【ゴッドイーター2】隊長「ヘアクリップ」

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1 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:09:45.84 ID:L7zAG9e10
隊長の今までとこれからの話
・GE2編からRB編の間のお話
・女隊長(主人公)による地の文っぽいもの主体のGE2編回想が主体なので注意
・隊長周りはオリ設定多し。俺のsettei*.txtが火を噴くぜ!
・隊長の性格と口調は一応女ボイス9(あがり症気味の優等生キャラ)イメージ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439471385
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/13(木) 22:10:10.99 ID:Cr+1v+qMO
期待
3 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:14:46.10 ID:L7zAG9e10
1

 2074年×月某日。

 フェンリル極致化技術開発局、通称フライアによる極致化計画の第一人者、ラケル・クラウディウスの暴走によって引き起こされた、地球のエコシステム……
終末捕喰を巡る混乱が収束し、終わらない抵抗と戦いの日々が取り戻された現在。
私はある目的のため、依然として修繕作業が行われているフライアの移動要塞に足を運んでいた。
目的と言っても大した用事じゃなくて、ここにいた時期に作成していた日誌のデータを回収しに来ただけなんだけど。

 顔馴染みのフライア職員達に出迎えられつつ、嘗ての自室だった場所に入る。
異動やクーデターがあった手前、データベース内にファイルが残っているか不安だったけど、どうやら手つかずのようだった。
私はひとまず安堵し、手持ちのタブレット端末にデータを移す。
取り立てて言うほどの情報を書き込んだ覚えもないけど、こうした記録媒体は自分の初心を再確認する上で、重要なものになるだろう。
取り込んだデータの確認がてら、日誌に初めて書き込まれた日の分に目を通すと、初々しい文章が飛び込んできて、思わず苦笑してしまう。
私が神機使いになってから一年も経っていないはずだけど、こうして懐かしさを感じる程度には、濃密な時間を過ごしていた事を再確認した――
4 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:17:35.94 ID:L7zAG9e10

2

 ――この右腕に何もなかった頃、私はただの学生だった。
もちろん、"ただの"と言っても、フェンリル本部の内部居住区に設立された学校の高等部に通っている時点で、単なる民間人とは言えない。
私の実家は、フェンリル関連企業内の有力者の一人である父を始めとした名門であり、私もそれに与る形で比較的裕福な暮らしを送っていた。
母は5年前に病気で他界し、上には家督を継ぐ兄がいる。
私自身は、母譲りの緑がかった金髪がちょっとした自慢というだけの、平凡な箱入り娘だった。
父は優秀だけど、それと同じぐらい偏屈な人物で、
"人は在りのままの姿であるからこそ美しく、その気高さこそがこの世界を生き抜く意義にもなるのだ"という持論の元、人為的な肉体強化を施された神機使いを毛嫌いしている。
娘や出資先のフェンリルが相手でもその態度は変わらず、三年前に確定した、私の神機使いとしての適性も握り潰された。
散々神機使いにアラガミの脅威から守られておいて、虫のいい話ではあるけど、その面の皮の厚さでこの世界を生き抜いてきたのも確かだ。
5 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:20:39.02 ID:L7zAG9e10
そんな父を持った手前、私は神機使いになることを許されなかったばかりか、彼の思い描いたシナリオ通りの道程を歩むことも義務付けられた。
初等部からフェンリル本部所属まで、エスカレーター式に段階を踏むことのできるエリート校に在籍させられたのも、その一環だ。
私は特にそれらに反抗することもなく、17歳になるまで育ったけど、疑問がなかったわけでもない。
父が人を在りのままの姿で生かすことのできる医療関係に力を入れても、慰問の付添で訪れた外部居住区の様子を見れば、それだけでは情勢に対応できないことがすぐに分かったし、
アラガミと本質を同じくする神機使いを最終手段とした軍事力に、取り付く島は元よりない。
実質死ぬことのないアラガミを相手に、結局防戦一方にしかなっていないという実情を除けば、
人類の打開策として神機使いが機能している以上、個人の嗜好からそれを忌み嫌う父は、比較的早い段階で異常なものに見えた。
もちろん、私も神機使いがまともな職業だとは思っていなかったけど。
6 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:23:12.15 ID:L7zAG9e10

――こんな父でも根は聡明なのだから、少なくとも彼の敷いたレールに乗っておけば、痛い目に遭うことはない。
……とすんなり割り切れるほどできた性格でもなかったけど、口論を繰り返して家を飛び出せるだけの胆力も私にはなかった。
外の景色はずっと見ていない。アラガミの侵攻が今ほど激しくなく、まだ本部のアーコロジーが形成される以前、砂漠化とは無縁そうな草原と、
壁に遮られない青空のどこまでも広がっていく光景が、幼少の頃の思い出として、記憶の片隅にこびりついている。
美化された記憶と、父の支配から抜け出したい願望が合わさり、私はいつしか、もはや何も残っていないはずの外に、漠然とした憧れを抱くようになっていた。
今思えば何とも希少な、温室育ちのお嬢様らしいお花畑思考だ。
7 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:25:44.04 ID:L7zAG9e10


 現状にどこか引っ掛かりを覚えながらも、のうのうと学生生活を送っていたある日。
東の果てに現われた"赤い雨"や、"感応種"と呼ばれる新たなアラガミ……
ついでに本部直轄の"道楽"要塞についての話題で休み時間の教室が賑わいを見せていた頃、二名の客人が校舎を訪ねてきた。
一人は車椅子に乗った、喪服のような格好の女性。もう一人は、やや中性的な雰囲気を纏った、ゴシック調の衣装の青年。
内部居住区の人間から見ても少々独特な二人は私が目当てで来たらしく、私は放課後の誰もいない時間に呼び出された。

「初めまして……あなたのお父上には、フライア運用の件でお世話になりましたね」

出会い頭にそう言った女性の姿には見覚えがあった。確か、ラケル・クラウディウス博士……
神経科学分野の専門であり、本部が新たに立ち上げたフェンリル極致化技術開発局、通称フライアの副開発室長だ。
内にも外にも閉鎖的な本部が珍しく本格的な宣伝広告を打った事柄であったため、嫌でも記憶に残っていた。
しかし、そんな有名人が何の用だろうか。確かな力や資質を持った、父や兄ではなく、よりによってこの私に――

「……あなたには、ご家族の方々にない、大きな素質が眠っています」

――こちらの思考を見透かしたような発言に、思わず身体が強張る。
8 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:29:22.58 ID:L7zAG9e10

「そう緊張なさらずに」

ラケル博士がレースの奥の目を細める。
宗教画の如く美しい微笑み。それだけに、左目の下にある傷跡が異物感を醸し出していた。

「……荒ぶる神々を喰らうことのできる唯一の存在、ゴッドイーター……彼らもいずれは、上に立ち、道を指し示す指導者の存在を必要とするようになります」
「あなたは、旧世代のゴッドイーターたちを統べる精鋭……"ブラッド"の候補者として、フライアに招聘されました」

"ブラッド"……これも聞いたことがある。フライアの移動要塞を拠点とし、各支部の神機使いを教導する目的で新設されたという、特殊部隊の名称だ。
ふと、ラケル博士の傍らで沈黙を守る、青年の右腕が目に入る。
神機使いのものと思われる、大きな腕輪。
ただし、普段見る赤い腕輪ではなく、見慣れない装飾の施された、黒い腕輪だった。
恐らくラケル博士と、彼女を連れてきた輸送機のスタッフ、それに……私を護衛する目的で来たのだろう。

「まずは適合試験を受けてもらいます……今すぐご同行いただきますが、よろしいですね?」

微笑んだ表情のまま、ラケル博士が言葉を紡いだ。
柔らかな物腰とは裏腹に、有無を言わせぬ強引さを感じる。
そして、当の私本人はと言うと、自分でも意外なことに、彼女の無茶な申し入れを二つ返事で承諾していた。
9 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:33:24.02 ID:L7zAG9e10

あまりに突拍子もなさ過ぎて、事態の全容を理解する前に条件反射で応えてしまった部分もあるかもしれない。
ただ明確なのは、私がこの状況に期待心を持っていたということだ。
わざわざ校舎まで私自身を訪ねに来たことから察するに、恐らく父はこの状況を知らない。
いくら本部直轄のフライアといえど、用件が用件なので父の物言いを懸念したのだろう。
オペレーターか救護班に回すとでも言えば、彼も喜んで私を放り出したかもしれないけど、すぐバレる嘘はつきたくない、と言ったところだろうか。
正直、そこまでして私を抱き込む理由もわからなかったけど、私にとってもこれはチャンスだと判断することにした。
父の最も嫌がる方法で彼から独立して、外に出る口実を作る。
もう少し父の支配下に置かれておけば、独立の芽もあったかもしれないけど、この時は目の前に吊り下げられた、餌に飛びつく以外の選択肢が頭になかった。
そもそも、実際に目の前にいる二人が、このまま私を逃がしてくれるとも思えない、となれば。

後で頭を冷やしてひとしきり後悔する前に、せめて一度ぐらいは、どこまでも広がる空を眺めてみたい。

当時の私は、本気でそんなことを考えていた―
10 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:36:00.64 ID:L7zAG9e10

3

 ――それから程なくして、適合検査で耐え難い痛みを伴いつつも、私は神機使いとなった。
父とはあれ以降、一度も連絡を交わしていない。
故郷での私の存在は、現在でも行方不明者として処理されているはずだ。
有権者の娘とはいえ、いつまでも生存の見込みのない者を捜索している余裕は、この世界にはない。
もっとも、共にフライアの開発責任者であるレア博士、ラケルのクラウディウス姉妹や、局長及び本部顧問のグレゴリー・ド・グレムスロワの後ろ盾が失われ、
"ブラッド"の活躍もある程度知られるようになった現在では、その効力も弱まりつつある。
大した用事じゃないとは言ったけれど、ここに日誌を回収に来たのは、
神機使いとなってからの自分を見つめ直すことで、このことに対する決意を固め直す意図もあった――
11 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:40:27.60 ID:L7zAG9e10

 ――正式にフライア所属の神機使いとなった翌日、"ブラッド"候補者としての基礎訓練の日々が始まった。
いくら偏食因子で身体能力が強化されたといっても、素体は体を動かすことに慣れていない元学生だ。
神機の扱いを訓練場内でものにするのは骨が折れたけど、今までの学生生活で身についた習慣のおかげか、座学の成績はそれなりによかった。
また、フライアには二人の候補者仲間がいた。
一人は香月ナナ。私と同時期にフライアに編入された、同い年の女の子。
後ろ髪を二束、アップで留めた、猫耳のような独特の髪型、布面積の狭いチューブトップの上に、
これまた背中と脇部分が大きく開いたベストを着込み、ボトムスはサイドのファスナーを開けたショートパンツ……
といった外見で、ラケル博士達とは別ベクトルで異彩を放っている。
初対面の時こそ驚いたけど、ナナ自身は裏表のない快活な子で、よく喋りかけにきてくれる。
……そういえば、出会った時に"おでんパン"という創作料理を貰ったけど、
私は北欧生まれなので、アレも彼女の出身地である、極東では知名度の高い料理なんだろうか……と最初は勘違いしていた。
"おでんパン"自体は意外と美味しい。
12 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 22:46:31.03 ID:L7zAG9e10

もう一人はロミオ・レオーニ。私達の1年前に入隊した先輩で、
ナナと2人で訓練の感想を話し合っているところに、彼がばったりと出くわしたのが初対面となった。
彼も砕けた性格で、調子づくことも多いけど、時には先輩として、神機パーツ毎のの基本戦略を教えてくれる。
外見はニット帽とダボついたボトムスがまず目に付き、帽子や短い丈のジャケットにはバッジなどの小物が散りばめられている。
やっぱりというか何というか、ナナとは気が合うらしく、初対面の時からあっさり打ち解けていた。

 飛んだり跳ねたりすることに慣れ始めた頃には、"ブラッド"隊長のジュリウス・ヴィスコンティ……
ラケル博士の護衛を務めていた、あの青年の計らいによって、実地訓練も行われるようになった。
初めて対峙するアラガミの姿。それを切り裂き、貫いた時の感触。
どちらも気味の悪いものだったけど、この時はまだ、あくまで訓練の延長線上か、仕事の対象としてしか見ていなかった。
交戦していたオウガテイル種のアラガミが更に増援として現われた際、
ジュリウスが"ブラッド"の証である"血の力"、"ブラッドアーツ"を披露する形で、初めての実地訓練は終了となった。
戦闘の緊張から解放され、空を見上げる。
何にも遮られない、どこまでも広がる青空。亡都を覆う雑草の群れはイメージと違ったけど、この空の光景だけは記憶通りだ。
感動とある種の達成感に笑みすらこぼしていると、一緒に訓練に来たナナが不思議そうにこちらの様子を眺めていた。
13 : ◆6QfWz14LJM :2015/08/13(木) 23:00:44.86 ID:L7zAG9e10
書き溜めが尽きたので今日はここまで

ついでに適当な捕捉
・神機使いの適合検査への招聘に応じることは居住区市民の義務だが、金持ちには賄賂で拒否する手段もある(GE2、サツキ談)
・内部居住区の描写はシリーズ中ほとんどないが、内部居住区市民の設定画は存在している(公式設定資料集)
・フェンリル本部はフィンランドにある(諸々の公式書籍)
・ラケル博士の付添は本来シエルの任務だが、護衛としては神機使いの方が適しているような気もするし、
ジュリウスがしばらくシエルに会ってなかった描写もあるので、ジュリウスがついていったことにした
・そもそもラケル博士がわざわざスカウトに出向く必要があったのかって?……彼女も内心ではブラッド集めに焦ってたということでどうにか
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/13(木) 23:02:54.95 ID:c+/9ytvFO
面白い 期待
女ボイス9イイヨネ…
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/14(金) 02:01:52.71 ID:gJTWTR+/0
私は変に天然っぽい20番が好きです。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/14(金) 07:44:44.87 ID:pdSXJwB2o
>>15
今この瞬間にも、隕石が私の頭めがけて落ちてきているかもしれないわけですよ!
…20子はいいものだ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/14(金) 18:27:55.37 ID:1rnQgOPfO
うわぁ!後でなんでもしますから!命だけはぁ!

誤射可愛い。
18 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:12:30.67 ID:l08ZVGCi0
>>14
いい…
19子のヒャッハー具合も好きです

投下再開
19 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:15:41.05 ID:l08ZVGCi0


ジュリウス指導の下、基礎訓練と実地訓練を交互にこなしていく中で、3つの事件が起こった。
1つ目は第4の"ブラッド"候補者、ギルバート・マクレインがフライアに編入されてきたこと。
ギルバート……通称ギルはグラスゴー支部で5年の経験を積んできた、22歳のベテラン神機使いで、
紫のファー付きジャケットに羊毛付きの帽子、スマートながらも長身な体躯が目立つ外見をしている。
そんな彼に対してロミオがグラスゴーでの過去を追及し、ギルがそれに右ストレートで応じたのが事件の始まりだった。
元々仲がいいと言えるほどの関わりもまだなかった"ブラッド"だけど、これによって一気に場の雰囲気が冷え切ってしまった。
小さな願望で神機使いになった私だけど、明日には死体として野に転がっているかもしれない職業柄、
わざわざチーム内の諍いでその確率が高められるのは望ましくない。
それに、短い期間とはいえ、それなりに人となりがわかっているナナの落ち込んだ表情を見るのは、何だか心苦しかった。
ジュリウスからもそれとなく期待の眼差しを向けられている気がしたので、私は意を決し、ギルを説得しに行くことにした。

結果から言うと、とりあえず説得には成功した。しかも、一言二言であっさりと。
正直拍子抜けだったけど、ギルも存外気配りのできる性格だとわかったのは収穫だった。
尤も、第一印象で失敗したロミオ相手ではそうもいかないらしく、以降も小さな口論は続くことになった。
20 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:17:28.30 ID:l08ZVGCi0


 2つ目の事件は、私が"血の力"に目覚めたこと。
私が編入された時点で、フライアの移動要塞は極東地域に入っていて、その目標がフェンリル極東支部ということもあり、
極東支部からは2人の応援が寄越されていた。
1人はダミアン・ロドリゴ。
極東支部の新人神機使い担当の指導員で、彼自身もかつてはマドリード支部の神機使いとして活躍していたらしい。
フライアでは相談役として私達に応じてくれた他、"リンクサポートデバイス"という新装置の試験運用にも従事している。
もう1人は極東支部の若手神機使い、エミール・フォン・シュトラスブルク。
彼は高名な貴族であるシュトラスブルク家の出身で、騎士道精神というものを重んじているらしい。
その詳細は分からないけど、アラガミから人々を守ることにかけては、彼なりの筋を貫き通していることが窺える。
芝居がかった言動に気圧される場面も多いけど、何より彼は富裕層出身でありながら、自らの意志だけで神機使いになっている。
その点だけで、彼は私にとって尊敬すべき人物だった。
そんなエミールとの共同任務として、アラガミ討伐に臨んだ際、問題は起こった。
"感応種"の出現だ。
21 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:20:33.15 ID:l08ZVGCi0


 アラガミを構成する自律した細胞群、"オラクル細胞"には、捕喰の傾向を決定づける"偏食因子"と呼ばれる物質が備わっている。
その作用により、アラガミは"偏食場"という特殊な信号―パルス―を体から常に発する。
アラガミが群体行動をとるのは、"偏食場"同士が互いに共鳴し合っているためであり、同様のパルスである場合、特にその傾向が強くなる。
同様に偏食因子を用いる神機使いの第2世代、所謂"新型"同士によって起こる"感応現象"も、
こうしたアラガミの生態に起因したものとなっていて、
微量ながら人間の脳にまで入り込んだ"偏食因子"が一部の脳神経と結合、共存することによって、
より強力な脳波という形で"偏食場"が発現している、という本部の極秘研究結果が、2071年に発見されている。
また、この感応能力を強めれば、アラガミの"偏食場"をもコントロールすることが可能であり、
その応用としてアラガミの兵器化を目論んだ本部による、"新世界統一計画"が同年、極東にて断行されたこともあった。
ただ、計画は結局頓挫し、首謀者のガーランド・シックザールが起こしたクーデターとして、関与を否定した本部に処理されてしまっている。
22 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:22:49.72 ID:l08ZVGCi0

話が逸れてしまったけど、"感応種"の厄介なところは、
こうした"新型"の感応能力のような強い"偏食場"を、アラガミ側が身につけてしまっているという点だ。
"感応種"の発する"感応現象" は強烈なパルスとなって周囲のアラガミ、果ては神機にまで影響を与え、それらを管理下に置く。
アラガミ達は"感応種"を核とする、より統率されたチームワークと、強制的に活性化された力で神機使いを襲い、
対する神機使いは"感応種"の"感応現象"によって神機の生体機能が停止し、主な戦闘手段を封じられる。   
つまり、神機使いが"感応種"に相対するには不利な部分しかなく、"感応種"は事実上の天敵だと言える。
これが"新世界統一計画"によってアラガミ側を焚き付けてしまった結果なのかどうかは定かじゃないけど、
"感応種"の出現が現状極東地域に集中しているのは、間違いなくその影響があったためだと見ていいだろう。

その"感応種"が、神機の機能停止に狼狽したエミールを弾き飛ばし、孤立した私の眼前で鼻息を荒くしている。
23 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:26:55.46 ID:l08ZVGCi0

初めて遭遇する大型アラガミ、しかも、再三警告を促されていた"感応種"。
今まで対峙してきた中型アラガミの、二回りは大きい、狼のような体躯。
ごつごつとした岩のような質感の、鉄をも砕きそうな前脚。敵対者を射抜かんとする眼光。
他のアラガミを引き連れた様子はない。
しかしながら、明らかに一介の新人神機使いが勝てる相手じゃなかった。
手は震え、脚は竦み、声も出ない。離れた場所で戦う仲間達に、救援を求めることも思いつけないほど、頭の中が真っ白になっていた。
"感応種"が岩のような前脚を振るう。私も条件反射で神機を構えるけど、当然大盾パーツが展開することはなく、
エミールのようにあっけなく吹っ飛ばされる。
続いて地面に叩きつけられることになるも、攻撃はそこで一旦止んだ。"感応種"は何かを警戒しているようだった。
……警戒?何を?ただ遊んでいるだけなんじゃないの?
立ち上がりながら、益体にもならない思考を巡らせていると、"感応種"の後方で倒れているエミールの姿が目に入る。
24 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:30:10.08 ID:l08ZVGCi0

まだ息はあるようだけど、とても自力では立て直せそうにない状態のように見えた。
今立ち上がった私が"感応種"に嬲り喰われてしまえば、次は彼が玩具にになるだろう。

そう思った途端、自分の身体の内から、真っ赤なものが湧き上がってくるような感じがした。

箱入り娘の我儘を通してもらった身だ。こんな状況に陥った以上、もうどうなったっていい。
――"いくら恐怖に曝されようと、苦痛を与えられようと、それがお前だけの問題なら私は構わない"
"だが、それが他の者に降りかかるのであれば話は別だ。自身にそれを阻止できる力があるなら、全力で解決に当たらなければならない"――
……個人が持つ責任として、幼い頃に父が授けてくれた、数少ない善良な教えだ。
当時はまるで意味が分からなかったけど、今なら。
湧き上がってきた赤いものは膨らみ始め、動悸が早まる。"感応種"は更に警戒を強め、今にも飛びかからんとしていた。
神機を構え直す。"感応種"が先ほどよりも鋭い角度で、前腕を振りかぶる。
瞬間。

赤が、弾けた。
25 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:33:33.52 ID:l08ZVGCi0


 私の"血の力"を乗せた一撃で、思わぬ逆襲を受けた"感応種"は、
救援に駆けつけた"ブラッド"の応戦も加わったことにより、撤退を余儀なくされた。
"感応種"へのカウンター。それは、奴らの"偏食場"と同等以上の力を持ち、他の神機使いをも活性化させる第3世代神機使い、
"ブラッド"の"血の力"、あるいは、その影響で生み出される戦闘技術、"ブラッドアーツ"を用いることで、神機使いに及ぶ"感応現象"を相殺することだ。
"ブラッド"が旧世代の神機使いを教導し、統べることの所以はここにあると言っていい。
その"血の力"が偶発的に覚醒した私は、エミール共々何とか生き残ることができたわけだけど、その後が大変だった。
あろうことか、私が"ブラッド"の副隊長に指名されてしまったからだ。
候補者の名が外れた今となっては妥当かもしれないけど、新人よりは経験を積んだギルに脇を固めてもらった方が適正なのでは……
と思っていると、早速ギルに太鼓判を押されてしまい、私は何も言い返せなくなった。
26 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:38:36.43 ID:l08ZVGCi0

実際、"血の力"が発現して以降の私の調子は凄ぶるいい。
"血の力"に対応する性質を持った第3世代型神機の精度がより高まったおかげもあるけど、私自身も以前よりずっと冷静に戦えるようになっていた。
神機の適合率が高いと、稀に人格に影響を及ぼすことがある、という噂を聞いたことがあるけど、その影響もあるかもしれない。
それにしたって調子がいい……思わず疑ってしまうほどに。
明らかに成長が早過ぎる。まだ実地訓練の段階ではあるけど、この討伐速度は異常だ。
才能のある新人だから、で済ませられる話じゃない。となれば、原因は私達に投与された偏食因子にあるのだろう。
P66偏食因子。第1世代の"旧型"と第2世代の"新型"が混在していた従来のP53偏食因子とは違い、
最初から"ブラッド"用に調整されたものなのだという。
そう考えると、"血の力"を初めとした技能の強力さにも納得がいくかもしれないけど、
その理論をこうして実現するまでに、どれほどの試行錯誤が重ねられたのだろうか。
P66偏食因子の開発者は他ならぬラケル博士で、彼女には"マグノリア=コンパス"と呼ばれる、児童養護施設の運営者としての側面もあった。
27 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:40:36.10 ID:l08ZVGCi0

私やギルを除くブラッドの面々も、"マグノリア=コンパス"の出身なのだという。
孤児院を営む傍ら、極致化技術の開発に従事……計画を飛躍させるための、"マーナガルム計画"や"アーサソール"のような、人体じっ――
――考えるのを止めた。
自分に力があるとわかった以上、今は誰かのためにそれを振るうだけだ。命はまだとっておきたい。
ともかく、第2の事件は"ブラッド"の戦力増強と、副隊長の指名による、組織内の指令系統の一本化という形で終わりを迎えた。
そして3つ目、現状最後の"ブラッド"候補者、シエル・アランソンの編入だ。
28 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:43:57.65 ID:l08ZVGCi0


 シエル・アランソン、16歳。私やナナと同じく、神機使いとしての経験はないけど、
幼少期に"マグノリア=コンパス"で鍛え上げられた、高い近接格闘術と戦術理論の素養を備えている。
リボンのような結び方の上に、更にリボンで留めた、特殊な銀髪のツインテール、
長袖のブラウスに腹部のコルセット、レーヨン製のスカートでまとめられた格好は、全体的に貴族趣味ながらも、どこか窮屈そうな印象を受ける。
また、身体のラインが出やすい格好に負けじと、彼女は抜群のスタイルを保持していた。
正直、同姓として羨ましい……いや、ほんの少しだけれど。
シエルは副隊長、つまり、私の補佐として任命されたため、以降は彼女と行動を共にすることが多くなった。
シエルは高度な戦術理論を身につけており、参謀としてそれらを"ブラッド"に適用させるのが是だと考えていたけど、
現場主義のギルや、そうした環境に慣れていないナナとロミオからは多少ならずも反発を受けていた。
現状に納得しないギル達と、現場と論理の差異に折り合いをつけられないシエル。
再び訪れた"ブラッド"の不和に、またもやジュリウスから期待の眼差しを向けられたため、私はまず、シエルに歩み寄ってみることにした。
……彼には試されているのだと思うことにしよう。
29 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:48:19.20 ID:l08ZVGCi0

シエルの戦術理論を噛み砕き、状況に応じてわかりやすい形で現場に伝える、双方の橋渡し役として従事してみた結果、
チームの立ち回りとしては、まずまずの結果を得ることができた。
そうした実地訓練をある程度こなしていると、シエルも私を認めてくれたようで、わざわざ自分の友達になってほしいと申し出てきた。
大袈裟だなとは思うけど、私自身、学生時代はその状況に内心苛立っていて、あまり友人を作ろうとは思わなかった。
今の状況も未知の分野で戸惑うことはあるけど、嘗てに比べればまだ精神的な余裕があるし、
どことなく口下手なところや、内向的な性格に共感できる部分もあったので、シエルと友人関係になれるのは願ったりかなったりだった。
でも、彼女からの"君"呼びはやっぱりちょっと恥ずかしい。
シエルの"ブラッド"に対する事務的な態度が段々軟化し、ギル達も彼女の戦術論に理解を示すようになってきた頃、
フライアから"ブラッド"に、"神機兵"動作テストの護衛任務が言い渡された。
30 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:52:27.88 ID:l08ZVGCi0


 "神機兵"。
フライアの主要計画である"極致化計画"の二本柱の1つで、その片割れの"ブラッド"と共に運用計画が進められている。
主導者はフライアの開発室長であり、ラケル博士の姉でもあるレア・クラウディウス博士。
彼女が父・ジェフサから、神機のオラクル細胞制御機構を応用した機動兵器の研究を引き継いだことが発端となった。
レア博士は有人制御式での運用思想を推し進めているけど、これに対する派閥として、九条ソウヘイ博士による無人制御式の思想も存在している。
今回の動作テストは後者の無人制御式についてのものであり、"ブラッド"の役割は実験の経過を現場からモニターし、
動作不良や想定外のアラガミ出現など、不測の事態が起きた場合には、速やかにアラガミ関連の事柄を処理する、というものだ。
"神機兵"自体には未だ調整が必要なようだったけど、任務の経過は比較的良好だった。
ただしそこに、赤い積乱雲が襲来するまでは。
31 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:55:01.08 ID:l08ZVGCi0


 ここ半年、極東地域で観測されている"赤い雨"。
同色の積乱雲を伴って表れるこの現象は、未だ解明されておらず、分かっているのは、"赤い雨"に触れると、
高確率で"黒蛛病"と呼ばれる未知の病に侵され、人によって進行速度の違いはあれど、確実に死に至ってしまうという一点のみだ。
それは神機使いも例外ではない。
ジュリウスから即刻避難命令が出されるも、フライア局長であるグレムは"神機兵"の護衛を優先し、現場に居残ることを強制する。
当然従うべきは前者だけど、シエルは不本意ながら後者に従わざるを得ない状況になってしまっていた。
既に退去が間に合わない距離にいたからだ。
いくらシエルでも、雨に触れられない状況でアラガミと交戦することは自殺行為に近い。
既に動作を止められていた"神機兵"は雨宿りにしかならない。
下された命令は相反する2つ。
となれば、私が取れる行動は1つしかなかった。
32 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:57:37.38 ID:l08ZVGCi0


 結局、雨宿り"にも"なる"神機兵"に無断で乗り込み、シエルの救援に向かった私は、
命令違反も合わせ、懲罰としてしばらく独房に入れられることになった。
釈放されるまで長くはかからなかったけど、ジュリウスには一連の件でかなり迷惑をかけてしまったようだった。
彼は私の行動を諫めつつも笑って許してくれたけど、以降も出来るだけ彼の眼差しに応え、償っていこうと思う。
シエルの方はというと、事件以降、より距離が縮まった気がする。
具体的には、バレットエディットについて積極的に熱く語ってくれたり、感極まって抱きついてきたり。
最初は驚くことの方が多かったけど、シエルが私に色々な表情を見せてくれるようになったのが純粋に嬉しかった。
……とりあえず、100年先も友達でいられるように頑張ってみよう。

また、この事件を機に、今まで不明だった私の"血の力"の内容も明らかになった。
その力は"喚起"。周囲に影響を及ぼすという点では、オラクル細胞の活性化を周囲に促すジュリウスの"統制"と共通しているけど、
私の持つ"喚起"の本質は、触れ合った人が"ブラッド"であれば"血の力"の発現を、
通常の神機使いであれば"血の力"の片鱗である"ブラッドアーツ"の覚醒を促すことができる、というものらしい。
特に後者は現状私でしか再現できない現象であるため、一層の活躍を期待します……と、ラケル博士に念押しされた。
……ジュリウスといい、ラケル博士といい、人と関わり合うのは正直得意じゃないんだけど、中々思うようにいかない。
33 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 20:59:15.02 ID:l08ZVGCi0

私の"喚起"の実証例となったのはシエルで、彼女は"直覚"の血の力に目覚めていた。
アラガミの状況を察知する鋭敏な知覚を持った上で、"感応現象"を用いてその知覚を周囲に共有するという、利便性の高い"血の力"だ。
改めて疑わしくなる程強い力だと思ったけど、もう何も考えないことにする。
そうこうしている内に、フライアの移動要塞は目標であるフェンリル極東支部に到着していた。
極東支部……"月の緑化"事件の黒幕だと言われていたり、素手でアラガミを引きちぎる神機使いがいるらしかったり、
色々と怪しい噂の絶えない支部だけど、その実態はどのようなものなのだろうか――
34 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/14(金) 21:10:27.10 ID:l08ZVGCi0
とりあえず極東支部到着まで
おかしい…GE2本編の範囲に入ったらもっとサクサクダイジェストしていくつもりだったのにどんどん長くなってる…
ギルの仇討以降は一編一編短くなるはず…多分

適当な捕捉
・ガーランドと新世界統一計画、アーサソールについてはthe spiral fate(TSF)参照
・アーサソールは本部による新型神機使いの実験部隊で、人体実験によって感応能力が高められている上、本部に洗脳されている(TSF)
・アーサソールは小説『禁忌を破るもの』にも出てるけど、未見なので設定語りに含めてない
・新型の感応現象と感応種のつながりは特にないが、何か繋がりそうだったので勝手に繋がってるぽく書いた
・ヨルムンガルドとフェンリル(アラガミ)はいつゲーム本編に出てくるんですかね
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/15(土) 16:11:38.88 ID:jhJ3EcqlO

今も狼はいるから(震え声)
36 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:24:57.96 ID:pULMqkzL0
少しだけ投下
ギル編から短くなると言ったな、アレは嘘だ
37 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:28:04.04 ID:pULMqkzL0

4

 ――取り込んだデータの確認、もとい振り返りを一通り終える。
自分の記憶と照らし合わせながら読み進めてきたけど、どうもこの辺りの記述は読みにくい。
事実とそれに対する感想だけでいいものを、半ば専門用語まみれのメモ帳と化している。
そういうのはちゃんと住み分けて……というより、これで反省して、ノートと住み分けるようにしたんだっけ。
今も結構諫められることが多いけど、一定の事柄に熱中すると周りが見えなくなる性質はこの頃から健在のようだった。
高等部ではオラクル研究分野を学んでいたから、関連技術に対しての知識欲が割合強いのもあったんだろう。
……こんなことすら、実家にいた頃には気がつかなかった。

フライアでの用事は一通り済ませたので、アナグラに戻る準備をする。
折角フライアに来たのだから、帰る前に"彼"の墓にも顔を出しておこう。
極東支部に到着して以降もフライアに戻る機会はあったけど、まさかこのまま極東に残留し続けることになるとは思わなかった。
今回、日誌を取りに行く羽目になったのもそれが一因だけど、これは異動時に持ち込みを忘れていた私が、単純に迂闊だっただけとも言える。
それに、ここに居残ることになったのはむしろ喜ばしいことだ。
アナグラではフライア以上に多くの事があったし、学ぶ事についてもまた、同様だった。
いずれは、ここを離れなければならない時も来るかもしれないけど。
……この日付以降のデータは、アナグラの自室で確認することにしよう――
38 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:31:54.02 ID:pULMqkzL0

 ――フェンリル極東支部。
その名の通り、嘗て日本と呼ばれた、東の果ての地域に位置する支部で、
支部内部の主要施設が地下に集中しているという特徴から、その拠点は"アナグラ"という別称で呼ばれることもある。
極東地域は強力なアラガミが頻出する地帯でもあるため、
フライアは"ブラッド"と"神機兵"の大きな運用実績を得ることを目的に、ここを訪れた。
付いて回る噂や"アナグラ"という言葉の印象から、どことなく排他的なイメージが先行していたけど、実際にはそんなこともない。
支部の神機使いや職員達から、外部居住区に"サテライト拠点"の人々まで、
例外は当然あるけど、多くの人が好意的に私達を迎えてくれた。
極東支部は対アラガミの最前線である代わりに、得られる資材が豊富で、最先端の設備と技術の開発が優先されるという利点もある。
外部居住区の生活改善も図られていて、近年では他の地域から流れてくる市民の数も増加傾向にあるんだとか。
ただ、その収容人数も限界に達しつつあったため、
極東では独自の施策として、"サテライト拠点"と呼ばれる、フェンリル本部の管理に拠らない生活拠点の建設が進められている。
私達が訪れた客人用の区画には、その"サテライト拠点"への本部の支援を取り付けるため、
双方をつなぐ架け橋として活動する歌姫、芦原ユノの姿もあった。
彼女は、市民代表のアイドル的な存在として各支部でも人気を博していて、私達の中では、ロミオが特にそのミーハーぶりを発揮している。
ユノとは彼女がフェンリルでの広報活動の一環として、フライアに訪れていた際に一度出会っていたことがあり、
同年代のよしみもあってか、比較的早くに打ち解けることができた。
39 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:34:01.70 ID:pULMqkzL0


 "ブラッド"がフライアから極東支部へ、一時的に拠点を変更した際の変化が一番大きいのは、活動環境だろう。
フライアにいる頃に経験した任務は、所謂実地訓練の延長線上で、
極端な事を言えば、ただアラガミを討伐するだけでいい場合が多かった。
しかし、極東支部での任務は、より多岐にわたる条件、状況の元で臨まなければならない。

私達"ブラッド"の支部での役割は、第一部隊のサポートと、その他種別の任務をこなす遊撃的な性質のもの。
基本は少数部隊ながら、隊長を除いた構成員の練度が不足している第一部隊の穴を埋める名目として、
支部や"サテライト拠点"に接近するアラガミの討伐を務めることになるけど、
状況に応じて外部居住区前線の防衛任務や、優先的に"感応種"の討伐任務に向かうなどの場合もある。
これは支部の神機使いの活動を補強するものである他、
多目的な用途での"ブラッド"の実用性を証明するための、フライア及び本部の思惑も含まれている。

また、極東支部に限った話ではないけど、ここの神機使い達は何れもその環境に場慣れしている。
"ブラッド"個々人の能力が高いけど、
チームとしての連携や拠点防衛への対応、地形に対する知識などは彼らに一日の長があるだろう。
未熟とされる第一部隊の構成員にしても、基礎の段階でそれらの教えが染みついているからこそ、今日まで生き残っている。
40 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:35:54.64 ID:pULMqkzL0

対する"ブラッド"はというと、結成からこっち、隊員同士の仲はそれなりだけど、
若手4人、ベテラン2人で構成された急造チームという感が未だに拭えない。
隊長のジュリウスがアラガミ討伐以外の公務に手を取られがちな以上、
副隊長の私が彼らの仲を取り持たなきゃならないんだけど、具体的な方法がいまいちわからず、手をこまねいていた。
険悪な関係ではないものの、どこか表面的な付き合い止まりというか。
チームとしてはそれが利になることもあるけど、
そうしたことはジュリウスやラケル博士が求めていることでもないような気がする。
41 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:39:44.96 ID:pULMqkzL0


 支部の厚意で"ブラッド"の歓迎パーティーが開かれている最中、
私はいつの間にか会場から行方を晦ましていたギルの行方を追っていた。
というより、それを口実に会場から抜け出した。
賑やかなのは嫌いじゃないけど、疲れる。

そんなわけで、ロビーにでも行って寛いでおこうと向かってみると、口実の彼はあっさりと見つかった。
どうやらギルも、私と似たような理由で逃れてきたらしい。
何となく話しかけてはみたものの、会話は双方、どこかぎこちない。
私が変に緊張して、しどろもどろになっているせいもあるけど、どうも彼は深い関係を持つことを避けている気がする。
変な意味ではなく、単純にチームの仲間としての。
微妙な雰囲気のまま会話が途切れようとした時、

「おお、ギル!ギルじゃないか!」

上方から声が降ってきた。

真壁ハルオミ。
極東出身ながら、以前はギルと同じく、グラスゴー支部の神機使いとして活動していた。
後でギルから聞いたことだけど、神機使い歴11年にして、年齢は28歳。
年齢による身体機能の衰えから、オラクル細胞の制御が困難になる問題もあるため、人間が神機使いとして活動出来る範囲は限られている。
そうした側面から考えると、彼はかなりの長寿だ。
性格は捉えどころがなく、飄々としているけど、ギルの操縦役を自称するだけあり、
少し話すだけでも、彼を自分のペースに巻き込んでいた。
同郷の先輩との再会にギルもどこか嬉しそうで、普段見せないような表情をする場面もあった。
気心の知れた相手だからこそだろうか、意外さと共に、少し妬けてしまう。
ただ、そんな中でも、ギルの表情が段々沈んでいくのが見て取れた。
小話の後、ハルオミさんは任務へ、ギルは自室へ、それぞれさっさと出て行ってしまったので、私は1人取り残される。
ちょっとした疎外感を覚えつつも、パーティー会場へ戻ることにした。
42 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:42:47.40 ID:pULMqkzL0

 極東支部の歓待ムードも終わり、幾らか通常任務もこなすようになった頃、シエルから朗報があった。

"ブラッドバレット"。
"ブラッドアーツ"同様、"血の力"による影響が神機に変異をもたらしたものらしく、
バレットのモジュール部分に特殊な効果を付与する"変異モジュール"が、その要となっている。
シエルが"血の力"に目覚めた後、私との任務に同行した際には、
既ににその兆候があったようだけど、しばらくの間実現に至ることはなかった。
極東支部に着いてからは現地の整備班の協力により、"喚起"と"ブラッドバレット"の関係性が実証できた代わりに、
今度はバレットエディットに組み込む際、必須項目である"変異モジュール"の抽出が難しいという問題に直面していた。
そこで私が気休めに何気ない一言を発したところ、それが彼女にとって重大なヒントとなったらしく、
こうしてバレットエディットにも活用できる、完全版の"ブラッドバレット"が完成した。
完成報告の際、感極まったシエルに抱き着かれる。二度目だった。

命令に付き従うだけの日々を送ってきた過去から、絶対性のあるものを信じ、ギル達と衝突していたシエル。
そんな彼女も"神機兵"護衛任務以降、それ以上に大切なものを知り、過去から解放された。
冷たい印象を与えてしまう、堅い言葉遣いと無表情を除けば、元から決して悪い性格ではなかったシエルだけど、
ここ最近の彼女は本当に活き活きしている。
人付き合いが苦手な私だけど、"ブラッド"に配属された今が楽しいと言ってくれて、
もっと皆の役に立ちたいとはしゃぐシエルの姿を見ていると、"喚起"の"血の力"を持つことも悪くないかな、と思えてくる。

――自分の素性はひた隠しにしているくせに、都合のいい。
43 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:51:04.74 ID:pULMqkzL0


 エイジス島の調査に向かっていた第一部隊から、"ブラッド"へ緊急の救援要請が着た。
エイジス島は極東支部の南側に位置する孤島で、3年前までは巨大シェルターに全人類を収容し、
アラガミから恒久的に守護する"エイジス計画"の舞台として注目を集めていた。
その建設計画に大量のオラクル資源が割かれていたため、
極東の生活環境が3年で急速に発展したのは、"エイジス計画"によるリソース面の負担が消えた影響だとも言われている。

それはさておき、ここエイジスには計画の残滓として、未だに多くのオラクル資源が眠っていて、
周辺地帯のアラガミを引き寄せる格好の餌となっている。
そのため、新種のアラガミや、他の地域が主な食事処であるアラガミが最初に流れ着くのも、ここである場合が多い。
今回の救援要請の内容も、突然変異種の出現により隊員二名が負傷、隊長の藤木コウタの機転により、2人は逃がされるも、
今度は彼がアラガミの集まるエイジスに取り残されてしまった、というものだった。

救援は無事成功、コウタさんも大事には至らなかったけど、件のアラガミの姿はなかった。
しかし、支部内の病室でコウタさんの"神機が刺さった赤いアラガミに襲われた"という証言を聞いた途端、ギルの表情が強張った。
彼は少しの間の後、足早に病室から出て行ったけど、何となく不安が残る。
44 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:54:22.71 ID:pULMqkzL0

 エイジスでの救助作戦以降、ギルはどこか思い詰めた様子を見せ、立ち回りの精度も鈍るようになっていた。
普段から口数が少なく、人を避けがちな彼だけど、任務にまで不調をきたす今の様子は明らかにおかしい。
それに――

"万が一があった場合、残されたヤツは一生、お前の命を背負い続けるんだ"
"お前の前向きなところは嫌いじゃない。だが、自分だけは大丈夫とは思わない方がいい"

――"神機兵"護衛任務での無茶な行動をギルから窘められた経験がある私としては、
そんな彼がたった独りで、何かを抱え込んだままでいるのを放っておけなかった。
意を決してギルに当たってみるも、"お前には関係ない"、"俺の問題だ"、と、取り合ってくれない。
でも、"お前を巻き込みたくない"と漏らしたのを聞くことはできた。やっぱり何かある。
何かあるけど、その先に進めない。
進展しない状況に歯噛みしていると、その場に居合わせたハルオミさんと出くわした。
この人なら、とダメ元で尋ねてみたところ、どうやら彼もそのつもりだったらしく、あっさり口を割ってくれた。
45 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 22:58:05.47 ID:pULMqkzL0

――ハルオミさんの妻であり、ギルにとっても大切な人だった、ケイト・ロウリー。
人手の足りないグラスゴー支部の仲間のため、数度の引退勧告を無視してでも神機使いを長年続けてきた彼女は、
件の赤いアラガミとの戦闘をきっかけに身体が活動限界を迎え、暴走したオラクル細胞の浸喰……アラガミ化が始まってしまう。
それを善しとしなかった彼女は同行していたギルに介錯を請い、葛藤の果て、彼は自ら手を下した――

思えば初対面時、ギルが私の説得にすぐ応じてくれたのは、彼が私のお節介を焼く姿に、ケイトさんを重ねていたからかもしれない。

自分自身の手を汚し、失った人の分の想いを背負う。
その業の深さは私には計り知れないけど、だからこそ、ギルを支えてあげたいと思った。
46 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:10:35.78 ID:pULMqkzL0


 ハルオミさんからの頼みもあり、私は多少強引にでもギル喰らいついていくことを決めた。
当然ギルからは反発されたけど、それについては後から来たハルオミさんが執り成してくれた。
彼が極東に来た目的もまた、赤いアラガミと決着をつけることで、その柵から自分とギルを解き放つことだった。

極東地域南東、嘗て人間同士の醜い争いがあった湾岸地区の廃墟で、私達3人は赤いアラガミと対峙する。
竜と人を掛け合わせたような全体のフォルム。
発達した両腕には展開式の禍々しい形状の巨大な刃が仕込まれていて、背中には飛行可能な翼状のブースターが生えている。
体表は紅い装甲で覆われ、その両眼は自我を失っているかのようにギラついていた。
グラスゴーでの戦いから年月を経た今でも、アラガミの右肩には刺さったままのケイトさんの神機を確認でき、
全身には生身であることを証明する傷痕が残っていた。
つまりコイツは、未だにあの時の傷が癒えずにいる。
しかし、赤いアラガミは衰えようとも強大な力を発揮し、
ギルが仇敵を前に冷静さを欠いていたこともあって、接戦を強いられることになった。
47 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:15:02.60 ID:pULMqkzL0

近接攻撃を弾いた隙を突き、赤いアラガミの右腕がギルの胴体を直撃する。
壁際まで吹っ飛ばされたギルにアラガミがにじり寄ったところで、ヤツの頭部に弱点属性である雷バレットが撃ち込まれた。
苦しみつつも振り向くと、そこには何の変哲もない壁があるのみ。
呆気に取られたアラガミの側頭部にまたも雷バレットが撃ち込まれ、ヤツの頭部が結合崩壊を起こす。
痛みに悶え、怒り狂いながら撃たれた方向に振り向くと、余裕を保った表情のまま、銃形態の神機を構えるハルオミさんの姿があった。
今度こそ標的を見据えたアラガミは即座に背面のブースターを起動し、左腕の狂刃を展開させる。
その瞬間、神機を近接形態に変形させた私の背後からの"ブラッドアーツ"により、高速移動の要となっていたブースターも砕かれた。

跳弾の"ブラッドバレット"。
壁や地面といった地形に反射する性質を持ったバレットで、戦闘では攪乱や不意打ちに用いることができる。
事前にシエルに協力してもらいながら作成したバレットだけど、どうにかこれでヤツの注意をギルから逸らすことに成功した。
さて、ここからが正念場だ。

翼を捥がれたアラガミが、ゆらりとこちらに向き直る。
私が神機の大盾パーツを咄嗟に展開させるや否や、滅茶苦茶な勢いでヤツの仕込み刃が叩き込まれた。
防ぐので精いっぱいで、避けることもままならない。
凄まじい剣圧と多彩な角度からの攻撃により、大盾パーツが悲鳴を上げて軋み始める。
あの"感応種"との一戦から、幾種の大型アラガミを相手取る経験を重ねてきた今なら、と思っていたけど。
……とんだ見当違いだったみたい。
48 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:19:29.09 ID:pULMqkzL0
一瞬の油断を突いた刃の切り上げと共に、私の神機が払いのけられる。
万事休す。でも、せめてギルが乗り越えた姿を見届けるぐらいは――

「ここで諦めるわけには、いかねぇんだよっ!!」

――復活したギルが、叫ぶ。
右腕を振り上げ、私の腹を引き裂かんとするアラガミの右肩口を、ハルオミさんが正確に撃ち抜いた。
アラガミが怯み、私は背後からギルが駆けてくるのを確認する。
先ほどバレットを撃ち込まれたヤツの右肩を視認して、瞬時に閃いた。武器がないなら借りればいい。
地面を蹴って飛びあがり、銃撃によって少し抜けかかっていたケイトさんの神機を、渾身の力で蹴り込む。
神機は深くアラガミの古傷に食い込み、動きを止めることに成功した。
後は仕上げだ。
ヤツの眼前にまで迫ったギルが槍先を突き出し、神機が生成したオラクルの気流に乗る。

「届けぇぇぇっ!!」

気流は突風となり、ギルごと神機を打ち出す。
赤い波動を纏う弾丸となったギルは、そのままアラガミの肉体を穿ち、自らの因縁に終止符を打った。

戦いが終わり、倒れ込みそうになるのを抑えつつ、
初めて"血の力"を使ったことで、疲労困憊になっているであろうギルを助け起こしに向かった。
最初は払いのけられるかと思ったけど、彼は差し出された手をしっかり握ってくれた。少しドキッとする。
立ち上がったギルが私に見せた表情は、前を向いて歩き出したことを証明するような、晴れやかな笑みだった。
49 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:27:05.29 ID:pULMqkzL0

 仇討ちを機に、一歩前に進むことができたギルは、どこか自嘲気味だった以前よりも、素直に笑うことが多くなった。
コミュニケーション面でも、"ブラッド"や極東支部の仲間とそれなりに会話している姿が見られる。
以前からそのきらいはあったけど、周囲に対して人一倍心配りができるのが、彼の元来の性格のようだ。
また、吹っ切れて周りを見渡せるようになった影響なのか、神機の整備にも興味を引かれている。

その相談として2人きりでいることが多くなったり、"今度は俺がお前を支えてやる番だ"とか、
思わず嬉しくなることを言ってきてくれたりして、世間知らずのお嬢様としては、どうにも彼を意識せざるを得なく……
まぁ、それも少しだけだし、何も問題はない。
だから仇討ち以降、人当たりがよくなったことで支部内の女性人気が上がっただとか、
整備士の楠リッカさんと神機の整備関連で意気投合して仲が良くなっているだとか、
私はちっとも気にしていない。これっぽっちも。全然。

……それに、彼が私を見る時の目は、私じゃない、他の誰かを見ているような気がした。

一方のハルオミ……ハルさんは、これまでの一途さはどこへやら。
"聖なる探索"だの"ニーハイ戦術"だの、理解し難い話を私によく振るようになった。
50 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/17(月) 23:29:04.96 ID:pULMqkzL0
極東支部到着〜ギル編終了まで
キャラエピの順序と挿入タイミングが滅茶苦茶なのは許してほしい
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/18(火) 02:24:10.18 ID:wZKRE5Eho
52 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:02:33.89 ID:5+QeUg+W0


 ギルの仇討を終えて以降、私にも一つ、関心事が出来た。
エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。
シュトラスブルクと同じく名のあるフォーゲルヴァイデ家の出身で、弱冠14歳ながら、極東支部第一部隊の隊員を務めている。
ちなみに、彼女の第一部隊での同僚は、私達がフライアにいた頃、共に戦ったこともある、あのエミールだ。
彼とは神機使いになる以前から顔見知りらしく、
エミールが大袈裟なことを言っては、それに噛みつくエリナの姿を"アナグラ"で見ることができる。
エリナは向上心の強い性格で、負けず嫌いでもあることから、出会った当初は本部の息がかかった"ブラッド"を目の敵にすることもあった。

しかし、先のエイジス島での事件から、自らの実力不足を痛感。
エミールとのことで心配させているのもあるし、これ以上、コウタ隊長に迷惑をかけたくない。
そこで、癪だけど、救援作戦で高い実力を見せた"ブラッド"に戦い方を教えてもらいに、私の元へ来た、ということらしい。
……それで、何で私に?

「ジュリウス隊長にギルバートさん、シエルさんは取っつき難そうだし、ロミオさんやナナさんに馴れ馴れしくされるのも嫌」
「アンタは尖ったところもなさそうだし、教えてもらうには合ってると思ったの」

……そうですか。
53 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:06:02.97 ID:5+QeUg+W0

「……それにアンタの顔、どこかで見たことあるから、思い出しておこうかなって」

気のせいだよ、と返した私の目は、きっと泳いでいたに違いない。
私には覚えがないけど、あのフォーゲルヴァイデ家の出身である以上、
父の付添で行った会合の何れかで顔を合わせている可能性は十分にある。
出生を知れば即刻故郷に送り返す、というような人達じゃないのは分かっているけど、
私個人の身勝手な感情として、周囲に素性が知れるのはできるだけ避けておきたかった。

ひとまずエリナの課題の確認として、難度の低い掃討任務に同行する。
私にものを教えられるほどの経験はないけど、筋は悪くないように思えた。
ただ、焦りのせいなのか、防御行動の類を殆ど取ろうとしないのは頂けない。

ふと、彼女の傾向を自分に当てはめ、あの赤いアラガミとの戦いをシミュレーションしてみる。
瞬く間に悪寒が走ったので、この課題については特に強く言い含めておいた。
エリナは相変わらず気難しい態度をとっているけど、満更でもなさそうだ。
こうして、新人による新人教育という、私達の奇妙な師弟関係が始まった。
54 : ◆6QfWz14LJM [saga]:2015/08/24(月) 01:16:30.98 ID:5+QeUg+W0

また、その後日には、"ブラッド"によるユノの護衛任務を兼ねて、"サテライト拠点"を訪問した。
"サテライト拠点"は、外部居住区外での建設が計画されているミニアーコロジーの総称であり、
"クレイドル"と呼ばれる、極東支部の独立支援部隊がその計画を主導している。
私達が訪れた場所もその一つだけど、ここには既に生活居住区が存在しており、
支部外での生活を余儀なくされた人々の居場所となっていた。

"サテライト拠点"への支援は"クレイドル"を通して極東支部が行っているけど、
支部の外部居住区と比べても、その生活レベルはどうしても劣ってしまっている。
更に現在では"赤い雨"による被害も深刻で、居住区の野戦病院には数多くの"黒蛛病患者"が収容されていた。
この現況を垣間見た"ブラッド"、特にジュリウスに対し、ユノのマネージャーである高峰サツキがここぞとばかりに詰め寄ってくる。

「あの玩具の戦車みたいな移動要塞を作るコストで、ここみたいなサテライト拠点がいくつ作れると思います?」
「そもそもフェンリル本部からの支援が少ない極東支部が一生懸命血を流している一方で、」
「本部はどうして黙って見ているんですかね?」
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