【ゴッドイーター2】隊長「ヘアクリップ」

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14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/13(木) 23:02:54.95 ID:c+/9ytvFO
面白い 期待
女ボイス9イイヨネ…
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/14(金) 02:01:52.71 ID:gJTWTR+/0
私は変に天然っぽい20番が好きです。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/14(金) 07:44:44.87 ID:pdSXJwB2o
>>15
今この瞬間にも、隕石が私の頭めがけて落ちてきているかもしれないわけですよ!
…20子はいいものだ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/14(金) 18:27:55.37 ID:1rnQgOPfO
うわぁ!後でなんでもしますから!命だけはぁ!

誤射可愛い。
18 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:12:30.67 ID:l08ZVGCi0
>>14
いい…
19子のヒャッハー具合も好きです

投下再開
19 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:15:41.05 ID:l08ZVGCi0


ジュリウス指導の下、基礎訓練と実地訓練を交互にこなしていく中で、3つの事件が起こった。
1つ目は第4の"ブラッド"候補者、ギルバート・マクレインがフライアに編入されてきたこと。
ギルバート……通称ギルはグラスゴー支部で5年の経験を積んできた、22歳のベテラン神機使いで、
紫のファー付きジャケットに羊毛付きの帽子、スマートながらも長身な体躯が目立つ外見をしている。
そんな彼に対してロミオがグラスゴーでの過去を追及し、ギルがそれに右ストレートで応じたのが事件の始まりだった。
元々仲がいいと言えるほどの関わりもまだなかった"ブラッド"だけど、これによって一気に場の雰囲気が冷え切ってしまった。
小さな願望で神機使いになった私だけど、明日には死体として野に転がっているかもしれない職業柄、
わざわざチーム内の諍いでその確率が高められるのは望ましくない。
それに、短い期間とはいえ、それなりに人となりがわかっているナナの落ち込んだ表情を見るのは、何だか心苦しかった。
ジュリウスからもそれとなく期待の眼差しを向けられている気がしたので、私は意を決し、ギルを説得しに行くことにした。

結果から言うと、とりあえず説得には成功した。しかも、一言二言であっさりと。
正直拍子抜けだったけど、ギルも存外気配りのできる性格だとわかったのは収穫だった。
尤も、第一印象で失敗したロミオ相手ではそうもいかないらしく、以降も小さな口論は続くことになった。
20 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:17:28.30 ID:l08ZVGCi0


 2つ目の事件は、私が"血の力"に目覚めたこと。
私が編入された時点で、フライアの移動要塞は極東地域に入っていて、その目標がフェンリル極東支部ということもあり、
極東支部からは2人の応援が寄越されていた。
1人はダミアン・ロドリゴ。
極東支部の新人神機使い担当の指導員で、彼自身もかつてはマドリード支部の神機使いとして活躍していたらしい。
フライアでは相談役として私達に応じてくれた他、"リンクサポートデバイス"という新装置の試験運用にも従事している。
もう1人は極東支部の若手神機使い、エミール・フォン・シュトラスブルク。
彼は高名な貴族であるシュトラスブルク家の出身で、騎士道精神というものを重んじているらしい。
その詳細は分からないけど、アラガミから人々を守ることにかけては、彼なりの筋を貫き通していることが窺える。
芝居がかった言動に気圧される場面も多いけど、何より彼は富裕層出身でありながら、自らの意志だけで神機使いになっている。
その点だけで、彼は私にとって尊敬すべき人物だった。
そんなエミールとの共同任務として、アラガミ討伐に臨んだ際、問題は起こった。
"感応種"の出現だ。
21 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:20:33.15 ID:l08ZVGCi0


 アラガミを構成する自律した細胞群、"オラクル細胞"には、捕喰の傾向を決定づける"偏食因子"と呼ばれる物質が備わっている。
その作用により、アラガミは"偏食場"という特殊な信号―パルス―を体から常に発する。
アラガミが群体行動をとるのは、"偏食場"同士が互いに共鳴し合っているためであり、同様のパルスである場合、特にその傾向が強くなる。
同様に偏食因子を用いる神機使いの第2世代、所謂"新型"同士によって起こる"感応現象"も、
こうしたアラガミの生態に起因したものとなっていて、
微量ながら人間の脳にまで入り込んだ"偏食因子"が一部の脳神経と結合、共存することによって、
より強力な脳波という形で"偏食場"が発現している、という本部の極秘研究結果が、2071年に発見されている。
また、この感応能力を強めれば、アラガミの"偏食場"をもコントロールすることが可能であり、
その応用としてアラガミの兵器化を目論んだ本部による、"新世界統一計画"が同年、極東にて断行されたこともあった。
ただ、計画は結局頓挫し、首謀者のガーランド・シックザールが起こしたクーデターとして、関与を否定した本部に処理されてしまっている。
22 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:22:49.72 ID:l08ZVGCi0

話が逸れてしまったけど、"感応種"の厄介なところは、
こうした"新型"の感応能力のような強い"偏食場"を、アラガミ側が身につけてしまっているという点だ。
"感応種"の発する"感応現象" は強烈なパルスとなって周囲のアラガミ、果ては神機にまで影響を与え、それらを管理下に置く。
アラガミ達は"感応種"を核とする、より統率されたチームワークと、強制的に活性化された力で神機使いを襲い、
対する神機使いは"感応種"の"感応現象"によって神機の生体機能が停止し、主な戦闘手段を封じられる。   
つまり、神機使いが"感応種"に相対するには不利な部分しかなく、"感応種"は事実上の天敵だと言える。
これが"新世界統一計画"によってアラガミ側を焚き付けてしまった結果なのかどうかは定かじゃないけど、
"感応種"の出現が現状極東地域に集中しているのは、間違いなくその影響があったためだと見ていいだろう。

その"感応種"が、神機の機能停止に狼狽したエミールを弾き飛ばし、孤立した私の眼前で鼻息を荒くしている。
23 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:26:55.46 ID:l08ZVGCi0

初めて遭遇する大型アラガミ、しかも、再三警告を促されていた"感応種"。
今まで対峙してきた中型アラガミの、二回りは大きい、狼のような体躯。
ごつごつとした岩のような質感の、鉄をも砕きそうな前脚。敵対者を射抜かんとする眼光。
他のアラガミを引き連れた様子はない。
しかしながら、明らかに一介の新人神機使いが勝てる相手じゃなかった。
手は震え、脚は竦み、声も出ない。離れた場所で戦う仲間達に、救援を求めることも思いつけないほど、頭の中が真っ白になっていた。
"感応種"が岩のような前脚を振るう。私も条件反射で神機を構えるけど、当然大盾パーツが展開することはなく、
エミールのようにあっけなく吹っ飛ばされる。
続いて地面に叩きつけられることになるも、攻撃はそこで一旦止んだ。"感応種"は何かを警戒しているようだった。
……警戒?何を?ただ遊んでいるだけなんじゃないの?
立ち上がりながら、益体にもならない思考を巡らせていると、"感応種"の後方で倒れているエミールの姿が目に入る。
24 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:30:10.08 ID:l08ZVGCi0

まだ息はあるようだけど、とても自力では立て直せそうにない状態のように見えた。
今立ち上がった私が"感応種"に嬲り喰われてしまえば、次は彼が玩具にになるだろう。

そう思った途端、自分の身体の内から、真っ赤なものが湧き上がってくるような感じがした。

箱入り娘の我儘を通してもらった身だ。こんな状況に陥った以上、もうどうなったっていい。
――"いくら恐怖に曝されようと、苦痛を与えられようと、それがお前だけの問題なら私は構わない"
"だが、それが他の者に降りかかるのであれば話は別だ。自身にそれを阻止できる力があるなら、全力で解決に当たらなければならない"――
……個人が持つ責任として、幼い頃に父が授けてくれた、数少ない善良な教えだ。
当時はまるで意味が分からなかったけど、今なら。
湧き上がってきた赤いものは膨らみ始め、動悸が早まる。"感応種"は更に警戒を強め、今にも飛びかからんとしていた。
神機を構え直す。"感応種"が先ほどよりも鋭い角度で、前腕を振りかぶる。
瞬間。

赤が、弾けた。
25 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:33:33.52 ID:l08ZVGCi0


 私の"血の力"を乗せた一撃で、思わぬ逆襲を受けた"感応種"は、
救援に駆けつけた"ブラッド"の応戦も加わったことにより、撤退を余儀なくされた。
"感応種"へのカウンター。それは、奴らの"偏食場"と同等以上の力を持ち、他の神機使いをも活性化させる第3世代神機使い、
"ブラッド"の"血の力"、あるいは、その影響で生み出される戦闘技術、"ブラッドアーツ"を用いることで、神機使いに及ぶ"感応現象"を相殺することだ。
"ブラッド"が旧世代の神機使いを教導し、統べることの所以はここにあると言っていい。
その"血の力"が偶発的に覚醒した私は、エミール共々何とか生き残ることができたわけだけど、その後が大変だった。
あろうことか、私が"ブラッド"の副隊長に指名されてしまったからだ。
候補者の名が外れた今となっては妥当かもしれないけど、新人よりは経験を積んだギルに脇を固めてもらった方が適正なのでは……
と思っていると、早速ギルに太鼓判を押されてしまい、私は何も言い返せなくなった。
26 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:38:36.43 ID:l08ZVGCi0

実際、"血の力"が発現して以降の私の調子は凄ぶるいい。
"血の力"に対応する性質を持った第3世代型神機の精度がより高まったおかげもあるけど、私自身も以前よりずっと冷静に戦えるようになっていた。
神機の適合率が高いと、稀に人格に影響を及ぼすことがある、という噂を聞いたことがあるけど、その影響もあるかもしれない。
それにしたって調子がいい……思わず疑ってしまうほどに。
明らかに成長が早過ぎる。まだ実地訓練の段階ではあるけど、この討伐速度は異常だ。
才能のある新人だから、で済ませられる話じゃない。となれば、原因は私達に投与された偏食因子にあるのだろう。
P66偏食因子。第1世代の"旧型"と第2世代の"新型"が混在していた従来のP53偏食因子とは違い、
最初から"ブラッド"用に調整されたものなのだという。
そう考えると、"血の力"を初めとした技能の強力さにも納得がいくかもしれないけど、
その理論をこうして実現するまでに、どれほどの試行錯誤が重ねられたのだろうか。
P66偏食因子の開発者は他ならぬラケル博士で、彼女には"マグノリア=コンパス"と呼ばれる、児童養護施設の運営者としての側面もあった。
27 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:40:36.10 ID:l08ZVGCi0

私やギルを除くブラッドの面々も、"マグノリア=コンパス"の出身なのだという。
孤児院を営む傍ら、極致化技術の開発に従事……計画を飛躍させるための、"マーナガルム計画"や"アーサソール"のような、人体じっ――
――考えるのを止めた。
自分に力があるとわかった以上、今は誰かのためにそれを振るうだけだ。命はまだとっておきたい。
ともかく、第2の事件は"ブラッド"の戦力増強と、副隊長の指名による、組織内の指令系統の一本化という形で終わりを迎えた。
そして3つ目、現状最後の"ブラッド"候補者、シエル・アランソンの編入だ。
28 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:43:57.65 ID:l08ZVGCi0


 シエル・アランソン、16歳。私やナナと同じく、神機使いとしての経験はないけど、
幼少期に"マグノリア=コンパス"で鍛え上げられた、高い近接格闘術と戦術理論の素養を備えている。
リボンのような結び方の上に、更にリボンで留めた、特殊な銀髪のツインテール、
長袖のブラウスに腹部のコルセット、レーヨン製のスカートでまとめられた格好は、全体的に貴族趣味ながらも、どこか窮屈そうな印象を受ける。
また、身体のラインが出やすい格好に負けじと、彼女は抜群のスタイルを保持していた。
正直、同姓として羨ましい……いや、ほんの少しだけれど。
シエルは副隊長、つまり、私の補佐として任命されたため、以降は彼女と行動を共にすることが多くなった。
シエルは高度な戦術理論を身につけており、参謀としてそれらを"ブラッド"に適用させるのが是だと考えていたけど、
現場主義のギルや、そうした環境に慣れていないナナとロミオからは多少ならずも反発を受けていた。
現状に納得しないギル達と、現場と論理の差異に折り合いをつけられないシエル。
再び訪れた"ブラッド"の不和に、またもやジュリウスから期待の眼差しを向けられたため、私はまず、シエルに歩み寄ってみることにした。
……彼には試されているのだと思うことにしよう。
29 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:48:19.20 ID:l08ZVGCi0

シエルの戦術理論を噛み砕き、状況に応じてわかりやすい形で現場に伝える、双方の橋渡し役として従事してみた結果、
チームの立ち回りとしては、まずまずの結果を得ることができた。
そうした実地訓練をある程度こなしていると、シエルも私を認めてくれたようで、わざわざ自分の友達になってほしいと申し出てきた。
大袈裟だなとは思うけど、私自身、学生時代はその状況に内心苛立っていて、あまり友人を作ろうとは思わなかった。
今の状況も未知の分野で戸惑うことはあるけど、嘗てに比べればまだ精神的な余裕があるし、
どことなく口下手なところや、内向的な性格に共感できる部分もあったので、シエルと友人関係になれるのは願ったりかなったりだった。
でも、彼女からの"君"呼びはやっぱりちょっと恥ずかしい。
シエルの"ブラッド"に対する事務的な態度が段々軟化し、ギル達も彼女の戦術論に理解を示すようになってきた頃、
フライアから"ブラッド"に、"神機兵"動作テストの護衛任務が言い渡された。
30 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:52:27.88 ID:l08ZVGCi0


 "神機兵"。
フライアの主要計画である"極致化計画"の二本柱の1つで、その片割れの"ブラッド"と共に運用計画が進められている。
主導者はフライアの開発室長であり、ラケル博士の姉でもあるレア・クラウディウス博士。
彼女が父・ジェフサから、神機のオラクル細胞制御機構を応用した機動兵器の研究を引き継いだことが発端となった。
レア博士は有人制御式での運用思想を推し進めているけど、これに対する派閥として、九条ソウヘイ博士による無人制御式の思想も存在している。
今回の動作テストは後者の無人制御式についてのものであり、"ブラッド"の役割は実験の経過を現場からモニターし、
動作不良や想定外のアラガミ出現など、不測の事態が起きた場合には、速やかにアラガミ関連の事柄を処理する、というものだ。
"神機兵"自体には未だ調整が必要なようだったけど、任務の経過は比較的良好だった。
ただしそこに、赤い積乱雲が襲来するまでは。
31 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:55:01.08 ID:l08ZVGCi0


 ここ半年、極東地域で観測されている"赤い雨"。
同色の積乱雲を伴って表れるこの現象は、未だ解明されておらず、分かっているのは、"赤い雨"に触れると、
高確率で"黒蛛病"と呼ばれる未知の病に侵され、人によって進行速度の違いはあれど、確実に死に至ってしまうという一点のみだ。
それは神機使いも例外ではない。
ジュリウスから即刻避難命令が出されるも、フライア局長であるグレムは"神機兵"の護衛を優先し、現場に居残ることを強制する。
当然従うべきは前者だけど、シエルは不本意ながら後者に従わざるを得ない状況になってしまっていた。
既に退去が間に合わない距離にいたからだ。
いくらシエルでも、雨に触れられない状況でアラガミと交戦することは自殺行為に近い。
既に動作を止められていた"神機兵"は雨宿りにしかならない。
下された命令は相反する2つ。
となれば、私が取れる行動は1つしかなかった。
32 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:57:37.38 ID:l08ZVGCi0


 結局、雨宿り"にも"なる"神機兵"に無断で乗り込み、シエルの救援に向かった私は、
命令違反も合わせ、懲罰としてしばらく独房に入れられることになった。
釈放されるまで長くはかからなかったけど、ジュリウスには一連の件でかなり迷惑をかけてしまったようだった。
彼は私の行動を諫めつつも笑って許してくれたけど、以降も出来るだけ彼の眼差しに応え、償っていこうと思う。
シエルの方はというと、事件以降、より距離が縮まった気がする。
具体的には、バレットエディットについて積極的に熱く語ってくれたり、感極まって抱きついてきたり。
最初は驚くことの方が多かったけど、シエルが私に色々な表情を見せてくれるようになったのが純粋に嬉しかった。
……とりあえず、100年先も友達でいられるように頑張ってみよう。

また、この事件を機に、今まで不明だった私の"血の力"の内容も明らかになった。
その力は"喚起"。周囲に影響を及ぼすという点では、オラクル細胞の活性化を周囲に促すジュリウスの"統制"と共通しているけど、
私の持つ"喚起"の本質は、触れ合った人が"ブラッド"であれば"血の力"の発現を、
通常の神機使いであれば"血の力"の片鱗である"ブラッドアーツ"の覚醒を促すことができる、というものらしい。
特に後者は現状私でしか再現できない現象であるため、一層の活躍を期待します……と、ラケル博士に念押しされた。
……ジュリウスといい、ラケル博士といい、人と関わり合うのは正直得意じゃないんだけど、中々思うようにいかない。
33 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:59:15.02 ID:l08ZVGCi0

私の"喚起"の実証例となったのはシエルで、彼女は"直覚"の血の力に目覚めていた。
アラガミの状況を察知する鋭敏な知覚を持った上で、"感応現象"を用いてその知覚を周囲に共有するという、利便性の高い"血の力"だ。
改めて疑わしくなる程強い力だと思ったけど、もう何も考えないことにする。
そうこうしている内に、フライアの移動要塞は目標であるフェンリル極東支部に到着していた。
極東支部……"月の緑化"事件の黒幕だと言われていたり、素手でアラガミを引きちぎる神機使いがいるらしかったり、
色々と怪しい噂の絶えない支部だけど、その実態はどのようなものなのだろうか――
34 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 21:10:27.10 ID:l08ZVGCi0
とりあえず極東支部到着まで
おかしい…GE2本編の範囲に入ったらもっとサクサクダイジェストしていくつもりだったのにどんどん長くなってる…
ギルの仇討以降は一編一編短くなるはず…多分

適当な捕捉
・ガーランドと新世界統一計画、アーサソールについてはthe spiral fate(TSF)参照
・アーサソールは本部による新型神機使いの実験部隊で、人体実験によって感応能力が高められている上、本部に洗脳されている(TSF)
・アーサソールは小説『禁忌を破るもの』にも出てるけど、未見なので設定語りに含めてない
・新型の感応現象と感応種のつながりは特にないが、何か繋がりそうだったので勝手に繋がってるぽく書いた
・ヨルムンガルドとフェンリル(アラガミ)はいつゲーム本編に出てくるんですかね
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/15(土) 16:11:38.88 ID:jhJ3EcqlO

今も狼はいるから(震え声)
36 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:24:57.96 ID:pULMqkzL0
少しだけ投下
ギル編から短くなると言ったな、アレは嘘だ
37 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:28:04.04 ID:pULMqkzL0

4

 ――取り込んだデータの確認、もとい振り返りを一通り終える。
自分の記憶と照らし合わせながら読み進めてきたけど、どうもこの辺りの記述は読みにくい。
事実とそれに対する感想だけでいいものを、半ば専門用語まみれのメモ帳と化している。
そういうのはちゃんと住み分けて……というより、これで反省して、ノートと住み分けるようにしたんだっけ。
今も結構諫められることが多いけど、一定の事柄に熱中すると周りが見えなくなる性質はこの頃から健在のようだった。
高等部ではオラクル研究分野を学んでいたから、関連技術に対しての知識欲が割合強いのもあったんだろう。
……こんなことすら、実家にいた頃には気がつかなかった。

フライアでの用事は一通り済ませたので、アナグラに戻る準備をする。
折角フライアに来たのだから、帰る前に"彼"の墓にも顔を出しておこう。
極東支部に到着して以降もフライアに戻る機会はあったけど、まさかこのまま極東に残留し続けることになるとは思わなかった。
今回、日誌を取りに行く羽目になったのもそれが一因だけど、これは異動時に持ち込みを忘れていた私が、単純に迂闊だっただけとも言える。
それに、ここに居残ることになったのはむしろ喜ばしいことだ。
アナグラではフライア以上に多くの事があったし、学ぶ事についてもまた、同様だった。
いずれは、ここを離れなければならない時も来るかもしれないけど。
……この日付以降のデータは、アナグラの自室で確認することにしよう――
38 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:31:54.02 ID:pULMqkzL0

 ――フェンリル極東支部。
その名の通り、嘗て日本と呼ばれた、東の果ての地域に位置する支部で、
支部内部の主要施設が地下に集中しているという特徴から、その拠点は"アナグラ"という別称で呼ばれることもある。
極東地域は強力なアラガミが頻出する地帯でもあるため、
フライアは"ブラッド"と"神機兵"の大きな運用実績を得ることを目的に、ここを訪れた。
付いて回る噂や"アナグラ"という言葉の印象から、どことなく排他的なイメージが先行していたけど、実際にはそんなこともない。
支部の神機使いや職員達から、外部居住区に"サテライト拠点"の人々まで、
例外は当然あるけど、多くの人が好意的に私達を迎えてくれた。
極東支部は対アラガミの最前線である代わりに、得られる資材が豊富で、最先端の設備と技術の開発が優先されるという利点もある。
外部居住区の生活改善も図られていて、近年では他の地域から流れてくる市民の数も増加傾向にあるんだとか。
ただ、その収容人数も限界に達しつつあったため、
極東では独自の施策として、"サテライト拠点"と呼ばれる、フェンリル本部の管理に拠らない生活拠点の建設が進められている。
私達が訪れた客人用の区画には、その"サテライト拠点"への本部の支援を取り付けるため、
双方をつなぐ架け橋として活動する歌姫、芦原ユノの姿もあった。
彼女は、市民代表のアイドル的な存在として各支部でも人気を博していて、私達の中では、ロミオが特にそのミーハーぶりを発揮している。
ユノとは彼女がフェンリルでの広報活動の一環として、フライアに訪れていた際に一度出会っていたことがあり、
同年代のよしみもあってか、比較的早くに打ち解けることができた。
39 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:34:01.70 ID:pULMqkzL0


 "ブラッド"がフライアから極東支部へ、一時的に拠点を変更した際の変化が一番大きいのは、活動環境だろう。
フライアにいる頃に経験した任務は、所謂実地訓練の延長線上で、
極端な事を言えば、ただアラガミを討伐するだけでいい場合が多かった。
しかし、極東支部での任務は、より多岐にわたる条件、状況の元で臨まなければならない。

私達"ブラッド"の支部での役割は、第一部隊のサポートと、その他種別の任務をこなす遊撃的な性質のもの。
基本は少数部隊ながら、隊長を除いた構成員の練度が不足している第一部隊の穴を埋める名目として、
支部や"サテライト拠点"に接近するアラガミの討伐を務めることになるけど、
状況に応じて外部居住区前線の防衛任務や、優先的に"感応種"の討伐任務に向かうなどの場合もある。
これは支部の神機使いの活動を補強するものである他、
多目的な用途での"ブラッド"の実用性を証明するための、フライア及び本部の思惑も含まれている。

また、極東支部に限った話ではないけど、ここの神機使い達は何れもその環境に場慣れしている。
"ブラッド"個々人の能力が高いけど、
チームとしての連携や拠点防衛への対応、地形に対する知識などは彼らに一日の長があるだろう。
未熟とされる第一部隊の構成員にしても、基礎の段階でそれらの教えが染みついているからこそ、今日まで生き残っている。
40 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:35:54.64 ID:pULMqkzL0

対する"ブラッド"はというと、結成からこっち、隊員同士の仲はそれなりだけど、
若手4人、ベテラン2人で構成された急造チームという感が未だに拭えない。
隊長のジュリウスがアラガミ討伐以外の公務に手を取られがちな以上、
副隊長の私が彼らの仲を取り持たなきゃならないんだけど、具体的な方法がいまいちわからず、手をこまねいていた。
険悪な関係ではないものの、どこか表面的な付き合い止まりというか。
チームとしてはそれが利になることもあるけど、
そうしたことはジュリウスやラケル博士が求めていることでもないような気がする。
41 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:39:44.96 ID:pULMqkzL0


 支部の厚意で"ブラッド"の歓迎パーティーが開かれている最中、
私はいつの間にか会場から行方を晦ましていたギルの行方を追っていた。
というより、それを口実に会場から抜け出した。
賑やかなのは嫌いじゃないけど、疲れる。

そんなわけで、ロビーにでも行って寛いでおこうと向かってみると、口実の彼はあっさりと見つかった。
どうやらギルも、私と似たような理由で逃れてきたらしい。
何となく話しかけてはみたものの、会話は双方、どこかぎこちない。
私が変に緊張して、しどろもどろになっているせいもあるけど、どうも彼は深い関係を持つことを避けている気がする。
変な意味ではなく、単純にチームの仲間としての。
微妙な雰囲気のまま会話が途切れようとした時、

「おお、ギル!ギルじゃないか!」

上方から声が降ってきた。

真壁ハルオミ。
極東出身ながら、以前はギルと同じく、グラスゴー支部の神機使いとして活動していた。
後でギルから聞いたことだけど、神機使い歴11年にして、年齢は28歳。
年齢による身体機能の衰えから、オラクル細胞の制御が困難になる問題もあるため、人間が神機使いとして活動出来る範囲は限られている。
そうした側面から考えると、彼はかなりの長寿だ。
性格は捉えどころがなく、飄々としているけど、ギルの操縦役を自称するだけあり、
少し話すだけでも、彼を自分のペースに巻き込んでいた。
同郷の先輩との再会にギルもどこか嬉しそうで、普段見せないような表情をする場面もあった。
気心の知れた相手だからこそだろうか、意外さと共に、少し妬けてしまう。
ただ、そんな中でも、ギルの表情が段々沈んでいくのが見て取れた。
小話の後、ハルオミさんは任務へ、ギルは自室へ、それぞれさっさと出て行ってしまったので、私は1人取り残される。
ちょっとした疎外感を覚えつつも、パーティー会場へ戻ることにした。
42 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:42:47.40 ID:pULMqkzL0

 極東支部の歓待ムードも終わり、幾らか通常任務もこなすようになった頃、シエルから朗報があった。

"ブラッドバレット"。
"ブラッドアーツ"同様、"血の力"による影響が神機に変異をもたらしたものらしく、
バレットのモジュール部分に特殊な効果を付与する"変異モジュール"が、その要となっている。
シエルが"血の力"に目覚めた後、私との任務に同行した際には、
既ににその兆候があったようだけど、しばらくの間実現に至ることはなかった。
極東支部に着いてからは現地の整備班の協力により、"喚起"と"ブラッドバレット"の関係性が実証できた代わりに、
今度はバレットエディットに組み込む際、必須項目である"変異モジュール"の抽出が難しいという問題に直面していた。
そこで私が気休めに何気ない一言を発したところ、それが彼女にとって重大なヒントとなったらしく、
こうしてバレットエディットにも活用できる、完全版の"ブラッドバレット"が完成した。
完成報告の際、感極まったシエルに抱き着かれる。二度目だった。

命令に付き従うだけの日々を送ってきた過去から、絶対性のあるものを信じ、ギル達と衝突していたシエル。
そんな彼女も"神機兵"護衛任務以降、それ以上に大切なものを知り、過去から解放された。
冷たい印象を与えてしまう、堅い言葉遣いと無表情を除けば、元から決して悪い性格ではなかったシエルだけど、
ここ最近の彼女は本当に活き活きしている。
人付き合いが苦手な私だけど、"ブラッド"に配属された今が楽しいと言ってくれて、
もっと皆の役に立ちたいとはしゃぐシエルの姿を見ていると、"喚起"の"血の力"を持つことも悪くないかな、と思えてくる。

――自分の素性はひた隠しにしているくせに、都合のいい。
43 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:51:04.74 ID:pULMqkzL0


 エイジス島の調査に向かっていた第一部隊から、"ブラッド"へ緊急の救援要請が着た。
エイジス島は極東支部の南側に位置する孤島で、3年前までは巨大シェルターに全人類を収容し、
アラガミから恒久的に守護する"エイジス計画"の舞台として注目を集めていた。
その建設計画に大量のオラクル資源が割かれていたため、
極東の生活環境が3年で急速に発展したのは、"エイジス計画"によるリソース面の負担が消えた影響だとも言われている。

それはさておき、ここエイジスには計画の残滓として、未だに多くのオラクル資源が眠っていて、
周辺地帯のアラガミを引き寄せる格好の餌となっている。
そのため、新種のアラガミや、他の地域が主な食事処であるアラガミが最初に流れ着くのも、ここである場合が多い。
今回の救援要請の内容も、突然変異種の出現により隊員二名が負傷、隊長の藤木コウタの機転により、2人は逃がされるも、
今度は彼がアラガミの集まるエイジスに取り残されてしまった、というものだった。

救援は無事成功、コウタさんも大事には至らなかったけど、件のアラガミの姿はなかった。
しかし、支部内の病室でコウタさんの"神機が刺さった赤いアラガミに襲われた"という証言を聞いた途端、ギルの表情が強張った。
彼は少しの間の後、足早に病室から出て行ったけど、何となく不安が残る。
44 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:54:22.71 ID:pULMqkzL0

 エイジスでの救助作戦以降、ギルはどこか思い詰めた様子を見せ、立ち回りの精度も鈍るようになっていた。
普段から口数が少なく、人を避けがちな彼だけど、任務にまで不調をきたす今の様子は明らかにおかしい。
それに――

"万が一があった場合、残されたヤツは一生、お前の命を背負い続けるんだ"
"お前の前向きなところは嫌いじゃない。だが、自分だけは大丈夫とは思わない方がいい"

――"神機兵"護衛任務での無茶な行動をギルから窘められた経験がある私としては、
そんな彼がたった独りで、何かを抱え込んだままでいるのを放っておけなかった。
意を決してギルに当たってみるも、"お前には関係ない"、"俺の問題だ"、と、取り合ってくれない。
でも、"お前を巻き込みたくない"と漏らしたのを聞くことはできた。やっぱり何かある。
何かあるけど、その先に進めない。
進展しない状況に歯噛みしていると、その場に居合わせたハルオミさんと出くわした。
この人なら、とダメ元で尋ねてみたところ、どうやら彼もそのつもりだったらしく、あっさり口を割ってくれた。
45 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:58:05.47 ID:pULMqkzL0

――ハルオミさんの妻であり、ギルにとっても大切な人だった、ケイト・ロウリー。
人手の足りないグラスゴー支部の仲間のため、数度の引退勧告を無視してでも神機使いを長年続けてきた彼女は、
件の赤いアラガミとの戦闘をきっかけに身体が活動限界を迎え、暴走したオラクル細胞の浸喰……アラガミ化が始まってしまう。
それを善しとしなかった彼女は同行していたギルに介錯を請い、葛藤の果て、彼は自ら手を下した――

思えば初対面時、ギルが私の説得にすぐ応じてくれたのは、彼が私のお節介を焼く姿に、ケイトさんを重ねていたからかもしれない。

自分自身の手を汚し、失った人の分の想いを背負う。
その業の深さは私には計り知れないけど、だからこそ、ギルを支えてあげたいと思った。
46 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:10:35.78 ID:pULMqkzL0


 ハルオミさんからの頼みもあり、私は多少強引にでもギル喰らいついていくことを決めた。
当然ギルからは反発されたけど、それについては後から来たハルオミさんが執り成してくれた。
彼が極東に来た目的もまた、赤いアラガミと決着をつけることで、その柵から自分とギルを解き放つことだった。

極東地域南東、嘗て人間同士の醜い争いがあった湾岸地区の廃墟で、私達3人は赤いアラガミと対峙する。
竜と人を掛け合わせたような全体のフォルム。
発達した両腕には展開式の禍々しい形状の巨大な刃が仕込まれていて、背中には飛行可能な翼状のブースターが生えている。
体表は紅い装甲で覆われ、その両眼は自我を失っているかのようにギラついていた。
グラスゴーでの戦いから年月を経た今でも、アラガミの右肩には刺さったままのケイトさんの神機を確認でき、
全身には生身であることを証明する傷痕が残っていた。
つまりコイツは、未だにあの時の傷が癒えずにいる。
しかし、赤いアラガミは衰えようとも強大な力を発揮し、
ギルが仇敵を前に冷静さを欠いていたこともあって、接戦を強いられることになった。
47 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:15:02.60 ID:pULMqkzL0

近接攻撃を弾いた隙を突き、赤いアラガミの右腕がギルの胴体を直撃する。
壁際まで吹っ飛ばされたギルにアラガミがにじり寄ったところで、ヤツの頭部に弱点属性である雷バレットが撃ち込まれた。
苦しみつつも振り向くと、そこには何の変哲もない壁があるのみ。
呆気に取られたアラガミの側頭部にまたも雷バレットが撃ち込まれ、ヤツの頭部が結合崩壊を起こす。
痛みに悶え、怒り狂いながら撃たれた方向に振り向くと、余裕を保った表情のまま、銃形態の神機を構えるハルオミさんの姿があった。
今度こそ標的を見据えたアラガミは即座に背面のブースターを起動し、左腕の狂刃を展開させる。
その瞬間、神機を近接形態に変形させた私の背後からの"ブラッドアーツ"により、高速移動の要となっていたブースターも砕かれた。

跳弾の"ブラッドバレット"。
壁や地面といった地形に反射する性質を持ったバレットで、戦闘では攪乱や不意打ちに用いることができる。
事前にシエルに協力してもらいながら作成したバレットだけど、どうにかこれでヤツの注意をギルから逸らすことに成功した。
さて、ここからが正念場だ。

翼を捥がれたアラガミが、ゆらりとこちらに向き直る。
私が神機の大盾パーツを咄嗟に展開させるや否や、滅茶苦茶な勢いでヤツの仕込み刃が叩き込まれた。
防ぐので精いっぱいで、避けることもままならない。
凄まじい剣圧と多彩な角度からの攻撃により、大盾パーツが悲鳴を上げて軋み始める。
あの"感応種"との一戦から、幾種の大型アラガミを相手取る経験を重ねてきた今なら、と思っていたけど。
……とんだ見当違いだったみたい。
48 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:19:29.09 ID:pULMqkzL0
一瞬の油断を突いた刃の切り上げと共に、私の神機が払いのけられる。
万事休す。でも、せめてギルが乗り越えた姿を見届けるぐらいは――

「ここで諦めるわけには、いかねぇんだよっ!!」

――復活したギルが、叫ぶ。
右腕を振り上げ、私の腹を引き裂かんとするアラガミの右肩口を、ハルオミさんが正確に撃ち抜いた。
アラガミが怯み、私は背後からギルが駆けてくるのを確認する。
先ほどバレットを撃ち込まれたヤツの右肩を視認して、瞬時に閃いた。武器がないなら借りればいい。
地面を蹴って飛びあがり、銃撃によって少し抜けかかっていたケイトさんの神機を、渾身の力で蹴り込む。
神機は深くアラガミの古傷に食い込み、動きを止めることに成功した。
後は仕上げだ。
ヤツの眼前にまで迫ったギルが槍先を突き出し、神機が生成したオラクルの気流に乗る。

「届けぇぇぇっ!!」

気流は突風となり、ギルごと神機を打ち出す。
赤い波動を纏う弾丸となったギルは、そのままアラガミの肉体を穿ち、自らの因縁に終止符を打った。

戦いが終わり、倒れ込みそうになるのを抑えつつ、
初めて"血の力"を使ったことで、疲労困憊になっているであろうギルを助け起こしに向かった。
最初は払いのけられるかと思ったけど、彼は差し出された手をしっかり握ってくれた。少しドキッとする。
立ち上がったギルが私に見せた表情は、前を向いて歩き出したことを証明するような、晴れやかな笑みだった。
49 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:27:05.29 ID:pULMqkzL0

 仇討ちを機に、一歩前に進むことができたギルは、どこか自嘲気味だった以前よりも、素直に笑うことが多くなった。
コミュニケーション面でも、"ブラッド"や極東支部の仲間とそれなりに会話している姿が見られる。
以前からそのきらいはあったけど、周囲に対して人一倍心配りができるのが、彼の元来の性格のようだ。
また、吹っ切れて周りを見渡せるようになった影響なのか、神機の整備にも興味を引かれている。

その相談として2人きりでいることが多くなったり、"今度は俺がお前を支えてやる番だ"とか、
思わず嬉しくなることを言ってきてくれたりして、世間知らずのお嬢様としては、どうにも彼を意識せざるを得なく……
まぁ、それも少しだけだし、何も問題はない。
だから仇討ち以降、人当たりがよくなったことで支部内の女性人気が上がっただとか、
整備士の楠リッカさんと神機の整備関連で意気投合して仲が良くなっているだとか、
私はちっとも気にしていない。これっぽっちも。全然。

……それに、彼が私を見る時の目は、私じゃない、他の誰かを見ているような気がした。

一方のハルオミ……ハルさんは、これまでの一途さはどこへやら。
"聖なる探索"だの"ニーハイ戦術"だの、理解し難い話を私によく振るようになった。
50 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:29:04.96 ID:pULMqkzL0
極東支部到着〜ギル編終了まで
キャラエピの順序と挿入タイミングが滅茶苦茶なのは許してほしい
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/18(火) 02:24:10.18 ID:wZKRE5Eho
52 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:02:33.89 ID:5+QeUg+W0


 ギルの仇討を終えて以降、私にも一つ、関心事が出来た。
エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。
シュトラスブルクと同じく名のあるフォーゲルヴァイデ家の出身で、弱冠14歳ながら、極東支部第一部隊の隊員を務めている。
ちなみに、彼女の第一部隊での同僚は、私達がフライアにいた頃、共に戦ったこともある、あのエミールだ。
彼とは神機使いになる以前から顔見知りらしく、
エミールが大袈裟なことを言っては、それに噛みつくエリナの姿を"アナグラ"で見ることができる。
エリナは向上心の強い性格で、負けず嫌いでもあることから、出会った当初は本部の息がかかった"ブラッド"を目の敵にすることもあった。

しかし、先のエイジス島での事件から、自らの実力不足を痛感。
エミールとのことで心配させているのもあるし、これ以上、コウタ隊長に迷惑をかけたくない。
そこで、癪だけど、救援作戦で高い実力を見せた"ブラッド"に戦い方を教えてもらいに、私の元へ来た、ということらしい。
……それで、何で私に?

「ジュリウス隊長にギルバートさん、シエルさんは取っつき難そうだし、ロミオさんやナナさんに馴れ馴れしくされるのも嫌」
「アンタは尖ったところもなさそうだし、教えてもらうには合ってると思ったの」

……そうですか。
53 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:06:02.97 ID:5+QeUg+W0

「……それにアンタの顔、どこかで見たことあるから、思い出しておこうかなって」

気のせいだよ、と返した私の目は、きっと泳いでいたに違いない。
私には覚えがないけど、あのフォーゲルヴァイデ家の出身である以上、
父の付添で行った会合の何れかで顔を合わせている可能性は十分にある。
出生を知れば即刻故郷に送り返す、というような人達じゃないのは分かっているけど、
私個人の身勝手な感情として、周囲に素性が知れるのはできるだけ避けておきたかった。

ひとまずエリナの課題の確認として、難度の低い掃討任務に同行する。
私にものを教えられるほどの経験はないけど、筋は悪くないように思えた。
ただ、焦りのせいなのか、防御行動の類を殆ど取ろうとしないのは頂けない。

ふと、彼女の傾向を自分に当てはめ、あの赤いアラガミとの戦いをシミュレーションしてみる。
瞬く間に悪寒が走ったので、この課題については特に強く言い含めておいた。
エリナは相変わらず気難しい態度をとっているけど、満更でもなさそうだ。
こうして、新人による新人教育という、私達の奇妙な師弟関係が始まった。
54 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:16:30.98 ID:5+QeUg+W0

また、その後日には、"ブラッド"によるユノの護衛任務を兼ねて、"サテライト拠点"を訪問した。
"サテライト拠点"は、外部居住区外での建設が計画されているミニアーコロジーの総称であり、
"クレイドル"と呼ばれる、極東支部の独立支援部隊がその計画を主導している。
私達が訪れた場所もその一つだけど、ここには既に生活居住区が存在しており、
支部外での生活を余儀なくされた人々の居場所となっていた。

"サテライト拠点"への支援は"クレイドル"を通して極東支部が行っているけど、
支部の外部居住区と比べても、その生活レベルはどうしても劣ってしまっている。
更に現在では"赤い雨"による被害も深刻で、居住区の野戦病院には数多くの"黒蛛病患者"が収容されていた。
この現況を垣間見た"ブラッド"、特にジュリウスに対し、ユノのマネージャーである高峰サツキがここぞとばかりに詰め寄ってくる。

「あの玩具の戦車みたいな移動要塞を作るコストで、ここみたいなサテライト拠点がいくつ作れると思います?」
「そもそもフェンリル本部からの支援が少ない極東支部が一生懸命血を流している一方で、」
「本部はどうして黙って見ているんですかね?」
55 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:18:03.47 ID:5+QeUg+W0

もちろん、ジュリウスがすぐにどうにかできる問題ではない。
しかし、こうした八つ当たりを受けても仕方のない立ち位置にいるのが"ブラッド"であり、フライアだ。
そんな私達でさえ好意的に見てくれる人達はここ"サテライト拠点"にもいるけど、
当然、心の底では割り切れない部分があるだろう。
その代表のような発言したサツキさんも、去り際に"これでもあなた達には期待している"とは言ってくれたけど。

……もし私があんな形で家を飛び出さなければ、父に口添えして、ここへの支援を取りつけることも――

――頭を振って、思考を打ち消す。

何の意味も成さない仮定だ。
今の私は、フライアの末端でしかないというのに。
56 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:21:49.23 ID:5+QeUg+W0


 "サテライト拠点"での一件の後、ジュリウスが本当にどうにかし始めた。
"黒蛛病"患者の極東支部への収容、専用病院の設立に、"サテライト拠点"への追加支援、設備の強化等々……
様々な案件を極東支部、フライア、本部の各方面に打診し、既に最初の一件は本部の承認を受け、実現している。
その分、ジュリウスは各案の調整に駆け回るようになったものの、その行動力には頭が上がらない。
彼が言うには、

「ノブレス・オブリージュ……これを今までの行動規範としてきたつもりだったが、今回の件でその認識が甘かったことを痛感した」
「だが、こうして知った以上、俺は"ブラッド"として、可能な限り"サテライト拠点"の支援にあたっていきたい」
「お前達にも負担を強いてしまうことになるが……どうか、しばらくは付き合ってくれないだろうか」

ということらしい。
57 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:24:06.37 ID:5+QeUg+W0

ノブレス・オブリージュ……"富める者は、人類の未来に奉仕する義務を負う"。
ジュリウスは裕福な家庭で産まれ、幼少期に両親を亡くした後、ラケル博士によって引き取られたのだという。
そこでも"ブラッド"に通ずる選りすぐりのエリートとして育てられた半生から、彼は特にその意識が強いのだろう。
私には耳の痛い話だけど、反対する理由もなかった。

そうした経緯もあり、ジュリウスが極東支部を空けている間は、副隊長の私に"ブラッド"の運用が任せられることとなった。
シエルが補佐にいて、ロミオやナナは快く応じてくれるし、今ではギルも協力的になってくれている。
だから、何か大事でも起こらない限りは私の指揮でもなんとか……

「……副隊長、そちらの資料ではありません。こちらの資料を」

「……ダメだこりゃ」

「……ガチガチだねー」

「……」

……なる、はず。きっと。
58 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:28:47.90 ID:5+QeUg+W0
私用の関係でしばらく音沙汰なくてすいませんでした
相変わらずの牛歩ペースだけどなんとか完結まではもっていきます
本筋に関係ない要素は出来るだけ削ぎ落とすつもりだったけどエリナちゃんには勝てなかったよ……
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/25(火) 06:08:30.09 ID:8HMsGDExO


エリナちゃん可愛いからねしかたないね
60 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:14:31.77 ID:SNn8TeIE0


 資料よし、概要把握よし、シエルとのコンタクトよし。緊張状態は……追々。
ジュリウスは本部との通信会議のためフライアへ、ギルはハルさんと共に討伐任務へ、それぞれ出向中だ。
今回の隊長代理としての仕事は簡単な近況報告だし、もうへまはしない。
という意気込みで、先行のシエルの説明に耳を傾けていると、背後で大きな物音がする。

「ナナ!?おい、しっかりしろ!」

ロミオが叫び声を上げた先へ振り返ると、ナナが仰向けに倒れ込んでいた。

逸るロミオにジュリウスと任務担当のオペレーターへの連絡を任せ、私とシエルはナナの介抱を行う。
数刻の後、ナナは目を覚ましたものの、寝起きで気が緩んでいるのか、直前まで見ていた夢について訥々と語り始めた。
幼少期の母との思い出、母の言葉、そして……血まみれになった母の姿。

「凄い小っちゃい頃だから、色々忘れちゃったんだけどさ……私、お母さんとどっかの山の中、二人で住んでたの」
「お母さん、神機使いでね……あんまり、家にいなかったんだけどさ」
「"泣かない!怒らない!寂しくなったら、おでんパン食べる!"……ってのがお母さんとの約束でね」
「お腹いっぱいになったらあんまり寂しくなかったし……それにおでんパンたくさん食べると、お母さんが喜ぶんだ」

私とシエルの表情が綻ぶ。
そういえば初めてナナに"おでんパン"を渡された時、お母さん直伝とも言っていたっけ。

「だから……おでんパン食べるとお母さんを思い出して……凄い幸せな気分になるんだ――」
「――よっし!もう大丈夫!!2人ともありがとね!」

結局倒れた原因はわからずじまいだったけど、ナナはすっかりいつもの調子を取り戻したようだった。
ただ、今の彼女の一見単純にも見える快活さと、それに裏付けられた芯の強さの源がわかったとはいえ、少々疑問に残る点もあった。
ナナの幼い頃……極東支部がまだ発展途上だったとして。
食糧問題はともかく、仮にも神機使いであった彼女の母が、なぜ支部から離れた山中に居を構えていたんだろうか。
61 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:18:35.19 ID:SNn8TeIE0


 ジュリウスとギルが帰ってきた後、ナナは不調の原因の解明のため、入れ替わりでラケル博士のいるフライアへと向かった。
ラケル博士には神経学者かつ、"マグノリア=コンパス"の長として、これまでにもナナを診てきた経験があるそうだ。
私はジュリウスに事の一部始終を改めて報告し、彼がナナについて知っていることを話してもらった。

ジュリウス曰く、ナナは"ゴッドイーターチルドレン"と呼ばれる存在であるらしい。
既に亡くなっている神機使いの両親の間に産まれた彼女は、生まれながらにして体内に"偏食因子"を宿す。
そうした人間の持つ能力が未知数であるために、当時の極東支部でも、その存在は厳重に管理されていた。
つまり、ナナの母はナナを守るため、支部外での逃亡生活を選んだということか。

通常、神機使いに投与される"オラクル細胞"には、アラガミへのほぼ唯一の対抗手段でありながら、
同じく"オラクル細胞"によって構成された、一個体のアラガミとも言える神機を制御するため、
人為的な調整の施された"偏食因子"が備わっている。
この理論を応用することで、支部や"サテライト拠点"の外壁にも、
アラガミのコアに記憶された捕喰傾向を利用し、その場からアラガミを忌避させる"アラガミ装甲壁"が備え付けられているわけだけど、
"ゴッドイーターチルドレン"が生まれながらに宿す"偏食因子"は、恐らくアラガミのそれにごく近い、天然のものなのだろう。
そのため、"ゴッドイーターチルドレン"が神機使いとなるには、新たに調整した"オラクル細胞"を投与する必要があり、
その結果、濃度が高くなった"偏食因子"は、自力での制御が困難になる。
そこで、ラケル博士が定期的なメディカルチェックを行い、薬を投与することでナナに内在する"偏食因子"を安定させてきたけど、
今になってその均衡が、何らかの要因で保たれなくなってしまった、と言ったところだろうか。
62 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:22:04.07 ID:SNn8TeIE0

……失礼な話だけど、今まで診療とか薬とかとは無縁そうな振る舞いをしていたナナだけに、少し意外な成り立ちだった。
語り終えたジュリウスもそれに同調しつつ、すぐに真顔に戻った。

「とにかく、ナナの任務行動については調整を打診しよう」
「……お前に頼っていてばかりですまないが、ナナの事も気にかけておいてくれ」

そう告げる彼の瞳にはいつもの期待だけでなく、大切の仲間の窮地に寄り添えないもどかしさが滲んでいるようにも見えた。
63 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:29:41.29 ID:SNn8TeIE0


 極東支部より東に位置する、雪の降り積もった廃寺地区。
嘗て隠れ里であった一帯の生態系はアラガミによって悉く破壊され、夜空には皮肉にも、流麗なオーロラ領域が形成されている。

今回の"ブラッド"の任務はここに出現した中型アラガミの討伐であり、
それを中心に集まる小型アラガミの増加を防ぐためのものであった。
"ブラッド"はジュリウス、私、ロミオ、ナナのα隊、シエルとギルのβ隊に分かれ、α隊は本丸の中型種討伐へ向かう。
油断はできないけど、この程度の戦力なら、今の"ブラッド"の相手にはならない。
ただ一つの懸念は、ナナが不調のまま戦列に参加していることだった。
フライアから戻ってきた彼女たっての願いだし、任務自体の難度も低いけど、どうしても不安は残る。

ジュリウスの指示の元、α隊全員が即時ナナのフォローに回れるよう立ち回りつつも、周囲の小型アラガミを排除していく。
雑魚を下した先で対峙する中型アラガミは、上半身には巨大な翼手、下半身には硬質化した二本足という、所謂鳥人のような出で立ちで、
翼手を用いた広範囲な攻撃や、掌から放たれるオラクルエネルギー弾によるアウトレンジ戦法を得意とする。
中型種の翼手を掻い潜り、攻撃を加えていく中、オペレーターからアラガミ増援の報せが届いた。
時間をかけてはいられない。

神機を銃形態に変形させた私は走る勢いのまま雪原を蹴り、一瞬で中型種との間合いを詰める。
"ラッシュファイア"と呼ばれる技法で、神機の銃身を近接パーツに換装することで得られる、特殊な移動方法だ。
今回、近接銃を用いたのはこのためだけではない。
この銃身パーツはその名の通り、敵に接近した際に大きな効果を発揮するもので、
現在私の神機には、"オラクル細胞"同士の結合を著しく阻害する"徹甲弾"の"ブラッドバレット"が装填されている。
中型種に急接近した私はヤツの下半身に狙いをつけ、"徹甲弾"を直に当てることで、その装甲を結合崩壊させた。
そのダメージに片膝をついた中型種の頭部めがけ、私の背後に控えていたロミオが、得物である大剣型の神機を振り下ろす。
64 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:33:22.15 ID:SNn8TeIE0

中型種の討伐が完了した今、後は残った周辺の小型連中を一掃して離脱するのみ……のはずなんだけど。
アラガミの群れはリーダーを失ってなお、その数を増やしていた。

『ブラッドαへ!戦域周辺の全アラガミがそちらへ移動中!数は大型種が10以上……小型種は無数にいます!』

オペレーターの動揺がこちら側にも伝播する。
これでは、群れを形成するというより、まるでこちらを目印に集結してきているような――

"アラガミが群体行動をとるのは、「偏食場」同士が互いに共鳴し合っているためであり、――"
"「ゴッドイーターチルドレン」が生まれながらに宿す「偏食因子」は、恐らくアラガミのそれにごく近い、天然のものなのだろう。"

――まさか。
小型アラガミの胴体を刺し貫きながらも、オペレーターに、ナナのいる地点と偏食場パルス発生地点の照合を依頼する。
その間にも、廃寺地区は夥しい数のアラガミに取り囲まれてしまっていた。

「ナナ!ラケル先生からも無理しないように言われてるんだろ!?」

「俺が退路を開く!ナナ、お前だけでも逃げるんだ!」

「私だけ……逃げる……?……っ!」

照合結果が出た。
やはり、ナナのいる地点から一際強力な偏食場パルス反応が検出されている。

「……私のせいだ……私のせいでみんなが……お母さんが……!」
「うぅ……っく……っ……!」

不意に、何らかの力場を感じ取る。
しかもこれは、以前にも何度か感じた覚えのある、固有のものだ。

「――うわぁあああああああああああっ!!」

――ここら一帯のアラガミを引き寄せていたのは、ナナの"血の力"だった。
65 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:36:02.56 ID:SNn8TeIE0


 ――合流してきたβ隊と救援の第一部隊によって外部から退路が切り開かれ、私達は這う這うの体で"アナグラ"へ逃げ帰ってきた。
ナナは支部長であり、極東支部のアラガミ技術開発統括責任者でもあるペイラー・榊博士の手引きによって、
彼のラボラトリに運び込まれ、偏食場パルスを遮断する隔離部屋へと収容されている。
榊博士が言うには、ナナの精神状態が安定するまでは、面会も適わないそうだ。

場所は変わって、"アナグラ"のラウンジ。
近年増築された極東支部の来賓区画で、私達が支部に来た際には歓迎パーティーの会場にも使われた。
普段は9歳にしてプロの調理士免許を取得している天才料理人、千倉ムツミがラウンジを切り盛りしていて、
任務前の待機時間や、任務帰りに一息つく神機使い達の憩いの場となっている。
そんな場において、私達"ブラッド"は暗い雰囲気を漂わせていた。
ジュリウスはロビーで次の任務の発注を受けている。
"血の力"による影響が遮断されたとはいえ、その残滓が多くのアラガミを支部の周辺まで引き寄せてしまっているからだ。

「……ナナがいないと、なんか調子狂うんだよな」

重苦しい雰囲気は部隊のムードメーカーの片割れがいないせいもあるけど、その原因の殆どは、先の任務での事だった。

ナナの"血の力"の暴走。
あれは恐らく、元々ナナが持っていた"ゴッドイーターチルドレン"の性質をさらに強化させたものだ。
ナナの母親が頻繁に家を空けていたのも、ナナの力に引き寄せられたアラガミから彼女を守るためだったのだろう。
そして、その最期も……
66 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:38:21.67 ID:SNn8TeIE0

あの時の様子だと、ナナはその頃の記憶を全て思い出したに違いない。
それが引き金となって、彼女は力の扱い方を知らないまま、"血の力"にまで昇華させてしまった。
ナナが一時期変調をきたしていたのも"血の力"の兆候だったとすれば、
やはりその責任は、"喚起"の"血の力"を持った私にあるだろう――

「……お前、もしかして自分のせいだとか思ってるんじゃないだろうな」

――という思考は、ギルにあっさり読み取られてしまったようだ。

「ナナが前から抱えてたものが原因だってんなら、どの道いつかはそいつと向き合わなきゃならない……俺や、シエルのようにな」
「お前がやったのは、その時期を少しばかり、前倒しにしただけの事だ」
「そうなりゃ俺達のやれることは……アイツがケリつけるまで支えてやって、それが終わったら迎えてやる、それだけだろ」

……そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。

「……ふーん、たまにはいいこと言うじゃん」

「ギルの言う通りです、副隊長……ナナさんだって、あなたを責めてはいないはずです」

ナナはきっと、母を死なせ、仲間に迷惑をかけた自分を責めている。
そんな彼女を迎えられるように、ナナが安心して帰れるようにするのが私の……私達の、やるべき事だった。

「フッ……言いたいことを言われてしまったな」
「……では早速、神機使いとしてナナを安心させてやろうか」

いつの間にか戻って来ていたジュリウスの一言で、私達は立ち上がる。
任務に駆け出そうとする中で、ふと、カウンターで料理の仕込みをしているムツミちゃんの姿が目に入る。
彼女もまたナナを迎えるために、"おでんパン"を作ってくれているようだった。

"だから……おでんパン食べるとお母さんを思い出して……凄い幸せな気分になるんだ――"

――ナナの携帯端末宛てにメールを一通送り、私はジュリウス達の後を追いかけた。
67 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:40:53.52 ID:SNn8TeIE0


 討伐任務を終え、"アナグラ"に帰投した私達の元に、榊博士とリッカさんが血相を変えて飛び込んできた。
私達が帰ってくる少し前、外部居住区の老朽化した"アラガミ装甲壁"から、多数のアラガミが侵入。
幸い人的被害はなかったけど、代わりに神機を持ったナナが極東支部を脱走、
"血の力"を暴走させたまま、アラガミを引きつけて逃走中なのだという。
ナナの位置はすぐに特定され、私達は再び件の廃寺地区へと向かった。
……神機使いの激しい動きに耐えられるかどうかはわからないけど、一応秘密兵器も持って行っておく。

廃寺地区に到着した私達は以前と同じく二隊に分かれ、独りで戦うナナの援護に向かう。
当然彼女は拒絶しようとするけど、そんなのは知ったことじゃない。
彼女がアラガミを引き寄せるなら、その分奴らを斃してやればいいだけの話だ。
先の討伐任務や第一部隊の協力もあり、アラガミの数は前回より目減りしているものの、まだまだ先は長い。
でも、勢いづいた今の"ブラッド"なら、やはり"この程度の戦力"だ。
68 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:50:29.31 ID:SNn8TeIE0


周辺のアラガミを一掃し、"ブラッド"全員が再び一堂に会す。

「みんな、ありがとう……」
「でもさ、ほら……私また、こんな風に迷惑かけるかもしれないから……」

しかし、ナナはまだ、気持ちの整理をつけられていないようだった。
当然のことだけど、こうして迷っているからこそ、彼女はまだ戻ってこれる。

「ばっか!そんなこと気にせず、ナナは泣きたい時に思いっ切り泣けばいいんだよ!」

「お前の"血の力"……アラガミが寄って来るって能力なんだろ?索敵の手間が省けるってだけじゃねぇか」

「帰りましょう、ナナさん……いえ、ナナ」

ロミオ達が口々にナナを受け入れるも、彼女は中々首を縦に振らない。

「でも……でも……!」

そこで、私はダメ押しとして、ナナに秘密兵器を差し出す。
ムツミちゃん手製の"おでんパン"。
流石に少し崩れてしまっているけど、食物としての形はしっかり保持していた。
何の冗談だと思われてしまうかもしれないけど、
ナナの心を溶かすには、彼女と一緒に帰るにはやっぱり、これしかないと思ったから。

「……!」

ナナはゆっくりと、しかし確実に"おでんパン"を受け取り、その口へ運んでいく。

「えへへ……冷めちゃってるよ」
「……でも、おいしい……すごく……おいしいよ……」
「ありがとう……」

ナナは涙ながら、笑顔で応えてくれた。
69 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 01:55:12.79 ID:SNn8TeIE0


 この件以降、記憶が戻ったことでどこか変わってしまった部分もあるんじゃないかと危ぶむ声もあったけど、
ナナは相変わらず明るい性格のまま、今日も口いっぱいに"おでんパン"を頬張っている。
精神的成長は間違いなくあるだろうけど、変化した部分を強いて挙げるなら、
以前と比べ、私達に対する遠慮がなくなったことぐらいだろうか。
彼女を悩ませていた"血の力"も、精神的に吹っ切れたことで完全な制御が出来るようになり、もう隔離室に入る必要はなくなった。

また、母の死と改めて向き合った影響なのか、現在は自分だけの創作料理のレパートリーを増やしたがっているようで、
私もその開発に度々付き合わされるようになった。
ただ、彼女が私に味見をと差し出すのは料理とは名ばかりの珍味アイテムばかりで、そこは少し勘弁してほしいんだけど。
試しにリッカさんへの相談も提案してみたものの、
それはそれでとんでもないものが出来上がりそうで、むしろ恐々とすることになってしまった。
70 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/26(水) 02:01:55.27 ID:SNn8TeIE0
ナナ編とロミオ編はギル編ほど表立って主人公が活躍しないから中々難しい……
ほぼ漫画版のコピペみたいになっちゃったけど
それぐらいナナ編の完成度が高いのでGE2漫画版3〜4巻を買おう(ステマ)
71 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/27(木) 23:08:57.91 ID:CkJ1WGww0



「……あのさ……一緒に任務行きたくない人って、いる?」

世界の果ての、しかもたった一地区に寄り集まったアラガミを排除したところで、人類の戦いが一時的にでも止むはずはなく、
私達神機使いはいつも通り、任務続きの日常を過ごしている。
そんな中、幾度目かの共同任務を終えた帰りに、エリナがこんなことを聞いてきた。
状況が状況だけに、鎌でもかけられてるんじゃないかと狼狽えたけど、どうやら別の話らしい。

「いや、アンタと行くのは別に……悪くは、ないけど」
「……そういうんじゃなくて!ほら、その人が好きとか、キライとかさ、あるでしょ。そういう気持ちの話」

……やっぱりそういう話じゃ?
まぁそれは置いておくとして、好きな人、ね――

"……お前、もしかして自分のせいだとか思ってるんじゃないだろうな"

――ああいう時は、ちゃんとこっちを見てくれるんだけどな。

……違う。彼は関係ないだろう。

「――でもさぁ、相手がそうだったら?向こうがこっちを嫌ってたり、好きだったり……」

話を少し聞き流していたらしく、また変に動揺してしまう。
72 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/27(木) 23:11:19.72 ID:CkJ1WGww0

「さっきからどうしたの?……まさか、アンタにも心当たりがあるとか?」
「……とりあえず、さっきの続きなんだけどさ、その相手がものすごーく気を遣ってくる人だったりしたら?」

続きを言い淀んでいるのか、エリナはその場で少し、しおらしくなる。
急かす理由もないので大人しく待っていると、彼女は再び語り始めた。

エリナには、尊敬する神機使いの兄がいた。
彼はエリナ曰く、優秀で華麗なゴッドイーターだったけど、3年前に出撃した任務を境に、帰らぬ人となってしまう。
兄の死をきっかけにエリナは神機使いを志し、その目的を果たすも、彼女には悩みがあった。

ソーマ・シックザール。
ナナとはまた違った、特殊な経緯で体内に"偏食因子"を宿した人間で、
"感応現象"にある程度の耐性があることから、"ブラッド"が来る以前の極東支部では対"感応種"の要として活躍していたらしい。
現在は"クレイドル"の所属として、特異なアラガミの調査のために極東支部を離れていることが多いとも。

そのソーマさんこそが、エリナの兄が死亡した任務に同行していた神機使いであり、
今度の任務の参加メンバーには彼とエリナが組まれているのだという。
神機使いは死と隣り合わせの職業であり、エリナも身を持ってそれを経験したことから、彼女にソーマさんを責める気は毛頭ない。
しかし、彼は目の前でエリナの兄を死なせてしまった事に責任を感じ、必要以上に忘れ形見のエリナを気遣っている。
73 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/27(木) 23:14:20.95 ID:CkJ1WGww0

ここまで聞けば、エリナの言わんとすることはわかる。
私は彼女の付添として、その任務に同行すると約束した。
役に立つかはわからないけど、仲間の事情に首を突っ込むのには慣れている。

「私、上手く話せないかもしれないから……お願いします……!」

それに、成り行き上の関係とはいえ、かわいい弟子の頼みを聞かないわけにもいかないだろう。
恐らく目的とするところは違うだろうけど、彼女を妹分扱いするエミールの気持ちが少しわかった気がした。

……兄、か。
神機使いになる前、私にも兄がいた。
兄さんもまた、確かな資質を持った人物で、
実家では何かと押しつけがましい父と、それに対し、物言わぬ反抗心を秘めていた私の間に立つことが多かった。
私としては、どうあっても父に逆らえない事を思い知らされているようで嫌だったけど、
そうした兄さんの人柄は尊敬している。
私がいなくなったことで、また変な気を回してなければいいんだけど。
……エリナといると、どうも余計な事を考えてしまう場合が多いような気がする。
74 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/27(木) 23:19:40.28 ID:CkJ1WGww0


 ソーマさんの極東支部での滞在期間は短い。
故に、エリナとの約束の時はすぐにやってきた。

「――前衛は俺と、お前でやる」
「エリナは後方射撃で支援してくれ」

「……はい」

今回、私達に与えられた任務は複数の小型種、中型種の掃討。
ソーマさんには調査に必要な物資の調達として、別の目的があるようだけど、今回はさておく。
彼とは会うのも任務に行くのも初めてだけど、その無愛想な態度からは、不思議と威圧感や圧迫感がない。
むしろ、相手への気遣いがありありと見えるようで、エリナが事前にしていた話に納得する。
ソーマさんの指名の後、エリナがこちらに、不安げな視線を送る。
だけど、それに私が応えて、ソーマさんに訴えかけることはできない――

"ソーマさんとの任務なんだけど、アンタは……あなたは着いて来てくれるだけでいいの"
"まぁ、心細いから着いて来て、ってだけでも相当我儘なんだけどさ……私の気持ちはもう決まってるから"
"それだけでも自分の手でケリつけたいじゃない?……だから、見守っててください"

――それが任務の前に交わした、彼女との約束だからだ。
なので私は、根拠のない笑顔をもって、エリナに返事をしておくことにした。
少しは、彼女の気も紛れたようだ。
75 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/27(木) 23:22:01.36 ID:CkJ1WGww0

 討伐対象を掃討し、ソーマさんも自分の目的を完了させたことで、私達は任務を終える。
結局、任務中においても過保護なソーマさんにエリナが逆上、神機使いとしての意思を表明したことにより、
エリナはソーマさんの対応を改めさせることができた。
"バカにしないで"だの"私のスピアは飾りじゃない"だの、エミールを相手取った時のような剣幕でエリナは捲し立てていたけど、
そのぐらいで気分を害すソーマさんでもないだろう。
それどころか、真っ向から自分の甘い態度に歯向かってきたエリナに対し、喜ぶ素振りすら見せていた。

「あのっ……お疲れ様でした!」

「ああ、お疲れ」
「……また、頼むな」

「!……はい!今日は、ありがとうございました……!」

フィールドワークがあるというソーマさんと別れ、私達は二人きりになった。
今になってさっきは言い過ぎたんじゃないかと不安がるエリナを宥めつつ、私は彼女と出会った当初の頃を振り返る。

もしエリナがあの頃のままであったなら、ソーマさんは以降も、必要以上に彼女を気遣い続けただろう。
そうならないように一歩踏み出したのは、他でもない彼女自身だ。
――手が差し伸べられるのを待つだけだった、私とは違う。

言いたいことを言えばいいという私の言葉に安堵したのか、エリナは以前よりずっと素直な態度で、私に帰投を促してくる。
弟子とはいってもほぼ同期の神機使いなんだし、私も負けてられないな。
76 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/27(木) 23:26:34.81 ID:CkJ1WGww0
とりあえずエリナちゃん成長記終了まで
77 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:40:57.65 ID:RkvSB8Q60


 フライアで私とシエル、極東支部に来てからはギルとナナが"血の力"に目覚め、"ブラッド"はより強大な戦力となった。
それに伴い、"血の力"を応用した連携戦術や任務環境の理解など、チーム単位での戦闘効率も上昇している。
これには今までの任務と訓練による練度の向上もあるだろうけど、隊員同士の信頼関係の構築も起因しているはずだ。
特に廃寺地区での一件以降、隊内での交流が今まで以上に増えてきた感がある。
ついこの間の話だと、"アナグラ"で飼われている、カピバラという希少な野生動物の持つ"癒し"について、
あのジュリウスが進んで参加し、ナナやシエルと語らっているのが印象的だった。
まぁ、そんな和気藹々さを余所に、相変わらず喧嘩腰な二人組もいるんだけど。

フライアでの諍いがあって以降、ギルとロミオの関係は依然として微妙なままだ。
ナナの援護に向かった時はそんなこともなかったんだけど、彼女が復帰する頃には元通りになってしまっていた。
ロミオはギルに対してだけは変わらず刺々しく、彼の経験からくるアドバイスにも不満気味だし、
対するギルも極東支部に来てから丸くなったとはいえ、ロミオの売り言葉に買い言葉で応酬してしまう短気な部分がある。
それに最近では、ある事柄が彼ら2人のみならず、私達"ブラッド"との摩擦に拍車をかけていた。
78 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:45:04.30 ID:RkvSB8Q60


 既に覚醒していたジュリウスを含め、"血の力"を得た"ブラッド"は5人。
1人取り残される形となったロミオは、その事実に焦っていた。

言い訳になってしまうけど、私の"喚起"によって"血の力"が呼び覚まされる明確な条件やタイミングは、未だに判然としていない。
実際、ロミオからの頼みで何度か任務に同行したことはあるものの、目に見えるような効果は表れなかった。
今まで目覚めた3人の例を考えると幾らか共通項がないわけでもないけど、何にせよ、意図的に起こせるようなものではない。
開発者のラケル博士でさえその詳細を把握出来ていない現状では、結局時間的な解決を見るより他になかった。

だから焦ったって仕方がない、もうしばらく様子を見ようよ。
とは軽々しく言えないのが私や、他の"ブラッド"の悩みの種になっている。
今の彼にとって自分は"持たざる者"で、仲間は皆"栄光を得た者"なのだ。
そんな私達がロミオに気休めの言葉をかけたところで、彼の目には高みからの余裕や憐憫としか映らないだろう。
たとえ心のどこかで、仲間達の本心に気づいていたとしても。
79 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:45:51.82 ID:RkvSB8Q60
そして現在、ロミオの焦りは、彼の精神を確実に蝕んでいた。
状況を顧みない独断専行、作戦指示の聞き流し、明らかに身についていない戦法への急転換……
彼自身は何でもないかのように振る舞っているつもりで、私達には絶好調だと嘯くけど、流石にこれ以上は看過できない。
ジュリウスは"黒蛛病"対策の研究を進めるべく、フライアへのアラガミ素材の搬送を行っているため、
しばらく極東支部を離れている。
ギルも務めて穏便にロミオの説得に当たっていたけど、普段の関係もあり、効果はさほど望めないようだった。
私が、何とかしないと。
80 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:50:04.97 ID:RkvSB8Q60


 進歩のない現状への焦り、資質を持つ者への羨望、着いていかない肉体。
おいそれと指摘できないのは私達共通のものとして、私個人としては、ロミオのそうした状況にどこか既視感を覚えていた。
記憶上の人物の人物を辿ってもその解は出ない。
でもこれは、私が神機使いになる決心をした時から、ずっと心の奥底で引っかかっている何かと、よく似ているような気がした。
その何かを深く探ろうとすると、自らの理性が強く制止をかけてくる。

――末端部でも心を暴けば、私はすぐに身動きが取れなくなる。今はこれで、いや、以降もこのままであるべきだ。
――今まで通り、何も考えずに力を振るえばいい。悩むことなく、周りに善人面でも振りまいておけばいい。

理性が邪魔をして、既視感の正体に辿り着けない。
辛うじて指先だけ輪郭に触れることはできても、本体を掴み出すことも覗き見ることもかなわない、もどかしい状態。
それでも我慢しようと思えば抑え込めるけど、今はロミオの様子を見る度に輪郭部分が引掻かれる。
度重なる自制と本能の現出に理性が摩耗し始め、私は苛立ちを覚えるようになっていた。
だからだろうか、私がロミオを諭そうと彼を"アナグラの"自室に呼び出した際には、思いがけず口論を起こしてしまった。
81 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:53:38.19 ID:RkvSB8Q60

「――シエルも、ギルも、ナナも、別に"血の力"を欲して手に入れたわけじゃないよ」
「だから、ロミオにだって」

「"赤い雨"に曝されて、強いアラガミとやり合って、"アナグラ"から抜け出せってのか?」
「入隊してすぐに"血の力"を手に入れた奴はいいよな、先輩に上からものを言えてさ」

「そういうことを言ってるんじゃなくて……!」

最初は気のない返事を繰り返すだけだったロミオも、こちらの追及に苛立ちを隠せなくなってきている。
もはや彼にとっては挑発にしかならない諫言を繰り出しては、素気無く受け流される生産性のない舌戦。
なのに、

「――自分だけが不幸だなんて思わないで」

何故こんな台詞が口を突いて出たのか自分でもわからない程、私は感情的になっていた。
しかし、ロミオにとってはこれが意図せず効果的だったようで、分かりやすくたじろいでいる。

「……う、うるさい!しつこいんだよ!いつもは周りにいい顔してるだけのくせに!」
「自分だけが不幸じゃない?私も苦労してますってか!自分の事は何一つ話さないのに、そんなことがわかってたまるかよ!!」
「……そうだよ、どうせお前だって――」

「――神機使いになる前は、何も変えられなかった奴なんだ」

一瞬、心臓を強く掴まれるような感覚が私を襲った。
二の句が継げなくなる。

「図星か?こんな説教してくるぐらいだから、心当たりはあるんだろうけどさ」
「……それが"ブラッド"に入ってからは大成功かよ、くそっ」
「俺だって、俺にだって居場所があるはずだったんだ……!それを、お前が――」
82 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:55:43.75 ID:RkvSB8Q60

そこまで言いかけて、ロミオがハッと我に返る。
おずおずと相手の様子を見やった後、

「……わりぃ、言い過ぎた」

気まずそうな表情を作りながら、足早に部屋を出て行った。
対する私はそんな彼を見送ることも出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。

ロミオが私達に羨望を持っていると仮定しておきながら、
彼が私個人に対し、あそこまで強烈な敵意を抱いていた事を想定できていなかった、というのもある。

"俺だって、俺にだって居場所があるはずだったんだ……!それを、お前が――"

思えばそれは、私が早期に"血の力"に目覚め、シエルを導いた時点から、ロミオが感じていたことなのかもしれない。
1年前からジュリウスの影に隠れ、やっと後輩が出来たかと思えば、次々と後から追い抜かれていく。
その流れを作り出した元凶に頼ってみても、自分には"血の力"の兆候すら表れない。
全てではないにせよ、私に怒りの矛先が向くのは当然の帰結であるように思えた。

でも、私が受けた衝撃の本質はそこじゃない。
83 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:57:04.06 ID:RkvSB8Q60
神機使いになる前の、何もできない、あるいは、何もしなかった自分。
父に言われるがまま従って、内心では使うことのない牙を研いでいた過去。
今まで乗り越えたつもりでいたけど、そうじゃなかった。
過去を忌避して、思い出そうとする度に振り払って、無意識の内に触れようとしないだけだった。

身体から緊張が抜け、その場に崩れ落ちるようにして座り込む。
私はロミオに、嘗ての自分の焦燥を投影していた。
それを少し突かれただけで、この有様だ。
ただ怯えるだけの私に、今のロミオを変えられるはずがない。
だから私は、この後彼が起こした行動を止めることも出来なかった。
84 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/01(火) 00:59:56.90 ID:RkvSB8Q60
ロミオ脱走5秒前まで
言う程隊長とロミオって絡みないよなと思って付け足したら余計にロミオが嫌な奴になってしまった…
85 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:46:32.59 ID:gD1asC0l0


「いやー、楽勝、楽勝!もう"ブラッド"に敵なしって感じ!」

その日何度目かの任務を終え、私達"ブラッド"は"アナグラ"に帰投していた。
シエルはローテーション上非番のため、この場にはいない。
先日の口論で思う事があったのか、調子を多少取り戻したようだけど、ロミオの危うさは変わっていなかった。
今回も結果だけ見れば上出来な任務の成果を、彼は空元気で周囲に吹聴している。

「……ん?何この空気」

その過程を知る私達の中に、諸手を挙げて賛同する者はいなかった。

「……先輩、なんか最近おかしくない?」

見かねたナナが、おずおずと口を開く。

「いやぁ、別に?だってさ、あのジュリウスがいなくたって生還率100%なんだぜ?」
「これは明らかに"ブラッド"としての実力だよ!」

答えになっていない。
確かにチームとしての連携行動は"ブラッド"の課題だったけど、今は。
86 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:48:49.36 ID:gD1asC0l0

「―――」

「……あぁ、もちろん副隊長の指示もいい感じだよ!」

私は、ロミオに何も言えなくなっていた。
感覚の正体を知った今でも、彼の空回りぶりを見る度に胸の内側がざわつく。
だけど、またあの過去を実感するのが、怖い。今の自分を剥ぎ取られるのが、恐ろしい。
結局、私の自衛手段は今まで通り、考えないようにすることだけ。
"ブラッド"の副隊長として、求められた事をこなすしかなかった。

――それは家を飛び出す前と、何が違うんだろう。

「おいロミオ……さっきの任務、なんなんだよ……全然なってねぇ」

気づけば、ギルが怒気を纏わせた口調でロミオに詰め寄っていた。
彼も今までは譲歩してロミオを諭していたはずだけど、明らかに腹を据えかねている。

「あんま固いこと言うなって……頼れる後輩もいることだし、もっとこう、余裕を持ってさー」

「余裕と油断は違うだろ」

しんと静まり返った場の空気に、一筋の亀裂が走る。
今のギルなら、地雷を踏み抜きかねない。

「ギ――」

「……後輩に抜かれまくってやる気がなくなったのか?」
「だったらいっそ、やめちまえよ」

私より先にナナが制止をかけようとしたけど、遅かった。
静寂が、再びこの場を包み込む。
87 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:50:54.00 ID:gD1asC0l0

数秒の沈黙の後、口火を切ったのはロミオだった。

「――やる気が、ないだと?」
「取り消せよ……」

「何?」

拳を強く固めたロミオが、そのまま距離を詰めていたギルを殴り倒す。

「っ……何しやがる!」

「……お前になんか、わかるわけないんだよ!!後から来た奴に抜かれまくってることなんか、この俺が一番っ!!」
「それでも何か出来る事はないかって……俺は必死に探してるんだ!」
「俺にはお前やシエルのような経験はないし……ナナみたいに開き直れるほどの大物でもない……」
「ましてやコイツみたいに!さっさと"血の力"に目覚めて、怪物みたいなジュリウスに肩を並べるなんてことも……!」

一瞬、私を見てばつの悪そうな表情をするも、堰を切ったロミオの激情は止まらない。

「俺だって皆の役に立ちたいよ!胸を張って、皆の仲間だって……!」
「……俺は役立たずで、どこにも、居場所なんか……なくて……っ」

やり場のない怒りを湛えたまま、ロミオは私やナナにも構わず、その場を飛び出す。
それきり、彼は神機も持たないまま、"アナグラ"をも抜け出してしまっていた。
88 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:52:33.34 ID:gD1asC0l0


 何時かと同じく、暗く沈んだ雰囲気のラウンジ。
窓から見える空には例の赤い積乱雲が広がっており、このイレギュラーの出現によって、ロミオの捜索は直前で打ち切られた。
ジュリウスにも既に連絡はしてあるけど、あちらもほとんど同じような状況だ。
とはいえ、ロミオの腕輪に搭載されたビーコンの反応は既に確認されていて、迎えに行くこと自体は容易になっている。
……彼が"赤い雨"に曝されるか、アラガミに襲われるなんてことがなければ、だけど。

結局、腫れ物に触るような扱いで接していても、彼にとっては逆効果だった。
今回はギルの言葉でロミオの不満が噴出する結果になったけど、あのまま状況が進んでいれば、ロミオが自滅する可能性すらあった。
だから多少強引にでも、それこそギルの時のように彼と向き合わなければいけなかったのに、
私の弱さのせいで、こうして危険に晒すことになってしまった。
これでは副隊長として、立つ瀬がない。

――ここでの私の存在意義が、揺らいでしまう。

89 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:54:07.34 ID:gD1asC0l0

「……現在、ロミオの扱いは脱走兵、ということになるのでしょうか」

「脱走兵……!?」

「理由はどうあれ、許可もなく極東支部を抜け出していますから……最悪の場合、神機が剥奪される可能性があります」
「それに、ロミオの"偏食因子"の投与リミットも心配です」
「このまま戻ってこなければ、時間切れでアラガミ化ということも……」

「そんな……」

シエルの推論を聞き、ナナが項垂れる。
状況は違えど、嘗て自分が起こした行動と重ねている部分もあるのだろう。

神機使いは神機を制御するために、体内に"オラクル細胞"を注入されるけど、
それは自らの身体をアラガミ化させてしまう危険性をも孕んでいる。
退役か、重大な命令違反を起こせば神機は手放せるけど、
体内の"オラクル細胞"を安定させる"偏食因子"の投与は、生きている限り定期的に行わなければならない。
つまり、基本的に神機使いはフェンリルの設備がないと生きていけないわけで、
私達の腕輪を、主人に繋がれた鉄枷として見る人もいる。
フェンリル本部がもはや人類の盟主たりえる以上、それは神機使いに限った話ではないんだけど。
90 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:55:24.81 ID:gD1asC0l0

そして、神機使いのアラガミ化という事柄に敏感な男が、ここに一人。

「……おい、少し付き合え」

「ギル!副隊長に八つ当たりしたってしょうがないよ!」

「……そんなつもりはねぇよ」

的外れなナナの抗議を尻目に、私はギルと共にラウンジを後にした。
91 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/03(木) 23:58:07.24 ID:gD1asC0l0


 
「――失礼しました」

ギルと共に、支部長室を退室する。
彼に連れられ、初めに向かったのはロミオの処遇に関する、榊博士への打診だった。
博士はあっさりと、ロミオの脱走を彼の休暇として処理してくれたけど
私達の諍い事に感慨深そうな反応を示したり、"赤い雨"の研究について何か言いかけてやめたりと、
無造作な白髪頭に狐目という、彼の特徴的な風貌に見合った捉えどころのなさを発揮していた。
善人には違いないんだけど、博士のふとした所作にはどぎまぎさせられる。

極東に来て間もなかった頃。
興味本位で"アナグラ"のデータベースの情報を漁っている中、博士に音もなく背後に忍び寄られ、

「本部の特殊部隊が配属早々、極東の情報収集とは……感心だねぇ」

と声をかけられた時は、心臓が止まるかと思った。
92 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:01:01.50 ID:KfQkdvPD0

それはともかく、役員区画の廊下に出た私は、改めてギルに用件を聞く。

「ま、大した用事じゃないんだがな……お前には何かと世話になってるし、まだ素直に話せると思ったんだ」
「……正直、アイツには言い過ぎたと思ってる。すまなかった」
「……そんな顔しなくてもわかってる。ロミオには改めて、ちゃんと謝るさ」

私の怪訝顔につられて、ギルが苦笑する。
尤も、今回はロミオの扱いに対して及び腰だった、私の方にも責任がある。

「お前、また……まぁ、今回は俺の言えた義理じゃないが」
「……初めて会った時は、いきなりグラスゴーでの事を詮索されたのもあってな、気に入らねぇガキだとしか思ってなかった」
「アイツ、年の割には落ち着きがないし、無暗に騒がしいし、見てられないだろ」

……まぁ、それは、うん。
何か否定しなきゃいけない気もするけど、とりあえずは同意しておく。

「それでも、こんだけ一緒にいりゃと認識も変わってくるもんでな……」
「特に、吹っ切れた後は……そうだな、アイツを弟分として見るようになった部分が、確かにある」
93 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:03:12.14 ID:KfQkdvPD0

弟。
自分の耳を疑ったけど、ギルが目深に帽子を被り直している辺り、その発言は真実のようだった。

「……家では一人、グラスゴー支部には先輩の神機使いばかり」
「兄弟の感覚なんてものは、精々俺がハルさん達に弟分として可愛がってもらった程度だった」
「だが、ある程度年を取って、少し落ち着いた後にロミオを見るとな……どうしようもない奴なんだが、ほっとくこともできない」
「その時になって、ハルさん達が俺を見ていた時の感覚がわかるような気がしたんだ」
「だから、アイツにはそれとなくアドバイスをしてきたつもりだったんだが……上手くいかないもんだな」

ギルが自嘲気味に笑う。
考えてみれば年もそんなに離れていないし、反抗期の弟を持った口下手な兄、という風に見れないこともないような。
その想像が可笑しくて、思わず表情に出てしまう。

「まぁ、お前相手だから話せたんだ……アイツらには、言うなよ?」

そう言って珍しく冗談めかすギルの瞳に、私の姿は映っていなかった。
こんな事を気にしてる場合じゃないんだけど、その時の私は少し弱っていて。
彼と笑い合いつつ、胸の奥がちくりと痛むのを感じた。
94 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:05:02.63 ID:KfQkdvPD0

「――大丈夫、大丈夫!今のでばっちり聞いちゃったから♪」

「……ギルも、しっかりロミオを想っていてくれたんですね」

だから、ナナとシエルの突然の登場は、私にとってはいたずらに余韻を引きずらなくて済んで、ある意味助かったかもしれない。

「お前ら……尾けてきやがったのか」

「さっきがさっきだったから、ちょっと不安でさ……副隊長、邪魔しちゃってゴメンね?」

何でそこでナナが私に謝るのか、皆目見当がつかない。いや全く。

「……先ほど、極東支部付近の、"赤い雨"の通過が観測されました」
「それとほぼ同時に、アラガミの出現も確認されています」

「皆あんまり喋んないから、どうにも暗くなっちゃうんだよねー……副隊長、早く迎えにいこ!」

「聞かれちまったもんは仕方ねぇか……行くぞ」

引け目や恐れ、コンプレックスの助長。
ロミオとの間には、色々と悔恨を残してしまったけど。
彼がそれらを受け入れてくれるかどうかは、とりあえず連れ戻してから考えることにしよう。
私はどうあれ、彼らのつながりを絶つことはしたくなかった。
95 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:06:28.76 ID:KfQkdvPD0


 アラガミの出現が確認された旧市街地にて、私達はロミオが脱走した時の顔ぶれのまま、1日ぶりに彼と再会した。

「……説教は後にする、まずは仕事だ」

「もう、ギルが一番そわそわしてたくせにー……ロミオ先輩、私はチキン5ピースで許してあげるから!」

先ほどまでのやりとりを考えると、どうにも締まらない感じだけど、彼らの表情には一様にして、安堵の色が浮かんでいた。

「……俺、後でちゃんと謝るから」
「皆、力貸してくれ!」

芯の通った声が、私達の間に響く。
ロミオは雨宿り以外にも何かを掴んできたようで、以前の悲愴さは見る影もなかった。
96 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:08:31.10 ID:KfQkdvPD0

 アラガミの討伐を終え、ロミオの元に私達が集まる。
今回の相手はガルム種と呼ばれる大型種別のアラガミで、嘗て私が対峙した"感応種"と系譜を同じくする、狼の姿を象ったアラガミだった。
他の系譜に連なる"感応種"とは何度か交戦したものの、件の狼型とは未だ再戦の機会がない。
類似した外見と、似通った戦法を用いる今回の大型種との戦いで、改めてそのことに対する不安がよぎったけど、
今は完全に復調した、ロミオの帰還を素直に喜ぶことにした。

そのロミオは今、自分を迎えに来た仲間たちに対し、言葉を詰まらせている。

「……皆……俺……」

彼の様子を見て、ギルがすかさず殴りかかる……ということはなく、目の前に差し出した握り拳で、ロミオの額を小突いてみせた。

「お前の休暇届は勝手に出しといた……これは貸しだ、もう二度とするなよ」
「……今日はいい動きだった、この調子で頼む」
97 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:10:42.85 ID:KfQkdvPD0

言うだけ言って、ギルがその場を立ち去っていく。
それを見やり、ナナが抑えめの声でロミオに呟いた。

「ギル、ずっとロミオ先輩のこと気にしてたんだよ……言い過ぎたって」
「……さ、帰ろ!ロミオ先輩がいないと、皆無口だからやりづらくてー」

ナナの暖かい言葉に、今にも泣きだしそうな顔のロミオが、今度は私の方に視線を向ける。
積もる話も色々あるけど、

「帰ってきて、いいんだよ」

今はこれだけ、伝えておいた。

「……そう、だな……よっし!元気よく帰ろう!」
98 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:11:34.32 ID:KfQkdvPD0

彼らは、再び、歩み出す。

「あ、そうだ!帰ったら例の約束、よろしくねー!」

「例の約束?なんだっけ?」

「えぇー、約束したじゃん!チキン8ピースだよー!」

「こっそり増やすなよ!5ピースだったろ!」

「やっぱり覚えてたんじゃーん!……まぁ、間を取ってー、7ピースってのはどう?」

「ナナだけに?」

「……先輩、それはちょっと」

「ごめん……」

「……何やってんだ、さっさと帰るぞ」

見上げた先には、抜けるような青空が広がっていた。
99 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 00:17:14.69 ID:KfQkdvPD0
ロミオ編終了と見せかけてもうちょっとだけ続くんじゃ

オリ掛け合いの割合が増えてきているのでその練り込みに投下時期が不安定になっております……少し前から既にですが
もはや誰も見てないだろうけど一応
100 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 22:56:08.54 ID:KfQkdvPD0


 ロミオが"アナグラ"に帰還してから、数日が経った。
彼に依然として"血の力"の目覚めは確認できないものの、ロミオはその事実を受け入れ、糧にするという精神的な成長を果たした。

それらの成果からか、彼の作戦行動の面においても、
味方への支援だけでなく、単独での戦闘術や、作戦指示などについての理解度が大幅に改善されている。
そうした模範的ともいえる任務態度に加え、彼が元々持つフランクな性格もあって、
ロミオは"アナグラ"内では若手ながら頼りがいのある神機使いとして、周囲に認知され始めているようだ。
また、以前までの懸念材料であったギルとの関係も、相変わらずしょっちゅう言い合いをする仲ではあるものの、
私達が笑って見ていられる程度には収まりがついていた。

そして私は、そのロミオと改めて話し合うことについて、中々踏ん切りがつかずにいた。
彼が脱走先でどんな経験をしてきたかわからないけど、今のロミオの姿に、私が無意識に過去の自分を重ねることはない。
ただ、一度喧嘩別れのような事態を起こしたまま、ここまで何の釈明もなく来てしまったがために、
互いにどこか引け目を感じながら接しているのが現状である。
流石に隊長代理として、"ブラッド"を総括する面で支障が出るほどじゃないけど、
それ以外の場面では、エリナの指導や他の神機使いとの共同任務を言い訳に、ロミオと話し合う機会を何となく避けてしまっていた。
101 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 22:57:15.68 ID:KfQkdvPD0

そんな中、フライアへのアラガミ素材搬送に出ていたジュリウスが、ラケル博士を伴い、数日ぶりの帰還を果たした。
副隊長として、私が先行して二人を迎えに行くと、再会の挨拶もそこそこに、ラケル博士がある案を提示する。

「ロミオが"血の力"に目覚めない事を気に病み、一度"ブラッド"を離れようとしたとか……」
「歩みは人それぞれ、急かすつもりはありません……ただ、もしその事でロミオが隊にいづらいのであれば」
「……"ブラッド"の任を解き、極東支部の部隊に組み込んでいただくよう、榊博士にお願いすることもできますよ」

少なくとも、それをロミオが望んでいないのはわかる。
ラケル博士なりの気遣いだという事は見て取れるけど、ここは私が――

「いえ、その必要はありません」
「ここにいる副隊長をはじめ、シエルもギルも、ナナも……そしてロミオも、全員がかけがえのない存在です」

――強い口調で、ジュリウスが機先を制する。

「数多のアラガミを斃し、数々の危険を乗り越えられたのは、ひとえに、"ブラッド"が完璧なチームだからです」
「"ブラッド"の中に至らない者がいれば、私が守るだけのこと」
「……誰も、脱落させはしません」

ジュリウスは、ロミオの脱走騒ぎについて、詳細まで知っているわけじゃない。
しかし、彼の言葉には、傲慢さや、その場限りの出任せを一片も感じさせない、高潔な意志の力が宿っていた。
102 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 22:58:29.05 ID:KfQkdvPD0

「そう……ジュリウスがそこまで言うのであれば、あなたの意見を尊重しましょう」

「ありがとうございます……では、俺はここで」

ラケル博士の案内を私に任せ、ジュリウスは"ブラッド"隊員が集うロビーへと向かって行った。
恐らく、彼が率先して発言したのには、そう動いた方がラケル博士の信頼を得やすい、という意図もあったんだろう。
"サテライト拠点"での一件といい、ジュリウスの意志決定力は尊敬にも値する程だけど、
その一方で、少し、妥協をしなさ過ぎているような気もする。
ただでさえ"ブラッド"全体が揺らぎかねない事件が連続している現状で、その頑なさにむしろ追い詰められないといいんだけど。

……うん?"ラケル博士の案内を私に任せ"?
気づけば、私は稼働中のエレベーターの中で、ラケル博士と二人きりになっていた。
展開が自然すぎて反応が遅れてしまったけど、この流しっぷりも彼の才なんだろうか……

「……そろそろ、よろしいかしら」

あ、はい。

「実はあなたにお願いしたい事があって来たの……一緒に、来ていただけますか?」
103 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:00:12.56 ID:KfQkdvPD0



「――急に呼びつけてごめんなさいね……早速、本題に入りましょう」

ラケル博士に依頼され、私は久々にフライアを訪れていた。
その外観、内装は、"黒蛛病"専用病院の整備に慌ただしくなっている以外、私達がいた頃と何ら変わりはない。

「榊博士の助言もあって、"赤い雨"の発生時期やその規模が、高い精度で予測できるようになりました」
「そこで、次は――」

ラケル博士から私に課せられた特殊任務、所謂"特務"は一つ。

「――おお、貴方ですか!?素材採取に協力してくれる"ブラッド"の方というのは!」

"神機兵"開発に必要な、特定のアラガミ素材を採取すること。
しかしそれは、彼女の姉でもあるレア博士が主導の有人制御の運用方式ではなく、

「初めまして、私は九条……あっ!その緑がかった金髪!!貴方は私の"神機兵"に無断で乗り込んだ……!?」
「……まぁ、ラケル博士に免じて水に流しましょう……私とラケル博士のこれからをよろしくお願いします!」

その反対派閥である、九条ソウヘイ博士の推し進める、無人制御式"神機兵"への開発協力だった。
市民の声や神機使い達からの批判もあり、
どうやらフライアの上にいる本部は、一見してリスクの少ない無人制御式"神機兵"の運用を優先する意向であるらしい。
どちらの方式であれ、人類の平和実現に貢献できるのであれば助力を惜しまない、というのがラケル博士の考えであるようだけど、
妹が自分の反対勢力に与していると知ったら、レア博士はどんな顔をするだろうか。

「あ、いや……これからの研究って意味ですよ?"神機兵"のね!はっはっは……」

その反対勢力のトップが、妹に何やらよからぬ想いを抱いている事も含めて。
104 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:09:28.66 ID:KfQkdvPD0


 "特務"の目標アラガミの数体目かを討伐し、九条博士に採取した素材を渡した後、私はフライアの高層庭園に腰を落ち着けた。
この庭園は、フライアの高層フロアに位置する憩いの場で、周辺には今日日見ない草花達が生い茂っている。

神機使いになってからこっち、独りでいるのは、この庭園でジュリウスと改めて出会って以来だった。
当然、"特務"に向かうのも私だけ。
ただ、討伐対象は最大でも中型アラガミが複数体という程度なので、私1人でもどうにかなっている。
また、素材採取のついでとして、今まであまり使ってこなかった神機パーツの使い勝手も試していた。

私達神機使いの、その中でも"新型"と呼ばれる第二世代以降が扱う神機は、
アラガミのそれと同質である神機のコアを中心に、刀身、銃身、装甲の3パーツで構成されている。
神機使いに接続された腕輪の役割は、ただ"オラクル細胞"の投与口というだけではない。
腕輪は神機と神機使いをつなぐ媒介としての役目も持っており、腕輪を通じて神機使いの脳波が神機に伝達、
神機を構成する"オラクル細胞"の移動による、刀身と銃身をそれぞれメインにした、遠近両方の形態変化を実現する他、
近接形態に限り、装甲パーツを展開してアラガミの攻撃から身を守ることも出来る。

更に、神機にはアラガミとしての性質を利用した、捕喰機能が備わっている。
これを用い、近接形態でアラガミを攻撃すれば、銃形態で扱うオラクルエネルギーを補填することが出来る。
また、これも近接形態に限った用途ではあるけど、完全に捕喰目的に割り振られた捕喰形態に神機を変形させ、アラガミを喰らえば、
神機と身体のオラクル細胞を一時的に活性化させるバースト状態になれる他、捕喰した細胞を、銃形態での弾丸として精製する事も出来るのだ。
105 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:11:26.95 ID:KfQkdvPD0

そうした神機を構成する3パーツにはそれぞれ種別があり、
私は主に一撃離脱重視の槍、オラクルを温存でき、ここ一番で大火力を叩き込める重火銃、バランスよく扱える大盾を用いている。
仲間内では同じく槍使いのギルや、アラガミの索敵範囲外からの攻撃を可能にする狙撃銃を備えたシエルなど、
特定の神機パーツの扱いを得意とする神機使いはいるけど、戦場での不備を考慮してか、パーツの換装を積極的に行う者は少ない。
ただ、それを臨機応変に使い分けられる域にまで達すれば、
アラガミの種別ごとへの対応も容易になるし、その都度味方への万全のサポートも行えるはず。
そうした思惑もあり、隊の枠組みを離れて独りでいる時期を見計らって、このような試行錯誤を行っているわけだ。

銃身パーツの換装は以前にも何度か試しているけど、立ち回りの根本が変わる近接パーツの扱いは中々に難しい。
特に槌型の近接パーツは破壊力と加速力を兼ね備えた強力さは持っているものの、
パーツに内蔵されたブースト機能の制御が困難で、訓練場にて何度も練習した後、初めて実戦に持って行った程だった。
ほぼ近接一本での偏った戦法とはいえ、この槌を自在に使いこなすナナの実力の高さを、改めて実感する。
106 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:13:01.49 ID:KfQkdvPD0

……仲間といる事に慣れたのは、いつからだろう。
学生時代、1人でいるのはむしろ好きな方だった。
父は押しつけるだけ押しつけて、それに対する私の努力には無関心だったし、母とは、彼女が死ぬまで顔を合わせた事がない。
周囲にいる学生達を見ても、それらと馴れ合って、上手く溶け込もうとは思えなかった。

それが神機使いになって、"喚起"の"血の力"に目覚めて。
最初は厄介な異能を掴まされたと思っていたけど、段々人付き合いも苦にならなくなっていって。
そんな甘くはないけど、心地のいい空間に居続けたせいで、こうやって独りであれこれ考える今の時間が、どうにも寂しい。
"アナグラ"に戻ったら、すぐにロミオに謝ろう。
このまま機会を逃し続けていれば、今見ている夢が――

「ふふ、やっぱりここにいたのね……皆が恋しいの?」

――反射的に顔を上げる。

「よかったら、ランチでも一緒にどう?」

視線の先には、何時かと同じ、美しい微笑みを浮かべるラケル博士がいた。
107 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:16:24.22 ID:KfQkdvPD0

 ラケル博士に招かれたダイニングルームのテーブルには、"アナグラ"では見たこともないような、
しかし私にとっては馴染みのあるような、そんな高級料理が並べられていた。
もちろん、高級であろうとなかろうと、食糧には貴賤なく工場生産のものが用いられているんだけど。
縦長のテーブルに私達2人、しかもラケル博士が向かい側に座っていることもあって、緊張で味はよくわからなかった。

「思えば、あなたとこうしてお話しするのは初めてですね……ジュリウスから近況は聞いているのだけど」
「……ジュリウスね、フライアに戻る度に、"ブラッド"の皆の事を楽しそうに話しているの」
「私が引き取った頃は無口で、あまり笑わない子だったから安心しているわ」

まぁ、そこは意外な話でもなかった。
ジュリウスが"ブラッド"を想っているのと、存外、立ち行った話に踏み込みにくそうにしているのは、彼の今までの言動でわかる。

「ジュリウスは手のかからない子ではあったのだけど、少し心配していたの」
「あの子はきっと……あなた達を本当の家族のように想っているのね」
「……あなたやギルに、"家族"という表現は少し違和感があるかしら」

珍しく、ラケル博士が眉尻を下げた、困ったような笑顔をこちらに向ける。
……家族、兄弟、姉妹。

「いえ……少なくとも、ギルはそう感じてないと思います」

以前の話を反芻しながら、後で彼が機嫌を損ねない範囲で話を合わせる。
ギルとロミオが兄弟なら、私やナナ、シエルはその妹といったところだろうか。
ジュリウスは……何だろう、お父さん?長男?
108 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:18:07.66 ID:KfQkdvPD0

「そう、ギルが……これは、嬉しい事を聞いたわ」
「……ジュリウスと過ごしてきて、私、思ったの」
「人間がともに同じ時を過ごし、共に語らい、共に泣き、共に笑い合う事さえ出来れば」
「……そこには、家族という絆があるのだと」

私の父や兄との間に、そんな時間はあっただろうかと思い返そうとして、やめた。
……今いる"ブラッド"の範囲で考えればいい。

それとは別に、少し引っかかる箇所もあった。
先ほどから家族や子供の話をする割には、自分の運営する"マグノリア=コンパス"について、触れようともしていない。
ジュリウスに焦点を当てた話だからなのかもしれないけど、一応聞いてみるぐらいは――

――不意に、テーブルに置いていた携帯端末から、着信音が鳴り響く。
109 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:20:34.84 ID:KfQkdvPD0

「……九条博士から?」

「はい、次の"特務"についてでした」

「……そう、少し名残惜しいけれど、仕方がないわね」

曇りがちに目を伏せるラケル博士を見て、
今回私が指名されたのは、こうした話をする事も目的にあったからなんじゃないかと、ふと思った。
再び顔を上げたラケル博士が、私に一通の、黒い手紙を差し出す。

「九条博士に会ったら、この手紙を渡してほしいのです……もちろん、中身は内緒でね」
「……こうしてまた、あなたを振り回す形になってしまって、ごめんなさいね」

「大丈夫です……まだ、色々考えちゃいますけど」
「……あなたにこうして連れ出してもらえて、今はよかったと思ってますから」

少し真意を測りかねるところはあるけど、これは事実だ。
目の前の女性のおかげで、私はもう少しだけ夢を見ていられる。

「……ありがとうございます」
「ジュリウスと……そして"ブラッド"の皆の事を……これからも、よろしくお願いしますね」
110 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/04(金) 23:22:30.52 ID:KfQkdvPD0
ラケル先生とのお食事会まで
ここら辺から拠点会話の記憶が消えててヤバい
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/05(土) 00:50:26.79 ID:N8PWpx+AO


この辺りのラケル博士は可愛かったな
112 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/06(日) 01:09:28.84 ID:CwQRhC1A0



「いやーありがとう!あなたのおかげで研究が捗りましてねぇ!!」
「自立制御装置の完成まであと一歩というところですよ!まぁ、その一歩というのが最大の難関なんですがねぇ――」

無人制御式"神機兵"の開発も残すは科学者側の調整を残すのみとなり、私の"特務"は終了した。
研究段階もいよいよ大詰めというところで、九条博士は熱に浮かされたように、無人制御の哲学を語っている。

「――いいですか、無人型の"神機兵"はパイロットが不要なのですよ!この意味がわかりますか!?」
「破壊されても誰も傷つかない!!……そりゃあ私の心は痛みますがねぇ――」

標的のみを撃滅し、誰一人として傷つけることのない、機械の人形。
思想の響きは魅力的だし、九条博士にも有り余る熱意はあるけど、以前の動作テストの印象からか、"神機兵"にはどうにも頼りない印象がある。
今回の"特務"の主眼として置かれていた装甲面はともかく、また不測の事態に動作しないなんて事があれば。
……まだ乗り込めるようにはなってるのかな、アレ。

「――おっと、言い忘れていましたが、私の"神機兵"にはもう搭乗できませんからねぇ!」
「よしんば強行したとしても、もう内部構造もレア博士の主導するそれとは全く異なっていますから!!」

……残念。
九条博士の熱もだいぶ収まったようなので、ラケル博士から預かっていた手紙を渡しておく。
113 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/09/06(日) 01:13:02.68 ID:CwQRhC1A0
「えっ……ラケル博士から私に?……てっ、手紙ぃ!?」
「……あ、ああすみません!気が動転して!」
「……それにしてもラケル博士は素晴らしい方ですよ……科学者として優秀で、健気で、ホタルのように儚く――」

またマシンガントークが始まる前に、それとなく話を切り上げる。
健気さはともかく、あの人も割合頑固なところはありそうだけど、口には出さなかった。

九条博士への用件が終わり、先んじてラケル博士への挨拶も済ませてきたので、あとは"アナグラ"に戻るだけだ。
そういえばこっちに日誌のデータを置いたままだったし、自室に寄っておこうかな。
そんなことを考えながら研究室の扉をくぐると、意外な人物から声がかかった。

「よっ!びっくりしたか?」

声の主はロミオだった。
彼を含めた"ブラッド"は通常通り、"アナグラ"で動いているはずだけど、何故ここに。

「お前1人じゃ心細いと思ってさ」
「……なんてな、ジュリウスや榊博士に無理言って、こっちに来させてもらったんだ」
「で、これもいきなりなんだけど、帰るついでに任務行かないか?もう2人で組んじゃってるからさ」

矢継ぎ早に想定外の展開が飛び込んできて、心の整理がつかないけど、つまりはそういうことらしい。
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