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提督「劇をしたい」龍驤「あのさぁ、さっきからなんなの」
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295 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/17(日) 22:33:40.38 ID:LPclyByX0
鳳翔「うちの比叡に素敵な挨拶をしてくれましたからね」
嫌味をいいながら、鳳翔は艤装を解除し始める。
長門「やめろ、鳳翔!」
長門は叫ぶ。
妖精謹製最大の発明の一つと呼ばれる艦娘の艤装。
これを纏えば、たとえ艤装が破壊されたとしても1回の戦闘中は妖精の加護が得られるというものだった。
深海棲艦のそれと比べて優秀な点はそこに尽きる。
鳳翔は全兵装、艤装を解除。髪留め紐すら付いていない一糸纏わぬ姿になった。
妖精の加護は得られない。
鳳翔「遠路遥々来ていただきありがとうございます。あなたは船渠へ、後ろのお姫様たちは控室へご案内します」
2度目の歓迎を伝える。
レ級「毒気が抜かれちゃったわね」
レ級は膝をつき、両手のひらを上に向ける。
笑っていた口も尾部触手の顎も完全に閉じた。
極度の緊張状態だった艦娘も慌てて礼をし、歓迎の意をしめす。
鳳翔「祥鳳さん。レ級さんを船渠へご案内してください」
祥鳳「は、はい。さぁ、行きましょう」
レ級「よろしくね。それじゃ姫ちゃん、後で控室に行くからね。って聞き取りにくいか」
レ級は連れてきた北方棲姫に再度話しかける。それは艦娘には聞き取れない言葉だった。
296 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/17(日) 22:34:14.30 ID:LPclyByX0
隼鷹「いきなりどうなるかとおもったよ。龍驤のやつさっさと来なよ」
完全武装状態で迎えれば、レ級が先制で砲撃を繰り出したかもしれない。
おそらく鳳翔は大破、轟沈には至らず。
迎撃は妙高あたりが先頭に立ち、レ級が轟沈するまで撃ちこんだだろう。
これが大海原での戦闘であればだが。
鎮守府から少し離れた場所には集落がある。
そこは戦闘の余波が十分届く範囲だ。
深海棲艦は沈めました、住民は死にました。
それは論外だ、自身の存在意義すら否定している。
後の先では間に合わない、戦闘を起こすことがすでに負けている。
鳳翔が戦意をそぐ手段を選び、そして勝った。
297 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/17(日) 22:34:58.88 ID:LPclyByX0
隼鷹「遠路遥々目的地へ向けての航海、客船じゃないから欲求不満もたまる、か」
他人事とも思えない感想をもらした。
やや和んだ空気に艦娘は艤装を格納していく。
姫級と評されるメインゲストを控室に案内しなくてはいけない。
隼鷹「あれ、おかしいな」
隼鷹は艤装を展開したままだった。
それどころか甲板まで展開して戦闘準備を整えていた。
深海棲艦に戦意は見られない。
では何に対して戦闘準備を整えてしまったのか。
298 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/17(日) 22:36:06.39 ID:LPclyByX0
阿武隈「旗艦、先頭、阿武隈! 目標、北方棲姫!」
299 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/17(日) 22:37:58.79 ID:LPclyByX0
「「「了解」」」
冗談みたいな光景だった。
あれだけ鎮守府極近での戦闘を避けようとしたにもかかわらず、この水雷戦隊旗艦は駆逐艦に号を出して、ゲストに戦闘をしかけようとしている。
隼鷹「天地陰陽の理をもって命ず、禁!」
迷わず、加減をせずに仲間に向けて勅令の光を発動させた。
隼鷹「ちょいと、阿武隈さん。マジで何やってるの」
軽巡1,駆逐3を隼鷹だけで制したが、そんなに時間が稼げるわけでもない。
阿武隈「あの娘は、あれは絶対に駄目です! あの艦載機は」
隼鷹「いや深海棲艦だから艦載機くらい持ってるって。わかってて招待してるんだから」
阿武隈「ちゃんと見てください、あれを」
隼鷹「ありゃ日向さんの水上爆撃機じゃん。あの人は気に入った相手に艦載機渡しちゃうの知ってんでしょ」
阿武隈「その横です!」
改めて抱えている艦載機を見る。
左腕には日向の特別な瑞雲が、右腕には明灰白色の艦戦が。
隼鷹「……誰の零式艦上戦闘機21型(ゼロ)だよ、あれは」
300 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/24(日) 23:30:32.94 ID:0ZnhPMBM0
隼鷹は自分に嘘を付いた。
知らないはずはなく、記憶というよりは記録に残っている。
隼鷹の初陣は北方海域。
その時、あの艦載機を確実に見ている。
誰のものかはよく知っている。
そこで合点がいった。
北方棲姫に臨戦してしまった艦娘は北の経験者達だった。
隼鷹自身も反応してしまっているが、拘束する側にまわった。
なぜか。
港湾棲姫「……」
阿武隈が号を出す直前から、港湾棲姫は片手を上げ始めている。
同時に2基の護衛要塞が砲撃準備を完了させていた。
こちらから仕掛けようとしたにもかかわらず、深海棲艦の方が戦闘準備完了が早かったのだ。
北方棲姫への攻撃は絶対に許さないという意思が見えていた。
仮に隼鷹が止めに入っていなければ港湾棲姫は確実に護衛要塞へ号を出していた。
阿武隈に従った艦娘以外は、これ以上刺激しないように艤装展開を諦めざる得なかったのだ。
状況が読めない阿武隈ではないが、その責任感が裏目に出てしまっている。
友軍を北方海域から連れて帰るという責任感、阿武隈に掛けられた呪いのようなものだ。
改二になったことで思いだけでなく、それを果たすだけの実力が伴ってしまっている。
隼鷹「やばい、そろそろ限界」
軽巡1、駆逐3相手とはいえ阿武隈は改二、駆逐1隻は改二、もう1隻は改にもかかわらず改二相当の高性能艦、残り1隻も不死鳥の二つ名を持ち急速に練度を上げている駆逐だった。
思った以上に短い時間だったが、隼鷹による拘束はここまでだった。
龍驤「なに遊んどんのや」
龍驤虎視。
阿武隈と駆逐艦達は硬直を禁じ得なかった。
301 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:52:28.71 ID:uwv4RRxW0
ここで阿武隈が我に返った。
完全に命令違反。
今回の命令は劇を成功させることであり、けっしてゲストに攻撃を仕掛けることではなかった。
さらに駆逐艦まで煽動してしまっているため、阿武隈は言い訳することができない。
龍驤「ほらほら、お客さんは長旅で疲れとるんや。はよう控室に案内したって」
阿武隈「えっと」
龍驤「それとな阿武隈、しかめっ面しやんとスマイルや。にぃ」
秘書艦の登場は一気に場の空気を変えてしまった。
阿武隈自身の心情もさることながら、港湾棲姫が再び手を下ろしたことからもそれが伺える。
阿武隈「こちらに来てくださぁい、ご案内します」
血の気が多い水雷戦隊だが、切り替えは速くさっぱりとしている。
罪滅ぼし、というわけでもないだろうが。非常に丁寧な振る舞いをする。
港湾棲姫は北方棲姫の表情を読み取り、軽巡と駆逐艦の咎を海に流した。
価値観の隔たりもあるだろうが、大切なものの順位をよく知っているとも言えた。
護衛要塞はそのまま待機。姫2体が阿武隈と駆逐艦に導かれ控室に移動する。
ここで初めて北方棲姫が動いた。
動くと言っても視線を動かすだけだったが、その視線の先にとらえたのは龍驤だった。
当然龍驤もそれに気が付き視線を交わす。
龍驤の視線は一度だけ北方棲姫の胸元、抱えている飛行機に移動した。
龍驤「……」
北方棲姫「……」
すれ違ったが互いにかける言葉はなかった。
302 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:53:04.61 ID:uwv4RRxW0
――御召艦――
提督「私もとうとうケッコンカッコカリを決意しまして。そこで大元帥に承認いただきたく、御台覧をお願いしました」
大元帥「あ、そう」
提督「地域住民との交流を兼ねた演劇を執り行います。ゲストとして深海棲艦を招くことができ、新しい一歩を踏み出せると存じます」
大元帥「あ、そう」
提督「……はい」
提督に血縁者は一切なく、仮に親と言えるものがあるとすれば大元帥しか存在しなかった。
ケッコンカッコカリはあくまで艦娘の練度上限解放の手続きでしかないが、どうしても直接報告し認めてもらいたかったのだ。
無理を承知で上申したのはただその一点に尽きる。
比叡「……」
比叡は御召艦として同伴しつつ、提督がひどく緊張していることを気にしていた。
普段通りでよいが、そう簡単には行かない。
何しろ相手が大元帥なのだから。
大元帥は司令の話をよくよく聞いてくれているが、司令は大元帥に話を聞いてもらえているとは思っていないだろう。
比叡「ひえぇええ!」
提督「うおぉ!? どうした急に」
大元帥「どうかしましたか?」
比叡「大元帥! うちの司令をあまりビビらせないでください」
提督「ビビらすって、おい比叡なんと言う口の聞き方だ!」
大元帥「あ、そう。いや、そうかい? すまないね、ちゃんと聞いているんだけども」
比叡「私は分かってますよ? けどうちの司令は分かってないんです」
提督「あれ?」
大元帥「比叡くん、君は相も変わらず素晴らしい戦艦です。昔も今も心からそう思っています」
比叡「はい! 金剛型の次女ですから!」
大元帥「そうですね。本日の演劇とケッコンカッコカリの立会いに関する文(ふみ)が提督から届いたんですけども。いつ以来の文だと思いますか」
比叡「不定期に送ってるんじゃないですか? それこそ季節に1通くらいは」
大元帥「電くんを遣わした時以来です」
比叡「うわぁ。司令なに考えてるんですか」
提督「だって大元帥だぞ? おいそれと手紙なんか送れないだろう」
大元帥「良(なが)ちゃんが、知らせがないのは良い知らせと言ってくれていたから良い物を。まぁ、報告書には目を通していたので状況はわかっていましたが」
大元帥は提督を見据える。
大元帥「親は子の心配をするものです」
提督「あ……」
たった一言だ。もしかするとこの言葉をかけてもらいたかっただけなのかもしれない。
比叡「よかったですね、司令!」
提督「あぁ!」
303 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:54:06.80 ID:uwv4RRxW0
大元帥「カッコカリとはいえ結婚ですから。カロルくんに式の進行を依頼してみたのですが断られてしまいました」
比叡「カロル? えっと、あ!」
提督「比叡、もしかしてだが。やはりそうなのか?」
大元帥「『ヒロ、君は親族として出席したいのだろうけれど。式の進行もしつつ、親として祝えばいいじゃないか。それこそ君の国の君だけの祝福だろう』。はたと気付かされましたよ。友というものは素晴らしいですね。そういうわけでカロルくんからは福音だけ頂戴しましたよ」
比叡「司令、とんでもないことになるところでしたね」
提督「ただでさえ俺の許容量を超えていたが。変な言い方になるけれども危ないところだった」
大元帥「ところで相手は誰ですか。比叡くんかな」
提督「いえ、相手はですね」
比叡「司令、入電です。鎮守府からですね」
提督「すみません、失礼します」
提督は通信を始める。
大元帥「ふむ、そういうことですか」
大元帥。
その判断、その決断には国民の命がかかっている。
慎重さも勇猛さも過不足なく持ち、どちらかにかたよることが許されていない。
そのような立場から、心身の鍛錬に加え、勘までもが鋭く磨きあげられていた。
大元帥「楽しみですね」
304 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:54:40.68 ID:uwv4RRxW0
――観艦式――
雷「漣、素敵じゃない!」
漣「いいっしょ、いいっしょ? ふっふーん。もっと見てもいいよ!」
暁「これで漣も立派なレディーね」
漣「まぁちょっと本気は、凄いでしょ、ね?」
直前の準備で盛り上がる駆逐隊。
すでに那珂は準備を終え、長門と共に静かに待機している。
島風「やっちゃったのは仕方ないよ。後で一緒に謝りに行こうよ」
潮「そうだね、島風ちゃん」
響「潮、胸につける飾りは合ってる? 漣のより小さくないかな」
潮「小さくないよ、同じ大きさですっ」
響「わかってて言った。謝りに行く時は私も一緒に行こう」
潮「うん。まずはしっかり歓迎してきます」
誰からも咎められなかったが、当然自身らの振る舞いを反省している。
まずは精一杯の歓迎を見せよう。
隼鷹「祥鳳さんから見て、ここに来た深海棲艦はどうだった」
祥鳳「驚きの一言です。同じ言葉を使って意思疎通が叶うなんて。入渠してもらっている間に日向さんが合流して盛り上がっていました」
隼鷹「そっか」
祥鳳「他の方たちも同じですよね。なんと言うか余裕を持って、いうなれば敵地に入ってくるなんて」
隼鷹「なんで余裕なんだと思う?」
祥鳳「それは、戦闘をしに来たわけではないからでは?」
隼鷹「あの頭数で私達全部を殲滅する自信があるから」
祥鳳「それ本当ですか」
隼鷹「大きくは外れていないね。不意打ちを仕掛けた阿武隈さんより港湾棲姫の方が早かったんだよ」
祥鳳「何とまぁ。住民の安全は守り切れるでしょうか」
隼鷹「こればかりはなんとも」
那珂「もー、ふたりして何の作戦を立ててるのかな☆ 観艦式の旗艦は那珂ちゃんなんだからね!」
隼鷹「あっと、ごめんごめん。柄にもなく緊張しちゃってさ」
祥鳳「すみません、どうしても不安で」
那珂「大丈夫だよ☆ 王様もお姫様も、那珂ちゃんはファンに対してさいっこうの演技でみーんな魅了しちゃうから! キャハ☆」
祥鳳「那珂さん、流石です」
隼鷹「そうだよな。全員那珂ちゃんのファンなんだから、心配なんてすることなかったよ」
この軽巡洋艦は本当に強い。
練度という裏付けもあるが、それ以上に心に芯が通っていた。
那珂「それに、今日は大事な日なんだから。スマイル〜☆」
いつの間にか近くまで来ていた長門も漣も潮も皆笑顔を見せていた。
隼鷹「スマイル〜」
祥鳳「す、スマイル」
準備は整った。
大元帥到着まであと僅か。
住民はすでに待っている。深海棲艦も特別席で待機済みだ。
いざ観艦式へ。
305 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:55:49.55 ID:uwv4RRxW0
住民たちは老若男女とわず礼服を着用していた。
文字通り一生に一度あるかないかの機会だと理解していたからだ。
緊張がないとは言えない。深海棲艦を間近で見る機会は最近ではほとんどなくなっている。
それが比較対象にならないほど、大元帥に会える機会はない。
皆は静まり返っていた。
比叡が帰投した瞬間から開会されるので、その時を待つ。
大きな期待と若干の混乱が心の中を満たしていた。
那珂「みんなー、おまたせ! 観艦式を始めちゃうよ☆」
艦隊のアイドルが宣言し、住民は大歓声をあげる。
戦艦も空母も駆逐艦も観艦式に全力で臨んでおり、ありていに言えば皆うつくしかった。
那珂は瞬きのリズムすら代えずに周囲を見渡し判断する。
住民は熱くなっている。
比叡は着岸しており、大元帥の視線を感じ取ることができた。始めるタイミングとしては及第点だろう。
少し気がかりなのは深海棲艦だった。
レ級や港湾棲姫は感情を読み取れたが、北方棲姫に対しては同じようにできなかったからだ。
初めて出会った姫であろうと、那珂にとってはファンのひとりだ。
全力で楽しんでもらいたい。
ファンに向かって手を振りながら再度視線を巡らすと、笑っているレ級、嫌そうな顔をした港湾棲姫、無表情な北方棲姫が手を振り返していた。
那珂「キャハ☆ さっそく始めちゃうよ。みんな、聞いてね!」
静寂が訪れ、すぐに曲が流れ始める。
306 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:56:18.77 ID:uwv4RRxW0
那珂『There's a place in your heart and I know that it is love〜♪』
307 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/07/31(日) 22:57:06.65 ID:uwv4RRxW0
邦楽ではなかった。
大元帥をも迎えるこの場で、この国のものではない歌が流れた。
那珂の表情に一片の曇りもない。
ただ、いつもの弾けんばかりの笑顔ではなく、慈愛に満ちた笑顔だった。
この時、世界は那珂の愛に包まれていた。
余裕を見せていたレ級が笑みを消し、眉を寄せ歌に聞き入ってしまう。
そして、北方棲姫でさえも眼を閉じ、耳を澄まして聞き入っていた。
那珂『〜You and for me♪』
曲が終わり、観艦式のメンバーは一礼する。
歓声は上がらず、ファンは余韻に浸ったままだったからだ。
北方棲姫が静寂を破り拍手を始める。
我に返ったファンはそれに続き、やがて大喝采となった。
那珂「応援ありがと〜☆」
観艦式での旗艦という大役を果たす。
深海棲艦に心は伝わった。
それを目の当たりにした住民も深海棲艦に対する感情が少し変わったかもしれない。
アイドルの本領は発揮した。
後は劇の成功を信じるだけだった。
308 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/08/13(土) 18:00:54.03 ID:r/A+UUIU0
――劇前――
鳳翔「準備はできましたか」
龍驤「いつでも行けるで」
鳳翔「大事な催しですからね。何か言いたいことがあるでしょう」
龍驤「いや、別にないな」
鳳翔「本当ですか。龍驤、大切なことは口に出して言葉にしないと絶対に伝わりませんよ」
龍驤「ほんまに大丈夫や……いや、そうでもないな。鳳翔にはかなわんなぁ。うん、この劇が終わったら提督にちゃんと言うよ。それで良いでしょう」
鳳翔「はい、是非とも」
結局の所、鳳翔自身も理解できていなかった。
大切なことを言葉にする。
提督の意中の相手について、龍驤が勘違いしているであろう事を知っていたにも関わらずはっきりと訂正せずに濁した。
本人の口から伝えることが最高に素敵だと信じていたからだったし、今日を迎えるまではそれでよかった。
その時が来れば龍驤の勘違いも解け、大団円で終わるはずだった。
龍驤はゲストの北方棲姫に出会ってしまった。
その姫は飛行機を抱えていた。
龍驤はそれを見てしまった。
提督「劇を始めてもらう、そろそろ舞台に集まってくれ」
鳳翔「はい。行きましょう」
龍驤「うん」
提督「龍驤」
龍驤「なぁに?」
提督「頼んだぞ」
龍驤「任せとき。最高の龍驤さんを見せたるで。あと、劇が終わったら話したいことがあるから時間ちょうだい」
提督「うん? あぁ、もちろんだ」
龍驤「じゃあね、行ってきます」
309 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/08/13(土) 18:08:37.42 ID:r/A+UUIU0
――特別席――
観艦式は無事に終え、住民は国旗を掲揚しながら大元帥を迎える。
大元帥の姿を見るのは初めてだが、国を背負う者の格が滲み出ていた。
それに加えて、猫背姿はどこか愛嬌を感じさせるものだった。
劇が開始されるまでほんの少し間が空く。
レ級「ねぇ、ちょびひげ」
大元帥「はい、なんでしょうか」
レ級「こんなことを聞くのもあれだけど。こんな距離にいていいのかしら、私は仮にも深海棲艦なんだけど」
大元帥「貴女方が深海棲艦であることと貴女方が貴賓であることは何の矛盾もありません。迎賓は私の役目でしょう」
レ級「ふぅん」
提督「準備が整いました。まもなく開演です」
大元帥「劇、楽しみですね」
レ級「まぁ、そうね」
レ級が視線を流すと、すぐそばでは港湾棲姫が舞台を睨みつけていた。
港湾世紀は観艦式で歌っていた軽巡から鉢巻と白と赤のサイリウムを渡されていた。
舞台の役者を応援する時に必ず使うものだと艦隊のアイドルが言っていたのだ、北方棲姫を応援するためにいそいそと身につけた。
それらを身につけた彼女は非常に愉快な容姿になる。
要塞の谷間に溢れんばかりのサイリウムが挟み込んであったからだった。
彼女にとって大切なのは北方棲姫であり、自身の見た目も鎮守府も大元帥もどうでも良かった。
レ級「ふぅ」
特に警戒することもないと判断したレ級はおとなしく演劇を鑑賞することにした。
310 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/08/13(土) 18:19:30.39 ID:r/A+UUIU0
――劇本番――
第六艦隊扮する調査隊から龍驤が抜け、翔鶴瑞鶴と合流する。
目標は深海棲艦の中枢たる姫が生まれる前に駆逐すること。
道中のホ級(仮)やリ級(仮)を翔鶴と瑞鶴で撃退しつつ進撃する。
観客は観艦式で本物の深海棲艦を見ていたため、仮初の役者さえも本物に見えていた。
龍驤「『やっこさんはウチらを煙に巻けんことに焦っとるみたいやな』」
対空電探を使った索敵は超高練度艦娘によっては半径500kmの範囲を網羅できるという。
龍驤さん、電探の索敵範囲はどのくらいなのかしら』」
龍驤「『天候やウチの精神状態によるけど、基本は350km前後やな』」
消耗の激しい電探を長時間に渡り起動させつつ行動をする。
これ自体は演技だが、常日頃から哨戒線内側の状況を把握しているのだ。
主缶を温めておくように、当然の如く警戒をしつづける。
瑞鶴「『これが秘書艦級の艦娘……』」
翔鶴「『えぇ、北上さんや日向師匠と比べても異質だわ』」
一同は北方棲姫が現れる予定の方角を確認する。
龍驤「んなアホな……総員撤退!」
瑞鶴「ちょっと、どうしたのよ」
龍驤「何しとんの! 最大戦速で撤退や!」
突然目の前に艦載機が現れた。
索敵範囲外から到達するまでの時間が短すぎた上に、非常に雑な艦載機運用だった。
台本では龍驤のみを狙うはずが、その対象に翔鶴、瑞鶴まで入っていた。
姫級の深海棲艦が戦闘を仕掛けているように見えた。
龍驤はそれが間違えだと理解していた。
北方棲姫は演技用に加減している、加減した上でこれだけの速さだった。
鶴姉妹を狙ったかのように見える艦載機でさえ、本来の狙いが逸れただけだ。
最悪なのはそれらが十分な攻撃力を保持していることだった。
311 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/08/13(土) 18:20:50.69 ID:r/A+UUIU0
龍驤「舐めんな!」
312 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/08/13(土) 18:22:11.80 ID:r/A+UUIU0
14号対空電探
12.7cm連装高角砲+94式高射装置
313 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/08/13(土) 18:23:31.94 ID:r/A+UUIU0
鶴姉妹に向かった艦載機を吹き飛ばす。
代わりに無防備な状態で龍驤が被弾した。
龍驤「うぐっ」
翔鶴であれば中破、瑞鶴であっても小破は避けられない攻撃だった。
その攻撃を前に、龍驤の艦橋は圧壊。
いや、その独特のシルエットに変化はなかった。
身代わりになったのは94式高射装置であり、引き換えに対空防御力が大幅に低下してしまった。
瑞鶴「うあぁああ!!」
瑞鶴は斜方打起しの速射で弓を引き絞った。
龍驤「アホ!」
翔鶴が瑞鶴に直接魚雷を打ち込み意識を刈り取った。
龍驤「ええ判断や、翔鶴。そのまま瑞鶴を連れてって」
翔鶴は振り返ることなく瑞鶴を曳航していく。
台本通りに進んでいるが、演技ではなかった。
龍驤は演技ではなく本来の使い方で羅針盤を回す。
羅針盤娘「いい目出しなよ、本当に」
妖精謹製最大の発明、羅針盤。
艤装と対で使うことでその効力を発揮する。
その効力は『突然の轟沈』を回避することだ。
妖精の加護を得ているという条件は必要だが、羅針盤の発明以降、艦娘の生存率が飛躍的に向上した。
仮に羅針盤が指し示さない方角へ進んでしまった場合、戦闘の有無に関わらず轟沈発生の危険を孕むことになる。
羅針盤が指し示す方角は常に最高ではないが、指し示さない方角は確実に最低だった。
艦娘が戦闘に向かう前には必ず回すよう定められている。
今回羅針盤妖精が示した方角は北方棲姫の真反対、鶴姉妹が撤退した先だった。
龍驤「提督が立てた作戦目標は劇の成功やからな」
羅針盤を無視して北方棲姫に向かう。
龍驤にとって最優先はいつも同じだった。
いつも、いつも。
大切なものは昔からずっと同じだった。
314 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/09/10(土) 17:02:33.10 ID:ZENM51iK0
――特別席――
レ級「姫ちゃん手加減できてないわね。ねぇ、司令官さん。今からでも中止したらどうかしら?」
提督「何を言っている。俺の艦娘も北方棲姫も完璧な演技ではないか」
レ級「状況がわかっていないわけじゃないでしょう? 2人は姫ちゃんの艦載機に反応すらできていなかったわ」
提督「脚本通りだ」
レ級「旗艦の空母は戦闘に突入してるのよ? あれは演技なんかじゃない。沈んだらどうするつもりなの」
提督「だから何を言っている。北方棲姫も見事な演技ではないか。それに龍驤は沈んでも帰ってくると言っている。お前は何を心配しているんだ」
レ級「それ、ありえないから。ちょびひげも何か言ってあげたらどうなの。あなた上官なんでしょう」
大元帥「上官ですが指揮において命令は出せないですね。それが我が国の決まり事です。この鎮守府の指揮は彼に一任していますので」
レ級「だったらあなたは何のために存在しているのかしら」
大元帥「責任を取るためです。直接の指揮はしなくとも、それを承認したのは間違いなく私ですので」
レ級「だったら……」
提督「レ級よ、お前はさっきから何が言いたいんだ。総合的に見て、俺の持っている戦力ではお前達を殲滅することは不可能だ。北方棲姫の無事は保証されている」
レ級「……えぇ、そのとおりね」
レ級はこれ以上の訴えを諦めた。
彼女にとって、短い時間ではあったがこの鎮守府の居心地は悪くなかった。
もともと話が通じる相手ではなかったと諦める。
ずっと昔からそうだったのだ。
今回こそ変わるかもしれない。
それは今回も変わることはなかった。
それだけのことだった。
315 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/09/11(日) 20:11:54.81 ID:RYM33eIj0
――特別席――
レ級「姫ちゃん手加減できてないわね。ねぇ、司令官さん。今からでも中止したらどうかしら?」
提督「何を言っている。俺の艦娘も北方棲姫も完璧な演技ではないか」
レ級「状況がわかっていないわけじゃないでしょう? 2人は姫ちゃんの艦載機に反応すらできていなかったわ」
提督「脚本通りだ」
レ級「旗艦の空母は戦闘に突入してるのよ? あれは演技なんかじゃない。沈んだらどうするつもりなの」
提督「だから何を言っている。北方棲姫も見事な演技ではないか。それに龍驤は沈んでも帰ってくると言っている。お前は何を心配しているんだ」
レ級「それ、ありえないから。ちょびひげも何か言ってあげたらどうなの。あなた上官なんでしょう」
大元帥「上官ですが指揮において命令は出せないですね。それが我が国の決まり事です。この鎮守府の指揮は彼に一任していますので」
レ級「だったらあなたは何のために存在しているのかしら」
大元帥「責任を取るためです。直接の指揮はしなくとも、それを承認したのは間違いなく私ですので」
レ級「だったら……」
提督「レ級よ、お前はさっきから何が言いたいんだ。総合的に見て、俺の持っている戦力ではお前達を殲滅することは不可能だ。北方棲姫の無事は保証されている」
レ級「……えぇ、そのとおりね」
レ級はこれ以上の訴えを諦めた。
彼女にとって、短い時間ではあったがこの鎮守府の居心地は悪くなかった。
もともと話が通じる相手ではなかったと諦める。
ずっと昔からそうだったのだ。
今回こそ変わるかもしれない。
それは今回も変わることはなかった。
それだけのことだった。
316 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/10/11(火) 11:46:37.07 ID:STL9Rhx90
test
317 :
◆zqJl2dhSHw
[Sage saga]:2016/10/26(水) 20:56:52.47 ID:tGGViKsk0
ーー北方棲姫ーー
北方棲姫は演じながらも龍驤を見て確信した。
自分の一番のお気に入り、一番格好いい素敵な飛行機は間違いなく彼女のものだったと。
北方棲姫は何時も何時も不思議に思っていた。
自分が持っている飛行機はどれもこれも丸くてカワイイ。
そんな中でたったひとつ、キラキラして格好いい飛行機があった。
自意識を得た瞬間から大切に抱えていた飛行機だが、自分のものというよりは誰かから貰ったものだとわかっていた。
誰から貰ったものだろうか、そんな疑問を抱えて生きていた。
そしていつか必ず、飛行機をくれたことに対してお礼を言いたかった。
これだけ格好いい飛行機だ。持ち主も当然格好いいに決まっている。
左手に抱えた水上爆撃機を見ながら考える。
日向と名乗った航空戦艦は本当に格好良かった。
あれだけ脆弱な艦体にもかかわらず、なんとレ級と真っ向から競い合ったのだ。
そして龍驤と呼ばれた正規空母。
あの小さな艦は随伴艦2盃を庇った上に、ほぼ無傷で爆撃を回避した。
随伴艦は飛行機に反応すらできていなかったにも関わらずだ。
間違いなく龍驤こそ探していた艦だった。
お礼を言おう、この時のために言葉も覚えた。
そして、もう1つ飛行機をくださいとお願いをしよう。
北方棲姫は劇の終了を待つことができなかった。
318 :
◆zqJl2dhSHw
[Sage saga]:2016/10/26(水) 20:58:44.42 ID:tGGViKsk0
ーー龍驤ーー
龍驤はあまり運が良い方ではないが、今回は運が良かった。
北方棲姫の開幕爆撃は多大な脅威だったが、それ以降は比較的穏やかな攻撃で済んだ。
龍驤が全身全霊をもって対応することで劇は辛うじて進行している。
一瞬たりとも気が抜けない、一手しくじれば劇が破綻してしまう。
想像通り姫級の戦力は桁違いだった。
さらに、姫が抱えていた飛行機を見て動揺したことも事実だった。
それでも、提督の期待に応えるために奮闘する。
龍驤は一番大切な者のために一生懸命だった。
深海棲艦と艦娘が共同で劇を演じられたなら、戦闘とは別の方向から平和が実現できるかもしれない。
それを大元帥の眼前で実現できるかもしれないのだ。
龍驤は提督を誇りに思う。
自分自身がどうなろうと、この劇は必ず成功させてみせよう。
龍驤と北方棲姫との戦闘が終盤に差し掛かったとき、初めて北方棲姫が口を開いた。
ここに彼女の台詞は用意されていないので訝しんだが、龍驤は耳を傾ける。
319 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/10/26(水) 21:00:15.83 ID:tGGViKsk0
北方棲姫「……ゼロヨコセ」
320 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:21:44.63 ID:il2bUEwd0
――北方棲姫――
とうとう龍驤にお願いをすることができた。
お礼は上手に発声できなかったがきっと伝わっただろう。
劇での役はそろそろ完了だ。
龍驤に爆撃を加え、戦闘不能にした上で回収する。
そして与えられた台詞を述べるだけだった。
丸くてカワイイ爆撃機が龍驤に向かって爆弾を投下する。
321 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:23:46.41 ID:il2bUEwd0
龍驤「……八(はち)」
322 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:24:17.94 ID:il2bUEwd0
北方棲姫「?」
完璧なタイミングで投下した爆弾は、なぜか龍驤に命中しなかった。
とはいえ、北方棲姫はあわてずさわがず次を発進させる。
323 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:27:14.26 ID:il2bUEwd0
――レ級――
レ級「どういうことなの。あの爆弾は確実に命中したわよ」
提督「あれか? あれは八卦に従って吉凶を見たんだ。北方棲姫の凶方に龍驤の吉方を重ねたな」
レ級「意味が分からないわ。そんなものがあるの?」
提督「目の前にあるだろう。うむ、龍驤の真剣さが伝わってよいではないか」
レ級「あの空母、次は四って言ったわよ。何を数えているのよ」
提督「四か? それは四象を唱えているようだ。季節の流れというか、時の流れだな。見ろ、まるで彼女たちだけが別の世界にいるようだろう」
提督が解答を終える前に、レ級は龍驤へ砲撃を開始した。
大人しく劇を眺めているのはここまでだった。
あの空母は今まで出会ったどの艦娘よりも危険だった。
カウント。3、2、1、弾着……ならず。
それどころかこちらを見るそぶりすらない。
レ級「いったい何が起きているっていうの」
提督「レ級よ、俺が書いた脚本に不満があったとしてもだ。舞台に向けての砲撃はさすがに自由すぎるだろう。泣くぞ?」
レ級「そんなことは聞いていない。あの砲弾も確実に命中していた。それにも関わらず、まるで何もなかったかのように消失したのよ」
提督「おぉ、二を数えたか。あれは両儀だな。陰と陽で世界を満たす、北方棲姫と龍驤で一つの世界を作っているわけだ。こちらとあちらを隔てる結界ができているだろう。お前たちの障壁と似たようなものだと思っておけ」
324 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:28:56.52 ID:il2bUEwd0
レ級「キャハハハ、それって艦娘の限界を超えているから。ちょっと姉姫様、もう劇は中止にするわよ。……姉姫様?」
港湾棲姫「……」
いつのまにか港湾棲姫は北方棲姫とは別の方角を睨み付けていた。
その先では3盃の空母がこちらを睨み付けている。
レ級が気が付くより先に港湾棲姫は戦闘を仕掛けようとしていたが、それは3盃の空母により妨げられていた。
提督「見事としか言えないな。俺の自慢の空母を3人同時に相手どるとは」
レ級「それはこちらの台詞よ。わずか3人だけで拮抗できるなんて」
飛行機を操る者同士の激しい攻防。
後の先では遅すぎる、先の先ですらまだ遅い。
彼女達は互いの一挙手一投足から情報を読み合っている。
制空権の奪い合うための対空値計算を何度も何度も繰り返していた。
戦闘機を単純に増やせば爆装および雷装を減らさざるを得ない。
攻撃手段の減少は第2次、第3次攻撃を許すことになる。
さらに減らし過ぎれば、爆撃機と攻撃機が全滅させられることもあり得る。
この睨み合いの間に、発進準備完了と中止そして再演算が幾度となく繰り返されていた。
レ級「あなたの空母もほどほどにしておきなさいね。姉姫様を相手にして過負荷で廃棄処分なんて嬉しくもなんともないでしょう」
提督「どこへ行く?」
325 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:30:29.32 ID:il2bUEwd0
レ級「姫ちゃんの所よ。対峙している空母を沈めてくる。他の艦娘には手を出さないし、住民にも手を出さない。これで手打ちにしましょう」
提督「それは困る。劇が中断してしまうではないか」
レ級「これでもまだ劇だと言いはるの? まぁ、あなたの指示ではないでしょうしね。あの空母の独断はあの空母に責任を取ってもらいましょう。……何かしら、鳳翔」
鳳翔「行かせるとお思いですか」
レ級「止めるつもりなの? やめておきなさい」
鳳翔「やってみないとわからないでしょう。あなたは私のことを何も知らないのですから」
レ級「逆よ。あなたは驚くほど自分自身を錬り上げている。そんなあなたが彼我の差を読み取れないはずがない」
鳳翔は眉をひそめた。
レ級には逆立ちをしても勝てないことは明白だった。
鳳翔「あなた達が出向いてくださった理由はわかっています。北方棲姫が艦戦を欲しがったのからでしょう」
レ級「まぁ、そうね」
鳳翔「この劇は必ず無事に終わります。その時に艦戦も差し上げます。ですからどうか最後まで続けさせてください」
レ級「あなたも話を聞かないのね。いいわ。ちょっと面倒だけれど、過不足なく完璧な大破にしてあげる。あの空母はその後でいいわ」
鳳翔「感謝します」
鳳翔が袂から式符を取り出して柏手を二つ打つと、レ級と共に姿を消した。
提督「あぁ! これからが龍驤と北方棲姫の見せ場だというのに」
大元帥「君は焦らないんだね」
提督「もちろんです。私は彼女たちを、龍驤を信じております。必ずこの演劇は成し遂げられます」
大元帥「そうかい。おや、龍驤君は一を数え終わったようですね」
326 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:33:01.60 ID:il2bUEwd0
――龍驤――
龍驤「……一(いち)」
両儀を内包する大元を数え終わった。
龍驤は現界して初めて、我を忘れるほどの怒りに身を包んでいた。
北方棲姫の一言は決して許せるものではない。
一番大切なものは提督で間違いないが、唯一、秤に乗せられるものがあった。
それは皇国の空母として戦い抜いたという誇りだ。
龍驤が誇っているものは「龍驤」という艦ではなく、搭乗員。
特に、飛行部隊の面々だ。
鬼さえ後ずさりすると言われた訓練を乗り越えた者たち。
その優秀さゆえに主力部隊への異動も多く、龍驤にはいつも新米が乗っていた。
327 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:33:57.22 ID:il2bUEwd0
そして忘れもしない北方海域。
ある者は敵を撃墜し、ある者は敵に撃墜される。
誰もが懸命に闘っていた。
ある者は、継戦が困難になり島に不時着することになった。
その島でゼロ戦は奪われた。
後の歴史はゼロ戦を解析されたことが敗戦の要因だと語った。
さらにゼロ戦を島に不時着させた搭乗員についても。
そんな馬鹿な話はない。
龍驤は敵国ではなく自国によってこの評価を下されたことで、大切な搭乗員を辱められた怒りを抱えていた。
行き場のない怒りはねじれていく。
そうだ、ゼロ戦を鹵獲した者がいるはずだ。
そいつが鹵獲さえしなければこのようなことにならなかった。
龍驤「……すうぅ」
大きく息を吸う。
今なら引き返せる。
龍驤が目線をあげると、そこには航空基地に回収されてしまったゼロ戦の姿があった。
許せない。
328 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:35:38.59 ID:il2bUEwd0
龍驤「零!!」
329 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:37:08.91 ID:il2bUEwd0
大元はやがて零に収束する。
龍驤は最後のカウントを宣言してしまった。
龍驤「外法、英霊召喚」
龍驤は自分自身を触媒に「龍驤型空母一番艦龍驤」を召喚する。
同様に、妖精を触媒にして神座から正真正銘の英霊を召喚した。
北方棲姫「!?」
極めつけは北方棲姫の腕にあったゼロを触媒にしてゼロを呼び出したことだろう。
当然、その艦戦には彼が搭乗する。
新米員「自分の仇を自分で討つことになるとはな。それに貴様が龍驤か。ははは、なんと美しい娘だ!」
龍驤「悪いけどウチのワガママに付き合ってもらうで。20機の艦攻を18機の艦戦で援護」
「「了解」」
龍驤「艦戦は古賀を中心に展開や。さぁ、仕切るで! 艦載機のみんな! 目標、北方棲姫や」
「「おぉおおおぉお!!」」
概念艤装の最奥、自分自身を運用する。
英霊たちとの連携も空母龍驤との連携も完璧にできている。
龍驤自身、かの英霊たちの思いの結晶だからだ。
330 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:38:45.96 ID:il2bUEwd0
ある者は、母を。
ある者は、妻を。
ある者は、許嫁を。
ある者は、恋人を。
ある者は、姉妹(きょうだい)を。
ある者は、娘を。
誰もが命を懸けて護ろうとし、自身の艦にその姿を重ねていた。
そんな風に生まれた艦娘だ。彼女たちは例外なく美しく、そして強い。
あの時以上に完璧な戦闘ができるだろう。
331 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/11/11(金) 11:39:16.12 ID:il2bUEwd0
――北方棲姫――
北方棲姫「!?」
ここで生まれて初めて焦燥感を得た。
日向の時とは真逆だった、気づかないうちに大切な物が奪われた。
理不尽に奪われた。
ユルセナイ。
北方棲姫「■■■■■■」
怒りに身を任せ、北方棲姫は島一つを展開した。
332 :
◆zqJl2dhSHw
[sage sage]:2016/12/12(月) 18:04:26.03 ID:628B73iD0
Test
333 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 12:57:46.71 ID:cNACaCuX0
――鳳翔――
鳳翔「ここなら邪魔は入りません」
レ級「ほんとうにここの空母は器用だわ」
レ級は呆れ顔で感想をもらして、即座に艦載機を発艦させる。
弓を使う空母は予備動作として矢を番え、式を使う空母は符を構える。
レ級はそのどれとも異なる。
やると決めた瞬間、発艦した状態で艦載機を展開することができる。
鳳翔「幾つか手を予想しましたが、それは悪手ではないですか」
レ級が発艦させると決め実際に発動するまでの間に、鳳翔は二式艦上偵察機を展開していた。
レ級「……」
戦闘力は皆無、しかし無視できない状況になっていた。
レ級は船渠での会話を思い出す。
334 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 12:58:28.10 ID:cNACaCuX0
日向『鳳翔と交戦するなら時間の流れを気を付けろ』
日向『開幕から発艦までの流れが非常に滑らかだからな、それを読み取るのは至難の業だ』
日向『私と同じくらいかだと? 馬鹿を言え、航空戦力を操れるとはいえ私は戦艦。奴は先の大戦すら乗り越えた生粋の空母だ。比較にすらならないな』
日向『話を戻すが、一番やっかいになるのはやはり「百式艦載機」だろう』
日向『死に際の集中力というのか? 鳳翔と対峙した側が時間の圧縮を感じさせられるから、気のせいなどではかたつけられない』
日向『注意しろとは言わない、ただ覚悟をするといい』
日向『鳳翔は強いぞ』
335 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 12:58:58.78 ID:cNACaCuX0
レ級「ふぅ」
鳳翔「なぜ構えを解くのですか」
レ級「戦闘は無駄よ。さっきは大破させてあげると言ったけども、それもやめておくわ」
鳳翔「はいそうですか、と言うわけがないでしょう」
レ級「なら話し合いよ。あの空母の首だけで……」
鳳翔「九七式艦攻!」
魚雷が無防備なレ級に直撃した。
レ級「話し合いよ」
鳳翔「装甲を抜くことはできませんか」
レ級「なぜそこまで負け戦に挑みたいのかしら。住民の安全確保、あなたの上司の前で演劇の成功。空母ひとつと引き換えなら十分な成果でしょう」
336 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 12:59:43.81 ID:cNACaCuX0
鳳翔「龍驤は、あの娘は私の妹です」
レ級「そう、引けないのね」
鳳翔「三式指揮連絡機!」
今度はレ級が不意うった特殊潜航艇の展開を潰された。
一度だけでなく二度も後の先を取られてしまい、とうとう戦艦の本能に灯がともる。
レ級「どうして、どうして! やるわね、本当にやるわね! いいわ、完璧な大破にしてあげる! だから……」
レ級「簡単に沈まないでね!」
歯をむき出しにして高らかに笑っていた。
鳳翔「笑いますか」
鳳翔はいつか来る日のために備えておいたとっておきさえここで使い切る覚悟を決めた。
337 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 13:00:26.54 ID:cNACaCuX0
――レ級――
レ級「すごいわ、鳳翔!」
レ級よりも鳳翔の方が早く、レ級の攻撃はことごとく潰されていた。
それに対してレ級が決めた作戦はいたって単純だ。
攻め続けること。
鳳翔が早く攻撃しようともレ級の装甲を抜くことができないのであれば大きな問題はない。
攻撃手段を組み合わせて対処し続けてもいつかは矢が尽きることは明白。
レ級は鳳翔が見せた攻撃手段では対応できない角度からの攻撃を続けた。
338 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 13:01:09.26 ID:cNACaCuX0
そしてついに。
鳳翔「弽が……」
レ級「それがなければもう弦は引けないわね」
鳳翔「舐めないでください!」
素手で取り掛け引き絞る。
レ級「その身を削ってまで戦う意志、見事だわ」
レ級は艦載機、特殊潜航艇、砲撃と持てる攻撃手段を全て展開する。
艦娘ではとうてい制御しきれない物量だった。
鳳翔「百式艦載機、九九式艦爆!」
99柱にも及ぶ英霊を式神として使役する。
鳳翔最大の戦力だった。
膨大な数と数のぶつかり合い、互いの技量と相まって戦闘の枠すら超えた時間が流れた。
339 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 13:02:05.53 ID:cNACaCuX0
――百式の零――
レ級「よくやったわ、鳳翔」
鳳翔「……くぅ」
弽なしで引いた勝手は大破、最後の交戦で弓は弓の体をなしていない。
レ級「あなたはやりきった。胸を張って凱旋できるわ。さあ、ここから戻りましょう」
鳳翔「弓がなければ闘えないとでも?」
発艦は弓を引くに非ず。
その心が正しい節度を持つことこそ八節である。
340 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 13:03:11.57 ID:cNACaCuX0
レ級「……っが」
霧散したかに見えた英霊たちを取り込み、消費する。
その圧倒的な熱量をもって、鳳翔はレ級に徒手空拳を叩きこむ。
爆撃の嵐を上回る打撃をレ級に叩き込み辺りは煙幕の様相となった。
召喚した英霊すらすりつぶす、外道の業。
牙を持たない皇国民を守るためであれば、外道と呼ばれても構わない。
鳳翔はとっくの昔に覚悟完了していた。
これが百式艦載機の零、零式防衛術だ。
341 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2016/12/19(月) 13:03:41.17 ID:cNACaCuX0
鳳翔「まさか零さえも……」
煙が晴れ、五体満足なレ級が現れた。
鳳翔は業の反動で轟沈寸前だった。
鳳翔「覚悟が足りなかったのでしょうか」
レ級「最強種である私と最小の空母であるあなた。もって生まれたものが違い過ぎたのよ」
鳳翔「そう……ですか」
レ級「安心なさい、鳳翔。あなたは始めから礼儀をわきまえていた。力を持たない口だけの艦娘でもなかった。あの空母の処遇は姉姫様にかけあってあげる。あなたの孤独な戦いは無駄ではなかったわ」
鳳翔「ふふ」
レ級「よかったわね」
鳳翔「いえ、そうではなく。あなたは私と交戦した瞬間にもうすでに詰んでいたのですから」
レ級「?」
鳳翔が倒れこむと同時に辺りは閃光に包まれた。
342 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/17(火) 12:40:18.78 ID:0R/1X8WH0
――引き分け――
ほんのわずかな時間だがレ級は眼を閉じていた。
呼びかけに応じて再び眼を開ける。
男「おい、姉ちゃん。ずいぶんと強いんだな」
レ級「あら? 何のことかしら?」
男「さっきの喧嘩のことだよ。突然吹っかけられてて心配したけどよ、見事に撃退じゃねぇか。大したもんだねぇ」
はっきりと思い出せないがどうやらレ級は喧嘩を仕掛けられて追い払ったらしい。
なぜか自分のことにも関わらず曖昧だった。
レ級「そうね。最強というのは目立つから」
男「それにしてもあんた別嬪さんだねぇ。肌もずいぶん白いし、異人さんかい?」
レ級「面白いことを言うわね。異人、か。なかなかいい表現かもしれないわ」
男「どうだい? 帰ったら俺っちの嫁にならないかい? 食うのには困らせないよ」
女「やめときなさいな。あんたじゃ役者不足もはなはだしいわ」
男「なんてことを言うんだい。おや、あんたもずいぶん別嬪さんだねぇ」
女「あらそう? 悪い気はしないわね」
343 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/17(火) 12:40:46.91 ID:0R/1X8WH0
レ級は改めて周囲を見渡した。
どうやらやつれてぼろをまとった人間がたくさんいるようだった。
疲れ切った表情は実際に疲れているからだろう。
それでも彼らの目は輝いていた。
彼らに何があって、これから何があるのだろうか。
ぼんやりと考えていたレ級は再び呼びかけられた。
女「あのぉ、お姉さん。私たち結婚することになりました」
レ級「キャハハ、おめでとう。決断が早いのはいいことよ」
男「それでよう、あんたに頼みがあるんだが。俺っちの会社で働かないか? これからは人手が必要だし、あんたみたいな強い別嬪さんがいれば男でも集まると思うんだよ」
女「女の人に頼りっぱなしじゃないのよ」
男「馬鹿女郎! 一億総玉砕が崩れ去ったんだ。次は一億総生産の時代だよ、男も女も関係ないねぇ」
レ級「いいわね、とてもいいわ」
男「おっ? 働いてくれるかい? 悪いようにはしないよ」
レ級「いえ、私に何かを創ることはできないわ。けど、あなた達のことは護ってあげる」
女「じゃあどうするの?」
レ級「私は海軍で戦いましょう。ありとあらゆる敵から護ってあげる」
男「それはいいな。別嬪さん頼りにしているぜ!」
レ級「えぇ。もっーと私に頼っていいのよ?」
レ級の口からは至極当然のようにこの言葉が発せられた。
女「早く着かないかしらね」
344 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/17(火) 12:41:26.50 ID:0R/1X8WH0
レ級「ところであなた達はどこに向かっているのかしら?」
男「面白いことを言うねぇ。戦争が終わって、これから国に帰るところじゃねぇか」
女「そうよ。お船にのって帰っているところじゃない」
レ級「そうだったのね、そんな気もしてきたわ。これはなんと言うなの艦かしら」
男「彼女は復員輸送艦」
女「鳳翔です」
レ級「そう、いい名前ね」
戦術は遷移していく。
戦艦による艦隊決戦。
空母による航空戦。
鳳翔「そして情報戦に至るのです。あなたの魂の輝きにつけ込ませて頂きました」
茫然自失しているレ級と無様に這いつくばったままの鳳翔。
鳳翔「このような出会いでなければ、あなたとは間違いなく……言うのはやめましょう」
気を失うまではこのままレ級を制すことができる。
その後は完全無防備になってしまうが時間稼ぎは十分だろう。
鳳翔は自身の意志を押し通すことができた。
345 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 19:59:46.59 ID:ePqt4+4U0
――完全敗北――
艦攻員「先に往きます!」
艦戦員「先に往きます!」
「龍驤」を召喚して「英霊」を召喚してもなお、北方棲姫の堅牢な護りを突破することはできなかった。
北方棲姫が島を一つ展開し、その防御機構は中心に近づくほどに密になっている。
島の外周部に損害を与えたとしても、姫級特有の保有資源により修復が繰り返されてしまう。
針山のような地上砲火は次々と艦載機に突き刺さっていた。
古賀の零戦も例外ではなく、潤滑油系統を打ち抜かれ機体から油が漏れだしていた。
この状態になっても、いまだ撃墜には至らず。
北方棲姫の意識はさらに集中する。
あのゼロを取り返すために。
346 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 20:00:26.13 ID:ePqt4+4U0
龍驤「……」
北方棲姫の性能であればさらに撃墜されても不思議ではなかった。
龍驤の優位性は北方棲姫の狙いを把握していることだった。
必要以上に古賀の零戦に固執しているため、攻撃が単調になっている。
龍驤は古賀を囮にして、英霊たちを犠牲にしてようやく辿り着いた。
多くの英霊が送還されてしまったため、「龍驤」の維持は限界に近かい。
龍驤自身も外法を適応し続けた結果、姿は白く色褪せその眼からは金色の光が漏れていた。
新米員「ここまでか」
とうとう古賀の零戦はエンジンを停止した。
347 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 20:01:26.01 ID:ePqt4+4U0
北方棲姫は破顔して、両手を広げて迎える姿勢になる。
そして龍驤は北方棲姫の意識の隙間を捉えた。
艦攻の数も質もタイミングも、北方棲姫を屠るには十分すぎた。
龍驤「ぃやったぁー!! やったでぇ! うち大活躍や! 褒めて褒め……」
完全に意識を取り戻す。
龍驤が受けた命令は何だったか。
龍驤が守るべきものは何だったか。
龍驤は誰に褒めてほしかったのか。
348 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 20:02:13.64 ID:ePqt4+4U0
北方棲姫「アァアア!!」
龍驤の艦攻隊は魚雷を投下しなかった。
代わりに北方棲姫の地上砲火に全滅させられる。
龍驤が召喚した英霊は残り1柱、もう「龍驤」を維持することはできない。
龍驤も光を捉えられず、音が擦れてきた。
北方棲姫「アハ!」
再び両手を広げ、龍驤最後の艦載機を迎え入れる準備を整えた。
磨き上げられた滑走路だ、湿地などとは比べものにならない着陸心地を保障しよう。
349 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 20:02:50.18 ID:ePqt4+4U0
新米員「ははは、敵に情報をもらすわけには行かないからな」
古賀は沈みゆく龍驤へ着艦した。
龍驤「ごめんな、古賀。またキミにしんどい思いをさせたわ」
新米員「何を言うか。自分はこうして龍驤に戻ることができた。恨み辛みがあるわけなかろう」
龍驤「そう言ってくれんのはありがたいわ」
新米員「ただな、今の貴様は女としての幸せも享受できるはずだった。それだけが無念だな」
龍驤「そうかぁ」
新米員「それでは先に往く!」
古賀は光となって送還された。
龍驤は何も見えず聞こえない。
350 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 20:05:10.15 ID:ePqt4+4U0
「提督、もう一目会ってから、ウチ壊れたかったよ……」
351 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/01/24(火) 20:07:14.23 ID:ePqt4+4U0
龍驤:轟沈
352 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:45:45.67 ID:GgwBG6yP0
――港湾棲姫――
港湾棲姫「オ前ハ一体何ヲシタカッタンダ?」
提督「こっちを見ないで北方棲姫を見てやれ。何でお前たちは劇を見ようとしないんだ」
港湾棲姫「阿呆カ? オ前ノ艦娘ガ沈ンダンダ。何ヲ呑気シテイル」
提督「阿呆はお前たちだ。龍驤は一部も隙もなく劇を遂行している。当然、北方棲姫もだ。その素晴らしい劇を何故見ようとしない」
港湾棲姫「呆レテ物モ言エナイ。艦娘ハ沈ンダラ終ワリダ。アレ程高練度ノ戦力ヲ失ッテマデ劇ヲシタイノカ」
提督「失うだと? 龍驤は轟沈しようとも必ず俺の元へ戻ってくるといった。あいつは決してできないことを口にしない。俺は龍驤を信じている」
港湾棲姫「艦娘ニソレハ有リ得ナイ。奴モ憐レダナ。オ前ノ様ナ無能ノ所為デ沈ンダ。オ前ニハ何度モ助ケル機会ガアッタ。劇ノ中止、ソシテオ前ガ発令シテイル戦闘禁止ノ解除ダ。戦艦ニ巡洋艦、空母ニ駆逐艦。劇ニ参加シテイナイ艦娘ヲ導入スレバ奴ヲ回収デキタダロウ」
353 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:46:29.83 ID:GgwBG6yP0
長門「その通りだ。なぜ我々に指示を出さなかった! なぜ龍驤を沈めた!!」
絶対の命令権により縛り付けられていたため仲間の轟沈をただ見ているだけだった。
何もできず、黒鉄時代と同じ様にただ見ているだけしかできなかった。
提督「長門よ、お前は姫級を侮っている。俺自慢の空母3人が港湾棲姫1人によって壊滅的なダメージを負った。加減をされた上でだ。そこに追加戦力を投入すれば加減すらなくなる。戦闘禁止はお前たちを守るためだ」
長門「私が簡単に沈むとでもいうのか?」
提督「姫級とは天災に等しい。人事を尽くした程度で防げるものではない」
長門「ではなぜ龍驤を守ってやらなかった。奴が、あなたの一番だったのではないか」
提督「その龍驤が劇をやり通すと言った。俺がそれを信じなくてどうなる」
長門「しかし、提督!」
提督「もう黙れ」
354 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:47:16.29 ID:GgwBG6yP0
長門は強制的に口を閉ざされた。
絶対命令である『提督指令』には決してあらがえない。
提督がこれを強行したことはなかったため、長門は悔しさと混乱の渦に巻き込まれた。
提督「逆に俺はお前たちに疑問を持っている。なぜお前たちは仲間を信じない」
長門と港湾棲姫それぞれに語る。
提督「龍驤が嘘を言ったことがあるのか? 冗談は言う奴だが、仲間の命に係わるような冗談を言ったことがあるのか?」
長門は話せなかったが、否定の意志を伝えた。
355 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:48:00.39 ID:GgwBG6yP0
提督「港湾棲姫よ、北方棲姫はここに何をしに来た? 俺が劇への出演を依頼して、それに応えたんだぞ?」
港湾棲姫「ダカラドウシタ」
提督「戦闘をしに来たわけではないだろうが。それをレ級もお前も劇に介入しようとしやがって」
港湾棲姫は怒りの顔から困った顔になってしまった。
言っている意味が本当に分からなかったからだ。
そもそも先に仕掛けたのは龍驤の方ではなかったか。
姫は戦艦に視線を向けてみたが、同じように困った顔をしていた。
根本的なところで見解の相違が存在している。
提督「いいか、よく聞け。お前たちは娘のなりをして娘ではなく、艦の能力を持ちながら艦ではない異形の存在だ。仲間のことだけでなく自分自身すら信じられていないお前たち艦娘を、いったい誰が信じるのだ?」
提督の言葉は狂った内容に思えたが、姫と戦艦は互いに見合う。
見合った後、言葉の続きに耳を傾けた。
356 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:48:38.30 ID:GgwBG6yP0
提督「俺だ! 提督である俺が信じている!!」
357 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:49:15.54 ID:GgwBG6yP0
提督は、はっきりと一切疑いもせずに声を上げる。
提督「俺は龍驤と北方棲姫を信じている。盲信などではない。彼女達こそこの世界の特異点だからだ」
それだけ言い終わると、提督は劇の鑑賞に戻った。
大元帥「君達も座りたまえ。長門君はレ級君の席に座るといい」
長門「はっ!」
予想外の声に、長門は提督の命令すら越えて返事をすることができた。
そしてその敬礼は完璧だった。
大元帥「港湾棲姫君も手を下して座るといい」
港湾棲姫「……ン?」
彼女もまた目元に手を当てており、それは敬礼に見えた。
358 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/02/01(水) 21:49:49.15 ID:GgwBG6yP0
北方棲姫「■■■■■■■■■」
終劇まであと少し。
359 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/13(月) 17:25:41.43 ID:PzcqTtS40
にわ
360 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/14(火) 19:08:07.82 ID:5+8L6NsS0
あ
361 :
◆zqJl2dhSHw
[Sage saga]:2017/03/11(土) 11:30:45.90 ID:7DCpxhgO0
Test
362 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/19(日) 23:12:59.53 ID:Vq0iMlJH0
ーー終劇ーー
北方棲姫「■■■■■■■■■」
北方棲姫は劇を完遂するため爆撃機に指示を出した。
丸くてカワイイ爆撃機は次々と海中へ飛び込み戦利品を鹵獲する。
格好いい艦戦とそれを格好良く操った空母だ。
北方棲姫は部下に台詞を促した。
護衛要塞(北方棲姫属)「『格納庫ヲ用意セヨ。艦載機ガ100機以上格納デキル規模ガイイ』」
北方棲姫「『ゼロガサビナイヨウニネ』」
戦利品を抱えたまま呟く。
北方棲姫「『ウン。ワタシ、チョットツヨイカモ』」
表情は読み取りにくいが、満足気だった。
見せ場を演り切った事に加えて、生まれて初めて観客から喝采があったからだろう。
観客は信じがたいほど高水準な演技を見て狂喜乱舞寸前だ。
艦娘と姫は在り得ない状況に眼を疑っていた。
轟沈しているにも関わらず、彼女はそこに存在している。
北方棲姫に抱えられてそこにいる。
暗転
語り部は決して遅くならなかった。
未だ劇は続いている。
ならば速やかに進めなければならない。
第六駆逐隊が無傷赤疲労という極限状態の空母を無理やり連れて行く。
暗転
鶴姉妹が演じ終える。
提督「これにて終劇!」
住民の拍手と共に幕を閉じた。
363 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:47:38.47 ID:RE5jK4ru0
――船渠――
龍驤「あぁ、これが地獄か。ウチとこの船渠そっくりや」
北方棲姫「オ前ノトコロノ船渠ダ」
龍驤「キミは……、ウチは沈んだんやな」
北方棲姫「ソウダ。ゼロ返セ」
龍驤「そうやったな、チュウ! どこにおんのー?」
新米員「うわーん、姐さん! 生きててよかったっす!」
龍驤「キミも生きててよかったわ。この娘にゼロを返したって」
新米員「いいんすか? 提督に許可を取ってないっす」
龍驤「大丈夫や。これ以上の醜態は見せられんからな」
新米員「了解っす! しっかり磨いたゼロっす!」
364 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:48:18.86 ID:RE5jK4ru0
北方棲姫「……レップウモヨコセ」
龍驤「烈風はちょっと待ってくれん? 隼鷹にゆうとくわ」
北方棲姫「ウン」
龍驤「キミはええなぁ。言いたいこと素直に言えて」
北方棲姫「オ前モ言エバイイ」
龍驤「そうやな、今度からはそうするわ。手遅れやけどな」
提督「龍驤! 起きたか!?」
龍驤「おー、起きたでー。真っ裸やからいきなり入らんといて」
提督「む、それはすまなかった。しかし、どうしても言いたくてな」
龍驤「勝手に戦闘に入ったことは謝るわ。謝ってどうにかなるもんでもないけどな」
提督「お前らには俺の指示なしでの戦闘許可を与えているだろう。それは不問だ」
龍驤「じゃあなんやろな」
提督「見事な劇が遂行できた。俺はお前を誇りに思う」
龍驤「かなわんなー。なぁ、キミ。言いたいことがあるんやけど」
提督「劇の前に言っていたやつだな。なんだ?」
365 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:49:17.43 ID:RE5jK4ru0
「ウチは君のことが大好きや」
366 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:49:44.18 ID:RE5jK4ru0
提督「そうか。教えてくれてありがとう。閉会式はもうすぐだからな」
龍驤「うん。じゃあ、またあとで」
提督は船渠を後にする。
龍驤「あー、ようやく言えたわ」
北方棲姫「ソレダケカ?」
龍驤「言ってみたら意外と大したことなかったわ。もっと早うゆうとけばよかった」
入渠が終わり偽装を身に着ける。
龍驤「ここまで連れてきてくれてありがとうな。そろそろ閉会式に行くで」
北方棲姫「アイツラハツガイダロウ?」
新米員「その通りっす。姐さんは、いまだに勘違いしてるっす」
367 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:50:11.48 ID:RE5jK4ru0
――閉会式――
提督「……主演女優賞、瑞鶴。講評をいただきます」
大元帥「最後まで力強い演技でした。劇終了後の大立ち回りも大変元気があってよろしい」
瑞鶴「あ、ありがとうございます」
提督「瑞鶴には勲章を贈呈する。また、劇終了後に港湾棲姫に戦闘を仕掛けたことに対して1か月の謹慎処分とする」
「「ははははは」」
瑞鶴「ちょっ、提督さん。あれは不可抗力だって」
港湾棲姫「イタカッタ」
瑞鶴「ごめんなさい」
大元帥「過ちて改めざる是を過ちと謂う。よい姿勢ですよ、瑞鶴君」
瑞鶴「はい!」
368 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:52:00.30 ID:RE5jK4ru0
提督「ありがとうございます。次に助演女優賞、北方棲姫。講評をいただきます」
大元帥「不慣れな環境にも関わらず淑女たる振る舞い。関心いたしました」
北方棲姫「ウン」
提督「北方棲姫には、零戦を21型、52型、53型を贈呈する。なんだ? 烈風もだと? 追加で烈風を贈呈する」
北方棲姫「アリガトウ!」
当然、拍手喝采だった。
提督「さて、ここからが本題だ。龍驤、前に来てくれ」
住民はすべて姿勢を正す。
龍驤「なんやろな。ウチも謹慎処分やろか」
提督「この劇はまさにこの時のために用意したものだ」
龍驤「もったいぶらんと、ほらほら」
提督「そうだな。龍驤!」
龍驤「なぁに?」
369 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/03/27(月) 15:53:58.19 ID:RE5jK4ru0
「愛してる。俺とケッコンして欲しい」
370 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/04/26(水) 10:47:17.43 ID:RJoQiUpA0
test
371 :
◆zqJl2dhSHw
[Sage saga]:2017/05/26(金) 22:05:59.70 ID:pOg+zNvp0
Test
372 :
◆zqJl2dhSHw
[Sage saga]:2017/06/25(日) 17:26:24.24 ID:J2OxL0pW0
Test
373 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:05:07.78 ID:gFcN22mA0
この言葉と共に指輪を艦娘へ贈ることは、提督として最重要事項の一つだ。
証人はこの場にいる全員。
親としての大元帥を筆頭に住民、仲間、そして敵までもがここにいる。
374 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:06:27.71 ID:gFcN22mA0
空気が読めない龍驤ではなかった。
少し困った顔をした後、艦娘特有の完璧な笑顔を作る。
龍驤「あははー、ありがとうな。うん、ウチはわかっとったで」
完璧な笑顔のまま続ける。
龍驤「限界練度になったんはウチが最初やったからな。上限解放の兵装、ありがたく貰っとくよ」
笑顔が痛々しい。
龍驤「ウチはキミの一番大事な兵器や。たとえこの身が朽ちても欠片も残らずキミのものや」
375 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:08:55.98 ID:gFcN22mA0
龍驤「けど、電も鳳翔も限界練度やで。北上ももうすぐやろ? なぁ、キミ。ウチらの本分は皇国の守護や、みんなにもちゃんとあげてな?」
大元帥の目の前でこの発言は正しい、正しすぎるくらいだ。
艦娘としての本心でもあった。
求められるのは強さだ。
限界を超えられるのであれば全てのものを対価にできる。
376 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:10:35.66 ID:gFcN22mA0
龍驤はその本心で本音を塗りつぶした。
先の劇で自分の感情を最優先してしまったことが、龍驤を自罰的にしてしまっている。
空気が淀む。
護衛要塞すら眉をひそめていた。
377 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:12:32.51 ID:gFcN22mA0
空気が読める提督ではなかった。
提督「俺たちは皇国の守護者だ。戦力強化大いに結構。当然、電にも鳳翔にも、続く艦娘にも指輪を贈ろう」
龍驤はまだ完璧な笑顔を保つ。
提督「だがこの指輪だけはお前に贈ると決めていた。何故だかわかるな?」
龍驤「全然わからんよ、キミ」
378 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:15:06.18 ID:gFcN22mA0
提督「これだけは任務で手に入れた、大本営から支給されたものだからだ!」
龍驤「それは他のと違うん?」
提督「全く違う! いいか、龍驤。これだけは提督と艦娘の名前が正式な記録として海軍に残る」
龍驤の笑顔が崩れ真顔になる。
379 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:17:22.33 ID:gFcN22mA0
提督「なぁ、龍驤。俺たちは皇国を守護するための兵器だ。戸籍なんてものはないからな。皇国民とは違って婚姻という記録も一切合切何も残せない」
提督「これだけだ! この指輪だけが唯一、記録として残すことができるものなんだ!」
龍驤は泣きそうな顔をする。
艦として娘として、任務も規則も全うして上でこんなにも想われていた。
知っていたつもりが、まだ足りなかった。
380 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:21:32.21 ID:gFcN22mA0
龍驤「あのさ……キミ、うちの事どう思うてるの? 今、この場でちゃんと教えてくれん?」
提督「愛してる。これまでもこれからもずっとだ」
龍驤「そうかぁ。ウチも……キミのことが大好きや」
とうとう龍驤は左手を差し出した。
381 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:23:18.22 ID:gFcN22mA0
ケ・ッ・コ・ン・カ・ッ・コ・カ・リ
―艦娘と強い絆を結びました。―
382 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:24:09.43 ID:gFcN22mA0
一時の静寂。
北方棲姫「オメデトウ」
手甲は付けたままのため、いまいちよく聞こえない拍手が送られた。
やがて彼女を中心に拍手は速やかに広がっていった。
383 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:28:05.92 ID:gFcN22mA0
大元帥「まだ終わりません。こちらに署名をしなさい」
提督「はい」
書類一式にサインをする。
大元帥「無理をおして来た甲斐があるというものです。最後に私が名前を呼ぶので返事をしなさい。その後に一言贈ります」
異様な重圧が界を満たし、大元帥は光を放つ。
384 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:29:51.11 ID:gFcN22mA0
大元帥「龍驤型正規空母、龍驤」
龍驤「はい」
385 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:30:52.15 ID:gFcN22mA0
大元帥「神須佐能(カンムスサノヲ)計画零号」
提督「はい」
386 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:32:12.54 ID:gFcN22mA0
「朕、両名ノケッコンヲ認ム」
387 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/07/06(木) 21:33:34.29 ID:gFcN22mA0
承認であり、祝詞であり、祝言である正真正銘の勅令だった。
388 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/08/28(月) 21:08:06.71 ID:Av3ug9Vz0
――第一航空戦隊ソウリュウ編成の演習――
披露宴で泣くものもいれば笑うものもいた。
概ね陽気な空気ではあった。
加賀「赤城さんも泣くなんて。確かにこれは喜ばしいことです」
赤城「いえ、そうではなく。陛下の御前で彼奴を屠れなかったことが悔しくて」
空気を凍り付かす赤城の発言。
そして凍り付く港湾棲姫。
彼女は狙われている。
龍驤「あのさぁ、赤城。さすがにありえんやろ。どんなメンタルしとるの?」
提督「ふむ、確かに直接の戦闘はできなかったからな。ならば演習だ」
提督「深海棲艦に演習を願おう。姫級が相手だからどんと胸を借りていけ」
北方棲姫「イヤ、オ前ラハ絶対ニ勝テナイカラ」
ふよふよと顔の前で手を振る。
提督「そう侮るなよ。こちらの編成は一航戦でいこう」
漣「キタコレ!」
潮「漣ちゃん、絶対に私たちじゃないから」
提督「第一航空戦隊ソウリュウ編成で挑むぞ!」
牙を剥く赤城。その顔にはもう涙は残っていない。
そしてもう一人。
レ級「鳳翔、瓶がくだけたんだけど」
酌をしていた瓶を粉々に砕く鳳翔。
口元は嗤っている。
加賀「嫌です」
龍驤「うちもいやや」
提督「龍驤、頼んだぞ!」
龍驤「おっしゃ! いくで、加賀!」
加賀「……嫌です」
右袖を龍驤につかまれ、左袖を鳳翔につかまれ連行されていく。
北方棲姫「面倒ダカラ嫌ダ」
ほっと胸を撫でおろす港湾棲姫、戦闘は避けられそうだ。
389 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/08/28(月) 21:45:06.93 ID:Av3ug9Vz0
龍驤「そう言うなって。キミが勝ったら電が震えるくらいええ艦載機やるからな」
北方棲姫【お姉ちゃん! お土産が増えるよ!】
護衛要塞に指示を出して港湾棲姫を連行する。
提督「お前はいかないのか?」
レ級「まぁ4対4でいいんじゃない」
アイスクリームに舌鼓を打ちながら回答する。
――演習――
瑞鶴「何なのその艤装」
加賀「黙りなさい」
平常の加賀型ではなく、長門型の艤装よりも際どい線を攻めていた。
赤城も金剛型に似た艤装だった。
極めつけは二人とも弓を持っていないことだ。
鳳翔「瑞鶴さん、いつかあなたにも後輩ができます。その時に備えてよく見ておくのですよ」
矢には式符が結ばれていた。
龍驤は弓を携えている。
瑞鶴「そもそも蒼龍先輩はいないし、龍驤は一航戦じゃないじゃん」
龍驤「まぁ、こんなこともあるっちゅーことで。じゃあ行ってくるわ」
沖に向かう4盃。
港湾棲姫「私タチハ海ニ出ラレナイ」
提督「この鎮守府前で備えてくれ。お前たちが防衛に失敗すると俺たちは住む場所がなくなるからな」
港湾棲姫「エ?」
提督「頼んだぞ!」
港湾棲姫「エ? エェ?」
応援団が楽器を打ち鳴らす。
艦娘を鼓舞するもの、深海棲艦を鼓舞するもの。
誰もが楽しそうだった。
提督「では、演習開始!」
合図とともに沖から啖呵切りが届いた。
龍驤「うちがいるから、これが主力艦隊やね! 一航戦、龍驤。 出撃するで!」
鳳翔「竜飛、出撃致します」
赤城「一航戦赤城、出ます!」
加賀「一航戦、出撃します」
390 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/08/28(月) 21:46:01.24 ID:Av3ug9Vz0
港湾棲姫は困っていた。
北方棲姫と引き分けかけた正規空母が鏑矢を飛ばしてくる。
その唸りは言霊となり爆戦を産み出していく。
レ級と引き分けかけた正規空母が式符を付けた矢を飛ばしてくる。
それは勅令の光を灯して、式神を乗せた艦載機を召喚していく。
港湾棲姫自身を足止めした改装空母が艦載機を飛ばしてこない。
代わりに推定41cm口径の三式弾を発射していく。
狙いはすべて北方棲姫だ。
そして北方棲姫は勝ち急ぎ、防御を全くしていなかった。
391 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/12/30(土) 07:11:49.20 ID:ZC3QoPda0
レ級「こんなこともあるのね。姉姫様がこっちに防御を割くなんて」
無傷の鎮守府を見てつぶやいた。
大元帥「拠点防衛の姫君です。それに加えて彼からのお願いもありましたからね」
レ級「そうかしら」
大元帥「彼らの帰る場所が無事で何よりです」
レ級「帰る場所ねぇ」
392 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/12/30(土) 07:13:03.87 ID:ZC3QoPda0
大元帥「ところで貴女方はどちらの国に帰るのでしょうか」
レ級「笑わせるわね、ちょびひげ。そんなものはないわよ。帰るのは暗くて冷たい海の底よ」
大元帥「そうですか。では諸々の決着がつきましたらこの国に帰ってきなさい」
レ級「はぁ? 正気なの?」
大元帥「……」
レ級「……でも。大丈夫なのかしら」
大元帥「……」
レ級「えっと」
レ級「陛下。御厚情賜ります」
姿勢を正して敬礼をした。
393 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/12/30(土) 07:14:00.10 ID:ZC3QoPda0
日向「助けてくれないか。私たちではそろそろ防衛しきれない」
レ級「何よ、演習は終わったんじゃないの」
日向「見ていなかったのか? 演習はキミたちの勝利だ。ただ北方棲姫は龍驤一点狙いで仕留め損ねた」
レ級「……あの女、指輪を嵌めてから耐久力が上がってるじゃない」
日向「そうだ。僅かではあるが演劇の時よりも耐久性能が上がっている。北方棲姫は見誤ったようだ」
レ級「それでも姫ちゃんは勝ったんでしょ? なんであの娘は暴れているのよ」
日向「港湾棲姫が他3人を大破(轟沈判定)で仕留めたからだ」
レ級「つまりどういうこと?」
日向「演習のMVPは港湾棲姫だ。提督は電が震える程すてきな艦載機を港湾棲姫に手渡した」
日向「見るといい」
レ級「あー、姉姫様がうっとりしている。姫ちゃんに渡す気はなさそうね」
394 :
◆zqJl2dhSHw
[sage saga]:2017/12/30(土) 07:14:41.12 ID:ZC3QoPda0
北方棲姫壊「■■■■■■!」
レ級「さて、どうしようかしら」
レ級は大元帥を仰ぎ見る。
大元帥「防衛をお願いします。ただし北方棲姫を攻撃してはいけません。疲れるまで暴れさせておやりなさい」
レ級「さすがに無理よ」
大元帥「専守防衛が皇国の華です。それに、貴女にならできます」
レ級「宜候」
日向はこのやり取りを黙って見ていた。
レ級「日向遅いわ。置いてくからね?」
日向「それは困るな」
祭りは続く。
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