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とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4
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2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/20(月) 03:54:17.03 ID:mt38JVAy0
新スレ乙!
まだまだ読み続けるぜ!
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/20(月) 11:08:13.65 ID:kBfe2COBo
立て乙です
4 :
渋の天才作家が書いてます!こんなのより面白いので是非見てください!
:2015/04/20(月) 13:54:29.03 ID:YRv+sctWO
とある異常の風紀委員
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414823663/
作者様の渋です、面白い作品が沢山あるのでこちらもどうぞ
http://www.pixiv.net/member.php?id=10985535
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/20(月) 19:40:03.24 ID:VCLTpj6XO
新スレ乙!
6 :
◆A0cfz0tVgA
[saga]:2015/04/27(月) 00:15:42.22 ID:4ztp0q/L0
これから投下を開始します
7 :
◆A0cfz0tVgA
[saga]:2015/04/27(月) 00:18:07.60 ID:4ztp0q/L0
パチュリー「P P I W F A R O W S(つがいが吹き散らす熱情は白銀の環を成し)――――!?
けほっ、ゲホッ! ゲホッ!」
突然パチュリーは詠唱の途中で大きく咳き込み、その場に蹲る。
しかもそのまま収まる様子はなく、何度も何度も咳を繰り返し、満足に呼吸をすることすらままならない。
時折ゼー、ゼーと喘鳴を響かせながら、咳の音はやがて鋭い音になっていった。
気管支喘息。
アレルギー、細菌、ウイルス等の原因による気管支の炎症が慢性化することにより、
発作的に咳や息切れ、痰等の症状を複合的にそして激しく発現する呼吸器疾患の一つ。
パチュリーが患う持病であり、今も尚も体を蝕み続ける病魔。
彼女に薬漬けの生活を強要し、魔術を満足に扱えなくしている原因。
気管支喘息の発作が起こる引き金は、自動車の排ガスや煙草と言った粉塵や、急激な気温変化、そしてストレスだ。
『戦場』という粉塵が飛び交い、肉体を酷使し、生死の駆け引きをする環境に晒されれば、発作が起こっても不思議ではない。
しかし今の彼女にとって、『この場で発作が起こる』という事実自体が不可解極まりないことだった。
8 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:20:56.08 ID:4ztp0q/L0
パチュリー(何でこんな時に……薬はまだ効いてるはずなのにっ!)
パチュリーはこの公園に来る前に、気管支喘息の発作を抑える丸薬を飲んでいる。
発作が起こった時点で呼吸すら出来なくなるのだ。
魔術に『詠唱』と言うプロセスが必要とされる以上、発作が起こることは『戦闘不能』を意味し、
それはそのまま『死』という最悪の結末に直結することになる。
魔術師である彼女にとってはあまりにも重すぎる枷。
その枷を出来るだけ軽くするために、彼女は発作を抑える薬を毎日服用している。
それは彼女の亡き父親、ロータス・ノーレッジが残した研究資料から生み出されたものだ。
パチュリーは自身の侍女とも言えるリトルの手を借り、それを制作していた。
その丸薬を飲んでいる以上、発作が起こることはあり得ない。
確かに『症状を抑える』ものでしかない以上、絶対に起こらないとは言えないのだが、
それを加味しても確率かなりゼロに近いはず……パチュリーはそう判断していた。
第一、そうでなければこの場にいない。何時起こるかもわからない発作に怯えながら戦闘など、出来るわけがない。
それであればもっと他の、然るべき対策を立ててから事に望んでいる。
だからこそ彼女は、この場で発作が起こると全く考えていなかった。
9 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:23:27.36 ID:4ztp0q/L0
レミリア「午後10時21分。 予定通りね」
パチュリー「かひゅっ! けひゅっ! 何、を……?」
息も絶え絶えなパチュリーを見下げながらレミリアはそう口にする。
当のパチュリーには、その言葉の真意が全く理解できない。
今の時刻が何を意味するのか。一体何が『予定通り』なのか。
レミリアの言葉の脈略のなさ。
突然の喘息による酸欠。
その二つがパチュリーの思考を混乱に陥れる。
そんな、まるで何も理解できないと言うような顔をしている彼女を見て、レミリアは諭すように語りかける。
10 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:25:09.67 ID:4ztp0q/L0
レミリア「別に、何のことはないわ。 『この状況は私が見た通りだった』というだけの話よ」
レミリア「私が持つ超能力……貴方なら聞いているはずよね?」
パチュリー「ヒュー、ヒュー……っ、『運命観察』……!」
レミリア「正解。 その通りよ」
『運命観察』。
レミリアが学園都市の超能力開発を受けて会得した超能力。
未来に於いて必ず訪れる、避けようのない『運命』を見る能力である。
レミリアの超能力については、パチュリーも土御門から聞き及んでいた。
もしその超能力が戦闘に用いられる類のものであった場合、その対策も必要になるからである。
しかし『運命観察』は『予知能力』の一種であり、戦闘で使えるような代物ではなかったため、
今に至るまで思考の埒外にある事柄であったのだが。
11 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:26:04.40 ID:4ztp0q/L0
レミリア「さっき私は『貴方たちを迎え撃つために吸血鬼へと体を造り替えた』と言ったわね?」
レミリア「実はね、本格的に準備を始めたのはつい最近……大体1ヶ月前からなの」
レミリア「それ以前は刻印どころか、魔術なんて一切使ったことはなかったわ。 下手に騒ぎ立てられたら面倒だし……」
レミリア「第一、貴方達イギリス清教のことを考えたら……ね?」
パチュリー「……!?」
レミリア「貴方も疑問に思ったはず。 『イギリス清教から逃れられたはずのレミリア・スカーレットが、
何故わざわざ自身の存在を曝け出すことをしたのか』って」
レミリア「その答えは私の能力……『運命観察』で『貴方達が学園都市に来て私と対峙する未来を見たから』よ」
レミリア「私が見た未来は『どんなことがあろうとも』覆すことはできない。 いくら妨害しても、
要因を排除しても、それを嘲笑うかのように『運命』は忍び寄る」
レミリア「だからその未来を見た時点で、貴方と私が出会うことは必然になったの」
レミリア「そしてそれは、私の存在がイギリス清教に察知されることを意味する……」
レミリア「だから私は刻印を使った。 発見される時期が早まるリスクを踏まえた上でね」
12 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:27:45.34 ID:4ztp0q/L0
『運命観察』で見た未来は覆すことはできない。
つまり、どんな対策を講じても未来の訪れを阻止することはできず、精々その時期を遅らせることしかできない。
ならば阻止することは諦め、その未来が訪れた時に起こる被害を最小限に抑えることに注力すべきであることは明白である。
だからこそレミリアは、イギリス清教に自分のことが見つかる時期が早まることを承知の上で、魔術を使うことに踏み切ったのだ。
レミリア「と、まぁ私の能力の解説はここまでにして、本題はここから」
レミリア「……昨日の夜、私が寝ているときに勝手に能力が発動したの」
レミリア「その時見た未来は今日の戦い……始まりから結末までの一部始終だったわ」
レミリア「どうなったと思う? ……って聞くこと自体、意味無いことなんだけど」
パチュリー「なるほど、ね。 最初から、茶番だったということ……」
13 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:28:53.48 ID:4ztp0q/L0
レミリアはこの戦いの始終を、能力を使って見ている。
つまり、彼女は知っていたのだ。パチュリーが戦いの最中において、気管支喘息の発作を起こすことを。
だからパチュリーが呪文を詠唱しているときに何もしなかったのだ。
パチュリー「ってことは、何? 戦いの間……必死になってる私を、心の中でずっと嘲笑ってたの?」
レミリア「そんなわけないわ。 貴方は私に向かって『魔法名』を名乗った」
レミリア「私は持ってないけど、それが何を意味するのかは知っている」
レミリア「その想いを無下にするなんて……そんな低俗なこと、するわけがないでしょう?」
パチュリー「そう……」
レミリア「さて、と。 大分脆くなったかしら?」
14 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:29:48.85 ID:4ztp0q/L0
レミリアはパチュリーを守るエメラルドの石盤に手を触れ、強く力を込めて押す。
すると、壊れるはずのない石板にいとも容易く罅が入り、そして砕け散った。
もはやパチュリーには、石板を維持するだけの魔力が残されていないのだ。
ただでさえ枯渇寸前だったところに、加えて喘息の発作が起こったのである。
彼女の体力は既に限界。魔力の精製どころか立ち上がることすらままならない。
敵を目の前にして、抵抗する素振りすら出来ない状態だった。
レミリア「……」ガシッ!
パチュリー「ぐ……」
レミリアはパチュリーの首を掴むと、そのまま片手で持ち上げる。
レミリアの身長がパチュリーのそれの半分しかないために、吊り下げられるような状態にはならなかった。
俯せの体勢から下半身の部分だけを地面に引きずられ、体をくの字に折り曲げられる。
腰に大きな負担がかかり、鈍痛がパチュリーの頭を突き刺した。
15 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:33:07.33 ID:4ztp0q/L0
パチュリー「か、ぁ……」
レミリア「ふふふ……貴方はどんな死に方がお望みかしら?」
レミリア「絞殺? 刺殺? それとも、ひと思いに頭を潰して欲しい?」
パチュリー「あ゛っぐ……」
レミリアは苦しそうな顔をしているパチュリーを紅の目で見つめながら、残虐な選択肢を提示する。
それに対し、パチュリーから返ってくるのはくぐもった喘ぎ声のみ。
喉の部分を強く捕まれているのだ。喋ろうとする以前に、満足に呼吸することも出来ない。
このままでは、彼女が酸欠で気絶するのも時間の問題。
レミリアが首を離さない限り、彼女の返答を聴くことは無理だろう。
レミリア「……」グッ
だが、レミリアは手を離さない。
パチュリーが話せる状況でないことを理解していないわけでない。そんなことは重々承知している。
そもそも彼女には、最初からパチュリーの返答を聴くつもりなど無いのだ。
―――――パチュリーの最後は、既に決まっているのだから。
16 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:34:42.73 ID:4ztp0q/L0
レミリア「……ま、最初から決まってるんだけどね」ブンッ!
パチュリー「あぅっ!」ドサッ!
レミリアは気怠そうな声でそう言うと、パチュリーを無造作に投げ捨てる。
地面に叩きつけられたパチュリーはそのまま地面を転がり、俯せの状態で停止した。
そしてレミリアは、力なく立ち上がろうとする彼女の頭をその足で踏みつける。
ガッ!
パチュリー「っ……!」
レミリア「私が見たのは『貴方が喘息の発作を起こす』ことだけじゃないわ」
レミリア「もっとその先……『この戦いの結末』までが能力で見た範囲よ」
レミリア「……パチュリー。 貴方はこの戦いの結末がどうなるのか……知りたかったりする?」
パチュリー「けほっ……どう、なるのかしら?」
レミリア「貴方は死ぬわ。 死因は頭蓋骨陥没。 正確には粉砕されるんだけど」
レミリア「私の足によって貴方の頭は粉々に砕かれるの。 たっぷり詰まったピンク色の脳を飛び散らせてね」
レミリア「それがこの戦いの結末。 私が見た避けようのない『運命』よ」
17 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:35:14.31 ID:4ztp0q/L0
レミリアから告げられた死の宣告。『パチュリーはレミリアの手で惨殺される』。
もしもそれが彼女のハッタリなどではないとしたら。
本当に超能力を使って見た結末なのだとするなら。
パチュリーがこの場を脱して生き残る確率はゼロ。それは変えようのない終着点。
何か機転が効いた発想が頭の中に突如閃くなどといったことはないし、
自身の仲間――――土御門元春がこの場に現れたりすることも無い。
『非情なる運命』が、今まさに彼女の命を奪い去ろうとしていた。
18 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:38:58.08 ID:4ztp0q/L0
パチュリー「……」
しかしそれを目の前にして、パチュリーの様子には何の変化も無かった。
絶望に震えるわけでもなく、現実を否定する暴言を吐くわけでもない。
少しもがく様に、体を小刻みに動かしてはいるが、大きく狼狽する素振りは無かった。
その様子を見てレミリアは、不思議そうな目で足元の女を見つめる。
レミリア「……取り乱さないわね。 予想でもしてたのかしら? 少しは足掻くものだと思っていたのだけれど」
パチュリー「……この貴方に会うと決めた時から、ある程度覚悟はしていた」
パチュリー「元から穏便に済むとは思っていなかったし、十中八九殺し合いになることはわかっていたわ」
パチュリー「怖くないってわけじゃないけど、死を前にして泣き喚くような無様は晒さないつもりよ」
レミリア「なるほど。 イギリス清教の魔術師としての最低限のことは心得ている、と。 御大層なことね」
19 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:42:56.34 ID:4ztp0q/L0
レミリアは半ば呆れたようにそう口にする。
パチュリー、そして『必要悪の教会』。
彼らはイギリス清教に敵対する存在を排除するために、自ら汚れ仕事を請け負う者達。
そして、レミリアとフランドールの両親を殺した者達。
そのような存在を前にして、レミリアが抱いている感情は実に淡白なもの。
彼女の心に中にあるのは『怒り』や『憎悪』ではなく、『哀れみ』の感情だった。
『死を恐れない勇気』。それは確かに尊いものなのかもしれない。
俗に『英雄』と呼ばれる者達は須らくその心を持ち、数多の困難を打ち破って来た。
本能の克服。それを成す困難さ故に、彼等は人々から賞賛され、崇拝される。
だが、それは本当に称えられるべきものなのだろうか?
20 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:44:23.86 ID:4ztp0q/L0
レミリア「でも、そんなんじゃ駄目ね。 死ぬことを怖がらないなんて、生物として失格よ」
『死への恐れ』を捨て去ると言うこと。それは、『自ら死に近づく』ことに他ならない。
それはある意味、生物として最も重要なものを失っているのではないか。
もしそのようなことを躊躇せずにできる人間がいるとしたら、その者は正しく『狂人』と言って差し支えない。
そんなものは真っ平御免だ。故にレミリアは『死を恐れる』。
しかし勘違いしないで欲しいのは、彼女は『死から逃げている』というわけではないということだ。
もしそうであれば、彼女は最初からこの場に、戦場にはいないはずである。
『死を恐れる』という言葉の意味は、『甘んじて死を受け入れない』ということ。
どんなに絶体絶命の状況に瀕したとしても、生きることを諦めずに最後まで活路を模索する。
悪あがきだろうと何だろうと構わない。その姿を鼻で笑われようと気にする必要はない。
生きるために足掻くことの何が悪い。それは命あるものであれば、行って当たり前の行為である。
21 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:46:00.35 ID:4ztp0q/L0
レミリア「まだ終わってない。 貴方が死ぬ時刻は定まっていない。 私が見ていないから」
レミリア「だから、貴方に足掻く意志があるのなら、少しは延命できるかもしれないわよ?」
パチュリー「……」
レミリア「……聞こえてるのかしら?」
パチュリー「……止めを刺さないの? 私の頭を潰せばこの戦いは終わるのに」
パチュリー「私は貴方にとっての親の仇で、貴方たちの命を狙う人間。 遠慮する理由なんて無い筈……」
パチュリー「それなのに貴方は、こうして無駄話をしている。 それは何故?」
パチュリー「まだ私と殺し合いをしたいから? それとも……『私を殺すことに躊躇でもしているのかしら?』」
レミリア「……」グッ!
パチュリー「うっ……」
レミリアは無言のまま足に力を込め、より強く地面に頭を押しつけられたパチュリーが苦しそうに呻く。
レミリアの表情は真顔。その顔からは彼女の心情を量ることはできない。
いや、僅かにではあるが動揺と腹立ちのようなものが垣間見られた。
22 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:46:44.57 ID:4ztp0q/L0
レミリア「……言いたいことはそれだけ?」
パチュリー「……ええ」
レミリア「抵抗するつもりもないのね?」
パチュリー「そうしたいのは山々なんだけど、体が動かないわ」
パチュリー「もうまともに詠唱できないし、何より体力が限界……といったところかしらね」
パチュリー「そもそも貴方に体を抑えられている時点で、抵抗なんて無意味でしょう?」
パチュリー「だからもう良いわ。 ……貴方を止められなかったのが心残りだけどね」
レミリア「……」
パチュリー「最後にお願いなんだけど、やるなら一気にやってくれないかしら? 死ぬなら楽に死にたいし」
レミリア「わかったわ。 お望み通り、ひと思いにやってあげる」
23 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 00:47:26.27 ID:4ztp0q/L0
レミリアはパチュリーの願いをいとも簡単に承諾した。
最早これ以上の問答は無意味だと判断したのだろう。
彼女は僅かな失望を顔に除かせながら『敗者(パチュリー)』を見下ろす。
それはパチュリー最後まで抗うことを諦めてしまったこと対するものなのだろうか。
レミリア「貴方なら打ち破れると思ってたのだけれど……まぁいいわ」
レミリア「さようなら、パチュリー・ノーレッジ。 楽しかったわよ」
レミリアはそう呟くと、パチュリーの頭に乗せている足に力を込める。
そして――――
24 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 01:00:27.20 ID:4ztp0q/L0
「お、ああああぁああぁぁぁぁあぁあッッッ!!!」
咆哮が、辺り一帯に轟いた。
25 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/04/27(月) 01:01:08.33 ID:4ztp0q/L0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/27(月) 10:16:05.86 ID:E3fjimTZo
乙です
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/27(月) 21:22:39.20 ID:oEaKtVKa0
乙
そういやこれクロス物だったな
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/02(土) 22:36:05.94 ID:e8HHehooo
久々に来た追いついた紅魔編以外もやるのかなやるなら嬉しいな
29 :
◆A0cfz0tVgA
[saga]:2015/05/11(月) 00:23:26.49 ID:l1/0db2U0
これから投下を開始します
30 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:25:37.95 ID:l1/0db2U0
激情が乗せられた声の波動。
レミリアでもパチュリーでもない、何者かから発せられたそれは、
瞬く間に公園の敷地内を伝播し、大気を大きく揺さぶる。
普通の人間であれば、それを聞いただけで思わず足が竦んでしまいそうな声量。
突然耳を貫いたそれに対し、レミリアも力を込めかけていた足が一瞬金縛りにあったかのように硬直した。
「っああぁぁぁぁああぁぁぁッッッ!!!」
さらに響く大声。その声と共に、何者かが全力で疾走する音が聞こえてきた。
その音は明らかに、レミリアの下に向かって近づいてきている。
レミリア「――――」
それを理解したレミリアが、咄嗟にそちらの方向に目を向けたその瞬間。
誰かの剛拳が、彼女の頬を捕らえた。
31 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:29:52.84 ID:l1/0db2U0
バキィッッッ!!!
レミリア「がッ……!?」
不意打ちで顔を殴られたレミリアは、そのまま受け身を取ることも出来ないまま吹き飛ばされる。
彼女は5メートルほど宙を舞った後、地面に勢いよく叩きつけられた。
しかし流石というべきか、彼女はそのまま地べたを無様に転がることなく、体制を立て直して起き上がる。
殴られた頬に鈍痛が走り、口の中に血の味が広がる。
吸血鬼の体を手に入れる上で血の味は文字通り散々舐め尽くし、今となっては慣れてしまったはずのものなのだが、
やはり自分の血の味に限ってはそうではなく、何とも言えない不快感が沸々と心に沸き上がる。
おそらく自分の身が傷ついているという事実が、その感情を発露させているのだろう。
レミリア「くっ!」
当然のこの場に闖入者に対し、鋭い視線を投げかける。
そこにはレミリアを殴った時の姿勢――――右腕を大きく振り下ろした状態のままこちらを睨み返す少年の姿。
全力疾走をした名残か、息を荒く吐き出しながら肩で呼吸をしている。
32 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:31:32.59 ID:l1/0db2U0
身長は大体レミリアの頭頂部が腹部に届くくらい。およそ170センチメートルといったところか。
格好は白のYシャツに紺のズボンと、何とも特徴のない服装をしており、一般的な高校生のようにも見える。
しかし体の肉付きはかなり良く、どうやら肉体派のようだ。
二の腕に鍛えられた筋肉の隆起が浮かび上がっているのが目視できる。
レミリアをノーバウンドで数メートル吹き飛ばす辺り、腕力は相当なものと伺えた。
顔はお世辞にも美男子とは言えるものではない。精々中庸といった所か。
だが相手を射貫くような鋭い目が、その男の印象を強烈に脳裏に焼き付ける。
烏の羽のような艶のある黒髪はヘアワックスで固められており、その形は大きな毬栗を連想させた。
レミリア「お前は……誰だ?」
レミリアはその少年に何者なのかを問うた。
そうした理由はその男とはまるで面識が無く、初対面であったこともあるが、
だがそれ以上に『彼がこの場に存在している』という事実に衝撃を受け、故に正体を知ろうとしたのだ。
33 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:36:13.11 ID:l1/0db2U0
この公園はパチュリーが施した『人払い』により、一般の人間は近寄るどころか注意すら向けられないようになっている。
公園に正面から入ることが出来るのは、術者本人が立ち入りを許可した人間だけだ。
それ以外の人間は解呪の魔術を用いて無理矢理打ち破るしか方法がない。
ならばこの男は魔術を扱える魔術師なのか?
その問いに答えるならば、それは『否』と断言出来るだろう。
その判断の根拠は大きく分けて二つ。
一つ目は、普通の魔術師であれば『拳で殴り飛ばす』などという直接的な攻撃手段をとるはずがないという点。
もちろん、魔術師全てが魔術を飛び道具として戦う者達ばかりというわけではない。
魔術と武術を併用し、遠近両方に対応できる者も当然ながら存在する。
だがそれは、あくまでも『武器を用いて戦っている』に過ぎず、
己の肉体、つまりは自分の足で走り、自分の拳で殴り合いをする様な者は皆無といっても良い。
仕事柄そう言った技術を身につける魔術師もいるだろうが、それはかなりの少数派だろう。
34 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:38:10.00 ID:l1/0db2U0
二つ目は、彼からは魔術を使っているような様子が見受けられない点。
レミリアの顔を殴り飛ばした時のパンチの威力は、確かにかなりものではあるが、
それでも通常の人間がもつ腕力で生み出すことが出来る範囲内に過ぎなかった。
もしも仮に己の拳のみで戦場を渡り歩くような超肉体派の魔術師がいたとする。
当然ながらその者は、敵の猛攻を凌ぐために自身の肉体を魔術で補強するだろう。
そうした場合、目にも止まらぬ速さで動き回り、巨岩をいとも簡単に粉砕するくらいの身体能力を付与するはずだ。
接近戦を挑む以上、それくらいのことはしなければ渡り合うのは難しいと言える。
そして、そんな人間の拳に顔を殴り飛ばされたとしたらどうなるか。
ほぼ間違いなく頭部が粉砕するか、首元から千切れるに違いない。運が良くても顔面陥没は必至である。
だが目の前の少年に殴り飛ばされた時に、そんな凄惨な状態になることはなかった。
己が持つ吸血鬼の肉体の御陰かとも思ったが、この体は筋力については優れているものの、
耐久性に関して言えば人間のそれとほぼ変わらない。
多少の傷はものの数分で傷跡残さず治るが、頑丈さという点で言えばそれほどでもなく、
ナイフで切られれば傷は付くし、打撲や骨折も当然起こりうる。
人と何ら変わらない耐久力であるレミリアの顔を、痣が出来る程度しか傷つけることが出来ない。
明確な敵意を持っていて、且つあれだけの気迫が籠もっていた以上、魔術を使わず手加減したということも考えにくい。
つまり、あの拳の威力がこの少年の全力であり、魔術を使っていない素の力であると推察した。
35 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:41:48.20 ID:l1/0db2U0
「……」
レミリア「……答えなさい。 貴方は誰?」
先ほどの問いに無言で睨みつけるままである少年に対し、レミリアは苛立ちを隠さずに再び問う。
魔術師でもないのにこの場に現れた少年。
何から何まで異質すぎるこの人間を前に、『未知への不安』がレミリアの心に芽生え、
それが『焦燥』という目に見える形となって表面化していた。
彼女にとってしてみれば、この男の介入は全くの不測の事態。
単純に予想していなかっただけではなく、『自身が見た未来にも確認できなかった真のイレギュラー』だった。
パチュリー「っ、貴方……何故……?」
「大丈夫かパチュリー? 助けに来た」
足下に倒れていたパチュリーが弱々しく少年の顔を見上げる。
それに対して少年は振り向くことはなく、しかし足下の女性を安心させるかのように、力強い声で返答した。
儚げに地面に跪く女を守るように、その身一つを壁として立ちふさがる様は、まるで姫を守護する騎士のよう。
何の武具を身につけていない丸腰の状態ではあるが、その体から漲る闘志は姫を守るのに相応しい。
36 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:46:49.42 ID:l1/0db2U0
レミリア「……」
「……」
レミリアと少年の視線が交差する。
片方には漠然たる疑念が。もう片方は確固たる決意がそれぞれ宿っている。
言葉が交わされることもなく、緊張の糸が限界まで張り詰める。
そして短くも長い時間が経ち、緊張の糸がついに切れるかと思われたが――――
パチュリー「ゲホッ、けほっ!」
パチュリーが体を起こしながら大きく咳き込んだ。胸を押さえながら苦しそうに体を震わせている。
喘息は少し収まったようだが、やはりまだ引きずっているらしい。
時折、掠れた呼吸が微かに周囲に響く。
37 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:47:33.66 ID:l1/0db2U0
少年「! おい、無理すんな……」
その声を聞いた少年は、そこで初めてレミリアから視線を外す。周囲の空気が少しだけ軽くなった。
彼は本当に心配そうな表情を浮かべて彼女の側に屈む。
パチュリー「コホッ……大丈夫よ、これくらい。 ……それよりも、何故貴方がここに?」
パチュリー「私は関わらないようにしっかり忠告したはず。 それを反故するなんて……」
パチュリー「貴方、自分が今何しているのかわかっているの? ――――上条当麻」
上条「……」
パチュリーは膝をついたまま、氷のような視線で少年――――上条当麻を睨みつける。
その視線は明確な怒りを込めたものであり、その目を見た者に背筋に氷を押しつけられたかのような、
ヒヤリとした錯覚を覚えさせられる程の眼力である。
一方、当麻はパチュリーの視線を前にして、自嘲したような笑みを浮かべる。
その顔は諦観と達観を合わせたような、少し複雑な表情をしていた。
38 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 00:59:15.10 ID:l1/0db2U0
上条「あんた、レミリアとフランをイギリスに連行するつもりなんだろ? 吸血鬼を創る魔術を広めないために」
パチュリー「! 貴方、何故それを……!」
上条「ステイルから全部聞いたよ。 あいつが素直に教えてくれたのは、今考えるとちょっと意外だけどな」
上条「あんたや土御門が俺達に作戦を邪魔させないように、本当のことを黙ってたってことは理解してる」
上条「確かにそれは世界の危機を考えれば正しいことだし、必要なことだってことはわかるさ」
上条「でも、それだとインデックスとフランドールは絶対に不幸なことになっちまう。 それだけはどうしても嫌なんだ」
上条「誰かが不幸になって得られる平和なんて俺はいらない。 あんたから罵倒を浴びせられても、これだけは絶対に譲れない」
上条「俺が、俺達が誰も悲しまないハッピーエンドってのを迎えられるようにしてやる」
39 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 01:01:04.75 ID:l1/0db2U0
パチュリーはその言葉を聞き、思わず口を閉ざした。
『誰も悲しまないハッピーエンドを迎えられるようにする』。
それが意味する所が何なのかを理解できないような彼女ではない。
つまるところ当麻は、レミリアもフランドールもイギリスに連行させず、
尚且つ吸血鬼を製造する魔術も跡を残さず破壊すると言っているのだ。
パチュリーと土御門に課せられた任務を無意味なものしかねない発言である。
では彼の考えに対して、パチュリー直ぐさま反論を並べ立てたのかと言えばそうではない。
パチュリー自身、任務の遂行に当たって起きる結末――――インデックスとフランドールの仲が引き裂かれることに対し、
何の感情も抱いていないというわけではないからだ。
友人との永劫の別れ。
幼少の頃に於いて、彼女はスカーレット家の滅亡――――レミリアとフランドールの死を理解した時、
父親の死も相まって筆舌に尽くしがたい虚無感というものに襲われた。
さらに追い打ちをかけるように母親が病で死んでしまい、その結果彼女は後見人となった父親の友人の言葉に耳も貸さず、
一時期は自室こもって読書に没頭するようになってしまった。
その1年後に何とか持ち直すことは出来たが、今でも当時のことは忘れていない。
そんな経験をしたことがある彼女だからこそ、当麻の言い分対して即座に反論できなかったのである、
40 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 01:02:43.65 ID:l1/0db2U0
パチュリー「……無理よ。 そんなことなんて、出来るわけがない」
そうは言っても、彼の言葉をそのまま鵜呑みにするわけがない。
仕事に私情を挟まないというのも一つあるが、そもそも彼の言葉は説得力に欠ける。
確かに、彼が求める『全員がハッピーエンドを迎える』という結末は素晴らしい。
それに対して異論を挟むつもりはない。全て丸く収まるのなら、それに越したことはないのだから。
しかし、彼はそれを『願望』という形でただ口にしただけである。
『どうやってそれを叶えるか』という手段が明らかでないのだ。
それでは首肯して同意することなど到底できない。
41 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 01:04:31.40 ID:l1/0db2U0
上条「できるさ」
パチュリー「――――」
だが彼はそれを知ってか知らずか、力強い口調で『できる』と断言した。
それを聞いたパチュリーは、思わず目を丸くする。
一体どこからそんな自信が湧いてくるのか、彼女には不思議でならない。
本来であれば、彼の言い分など直ぐさま妄言として切って捨てているはずのこと。
しかしそれが出来なかったのは、彼の目から絶対的な自信というものが垣間見えたからだ。
パチュリー「何か策があるの?」
上条「ある。 しかも土御門のお墨付きだ」
パチュリー「……彼にも会ったのね」
上条「あぁ。 今あいつには用事を頼んでる。 インデックスは今あいつ一緒にいる。 フランもだ」
パチュリー「一体何が起きているのか、是非ともご教授願いたいのだけれど――――」
現状を聞こうとした彼女だったが、それを知ることは叶わなかった。
何故ならばその言葉の続きを遮るようにして、突然怒りの叫びが二人を襲ったからだ。
42 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 01:06:35.12 ID:l1/0db2U0
レミリア「貴様ァッ!!! フランに……あの子に何をした!?」
パチュリー「ッ!?」
上条「……」
当麻が振り返ると、そこには憤怒の表情をしたレミリアの姿。
いや、憤怒などという生易しい物では無い。
その顔はまさに『鬼の表情』であり、その視線だけで人を殺せそうな勢いだ。
体からは『真紅のオーラ』と錯覚してしまうほどの怨嗟があふれ出している。
彼女が激怒している理由は言わずもがな、『フランがインデックスと一緒にいる』と聞いたからだ。
インデックスはイギリス清教のシスターである。今レミリアが敵対している組織の人間だ。
その清教の人間がフランドールと一緒にいる。しかも『土御門』という名の、
明らかに清教の関係者と考えられるもう一人の人間と一緒に。
それらから連想できることは何か。おそらく、万人が口を揃えてこう言うだろう。
『フランドールはイギリス清教に捕らえられたのだ』と。
43 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 01:08:06.71 ID:l1/0db2U0
レミリアはここに来て、目の前にいる謎の少年を『敵』として認識した。
最早彼が何者であろうと関係ない。そんな些細事は、彼女の妹のこと比べれば塵芥に等しい問題だ。
上条「……」
怒れる吸血鬼を前にして、当麻はゆっくりと立ち上がり彼女を見据えた。
その目からは、怯えの感情は全く見受けられない。
目を逸らすことなく、相手と同等かそれ以上の強い眼力で見つめる。
そして彼は、微塵も臆することなく堂々とこう宣言した。
「初めまして、だな。 俺の名は上条当麻。 ――――レミリア・スカーレット、あんたを止めに来た」
44 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/11(月) 01:15:48.57 ID:l1/0db2U0
今日はここまで
公式でJKサイキッカーktkr!
電波塔も引き倒すあのパワーならレベル4間違い無し!
妄想が捗りますね
質問・感想があればどうぞ
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 19:56:00.65 ID:40hTLzf90
乙
『運命観察』の対象外だろうと殴られれば粉々だぞ上条さん
そしてやっぱり出番のない誰かさんであった‥
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 20:43:21.93 ID:tTDkm7TgO
乙です
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 22:31:30.84 ID:oEBjjCiMo
そういえばここ学園都市だった
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/12(火) 09:03:03.39 ID:fsTpFcw10
満を持してッ!
乙!
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/18(月) 00:20:29.72 ID:AHJ3I8Bt0
残念ながら、上条さんの出番はまだなんじゃ
これから投下を開始します
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:21:50.50 ID:AHJ3I8Bt0
――――7月28日 PM9:42
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:24:03.35 ID:AHJ3I8Bt0
土御門「予定時刻まで後20分……」
時間は、少しばかり遡る。
人々が自身の家で就寝の支度をし始め、人が出歩かなくなる時刻。
閑静な住宅街の一角。家屋と家屋の間にある狭い小道。
その薄暗がりの中で、土御門は自身の腕時計を見つめながら呟いた。
彼が居る場所は学園都市第14学区。
海外から学園都市に留学してきた学生達が住まう、俗に『外人村』と呼ばれる区画である。
しかし『村』と言うにはかなりの広さを誇り、アジア圏、中東圏、西欧圏といった形で、
区画が文化圏毎に更に細分化されている。
その集まる文化圏の多様性を見れば、世界中からの留学者がどれほど多いのか、容易に察することが出来るだろう。
その様々な文化が混在する第14学区に於いて、土御門が今居る区画は欧米圏。
中でも特に欧州の色が濃い場所であり、且つ学生ではなく大人達が多く住む区画である。
建物は煉瓦を中心とした石材を用いて建築された家屋が殆どであり、
立派なものになると意匠を凝らした鉄柵に、更にはこぢんまりとした庭園が付属したものまで存在する。
無論、土地面積が限られる学園都市の住宅事情を考えると、そういった豪勢な家屋は数少ない。
そのような家屋に住めるのは、ある一定の地位を確立した人間に限られる。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:24:54.15 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(人影も疎らになってきた。 これなら、周囲の人間に気づかれずに行動できそうだ)
土御門(後は『標的』出掛けるのを待つだけだが……)
生粋の日本人であるはずの彼が、何故このような場所にいるのか。
その理由は単純、『仕事』のためだ。ただし、その『仕事』はかなり物騒なものだが。
イギリス清教から彼に下された任務は『吸血鬼製造の魔術の抹消』である。
その任務を遂行するにあたって、彼が今成すべき仕事。
それは魔術を保持しているであろう人物――――レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットを捕縛することだ。
姉の対処は戦力的に上であるパチュリーが担当し、土御門は比較的捕縛が簡単と思われる妹の対処をすることになっていた。
どうしてそのような、戦力を分散するような作戦にしたのか。
それは姉のレミリアが、件の魔術を用いて吸血鬼化している可能性があるからである。
確証があるわけではない。しかし、その予想が現実のものとなった場合、土御門では対処することが出来ず、
パチュリーとコンビを組んでもただの足手まといになってしまうからだ。
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:25:40.24 ID:AHJ3I8Bt0
彼は魔術を使うことが出来ない。
正確にはそうではないが、使う度に文字通り『身を削る』ことになる。
敵と面向かった状況で血反吐を吐きながら戦うのは、どう考えても無謀だ。
ならば、魔術ではなく他の手段――――体術や拳銃ならば役に立てるかと言えば、そうでもない。
確かに、彼の体術は容易に人が殺せるほどの力量であり、拳銃の腕も一流である。
それは幼い頃より行ってきたスパイの経験と、学園都市の暗部に所属していた頃の経験により培われたもの。
命の遣り取りが日常的に行われている世界において、絶対に生き延びるために会得した技術の数々だ。
そこらのチンピラ程度であれば、多人数であっても苦もなく制圧できると彼は自負している。
しかしそれらの技が通用するのは、あくまでも『普通の人間』が相手だった場合のみ。
人外である吸血鬼にそれがどれだけ通用するというのかわからないが、
それほど有利には働かないであろうことだけは間違いなかった。
土御門(だからオレが、対処が容易なレミリアの妹を担当し、パチュリーは一人でレミリアと対峙することになった)
土御門(『最善の策』って訳じゃないが、少なくとも現状で考えられる中で最もマシな策だろうな)
土御門(不安があるとすれば、吸血鬼の情報が少なすぎることと、パチュリーの体調か……)
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:26:15.41 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(吸血鬼の情報は直接会ってみない限りは知りようがないから仕方ないとして、
やはり最も懸念すべきはパチュリーの持病だな)
土御門(薬で抑えるとは言っていたが、万が一のこともある)
土御門(手っ取り早く妹を捕まえた上で脅しをかけて、戦闘を中断させた方が良さそうだ)
吸血鬼の力を手に入れたであろうレミリアを、正面から相手して勝利を収めることは困難である。
ならば、戦うことなく相手を御することが出来る策を用意すればいい。
例えば、彼女のアキレス腱である存在――――フランドールを人質にして服従させるといったように。
『人質を取る』という作戦は、普通に見れば卑劣極まりないものなのかもしれない。
しかし戦いに於いて、相手の弱点を突くのは至極当然のことである。
確実に勝利を手にしたいのであれば、一々手段など選んではいられないのだ。
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:26:58.79 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(オレが『標的』の妹を首尾良く捕まえることが出来れば、それだけ手間を省くことが出来る)
土御門(『標的』には不確定要素が多すぎるからな。 これが一番確実な方法だろう)
土御門(無論、人質を無視するケースも考えられるが……それは無いと言い切れるな)
土御門(奴の周辺を洗ってみたが、周囲の人間からはかなりの好印象を持たれている)
土御門(人格にそれほど難があるわけでも無し、人並みの倫理観は兼ね備えているはず……)
土御門(たった一人の身内を見殺しにするような、薄情な人間じゃないことは確かだ)
土御門(こっちとしてはかなり好都合なことだがな……)
レミリアがそれなりに真っ当な性格をしているという事実は、土御門にとって朗報であった。
彼女がフランドールに情を抱いている。
つまりそれは、フランドールは人質として機能するということである。
もしも彼女が人質を意にも介さないような冷淡な人間であったのならば、この作戦は成り立たない。
人の情につけ込む。卑劣ではあるが、だからこそ強力な策となりうるのだ。
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:27:43.90 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(さて、そろそろ出てきてもおかしくはないんだが……)
土御門は物陰からレミリア・スカーレットが住まう『家』を睨む。
いや、『館』と表現した方が正しいだろうか。周囲にある一般的な家屋よりも二回り以上も大きい。
土地面積が逼迫している学園都市の住宅事情を考えると、その敷地の広さは異常である。
しかしそれ以上に、圧倒的な存在感を放っているのが『館の色』だろう。
ここ一帯に建てられている建物は、基本的に灰色と茶色を基調としており、比較的に落ち着いた雰囲気のものが大半だ。
ところがスカーレットの館は外壁、屋根、窓の枠に至るまで全てが、その名の通り『紅』で統一されている。
しかも普通の『紅』ではなく、少々黒ずんだ、もっとわかりやすく表現するならば『静脈の血液』のような暗赤色だ。
塗装をする際に人間の生き血をそのまま用いたかのような――――
常識的に考えればあり得るはずがないのだが、今回は事情が事情なだけに、そんな考えを抱いてしまう。
『吸血鬼が住む』というだけで、そこには恐ろしい何かがあるような錯覚に囚われてしまうのだ。
それだけ吸血鬼という存在は、『強大な怪物』の代名詞として人々に認知されているということなのだろう。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:28:15.05 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(下調べの段階である程度知ってはいたが……予想以上に大きな建物だな)
土御門(しかも目に毒なくらい真っ赤だな。 『標的』の趣味なのか?)
土御門(赤色に対して固執するようになった? 吸血鬼化の影響か? 推測の域を出ないな)
土御門(どちらにせよ、この敷地から妹を見つけ出すのは少々骨が折れそうだ。 何かおびき寄せる方法があれば良いんだが……)
ギィ……
土御門が思案していると、どこか遠くから僅かに木が軋む音が聞こえてくる。
音がした方向はレミリアが住む紅の館。その玄関の木製の扉が開かれようとしていた。
土御門(……来たか)
土御門はその様子を、物陰で姿を隠しながら注意深く観察する。
やがて館の扉が開け放たれると、中から一人の少女が悠然と姿を現した。
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:29:00.27 ID:AHJ3I8Bt0
桃色をベースとして、所々にフリルが付いた可愛らしいスカートを着込み、
青みがかっている銀髪の頭には服と同じ色のナイトキャップ、そして足には紅色のブーツを履いている。
中世の貴族の娘のような出で立ちであり、現代社会においては奇天烈としか言い様がない。
しかし背後の西欧色が前面に強く押し出されている建造物が、その少女の姿を違和感のないものに仕立て上げていた。
レミリア「……」
その少女――――レミリア・スカーレットは静かに玄関の扉を閉めると、
出掛ける挨拶もせずに無言のまま、軽い足取りで石の階段を下りた。
淡い月光に晒されたその姿は何処か神秘的であり、同時に妖しい雰囲気を醸し出している。
その光景は、一枚の絵画に納められると思える程様になっていた。
土御門(指定した時刻まで後10分……ここから公園まで、徒歩で丁度辿り着く時間か)
土御門(怖じ気づいて出てこないのかと思ったが、その心配はいらなかったか)
そんなことを考えている土御門を余所に、レミリアは鉄柵の門を開けて敷地の外に出た。
そして自身の手で扉を閉めると、夜の道をたった一人で歩いて行く。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:29:45.41 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(……見送りには誰も出てこなかったな。 まぁ、当然か。 奴と一緒に住んでる人間は妹とメイド一人だけだからな)
土御門(聞く所によると、『標的』と妹の仲は良いものではないらしい。 過去に何かあったらしいが……)
土御門(メイド……十六夜咲夜の方は数時間前に家を出たまま戻ってきていない。
ここいら一帯の監視カメラをジャックしたら、6時頃に出掛けていく姿が確認できた)
土御門(何しに出掛けたのかは、絶対的な根拠はないが大方予想は付く)
土御門(最近起こっている『連続通り魔事件』は、おそらく『標的』があのメイドに指示したものだろう)
『連続通り魔事件』における最大の特徴である、『被害者の血液が抜き取られている』という事実。
その事実とレミリアの存在が結びつけられるのは必然のことと言える。
実際、一部のオカルト好きの人間には吸血鬼の仕業ではないかとまことしやかに噂されているのだ。
一般人ですらそうなのだから、オカルトに全身が浸かっている土御門が気づかないはずがない。
土御門(……それにしても、未だに戻らないのは少しおかしいな。 何かあったのか?)
土御門(いや、それは今考えることじゃない。 重要なのは『潜入するなら今が絶好の好機』だということだ)
土御門(オレにとってすこぶる相性の悪いあのメイドが居ないのは有難い)
土御門(後は『標的』がいなくなれば、妹は無防備も同然だ。 これ以上のチャンスはない)
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:31:42.88 ID:AHJ3I8Bt0
レミリアはパチュリーと出会うために家を留守にし、十六夜咲夜は今尚も帰宅する気配はない。
つまり、この瞬間こそがフランドールを捕縛できる唯一の機会であり、これを逃す手はない。
一つだけ懸念があるとすれば、自身が潜入している時に咲夜が帰ってくる可能性があることだが、
土御門としてはその心配はあまりないと思っている。
何故ならば、仮に彼女がレミリアから与えられた仕事を終えたとして、
その時向かうのはこの館ではなく、レミリアの元であると考えているからだ。
入手した『血液』がレミリアにとって重要なものであるならば、
咲夜はそれを届けるためにまず主の元へと向かうであろうことは容易に想像が付く。
土御門(この非常時にメイドに対して妹を守るように指示をしなかったのは、
その血液の存在が妹以上に重要だと言うことを意味する)
土御門(それだけ重要なものなら、先に自身の元に届けさせるように命令するはずだ)
土御門(……他に妹を守らない理由があるとするなら、『妹を守る心配がない』と確信している場合か)
土御門(『標的』が持つ『運命観察』……それを使って判断した?
もしそうだとするなら、オレは妹の捕縛に失敗することになるが……)
土御門(……悩んでいても仕方ないな。 奴が見た未来が何にせよ、ここで足踏みをしている訳にもいかない)
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:32:29.71 ID:AHJ3I8Bt0
相手にどんな思惑があろうとも、敵前逃亡など許されるはずもない。
そもそもそんなことをしても意味はないのだ。
レミリアが持つ超能力は『確定した未来』を見せるものである。
彼女が『土御門がフランドールの捕縛に失敗する』未来を見たのであればその通りになるし、
更には『土御門がフランドールを捕縛しようとする』という行動までもが確定事項となる。
つまりは、この場であれこれ考えたとしてもレミリアには筒抜けだと言うことだ。
ならば自分がするべき事は、彼女が見た『運命』の先――――
『未確定の未来』に対して、有利に働くように行動することだ。
土御門(……さて、これで建物の中にはの妹しか居なくなったな。 始めるとするか)
レミリアの姿が見えなくなったことを確認した土御門は、周囲に気を配りながら館の門前へと向かった。
この館の門には電子制御の施錠が施されており、無理にこじ開けようとすれば警報が鳴るようになっている。
解錠するには12文字の英数字を入力しなければならず、当てずっぽうで解錠するのはほぼ不可能。
玄関の扉に付けられた鍵と合わせて、この館は二重の施錠によって守られているのだ。
また館を囲う石垣にもセンサーが取り付けられており、石垣を乗り越える不審者を感知して警報を鳴らす。
ただの空き巣であれば、確実に防ぐことが出来るであろう強固なセキュリティである。
しかし土御門にとって、この程度であれば侵入に苦労するわけがない。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:34:01.64 ID:AHJ3I8Bt0
土御門(今オレの手の中にあるのは、このセキュリティシステムを制作している会社から極秘に入手したアンロック番号のリスト)
土御門(これの中から館のセキュリティに使われている番号を抜き出して入力すれば、あっという間に解錠できるって寸法だ)
土御門(いやはや、これを手に入れるためには結構な労力をかけたな)
土御門(スキルアウトがたむろするスラム街……そこ点在する情報屋を何件も梯子したんだからな)
土御門(今回はかなり時間が厳しかったから、こうして間に合って良かった)
土御門(えーっと……暗証番号はこれだな)ピッピッピッ
カチャンッ!
制御板に数字を打ち込んでいくと、軽い音と共に施錠が外れる音が響く。
門の扉を静かに押すと、扉は音を立てることなく開かれた。
土御門(……誰もいないな?)
もう一度周りを見渡してみるが、周囲には人影は全く見られない。
この分なら、誰にも気づかれることなく潜入することが出来そうだ。
仮に見られたとしても深刻な問題にはならないが、後々の証拠隠滅にかける手間を考えれば、注意するに越したことはない。
土御門(さて、早い所捕まえてパチュリーの所へ向かわないとな)
館に敷地内に足を踏み入れた土御門は、足音を殺しながら玄関口へと歩いていった。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2015/05/18(月) 00:35:05.63 ID:AHJ3I8Bt0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/18(月) 00:38:01.70 ID:Z+/9OM0jO
乙です
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/18(月) 01:42:57.38 ID:vcQ+8upq0
乙
最後の血を届けられなかった咲夜さんだが、妹様のご様子は……
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/18(月) 06:16:40.27 ID:VtdtWazXo
制御板が御坂に見えた
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/18(月) 21:03:08.65 ID:g9/W+6uU0
乙
甘くみてると館の外壁に塗られるぞ土御門‥
‥ってかあの凶悪能力については何の情報もないのか?
あとトリップはどうしたんだ作者
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/20(水) 21:37:33.56 ID:HuHdCWDL0
永夜組に新設定来ちゃったね(ニッコリ
69 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/31(日) 23:52:08.18 ID:hjBFLqMX0
>>67
酉付け忘れました。ごめんなさい
フランの能力の情報については勿論土御門も知っています
>>68
これ以上設定増えると大幅に路線変更しないといけないんですけお!
いや、想定していたストーリーの変更はモチベにかなり影響するんですよ本当に
ネタ投下は嬉しいんですが、設定を練り直すのは中々しんどい
70 :
◆A0cfz0tVgA
[saga]:2015/05/31(日) 23:54:21.37 ID:hjBFLqMX0
これから投下を開始します
71 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/31(日) 23:55:42.59 ID:hjBFLqMX0
* * *
72 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/31(日) 23:56:44.46 ID:hjBFLqMX0
フラン「……」ペラッ
第14学区の一角に存在する紅の館――――スカーレット邸。
その館の家主であるレミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットは、
二階にある自室のベッドの上で本を広げながら寝転がっていた。
今、この館には彼女以外誰もいない。
この館に住み込みで働いているメイドは夕方頃に家を出たきり未だ返っては来ず、
彼女の姉も用事があるといって、こんな夜中にも拘わらず何処かへと出掛けていった。
結果として館に一人残された彼女は、微睡みが自分を襲うまでの暇な時間を潰すために、
こうして静かに読書にふけっているのである。
73 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/31(日) 23:57:30.43 ID:hjBFLqMX0
フラン「……」ペラッ
黙々と本を読み進めていくフランドール。ページを捲る音だけが部屋に響き渡る。
外の喧噪すら聞こえてこない静かな室内。静かさのあまり耳鳴りが聞こえてきそうだ。
今のフランドールの様子は、年頃の女の子にしては少々大人しすぎるようにも見える。
普通であれば居間でテレビを見たり、携帯電話で友達と会話したりとそれなりに騒々しいものだ。
親と一緒に住んでいるなら自省の念が働くであろうが、ここは住民の大半が学生である学園都市。
一人暮らしが当たり前なこの街で、自身を律することが出来る子供は果たして何人いるだろうか。
このように、自分の部屋で読み物をしているだけでも珍しい部類と言えるが、
それに加えて彼女が読んでいるのは『文学小説』。『漫画』のような一般の学生が良く見るものではない。
アガサ・クリスティ作の『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』である。
いい年をした大人が好むような推理小説を彼女は読んでいるのだ。
『文学少女』と言えば聞こえは良いが、当麻やインデックスと一緒にいた時の様子とは全くといって良いほど真逆であった。
74 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/05/31(日) 23:59:17.78 ID:hjBFLqMX0
フラン「One little indians boy left all alone; He went and hanged himself and then there were none.
(一人残ったインジャン・ボーイ その子が出てって首を吊り そして誰もいなくなった)」
小説の一文を小さく口ずさむと、フランドールは静かに本を閉じる。
今日の読書はここで終わり。続きはまた明日だ。
閉じた本を本棚に戻すと、再びベッドに俯せで飛び込む。
ボフンッ、というくぐもった音と共に、日干しした洗濯物特有の芳しい匂いが部屋に広がった。
取り込まれてから大分時間が経っているが、今でもその匂いが消えることはない。
フラン「んー……」
鼻腔を通り抜ける心地よい香りを思いっきり吸い込む。
少々息苦しいが、彼女はそんなこと微塵も気にならなかった。
75 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:00:38.50 ID:aLofG+8n0
数分ほど香りを堪能した後、彼女は転がって今度は仰向けになる。
天井にはこぢんまりとしたシャンデリアがぶら下がっており、部屋を仄かな灯りで照らしていた。
無論、それは蝋燭を使うような古臭いものではなく、LEDを用いた近代的なそれであるが。
フラン「……つまんない」
フランドールは茫然と空を見上げながら、そんなことを呟く。
姉からお仕置きとして外出禁止令を出されてから早3日。
フランドールは未だに一歩も外に出ることは叶っていない。
『3日』と聞けば非常に短いように思えるが、当の本人としては一ヶ月近く経ったかのような、強い閉塞感と憂鬱に苛まされていた。
何をどうやっても、陰鬱な気分が払拭できないのである。
お仕置きを受けているのだから、そうなるのは当然のことと言えなくもない。
76 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:05:32.30 ID:aLofG+8n0
しかし、こうして家の外に一歩も出られなくなったのはいつ以来だろうか。
いや、正確には一歩も『出なくなった』と表現した方が正しいか。
自身の身に起きた『とある事件』が切欠となって、家に引きこもるようになったのが今から7年前。
その頃は『世界』というものに対して極度の恐怖を抱いていて、外に出るどころか姉に対しても口を聞くことができなかった。
『もしものこと』があったら、それが原因で本当に自分の心が壊れてしまうのではないかと恐れたのだ。
結局、トイレやお風呂に行きたい時以外は一歩も自室から出ることは無かった。
その数少ない自室からに出る機会があった時も、家にやってくる訪問者に対して神経を尖らせていたのである。
もちろん、誰かが家に来ても狸寝入りを決め込んでいた。
そうやって、無気力な生活を続けていたのが今年の初めまでの話。
7年すれば色々と気持ちの整理がつき、心に余裕が出来た結果、『このままでは不味い』と思い始めたのだ。
スキルアウト達のように非行に走ることなく、そう考えるに至ったその理由は、
彼女にも『一族の誇り』というものが心の何処かにあったからなのだろう。
彼女は自分自身を変えるために、その第一歩として『外に出たい』と姉に進言した。
7年も引きこもっていたにも拘わらずそのような決断するのは、些か大胆すぎるようにも思えるが、
そういった判断が出来たのは、彼女の思い切りの良い性格によるものかもしれない
77 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:06:31.55 ID:aLofG+8n0
兎にも角にも、彼女はある意味一大決心をして行動を移したわけだが、残念ながら決意は裏切られることになる。
どういうわけか今度は姉の方が『フランドールの外出は許可しない』と言い始めたのだ。
それを目の前で言われた時、フランドールは愕然とした。
訳がわからなかった。
姉の突然の心変わりも、そうなってしまった理由も、何一つ理解できなかったのだ。
早々出鼻をくじかれたフランドールは、当然のごとく姉に対し抗議の声を上げ、その理由を追及したが、
姉は『あなたは知らなくていい』の一点張りで教えてくれることはなかった。
結局フランドールは、姉の意図を何も理解できぬまま現在に至っている。
フラン「……どうして」
再び俯せになり、顔を枕に埋めながらフランドールは恨めしそうに呟く。
自分に対して懲罰を行ったことに対する憤怒。
何も教えてくれないことに対する鬱屈。
そして、かつての姉のことを知るが故の落胆。
その他にも大凡良いとは言えない様々な感情が彼女の中に渦巻き、少しずつその心を荒ませ始めていた。
78 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:07:45.53 ID:aLofG+8n0
――――いっそのこと家をぶっ壊して、そのまま何処かに消えてしまおうか。
あまりの苛立ちに、邪な考えが時折脳裏に過ぎることがある。
が、それを実際に敢行するに至るまでの感情が起こることはなかった。
そんなことをして何になる。何の解決にもならない。
家を飛び出した所で、街を彷徨っている所を『警備員』に保護されて結局は連れ戻されるだけ。
そもそも、自分には一人でこの街を生きていける力など無いのだ。
全く以て、誰が考えても骨折り損にしかならない。
だが、このまま何もせずにずっと閉じ込められるのも嫌である。
詰まる所、彼女は現状に対する嫌気と現状を打破しようにもどうすることも出来ないという、
二重の焦燥によって板挟みになっているのだった。
フラン「……みず」ゴソッ
フランドールは力なく起き上がると、ベッドから降りて部屋の扉へと向かう。
全く眠気が襲ってこない上に、胸のむかつきが収まらないのだ。
何かを口に入れないと、このむかつきを抑えることは出来ないだろう。
79 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:09:36.98 ID:aLofG+8n0
確か、冷たい飲み物が冷蔵庫の中にあったはずだ。
水でも牛乳でも紅茶でも何でもいい。コップ一杯の冷えた飲み物が欲しい。
部屋を出た彼女は、それだけのことを考えながら台所へと足を動かした。
フラン「……」トットットッ
光が乏しい暗い廊下を、ぽつぽつと一人で歩く。
姉が出掛ける前に不要な電灯を消したのか、廊下には最低限の明かりしかついていない。
無駄に多い館の部屋の殆ども、その室内は真っ暗闇となっていた。
自分の足音以外、何も耳には聞こえてこない。
さながら皆が寝静まった深夜に目を覚まして、一人でトイレへと向かう時のようだ。
本当であれば、何かしらの恐れの感情がわき起こるのだろうが、
今の彼女には恐怖に対して反応できるほどの心の余裕はなかった。
80 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:11:10.65 ID:aLofG+8n0
やがてフランドールは、部屋に備え付けられた大きな冷蔵庫の前に辿り着く。
相変わらず、この家に似つかわしくない無骨な姿である。
大分昔のことなので記憶がかなり朧気だが、この機械は確か、何処かの家電量販店でセールだった時に姉が買ったものだったはずだ。
あの頃は姉も若かったから、つい調子に乗ってそんなことをしてしまったのだろう。
姉はレベル3、自身もレベル4の能力者だったこともあって、お金が多少余っていたことも理由の一つかもしれない。
とにかく、姉がその時行った衝動買いはどう考えても馬鹿としか言い様がないことは普遍の事実である。
あの頃はメイドもおらず、姉の自分の二人きりだったというのに、大家族が用いるような大容量のものを買ってきたのだ。
大き過ぎる冷蔵庫は、必要な分だけ入れると隙間だらけのがらがらな状態となり、
かといって詰め込んだりしてしまうと、使い切ることが出来ずに食材を腐らせてしまう。
つまり、自分たちの身の丈に合わないものを買ってしまったということの他ならない。
姉の言い分では、『もしも大人数を家に呼んで料理を振る舞うことになった時に、
大きい冷蔵庫があれば材料をたくさん入れておくことが出来る』とのことなのだが、
『そんな限定的な状況なんて早々起きるようなことではないだろう』と突っ込みを入れたい気分であった。
しかし面と向かって言ってしまうと何が起こるかわからないので、その気持ちは心の中にしまっている。
81 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:13:26.01 ID:aLofG+8n0
フラン(お姉さまってば、仕事の人とかメイドとかに会っている時はいつも格好良く振る舞ってるけど……)
フラン(私から見たら、もの凄く変なんだよね。 ほんと、バカみたい。 我が儘なくせに……)
フランドールは声に出さずに、自分の姉に対して愚痴をぶちまける。
『何かと小言を言うが、先ずはその言葉を自分自身の向けるべきなんじゃないのか』と。
姉は我が儘で、負けず嫌いな人間だ。
今回のフランドールの謹慎についても、『妹から目を離した』という非が彼女にはあるはずだというのに、
それを棚に上げてフランドールのみに罰則を与えてしまっているような状況である。
少しくらい反省なり何なりをする素振りを見せるならまだ良かったのだが、
そんなものは何処の吹く風といった様子で普段通りに生活しているのだ。
そんなに自分の非を認めたくないのか――――フランドールは心の声で姉を罵倒する。
自分一人だけが罰を与えられているこの現状を、彼女が不満に思わないはずがないのだ。
だが、その不満を外に出すことはない。自棄になろうにも心の中のもう一人の冷静な自分が、
感情のままに暴走しようとする彼女を引き留めていた。
82 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:14:14.62 ID:aLofG+8n0
フラン「……っ」
心の中に燻る苛立ちを振り払うかのように、乱暴に冷蔵庫に手を突く。
ドンッ!と、扉を開くにはどう考えても似つかわしくない鈍い打撃音が響いた。
しかし、フランドールにそのことを気にする素振りはない。
乱暴なことをしているという自覚はあるのだが、『それがどうした』といった様子だ。
姉を前にして自棄になれない以上、こうして物言わぬ機械に八つ当たりしなければ、
心に内に溜まった苛立ちを発散することすら出来ない。
だから冷蔵庫が倒れるのではないのかと思うくらい、彼女は思いっきり手を叩きつけたのだ。
端から見れば、彼女が我を失いかけているように見えるだろう。だが、まだ彼女は冷静である。
何故ならば、自身の能力を使って冷蔵庫を粉々にしていないのだから。
83 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:14:54.88 ID:aLofG+8n0
フラン「……はぁ」
フランドールは嘆息しながら冷蔵庫の扉を開こうとする。すると――――
ピンポーン!
と、来客を知らせる呼び鈴が彼女の耳に飛び込んできた。
フランドールは不意打ちで襲ってきた音にびくりと体を震わせ、音が聞こえてきた方角――――部屋の出入り口を恐る恐る見る。
こんな時間に来訪者とは。一体全体、何者なのだろうか?
姉の仕事仲間か?いや、今までこんな夜遅くに彼等らが来訪したような記憶は無い。
そもそも、他人をこの館に招き入れるようなこと自体が非常に稀なのだ。
フランドールに配慮してのことなのか、それとも姉自身が招きたくないのかはわからないが。
84 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:15:43.90 ID:aLofG+8n0
フラン「……本当、めんどくさいわね」
兎にも角にも、来訪者を確かめなければなるまい。
別に任されたわけではないのだが、現状に於いてはフランドールが実質この館の留守番をしているのである。
正直に言うとこんな役目は御免なのだが、やらなければやらないで後々良くないことが起こる可能性も否定できない。
例えば、本当に来訪者が姉の仕事仲間だった場合。
フランドールが狸寝入りを決め込んでいたことが彼等を通じて姉の耳に入ってしまうかもしれない。
その結果、謹慎の期間がさらに延長されることになってしまう……かもしれない。そんな事は真っ平御免だ。
ただでさえ心の余裕がない状況で降りかかってきた、面倒極まりない仕事。
これで何度目になるかもわからない溜息を付きながら、フランドールは玄関先へと足を向けた。
85 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:17:17.09 ID:aLofG+8n0
フラン「えっと……」ピッ
玄関へと着いたフランドールは、横の壁に貼り付けられた少し大きめのモニターを起動する。
これは来訪者が不審人物なのかどうかをチェックするための、所謂『テレビドアホン』と呼ばれるものである。
学園都市に限らず、外であってもそれなりにハイテクな家屋であれば備えられている機械だ。
『学園都市製』とくれば、大抵の人はオーバーテクノロジーが付加された得体の知れない機械なのかと身構えるだろうが、
これに限っては外のものとは殆ど変わらない、何の変哲もないテレビドアホンである。
そもそも『テレビドアホン』として必要な機能は、外の様子を知るためのカメラとモニター、
そして外にいる人間との意思疎通を可能とする通話機能があれば十分なのである。
それ以外の機能は蛇足であり、本来であれば必要のないものだ。
ところが、やはり学園都市には狂った発想をする人間がいるらしい。
巷には玄関先に芳しい芳香を漂わせたり、軽快なBGMを流したりする用途不明な機能がある商品や、
X線を照射して相手の持ち物を調べたり、催涙スプレーを噴射して不審者をその場で撃退できたりするという、
少々過剰すぎる機能をもつ商品が流通しているそうだ。
そんなものを一体誰が欲しがるのか些か疑問を呈する所であるが、驚くべきことに、
ヘンテコな機能が付いているにも拘わらず購入する人間がこの世にはいるらしい。
造る方も造る方だが、買う方も買う方である。これだから無意味な商品がいつまで経っても市場から無くならないのだ。
86 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:18:13.02 ID:aLofG+8n0
フラン(……見えてきた)
フランドールはモニターに映し出される映像をのぞき見る。
見えるのはいつもの見慣れた光景。
我が家の領域と外を隔てる、鉄柵の門が見える。
塵一つ無くしっかりと掃除された、見るも殺風景な門先が広がっていた。
フランドールはモニターのコントローラーを操作し、更に広い範囲を見渡す。
遠くに見えるのは、石造りの階段に木製の扉。言うまでもなく、我が家の玄関だ。
扉の両脇には大きな花瓶が置かれ、ケイトウが黄色い花を咲かせている。
外に取り付けられた白熱灯の明かりが、玄関を肌色の光で照らし出していた。
玄関から外に向かっては石畳延びており、その道の両脇には綺麗に整備された花壇がある。
花壇にはガーデンシクラメンが紅い花弁を大きく広げていた。
87 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:19:30.62 ID:aLofG+8n0
さらに横へとカメラを動かすと、こぢんまりとした小さな池が見える。
何時のことかは忘れたが、姉が気まぐれに拵えたものだ。
完成した時に洋風の館には似つかわしくない、錦鯉の稚魚が数匹放たれていた。
今ではかなり大きく成長し、二代目、三代目も一緒に泳いでいる筈だ。
……そう言えば、最近姉が魚に餌をやる光景を見ていない。
大方、メイドに世話をさせているのだろう。自分の持ち物なのだから、世話くらい自分でして欲しい。
フラン(……?)
玄関の外を観察し始めてから数分。
カメラで捉えることが出来る大方の範囲を見渡した所で、フランドールは来客者が見あたらないことに気づく。
インターホンを押したであろう人間が、何処にも見受けられない。
もしかして、ただの悪戯なのだったのか――――
そんなことを考えつつカメラの視点を戻した所で、彼女は一つの異常に気がついた。
88 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:20:20.86 ID:aLofG+8n0
フラン(そういえば、門が開いてる……?)
『門が半開きになっている』。ただそれだけの、何の変哲もない光景。
だがフランドールにとって、それは違和感しかないものであった。
あの門を開くことが出来るのは家内の者達だけだ。
鍵を解錠するために必要な12文字の暗証コード。
そのコードを知るのは館の住人であるフランドールとその姉、そして館で働く一人のメイドである。
それ以外の人間が館の敷地内に入りたい場合、家内の誰かに門を開けてもらわなければならないのだ。
フランドールにあの門を開けた覚えは全くない。
自分の部屋に閉じこもって本を読んでいたのだから当然である。
そして出掛けている姉やメイドが、門を閉め忘れるということも考えにくい。
ならば、どちらかが帰ってきたのだろうかと考えるが、
自分の家のインターホンをわざわざ鳴らす者などいるはずもない。
開くはずのない門。それが何故か開いている。そこから導き出される答えは――――
89 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:21:30.30 ID:aLofG+8n0
――――知るはずのない暗証コードを知る何者かが、あの門を開けたということだ。
90 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/01(月) 00:22:05.58 ID:aLofG+8n0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/01(月) 00:53:27.47 ID:KrjiSRs/O
乙です
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/01(月) 06:05:12.96 ID:Xq2pWIoco
乙!
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/01(月) 19:50:58.79 ID:GGEQa+Tj0
乙
>新設定
二次創作ではよくある事さ
最悪「新作で出た設定は適用していません」とか言い張ってもええんやで?(暴挙)
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/01(月) 23:40:15.07 ID:ot6DUHTh0
ちわーす、三河屋でーす!お飲物(土御門)お届けに参りましたー! ってか?ww
まぁ何だ。紺珠伝での新設定に”昔からの重要な事”に関わる部分があるとしたら困るかも知れないが、そうでない、もしくは重要度が低ければ、紺珠の時間軸で書けばいい(そこまで続くとは書かれてない)だけの話だしね
乙!
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/03(水) 10:12:59.58 ID:HN5w8slO0
自分の妹には優しいけど他人の妹にはどうかな?
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/06/04(木) 11:12:59.39 ID:qnwbDgq80
未来予知の薬?今回のドラキュラもどきを検査に掛けて分析したら作れるんじゃないですかね(適当)
97 :
◆A0cfz0tVgA
[saga]:2015/06/08(月) 00:15:38.50 ID:YQoKBJAj0
これから投下を開始します
98 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/08(月) 00:18:01.61 ID:YQoKBJAj0
ガシャンッ!
フラン「――――!?」
突如どこからか聞こえてきた破砕音に、フランドールは全身の毛が逆立つ。
方向からして、音の出所はおそらく館の外れ。丁度トイレがある場所だろう。
そしてこの固い物が砕ける音を考えるに、トイレの窓ガラスが割れたらしい。
何故ガラスが割れたのか。その理由は考えるまでもない。
あの門を開けた何者かが、窓ガラスを割ってこの館の中に侵入してきたのだ。
99 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/08(月) 00:19:20.33 ID:YQoKBJAj0
フラン「……っ」
フランドールはその場に蹲り、息を殺して身を潜める。
侵入者は一体、どのような目的でこの館に入り込んできたのか?
真っ先に頭に浮かんだ疑問だが、それは侵入者本人に聞かなければ知りようのないことだ。
故に今は侵入者の思惑など、さして重要なことではない。
今考えなければならない問題は、『侵入者が館に入り込んでいる』という事実。
現状に於いて、館にいるのはフランドールただ一人。
姉もメイドも出払っていて、いつ帰ってくるのかわからない。
つまりは、フランドール一人で不審者を対処しなければならないということだ。
不審者の対処。日常生活ではまず体感することは出来ないこの状況。
実際にその場面に出くわしたとして、その時冷静に対処出来る人間はどれだけいるだろうか。
相手は姿形もわからない、そして人を傷つける手段を持っているかもしれない危険な存在である。
ましてやここは、超常的な力を使いこなす人間が数多くいる学園都市。
近づかなくとも人を死に至らしめられるような、凶悪な手段を持つ者がそこかしこに居るのだ。
その危険度は、学園都市の外にいるそれらよりも、比にならないくらい違う。
だからこそ、2階のフランドールの部屋に明かりがついていても躊躇なしに押し入ってこれるのだ。
100 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/08(月) 00:20:14.65 ID:YQoKBJAj0
そんな危険人物が今にも目の前に現れるかもしれないと言うこの状況。
大半の人間はパニックに陥るだろう。
辛うじてそうならなかった人も、心臓が早鐘のように鳴り響くはずだ。
フランドールの場合もその例に漏れることなく、緊張のために口の中が乾き、全身に冷や汗をかいている状態だった。
フラン(どうしよう。 このままここにいて、変な奴が入ってきたら逃げられない)
フラン(でも、移動したら鉢合わせになるかもしれないし……)
ダイニングキッチンと廊下を出入りする扉は1箇所しかない。
そしてフランドールが今いる場所は、その扉の正面に位置する台所の影である。
つまり、不審者が部屋の出入り口の前で陣取った場合、逃げようとするフランドールの姿を見過ごすことはない。
この部屋に残るとほぼ確実に袋の鼠なる。
『ほぼ』と付けたのは、彼女の能力を使えば壁に穴を開けて逃げ出すことが出来るからであるが、
それはあくまでも最終手段であり、彼女としては出来る限り使いたくない。
その手を使わずに袋の鼠を回避するためには、今すぐにでも部屋を出て何処かに移動した方が良いことになる。
101 :
◆A0cfz0tVgA
[saga sage]:2015/06/08(月) 00:20:55.60 ID:YQoKBJAj0
しかしこの部屋を出たからといって、当然身の安全が保証されるわけではない。むしろ危険は大きくなるだろう。
不審者が今、何処で何をしているのか全くわからないのだ。
移動している最中にばったりと出くわすことも、十分にあり得る話である。
この部屋は玄関に近いので直ぐに外に出ることは可能だが、それでも不安は拭えない。
不審者がこの部屋に来ないことを祈りながら身を潜め続けるか。
鉢合わせになるリスクを覚悟で、この部屋を飛び出し外に出るか。
彼女が取ることが出来る行動は二つに一つ。
フラン(……ここから逃げよう)
結果として、フランドールが取った選択肢は後者であった。
何故その選択肢を選んだのかは、彼女自身もよくわかっていない。
ここに居て追い詰められるよりは、一刻も早く外に出た方が良いと考えたのかもしれないし、
例え不審者に出くわしたとしても、自分の能力を使えば何とか逃げられると思ったのかもしれない。
はたまた、もっと別の理由があるのか……
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