魔女「ふふ。妻の鑑だろう?」

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/05(月) 10:26:38.10 ID:5AzK3oO7o
乙です
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお迭りします [sage]:2015/10/05(月) 12:23:09.40 ID:wrULK/sqO
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/10/05(月) 19:21:06.23 ID:9fUh6+7EO
>>301

まぁそれを決めるのは作者だし
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/06(火) 20:04:09.47 ID:23q7bCh8O
つまりこれは勇者によるクーデターって事かしら?
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/07(水) 09:29:56.19 ID:miittZUVO
主犯は勇者なのかなって
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/09(金) 02:54:25.48 ID:xzhCBjuTO
良い奴から死んでいく法則
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/11(日) 21:32:21.22 ID:wZwpyTtY0
賢者殺したら許さん
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 19:36:03.95 ID:Ib97cq8co
おつ
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/15(木) 11:19:53.56 ID:gNbaGjQWO
まだかー
311 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 00:55:34.83 ID:GXsKHRI30
ご無沙汰しております。
ちょっとだけ時間が取れたので、
もうちょいしたらちょっとだけ投下します。

かなり期間が開いてしまいました。
申し訳ありません。

魔法の王国編の導入部だけでお茶を濁す作戦。
312 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:20:08.92 ID:GXsKHRI30

*****


戦士「盗賊!?」


声がしたその時、
機を伺っていたのであろう、勇者の背後に現れた壮年の男が、
勇者に向け、桶に汲んだ水を浴びせた。
投げつけられた桶如き、勇者の身体能力をもってすれば、
容易く避けられるものだが、

しかし声に虚を突かれた勇者は身を固めてしまい、
全身に水を浴びる事を、完全に許してしまっていた。


盗賊「…お許しを」


盗賊は手に、
内反りに湾曲した、大振りなナイフを構えている。
それは決然とした戦闘態勢だ。
盗賊の装束は街着のままだが、
その姿こそが市井に潜む無頼の男の真の姿なのだろう。


勇者「………君まで、裏切るの?」

盗賊「そのつもりはありません。
   …しかし、あなたの行動を諌める事も、
   私の賜った役目かと」

勇者「そんな事頼んでないよ。
   君に、その資格があるとでも?」


勇者は身体を戦士に向けたまま盗賊と話をする。
顔は伏せられ表情は読めないが、
その双眸に宿った暗い輝きを、声色から容易に知ることができた。



313 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:22:56.47 ID:GXsKHRI30



盗賊「これは君のすべき事ではない。
   私がこうして君の生き方を正す事は、
   君に仕えた時から、決めていた事だ」

勇者「…意外に、つまんない事で死ねる男」


勇者は言うなり、逆巻く波の如く反転し、
壮年の男へと躍りかかった。


盗賊「ぐ、っ――――!!!」


眉間に迫るオリハルコンの剣。
神速の踏み込みから唐竹に振り下ろされた刃を、
盗賊は湾曲した短刀で防ぐ。


勇者「君、戦えたんだ。
   知らなかったよ。
   君が戦えるなら、これまで僕も苦労しなかったんだけど」

盗賊「なに、…嗜みのようなものです。
   披露する機会は無いと思っていましたが」

勇者「全く、鼠賊如きが剣士の真似事を…ッ!」


響き合う、剣と短刀。
盗賊はトップヘビーなグルカナイフの利点を活かし、
しなやかに距離を稼ぐような軌道で、身に迫る剣を迎撃する。
それは驚嘆すべき達人の技だ。
しかし盗賊が達人ならば、
対する勇者の剣腕は超人の域。
人の身で人ならざる膂力を誇る魔神と互角に打ち合う程の。



314 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:24:18.68 ID:GXsKHRI30



盗賊「(やはり、及ばぬか………ッ!)」


盗賊の顔に焦りが滲み出る。
そもそも勇者と剣を交わす事が、彼にとっての死地となる事は、
彼なら理解できていただろう。

得物の間合いの不利。
足に古傷を抱え、疾走が許されぬ事。
力量の差。
グルカナイフは厄介な武器だが、
その利は投擲にこそある。
接近戦では決め手に欠ける武器を用いる事に加え、
足を使えず距離の取れない事からしてこの状況は、
勝利もなく敗走も許されぬ、
ただ死を待つ戦いだ。

一際高い剣戟の音がして、
ふたつの刃が鬩ぎ合う。
鍔元で刃を受ける勇者に対し、
盗賊は反りの中央に落としこむように受け止める。
体格は盗賊が有利だが、勇者の鋭い踏み込みによる体勢の差が災いし、
拮抗した鍔迫り合いとなった。


勇者「実はなかなか腕が立つみたいだけど。
   あんまり怖くはないかな」

盗賊「…ご冗談を。
   あなたが恐怖を感じる事など、ありはしないでしょうに」


鍔迫り合いは続く。
どこか愉悦を覚えたような勇者とは対照的に、
盗賊はもはや忘我の域にでも居るのか、
表情は引き攣り、大粒の汗を額に浮かばせ、
しかし確かな感情の昂ぶりを見せている。

それは使命を帯び絶望の戦場に赴く兵士の貌。
そこに趨勢を案じる必要は無く、
ただ使命のために己を賭すのみ。
そこが生の終着地となろうと、
己が役割を果たさんとするだけの男の貌だ。



315 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:26:23.96 ID:GXsKHRI30




盗賊「ぐっ――――!!!」


先に限界を迎えたのは盗賊だった。
崩れ落ちるように蹴り足にした右膝を折り、
だらしなく地を這い、勇者の間合いから逃れようとするが、


勇者「じゃ。
   なかなか楽しかったよ―――」


銀髪の女性は、その背に上段に構えた剣を容赦なく振り下ろす。


勇者「――!?」


しかしその剣が届く事は無い。
振り下ろされた剣は、斧槍の穂先が迎え撃つ。
戦士がホールの隅に昏睡状態の賢者を横たえ、
手助けに戻るだけの時間を、盗賊は稼いだのだ。
弾かれた剣先を眺め、勇者は苛ついたように唇を噛み締める。


勇者「………ちっ、君まで」

戦士「わりぃけど、俺はそいつの護衛の仕事を受けたんだ」


理由はわからないが、
勇者は水に濡れていては雷魔法を扱えないようだ。
加えて間合いを詰めれば、接近戦なら勝機がある。

しかしそれでも、ただひとつの懸念材料があるが―――


勇者「……………っ、」


先程の赤黒い球体だ。
正体はわからない。
しかしその威力、直撃すればひとたまりもないだろう。


盗賊「旦那、殺しはいけません。
   ………頼みます、無力化を」



316 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:29:49.63 ID:GXsKHRI30




勇者「捕まえる気?」

盗賊「そうです。
   あなたが"彼"の命で動いているとすれば、
   まずあなたの身柄を確保しなければ」

勇者「……そうだよ。
   でも勇者ってのは、王の命令で動くものでしょ」

戦士「なんだかわかんねぇが諦めろ。
   2対1だ。
   趨勢は決まっただろう」


戦士は立ち上がった盗賊と挟む形で勇者と対峙し、
その中で戦士一人のみ、摺り足でじりじりと間合いを詰める。
接近戦しか脳が無いという事は実に不便だ。
だが立ち合いとは長所の潰し合いといえる。
勇者はまごうことなき強者であり、
どんな強者に総合力で劣っていようと、
「接近すれば打ち勝てる」という強みを持つ戦士もまた、
超人の域の者であるという証として過言無い。

先に仕掛けたのも、やはり戦士。
彼にとって細かな技など必要なく、勇者にとっても警戒すべきはその威力のみ。
ただ実直な突き込みを、勇者は僅かに身を捻り躱す。
しかし――――


勇者「……は、やっ……!!」


その突き込みの速度は、勇者の想像を遥かに超えていた。
繰り返される刺突と縦横無尽な薙ぎ払い。
戦士が踏みしめる蹴り足は床を割り、荒れ狂う薙ぎ払いは、
暴風のようにホールの机や椅子を舞い上がらせる。
勇者はひたすらに追われる刃先を近づけないよう、
追い散らされる鹿のごとく防戦に徹する事しかできず、
武器使いとしての技量の差を、ひしひしと肌に感じていた。



317 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:30:22.99 ID:GXsKHRI30



勇者「………はぁ、はぁ………つ、よいね、ほんとに…」


だが勇者は同時に、確かな血の滾りも感じた。
戦士のファイターとしての技量はまさに無双のものだが、
勇者はそもそも剣と魔法とを複合的に用いる魔法剣士だ。
決して武器による戦闘のみで優劣が決まる訳はない。

難敵を前に、自らの長所を頼りに血が滾るなど、
そんな清冽な覚悟はとうに捨てたものと思っていたが、
どうやら武人としての自己も捨てたものではないらしい。
多少の距離を取り、向かい合う。
荒い息をつく勇者と対照的に、戦士は汗ひとつ流していない。

そのとき、勇者の真横から、気配を殺して見守っていた、
壮年の男が斬りかかる。
戦士との剣戟で疲弊した事が災いしてか、
先程まで圧倒していた相手の連撃さえ、精々凌ぐ事しかできない。
盗賊の短刀が勇者に届く事こそ決して無いが、
勇者の力はもはや盗賊と伯仲の領域まで落ち込んでいた。

剣戟の中、盗賊の左手が腰に伸びる。
同時に盗賊は一瞬のうちに胸元で右手の短刀を逆手に持ち替え、
勇者の握る剣の鍔元に短刀の背を絡ませた。


勇者「――――ッ!?」

盗賊「お許しを」


絡ませた腕を右へ振りぬき、勇者の側頭部が露わになる。
身を捩る勢いをそのままに盗賊は左手を振るう。

その手には、紐の先に金属塊のついた武器が握られていた。



318 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:33:02.55 ID:GXsKHRI30



勇者「―――ぁ、ぅぁ―――ッ…」


太く重苦しい音と、高い金属音がして、
勇者の額に光っていた"神託の証"が宙を舞う。
衝撃は鉢金を通しても充分に脳を揺らしたようで、
勇者は額を押さえ蹲った。

戦士は盗賊の手に握られた武器を目にし、記憶を巡らせる。
記憶が正しければあれは東洋で生まれた暗器の一種だ。
縄の先に金属の重りをつけ、振り回し攻撃する。
それなりに遠心力をつけなければ効果的ではないためか、
盗賊は一度背で振り回してから攻撃に移った。
武器の持ち替えからディスアームまでとそれは同時に行われた事。
一朝一夕でできる芸当ではない。


勇者「……暗器、使い…っ」

盗賊「―――旦那、拘束をお願いします。
   最悪眠らせても」

戦士「紐なんて持ってねーよ。
   それ、貸せ」


戦士は盗賊から流星錘を受け取り、勇者の腕を後ろ手に縛る。
弾かれた鉢金を見やると、大鎚で叩いたかの如く、見事にひしゃげていた。
鉢金が無ければ死んでいると見て間違いない。


盗賊「すみません、勇者殿。
   しかし、あなたの望みとは…」

勇者「…うぐ…わ、かってる、はずだよ。
   僕の望みは、ずっとひとつ」

盗賊「………私は。
   あなたがこうして変わり果てて行く姿を、
   ただ見ていただけだった」

勇者「…………そうだ。
   君は、ただ見ていただけだった。
   いや、…初めは。
   見てすらもいなかったんだ」



319 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:35:53.66 ID:GXsKHRI30



戦士「おい、盗賊。
   外が騒がしいぞ。
   さっさと逃げねーと、新手が来る」

盗賊「あなたは賢者殿を。
   私は、この子を…」

賢者「……その必要はないわ。
   どうやら、あなたに助けられたようね」


休んでいるうちに回復したのであろう賢者は、
頬を僅かに紅潮させ吐息も未だ荒いが、
なんとか足は動くようだった。


賢者「髪が濡れてるわね。
   …ふーん。
   そっか、水は雷を通しやすいから。
   濡れてちゃ使えないってわけね」

勇者「……………」

戦士「賢者、走れるか?」

賢者「多少なら平気よ。
   …頭はずきずきするけど、
   魔力切れは初めてじゃないから」

盗賊「行きましょう。
   脱出経路は調べてあります」

勇者「………ふざけないでよ。
   絶対に、逃がさない」


盗賊が勇者に手を掛けた時、
勇者は手を縛られたまま、投げやられた剣に弾かれたように跳躍した。
落ちた剣で紐を切り、手を縛る流星錘がはらりと地に落ちる。
勇者の左手には魔力が練られていた。
身体を濡らす水はもはや渇き、
ただ蒼い光と薪の音が響く。



320 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:37:50.54 ID:GXsKHRI30



戦士「賢者!後ろに隠れてろ!!」

賢者「―――ッ!」


結局、状況が戻ってしまった。
距離を取られ、勇者の手には魔力。
対してこちらは、魔法に抗する力を持たない戦士と、
病み上がりの賢者、速く走れない盗賊。


勇者「昔盗賊に、
   …僕の望みを語ったね」

盗賊「…ええ」

勇者「それは今でも変わってないよ。
   いや、ずっと変わらないんだ」

盗賊「……………」


盗賊は痛々しげに目を伏せ、
しかしすぐに揺るがぬ眼差しで勇者を見返した。


盗賊「君の望みが、そうであるなら。
   "家族"を求めるのであれば、
   …君は、彼に従うべきではない」

勇者「…求めるんじゃない。
   取り戻すんだ。
   あの頃を!!あの時を!!!」


声は徐々に振り絞られ、
やがて後悔を越えた慟哭となる。


勇者「僕は、自由になるんだ!
   あの館から!暗い地下の底から!
   魔法の王国からも!中央王国からも!!
   "彼"からも!!!」


悲しみに引き裂かれるような。
はじめから叶わぬと知る願いを訴えるような。

失った生きる意味を取り戻そうとするかのような。


勇者「最後の家族と一緒に!!」

盗賊「…しかし、彼女は、もう」

勇者「うるさいうるさいうるさい!!
   元はといえば君が悪いんだ!!
   奴隷商の癖に僕に優しくなんてしないでよ!!!」

盗賊「ただ、私は君に―――」

勇者「君は殺さないよ。
   君はずっと見続けるんだ。
   僕と、――――」

盗賊「………………ああ」

勇者「魔女の、結末まで」



321 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:39:47.71 ID:GXsKHRI30



勇者の右手から放たれる雷。
それは戦士でも盗賊でもなく、
戦士の背後の賢者を狙ったものだった。

雷は弧を描くように放たれた。
その軌道は尋常では予測し得ないものだ。
魔法に疎い戦士は勿論の事、
魔法使いである賢者でも。

故に、勇者の傍に在り続けた盗賊が、
2人よりも早く行動に移る事ができたのは必然だったのだ。


勇者「―――――え?」


賢者を庇う形で身を投げ出す壮年の男。
いかづちは無慈悲に命を奪う。
男の胸元に直撃した雷は、不条理なほどの殺傷能力で、
その心の臓の動きを停止させた。



322 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:41:43.80 ID:GXsKHRI30



不運な事に、部屋には窓が無く、
外の状況は望めなかった。
城内での帯剣は許されてはいるが、雪崩れ込んだ衛兵たちの数は多く、
突破する事も不可能ではなさそうだが、
こちらも無傷では済まないだろう。

影響はどこまで及んでいるのか。
大将は、先に始末しておく、と言った。
自らの出自を慮るに、
では事態は切迫しているに相違なかろう。


憲兵「…王国軍大将ともあろうものが、
   卦体な謀に手を染めたのか」

大将「王国軍を真の大陸の覇者とするに必要な事よ」


顎を撫で回し、下卑た笑みを浮かべ、大将は言葉を繋ぐ。


大将「勇者殿を見て確信したのだ。
   我が王国の王家には、血は伝わっていないとな」

憲兵「……………」

大将「魔法排斥?馬鹿馬鹿しい。
   王家の血筋に魔力が宿らぬ言い訳だろうに。
   魔法を認めてしまえば、王家の血筋が詳らかになる危険もある。
   民草は与太話をよく信じるからな。
   ……しかしその割に、躍起になって研究所を建造するあたり、
   さもしいものよ」

憲兵「…王国軍は既に大陸の覇者だ。
   そもそも、魔法などという不公平な力に依存することは、
   文明として危険な事だ」

大将「だが現に、神託の者などというくだらぬ演出に、
   王国は大いに沸いたではないか」

憲兵「それは、あなたがお膳立てをした―――」

大将「そうだ。
   三文芝居もいいところだが、
   まがい物とはいえ英雄と同じ力を振るえるというだけでこの通りだ。
   愚かな民草どもにはいい慰みだろうよ。
   …まぁ、故に、わしの目指す王国に王家は必要ないのだ」

憲兵「……………」

大将「英雄の血を引いておきながら――――
   その象徴たる、雷の力を受け継いでいない王家などな」



323 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:42:53.98 ID:GXsKHRI30




憲兵「…愛国故の造反とばかり思っていたが、
   なんの事もない、ただの強権的なテロリストとはな」


吐き捨て、抜剣する。
同時に己の無能さを嘆いた。
軍警察の地位にありながら、ここまでの造反を許してしまったのだ。

しかし、今知り得た事をよしとせざるを得ない。
軍議には王も出席するのだ。
恐らく軍議が始まってしまえば、
その場で国家転覆は完了してしまうのだろう。


大将「王家の血筋は根絶やしにする。
   くくく、そしてそれはあなたも例外にはならん」

憲兵「………ほざけ。そうはさせん」

大将「城内に味方が居るとは思わない方がいい。
   では、わしは失礼しよう。
   せいぜい足掻くがいい―――――」

憲兵「待て、貴様!!」

大将「―――――第二王子殿」


大将がこちらに背を向けた時、
一人の衛兵が斬りかかってきた。

視界が閃光に包まれるのと、それは同時。
室内の誰もが目を眩ませ、
気付いた時には手を引かれ、
大将を通そうと兵たちが開けた道へと誘われていた。



324 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:44:04.22 ID:GXsKHRI30



勇者「……………なんで」

戦士「お、おい!!
   盗賊!!!!」


勇者は呆然となにかを呟き続け、
戦士は倒れ伏す男を抱き起こし、
賢者は男の身を確かめようと、残り滓のような魔力を振り絞る。

しかし賢者が首を横に振った時、
勇者はなぜ、どうして、と呟いたのち、


勇者「……………つまんない」


それだけはっきりと声に出し、
その場に背を向けた。


戦士「待て、勇者!!!」


勇者の身体にはなおも雷が纏わりついている。
それは追えば殺すという意味だ。
勇者は一度も振り返る事なく、
扉の先に消えてしまった。


賢者「………逃げるわよ。
   彼は…置いていくしか…」

戦士「……ああ」

賢者「…あんたのせいじゃないわ。
   …絶対に、違う」

戦士「わかって、るよ」


恐らく、考えあぐねる時間はないのだろう。
2人は少しだけ倒れた男を見、
外へと駆け出した。



325 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:46:32.23 ID:GXsKHRI30



――――――そこで、物見の水晶球への魔力を切る。

盗賊の死は慮外だが、
彼女の意思を継ぐ者の顔を知る事ができた。
賢者が魔力切れを起こしてくれたおかげだ。

あの武器は、ミスリルだろうか。
また随分と嫌われたものだ。


「ふふ、ははは――――。
 死んでも、僕の、邪魔、するんだねぇ――――」


ここは暗い地の底の館。
誰も知らぬ、時の流れに埋葬された場所。
領地には死にきれぬ哀れな人形が徘徊し、魔獣たちが庭を守る、
涜神の館。
ここは死の国。
"彼"の作り上げた、"彼"の王国。


「早くおいでよ。
 負けないよー、なんつって。
 ははははははは!!!」


戦士はまだ、知る事はない。
大陸に巣食う、本当の敵の姿を。



326 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:49:17.95 ID:GXsKHRI30



如何に鍛えようと、
何人を打ち倒そうと、
所詮は人の身ひとつ。
そんな詮無き事、十を過ぎる頃には悟ったはずだ。

しかしそこで歩みを止めず、愚かと知りながら、
人の身ひとつで出来る事を必死に探し続けてきた。
それは無駄に等しい足掻き。
しかしそれが真に無駄ならば、
人とはその無駄こそが生ならば、
なんとこの世は無常な事だろう。


「昨夜!!王立魔法研究所への、魔法の王国と思われる兵による攻撃があった!!」


少女の描いたたったひとつの夢。
その夢の彼方に、千、万の潰えた夢がある。
その夢を思えば、昨夜は、万に一つの機であったはずだ。


「国王は事態を重く鑑み、
 自ら近衛騎士団を率い出撃したが、
 魔法の王国の新兵器と思われる攻撃の前に、奮戦し全滅!
 あろうことか、国王までも崩御された!!!」


所詮無明の旅だったのか。
冬の訪れを告げる、冷たい風が肌に刺さる。


「中央王国評議会は、既に国境封鎖を決定した!
 研究所襲撃を事実上の宣戦布告と見做し、
 国王の弔いの為、
 第六師団長、救国の英雄と称される勇者中将に非常時大権を委任!」


彼女の夢は、戦争を止める事。


「現時点より、我が国は戦争状態となる!!!」


俺は彼女の意思を、継いだはずだった。



327 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:52:20.43 ID:GXsKHRI30



賢者「………どう?」

戦士「…駄目だ。
   どこに行っても兵隊がうろうろ。
   こりゃお忍びで国境越えは無理だな」

賢者「魔法も探知されるでしょうねー…」

戦士「…ま、俺は俺で、なんとかするよ。
   お前も、一人の方がなんとかなるんじゃねぇか?」

賢者「そうね。お互い単独の方がやりやすいかも。
   あんたは一応、王国軍所属だし」


兵長のご母堂から、兵長の死を聞かされた。
下手人はわからないとの事だが、
…勇者の手による事だと、なんとなくわかった。

…勇者がどんな意図で行動しているのかは、
俺にはわからない。
唯一、知るはずの盗賊も死に、
結局俺の仲間は、賢者だけになってしまった。


賢者「じゃ、私はとにかく、
   一度魔法の都に戻るわ。
   あんたは?」

戦士「…俺は、火竜山脈に向かうよ。
   あいつの研究室を見つけないと」

賢者「そ。
   …きっと、見つかるわ。
   あんたが、あの子の事を想い続ければきっとね」

戦士「………そうだと、いいがね」



328 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 01:53:19.87 ID:GXsKHRI30



賢者「じゃ、気をつけてね」

戦士「………ああ。
   お前もな」


賢者は一度背を向けたが、


賢者「…あ」


なにかを思い出したように振り向いた。


賢者「そういえば、言いたい事あるんだけど」

戦士「ん?」

賢者「………うーん」

戦士「なんだよ」

賢者「…やっぱり、いいわ。
   次に会った時の方が良さそうね」

戦士「な、なんなんだよ」

賢者「んーん。いいの。
   とにかく今は、あの子の言う事、聞いてあげて。
   私、魔法の王国で待ってるから、
   その時のあんた見て、決めるから」

戦士「…よくわかんねーけど。
   はは。じゃあ、意地でも死ねねぇわ」

賢者「当たり前じゃん。
   私より先に死んだら怒るからね。
   じゃあ、またね」


そして彼女はいつものように、
一陣の風と共に消えた。



329 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 02:00:21.32 ID:GXsKHRI30



思えば旅を始めてから、
一人旅は初めてだ。
勇者と、盗賊と、賢者。
辺境を発ってから、常に誰かと行動を共にした。

師と仲間を同時に失ったからか、
それとも一人になった事で彼女の死をより強く感じるからか、
ふと空虚な闇を、心に感じてしまう。


戦士「………旅を、続けよう。
   まだまだわからない事が多いんだから」


先は長い。
立ち止まっている暇はない。

空虚な心は軽くて良い。
次なる目的地、火竜山脈へ。
雪が降るまでに着ければ良いのだが。


330 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/10/22(木) 02:02:14.11 ID:GXsKHRI30
今日の分終わりです。
>>1を完全に無視しています。
申し訳ありません。
許して…お願い……。
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/22(木) 03:59:44.03 ID:RfH0yjhko

続きを気長に待ってる
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/22(木) 05:51:35.88 ID:MUikWtjAO
乙!
待ってたぜ!
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/22(木) 09:42:14.85 ID:3oKTTFDUo
乙です
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/22(木) 14:56:00.42 ID:VdhZuSQFO
乙!
面白いよ
マイペースでいいから続けておくれ
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/24(土) 11:21:17.21 ID:+pLwHqTjo
おつ
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/06(金) 00:22:43.12 ID:ZdYx0jZqO
保守
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/19(木) 07:54:18.51 ID:TTswnx2PO
まだかな?
338 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/22(日) 16:43:43.47 ID:RJ1HzsC/O
ご無沙汰しております。
今晩更新します。
という生存報告。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 16:48:51.42 ID:kqBxNA+ko
うお
待ってた‼
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 16:54:45.71 ID:6k7iZVzDO
楽しみにしてる
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:17:01.81 ID:hQbQJ2vAO
了解!
待ってた!
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/22(日) 19:53:27.32 ID:WN+UhwwKo
やったぜ
343 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:11:28.19 ID:9DwdlqBj0



中央王国の北部、魔法の王国との境界は山岳地帯になっていて、
裂け谷と呼ばれる谷間に中央王国にとって重要な拠点となる砦がある。
砦といっても城や城壁のような建造物があるわけではないが、
北部には断崖から蛇行して降りる細い道が一本のみ、魔法の王国領まで繋がっていて、
地形として防衛に非常に適している、天然の要塞だ。
この道は互い違いに石造りの段で築かれており、折り返すごとに石碑が立てられている。
魔法の王国領を一望できる上、南東に荘厳に聳える火竜山脈が後部からの偵察と奇襲を防ぐこの地を守る限り、
中央王国北部の守りは鉄壁であると言われた。


賢者「…なんとかならないものかしら。
   ここを奪わない限り攻め込めないけど、
   ここを奪う事は不可能に近いだなんて」


夜、一人王都を抜けだした賢者は、
一夜のうちに裂け谷砦に辿り着いた。
一夜にして80キロを踏破する、徒歩としてそれは驚くべき移動速度だ。
戦士と別れた事は正解だった。
単独であるからこそ、王国軍が裂け谷砦の防備を固める前にここに辿り着けた。
非戦時、砦にはおよそ200名の人員が割かれているが、
その程度の防備なら、この魔法使いにとって突破する事は容易い事だろう。


賢者「崖下の森に身を隠せれば、
   魔法の都まですぐね。
   …馬を調達できればいいけど、
   崖を下る時目立ちすぎるかしら」


陽の昇る前に裂け谷砦を抜ける必要がある。
見張り番の息の根を止め、賢者は崖へと向かう。

そしてその時、静穏だった賢者の心が、少しだけ傾いだ。


賢者「……………ちぇ。
   依存、してる」


魔研を最後に会っていない、不出来な部下を思い出す。
彼は無事だろうか。
魔法の都に着けば、消息はわかるだろうか。

不出来な部下だが彼の存在は、賢者にとって大きかった。
これがもし彼の結末だとしても、それを恐れ自らの指揮下に置いていたとしても、
全ては彼が望んだ事だ。
忠告はしたとはいえ、それが彼の選んだ道なら、彼を守り抜く事は自らに課せられた役目だった。

では賢者の失態とは、さしずめ力不足という事か。

国王への報告を終えたら暇を貰おう、などと嘯く。
そうしたら、今度こそ胸を張り故国を守れる仕事にでも就こう。
戦争が避けられぬなら、
その戦いの果てが平和であるべきだ。

世が平和になれば、命を奪いすぎたこの身も、
平穏に暮らす事も許されるかもしれない。


344 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:13:34.29 ID:9DwdlqBj0



老婆「ああ。今年はまだ、降っとらんはずじゃよ。
   毎年11月の半ばじゃな。
   上の方は根雪になっとるが、中腹を抜ければいい」

戦士「そうか。
   なら雪の心配はないな」

老婆「あんた、火竜山脈なんぞを抜けてどうするんじゃ?
   鉱山都市を回れば山間の街道があるのに」

戦士「少し探し物があるんだ。
   そうだな、食料を買い込みたい。
   どこかに店はないか?」

老婆「良いが、この街は高いよ。
   少し登れば烽火台がある。南部諸侯国に救援を伝えるためのものだけど、
   今となっては老兵たちが余生を過ごすだけの施設じゃ。
   そこで分けてもらうといい」

戦士「わざわざありがとう。
   なら、そうさせてもらうよ」


火竜山脈を越える道を選んだ理由はひとつだ。
可能性は高いとはいえ、彼女の研究室は必ずしも火竜の巣穴にあるとは限らない。
山脈を横断しても南を迂回しても然程時間は変わらないため、
少しでも長い時間、山脈を探し回れるルートを選んだ。


老婆「食料はそれでいいが、それなりの準備をして行きなさい。
   山脈の魔物たちは手強い」

戦士「魔物が相手なら問題ないさ。
   それなりに腕に覚えもある」

老婆「…神の導きのあらんことを」

戦士「よしてくれ、俺は違う」

老婆「おや、この辺りでは珍しいねぇ。
   …なら、武運でも祈ろうかの」



345 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:14:08.28 ID:9DwdlqBj0



朝方のうちに烽火台に着くように、
日の出を待たず登頂を開始する事にした。
携行魔力灯のつたない光を頼りに闇の山中を歩く。
樹林帯の山道は険しく、霧が身体に張り付き、
汗をかいたような錯覚を覚える。
気温はむしろ低いのに身体が茹だるように錯覚してしまう事が、
余計に体力を奪う原因なのだろうか。


戦士「さっさと林を抜けたいな、こりゃ。
   魔物に出くわしませんように」


烽火台は山の中腹、林を抜け岩肌が目立つようになれば見えてくると聞いた。
地元の老人の話では4時間も登れば着くそうだが、その見通しが甘かった事には存外すぐに気付いた。
山道に慣れていない自分では、何時間かかるのかわからない。
手持ちの焼き菓子を齧り、更に林を歩く。

陽の光が顔を出し、気温が上がり、
疲れから鈍く熱を持つ膝をひたすら動かし続ける。
そうして6時間後、視界が開けた。
時刻は11時。
地元の人間しか知らぬ道があるのか、ペースが遅いのかはわからないが、
とにかく空き地に出た。
まだまだ余力はあるが、一息入れる事とする。

高地は空気が薄いと聞く。
6時間登っただけで、随分と息苦しいものだ。
岩場に腰を下ろし、来た道を確認すると、林の向こうに大きな湖が見下ろせた。
旅路の気の重みを差し引いたとしても、なかなかに素晴らしい見晴らしなのだろう。
前方には樹林帯が見下ろせ、そのすぐ先にまた山が見える。
その山の中腹に、小さく小屋が見えた。
間抜けな事に、どうやら登る山を間違えたようだ。

小さくため息をつく。
陽の差さぬ樹林帯が方向感覚を狂わせたのだろうか。
どうにかして、枝尾根伝いに回れないかと眺めていると、
小さく、唸り声が聴こえた。


戦士「……………」


小屋を眺める、その背後。
少し離れた岩場に、こちらを伺っている四足歩行の魔物が見える。
体毛の薄い褐色の肌。
野蛮な細い目と大きな胴体を、力強く太い四肢が低く屈ませ、
醜穢な口元は巨大な牙を剥いている。
その体躯は馬ほどもあり、太く響く唸り声は虎を思わせた。
更に不穏な事に、その背後には林が広がっている。


戦士「…魔狼か。
   群れ、だろうなぁ…」


1体でもなかなかの強敵だが、魔狼はその名の通り、
狼のように群れをなして行動する。
胸の飾り毛を見せつけるように魔物は誇らしげに遠吠える。
獲物を見つけた事を知らせているのだろうか。

姿を現していた1体が岩を蹴ると、林から次々とまた魔狼が飛び出してきた。
岩場を駆ける音はまるで鼓を打ち鳴らすが如くその体躯の大きさを予感させ、
涎を撒き散らし剥かれた牙がその殺傷力を如実に表わしていた。



346 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:16:47.80 ID:9DwdlqBj0



戦士「でああっ!!!」


最初の1体を迎撃する。
飛び上がった魔狼の下に飛び込み、すれ違いざまに首を飛ばした。
林を見やると、視認できるだけで15体ほどの魔狼が見える。
疾駆するその速度は駿馬と変わらぬものだ。
囲まれる危険はあるが、ここで迎撃する他ない。

突進してくる次の1体をやり過ごし、横脇から逆風に切り上げる。
しかし3体目までは防げなかった。
突進をまともに受け、膨大な質量を感じた瞬間、
10メートルほど離れた岩壁まで吹き飛ばされた。


戦士「ぐ、はっ……」


斧槍を離さなかった事は奇跡に近い。
一斉に飛びかかる肚か、
魔狼たちは一定の距離を保ち吠えかけてくる。
頭から痛みを振り払い、斧槍を構え、

―――頭上を、狙った。

岩壁の背後から狙っていた1体の頭部を串刺しにする。
そのまま力を込め、魔狼たちの前に躯と化した1体を投げ捨てた。


戦士「…魔狼の狩りは、得物を追い詰め背後から狙うんだったな」


魔狼たちは多少怯んだ様子を見せたが、
より一層速度を増し、一斉に突進してきた。
その一体を逆袈裟に切り伏せ、前方に身を投げ出す。
更に斧槍を横薙ぎに払い、5体目を仕留めた。


戦士「あと10体くらいか!!
   たまには魔物を斬っとかねぇと、
   勘が鈍っちまうなぁ!!!」


その時、更に鼓を打ち鳴らすような足音を耳にする。
闘志は少しも揺るがぬものの、少しの諦観がじくりと心を刺し、
背後に迫る敵意がひとつの事実を悟らせた。

群れがこれだけではなかった事を。

振り返るその目に、新たに飛び出してくる魔狼の群れが見えた。



347 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:18:01.00 ID:9DwdlqBj0



魔法の王国領の小さな村で宿を取る。
村は慌ただしくも、人の数は少なかった。
それも無理の無い話だ。
ここは中央王国に程近い小さな村で、戦争になれば戦禍を被るに違いなく、
更に20キロほど離れた場所に魔法の王国の砦がある。

埃っぽく、著名な出身者も居なければ、
特別なものを産出するわけでもない、存在する意義を見出だせない村だ。
宿は1件だけ。村唯一の酒場も兼ねているようだが、
自分以外に客の姿は見られなかった。


賢者「みんな、どこへ避難するのかしら?」

店主「避難先なんぞないよ。
   皆できるだけ北に行こうって肚だ。
   しかしまぁ、いつの間にか商人どもがやってきて、
   軍票欲しさにひと稼ぎしようとしとる。
   うちもそうだが」

賢者「…勝敗は見えてるものね。
   現金なものだわ」

店主「ま、学院が痛い目に遭うなら俺らとしちゃ願ってもない話だ。
   …と、失礼。
   あんたもしかして魔法使いか?」

賢者「うふふ、だったらどうするの?」

店主「………いや、
   どうしようかねぇ」


店主は体裁の悪そうな顔をして、それきり奥に引っ込んでしまった。
…学院の魔法使いたちの傲岸な振る舞いは魔法の王国中に知られている。
血税で成り立っておきながら市井を見下す精神性。
導士たちは国民を虫程度にしか考えておらず、
あろうことか催眠を掛け同意書を作成させ、民を対象に実験を行う者まで居る。
政府はその振る舞いを見てすらもいない。
なぜなら、政府もまた、魔法使いのみを人として扱っているからだ。

しかしそれでも民草は皆魔法使いに憧れる。
国土の肥沃さに恵まれぬこの地に豊かさをもたらしているのは魔法技術の恩恵に他ならない。
荒れ野に近いが故に雨が降らず水資源に乏しく、夜は寒く昼は暑い。
土は石だらけでろくな作物が育たない。
北部は極寒地帯に近く、とても人の住める環境ではない。

ならば魔法使いの選民思想が根付くのも自然と言えるだろう。



348 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:19:30.42 ID:9DwdlqBj0



少年「お姉さん、魔法使いなの?」


いつの間にそこに居たのか、
端正な顔立ちをした、黄金色の髪の少年がカウンターの隣に座っていた。


賢者「……………」


知覚魔法を使っていないとはいえ、
これだけ接近されて気付かないとは。

賢者は少年を見て、不可思議な違和感を覚える。
この少年には気配が無いのだ。
確かに少年の姿をその双眸で捕らえては居るはずだが、
まるで本来そこには居ない者のような、
例え頬を撫でられても気付かないような。

存在を目にしているのに、瞳に映っていないかのような。


賢者「…そうね。
   魔法使いかもしれないわね」


しばらく警戒心を強めていた賢者だったが、
無邪気に微笑む少年に少しだけ毒気を抜かれ、
賢者はつい、答えを返してしまった。


少年「ふうん。やっぱり魔法使いだね。
   それも、かなり高位の術士だね」

賢者「それで?君も、そうなの?」


賢者がそう尋ね返した事に、少年は幾許かの疑念を抱いたようで、
少しばかり頭を捻った後、答えた。


少年「僕は…そうだね、魔法使いなんだけど、
   ちょっと違うのかも」

賢者「魔法が使えるのなら、魔法使いよ。
   自慢できる事だと思うわ」

少年「いや、本来魔法使いだった、が正しいのかなぁ」

賢者「だった?今は使えないの?」

少年「使えるよ。
   でも、魔法が使える事だけが魔法使いの条件じゃないでしょ?」


349 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:20:23.47 ID:9DwdlqBj0



魔法使いの定義。
それは、魔法行使が可能である事。
魔力を用い、なんらかの事象を起こせる事。

なら、魔法が使えるのなら、魔法使いであるはずだ。


賢者「…どういう事かしら」

少年「だからさー、それは演繹だよね。
   魔法が使えるなら魔法使い、じゃ進歩なくない?
   魔法使いという存在について、お姉さん、考えた事ある?」

賢者「…ないわね。
   私は、覚えた魔法を、自分なりに使っているだけ。
   そういう話は、学院の導士たちの仕事よ」


少年は一度大きく笑顔を浮かべ、
目を輝かせた。


少年「なら、お姉さんは間違いなく魔法使いだね。
   良かった」

賢者「じゃ、君の考える魔法使いって?」

少年「概念として?…いや、資質の話かな。
   なんにせよ、きっと他のみんなは、魔法が使える人ってだけだよ。
   魔法使いとは違うと思うな」

賢者「そう。ありがと」


興味なさげに、賢者はグラスを空にする。
少年の正体はわからないがきっとどこかの導士なのだろう。
接近に気付かなかったのは、気配遮断のスクロールでも身につけているのだろう。
見ない顔だが、当然ながらこの国に魔法使いは珍しくもない。



350 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:21:23.23 ID:9DwdlqBj0



少年「でもさ。
   この国の魔法使い達、あ、これは役割としての表現だね。
   魔法使いたちは、みんな選民思想が激しいね。
   分離政策なんてとってないのに」

賢者「そうね。でも、この国を育てたのは魔法よ。
   あなたも、この国で魔法を習ったんでしょう」

少年「習った?まさか。
   逆はまだしもね」


と言い切って、まるで心外という顔をする。
やはり少年には存在感がない。
身振りから巻き起こる気流を感じない。
声は聞こえるのに鼓膜を震わせない。
足音を響かせるのに、振動を感じない。
それは、まるで幻のように。


少年「なら、お姉さん。
   あなたは魔法使いだけど、
   そうでない素質も持ってるね」

賢者「………どういう事なのか、わからないわ」

少年「魔法使いはなぜ魔法を習うの?
   世の中を豊かにするため?
   人々の助けとなるため?
   それとも、ただ便利だから?
   お姉さんは3つめだね。
   でも、みんなそうではないよね」


大仰な身振りで少年は続ける。
賢者は何故か言葉を発せられない自分に気付いた。
少年の言葉に僅かな毒と、思想の胎動を感じたからだろう。


少年「みんな次の段階に進みたいからだよね。
   世の中なんて関係ないし、人々の事なんて見向きもしない。
   勿体ぶって利便性にも目を向けない。
   ただ、魔法の行く末を見たいんだ。
   この世に魔法しか無いと思ってる。
   でも頭打ちだ。
   新しい理念が欲しいんだ。
   それらは魔法では生み出せないものなのに、魔法は再現する事しか出来ないのに、
   未だ見ぬものを魔法で生み出そうとしている」



351 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:22:34.01 ID:9DwdlqBj0



賢者「愚かだと言いたいのね」


似た話を、どこかで聞いた。
魔法とは引き返す事だと。
結果を知らなければ魔法は使えないのだと。


少年「愚かだよ。
   でも、魔法使いが愚かでは立ち行かないでしょ?
   だからみんなほんとは魔法使いじゃないんだ。
   僕に言わせればね」

賢者「うふふ。評論家気取りかしら。
   随分と能弁なのね」


少年は少しだけ笑みを浮かべ、
忘れ去られ、苔むし、澱み、腐りきった沼のような瞳を僅かに歪め、
その双眸に初めて賢者の姿を捕らえる。
拭い去れぬ違和感と未知への恐怖に、
賢者は思わず身を竦ませる事もできずただ身動ぎを止めた。
少年の声はまるで脳へ直接響くかのようで、
反芻する言霊は脳髄をごりごりと軋ませる。
少年から目を離せない。
耳を塞ぐ事もできない。

大きな手で顔を掴まれているみたい。
空気の震えを感じさせない声は、ともすれば、
自らの心の声なのかと錯覚してしまうようだった。


少年「だから思うんだ。
   ただの魔法が使える人なら、意思さえあればいいんじゃないかってね」

賢者「…………意思…」

少年「肉体なんてめんどくさいもの、必要ないんじゃない?
   あ、でも、アストラル体はやわっこいから、
   まぁほらあれだよ。
   要は身体がどんなのでも別に大した問題じゃないんじゃないかって」

賢者「………………ぁ、」

少年「魔法は随分と進歩したね。
   かつて精霊と対話する力は森に棲むエルフたちだけのものだった。
   神聖魔法と銘打たれた神職者たちの秘伝も、魔法の範疇である事が証明されて、
   教会は力を失った。
   でも、それらはみな元々あったものだ。
   …ここらで、生物として次のステージに進んでみるべきじゃない?
   違うかな?」



352 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:24:01.42 ID:9DwdlqBj0



少年「…あれ?」

賢者「……………」

少年「意外と可愛いね。
   もう喋れないか」


瞳の色を失い呆ける賢者の額に、そっと光る指先を触れさせる。
人のものとは違う、強力な催眠。
魔力の糸を心の奥底まで伸ばす瞬間はこの少年にとって嗜好するものに値する。
どれだけ肉体を蹂躙しようと、これに勝る征服感は味わえないから。


少年「さて。
   ちょっと小細工させてもらうね。
   君は、逃げ足が速いから…」


細い糸を滑らせ、
ひとつひとつ心の壁を紐解いていく。
読心とは異なる、這うような精神汚染。


少年「やっぱりロックされてるけど。
   このくらいなら」


引き金をひとつひとつ下ろすように糸を滑らせる。
他者の心象風景は自らの心とは異なるものだ。
それを一度映像化した上で自らの心に投影する。
この少年はピッキングのようなイメージを好んだ。
心に咲く小さな悪の華。その小さな遊び心で、
他者の人生を大きく狂わせる趣向こそ、
この少年の本質なのだろう。


少年「…でーきた。
   おじゃましまーす」


開いた心の壁の先。
鍵は既に用をなさず、扉は開け放たれている。
僅かな達成感と旅立ちを前にするような高揚感に少年の心は踊った。

しかし、
鍵開けに没頭していた事が災いしてか、
少年には気付くことはできなかった。
賢者は間諜であり、情報は守られねばならない。
持つ情報の機密性には国家レベルのものすらもある。

その可用性を守るものは、決して鍵のみではない。
乙女の寝所には、番人が居るのだ。



353 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:24:57.19 ID:9DwdlqBj0



少年「―――っつ―――!!!」


前兆も、脈略も、意思すらも感じぬ一振り。
はじめから引き絞られていた弓を思わせる、ナイフの切っ先が少年を襲う。
しかし危機を察知し、そして反応するまで、それはまさに刹那の瞬間だった。
その少年の回避速度たるや、およそ人間ではありえない速度だ。
結果としてナイフの切っ先は少年の頬を掠めるに留まった。

賢者が自らの持つ情報を守るために行っている事は2つだ。
ひとつは、昏迷時以上の深度の意識レベルでは思考を停止させ、読心を防ぐ精神操作魔法。
そしてもうひとつが、精神への外部アクセスを引き金として、敵を自動的に迎撃する自己暗示だ。

しかし、その結果はどうであったのか。
この攻撃は、この少年にとって確実に、意識の外からの攻撃であるはずだった。
しかし少年はその危機を即座に察知し、反応し、かわしてみせたのだ。


少年「…へー。
   なかなか気の利いたセキュリティじゃん」


ナイフを構える賢者の瞳に光が戻る。
少年が持ち合わせる魔眼の力が解けたのか、
賢者の魔法抵抗力がその魔力に勝ったのか、
あるいはそのどちらもが理由なのか。


賢者「………いったい、何?」


意識を取り戻した賢者の第一声、
その謎めいた言葉は心の混乱に必死に耐え、溢れ出た疑問だった。
魔法使いである彼女は、自らの意識を容易く奪った魔法の正体が、
この黄金色の髪の少年が持つ魔眼の力である事には既に気付いていた。
しかし呪文の詠唱をせず、ただ視線のみで魔力を叩き込む魔眼では、
せいぜい1カウント相当の効果しか持たぬはずだ。
高位魔法使いである賢者にそれと気付かせず意識を奪う程の魔眼など、
果たして世に存在するのか。



354 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:26:27.84 ID:9DwdlqBj0



存在感のない肉体の持つ身体能力。
埒外の魔力を湛える魔の双眸。
十を過ぎたばかりであろう年齢にそぐわぬ魔法の練度。

その意味するところとは。


賢者「少なくとも、人間ではないわね」

少年「解答は具体的にお願いしまーす」


嘲るような口調で少年は応え、
渦巻く混沌を掬い取った瞳をぐにゃりと歪めた。
底抜けに愉しむようなその表情はまるで人形遊びをする子供だ。
だが、少年から滲み出る隠しようもない邪悪さは、
同時に倒錯的な嗜虐心も感じさせる。


賢者「(冗談じゃないわ。
    これじゃ、遊び終わる頃には、)」

少年「大体僕が人間じゃない事くらい、
   誰だってわかるでしょ」

賢者「(人形はバラバラにされてるじゃない…!)」


彼女は未知の敵と戦った経験に欠ける。
賢者の間諜としての本質は卓越した情報収集能力にあり、
どんな難敵に対してもひとつの「勝ちの一手」を用意する事で対抗してきた。

故に今、能力や種族すらも想像だにする事のできない難敵を前に、
彼女には打倒できる自信がなかった。
こちらの武装はナイフ一本、徒手錬成による魔法行使。
敵の能力はわからないが、ひとまずは、


賢者「(敵の攻撃を待って、対抗…)」

少年「手段を、考えようって肚だね。
   消極的だけどいい手だ」


心をぴたりと言い当てられ、
隠せぬ動揺が顔に滲む。



355 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:27:52.21 ID:9DwdlqBj0



少年「汚れ仕事のいいところだね。
   彼我の実力差を感じ取り、それを受け入れる事ができる」

賢者「……………」


容易く心を覗かれた事もそうだが、
先程の魔眼による催眠効果の事もある。
つまり対話は不利益だ、と賢者は考える。
ではこの状況は旨くない。
ナイフを逆手に持ち替え、身体に魔力を通わせる。


少年「悪くないフィジカルエンチャントだ。
   やっぱり君は時世にそぐわない実践的な魔法使いだよ。
   でもごめんね、凄く凄くもったいないんだけど…」

賢者「はぁぁぁっ!!」


帯剣していない事が悔やまれるが、
単純な魔法であれば徒手であれど行使が可能だ。
賢者の好む、猫科をモデルとした肉体強化は、
静止状態から即座に最大速度での踏み込みを可能とする。
渾身の速度で半身に胸元へとナイフを構え、
少年の心臓へと切っ先を突き立てたが、


少年「ま、殺すのは僕じゃないんだけど」


その言葉だけを残し、少年の姿は掻き消えていた。


賢者「…転、」

少年「転移じゃないよーん」


声は背後から響く。
魔法を駆使した賢者の知覚力は例え音の速度で動こうと視認を可能とする。
ではその姿がはじめから幻であった事以外に考えられず、
少年は元よりそこに居たかのように、賢者の背後、バーカウンターに腰掛けていた。



356 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:29:12.74 ID:9DwdlqBj0



少年「なんて顔してるのさ」

賢者「………バカげてるわ」


少年は賢者のグラスをひと舐めし、続ける。


少年「君の知覚はおかしくないよ。
   でも僕を知覚するには少し足りない。
   意識の外に目を向けてみる事だね」

賢者「…ご高説ありがと」

少年「ま、ひとつだけ教えてあげる。
   臨戦態勢の君に魔眼は効かないし、
   そもそも僕は幻なんかじゃなかったよ。
   これ以上は自分で考えてね」

賢者「……………」

少年「ま、目的は果たしたし。
   ごめんね、バイバイ」


その言葉を響かせながら、
少年の身体は再び霧散した。
それは姿を消す事とは異なる。
滲む視界を思わせる、
僅かに残像の残るような、
焦点が徐々に合わなくなるような、

…奥深い霧の向こうへと沈むような。


賢者「…ああ、なるほど」


そして彼女は、少年の正体を悟った。


賢者「仕事、増やしてほしくないんだけどな…」


その正体が賢者の想像の通りだとすれば、
交戦が不利である事も頷ける。

少年は目的は果たしたと言った。
目的とは恐らく賢者自身であるはずだ。



357 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:31:59.83 ID:9DwdlqBj0



心を覗かれかけた事からして、
目的は彼女の持つ情報と考える事が自然だ。
だが精神侵入は未然に防がれたはず。
その意味するところは、


賢者「…いったい、『何をされた』のかしらね」


目的とは、賢者の少しだけ開いた心に、
「なにか」を遺していく事だ。

陽はやがて沈み、
影は昏く長く、やがて夜の帳を下ろす。
外は蝙蝠がぎゃあぎゃあと鳴き、
窓から差す夕陽が室内の湿気を洗い流した。

それで、残された気配は完全に消える。

目的はわからないが、
それは人に仇なすものとしか考えられない。
年数にもよるが、一介の魔法使いの敵う相手ではないだろう。
一刻も早く都へと向かう必要がある。

賢者は自己に誇りを持たない。
故に、自らが敵わぬ事など大した問題にはなり得ない。
どんな難敵だろうと、打倒できる手段は必ずあるのだ。

旅支度を整え、宿を跡にする。
町は先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。


賢者「髄から骨、肉から皮へ。
   流れ還る力の渦は我が四肢をそうならしめよ」


肉体強化の呪文を唱える。
イメージするはかつて見た、エルフの手により育てられたという駿馬。


賢者「人の身のいましめを脱し、我が身は草原を駆ける。
   風のように。
   音のように。
   朝が来ずとも、陽が沈まぬとも。
   …我が疾走は、決して止めぬ」


一陣の風に乗り、賢者は魔法の都へと駆け出した。



358 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:34:12.98 ID:9DwdlqBj0



どれだけの戦闘があったのか。

岩場は夥しい魔物の血で黒く染まり、
累々と魔狼の屍が横たわる。
そして倒れ伏し小さく唸る最後の一頭に穂先を突き立てた男もまた、
深く傷つき、吐く息は硬く、眼や鼻からすら流血し、
長物の支えが無ければ地を踏む事すら難しいといわんばかりに、
斧槍に身体を預けていた。

血を失いすぎたのか、
戦士は朦朧と、すぐ側まで迫る自らの死に思いを馳せる。

旅の目的とはなんだったのか。
足取りを追う度に、彼女の短い生涯が、
無学な田舎者の範疇に収まらぬものと知るのみだ。

鉱山都市での彼女の行い、
中央王国で見た研究の実情。
そのどちらもが彼女だとすれば、

幸せに過ごした3ヶ月間すら、今や虚像と思えてしまう。

彼女が止めたかったという戦争は避けられぬものとなり、
敵の姿も未だ見えず、
魔神の足取りもわからない。
勇者を止めるもできず、
魔物を狩るために磨いたはずの腕すら力が及ばない。

状況に流され続け、こうして命を落とすのなら、
この旅に意味などなかったのだろうか。


戦士「………………死ねば、会える、か」


どうしてだか、
これでは死後彼女に会えると思えないが、
既に手に力は入らないし、
膝ももう伸ばしていられない。

ずるずると柄から崩れ落ち、
あるはずの地がないかのように、意識の底へと落ちていく。
なにもかもが希薄に感じられる中、
ただ孤独感だけが昏く大きく心に陰を落とした。


「ああ。それが死というものだよ」


どこからか響く声。
これは彼女も味わったものだと思えば、少しだけ、
その孤独感も受け入れられた。

復讐は身を滅ぼすとどこかで聞いた事があるが、
その意味が少しだけわかった気がした。



359 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:35:23.59 ID:9DwdlqBj0



寄せては返す波間に揺蕩う意識。
四肢に感覚は無く、波の鼓に綯い交ぜにされた自己は混濁とした意識をより希薄にする。
揺られ、流れ、そして岸辺へと押し戻される。
海の先には死者の国。
どれだけの時間が経ったのか、そもそもここに時間などは意味をなさぬのか、
まぁ、とにかく、暇だ。

さて、状況を整理しよう。

あの日、故郷で。


「あの数の魔狼を、一人で。
 確かに、大した腕だ」


俺は魔物の群れを相手に、街中を駆け回っていた。
その時彼女の使い魔を介した念信があり、
彼女は民の避難を手伝っていると聞いた。

そこで、念信が途切れた。

次に会った時、彼女は傷を負っていた。
念信が途切れた時、俺には彼女の身になにか起こったとしか思えなかったが、
腹に受けた傷はひとつのみ。
恐らく魔物の爪によるものだ。
だが、念信が途切れる時の声色には少しの焦りも感じられなかった。

つまり、念信は彼女により、切られたのだ。

それがなにを意味するかはわからないが、
重要な事は念信が途切れた間、何が起こったかだ。
彼女の魔法の腕前を考えれば、あの程度の魔物に容易く屈する事など考えられない。
デーモンがそこに居たという事も考えれば辻褄は合うが、


『既に手負いの状態で眼前に現れてくれるとは!!!!』


彼女の傷はデーモンによるものではない。
彼女が言った、第三者の意図。
彼女の傷がその第三者によるものだとすれば、

あの場には、街の者、攻め寄せたデーモンと魔物たち、
そのどちらにも属さない、何者かが居た事になる。



360 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:37:03.75 ID:9DwdlqBj0



「傷は多いが、深いものは無い。
 目覚める頃には治癒しているだろう」


魔研の一件はどうだろう。
地下の彼女の研究室。
それは彼女が魔研に居た事を示す。

彼女は3年前、鉱山都市を去ったという。
居たとすればその後3年間の間のどこかだろう。
向かいには、勇者の語る処での「本物」が居たという牢獄。
勇者は魔研を実家だと言った。
雷魔法が魔研での研究の産物だとすれば、
牢獄には雷魔法の使い手が?
しかし、「本物」が雷魔法の使い手だとして、
容易く幽閉できるような存在なのだろうか。

そもそも、あの赤黒い球体だ。
魔法使いの血が勇者の言うようなものだとすれば、
魔法使いの血液は火にくべれば燃えあがる事になる。
魔力の正体がそのようなものだとして、
そんな単純な事を、魔法学院が見逃しているはずがない。
恐らくなにか特殊な処理が必要なのだろうが、
なんにせよあの爆発は大きな驚異だ。
中央王国軍は現在勇者により掌握されている。
加えてあのような新兵器が投入されれば、趨勢は決まったも同然だろう。

そしてそれらの研究に魔女が手を貸していたとすれば。

謎は未だ残る。
賢者の知覚を封じたものの正体。
賢者は、宣戦布告の口実になると理解した上で、なぜ魔研を襲撃したのか。

そして、勇者と盗賊が言った、「彼」とは。

…まぁ、考えるだけ無駄なのだろう。
俺は、もう。


「…いい加減、起きろ。
 いつまで寝ている気だ」



361 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:37:45.93 ID:9DwdlqBj0



戦士「…へ?」

老人「生きておる。
   傷跡すらあるまいて」

戦士「………はぁ」


寝かされていたのは、
東方風の、妙にオリエンタルな内装の部屋だった。
ちりん、ちりんと下げられた鈴が揺れ、
魔力灯の柔らかな光が強く感じられる。
それは他に光が差さない事の証左だ。
つまり、今は夜であるか、それとも、


戦士「洞窟なのか?ここは」


土壁から覗く岩を見るに、後者なのだろう。


老人「無礼な男だ。
   君を助けたのは誰だと思うておる」


憮然とした面持ちの老人は、如何にも隠者が好みそうな、
黒いローブを流し着て、木椅子に腰掛けている。
助かった理由はわからないが、礼を言っておくべきだろう。


戦士「ああ、すまない。
   助けてもらったようだ。ありがとう」

老人「…まぁ、いいだろう」


釈然とはしないが、助けられた事は事実だ。
老人は少し顎をしゃくり、
口を開く。



362 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:38:26.12 ID:9DwdlqBj0



老人「君は、あの子の縁者かね」

戦士「…あの子?」

老人「魔女と呼ばれておるはずだ。
   名前には疎くてな」

戦士「………夫だ」

老人「やはりそうか。
   ミスリルの斧槍には見覚えがあった」


少しため息をつき、
棚から、水晶球を取り出す。
はっきりと見覚えのある、彼女の水晶球だ。


老人「竜の巣穴へようこそ。
   私は、…そうだな、番人とでも思っておきなさい」

戦士「…あいつを、知っているのか?」


老人は目を伏せ、


老人「私は、あの子の魔法の師にあたる」


水晶を木机に置き、そう呟いた。



363 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/23(月) 01:40:10.54 ID:9DwdlqBj0

今日はここまでです。
数々の応援レスありがとうございます。
励みになります。

なかなか時間が取れず申し訳ありません。
頑張って進めます。
読んでくださる方が居る限り頑張ります。
見捨てないで…お願い…。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 01:48:17.75 ID:yEQdqG6to
お疲れ様です!
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 04:30:09.22 ID:BTywW08Do
見捨てるわけがないじゃん。
お疲れさま!
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 05:11:28.44 ID:PHskQaSgO
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/23(月) 07:19:15.94 ID:E9DD0P8AO
乙!
次も楽しみに待ってる!
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/24(火) 07:19:58.21 ID:wcbX7P67o
賢者がなにされたかわからんが無事でいて欲しい
369 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 02:49:28.49 ID:Mm2oT6db0


一昨日のおまけです。
筆休めに書きました。
完全な番外編です。
良ければ読んでやってください。


370 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 02:54:12.56 ID:Mm2oT6db0



出自にとりわけ意味はなく、

なんの事はない町で産まれた。


時計職人の厳格な父と、美しく優しい母、気の強い妹の4人家族だった。
厳格な父は仕事ぶりもまた、その性に相応しく厳格なものであり、
父の作る時計は、大陸で最も正確に時を報せると言われる鐘の音と、
如何なる時も寸分の狂いなく時刻を示した。
父は毎日のように時計を作り続けた。
春夏秋冬、雨の日も、風の日も。
幼心に、父は誇れるものだった。

厳格な父の作品は厳格に時を刻み続ける。
その仕事は一日たりとも休まれる事はない。
命芽吹く春も、茹だるような暑い夏も。
葉が黄金色に色づき虫たちの音色が響く秋も、
身体の芯まで凍りつくような冬も。
父はまるでそれしかないようにひたすらに時を刻み続ける。
ただ、正確に時を刻む事こそが父の人生であるというように。

魔法技術の発展に伴い、
もはや世の中が機械仕掛の時計を必要としなくなっても、
父は時計を作り続けた。
発注など来ないというのに、
もはや高価な壁掛け時計など誰も必要としないというのに、
正確な時計の動きを再現するだけの金属板の方がずっと小型で便利だというのに、
父は何も言わず時計を作り続けた。

そしてやがて、
14に差し掛かる頃、やっと彼は、
父には本当に"それ"しかないのだと気付いた。

父は時間に魅せられていた。
何十年という間、正確な時に生き、正確に時を刻もうとし続けた父は、
もはや他にすべき事を見出だせなくなっていたのだと。
時計は父の自我の結晶であり、
自分とは流れる時の異なる、自らの妻や子供にすら、
興味を失ってしまっているのだと。



371 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 02:55:49.10 ID:Mm2oT6db0



生活が困窮し、、
母が働きに出るようになっても、
父は時計を作り続ける。
彼は、そんな父を見捨てられない母を見捨てられず、
妹を食わせる必要もあり、
彼もまた働きに出るようになった。
作れど作れど発注は来ない。
家は時計が溢れかえり、
こち、こち、と寸分の狂いなく時を刻み続ける。
ある日彼はもう何年も父の声を聞いていない事に気付いた。

妹がいつの間にか家族を見捨て家を出たのは、その頃だった。

嵩む時計の製作費。
彼は何度も父を捨て家を出ようと訴えたが、母の耳には届かず、
少しでも多い収入を求めた母は、仕出し女として従軍する事を決め、
帰宅は数ヶ月に一度となった。

家には彼と時計を作る父、そして、山のような時計のみが残された。
2人を囲む時計たちは全て同じリズムで時を刻む。

こち、こち、こち、と。

振り返ってこっちを見ろ、
時計を作るのをやめろ。
それができないのなら、母を解放してくれ。

詰る彼の言葉も、父に流れる正確な時間を止める事はできない。
怒り狂った彼が時計を破壊し、父の向かう机に叩きつけると、
父は少し目を歪め、製作途中の時計を脇へ追いやり、
何事もなかったかのように破壊された時計を修理し始めた。


その時。

背骨が熱された鉄芯に感じられるほどの激しい怒りが心を満たし、

彼は、ならばその正確な時を止めようと思い至った。



ふた月後、母が帰宅した。
久しく見る母はどこか窶れて見え、"父さんはどこへ?"と問いかけてきた。
彼は、"出て行った"、とだけ伝えた。
"そう"それだけ言葉を発すると、母は倒れ、その日から床に伏した。
従軍中、兵士に強姦され、その傷が元で感染症を引き起こしたと知ったのは、
母が亡くなった後だった。



372 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 02:57:09.27 ID:Mm2oT6db0



そして父も母も妹も、時計すらも、彼の前から消えた。
なにも失くした彼は引きずられるようにふらふらと、
無音の家を跡にした。

今日からは、無音の時を刻もう。
それだけを思い、あてのない旅に出る。

あれはどこだっただろう。
名もない街の市場で、腹を空かした彼は、店先に積まれた林檎をふと目にし、
虚ろに林檎を見つめるうち、心に疑念が渦巻くのを感じた。

自分は何が悪かったのだろう。
なぜこのような人生になったのだろう。
店先で無邪気に遊ぶ子供、
それを笑いながら見守る母。
我が家はどうなっているのか。
溢れかえる時計を全て捨ててみれば、我が家にはなにも残らなかった。
時を刻む事を止めた我が家はただ朽ちるだけだというのか。
だというのに、我が家がそうだというのに、なぜこの家は、
硝子一枚割れていないのだ。

店先を通り掛かる時、
なんの澱みもなく指が動いた。

まるで、何年も前から、生業としていたかのように。

少しも傷まぬ心と、口に広がる、爽やかな甘味と酸味。
自分は何も悪くない。全て親が悪いのだ。
そのひとつの小さな窃盗が、
全てを失くした彼の心を、黒く染め上げたのだった。



373 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 02:57:46.11 ID:Mm2oT6db0




それから僅か数年後。
彼は千の指となった。




374 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 02:59:04.58 ID:Mm2oT6db0



彼に開けられぬ錠前はなかった。
例えどれだけ難解な錠前であろうと、
罠が仕掛けられていようと、
どのような魔法技術が使われていようと。
彼はたちどころに仕掛けを見破り、
音もなく侵入する事ができた。

難解な曲を弾きこなすピアニストのように動く指。
彼はいつしか千の指を持つ男と呼ばれ、
彼の名声を高めていった。
はじめは、王国のスラム街で。
やがて鍵開けの腕を買われ冒険者たちに協力するようになり、
貴族たちから宝物庫の錠前について意見を求められる事さえあった。

だが、その生来の指先の感覚が、
憎き父から受け継いだものである事は確かだった。

彼が働いた盗みは、城が建つほどの金額に上る。
だが彼はその金を貯めこむばかりで、使おうともしなかった。
唾棄すべき父と愛する母、姿を消した妹への、
無念、遺憾、未達、隠忍の思いをぶつけられるだけのものが、
そもそも小物である彼には、それしかなかっただけの事。
優しかった顔立ちには苦悩が刻まれ、
黒かった髪は白髪となり、
酒の飲み過ぎで土気色の肌には表情を出す事もなくなった。

だがギルド長となった彼にも守るべき立場と部下ができた。
ならば必要に迫られ殺しをする事もある。
望まぬつとめを果たす事も、
立場と部下を守るためには必要なのだ。

その迷いを封じ込め、
彼は5年間盗賊ギルド長を務めた。
迷いを晴らせぬまま、わだかまりも消えぬまま、
本来は容易いはずの罠解除で、彼は右足に重症を負った。

走れず足音も殺せない盗賊など価値はなくなったようなもの。
囲っていた堅気の女の家に転がり込んで、1年が過ぎた。
その女にも愛想を尽かされたのか、
ある日酒を飲んで帰ると女は消えていた。



375 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:01:00.77 ID:Mm2oT6db0



居場所を失くした彼はまた放浪の旅に出る事にした。
旅を続ければ顔馴染みもできる。
まだ心の闇を晴らせていない、そう考えた彼は仲間と共に奴隷商となった。

奴隷商は気分が良かった。
未来ある子供の人生を、ただ腹を肥やすためだけの不条理で台無しにできる。
虫を爪弾くようなものだ。
それが人に変わったところで、なんの違いもない。

自分のような無学でなんの展望もない男の食事のために、
未来ある子供が泣きわめき、絶望し、瞳から光が喪われる。
殺しは好かない、殺されないだけマシと思え。
そう心で語りかけ、彼は奴隷たちに背を向ける。

奴隷たちにとって身体を暴かれる事はただ命を落とすより辛い事なのだが、
絶望しきった彼には、それが理解できなかった。

奴隷商を続けたのは9年ほど。
だがそれも、どれだけ傷めつけられようと瞳から光を喪わない、
亜麻色の髪をした少女と出逢い、
すっぽりと闇が抜け落ち、彼はまた心を失くしてしまった。

一体なにをすれば楽になれるのか。
自分にはなにができるのか。
すべき事を見つけられない彼はもはや死を待つばかり。
だがふと、死ぬ前に誰かと話したくなり、
親しい友人も居ない彼は、娼館に出向く事にした。

あてがわれた女は、ひどく蒼白く頬のこけた、気だるそうな年増の女だった。
股ぐらの芯が痛むのかふらふらとおぼつかない足取りで、
それが梅毒特有の症状だという事もわかった。

…しかし、妙に親近感の湧く顔立ちをしていた。



376 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:01:55.54 ID:Mm2oT6db0



お兄さん、どこかでお会いした事が?

…いいや。だが、お前の顔は、なんだか見ていると落ち着くよ。

そうですか。…ま、時間もないですし。
そろそろ始めましょ。

その前に、少し話をしよう。
…無理にまぐわらなくてもいい。

はぁ?なに言ってんの?冷やかしなら帰んなさいな。

い、いや。冷やかしじゃない。
ただ、話がしたいだけなんだ。
それだけで金がもらえるんだ。悪い話じゃないだろ?

…あたしだってね。
こんな事したくてしてるわけじゃないよ!!
でもね、あたしにはこれしかないの!!
話したいなら酒場に行きな!
馬鹿にしてんじゃないわよ!!!

ま、待ってくれ!頼む!!!



377 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:02:47.22 ID:Mm2oT6db0



部屋を出ようとする手を強く引いた時、
身体の痛みからか娼婦はバランスを崩し、
椅子の角で頭を強く打ち、それきり動かなくなった。

ただ話がしたかっただけ。
それが、娼婦として生きる彼女の決意を踏みにじった事にも、
彼は気付けなかった。

騒ぎを聞きつけ部屋に踏み込んでくる男たち。
ただ呆然とするまま拘束され、
彼は衛兵に引き渡された。



378 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:03:34.08 ID:Mm2oT6db0



青年「娼館で殺し?」

兵士「ええ、そうです。
   本来ではこっちには回ってこない話なんですが」

青年「うーん。
   世の中も平和で、
   仕事もないし、まあいいよ。
   で、犯人はどこに?」

兵士「身柄は確保済みです。
   なんかずっとうなだれてますけど。
   ああ、身許なんですけどね、
   先代の盗賊ギルド長なんですよ」

青年「…ええ、大物だね」

兵士「だから話が回ってきたんです。
   軍警察としては動かないといけないでしょう、お坊ちゃま」

青年「うるさいな。
   年下の癖に」

兵士「で、ですね。
   これがまたややこしいんですよ。
   資料纏めておいたんで読んでおいてください」

青年「相変わらず有能だなぁ」



379 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:04:46.71 ID:Mm2oT6db0



盗賊「……………」


仮牢で一人うなだれる。
一体何日経ったのか。
なぜこうなったのか。
どこで間違えたのか。

ただそれだけを考え続けた。

従軍する母を止めるべきだったのか。
父はどう訴えれば時計作りをやめたのか。
妹の家出になぜ気付けなかったのか。

盗賊となったのは間違いだったのか。
奴隷を狩り続けてなんになったのか。

自分の人生は、不幸と憂さ晴らしの連続でしかなかった。


青年「食事、摂らなければ。
   そのまま餓死するつもりですか?」


部屋に入ってきた若い男。
よく鍛えられた身体と、血色のいい顔。
そして少しの汚れも無い白い軍服姿に目が眩む。


青年「面倒くさい前置きは省きます。
   なぜ殺したんです」

盗賊「………殺す、つもりは」

青年「まぁそうですね。
   状況としても、わざわざ椅子に頭を打ち付けるなんて。
   殴った方が早いです」

盗賊「……………」



380 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:05:59.68 ID:Mm2oT6db0



青年「まぁ、いいです。
   問題はあなたの経歴です。
   はじめは、盗賊として。
   その次に、奴隷商として。
   罪に問われなかった理由は色々あるでしょうが、
   捕まってしまった以上極刑は免れませんよ」

盗賊「……別に…構わない」

青年「極刑は自殺の場ではありませんから。
   死んだ娼婦についてどこまでお知りですか?」


盗賊は朦朧と、娼婦の顔を思い返す。
こんな時まで腹が減るとは、
人の身体とは不便なものだ。

青白く、痩せこけ、気だるそうな女。
見覚えはないが、ただ、
彼女の顔は、とても落ち着いた事は確かだ。


青年「では教えて差し上げます。
   彼女が娼婦となったのは、3年ほど前です。
   彼女は未婚の母でしてね。
   一人娘を奴隷狩りでさらわれてしまい、
   なんとか見つけ出したものの、買い取った者が随分と悪どくて、
   通報すれば娘は殺す、1億で娘は返してやる、と持ちかけたそうです」

盗賊「………奴隷、狩り」

青年「元はと言えばあなたのせいですね。
   裏は取れています」

盗賊「…そうか。
   ますます死ぬべきだな、俺は」



381 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:06:55.96 ID:Mm2oT6db0



青年「で、娘の父親ですが、
   10年前、彼女には内縁の夫がいました」

盗賊「………」

青年「その男がひどい男でね、
   職を失くし、毎日飲んだくれていたそうで。
   妊娠に気付いた彼女は子供のために、
   男の元を去ったとか。
   それなりに愛してはいたが、生まれてくる子を守りたかったと、
   周囲に漏らしていたそうですよ」

盗賊「………待て」

青年「なんです?」

盗賊「そんな馬鹿な話が、」

青年「話を続けますよ」

盗賊「待て!!!
   女の名は!!!!」

青年「今から言いますって。
   話、聞いてくださいよ」

盗賊「………」

青年「話を続けますね。
   彼女の名ですが、名前が一度変わっています。
   うちの有能な部下が3日かけて調べてくれたんですよ。
   感謝してくださいね」



382 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:07:41.02 ID:Mm2oT6db0



盗賊「…名前が、変わった?」

青年「ええ。
   彼女は、中央王国のはずれの街にある、時計職人の娘として産まれました。
   家出して名前変えたみたいです」


そんな、


青年「彼女の名前は、女って名前みたいですけど」


ばかな、話が。


青年「名を、変える前。
   彼女は、あなたの実の妹ですね」


生き別れた妹。
気の強い、誇り高い娘だった。

生き別れた兄と妹が、
お互いがそれと気付かずに夫婦になり。

娘を設け、また別れ、
知らぬまに誘拐犯とその被害者となり、

またそれと気付かぬまま、
殺人事件の加害者と被害者になっている。


盗賊「そんな、馬鹿な話があるかあああ!!!!!」



383 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:08:52.18 ID:Mm2oT6db0



しゅ、という音がした。
舌を噛み切ろうとした歯は、
それよりも速く口にねじ込まれた手ぬぐいを、
ぎりぎりと噛みしめていた。


青年「死んじゃだめです」

盗賊「ぐう、ううううううあああああ!!!!!!」

青年「娘さんはどうするんです」

盗賊「……!?!?」

青年「娘さんに会いたくはないですか?」


その時、なんの抵抗もなく。
心にするりと、ひとつの感情が滑りこんだ。

――――会いたい、と。

しかし会っても、償う事も、支えてやる事もできない。
自分では、娘にどうしてやる事もできない。


青年「ああ、…すみません。
   口を放してください」

盗賊「…ぅ……ぁ……………。
   その、…子は」

青年「会いたいですか?」

盗賊「……会えなくても。
   会えなくてもいい!!!
   会わせる顔なんて、…とても……!!!」

青年「……………」

盗賊「ひと目でいい!!!!
   ひと目でいい、見させてくれ!!!
   頼む!!!」



384 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:09:38.32 ID:Mm2oT6db0



青年「…その子は、今この王城に居ます。
   少し事情がありましてね」

盗賊「え―――――」

青年「最近の話ですが。
   …そこで、あなたをリクルートします。
   あなたの情報を抹消し、新しい戸籍をあげてもいいです。
   手続き上の問題なので、誰にも文句は言われません。
   あなたはむしろ生かしておき手元に置いた方が、
   各方面の貴族を黙らせるのに便利ですからね」

盗賊「…なぜ、そんな事をする」

青年「なに、簡単な事ですよ」



青年「あなたには、その子の世話係になってもらいますから」





385 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:10:16.22 ID:Mm2oT6db0



少女「………おじさん、誰?」


そして、その少女と引き合わされた。
顔立ちなどは、幼い頃の妹にまるで生き写しだ。

ただ、氷のような白銀の髪を除いては。


盗賊「…髪は、元々その色ですか?」

少女「さいしょは黒かったけど、
   …気付いたら、こうなっちゃった」

盗賊「そうですか。
   ―――私と、同じですね」


この子に父とは名乗れない。
自分に、その資格はないが、

この子の傍を終の棲家とする事を、その時決めた。



386 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:10:57.20 ID:Mm2oT6db0


***



見習「なにぼーっとしてんですか」

憲兵「………ああ。
   少し、昔の話を思い出していた」

見習「へー。
   あんたいくつだっけ?」

憲兵「今年で28だが」

見習「まじ、てっきり30過ぎかと。
   昔の話ってなんです?」

憲兵「………秘密だ。
   おい、目的地まではどのくらいだ?」

兵士「あと3時間ほどです。
   お急ぎを」

見習「おい、待て、待てって!!!」




387 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/11/25(水) 03:13:46.50 ID:Mm2oT6db0


おまけ終わりです。
本編にはあんまし関係ないです。
>>1の脳内エピでしたが気に入ったので文にしました。
1時間くらいで書いたのでおかしいところあるかもです……許し…て……。

本編はもう少しお待ちください…。
応援レスありがとうございます。
毎度毎度、励みになります。
本当にありがとうございます。


388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 03:17:55.90 ID:AKMHCDdjO
乙!
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 05:04:29.94 ID:q8lCSf6Co
乙です
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 07:56:20.95 ID:XIyKwSsYO
おつんつん
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 08:00:04.32 ID:IJGty0ClO
まじか……まじか
救われないな
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 08:03:11.58 ID:IJGty0ClO
盗賊を殺した時の勇者をみると、やはり勇者の抱える闇は深いのだな
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 11:55:03.00 ID:yAZpeL/pO
いくらなんでも救いがなさすぎませんかね
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/25(水) 12:39:51.40 ID:wTbgOioxO
投下乙でした
外伝も面白かった!
こうした本編の補完エピソードもまた読んでみたい
本編の更新も楽しみにしてるよー
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/28(土) 00:23:07.62 ID:h0FeeBtUO
う…
勇者としては、重いよな
盗賊的には詰め込みすぎな感じ
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/28(土) 09:17:56.82 ID:Ii08Q0q9O
よくまとまってると思うが…
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/10(木) 20:01:37.41 ID:b5gE61kto
まーだかなー
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 20:05:28.74 ID:iceIP3nLo
はよー
399 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage]:2015/12/29(火) 07:57:06.85 ID:ZfJH5/ip0
遅くなり本当に申し訳ありません。
本日夜更新予定です。

殺される…仕事に殺される…。
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/29(火) 08:14:45.20 ID:pB8OjXG4o
期待機
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/29(火) 08:17:02.68 ID:gTxPW636O
待つ
402 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:36:29.45 ID:+mjVyJCo0


***


―――そう。…出ていくのね。

ふふ。君にも、色々迷惑をかけてしまった。
これも仕方ないんだ。
これ以上ここにいても良い事もないし、
頃合いなんだろうね。

―――結局。
   あなたの産み出したものは、
   なにひとつあなたの手には残らなかったわね。

手柄も名声も必要ない。
私にとってそんなもの、必要なら、いくらでも手に入るものだった。
私に必要なものは、ここの教育機関と、研究設備だった。
なにも母校を軽んじるつもりはないが、
ここで学ぶべきことはもうない。
ふふふ、しかし追放とは。
まだ利用価値があると思われているとは…ふふふ。

―――学院はそう思っていても、
   国はどう思うかしらね?

…そう、か。
君は。

―――さっき指令が来たの。
   あなたの身柄の確保。
   …断りたかったけど、私の権限では無理ね。

ふふ…。
これも仕方ない、…か。
私では、君から逃げ切る事は不可能に近い…ね。

―――諦めるの?



403 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:37:00.08 ID:+mjVyJCo0



…諦めない。
諦めたく、ない。

―――………。

諦めて、たまるか!!!
私はまだ、なにも…!!

―――そう。
   …あなたらしいわね。

まだ、なにもできてない!
私は変えてみせる!!
辛い思いも!
悲しい現実も!!

―――………。

私は!!
この世の不条理を、全て無くしてみせる!!!



404 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:37:34.21 ID:+mjVyJCo0




―――じゃ、さっさと行って。

…え?

―――追手は私がなんとかする。
   あなたほどの魔法使いなら、
   取り逃がしたところで誰も疑いやしないわ。

…ありがとう。
君には、世話をかけっぱなしだ。

―――うまく逃げるのよ。
   …落ち着いたら、連絡を寄越しなさい。
   どこへ行くのか、知らないけど。

そうだね。
まずは、鉱山都市にでも行ってみる事にするよ。
手の付けた仕事がまだ残っているし、
現状も気になるところだ。

―――そう。
   …あまり目立ったことはしちゃ駄目よ?
   何度も助けられるものじゃないわ。

ああ、そうする。
あまり迷惑はかけられないからね。
…本当に、ありがとう。

―――いつか見せてほしいわ。
   あなたが、いつかきっと実現する、
   不条理のない、幸せな世界を―――



405 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:38:19.56 ID:+mjVyJCo0



柔らかな朝日が頬を射し、
朝靄のような眠りを静かに晴らした。
窓が少しだけ霜づく、冬の訪れを報せる寒い朝。
この季節の日の出は遅い。
どうやら少し眠りすぎたようだ。

賢者が魔法の都へと着いたのは、
魔法の王国南部の小さな村を飛び出した、実にその数時間後だ。
学院所有のものを借り上げた小さな屋敷が、彼女の住処。
使用人もおらず、生活といえば寝室と浴室のみ。
それなりに設えられた調度品は全て埃をかぶり、
彼女は内心、この小さな屋敷でも広すぎるとすら思っていた。


賢者「…昨日の疲れ、
   …抜けないな。
   あれだけ走れば当然か」


鈍る頭を振り払い、小さな化粧台に腰かける。
机に投げやられた旅支度から携行食を取出し、
珈琲の一杯でも煎れれば良かったかなどと考えながら噛り付いた。
エルフから教わった焼き菓子はとても栄養価が高く味もいいが、
なにせ喉が渇く。
しかし長い間家を空けていた事が災いし、水の備蓄がない。


賢者「寒いけど、仕方ないか」


水を汲みに表の井戸へと向かう。
屋敷は閑静な一角に建てられていて、
朝霧に霞む街並みに人気はなかった。

呪文を唱え、水を喚ぶ。
簡単な念動力だが、こういう時は便利なものだ。
手桶を肩ほどに浮かべ屋敷へ戻ろうとして、


―――あー、あー。
   これ、通じてんのか?


どこか間の抜けたような声を心に聞いた。



406 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:39:12.06 ID:+mjVyJCo0



賢者「…戦士?」

―――おお、ちゃんと通じるんだな。


念話は屋敷の壁にはりつくトカゲから聞こえる。
誰の使い魔かはわからないが、
ちょっとした結界を施してある賢者の自宅に侵入できるという事は、
かなり高位の術師のものだろう。


賢者「誰の使い魔なの?」

―――あー。
   …そいつは…。
   すまん、言えない。

賢者「あっそ。
   別にいーけど」

―――ごめんって。
   ああ、あいつの研究室、見つけたよ。
   …お前にも、今度教える。
   誰の使い魔か、そしたらわかると思う。

賢者「ほんと?良かったわ。
   今日謁見したら、しばらく行動の自由をもらうつもりだから、
   そしたら合流しましょ」

―――いいのか?
   開戦、秒読みだぞ。

賢者「だからよ。
   戦場は私の分野じゃないし、あの子の足取りを追う事は、
   この戦争の背景にも繋がるわ。
   大体、捨てる命なら俺のために使えって、あんた言ったでしょ」

―――いや、それは、言葉のあやでだな。

賢者「公私混同は良くないけど、
   利害が一致してれば別でしょ。
   …連絡を待つのは趣味じゃないけど」



407 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:40:05.53 ID:+mjVyJCo0



―――ああ、わかった。
   そのトカゲ、しばらくその屋敷に棲みつくみたいだから、
   念信したら出てくるらしい。
   俺の持ってる通信水晶と交信できるそうだ。

賢者「…凄いわね。
   それ、かなりの高位技術よ。一体何者なの?」

―――まぁそれは、後のお楽しみって事にしといてくれ。
   俺はこれから、また中央王国に向かうよ。
   やることができたんだ。

賢者「りょーかい。
   また連絡するわね。
   …っと、そうだ」

―――どうした?

賢者「あんた、精霊の力、うまく使えないって言ってたでしょ」

―――…ああ。

賢者「たまに精霊が目の前に現れない?
   ちょっと、悲しそうな顔で」

―――あー。一度だけある。
   緑色で、羽の生えた小人だった。

賢者「それ、名前をつけて欲しがってるのよ。
   契約がまだ済んでないから、
   精霊がどうしていいかわかんなくなっちゃってるのね」

―――名前って。
   …そうなのか。
   ありがとう、考えてみるよ。

賢者「いい名前つけてあげてね。
   それだけ力を貸してくれてるってことは、
   あなた好かれてるのよ。
   …それで?あの子の研究室で、知りたかったことは知れたの?」


少しの沈黙が流れ、


―――ああ、わかったよ。
   いろいろとな。


その沈黙を噛み潰したような言葉を言い残し、念信は途切れた。



408 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:41:01.64 ID:+mjVyJCo0



「起きましたか。
 詳しく説明している暇はありません。
 あなたに、頼みがあるのです」


その時目覚める前の最後の記憶は、向う脛に重い一撃を貰ってよろめき、
後頭部をしこたま殴られたところだった。
目が覚めれば右足には添え木が当てられ、
額には手拭いが置かれ、
顔を覗き込む初老の男。

己を打倒した男に介抱されるほど、屈辱的なことはない。


「執行部は、勇者殿に襲撃された。
 そうですね?」


なんでこいつが知ってんだ、とその時は思った。


「すみません、記憶を読ませて頂きました。
 私の扱える唯一の魔法です。
 …頼みを、聞いて頂きたい」

「私はこれから魔研に向かいます。
 勇者殿を止めるためです。これは私にしかできないつとめです。
 あなたは王城へと向かってください。
 そして、なんとかしてある男へと接触し、この惨状と、魔研で起こった事を伝えるのです。
 憲兵という、信用の置ける男です。
 それがきっと、魔法の王国のためにもなります」

「疑うのなら心を読んで頂いても構いません。
 できない?…なるほど。では、信じてくださいと言う他ありません。
 私とその憲兵という男は、あなたたちよりも、この世の中に詳しい。
 …少しだけ。少しだけですが、ほんの少しの真実を知っている」



409 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:42:12.99 ID:+mjVyJCo0



別に、その、寂しそうな背中をした初老の男に、
哀愁も憐憫も感じたわけじゃないが、
その少しの真実とやらは気になった。
そもそもこんなロートルに負けているようじゃ、
燃え落ちる研究所に戻ったところで、姉の助けになるとは思えないし、
この初老の男の頼みを引き受ける事が情報を引き出す鍵となる、と思っただけ。

それからの行動は早かった。
折れた骨を簡単な治癒スクロールで固め、
騎士の亡骸から鎧を剥ぎ、
落ち延びた騎士を装い王城へと侵入した。

しかし、いざ憲兵という男とやらの所在を突き止めてみれば、
なにやら部屋が騒がしい。
やはり頼みを聞くべきではなかった。
いつか耳にした事がある。
中央王国の妾腹の王子が、王宮で要職に就いている、と。

確か側室である母親は王にその美貌を見初められただけの、
元はといえば旅芸人一座の踊り子だ。
中央王国王家の血筋はみな太陽のように眩いばかりの金髪だが、
その王子は光を吸い込んでしまうような黒髪だと聞く。

厄介な事に、正統なる王太子もそれはそれでなかなかの人物ではあるものの、
中央王国王家の血筋は妾腹の弟の方が色濃く受け継いだようで、
力を持ちすぎぬよう王宮で子飼いにしているらしい。
なまじ本人も先見の明があるのか均整の取れた人格をしているのか、
それほど野心など抱えていない事は確かなのだが、
いつなんどきでも兄王子を先に立てるその振る舞いは放っておいても人望を集めてしまうらしく、
目下王宮の悩みの種だそうだ。

まぁ、そんなヤツ嫌うとしたらその本人に余程問題があるのみだろう、と誰しもそう思うものだが、
どうやらこの第二師団長という男はそういった余程問題のある手合なのだろう。


大将「せいぜい足掻くがいい。第二王子殿」


まぁ、仕方ない。
毒食わば皿まで。
厄ネタをひっかぶせてきたロートルへの恨み言を心に溢れさせながら、
道が開いた瞬間に閃光魔法を唱えた。



410 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:42:51.61 ID:+mjVyJCo0



閃光魔法ひとつで切り抜けられたのは奇跡に近い。
城から離れ、城下町の路地裏で肺の奥まで息を引き込んだ。


憲兵「助かった…が。
   君は一体、誰だ?」


男は訝しげに見つめてくる。
よく見なくても端正な面持ちだ。
通俗な親しみやすさの中に、隠しきれぬ毛並みの良さも見て取れる、
清濁併せ持つ危うげな完璧さを秘めている。
見習には、それがどこか気に食わなかった。

盗賊から言付かった内容を話す。
憲兵は見習の拙い話しぶりに深く耳を傾け、頷き、


憲兵「…そうか、それで。
   すまないな、敵方にも関わらず、危ない橋を渡らせてしまった」


だなんて、仮想敵国のスパイへの気遣いなんてものを吐くから質が悪い。


見習「いいや、俺は別に構わないんだ。
   じゃあ俺はもう…」

部下「そういう訳にも参りません。
   あなたは知りすぎている。
   我々と行動を共にして頂きます」


突然の声に路地裏の出口を見れば、
立襟の外套を身にまとった旅装束の女性が立っている。
中肉中背、特に印象に残らぬ顔。
つまり普通程度には見れる顔だが、
とりわけ目を引かれるものはない、そういった顔。



411 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:43:35.40 ID:+mjVyJCo0



憲兵「お前も無事だったか」

部下「ええ。
   お助けしては私まで捕らえられる事は明白でしたから。
   あなたがご自身の力で難を逃れられる事に懸けました」

憲兵「その判断は悪くはないが、
   見捨てられたと言っても間違いではないな」

部下「そうなればいずれお助けにあがる所存でした」

憲兵「まぁいい。
   しかしなにも、お前まで逃げんでもいいだろう。
   追われているのは俺一人なんだ」

部下「もはや兵ではありません。
   私はあなたの部下です。
   そもそも、あなたの持つ唯一の私兵を、
   身動きが取りやすいように強引に登用したに過ぎぬではありませんか」

憲兵「…っ、しかしだな…」

部下「あなたに仕える事は私の使命です。
   それともなにか?
   王城に戻り、あなたを追う任に身を委ねろと?
   あなたは自らに一生を捧げると誓う部下に、
   主人に弓を引けと命ずるのですか?」

憲兵「…わかった!もういい!!!」

部下「わかってくださったのならよいのです。
   さて、目下の行動指針ですが」


なにやら話がついたようだが、
彼らはひとつ忘れている。



412 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:44:22.42 ID:+mjVyJCo0



見習「話がついたようで良かったよ。
   じゃ、俺は―――」

部下「お待ちください」

見習「………へいへい」


マジで貧乏くじだ、と盗賊は思う。
確かに死ぬよりはマシなんだろうが、
助けたっていうのに、この仕打はないんじゃないだろうか。


憲兵「ああ、すまない。
   俺も彼女には同意見なんだ。
   君には、しばらく我々と行動を共にしてもらいたい」

見習「そりゃねーっすよ。
   俺には、今日の事を国に報告する義務が…」

憲兵「助けてもらった事は確かだが、
   看過できん事もある。
   我々は二人だ、味方は少ない。
   協力者が手に入るチャンスは逃したくないんだ」

見習「今がチャンスなのか?
   言っとくが俺は使えねーぞ、お断りだ」

憲兵「…どうしても承諾してもらえないのか?
   強制は、できるだけしたくないんだ」

見習「…へっ、あんたがどんだけ強いか知らねぇが、
   逃げ足には自信があるんだ。
   なんなら騒ぎを起こしたっていい。
   あんたらには困るだろ?」

憲兵「そうか。なら仕方ない」



413 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:45:00.16 ID:+mjVyJCo0




憲兵は無造作に手を掲げ、
…なにやら呟き始めた。


見習「…は?」


掲げられた手に小さな光が灯る。
それは確かに、魔法の王国の者である彼らには慣れ親しんだ力で、
中央王国の者たちには、忌むべき力であるはずだ。


見習「魔力、だって?」


憲兵の慣れた手つきには、少しの澱みもない。
驚嘆と、その仕草があまりに恭謙であるがゆえ、
見習は身体の自由を奪われた事に気付けないでいた。


憲兵「…かつて賢き者ども、
   ここに座せり。
   彼の者はいましめの鎖を整え、
   彼の者は敵を抑え、
   彼の者は鎖をつなぎとめる。
   ―――いましめは今、我が手に」

見習「お、おい、やめろ!!!」

憲兵「―――いと小さき者を捕らえ、
   我が言霊を届けよ」


光が消える。
それが魔法の発動が完了した証である事を、
なまじ魔法を齧っている事で、理解できてしまった。



414 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:46:09.65 ID:+mjVyJCo0



見習「はっ、―――はっ、」

憲兵「すまない。
   だが、条件は、『我々の旅に協力する事』それだけだ。
   時がきたら、解除する。約束しよう」

見習「てめぇ、なにもんだ!
   強制魔法は遺失魔法だぞ!!
   なんでてめぇが扱えるんだ!!」


ふと、憲兵の後ろの女と目が合うが、
部下だという女も目を丸くしていて、目が合った事に気付くと、
ぶんぶんと横に頭を振った。
どうやらあの女にとっても思い掛けない事実だったようだ。


憲兵「…部下、目下の行動指針を」

部下「………あ、
   …はい。
   ひとまず身分を偽り、国内に潜伏する事ですが、
   これはなんとでもなるでしょう。
   国内の情勢には詳しいですからね。
   つまりどこに潜伏するかですが、
   第二師団長の手が及びにくく、
   第六師団の影響力の強い場所が望ましい。
   そうですね?」

憲兵「仕事のできるヤツだなぁ」

見習「………ちぇ」

部下「条件を満たす街はいくつかあります。
   加えて、自由にできる空き家が一件。
   なので目的地はそこにしましょう」

憲兵「そこはどこだ?」

部下「盗賊が手の者を使って管理していた家ですよ。
   入れ替わり立ち替わり住人が変わっていますから誰も気に留めません。
   場所は、時計塔の街です」


415 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:47:49.38 ID:+mjVyJCo0



と、いうわけで、見習は今時計塔の街に居る。
盗賊という男が管理していたという空き家に身を潜め、
1週間が過ぎようとしていた。


見習「………しっかし、まぁ」


見れば見るほどなにもない家である。
ドーマータイプの角地という事は、
元は中流家庭が暮らしていた家だろう。
しかし竈も食堂も居間も、全て奥まった一角にある。
窓際には更に作業台のような机が据え付けられていて、
この家の家主はよほど生活スペースが狭かったのだと推測できる。
窓明かりを取り込むためか、
作業台の窓のみガラスが嵌めこまれている。


見習「ま、姉ちゃんもこんなもんだけど」


仕事ばっかしてるから自宅に求めるものが少なくなるんだ。
家は自らの帰りを待つものであるはずだ。
人も招かず、家庭も持たず、する事と言えば寝るか湯浴みするか、そのどちらかだけ。
姉も20の女性なんだから、良い嫁ぎ先のひとつでもあればいいのだが、
まぁ恐らく暗殺者と結婚したがる男など、それはきっと余程の物好きか、
似たような外法の者しか居ないのだろう。


見習「あ、いけね」


珈琲でも煎れようと湯を沸かしていた事を失念していた。
ここは火龍山脈南部に近く、地下水の豊富な街だ。
水資源は街を豊かにする。
長閑な地方の街を気取っていられる事も、巨大な山脈の恵みに守られているからこそだろう。
時計塔の街というだけあり、時計作りはこの街の伝統工芸だ。
魔法仕掛けの時計が幅を効かせるようになってからは時計職人たちは姿を消したと聞いたが、
彼らは時計職人から、金属板に印を刻む彫金師へと姿を変え、
未だ時計を作り続けているという。
それは執念か、それとも妄執か。
時とは人を惹きつける。
取り戻せない過去。
それは行きて帰らざる日々。
秒針がひとつ揺れる度、人々はまた何かを失くし生み出していく。
哲学者は時間の浪費にもなにかを見出すのだろうか?
未来を浪費し過去になにかを見出す事が彼らの人生だとすれば、
それは死んでいると同じ事だ。
差し引き、ゼロじゃないか。



416 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:49:41.55 ID:+mjVyJCo0



ぱたん、と音がして女が帰ってきた。
憲兵と部下がこの街で何をしているかは知らないが、
見習の命ぜられた事はといえば、


憲兵「君はここで待機だ。
   必要な時、力を貸してもらいたい」


なにせ逆らうと身体に激痛が走るのだ。
あの男、涼しい顔をして、魔法の練度はといえばかなりのものだった。
少なくとも未熟な自分に抵抗できるものではない。
彼がいつどこでこんな魔法を身につけたのか、知る由もないが、
強制魔法は既に失われた秘法だ。
かつて教会の司祭たちが悪魔調伏のため用いたとされるが、それも伝説のようなもんで、
実際神教の教えなんて全部眉唾だ。
まぁ信者はそれなりに居るし、中央王国ではまだそれなりに力を持っているんだが―――


見習「なにしてんの?」

部下「…挨拶を待ってんのよ。
   人が帰ったんだから挨拶くらいしろ、ばか」


このねーちゃんもなかなかの狐っぷりだ。
しかし言ってる内容は変わんないってんだから驚き。


見習「ああ、ごめん。お帰り」

部下「ったく、主人の手前、私もああ言ったけど。
   お坊ちゃまもなんであんたなんか連れてくんのかしら。
   あんな芸当できるなら、喋るな、で良かったのに」

見習「あー、あんた頭いいけど、魔法に関して不勉強だね」

部下「…なんですって?」


あと、ついでだが、
この人は怒ると、姉ちゃん以上に怖い。


見習「あー、ごめんって、えーとな。
   仮にも魔法の王国だから。
   これ、エンチャントの一種だから、魔法がかかってればばれるわけよ」

部下「…そっか。私にも隠してたくらいだしね」

見習「そー。
   既に追われる身なのに、これ以上興味持たれたくないでしょ」



417 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:50:51.15 ID:+mjVyJCo0




部下「なら、いっそ殺してしまえば良かったのよ。
   だいたい何?魔法使いったって、ぴかぴか光らせるくらいしか芸がないじゃない!!」

見習「ひでぇ言われようだなぁ。
   閃光閃熱魔法は使い手が少なくて貴重なんだぞ」

部下「習おうとする人が誰も居ないからでしょ」

見習「ごもっともです」

部下「足手まといにしかならないんなら、いっそ私が…」

見習「あんたの主人はそんな人なの?」

部下「………ぅ」

見習「はぁ。
   俺はあんたの主人を助けた。
   敵方であるにも関わらず、割と重要な情報の糸口を掴まされてね」

部下「そうね」

見習「割と悩んだと思うよ。
   情報を漏らすわけにはいかない、クーデターが成功し王城には帰れない。
   しかし、助けられた恩がある。
   …冷静になって考えてみたらさ、この処遇は彼なりの最大限の譲歩なんだ。
   軟禁は退屈だし、正直魔法の王国にも帰りたいけど、
   ま、ここはある程度安全らしいし、
   最悪の状況ってわけでもないしな」

部下「……驚いた。
   あなた、意外に冷静だし、物事も見れる子なのね」

見習「これでも一応執行部だから。
   潜入と情報収集だけは上手いんだ、俺」

部下「ま、使いでがある事はいい事だわ。
   ならいずれ働いてもらう事になりそうね」

見習「…俺、なんかまずった?」

部下「爪を隠す脳はなかったようね、あはは」



418 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:51:51.17 ID:+mjVyJCo0



夕刻を告げる鐘の音が鳴り響き、
また、扉の音がした。


部下「お帰りなさいませ」

憲兵「ああ。
   人員はわかったか?」

部下「ええ。
   割とサボっている様子で、練度はそれほど高くありません」

憲兵「よし、では明日にでも行動に移そう。
   見習、君にも働いてもらう事になりそうだ」

見習「いーけどさ、なにすんです?」

憲兵「依頼を出す」

見習「はい?なんの?」

憲兵「地取り捜査。
   第六師団は各地の冒険者ギルドと結びついている。
   行動は分隊単位が基本だが…、
   まぁ、多少面倒だが、5分もあれば終わるだろう」

見習「………あんた、意外と」

憲兵「兎にも角にも、まずは手がかりだ。
   第六師団狩りだよ」



419 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:54:09.61 ID:+mjVyJCo0




ローブを用意し、湯浴みを済ませた。
この国ではこれこそが正装だ。
今の時期ならまだいいが、いかに大陸北部とはいえ、
夏が無いわけではない。
王城で魔法は禁じられているため、夏の謁見ともなれば、
それはまさに地獄だ。

ま、謁見の間は、魔法で空調が効いてはいるけど。

髪を結わえている時、
ふと、化粧台の隅に追いやられていた、小瓶が目に留まった。
確か、いつかどこかの商人からガメた月下香のオイルだった気がする。


賢者「…なんだって、こんなもの………」


随分高価なものだと聞くが、
持ち帰ったまま長い間忘れていた。
優れた防腐処理が為されているようで、
少なくとも劣化などはないようだ。

なんとなく、小瓶を開けてみると、
ふわりと部屋中に、なんともいえない甘い香りが広がった。
思考を軽く麻痺させるほどの、粘膜が痺れるほどの甘い香り。
異国的でいながら、どこか庭先に覚えのあるような、
例えるなら、自らに罪はなく人を狂わせる儚げな美女のような香りだ。


賢者「…っぷ。つっよ…」


…ま、少しならいっか。
首にちょっとだけ擦り込んでローブを羽織る。


賢者「あ。
   ………いい香り」


これなら、密かな自分だけの楽しみといえる。
…チュベローズって、どんな花だっけ?

ま、いっか。いい香りだし。



420 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:54:52.27 ID:+mjVyJCo0



賢者「私よ。報告に戻ったわ。火急」


正規の軍籍を持たない賢者が謁見するには、
一度学院長を通す必要がある。
暗部である執行部には、表立った謁見許可など降りない。
よって、彼女が王に謁見する時は、王城内の小さな館が常だったが、


学院長「ああ、聞いておる。
    謁見の間に来いとの事だ」


今日に限っては、広間らしい。


どう考えてもおかしいが、
考えても仕方ない。
加えて例え王城内であろうと、何が起ころうと逃げ切る自信が、
彼女にはあった。
それだけの実力を彼女は備えてしまっていた。

もし行動が露見しているとすれば、
その時は、彼の存在だけは、どうしても隠し通さねばならない。
そして彼女は、まだ名前をつけてはいないが、
心に湧いたその感情を、はっきりと感じ取っていた。



421 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:55:46.15 ID:+mjVyJCo0




「―――お会いになられる。入るがいい」


そして彼女は、


自らの死地へと、足を踏み入れてしまった。




422 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:56:37.23 ID:+mjVyJCo0



賢者「…長くかかり申し訳ございません。
   中央王国王立魔法技術研究所においての戦闘についてからご報告致します」

魔法王「……………良かろう。
    申すが良い」


王の姿は、大きな天蓋に遮られ、目にする事はできない。
魔法を使えば目にしようと思えばできるが、罰せられる、といった方が正しい。
まぁ、彼女は王の姿など何度も城内の館で見ているのだが、
謁見の間の作法とはこういうものなのだろう。


賢者「我々執行部隊は指令の通り、盗賊という男の身柄を確保しようとしましたが、
   念信が傍受されたため、男の向かった魔研において行動に移そうとしました。
   しかしそこで、荒れ野に居るはずの勇者と、そしてその手勢の者と戦闘になったのです。
   勇者とその手勢は異変を察知し魔研へと向かう中央王国軍近衛師団第一中隊をも襲い、
   これを殲滅。
   魔研襲撃は全て執行部の責となりました」


謁見の間がざわつく。
当然だろう。
我が国は、罠にかかり宣戦布告を"させられた"のだから。


近衛「貴様、それでおめおめと逃げ帰ってきたのか!!」

賢者「情報が完全に漏れていたのです。
   …部隊に内通者が居た可能性は否定でき兼ねますが、
   現に部隊は勇者の手により全滅しています。
   内通者が居るのなら、生き延びているものと」

近衛「…そんな馬鹿な…!!」

魔法王「良い。
    …続きを申せ」

賢者「念信に留めず国に戻った事には理由があります。
   最早開戦は避けられない。
   しばしの行動の自由を頂きたいのです。
   ひと月の間に、状況の打開を約束致します。
   ですから、どうか―――」



423 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:57:13.20 ID:+mjVyJCo0



魔法王「……………」


王は黙して語らぬ。
もうひと押し、必要なのかもしれない。


賢者「我が王よ。
   私には―――」


だが。

彼女は、王が黙する意味を、

読み違えていたのだ。


魔法王「賢者よ」


王の真意は、開戦の理由などには無い事に、

彼女は気付けなかった。


魔法王「―――魔女なる女の行方は、どうした?」



424 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 01:58:47.75 ID:+mjVyJCo0



賢者「―――は」


見誤った。
賢者は、王の関心が戦の是非にあると考えていた。


魔法王「確かに奴は手強かろう。
    あれほどの魔法使い、
    もう我が国に現れる事はないだろう。
    して、鉱山都市の魔力炉はどうなった?
    魔法の都は盲目とでも思ったか?」

賢者「いえ。…決して、そのような事は。
   魔女の行方は、中央王国も追っています。
   彼女絡みの任務では、勇者と会う機会も多く…」

魔法王「語らずとも良い。
    …あの魔法使いが死んでいる事など、
    儂はとうに知る処だ」

賢者「―――え?」

魔法王「そして最早戦争など。
    中央王国など恐るるに足らぬ力を、我らは手にしたのだ。
    他ならぬ魔女の編み出した秘術よ」

賢者「我が王。
   …あなたは」

魔法王「解析には時間がかかったが。
    我らは遂に。
    遂に、手に入れたのだ!!」

賢者「あなたは一体、何をしたのですっ!!!!」




425 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 02:00:06.93 ID:+mjVyJCo0



突如、謁見の間の天井が崩落し、
大柄な人型の魔族が、謁見の間へと降り立った。

黒い肌に浮かぶ頑健な筋肉。

虹彩の無い、ただ朱いだけの眼球。

額からは大きな山羊を思わせるねじれた角が生え、

竜のような翼を持つ。

そして何より、禍々しい漆黒の鎧を纏い、

攻撃的な意匠の大剣を持つ、その姿。


魔法王「これが、我らの力!
    人の及ばぬ魔神の力を、我らは従えたのだ!」

賢者「貴様は―――ッッ!」


デーモン種と呼ばれる魔物は大剣をその手に構え、
戦闘への愉悦をその口の端に浮かべる。
ここは、死地だ。
一人で打倒できる相手ではない。

―――だが。


賢者「己の統治すべき国に、魔を引き入れたのか!!!」


不可能でも、賢者は、敵をここで討伐する。
祖国を守るため。
彼を守るため。

…親友の仇を、取るために。



426 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2015/12/30(水) 02:01:38.83 ID:+mjVyJCo0

今日の分終わりです。
毎度少なくてすみません。

数々の応援レスありがとうございます。
励みになります。

年越しの暇潰しに読んでいただければ幸いです。
それでは皆様良いお年を…。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 03:28:11.54 ID:Ftzt8Bq3o
乙です
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/30(水) 04:28:56.81 ID:8RUdonV40

ってここで引くのかーい
割と皆普通に死ぬからドキドキするぜ……
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 07:43:56.43 ID:1QEFl+sAO
乙!
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 10:09:05.15 ID:pIKOSTinO
乙!
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/30(水) 18:46:42.59 ID:zkeHW139o

死ぬならハガレンのヒューズみたいにあっさり
生きるなら最後まで生きる
どっちだろ賢者
432 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/01(金) 03:42:49.43 ID:w4h5SowP0
いいなぁ・・・この謎が謎を呼ぶ感じ
SSひとつにこれだけ設定練れるのか
433 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします :2016/01/11(月) 17:59:43.27 ID:UEQILW0J0
C
434 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage]:2016/02/01(月) 11:35:54.19 ID:SE7Z8H7SO
ご無沙汰しております。
昨日一昨日に更新しようと思ったのですが、
この1週間体調を崩してしまい…、
申し訳ありません。
すっかり忘れ去られてしまったかもしれませんが、
もうしばらくお待ち頂けると幸いです。

皆様冬は確かに旬ですが、
牡蠣にはお気をつけください。
地獄でした。
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 11:42:29.70 ID:f1DsJ2Sco
待ってるよ
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 11:55:41.77 ID:jVSWKbbOo
生牡蠣うまいとはいうけど、やっぱり加熱した方が色々と安全なんだぜ…
っ「いのちだいじに」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 14:44:18.11 ID:MGCCgswqo
良かった
待ってるからしっかり治してくれ
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 23:16:12.54 ID:fOKxuYgiO
待ってるよ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 13:32:06.66 ID:2TLEkKBDO
いつまでも待ちます
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/29(月) 17:56:05.57 ID:YL0bYuXg0
マジでエタらないでくれよ。期待してるぞ。
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/11(金) 14:04:42.44 ID:KbuATfMZO
待つ
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 08:25:25.93 ID:N07nozPiO
まだかい?
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 11:43:21.96 ID:FWK7p0LNo
もうすぐ2ヶ月だな
444 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage]:2016/03/26(土) 14:20:32.14 ID:/2JnibbIO
明日更新します…。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 14:25:58.57 ID:Fx4Cvsr90
投下予告やったぜ来なかったら今後旬の食べ物にあたり続ける呪いをかけてやる
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 15:49:24.77 ID:60PYy+iL0
>>445
俺にとっては地獄のような呪いだな...まあ>>1が生きててよかった
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 16:06:58.33 ID:JfJwq/A30
期待
448 : ◆DTYk0ojAZ4Op :2016/03/28(月) 01:41:58.41 ID:IMgzJVX60

***


その日の鉱山都市には大雨が降りしきり、
日中だというのに空は飴色で、人々は影によって陰に追いやられ、
みな自宅で息を殺していた。
鉱山は兎角雨に弱く、鉱夫たちも早朝から坑道に詰めている。

そんな日の彼女の仕事はといえば、
いずれ運び込まれる負傷者の手当くらいのもので、
鉱山のほど近くへと自ら建てた小さな研究室兼自宅で待機していた。
過酷な労働環境に身を置く鉱夫たちはみな屈強だが、
それでも月に何人もが命を落とす。
鉱山都市は平和そのものだ。
平和な都市ですら、これだけの死者が出る事実に、彼女はまたも心を痛める。

人は物陰で理由なく死ぬ。
その死と労働災害による死にどれだけの違いがあるのだろうか。

鉱山都市は兵を持たない。
金銭の授受のみが、住民に課された絶対的なルール。

即ち、国家の民営化である。

人々は治安や司法を金で買う。
金さえあれば安全が他者により保障され、権力を手に入れられる。
鉱山都市の街角には食料や衣類品、生活用品のみならず、法律、名声や権力まで並ぶのだ。
住民はそれらを自由競争によって手に入れられる。
持とうと思えば私兵も持てる。
人の生き死にすら金銭のやり取りで済む。

この歪な個人主義は自然に産まれたものだ。
その結果、住民たちは金のため、自ら火中に身を投げる。
つまりは能動的な死だ。
理由なく死ぬ人々とは前提から異なってくる。

―――そして彼女がそこに、ひとつの光明を見出した事も、
   自然といえるだろう。


449 : ◆DTYk0ojAZ4Op :2016/03/28(月) 01:43:54.62 ID:IMgzJVX60



外からは雨音が絶え間なく耳に届く。
魔法使いである彼女の耳は、その中に微かに紛れる、聞き慣れぬ物音をも聞き分けた。
友人が言う処によると魔翌力炉を作ってからというもの、
学院に彼女の身柄を拘束しようという動きがあるらしい。
しかし所詮そのような事、はじめから覚悟していた事だ。
評議会にもいずれ姿を消す事になるとは伝えてある。
追手がかかれば迎え撃ち、しかる後に身を隠しても遅くはない。
息を殺し身を固め、敵を待った。

しかし数分が経っても、気配を相変わらず感じるも、襲われるような気配を感じなかった。


魔女「…これは、戦闘音、か?」


耳を凝らす。

引き絞られた弓弦が軋む。
放たれた矢は雨を引き裂き、獲物を確実に捉える。
侵入した魔法使いたちはその矢速を知覚し切れず、音もなくこめかみを貫かれた。
遮蔽物のない小屋の周辺、それは射手には格好の狩場となるのだろう。
雨に煙る視界にあぐらをかき姿を消さなかった魔法使いたちにそれを防ぐ術はない。
放たれる音は八度。
矢はそのひとつも的を外さず、侵入者は全滅した。

異音が消えた小屋へと、足音が近付いてくる。
気配を[ピーーー]意図を見せない、堂々とした足音だ。

足音は小屋の前で止まり、ゆっくりと三度、戸が叩かれた。


魔女「君は、誰だ?」


そして彼女は、客人を迎え入れた。


450 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:44:54.44 ID:IMgzJVX60



魔女「外套はそこにかけておくといい。
   濡れたままでは辛いだろう?」


言いつつ、ティーサーバーを傾ける。


憲兵「ありがとう。
   …魔法使いの家にしては、簡素なものだな。
   その手に持つものも、魔法で動かせるんじゃないか?」

魔女「依存は良くない。身も、心もだ」


カップを机に置き、彼女は続けた。


魔女「なまってしまうじゃないか」

憲兵「はは。本当に、異端者と呼ばれる事も頷ける」

魔女「だが、魔法とはやはり便利なものだ。
   上着も脱ぐといい。乾かしてあげる」

憲兵「…ああ、頼む」

魔女「それと、外にいる弓使いにも入ってもらって構わない。
   この雨の中外で待たせるのは、心苦しい」

憲兵「どうして、弓使いが他に居ると?」

魔女「弓を引き絞る音、矢が走る音が聴こえた。
   君は北から歩いてきたが、矢は西の方角からだ」

憲兵「…参ったな。100メートルは離れているのに」

魔女「雨の日は特にわかりやすい。
   耳を凝らせば半径250メートル内なら、雨音ひとつまで聞き分けられる。
   耳を凝らせば、だけど」


451 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:45:33.10 ID:IMgzJVX60



客人2人の服を干し、
茶を新たに沸かし、3人は机を囲む。


兵士「これは、あなたが」

憲兵「いいって」

兵士「いいから飲んでください。
   で、古い方を私にください。
   喉乾いてるんです」

憲兵「それ飲めばいいだろ」

兵士「主人より新しい茶を飲むわけには参りません」

憲兵「本音は?」

兵士「猫舌なんです」


魔女「それで、どういった用件で?」

憲兵「ああ、すまない。
   私は、…えーと…」

兵士「中央王国軍の者です。
   あなたを保護するため、ここへ」

憲兵「と、いう事になっている。
   私は憲兵司令官でね、階級は中将だ。
   目的は君の拉致。もしくは殺害…だったんだが、
   着いてみれば妙なのが居たんでね」

兵士「おい」

憲兵「どうせ心も読めるんだろ?
   彼女に隠し事は不可能だよ。
   信用を失うだけだ」

魔女「…ふふ。そう簡単には読めないよ。
   でも、嘘はわかる」

兵士「…どうやってです?」

魔女「それは、秘密。
   目的を話してもらおう」


452 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:46:42.76 ID:IMgzJVX60



憲兵「その前にひとつ質問だ。
   君を狙う学院執行部を退治した手間賃として答えてくれ」

魔女「あのくらいなら、助けは必要ないよ。
   君たちのように、無為に命を奪うまでもない」

憲兵「だろうね。だから質問で済ませるんだ」

魔女「…いいよ。
   聞きたい事とは?」


憲兵は少し睨めあげるように彼女を見つめ、続ける。


憲兵「雷の研究は、しているか?」


少しの沈黙が流れる。
予想だにしない質問に、彼女は息を飲んだ。

雷魔法。
学院の魔法使いたちが数百年研究を続け、
未だ解明されない、伝説に近い魔法。
それは英雄の証とも言われるお伽話。

学問として最も難しい事は、「存在しない」事だと「証明する」事だ。
仮説に対し100%の否定は不可能に近い。
故に、否定の可能性を限りなく100%に近づけていく。

だが、500年前。
西方から現れたという英雄は、数々の伝承に確かにその左手に雷霆を纏わせたと伝えられる。
雷霆とは神の武器。
聖教の主神は自らの武器を英雄へと分け与えたという。
そしていつしか学院はこう結論づけた。

雷とは、魔法ではない、と。


魔女「……………」


しかし。
異端と呼ばれる彼女はそうは思わなかった事もまた確かだ。


453 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:47:49.64 ID:IMgzJVX60



魔女「未経験では、ない。
   雷魔法は実在する」


そう答えた数日後、
彼女は中央王国へと迎えられた。
与えられた役目は、魔法に留まらぬ、「雷」の基礎研究。


魔女「雷とは自然現象なんだ。
   魔法で扱う分類に属さない。
   …しかし、代用は効くものだし、使えて得になるものでもない」


研究施設は充実していて、
そこには2人のサンプルが居た。
一人は見知った顔。
そして、もう一人は。


魔女「……………まだ、ね」


遥か地下に封じられた、古の怪物だった。


454 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:50:06.44 ID:IMgzJVX60



――――――――――――――――
―――――――――――
――――――


どうしてこんな事になったのか。

本部に招集されぬ自分たちなど、各所の支部を任されたごろつきに過ぎない。
家畜が逃げた、人探し、家具の組み立て、引っ越しの手伝い等、
依頼はつまらないものばかりだし、便利屋などをやって師団の運用費用を稼ぐだけの仕事だったはずだ。
まぁ元がこそ泥だったり、日銭を稼ぐだけのどうしようもない傭兵だったり、
育ちのいい者、実直に生きてきた者など同僚には一人として居なかったが、
感謝というのは麻薬のようなもので、みな悪い気はしていない事は確かだった。

仕事はくだらないが誰かに必要とされる仕事というものは意外にも性に合っていたのかもしれない。
最近では自分なりにやり甲斐などというものを感じ始めていて、
このまま骨を埋める事も悪くはないかもしれない、とまで考えていた。

依頼は単なる護衛だったはずだ。
指定された場所で落ち合うと、そこには妙に育ちの良さそうな男が居た。
隣の村までの護衛を頼む、金に糸目はつけないからできるだけ多くの人員を連れて来て欲しい、
それが依頼だった。時計塔の街に駐留している第6師団所属の人員に戦闘に長けた者は少なく、
魔物退治の経験のある支部長を含む10人が選ばれた。

落ち合った場所は街はずれの林だ。
支部長が男と話している時、突然一人が倒れ伏した。
倒れた一人はこめかみを矢が貫通していて、みなそれを見て敵襲に備え、木々の合間に身を隠した。

襲ってきた者は何者か、なぜ自分たちが狙われるのか。
混乱した頭を抱え思わず空を見上げた時、確かに見た。

矢が不自然な弧を描き、吸い込まれるようにまた別の者のこめかみを貫くところを。


455 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:51:26.39 ID:IMgzJVX60



見習「…お見事、残り6名。
   N7323、W318、
   頭部は地面から120ってところ。
   視線は7時方向」


憲兵から離れた崖の中腹に、まだあどけなさの残る青年と、
弓を携えた女性が居た。
青年の指示を聞き、女性は矢の羽山を調節する。
大弓を引き絞り、指定された座標へと放った。

矧の部分を調節し、山間の風に乗せられた矢は、あらぬ軌道を描き飛ぶ。
加えて未熟といえど魔法使いの補助があれば、その軌道はもはや蛇の如く標的へと迫るものとなる。


見習「命中。まさに鷹の目だ」


見習は次なる的を探す。
彼の得意とする光魔法の応用だ。
光を屈折させ、視野を拡大し、空間が通っていればどの角度からでも「見たい場所を見る事ができる」。
木々に隠れようと、壁に隠れようと。
彼の視線から逃れるためには、暗闇に身を置くか密室に入る他なく、
その密室も、少しでも光が漏れ出ていれば、彼には中を覗く事ができた。


部下「本当に、意外に便利ね。
   魔法使いの知覚は第六感に近いと聞いていたけど、あなたのは違うのね。
   弓使いの私にとっては直接視野に勝るものはないわ」

見習「観測射も必要ないからね、隠密向き。
   N7437、E772。
   頭部175、視線は10時方向だけどキョロキョロしてる。
   2射いるかも」

部下「了解。お坊ちゃんは?」

見習「残ったヤツ処理してる。
   はえー。
   …その一人で終わりだよ」

部下「はいはい」


女性は矢を3本番え、放つ。
放たれた2本は標的の肩と胸を貫き、1本は右目を貫いた。


456 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:52:49.25 ID:IMgzJVX60



部下「お疲れ様でした。
   支部長一人ですか?」

憲兵「一応3人生かしてある。
   尋問は君に任せる」

部下「お任せを」


憲兵の前には意識を失い縛られた3人の男が横たわっていた。
1人は支部長と呼ばれた壮年の男。
2人はその横にいただけの若い男だ。

これは見習の直感に過ぎないが、
若い男2人、ともすれば壮年の男すらからも情報は得られないだろう。
こんな非常時に招集されない事からして、持ち得る情報はたかが知れている。


見習「なぁ」


考えの定まらぬまま、
返り血ひとつ浴びていない憲兵に声をかけた。
我ながら青臭い、と見習は思った。
これが彼らの出来得る限りの方法だという事も理解しているにも関わらず、


―――あんたって、意外と…


人の死をなんとも思わない人間なんだな。
言いかけて留めた言葉を心にかき抱く。


見習「これ、いつまで続けるんだ?」

憲兵「有力な手がかりが掴めるまでだ。
   君は帰って旅支度を整えておいてくれ」

見習「………オーケー」


踵を返し拠点へと向かう。
つい先程見た狙撃の恐怖に怯える男の顔が心に浮かんだ。


457 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:53:49.77 ID:IMgzJVX60



「ま、…待ってくれ!頼む!解放してくれ!!」

「俺は第6師団じゃない!!」


その時そう叫んだのは、目を覚ましたのか、捕らえられた若い男の1人だ。
あまりの突飛さに虚を突かれ、部下も見習も、憲兵までもがその若い男に目を向けた。


男「頼む、解放を…!」

部下「突然どうしたんです?解放を望むなら知り得る情報を話しなさい。
   これから聞こうと思っていたところなのに、順番が逆になってしまいました」

男「お、俺は、…中原の国の者だ」


部下と憲兵が顔を見合わせる。


憲兵「どう思う?」

部下「つまらない嘘ですね。
   いいですか?潜入するならこんな辺鄙なところを選ばないし、
   あなたはそれにしては身体も大きい。
   くだらない事を言う暇があったら私たちを喜ばせてみてください」

男「…本当なんだ。
  王の命により第6師団に潜入していた。
  片手だけでいい、縄を解いてくれ!
  証拠を見せる!」

部下「………どうします?」

憲兵「…いいだろう。
   だが、少しでも妙な動きをすれば片腕を切り飛ばす」


部下はひとつ溜息をつき、男の片腕を自由にする。
男は懐から1枚の羊皮紙を取り出すと、ぐしゃぐしゃと丸め、
また広げた。


男「2年前から第6師団で連絡員をしているんだ。
  この街に居たことは偶然で、人手が足りないと言われた。
  依頼の行き先と近かったんで、同行を頼まれただけだ」

男が手をかざすと、紙はみるみるうちに皺が伸び、
元の綺麗な羊皮紙へと戻っていった。


458 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:54:36.92 ID:IMgzJVX60



見習「…すげー。時間魔法だ。
   初めて見た」

男「こうやって文書を盗み読みしていたんだ。
  使える範囲は狭くて、せいぜい3分ほどしか戻せない。
  独学だが、意外と便利だ」


そう言って、男は少し笑う。
はにかむような笑顔はどこか憲兵と似ていた。


部下「それじゃあ証拠になりませんね。
   魔法の王国の者という見方しかできません」

見習「それはねーよ」

部下「…は?なんで?」

見習「時間魔法なんて使えるヤツ、なかなか居ないし。
   学院にいたら有名なはずだぜ。
   でも俺、こんなヤツ見た事ないよ」

部下「あんたがポンコツだからじゃないの?」

見習「これでも執行部なんだ。
   学院の人間の顔と名前は全員わかる」

部下「…ふうん。なるほど」


その時、思案顔をしていた憲兵が突然、口を開いた。


憲兵「なら、簡単な質問をしよう。
   君の身分は話さなくてもいいが、2つ質問に答えてくれ。
   解放するかは、その解答に依る」

男「…わかった。なんでも聞いてくれ」


459 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:55:30.60 ID:IMgzJVX60



憲兵「まずひとつ。
   潜入していたのなら、君の言を信じるとすれば、
   君は宮仕えの諜報員だ。そうだな?」

男「そうだ。中原王の子飼いのようなものだ」

憲兵「なら、王室の情報には詳しいはずだ。
   中原の先王は表向きには病没とされているが、
   本当の死因を知っているだろう。
   それはなんだ?」


男は一瞬目を丸くしたが、
落ち着いた声でその質問に答える。


男「……………毒殺だ。
  下手人は、王妃の」

憲兵「正解だ。
   部下、縄を解いてやれ」

男「…なぜ、それを知っている?
  王室の、一部の人間にしか知り得ない事だ」

憲兵「私も君と似た事を生業としていた。
   誰のした事かは知らなかったが、
   先王が精神を病んでいたという情報は正しかったようだな」


縄が解かれた男はその場に背を向けようとし、
振り向いて憲兵を見やった。


男「その、黒髪。
  君は…」

憲兵「よせ。私は君の事を忘れる。
   君も、私を詮索するな」

男「…貴公の寛大かつ賢明な措置は、
  七つの山をも超えて知られるだろう。
  感謝する」


それだけを言い残し、男は林の奥へと消えた。



460 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 01:59:50.62 ID:IMgzJVX60



結局気絶しっぱなしだった2人の男からは、
大した情報は得られず、その身柄は部下に任された。
見習は思うに、部下に身柄を任されるという事は、
きっと今頃生きてはいないだろう。

近くの支部は17キロ先の街。
人員は30人、戦闘員は半分の15人。
支部長は勇者や将たちといった中央の人間と会った事はなく、
その目的も知らない。
なかば一般人なんだから仕方のない事だ。

とにかく得た情報はそれだけ。
それだけの情報を得るのに、9人の命と引き換えにした。
その憲兵を寛大かつ賢明と評した男。

どう考えてもおかしい。
それともおかしいのは見習の方なのか。


憲兵「早朝出立しよう。
   夕食は?」

見習「食べるよ」


どうも夕食は肉らしい。
焼き加減は?と部下に聞かれ、よく焼いてくれ、と答える。
自分の見ていないところで、姉はもっと苛烈に務めを果たしてきたのだろう。

考えが及ばぬ事は罪、それが魔法使いの在るべき姿だ。
でもどうやっても頭がうまく働いてくれないので、
明日からはもう少し心を保とう、とだけ考えた。

出立は明日。
憲兵という男が何を考えているのかは、まだわからない。
国境近くには次々と陣が築かれ、開戦はもはや秒読み段階だそうだ。
それまでに戦争を止めるネタが手に入れば俺達の勝ち。
さて、彼らの勝ちとはどのような形なのだろう。
461 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/03/28(月) 02:02:22.31 ID:IMgzJVX60

今日の分終わりです。
ちょい短いですけど、
明日も少し時間があるので、明日また更新します。

長くお待たせしてしまってすみません。
頑張るので見捨てないでください。お願いします。お願い……。

多くのコメントを頂いて嬉しい限りです。
励みになります。

また明日お会いしましょう。

462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 02:09:38.31 ID:T+h6jv98O
乙!
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 03:06:41.35 ID:BxKB1/V+0
乙です!
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 09:32:40.66 ID:/isrIDLAO
乙!
気長に待ってる
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/03/28(月) 15:07:22.50 ID:Kf+ICzvP0
乙 楽しみにしてるので出来れば二週間に一回ほど生存報告が欲しいです
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 16:09:44.06 ID:EECdjR+NO
2ヶ月に一回更新してる人もいるしマイペースでいいんじゃねと俺は思う
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 16:14:22.46 ID:AMOu+MMvO
追い付いた
これは楽しみだ

468 :sage :2016/03/28(月) 18:19:32.39 ID:y3vrwDkY0
乙乙。待ってたよ。のんびり頑張ってくれ。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/15(金) 14:57:16.88 ID:/QSzmMgRo
待つ
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 12:13:42.85 ID:LLPi0LCN0
俺は待とう
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/03(火) 01:36:25.64 ID:+VO9G68WO
ほしゅ
472 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage]:2016/05/13(金) 21:03:03.12 ID:sVaSJyDx0
来週中には必ず。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 21:23:34.32 ID:EKkTS1YuO
それは楽しみ
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 22:48:59.97 ID:IS9cEUZRo
待ってる
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/19(木) 16:34:27.83 ID:oVtHuTvAO
まーつーわー
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/19(木) 18:40:18.81 ID:iY2gYQrNO
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/20(金) 11:50:16.28 ID:xl8hvusmO
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/20(金) 13:19:42.83 ID:xs2Y6ogTO
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/27(金) 00:33:18.12 ID:aYtPKQx40
はやくしないと俺の魔翌力が暴走しそうです
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/27(金) 17:57:31.45 ID:AJJ+KsDfO
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2016/05/28(土) 16:35:30.12 ID:tzoFplH30
0713
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 12:51:52.05 ID:qA3QZSsn0
一気読みしてしまった。気長に待つよ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/21(火) 22:28:51.16 ID:hnhpPJIqO
大丈夫だよね?
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 00:57:04.11 ID:r3zEoMVXo
2ヶ月までまだ余裕あるし大丈夫だろ…
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 09:10:38.12 ID:JXbXJXUJo
これはもう駄目かもわからんね
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 15:42:54.62 ID:/mHyp+XRo
まだ待つぜ
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 20:11:10.65 ID:P33fqNTIO
はよはよはよ
生存報告だけでも
488 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage saga]:2016/07/07(木) 19:20:13.92 ID:Obdw9dry0
まじでちょっと待って
今週末
今週末には更新しますから
多分土曜か日曜になります
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/07(木) 21:22:37.54 ID:/sfo0cpno
まつから
生きてるならまつから
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/07(木) 21:43:18.17 ID:rO1G4H0ro
予告なんてしなけりゃいいのに
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/07(木) 22:59:59.19 ID:yfd+zHe4o
待つ
492 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:05:36.09 ID:UgjJ0tqW0

――――――――――――――――
―――――――――――
――――――

第三師団長「製造は順調です。
      …しかし、あれは一体なんです?」

勇者「何度も言わせるな」

第三師団長「ええ、焼夷兵器でしょう。
      一体なにから作られたものなのです。
      研究所の資料は喪失したはずでは?」

勇者「では既存技術の応用、という事だ。
   第一師団改編はどうなっている?」

第三師団長「…第一師団は大規模である上、複数の兵科で編成されています。
      ふたつの小型師団に分ける事までは簡単ですが…」

勇者「やはり、指揮する者が足りない、と」

第三師団長「ええ。
      ここ数年で兵科の多様化が急速に進んだ弊害です。
      特に騎兵戦力の運用に長けた者が少ない」

勇者「仕方ない、もう何人か昇格させろ」

第三師団長「…良いのですか?
      彼らの仕事は指揮官たちの警衛です。
      若者たちの中には実戦経験に乏しい者達も多く…」

勇者「貴様はいくつの戦場を経験した?」

第三師団長「三度です」

勇者「たった三度だろう。
   私に至ってはただの一度も無い。
   何、拠点防衛は私一人いれば事足りる。
   本来警衛など不要だ」



493 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:06:11.26 ID:UgjJ0tqW0



勇者「下がれ、明後日までに編成案を完成させろ。
   2週後の開戦に間に合うようにな」

第三師団長「………」

勇者「まだ何かあるのか?」

第三師団長「……兵はみな、不安がっている」

勇者「ほう?」

第三師団長「士気は高い。
      新型の焼夷兵器も一定の戦果を挙げるだろう。
      …これは結果の見えた戦です」

勇者「では不安を感じる事もあるまい」

第三師団長「そうです。
      …故にみな、どこか違和感を覚えるのだと」

勇者「はっきり話せ。
   私は忙しい」

第三師団長「我が国の国防計画は全てかの国を想定している。
      …北方の要塞線、魔研の設立、我が国に根付く魔法排斥の動き。
      全て、私が生を受ける前からの動きだ」

勇者「………それで?」

第三師団長「民草は無能だが無知ではない。
      …我が国はこの戦争を回避できない。
      その理由からみな目を背けているのです。
      結果は見えているとはいえ魔法の王国は大国だ。
      戦は数年に渡るだろう」

勇者「……貴様は軍人に向いていないようだな」

第三師団長「和睦の道など誰も夢にも思わない!
      民はみな心のどこかで、為政者たちにこの戦争を回避する選択を期待していたんだ!
      魔法は厄介な戦略単位だ、戦局などいくらでも覆る!
      たとえ勝利したところで、得るものも何も無いというのに…!!」


494 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:07:20.41 ID:UgjJ0tqW0



勇者はしばらく目を伏せていたが、


勇者「黙れ」


不意の、
髪から垣間見せた鋭い一瞥、
そしてただの一声の、煮え滾る内腑から絞り出すような低い声。
それはこの第三師団長という男を居竦ませるに充分に事足りた。


第三師団長「………!」

勇者「我が軍の指揮官は誰だ?」

第三師団長「………それは、あなた、だ」

勇者「そうだ。
   …この戦の指揮官は私だ。
   兵たちの生死も勝敗も、私の持つ権利だ」

第三師団長「…それは、危険なまでに傲慢な考えです。
      指揮官には兵をできうる限り生還させる義務がある」

勇者「そんなものはない。
   わかるか?
   そんなものは、無いんだ。
   兵が持つ義務とは、命を賭して指揮官に勝利を齎す事だけだ」

第三師団長「それでは!あなたの歩む道の先には、
      あなたしか居ない事になる!」

勇者「それでいい。
   例え私の指揮で全軍が滅びようと、
   目指す勝利の先が無人の荒野であろうと。
   …この戦の指揮官は私だ!」

第三師団長「……………」

勇者「戦争の発端がなんであろうと、
   民がどう思おうと関係ない。
   長期化した戦の産む犠牲がどれだけ多くとも、
   敵国を滅ぼすという目的は変わらない。
   和睦の道?ふざけるな。軍人が口にしていい言葉ではない」

第三師団長「しかし!
      …しかし、それを出来うるのは、もはやあなただけだ!
      英雄の再来と言われ、大権を委任されたあなたになら…!」


495 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:08:47.46 ID:UgjJ0tqW0



勇者「………国王亡き今、私に緊急権が与えられた意味をよく考えろ。
   所詮、私は未だ18の小娘に過ぎん。
   戦が終わればその役目は終わりだ。
   貴様も国の行く末を案ずるのなら、圧倒的戦力を持って敵を粉砕する方策でも考えるがいい。
   …和睦の道があろうとなかろうと、それは我々の範疇ではない。
   そういった話は宮廷で脳天気な話し合いをするような連中に任せておけばいい」


男は大将となってまだ日が浅く、
年齢も34と若かった。
理想と現実に引かれ合い震える身体を拳を握り締める事で堪え、


第三師団長「………わかり、ました」


なんとかその言葉だけを絞り出し、
銀髪の、上官でなければ小娘と呼ぶになんの躊躇もないであろう指揮官に背を向けた。

怒りが湧く度にその怒りが行き場を失い、暗い夜道にも似た喪失感、無力感に苛まされる。
男が部屋の扉に手をかけたその時、
その背に、勇者からなにやら言葉が投げかけられた。


第三師団長「………なにか?」

勇者「…いいや。
   そういえば、貴様の履歴を見た。
   なかなかに優秀な人材のようだ。
   私が居る限り、我が軍に敗走は無い。
   それだけは信じて欲しい」

第三師団長「あなたの強さは信じて疑いません。
      …が、無敵とはいかないでしょう」

勇者「………なぜそう思う?」

第三師団長「あなたは左腕をあまり使わない。
      理由はわかりませんが、過去に受けた傷が原因なのでは?」

勇者「……………」

第三師団長「…失礼する」


男が去り、また目を伏せた勇者は左腕を静かに掻き抱く。
その左手の指先は、微かに震えていた。


496 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:10:11.42 ID:UgjJ0tqW0



数分が経ち、
執務室のドアが数回叩かれた。


勇者「入れ」

兵士「…失礼します。
   第六師団所属…」

勇者「良い。貴様の顔は覚えている」

兵士「光栄ですね。英雄であるあなたに覚えて頂けているとは」

勇者「用向きだけ手短に話せ」

兵士「ええとですね、ふたつほど報告したい事が御座います。
   一昨日、王都管理局で、魔法使いを数人拘束しました。
   恐らく魔法学院執行部の残党かと思われます。
   妙な事を話されても困るので身柄は第六師団で押さえてありますが」

勇者「そうか。明日連れて来い。
   彼に預ける」

兵士「わかりました。
   次に、時計塔の街を中心に、末端ではありますが第六師団所属の部隊が次々に消息を絶っています。
   2日に1〜2部隊というかなりのスピードで対応が遅れました。
   部隊はみなならず者を雇用しただけの数合わせで被害は無いようなものだったのも原因ではありますが、
   昨日ついに西方の不安定化工作に関わっていた一部隊がやられました」

勇者「…ほう?」

兵士「不自然なほど痕跡を残していません。
   傷は剣によるものと、あとは矢傷です。
   剣は彼らの物を奪って使っているようです。
   我々の事を探っているものと」

勇者「手口が荒いという事は結果を急いているという事だ。
   つまり残された時間をある程度把握していると見ていい。
   調べはどこまで進んでいる?」

兵士「それが、犯人達の潜伏場所は割とすぐ突き止めたのですが、
   今朝方踏み込んだところもぬけの殻でした」

勇者「場所は?」

兵士「時計塔の街の一軒家です」

勇者「……狸爺め。
   討ち漏らしたとは聞いていたが…。
   他には?」


497 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:11:06.34 ID:UgjJ0tqW0



兵士「以上です。
   調べを続けます」

勇者「…そうか、ご苦労。
   下がっていい」

兵士「わかりました。
   …あれ」

勇者「どうした?」

兵士「勇者殿、
いつもの剣はどうなさったのです」

勇者「…ああ」


勇者は腰に手をやると、


勇者「あの剣なら、人に貸していてね」


少しだけ、嘲るように笑った。


498 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:21:49.39 ID:UgjJ0tqW0


――――――――――――――――
―――――――――――
――――――


鉛色の異形を漆黒の鎧で武装し、
携えた大剣を持ちて繰り出される剣戟は、
相対した者をまさに紙細工のように打ち砕く。
肉体強度は卓越した戦士の斬撃で僅かに傷がつく程度。
知性的であり卓越した戦術眼を備え、自らの存在に誇りを持ち、
冷酷ではあるものの人間にも一定の理解を示すようだ。
魔法の練度についての詳細、不明だが低く見積もって小さな城壁を吹き飛ばす程。
恐らく人間の到達し得るレベルではないと見ていい。

問題は、この諸情報は、例のハルバード使いによるものという事だ。

あれほどの武芸をもってしても、この魔族は近接戦闘においてなお上回るという。
賢者の剣技はその例の男には及ばぬものである上、彼には魔法の才は無く、
その情報には若干の加重をかけねばならない。

広間では方々で悲鳴が上がり、
腰を抜かす者、逃げ出す者など様々だ。

どうやらこの怪物の存在は魔法王のみの企みによる結果なのだろう。
遠い玉座に座す魔法王の表情は、この状況に似つかず強張っていて、
魔神と対峙する賢者の姿をただ見つめていた。


魔法王「殺せ。その後は、好きにして良い」


そして王は語る。
敢えて言葉として受け入れる必要もなかったが、
使役する魔神への命であると同時に、賢者へと向けた通告とも取れるその言葉に、
賢者は心が激しく毛羽立つのを感じた。


賢者「………ふぅー…」


彼女はひとつ息を衝き、抜剣し、
剣先を柔らかく振り身体に魔力を通わせ、更にその魔力を室内の気流へと乗せた。
肉体から迸る視認を可能とするほどの魔力は蒼白い光の絹糸となり、
そのうねりは柔らかく揺れる細い剣先に全てを委ねているようだった。

気流のうねりはやがて激しさを増し、
遠く近く吹く風音が共鳴し合い、茫々たる天地に吹き荒れる嵐が奏でる音色を思わせるようになった時、


賢者「………はっ…!」


魔神の眼前から、魔法使いの姿が消え去った。



499 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:25:43.06 ID:UgjJ0tqW0



彼我の距離は目測で10メートルは離れている。
それは恐らく、互いに容易く距離を詰められる間合いではあるが、
賢者はまず自らの絶対的に信を置く、その疾さを試したのだ。
正眼に立つ異形の魔神、その正面から、糸を引くような剣先が横薙ぎに黒色のプレートメイルの継ぎ目を狙う。

魔神は刹那の反応の遅れを示し、だがしかし最短の動きで身構え、一枚板のような大剣で左半身を覆い隠した。
甲高く耳障りな金属音が響く。
ぶつかり合う細身の直剣と黒色の大剣、その圧倒的質量差に賢者の身体は浮き上がり、
しかしその接触点を支点に身を魔神の背後へと巡らし更に攻撃に転じた。
踏んでいた通り、やはり疾さにおいてはこちらが有利。
返す刃で背後から右肩を狙う。

その斬撃は繰り返す事三度。
二種類の肉体強化、気流制御、歩法、持てる技術の全てを駆使した賢者の速度は、
もはや自らの認識の限界の処まで来ている。
五感はその速度に僅かに追いつかないが、彼女のたゆまぬ鍛錬と豊富な戦闘経験がその速度を可能とさせていたのだ。

しかしその斬撃はいずれも僅かに身動ぎした魔神の鎧によって防がれた。
振り向きざまに振るわれる大剣を認識し、彼女は息を呑んだ。
恐らく大剣の重量だけでも彼女の体重を越えるだろう。
更に驚くべきはその剣速。
移動速度、身のこなし、判断速度、そのいずれも彼女は魔神をも上回るが、
ただひとつ、その大剣の剣速だけは彼女の速度を上回っていた。


賢者「ぅああっ!!!」


異形の身体を蹴り飛ばし距離を取る。
そのまま空中で反転し、魔神の間合いから逃れると共に、彼女は渾身の魔力をもって、
一工程で行使できる最大威力の火炎魔法を投げ遣るように発した。
しかし魔神は一瞬で息を溜め、剣を構え跳躍するが如く逃れる賢者へとその身を踊らせる。
火炎魔法はいずれも馬車程度なら吹き飛ばす威力のものだが、
魔神はその火球を意にも介さず疾走した。
魔法の直撃をその身に受けながらも猛然と迫る怪物に、賢者が思わず身を居竦めた事を誰が責められよう。
その一瞬の間は大剣を回避するに致命的な隙となったが、
彼女は当惑しながらも魔力による防壁を三重に展開、加えて剣を構え、斬撃の防御を試みた。


500 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:29:10.95 ID:UgjJ0tqW0



苦し紛れの薄い防壁は全て大剣の一振りを前に砕け散り、僅かに剣速を鈍らせるに留まったが、
生死の境に感覚が超然と澄み切った一瞬、悲鳴をあげる肉体に更に鞭を入れ半身になる事で斬撃を回避、
更に細身の直剣が螺旋を描き魔神の首元をめがけ走る。
清明な彼女の頭脳は、かの斧槍使いの語った言葉を思い起こしてはいたが、
極限まで冴え渡る五感が本能的にそうさせたのだ。
斬撃は確かに魔神の首元を捉え、異形の怪物の皮膚を僅かに削り取り、
落胆をその背に負ったまま彼女は幾合もの剣戟を続ける。
頼れるのは自らの疾さ、ただその一点のみ。
その一点において彼女はこの怪物を上回る事だけは確信できた。

刹那の未来が遥か遠方にも感じられる打ち合いを続ける。
彼女に魔神の剣を防ぐ術はなく、
有効な防御はその身を躱す事のみ。
少しでも掠れば、衝撃は骨をも駆け抜けるだろう。

剣戟は時間にして10秒間ほどだが、彼女にとってどれほどの時間が過ぎただろうか定かではない。
躱した大剣が魔神の目線を遮った隙を衝き、
魔神の間合いから逃れた。


賢者「…ぅ……ぇ、げほっ……」


立ち止まると同時に肺は貪欲に酸素を求め、
その隅々まで大気を吸い込もうとするが、
極限の恐怖と戦闘への高揚感が咽頭と気道を粘つかせる。
視野はぼんやりと滲み、無理な魔法行使に頭痛が止まらず、
未だ20秒にも満たぬ戦闘にもかかわらず身体の節々は悲鳴をあげていた。

気付けば広間から人は消え、
暴虐の渦に包まれた破壊の痕跡だけが、魔神のその強壮さを彩っていた。
たった20秒間の交戦、ただそれだけで、
賢者の疲弊ぶりはもはや握る剣に力も無く、ただ迫る大剣を待つ事しかできない処まできていた。
あれだけ見えなかった刹那の先が今ははっきりと理解できる。

恐らく、自分は死ぬのだろう。
これほどの相手、相対した瞬間に撤退を決意するべきだったのだ。
しかし思い起こされるのは、かつて見た親友の笑顔。
眼前に立つ異形の怪物が自らの仇敵である事が、彼女の判断を鈍らせてしまった。


賢者「…はぁ、はぁ、はぁ…」


悠然と眼前に立つ魔神を見据え、
彼女は構えを解いた。
次の瞬間にも大剣が迫り命を落とす事を痛いほど知りながら。

だがそれにも悔いはない。
男との約束は破ってしまう事になるが、
友の仇を前にして撤退するという選択を彼女は持ち得なかった。
敵の強大さについての予備知識は確かにあった。
本来ならば執行部総掛かりで倒す相手である事も知っていた。
だが彼女には実力があった。
どれだけの難敵を前にしても、倒し切る事はできずとも、
制し切る自信も持っていた。

ただ、敵の脅威を見誤っていただけの事。

死を前に彼女は目を閉じた。
もう、二度とその目を開く事はないと覚悟をして。



501 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:30:24.05 ID:UgjJ0tqW0



魔神「…なかなかの練度だ、魔法使い」


だが慮外にも、浴びせられたのは大剣ではなく、言葉だった。
突然の魔族からの賞賛に、彼女は二度と開かぬはずの目を大きく見開いた。


魔神「剣腕、魔法ともに申し分ない。
   だがそのいずれも我を傷つけるには至らぬようだ。
   驚嘆すべきは疾さだが…目に留まらぬほどでもない」

賢者「………お褒めの言葉ありがたく頂戴するわ、魔王さま。
   死ぬ覚悟はできているわ。
   さっさと殺しなさい」


魔神は大剣を構える事なく強く床に突き刺し、
そのまま座り込んだ。


魔神「行け、魔法使い。
   今なら落ち延びる事もできるだろう」

賢者「……………は?」

魔神「見逃してやる。
   生き延び、研鑽を積むがいい。
   我と戦える強さを掴むまでな」

賢者「…契約者の命令に背くの?」


魔法王は、魔女の術式を解析したと言っていた。
それが真実であるならば、召喚に応じた魔族は術者と契約を交わし、
その契約に縛られるはずだ。
契約者と魔族は魔法によるパスが繋がり、互いの魔力を譲渡し合う事ができる。
それによる肉体的な影響やら精神的感応やら色々とあるらしいが、
詳しい事はわからない。

ただ、その契約は次元跳躍を可能にする条件とも言うべきもので、
その順守は絶対であるはずだ。
内容についておおよそ考え至る事は契約者への絶対服従。
明らかに魔法王を上回る存在が命令に従っていた事からして、
契約とはそれに近いものだと考えて自然だろう。


502 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:31:49.31 ID:UgjJ0tqW0



魔神「人間如きの考えた粗末な制約など、召喚と同時に破棄した。
   あの人間は…そうだな、協力者とでも言っておこう。
   我はなにもこの世界に戦いにきた訳ではない。
   奴は我の目的のための環境を提供し、我は奴の願いを多少聞いてやる。
   その程度の間柄だ」

賢者「…魔族が人間を見逃すのね」

魔神「つまらぬ戦いなどに興味は無い。
   無論殺される事も御免こうむるが、
   貴様如きに我は倒せん。
   が、見どころはある。
   腕を磨き出直すがいい」


その時、賢者の鼓動に変化が現れた。
どくん、とひとつ大きく心臓が収縮し、
鼓動がどんどんと早まっていく。

瞳は焦点が定まらず、
視界がぼやけ、眼前で声を発する魔神の声も、徐々に耳に届かなくなっていった。


魔神「…どうした?
   みすみす死ぬなど莫迦らしいぞ、人間」


ぐるぐると螺旋を描き、意識が遠のいていく。
この感覚はいつか味わったものだ。


―――お姉さん、魔法使いなの?


あれはどこだったか。

確か、最近、どこかの小さな村で。


―――意外と可愛いね。もう、喋れないか。
―――………じゃ、お邪魔しまーす………


そこで意識は暗転する。
記憶の底にあるいつか見た、忘れ去られ、苔むし、澱み、いつしか腐りきった底知れぬ沼のような瞳の中へ、
彼女の精神は堕ちていった。



503 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:33:14.43 ID:UgjJ0tqW0



少年「さすがに苦戦するみたいだね、おねーさん。
   あはははは…」


どこまでも白い世界。
ここは夢か、現か。

何もかもが消えた白い景色、
自らが立っているかどうかも定かではない場所。

眼前には、悪魔のような笑顔を湛えた、金髪の少年の姿があった。



504 : ◆DTYk0ojAZ4Op [saga]:2016/07/11(月) 19:34:56.79 ID:UgjJ0tqW0

遅筆ですみません。
今回はここまでです。

待って頂いている方、本当に申し訳ありません。
励みになります。

次回をお待ちください……。すみませんすみません。
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/11(月) 20:47:05.53 ID:755YVAR6O
乙!
今回も面白い!
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/11(月) 21:04:33.46 ID:mIcocA35O
楽しみに待っとるで!
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/11(月) 23:48:59.14 ID:VaKue2Wao
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/11(月) 23:49:52.22 ID:X/sCI29q0
キタ━(゚∀゚)━!
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/12(火) 00:41:38.46 ID:g2nyR+MAo
待ってた
乙です
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/12(火) 01:39:10.45 ID:UjHxVDTDO
更新キター!次の更新も楽しみにしてます。
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/12(火) 13:46:40.90 ID:yOfkyLW1O
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/16(土) 01:51:14.72 ID:sG+LcXYGO
ん、勇者は互角の相手なのに賢者は勝てないのか
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/18(月) 04:11:17.02 ID:x1Lh9P+x0
その時より強くなったんじゃね?
それか相性の問題か
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/02(火) 21:44:02.67 ID:ruA+SOV1o
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/30(火) 15:44:31.71 ID:hhNwrcEDO
516 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage saga]:2016/09/12(月) 11:41:04.68 ID:n6kBgbqa0
もうちょいお待ちください…。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 11:50:46.61 ID:HqLXKod3o
待つ
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 13:20:06.30 ID:rhFpl/dQO
待つぞ
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 20:06:49.83 ID:foyWT91DO
待ちます
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/12(月) 21:32:05.63 ID:j79H8tQqo
生きてたか
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 16:42:00.05 ID:GdfLSx3TO
ほー
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 19:35:28.89 ID:BYEv/WJ8O
ほっしゅ
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/15(土) 19:59:43.17 ID:VrTNWYnvo
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/30(日) 10:21:50.86 ID:1M/WAzen0

525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 09:16:07.24 ID:kZevey+dO
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/22(火) 01:10:02.98 ID:rjRGeq6IO
生存報告くれ
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/02(金) 16:05:18.24 ID:eIpL/GFfO
アウトか
落ちるんじゃね
めっちゃ残念だわ
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/02(金) 23:13:11.20 ID:0H9iN6qkO
まってる
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/05(月) 14:14:17.15 ID:Gdud6tdDO
それでも信じて待つよ
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/10(土) 10:52:12.12 ID:ydzgORf5o
魔女すくわれなかったか
悲しいな
531 : ◆DTYk0ojAZ4Op [sage]:2016/12/12(月) 02:38:16.69 ID:cMGBukse0
僭越ながら保守らせて頂きます…
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/12(月) 08:00:38.40 ID:slYRua8Uo
待ってる
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/13(火) 21:31:49.56 ID:CkTafw+qo
生きてるならよし
待ってる
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/23(金) 18:14:07.98 ID:T0l5FPYhO
書く気はあるの?
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/25(日) 22:19:13.46 ID:mpHZNT66O
忙しいのか構想が固まらんのか
どちらにしろ本人が保守してくれてるんだから大丈夫大丈夫
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 18:36:29.41 ID:CiXt3dlSo
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 08:28:23.06 ID:AXfMR9NLo
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/05(日) 18:47:31.80 ID:DWurn+MTO
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 09:53:37.68 ID:I4/Rb7DNO
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 16:16:30.25 ID:jDBSPc9hO
2ヶ月超えてるんですけど…
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/08(水) 23:08:21.32 ID:biPNnwrUO
スレ消えてないし大丈夫だろ
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/06(木) 01:12:33.54 ID:KMEImb2DO
ほっしゅ
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/06(木) 18:58:01.57 ID:hzzXx/KB0
てす
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/15(土) 00:09:29.21 ID:bwcRg7jKo
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 23:41:16.44 ID:bV8hmYrho
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/21(日) 10:33:44.87 ID:tKsGsD3BO

547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/06(火) 15:06:39.81 ID:25LJC8OWo
魔女!
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 05:44:07.80 ID:j8mt44KDO
保守

しかし、こうやって定期的に保守してくれる人がいるっていうのはいいSSである証拠だよな。
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 13:19:38.47 ID:UyhE2jjBO
エタったらそれも無評価になる
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/16(日) 17:04:03.09 ID:UQDnR5Ggo
無評価にはならんよ
ああ、そういう人なんだねと評価は積み重なる
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/28(金) 22:15:39.93 ID:er/uwVLT0
まだか・・・
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/30(日) 14:45:48.69 ID:LL5FHHJpo
待ってる
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/27(日) 00:23:17.18 ID:SNYWEt/Ro
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/14(木) 16:22:05.78 ID:KqhhwT/Go
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2017/10/24(火) 05:06:48.07 ID:SETiI0GiO
読み直したけど相変わらず面白かったぞ
続きがよみたい
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/11/27(月) 21:31:04.09 ID:XyxXhAurO
まつぞい
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/15(金) 08:25:14.73 ID:gM8aSHLHO
続きを!
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/30(土) 16:36:21.55 ID:0quW2XoBo
めっちゃきになる
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 05:10:04.97 ID:tsAtg+vQo
あけたぞ!
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/03(土) 15:03:19.74 ID:eEvytxVoo
まだか
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/10(土) 08:08:23.50 ID:K/Ai+9nQo
みたい
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/12(月) 00:00:15.40 ID:XY58EG7sO
まだ?
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 17:25:41.21 ID:dI/DF2GuO
1年9カ月
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/02(水) 02:38:09.55 ID:Tv6knbkco
作者が生きているかどうかだけでも知りたい
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 13:57:02.68 ID:n89WtCtXO
まうまう
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/01(日) 02:12:47.11 ID:H5d5G4gjo
おきて
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/05(日) 01:08:50.62 ID:4AcFwlF9o
みたいぞ
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 07:09:54.37 ID:HnwAo9Efo
2年超えてた
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 22:43:46.53 ID:+0dVEA9co
まつ
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/06(火) 15:39:50.57 ID:Rcs9UzMZo
よみたい
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/21(金) 22:57:03.48 ID:y/m7wO5qo
いきかえって
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/15(金) 03:35:27.83 ID:gmSihNEuO
まってる
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/21(木) 07:55:46.84 ID:lPTCePZk0
追い付いてブクマさせて貰ったよ
戦士たちのこの話はいつまででも待ってるから、貴方の構想の結末を死ぬまでに見させてくれ
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/06(土) 01:42:28.98 ID:0SFIbGOWo
まだかしら
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/10(月) 03:27:44.85 ID:ycKlycRq0
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/06/09(水) 02:33:40.27 ID:vwBAVo1co
見てる
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/07/19(月) 05:51:08.47 ID:+dh2tOXso
まだかな
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/08/02(月) 12:52:13.02 ID:6qrKID5SO
甦れ
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/12(日) 04:33:22.75 ID:m5oZ2Zboo
まってる
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/29(水) 15:53:22.70 ID:SITGL4eOO
2022年になっても待ってるからね…
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/29(水) 16:17:05.45 ID:ty/EBaWKO
マジで続き読みてぇ
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/01/20(木) 22:07:06.72 ID:0fQVVB0Yo
あけたよ
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/22(火) 03:33:16.56 ID:Q4y+6fVuo
まだかな
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/10/29(土) 10:33:19.03 ID:ceQu2TMY0
仕事が忙しいか? 家庭を持ったか? 古いPC処分した時にプロット失ったか?
6年経ってもまだ待つぞ
この物語の結末がどうしても見たい

再来年、もしまだ現れてなかったら
まだ待っている人がいる事を様々な方法で発信して主の目に付くよう努力する
今更もう書いてくれないかもしれないけど、今度は俺たちを見捨てないでくれ
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/29(土) 19:43:13.37 ID:Dp/TUB7vo
情熱的だな
俺も待ってるぞ
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