提督「劇をしたい」龍驤「あのさぁ、さっきからなんなの」

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197 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/12/13(日) 23:17:43.04 ID:1rjESQhY0



鳳翔「失礼します」


198 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/12/13(日) 23:18:55.42 ID:1rjESQhY0
一礼と共に軽空母が道場に入ってきた。

瑞鶴「鳳翔さん?」

鳳翔「おはようございます、瑞鶴さん。と言ってもそんなに早い時刻ではありませんが」

鳳翔は何故か自虐的な言葉を吐きつつ、こめかみを押さえいた。

瑞鶴「鳳翔さん、加賀……さんに会いませんでしたか?」

鳳翔「いいえ、今朝はまだお会いしていませんね」

瑞鶴「……そうですか」

瑞鶴は自分から稽古を頼んでおいて、加賀に怒鳴り散らしたことを後悔していた。

沸点こそ低い瑞鶴だが、それは素直さの現れでもあった。

鳳翔が取り持ってくれれば謝罪もできると考えたが、そう簡単には行かないようだ。

鳳翔「お休みにも関わらず稽古ですか。褒めたい気持ちが半分で、叱りたい気持ちが半分ですね」

鳳翔は困った顔で笑っていた。

瑞鶴「そういう鳳翔さんも稽古ですか?」

鳳翔「いえ、私は個人的な贖罪に来ました」

今日の鳳翔は何かがおかしい。まるで酔いつぶれたことを後悔した隼鷹のようだった。

鳳翔「瑞鶴さん、私と稽古しましょう」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/18(金) 04:35:40.58 ID:G+tcLlYi0
自分が使いたい言葉とかフレーズ、書きたいシチュエーションだけを羅列するだけならメモ帳にでも書いてた方がいいんじゃない?

場面が全く想像できないほど酷い文だよ
200 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/12/20(日) 23:13:43.57 ID:2edvc8Ln0
瑞鶴「えぇと、稽古を付けてくれるのは嬉しんですけど。個人的な贖罪は大丈夫ですか?」

鳳翔「大丈夫です。状況は刻一刻と変化するものですから。一手ずつやって指摘していく形でやりましょう」

瑞鶴「はい。お願いします」

瑞鶴は矢を一手とり、射位に立つ。

甲矢は小気味良い風切り音とともに的に吸い込まれた。

乙矢も同様に的中した。

弓倒しを終え鳳翔を見る。

鳳翔「とても良いですね。もう一手やりましょうか」

瑞鶴「はい」

一手、もう一手と発艦し続けた。

その度、鳳翔は瑞鶴を褒める。

瑞鶴としても褒められること自体は心地良かった。

ただ、同じ言葉ばかり続いたため不安になる。

瑞鶴「あの、鳳翔さん」

鳳翔「どうかしましたか」

瑞鶴「何か指摘はありませんか。さっきから褒められてばかりで、その」

鳳翔「ふふ、適当にあしらわれているように感じてしまいましたか」

瑞鶴「いえ、そういうわけじゃないんですが」

鳳翔「すべて及第点です。私の技量ではこれ以上指摘することはないですね」

瑞鶴「本当ですか?」

鳳翔「本当です、自信を持ってください。あなたは翔鶴型2番艦、皇国空母の到達点です。才覚は十分。その上、しっかりと鍛錬を積み上げていますから」

瑞鶴「あの、ありがとうございます!」

瑞鶴もさすがに高揚した。

これだけ褒められた経験は今までになかったからだ。

瑞鶴は、自身の指導者を思い浮かべる。

瑞鶴や翔鶴が頑張っていることは認めてくれた。

しかし、なぜだろうか。

彼女は褒めてくれなかった。

彼女は褒めてくれはしなかった。

彼女に褒めてもらいたかった。
201 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/12/20(日) 23:14:21.77 ID:2edvc8Ln0
瑞鶴「ふぅ、よし! 鳳翔さん、蜻蛉じゃなくてこれを使っていいですか?」

鳳翔「流星改ですか。えぇ、いいですよ。扱いは難しいかもしれませんが、実戦を想定することは良いことです」

瑞鶴「はい! これって空母の先輩方から着任祝いで貰ったものなんですよ。私用に調整してくれたのか、ものすごく使いやすいんです」

鳳翔「あの時はお祭り騒ぎでしたから。保有制限の問題で正規空母はもう着任できないと思っていましたからね」

瑞鶴「そうなんですか?」

鳳翔「えぇ、あなたが着任することわかった瞬間に『瑞鶴着任祝やー!』とか『祝い酒だぜ! ヒャッハー』なんて。ついこの前のようですね」

瑞鶴「あはは、あの時は緊張していたので気が付かなかったけど。そんなに歓迎されていたんですね」

鳳翔「そうですよ。瑞鶴さんは皆さんから期待されているんですよ。贈り物は気に入ってもらえましたか?」

瑞鶴「もちろんです。今着ている道着は祥鳳さんから貰ったものですし」

鳳翔「紬を使っていますからね、祥鳳さんも張り込んだんでしょう」

瑞鶴「これを着ているとなぜか肌脱ぎしたくなっちゃうのが不思議です」

鳳翔「ふふ、気合が入りすぎですよ。肩の力を抜いてください」

瑞鶴「さすがに胸当てを付けずに離れは怖いのでやらないですよ。龍驤さんと隼鷹さんは、間宮券とお酒でした。意外と私達と同じ名前のお酒ってあるんですね。実はまだ残ってるんですよ」

鳳翔「ご相伴預りに行きますね。肴は用意しますので」

瑞鶴「ほんとですか? やった! そろそろあの樽を開けちゃいたいです」

鳳翔「皆さんをお誘いしましょう。隼鷹さんらしい贈り物ですからね」

瑞鶴「瓶で貰えるのかと思ってましたよ。まさか神社に奉納するような樽が来るとは思っても見なかったです。

鳳翔「お祝いの気持ちですよ」

瑞鶴「そうですね。赤城さんからは彗星一二型甲と流星改を……。いえ、一航戦の先輩から艦爆と艦攻をいただきました」

『五航戦に譲るものなどありません』

記憶の底から浮上してきた、思い出したくもない言葉。

何か欲しかったわけではなかった。

強いて言うなら、認めて欲しかった。

頭を振って雑念をかき消す。

鳳翔「……」

瑞鶴「なるほど、私って実は期待されていたんですね! 期待していない相手にこんな贈り物なんてないですから」

鳳翔「そうですよ。全員が期待しています」

瑞鶴「鳳翔さん、稽古の続きをおねがいします。この流星改なら百発百中ですから!」

再び射位に立ち、発艦準備を整える。

瑞鶴「鳳翔さん。私ってどこを直せばもっと強い空母になれそうですか? 今日は何か掴めそうな気がするんです」

鳳翔「あえて言うなら。胴造りですね」

瑞鶴は驚き、取り掛けを外して鳳翔の方を見る。

瑞鶴「……胴造り、ですか?」

鳳翔「はい。発艦の作法が八節に近いので我々は弓を使っています。弓を使っていますが、的中の本質は艦載機の妖精さんです。彼らに聞けばわかりますよね。安定した艦体、安定した甲板が如何に飛び立ちやすいか」

瑞鶴「……私の胴造りはそんなに酷いですか?」

鳳翔「及第点を超えています。それでも今以上を目指すなら、やはり胴造りになるんですよ」

瑞鶴「……」
202 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/12/20(日) 23:14:54.44 ID:2edvc8Ln0
『艦妖一体』

これは艦娘が最大の戦力を発揮できる状態のことを指す言葉だ。

瑞鶴は搭乗員の妖精達にいつもお願いをしていたし、感謝もしていた。

彼らも無声劇の様な反応をしてくれていたので伝わっていると思っていた。

果たして意思疎通は十分だったのだろうか。

瑞鶴はこれまでにないほど感覚を研ぎ澄まし、艦攻の妖精に注目する。

彼らの言葉が聞きたかった。



艦攻妖精長「加賀姐さんたっての願いだ。あたしらが瑞鶴嬢を育てないとね」

艦攻妖精達「「よーそろー」」



瑞鶴「……鳳翔さん。何で私にとって一番使いやすい艦載機はこの流星改なんでしょうか?」

鳳翔「加賀さんがあなた用に調整したからです」

瑞鶴「……」

鳳翔「妖精さんたちに瑞鶴さんへの力添えもお願いしていました」

瑞鶴「……」

鳳翔「お礼、きちんと伝えなくてはいけませんよ」

瑞鶴「……はい」

鳳翔に返事をした後、取り掛けをし直す。

瑞鶴「皆、頼んだわよ」

妖精達に言葉を掛けると、彼らは笑い顔で敬礼を返してくれた。

瑞鶴はとうとう掴むことができたのだ。

目を閉じたまま打起こし、引き分け、会に至る。

勝手が自然に離れを出し、それは今までで一番鋭かった。

的を確認する必要はない、見なくとも心は揺らがなかった。

瑞鶴が知る最強の空母とその搭乗員が力を添えてくれているのだから。

瑞鶴「……言葉が足りなさすぎるのよ、加賀」

思わずこぼしてしまう。

瑞鶴「鳳翔さん、艦載機回収してきます!」

鳳翔「はい、いってらっしゃい」

瑞鶴は安土へ向かう。

鳳翔「さて」

鳳翔は目を凝らし、遥か彼方からこちらを見ていた空母を捉え言葉を伝える。

『稽古の続きをしてあげてくださいね』

彼方の空母は鳳翔の口の動きを読み取り、一礼する。

急いでこちらへ向かっているが、しばらく時間がかかるだろう。

鳳翔「しかし、どうしてこの鎮守府の空母は言葉足らずで不器用なのでしょうか。大事なことこそ言葉にしなければいけないというのに」

呆れながらも、その表情は優しかった。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/21(月) 19:35:08.17 ID:nv6fV+nRo
204 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/01/10(日) 22:33:40.47 ID:Vl0atwsQ0
――加賀――

瑞鶴に追い出されたが、遠くから射撃訓練場を見ていた。

加賀は追い出された理由を考えてみたが、おそらく瑞鶴にとって難度の高い指摘を続けてしまったためだと考えた。

これは仕方がないことだった。

瑞鶴は正規空母としてずば抜けた才覚を持っていた。

そんな後輩から稽古を付けて欲しいと言われ、さすがの加賀も気分も向上してしまう。

指導者はその時々の気分で態度を変えてはいけない。

これに関して加賀は十分に理解していたし、実行できていた。

むしろ、十分以上というより異常な程自分を律していた。

はっきりと思い出せるわけではない。

かつては皇国の空母機動部隊、その第一航空戦隊を支えてきた。

それは間違いなく世界最強であり、向かう所に敵はなかった。

輝かしい栄光。

そしてそれに匹敵する没落。

敗北、その一言で片付けられない程の惨敗だった。

英霊の神座についてからもその惨めさは忘れることはなかった。

どのような因果か再び常世に生を受けることができた。

あの時の後悔を繰り返さないために。

後輩にすべての負担を押し付けたことを繰り返さないために。

その一心で日々の鍛錬を積み上げてきた。

加賀「?」

瑞鶴は訓練機から本番用の機体に取り替えたようだった。

「流星改」

この鎮守府で加賀が愛用していた艦攻であり、熟練妖精揃いの飛行部隊だった。

加賀と苦楽を共にした飛行部隊と機体、これらは間違いなく彼女の宝だった。

そんな宝だからこそ、手放しがたい宝だからこそ、後輩の着任祝にふさわしかった。

赤城『加賀さんが渡してあげた方が、瑞鶴さんもきっと喜びますよ』

赤城に瑞鶴着任祝いを代わりに渡すよう依頼した時の返答だ。

それはむしろ逆だろう。

瑞鶴に訓練を付けることになるが、生半可なものになるはずがなかった。

嫌われることにもなるだろう。

しかし一航戦全部が嫌われる必要もない。

加賀『いえ、私は良い手本になれそうにないので』

この淡々とした言葉に、赤城は困った顔をしたことを思い出す。

その表情はいつか鳳翔が見せた表情と同じだった。

その時どんなことを指導されただろうか。

「言わなければ伝わらないこともある」だったろうか。

加賀「……よし」

瑞鶴は見事に的中させていた。

鳳翔の指導が的確だったためだろう。



205 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/01/10(日) 22:34:21.42 ID:Vl0atwsQ0

加賀「……あ」

瑞鶴が艦載機の回収に向かった後に、突然鳳翔が加賀の方を向いた。

この距離で気づかれると思っていなかった加賀は狼狽するがすぐに姿勢を正す。

鳳翔が何かを話しかけてきたが、音が聞こえる距離ではなく唇を読み取った。

『稽古の続きをしてあげてくださいね』

慌てて礼をし、射撃訓練場に向かう。

何も考えずに見ていたわけではない、より良い指導方法を考えながら見ていた。

鳳翔は何度も瑞鶴を褒めていた。

つまりそういうことだ。

褒めてやることでやる気が出る、やる気が出れば見える景色も変わってくる。

赤城『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ。ふふっ、受け売りですけどね』

彼女は常日頃そう言っていた。

赤城は加賀が尊敬する一航戦の1人だ。そんな彼女の方針を加賀なりに真似て見たりもする。

昨日の稽古では五航戦の2人を褒めたばかりだった。

加賀『優秀な子達です! あなた達はよくやっている!』

確かこの様な言葉を掛けたはずだった

加賀「私にもできました」

わずかながら達成感が顔にでてしまうが、すぐに元の表情に戻し射撃訓練場に向かって走る。

足の遅い加賀にとって過度な速度だったが気にせず走り続けた。

道場には大事な後輩が待っている。
206 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/01/10(日) 22:41:01.34 ID:Vl0atwsQ0

――射撃訓練場――

加賀「失礼……げほっ。はぁ……はぁ。失礼……します」

瑞鶴「ちょっと、大丈夫!? どうしたのよ!」

加賀「なんでも、はぁ……はぁ。ないわ。けほっ。ただ走りこみを……していただけよ」

瑞鶴「……艤装付けたまま走りこみをする艦娘なんていないわよ。鳳翔さんだって長門さんだって、走りこみをするときは体操服に着替えているじゃない」

加賀「……私くらいになると行住坐臥よ。心配いらないわ」

瑞鶴「えぇ……。赤城さんだってちゃんと体操服に着替えているのに?」

加賀「……ところで稽古は終わったのかしら」

瑞鶴「まだ続けてるわ」

加賀「そう」

瑞鶴「……」

加賀「……」

瑞鶴「ねぇ、加賀」

加賀「何かしら」

瑞鶴「稽古、付けてくれない?」

加賀「別に、構いませんが」

瑞鶴「ん。ありがと」

流星改を一手取り、射位に立つ。

件の胴造りも素晴らしいの一言だった。

質実剛健。

容姿凛然たる姿。

言葉は何でもよいが、中身が伴ったものはかくも美しい。

甲矢は残念ながら上にそれたようだ。

2本目も同様に素晴らしい射だったが、残念ながら上にそれてしまった。

加賀は瑞鶴の成長を喜ぶ。わずかな時間であれ、艦娘というものは突然成長してしまうものだ。

成長のきっかけは鳳翔による指導であった。

できれば加賀自身が指導して気づかせてやりたかったが、それは慢心であると理解している。

自己満足の域をでることはなく、本当に大切なことは後輩の成長だからだ。

今回は的を外してしまった。これは実は良い外し方だった。

同じ狙いのまま艦体が振れることなく艦載機が発艦したため、勢いが落ちることなく的に到達したからだ。

小手先の的中とは一線を画するものだった。

及第点どころか、本質的な所で満点だった。

加賀は何も言わない。

弓倒しを終えた瑞鶴が加賀に話しかける。

瑞鶴「今もそうだけど、加賀は何も言ってくれないよね。たまに一言二言はあったけど」

加賀は怪訝な顔をする。指摘を出す必要がない素晴らしい射だったのだ、何を言う必要があるのだろうか。

瑞鶴「加賀は私のことを何も期待していないからだとずっと思っていた。だからさ、昨日よくやっているって言ってくれた時はすごく嬉しかった。少なくとも見てくれているってわかったから」

加賀は自身を振り返る。昨日の稽古では、五航戦の2人を手放しで賞賛したはずだった。

瑞鶴「今朝だって直接稽古を付けてもらえて嬉しかった。指導内容はよくわかんなかんなくて怒鳴り散らしちゃったけど本当は感謝してる。まぁ、鳳翔さんがあんたの意図を教えてくれてようやくわかったんだけど」

加賀は訝る、瑞鶴は素直に指導に従いより良くなっていた。他に指摘できる箇所が見当たらなかったので、しかたなく高難度の指摘を続けてしまった。流石に難度が高すぎたため瑞鶴は焦燥感を加賀にぶつけて来たが、当然の反応だと思い気にしていなかった。

瑞鶴「別に甘やかして欲しいわけじゃないんだ。ほんの少しでもいいから加賀に褒めて欲しかった。さっき四立分皆中したのも初めてだったんだよ?」

207 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/01/10(日) 22:48:14.59 ID:Vl0atwsQ0

加賀は俯き、自分自身が今の瑞鶴と同じ頃の時期を思い出していた。

『素晴らしいです。稽古を始めたばかりとは、とても思えませんね』

始まりの正規空母は時間を割いて稽古を付けてくれた。

稽古終わりの間宮アイスも楽しみのひとつだった。

『流石は加賀さんね』

かつての相棒で、いまもまた相棒の彼女。

切磋琢磨し合える関係はとても素敵なものだった。

的中率で負け、的中数で勝ち、その他にも競いあったものだ。

おひつを何杯おかわりできるかの勝負では辛くも勝利できた。

『加賀! 今日はよう頑張ったな。そろそろこれは加賀が使うべきやな。流星改、大事に使ってな。妖精さんも頼んだで?』

かつての同僚、いまの秘書艦はことある毎に頭を撫で、褒めてくれた。

当時、妖精の声はまだ聞こえていなかったが、秘書艦の声が大きいのであまり気にならなかった。

小さなことでも大きな声で褒められ、多少の恥ずかしさはあったことは疑いようがない。

しかし、気分が高揚したこともまた事実だった。

この鎮守府で先輩空母から受け取ったものはこんなにもあった。

後輩空母には何を与えられただろうか。

瑞鶴「けどもう大丈夫。加賀が気に掛けてくれていることだけは分かったから。あとは私が褒めてもらえるくらいになるだけだから」

加賀「……そう」

何も与えられてはなかった。褒めたつもりになって、指導できたつもりになっていた。

感情表現が苦手なことは自覚していた。

自覚していたが、矯正する努力を怠っていた。

その結果が今につながっている。

乗り越える時が来た。

『妾の子にでもできたんだから』

加賀は否定する、これは自分の言葉ではないと。

本当に否定したいのであれば行動で示す必要がある。

簡単なことだ、事実を伝えてやればよい。

頭を撫でて今の射は良かったというだけでよい。

加賀「……」

加賀はそのような自分を見なければいけない恥ずかしさで行動に移すことができなかった。

加賀「なんという無様でしょうか……」

瑞鶴「顔真っ赤だけど本当に大丈夫?」

加賀「えい」

顔を見られた事が引き金になった。

瑞鶴の顔を加賀の胸部装甲に押し付ける。これで瑞鶴は加賀の顔を見ることはできない。

加賀「いいですか、瑞鶴。今から話すことをよく聞きなさい」

今までの分を清算する時が来た。

208 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/01/10(日) 22:49:17.97 ID:Vl0atwsQ0

――半時間後――

加賀「そういうことよ。あなたは素晴らしい後輩です」

瑞鶴「……」

加賀「話を聞いていたのかしら?」

瑞鶴「次もちゃんと稽古つけてくれる?」

加賀「当然です。まだまだ練度を上げて貰います」

瑞鶴「また褒めてくれる?」

加賀「今以上を私に見せなさい。あなたならできます」

瑞鶴「……うん」

こんなにも簡単なことだった。もっと早くにするべきだった。

加賀はまだ理解できていなかったが、とうとう教え導く段階へと達したのだ。

今まではその領域に達していなかったからできていなかった。

教えるということはまさに教わるということだ。

ひとまず加賀は午前の稽古を締めくくる。

加賀『やりました」
209 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/01/17(日) 22:38:13.93 ID:aN6QjdXx0
――食堂――

瑞鶴「ねぇ、加賀。今度やる劇のことなんだけど」

加賀「あなたが主役でしたね。主役抜擢おめでとう」

瑞鶴「ありがとう。えっ? この前と反応が違うんじゃない?」

加賀「これだから五航戦は」

瑞鶴「待って! 今のは私悪くないわよ!」

加賀「まぁいいでしょう。それで何か気になることでも?」

瑞鶴「いや、私の恩人役? 師匠役? だったら龍驤……さんよりも加賀になるんじゃないかって思って」

加賀「ふん」

瑞鶴「その表情で頭なでないでよ。まぁいいんだけどさ」

加賀「基準を履き違えています。主役はあなたですがこの劇は龍驤さんを中心に用意されています」

瑞鶴「やっぱそうだよね」

加賀「龍驤さんはあなたと翔鶴と一緒に蟻を討伐しに行きます。道中の蟻は、いうなればエリート級の重巡や空母並の脅威でしょう」

瑞鶴「うん」

加賀「龍驤さんは当然として、あなた達も十分に渡り合えます」

瑞鶴「うん」

加賀「ところが、最奥にいた蟻は想像を絶するものです。いわば姫級の深海棲艦に相当するでしょう」

瑞鶴「姫級ってそんなにすごいの? 見たことがないから想像もつかないんだけど」

加賀「ある姫はただの一盃で連合艦隊を相手取る事ができます」

瑞鶴「は?」

加賀「ある姫は私達空母機動部隊の艦載機を壊滅に追いやることができます」

瑞鶴「それ勝てないじゃん」

加賀「だからあなた達は龍驤さんを囮にして逃げ帰ります。囮になった龍驤さんの戦闘場面が今回の山場でしょうか」

瑞鶴「今更だけど、台本ひどくない? 龍驤さん轟沈しちゃうし。私もなんというか、あんまり気分が良くないのよ」

加賀「劇だと割り切りなさい。真剣に考えることは良いですが、深淵まで飛び込んではいけません」

瑞鶴「わかったわよ。けど何でこんな演目にしたんだろうね。他にもっと楽しいやつがあるんじゃない」

加賀「青猫と射撃王なら子供も楽しめるかもしれないわね。しかし、慢心はいけません。短編はともかく長編になると当然のように戦争が発生しているわ」

瑞鶴「そうなの?」

加賀「なぜ知らないのかしら。座学であったでしょう」

瑞鶴「ちょっと、別に寝てなんかなかったんだからね!」

加賀「まだ何も言っていませんが」

瑞鶴「あう」

加賀「まぁいいでしょう。長編の一つに錻の星で人間が作ったからくりが反乱するというものがあります。身から出た錆、教訓としても十分な話です。龍驤さんが轟沈する際の台詞はこれから引用されています」

瑞鶴「なんであんな台詞を引用したのかしら。なくても何も変わらないわよ」

加賀「提督の我儘でしょう。最期の時に自分を思い出して欲しいといった類のものです」

瑞鶴「提督さんって龍驤さんのこと大好きだからね。もしかして、劇もその台詞を言わせたいだけなんじゃないの」

加賀「大いにありえます。2人とも阿呆ですから、それくらいのお膳立てをしなくてはいけないのでしょう」

瑞鶴「ちょっと、いいの? そんなこと言っちゃって」

加賀「構いません。いい加減先に進む必要があります。それは提督然り、龍驤さん然り。当然私達もです」

瑞鶴「わかってるって」
210 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/02/11(木) 22:29:41.33 ID:qKqc1knq0
――船渠――

加賀「まさかあなたが背中を流してくれるなんて、殊勝な心掛けです」

瑞鶴「なんでそんなに上からなのよ」

加賀「何を話せばいいかよくわからないのよ。まったく、五航戦はそんなことも察することができないのかしら」

瑞鶴「嘘でしょ? 私ぜんぜん悪くないじゃん。全部加賀の問題じゃん」

加賀「そういうことにしておきます。もういいわ、次は私が変わりましょう」

瑞鶴「うん」

加賀は大量に泡を立てて瑞鶴の背中を流す。

加賀「あなた、ずいぶんと細いですけれど。ちゃんと食べているのかしら」

瑞鶴「食べてるわよ!? 一航戦とおんなじ食事とってるじゃない」

加賀「それでは足りません。私と赤城さんはほぼ待機中です。いわばアイドリング状態の燃費です」

瑞鶴「うん」

加賀「あなたち五航戦は今まさに訓練をしている最中です。実戦に近い燃費でしょう」

瑞鶴「待って、昨日は出撃がなくて一航戦も五航戦も同じだけ訓練をしたんだけど? 今日も稽古つけてくれたじゃん」

加賀「そうです。それが何か?」

瑞鶴「何か? じゃないわよ、加賀も訓練してるじゃない」

加賀「私達にとっては待機と変わらないわ」

瑞鶴「マジ? 私、すっごく疲れたんだけど」

加賀「マジです。練度の差を嘆いてもしかたありません。今のあなたはより消費をしているので、より補給をする必要があります」

瑞鶴「ご飯、美味しいけど。あの量でも限界一杯食べているんだけど」

211 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/02/11(木) 22:30:46.93 ID:qKqc1knq0
加賀「足りていません。足りていないからあなたの体は細いままなのです」

瑞鶴「う〜ん」

加賀「それに、今は昔と違って食べることには困っていないでしょう」

瑞鶴「……うん。そうだね」

加賀「そうです」

瑞鶴「あれ、細いっていえば龍驤はどうなのよ。あの人もめっちゃ細いじゃん」

加賀「あの人の場合は、いえ、この話はもういいでしょう」

瑞鶴「なんでよ、中途半端に止めないでよ。駆逐艦並の容姿でしょ? 食べる量が少ないってこと? それとも訓練をしないから体躯が成長しないの?」

隼鷹「人それぞれってことでいいんじゃない? 加賀さんなんか着任した時から今くらいの容姿だったからねぇ、ひゃはは」

瑞鶴「あれ? 隼鷹さん? こんにちは。いつ入って来たんですか、全然気づきませんでした」

隼鷹「あー、ごめんごめん。ちょっと気配を殺しながら来ちゃったから」

瑞鶴「器用ですね。式神を操るとそんな感じになるんですか?」

隼鷹「式神は関係ないさ。中で加賀さんと瑞鶴さんが楽しそうにしているから邪魔したらあかんって言われてね」

瑞鶴「はぁ」

隼鷹「それより龍驤が細いのが気になるとはねぇ。なかなか目の付け所が違うね」

瑞鶴「練度の高い空母は体躯もしっかりしてるじゃないですか。加賀さんもそうだし隼鷹さんもだし。その理屈だと、龍驤さんはどうなのかなって」

隼鷹「なるほどねぇ。何でかなぁ? 本人に聞いてみたらいいんじゃない?」

瑞鶴「いやよ。駆逐艦並の体躯で練度が高いんですか? なんて聞けるわけないじゃない」

隼鷹「聞きゃあ答えると思うけどねぇ」

瑞鶴「多分そうでしょうけど。ちょっと加賀! 自分から話を始めて置いて何で黙ってるのよ!」

隼鷹「うん? 加賀さんは湯船に浸かってるから仕方ないんじゃない?」

瑞鶴「へ? じゃあ背中を流してくれているのは誰なのよ」

龍驤「うちや」
212 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/02/27(土) 23:16:29.04 ID:JciRooOY0

龍驤「なーんか聞きたいことがあったみたいやな。言うてみ?」

瑞鶴「ふーっ。龍驤、体調大丈夫なの? 急に休みになったけど」

龍驤「あははー、ありがとな。皆にはごめんやけど、二日酔いやったんやわ」

瑞鶴「そうなんだ。大丈夫ならいいんだけど」

龍驤「瑞鶴、ちょっち見ん間にずいぶん雰囲気がかわったな。何があったん?」

瑞鶴「別に何もないわよ。それより、稽古つけてくれるって言ったのはいつになるのよ」

龍驤「あれは無しやわ」

瑞鶴「昨日あんだけ脅しておいて今さらなしってどういうこと」

龍驤「脅しとらんわ! なんや瑞鶴、えらい言うようになったなぁ?」

瑞鶴「いつもと同じよ。でもなんで稽古の話を撤回するの?」

龍驤「キミを纏う空気見たら一発や、もうウチの稽古はいらんわ。加賀がなんかしたんやろな。その調子やと妖精さんの声も聞こえるようになったんとちゃう?」

瑞鶴「なんで顔も背中越しでそこまでわかるのよ」

龍驤「だてに秘書艦やってないで? この鎮守府最強の艦娘はウチやからな!」

瑞鶴「はいはい、さすがにそれは無いわよ。同時に操れる艦載機の数は加賀に勝てないし、軍艦としての純粋な性能だったら長門さんに勝てないでしょ?」

龍驤「あっちゃー、龍驤さんジョークは通じんかったか。けどな、秘書艦やから結構な裁量を与えられとんのやで?」

瑞鶴「まさか! 龍驤だけいい物を食べているとかじゃないでしょうね? 私にも食べさせてよ」

龍驤「なぁ、加賀ぁ。キミは瑞鶴に何を教えたんや? こんなこと言う娘やなかったやろ」

加賀「来る日に備えたくさん食べて体を作りなさいとは言いましたが、そのような解釈になるとは思いませんでした」

加賀の横で隼鷹が声を上げて笑い、とてもよく揺れていた。

龍驤「そういうことか。ごめんな、瑞鶴。秘書艦に期待してたみたいやけど、食べとるもんはみんなと一緒やで」

瑞鶴「そう、それならいいのよ」

龍驤「けど今日はお土産あるからな。この地域の名物、寒天菓子。果物が入った奴が美味しかったで」

瑞鶴「やった、ごちそうさまです! ん? なんでお土産があるのよ。どこかに行っていたの?」

龍驤「今日、休みにしたやろ? それで海運も漁連も海に出られんようななったからなぁ。急に予定を変えてしまったことへの謝罪に行っとった」

瑞鶴「秘書艦ってそんなことまでするの?」

龍驤「そうやで。漁連の方は顔馴染みやから謝って終わりやったんやけど、海運のほうがなぁ」

瑞鶴「何かあった?」

龍驤「初めて見る管理職の人間が出てきて、急に予定が変わったことに憤慨しとったわ」

瑞鶴「まぁ、向こうも仕事があるだろうから仕方がないでしょ」

龍驤「仕方ないわな。それで、膝をついて謝罪しろ言うから、ウチが謝ったんや」

瑞鶴「よくもそんなことをしたわね。ムカつかなかったの?」

龍驤「さすがに休みの原因がウチやったからしゃあないやろ。けどそれに飽きたらず、提督にも同じこと言うたんはちょっちなぁ」
213 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/02/27(土) 23:16:56.48 ID:JciRooOY0



「「はぁ?」」


214 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/02/27(土) 23:18:08.80 ID:JciRooOY0

湯船の方から怒気が発せられた。

あまりに想定外の状況に瑞鶴は身を縮める。

隼鷹「なんだよ、龍驤? あたしそれ聞いてないんだけど」

龍驤「言うとらんからな。言うたらキミら怒るやろ」

加賀「当然です。まさか、その様な暴挙を許した訳ではないでしょうね」

龍驤「許したで」

隼鷹「まさかお前が横にいてその体たらくなんて。何やってんだよ、秘書艦様」

龍驤「あのさぁ、逆に聞くけど、この鎮守府で誰が提督を止められるんや」

隼鷹「そりゃ龍驤だけだろ」

加賀「その通りです」

龍驤「買いかぶり過ぎや。キミらの期待に応えられやんでごめんやけど、2人で謝ったわけや」

瑞鶴「ふぅん」

龍驤「あんまがっかりせんといてぇ。さすがにその後に起きかけた惨劇は未然に防いだで?」

加賀「それは何ですか?」

龍驤「海運の取締役が割腹しかけたのを止めた」

瑞鶴「え? カップクって何よ?」

加賀「切腹、腹切りです」

瑞鶴「ちょっと龍驤! なんでそんなに血生臭いことになるよの」

龍驤「なってない、なってない。ちゃーんと止めたで?」

瑞鶴「意味がわかんないんだけど。ねぇ、加賀。なんでこうなるの?」

加賀「恐喝、侮辱、公務執行妨害。ぱっと思いつく当たりでこれが該当するのかしら?」

瑞鶴「え?」

隼鷹「やっちまった内容を近辺の住人に知られたら、生きていけなくなるだろうしねぇ。当然、海運も解体せざる得ないだろうね。自分とこの人間がそんなことやったら、それくらいは頭をよぎんるんじゃない?」

瑞鶴「え? え?」
215 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/02/27(土) 23:19:47.94 ID:JciRooOY0

龍驤「瑞鶴、内におったら気づかんかもしれんけど、ウチらの提督は連合艦隊を預かっとるんやで?」

瑞鶴「わかってるわよ、そのくらい」

龍驤「わかとらんわ。キミが片手間で薙ぎ払えるイ級駆逐艦ですら通常兵力やと中破すら不可能な戦況なんや。そんな戦力をもっとる艦娘を一個人が指揮しとんのや。どう考えても恐怖やろ」

瑞鶴「別に提督さんは怖くないわよ」

龍驤「それは身内やからや。なんて言えばええんやろ、この地域で電を侮辱したようなもんって言えばわかるか?」

瑞鶴「何言ってんの。する人間なんていないしできるわけないわよ」

龍驤「それをしたんやって」

瑞鶴「はぁ? 龍驤はそんな暴挙を許したっていうの?」

龍驤「許したで、ってなんやこの天丼は。提督が是と言えば当然それは是なんやで? 提督が怒っとらんからなんも問題はないわ。言い訳させてもらうと止めさす間も無いくらい提督の謝罪は早かったからな?」

加賀「容易に想像できます」

隼鷹「だよなぁ」

龍驤「そのタイミングで向こうの上役が来たわけや。現場を見て開口一番、『彼の行動の責任は私にあります。声も漏らさずやりとげますゆえ、どうか』」

瑞鶴「ちょっとちょっと、なにそれ?」

龍驤「座して、匕首握って。腹に当てるまでまったく躊躇しとらんかったから本気やったな」

瑞鶴「死んじゃうわよ! なんで止めないのよ!」

龍驤「止めた言うたやんか。火克金! ってな感じで匕首を殺したわ」

瑞鶴「よかった、間に合ったんだ。けど龍驤が止めなきゃ死んじゃってたんじゃないの。提督さんは何してたのよ」

龍驤「うん? ウチが横におったからな、心配する必要はなんもないやろ。提督も言うとったしな、お前が横にいると安心だ、って」

加賀と隼鷹は小さく笑うが、よく揺れていた。

どうやら提督はやると決めたことをやり通しただけのようだった。

龍驤が原因であっても、休港を決定したのは提督だ。

その責任を果たすための謝罪を躊躇するような者ではない。

そして龍驤のこの話は、言わなくとも通じあっているという遠回りな惚気だったと判断した。

瑞鶴「人死がなくてよかった。その後はどうなったの?」

龍驤「依頼をひとつ受けてその場をあとにしたで」

隼鷹「もしかしてその依頼は、那珂ちゃん、島風、潮、漣が急に準備して出てったやつ?」

龍驤「ようわかったな。海運の彼らが本土に戻るため、海上護衛に出てもらったわ」

加賀「更迭、でしょうか。けれど、それだけで済んでよかったですね」

隼鷹「いやぁ、『那珂ちゃんにはオフはないんだね……。お仕事行ってきまーす!』って言ってたから、何事もなくはないんじゃない?」

龍驤「那珂にはまた有給とって貰わんとなぁ」

瑞鶴「秘書艦って大変だね」

龍驤「そうやで、けどそんな秘書艦をぼちぼち瑞鶴に引き継いでこう思っとる」

瑞鶴「どういうこと?」

216 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/06(日) 13:39:23.19 ID:Ng8I11rZ0
龍驤「危機管理の一環やな。今日みたいなんが何回もあったらアカンやろ?」

瑞鶴「そう、かな」

龍驤「そうや。それにや、この立ち位置はそろそろキミに渡さんとなぁ」

瑞鶴「えっ?」

加賀「瑞鶴!」

瑞鶴「はいっ!!」

加賀「そろそろ上がります。龍驤さん、菓子いただきます」

龍驤「うん? おぉ! 食べて食べてぇ。第4保冷室の右から3番目の棚、中下段に置いといたで」

加賀「わかりました。瑞鶴、早くしなさい」

瑞鶴「まだ湯船に入ってないだけど……」

加賀「いいから来なさい」

瑞鶴「えぇ……。じゃあ、失礼します」

龍驤「またなー」

隼鷹「じゃあねー」

加賀と瑞鶴は一礼して船渠を後にする。


217 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/06(日) 13:40:33.90 ID:Ng8I11rZ0

隼鷹「なぁ、龍驤よぉ」

龍驤「なんや」

隼鷹「秘書艦引き継ぎって提督の命令?」

龍驤「ちゃうで、命令が出た時に何も準備できとらんだら格好つかんやろ? できる龍驤さんはその時に備えとんのや」

隼鷹「うん、そうだよな。お前はそういう奴だよな」

龍驤「そうやで」

隼鷹「ふーん。あのさぁ、龍驤」

龍驤「なぁに?」

隼鷹「もう提督と既成事実作っちまえよ」

龍驤「……おもろいこと言うな。それやった所でどうなるんや? ウチら艦娘やで?」

隼鷹「そうだけどさ。行動できる間にしておかないと、後悔しか残らないからなぁ」

隼鷹は落胆していた。

持てる技能をつぎ込んで龍驤の髪を編みこみ、フレグランスも南西任務で手に入れたバンレイシの精油を惜しげもなく使った。それにも関わらず成果は無し。

提督に問題があることも考えたが、やはり最期の一歩を踏み出すべきなのは龍驤の方だろう。

隼鷹「まぁいいか。なんかイベントなかったの?」

龍驤「特になかったなぁ、一応謝罪に出てただけやからな。まぁ、甘味処でお土産選ぶのにいろいろ食べ比べて、酒保に補充するもの見繕って、服探して、珈琲飲んで……」

隼鷹「よーし、龍驤わかったわかった。特にイベントはなかったんだな」

龍驤「そうや。むしろ帰ってきてびっくり。高速修復剤がごっそり減っとった」

隼鷹「マジで? いや、いいだろう別に。大規模作戦にも参加しないような鎮守府だからさ」

龍驤「そうなんかな。けど、六駆の娘らが頑張った結果やからなぁ」

隼鷹「ふぃー、酒が呑みたい」

龍驤「突然やな。いやゴメン、昨日呑んどらんだな。あとで瑞鶴のところにたかりに行こか。まだ残っとるやろ」

隼鷹「行こうぜ〜。そうだ、鳳翔さんに生ハムメロンを作ってもらおう。洋食の作法を教えてやんよ」

龍驤「別にええよ。箸があるやん」

隼鷹「いつか、大本営に招集を掛けられた時、食事会で提督は冷たい目で見られるんだろうな。『キミのところではテーブルマナーも教えられていないのか』。もちろん龍驤は責められないから安心しろよ」

龍驤「どうか作法を教えてください」

隼鷹「ひゃはっは、もちろんいいぜ〜。けど船渠で土下座はやめろよ」

龍驤「ああ、危ないとこやった。これでウチも安心やわ。ん? 誰か来たみたいやな」


218 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/06(日) 13:45:43.24 ID:Ng8I11rZ0
――執務室――

龍驤「ふんふーん、よっしゃできた。キミ、はいこれ」

提督「なんだこれは?」

龍驤「嘆願書や。巡洋艦をもう1人増やして欲しいんや」

提督「ふーむ、龍驤もか。これは本格的に交渉をする必要があるようだな」

龍驤「も?」

提督「うむ、電が突然やって来てな。お前と同じように嘆願書を持ってきた。しばらくしてから阿武隈と隼鷹がやって来た。何があったんだろうな」

龍驤「北上と話をしたんや。普段から達観しとるし、メチャクチャ安定した戦果を出しとるから気づけんだけど、あれは『同型艦に会いたい病』やわ」

提督は頭を抱え俯く。

また、気づくことができなかったからだった。

龍驤「自虐する暇はあげやんで。どうする? 電の時はわーわー喚いてくれたからわかりやすかったけど、今回は北上や」

提督「これは想定しておくべき問題だった。どんなに安定していても、どんなに練度が高くとも、もともとは軽巡だ。いや、違うな。高練度になって周囲を観る余裕ができたからこそか」

龍驤「そうや、今日なんか休みにしたのに六駆の訓練をしとったんや。それが引き金になったんかもしれん」

提督「あいつらは姉妹仲良しの見本を地で行くからな。どう考えてもそうなるな」

龍驤「どうすんの? もう保有枠はないで。もし大井を着任させるんやったら……」

提督「保有枠に最低1盃。しかも雷巡だよな、戦力制限でさらに軽巡1、もしくは駆逐2と引き換え、か?」

龍驤「それくらいになるやろ。決断の時や。先に言うとくけど、大井を着任させられんだとしても、北上は絶対に怒らんし、任務を放棄したりはしやんよ」
219 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/06(日) 13:46:09.06 ID:Ng8I11rZ0



提督「大井を着任させる」


220 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/06(日) 13:46:49.76 ID:Ng8I11rZ0
龍驤「りょーかい。通信式符を用意するわ。交渉に失敗したらどうしよか?」

提督「必ず要望を押し通す。武力を使わず交渉でだ。25盃目の保有枠を認めさせ、引き換えの艦はやらん」

龍驤「ほんま格好ええわ」

提督「もっと褒めてくれ」

龍驤「大井が着任できたらな。他には何を用意しとく?」

提督「ぬるめの珈琲とゼドリンを頼む」

龍驤「……本気でやるんやな」

提督「当然だ。俺はいつでも本気だ」

龍驤「じゃあ頑張ろか」

提督「あぁ」


221 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/06(日) 13:47:36.09 ID:Ng8I11rZ0
――母港――

提督「やはり阿武隈は一水戦旗艦にふさわしいな」

龍驤「ほんまやな」

夜戦に向かう水雷戦隊を見送る。そして、残ったそれぞれに入渠、練習航海、観艦式の振り付けを指示する。

提督「どうだ龍驤。俺はやりきったぞ!」

龍驤「そうやな、めっちゃ格好よかったで」

提督「そうだろう、そうだろう。……スマンが限界だ。後のことはよろしく頼む」

糸が切れたジョルリの人形を真似たかのようだった。

倒れ込む提督を龍驤が支える。

龍驤「こんなキミやからこそ、ウチは……」

音にならない程度の声で話しかける。

龍驤「明日からは劇の練習、しばらくしたら長門との演習、最期に大元帥を招いて劇本番や。これぞ龍驤を見せたるからな」

提督を抱え執務室に向かう。

劇当日まで数える程になった。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:27:50.09 ID:FDuQSpTP0
おつおつ
ごっつ面白い
223 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:14:27.76 ID:pWRMy71s0
――劇の練習――

龍驤「はい、もういっかいや」

瑞鶴「皆、ゴメン!」

暁「大丈夫ですよ、瑞鶴さん」

龍驤「じゃあ初めて出会う場面やるでー」

「「はい」」

再度練習を始める。

瑞鶴「『龍驤は今何をやってるの?』」

龍驤「『生物調査や。資源やら生態系の変遷を見とんのやで』」

翔鶴「『へぇ、そうなんですか』」

龍驤「『けど今はこいつらの対応や。隔離指定の蟻なんやけど、最近勢力を伸ばしてきとる』」

翔鶴「『龍驤さんはこの辺りで駆除作業をしようとしているんですか?』」

龍驤「『いや、今は仲間と行動しとるとこやから戦闘はせえへん。そろそろ合流することになっとんのやけど……』」

雷「『龍驤さん! その人たち誰ですか?』」

龍驤「『あぁ来たな。この娘らはウチの友達や、旅の途中で寄ってくれたんやで』」

雷「『わざわざこんなところまで来てくれてありがとう! 私は暁型3番艦、雷よ! かみなりじゃないわ! そこのとこもよろしく頼むわねっ!』」

瑞鶴「え? 知ってるけど、……あ!」

龍驤「はーい、もっかいやり直しや」
224 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:16:29.80 ID:pWRMy71s0

瑞鶴「皆、本っ当にゴメン!」

暁「まだ会ったことが無い設定なんだから!」

雷「もっとちゃんとしてよね!」

瑞鶴「ごめんってば!」

響「もっとだね」

電「もっとなのです」

同じ失敗をした瑞鶴を囃し立てる。

瑞鶴「んぐにいぃい!」

「「わー、瑞鶴さんが怒ったー」」

瑞鶴「待てー!」

龍驤「あー、もう。電まで一緒になって」

翔鶴「瑞鶴がご迷惑おかけします」

龍驤「ええって。子供に好かれて、仲間にも慕われる。これがええ艦娘の条件やからな」

翔鶴「ふふっ、そうですね。あ、彩雲が」

龍驤「こるぁー、瑞鶴!! 艦載機で遊んどんなぁっ!」

瑞鶴「やばっ、龍驤だ! 逃げろー」

「「おー」」

翔鶴「あぁ、龍驤さんまで……」
225 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:17:17.18 ID:pWRMy71s0

日向「追いかけっこは満足できたか? この後出撃が控えているから、終わってもいいか?」

龍驤「待ってぇ! ウチひとりやとあの数はさばけんのや!」

日向「なら先に緒戦の場面をやろう。私の艦載機に式付を貼り付けてくれ」

龍驤「うん、仮想ニ級elite符、ホ級eliteにおまけでリ級eliteも付けたで」

瑞鶴「ねぇ、龍驤」

龍驤「なんや」

瑞鶴「蟻なのになんで深海悽艦なの?」

龍驤「劇やからな。なんでもかんでもそのまま適用できるわけやないで。ほら、どこやったかの鎮守府の出し物で駆逐艦の娘らが惑星を模した戦士を上演しとったやろ?」

瑞鶴「やってたね、星の守護を受けた戦士? 睦月型の娘達が演じたんだっけ?」

龍驤「そうや、ビデオ見てどうやった? 魔法みたいなんはなしで砲雷撃で置き換えてたし、敵役も深海悽艦を模したものや」

瑞鶴「あれってなんでなんだろうね」

日向「皇国海軍の広報活動の一環だからだな。強大な敵、恐ろしい敵に立ち向かう姿を民間に伝える必要があるわけだ」

瑞鶴「なるほど」

龍驤「後は古典やからな、時代に合わせて表現を変えることもあるで」

瑞鶴「『睦月に代わって、お仕置きだよ!』 うん、確かに上手だったし面白かったね」

龍驤「やろ? それじゃ、敵に囲まれた所をやるで。キミらは見学しとってな」

第六駆逐隊は肩で息をして、震えながら頷く。

瑞鶴からは余裕で逃げ切っていた。

龍驤が瑞鶴を囚えた瞬間、第六駆逐隊は全員が最大戦速に切り替えてすぐさま龍驤の元へ戻った。

現在、瑞鶴が余裕な顔をしているのはその時の記憶が飛んでしまっているからか。

龍驤「じゃあ、よろしく頼むで」

日向「心得た」

都合47機の水上爆撃機が深海悽艦を演じる。

誰もが知っている、高性能な多用途機であり、この鎮守府では日向のみが取り扱うことができる。

それらは深海悽艦(仮)となり、連合艦隊を組み、さらに支援まで出していた。
226 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:20:00.83 ID:pWRMy71s0

龍驤「『願ってもない機会や。キミらの内で覚悟が決まった方からやるんや』」

翔鶴「『私が行きます』」

瑞鶴「『いや、私が!』」

順番を決めるため、羅針盤を回す。

瑞鶴「『よし! ラッキー』」

翔鶴は不満そうに羅針盤娘を睨めつけた。

日向がホ級(仮)を前に進める。

雰囲気や動きまでが精巧だった。

むしろ発する圧力だけは、本物を上回っている。

瑞鶴「『勝敗の付け方なんだけど……話しは通じなさそうね』」

瑞鶴が艦載機を発艦させるより早く、ホ級(仮)は砲を放つ。

こと戦闘において瑞鶴は冷静だった。

回避ができないのであれば、受け止めるまで。

甲板を避け胸部装甲に着弾。

赤城や加賀と比べ非常に薄くはあるが、覚悟を決めた状態であればそれは優秀な装甲である。

小破にも満たない被害からの反撃。

彗星一二型甲による爆撃だった。

艦攻ではなく、より疾い艦爆を選び、放つ。
227 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:21:21.68 ID:pWRMy71s0



ホ級(仮):轟沈


228 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:22:02.19 ID:pWRMy71s0
日向「ほぅ」

瑞鶴は艦攻を好んで使っているにも関わらず、今回は艦爆を放った。

不意打ちに近い攻撃に対して反射ではなく、有効な手段を選択し反撃する。

その選択は、ただ運が良いだけでは説明ができない。訓練の積み重ねを感じさせた。

翔鶴「『次は私ね』」



日向がリ級(仮)を前に進める。



翔鶴は先制の急降下爆撃を実行した。

リ級(仮)「……」

重巡のelite級は軽巡と比べて装甲が強固だった。

翔鶴「『へぇ、そうですか』」

教科書通りであれば、より火力が高い艦攻に切り替える。

翔鶴はさらに艦爆を投入し続けた。

その数、24機。
229 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:22:56.47 ID:pWRMy71s0



リ級(仮):中破


230 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:24:02.58 ID:pWRMy71s0

龍驤「『嬉しい誤算や。ふたりとも実戦でこそ力を発揮できるみたいやな』」

瑞鶴の成長もさることながら、翔鶴が素晴らしかった。

艦爆で装甲を貫けなかった場合、通常判断なら艦攻に切り替える。

爆弾より魚雷の方が攻撃力が高いからだ。

ただし、艦攻を使った雷撃はその成果にムラがある。

期待以上の成果を発揮すれば戦艦を撃沈することができる。

裏目を引いた場合、艦爆の爆撃以下の損傷しか与えられない。

瑞鶴が撃沈させたことにも触発されず、正確な爆撃で重巡を中破にする。

中破となった重巡は戦闘離脱時の雷撃を放つことができない。

随伴艦との連携を考えると、確実に無力化できることこそ肝要であった。

日向「まるで赤城のようだな。しかし……」

龍驤は首を振り、日向を制する。この場では話す必要は無いということだった。

龍驤「『瑞鶴、翔鶴。3秒後に離脱や』」

龍驤は羅針盤を回す。

翔鶴「『瑞鶴、あれはヤバイわね」

瑞鶴「『そうだね、翔鶴姉』」

龍驤「『あぁもう、ハズレや!』」

羅針盤娘「『ハズレとかいってんじゃねー』」

草を刈り取るための大鎌のようなものが見えた。

勅令の光を灯して振り抜き、46盃の深海悽艦(仮)を送還する。

龍驤「『回すまで進めやんし戻れやん。まったく役に立たんやっちゃな』」

羅針盤娘「『文句いってんじゃねー!』」

そう言い残し羅針盤ごと霧散する。

龍驤「『2人とも良かったで。これならやってけそうやな』」

翔鶴「『まだ練度を上げないといけませんが』」

龍驤「『こんな場所や、練度は嫌でも上がるで。瑞鶴は大丈夫か?』」

瑞鶴「『意思疎通ができない相手なんてどうにでもできるって』」

龍驤「『それが心配なんや。会話が成り立つ相手が出てきたらどうすんの』」


231 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:24:49.34 ID:pWRMy71s0

龍驤「はい、ここまでー。ご苦労さん」

雷「翔鶴さん、すごいわ!」

電「瑞鶴さんもいつの間にこんなになったのですか?」

雷、電は五航戦姉妹に駆け寄る。

駆逐隊にとって戦艦や空母は護衛対象であり、護衛対象が強く可憐であればより士気が上がるというものだ。

暁「なんで? 何で爆撃に耐えられたの?」

響「それはとても気になるね」

暁、響は日向に駆け寄る。

駆逐隊にとって日向は何故かはわからないが、戦艦や空母よりも信頼できる艦娘だった。

暁「日向さん! なんで艦載機が爆撃に耐えられるんですか? もしかして、それがあの有名な特別な瑞……」

日向「暁」

暁「はい!」

日向「その名をみだりに呼んではいけない。君は淑女だからわかるだろう?」

暁「と、当然よ。響も聞いちゃダメなんだからね!」

響「わかったよ、暁。でも日向さん。なぜ水上爆撃機を使うのかな。あなたは長門さんよりも序列が上の艦娘だよね。大型の主砲で闘うだけじゃだめなのかな」

日向「ふむ、なるほど。その質問も最もだな。逆に響。私が純粋な大艦巨砲主義で長門に挑んだ場合、果たして勝てるだろうか?」

響「その、申し訳ないけれど、多分長門さんが勝つと思うよ」

日向「的確な分析だ。まぁ、悪くないな」

日向は響の頭を撫でてやる。暁はそれを見て何かを考える。

日向「重ねて聞くが、我々は単艦で出撃するだろうか」

響「絶対にしないね。深海悽艦も艦隊を組んでいるし、戦略的に不利になるばかりだ」

日向「そうなるな。さて、長門との力比べで劣る私の序列が上な理由はわかったか?」

暁「はい! 艦の性能じゃなくて、戦果を上げたから!」

日向「ふむ、わるくない。やはり姉というものはよく見ているものだな」

日向は暁の頭を撫でてやる。暁はご満悦だった。

日向「私に求められた闘いは長門にはできないものだったわけだ。水雷戦隊と鳳翔や龍驤、そして私。徐々に君たちも参加することになっている。響とは先に行ったな」

響は頷く。

暁「長門さんができないのに暁にできるの?」

日向「まぁ、そうなるな。想像してみてくれ、長門を旗艦に、比叡、妙高、赤城、加賀、翔鶴で艦隊を組むとしよう」

暁「レディだわ! すっごくレディだわ!」

日向「今後君に求められる闘いは、彼女たちにはさせられない闘いだ。なぜかわかるか?」

暁「燃費が悪いとか? ひよーたいこーかってやつね」

日向「その通りだ。彼女たちではただの一撃も与えられないまま一方的にやられてしまう。出撃しても戦果は皆無だ」

暁「え? なにそれこわい」

日向「それだけこの仕事は重要なわけだ。暁よ、君には期待しているぞ」

暁「暁の出番ね! 頑張るわ!」



232 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/21(月) 23:26:55.35 ID:pWRMy71s0

龍驤「おーい、暁。出撃やから準備してー」

暁「わかったわ! 編成はどうなっていますか?」

龍驤「暁が旗艦で、ウチと漣と日向や。みんな待っとるからちょっち急いでな」

暁「え? 日向さんはここにいるんだけど」

日向「いや、これは私ではないな」

目の前から日向が消えた。

暁「きゃーっ! 響! 日向さんが!」

響「……これ対魚雷用デコイだ」

暁「じゃあ、日向さんのデコイが劇の練習をしていたっていうの?」

響「……まぁ、そうなるな」

暁「真似してるんじゃないわよ」

響「ごめん。ねぇ、暁。日向さんと長門さん、単騎で決戦して本当に日向さんは負けるのかな」

暁「暁に聞かないでよ。ところで響、日向さんが言ってた闘いって何のこと?」

響「私は潮と行ったんだけど、鎮守府近海の対潜哨戒のことだよ」

暁「潜水艦は怖いものね」

響「そうだね」

暁「それじゃあ、いってきます」

響「いってらっしゃい」
233 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/03/27(日) 23:14:16.79 ID:TIqwJd5t0
――劇の練習――

鳳翔「では交代して。私達の稽古を始めましょうか。場面は私達が翔鶴さん達に合流する所からです」

「「はい」」



雷「『翔鶴さんから入電だわ! ワレ・ズヰカクヲ・エイコウシ・キカン・リウジヤウハ・コウセンチウ ちょっと!? どう言うことなの! ねぇ、翔鶴さん何が起きたの!』」

響「『電話じゃないから話してもだめだよ。貸して』」

雷「『ちょっと、なにするのよ!』」

響「『キョテンニ・ゴウリウサレタシ・オウエンブタイヲツレテイク』」

暁は対潜哨戒に出てしまったが、つつがなく劇の練習に臨む。

調査隊役の彼女たちは応援部隊役の空母を拠点に案内する所を演じていた。



加賀「『なんですか? 五航戦ではないですか。物見遊山で首を突っ込むからやけどをするのよ。さっさと鎮守府に帰りなさい』」

赤城「『やめてあげてください、加賀さん。可哀想でしょう』」

加賀は赤城を見る。

赤城「『相手はただの五航戦なのですから』」

加賀「赤城さん、さすがにその言い方は……」

鳳翔「はい、やり直しです」

加賀「あ……、すみません」

駆逐隊は加賀と瑞鶴を見比べ、何か合点がいったようだった。

赤城「そういうこともありますよ。翔鶴さん、演技ですから泣かないでください」

翔鶴「あ、いえ。違うんです。この場面そのものが、何か胸の奥で引っかかると言いますか」

赤城「演技とはいえ仲間を置いて逃げ帰っていますからね。腑に落ちないこともあるでしょう。こちらへおいでなさい」

駆逐艦から翔鶴の顔が見えないように、赤城の胸で隠してやる。

赤城「大丈夫です。今は資源もまかなえています、訓練もできています、仲間も居ます。未だ終わりが見えない闘いでは有りますが……」

一呼吸置いてから澱みなく宣言する。

赤城「今度はあなた達を残して逝ったりはしません」

翔鶴「はい!」

航空母艦を眺める駆逐艦。

少し横で鳳翔が手招きをしていることに気が付き、我先にと駆けて行く。

手持ち無沙汰になった加賀は気絶する演技をしている瑞鶴を眺める。

演技ではなく本当に寝ているように見えた。

加賀「……」

呼吸音に乱れはないので寝ているようだ。

誰も加賀を見ていないことを確認した後、瑞鶴の頭を撫でてやる。

加賀「……」

瑞鶴「……」

瑞鶴の顔が赤くなった。

234 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/02(土) 23:46:26.57 ID:AITBL+Oo0
――劇の練習――

鳳翔「『派手にやられたようですね。敵はそんなにも手強かったですか』」

翔鶴「『今まで出会ったどんな敵よりも薄気味悪い空気を纏っていました。現界して、再び艦載機を操れるようになったからわかります』」

伏せていた顔を上げて、鳳翔達を見る。

翔鶴「『あなた達もすごく強い。それでも……アレに勝てる気はしません』」

赤城「『あはは、艦娘も人と同じで得体の知れないものに会ってしまうとそれを過大に評価してしまいますからね。あなたは今、一種の恐慌状態に陥っているのですよ。あとは私達に任せてゆっくり休んでください』」

加賀「『ふふ。結局私と同じことを言っているではないですか、赤城さん』」

笑った後に翔鶴に顔を向ける。

加賀「『五航戦。機動部隊同士の闘いに勝ち目の有り無しを問う事自体が間違っています。敵艦載機の種別、練度はわからなくて当たり前、ほんの一瞬の緩み、慢心が一発逆転の致命傷になります』」

加賀はさらに話を続ける。

加賀「『一見した艦載機数の多寡は気休めにもなりません。勝敗は揺蕩っていて当然です。しかし、それでも……』」

加賀「『完全勝利をおさめる気でやる、それが空母の気概と言うものです。相手の空気に気圧され、逃げ帰った時点であなたは失格。敗者以下です』」

赤城「『加賀さん、もういいです』」

鳳翔「『瑞鶴さんはどうなっていますか』」

翔鶴「『敵に攻撃を仕掛けようとしたから力づくで止めました。手加減をしなかったのでいつ目覚めるかはわかりません』」

加賀「『ふふっ、そっちの五航戦はまだ見込みがありますね』」

赤城「『加賀さん』」

鳳翔「『深海悽艦と艦娘の関係上、中途半端な戦力では敵に取り込まれる恐れがあります。わかりますね』」

翔鶴「『……はい』」

そのための少数精鋭の部隊だ。

鳳翔「『最寄りの泊地に2人、刺客を放ちました。やるかやらないかは自由です。しかし、倒してからおいでなさい』」

鳳翔の姿勢には芯が通っていた。その見た目以上に力強い声で伝える。
235 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/02(土) 23:47:40.16 ID:AITBL+Oo0



「『艦娘として生きるのであれば』」


236 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/02(土) 23:49:49.34 ID:AITBL+Oo0
鳳翔は割符を2つ投げ渡す。

鳳翔「『猫の手は要りません。必要なのは強者のみです』」

精鋭の機動部隊は悽地へ、五航戦は駆逐隊に護衛され泊地へ向かう。

暗転。

瑞鶴は目を覚ます。

瑞鶴「『ありがとう』」

翔鶴「『ありがとうって何?』」

瑞鶴「『私を止めてくれたのは翔鶴姉でしょ。あのまま私が暴走してたら龍驤の邪魔をしていた。そうなったら3人共危なかった』」

翔鶴「『けど! 私は龍驤さんを見殺しにした』」

瑞鶴「『龍驤は生きてるわよ。あんな奴には絶対、絶対に負けない』」

疑うことなど一つもない。

瑞鶴「『だけどあれだけの損傷だから、奴を倒してもすぐには動けないわ。多分どこかに身を潜めて待ってるよ』」

瑞鶴「『私達が戻ってくるのをね。だから早く戻ろう。強くなって。龍驤を助けに』」

語り部「翔鶴の心の内、『あぁ、瑞鶴。あなたは光よ。時々、まぶしすぎて真っ直ぐに見られないけれど、それでもそばにいていいかしら』」

翔鶴「『行きましょう! 強くなって』」


237 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/02(土) 23:51:45.86 ID:AITBL+Oo0
鳳翔「はい、ここまでです。皆さんお疲れ様でした」

電「やったのです。ようやく、通しでできたのです!」

島風「……加賀さん、瑞鶴さんおっそーい」

加賀「面目次第もないです」

瑞鶴「本当にごめんね」

直情型の瑞鶴と隠れ直情型の加賀。演技は苦手だった。

那珂「島風ちゃん、語り部お疲れ様! すっごく上手だったから那珂ちゃんびっくり」

島風「那珂さん、ありがとうございます。あれ? 観艦式部隊の皆は?」

那珂「皆一生懸命、操舵訓練(レッスン)に着いてきてくれたよ! 潮ちゃんと隼鷹さんは最後までやりきってくれたんだよ☆」

ぞっとしない話だった。参加者の長門と祥鳳は那珂の訓練に耐え切ることはできなかったと言っている。

戦艦も空母も普段の訓練は非常に厳しい。

搭乗員妖精が「全なる一」に戻ってしまうこともままある。

那珂が水雷戦隊を訓練する時は、それらの訓練に負けず劣らずの上、常に『笑顔』を要求される。

疲労の蓄積が桁違いだった。

隼鷹に連れられ、長門と祥鳳は入渠中。

潮と漣は劇部隊と話をしている。

那珂「そうだ! 漣ちゃんは途中で対潜哨戒に出ちゃってたよね☆ 今から追加の操舵訓練(レッスン)をしよう!」

漣「はにゃ〜っ! ナカバレ〜※2」 ※2:那珂ちゃんにバレちゃったよ、やっべ〜

水雷戦隊は常に仲間とともに闘う。

それが海戦であろうといたずらであろうとも、だ。

那珂の意識が漣に向かった刹那、最速の艦娘が起動した。

島風は那珂の精神的スイッチを切る。第四水雷戦隊旗艦のお団子が解け、垂れ髪となった。

漣「島風殿、良い仕事ですぞ! お礼は間宮なのです!」

漣と島風は互いに敬礼を交わす。

那珂「……漣さん、時間は十分ありますがうまく使わなければなりません。さっそく始めましょう」

生まれながらのアイドルは存在しない。

アイドルであろうとする心こそが那珂を艦隊のアイドルへと導いていた。

アイドルとはいえ、本質はやはり水雷戦隊旗艦の軽巡洋艦だった。

漣「徹底的にやっちまうのねっ!」

漣と潮は第六駆逐隊とは別の系譜としてここにいる。

ふざけているように見えたり、怯えたように見えたりしても、心意気は赤城と加賀にも匹敵する。

漣「駆逐艦漣、出るっ!」
238 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/02(土) 23:54:21.89 ID:AITBL+Oo0



時を同じくして。


239 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/02(土) 23:56:46.57 ID:AITBL+Oo0
――劇の練習――

「『格納庫ヲ用意セヨ。艦載機ガ100機以上格納デキル規模ガイイ』」

「『ゼロガサビナイヨウニネ』」

戦利品を抱えたまま呟く。

「『ウン。ワタシ、チョットツヨイカモ』」



【姫様、お疲れ様です。以上で稽古終了です】

【わたしのせりふ、これだけ……】

【とても重要な役ですから】

【うん、がんばればきっとゼロがもらえる! ……ほぽぅ、つかれちゃった】

【はい、戦艦が運んできた羊羹です、召し上がってください。あと姉姫様から入電です】

【マミヤたべる! おねぇちゃんなんていってる?】

【『南方から戦艦が迎えに来てくれます、それまでに準備をしておいてください』だそうです】

【はーい、じゅんびしておくね】



劇当日、ゲストは龍驤と出会うことになる。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/03(日) 03:17:14.08 ID:WZU0lOq9O
おつ
241 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/10(日) 23:07:36.78 ID:fna7Hy4H0
――船渠――

雷「いやー、出撃後のお風呂は気持ちがいいわね!」

雷は劇の練習が終わった後、阿武隈、鳳翔、日向と共に対潜哨戒へ向かった。

旗艦としての初出撃であり、緊張がなかったといえば嘘になるが、任務を全うできた。

雷「暁もそう思わない!?」

戦意高揚のまま姉に同意を求める。

暁「そうね」

雷「何よ、元気ないじゃない」

暁は出撃した時のことを思い出していた。

仕留め損ねた潜水艦からの雷撃。随伴艦はそれから暁を庇う。

撃ち漏らしたことや回避できなかった事の悔しさ、仲間が傷つく事への焦燥感が募っていた。

そんな暁に仲間は異口同音に伝える。

『共に闘い、共に帰ろう』

その言葉を胸に、暁は最奥に潜むヨ級flagshipを撃退する事ができた。

暁「仲間がいないと闘えないわね」

雷「あたりまえじゃない。単横陣が組めないんだから」

暁「そういう意味じゃないわよ」

雷「じゃあ、どういう意味よ。けど、仲間って大事よね。雷達が力を合わせたら長門さんだって追い詰められたんだもの」

暁「そうね。長門さん、今度加賀さんと龍驤さんを相手に演習するんだけど、勝てるのかしら」

長門「勝てないな」

雷「長門さん!」

長門「不覚にも軽く気絶していた。那珂の訓練はなかなか堪えるな。祥鳳はすでに上がっているようだが」

雷「それより長門さん、勝てないってどういうことなの」

長門「文字通りの意味だ。私では彼女達には勝てない」

雷「だったら何で」

長門「勝てないからと言って避けては通ることができないからだ。結局の所、深海悽艦の空母機動部隊は待ってはくれない。その時に備えるために練度の高い空母と訓練をしたいのだ」

演習はあくまでも演習であり、長門はその先を見ていた。

負けること自体は当然悔しいが、本当の敗北に比べればどうということはなかった。

暁「じゃあ私が長門さんの随伴艦に付くわ! 実戦を想定するなら艦隊を組んだほうがいいもの」

雷「なら雷も付くわね。長門さん1人で出撃なんてさせないんだから!」

長門「ふふふっ」

暁「何か変なことを言っちゃったかしら?」

雷「そんなことないと思うけれど」


242 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/10(日) 23:09:44.20 ID:fna7Hy4H0

長門「いや、すまない。その通りだ。たった1人で彼女たちに挑もうとしたのは私の我儘だった」

雷「もっと私に頼っていいのよ?」

長門「頼りにしているさ。だが今回は私に任せて欲しい。お前たちに守られる私ではなく、お前たちを守れる私になりたい。それに私を応援してくれるということは、共に闘うのと同じではないか?」

暁「そうかしら?」

長門「そうさ」

雷「じゃあせめて、長門さんの髪を洗ってあげるわ」

長門「そうか? ではお願いする」

暁「私は背中を流してあげる」

長門「あぁ、頼む」

湯船から上がり、洗い場へ向かう。

電「お待たせしたのです」

響「こんばんは」

電「はわわっ! 暁ちゃんがおっきくなっているのです!」

響「そんな馬鹿な。まるで超弩級戦艦じゃないか」

長門「それは私のことを言っているのか?」

響「話し方まで。まるで長門さんみたいだ」

暁「響、この人が暁なら私は誰なのよ」

響「暁だね。紛らわしいことしないでよ」

暁「まぁ、暁は1人前のレディだから。長門さんと見間違えるのも仕方がないわ」

電「けど、同じ艦娘とは思えないほど大きさが違うのです」

長門「どうした? そこで止まっていないでこちらに来てはどうか?」

入り口にいる響と電を手招きする。手の動きに従ってよく揺れていた。

長門「さて、あの2人に訓練を頼んでから演習に臨むとするか」


243 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/10(日) 23:11:41.99 ID:fna7Hy4H0

――射撃訓練場――

瑞鶴「ねぇ、加賀」

加賀「何かしら」

瑞鶴「今日って長門さんと演習するんでしょ、休んでなくていいの?」

加賀「まさか本気でそんなことを聞いているのではないでしょうね」

瑞鶴「本気で聞いてるわよ。いくら2体1でも相手は長門さんよ。疲れた状態で勝てるの?」

加賀「ただ勝つだけなら、間宮でアイスクリンでも頬張ってから臨むべきでしょう」

瑞鶴「でしょ?」

加賀「しかし、ただ演習に勝つことは目的ではありません。いつ出撃しても良いように、かと言って訓練をおろそかにするわけでもなく。平常心のまま臨み、そして勝つことが目的です」

瑞鶴「だけど」

加賀は射位から下がり、弽を取り外す。

加賀「劇の稽古の時、赤城さんはあなた達を残して先に沈みはしないといいましたが、私は違います」

瑞鶴「……え?」

加賀「私が先駆けます。私が矢面に立ちます。沈むときは私からです。ですが必ず敵勢力は削り取ります、ただでは沈みません」

その眼はただただ恐ろしい光を灯していた。

加賀「その時はあなたが決着をつけなさい」

瑞鶴「や、やだ! 何で加賀が沈まないといけないのよ」

加賀「最近、あなたのことを甘やかしすぎたかしら。五航戦、私達がどういった存在かを言ってみなさい」

瑞鶴「深海悽艦の脅威から皇国を護るための兵器よ」

加賀「そうよ。わかっているようね」

瑞鶴「けど」

加賀「はぁ。どうしようもないわね。いつか私も轟沈する時が来るでしょう。ですが、今日ではないですし、明日でもありません。それは深海悽艦を最後の1盃に至るまで沈めきった時です」

勝手を瑞鶴の頭に置きながら続ける。

加賀「人のことをとやかく言う前に、まずはあなたが頑張りなさい」

瑞鶴「わかったわよ、もう!」

怒る瑞鶴、口の端で笑う加賀。

瑞鶴「……ねぇ、今日も勝てるんだよね」

加賀「安心なさい。鎧袖一触よ」


244 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/10(日) 23:13:27.02 ID:fna7Hy4H0

――試着――

比叡「これなんてどうですか!」

龍驤「ええなぁ。ビーズレースを非対称に流すとこがええでぇ。けど、比叡ならこっちもええんとちゃう?」

比叡「おぉ! モザイク模様に刺繍を入れていますね。こうなったらもっと攻めて行きましょう!」

龍驤「ほっほー、ならこれや! 絶対、比叡に似合うでー」

比叡「ひえ〜っ! ビスチェドレスじゃないですか!? さっすがですねぇ!」

龍驤「やろやろ! ウチやとフルフラット過ぎて着られんけど、比叡やったらぴったりや!」

比叡「では、このドレスです! 妖精さん、試着お願いしますね!」

工廠妖精が集まってくる。

比叡の艤装を御召艦仕様に換装するため手際よく動いた。

比叡「どうですか、龍驤さん!」

龍驤「おぉ〜! めっちゃ綺麗や」

比叡「当然です!」

普段控えめな比叡にしては、非常に勝ち気な回答だった。

比叡「私は金剛型戦艦2番艦の比叡です! 金剛お姉様譲りの装備と大和さんのために用意した艦橋。今の私に恥じる所など1つもありません! それはあの2人を恥じるのも同義ですから」

龍驤「かっこえぇ。ウチもこんな風に言えるようにならんとな」

比叡「そうですよ。せっかくの機会なので龍驤さんも試着してみましょう。どれにしますか?」

龍驤「ええんかな、ウチも着てみてえんかな」

比叡「もちろんです!」

龍驤「え〜と、これがええな」

比叡「おぉ〜! アンピールラインのドレスですね」

龍驤「ウチ、ちょっち背が低いからこれがええ気がすんのやけど、どうやろ?」

比叡「似合いますよ絶対! 妖精さん、こっちもお願いします!」

工廠妖精により、龍驤はシルクのドレスに身を包む。

龍驤「……ええなぁ。これ着たいなぁ」

鏡に映る艦娘に正直な心情を述べた。

比叡「いいですね!」

龍驤が姿見を注視している間に、比叡は工廠妖精達に目配せのみで指示を出す。

正確な採寸と並行して、次々に装飾を取り替え記録する。

比叡「青葉さん!」

青葉「あいあい! 龍驤さん、これ持ってください」

青葉は白を基調としたブーケを手渡す。

続いて青葉の搭乗員が各々の役割を果たす。

ある妖精は龍驤に化粧を。

ある妖精はブルースクリーンを展開。

ある妖精はレフ板を。

245 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/10(日) 23:14:50.37 ID:fna7Hy4H0

龍驤「あれ? ウチなにやっとんの?」

青葉「広報誌に載せるんです。秘書艦の仕事ですよ?」

龍驤「そやったっけか」

青葉「そうです」

龍驤「そうか」

青葉「はい」

初めて聞いた仕事を言われるがままにこなす。

青葉「龍驤さん、今日は大丈夫ですか?」

青葉は加賀と龍驤、そして長門の演習のことを聞いた。

何も準備をしていないように見えたからだ。

龍驤「もちろん大丈夫やで〜。第3哨戒線より内に来たんはロ級が2体だけで、そのまま外に戻ったしな。即出撃可能な艦娘は鳳翔、那珂、妙高、島風、祥鳳、潮やから、よっぽどが起きても対応できる」

青葉「……おぉ」

予想外の答えが返ってきた。

秘書艦はまったく浮ついていなかった。

純白のドレスに浮ついていることは事実だろうが、並行して臨戦状態でもあった。

龍驤「むしろ青葉の方こそ大丈夫か? 全然寝てないやろ?」

青葉「いえ! 青葉は大丈夫です。慰労会は楽しかったですし、何より電様と鎮守府の歴史を編纂する任務もできましたので!」

龍驤「絶対寝不足や。今日の演習は司会実況いらんから。もう休み」

青葉「きょーしゅくです! けど、心配御無用ですよ。よーし、もっと働けます!」

比叡「えぇいっ!」

比叡は裂帛の気合で青葉の意識を刈り取り、そのまま抱え上げる。

龍驤「ありがとぉ、比叡」

比叡「お安い御用です」

龍驤「今日の司会実況はないけど、日向に解説して貰って隣に瑞鶴を座らせとこ」

比叡「とてもいい看取り稽古になりますね」

龍驤「そうやろ? もっと瑞鶴には育ってもらわんとな」

比叡「……そうですね」

おそらく龍驤の勘違いは、龍驤自身が気がつくまでは正せないだろう。

比叡「指令、腕の見せ所ですよ」

龍驤「おっ? そうやな」


246 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/24(日) 22:33:31.73 ID:OuFKJnQo0
――演習〜加賀・龍驤VS長門――

瑞鶴「……」

左を見ると、鳳翔、赤城、隼鷹、祥鳳、翔鶴と空母機動部隊が並んでいる。

瑞鶴「……」

右を見ると、北上、比叡、那珂、妙高、川内と水上打撃部隊が並んでいる。

瑞鶴「……えぇ」

前を見ると、阿武隈と大井が駆逐艦の相手をしている。意外なことに潮が大井に懐いていた。

そして真横には。

日向「まぁ、私というわけだ」

瑞鶴「あの、日向さん。何で私はここに座っているのでしょうか」

日向「面白い質問だ。君の隣に私が座っていることではなく、君自身が座っていることに疑問を持ったということか」

瑞鶴「はい」

日向「答えは至って単純。君に成長してもらうためだな。そんな君に、私は航空戦と砲撃戦の解説をするというわけだ」

瑞鶴「それって何でですか」

日向「秘書艦候補なのだろう? 秘書艦に強さを求められるのは当然だからな」

瑞鶴「あの、日向さん。それなんですけども」

言葉を遮る形で瑞鶴の頭の中に声が響いた。

分かっているが、現秘書艦が指令代行権を発動させての指示だから無碍にできないとのことだった。

瑞鶴「あ、え? 今、頭の中に……」

日向は涼し気な顔で、唇に人差し指を当てていた。

艤装に駆逐艦が2盃よじ登っているにも関わらず余裕の表情だった。

日向「しかし、瑞鶴か。君は実に良い名を授かっているな」

これは完全に日向の独り言だった。

瑞鶴「あと所属の艦娘が全員揃っているんでしょう? 遠征や出撃は?」

日向「全員ではない、青葉が船渠で眠っている。厳しい日程をこなしていたからな、そのまま休ませてやろう。提督もまだ眠っているな。また、今日、演習するのは彼女たちだからだ。見ることもまた重要な訓練と言うわけだ」

長門「加賀よ、楽しみにしていたぞ。今日こそは封殺させてもらおう」

加賀「私もそれなりに楽しみにしていたわ。前のようには行きません。完封は確定かしら」

戦艦と空母の間に火花が散った。

龍驤「一応、ウチも参加するで〜。一応」

大切なことなので2回言った。

龍驤「まぁ、ちゃっちゃとやってしまおか。瑞鶴、合図出して〜」

瑞鶴「え? うん。いいのそんなに軽く始めちゃって?」

長門「かまわんよ」

加賀「かまいません」

笑顔の長門と表情が読めない加賀。

一見して似ていない彼女たちだったが、内にある隠し切れない熱さは同じだった。

もう1秒たりとも待てなかった。

瑞鶴「じゃあ、はい。演習開始です!」


247 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/26(火) 21:28:11.19 ID:gXSTJlEZ0
――加賀・龍驤――

龍驤「ほんまに完全勝利狙いでいくん?」

加賀「はい。後先を考えずに全力で行ける機会なんてそうはありませんから」

龍驤「けど負けるかもしれんで? 消極的やけど、長門を削り取るように攻め立てたら確実に勝てるんやで?」

加賀「それでもです。あの人は1人で背負いすぎるきらいがありますから。それは美しいことかも知れませんが、必ずしも正しいとは言えません」

龍驤「そうかもなぁ。けど、あはは。最近の加賀は面倒見がええのが素直に出ててええなぁ」

加賀は顔をそらす。

加賀「まぁ、陸奥さんが着任していないこの鎮守府なので。あの人に言うのは私の役目でしょう」

龍驤「うんうん。よっしゃ! ほんじゃま開幕に全力かけてな。索敵はウチがやるよ」

背後に龍驤の甲板である『航空式鬼神召喚方陣龍驤大符改弐』が展開される。

龍驤「艦載機のみんな! お仕事、お仕事!」

二式艦上偵察機を都合18機発艦させた。

同時に眼に光を灯し、艦載機との同期を開始した。

加賀「……相も変わらず。そればかりは真似られません」

龍驤「適材適所やな。キミ等がここの花形やからしっかり攻撃頼むで」

加賀「宜候(よーそろー)」

龍驤「……長門みっけ! 零観がこっちに向かっとるわ」

やりますね。では、皆さん。行きましょう」

肚に息を落とし込み胴を造る。番えた艦載機は彗星と九七式艦攻、どちらも限界練度と評された熟練妖精が乗り込んでいた。

龍驤もそれに合わせて発艦準備を完了させる。その式符は零式艦戦62型、通称『爆戦』だった。

龍驤「ほいじゃ、妖精さん達。たのんだで」

熟練員「承知」

新米員「自分頑張るっす!」



加賀「第一次攻撃隊、発艦します」

248 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/04/26(火) 21:31:23.62 ID:gXSTJlEZ0
――瑞鶴・日向――

瑞鶴「2人共艦戦は積んでないのね」

日向「相手が航空戦力を持たない戦艦だからな」

瑞鶴「長門さんが瑞……水上爆撃機を積んでいたらどうするのかしら。龍驤が爆戦を発艦しているから大丈夫か」

日向「即座にその可能性を考慮できるとはな。瑞鶴も偵察機を出すといい」

瑞鶴「何でですか?」

日向「思ったよりも早く終わるからだ。目視だけでは心もとないからな」

そう言いつつ、14機の水上偵察機を発艦させた。

他の見学者を見ると、同じように電探を起動させたり偵察機を発艦させたりしていた。

瑞鶴「急がなきゃ」

瑞鶴は彩雲を番え、3機だけ発艦する。この時、わずかに眼に黄金色の輝きが現れた。

日向「それだけでいいのか? 君ならもっと多くの艦載機を扱えるだろう」

瑞鶴「その、お恥ずかしながら、同期できる数は3機まででして。でも! 龍驤の訓練をサボっているわけでは無くですね」

日向「もう一度言ってくれ、同時に3機に意識を通せると言ったか?」

瑞鶴「呆れないでくださいよ、私も頑張ってるんです。操作自体は84機はいけるんですけども」

日向「いや、すまない。ただ、おどろいただけなんだ。責めているわけでも呆れているわけでもないのだが。瑞鶴よ、例えば赤城や加賀は何機同期できるか知っているか?」

瑞鶴「あの人たちだったら搭載機全部なんじゃないですか?」

日向「1機だけだ」

瑞鶴「嘘でしょ? 一航戦ですよ?」

日向「彼女たちに限らない話なんだがな。私達が艦載機を操るときはTSS※3でしかない」 ※3 time sharing system:細かく切り替えることで複数の処理を同時に実行しているようにみせる。

瑞鶴「え? てぃーえすえす?」

日向「ごく一部の艦娘だけがMT※4で操ることができる。龍驤を見てみるといい」 ※4 multi task:複数の処理を同時に実行する。

瑞鶴「なんか……眼の色が……というか光ってる?」

日向「今の君も、ほら」

胸部装甲から手鏡を取り出し、瑞鶴に渡す。

瑞鶴「わっ! 何ですかこれ!」

日向「わかったか? これは……」

瑞鶴「この鏡ものすごく可愛いです! どこで手に入れたんですか? 今度連れて行ってくださいよ」

日向「あ、あぁ。いつでもいいぞ。というか恥ずかしいな、なんだこれは?」

不意の一撃に日向は狼狽え、彼女にしては珍しい表情を見せた。そしてその鏡は実際カワイイ。

瑞鶴「すみません、話がそれちゃいました。わっ、なにこれ? 眼が光ってる」

日向「私達は勝手に虎視(トラノメ)と呼んでいるが、君はこんなにも低い練度でこれを使うことができるのか。もしかすると龍驤は本気で秘書艦の任を受け渡そうとしているのかもしれんな」

虎視は、ある日龍驤が確立した艦載機操作術だった。

同時に見るということは、威圧をかけるのとほぼ同じ意味を持っている。

艦体に影響はないが、それを操るのは心持つ艦娘だ。練度次第では直視できない程の重圧を受けることになる。

瑞鶴「日向さん、航空戦に突入します!」
249 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:23:36.48 ID:8hlHK6Es0
――長門――

長門「お前たちならきっとそうしてくると信じていたぞ」

零観を通して、龍驤の二式偵察機とそれに続く加賀の主力艦載機を捉えた。

長門「消極的な勝利では満足できないよな、加賀。訓練とは言え、半分は全力を出しきるためだけの場だからな」

長門は三式弾を装填し備える。

長門「戦略だけでいえば零観を無視して、私への攻撃に全力を注ぐべきだろう。だが、今この瞬間だけは想像せずともわかる。お前は確実に零観も殲滅しようとする」

目視できない有効射程内という微妙な距離。14号対空電探と、確信とも言える勘に従い長門は射撃員に指示を出す。

長門「三式弾一斉射!」

さらに零観が加賀達の飛行部隊に会敵する直前、長門は方向転換指示した。


250 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:24:42.30 ID:8hlHK6Es0
――第一次攻撃隊――

ある程度の間隔を保ち艦載機は航行しており、そう長くない時間が過ぎた時に零観を視認した。



完全勝利。



これを実現するために零観も撃墜する必要があった。

優秀な観測機だが、複葉機の域は超えていない。これと対峙するために艦戦は役不足だった。

零観が急に進行方向を変える。

艦攻部隊は直進、艦爆部隊は零観に合わせて方向転換をする。

非常に高い練度を誇る彼らは同じ方向へまったく同時に操縦桿を倒した

対空迎撃を想定していなかったわけではない。その時を、加賀は急降下爆撃と予想していた。

有効な爆撃を与えるため皆が同じタイミングで動き、行動の予想がつけやすいからだ。

急降下爆撃時は5機で8小隊を組み、波状攻撃を仕掛け対空迎撃に備える手はずだった。

長門の戦術はそれを上回った。

最高練度を誇る艦爆妖精達はとっさに同じ判断をして、同じタイミングで方向を転換した。その瞬間、長門から見た艦爆隊は面ではなく点となっていた。


251 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:26:03.92 ID:8hlHK6Es0



戦艦長門
対空迎撃成果
加賀:彗星40機全滅
龍驤:爆戦26機撃墜


252 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:26:39.33 ID:8hlHK6Es0
龍驤「テツ! チュウ! 頼んだで!!」

熟練員「了解」

新米員「了解っす!」



非常に練度が高い艦爆隊は、操縦精度の高さを長門に付けこまれた。

それすら回避した2名の妖精は龍驤とともにあった。

『全なる一』から湧き出る妖精であるが、訓練を通じて個性が現れてくることもままある。

熟練員の彼は鎮守府黎明期から存在し続ける古参中の古参。

過去から現在まで、艦戦乗りとして他の追随を許していない。

新米員の彼は文字通りの新米。

ただし、龍驤との相性が異常に良く、瞬く間に飛行部隊の一角を担うこととなった。



熟練員は長門へ向かい、新米員は爆弾を投棄して加賀の直掩へ向かう。


253 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:27:46.67 ID:8hlHK6Es0
――長門――

長門「こうも上手く嵌るとは、彼女達に感謝だ」

1人で戦わせないと言ってくれた駆逐艦達、そして演習前に訓練を付けてくれた空母達のお陰だと確信する。

爆戦2機を取り漏らしたが、まず目前の危機に意識を向ける。

長門「問題はここだな」

艦爆を退けたとはいえ、加賀の艦攻部隊が遅れてやってくる。

その数46機。

この鎮守府が誇る雷巡が扱う魚雷は40門、それを考えると途方もない数だと言わざるを得ない。

それにも関わらず、長門は笑っていた。

敵に会った時の戦意剥き出しの顔ではなく、楽しげで肩の力が抜けた笑顔だった。

自分の体を使って、全力で表現するためには常に笑顔でいられる胆力が要だという。

言葉よりもその軽巡の在り方そのものが説得力となっていた。

艦攻部隊が次々に魚雷を投下する。魚雷は方向転換できない。



長門「右舷投錨、 最大戦速!」


254 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:29:26.17 ID:8hlHK6Es0
――加賀・龍驤――

加賀「やられました」

龍驤「最初っから読みが外れたな」

加賀「えぇ、今の長門さんはまったく単騎に見えません。まるで第六艦隊や那珂さんが随伴しているようです。それに、ことごとくこちらの動きを読んでいることから……」

龍驤「赤城と隼鷹やわ。予想外すぎやろ。キミと演習する準備に、キミより序列が上の2人と事前訓練しとくとか」

加賀「私の慢心です。終わった後に船渠で反省します。が、勝ちは譲りません」

龍驤「そやな」

加賀「第一次攻撃隊の彗星が全滅。続く艦攻は全て回避されると見て間違いないでしょう」

加賀は呼吸を整え覚悟を決める。

長門の狙いは旗艦の加賀であることは疑いようがなく、加賀の艦体の大きさと速力では長門の射撃からは逃れることはまずできない。

龍驤は舵を切り、長門へ向かう。

龍驤「足掻いてくるわ。後は頼むで」

艦載機を発艦し尽くした空母が戦艦に挑む。


255 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:31:30.55 ID:8hlHK6Es0
――長門――

長門「九一式徹甲弾装填完了。目標加賀! ……むっ?」

爆戦が1機迫って来た。

長門は冷静に爆弾投下の瞬間を待つ。12.7cm連装高角砲はいつでも発射可能だ。

長門「今だ! 対空一斉射!!」

爆戦相手に過剰な弾幕を展開した。

長門「何! すり抜けただと!?」

錐揉み回転状態になり弾幕を回避し急降下する。

機体こそ零戦だが、爆弾という錘を抱えているのにもかかわらずだ。


長門「くっ、三番砲塔がやられた。しかし、目標は変わらん! 第一、てぇっー!!」

弾着の手応えを確かに感じ取った。厳しく見積もっても加賀は中破だった。

長門「……応答がないな、観測機は落とされたのか? 第二、打つなっ!」

長門は目標を加賀から切り替えた。

長門「ずいぶんと速かったな」

龍驤「楽しみにしとったんやろ? ウチも楽しみにしとったからな。目標長門、斉射!」

12.7cm連装高角砲が火を吹いた。

二式妖精「弾着修正なし、もう一発!」

龍驤「あいよ〜、斉射!」

空母にも関わらず、2度も弾着させた。

当然、長門の装甲を抜くことはできない。それほどに長門型の胸部装甲は豊満だったからだ。

長門「ふふふ、楽しいなぁ! 龍驤、お前は一体何なんだ! 目標龍驤、第ニ、てぇっー!」

龍驤「おわっち、危ないわぁ」

回避成功。着弾点は龍驤の後方だった。

長門「速力を上げたか! 次は外さん。第四、てぇっー!」

さらに回避精巧。またもや着弾点は龍驤の後方だった。

長門「……」

龍驤の速度上限を試算して砲を放ったにも関わらず後方へ外す。

これはさらに速力を上げたということだったが、はたして可能なのか。

長門が鷹の眼で龍驤の船底を睨みつける。

喫水線が通常では考えられないほど浅かった。

長門「……バルジを外してあったのか」

長門は沈着冷静になる。半分祭り気分でいた自分を恥じた。

演習を願った長門に応えるため、龍驤は入念な準備をしてくれていたからだ。

長門「お前たちとの演習に浮かれてしまっていたようだ。価値ある一戦をありがとう」

龍驤の前方気味を狙い、次発装填した第一主砲を向ける。

速力を上げられなければ的中、もう最大戦速の龍驤には不可能だった。

旋回できなければ的中、バルジまで外した龍驤は転舵即転覆。不可能だった。

長門「第一、てぇっー!」


256 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:32:13.09 ID:8hlHK6Es0



龍驤「ほい来た! 面舵いっぱーい!!」


257 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/01(日) 20:33:25.82 ID:8hlHK6Es0
方向転換し回避、長門に砲を向ける。

龍驤「構え」

長門「馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な!! なぜ転覆しない!?」

龍驤「ウチの搭乗員はみーんな優秀やからな!」

艦体の中で、射撃員が砲弾を抱え、割烹員が鍋を担ぎ、そのた搭乗員も重い荷物を抱えていた。

操舵員の号と共に、皆一斉に右舷側へ向かい走ったのだった。

搭乗員による艦体の重心移動。

龍驤は艦体の制約を搭乗員の練度でねじ伏せた。

長門「龍驤っ! 第二……」

その意識は龍驤のみにに集中し、次発装填されていない主砲も全て龍驤に向けられた。

龍驤「長門、ウチは囮やで?」



加賀「第二次攻撃隊、発艦します」
258 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 20:54:26.74 ID:oV1bedW40
長門「龍驤、私は一体どこで失敗したんだ?」

長門の意識は完全に龍驤に向かっていた、対空防御はもう間に合わない。

徹甲弾を装填し、全主砲を加賀に向け直す。

龍驤「失敗? 何言うとんの、本当やったら開幕爆撃でお終いやったんや。演習としては大成功やろ」

長門「そうか。つまらないことをこぼしてしまった。まだ、負ける気はないがな」

龍驤「それでこそや。最後まで頑張り」

長門「あぁ。全主砲、一斉射。てぇーっ!」

259 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 20:55:54.81 ID:oV1bedW40
加賀の艦爆隊が一糸乱れぬ陣形で長門へ攻撃を加えた。

都合32発の爆撃だった。

長門「長門型の装甲は伊達ではないよ」



長門:大破


260 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 20:56:52.33 ID:oV1bedW40
加賀「長門さんの姿は見えず、それは向こうも同じ」

呼吸を整え備える。

加賀「ですが、彼女は確実に中ててくるでしょう。零観がこちらを見ているのは困りました。まぁ、なんとかしますが」

長門の気迫が胸を貫き、実弾は後少しで着弾する。

足が遅い加賀はおそらく避けることはできない、できないのであれば。

加賀はその豊満な胸部装甲で真正面から受けた。



加賀:中破


261 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 20:57:55.73 ID:oV1bedW40
新米員「加賀姐さーん」

龍驤からの直掩が、瞬く間に長門の観測機を撃ち落とす。

加賀「やりました。さすがに優秀な子ね」

長門の眼を担っていた零観が落ちた。

弾着修正ができない2撃目は避けられる。

新米員「2撃目は来ないようね、龍驤さんが上手にやってくれているわ。全機爆装、第二次攻撃隊準備」
262 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 20:59:00.43 ID:oV1bedW40
新米員「中破だけど大丈夫っすか?」

加賀「問題ないわ。飛行甲板は盾ではないもの。甲板ではなく胸部装甲で直接受け止めたから。紙一重で飛ばせられるわね」

龍驤の爆戦を着艦させる。

加賀「装甲空母以上に艦体が強靭な空母は、まぁ、私か赤城さんくらいのものね」

新米員「これが、一航戦っすね!」

加賀「あなたも爆装しておきなさい。まだ、何が起きるかわからないわ」

新米員「了解っす!」
263 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 20:59:56.13 ID:oV1bedW40
加賀「第二次攻撃隊、発艦します」

おそらくこれで勝負がつくと分かっていた。

彗星との同期で長門への爆撃結果を知る。

加賀「足りませんでしたね」

知ると同時に二度目の徹甲弾が加賀を貫く。



加賀:大破(轟沈判定)


264 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/05/29(日) 21:06:31.17 ID:oV1bedW40

春イベントでの入手祈念

・雲龍
雲龍「提督、新生機動部隊はお任せ下さい」 提督「任せた」

入手成功

・U-511
提督「今度こそ、U-511を獲得する」 U-511「ゆーはここにいますよ」

入手成功

・秋月
提督「では、何を食べさせたいのだ」 秋月「……それは」

入手成功。題名とプロットだけ。

・照月
照月「提督、一緒に食べます?」 提督「いただきます」

入手成功。題名とプロットだけ。



雲龍が151周かかってどうなるかと思いましたが、その後はあれよあれよで着任してくれました。
265 :sage :2016/05/29(日) 21:21:53.52 ID:XOcGnXBiO
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/29(日) 21:22:27.60 ID:XOcGnXBiO
ごめんなさい
267 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/06(月) 22:47:42.64 ID:cgQedAPK0
日向「見事な昼戦だったな。瑞鶴、遅くなったが解説をしよう。……ん?」

瑞鶴「なんでよ、なんで囮なんか。そんな作戦って……かはっ、……っ」

日向「これはいかんな。心身艦がばらばらになりかけている」

瑞鶴「……大丈夫、ですから。大丈……」

日向「瑞雲ッ!」

瑞鶴「私、それは……」

日向「あぁ、装備はできないな。ただ保持するだけでいい。目を閉じなさい」

水上爆撃機をひとつ、瑞鶴に持たせてやる。

日向「過去を追ってはいけない。未来を待ってはいけない。ただ今この時だけを感じ取るんだ」

瑞鶴「……今」

日向「君の手には何がある?」

瑞鶴「瑞雲……です」

日向「そうだ。五航戦の栄光でもなく、未来への希望でもない。ただの瑞雲だ」

瑞鶴「はい」

日向「君は聡い娘だ。かつて様々なものを背負わざるを得なかっただろう。そして今後様々なものを背負っていくことになるだろう。だが、君にできることは何だ?」

瑞鶴「今を生きることだけ、です。日向さん、もう大丈夫です」

日向「そうか。この演習だが」

瑞鶴「加賀と長門さんが自身を鍛え上げ、限界いっぱいまで自分を使い切ることを。龍驤が私達の最大戦力である艦載機を鍛えあげることの必要性を見せてくれました」

日向「悪くない」

瑞鶴「昼戦が終了したので夜戦なしで長門さんの勝ち。だけど、どっちも今日の勝敗は気にしないと思う。次に備えてまた強くなるわ。私も訓練しなきゃ」

日向「悪くない。いや、素晴らしい」

瑞鶴「演習は終了よね」

日向「いや、まだだな」

瑞鶴「何でですか?」


268 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/06(月) 22:48:40.07 ID:cgQedAPK0
提督「間に合ったか?」

日向「ようやく起きたのか」

瑞鶴「提督さん、全然間に合ってないわよ」

提督「瑞鶴、状況を教えてくれ」

瑞鶴「えっと、昼戦が終了しました。長門さんは大破、加賀が大破轟沈判定、龍驤は無傷だけど攻撃機はほぼ撃墜されているわ」

日向「瑞鶴」

瑞鶴「何ですか」

日向「報告は正確にするんだ。君が旗艦として出撃する場合を想定するといい」

提督「日向の言うとおり正確に頼む」

瑞鶴「長門さんの零観3機が全墜。加賀は彗星が40機墜落、予備の彗星12機は爆撃を終えて空中で待機。九七式艦攻は雷撃後に46の内20機が爆弾に装備換装して爆撃。今は空中で待機している」

提督「ふむ」

瑞鶴「龍驤の爆戦は26機墜落、1機が長門さんに爆撃後空中待機、1機が加賀の直掩後に加賀に着艦したわ」

提督「なるほど、わかった。まだ始まったばかりということだな」

瑞鶴「何言ってるのよ。もう夜戦しても意味ないわよ」
269 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/06(月) 22:49:06.31 ID:cgQedAPK0


龍驤「我、夜戦に突入する!」


270 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/06(月) 22:49:51.98 ID:cgQedAPK0
瑞鶴「は? 龍驤、何言ってんのよ」

提督「どうした、瑞鶴。夜戦開始してやれ」

瑞鶴「いや、でも。長門さんは大破で加賀と龍驤は空母ですよ」

提督「そうだな」

瑞鶴「だから!」

提督「あぁ、そうか。演習の規則を気にしているのか。長門が拒否すれば夜戦はなしだ。聞いてみよう」

通信式符を長門へ飛ばす。

長門「提督からの通信か。夜戦で加賀から発艦させてよいか、だと? 是非もない。加賀のことだ、たとえ1秒後に轟沈しようとも決して諦めないだろう」

提督「さすがは長門だ。瑞鶴、夜戦開始を頼む」

瑞鶴「まぁ、やるけど。柏手2つ、と。夜戦開始です」
271 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/06(月) 22:52:24.27 ID:cgQedAPK0
加賀「……夜戦ですか」

新米員「おぉ、姐さんから指示が来たっす! 自分行ってきます」

加賀「待ちなさい。長門さんが発艦してもいいとは言いましたが、すでに私は速力(あし)をだせません。それに甲板はボロボロで明かりをつけることもできません。飛ばせられないのは私の力不足ですが、むざむざとあなたを海に落とすわけにはいかないわ」

新米員「大丈夫っす! 末席とはいえ、自分は龍驤飛行部隊員っす!」

誇らしげに宣言しつつ、広い加賀の甲板からわずかに活きた経路を見つけ出す。

加賀「そう。もう何も言わないわ」

肚をくくり、胴造りを決める。

加賀は今はこれだけしかできないとは言ったが、万全の状態でこれだけの水準を維持できる空母は一体どれだけいるだろうか。

加賀「いきなさい」

新米員「いきます!」



272 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/06(月) 22:55:23.45 ID:cgQedAPK0
長門「夜間無灯停泊発艦だと!? バカな!」

長門は狼狽するしかなかった。見たこともないどころか、考えたことすらない戦術だった。

一航戦赤城の搭乗員ですらそんな真似はしない。

長門「……くっ」

上には墨をこぼしたような空が広がるだけで、爆戦は視認できない。

音を捉えようとしても、その速さに追いつくことはできなかった。

長門「ははは! 次は負けん!」

たった1発の爆弾が、長門型の装甲を貫いた。



長門:大破(轟沈判定)


273 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/07(火) 22:04:22.16 ID:2VZyhD7e0
長門「してやられたな」

加賀「双方旗艦は轟沈判定。龍驤さんが無傷な分、私達の勝利のようです」

長門「そのようだな」

龍驤「ごめんな2人とも。水さすような真似して」

長門「かまわないさ、提督が始まったばかりと言ったわけだからな。むしろ貴重な経験をさせてもらった。夜の航空戦力があれほど視えないとは思いもしなかった」

龍驤「暗いと見えんもんな」

長門「それに加賀だ。中破でなお戦闘続行できるとはな。ははは、赤城と隼鷹に申し訳がたたんな」

加賀「それはこちらも同じことです。まさか開幕の航空戦を乗り越えられるとは思いもしませんでした。第二次攻撃すら大破で耐えられましたし」

長門「これでも対空迎撃には自信があるからな」

加賀「えぇ、隼鷹さんと呑むたびに聞かせてもらっています」

長門「それにだ、皇国の誇りとまで謳ってもらった長門型の身体だ。そうやすやすと装甲は貫けんよ」

不可思議な構えで胸部装甲を誇示する。

豊満なそれにはこの国の思いが多く詰まっていた。

加賀「それは私も同じこと。改長門型として生を受けたこの身体です。改装空母となってもその強度は保持されているわ」

徐々に奇妙な構えに移行して胸部装甲を強調する。

この鎮守府で長門を上回る唯一の艦娘が彼女だった。

加賀「負けた身で言うのもなんですが。義姉さん、目は醒めましたか?」

長門「あぁ、単艦で挑むのはこれっきりだ。次は艦隊同士の戦いだ」

加賀「はい、一緒に戦いましょう」

龍驤「ええ雰囲気になったとこ悪いんやけど、曳航してくれん? バルジも外したから燃料もないし転覆しそうなんやけど」

加賀「長門さん、私もおねがいします」

長門「いや、私も動けないんだが」

龍驤「……」

加賀「……」

長門「……」

龍驤「日向! 日向、助けて!」

274 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/07(火) 22:05:42.99 ID:2VZyhD7e0
日向「まったく、しかたのない奴らだ」

瑞鶴「日向さん。私行きますよ」

潮「私が行きます!」

瑞鶴「はい?」

漣「ちょま、潮。何張り切ってるのヨ?」

潮「漣(さざ)さん、これは私達の仕事でしょう?」

漣「うっは、ペタワロス。潮さんはちょっと宴会大賞の高揚が抜けてないみたいっす」

日向「慰労会か。まさか長門や鳳翔を差し置いて大賞を取るとは思わなかったからな」

漣「あれ、赤城さんが延々と演技指導してくれたんですヨ」

瑞鶴「嘘でしょ!? 赤城さんがそんなことしてたの?」

日向「まぁ、劇の練習でも一度も間違えなかったからな。演技は得意なのだろう」

瑞鶴「えぇ、興味なさげだったのに?」

日向「一航戦だからな」

瑞鶴「やめてください。ものすごい説得力です」

漣「じゃあ、皆を連れてちょっといってきますね」

漣は一度髪を解き、サイドテールに結び直した。

潮「一航戦、潮が命じます! 第六駆逐隊はトンボ釣りを! 漣(さざ)さんと島風さんは私と共に演習組の曳航に向かってください!」

第六駆逐隊「「了解」」

島風「はーい!」

潮「一航戦、潮。出ます!」

漣「漣(さざ)、出撃します」

走り回ったり、日向の艤装によじ登っていた駆逐艦が一斉に行動を開始した。

瑞鶴「統率取れすぎでしょ、駆逐隊はどうなってるのよ。というか漣のモノマネが似すぎててムカつくんだけど」

提督「そう言うな。潮たちは非常に連携が取れているからな。遠征任務、対空防衛、対潜哨戒、どれをするにも頼りになる」

瑞鶴「そのとおりですけど」

提督「さて、戻ってきたら講評だが、直前まで寝ていたから無理だな。どうしよう?」

日向「まぁ、無理だな」

提督「やっぱりか」

瑞鶴「そんなんでいいの? もう戻ってくるんだけど」

275 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/06/07(火) 22:06:48.30 ID:2VZyhD7e0
龍驤「おぉ、おはようさん。よう寝られた?」

提督「おはよう、おかげさまでな。ただ、直前まで寝てたから講評ができん、すまん」

龍驤「ええよ。けど皆頑張ったから声だけかけたって」

提督「うむ。まず、長門」

長門「はい」

提督「妙高の真似はやめてくれ。わかってくれていると思うが、実戦で実践してしまうとお前の艦体は耐えられない」

長門「そうだな、この図体では耐えられないだろう。演習で浮かれてしまったようだ」

提督「しかし! 今までできなかったことができた事はすごいな! 独力だけではないな、那珂か? 操舵力が格段に向上するのは那珂の訓練だな」

長門「ご名答」

提督「秋津洲流戦闘航海術を使う選択をしたのは、事前に作戦を練ったんだな。隼鷹、いや赤城にも助けを求めたか」

長門「そのとおりだ」

提督「仲間に助けを求められるのは素敵だ。やはり連合艦隊旗艦はお前のものだな! よーしよしよしよし」

長門「ふふ、ありがたく頂戴しよう」

提督「次は加賀」

加賀「はい」

提督「なんで大破でも発艦できるんだ? 装甲空母であれば中破で発艦可能とは聞いているんだが。加賀は違うよな?」

加賀「違います。ですが私は一航戦ですから」

提督「なるほどなぁ! 一航戦だもんな。いい娘だ、加賀! よくできた」

加賀「ふふっ」

提督「航空甲板を盾にもせず、たとえ一歩足りとも動けない状態でも信じられないほどの水準を保ったり。教科書通りにできないことが常なのに、本当にすごいな!」

加賀「さすがに気分が高揚します」

提督「最後は龍驤だな。龍驤!」

龍驤「はいはい」

龍驤を褒めるときはどのようになるのか。

提督にとって龍驤が特別であることは周知の事実だが、褒めているところを目撃する機会は殆ど無かった。

皆はどのような状況になるか、密かに楽しみにしていた。

龍驤「よしよしよし。よう頑張ったな。やるべきこと全部やって演習にも間に合ったやん」

提督「あぁ!」

龍驤「めっちゃカッコ良かったで。流石やな!」

提督「そうだろう、そうだろう!」

全員の頭に疑問符が浮かんでいたが、一部艦娘、日向以上の古参組は笑っていた。

漣「ナニコレ?」

潮「龍驤さんが別格ってことだけはわかるね」

漣「まぁ、そうねぇ」

提督「では、加賀、龍驤と長門の演習を終了する。双方、今後もよくよく努めてほしい」

日向「全員、礼!」

「「ありがとうございました」」
276 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/04(月) 22:47:49.00 ID:KMLw2te40
龍驤「……朝か。提督のとこ行こかな」

いつもと同じ時刻に目覚め、同じように執務室へ移動する。

龍驤「失礼します。龍驤入ります」

提督「入ってくれ」

龍驤「おはようさん」

提督「あぁ、おはよう。とうとうこの日がやってきた」

龍驤「そうやな、準備はどうなん? ちゃんとできとる?」

提督「当然だ。あまりに楽しみが過ぎて眠られなかったことは、しかたないよな」

龍驤「しかたないな」

提督「そう言ってくれると思っていた。龍驤は俺と比べて余裕がありそうだな」

龍驤「キミがあわあわしとんのにウチまで慌ててもしゃーないやんか」

提督「こんな時まで世話をかける。今日は出撃と遠征はないから作戦をたてることもないな。珈琲を飲むか?」

龍驤「その前に一つ用事が」

瑞鶴「失礼します」

提督「入ってくれ」

瑞鶴「ちょっと、龍驤。なんでこんなに早くに呼ばれなくちゃいけないのよ」

龍驤「ごめんごめん。けど今やっとかんとな。てっちゃん」

熟練員「ここに」

龍驤「はい、瑞鶴。今からこの子はキミとこの所属や。ウチにとって虎の子やからな。よろしくたのむで」

熟練員「よろしく頼む」

瑞鶴「え、ちょっと。何?」

龍驤「比叡の準備に行かんと。瑞鶴、提督に珈琲いれたって」

龍驤は執務室を後にする。

277 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/04(月) 22:48:45.59 ID:KMLw2te40

瑞鶴「提督さん、何が起きたのか説明してよ」

提督「俺にもわからん。どうして突然」

熟練員「わかりませんか、司令官。姐さんは先を見越しているのですよ」

提督「テツさん、それは一体どういうことだ」

熟練員「ケッコンカッコカリ。その後何があるかは承知していますな」

提督「大抵の鎮守府だと、シンコン旅行に行くようだな」

熟練員「そう、オリョールからリランカまでかなりの行程になります」

提督「うーむ、無理かもしれん。俺の力量ではその期間中鎮守府を離れるわけにはいかないからな」

熟練員「そこです。シンコン旅行を短縮、これすなわち司令の力不足です」

提督「はっきり言ってくれるな」

熟練員「姐さんはそれが我慢ならなかった。そも、この鎮守府にかけられた制限は大きいですからな」

提督「その発言は許可しない。俺は大本営の命を受けてここにいる。それを否定することはできんよ」

熟練員「失礼。それでも姐さんは司令をたてたいのですよ。作戦はこうです。まず、電さんと御母堂が交代で代行指揮をとります」

提督「電と鳳翔なら役不足ですらあるな」

熟練員「ご謙遜を」

278 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/04(月) 22:49:29.56 ID:KMLw2te40

提督「しかし、秘書艦代行に耐えうる艦娘は少々不足している」

熟練員「秘書艦、たしかにその性質から機動部隊に限定されます」

提督「あぁ、自分よりも周りに気を配る必要があるからな。赤城、隼鷹、加賀、祥鳳になら任せられるがこれでは1週間持たない」

279 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/04(月) 22:50:09.87 ID:KMLw2te40

熟練員「翔鶴がおります」

提督「まだ練度不足だ」

熟練員「果たしてそうですかな?」

提督は呼気と共に感覚を研ぎ澄ます。

提督「……馬鹿な。なぜ翔鶴の性能が向上している」

熟練員「日向による特訓が花開いたのです」

提督「そうか、日向ならば納得ができる。つまり、日向も候補なわけだな」

熟練員「ご名答。彼女ならば空母と比肩できましょう」

提督「だが、まだ足りない。あと少しだが」

熟練員「そこで私が異動になったわけです」

提督「瑞鶴にテツさんを載せれば、基準に達したな。龍驤のやつここまで見越して」

熟練員「他ならぬ限界練度の秘書艦ですから。よっ、この色男!」

提督「いかんな、すぐにでも大元帥をお迎えしたいのだが。比叡の準備はできているのだろうか」

280 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/04(月) 22:50:46.68 ID:KMLw2te40

瑞鶴「ねぇ! 置いてけぼりにしないで。戦闘ならまだしも妖精の雑談はまだ完全には聞こえないんだから」

提督「瑞鶴も大丈夫なんだよな」

瑞鶴「無論。姉と同様、優秀な正規空母であると保証しましょう」

提督「おぉ! 比叡、準備はできたか! 早く行こう!」

興奮した様子で執務室を後にする。

残されたのは、正規空母と艦戦妖精。空母の方は会話からも取り残されてしまった。

瑞鶴「えっと、どうぞよろしくおねがいします。珈琲飲みますか?」

熟練員「あぁ、よろしく頼む。牛乳はいらないから砂糖とウヰスキーを入れてくれ」

瑞鶴「お酒は駄目」

熟練員「ふん」

281 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:45:51.96 ID:Soh1Swtt0
――比叡――

比叡「焦りすぎですよ、司令。こんなに急がなくとも大元帥は逃げはしませんって」

提督「そうだよな、すまん」

比叡「いや、別に攻めてませんってば。いまさらなんでそんなに緊張しているんですか」

提督「劇をしたいまではよかった。何で俺は大元帥を招待したんだろうか」

比叡「来てくれるんだから問題ないですよ。大元帥だってとって喰おうなんて思ってませんって」

提督「だといいんだが」

比叡「本気で言ってます? 大元帥を何だと思ってるんですか」

提督「神様?」

比叡「劇に誘っただけで食べられるんだったら、それはもう祟り神ですよ」

提督「なんだと! いくら比叡でもその物言いは許さんぞ」

比叡「いやいや司令が変なことを言ったんですって」

提督「うーむ」

比叡「それはともかく。演劇のゲストこそとんでもないですね。よくもまぁ誘おうと思いましたし、来てくれるってなりましたね」

提督「劇とは関係なしにずっと昔から計画していた。海上での戦闘はお前たちに全て任せているが、この戦争は俺の闘いでもある」

比叡「やりますね! 劇もケッコンカッコカリもしっかりしてくださいよ」

提督「あぁ、全力を尽くすさ」

比叡「おや、あの船団は! 司令、ゲストのようです。礼砲撃っときます」

続けざまに4発の礼砲を放つ。

比叡「向こうも応えてくれました! あ……実弾ですね、これ」





282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/10(日) 23:46:28.24 ID:Soh1Swtt0
――鎮守府――

直前の準備で鎮守府は慌ただしかった。

数名は忙しさとは別の緊張を持っていた。

北上「いやいや、阿武隈。なんでそんなに焦ってんのさ。準備なんてもうできてるじゃん」

阿武隈「北上さん! 何のんびりしてるんですか。今日のゲストが何か知ってるでしょう!」

北上「知ってるけどさ。人事を尽くしたら後はもう待つだけなんだって」

大井「北上さんのいうとおりよ。て言うか改二になったからって北上さんに向かってなんて言う口を聞いているのかしら」

阿武隈「大井さんも! 本来の雷巡仕様じゃないんですよ! もっと緊張感を持ってください!」

大井「ひっ、北上さーん」

北上「あちゃー、阿武隈ってばだいぶテンパってるね。おーおー、駆逐艦も混乱してるじゃん。しかたないなぁ、もう」

北上は島風、潮、響を捕まえる。

北上「何緊張しちゃってんのさ。阿武隈に影響されてんじゃないよ、まったく」

島風「けど」

北上「安心しなよ。今日はゲストとして呼んだんだから。戦闘になったりしないって。ああ、もう。大井っち、こいつらを間宮に連れてくよ」

大井「は、はい。北上さん」

283 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:46:56.24 ID:Soh1Swtt0

隼鷹「おい、龍驤。これ本当に大丈夫なのかよ」

龍驤「何がや」

隼鷹「何がってゲストのことだって。深海棲艦のそれも姫級って」

龍驤「どうもこうもないわ。提督が呼んだ、奴らはそれに応えた。そんだけや」

隼鷹「けどさ」

龍驤「隼鷹、大丈夫かどうかやないやろ。どうやったら大丈夫になるかを考えーや」

隼鷹「そうだよな、わかったよ。おーい、阿武隈さん。ちょっとだけ呑むのつきあってよ」

284 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:47:23.57 ID:Soh1Swtt0

日向「いよいよだな」

鳳翔「作戦規模は過去最小、戦闘ではなく共同で劇をするだけですから」

日向「重要度は」

鳳翔「過去に比較できるものはありません。事例なんてありませんし、最重要と断言できます」

日向「ゲストもそろそろ到着する頃合いか。比叡の方はどうかな」

鳳翔「比叡さんなら大丈夫ですよ。彼女以上の適任はいませんから」

285 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:48:26.16 ID:Soh1Swtt0

電「……対界電たんに感あり、なのです」

鎮守府に緊張が走る。

電「第3哨戒線付近で障壁の展開を確認。発生元は比叡さんです」

長門「私は聞き違えたのか。深海棲艦ではなく比叡が障壁展開をしたというのか」

電「複数の姫級、それに護衛要塞。彼女達をまとめて曳航してきたのはレ級なのです。そのレ級からの砲撃です」

長門「戦争が始まるのか、今日はゲストで呼んだんじゃないのか」

電「長門さん、いまだに戦争は継続しているのです」

長門「くっ。龍驤、作戦展開はどうなるんだ」

龍驤「どうもならん。このまま歓迎するで」

長門「馬鹿な、近海では考えられない規模の敵船団だぞ」

龍驤「ゲストや。深海棲艦には違いないけどな。今日の奴らは敵やない、お客様や」

長門「しかし」

龍驤「提督の決定は絶対や。長門、キミも軍属やろ。それに周りを見てみ、深海悽艦やなくてキミを見て焦っとんのやで」

長門「……すまない」

龍驤「ええってええって。けどまぁ、比叡に16インチ砲ぶち込んだんは事実やからなぁ。ちょっち早めに歓迎しとこか。日向!」

日向「我が艦隊にお客様だ。迎えに行こう」

目の前から日向が霧散する。

286 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:49:27.59 ID:Soh1Swtt0
――鎮守府近海――

海原は凪ぎ、駆逐艦すら見当たらなかった。

海の向こうからやってくる姫級の圧力に耐えかねた結果か、それとも完全武装の航空戦艦から逃げた結果か。

日向「秘書艦の号がでたか」

鎮守府に配備していたデコイを停止させ、航空戦力の展開準備をする。

日向「言葉が届くとは思わないがあえて言わせてもらおう」

比叡に障壁展開を強要させるだけの砲を持つ深海棲艦、最低でも戦艦級は確定だ。

日向は感じ取る、まるで鏡を見ているようだった。

相手はただの戦艦ではない。

日向「航空戦艦日向、推参!」

端的に名乗り上げると同時に全力で展開する。

日向「瑞雲ッ!」

六三四空と翼に描かれた特別な瑞雲だ。

「キャハハハハ」

まるで約束組手のように、同時に航空戦力が展開された。

287 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:50:06.51 ID:Soh1Swtt0
――ゲスト――

北方棲姫【鎮守府ってとおい】

レ級【キャハハハハ、姫ちゃんもうちょっとだから】

北方棲姫【ほぽぅ、がまんする。迎えにきてくれてありがとう】

レ級【もっと私に頼っていいのよ。しかしまぁ、西に向かって北に向かって随分と長旅だったわ】

港湾棲姫【……帰りたい】

レ級【姉姫様、今からでも送ってこうか? 顔色悪いよ】

港湾棲姫【元からこんな色だ】

レ級【ごめんごめん】

北方棲姫【おねぇちゃん帰っちゃうの?】

港湾棲姫【……行く】

北方棲姫【わーい。海をはしるってきもちいいね】

陸上型の姫2体は各々に所属している護衛要塞に搭乗している。

一体のレ級がそれらを曳航して海上を移動しているのだった。

レ級【おやおや? あれは件の司令官じゃない?】

北方棲姫【きゃっ! 撃たれた?】

港湾棲姫【……礼砲だ。歓迎されている】

北方棲姫【ほんとう? レ級! はやくこっちもうって!】

レ級【はいはいっと】

16インチ三連装砲が轟音を奏でた。

レ級【いっけない。実弾だった】

港湾棲姫【流石ね、礼に対して無礼で返すなんて】

北方棲姫【どうなるの?】

港湾棲姫【劇は中止になってこのまま戦闘かしら】

北方棲姫【レ級!】

レ級【ほんっとゴメン。ま、なるようになるでしょ】

港湾棲姫【……障壁を展開したわね】

北方棲姫【艦娘が?】

レ級【いやいや姫ちゃん、ソロモンで見たことあるわ。あれはたしかダイヤモンド系統の戦艦棲鬼ね】

北方棲姫【艦娘じゃない?】

港湾棲姫【私達を招待するような奴らだ。色んな艦が所属しているのだろう】

北方棲姫【ふーん】

288 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:50:39.54 ID:Soh1Swtt0

レ級【……】

北方棲姫【どうしたの?】

レ級【姫ちゃんは手出し無用。あれは私が相手をする】

目的地への進路を遮るように航空戦艦が待ち構えそして名乗りをあげていた。

レ級「キャハハハハ」

空気を震わす歓喜の声。

あの航空戦艦は全力で叩く必要がある。

双方航空戦力を展開し、艦載機が空を覆い尽くす。

『航空劣勢』

一対一での航空戦の結果、レ級の艦載機は三割程撃墜された。

残り七割。その戦力は十分に保たれていることに疑う余地はなかった。

289 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:51:09.09 ID:Soh1Swtt0

港湾棲姫【大丈夫か。手伝いは必要か】

レ級【キャハハハハ、姉姫様も心配症ね。何も心配いらないわ」

水面下ではすでに特殊潜航艇が邁進中だった。

水上艦に向けて空中からの艦爆、海中から魚雷の同時攻撃。

さらには距離を詰めて本命の砲弾を撃ち込む。

その砲は長門型が持つ41cm連装砲に勝るとも劣らない。16インチの三連装砲だった。

全局面対応型の深海からやってきた戦闘兵器。

これがレ級。

深海棲艦の最強種と呼ばれていた。

北方棲姫【すごーい】

港湾棲姫【アクティブデコイか。大したものね】

展開された潜航艇の数に合わせて数を増やした航空戦艦。

姫級の賞賛を受けた彼女たちは同時に砲を構える。

おそらくその砲弾は九一式徹甲弾だろう。

避けたいが直撃したところで大した問題ではない。

本命からであっても、デコイ全てから徹甲弾が飛んできたとしてもだ。

それほどまでに航空戦艦とレ級には性能差がある。

潜航艇はそれぞれ標的に向かう。

耐久力の違いで本体は簡単に判別できる。

レ級が水上爆撃機対策に上方障壁を展開し、砲を構えて時を待つ。

後は本体を見つけて弾着させるだけだった。

潜航艇の魚雷が真偽を暴く直前、レ級は強烈な違和感に襲われた。

290 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/10(日) 23:51:48.10 ID:Soh1Swtt0

レ級は直感に従った。

上方に展開した障壁を解除すると同時に自分の後方、曳航してきた姫とその護衛の前方に再展開する。

さらにデコイを含む砲撃に対して完全に防御を捨て去る。

水上爆撃機が爆弾を投下し始め、その直撃を受けながらも集中した。

九一式徹甲弾は急所に直撃するだろう。

当てられるというより後方への被弾を回避するための苦肉の策だった。

それでもなお空を仰ぎ続ける。

日向「そうだ。放った艦載機からの突撃、これだ」

レ級は読み勝った。

上から降ってきた日向を名乗る航空戦艦は剣をとり、人差し指と中指で柄を挟んでいた。

同時に、添え手の人差し指と中指は刃を締め付けることで初太刀に全力を込めていることも想像が付く。

日向「流れ星!」

日向は航空戦艦の質量を持って斬りかかった。

レ級「キャハ!」

レ級は尾部触手の歯による真剣白刃取りを実行した。

日向に向けて砲を構えたまま防御成功、ただし刃と歯のぶつかり合いにはならなかった。

日向は躊躇なく剣を捨て、予定調和の元36.5cm連装砲を構える。

艦載機を操り、砲を駆使して任務を果たす。

これこそ日向が考える全曲面型の戦闘、航空火力艦のあり方だった。

レ級と日向は水平射撃を互いに喰らわせあう。



日向:大破

レ級:中破



日向「まぁ、そうなるな」


291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/11(月) 12:42:56.06 ID:mZLxPJAo0
はーあ
292 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/17(日) 22:24:46.12 ID:LPclyByX0
日向とレ級。

双方笑みを絶やすことはなかった。

日向「あっちだ。鎮守府へようこそ」

一瞬前の交戦がなかったかのように深々と頭を下げる。

レ級はそのまま鎮守府へ向かう。

北方棲姫は日向の艦載機を眺めていた。

基地から直接発進できる機体ではないが、それは特別な飛行機に見えた。

「そうか、観る目があるな。仕方ない、特別な瑞雲をやろう。ほら」

北方棲姫は驚きの顔で周囲を見渡す。

自身の内部に響いた声の発信源がわからなかったからだった。

気がつくと抱えていた飛行機がひとつ増えていた。

深緑色に輝く機体、翼に文字が描かれた特別な水上爆撃機だ。

北方棲姫は振り返り、頭を下げたままの日向に向かって手を降った。

やがてゲスト一行の姿が見えなくなると、日向は鎮守府へ入電する。

日向「北上か、日向だ」

293 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/17(日) 22:25:49.38 ID:LPclyByX0
――鎮守府――

北上「ほーい、お疲れ様ー。そんじゃ雷撃支援の待機はこれで終わるね。はやく戻っておいでよ、距離はともかく比叡さんの足はけっこう速いからさ。大元帥はさすがに待たせられないでしょ」

日向との通信を終了する。

北上「日向さん無事だって。もう少しでゲストも到着するってさ」

龍驤「はい、ありがとぉ。日向なんて言っとった?」

北上「ゲスト一行の運転手がレ級だったんだけど、あたしと日向さんを足して3を掛けたくらいだってさ。そんでもって、メインゲストはそれ以上だって」

龍驤「うわー、ほんまかいな。うちとこの戦力やと制圧出来んことない?」

北上「多分できないねぇ。どうしよっか」

龍驤「穏便に進められるよう努めよか。北上から見てお客さんはどうやった?」

北上「びっくりするくらい冷静だった。日向さんが歓迎している最中に、あたしのことまで気にしてたんだから。今日、ここが白地図になるなんてことないよね」

龍驤「やめて。不安を煽らんといて」

鳳翔「そろそろ到着のようですね」

龍驤「ほんまに? 思ったより速いな。ごめんやけど、鳳翔が先に出迎えといて。ウチは提督に連絡入れとくから」

鳳翔「はい、先に行ってお迎えしておきますね」


294 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/17(日) 22:26:31.13 ID:LPclyByX0
艦娘たちは艤装展開した状態でゲストを迎えた。

数の優位はあるが、ゲストは簡単に覆すことができる。

その恐怖に抗うため臨戦態勢だった。

とうとうこの鎮守府で深海棲艦と邂逅することになる。

レ級「あー、あー。言葉はこれであってる? 私の言っていることは伝わってる?」

練度が低い艦娘は驚く。こちらの言葉を操る深海棲艦を見たのは初めてだったからだ。

鳳翔「はい。遠路遥々来ていただきありがとうございます。当鎮守府序列2位、鳳翔と申します。現在、提督は大元帥をお迎えに上がっております。到着まで今しばらくお待ちください」

レ級「そう、遠路遥々ここまで来たの。それがどう? あの女、随分と素敵な歓迎をしてくれたじゃない」

レ級は鳳翔に砲を向け、同時に艦娘がレ級に照準を合わせた。

295 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/17(日) 22:33:40.38 ID:LPclyByX0

鳳翔「うちの比叡に素敵な挨拶をしてくれましたからね」

嫌味をいいながら、鳳翔は艤装を解除し始める。

長門「やめろ、鳳翔!」

長門は叫ぶ。

妖精謹製最大の発明の一つと呼ばれる艦娘の艤装。

これを纏えば、たとえ艤装が破壊されたとしても1回の戦闘中は妖精の加護が得られるというものだった。

深海棲艦のそれと比べて優秀な点はそこに尽きる。

鳳翔は全兵装、艤装を解除。髪留め紐すら付いていない一糸纏わぬ姿になった。

妖精の加護は得られない。

鳳翔「遠路遥々来ていただきありがとうございます。あなたは船渠へ、後ろのお姫様たちは控室へご案内します」

2度目の歓迎を伝える。

レ級「毒気が抜かれちゃったわね」

レ級は膝をつき、両手のひらを上に向ける。

笑っていた口も尾部触手の顎も完全に閉じた。

極度の緊張状態だった艦娘も慌てて礼をし、歓迎の意をしめす。

鳳翔「祥鳳さん。レ級さんを船渠へご案内してください」

祥鳳「は、はい。さぁ、行きましょう」

レ級「よろしくね。それじゃ姫ちゃん、後で控室に行くからね。って聞き取りにくいか」

レ級は連れてきた北方棲姫に再度話しかける。それは艦娘には聞き取れない言葉だった。

296 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2016/07/17(日) 22:34:14.30 ID:LPclyByX0
隼鷹「いきなりどうなるかとおもったよ。龍驤のやつさっさと来なよ」

完全武装状態で迎えれば、レ級が先制で砲撃を繰り出したかもしれない。

おそらく鳳翔は大破、轟沈には至らず。

迎撃は妙高あたりが先頭に立ち、レ級が轟沈するまで撃ちこんだだろう。

これが大海原での戦闘であればだが。

鎮守府から少し離れた場所には集落がある。

そこは戦闘の余波が十分届く範囲だ。

深海棲艦は沈めました、住民は死にました。

それは論外だ、自身の存在意義すら否定している。

後の先では間に合わない、戦闘を起こすことがすでに負けている。

鳳翔が戦意をそぐ手段を選び、そして勝った。

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