末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)

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150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/11(月) 01:16:38.88 ID:8VnPeuiAO
乙?
151 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/11(月) 23:51:31.58 ID:PksL/iBd0
長姉「私だって、さっきのあんた達の会話で昔のことを思い出したのよ」

長姉「そう言えば、いつの間にか末妹の私達への呼び方が変わったていたな、って」

長姉「実際にそのことが起きていた間は、気に留めずに流していたのよ」

末妹「……私……私は」

次姉「……末妹はあんまり小さかったからね」

次姉「年に2回の長期休暇にはこの家に帰省していたけれど」

次姉「私達と半年も離れていれば、当時のあんたには何年も離れていたのと変わらないでしょうに」

次姉「でも私も姉さんも、それだけの時間と空間の距離を埋める努力なんかしなかったし、末妹とは」

長姉「……うん」

長姉「お父さんの膝の上やお父さんの隣を争うライバルだったもの」

長姉「……実際のあんたはチビのくせに私達に遠慮して、お父さんから少し離れた場所で遊んでいたのにね、私達のいる場では」

末妹「……お姉さん」

長姉「あんたは心底から優しくて良い子だった、わかってるの、わかってたの」

長姉「今更だけど…………」

末妹「……」

次姉(過去の態度を謝るの? 姉さん……?)

長姉「……私のことも昔のように『お姉ちゃん』って呼んでくれるかしら!?」

次姉「はぃ?」

末妹「 」

長姉「どうなの、ねぇ、やっぱり私は駄目!?」ズイッ

末妹「…………だ、駄目なんかじゃないわ」

末妹「むしろ、私がそう呼んでも……いいの?」

長姉「いいの、色々言いたいことがあったような気がしたけど……それをどう言葉にしたらいいかわからなくて……」

長姉「途中はすっ飛ばして結論から伝えることにしたの」

長姉「それに次姉ばっかりそう呼ばれるのはなんだか悔しいんだもの!!」

次姉「あの、私のことは取っ掛かりにするつもりで、追い追い姉さんのこともそう呼んでもらおうかな、とは思ってたのだけど」

末妹「……」
152 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/11(月) 23:54:28.24 ID:PksL/iBd0
末妹「それじゃあ……長姉お姉ちゃん……?」

長姉「」ピクッ

末妹「おね」

長姉「……ちょ、何よ、何よこれ」

長姉「小さい頃はそう呼ばれていたわ、確かに覚えている、なのになぜ」

長姉「ちょっと、やだ、何よ、なんでこんなにくすぐったいのよ!?」ジタバタ

末妹「……えーと」

長姉「次姉、あんたよくこれで平気でいられたわね!?」バシバシバシバシ

次姉「平気じゃなかったわ、だから『火を噴く』なのだけど……」

次姉「……私を叩かないでくれる?」

……

長兄「……馬を小屋につないで休ませて戻ってきたら」

長兄「妹達は3人で何やってんだろ??」

家政婦「ふふ、仲が良さそう……」

家政婦(もうすっかり心配はいらないようですね、長姉様も)

長兄「家政婦さん、馬の世話の手伝いまでさせて申し訳なかったね」

家政婦「あら、お気になさらないでくださいませ」

家政婦「……本当は私、動物は好きなほうですの」

末妹「あ、家政婦さん!」

家政婦「何か私にご用ですか、末妹様?」ニコ

末妹「さっき渡しそびれてしまったのですが、これを」ゴソゴソ

家政婦「お手紙……ですか?」

末妹「メイドちゃんから家政婦さんへ、って」

家政婦「……!!」

末妹「メイドちゃんは字が書けないから、代筆してもらったそうですが」

末妹「手紙と一緒に、メイドちゃんが摘んだ四つ葉のクローバーが」
 
153 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/11(月) 23:56:05.22 ID:PksL/iBd0
家政婦「メイドさんが……あの可愛らしいふわふわの小さな手で……」ホワワワ

長兄「家政婦さんの表情がめっちゃゆるいんですがこれは」

家政婦「ありがとうございます、末妹様!!」

長兄「ウサギさんからお手紙着いた」

長兄「冷静に考えたら実に非現実的な状況だけど、嬉しそうだな家政婦さん」

長兄(……このひとも、こんな顔するんだなあ)

商人「末妹!!」

末妹「お父さん」

商人「お帰り、私の可愛い、そして勇敢な娘……!!」ギュ

末妹「お父さん……ただいま……」ギュ

次兄「兄さん」

長兄「お帰り、次兄」ニコ

長兄「……なんだか、少し逞しくなったんじゃないか?」ワシャワシャ

次兄「毎日のように朝食のパンはジャムか蜂蜜つけ放題でお茶会にはたくさんのお菓子」

次兄「多少、太ったのかもしれません」

長兄「いやいや、体型の話じゃなくて」

長兄「なんと言えばいいのか、子供から若者の目になりつつある、と言うか……」

長兄「意志の輝きが見られるとでも言えばいいのか」

次兄「意志……」

次兄「……うん、叶えたい夢ができたせいかもしれない」

次兄「将来の夢ね」

長兄「将来の……?」

次兄「兄さんにも近々話すよ」

長兄「……ああ、聞かせてくれるのを楽しみにしているよ」ワッシャラワッシャラ

次兄「いやん、寝癖が強調されるいじり方はほどほどにしてぇ」
 
154 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/04/11(月) 23:56:49.62 ID:PksL/iBd0

※ここまで。昨夜は寝落ちしてしまいした、すみません!!※
 
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/12(火) 02:03:53.12 ID:R0Gjn1HAO
改めて乙
長姉がお姉ちゃんぽいこと言うの珍しいよね(失礼)
156 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/04/15(金) 21:29:51.89 ID:fK3DcANT0

※この週末は所用で身動きとれないため、次回はあと数日?お待ちください…※
※本編はあと2〜3回更新分で終わり&あとはちょこちょこ後日譚、の「予定」です※

余談。
お蔵入り設定その1…執事(狼)がメイド(兎)に禁断(?)の片想い(種族&年齢的に)
お蔵入り設定その2…230年後に蘇った王子は女性扱い上手で何かとポンコツじゃない

……リメイク前の序盤あたりはなんとなくこんな想定していました。今になって思えば(以下略
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/16(土) 00:26:21.20 ID:e7GO7GiAO
報告乙。無事でなにより

>>156
この王子は末妹&次兄と友達になれるんだろうか…コミュ力はありそうだけど
158 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/04/24(日) 01:10:55.70 ID:cM7V2mMO0
長兄「そう言えば、次兄」

次兄「何?」

長兄「父さんがこのあいだ教会主催の行事に出席したんだけど、そこで図書館長さんに話しかけられて」

長兄「図書館に入ってからこの4年間で二人しか借りていない本を、王都の歴史学者が探していたそうだ」

長兄「なんでも、本屋からちっとも売れない本を買い取った中の一冊で」

長兄「まさかそれが、歴史学者の研究対象になるようなものとは館長さんもまるで予想できなかったらしい」

次兄「……?」ハテ

長兄「それがな、その本を最近……一人目から3年半ぶりらしいが……借りた二人目がお前だって言うので」

長兄「『どんなお子さん』か関心を持ったみたいだ」

長兄「埋もれた歴史に興味があるのなら将来そちらの方面に進んでは?……とか、ね」

長兄「父さんは普段のお前をありのまま話すのもどうかと思って、その場は適度かつ無難に話を合わせておいたようだが」

次兄「お父様の判断は大人として正しくってよ」トホホ

次兄「……うん、その本が何の本かはわかる、覚えている」

次兄「俺が先月借りた中の一冊、図書館が数年前に本屋から買い取るも、殆ど借りる人もおらず新品同様の本」

次兄「230年前に滅びた小国の機械オタ……機械いじりの好きな伯爵の手記、だろ?」

長兄「そうだよ、その学者はあの国の歴史についての通説に疑問を持ったとかで」

長兄「あちこちで資料になるものを探しているらしい」

次兄「……」

次兄(確か……なんちゃって貴族として、菫花さんのなんちゃって父上としておっさんが屋敷に来た次の日)

次兄(俺達に事情を話して謝ってくれた後、だっけ)

……

〜〜次兄の回想……野獣の屋敷……〜〜

次兄「……そうか、野獣様は、菫花さんもだけど、自分のせいで機械マニア伯爵が処刑されたと思っていたのか」

末妹「私はその伯爵様のお話、初めて聞いたわ」
 
159 :おっとage忘れ [saga]:2016/04/24(日) 01:14:48.57 ID:cM7V2mMO0
次兄「このお屋敷が絡む話ではあるけど」

次兄「本で読んだ時はまだ野獣様に直接関わりがあるとは思っていなかったからね」

次兄「野獣様の正体を知るまでは……」

次兄「……夢の世界で会った時にタイミングを見て話そうとは思っていたけど、なんとなく話しそびれて」

次兄「そんなに悩んでいたのなら、早くあの手記の存在を教えてあげればよかった……」

師匠「気にせんでいい、昨夜、儂から夢の中で教えてやったからな」

師匠「あいつとは取り敢えず話しておきたい事が沢山あったので、その話は最後になってしまったが」

師匠「安心しておったわ、あいつの人生では40年近く胸に刺さっていた棘が取れた、とな」

末妹「野獣様は優しいお方、責任を感じておられたのでしょうね……」

次兄「でも……子孫が偶然見つけた手記とやらは、信用に値するとおっさんは思うの?」

師匠「ああ、細部を見るに信憑性は高い」

師匠「小国の当時を生きた者でなければ知り得ない情報が、ごく自然に当り前のように盛り込まれていた」

師匠「学術的には貴重な資料になるだろうが、その価値を理解できる現代の学者も今のところ殆どいなさそうだ」

末妹「菫花様にもそのお話しを?」

師匠「ああ、あいつが目を覚まし、儂とまともに会話できる程度に回復していたら話してやるさ」

次兄「……学術的な価値か」

師匠「正直、一般人には悪い印象しかなく、それ故に経済的には価値のないこの屋敷に」

師匠「そっちの方面では価値を見出す者が、このさき現れないとは言い切れないのだ、そう……明日にでもな」

師匠「学者という人種は物好きだからの」

次兄「そうなったら、ここを直接調べたい人も……」

師匠「ははは、儂の所有物になった時点で、曲がりなりにも戸籍を持った人間が暮らす一般家屋よ」

師匠「見学ぐらいさせてやるわ、但し、住民の生活を脅かさない範囲でな」

次兄「おっさん……」

師匠「……善意の一般人として、学問の発展には可能な範囲で協力もするが」

師匠「守るべきは守らんでどうする、それがこの時代での儂の存在意義と言うに」
160 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/24(日) 02:10:32.11 ID:cM7V2mMO0
師匠「……それに、今までは敢えて意図的にそうしていた部分が大きいとは言え」

師匠「あの小国も胡散臭い伝承から解放され、少しは正確な歴史が知れても良いのかもな、もう、な」

次兄「生き証人のおっさんが匿名で論文でも発表すれば、すぐのような気もしますが」

師匠「過去の歴史を掘り起こすのは後世の人間の仕事だ、と儂は思う」

師匠「苦労して掘り起こされ、世に広まった『それ』が」

師匠「どのくらい正確か、どのくらい間違っているか、ニヤニヤしつつこっそり眺めてやるのが過去から来た人間の役目よ」

次兄「あくまでおっさん個人としての役目にしか思えないけど」

師匠「……それを悪用して、この時代を不幸に陥れかねん存在が現れたら、そいつを止める努力はするぞ?」

師匠「ま、実のところ悪用できるほどの何かは出てこないだろうが」

師匠「さっきも言ったが、儂はこの屋敷とここに暮らす者達を守り抜く」

師匠「……そして、ここを訪れる親しき者達も守りたいと今は思う」

末妹「師匠様」

次兄「おっさん、俺達がここに来ることを認めてくれるの?」

師匠「世間的にはともかく、儂はここの番人なのだ、真の主ではない」

師匠「『主人』の友を番人として歓迎するさ」

師匠「あ、ちなみにこの部屋は魔法で遮断しているから、野獣も様子を窺うことはできんからな?」

師匠「君らも今の会話は秘密にしておくように」シー

末妹「どうして秘密に?」

次兄「うーん、弟子に対するお師匠としてのプライドと言うか、野獣様に対するツンとしてのキャラを貫きたいと言うか?」

末妹「…………よくわからないわ、お兄ちゃん」

次兄「うむ、お前はそれで良い」

次兄「とにかく態度や性格はどうあれ、おっさんが野獣様達を守ってくれるのは間違いないよ」

次兄「それどころか現状では世界最強の守護者だ」

末妹「そうね、本当によかった……本当に……」

……
161 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/04/24(日) 02:14:43.71 ID:cM7V2mMO0

※ここまで。次回は次兄の回想が終わった所から。※
読み返して自分ではとっくに入れていたつもりになっていた機械オタク伯爵のフォローがすっぽり抜けていたことに気付き
描写がなかった(作者がいい加減な)だけで、作中人物は忘れていませんでした!

……という事にしておいてください……すみません……
162 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/24(日) 18:26:49.15 ID:cM7V2mMO0
…………

長兄「……で、その本は既に図書館じゃなく歴史学者の所有になっただそうだ」

次兄「ハッ」

次兄「ぼーっと回想に浸っていた、いかんいかん」

長兄「館長さんが言うには、またどこかで見つかったら図書館に補充しておくって話だけどな」

次兄「そっか……」

次兄(例えあの場所に興味を持つ学者が出てきても、おっさんがいれば大丈夫だろう)

次兄(それに、もしも『ろくでもない王子』という世間の通説が訂正されるのなら、それは良いことかもしれない)

商人「さてと……いつまでも庭先でこうしているわけにも行かない。家に入ろう、二人ともお腹は空いてないか?」

玄関のドア:ギィ……

家政婦「皆さん、お茶の時間ですよー」

次兄「家政婦さんいつの間に家の中に」

家政婦「サンドイッチと栗のタルトを用意しました、軽いお食事代わりにもなりますよ」

商人「ありがとう」

商人「さ、次兄と末妹は旅装を解いて居間においで?」

末妹「はい!」

末妹(そうだ、近いうちにお土産でいただいた紅茶とお菓子を使ってくれるように、後で家政婦さんにお願いしよう)

末妹(それから……)

末妹(家政婦紹介所の決まりがあるから、我が家の飲食の場には同席はできないって聞いているけど)

末妹(家政婦さんにもあのお菓子を食べて欲しいな、メイドちゃんも一緒になって作ってくれたんだもの……)

次兄「朝食はたっぷり食べたけど、さすがにこの時間になればお腹も空いたかなぁ」

次姉「……どうしたの姉さん、なんかニヤニ……ニコニコしているけど」

長姉「えへへへへへ、家政婦さんには内緒にしてもらっているけど、今日のタルトは私が作ったの」

次姉「あら、いつの間に? うちのキッチンからお菓子を焼く匂いはしていなかったと思うけど」
 
163 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/24(日) 18:29:50.35 ID:cM7V2mMO0
長姉「昨日は料理教室がお休みだったから、打ち合わせの後で教室の厨房を貸してもらったの」

長姉「1日置いたほうが、味も馴染んで美味しいお菓子だから」

次姉「さすが姉さん。クッキーも初めてにしては上手だったものね」

長姉「……ま、まあね」

長姉(あれからお菓子だけでもせめて幼馴染男のレベルに追い付くよう、基礎を必死に勉強したし)

長姉(昨日も先生にも付きっきりで指導を受けながら作ったし、大丈夫!! なはず……)

次姉「でも……昨日作ったってことは」

次姉「あの子達に食べさせたくて、って意味よね?」

長姉「」

長姉「な、何よ、それのどこか悪い!?」

次姉「悪いわけないわ、なぁんだ、私が思っていたよりずっと良いお姉さんしてるじゃない♪」

長姉「……」ムー

長姉「……家政婦さんとあんた以外には秘密なんだから」

長姉「味の感想……具体的に客観的に、後で聞かせてよね?」

次姉「はいはい」

……

そんなこんなで帰宅日は過ぎて行き……その夜……

商人「……野獣の正体が、人間だったと」

商人「しかも、230年前に滅んだ小国の王子様だった、とはねぇ……」

長兄「……………………」

次兄「兄さん、大丈夫?」

長兄「……いやもう、もはやどんな話が出て来ても受け入れる以外ないからね、うん……」

次兄「というわけで、お屋敷に住んでいるのは、表向きは師匠のおっさんと菫花さん」

末妹「おふたりには戸籍もある……作った、と言うべきかしら」

次兄「使用人の皆さん4匹は、表向きは普通の動物……お屋敷のペットってことで」
 
164 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/24(日) 19:31:04.84 ID:cM7V2mMO0
商人「そうか、あの野獣にはもう会えないのか……」

商人「……なんだか寂しいな、いつか私も、彼とまともにゆっくり話をしてみたかったのに」

末妹「……お父さん」

次兄「でも、野獣様は消えてしまったわけでも死んでしまったわけでもない」

次兄「なあそうだろ、末妹?」

末妹「ええ、これからも野獣様はお屋敷の皆さんを見守っているし」

末妹「お屋敷に泊まれば、野獣様が望む限り、『夢の世界』でお話もできる」

次兄「だからこれからも……野獣様は執事さん達のご主人様であり、末妹と俺の友達なんだよ」

末妹「お父さんが寂しいと思っているって言葉、野獣様に伝えるわ」

末妹「きっと、嬉しいと言ってくださると思う」

次姉「…………」

長姉「ねえ、師匠さんって人がうちの店に来た事のあるお客様でしょ、あともうひとり」

長姉「野獣の正体の王子様……菫花さんって人?」

長姉「あんた達の友達になったのはわかったけど、どんな人なの?」

次兄「どんな人って、身長は父さんや次姉ねえさんと同じくらいでー、性別は男でー、本人の生活年齢は二十歳でー」

長兄「俺と同い年か(生年月日はさておき)」

次兄「うん、でもパッと見はせいぜい17かそこらかなあ、体型とか顔立ちとか」

次兄「兄さんと並んだら10歳差くらいには見えるかも」

長兄「ちょっと待て、それは遠回しに俺が実年齢より老けている、と?」

商人「……」ハッ

商人「次兄の友達……若い男性……末妹とも友達……若い男性……?」

次姉「!!」

次姉「ね、姉さん、そういう細かい話はまたの機会にしない!?」

長姉「で、でも、あんたも気にならない?」

次姉(姉さん、そういう話は私と末妹の三人だけの時にするものなの……)ヒソヒソ
 
165 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/04/24(日) 19:37:36.47 ID:cM7V2mMO0

※ここまで。>>153から本編は二週間近く休むわ、昨夜の更新では唐突に時系列戻るわ、何かと申し訳ありません……※

今後の大雑把な予定。可能ならGW前にもう1回、その次は5/7〜8頃です。
今週の更新がなくても4/29〜5/6間は更新なしです……ご参考までに……
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/25(月) 04:11:06.30 ID:mp2fUQcAO
乙×2
妙齢の美女たる長姉の作ったタルトより、アニマル使用人達が作ったお菓子の方が信頼出来る不思議
167 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/27(水) 22:23:08.24 ID:VQU88E8B0
次姉「ねぇ、次兄と末妹は疲ているでしょ? そろそろ休ませてあげましょう、ね、お父さん!!」

商人「え?」

商人「あ、ああ、そうか、そうかな、いや、そうだな、それがいいな、うん」

次姉「お父さんを頼むわ兄さん」

長兄「へ? 頼むって?」

次姉「二人が元気に帰ってきたお祝いとか言って飲みに誘うの、で、早く寝かせてしまいなさい」ヒソヒソ

次兄「まだまだ寝るには早いよ、俺もまったく疲れてな」

次姉「あんたはとっとと寝ちゃいなさい、明日は私と同じくらい早起きしてもらうから……開店準備手伝ってね!」

次兄「うぇえ!?」

次姉「そろそろ朝寝坊の習慣から抜け出さないと将来困るわよ、それに、次兄にももう少し店の仕事覚えてもらわないと」

次兄(ふぇぇ……こうなったら父さんになるべく早くカミングアウトして、進学のための勉強に専念させてもらわねば)

末妹「朝のお手伝いなら私が」

次姉「あんたは学校行かなくちゃ、ま、明日1日くらいお休みしてもいいけどね」

次姉「……で、今からきっかり30分後に私の部屋に来なさい? 寝間着で構わないから」ヒソヒソ

末妹「え??」

次姉「しっ、次兄にも内緒だからね?」コソコソ

次姉「姉さん、いいでしょ? 話の続きを心おきなく、ね」

長姉「う、うん」

長姉「……あんたが仕切る時はとにかく逆らっちゃ駄目な気がする、なんとなく」

長兄「さぁ父さん、二人で軽く飲もうか、明日の仕事に差し支えない程度に」

長兄「今夜はお祝いだ、次兄も末妹も元気に約束通り帰って来て」

長兄「それを我が家の全メンバーで出迎えることができたんだからね!! めでたいよ!」

商人「めでたい……か」

商人(確かにな……再び家族がひとつに、いや、再びどころか、今まで以上に……)

商人「ああ、そうだな。飲もう、長兄」

……
168 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/27(水) 22:25:20.90 ID:VQU88E8B0
……30分後、次姉の部屋。

ドア:コンコン……

次姉「末妹? どうぞ」

ドア:カチャ……

末妹「……おじゃまします……」ソローリ

長姉「お先におじゃましてるわよー」

次姉「そんなにおそるおそる入って来なくても大丈夫」クス

長姉「でもさ、ここお父さんの書斎が近いでしょ? 話し声が聞こえちゃわない?」

次姉「二人は兄さんの部屋で飲んでるわ、ここからは少し離れているから大丈夫」

末妹「……なんのお話をするの? お姉……ちゃん」

次姉「何を畏まっているのよ、おいで、一緒にベッドに座ろう?」

末妹「……はい」ポス

次姉「ふふ……私と姉さん、よくこうやって寄宿舎の部屋で、一つのベッドに座って話をしたっけ」

長姉「そうだった、こんなフカフカのベッドじゃなかったけどね」

長姉「部屋で姉妹二人きりになれる時が、唯一の気が楽になれる時間だったわ……」

末妹「……」

次姉「もう、あんたにしんみりして欲しわけじゃないの」

次姉「今宵、ここは殿方禁制の空間……女同士でしかできない話をしましょ?」

末妹「」

末妹「わ、私……女同士でしかできない話って……そんな話題、持っていたかしら??」

次姉「難しく考えなくていいの、お父さんには聞かせにくい話、それならわかりやすいでしょ?」

末妹「」

長姉「あのさ、早速だけど菫花さんってあんたと次兄の『お友達』になった人」

長姉「もう少し詳しく聞いていい?」ワクワク
169 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/04/27(水) 22:27:00.90 ID:VQU88E8B0
末妹(……友2ちゃんと友3ちゃんが、お屋敷の男の人達のことを聞きたがっていたの思い出したわ)

長姉「……あっ、言っておくけどこれは純然たる好奇心だからね?」

長姉「私の心は幼馴染男のものだから、誤解しないでね!!」

末妹「……幼馴染男さん??」

次姉「ちょ、姉さん」

長姉「……!!」ハッ

長姉「ややや、やだ私ったら、まだ末妹達は何も知らないんだった!!」アタフタ

次姉「このさいだから喋っちゃったら? そのほうが末妹も話しやすい雰囲気になるかも」

長姉「…………」

長姉「次は、ね。末妹……」

〜かくかくしかじか〜

末妹「……婚約……結婚するのね、幼馴染男さんと……」パァァ

末妹「素敵、素敵!! おめでとう!!」

長姉「あ、ありがとう……」

長姉「……なんか照れるわね」ボソ

末妹「明日、お兄ちゃんにも教えていい?」

長姉「いいけど……あのね、私のいない所で教えてね?」

長姉「きっと驚くだろうけど、それは予想の範囲内だけど」

長姉「目の前で奇声を発したりされたら私、あの子(次兄)をぶん殴りそう」

次姉(キョエーとかヒョヘーとかね、想像できるわ……)

末妹「わ、わかった、気をつける」コクコク

長姉「……私が喋ったんだから、今度は末妹の番」

長姉「ずばり聞くけど」

末妹「は、はいっ」
170 : ◆54DIlPdu2E [sage]:2016/04/27(水) 22:28:05.99 ID:VQU88E8B0

※ここまで。次回は5/8くらいかと思われます※
姉妹トークの続きの他、父と長兄飲みトークとかマロンタルトの感想とか次兄とか(たぶん)
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/27(水) 23:10:36.15 ID:rZwkNTXAO
連休前の更新乙
姉妹三人でガールズトークをする日がくるとはなぁ
172 :>> 169誤字訂正。 ×長姉「次は、ね。末妹……」  → ○長姉「実は、ね。末妹……」   ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/08(日) 20:01:25.87 ID:gfPINU0D0
長姉「ずばり聞くけど、その菫花さんって素敵な人なの!?」

末妹「…………」

末妹「……ひとつひとつ努力して、苦手を克服しようとしている人、よ」

末妹「自分が生きてきた時代の、200年も後の世界で生きて行こうって頑張って」

長姉「あー、そうじゃないの、そうじゃなくてねえ……なんと言ったらいいのかしら……」

次姉「そうね、次兄の説明よりもう少し詳しい見た目から話してもらったらいいかな?」

末妹「見た目」

末妹「……うんと、髪の毛は金灰色で、肌はすごく色白で……ひとみの色がね、薄紫……スミレの花のような色」

末妹「お父さんと同じくらいの背丈だけど、細くって……華奢と言えばいいのかな?」

末妹「お兄ちゃんが言うとおり、一見すると私やお兄ちゃんとそんなに離れているとは思えない感じ」

末妹「あ、実年齢とね。見た目年齢はやっぱり離れて見えると思うけど」

次姉「はいはい、そこは言わなくともよろし」

次姉(幼い外見を気にしているのねぇ、この子なりに)

長姉「…………終わり?」

末妹「う、うん」

長姉「……ええい、ド直球で行くわ!!」

長姉「その人、顔はどうなの!? 美形なの平凡なの残念なの!? 個人の感想でいいから!!」ズバーン

末妹「」

末妹「……うん、と……」

末妹「きれいな人、よ。絵本の挿絵から抜け出したみたいな……」

末妹「こんな男の人が本当にいるんだ、って思っちゃった」

末妹「……それくらい、きれいなお顔」

長姉「……そう」

長姉「色白、アッシュブロンド、薄紫のひとみ、どちらかと言えば童顔だけど絵に描いたような美形……と」

長姉「わかった。ありがとう!」スッキリ
 
173 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/08(日) 20:03:56.49 ID:gfPINU0D0
末妹「長姉おねえちゃ……」

長姉「個人的な好みのタイプとはちょっとずれているけど、実際にいたら目の保養だわー」

次姉「好奇心が満たされて気が済んだのね、姉さん」

長姉「そ、さっきも言ったけどあくまで好奇心」

長姉「この先、どんなイイオトコが現れても私の愛は幼馴染男のものなんだからねー♪」

末妹「……どんな人が現れても……」ポツリ

次姉「……末妹?」

長姉「しかし、お父さんに知れたらえらいことになりそう」

長姉「そんな美男子が次兄だけじゃなく末妹とも友達なんて、ね」

次姉「お父さんなら顔はどうあれ(男子ってだけで)心配しそうだけど……」

末妹「……本当に『お友達』よ、お父さんが心配するようなことは」

長姉「わかってるって、あんたまだまだお子様だし」

長姉「初恋なんていつになるやら〜」ゴロン

末妹「……っ」

長姉「……ちょ、何よ、あんたその思い詰めたような顔は」ガバッ

長姉「悪かった、悪かったわ、からかったりして……ねぇ怒ってる?」アワワ

末妹「……」フルフル

次姉「末妹……泣いているの?」

末妹「……ううん、大丈夫、泣いてない」

末妹「もう……いっぱいいっぱい、泣いたもの……」エヘ

次姉「末妹」

長姉「……どういうこと、何があったの?」

末妹「ええと……あのね、やっぱりお父さんに簡単には話しにくいこと、あった」

末妹「だから……女同士のお話として」

末妹「……お姉ちゃん達に、聞いてほしいな……」

……
 
174 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/08(日) 20:42:37.16 ID:gfPINU0D0
次兄の部屋……

次兄「……うーん、眠れん」モゾ

次兄「明日は次姉ねえさんにどえらい早い時間に叩き起こされる予定が組まれてしまったと言うに」

次兄「……姉さんの場合、『叩き起こす』が文字通りなだけに」ガクブル

次兄「……」

次兄「父さんと兄さんはおチャケ飲んでるんだよな」

次兄「父さんの部屋はここから離れ……あれ?」

次兄「……ボソボソした男声が壁の向こう、隣の兄さんの部屋から」

次兄「今夜は兄さんの部屋なのか」

次兄「……お酒ひとくち飲んだらよく眠れるかな?」

次兄「我が国では18歳の誕生日からお酒に関しては大人と同じ扱いで」

次兄「16歳の誕生日から、お酒の種類と量の制限つきで一部解禁なのです」

次兄「というわけで、真面目な父さん兄さんでも強く拒むこともありますまい、合法ですからね」

次兄「美術学校に進学すれば嗜む機会もできるだろうし」ガバ

次兄「大人の階段を昇る一歩として……」

次兄「ここらでデビューしてみようではありませんか」カチャ

次兄「まぁ最初はマジで舐めるだけ、口に合わなければ即効やめるだけのこと」

長兄の部屋のドア:コンコン……

商人「……ん? 誰だい?」

長兄「次兄かな、起しちゃったか、小声で話していたつもりなんだが……」

ドア:カチャ……

次兄「……へへ、父さん、兄さん、こんばんはぁ」ソロリ

長兄「ごめんよ、うるさかったかい?」

次兄「ううん、どうせ眠れなかったから」

商人「よかったらお入り? 大丈夫、私達もそんなに酔っていないよ」ニコ

次兄「ではお言葉に甘えて……」ニュルー

長兄「お前のドアを全開しないで入ってくる癖は抜けないなあ」

……
 
175 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/05/08(日) 20:44:40.74 ID:gfPINU0D0

※お久しぶりでした。今回ここまでです。次回は近いうち。誤字すみません何度も何度も※
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 21:25:42.46 ID:zPoARsAAO
お待ちしておりましたん
次兄に酒なんて色んな意味で危険
でも俺も末妹ちゃんの気持ちを思うと切なくて呑まずにはいられないぜ
177 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/15(日) 00:44:02.32 ID:cQYivfsC0
次兄「ここに座っていい?」カタ

長兄「ああ、どうぞ」

商人「どれ、台所でミルクを温めて来てあげよう。それともココアがいいかい?」ガタ

次兄「いやいや、ホットミルクが欲しくば父さんにそんなお手間は」

次兄「……実はね、へへ、ちょびっとだけお酒をもらえたら、よく眠れるかなー、なんて?」チラッ

長兄「ああ……なるほどね」

商人「お酒」

商人「お、お前がお酒だなんて!?」

長兄「父さん、次兄ももう16歳だよ?」

長兄「俺が16になった時は、ワインを小さなグラスで『お祝いだ』って飲ませてくれたじゃないか」

商人「……」

商人「それもそうか……うむ、どうしても私の中では次兄と末妹はいつまでもおチビさんで」

商人「頭ではとうにわかっているのに、時々こうしてその思いが表れてしまう」

商人「つくづく駄目な父親だよな……」

次兄「まあまあ、父さんは(泥沼になるから)あまり自分を責めないで?」

商人「よし、次兄に友達ができたお祝いだ、男3人で乾杯しよう!!」

長兄「ちょうど甘口のシードルもあるんだ、これなら初心者向けだろう」

コルク栓:ポン

次兄「あ、いい香りがする」クフクフ

商人「最初は少しだけだよ?」

長兄「わかってるって、ほら」シュワワ

次兄「おー、香りもだけどこの色、昔ばあやが作ってくれた林檎ジュースを思い出すなあ」

次兄「もちろん泡立ちはしなかったけど、風邪で喉が痛い時もあれだけはすんなり飲み込めた」

商人「では、我々も次兄と同じこいつで」シュワワワ
 
178 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/15(日) 00:45:34.57 ID:cQYivfsC0
商人「……次兄のこれまでの16年間と、これからの長い人生に」

長兄「家族の健康と幸福に」

次兄「えーとえーっと、この世界に満ち溢れるあらゆる生命体達に、っと」

長兄(次兄、大きく出たなあ)

3人「「「かんぱーい!!」」」

次兄「……どきどき」チビリ

次兄「………………」

次兄「……何これ想像と違うじゃん、渋い、からい!!」ウベー

次兄「もっと林檎しぼったままの味かと思ってた、わざわざ手間暇かけて不味くしてんじゃないの!?」

商人「うーん、お酒としてはかなり甘いし、果汁そのものではあるのだが」

長兄「果汁と言ってもそれを発酵させた酒だからね、子供の味覚では不味いとしか感じないだろうな」

次兄「……」ム

商人「はは、やっぱり次兄には少し早かったかな?」ナデナデ

次兄「…………」ムー

次兄「りょ、量が少なすぎて味がわからなかったんだもん!!」クイー

商人「あ、グラスの残りを一気に!?」

長兄「大丈夫、注いだ量は少なかったよ!?」

次兄「 」ゴクリ

次兄「……ぷっはぁ!!」ゲファー

商人「次兄、大丈夫かい、大丈夫か!?」サスサス

次兄「……………………」

次兄「にゃあああああなんだか暑くなってきたあああああああ!!」カァァァ

長兄「回るの早いよ!!」
 
179 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/15(日) 00:47:20.73 ID:cQYivfsC0
次兄「脱ぐ、脱ぎます、脱ぐからね!!」ヌギカケ

長兄「ちょ、待て待て、落ち着け!!」

商人「ほら、水、水を飲んで次兄!!」

次兄「俺は落ち着いています、落ち着いていますよ!?」

長兄「顔まっ赤なんだけど」

次兄「その証拠に……今から」

次兄「大事な大事な話をしまああああす!」

次兄「二人ともお席にお戻りくださぁい!!」ビシッ

商人「は、はいっ!?」ガタッ

長兄「どう見ても酔っ払いなんだけど」

次兄「お父さん、お願いがあります!」

商人「お、お願い?」

次兄「18歳になったら……王都の美術学校に、進学させてください!!」

商人「   え」

長兄「 」

……

次姉の部屋。

長姉「……なんか聞こえない?」

次姉「なんとなく兄さんの部屋のあたりが騒がしいような気がするけど、ここからは離れているし」

次姉「ま、気にしないでおきましょ」

末妹「……大丈夫かしら」

次姉「いいからいいから、話を続けて?」

末妹「うん……」

……
 
180 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/05/15(日) 00:47:54.57 ID:cQYivfsC0

※今回はここまで。なかなか進まなくてすみません……※
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/15(日) 01:39:09.94 ID:FOI46l6AO

うーんやっぱり酒に飲まれる系か次兄は
素面でも暴走してるのになぁww
182 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/21(土) 19:28:13.32 ID:QcUGknkz0
男性陣。

次兄「……以上、題して『芸術と野獣様への熱く滾る我が想い』でした、ご清聴ありがとうござりました」ペコリ

長兄「とりあえず熱弁お疲れさま」パチパチ

商人「……」

商人「野獣の言葉に励まされ、画家を将来の夢にしたくなった……か……」

商人「……我が子の夢を応援したい気持ちはあるが、お前を一人暮らしさせるのは……ううむ……」

次兄「うにょぅ、兄さんなんて9歳から家を出て勉強してたじゃないですかあああ!?」

商人「あの学校には寄宿舎があったから、小さな子供でも任せることができたんだよ……」

商人(正直、年齢だけの問題ではないが)

長兄「それなら賄い付きの下宿はどうかな、父さんの伝手があれば信用のおける家主を紹介してもらえるんじゃ」

商人「おいおい、長兄」

長兄「……父さん、応援したいと言ったよね?」

長兄「それなら俺達は頑張れと送り出してやろう」

長兄「そしていつでも、どんな結果になっても……帰って来れる次兄の『家』、それが俺達の役目じゃないかな?」

商人「……長兄」

商人「私は少し考える時間が欲しい、それだけなんだ」

商人「今すぐの話ではないと言っても、二週間も家を離れていたこの子が今日こうして元気に帰ってきたばかりで……」

商人「何よりも、酔っ払っていない次兄と改めて話をするのが先かと」

長兄「……確かに」

長兄「次兄、父さんの言うとおり今夜は結論を出すには相応しくない、部屋に戻……」

次兄「……むゆー……むゆー……」コレデモイビキ

長兄「……あれ?」

商人「いつから眠っていたんだ」
 
183 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/21(土) 19:29:57.61 ID:QcUGknkz0
長兄「仕方ない、このまま部屋に運んで寝かせるよ」ヨイショ

商人「大丈夫かい、私は腰に自信がないから手伝えないが……」スマン

商人「あ、次兄の部屋は足場が悪いから気をつけて?」

長兄「うん知ってる、床を埋め尽くしている有象無象を足で掻き分けて進むしかない」

長兄「一人暮らしさせるならあれは改善させないとね」

長兄「……こいつもそれなりに大きくなったなあ……重いや」ハハ

商人「…………」

ドア:ガチャ…パタン

次兄「むにゃ……ひへへへ、野獣しゃまにお姫様抱っこ……うへへへぇ」

長兄「寝言か……小さすぎてよく聞こえないけど幸せな夢を見てるんだろうな、呑気な奴め」ガチャ

長兄「……ああ、マジでなんつー部屋だ」ゲンナリ

長兄「収納場所を決めて使ったらそこに戻すだけ、それだけなのに何故できないんだろ、理解不能」ガサガサ

長兄「どっこいしょ、ベッドはまあ余計な物が乗ってないだけマシか」

長兄「……次兄だって、あの状況であんな大事な話をするつもりはなかった筈」

長兄「酔っ払いの戯言とは思いたくない、もう一度きちんと話してくれたら俺は改めて応援するよ」

次兄「……んごー、すぴぃぃぃ、ふごー、しゅるるるる……」

長兄「……お前はやっぱり俺にはできないことができる男だ……正直、羨ましい」クス

長兄「さて、今度は当初の予定通り父さんを寝かしつけなくちゃ」

長兄「長姉の結婚が決まって、下の二人も日々成長して次第に親離れ、寂しい気持ちは俺にもわかるが……」ガチャ

商人「……ぐー……ぐー……」

長兄「……テーブルに突っ伏してる」

長兄「さすがに父さんを起こさず部屋まで運ぶのは無理だ、俺のベッドに寝かせるくらいはできるかな?」ウンショ

長兄「ふう、さて……俺も疲れた、床にクッション敷いて寝るか」ゴソゴソ

……
184 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 01:51:13.19 ID:/pH27Tf10
女性陣……

次姉「……そう、あんたは野獣に自分の想いを伝えることができたんだ」

末妹「うん……」コクリ

末妹「野獣様も、私の想いを受け止めてくれた」

長姉「」

長姉「想いを受け止めてくれたってどういうこ」

次姉「姉さん急かさないの」シー

末妹「……私が前に進めるように」

末妹「幸せを願い続けてくれると」

末妹「私がどこにいても何をしても……」

末妹「私らしく生きて欲しいと願っていると、それを夢の世界から、見守ってくださるって、そして」

末妹「……私に野獣様の一部を分けてくれた」

長姉「」

長姉「ぐ、具体的に説明してくれない!?」

末妹「……うーん、どう言えばいいのかしら、こんな小さくて、透き通ってガラス玉のようで、でも柔らかくて暖かい」

末妹「夢の世界の野獣様の一部……野獣様の心の欠片、かしら」

末妹「私にも実はよくわからないの、でも」

末妹「夢の中なのに、手に取ると野獣様に触れた時と同じ暖かさで」

末妹「こうしてね、胸に押し抱くと……そのまま溶け込んで行って……」

末妹「ああ、野獣様そのものだ……って、それだけはすぐにわかったの」

末妹「……今は、今も、これからも、私と一緒……」ニコ
 
185 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 01:52:43.50 ID:/pH27Tf10
次姉「末妹……」

長姉「……………………」

次姉「……よかったわね、末妹」キュッ

末妹「お姉ちゃん?」

次姉「素敵な恋だったのよ、あんたの初恋は、ね……」

末妹「……ええ、私は幸せ」

末妹「野獣様と出会えてよかった、野獣様を好きになってよかった……だから……」

次姉「うん、うん」

次姉「あんたはいい子、だから……幸せになれる、ううん、絶対幸せになるのよ……?」ギュー

末妹「……お姉ちゃん」

末妹「ありがとう……」ギュ

次姉「……ふふ」ナデナデ

長姉「……」

……

末妹「……すー……すー……」

次姉「眠っちゃった、さすがに疲れたかな」

長姉「……あのさ、次姉」

次姉「何、姉さん」

長姉「この子はいい初恋したって……あんた本気で?」

次姉「……結ばれないで終わる恋に意味なんかないって、姉さんは思うの?」

長姉「そ、そこまでは思ってないわよ」

長姉「……でも、末妹が自分の恋心に気付いた時には、もう、野獣は……」
 
186 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 01:54:14.16 ID:/pH27Tf10
次姉「えそうよ、辛かったでしょう、切なかったでしょう、どんなにか」

次姉「……それでも末妹は、後悔していない、幸せだって、笑うのよ」

次姉「だから素敵な恋だったの、違うかしら?」

長姉「……」

長姉「……そういうものかしら」

次姉「大丈夫、この子は強いもの」

次姉「いつかきっと……新しい恋だって見つけられる、何年先かわからないけどね」

長姉「…………人外で独身で優しい紳士でお父さんより年上なんて男(ひと)、また現れると思う?」

次姉「やだ姉さんたら、別に野獣が末妹の好みのタイプって話じゃないでしょ?」

次姉「好きになった相手があの野獣だっただけで、だいたい野獣も中身は人間で」

長姉「でも、初めて好きになった相手は『人外』で親子以上の年上」

長姉「……そんな思い出を聞かされたら、世の男性はだいたいドン引きするんじゃないかしら?」

次姉「……」

次姉「……つまり、それを理解して丸ごと受容してくれる相手でなくちゃ、って言いたいのね?」

長姉「現実問題よ、末妹が次に好きになる相手は、きっと人間だもの」

長姉「人間の女の子が人間の男性に人間の世の中で恋をするんだもの」

次姉「確かに(次兄じゃあるまいし)人間相手よね」

長姉「……私達の世の中は夢の世界みたいに、森の中の忘れられたお城みたいに」

長姉「なんでもありで、なんでも許されたりはしないもの……」

次姉「確かにそう簡単に理解ある男性には巡り逢えないかもしれないけど」

次姉「わかってくれない男なんか、こっちから願い下げよ」シュッ

長姉「」
 
187 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 01:55:48.85 ID:/pH27Tf10
長姉「今の拳の動き、目にもとまらなかったんだけど……」

次姉「大丈夫、少なくとも世の中には、好きな相手にはいくらでも寛容になれる人間がいるんだもの」

次姉「例えば正面から殴られても、靴を投げつけられても、板で叩かれても、首を捻じ曲げられても、相手が好きな人ならば」

長姉「え」

長姉「ちょ、ちょっと、何言ってるの、誰の話よそれは!?」

次姉「しーーーっ、末妹が起きちゃう」

長姉「あ」

末妹「……んん……すぅ、すー……すー……」

次姉「……大丈夫」

次姉「この子はね、絶対幸せになるんだから……」

長姉「……妹の心配してる場合かしらね」ボソ

次姉「もぉ……私の事はいいの、焦ってないって言ってるでしょ」

次姉「さてと、もう寝ない? 明日も早いからね」

長姉「あんたはここで寝るの? 末妹は?」

次姉「一緒でいいわ、このまま起こしたくないし、小さくて細いからこのベッドでも邪魔にならないもの」

長姉「……私もここで寝る」ボソ

次姉「あら、それなら私が姉さんの部屋で」

長姉「だめ、あんたも一緒」グイ

長姉「小さい頃は、ううん、寄宿舎でも時々こうして二人で同じベッドに潜って眠ったじゃない」

次姉「……でもねえ、さすがに狭くない?」
 
188 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 01:57:06.93 ID:/pH27Tf10
長姉「私達も今より少し小さかったけど、寄宿舎のベッドはもっともっともーっと狭かったもの、だから」

次姉「わかったわかった、ま、夜中になって冷えて来たし……3人でくっついて眠るのも悪くないかもね」

ムギュムギュ

長姉「……た、確かに、ちょっと……」キュウクツ

末妹「うーん……ん、すやすや……」

長姉「……やっぱり子供ね、一度眠ったらなかなか目が覚めない」

次姉「ふふ……可愛い顔しちゃって」

次姉「末妹とは小さい時も、こんな機会なかったわね」

末妹「……お母様……すー……」

次姉「……お母様の夢、見てるのかな」

長姉「記憶ないのにね……」

次姉「お父さんやばあや、あと兄さんから、話は聞かされているだろうけど」

長姉「……私と次姉しか知らないお母様の話も、教えてあげたいな」ボソ

次姉「ふふ、姉さん、すっかりいいお姉さんじゃないの」

長姉「な、何よ、お父さんとも約束したもの、普通の姉になるって」

長姉「そうよ、普通よ、普通の姉。別に特段いい姉なんて目指してないんだから」

次姉「ええ、普通のいいお姉さん」クスクス

長姉「……」ムー

長姉「もう眠っちゃう、邪魔しないでね」ゴロン

次姉「はいはい……」

次姉「……おやすみなさい、姉さん、末妹……」

末妹「くー……くー……」

…………
189 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/05/22(日) 01:57:56.46 ID:/pH27Tf10

※今回はここまで。本編はあとちょっと(のはず)※
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/22(日) 02:18:53.87 ID:WmqIxtcoO

思うことは色々あれど、とりあえず長兄が次兄のヤベエ絵を発見しなくて良かったなって
191 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 23:22:03.60 ID:2lA72EtY0
翌朝……

次姉「え? 次兄を起こさないでやって、って?」

長兄「明け方に様子を見に行ったら、頭が痛いんだと」

次姉「……どうして明け方に次兄の様子なんか見に行ったの?」

長兄「」

長兄(酒飲ませたから心配になって、とか、頭痛も二日酔いとか……とはちょっと言いづらいなあ)

次姉「ま、いいわ。なんだかんだ言って体力ない子だもの、疲れとか風邪気味とか、そんなところでしょ」

次姉「医者(せんせい)呼ぶの?」

長兄「っと……それは様子を見てからにするよ」

商人「……おや次姉、おはよう」フアァ

次姉「お父さん、おはよう……眠そうね、昨夜は遅くまで飲んだの?」

長兄「日付が変わる前に切り上げたけどね」

商人「私はさっき起きたんだ……馬の世話もすっかり末妹に任せてしまったよ」

商人「……そう言えば長兄、次兄は大丈夫かい? 昨夜はあんなになって……」

次姉「昨夜? あんなに?」

長兄「……えーと……実はね」



次姉「なあんだ、そういうこと。忘れがちだけど年齢は合法だし、保護者付きだし」

次姉「シードルそれっぽちで二日酔いねぇ、次兄らしいかも」

次姉「隠すこともなかったのに、兄さん」

長兄「なんとなく後ろめたくて……」

次姉「とにかく、どうやらお酒に弱い事はわかったんだから、ほどほどにするよう二人で言い聞かせてあげて」

商人「ああ、そうするよ」

長兄「本人がもう懲りているかもしれないけどね」

……
192 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 23:24:34.15 ID:2lA72EtY0
次兄の部屋。

次兄「…………」ドロドロ

次兄「……い、いかん……己の原形を保てない気分……」グニョグニョ

次兄「以前、兄さんが珍しく寝込んだのも二日酔いだったんだな……たぶん」

次兄「……似てない兄弟でも体質は似るのかしら……いやそもそも酒の摂取量が、まるで違うのでしょうがね……」

ドア:コンコン……

次兄「ぬ」

末妹の声「……お兄ちゃん?」

次兄「ぬぅお、末妹か……鍵は開いてるにょ……」ズルズル

ソロリ……

末妹「……辛そうね」

次兄「んむ、これは……病気ではないが、一種の中毒症状でな……」

末妹「知ってる。お父さん達から色々聞いたの」

末妹「……あのね、これから……大人になっても、お兄ちゃんはほどほどにした方が、良いと思う……お酒」

次兄「……ううううう、恥ずかしい……」メリメリメリメリ

末妹「お兄ちゃん、枕に顔が埋もれるほど押し付けたら息ができない」アワワ

次兄「……酔っている間、どのような醜態をワタクシは晒したのでしょうか」

次兄「グラスを空にしてからの記憶がね、全く無いのです……父さんと兄さんは何を見たか聞いたかと思うと……」

末妹「」

末妹「覚えていないんだ」

(商人「……末妹……次兄は末妹には話してあると言っていたが、実は……昨夜……」)
 
193 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/22(日) 23:26:51.32 ID:2lA72EtY0
末妹「……大丈夫、恥ずかしがるような事は何もなかったわ、だってお父さん普通に心配していたもの」

次兄「普通に」

次兄「……そうなの、でもそこはそれ、大人の対応というモノではないのですかねぇ」

末妹「もう、そんなに心配なら後で単刀直入にお父さんやお兄さんに聞けばいいじゃない」フフ

末妹(……お父さん)

(商人「……次兄の口から改めて話を聞くことにするよ、お酒が完全に抜けてからね」)

(商人「返事はそれからだ、しかし……前向きに考えたい気持ちは私にもある」)

(商人「解決すべき現実的な課題は、あの子と一緒になって取り組まなくては」)

(商人「場合によっては、皆に……末妹にも協力してもらうことがあるかも、その時は……」)

末妹「……本当に大丈夫だからね、お兄ちゃん」

末妹(きっと、お父さんもわかってくれる、応援してくれるから大丈夫)

次兄「……うん、お前が大丈夫と言うのなら……」ニヘ

次兄「…………」シーン

末妹「お兄ちゃん?」

次兄「……むゅるるる……むゅるるる……」ヘンナイビキ

末妹「眠っちゃった」

末妹「酔っ払いさんは眠るのが一番で顔は横向けたほうがいいって、お父さんが」ヨイショ

次兄「……むゅるる……もふもふぅ……むゅるる……もふもふ……」

末妹「もふもふ……野獣様かな、執事さんかしら?」

末妹「……本当に、ほどほどにしてね……」クス

……
194 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/05/22(日) 23:27:33.39 ID:2lA72EtY0

※今回ここまで。読んでくれてありがとうございます、また次回に……※
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/23(月) 01:13:07.44 ID:SHroONgsO

次兄にも恥ずかしいという感情があるのだなぁ(失礼)
196 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 02:20:23.62 ID:+u0xSqqH0
その日の夕方。

次兄「末妹よ」ヌッ

末妹「お兄ちゃん、起きてて大丈夫?」

次兄「寝て起きて家政婦さんの実家に伝わる秘伝の特濃ハーブティーを飲んでまた寝て起きたらスッキリですわ」

次兄「起き抜けに食事抜きで腹が減ったと言ったら、家政婦さんが昨日のマロンタルトの残りをくれた」

次兄「美味しくいただいたので、たぶん胃も回復です」

末妹「よかった……」ホッ

次兄「というわけで、今夜あたり父さんにあの話をしないか? 魔法の鏡を使ってお屋敷と」

末妹「……別の話はまだしなくていいの? 美術学校を受験したいって」

次兄「ん? 当初の予定通り、そっちはもう少し先で構わんでしょう」

次兄「俺達のお帰りなさいムードが完全に消え失せ、お前が学校に再び通い、完全な日常モードが戻ってからが良い頃合いかと」

末妹「……」

(商人「次兄は昨夜のことを覚えていないのか……それなら、すまんが末妹も黙っていてくれないか?」)

(商人「あの子なりに慎重に考えを巡らせながら機を窺っているはずだ」)

(商人「再び次兄からあの話題を切り出すまではね、お願いだから……」)

末妹「……うん、今日は魔法の鏡の話をしようね」

次兄「そうと決まれば、さっそく事前の打ち合わせをしようぞ!!」シュビシッ

末妹(そのポーズに何の意味があるの? とか聞かない方がいいのねきっと)

……

次姉「次兄、元気になったみたいね。さっき、末妹を連れて庭に出て行ったわ。明日こそは朝から働かせなきゃ」

長姉「しかしあの子達、いくつになっても仲がいいと言うか、いつまでも子供と言うか……」

長姉「あの分じゃ、末妹には次の恋なんてどれだけ先の話か」

次姉「姉さんこそ末妹の心配し過ぎ」

次姉「誰もが自分の速度で大人になって行くんだから」
197 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 02:22:10.37 ID:+u0xSqqH0
次姉「私達は姉としてほどよく信頼してほどよく心配して……ゆったり見守りましょうよ」

長姉「……次兄のことも?」

次姉「次兄には次兄の世界での幸せがあるんだろうと最近は思うし」

次姉「あとこれはただの勘だけど」

次姉「あの子もなんだかんだ言って、自力で世の中にそれなりに居場所を見つけ出せるような気がする」

長姉「……私はよくわからないけど、最近」

長姉「誰よりひ弱だと思っていた次兄が、ある意味しぶといというか逞しいんじゃないか、とは思うようになったわ」

次姉「そ、だからあんがい大丈夫、あの子達は」

次姉「……それより兄さんの方が、少し心配になってきた……かな?」

長姉「どこが? 将来も安定して……お父さんが店を継いだ時と違って、今から取引先との顔繋ぎも順調ぽいし」

次姉「その安定感と、あれだけの見た目と町のおじさんおばさん連中からの評判の良さと……」

次姉「それでいてあんまりモテないのは逆に心配にならない?」

長姉「……あ」

次姉「私達が知らないだけで、今まで女の子と付き合った経験も皆無だとは思わないけど」

次姉「たぶん、長続きしないし彼女の方から振ってくるパターン……かと」

長姉「一時期、恋愛小説にはまっていただけあるわね、あんた」

長姉「しかし……確かに兄さんには、女心の勉強をもっとしてもらわないと駄目かも……」

……

商人の店。

長兄「……ぶぇっくしょん!?」

商人「おや長兄、風邪かい?」

長兄「……危なかった、帳簿を汚してしまう所だった」ズビー

商人「この季節だ、夕方になると冷え込んでくる」

商人「身体の丈夫なお前だが油断はいかん、上に何か羽織っておいで」

長兄「うん、そうする。部屋から取って来るよ」ガタ
198 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 02:23:44.65 ID:+u0xSqqH0
……

家政婦「長兄様、ご休憩ですか?」

長兄「あ、家政婦さん。いや、ちょっと肌寒いからこの上着を取りに来ただけさ」

家政婦「あら、でもその上着ボタンが一つ取れかけていますわ」

長兄「ああ、これくらい平気ですよ、外出するわけでもなし」

家政婦「でもお店にはお客様がいらっしゃいますよ?」シュッ

長兄「家政婦さん、針と糸を持ち歩いているの?」

長兄(しかも今、ポケット以外の場所から取り出した? どうなっているんだこの人の服?)

家政婦「失礼致します、お召しになったままで構いませんわ」

長兄「っちょ、家政婦さん!?」

家政婦「動かないでくださいませ、すぐ済みますから……」

長兄(うわあ、近い近い!? 頭が俺の顔の真下に!?)

長兄(……この人の髪、次姉の黒褐色よりもっと黒々して)

長兄(いつも結い上げているからわかりにくいけど……まっすぐで、ツヤツヤなんだなあ)

長兄(あ、睫毛がけっこう長

糸を切る音:プツ

家政婦「終わりましたよ長兄様?」

長兄「 」ハッ

長兄「そ、そうですか、早かったですね、ありがとうございました……」ドキドキ

家政婦「突然で申し訳ありませんでした」

長兄「とんでもない、謝らないでくださいよ」ブンブン
199 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 02:25:38.28 ID:+u0xSqqH0
長兄「……だいたい、家政婦さんには父が塞ぎ込んだり長姉が閉じこもったりした時期には」

長兄「何かと仕事以上、お給料以上の事をお願いしてしまって……それどころか」

長兄「俺が頼んだ以上に、あれこれ細やかに気を配って動いてくれた」

長兄「特に、長姉は家政婦さんが支えてくださらなかったら……どうなっていたかと……」

家政婦「さすがに買いかぶり過ぎですわ、長姉様を支えたのはご家族の皆様、そして幼馴染男様」

家政婦「……ですが、そう仰っていただけるのは正直……嬉しいですね」

長兄「……家政婦さんの所属する紹介所の契約は1年ごと、年が明けたらどうなるのか最終的には紹介所が決める」

長兄「しかし……ぜひ来年も、我が家との契約を続けてほしい」

長兄「父も弟や妹達も頼りにしているのです、もちろん俺、いや、私も」

家政婦「……」

家政婦「……光栄ですわ長兄様、家政婦として」ニコッ

長兄「あ」

家政婦「ですが今は、お店で商人様がお待ちではありませんか?」

長兄「っぅえ!? 忘れてた!?」

長兄「あ、改めてありがとうございました!! それじゃ!!」バタバタバタ

家政婦「……うふふ……」

家政婦「ばあや様、本当に素敵なご家族ですね、この家の皆様は……」



長兄「……ああ、何やってんだ俺、だいたい俺は年下」

長兄「って、いやいや、そーゆー話じゃないし!?」

長兄「……本当に何やってんだろ、俺……」ハァ

商人(……何をブツブツ言ってるんだろう、あ、溜め息)

商人(この子は一人で抱え込むからなあ……)

…………
200 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 02:26:10.96 ID:+u0xSqqH0

※ここまででした。続きは近いうち……※
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/29(日) 06:10:08.25 ID:9feIS0IKO

長兄よ、年上の女房はゴールドのサンダルを履いてでも探せと言ってだな…
202 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 22:35:22.20 ID:yzLsY11j0
商人の家の庭……

……に置かれたテーブルを挟む兄妹……

次兄「……というわけで、今回はわりと簡単です」

次兄「いち・俺と末妹が魔法の鏡で何をしたいのか」

次兄「に・野獣様やおっさん始め屋敷のみんなと、どんな約束を交わしたか」

次兄「さん・これから父さん達とどんな約束をするのか」

次兄「……こんな感じ、実にシンプルでしょ?」

末妹「うん、でも『二』まではともかく、『三』はどうなるのかな?」

次兄「それは父さんの出方しだい」

次兄「しかし俺と末妹の目的地は明確ゆえに、其処へ至る道も自ずと見えて来ることでしょう!!」ビシィ

末妹(今のはわかりやすいカッコつけのポーズ……)

末妹「そうね、誠心誠意お話しして、わかってもらうことが全てよね」コクン

次兄「そういうこ、ふひぇっくしょんっっ!?」

末妹「だ、大丈夫!?」ガタッ

次兄「……さすがに夕方は冷え込みますわ」ジュル

末妹「もう中に入ろう、風邪ひいちゃう」

次兄「うむ、中であったかいお茶でも……お?」ピタ

末妹「どうしたの?」ピタ

次兄「ほらあの窓越し、兄さんの部屋の前の廊下だけど」

次兄「兄さんに家政婦さんがぴったり寄り添っとる!?」

末妹「えええっ!?」
 
203 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/05/29(日) 22:36:48.71 ID:yzLsY11j0
末妹「……っと……よく見て、家政婦さんの手元」

次兄「お? あの動きは裁縫の……えらい高速ではあるが針と糸を持った手の動きだ」

末妹「ええ、ボタンをつけてあげてるみたい……」

末妹「糸を切って……終わったのかな?」

末妹「……何かお話ししているようね」

次兄「あ、兄さんが踵を返した」

末妹「……慌てた様子で走り去って……家政婦さん……後ろで笑っている」

次兄「…………」

次兄「……俺も、廊下で出くわした家政婦さんにシャツのボタンが取れかけていると指摘されて」

次兄「なんかどこからともなく取り出した針と糸で、着たままつけてもらったことはあります」

次兄「……だから、よくあることだよね?」

末妹「え、ええ……私はないけど……」

次兄「末妹の場合はボタン取れかけを放ったらかしで着ていること自体あり得ない」

末妹「それもそう……ね」

次兄「……よくあることだけど、なんとなく……誰にも黙っておかないか? いま見たことは……」

末妹「う、うん……私もそうした方がいいと思う……なんとなく」

…………


  お兄ちゃんと私が、お屋敷の皆さんとの『これから』を手探りしているのと同じように……

  皆も、誰もが、過ぎて行く日々の中で、自分の……または自分と他の誰かとの『これから』を手探りしているのでしょう。

  ある人は自分の信じる目的地に向かって、ある人は流れに任せて、ある人は自分がどうしたいのかもわからないまま

  ただひとつ言えるのは、誰もが今のままではいられないこと、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ……


…………
204 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/05/29(日) 22:37:23.00 ID:yzLsY11j0

※ここまで。そろそろサクサク進ませる予定です……ホントかな……orz※
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 00:50:23.22 ID:gShUYcoDO

家政婦は見られた!
206 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/04(土) 20:59:38.52 ID:k1TrdIsi0
……………………

…………

門扉:カシャン……

家政婦「おやすみなさいませ皆様、また明日……」

家政婦「さて、いつものカフェの前で辻馬車を拾いましょう」コツ

末妹「家政婦さん!!」ピョコ

家政婦「末妹様!?」

家政婦「もう暗いのにお一人で門の外におられるとは、いったいどうなさいました?」

末妹「これ……野獣様のお屋敷のお土産です、焼き菓子と紅茶……」スッ

家政婦「あら、けさ末妹様からお預かりした分は、全てお茶の時間に皆様に召し上がっていただいた筈ですが……?」

末妹「実はあらかじめ取り分けておいたのです、家政婦さんの分」

末妹(それより前にお兄ちゃんが胡桃のサブレだけ何枚か抜き取っているけど……)

末妹「ほんの少しですが、お裾分け」

家政婦「駄目です、受け取れませんわ、紹介所の規則ですから……」

末妹「知っています、だけど……家政婦さんは今日のお仕事の時間を終えて、我が家の門の外にも出ています」

末妹「それなら、プライベートな時間に知人からお菓子と紅茶をもらった」

末妹「……それだったら家政婦さんにご迷惑はかけませんよね?」

家政婦「…………」クス

家政婦「末妹様、本当に貴女には敵いませんわ」クスクス

家政婦「ありがたくいただきます、ね?」ニコッ

末妹「家政婦さん……ありがとう!!」

家政婦「まあ、お礼を言うのは私の方ではないでしょうか?」クスクス

…………

……………………
207 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/04(土) 21:01:32.23 ID:k1TrdIsi0
……………………

…………

末妹「短い時間だったけど、お互いの声が思っていたよりはっきり聞こえて、お話ししやすくて助かったわ」

末妹「メイドちゃん、すごく喜んでピョンピョン跳ねていたね」

末妹「菫花さんもお元気そうで……師匠様とお二人で、騾馬の生産者さん達に会いに行く旅の準備ですって」

末妹「料理長さんは冬の間の保存食の準備、庭師君は庭の植物を越冬させる準備……と季節のお仕事が忙しい」

末妹「執事さんは……自分のことは『相変わらずです』とだけ言ってたけれど」

末妹「……鏡越しに執事さんばかり見つめていたお兄ちゃんの事も『相変わらずですね』って……」

次兄「執事さん……相変わらず……」

次兄「そう、執事さんは相変わらず優雅で渋く気高く、内なる勇猛さを秘めてなお美しく……とにかく、よかった……」ウットリ

末妹「……」フゥ

末妹「これも魔法の鏡を使うのを許してもらったおかげ」

末妹「お父さんが私達の気持ちをわかってくれて、信用してくれて、本当によかった」

末妹「……この次は、それぞれの将来の夢の話」

末妹「菫花さんから野獣様の伝言もいただいたよね?」

末妹「『本当に心から望む夢を叶えるためには真の勇気と覚悟が必要だ、頑張れ』って……」

末妹「しっかり自分の気持ち、お父さんに伝えようね、お兄ちゃんも私も」

次兄「野獣様」

次兄「野獣様! 野獣様の激励! 野獣様の鼓舞! 野獣様の期待! そう……俺達には野獣様がついている!!」ドドーン

次兄「…………父さん、俺の口から美術学校に行きたいなんて聞いたらビックリ仰天するだろうなあ……」

末妹「……」

末妹(お酒を飲んだ夜のことは練習、次こそ一回きりの本番よ、頑張ってねお兄ちゃん……)

…………

……………………
208 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/04(土) 22:51:27.45 ID:k1TrdIsi0
……………………

…………

末妹の通う、南の港町の学校……

末妹「先生!!」タタタッ

女教師「あら、末妹さん」

女教師「二か月近くお休みして、どうなるかと思ったけれど……今の授業にも問題なくついて来ているようね」

女教師「お友達の皆も安心しているわね」ニコ

女教師「……で、何かご用かしら?」

末妹「あの……先生は、この町のご出身で母校の代用教員からお仕事を始めて」

末妹「隣の市の教員養成学校で集中講義や資格試験を何度も受けて……正規教員になった、と仰っていましたよね?」

女教師「ええ、当時は家庭の事情で長く実家を離れることができなかったので……」

女教師「……楽な道ではないわよ、養成学校に正式に入学し勉強に専念するのと、少なくとも同じくらい大変でしょう」

女教師「尤も、あなたは安易であることを理由に進路を選ぶような子ではないわね」

末妹「」

末妹「どうしてわかったんですか、先生!?」

女教師「おやおや、末妹さんには天職だなあ、とずっと前から思っていたのよ?」

女教師「友3さんにやる気を出させるのなんて、本職より上手なくらいですもの」フフッ

末妹「先生……」

女教師「さて、来年の卒業後の進路相談……で良いのかしら?」

末妹「は、はい、そうです……まだ父には話をしていませんが……」

女教師「それじゃ、取り敢えずはもう少し詳しく話を聞かせてね……相談室にいらっしゃい」

女教師「目標に向かって、これからどのような方法が本当にあなたに向いているのか一緒に考える、今日はその第一歩よ」

末妹「はい、よろしくお願いします!!」

…………

……………………
209 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/04(土) 22:53:46.63 ID:k1TrdIsi0
……………………

…………

次兄「父さん……兄さんもいるんだ、それではこの際だから一緒に聞いてもらっちゃいましょう」

次兄「何の話かって? 俺の将来に関する大事な大事な話です!!」バァーンッ

〜〜〜〜〜〜

次兄「えっ知ってた? えっ二人とも? えっお酒飲んだ夜? えっ?? えっ????」

……………………

次兄「なぁ末妹、俺は生涯お酒を飲まないと固く固く心に決めた……」ガックシ

末妹「それで、お父さんのお返事はどうだったの!?」

次兄「ああ、それはね……」

……………………

幼馴染男「やあ、次兄くんじゃないか」

次兄「ふへへ、こんにちはぁ……お義兄(にい)さん予定の幼馴染男さん」

長姉「っちょ、なんで次兄が料理教室にいるのよ!?」

次兄「賄い付きの下宿を探すとはいえ、これを機に料理の基礎だけでも覚えておくといいって、父さんが……」

次兄「俺の場合は食べたらアウトになる食材もあるから、それならなおさら自分で作れる方が、とも言ってた」

次兄「あと兄さんは『外に出て人間と関わる事にも慣れるべき』って」

長姉「…………お父さん達の意向なら仕方ないけど、私に恥かかせるような真似だけはしないでね!? く・れ・ぐ・れ・も!!」

幼馴染男「まあまあ……講師の先生も君の弟なら大歓迎さ」ノホホン

受講生1「……また新しく若い男性が入って来ると聞いたけど、アレの事?」

受講生2「ガキんちょじゃない、しかも将来性も乏しいわぁ(あくまで容姿の面で)」

…………

……………………

そのころ、野獣の屋敷……

……………………
210 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/04(土) 22:54:14.80 ID:k1TrdIsi0

※今回はここまで。次回は久しぶりに屋敷サイドを。あと女教師は既婚者※

>>205 あらやだ
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 01:38:40.49 ID:vshSBc8dO

野獣成分が足りないわぁ(次兄並感)
次兄の良さを分かってくれる淑女がいつか現れたらいいな
212 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/05(日) 22:01:54.37 ID:6a3lF7RW0
…………

ある朝。

メイド「おはようございます、お庭が真っ白!! 雪ですよ、執事様!」

執事「おはよう。最近ちらつく程度にはあったが、ここまで降ったのは初めてだな」

執事「このまま根雪になるかもしれん」

庭師「通りで冷えると思ったよ、植物たちの冬囲いが終了していてよかった……おはようございまーす」

執事&メイド「「おはよう」」

メイド「そうだ、今日は金曜日ですよね!?」

メイド「今夜はお庭に銀板鏡を持って行って、末妹様達に雪を見ていただくのはいかがでしょう!?」

庭師「えー、この寒いのに外でお話しするのぉ?」

執事「そうだな、窓辺に鏡を持って行くのはどうだろう?」

執事「カーテンを開ければガラス越しに雪が見えるはず」

ドア:カチャ

料理長「メイドちゃん、厨房を手伝ってくれないかね」ノソリ

メイド「はぁい、今行きます!」ピョン

庭師「僕も……寒いけど、バラ達の様子を見て来ようっと」ヒタヒタ

執事「さて、わたくしも師匠様と菫花様がお目覚めになる前にもう一仕事しようか」カチャカチャ

…………

夢の世界。

(野獣「屋敷の庭に雪が積もったか」)

(王子「庭師君と僕の作業が済んだ後でよかったけど……バラ達はあれで本当に冬を越せるのかな……」フアンゲ)

(野獣「もう『魔法の』バラではないからな……」)

(師匠「ふむ」)
213 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/05(日) 22:03:17.57 ID:6a3lF7RW0
(師匠「昔、魔術師ギルドの花壇に誰も植えた覚えのないバラがあってな」)

(師匠「誰か出入りの者が鉢植えを持て余したかして、人目を忍んでこっそり植え替えて立ち去ったのだろうが」)

(野獣(花泥棒の逆は何と呼ぶのだろうか?))

(師匠「もちろんそんな状態だったから、皆、花壇の世話の際に水をやるくらいはしていたが基本ほったらかしで」)

(師匠「毎年、春先に雪の中からボロボロの茎だけの状態で表れるのに、時季にはしっかり花が咲いていた」)

(師匠「それよりは間違いなく屋敷のバラは手をかけられているのだ、心配するな」)

(王子「……丈夫な種類は本当に丈夫ですからね、でもうちのバラには本来は繊細な種類もあるのです」)

(野獣「それにうちのバラは末妹が楽しみにしているバラですよ、ただ咲けば良いのではなく『美しく』咲かせなくては」)

(師匠「わかったわかった、デリカシーに欠ける発言をして悪かった」)

(師匠「それはそれとしてな、菫花。お前と儂はしばらくこの屋敷を留守にするのだから、心配しても仕方ないのも事実だぞ」)

(師匠「庭師を信用して任せるがいい、野獣だって助言できるのだからな」)

(野獣「そう言えば明日からでしたか、紹介していただいた騾馬の牧場を訪ね歩く旅行は」)

(野獣「……しかし森を出るまで瞬間移動ならば、全部瞬間移動にしてしまえばすぐ済むのでは?」)

(師匠「お前はわかっとらん」)

(師匠「敢えて魔法は使わず普通の人間として旅をすることに意義があるのだ、菫花にとってはな」)

(師匠「この時代で人々がどんな暮らしをし、そして200年以上の間にどれほど人の世が変わったか肉眼で見て手で触れ」)

(師匠「あの兄妹以外の人間と出会うことで得るものも大きいだろう」)

(王子「……君の分まで外の世界を見て来るよ、野獣」)

(王子「僕が一生かかって見る世界の、今回はその第一歩に過ぎないけど」ニコ)

(野獣「……もう、恐れはないのか?」)

(王子「うん、末妹さんと次兄君が勇気をくれたし」)

(王子「……まあ、何よりも師匠が一緒ですから、ね?」)

(師匠「…………」ニヤリ)

(野獣「 」)
214 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/05(日) 22:04:15.56 ID:6a3lF7RW0
(野獣(企んでいる、絶対何か企んでいる……)ドキドキ)

(王子「どうしたの、野獣?」)

(野獣「い、いや……頑張れよ、何事にも負けるではないぞ?」ポン)

(王子「あ、ありがとう??」??)

(王子「……僕はそろそろ『目覚め』ますね、庭師君がバラ園の様子を見に行ったので、話を聞かないと」)

(師匠「ああ、また朝食の時にな」)

(野獣「また夜に会おう……」)

(野獣「……」)

(野獣「……鍛えるためとか言って、旅先であまり菫花を苛めないでやってくださいよ?」)

(師匠「うん? 何の事かなぁ?」ムフフ)

(野獣「……」フゥ)

(野獣「……少なくとも月末までは戻らないんでしたっけ」)

(師匠「ああ」)

(野獣「師匠達がいないと、使用人達には屋敷を守る以上の仕事がなくなりますね」)

(師匠「うむ、そう思って騾馬小屋の内装の仕事を頼んだ」)

(師匠「器……外観だけは出来上がっているが、今はまだ何もないただの小屋」)

(師匠「必要な材料は調達済みだが、何枚も図面を描いて、この通りに作ってほしいと」)

(野獣「それは……いくら一頭分の小さな飼育小屋とはいえ、あの者たちには荷が重い作業ではありませんか?」)

(師匠「執事は優秀だ、皆も働き者だ」)

(師匠「それに、困った時はお前が助けてやれる」)

(師匠「だいたい我々が旅から帰るまでに完成していなかったとて、彼らを責め立てるつもりは毛頭ない」)

(野獣「……優しいですね、師匠」)

(師匠「ん? 儂が厳しく当たるのはお前と菫花くらいだぞ?」)

(野獣「いや、執事達を叱らないという話ではなく、皆が寂しくならないように仕事を与えてくださったのでしょう?」)
 
215 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/05(日) 22:04:56.07 ID:6a3lF7RW0

※ごめん、めっちゃ半端だけど眠い。もう少し屋敷サイド続く……※
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 01:16:39.08 ID:6J8iONPpO
おやすみ
師匠が楽しそうで何より
217 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/09(木) 23:07:20.96 ID:boZV8Xhq0
(師匠「本来はお前に尽くすことが、今はお前の意思に従って、菫花や儂のため目に見える仕事をすることが」)

(師匠「あの者たちの存在意義だからな」)

(野獣「本当に……師匠には感謝しています、私の使用人達を受け入れ、仕事を与え、守ってくださる」)

(師匠「儂が動物嫌いじゃなくてよかったな?」)

(野獣「全くです」)

(師匠「……お前達に、この屋敷に関与することができず、鏡で見守るしかできなかった頃」)

(師匠「獣の使用人達も、あの兄妹も、実に健気にお前の事を想い続け再会の日を楽しみにしていた」)

(師匠「……彼ら彼女らの存在を知らずにいたままならば、お前や菫花との儂の関わり方も、もしかしたら違ったかもしれん」)

(野獣「師匠」)

(師匠「もしもの話を始めたら果てしが無いわな。重要なのは未来と……現在だ」)

(師匠「さしあたって儂は現在、腹が減ったので目覚める」)

(師匠「で……今日は金曜日だな、末妹や次兄に伝言があれば承るぞ?」)

(野獣「二人も家族も息災ならば言う事はありませんが」)

(野獣「……師匠と菫花の旅の無事を二人にも祈っていてほしいと、それくらいでしょうか」)

(師匠「わはは、わかった、伝えておこう」)

(師匠「では、また今夜に、な」)

(野獣「は、はい。お疲れ様でした……」)

(野獣「……」)

(野獣「師匠と菫花のこの世界での旅……どんなものになるのか、不安要素がないでもないが」)

(野獣(今回の不安とは主に身内にあるわけで))

(野獣「それでも楽しみの方が大きい……菫花よ、私の分まで世界を見て来ると言ったな」)

(野獣「旅から帰った時、お前の目に映ったものを余すことなく私に教えておくれ……」)

……
218 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/09(木) 23:08:02.28 ID:boZV8Xhq0
その夜……

末妹「まあ、師匠様と菫花さんが?」

鏡越しのメイド『ええ、あっちこっちの騾馬さんの牧場を巡る旅行ですよ!』

鏡越しの王子『君達ふたりのおかげで、前向きな気持ちで旅立てます』

末妹「きっと素敵な旅になりますよ、それに師匠様がいらっしゃれば怖いものなしですね!」

末妹「野獣様も楽しみにしていらっしゃるでしょうね……」

王子『ええ、野獣も頑張れと応援してくれたし、彼にも良い報告ができる旅にしますよ』

鏡越しの師匠『……』ニヤァ

次兄(……今、執事さんの斜め背後にいたおっさんの口角がイヤな感じで持ち上がったような……?)

鏡越しの執事『おふたりが不在の間に、我々は馬小屋の内装作業を仰せつかりました』

鏡越しの庭師『へへ、お屋敷から渡り廊下でつながっているんですよ!!』

鏡越しの料理長『快適な場所になるよう、わしらも頑張ります』

王子『僕も今から完成が楽しみです』

次兄「……しかし、飼うとしたら若い騾馬でしょ? 執事さんを怖がらないかな」

執事『鏡越しにわたくしを見つめたまま普通に会話に参加されるのはいかがなものでしょう』

王子『執事さんの使い古しの手袋と、換毛期に出た抜け毛を少し、瓶に密封して持って行きます』

次兄「」ピク

王子『道中、執事さんの匂いに慣れさせておけば、家に来てから少しでも早く馴染んでくれるのではと……』

次兄「……その瓶詰め、旅行から戻ったら俺に譲っ、いや売ってくれません!?」

鏡越しの師匠『はいはいそろそろ時間切れだ、君達も儂とこいつの旅の無事を祈っていてくれ』
219 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/09(木) 23:09:11.47 ID:boZV8Xhq0
末妹「はい、お元気で……頑張ってくださいね菫花さん」

王子『ありがとう、今度は来月の第一金曜日にお会いしましょう』

メイド『また来週、末妹様ぁ』フリフリ

末妹「メイドちゃん、皆さんも……小屋造り頑張ってね、野獣様によろしく」

次兄「あのー、執事さんの瓶詰めはぁぁぁ」

鏡『ジカンギレデース』フッ

次兄「そんな殺生なぁぁぁぁぁ」

次兄「……くっ、今後も粘り強い交渉が必要だな……まだ諦めてはいけない」ブツブツ

末妹「……本当に、良い旅になりますように……野獣様のためにも……」

末妹「……あちこちって、この国のいろんな地方だっけ」

末妹「うちの馬が生まれたお父さんのお友達の牧場、確か騾馬も育てていたはず……」

末妹「旅の途中で、師匠様がまたうちの店にふらりと紅茶を買いに来たりとか?」

末妹「……なんて、そんなことないか」フフッ

……

師匠「さぁて、路程を確認するぞ菫花」ガサガサ

王子「はい、あれ……地図上のこの印、南の港町の郊外に?」

師匠「おお、ここの牧場も立ち寄るぞ、宿も儂の知っている宿に決めてある」

師匠「ついでに商人の店で買い物もしような」

王子「いいですね、商人さんのお店はいい品揃えだと思っていたんですよ」

師匠「……一人でお使いできるかなぁ?」ククク

王子「え? 何か言いました?」

…………
220 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/09(木) 23:09:52.08 ID:boZV8Xhq0

※今夜はここまで。こんどの週末はちょっと多忙なので更新ないと思ってください……※
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/10(金) 00:44:30.39 ID:2nMnQtNKO

誰にも内緒で(王子にすら)お出かけなんです?
222 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/15(水) 22:48:36.38 ID:BspspYZr0
少し時間を遡って数日前、野獣と師匠……

(師匠「お前、魔法を学びに来る時の色眼鏡とか平民らしい服とか……どうやって手に入れた?」)

(野獣「ああ、それは……まず、園丁の作業小屋にお金と欲しい物を書いた手紙を置きます。夜中にこっそりと」)

(師匠「ふむ」)

(野獣「数日くらい後、私が寝床に就く頃、掃除婦が私の部屋を5回ノックしたなら合図です」)

(野獣「園丁の作業小屋に届いている注文の品物を取りに行くのです。夜中にこっそりと」)

(師匠「ちょっと待て」)

(野獣「何か?」)

(師匠「王や王妃が用意した物以外の……」)

(師匠「お前の個人的な所有物は、何もかもその方法で手に入れたのか?」)

(野獣「その園丁はお金さえ払えば両親には秘密に頼まれた通りをこなしてくれる人物でしたから」)

(師匠「品物の代金、園丁自身の手数料、協力する掃除婦……だけではないな、実際に店に向かう者達の交通費と手数料……」)

(師匠「例えばお前がギルドに来る時にいつもかぶっていた帽子、あれにはいくら使った?」)

(師匠「帽子の代金とその他の経費全て込みで」)

(野獣「えーと……あの時は確か、金貨で……●●枚ほど」)

(師匠「…………釣り銭は受け取ったか?」)

(野獣「お釣りをもらったことはありませんが?」)

(野獣「余ったら全て園丁のものにしてくれと、あ、もちろん不足分は間違いなく請求してくれともちゃんと伝えています」)

(野獣「不足があったとは一度も彼は言いませんでしたが」)

(師匠「世間知らずにも程があるわ!!」)

(野獣「」)
 
223 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/15(水) 22:50:22.50 ID:BspspYZr0
(師匠「あの安物のペラッペラの帽子のために……金貨●●枚……」トホホ)

(師匠「……しかし、それから一人で外出するようになって理解しただろう? 世の中の、相場というものを」)

(野獣「……個人的な外出は魔法を習いに行く時だけでしたが」)

(師匠「寄り道もせず、城と魔術師ギルドを往復するだけだったのか?」)

(野獣「余計なことをして身分が知られても困りますし」)

(師匠「それはそうだが……」)

(野獣「あ、そう言えば園丁の小屋に取りに行く以外の買い物をした事ならありますよ?」)

(野獣「配達先をこの屋敷……当時の父王の別荘にしてもらったことはあります。バラ園のための肥料」)

(師匠「同じことだバカタレ、と230年前の貴様を今さら叱りつけたとて……」)

(師匠「…………」)

(師匠「今度の旅行で、儂はあいつに社会経験を積ませるつもりだが……」)

(師匠「……………………」)

(師匠(よし、決めた!!))

…………

……………………

旅先の師匠と王子……南の港町のとあるカフェにて

王子「え? 宿に入る前に買い物ですか?」

師匠「おう、主人と従業員二人だけで切り盛りしている宿だが、儂が長期滞在した際に何かと親切にしてくれて、な」

師匠「ちょっとした手土産でも渡して、感謝の気持ちを表したい」

王子「そうですか、では師匠にお供しますよ、お店に向かいましょう」
 
224 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/15(水) 22:52:12.83 ID:BspspYZr0
師匠「……話は終わっとらん。ここはぜひ、儂の自慢の息子が選んでくれた品を送りたくてなぁ」

王子「は?」

師匠「予算はこんなものか」チャリンチャリン

師匠「今の時代の貨幣に両替済みだ、商人の店だぞ、このカフェからはほど近い」

王子「商人さんの」

王子「……って、地図はあるんですか!?」

師匠「近いと言っただろう、通行人に聞けばすぐにお前ですらわかる」

王子「そうだ、手鏡に呪文をかけて魔法の鏡に」

師匠「今回の旅で魔法は使わせんと言っただろうが」

師匠「なあに、この町の人間は割と親切だぞ、心配するな」

王子「ぼ、僕のセンスの悪さはご存知でしょう!?」

師匠「店員にお勧めを聞けば良いではないか、予算と目的を伝えれば、いい感じに見繕ってくれる」

王子「いいかんじに」

王子「店員……そうか、末妹さんや次兄君がいるんだ」

王子「それなら安心です、気が楽になりました」ホー

師匠「ああ、頑張って行って来い。期待しているぞ?」

師匠「お前が戻るまでここで時間を潰している、カフェオレが美味い、気に入った」

王子「はい、行って来ます」

師匠「…………」

師匠「少女は学校にいる時間、少年はさきほど図書館へ出かけたばかり」

師匠「鏡の魔法でこっそり確認済み」

師匠「さて、誰が出るかな……」ククク
225 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/15(水) 22:52:41.27 ID:BspspYZr0

※今回はここまで。次回、王子に最大の試練が訪れる(のか?)※
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/16(木) 00:56:07.10 ID:VxWS7ViaO
はじめてのおつかい!
店番があの人だったら、王子どうなってしまうのん(ワクワク
227 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/19(日) 01:02:21.76 ID:HClA/mqo0
師匠「……そう言えば『あの恰好』そのままで行かせてしまったが」

師匠「一人で行動中の姿が『アレ』では不審がられるかもしれん、ま、それも勉強の一環だわな」

師匠「世の中には様々な人間がいると改めて体で学ばせ、そして自分の頭でモノを考えて行動させなくては」

師匠「ああ給仕さん、カフェオレおかわり」

……

王子「……」ウロウロ

王子「あそこにいる男の人に道を聞いてみよう」

王子「あ、あの、すみません……」

中年男性「」ビクッ

中年男性(な、何者だ? 確かに今日は少し寒いがマフラーで口どころか鼻まで完全に覆って)

中年男性(帽子は目深に被って、どころか目元までほぼ隠れているぞ、人相がわからん)

中年男性(怪しい、ま、まさか辻強盗ではあるまいな!?)

中年男性「い、急いでいるので、じゃっ!!」ソソクササササササ

王子「あ、待っ……」

王子「……行ってしまった」

王子「もしかしたら、この恰好がまずかったかな?」

王子「……屋敷を出て、森を抜け、最初の町に着いたらやたらと女性がこっちを見てきたりじわじわ近付いて来たり」

王子「初めは『僕と師匠を』見ているのかなと思って口にしたら」

王子「師匠に馬鹿にされたっけ、『お前しか見とらんわ』って……」

王子「数日間の滞在中、だんだん町の女性達がやたらと親しげに話しかけて来るようになって」

王子「町の男性達は逆になんとなく冷たくなって」

王子「……考えた末、次の町では顔を隠すようにしたら、ぱたりと収まった」
 
228 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/19(日) 01:04:39.96 ID:HClA/mqo0
王子「……」

王子「なんというか、女性が230年前に比べたら積極的と言うか」

王子「尤も、昔の僕の立場とか、あの時代の小国の庶民はみんな困窮していたのもあるし」

王子「とりあえず今の自分の気持ちだけで言うと」

王子「率直に、怖い」

王子「…………慣れれば平気になるのかなあ」フゥ

王子「しかし今の僕には優先すべき目的がある」

王子「こんどはあっちの若い男性に尋ねてみよう」トトト

王子「……あの、すみません、(こんな格好ですが)怪しい物ではありません」

幼馴染男「え、僕ですか?」

王子(よかった、警戒している様子はない)

王子「えーと、実は……商人さんのお店に行きたいのですが……」

幼馴染男「ああ、それでしたら……この道をこう行って、緑の屋根の三階建の家の角を左に曲がって……」

王子(わかりやすくて丁寧だ、ありがたいなあ)

幼馴染男「……本来ならご一緒して道案内差し上げたい所ですが」

幼馴染男「これから仕事の関係で、港まで人を出迎える用事があるので、申し訳ありません」

王子「いいえ、非常にわかりやすく教えていただき、これなら辿り着けそうです」

王子「お忙しいところ引きとめて申し訳ありませんでした、ありがとうございます」

幼馴染男「お役に立てたなら光栄ですよ、では」ニコ

王子「……いい青年だな、僕と同い歳くらいに見えたけど……」

王子「さて、方向はこっちだったな。緑の屋根緑の屋根……」

……
229 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/19(日) 01:06:14.16 ID:HClA/mqo0
商人の店

次姉「無理して手伝ってくれなくてもよかったのに、私一人で充分よ」

長姉「だって……料理教室がない日、お父さんと兄さんは取り引き先へお出かけ」

長姉「末妹は学校、次兄には図書館へ逃げられた」

長姉「……天文学者先生ご夫婦が旅から戻られて、今日は西の島国から来る研究者さんをお迎えするからって」

長姉「幼馴染男も忙しい」

長姉「暇しているくらいならあんたと二人で店番している方がずーーーっと有意義だわ」

次姉「有意義、ね」

次姉「姉さんからそんな言葉が出てくるなんて、でも素直に嬉しいわ、ありがとう」フフ

呼び鈴:チリリン…

長姉「お客様ね」

次姉「いらっしゃいませ」

王子「」

長姉「」

次姉「……(顔が見えない)」

長姉「ちょ、次姉、お客様とは言えなんなのこの怪しいの!?」ヒソヒソ

次姉「しっ、様子を見て、話が通じそうな相手ならやんわり注意してみる」ヒソヒソ

次姉「とりあえず姉さんは私より後ろにいて?」ヒソヒソ

長姉「乙女だけの店番の日に限って、なんでこんなのが来るのよ……」ボソボソ
 
230 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/19(日) 01:07:52.53 ID:HClA/mqo0
王子「…………」

王子(どうしよう……野獣として鏡越しに初めて見た時から)

王子(このお二人はなんか苦手だ)

王子(次兄君と末妹さんのお姉さんだし、最初の頃よりずっとあの子達への態度が柔らかくなったとは言え)

王子(実際にお会いしてわかった、自分でも認めざるを得ない)

王子(単純に僕自身、こういうタイプが怖いのだと……)

次姉(……なんなの、突っ立ったまんま動かないし一言も発しない)

次姉(だからと言って、敵意は全く感じないのだけど、それどころか)

次姉(なんだか……私の暴力を必要以上に恐れている時の次兄のような空気を纏っている……?)

次姉(あと……おそらく男性? で、身長は私と同じくらいだけど、まるで鍛えてはいない、明らかに鍛えた試しはない、と見た)

次姉(よし、変だけど少なくとも危険なお客様ではないと確信したわ!)

次姉「お客様、どのような品をお探しでしょう?」ニコリ

王子「」ビクッ

王子「えええええ、ええと、師しょ、いえ、父からですね、つつつつつ、使いを頼まれまして」カタカタカタカタ

長姉「……何これ?」

次姉「姉さん、声もっと潜めて」ヒソヒソ

次姉(……どうしよう、うちの店はそんなに格式高いつもりはないけれど、やはり顔が全く見えないお客様と言うのは……)

次姉(何か気の毒な深い事情があるのかもしれないから、無理強いはしないけれど)

次姉(一度だけ、注意を促してみようかしら?)
 
231 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/19(日) 01:08:22.59 ID:HClA/mqo0

※今回ここまで。王子の受難(?)は現在進行形※
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 01:50:53.54 ID:utIjduf2O

幼馴染男とかいう誰とでも仲良くなれそうな聖人
233 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/20(月) 00:26:35.93 ID:WjQSXcpS0
次姉「あのうお客様、失礼は承知で申し上げますが……」

次姉「店内では……そのマフラーは少々……暑苦しくはありませんでしょうか??」

王子「」ビクッ

王子(そ、そうだよな、こんな異様な風体の客を相手にするのは、しかも女性店員だけで)

王子(ちゃんとここで買い物をしなくては師匠のお使いにならないんだ、ここは……)グッ

次姉「あ、お客様がお困りでなければ」

スルスルスルスル……パサリ

王子「……仰る通りです、こちらこそ失礼致しました」

長姉「ちょ」

長姉「ちょちょちょちょっと、なんなのなんなの、このあり得ないほどの美形!?」ペチペチペチペチ

次姉「姉さん私の背中を連打しない」

次姉「お客様、気になる品物がありましたら、どうぞお手に取ってじっくりご覧くださいませ」エイギョウスマイル

王子「……は、はい」

長姉「あんたなんでそんな冷静でいられるのよ!?」ヒソヒソ

次姉「姉さんこそ何はしゃいでいるのよ、そもそも婚約中の身で」ヒソヒソ

長姉「目の保養よ、目の保養!! 恋愛感情とかテーソーカンネンなんかとは別のもの!!」ヒソヒソ

次姉「調子いいんだから、全く……」ハァ

次姉(……目の保養って言葉で思い出した)

次姉(このお客様、元王子様の菫花さんて人の、末妹が話していた容姿そのまんまな気がするけれど……?)

次姉(……元王子、元とは言え王族……)

王子「……」
 
234 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/20(月) 00:28:08.29 ID:WjQSXcpS0
王子(どうしよう、お手に取ってとか言ってくれたけど、そもそもどういう系統の物を買えば良いのかすら……)コンワク

次姉(……普通は若くても威厳とか貫禄とかを、もっと醸し出しているのでは??)

次姉(やっぱり違うのかしらねぇ)

長姉「ちょっとっ、次姉だって見惚れているじゃない!!」ヒソヒソ

次姉「って姉さん、そんなんじゃないわよ」ヒソヒソ

次姉「このお客様、末妹と次兄の友達って人じゃないかしら、って思っていたところ」ヒソヒソ

長姉「!?」

長姉「……た、確かに言われてみれば……」ヒソヒソ

長姉「背丈、体格、髪の色、ひとみの色、肌の白さ、見た目年齢……」ボソボソ

長姉「よーし、ここは長女の役目として可愛い弟妹のお友達を」ズイ

次姉「待って」グワッシィ

長姉「あう」

次姉「まだそうと決まったわけじゃないし、こうやって店に来たからにはお客様よ」グググ

次姉「私の勘ではこの人ちょっとめんどくさいタイプと見た、だから好奇心に任せた余分な行動は慎んで、ね?」ググググググ

長姉「わ、わかったわかった、だから両肩に食い込む指をちょっと緩めて……」

長姉「……あっ、でも、ちょっとツボに入っていい感じかも……」

次姉「確かに肩張っているのね、ついでだからちょっとだけマッサージしたげる」ワッシワッシ

長姉「はうう〜」

次姉(やっぱり胸が重いせいかしら)

長姉「……ありがと、なんかおかげで気持ちも落ち着いたわ」ホゥ

次姉「たった5秒のマッサージに思わぬ効果が」

王子(……どうしよう、何を買おう、やはり相談したほうが良いのだろうか……うむむむ……)チギシュンジュン

……
 
235 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/20(月) 00:29:35.14 ID:WjQSXcpS0
再びとあるカフェ……

手鏡「……イカガデス?」

師匠「ふむ、次女はともかく、長女が店にいるとは読めなかったのう」

師匠「とは言うものの、菫花が世間に出れば顔で難儀するのはわかっておった」

師匠「女性をほどほどにあしらう技も少しは身につけねば」

師匠「それ以前に、気の強そうな女性はあいつの母親を思い出させて苦手かも知れんが……」

師匠「『気の強い女』で一括りにして逃げ回っていても進歩はないからな」

師匠「馬は乗ってみなければわからんのと同じ、人も接してみなければわからん」

師匠「……まあ、なんにせよ儂は楽しいぞ」グフフ

手鏡「ダンナモワルデスナァ」

師匠「どれ、ちょっと別の場所を」

師匠「……お、だれか住居側の玄関に帰って来たようだな?」

鏡越しの家政婦『……様、お帰りなさいませ……』

……

商人の店……

次姉「……迷っておられるようですねお客様、よろしければ用途を教えていただけますか?」

王子「よ、よーと……?」

次姉「ご自宅でお使いになりますか、ご贈答用ですか?」

王子「あ……」

(師匠「店員にお勧めを聞けば良いではないか、予算と目的を伝えれば、いい感じに見繕ってくれる」)

王子(よし、ここは意を決して……!)キリッ
 
236 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/20(月) 00:30:32.98 ID:WjQSXcpS0

※ここまで。お買いもの編、引っ張りすぎてすみません……※

>>232
長姉を子供のころから好きであり続ける男子……と思ったら、おおらかでやや天然系しか思い付かなかった
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 02:21:32.66 ID:pHFOF6TIO
師匠の楽しい気持ちが解り過ぎて困る
なんだかんだで仲良い長姉と次姉にもホッコリ
238 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:36:33.74 ID:MoorvJR70
…………

家政婦「末妹様、お帰りなさいませ……と、次兄様もお帰りなさいませ」

次兄「ただいま」ニョン

末妹「帰り道でぐうぜん出会って、一緒に帰って来たの」

次兄「さて、俺は早いとこ店に出ねば」

次兄「末妹から聞くまで、兄さんが今日は家にいる日だと思ってたよ」

末妹「お父さん、今朝は冷え込んだせいか腰が痛いって話していたから……心配で一緒に行ったの」

次兄「マジで知らなかったんだよ」

次兄「姉さん達は俺が図書館に逃げて長姉ねえさんに店番を押し付けたと思っているだろうなあ」

次兄「今頃、俺の悪口大会で盛り上がっていると思うと」ガクブル

末妹「考え過ぎよお兄ちゃん、ありのまま話せばふたりとも怒ったりしないわ」

次兄「……末妹を疑うわけじゃないけれど、俺への信用なさはお前の想像を超えている……ん」

次兄「家政婦さん、そこの……籠に盛ったほんのり甘い香りの物体は?」

家政婦「あ、これはご休憩の際にお二人に召し上がっていただこうと用意した焼きメレンゲです」

家政婦「と言ってもお客様の訪れる合間に不定期なお休みしか取れませんから」

家政婦「口に長く残らず軽くつまめるお菓子を、と……」

次兄(……ひらめいた!)ピコーン

次兄(いかにも女子ウケの良いアイテムを携えて登場すれば、どさくさに紛れつつご機嫌取りができるに違いない!!)

次兄「家政婦さん! それ運ばせてください、俺どうせこれから店に出るんだし!!」

末妹「お兄ちゃん?」

…………
239 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:38:27.40 ID:MoorvJR70
次姉「ご自宅でお使いになりますか、ご贈答用ですか?」

王子「あ……」

王子「…………あ、あの……お世話になった方への、お

住居と店舗を繋ぐドア:バーン!!

次兄「美しく働き者の素晴らしいお姉様がた、小休止にしませんこと!?」

末妹「待ってったら、今はお店にお客様が」

次姉「」

長姉「  」

王子「        」

末妹「……!?」

次兄「                    っうぇ??」

次姉「……お客様がいるのに何やってんのよあんたは!?」

末妹「ご、ごめんなさい!!」

次姉「末妹じゃなくて」

長姉「何が素晴らしいお姉様だか、逃げたくせに」

末妹「それは誤解で」

次兄「俺の口からちゃんと説明するよ、ささ、まずは座ってお菓子でも」

次姉「だから、お客様がいるのよ!」

王子「ぼ、僕のことならお構いなく、ご家族の問題を優先してください!!」

次姉「お客様は黙っててっ!!」クワッ

王子「 」
240 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:40:52.99 ID:MoorvJR70
次姉「……じゃなかった!! あわわ、失礼しました!? ……ああもう何がなんなのよ!?」

長姉「あんたのせいよ次兄!!」

末妹「あの……菫花……さん……?」

次兄「……あ、立ったまま気絶してる」

次姉「なんですって!?」

長姉「た、確かにさっきの次姉は怖かったけど」

…………

師匠「……どうしたことだこの混沌は」

師匠「とりあえずもう少し見守るか」

…………

末妹「しっかりしてください、しっかりして、菫花さん」

長姉「ってことはやっぱり、この人あんた達の友達の」

次姉「あああ目は開いているのに意識がないわ」オロオロ

長姉「あれ、元凶(次兄)はどこ行ったの」

次兄「ちょっと皆よけて、これがあれば……」トテテ

毛布:ブワサァ

次姉「ちょ、あんた何を」

スボッ

次姉「お客様!?」

次兄「末妹、完全にくるんであげて」

末妹「う、うん」ゴソゴソ
241 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:42:52.79 ID:MoorvJR70
毛布の塊「……」

末妹「……菫花さん……?」

毛布「…………はい」ボソッ

長姉「喋った」

毛布「……み、皆さんには、みっともない所を……」ボソボソ

次姉「ハッ」

次姉「お、お客様、椅子をお使いください」ズリズリ

末妹「ありがとうお姉ちゃん、ほら菫花さん、このまま座って?」ユウドウ

毛布「……」トン

末妹「……落ち着きました?」

毛布「ええ……お陰様で、ごめんなさい」

次兄「うーん、安定のメレンゲより脆いメンタル」

次姉「誰のせいで……いやそれより」

次姉「お客様、本当に先程は失礼致しました……勢いでつい」

次兄(鬼の形相でした)

毛布「わ、悪いのはこちらです、僕が頓珍漢な事を口走ったばかりに……」

毛布「……そもそも、買い物が目的であっても次兄君と末妹さんのご家族に、最初の挨拶もなしに」

次兄「おっさんは一緒じゃなかったの?」

毛布「僕一人で買い物に行けと……おつかいを頼まれました」

末妹「もしかして、この町の郊外の牧場へ?」

毛布「え、ええ……騾馬の生産もされているとのことで」
242 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:46:43.51 ID:MoorvJR70
毛布「滞在はこの町の宿ですが、以前に師匠が泊まった時にお世話になったとかで」

毛布「ご主人と従業員の方に、手土産を渡したいと、それでおつかいを」

次姉「……先方様について、もう少し詳しく教えていただけますか?」

毛布「あ」

毛布「えーと、確か……北通りに位置する宿で……」

毛布「ご主人は40代半ばの男性、従業員さんは20歳前後の若い女性ひとり、と聞いています」

毛布「あ、あと預かった予算の金額は……」

次姉「……承知いたしました」スッ

次姉「ちょっと手伝って、姉さん」

長姉「私? いいけど」スッ

次姉「末妹と次兄はお客様のそばにいてね」

末妹「は……はい」

次姉「心当たりのある宿屋はあるわ、うちから年一回、宿泊者用の石鹸をまとめて届けている小さな宿よ」

長姉「ん? うちから消耗品を定期的に仕入れている宿は二軒、どっちもそこそこ大きな所じゃなかった?」

次姉「お得意様名簿に載ってはいるけど、正式契約してはしていないの」

次姉「ぶっちゃけた話、消耗品全てをうちから仕入れられるほど儲かっている宿じゃないもの」ヒソヒソ

次姉「それでもご主人のこだわりなのか、せめて石鹸だけでも良い品を使いたいらしく」

次姉「同じ品では微々たる差とは言えうちが一番安く、それ以上に粗悪品が混ざらないって信用もあるから……でしょうね」

次姉「ま、とにかく、予算内でとなると」サッサカ

次姉「姉さんはこっち持ってて」ホイ

長姉「う、うん」
243 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:50:52.76 ID:MoorvJR70
次姉「お客様、こちらの商品はいかがでしょう……っと」

毛布「」

末妹「菫花さん、もう、大丈夫……ですよね?」ソッ

毛布「ハッ」

毛布「す、すみません、いつまでも何やっているのでしょう、僕ときたら本当に……」モゾモゾ

次兄「では御開帳〜」ピラッ

毛布:バサリ

王子「……選んでくださったんですね」

次姉「宿のご主人にはこちらのサスペンダー」

次姉「従業員の女性には姉が手にしておりますこちらのスカーフを」

次姉「いずれも最近入った品ですので、お手持ちと被ることもまずないと思われます」

次姉「お値段は……になりますが、よろしいですか?」

王子「……どちらも素敵に見えます(が、僕のセンスでは正直よくわかりません)」

王子「(でも、選んでくださったのだから)きっと気に入ってくれますね(たぶん)」

次姉「ではこちら、お包み致しますね」

長姉「好みもわからない相手に装飾品?」ヒソヒソ

次姉「これなら価格的には普段使いのレベルよ、無難なデザインだし」

次姉「それにね、年一回の石鹸を届ける日がちょうど先月末でね、私が行ってきたの」

次姉「出迎えてくれたけど、革の擦り切れたサスペンダーと色褪せてほつれかけたスカーフで……そういうこと」

長姉「それを早く言ってよ、あんたったら」

次姉「ふふ、ごめん」
 
244 : ◆54DIlPdu2E [saga]:2016/06/26(日) 20:52:22.59 ID:MoorvJR70
王子「…………」ボー

末妹「……菫花さん、のど乾いていませんか? はい、お水」ニコ

王子「は、はい、ありがとう……」ゴクゴク

次兄「うちのスタッフの休憩用でよければ、メレンゲの焼き菓子……お好きなフレーバーをお選びくだされ」ニヘヘ

次兄「あ、この薄茶色いのは胡桃が入っているから駄目(俺のもの)ね」

王子「は、はい……じゃあこのピンク色の、木苺味かな……」サクサク

王子「……甘酸っぱくておいしい」サクサク

王子「……ふう、ありがとう、おかげですっかり落ち着いたよ」

末妹「よかった」ホッ

次姉「お客様、緑のリボンが掛かっているのがサスペンダー、赤いリボンの包装がスカーフです」

師匠「これは丁寧な包装だの、ありがとうお嬢さん」ヌッ

次姉「!?」

末妹「師匠様!?」

次兄「おっさんっ!?」

長姉「いつの間に!?」

王子「し、師匠ぉぉ!?」

師匠「お、すまんすまん、驚かせるつもりはなかったのだが……呼び鈴をもっと派手に鳴らすべきだったかな?」

師匠「儂は、実に地味でおとなしくて物静かで目立たなくて控え目な人柄……とよく言われるのでなあ」ハッハッハ

王子(誰に?? 誰に言われるんですか??)

次姉(物音どころか気配すらしなかったけど……)

次兄(魔法だ、ぜったい魔法使って入って来たんだ)
 
245 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/06/26(日) 20:53:21.53 ID:MoorvJR70

※とりあえずはここまで※
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/27(月) 01:03:37.56 ID:cxeHZxJkO
毛布ww
王子のヘタレさを嘆くべきか、次姉の恐ろしさに戦くべきか…
247 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/02(土) 00:09:04.72 ID:WpDFpOFz0

※土日更新なしです、ごめんなさい…※

余談:留守番アニマルズの食事は王子による食材購入魔法を師匠の力で遠隔操作して解決
夢で毎晩野獣とお話ししています
いずれ閑話休題的に、獣しかいないお屋敷の様子も本当にちょっとだけ書くつもり…
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 01:05:31.00 ID:hosMemWaO
oh…残念
でもその設定に癒された
249 : ◆54DIlPdu2E [sage saga]:2016/07/07(木) 20:24:34.11 ID:puF4Wqry0

※お知らせ※
今週入ってから熱出してダウンしていました……回復してきたので近日中に復帰予定です
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