利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目

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120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 12:17:11.67 ID:ktI6LwFLo

なんというかシリアス一辺倒になったな
1スレ目の最初の方ののんびりした感じも好きなんだけどなぁ
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 12:52:38.98 ID:ZsGRr5Gmo
乙です
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 15:56:22.82 ID:aouf2X+T0

とりあえず鹿島たんのおっぱい目指すか
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 16:17:10.76 ID:yidsjNkio
おて
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 16:17:47.38 ID:yidsjNkio
ミス
おつ
125 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/11/27(金) 20:22:21.93 ID:bJL9FGiDo
響「…………」

響(私は……おかしいのかな。なんだかんだで好きだと思っていた、あの人……。それは、私が無知だったからってものだった。けど、その人が死んだっていうのに悲しんでない……。むしろ、そうなって当然の事を今までやってきたんだからとさえ思ってる)

響(あの人だけじゃない。あまり会話とかもした事がなかった皆も沈んだか解体されたっていうのに、私は大して辛いって思ってない。ほとんど他人だったから……。なのに、長門さんは瑞鶴さんの気持ちが分からない事もないって言ってた。私には……正直それが分からなかった)

響「私は……冷たいのかな」

利根「それはどうかのう」トコトコ

響「! ……利根さん、動いて良いの?」

利根「あまり良くないらしいが、どうしても響が気になってのう」

響「……………………」

利根「外には出なかったのじゃな」

響「……夜の外は、怖いから……思い出しそうになるから」

利根「それも当然じゃろうな。あれは響には強過ぎる刺激じゃ」

響「……利根さん。利根さんは、どうして私を見に来たの?」

利根「うん?」

響「だって、利根さんって本当は絶対安静なんでしょ? それなのにどうして私を?」

利根「……まあ、なんとなく何を悩んでいるかが予想できたからのう」

響「予想?」

利根「うむ。大方、自分は心が冷たいとか思うておるんじゃないか、とな」

響「!!」

利根「やっぱりのう」

響「…………なんで分かったの?」

利根「まあ、似ておるからの。我輩と響は」

響「……あの島で確か言ってたね」
126 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/11/27(金) 20:23:00.63 ID:bJL9FGiDo
利根「うむ。どことなく似ているとな。──それで、過去の味方をどうとも思っておらん事じゃが、実は我輩もそうなのじゃよ」

響「……………………」

利根「あ、信用しておらぬな?」

響「そりゃね。どうでも良いって思ってるのなら、私を追い駆けたりしないよ」

利根「うむ、そうじゃ。ならば、どうして追い駆けたか考えてみぬか?}」

響「…………私の事を、どうでも良いって思ってないから?」

利根「正解じゃ。我輩はお主の事を放っておけぬからここへ来た。そして、そうならば更に疑問が生まれるじゃろう」

響「どうして放っておけないか──だよね」

利根「うむ。どうしてじゃと思う?」

響「…………………………………………」

響「…………」フルフル

利根「ぬ、分からぬか」

響「分からない。どうしてなんだい?」

利根「簡単じゃ。我輩は響を有象無象の一人と思うておらん」

響「…………?」

利根「簡単な話、我輩は深く接した者以外には淡白なのじゃよ。この鎮守府には数十人の艦娘が暮らし、助け合い、笑い会っておる。が、それだけの数ともなれば不仲も起きるじゃろう。そもそもとしてほとんど会話せん者も居る。我輩にとってその会話をあまりせぬ相手は、極端な話どうなろうと気に留めないのじゃ」

利根「例えばこの鎮守府には潜水艦が何人か在籍しておるが、我輩と任務や役割が噛み合わず話した事など無い。もしかすると向こうは我輩の事を覚えておらぬ可能性もある。なんせ少ない潜水艦ではなく、数ある重巡の中の一人じゃからな。覚えておらんでも無理はない」

利根「そこでもし潜水艦の誰かが任務中に沈んでしまったとしよう。じゃが、我輩にとってはその者との思い出も無ければ会話すら無いのじゃ。多少思う所はあっても、悲しむかと言われたら首を傾げる。例え我輩が涙を流したとしても、三日もすれば元の生活に戻っておるじゃろう」

響「……なるほどね。私とはあの島で一緒に支え合ってきた。色々と話した事もある。だから放っておけない、か」

利根「そうじゃ。可能性の話じゃが、別の鎮守府では響という名前の駆逐艦が沈んでいるかもしれぬ。もしくは解体されているかもしれぬ。じゃが、それを我輩が聞いた所で何も思わぬぞ。別の鎮守府の話じゃからな。我輩と何も関わっておらぬ相手の話を聞いても、同情こそはすれど悲しむ事などせんよ。要はどれだけ意味のある共通の時間を積み重ねてきたか、じゃ」

利根「そこで質問じゃ。ありえぬ話じゃが、もし提督が金剛や瑞鶴を解体すると言ったら響はどう思うかの?」
127 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/11/27(金) 20:23:34.13 ID:bJL9FGiDo
響「嫌な気分になる。それと同時に抗議するね」

利根「そうじゃろう? それはあの島で共に暮らしてきているからではないか? 色々と思い出があるからじゃろう?」

響「……うん。たぶんそうかもしれない」

利根「うむ。では更に質問じゃ。そんな響は、本当に心の冷たい艦娘かの?」

響「……………………」

利根「…………」

響「……でも、姉妹艦だよ」

利根「うん?」

響「下田鎮守府では暁たち姉妹艦も居た。部屋も違ったし、話した事もほとんど無かった。けど、姉妹艦だ。それでも私は少し嫌な気分になりはしても、辛いって思わなかった。これは心が冷たいんじゃないの?」

利根「そうかのう。少しでも嫌な気分になったのならば普通じゃと我輩は思うぞ。というよりも、それは長門と何が違うのじゃ? 長門はああいうキャラじゃから少しでも弱い所を見せると印象的じゃろう。それでも、長門の感じた『思う所』と響の思うた『嫌な気分』に大きな差は無いと思うぞ?」

響「じゃあ元司令官の事はどうなの。私はあんな人でも好きだって思ってた。今の司令官に優しくしてもらって、普通の艦娘として接して貰っているから異常だったって思えるけど、かつては好きって思っていた人が死んでも何とも思わないのは──」

利根「どうしてそんなに『自分は冷たい』と決め付けたいのじゃ?」

響「──え?」

利根「我輩にはそういう風に見えるぞ? 自分は冷たい艦娘じゃーって決め付けようとアレコレ言っているようにしか聞こえぬ」

響「……………………」

利根「何か理由はあるのじゃと思うが、そんなに自分を卑下せんでも良かろう?」

響(……言われてみると、どうして私はこんなに自分を責めてるんだろ)

利根「その顔を見るに、気付いていなかったようじゃな。……原因が何かは分からぬが、ゆっくり自分と向き合ってみると良いかもしれぬぞ」

響「……うん。そうしてみる」

利根「うむうむ。さて、それでは響はこれからどうするのかの?」

響「司令官の傍で寝たい」

利根「ハハハハッ! なるほどそうきたか! うむ、それも良いじゃろうな!」

響「じゃあ、今日も利根さんと一緒だね」

利根「あー……それじゃが、今夜は我輩一人じゃ。今夜だけじゃが我輩の席は金剛に譲っておるからのう」

響「……へぇ」

響(前々から思ってたけど、利根さんって色々と強いね。私だったら嫉妬しそうだ)

響(……嫉妬?)

利根「それでは、戻るとしようかのう。悩みは少しくらい晴れたかの?」スッ

響「うん。スパスィーバ」スッ

響(ああ……そっか。私、司令官の事が──)

響(──いや、これは口にしないでおこう。ひっそり……うん、ひっそりと想うだけで良い)チラ

利根「〜♪」トコトコ

響(それだけは許してね、利根さん)

…………………………………………。
128 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/11/27(金) 20:24:01.21 ID:bJL9FGiDo
ガチャ──パタン

金剛「!」ビクッ

利根「戻ったぞー」トコトコ

響「ただいま」トコトコ

提督「おかえり」

金剛「…………」スッ

利根「む? どうしたのじゃ金剛? さっきのままでも良いのじゃぞ?」

金剛「えっと……それは、その……」

利根「言うたではないか。今夜だけじゃ、と。我輩の事を考えてくれるのは嬉しいが、今はお主が一人でも立てるようになるべきじゃろ」

金剛「…………」ジー

利根「?」

金剛「……ありがとうございマス」ソッ

利根「うむ!」

提督(……なんだかんだで利根も成長しているものだ)ナデナデ

利根(うむうむ。提督もしっかり頭を撫でておる。今はそうするのが良いじゃろう)

コンコンコン──ガチャ──パタン

響「お疲れ様、救護妖精さん」

救護妖精「うんありがと。……ん? あれ、瑞鶴はどしたの?」

提督「今頃は翔鶴の所に居るはずだ。少し事情があってな、今日と明日はこの部屋に居ないかもしれん」

救護妖精「あー……なんとなく察しがついたよ。まあ、仕方ないかねぇ。明日になったら翔鶴の居る部屋に行ってみるよ」

提督「助かる」

救護妖精「そんじゃ利根と金剛、寝る前の検査するから隣の部屋へ来てくれるかい」

利根「うむ、良い結果が出ると良いのう」

救護妖精「どういう結果が出るのか想像するまでもないね」

利根「む。我輩とて早く良くなるよう身体は労わっておるのじゃぞ?」

救護妖精「だったら執務なんて投げ捨てて大人しく寝ていな」

利根「むむ。むむむむ……困ったぞ。反論が出来ぬ」

救護妖精「まったく……」

救護妖精(……ま、命があるだけ良かったってものかね。いつかは治るんだから)

救護妖精「さっさと治してそこら辺を走り回れるようにしなよ」

利根「うむ!」

金剛「ハイ」

…………………………………………。
129 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/11/27(金) 20:26:38.34 ID:bJL9FGiDo
今回はここまでです。一週間後……はちょっと無理だと思います。次は12/8くらいを目処にして下さいませ。

>>120
あとちょっとでぼのぼのになるやずやで。その後になってこのルートはゴールインや。もう少しだけ辛抱してくだせぇ。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/27(金) 20:32:52.91 ID:jtj1dqoXo
おつおつ久しぶりに遭遇できた
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/27(金) 21:37:15.27 ID:j4xEfzkvo
おつです
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/27(金) 21:38:06.53 ID:NPlAHp4V0

シリアスがあるからのんびりが生きるんだよな

のんびりだけじゃ話が締まらんからね
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/28(土) 00:13:47.26 ID:RF+d8+tSo
>>129
ぼ・・・ぼのぼの!?
岩の中にしまわれちゃったりするの?
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/28(土) 15:56:36.38 ID:xLrEFJ6F0
乙です
続き待ってますよ
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/29(日) 00:43:40.78 ID:/Fzda6ZQ0
気づいちゃった>>133はどんどんしまっちゃおうねぇ〜
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/12/10(木) 13:48:41.34 ID:8q8Mav0To
おイタする子はどんどんしまっちゃうよ
おつつ ところで冬コミはどうするんだい?
137 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [sage saga]:2015/12/11(金) 09:47:24.28 ID:9hIFOg4bo
一ヶ月近く設定を考えて生み出した作品の第一歩が私にとって非常に辛い始まり方となり、現在気力がほぼゼロになってしまっています。
たぶん次の更新は三日以内に投下すると思いますので、もうしばしお待ち下さい。どんな疲労でも一瞬で回復する高速修復材が欲しい。切実に。

>>136
残念ながら冬コミは参加しないと思います。急遽参加する事になる可能性もあるかもしれませんが、参加が決まりましたらお知らせします。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/12(土) 13:22:52.26 ID:e8ucQGyWO
疲れた時はハイポを飲めば良いと思うの
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 03:16:53.77 ID:Pma56F7jo
他の長編SSの作者も気晴らしに全然違う短編書いたりしてるみたいだし、無理せず頑張ってください
140 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:29:28.09 ID:LwV9gPUqo
提督「──ふむ。あの騒動で本部に連絡する事は粗方終わったな」サラサラ

利根「後は鎮守府の再建と金剛と響のケアだけじゃな」カリカリ

提督「お前の身体の全快を忘れるな」サラサラ

利根「忘れておらぬよ。じゃが、こればっかりはどうしようもないじゃろう?」カリカリ

提督「執務をこなさずにベッドの上で大人しくしていれば、もっと早く治るだろ」サラサラ

利根「残念ながらそれは出来ぬ相談じゃな。ずっとベッドの上では精神的に辛くて治るのが遅くなりそうではないか?」カリカリ

提督「なるほど、そう返すか」スッ

利根「ほれ、こっちも終わったぞ」スッ

提督「だいぶ早くなったな。日付が変わる前に終わるのは珍しい」

利根「ふふん。我輩も成長しておるという事じゃ。ほれ、文字を書くスピードも上がって字も綺麗になったじゃろ?」

提督「そうだな。初めの頃と比較したいくらいだ」

利根「それも良いのう。我輩がどれだけ成長したのかが分かるぞ」ゴソゴソ

提督「別の方も成長しているようだ」

利根「そうじゃろうそうじゃろう? 頑張ったのじゃ!」ゴソゴソ

提督「初めは書類の見分け方すら分からなかったお前が、今じゃしっかりとした秘書だ。嬉しいものだ」

利根「見分け方どころか書く事すら酷いものではなかったか」パラパラ

利根「ほれ、これが当時のじゃ。小さな子供が書いたかのような字じゃなぁ」スッ

提督「今でなら汚い字と言えるな」

利根「うむ。……自分で言うのもアレじゃが、よくまあここまで綺麗になったものじゃ」

提督「字をあまり書かないから汚かったのであって、綺麗な字を書く素質はあったという事か」

利根「そうだと良いのう」

提督「利根は違うと思うのか」

利根「単純に我輩は他の人の綺麗だと思うた字をちょこっと真似ただけじゃからな」

提督「そうか。だが、それでも字が上手くなる者とならない者で違いは生まれるんじゃないか?」

利根「ふーむ……そういう事にしておくかのう。──それよりも、金剛と響がそろそろ来る頃じゃな」
141 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:29:59.24 ID:LwV9gPUqo
提督「ああ。今日は珍しく仕事の話をしなくても良い時間になるぞ」

利根「本当に珍しいのう。こんなのは初めてではないか?」

提督「初めてではないが、滅多に無い事だ。お前も今日はゆっくりとティータイムを楽しむと良い」

利根「ティータイムか。似合わぬのう」

提督「どうした。そんなにティータイムが嫌いか?」

利根「そんな事は微塵にも思っておらぬぞ。──さて、金剛が準備しやすいように我輩は準備の準備をしておこうかのう」スッ

提督「ふむ?」

提督(……珍しく利根の言っている意味がいまいち分からなかったな。ティータイムが似合わない……? …………まあ、そこまで深く考えなくても良いか)

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

響「こんばんは、司令官、利根さん」トコトコ

響「…………」ソッ

金剛「お疲れ様デス」

利根「うむー! 来たかー! 金剛よー、準備の準備はやっておいたぞー」

金剛「分かりまシター。……あれ? 今日の執務は終わったのデスか?」スッ

提督「ああ、ついさっきな」

金剛「利根も成長していっているのデスね」スタスタ

利根「そうじゃ。我輩も少しずつじゃが育ってきておるようじゃぞ」

響(……利根さんも変わってきてるんだね)スッ

提督「ん? 今日はくっついていなくて良いのか、響」

響「うん。ある程度は大丈夫になってきてるからね。これからは少しずつ慣れて行こうと思うよ」

提督「そうか。偉いな」ナデナデ

響「ん……」
142 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:30:42.29 ID:LwV9gPUqo
コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー提督さん、みんな」

提督「瑞鶴か。珍しいな」

瑞鶴「うん、最近は来てなかったからね。なんだか来たくなっちゃったの」

提督「そうか。──今、利根と金剛がティータイムの用意をしている。一緒に楽しむか」

瑞鶴「うん!」

響「……瑞鶴さん」

瑞鶴「? どうしたの、響ちゃん?」

響「瑞鶴さんは、もう大丈夫なの? あの鎮守府の事」

瑞鶴「あー……んー……。大丈夫って言ったら大丈夫だけど、思い出したらやっぱりちょっと……って所はあるかしらね。だけど、それくらいかしら」

響「……強いね」

瑞鶴「そういうんじゃないって。たぶん、私はちょっとドライなだけよ」

提督「ドライの割にはここへ来てくれたようだが?」

瑞鶴「……うーん。じゃあ、なんて言うのかしら」

提督「さてな。ドライではないとだけ私が保証しておこう」

瑞鶴「そっか。うん、そうしておくわ」

瑞鶴(なんというか、ホント優しいわよねー。……でも、言葉だけでも嬉しいな)

利根「──金剛よ。気になったのじゃが、どうして湯は沸騰しきらねばならんのじゃ?」

金剛「それはデスね、紅茶は少しでも温度が低いと美味しく抽出が出来ないのデス。五度違うだけで味がかなり変わってくるデース」

利根「ふむふむ、なるほどのう」

提督(今度はお茶か。……本当、色々な事を覚えようと頑張っているな)

…………………………………………。
143 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:31:10.88 ID:LwV9gPUqo
瑞鶴「じゃあ、また明日ね。お茶とかお菓子とか美味しかったわ」

響「おやすみ、司令官」

金剛「グッナイ、テートク、利根」

提督「ああ。また明日も頼む」

利根「良い夢を見るのじゃぞー」

ガチャ──パタン

提督「さて、私達もそろそろ寝るとしようか」

利根「うむ、そうしようかのう」

提督「もうすっかりとここで寝るのが当たり前になったな」

利根「何年もずっと一緒に寝ておったからのう。もはやこうでなければ熟睡できぬようになったぞ」

提督「もう三年になるからな」

利根「じゃのう。随分と長いようで短いものじゃ」

提督「時間の流れなんてそんなものだ。存外に時間というものは速く流れていく」

利根「本当じゃ。我輩も随分と物事を覚えてしもうた」

提督「そうだな。そこでだ利根。お前が頑張ってきているのを私は良く知っている。希望するなら何かを与えようかと思う」

利根「なぬ? それは本当か?」

提督「ああ。何か欲しい物はあるか?」

利根「欲しいモノ……のう。あるにはあるが……」

提督「そうか。ならば言ってみろ。問題が無ければ取り寄せるぞ」

利根「ふーむ……じゃが、のう……」

提督「歯切れが悪いな。そんなに難しい物なのか?」

利根「難しいと言えば難しい。いや、とびきりに難しいやもしれぬ」

提督「ふむ。まあ、言ってみろ」

利根「……うむ。そうじゃのう。ダメ元で言ってみるかの」チラ

提督「ん? 私の手を見てどうした?」

利根「…………すぅ……はぁー……」

利根「……提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」
144 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:31:45.39 ID:LwV9gPUqo
提督「……む?」

利根「えーっとじゃな。……ほれ、左手の薬指じゃ。暇そうにしておるではないか」

提督「……なるほど、そういう事か」

利根「そういう事じゃ。……のう? とびきりに難しかろう?」

提督「そうでもないな」

利根「そうじゃろう? …………む? 今なんと言った?」

提督「そうでもないと言ったが?」

利根「……いや、我輩が言うのもアレじゃが、良いのか? 我輩じゃぞ?」

提督「何が言いたいのかは分からんが、お前だから良い。一緒に風呂やベッドに入っているのはなぜだと思っていた」

利根「……なんと。なんとなんと」

提督「意外だったか?」

利根「かなりの。……しかし、思うてみれば当たり前のようにしておった風呂や就寝も、普通では一緒にせぬな」

提督「今頃になって気付いたか。よっぽどあの島で常識が失われていたらしい」

利根「みたいじゃな……。それと……少し気になった事があるぞ」

提督「なんだ?」

利根「……夫婦になったとして、何か変わるのかのう?」

提督「……………………」

利根「……………………」

提督「……変わりそうにないな」

利根「じゃな……」

提督「強いて言うならば、加賀辺りが酷く落ち込みそうだというくらいか」

利根「想像に容易いのう……」
145 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:32:50.61 ID:LwV9gPUqo
提督「それと、私とお前の指に指輪が嵌められるという事だろう」

利根「指輪……」チラ

提督「どうした」

利根「いや……改めて指輪と言うと、なんだか少し気恥ずかしくなっての」

提督「ほう。ならば指輪は要らんか?」

利根「いぢわる者め。欲しくない訳がなかろう」

提督「クックッ。そうだな。欲しくない訳がない。──だったら、本部へ送る申請書を書いておこう」スッ

利根「のう、指輪は種類などあるのか?」チラ

提督「いや、一種類しかない」サラサラ

利根「なんじゃ……。選択肢など無いのじゃな」

提督「今は深海棲艦と戦争中なんだ。指輪に金属を回してくれるだけありがたいものだろう」サラサラ

利根「それもそうじゃな。最近、めっきり深海棲艦と戦うどころか普通に話しておるから麻痺しておった」

提督「……戦う事になった時に影響を出すなよ?」

利根「その点は弁えておる。安心するが良いぞ」

提督「そうか。ならば良し」サラサラ

利根「あ、そうじゃ! 我輩、結婚したら二人でピクニックに行きたいぞ!」

提督「ピクニック? 遠くへは行けんぞ」サラサラ

利根「鎮守府の目の前に山というか丘があるじゃろう? そこではダメか?」

提督「……まあ、そこならば大丈夫か」サラサラ

利根「やったぞ! 決まりじゃな!」
146 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:35:05.17 ID:LwV9gPUqo
提督「随分と慎ましい新婚旅行だな」サラサラ

利根「我輩にとっては充分な旅行じゃぞ。何せ、陸で鎮守府以外の場所に行く事なぞほぼ無いからの」

提督「それもそうだな。──よし、後は本部へ送るだけだ」

利根「なんだか少しドキドキしてきたのじゃ……!」

提督「初心な奴め。散々お互いに裸も見ているだろうに」

利根「それとこれとは別なのじゃー。結婚じゃぞ、結婚」

提督「そうだな。──さて、朝に送る書類へ組み込む為にもさっさと寝るぞ」スッ

利根「うむ! 分かったのじゃ!」タタタ

利根「何をしておる提督よ、早く来ぬかー」ポンポン

提督「そんなにベッドを叩かんでも良いだろう。すぐに行く」スタスタ

利根「ふふん。楽しみじゃからなー」

提督「結婚書類を出す事に興奮して寝れなくなる姿が目に浮かぶ」ギシッ

利根「……本当にそうなりそうじゃ。じゃが、この高鳴る気分を止める事なぞ難しいぞ」モゾモゾ

提督「すぐに寝られるように頭を撫でてやるから寝ろ」ナデナデ

利根「どうせなら抱き締めてくれぬか」

提督「注文の多い嫁だ」ソッ

利根「少しだけじゃから許してくれぬか」ギュゥ

提督「このくらいならば注文がある方が嬉しいものだ」

利根「……夢みたいじゃなぁ」

提督「夢はこれから見るものだ。──さて、良い夢を見ろよ、利根」

利根「うむ! おやすみじゃ、提督よ」

提督「ああ、おやすみだ、利根──」





──── 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 Normal End────

147 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/14(月) 19:38:32.91 ID:LwV9gPUqo
以上で三つのエンディングの内のノーマルエンドが終わりです。残りのトゥルーとIFも後日に投下していくのでお楽しみ下さいませ。

なんとか一つのルートは今年中に終わった。後二つのルートや。頑張る。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 19:39:39.27 ID:wxrqokEY0

残りのルートも無理せずに頑張ってください
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 19:40:56.53 ID:PpspPRsJ0
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 19:44:59.85 ID:L/nQ72b2o
おつ
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 21:05:56.22 ID:f/T4dvOa0
乙!
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 21:37:51.56 ID:z0MzUy1pO
乙った!
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 21:50:27.35 ID:dXe/UMilO
乙です
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/15(火) 09:11:52.70 ID:/232FvayO
>>147
乙です。
ついでに本購入しますた。…飛龍…
冒頭の挿絵を某駆逐艦と誤n(急降下爆撃
155 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:49:07.53 ID:G0gfHGYMo
前スレ922からルート分岐します。
状況としましては瑞鶴と響が提督の艦娘として皆と紹介し、金剛さんはまだ提督室の隣でひっそりとお菓子を作っている辺りです。ついでにヲ級の意外な料理の才能が芽生えてきた辺りでもあります。

投下していきますね。
156 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:49:40.94 ID:G0gfHGYMo
利根「…………」コックリコックリ

提督(ん? ──ふむ。もうそんな時間か)チラ

飛龍「……提督、利根さんをどうしますか?」ヒソ

提督「寝かせてやろう。何年もこのくらいの時間には寝ていたんだ。眠くなるのも仕方が無い」ヒソ

飛龍「分かりました。毛布を取ってきますね」ヒソ

提督「いや、ベッドで寝かせてやろう。このままでは寝ても疲れる」ヒソ

飛龍「……………………」

提督「……すまんな」ポン

飛龍「いえ……大丈夫、で──あっ」

利根「…………」ゴンッ

利根「むがっ……!?」パチッ

提督「む。起きてしまったか」

利根「す、すまぬ! 寝てしまっておった! むぐぐ……ど、どこまでやっていたのか……!」

提督「利根、今日はもう寝てしまえ」

利根「いや、出来る所までやるぞ。提督も忙しいじゃろ」

提督「ならばこう言おう。その状態でどれだけの事が出来る。ミスは限りなく減らせるか?」

利根「む……む、むぅ……」

提督「いつもならばこのくらいの暗さになっていると寝ていただろう。無理はするな」

利根「むう……むむむむむ……」

提督「……珍しく聞き分けが悪いな」

利根「……我輩が頑張れば、その分だけお主が楽になるからじゃ」

飛龍(ああ、だから頑張っているんですね)

提督「体調を崩してしまえばその分だけ負担が掛かるぞ。それに、この調子ならば時間はまだある。心配するな」

利根「……………………」

提督「まだ理由が必要か?」

利根「…………むぐぅ……。分かった……。この一枚を最後にするのじゃ……」スッ

提督「そうしておけ」
157 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:50:25.07 ID:G0gfHGYMo
利根「提督は眠くないのかの?」カキ

提督「少しだけだ。寝ようと思えば寝られる程度といった所か」ペラ

飛龍「提督も無茶はしないで下さいね?」カリカリ

提督「ああ。飛龍、お前もな」ペラ

利根「……よし、終わりじゃ。飛龍、ここまで進めておいたぞ」スッ

飛龍「ふむ……分かりました。ゆっくり休んで下さいね?」

利根「すまぬ。後は頼む……」トコトコ

利根「おやすみじゃー……」モゾモゾ

飛龍(あれ……。当然のように提督のベッドへ入りましたね……)チラ

提督「…………」ペラ

飛龍(提督も気にしていない様子ですし……それがもう当たり前なんですかね……?)

飛龍「……良いなぁ」ボソッ

提督「……………………」

提督「利根、すまんが自分の部屋で寝てくれるか」

利根「ぬ?」

提督「時と場を弁えろと言っているんだ」

利根「む、そうじゃった。すまぬ」モゾモゾ

利根「では、また明日じゃ提督、飛龍よ」

提督「ああ、良い夢を」

飛龍「おやすみなさい」

ガチャ──パタン

飛龍(利根さんって、本当に提督と一緒に居るのが当たり前になってるんだなぁ……)

提督「飛龍」

飛龍「? 何ですか?」

提督「さっきの事だが、一応釘を刺しておく。誰にも言わないでくれ。私の注意不足だ」

飛龍「え、は、はい……」

飛龍(注意不足……? どういう事ですかね……?)

提督(……この書類に集中していて、利根がベッドに入るのを何とも思わなかったとは。私も島暮らしで色々と鈍ったという事か……)

飛龍「…………」カリ

提督「…………」サラサラ
158 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:50:51.28 ID:G0gfHGYMo
飛龍「……あの、提督」

提督「どうした」サラサラ

飛龍「……………………」

提督「……む?」

飛龍「……だ、誰にも言いません。だから……教えてくれますか? 利根さんの事をどう思っているのかを」

提督「気になるか」サラサラ

飛龍「はい……」

提督「そうだな。近くに居て当たり前の存在にはなっている。流石に三年近く片時も離れる事がなかったらそうなるだろう」サラサラ

飛龍「……そこに恋愛感情はありますか?」

提督「恋愛感情……。難しいな。それに関しては何とも言えん。少なくとも、さっきの利根の行動を見て何とも思わなかった点を考えると普通ではないと言えるが」

飛龍「…………」

提督「……飛龍、お前も今日は寝てしまった方が良い」

飛龍「え……?」

提督「そんな状態では仕事に手が付かないだろう。後の事は私に任せて──」

飛龍「…………」ジワ

提督(ああ……やってしまった……。今の飛龍に今の言葉はマズかった……。飛龍にとっては今の時間が特に大切だというのに……)

飛龍「……ごめんなさい。確かに、このままではお仕事になりませんね……」フイッ

提督(そんな急いで顔を隠しても、もう涙が見えてしまっているのは分かっているだろうに……)

飛龍「後の事……お願いします……」スッ

提督「──待て、飛龍」

飛龍「…………はい」

提督「振り向かなくて良い。そのままの状態で立っていろ」スッ

飛龍「……………………」
159 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:51:42.39 ID:G0gfHGYMo
提督「悪かった……。そんな気持ちにさせてしまったのは私のせいだ」ポン

飛龍「…………っ」

提督「私が寝るまでの間はこの部屋で好きにして良い」ナデナデ

飛龍「……何でも、ですか?」

提督「ある程度までだがな」

飛龍「では……隣に、居させて下さい……」

提督「ああ」スッ

飛龍「…………」スッ

提督「…………」

飛龍「…………」

提督「…………」サラサラ

飛龍「…………」

提督「…………」サラサラ

飛龍「……お茶、淹れてきますね」スッ

提督「……ああ」

提督(どうしてやれば良いものか……)

…………………………………………。
160 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:52:09.09 ID:G0gfHGYMo
飛龍「…………」カリカリ

提督(結局、仕事をするという形で落ち着いたか。顔付きも多少は良くなっている。──とは言っても、もう終わってしまうのだが)サラサラ

飛龍「……提督、こちらは終わりましたよ」スッ

提督「ああ。こっちももう終わる。──いや、終わった」スッ

飛龍「お疲れ様です。纏めておきますね」スッ

提督「……ああ」

飛龍「……大丈夫ですよ。そんなに気にしないで下さい。ちょっとだけ私の弱い部分が出ちゃっただけですって。朝になれば、またいつもの私に戻りますよ」

提督「……………………」

飛龍「もう……真面目なんだから」スッ

提督「…………」

飛龍「……頭、撫でてくれますか? それで今回の事は水に流せますから」

提督「……こんな事で良いのか」ナデナデ

飛龍「これだから、ですよ。小さい子以外に提督が頭を撫でるなんて事、ほとんど無いじゃないですか。……私にとって、こうやって頭を撫でてくれるのは凄く嬉しい事なんですよ?」

提督「……そうか」ナデナデ

飛龍「そうなんですっ。…………はぁー……やっぱ良いなぁこれ」

提督「…………」ナデナデ

飛龍「……うん、ありがとうございました」スッ

提督「もう良いのか?」

飛龍「ええ! もう元気一杯ですよ!」

提督「……………………」

飛龍「?」

提督「……すまんな。気を遣わせてしまって」

飛龍「あちゃ……バレましたか」
161 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:52:51.89 ID:G0gfHGYMo
提督「なんだかんだでお前は私の事をよく理解しているからな。私が何を思っているのかなど、お前はお見通しなのだろう?」

飛龍「全部が全部って訳じゃありませんけどね。表情とか声とか、そういう小さな変化に気付くだけです」

提督「私はポーカーフェイスだと思っていたのだが」

飛龍「ええ。でも、完璧じゃあないですよ? ほとんど感覚に近いですけど、ちょっとだけ違うっていうのは分かります」

提督「……特訓でもして完璧に近付けるべきだろうか」

飛龍「だったら私も特訓をして、もっと分かるようにするだけです」

提督「お前へ負担を掛けたく無いのだが……」

飛龍「ちっとも分からない方が負担になっちゃいます」

提督「……そうか。ならばこのままの方が良いな」

飛龍「逆に、私のやっている事が提督の迷惑になっていないかって思うくらいです。ほら、隠しているのに今何を思っているのかを知られちゃうなんて良くない事もあるじゃないですか」

提督「私は気にしていないからその点は心配するな。例外などお前一人だけだからな。飛龍が黙っていてくれるのならば知られていないとほぼ同義だ」

飛龍「……えへへ」

提督「なぜ笑った……」

飛龍「いえ、ただなんとなく嬉しく思っただけですよ」

提督「……そうか」

飛龍「そうなんです。でも、提督も辛い時は私達を頼っても良いんですよ?」

提督「限りなく善処するよう考える努力をしておく」

飛龍「もうそれ、やらないって言っているようなものじゃないですか……。メッ、ですよ」

提督「だがな……」

飛龍「むしろ、私達はそれで心配する事もあるんですからね? 少しくらいは吐き出しちゃって下さい」

提督「むう……」

飛龍「考えてくれるだけでも良いですから、ね? ──さて、そろそろお休みにならないといけませんね。もう後少しもすればマルフタマルマルです」

提督「ああ。良い夢を見ろよ、飛龍」

飛龍「私はバッチリですよ! 提督も良い夢を見て下さいね」

提督「私は夢をほとんど見ないから、それは難しいだろう」

飛龍「もう……。──おやすみなさい、提督」

提督「おやすみだ」

ガチャ──パタン

提督(……今度、何か甘い物でも渡しておくか。本当、苦労を掛けさせてしまうな……)

……………………
…………
……
162 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:53:34.78 ID:G0gfHGYMo
金剛「…………」

金剛(流石に少し暇になってきまシタ。……そういう時はベッドで横になるのが一番デス)ギシッ

金剛「んー……♪」コロン

金剛(なぜかは分かりまセンが、このベッド、とても気分が良くなる時があるデス。何か特別な何かがあるのデスかね?)

金剛(誰かに護られているというか……そんな不思議な気分デス)

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛(! テートクですか?)ガバッ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「元気にしているか」

金剛「イエス。コンディションはグッドデース」

提督「そうか、良かった。……すまんな」

金剛「何がデ──」

金剛(ああ……間宮が言っていた『私をここへ押し込んだと思っている』の事デスか)

金剛「問題ナッシング。これからはテートクの艦娘として頑張れるデス!」

提督「…………」ポン

金剛「?」

提督「ありがとうな、金剛」ナデナデ

金剛「────────」

金剛「──はい。ありがとうございます、テートク」ニコ

提督「…………」ピタッ

金剛「? どうしたデスか?」

提督「…………」

飛龍(──私達を頼っても良いんですよ?)

金剛「…………?」
163 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:54:09.99 ID:G0gfHGYMo
提督「……いや、少し思い出してしまっただけだ」スッ

金剛「……辛いデスか?」

提督「それなりにはな……。だが、いずれこの痛みも和らぐだろう。新しい思い出と記憶によって痛みは悲しみだけとなり、やがて寂しい気持ちへとなってくれる」

金剛「前へ進んでいるならば、変わりマスからね」

提督「ああ。前へ進んでいる証拠だ」

金剛「どうか、忘れないであげて下サイね?」

提督「勿論だ。──話は変わるが、明日は金剛を正式にこの鎮守府の艦娘とする予定だ。その上の話だが、初めは多少の手を抜くという事を頼む」

金剛「着たばかりなのに強いのはストレンジだからデスか?」

提督「そういう事だ。いくら戦艦だからとは言っても、私達が向かう海域は錬度が足りない艦娘によるゴリ押しは出来ないような所だからな」

金剛「了解デース。フォローできるようなミスを少しするように心掛けマス」

提督「それと……初めはあまり良い空気が流れないと思う。その事は覚えておいてくれ」

金剛「……覚悟はしていマス」

提督「どうしても辛かったら言うんだぞ?」

金剛「イエス。その時はテートクを頼りにするデス」ニコ

提督「では、もう一日だけ我慢していてくれ。後で瑞鶴と響が来るはずだから、少しは寂しくなくなるだろう」スッ

金剛「あ、待って下サイ」ヒョイ

提督「うん?」

金剛「今回はクッキーを焼いてみまシタ。ティータイムの時にお茶菓子として皆と食べて下サイ」スッ

提督「……悪いな。ありがとう」スッ

金剛「今の私はこのくらいしか出来まセン。少しでも皆さんの、そしてテートクのお役に立ちたいデス」

提督「充分だよ」ポンポン

金剛「他にも何か出来る事があったら言って下サイね?」

提督「ああ。──では、私は戻る」

金剛「行ってらっしゃいませ」

ガチャ──パタン

金剛「……明日、デスか。大丈夫……きっと、大丈夫デスよね」

…………………………………………。
164 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:55:00.89 ID:G0gfHGYMo
提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」

比叡「ッ──!!」

榛名「────────」

霧島「…………」

金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」

全員「……………………」

金剛「…………く……」

金剛(……やっぱり、混乱しているようデス。どうしまショウか……)

長門(やはりこうなるか……)

比叡「……司令、一つよろしいですか」

提督「……許可する」

比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」

提督「見ての通りだ」

比叡「また……私は一緒に出撃しなければならないんですか……!」

提督「……行く行くはそうするつもりだ」

比叡「っ!!」グッ

霧島「比叡!?」

パァンッ──!

提督「…………」

比叡「…………!」ギリッ

金剛「ひ、比叡……?」

比叡「!」ハッ

比叡「……すみません」

提督「予想はしていた。グーでなかっただけ良かったと思っている」ポン

比叡「…………」
165 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:55:28.37 ID:G0gfHGYMo
提督「お前がどれだけ金剛の事を慕っているのかは分かっているつもりだ。……この後、執務室へ来るように。利根と飛龍は午後から執務に入ってくれ」

利根「わ、分かった」

飛龍「……はい」

比叡「……………………」

提督「良いな、比叡?」

比叡「……分かりました」

提督「よろしい。──榛名と霧島は金剛にこの鎮守府の案内を頼んで良いか?」

榛名・霧島「は、はい!」

提督「頼む。……色々と話しても構わん」

榛名「提督……」

提督「以上だ。朝礼は終わりとする」ツカツカ

比叡「…………」トコトコ

金剛「……テートク」

提督「なんだ?」

金剛「どうか……お手柔らかにお願いしマス」

提督「勿論だ」ツカツカ

金剛「…………」

榛名「……あの」

金剛「……ハイ」

霧島「これから、この鎮守府の案内をしますね。……それと一緒に、なぜ比叡があんな行動を取ったかの説明もします」

金剛「分かりまシタ。お願いするデス、榛名、霧島」

榛名「お任せ下さいね。……金剛、お姉様」

金剛(……これは、予想以上に受け入れられるのが難しいかもしれまセンね)

金剛(無理もないのは分かりマスが……少し、辛いものがあるデス……)

…………………………………………。
166 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:55:57.94 ID:G0gfHGYMo
ガチャ──パタン

提督「さて比叡」

比叡「……はい。どんな罰も受けます」

提督「そうか。ならばソファに座れ」

比叡「はい」スッ

提督「さて……お前には話さなければならない事がある」スッ

比叡「…………?」

提督「憶えているかは分からないが、あの金剛や瑞鶴、響は一度会っている」

比叡「会ってる……?」

提督「憶えていなかったか。私と利根が居た島──そこに居た三人があの三人だ」

比叡「……そうですか。──って、あの三人は別の鎮守府の艦娘じゃありませんでした?」

提督「そうだ。三人の希望もあってこの鎮守府に籍を入れる事となった」

比叡「……………………」

提督「私はあの三人を放っておく事が出来ない。共に支え合って暮らしてきた事もある。だから私は受け入れたんだ」

比叡「……もう『前の』お姉様達を、忘れるという事ですか?」

提督「いいや、忘れんよ。……むしろ、細かい部分まで思い出しているくらいだ」

比叡「ならばなぜ……!? 司令はどうして三人を受け入れようと思ったんですか!?」

提督「……三人に頼まれたから──というのもあるが、言われた事もあるからだ」

比叡「何をですか……?」

提督「もし自分達が沈んだ立場だったら……立ち止まらず、忘れずに前に進んで欲しい」

比叡「────────」

提督「私に付き従ってくれていた三人だったら、確かにそう言うだろうと思ったよ。いつまでも過去に囚われていて身動きが取れなくなっている姿を見せたら悲しまれそうだ」

比叡「…………」

提督「お前はどう思う、比叡」
167 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:56:27.84 ID:G0gfHGYMo
比叡「……私は…………」

提督「……………………」

比叡「…………いえ。私も、お姉様達に囚われないようにしなくちゃいけないかもしれませんね」

比叡「そもそも、私たち艦娘はいつも死と隣り合わせなんです。どれだけ錬度を積み重ねても、圧倒的な暴力の前では沈むのも当たり前です。……どうしてでしょうかね。いつの間にか、心の底では沈まないって思っていました」

比叡「いえ、何があっても、司令ならば沈ませないって思ってしまってました」

提督「…………」

比叡「……でも、私達がやっているのは戦争です。むしろ、お姉様達が沈むまで誰一人として欠ける事が無かったのが奇跡だったんです」

比叡「沈ませているのだから沈む事もある。総司令部からの伝達でも毎月に何人も何十人も沈んでいるってあったのに……本当、沈むのなんて当たり前の事だったんですよ」

比叡「それが……たまたまお姉様達だっただけの話なのに……」ジワ

提督「……比叡」

比叡「!」ゴシゴシ

比叡「──引っ叩いてごめんなさい、司令。私は、もう大丈夫です! 改めて罰を与えて下さい」

提督「…………」スッ

比叡「? どうかしましたか、しれ──」ポン

提督「……今まで耐えてくれてありがとう、比叡」ナデナデ

比叡「ぇ────」

提督「…………」ナデナデ

比叡「…………」ジワ

提督「…………」ナデナデ

比叡「ぅ、ぁぁ……」ポロポロ

比叡「酷い……酷いですよぉ……! 司令は厳しくしていれば良いんです……! 優しくするのは、金剛お姉様にだけで良いんですよ……!」ポロポロ

比叡「なんでいつもみたいに吊るそうとしないんですか……! なんでいつもみたいに、罰を与えようって……言わないんですかぁ……。なんで……なんで……?」ポロポロ

提督「今のお前に罰を与えるほど鬼ではないつもりだ」ナデナデ

比叡「うあぁぁ……ぁああぁぁぁ……」ポロポロ

…………………………………………。
168 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:56:59.46 ID:G0gfHGYMo
比叡「…………」

提督「落ち着いたか?」

比叡「……司令に泣き顔見られました」

提督「まあ、そういう事もあるだろう」

比叡「なんだかすっごく恥ずかしいです……」

提督「そうか」

比叡「……司令もなんだかんだで寂しそうな雰囲気だった癖に、いつもの調子に戻ってますし」

提督「宥めていた側だからな」

比叡「……もー」フイッ

提督「…………」

比叡「…………」チラ

提督「お前も、受け入れてくれるか?」

比叡「……時間が掛かりますよ」

提督「いくらでも掛けて良い。前に向かってくれるのならば。私も前に進む」

比叡「…………はい。私、頑張ります!」

提督「ああ、頼んだぞ」

比叡「少しずつ、ですけどね」

提督「金剛も分かってくれるだろう。悪い子ではない」

比叡「そうですよね! なんたって『金剛お姉様』には違いないのですから!」

提督(……言っている意味はなんとなく分かるのだが、艦娘と人間の感性の違いだろうか)

比叡「どうかしましたか、司令?」

提督「いや、特に。──では、戻って良いぞ比叡」

比叡「はいっ! 今回はお話が出来るように頑張ります!」

提督「ああ」

提督(……私も、しっかりと心の整理をしなければな)

…………………………………………。
169 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 14:57:35.43 ID:G0gfHGYMo
提督(……さて、二人が来る前に少しは仕事を進めておくか)スッ

コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「失礼します」

提督「どうした飛龍。執務は午後からだぞ」

飛龍「では、どうして書類が広がっているんですかね?」

提督「多めに時間を取っていたからな。比叡が退室すれば執務もする」

飛龍「そうするだろうと思って来たんですよ、提督」

提督「なるほどな。……利根はどうした?」

飛龍「……えーっと…………」

提督「内緒で来たという事か」

飛龍「……はい」シュン

提督「……まあ、理由は察している。口裏は合わせておくから、利根が来ても少し前に来たばかりと言っておけ」

飛龍「──はい!」スッ

提督「しかし、お前も不思議な子だよ」サラサラ

飛龍「何がですか?」カリカリ

提督「色々な意味で、だ」サラサラ

飛龍「もう……なんですかそれ」カリカリ

提督「だから、色々な意味でだ」サラサラ

飛龍「むー……」カリカリ
170 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 15:00:02.34 ID:G0gfHGYMo
提督「ところで飛龍、わらび餅をどう思う?」サラサラ

飛龍「唐突ですね。透明でぷにぷにしているという話は聞いた事がありますけど、実際には見た事が無いのでなんとも……」カリカリ

提督「そうか。やはり、間宮に聞いた方が良いな」サラサラ

飛龍「気になるんですか?」カリカリ

提督「少しな。砂糖を使わない物もあると耳にしてな」サラサラ

飛龍「へぇー……。という事は、提督も食べられる可能性があるって事ですか」カリカリ

提督「そうなるな」サラサラ

飛龍「……私も少し気になってきました」カリカリ

提督「そうか。それは良かった」サラサラ

飛龍「ん? んんん?」

飛龍(どういう意味だろ?)

提督(少し考えれば気付くだろうが、仕事に集中させて有耶無耶にさせておこう)

提督「ほら、無駄話は終わりだ。執務に集中するぞ」サラサラ

飛龍「えーっと……はい」

飛龍(保管している資材は……っと──)

……………………
…………
……
171 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/22(火) 15:02:12.45 ID:G0gfHGYMo
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。

見ての通りのルートを通ります。また、共通の部分は必要に応じて同じく投下しますので「あー、こんな話もあったな」という程度でお願いします。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/22(火) 17:20:40.90 ID:MNnI2SJeo
乙です
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/22(火) 18:11:17.12 ID:6IDCvMaX0
あれ?
てか、なんで無人島生活してたんだっけ?普通に帰ってきたけど大本営とか関係ないんだよな?
174 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [sage saga]:2015/12/22(火) 19:06:37.05 ID:G0gfHGYMo
>>173
この飛龍ルートで詳細が分かるようにする予定ですのでお待ち下され。利根さんのルートでは提督も利根さんも執着はしていないので軽くしか触れていないのです。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/22(火) 19:22:55.83 ID:QG7GTEhMo
乙です
1が飛龍ルートって書いてるからよくわからなくなったのだが利根シナリオのトゥルーエンドかifエンドに向かってるんでいいんだよね?
176 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [sage saga]:2015/12/22(火) 19:31:21.38 ID:G0gfHGYMo
>>175
その認識で問題無いです。そのどっちかに向かっていきます。
混乱させてしまってごめんよ。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/22(火) 20:18:57.04 ID:UV7Eupth0

言われてみれば、金剛をたちが沈んだのが原因なんだろうけど…

残された艦娘たち視点でもあるのか、楽しみ!
178 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [sage saga]:2015/12/23(水) 06:39:48.41 ID:G0pv1ijro
軽い報告をば。
もしかしたら一週間よりも早く続きを投下するかも。だいたいたぶんおそらくきっと。

あと、夏コミの金剛飛龍本が残っているらしく、冬コミに並べるそうです。
179 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:17:33.72 ID:HhmmbTiJo
飛龍「うーん……」トコトコ

加賀「あら、そんなに唸ってどうかしたのかしら、飛龍?」

飛龍「あ、加賀さん。……実はですね、今日はなんだか嫌な予感がしたんですよ」

加賀「嫌な予感?」

飛龍「ええ。一昨日から今日までが加賀さんと私の航空哨戒じゃないですか。それで違和感が……」

加賀「違和感……? 特に異常だとは思わなかったのだけれど」

飛龍「気にする程ではないかもしれませんが、少し敵の数が増えているような気がしませんか? ほとんど感覚なんですけれど」

加賀「……気にするほど多くなったかしら。でも、言われてみれば多くなっている気もするわね」

飛龍「ですよね? 今までもこういう事はありましたけど、増えている割に対空射撃も大人しい気がしますし、撃墜されている数も記録を見ると減っているんです」

加賀「確かに対空射撃も大人しいかもしれないわ。被撃墜数も少なくなっているのは私も気が付いています。だけど、それは提督が戻ってきた事によるものかと思ったのだけれど……」

飛龍「やっぱり加賀さんもそう思っていますか。……提督に報告してきます。杞憂かもしれませんが、一考するのも悪くないと思いますから」スッ

加賀「そうね。私も一緒に報告するわ」スッ

飛龍「ありがとうございます」トコトコ

加賀「でも、よく気が付いたわね? 私は全く気にしていなかったわ」スタスタ

飛龍「私も書類の数字に注目しなければ気付かなかったと思います。なんだか最近、艦載機の消耗が少ないなって思ってから哨戒して感じたくらいですから」

加賀「なるほどね。私も秘書艦になるよう提案してみようかしら」

飛龍「えっと……たぶん却下されますよ?」

加賀「冗談よ」

飛龍「そ、そうですか……」スッ

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

提督「む? どうした。今は昼の休憩中だろう」

飛龍「提督、報告をしに来ました」

加賀「些細な事かもしれないけれど、耳に入れておいた方が良いと思ったの」

提督「なるほど。何があった?」

飛龍「最近、艦載機の消耗が少ないですよね。哨戒時の被撃墜数が減っています」

提督「ああ、そうだな」

加賀「けれど、ほんの僅かですが深海棲艦の数は増えているように感じます。今までこういう事は何度もあったから異常だとは思わなかったけれど、流石に被撃墜数が減っているというのは少しおかしいわ」

提督「……ふむ」

飛龍「私達の杞憂かもしれませんが、提督はどう思われますか?」

提督「……………………」

提督「……そうだな。確認しておいて損は無いだろう」スッ

加賀「確認、ですか?」

提督「そうだ。あの二人の所へ行くぞ」

…………………………………………。
180 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:18:01.90 ID:HhmmbTiJo
空母棲姫「……これで良いのかしら」

間宮「はい。本当に覚えが早いですね……。もう教える切り方が無くなりました」

ヲ級「こっちも、出来たよ!」

伊良湖「では味見を…………うん! 良い仕上げですよ」

ヲ級「やった!」

提督「──すまないが、邪魔をするぞ」

間宮「あら? 提督さんに……加賀さんと飛龍さん?」

空母棲姫「どうかなされましたか?」

ヲ級「お腹、減ったの?」

提督「いや、そういう訳ではない。空母棲姫とヲ級に頼みたい事があって来たんだ」

空母棲姫「珍しいですね。何があったのですか」

提督「艦載機を飛ばして索敵をして欲しいのだが、頼めるか? 沖合いで少し気になる事があってな。確か、深海棲艦の使う艦載機はどれも人類の技術を上回っているのだろう?」

空母棲姫「……可能な事は可能ですが、それは良くないのでは。私達に兵装を与えるという事と同じです」

提督「何か問題があるか?」

空母棲姫「私達は深海棲艦です。いくらなんでもそこまで許可を与えるのは、目の前の敵に刃物を渡して殺しても構わないと言っているのと変わりません」

提督「常人ならばそう思うかもしれんが、私はお前達の事を信用している。絶対にそんな事をしない、とな」

空母棲姫「……皆もこの方を説得して下さい。流石にそれは行き過ぎだと」

飛龍「……提督は頑固ですからねー。それに、私も悪くはないと思います」

間宮「この機に久し振りに飛ばすのも良いかもしれませんよ」

伊良湖「これだけ一生懸命に料理を作る方に悪い方は居ないですもの!」

加賀「そうね。それに、私もなんだかんだで貴女達の事を信用しているわ。この鎮守府をどうにかしようと考えているのならば、いくらでもチャンスはあったはずよ。食事に劇物を混ぜるとかね。あと、貴女達の料理からも味だけではない温かい何かを感じました」

空母棲姫「……………………」

提督「そういう事だ。どうしても嫌だと言うのであれば無理強いはしないが、ダメか?」

ヲ級「ダメなの、姫?」

空母棲姫「この子まで……。はぁ……どうしてこうなるのでしょうか……」

提督「日頃の行いのおかげだな」

空母棲姫「まったく理解し難いです……」

提督「諦めろ。他の場所では知らんが、この鎮守府ではそういうものだ」

空母棲姫「……本当、馬鹿ばっかりなんですから」

飛龍(あ、なんだか嬉しそう)

提督「決まりだな。出来れば今すぐに索敵をして貰いたいのだが、手は空いているか?」

間宮「はい。丁度さっき一区切り出来たところですので大丈夫ですよ」

提督「そうか。ならば着替えを待つ。その間に工廠へ向かっても大丈夫なルートを確保、並びに工廠の妖精達に事情を説明しておこう」

ヲ級「はーい!」

…………………………………………。
181 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:18:29.78 ID:HhmmbTiJo
開発妖精(……本当に深海棲艦だよねぇ)

建造妖精(ホント……なんでこの深海棲艦は提督さんと仲良しなのー……?)

提督「──さて、どうだ?」

空母棲姫「…………居ますね。非常に嫌な奴が」

ヲ級「レ級……!」

飛龍・加賀「────!!」

空母棲姫「しかも、何やら勢力を蓄えているようです。……正直、相手にしたくない量ですね。数え切れませんが、百や二百なんて数字ではありません」

ヲ級「こんなに、集めて、どうするんだろ……?」

提督「……まさかとは思うが、この鎮守府を狙っているのかもしれんな」

空母棲姫「その可能性は大いにありますね。何せ、貴方や私達はあのレ級と因縁がありますから」

加賀「……提督、どうするの?」

提督「決まっている。先手を取って潰すまでだ」

飛龍「でも……どうやってですか?」

提督「簡単な事だ。総司令部に報告して複数の鎮守府と連携した大規模殲滅作戦を展開すれば良い」

加賀「なるほど。数には数を、ですね」

提督「そういう事だ。今すぐにでも連絡を入れよう。空母棲姫、ヲ級、助かった」

ヲ級「えへー」ニパッ

空母棲姫「……ありがとう、ございます。少しでも時間を稼げれるよう、撹乱させる為の情報を流しておきます」

提督「頼んだ」

提督(まだぎこちないが、礼を言うようになったか。少しは素直になったな)

空母棲姫「──では、索敵機は作戦展開中の艦娘に撃墜されて貰います」

提督「ああ」

開発妖精「えっ!? 捨てちゃうの!?」

建造妖精「思ったよりも資材を使ったから勿体無いような……」

空母棲姫「戻っていく所を見られるのは非常に危ういわ。深海棲艦に近付く時は周辺の索敵から帰ってきたという風に出来るけれど、万が一でも鎮守府に入っていくのを見られたら大問題よ」

開発妖精「……あれ? じゃあ、どうやってここから見付からないように発艦できたの?」

提督「今日の航空哨戒は加賀と飛龍。そして、目視での哨戒は比叡だ。低空で飛ばし、なおかつ事情を知っているからこそ見付からないように出来た事だ。演習も遠征も出ていないしな」

建造妖精「ほえー……」

提督「さて、見付からない内に戻っておこう。開発妖精、建造妖精、邪魔をしたな」

開発妖精「えーと……うん」

提督「どうした?」

建造妖精「深海棲艦とも、仲良くなれるんだなーって思って……」

提督「この二人が特殊なだけだ。他の深海棲艦ならば、まずこうならないだろう」

空母棲姫「ですね。間違いなく攻撃をしてくるでしょう」

開発妖精・建造妖精(深海棲艦にも色々居るんだなぁ……)

……………………
…………
……
182 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:18:56.58 ID:HhmmbTiJo
利根「提督よ、書類の処理が終わったぞ!」

提督「そうか。今日もご苦労だった利根、飛龍」スッ

飛龍「教えた事もしっかりとこなせるようになっていますし、処理速度も充分ですよ」

利根「本当か!? 頑張った甲斐があったのじゃ!」

飛龍(……ええ。寂しいですけど、もう利根さん一人でも秘書として務められそうですね)

飛龍「ですので、明日からはもう利根さん一人でも大丈夫だと思います」

利根「む? 何を言っておるのじゃ?」

提督「その件についてだが、まだ飛龍は執務をこなしてくれ」

飛龍「え?」

提督「執務もそうだが、他にも色々と教える事があるだろう?」

飛龍「それは……あるにはありますけれど、必須とうい訳ではありませんし……」

提督「あと、今回の件でもう少し飛龍には書類に目を通して貰いたいと思った。この二点だ」

利根「む? むむ? 何かあったのかの?」

提督「飛龍が小さな違和感に気付いてくれたおかげで、遠洋で力を蓄えていた深海棲艦の群れを発見できたんだ」

利根「なんと! 大手柄ではないか!」

飛龍「い、いえいえ。そんな……」

提督「いや、利根の言う通りだ。あのまま放っておけば大事になっていたのは間違いないだろう」

飛龍「う……。な、なんだか、恥ずかしいですね……」

提督「くくっ。褒められて恥ずかしがる事はないだろう」

利根(む?)

提督「まあ、そういう事だ。飛龍、利根のサポートを頼んだぞ」

飛龍「……はいっ!!」

利根(ふむ……ふむふむ……)

利根「さて、では我輩はそろそろ部屋に戻るとするかのう」スッ

提督「む? 珍しいな。いつもは時間ギリギリまで居るというのに」

利根「そういう気分の日もあるものじゃ。──では、おやすみじゃ二人とも」フリフリ

提督「ああ。良い夢を見ろよ」

飛龍「おやすみなさい」

ガチャ──パタン
183 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:19:23.67 ID:HhmmbTiJo
飛龍「……本当に珍しいですね。いつもは私と一緒に退室するのに」

提督「利根も一人になりたい日がある、か……まあ、嘘だろうがな」

飛龍「え?」

提督「変な気を遣ったように感じた。何か思う事があったのかもしれん」

飛龍「……何があったのでしょうかね」

提督「そればっかりは私にも分からん。流石に心の内の詳細までは読む事は出来ないからな」

飛龍「うーん……」

提督「考えても分からない事だ。真実は利根にしか分からん。ところで飛龍。飛龍はどうする」

飛龍「え? どうする……とは」

提督「何か雑談でもするか? それとも仕事の終わりに一杯でもやるか?」

飛龍「ああ、なるほど。……んー、そうですねぇ…………どうしましょうか」

提督「なんだ、部屋に戻りたいのか?」

飛龍「そ、そういう意味じゃないです! ……久々に提督とお酒が良いなとは思いましたけど、許してくれるかなって思っただけでして」

提督「構わんぞ。今日は早く終わったからな。明日に影響が出ない範囲であれば私も付き合おう」

飛龍「え、ホントに?」

提督「ああ。近々、大規模な作戦が始まるしな」

飛龍「やった! じゃあ、とっておきのお酒を持ってきますね!」

提督「嬉しそうだな」

飛龍「それは勿論! だって、提督とお酒なんて何年振りか分かりません!」

提督「それもそうだな。もう三年以上か」

飛龍「そうですよ。もうホントに久し振りなんだから!」
184 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:19:55.13 ID:HhmmbTiJo
コンコンコン──

飛龍「あら?」

提督「こんな時間に珍しいな。──入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー提督さん」

響「遊びに来たよ」

金剛「失礼しマス」

ヲ級「こんばんはー♪」

空母棲姫「お邪魔します」

提督「遊びに来たというのも気になったが、この面子が揃ったのも気になるな」

飛龍「本当に凄く珍しい面子ですね」

響「私はいつものように部屋から抜け出して外で海を眺めていたよ」

瑞鶴「そこに、なんだか眠れなくて外を歩いてた私と会って」

金剛「ナイトの鎮守府を歩いていた私が二人を見つけまシテ」

空母棲姫「久し振りに海へ出たいと、せがんだこの子に手を引かれた所で鉢合わせしました」

ヲ級「したの!」

飛龍「……凄い偶然ですねぇ」

響「金剛さんと瑞鶴さんはともかく、私と空母棲姫さん達はいつか会ってただろうね」

提督「二人はどうして今日に限って外に出たんだ?」

瑞鶴「だって……今この鎮守府の空気って凄く重いし」

金剛「私も気を遣われているのが居た堪れなくなりまシテ……」

空母棲姫「食事中も静かなようでしたし、貴方の『金剛』がそれだけ影響を与える立ち位置に居たというのがよく分かります」

飛龍「ああ、なるほど……」

瑞鶴「? 何か大きな事情でもあるの?」

飛龍「えーっと……それはですね……」チラ

提督「……私は金剛と婚約していたからな」

瑞鶴「……え!?」

響「そうなの?」

提督「ああ。そうだ」

金剛「デモ……私、テートクがリングを指に付けている所を見た事が無いデス。……私や瑞鶴のように仮では無いのデスよね?」

提督「結局、渡せずに居たからな」スッ

瑞鶴(指輪を入れる箱……。まだ保管してたって事は、つまりそういう事よね?)

提督「だが、いい加減に決別するべきだろう。今度、海で眠っている三人の所へ花と一緒に供えるか」

瑞鶴(……と思ったけど、大丈夫そうね。ちゃんと気持ちの整理、出来たのかしら)
185 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:20:21.75 ID:HhmmbTiJo
響「その時は私も付いていって良いかな」

提督「ん? 構わないが、どうしたんだ」

響「ちゃんと挨拶しておきたいからね。これから司令官のお世話になります──って」

瑞鶴「あ、それ私も行きたい。提督さん、良い?」

提督「ああ。飛龍と金剛はどうする?」

飛龍「勿論行きますよ。そろそろ行きたいなって思っていましたから」

金剛「……そうデスね。私も行くデス。紅茶とスコーンを用意して、三人がティータイム出来るようにしマス」

提督「きっと三人も喜ぶだろう。日程が決まったら伝えよう」

ヲ級「私も、作りたい!」

空母棲姫「貴女は黙っていなさい」ポン

ヲ級「? どうして?」

瑞鶴「えーっと……」

響「…………」

提督「すまないヲ級。また今度作ってきてくれないか? 近い内に今ここに居る者達でお茶会を開こう」

ヲ級「あ、お菓子、作ってきてるよ!」パッ

飛龍「あら、自分で作ったんですか?」

ヲ級「うん!」ニパッ

飛龍「頑張っていますね」ナデナデ

ヲ級「えへー♪」

飛龍「提督、さっき言っていたお茶会、今やってみるのは如何ですか?」

提督「ふむ。構わんぞ」

金剛「それでは紅茶を淹れてくるデース!」

瑞鶴「金剛さんの紅茶とかすっごく久し振りよね」

響「うん。本当に久し振りだ。司令官、長門さんも呼びたいのだけど良いかな?」

提督「寝ていなかったら構わん」

響「そっか。じゃあ呼んで来るね」タタッ

提督「心配無いとは思うが、誰にも見付からないようにな」

響「勿論だよ。──じゃあ、行ってくるね」

ガチャ──パタン

提督「……飛龍、良かったのか?」ボソッ

飛龍「はい。お酌はまた今度という事で」ボソッ

瑞鶴「ん? 何か言った?」

提督「すまん。独り言だ」

瑞鶴「独り言? もう……皆が居るのに独り言って……」

提督「そういう事もあるさ。平和だからな」

瑞鶴「ん、そういう事にしておいてあげるわ」

…………………………………………。
186 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:21:02.32 ID:HhmmbTiJo
長門「……こんな時間に茶の会とは随分とのんびりしているな」

提督「たまたまだ。こんな事は滅多に無い」

長門「むしろ『お茶会』は何かの隠語で実際は緊急作戦会議か何かかと疑ったくらいだ。……本当に言葉そのものだとは思いもしなかった」

響「ああ、だからやけに張り詰めた雰囲気だったんだね」

空母棲姫「何をそんなに身構えているのやら。そんなに私達が脅威に見えるか」

長門「可能性として考えるのは許してくれないだろうか。私はお前たち二人の事を良くは知らないんだ。……艦娘と深海棲艦が一緒の席に着いているという事も違和感ばかりだ」

空母棲姫「それが普通だな。そうやって認識してくれていると、私も本来は敵だというのを忘れずに済む」

提督「そのまま忘れてしまっても良いだろうに。少なくとも、今この場に居る全員は敵だと思っていない」

空母棲姫「だが……あまりに馴れ馴れしくするのは艦娘達の為にならないのでは」

提督「そうでもない。極論を言ってしまえば、艦娘と深海棲艦の違いは我々人類に危害を加えてきたかどうかの差でしかない。逆に艦娘が人間を襲い、深海棲艦が人間の味方をしていれば立場は逆転している。危害を加えてくるのならば敵。協力するのであれば仲間。お前たち二人が例外だというのは皆も分かってくれるだろう」

空母棲姫「確かに貴方の艦娘であればそうなりそうですが……」

提督「全ては認識次第だ。敵という認識ならば敵。味方という認識ならば味方。お前たち二人は今、味方という認識に置かれているという事だ。行動でな。そもそもの話、お前たち二人は私達に危害を加えてきたか? 逆に協力をしてくれただろう」

ヲ級「お魚、とか?」

提督「ああ。あれは本当に助かった。あのままでは飢え死にするのは間違いなかった」ナデ

ヲ級「えへー」ホッコリ

空母棲姫「……………………」

提督「まだ納得できないか?」

空母棲姫「…………はぁ……まったく、どうしてそんな風に割り切れるのかしら……」

提督「変わり者だとは常々言われている」

響「違いないね。ここにも変わった艦娘しか居ないし」

瑞鶴「待って。まさかそれって私も含まれてる?」

響「にゃぁにゃぁ」

瑞鶴「ッ!?」ビクンッ

五人「?」

瑞鶴「そ、そそそうねぇ……? 確かに変わり者ばっかりよねぇ?」

飛龍「? ──あ、金剛さん。そろそろお湯が沸く頃ですよ」

金剛「了解デース。淹れてくるネ」スッ

飛龍「ありがとうございます。──ところでヲ級ちゃん、お菓子は何を作ってきたんですか?」
187 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:21:48.25 ID:HhmmbTiJo
ヲ級「ワッフル! 間宮さん、伊良湖さん、褒めてくれた!」スッ

空母棲姫「もうベタ褒めでした。甘い方も甘くない方も、初めて作ったとは思えないと言っていたわ」

長門「! ……確かに、良い香りだ」

瑞鶴「……ん? もしかして長門さんって甘い物が好きだったの?」

響「そうなんだ?」

長門「む……いや、そのだな……。…………嫌い、ではない……」

提督「そうか」

長門「……なんだ。悪いか? 悪いのか?」ジッ

提督「味の好みなど個人差が激しいものだ。好みで人を左右するようなものでもないだろう。食の好みに口を挟むような者はここには居らんよ」

長門「……そ、そうか。うむ。そうだな。味覚で人は決まらない」

提督「ああ。だから、これからは間宮と伊良湖が甘味を振舞った時も遠慮なく口にして良いぞ」

長門「〜〜〜〜〜〜っ!」

提督「恥ずかしがる事でもない。どうせ向こうでは口にしたくても出来なかったのだろう? ここならば誰も気にせん。むしろ、間宮も伊良湖も手を付けない事から甘い物が嫌いなのかと思っていると言っていた」

長門「……変ではないのか?」

提督「どこが変になるんだ。さっきも言ったように好みなど個人で大きく違う。堂々としていれば何もおかしく思われん。むしろ変に気にしていると周囲もおかしな目で見るぞ」

長門「なるほど……ふむ……」

提督(……長門も頑固な子か。……いや、プライドが高いのか? 自分の好きな物を抑えつけても仕方が無いだろうに)

金剛「お待たせしまシタ」

ヲ級「紅茶、初めて……!」キラキラ

金剛「紅茶は良いものデース。きっとお二人も気に入ってくれマス」スッ

ヲ級「♪」ワクワク

提督「さて、全員に行き渡ったようだ。頂こう。──ヲ級、少ない包みの方が甘くない方か?」

ヲ級「うん!」

提督「うむ。分かった」スッ

響「じゃあ私達はこっちだね」スッ

長門「…………」スッ

空母棲姫(素直に甘い方を手に取りましたね)スッ

飛龍「私も甘くない方を頂きますね」ヒョイ

提督「ふむ、珍しいな」

飛龍「たまには良いかなって思いまして」

提督「そうか。──では、私も頂こう」モグ

ヲ級「どうっ?」ワクワク

提督「ふむ……バターの味がとても良い。これは紅茶とよく合う」ズズッ

金剛「甘い方もとっても美味しいデース!」

瑞鶴「これが初めてなんて、とても思えないわね……」

響「才能かもね」

ヲ級「えへー」ニコニコ
188 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:22:17.97 ID:HhmmbTiJo
長門「…………」モグモグ

長門(……非常に美味い。甘さもくどくなくて、すっきりとしている)

ヲ級「ね、ね、どうっ?」

長門「ぅ……む…………美味い、ぞ」フイッ

ヲ級「♪」ニコニコ

長門「…………調子が狂ってしまう」ハァ

空母棲姫「素直になってしまえ。我慢は良くないぞ」

提督「そうだ。頑固であれば頑固である程この現状に頭を痛めるぞ」

長門「全くもってそうだな……。こんな無邪気な顔を見せられたら、今まで警戒していたのは何だったのかと思ってしまう……」

ヲ級「?」パクパク

長門「ああほら、欠片が口の端に付いているぞ」スッ

ヲ級「! ありがと!」ニパ

長門(……本当に、敵とは思えないな)

空母棲姫「……私も、もう少し認識を改めなければな」

長門「ん?」

空母棲姫「…………」フイッ

長門(……本当、私たち艦娘も深海棲艦も……なぜ戦っているのだろうな。二人に訊いてみたいとは思うが──)チラ

金剛「今度スコーンも焼いてみまセンか?」

ヲ級「すこーん?」

響「英国のお菓子だよ。紅茶と一緒に食べると凄く美味しいんだ」

金剛「テートク、今度また隣の部屋をお借りしても良いデスか?」

提督「構わんぞ。その時は私に鍵を取りに来るようにな」

瑞鶴「あ、私も見てみたい」

ヲ級「楽しみ! ね、姫?」

空母棲姫「そうだな。新しい料理を覚えるのは楽しい」

飛龍(素直になってきてるなぁ)ニコニコ

空母棲姫「……なんだ、その母親が子供に向けていそうな目は」

飛龍「いえいえ。素直が一番、って思っただけですよ」

空母棲姫「……ふん」

長門(……この空気を壊したくない。機会があったときにでもするか)

……………………
…………
……
189 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2015/12/25(金) 20:23:10.36 ID:HhmmbTiJo
今回はここまでです。また一週間後くらいに来ますね。メリークルシミマス。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 21:27:23.41 ID:25wMvxmmo
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 21:54:14.18 ID:PDaE5P4No
おつ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 21:55:04.96 ID:mWgUx0Xa0

姫もいいな
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/25(金) 21:58:57.27 ID:cvnVTWLbo
乙です
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 22:03:26.33 ID:aSOhH9Kvo
>>193
ageんなks
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 22:16:41.36 ID:PDaE5P4No
カスはおめーだよ
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/26(土) 10:31:50.07 ID:k2Yge/J00
乙です

ビジュアルノベルの続報をずっと心待ちにしてたり……(チラ
197 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/03(日) 13:09:36.81 ID:W7PXa9gvo
提督「──では、朝礼を行おう。まずは連絡事項からだ。皆も知っての通り、現在は深海棲艦が沖で力を蓄えている。が、総司令部からの伝達により我々の鎮守府は周辺海域の警邏に当たる事となった」

利根「警邏……? なぜじゃ。多くの深海棲艦がおったのじゃろう?」

提督「確かに多くの深海棲艦は居たが、索敵により三つの鎮守府の戦力を合わせれば充分に殲滅出来るであろう数だそうだ。また、我々の鎮守府よりも近くにある鎮守府が作戦に入り、私達は裏方をせよとの事だ。他の敵が作戦域に入ってこれないよう見回るのも重要な仕事なので、警邏と言っても厳重に警戒する事。良いな」

全員「ハイッ!」

提督「今回の遠征は警備任務と海上護衛任務の二つを行う。今回は先程言った中規模作戦の関係上、従来のモノとは異なり重巡の子達も出て貰う。だが、今まで出したことは無いので慣れない点もあるだろう。よって旗艦は慣れている者に任せる」

提督「警備任務は龍田を旗艦とし、熊野、暁、響、雷、電の六人で行う。海上護衛任務は天龍を旗艦とし、那智、羽黒、夕立、時雨、春雨の六人だ。天龍、龍田、頼むぞ」

天龍「おう! 俺に任せとけって!」

龍田「は〜い。任せてね〜」

提督「その他の者は自分の仕事がある場合はそれに従事する事。演習は中規模作戦を展開している間は控える。いつ何が起きるか分からないので、いつでも出撃できるよう心構えはしておいてくれ。──以上だ。何か質問はあるか? ……………………無いようだな。朝礼は終わりだ。各自、持ち場に就け」

全員「ハイッ!」

…………………………………………。
198 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/03(日) 13:10:14.78 ID:W7PXa9gvo
提督「──さて、私達は私達の仕事をするとしよう。いつもより書類が多いから心しておくように」

利根「うむ、了承したぞ」

飛龍「はい。……とは言っても、多くなってもこのくらいなんですね」

提督「増えた書類の数だけは大した事はないが、一番面倒なのが資材の確認だ。帳簿と実際の数字が合っているかどうかを確認する作業は面倒極まりない」

飛龍「ぅえ……。あの資材を全部確認するんですか……?」

提督「そうだ。帳簿と違っていて、物資支援する際に足りませんでした……となったら大問題だろう?」

飛龍「ああ、なるほど……。前の大規模作戦の時に確認していたのはそういう事だったんですね」

提督「まあな。整理はするようにしているから多少はマシだが、それでも確認だけで多くの時間は掛かる」

利根「ふむ……ふむふむ」

飛龍「? どうかしたんですか?」

利根「なに。思うてみれば資材を数えた事が無かったからのう。提督よ、その確認作業を我輩に任せてくれぬか?」

提督「速い数え方を知っているのか言ってみろ」

利根「縦横奥で掛け算すれば良いのじゃろう? それが出来ぬ場合は地道に数える。これでどうじゃ?」

提督「ほう。成長していっているな。正解だ」

利根「ふふん。我輩とて少しずつじゃが育つぞ。──では、我輩は向かうとしよう。帳簿を借りてゆくぞ」スッ

提督「頼んだ」

ガチャ

利根「…………」チラ

飛龍「?」

利根「…………」グッ

パタン

飛龍「……利根さん、なんでサムズアップしたんですかね」

提督「まったく……」

飛龍「え……? 提督は今ので分かったんですか?」
199 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/03(日) 13:10:47.40 ID:W7PXa9gvo
提督「なんとなくはな。大方、私と飛龍を二人きりにさせようという所だろう」

飛龍「……………………え? なんでですか……?」

提督「そこまでは分からん。……一体何を考えているんだろうな。ここ最近の利根は何を考えているのか分からん事が多々ある」

提督(あの島では伴侶になりたいとまで言っていたが、それだとしたらなぜ……?)

提督「……考えていても分からんな。私達は私達の仕事へ入るとしよう」

飛龍「はい。では、お茶を淹れてきますね」スッ

提督「頼む」

提督「…………」ジッ

提督(……ふむ。今回の中規模作戦は慢心しないように全力で掛かるようにせよ、か。あのレ級を相手にするのだから、流石の総司令部も警戒するよう指示を出すか)

提督(こっちの報告すべき内容は……ふむ。この辺りは利根が資材を確認し終えてからか。では、まずはこの書類から手を付けるとしよう)

提督「…………」サラサラ

提督(……しかし、利根は何を考えているんだろうか。あいつの事ならばほとんどの事が分かるつもりで居たが、まだ分からない事もあるものだな)サラサラ

提督(いや、利根も変わってきているから分からない事が出てきたという方か? ……なぜ利根は私と飛龍を二人きりにさせたか、を解明すれば分かるだろうか)サラサラ

提督(利根自身の成長速度は充分。という事は初めに約束した『秘書艦として不充分でありながら上達が見込めない場合は降りて貰う』は当て嵌まらない。それとも、別に好きな男が出来たか?)

提督(……それこそ有り得んか。この鎮守府には私以外の男性は居ない。加えて、利根はいつも私と居て他の男性と接する機会など無かったはずだ)

提督(……分からんな。利根に何があったんだ?)

飛龍「──あれ? 提督、どうしたんですか? 何か書類で悩む事でもありました?」トコトコ

提督「む、いかん。手が止まっていたか」サラサラ

飛龍「提督が考え事で仕事の手が止まるなんて珍しいですね。何があったんですか?」

提督「まあ、少しな……」

飛龍(たぶん、利根さんの事なんだろうなぁ。私も利根さんが何を考えて二人っきりにしてくれたのか分からないし……)
200 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/03(日) 13:11:18.34 ID:W7PXa9gvo
飛龍「では、気分転換にお茶をどうぞ」スッ

提督「ありがた…………飛龍、これは」

飛龍「えっと……はい。見ての通りです。今日は日本茶ではありませんよ」

提督「……私は紅茶にはうるさいぞ」ズズッ

飛龍「お、お手柔らかにお願いします……!」

提督「…………」

飛龍「…………」ドキドキ

提督「……煎茶と紅茶は淹れ方が違うのは知っているか?」

飛龍「え……嘘……」

提督「飲んでみれば分かる」

飛龍「…………」コクコク

飛龍「…………………………………………」

提督「どうだ?」

飛龍「……美味しくないです」

提督「次からはほうじ茶と同じように沸騰直後の熱湯を使い、二分くらい待ってみろ。それだけで大きく変わる」

飛龍「ごめんなさい……」

提督「……………………。しかし……紅茶か」

飛龍「淹れるのは、ダメ……でしたか?」

提督「ダメという訳ではない。日本茶だろうと紅茶だろうと淹れる茶に制限を付ける気は無いぞ。……何の理由があって紅茶にしようと思ったんだ?」

飛龍「その……そろそろ紅茶が飲みたくなるんじゃないかなって思って……」

提督「…………」

飛龍「…………」ビクビク

提督「……飛龍、こっちへ来なさい」

飛龍「は、はい……!」ビクッ

飛龍(どうしよう……怒らせちゃったかな……)ビクビク
201 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/03(日) 13:11:59.73 ID:W7PXa9gvo
提督「…………」スッ

飛龍(うぅ……立ったって事は、絶対に何かあるよね……。やっぱり、紅茶を淹れるべきじゃ──)

提督「…………」ギュゥ

飛龍「──ぇう……?」

提督「…………」

飛龍「あ、あああの、提督……!? な、なんで抱き締めッ……!?」ドキドキ

提督「すまん……少し、このままにさせてくれ……」

飛龍「あ、ぅ…………はい……」

提督「……………………」

飛龍(…………ああ、そっか──)

飛龍(──そうだよね……提督は気丈に振舞っていただけだったんだ……)ソッ

飛龍(婚約までした想い人を失って辛くないはずなんてない……。あの島にずっと居た理由は、ただ総司令部の人に命じられていたからなんかじゃなかったんだ……)

飛龍(嫌な言い方になっちゃうけど、金剛さんの事を傷から記憶に昇華させる為でもあった。……だから、今回みたいな不意打ちの紅茶で色々と思い出したのかな)

飛龍(……ごめんなさい、提督)

提督「……すまなかった」スッ

飛龍「あ……はい……」

提督「……それと、飛龍にはお仕置きをせねばならんな」

飛龍「えっ……!? う……はい……」ビクッ

提督「これからは紅茶も淹れられるよう、しばらくの間は私を相手に紅茶の練習をしてくれ」

飛龍「────え?」

提督「どうした、聴こえなかったか?」

飛龍「い、いえいえ!! ちょっと意外だと思っただけです!」

提督「そうか。では、良いか?」

飛龍「はい! 喜んでお受けしますね!」

提督(……こういう事か、利根。お前という奴は……まったく……。お前は、本当にそれで良いのか──?)

…………………………………………。
202 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/03(日) 13:14:52.04 ID:W7PXa9gvo
今回はここまでです。また一週間後……に来れるかは分かりませんが、目安として考えて下さい。

明けましておめでとうございます。また今年もこの拙いSSをお相手下さいませ。
本格的に飛龍ルートへ入ったので安心安心。
203 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/03(日) 13:25:16.42 ID:8dW1q1xDO
204 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします :2016/01/03(日) 14:16:00.26 ID:b1CVQ1Qdo
乙です
205 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/03(日) 15:13:01.42 ID:3m4TJjduo
>>204
sageろks
206 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/03(日) 15:54:37.21 ID:I0rcSXxj0
あけおめ乙です
207 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/03(日) 20:19:10.30 ID:eWKIDiuQo
おつ
208 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/05(火) 00:07:06.45 ID:PVplQPAa0
おつ
209 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [sage saga]:2016/01/13(水) 17:13:46.99 ID:94bpdhM+o
もう少々お待ち下さいませ。ちょっとお仕事の締め切りがあるので……。
明日か明後日に更新します。
210 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/13(水) 17:15:13.46 ID:Y+jnbEM6o
ktkr!
211 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします :2016/01/13(水) 22:47:23.34 ID:uQTmUx3Io
そう…
212 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/13(水) 23:17:03.01 ID:119OlRvGo
>>211
sageろks
213 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/13(水) 23:51:14.41 ID:5/pGvLaCo
カスはテメーだよ
214 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/15(金) 16:57:28.59 ID:WK+LXA78o
飛龍「──それでは、おやすみなさい提督」

利根「おやすみじゃー」

提督「二人も良い夢を見るようにな」

──パタン

利根「さて、我輩たちもゆっくりと寝るとするかのう。飛龍、おやすみじゃ」

飛龍「はい。おやすみなさい」

利根「〜♪」トコトコ

飛龍(……うーん。やっぱり利根さんが何を考えているのか分からないなぁ。かと言って訊く事なんて出来ないし……)トコトコ

飛龍(……提督の身体、大きかったなぁ。包み込まれたって言葉がそのまま当て嵌まっちゃった)トコトコ

飛龍「…………えへ」

加賀「あら飛龍。執務はもう終わったの?」

飛龍「ひゃぁ!? あ、か、加賀さん……!」

加賀「……どうかしたの? それとも、そんなに私が怖かったのかしら」

飛龍「ああいえ、すみません……。少し考え事をしていたもので……」

加賀「そう。──ところで飛龍、これに付き合ってくれないかしら」クイッ

飛龍「? ……あ、もしかして良い銘柄でも手に入ったんですか?」

加賀「ええ。前にも飲んだ常きげんよ。この間は頂いたから、今度は私がお返しね」

飛龍「なるほど、あのお酒ですか。美味しかったですもんね。──あ、でも明日も執務があるので、程々で許して貰えますか?」

加賀「勿論よ。さあ、行きましょうか」

飛龍「はいっ!」

加賀(……あら? この香り……)

…………………………………………。
215 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/15(金) 16:58:01.92 ID:WK+LXA78o
飛龍「──さて、今日はどんな味が好みですか?」

加賀「今日は私が用意するわ。誘ったのは私だもの」

飛龍「分かりました。では、日向燗でお願いします」

加賀「ええ、少し待っていて頂戴ね」スッ

飛龍「あ、そうだ。なんなら提督も呼んじゃいます? 嗜む程度であれば乗ってくれるかもしれませんよ」

加賀「……いえ、今日は止めておきましょう」

飛龍(あれ……加賀さんなら二つ返事するかと思ったんですけど……)

飛龍「……もしかして、何かありました?」

加賀「出来れば提督の前で話したくない内容なの。……少し、昔を思い出してしまって」

飛龍「昔、ですか」

加賀「ええ。──はい、日向燗よ」スッ

飛龍「ありがとうございます。頂きますね」スッ

加賀「んっ……。やはり良いわね。私にはこのお酒にこの温かさが一番合うわ」

飛龍「私も程々が良いと思います。──うん、美味しい!」

加賀「程々が良いと言いながら、熱燗が一番好きな癖に」

飛龍「味の移り変わりを楽しむのもお酒ですよ」

加賀「答えになっていないわよ。でも、その気持ちは分かるわ。私もたまに熱いのを飲みたくなるもの」

飛龍「お酒は嗜むものですからね」

加賀「ええ」クイッ

飛龍「……………………」チビチビ

加賀「…………」

飛龍「…………………………………………」

加賀「……………………」
216 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/15(金) 16:58:31.57 ID:WK+LXA78o
飛龍「昔の話、でしたよね」コトッ

加賀「……ええ」チラ

飛龍「大丈夫ですよ。ここは誰も使っていない部屋です。誰かが来るなんて事はまずありません」

加賀「……そうよね。来ないわよね」

飛龍「?」

加賀「なんでもないわ。……飛龍、貴女は提督が居なくなった時の事を覚えているかしら」

飛龍「……それは勿論」

加賀「……本当、前にも言ったけれど、提督が壊れていると気付かなかった事がおかしかったわ」

飛龍「前にも言ったじゃないですか……それは仕方が無いですよ」

加賀「それでも、よ」チビ

飛龍「……あの時の提督が何をしていたのかを知っているのは、まだ私達だけですよね」

加賀「そのはずよ。貴女が情報を漏らしていなかったらの話だけれど」

飛龍「誰にも言えませんよ。……言える訳ありません」

加賀「……そうよね……ごめんなさい」

飛龍「あ、い、いえ。こちらこそすみません……」

加賀「…………あんなに優しい顔をしながら利根の首を絞めていた提督は、もう二度と見たくないわね」

飛龍「はい……。しかも、利根さんも喜んだ顔をしていたので……その、少し怖かったです」

加賀「私達が引き剥がさなかったら、もしかしたら利根は死んでいたかもしれないわね」

飛龍「本当……あの時のお二人ほど怖いモノを見た事が無いです」

加賀「……私なら、あの状態の提督に迫られたら動けないでしょうね」

飛龍「私なんて腰が抜けちゃいそうです」

加賀「……でも、少し興味があるわ」
217 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/15(金) 16:59:01.05 ID:WK+LXA78o
飛龍「えっと……加賀さん?」

加賀「冗談よ」

飛龍「本当ですか……?」

加賀「……九割ほどは」

飛龍「一割は本音なんですね……」

加賀「そう言う飛龍はどうなのかしら」

飛龍「興味が全く無いと言うのは嘘になりますけれど、私は優しい方が好きです」

加賀「優しくされ続けていると、時には刺激を求めるらしいわよ」

飛龍「そ、そうなんですか……?」

加賀「だから私達は安心して出撃が出来るのではなくて? 普段は提督に優しくされて、戦闘になれば生きるか死ぬかの戦いをして刺激を得る。その死線を潜り抜けた時なんて悦びで一杯になる人ばかりでしょう?」

飛龍「そう言われたらそうですけど……。それだったら私は今のまま優しくしてくれる方が良いです。刺激は深海棲艦との戦いだけって事で」

加賀「……本当は、私達のこの感覚もズレているのよね」

飛龍「……そうですよね。絶対に沈まないという前提ですからね」

加賀「そんな事、あるはずが無いというのに……」

飛龍「……………………」

加賀「…………」

加賀「……私達に見付かった後の事も忘れるに忘れられないわ」

飛龍「……提督が総司令部へ打った信号の事ですよね。……総司令部もまさか、あんな催促をされるとは思わなかったでしょうね」

加賀「なんて打っていたのかを提督の口から聞いただけだから、もしかしたら違うかもしれないわよ」

飛龍「うわ……そういう事言っちゃいます? 提督だから本当にありそう……」

加賀「……ただ、大まかには本当でしょうね。一先ず言える事は、提督は自分が流刑になるように報告した……ね」

飛龍「普通、そんな人なんて居ませんよね。……それでも戻って『提督』として働ける辺り、そこまで人手が不足しているのでしょうか」
218 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/15(金) 16:59:36.69 ID:WK+LXA78o
加賀「そうとしか思えないわ。でなければ、下田鎮守府の提督は変わっているはずだもの」

飛龍「あ、あはは……。私、あそこの艦娘にだけはなりたくなりです……」

加賀「私もよ。道具として扱われるのは遠慮しておきたいわ」

飛龍「……そう思えば、私達はまだ幸運だったのかもしれませんね」

加賀「提督の代わりを勤めていた人の事かしら。……そうね。腕はまだまだ未熟だったけれど、ちゃんと私達の声を聞いてくれたもの」クイッ

加賀「…………」

飛龍「はい、ぬる燗ですよ」スッ

加賀「……いつの間に用意していたの?」

飛龍「ひっそりと、です」

加賀「……ありがたいわ」スッ

飛龍「いえいえ」

加賀「話は変わるのだけれど、最近の提督はどう?」

飛龍「どう、と言われましても……普通ですよ。前とほとんど変わりありません」

加賀「私にはそう見えないわね」クイッ

飛龍「え?」

加賀「貴女と何かあったのではなくて、飛龍?」

飛龍「えっ?」ビクッ

加賀「…………」ジッ

飛龍「…………」ビクビク

加賀「ほら、言ってみなさい」

飛龍「うぅ……なんで分かるんですか……」

加賀「一体、貴女とどれだけ長い間を過ごしてきていると思っているの? 四年以上よ。貴女が今日、提督室から出てきた時の微妙な変化くらい分かるわ」
219 :妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A [saga]:2016/01/15(金) 17:00:04.90 ID:WK+LXA78o
飛龍「あ、あはは…………えーっと、ですね」

加賀「…………」

飛龍「……辛そうに、抱き締められました」

加賀「…………? 辛そうに?」

飛龍「提督も、まだ心の整理が出来ていないんだと思います。気丈に振舞っているだけで、まだ金剛さん達の事が忘れられていないんでしょうね」

加賀「……そうなのね」チビ

加賀「それで、秘書艦の貴女はどうするのかしら?」

飛龍「私はサポート役ですよ」

加賀「最近は貴女がメインとなっている事くらい分かるわ。直に利根は普通の子と同じになるでしょうね」

飛龍「まだ分かりませんって」

加賀「だったら、もしそうなったらどうするのかしら」

飛龍「もし、ですか……。そうですね……………………提督に任せるかもしれません」

加賀「受身なのね」

飛龍「ゆっくりで良いんです。今は提督が自然と癒される事が大事ですから」

加賀「……そう言いながら、どこかで攻めそうな気がするわ」

飛龍「さて、それはどうでしょうかね。それも事の成り行き次第です」

加賀「そう。……まあ、貴女なら提督の傍に居ても納得できるわ」

飛龍「え?」

加賀「あら、意外だったかしら。こう見えても私は貴女の事を買っているのよ? ……むしろ、なんて言われると思ったのかしら」

飛龍「……少しお小言が来るかと思いました」

加賀「正直ね。でも安心なさい。私では難しいくらい分かっているわ」

飛龍「そうでしょうか」
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