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末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)
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1 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/10/27(火) 21:30:58.33 ID:X6dTKHtI0
前スレ
末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」 (旧タイトル【BとYとK】)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426508868/
……の、続きです。あと少し、もうちょっとだけ、お付き合い願います。
本編投下は次回更新から
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1445949058
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/27(火) 22:57:12.16 ID:61O295tAO
立て乙おつ
最後まで応援してるぞ
3 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2015/10/28(水) 19:57:50.72 ID:V4U2EeR20
※取り合えず連絡のみ。投下は早くても明後日の予定です…すみません※
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/31(土) 02:21:24.66 ID:XtDHdxPAO
後日譚もあるのか
楽しみだー
5 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/01(日) 22:45:12.87 ID:Pxy8Pkbc0
久しぶりの、商人の家。
長姉「ただいま……」カチャ
家政婦「お帰りなさいませ、長姉様。今日はお早いのですね」
長姉「ええ、料理教室はお休みで、先生との打ち合わせだけだったから」
長姉「……みんなはお店?」
家政婦「今日は旦那様と次姉様が出ておられます。長兄様は材木屋さんにお出かけですよ」
長姉「そ、ま、普段通りね……」
…
商人の店。
長姉「ただいま、お父さん、次姉。お疲れ様」
次姉「あら、姉さん」
商人「おや長姉、お帰り……次姉、お客さんの少なくなる時間だから長姉と休憩しておいで」
次姉「いいの? ありがとう、お父さん」
長姉「近くのカフェにでも行く? 私がおごるわ」
次姉「おやおや珍しいこと」
…
6 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/01(日) 22:47:03.51 ID:Pxy8Pkbc0
近所のカフェ。
長姉「あー久しぶり、ここのカフェオレが好きなのよー」
次姉「お父さんがコーヒー苦手だから、うちでは専ら紅茶だものね」
長姉「……お父さん、今日も平常通りよね」
次姉「ん? なんのこと?」
長姉「明日帰ってくるんでしょ、末妹…達。もっとソワソワしているかと思ったわ」
次姉「平常心で迎えるつもりでしょう、あの子達は『友達に会いに行っただけ』だからね」
次姉「どっしり構えた父親を目指すとも言っていたし」
長姉「……」
次姉「……私達に気を遣っている部分がないとは言わないけれど」
次姉「お父さんはお父さんで、変わるべきところは変えようとしているのよね」
次姉「ま、それでも明日になったらさすがにソワソワが隠せないのがうちのお父さんでしょうね」
長姉「……くす」
次姉「ん?」
長姉「お母様がお父さんのどこを好きになったのか、わかるような気がして来たの」
長姉「お父さんって、いい人 よね?」
次姉「ええ、いい人ね」
次姉「お父さんと結婚できたお母様は、きっと幸せだったと思うわ」
長姉「……うん」
長姉「私達のお母様は、幸せに生きたのよね……」
……
7 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2015/11/01(日) 22:48:02.26 ID:Pxy8Pkbc0
※今回これだけ…※
一週間前から風邪で体調を崩し、予想より回復が遅くて滞っています、すみません…
良くはなってきたので、近いうちに復活します。たぶん…
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/02(月) 00:21:03.48 ID:c/mSKMtAO
乙 このお話は家族の物語でもあるんだよな
>>1
はとりあえず安静にしてなっせ。のんびり待ってるから
9 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/03(火) 22:53:54.93 ID:Oq+YyCeJ0
商人の店。
長兄「ただいま父さん……材料調達は無事にできそうだよ、喜んで話に乗ってくれた」
商人「お帰り長兄、ありがとう」
商人「これで、長姉の嫁入りにはお前がデザインした衣装箱を持たせることができるよ」
長兄「……本当に、俺みたいな素人に作らせていいのかな?」
商人「お前が手掛けるのは装飾部分の彫刻だけ、本体の組み立ては工房に頼むから実用には全く問題ないさ」
商人「何より、長姉自身が望んだんだ」
長兄「……全く、俺だって暇人じゃないのに、本業の傍ら婚礼までに仕上げろなんて」ヤレヤレ
商人「嬉しそうな顔して何を言うか」
長兄「ははは、実は楽しみなんだ、趣味の木彫だけどそんな大物は初めてだし」
長兄「……引き受けると返事した時のあの娘の喜びよう、小さい頃と同じ顔で」
長兄「あいつだって、俺の可愛い妹だよな、って久しぶりに…その気持ちを思い出した」
商人「……」
商人「酒を飲みながら嫁に出したくないと口を滑らせた私の気持ち……少しはわかるかい?」
長兄「……うん」
長兄「同じ町の中で、子供のころから知っている奴の所へ嫁ぐにしても……寂しさは、あるよ」
商人「ああ、長姉と同じ家で過ごせるのもあと1年もないかもしれんが……」
商人「悔いのないように、父として兄としてあの子への務めを果たし、晴れて花嫁として送り出そう」
長兄「ええ、父さん」
長兄「寂しいけれど、長姉と仲直りができて本当によかった、そして長姉が自分の幸せを見つけてくれてよかった」
長兄「早く、次兄と末妹にも話してあげたい」
商人「そうだな……」
商人「明日は皆で、誰一人欠けることなく、あの二人を出迎えよう……」
…………
10 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/11/03(火) 22:54:30.29 ID:Oq+YyCeJ0
※ごめん、これだけ…なかなか体力が戻りませんで…※
とりあえず、帰還前の自宅サイドはここまで。
今後はまた屋敷サイド、そして帰還、ちょこっとエピローグ…
…おおまかに、こんな予定です。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/03(火) 23:49:08.20 ID:HKN3T21AO
本当にあとちょっとなんだな…つらいぜ…
そして
>>1
は無理ダメ絶対
暖かくしてしっかり休んでくれ
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/06(金) 04:21:53.73 ID:F9VDxIYAO
ゆっくり気長に待っとるの
一さん お大事に
13 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/06(金) 22:46:06.91 ID:wellT1Sb0
野獣の屋敷、次兄の客間…
末妹「お兄ちゃん、荷物はまとまった?」
次兄「うん、元々たいした物は持ってこなかったから。お前は?」
末妹「ドレスとオルゴールの分、ちょっと荷物が増えたけど、大丈夫」
次兄「荷物が増えると言えば、例の鏡も忘れずに持ち帰らないとね」
末妹「そうね、馬車には割れないように積まなきゃ」
次兄「今夜にでも用意してくれるって、菫花さん言ってたけど……」
メイド「末妹様、こちらにいらしたんですね」ピョッコリ
末妹「メイドちゃん、何かご用?」
メイド「あのですね……末妹様のお家の家政婦様に、これを渡してくださいませんか……」スッ
末妹「封筒? お手紙かしら」
メイド「ええ。でも私、字が書けないので菫花様に代筆していただきました」
メイド「バスケットの事とか…お世話になったお礼です、短いお手紙なのですぐ読み終わると思いますが」
メイド「あと、私が見つけた四つ葉のクローバーを押し葉にしたものを同封しています」
末妹「幸運のお守りね」
メイド「……葉っぱが大きくて形が良くて、それはそれは美味しそうなクローバーでしたが……そこをグッと堪えて……」
次兄「メ、メイドさんが食欲を自制しただと!?」
末妹「メイドちゃんの『本気』が伝わってくる(ような気がする)……」
末妹「よくわかったわ、その真心、間違いなく家政婦さんに伝えるから!!」メイドノマエアシニギニギ
メイド「お願いします、ありがとうございます!」
メイド「……家政婦様が親切なかたで、本当によかった」
メイド「いきなり現れて、おまけに喋るウサギが普通でないことは私にもわかります、それなのに」
末妹「メイドちゃん……」
メイド「きっと、末妹様達を心から信頼されているから、私のこともすぐに受け入れてくれたのだと思いますよ」
次兄(それだけじゃないな、俺の勘では彼女、クールビューティーに見えて意外と可愛いもの好き)
末妹「そうよね……」
末妹「……不思議な体験に理解を示してもらえるって、本当にありがたいことだと今になって思うわ」
末妹「帰ったら、私からも改めてお礼を言おう……」
……
14 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/11/06(金) 22:47:12.68 ID:wellT1Sb0
※
>>11-12
ありがとうございます。
お陰様で体調は良くなってきましたが、なかなかペースは戻らず、すみません…※
次回は来週のどこかで、たぶん。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/07(土) 01:43:37.81 ID:OdlBn8sAO
乙
お大事に
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/08(日) 17:40:33.13 ID:bt9RhF1AO
超有能家政婦さんをしてもケモナーの目は欺けない
次兄…恐ろしい子…!(白目)
17 :
◆54DIlPdu2E
[sage]:2015/11/10(火) 21:33:37.11 ID:OSjYUVKD0
※おしらせのみ※
風邪のようなものが9割治ったと思ったら、リアルの事情により週末まで無理そう…ごめんorz
最低でも金曜日まで更新できないです
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/11(水) 02:27:30.49 ID:3SSNc+9AO
快気祈願に描いてたんだが治ったようで何より
でも病み上がりで無理は禁物
http://m1.gazo.cc/up/24557.jpg
次兄は屋敷でなら寝込むのも悪くないかもとか思ってそう
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/16(月) 00:33:22.20 ID:Wv/mPQZAO
ただ忙しいだけで、ぶり返してダウンしてるとかじゃなきゃ良いんだが
病弱な
>>1
は次兄である可能性が微レ存…?
20 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/11/16(月) 22:34:57.53 ID:SRxT/MKH0
>>18
本当にありがとう、微妙に嬉しそうな表情の次兄がw
周囲で心配している皆も可愛いよぉぉ
体調は9割9分回復したけど、忙しい事情が続いているのでorz
今週、せめて1レスだけでも更新したいぜ…
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/19(木) 00:56:26.85 ID:4eMX2nPAO
>>1
が元気ならええんよ
待ち焦がれるのもまた一興
http://m1.gazo.cc/up/24744.jpg
22 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/11/20(金) 23:04:54.09 ID:y7R3pQBL0
今週末はやっぱり無理だった…でも見通しだけは立ちました
来週末〜再来週で少し更新します
>>21
ありがとう! 相変わらず細部がなんとも「らしくて」嬉しい
23 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/29(日) 00:01:53.05 ID:SV0bJE2A0
野獣の屋敷、師匠の自室。
師匠「ふむ、あの子達に渡す鏡か」
王子「ええ、これです」
師匠「どれ、小さいがいちおう鏡台になっているのだな」
師匠「ガラスの鏡だが、枠も覆いもしっかりした木製だ、これなら馬車の揺れ程度では割れる心配もなかろう」
師匠「それに若い娘の部屋に置いてもさほど違和感のないデザイン」
師匠「お前にしては気が利いている」
王子「……野獣と話をしたくて、お茶会の後にひと眠りしたんですよ」
王子「『いくらでも余っている客間のひとつに据え付けではない小ぶりの鏡台が置いてあるから、それを使え』と」
王子「聞いてよかった、僕ならあの子の部屋との調和も考えずに、こんな鏡を渡す所でした」
王子「これも使わない客間にあったものですが」コトッ
派手な飾り付きの鏡:ゴテゴテギラギラー
師匠「……確かにこれも女性が使う鏡だが、なんというか…少なくとも清楚な少女の部屋には似合わんな」
師匠「いかにもな成金のマダムが使いそうな、と言うべきか」
王子「……やはりセンスが悪いですよね、僕って」ハァ
師匠「お前が図書館の娘に送ったドレスは、なかなか趣味が良かったのにな」
王子「…………あれは、彼女が好きだと言っていた色だけをこちらで指定して…デザインは仕立屋まかせです」
師匠「そうか、しかしあの明るい青は彼女の黒髪によく映えておったぞ」
王子「……そう言えば、師匠」
師匠「うん?」
24 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/29(日) 00:03:43.67 ID:SV0bJE2A0
王子「彼女には舞踏会の招待状を受け取ってからを夢と思わせたにしても、実物として存在するあのドレスは?」
師匠「うむ……」
師匠「証拠隠滅のために我々が没収する手もあったのだが、それも……どうにも忍びなくてな」
王子「師匠」
師匠「わ、儂ではないぞ!? 魔術師ギルド唯一の女性幹部、面識くらいあっただろ、主に彼女が強く反対して!?」
師匠「……検討の結果な……王子は魔術師ギルドに通うための私服を、自分の小遣いで新調しようとしていた」
師匠「が、そこで王子は何を間違ったのか、仕立屋に女性物のドレスを発注してしまい」
師匠「届いた現物を見て自分のミスを知った王子はさんざ悩んだ挙句、『どうしよう、返品は店に迷惑がかかるし』」
師匠「『それに父上母上にバレたらどうなるやら、頼むから娘さん引き取ってくれ』と」
師匠「必死に頼まれたあの娘は、やむにやまれず……というストーリーの暗示をかけてやった」
王子「」
師匠「他ならぬお前ならばさもありなん、というエピソードだろう?」
王子「……娘さんも、それを信じたのですね……」
師匠「誕生プレゼント、世話になっている感謝のしるし、他にも案は出たが」
師匠「間抜けてほほえましい思い出の方が負担にはならぬと思うのだが?」
王子「間抜け」
王子「……そうですね、本来、死をもって償うほどの過ちを犯した僕です……」
王子「彼女が王子という人間を間抜け程度の認識で済ませてくれるように図ってくださったのは、感謝こそすれ恨むのは筋違い」
師匠「少しは恨んでいるかのような言い草だのう」
師匠「……」
師匠「儂は、あの娘が図書館の仕事を辞めた後」
師匠「結婚して一人目の子供が生まれた頃までを直に見届けた、何度か会って話もした」
師匠「夫となる男の求婚を受け入れてから、あのドレスは処分しようかと思ったそうだが、それを男に止められたそうだ」
王子「……?」
25 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/11/29(日) 00:05:30.46 ID:SV0bJE2A0
師匠「不思議に思うか?」
師匠「男は娘にこう言ったそうだ」
師匠「『ドレスに纏わる思い出、生まれて初めて好きになった異性への想い、それもひっくるめて君という人間』」
師匠「『君をまるごと引き受ける覚悟で求婚したのだから、全て抱えて自分の元に来てくれ、捨てるものなど何もない』」
師匠「……こんな台詞、儂などは脇腹が痒くなって来るのだが」ボリボリ
師匠「その言葉があの娘には本当に嬉しかったと……」
師匠「…………何を泣いておるのだ?」
王子「彼女の夫と言う人は、心から彼女を、愛していたのですね……」グシュ
王子「本当によかった……いい人に巡り会えて」グシュグシュ
師匠「ふむ……」ボリ
師匠「あの娘はどうにか幸せな家庭を持てた、お前ももうちょっとまともな生活を送れるようになったら」
師匠「新しい恋でも探してみてはどうだ?」
王子「……」
王子「……彼女は何年もかけて自分を想ってくれる人を受け入れました」
王子「僕の人生の時間はまだ彼女を『失って日も浅い』のですよ?」
師匠「だからそんなこと考えられもしない、か」
師匠(ま、そうだな、いつか)
師匠(あの娘を愛した思い出ごと、お前という人間を引き受けてくれる女性が現れたら……)
師匠「……うむ」
師匠「先の話だな。まだまだ遠い未来の……な」
……
26 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/11/29(日) 00:06:16.07 ID:SV0bJE2A0
※お久しぶりでした。日付変わっちゃった…今回はここまで…※
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/29(日) 01:30:26.32 ID:CGg3T53AO
乙
なぁに、月曜始まりのカレンダーなら週末だから問題ない
28 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/12/01(火) 23:10:09.87 ID:YIZjN2C+0
※リアルが立て込んでいて…次回は早くて来週月曜日です…ごめんなさい※
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/03(木) 19:56:41.38 ID:XiNozduAO
待ってるよ
30 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/07(月) 23:42:53.31 ID:srTKJsSq0
夕食後、次兄の客間。
次兄「では、帰宅までのスケジュールを再確認しまーす」
末妹「はーい」
次兄「菫花さんから受け取った鏡はこれです」
末妹「はい、確認しました」
次兄「その他、各自の荷物は夕食前にチェックを済ませたのでヨシとします」
末妹「はい、問題ありません」
次兄「で、入浴と就寝はいつも通り、これもいいですね?」
次兄「次に就寝後ですが」
次兄「野獣様ともしばしのお別れ。どんな形になるかは野獣様次第……」
末妹「……はい」
次兄「……と思ったけど、今夜くらいこちらからお願いをしてみようではありませんか」
末妹「え?」
次兄「まず天井を見上げて…っと」
次兄「野獣様ー、今夜はまず俺達二人いっぺん、それから末妹とじっくりデートしてあげてくれませんかー?」
末妹「デ」
末妹「でででデートって、ううんそれより、お兄ちゃんは私と一緒でいいの!?」アワワ
末妹「お兄ちゃんだって、野獣様にお話ししたい事が……」
次兄「お兄ちゃん『だって』」
次兄「…末妹にはあるんだろ? 野獣様に今夜のうちに話したい事が」
次兄「俺は野獣様に『今回』話をしたい事は全部話せたから……」
次兄「次回ここに来るまでに、また話したい事をいっぱい溜め込んでおきます」
次兄「それに、溜めに溜めた末に一気に放出するのも、それはそれで気持ち良いもの」グフフ
次兄「おっと、一つ間違うと精神衛生上に問題をきたすので、お勧めはしませんよ」チッチッ
末妹(後半は何を言っているのかよくわからないけど)
末妹「……ありがとう、お兄ちゃん」
31 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/07(月) 23:44:24.65 ID:srTKJsSq0
末妹「今のお願いを聞いてくださったかはわからないし、聞いてくださっても最後に決めるのは野獣様だけど」
末妹「帰る前にもう一度、ふたりだけでお話ししたかったから……お兄ちゃんのその気持ちが嬉しいの……」
次兄「……」ジワ
次兄(っ、やばいやばい、何の涙だこれは!?)ゴシィ
次兄「次、夜が明けたら朝です! 起床は6時半!!」ビシィ
末妹「はっはい!!」シャキーン
次兄「…まあ朝食まではいつも通り…だけど料理長さんのごはんはしばらく食べられないから」
次兄「いつも以上に心して美味しく味わい感謝して、いただきましょう」
末妹「はい」
次兄「食後の歯磨きが終わったら洗面用具も用済み、旅行鞄を完全に閉じたら、本格的な帰り支度」
次兄「…馬のチェックは末妹に任せます」
次兄「俺はその間に荷物を馬車に積み込むから、俺に触られても構わない荷物は廊下に出しておいて」
末妹「え、でも」
末妹(お兄ちゃんに力仕事してもらうのは…なんだか…)
次兄「気が引けるかもしれないけど、お願いだからたまには頼って。兄ちゃんに遠慮しないの」
次兄「大丈夫、無理な事なら最初から言わないからね、俺」
末妹(他の事では何かとお兄ちゃんに頼ってばかりだけどなぁ)
末妹「わかった。お願いします、ありがとう」ニコ
次兄「…うひひ」ニカ
次兄「で、荷物を積んだらいよいよ出発です」
末妹「……はい」
次兄「皆さんで見送ってくれるそうなので、真心はありがたく受け取りましょう」
次兄「お互い笑顔でお別れしよう、ね?」
末妹「うん、また…きっと……ううん絶対、会えるから、会いに来るから……」
…………
32 :
◆54DIlPdu2E
[sage saga]:2015/12/07(月) 23:45:45.69 ID:srTKJsSq0
※お久しぶりです、割とまともっぽい次兄でした。とりあえずここまで、次回は近日中(たぶん)※
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/08(火) 00:47:51.55 ID:wJFAvFVAO
お久しブリッツ
この兄妹の作戦会議は本当にかわいい
34 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/11(金) 00:05:00.22 ID:t40CHnQU0
その夜……
(野獣「……次兄……」)
(次兄「…んぇ?」)
(野獣「次兄よ、こんばんは」ニコ)
(次兄「え……?」キョロキョロ)
(次兄「あれ、俺ひとり?」)
(次兄「野獣様、お願いやっぱり聞いてなかったんですね?」)
(次兄「って言うか、一応は最後の夜なんだからもっと末妹に時間を割いてあげてくださいよ」)
(野獣「お前のお願いならちゃんと聞いていたぞ」)
(野獣「その上で、最初にお前一人を呼び出すことにした」)
(野獣「……気になる涙だったからな」)
(次兄「……」)
(次兄「そんなにレアではないと思いますよ、俺の涙」)
(野獣「ああ、まるで冗談のように溢れ出る、ふざけた涙ならば見た事ある」)
(次兄「いつだって割と真剣に生きているのにひどい」ブワァ)
(野獣「ほら、今も」)
(野獣「……あの時は末妹に見つかるまいと慌てて拭っただろう、見ていたぞ?」)
(野獣「なぜ泣いたのだ?」)
(次兄「……野獣様は俺の友達。末妹は俺の妹」)
(野獣「ん?」)
(次兄「ふたりが仲良くしているのは友として兄として喜ばしいことだし」)
(次兄「お屋敷に戻ってからの二週間、俺は何ひとつとして、失ったものはない」)
(次兄「……なのに……野獣様と末妹の間には」)
(次兄「他の誰も、俺でさえ、どうあっても入り込めないふたりの世界が…いつの間にか出来ている……」)
(野獣「次兄……」)
35 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/11(金) 00:06:45.29 ID:t40CHnQU0
(次兄「……へへ、我ながら何言ってんでしょうね?」)
(次兄「己の夢を叶えるになるため、妹と離れて家を出ると宣言した兄なのに」)
(次兄「妹がどんどん大人になって行くのは寂しいとか」)
(次兄「野獣様にとって俺はどういう存在か、じゅうぶん身に沁みているのに、改めて思い知らされると悲しいとか、身勝手な……」)
(野獣「…………私にとっての『友』という存在では、やはり不服か?」)
(次兄「……」フルフル)
(次兄「人生における初恋の相手が基本的に一人しかいないのなら、初めての友達だって唯一無二の存在」)
(次兄「野獣様が俺にとってのそれであり、俺もまた野獣様のそれであると思ってもらえるのは名誉以外の何物でも……」)
(次兄「……………………」)
(野獣(黙ってしまった、また泣くのではあるまいな??)オロオロ)
(次兄「……うへへ、そう考えたらやっぱり俺は幸せ者ですね」ニパ)
(次兄「俺の涙なんて子供じみた独占欲の現れですよ」)
(次兄「いっぽう野獣様との出会いをきっかけに末妹は少しずつ一人前の淑女へと成長しつつある、今この時も」)
(次兄「俺も大人に、真の意味での紳士にならねば」)
(次兄「頼りないままでは美術学校を父親に認めてもらうのも困難ってものですよ、ねえ?」)
(野獣「……焦って早足で大人にならんでもいいのだぞ、しかし、私に言わせれば、お前は立派な……」)
(野獣「……」)
(次兄「ん? 『立派な』何ですか、野獣様?」)
(野獣「……うむ、立派な、変な奴だ」ニッ)
(次兄「わーい(棒)、なんとなくそんな予感はしていましたー」)
(野獣「ふっ、冗談だ。すまんな、ふふ……」)
(次兄「むー、野獣様ったら、お茶目さんなんだから!」)
(野獣「ははは……」)
36 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/11(金) 00:07:44.22 ID:t40CHnQU0
※今夜はここまで。イチャイチャ回(違)。うーむ、最近は2レス程度ずつしか投下できません…※
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/11(金) 03:02:49.15 ID:pTBoMmNAO
乙ー
38 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/13(日) 23:10:34.83 ID:ChTzkDMw0
(野獣「さて、末妹も呼ぼうか……」)
(次兄「いつもどうやってこの夢の世界に俺達を呼び出しているんですか?」)
(野獣「ああ、今からやって見せよう。まず、私の指で『仮想の窓』を開く」シュパ)
(次兄「おお、まるであの銀板鏡みたいなものが空中に」)
(野獣「これに、ここへ来て欲しい者の姿を映し出し、呼び掛けるだけだ」)
(野獣「……さあ、おいで、末妹……」)
(次兄「あ、『鏡』が少しずつ薄くなって消えて行く、いや、代わりに目を瞑った末妹の立ち姿に……?」)
(末妹「……」フワーン)
(次兄「末妹が宙に浮いてるうううう!?」)
(野獣「声が大きい、お前も覚えていないだけでいつもこうやって出て来るのだぞ?」)
(末妹「……」ストン)ユルヤカニチャクチ
(末妹「野獣様……?」パチ)
(野獣「こんばんは、末妹」ニコ)
(末妹「野獣様、こんばんは」ニコリ)
(末妹「……そして、お兄ちゃん」)
(次兄「おいっす」)
(野獣「二人とも、帰還のための旅支度は万全なようだな、すっかり旅慣れたものだ」)
(野獣「お前達と知り合ってから一ヶ月と半月以上…二カ月近くが経とうとしているが……色々な事があったな」)
(末妹「……ええ」コクリ)
(次兄「なんか振り返ると、この間に一生分の大冒険をしちゃった気分ですよ」)
(野獣「ふふ、私もだよ」)
(末妹「冒険、確かにそうですね」)
(末妹「私、野獣様と出会う前より…ずいぶん強くなった気がします。冒険物語の主人公のように」)
(次兄「……ま、まさかお前も素手で薪が割れるようになったのかっ!?」アワワワ)
(末妹「そうじゃなくて」)
(末妹「心の話、心の強さの話よ」)
(野獣「……お前は私と知り合う前から強い子だったよ?」)
(野獣「父親の身代わりに自ら怪物の住処に飛び込んでくる女の子など、そうそういない」)
39 :
◆54DIlPdu2E
[saga]:2015/12/13(日) 23:12:24.35 ID:ChTzkDMw0
(末妹「…私、あの頃はきっと何もわかっていなかった、怖いもの知らずの子供なだけだった、と思います」)
(末妹「それに、前より強くなったと言ってもまだまだですよ、私なんて」)
(末妹「もっと……例えば、次姉お姉さんのように強くなりたい」)
(次兄「や、やはり目指すは剛腕系女子なのかっ!?」)
(末妹「お姉さんの強さは…確かにそっちも強いけど…本当は別の所だと思う」)
(末妹「私の事も守ってくれたのもそうだし、部屋に閉じこもった長姉お姉さんの事をずっと支えていたのも」)
(末妹「うまく言えないけど」)
(末妹「……まるで、私の事を命がけで産んでくれたお母様みたいな、そんな強さ……」)
(野獣「末妹……」)
(次兄「でもさ、以前はそんなんじゃなかっただろ?」)
(次兄「派手好きな浪費家で、お前や俺への態度もツンのみで」)
(次兄「姉さんも色々あった中で、変わって行ったんだと思う……今の方が本質なのかもしれないけど……」)
(野獣「以前の次姉とやらは私はよくわからんが、その本質を引き出した……思い出させた、かな」)
(野獣「それは末妹や次兄の存在があってこそだ、いや、お前の家の者、皆がそうかもしれん」)
(野獣「……羨ましいな、家族とは良いものだ」)
(末妹「野獣様だって素敵な家族と一緒ですよ」)
(末妹「執事さんも、料理長さんも、メイドちゃんと庭師くんも……」)
(末妹「お屋敷の皆さんがいたから、野獣様は長年のひとりぼっちから抜け出せた」)
(末妹「皆さんは野獣様を支えて、野獣様は皆さんを守って、このお屋敷で」)
(野獣「家族……」)
(野獣「ああ、そうだな。あの者達は私の大切な家族だ、紛れもなく……」)
(末妹「そして、今は…師匠様と菫花さんも」)
(野獣「……うむ、叱咤激励(時には罵倒)してくれる父親と、成長を見守って行く…なんだろうな、弟のような、息子のような…?」)
(末妹「ですから、家族の皆さんのためにも、野獣様はお元気でいてください」)
(末妹「私達が家に帰っても、寂しさのあまりご病気になったりでもしたら、叱りに来ますからね?」)
(野獣「ふふふ…末妹も言うようになったではないか」ナデナデ)
(末妹「えへへ…」)
(次兄「お、俺もそんなことになったらペロペロしに来ますからねっ!?」)
(野獣「う、うむ、次兄は相変わらずだな」ワシャワシャ)
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