人の旅も終盤、かつての小国の領土に入って、距離が近くなったせいなのか))
(野獣(師匠の言霊の力なのか、それとも菫花の、過去を知りたいという強い思いが私と共鳴したのか))
(野獣(それら全ての要素が合わさったせいか))
(野獣(始祖である英雄王とギルドの関係、若い頃の両親、そして……))
(野獣(母上の、最期……))
(野獣(見かけは苦悶を浮かべた死に顔だったが、苦痛と絶望の中で息絶えたのではなかったのだな))
(野獣(師匠達、魔術師ギルドの幹部達が掛けてくれたせめてもの情け……慈悲を))
(野獣(これから罰せられる王子には明かせる筈もない))
(野獣(……))
463 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/26(日) 23:51:17.05 ID:u5aqlIxc0
(野獣(屋敷で獣の姿で目覚め、30年間暮らした中で))
(野獣(私も相当、身勝手な振る舞いをして来た……罪と呼んでいい))
(野獣(気まぐれで旅人を助け……何も知らない彼らがバラを折ったらどうなっていたかわからないのに))
(野獣(そして森の獣を使用人に作り変え))
(野獣(またもや私の気まぐれで招き入れた商人の命を、実際に奪う寸前まで行き))
(野獣(末妹を家族から引き離した))
(野獣(結果的に、使用人達も末妹とその家族も私を許してくれただけの違い))
(野獣(……私の両親は、民に許されなかっただけの違い))
(野獣(しかし菫花は、昔の私として禁忌の魔法を使った罪は負ったが))
(野獣(野獣の罪とは無縁))
(野獣(私が、数々の過ちを犯した前には戻れないように、あいつも今の私ではない))
(野獣(師匠の話に何を思うか……私には想像しかできない))
(野獣(……そして今度は、父の最期が語られるのか……))
……………………
…………
464 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/02/26(日) 23:52:27.47 ID:u5aqlIxc0
※ここまで。一気に、と言いつつ後で出す予定のシーンをここで挟みたくなった…なのでsage更新です※
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/27(月) 11:35:40.12 ID:uuiH64PZO
乙です
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/10(金) 23:39:51.02 ID:bjl/fpKvO
待ってる
467 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:36:24.05 ID:bgu+yfMr0
……
師匠「王様……国王陛下」
王「……なんだ、貴様か」
王「看守達もいなくなり、ようやく一人になれると思ったが……よりにもよって貴様とは」フン
師匠(記憶の中では彼もそれなりの獄中生活を送っているはずだが)
師匠(こういう所は相変わらず)
王「で……余に何の用だ?」
師匠「私ごときでも、しばし話し相手にでもなれれば、と」
王「ごとき、ね」
王「はん、学校でも成績優秀だった上に魔法の才能もあった貴様が何を言う」
王「どうせこの場に二人きりなのだ、『俺』を王とは思うな、昔の調子で口を聞いて構わん」
王「それとも、それもできないほどの臆病者だったか?」
師匠「……」フゥ
師匠「わかったよ、『君』はもう少し消沈していると思ったが……『学友』」
王「ははは、それで良い……」
王「……くだらんよな」
師匠「?」
王「俺の一生がだ、どうせ貴様もそう思っているのだろう?」
師匠「……くだらないかどうかはわからない、が……正直に言って、君は道を誤った、とは思う」
468 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:37:41.94 ID:bgu+yfMr0
王「俺を王にしたのが一番の間違いだ」
師匠「……」
王「ふん、わかっている、王になってからの振る舞いを言っているとは」
王「反発する者は処分し、忠告する物は追放し、逆らわぬが無力な者から枯れるまで搾り取り、役に立つ者へ与える」
王「先王ならばこんな愚かな事は……先王の王子が生きていれば……」
王「彼等が健在だった頃と同じようにまたも比べられた」
王「俺はこう思ったものだ、山の王の国から領土を分捕ってでも来れば文句を言ってた連中も黙るだろう、と」
王「山しかないと言いながら、あの国には近年発見された鉱物資源があり」
王「我が国に仕掛けた先の戦で消耗し、十年以上経ってもまだ立ち直れていなかった」
王「しかし失敗は許されん、俺なりに慎重に準備を進めた」
王「『あの屋敷』を手に入れたのもその一環だ、機械仕掛けを新しい戦術に活かせないか、とな……」
師匠(あの屋敷と言っても、我々は今まさにその屋敷にいるのだが)
師匠「……それが血も流さずあっさりと北の大国の領土になってしまったのは、今から2年ほど前だったな」
王「ああ、またも物事は俺の思い通りにはならなかった」
王「その上、高い魔力を持つくせに腰抜けで役立たずの王子は『戦がなくてよかった』と安堵している」
王「本格的に息子に期待するのを諦めたのはその頃だ」
師匠「……」
王「ふん……何故か貴様はあれをお気に入りだったよな」
469 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:39:25.02 ID:bgu+yfMr0
王「人一倍ひ弱な赤ん坊だと知った時から、新たな子供を成さねばと思ったが、妃には拒まれた」
王「あの女はもともと義務で世継ぎを産んだのだ、身籠り、産むという苦痛を、俺相手にこれ以上は味わいたくなかったのだろう」
王「だったら期待するのは孫しかないだろう?」
王「あれは始祖の血を濃く引いている」
王「従順で血統のよい嫁を取らせて三人も産ませれば一人くらいは当たるだろう」
師匠「王妃の発案した誕生祝いの舞踏会を承諾したのは、そのためか」
王「ああ、目を付けていた娘を何人か招いていた」
王「まさかあれ自身が貧民の小娘を招いていたとは思わなかったが」
師匠「そのことで王子を咎めたのか?」
王「妃は泊まらせずに追い返せと怒っていたが、俺は……こいつも男だったのかと見直したよ」
王「俺の選んだ娘を正式な妻に娶りさえすれば、あの小娘を寵姫にさせてやっても構わないとは考えたさ」
師匠「……君と言う男は……」
王「ははは……貴様が自分の娘のように目をかけて仕事まで世話してやったそうだな?」
王「なあに、俺と王妃がいなくなればお前の好きにしてやれば良いだろう、王子も小娘も」
師匠「……」
師匠「……それは、させてやりたくても……」ギリ
王「ん? あいつも反乱軍に捕まっているのか?」
師匠「……」
師匠(王妃にした話を、この男にもするか……)
470 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:40:31.41 ID:bgu+yfMr0
王「……ふむ、魔法使いとしての罪か」
王「くくくく……本当に馬鹿馬鹿しい、全てはくだらない……はーっはっは……」
師匠「何がそんなにおかしいのだ」
王「はは……もう恍けるはやめにしないか、ギルドの幹部よ」
師匠「どういう意味だ?」
王「……」
王「……山の王の国へ攻め入る準備を進めていた頃だ、俺は数代前から忘れ去られていた城の地下倉庫を探っていた」
王「固く封をされた一冊の書物」
王「150年、いやもっと前か、当時の先祖は本当に忘れたのか、敢えて封印したのか、そこまでは窺い知れなかったが」
王「……英雄王、我ら王族の始祖、人間でありながら魔物の力を取り入れた男」
王「子や孫の成長を見届けて亡くなったと言われているが……本当なのか?」
王「400年前の活躍を見るだけでも、既に人間の範疇を超えていたのは間違いない」
王「そんな男が、たった70年か80年しか生きなかった、と?」
師匠「……まさか」
王「貴様等の魔術師ギルドでも、幹部に選ばれた際に初めて知らされるらしいな」
王「……魔術師ギルド総本山の長とは、400歳を超えた英雄王『本人』であると」
師匠「……」
師匠「……ああ、儂も知った時には驚いた」
471 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:42:53.09 ID:bgu+yfMr0
師匠「我々でさえ直接顔を合わせることは滅多にないお方ではあるが」
王「そして小国王家の監視者の長でもある」
王「子子孫孫が自分の教えを忘れ去っても、自分の願いとは異なる振る舞いをしても、見守るだけで放置せよ、と」
王「他国との戦に勝とうが負けようが、民が反発しようが、流れに任せよ、と」
王「栄えようが滅ぼうが、子孫が選んだ道だと突き放す傍観者、そいつが我々の血の繋がった始祖だ」
師匠「……学友」
王「……その顔は、俺を哀れんでいるのか?」
王「はは、大概の先祖とは子孫のやる事なす事に干渉のしようがないのは当たり前」
王「始祖は過去の人間、つまり死人としての立場を貫いただけ」
王「最も悪いのは、次代への伝承を怠った150年前の王だ」
王「次に悪いのは、先祖を恐れ敬う心を失った俺自身だ」
王「貴様等の長を責める気はない」
王「ただ……ただ、くだらん、馬鹿らしい……王としての人生が」
王「俺は読み終えたそれら複数の書物を燃やした」
王「それまでの生き方を変える気も起きなかった」
王「自分の人生を気の済むように生きて、自分が死んだ後はどうなろうと知ったことではない」
王「そうでなければ不公平だと思った」
師匠「……」
472 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:43:49.21 ID:bgu+yfMr0
王「挙句の果て、今こうして民の反乱に屈し……死を待つ身になった」
王「王妃も、同じように死んで行くのだろう?」
師匠「……ああ」
王「ふ、今ごろ泣き喚いているだろうな」
師匠「……王妃様とは、先ほど少し話をしてきた」
王「ほう?」
師匠(この男が儂をどう思っているか云々は除いて、王妃との会話を教えてやるか……)
王「……は、妃なりに覚悟はできているのか」
王「まあ元から自尊心だけは高い女だ、取り乱さないだけ立派だと褒めてやろう」
師匠「王妃様は……君の事を気遣っていたぞ」
王「……」
王「共に過ごせば愛はなくとも情は沸く、女とは大なり小なりそういう生き物だ」
王「妃も夫が俺でさえなければこんな最期は迎えなかった、哀れだとは俺も思わないわけでもない」
王「王子も……」
王「……」
王「俺の望みを、王子に伝えてはもらえないか? 遺言だ」
師匠「?」
王「憎めと、お前を不幸にしたのは父だと、父を憎めと」
王「母を憎む時もあるかもしれない、しかしそれも元はと言えば父のせいだ、だから父だけを憎めと」
473 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:45:16.26 ID:bgu+yfMr0
王「……なんてな、俺の遺言をあれに伝える義務は貴様にはない、好きにしろ」
師匠「……」
王「またその顔か」
王「くく、本当に貴様は面白い、俺が嫌いなのではなかったか?」
王「貴様が本当のところ何を思っているかは知らん、しかし」
王「俺は……妙だな、貴様の前では己を取り繕う気が失せるのだ」
王「貴様は身分が低いのに、子供の頃から俺を恐れも媚もせず堂々と振舞っていた、他の人間を前にしたのと同じように」
王「羨ましかった、貴様は頭も良いし才能もある、しかし……それ以上に貴様の強さが羨ましかった」
師匠「な、何を言うんだ」
王「こいつは状況的に他人だの運命だのに振り回されていても、自分の今の全てを自分の責任にできるのだろう」
王「いつも……周囲の連中、親、先祖、立場、とにかく全てを他者のせいにしてきた俺とは違うのだ、と」
王「異国の学校で出会った時からそう思っていた」
王「貴様のような人間になりたかったと……牢獄に来てからはその想いが強くなって」
師匠「学友」
王「……時間があれば、時間をかければ、いつでも変われる」
王「しかし、もう俺に時間はない」
王「全ては遅い、遅かったのだ……」
師匠「学友、君は」
幹部3「幹部4!!」
474 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:46:23.93 ID:bgu+yfMr0
師匠「っ!?」
幹部1「……幹部4、あのままでは王の暗示も、偽りの記憶も解けるところだった」
幹部2「君の集中力が乱れて、この場の魔力に影響を与え始めていたのだ」
幹部3「強引ではあったが王との会話を打ち切らせてもらった、悪く思わないで欲しい」
師匠「彼……王は?」
幹部3「そこだよ」
師匠「……苦しんだのか?」
幹部1「表情はどうあってもこうする以外にないが」
幹部1「眠るような安らかな死を、とは行かなくとも……自分が死んだのにも気づいていまい、あっという間もなく心臓を止めた」
幹部2「自己を哀れむばかりで、王妃ほどの僅かな反省すらなかったけれどね」
師匠「……哀れ、か……」
幹部1「……王がギルド長の正体を知っていたとは」
幹部1「しかし、長がどれほど苦しんで暗殺の依頼を受けたかなぞ、想像もつかなかっただろうな」
幹部2「長は小国の民の今後のために、我々と共に働くと約束してくださった」
幹部2「……民の行く末を見届けてから、ようやく永遠の眠りにつかれるのだ」
幹部1「悲しいが、それが長の望みだからな」
師匠「……」
幹部3「……大丈夫か? 次は、王子に……」
師匠「心配いらん、すまんな、幹部3」
475 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:47:30.36 ID:bgu+yfMr0
幹部2「王子に……罰を宣告するのだな」
幹部1「やはり幹部4しか出来ない役目だ」
師匠(王子……菫花……)
師匠(いま我々が、いや、儂がお前にしてやれることは他にはない)
師匠(しかし……儂はお前の師匠として責任を取ろうと思う)
師匠(贖罪のさ中にいる間は見守るしかできないが)
師匠(子孫を見守る立場に徹した故に、長い年月を苦悩されたギルド長のようにな)
師匠(両親と違うのは、お前は贖罪を終えたら自由になれるのだ)
師匠(既に図書館の娘もいない世界だが……それでも、お前の幸せを……)
…………
……………………
…………
王子「…………」
師匠「……これが、お前の両親の最期だ」
師匠「ギルド長……かつての英雄王は、小国の民がどうにか無事に暮らして行く姿を見届けると、永遠の眠りにつかれた」
師匠「舞踏会の夜から5年後のことだ」
師匠「不老長寿の身ではあったが、いつでも死ぬ事は出来たのだ」
師匠「ただ、魔物の血を子孫に残した責任感から、監視役の立場を選ばれた……」
王子「…………」
師匠「……衝撃だろうな、まさか英雄王が、お前の生まれた時代まで生存していたとは」
476 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:48:43.70 ID:bgu+yfMr0
師匠「そして、我々がお前達親子に何をしたか、改めて知らされたのだ」
王子「……」グス
師匠(顔は覆ったままだが……泣いているな、当然だ)
師匠「……やはり人払いをしてやる、思う存分に泣くがいい」
師匠「半径50メートル以内に足を踏み入れた人間がふと他の場所に行きたくなるような、緩く且つ強固な結界を張ってやる」
師匠「ただし2時間だけだ、いろいろな意味でそれが限界だからな?」
師匠「……それから、少し……ゆっくり、儂とお前で話をしよう」
王子「……」グシュ
師匠(頷きもしないか)
師匠「儂は結界の外にいる、結界の中は見ないぞ、一人になりたいだろう?」
師匠「では、2時間後にな……」
結界:もよんもよん……
師匠「……結界の外からは、無人の墓しか見えん」
師匠「この結界に近付いても強制的に弾かれることはないが、通常の人間は、なんとなくそれ以上入って行く気が失せてしまう」
師匠「効果は実に地味だが実は非常に強い魔力が働いている」
師匠「周囲への思わぬ影響を考えても2時間が限度なのだ」
師匠「……」
師匠「結果的に、英雄王の子孫は、英雄王とその意思を受け継ぐ魔術師ギルドの掌の上にあった」
師匠「菫花も儂の掌の上にあった……」
477 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:49:26.56 ID:bgu+yfMr0
師匠「綺麗事を並べてもそれが真実だ」
師匠「菫花と再会して数カ月、儂は話せなかった、まだ早いと、機は熟していないと思っていた」
師匠「……本当は、話したくなかった」
師匠「お前と共に過ごす時間がもう少し長くなるまでは」
師匠「……恨むならば、王でもなく、王妃でもなく、民でもなく、ギルド長でもなく」
師匠「儂を恨め、今こうして生きている儂を……」
師匠「……そう、虫のよい話ではないか」
師匠「自由になったお前を引き続き見守る立場に徹すればよかった」
師匠「お前のためお前を受け入れるこの時代の人々ため関わる、それこそ綺麗事よ」
師匠「……使用人達と少年と少女、彼等彼女等がいる、あいつには」
師匠「夢の世界には、野獣もいる」
師匠「何が……儂の息子だ、あいつの父親だ、そんな虫のいい話があるか……」
師匠「考えたら、あの話をするまでもなく、あいつに好かれる理由があるものか」
師匠「いつも罵倒してばかりだったではないか……」ハァ
師匠「……儂も弱いぞ、学友よ、買い被り過ぎだ……」
…………
結界の内側。
王子「う……うう……」
王子「うわああああん」
478 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 01:50:33.35 ID:bgu+yfMr0
王子「……父上、母上」グシュ
王子「僕は……どうしたら」グスグス
王子「……僕は……どうしたいんだろう……?」グス
王子「う……うわあああああああああ……ん」
(野獣「……」)
(野獣「菫花、私もまさか始祖がギルドの長とは思わなかったが」)
(野獣「始祖の立場も師匠達の立場も……今の私は理解できる」)
(野獣「師匠が自分の全てを捨てて、私をお前を追いかけて来た決意のほども」)
(野獣「父と母は、改めて『ただの人間』であったと思い知らされて、悲しくなったか、哀れになったか?」)
(野獣「だが父と母の罪は罪なのだ、どれほどの人々が両親のために苦しんだか」)
(野獣「それに対し何もしなかった私も」)
(野獣「両親を哀れむ気持ちとは分けて考えなくては」)
(野獣「……私の声は、しかし、届かないのだな」)
(野獣「お前の嘆きは、まるで目の前にいるかのように感じるのに……」)
…………
誰かが、泣いている、嘆く声が聞こえる
不思議なことに、耳からではなく胸のあたりから、野獣様のかけらが溶け込んだあたりから……
…………
479 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/03/12(日) 01:52:33.20 ID:bgu+yfMr0
※ここまで。ごぶさたしてすみませんでした。余談ですが幹部1・2・3のうち、3だけは女性です。
師匠と同い年ですが見た目は凄く若いという誰が得をするんだ設定があったりする※
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/12(日) 02:22:45.84 ID:hD0AHnuUO
乙
凄いな英雄王
481 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 21:52:57.08 ID:qgSk7P+h0
商人の家……末妹の自室。
末妹「明日は友3ちゃんの家で、友1ちゃんや友2ちゃんと一緒に、次の試験に向けての勉強会」
末妹「……半分くらいはお茶しながらのお喋り会になっちゃうかも?」
末妹「でも楽しみ」フフッ
末妹「さてと……宿題は済ませておかなくちゃ」パラ
末妹「……?」
末妹「人の泣き声?」
末妹「誰か……泣いているの?」
末妹「なんだか遠くから聞こえるような、微かな……でも、外からじゃないわ?」
末妹「かと言って、家の中というわけでもない……」
末妹「……」
末妹「あ」
末妹「……そうなのね、これは……わかった」
末妹「……どうすればいいの?」
末妹「……そうね、そうすればいいのね」
末妹「目を閉じて、心を落ち着けて……」
末妹「……」
……
482 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 21:54:40.26 ID:qgSk7P+h0
同じく、次兄の自室。
次兄「……あれ?」
次兄「地理の勉強用に借りて来た本の世界地図、なんかおかしい?」
次兄「うーん、このあたりは確か数年前に正確な測量が終わった地域と聞いたが……少し古い資料なんだな」
次兄「俺が家庭教師から習っていた時の地図帳は行方不明だし」
次兄「正直、発掘の手間を惜しんでいるだけですが」
次兄「最新の地図帳はやはり現役で学校に通っている末妹に借りましょう」スック
……
ドア:コンコン?
次兄「……返事はないがドアに隙間は空いている」
次兄「入るよ末妹……」カチャ
次兄「……ありゃ」
末妹「……すやすや」
次兄「シー」
次兄(勉強机に突っ伏して眠ってる、この子にしては珍しいなあ)ソロリ
次兄(フッ、優しいお兄様は毛布をかけてあげましょうね)ソロソロ
次兄(ベッドの上に綺麗に畳まれている毛布を持ち上げの)ソローリ
次兄(毛布を広げの)ファサ
次兄(末妹に近付きの)ソロソロ
次兄(そっとかけーの……)
483 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/12(日) 21:55:24.93 ID:qgSk7P+h0
次兄(あ、あれ?)グラリ
次兄(なんだろう、末妹の肩に触れた途端、強烈な眠気)フラフラ
次兄(やばいやばい、いったい何が……)ヘナヘナ
次兄(あ、もうらめ……床と仲良くなっちゃう……)ズルズル
次兄「……ぐー」コテン
末妹「……すー、すー……」
…………
(末妹「……やっぱり、ここは……野獣様の夢の中……」)
(末妹「……に、よく似ているけど……なんとなく違うような気もする?」)
(次兄「……あれ、末妹」)
(末妹「あ、お兄ちゃんも来たのね」)
(次兄「いったいどうして……俺は末妹に地図帳を借りようとして部屋に入ったんだけど……」)カクカクシカジカ
(末妹「……そうだったんだ、私は……たぶんだけど、野獣様の欠片に導かれてここに来たの」)
(次兄「え、野獣様の欠片は、もう完全にお前に溶け込んだんじゃなかった?」)
(末妹「うん、その通りよ、だけど……だから、これはきっと」)
(末妹「野獣様から分けていただいて、今は私の力になった……私のたったひとつの魔法……かもしれない」)
(次兄「末妹の魔法????」)
(末妹「そんな気がするだけ、とにかく……私を呼んでいるの、だから行かなくちゃ」)
(次兄「な、なんかわからんけど俺も一緒に行くぞ?」)
(次兄(なんか一人じゃ帰れる自信ないし!!))
(末妹「もちろんよ、きっとお兄ちゃんがここに来たのにも意味があるはず……」)
…………
484 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/03/12(日) 21:55:55.03 ID:qgSk7P+h0
※ここまで。ちょっと今後の更新は期間も投下数も不定期になります※
485 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/13(月) 01:08:15.21 ID:Cpq8MHSUO
末妹ちゃんの圧倒的ヒロイン力よ
486 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:39:06.09 ID:4CgeVKsd0
(野獣「……ん?」)
(野獣「深い霧の向こうから誰かがやって来る……まさか」)
(末妹「あ……」)
(次兄「野獣しゃまああああ!?」)
(野獣「お、お前達、何故ここに!?」)
(末妹「野獣様からいただいた欠片に従ったら、ここにいたのです」)
(末妹「呼ばれていると思って……」)
(末妹「……やっぱりここは野獣様の夢の世界だったのですね」)
(末妹「なんだか違うような感じもしたけれど……」)
(次兄「野獣様! 野獣様!!」ヒシッ)
(野獣「……『違う』というのがわかるのか、いや何よりも、ここにお前達が来れたなんて」)
(次兄「愛の力!! 愛の力なのですうううう!!」スリスリスリスリ)
(野獣「あーはいはい」ウンザリ)
(野獣「少し不快だが次兄は放置しておくとして……末妹よ、実はお前が感じたとおり」)
(野獣「ここはいつもの私の夢の世界とは少しばかり違う世界なのだ……おそらくは」)
(末妹「どういうことでしょう……?」)
(野獣「私は師匠と菫花が墓所を訪れた時から、なぜか二人の声を聞けるようになった」)
(野獣「と同時に、いつも私がいる世界とは何かが違うと感じていた」)
487 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:40:36.26 ID:4CgeVKsd0
(野獣「師匠と菫花の魔力、そして師匠と菫花が小国の領土に入り、屋敷に接近してきたこと」)
(野獣「私や菫花の両親の墓所に師匠と菫花がいること、そして」)
(野獣「菫花に、自分がまだ知らぬ過去の話を知りたいというとても強い思いがあること」)
(野獣「あの二人の行動や精神状態、魔力、それらに大きく影響されたのか」)
(野獣「いつもとは違って、私の力が及ばない現象がところどころ起きている」)
(野獣「まず風景、私がいくらバラ園や屋敷を思い浮かべても変わらず周囲は見ての通り白い霧に覆われたまま」)
(野獣「それに私の魔法……仮想の窓が使えない、そして全く予想外の……呼び出していないお前達が現れた」)
(末妹「では、呼んでいたのは野獣様ではないのですね」)
(野獣「師匠が現実世界で、墓所の周囲に強力な魔法による結界を張った」)
(野獣「菫花が誰にも邪魔されず泣けるようにな」)
(末妹「泣いていたのは菫花さん」)
(末妹「私、誰かの泣き声を聞いたのです、誰の声かわからないほど微かだけど、本当に悲しそうな……」)
(末妹「でも耳から聞こえたのではなくて……野獣様の欠片を受け取った胸のあたりから、『聞こえた』のです」)
(野獣「!?」)
(末妹「だから私、欠片にどうすればいいのか尋ねてみました、そしたら『わかった』のです」)
(末妹「心を落ち着けて、目を閉じて……そうすればきっと泣き声の主の元にたどり着ける、って」)
(次兄「俺が見た時は部屋で末妹は眠っていました、俺も肩に触れた途端に眠くなって」スリスリスリスリ)
(野獣「会話をしたいのならその高速頬擦りをやめい、暑苦しい」グイ)
(次兄「うむぎゅ」グエ)
(次兄「……しかし、現実世界で肉体が眠ったから俺達はここに来れた、やはり野獣様の夢の世界なのでは?」)
488 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:41:46.72 ID:4CgeVKsd0
(野獣「うむ、夢の世界に、師匠の結界が重なってしまったのかもしれない」)
(野獣「師匠の結界は入れない者を弾く力は弱く緩やかだが、その代わり例外なく弾く、見た目以上に強力な魔法」)
(野獣「周囲と完全に遮断された結界の内側と、現実とは混じる事のない夢の世界が、二重になっているのだろう」)
(末妹「野獣様の夢の世界でもあり、師匠様の作った場所でもあるのですね」)
(野獣「そうだな、しかし師匠は我々がこうしているとは思いもよらないだろう」)
(野獣「私だって、今の時点で全てを理解できているとも思えんが、それより」)
(野獣「……さっきも言ったが、菫花が心置きなく泣けるように師匠が張った結界」)
(野獣「菫花自身は現実世界にいるわけだが……泣き声は聞こえるか、末妹」)
(末妹「……そう言えば、野獣様に近付くにつれはっきり聞こえるようになって来たけれど」)
(末妹「今は聞こえなくなってしまいました」)
(野獣「私も少し前から聞こえなくなってしまった……泣きやんだのだろうか?」)
(末妹「現実世界の様子を見ることはできないのですか?」)
(野獣「ああ、仮想の窓が使えなかったのだ、しかし……お前達が来る前と今とでは状況が違う」)
(野獣「駄目元で、もう一度試してみるか……」スッ)
(野獣「仮想の窓」シュパ)
(野獣「お、開いたぞ……ああ、かつての王城の庭園と、一部とは言え殆ど変っていないな」)
(末妹「あ、あれは菫花さん……?」)
(次兄「……なんかぶっ倒れていません?」)
(野獣「泣き伏しているのか、いや、あれは」)
489 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:42:47.84 ID:4CgeVKsd0
(末妹「……お顔、マフラーか何かぐるぐる巻きですけど」)
(次兄「この状態で大泣きしたら涙やらなんやらでマフラーが湿って、呼吸できなく……?」)
(末妹「!? た、大変!!」)
(次兄「そうだ、菫花さんが死んじゃったら野獣様の存在も!?」)
(野獣「菫花、しっかりしろ!!」)
(王子「……み、皆さん……?」)
(末妹「菫花さんっ!」)
(野獣「菫花!?」)
(野獣「お前がここにいる……つまり、現実世界では意識がないという意味ではないか!!」)
(次兄「戻って帰って!! 自分の肉体なんとかして!!」ワタワタ)
(王子「え、し、しかし、どうすれば!?」アタフタ)
(野獣「ええい、手荒な方法を使うか……末妹、目をつぶっていろ」)
(末妹「え」)
(次兄「あ、こういうことですね?」メカクシ)
(末妹「え」ミエナイ)
(次兄「念のため耳も」ミミフサギ)
(末妹「え」キコエナイ)
(次兄「俺も目をつぶります、紳士同士の礼儀」)
490 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/03/19(日) 11:44:48.65 ID:4CgeVKsd0
(野獣「次兄、恩に着る!」ブン)
ドフッ
(王子「 」)
(次兄「……聞き覚えのある鈍い音、俺も次姉ねえさん相手に何度やられたか」)
(野獣「……こっちで意識を失って姿が消えた、あっちに戻ったか」フー)
(次兄「野獣様が暴力とか、と言っても腕力とガタイを生かして腕を振るだけでけっこうなダメージでしょうね」)
(次兄「しかも普通の男子ならともかく、菫花さんならどう考えても避けたりしないしできないし」)
(野獣「緊急事態でやむを得なかった」)
(野獣「腹を適当に殴ったので生身の体ならば危険だが……精神体だ、痛手は一瞬、引き摺らない」)
(野獣「……その手を離してもいいぞ次兄」)
(次兄「お、ごめん末妹、乙女になるべく見せたくないシーンだったので」パッ)
(末妹「お兄ちゃん、野獣様、菫花さんは……?」)
(次兄「現実世界に戻って倒れたままもぞもぞ動き出した」)
(野獣「……なんとか口と鼻を覆うマフラーをずらす事ができたようだ」)
(末妹「あ、息ができるようになった……よかった……」ホー)
(次兄「ああ一時はどうなるかと、ほんっと生きる力に乏しい人だなあ」フー)
(野獣「そのまま眠ってしまったようだ、つまり……」)
(王子「……」ボー)
(末妹「菫花さん!!」)
491 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/03/19(日) 11:45:18.62 ID:4CgeVKsd0
※ここまで。次回までちょっとお待たせするかもしれません……※
492 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/19(日) 16:25:22.79 ID:gBjR7ZXjO
王子ww
ほんと締まらないやつだよwwww
でもそんなとこ好きよ
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/26(日) 06:42:09.69 ID:dJbGbOZbO
次姉に怒られる→毛布
独り咽び泣く→死にかける
この予測不能のコンボこそ王子クオリティ
494 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/04/10(月) 19:02:28.75 ID:N9HBrCnm0
※ごぶさたです…諸事情あってとりあえず復帰は今月下旬になりそうです※
生存報告でした
495 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/11(火) 01:23:11.58 ID:4a0SF7GOO
了解
待ってます
496 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/04/27(木) 23:28:28.43 ID:OWu1IZyd0
(王子「……末妹さん」)
(末妹「はい」)
(王子「次兄君……それに野獣……」)
(次兄「うぃーす」)
(王子「な、なぜ君達が……ここに……?」)
(野獣「その前に、お前は『ここ』をどこだと思っている?」)
(王子「え、ここは……両親の、小国の最期の王と王妃の墓……」)
(王子「……あれ?」キョロキョロ)
(王子「……どこ……だろう……ここは……」)
(野獣「まあ正直、私も理解し切れているとは思わないのだが」)
(野獣「まずは、我々が今に至るまでをな、3人それぞれから……」)
〜かくかくしかじか〜
(王子「……不思議なことが起きているんだね」)
(王子「ここはおそらく、師匠の結界と夢の世界が重なった……ような……場所」)
(王子「野獣はいつもの夢の世界にいた時から、墓所での僕と師匠の話を聞いていた」)
(王子「末妹さんは野獣の欠片に導かれるようにここへ」)
(王子「次兄君は……説明にいろいろ文学的な表現を付け加えていたけれど……眠くなったらここにいた」)
(次兄「端的に言えばそれだけですよーだ」)
(野獣「拗ねるな」)
497 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/04/27(木) 23:30:24.80 ID:OWu1IZyd0
(野獣「まあ、理由はわからんが我々が置かれている状況は、そういうことだ」)
(野獣「師匠ならばもっと正確に分析できると思うが」)
(末妹「師匠様……今、菫花さんと私達がこうなっていること、本当に気付いていないのでしょうか?」)
(次兄「いないよ、たぶん」)
(次兄「おっさんの事だもん、気付いていたら自分も乗り込んで来るでしょ?」)
(王子「……師匠」)
…………
師匠「……何故か、結界を構成する儂の魔力に何かが『重なって』いるように見えたので」
師匠「集中して結界に目を凝らしてみると、『こんなこと』になっていたとは」
師匠「……末妹と次兄、それに野獣」
師匠「菫花が無意識に彼等を求めて呼びかけたのかもしれん」
師匠「……ここからは会話までは聞こえん、儂ならばあの中に入り込む事もできるが」
師匠「今回ばかりは入らない方が良いな」
師匠「3人とも、どうか菫花の心を癒してやってくれ」
師匠「それは儂にはできないことだ……」
…………
498 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/04/27(木) 23:31:39.97 ID:OWu1IZyd0
※とりあえず、おひさしぶりです※
3月末からずっとバタバタしておりまして、書き溜めも進まず、すみませんでした
次回更新はGW明けの予定です……
499 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/28(金) 00:12:22.38 ID:Nn4jYO0zO
待ってた
待ってたよ…
乙
500 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/05/08(月) 23:25:05.44 ID:9Zg0LsFU0
(王子「師匠……」ポロッ)
(次兄「およ、涙」)
(末妹「菫花さん……」オロオロ)
(野獣「また泣くのか、末妹と次兄の前だぞ、いい加減にしろ」)
(王子「そ、そうだね……皆、ご、ごめんなさ……っ、えぐっ」グシグシ)
(末妹「……師匠様が語ったのは、辛いお話……だったのですか?」)
(王子「……」グス)
(王子「僕は……目を背けていた」)
(王子「父上も母上も……罪は犯したけれど、それでも『人間』だって事実……そして」)
(王子「師匠達、魔術師ギルドの幹部が暗殺したのは……その『人間』という事実……」)
(野獣「そんな話は……」)
(野獣「師匠達が民の依頼で何をしたのか、そんな話は……我々にはそれこそ『今さら』だろう?」
(王子「……他の、あのことに関わった人々は、200年以上過ぎた今はとうにいない……だけど……」)
(王子「一人だけこの時代に生きている師匠が、あのことを今も背負っている事実、そして……」)
(王子「一人だけ生き残った僕のために、師匠があのことを今も悲しんでいる事実……から……」)
(野獣「お前」)
(末妹「菫花さん……師匠様に申し訳なくて、泣いていたの……?」)
(次兄「……おっさんのメンタル、菫花さんに心配されるほどヤワかしらん?」)
501 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/05/08(月) 23:26:04.61 ID:9Zg0LsFU0
※とりあえずここまで。次回はもうちょっと書き溜めてから投下します※
502 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/08(月) 23:55:27.32 ID:tMZhUz5pO
乙
王子泣き虫だけど良いやつ
503 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/05(月) 02:23:03.27 ID:HB5ZYiiEO
まってるまってる
504 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/05(月) 22:10:45.90 ID:V5amT/zX0
※今週中に再開します…一か月になる所だった、書き込み感謝です※
505 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/10(土) 23:50:25.20 ID:PmpdMSX70
(王子「……父も母も、許されない事をした」)
(王子「罪を引き起こしたのは、ふたりの人間性……弱さや我が儘から」)
(王子「弱くて我が儘になったのは理由がある」)
(王子「子供の頃から周囲がもっと違う接し方をしていたら……背負えないほどの重荷を背負わされずに済んだら……」)
(王子「それでも罪は罪、あんな形でしか償えないほどの重い罪」)
(王子「師匠は、それら全てを理解した上でふたりに手を下した、下さなくてはならなかった」)
(王子「ふたりの息子の僕よりも、ふたりがどんな人間かを理解した上で……」)
(野獣(師匠……))
(王子「……小国の王家が滅びて、師匠達、事情を知る魔術師の皆さんは暗殺しか引き受けていないと言いながら」)
(王子「小国の人々を守るために水面下であれこれ動いて、隣の国に受け入れられるように計らってくれた」)
(王子「230年前の……その時代にいれば、暗殺はどこから見ても正しかった」)
(王子「師匠達もそう思いながら、人々のために働いたことでしょう」)
(王子「そして、師匠以外の皆さんは……元小国の人々を行く末を見守って」)
(王子「次の世代に残すべき物は残し、残さずに消した物はその記憶を抱え、あの時代で天寿を全うした」)
(王子「でも……師匠は」)
(王子「王家の遺児である王子を追って、ずっと後の時代にやって来て、そしてそこでこれからも生きて行く」)
(王子「僕の近くで、僕を目の当たりにしながら……」グシュグシュポロポロ)
(末妹(また泣いちゃった……ハンカチ、確かポケットにあった筈)ゴソゴソ(あ、あった))
(末妹のハンカチ:スッ)
(王子「……あ、ありが、とぅ……」フキフキ)
(野獣「……」)
(次兄「……うーん、菫花さんは安易じゃなかった容易に泣く人ではあるけれど、今回は理由がかなり重い感じ?」)
(野獣「聞こえるように言うな、特に前半」)
506 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/11(日) 02:13:47.17 ID:4zPeEzMc0
(野獣「……まあ確かに重いというか、私も菫花と同じように、今まで知らなかった話も多くてな」)
(王子「……」グシュグシュ)
(野獣「菫花が泣きやむまでの間に、末妹と次兄にも(刺激の強い部分はなるべく省いて)かいつまんで話すか……」)
…………
(次兄「……おっさんと王様には、そんな繋がりがあったのか……」)
(次兄「それに、野獣様達のご先祖……初代王が正体を隠して何百年も生きていたなんて」)
(末妹「……王様と王妃様の……人知れない悲しみ……孤独……失ったもの、得られなかったもの……」)
(末妹「……私には、及びもつかないし計り知れない」)
(次兄「俺だってそうだよ」)
(次兄「そんな俺達から今の菫花さんには、どんな慰めの言葉をかけても上辺になっちゃう気がする」)
(野獣「……すまん、お前達に精神的重圧をかける意図はなかったのだが」)
(野獣「ただ、泣きやまないこいつに対し、次兄のような言い回しをするなら『どん退かないで』いてやって欲しいのだ」)
(次兄「今さら菫花さんに対してソレはないのでご心配なく、ほんと今さら」)
(末妹「……私も、とても慰めの言葉は持てません、でも……」)
(末妹「今の菫花さんには……本当は、他の誰よりも師匠様が……師匠様の言葉が、必要ではないでしょうか?」)
(王子「……!?」)
(末妹「菫花さんの悲しみは、遠く離れた私の……私の持つ野獣様の欠片に届くほどの、強い悲しみ」)
(末妹「それは……師匠様を大切に想ってこその、強い悲しみ」)
(末妹「師匠様も……菫花さんのために、心置きなく泣けるように、誰も入れない場所を作ってくださった」)
(末妹「きっと師匠様は『ここ』に野獣様や兄や私がいるのも、もう知っているはず」)
(末妹「知っているからこそ、いつでも師匠様の力があれば入って来れるのに、来ないのだと思います」)
(次兄「おっさんは敢えて入って来ない、ってわけ……?」)
(末妹「ええ、ですから……菫花さんと師匠様は、今、すれ違っている、と思うのです……」)
507 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/11(日) 02:15:41.27 ID:4zPeEzMc0
※ごめん、寝ます…「今日」中に続きを投下します。あとちゃんとあげます※
508 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 02:47:56.55 ID:Kls9IremO
乙
おやすみ
509 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/11(日) 21:39:29.85 ID:4PVVnJGr0
(野獣「すれ違っている」)
(野獣「なぜ……そう思うのだ、末妹よ?」)
(末妹「師匠様は……菫花さんをいつも見守って、何かあればすぐに側に来て」)
(次兄「うんうん、過保護と呼んでも過言ではないレベルで」)
(末妹「もうひとつ、師匠様ほどの魔法使いが、今こうなっていることに気付かないはずがない」)
(末妹「気付いているのなら、これが誰にとっても予想外の出来事なのもわかるでしょう」)
(末妹「だったら、きっと菫花さんや私達を安心させるため、助言をしに来てくださる」)
(末妹「優しいかたですから」)
(野獣「……」)
(末妹「菫花さんは……ご自分が師匠様を悲しませていると、さっき言いました」)
(末妹「だからひとりで泣いていたのですよね?」)
(王子「……」)
(王子「……う、うん……」)
(次兄「ああ、そっか」)
(次兄「おっさんは菫花さんを気遣うがゆえに放置プr……放置、菫花さんもおっさんを気遣うあまり放置に甘んじてるわけか」)
(野獣(何か言い直した気もするが追求したくない))
(野獣「ふむ……そうか、それがすれ違っている、か……」)
(野獣「なあ菫花……師匠が結界を解いたら、お前は師匠になんと言うつもりだ?」)
(王子「師匠に」)
510 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/11(日) 21:42:44.94 ID:4PVVnJGr0
(王子「……謝りたい、です」)
(野獣「何をだ?」)
(王子「……僕のために師匠の人生が……今も僕のために師匠は……」)
(野獣「師匠がどれ程の覚悟で我々を追ってきたか、お前はもう知っているだろう?」)
(王子「で、でも」)
(王子「僕はっ……君と違う、君には30年間の贖罪の日々があった、でも僕は!」)
(末妹「菫花さん」)
(野獣「そこが引っ掛かる、か……」フゥ)
(野獣「もう許してやれ菫花、お前自身を……両親を、師匠を」)
(王子「!?」)
(末妹「野獣様、菫花さんは、ご自分以外を責めたりしてはいないのでは……」)
(野獣「とうぜん自覚はあるまい、しかしな」)
(野獣「なあ、このあとお前が謝って、師匠が何も感じないと思うか?」)
(王子「……あ……」)
(野獣「父と母の罪は、両親自身が背負って逝った」)
(野獣「二人のため不幸になった人々がこれ以上苦しまないよう、師匠はじめ魔術師達も、始祖も……自分の役目を成し遂げた」)
(野獣「私の過ごした30年間に、内情はどうあれ、バラの呪縛は完遂された」)
(野獣「お前が師匠の覚悟に対して謝るのは、それらの否定、無意味だと言うようなものだ」)
(王子「……っ」ボロ)
511 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/11(日) 21:43:52.87 ID:4PVVnJGr0
(末妹「あ」)
(次兄「ありゃー、またまた泣いちゃった」)
(野獣「ここで涙を堪えられないのがお前であり、昔の私、だな」)
(野獣「泣きやんだら……その時もお前は、師匠に会ったら謝ると答えるか?」)
(王子「……っ」ブンブン)
(次兄「おお、菫花さんがこんなに勢いよく頭を振れるとは」)
(次兄「側にいる俺も末妹も背が低いから、頭同士ぶつかる危険はありません」)
(末妹「これ使ってください菫花さん」)
(王子「あ、また君に迷惑を……ごめん、ありがとう……」)
(次兄「あれ、既に菫花さんがぐっしょぐしょにしたハンカチでは?」)
(末妹「どういうわけか、ここでは私のハンカチだけは私が乾けと願えばすぐに乾くみたい……」)
(野獣「菫花も、願い事をしてみてはどうだ?」)
(王子「え……願い……?」グシ)
(野獣「師匠に、ここに来て欲しいと願い呼び掛けるのだ、お前が」)
(野獣「まさか、向こうから結界を解いてもらうのを待つつもりではあるまいな?」)
(末妹「野獣様」)
(王子「野獣……」)
512 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/11(日) 21:44:47.41 ID:4PVVnJGr0
※ここまで。続きは早くて週末、でなければ来週のどこかで…の予定※
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/12(月) 00:42:41.27 ID:9iB8I3kaO
乙乙
514 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/18(日) 23:22:02.56 ID:xEntoQOX0
(次兄「ちょ、ちょっとお待ちになって野獣様」)
(野獣「なんだ次兄、不服があるのか?」)
(次兄「おっさん召喚については異議なしです、が……準備が少し足りないのでは」)
(末妹「準備?」)
(次兄「今の段階ではきっと菫花さん、なーんも考え無しでおっさんを呼んでしまいますよ?」)
(野獣「な」)
(王子「え」)
(次兄「確かに謝罪は不適切だと菫花さんも気付いたはず、だからってそれに代わる言葉をすぐに発明発見できるでしょうか?」)
(次兄「菫花さんに豊かな感受性はあっても、言葉とは流れ動くもの、思考は追いついたためしがない」)
(次兄「その状態でおっさんに対峙しても菫花さんはへどもど、心配性の野獣様と末妹はおろおろ……」)
(次兄「事態がグダグダの渦中で菫花さんの精神はひとり飽和状態を迎えてその場で人事不省」)
(次兄「……それがいつもの菫花さんですよ?」)
(野獣「そ……それは、その……なんだ、あの……うむ……」)
(野獣「……すまない菫花」)
(王子「」)
(末妹(……『そんなことない』って言葉では簡単だけど、そこから先は、正直どうしたら……)ムム)
515 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/18(日) 23:23:08.80 ID:xEntoQOX0
(次兄「末妹のこの表情……」)
(次兄「ねっ、最後の味方の二人も庇いきれなくなっているでしょ?」)
(王子「…………」ドヨーン)
(次兄「あ、菫花さんが重い空気を背負ってしまった」)
(野獣「……魔力と精神力の影響が強い空間のせいか、鉛色の空気(?)がなんとなく目視できるのだが……」)
(末妹「菫花さん……」オロオロ)
(次兄「うーん、これって結果的に俺がいじめた感じ?」)
(野獣「ここまで自覚なかったのか?」)
(末妹「えーと、毛布……は、さすがに念じても出て来ない……私の羽織っているカーディガンじゃ小さすぎるし」)
(野獣「おお成程、では私のマントを」)
(師匠「……来るつもりはなかったのだが」フー)
(野獣「師匠!?」)
(次兄「おっさん!?」)
(末妹「菫花さ……反応がない……顔を上げて、聞いてください! 師匠様ですよ!?」)
(王子「…………え?」ハッ)
(王子「しっしししししししし師匠っ!?」)
516 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/06/18(日) 23:24:24.60 ID:xEntoQOX0
(師匠「会話は聞こえずとも、見ていれば場の雰囲気は何となく伝わったからな」)
(野獣「やはり我々の様子をご覧になっていたのですね」)
(師匠「……菫花」)
(王子「ははははっはい!?」)
(師匠「今まで……すまなかった。お前を叱咤激励するとか言いながら、専ら叱咤一辺倒で」)
(師匠「230年前から、儂はずっとお前にひどいことしかしていないのに、な……」)
(王子「……師匠?」)
(野獣「いつもと様子が違う……」)
(師匠「しかしそれも今日までだ、儂はお前を離れた場所から見守る事に決めた」)
(末妹「!?」)
(次兄「は?」)
(師匠「屋敷ごと、菫花、野獣、使用人達を一生かけて守るという、最低限の責任を放棄はしない……だが」)
(師匠「……お前の『父親』を名乗れる立場ではなかったのだ、それにようやく気付いた」)
(師匠「実に勝手な願いだが……君たち兄妹には、引き続き菫花たちの事をお願いしたい」)
(師匠「一番の理解者でいてやってくれ、君たちにしかできない……」)
(王子「……」)
517 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/18(日) 23:25:01.31 ID:xEntoQOX0
※ここまで。続きは今月中にはなんとか……※
518 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/19(月) 00:42:31.21 ID:/mQysbVGO
乙
頑張れ王子、ここはガツンと言うところ
519 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/06/30(金) 23:38:56.76 ID:1QcTHW5r0
※7/1〜2のどこかで更新します※
520 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/01(土) 00:27:02.26 ID:gRAdWgcIO
ハイヨー
521 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/02(日) 22:48:25.39 ID:Xx+X21hG0
(野獣(私も師匠に言いたい事がないわけではないが……))
(野獣「……次兄、末妹……気になるだろうが、とりあえず口を挟まず見守ろう、いいな?」ヒソヒソ)
(末妹「は、はい」ヒソ)
(次兄「ええ、空気読みまっせ」ヒソソ)
(師匠「まずは君たち兄妹を体に……家に帰さねばならんが」)
(師匠「それはいつでも出来る、だからもう少しのあいだ菫花と話をしてやってくれないか?」)
(師匠「儂は終わるまで『外』にいる、すまんが野獣、頃合いを見て合図をしてくれ」)
(師匠「それでは……」クル)
(王子「……!!」ガッシ)
(師匠「なんだ」)
(王子「……」ギュー)
(師匠「なんだ菫花、儂のローブを雑巾でも絞るように握りしめて」)
(王子「…………師」)
(王子「……匠」)
(王子「師匠、は……」)
(王子「師匠は、勝手、です……」ギュウウ)
(師匠「菫花」)
(末妹「菫花さん……」)
(師匠「……勝手か、そうだな……お前の気持ちも考えず」)
(師匠「勝手に姿を現し、お前に全てを語るよりも前、言わば真実を隠したまま勝手に父親を名乗ったのだから」)
(王子「! ち、違、そっちではなくて……」ギュウウウ)
522 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/03(月) 00:23:42.55 ID:hYpbHSSX0
(王子「僕がどんなに嬉しかったか、幸せか、僕なんかを、貴方に息子と呼んでもらえて……!」)
(師匠「……『僕なんか』だと?」)
(師匠「自分を卑下するな菫花、お前はいい奴だぞ、第一お前の友人達にも失礼ではないか」)
(次兄「そこかなあ、おっさん?」ボソ)
(王子「それでも敢えて言います、僕は駄目な王子、いや、駄目な男です」)
(王子「王子として駄目なのは言うまでもなく、両親の息子としても出来損ない、好きになった女性を幸せにする力もなく」)
(王子「魔法使いとしても禁忌を犯し師匠を裏切り……」)
(野獣「……」)
(王子「それでも、それを承知で、何もかもひっくるめて、僕がこの時代(せかい)で生きる事を許してくれて」)
(王子「僕の『家』を作ってくれて、僕を教え導く『親』となってくれたのは、師匠です」)
(王子「この時代で出会った皆さんと、僕でも繋がりを持って良いと思えるのは、師匠がいてくれるからです」)
(王子「師匠の息子として外に出て、人と出会って、また帰って来れる」)
(王子「それがどんなに心強いか……」ギュウウウウウウ)
(師匠「……もう今のお前には、儂がいなくとも」)
(末妹(菫花さん、もっと簡単な言葉でいいのですよ……))
(王子「なんでもいいから側にいてほしいんです、それでは駄目ですか?」)
(王子「僕は師匠が好きなんです、それでは駄目ですか!?」)
(師匠「菫花」)
(師匠「……………………」)
(野獣「師匠」)
(野獣「我々に向かって『なぜ黙って見ているのだ』なんて顔をして見せても、駄目ですよ?」)
523 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/07/03(月) 00:28:47.35 ID:hYpbHSSX0
※毎回短くてごめんなさい、次回そろそろ解決編です…※
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/03(月) 01:11:39.16 ID:1gmR+sCvO
乙
師匠もちょっとズレてるよなw
みんなで補い合ってるから大丈夫だけどね
525 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/07/11(火) 21:34:01.14 ID:7TPYXqHM0
※お知らせのみ。重ね重ねのお待たせ申し訳ありません…次回更新は7/20以降になります…※
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/11(火) 22:12:58.51 ID:JxKstyAnO
了解
暑さに負けず頑張れ
527 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/30(日) 23:49:49.97 ID:XN30S/Jm0
(野獣「逃げずに向き合ってあげてください、菫花の精一杯なのですから」)
(師匠「逃げ……儂が逃げているだと……」)
(末妹「師匠様……」)
(次兄「おっさん」)
(師匠「……」)
(野獣「今この二人が口を開くとすれば、菫花の後押しになる言葉だけでしょうね」)
(野獣「ここにいる誰も師匠を逃がしたりはしませんよ」)
(師匠「儂は……」)
(師匠「……このまま、お前の屋敷で暮らせるならば、菫花の側にいられるのならば……幸せになってしまうではないか」)
(師匠「『王子』を追い掛けて長き眠りに入る決意をしたのは……儂が幸せに暮らすためではなかった、考えもしなかった」)
(末妹「でも……でも、師匠様は……王子様に……野獣様に菫花さんに、幸せになって欲しかったのでしょう?」)
(師匠「末妹嬢」)
(末妹「ごめんなさい、口出しをしない約束だったのですが……」)
(野獣「続けて良いぞ、末妹」)
(末妹「……」コクリ)
(末妹「どうなっているかわからない200年後の世界で……王子様を守るため、それだけではなく」)
(末妹「王子様がこの世界で生きていける手助けをするために……何もかも置いて、追い掛けて来られたのでしょう?」)
528 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/30(日) 23:51:27.31 ID:XN30S/Jm0
(末妹「そして、菫花さんの幸せには……師匠様が必要……です……だから」)
(師匠「もうよい」)
(師匠「わかった、皆まで言うな、儂は……自分の間違いを、認めるしかなさそうだ……」)
(末妹「師匠様」)
(師匠「菫花」)
(王子「っはいっ!?」)
(師匠「改めて聞くが……良いのか、儂がお前の父親、いや、家族で?」)
(王子「……さっきも言いましたよ、良いとか悪いとかではなく」)
(王子「なんでもいいから……僕の家族でいてください、いいえ、家族でいて欲しいのです、『お父さん』に」)
(師匠「……」)
(次兄「貴重な菫花さんの意思表示」)
(末妹「お兄ちゃん」)
(次兄「あらうっかり口に出してた」テヘ)
(野獣「……確かに貴重だな」フフ)
(師匠「……」)
(王子「……」キュッ)
(師匠「また今にも泣きそうな顔をして、お前は本当に……」)
529 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/07/30(日) 23:53:29.58 ID:XN30S/Jm0
(師匠「……儂がいないと、まだまだ……だな」フゥ)
(王子「!!」)
(師匠「儂は逃げないから……そろそろローブから手を離してくれ、ねじ切れそうだ」)
(王子「! はははいっ、ごめんなさい!!」パッ)
(ローブ:ブロロロロン)
(次兄「おお、すごい勢いで元に戻って行く」)
(師匠「旅から帰ったら、もっとゆっくり話をしよう、時間はある……お前と儂が共に過ごす時間はな」)
(王子「……はいっ!!」グス)
(末妹「よかった……」ホッ)
(師匠「さて、そろそろ……物質世界に戻らねばな、だが」)
(師匠「その前に、君等を無事に戻さなくては」)
(末妹「私達を……?」)
(師匠「いつも通り普通に来たのでなければ、いつも通り普通に戻れる保証もないからな」)
(末妹「あ……」)
(次兄「確かに今回はイレギュラーだからなあ」)
(野獣「師匠にはなぜこうなったか、分析できますか?」)
530 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/07/30(日) 23:54:07.39 ID:XN30S/Jm0
※ご無沙汰していました。師匠と王子解決編でした……次回もなるべく近いうちに※
531 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/31(月) 01:41:05.76 ID:w+NZcWvlO
乙
二人とも真面目と言うか、義理堅いのかもね
532 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/08/21(月) 00:00:31.42 ID:+rEWvkH/0
(師匠「そうだな……お前が末妹嬢に与えた『かけら』があってこそ起きたのは間違いないだろう」)
(師匠「そして菫花が、儂の作った結界の中で無意識にこの子ら兄妹とお前に助けを求め」)
(師匠「条件が揃ったことで、お前の夢の世界と同じ現象が起きた」)
(野獣「私達の憶測はおおよそ当たっていたようですね」)
(師匠「……まあ、正直儂にも今のところそれ以上はわからんということだ」)
(師匠「屋敷に戻ったら、参考になる事例はないか文献を調べてみようとは思っているが……」)
(野獣「すっかりいつもの師匠ですねえ」)
(師匠「ふん、過去のことでクヨクヨしないと決めたからには、今後のことだけ考えるしかないわい」)
(師匠「話を戻す。原因は完全にはわからんが、対処方法はある」)
(師匠「まずは、我々が今立っておるこの世界の地面に、魔法陣を……ちょちょいっと」)
(次兄「すごい、本当にちょちょいっで描いちゃった」)
(末妹「見たことあるわ、この……」)
(野獣「ああ、私が以前、お前達を家に帰す時に使った魔法陣と同じだ」)
(王子「……物質世界で生身の人間を移動させるのと、同じ術を使うのですか」)
(次兄「ってことは、この魔法陣の内側で本体に戻りたいって願えば戻れるのか」)
(師匠「これでいつでもすぐ帰れるから……久し振りに会ったのだ、別れを惜しむ時間くらいは取れるかな」)
(末妹「……ありがとうございます、師匠様!」)
(師匠「ただし手短に頼む、そろそろ物質世界のあの場所を隠蔽し続けるのも限界だ」)
533 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/08/21(月) 00:01:15.56 ID:+rEWvkH/0
※お久しぶりでした。短いけれど、生存報告も兼ねて…※
534 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/21(月) 00:54:26.96 ID:Gj3d+4DiO
乙
535 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/14(木) 16:14:41.54 ID:d1kkE+W7O
エター?
536 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/09/19(火) 00:15:43.21 ID:zRzorvHC0
(末妹「もう……大丈夫ですね、菫花さん?」ニコリ)
(王子「ええ、もう大丈夫……」コクリ)
(王子「君達の、おかげだ……」)
(末妹「師匠様を引きとめたのは、他の誰でもなく菫花さんですよ」)
(王子「一人ではできなかった、末妹さんや次兄君や野獣がいたから」)
(次兄「ありゃ、俺もカウントされてんの?」)
(王子「うん、君が予防線を張ってくれなかったら、あんなふうに師匠に意思表示ができなかった……と思う」)
(野獣(予防線ね、本当に物は言いようだ))
(末妹「野獣様も……これで安心ですね」)
(野獣「ああそうだな、私からも礼を言う、何よりも末妹がここに」)
(次兄「……」ジーットギョウシ)
(野獣「……末妹が、次兄を連れて、ここに辿り着いてくれたお陰だ」)
(野獣「しかし末妹、お前が異変に気付いた時は、菫花や私に会える保証はなかったのに……恐くはなかったのか?」)
(末妹「……ええ、野獣様の欠片が導いてくださると、絶対それは間違いないと信じていました」)
(末妹「それと……私の意思の力で迷わず辿り着けると、兄も力を貸してくれると、自信もあったのです」)
(野獣「お前の意思の力で……」)
(師匠「ふむ、なるほど」)
537 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/09/19(火) 00:17:05.35 ID:zRzorvHC0
(野獣「師匠?」)
(師匠「儂の推測に、ひとつ抜けていた要素があった……末妹嬢自身の力、か」)
(師匠「……君は魔法を習った経験は?」)
(末妹「あ、ありません」)
(師匠「だろうな、百も承知で尋ねたが」)
(師匠「……呪文、または呪文を込めた魔法具がなければ魔法は発動しないのはもちろんだが」)
(師匠「術者本人にそれを習得した自信、自分の力として使えるという自信がなくては成功しないのだ」)
(師匠「もしかしたら、野獣の欠片が末妹嬢にたったひとつの魔法の力を与えたのかもしれん」)
(末妹「!」)
(師匠「今回のように条件が揃って、そこに次兄少年という支えがいなければ発動しなかった力、そして」)
(師匠「末妹嬢の強い意志があったから無事に菫花達の元へ辿り着けた」)
(師匠「……と、いまだに推測の域だが、末妹嬢が終始受け身で巻きこまれただけ、と考えるより腑に落ちる」)
(次兄「へえ……末妹も、これが自分のたったひとつの魔法かもしれない、って言ってたな?」)
(末妹「うん、そんな気がしただけ、だけれど……あの時はそう思ったわ」)
(師匠「ふむ、では儂の説に自信を持っていいわけだ」)
(野獣「……末妹、お前は本当にすごい娘だな」)
(末妹「え、いいえ、そんな」)
(末妹「私の持つ力だとしても、何もかもが、私ひとりの物ではありません」)
(野獣「それでも、末妹であればこそ、この魔法になったと思うぞ?」)
(野獣「お前の……私や菫花を、師匠を、執事やメイド達を想う心が、私の欠片をそのように作り変えた」)
(野獣「私はそう信じている」)
(末妹「野獣様……」)
(次兄「ふむぅ」)
(次兄「ということは、欠片をもらったのがこの俺だったら……?」)
538 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/09/19(火) 00:21:42.80 ID:zRzorvHC0
(野獣「……私の口からは言えないような魔法ができあがったかもな」)
(次兄「試してみる価値は!?」ズイッ)
(野獣「無いから」グイ)
(次兄「お約束」グエ) )
(師匠「……む?」)
(王子「師匠、どうしました?」)
(師匠「墓所の周囲の人々が、そろそろ『場の不自然さ』に気がつき始めた」)
(王子「『見て』いないのにわかるんですか?」)
(師匠「説明は省くが儂の張った結界の仕様だ」)
(師匠「それ以上に心配な事が……野獣よ、仮想の窓を開いて見てくれんか?」)
(野獣「は、はい」シュパ)
(師匠「今回の状況ならば……そいつを兄妹にかざしてみてくれ」)
(野獣「は、はい?」スッ)
(野獣「!? 師匠、どういうことでしょう、これは……商人の家の様子が見えますよ!?」)
(師匠「やはりか、お前の屋敷と取り巻く森を除けば」)
(師匠「兄妹と儂と菫花が同じ場所にいる限り、その近辺しかお前の仮想の鏡では見えないが」)
(師匠「兄妹と、儂と菫花、それぞれの肉体が離れた場所にいるこの状況……ここでも例外が起きても不思議ではない」)
(師匠「で、どうなっておる? 今現在この子達の肉体は」)
(野獣「あ……末妹の部屋で……家族が集まっています、二人の体を取り囲むように」)
(末妹「ええっ!?」)
(次兄「やべえっ!?」)
539 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/09/19(火) 00:22:37.94 ID:zRzorvHC0
※長らく音沙汰なしで本当に申し訳ありませんでした、再開です。最後まで終わらせますよ※
540 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/19(火) 01:23:43.20 ID:YtMK3svvO
乙
末妹と次兄、二人はプリキュ…おっとこれ以上はいけねぇ
541 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/10/17(火) 21:27:22.73 ID:HlOlDZ0F0
※すっかり月刊になってしまった…続きはもう少しお待ちください※
542 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/18(水) 18:30:36.33 ID:XOwdRcFPO
月1でも続いてくれるならありがたや
最後まで応援してる
543 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/10/23(月) 22:46:29.38 ID:ocWOCJlZ0
…………
商人の家、末妹の部屋……
商人「ああああ、どうしたんだいったいこの子達は、お医者の先生を呼ぼうか……」アタフタ
長姉「呼びかけても揺さぶってもさっぱり反応無しなんて……」
次姉「でも具合が悪そうな様子はないみたい、二人とも静かに眠っているだけに見えるわ」
長兄「とにかく、机に突っ伏したまま(末妹)、床に転がしたまま(次兄)にもしておけない」
長兄「ベッドに運ぼう、俺は次兄を」ウンショ
次姉「じゃあ私は末妹を」ヨイショ
長姉「次兄も末妹のベッドに寝かせるの?」
長兄「ベッドの大きさは十分余裕あるし、同じ場所にいれば目も届き易いじゃないか」
長兄「それに……『二人同時に』というのは意味があると思う、たぶん」
長兄「俺達の、いや、俺の常識では認めがたい現象が、今回も二人に起きている最中ではないかと……」
次姉「兄さんも頭が柔軟になったのね、私もそんな気がしていたの」
商人「ほ、本当に病気ではないのだろうか?」オロオロ
次姉「病気だとこんな短時間のうちに、家の中で二人同時は不自然でしょう?」
次姉「だいいち呼吸も規則正しいし、顔色もいつも通り」
次姉「それに次兄だけならともかく、末妹も一緒だったら何か悪いもの……毒キノコとか? 口にするのもあり得ないし」
長姉「なるほど、次兄だけなら何かの自業自得の可能性もあるけど、末妹も一緒だものね」
商人「……」ウーム
商人「……よし、お前達の言うとおり、暫くはこのまま見守ろう。もしも容態に変化があればすぐ先生を呼ぶことにして」
次姉「そろそろ夕食の準備に家政婦さんが来る頃ね、彼女にも説明しなくちゃ」
…………
544 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/10/23(月) 22:48:00.21 ID:ocWOCJlZ0
(師匠「……どうだ? 仮想の窓を儂の術で大きく拡げたら、この場の皆にもよく見えるだろう?」)
(王子「会話もはっきり聞こえますよ」)
(次兄「姉さん達……」)
(次兄「俺には一人にしておくと己の行動から自滅する機能が搭載されているとでも?」)
(野獣「改めて、日頃の言動とは重要だと思う」)
(末妹「お父さん、すごく心配している……」)
(野獣「うむ、これは一刻も早く戻らないと」)
(王子「そうだね、早くご家族を安心させて」)
(野獣(ちょっと残念だが……))
(王子(ちょっぴり残念だけど……))
(末妹「せっかく思いがけずお会いできたのに、少し残念ですけれど……」)
(末妹「野獣様、菫花さん、そして師匠様」)
(末妹「必ずまたお屋敷に兄妹(ふたり)で伺います、それまでお元気で」)
(末妹「お屋敷の皆さんにもよろしく」)
(野獣「あ、ああ、何より家の皆を安心させてやるがいい」)
(王子「う、うん、早くお家に戻ってあげて」)
(次兄「俺は少しと言わずひっじょおおおおおおおに残念ですが野獣様!!」)
(次兄「執事さんに次兄は変わりないから案ずるなとお伝えくださいませ!」)
(野獣「少しは変われ」)
(師匠「それでは……二人ともそろそろ魔法陣に入りたまえ」)
(末妹「はい、師匠様、よろしくお願いします……」)
(次兄「おっさんの魔法なら絶対ですわ」)
545 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/10/23(月) 22:48:57.47 ID:ocWOCJlZ0
(師匠「目を閉じて、気を鎮めて……と言っても、儂の魔法ならば君達がそんなに集中していなくても問題ないからな」)
(師匠「目を閉じたまま口も聞かずにおれば充分だ」)
(野獣(つられて目を閉じてしまうな私も……))
(王子(僕もつい目を閉じちゃった、でも場を静かにしておくのに越したことはないからね))
(師匠「……では詠唱を始める」ブツブツ……)
(末妹「……」)
(次兄「……」)
(王子「……」)
(野獣「………………?」)
(野獣(……師匠にしては、時間がかかり過ぎている?))
(師匠「……? おかしい、二人とも、一度目を開けていいぞ?」)
(次兄「へ?」)
(末妹「まだ……夢の世界?」)
(メイド「……え?」)
(料理長「こ、ここは……?」)
(庭師「あれ?? 僕どうしたんだろ??」)
(執事「ご、ご主人様!?」)
(野獣「お、お前達!?」)
(次兄「しししししちゅじしゃんんんんんん!?」)
(執事「」)
(末妹「メイドちゃん!?」)
(メイド「末妹さまっ!?」ピョーン)
546 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/10/23(月) 22:50:19.33 ID:ocWOCJlZ0
(メイド「お会いしたかったんですよおおぉ!!」ポフッ)
(末妹「私も……でも、どうして皆、ここにいるの?」ナデナデ)
(王子「目を開けたら、魔法陣の中に執事さん達が……?」)
(野獣「そうだな、まず……お前達は直前まで何をしていたのだ?」)
(師匠「執事、次兄は儂が魔法で捕縛しておくから安心して説明してくれ」)
(次兄(沈黙魔法もかかってますぅ)ジタバタ)
(執事「……助かります師匠様」フー)
(執事「ええと……我々使用人は、師匠様と菫花様がお帰りになる準備が一段落したので」)
(執事「皆で短時間の休憩を取り、それからまた仕事にかかろうと考えて」)
(メイド「ぱっと眠ってぱっと起きるの得意ですから、私達」)
(庭師「僕らだけでお留守番している間は四匹一緒に仕事することが多いですしね」)
(メイド「厨房のかまどや灯りの火に危険がないことを確認して、料理長さんと庭師君と私が横になって」)
(料理長「執事さんは、わしらが休むのを見届けてくれましたよ」)
(執事「そう、そしてわたくしも目を閉じ、次に目を開いたら、周囲に使用人たち皆と、ご主人様方が……」)
(師匠「ふむ……誘発となったのは、全員が仮眠に入った頃に、こちらで移動の魔法陣が発動した……そんなところか」)
(師匠「彼らの場合、おそらくは自分達の意志ではなく、この場に引っ張られたのだろう」)
(末妹「私達を家に帰すための師匠様の魔法が、お屋敷の皆さんを呼び出してしまったのですね」)
(料理長「とりあえずこの場所のこの感じは……ご主人様の夢の世界、ということで?」)
(野獣「うーん、厳密に言うと正解でもあり違ってもいるが……説明している余裕はなくてな」)
(王子「次兄君と末妹さんのお家では、二人の体が突然に眠ってしまって大変なことになっているのですよ」)
(庭師「えー、じゃあなんかよくわかりませんが、お会いできたと思ったらお別れぇ?」)
547 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/10/23(月) 22:51:07.83 ID:ocWOCJlZ0
(メイド「むー、寂しいけど、仕方ないですぅ……」スリスリ)
(末妹「私も残念、でもまた鏡でお話ししようね?」モフモフ)
(次兄(相変わらず羨ましくも眩しい末妹とメイドさんの触れ合い……)シクシク)
(執事「……」チラ)
(執事「……忘れ物をひとつ、思い出しました」スタスタ)
(次兄(!? 執事さんから俺に接近してきた!?))
(執事「貴方様が身動きもお話もできないのならば好都合です、手短に済ませましょう」コホン)
(執事「いつぞやは、お土産の絵、主人や皆だけではなくわたくしの姿絵までも、ありがとうございました」)
(次兄(!?))
(執事「正しくお礼を述べるべき機会を逃してしまいましたからね、たいへん失礼いたしました」)
(次兄(執事さんが俺に、俺だけに向かって謝意と謝罪だとおおおおおお!?)カタカタフルフル)
(執事「……ついでに。あの絵は皆それぞれ自分の部屋に飾っていますよ」)
(執事「わたくしも含めて」)
(次兄(ふしゅうううううう……)ショウテン)
(王子「な、なんか次兄君がいつもより全体的に白っぽく……?」)
(野獣「……魔力と精神力の影響が強い空間のせいで、そう見えるのだろうな」)
(執事「さあメイド、お二人がお帰りになる邪魔をしてはいけない、末妹様から離れて魔法陣から出るのだ」)
(メイド「……はーい……末妹様、ごきげんようです」ポテッ)
(末妹「ええ、お互い元気でまた会おうね……」)
(野獣「……とは言うものの」)
(野獣「魔法陣で確実に帰れるかどうか、わからなくなって来ましたね師匠」)
(師匠「ええい儂もわかっとる、今あれこれ考えている所だ」)
548 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/10/23(月) 22:51:39.05 ID:ocWOCJlZ0
※お久しぶりでした。とりあえずここまで※
>>538
師匠のセリフ ×仮想の鏡 → ○仮想の窓
※他にも色々間違えているかもしれませんが脳内保管お願いします……※
549 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/10/23(月) 22:56:33.26 ID:ocWOCJlZ0
あ、脳内補完だった……保管してどうする_| ̄|○
550 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/24(火) 00:42:08.49 ID:zoxYrA0vO
乙
末妹ちゃんに飛びつくメイドちゃんとかいう癒ししかない光景
551 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/11/23(木) 23:31:41.87 ID:nOV0m+Kl0
※次の土日に更新予定です※
552 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/11/26(日) 23:54:36.30 ID:GY9UkbxK0
商人の家、末妹の部屋。
家政婦「……状況は理解致しました」
次姉「今までのことを考えると、さほど心配はいらないと思うけど……家政婦さんはどう思う?」
家政婦「私も、お二人とも自然にお目覚めになると思います」
家政婦「ただ、それがいつになるのか予想できないのは不安ですわ」
商人「だよねえ……このまま明日も明後日も眠り続けてはお腹も空いてしまう、可哀相に」オロオロ
長姉「寝言でもいいから『いつ戻る』って教えてくれないものかしら?」
長兄「う〜ん、耳元で呼びかけたら通じないかな……?」
次姉「兄さんがそんな発想をするなんて」
長兄「意識のない病人に耳元で呼びかけたら、その言葉だけは目覚めてからも覚えていたって話は何度か聞いた」
長兄「根拠はあるんだよ」
…………
(野獣「仮想の窓、皆見えるな?」
(次兄「やっぱり心配してる、当たり前だけど」)
(メイド「家政婦さん……」)
(師匠「儂だって今すぐにでも安心させてやりたいのだぞ」)
(王子「こちらの状況を伝えることはできませんからね……」)
(末妹「……仮想の窓……」)
553 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/11/26(日) 23:55:47.87 ID:GY9UkbxK0
(末妹「……この場所ではいつもと違うことが起きているのなら……もしかしたら?」)
(次兄「末妹?」)
(末妹「野獣様、師匠様、『仮想の窓』はお屋敷の銀板鏡のような魔法なのですよね?」)
(師匠「うむ、まあ……原理は変わらんのだが、物質としての鏡の存在と、物質のない世界との違いだけで」)
(末妹「私の部屋の鏡台に今の私達の様子を映し出すことはできませんか?」)
(野獣「え?」)
(師匠「なんと……」)
(師匠「……ふむ……なるほどなるほど……そうだな、試す価値はありそうだ」)
(師匠「家の者達はあの鏡台が何の目的で君の部屋にあるか知っているのだろう?」)
(師匠「それに家の者達は君の部屋にいる、きっと気付くはず」)
(王子「あれ……でも……」)
(末妹「……ただ」)
(師匠「ん?」)
(末妹「鏡台の覆いを開かなくてはなりませんが……」)
(師匠「……なんと」)
(次兄「ああ、末妹は几帳面だから、使い終わる度に鏡台の覆いを閉じているんだよなあ……」)
(執事「まあ普通はそうですよね」)
(メイド「次兄様ならいちいちそんなことなさいませんのに、ねえ」ハァ)
554 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/11/26(日) 23:56:37.15 ID:GY9UkbxK0
※短いけどここまで。次回は月間になる前に更新の予定です……※
555 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/27(月) 01:46:46.23 ID:7OGbHXbFO
おつー
556 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/29(水) 14:32:56.63 ID:vg/8mlyTO
ちゃんとしてる末妹ちゃんw
557 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/03(日) 23:33:09.03 ID:OvVARnDu0
またもや商人の家、末妹の部屋。
家政婦「……お二人ともただ眠っておられるのではない、と、皆さんもそう思っていらっしゃるのですよね?」
次姉「え、ええ、私は、この子たちの意識は別の場所にあると思っているわ」
次姉「夢の中で『実際に』野獣のお屋敷のお友達に会って来た、って話しているもの」
長姉「そうだとしても、今ごろ何をしているやらまるで知りようがないけれど、ねえ」
家政婦「……」
家政婦「お二人が旦那様のお許しを得て、野獣様のお屋敷に向かおうとした時に、移動の魔法が働かず」
家政婦「その理由もお屋敷で何が起きているかもわからず、不安や焦りが募る中……」
家政婦「メイドさんが現れて、野獣様達のお心やご様子を伝えてくださったおかげで」
家政婦「お二人は決意も新たに、ご家族の皆さんの支えを得て、旅立つことができました」
家政婦「また同じようにどなたかがこの場所に現れて有益な伝言をくださるとは……さすがに考えにくいですが」
家政婦「今回のことにもお屋敷の方々が関わっておられるとすれば」
家政婦「今は……まるで知りようがない、とも言い切れないのではないのでしょうか?」
次姉「……!!」
次姉「そうよ、鏡! 末妹が貰って来た鏡があるじゃない!!」
次姉「今頃あの子達も私達が心配しているのを知っているかも」
商人「なるほど、私達に伝えたいことがあってもできなくて、向こうでもやきもきしているのかもしれない」
長兄「確か、木枠の小さな鏡台だったはず……ああ、これだ」ヒョイ
長姉「落とさないでね兄さん!!」
長兄「大丈夫、ほら、次姉に渡すよ」
次姉「覆いを開けば使える、って言ってたわね……」
…………
558 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/03(日) 23:35:34.70 ID:OvVARnDu0
(メイド「さすがは家政婦さんですー!!」)
(野獣「よく気付いてくれた……」)
(王子「師匠師匠、早く末妹さん達の様子を魔法で!!」)
(師匠「お前に言われんでもわかっておるわ!!」)
(次兄「えーとえーと、まずは心配しないでって、あとはどう帰ったらいいかわからない、って話をしたらいいかな?」)
(庭師「後半はむしろ心配かけてしまうかと」)
(料理長「説明は必要……とはいえ、話しかた、ですよね」)
(執事「次兄様は口を開かないほうが宜しいでしょうな」)
(末妹……話しかた……か」)
(師匠「よし、仮想の窓と鏡台が繋がったようだ……どうやら成功したぞ」)
(師匠「引き続き、君達を家に帰す方法も考えねば」)
(次兄「あ、家の皆が『こっち』を見ている」)
(野獣「次兄は黙ろうな?」)
(末妹「お父……さん……?」)
商人「ああ、末妹と次兄だ!! 見えるかい、父さんだよ!!」
長兄「よかった、とにかく無事なんだな!!」
(末妹「ええ、私達は無事です……心配かけてごめんなさい」)
次姉「いいのよ、事前に私達に告げて行く手段や時間があれば、そうしたはずでしょ?」
次姉「できない理由があったのよね、それはいいから……」
長姉「ねえ、いつ戻って来るの?」
(末妹「……」)
(野獣「ううむ……」)
559 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/12/03(日) 23:37:12.17 ID:OvVARnDu0
※ここまで。できれば次回も週間で更新したい…※
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/04(月) 00:18:05.01 ID:HBq4h1XNO
乙
さすかせ
561 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/12/10(日) 23:35:52.37 ID:RI3P8AKl0
※今夜は更新なし、すみません。今週中に更新予定…※
562 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/16(土) 23:54:41.46 ID:MSWwKejq0
次姉「ちょ、姉さん割り込まないでくれる?」
長姉「でも一番重要な点でしょ?」
商人「……わ、私も心配だよ、お前たちの身体はこのままで大丈夫なのかい?」
(師匠「商人殿……出しゃばって申し訳ありませんが」ズイ)
商人「師匠様!? 貴方もご一緒でしたか……それは心強い」ホッ
(師匠「……むむ」タラリ)
(師匠「……とりあえずは、安心なさい。お子達の肉体は安らかに眠っているだけ」)
(師匠「必ず戻るので……もう少し、お待ちを」)
商人「ええ、どうかお願いします、師匠様……」
(師匠「……うむ」ヒヤアセ)
(メイド「家政婦さん! 鏡台に気付いてくださって、ありがとうございます!!」ピョン)
家政婦「まあ、メイドさん!」ホワワ
長兄(あ、家政婦さんの頬が緩んだ)
(執事「こらメイド、割り込むんじゃない!!」)
長兄「でっかい狼!?」ビクッ
次姉「兄さん、きっと『執事さん』よ……大きくて銀色の毛並みって言ってたもの」
長姉「後ろにアナグマと猫もいるわ、職業は料理長と庭師……だったかしら?」
(庭師「僕は山猫ですよ……」)
(料理長「さあメイドちゃん、嬉しいのはわかるが邪魔にならない場所に戻ろう、ほら」)
(野獣「料理長の言うとおりだ、お前達は少し離れて見守っていてくれ」)
商人「その声は、野獣」
563 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/17(日) 07:13:04.21 ID:12bE9gFnO
寝落ちかな?
おつー
564 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/18(月) 01:18:24.04 ID:I2n+L5dv0
(野獣「あ、ああ……私も仮想の窓に入らない位置に敢えて立っていたが……」)
商人「……少しでいいんだ、姿を見せてくれないか……?」
(野獣「…………では、顔だけ」ニュ)
商人「嬉しいよ、確かに今の状況は何かの変事なのかもしれないが、その中で君とまた出会えるなんて」
(末妹「お父さん……」)
(野獣「久しぶりだ、商人……貴さm……貴殿には感謝してもし切れない……それと……」)
次姉(これが、野獣の顔……話には聞いていたけど、あの菫花さんとはやはり似ても似つかない)
長姉(あら、確かに元王子様の面影は全くないけど、思っていたほど怖い顔じゃないかも)
長兄(……しっかりしろ俺、これは現実、現実現実……)
家政婦(優しい目をされています、末妹様やメイドさんの仰る通りですね)
(野獣「……末妹と次兄の兄と姉達……そして家政婦か、初対面になるのだな」)
(野獣「ゆっくり話をしている余裕もないのは残念だが,君達にも私はたくさん感謝している」)
(野獣「自分の口で使えることができてよかったよ」)
次姉「野獣……」
(次兄「あっ次姉ねえさん微笑んでる!? 野獣様の魅力に目覚めてくれるのは嬉しいが、惚れちゃ駄目だからねっ!?」ズズイッ)
(野獣「」)
次姉「はぁ!? あんた何言ってるのバカじゃないの!? 帰って来たら……覚えておきなさい!!」クワァッ
565 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/18(月) 01:19:59.21 ID:I2n+L5dv0
(野獣(……やはり怒らせると凄く怖い))
(王子「 」フラッシュバック中)
長姉「あら、目立たない場所にいたのね元王子様……何だか、また固まっていない?」
(末妹「帰って来たら……」)
(末妹「……」)
(野獣「末妹、どうした?」)
(末妹「お父さん聞いて、正直に言います」)
商人「な、何だい、末妹?」
(末妹「実は私たち……ここにいる皆さんも……私たちが家に戻れる方法を探っている最中なのです」)
(商人「え」)
(次兄「へ?」)
(野獣「末妹っ!?」)
次姉「っちょ、って事は、戻れなくなっているって意味!?」
(末妹「ええ、そして、おそらく……私とお兄ちゃんだけじゃなく……」)
(師匠「……君ら兄妹が戻らなければ、執事達も屋敷にある自分の身体に戻れない」)
商人「たたたた、大変な事態じゃないか!?」
(末妹「不安にさせてごめんなさい、でも……」)
(末妹「お父さん達の力も借りたいの、みんなで考えた方がきっと早く答えが出せる、私はそう思う……」)
(末妹「メイドちゃん達のためにも、助けが必要なんです……」)
(野獣「……」)
566 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/12/18(月) 01:20:30.21 ID:I2n+L5dv0
※はい、昨日の更新は寝落ちました…次回は近いうちに……※
567 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/12/18(月) 01:22:58.16 ID:I2n+L5dv0
あっ誤字発見
>>564
×(野獣「自分の口で使えることができてよかったよ」)
〇(野獣「自分の口で伝えることができてよかったよ」)
ごめんなさい
568 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/18(月) 01:48:18.07 ID:eHXECMZEO
乙
みんなが野獣に会えて良かったなー
569 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/24(日) 23:50:29.48 ID:lPkqkoxH0
長兄「状況はなんとか理解できたし、末妹の気持ちもわかる、なんとかしなきゃならない……とは言うもの」
長兄「俺達にどんな助言ができるやら……」
次姉「うーん……そうねえ……」
次姉「……あんた達がそっちに行ってから今までに起きた出来事の中に……ヒントはないかしら?」
(末妹「これまでの出来事……」)
(末妹「野獣様のかけらを通じて、どこかに呼ばれているような気がして……」)
(次兄「俺が居眠りしていると思しき末妹の方に触れた途端、眠くなって……気がついたらここへ」)
(野獣「二人が最初に出会ったのが私、3人で現実世界にいる菫花の様子を覗いて見ると……」)
(野獣(このあたりは菫花の名誉に関わるから具体的なことは口に出さない方がいいな))
(野獣「ここに現れた菫花をある理由から一旦現実世界に戻して、また改めて来てもらって、色々あってやがて師匠も現れた」)
次姉「……現実世界に戻して……?」
商人「そ、そこだよ、どうやって戻したんだい!?」
(野獣「あ」)
(野獣(し、しまった……))
(師匠「ふむ……いや、現実世界の菫花と儂の肉体はすぐそばにあるのだ」)
(師匠「この場所は野獣の夢の世界に儂が張った結界が重なった世界、結界は我々が訪れた旧小国王城の庭に張られている」)
(師匠「だから儂と菫花だけは、いつもの夢の世界から戻るのと同じ方法で肉体に戻れる」)
長姉「なんだ、要するに参考にならないってことね」
次姉「……でも何かひかっかるのよね」
家政婦「次姉様、なぜ一旦戻す必要があったのでしょうね?」
次姉「ああ、それよ、どうせまた呼ぶなら、なぜ戻したの?」
570 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/24(日) 23:54:35.71 ID:lPkqkoxH0
(野獣「そ、それは……」チラ)
(王子「ぼ、僕が粗忽で迂闊で間抜けで不注意だったからです!」ダダッ)
商人「遠くにいた菫花君が駆け込んできた」
(次兄「……そうだった、菫花さんがまたもや自らのドジでピンチに陥って」)
(次兄「と、いうことは……つまり……?」)
(次兄「!!」ピコーン)
(末妹「何かわかったの?」)
(次兄「父さん、俺達に現実世界での危険が迫れば戻れるかもしれません!!」)
(次兄「現実世界での皆の力を借してほしいのは、むしろこれから!!」)
次姉「は?」
商人「ど、どういうことだい!?」
長姉「あんたの話はいつもぶっ飛びすぎてわかんないのよ」
(次兄「菫花さん、そのー、最初よくわからないまま俺達の前に現れて、一時的に強制退去となったわけですが」)
(次兄(末妹には具体的な退去方法は伏せておきたいので))
(次兄「現実世界に戻っている僅かな間、自分が何をしたか記憶はありますか?」)
(王子「え」)
(王子「ええと……一度現実世界に戻って、そしてまたここへ来た時には、戻っていた時の記憶はなかったんだ」
(王子「……でも直前には、僕の肉体が瀕死だと君達に教えてもらっていたので……」)
(王子「たぶん、僕の肉体は自覚のないまま動いて危機を回避したのかな、と……思う」)
商人「瀕死? 危機の回避?」
(野獣「……ここでは、窒息寸前まで口と鼻を塞いでいたマフラーを緩めて呼吸を再開させた行為を指す」)
571 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/24(日) 23:56:17.14 ID:lPkqkoxH0
長姉「わかるようなわからないような状況ね」
次姉「次兄が言いたいことは、要するに……」
次姉「あんた達の身体がこっちで死にそうになったら、回避するために強制的に戻れる、そういう意味?」
商人「!?」
商人「だだだだだっだだだ、駄目だよ、いくらなんでもお前達の身体を危険に晒すなんて!!」
(次兄「うん、俺も次姉ねえさんに俺の肉体だけをぶん殴ってもらう方法とか考えたけど」)
次姉「ちょ、死ぬほどぶん殴るって、さすがに私にもそれはできないわよ!!」
長兄(物理的にだろうか心情的にだろうか)
長姉「仮にその方法であんたが危なくなっても、末妹のほうはどうなるのよ?」
(次兄「俺が現実世界で末妹の肩に触れたために一緒に連れて来られたならば」)
(次兄「逆にこっちで手を繋いででもいれば、一緒に戻れるはず」)
次姉「だから私には無理だってば!」
(末妹「お姉ちゃんの言う通りよ、違う方法を考えよう!」)
(次兄「まあ聞け末妹、俺も瞬時に第一案は却下した」)
(次兄「それよりもっと……俺にとっての危機的状況を作り出す方法があるのです」)
(次兄「兄さん……と、やっぱり次姉ねえさん!!」)
長兄「な、なんだ!? 暴力には手を貸さないぞ!!」
次姉「私を何だと思っているのあんたは!!」
(次兄「暴力じゃない、単なる力仕事をお願いしたい」)
(次兄「そこにいるメンバーで腕力のツートップはその二人なので」)
商人「力仕事って何だい? とにかく話してごらん」
(次兄「俺の部屋から、俺の机をそこへ……俺達の肉体の傍ら、鏡台に映るように持ってきてほしい」)
572 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/24(日) 23:58:43.96 ID:lPkqkoxH0
次姉「……は?」
(次兄「机の上の物は全部て下ろし外せる引き出しは全て外せば本体と施錠された引き出しのみ、そこそこ軽くなるはず」)
長兄「それくらい持ってくるのは困難なさそうだが……なんの意味が?」
(次兄「とにかくお願いします、話はそれからです」キリッ)
(末妹「お兄ちゃん??」)
(野獣「とにかく我々は見守るしかないか」)
(王子「いったい何があると言うのだろう……」)
〜数分後〜
次兄の机:ドン!!
次姉「……ほんっと、なんであんな汚い部屋で生活できるのよ!?」プンスカ
長兄「あれでもこのあいだ俺が入った時よりマシになったんだ……どこが足の置き場かわかるようになっていた」
商人「次兄、二人が机を持って来てくれたよ……お前の言う通り、本体と、鍵のかかった引き出しだけになっている」
(次兄「ありがとう……さて次のステップ」)
(次兄「兄さん、眠っている俺のズボンの左ポケットを探ってみて」)
長兄「……わかった、えーと、左ポケット、と」ゴソゴソ
長兄「なんだこれ、ポケットが二重になって、中に何か固い小さな物?」ゴソゴソ
家政婦「確かに、次兄様のズボンの左ポケットはほとんど二重になっていました」
(次兄「ふふふ、自分で改造したのです家政婦さん」)
(野獣「そう言えば次兄は裁縫が一応できると以前に」)
家政婦「洗濯するたびに不思議には思っていましたが、ご家族の皆さんはご存じなかったのですね」
長兄「入っていたのは小さな鍵……か」
長兄「次兄、これが必要なのか?」チャラ
573 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/25(月) 00:00:12.49 ID:FcvUXxa+0
(次兄「そうです、では……しばしそのままで自宅組の皆様はお待ちくださいませ」)
(次兄「さて、これからが本番です末妹、そして野獣様をはじめとする皆様」)
(野獣「これから何が始まるのだ」)
(次兄「俺の人生にとって、一世一代の賭けです」)
(王子「何が何だかわからないよ」)
(次兄「念のため俺達はおっさんの魔法陣の中で待機します」)
(次兄「通常の方法とイレギュラーな方法の両方を併用することで成功率は高まるかと」)
(次兄「末妹、手を繋ごう」)
(末妹「う、うん」キュ)
(次兄「ここで、ご一同にお願いがあります」)
(次兄「この先どのような展開が現実世界の末妹の部屋で繰り広げられようとも、一切を不問に付すと、約束してほしいのです」)
(次兄「末妹も、鏡の向こうの父さん達も含めて」)
(末妹「わかったわ、何も聞いたりしない」コク)
(野獣「……ますますわからん」)
(王子「わかんないけど……約束したらいいんだね?」)
(師匠「……約束するしかない、な、これは」)
(師匠「そもそも今回は儂の力と知識が及ばぬためにこうなったのだ」)
(師匠「君達が無事にご家族のもとへ帰れるのなら、何があろうとも我々に口を挟む権利なぞありはしない」)
商人「私も約束する、皆にも約束させるよ!!」
次姉「お父さんが言うなら」
執事「本当にわかりませんが、我々もご主人様達に従う以外ありませんね」
574 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/25(月) 00:01:24.60 ID:FcvUXxa+0
(次兄「感謝します……さてあまり時間もない、皆さんまたお会いしましょう」キリリ)
(執事「次兄様がずっと神妙な表情で薄ら恐ろしい」)
(料理長「次兄様はわしらのためにも今回のご帰還を成功させたいのです」)
(庭師「大丈夫です、みんな無事に帰ってまた会えるって信じます!!」)
(メイド「家政婦さん、いつかまたお手紙書きますね、末妹様、お屋敷でお待ちしています!!」)
(末妹「ええメイドちゃん、執事さん、料理長さん、庭師君……またね」)
(野獣「私達とはさっきお別れをしたから、もう良いな?」)
(末妹「……ええ、またゆっくりお会いできた時に、たくさんお話しをしたいです」ニコ)
(王子「改めて、ありがとう……」)
(末妹「菫花さん、私は父の待つ家に帰ります……菫花さんもお父様と一緒に、ご無事にお屋敷に帰ってくださいね」)
(王子「うん、僕の大好きなお父さんとね」ニコ)
(師匠「えーと、あのな」オホン)
(師匠「次兄君、そろそろ先に進めてはどうだね?」)
(次兄「そうですね、兄さん!!」)
長兄「はいはい」
(次兄「その鍵はその机の鍵なのです」)
長兄「そんな気はしていたよ」
(次兄「合図をしたら、手にした鍵で固く封印された引き出しを長き眠りから開放してください!!」)
長姉「単に引き出し開けてって言えばいいのに」
次姉「なぜ合図が必要なの」
(次兄「物事にはタイミングというものがあります」)
(次兄「おっさん、兄が開錠するタイミングで帰還の魔法が成功するよう詠唱をお願いします」)
575 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2017/12/25(月) 00:02:47.27 ID:FcvUXxa+0
(師匠「ふむ……それならば、誰か、次兄君兄妹と儂と長兄君以外の者に数を数えてもらおう」)
(師匠「十、数えてくれるのに合わせ魔法を発動させ、あちらでは鍵を開く」)
(野獣「では、私が……練習してもいいですか?」)
(師匠「ああ」)
(野獣「いーち、にーい、さーん……こんな間隔で」
(師匠「うむ、それで大丈夫だ」)
長兄「こちらも大丈夫です」
(次兄「では皆さん、頼みましたよ!!」キリリリ)
(師匠「詠唱を……」ブツブツ)
(野獣「いーち」)
長兄「よし、鍵を鍵穴にあてがって、数え終わりを待つ、と……」
(末妹「お兄ちゃん……」ギュッ)
(次兄(さあ、俺だけの人生最大の危機が訪れようとしている)ゴクリ)
(野獣「にーい」)
(次兄(あれがある限り、俺はどこに行こうとも、何が何でも生きて再びあの部屋に帰らねばならぬ運命(さだめ))ググッ)
(メイド「次兄様、本当に真剣な表情です……」)
(庭師「すごい、銃を持った人間達がお屋敷に近付いてきた時のよう……いや、それ以上に張り詰めているかも」)
(料理長「何かを守ろうとする雄(おとこ)の顔ですな……」)
(執事「なんという緊迫した空気……何があの次兄様をあそこまで……」)
(次兄(開錠までは頼んだが、引き出しをどうするかは敢えて指示を出していない、つまり、あちら任せ……)ドキドキ)
(次兄(引き出しの内側は白日の下に晒されるのか、だとすれば俺の肉体はそれを阻止できるのか、間に合うのか)ドクンドクン)
(野獣「さーん」)
576 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/12/25(月) 00:03:34.21 ID:FcvUXxa+0
※カウントアップの途中ですが今回はここまで※
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/25(月) 00:45:43.11 ID:elp5UnX4O
アカン次兄が(社会的に)死んでしまう!!
578 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2017/12/29(金) 23:23:28.38 ID:ncRpOxat0
※少し書き溜めて投下したいので次回は年明けです、ごめんなさい※
みなさま良いお年を……
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/30(土) 00:47:15.01 ID:t10XFxtEO
今年も一年お疲れ様です
来年も楽しみにしてます
580 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/01/21(日) 22:50:30.45 ID:aWgvRN+D0
※長々休んでしまってごめんなさい。次回の週末ぐらいに更新できると思います。予定。※
581 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/22(月) 00:53:13.22 ID:2W/tlbRMO
了解
あけおめー(今さら)
582 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/01/29(月) 01:11:31.55 ID:ej98zEbh0
(師匠(よし、魔法の発動もこの分だと問題ない))
(野獣「……しーい」)
商人(とにかく、この子達が無事に戻ることを信じるしかない……)
(野獣「ごーお」)
長兄(半分か、長く感じるなあ)
(野獣「ろーく……」)
(末妹(繋いだ手から、お兄ちゃんの張り詰めた想いが伝わって来そう……))
(野獣「しーち」)
(次兄(……追い込まれてきました追い込まれてきました追い込まれてきました追い込まれてきました)ドキドキドキドキ)
(野獣「はーち」)
(次兄(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい)ドッドッドッドッ)
(野獣「きゅーう」)
(次兄(帰らねば破滅帰らねば破滅帰らねば破滅帰らねば破滅)ドドドド゙ドドドド)
(野獣「じゅーう……!!」)
長兄(今だ!!)カチャリ
鍵:カシィィィン
(王子「!?」)
(野獣「おお……!!」)
(師匠「……魔法陣が光に包まれた、成功だ……!!」)
583 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/01/29(月) 01:12:12.27 ID:ej98zEbh0
執事「……っ!?」ハッ
庭師「……帰って来た……?」
メイド「ここお屋敷です、私達帰って来ましたよぉ!!」ピョンピョン
料理長「いつぞやのように魔法陣が光ったと思ったら……ほんの一瞬、いや、それより短かったかも……」
執事「我々が無事に戻れたと言うことは……末妹様達も……」
メイド「きっとご無事で、ご家族にお会いできているはずです!!」
…………
商人「……」
次姉「…………」
長兄「……次兄、わかった、わかったから、俺から一旦離れてくれないか」
長兄「と言うか、俺の顔の正面にあるのはお前の股間としか思えないのだが……?」
次姉「……次兄が逆さまになって、兄さんの上半身にしがみ付いているのよ」
長姉「腕で兄さんの胴体に、足で兄さんの頭にね」
末妹「……」ポカーン
商人「末妹、無事に帰って来たんだね!!」ブワァァァ
末妹「お、お父さん……!!」
次姉「この子達の身体はベッドに横たわっていたのに、鏡が一瞬光ったと思ったら」
長姉「次の瞬間、次兄は兄さんにしがみ付いて、末妹は机の引き出しの前に座り込んでいるなんて」
584 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/01/29(月) 01:13:03.93 ID:ej98zEbh0
次兄「兄さん約束して引き出しをこれ以上開けないで兄さん約束して引き出しをこれ以上開けないで兄さん約束し」フェイスハガー
長兄「約束する、約束するから、今だって5ミリも開いていない、だから降りてくれ……」
次姉「ひっぺがすの手伝うわ、ほら、降りなさいよホントにこの子は……」ベリベリ
末妹「帰って来たのね、私達……」
家政婦「ええ、お帰りなさいませ」ニコ
末妹「家政婦さん……」
次兄「末妹まだそこ(引き出しの前)から動かないで!!」
末妹「え、ええ!?」ビクッ
次兄「そのままゆっくり、少しだけ後ろに体重掛けて?」
末妹「こ、こう?」ギシ
引き出し:コトン
次兄「兄さん、引き出しが閉まったところで、鍵穴に差し込まれたままの鍵を今度は逆に回して?」
長兄「今度は施錠すればいいんだな?」カチャリ
次兄「鍵は返してくださいな」
長兄「ああ、返すよ」ホラ
次兄「……ふー……」
次兄(読みどおり、切羽詰まった状況を敢えて創り出し、おっさんの魔法との相乗効果で最高の結果が生まれた)
次兄(引き出しの中身も見られずに済んだ……間に合った、間に合ったぞおおおおおお!!)
次兄「あ、もう動いていいよ末妹」
末妹「お兄ちゃん……」ヨイショ
585 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/01/29(月) 01:13:51.68 ID:ej98zEbh0
商人「改めて、無事でよかった、帰って来てくれてよかったああああああ!!」ガバッ
末妹「お父さんたら」ムキュ
次兄「無事に帰宅できたのも、家族のみんなの協力と祈りのおかげ……ありがとう、特に兄さん!!」キラキラ
長兄「次兄、鏡の向こうでは見たことないほど真剣な顔をしていたが」
長兄「今のその、晴天のように爽やかな表情も見たことないぞ……正直不気味だ」
次兄「いやぁ、俺は人生最大の危機を無事に回避できたことに安堵しているのです」
次姉「人生の危機とかなんなの」
次兄「おっと、何も尋ねない約束ですぞ?」チッチッ
次姉「そりゃそうだけど……」
末妹「心配かけてごめんなさい、本当にありがとう、皆のおかげで戻って来れたの」
末妹「お家の皆と、そして……」
末妹「……メイドちゃん達はちゃんと帰れたのかしら」
長姉「そう言えばこの鏡台、あんた達が戻って来てから『あちら側』を映さなくなっちゃったわね」
家政婦「そのことでしたら……」
家政婦「たった今、師匠様が瞬間移動の魔法で現れて……お屋敷の様子も同じように確認して来られたとのこと」
次姉「は? たった今?」
家政婦「数秒間のご滞在でした」
家政婦「でも、皆それぞれ家に戻れて安心した、と仰っていましたし」
家政婦「これから師匠様と菫花様は広場に戻り、野獣様もいつもの場所に戻られた……そうです」
次兄「全員無事なんだね、よかったー」
末妹「皆さんお屋敷に戻れたのね……」ホッ
末妹「野獣様、菫花さんも……師匠様も……よかった」
…………
586 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/01/29(月) 01:14:53.00 ID:ej98zEbh0
現実世界の、かつての王城の庭園……
師匠「菫花、そんなわけで執事達も末妹嬢達も無事だ、安心せい」
王子「ああよかった、本当によかった……」ウルウル
師匠「我々と野獣の三人だけになった途端、儂の魔力の一部を制御していたものが外れた……そんな感覚になった」
師匠「野獣もこんなことを言ってたな」
(野獣「どうやら、今の私は自分の意志でいつもの夢の世界に戻ることができそうです」)
(野獣「自力で戻れるという強い確信があります……屋敷の応接間から寝室に入るように容易く」)
師匠「そう言って、あいつは『帰った』……末妹嬢が持つ欠片の影響がなくなったせいだろう」
師匠「野獣から離れた欠片は、本体と影響しあう時はあっても、すでに別物として……成長もしている」
師匠「……ま、そのへんは後でいくらでも考える時間はあるな、それより……」
師匠「ほれ、いつまで感慨に浸っとる」
師匠「もう人払いの結界も解いた、大の男が涙ぐんでいては、人々が不審に思うではないか?」
王子「は、はいっ」
師匠「儂らはこれから、敢えて歩いて屋敷に帰らねばならんのだぞ?」
師匠「とは言え少し疲れた、魔力も使い果たした……宿に戻って休もう」
王子「ええ、そうですね……」
王子「……今夜はよく眠れそうです」
師匠「さあ、行くぞ……と、その前に、別れの挨拶をして行くか?」
王子「……ここにはまた来ることができます、来ようと思えばいつでも、そんな場所の一つになりました」
王子「ですから……今回は」スッ
王子「……また来ますね、父上、母上」
王子「今度は230年も間を開けませんから、必ず……」
王子「……終わりました。行きましょう、師匠」
師匠「ああ……また来よう、お前と儂でな……」
……
587 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/01/29(月) 01:15:23.23 ID:ej98zEbh0
※ここまでです。寝落ちます…※
588 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/29(月) 02:53:42.44 ID:RSsNbsH3O
乙
次兄危機一髪
589 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/02/28(水) 22:26:49.90 ID:nGFFY93s0
※一か月過ぎてしまうので…近日中に更新するので少々お待ちを…※
590 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/28(水) 23:06:08.95 ID:MEHSYlb2O
待つともさー
591 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/28(水) 13:36:48.69 ID:UVYSJKqTO
近日…近日?
592 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/04/01(日) 23:29:57.58 ID:rSQA9QWn0
※
>>1
です、マジごめんなさい
2〜3月ちょっと、いやかなり多忙というか余裕なくこの有様でした。必ず完結させますので……※
593 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/02(月) 01:06:28.13 ID:Z8Ei3vyqO
良かった
待ってます
594 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/04/28(土) 23:52:49.88 ID:JtVxUVrN0
商人の店。
長兄「……」
次姉「兄さん?」
長兄「……」
次姉「兄さん!! 何ボーッとしてるの?」
長兄「はっ……次姉」
次姉「もう、そんな調子じゃまたいつぞやみたいに手でもケガするわよ」
長兄「すまない」シュン
次姉「まあ……さっきまであの子達が無事に戻るかどうかって緊張した空気だったものね」
次姉「その中で文字通り『カギを握る』役目だったんだもの、疲れるのも無理ないか」
長兄「本当にすまん、もう大丈夫だ……次兄と末妹は?」
次姉「本人達は普通に元気そうだけど、お父さんが大事を取らせて、目の届く居間のソファで休ませてる」
次姉「家政婦さんは夕食の準備で忙しいけど、姉さんも同じ居間で編み物を始めたわ」
長兄「そうか、元気ならよか……長姉が編み物!?」
次姉「そこ?」
次姉「姉さんなりに料理だけじゃなく家事全般の腕を上げようと頑張っているの」
長兄「そうだな、長姉なら料理の腕もあっという間に上達したし、きっと編み物や裁縫もやる気になりさえすれば」
次姉「まあでも、今日は短い時間に色々考えたり力仕事したり気を揉んだりと」
595 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/04/28(土) 23:54:51.15 ID:JtVxUVrN0
次姉「私も正直疲れたわ、お父さんに確認して早めに店を閉めましょ」
長兄「ああ、先に上がっていいぞ」
長兄「午後から臨時休業にしていたところを、お客様のために少しの時間でもと開いたんだ」
長兄「通常の閉店時間まで俺一人このままやるよ」
次姉「……それなら私も」
次姉「兄さん一人にして、またさっきみたいにボーッとされても困るもの」
長兄「はは、本当に大丈夫……でもありがとな」
長兄「……」
長兄(本当は疲れてボーッとしていたとは微妙に違うんだよな)
長兄(鍵が開いたと同時に、引き出し自体の重みでほんの僅か……3ミリばかり……自然と、開いた)
長兄(あの重みが手にかかった瞬間、俺はその手で引き出しを押し戻すべきかそのままで維持するべきか)
長兄(それとも重さにまかせて更に引き出すべきか、迷った)
長兄(でも、それは本当の本当に一瞬だけの迷いだった)
長兄(次兄達がすぐに戻ってきたせいではない)
長兄(あの3ミリほどの隙間から……俺が感じた物は……)
長兄(我ながら滑稽だとか陳腐だとか思う)
長兄(……でも確かに感じたんだ、何か、例え難い……物理的な重さとはまた違う……圧迫感……)
長兄(……そして、寒気と恐怖感と……)
596 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/04/28(土) 23:56:04.48 ID:JtVxUVrN0
長兄(とにかく、何かわからんがこれ以上この引き出しを開いてはいけない)
長兄(この内にあるものに関わってはいけない、と頭の中で警鐘が鳴り立てた)
長兄(そこで次兄が戻って来て、ようやく俺も現実に引き戻され)
長兄(あの時感じた『何か』は……過ぎてしまえば気のせい、錯覚、あるいは)
長兄(実際になにかがあったとして、魔法の力が働いた作用……なのかもしれない)
長兄(……・)
(次兄「おっと、何も尋ねない約束ですぞ?」チッチッ)
長兄(次兄が言う通り、尋ねてはならない、問うてはならない……)
長兄(正体はわからずじまいだが、それが正解であり)
長兄(なんであれ、それで二人と二人の友人……友獣(?)達が無事に帰れたのなら、正しい使われ方をしたんだ)ウム
次姉「……」
次姉(兄さんまた何か考え事して一人で頷いているけど)
次姉(まあいいか、何であれそこまで真剣に考え込むほどでもない話だろうと真面目に考えるのが兄さんだもんね)フゥ
呼び鈴:チリリン…
次姉「! 兄さんお客様よ、いらっしゃいませ!」
長兄「はっ……いらっしゃいませっ!!」
……
597 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/04/28(土) 23:56:46.35 ID:JtVxUVrN0
※ごぶさたしてすみませんでした。読んでくれた方ありがとう※
598 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/29(日) 00:47:44.92 ID:NsDrLDu7O
おひさし乙
引き出しの奥のラスボス感ww
599 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/29(日) 07:53:41.23 ID:TAWosCSgo
乙です。ゆっくりで良いので。まったり更新待ってます〜
600 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/05/29(火) 22:36:05.37 ID:TLNxoXer0
※念のため。一か月早い…※
601 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/06/28(木) 00:08:50.87 ID:wCnuCsJK0
※お久しぶりです。来月頭までちょっとバタバタしてますが7月前半に更新します※
602 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/29(金) 00:49:34.26 ID:SYT844p5O
待ってるよー
603 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 01:43:15.38 ID:B2G3C3AgO
上旬…過ぎたなぁ
604 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/07/17(火) 22:06:31.86 ID:7wOVzHIx0
※すみません、自分で「上旬」と書いておきながら「7月中」のつもりでいました…も少し待っててください…※
605 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 23:34:59.81 ID:pisHK4gTO
おー、
>>1
が元気なら良かった
606 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/07/26(木) 00:27:39.02 ID:yFeLJr7c0
商人の家、居間。
商人「そうか、菫花君にとっては本当に良い旅になったようだな」
末妹「ええ、本当に」
商人「それに……親が子供とわかり合えるのは簡単なようで難しいものだが」
商人「だからこそ、お互いの想いが通じたと実感できる瞬間はどんなに尊いか」
商人「師匠様にも、きっと良い旅になっただろう……」
長姉「お父さん……」ニコ
次兄(あの長姉ねえさんとは思えぬ穏やかな微笑)
次兄(これも元を辿れば幼馴染男さんの愛の影響力とやらなのか……)ムムム
商人「次兄、ややこしい顔して黙り込んでいるけど、体の具合が悪いのかい?」
次兄「はっ!? い、いいえ、なんともありません、何ひとつやましいことなどありませんよ!?」アセアセ
長姉「何をうろたえているんだか、変な子」
末妹「……」
末妹「あのね、お父さん」
商人「ん?何だい?」
末妹「今の学校を卒業してからのこと……そろそろ話をした方がいいと思うの…」
次兄(お、いよいよですな末妹)
商人「そうだな、お前も来年は15歳、町の学校に通うのもあと1年くらいか……早いものだ」
商人「で……お前はどうしたいのかな」
末妹「……私、将来は学校の先生になりたいんです」
商人「そ 長姉「いいじゃない!?末妹には向いてるわあ!!」
商人「あ 長姉「教員養成学校に行くのね、あんたなら大丈夫、絶対合格するから!!」
商人「え 長姉「ね、お父さん、素敵な話よね!!」
商人「……う、うむ……」
607 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/07/26(木) 00:29:30.18 ID:yFeLJr7c0
商人「が、頑張りなさい……応援するよ、末妹……」
末妹「お父さん……」
次兄「……えーっと……」
次兄「もうちょっと具体的な話をした方が、よくないですかねえ?」タスケブネ
商人「は」
商人「そ、それもそうだね……末妹、どのくらい考えているんだい?」
末妹「はい、あの……一番近い、隣町の養成学校に正式に入学するか、それとも」
末妹「市内の学校で代用教員として働きながら、養成学校の集中講義や資格試験を受けて、正式教員になるか」
末妹「今考えられるのは、これくらいだと思うの」
商人「……」
商人「うん、なかなか現実的な発想だね末妹……さすがはしっかり者だ」
商人「我が家には……お前を卒業後すぐに働きに出せねばならぬような理由はない」
商人「商売が最低でも現状維持であれば、の話だが」
商人「座学のみならず実践を積みたくば、養成学校から短期間の派遣を斡旋してもらう手もある」
商人「と言うわけで、まず初めの1〜2年だけでも、養成学校で学ぶことに集中してみてはどうかな?」
末妹「え」
末妹「正式入学になったら……隣の市で寮か下宿か、とにかく家を離れることになるけれど……」
商人「もちろん知ってるよ、住む場所は私も一緒に探すが、お前なら心配ない」ニコ
末妹「お、お父さん……!?」
次兄「」
608 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/07/26(木) 00:30:41.44 ID:yFeLJr7c0
次兄「父さんが……末妹までも家を離れることを承知したと……!?」
商人「離れると言っても隣の市じゃないか」ニッコリ
次兄「天変地i 長姉「やったじゃない、末妹!!がんばるのよ!!」
末妹「う、うん……ありがとう、お姉ちゃん」
末妹「ありがとう……ありがとうお父さん、私、頑張ります……!!」
商人「うん、うん……」ニコニコ
商人「……さて、そろそろ夕食ができた頃かな、ちょっと様子を見てこよう」
長姉「あ、私が行くわ」
商人「いいよいいよ、お前はこの子達と一緒にいてくれ」
ドア:ガチャ…パタン
商人「…………」スタスタ
商人「……これくらい離れたらいいかな」ピタ
商人「いつかこんな日は来ると思っていなかったわけではない……」
商人「うええええええんん頑張ったよ妻、私は頑張ったよおおおおおおん」
商人「お前がいたらきっと、必ず末妹を応援しただろう、そう思ったから私も……」グスングスン
商人「……そうだよ、隣の市、毎週とは言わなくても月に1回以上の週末は帰省するじゃないか……たぶん」スンスン
商人「長姉の言う通り、あの子には向いている、いい仕事だよ」
商人「……」ジワ
商人「……こ、今夜は長兄に、お酒に付き合ってもらおうかな……」グシュ
……
609 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/07/26(木) 00:31:11.44 ID:yFeLJr7c0
※短いけれど、お久しぶりです。次回更新は8月に※
610 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 00:46:46.78 ID:pqSFvGQ3O
乙
お父さん頑張った
611 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 06:54:23.01 ID:7g/1TNAyO
蘭子「混沌電波第151幕!(ちゃおラジ第151回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516011054/
蘭子「混沌電波第152幕!(ちゃおラジ第152回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516615777/
蘭子「混沌電波第153幕!(ちゃおラジ第153回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517221252/
蘭子「混沌電波第154幕!(ちゃおラジ第154回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517828308/
蘭子「混沌電波第155幕!(ちゃおラジ第155回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518405378/
蘭子「混沌電波第156幕!(ちゃおラジ第156回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519035694/
蘭子「混沌電波第157幕!(ちゃおラジ157回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519642167/
蘭子「混沌電波第158幕!(ちゃおラジ第158回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520244800/
蘭子「混沌電波第159幕!(ちゃおラジ第159回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520849603/
蘭子「混沌電波第160幕!(ちゃおラジ第160回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521454455/
蘭子「混沌電波第161幕!(ちゃおラジ第161幕)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522060111/
蘭子「混沌電波第162幕!(ちゃおラジ第162回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522664288/
蘭子「混沌電波第163幕!(ちゃおラジ第163回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523269257/
蘭子「混沌電波第164幕!(ちゃおラジ第164回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523873642/
蘭子「混沌電波第165幕!(ちゃおラジ165回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524480376/
蘭子「混沌電波第166幕!(ちゃおラジ第166回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525058301/
蘭子「混沌電波第167幕!(ちゃおラジ第167回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525687791/
蘭子「混沌電波第168幕!(ちゃおラジ第168回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526292766/
蘭子「混沌電波第169幕!(ちゃおラジ第169回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526897877/
蘭子「混沌電波第170幕!(ちゃおラジ第170回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527503737/
蘭子「混沌電波第171幕!(ちゃおラジ171回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528107596/
蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528712430/
蘭子「混沌電波第173幕!(ちゃおラジ第173回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529353171/
蘭子「混沌電波第174幕!(ちゃおラジ第174回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529922839/
蘭子「混沌電波第175幕!(ちゃおラジ第175回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530530280/
蘭子「混沌電波第176幕!(ちゃおラジ第176回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531133134/
蘭子「混沌電波第177幕!(ちゃおラジ第177回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1532340969/
612 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/08/26(日) 23:30:02.40 ID:hagAf68X0
※一か月経ってしまう…健在報告のみしておきます、すみません※
613 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/27(月) 09:20:58.84 ID:cFlhxncGO
暑いのでお身体に気を付けてー
614 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/16(火) 00:26:59.99 ID:D84cTNVBO
復旧して良かった…保守。
615 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/10/21(日) 23:41:21.42 ID:oFV2Z1Hb0
※ごぶさた、すみません…※
復旧がずっと先なら移転して書くか、だとしたら修正しつつまたここの
>>1
から?とか…あれこれ考えていました。
復旧後もしばらく迷いましたが、やはりこちらで続けさせていただくことにしました。
というわけで近日中に再開…します
616 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[age]:2018/10/22(月) 06:22:00.92 ID:QjrfTbLQo
乙。待ってます
617 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/22(月) 09:54:26.34 ID:rdXYhQmCO
乙です
また起こらないとは限らないし、移転するならどことか事前に知らせてくれるともしもの時助かるんだけど
ちなみに今回はしたらばの方の生存報告スレが結構役に立ってたみたい
618 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/10/29(月) 01:08:14.18 ID:RE0GXokB0
※今週中に更新します。待っててくださる皆さん本当にありがとうございます…※
>>617
>生存報告スレ
移転の際は↑そちらでアナウンスさせていただきますね。
完結するまでこちらの板が無事に使えるならば、このまま…
619 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/11/04(日) 00:30:22.30 ID:KsZuJ7po0
その翌日……
師匠「ほれ、屋敷が見えてきたぞ? あともう少しだ」
王子「帰って、来ましたね……皆さんには先に会ってしまいましたが」
師匠「森に一番近い村まで乗合馬車だったがそこからは歩き通しだ、少し休んで行こうか?」
王子「だ、大丈夫です、僕も今回の旅でだいぶ体力つきました、から……」
師匠「無理するな、屋敷は逃げはせん」
王子「……」
王子「そうですね、執事さん達に疲れた顔を見せては」
師匠「さっきの村でこれを買ったのだ、皆の土産に追加しようと思ってな」
師匠「一口ずつ味見をしよう、ほれ、手を出せ」
王子「?」
ポトリ
王子「え、これは……? 蜂蜜?」
師匠「あの村では、小規模ながら兼業で養蜂を営む農家が多くてな」
師匠「これは巣蜜だ、そのまま食べていいが蜜蝋はよく噛めよ?」
王子「は、はい……」パク
むっちゃむっちゃ
王子「……甘い……蜂蜜だから当たり前か」
師匠「うむ、美味いが、蜜を取る花の種類はひとつではなさそうだな」
師匠「料理長なら特定できるかもしれん」
620 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/04(日) 02:03:47.31 ID:KQV2Q1ggO
甘やかす師匠
621 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2018/11/04(日) 02:22:01.60 ID:KsZuJ7po0
王子「美味しいだけではなく上質なのでしょうね、料理長さんが喜びそうです」
王子「……彼の事ですから、自分で食べずに僕らに食べさせる料理に使っちゃうのでしょうけど」
師匠「穴熊は蜂蜜が大好物だからな」
師匠「安心しろ、料理用と料理長個人の土産用とは分けて渡すつもりだ」
師匠「土産用を料理に使ったら、儂は魔法で判定できるのだぞ……とでも言えば、絶対それを守るさ」
王子「さすがですね師匠……」
王子「……昨日夢の世界で精神体には会えたけど、早く実体の皆さんの顔を見たいし話もしたいです」
師匠「ああ、儂も楽しみだ」ニコ
王子「……師匠」
師匠「意外な物を見たような顔をするな」
師匠「儂の家でもあるし、儂の家族でもあるからな」
師匠「しばらく離れていた自分の家で寛ぎたいのは当然ではないか」
王子「……そうですよね、僕と野獣だけではなく、師匠の家でもあり師匠の家族でもあるんです」
王子「早く会いたいのは当然です」
師匠「そうだ当然だ、だからもう二度と口にはしないぞ、屋敷が儂の家で執事達が儂の家族だ、とは」
師匠「わかり切っているからな」
王子「はい、周知の事実ですから!!」
師匠「その笑顔なら疲れもすっかり取れただろう、行くぞ」
王子「ええ、早く帰りましょう!」
……
622 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/11/04(日) 02:22:47.50 ID:KsZuJ7po0
※おひさしぶりでした。眠いので今回はここまで…※
623 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/05(月) 00:56:49.29 ID:araSXQmZO
乙
>>618
了解です、ありがとう
624 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2018/11/25(日) 23:25:52.64 ID:zAbu7Jxs0
※止まっててごめんなさい、必ず続き書きます※
625 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/26(月) 15:54:25.35 ID:uVyeWyceO
待ち続けるぜ
626 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/02(水) 03:41:51.83 ID:ufr2lFbeO
あけおめ
627 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/01/02(水) 23:58:10.74 ID:nKmyBvpx0
野獣の屋敷。
タタタッ
庭師「師匠様と菫花様です! もうすぐ門までお着きになりますよ!」
執事「こら庭師、気持ちはわかるが『ただいま』も言わずに入って来るな」
メイド「窓から入るのは問題ないのですね執事様?」
料理長「それではシチューを温めて……おふたりが旅支度を解く頃に合わせて、食卓を整えましょう」
メイド「パンも軽く炙りましょうか? 外はカリカリ中はふんわり〜♪」
庭師「僕もお手伝いします!」
料理長「ありがとう、頼んだよ」
執事「わたくしもお出迎えの準備をしなくては」
執事「……今日から皆また忙しくなる……喜ばしいな」フフ
……
師匠「いよいよ門に辿り着くぞ」
菫花「執事さん、呼べば出て来てくれますよね」
師匠「ふふ、もう門を開くため今か今かと待ち構えているさ……」
菫花「はい?」
師匠「さっきの一休みの時に、周囲の一番高い木から庭師がこちらを窺っていたのだ」
菫花「ああ、それで」
628 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/01/02(水) 23:58:49.44 ID:nKmyBvpx0
※あけましておめでとうございます※
629 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/01/03(木) 00:01:42.46 ID:E1fqjb7r0
※…名前欄の 菫花 は 王子 に置換してください…正月ボケです…※
630 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/03(木) 01:47:32.65 ID:pWhFEhwZO
正月早々乙
使用人のみんなが可愛くて癒される
631 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/01/27(日) 23:54:06.92 ID:mSYYAmW80
屋敷の門:ガション……ギキィィ〜……
執事「……お帰りなさいませ、師匠様、菫花様」
王子「執事さん!!」
師匠「少しばかり門扉を開くのが早くないか? らしくもない、のう?」フフフ
執事「はっ!? ……わ、わたくしとしたことが」アワワ
師匠「泡食う姿もまた珍しい」
師匠「……・ありがとう、ただいま」ニッ
王子「ただいま、執事さん!!」ニコリ
執事「……!」
執事「さ、さあ、早くお入りください……暖かいお茶と軽食を用意しています」
師匠「楽しみにしていたぞ」
王子「楽しみと言えば馬小屋の出来も、何より料理長さんやメイドさんや庭師君に会えるのも、それに」バタバタ
師匠「ああこら慌てるな、こけるぞ、全く」
ドズシャア
王子「」
執事「菫花様!? ああ、荷物を抱えたまま脱ぎかけの外套にもつれて……しっかりしてください!」
師匠「……本当にこける奴がいるか」ハァ
師匠「それにあの歩調でどうしたらそこまで派手な音立てて転倒できるのだ?」
メイド「な、なんの音ですか!?」スッピョン
632 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/01/27(日) 23:55:43.81 ID:mSYYAmW80
執事「丁度良い、メイド、菫花様の外套を頼む」
メイド「ええ……どうしたらこんなごちゃごちゃに絡まるんですかあ……?」
執事「余計な言葉は慎め、とりあえず菫花様の足元から遠ざけてくれ……お怪我はありませんか?」
王子「あ、ありがとう……ごめんなさい、本当に」
メイド「ご無事そうですね、よかった……でも菫花様らしいですねえ」ウフフー
王子「 」
執事「だから余計な言葉は」
メイド「あっ失礼しました、何より、お帰りなさいませー!!」ペコン
王子「……た、ただいま、メイドさん……」
執事「もうここはいい、厨房に戻れ」
メイド「はいー」パタパタ
師匠「あっという間にいつもの日常だ」
師匠「……帰って来たのだな……二人で……」
……
庭師「お帰りなさい!!」
料理長「お帰りなさいませ、さあ、熱い紅茶を召し上がってください」
師匠「うむ、野獣のレシピで調合した茶葉だな」ズー
王子「野獣にももっと話したいことがある……もちろん皆さんにもです!」
師匠「だから落ち着け、誰もここから……お前から逃げないからな」
633 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/01/27(日) 23:57:42.21 ID:mSYYAmW80
※毎度ご無沙汰です…帰宅に何か月かけてる…※
今後、更新が短い場合は作者一言省略する場合もあるので、数十分続かなかったらその日はそういうことなのでよろしくです…
634 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/28(月) 00:04:21.91 ID:zjoUpj+70
乙
王子の変わらないへっぽこさになんかホッとするw
635 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/01(金) 03:00:23.81 ID:Yn4FbGL3O
保守せんとす
636 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/02(火) 01:09:25.90 ID:pNAsUzi+O
>>1
の生存報告を待つ
637 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/04/07(日) 23:47:08.33 ID:rTnzqCjk0
※ 1です。内容更新以外では当面は出ないつもりでしたが、さすがに…遅くとも5月上旬には更新します!※
多忙が主な要因でした。ごめんなさい…
638 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/07(日) 23:53:13.24 ID:xhqONoRL0
ヨカッタヨカッタ
639 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/23(木) 23:54:21.35 ID:lOxVMDMx0
コレはもう駄目かも分からんね
640 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/25(土) 01:05:34.58 ID:u5Bo/Z9BO
まだ5月は終わってないから…
641 :
◆54DIlPdu2E
[saga ごめんなさい…]:2019/05/26(日) 22:22:34.69 ID:Vkcul4q20
その夜、野獣の夢の世界。
(王子「それで……馬小屋は本当に素敵で、早くあの可愛い騾馬を迎え入れたくて……」)
(野獣「うんうん、そしてメイドの作った造花も可愛らしかったんだな?」)
(野獣「同じ話を二度繰り返しているぞ」)
(王子「あ……そうだった、あんまり感激したので」)
(王子「それに、庭師君やメイドさんが中を案内しながら楽しそうに説明してくれたので……」)
(野獣「ふふ、お前の気持ちはよくわかる……私も楽しみだ」)
(野獣「ところで、師匠はまだ起きているのか?」)
(王子「うん、手紙を書いてから寝るって、お弟子さんのご子孫に」)
(野獣「魔法で瞬時に手紙を届けて構わない相手だな、帰着の報告か」)
(王子「本当に有意義な旅だった……君に話をしたいこともできたよ」)
(野獣「あの騒動と南の港町の滞在時、旅の途中で会えたではないか」)
(王子「こうして家に帰って来てこそ話したかった!」
(野獣「そこまで張り切って私にしたい話か、なんなんだ?」)
(王子「それは……ええと……どう話せば、いいのか……な」)
(野獣「あのな、まずは話を組み立てて、それから話があると切り出すものではないか?」)
(野獣「お前には不得手なのはよく知って(自覚して)いるが……」)
(王子「えーと……将来、の」)
(野獣「うん?」)
642 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/05/26(日) 22:23:21.57 ID:Vkcul4q20
(王子「将来の夢……将来やりたい仕事……とか……」ボソボソ)
(野獣「……お前のか?」)
(王子「え? 他に誰のことだと?」)
(野獣「おほん、そ、そうだな」)
(王子「次兄君には画家になる夢、そして末妹さんにも将来の夢がある、僕も負けてはいられない」
(野獣「……やはり知っているのか?」)
(王子「何を?」)
(野獣「う、ま、まあ……若者には夢があって当然だ、一般論としても」オホン)
(王子「末妹さんが将来何を目指しているのか僕は知らないけど、きっと」)
(王子「あの優しさと芯の強さを活かして、誰かを助けて励まし支えになれるような仕事が似合うと思う」)
(野獣「うむ」コク)
(野獣(その通り、きっと良い教師になれるだろう)フフ)
(王子「だから僕も……・同じように」)
(野獣「お前に教師は絶対無理だ!!」)
(王子「教師??」)
(野獣「あ、えーっと、なんでもないこちらの勘違い」ハハ)
(野獣「で、お前は何をやりたいのだ?」)
(王子「さっきから話そうとしてるのに、君が何度も話の腰を折るから……」)
643 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/27(月) 07:21:15.90 ID:223SiuuMO
令和でもよろしく
王子は頭良いんだろうけど、教えたり導いたりするのは苦手そうだな
644 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/30(木) 22:51:41.30 ID:uHi9Im2p0
乙
645 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/07/21(日) 23:18:52.23 ID:KUneq7jp0
※すみませんでした。ちょっと色々余裕がない(なかった)…次回更新8月です※
646 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/08/20(火) 23:11:32.04 ID:pmyRdLHz0
(王子「美味しいものを食べたら、たいがいの人は元気になるよね?」)
(野獣「は?」)
(野獣「……う、うむ、まあ、そうだな?」)
(王子「……」)
(王子「考えながら話すから、まどろっこしいかもしれないけど」)
(王子「しばらく聞き役に徹してもらっていいかな?」)
(野獣「そ、そうか、了解した」)
(王子「……えーとね、どう言えば……」)
(王子「……君と分離されたばかりの僕はずいぶん弱ってて」)
(王子「何も食べられずに寝込んでいた」)
(王子「僕の存在が君を完全に消してしまったと思えば、ますます身も心も縮こまるばかり」)
(王子「でも、末妹さん達や屋敷のみんなに対して、最低限の責任を果たすまでは死ぬわけにもいかないから」
(王子「執事さんが用意してくれた水と蜂蜜を少しずつ摂って、命を繋いでいたんだ」)
647 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/08/20(火) 23:12:38.34 ID:pmyRdLHz0
(野獣(そうだった、当時のお前は、私がいるこの場所をまだ知らなかったものな))
(王子「そんな僕のために料理長さんが作ってくれたのが、林檎のコンポートのカスタード添えで」)
(王子「それを口に運ぶ僕を見守りながら、執事さんと料理長さんは」)
(王子「……僕に、生きてほしいと……それだけが願いだと」)
(野獣「……」)
(王子「そして、君から僕のことを託された、とも伝えてくれた」)
(王子「それで……ようやく僕は、簡単に生きるのをやめるわけには行かないと思えた」)
(王子「そのためにも、ひとまずはこれを食べて元気にならなくちゃって」)
(王子「……僕の生きる気力は、あのコンポートの味を甘くて美味しいと感じることで、湧き上がって来たわけで」
(王子「それから」)
(王子「僕らが昔生きていた時代は、お菓子は贅沢品で、王族や貴族の口にしか入らないものだったけど」)
(王子「師匠と各地の町や村を巡ると、街角の小さなお店で、子供もお小遣いで買えるような焼き菓子を売っていたり」)
(王子「僕らの訪れた農家で、奥さんが果物や木の実の入ったパイを焼いて、振る舞ってくれたり」)
(王子「もちろんその家の人達と一緒に」)
648 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/08/20(火) 23:13:19.91 ID:pmyRdLHz0
(王子「あと、商人さんの家でも、家政婦さんの作ってくれたお菓子をご馳走になった」)
(王子「どれも美味しくて、そしてそれぞれ作り手の個性もなんとなく感じられて」)
(王子「……そこで僕は、料理長さんの作る味も、どこかの誰かにも食べてもらえたら」)
(王子「……どこかの誰かにも食べて欲しいと思ったんだ」)
(野獣(ふむ……))
(王子「だから、料理長さんにお菓子の作り方を教わって」)
(王子「たくさん作ることは無理でも、その味を再現して、それを美味しいと思ってくれる人に食べてもらう」)
(王子「……それを自分の仕事にできたらいいなあと……今回の旅の中で考えていたんだ……」)
(野獣「……口を開いても良いか?」)
(王子「う、うん」)
(野獣「菓子作りを生業とする具体的な手立てまで考えているのか?」)
(王子「えっと、それは……」)
(王子「……これから考えるよ」)
(野獣「私もいわゆる世間知らずだからよくは知らんのだが」)
649 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/08/20(火) 23:14:16.16 ID:pmyRdLHz0
(野獣「たいがいは、正式に職人に弟子入りしないと、自分の店を出すことは認められないのが普通では?」)
(王子「そ、そういうものなのかな……」)
(野獣「……」)
(野獣「まあな、お前の場合は仕事としたい何かが見つかっただけでも進歩と言うか、収穫なのだから」)
(野獣「師匠とも相談して、もう少しじっくり考えても」)
(王子「そうだね……」)
(王子「聞いてくれてありがとう、君に否定されないでよかった」)
(野獣「否定はしないさ」)
(白バラの茂み(……))
(白バラの茂み(手紙を書いて送る作業が終わったので眠ってみたら))
(白バ(以下略)に隠れている師匠(菫花め、菓子職人になりたいとはなあ))
(師匠(儂も頭ごなしに否定するつもりはないが))
(師匠(あいつが職人の世界に飛び込んで、通用するとも思えん……)ハァ)
(師匠(……さて、どうしたものか))
650 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/21(水) 00:45:02.13 ID:uSt00QOAO
乙
これは意外な夢
料理長と家政婦さんの料理食べてみたい
651 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/25(日) 23:56:07.27 ID:Z9IFg7x70
師匠いっつも茂みで盗み聞きしてんな
652 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/10/05(土) 23:21:47.47 ID:X+jsnDiZ0
(野獣「……」)
(野獣「師匠、近くにいるんですよね?」)
(師匠「」ギクッ)
(王子「え?」)
(師匠「……やれやれ、この世界でお前から隠れることは無理だと、頭ではわかっておるのだがな……」)ゴソゴソ
(野獣「いっつも同じ白バラの茂みというのも、工夫がないですよ」)
(師匠「自分では選べんのだ、強制的にこの白バラの近くに送り込まれる仕様らしい」)
(王子「僕の話を聞いていたのですか、師匠……」)
653 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/08(火) 23:03:07.02 ID:ckbp2IeRO
乙
654 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/12/01(日) 19:12:28.87 ID:C6t/czIb0
(師匠「うむ、聞かせてもらったぞ、だから手短に」)
(王子「あっ待ってください心の準備が」)
(師匠「儂にできることなら協力するぞ」)
(王子「ですよね……師匠ならそう答え……」)
(王子「……えっ!?」)
(師匠「」)
(師匠「『えっ』とはなんだ? 『えっ』とは?」)
(王子「あわわわごめんなさいなんだか意外でいえあのその」ヘドモド)
(野獣「私も正直びっくりしたが、落ち着け菫花」)
(師匠「お前もびっくりなのか……」)
(師匠「確かに今までが今までだったからな……だが……お前達、まずは儂の話を聞け」)
(王子「は、はい……」)
(師匠「菫花に積極性が出て来たのは儂だって喜ばしい、それをむざむざへし折りはせん」)
(師匠「しかし実現させるためには……先ほど野獣も言った通り、じっくり考えなければなるまい」)
(師匠「お前達ふたりは誰よりも世間知らずだが」)
(師匠「儂にだって、この時代のこの国のあらゆる職業の仕組みについての知識があるわけではない」)
(師匠「この屋敷の住人がいくら頭を突き合わせてみたとて、現実的な手立ては期待できまい」)
(野獣「……確かに」ハァ)
(王子「……や……やっぱり僕が仕事に就くなんて無理な話……なんですね……」ズーン)
(師匠「地面にめり込むのは早いぞ、最後まで聞かんか」)
(野獣「良い考えがあるので?」)
(師匠「うむ、この時代の現実的な事象に強そうで、尚且つを貸してくれそうな人物を思い出した」)
……
655 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/12/01(日) 19:13:40.72 ID:C6t/czIb0
商人の家、朝。
次姉「あ、おはよう、お父さん」
商人「おはよう……」
次姉「元気ないわね、顔がむくんで、特に……目が腫れぼったいような……体の調子が悪いの?」
商人「い、いや、体はいたって健康だよ……」
商人「あれだけ飲んだのに二日酔いにもならないほどには健康さ……」ハハハ
次姉「声に力がないんだけど」
次姉「昨夜お酒のんだの? 兄さんと、そうでしょ?」
長兄「おはよう次姉、そうだよ昨夜は二人で飲んだんだ」
商人「……私は馬の様子を見て来るよ」フラフラ〜
ドア:パタン……
次姉「……本当に大丈夫かしら、全身に力が入っていないような、心ここにあらずと言うか」
長兄「長姉から聞いてないか?」
次姉「末妹の話? でも、お父さんは養成学校での勉強に集中しなさい、って話していたんじゃないの?」
長兄「本人にはそうやって背中を押してやるのが父親の役目……なんだってさ」
次姉「……」
次姉「とは言うものの、本音ではやっぱり寂しい……ってわけね」
長兄「でも安心しろ、あの時のように……生きた屍みたいには絶対ならないぞ」
長兄「って、最後はそう宣言して笑顔になっていたから、きっと大丈夫」
次姉「……そうね」
次姉「お父さんも私達も……あの頃とは違うものね」フフ
656 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/12/01(日) 19:14:55.86 ID:C6t/czIb0
馬小屋……
商人「おはよう愛馬、今日のご機嫌は……」
馬「ひひひん(おはよう)!」
末妹「おはよう、お父さん!」
商人「」
商人(そそそそそそうだった、朝の馬小屋で末妹と鉢合わせるのはあまりにも当然だった)
末妹「……お父さん?」
商人「あ、ああ、おはよう末妹」ワハハハ
末妹「……ありがとうお父さん、私の夢を認めてくれて」
商人「ち、父親として当たり前じゃないか……きっとお母さんも、同じように言っただろう」
末妹「お母様も……」
商人「父親、いや、母親もだな、世の親の役目とはそういうものだよ……」
末妹「……」
末妹「養成学校に行っても、できるだけ家には帰るようにするからね、お父さん」ニコ
商人「え」
商人「……」
商人(……そうだよな……私がどんな心境かを、この子に悟られないはずがない……)
商人「ああ……その気持ちだけで充分……だけど、やっぱり顔を見られる時間は長いほうが」
商人「正直、お父さんは嬉しいよ……」ニコ
末妹「えへへ……うん、お父さん」キュ
商人「末妹……」ギュ
馬「ひん……」
657 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2019/12/01(日) 19:15:43.48 ID:C6t/czIb0
商人「もう馬の世話は済んだのかい?」
末妹「ええ、ブラシも掛けたし、ご飯も」
馬「ひひひひんぶるひひひん(どうですこの毛艶)」
商人「そうか、では私達もそろそろ朝ご飯の時間だな」
商人「さあ馬よ、今日は取引先のお宅に行くからな、また後で」
馬「ひーひひひん(まーかせて)」
末妹「……あら?」
商人「どうかしたのかい?」
末妹「お父さんの上着の懐に……さっきまではなかったと思うけど……」
商人「本当だ、なんだろう……封筒?」ピラ
商人「……驚いた、差出人は師匠様だよ」
末妹「それじゃあ……魔法でたったいま届いたのね!?」
商人「しかし、きのう話をしたばかりじゃないか……何か緊急で知らせたいことでも起きたのかな」ガサガサ
商人「……」
末妹「師匠様、なんて?」
商人「……悪い知らせではない、安心おし」
末妹「そうなんだ、よかった」ホッ
商人「内容については……少しこちらにも考える時間が必要みたいだな」
末妹「?」
商人「お前達にもいずれ話をするよ、今は私ひとりに預からせてくれ」
末妹「……わかったわ、大人と大人のお話、なのね……」
商人「ああ、大人同士の話だよ」
商人(どっちかと言えば、親同士の話……かな)
…………
658 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2019/12/01(日) 19:18:44.76 ID:C6t/czIb0
※さすがにご無沙汰しまくったので…すみませんでした※
659 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/02(月) 17:44:11.98 ID:lm6G66nF0
乙
年内の更新があるとは思わなかったから嬉しい
660 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/03(火) 02:14:27.37 ID:n8V9wPdqO
出遅れた乙
師匠の手厚い進路指導
661 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/08(土) 20:02:15.71 ID:rnYB6Vfl0
ほんまに完結するんやろか
662 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/02/16(日) 20:59:18.25 ID:BgmEBtxm0
商人の自室。
商人「うーむ」
商人「菫花くんはいい子だし、次兄や末妹の友達だし」
商人「何より彼の生い立ちを考えると、これからは自分の心の赴くまま生きて欲しいし」
商人「……かと言って」
商人「私の伝手で菓子職人や料理人を紹介すると言うのもどうかなあと……」
商人「いや、できるよ、紹介だけならできるよ、普通に腕も人柄も信用できる人物を」
商人「でもね」
商人「人には向き不向きというものがあるんだ、努力で克服することは不可能な類の」
商人「菫花くんが修行について行けるかも心配だが」
商人「彼を教える側に求められる寛容と忍耐は菓子職人や料理人に求められる範疇を超えているだろうなあ、と……」
商人「……」
商人「師匠様は、返事は急がないと手紙に書いていた」
商人「短慮に結論は出さずに、もう少しゆっくり考えてみよう」
商人「いずれうちの子供達の知恵も借りる可能性もあるかもしれんが、今はまだ私の胸だけに」
商人「……さて、そろそろ出掛ける時間だ……帰る時間を考えると、昼は久しぶりに外食でもするか」
……
663 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/02/16(日) 21:01:29.24 ID:BgmEBtxm0
南の港町、安宿。
従業員「お茶っす」カチャ
商人「ありがとうございます」ニコ
主人「こら従業員、言葉遣い」
主人「……まさかこんなに早く良いお返事をいただけるとは思いませんでした」
主人「本当にありがとうございます、商人さん!!」
商人「いやあ、ありがとうはこちらのセリフですよ」
商人「新しい試みとして、小規模な正式契約を結んでくださる取引先を私も探していましたから」
商人「お宅の宿は、もう3年も前からあの石鹸を買ってくださっているのですからね」
商人「これからは私も確実に品物をお届けできるようなりますし」
商人「おまけに鍋の磨き粉もうちと契約してくださるとは」
主人「ははは……お恥ずかしい話、今までこの町でその時々で一番安い磨き粉を使っていたのですが」
主人「先月、ひどい粗悪品に当たりましてねえ……鍋の焦げは落ちもしないのに従業員の手ばかり荒れてしまって……」
従業員「痛かったっす……」ポツリ
主人「俺……私は皮膚が強いので平気だったから、一晩かけてそいつで磨いたのですが、少しも鍋はきれいにならず」
商人「ああ、奥様の手が……それはひどい話ですね」
従業員「……!! 奥様、奥様っすか!? あたし『奥様』なんて呼ばれたの初めてっすーーー!!!!」ピョンピョン
主人「こ、こら、はしゃぐな、お客様の前で……」
商人「若い方は元気なのが一番ですよ」
商人(こうして見てるとほんとに親子みたいだが、10歳くらいしか離れていない夫婦なんだよなあ)
664 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/02/16(日) 21:04:36.26 ID:BgmEBtxm0
主人「とにかく、平凡な家庭料理しか出せないとは言え、宿には食事も大切ですからね」
主人「大事な食事を作る大事な鍋は大事に使いたいわけですよ」
主人「安物買いの銭失いになるくらいなら、多少値は張っても信頼できる品質のものを使いたい」
主人「と、考え方を変えたわけです」
商人「ええ、ええ、わかります……」
商人「人間は守りたいものができると、常に目先の効率だけを考えるのは必ずしも得策ではない、と思うようになります」
主人「守りたいもの……」チラ
従業員「……」ポッ
主人「な、何を赤くなってる!?」
従業員「お、おやっさんこそ、なんでこっち見たんすか!?」
商人「」
商人「えー、コホン……」
主人「」ハッ
主人「す、すみませんでした、見苦しい所を……そ、そうだ、もうすぐお昼になりますが」
主人「商人さん、お昼ご飯はお家に戻られて摂られますか?」
商人「え? うちの者には外食して来ると伝えていますが、何か?」
主人「あの、もしもよろしかったらですが、うちで食べて行きませんか? もちろんお代はいただきません」
主人「さっき申し上げた通り、平凡な家庭料理なので、商人さんのお口には合わないかもしれませんが……」
商人「え、私には嬉しいお話しですが……宿のお客様は……」
665 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/02/16(日) 21:09:09.28 ID:BgmEBtxm0
主人「いやあ、実は連泊の3人連れのお客が昼はここで食べる予定だったのですが……」
従業員「商人さんがお見えになるちょっと前に、急用だとかで帰っちまったっす」
主人「船の時間に間に合わない、と、大慌てでした」
従業員「もう出来上がっていたのに……」ショボン
商人「そ、そういうことでしたら……ありがたく」
……
商人「これはうまい……ご主人は謙遜されていますけど、すばらしい料理の腕をお持ちで」
主人「そ、そんな、舌の肥えておられる商人さんに」
従業員「普通には美味しいっすけど……あたしはもうちょっと香辛料と酸味を効かせた方がいいと、いつも思ってるっす」
主人「いつも言ってるがお前の味覚を基準にするなと」
商人「いやいや、実に心安らぐ味です……ご主人はどこで料理の修行をされたのですか?」
主人「いやー、おr……私の料理は母親の直伝でして……」
商人「親御さん……確か、この宿を以前に経営されていたのはご主人と違う苗字でしたね?」
主人「ええ、この宿は父親の親友から譲り受けたものです、私ゃ農家の四男坊ですから、母親も普通の農民です」
商人「母親直伝……普通の農民……」
商人「…………」
商人「それです!! それですよ!! ありがとうご主人!!」
主人&従業員「「はい?」」
商人「そうだよ、『家庭料理を振る舞う職業』だって成り立つんだ……!!」
……
666 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/02/16(日) 21:09:36.73 ID:BgmEBtxm0
※本当ごめんなさい、あと兄妹達も野獣サイドも出て来ない地味回ですみません※
667 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/17(月) 01:04:08.31 ID:WTb8ZoMtO
乙ですいつまでも待ちますよ
宿屋夫婦も可愛くて好き
668 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/06/21(日) 22:31:03.01 ID:5S1oSgum0
その夜、商人の自室。
商人「しっかり封をしてと……師匠様の手紙に返信方法が書かれていたっけ」
商人「同封されていた、魔法陣だっけか、これが描かれた紙を広げて……」ガサガサ
商人「真ん中に返事の手紙を置く」カサ
商人「おっと、封筒の裏側……私の署名を魔法陣に触れさせるのだった」クル
商人「で、真上からは覗き込まないようにせよと……少し離れるか」スッ
商人「……」
魔法陣:チカッ
商人「お、光った」
商人「小さなランプ程度のまぶしさだな……しかし見慣れた炎の色ではなく青白く輝いている」
商人「……魔法陣が光と共に手紙を中心部に吸い込んで行く……魔法陣そのものも消えた、ただの白い紙に……」
商人「……」
商人「私は、大概の人が一生かかっても出会わないような体験をしてしまったのでは?」
商人「珍しい体験……」
商人「……今更か」
商人「野獣に出会った時から続く数々の不思議な出来事より、それをあっさり受け入れている自分に驚くよ」
商人「さて、師匠様と菫花君、そして野獣、私の意見をどう捉えてくれるかな」
……
669 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/06/21(日) 22:34:40.66 ID:5S1oSgum0
※話は進まなくて繋ぎの回です…このところ色々思うことあって書けませんでしたが、これから復帰します※
670 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/22(月) 02:29:20.31 ID:4JrRoX2gO
乙
コロってたんじゃなくて良かった!!
671 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/14(月) 17:47:47.97 ID:gg7oyO++0
復帰とは……
672 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/09/22(火) 23:44:45.52 ID:EY908xQe0
野獣の屋敷、師匠の自室。
魔法陣:ぽわーん……
封筒:パサッ
師匠「おう、商人殿からの返事か」
師匠「ずいぶん早く書いてくれたのだな、どれどれ」ガサガサ
師匠「ふむ……」
師匠「……なるほどな」
師匠「儂もあの宿には世話になったし、いかにも家庭料理な食事は確かに美味かったが」
師匠「ここまでは考えが及ばなかった、さすがは商人殿」
師匠「『かと言って、南の港町の宿とは立地条件が違うので』……ふむふむ」
師匠「『都会から田舎へ避暑や保養に来る人々』を相手にした商売……か」
師匠「森に一番近い村は、国境にも近いせいもあり、意外と旅人が訪れる」
師匠「商人殿はそこに目を付けたようだな」
師匠「商人殿の直接の知人はいないが、伝手が全くないわけではない、店舗や協力者を探してくださる……と」
師匠「ありがたい申し出だ」
673 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/24(木) 02:29:10.16 ID:wBXCkvQxO
乙です
674 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2020/11/25(水) 00:10:51.30 ID:zLtAHv7w0
…………
数日後……
家政婦「旦那様、こちらは携行食です、あと防寒具はこちらに」
商人「ありがとう家政婦さん」
商人「では、留守を頼むぞ長兄」
長兄「ああ、父さんも気を付けて……馬を連れて来るよ」
次姉「向こうは寒いから、風邪ひかないようにね」
長姉「それにしても……末妹は学校に行く前に挨拶を済ませたから良いものを」
長姉「お父さんの久しぶりの長旅だってのに、次兄ってば寝坊なんかして」
商人「はは……昨日あいつは末妹の学校へ行って、特別にお願いしていた模擬試験を受けさせてもらったんだ」
商人「次兄には10年ぶり……いや、あの時は教室にも入れず終わったから……実質初めての通学」
商人「相当疲れてしまったんだろう、ゆっくり寝かせてやろう」
長姉「私達も教わった先生達もいるのよ、学校で恥ずかしい真似しなかったでしょうね」
商人「先生のお話しでは、試験は真面目に取り組んでいたそうだよ」
商人「同じ校舎で授業を受ける末妹に恥をかかせる真似はしないさ」
次姉「半日緊張しっぱなし……か、そりゃ次兄なら疲れるわ」
長姉「美術学校に合格したら毎日通わなきゃならないのに、先が思いやられるったら」
長姉「ま、それはともかく……本当に気を付けてねお父さん」
675 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2020/11/25(水) 00:11:45.81 ID:zLtAHv7w0
商人「ふう……大袈裟だな、長旅とか」
商人「西端都市の用事を済ませたら、北の国境近くの村へ立ち寄って、あとはまっすぐ帰るよ」
次姉「今回は西端都市の用事が大変なんでしょ?」
次姉「商談が済んだら、親戚おじさま達と……」
商人「彼等に戦いを挑むわけじゃない、敵陣とか言う次兄に呆れていたのは次姉だろう?」
商人「親戚1さんも上手に取り持ってくれるさ」
次兄「でもあの人、いまいち頼りないような……」
商人「いいや信用できる人だよ、お互い過去を清算し今後のために有意義な話し合いになる……してみせる」
商人「って、いたのかい次兄!?」
長姉「いつの間に起きて来たのよ!?」
次姉「心臓に悪いから気配消さないでくれる!?」
馬「ぶるるひん(おはよう)……」カッポカッポ
長兄「やあ、自力で起きたのか次兄……なんで長姉と次姉は恐い顔しているんだ?」ガシャ
家政婦「(馬車に馬を繋ぐ)お手伝いいたします」ササッ
長兄「あ、ありがとう家政婦さん」ガチャガチャ…
次兄(ほほう共同作業ですな)
商人「二人ともありがとう……よろしく頼むよ愛馬」ポン
馬「ぶひひひひん(こちらこそ)」
676 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2020/11/25(水) 00:12:31.73 ID:zLtAHv7w0
……
次姉「……行ったわね、とりあえずお天気が良くてよかった」
長姉「それにしても……北の国境近くの村での用事って、何なのかしら」
次姉「仕事と全く無関係でもないけど個人的な用って言ってたわ」
長兄「なんだお前も詳しくは知らないのか」
次姉「あら……兄さんも知らないの?」
次兄「俺も知らないよ」
長姉「あんたが知ってるとは誰も思わないわ」
次兄「ですよねえ」
……
町の学校……休み時間
わいわいがやがや……
末妹(お父さんもう出発したかな……)
末妹(北の国境近くの村って、野獣様のお屋敷……あの森に一番近い村よね)
末妹(お父さんが言うには、師匠様からのお手紙に関係した用事……だって)
末妹(いずれ私達みんなに話すから、師匠様のご意向もあるので、とりあえず手紙がきた事も黙っててくれ……とも)
末妹(師匠様のお考えなら、お屋敷の誰かに関係あることだろうなあ)
友2「末妹ちゃん、何ぼーっとしてるの?」
末妹「あ」ハッ
友1「考え事してたんでしょ?」
友3「えへ……さっきの問題の答え、どうしてこうなるのか教えてくれる?」コソコソ
末妹「さっきの問題ね、えーと……」
……
677 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2020/11/25(水) 00:13:55.39 ID:zLtAHv7w0
※忘れてはいません…すみません。間が空いてしまったので読み返し思い出しながら書いています…※
678 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/11/25(水) 02:49:44.91 ID:PN2zQ4FqO
乙
久しぶりの次兄と末妹ちゃんウレシイ…
679 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/04/13(火) 18:43:28.84 ID:ZD8iegGRO
やっと復旧したか…とりあえず保守
680 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/11/25(木) 03:06:32.49 ID:JpTEDRvzO
ただただ悲しい
駆け足になるとしても1スレで終わってたら良かったのかな…
681 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2022/11/20(日) 22:37:31.54 ID:ma7kUVb00
2年も放置して本当にすみません
近いうちなんとかします
682 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2022/12/19(月) 17:37:43.17 ID:JUL2TufY0
はい
683 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/12/19(月) 18:11:58.23 ID:nV0VJ+tE0
はい
684 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/12/31(土) 21:36:32.31 ID:HOhWDrlh0
全然再開しなくて草
685 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2023/01/09(月) 18:02:12.20 ID:98/S2SPl0
…………
さらに数日後、北の国境近くの村……
商人「……というわけで、旅行者が旅先でお茶の時間を楽しむのも悪くないと思うのですよ」
商人「隣国や北辺都市への通過地点として一泊するだけではなく」
商人「この村やその周辺、そのものを目的にする旅行者が増えるかも」
村長「ふむ……しかし、この村の宿兼酒場の規模では、お茶の時間に飲食を提供できる余裕まではありません」
村長「商人さんもご覧になったでしょう?」
商人「はい、村長さんの妹さん夫婦が経営しておられる、村唯一の宿ですね」
村長「昨年、北部街道の整備が終わってから村を訪れる旅行者も急増し、忙しいと日々ぼやいております」
村長「まあ嬉しい悲鳴なので、贅沢な悩みですが……」
商人「ですから妹さん達のご負担を増やさないように」
商人「カフェの切り盛りはこちらの紳士とそのご家族が一切引き受け、売り上げから村へ建物と土地の借用代を支払う形になります」
師匠「ええ、この儂が経営者となります」
村長「酒場の裏の空き家……あのボロ家に家賃が発生するとは有り難い限りです」
村長「しかし、美しい店に改装したとて、提供する軽食、お菓子、お茶がどのようなものか……」
商人「百聞は一見に如かずです」
商人「こちらに試食を用意しております……師匠様」
686 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2023/01/09(月) 18:03:24.73 ID:98/S2SPl0
師匠「うむ、村長殿、こちらのクッキーとブリオッシュを……いずれも儂の『家族』が今朝焼き上げたものです」
村長「ほう、見た目は非常に美味しそうですな」
師匠「あと紅茶を……少々お待ちください」
師匠(商人殿、村長殿の意識を10秒ほど儂から逸らしていただけますかな?)ヒソヒソ
商人(え、10秒? や、やってみましょう)
村長「……」サクサク
村長「……これは美味い!?」
商人「でしょう、絶品ですよね!!」
商人(アナグマの料理長さんのクッキーはね)
村長「この軽やかな歯ざわり、ほどよい甘みと鼻に抜ける良質なバターの香り、そして表面にあしらわれたサクランボの砂糖漬けの甘酸っぱさがアクセントとなり……」
商人「村長さん?」
村長「芸術……クッキーの芸術品と呼んでも過言ではない、ブリオッシュはどうだ?」パク
村長「……お、おお、おお」モグモグ
商人「あ、あのー……」
村長「新鮮な牛乳と卵を練り込んでいるな、それに、この天使の羽根のようにふんわりとした焼き上がりの中にも、力強い生地の存在感を感じる……」
村長「発酵時間と焼き上がりの見極めが絶妙なのであろう、これぞ達人の仕事……」
商人「……えーと」
687 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2023/01/09(月) 18:04:02.45 ID:98/S2SPl0
師匠(商人が気を逸らさんでも見つかることなく瞬間移動で屋敷に行って戻って来れた)
師匠「さあ、淹れたての紅茶をどうぞ」カチャ
村長「む? 茶器セットや熱湯を持参していたようには見えなかったが……いい香りだ」ズー
村長「ほ、ほおおおおおおおおお……」カタカタカタカタ
商人(いかん、また別世界に飛び立ちかけている)
商人「ねっ村長さん、お茶も美味しいでしょ!?」
村長「ハッ」
村長「そ、そうですね……茶葉と水も良質だろうが、よほど上手に淹れなければここまでその良質さを引き出せないでしょう……」
師匠(ウサギのメイドが淹れたとは思いもよらんだろうがな)
村長「このすばらしいお茶やお菓子を提供し続けることができるとして……」
村長「こんな田舎の村に、昼下がりから夕方までの短時間限定の開店では勿体ないほどですよ」
村長「逆に、限定だからこそ品質を維持できるのかもしれませんが」
村長「よろしい、開店の許可を出しましょう」
商人「あ、ありがとうございます!!」
村長「むしろこちらからぜひにとお願いしたいくらいです」
村長「その……旅行者の少ない時は、村の者が立ち寄っても構わなければ」
商人「師匠様」
師匠「もちろんです、どなたにでも楽しんでいただける店を目指しますとも」
師匠(……さて、建物と売り物は準備万端)
師匠(あとは店員、か)
……
688 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/01/12(木) 22:29:01.75 ID:hcWTnrbW0
乙
腹減る飯テロ
689 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/05/15(月) 21:24:17.29 ID:sruQ6Llc0
再開したのかい?してないのかい?
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