末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

259 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/15(金) 00:02:41.43 ID:V7A/ANY60
応接室の3人。

師匠「……家政婦さん? ちょっとこちらへ」

家政婦「はい」サッ

師匠「……鍵穴から…………」ヒソヒソボソボソ

家政婦「……畏まりました」コクリ

家政婦「それでは皆様、ごゆっくりお過ごしください」スッ

家政婦「……私にご用がございましたら、こちらの呼び鈴を鳴らしてください」リン♪

ドア:カチャリ……パタン

師匠「さてと……商人さん、でしたな?」

商人「! は、はい!?」

師匠「次兄君と末妹さん、ふたりとも本当によいお子です、お父上の教育が素晴らしかったのでしょうな?」

師匠「あの子達のおかげで、この不出来な息子もようやく真人間になりつつある……どころか」

師匠「あの子達に、生きていることを許されたとさえ思っております」

商人「そ……」

商人「そんな大それたことは、あの子達はただ……友達の力になりたくて、出来ることを頑張っただけです」

商人「出来ることを、皆さんと……貴方と、使用人の皆さんと……野獣と……何より王子さ……息子さん自身と」

商人「力を合わせて頑張った結果、息子さんが救われたと仰るのなら」

商人「……あの子達の親として、これほど嬉しいことはありません……」

……
260 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/15(金) 00:04:31.68 ID:V7A/ANY60
廊下の2人→3人。

家政婦「……私にご用がございましたら、こちらの呼び鈴を鳴らしてください」リン♪

長姉「ちょ、家政婦さんが出て来るわ!」アワアワ

次姉「隠れて、姉さん、こっち!」バタバタ

ドア:カチャリ……パタン

家政婦「……」

観葉植物「…………」

家政婦「……隠れたりなさらなくても、旦那様に言いつけたりしませんよ?」クス

次姉「……ごめんなさい」ゴソゴソ

長姉「……家政婦さんの目はごまかせないって、わかっちゃいたけど」ゴソゴソ

長姉「子供っぽいことしたわ、次姉は私が誘ったの」

次姉「私も乗り気だったもの」

家政婦「これは独り言ですが……師匠様は偉大な魔法使いさんなのでしょう?」

家政婦「私が黙っていても、もしかしたら?」チラ

長姉「 」

次姉「た、確かにそうだわ……」

次姉「やっぱり私達、部屋に引っ込んでいましょう姉さん」

家政婦「大丈夫です、お客様達とどのようなやり取りがあったか、きっと旦那様は貴女達にもお話ししてくださいますよ」ニコ

……
261 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/15(金) 00:05:34.76 ID:V7A/ANY60
店舗の3人。

末妹「え……と、長兄おにい……ちゃん……?」

長兄「」

長兄「…………ああああ、ごめん、俺が悪かったああああ」モジモジモジモジ

末妹「お兄……」

微振動:カタ……カタカタ……

次兄「兄さん、185cm83kg(推定)の図体でモジモジされたら割れ物の陳列棚が心配だ」

次兄「ちなみに体重の殆どは骨格と筋肉です」

長兄「……」フゥ

末妹「だ……大丈夫……?」オロオロ

長兄「マジで悪かった、ごめん末妹」

長兄「嫌だとか気持ち悪いとかそういう意味ではないが……やはり呼び慣れていないと違和感が……」

長兄「俺を『お兄ちゃん』呼ばわりしていたのは寄宿学校に進む前の長姉と次姉だけ」

長兄「その二人も寄宿学校に入った翌年に帰省の時に顔を合わせれば既に『兄さん』」

次兄「……そう言えば俺と末妹は兄さんに関してはチビの頃から今の呼び方……だったかな?」

次兄「物心つくかつかぬかで大人に教えられた通りの呼び方が定着し、すぐに年に数回しか会わなくなり」

次兄「そこへ来て姉さん達も『兄さん』になれば自然とそれに倣ったのかもしれん」

長兄「そうなんだ、既に人生においては『兄さん』『お兄さん』呼ばわりの方が長い」

長兄「そもそも……長姉達に『兄さん』と呼ばれるようになった時も」

著啓「ああこいつらも寄宿生活で大人びたのか、くらいの感想しか持たなかった……な」

次兄「じゃあ無理にお兄ちゃん呼ばわりさせることもなかったのに」
 
262 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/15(金) 00:06:50.61 ID:V7A/ANY60
長兄「……な、仲間外れは……長姉と次姉もすっかり『お姉ちゃん』呼びが定着して……」

次兄「……」ジー

次兄「……誰かに何か言われたんでしょ?」

長兄「 」

長兄「……この間、町の初等学校で同学年だった連中と……幼馴染男の婚約祝いを口実に酒場で飲んだ」

長兄「で、幼馴染男が帰った後の残った奴らと、話の流れで」

次兄「ちょっと待った、主役が帰ったのにまだ飲んでたの?」

長兄「……酒の付き合いにはそんなしょーもない側面もあるんだよ、次兄」

長兄「話を戻すと、話の流れで幼馴染男の相手の長姉の話からうちの他の弟妹の話題になり……」

次兄「わかった。末妹が兄さんだけに他人行儀……ひいてはあまり好かれていないんじゃないか、とか言う人がいたんだろ?」

長兄「ああ、お前の読み通りだ、全員ではないが2〜3人ほど」

末妹「そんな」

長兄「もちろん俺自身は末妹に好かれていないなんて思っちゃいないぞ」

長兄「ただ……そういうふうに見る人もいるんだな、とはその時に思った」

長兄「親兄弟はわかっていても、他の人から見れば……と」

次兄「だから、とりあえず形だけでも取り繕えないかと浅薄にも考えた」ズバッ

次兄「己の五感より世間体を優先する兄さんらしい」バッサリ

長兄「……うぐぐ……そこまではっきり言わんでも……」ダメージ大

末妹「お兄ちゃん……」

次兄「安心せい末妹、別に俺は兄さんを苛めたいわけではない」

次兄「兄さんとて酒の席での野郎どもの軽口なぞいちいち気に留めるほど細かい男ではありますまい」
 
263 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/15(金) 00:07:47.29 ID:V7A/ANY60
次兄「……でも、もしかしたら『それ以外の誰か』にもそのように見られてるかもしれない」

次兄「そんな疑念が湧いて不安になっちゃったんでしょ?」

末妹「それ以外の誰か……?」

次兄「末妹が兄姉達をなんて呼んでいるか日頃から聞いている人ですよ」

末妹「あ」

長兄「う」

次兄「いい? 兄さん」

次兄「あのひとの、洞察力に優れ細やかな心遣いで我々家族を支えてくれる彼女の目は、しょーもない節穴だと思うのか!?」

長兄「ちょっ」

長兄「ちょっと待て!? 『彼女』って!? 『家族を支えてくれる』って!?」

次兄「しらばっくれてもダメ」チッチッ

次兄「ボタンつけの件は、たまたま目撃してしまった俺と末妹の秘密ですが」

長兄「ボタンつけ……」

長兄「……末妹……ほんとに?」

末妹「……二人で庭にいる時、窓から……見えちゃったの……」

長兄「い、いや、そもそも前提がおかしい、ボタンの取れかけをつけてもらうなんて、次兄だってあっただろ?」

次兄「ボタンつけ云々ではなく今の兄さんの様子のおかしさが何よりの証拠」ビシィ

長兄「おかしい……そうか、俺の様子、おかしいのか……」

次兄「ちょろい兄」グフフ

末妹「……お兄ちゃん」
 
264 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/15(金) 00:08:37.29 ID:V7A/ANY60
次兄「ま、今回は家政婦さんの事は置いといて、っと」ゼスチャー

次兄「末妹の『お兄さん』には、愛情と尊敬と信頼が込められている、そうは思わないか兄さん?」

長兄「尊敬……信頼……」

次兄「次姉ねえさんが末妹に『お姉ちゃん』呼びを持ちかけたのにはそれなりに立派な経緯がある」

次兄「今まで冷淡で無関心だった態度を改め、末妹との新しい関係を築こうとする」

次兄「そんな想いが込められた、いわば通過儀礼だったと言えましょう」

次兄「長姉ねえさんの場合は半分くらい便乗ぽいけど、それも置いといて」ゼスチャー

次兄「兄さんと末妹の関係はずっと良好だったじゃないか?」

次兄「末妹とほぼ対等に遊べるし時には逆に諌められる俺とはまた違った関係になるけど」

次兄「兄さんは妹達を……弟も? ……ずっと慈しみ守り続けてきたと俺達は充分承知しているよ」

末妹「そうよ、私だってお兄さんのこと、ずっと頼りにしているし、ずっと大好きよ?」

長兄「大好き」

次兄「ね、兄さん、呼び方なんて兄さんと末妹の間ではどうでもいいじゃない」

次兄「父さんも姉さん達も、それから家政婦さん、遠くで隠遁生活を送るばあや、そして天国のお母さん」

次兄「少なくとも、我が家の皆はわかってくれているはずだよ?」

長兄「次兄……」

長兄「すまん……ありがとう、ありがとう!! 俺もお前達が大好きだぁ!!」ガバッ!!

末妹「きゃ、お兄さん……」クスクス

次兄「脳筋的愛情表現ですなあ」フヘヘ

……
265 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/15(金) 00:09:53.48 ID:V7A/ANY60

※今回ここまで。次回は応接室の顛末です(たぶん)※

>>258 ありがとう
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/15(金) 00:52:48.69 ID:nDRhSK6UO
次兄はたまに洞察力がゴイスー

ところで長兄のガタイが想像以上だった件
267 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/16(土) 08:42:02.29 ID:04HjTBtt0

※次回はたぶん7/18頃に……※

体重は次兄の推測にすぎないのと着痩せするタイプなので見た目さほどガチムチでもないが
実家に戻る前はあらゆる肉体労働関係からスカウトが来たくらいにはいい体です、長兄
268 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/19(火) 00:07:58.16 ID:EIH4rIN30
そして応接室。

商人「……道に迷い、屋敷に導かれた私がバラ一輪を盗むことなく帰宅すれば、あの子達はあなた達と出会うこともなく」

商人「……少なくとも次にバラを誰かが折るまでは、おそらくは野獣も何事もなく……その後もあの屋敷で」

王子「…………」

師匠「そのことは」

師匠「既に、あの子達もそしてこの子も、充分過ぎるほど思いを馳せ、何度も考えました」

商人「ええ、私もわかっているつもりです」

商人「ですから……野獣が私達と同じ世界に暮らせなくなったことを悲しむより、きっかけを作ってしまったことを悔いるより」

商人「いまだ夢を通じて彼の愛するひとびとと繋がっていられることを、素直に良かったと今は思いたい」

商人「と言うか……それを喜ぶあの子達に同意できる自分でありたい」

商人「……ありたいが、その前に」

商人「菫花君、でよかったですか?」

王子「! は、はいっ」

商人「君は、この世界でいま幸せですか?」

王子「はい、幸せです!!」

師匠(即答しおった)

王子「……目が覚めて、この姿だった時」

王子「野獣は僕ではなかった、そして僕が再び存在することで野獣が消えてしまった、と思うと」

王子「混乱して、絶望して、悲しくて、消えてしまいたくて」
 
269 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/19(火) 00:08:55.34 ID:EIH4rIN30
王子「……それでも、使用人の皆さん、次兄君と末妹さん」

王子「野獣を好きだったみんなの為には、暫くは死ぬわけにはいかない」

王子「それがとりあえずの生きる理由になり」

王子「……そして、夢の世界で生きている野獣と、そして僕を追いかけてきてくれた師匠と出会い」

王子「みんなと屋敷で過ごす中で僕の考えも変わり」

王子「今ここにこうしていることは、本当に幸せだと思っています」

王子「……まだまだ知らなければならないことも乗り越えなくてはならないこともいっぱいですし」

王子「僕自身が必要以上の臆病者で、しかも簡単には治らないと思い知らされてはまた落ち込みますが」

王子「それでも、です」

商人「……そうか」

商人「それを聞いて、安心して君に頼むことができる」

王子「何を……でしょう」

商人「君から野獣に、私のさっきの言葉を、想いを伝えてほしい」

王子「……僕でいいのですか……?」

商人「ええ、ぜひ君に」

王子「……はい!」

師匠「ふむ」

…………
270 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/19(火) 00:10:24.68 ID:EIH4rIN30

※短いけどここまで。次回は近いうちに※
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/19(火) 05:06:33.19 ID:RB6FuxgSO
272 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/22(金) 00:20:56.00 ID:VB8G/fvJ0
店舗。

ドア:カチャ……

商人「次兄、末妹」

末妹「お父さん?」

次兄「どしたの?」

商人「お客様達がお帰りになる前にひとことお前達に挨拶したいと……どうぞ」

師匠「やあ、お忙しい所をお邪魔したね、我々はこのへんで失礼するよ」

師匠「今日はこのあと宿でゆっくりして、明日から牧場に行ってみようと思う」

王子「楽しみです、商人さんのお友達の牧場とかで」

末妹「ええ、うちにいるあの子の生まれた牧場です」

末妹「猫さんや犬さんもいるんです、みんな馬さんと仲良しで……素敵な牧場ですよ」

次兄「肉食獣は猫と小型犬と中型犬しかいないのでちょっと俺には物足りないです、まあ行ったことはないんですけど」ボソ

師匠「そんなわけで、この町には2〜3日滞在するので……いずれまた君達に会いに来るよ」

師匠「なんだったら……道も覚えただろう、今度はこいつ一人でな」ポン

王子「え、僕ひとりで?」

師匠「『え』はないだろうが……いい歳して、友達に会いに行くのに保護者同伴がいいのか?」

王子「い、いいえ……ただ……そうか、友達に会いに……」

次兄「菫花さんも友達いなかったから、今までそういう発想なかったんだよねー?」

長兄(『も』か……次兄よ……)シンミリ

師匠「ま、とにかく今日はこれで……土産も早く渡したいしな」

王子「ええ、そうですね師匠……それじゃ」
 
273 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/22(金) 00:22:04.27 ID:VB8G/fvJ0
商人「またおいで菫花君、この子達に会いに」ニコ

王子「……ありがとうございます!」

末妹「お父さん……!」

次兄「ほう、なんか父さんと菫花さんの間の雰囲気が変わったかも?」

次兄「……おっさん魔法で何かした?」ポツリ

師匠(そんなわけあるか、突っ込まんがな)

……

宿への道……

師匠「手紙で予約は入れてはいるが、チェックインはあまり遅くならん方がいいだろう」

王子「ええ」

通行人達「アノヒトステキー」「ホントダ、カワイイー」

師匠「……そう言えばお前、顔を隠すのはやめたのか?」

王子「はい」

王子「……面識なのない人や親しい人とは違うタイプの人は怖いです、でもそれは……自分にしか目が向いていないから」

王子「落ち着いて周囲を見渡せば……なんのことはない」

王子「…………のかもしれないと、そう思えるような気がしてきたので」

師匠「ふむ……それなりに実りのある訪問だったか?」

王子「はい、野獣に早く伝えたいことができました」

師匠「そうか、まあ……よかったな」フフ

……
274 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/22(金) 00:23:53.44 ID:VB8G/fvJ0
安宿のフロント……

主人「ほ、本当にいいんですか、こんな高級品……」ジー

従業員「ほげぇ、綺麗だしすっごく手触りいいスカーフっす!!」スリスリ

師匠(価格帯的にはあくまでも普段使いの範囲で、『そこそこ良い』程度の品物なのだが)

師匠(新品というのはそれだけで価値があるのかな)

主人「こんなに喜んで……俺がいいもの買ってやれないばかりに」

従業員「何を言うんすかおやっさん!! あたしこそもっと亭主の服装を気遣ってあげなきゃならない立場なのに……」

師匠「ん? 亭主?」

主人「ああ、言ってませんでしたっけ」

主人「仕事中は宿の主人と従業員ですが、実はこれ……うちの女房でして」

従業員「えへへ……もちろん最初は従業員と雇い主として知り合ったから、おやっさん呼びの方が慣れてんすけどぉ」ポッ

師匠「……まあ、歳の差の夫婦も珍しくはないわな」

従業員「ははは、うちの亭主老け顔ですけど、こう見えてもまだ30代入ったばかりなんすよ?」

主人「10歳離れているから、そこそこ年齢差はあるのですがね」

従業員「でも老けているのは顔だけで、脱いだらいいカラダしてんす!! 男はやっぱ筋肉、筋肉ですよ!!」

主人「こ、こら、お客様の前で……すみません、こいつ筋肉に目がなくて」

従業員「だってそう思うでしょ、男は筋肉っすよ、あ、もちろん今となっちゃおやっさん以外の筋肉は目に入りませんよ!?」

師匠「…………道理で、菫花が顔を隠さず宿に入っても特に反応しなかったわけだ」

師匠「この宿では平穏に過ごせそうだな、菫花」

王子「……そのようです」

…………
275 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/22(金) 00:25:57.09 ID:VB8G/fvJ0
その夜のこと……

(末妹「……あら?」)

(末妹「これは夢ね、野獣様の夢に似ているけど……でも、家にいるのに……?」)

(次兄「……あれ?」)

(末妹「お兄ちゃん!?」)

(次兄「よう、なんかお屋敷にいた時の、野獣様の夢みたいな感覚だよな?」)

(末妹「お兄ちゃんもそう思う?」)

(王子「……」)ポカーン

(末妹「菫花さん!?」)

(次兄「いつの間にそんなところに棒立ちで」)

(王子「……どうして、ふたりとも……僕は宿のベッドで休んでいたはず……」)

(師匠「ふむ、これはさすがに予想外」ヌッ)

(次兄「おっさん!?」)

(王子「師匠!」)

(師匠「気が付いたらここにいたのだ、まあいくつかの推測はできるが……その前に」)

(師匠「……そんな所に隠れて様子を窺っていないで、出て来んか?」)

(バラの茂み「……」)

(末妹「え……まさか……」)

(野獣「……私には何が何だかさっぱりで、執事達と話をした後、今夜はもう休むつもりでいたら……」ノソリ)

(末妹「野獣様!?」)

(王子「……ど、どういうこと?」)

(次兄「           」コキーン)

(師匠「……少年、嬉しさが振り切れて固まっておるわ」)

……
276 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/22(金) 00:27:04.11 ID:VB8G/fvJ0

※今夜はここまでです。※
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/22(金) 04:57:27.57 ID:V6rTZufdO

バラの茂みに隠れる師弟
278 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/25(月) 00:45:45.24 ID:BiZYJHSM0
何故か、野獣の夢の世界。

(王子「……つまり、みんな気が付いたらここに、『バラ園』にいた……そういうわけですね?」)

(末妹「お兄ちゃん、動けるようになった?」)

(次兄「おっさんの魔法でなんとか」)

(野獣「師匠と菫花が旅立ってから日は浅いが、それでも森の外に出てから昨日まで何泊かしているはずなのに」)

(野獣「なぜ今夜いきなりこんな事が起きたのだろう」)

(師匠「儂等が旅立ってから、今まではなかった、今日が初めての出来事がひとつだけあるぞ?」)

(王子「……?」)

(師匠「商人の家と我々の宿、距離にして……屋敷のある森に当てはめると、どれくらいだ?」)

(王子「距離……そうですね、僕らが歩いた屋敷から北東の『森の出口』までの……半分にも満たないと思いますが」)

(次兄「ピクニックの時か」)

(師匠「それだけの近距離の範囲内に、儂の魔力に」)

(師匠「野獣を強く想っているこの子達、そして魔力を持つと同時に野獣と表裏一体の菫花」)

(野獣「あ」)

(師匠「これだけの条件が揃って……或いは、更にこの条件に引っ張られて、君の」)

(末妹「私?」)

(師匠「そう、君の持っている野獣の欠片が、またも何やらの作用を起こしたかもわからんが」)

(師匠「最低でも菫花と少女と儂が揃っていなければ起きなかったのだろう」)

(次兄「……俺は?」)

(師匠「そうだな……君は言うなれば末妹嬢の『おまけ』かな?」)

(次兄「むうう」プクー)
 
279 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/25(月) 00:46:23.17 ID:BiZYJHSM0
(末妹「お兄ちゃんも野獣様を想う気持ちは私と同じよ?」)

(末妹「今夜のことに私が何か関係していると言うのなら、私とお兄ちゃんと2人の……力? ……だと思う」)

(次兄「フォローありがとう末妹はやはり俺の最初にして最後の味方です」ウルウル)

(野獣「……あながち単なる慰めではないかもしれんぞ?」)

(野獣「次兄の私への思い入れと言うか執着と言うか欲望というか……は常軌を逸しているから」)

(野獣「常軌を逸したお前ならば、魔法云々を飛び越えて今回の事態に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できない」)

(次兄「常軌を逸したって2回も言われました」イマサラ)

(師匠「……可能性か、可能性なら儂もゼロとは言い切れんが」)

(師匠「ま、とにかく、君達兄妹と菫花と儂が狭い範囲に集合しているが故に、野獣の夢の世界が屋敷や森の外に現れた」)

(師匠「今のところ、起こっている事実から分析できる答えはこれしかないかな」ヨッコラセ)

(王子「師匠、どこかへ行かれるのですか?」)

(師匠「うむ、この夢の世界でどれくらい『遠く』まで行けるのか、一度試してみたかったのだ」)

(野獣「相変わらず旺盛な探究心ですねえ」)

(師匠「初冬の夜は長い、と同時に、明けない夜はない。限りある時間を有意義に楽しく過ごそうではないか、お互いな」スタスタ)

(王子「……バラ園の向こうまで行っちゃった」)

(末妹「……限りある時間を……」)

(次兄「有意義に楽しく……有意義に楽しく……よし」キリッ)

(次兄「菫花さん!! 有意義におっさんの後を追い魔法使いとして探究心を満たしていらっしゃい、ほれほれほれ!!」シッシッ)

(王子「えっ? ええ?」オロオロ)

(野獣「こ、こら、体良く追い出そうとするんじゃない!」)

(末妹「お兄ちゃんたら、菫花さんを仲間外れにするなんて!」)

(次兄「あう」)
280 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/25(月) 00:47:06.06 ID:BiZYJHSM0
(王子「ぼ、僕だって野獣に一刻も早く話をしたいことがあるんだ、そう簡単に追い出されないよ!!」)

(次兄「菫花さんが自己主張をしている!? 自我が芽生えたぁ!!」ショッキング)

(野獣「……次兄はどこまで菫花に失礼なのだ」ハァ)

(野獣「一応こいつは私と別人格でありながら同一人物でもあるのだぞ?」)

(末妹「そうよ、それにお兄ちゃんより年上なのに」)

(次兄「……しゅんまへん」ショボン)

(野獣「まあなんだ、この状況は言わば嬉しい摩訶不思議」)

(野獣「また屋敷に遊びに来た時には次兄と二人きりの時間も取ってやるから」)

(野獣「今夜はあり得ない状況を皆で楽しい物にしよう、な?」)

(次兄「……あい」コクリ)

(野獣「しおらしくしておればお前も少しは可愛げなくもないのに」)

(野獣「さて、菫花よ、私に話をしたいこととは何だ?」)

(王子「あ、えっと……」)

(王子「ぼ、僕より先に末妹さんのお話を……」)

(末妹「え、あの……な、何からお話ししましょうか」)

(野獣「なんでも構わんぞ、まとまっていなくても」ニコ)

(末妹「……そうだ」)

(末妹「ええと、私達がお屋敷から家に戻って、お屋敷の出来事を家族に話した時に……父が」)

(末妹「……父が……野獣様といつかゆっくりお話をしたかった、って、それができないのが寂しい、って……」)

(野獣「商人が」)

(野獣「……そうか、私に対して、彼がそう思ってくれるのか……」フフ……)
281 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/25(月) 00:48:02.26 ID:BiZYJHSM0

※このエピソードもうちょっとつづく※
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/25(月) 02:06:42.79 ID:8QlvTxkVO
むきになる王子が微笑ましい
もうすっかり好きなキャラクターの一人だ
283 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/27(水) 00:08:03.55 ID:uN9Yd4tz0
(末妹(野獣様、優しい笑顔……))

(王子「それでは……僕は、その『続き』を伝えるよ」)

(末妹「続き?」)

(王子「商人さんは、僕から野獣に伝えて欲しい、と……」)

(王子「同じ世界に暮らせなくなったことを悲しみきっかけを作ってしまったことを悔いるよりも、野獣(きみ)が」)

(王子「……『いまだ夢を通じて彼の愛するひとびとと繋がっていられることを、素直に良かったと今は思いたい』って」)

(王子「続けて、『と言うか……それを喜ぶあの子達に同意できる自分でありたい』とも」)

(末妹「……今日、菫花さん達と父とは、そのことをお話ししていたのですね?」)

(王子「うん」)

(王子「それでね……商人さんは僕に、この世界で幸せか、って」)

(末妹「お父さんが」)

(王子「……230年ぶりに目を覚ました僕は、正直言って自分が幸せだとは思えなかった、それは知っているよね……」)

(王子「でも、野獣を大好きな皆のおかげで、野獣が消えずにいてくれたおかげで、今は幸せだと答えた」)

(王子「そしたら、安心して僕から野獣への伝言を頼める、って……」)

(末妹「お父さん……」)

(野獣「……商人がその心境に至るまでは色々と考えただろう、葛藤もあっただろう」)

(野獣「……私だって……しかし……今はただ彼の言葉が、彼の気持ちが嬉しい、心から嬉しい」)

(野獣「商人の言葉を伝えてくれてありがとう、末妹、菫花」)

(次兄「…………」)
284 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/27(水) 00:09:17.30 ID:uN9Yd4tz0
(野獣「どうした、いつになくおとなしいではないか次兄?」)

(次兄「この心温まる場面には俺が口もしくはそれ以外の何かを挟める隙がないので」)

(王子「……でも次兄君、今日は機転を利かせて僕を助けてくれた」)

(王子「そうだ、あの時のお礼を言ってなかったね……ありがとう」)

(次兄「助け ?」)

(末妹「そうよ、お兄ちゃん、菫花さんに毛布を持って来てくれたじゃない」)

(末妹「私なら咄嗟に思い付かなかったわ」)

(王子「お陰で緊張がほぐれて、恐怖心も消えて、正気を取り戻せたんだよ」)

(野獣「ちょ、ちょっと待った、今日はどんな物騒な目に遭ったのだ!?」)

(次兄「……あれは、一番手っ取り早いと思ったから」)

(次兄「姉さん達にも、菫花さんは重度のヘタレで引き籠りで小心者で……とか説明するよりも百聞は一見になんちゃらで」)

(野獣「な、何があったのだ、本当に……」)

(王子「買い物……だよ」)

(野獣「……か……」)

(野獣(師匠が企んでいたのはそれか……))

(野獣「では……最初から話しておくれ」)

……………………

(野獣「……なるほどな……」フゥ)

(野獣(菫花の不安と混乱が、手に取るようにわかってしまう……わかりたくないのに))
285 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/27(水) 00:10:46.60 ID:uN9Yd4tz0
(王子「でも、次からは大丈夫」)

(王子「……だと思う」ボソ)

(末妹「ええ、きっと大丈夫です」)

(末妹「菫花さんは、今までだって一つずつできなかった事を乗り越えて来たじゃないですか、だからこれからも」)

(王子「……末妹さんが大丈夫と言ってくれるなら今度も本当に大丈夫な気がする、不思議と、いつもそうだ……」)

(末妹「菫花さんの努力のたまものですよ」ニコ)

(野獣「…………」)

(野獣「ああ有言実行だ、今度からは最初から最後まで一人でうまくやれよ菫花、な!?」バンバン)

(王子「あぅ、君の大きな手で背中叩かないで……」ケホケホ)

(次兄「野獣様の言うとおりー、たかが買い物、男だったらドンと行けー」)

(野獣「さて、今度は……末妹、逆に私から聞きたい話はあるかね?」)

(末妹「あ、あります!」)

(末妹「メイドちゃん達の様子を聞きたいです、元気で過ごしているんですよね?」)

(次兄「俺も執事さんの様子聞きたいでっす!!」)

(野獣「うむ、4匹とも騾馬小屋の内装作業を毎日がんばっているぞ」)

(野獣「しかしな……メイドは、自分にできる仕事があまりないとこぼしていた」)

(末妹「メイドちゃんが」)

(野獣「今夜もな、あいつが言うには、菫花も師匠もきれい好きだから留守の部屋掃除はホコリを払うくらい」)

(野獣「二人が留守だから、料理の手伝いもなし」)
286 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/07/27(水) 00:13:00.14 ID:uN9Yd4tz0
(次兄「言われてみれば執事さん達も食材そのままの方がいいから、料理長さんも4匹だけの時はわざわざ料理をしないよなぁ」)

(野獣「騾馬小屋の内装だって重い板を運んだり、高い所に登って釘を打ったり、なんてあいつには無理」)

(野獣「師匠が用意した材木は執事か料理長しか運べない、庭師は力仕事は無理でも高所の細かい作業を一手に」)

(王子「……でも、人間だってそもそも大工仕事は女の子の仕事ではないよね?」)

(野獣「だがな、メイドにとって今は家の中の仕事は無いに等しい」)

(野獣「師匠も菫花も、滞在する客人も……私も……いない状態では」)

(野獣「掃除も料理も、お茶の時間も必要ないのだから」)

(王子「それもそうだね……」)

(野獣「……あと、私の憶測だがな……単に手持無沙汰が不満なだけではあるまい」)

(野獣「屋敷の主の世話が必要なくとも、留守中に言いつけられた仕事を手分けしてこなしている執事、料理長、庭師」)

(野獣「実質それを見ているしかできないあいつは、きっと寂しさを感じている」)

(野獣「師匠もそこまでは読めなかったかもしれないが」)

(野獣「メイドがそのように思っている状況を望んでもいないだろう」)

(末妹「……寂しがっている……メイドちゃん……」)

(野獣「で、私は考えた」)

(野獣「……こういう時、末妹ならば何か考えついてくれないだろうか、と」)

(末妹「え?」)

(王子「確かに、末妹さんには僕らには思いもよらない思い付きがあるかもしれない!」)

(次兄「確かに、乙女心は乙女こそ理解できるかもしれない、少なくともここにいる男子達(自分含む)に比べたらー!」)

(末妹「メイドちゃんの……できること……?」)
287 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/27(水) 00:13:28.56 ID:uN9Yd4tz0

※つづく。読んでくれてありがとうございます。あつはなついね※
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/27(水) 06:12:18.97 ID:tDXugaBEO
289 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/01(月) 00:32:28.02 ID:Rsjq9VVA0
(末妹「……メイドちゃんがうちの家政婦さんに送ったクローバーの押し葉ですけど」)

(末妹「自分で作った押し花のしおりを、お屋敷で読書している時に使っていたらメイドちゃんが興味を持ったので……」)

(末妹「簡単な押し花の作り方を教えてあげたのです」)

(末妹「だから……メイドちゃんが作った押し花を小さな額に入れて」)

(末妹「騾馬小屋とお屋敷をつなぐ渡り廊下に飾ったら素敵じゃないかな……と」)

(野獣「ほう、渡り廊下をね」)

(王子「確かに師匠も僕も実用的な内装ばかり考えて、装飾までには思い至らなかったな」)

(末妹「あ、でも……今の季節は、もうお花はないですよね」)

(野獣「うむ、現実世界は冬だからな……」)

(次兄「……そうだ末妹、昔ばあやに教わったアレは?」)

(末妹「え?」)

(次兄「小さい頃、裁縫の練習用にばあやが余った端切れをくれたじゃないか、その時に教えてくれただろ?」)

(末妹「ああ、あれなら季節に関係なくできるわ! メイドちゃん器用だし」)

(野獣「ふむ? 何を思い出したのだ?」)

(末妹「色とりどりの布でお花を作るんです、花びらや葉っぱに少しずつの布でいいから、端切れがあれば充分です」)

(王子「なるほど、造花ですか」)

(末妹「本物の花そっくりには作れませんが、あえて布の材質を活かしても可愛らしく仕上がりますよ」)

(野獣「……末妹、お前が作った造花は家のどこかに飾ってあるか?」)

(末妹「私が作った……ですか?」)
 
290 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/01(月) 00:34:52.88 ID:Rsjq9VVA0
(末妹「ええと……友達にあげてしまったり、コサージュにして普段は箪笥にしまっていたり……飾ってあるのは……」)

(末妹「あ、2年前に作ったものを、父が書斎の机に飾ってくれています」)

(野獣「商人の書斎だな?」シュパッ)

(王子「あ、仮想の窓」)

(野獣「……ふむ、これか。なるほど、可愛らしいベゴニア……かな?」)

(末妹「……恥ずかしいです、そのつもりで作り始めたのですが、どんどん見たことないお花になってしまって……」)

(野獣「いやいや、きれいに作ってあるし、一株に黄色と白とピンクの花が同居しているのがまた可愛い」フフ)

(末妹「同じ色の布が足りなくて……」)

(野獣「うむ……これならばメイドも楽しく作業ができるだろう、あいつ裁縫は得意だものな」シュン)

(次兄「…………でも、それをメイドさんにどうやって作り方を伝えるの?」)

(次兄「また俺達がお屋敷に行く時より、おっさんや菫花さんが旅から戻る方が先ですよね?」)

(野獣「む、それは……鏡で末妹が造花をメイドに見せてだな」)

(王子「完成品を見せただけで作れというのは……いくらなんでも、ねえ末妹さん?」)

(末妹「ええ、菫花さんの仰る通りです……」)

(野獣「む」)

(王子「末妹さんが鏡の前で作る手順を見せては?」)

(野獣「いやいや待て、週に一回の交流で鏡を使える時間を考えると、完成まで何週間かかるのだ?」)

(野獣「時間を長くしたり、回数を増やすのか? 皆で決めた約束事を破るのもどうかと思うが?」)

(王子「そ、そうだね……でも、メイドさんのことを考えると……」)

(野獣「む、むむむ……」)
291 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/01(月) 00:37:07.20 ID:Rsjq9VVA0
(末妹「……そうだ、私が野獣様に作り方を教えて、野獣様からメイドちゃんに教えてくだされば!!」)

(野獣「え」)

(次兄「いいね、仮想の窓だっけ? おっさん達がこの町に滞在中、あの魔法で家の様子が見えるなら……」)

(末妹「……私は野獣様が目の前にいらっしゃるつもりで……初心者向けのお花を、少しずつゆっくり作ればいいのね……うん」)

(野獣「あの」)

(末妹「基礎さえわかれば、色や形を変えたり花びらを増やしたりするのは応用ですもの」)

(野獣「……えーと」)

(末妹「……あ! ごめんなさい野獣様、私ったら勝手に……」)

(次兄「野獣様、この末妹のアイディアは机上の空論の先走りでしょうか……いかがでしょ?」チラッ)

(野獣「むむむむむ……」)

(次兄「そもそも末妹の力を借りたいと仰ったのは……ねえ?」チラチラッ)

(野獣「…………わかった、末妹……明日から、一番簡単な造花を作ってみせろ……」グウノネモデネエ)

(末妹「まあ、野獣様!!」パァァ)

(末妹「ありがとうございます、7歳の時に最初に教わった一番簡単なお花ですから、すぐに覚えられますよ!!」)

(野獣「う、うむ……頑張るぞ、メイドのためだ、頑張るぞ」)

(野獣「7歳児でも作れるならば……私でもなんとか、じゃなかった! 私には造作も無かろう!!」)

(野獣「何より人に教えるのが上手な末妹の事だ、うむ、心配ないぞハハハハ……ハァ」)

…………
292 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/01(月) 00:40:29.73 ID:Rsjq9VVA0
(師匠「子供達(菫花含む)はもう眠りについて、この夢の世界にはお前と儂だけ」)

(師匠「……で……明日からお前は手芸の造花を教わるのか」)

(野獣「……メイドのため、そしてメイドのため一生懸命考えてくれた末妹のためですから」)

(師匠「自信ないか、まあ、魔法抜きで裁縫などやったことないものなあ」)

(師匠「魔法なしで出来なくては、メイドに教えることはできんしな、頑張れ」ニヤニヤ)

(野獣「い、一度約束したからには守りますよ、少なくとも努力しますよ!!」)

(野獣「それより師匠、遠くってどこまで行けたのですか!?」)

(師匠「強引に話題を変えおって」)

(師匠「そうだな、お前達にはこちらは見えていなかったようだが、儂からはお前達の様子が見えていたぞ」)

(野獣「……それはどういう仕組みで?」)

(師匠「儂にもよくわからんが、とりあえずお前が見えなくなってしまうほど遠く離れることは無理なようだな」)

(師匠「会話も全て聞こえていた、だからさっきの話も、実はお前から聞くまでもなかったのだ」)

(野獣「不思議ですね、今度いつか、逆に私が師匠のいる場所から離れてみる実験をしてみましょうかね……」)

(野獣「……見えていた、聞こえていた……」)

(師匠「……『末妹さんが大丈夫と言ってくれるなら今度も本当に大丈夫な気がする、不思議と、いつもそうだ』」))

(師匠「『菫花さんの努力のたまものですよ』……だったかな」)

(野獣「ちょ」)

(師匠「激励しつつ、ドサクサでばしばし叩いていたのは嫉妬か?」)

(野獣「ちょっと待ってくださいよおおおおおおおおお」)

(師匠「恥ずかしがらんでも」)
293 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/01(月) 00:41:41.09 ID:Rsjq9VVA0
(師匠「前にも言ったろう、お前は生きて心がある限り、生身の存在に嫉妬するのは仕方ない、と」)

(師匠「それでも自分の心を手放したくない、とはっきり儂に告げたではないか?」)

(野獣「確かにそうですけど……」)

(師匠「まあ……今のところあの二人は教師と生徒、きょうだいの上と下、親と子、そんな関係だな」)

(野獣「どっちがどっちの……って、聞くまでもありませんね……」)

(師匠「末妹嬢は菫花相手にすら年長者としての敬意を払っておるが」)

(師匠「無意識の中では『手のかかる次兄が増えた』という認識が一番近いのではないだろうか?」)

(野獣「……彼女にとっての次兄のようなものですか……」フクザツ)

(師匠「今のところと、おそらくこの先しばらくは、な」)

(野獣「……」)

(野獣「……私は、末妹にも、菫花にも次兄にも、幸せな人生を送って欲しいと思っています」)

(師匠「ああ、その言葉に偽りがないのはわかっている」)

(師匠「だからお前は思う存分……泣いて笑って怒って沈んで凹んで萎れて腐って、構わんのだぞ?」)

(野獣「……構わないのですか」)

(師匠「儂はお前の味方だ、お前だけの味方ではないが」)

(野獣「……甘い父上ですね」フフ)

(師匠「甘いとも、出来の悪い『長男』よ」フフ)

……………………
294 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/01(月) 00:42:08.82 ID:Rsjq9VVA0

※ここまででした、また次回※
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/01(月) 02:56:18.65 ID:hopBaCqqO

野獣が裁縫ww
296 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 20:55:55.14 ID:QmTXQ2QA0
翌日、末妹の部屋。

末妹「……野獣様と約束した時間になった、と……」

末妹「それでは……手芸教室を始めますよ、野獣様」

次兄「はーい、仮想野獣様の次兄ですー」オテテフリフリ

末妹「……野獣様がご覧になっているのはわかっていても、やっぱり目の前に誰かいた方がやりやすいと思いました……」

末妹「改めて」コホン

末妹「こちら……緑の布を切りぬいた葉っぱと『がく』です」

末妹「これは白い布で作った花びらです、それと……」

末妹「……切り抜いた部品はこうやって、並べておいて」

末妹「同じ物がこっちにあります、お花を作って行くのはこっちを使います」

……

同時刻、野獣。

(野獣「……なるほど、組み立ててしまうと部品の形がわからなくなってしまうから別に用意したのか」)

(野獣「さすが末妹は賢い」)

(野獣「……おっと、それより必要なものを用意せねば」ポワン)

(野獣「針と糸、それから末妹が用意したものと同じ切り抜いた布、と」ポワンポワン)
297 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 20:57:10.99 ID:QmTXQ2QA0
(野獣「思うだけで服を着替えるのと同じように」)

(野獣「現実世界に実際に存在するものはこっちの世界に出現させることができる」)

(野獣「但しごくありふれた無生物に限る、生き物のように『替えが効かない存在』では不可能だ」)

(野獣「要するに、厳密に言えば寸分たがわぬ作りの別物で」)

(野獣「末妹の部屋に同じ造花の部品が二つあるのと変わらん、私の目の前に三つめがある、こういうことだな」)

(野獣「……さて、針に糸を通す手順からやってくれるのか、いくらなんでもそれくらいの知識はあるぞ」)

(野獣「自分の手元が見えん老眼の爺さんでもないし、まだ、な」)

(糸→針穴)

(野獣「だから、ここまでは簡単……」)

(糸↑針穴:スカッ)

(野獣「……む」)

(糸↓針穴:スカッ)

(野獣「くっ……」ワナワナ)

(野獣「やむを得ん!」ポワン)

(糸→針穴→:シュルッ)

(野獣「い、糸通しの工程くらい魔法を使ってもバチは当たるまい、メイドには容易く出来て当たり前なのだからなっ!!」)

(野獣「……私の太い指にはかなり骨が折れるわ……」フゥ)

……
298 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 20:57:51.25 ID:QmTXQ2QA0
末妹「……野獣様、いまごろ糸が通せたかしら?」

次兄「野獣様のこと、自分の手のサイズに合わせた針穴のでかい太い針とか用意してんじゃない?」

(野獣「その手があったか……まあ今更変えてもな、布も大きくしなくてはつり合い取れんし……」)

(野獣「ふむ、花びらの部品を大きさの順番に重ねて……ふむふむ」)

……

末妹「……野獣様、お疲れさまでした」

次兄「ほんと初心者向けなんだなあ、もう完成しちゃったよ」

末妹「うん、ばあやに最初に教わったお花だもの……でも……」

……

(野獣「……」ゼェハァ)

(野獣「末妹、私は頑張ったぞ、お前が懇切丁寧に教えてくれたおかげで最後までやり通せたぞ!!」)

(野獣「……」)

(野獣「この世界でも針で指を刺すと痛いものだな……何十回刺した事やら」ハァ)

(野獣「傷も残らんし血も出ないから良いが、物質世界ならば造花が血まみれになっていた所だ……」)

(野獣「だが……初心者にしては、我ながらなかなか良い出来ではないか?」テマエミソ)

(野獣「……メイドに教える前に、『講師』に見てもらわんとな」)

……
299 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 20:59:27.66 ID:QmTXQ2QA0
……で、その夜。

(野獣「……どうだね末妹、私の初の作品は?」)

(末妹「わあ……初めてでここまでできるなんて、野獣様はお裁縫の才能があります!」)

(野獣「うふふふふ……」ニマニマ)

(師匠「少なくとも7歳児には劣らずに済んだようだな」ニヤニヤ)

(野獣「……なぜ今夜も全員お揃いなのでしょうか」)

(王子「師匠の話では、屋敷にいる時と違って、この世界に入る時だけはコントロールができなくなるらしいよ」)

(次兄「入る時『だけ』?」)

(師匠「ああ、全員が現実世界で眠りにおちた途端に各自の意志とは関係なく、こうなってしまう」)

(師匠「しかし出る時は今までと同じように、この世界で『眠れば』良いのだからな」)

(野獣「今夜は次兄や師匠の相手をする時間はありませんよ」)

(野獣「講師(末妹)にお墨付きをいただいたら、早速メイドに教えないと」)

(末妹「……それでは私も早速」コホン)

(末妹「野獣様おみごとです、免許皆伝ですよ……なぁんて、生意気ですね私ったら」テヘヘ)

(師匠「何、君はこの中では儂のつぎに精神年齢が高いから問題ない」)

(次兄「おっさんが言わんとしているのは……末妹は14歳相応の精神年齢で、野獣様はじめ俺達は……お察しください、だよね」)

(野獣「……師匠も頭の中は相当な悪童ですけどね」ボソ)
300 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 21:01:54.03 ID:QmTXQ2QA0
(師匠「何か聞こえたがまあよいわ、いずれまたゆっくりじっくりと」)

(師匠「では……我々は立ち去るとしよう、明日も早いからな菫花」)

(王子「はい、それではおやすみなさい、そしてありがとう末妹さん、次兄君……」)

(末妹「おやすみなさい、菫花さん、師匠様」)

(王子「……野獣、メイドさん達によろしくね」)

(野獣「ああ、きっとメイドも元気になるさ」)

(師匠「眠りの魔法……」ポワワン)

(野獣「……さてと」)

(次兄「……とっとと眠ったほうがいいんですよね、はいはい」フテクサレ)

(野獣「執事に伝言があれば聞くぞ、次兄」)

(次兄「!!」)

(次兄「そ、そんな野獣様、(俺をめぐる)恋敵(=執事さん)に塩を送るような真似とか、どういう風の吹きまわしで!?」ゲヘヘヘヘ)

(野獣「……お前のその台詞は理解できない、いや、理解したくもないが」)

(野獣「執事の気分を害するような内容ならば私が握り潰せば良いだけ、とりあえず言ってみろ」)

(次兄「えーとえーと、おっさん達が騾馬を慣らすのに使う執事さんの獣臭セット、あれと同じ物を今度会う時に俺用にひとつ」)

(次兄「使い古しのだけど可能な限りフレッシュな手袋と抜け毛はなるべく毛足の長い冬毛のー」)
301 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 23:06:58.21 ID:QmTXQ2QA0
(野獣「はい、とっとと眠るがよい」ドカン)

(次兄「きょええ!?」ゴトッ)

(末妹「……一瞬で眠って夢から出て行っちゃった」)

(野獣「特製の……超強力な眠りの魔法だからな」)

(末妹「それじゃ、私もそろそろ」)

(野獣「まあ待て、改めて末妹には礼を言いたい」)

(末妹「そんな……思い付きを採り入れてくださって、私こそ光栄です」)

(野獣「無論、今回のこともだが……それだけではない」)

(野獣「メイドだがな、使用人の中で、いや、屋敷で最初にお前と仲良くなったのはあいつで……」)

(野獣「お前と触れ合う中で、あいつも変わって行った」)

(末妹「メイドちゃんが? 変わった?」)

(野獣「ああ、使用人になった時から、従順で素直なのは変わっていないが……」)

(野獣「自分の頭でいろいろ物を考えたり、言いつけ以上のことをやってみようと工夫したり」)

(野獣「お前と出会ってから、次第にそういう姿が見られるようになって来たのだよ」)

(末妹「……」)

(野獣「あいつなりに、家族と離れて暮らすお前のために心を砕いていたのだろうな」)
 
302 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/05(金) 23:57:30.71 ID:QmTXQ2QA0
(末妹「……私が初めてお屋敷に来て、2〜3日たった頃」)

(末妹「メイドちゃん、私の押し花のしおりを見て、初めは絵かと思ったそうですけど」)

(末妹「乾燥させた植物の匂いがするから……それは何ですか、って聞いて来たのです」)

(末妹「乾燥させた花をお茶や薬にするのではなく眺めて楽しむ……というのは初めて知ったらしくて……」)

(末妹「不思議がっていましたが、前の季節に咲いたお花を忘れないように……って話したら納得してくれました」)

(野獣「末妹はあいつに新しい世界を見せてくれたのだ」)

(末妹「そんな大げさなものでは」)

(野獣「いやいや、お前はあいつの初めての『女の子の友達』だからな」)

(野獣「お前もメイドを『同年代の少女』として扱ってくれた」)

(野獣「末妹の振る舞いや考え方、女の子の遊び、私や執事達だけと触れ合っていては得られなかったもの」)

(野獣「それらがあいつを成長させ、賢くさせた」)

(野獣「正直言うと……メイドをただの子兎から使用人にする魔法をかけた私自らが……」)

(野獣「あの子が従順で愛らしければ、それ以上は要求も期待もしていなかった、それでいいと思っていた」)

(野獣「なのに、末妹から得たもので私の魔法以上に育ってくれた」)

(野獣「お前が意図していなかったとは言え、それでもお前のおかげなのだ、ありがとう」)

(末妹「野獣様……」)
 
303 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/05(金) 23:58:21.86 ID:QmTXQ2QA0

※今夜はここまで。お盆休み?に入ります……8月半ばに再開します、皆様お元気で※

300超えてしまった……500レス以内には終わらせる予定……
 
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 00:24:45.71 ID:Hi2GIFdRO

末妹ちゃん天使すぎ問題
305 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:33:38.22 ID:DRmNCapN0
(末妹「私も、メイドちゃんのおかげでお屋敷により早く馴染めたと思います」)

(末妹「……野獣様や執事さんは、最初のころはやっぱり……ちょっぴり怖くって……」)

(末妹「でも、小さな兎さんのメイドちゃんが生き生きと明るく働いているのを見ていたら」)

(末妹「ずっと大きな生き物の私が怖がるのもおかしいかな、って」)

(野獣「……確かにメイドより大きな生き物には違いないな」))

(末妹「知れば知るほど皆さんは優しくて……メイドちゃんも野獣様や執事さんを尊敬しているって伝わってきて」)

(末も妹「皆さんと知り合えてよかったって私も思うようになって」)

(末妹「そうなった最初の目を開かせてくれたのは、きっとメイドちゃんです」)

(野獣「……それを聞いたら飛び跳ねて喜ぶぞ」フフ)

(末妹「ええ、ですから早くメイドちゃんに」)

(野獣「そうだな、私だけが末妹に会えたと言ったら、むくれるかもしれんが」)

(末妹「私だって鏡越しじゃなく会いたいから、再会を前よりもっと楽しみにしている、って伝えてください」)

(野獣「わかった……末妹、また明日な」)

(末妹「はい、おやすみなさい野獣様」ニコ)

(野獣「おやすみ……眠りの魔法……」フワッ)

(野獣「……さあ、手順を忘れぬうちにメイドに教えてやらねば」)

…………
306 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:35:00.38 ID:DRmNCapN0
そして、メイドと野獣……

(メイド「……ふぇ、不思議ですねえ」)

(メイド「でもすっごく嬉しいです、末妹様が私のことを想ってくださるのは」)

(メイド「やっぱり末妹様、大好きです!!」ピョーン)

(野獣「……思いがけずとは言え私だけ会えて、なんだか申し訳ない気がするが」)

(メイド「よかったですね、ご主人様」)

(野獣「え?」)

(メイド「末妹様にお会いできて、よかったですね!!」)

(野獣「う、うむ」)

(メイド「だって私達はご主人様と違って短い時間とは言え週一回鏡でお話しできるし」)

(メイド「末妹様と違って毎晩夢でご主人様とお話しできますもの」)

(メイド「だから、お二人がお会いできてよかったです!!」)

(野獣「……そ、そうだな、ありがとう……」)

(野獣(てっきり羨ましがってむくれると思っていたが……))

(野獣「……メイドよ、お前も大人になったなあ」)

(メイド「??」)

…………
307 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:37:29.52 ID:DRmNCapN0
二日後の夜、夢の世界のバラ園。

(師匠「……この町の牧場の騾馬はとてもよかったが、とりあえず予定の牧場は全て回ろうと思う」)

(王子「なので、明日僕等はここを発ちます」)

(次兄「ということは野獣様ともまたお別れええええええ」ミョキャピェー)

(野獣「変な泣き声を上げるんじゃない」)

(末妹「思いがけない再会、嬉しかったです……」)

(野獣「ああ、私もな」)

(次兄「俺も嬉しかったでっすっ!!」ゴリゴリゴリ)

(野獣「わかってるわかってる、顔をごりごり押し付けながら主張せんでも良いわ気色悪い」ムギュ)

(王子(僕と元は同じなのにハッキリ言う時は言うなあ野獣は)) 

(次兄(びゃああ野獣様の大きな手で顔を鷲掴みとか荒々しい御褒美いぃぃぃぃ)モゴモゴ)

(師匠「おいおい、口を塞いでいないか?」)

(野獣「鼻は塞いでいないから呼吸はできますよ」)

(末妹(お兄ちゃんなんだか嬉しそうだから、心配はいらないみたいね……))

(末妹「……良い騾馬って、どんな子がいたんですか菫花さん」)

(王子「うん、まず見た目が僕の理想の毛色をした、きれいな若い騾馬でね……」)
 
308 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:40:08.20 ID:DRmNCapN0
(王子「それに、執事さんのにおいを嗅がせても怯えた様子がなかったんだ」)

(王子「大きな犬が一頭いてね、牧場主さんの話では生後半年なのに他の犬達より大きくて、その騾馬とも仲がいいんだって」)

(末妹「あら、その犬さんの話は知らなかったわ……最近牧場に来た子なのね」)

(師匠「山岳地帯の猟師の家で生まれた子犬を譲り受けたと話していたが、儂の見たところ幾らか狼の血が入っているな」)

(末妹「あ……」)

(野獣「どうした末妹、複雑な顔をして」)

(末妹「……『狼の血を引く大型犬』がわりと近所にいるって、お兄ちゃんに聞かせてよかったのかしら、と思って……」)

(師匠「ああ……少年の好みのタイプと言うやつか」)

(野獣「大丈夫、執事の獣臭セットの話題が出たあたりから指で両耳を塞いでいるので」ガッシリ)

(次兄(みんなの話は聞こえないけど野獣様臭を間近で嗅げるからもう少しこのままでいいや)クンカクンカ)

(師匠「とにかく有力候補として、我々が旅を終えて返事をするまで、他には売らないでくれる約束をしたよ」)

(末妹「そうですか、幸先が良い……と言うのですよね、こういう時は」)

(王子「うん、最初からいい子に出会えて、これから何軒も牧場を回るけどこの先も楽しみだよ」)

(師匠「ま、君達とも野獣ともまたしばらく会えないが……明日この町を発つ前、菫花を君の家に顔出しさせるよ」)

(王子「そう言えば約束していましたね」)

(師匠「商人の家まで送り届けてやろうか? それとも宿屋まで迎えに来てもらおうか?」)
 
309 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:42:17.64 ID:DRmNCapN0
(王子「もう大丈夫ですってば!!」)

(末妹「ふふ……お待ちしております菫花さん」)

(末妹「そうだ野獣様、メイドちゃんすっかり元気になって布の造花を作り始めたそうですけど」)

(末妹「今日の昼間の様子はどうでしたか?」)

(野獣「ああ、私が教えた花はすぐ作れるからと……」)

(野獣「執事から早くも自粛するよう忠告されたそうだ」)

(末妹「ええっ!?」)

(野獣「昨日の朝から今日の昼までかかって、すでに渡り廊下の壁がお花畑になる勢いだとか」)

(野獣「……そんなんだから、応用編として一つ作るのに時間のかかる凝った造りの花を自分で考えることにしたらしい」)

(末妹「自分で……」)

(野獣「料理長が料理をあれこれ自分の考えで工夫するように、自分にも教わった通りから更に工夫できるはずだと」)

(野獣「とにかく、寂しがっている暇はないくらい張り切っているようだ」)

(末妹「よかった、本当によかった……」)

(王子「僕も安心したよ……末妹さんと野獣のおかげだね」)

(野獣「花と言えば……師匠、このバラ園の片隅に、現実世界の屋敷では見たことのない色が一輪咲きましてね」)

(師匠「おお、それなら儂も見つけたぞ、少し珍しい色だなと思ってはいたが」)
 
310 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:43:46.90 ID:DRmNCapN0
(師匠「まさか屋敷のバラ園にない色とまでは思わなんだ」)

(王子「ええっ、不思議ですね」)

(野獣「もしかしたら、来年以降に屋敷で咲くバラかもしれない」)

(師匠「ほう、それについてお前はどう考察しているのだ?」)

(野獣「230年の間に自然交雑が起きて……しかしバラ園には枯れない魔法と同時に新しい芽も出ない呪縛もかかっていた」)

(野獣「魔法が解けて、新しく生えて来るバラが……きっとそれなのですよ」)

(末妹「わあ……どんなお花なのかしら」)

(王子「見てみたいなあ……」)

(師匠「どれ、儂が案内してやろう、二人とも……ついておいで」)

(王子「あっ次兄君も」)

(次兄「……」ウットリ)

(末妹「……この上なく幸せそう」)

(王子「顔の下半分が隠れているにも拘わらずそれがわかるって余程だね……」)

(師匠「邪魔しちゃ可哀想だ、もっと正直に言うと構いたくない、さ、我々だけで見に行こう」)

(王子&末妹「「はい!」」)

(野獣「……」)

(野獣の手:スッ……)
 
311 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:45:08.33 ID:DRmNCapN0
(次兄「はぅん?」ハッ)

(野獣「我に返ったか」)

(次兄「……皆は? なんかあっちの方に行ったみたいですが」)

(野獣「私があっちの方に咲いた珍しいバラの話をしたら、見に行こうとなってな」)

(次兄「……つまり、理由をつけて人払い……」)

(次兄「そんにゃ回りくどい真似をしてまで俺と二人っきりになりたかったなんてえええええええええええ」ガバァァァ)

(野獣「私を押し倒そうとか200年早い!!」ヒョイ)

(次兄「お約束ぅ!!」ビターン)

(野獣「……せっかくお前との時間を取ってやろうと思ったのに、調子に乗ると『また』超強力眠りの魔法をおみまいするぞ?」)

(次兄「そ! それだけはご勘弁を」)

(次兄「末妹には野獣様に余計な気遣いさせたくないからと口止めしていましたが、実は昨日の朝はですね!!」)

(野獣「ん?」)

(次兄「長兄に(扉を)ノックされても次姉に(尻を)キックされても目が覚めないのでお医者が呼ばれたんですよ?」)

(野獣「う、それは済まなかったな、午前10時には自動的に目覚める効果も加味されていたのだが……」)

(次兄「ええ、お医者が部屋に入った途端に何事もなかったように目覚め、おかげで事情を知らない姉達は呆れるわ」)

(次兄「同じく事情を知らない父と兄と家政婦さんはその後も一日じゅう心配するわ」)

(次兄「唯一事情を知る末妹は大ごとになる前に学校行ったから帰宅して話を聞いてびっくりするわ、散々でしたー」)
 
312 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/14(日) 21:49:36.11 ID:DRmNCapN0
(野獣「悪かった本当に悪かった、しかし……お前が好き勝手してよい理由にはならんからな、それはそれこれはこれ」)

(次兄「くっ流石は野獣様、付け入る隙を与えてくれない……」)

(野獣「……限られた時間、一方的に欲望を満たすより」)

(野獣「我々双方のそこそこ良い思い出になるよう、お互い譲歩する方が有意義とは思わんか?」)

(次兄「むう……正論です」)

(次兄「それでは野獣様のペースでこの場を進めてくださいどーぞ」)

(野獣「やれやれ、自分本位かと思えば人任せ、お前は本当に良く言えば不器用、悪く言えば……」)

(野獣「……泣かれると面倒だからやめておこう」)

(次兄「いいんですよどうせ俺ですから何と言われたって」イジイジ)

(野獣「機嫌を治せ、それより……勉強を頑張っているか? 今はどんなことを学んでいる?」)

(次兄「……がんばっていますよ、家庭教師に習った勉強の復習はほぼ完璧ぽいので、各教科のもう少し上を」)

(野獣「ほう、図書館に通っているのはそのためか」)

(野獣「絵の方は?  動物しか描けないのでは通用しない、のだろう?」)

(次兄「……まだ誰にも見せられませんが……人知れず影の特訓は絶やしていません」)

(野獣「特訓(絵の練習とも言うが)の成果が実を結ぶ日が楽しみだな!」)

(次兄「……うへへ、少なくとも無駄にはしませんから」)
 
313 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/14(日) 21:50:15.97 ID:DRmNCapN0

※とりあえず再開。今夜はここまででした※

いつもと違う機種で書き溜めしたせいかカッコの半角全角がおかしな感じに……
投下してから気づきましたごめんなさい……
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/15(月) 13:10:10.94 ID:+uMb0nUGO
乙。ピョーンってするメイドちゃん可愛い

あ、あと>>1に残暑お見舞い申し上げます。
http://s3.gazo.cc/up/59983.jpg
昨年より大きく育ったもよう
315 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/15(月) 23:51:57.94 ID:V7Arh/qJ0

※お知らせだけ。今週はあと1回もしくは2回更新予定です※

>>314
去年の続き&アニマルズ可愛く描いてくれて、ありがとうありがとう!
設定もこんな感じのサイズ比なんだけど、こうして見ると執事やっぱりでかいわ……
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/19(金) 23:02:07.20 ID:8ojf0xtHo
今週が去っていく〜
絵がもう消えてるぅorz
317 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/20(土) 22:49:32.15 ID:+fKwbDSI0
(末妹「お兄ちゃーん、野獣様ー」)

(野獣「お、戻って来たな」)

(野獣「……またお前とゆっくり話ができる日を楽しみにしているぞ」フフッ)

(次兄「社交辞令でも嬉しっす……」ウヒヒ)

(野獣(本音なのだがまあ良い、あまり調子に乗せてもな、こいつに限っては))

(次兄「末妹、見たことないバラがあったって?」)

(末妹「あのね、今まで見たことのない色でね、すごく綺麗なの!」)

(王子「まるで朝焼けが青空に変わって行く途中のようで」)

(王子「しかも光の加減で微かに色合いの変わる、不思議な色だったよ」)

(末妹「……野獣様や菫花さんの、ひとみの色にも似ているの」)

(次兄「バラなのにスミレ色なんだ」)

(野獣「ははは、確かにそう言えない事もないか」)

(師匠「あれが本当にバラ園に咲いたら新種発見かな」)

(師匠「鳥が種を運んだとか、既存の品種が紛れ込んだ可能性も全く無いとは言えんが」)

(王子「どちらでも、僕らには初めての出会いには変わりありません……楽しみです」)

(野獣「本当に咲くと良いな、『正夢』になることを願うぞ」)

(末妹「ええ、私も願っています……」コクン)

……………………
318 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/20(土) 22:50:53.30 ID:+fKwbDSI0
(野獣「……というわけだ」)

(野獣「庭師よ、もし本物のバラ園に新しい芽が生えてきたら、大事に世話をしてやってくれ」)

(庭師「はい!!」)

(庭師「楽しみだなあ……今度の春だといいな、早く春が来ないかな!!」ワクワク)

(メイド「ご主人様、私、バラの造花を作ってみようかと思います!!」)

(野獣「ほう」)

(メイド「花びらがいっぱいで、作るのに手間暇がかかりそうで、出来上がりはえーと、ごおじゃす? ですから!!」)

(野獣「おお、やる気に満ちているな、頑張れよ」)

(執事「急いで仕上げるより、ていねいに仕上げるほうを心がけるのだぞメイド?」)

(メイド「はい、最初は自分の手で『お花』が作れることそのものが楽しかったけれど……」)

(メイド「今はどうしたらもっときれいにできるか、作りながらあれこれ考えるの楽しいです!!」)

(野獣「ふふ、本当に楽しくてたまらない様子だ」)

(料理長「沈み気味だったメイドちゃんが、こんなに元気になって……」)

(執事「我々も負けずに素晴らしい馬小屋を仕上げなければ、な」)

(野獣「ああ、師匠達も楽しみにしている、頼んだぞ……」)

……………………
319 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/20(土) 22:55:05.50 ID:+fKwbDSI0

※今週は急用が入ったりで進まなんだ、すみません……明日はもう来週になっちゃうけど少し更新します※

なお現実では薄紫(青系)のバラは品種改良を重ねてできた新しい品種……ですがフィクションなので……
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/21(日) 01:20:03.73 ID:rWea6sm9O

青いバラなんて……素敵ですやん
321 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/21(日) 23:59:07.39 ID:VnwYYGWH0
翌日、商人の店。

長兄「次姉、そっちの棚にこれ並べて」

次姉「はい」

長兄「長姉は料理教室か、だけど次兄は今日は行かないって話していたな」

次姉「お客さんが来るからよ、次兄と末妹に」

長兄「ああ、あの子だね」

次姉「『あの子』って……兄さんと同い年よ?」

長兄「……言われてみればそうだった」

長兄「見た目だけじゃなく、あの二人の友達だと思うと」

長兄「どうも感覚的に『俺より3つくらいは年下』って認識から抜け出せないようだ」ハハ

次姉「同い年どころか、生まれ年で言えばとんでもない『年上』だけど」

次姉「兄さん、自分の常識と相容れない『事実』は敢えて素通りしないと自分が保てない人だものね」フフ

長兄「おいおい、お前まで次兄みたいな批評は勘弁してくれ」

次姉「あら、次兄ってこんな感じだった?」

長兄「……前から思っていたけど、お前と次兄って見た目以外が……どこか似ているよな」

次姉「」

…………
322 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/22(月) 00:52:18.70 ID:vyqKvtyE0
商人の家、応接間。

家政婦「お客様が席に着かれたら、すぐに紅茶とお菓子をお持ちしますね?」

末妹「ありがとう、家政婦さん」

家政婦「それでは、また後ほど……」パタン

次兄「10時ごろ来るって言ってたのに……8分過ぎたよ、無事に辿り着けるかなあ」

末妹「師匠様お気に入りのカフェまでは二人で来るって、だからそんなに長い距離じゃないし……大丈夫よ」

次兄「距離が短くても、途中で何かトラブルがあれば」

末妹「そんな物騒な場所じゃないわ、しかも昼間から」

次兄「いやいや菫花さんのこと、顔の怖い人と目が合っただけで容易に挫折、いや気絶しかねない」

末妹「お兄ちゃんたら、いくらなんでも……」

末妹「……さすがにそこまでは……ねぇ……うん……うーん……」ミケンニシワ

次兄「ほぉら、不安になってきたでしょ?」

末妹「で、でも菫花さん自分であれだけ『大丈夫』と力説していたし、頑張る時は頑張る人だもの、私、信じる!!」

(仮想の窓で見ている野獣「…………」)

(野獣「師匠と菫花が完全に南の港町を発つまではこうして様子も窺えるが」)

(野獣「カフェから商人の家まで1.5km……14の女の子にその距離の一人歩きを心配されるハタチの男…………」)

(野獣「…………『自分』を客観的に見るのは、なかなか辛いものがある……」ハァ)
 
323 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/22(月) 00:57:32.93 ID:vyqKvtyE0

※今夜はここまで……台風で天気図もすごいことになっていますが、皆様何事もなく済みますように……※
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/22(月) 02:05:54.84 ID:FTf6pwTgO

末妹ちゃんにこんな反応させる王子ェ…
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 06:13:10.98 ID:A1rihvAWO
時期が過ぎてしまったけど、せっかくだから俺はお盆絵の続きも描くぜ!
次兄の瞳の色は想像なんだぜ!

http://s3.gazo.cc/up/60751.jpg
326 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/27(土) 00:27:13.36 ID:Vre1Itxi0

※日曜深夜から音沙汰なくてごめんなさい、土曜日の夜くらいに更新します……※

>>325
胡瓜と茄子を乗りこなす兄妹シリーズ(?)+野獣&王子、めっちゃ可愛くて嬉しいぜ!!
あと次兄の瞳は一応灰色という設定だが周囲の明暗で薄茶にも見えることに今なったので問題なしだぜ?
327 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/27(土) 23:50:56.77 ID:zlIPDL7j0
…………

そのころ、料理教室は休憩時間……

幼馴染男「へえ、それで次兄君は来ないのか」

幼馴染男「しかし……次兄君と末妹ちゃんの友達にしてはちょっと歳が離れているかな?」

長姉「でも違和感なかったわ、なんだか子供みたいな人でね、おまけに極端に内気だとかで」

長姉「うちの店に買い物に来たって話したでしょ?」

長姉「実はその時にね、マフラーで顔をぐるぐる巻きにして入って来たのよ」

幼馴染男「あれ……それって料理教室が休みで、うちの先生に外国のお客さんが来た日……だったよね?」

長姉「ええ、私と次姉で店番した日よ」

幼馴染男「その日なら……ほら、あのカフェオレが評判のカフェの近くで、それらしき人に道を聞かれたよ」

長姉「え」

幼馴染男「君んちの店に行きたいって、顔は隠れていたけど、体形と声からすると若い男性だなとは思ったよ」

幼馴染男「困っていたふうだったから、教えてあげたら礼儀正しいお礼を言われてね」

幼馴染男「顔は隠したままだったけれど」

長姉「……あんた、そんな怪しい風体の人物を、か弱い乙女である私のいる店に……」

幼馴染男「え」

長姉「たまたまあの子らの友達だったからいいものを、本当に悪漢だったらどうするのよ!?」

幼馴染男「……確かに顔を隠して怪しくはあったけど、悪い人には思えなかった」
328 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/27(土) 23:53:08.21 ID:zlIPDL7j0
幼馴染男「君んちの近所には憲兵隊の詰所もあるし」

幼馴染男「それに悪事を働こうって人間なら、あからさまに怪しい姿で通行人に道を聞くような真似はしないよ」

長姉「そ、それはそうかもしれないけど……」

幼馴染男「……それなりに財産持ちの父が亡くなったら、いろんな人が遺産目当てで現れて」

幼馴染男「借金が発覚したら、今度は別のいろんな人が現れて」

幼馴染男「先生に出会って何かと救われたけど、学者の世界も思っていた以上に……世知辛くてね」

幼馴染男「ぬくぬく育った子供のころとは違って、世の中にはいろんな人間がいるのを知ってからは」

幼馴染男「……なんというか、本当に勘ではあるけど」

幼馴染男「少なくとも『この人は悪い人じゃない』という印象は外れたことがないよ」

長姉「…………」

幼馴染男「……ってね、ごめん、君に責められて初めて君が怖い思いをしたと気付いた」

幼馴染男「言い訳だね、本当に……何事もなくてよかった、結果オーライに過ぎないよね、ごめん」

長姉「……じゃない」ボソ

幼馴染男「ん?」

長姉「バカね、真面目に謝ることないじゃない」

長姉「そうよ……あんたが桁違いのお人好しなんて前から知ってたもの」
 
329 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/27(土) 23:55:21.67 ID:zlIPDL7j0
長姉「そんなあんたじゃなきゃ私みたいな女と付き合ってくれないって、それも知ってるもの」

幼馴染男「……えーと……」

長姉「……それに次姉も言ってた、変だけど少なくとも危険なお客様ではないと、すぐにわかったって」

長姉「私も店に入って来た時はびっくりしたけど」

長姉「確かに顔を出す前から気が弱そうな中身は丸見えだったわ」

長姉「だから、あんたが悪い人じゃないと思ったのも間違ってない」

長姉「……さっきのは私が怖い思いをしたからと言うより、あんたのお人好しにちょっと呆れただけ」

幼馴染男「うん、確かに呆れられても仕方ないね……」トホホ

長姉「だからって鈍感で何も考えていない世間知らずなんかじゃないのよね、あんたは」ギュ

幼馴染男「っ、長姉!?」ボワッ

長姉「やだ、手を握られただけで真っ赤になって」クス

長姉「……もういいの、何事もなかった済んだ話は」

長姉「でもね、本当に悪い人が現れたら……私のこと、守ってくれる?」

幼馴染男「も」

幼馴染男「ももももももももももももも、もちろんだとも!?」

長姉「……ありがと、頼りにしているわ」フフ
 
330 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/08/28(日) 00:25:10.63 ID:DbElbTPu0
そうです、今は料理教室の休憩時間。

受講生1「……何の話をしているかわからないけど、あの二人の周囲の空気が甘ったるいのはわかるわ」

受講生2「やだ、まだあの彼に未練あったの?」

受講生1「そんなんじゃないけど……私も早く彼氏ほしいなって思っただけ」

受講生2「ねえ、このあいだ町で素敵な人見かけたじゃない、アッシュブロンドの美少年」

受講生1「ああ、旅行者ぽかったけど……すっごい可愛かった」

受講生2「あそこまでのレベルはさすがに求めていないけど、望みを捨てなければいつかきっと私達にも」

受講生1「そうね、そのためにも頑張らなくちゃ、料理の腕磨き!」

未亡人「……」

未亡人「何の話をしているかよくわからないけど、あの子達からやる気が伝わってくるのは間違いないわ」

未亡人「長姉さんと幼馴染男さんもいい雰囲気だし、若い皆さんから私まで元気を貰える気分よ」

未亡人「料理教室を開いて本当によかったわ……」

…………

いっぽう、自分が話題にされているとはつゆ知らずの王子……

王子「……カフェからここまで、何事もなかった……」ホッ

王子「えーと、個人的な客なのだからお店から入っては駄目、ちゃんとお住まいの玄関に回って、と……」

王子「深呼吸深呼吸……」スーハー

王子「呼び鈴、これだな、さあ……鳴らすぞ!!」
 
331 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/08/28(日) 00:27:39.78 ID:DbElbTPu0

※今回はここまで……呼び鈴は紐を引いて鳴らすタイプです※

ダレカラブシーンノカキカタヲオシエテクレェ
 
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/28(日) 02:31:02.76 ID:vVlelSpGO

大丈夫、良い雰囲気だ
幼馴染男マジ聖人
333 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/03(土) 23:41:41.82 ID:0CuJ3kkU0
商人の家、玄関の扉の外側……

王子の手:グイッ

呼び鈴の紐:ブツッ

王子「」

切れた紐:ダラーン

王子「…………あああああやってしまったあああああ!!」

商人の家、玄関が見える窓の内側……

次兄「……菫花さん、何やってんの?」

家政婦「真下に引いて耐え得る構造ではなかったようですね、そもそも引きながら前後か左右に振らなくては鳴らせませんが」

次兄「それくらい常識でしょーに、て言うかどれだけ力込めて引っ張ったんだろ?」

末妹「緊張しているのよ……」

家政婦「呼び鈴の日常点検も甘かったのです、私の役目ですのに……」

家政婦「丈夫な紐につけ替えるのは後にしても、とにかくお客様を招き入れなくては」

末妹「待って家政婦さん、私が行きます」

……

王子「どど、どうしよう、台や梯子なしにあそこ(呼び鈴の位置)まで届かないし……」ブツブツ

王子「いや、ここは家の人に素直に謝る一択……」ブツブツ

ドア:カチャ

末妹(……ドアが開いたのも気付かないみたい)

王子「あああ恥ずかしいいいいい歳して呼び鈴ひとつ満足に鳴らせないのかあああ」

末妹「菫花さん!」

王子「はっひゃっ!?」
 
334 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/09/03(土) 23:42:18.19 ID:0CuJ3kkU0

※前回以来音沙汰なしの上に短くてすみません、明日にでも続きを…※
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/04(日) 00:53:23.86 ID:QEPvJNi+O

冷静な家政婦さん素敵
336 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/04(日) 23:57:00.47 ID:KTgC0RT70
末妹「ようこそ、お待ちしておりました」

王子「あ、あの、実は僕」アワワワ

末妹「ええ、窓から見ていました……でも大丈夫です、今度は丈夫な紐につけ替えれば」

王子「見(られ)ていた……」

末妹「だから、何も心配いりません」

末妹「……菫花さん怒られるのが怖かったわけじゃないって、わかっていますよ私?」ニコ

王子「あ」

王子「……ご、ごめんなさいっ!!」

末妹「大丈夫ですから、本当に」

末妹「さあ、次兄(あに)も待っています、どうぞ」

……

商人の家、応接間。

次兄「こんちはー菫花さん」ウヘヘ

王子「次兄くん……こんにちは」

次兄「意外と力持ちっすね?」

王子「」

末妹「お兄ちゃんたら!」
337 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/05(月) 00:14:14.49 ID:Pbe4L40P0
家政婦「いらっしゃいませ、菫花様……」ペコリ

次兄(家政婦さん良いタイミングで登場)

王子「あ、家政婦さん……あの……すみません、僕さきほど」

家政婦「呼び鈴の紐は既につけ替えました、以前より丈夫なものに交換したのでご安心を」ニコ

王子「はう(素早い……いつの間に)」

家政婦(こちらの点検の不備を謝ったりしようものなら、余計に取り乱される……と、次兄様からは伺いましたが……)

王子「あ、ありがとう、ございます……」

家政婦(……これでよろしかったのでしょうか?)アイコンタクト

次兄(完璧です)グッ

末妹「ありがとう家政婦さん!」

家政婦「どういたしまして」フフ

家政婦「さて、今日はココアと軽い口当たりの焼き菓子を用意しました」カチャカチャ

次兄「おー、ココアは久しぶり、嬉しいなっと♪」

家政婦「ごゆっくりどうぞ……」ペコリ

王子「……」

末妹「菫花さん、南の港町を発ったら、次はどちらへ?」

王子「ぅはいっ」
 
338 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/09/05(月) 00:15:34.16 ID:Pbe4L40P0

※今夜ここまで、なかなか進まなくてすみません、おやすみなさい……※


339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/05(月) 02:05:51.56 ID:f2BfQFXKO

有能な家政婦さん素敵
340 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/09/06(火) 22:58:55.04 ID:255YKykH0

※予告のみ。早くても次の土曜日更新です。しばしお待ちを※
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/07(水) 12:16:09.61 ID:8Ju1TPk1O
サーイェッサー
342 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/10(土) 23:36:22.51 ID:w6ag8xGC0
次兄「菫花さん、リラックスリラックス」

王子「そ、そうだよね、もうこの場には君達しかいないのに」ココアゴクー

王子「……おいしい……」ホッ

王子「ええと、師匠のプランでは……このあとは東側の国境付近に紹介された牧場があるので、それが次の目的地です」

王子「ある程度北上したら、今度は国の西側に横断しつつ、騾馬の産地をいくつか巡って再び南下」

王子「南側の国境都市に入ったら、内陸を通って北上しながら森へ帰ります」

末妹「移動手段はどのように?」

王子「森からここまで内陸の道を来た時のように、乗合馬車を乗り継いで、時々は徒歩で」

次兄「優雅な旅ですなあ」

王子「うん、それはそうだけど……これから地道に暮らすための準備の旅でもある」

王子「……師匠の言葉だけどね」

末妹「この旅で騾馬さんを連れ帰って……そして、お屋敷に帰った菫花さんはどんなお仕事を?」

王子「しごと」

次兄「地道な暮らしは労働が前提だもんね」

王子「……………………」シーン

末妹「……き、聞いてはいけない質問だったかしら」オロオロ
 
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/11(日) 02:10:38.87 ID:+l0qUWfnO
王子だし働くって概念自体なかったんだろうなぁ
344 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/12(月) 00:06:13.19 ID:9oy2EtiR0
次兄「何もこの場で『具体的に』答えて欲しいわけじゃないんだろ、末妹?」

末妹「え、ええ」

末妹「……でも、菫花さんを悩ませてしまうなら、取り消しま」

王子「いいいいいえ、いいえ、答えるよ、答えられるよ!!」

王子「考えてはいるんだ……でも、今はまだはっきりとした道は見えない」

王子「と言うより『何を』『どう』『どこから』考えたらいいのかさえ、わからなくって、だから」

王子「この旅で、少しはヒントが見つかればいい、とは思っている」

王子「……今現在、答えられるのはここまで……」

末妹「……見つかればいいですね」

王子「あ」

末妹「菫花さんは……この世界で暮らし始めて日が浅い、今は考える時期で当たり前だって……思いますよ?」

王子「……うん……ありがとう、末妹さん」ヘヘ

王子「……」

王子「今さら取り繕っても意味ないよね、特に君達相手に」ポツ

末妹「取り繕う?」

王子「……君達より年上なのに、もう大人なのに、何かと情けないと、最近思うようになって……」
345 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/12(月) 00:08:13.60 ID:9oy2EtiR0
王子「でも末妹さんがさっき言ってくれたように、君達よりこの世界での経験は全然足りないし」

王子「……ううん、君達と同じ時代にこの年齢差で生まれても、きっと僕の方が世間知らず」

王子「二十年間の人生で、見て来たものがあまりにも少ない、触れて来たものがあまりにも少ない」

王子「……自分の力を使って何かをした経験があまりにも少ない」

王子「そして、どこかでそれを認めたくない自分もいる、だから取り繕ってみたり」

王子「……過剰に恥ずかしがったり落ち込んだりも、きっと認めたくないが故の……」

末妹「……」

王子「……と、自覚ができても、すぐに受け入れることはできないと思う」

王子「恐らく、行ったり来たりしないと前に進めないんだ、僕は」

次兄「三歩進むまでに二歩下がる動作が不可欠なのですな?」

王子「さ、下がる頻度は減らしたいとは思っているけど……」

末妹「……それ全部ひっくるめて、菫花さんですよ」

末妹「取り繕ってしまうのも、そうやって取り繕うのを意味がないと思ってしまうのも」

末妹「行ったり来たりしながら前に進むのも全部」

次兄「そうです、そして俺達そんな菫花さんが好きなのですっ!!」ババーン

王子「    」
 
346 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/12(月) 00:09:30.10 ID:9oy2EtiR0
末妹「……こ、今度こそ固まっちゃった……?」

次兄「……そんなにショック受けなくてもいいじゃん……」ヨヨヨ

王子「」ハッ

王子「だ、大丈夫、ちょっと意表を突かれて面食らっただけで、意識までは失っていないよ!!」

王子「……ありがとう、末妹さん、次兄君」

王子「君達の言葉はいつも……僕は無理をしなくて良いのだと、そんな安心を与えてくれて」

王子「同時に、僕はこのままではまだまだ駄目なんだ、変わらなきゃならない、そんな決意も新たにさせてくれる」

王子「……矛盾しているよね、おかしい……かな?」

末妹「……」フルフル

末妹「おかしくなんかないですよ」

末妹「これから少しずつ、無理をしないで、私達や菫花さん自身がまだ知らない菫花さんに変わって行く」

末妹「私や次兄(あに)も同じ、少しずつ、自分のできることを増やしながら大人に近づく」

末妹「……ね、何もおかしくなんかないでしょう?」ニコ

王子「末妹さん」

次兄「そうだよ、うちの二人の姉達だって昔より……」

次兄「……なんだろう、毒が抜けた? 牙と爪を引っ込めた?? 鬼そのものから普通に怖い女子にレベルダウンした???」
 
347 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/12(月) 00:11:27.61 ID:9oy2EtiR0
次兄「とにかく昔よりすごく丸く……体形がじゃないですよ? 態度が丸くなって、普通に俺達とも話してくれるようになった」

王子(野獣と話す時もだけど、どうして次兄君はリスクの高い言葉を選ぶんだろう?)

末妹(まかり間違っても一連のお兄ちゃんの言葉が二人の耳に入りませんように……)オイノリ

次兄「脳筋の堅物かと思われていた長兄だって最近は何かと柔軟になって」

次兄「たまに家政婦さんの甲斐甲斐しく働く姿を眺めている間の抜けた表情をうっかり見せたりもする」

末妹「……私それは知らなかった」

次兄「見せると言っても数日に数秒間くらいの頻度だから学校や店番の時間の長い末妹が気付かなくても当然」

次兄「……みんな生きている限り少しずつ変わって行くのです、我々若者ならば尚更、成長という名前の変化を」キリッ

王子「みんな……生きている限り……」

王子「……そうだね、明日のその先が見えないのも、それを恐れているのも、僕だけではない」

王子「でも……多くの人は縮こまったりも隠れたりしもしないで立ち向かっている……君達のように」

末妹「何度も言いますが、無理することはないのですよ?」

王子「うん、わかっている」ニコ

王子「……今なら……話せるかな」

末妹「え?」

王子「この旅の中で……本来の行程からは寄り道だけど、ひとつ……やってみたい事、いや、行ってみたい場所があってね」
 
348 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/12(月) 00:13:14.20 ID:9oy2EtiR0
王子「まだ師匠にも持ちかけていないけれど……」

王子「……小国の王と王妃と……そして王子の墓、に」

末妹「!」

次兄「って、確か地味ながら観光地になっている場所……だよね?」

王子「そうだよ、その場所……かつての小国の王の城が合った場所を、訪れたい」

次兄「あれ、歴史書では、お城と歴代王族の墓所は土地が離れていたような?」

王子「……暗殺された『彼等』は、先祖達の墓所には葬られなかったと、師匠が」

王子「だから、そこに眠っているのはその3人だけ、正確には王と王妃と骨格模型だけど」

末妹「模型?」

王子「魔術師ギルドに、教材用に置いてあった出来の良い骨格模型、それが王子の白骨死体の正体」

王子「師匠が言うには動物の骨すら使っていない『木と石膏と粘土と顔料と企業秘密』だそうで」

王子「……まあそれはいいとして、『僕の両親のお墓』に行ってみたい……」

次兄「……その、大丈夫、なの?」

末妹「……菫花さん……」

王子「たとえその前で気絶しても、と師匠には話すつもりだよ……とは言え」

王子「牧場を巡り終えた帰途の更に終盤になるはずだから、少し先の話で……それまでに僕の決心は鈍るかもしれないけど」
 
349 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/09/12(月) 00:14:17.94 ID:9oy2EtiR0

※昨夜はほぼ寝落ち状態ですみません、今夜はここまで※
 
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 02:06:04.70 ID:HoXxI+KKO

次兄が人間相手に好きなんて言うとはびっくりー
351 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/18(日) 23:03:11.31 ID:U3BHccjz0
……

(野獣「……やれやれ、師匠に旅程を教えてもらった時から、薄々こうなる予感はしていたのだが」)

(野獣「往路は小国の王都だった地域を遠巻きにするように南下し」)

(野獣「復路はその土地を通りながら屋敷のある森へ戻る……?」)

(野獣「……まさか、最初から狙っていたのだろうか、師匠……」)

……

師匠お気に入りのカフェ。

給仕1「あれ、あのお客さんさっきから手鏡を見つめている……そこそこ年配のおじさ……紳士なのに」

給仕2「自分大好き? それとも鼻毛が気になる?」

店長「そこ2人、くだらないお喋りはやめて働く!!」

師匠「……ふむ」

師匠「野獣もあっちの世界から仮想の窓で、この子らの様子を見ているのだろうが……」

師匠「あいつの事だ、儂が仕向けたくらいは思っていそうだなあ」

師匠「あの土地を通る時にさりげなく話題にしてみようか、程度には考えていたが……あくまでその程度だ」

師匠「正直、儂だってこれでも驚いているのだぞ?」

師匠「ま、菫花がどういう心境でどんな意図であろうとも」

師匠「あちらから切り出すまで、こちらからは振らないでおいてやろう」

……
352 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/18(日) 23:05:34.96 ID:U3BHccjz0
次兄「おっさんに話しをするのはまだ先……と」

王子「うん」

次兄「……詰めが甘い、菫花さん」キリッ

王子&末妹「「!?」」

次兄「あのおっさんの事です、鏡の魔法でこちらの様子を窺うくらいワケないですよ?」

王子「あ」

次兄「この旅行中、菫花さんに魔法の使用を禁じても、自分はヘーキで使うような御仁に決まっています」

次兄「あと、もしかしたら野獣様も見ている可能性あるけど」

末妹「……そうか、師匠様と菫花さんが私達の町にいる間は……」

次兄「まあ菫花さん的には野獣様に知られるのは良しとしても」

次兄「あのおっさんの事です、菫花さんがいつどこでどのように切りだすのか……」

次兄「心の中で、ワクワクしながらほくそ笑みながらニヤニヤしながら待ち構えることになるでしょうな」

王子「……」

王子「……でも僕は、君達にはあらかじめ話しておきたかったから」

王子「さっきは決心が鈍るかもとは言ったけど……本当は、話しておくことで自分の退路を断ちたかったんだと思う」

王子「いいや、断ちたかったんだ」

次兄「……菫花さんが『だ』と言い切った……」オオオ
353 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/09/18(日) 23:50:46.85 ID:U3BHccjz0

※時間開いちった…この続きは明日に…おやすみなさい※
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/19(月) 02:04:50.92 ID:j9RyIapJO

渋いおっさんが熱心に手鏡を覗き込んでいる光景というのはなんか…アレだな
355 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/19(月) 23:53:11.75 ID:TWXB0LOf0
王子「お墓に行きたい理由は……今は、まだ話せないけど」

次兄(おっさんも聞いてますしね)

王子「でも、決意だけは君達に」

王子「次兄君と末妹さんは、僕の友達だから」

王子「家族にまだ言えない話でも、先に打ち明けられる存在が、友達……だと」

王子「……そう思ったから、君達ふたりに話したんだ……」

末妹「……私……」

末妹「さっきまでは菫花さんに、無理はしないで、と言うつもりでいたのだけど」

末妹「今は、頑張って、と言いたくなりました」ニコ

王子「……ありがとう……」

次兄「俺も俺も俺も、応援しますよ?」ニュイ

次兄「内面の弱さにもおっさんによる趣味の試練にも負けまいと」

次兄「初心を貫こうとする意志をごく稀に垣間見せる菫花さんも、俺達は好き」

王子「    」ニドメ

末妹「……お兄ちゃん、今日はいったい……どうしたの……?」

次兄「末妹まで俺を今まで見たことない昆虫に遭遇したかのような目で見ないでください」
 
356 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/09/20(火) 00:55:33.51 ID:EzFefl9x0
次兄「最初に釘を刺しておくけど、野獣様が見ているかもだからエエカッコしいしているわけでは無くてよ?」

次兄「菫花さんは確かに、我々兄妹の愛する野獣様の原点にして素材にして表裏一体」

次兄「末妹はともかく、俺が菫花さんをなんとかどうにか助けねばと思った理由はそれのみ」

次兄「……だったんだけど」

次兄「野獣様とは別人格の菫花さんが、もしも、今とは違うタイプの人だったら、とある時ふと考えてみたら」

次兄「タイプによっちゃ今こうして一緒にお茶の席を囲んでいるかはわかんないし?」

次兄「菫花さんがこんな人だから俺も安心してツッコミ入れられるし?」

次兄「目の前で気絶されたら対処もしようと思うし?」

次兄「大事な末妹があれこれ世話を焼いている様子も安心して見ていられるし?」

末妹「お兄ちゃん……」

次兄「……で、結論としては」

次兄「やっぱり俺と末妹の大切な友達だから、それはやっぱり、この俺ですら、ほらあの」

次兄「菫花さん自身に好意を持ってんじゃないかなー? って、気付いちゃったわけですよって言わせんじゃないわよぉ!!」

王子「        」シロメ

末妹「菫花さん、今度は本当に意識が!?」

王子「……っ大丈夫、戻って来れたよ、辛うじて持ちこたえたよ!!」
 
357 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/09/20(火) 00:56:35.89 ID:EzFefl9x0

※今回これだけです、寝ますごめんなさい※
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 01:36:21.67 ID:pUGwhuPGO
おやす
王子も好きって言われるの慣れてないんだろうなぁ
550.84 KB Speed:0.2   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)