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魔王「死ぬまで、お前を離さない」 天使「やめ、て」
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395 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/06/25(土) 21:33:18.57 ID:6Endy8Rh0
―――――――――
天空宮殿 天守閣
近衛「人間世界は、上の神、下の魔――そのどちらからも逃れ、丸く転がり続ける球の表面でひっそりと生きています」
戦神妃「そん、な? 世界からの離別だと…? そんな。それでは、まるで・・・・・・」
魔王「父君と魔物による全体侵略。地表の全体に魔素が充ちていた……くく。我ながらド派手な大仕事だったがな」
戦神妃「地表は焼き尽くされたのではなく・・・」
近衛「引き剥がされたのですよ。陛下の、魔素を操る御業によって」
戦神妃「そんな、強引で荒い方法で。一歩間違えば、滅亡ではないか」
魔王「……滅亡したならその時はその時だ。元々は父君の侵略戦争・・・滅びるはずの物だった」
戦神妃「なぜ? いったい、なぜそんなことを? 何が目的だった?」
魔王「………――」
近衛「……目的など知りません。ですが陛下はおっしゃいました。『お前自身が、代価となれ』と」
戦神妃「お前自身が…代価…?」
396 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/06/25(土) 21:35:00.94 ID:6Endy8Rh0
近衛「自分は、自分の世界を買ったんですよ。自分自身と引き換えに」
近衛「――”勇者”の存在と引き換えに、この世界を守ってくれと願い出た」
近衛「自分はこの若き王に仕えることでしか、あの世界を守る事が出来なかった無力な勇者」
近衛「魔王と交渉して世界を守ってもらう勇者なんて。どこの冒険譚でもみたことがありません」
戦神妃「だが、そもそも侵略してきたのも魔族だろう!?」
近衛「ええ。そして、自分を勇者などにして人間世界侵略戦争の原因を作ったのは――貴方です」
戦神妃「――ッ それは! 違う!勇者を作ったのは、確かに人間世界の平和のため…!」
近衛「救いも絶望も一方的に与えられる不条理から、陛下は解き放ってくださった」
近衛「だから、自分は生涯を捧げると約束した」
近衛「今の僕にとって、神もあなたも―― 正直、目障りです」
397 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/06/25(土) 21:35:26.15 ID:6Endy8Rh0
戦神妃「絶対の聖たる神に、なんという…! それまでニンゲン世界を導いていたのは誰だと思っている!?」
戦神妃「幾多なる内紛、種族同士での殺し合い、その全てに我々は無限の愛をささげてきた!!」
近衛「………無限の、愛…ですか?」
戦神妃「そうだ! 神はヒトの全てを愛し、見守ってきた! 決してお前と敵対する存在ではなかった!」
魔王「……愛、ねぇ」クク
近衛「愛情・・・感じたこと、あったでしょうかね」
戦神妃「な……」
魔王「世界は広い。さしづめ、よく見もせずに天からばら撒いていたのでは?」
近衛「土に肥料をまくようにですか? 博愛だなんて言って、『薄愛』なんですね」
魔王「ククク。神の愛情とはかようなものか。勉強になった」
398 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/06/25(土) 21:39:59.93 ID:6Endy8Rh0
軽口をたたきながら、近衛と魔王が戦神妃を挟み込む。
縋るとも憐れむとも言えない目で近衛を見上げてくる戦神妃。
そして、うつろに絶望を浮かべた蒼白の顔で、一言。
戦神妃「魔王…… 私は。 神は…決してそんな存在では……」
魔王「―――その表情。演技ならば、見事だった」
前から、魔王の刀が。
背後からは、近衛の剣が。
戦神妃「――ああ…魔王、君が私を信じられないのは……私たちの、最大のあやま……――」
―――ド゙シュッ………
剣と刀が同時に突き刺さり、戦神妃はゆっくりと瞳を閉じた。
貫いていた刃物を胴から抜きはらわれると、ドサリと臥して動かない。
399 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/06/25(土) 21:41:54.71 ID:6Endy8Rh0
戦神妃は、確かに強い力を持っていたようだ。
死後に体内から抜け出ようと溢れる浄気はとどまるどころか勢いを増していくばかり
。
獣王たちや亀姫は、浄気にあてられ苦しそうに身をよじっている。
亀姫「……なんて気力ですの… っ、これでは…っ」
魔王「…………」
近衛「陛下・・・?」
魔王は、戦神妃の最後の言葉に気を奪われていた。
あんな最期の最期まで、演技を続ける必要があったのだろうか……
亀姫「っ、陛下。どうかお願いです…これ以上は、皆の身体に障り動けなくなりますわ!」
魔王「――……」
亀姫「陛下… どうぞ、帰りましょう? 私たちの穏かな日常へ……」
魔王「――ああ」
400 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/06/25(土) 21:43:23.43 ID:6Endy8Rh0
亀姫の言葉に素直に従ったのは
責任逃れにすぎなかったのかもしれない。
判断が正しかったのか、自信が持てない。後味の悪い勝利。
だが、いまは一刻も早くここを離れる必要がある。
魔王たちが部屋を立ち去って、しばらくの後。
聖骸の首と、戦神妃の躯を並べ、その横に力なく座り込む影が一つあった。
神従者「………間に合った…っ」
手を合わせ、声を震わせて 胸の前で刻んだ十字。
神界に残るは、ただ彼一人。
鎮魂の歌を捧ぐ彼の心象を知るものなど いるはずもなかった。
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/25(土) 22:31:18.49 ID:RCGlaGXXo
待ってた
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 06:09:58.85 ID:pegDr1EVo
乙
待ってた
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/06/26(日) 06:21:43.86 ID:YCQPnyrfo
乙ー
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/06/26(日) 17:45:20.80 ID:QrUUq2IHO
おつー
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/07/22(金) 22:01:18.96 ID:1GjiMdXjo
あげ
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/07/23(土) 01:19:54.04 ID:56hbDDO0o
下げ
407 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/08/12(金) 09:30:51.16 ID:0zkY4LHl0
―――――――――――――――――――――――――
天空宮殿・雲上
近衛「――陛下。ここからの帰路なんですが…やはり来た時の大穴をまた降りるのでしょうか?」
近衛の言葉に、魔王が振り向く。
見ると、近衛の横では亀姫も同じように首をひねっていた。
いつのまにやらそうも仲が良くなったのだろうか、と
魔王は思わず言葉をかけそびれる。
亀姫「陛下でしたら、竜巻を作り上げて“巻き上げる”ことも、渦を用いて“落とし込む”ことも可能でしょうけれど…正直、その」
近衛「昇るよりも怖ろしそうですね」
亀姫「……怖ろしいというよりも。空に吹き上がるのではなく、地に叩き込まれるのですもの。……何名生きていられるかしら」
獣王「魔王サマ、どうすルつもりダ?」
獣王にうながされ、魔王はぼんやりと臣下たちの観察をやめた。
戦が終わったというのにどうにも後味が悪く、すっきりしない。
こんなふうにぼんやりとみているのがいい証拠だろう。
魔王は自分自身を軽くいさめると、皆に背を向けてから口を開いた。
408 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/08/12(金) 09:31:47.49 ID:0zkY4LHl0
魔王「…気付いていないのか。もう、降りはじめているのだが」
亀姫「え?」
魔王の言葉に、一同は周囲を見渡した。
景色は何も変わることはない。雲上ということもあり、空との距離すらもあいまいだ。
だが、風の流れの違和感などを観察していると、下降しているのを察する程度の事は出来た。
魔王「おそらく、この大地自体は植物と雲を神気によって固定化したものだ。神気はもともと浮力が強い。それをまとめておくことで、その上にある宮殿をも空中に滞留させていたのだろう」
亀姫「…この大地が落ち始めたのは、神が死んだからですのね」
近衛「土地の持つ神気の結束が弱っている…」
魔王「ああ。つまり、放っておいてもゆっくりと落下し、いつかは下に降りるだろう」
獣王「気の長イ話ダ…」
ため息を吐いた獣王に、魔王はククと笑いを零す。
軽く目を細めて怪訝にみあげてきた獣王の視線から逃れるようにして、魔王はくるりと背をむけた。
魔王「何、待ってやるつもりはないさ。魔素を打ち込んで神気の分解を促してやればいい」
近衛「分解を促す… と、いうのは」
魔王「クク。……神界のこの土地を、“物理的”に落としてやるのだよ」
近衛「それは一体――…
409 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/08/12(金) 09:34:30.15 ID:0zkY4LHl0
近衛の言葉を聞くよりも早く、魔王は片手をあげて魔力を収束させた。
無言のままで足元に連続で打ち込まれていく魔力弾。
吸い込まれるように地を抉り取るそばから、蒸気に似た白い煙が立ち上っていく。
メキメキと植物の裂ける音が足元で響き、獣たちが尾を立てて唸り始めた。
魔王「懸念の必要はない。余力のあるものは、俺に続いて打ち込め」
魔王の言葉に、最初に従ったのは亀姫だった。
小さな結界を作り、扇でそれを叩き付けるようにして地へと打ち込んだのだ。
――威力こそ小さいものだったが、亀姫がそれを無言で繰り返しはじめたのを見た他の魔族も、各々の方法で自らの持つ魔素を大地へと浴びせていく。
土地はメシメシと裂け、枝とも根ともわからぬ植物が断面から飛び出し、
しなやかに伸びてはブチブチと引き裂かれる。
それは、動物の持つ神経や血管にも酷似して見えた。
裂けて小さくなった大地は、落下を速めていた。
魔物たちの打ち込む魔力で、大地は数十に別れてはパラシュートのようにゆっくりと落ちていく。
魔王「……これくらいで十分だろう」
亀姫「あとは、着地を待つだけですわね。ふふ、戦の帰路が僅かに揺られる穏やかな時間だなんて、嘘みたいですの。まるで船旅のよう…」
魔王「……楽園を見つけられないままに、彷徨いおちる箱舟か?」クク
410 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/08/12(金) 09:37:10.94 ID:0zkY4LHl0
ふと魔王が上方をみやると、宮殿が浮いたまま残されていた。
魔王達のいる土地よりもずいぶんと高い場所
そこにいまだ大きい面積を残した大地があり、まるで何かあったことに気付いていないかのようにそびえたったまま残されていたのだ。
魔王「ほう。……あの城はよほど広く、根を張っていたらしいな。……ふむ」
亀姫「陛下、どうかなさいましたの?」
魔王「いや。天の… 神の在り方の根深さを、少し考えていた」
亀姫「…?」
魔王「根ばかり広げて…花を咲かせることを忘れては、惹き寄せられるものも惹き寄せられまい」
亀姫「花を……?」
魔王は掌にとりわけ大きな魔力をためると、上空の宮殿に向かって放った。
ボフ!!という、重さを感じる着弾音。
下から打ち上げられた土地が、胞子を吹きだす植物のように塊状の白煙を吹きだしてきのこ雲となり、爆ぜた。
亀姫「……確かに、花開くさまに見えなくはないですが…あれで何かを惹き寄せられるのですの?」
魔王「花開く前に枯れたのだ、もはやだれも寄り付かぬまい――」
亀姫「ではいったい、あれは…」
魔王「……意味などないさ」
霧散して消える花など、遠き日の隣人へのはなむけとは呼べないだろうから。
411 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/08/12(金) 09:38:46.79 ID:0zkY4LHl0
――――――――――――――
魔国――
魔王達が地に降りたつまで、二刻程もかかっただろうか。
ともあれ神界を無事に落とし切り、この戦を見事に乗り切ったのだ。
魔の土地を踏んだ魔物たちは、興奮冷めやらぬ様子でめいめいに騒ぎ始めている。
ようやく緊張がほどけたのだろう、魔王がいまだ傍にいるというのに 皆、落ち着きがない。
着地したのは魔王殿よりもやや離れた場所で、一同はそれぞれに歩を進めた。
魔族の中には、そのまま自らの領地へ戻るものもいる。
戦の終わりとは思えない散会の仕方に、近衛は苦笑しながら魔王の後ろを歩いた。
王殿の手前の庭にまでつくと、王の帰殿を待つ家臣の姿があった。
竜王「――お帰りを、お待ちもうしていた」
魔王「クク。お前はもう、俺の家臣ではないと言ったのだが」
竜王「知らぬようなら覚えてくだされ―― 主君に否定されたとて消えないものが、“真の忠義”というものじゃと」
魔王「―――クク。昔から、お前は説教くさくてたまらないな」
竜王「…………」
竜王の横を素通りする魔王の口許に、微笑。
頭を下げたままの竜王からは、安堵したかのような小さな溜息。
その様子を見ていた近衛と亀姫は、お互いに顔を見合わせて小さく笑った。
獣王は大きく伸びをしたかと思うと、ゴロリと転がって地に背をこすりつけていた。
魔王(………さて)
412 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/08/12(金) 09:39:37.39 ID:0zkY4LHl0
魔王は王殿にはいるなり、まず一番に自分の社殿へと向かった。
結界の中に閉じ込めてあるとはいえ、神が失せたとなればその影響は皆無ではないだろう。
魔王(…………)
しばしの間とはいえ、留守にしていた屋敷に 魔王は目もくれずに進んだ。
頭を垂れた使用人とすれ違ったような気もするが、よく覚えていない。
僅かでも歩を乱すことはなく、他に何を思うでもなく
気が付けばすでに大きな扉が目の前にあった。
焦っているような、落ち着き払っているような。
あるいは極度の緊張のあまり、心臓がとうに動きを止めてしまったような。
しかしそんな自分の状態にすら、意識を向ける時間は惜しい。
ゴゴギィと響く、重厚な開閉音。
暗い社殿の中に僅かな灯りが入り込む。
社殿の中にあった小さな蝋燭の灯のもとまで灯りが届くと、
魔王はそこでようやく、(ほぅ)と、気付かれぬ程度の安堵の息をついた。
天使「…………ぁ…」
天使が まだ、そこに居てくれた。
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/12(金) 12:24:03.35 ID:+Z6eg/cko
乙
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/12(金) 19:03:35.75 ID:eqOnn78Vo
乙
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2016/08/12(金) 23:49:01.18 ID:VD2ejsGho
乙ー
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/13(土) 18:43:30.28 ID:tL3WOkehO
おつ
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/16(火) 20:28:57.23 ID:JwSXkPgRo
∧_∧
( ´∀` ) ところでこのゴミ、どこに捨てたらいい?
/⌒ `ヽ
/ / ノ.\_M
( /ヽ |\___E)
\ / | / \
( _ノ | //⌒ヽ ヽ
| / / |( ^ω^)|
| / / ヽ( 神ノ
( ) )  ̄ ̄ ̄
| | /
| | |.
/ |\ \
∠/  ̄
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/17(水) 02:19:20.03 ID:EPIrDK/w0
追い付いた
気付いたらこんな時間だよ面白すぎるわ乙!
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/19(月) 14:28:22.16 ID:9Rt/3CdWO
乙
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/15(土) 15:58:12.20 ID:PVM404J4O
作者さん帰ってこないかな…
421 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/10/16(日) 07:09:12.26 ID:74rVU4Wb0
居る。投下の度の乙とか本当に嬉しく思ってる
板汚しかもだけどエタらせずに最後まで書く
ごめん、ありがとう、がんばるくまー
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/16(日) 07:42:17.50 ID:x0CRrBgr0
気長に待ってるからゆっくり書いてくれ
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/10(木) 00:07:25.82 ID:P9iS0ru4O
保守
424 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/11/29(火) 05:25:28.76 ID:5xuBUqSR0
天使「や……」
魔王はゆっくりと近づき、天使の様子を伺う。
久方ぶりの魔王の姿に怯える天使。
厭ましく思ってその姿ですら天使の無事を示している気がして、変わらずにいてくれたと喜ばしくすら思ってしまうほどだ。
魔王「……この影響ばかりは、わからなかったからな」
自嘲し目を逸らした魔王が、庭先の気配に気づいてゆるりと振り返る。
大きく開かれた門扉の向こうに、亀姫と近衛の姿が見えた。
二人は階からやや離れた場所まで来ると、僅かにジャリ、と砂石を踏みしめる音をさせながらその場に膝をつき、控えて動かない。
――動かないというよりは、動けないという風体の近衛の様子に、魔王が気付いた。
魔王「近衛。無事か」
近衛が息苦しそうに背中を上下させ、ぎゅっと胸元の石を握りしめている。
天使が魔王の言葉を聞き、
そこに近衛がいることを知って、バッと視線を門扉の奥へと向けた。
近衛の姿は、天使の位置からは見えない。
見えるのは魔王の背中と、階の踏板の一部、それから……
天使「あ……」
天から『雲が降っている』様子だ。
425 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:31:08.02 ID:5xuBUqSR0
天使(あれは…神界……っ!?)
魔王「近衛。神界でも無事に動けたお前が…なぜ、魔国に戻ってから苦しむ?」
天使(近衛様が、苦しんでいらっしゃるの…っ?)
次から次へと天使に知らされる急事。
天使は恐れと不安にガタガタと翼を揺らすことしかできなかった。
一方、問いかけられた近衛も声を発しようとするも、まともに音が出ない。
門扉の奥にいるであろう天使に元気な声を聴かせたいのに…と振り絞ろうとするも、吸い込むので精一杯で吐き出せるものがない。
近衛「……っ、は、」
魔王「……」
目を細めて近衛を見つめる魔王に返答したのは、近衛の横に控える亀姫だった。
亀姫「僭越ながら、私から申し上げさせていただきとうございます」
魔王「亀姫。……わかるのか」
亀姫「はい。現在、近衛には結界をかけております…。そのせいではないか、と」
魔王「結界…?」
426 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:32:10.47 ID:5xuBUqSR0
魔王「…神界から戻り魔国へと降りた際、浄気除けは外したのではなかったか」
亀姫「お忘れですか、陛下。近衛は…この者はニンゲンでございますのよ」
魔王「……」
亀姫「近衛の胸の御石。ニンゲンである近衛が、この魔の国で生きるための魔素の濾過装置と伺っておりますわ」
亀姫「この御石の弱点は、浄気…。神界においても、近衛にはこの御石のみに結界を張り守っておりました」
魔王「…それで?」
亀姫「…順序が狂いましたが、ここでご報告申し上げさせていただきますわ。現在、魔国全体の魔素の濃度が急激に下がっております」
魔王「……ああ。それはわかる」
亀姫「先ほど、私のところに医局から報告がございましたの。大気中の魔素の濃度の低下に伴って、国土中で頭痛や眩暈、呼吸困難などの訴えが上がっていると・・・」
魔王「では、近衛もそのせいで?」
亀姫「……近衛の場合、少し違います」
427 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:35:22.18 ID:5xuBUqSR0
亀姫「今、この国で急速に濃度を増している浄気から御石を守るためにかけている結界。その結界自体が、御石の濾過効率を弱めて呼吸困難をひきおこしているのです」
魔王「…では、結界を解いてやったらどうだ」
亀姫「結界を解き浄気を吸って生きるには、近衛にとってまだ浄気も足りず、魔素も濃すぎるのですわ…」
魔王「……混合した大気では、どちらを選ぶにしても生きるに足りないのか」
亀姫「陛下のお傍…この魔王殿の近くでしたら、まだ魔素も多く残っております。御石に少しでも多くの魔素を触れさせていれば多少の回復も見込めると思い、差し出がましくも連れてまいりましたのですわ」
魔王「魔素に触れさせる…か」
魔王「いや、あるいは…」
亀姫「……あるいは…?」
魔王(……天使と同じように… 魔素から離し、浄気の中で…)
魔王(……………天使と…ともに…同じ場所で…)
言葉を止めてしまった魔王。
だがいかに気になろうと、これ以上に先を促すのは失礼にあたる。
亀姫は魔王の言葉の先を考えつつも、かけられる言葉を探し、進言した。
428 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:37:46.25 ID:5xuBUqSR0
亀姫「……陛下。いかがなさいましょう。近衛の任を一時的に外していただければ、医局で近衛の身柄を預かることも可能かと」
魔王「………いや」
魔王「先ほどの話を聞くに、医局も房も手一杯だろう。『東の近衛』は王殿付きの者なのだからして、こちらで引き受ける」
亀姫「お気遣い痛み入ります。医局の者に陛下の御言葉を伝え聞かせれば、必ずや喜び、励みとなることでしょう」
魔王「……だがそれだけでは何の解決にもならぬ。――亀姫」
亀姫「……はい?」
魔王「亀姫。お前の守護結界は、どれほどの大きさのものまでを囲うことができる」
急な問いに、亀姫はやや首をひねりながらも返答する。
亀姫「……結界の使用時点で私自身が保持している魔素の量と、囲う物を囲いきるのに必要な結界の厚さによりますけれど……」
魔王「ふむ」
429 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:38:34.67 ID:5xuBUqSR0
魔王「問い改めよう。神界から降る雲のうち、霧散せずある程度まとまった大きさのあるもの全てを囲いたい。…どれほど必要だ?」
亀姫「な…!?」
魔王「どれだけの魔素がいる」
亀姫「……っ」
抑揚のない魔王の声に、本気で問われていることを悟った亀姫は
青い顔で、表情を曇らせた。
それからほんの数秒の間をおいて、深々と頭を下げて返答する。
亀姫「お、畏れ多くも申し上げます…。あれらは浄気の塊でございますわ」
魔王「承知の上だ」
亀姫「わ…私の体内に溜めおける魔素量が充足していたとしても、あれらを十かそこら封じた頃には魔素が枯渇して…結界を『維持し続けること』が難しいと思われます…」
魔王「では魔素さえ供給されれば、封じること自体は可能なのだな?」
亀姫「…ええ、左様にございます。魔素を集める術もあるにはあります。ですが、現在、魔国の魔素濃度は低下の一途にありますので…。そんなことをすればこの魔国の民への影響は計り知れませんわ!」
魔王「俺の持つ魔素を、お前に譲り分けてやろう。さすれば可能か?」
亀姫「……っ!?」
430 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:39:23.63 ID:5xuBUqSR0
魔王「神界で討った兵士共から、浄気が流れどこかへと吸い込まれていくのを見ていた。威力を持たぬただの気…。おそらくだが、地下にいたという神が吸収していたのであろう?」
亀姫「あ……陛下は、そのことをご存じで…?」
魔王「いや。神界の土地が吸収しているのだと思っていた。だが、地下に神がいたと聞いてから、そこに向かったのではと考えついただけだ」
亀姫「そうであらせられましたか…。ええ、神は浄気を地下の一か所に集め、それを放出する準備をしておりましたわ」
魔王「ふん…。まあいい」
魔王「あの浄気のように、魔力を乗せずに魔素のまま放出することができれば、おそらくお前もそれらを吸収することができるはずだ」
亀姫「ですが、そんなことをしては陛下自身のお力が!」
魔王「このまま浄気と魔素が混ざり合っては、相殺しあって“空”となった大気が充満するだけだ。そうなれば、最終的には俺とて無事では済まぬ」
亀姫「……」
431 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:39:57.92 ID:5xuBUqSR0
魔王「大量の魔素の供給と放出、そして結界の維持という能力のコントロールを同時にこなさねばならぬだろう。出来るか」
亀姫「……それは…」
魔王「無理ならばそう答えろ」
亀姫「…っ」
亀姫「出来る出来ないではございませんわ! 陛下の御身と御国のため、この亀姫、我が名と一族の誇りにかけて操り切って見せますの!!」
魔王「ふ……」
亀姫「陛下! どうぞその御力、私めにお譲りくださいませ!!」
魔王「………くく」
魔王「命を下すのもしのびないほどの苦行のはず。下手をすれば『生きた術式』とも化してしまうだろうに。まさか、“頼む”ことをする前に、おのずから申し出られてしまうとはな」
亀姫「私の身は、もとより陛下に捧げるはずのもの…。陛下の御為のなることならば、何も惜しいことなどございませぬ!!」
432 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:40:59.30 ID:5xuBUqSR0
亀姫の言葉を聞き遂げると、魔王はゆっくりと社殿の奥へと歩む。
背を向けたまま、低く、静かな声でゆっくりと言葉を紡ぎながら。
魔王「……ふむ。お前に言葉では敵わないと思っていたが……」
部屋の奥に立てられた一本の錫杖。
それを握り、高く持ち上げて引き出した。
魔王「今回ばかりは、お前の言葉にはひとつ間違いがあるようだ」
亀姫「……間違い…?」
魔王の歩くのに合わせ、厳かに鳴り響く金環。
その高らかな音色と、魔王の放ち続ける低い声音は
催眠術のように魔王の言葉を亀姫の心の奥深くに送り届けてくる。
433 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/11/29(火) 05:47:27.98 ID:5xuBUqSR0
魔王「お前を無くすのは俺が惜しい。主が惜しむからにはお前も惜しむのが正しいだろう。…決して軽んじてくれるな」
亀姫「………陛…下…」
視線を上げた亀姫は、いまだかつて見たことがない魔王の瞳に一瞬で魅せられた。
しかしその視線の交差を阻むように、錫杖の先が亀姫の眼前に突き付けられる。
ジャララン…!
ひときわ大きく鳴らされたその音が亀姫の耳に吸い込まれると同時。
魔王「必ず操り切って、その精神を保ち続けろ」
……っ――
目に見えるほどの高濃度の魔素が、一本の細い渦を巻いて錫杖の先からあふれ出す。
それはまるで獲物を襲い食らうヘビのように、亀姫の中へと潜り込み、体内を駆け巡っていった。
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/29(火) 06:38:24.23 ID:Exs0AkQNo
乙
待ってたでぇ
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/01(木) 17:54:47.47 ID:xouDugG3O
乙
数少ないオリジナル物だからね 決してエタらないでくれ
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/01(木) 20:14:45.54 ID:Ta50YPgIo
乙
うぉぉ続きが気になる!
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/01(木) 21:16:04.96 ID:LRBbeozQO
乙
待ってたよおおお
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/31(土) 21:53:39.38 ID:+UcxEnMwO
ほしゅ
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/10(火) 00:47:55.98 ID:GAbwTE1gO
乙乙
やっぱり女勇者が規格外すぎるだけで魔王も強かったんだな
大した事ないのかと錯覚してた
440 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/10(火) 00:48:45.21 ID:GAbwTE1gO
ごめん誤爆
441 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:47:40.52 ID:A9tED0Y40
―――――――――――
渦巻く魔素を飲み込んだ亀姫の瞳は、蛇のごとくに丸く瞳孔を開かせている。
溢れすぎる力に苦痛でもあるのか、亀姫はいつもの饒舌さを失ったまま、大きく袂をふるった。
亀姫「……っ、あ……ひとつ」
ヒュバッ…
風切音をさせ、袖から覗く細いしなやかな指先から魔力が放たれる。
細い糸のように伸びた魔力。
それは的確に空中の獲物…神界のかけらにぶつかると、ぶわりと膨張して飲み込むようにして雲を囲った。
魔王「……ほう…。これまでに見た結界術よりも、魔力に無駄がなく速い。……獲物に食らいつく蛇のようだ」
442 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:48:24.62 ID:A9tED0Y40
亀姫「……ふた…つ………っ」
今度は反対の腕を大きく広げ、別の雲を捉える。
振袖が舞い、髪が揺れる。魔力のコントロールのために滑らかに動く指先。
亀姫「みつ……よつ………っう、ぁぁ……」
亀姫「あ………。いつ…………むつ……っ」
数え唄を舞う亀姫の衣から、空へと放たれていく蛇と吐息。
愛でるように、撫ぜるように。獲物を捕らえ膨らんだそれを、抱くような仕草でひきよせ集めていく。
魔王殿周辺の大きな雲を囲いきると“霧散する浄気”は減り、周辺一帯はまた魔素の濃度を安定させた。
魔王「無事か」
亀姫「……は、い。陛下………」
魔王「苦しいのか。それともやはり負担が大きすぎたか」
亀姫「あ……。いえ…御力をだいぶ使うことで…頂いた直後よりは、だいぶ落ち着きましたわ」
魔王「呼気が乱れているし、すこしふらついているようだな。……大儀であった、しばし休むがよい」
443 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:52:51.79 ID:A9tED0Y40
魔王の許しを得て体の力を抜くと、いまにもその場にへたりこんでしまいそうだった。
どうにか身体を動かし、近くにあった大きめの庭石に手をかけて僅かによりかかる。
亀姫「私の体内で溜める魔素と、陛下からいただいたこの御力…。そもそもの濃度が違うようでございます」
亀姫「今はとても、その…。高揚からようやく醒めたような、不思議な気分ですの……」
魔王「ほう…?」
亀姫「私の魔力がどこからか湧き出て溜まる泉と例えるならば、陛下の御力はまるで熔けた鋼か銀のよう……」
亀姫「煮え立つあぶくが割れるごとくに私の中から勢いよく飛び出し、ほんの僅かに放たれたそれは冷めるようにかたまり、でもしなやかに伸びて……ああ、とても表現しきれませんわ」
魔王「他者の魔力とはそのようなものか」
亀姫「いいえ、きっと陛下の御力が特別で…………」
444 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:53:29.57 ID:A9tED0Y40
亀姫はチラと視界の端に写った近衛の姿に目をやった。
正確には、近衛が苦しげに握ったままの胸元の御石に意識をとられたのだ。
亀姫(……陛下の御力…血の結晶。はじめてそれについて近衛に聞いたときは、ほんのわずかに羨みを覚え、欲しいような気すらしたけれど……)
亀姫(硬くしなやかに私を穿った魔力も…放った力の残滓も、あんなものよりずっと陛下そのものに感じられて……)
身体に残る、苦痛めいた快感の余韻。
高揚し熱を持った身体がゆっくりと冷めていくのが、心地よいとも惜しいとも思う。
そんなことは、とても言葉にして伝えることなどできない。
445 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:54:47.01 ID:A9tED0Y40
歯切れ悪く会話を止めてしまった亀姫だったが
魔王はその先を促すことはなく、事務的に声をかけた。
魔王「して、どうだ。力は足りそうか」
亀姫「…維持をし続けるのに、出来うることなら一か所にまとめ、ひとつの大きな“浄気の牢”を作ったほうが良いかと思われますわ…。分散して結界を保つのは、消費も多くございます」
魔王「俺の社殿を使え。社殿そのものにも魔素が染み入っている分、結界も作りやすいだろう。…押し込めてしまうならば広さも十二分にたりるはずだ」
亀姫「……陛下。本来でしたら、陛下の社殿をそのように使うことは許されません」
亀姫「ですが…まだここから見える大きな神界のかけらを捉えることを思へば、私はその案に縋らせていただきとうございます」
446 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:55:17.17 ID:A9tED0Y40
魔王「ふ。どうした、素直になったものだな」
亀姫「社殿よりも、礼節よりも、陛下の御身を第一にお守りしたい私のわがままでございます」
魔王「………ああ。それでいい、構わぬ。捕えた浄気はすべて社殿へいれろ」
亀姫(……………社殿へ…)
亀姫は魔王の言葉を聞き遂げると、ゆっくりと目を伏せてから腕を伸ばし魔力を放った。
捕えた雲に細い糸が絡み、ピンと張りつめられ――
ビュルっ…ズバン!!!
大きな音を立てて、神界の雲は王殿の中へ吸い寄せられるようにして落とし込まれていった。
447 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:57:33.43 ID:A9tED0Y40
魔王「近衛」
呼び止められた近衛は、ハッと息を呑んで魔王を見つめた。
魔王「……近衛。おまえはその石を外して、社殿の中に入っていろ。中はすぐに浄気で満たされるはずだ…天界と同じように、すぐに動けるようになる」
近衛「陛、下…。ですが、この魔国の大事に自分ばかりそのようなこと…。それにこの御石を外すなどと…」
魔王「勘違いも甚だしいな。お前には任がある。中に入ったなら、異物を除去して社殿の外に出せ。石も、外さねばただの屑と化すだけだ」
近衛「それはそうですが…。あ、いえ。それよりも異物…とは?」
魔王「神界の雲だ。下層の樹木くらいならばともかく…上層の雲をいれれば神族の遺骸も混じりだすだろう」
近衛「っ」
448 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 10:59:35.56 ID:A9tED0Y40
魔王「社殿の中には天使がいる。……目に止まらせたくない」
亀姫(…………)
魔王の言葉に、また亀姫の心は揺れて、目を伏せさせる。
社殿の中に浄気をいれろと提案された時から気づいていた。
――それは魔王のためでも魔国のためでもなく、天使のためなのだと。
かき集めた、神界の浄気を集めた無数の球。
それらの全てを、たった一人の天使の為に捧げるのだ。
魔王は今も、天使の事を第一に慮って行動している。
魔王のために精神のすべてを研ぎ澄まさせて術を行使する亀姫の事は、本当は一体どれだけ魔王の心にあるのだろう。
449 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 11:19:47.81 ID:A9tED0Y40
近衛「……異物の除去とは、どのように行えばよろしいですか」
魔王「回復したのならば王殿の入り口近くに立ち、勢いよく放り込まれる結界を斬り破れ」
魔王「そしてその中から飛び出す異物だけを斬り打って、王殿の外に即時に排出しろ」
魔王「…外界から飛んでくる結界を打ち破り、王殿そのものにかけられている結界にまた閉じ込めるその一瞬の隙だけがお前に与えられる機会だ。くく、うっかりそれらにぶつかって死んでくれるなよ」
近衛「か…かしこまりました。かならずや成してみせます」
近衛は一瞬のためらいの後で首から御石を外すと、それを恭しく魔王に預けた。
もたつく足で階を昇り、開け放たれたままの社殿へ進んでいく。
450 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 11:20:41.05 ID:A9tED0Y40
魔王「…………」
近衛が社殿の中へ消えていくのを、魔王が見つめていた。
亀姫「………っ!」
――シュルッ………… ズバン!!!
雲を手繰り寄せる亀姫の術が、冴える。
叩き込むようにして、あらたな浄気を社殿へと封じ込んだ。
揺らめいた結界は大気を歪ませ、薄く青紫がかった結界が一瞬だけ視界を鈍くする。
魔王がわずかに反応し、小さく顔をそむけた。
亀姫(………近衛をみつけた天使。天使に出会えた近衛…。そんな姿など見たくはないはずですのに、なぜ……)
亀姫(………そんなもので…陛下の心を捕えられたくありませんわ…)
視界を遮ったのは誰の為だったか。
必要以上に勢いよく放り込んだのは、亀姫のやり場のない憤りそのものだったのかもしれない。
―――――――――――
451 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 11:21:21.36 ID:A9tED0Y40
それまでに捕えていた浄気をすべて王殿に封じ込めると、亀姫は自分の一族を呼び出し、結界の維持の任にあたらせた。
4人の女が社殿の四方を取り囲み、祈るような姿勢で結界の維持に取り組む。
亀姫「こうしておけば、私がここから離れて浄気を捕えに行っても安全でございますわ」
魔王「……安全?」
亀姫「さきほど私が捕えたのは今ここから届く範囲のものだけでございますゆえ」
452 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 11:22:11.22 ID:A9tED0Y40
魔王「……なるほど。ならばお前はどこまで離れるつもりなのだ」
亀姫「苦しむ民がいるのですから、魔国中へ参り、各所で浄気を捕えとうございます…。陛下、そのことでお願いがございますわ」
魔王「なんだ」
亀姫「各地に住む種族へ、浄気を一時的に封じる場所として強靭な建物を提供するよう、伝令を放っていただきとうございます」
魔王「……なるほど。いちいちこちらに運び込むのも労であるか」
亀姫「私の魔素が減耗したならば、陛下に魔素をいただきに戻りますわ。その際に、溜めこんだものをひとつづつ持ち帰ります」
魔王「いいだろう。結界術の行使は俺は専門外だ。すべて亀姫…お前の望むように手配しよう」
亀姫「ありがたきしあわせ……」
453 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 11:22:45.48 ID:A9tED0Y40
魔王「……願いはそれだけか?」
魔王が亀姫に向けた視線は、穏やかなものだった。
必要とあれば聞き遂げようと、亀姫の瞳をまっすぐに見つめている。
亀姫「……………願、い……」
優しい言葉は、亀姫の願いを聞き遂げるためではない。
天使のために出来ることを惜しまないという魔王の心の表れだ。
亀姫(…………っ)
454 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2017/01/19(木) 11:23:12.38 ID:A9tED0Y40
長い袖の中で握りしめた手は、誰にも見つかることはない。
そして、心の中で押しつぶそうとしている自分の願いも、決して見つかることはない。
どうか、これから貴方様のために大任を負う私の為“だけ”にお言葉をかけてくださいませ、という願いなど…
亀姫「はい。それだけでございますわ、陛下」
未来永劫、見つけ出してもらえることはないのだろう。
―――――――――――
455 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/19(木) 16:03:18.90 ID:twOt+3pGO
乙乙
456 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/22(日) 22:47:17.82 ID:z0n5eG5co
亀姫様健気過ぎる
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/02/11(土) 06:57:36.54 ID:/y6by9ACO
乙ー
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/07(火) 03:21:28.20 ID:TDBh8NMWO
ほっしゅ
459 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 13:58:47.20 ID:2O9Zyc7jO
ほしゅ
460 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/01(月) 18:33:58.62 ID:fuByej+k0
保守
461 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2017/05/11(木) 21:49:02.50 ID:W4kO0RkH0
こんなに長い間留守にしてたのに、保守してくださっている…。
ありがとうございます…必ず、書きます。
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/12(金) 00:18:31.49 ID:2IJ7CpJ6o
>>461
気長に待ってるよー
463 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/13(土) 12:11:08.79 ID:539X8UsDo
待ってるよ〜
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/10(土) 00:13:16.12 ID:imHioylz0
保守る
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/30(金) 00:38:15.32 ID:fvmHqiYEo
*
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/06/30(金) 02:48:54.98 ID:C6xlb7WOo
下げ
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/27(木) 04:47:22.58 ID:SLJ7Dqwe0
保守
468 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/03(木) 06:40:58.48 ID:JcRZVZSpO
ぁ
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/11(金) 00:31:15.58 ID:uahGzJfDO
保守
470 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/10(日) 09:26:12.14 ID:IqZPUrBk0
ほしゅ
471 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/12(木) 21:30:41.12 ID:L2O5Lud00
保守
472 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/11/13(月) 03:36:30.90 ID:da3R5ePLO
はよ
473 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/12/10(日) 03:17:00.04 ID:22BjhRFtO
まだ?
474 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/01/09(火) 04:27:00.56 ID:fRppWXu2O
はよ
475 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/02/10(土) 01:20:54.70 ID:3wFhA0N2o
まだ?
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/03/08(木) 07:39:49.82 ID:uY/qn8IjO
はよ
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/25(日) 03:11:50.39 ID:n08WORmY0
ほ
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/04/18(水) 13:14:51.93 ID:dFCip/Sqo
まだ?
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/05/06(日) 20:51:35.62 ID:j98RPoIYO
はよ
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/06/04(月) 23:47:06.27 ID:B/8Zb7gfo
まだー?
481 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/04(水) 22:50:27.03 ID:9qDScssgO
はよ
482 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/08/06(月) 23:35:48.13 ID:cCOPTcmFo
まだー?
483 :
sage
:2018/08/16(木) 01:17:31.50 ID:Erm+A2ncO
保守
484 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/08/17(金) 00:39:22.49 ID:BIH2IxA2o
下げ
485 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/22(月) 01:12:44.36 ID:kCEJ32SfO
ほしゅ
486 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/12/24(月) 16:25:25.42 ID:1MYnhPuSO
保守
487 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/19(土) 17:44:11.86 ID:2b1TOatjO
保守
488 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/02(土) 15:58:40.99 ID:NYmUMfCCO
ほしゅ
489 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/06(土) 23:01:45.31 ID:veCieZ3TO
保守
490 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/01(水) 01:31:00.44 ID:E1H8mVFOO
ほしゅ
491 :
◆OkIOr5cb.o
:2019/07/03(水) 20:01:56.66 ID:CHSAEFnA0
ぬぬ
492 :
◆OkIOr5cb.o
[sage]:2019/07/03(水) 20:07:14.18 ID:CHSAEFnA0
作者です、久しぶりすぎて酉が不安だったのでテスト投下しようとしてsage忘れました。すみません。
保守をしてくれていた方々に、まずはお礼を。本当にありがとうございます。
これまでの失敗を考えて、この作品はもう少し管理の容易な別の場所…投稿式の例のアレで再開することにしました。
事実上、こちらではエタりとなります。申し訳ありません。
これまでお付き合いいただき、改めて、本当にありがとうございました。
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/04(木) 06:42:34.09 ID:BAA370ozO
そか打ちきりか
494 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/07(日) 06:32:27.22 ID:kQJXqdwA0
げげ マジかぁ
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