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利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目
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731 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:08:15.44 ID:awnviBj5o
飛龍「うわぁ……夜になると本当に暗いですね……」
瑞鳳「月の光だけ明るくて……なんだろ、なんだか神秘的……」
空母棲姫「夜の海を見るのは初めてなの?」
瑞鳳「夜の海をこうやって見た事が無くて……」
利根「普通は見れても作戦行動中じゃからのう」
空母棲姫「なるほどね。──良いでしょう? こういう風に平和的に海を見るというのも」ナデナデ
ヲ級「くー……くー……」
提督「ああ。とても良い。いつまでもこうしていたいくらいだよ」
瑞鳳「……………………」
提督(……うん?)
金剛「? 瑞鳳? 真顔でどうしたデスか?」
瑞鳳「! ……んっと、もう少し近くで海を見てくるね?」スッ
瑞鶴「え? ……行っちゃった」
金剛「どうシタのでショウか……」
空母棲姫「少し寂しそうな顔をしていたようにも見えましたが……」
飛龍「…………あの」チラ
提督「ああ。私が行こう」スッ
金剛「わ、私も行って良いデスか?」
提督「いや、私一人で行く。何人も一緒だと瑞鳳も臆するかもしれん」
金剛「……ハイ」
提督「まあ、任せておけ。これでも提督をやっているんだからな」ポンポン
732 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:08:41.90 ID:awnviBj5o
提督「各自、眠くなったら寝てしまいなさい。……言っておくが、ベッドは人数分作ったんだから自分のベッドで寝るように」スタスタ
全員「はーい」
飛龍「──金剛さん、瑞鳳ちゃんが気になるんですか?」
金剛「えっと……気になるというよりも、なんとなく同じのような気がシテ……」
響「同じって?」
金剛「……私と、同じような雰囲気だったのデス。心に整理を付けたと思っていながら、寂しくなるあの気持ちを感じていたように見えまシタ」
瑞鶴「ああ……下田の……」
金剛「…………」コクリ
利根「なるほどのう……。まあ、提督ならばなんとかするじゃろう。きっと励まして帰ってくるぞ」
空母棲姫「当然そうでしょうね」
響「ホント、空母棲姫さんって最初の頃と変わったよね」
空母棲姫「現状を受け入れただけよ。私自身はこれといって大きくは変わっていないわ」ナデ
ヲ級「ん〜……♪」
瑞鶴「良い夢見てそうねぇ……」
…………………………………………。
733 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:09:08.27 ID:awnviBj5o
ザザァ──……
瑞鳳「…………」ボー
瑞鳳「……今頃、何してるんだろ」
瑞鳳「……………………提督……」
提督「──呼んだか?」
瑞鳳「!!」ビクンッ
提督「隣、座るぞ」スッ
瑞鳳「…………」
提督「瑞鳳、今は暗いか? それとも明るいか?」
瑞鳳「え……?」
提督「どうだ?」
瑞鳳「……………………え、っと……暗い、かな……?」
提督「そうか。私は明るいと思う」
瑞鳳「どうして? 夜なのに……」
提督「この綺麗な夜の海を見れて機嫌が良い。だから明るいんだ」
瑞鳳「ぁ、なるほど……」
提督「だが、瑞鳳は暗いようだな」
瑞鳳「……うん」
提督「聞いても良いか?」
瑞鳳「…………うん。提督になら、言える……と、思うかな……?」
瑞鳳「ん、とね……? ちょっとだけだけど、気になってるの。……『提督』の事」
734 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:09:50.68 ID:awnviBj5o
提督「それは、私ではないな?」
瑞鳳「…………」コクン
瑞鳳「今頃、どうしてるのかなって……。今になって思えば、あんなに酷い事ばっかりされてきたのに、なんだか気になっちゃうの」
瑞鳳「私、おかしいのかな……。酷い事も苦しい事も、辛い事もいっぱいされたのに、大丈夫なのかなって思ったり、辛い目に遭ったりしてないかなって思ってる……」
提督「瑞鳳がそれだけ優しいという事だろう」
瑞鳳「なのかな……。自分の事なのに、よく分かんなくて……。そもそも、こんなに綺麗な夜の海を見て、どうして『提督』の事を思い出したのかな……」
提督「……そればっかりは私には分からん。ただ分かるのは、お前が優しいという事くらいだよ」
瑞鳳「…………ありがと、提督」
提督「うん?」
瑞鳳「私の事、気に掛けてくれて……ありがと。きっと、提督は優しいから私がこんな気持ちになってる事に気付いたんだよね」
提督「さてな。それは秘密にしておこう」
瑞鳳「もー……すぐにそうやって逸らかすんだから……。でも……提督のそういう不思議なトコ、私は好き」
瑞鳳「今見てる海みたいに、ただ冷たいように見えて綺麗。……ちょっとだけ、羨ましいなって思うくらいに。返答とかすっごく素っ気無く聞こえるのに、ちゃんと話を聞いてくれてて、ちゃんと話してくれて、ちゃんと見てくれてる……」
瑞鳳「実はね? そういうの……叶ったら良いなって、ずっと思ってたの。……『提督』が、そうなってくれたら良いなって、思ってた。厳しくても良いから──怖くても良いから──酷い事をされても良いから──……。私をちゃんと見て、私を大切にしてくれたらなって……」
瑞鳳「……『提督』が連れていかれた時の話を聞く限りだと、もう『提督』は提督じゃなくなってるんだよね?」
提督「……そうだな。提督としての肩書きは、後日すぐに剥奪されたよ」
瑞鳳「そっか……。じゃあ、もう会えないのかな……」
提督「……ああ」
瑞鳳「そっか……。うん、そうだよね……」
瑞鳳「…………」チラ
提督「…………」
735 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:10:30.36 ID:awnviBj5o
瑞鳳「……ねぇ。なんとなくは分かってるけど、教えて欲しい事があるの」
提督「なんだ?」
瑞鳳「……『提督』は、どうなっちゃったの?」
提督「……………………」
瑞鳳「良くて牢屋の中で、悪いと……殺されてるのかなって」
提督「…………………………………………」
瑞鳳「……そっか。言えないって事は、そういう事だよね」
提督「…………」ポン
瑞鳳「……えへ。こうやって頭を撫でられるのも、慣れちゃったなぁ。初めは叩かれるのかと思っちゃったりしたけど、今はもう安心しちゃってる」
瑞鳳「…………なんだろ。なんだか、胸にポッカリ穴が空いたみたい。悲しいのかも寂しいのかも分かんなくて……なんだか変な気持ち」
提督「……瑞鳳は、私の艦娘になって後悔していないか?」
瑞鳳「ん……うん。優しいし、困った時は助けてくれるし、何よりも安心させてくれるから後悔なんてしてないよ」
提督「そうか……」
瑞鳳「……………………」
提督「…………」
瑞鳳「……うん。ここに置いていこう」
提督「置いていく?」
瑞鳳「うん。『提督』……ううん。『あの人』への縛られたみたいな感情。ここに置いて帰ろうって思ったの」
提督「辛くないか?」
瑞鳳「ちょっとね……? でも、なんだか不思議。辛い事は幸せだったはずなのになぁ……。この辛さは、なんだかヤな気分……」
提督「……そうか」ナデ
736 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:11:00.92 ID:awnviBj5o
瑞鳳「……ねぇ、提督」
提督「どうした?」
瑞鳳「折角ベッドを用意したけど……今日だけは一緒に寝て良い? ……ちょっとじゃないくらい、寂しいから」
提督「……夜中に寝惚けて入ってきたという事にするんだぞ? 私もフォローを入れておく」
瑞鳳「うん……♪ ありがと、提督」
提督「さて、そうと決まったら先に戻っていなさい」
瑞鳳「提督は?」
提督「私はもう少しだけ、この海を見ておくよ。……私も、色々と考えたい事があるんだ」
瑞鳳「ん……遅くならないでね?」
提督「ああ」
瑞鳳「それじゃ……先に戻ってるね?」スッ
トコトコ──
提督「…………」
提督「……………………」
提督「…………………………………………」
利根「──まったく。何をしておるのじゃ?」
提督「! 利根と金剛か」
金剛「あの……大丈夫デスか?」
提督「ああ。ボーっとしていただけだ。──瑞鳳の様子はどうだった?」
利根「寂しさが薄れておった。今は他の者と同じく布団の中じゃよ」
提督「そうか。私もそろそろ戻らなければな」
737 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:11:27.74 ID:awnviBj5o
利根「そうじゃぞー? 金剛が酷く心配しておったのじゃ」
金剛「!? あ、えと……その……!!」ワタワタ
提督「……すまん。心配を掛けさせてしまった」
金剛「だ、大丈夫デス……! ハイ……えっと……大丈夫デス」
提督「……くくっ」
利根「なんじゃそれは……」
金剛「あの……? 私、何か変な事でも言いまシタか……?」
提督「いやなに。まるで榛名みたいだと思っただけだ」
利根「うむ。あやつは『大丈夫』という言葉が口癖じゃったからのう」
金剛「ぁぅ……」
提督「くくくっ……はははは」
金剛「そ、そんな笑う事ないじゃないデスかぁ!」
提督「いや、すまん……くくっ……」
金剛「ぅー……」ヂー
利根(うむ。良いのう。これは良いのじゃ。……じゃが、金剛が少し問題かのう?)
金剛「ぅぅー……」ヂー
提督「いやはや、悪かった。頼むから機嫌を直してくれないか?」
金剛「むぅ……しょうがないデスね……」
利根「……うーむ。うぅむ……うーむ……」
金剛「? どうしたデスか、そんなに悩んで?」
利根「いやー……少し思う所があるからのう」
738 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:11:54.21 ID:awnviBj5o
提督「思う所?」
利根「うむ。まあ簡単な話じゃ」
提督・金剛「?」
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」
金剛「…………」
提督「……うん? どういう意味だ?」
利根「提督の隣が暇をしておる。そう言っておるのじゃ」
提督「…………」
利根「ほれ金剛よ、何をしておるのじゃ。さっさと提督の隣に座らぬか」グイグイ
金剛「え……え……?」
利根「ほれほれ早く」
金剛「ハ、ハイ……」チョコン
利根「……うむ。うむうむ。やはりこうでなくてはな」
金剛「…………?」
提督「……利根」
利根「すまぬが提督よ、我輩は急に眠気がやってきたのでー寝るっ。あんまり遅くならぬようにするのじゃぞー」トコトコ
金剛「……行ってしまいまシタ」
739 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:12:21.54 ID:awnviBj5o
提督「まったく……」
金剛「あの……良いのデスか? よく分からないまま隣に座ってしまいまシタが……」
提督「……ああ。折角の時間だ。少し話し相手になってくれるか?」
金剛「…………? テートクも利根みたいによく分からない事を言うデース……」
提督「まあ、気にするな。いつか分かるかもしれんぞ」
金剛「いつかって、いつなのデスか……もー……」
提督「くくっ。さあ、それはいつかな──?」
金剛「うー……。テートク? いくらなんでも──」
提督「まあ、それは──」
金剛「もー……──」
提督「────?」
金剛「────────」
提督「────。────」
金剛「────────? ……────」
740 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:12:48.10 ID:awnviBj5o
利根「…………」チラ
利根「……やはり、提督の隣には金剛が合っておるのう。──うむ。うむうむうむ。それに、我輩も気付いた事があるのじゃ」
利根「──我輩は、提督のあの笑顔を見ていたいのじゃなぁ」
利根「我輩達はお互いに一度壊れてしもうたが、それでも変わらぬものはある」
利根「提督は金剛を──我輩は提督のあの笑顔を──。それらを求めておる。……まあ、こう思う事自体が壊れて居るのかもしれぬが」
利根「頼んだぞ、金剛よ。我輩は、提督のその笑顔を見ていたいのじゃからな」
提督「────────」
金剛「────」
利根「…………」ニヤ
利根「くくっ。今日は良い夢を見られそうじゃ」
利根「……金剛、瑞鶴、響よ。我輩達は捻じ曲がりながらも前へ進むぞ。だから、安心して見ておってくれ」
利根「──これからが楽しみじゃ♪」
──── 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 True End ────
741 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 03:15:17.78 ID:wA88TRM5o
おつ!
742 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/03(月) 03:26:07.65 ID:awnviBj5o
これにて『利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」』の物語は終わりです。
何年ものの長い間、お付き合い下さいましてありがとうございました。
壊れた物は完全に直る事は無いように、壊れた人もまた、完全に直る事は無いようです。
提督も利根も、金剛さんも瑞鶴も響ちゃんも、瑞鳳も、度合いは違えどどこかしら壊れて直っていません。
解決はしても元には戻らないのは、その状態で進むしかないというものです。
あと、なんか前々作辺りの細かい設定を流用してごめんよ。分からなくてもあんまり問題はありませんが、知りたいと思った方は下のURLを辿って下さいませ。
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382027738/
どこかで誰かが仰っていましたが、物語は終わったけどレスが少し残っていますので、少しだけ皆の希望のショートストーリーを書くかもしれません。予定は未定。
何か読みたい展開などがあって書き込んで下さいましたら拾うかも。予定は未定。
機を見てHTML依頼は出しますので、出した時は報告します。
一応、本編を現行で読めず、レスしたかったのにレス出来なかった人の為にこのSS専用のアドレスを晒しておきますので、何か感想やその他を書き残したい方が居ましたら下のアドレスにどうぞ。返せるだけ返します。
kongou_zuikaku_hibiki@yahoo.co.jp
743 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 03:29:29.36 ID:ry+NmZ5Jo
乙
744 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 03:46:21.10 ID:gWkv2hB8O
そういうのは載せない方が本当はいいんだけどね
載せると荒らしなどの格好の餌食になるしそうなった人このサイトに結構いる
確か載せないって暗黙の了解つかルールだとか聞いたことある
745 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 04:49:54.75 ID:dBE7RoSM0
このSS専用のアドレス
このSS専用のアドレス
このSS専用のアドレス
746 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 07:22:33.94 ID:y7+mKHSJO
>>745
荒らしにはそんなの関係ないしその先が荒らされたら気分害する人もいるってことだろ
747 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 08:34:59.48 ID:3g3KBKQco
完結乙!
過去作同様とても素晴らしい作品でした
748 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/04/03(月) 08:51:07.46 ID:Fw1krKyVo
乙です
749 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 09:58:54.96 ID:mexN9+j5o
漸く完結か乙
750 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 10:41:34.15 ID:apncpL6A0
本当にお疲れさまでした!
棚ぼた含めて大淀ェ…
それとあんだけボロボロだった面々で、ここまで巻き返せるだけ凄いのか優しさからかw
リクエストはメインのメンバー以外の鎮守府組が、今後どんな風なアピールに出てるかとかどうでしょう?
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/04(火) 02:49:00.58 ID://LJJql60
乙でした!
752 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/04(火) 09:01:43.00 ID:DQDFD1WWO
お疲れ様
二年三ヶ月リアルタイムで追えて良かったわ
753 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/04(火) 13:08:48.77 ID:9GA5F5/Xo
おつおつ!
754 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/14(金) 01:43:35.19 ID:6zQG3Lrc0
乙!ほんとにこのシリーズ大好きだよ!
755 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/19(水) 01:44:39.54 ID:Pat0QSv5o
ちょっとしたオマケ。
>>750
を見て川内さんが思い浮かんだので殴り書いたものを投下します。超短いです。
756 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/19(水) 01:45:21.28 ID:Pat0QSv5o
「ね、提督」
ベッドに腰掛けた私の膝の上で機嫌良さそうにしている、良い香りの髪を下ろした川内が私を呼ぶ。
最近、彼女は寝る前に必ずと言って良いほどヒッソリと私の部屋へ訪れていた。理由は言わずもがな、私を誘惑する為だそうだ。
「どうした?」
初めこそはベッドの中に潜り込んでいたり露骨にいかがわしい事をしようと誘惑をしていたのだが、数日前からめっきりとそれが無くなった。
何かがあったのか、それとも心境の変化なのかは分からないが、私は内心ホッとした。正直に言うと、真正面から誘われるのは苦手なのだ。言葉遊びを多用する私にとって、直接的に面と向かって言われると返しようが無くなる。茶化すのも手かもしれないが、それは彼女に対して失礼なのでやりたくない。
「新しく作戦が始まっても、こうやって部屋に来て良い?」
意外な言葉だったので、少し驚いて手が止まってしまった。
止まった櫛を、再び彼女のサラリとした髪へ滑らせながら答える。
「構わんぞ。……むしろ、作戦があろうと無かろうと来そうなものだと思っていた」
「アハハ! 流石に提督の邪魔になるかもしれないから確認するってー」
いつものように、あどけない口調でそう言う川内。
だが、そこから続いた言葉は、そうでなかった。
「……だって、嫌われたくないしね」
いつもの彼女が晴れだとすれば、今の川内は雨雲がジワリと空を覆い始めたような灰色の寂しさだ。
何があったのだろうか──。そう思って訊いてみるも、ちょっとね、と返されてしまった。
顔が見えていない事もあり、真意は全く分からない。ただ言えるのは、川内は少しナーバスになっているのだろう、という事だけだ。
「……そうか」
あまり深くは踏み込まず、いつもの口癖を口にする。それと同時に、川内の頭をゆっくりと撫でた。
何も言わず背中を預けてくる川内。髪が近くなった事で、香りが強く鼻腔を刺激してくる。その香りの強さは彼女との距離を表しているのだが、心は真逆と離れていた。
理由など簡単だ。私は卑怯者だからである。これだけ好意を示してくる子に対し、答えを保留しているのだから。本来ならば、ハッキリと返答をした方が良いのだろう。
ズキリ、と胸が痛む。彼女を撫でる手が止まる。今の私の状態で言えば、誰に対してもOKを出すつもりは無い。それはつまり、毎晩健気に私と時間を過ごす彼女へ首を横に振るという事だ。
……その時、間違いなく彼女は悲しむだろう。もしかすると、今まで見せた事の無い涙を流すかもしれない。
それが、私は怖い。
卑怯だと分かっていても、優柔不断だと思っていても……それでも、私は踏み止まってしまう。
ヴァルハラから見守ってくれている金剛のような、特別な子が出来るまで私はこのままだろう。
「……ん。提督?」
撫でる手が止まり、頭に置いているだけとなった事が気になったのか、川内が首を捻って私へ横顔を見せてきた。
どこか諦めているような、そんな雰囲気の笑顔。それが、酷く儚く見える。この撫でていた手を動かせでもしたら崩れてしまいそうなくらい、彼女の顔は脆そうに映った。
「……………………」
「……そっか」
儚い笑顔が柔らかく変化する。母性があるというのか、それとも慈愛があるというのか、人を安心させる笑顔だ。
「ゆっくりで良いんだよ? それに今の私は、今のままが良いしね」
そう言いながら、彼女はベッドに置いた私の手に手を重ねてくる。
男のそれとは違ったほっそりとしている柔らかな感触。それが、堪らなく胸に痛みを与えてきた。
……いつまで、私は囚われているのだろうか。いつになったら心の整理を付けられるのだろうか。
「……そんな顔、しないで欲しいなぁ」
身体を捻り、向かい合う形となる川内。……傍から見るとビジュアルが非常によろしくないな、これは。
「ちょっとだけ、許してね」
757 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/19(水) 01:45:50.23 ID:Pat0QSv5o
多少の不安の色を見せる声で、彼女は私に抱き付いてきた。
あまりに急な事だったので対応も出来ず、されるがままとなってしまう。
……分からん。川内が何を考えてこうしたのか、まったく分からない。
「ね、提督。こうやってさ、ギューって抱き締めたら落ち着くよ?」
「落ち着く……?」
更に予想外の言葉を投げられ、彼女が口にした言葉をそのまま返してしまった。
……何がどう落ち着くというのだろうか。いまいち理解できない。
「うん。護ってくれているみたいで、怖い事とか不安な事とか全部考えなくても良くてさ、絶対に危険なんて無くて、それですっごいあったかいんだよ? 落ち着く以外ないじゃん?」
まるで父親に甘える娘のようだ──。
真っ先に思いついた言葉がそれだった。だが、それを口にすると不機嫌になりそうなので止めておく。娘じゃなくて女の子として見てーと言いそうだ。
「そうか」
なので、その言葉で濁して頭を撫でる。すると、気持ち良さそうに声を漏らす少女の姿がそこにあった。
私はいつも以上に甘えてくる川内の頭を撫で続ける。川内は余程気に入ったらしく、その状態を維持していた。
──が、五分もすると変化が訪れる。彼女は段々と体重を私へ預け、私を抱き締めている腕が徐々に下がり、力無く私の腰元へ落ちたのだ。
どうしたのだろうか、と一瞬だけ思ったが、すぐに事態を理解する。
何も難しい事などない。眠ってしまっただけのようだ。いつもならば眠たくなると自分の部屋へ戻るのだが……。
「……ほら川内。自分の部屋で寝なさい」
「ん……んん……?」
背中をポンポンと叩き、夢の中へと旅立ってしまった彼女をこちらへ戻す。未だまどろみの中に居る彼女は、眠たそうな目で私を見詰めてきた。その瞳には何か意志がある訳でもなく、ただただ私を見ているだけだ。
「ここで寝るぅ……」
「……こら、川内」
また珍しい事に、我侭を言ってきたので軽く叱り、無理にでも自分の部屋へ戻そうとする。風紀上よろしくないからだ。他の子達が真似でもしたら収拾つかなくなってしまう。
──いつもなら、そうしただろう。
「……ちゃんと布団の中で寝なさい。風邪をひくぞ」
だが、今日はそうしなかった。寂しそうな顔をした彼女の顔を見たからか、それとも自分の心が不安定になっているからか、はたまた両方か──。
……本当、弱くなってしまったな、私よ。
川内は、はぁい、と間延びした返事をして、彼女はもそもそと布団の中へと潜り込む。そして、布団から顔を出すとこちらへ両手を伸ばしてきた。
本当ならばその腕の中に身を収めるのが良いのだろうが、今の私ではそれは出来ない。
少しだけ考えて、その両手に腕を伸ばしてみる。すると、ゆっくりと私の腕を抱き締めて寝息を立て出した。
「今回だけだぞ……?」
聞こえていないのを分かった上で忠告する。
そんな意味の無い言葉を紡ぎながら、私も彼女と同じ布団の中へと入った。
「うん……てぇとく……すきだよ……」
若干、呂律の回っていない愛の告白。一体、彼女はどのような夢を見ているのだろうか。
空いているもう片方の手で彼女の頭を二撫でほどして、私も目を閉じた。
(──出来る事ならば、誰も悲しまない未来を描きたいものだ)
そんな叶わない願いを心で呟き、意識を手放す為に頭の中を空っぽにする。
ああ……本当に、そうなれば良いのにな……。
しがらみだらけの私の心。それが解かれるのは、一体いつになるのだろうか。
少なくとも今日、そのしがらみは僅かながら解かれたと信じたい──。
758 :
妖怪艦娘吊るし
◆I5l/cvh.9A
[saga]:2017/04/19(水) 01:47:54.68 ID:Pat0QSv5o
以上でオマケ終了です。今度こそこの物語は終わりです。
もしかしたら小説になろうとかで何かを書くかもしれませんが、見付けた時はひっそりと応援して下さいますと幸いです。
それでは、だいたい一週間後にHTML依頼を出します。お疲れ様でした。
759 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/19(水) 14:35:58.62 ID:kDJ6HnWA0
こういう川内も珍しいけどなかなか良いなあw
本当にお疲れさまでした!
760 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/06(火) 02:13:50.02 ID:L+MoWKbSO
おつでした
761 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/12(水) 17:50:08.65 ID:js4tyLwz0
あ
762 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/07(木) 03:09:46.33 ID:9NChUYtOo
乙
丁寧で引き込まれる物語だった
763 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/09/27(金) 08:59:17.72 ID:roi98Fny0
やたやた
764 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/30(土) 01:55:05.07 ID:PTKUhZxq0
まだ活動しているんだろうか?
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